とある地下の暗密組織(フォートレス)


 

ep.000  『プロローーーーーーーーーーーーーーーーーグ。』

 
前書き
本作は、PCページで見る事をお勧めします。 

 
夢絶 叶。その男はかつて『偽悪の英雄』とまで地下の人間から言われたことのある男だ。悪を滅するために(おの)を悪とする。

正義でいるようでいつも悪さばかりする。そのせいか、この地下の人間たちには案外(あんがい)好み(した)われている。




ああ、まずは今言っている『地下』について説明しておこう。

今言っている地下というのは、全23学区に分かれている学園都市とは真逆とはいかないまでも、相対(あいたい)する存在。学園都市が出来るより前からあったとされる地下都市の事。

その都市は、全てで4つの区画に区分されており、それぞれ『腐敗区(ふはいく)』、『目的区(もくてきく)』、『支配区(しはいく)』、『監禁区(かんきんく)』。

その全体面積は、学園都市をまるまる一個分あり、都市の地面より天井に向け約3キロ。そこから地上に向けての厚みが300メートルある。



では、それぞれの区画の説明に入り、まず『腐敗区』。

荒くれ者や貧民が住まう区画。また、その荒くれ共を鎮圧し抑制する役割を持つ人物もこの区画にいる。全体的に廃ビルや瓦礫(がれき)を固めて作った家などがあるが、基本的に風も吹かなければ、全く雨も降らないので屋根はない。そんな地区にでも、一部は屋根があり、壁があり形もしっかりとした家もある。ただ、そんなところに住んでいるのは、この地区の管理人くらいだ。


次に、『目的区』。

この区はほかの区と違い、地上の人間などもいる。しかしその多くは、地上から逃げて来たものだ。そんな地上から追われる身となった科学者がこの区の大半を()めている。また、学園都市の重要な実験なども時々行われる。情景としては一面アリの巣の様に廊下ばかりで、そんな廊下を積み重ねたような形状をしている。


次は、『支配区』。

地下に存在する中でも地位や権力、財力を持ったものが集う場所である。そのほとんどが繁華街(はんかがい)のような賑わっている。また、朝日が来ないことから、『常夜(とこよる)の街』と荒くれ者から言われている。


最後に、『監禁区』。

この地下都市、第0学区にて犯罪を犯したものを牢獄に監禁する地区。脳の|一部の活動を妨害する電波を発する金属を使った(かせ)(ろう)を使い、脱走を妨害している。また、数多くの犯罪者(へんたい)収容(しゅうよう)されている。


と、このようなかんじである。




さて戻り、夢絶 叶の説明に戻ろうか。


本名     夢絶(むぜつ)  (かの)

能力     『二次災害(セカンドチャンス)

強度     level?(本人自身が身体検査(システムスキャン)
       を受ける事が出来ない状況である
       のと、能力の測定方法が不明であ
       るため。

年齢     現在19歳

性別     男

貞操     まだやってない(どう〇い)

性格     ドを超えためんどくさがり屋で、
       自分の仕事等をよくすっぽかすか
       他人に押し付ける。

容姿     黒髪、黒目で身長は176cm。
       案外イケメンだが、髪型が寝癖の
       時が多く女性からの人気はない。


まあ、プロフィールはこんな感じかな。では、事前の世界観・主人公の説明をしたし、プロローグを始めようか。






学園都市、夏。
「こんなクソ暑い中、なんでお日さんのある場所を歩かなくちゃあいかんのかねぇ~、御臼ちゃん。」


そういう男、夢絶と肩を並べた女の子が歩く速さも、顔の向きも変えずに返事をする。
「そうですね。誰かさんがまた仕事をサボって、ゲームセンターになんか行ってたからじゃないんですか?」
反論できない。
「それに、そこで出会ったゲーム仲間と日が暮れるまで格闘ゲームなんかしてたからじゃないですか?」
また、反論できない。


「なんで私までこんな暑い日に先輩の出来なかった仕事の手伝いなんか、しなくちゃいけないんですか?」
心に刺さる一字一字を、夢絶はこう解釈する。


彼女の言葉改め、
「あ、暑い日に出かけるのもいいですね。でも、ちょっと汗で服が引っついて嫌な感じです。」
こっちを向いて、笑顔で
「早く終わらせちゃいましょうね。」
と、こう見えている訳ではないが、こう見えるようにしている。彼にとってこの子は癒しであり、彼を支えるものでもあるのだ。彼女が好きなのではないが、『かわいい』と『守ってあげたい』という感情でいっぱいなのだ。


そして、二入はある場所へと歩き続けた。 

 

ep.001  『廃ビルと不良集団』

ある場所、そこに着いた。


見えるのは、まるでボロボロなビル。まあ、おそらくは建設か廃棄の途中に問題とかが起こったんだろう。

天辺の方は少し欠けているな。廃棄の方が近いか、あの砕け方は。
「行くけど御臼ちゃん、準備はいいね?」
横にちょこんといるポニーテールに言う。
「もちろんですよ。」
此方(こちら)に向いたあと、
「正義を名乗る悪は、私が更生させてあげます!」



(クッソ!!   御臼ちゃんの説教とか、俺が受けてぇ―ッつうのによぉ~。)
夢絶が御臼の愛おしさのあまり、内面(こころのなか)だけで発狂(はっきょう)する。

もちろん、けっこうな長い付き合いなのでこういう事は知っているし、もちろんながらツッコミを入れる。
冷たい刃のような視線で、
「いえ、カノ先輩は更生でなく、転生してください。」
「エッ!?   死ねとッ!!!!」
即答の返し。


「って、こんな事してる場合じゃないよ、御臼ちゃん。」
気を取り直し、
「そうですね、すいません。カノ先輩があまりにも気持ち悪いもので。」

おふざけとは思えないトーンで、嘘と思えないくらいに目線も此方に向けずに言い放った。
愛を感じない。


いや、愛はなくとも、尊敬とか信頼とかさえも皆無だ。
「御臼ちゃん、いつか押し倒してやる!」
面と向かって言ってやった。公衆(こうしゅう)面前(めんぜん)で。
「行きますよ。」
聞かれてなかった(スルーされてた)





入口、入ってすぐ。どうやら両開きの結構良い扉だったらしく、もうない扉の後はまあまあ大きかった。
「おいっ! お前ら、ここは関係者以外立ち入り禁止なんだが?」
濁った緑色の不潔めな学生らしき人物が3人。
「すまんな。風紀委員(ジャッジメント)だよ。」
夢絶がポケットから緑の腕章を見せる。


何故持っている。
御臼(おうす) 来未(らいみ)』は驚きを隠せず、開いた口が開かなくなっていた。


「クソッ、風紀委員かよ!  まあ、まだあの空間移動(テレポート)の縦ロールよりはましか。」
相手の不良は何やら安心しているが、知らない。夢絶の能力『二次災害(セカンドチャンス)』と御臼の能力『布地硬化(ガーディアンクロス)』の能力を。


不良が何かを後ろのシャツの裏から片手で取り出す。

パンッ!!!
外ではその音に悲鳴を上げながら人が逃げていく。
一方の夢絶達はというと、



咄嗟(とっさ)だったので、
「ちょっ、銃は不味いって。」
冷静かつ無傷だった。
「間に合って良かったです。」
これが布地硬化。衣類の繊維を硬化させ、ダイヤモンドの3倍の硬度を誇るカーバインをも超える硬度を誇る。

それを銃弾が当たる手前に自分たちの衣服に発動させ一種の防弾チョッキ状態にしたのだ。
「ありがとうね、御臼ちゃん。おかげで助かったわ。」
夢絶が服を払い、ペチャンコになった弾丸を見下ろしながら言う。
「いえいえ。  で、この人達の無力化をお願いします。」




「いやぁ、」
前に出る。少しずつ追い詰めているように歩み寄る。
「ホント、お前らみたいなのがいるから『fortress(おれら)』の仕事が増えてるんだよ。」
(おそ)れ、(あわ)てた不良の一人が撃つ。今度はしっかりと(ひたい)を狙って


バンッ!!
「その銃じゃぁ、だめだ。」
夢絶が体の(じく)さえブラさずに近づいて来る。
銃弾は額にはなく、かといって地面にも転がっていない。


丁度不良の頭蓋骨(ずがいこつ)(かす)り、頭の中央に一線を引くように髪の毛を削ぎ取っていっていた。
皮膚を丸ごと剥がれ骨が見えている。

 
「ア゙アアアアアァァァァァッ、ア゙ァァァァァーーーーーーーーーーーーッ!!!」
頭を押さえながら(のど)潰れて(つぶ)しまいそうな声を上げる。


それを見たほかの2人は、今何が起きたかもわからずに降参するような仕草をした。
目線はやられた不良を見ている。
「まあ、何が起こったかは、分からねえよな。」
そして、上に続く元非常階段に向かう。相手の包囲網に突っ込むのを避けるためだ。


その手前(てまえ)、御臼に何やら手錠らしきものを渡していた。
「御臼ちゃん、そいつらの手、縛っといてね。   俺は、上の方の奴らみてくるから。」
「あ、はい。」
御臼は、手錠を受け取り返事と同時に不良たちに手錠をかけだした。

それも、ただの手錠でなく、すぐに外せるのだが、外そうとすると電撃が走り、手錠を付けられた相手が気絶する仕組みになっている。










































階段を上る。

どうしても足音が出てしまうコンクリートの階段だ。
上の方からも足音がする。一階と違い、数は10人くらいだろうか。


そして二階に昇り終えると同時に、相手の足音も止んだ。
(出たら即やられるか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)
そう思った夢絶は二階のフロアに続く扉の前で待機している。

不思議に思ったのは、まだ3階から敵の増援が来ないことだった。階段が壊れている訳でも無いのに、敵は来ない。これがどういう事か、すぐに解かる。


こいつらは、このフロアの奴らで全部なんだな。

能力を使う。
扉に蹴りを入れ、文字通り『吹き飛ばす』。
そして、出た途端に見た光景は、全員に近い数の人間が此方に銃口を向けている。それならばまだいい。その銃に使われているであろう金属が問題だったのだ。



『JAIM鉱石』。
そう呼称されるのは、それが能力者の発するAIM拡散力場(かくさんりきば)に干渉し、能力を極限にまで弱化させる超音波のようなものを発するからである。

「クソッ、JAIM(ジャイム)かっ!」
その藍色(あいいろ)のフレームに、玉虫色(たまむしいろ)の様な光沢が、何よりの証拠だった。


反射的に、夢絶は扉に戻る。



とても深い溜息(ためいき)()
(さぁて、ここからどうしようか。) 

 

ep.002  『GROWと青い正義』

 
前書き
『とあるシリーズ』みたいなロゴを作るサイトより、特製のタイトルロゴを作ってみました! 

 
夢絶は、携帯電話をポケットから取り出す。



プルルルルルルッ、プルルルッ、プツッ


「ハァ~イィ、もしもしぃ~。キラッときらめくみんなの相談役、島崎(しまざき) 向子(こうこ)さんだよぉ~。」
おそらく電話の向こうでは、二十(はたち)ちょい過ぎのいい大人が決めポーズをとっているであろう。
「それでカナ☆リン~、今日は何の用ぅ~?」
そしてこの切り替えの早さである。


「ああ、お前さぁ。」
訂正を加え、
「いや、お前らさ、最近『青い正義(バッドジャスティス)』に武器提供とかしたか?」
向こう側で何やらガサゴソとし出す。


少し間ができ、返答。
「まあ、何やら銃がほしいって依頼が来てねぇ~。商売人としてはこっちも手は抜けないしねぇ~。」
(あぁ、やっぱりお前らが全ての元凶(もと)かぁああああぁぁ~)
そして、おそらくとてつもないほどの笑顔で、
「いやぁ~、カナ☆リン今ものすごく楽しそうなところにいるねぇ~。」


くすくすという笑い声がやたらとウザく感じる。




「おい、今こっちはお前らの売りさばいた武器のせいで、とてつもない状況に(おちい)っているんだがっ・・・・・・・・。」
返答がない。

プツッ、プーーッ、プーーッ、プーーッ。

切れた。






ブツッ!

もう一度、何かが切れる音がしたと同時に、階段の辺りから光が出る。日の出の様に少しづつ大きくなっていく光を、夢絶は結構前から知っている。


島崎(しまざき) 向子《こうこ》。」
その光は階段の上、1メートル半辺りに魔法陣の様なものを、地面と平行に作り出した。



中から、まだギリギリ女の子と呼べる年齢の女性が降ってくることなく落ちる。
座った態勢のまま転移してきたからであろう、その態勢のまま階段の最上段に腰を打ち付けた。


けっこう痛そうな音だったので、声はかけないでおこう。
あまりの衝撃で、うつ伏せになってしまった。腰を強く抑えている。


そして、すこし間をおいて起き上がると元気な笑顔で、
「いやぁ~、カナ☆リン。こんな状況によくなるねぇ~。」
完全に何もなかったかのようにしている。




「腰大丈夫か、けっこう痛そうな落ち方してただろ?」
そう簡単に、事件を流させはしない。
(フッフッフッ、残念だったな!  他人の災難を易々と見逃すおれじゃいぜっ!)
けっこうなドヤ顔であった。


ポケットからチラリ、
「カナ☆リン、流してくれるとありがたいなぁ~。」
御臼の『生着替え盗撮写真』がはみ出る。


「いや、あと2だ。」
真顔になり、要求。
「ごめんね、カナ☆リン。手持ちはこれしかないよぉ~。」
「なら後日、もらい受けよう。」




話変わり、本題。
「で、あいつ等は襲ってこないんだな?」
夢絶が吹き飛ばした扉の方を横目に言う。
「うん。 彼らは武器を要求するとともに、戦術まで聞いてきたからねぇ~。」







『GROW』(グロウ)

学園都市のほとんどの情報を握っている暗部。その情報源は、学園都市の『都市伝説サイト』などであるが、その情報が真実かどうかを調べるために50人程度の本業者がいる。

また、サイトの利用者まで合計すると、構成人数は学園都市の過半数であるともいわれている。






「そう言えばカナ☆リン。」
少し声のトーンが変わり、真剣さがうかがえる。
「青い正義たちの目的って知ってるぅ~?」




青い正義。無能力者(レベル0)の人間たちが高位能力者を恨んだ結果出来た組織。元々はサークルのようなものだったが、勢力が拡大し過激になっていき、現状に(いた)る。




「そんなもん知るか!   ただの不良集団だろうがっ!」
叱りつける様な感じだ。
「まあ、私も目的を話さない集団に武器を売る訳がないよねぇ~。」
そして彼女が転移門(ゲート)を作り、
「彼らの目的は、私達。   全高位能力者の殺害。」
夢絶は「なんだそんな事か。」と言いたげな顔をしている。



「なんだよ、んな事かよ。」
と言うより、言った。
「まあ、これがない時ならば、私もそう言えたんだろうねぇ~。」

転移門から彼女が取り出したのは、藍色(あいいろ )のフレームに、玉虫色(たまむしいろ)の様な光沢をした大口径(だいこうけい)狙撃銃(スナイパーライフル)が出てきた。


「おい。    なんだよ、これはっ!?」
「なにって、『JAIM鉱石(JAIMこうせき)』を主な原料として作られた、アンチマテリアルライフルだよ。」
おかしい。
「おい。人間にしか意味のない銃をどうして対物ライフルまでの威力にする必要がある?」


回答。
「たしかに、人間にしか効果が発揮されない。しかも、この学園都市の能力者だけがこの銃による攻撃が大きいだろうね。」


「でもね」
と続ける。
「でも、あまりに大きくなった集団をまとめるには、大きな目標が必要だったの。」
「あいつ等か?」
夢絶の問いかけ。
「いや、私たち『GROW』に。」
なんとなくその気持ちや、意見は理解できた。それ故に、反論できなかった。




今ふと思い湧いてきた、疑問。
「ところでだが、その銃はどこから持ってきた?」
「あぁ、さすがにここから地下(0区)の目的区までは遠くて、扉の向こうの人のを一つ拝借させてもらった。      テヘッ。」




最後の『テヘッ』にムカッと来たのと、明らかに向こうで銃を構える物音がした。
「テェエェンメエエエェェェーーーーーーーーーーーッッ!!」
夢絶が向子を抱えて、一階に向かう階段に飛び込む。


夢絶は向子を(かば)うようにして抱きかかえ、階段を転がり落ちていく。
さっきの非常階段には、壁から飛び散っている欠片(かけら)()まり、壁は両面穴だらけであった。
「もおぉ~、痛いじゃないかカナ☆リン~」
「こっちも多分痣だらけだっつぅのっ!  あまり痣が目立たないように庇っただけでも、評価してほしいねっ!」
肩を抑えながら。




そして起き上がった二人と、下で忘れ去られていた一人が鉢合わせする。
(かの)先輩、今の爆・・・・・は・・・・つ、・・・・(おん)は?    ???」
御臼の頭が?マークで埋まる。


「あっ。 いや、御臼ちゃん。そういう事じゃなくてですねぇ、これは・・その・・・・・・」
何も言えなかった。


急に笑顔になり、
「え、何がそういう事じゃないんですかぁ?」
怖い笑顔だ。
「というか、何で向子さんがここにいるんですか?」


一方、その御臼ちゃんの言う向子さんはというと、何かを恐れるようにして夢絶にしがみついた。
(あっ・・・・・)
となんとなく察し、同情までしたが、あえてここで嘘をついた方がこいつ等への恨みも少しは晴れると
いうものだ。




「いやぁ~、上に行ったときに待ち伏せされててな。   てか、今回はこいつのせいだから、こいつ引っ張って先帰っておいて大丈夫だよ。」


御臼が、笑顔で了承する。
向子が、泣顔で救援を求めている。
夢絶は、ニタニタと送り届ける。





























「さて。」




彼女らが見えなくなってから、
ポケットから携帯を再度取り出す。

プルルルッ、プルルルッ、プルルルッ。

三度、鳴った後に今度は切る。


プツッ、という音の後。
そこら辺にテキトーに落ちている手に収まるくらいの瓦礫(がれき)を持つと、支柱に。


激しい音とともに(けむ)()い、支柱が壊れる。


拾っては投げ、拾っては投げ、時に()り飛ばし、一階の支柱を全て壊した後、トドメの一撃。壊して、倒した支柱の一本をこの部屋の真ん中にある中央階段にめがけ、一蹴り。


ドゴォォォンッ!!

と重い破壊音とともにビルが崩れ始める。
(これで後はあいつに任せるか。まあ、下敷きになったとしても、無事だろう。)

























そして、正面玄関からそのビルを後にする。
誰もいないせいか、少し寂しい道であった。 

 

ep.003  『赤く染まる幼い少女編 1』

 
前書き
ちょっと、やりたくなったので、長編始めました。

気楽、気長に続きを待って頂きながら、読んでいってください。 

 
ある日の午後。




メンバーの(うち)の数人に召集がかかった。

召集のかかったメンバーは会議室の席に適当に腰掛ける。机の上には無造作に置かれた参考書類があった。
一人、彼らが来るよりも先に座っている。


「おい。何の集まりだぁ~、こらぁ。」
と、夢絶が。
「何言っているんですか、叶先輩。」
と返答に御臼。
あと二人、同様に何の集まりか疑問そうに一人を見る。


「あー、今回集まってもらったのはこの面子(めんつ)で壊してほしい施設があるからだ。」
事を言い始めるは、叶世(かなや) 重実(じゅうじつ)。その死んだ魚のような目からは想像できないほどに、へヴィーな話を始める。


手を組み膝の上に肘を置き。
「今回の任務は、学園都市上層部(おえらいさんがた)直属の指令だ。失敗は、ありえねぇ。」

と、今度は前かがみになり。
「失敗も都市伝説(うわさ)になる事さえも許されない。」
資料を開け、工場のような場所の写真を見せる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど。」
と席を立つ一人。
「要するにそこを不慮の事故にすればいいんですね。」
立ち上がったのは『fortress(フォートレス)』が一人。水無月(みなづき) 千尋(ちひろ)
「おい待てっ!   今回の任務は破壊だけではない。」
引き留めたのは、叶世。そして水無月に席に着くように指で指摘(してき)する。




「ついでになってしまうが、『この施設に幽閉(ゆうへい)されているある一人の少女を強奪してきてほしい。』だそうだ。」

叶世が席から機敏(きびん)に立ち上がり、そして命令。
「では、命令する。  以上の施設を破壊、(およ)び施設内にいると思われる少女の確保(のち)に、安全を確保しつつ帰還せよ。」


夢絶が(あわ)れむ目で一言。
「お前も大変だなぁ。」
会議室とは言え、二十から十五歳までの男女が共生しているのだ。監視がないという訳にもいかない。なので監視カメラが設置されているのだが、この命令の作法(さほう)さえも(おこた)れば、職務放棄とみなされ、即刻追放なのである。




『fortress』も、学園都市が直接管理している。立場的には公務員という扱いを受けるのが結構尺である。だが、当人たちは結構楽しげなのでその点は全く持って不満ではない。破壊してしまった建造物もある程度であれば修復してくれるし、衣食住全て学園都市持ちである。

ただ一つ、彼らが辞めてほしいのは・・・・・・・・。
この組織の全体人数は18人なのだが、トイレが二つしかないと言うものだ。




話戻り、現在。
「なんだ。   たったのそれだけか。」
席に座っていた最後の一人、ルレシオ・ジン・シェイリアスが一言。


そして席を立つと、部屋の出口に真直ぐと向かう。
「そんなめんどくさいことを、何でおれがやらなきゃ~いけねんだよ。」
扉の取っ手をひねり、もう一言。
「俺は7区のゲーセンに行かせてもらう。」
付け加えて、
「今日は『スペースファイター SOUL(SFS)』の店内大会なんだよ。」
そして部屋を出た。








「じゃあ、馬鹿(あいつ)を抜いた3人で事にあたってくれ。」
「・・・・・・・・・・、了解しました。」
御臼が了解の言葉とともに立ち上がった。ほかの2人も同様である。

「行きますよ。  叶世(かなや)先輩、位置情報をよろしくお願いしますね。」
さっそうと三人は部屋を出ていく。





























「さて。」
と、叶世も何か用事があるのか、部屋を出る。














向かった先は、地上。第7学区。

(さて、あいつをその気にさせるには、まだ交渉材料が要るな。)
もちろん、夢絶の事である。
(と言っても、俺は夢絶に対する交渉できそうなものなど全く持っていないぞ。)


途端(とたん)に一人、交渉に使えそうな人物を思い出す。

プルルルルッ、プルルルルッ、プルルッ、ブツッ

『ハァ~イ、なんの用かな。   叶世くん?』
コピー機か何か、向こうでは『ピー』という機械音と、何かをかいているらしく激しい筆音が聞こえる。


「そちら側で何が起きているかはあえて聞かないが・・・・・・・・、少し、頼みたい事がある。」
電話の向こう側の音は激しく、忙しいというのが音だけで分かるほどだが、此方も忙しいといえば忙しいのだ。

夢絶 叶が今回の件で働かないとなると、本格的に死者がでる可能性も無きにしも(あら)ずという事になってくる。


『おぉう、叶世くんからのお願いとは珍しぃ~。  聞いてあげるよ、出来るだけ叶えてあげるぅ~。』
言葉の最後に『ハート』と言ってくる二十歳手前のお姉さんが、恐らくタイピングをしながら言う。


「ああ。  助かる。」
感謝を言い、
「実は、【毎度の如く】夢絶が働かないのだが・・・・・・・・・。  そこで、御臼の写し」
「いいよぉ~。』
最後まで言う前に返事が返ってくる。




『その写真(ワイロ)は有名でねぇ~。  本人たち以外には結構な知名度で、知っている人は多い人で30枚ぐらいは(ふところ)にストックしてあるんだよぉ~。』
向こう側で、ダブルクリックの音。

『かく言う、私も画像フォルダに1,2GB(ギガバイト)ぐらいのストックがあるんだよねぇ~。』
そんなにか、と心の中で言った後。
「そのうち数枚、いや十数枚頂けないか?」
『だから、別に良いってぇ~。』
という訳で、こうして夢絶を働かせ()るための画像(エサ)の準備は出来上がった。













第七学区、ゲームセンター。
格闘ゲームのコーナーから相当の熱気が漏れ出してきている。


「いやぁ~。 盛り上がってるねぇ~。」
「おい。」
冷静沈着、と言うより全く熱を持たない声。覇気さえ無ければ、気力すら感じない。
「例のものは持って来ているんだろうな。」
島崎 向子が両手を自分の胸の手前に持って来て防衛。まあまあ、と慰めを同時に入れる。


ポケットに手を突っ込みながら、写真を二枚取り出す。
「そう慌てないでぇ~。 結構大事なようだったから、とっておきを持ってきたよぉ~。」
叶世に渡す。



「あぁ~。   この写真だけど、一度に渡しちゃダメだよ。」
写真を離さずに、結構本気に思える。さすがは、幾度も夢絶を使いッ走り(パシリ)にした最上級者(プロフェッショナル)だ。

「了解した。」
その一言だけを言う。
「じゃあ、私はこれで。帰らないと(仕事の進行が)危ないからぁ~。」
そう言うと、地面に転移門が現れ、落ちていった。

(やれやれ。とんでもない能力だぜ。  あの女の能力は。)


同時。

丁度SFSの決勝が始まろうとしていた。 

 

ep.004  『赤く染まる幼い少女編 2』

 
前書き
少し遅くなってしまいました。

すいません。 

 
場所代わり、第10学区
ただ荒れた空気が(ただよ)う。




「でも、どうしてこんな場所に特殊な能力開発施設を作ったんでしょうか?」
一通り聞いた資料の内容を思い出しながら、御臼が一言呟いた。


「恐らく、『【灯台下暗し】の様に近ければ近いほど良い。』じゃなくて、【灯台でも照らせないような場所に作った方が良い】って考えなんだろうな。」
と言ったのは、ルレシオ。


「あぁ~。 そういう事でしたか!」
と、勢い良く手を叩いて納得する。











そして、廃墟と見間違えそうになった(すた)れた工場にたどり着く。
「ここなんでしょうか?」


水無月 千尋が言う。
「行きゃ、分かるでしょ?」
その通りだ。

いくら結構見た目がホラーな工場と言っても、能力開発を目的とした施設なのだから、身構えなければならない。

「そうですね。 力を合わせていきましょうねっ!」

怖がっていては始まらないのだ。






入口。ガラスの無いガラス張り扉が、半端(はんぱ)に開いてある。

「本当に不気味ですね。」
辺りをビクビクしながら見回している御臼が言う。


「幽霊や妖怪なんて作り話だ。」
と、ルレシオ。さらに続けて、


「もし本当に存在するなら、今までに未練(みれん)()いを残して逝った人間が全部『それ』になっているのなら、霊感者(れいかんしゃ)を名乗る奴らの視界は『それ』で覆い尽くされて、なんにも見えないだろう。」

という個人的で偏見(へんけん)()っているような意見だが、御臼を落ち着かせようと彼なりにしているのが伝わり、少し御臼も落ち着いた。




もう結構奥の方から、
「何しているんですか?   早く捜索しますよっ!」
水無月 千尋が子供の様にはしゃぎながら振り返っている。




色々なものを持ち上げたりして調査をする。中には注射器や、錠剤が入っている容器もあった。それらが、ここでは能力に関係なくとも生物で研究していることを物語っている。

そして、結構奥の方。何かの製造が行われていたような(あと)のベルトコンベアと流れ作業に使われていたであろう機械の部屋にたどり着く。中には溶接に使うような先端をした機械も(うかが)えた。

少し怖くなってくる。そんな時だ。



「お姉ちゃんたち・・・・・・・・・、」
こちらを身を隠しながら見てくる6,7歳ぐらいの見た目をした女の子が一人でいる。

「お姉ちゃんたち・・・・・・・・・、私を殺す・・・・・・・・悪いお兄ちゃんたちの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・仲間?」

衝撃だった。まだ小さな子供だというのに自分を殺す何かといったことが、こんな小さな子供を殺すおそらく自分たちと同じくらいの年をした人間達がいる事が。


「そんな事ないよ、お姉ちゃんたちは大丈夫。   お姉ちゃんたちは、君を助けに来た正義の味方(ヒーロー)だよ。」
御臼がその少女に駆け寄り、肩を強くではないがしっかり掴み、まるで自分に言い聞かせるように言った。少なくとも、水無月とルレシオにはそう聞こえた。

「・・・・・・・・、れ。」
「え?」
いきなりだったのか、聞き取れない。

「それ、ホント?」
少女の真直ぐな目の中に少しだが希望が宿っているような気がした。
「うん。  絶対にここから出ようね!」
今度は強く、握りしめるように肩を抱いた。


水無月が端末(たんまつ)を取り出す。取り出す前、バイブ音がしたのでメールだろう。
「叶世さんが、叶先輩の買収(こうしょう)うまく行ったって。」
それを聞くと、さっきまで強く抱いていた手を、肩を安心しきり撫で下ろした。



「おい、031号っ!」
白衣、科学者の一人だ。


「っ!!」
ルレシオが能力を使う。それは砲丸投げの鉄球の様で、でも全く軽くて、触ろうとすると皮膚を全部持っていかれてしまいそうな痛みに襲われるもの。



それを白衣の顔面にめがけて撃ち放つ。飛沫(しぶき)の音とともに白衣の男が勢いよく吹き飛んだ。
まるで、人形の様に。

白衣は首辺りが赤く染まり、関節はおかしな方向に向いていた。首から上は、綺麗(きれい)に切れて無くなっている。

真っ赤な血に混ざり、黒くドロドロでべっとりとしたモノも混ざっている。仕事(がら)3人はこういう光景に慣れている。


少女が見えないように目を手で隠し、視界を奪う。
「見ないで。」
耳元で小さく強く言うと同時、抱きかかえる。

「見つかった。  早く夢絶を呼んでくれ。」
聞いた瞬間だ。少女が(おび)えだす。


少女が言う。
「その・・、『むぜつ』。   わるいひと・・?」




返答に困る。

悪い人と言えば悪い人だし、いい人かと言われればあんまりそうでもない。でもここはいい人と言ってあげたい。後輩として。

「と、とてもいい人だよ。  会えばきっと優しくしてくれるよ。」

言っててつらい。あんな『めんどくさい人間』をこんなにも非の打ち所がないように言っているのが、とてもつらい。





















同時刻、第7学区。

店舗大会の決勝戦。player(プレイヤー)1を操作しているのが夢絶。相対(あいたい)するは今のところ負けた事が無いという人物だ。

対して夢絶はギリギリ買ってこれたような成績である。


「ヨォ~、別に降参しちまっても良いんだぜ?」
ケラケラと笑いながらあいつが言ってくる。

「あぁ~。   まあ、もし俺がお前から一本取られたら降参するわ。」
此方もケラケラとした笑いながらに言う。


奴が一言。
「まあ、強がるのも分からァ」




【ready fight!】

システム音とともに両者のキャラクターが動き始める。
相手が使っているのは、長距離の攻撃に加え強力なカウンターを持つムキムキの男キャラ。

対して夢絶はとても小さな女の子キャラである。


「テメェ、準決勝までずっとメイジ(主人公の男キャラ)だったじゃねぇかっ!」

指摘に対し返答。
「まだ3回くらいしか使ってねぇからさすがに使いにくかったんだよな。」

ちなみに、準決勝を合わせて今まであった試合も3回である。

「おまっ、それって・・・・・・・・・・・・・・・・。」


両者のキャラが不動の駆け引きを繰り返しながら20カウント。
体力ゲージはお互い全部ある。

先に仕掛けたのは、夢絶だった。

小さな女の子が、ムキムキに向かってジャンプする。上空からのライダーキック→着地と同時にしゃがみパンチを三回→ドロップキック→相手を掴み上空に投げる→上めがけて蹴り上げ→自らもジャンプし空中連続攻撃→相手を掴んで上に乗り地面にたたき落とす→溜まったゲージで必殺技のコンボ。


その一度で相手の体力ゲージの7割を(けず)り取った。


起き上がり、そのタイミングを待っていたかのようにしゃがんでのパンチ三回→そこからさっきのコンボをもう一度。

制限時間残り45秒。夢絶は一切の体力ゲージを減らさずに完全勝利(パーフェクト)

そして優勝賞品の一か月間『スペースファイター SOUL』の無料使用権が渡された。

「よし。  早速このチケット使うが、誰か挑戦者はいねえのか?」
あからさまに見せつけている夢絶がそこにいるみなを(あお)る。




丁度いいと思い、話しかける。
「おい夢絶。」 

 

ep.005  『赤く染まる幼い少女編 3』

「おい、夢絶。」
話しかける。

反応など決まっている。
「あぁ?」


威嚇(いかく)。ヤンキー顔負けの(するど)い眼に、独特の首の倒し方、不良そのものだった。

「仕事だ。    早く支度(したく)をしろ。」
(どう)じず、(あせ)らず、(ひび)かず、反応さえしていないような対応。見えていなかったかのような回答を返す。


「断ったはずだろ?  今日はここで仕事(あそ)んどくんだからよ。」

ポケットに手を入れて、
「なら別にいいんだぞ。  せっかく島崎(しまざき) 向子(こうこ)に頼んで良いモノを取り寄せたというのに・・・・・・、残念な奴だ。」
取り出し、
「この写真はお前から没収したことにして、御臼(おうす)に差し出すとするか。」
見せる。

島崎 向子が持ってきた取って置きの一枚目。風呂場で服を着ている最中の御臼。来ているのはパンツのみ、上着を着ようとしている最中の一枚。


こんなおいしすぎる写真に夢絶が食いつかないわけがない。


ビリビリ

「よし、仕事の話をしようか。」
一か月間の無料使用権の紙を破きながら。

(これだと、もう一枚は必要なさそうだな。)




「ん?  ポケットの中のもう一枚も寄越せよ?」
(するど)すぎる(かん)だ。

「どんな感覚してんだよ。」
(あき)れながらも写真を渡した。




「んで、仕事ってなんだっけ?」
二枚目の威力に鼻にティッシュを詰めている最中の夢絶が言う。

「排除だ。   今回の任務では明らかに警備員(アンチスキル)に扮した敵の特殊部隊がいる事が分かっている。」


「ならなんで会議の時点(じてん)でそれを言わなかったんだ?」
正論な質問。

「お前がもしあの時点で働いていたなら別にいう必要も無かったからだ。」
正論な回答。

「ハイハイ、そりゃあすいませんでしたねぇ。」

















「行くな?」
叶世の真剣な一言がゲームセンターの賑やかな空間に穴をあける。

「行くに決まってんだろ。」
と夢絶が何故か不気味に、笑みを浮かべている。それも見ていて不快にならない笑みを。


「さすがに写真の向こう側の存在にでもなられたら、たまんねぇからな。」
()く。

















一方の3人組はというと、


とある小さない部屋の中。金属製の机に隠れる3人と少女。
「どうなってるんですかっ!  さっきまで誰もいなかったのに何でっ!?」

鳴りやまない細かな火薬の音。一つ一つが大きいのにも関わらず、それが()えず聞こえてくる。

「俺がやる。」


ルレシオ・ジン・シェイリアスの能力、闇暗漆黒(ダークシャドウ)。誰がどう聞いても厨二病患者の様にしか思えないだろうが、この名前は彼がつけた訳でなく、この能力の製作者である。まあ、その製作者がおかしかったのであろう。




球体。
真っ黒い球体が彼の手の中から出てくる。見方によっては生まれてくるというのかも知れない。

「いけ。」

球体は机の上に向かい円を描きながら、そのまま出口に向かい一直線、そして銃を持つ奴の胴めがけ突進。来ていた重みのある衣類から始まり肉体を抜け、また衣類を抜ける。音もなく何事も無かったかのように通り過ぎると、今度は何事も無かったかのように風に消えた。


「まずは一人。    次は・・・・・、・・と言うよりなんでこんなにもいる!」
ルレシオがキレる。腕を上げる事も出来ない現状暴れる事が出来ず、ただ噛みしめる事だけした。




ドゴンッ!

爆発、と言うよりは崩れるような音。銃声は鳴りやみ、代わりに(れき)の音がしている。


「おいおい、入ってすぐに攻撃とかマジ勘弁してくれよ。」
聞き覚えのある声。つまらなそうな感じがするトーンで言っている。


銃声はというと全くに聞こえなくなり、ただ一つの足音だけがコツコツと鳴り響いていた。


足音が鳴りやみ、もう()の無い部屋の光に入口に人影が見える。
「オイコラー、撃たれてたヤツラ―。  もう片付いたから出てこーい。」


全員机から顔を出し、確認する。少しだけ見たくない気もするその人物は『知ってた。』と言いたくなるが、夢絶であった。

「よ。   結構元気そうだが、大丈夫か?」
中に入り言ってくる。


全員、唖然(あぜん)。あまりの急展開に少しばかり脳の速度が追いつかない、訳ではないが理解したくない。
あの働かない星人である『夢絶 叶』がそうやすやすと仕事をするわけがない。




「どうしたんですか?    なんでここにいるんですか?    なんかゲームの大会だったんじゃないんですか?」
御臼の口からそんな言葉が延々と出てくる。


答える。
「いやぁ、ゲームの大会が終わったんで暇だし(臨時報酬あったし)、御臼ちゃんもこっち居るし(セクハラ出来(からかえ)ないし)、転移門くぐらされたら此処にいたんでさすがに(いろいろとあって)、仕事やるしかなくなった。」
かっこの中は、心のみで話している部分である。


「んで、どこに行けばいいとか、もう分かってたりする?」
夢絶が久しく働いているのだ。いっそ全部任せよう。

「はい。   ここはいわゆるダンジョン方式の施設です。」
御臼が話を始める。
「階段を下りる(たび)に迷路が展開されていて、その中から階段を探さなければいけないんです。」
得意げな説明の語り手代わり、千尋。
「ですので、下っていけばいいはずです。」


顔の横でピストルの手の形を上に向け付け足し、
「あと、さっきここの警備員(けいびいん)傭兵(ようへい)?   に脅して聞いた(はなしをきいた)ところ、地下は6階まであるそうです。」

「ここは地下二階なので、あと四階降りれば大丈夫です。」
と、御臼がもう一度話す。




「オーケー。   お前らはもう帰れ、あとは俺一人でどうにかなる。」
三人の目を見ながら言う。もう大丈夫だ、とその目で言っている。

「なんかの女の子も俺がどうにかして連れて帰るから、お前らは先に帰れ。」
今回ばかりは、夢絶も真剣だ。それほどに危ないものがこの移設にあるのだろう。


三人は承諾(しょうだく)する。と言うよりかは、丸々任せる。本音は、たまには働けと言いたいくらいだ。


「あ・・・・・、あの・・・・・・・・・。」
また机から頭が出てきた。小さな女の子。
少し悩んだが、ここの施設にいた少女という事で、この子も運んでもらうとするか。


「よじ、じゃあ4人を転移してもらうか。」
と、電話を取り出す。そして、電話帳の一覧から名前を探す途中、着信がきた。

「スゲーな、あいつ。まるで何処(どっ)かから聞いてるみてーじゃん!」
でる。
「もしもし、あの(たの)
『ハァイハァ~イ。   じゃあ4人運ぶからそこでじっとしててねぇ~。』
少しだけイラッときた。




4人と机の下に転移門(ゲート)が出現する。4人はいきなり足場が水になったような感覚に襲われながら落ちていく。


『一応、目的区の入口に送っておいたよぉ~。感謝してね、カナ☆リン。』
そう言えばおかしい。電話の向こうから聞こえてくる声が、少し二重に聞こえる。
『カナ☆リンは私に一生感謝するか、私に一生(すね)かじらせるかしてもらわないといけないんじゃないかなぁ~。』


右を向いて壁の向こう、微妙に薄そうな壁。
壊す。
「よぉ、こんな場所で何してるんだ?」


「あれぇ~、もうばれちゃったぁ~?」
『あれぇ~、もうばれちゃったぁ~?』
やはりだった。 

 

ep.006  『赤く染まる幼い少女編 4』

少しだけ時間を巻き戻し、夢絶が今から仕事に向かうとき。


そう言えばと、移動手段がない事に気づく。
ならばあいつに頼めばいいんだと安定の島崎 向子が登場。

転移門での移動という訳だが、島崎 向子は夢絶の仕事の全てを知っていた。
行き先を伝えなくても移動用の門を足元に展開し、夢絶を落とした。




「カナ☆リンはものすごく(かん)が良いよねぇ~。どこに隠れて息を殺してもすぐに見つかっちゃうし、なんかそういう事に特化してるのかな?」
『カナ☆リンはものすごく(かん)が良いよねぇ~。どこに隠れて息を殺してもすぐに見つかっちゃうし、なんかそういう事に特化してるのかな?』
目の前からと、耳元の電話の向こうから同時に聞こえてくるのがとてもウザったらしい。




地面を()る、それも思いっきり。


激しい煙の後に、結構大きな穴が出来た。

案外ぼろいのか、この建物の弱点は分かった。この建物は『無能力者(レベル0)』に狙われることはあったらしいが、俺らの様な『能力者』に狙われるようなことはなかったようだ。

何故か考えるのは、今はめんどくさいのであとにしよう。とにかくここを下りて、残り三階層分。


電話を切り、
「もういい、降りるぞ。」
島崎 向子の腕を掴み直径2m(ほど)の穴に落ちる。


「今度、テメェの為に(なん)か罰ゲームを用意しておいてやる。」
完全に悪党面(わるものがお)。どう見ても学園都市の守護者とは思えないような顔。




着地。
「・・・っぃや・・・。・・・・・・、遠慮しておき・・・たいなぁ~・・・・。」


「ヤルに決まってんだろう!」
と万年の笑みと力強い発音。

「もう一回行くぞっ!」
話すと同時にもう一度地面を蹴る。

爆発に近い音に、砂煙。そして飛び降りる。
「もう着地してからじゃめんどくさいし、このまま蹴るか。」
蹴る。

先程と全く同じ壊れ方。微妙に嫌な予感がした。下に落ちると今度は違う材質の床が見える。




着地。
床は、藍色(あいいろ)の表面に、玉虫色(たまむしいろ)の光沢が塗られているように光る。

「おいおい、」
と、その一言に色々な感情が()り込まれる。


連れの(あご)を掴み言葉を続け、
「なんでこんな地上の施設にJAIM(ジャイム)があるんだ~?」
さっきの感情が強くなっていた。


返答。
ヒィ()ヤァ()ワヒャヒィ()ホォ()ヒャ()()()()ホォ()ハァ()()ファッファ()()ヒャ()()()()フゥ()()()ホォ()()()フェイ()ヘー()ファヒ()ヘフ()()()()()ファ()ファ()()()ファ()ヒィ()。」
顎を掴まれ、(ほほ)を押し込まれているので、上手く(しゃべ)れていない。


「一応、試しておくか。」
手を顎から離し、地面を踏み込む。
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
       。

何も起こらない。
本物(マジもん)か。」


頬をなでながら、
「うん。見ただけでも、相当なものだよ。」


今度は地面をなでながら、
第0学区(ちか)でも最近事件があったから住宅街の電灯みたいな勢いで、支配区とかはJAIM製の柱で守られているけど、ここはそれ以上にJAIMを使っていると思う。」




向子がいう事件というのは、地上から来た学生が地下で起きている『ケンカをなだめる』と称して、超能力者(レベル5)並みの空気大砲(くうきたいほう)を第0学区の象徴ともいえる中央タワーに砲撃したという話だ。




話戻り、
「ここまでいくとどんな能力でも発動不可能だろうねぇ~。」


話を聞いた夢絶は、自分たちと同時に落ちて来たであろう銃を拾った。

「とりあえずは、降りるぞ。」
そう言って、辺りを見回す。

「この感じだと、歩いていくしかないのぉ~?」
この部屋の扉に向かっている夢絶に言う。

「そうだな。  もう能力も使えんし、お前も何か武器をっ、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
言葉が詰まった。


「何やってんだ?」
夢絶が問う。

そこには足を延ばし、両手を真直ぐとこちらに向ける女の姿が。
そして口を開けた。

「おんぶ。」
要求。
「行くぞ~。」
向子、撃沈。
「ぐぬぬ。」




廊下を銃を持ち、警戒しながら歩く二人

「でもカナ☆リン。よく躊躇なく銃を持てるよねぇ~。」
復活。

「生きていくためにはしょうがない事なら、やるしかないだろ?」
と夢絶がまるでサバイバルの達人のように見えてしまう。


警戒をしたまま、言い返す。
「フフッ、昔の君が言いそうな言葉だねぇ~。」

敵、3人。

ババババババンッ、バババンンッ!

一瞬、夢絶の銃から撃ち放たれた銃弾がその3人ともの頭を射抜(いぬ)いていた。


「2年前か?」
さっきの話の続きを始める。

「いや、もっと前だよ。      6年くらい?」
すると、舌打ちをした夢絶が打ち抜いた敵の身体を探る。
「俺の嫌な時だな。    お、良いのあった。」
と、円状の筒の付いたベルトを巻く。

「その時の話はしたくない。」
これ以降、会話は続かなかった。














「あ・・・・・・・・・・・・・・、やっとか・・・・・・・・。」
階段を見つける。地下6階への階段。





























降りる。
こいつと階段を下りていると、いつかの嫌な記憶が(よみがえ)ってくる。


階段を下りると3m程の廊下があり、その突き当たりに大きな扉があった。

見た目はまるで古いRPGの魔王の部屋に入る手前の大きな扉だ。色合いも紫色をベースとした禍々(まがまが)しい感じ。


(普段なら絶対に入りたくねえ。)
と心で(ささや)きながらも扉を押し開けてみる。


その向こうには、












なんと、

















なんと、















魔王さまが、















まあ、いませんでした。


「フッハッハッハッハッハッ、この私に恐れおののくがいい。」
知り合いだった。


「よく来たな、勇者よ。  さあ、こちらに来い!」
テーブルクロスと思えるマントを腕でなびかせながら、魔王さまっぽい何かと言える知り合いが元気に叫んでいる。

頭を抱えている夢絶が一言。
「何しているんですか、立前さん。」


まだ魔王になりきっている立前(たちまえ)と呼ばれる女性は演技を続ける。
万全(ばんぜん)貴様(きさま)と戦うために、HPとMPを最大にしてくれようぞ!」


(結構(難易度的に)優しい魔王さんだなぁ~♪)
気楽に状況を楽しむ向子であった。 
 

 
後書き
昔から知っている人なら、名前ぐらいは知っている人もいらっしゃるかな?

<立前 叶>

ストーリーに出たのは、初めての方です。これから頑張ります! 

 

ep.007  『赤く染まる幼い少女編 5』

「何をしてるんですか、立前さん?」


やっと魔王さまが終わる。
「なんか、こんな感じの方が再開した時に良いかなと思ったんだけど、叶くんにはあまり効果がなかったみたいだね。・・・・・・、あ。」

言い換えて、
「効果はいまひとつのようだ。」


マントをたたみ、普通の格好になった立前に一言。
「で、何で立前さんがここにいるんですか?」
昔の知り合いだ。彼女の事は、一番よく知っている人間なのかもしれない。





立前の顔がやたらと笑顔に、
「私、今ここの実験物になってるんだっ☆」


あまりにも衝撃だった。言葉が出ない。

「あと、私人間じゃなくなったからヨロシクね。」

「あ、ええ。」


「・・・・、エエエエエエェェェェェェエエエーーーーーーーーーッ!!?」
やっと思考が追いつく。衝撃すぎた。

(へぇ~。  何か面白いことになってきたねぇ~。)
「い、いや立前さん。    今なんて言いました、人間じゃなくなったっ!?」
夢絶は考えずに、がむしゃらに口を動かす。考えていることをすべて吐き出してているような状況だ。

「てことは、何ですかっ?   なんちゃって感覚で人外になったんですかっ!?」
この人が突然に何かをすることがあるのは昔からだが、その毎度毎度に驚かさせられる。

「まあ、人外っていうのか、半人(はんじん)だね。英語だと、hybrid(ハイブリッド) human(ヒューマン)かな?」

続ける。

「今の私は、半分が機械なんだよ。   ほぉ~ら。」
そう言って、服をまくり上げる。

すると、まるでタトゥーの様な黒い文字がへその隣辺りにあるのが見えた。

「『シ 302』それが今の私の商品名なんだ。」
グサリと刺さる。


『今の』、その言葉が刺さった。それは俺と彼女の過去の話だから、今回は話さないでおくが、またいつか話す機会が来るだろう。

だが、この人物には引っかかることだ。
「今の?   カナ☆リン、どういう事?」
(あぁ、めんどくさい。)
「自分で調べろ、情報屋。」
「オケー」
こういう軽さが、たまに怖い。


「で。」
と、立前が話を無理矢理戻す。

「さっき言ったけど私、人間じゃなくなって『ハイブリットアンドロイド』になったからよろしくね。叶くん。」
服を正しながら言う。

この人はこの人で、自由(フリーダム)すぎる。

(ああ、)
夢絶は思う。


(どうしてこうも、俺の周りの年上の女性はこうめんどくさくて、話すのも疲れるようなのしかいないんだ。)


「それでね、やっぱり()()()()()()()になったからにはね、何かとあるじゃない?」

(いや、知らねぇよ!)
と、心の中だけでのツッコミ。

さらに続け、
「最近だと改修とか、実験とか・・・・・・・、実験とか実験とかっ!」
何かを恨んでいるような雰囲気が言葉から伝わってくる。
「まあ、最近は結構楽になってきたんだけどもね。」
またがらりと雰囲気が変わり、軽くなった。

「それにさっきだって、『昔の同僚でもやれるんだろうな?』とか言ってきやがって。」
今度はかわいく見せたいのか、プンスカと怒り出した。
「それがやれなきゃ殺人を商売になんか出来ないのにねっ?」

(あわ)てふためき
「ちょ、ちょ―っと待ってくれ立前さん。」
夢絶が警戒モードに移行する。

「どういう事ですか?」

「ん、どういう?  現在も実験は行われているの。」



































        君と私で。































「島崎 向子さんだけは、規格外。  まさかこの実験に暗部が絡んでくるとは、思ってはいたけど今回は例外だね。」
と、仁王立ち。


「叶くん、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・戦お。」


この部屋は全面真っ白。見る限りJAIM製のものはない。

それもそうだろう。彼女が言った限りだと、彼女が能力者という事になる。能力が使えるのなら、こちらにも勝ち目はあるだろうが、もしも彼女が遠隔攻撃を可能とする能力だったら、こちらに勝ち目はないかもしれない。


知ってた。この人はこういう人だ。
「戦えばいいんでしょう。・・・、あんたの事だ。」
身構え、片足を引き呼吸を整える。
「タイマンしかしてくれないんだろっ!」


「おい!」
連れに言う。
「何ぃ~、カナ☆リン?」


「絶対に、邪魔すんなよ。」
笑顔な回答。
「オォ~ケェ~、手は出さないよぉ~。」








戦闘開始。



両者歩幅約20歩の距離。近寄りがたいし、話から察するに彼女はアンドロイド化してしまっている。

「面白くねぇ、全く。」
ぼそりと口から出た。


直後、体が前に動き出した。地面を能力込みで思い切り踏み込む。その踏み込みは反作用して夢絶を上に、前に押し出した。

上空。彼女の視線はずっと夢絶の顔に向けて。
彼女も腰をひねり、跳躍(ちょうやく)態勢(たいせい)




夢絶が天井に吹き飛んだ。
真っ白色の天井に亀裂が入り、(れき)が落ちている。

全くに何が起こったか分からない。彼女が跳躍の態勢をとった瞬間に吹き飛ばされた。彼女は飛んで来なかった。


彼女は遠隔攻撃が出来るのか?
そう夢絶は思う。










落ちる。
今度は、見極めに(てっ)しよう。

彼女が構える。今度は此方に走ってくるような体制。
「がんばれ、がんばれ。」
そう言って来る。そして、足を動かし始める。
迅速(じんそく)に夢絶の目の前まで来る。それまで20メートルほどあった距離をコンマ5秒でやってきた。

その時、ありえないことが起きた。




彼女が一瞬、目の前で止まったのだ。まるで一時停止したように、瞬間で。
同時に右耳から破裂する音。


その瞬間(しゅんかん)(あと)、彼女は全く違う態勢で再生される。左足で綺麗な上段蹴りを、右耳から打ち、左耳に打ち()くように。

吹き飛ばされ、瀕死。能力の質が超えられていたのか。


それはない。彼女は、自分をアンドロイドだと言った。能力を使えるのは、能力者だけだ。
それに、彼女は能力開発を受けて無い。

走馬灯ではないが、脳は普段の何十倍もの思考をしている。死ぬ直前だと思っているからだ。人間は死ぬ直前に脳が活性化するという。ゆえに走馬灯(そうまとう)という言葉があるのだ。




地面に落ちる。吹き飛ばされてから着地までに56回現状何が起こったのかを考えた。結論は、()からない。

分からない。


「叶くん、」
立前が身体をそらし、視線をそらしながら言う。

「おつかれ。  実験の結果が出た。」
一体何を言っているのか分からない。
「今回は、私の勝ちみたいだね。   また近々会うと思うから、・・・・・・・・・またね。」 
 

 
後書き
今回は、古参の方もこのサイトから見始められた方も衝撃だったと思います。

 だ っ た と 思 い ま す !


<告知>

また、この際『フェニックス/不死鳥』さんと正式にコラボ(?)な事をしようと思っています。
これも衝撃だと思います。

 こ れ も 衝 撃 だ と 思 い ま す !


参考

内容は、『フェニックス/不死鳥』さんの二次創作作品、『とある科学の裏側世界(リバースワールド)』のキャラクター達と、本二次創作作品『とある地下の暗密組織(フォートレス)』のキャラ達でのコメディ&バトルになっております。

更新はまだですが、決定しだい報告させて頂きます! 

 

ep.008  『赤く染まる幼い少女編 6』

 
前書き
もうそろそろ終わりそうですね。 

 
目が覚める。
「ん?   ここは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
全くに知らない部屋。

今わかることは、窓から射して来る光からここが地上だという事だけだ。

ベッドに横になっている夢絶は右手を布団から出し、右耳にあてる。


痛みすらも追いつかない衝撃だった。

と、あの時の戦闘を振り返る。
「『シ 302』、立前さん。どうしてあんたは、いっつも俺を引っ張るんすか。」
悔いではないが、あの人に対する哀しい感情がこぼれてくる。
愛ではないが、彼女に対する心配な気持ちがこみ上げてくる。


横開きの扉が閉まった。
「何か、問題を抱えているみたいだね?」

入ってきたのは医者。
(カエ・・・・・・・・・・・・、ル・・・・・・・・?)
そんな不思議と言うよりかは不気味というような顔をしている夢絶に一言。
「いや、僕は列記とした医者だよ?」

(こいつ、心を読めるのか?)
「なあ。」
思いきってみる。
「なんだい。」
と即答。

「ここは何処だ、どうして俺はここにいる?」


返答。
「ここは病院だよ。君は患者でここは病室。」

何も表情を変えないのが、真実だという事を告げる。
まあ、見た感じは病院か。

「ま、君が運ばれてきたときは僕もびっくりしたけどね。」
「え?」
何か嫌な予感がした。

「右耳が完全に吹き飛ばされてて、頭骨もヒビが入ってたんだよ。」
ベッドの上に置かれてあるそのレントゲン写真に目をやりながら、続ける。

「全く。」
頭をかきながら、
「ここによく来る『不幸』が口癖(くちぐせ)の少年がいるんだけどもね、君はその次ぐらいに重症になることが多そうだ。」

ベッドの前まで来てレントゲン写真を手に取り、
「どうしたらこんなことになるんだい?   まるで耳元で爆弾が爆発したような感じの怪我なんだったんだけど。」
「まあ、色々あるんだよ。   能力者には。」


レントゲン写真を置き、
「そうかい。まあ、その事はもういいとして、」
カエル医者がベッドの反対側に目をやる。

「隣のお連れさん。どうするんだい?」


そこには、ベッドに倒れ伏せながら眠っている御臼の姿があった。

「君がここに運ばれた時に女性がいてね、その女性から教えてもらった電話番号にかけて出た女の子なんだけど、手術が終わってからこの病室でずっと一緒にいたみたいなんだよ。」

「そうなのか。」
優しい気持ちになる。さっきまで立前さんの事でいっぱいだったが、この子は俺に心の安らぎをくれる。
「まあ、迷惑かけちゃったしな。   御臼ちゃん、お疲れさま。」

その優しい心で御臼の頭を撫でた時、ちょうど御臼の目が覚めた。
「あ、叶先輩。  お帰りです。」
「おう。ただいま、御臼ちゃん。」

そして、起き上がった御臼が目を擦りながら、
「叶世先輩がとても怒っていましたよ。任務自体は成功だそうですが、ほとんど失敗なので給料アップはないそうです。」

「いや、俺給料はどうでもいいからね。」


「どうやら、もう大丈夫みたいだね。」
カエル医者が、横開きの入口を開ける。

振り返り、
「詳しいことはまだわからないけど、数日程で退院できると思うよ。」

「良かったですね、叶先輩!」
御臼が笑顔だ。久々に見た気がする、()の笑顔だ
「そうだな。ありがとう、御臼ちゃん。」














































4日後。

第0学区(ちか)、目的区『fortress本部』。

扉の前。夢絶が入る前にひと息()く。
「ああ、帰ってきた。やっとと思えてしまう。」


扉を開ける。
「ただいま、やっと戻ってきたぞっ!」


「あ、お帰り。お兄ちゃん。」
入ってすぐに、サプライズが待っているのはよくあることだが、こんなサプライズ(おどろき)は要らないと思う。

「え、あ。・・・・・・・・・・・・・、誰?」
つい聞いてしまった。4日前に会っていることに気づかなかった。あまりに立前との戦闘が記憶に強く焼き付いたのだろう。


「酷すぎます、叶先輩!   入院したショックで記憶でも跳びましたかっ!?」
「え、いや、マジでいつ会ったっ!?」
必死。本当に記憶から抜け落ちている。


「もう!   あの地下まであった実験施設で見つけた女の子です!」
と御臼ちゃんが女の子の肩を持ち大きな声で怒る。


「う、う、ううぅぅぅ~。」
目に涙が溜まってきている。危ない。

「ごぉ~めん、ごめん!  冗談(じょうだん)だよ冗談っ!」
と夢絶、必死の説得。


「ホントに?」
(ダメだ、罪悪感がすごい。嘘ってこんなにも重たかったっけ?)
「ホントホント、だから泣かないで。   お願い。」


「・・・・・・・・・・う・・・・・・、うん・・・・・・・・・。」
「まだいろいろしなくちゃいけないことがあるので、シーちゃんは連れていきますね。」

「え、シーちゃん?」
と、いつの間にか声に出ていた。何かが引っ掛かったので言ってしまったのだろうと後になって思う。

「はい。  この子、自分の事を『シ 296』って言うんです。」
(あれ?)
不快感が出てきた。

「名前を聞いたらそう言ったし、実験されていたからなのか自分の名前がなくて、囚人番号みたいな名前で自分を呼ぶのかなって。」
「わたし、『シ 296』。」
少女が言う。俺の左腕の(そで)(つか)みながら、何か別の事を伝えてくる。

「ああ、分かったよ。」
(ああ、分かった。分かったから、これ以上言わないでくれ。)
「ほら、お兄ちゃんも分かったって言ってるから、もう行こうね。」


本音を言えば、連れて行ってほしくない。あの子の事を問い詰めたい。そう思っても、あの子が地上の何処かに行くのは、もう決まっている事なのだろう。まあ、経験則だが。

この第0学区から地上に戻された後、彼女は何処に贈られるのだろうか。地上にいる学園都市上層部が決めた施設に贈られ、そこでまた実験させられるのだろうか。




そこで思い出す。4日前、立前の言っていた言葉を。
「今回は、私の勝ちみたいだね。   また近々会うと思うから、・・・・・・・・・またね。」




彼女も立前さんと似たような呼び名だ。同じ施設にいたことも気になる。
「じゃあ、行くね。(かな)お兄ちゃん。」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)


(間違ってるよ。)
































そして、夜。
自室にて、就寝。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くん。」


誰かが身体をゆすりながら読んでいる、気がする。
学園都市に来た結果、ホラー的な事に対して科学者みたいな感覚を持ってしまっていることは確かだ。


「か・の・く・んっ!!」
腹を殴られた。剛速球の野球ボールを食らったかのような痛み。

腹を抑える俺に彼女が言う。
「起きたかな、叶くん?」
聞いたことのある声なのが、不運すぎる。


「なんで、こうも俺の悪い予感って当たるんでしょうね。」
もう名前も呼べなければ、顔も見たくないと目をつぶったまま言う。

「昔っからだもんね、君の『野生の勘』みたいな能力」


先ほどから腹の上に結構な重量を感じる。目を開ける。



































そこには、とても見たことのある童女が、乗り物の様に俺に乗っかり違う知り合いがよくする笑みを浮かべていた。




「先日ぶりだね、叶くん。」 
 

 
後書き
!コラボ情報!

コラボの方は、フェニックスさんと連絡を取りながら着々と進めています。
開始のタイミングの目安としては、フェニックスさんの方で出すキャラが(そろ)い、こちらの現在進行中の長編『赤く染まる幼い少女編』が完結したぐらいです。


この二人のキャラクター達が繰り広げる『コメディ』『バトル』各一話ずつ、計二話を二人ですので四つのお話で構成されます。

お楽しみに。 

 

ep.009  『赤く染まる幼い少女編 7』

「先日ぶりだね、叶くん。」

小さく幼い体から、立前の声がする。

「は?」
と、少し気が抜けそうな声を漏らすと、少女が腹の上で現状の説明を始めた。




「あ~、私の声が何で聞こえるのかとか聞きたいんだよね?」
と、首辺りに手をやりながら言う。
「それはね、なんとこの子私のお姉ちゃんなのだ!」

と、エッヘンと胸を張り両手を腰に当てる。
(うん、知ってた。)


「まあ、そんなに無い胸を張られても意味がないので、とりあえず続きを説明してください。」
露骨に嫌そうな顔をしてみれば、

泣き出す。
「お兄ちゃん、ごめんね。・・・・・・・・・、ごめんね。」
これはずるい。まだ幼い女の子の(姿をした立前さんなんだが)涙を、こんな形で流すなんて。


「ま、それは置いといて。」
(軽いな~。)
と、毎度の流れ。

「今日は大事なことを伝えるために、この子の身体借りてるんだけど」
「あれ、そのこの子の方がお姉ちゃんじゃないんですか?」
と、横やり。

「まあ、身体的にも社会的にも私の方がお姉ちゃんなんだし良いじゃないっ。」
と、またエッヘンとする。

「じゃなくて、大事な事。」
とエッヘン中止(キャンセル)して、話を戻した。

(珍しい。)
と思いながらも、話を聞く。


「私、しばらく学園都市・・・・、というか日本から出るから、よろしくね。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。は?」

まただ。また立前さんの『意味こそ解かるけど理解できない言葉』が始まった。

「じゃ、そういう事だから、この子との接続も切るね。」
「え・・・・・・・、いや。・・・・・・・・・・ちょっ」
鉄でできた童女が倒れる。その着地点は、夢絶の頭だった。

その鋼鉄の骨格が、夢絶を気絶させる。
































(かす)れながらも目が開く。
「んん・・・・・・、っぐ。・・・・・・、ううぅ・・・・・・・・・。」
目が覚めた。昨日の会話の後、何かあったようだが思い出せない。

起き上がろう。が、身体が妙に重く起こせない。


どうなってるんだ?

見れば、布団の上でがっちりと夢絶の胴を抱く童女の姿が。
「なんだ、昨日のシーちゃんか。」

と、眠気に負け、眠りについた。




目が覚める。時刻は05:10、起きていても叶世ぐらいだろう。
身体がすんなりと起き上がった。
「あれ、シーちゃんは?」
辺りを見回しても、姿がない。

(とりあえずは、起きるか。)
身体を持ち上げ、服を着替える。そして部屋を出て廊下を左右交互に見る。

右、左と交互に見る。やはり誰も起きていないようだ。




グウウゥゥゥ~~~~~~

(とりあえず、腹減ったな。)
右に向きゆっくりと歩き出す。

目指しているのは本来は待合室として使われるはずの場所。今は、家でいうリビングの役割を果たしている。

「やっぱりまだ誰も起きてきてないか。」
ついつい口ずさみながら左へ曲がり、歩き出す。

欠伸(あくび)()らし頭をかきながら、申し訳程度にシーちゃんを探す。


着いてしまった。一応、進みながら見回していたがそれらしい姿は無かった。
「とりあえず腹減ったし、なんか飯でも食うか。」


(あさ)る。(はた)から見れば、泥棒にしか見えないような光景だ。台所、冷蔵庫と探して、何もないのかと思い、戻ってきた。

椅子に座り、ふと机の上に目をやる。そこには普通に食パンが置かれていた。と言うより見落としていた。

ついつい机の上に何かあるなと思って、どうせ叶世が置いた置物だろうと思っていたが、まさか食えるものだとは・・・・・。





ガチャッ

いつも通り、邪魔が入る。

何処かの誰かではないが、
「不幸だ。」
言葉が漏れた。


目的区は全体的に階段と廊下と部屋だけの作りだから違うが、ここは地下でずっと夜だ。日の出の無いここの住人達は好きな時に目を覚まし行動し、好きな時に眠る。
「誰だぁ?」

叶世がいないという事は、地下の人間だろう。ここら辺りで来るとすれば『GROW』の人間か?

いや、『シ 302』(あのこ)の事で来た地上の人間か?
何方(どちら)にせよどうせろくな奴が来ないことは分かっている。




「誰だとは人聞きの悪い。お前らが最近こそこそとしているから調査に来たまでだ。」
(・・・・、不幸だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)
この第0学区に置いて一番合いたくない人間が来てしまった。


部屋に入り、夢絶の視界に入る。夢絶には死神の様な女がその目に移った。

真っ黒色(まっくろいろ)のひざ元まである白衣のように見える上着。中にはへそ下までしかないピチピチの黒シャツ。黒ベルトに太ももにも達していない(たけ)のパンツ。右腰からチェーンが逆アーチ形に後ろに伸びている。


その女、矢田 子狂。
支配区の管理者であり、この地下のトップレベルの能力者。そして、『正確性』と言うものにおいて右に出る者はおらず、その能力から人間の姿をした死神とかと影で愚痴られていたりする。
(夢絶が本人のいないところで言い始めたことが起源。)

「それで、お前たちが何かしているはずだが、そのイザコザはもう終わったのか?」
もう見透しているような言い方。それでも彼女は知らない。今回は地下にはなんの関係ないのだから。

「ああ、終わったな。まあ事後処理?、・・・・みたいなのがまだだがな。」
夢絶はやる気のないめんどくさい顔と、寝起きのボサボサヘアーを彼女に見せる事で間接的に「早く帰れ。」と言っている。

「そうか、ならば私は支配区に戻るとしよう。」

彼女にしてはおかしい。いつもはもっと追い詰めるように聞いてくるはずなのに。


「どこかのアホのせいで、地上から人間が来るらしいからセンタービルでする仕事が溜まっているんだ。」

グサリ。

「ああ、一体どこの誰だろうな。   前科(ぜんか)もある事だし監禁区にでも突っ込んでやろうか。」
恐怖だ。監禁区にも会いたくない奴らがいるというのに。


入口前。
「まあとにかく、お前は今は何もするな。   叶世にも、今回のイザコザの事後処理までを終わらせたら何もしないように言っておけ。」

「何故だ?」
素直な言葉。


「本来ならお前らが地上と行き来している程度で私が来るはずも無い。そうだろ?」

それはそうだ。本来ならばと言うところに疑問を抱くが、いつもなら全くに来ないな。という事を伝えるための返事。
「そうだな。」

「お前にだけは言っておこう。」
扉を閉まらないように手で押さえながら彼女が言う。


「現状、地下の全管理者が厳戒態勢(げんかいたいせい)に入っている。理由は、国際的過激派武装組織(IVA(イヴァ))指定されている組織『ピースメイカー(Peace Maker)』が潜伏しているという情報が入ったからだ。」

手を離し、支配区に体を向けて歩き去りながら、
「今のは極秘だぞ。」

扉が閉まる。 
 

 
後書き
次回で終われます。  (*‘ω‘ *)

あと、遅れてしまってすいません。<m(__)m> 

 

ep.010  『赤く染まる幼い少女編 8』 完結

と、結局シーちゃんは何処に行ったんだろう。
とりあえず、数枚入りの食パンを袋ごと手に取り、部屋に戻ろう。


ガチャッ


(またか。)
立ち止まり、今度は誰だと振り返る。




「あ。 叶(かな)お兄ちゃんだ!」
少女の声、いつか聞いた間違い方が少しながらイラッと来る。


まだ痛みの残っている右耳含め、頭をまるまる掴むようにして少女は抱き着いてきた。




ここで思い出してほしい。彼女は『シ 296』と自らを言ったことを。つまり何が言いたいかというと、彼女は恐らくあの『シ 302』と名乗った立前さん同様に何処かに機械の要素があるかもしれないのだ。




彼女がその小さな腕で俺の頭を絞める情景は、彼女の素性を知っている人物から見ればガチムチな男が片手でリンゴを握る感覚に似ているのかもしれない。

この様な比喩を入れた訳は、そろそろ気づいてくれただろうか。つまり、彼女は首の付け根から手首までを疑似関節が占めているのだ。要するに、彼女の腕力は軽く50トン程重量のある戦車を動かす力を持つエンジン(約1200馬力)にも達しているそうだ。


もう一度、頭蓋骨にひびが言ったような感じがした。

「ただいま、お兄ちゃん!」
小さく幼い彼女は、おそらく朝(地下(ここ)には概念しかないが)の散歩にでも行っていたのだろう。何はともあれ、無事でいてよかった。


「彼女、『シ 296』のお預かりに来ました。学園都市のものです。」
苦笑いに似た微笑みをする自称学園都市の使い。
「おい。」
やはり、この男の不審さが引っかかる。


「この子をまるで物みたいに言うな。この子には心と命があるんだからよ。」
頭をポンと撫でてやりながら夢絶が言う。だがそれはこの子の為でなく自分のため、この子でなくまた違う人のために言っている。それは自覚していた。




彼女も命だ、物じゃない。
その事だけは言っておきたいのだ。
「あと、初対面だから信用が持てない。あんたの名刺と確実に学園都市の人間だと(わか)る物を見せてくれ。」


立ち話もなんだと、会議室にシーちゃんも連れて入る。












恐らく常日頃変わることが無いのだろう、この男は笑っている。そんな気がする。
「あぁ~、これはすいません。私、こう言う者です。」

名刺に加え、暗号化もされている中央タワーのカードキーを見せてきた。このカードキーの情報レベルは3。
中央タワーから地上につながるエレベーターを使用できるレベルのカードキーであることは分かる。つまりこの人物は地上と地下を自由に行き来できる権利を持っていることになる。


「分かった、信用しよう。だが、ここにいる以上叶世の、『fortress』(この組織)のリーダーが見送る責任がある。それまではここにいてもらうが、いいな?」


「分かっていますよ。」
「まあ、その後も地上まで俺が護衛するがな。」
そう自信ありげに言う。


「そうですか。それは助かります。」
一礼。そんな事分かりきっているだろう。ここは地下。箇条(オレ条)があるとはいえ、油断はできず、安全性が高いからと言って安心が出来ない。不良なんて探さなくてもいて、一部は街全体が不良なところさえあるのだ。












数分後。
「なんだ、夢絶。学園都市の人間か?」
来た。叶世だ。
「ああ、そうだ。お前の承諾さえあれば、もう俺が同行する準備までできてる。」


席を立ち、
「ああ、私h
「ああ、もう事情は分かっている。ここでいちいち説明されるのも時間の無駄だ。後はそこの『やらない夫(めんどくさがり)』にでも頼んどけ。」

「よしじゃあ行くぞ。」
そう言って、夢絶は席を立つ。










目的区を出て、支配区へ。

移動と言っても、何も変わりない廊下と階段をただただ歩くだけ。何があるという訳でも無く、知り合いがいる訳でも無い。

だが、途中で会った恐らく地上の学生が気になる電話をしていた。


「やあ、久しぶりだね。うん、今は何処で生活しているんだい?」
少しの間。
「へぇ~。今は地上にいるんだ。アンドロイドの制作の手伝い? いや君は人間の構造しか知らないと思っていたからだよ。」














支配区、中央タワー前。

見上げると地上まで続く長く大きい円柱状の一部に鉄骨などで補強されてあるところがある。よく見ると大きな穴が開いており、まるで砲弾でも受けたようだ。

「よし、あと少しだな。」
気を引き締め、中に入る。








中央タワー1階。ロビーになっており非常用階段。低階層用のエスカレーター、地上までの各階層用のエレベーターがその奥に並んでいる。

ロビーを横目に奥へ。いつもながら満員な訳でも無く、かといって()いている訳でもない。

エレベーターに着く。シーちゃんがジャンプをして、少し高い位置にあるエレベーターのボタンを押す。


扉の上。結構上の階層に留まっていたエレベーターの光がだんだん左へ、ゆっくりと移動していく。

着いた。扉が開くとシーちゃんは真っ先にエレベーターに入る。が、どうやら中に人がいたらしく、シーちゃんは白衣に包まれた。

「うおぉっと、危ないよぉ。」
白髪の仙人のような髭の老人が言う。

シーちゃんの肩を掴み、一度こちらに引っ張りながら
「すまない。」
と、老人の開いているのか分からないような目を見る。


「いやいや、いいんじゃよぉ。」
にっこりと優しい笑顔だけをした老人はそのまま立ち去った。

(よくわからんジジィだな。)


最後、立ち去るときにじいさんはシーちゃんを見ていた、気がする。いた訳ではないが、なにか冷たい視線をじいさんの方から感じたのだ。俺でなく、この子に向けて。


「ここからはもう私ひとりで行けますよ。」
そう言いながら彼女の背中を押す。


「いや。」
おい待てと、その背を押す腕をつかむ。少しだけ強く威嚇(いかく)する様に。


「なんでしょうか。ここからはもう安全でしょう?」




その言葉に対して握った手を離し、後頭部をさする程度にかきながら。

「いちいちさぁ、そういうフラグめいたこと言うな。これで俺が行くのが確定しちまっただろうがっ。」

「はぁー。」




エレベーター。階層のボタンは100以上あり俺らが押すのは一番上の階。このタワー上にもこじんまりとしたビルがあるが、そこに地下の階層のボタンをまんま取り付けているというのは不自然だろう。
だから、地上は地下の存在をある程度守るためにこのような対処をとっているのだ。








扉が閉まる。

ガタッと動き出したエレベーターは途中止まる事無くだんだんと加速していき、地上に行く。




「お兄ちゃん。私今度は何処に行くんだろうね。」

他人事のような言葉を思い詰めているこの子は、その幼い容姿からは感じられないような大人びた気持ちが漏れていた。


「まあ、安心しろ。せめてもう実験されないようには俺も力を尽くす。」
この光景を隣で見ている彼はどんな気分だろう。視界に入る限りだと、少し冷めたような目をしている。

「お前はお前なりに人間になればいい。たとえその身体(からだ)がどうなろうとも感情(こころ)とか、表情(えがお)は人間でいられるんだ。もうお前から人間じゃない部分を増やさせはしない。」

この場にいない誰かに言う。彼女に言って彼女に向けて行っていないその言葉を、夢絶はその場にいない彼女に向けて誓う。



















ポーン。

最上階。約3kmの距離をただのエレベーターで上って来たのだ。少し気分が悪い。


扉開き、地上。と言ってもまだ青空やそれを隠すビルが見えている訳ではない。

「おい。お前学園都市の人間だろ?   エレベーターで酔ってどうする?」
夢絶は言う。


「いえいえ、私もこの役職に就いたのはつい2ヵ月前でして、まだまだ慣れないことばかりですよ。」
口と下腹部を両手を使い抑えながら言われたらさすがに説得力を感じるが、とりあえずはトイレに行ってもらおう。

「す、すいません。すぐに戻りますので、待っていてください。」
そう言い彼はトイレに駆け込む。


「お、そうだ!」

「?  どうしたの、(かな)おにいちゃん?」
夢絶はポケットに手を突っ込む。

「ほいこれ、お守りだ。」
そう言って取り出したのは火の玉のような形をした金の枠に、赤と青と緑が入り混じったビー玉の様なものがはまっているネックレスだった。

「わぁ~。お兄ちゃんからのプレゼントだぁ~!」
どうやら気に入ってくれたみたいだな。これさえあれば、この子も安心だ。たとえ何処にいても。

「もしもの事があったら、その玉を握りしめるんだ。いつか使うときが来るだろう、その時にその玉を絶対に使うんだぞ。」
















戻り、
「さ、さて第1学区に行きましょうか。」

「いや、ここまででいいだろう。俺はここまでだ。」
地上にさえ来れば、安心できる。地下の危険さから考えて付いてきたというだけだ。今はそういう事にしよう。




それに、この子にもし何かがあっても、俺の渡したあのネックレスがきっと助けてくれる。










「じゃ、俺はここでバイバイだ。」
彼女が此方を向く。それまでに見た事の無い寂しそうな顔、俺はそれまでに彼女に見せたことの無いような笑顔を見せる。やったことの無い事だ、おそらく頬を思いっきり引きつっていたと思う。

「では、ここまでですね。『シ 296』さん、行きましょう。」
あいつは恐らく何もわかっていない。でも、俺のしてほしいことは分かってくれている。









俺は振り返り、エレベーターの『開』を押す。




















































帰ってゲームでもするか。                 終 
 

 
後書き
フェニックスさん及び、私『観測者』復活!

すいません、話は書いていたのですが、深夜ぐらいにしか書く機会がなく、そのまま寝落ち→PCがスタンバイ状態→昨晩の進行状況を保存せずにウィンドウを閉じるっていうのが何度か起きていました。

それで少し進める気力が失われそのまま少しして、フェニックスさんから『パスワード忘れた。』って連絡があってから再開して、今日になります。


もう少し進行早めれると思うんで、頑張りますね。皆さんの感想なども聞きたいですしおすし。 

 

ep.011  『室内にも雨は降るってコト、これ教科書にも出るからっ!』

赤く染まる幼い少女の後書き、というよりかは後日談。




学園都市から『シ 296』の移送先が決まった。


「シーちゃんの事に関する書類が来ましたよ、叶先輩。」
御臼がクリアファイルに入った数枚の書類を見ながら言う。


会議室の椅子を三つ横に並べ、そのうえで横になっている夢絶。返事はないが寝ている訳でも無い。ただ、部屋の灯りから目を隠している左腕が少しだけ上がった。




「外国に行っちゃうらしいです。行き先は、アメリカ・・・・・・・・・・・・。」
御臼の言葉に少し悲しそうな声色がうかがえる。

たった一日だけ(そば)にいただけなのにこんなに悲しませてくれる彼女に、『ありがとう。』といっしょに『さよなら。』でなく『またどこかで。』という言葉を贈る。今度、元気で。

ふと、眠りにつく。

































深夜。

目が覚める。灯りは消されていて、掛け布団が腰に掛けられていた。
(そうか、夜なのか。)

部屋にかかっている時計を見る。暗くてよく見えないが、短針はおそらく12時を回っている。
(部屋に戻るか。)






























自室。

電気をつけるとほとんど何もなく、使わないまま物置と化した机とベッド。ゲームのみが隙間なく並べられてある棚に、ゲーム用のテレビ、PC。

ゲーム好きが憧れる装備一覧表(ひつようぶっぴん)が全て揃ってある。


時間を今度はしっかりと確認する。午前の2時20分を数メモリ過ぎている。




あのまま眠りについてしまったのか。それにしてもよく寝た。実に17時間くらいだろうか。通常では考えられないような時間だ。

と言ってもそれは常人であって、こんな過去の経緯が複雑すぎで、更には部屋からも察せる程のゲーム廃人ともなれば案外普通なのかもしれない。








灯りを消し、眠りにつく。

不思議な安心感があるのにも関わらず、身体の奥の方で何かの危険信号の様なものを察した。時刻的にも季節的にも怪談にもってこいな状況だが、彼自身はそんなふざけた感覚でなく少し昔を思い出してしまうよう。





























その日の夢には、立前さんが出てきた。目を(つむ)り頬を張るいつもの不思議と背中を刺されそうな怖くも元気な満面の笑顔を見せている。

辺りを見回す。過去に1度見たことのある場所。(こわ)れたビルが並び、地面も(こわ)れている。辺りは瓦礫と炎しかなく、空は月も星も無い真っ暗な空だった。




そして正面に彼女。




数日前の出来事が脳裏で再生されると同時、あの人は一歩を此方に。小さくも(ほこ)らしく(たくま)しく優々(ゆうゆう)しく猛々(たけだけ)しく、そして可憐な乙女の一歩。

その一歩に続いて二歩、三歩と此方に歩み寄る。先日の事もあり身体を後ろに、彼女から距離をとろうと下げるが、身体は全くに動かない。







また視界が停止する。

彼女の元々いた位置とここからちょうど真ん中辺り、姿が固定され停止する。それでも足音は聞こえ、段々と近づいて来る。


次の瞬間、テレビのカットが変わる様に一瞬で、奇怪ながらも当然に彼女は俺の前にいた。














「やっぱり君の翼は綺麗(きれい)だね、昔見たまんまだ。黒って汚い色のはずなのに、この翼は綺麗。」

そう言って立前さんは俺の右肩よりもさらにもう少し上を見る。


「私もこんな翼があれば、君の隣に入れたんだろうか。君の翼と同じようなものが欲しかった。」
はっきりと言って、何を言っているのか分からない。


動かない首を無理矢理に曲げて右後ろを見る。そこには、長さで言うと2mくらいの真直ぐなバーナーの炎のような翼がある。

そしてその目は、次第に付け根まで確かめるように。付け根には翼はなく、本当にバーナーの様。




「綺麗だよね。」
と彼女が言う。確かに言葉では綺麗としか言えない。




見たことがある。昔、同じものを見たことがある。もちろん学校の理科の実験で取り扱ったバーナーでなく同じ黒を、この方から()びる真っ黒色の焔を。


「それが君なんだね、ジェネス君。この子と一緒にいるのはいいけど、そろそろこの子の前にも姿を見せてあげてはどうかな?」
立前さんが俺でない俺の中に言う。

「この者は、まだ我を受け入れきれていないのだ。姿は見せるにしても、まだもう少し時間が欲しい。」
口が動く。それも達者に。でも、自分とは思えない口調に声の響き、洞窟にいる様な程の響き具合だ。


「見せる気はあるんだ。」
立前さんは俺の目を見ているのに、俺に言っている気がしない話し方だ。

「我の力がもう少し程戻ってから、教査会に縛られないほどの力が溜まるまでは、まだ姿を明かさずにおりたい。」
また口が勝手に動く。


「でも、すぐそのうちに会えるんだね。その時は、しっかりと会ってみたいものだよ、君にね。」


夢はここで終わった。

































朝、おそらく5時前。朝という気が起きない現状。時間は『たぶん』だとか『おそらく』でしか測れない。太陽の光の無い地下では時間はとても大事なのだ。

身体を起こす。まだまだ目と頭が眠っているのだが、身体は不思議を眠たくなくダルッとした感じもしない。


取り敢えずは毎日の習慣として部屋を出る、朝食を探しにだ。




部屋を出て、机に座る。

ガタッ!!

扉が開いた。叶世。

「おう、お前にしてはあり得ない(めずらしい)ことだな。今日の予報は隕石か何かか?」
と、全くに笑えないジョークを瞬きをせずに、その死んだ魚のような目で言う。


「アホか。ちょっと昔の夢を見てただけだ。」
本当は全然違う内容の夢だ。背景は見たことがあるのに肝心な人物がいなかった、憎らしくも仲間意識の持てるあいつだ。だが、口はそうしか動かず本当のことを言わせてくれなかった。


「ああ、そうだ。全員でしたい仕事がある。今から全員起こしてくれないか?」
叶世が会議室の扉を指さしながら言う。

夢絶はそれに対して、
「無理なやつでいいか?」
叶世は何も言わなかった。それは『良い』と言っているのではなく、『駄目』と背中で語っていた。































ならしよう。


ビニール袋を用意する。それを天井にあるスプリンクラーのつなぎ目で結び、準備完了。



これやってこの前御臼ちゃんに怒られたっけ。

夢絶は、壁に掛けられたとある赤い箱の前まで行き、その箱にある『押すな』のボタンを押す。




ジリジリというサイレンが鳴り響き、全ての部屋に一斉に『恵みの雨』ならぬ、『目覚めの雨』が降り注ぐ。

「叶先ぱあぁいいいいいいいいいいいいいッ!!!!」


御臼が自室から怒っているのが聞こえる。


スプリンクラーは、5秒ほど降るとすぐに止んだ。これも、夢絶が使うからこういう風に叶世が変えたのだ。


(さ、さて。会議室に入っておくかな。)
夢絶は、御臼の怒った顔を想像しながら会議室に結構満面の笑みで入った。 
 

 
後書き
更新です。

今回は少し夢絶の過去に触れてみるお話ですね。そろそろ神様も出してあげないといけないので、次の長編には神様も戦ってもらいましょう。 

 

ep.012  『darkside person`s』

夢絶が室内で雨を降らせているとき、また違う場所。そこは少し湿気の多いくらい場所。

近隣の建物とは違う高めのビル。それ自体、ここには少ない希少価値ともいえる。そんな建物の最上階、階層で言うと10階ほどの位置にあたるところの大きなバルコニーで葉巻を吸う中年が一人。


「どうやい?  久しぶりの第0学区(ちか)は?」

右手の二本指で葉巻を一度口から離し、煙を吹かしながら中年が言う。




少年。年齢は容姿から見て20ぐらい。
「お前は、馬鹿で面倒くさい親のいる故郷に帰ったとき、どんな気持ちだ?」

その少年が言う。他のどんな人間とも違う雰囲気を周囲に漂わせる。冷たく悲しい悲劇の主人公、そして冷徹で無慈悲な最悪の強敵(ラスボス)




「質問に質問で返さんとんてがまい。お()さんのやりたい事は分かってますがな。」


再度、葉巻を(くわ)え、
「もっ一回(かい)、あの夢絶と(やりあ)う気なんしゃろ?」


少年は何も言わない。


中年が続け、
「今度で3度目、でっかな?  もうそろそろ最後にしてもらってもそろしょかなぁ?」

常夜の空を見上げながら、
「我々地下の人間としても、そろ危ないんしゃわい。」


「もう、俺の肉体的にも1,2度しか()り合えない。それに、もし二度目になったら、死ぬ確率もあると聞いた。」

少年は、開けたその自らの手を見ながら言う。


「んまぁにゃっ、今回俺らの時間を稼いでくれりゃあそれでいい。あんたもそれでかまにゃんのやろ?」


手を握り、
「ああ、とりあえずはお前らを助けてやる。お前らのしたいことなどは全くに理解できないが、まあその気も無いことだし、良い。だから、お前らは俺とジェネスの戦いを干渉するなよ。」




中年は少年を見ながら、少年は目を伏せ下を向きながら。


「もしかしたら後世にまで伝わるかぁわからん試合に、水差すようなことはしまんにゃわい。それに、(わい)も教査会の一員でっせ。宗教の神様同士のぶつかり合い、外野から見んわきゃなしゃろうに。」



「好きにしろ。」
少年が扉の方へ。


「だが、邪魔など(つまらないこと)をしたら、お前を俺が撃ち殺す。」
扉を出た。




残るは中年、また空を見上げている。本当に真っ黒く街並みもどこか汚い。

下を見降ろす。
「んな事すん暇あれりゃ、アンゲルはんにド突かれまっは。」

また煙を吐きながらそう言った。
































また違う場所。

地下に降りるために設置されているいくつも存在しているエレベーターの一つ。


「これから地下を殲滅(せんめつ)する。」
黒いスーツを着た集団が言う。
「・・・・・、準備はいいな?」




人数は4,5人。真っ黒色の皮グローブに拳銃を握る。エレベーターが地下に向けて半分を切った。

「池野・・・・・・、操作・・・・・・・・・・・・・・。」
その集団の中で一番扉に近い位置、おそらくはリーダーのようなポジションを持っているであろう人物がポツリと呟いた。


彼らは地下で活動していた暗殺組織である『アナコンダ』。約3年前に当時の『池野 操作』という1人の人物に解散にまで追いやられた。


彼はその時のリーダーである。恨みを持ってこの第0学区(地下都市)に戻ってきたという訳である。




彼が刻まれた額から頬まである左目の傷を抑えながら言う。

「あの時の屈辱・・・・・・・・、ハラス・・・・・・・・・・・。」
その刻まれ開かなくなった目が(うず)く。池野 操作に味わされたこの傷と同じものを彼に、更にはもう片目にも同じ傷を、と。




「あの時の復讐を完遂し、殺し屋としての品位を取り戻し・・・・、お前の今いる場所さえすべて消してやる・・・・・・・・・・・。」


それ以上は彼は何も言わない。ただ、数十秒の沈黙。地下に蔓延る鉄の臭い。と言っても、鉄ではない。








第0学区、腐敗区。

腐敗した死体が転がり、汚臭を振り撒く。崩れたビルのがれき後などに見える血痕ももはや黒く固まりきり、町の一部と化している。

ここが腐敗区と呼ばれる前、地上との戦争の後が唯一くっきりと残っている場所である。堕ち論他の場所の全ては復興している。区の境を見ればそれは一目瞭然である。










扉が開く。

小声。
「お前ら、ここが腐敗区だ。空気も人間も建物も、全てが腐敗しきった現在進行形でまだ腐っていっている場所だ。学園都市(地上)第0学区(地下)も、ここを一切元に戻そうとしやがらねぇ。」


彼は殺す。自信を、感情を、記憶を。ただ、憎しみだけを心で生かしている。池野 操作、彼に対してだけ。

「俺らにはもってこいな隠れ(みの)だ。これで殺せる、・・・・・・・全部。」


先程よりは大きな声。憎しみは徐々に力を増している。そして彼は知っている。池野 操作の弱点を。情報屋から聞き入れている。


「よし、あとは全員集まるまでここで・・・・・。」


























「お前ら。・・・・・・・・、食事。開始。」

大蛇(アナコンダ)は沼に踏み入り、沼の(かわず)(たい)らげ始める。 
 

 
後書き
今回は少し少ないですかね。まあ、このお話を更に分かりやすくかみ砕いた表現をしてくださっている方がおりますので、そちらも見ていただけると幸いです。

というか、自分のストーリーで展開を知っているのにも関わらず、『更新してる!』と読者として拝見させて頂いてます。

(自分が話し進めないといけないことに気付いてますよ。そうしないと向こうの方が続きかけないことも知ってますよ。展開が難しいんですよ。)

ちなみに、僕の書き方は前回からの続きをアニメーションとして想像しながら書いております。だから、展開が色々湧いて来るんですが、伏線とか入れたいですし、難しいです。小説家さんってすごい! 

 

ep.013  『機密情報漏えい。  fortress総員出撃っ!』

fortress会議室。

18人のメンバーが全員が席に座る。20ある席の内、3つの席に空きが生じる。その理由としては、夢絶であるとしか言いようがない。


「あれ。何で俺、縛られてんの?」

夢絶である。皆の怒りを買ってしまい拘束服を着せられて芋虫の様に席の後ろに倒れている。

会議室の席はヘアピン型で、夢絶は一番左奥にいつも座っている。


「自業自得です。」
と、空いている夢絶の席の二つ右にいるの席にいる御臼が正面を見て一切夢絶を見ずに言う。

「そろそろ夢絶もいじめる対象に・・・・」
と、更に右隣で笑えないジョークを笑顔で言う膳井。


「全く。いつものことながら何をやってるんだお前ら。」

頭を抱えながら、叶世は話を始める。だが、無絶を縛ったのは叶世である。なぜなら、もちろんの如く、この会議室にも『(スプリンクラー)』が降ったからである。








「さて。」

と、話を変える。その腐った魚のような目から生き生きとはいないが、生きていると判る程度の声色がうかがえる。

その彼の手前にはペンと、メンバー全員の名前が書かれた紙があった。


「今回お前らに集まってもらったのは、急を要することがここで起きたからだ。本来なら地下・地上の一部の巡回などがある今日だが、すまない。」
と、頭を下げる。手は机に綺麗に置かれ、頭はほぼきっちり45度で傾いている。

「・・・・・・・・・・・・・・・。今回、この『fortress(フォートレス)』が今まで取り上げてきた案件と上層部などとの情報などが一気に盗まれた。」


一同、あまり動じない。ある2人を除いて。

「そんなこと許せません!  私が叶先輩で成敗しますっ!」

「えぇっ!  それ大変じゃないですか、お兄ちゃんどうにかしようよぉ。」
と、少し弱気なみんなの妹と、正義の塊が何か言っている。


また、それに対して、
「そうだねぇ~、御臼ちゃんの為にも倒しに行こうかぁ~?」

光利(ひかり)ぃ~。お兄ちゃんが行ってきてやるから、光利はここにいても大丈夫だぞぉ~。」


叶世ツッコミ。
「おい黙れ。そこの『後輩好き(ジュニコン)』と『妹好き(シスコン)』!」


「「五月蝿い!」」
と二人一緒に言った後、夢絶が、
「それだと後輩全員いたわらないといけねぇだろ。俺が好きなのは御臼ちゃんだけだ!」

「そうだそうだ。俺が愛しているのは光利だけだ。『シスコン』ではなく『ヒカリコン』と呼べ。」

「俺の事も『オウスコン』と呼べ。」


そして夢絶が御臼の方に目をやると、御臼ドン引き。光利はいまいち意味を理解していない。

「叶先輩。取り敢えず数日だけ私に近づかないでください。」

「ああ、わかったよ(『する』とは言ってない)。」




「じゃあ、班分けをする。」
このセリフを言ったとき、叶世はもうこの二人を諦めた。


「俺はもちろん御臼ちゃんといっしょかな?」

「なら俺ももちろんのごとく光利といっしょだろ?」


叶世は右手で多色のボールペンを持ち、左手近くにあるメンバーの名前の書かれた紙に赤、青、緑で色分けしながら俺ぞれの名前をまるで囲んでいく。

「現状、一番怪しい組織を追ってもらう。第1班メンバーは、『夢絶(むぜつ) (かの)』、『瀬貝(せかい) 大丈夫(ていしょう)』、『島崎(しまざき) 狩牙(りょうが)』、『島崎 光利(ひかり)』、『一己(ひとつい) 初始(はじめ)』、『ルレシオ・ジン・シェイリアス』、そして俺『叶世(かなや) 重実(じゅうじつ)』だ。」





そこで無絶が拘束服で椅子の後ろに倒れ込んだまま芋虫の様に暴れている。

「おいコルァッ!!!   なんで俺と御臼ちゃんが違う班だよっ!!」

足と胴体で地面を擦る音が微妙に鬱陶(うっとう)しい。御臼はもはやツッコむ気にさえなれない。




「今回の任務はお前の技能(スキル)もいる。そのくらいのことだ。」


ジタバタが治まり、少し考えて記憶を掘り起こした後ちょうどヘアピン型の机の曲がり目(センター)に座っている叶世に向く。

「ああ、あれか。もう何年も使ってねぇなぁ~。てか、あれは体質みたいなもんだし、感覚が残っている(使える)かも怪しいぞ?」

「大丈夫だ。それがなくてもお前は相当な戦力にもなる。」


「じゃあ、班分けの続きに続きに戻すぞ。」
また叶世は紙を見る。


「第2班。『御臼(おうす) 来未(らいみ)』、『下根(しもね) 高親(たかした)』、『枯木(かれき) 髙彬(たかすぎ)』、『ライナー・シュタイン・ブルク』、『シャーロック・スレイン・ブルク』、『水無月(みなづき) 千尋(ちひろ)』、『水無月(みなづき) 陽炎(かげろう)』だ。」


千尋が一言。
「そのメンバーだと、内容は巡回とか?」

「ああ、第2班には地上での巡回・・・・、と言うよりかは第4学区での待ち伏せの様なものだ。」

「待ち伏せ?」

「今回の任務の間、第2班が一番自由に行動できると思ってくれ。もっとしっかりした任務内容は後で下根に紙で渡すつもりだ。いいな、下根?」

「了解。」
と、下根は真面目な声色で返す。


「よし。最後に第3班。この班には第1班の調査と第2班の待機中の間、地下の仕事をしてもらいたい。いつもの地下で起きる事件の収拾だな。」

そして、また紙を見ながら、
「まあ、メンバーは残りの『膳井(ぜんい) 潤垂(じゅんすい)』、『咲島魚(さきじまうお) 龍閃(りょうせん)』、『神無月(かんなづき) 重悟(じゅうご)、『殺瀬(ころせ) (ゆう)』だな。後、地下の事件にはそれぞれの区の管理者、または協力してくれそうな人間に依頼してある。そいつらとコンタクトを取った後、事件に取り掛かる様にしてくれ。」




叶世、メンバー全員に目を合わせながら。
「いいか、今回はあまりにも危険な任務になる。お前らの事を疑っている訳ではないのだが、今回のような事があった時のために、『GROW《あいつら》』に頼んでおいた特殊武装が倉庫に届いてある。各自、出撃の時は一度そこに行くようにしておけ。」


解散。



































第0学区、支配区。中央タワー前。


「今回は殺しの依頼ではなかったんだが・・・・?」

「そんなこと言わないでくださいよ、もう依頼料は先払いでもらっちゃってるんでしょ?」


地上から2人の学生が来た。夏服のカッターを着た二人。

「あの叶世がまさか依頼に来るとは思わなかったが、おそらく結構な危ない状態なんだろう。大丈夫だな、裂博。」

「もちろんです。でないとこんな仕事続けて無いですよ。」

「なら良しだ。よし、とりあえずはあいつに言われた通り、目的区に向かう。一応ざっくりな地図はそこでもらったしな。」
と、何やら折りたたまれた紙を取り出すと開く。


そして、二人は目的区、『fortress本部』へと向かう。 
 

 
後書き
少し遅くなりましたかね。お待たせしました?


始まりました。長編第二弾、今回は相当に長くなることを覚悟しています。ですが、古参の方もそうでない方も楽しめるように最大限に頑張りますね。どうぞお楽しみに。

早速古参の方は楽しまれていると思われますが、最後の2人は・・・・・。そうです。


2017/01/07
足りない部分を修正しました。 

 

ep.014  『陽の光を浴びてみたものの・・・』

 
前書き
公開日がまんま1ヵ月ぶりだ。  (*´ω`)ワァ~

                ( ゚Д゚)アレ?
 

 
第4学区。

「階段長くね、何十分かかったの?」
とおっとり笑顔で下根が言う。




ここは第4学区の某イタリアンである。オーナーは名目上は誰かわからない何処かのおっさんがやっているが、実際のところは『GROW』が営んでいるといってもいい。

おおよそは、商売(非合法武器の売買)で手に入れた金で釣るして権利だけを手に入れたのだろう。どうしてそんなことをするかだが、この店の厨房に謎にある扉が地下への階段になっているからである。




「私もこの店は知らなかったです。」

現時刻は、午前9時前。もう少しで開店と言ったところだろうか。シェフと思われる人物がとても驚いてる。まあ、この店で働いているし、何よりもオーナーがGROWのリーダー(あれ)だから、地下の存在や、今までにここを通って来た人間にあったこともあるのだろうが、時間帯として珍しかったのだろう。

「ああ、お仕事前にすいません。どうぞお構いなく作業に戻ってください。」
御臼が深々とお辞儀をする。

「いえ。少し驚いてしまっただけです。今すぐお茶を入れますので、好きなお席にお付きください。」

シェフは30前半ほどだろうか。妙な落ち着きが見られる。『GROW』につられるような人物には到底見えない。


「どうぞ。紅茶です。」
シェフが7つ分のティーカップと紅茶の入ったポッドをお盆に乗せて持ってきた。そのままテーブルの端にお盆を置き、ティーカップを配る。さすがに7人で一つのテーブルに座れるわけもないので、一つのテーブルに4人、隣に3人で座っている。3人の方に『下根(しもね)』、『御臼(おうす)』、『枯木(かれき)』。4人の方に『ブルク兄弟』と『水無月姉弟』が座っている。
「あぁ、どうも。」
シャーロックが小さめの声で答える。




そして、4人に配り終わった後、『下根』・『御臼』・『枯木』のテーブルにカップとポッドを置くと盆を湧きで挟み一礼して戻っていった。

この店はイタリアンのはずなのになぜかカフェのような接客だった。
「ああ、そういえば下根さん。」
御臼が言う。


「ああ、あれね。なんか封筒に入ってて『後でいっかぁ~』ってなったから今開けるね。」
と下根がテキトーにしていたであろう真ん中で斜めにおられた後のある封筒を開ける。

そこには、おそらくは上層部からFAXか何かで送られて来たものであろう書面(手書き文)があった。内容は、


《現在、地下に潜伏していると思われている犯罪組織『ピースメイカー(Peace Maker)』が潜伏していると思われる。主には支配区の極北辺り、ちょうど監禁区と接する手前当たりでの目撃情報が頻繁に報告されているそうだ。また、地上にくる可能性も十分にある。相手は『国際的過激派武装組織(IVA(イヴァ))』に指定されているほどの勢力を有していることから、最悪には国外まで逃走される可能性もある。その可能性も考えてメンバーの配置、作戦を練る事。

そして、その『ピースメイカー』での情報が届いた。彼らの中に元『fortre―――》

文章はその後からがマジックで消されており、舌の余白に叶世からであろう追記があった。

《以上の通りだ。配置はあらかじめ言ったから、作戦の説明をする。俺の電話につなげ。》


「ですって。」
「だって。」
「だとよ。」

いつの間にか覗き込むようにして見ていた御臼・シャーロック・枯木が言う。


「はぁ。取り敢えず連絡とるか。」
ポケットから携帯を取り出した。

















































一方で、地下。目的区。

『fortress本部』。




(そういや、あいつ。なんか武器があるとか言ってたよなぁ~)

夢絶がふと思っていた。










































倉庫。扉前。


この本部の中にある取り締まった武器やその資料が山の様になっている。まあ、大体の武器は警備員の横領されたものや船などで運ばれてくる時に紛れ込んでいるのが大体で、それがこの第0学区に行きついて来るのだ。

残りは、言わずと知れた『GROW』の奴らが売買しているという訳だ。
(で、『GROW』の奴らが寄越した武器ってなんだ?)

倉庫の扉を開ける。倉庫に入るためには扉の隣の端末から6桁の数字を入れ開ければならない。


右手で、端末の0~9までの数字を入れる。
この数字の情報はさすがに知られていないようだな。まあ、それもそうか。こんな情報を叶世(あいつ)が載せる訳がない。

6桁。その数字を入れると扉から一瞬蒸気が吹き出る。
このシステム要るのか?


一瞬吹き出ているのはドアのロックに全く関係のない蒸気である。理由としては一応相手に威圧感やこの先に入るべきではないという心理的な不安感を植え付けている。まあ、地下(ここ)では相手の好奇心を駆り立てるので意味がない。


(というのは置いといて、武器である。第4学区に行っている奴ら(かっこ)御臼ちゃん除き(かっこ閉じ)は何も持って行ってなかったけど・・・・・・、というか、御臼ちゃんがトンファーとか持って行ってたような気が・・・・。)


倉庫。真っ暗な部屋を照らしているのは唯一ある電球。壁一面には各種の書類の入った段ボールと徴収された数々の武器が置かれている。


その部屋のど真ん中、真っ白の机に置かれている『GROW』から送られてきた武器とその武器を携帯するためのホルダーが無造作に置かれている。


と言っても、御臼の分を足しても人数分には至らない。理由としてはこの『fortress(フォートレス)』には武器を全くに必要としない能力者もいるからである。

たとえで名前だけを上げるなら、島崎の兄『島崎(しまざき) 狩牙(りょうが)』である。




えっと、今ある武器は

拳銃二丁と予備のマガジンが4つ、警棒、ナイフが3柄、黒箱二個、鉄球、腕に巻き付けておくタイプの隠し銃と、








































・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、抱き枕?













































あぁ、そうか。これ本来御臼ちゃんのだ。
てか、そう考えると個人にあった武器になってるのかな?


多分、ここにあるナイフのうちの2柄は叶世だろうな。あいつと一回ゴムナイフで一騎打ち(タイマン)してみたが、全く歯が立たなかった。

そして、こっちの拳銃は全て殺瀬のだろう。あいつの能力は予知能力だし、相性もあいつ自身の慣れも良い。そしてあいつはここに入ってからまだ人間を『殺して』いない。

あと、この鉄球はどう考えても神無月だろうな。


てか、能力的に考えていくと、御臼ちゃんの持って行ったトンファーって本来俺が持っておくべき武器じゃないのか?

俺の能力はうまく使えば俺の能力(ちから)で物体全体に掛かるベクトルを一方向にすることによって通常じゃあり得ないほどの破壊力が連続で与えれる。というか、俺ここにある武器、抱き枕以外全部使える。









てかこの抱き枕、御臼ちゃんは手に取らなかったのか?

(本人が見れば、一瞬でこれだと思うだろ?   俺もすぐに閃いたし・・・。)




持ってみる。特に何もないただの抱き枕である。




裏返す。
そこには夢絶の画像が切り取られて貼り付けられている。















(あぁ~、ね。)
それを見て光並み速さで理解してしまった。


(どう頑張ってもこれかな?)


何とも言えない、よくわからない感情だ。いや、この感情は間違いなく





















不快感だ。
(泣けるぜ。)




とりあえず、夢絶はその抱き枕をあのいけ好かない『GROW』のリーダーだと思い引き裂く。今あったら素手であいつの本体を引き裂ける気さえする。


(とりあえず、今はこれで我慢するか。叶世は短いナイフを2柄同時に使う変な戦闘スタイルだし、どうせ余るなら貰っておこう。)
そう心の中で言ってナイフ用のシースを腰に巻く。そこに先のナイフを挿し、思う。




(このナイフもそうだが、この武器のほとんどがJAIM(ジャイム)製だな。これを使うときは注意か。)






とはいっても、戦闘はまだ数十分ほど先になりそうである。なぜなら、現在地下で最強ストーカー『島崎(しまざき) 光利(ひかり)』が敵の位置を集めているからである。探している地区は腐敗区と支配区。こういう時に犯人が最も隠れる事が多く、また最も隠れやすいのである。そこを彼女の能力、『完全把握(オールシー)』が見通す。




島崎 光利の『完全把握』は、半径ほぼぴったり300メートルに存在する気体・液体・個体と自身の触覚・視覚・聴覚を共有化する能力である。








彼女が今その二区を回っている間は俺ら第1班は身動きが取れず、第3班は動くことはできるかもしれないが、そこで騒ぎを起こしたら第1班がおっている今回の目標(ターゲット)怯えさせる(チキらせる)ことになってしまうのでうかつに巡回することすらできない。取り敢えずは後約30分ほど待合室で待機でもさせてもらうとするか。


















待合室。丸テーブルを囲む一つの椅子に座りながらに思う。





そういえばもうすぐ来るのか。助っ人。 
 

 
後書き
また助っ人の人たちを主人公にした話とか作りたいなぁ(赤面しながら過去スレ呼んでました。)。


てことで、お久です。観測者です。

だと思います。長い期間更新できなくて自分が観測者なのかもわからない現状。

というボケは置いといて、時間がかかってしまいました。というのにも理由がございまして。と言っても皆さんには関係がありませんが・・・・。(´・ω・`)


自分は基本的に3000字を基本とした数字として1話をかいているのですが、

今回の話、最初の1000字。つまりは第2班の駄弁りまでは20分ぐらいで出来上がっていたのですが、複数の路線が同時に進行している現状、どのルートからどういう風に書いていいのか分からず、詰まっていました。

そして昨晩にフェニックスさんからSNSで「話早よっ! (・ω・)ノシ」みたいなことを言われて、書き始めたしだいです。


地上の出来事と、地下の出来事を書いている期間が1カ月ほど空いているので、何か違和感があると思いますが、許してください。m(__)m 

 

ep.015  『過去と未来に悩む現在』

 
前書き
早めの更新です。 ('◇')ゞ

驚きましたか?    (#^^#) 

 
叶世充実。彼は今支配区にいる。


会議が解散した後の事である。







































一人だけ会議室に残り、考え事。


(そういえば今回、『あいつら』に依頼したが本当に来るのか。   地上で生活しているし本職学生で地下の事も全く知らないだろうし、それにこの場所はあの二人にとってけっこう円のある場所だしな。)

手のひらを額の前で組み、その組んだ手で頭を支えながらさらに続ける。

(とりあえず行ってみるべきか。まあ何はともあれ、金は渡した。金額さえ弾んでしまえば結構何でもしてくれる奴らなんだよな。まあ、殺しの依頼の方があいつ等らしいのかな。)

と不適で不気味な笑みを浮かべると席を立つ。


向かうは支配区。中央タワー近辺。そこにいるであろう二人組を迎えに行く。





































その相手、二人組。鋭いメガネの方が言う。
「さて、目的区に向かいだしたはいいが、そういえば俺達、あいつ等のアジトを知らなかったな。」
中指で眼鏡のブリッジを上げ、メガネクイ。


「そういえばそうでしたね。戻りましょうか。」
と優しめの方が言う。

「ああ、戻っておこう。どうせあいつらの事だ。こちらに向かっているだろう。それに、今回持ってこられた案件。ここで待っていれば、いつかはそいつに出会うだろう。」
そう言い、道を巻き返し出したメガネは|天井(ちじょう)までそびえて立っている中央タワーを見る。

(今回きたという奴ら。『国際的過激派武装組織(IVA(イヴァ))』にも認識されるほどの財力・武力・情報力を有しているとなればその中にカリスマ性に優れた指導者がいるのだろう。

そいつは統率力や話術なんかにも優れているのだろうな。まあ、自分たちの意志で戦争を起こす国家に属しない軍隊と考えたらそんな将軍(あたま)がいても全くに不思議ではないか。)
メガネクイ。




「暁さん、どうしましたか。地下についてからずっとメガネの微調整してますけど?」
と優しめの方が心配そうなトーンで聞く。

「何でもない。ただちょっとピントが合っていないだけだ。」
メガネクイ。

































二人。着き、辺りを見回す。

何も変わっていないように通行人がいる。この地区はやはり安全なのだろうか。常に夜の様に暗いことを除けば地上をほとんど変わらない風景が見える。


優しい方が辺りを見回す。
「『fortress』の連中はいつ来るんですかね。」

メガネクイ。
「知らん。でも目的区からここまではそれほど離れてはいない。かかってもせいぜい10分程度だろう。」

「じゃあ、待つしかないんですね。」

「そうなるな。まあ、ほんの少しだけだろう。『rortress』の奴らは一応は学園都市の一部という事になっている。本人たちの意志などに関係なくこちらに来るように命令されることだろう。まあ、上の命令がどうであれ、叶世(あいつ)は来るだろう。」




無神経、無感情、無感動というとてつもない不動の精神を持っている彼は機械的などではなく常識的に動くことが自然であると思っている。世の中を我が道だけを歩むように、彼は世間体(せけんてい)を常識で歩んでいるのである。




「お。あそこにファミレスがあるじゃないか。まあ、景観は独特だが。」
と苦笑い。だが、最初に見たというのもあったが、地下にある食事処がどんなものかという好奇心が働いたのだろう。

「入ってみるか。  来る途中もひどかったが、これからの事も考えると腹が減っていたら駄目だろう。」




これから。あの『fortress』が此方に依頼してくるレベルの大ごとなのだろう。学園都市の外部から来る脅威から守っている『警備員(アンチスキル)』と違い彼らは学園都市の内部、それも相当に奥深くの暗部から来る脅威から守っている。

その暗部から来る脅威から学園都市を守るプロフェッショナルが此方に依頼をし、相当の報酬と情報を寄越して来た。

(『国際的過激派武装組織(IVA(イヴァ))』。それほどに今回の目標(ターゲット)は強大なんだな。まあ、いつもと変わらず始末(ダウン)させてもらうことに変わりはない。)




隣ではそんなことを考えているとも知らずに、来る途中の事を言っている。
「そうですね。   いくらなんでもあんな急降下するエレベーターは嫌ですね。」

来る途中、二人の通う『森宮高等学校(もりのみやこうとうがっこう)』の学生寮の一棟。

その管理人室の中。ある仕掛けを作動させることでこの地下へと続く道が出上がる。と言ってもあるのは腰の高さの手すりと床。そして次に待つのは地下の世界へと続く驚異のアトラクション。


地下にたどり着くまでは一番早い方法であるが、使う人間は限られている。


そのルートを選んだのも今回の依頼が重要そうだったからであるという訳だ。
























ファミレスに入ると、何やらウェイトレスらしき女性が出てきた。

ふりふりの似合っている青みがかった黒色のショートボブの落ち着きのある子である。


胸のネームプレートには『久安 唯』と書かれている。

「ようこそ、『ユイのレストラン』へいらっしゃいました。」
そう言いお辞儀をすると、店の角から2番目の席へと案内された。




席に着く。

席に着き落ち着いた後、ウェイトレスが席の窓際にある大きなラミネート加工された紙を指さす。
「ではそちらのメニューを見た(のち)、お決まりになりましたなら大きな声で『ユイちゃぁ~ん、注文いいかなぁ~』とお呼びください。私が注文をお受けに参りますので。」



「一つ聞いてもいいか?」
メガネクイ。

「はい。なんでしょうか?」


そう言うと辺りを見渡す。
「この見えにはウェイトレスはお前しかいないのか?」

周りには数人の客がいるが、それに対応するホールスタッフはこのウェイトレス以外には見当たらない。
「あぁ、はい。ホールは私ともう一人が別々の日に入っている程度です。まあ、それでもこのお店では対応できますので大丈夫です。」

テーブルは見渡した限り、10と少しばかりである。それを一人で(さば)くのは結構に至難の業であろう。

胸の名札を見直す。
「あぁ、あとあんたが叶世から聞いていた『久安(ひさやす) (ゆい)』か。この後大丈夫なのか。」
時間(シフト)的な問題。彼女が優秀なのは聞いていたがホールスタッフがいなくなってしまうのはダメであろう。


「はい。大丈夫です。もうすぐしたら管理人さんが来てくれますので、その方にお任せします。」
「そうか、ならいい。   あ、俺はこの朝のティータイムセットをくれ。」

「裂博は何にするんだ?」
そう言ってメニューを渡すと、見た瞬間に『これだ!』と目に飛び込んできたものがあった。

「じゃあ僕は、このシュガートーストで。」
「はいかしこまりました。シュガートーストと朝のティータイムセットですね。」

メモなどを取らずにいる事に不安感を感じるが、彼女は厨房へと行った。






約5分後。

「お待たせしました。こちら、シュガートーストと朝のティータイムセットになります。」
さっきの久安がお盆の上にシュガートーストとコーヒーと焼かれたとーうとを持ってきた。

そしてテーブルにお盆を置き、二人の注文の品を渡す。

一言。
「すみません。朝のティータイムセットのゆで卵なのですが、少しお時間がかかってしまいそうですので、あともう5分程度お時間をとらせていただきます。すみません。」
と丁寧な対応。

「仕方ないですね。もう少し待っていますか。」

「あと、ゆで卵の方ですが、持ってくるのは先ほどお話していた管理人さんになると思います。その時間になるとお客様が増えますのでご注意ください。」

「ああ、わかった。」
「では、私は先に失礼させていただきますね。お二人はこの後『fortress』の皆さんのところに向かうのですよね。でしたら私もご一緒させてください。」

「ああ、了解した。だが、俺たちが食べ終わるまで何処に

「良かったです。ではあなた方の食事が終わるまで私はレストランの前で待機させてもらいますね。よろしくお願いします。」

そういってお辞儀をすると、ぴょんぴょんと跳ねてスタッフルームまで行ってしまった。

「はぁ。後はもう知らん。なるようになれだ。」
いう事を聞いてくれるのか突っ走ってしまうのかよくわからん女だ。

「はぁ。ですね。」 
 

 
後書き
第77の禁忌    |ω・)ボソッ。


後、今回は特に誤字が多いと思いますので、もしも誤字がありましたら感想などに報告お願いします。





2016/10/30
明らかにおかしい文面を発見し、修正しました。 

 

ep.016  『カフェ・ポジ・イタリアン』

下根が自身の携帯端末から叶世の電話番号をタップする。

『どうした。』
と、向こうから室内でないことがわかるエコーの無い声がずっと同じ低いテンションかつトーンで聞こえてくる。

「叶世さんが寄越した紙見たんスよ!」

向こう側で一瞬の静止の後、
『ああ、連絡か。   すまない、よそ見をしてしまってな。』


この人が何か物事を忘れることが無いことを知っている身としては、何に対しても関心がなく興味さえない彼がよそ見をしたものに興味をそそられるところだが、今はそんなことを考えている場合ではないのだろう。

『あの文面の最後のところの事だな。俺も書こうとはしたんだが途中、他の奴らに見せていいものかという事を考えるとやはりお前とこうして面と向かって言い合っている方が良いと思ってな。この端末同士なら全くに盗聴される必要も無いしな。』


「ゴメン。ちょっとトイレでしてくるわ。」
と皆に伝わる様に携帯を指さしジェスチャーする。








トイレ、個室。


それほどにマズい事。それも文面的には『fortress』に関すること。それも皆には伝えない方が良いこと。


下根の思考はそこまでの条件が出た時点で結論は確定的に一つしかなかった。




元『frotress』メンバー。それも現在身元不明のメンバー。一応学園都市に在住しているであろうがどこにいるのかがわかっていない人物は二人だけである。
「どっちッスか?」
それだけ危ない人物。

片方は原理不明、能力の解析不能の完全不明(アンノウン)。もう片方は逆に原理簡単、ただしチートじみている能力の超壮大思想家(クルクルパーシンカー)


何方だったとしても相手にはしたくない。




『どちらとも限らないかもしれないし両方かも知れない。現在確認されているのは『ヒーローZ』、『奈津野(なつの) 刹那(せつな)』が『ピースメイカー』と接触していることは確認されている。それだけでも危険だどいうのに目的区の一角で『ヒーローX』らしき人物が確認されたそうだ。


今回の任務には現『fortress』が総力で挑まなければいけないだろう。まあ、『ヒーローX』に関しては夢絶に任せておくとして、問題は『ヒーローZ』だ。

その時はお前にも手伝ってもらうと思っておけ。』




ヒーローZとはあった時に対峙するとして、今は一度地上を見なくてはならないな。


『まあ、今は安心して一度地上の巡回を頼んだ。俺も今回の助っ人を連れて地下の任務を始めだすとする。』

心を読むなと言いたい。
「じゃあ、こっちも戻って色々し出すんで、ここで切りますね。」
言って切る、何も言わず。だが向こうもこの『下根 高親』がこんな人物であることを知っているので何も気にしないだろう。

何より、叶世だからとしか言いようがない。そんなこと気にも止めていなさそうである。






























トイレから出ると、下根は皆に一言「仕事すんよ。」とだけ言った後、自分の座っていた席に置かれていたカップの底にあったコーヒーを飲み干した。


「じゃあ、今から一度巡回するから。各自担当の区の状況を確認の(のち)、またここに集合で。」




解散。7人がそれぞれの担当する区に行く。


























































コーヒーのカップを置いた御臼が言う。


「あれ。いつまで私たちこうしているんですかね。」

地上、第4学区。夢絶達が地下で奮闘することになっているであろう最中である。地上は一度の巡回を終え、また最初のイタリアンに戻りさらに一服していた。

下根に限ってはコーヒーに加えて、パスタまで頼んでいる。


時間で言えば、2時間ぐらいだろう。地上での各地区の巡回、と言ってもしっかりとしたものではなく風紀委員や警備員の使用している監視カメラを職務上とは言え(なか)盗み見(ジャック)しているような気分になるものだが。


とりあえずそのような方法にはなってしまうのだが各区の状況確認を済ませた後、今回の重要任務である第4学区のこのイタリアンでの待機が続いているのである。はっきりと言ってしまってこのままここで一日過ごすという可能性さえ出てきてしまうほど退屈だ。


ガシャンッ!

「どっか行きたい。」
水無月姉が言う。
テーブルに頭を打ち付けた後、テーブルを口につけたまま言う。

他のメンバーはそれに反応するのが遅れる。気が遠くなっていたのだ。こんな事、あまり起きないことだし良く起きられても困るのだが、こんなことで気が遠くなるのも考え物である。

万が一というものがあるのだ。まあ、一介の学生として集められたこの面子にそこまでプロフェッショナルな事を要求されても困るといったものだ。




揺れ。地震がした。それでも路上を歩く人たちは揺れを感じる事はない程度のもの。

カップの中のコーヒーが中心を軸にいくつもの輪を大小させている。その程度。


店の人も気になったようで辺りを見回しているが、十秒ほど何も起こらないかを確認した後作業に戻る。




やはり来た時からずっと下拵(したごしら)えをしているようだ。

「このお店って開店何時からなんでしょうか。」
そんな質問を隣で見ていた御臼が言った。


「んな事、店でたら分かんだろ?」
とライターが返す。


「兄さん。少し黙ろうか。」
とシャーロックの言葉。


「お、おう。」
ライナーは御臼の方を見ながら頭を降ろした。弟に一言言われて縮こまる兄はどうかと思うが、実際兄弟喧嘩になってしまえばライナーに勝ち目のないことを彼は自身で知っている。過去にあったから知っている。


そして追記、シャーロックがしたのは兄のライナーを叱りつけたのではなく、仲間に対して少し乱暴な言い方だったので止めただけである。


まだ二人がこの組織に入ったばかりの事、ほとんど同時期と言ってもいいほどにすぐ入ってきた当時の御臼をライナーが鳴かせてしまったことがあったのだ。

本人はそのことを少し根に持って今でも後悔はしているものの、口調を直すというのはそう簡単ではなく悪戦苦闘の末に結局とはなるが、シャーロックに止めてもらう事となったのである。


「はい。言われてみればそうですね。」
少し行ってきます。


「え、外行くの?   じゃああたしもいく!」
と千尋が言う。
「あ。姉ちゃん行くんなら俺も俺も。」
と、水無月弟(陽炎)が軽くチャラ臭く言って立ち上がった。




と三人が木製と思われるおしゃれ目な扉を開ける。


扉を開けると、外側に取り付けられたベルから《チャリンッ》と音がする。扉には『CLAUSED』の掛札か掛けられてある。

辺りを見回すと、もう時計が9時あたりを回っていることもあってか結構に人が流れている。


そして、目的。隣のA面黒板に書かれてあるチョークの文字。

それをいるために三人だと邪魔なのでA面黒板のやや右目に御臼、正面にかがむ千尋とその後ろに陽炎というポジションになる。


本日のおすすめとある事からもうすぐ開店するのだろうか。そんなことを考えたが、その『本日のおすすめメニュー』のすぐに上、『PM 00;00~PM 23:30』の文字が見えた。

「12時からか。」
陽炎が言う。


「お店が始まってしまう頃にはさすがに出ていかないと営業妨害になっちゃいますね。」


言い、戻りだす。扉に近い陽炎から扉を開け、
「どうぞどうぞ。」
陽炎は千尋と御臼のために扉を開けている。

「ホントあんたってそういうところは気が利くのね。」
「ありがとうございます。」
と、姉の関心と同僚の感謝を受ける陽炎。悪い気分にはならない。




「で、何時(あとどのくらい)だった?」
下根がパスタを巻きながら言っている。

「12時かららしいので・・・・・・・・・」
御臼が時計を見る。と同時、7人全員がつられて時計を見てしまった。

「2時間と45分、何か遊んでいられるくらいか。」
シャーロックが言ったその言葉が『暇』という言葉といっしょに皆をどっと疲れさせる。




提示報告。
「地上班。暇です、帰っていいですか?」 
 

 
後書き
少し時間がかかってしまいましたね。


というのもまたまた言い訳になるのですが、現在まだ非公開の状態にしていますが『一次創作』を進行中です。

まあ、実はもう一つ公開状態でありますね。『絶対にホラー展開にしない都市伝説ミ☆』が・・・・・・。


まあ、最終更新を見てもらえれば分かると思いますが、手を付けておりません。ご要望があれば続き書きます。


さて、話を戻しまして今回の一次創作の話です。現在は基本の設定と出始めの2000字ほどを書いてある状態です。予定では1話10000~12000文字程度で構成しようと思っております。

理由としては、実物大のライトノベルはどのぐらいの長さかというものをネットで調べましたところ、小説一巻が基本10万文字程度で構成されているという話を見まして、どの程度なのか測ってみたいという結論に至ったわけです。


まあ、進行中のお話はその10万文字が出来上がってから公開するつもりですのでその時は「頑張ったんだなぁ~」という暖かい目で見ていただければ幸いです。

一応、第一話の時点での感想を聞きたいため、第一話が出来上がってから少しの間だけ公開するつもりです。期間は恐らく10日ほど。


まあ、後々経過報告はしていくつもりですので、また朗報をお待ちください。 

 

ep.017  『They Absolutely never cant become the hero from that affair.』

 
前書き
英語苦手ですが、頑張ってみました。合っているかはわからないですけど f(^ ^;)

これが間違っていてもグ◯グル先生が悪いんです(白目) 

 
話はまたまた戻り、地下。ある一人の人物が武装した大人たちに囲まれている。

場所は建物から住人まで、全てが腐敗した地下の廃都市(ゴミダメ)、第0学区『腐敗区』。その一角にある廃ビルの中、崩れた屋根が地面に落ちており常に砂埃(すなぼこり)が鼻を()く。


彼はかつてなにもできなかった英雄(ヒーロー)の一人で、かつて何もかもを成し遂げた地下にとっても地上にとってもの英雄に地位を土台から奪われ、かつて彼らの中で3番手を勤めていた英雄である。




彼を囲んでいる大人たちは決して彼にとって敵ではない。彼が因縁の相手と思っている人物との一対一の場面を設けてくれるというので今回協力しているだけである。


彼、『奈津野(なつの)刹那(せつな)』。元『ヒーローZ』の称号を持っていた人物であり、『fortress』結成時にいた第一期メンバーでもある。

彼は実に壮大である。彼は実に寛大である。彼は周りからそう評価されてきた。自身でそう思っていたわけではないが、無意識下で彼は自身がとても誇らしかった。




彼が英雄を辞めた理由。

それは当時地下での狂気に満ちていた高位能力者たちを蹴散らすに蹴散らしまくった英雄、『偽悪の英雄』の二つ名さえ持つ現『fortress』の鉄砲頭の『夢絶(むぜつ) (かの)』。

そして、周りに無心を決め込んでいたのにもかかわらず、戦闘技術と高等能力をふるっていた『fortress』という組織内で1体1(タイマン)で戦闘を行ったら最強と言われている『(すめらぎ) 皇皇(こうのう)』の二人が原因である。


現『fortress』に『皇 皇皇』がいないのが救いか。彼が今回戦う理由はその二人の殺害、とまでいかないまでも再起不能に近いところまで追いやる事である。

自身が『fortress』を辞めた小さな理由を彼はこう言う。

「僕は辞めた。あの組織でやっていくのが怖くなったんだ。あの頃いたあの仲間たちには申し訳ないが、僕は辞めさせてもらう。まあ、僕がいなくてもあまり変わらないだろう。」

壮大で寛大な彼は自身にはその考えが出来ない。自身には世界に思う壮大さも、他人に思う寛大さも全くに持ち合われていないのだ。


さらに続け、こう言う。
「心の中ではわかっているのだ。これが嫉妬で、僕がただ何もしていないというのを自覚しているのだ。だからこそ嫉妬している。彼は、さらに違う彼も。何かすることがあってできている。僕は英雄になりたかったんだろう。たぶん漠然(ばくぜん)とした英雄になりたかったんだ。」

彼の中に浮かべられる二人の人物は彼にとって偉大で、その敬意は嫉妬に変わってしまっている。それを自分で理解できているからこそ、彼は言う。

「僕はもう二度と英雄(ヒーロー)にはなれない。偽悪の英雄(ダークヒーロー)にも真の英雄(ナンバーワン)にも、だから僕はそんなヒーローじゃなくて悪役になることにした。悪を裁く悪。言ってしまえば『必要悪』というやつだ。」




「今度こそなってやろう。英雄でも悪役でもないけれど、真に人を守れる立派なヒーローに。」








奈津野が扉後に立つ長銃を背中に背負っているメンバーに言う。
「君たちは支配区、または目的区を頼むよ?   『腐敗区(ここ)』は僕一人で大丈夫だから。」

長銃の男はそれを聞き、心配がった顔をする。この長銃の男も地下で生活していた頃があり、この組織に入ったのもちょうど2年半前になる。
「ああ。一応ボスに伝えるが、お前はあんなことをした奴らと1対1でやり合うのか?」




長銃の男の言う『あんなこと』、かつて地下を半壊にまで追い込んだ真黒色の爆発と爆炎。根をたどれば一人の人物がそこにいた。地下を監視していた当時の監視カメラにもその姿はきっちりと残っている。

『夢絶 叶』。そのカメラの記録映像に残っていた人物であり、地下に腐敗区を作り上げた人物。




(ああそうだ。僕らはあの時彼と、一緒にいた『皇 皇皇』の素性を知らない。ただ、あのときのあの約1時間のうちに住民区だった場所にいた人たちが亡くなったんだ。)


彼はもう英雄(ヒーロー)にはなれない。だけれどもいつもそこで住んでいる、いつものようにありきたりな日常を送っている人を守る正義の味方(ヒーロー)になる事は出来る。

いや、彼はいつもどこでも『正義の味方(ヒーロー)』だった。周りの環境が異常だったこともあったが、今もまだ『正義の味方』として壮大な理想を叶えているのだ。




扉だった入り口から今度は一人、ごつい西洋人が入ってくる。後ろにはさっきいた長銃の男。西洋人は長銃の男の2倍ほどの横幅を持っている。ごつい男が長銃の男に向かって欧州の言語だろうか、よくわからない言葉を言いだす。

言い終わった。
「あの、ボスが君が一人で腐敗区(ここ)に残るのは見過ごせないって言ってる。」

さらに続けてボスが話しだし、長銃の男はそれを聞きながらに通訳をする。
「君の独断で行くのはいいけど、今は僕たちと一緒に地上を目指してもらう。それが今の君に与えられている任務のはずだから、いう事は聞いてもらう。」


ボスが叫ぶ。すると、周りにいた数人が一瞬にして戦闘態勢に入り、奈津野に銃口を向けた、もう引き金に指をかけて。

またボスが、今度は此方に向かって話だす。
「君がここにいるのは我々の任務の放棄になる。それは見過ごせない。」

「そうか。だが、最後はにそちら側が腐敗区(ここ)を棄てるときには、ここに残らせてもらう。その時もしっかりとあんた等の身を地上まで護衛する。それで問題ないだろう?」


全てを聞いた後、長銃の男がリーダーに言う。それにリーダーは答えた。
「なら問題ない。だが、命の恩人のあんたがここで死ぬ覚悟をしているのがもったいない。来る気にはならないようだが、もう一度聞く。一緒に世界に目を向けないかい?」


彼にとっては願ってもない言葉だ。彼はこの日本で生まれ、能力開発を受けた。そして学園都市の生徒として数ヵ月を過ごしていた。しかし、その能力の強大さから隔離され、表舞台に出る事は出来なくなった。




全能天才(イマジネーションマジック)』。発火能力(パイロキネシス)電撃使い(エレクトロマスター)念動能力(サイコキネシス)風力使い(エアロシューター)偏光能力(トリックアート)などの能力を一度に複数使用する事が出来る。本人の演算処理もすごく、一度に2つ程度なら負担も少なく長時間使用する事が出来る。




そんな彼でも死を覚悟しなくてはいけないほどの能力。『夢絶(むぜつ) (かの)』の『二次災害(セカンドチャンス)』。

だが、けっして彼のレベルが高いわけではない。と言ってもレベル3を超える程はあるのだが、きっちりとした彼の能力の測定方法は分かっていない。


話戻し、彼のレベル自体が高いわけではない。問題となるのは彼の戦闘技術である。彼の戦闘技術は計り知れず、武術やスポーツなどではなく殺人的な格闘を彼はする。それは『fortress』に入るよりもずっと前に習得している。








リーダーが皆に何かの言葉を伝えた。
「さて。もうそろそろここを出るから、用意してね。」
長銃の男が言う。他にいたメンバーはもう出て行っている。


さらに、何やら黒いバックの様なものを持った数人の男が入ってきて、それを壁際に置き始めた。柱のある所を重点的に置いていく。

長銃の男は皆が
「早く。ここにいたという事実が残っても、ここで何をしていたかは知られてはいけないからね。」
黒いバックの中が少し見えた。中身は何やらレンガぐらいの大きさをしたパテの様なものがキレイに入れられている。その側面に様々な色の配線、小さなセンサーのLEDのライトが光る。


「ここも爆破するのか。」
奈津野が言う。

また、その言葉が二人とも辛そうだ。
「もう行かなきゃ。」
「あぁ、わかったよ。」

次向かうのは支配区。目的は今回この地下に持ち込んだ特殊爆弾(はなび)とそれを開発した『面白げな科学者』とやらに会いに行くそうだ。僕も用心棒としてついていかなくてはならない。

今地下はおそらく相当な厳戒態勢にあるんだろう。気を許すことはおろか、気を張っていたとしてもこの地下では氏の可能性がある。

だがしかし、それもあと少しだけ。この腐敗区を出での|辛抱だ。腐敗区を出て、目的区に行くことができれば、どうとでもなる。あそこは蜘蛛の巣のような通路の塊。入ることができれば危険はとても少なくなるだろう。そこまで、彼らを守っていればいいだけだ。

それが今の奈津野やること。それが彼の『ピースメイカー(Peace Maker)』とした約束。用心棒として交わした契約。ならばと、彼は自らのその身を持ち上げる。

「今は武装していても、いつか来る平和のために戦っている貴方らのために用心棒としてここにいるんだ。働かないとダメだよね。」




決意。この一日、おそらく多くの敵と対峙し、多くの場所が戦場になるだろう。それでも、僕はこの人たちを送り届けよう。例え、過去の仲間が敵だったとしても。 
 

 
後書き
今回はなんか重たい感じですね。まあ、奈津野くんの決意といいますか、誰よりもヒーローやっている感じが出たので、出来栄えはともかく、個人的に満足です。

あと、いつも使っているノートPCの液晶が壊れてしまって、この後書きとか本文の最後の方とかはスマホでやっているのですがまた更新が遅れてしまってますね。ゲームとLINEぐらいしか使ってない携帯ですが、スマホの操作に慣れることもできますしこれから当分はスマホでやっていきます!

ポジティブにしていかないといけないですよね、ホント(白目) 

 

ep.017  『百獣を治める猛獣使い』

叶世充重は支配区、中央タワーの前にいた。

(あいつら、まだ居ないのか?)
辺りを見回しながらメガネと青年の二人組みを探す。

居ないというのが少しおかしく感じる。あいつらのうちの片方、リーダーをしているやつの性格上遅刻はしないはずなのである。

タワーの中に目をやる。カウンターの上の時計は午前8時25分に合わさった。この時間、地上に行ってもらったメンバーはあの長すぎる階段を登っている頃だろう。脳裏でそんなことを考えながらタワー手前にある広場にある手頃なベンチに腰掛ける。

残り5分以内にあいつらは来るだろう。それまで俺はここで休ませてもらおう。




































なにやら周りの客が増えだした気がする。見るからに地下の中でも貧弱そうな小太りな連中だ。うち7割はメガネをかけている。

メガネクイ。時計を見る。時刻は8時20分。
「待たせたな。」
伝説の傭兵の一言を言う黒髪ストレートの口の悪そうなウェイトレスがゆで卵を片手に出てきた。

「ほら、とっとと食え。そして金を払って出て行け。」
とてつもなく冷たく攻撃する彼女が言いたかった言葉をもう少し優しく言い換え、彼女の言いたかった言葉に置き換えると、


「これを早く食べて、早く行け。もうあいつが待っているから。」

なのだが、今回の『fortress』が引き起こした騒動によって仕事が山積みになりとても機嫌が悪いうえに、仕事の多さから眠ることが出来ず徹夜明けだったために考えることもあまりうまくいかなかった結果なのである。





もちろん彼らはそんなことは知らない。本当に伝えたかった言葉も伝わらず、眠気とストレスで殺気立ち真っ黒なオーラを纏っている状態の彼女のセリフに圧倒された。

「り、了解した。」
メガネクイ。指が少しずれ綺麗には決まらなかった。

黒髪ストレートのウェイトレスがゆで卵を机に置く。少し割れ目があるが今そんなことを言ったら殺されかねない。

そんなウェイトレスの胸には『やだ』と丸々しい女の子な文字で書かれている。2人はチラチラとそちらに目をやるが、絶対にこの人がやった話じゃないと確信しながら心のうちで笑う。

「もう注文がないならレジに行くが、まだ何か食うのか?」
優しそうな方にさっきと眼差しがシフトした。


「いや、もうお会計です。ね、暁さん。」

「んん、あぁ。ホ〜ハハァ〜(そーだなー)。」
ゆで卵を急いで丸かじりしながら答える。




席を立ち、出口手前のレジに行く。
「会計は890円だ。」
チラッと、目で催促をしながらキャッシュトレイを指で挟んで手前にずらす。

「そんなにせかさないでくれますか?」
ついつい敬語になってしまった。彼女のあまりにも見下すような態度が年上の雰囲気を(かも)し出しているからだろう。

ポケットから折りたたまれた財布を取り出し、小銭袋の中を見る。十円玉が2つと100円玉が4つ、500円玉が2つある。それでもその小銭袋を閉じ、千円札を出す。特に深いわけはないが小銭を使うのが苦手なのだ。あと、ウェイトレスの態度に対する何かの抵抗だったのかもしれないと後になって考える。

「釣りだ。」
その一言だけをいい、百十円が渡された。

「とっとと行け。」
と一見酷いことを言っているように聞こえるが彼女の中では、
「早く言ってやれ。」
といいたかったのだ。




ツンデレのような意識した酷い言葉でなく、無自覚に口がそう翻訳しているのだ。『fortress』のメンバー程に親密になればこの現象は起きないのだが、不思議と親密でない人物には棘を通り越してやらで刺すように鋭い言葉を口が言うのだ。しかもそれを本人は全くない自覚できていないのだから不思議だ。


店を出る。もちろん「ありがとうございました。」などと言う声は一切に聞こえない。なぜあんな愛想がなく鋭く刺さる言葉しか話せない女がウェイトレスなんかをして客が来るのかがとてもおかしく、腹立たしい限りだがそんなことを深く考える間も無く服を着替えた『久安(ひさやす) (ゆい)』がいた。

「どうもありがとうございました。おそらくお店で言われなかったと思いますので、私の方から言わせていただきます。」
わざわざ丁寧なやつだ。地下の人間ではないような、地下の法則のようなものとは違う何かを感じる。
「では、行きましょうか。もうタワーのところにいらっしゃるでしょうし。」
そう言って彼女は


少し思ったことを言う。
「なあ、」
久安は「はい?」と聞き耳をたてる。続け、
「そんなに敬語ばかりで疲れないか?」
素直な質問を投げかけてみる。

それを聞いて少し驚いた顔をする久安は苦笑いで返す。
「はい、正直疲れてます。」




優しい彼女は初対面だからと言う理由で気安く話すのではなく、相手がどんな人物かわからない間は気安く気の置けないような話し方をするのではなく、相手をしっかり正面に見て対等に、丁寧に話すことでさっしようとしていたのだ。それは彼女の癖のようなものなのだが、たとえ相手がどんな人間だったとしても見捨てず救い、年齢がどれほど下でも敬うことが礼儀としている。




手を上げて彼女が尋ねる。
「すいません。敬語やめても大丈夫でしょうか。」

「あぁ。別に好きにしろ。」
メガネクイ。

その性格でもこれまで一度も敬語で疲れなかったことのない彼女は、「ありがとうございます。」と一言いい大きく深呼吸をする。

「じゃあ、よろしくね!」




タワー前。叶世がいる。ベンチに座り頭が前に45度ほど傾いていることから寝ているのだろうと分かる。
「寝てるな。」
メガネクイ。
「寝てるね。」
「寝てますね。」


そこで久安が先陣を切り、こっそりと近づく。ベンチの裏側に回り手で叶世を押そうとしたその時、
「お前ら、遅いぞ。」

タワーの時計はちょうど8時30分を指していた。


























取り敢えず叶世と助っ人である2人、地下の手伝ってくれる人物の1人目が合流できた。

合流した4人は一度『fortress本部』へと足を向け始める。その道中、地上に住む助っ人2人は地下に住みたいかと言う話題が出る。
「2人は地下に住んでみたいとは思わないの?」

「俺は、地下は無理かもな。」
反発的にふと口からこぼれた。久安と名乗ったウェイトレスも頭の上に『?』マークが。

一度こぼれた言葉に更に具体的な肉付けを、なにが言いたかったのかをより正確に。
「地下はあれだろ。犯罪者のような奴らがそこら中にいるんだろ?

悪人の巣窟みたいなそんな場所に住む気にはならん。」
メガネクイ。

「僕も地下は無理かもです。第一、学校とかもありますし登校とかを考えたら少し厳しいです。」

会話に入っていなかった叶世までも一言加える。
「特に支配区は犯罪件数が最大で、管理人の矢田や『|fortress<こちら側>』も迷惑している。腐敗区よりも犯罪が多いというのはこの区に住んでいる人間に犯罪というものをしっかりと分かった上でしている旧地下の考えが根強く残っているからだろうな。」

久安が独り言のように、小さく空気に溶かすように吐く。
「そんな。みんな支配区の人は悪いっていうけど、 それじゃあ私も悪い人になっちゃうよ」

地下の現状を理解している彼女は人間の綺麗な部分を尊重したいのだ。その部分を大切にしたいのだ。だから言った。だが、実際悪い部分が目立っている以上、彼女は大きな声で「違う!」と言えなかった。




旧地下民、三年前の時間よりも前にこの地下を取り仕切っていた人物らの総称である。

まあその話は、今はまだ詳しくはいいだろう。


「久安、お前にはなにも罪はない。犯罪をしているのはそいつらのせいだ。お前にはなにも関係ない、安心しろ。」

久安は聞かれていたことに対しての反応はせず、というよりどうせ聞かれていたと確信さえして叶世の言葉を返す。
「分かってる。『fortress』の人たちにはお店を守ってくれてもいますし別に私が悪くないなんて分かってます。」

でも、と。それでもと、考えてしまう。

自分が旧地下民の子だということを、それでも人の綺麗なところを守りたい。彼女の優しさはたとえ悪人であっても向けられる。だからこそ、このような事に彼女は考えなければならない。それは彼女自身が選んで来た道であり結果なのだ。死んだ目を持つ叶世と言えど心までは死んでいない。彼女の苦悩を理解した上で、彼女自身で乗り越えるように見守るのが叶世の持つ優しさなのだ。

「叶世さーん。叶世リーダー。」
と、後ろから聞いたことのある声が聞こえる。 
 

 
後書き
if:dE-ViLの方も第2話を着々と書き進めているのですが、やはり出来上がったら公開しましょうか?

読まれていない方もいらっしゃると思いますし。ただ第1話なのですが、まだ『if』の要素も『dE-ViL』の要素も出て来ていないので、一体第何話で出る事になるのか少し不安だったりします。 

 

ep.018  『ghoulとfortressとGROWとその他』

 
前書き
結構空きましたね。まあ、何はともあれ続きです。

あと、2月の末ごろまでまたドロンさせていただきます。 

 
「叶世さーん。叶世リーダー。」
と、後ろから聞いたことのある声が聞こえる。




振り向くとそこには、『島崎 光利』が女の子らしい走り方でこちらへと向かってきていた。


着き、調査の結果を少し呼吸を乱しながら言い始める。
「腐敗区、支配区の順に調査しましたが、特に不審な人物は見当たりませんでした。」

そこで呼吸を整え、一度落ち着いた後再び報告を続ける。
「ただ、途中で大きな爆発がありました。念のためその付近を詳しく調べたのですが、特に怪しい人とかはいなかったです。


と言うが、『島崎 光利』はもうすでに『奈津野 刹那』達をもう目撃している。それに彼女が気付かなかったのは彼女自身が純粋に彼らを、怖いと認識し無意識に視界から避けていたのだ。

そりゃ、外国人の武装集団とその後ろを堂々と歩く青年を見ればその気持ちもわかるが、彼らが武装している時点で報告しなくてはいけないということをまだ他のメンバーよりも歴の短すぎる彼女はその場で言えなかった。

というか、混乱のあまり頭が回っていなかった。




4人から5人へと変わった一行はまた再び本部へと足を進める。そこでまた話題が飛び出る。

「そう言えば、『|矢田<やだ>|姉<あね>』はどうした?」
支配区の管理者であり、この|第0学区<ちか>で最も恐れられている人物だ。今回は管理者にも応援を仰いだが時間指定まで詳しくはしていなかった。

まあ、相手が相手なだけに察してくれるだろうが、今来てもらった方が後々都合がいい。あいつが来ることで確実に腐敗区の管理者である弟は来る。

「あ、管理者さんならお店の方をお任せしています。」
いきなり叶屋が頭を抱える。彼女はそこにいるだけで抑止力となる人物だ。あの喫茶店は1人で店全体を回している特殊すぎる店だ。今あの店にいるとなれば、こちらの手伝いは不可能だろう。


(各区の管理者が手を貸すというのは事前に伝えていたはずなんだがな。)
まあ、今は良しとしよう。彼女がいるといないとでは途中経過が大きく変わるが、結果は同じだ。




まあ、望み薄だが『名瀬 極芽』等があの店に行ってくれることでも願っておくことにしよう。









































そんな駄弁りもすぐなくなり会話は助っ人の学生二人、『島崎 光利』と『久安 唯』という組み合わせになり、叶世は完全に会話から切り離される。


彼にとってはこれこそが自然体。会話を基本的に苦手とする彼にとってこの状況は幸運なのだ。


道中、なんの邪魔もなく本部まで戻る。




帰って来て早々会議室に助っ人である2人を入れさせ、残っているメンバーも招集する。

残っている面子が揃いだした頃、気づいた。




夢絶がいない。


「またあいつは・・・・。」

さすがに頭を抱える。


「どうした、叶世。『無絶 叶』なら一人で腐敗区に行ってくると言って出たきり戻っていないが・・・・、そのことで合っているのかな?」
とやけに上から目線の『瀬貝 大丈夫』が言う。

知り合ってもう何年も経っているはずなのに、この距離感と話し方にはなれない。

「そうか。ならあいつは結局個人行動ということになるのか。あいつらしいが、集団意識が足りていない証拠だな。」
思わず全く同じトーンで返す。ここまで感情の出ない人間なのでそれを察知できるのはごく少数だが、一応そういう描写を入れておこう。

何故なら、一応は彼も人間なのだから。




と、夢絶以外の全員が集まっていることを確認した叶世が今回の助っ人として呼んだ二人を紹介する。

「少し待たせてしまってすまないな、この二人が今回地下の巡回の非常要因として(来てもら)った『Ghoul(グール)』の二人だ。」
拍手は全く沸かず、二人も急いでいるということを知っているので、叶世を少し()かすように見つめる。

「待て。お前たちのその気持ちは俺にも理解できる。今回狙われたのは『これまで俺たちが解決してきた案件』と『fortressと学園都市上層部との通信ログ』だ。」




続きを言おうとした時、会議室入り口に突如青い光の(ゲート)が天井から現れ『島崎 向子』が落ちてきた。

着地するなり、
「ヤホー、ジュンジュン。頑張ってジュンジュンの欲しがってた情報見つけてきたよぉ~。」
不動の叶世に比べ他のメンバーは驚きを隠せない様子。特に地上からわざわざやって来てくれた二人は大きく動揺している。

「お、メガネ君に弟くんもいるんだぁ~。あ、これがその情報ね。君の性格から察してわざわざ紙にコピーして持ってきたんだから、もう少しだけ報酬のほうも上げてもらうわよ?」
と、机の上にファイルを置きカーリングが如く机の上を滑らせて言う。

「なら今度(めし)でもおごってやるから。」

その言葉に子供の様にはしゃいで喜んでいる『島崎 向子』を指さしながら『Ghoul』のメガネの方が口を開ける。


「なんで『これ』が此処にいる!」
明らかに怒りが感じとれる鋭い声。

それもそうだ。彼は以前、事前の情報よりも明らかに危険な依頼を彼女から受け、本当に死を覚悟するような状況に(おちい)ったのだから。

その間彼女は、
「せっかく囮になってくれているんだから。」
等というよくわからない理由で依頼元の組織の情報を根こそぎ持って行って挙句に姿を消したのだ。


敵対こそしないが、嫌悪感を感じるには申し分ない理由になると言える。




「おい、そこまでにしておけ。それに、今回に限っては余り責めたててやるな。」
そういう叶世はファイルを手に取り中身を見ている。

その中身が何かはわからないが、彼の落ち着きすぎている表情が謎の安心感を生み出している。それが何か気になってきてしまいつい口から言葉がこぼれる。


「その情報というのはなんだ?『島崎 向子(こいつ)』が持ってくるということはそんなに役に立つ情報なのか?」
彼は自分たちが利用されたことを根に持ちつつも、仕事と自分の感情をしっかりと切り離す。

つまりは、彼女の少しねじ曲がった性格を知りつつも、彼女の技量をしっかりと称賛しているということなのだ。このような一大事にしょうもない情報や現状どうでもいいことは一切せず、慣れた手つきで『まるで嘘のように』有り余るほど多くの情報を持ってくる。

今回はファイルに紙が5枚ほどさらに半分で二つにクリップで分けられていた。

3枚の束を叶世がちらりとめくり見ている。死んだ魚の目に光は宿らず、不動の眼がただ分を見つめる。


「役に立つと言えば役に立つ。事実、今必要な情報かわからんがこいつが持って来るということは必要なんだろう。」

謎の信頼感を見せてもらって悪いが、今はとりあえず見せてもらう。


『アカウント』、『アナコンダ』。
その2つの言葉が分けられた2つの束のそれぞれに大きく書かれている。それをまじまじと見つめる叶世に『島崎向子』が一言。

「ジュンジュンは、やっぱり気になるの?」
叶世が見ているページ、そこに書かれている島崎向子と夢絶叶の名前。これまで3年間全く過去を知らなかった奴の過去まで乗っているのかと死んだ目に一瞬驚きという名の輝きが宿った気がしたがそれも刹那とでも言ってしまえる瞬間に消え、死んだ目が再び文字の羅列を見つめ始めた。 
 

 
後書き
ようやく助っ人のグループ名が出ましたね。向こうではもう名前が出されているのでこちらで伏せておく必要性を考え直しています。
◾️
また、向こうの方の更新速度も速く、こちらで数週間かかってしまう文面を2、3日で描きあげてしまわれるのでちょっと面目ないです。
◾️
それに向こうの方のほうが描写がうまく、いつも別作品のような感じで読ませてもらってます。

ほんとお疲れ様です。これからも楽しみにしてますよ〜(*゚▽゚*) 

 

そう言えばの人物紹介&設定    第一弾!

 
前書き
取り敢えず三人。 

 
人 物 紹 介。

第一に、主人公。


<能力名>

   二次災害(セカンドチャンス)
     level ?

<能力者>

夢絶(むぜつ) (かの)

<能力>

自身が衝撃を与えた物体、液体、気体のベクトルを衝撃を与えた方向にすべて変換する。あくまでベクトルの変換なので、重さに関係なく発動できる。

ただし、物体の大きさなどには限界があり、地球を殴りつけ超高速で移動させたりすることはできない。また、物体の一部にだけに変換の効果を与える事も出来るため、大まかな設定は自身で出来るものと思われる。

<参考>

一応、能力開発でなく、産まれながら持っていた能力。つまりは原石であり、能力開発を受けている訳ではない。

<人相・人格>

『めんどくさい』を、絵にして現実に生物として出したような人物。ただし、自身の利益となるものであれば、何が何でも手に入れようとする。そのためであれば、普段は拒否している労働を進んでするようになる。




メインヒロイン。


<能力名>

   布地硬化(ガーディアンクロス)
    level ?

<能力者>

御臼(おうす) 来未(らいみ)

<能力>

衣類を硬化させる能力で、どこまででも硬化させることができ、現代科学では破壊不能である。 硬化できる範囲は、目視できればどこでもよい。

能力が莫大(ばくだい)すぎるため、測定不可能になっている。

<参考>

彼女は、しっかりとした能力開発を受けている。ただし、どこで能力開発を受けたのか、(ほどこ)した人物は誰かは、全くの不明である。

『GROW』の一支部、『クライアントオーダー』に所属。

<人相・人格>

正義を愛する気持ちで出来上がった女の子。そのために、困っている人なども絶対に見過ごせない性格である。


メインキャラその1


<能力名>

   瞬移動門(テレポートゲート)
    level 6,5

<能力者>

島崎(しまざき) 向子(こうこ)

<能力>

通常の転移系の能力と違い、転移するための(ゲート)を作る必要があり、他の転移系能力と比べると使い勝手の悪い能力な気もするが、門をくぐるだけという事もあり、本人以外でも楽々と転移することが可能である。

門を維持するよりも、生み出す時の方が脳に負担がかかるが使用していくうちに慣れる様なので、慣れてしまうとこちらの方が使いやすいそうだ。

<参考>

彼女は、学園都市の裏組織、いわゆる暗部(あんぶ)の組織を牛耳る一人である。ネットを介して勢力を拡大させた『GROW』のリーダー。

<人相・人格>

掴み所のない性格で神出鬼没。結構どこにでもいる様な人物。『GROW』の顔役でコネがたくさんある。



設 定 紹 介。


『fortress』

学園都市が都市の内部・外部の両面からの防衛組織として秘密裏(ひみつり)に設立した組織。
その組織名になっている『foretress(とりで)』とは、組織のロゴにもなっている。


『GROW』

元はネットの都市伝説書き込み掲示板だったのが組織となったもの。

現在はその面影は全くなく、独自に開発した武器の提供・情報の売買などをしている。


『第0学区』

学園都市の地下に存在する都市。大きさは学園都市をそのまま地下に持ってきたような形状である。また、その広大さから4つの区画に分かれている(ep.000参照)。

それぞれの区画には『管理者』と言うものがいて、更に第0学区を統率する『統括者』と言うものが存在する。 
 

 
後書き
このくらいです。

おそらくでネタバレをすると、第二弾の設定紹介に出てくる言葉は下記です。

『バースト』、『神格化』、『ジェネス』。 

 

そう言えばの人物紹介&設定    第一,五弾!

 
前書き
現在進行中の長編、『赤く染まる幼い少女編』の中で、初めて見る古参でない方のために急きょ作ろうと思ったものです。

古参の方も、「ああ~」とか言えるようになっていると思います。 

 
人 物 紹 介。


夢絶の元上司

<人物>

立前(たちまえ) (かな)

<参考>

夢絶の古い知り合い。その時に夢絶と一緒に働いていたようだが、何の仕事をしていたのかまでは不明。

<人相・人格>

表裏がなく、接しやすい性格。基本は優しいお姉さん的な性格だが、『悪乗りスイッチ』と言うものが入ると一気に手を付けられないようになる。

話すときは仲良くなりすぎず、かつ距離を置きすぎないようにしなければいけない。





第3次『fortress』メンバー

<能力名>

   闇暗漆黒(ダークシャドウ)
     level ?、5

<能力者>

ルレシオ・ジン・シェイリアス

<能力>

直径10センチほどの真っ黒な球体を作る能力。球体は光に反射しなければ、重力も作用していない。

科学者が調べても、球体の事はよくわからず未元物質(ダークマター)と同じ能力扱いになっている。

また球体は、物質に触れると、触れた部分を削り取る性質がある。だが決して球体が回転して削っている訳ではない

<参考>

能力のレベルが『?,5』となっているのはタイプミスでなく、『fortress(フォートレス)』の能力者である条件の『能力測定不可能能力者』である『level ?』に、第0学区でかつて行われていた実験で生み出された能力者が持つ能力、『制御解除(リベライオン・エタンドル)』の一人である証拠。

<人相・人格>

全く自分にも他人にも興味がなく、生きる事に対してさえもどうでもいいというような人物。

現状彼が生きているのは、実の兄弟である『ルミア・シェル・シェイリアス』が生きているからである。





『水無月 千尋』は第二弾で!!




設 定 紹 介。


『能力測定不可能能力者』

『fortress』に加入できる第一条件。主には学園都市が世界中から探しているが、学園都市内で能力開発の結果出来上がった能力もある。

大きくは3つに分類され、それぞれ『測定上限突破能力者』『測定法不明能力者』『根源不明能力者』に分類される。


『制御解除』

本編の3年前、地下で行われていた能力開発の実験で生まれた新しい『レベル』。

『,5』と付く能力者に限定され、その能力者は一部の能力が一つ上の数字並みにある。というのと、引き金となる感情が増幅されるほど演算能力が上昇し、能力自体も強化される。

また、その状態を『バースト』という。 
 

 
後書き
第二弾でやろうと思っていた設定、一個だけ紹介しちゃった。 

 

そう言えばの人物紹介&設定    赤く染まる幼い少女編

人 物 紹 介。


御臼たちが10学区の地下で出会った怯えていた少女。


<人物名>

シ296(シーちゃん)

<機械部分>

脊髄の骨格。ただし、神経は人間のままである。肺、心臓、食道。両目

肩から指先までの筋肉、骨格。

骨盤、脚部の全骨格、神経、筋肉。

<参考>

地上で行われていた実験の実験体として扱われていた少女。見た目は10歳ほど。その実験の科学者の中には、3年前の大きな実験を仕切っていた科学者がいるとか。

また、ミサカネットワークほどではないが彼女たちも集合意識があり、それを介してほかの個体にアクセスできる機能もある。

<人相・人格>

非常に明るい性格をしてる。

だが、実験中の生活などもあり周囲の人間すべてに警戒していた。今でもその影響は残っており、初めて会う人間には少し警戒してしまう。しかし、話好きでさらに聞き上手なので、どんな人間ともコミュニケーションをとれる素質がある。




水無月姉弟、姉の方。


<能力名>

   無限排出(ホワイトホール)
     level ?

<能力者>

水無月(みなづき) 千尋(ちひろ)

<能力>

一部の能力で吸い込まれてしまったものを排出する能力。何を排出するかまで選択できる。さらに、その能力は太陽系にも匹敵する。

<参考>

主にシャーロックやライナーと行動をともにしている。情報通な事もあり、ファッション等はいつも最新のものを着ている。

<人相・人格>

明るめの性格だが、どちらかと言うと能天気。軽めの性格と同様に言動も軽はずみなことが多い。




第0学区『支配区』、管理者。『死神の領域(スカルテリトリー)』とか『人間の姿をした死神』などの異名を持つ。


<能力名>

   完死場所(デスゾーン)
    人口原石  level ?

<能力者>

矢田(やだ) 子狂(こくる)

<能力>

ある地点を中心に超音波を発生させ、人を殺す能力。 能力を使うときに、まがまがしい黒いオーラを出す。 自分に能力が反映されないので、自滅することはない。

<参考>
この子狂さんは、第0学区の支配区の管理者で、『正確性』と言うものにおいて『最高』の称号を持つ。

兄と弟を持つ。

<人相・人格>

非常に手厳しいが、他人思いのいい人。 ただ、周りに向けての態度が冷たすぎるので 友達がほとんどいない。

本人は自覚していないが相当の寂しがり屋で、寝るときに枕元に豚のぬいぐるみ(ブーマ)がいる。



設 定 紹 介。


機械人間(ハイブリッドアンドロイド)

肉体の一部を機械化したことにより、生身の人間よりも格段に身体機能を向上したり、脳の負担を軽減し、能力を使えない人間にも能力を付与する事が出来るようになる。


『JAIM鉱石』

『第0学区』でのみ採取されている鉱石。

何故第0学区でのみ作られているのかについて『地上のAIM拡散力場に影響されたから』や、『実は人工的に製造されている鉱石』等と言われているが実際のところ、どれも決定打となるものがなく不明のままである。

性質としては、近くにいる人間に不安定な波長の超音波を与えて思考・脳の演算処理を極限まで抑え込む。結果的に能力が使用できないまでに至り普通の人間でも頭が少しだけボーッとなる。