衛宮士郎の新たなる道


 

第1話 訪れる夜

 「魔術・・・・・・ねぇ~」

 此処は、神奈川県の七浜の埋め立て地に建てられた九鬼財閥の極東本部の一室である。
 そこには、九鬼従者部隊のトップ陣を含む5人がいた。
 1人は、九鬼従者部隊永久欠番のヒューム・ヘルシングと言う金髪の獅子を沸騰させる老執事の男性で、元武神である川神院現総代の川神鉄心とは全盛期から強敵(旧知)の中で在る殺戮執事。
 1人は、九鬼従者部隊第2位のミス・マープルと名乗る初老の女性で、あらゆる知識を蓄えている事から『星の図書館』と言う異名をとっている。
 1人は、九鬼従者部隊第3位のクラウディオ・ネエロと言う老執事で、執事学校を首席で卒業した経歴を持つ完璧執事である。
 武力はヒューム・ヘルシングに大きく劣るモノの、忍者の一族や暗殺家業をしてきたプロたちも舌を巻くほどの卓越した鋼糸を使った戦闘術により、九鬼従者部隊の戦闘者のトップ陣の1人でもある。
 1人は、九鬼従者部隊第1位の忍足あずみと言うお姉さん(29歳)独身。
 元々風魔一族のくノ一であり、技を一通り収めた後に野に下ってからは傭兵家業をしていた。
 その時についた異名は『女王蜂』と言う。得物は小太刀を使った二刀流を好む。
 九鬼家長男坊、九鬼英雄の専属である万能メイドだ。
 そして最後の1人が、九鬼財閥の現総帥の九鬼帝である。
 元々は、それなりの財閥だったのを自らの手腕で世界的大企業に押し上げた傑物だ。
 向かうところ敵なしでは無く、敗北や失敗も多い。
 しかし、ここぞと言う所では負けた事はない底力の持ち主でもある。
 それと徹底した実力主義であり、その人材に脛に傷を持つ身でも優秀であれば躊躇いなくスカウトする思想を持っている。
 そんなメンバーが話し合っているのは、先程帝が零した世界の裏の中の裏に存在している事象――――魔術に関する話し合いだ。
 口調から解る通り九鬼帝は、魔術が現実に存在していた事を初めて知った様だ。

 「お前らが俺にそんな嘘を付く筈も無いが、如何して今そんな事を俺に話した?本来は秘匿するべき事なんだろ?」
 「ええ、ですがその様に悠長な事も言ってられなくなりました」

 ヒュームは、帝の疑問にはっきりと答える。
 そして他の従者たちも続く。

 「現在世界各地で様々な謎の現象が起きているのは帝様もご存じの事でしょうが、そのほとんどがシャドウサーヴァントの仕業なのです」
 「シャドウサーヴァント?また聞きなれない単語が出て来たな」

 帝の疑問にマープルが答える。
 その前に英霊とサーヴァントについて答える。簡単に。
 英霊とは、神話・伝説であろうと史実であろうと人々の想念――――信仰心によって世界から祭り上げられていった英雄達を精霊にまで押し上げられた存在である。
 次にサーヴァントとは、その英霊達を特殊な術式を持ってある程度に力を制限させて現界させた使い魔の事。
 そしてシャドウサーヴァントとはサーヴァントたちの残りカスで、人格にステータスもかなり劣化しており柔軟な発想も出来ない常闇の危険な木偶人形の事である。

 「――――ということです。しかし我々にも理解できていない事があります。シャドウサーヴァントは本来のサーヴァントが消滅した後に、出現する者です」
 「それの何所がおかしいんだ?」
 「今回は何故か先にシャドウサーヴァントの方が先に出現していますので、我々が把握していた常識とは違うのです」

 マープルの後にクラウディオが引き継いだ。
 2人の説明を聞き終えた帝は、顎を撫でるようなしぐさを見せた。

 「成程・・・・・・で?俺に如何して欲しいんだ?俺になんか要望があるから話したんだろ?」
 「いえ、現時点では帝様にこの件での要望はありません。ですが、急を要した時に報告しても手遅れになる可能性もあったので、耳に通しておこうかと愚考したまでです」

 詰まる所何かあった時に対する時のための措置であった。

 「保険策か。お前らしくも無いな、ヒューム。・・・・・・・・・つまり、そのシャドウサーヴァントがそれほどに強いって事か?」
 「個体によりますが、先程伝えました通り本来よりも劣化してますので大体の奴らはそれ程の攻撃力はありません。しかし私の家はあくまでも不死殺しの一族ですので、一応攻撃を与える事は可能ですが効果は薄いのです」

 そのヒュームの目は真横の2人に眼を向ける。

 「そして私とマープルは魔術を修めてはいますが、あくまでも学問としてですので、戦闘に応用できるのは強化と言う名の変化のみです」
 「詰まる所、お前らの現在臨み求めているのは即戦力になりうる戦闘面に特化した魔術師か?」
 「正確には魔術使いですね」

 マープルが帝の解釈を補足した。

 「そんな事を一々言わなくてもいいだろう?それで心当たりでもあるのか?」
 『・・・・・・・・・・・・』

 帝の疑問に押し黙る側近達3人。
 それだけ今回の問題が相当なものだと推し量れた。
 そこで、今この場でほとんど発言していないあずみに眼を向けた。

 「そういやぁ、あずみも魔術師なのか?」
 「いえ、私の忍足は元々風魔の一族で、我々の祖が日本各地の魔術師の家系とそれなりの距離を保ちつつの関係があったが故に知り得ていますが、私は使えません」
 「そんじゃ、日本の魔術師の家系がどれほど残っているか知ってるのか?」
 「申し訳ありませんが私では・・・。ですが、日本の3大名家は魔術師――――というよりも呪術師の家系で、今もなお修めている可能性があるかと」
 「しかし我々が求めているのは戦闘に特化した魔術使いなので、ただ魔術を修めているだけでは駄目なのです」

 帝の疑問にあずみは答えたが、結局打開策に成るような内容では無かった。

 「お前らの事だ。俺に話す前に九鬼の従者部隊の全員も一応調べてるんだろ?」
 「いえ、既に完了しております」

 つまり、魔術師としての才能があるモノは皆無の上、魔術師その者も居なかったと言う事だ。

 「これからは外部にも目を向けようと思っています」
 「具体的には?」
 「川神院の鉄心に話を聞こうと思っております。あ奴は魔術師ではありませんが、魔術師が実在している事は把握しておりますので」
 「他も手あたり次第に当たります。無論、魔術師の実在を知っているのは少数なので伏せながらですが・・・・・・」
 「手あたり次第・・・か。だが藤村組は無理だろうな。まぁ、俺が悪いんだけどよ」

 藤村組。
 関東圏に絶大な影響力を持つ極道の組織である。
 こう言われてしまえば、関東圏内の民間人は藤村組を日々恐れている――――なんてことは無く、寧ろ地元では非公式的な第2の警察とまで言われている。
 事実、地元で何かしらの事件で被疑者の捜索を行う上で、人手が足らない時に地元の警察署から応援を頼まれるほどの信頼を勝ち取っている。
 最初は小さな組織だったが、いたずらに暴れまわる他の極道の組織を併呑していき、当時の組長であった藤村雷画の人心掌握術と圧倒的なカリスマ性で完全に統率していき、少しづつ反逆の目を潰しても言った。
 そうして地盤を固めていったが、当時は華族である名家に成りあがりの不良崩れと陰口を叩かれていた。本人たちは全く気にしなかったが。
 そして今では、日本全国の地主・大地主や各地方の有力者とも横の繋がりを太くしていき、世界の川神や成り上がりの大企業九鬼財閥と日本国内限定では渡り合えるようにまで成長していった。
 しかし約半年前、九鬼財閥の従者部隊の30番台の1人の男が川神で腰を据えて行うプロジェクトを秘密裏に知り得た。
 そこでさらに出世をするためにと、功績を上げるためによりにも拠って藤村組の弱みを探り始めた。
 男は入社してから長い間ずっと欧州の支部で働いていた事もあって、ここ日本の何たるかには鈍く、藤村組も民間人を危険にさらす程度の組織位の認識しか持っていなかったのだ。
 しかし中々外からでは見つけられずに、遂にしびれを切らした男は、藤村組の中枢とも言うべき藤村邸の中に潜入したのだった。
 従者部隊30番台と言う自信を持っていたがために、この危険な賭けにも勝ち得ることが出来ると考えたのだ。
 しかしそれは誤りだった。
 藤村組は鈍物の集まりでは無い。規模では負けるモノの、1人1人の組員の腕っぷしの練度では寧ろ勝っていたのだ。
 それ以前に、その男が藤村組を嗅ぎまわっていた事は既にばれていたのもあって、あっという間に捕まったのだ。
 しかしその男には自分よりも下位の部下たちがおり、緊急連絡してしまった事で騒動の規模が大きくなった。
 その緊急連絡を受けた部下数人は、藤村組に入ろうとしたが組員に門前払いを喰らう。
 勿論納得できない部下たちは何度も入れさせろと要求して言い争いになり、騒ぎが大きくなっていく内に近所の住民が警察に通報したのだ。
 しかも内容は、藤村邸に怪しい人たちが押し入ろうとしていると言うモノだった。
 そして警察も介入してからやっと騒動は一時的に静まってから侵入した男を九鬼に引き渡したが、男は自分は攫われて暴力を受けたと世間に公表したことでさらに炎上していった。
 その出鱈目に切れた藤村組全体が、警察に通報して弁護士も通して裁判モノになった。
 正直に言えば、その男に生き地獄を合わせたかったが、藤村組で保護している隣の邸宅の少年の説得により、法に従うと言うやり方を取る事に成った。
 そして幾つもの証拠を見つけた上で、結果的にその男は懲役〇年に処された。
 勿論男は控訴したが、それも棄却された。
 功を焦ったが故に奈落に沈んだ男の末路だった。
 しかしこれでこの騒動は終わらなかった。
 企業からその様な騒動が起きた九鬼財閥は、一気に業績は下向きになり、九鬼財閥を成り上がりと邪魔に思っていた他の企業も陰険な嫌がらせなども受けたので下がる一方だったが、九鬼財閥の首脳陣が過労死しかねないほどの働きを見せた事によりたった1ヶ月で何とか業績を元に戻しって行く事に成功したのだ。
 だが問題はもう一つあった。
 九鬼財閥全体を守るために九鬼のトップである帝は、ある重大な事を忘れていたのだ。
 九鬼財閥全体を守ると言う事に比べれば些細な問題だったが、今の時代で信用を取り戻すと言うのは並大抵の事では無い。
 にも拘らず、何と一月もの間藤村邸へに謝罪しに行くことを忘れていたのだ。
 忙殺モノだったからと言って許されるモノでは無かった。
 その日の内に急ぎ謝罪をしに行ったが、門が開かれることは無かった。
 それから毎日のように最低1時間以上は門の前で土下座する日が続いたが、結局開かれることは無かった上、冬木市に九鬼財閥関係者が入るだけで住民たちからの白眼視に晒されて行った。
 地元の警察署ですらあまり対応が良くないのだから、住民たちがどれだけ藤村組に信を置いているかが分かるだろう。
 あれから数ヶ月経った今では、住民たちからの白眼視に晒されることはなくなったモノの、未だにあの騒動の溝は深く、誰もかれもが余所余所しかった。
 そして今に戻る。

 「あの件につきましては私にも責任があります、帝様。武士道プランの発案者は私なのですから」
 「別に今あの時の責任について問う気は無いんだぜ?マープル。――――まぁ、兎も角、この件に関しちゃあ俺は手に終えそうにないからしっかり頼んだぞ?」
 『はい』

 そうして、4月初めの宵の中での九鬼財閥首脳陣の極秘会議は終わりを迎えた。


 -Interlude-


 キンッ!!

 同じころ、川神市の親不孝通りの幾つもの建物の屋上にて、人世に知られぬ戦いがあった。

 「キキ」

 2つの影が幾度もぶつかり合う様に、互いの得物が衝突するたびに夜の街を一瞬だけ照らす火花が起こる。

 「フンッ!」

 一方は赤い外套に身を包み、髑髏の仮面で面貌が分かりづらくなっている人物だ。
 両手の指の間に挟むように、投擲用の剣である黒鍵を使い、相手へ先程から投擲している。
 もう一方は黒い外套に身を包み、こちらも髑髏の仮面を付ける怪人だった。
 しかし赤い外套に身を包んでいる人物とは異なり、その怪人の体中を黒い霧の様なモノで包み込まれているのか、姿かたちが少し見づらい。
 投擲されてきた黒鍵を、左手に持つ短刀(ダーク)をこちらも投擲して防いだり、持ち前の身体能力で器用に躱していた。
 しかし一度、大きく空に向かって躱したのが不味かった。
 いつの間にかに赤い外套に身を包んだ人物は、先程までどこにも持っていなかったはずの黒い洋弓と弓矢を使い、黒い外套の怪人に狙いを定めていたのだ。
 これに一か八かの対処として、ダークの投擲に自分が被っていた外套を相手に向かって投げ捨てた。
 ダークは牽制で、外套は目くらましとしてのモノだ。
 だが赤い外套の人物の射には、何の影響も及ぼさなかった。
 彼の中では既に命中しているのだから。

 「ガッ!?」

 心臓に。
 致命傷を負った黒い霧に包まれた怪人は、その場に最初から居なかったかのように、魔力の滓になって消えて行った。

 「ふぅ。今日も何とか片付いたか」

 赤い外套の人物は、一息ついてから黒い洋弓を消した。
 そこへ殺気と戦闘意欲を滾らせている誰かが、下からこの屋上に上がって気配を感じた。
 その誰かとは――――。


 -Interlude-


 「はぁ~~~」

 黒髪の美少女、川神百代は、自宅である川神院に帰るために親不孝通りを抜けるところだった。
 何時もの彼女は、本来ならこの時間帯にこんな場所に居ないのだが、戦闘狂(バトルジャンキー)である彼女にこんな時間帯に果たし状が書かれているんだからそれに応じるのが彼女だった。
 だが蓋を開けてみれば何時もの様に一撃で沈んでしまった。
 確かに戦いは好きだが、もっとワクワクするような相手との戦闘がしたいと言うのが本音だった。

 (加減しても簡単に終わるし、ある程度強くてもちょっと本気出せばどちらにしても一撃で終わってしまう。もっと楽しめる奴とやりあいたいな~)

 だがそんな奴は少なくともこの周辺には、身内である川神院や九鬼鉄工部門を継いだライバル、九鬼揚羽位しかいないと言うのも理解していた。
 それに誰もかれもそう言う奴に限って、忙しかったりして相手にしてもらえる機会が少なかった。

 (グズグズ悩んでるなんて私らしくないし、とっとと帰って、シャワー浴びて寝るか)

 落ちた気分を無理矢理戻して、川神院に走って帰ろうとした時だった。

 「ん?」

 彼女の視界の上の方――――正確には、ビルの屋上の間を駆ける影を見かけた。
 その影が別の影と交差しあう度に金属音の音が鳴り響いた。
 しかしそれは只の金属音では無い。
 それは武器と武器がぶつかり合う音だった。
 しかもそれは川神学園で生徒同士の決闘で使われるレプリカなんぞではない。
 切り割けば血が噴き出る本物同士だ。
 だが、一般人がこんな事を音だけで判断出来るの訳がない。
 出来るとすれば最低でも一流の武芸者か、よほどの戦闘狂(バトルジャンキー)の2択だけだ。
 勿論、百代は後者である。

 「なんだなんだ?随分楽しそうなことをしてる奴らがいるな!」

 屋上に直も眼を向け続けているだけで、百代は意気高揚していた。
 何せ自分の視力をもってしても、ビルとビルの間を飛び交う影の輪郭がおぼろげにしか見えないのだ。
 たったこれだけでビルの屋上での戦闘も、戦っている奴らのレベルも非常に高い事が分かってくる。
 これでは日々強者との戦闘を求めて病まない百代に、興奮するなと言うのが無理と言うモノだろう。

 「フフフ、もう我慢の現界、だっ!」

 強者に餓えた武神は、今迄とは別の何かとの遭遇に興奮しながら屋上まで一気に跳躍した。
 しかしそこには誰も居なかった。

 「なっ!なんで!?確かにさっきまでは、戦ってたはずなのに・・・」

 百代はあまりの事に愕然とした。
 まずどれ程の強者かとメンツを確認し、あわよくば自分も戦闘に乱入しようと目論んでいた結果がこれなのだから、無理らしからぬことだろう。
 そんな百代を、それなりに距離の離れた別のビルの屋上の給水塔の裏で、赤い外套の人物――――衛宮士郎は盗み見ていた。

 「如何して川神がこんな時間にこんな所で・・・?」

 ここは治安が怪しい親不孝通りで、しかも夜だ。
 正直、彼女の自宅である川神院に送って行きたい気持ちに駆られるが、極力女性に手を上げることを良しとしない士郎としては百代と戦いたくないことに加えて、魔術師の事で彼女を巻き込むわけにはいかないと言う責任感から士郎はその場をから黙って離れる事にした。
 しかし士郎は勿論、百代自身も気づけなかった。
 士郎とは別に、暗がりの闇の一角から彼女を盗み見ていたある視線が合った事に。
 そして彼女を見ていた存在は確かにこう呟いた。

 『ミ・ツ・ケ・タ』 
 

 
後書き
 昨日、『シャア専用』と言う文字の入ったシールが、助手席の窓に張られている赤いトラックを見ました。土木関係のトラックです。
 私の家から、一番近いセブンイレブンの駐車場に止まっている所を、たまたま見かけました。
 ええ、それだけです。 

 

第2話 砂上の日常

 何時もの夜の見回りから帰宅した士郎は、藤村組特別相談役と言う肩書きを約一年前から与えられた居候の美女の部屋に会いに行った。
 ドアの前に立ち、士郎は礼儀としてノックをする。

 「士郎です。今日の報告をしに来ました」
 「あー、士郎か。いいぞ、入って来て」
 「ではお言葉に甘えて失礼しま―――って!?」

 部屋の主の了解を得て扉を開けた士郎だったが、何と目的の美女は、セクシーすぎる体を隠そうともしない黒のベビードール姿で、ほとんど透けていた。
 それを士郎は咄嗟に気づいてから、瞬時に扉を閉めたのだった。

 「なんて服装してるんですか!」

 部屋の主である黒髪赤目の美女に、士郎は扉越しで抗議をする。

 「何でも何も、此処は私の自室で今は夜の10時過ぎだぞ?私がどんな寝間着姿であろうと、お前には関係あるまい?」
 「今日は寝る前に報告しに行くって言ったじゃないですか!ですからせめて、俺の報告が済んでからにしてください!」

 士郎の言葉に、黒髪赤目の美女――――影の国(アルバ)の女王にして、幾柱もの神霊を屠って来た超人スカサハは次の言葉を考えていた。
 何故、世界の裏側に居るであろう彼女が士郎の家の居候しているかと言う話も気になるだろうが、士郎がこの世界に跳ばされた後に、赤ん坊からやり直してきたこれまでの話をしよう。
 その時の名は〇〇士郎だった。
 赤子の時点で親に捨てられた士郎は、不幸中の幸いにして通りかかった魔術使い衛宮切嗣に引き取られた。と言っても衛宮切嗣は家事能力育児能力ゼロだったので、以前から親交があった藤村組に殆どお預け状態で育ったのだ。
 しかし度々帰ってきたり出掛けたりと士郎に会いに来たが、約十年前に衰弱死で死んでしまった。
 今世の彼は、汚染された聖杯戦争に参加したわけではないのに、同じような結末で士郎に見送られながらこの世を去って行った。
 その後の士郎は、藤村組に厄介になりながら表は少々不相応な精神年齢大人の少年として、裏では魔術師として生きて来た。
 しかし、ある日を境に世界にシャドウサーヴァントが現れ始めてから、士郎は遠坂凛に魂に仕込まれた術式を発動させて英霊召喚を行ったのだ。
 いつか来る可能性のあるサーヴァント対策のために。
 そこで自身の投影魔術を使って、真紅の魔槍を触媒にケルト神話の大英雄、クー・フーリンを呼び出そうと狙った。
 彼の青き槍兵に、聖杯戦争に巻き込まれた切っ掛けではあるが、何処か憎めないサーヴァントであった。
 彼ならば、このトンデモナイ世界と相性も良さそうだし、私情と仕事をきっちり分けるところも藤村組に馴染めそうと考えたからだった。
 しかしいざ召喚してみればどんな偶然が作用したか、青き槍兵では無く、幾多の神霊を屠って来た超人にしてクランの猛犬の師匠でもある影の国(アルバ)の女王であった。
 人の身で神域に踏み入った罰により、不死性の呪いを受けて死ねなくなったために英霊の座に祭り上げられることなく、今もまだ“世界の裏側”に存在し続けていた。
 そして彼女は英霊でもないので、勿論受肉しているし、どのクラスにも当てはまらなかった。
 そんな彼女に事情を説明した後に、どの様な思惑により決めたかは定かではないが残り続けると言った。
 彼女曰く――「此処に留まり続ける理由も無いが、急いで帰る必要性も無い」との事だ。
 それに彼女は士郎に興味を持ったのも一応の理由だと言う。
 希少な魔術特性に、魔法使いやサーヴァントを師に持つ現代の英雄の素質を持った魔術使いにだ。
 その出会いを切っ掛けに、それから今日までの2年間、士郎はスカサハのスパルタ特訓を受け続けた。
 以前あった時のクー・フーリン曰く――「遠坂の嬢ちゃんでも逃げ出す程のスパルタぶり」を、士郎はそこまで無理なく耐え切ったのだ。
 士郎から言わせれば、自分の3人目の魔術の師匠である万華鏡よりは優しいと語っている。
 だが、もし万華鏡に廃人にされた魔術師たちが正気に戻り、スカサハのスパルタを受ければ全員揃って口にするだろう。

 『大差無い』と。

 そんなこんなで今に戻る。
 面白い答えを思いついたスカサハは、声音に色を混ぜ込みながら士郎に言う。

 「鈍い奴だの。これはお前を誘っておるのだよ」
 「なっ!」

 扉越しとは言え、余りに色っぽさを含んだ声に、士郎は廊下で1人僅かに赤面する。

 「フフ、前の世では経験を積んでいると言う事だったが、私からすればまだまだ初心(うぶ)よな。まぁ、そんな反応がまたそそられるがのう」

 扉越しにも拘らず、士郎の動揺を手に取る様に把握しているスカサハは、声音は色っぽさに満ちているのに表情は人をいじる気満々の顔をしていた。
 しかし今生では兎も角、本来の世界では複数の女性たちと関係を持ってきた士郎も、そう時間を掛けずに揶揄われていることに気付いて冷静になった。

 「・・・・・・・・・揶揄(からか)わないで下さいよ」
 「揶揄うなどと人聞きの悪い、私は本気だぞ?」
 「スカサハさんの(ねや)に呼ばれる資格があるのは一流の戦士だけでしょう?俺は何所までいっても二流ですから、資格など永久に訪れませんよね?」
 「確かにそうだが、お前なら特別に構わぬよ」
 「本気なら身に余る光栄ですが・・・・・・微かに笑っているでしょう?」

 話していく内にスカサハは堪えきれなくなっていたようで、僅かに漏れた笑い声を士郎に聞きとられてしまった。
 それを、さて如何するかと思案する。
 そんな彼女の図星を突いた士郎といえば、突然に答えが返ってこなくなった事に軽い不安を抱いた。

 「・・・・・・師匠、如何かしたん――――って、ちょ!!?」

 士郎は、中を覗きはしないまでも僅かにドアを開けて確認しようとしたが、突然首根っこを掴まれて部屋の中に引きずり込まれて行った。

 「何して――――」
 「目を開けよ、士郎。もうちゃんとした格好じゃから安心せよ」
 「え?」

 引きずり込まれてから反射的に目を閉じた士郎に向かって、当の本人は命令口調で士郎に言った。
 士郎は、スカサハが声音から真面目に切り替わったと判断して、疑いもせずに目を開いた。
 事実正しかったようで、召喚時の黒い戦闘装束に身を包んでいたスカサハがそこに居た。

 「ほれ、しゃんとせい。報告があって来たのだろう?」
 「最初に腰を折ったのはスカサハさんですけどね」

 しれッとした態度のスカサハに、士郎は効かないと分かりながら愚痴をこぼした。


 -Interlude-


 士郎は、ここ最近のシャドウサーヴァント達の動向を報告している。
 夜闇を駆けまわり、まるで何かを探している様だと。
 それを聞き終えたスカサハは、少し考える。
 そして――――。

 「英霊とは元々は抑止力だ。であるならば、奴らの探し物は自ずと解ってくるのう」
 「それはつまり、ガイア或いはアラヤが世界や人の脅威と成り得るモノ・存在を探していると?」
 「そうなるじゃろうな。そしてこの周囲でそれを判断するならば、余りにも才能に溢れすぎ、心の在り様次第では何時か脅威になりうる少女――――」

 確信的な物言いに、直に士郎は理解した。

 「――――川神百代(川神)か!?」


 -Interlude-


 翌日の夕方。

 「――――如何したの義姉さん?何か杞憂そうだね」

 今は冬から春に移行するための準備期間。
 学生たちは学年が変わる前の一休みの春休みだった。
 夏休みに比べれば短い期間ではあるが、各々がそれぞれに過ごしていた。
 そんな金曜日の夕方に彼ら、風間ファミリーは集まっていた。
 最初は違うが、ある廃ビルを秘密基地として金曜の夕方から夜にかけて特に仲の良い友人たち7人だけで愚痴や未来の夢、最近の報告などと、大した意味は無いモノの、彼ら全員楽しく過ごす集会だ。
 そして今日も何時もの様に、キャップこと風間翔一以外の6人が集まっていた。
 これも何時もの様に、キャップはバイトで少々遅れる。
 そんな6人の中で参謀役の直江大和が、百代の不機嫌さに気付いた。

 「ん~、ま~な・・・」
 「歯切れが悪いね」
 「お姉様、今日は朝からこんな感じなのよ」

 百代の気だるげな答えに、モロこと師岡卓也と彼女の義妹、川神一子がそれぞれの感想を口にした。
 そんな百代の態度に京が推測を口にする。

 「今日は挑戦者がいなくて、殴れてないから気分が悪いとか?」
 「い~や、いたぞ。けど何時も通り一撃で終わってしまった・・・」
 「ホント、何時も通りじゃねぇか」
 「ってか、殴れてないから気分が悪いと言う部分は否定しないんだ・・・」

 百代の答えに、呆れるガクトこと島津岳人とツッコむモロ。

 「・・・・・・その義姉さんの反応からすると、強者に逃げられたとか?」
 「当たらずとも遠からずだが、よく解ったな?」
 「何年義姉さんと一緒にいると思ってるの?それで・・・・・・如何いう事なの?」

 歯切れの悪い百代の態度にうんざり気味だったようで、敢えて直截に聞く大和。
 百代としては心配されていると思い込み、説明しだす。
 昨日の挑戦者は時間帯を夜に指定してきたので、帰りは勿論夜に成ってしまった事。
 何時も通りあっさり終わってしまい、欲求不満で帰るところに強者同志と思われる戦いの一端を僅かに見て、高揚した事。
 そんな場面を見て我慢できなくなり、双方の素顔を確認して、あわよくば乱入しようとしたら誰も居なかった――――恐らく逃げられたという推測を立てた事。
 これらが百代の気だるげな態度の理由らしい。
 それを聞いた5人の内、まず京が疑問を口にする。

 「モモ先輩。そもそもその人たちは強かったの?」
 「夜とは言え、私の視力をもってしても輪郭を朧げにしか捉えられなかったんだぞ?少なくとも身体能力上では壁越えであることは間違いないんだ!クソっ、如何して私が目を付けた奴らは忙しいなり逃げるなりするんだ!」

 自分の戦闘欲求を満たせないのが余程腹立つのか、百代は苛立ちを露わにする。

 「そうは言っても、皆が皆義姉さんみたいに好戦的じゃないんだから、しょうがないんじゃ――――」
 「武人なら強者と戦った上で勝ちたいと思うなんて当然の事だろうっっ!!――――って、お前達に苛立ちをぶつけてもしょうがなかったな。すまん」
 「いや、いいんだけ――――」
 「よーーー!お前ら!リーダーであるキャップ様の到着だぜ・・・・・・・・・って、何この空気?まさか俺を除け者にして青春の1ページをまた捲ろうとしてたのか!?ズルいぞ、大和!」

 百代によって作られた気まずい空気を、一瞬にして帰るキャップ。
 結果的にはだが。

 「落ち着け、キャップ!ちゃんと説明するから・・・」

 空気は変えたが、一瞬にして駄々を捏ねる精神年齢小学生並みのやんちゃ坊主を、一番最初の幼馴染である大和が抑えに回った。
 そんな2人の様子を見て、百代は頭振るう。

 「あー、ヤメだヤメだ!辛気臭いのは私に似合わない!こんな事より明日、何するか決めるぞ」
 「そうだね。それでキャップ、今日は何が余ったの?」
 「賞味期限ぎりぎりの惣菜だ!あと30分で全部切れるから、急いで食えお前ら!」
 「言われなくても食べるわよ!って事で、肉はどれがいいかな~」

 キャップが来たことでいつもの風間ファミリーの空気に戻り、何時もの様に解散まで、だらだら時間を過ごしていったのだった。


 -Interlude-


 その頃、川神市のある雑木林の一角に、昨夜士郎が消滅させたシャドウサーヴァントの同型が居た。
 しかし、そこに居たのは一体だけでは無く複数居た――――いや、様々な方角から夜闇に溶け込むようにしながら集まって来ていた。
 そうして行き、その場に十数体以上集まった同型のシャドウサーヴァント達は、その内一体に溶け込むように我先にと融合していった。
 そうして残った一体が、その場で爆散した。
 爆散したシャドウサーヴァントの影は、ある魔法陣を形成した。
 その魔方陣が徐々に光り出していき、発光現象が辺り一帯を巻き込みながら消えて行った。
 そして、光の発生源であった一体の中心地から、シャドウサーヴァントに酷似した怪人が立っていた。
 唯一違う点があるとすればシャドウサーヴァントとは異なり、黒い霧を纏っていなかった。
 そうして怪人は口を開く。

 「なるほど、今度(こたび)のマスターはガイアか。まぁ、成功報酬を貰えるなら誰であろうと仕えるのが我が流儀。それ故、憎んでくれても恨んでくれても構わんぞ?」

 怪人は、自らの頭の中に送られて来た標的の姿を誰に聞こえるも無く呟いた。

 「川神百代(少女)よ」 
 

 
後書き
 スカサハの口調・・・・・・これであってるかな? 

 

第3話 魔術使い

 召喚されてから即座に行動した怪人――――アサシンのクラスに当てはめられている呪椀のハサンは、夜闇を一直線に駆けていき、標的の人物と義妹の姿を河川敷にある土手で見つけた。
 如何やら今日の金曜集会を終えて、帰宅するところの様だ。

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 ハサンは、即座に標的の義妹を捕えてから、人質として人気のない場所におびき出すと言う策を練ったが即座に棄却した。
 この怪人は非情なれど外道では無い。
 基本的には自分に仕事を出す依頼人や主の意向に沿うが、それが無い限り合理性と自分の流儀を取る。
 少なくとも人殺しを生業とする暗殺に、悦を感じ取ってはいないのだから。
 そして、今回の主であるガイアは、どの様な理由かは定かではないが、極力標的のみを狙えと言う命令だった。
 しかし、理由は定かでは無いが推測は出来た。
 自分をこうして現界させる程度の魔力供給は常に送られてくるが、宝具を使える回数は1回のみ。
 自分は暗殺者としては超一流の自負はあるモノの、英霊としては総合的に一流としては劣る事も自覚していた。
 こうした事から如何やらガイアは、少なくともこの世界への干渉力が低いと見ていい。
 そうでなければこの辺り一帯の被害など考えずに、強力な英霊を呼び出すはずだからだ。
 兎も角、無駄なく標的を仕留める為にハサンは尾行を開始した。
 しかしこの怪人は気付いていなかった。
 自分だけが狙う側では無い事に。


 -Interlude-


 百代は金曜集会で一応気分をリフレッシュできたのか、風呂から上がった後は気分よく鼻歌を歌いながら自室に戻っていった。
 そんな標的足る百代を、一時(いっとき)の間以外はずっと目を放さなかったハサンがいよいよ行動に移そうとしていた。

 「娘――――川神百代。せめて苦しみは一瞬の内に終わらせて逝かせよう。それが私に出来る、せめてもの慈悲だ」

 そこからハサンは宝具を解放すべく、右腕に巻かれた布を剥ぎ取りながら魔力を周りに迸らせた。
 その右腕は異形とも言うべきものだった。
 通常の長さの2倍ほどもある腕に、赤黒く不気味な大きい掌が有った。
 そしてこの能力の条件として、先程の尾行中に微かに標的に掠るくらいに触れていた。
 当の百代には気付かせることなくだ。
 これにより条件は全て揃っているので、何の憂いも無かった。

 「――――ォオオオオオオオオオ」

 ハサンは百代に形状に似た二重存在(コピー)をエーテル塊として作り上げた。
 そのコピーの心臓を握りつぶして、標的を呪殺すると言うのがハサンの宝具だ。
 言ってみれば、即席の藁人形である。

 「苦悶を溢せ――――()ごふっっ!!?」

 後は握りつぶすだけと言う所で、ハサンの後頭部から口内を突き抜ける何かに襲われた。

 「がぉっ!ごっ!」

 その他にもほぼ同時に、この怪人の右掌と心臓部分が貫かれた。
 その何かとは剣だった。
 何の装飾も無い無骨な西洋剣為れど、単なる剣には無いはずの魔力を放っていた。
 木の上から百代を狙っていたハサンは、その衝撃に落下していく。
 致命傷を受けた怪人の体が徐々に魔力の滓にに変わる中で、激痛すらも消えかかる薄っすらとした意識の無意識の狭間でハサンは思った。

 (あぁ・・・私・・・事が・・殺者・・しての基本・忘れ・・・怠る等・・無様・晒して当然・・・)

 暗殺者は常に狩る側では無く、何か見落としが有れば瞬時に状況が翻ると言うのを忘れていた様だ。
 ハサンは自分への叱咤と僅かな後悔の中、自分が自分足ら占める宝具(伝説)を解き放つことは勿論、戦闘を一度も行うことなく世界に還って行った。


 -Interlude-


 ハサンが消滅した川神院の庭先から、10キロ程離れた高層ビルの屋上に黒い洋弓を持っていた赤い外套の人物である士郎が居た。
 よく見ると士郎が履いているのはエミヤシロウ(アーチャー)とは違い、袴姿で日本刀を二本程腰にさしてある。
 そして勿論ハサンを突き刺し殺したのは、士郎が投影した無銘の剣類だった。
 しかもここからの精密射撃である。

 「・・・・・・・・・・・・ハァ」

 ハサンの射殺に成功したにも拘らず、士郎がついたのは安堵の息では無く溜息だった。
 確かに目標はクリアできたが、問題はその内容だ。
 士郎は、百代をこの地点からある一時――――入浴時以外は監視していたので、ハサンの事も気づいていた。
 にも拘らず直に仕留めなかったのは確実性を期すためだった。
 あのハサンは見覚えが有ったので、アサシンのクラスとして召喚されたと予想した士郎は機を待つ事にした。
 此処でもし逃がせば次は確実に後手に回り、どれだけの被害を齎すかが解らなかったからだ。
 それ故に、敢えて百代を囮にした上で、ハサンの宝具解放の瞬間である大きな隙を狙っていたのだった。
 これが士郎の立てた臨時の策であり、溜息の原因でもあった。
 客観的に見れば相手は英霊であり、被害を出すことなく神秘も秘匿することが出来たと言う事なしだが、士郎は同級生である百代を囮に使った自分の非情さにと弱さに、憂いていたのだ。
 客観的に言わせてもらえれば、士郎は魔術使いとしては最強の部類だし、戦闘者としても万華鏡を師としていた頃に様々な平行世界に送られて行き、その経験と技法を生かして中々の強者になっている。
 しかし士郎には今夜のうちにもう一つの仕事が残っていた。

 「何時までも落ち込んでいてもしょうがない。とっとと行くか」

 今後のためにと自分で決めた仕事を熟す為、士郎は高層ビルの屋上から飛び降りるように夜闇の空に自分自身を投げ出して行った。


 -Interlude-


 川神院現総代にして元最強元武神である川上鉄心は、百代の部屋から近い庭先に違和感を感じ取って行ったが、暫く居ても何も見つからないので、気のせいと思い直してから自室に戻ってくる処だった。

 「ん?何じゃ、これは・・・」

 そこで自室の襖に挟まれている封筒を見つけて、それを取る。

 「ふむ、何々・・・・・・・・・・・・・・・」

 封筒の中の手紙の内容を確認していく鉄心であったが、直に顔を上げた瞬間にその場から消え去って行った。
 そうして鉄心が、まるで消え去るかのように駆けて来た山奥の中腹に着くと、赤い外套の人物に遭遇した。

 『お早いお着きだ。流石は鉄心殿と言った所か』
 「挨拶何ぞ、ええわい。それよりもお主は何者じゃ?」
 『手紙に記載したはずですが?』
 「魔術師・・・・・・か」

 鉄心は疑いながらも、探るような眼つきで赤い外套の人物を観察する。
 魔術師と言う人種を知っているからこそ、距離を置いた上での対応だった。

 「その魔術師が儂に――――」
 『川神百代は危険だ』
 「何・・・?」

 鉄心が質問する前に、赤い外套の人物は話を切り出した。

 『もう一度言う。貴方の孫である川神百代は危険だ』
 「如何いう意味じゃ?うちの孫がお前さんたちの領域に、エンカウントでもしたかの?」
 『そう言う意味じゃない。寧ろその程度であれば話は簡単だった。直截に言えば彼女のあまりの才能が危険視されたのか、いずれ世界を亡ぼしうる要因としてガイアに狙われている』
 「なっ!?」

 鉄心はあまりの突飛過ぎる言葉に目を剥いた。
 それはそうだ。いきなりガイアと言うキーワードを出されれば驚きもする。
 ただ驚愕したにはしたが、鉄心の心の淵は冷静だった。
 孫である百代のあまりの才能については、かつて武神と呼ばれた自分にすらも想像し切れない程だ。
 しかし百代を危険視された事については、苦悩はしつつも不思議と納得できてしまった。
 だが・・・。

 「確かに百代の件についてはそれ程の才能じゃから理解できるが、お主の言うガイアの代弁者が狙っている証拠は有るのかのう?」
 『提示できる証拠はないが、貴方も巷の噂なら耳に届いているはずだ。世界中の怪奇現象を。あれらは全てシャドウサーヴァントの仕業であり、彼らが捜しているのは世界を亡ぼす要因だ』
 「その原因が儂の孫じゃと言うのかい?」
 『その一つだと言っている。貴方は信じないかもしれないが、先程この周辺のシャドウサーヴァントが全て消えて、代わりに一体のアサシンのクラスに当てはめられたサーヴァントが現界して、彼女を暗殺しようとしていた』
 「む!」

 赤い外套の人物の言葉に、先ほどよりも小さくも確かに驚く。
 態度は悪くも可愛い孫の命を狙われたのだ。
 そこまで冷静になれるほど、鉄心の心はボケていなかった。

 『心配せずとも私が先ほど仕留めた。まぁ、信じる信じないは貴方次第ではありますがね』
 「・・・・・・庭先の僅かな違和感はそれか。――――分かったわい。それについては一応信じるとしよう。じゃがな、お主は魔術師じゃ。そんな人種について信じろと言うのは中々に難しいぞい」
 『つまり素顔を曝せと?』
 「それが儂に出来る範囲の最低条件じゃ。今後の事を考えて姿を現したんじゃろ?」

 眉根を顰めて赤い外套の人物を見やる。
 そんな風に見られた赤い外套の人物は、鉄心の提案を予想出来ていたのか、躊躇いもせずに仮面を外して外套も脱ぎ去った。
 赤い外套の人物の行動にも驚いた鉄心だったが、素顔についてはそれ以上だった。

 「お、お主は・・・・・・衛宮士郎!!?」
 「こんばんわ、学園長。この様な時間帯に会うのは久しぶりですね」

 素顔を曝したからなのか、口調と声音が何時も挨拶してくる少年、衛宮士郎のモノに成っていた。
 そんな士郎とは裏腹に、鉄心は未だに動揺から抜け出せずにいた。
 目の前の少年は、友人の藤村雷画にとってのお気に入りで孫同然に可愛がられていると言う話も聞いているし、現在校生の中では一番頭がイイ優等生でもある。

 「・・・・・・まさかお主が魔術師じゃったとは、すっかり騙されたわい」
 「騙すとは人聞きが悪い。俺は単に神秘の秘匿に加えて、一般人を此方の世界に巻き込まないために、隠して使い分けているだけですよ?」

 自分の知らない衛宮士郎を、探るような眼つきでさらに聞く。

 「・・・・・・雷画の奴はお主が魔術師だと知っておるのかのう?」
 「もう何年も前に話しましたから、知っていますよ。他には?」
 「魔術師は合理的な考えに基づいていると聞いておるが、お主は如何なんじゃ?」
 「如何思いますか?」
 「質問に質問で返すのは感心せんの。・・・・・・じゃが、雷画の奴が承知の上で、目の届く所に置いていると言う事に対しては信じたいのう」

 友人である雷画の目が、確かなものだと言うのは理解しているからこその言葉だった。

 「ではやはり完全には信用できないと?」
 「そりゃあそうじゃろ・・・・・・と言いたい処じゃが、最低条件を呑んでもらったんじゃ。何か儂に要求があるのじゃろ?内容によるが取りあえず聞くわい」
 「ではこれを川神百代(川神)に、日ごろから極力持っている様に頼んでもらえますか?」
 「んむ?」

 士郎は、よくあるお守りの様なアクセサリーを丁寧に鉄心に手渡した。

 「それを常日頃からも所持していれば、今迄よりかはガイアの代理人の目を誤魔化せる筈です。と言っても急ごしらえの応急処置様ですが」
 「これがのう・・・。じゃが既に百代は狙われたのじゃろ?応急処置なぞ今更無意味なんじゃないのか?」
 「当然の心配でしょうがご安心を。今まで殲滅してきたシャドウサーヴァントも含めて、討滅に使った魔術にある細工を忍ばせていますから、川神の事はばれていない筈です」

 士郎の説明に正直半信半疑と言った感じだが、何所まで行こうと魔術についてはお手上げ状態の鉄心からすれば、仕方なくも任せるしかなかった。

 「一応、納得しておくの。それで後はお前さんの事を黙っておればよいのじゃな?」
 「察してくれて助かります。勿論川神にもですよ?下手を打てば、彼女の現在の精神の在り方では、身も心まで戦闘狂になりかねません」
 「耳の痛い話じゃが、最後に皮肉らなくてもいいじゃろうにぃ。――――お主、少し雷画の奴に似てきておるぞ?」

 鉄心は、若干恨めしそうに士郎を見た。
 その反応に士郎は苦笑する。

 「そんなつもりは無かったんですがね。―――では今宵は是にて失礼させて頂きます」

 士郎は一礼してから、手に持っていた赤い外套の『赤原礼装』と髑髏に似せたハサンの仮面を被り、一瞬にしてその場を去った。
 気配すらも感知させずに。

 「・・・・・・・・・相変わらずの身のこなしに気配の隠しヨナ。――――今更じゃがまったく、雷画の奴めはツイておるのう。あんな化け物を懐に忍ばせられるとは」

 鉄心は、此処には居ない友人に向けて、僻みの言葉を呟く。
 そして川神院の方角に向く。

 「これ、モモの奴に如何言い含めようかのう・・・」

 士郎に渡されたお守りを見て、また溜息をつくのだった。


 -Interlude-


 士郎は自宅に戻り居間に入ると、そこにはこの時間帯には珍しく、白を基調とした私服に身を包むスカサハがいた。
 今更だが、彼女の漆黒の髪に白い服は良く映える。

 「帰ったか」
 「ど、如何して――――」
 「お前が気落ちしていると思ってな。慰めてやろうと思ったのよ」

 士郎の考えた策を了承したスカサハは、士郎がどの様な面持ちで帰って来るか予想出来ていたので、こうして待ってくれていた様だ。

 「いいですよ。そんな」
 「まぁまぁ、騙されたと思って私の目を見ろ」
 「な、何・・・・・・ぉ・・・・・・・・・」

 スカサハの手で無理矢理顔を固定された士郎は、彼女の瞳を見た瞬間に、体から力が抜けて意識を手放していった。
 そこで倒れそうになる士郎を、スカサハが抱留める。

 「ふむ、中々いい具合に体も出来て来たな。さてと、計画通りにことを進めるか」

 士郎を抱留め運びながら、物騒な事を口走りつつ士郎の部屋に向かった。


 -Interlude-


 「ん・・・」

 まだ日が昇っていない内に士郎の意識が覚醒していく。
 そんな士郎は可笑しな違和感を感じ取った。
 士郎はこれまで寝相などしたことなど無いので、誰かに動かされない限り寝た時と同じ体勢で起きるのだ。
 ましてや抱き枕を抱いて寝るなどした事が無い、と言うか抱き枕も無い。
 しかし今の士郎は、ぬくもりのある抱き枕?の様なモノを抱いて寝ていた。

 「何だ・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 自分が何を抱いているか確認しようと目を開けたら、そこにはスカサハの寝顔が有った。
 しかも彼女は、上は胸元を少し肌蹴させたワイシャツで、士郎からは見えないだろうが下の方は黒の下着以外履いていなかった。

 「・・・・・・・・・・・・・・・!?!!?!?!?」

 この事に士郎の思考がパニック祭りに突入した。
 それはそうだろう。このシチュエーションは第3者が見た場合――――いや、誰が如何見ても恋人同士で抱き合って寝ている余にしか見えないのだ。
 因みに、士郎は下は何時ものジャージを吐いているのに、何故か上はまっぱであった。
 士郎の体は今の年齢には不釣り合いなほどに鍛え上げられており、鋼の鎧を着こんでいるようにも思える程の体だった。
 ワイルド系の好きな女性が見れば、頬を赤らめて涎を零しそうになるほどに。

 (何故、何、如何して、何で、何が、何を、何々何々何々何々何々何々何々何々、なんでさっ!?)

 士郎はパニックにハマりながらも、なんとか気持ちを落ち着かせる様に努めていく。

 (・・・・・・・・・ふぅー、取りあえず確認だ!俺はどうして師匠と一緒に寝てるん――――)
 「それは昨夜、私たちが情熱的に愛し合ったからだろう」
 「・・・・・・・・・・・・・・・し、しししし、師匠ぉおおおおおおおぉぉおおおぉおおおおおおお!!?」

 心を落ち着かせている最中に、まだ半目だが、何時の間にかスカサハが起きていた。
 そんなスカサハに対して、ツッコむ前に驚きながら布団から飛び出した。

 「その様な態度、さしもの私も傷つくぞ?昨夜のお前は、私の元で学び巣立っていったケルトの戦士たちの様に荒々しくも、狂おしかったと言うのに。――――つれない奴じゃのう」
 「なぁああああああぁあああああ!!?」

 スカサハは、顎に手を当てて口周りを一度舐めてから、厭らしく堪らなくなってくる怪しい眼で士郎を見つめる。
 対して士郎は翻弄されるばかりだ。
 元の世界で関係を作った女性たちにも、基本的には主導権を取られていたからだ。後半戦に成ると士郎の方がスタミナがあったので、立場は逆転していたが。
 そうしてあらかた士郎の初心な態度で楽しんだスカサハは、そろそろネタばらしをする。

 「さて冗談はこれ位にするかのう」
 「じょ、冗談・・・?」
 「何じゃ、ホントだった方がよかったか?何、昨夜のお前を元気づける為にこうして趣向を凝らしたわけよ。――――まぁ、半分以上は嬉々としてやったが」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 全く悪びれないスカサハの態度に、士郎は朝から疲れたーと言いたそうに頭を垂れた。

 「あと、士郎。良いのか?今日は藤村組の花見だった筈だが、料理の仕込みをしなくても?」
 「っ!そうだった!?急いで仕度しないと、今何時だ?」

 スカサハに言われてハッとした士郎は、そのままの姿で台所に向かって行った。
 その士郎の後ろ姿を見送ったスカサハは、一人呟く。

 「生に飽き、死ぬことを望んでいた私を楽しませてくれるとは、ほんとに興味深い奴じゃな」

 感慨にふけながらスカサハは、漸く上ってくる朝日を見つめる。

 「影の国(アルバ)に居た時は、ただダラダラと生きてきたが、異世界にて新しい生を謳歌するのも悪くないな」

 そして瞳を閉じてまた呟く。

 「――――そうは思わぬか?士郎よ」 
 

 
後書き
 細工と言うのはスカサハの魔術によるものです。
 まぁ、キーワードに載せているご都合主義とお考え下さい。
 

 

第1話 穏やかな朝

 「それじゃあ行って来る」
 「ああ、2度目の高校生活3学年目を、今日も存分に堪能して来い」

 師匠であるスカサハの含んだ言葉を背に、士郎は苦笑しながら家を出た。
 しかし――――。

 「如何かしたんですか?」

 衛宮邸を出た直後、隣の藤村組の本邸の門から若衆たちが急ぐように次々と出て来ていたのだ。

 「おう、士郎か?いやな、土手の川岸の方で他所から来たチンピラが屯ってるていう情報をご近所さんから貰ってな、それで急ぎ対応しに行こうとしてたんだよ」
 「それなら俺が先に行って騒ぎにならないように見てきますよ。どうせ通学路ですし」
 「おう、それなら遠慮なく頼むわ。だがお前は学生だからな、俺達の誰かが1人でも着けば学校の方に行ってくれていいぞ?」
 「分かりました」

 そう言った直後に士郎は、その場から消え去った。
 それを見送った若衆の1人は楽しそうに笑っている。

 「相変わらずやるなぁ・・・!組長や若頭が気に入る気持ちも解るぜぇ」

 そんな風に呟いていた。


 -Interlude-


 「これは・・・・・・川神か」

 自分の最高速度で現場に向かっていた士郎は、途中で関節を外された不良たちを見かけた。
 恐らく何時もの様に吹き飛ばしたのだろう、関節を外された痛みと吹き飛ばされたショックで気絶していた。

 「相手を囲むようにする手合いに、川神は容赦ないからなぁ」

 士郎はこれについて、藤村組の若衆のまとめ役に連絡した。
 それから土手に行くまでに、見かけた不良たちの関節を痛みを起こさない様に元に戻していった。
 但し、起きた後に周囲の住民に迷惑を掛けないように、ある程度身動きを取れない様にロープで縛った。
 因みに、ロープはこっそり投影で創り出した。
 そんなこんなで現場に着くと、不良は予想通り誰1人も残って居なかった。
 勿論これについて連絡した後に、不良たちを蹴散らした張本人を見つけたので声を掛ける。

 「おはよう、川神。今日も派手にやったな」
 「ん?衛宮か。ま、何時も通りだ」

 士郎に挨拶された百代は平常通りに対応する。
 その百代に士郎は、彼女に気付かれる事なく一瞬だけ服のポケットから僅かに出ているモノを見る。
 如何言い含めたかは判らないが、鉄心はお守りを身に着けさせることに成功したらしい。
 士郎は、これについて一安心する。

 「自業自得だろうから仕置するのは構わないが、あんまりやり過ぎると周囲の迷惑にもなるから自重してくれって前に頼んだはずだけどな?」
 「いいだろう、別に。私の勝手じゃない――――」
 「借り」
 「!」

 士郎の一言に、百代は過剰反応する。

 「脅しなんてしたくないが、毎度の事借りがあったはずだ。この頼み事を引き受けてくれないなら、借りも極力早く返してくれないとな。それともう肩代わりしてやらん」
 「は、早まるな、衛宮!頼みは引き受けるから、それだけは勘弁してくれ!」

 百代は一瞬にして士郎に対して腰を低くした。
 そこに大和が士郎のあるキーワードに反応する。

 「衛宮先輩、おはようございます。それで、義姉さんが言ってた“肩代わり”って何ですか?」
 「直江か、おはよう。何だ言ってないのか?確か舎弟の彼にだけは、話を通してあるって言ってた筈じゃなかったのか・・・!」
 「えっ、いや、それは・・・」

 士郎の静かな眼光により、まるで蛇に睨まれた蛙の様に縮こまる百代は、しどろもどろになった。

 「肩代わりって言うのはそのままさ。百代が他からも借金してからバイトして返すようにしてるらしいが、今迄期日までに間に合いそうも無かった時もあったのは知ってるか?」
 「ええ、その時は基本的に俺とかが貸しますから」
 「けど直江達から借りた分だけじゃ足らない時もあってな」
 「その時に衛宮先輩が肩代わりしていると?」
 「まぁ、そうなるな」
 「義姉さん・・・」

 呆れ半分憤り半分で大和に睨み付けられる百代は、まるで現在進行形で裁かれている被告人の様だ。

 「むぅ」
 「まったく、他からも肩代わりしてるなら如何して言わなかったの?」
 「だって言ったら怒るだろ?」
 「当たり前だよ。――――それと、“借り”って言うのも何?」

 大和に聞かれた百代は言いたくないのか答えようとしない。
 その代わり士郎が答えた。

 「それについては言っておいてなんだが、それほどの事じゃない。単に今までのテストの勉強で、ほとんど直前になって泣き付いて来ただけだ」
 「衛宮!如何して全部言うんだ!これが大和経由で爺やルー師範代にバレたら不味いんだぞ!?」
 「なら最低限の勉強位してくれ。俺だって勉強の時間があるんだぞ?」
 「その割には何時もお前が勉強してる所なんて見た事ないぞ?よくそれで今までダントツ首位を守り切れてきたな」

 百代の言葉通り、士郎は川神学園に入学してからテストの成績は常に1位だった。
 と言うか、この世界に来てからずっと1位だ。
 その理由は、士郎の3番目の魔術の師である万華鏡の指導のおかげ?である。
 士郎がキシュアに目を付けられてしまってから、まずこう言われたのだ。

 「どれだけ魔術のセンスが残念でも、私の弟子の中の末弟であろうと知識に乏しいなど問題外だ」

 この発言により、士郎は脳細胞を死滅させる気なのではと疑いたくなる位のスパルタ指導の下で、世界トップクラスの知識を無理矢理詰め込まれた。
 なので知識だけは豊富だ。
 しかし、この世界と士郎の世界の学問の知識が全て同じとは限らなかった。
 いや9割以上は同じなのだが、違う部分も確かにあるので、その当たり知識を埋めるように士郎はこれまで勉強して来たのだ。
 だがその当たりについては、自分が転生者であると言う事実を教えたごく少数の者にしか教える事は出来なかったので、それ以外の者たちに根掘り葉掘り聞かれない様に色々と装ってきたのだ。
 だがそれ以外にも勉強していることはある。
 それは様々に移り変わっていく現代の雑学や新知識だ。
 士郎の新たなる道の力になるであろうと予想して、地道にその手の情報学に努めているのだ。
 因みにテスト期間は百代の言う通り、確かに勉強はしていない。
 約1週間の間は授業終了後はフリーになるので、違法ではないが人にはあまり言いたくない仕事をしていた。

 「川神の知らない処でやってるさ」

 この様に基本的には誤魔化すしかない。
 とは言え、それ相応に交渉事にも手馴れているので、昔とは違い感情を表に出さないような感情コントロールも出来るようになったので、嘘を付いていないように思わせることなど造作も無かった。
 少なくとも風間ファミリー程度の経験レベルの人間に気付かれることは無かった。
 現に、全員士郎の言葉に騙されている。

 「兎に角、少しは自重してくれよ?」

 ポンポンと百代の頭を撫でてからその場を離れて行った。
 頭を撫でられた百代は苦虫を噛み潰したような顔に成る。

 「同い年だろうに、人を子ども扱いしやがって・・・・・・ん?」

 士郎の背を睨み付ける百代の肩を、大和が叩く。

 「義姉さん、ちょっといいかな?」
 「ま、まさか、テストの件を爺たちにチくる気か!?いくらなんでもそれは酷いぞ!」
 「それはいいよ。あの勉強嫌いの義姉さんが、如何して何時も赤点を回避出来てたのかも解ったし。それよりも、決して薦める訳じゃ無いけど、衛宮先輩なら義姉さんに釣り合い取れるんじゃないの?」
 「衛宮ぁ~~~~?・・・・・・・・・無いな」

 百代は少し考えた後に素で答える。

 「一応、理由を聞いてもいい?」
 「アイツ、あれだけ何でも出来るくせに闘争心も競争心も無いだろ?だからだ。悪い奴じゃないし、友達程度なら別に良いが、男としては見れない。少なくとも私には合わないな」
 「でも衛宮先輩とくっつけば、将来的に色々といい方向に持っていけるんじゃないの?」
 「大和、お前は普段から悪巧み的に打算性があるからか、たまに感情面を無視した利潤性で考えてるときあるぞ?」
 「え?マジで?」

 大和が後ろを向くと3人とも頷いていた。
 この事に大和は今後自重しようと胸に誓う――――とまでは行かないが、そう決めた。


 -Interlude-


 一方、風間ファミリーから離れた士郎は、多摩大橋を渡っている親しい後輩を見つける。

 「ユキ、準、2人共おはよう」
 「む?シロ兄なのだ!おはよう~!」

 小雪は士郎に反応して、ピョンピョン跳ねながら近づいて来た。
 その後を準がゆっくりとした足取りで近づいて来る。

 「おはようございます、士郎さん」
 「おはよう・・・・・・ってこら、ユキ。あんまり跳ねるな、スカートが捲れるぞ?」
 「アハハハハ、大丈夫、大丈夫!」

 小雪は士郎の注意にも、笑いながら跳ねるのを辞めない。

 「そう言えば冬馬は如何した?」
 「えっ、あっ、若はちょっと野暮用でいないっすよ」

 準は慌てて誤魔化す。
 何故なら冬馬は朝帰り――――いや、連絡はあったが帰っても来なかった。
 因みに既に学校に居る。
 ならば事実を言えばいいのだが、そうもいかない理由があった。
 その前に冬馬を含めたこの3人が士郎と親しい理由がある。
 3人は昔、士郎に救い上げられた事があったのだ。
 小雪は母親に殺されそうなときに士郎に助けられ、残りの2人は小雪経由で父親の圧力から救われたのだ。
 因みに、その時の後の事は藤村組も介入しているので、実働は士郎でアフターの様々な事は藤村組が処理したのだ。
 つまり3人にとって、士郎を含めた藤村組は大恩人だと言う事だ。
 そんな助けられた時に、まるで雷に打たれた様に冬馬は初めてときめいたのだ。
 一つしか歳が違わないにも拘らず、自分達を庇う士郎の後ろ姿が大きく逞しく見えたのだった。
 そう、冬馬は士郎に恋をしたのだ。
 しかし2人とも男だ。
 そして士郎はノーマルだ。
 法的にも認められない叶わぬ恋をした冬馬は、そのやるせない気持ちをもみ消す様に昔からお盛んに男女問わず食べているのだ。
 しかし、冬馬はある情報を耳にした。
 最近、同性婚を公式的に認めさせる動きがあると言う。
 これには一瞬歓喜したが、何所まで行こうと士郎はノーマルだ。
 なので冬馬は今も、お盛ん状態だ。
 されど冬馬は今でも本命は士郎である。
 その事を知っているからこそ、準は誤魔化しをしたのだ。
 だが、これでも士郎の目は確かなモノ。そのために、あっさり誤魔化そうと見抜いたが、「思春期なのだから隠し事の一つや二つもあるだろ」と判断したのだ。その為――――。

 「そうか、なら3人で行くか」

 準の誤魔化しを敢えて受け入れた。
 この事に準は、見抜かれているとも知らずに安堵する。
 そうして3人は今日も川神学園に登校していった。
 
 

 
後書き
 ほのぼの回としました。つまらんでしょうけど、如何か我慢を。 

 

第2話 何でもないような尊き日々

 
前書き
 話についてはぽつぽつと思い付いているのですが、まだまだ全体像につきましてはありませんので、基本適当です。 

 
 夕方。
 川神学園の学生たちは今日の授業をすべて終わらせた後に、各人それぞれに放課後の予定に動いた。
 部活に入らず遊ぶ者、将来に向けてさらに勉強するために塾に行く者と色々だが士郎は――――。

 此処は川神学園にある弓道部が使う弓道場だ。
 部活勧誘時期はまだなので2年と3年だけだが、流石は武家が集まる川神。1人1人が洗練されており、まず的を外すものは1人もおらず、数人程は3割の確率で中てると言う猛者達だ。
 部長にしても5割の確率で中てているので、これだけでもこの弓道部のレベルの高さは理解できたが、それ以外のある2人だけは他の追随を許さぬほどの射をしていた。
 1人は、風間ファミリーの一員である直江大和の妻(自称)の椎名京だ。
 椎名流の次期後継者で、技もそれなりの数があり、何より彼女の一番の武器がその集中力にある。
 射程範囲と弓のみと言う条件が合えば正しく百発百中。
 少なくとも現時点では外したことはない。
 そしてもう1人が弓道部の副部長である衛宮士郎だ。
 弓術に置いて士郎には多彩な技など持ち合わせていないが、最早呪い級と言われる精密射撃度と、圧倒的と言われるほどの射程距離を持っている。
 世界でも最高の狙撃手が道具を取り揃えても3キロを超えない所、士郎は10キロや20キロを遥かに超えていた。
 武における接近戦の才能は何所までも凡人だが、射撃に関して言えば現人類最高なのではないかと現世(うつつよ)の閻魔こと藤村雷画は見ている。
 今では、世界に祭り上げられた英霊達とも競い合い対抗できるほどと言えるだろう。勿論限界はあるだろうが、士郎の射は超人――――英雄達に引けを取らないものだった。

 士郎はほぼ幽霊部員状態の京と違い、周りの頼みと期待から部門に関係なく弓道における多くの大会をこれまで総なめにしてきた。高校の大会については3連覇がかかっている。
 そんな男の周りの女子部員たちは私語こそ抑えているが、何時もの様にときめいていた。
 士郎の容姿は特別に整っているワケでは無いが、そこそこイケメンと言うのが客観的な評価だ。
 何時もは愛想もあまりないが、基本的に優しく頼り甲斐があり、何よりほかの同年代の男達とは比べ物にならない位に大人だ。なので物腰は柔らかいが、時折――――そして今の射を見せる真剣な表情のギャップで女子生徒からは大変人気だ。
 さらにはほぼ小中高と成績も常にトップ。家事においても大貴族にも即日に仕え始める事が可能なのではないかと言うほどのレベルで、その中でも料理における調理技術は世界トップクラスの料理人である。これらのステータスを具えた上で上記の通り、人格は大人で性格は良人間。
 これで女子の受けが悪いワケが無い。悪ければ嘘だ。
 しかし、士郎には致命的な欠陥がある。
 それは異性からの好意に非常に疎い――――つまり、超鈍感だった。
 この世界に来てから異性に好きと明確に言われた事が無いので、今もお自分がモテていると言う現実に全くと言っていいほど気付いていなかった。
 そして影では、士郎に好意を寄せる女子たちの間での暗闘の末に、抜け駆け禁止を暗黙の了解としたのだった。
 そうとは知らない士郎は、京と並んで真剣に取り組んでいる。
 京の方と言えば士郎が横に居る事にある程度の安心感がある。
 何故京が士郎がいる事で安心できる理由として、彼女も士郎に影で救われたからだ。
 京のいじめを救ったのは風間ファミリーだったが、別の小学生であった士郎とだけはまともに話していたのだ。
 士郎も助けようとしたところで先に大和たちに助けられたので、もう大丈夫だろうと思った所に京を苛めていた子供の親の1人が、報復にと川神から追い出して二度とこの地に還って来なくさせようと陰で動いてる所を士郎が映像証拠として記録して藤村組立会いの下、釘をさすことに成功したのだ。
 その事もあって、同じように報復しようと考えていたモンスターペアレント達も二の舞になるまいと、自重させることにも成功したのだ。
 この事を京が知ったのは、一度川神を離れてから川神学園に通う為に京1人だけ戻って来た時だ。
 京自身は自分をいじめた奴は忘れていたが、藤村組に釘を刺された親子ともどもは自分を見るなり怯えていたのでこれは何かあると聞いた処、戦々恐々と話を聞く事で事情を知ったのだ。
 後日士郎や藤村組にお礼を言いに行ったが、本人らは感謝は受け入れるが大した事はしていないと笑って諭したことで京は風間ファミリー以外で心から信頼における人達と認識したのだ。
 まぁ、何所まで行こうと京が異性として見ているのは大和だけだが。
 因みに、士郎に言われて京は最低週2で弓道部に来ている。
 道場を使わせてもらっている以上、最低限の回数と礼を損なうなと言う士郎の言葉に従った結果だ。
 それ相応の説得をようしたが・・・。
 結果的には、弓道部の部員たちとは普通位には会話する様になった。
 大和たちに助けられるまで、もし誰も自分の話し相手が居なければ自殺しようとも思った京からすれば士郎は今の自分の救世主の2人の内の1人である。
 だからこそ京にとってはあくまでも大和の次にだが、安心させてくれる存在なのだ。

 そうして互いに静かに射を終えた。
 的に向けて2人とも3本打ったが、何時もの様にすべて中心に中てていた。
 その事に女子部員たちはやっと声に出して色めきだつ。
 対して男子部員たちは京は兎も角同じ男である士郎には、余りに凄すぎるからか妬みを通り越して畏敬の念を抱いていた。

 「衛宮君は勿論だけど、椎名さんも流石ね?」

 そこに現弓道部部長の矢場弓子が近づいて来た。
 因みに彼女は部活と私生活以外では、舐められないためのキャラ作りとして声音と性格、そして語尾に候と付けている。そこまでする必要があるかまでは判らないが。

 「有り難うございます。けど、士郎さんの呪い級には及びませんよ?」
 「呪い級に食い付いて行けるだけでもすごいじゃない!」
 「呪い級呪い級って、言いたい放題だな・・・」

 京と弓子の遠慮のない物言いに、流石の士郎も眉間にしわを寄せる。

 「実際にそうでしょう?」
 「違うんですか?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 しかしそんな士郎の嫌味にもまるで気にした様子も無しにしれっと返す2人に、士郎は天を仰ぐのだった。


 -Interlude-


 「良かったじゃないか?その娘が少しづつでも他人慣れしてきた証拠だろ?」

 現時刻は夜の夕食時。
 士郎の前側に座するスカサハは、夕食を突っつきながら話をする。

 「そう~よ!京ちゃんはけっこう人間不信だったんだから、その成長を寧ろ喜んであげなさいよ!」

 そしてもう1人は、藤村雷画の実の孫であり冬木にある高校、穂群原学園の英語教師で士郎の姉気分でもある冬木の虎こと藤村大河である。
 高校時代は剣道において向かうところ敵なしで、元武道四天王の一角でもあった事から冬木の虎と呼ばれるようになった。
 因みにタイガー或いは馬鹿虎と言われると怒る。
 大河は、スカサハ以上の速さで士郎の作った夕食を食べ進めていく。
 そんな彼女たちに士郎は、気圧されながらも反論する。

 「俺だって京の成長を喜んでいないワケじゃない!けど呪い級などと連呼されて、いい気分じゃないんだぞ?」
 「ならお前は、自分の射を人に理解も納得も出来るように詳しく解説できるのだな?」
 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎はスカサハの言葉に押し黙った。
 士郎の射に対する才能は、神童と言っても過言では無い。
 神童と呼ばれる人種はその手の才能を感覚で行うので、それを分かる様に説明できない者が多い。
 勿論、士郎も射に関して言えば典型中の典型である。

 「狙う必要はない。既に中ててるんだ」

 こんなこと言われても普通の人間に共感してもらえる筈も無いのだから。
 結局言い返せないまま士郎は食事を進めるしかなくなった。


 -Interlude-


 ほぼ同時刻。
 此処は川神院の総代である川上鉄心の自室。
 そこには部屋の主である鉄心と、藤村雷画が将棋盤を挟んで向かい合っていた。
 2人は古くからの友人で、酒と士郎特製のつまみを突っつきながら将棋を指している。

 「――――相変わらず衛宮の作るつまみは美味いのぉ」
 「そうじゃろ、そうじゃろ!士郎の腕は世界一じゃろう?」

 鉄心の挨拶代わりの褒め言葉に気付きもせずに、実に嬉しそうに雷画は頷いた。

 「衛宮に執心過ぎるんじゃないかのぉ?」
 「それはアレか?儂が魔術師に誑かされているとでも言いたいのか?」
 「っ・・・・・・・・・・・・」

 雷画の言葉に鉄心は詰まった。
 確かに今日この場で士郎=魔術師を聞こうとも思っていたが、まさか雷画の方から切り出すとは思わなかったからだ。
 実の孫や自分の補佐ですら気づけない位の鉄心の僅かな動揺を見逃さなかった雷画は、軽く息を吐いた。

 「確かに士郎は気に入っとるが、盲目になるほど落ちぶれてはおらんぞ?少なくとも。自分の学校の女生徒達を若さの秘訣にしておるどこぞの腐れ爺よりはマシじゃわい」
 「何じゃと!?お前と言う奴は!人のフェチズムを否定出来る程、何時から偉くなったんじゃ!」
 「偉いどうのこうの以前に犯罪じゃろ?セクハラで訴えられても可笑しくないぞい?儂が生きている内に性的暴行を女生徒に行った疑いで逮捕などと、辞めてくれい。笑い話にもならんからの」
 「なるかい!」

 方や冷静に方や煩くと将棋盤を挿んで言い合う2人。
 一気に言い切ったのか、鉄心は軽く息を切らす

 「因みに言っておくが、士郎が魔術師だと触れまわす様になったら全面抗争に入るからの」
 「むぉ!?」

 漸く落ち着けると思ったら、雷画の言葉に電撃を撃たれたかの様に慌てて立ち上がったのだった。 
 

 
後書き
 説明多くてすいません。 

 

第3話 誑かす者

 「見ー付け、たーー――――」
 「おはような、ユキ」

 翌日に、士郎が登校中に小雪が奇襲じみた目元を隠すように驚かせようと仕掛けたが、目の良さと気配で既にバレており、逆一瞬の内に背後に回られてから逆襲を受けた。
 逆襲を受けた小雪は、嫌がりながら自分から士郎の手を外して距離を取った。

 「むー、今日も駄目だったかー」
 「そりゃな。あれだけ主張の強い気配があるんだから、気付けって言ってる様なものだぞ?」

 小雪は、言葉自体は拗ねている感があったが、何時もの事なので落ち込んでいる気配も無い。

 「いいよー、次こそは成功させるから!」
 「ハイハイ、そう言えば2人は?というか、鞄は如何した?」
 「トーマとボクは先に学校行ってたけど、ジュンを迎えに来たらシロ兄を見かけたから仕掛けたくなったのだー!で、肝心のジュンは―――」
 「後ろか」

 小雪に指摘される前に振り向くと、準が走って来た。

 「おいおいユキ、いくら士郎さんが見えたからって、俺を置いてくことないだろう?」
 「だって今日こそはって思ったんだもん!失敗したけどさー」
 「まぁまぁ、ユキも悪気があった訳じゃ無いんだし、許してやってくれ」
 「そうすっね」
 「2人とも早く行こうよ!じゃないと遅刻するよー!」

 いつの間にか自分達から離れた所で自分たちを呼ぶユキの姿に、2人とも見合って苦笑してから動いた。
 その時士郎は遠くから見逃さなかった。
 百代が武道家を倒したにも拘らず残念そうに気落ちしている所を。
 直に気を紛らわせるように登校を再開させるが、確実に寂しそうな顔だった事に。

 「戦闘狂っていう性質も大変だな」

 準とユキに聞こえない位のボリュームで、ぽつりと呟いた。


 -Interlude-


 「今日は遅かったな、衛宮」

 無事間に合った士郎は着席するなりクラスメイトである着物姿の友人、京極彦一に声を掛けられた。

 「まぁな。ちょっとした野暮用で朝からドタバタしてたんだ」
 「そうか」

 2人が話している時は、3-Sの女子生徒達が騒ぎ出す。

 「京極君と衛宮君が話していると絵に成るわよね~」
 「いっそもっと顔を近づけて、見つめ合ってくれないかしら!」
 「今年も京極君×衛宮君は鉄板だわ!!」

 会話の内容から察するに、如何やら腐女子達のようだ。
 イケメン四天王(エレガンテ・クアットロ)の1人である京極と、川神学園の中でもトップクラスの高スペックに、そこそこイケメンで性格良しの士郎をBL的な標的にしたがる節を持つ女子生徒達だ。
 3番目の生徒に至っては、本人たちには内緒で薄い本でも出版させているのだろう。
 そこへ、また1人遅刻せずに登校してきた男子生徒が来て、士郎の真横の席に座った。

 「おはよう!京極に衛宮!!2人とも何話してるんだい?」
 「いや、大した事じゃないんだがな――――」

 士郎達に話しかけてきた男子生徒の名は、相沢和良と言う士郎同様にそこそこイケメンで士郎には及ばないモノの中々のスペックに善良な性格の持ち主だ。
 3-Sが誇る3大イケメンズが勢ぞろいした事で腐女子達だけでなく、普通の女子生徒達も教室の内外問わずに騒ぎ出した。
 しかしある女子たちだけが、寧ろ相沢和良に冷え切った視線を送っている。
 中には、血が出るなんてお構いなしな位に唇を噛んでいる者まで居る始末だった。


 -Interlude-


 午前の授業を終えてからの昼休み。
 昼食を持参していない者たちは食堂へ行くのだが、1年~3年のS組は基本的に持参が多い。
 勿論士郎も持参で、何時もの様に食べようとする所である事に気付いた。

 「あれ?相沢は?」
 「む、確かにいない様だがそれが如何かしたか?」
 「あの後一緒に昼食でも食べようと誘ってきたんだけど・・・まぁ急用でも出来たんだろ――――」
 「シロ兄!」

 そこへ、廊下から小雪が士郎目掛けて飛び込んできた。

 「アレ、ユキ。如何した?」
 「シロ兄と一緒に食べようと思って!」
 「2人と別行動か?」
 「準はそこ!」

 小雪が指さしたのはどの教室にもあり、放送が流れるスピーカーだ。
 そのスピーカーからメロディーと共に準の声が聞こえ出した。

 『ハァイ、エブリバァディ!春と言えば恋だよね――――』
 「井上は放送委員だったか」
 「じゃあ、冬馬は?」
 「何か法廷があるとか、よく解らないこと言ってたよ」
 「陪審員でも選ばれて早退したのか?」
 「さぁ?」

 兎に角、今小雪は1人で行動していた事だけは理解出来た。

 「なら一緒に食うか?」
 「そのつもりなんだけど、ボク早弁したから無いんだ!」
 「それで衛宮に集りに来たと?」
 「うん!」

 皮肉で言ったつもりではないが、こうまで笑顔で返されると流石の京極も苦笑したくなった。
 だが士郎はもう1つの弁当を取り出した。

 「こんな事もあろうかと、毎日予備の弁当は作ってる」
 「初めて聞いたよそんな事!?それって無駄になるんじゃない?」
 「別に今迄無駄になった事は無いぞ?クラスの誰かがいつも食べるからな」

 言葉通り、毎日士郎の予備の弁当を賭けて、クラスの半分以上の生徒達がジャンケンによる熾烈な争いを繰り広げていた。
 何せ士郎の手料理の味のレベルは世界トップクラスだ。幾らいい所の家出身が集まるクラスと言えど、毎日最高級の料理を味わえるワケないので飛びつきたくもなるのだ。
 とは言え、今日の予備の弁当は問答無用で小雪が食べるわけだ。
 この事実に、毎日士郎の予備の弁当を狙っていた生徒たちは、一斉に落ち込んだ。
 しかし当の3人は明るく昼食をし出した。


 -Interlude-


 川神学園は、非公式ながらも相応の人数が集う集会が2つある。
 1つは『魍魎の宴』と言う、キモイ、ダサい或いはフラれた経験がある男子生徒及び男性教諭のみ参加資格のあるモテナイ男たちの闇の集会がある。
 トップである童帝こと育本福郎が盗撮紛いの行動でとってきた写真や、使い捨てられたゴミ(グッズ)をオークション形式で競売にかけている。
 一応、他のも内容は有る様だが基本的に上記の事がほとんどだ。
 そしてもう1つは『衛宮士郎様愛好会』で、読んで字の如くである、士郎の事が好きで好きでたまらなくなる位に好きなメンバーで構成されている。 
 愛好会などと付いているが、士郎の事が好きな女子生徒達が牽制しあっていく内に出来た集会だ。
 しかしこの集会の会長及び副会長の2人は男であり、ガチで士郎に抱かれたいと思っている男子生徒達だった。
 何と副会長は葵冬馬である。
 そして栄えある会長職に付いているのが・・・。

 「被告人の相沢和良は前へ」

 此処はとある空き教室に『衛宮士郎様愛好会』の、メンバーの一部の十数人ほどが集まっていた。
 そして中心に相沢和良が立たされている。

 「被告人の罪状は会長職の職権乱用を元に、席を衛宮士郎様の真横へと操作した事です」
 「異議あり!アレは学級委員長の決めた事によるくじ引きの結果であり、俺は何もしてないぞ!」
 「ならとっとと衛宮士郎様の席から離れなさいよ!」

 他の女子生徒からも、そうよそうよと言う非難の声が上がった。

 「ふざけないでくれ!そんな事言えるわけないだろ!俺は別に視力が悪いとか寒がりとかじゃないんだ。身勝手な理由じゃ離れられるか!」
 「建前で装ってるんじゃないわよ!ただ相沢会長は、衛宮先輩から離れたくないだけでしょう!」
 「それが如何した!例え俺は会長職から辞されようとも、士郎の横から離れるつもりは無い!」

 ぎゃあぎゃあと言い合う愛好会メンバー。
 相沢和良は、この川神学園に入学した時はまだノーマルだった。
 そこで少し話が逸れるが、よく運動神経抜群な運動部に所属する生徒は喧嘩も強いと思われがちだが、全員が全員強い訳じゃ無い。
 そして相沢和良もその1人だ。
 まだ彼が高1の時に不良に絡まれていた所を、士郎に助けられた。その時に葵と同様に士郎に憧れじみたよく解らない感情に襲われたそうだ。
 その日から、士郎を無意識に追うように視界に入れ続けて気づいたのだ。

 「そうか、俺は衛宮に恋をしてるんだ・・・」と。

 そんな非常識の思いに戸惑わずに、相沢は士郎を友人でも同級生でもなく異性のような目で見続けていったのである。
 そうして今に至る。
 しかし相沢は知らなかった。
 今日から数えて約1ヶ月半後、彼の栄華は1日で消えゆく事に。

 因みに、この裁判長は冬馬だった。


 -Interlude-


 士郎は、藤村組の仕事をたまに手伝っている。
 それが冬木や川神の夜の見回りだ。
 とは言っても、この2つの市の全域を1人で見回る訳では無く、十数人がエリアごとに見回りをしている。
 士郎が今日任されたのは川神市の親不孝通り近辺だ。
 それにしてもいくら信頼があるからと言って、未成年の士郎に親不孝通りを担当させるのは如何なものかと問いたいものだ。
 しかし当の士郎は気にした様子も無しに見回りを続けていく。

 「おっ!」
 「あ」

 声の方に振り替えると、宇佐美代行センターの社長兼川神学園人間学の教諭である宇佐美巨人と、同じく宇佐美代行センターの社員兼川神学園2-F生徒の源忠勝の2人が居た。
 士郎は気配で気づいていたので特に驚きも無く挨拶する。

 「こんばんわ、宇佐美さん(・・)

 以前は放課後であろうと敬語を使っていたのだが、本人である宇佐美巨人が堅苦しくない方が良いと言う希望により、ため口とまでは行かないまでも親しい叔父のような対応に変えたのだ。

 「おう!衛宮。今日の此処の担当はお前だったのか」
 「ええ、忠勝も何時もお疲れさん」
 「いえ、衛宮先輩もお疲れ様っす」

 士郎の労いに相変わらずと言えるような仏頂面で返す忠勝だが、それが彼の照れ隠しだと宇佐美は気付いていた。何もツッコまないが。

 「年なんて1つしか離れてないんだ。学校じゃないしため口聞いてくれていいんだぞ?」
 「いえ!そう言うわけにはいかないっす。衛宮先輩に対してそんなこと、畏れ多いですから」

 そうか?と士郎は返す。
 言うまでも無く士郎は過剰なほどに謙遜するので、自分が周りからどれ程凄いと思われているのかにも気づいていないのだ。
 宇佐美はそれにも気づいていたが何も言わなかった。

 「そう言え――――」
 『誰かーーーー!』

 そこへ、各店のキャッチセールス員などを押しのけて、肩もはだけたピンク色を基調とした私服に身を纏う少女――――2-Fの小笠原千花が走って逃げて来た。

 「ん?」
 「小笠原千花さん・・・・・・だったかな」
 「何で知ってるんだ、衛宮」
 「それは学校で見かけた事があるからですよ。・・・・・・っと、大丈夫か?」

 真正面から突っ込んできた小笠原千花を、士郎は自分をクッションにして優しく受け止めた。

 「えっ、あっ、はい・・・・・・って、もしかして衛宮士郎先輩ですか?」
 「ああ、俺だ。それで、如何したんだ?」
 「そ、それが――――」
 「オイオイ!逃げるこたぁねぇだろうよ、嬢ちゃん!」
 「俺達とイイ事しようぜ!」
 「ゲヒヒヒ」

 人混みをかき分けて、体格の良さそうなプロボクサー崩れを先頭に、げすい笑みを浮かべ続ける3人組が近づいて来た。
 その状況を瞬時に把握した士郎は、彼女を庇う様に前へ立つ。
 それに対して、崩れの巨漢はドスの聞いた声を唸らせながら近づいて来る。

 「オイオイ、坊主。痛い目見たくなきゃとっととけぇんな」
 「見逃してやるからよ!」
 「ゲヘヘヘ」

 それに対して士郎は溜息を吐いて呟いた。

 「群れないと何もできないのか愚図共が・・・」
 「餓鬼が・・・!見逃してやろうと親切心で言ったつーのに、馬鹿野郎だな!」

 巨漢の崩れのストレートは、まるで避けるそぶりも見せない士郎の鳩尾に入った。
 この事に口ほどにも無いと言いたいのか、連れの2人がさらに笑いを漏らし、巨漢も笑った。

 「ガッハハハハ!だから言ったじゃ――――」
 「もう終わりか?」
 「んな!?」

 殴った腕を引くと、士郎はけろりと別段苦しくもなさそうだった。

 「そんな馬鹿な事があるかよォオオオオオオ!!」

 自分の力に自信を持っていた巨漢は、両手で士郎の顔、肩、腹などを十発ほど殴りつけていく。
 そして肩で息をしながら両腕を引いても、士郎はまるで動じていないのか、つまらなそうな目線を向けたままだ。

 「今度こそ終わりか?アンタの拳は蚊にも劣るな」

 この現実に、顔を真っ赤に染めて額に何棒もの血管を浮き上がらせている巨漢は、怒りと羞恥に貌を彩られていた。
 そうして自分の力の前に倒れない士郎に対してしびれを切らしたのか、懐からナイフを取り出した。
 この事に流石に不味いのではないかと、小笠原千花は不安になっていたが、宇佐美巨人と源忠勝は別段心配する事も無く何もしようとも思わなかった。

 「こぉの!クソ餓鬼がぁああああああ!!」

 巨漢は士郎目掛けてナイフを突きだしたが、士郎はそれを裏拳で刃だけを上に飛ばした。

 「は!?」
 『え・・・』

 何が起こったのか理解できない3人だったが、上に飛んだ刃が落ちてきたのを士郎がキャッチして見せるように持つと、そこでやっと気づいた3人は震えあがる。
 しかしこれで終わりでは無い。
 その刃を掌の中に入れてから力を入れると、あら不思議。手の力を僅かに緩めると下に落ちたのは刃の原形を留めていない鉄製の粉の様な粒だった。
 それらが全て地面に落ちると、掌の中にはもう何もないと見せるようにぐーぱーぐーぱーと手を動かす。

 『ヒィイイイイイイイイ!!?――――――――ガッ』

 まるで化け物に遭遇したかの様に震え上がるも、一瞬の内に背後を取られた3人は首に手刀を当てられてから敢え無く意識を刈り取られた。
 それを小笠原千花は茫然と見ていたが、宇佐美巨人は皮肉気に言う。

 「衛宮、お前ホントは川神百代より強いんじゃねぇのか?」
 「この程度の相手なら川神はしょっちゅう懲らしめてると思いますよ?それに如何でしょうね?戦った事は無いし、これからもやりたいとは思えませんね」

 士郎は小笠原千花に近づきながら苦笑する。

 「確か君は小笠原千花さんだったよね?」
 「え!あっ、はい!助けてくれてありがとう御座いました!」
 「お礼は受け入れるけどその前に・・・・・・如何してこんな時間帯でこの周辺をうろついてたんだ!もし俺達が居なかったらどうなってたか解ってるのか!」

 説教が始まった。
 この事に、全て士郎の言う通りだと小笠原千花は素直に説教を受け続けていた。
 しかしこのままでは話が長くなりそうだと思い、宇佐美巨人が止めに入る。

 「衛宮、正論だとは思うがこんな処でこれ以上説教しても、あまり宜しいとは言えないと思うぜ?」
 「んん、そうですね。――――それじゃあ、これに懲りたらもうしない様に!」
 「はっ、はい!すいませんでした!」

 本心からの謝罪と受け取った士郎は、一息ついてから宇佐美達に言う。

 「忠勝たちはもう仕事終わりだよな?」
 「そうっすけど・・・」
 「よく分かったな」
 「2人の気の昂ぶりや静まりからの推測ですよ。それでですね、彼女――――小笠原千花さんを送ってもらえますか?俺はコイツらを警察に引き渡してから見回りの続きがあるので」

 警察に連絡するために、スマホを片手で操作しながら士郎は頼み込む。

 「その程度ならいいぜ?」
 「でしたらお願いします。宇佐美先生(・・)
 「それじゃ、失礼します」
 「ああ、お疲れ。・・・・・・警察ですか?私は――――」

 士郎は片手間で宇佐美達に挨拶しながら警察に連絡を取った。
 その士郎に、小笠原千花はもう一度深々と礼をしてからその場を離れて行った。


 -Interlude-


 親不孝通りから離れた3人は、士郎の頼みにより小笠原千花の自宅に向かって行った。

 「あのー、源君。衛宮先輩って、やっぱり凄いの?」
 「見た通りの筈だが?噂位も聞いてるんじゃねぇのか?」

 忠勝は、小笠原千花の質問に仏頂面で答える。
 そんな2人に宇佐美が言う。

 「小笠原、それに忠勝も覚えておけ。この世の中で、衛宮みたいなタイプこそが一番敵に回すと恐ろしいんだぜ?普段は温和だからこそ、一度逆鱗に触れると、もう説得は無理だ」
 「それ位重々承知だぜ」
 「わ、わかりました」

 宇佐美の言葉にそれぞれらしい言葉で受け取る。
 その後自宅に送り届けられてからシャワーを浴びて就寝しようとするところで、千花はふと士郎の事を思い出した。

 「親でもないのにあんなに真剣に怒ってくれるなんて・・・噂通りなんだ。衛宮先輩」

 自分の事を心配してくれたからこそ、本気で叱ってくれた士郎の顔を思い浮かべる。

 「衛宮先輩か・・・。同年代の男って誰も彼もガキに見えるけど、すごく大人って感じだったな」

 暴漢たちから逃げた所で、自分を優しく受け止めてくれた士郎を思い出す。
 そして――――。

 「高レベルのスペック過ぎて諦めてたけど、本気で狙ってみようかな」

 何時もの様に誑かしたのであった。 
 

 
後書き
サブタイトルつけた方が良いですかね? 

 

第4話 あしらわれる武神

 次の日。
 川神学園は毎週水曜日に校庭にて、全生徒を集めた上での朝礼がある。
 そこで鉄心は、生徒達に主観的の有り難い言葉を授けながら士郎をたまに見る。
 正直、この学園の校則は士郎に合って居ないのだが、雷画の方針により入れさせられたモノだった。

 「士郎の人生に口を挿む気は無いが、人並み程度の欲を少しは取って欲しい」

 と言う望みから、士郎に川神学園を受験させたのだった。
 その意向は鉄心も聞いていたので、友人の頼みを少しは叶えてやりたいと言う気持ちと、士郎程の人材を地位や名誉欲無しのまま社会に送るなんて勿体無いと考えているのだ。
 残念ながら、未だに成果は上がっていないが。
 そして士郎は既に3年に成ってしまい、このままでは願い届かずになるのだ。
 孫たちへの将来の悩みもあると言うのに、ご愁傷さまと言えるかもしれなかった。


 -Interlude-


 昼休み。
 今日の士郎は冬馬達を連れて、屋上にて昼食を取っていた。

 「うちの学園長は相変わらず我が道を突っ走ってるよなー、若」
 「そうですね。あれでよく教育委員会や世論から突っ込まれないのか、一見すれば不思議ですね」
 「川神院総代って言うのが大きいんだろ?まぁ、やりたい放題と言うワケじゃないだろうが・・・」

 箸を進めながら話す話題は、鉄心が生徒達に語りつくした朝礼での話についてだった。

 「そういえばシロ兄、学園長から何度か視線を送られてたねぇ」
 「そうなんすか?」
 「そうだけど、よく気づいたな」
 「あれくらいボクだって気付くよ!」

 士郎の驚いた反応が不服だったのか、小雪は少し頬を膨らませて憤る。
 ちょっと可愛くて、全く怖くないが。

 「悪かったって」
 「心当たりはあるんですか?」
 「・・・・・・大方、雷画の爺さんから俺に人並みの地位や名誉欲を持たせたくて、発破掛けさせようと意識させたいんだろ」
 『・・・・・・・・・・・・』

 士郎の言葉に3人とも固まる。

 「何だよ?3人して・・・。如何かしたか?」
 「ううん!けどシロ兄って、一応は自覚あったんだなーって思って」

 小雪の真正面からの言葉に士郎は苦笑する。
 元々の世界では、凛やカレンにイリヤ辺りからよく指摘された事だった。
 あと小ギル。
 この世界に送られた後の今日までで、士郎もその当たりを持とうと努力しているのだが、中々持てないのが現状だった。以前に小ギルが、人の本質はそうそう変わらないと言われた事があったが、士郎は文字通りにそれが当てはまる。

 「分かってはいるんだけど、中々持てなくてな」
 「ですけど諦めたわけでは無いのでしょう?」
 「ああ、アイツとの約束だしな・・・!」
 『・・・・・・・・・・・・アイツ?』

 この世界に送られる直前に、凛から「自分を好きになってあげなさい」と言われた。
 自分を好きになると言うのはつまり、その自覚している部分も含まれていると言う事だ。
 士郎は何かを感じっ取った訳でなないが、大空を揺蕩う雲を見ながら感傷に浸っていった。


 -Interlude-


 3-Sは午後の授業中で、内容は日本史。
 その担当である綾小路麻呂は、気乗りしない声音で平安時代以外(・・)の時代の授業をしていた。
 彼、綾小路麻呂は、政治界に強いコネクションを持つ日本三大名家の一つである綾小路家の者だ。
 そんな教諭は平安時代の信者だったのと、川神学園の自由な校風に綾小路家の強みを利用して、テストなどでは他の時代の範囲を出すのに対して授業では平安時代しかやらなかったのである。
 士郎が入学するまでは。
 士郎が入学してから直にそれを疑問に持ち、学園長に直訴して日本史の授業でもちゃんと他の時代をやらせるように求めた。
 卒業後などその専門分野に行かなければ、歴史なんて学ぶ必要があるのかと言う生徒達も居るようだが今の時代、何時何時にその知識が役立つか判らないし、テストで範囲が提示されているのならその時代もちゃんと生徒達に受けさせるべきだと言うのが士郎の主張だった。
 そう言われては、敢えて黙認してきた学園長も重い腰を上げざる負えなくて綾小路麻呂へ言うと、矢張り抵抗して来て士郎に説教しに行った。
 綾小路家の力をチラつかせてまでしたのだが、士郎は藤村組とは別にある理由――――合法ではあるが周りにあまり知られたない仕事により、国内外問わずに強いコネクションによる力で対応してそれを打ち負かした。
 この事にまだ諦めきれない執念と、逆恨みに近い感情で報復しようとするが、士郎にこれを見破られてしまい綾小路家現当主の麻呂の父親である大麻呂さんに密告されてしまう。
 これにより、大麻呂から性根を叩き直させようと山籠もりさせてから数ヶ月後に復帰して今に至る。
 そんな経緯もあったが以前よりはだいぶマシな授業をしているが、平安時代の信者と言う彼の本質はそう感暗に抜け切る訳では無い。
 さらに言えば、心の何処かで士郎にまた報復したいとも考えているが、読心でもされているのか、時々睨まれては怯える生活をしている。
 如何やらこの2人の因縁は、まだまだ続きそうだ。


 -Interlude-


 士郎は今日、藤村組を通してからのある知人からの頼みにより、部活を休んで下校した。
 そこで川神院の仲見世通りを通った所で、柄の入った赤いバンダナを頭に巻いた男子学生、風間翔一が吹っ飛んできた。それを士郎がキャッチする。

 「おっと」
 「うわっとと!?あ、有り難うございます・・・って、衛宮先輩じゃないですか!」
 「風間か。如何して吹っ飛んできた?」
 「理由はよく解んないんですけど、モモ先輩に投げ飛ばされました」
 「まったく、アイツは」

 そのまま風間と一緒に百代たちの元に行く。
 因みに、風間は途中でおしるこを買った。

 「あっ、副部長」
 「衛宮先輩とキャップ?」

 キャップに付いてきた士郎に反応する2人。

 「あん?衛宮~?如何してこんな処にいる?」
 「部活なら今日は用事で休んだんだ。それにしても随分にごあいさつだな、川神。借金を肩代わりしてるのにも拘わらず。何なら返済期限縮めようか?」
 「すまなかった!!」

 士郎の言葉に即座に土下座する百代に、またしたのかとヤレヤレと皆して呆れる。

 「それにしても用事があるなら、こんな処でぶらついてていいんですか?」
 「それにその持ってるのって甘味系ですか?」
 「目聡いな、風間。昨夜の内に仕込んで今朝の内に作り終えて冷蔵庫に置いておいた、ミルクチョコケーキだよ。手ぶらじゃ失礼だと思って―――」
 「衛宮の作った、ミルクチョコケーキ!!」

 士郎の手作りミルクチョコケーキに、百代は勢い良く反応した。
 百代は、士郎が以前に家庭科の授業で作ったミルクチョコケーキが大好物の一つになっているのだ。

 「気に入ってくれたのは嬉しいが、お前にあげる為に作ったんじゃないぞ?」
 「えぇえええええ~~~!?くれよぉ~!ちょっと位いいじゃないかよぉ~!」
 「駄目だ」
 「チッ、ケチ」
 「ケチで結構。借金塗れよりマシだ」
 「それで衛宮先輩、用事があったんじゃないんですか?」

 このままでは延々と繰り返しそうな話をする2人に、大和が口を挿む。

 「ああ、これから直江達の寮にな」
 「私たちの?」


 -Interlude-


 士郎は、帰宅時の大和達と共に島津寮に来た。何故か一緒に百代も。

 「如何して川神が付いて来るんだ?」
 「別にー、帰り道のついでさー」
 「逆方向だろ・・・」

 士郎の言葉に百代は、しらを切り通し続ける。
 そんな百代に溜息をつく士郎は島津寮――――では無く、隣の島津家に足を向けた。

 「アレ?士郎さん」
 「寮に用があるんじゃ・・・」
 「まずは島津麗子さんに挨拶しに行く。このケーキだってその為のモノだ」
 「何ぃいいっ!!?」

 予想外の展開に、百代は驚く。
 予想通り、ケーキ目当てで付いて来ただけの様だ。
 そんな百代にはお構いなしに、士郎は島津家のインターホンのチャイムを押す。
 数秒後、インターホンから島津麗子の声が聞こえて来る。

 『ハーイ、どちら様ですか?』
 「衛宮士郎です、麗子さん。半年ぶりですが恥を忍んで来ました」
 『士郎ちゃん!?わ、わかったわ、ちょっと待っててね』

 そこでインターホンから声が引っ込んでいったので、士郎は振り返る。

 「――――って事で、暫く時間かかるから待ってくれなくていいぞ?」
 「解りました」
 「いくよ、義姉さん。それとも帰る?」
 「私のミルクチョコレートケーキがぁああああああああ!?」

 キャップを先頭に、京と大和に引きずられながら百代は女々しい言葉を発したまま島津寮に入って行った。
 彼らと入れ替わる様に、島津家から島津麗子が出て来た。

 「お久しぶりです、麗子さん」
 「士郎ちゃん!また見ない間に男前が上がっちゃって!」
 「そうですかね?こういうのは誰かに言われないと分からないモノですけど。それにしても、麗子さんも相変わらず元気そうで何よりです」

 こういうモノは、基本建前だろうが相手を褒めるところから始まるモノだが、この2人の言葉は建前では無かった。

 「ささ、こんな処で立ち話も何だから、家で話しましょうよ!」

 そうして士郎は久しぶりに、島津麗子との談話を楽しんだ。


 -Interlude-


 「早かったね士郎さん」

 島津麗子への挨拶を終えた士郎が寮に入ると、京が居た。

 「待ってたのか・・・って、そんなわけないか」
 「うん、私もそんなに暇じゃないし。着替え終わったしリビングに行こうとしたら、たまたま遭っただけだよ」
 「なら2階に上がる許可をくれ。前に京が話してくれた通り、女性の了解がいるんだろ?」

 京はたまに、士郎に自分の身の回りの事などについて話すので、聞いていたのだ。

 「いいですけど・・・・・・もしかして新しくやってきた1年生の娘が目的なの?」
 「ああ。新入生のご両親とは知り合いでな。家は北陸に在って距離があるから心配なんだろう。ちょこっと様子を見に言って欲しいと頼まれたんだ」
 「いいけど多分、今も練習中だよ?」

 京の言っていることがよく解らなかった士郎は、取りあえず了解も貰ったので上に上がる事にした。
 そして2階に上がり、気配で探して襖の前に来ると中から人の声が聞こえて来た。
 襖が僅かに開いていたので見たくなくても士郎の視力がそれを見せてしまうと言う、悪循環ではあるが結果的にも中を覗き見た。
 中にはお目当ての人物、剣聖黛十一段の長女である黛由紀恵が色鮮やかな馬のストラップを片手にとって、動かしながら一人でぶつぶつと喋っていた。

 「・・・・・・・・・・・・腹話術?京の言ってた練習って、これの事だったのか?」

 何やら真剣に取り組んでいるように見えた士郎は、声を掛けるなんて気が引けると思い、その場を後にして下りて行った。
 取りあえずこれで用事は一応終わったが、一声かけてから帰ろうとこの寮のリビングに続くだろう廊下を行き、ドアを開けると4人とも偶然に揃っていた。
 その内の1人である百代は寝そべっていたが、士郎が来たと理解した瞬間に開口一番の一言。

 「ミルクチョコケーキは!?」
 「勿論、麗子さんに渡したが?」
 「む~」

 予想通り過ぎるオチに、ふて腐れる様にまた寝そべる。
 しかし士郎はそんな百代に応対せずに、3人に帰る挨拶をする。

 「それじゃあ3人とも、俺は帰るよ」
 「もう、帰るんすか?」
 「いや、長居する理由も無いしな」
 「いや、あるぞ」

 そこに、ふて腐れる事に戻った百代が起き上がる。

 「無い。俺は帰る」

 何か嫌な気がした士郎は、踵を返して玄関に向かおうとするが、一瞬で士郎の進行方向である目の前に回り込んできた。

 「私の相手をしろ」
 「テストまでまだ時間あるぞ?それとも真面目の予習復習する気になったか?」

 回り込まれた事に驚きもせずに対応する士郎は、百代の言っている意味を理解出来てたが誤魔化す。
 そんな士郎の対応に、ミルクチョコケーキを食べれなかった事に加えて、朝の登校時にキャップにお灸をすえたので加減した程度の人を殴る行為だけでは欲求不満だったようで、不機嫌そうに言う。

 「はぐらかすな!私と戦え!」
 「モモ先輩、何を・・・」
 「理由が無い以前に必要性を感じないって事で、また明日な」
 「・・・・・・・・・・・・」

 百代の戦意もあっさり躱して横を通り過ぎる。

 「フン!」
 「っと」

 しかし士郎が百代の後ろに回った所で、不意打ち気味に正拳突きをかます。
 けれども士郎はそれを読んでいたので、最低限の動作で難なく躱す。
 だがこれはあくまでも、壁を突破した者たちのみの世界と理論であり、周りの3人からすればあまりに早すぎて、百代がいつの間にかに振り向いて正拳突きをしていた事と、士郎もその不意打ちの正拳突きをいつ躱したのかも解らないまま既に結果としてそうなっていた。

 「え?何だ?」
 「モモ先輩が衛宮先輩を殴りかかってる?」
 「私でも見えなかった・・・」

 矢張りと言うか、現状に付いて行けずに困惑している外野の3人。
 そして――――。

 「血の気が多いな、川神」
 「前々から疑ってたが、やっぱり強いじゃないか。衛宮!」

 士郎は依然として表情を変えないが、百代は待ちに待った得物を見つけた捕食者の様に獰猛な笑みを浮かべている。

 「さぁ、続きを――――」
 「したいのなら、今すぐ今日まで肩代わりしていた金額全て返してもらおうか?」
 「はぁあああ!!?」

 士郎のカウンターに、百代は戦意を保ったまま驚愕する。

 「アレについては無期限で待ってくれるんじゃなかったのか!?」
 「確かにそう言ったが、自分の思う様にいかないと駄々ばかりこねる奴との約束なんて、破棄したくもなるな」
 「駄々とは何だ、駄々とは!」

 士郎の言葉に百代は激昂する。客観的に見れば正しい見識だが。

 「違うと言うのか?肩代わりしているのだって、無期限で無利子無利息って言う風に長い目で見ていると言うのに、お前は我儘ばかりだ」
 「ぐぬ」
 「期末テストの時も毎回無理を聞いているのにな」
 「ぐぬぬ」
 「で、言いたい事はまだあるか?」

 士郎によってぐうの音も出ないほどに論破された百代は、最早戦意を維持できずに萎えてしまい、目尻に涙をため込んだまま悔しそうに見上げていた。

 「如何やら百代も納得してくれたようだから、今度こそ俺は帰るよ京」
 「あっ、はい。気を付けて」

 そのまま百代に振り返らずに、士郎は寮から出て行った。

 「卑怯者め~」

 士郎が居なくなってから百代は負け犬の如く、遠吠えをした。 
 

 
後書き
 士郎は万人に好かれているワケでは無いと言う事です。 

 

第5話 男のロマン

 翌日。

 衛宮家の朝は早い。
 士郎は、毎朝4時に起きてから川神院で行われている朝練レベル以上の鍛錬を1時間丸々使い、その後は洗濯と並行して掃除を行う。それも、衛宮家の屋敷全体(誰かの荷物が置いてある部屋を除く)を1時間以内に完璧に終わらせている。
 そこから朝食づくりに入り、6時半には食卓に何時も通りに士郎手製の朝食が立ち並ぶ。
 全国の情報を取り入れる為に、衛宮家では食事中にテレビを付けても良い事になっている。
 そして今日もテレビを付けながら食事をしていると、日本のこれまでの常識を覆す新たな政令が立法されたと言うニュースが流れて来た。

 『驚愕の成立、一夫多妻制が遂に合法!?』

 こんなサブタイトルで流れ始めた。
 少子化問題への対策として、子供を産む意思があるのなら少数派に任せようと言うモノだ。
 勿論、倫理感の一部を根本から破壊する立法故、女性は全員最低1人は子供を産む事や、国側がこれから設立する専門機関の役人が定期的に訪問しに行くなど細かい条件も多数盛り込まれる様相だ。
 いくら少子化問題が深刻化しているからと言って、こんな非常識な政令を成立させるなどと野党の議員が総理に激しい質疑をしている映像が流れた。

 「つまりはハーレムか。良かったな、士郎。男にとっては夢のような話なのだろう?」
 「げほっ、ごほっ、な、なんでさ!?」

 スカサハの爆弾発言にテーブルを挿んだ目の前にいる士郎は、思わずむせながら驚いた。

 「なんでも何も、お前天然の女誑しじゃないか。お前が本気を出せば実現できるだろう?」
 「そうよね~、確かに士郎はモテモテ過ぎて私の同級生や後輩に一度でいいから紹介してって、頼まれた事あったわね」
 「ほう?ついに士郎は、会った事も無い女を垂らす技術を身に着けたのか。やるな」
 「確か、去年の一般の部での弓道大会に出場した時、応援のほぼすべて女の子だったんじゃなかったかしら?」
 「なんと、既に手を付けていたのか。流石は士郎だな」
 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎は、スカサハと大河による連携(本人たちにその意図はない)で気まずくなる。
 士郎にはハーレムなど作る気はこれぽっちも無い以前に付き合っている女性も居ないのだが、この手の話で士郎は女性陣に勝てた事が無いので無言を突き通した。今日も何時もの様に腕によりをかけた料理は、すごく美味しいく作ったはずなのに、いつもとは違い酷く不味く感じられた。


 -Interlude-


 日本中そうなのだろうが、ある者は殺気立ち、ある者は困惑し、ある者は歓喜していた。
 そしてそれはこの川神でも同様で、登校中の風間ファミリーメンバーたちも言わずもがなだった。

 「おい、今朝のニュース見たかよ!?遂に俺様の、俺様による、俺様のためのハーレムへの道を築いていいって、神様が祝福してくれてるようなもんだぜ!」

 その中でもとりわけ騒いでいたのはガクトだった。
 目を輝かせる姿だけを見れば、それはおもちゃを親から買って貰えた純心の無垢な子供の様だった。
 しかし、何時もの様にモロが突っ込みつつ現実を口にする。

 「いやいや僕もそうだけど、ハーレムどころかナンパを1回も成功した事ないじゃん」
 「それに川神学園(うち)の女子生徒の大半は、川神百代(義姉さん)か衛宮先輩かイケメン四天王(エレガンテ・クアットロ)に集中してるから無理だろ」

 モロに続いた大和の言葉を体現する様に。百代は自分で築いたハーレムの中で楽しそうにしていた。
 その様子をガクトは、血涙を流さんばかりに見ている。

 「チックショウ!ハーレム合法の時代が来ても、俺にはその恩恵にあずかる資格すらも無いってのかよぉオオオオォオオオオオオ!!?」
 「しょーもない」

 ガクトの反応に京は何時もの様に呆れ顔をする。
 こうして今日も始まった。


 -Interlude-


 川神学園は今日、人間力測定がある。
 言ってしまえば身体検査とスポーツテストだ。
 全員が全員では無いが、S組と言えば文武両道の者が多い。
 しかし――――いや、当然ではあるが士郎は頭一つ飛びぬけていた。
 一応例外もいるが、それでも士郎は1年の時も2年の時も常に1位だった。
 そしてそれは今年も――――。

 「相変わらず衛宮はすごいな」
 「そうか?これでも普通にやってるだけなんだが」

 褒める京極に士郎は素で応じる。

 「ハイ、ハーーイ!次の人、テンポよく測定してネ」

 士郎達の後ろでは、川神院師範代兼川神学園体育教師であるルー先生ことルー・イー。
 百代は昨日確信を持ち始めたばかりだが、ルーというより川神学園で武において、ある程度実力を持つ教師陣の大半が士郎が壁越えである事は知っている。
 ルーは3-Sの担任でもなんでもないが、士郎や百代の様な壁越えのスポーツテストの計測係を担当する事に成っている。
 とはいえ、2人だけしか計測しなくていいと言うわけでもないので、教師の仕事として今も他の生徒を計測している。

 「そういえば、今朝のニュースは見たか?一夫多妻制など日本において合法になるとは、とんでもない時代が来たものだな」
 「そ、そう、だな・・・」
 「如何した、衛宮。歯切れが悪いが、何時ものお前らしくないな」

 士郎の対応に、京極は探る様に目を細めた。

 「い、いや、何でもないん――――」
 「家の人たちに揶揄われたか?」
 「何で判るんだ!?」

 言い当てられた士郎は、酷く驚く。

 「矢張りか」
 「引っ掛けたのか?」
 「引っ掛けたのではなく、確認だ。衛宮は普段は判りづらいのに、恋愛方面になると露骨に解りやすくなるからな」
 「・・・・・・日々の人間観察の成果か」
 「まぁ、そう言う事だな」

 知的好奇心を満たすために、日々人間観察をしている京極からすれば、士郎はある意味では最も面白い存在だった。
 その為、学校内では普段から士郎と行動を共にしているのだ。
 そんな2人を見下ろす視線が有った。
 そこは3-Fの教室。
 今の彼らは別の授業をしているのだが、担当の教師が体調を崩しているので課題を出した自習となっている。
 そしてその自習のクラスで士郎と京極を見下ろしているのは、窓際に席のある百代だった。

 「百代、何をボーっとしてるで候」

 そこに、自習中の課題を終わらせた真横の席に座っている矢場弓子が、百代に声を掛けて来た。

 「ん?いや、3-Sのスポーツテストを眺めてただけだ」
 「百代の射程範囲を逃れた女子生徒が、3-Sにまだいたで候?」
 「いんや、脈ありは全部落としたさ。――――私が見てたのは衛宮の奴だ」

 百代の答えに弓子は怪訝さを露わにする。
 百代と士郎では強さへの執着は正反対だ。
 その理由から、それなりにイケメンかつかなりの高スペックでも、士郎を男としては見れないと以前に語っていたのを覚えているからだ。

 「遂に衛宮を男として見るようになったで候?」
 「飛躍し過ぎだぞ?ユミ・・・」
 「ならどうして今になって衛宮に注目するで候?期末テストでの赤点回避や借金の肩代わり位しか関わろうとしなかった百代が・・・」
 「それがな――――」

 百代は昨日の夕方の話をする。

 「そんな事があったで候」
 「ああ・・・・・・って言うかあんまり驚かない所を見ると、ユミは衛宮の強さを把握してたのか」
 「全て知ってるわけではなかったで候。私が知ってるのは弓道部部長として見て来たものと、衛宮が10歳の頃に天下五弓に選ばれたが即座に話を蹴ったと言う事ぐらいで候」
 「何!?衛宮が天下五弓?それも蹴った!?」

 弓子の話に驚く百代。
 そんな話は今まで聞いた事も無く、寝耳に水だったからだ。

 「百代が驚いていることに私は今、驚いているで候。川神院の一族なのだから知っているモノかと思ったで候」
 「聞いてないぞ、爺ぃぃ・・・・!!」

 百代は理不尽と捉えたのか、無意識に殺気をばら撒いて行く。
 一番近くに居た弓子は既に2年もの間同じクラスだったので、この程度のさっきには慣れていた。
 慣れていない者は恐怖に震えあがっているが。

 「衛宮は百代とは考え方が逆だから、黙っていたのではないで候?」
 「むぅ・・・」

 弓子の言葉に自覚しかないので、百代は唸るしかない。

 「まぁ、興味が出たのなら、これからもっとエンカウントして行けばいいで候」

 そう、少なくとも高校卒業まではあと1年間あるのだから。


 -Interlude-


 放課後。
 士郎は今、料理部が部室として使っている家庭科室に来ていた。
 士郎は料理部の部員でもないのだが、一週間の内の何処か一日だけ放課後の家庭科室で料理を教えている。
 しかし今此処には、士郎以外にも料理部部員以外の生徒もいた。
 今日もこの時間帯に集まれる、川神学園の中で普段からよく料理をする生徒達だ。
 その中には準と、2-Fの委員長である甘粕真与の姿もあった。
 甘粕真与の学生服の上に、ピンク色の花柄がふんだんに散りばめられたエプロンだ。
 甘粕真与は、慣れた手つきで調理していく。
 それを少々離れた地点から見ていた準と言えば――――。

 「ホントいいよなぁ~~~。ハァ、ハァ」

 あまりの可愛さと、目を細めながら呼吸も荒く周りはドン引き状態だ。
 しかし、そんな自分を止める存在が真後ろに来てる事など、準は気づかずにいた。

 「痛ぇっ!誰だ人の頭を叩い――――し、士郎さん・・・」

 頭をはたかれた準が反射的に後ろをを向くと、むすっとした士郎が立っていた。

 「準。今此処に来てる皆は、自分の調理技術を向上させようと真剣に取り組んでいるんだ。真面目にやる気がないなら、今日はもう帰れ」
 「す、すんませんす!」

 準は、士郎の説教に謝罪をして調理に戻る。
 ロリコン部分以外は基本的に常識人なので、士郎の正論に素直に頭を下げた。
 士郎は、此処に居る生徒の皆が調理技術の向上のために参加していると思っている様だが、一部の生徒はそうでは無い。

 「衛宮先輩、此方は如何したらいいでしょうか!」
 「衛宮先輩、これの焼き加減を見て欲しいのですが!」
 「衛宮先輩――――」
 「衛宮先輩―――」
 「衛宮先輩――」
 「衛宮先輩―」

 士郎に構ってもらうには、それ相応の理由がいる。
 理由がないなら作ればいい。
 士郎に構って欲しい、またはお近づきになりたい生徒は、今迄料理などしたことも無かったが、理由を作るために始めたのだ。
 そんなこんなで調理技術への向上心が純粋であるか否かは置いといて、士郎はこの教室を開くたびに引っ張りだこだった。
 こうして一見すれば、士郎は既にハーレムを形成している様に見えなくも無かった。
 だが客観的に言わせてもらえば、今日も何時も通りだった。
  
 

 
後書き
 どの原作メンバーであろうとも、マジ恋Sが始まるまでに出そうと思って、この様にちょくちょく使っています。 

 

第6話 新たなる警鐘

 「待て、士郎」

 翌日。
 何時もの時間に家を出ようとする士郎に、スカサハが待ったを掛けた。

 「何です、師匠?今日は少し拠る所があるので、急いでいるんですが・・・」
 「そう時間は取らせん。昨夜、私が張った結界に微弱だが反応があった」

 スカサハは、1年ほど前に冬木と川神一帯を覆う感知式の結界を張った。
 あくまでも、魔術関連の存在を感知させるだけのものだが。

 「反応が!?まさかまたシャドウサーヴァントが!」
 「いずれはまた来るだろうが今回は違う。反応があまりに微弱過ぎて、どの3流英霊のシャドウサーヴァントにも劣るほどのモノだった」
 「それでも反応があったんですよね?何所ですか」
 「此処から東にある山中の中腹だ。とは言っても、日が昇ると同時に反応は消えてしまったがな」
 「分かりました。今日の夜は其処へ行ってきます」

 スカサハの言葉にいつになく真剣な顔つきをする。

 「気負いすぎるなよ。この町を守るのはお前の義務では無いのだぞ?」
 「自己犠牲に走り過ぎるなと言いたいんでしょう?解ってますよ、凛との約束でもありますから」

 もうこの話はこれで終わりと感じた士郎は、スカサハに挨拶してからその場を去った。
 士郎を見送ったスカサハは、1人呟く。

 「私から言わせれば、まだまだ突っ走ってるように思えるがな」

 そんな朝のひと時だった。


 -Interlude-


 士郎は今川神学園――――では無く、島津寮前に来ていた。

 「遅かったか。直江達はもう登校に行ったようだな・・・」

 士郎は片手に何時ものカバンを持ち、もう片方の手はドライアイス付き箱を幾つも段重ねで袋に入れてある荷物を持っていた。
 この事から、この荷物を大和達に渡す気だったんだろう。
 そんな途方に暮れてると言うのは言い過ぎだが、立ち止まっていると、寮から卵型の大きな機械が出て来た。

 「さてと、今日も何時もの様に寮の前のお掃除だ・・・・・・・・・って、何方かな?」

 玄関前の掃除を始めようとした卵型の機械――――クッキーは、士郎に気付いて声を掛けて来た。

 「え~と、確か京の話で出て来たクッキーだったかな」
 「ボクの事を知ってて京から話を聞いてると言う事は、君が衛宮士郎君かい?」
 「ああ、合ってるよ。あと、呼び捨てにしてくれていい。――――それにしても、聞いてたよりもクッキーはカッコイイな!」

 今ではしなくなったが、以前はガラクタいじりと言うニッチな趣味を持っていた士郎としては、目の前で動くロボットに感動するなと言っても仕方が無かった。

 「そうかな?けどそんな反応は久しぶりだからね、すごく嬉しいよ!それに士郎も話で聞いてたよりも、中々に男前じゃないか。見る目もあるし、これからはいい関係を築けそうだ!」
 「その様に面と向かって男前と言われるのは照れるものがあるな。・・・・・・って、用があったんだ。会って早々すまないんだが、直江か風間、或いは京が帰ってきたらこれ渡しておいてくれないか?」

 士郎の手からクッキーの手に荷物が渡される。

 「これは・・・・・・ケーキかい?」
 「流石は高性能ロボットだな!見ただけで判るとは!―――京たちは今日、金曜集会だろ?理由については中に手紙が入ってるから明ければわかると思うんだが、兎に角差し入れだ。学校で渡すと俺の事情的に不味かったんで来たんだが、預かって貰っておいていいか?」
 「責任もって、任かされたよ!それにしても聞いていた通り士郎は素直だな。マイスターとか大和は捻くれて来てるから、素直さが最近無くなって憤りを最近憶えてきてたんだけどさ。士郎と話してると気持ちがいいな」
 「そうか?だがクッキーこそ――――」

 この1人と1体は基本的には本心を口にするので、世間話に花を咲かせていた。
 しかし、余りに気が合いすぎたのか、これが原因で士郎は初めて遅刻しそうになった。


 -Interlude-


 ギリギリと言っても出席を取る時には落ち着いて席に座っていたので、周りにも何も詮索される事はなかった。
 士郎は今日ほどでは無いが、今迄も何時もより遅れた事は何度もあった。
 そのどれもが人助けであり、その内の十数回は不良に絡まれていた内の生徒だった。
 勿論、性別男女問わずにだ。
 そのおかげで百代ほどでは無いが、ファンも増えて衛宮士郎様愛好会なども出来たのだ。
 まぁ、それは兎も角、普段通り落ち着いたHR(ホームルーム)をしていると、外から蹄の音が鳴り響いてきたことに気付いた。

 「ん?如何した、士郎・・・」

 昨日もそうだが心の淵は兎も角、表面上の士郎の感情を容易く読み取る事の出来るようになった京極は、士郎に聞く。

 「馬が駆けてくる特有の音が、この学園に近づいて来てるな」
 「馬?・・・・・・なるほど、確かに聞こえて来たな」

 士郎の答えを聞いてる途中に常人の聴覚でも捉える事の出来る範囲に入ったようで、京極を含めた他の生徒も騒ぎ出した。
 それはクラス問わずにだ。

 「おわっ!?何だありゃ?」

 その時、窓際に居た生徒がグラウンドを視界に入れた途端に喚いた。
 それに釣られるように、次々に生徒は窓際に行き、自分達も見に行こうとする。
 その行動に対して3-S担任教師は何も言わない。
 この担任は昼行燈であり、教師の仕事に何も情熱など無いので、問題が起こらない限り見て見ぬふりをするのが何時もの事だ。
 3-S生徒も基本的に問題を起こす生徒など居ないので、自分に干渉し過ぎない担任の行動に嬉しく思っているのが3-S生徒の大半の同一意見だった。
 それは兎も角、窓から見てみると、金髪の美少女が白馬に跨ってグラウンドに登校して来た。
 これに対して「おー」とか「わー」と言う感想で済ませるのは、彼らも川神地域の何でもありの特性にマヒして来たとか慣れてきた証拠だった。
 その後に人力車通学の九鬼主従コンビが来て、ますますカオスになって行った。


 -Interlude-


 それから朝のHRが終わりそうなところでスピーカーから、2-Fで先ほどの転校生と川神一子が決闘をすると言う事で校内が騒ぎ出す。
 この決闘はグラウンドでやると言う事だが、見たいものは見に行っていいと言う許可がクラス学年問わずにある。
 しかし、授業は時刻の変更なく進むので授業の遅刻或いは欠席扱いにはならないが、見に行けば当然授業の内容を途中から聞く事に成るので、そこら辺は自己責任である。
 そして当然3-S及び2-Sの生徒の大半は来ないで授業を受けるのが基本だ。
 士郎も当然ながら決闘には興味もないので、グラウンドには行かなかった。
 その事に不満を持った生徒――――百代は大和にべたべたくっつきながら、頼まれたので解説中だった。

 「――――なるほどね。それにしても義姉さんも戦いたいんじゃないの?」
 「んーー、確かにそそられるモノもあるが、私が今闘いたいと思っている相手はあそこだからな!」

 不機嫌そうな顔で3-Sの教室に視線を送る。

 「衛宮先輩の事?でも、衛宮先輩に借りてる借金全額返さないと、戦ってくれるかどうかの思案もしてくれるか怪しいんじゃないの?」
 「そうなんだよな~。・・・・・・クソッ、衛宮め~~!借金などと言うバリアを作って、私との戦闘を避けるなんて男らしくないぞ、アイツは!」
 「いや、自業自得でしょ?」

 百代は大和の突っ込みを聞かないふりして流した。
 その後、色々あって決闘は無事に終わった。


 -Interlude-


 放課後。
 士郎は朝、スカサハに聞いた地点へ調査しに行くために、急用と言う事で弓道部を休んだ。

 「此処か」

 スカサハが感知したと言う地点に着いた士郎だったが、特に目が付く形跡は何所にもなかった。
 因みに、士郎はある程度周囲に殺気を放ちながら調査していた。
 山中に生息している動物たちを、無駄に怪我をさせたくないと言う配慮によるものだった。
 それでも一応周りを見渡しながら散策していると、スカサハの感知した通り、魔力の残り香を士郎は感じる。

 「・・・・まさか、魔術師か。それなら3流英霊のシャドウサーヴァント以下と言うのも説明できるが・・・・・朝になると存在が掻き消えたと言うし、それだと魔術師と言う答えでは説明できないな」

 士郎は、手掛かりが少ない故に思案する。

 「兎に角、今夜から暫くの間は魔術師としての夜の警備に出た方がよさそうだな」

 そう判断をした士郎は、さっさとその場を離れた。
 今夜から日曜の夜まで、毎週の通りの客が来るからその用意のために買い出しに行くのだった。


 -Interlude-


 日が暮れた夜の事、ある廃ビルにて毎週の通りに金曜集会が行われていた。
 バイトを終えたキャップも合流してから晩ご飯を食べつつ、百代が自分以外にファミリーメンバーに借りた金を返し終えてからクリスの件での議題を話してそれも今終えた。

 「皆、お疲れ様。飲み物でも如何だい?」

 そこへ、クッキーが皆に飲み物を進める。
 自己主張の強いメンバー全員は、断ることなく自分の好みを要求して、これを受け取る。

 「後、皆。士郎からの差し入れがあるんだけど食べる?」
 「士郎さんか?」
 「それ以前にクッキー、衛宮先輩と何時の間に知り合ってたんだよ?」

 大和の疑問にクッキーは、朝のことを話した。

 「――――と言う事なのさ」
 「なるほど」
 「いや、そんな出会いは如何でもいい。それよりもそのケーキってのを早く開けてくれ!まさか、私のは」
 「うん、百代のはこれだってさ。他の皆は好きなものを選んでと言う事らしいよ」

 百代に急かされたクッキーは、文句ひとつなくケーキ箱を彼女に指しだし、残りの箱を他の6人に見えるようにテーブルに置いた。

 「ヤターーーーーー!!ミルクチョコケーキだーー!しかもワンホール!半分は今日食べて、残りは明日食ぉう」

 封入されていた市販のフォークを片手に、百代は目の前の大好物に歓喜する。
 一昨日お預けにされたので、嬉しさもひとしおの様だ。
 そしてそれは他のメンバーも同じだった。

 「おー、開けた瞬間に濃厚なチョコの香りが俺を誘って来るぞ!俺、これにする!」
 「あたしはこのチーズケーキにするわ!月曜日にお礼を言いに行かないとイケないわね!」

 好みに煩い2人は、何の話し合いもせずに勝手に決める。
 まぁ、それ以前に7人それぞれの好みを押さえられていたのか、完全に種類が解れていた。

 「選ぶ以前に好みを押さえられてるね。と言う事で僕のはこのコーヒーケーキかな?甘さ控えめって書いてあるし」
 「そうだね。それに他のケーキに匂いが付かないように配慮されてるのもすごいね。私のはこの赤いケーキだ。流石は士郎さん、よく解ってる」
 「そんな真っ赤なケーキは初めて見たな。けど俺は普通にイチゴケーキだな」
 「俺様はケーキなんて苦手だぜ?」

 皆が喜んでいる中、ガクトだけは敬遠気味だ。

 「でもガクト、これって確か、生姜で整えられた豚肉×ケーキのコラボレーションだよ?」
 「うげ!?それって食えんのか?」
 「ガクトが知らないだけで、こういうのも最近じゃ出始めてるよ?それでもって言うなら僕が持ち帰って食べるけど?興味あるし」

 ガクトの拒んだ様子にかこつけて、モロは自分の方で確保しようと動く。
 しかし、人様が好意で作ってくれたものを拒まないことを基本としているガクトとしては、それも出来る筈も無かった。

 「いや、いい。俺様も男だ。覚悟を決めるぜ!あむっ!・・・・・・・・・・・・って、超うめぇえええ!!」
 「ホントに!?あたしにも食べさせなさいよ!」
 「お前は自分のがあるだろうが!これは全部俺様が食う!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ始める馬鹿2人。
 そんな2人に構わず食べ進めていた百代が、蓋の裏についていた手紙に気付く。

 「ん?何だ、これは?」
 「あー、それは確か、士郎が百代に向けてのあるメッセージが書いてあるって」

 百代が手紙に気付いた処で、クッキーが説明する。
 百代としては直感的に嫌な気がするのだが、今こうして好物を食べているので、読まないわけにはいかないだろうな~と考えながら手紙を開いて読む。

 『川神へ 俺は一昨日のお前の態度で決めた事がある。お前の我儘っぷりをこれ以上許容する事はマイナスと捉え得た。そこで来週の月曜から早朝に来い(・・)。毎日俺1人で熟しているが、川神には玄関口及び庭の掃き掃除をしろ。それで毎日ちょっとずつ、俺が肩代わりして来た借金を減らしてやる。あー、いい訳なら悪いがさせないぞ?鉄心さんにもすでに許可は取ってあるから、お前自身の朝の鍛錬もうちの庭でやればいい。もし来ないのであれば今日明日と言う気は無いが、1週間後までに借金を全額返してもらう。そして最後に、戦いはしない。一切にだ』

 これを読み終えた百代は、プルプルを震えだした。

 「義姉さん?」
 「お姉様、如何かしたんですか?」

 周りが百代を心配する中、当人は気にせずに咆哮する。

 「えぇええみぃやぁああああああぁああああああ~~~~!!」

 今では武神と呼ばれる彼女が、負け犬の様に明後日に向かって負け犬の遠吠えをする。
 しかし、主観的な不条理にあっても、今の武神には為す術がなかった。


 -Interlude-


 武神・川神百代が吠えた相手は今、自宅の厨房で次々と夕食の調理を終えている所だった。

 「準、これも出来たから運んでくれ」
 「うっす」
 「シロ兄ぃ、ボクは~~?」
 「なら、取皿とコップを運んでくれ」
 「わっほほ~い!」

 士郎の指示により、準と小雪が夕食の準備を手伝う。
 何故2人が夕食時に居るかと言うと、昔に士郎と藤村組に助けられた日から衛宮邸は3人にとっての避難先だった。
 それから月日を重ねて3人とも落ち着いた生活に戻った後も、週末には定期的に衛宮邸にお邪魔しては寝泊まりをするようになったのだ。
 風間ファミリーで言う金曜集会の様なモノだ。
 そんな3人の内の2人と入れ替わる様に、暖簾から大河が顔を出す。

 「士郎、私お腹減ったから食べてイイ?食べたい、食べるわよー!」
 「全部揃うまで我慢しろよ、藤姉ぇ。早く食べたかったら手伝ってくれ」

 士郎の正論に、ぶつくさ呟きながらも完成した料理を運んでいく。
 因みに3人の内の最後の1人である冬馬は、運ばれてきた料理を置く場所を考えながら整理している。
 そうして完成した品を全て運び終えたところで、最後の1人が今に到着した。

 「アルバさん!」
 「今夜もお邪魔してます」
 「ああ、よく来たな。今更だが好きに寛げ」

 アルバと呼ばれた女性はスカサハだった。
 彼女はサーヴァントでは無いが、真名を隠さずにそのまま呼ぶと、その手の知識を持った魔術関連の者達にどの様な手を使われて周囲の一般人たちを騒動に巻き込まれるか知れたモノでは無かったため、偽名のアルバで通している。
 彼女がスカサハ本人である事は、士郎と藤村組の魔術関連を知るごく一部の人間のみだ。
 そんな彼女と言えば、まるで自分の自宅の様な物言いの上に、振る舞う。
 しかし、本来の家主である士郎はその辺の事を余程の事が無い限り気にしなかった。

 「よし、みんな揃ったし、食べよう」
 『いただきまーす!』

 士郎が了承した途端、我先にと大河と小雪が狙っていたおかずをつまみながら爆食いしていく。

 「おいおい、ユキ。そんなに慌てて食べると、喉を詰まらせるぞ?」
 「大河さんも少しは落ち着いた方が良いと思いますよ?先週それで、喉に詰まらせたんじゃないですか?」

 準と冬馬は早食いを辞めない2人を窘め乍ら、自分達も料理に箸を付けていく。
 そんな4人には我関せずと言わんばかりに、スカサハはいつの間にかに取皿に取っといた料理の数々をマイペースに口に運んでいった。
 この5人の相変わらずぶりに今更ながら苦笑する士郎も、箸を進めていく。
 この団欒が、この穏やかな日々こそが、凛が士郎に埋没して欲しい光景なのだろう。 
 

 
後書き
 私はクッキー1とクッキー2が好きですが、女性化とかいらんでしょ?と、個人的には思ってます。
 肉ケーキですが、肉をケーキの様にデコレーションした奴では無く、ケーキの中に肉が入ってるのです。私も知り合いが作ったそれを見た時、罰ゲームか何かの食い物だと思ったのですが、食べてみたら意外とイケました。
 但し、作者は作れません。作者の調理技術は、日本の庶民の基本料理位しか作れません。アレンジ?何ですか?それ。知らん子ですね。 

 

第7話 影の女王は闊歩する

 
前書き
 移植版は持っていないので知りませんが、PCゲーム版の初期である真剣で私に恋しなさい!の設定に矛盾があるのでちょっと困ってますが、何とかやっていこうと思います。
 設定の矛盾:川神学園は土日休みと言っていたのに、土曜日に普通に登校している日がある。

 今回、士郎は出て来ません。
 衛宮士郎ファンの皆さん、ごめんなさい。 

 
 翌日。
 川神学園は基本、土日は休みだ。
 職種や家庭、人種や種族にもよるだろうが、休日と言えば何時もよりも長く寝ていられるイメージがある。
 しかし士郎何時もの様に起き、何時もの様に鍛錬するが、掃除、洗濯、料理の手伝いが付いて来た。
 昨夜に止まった冬馬達3人だ。
 掃除は小雪に冬馬は洗濯、最後に準が料理の助手についている。
 衛宮邸に避難している時期に、士郎はいいと言ったのだが何もしないのは悪いと思った3人が、衛宮邸の家事を手伝う事に成ったのだ。
 けれども、当時からすでに九鬼家従者部隊一桁台程の家事スキルを身に着けていた士郎の手伝いなど、簡単に並べる事など出来る筈も無く、最初は足を引っ張るだけだった。
 だが、士郎の丁寧な教え方と早く役に立てるようになりたいと言う3人の根気が実って、今ではセミプロレベルのスキルを身に着けているのだった。

 「シロ兄ぃ!頼まれたところ、終わったよー」
 「こちらは少し時間が必要です。士郎さんと準の方は如何ですか?」
 「こっちはもう出来そうだ。士郎さんの伝言で、朝食を先に済ませちまおうってさ」
 「分かりました」
 「りょうか~い!」

 伝言役の準の言葉に従い、冬馬と小雪は朝食を取るために居間に行った。


 -Interlude-


 此処はスカサハの私室。

 「・・・・・・・・・・・・」

 スカサハは寝ている訳では無いが、横になっていた。
 彼女は毎朝朝食時に必ず顔を出すワケでは無いので、日によっては士郎とスカサハが顔を合わせるのは夜になる時もザラでは無い。
 この部屋は防音は聞いているが、彼女は気配で人の居場所どころか人の心までも読めるので、士郎達が今何しているのかも手に取る様に把握していた。
 あの3人は士郎と居る時はいつも以上にテンションが高くなるが、今日は何時もより高めであると感じた様だ。

 (あー、そう言えば、今日は映画とやらを見に行くんだったか?)

 少し前に上映を開始した映画の座席を、ネットで予約していたので、今日と言う日を楽しみにしていたのである。特に小雪が。
 聖杯戦争中のサーヴァントなら映画の事も知識の一つとして与えられるのだが、生憎今は聖杯戦争中でも無く、彼女に至ってはサーヴァントですらないので、色々な情報源から聞いた事がある程度でしか知らないのだ。

 (映画・・・か。今度行ってみるのもいいかもしれんな)

 少なくとも今は同行する気は無い。
 彼女も付いて行きたいと言われれば、士郎も含めた4人は躊躇いなく了承するだろうが、遠慮とか以前に今日はそんな気分ではな無さそうだ。
 そんな風にボーっと考えている間に時間だけが過ぎて行き、暫くして4人が出かける気配を感じ取った。

 (さて、鍛錬でもするか)

 別に誰かに見られたくないワケでは無い。単に気分の問題だ。
 そう決めたスカサハは、本来なら魔術を使って一瞬で身支度を整えられるのだが敢えてそうせずに、風情を楽しむために自分の手でクローゼットを開いて着替えて行き、庭へ直行した。


 -Interlude-


 「・・・・・・・・・・・・アイツは、またか」

 鍛錬を終えたスカサハは気分的に居間に直行したわけだが、何時も(・・・)の様にラップを被せた料理がそこにあった。
 朝食時は顔を合わせない事もザラではあるが、そう言う日は必ずこの様に事前に作っておいてあるのだ。
 彼女は人のまま神の域に到達した罰として不死の呪いを受けたので、別に朝食どころか食べ物を口にしなくても生きていける。
 にも拘らず、彼女が食事をするのは士郎の作る料理が特別美味いからである。
 なので、こうして作られた以上は食べないと言う選択肢は無かった。
 士郎としてはスカサハが食べなかったとしても、残念がる事があっても文句など言わないのだが、彼女からしてみれば士郎の作る料理を残すなどあり得ない事なのだ。
 スカサハは意識していなし、士郎自身もそんな気は無いだろうが、彼女の胃は既に士郎にがっちりつかまれているのだった。

 「今日も変わらず美味い」

 士郎の何時も通りさに今更ながら呆れていたスカサハだが、料理は美味しく頂いていた。


 -Interlude-


 スカサハの日常は、客観的に見て余生を過ごす老人の“それ”だった。
 いや、それ以上でもあり、それ以下でもある。
 神からの罰により不死の呪いを受けたせいで、永い月日の中で惰性でダラダラと生きて来たのだ。
 そこには感情はほとんど無く、意識と無意識の狭間を漂っているのと同義だ。
 影の国の女王に君臨しているモノの、そんな人生に意味などあるのかと、そもそも影の国の女王であり続ける必要すらあるのかと言う疑念を投げかけたくなるほどの空虚だった。
 そんな何時も通りの惰性の最中だった。幾つもの偶然が重なった上での召喚(それ)が起きたのは。
 そうして士郎と出会ってからは幾つもの感情も賦活していき、最近では町中をぶらつく様になった。
 彼女の美貌は今更言うまでも無く、絶世の美女と言う言葉にすらも当て嵌まらないほどの美しさだ。
 それ故、その容姿から近所ではすぐに有名になった。
 だが今日の彼女は、気分的に冬木市以外にも出歩いていた。
 いま彼女が歩いているのは川神の地だ。
 そこが何所であれ、彼女とすれ違った人々は老若男女の区別なく、顔を赤らめて立ち止まっていく。
 その当人と言えば、自分の美貌が他人を見惚れさせる事など当然(・・)なので、一々相手にせずに過ぎ去っていく。
 そんな当てのない散歩をしていたスカサハは、河川敷の土手で遊んでいる者達に何となく興味を示して立ち止まる。
 スカサハは、士郎の話によりクリス以外の此処に居るメンバーの事を多かれ少なかれ知識として知り得ていたが、実際に会うのは全員初めてである。

 (成程、この子供らが風間ファミリーなる仲良し集団か)

 顔のパーツが士郎の言っていた情報に酷似しているので、身元についてもすぐに理解出来た。
 そうして観察していると、クリスが打ったボールは前では無く、後ろに大きく打ちあがり、スカサハ目掛けて落ちて来たのでそれを捕る。

 「あーー!すいません、お姉さん・・・・・・って、え・・・・・・」
 『・・・・・・・・・・・・』

 風間ファミリーの中で一番近くに居たガクトが、お礼を言いながら近づいてから気付いたスカサハの美貌に思わず見とれて止まる。
 それに続いて、他の皆も視線を集中させてガクト同様の反応を起こす。

 「受け取れ、少年」

 風間ファミリーの反応に応対する気は無いのか、スカサハはガクトの右手に嵌めてあるグローブ目掛けて投げ入れたが、本人自身が止まっているので見事に吸い込まれるように入ったモノの、直に零れ落ちてしまった。
 その反応の中でいち早く復帰した百代は、何時も通り美少女や美人は全て自分への御供え物と公言しているだけあって、初対面のスカサハの眼前に一瞬で現れてから抱き付こうとする。

 「世界全ての可愛い娘はすべからく私の物・・・!」

 しかし――――。

 「気安いぞ?娘。何より遅い」
 「!?」

 百代の両手は空を切り前のめりに倒れそうになるも、見た目からでは想像できない屈強な下半身と安定した体幹により、踏みとどまった。
 そんな百代は話しかけられた刹那の時間の内に、驚喜に心が満たされた。
 自分が抱き付こうとした速度は、意識している限り、今この場にいる仲間たちの誰も躱すこと敵わぬ速度だった。それこそ壁越えでなければ無理だ。
 しかも今の速度を遅いと言う。
 さらには自分すらも足元にも及ばないのではないかと、考えさせられてしまうほどの美貌を持つ美女だ。
 強者と美女・美少女は百代にとって大好物だ。その両方を兼ね備えていると言うのだから、彼女に興奮を押さえろと言うのが無理らしからぬことだろう。
 けれど、目的のお姉さんには礼を失してしまった。
 此処は即座に謝罪をして、如何にか要望を叶えてもらうように頼み込もうと考えて振り向く。

 「・・・・・・は?」

 しかしながら、そこには誰も居ない。
 少なくとも百代の視力で捉える事の出来る範囲のは見当たらないどころか、そこに先ほどまでに本当に居たのか怪しいほどに気配も無かった。

 「撒いたか」

 当のスカサハは、百代の闘気に気が付き面倒だと感じたので、あの場から勢いよく去ったのだ。

 「さて、次は何所に行くか」

 百代の気などお構いなしに、スカサハはまた適当に散策し始めた。


 -Interlude-


 此処は七浜の埋め立て地にある九鬼財閥極東本部。
 その近くにスカサハは来ていた。
 彼女は近くの別の建物を背に寄り掛かり、口元に笑みを浮かべていた。

 「始めよう」

 そう言った瞬間に、莫大な殺気をある一点に放った。
 スカサハの殺気は、九鬼財閥極東本部内で昼間から珍しくいる九鬼帝に当てられた。
 正確には彼のいる辺りだ。
 一点集中的にスカサハの殺気を当てようものなら、余りの衝撃に心肺停止しかねないからだ。

 「むおっ!?」

 とは言え、それでもあの影の国の女王の殺気だ。
 世界中を飛び回る百戦錬磨の総帥でも、相当な衝撃からの奇襲に驚きの声を上げた。
 そしてその部屋の外には九鬼家従者部隊の重鎮である、ヒュームとクラウディオがいた。

 「これはっ!?」
 「っ!?クラウディオ、帝様を見ていろ」
 「ヒューム1人で大丈夫ですか?」
 「愚問だな。この俺を誰だと思っている」

 クラウディオの答えも聞かずに、一瞬で外に出てから自分達に殺気を放った曲者を探す。
 殺気の残り香を辿っていくと、九鬼財閥極東本部の敷地外である雑居ビルに1人の女――――スカサハを見つけた。

 「・・・・・・・・・・・・」

 ヒュームの目から見てもそれは年若い娘に見えたが、他の追随を許さぬと言わんばかりの美貌に目を剥き見惚れた。
 しかし、借りにもヒュームは武道の世界において現最強。
 肉体面は全盛期に比べて衰えたが、どれだけ才能の高い現武道四天王達を寄せ付けない不屈の精神面がある。
 それ故に、スカサハに見惚れていた時間は刹那よりも僅かな時だった。
 そんな一瞬の出来事だと言うのに、スカサハはヒュームの心を見透かしたかのように笑う。

 「フフ」
 「何が可笑しい?」
 「自分で判っているだろうに。なぁ、ヒューム・ヘルシング」

 口元に僅かな笑みを残したまま、ヒュームを馬鹿にするように言葉を選ぶ。

 「小娘の分際で、俺を呼び捨てにするか」
 「その小娘に刹那以下でも見惚れていたのは、何所の老いぼれだ?」
 「フンッ!」

 スカサハの挑発に、沸点の低いヒュームは躊躇いなく急所を狙った蹴り技を入れた。
 それをスカサハは余裕で避ける。
 避けられたとしても間髪エグイ連撃入れていく。
 しかしそれすらも全て最低限の動作で躱していく。
 その行為を2分ほど続けていた両者だが、攻撃していたヒュームが止まった事で戦闘が収まった。

 「貴様、何のつもりだ?」
 「何のとは?」
 「惚けるな。帝様を含む俺達に殺気をぶつけておいて、貴様からはまるでやる気を感じ取れん」
 「ほう?」 

 決して馬鹿にしているワケでは無いのだろうが、スカサハはヒュームの観察能力を評価する。
 ただ永年生きて来たので、如何しても上から目線になってしまうが。
 そしてその上から目線に気付いたヒュームは、額に青筋を浮き上がらせるものの、なんとか耐える。

 「・・・・・・それで?貴様は何の様なのだ。無論、此処が九鬼財閥極東本部だと知っての事なのだろう」
 「・・・・・・ふむ。私は一応、藤村組の関係者と言う事に成っている」
 「何?」
 「それでな、その内呼び出しをするから問答無用で来いと言っておったな」
 「・・・・・・・・・・・・」

 スカサハの言葉にヒュームが黙る。
 スカサハは誰が誰をとは言わなかった。言うまでも無いと言う事だ。

 「伝えるのは何時でもいいと言われてたからな。気晴らしに此処まで立ち寄ったから、伝えに来たまでよ」
 「その割には無駄が多いな。少なくとも、殺気を当てる必要性が無いだろう」
 「必要はないが理由ならあるぞ?藤村組のメッセンジャーと名乗ればお前たちは殺気立つも、それなりの重鎮が出て来るだろう。その待たされてるの時間が嫌だった」
 「どこぞの餓鬼だ?」
 「ついでに悪戯心が湧いて、ついな。許せ」
 「貴様・・・!」

 ふてぶてしく謝るスカサハの態度に、またもやヒュームは額に以下略。
 自業自得なのだが、このままでは戦闘が始まるので、音も無く言葉だけ残してその場を去った。

 『最後に、先程は老いぼれと言って悪かったな。お前も雷画も私から見れば、まだまだ十分若造(・・)だ』
 「・・・・・・・・・・・・俺と雷画の奴を若造と評するあの娘――――いや、あの女は・・・・一体何者だ?」

 ヒュームは疑問を感じながら、スカサハが去って行った方へ呟くのだった。


 -Interlude-


 百代は百人組手を終えて廊下を歩いていた。
 普段なら楽しかった気分の感傷に浸っている所だったが、今日はそうは往かなかった。
 あの土手で百代に遅れて全員復帰した後、百代がどれだけ主張しても余り水分補給を怠っていたので軽い熱中症状により白昼夢を見ていたんじゃないか、と結論付けられてしまったのだ。

 「確かに居たのにな~。これじゃあ新学期前に遭遇した体験と変わらないじゃないか・・・」

 百代が誰もいない時はよく独り言を言うが、鬱憤が溜まっているのか、今日は誰が聞いているとも判らない川神院の廊下でするだけあって重傷だった。
 夜に島津寮へ行くので、道着から私服へ着替える為に自室に戻る途中で、鉄心の部屋の前を横切った時だ。

 「っ!?」

 本当に僅かな隙間からだったが見えたのだ。
 将棋盤を挿んで鉄心と向かい合っていたのが、白昼夢で片づけられた絶世美貌美女だと。

 (今度という今度は逃がさん!)

 最早意地になっていた百代は礼を失するなど知った事では無いのか、勢いよく鉄心の部屋の襖を開いた。

 「なっ!」

 しかし開けた先には、プロの過去の棋譜が載った将棋本を開いて横に置いたまま、鉄心が1人で将棋の勉強をしているのかの様な光景だった。
 百代が見た時は確かに向かい側に座布団の上に座った標的が居たのに、座布団まで無くなっていた。

 「なんじゃモモ、その顔は?と言うか襖とは言え、枠でもいいからノックくらいせん――――」
 「そんな事は如何でもいい!それよりも爺ぃ、今此処に誰かいただろう!?」
 「誰とは誰じゃ?さっきからずっと、儂しか()らんかったぞい?」
 「う、嘘だ!そうやって皆で私を変なモノ扱いする気だな!?」

 最早正気では無いのか、意味の分からない事を口走る孫に鉄心はため息をつく。

 「よく解らんが、混乱しているのなら頭を冷やすんじゃな」
 「っ!分かったよ!」

 鉄心の言葉に怒りがさらに高まったのか、やけくそ気味に襖を思い切り閉める。
 勿論、百代が力いっぱい占めれば襖が壊れるので、気による操作で衝撃を可能な限りに弱めて破壊されるのを防ぐ。
 鉄心からすれば何時もの事なので慣れたモノだった。
 そんな百代を見送った後にまたも鉄心はため息をつく。
 百代の指摘は正しく、確かに先程までそこに居た。
 士郎の魔術師の師と言う事でそれなりに歓迎したが、正直鉄心が今日まで生きてきた誰よりも以上に心が読めない人物だった。
 そのおかげで、将棋では八方ふさがりの王手を掛けられて苦悩していたのだが、そんな処で百代が入って来たので、ある意味グッドタイミングだった。
 襖を開ける前に姿を見られたスカサハは、面倒だと言う理由から今日はもう帰ると言って後片付けをした上で、百代の視界に入っているにも拘らず、彼女に気付かせないレベルの気配殺しの歩法を使って帰って行ったのだ。

 「兎も角トンデモナイ相手じゃったな」

 その言葉が、ある意味では鉄心のスカサハへの初見の評価だった。

 因みに、スカサハは帰宅してから士郎に聞いたのだが、自分の容姿に酷似した幻想の様な魔法の様な美女(魔女)が川神各地に出現したと話題になっていたのを聞いて、流石に反省した。
 その理由からスカサハは今、認識阻害のブローチの作成を始めた様だった。 

 

第8話 アウトローに主夫が征く

 翌日。
 冬馬はある女の子たちとのデート(個人的な用事)で出かけており、今回の衛宮邸の御泊りは自動的に終わり、準もまたある幼子たちを見守る時間(個人的な用事)で出かけており、以下略。
 大河は友人の店へ遊びに行き、スカサハは認識阻害のブローチを未だに作成中だ。
 そして残った士郎と小雪と言えば、近くのデパートに来ていた。
 実を言えば士郎は行く所があり、この買い物後に直行で行くのだが、それを小雪が自分も付いて行くと駄々を捏ね始めたのだ。
 今日士郎が行く所はそれなりに危ないので、付いて来るなと拒否の姿勢を何度示しても付いて行くと延々と駄々を捏ねる小雪に根負けして、許可してしまったのだ。
 因みに、買っているのは全て食材だ。

 「シロ兄ぃ、これこれ!シロ兄ぃが作った餃子程じゃないけど、味の的(あじのまと)の餃子美味しいんだよ!」
 「分かった分かった、買うから跳ねるな。あんまり跳ねると他のお客に迷惑だし、スカートが捲れるぞ?」
 「シロ兄ぃ、次はこっちこっち!」
 「聞いてないな・・・」

 小雪は、士郎と一緒に買い物に来れるだけで嬉しそうにはしゃいでいた。
 一方士郎と言えば、小雪と買い物に行くたびに振り回されているが、それはそれで楽しそうだった。


 -Interlude-


 食品食材を大量に購入した士郎と小雪は現在、神奈川県川神市内の某所に来ている。
 そこは大量の不良廃棄物や、大型の粗大ごみが幾つも山のように積み上げられているアウトローたちが好んでいる場所だった。
 そんな場所で士郎は両手を買い物袋で塞がれても直、堂々と歩いていた。
 そして小雪は士郎に言われた通り、離れずに付いて行く。
 だが予想通りと言うべきか、小雪の可愛さに惹かれるように周辺で(たむろ)っていた有象無象共が集まって来た。
 けれど、あくまでも遠巻きに見ているだけだ。
 理由は単純明快、士郎の存在があるからだ。
 士郎は今までも此処に何回か来ているが、最初から数えて4、5回程は絡んでくる雑魚共に力を見せつけて格の違いを教え込ませた。
 なので今では、迂闊に絡んで来るモノなど皆無だった。
 少なくとも彼らにも、その程度の学習能力位はあったらしい。
 しかし今日は女連れで両手が塞がっている。ならば行けるのではと思えるかもしれないが、士郎が周りに耐えず殺気を放ちながら威嚇しているので近づけずにいた。
 少なくとも最初に比べれば集まっている人数も少ないモノだ。
 士郎の殺気を当てられれば、大抵のものは気絶するか悲鳴を上げて退散する。
 だが集まっている者達はそんなリアクションはしない。
 つまり、ある程度の実力と肝が据わっていると言う事だろう。何方にしろ近づいてこないので、上位にしろ下位にしろ、有象無象である事には変わりは無かったが。
 そうこうしている内に目的地のボロ家に辿り着いた。

 「シロ兄ぃ、此処?」
 「ああ、中に居るのは『辰』だけみたいだな」

 呼び鈴も無いがノックもせずに入っていく士郎に、小雪も付いて行く。

 「スゥー・・・スゥー・・・」

 中に入ると、水色の長髪の女性が白い枕を抱いて寝ていた。
 よく見なくてもかなりのナイスバディ。だからか小雪は、士郎に疑問をぶつける。

 「もしかして、シロ兄の彼女さん?」
 「いや、違うぞ。彼女はこの家に住む5人の内の1人で家事担当だ。因みに、見てる通り寝るのが好きなんだ」

 士郎は小雪の質問に答えつつ、買いだした大量の食材食品類を鍵付き冷蔵庫の鍵を開けてから中に入れていく。

 「ん~・・・・・・シロォ~?」

 買ったモノを冷蔵庫に入れる時の音で気づいたのか、板垣姉弟の次女である板垣辰子が枕を抱えたまま起き上がった。

 「ああ、月末だから食材類切れてると思ってな。買ってきたから入れてくぞ?」
 「アリガスゥー・・・スゥー・・・」
 「喋ってる途中で寝ちゃったよ、この人!?」

 マイペース過ぎる辰子に、流石の小雪も驚いた。
 だが士郎からすれば何時もの事なので、振り返る事なく聞く。

 「寝てもいいから1つだけ聞かせてくれ。他の4人は何時帰って来る?」
 「ん~、アミ姉と天ちゃんは師匠と一緒に修業に行ったよ~。お昼までには帰ってくスゥー・・・」
 「また!?」
 「辰子」

 まだ聞き終えてないと言う事を口にしないで、名前を呼ぶことで促す。

 「・・・・・・ん~、竜ちゃんはいつ帰って来るか分からないよ~スゥー・・・スゥー・・・スゥー・・・」

 士郎の質問に答え終えたから、今度こそ眠りについた。

 「凄いマイペースな人なのだ・・・」
 「小雪には言われたく無いと思うけどな」
 「ボクは此処までじゃないよ!」

 士郎の発言に怒った小雪は、苦情を呈する様に背中を叩く。

 「悪かったよ。明日の朝まではマシュマロ作っとくから、勘弁してくれ」
 「食べ物で釣るのは如何かと思うけど、しょうがないから許してあげるよー。それで、シロ兄は何作ろうとしてるの?」
 「シーフードカレーだ。どれだけ凝ったもん作っても食べるには食べるだろうが、此処の5人は見た目は自分が食べた事のあるモノを好むからな」

 言いながら何時もの様に鮮やかに繊細に、そして迅速に調理を進めていく。
 そんな何時もの様に真剣な眼差しで調理する士郎の横顔を覗き見乍ら、小雪は楽しそうに待つのだった。


 ーInterludeー


 時刻は昼前。
 カレーを作り終えた士郎だったが、未だ4人が帰ってこないので待っていた。
 そこに小雪の唐突な提案により、士郎は膝枕をしていた。

 「ふみゅー」
 「猫みたいだな」

 自分の膝を枕に気持ちよさそうに寝る小雪の姿を見て、頭を優しく撫でてあげると、主人に撫でられて落ち着いている飼い猫のような表情をしている。
 それを後ろで意識だけは起きた辰子が見る。

 「ん~、シロォ~」
 「ん?」
 「私も~」
 「・・・・・・・・・ヤレヤレ」

 小雪の気持ち良さそうな顔に惹かれたのか、辰子は小雪とは逆側の士郎の膝枕に頭をダイブさせた。
 小雪同様に士郎としては何時もの事なので、驚きも拒みもせずに受け入れる。ただ言うなら――――。

 (男の膝枕なんて気持ちいとは思えないんだがな)

 そんな風に相変わらず自分への評価が低い士郎だった。
 しばらくの間そうしていると、この家にものすごい速度で近づいてくる気配があった。

 (楽天的だが感情の揺れ幅が大きいのは天だな)

 気配にて、誰をと予想した士郎。
 そして玄関口の扉が勢いよく開いた。

 「辰姉ェ~昼め――――って、なんじゃこの美味そうなカレーの匂いー!」
 「相変わらず騒がしいな」
 「あっ!士郎か。――――って事は」
 「士郎の作った昼飯かい」

 天使の言葉を引き継いだのは、川神院元師範代の釈迦堂刑部と共に何時の間にか彼女の後ろに来ていた板垣姉弟の頭であり稼ぎ頭の姉、板垣亜美だった。

 「はい、毎月通りです。それじゃあ――――」
 「私が寄そうよ。あんたは一応客何だし、その間に辰とその娘を起こしてな。それじゃあ身動き取れないだろう」

 亜美は士郎の返事を聞く事なく、皿にライスとカレーを寄そい出した。
 士郎は、そんな亜美の言葉に素直に従って、2人を起こすのに勤めるのだった。


 -Interlude-


 「はぁ~、食った食った」
 「うまかったー!」

 辰子と双子(弟)で板垣姉弟の長男である板垣竜兵の帰りを待つ事無く、結局全部5人で食べてしまった。士郎は一杯だけだが、天使がかなり多くのお替わりをした結果だ。
 昼食を食べ終わったので亜美は仕事?に行き、士郎がやろうとしたが家事は自分の担当だと言う事で辰子が食器を洗い、釈迦堂は食後の余韻で寛ぎ、そして天使は――――。

 「アタイ、遊びに行ってくるぜー!」

 元気にまた駆けだして行った。

 「そんで?また俺を誘いに来たのか?」
 「ええ。何時も通り、雷画の爺さんからの頼みですよ。釈迦堂さん」

 士郎が今日此処に来た目的は、月末で食料が尽きてる板垣家への食材の支援と釈迦堂刑部を藤村組の下に置くための誘いだった。

 「返事なら前にも言ったとおりだ。お前や雷画の爺さんには世話にもなってるし嫌いじゃねぇが、今はそんな気はねぇな」
 「色よい返事がもらえるなんて期待してませんでしたが、ホントに今のままで良いんですか?だって、今の釈迦堂さんは“ひも”ですよ?」
 「・・・・・・お前よ?もう少しオブラートな表現出来ねぇのか?」

 士郎の言葉に精神に来るものがある程度はあった様で、何時もへらへら笑ってる表情を顰める。

 「ニート」
 「いや、だからよ」
 「職務放棄員」
 「いや、そのよ」
 「でしたら、CO2クリエイターでは?それが気に入らないのであれば――――」

 士郎の一言一言に、今日までアウトロー人生でも悪くないと思っていた釈迦堂の防禦壁がゴロゴロと崩れて行った。

 「――――ホームガーディアンでは?それか平成の貴族か、あとは・・・・自宅警備員ぐらいですかね?」
 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎の言葉に釈迦堂は、自分の眉間と額を手で抑えるように参っていた。
 だが士郎は別に、嫌味で言ってる訳では無い。
 自分の考えを他人に押し付けたくない士郎であるが、当の本人は全て自己責任なら兎も角、能力や才能はある上に一応心身ともに健康体であるにも拘らずに働かずにひもをしているのだ。
 世の中には様々な問題により働きたくとも働けない人々もいると言うのに。
 その為、士郎にしては珍しい位に、相手がノックアウト寸前だと気づいていながら口撃を辞めなかった。
 しかし、釈迦堂はこの期に及んでささやかな抵抗を試みる。

 「お、お前だって働いてねぇじゃねぇか・・・」

 言葉としては、実に情けないモノではあるが。
 だがそれは結果として、自身へのトドメとなるものだった。

 「俺はこれでも学生ですよ?それに一応副業的なモノをやっていましてね、今日のような食材も光熱費と言った生活費は全て自費ですが?」
 「なん・・・・だと!?」
 「それにシロ兄は5年ほど前から、ボク達にお年玉くれてるんだよ!」

 先程からだんまりだった小雪が、ツッコみどころ満載の発言を口にした。その気は無いのだろうが、まるで追い打ちをかけるように。
 因みに、食事にをする前に小雪の事は士郎の彼女かと疑われたので、きっぱりと否定し終えている。
 自ら地獄の鎌を開けてしまった釈迦堂は、頭を垂れながらやっとの思いで言う。

 「・・・・・・・・・少し考えさせてくれ」
 「今まで考える時間は幾等でもあったはずですが、解りました。ですが時間が無限にあるワケでは無いと言う事も忘れずに」
 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎は、既に死に体の釈迦堂にチクリと刺した。
 そんな釈迦堂の反応に一応の満足を得たのか、士郎は小雪を促してながら立ち上がる。

 「辰子、俺達そろそろ帰るよ」
 「~そぉ?んじゃぁ、気を付けてねぇ~♪」
 「ああ。じゃあ送っていくから帰るぞ、小雪」
 「うん!」

 そうして士郎は板垣家を後にした。

 因みに、次に士郎に合ったら答えを言わなきゃならないと焦燥に駆られたからか、久しぶりに基礎鍛錬を熟して気配による感知能力を向上させる修業をし始めた釈迦堂刑部の姿を、時々弟子たちは目撃するのだった。 

 

第9話 変化する朝

 夜。
 川神市周辺の何所とも知れぬ場所にて、ある何かが現出していた。

 『・・・・・・ぬ・・・さぬ・・・・・・るさぬ・・・・・・・許さぬ・・・許さぬ!』

 女性の声に聞こえなくも無いそれは、明らかに憤激に彩られていた。

 『我・・・・・・ち・・・が・・・を・・・・・・などと・・・・・・決して許・・・ぬ!』

 自らも決まった形があるワケでは無いが、それは虚空に向けて憎悪を解き放つ。

 『――――ガイア!』

 しかし日が昇りにかかると、それは始めから無かった様に掻き消えていた。


 -Interlude-


 「約束通り・・・と言うワケでは無く、遅れて来るとはな」

 翌日。
 士郎は毎朝通り鍛錬に励んでいると、そこにはむすっとした百代が朝の鍛錬時に着る道着姿で衛宮邸に来ていた。

 「私は毎朝最低限の鍛錬しかやってないが、それに丸1時間も必要としない」
 「最低限?」
 「そ・う・だ。ツケの払いを待ってもらっている分、今回の掃除については面倒だけど従うが、鍛錬時間や内容にまで口出しされる筋合いはないぞ!」

 自分の時間を士郎の勝手な提案により削られたので、百代は露骨に不服そうだ。

 「それは確かにな。それで鍛錬は済んだのか?」
 「まだだ・・・・・・・・・・・・あっ!」

 そこで、百代はある悪巧みとはいかないが、自身の欲を満たすためにある事を閃いた。

 「そうだ衛宮!私の鍛錬には組手相手が必要なんだ。付き合――――」
 「そんな嘘は通じない。お前が何かしら画策してくるんじゃないかと思って、学園長にお前の朝練内容については聞いてるんでな」
 「何だと!?」

 士郎の言葉が予想外だったのか、百代は驚愕に目を剥いた。

 「――――と言う事で組み手は無しだ。俺は道場で鍛錬の続きをするから、川神は好きなところでやっていてくれ」

 士郎は百代の返事も聞かずに道場に行ったが、折角閃いた企みを速攻看破された事に当の本人は心底悔しかったのか、くっそ~と呟き漏らしていた。


 -Interlude-


 士郎の鍛錬法は極めて苛烈である。
 気を全身に張り巡らせるように強化させながら、超絶的に自分の体をいじめる様な過酷な筋力トレーニングをこなしていく。
 こうする事により筋力が付いて行く超回復の過程の中で、筋肉の組織の崩壊と今まで以上に強化される筋肉の再構築が通常時よりも何倍にも膨れ上がり、更に筋肉が凝縮されて行く。
 それに加えて、前の世界で様々の師の下での教えや世界中にある修練方法を学び分解させて、自分の体に合った鍛錬方法を再構築したのだ。
 しかしこの鍛錬方法は、士郎の体質の恩恵による士郎専用の修練。
 その為にどれだけ才能の高い者がこれをこなしても、体を破壊してしまう結果となる。
 こうして士郎は毎日この鍛錬を熟して行き、地力の面での現時点(・・・)では百代を上回るパワーと防御力を獲得した。特に防御力は、マスタークラス以下の実力者が本気で肉弾攻撃を行えば、逆に怪我をする又は攻撃部位を痛める可能性が高い程の堅牢さだ。
 マスタークラス以上の実力者の全力攻撃にも、何十発と耐えられる頑丈さでもある。
 この辺りは魔術属性が剣である所以だった。
 まぁ、現時点でこの事実を知っているのは、かなり数が限られるが。
 ただ生まれ持っての骨格状、何所までもアメリカ人並にはならない位でタイツの様なぴったりとした服装でもない限り、着やせして見えるのも特徴的だ

 閑話休題。

 「ふー、これで終わりだ」

 最後にこなしていたのは、人差し指1本だけで逆立ち上での筋トレだったのか、これまた人差し指1本で跳躍させてから着地する。
 そうして士郎は何の余韻も味合わず、何時もの様に掃除を開始しようとする。

 「あっ、そうだ。川神に詳しい説明しないとな」

 一瞬だけ百代の事を忘れていた士郎は、彼女のいる庭に瞬時に駆けて行った。


 -Interlude-


 「はぁ~」

 百代は深い溜息をついていた。
 早朝から他人の家の庭の掃除をしないといけない上に、自分の企みも看破された結果、大してやる気も出ずにダラダラと掃除をしていた。

 「おい、川神。何時になったら終わるんだ」
 「うわっ!?衛宮!」

 そんな時に突然音も気配も無く、背後から士郎に声を掛けられた。

 「まったく、今日のはもういいから休んでくれ」
 「お、お前は如何なんだ?この広い範囲を1時間で終わらせるなんてできるのか!?」
 「俺は毎朝やってるんだ。しかも今日から庭は一応やらなくて良いんだから、とっくに終わったぞ」

 士郎の家事スキルは今や、世界トップレベルだ。
 それに加えて身体能力だけなら、マスタークラス内でも上位に入る。
 この2つを合わせた上で、極限なまでに効率的に行えば、そこそこ広い衛宮邸の敷地内全部の掃除など、文字通り朝飯前だった。

 「ぐぬぬぬ」
 「ほら、地団駄踏んでないで居間に早く来い」
 「・・・如何して居間に行かなきゃならない?まさか溜まりに溜まったツケを盾に、私にエロい奉仕を要求するつもりか!?」

 百代のあんまりの発言に士郎は嘆息する。

 「そんな事する訳無いだろ。川神じゃあるまいし」
 「如何いう意味だ!?」
 「そのままだ。川神は可愛い女の子の前だと、若干オッサン化するって京に聞いた事があるんでな」
 「クッ!」
 「・・・・・・否定しろよ」

 百代の反応に、心底溜息をつきながら士郎は呟いた。
 そして残念なことに否定しきれなかった百代は、悔しそうに言い返す。

 「だ、だったら、何の用があるって言うんだ!」
 「朝食が出来てるが、(うち)で食ってくか、帰って食べるか選んでもらおうと思ってな」

 そろそろいい時間だろと言外に士郎は告げる。
 そんな士郎に何の邪気も無いと理解した百代は、気恥ずかしさを覚えながらも断る理由も無かったので受け入れる事にする。

 「食う」
 「なら早く来てくれ。藤姉・・・・・・元武道四天王の冬木の虎って呼ばれていた藤村大河が、朝食を待ちわびてるから」
 「大河さんが?・・・・あー、衛宮と一緒に食ってるんだったか?」
 「そう言う事」

 2人の加減なしの歩く速度は速いので、話しているあっという間にも居間に到着していた。

 「遅いわよ!士郎!」
 「悪かったよ。でもアルバさんも来てないだろ?」

 大河は藤村組内では魔術の事など知らない側なので、彼女の前でスカサハの名を呼ぶときはアルバとなる。

 「そうなのよね。今朝も食べる気は無いみたいよ・・・・・・って、百代ちゃんじゃない!」

 漸く百代の存在に気付いた大河は、大げさに驚く。
 元武道四天王である彼女は何時もならすぐに気づけるのだが、空腹時になると前後不覚になり気配を読み取る等のスキルが機能させられなくなるのだ。

 「おはようございます、大河さん。お久しぶりですね」
 「ホント久しぶりね~」
 「ほらよ川神、藤姉ぇも」

 挨拶しあう2人に、炊飯器からよそったご飯を横から差し出した。

 「待ってたわ~・・・・・・って、ん?」
 「はい?」
 「・・・・・・・・・・・・」

 未だに前後不覚状態に陥っている大河だったが、ある疑問が彼女の頭の中で整理し始めて来ていた。

 「えっと、えっと・・・・・・ん?」
 「如何したん――――」
 「川神、耳塞げ」
 「はぁ?何でそんな事――――」

 簡潔過ぎる士郎の言葉に、百代は疑問を挿んだ。

 「いいから。そろそろ来るぞ」
 「?――――何なんだ・・・」

 相変わらず言葉の足らない士郎に促されて、取りあえず従うように士郎と同じく両手の人差指で自分の耳を塞いだ。
 そして遂に、決壊する。

 「―――――って、如何して!百代ちゃんが!!こんな朝っぱらから!!!衛宮邸(此処)にいるのよぉおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 冬木の虎の、大・咆・哮。

 「っっっ~~~~!?」
 「・・・・・・・・・・・・」

 あまりの強烈な騒音に、流石の百代も実に煩そうに耐えていた。
 士郎としては久しぶりではあるが慣れたものなので、無心状態で耳を塞ぎ続けている。
 冬木の虎の大咆哮は、闘気と怒気を合わせてから大声を上げる事で、周囲にいる標的たちの聴覚に侵入させて思考回路や平衡感覚をかき乱す技だ。
 しかし今のは闘気抜きなので、単なる近所迷惑並みの騒音だ。
 しかしご近所さんからしてみれば、久しぶりの大河ちゃんの咆哮ね~なんていう風に近所迷惑だと思うどころか、むしろ懐かしさに浸っている所がほとんどだった。
 そして興奮収まらない大河は、士郎の胸ぐらを掴みながら問いただそうとする。

 「答えなさい、士郎!如何して、如何して百代ちゃんが此処に居るの!?まさか昨夜から連れ込んだんじゃないでしょうね!お姉ちゃん許さなはぶ!?」
 「取りあえず、それ咀嚼しながら聞け」

 いい加減喧しかったようで、自分の皿に分けておいた粗びきウインナーの1本を大河の口に栓をするように詰め込んだ。
 その士郎の行動に美味しいと感じながら我に返った大河は、冷静に話を聞いた。

 「――――って事で、今日から来てもらってるんだ。これで解ってくれたか?」
 「はむはむ・・・・・・んぐ。――――事情は分かったけど、士郎もケチよね~?可愛い女の子に驕ったとでも思って、直にチャラにしてあげてもいいんじゃないの?」
 「で、ですよ――――」
 「藤姉は随分と川神の肩を持つんだな~?」
 「な、何よ士郎。その笑みは・・・」

 普段はまず見る事のない怪しい士郎の笑みに、大河は警戒を露わにする。

 「まぁ、未だに雷画の爺さんから小遣い貰っている身としては、不用意に川神の事を責められないからだよな~?」
 「う、うぅ、何よ良いじゃない!私が要求してるんじゃなくて、御爺様が好意でくれるんだから!」
 「だったらこっちの事にも口を挿むのを辞めてもらおうか。川神が誰にも迷惑かけてないなら俺だってこんなことしてないんだ。けど実際には、多かれ少なかれと迷惑してる人間が出てきてるんだ!その上でこれ以上口を挿むって言うなら、雷画の爺さんにリークするしかないな」
 「・・・・・・・・・・・・」

 百代は自分の事がメインの筈なのに、士郎と大河の言い合いに口を挿めず細々と朝食を進めていた。
 そうしていく内に、あっという間に大河は劣勢に追い込まれて行った。そして――――。

 「士郎の・・・・・・馬鹿ぁあああーーーー!!ムシャムシャムシャムシャムシャ(うわぁあああああん)!!!」

 追い込まれた大河は、泣き声を上げながら自分の分の朝食を食べると言う器用さを発揮し始めた。
 そして直に食べ終えた大河は、御茶碗を叩き付けるように置く。

 「うわぁあああああん!!」

 で、泣いて行ってしまった。
 しかし、大河の反応を見ずに士郎は台所へ戻っていく。
 そんな時に、遠くなっていったはずの大河の泣き声がまた近づいて来た。

 「うわぁあああああん!!」

 何故か泣きながら戻ってきた大河に、弁当箱を持った士郎が台所から現れた。
 その弁当を泣いたままの大河が掠め取り、また泣きながら出て行った。
 そんな大河を見送った士郎は嘆息しながら百代を見ずに言う。

 「こんなのは何時もの事だから気にするな」
 「・・・・・・・・・・・・」

 そんな事言われてもこの微妙な空気の中で何を言えばいいのかと戸惑っていた百代は、取りあえず喋らない事を選択するのだった。
 因みに、藤村組特別相談役で衛宮邸の居候の部屋は、防音結界が作動してあるので実に静かだった。


 -Interlude-


 朝食を食べ終わった百代は、道着姿のままなので帰ろうとした処に士郎に玄関で呼び止められた。

 「何だよ、衛み――――っ、五百円?」

 振り返った百代に、士郎に投げられたコインを反射的に容易く取ると、それは五百円だった。

 「ツケの払いだからホントは渡す必要なんて無いんだが、一応バイト料だ」
 「・・・・・・・・・・・・」

 五百円とは言え、金が手元に来ることなど期待してなかった百代は、嬉しさよりも驚きから抜け出せずにいた。

 「因みに、ダラダラしないでちゃんと完了させてれば、その五百円に加えて野口英世も一枚付けようとしてたんだがな」
 「なっにぃいい!?」

 だがすぐさま復帰した。
 その百代の反応に士郎は朝からもう何度目かの溜息をつき、彼女の手に今度は弁当を渡す。

 「何だこの弁当は?」
 「見ればわかるだろ?川神の分さ」
 「だから如何して私に弁当を渡す?」
 「そうすれば昼食代だって浮くだろ?これであっという間に5百円使ってまたいろんな誰かに金借りてたら、何時まで経っても変わらないしな」
 「有り難いけど、言わせてもらう。お前は私の保護者か?」

 嫌味とかじゃなく、純粋な質問だった。
 これに対して士郎は素で言う。

 「そんなつもりなど無いけど。これで川神の悪癖の1つが解消されるなら、安いモノだと思ってる」
 「・・・・・・・・・」

 ホントに皮肉も含みも無かったが、面と言われた百代が黙る。

 「あと、今日のメニューは全部俺が決めたが、おかず・・・・・・肉料理ぐらいは何かリクエストがあれば聞くぞ?」
 「如何してそこまでしてくれるんだ・・・・・・。まさか今度こそホントに私の体目当てか!?」
 「我慢ばかりしてもストレスたまるばかりで、お前の悪癖を悪化させないためだ」

 百代の冗談と大げさな反応に、取り合う事も見せずに士郎は真面目に答えた。
 そしてスルーされた百代は頬を膨らませるも、有り難い事には変わらないので、その提案を受け入れる事にした。
 けれども、今の百代は予測できていなかっただろう。
 今日から士郎の弁当を食していく内に、スカサハ同様に彼女の胃をがっちりつかまれてしまう事に。
 

 

第10話 秘密の昼食

 
前書き
 前回と同じ日です。 

 
 昼休み。
 持参していない生徒たちは、チャイムが鳴ると同時に学食に駆けて行く。
 そして百代も普段は学食組なのだが、今日は違った。
 今日の――――いや、最低でも暫くの間は学食組から離脱して、士郎の作った弁当で空腹を満たす事に成るだろう。

 「~~~♪」

 そんな百代は鼻歌を歌いながら、士郎特製弁当を鞄から引き出した。
 明日からも暫くそうだが早朝の掃除で憂鬱なモノの、美味しく調理された料理には罪は無い。
 その上、一切手を抜かずに作られた士郎の料理は、元々の食材が近隣のスーパーなどで購入されたモノであっても高級料理に劣るどころか勝るので、これから昼食は楽しみの一つになりそうだと思っている様だった。
 それを隣の席である弓子が、珍しそうに覗き見る。

 「百代が持参とは、珍しいで候」
 「ああ、暫くの間は弁当になるだろうな」

 そうして蓋を開けると、色とりどりの中身が広がっていた。

 「これほど色彩鮮やかとは、川神院の料理人も意外と中々で候」
 「以外って・・・・ユミ、川神院(うち)に如何いうイメージを持ってるんだ?」

 不愉快とは言うワケでは無い、純粋な疑問だった。

 「サラダは兎も角、肉料理が一切ない精進料理で候」
 「確かに昔の寺とかはそんな感じだが、全て知ってる訳じゃ無いが今じゃ肉料理を取り入れてる所があるって言うのも聞いた事あるし、特に川神院(うち)は武の総本山だ。ある程度のバランスにも気には欠けてるだろうが、肉が食事にでないなんて力でなくなるぞ?」
 「なるほど、時代錯誤過ぎていたで候」

 友人の疑問を解消させた百代は、おかずである唐揚げに一つを口の中に入れて頬張る。

 「ん~♪」

 自分の弁当に舌鼓を打っている百代の隣では、弓子がまだ疑問に思っていた事があった。

 (おかずの配置や色合いのバランスとの黄金律とか、衛宮君の弁当と似ている気がするんだけど、如何いう事かしら?)

 そんな友人の考え事にも気づかず、百代は士郎の弁当を堪能していた。


 -Interlude-


 九鬼財閥と藤村組は未だに冷戦状態である。
 九鬼財閥としては勿論、この問題を早期に解決したいのだが、藤村組が頑なな態度を続けている。
 その為、この問題が起きた時、当時既に士郎を兄のように見ていた冬馬達――――特に冬馬は、英雄との関係の距離に如何したらいいのかと悩んだが、士郎の言葉で今も親友と言う距離感に変化はない。
 しかし冬馬の悩みはそれで晴れなかった。
 冬馬と英雄の距離感の変化の無さと引き換えに、士郎と距離が離れて行ってしまったのだ。
 自分に無頓着な士郎はその事に直には気付けなかったが、冬馬達の反応を見て気づいてからの行動は速かった。
 その日はたまたま屋上で休憩していた英雄に直訴して、ある程度の関係修復に努めた。
 しかし世間体もある為、表向きは未だに冷戦状態を装い、裏では人の目を気にしながらも食事などをしていた。
 そしてそれは今日も――――。

 「ほう?と言う事は今朝から武神、川神百代に掃除させているのか」
 「ああ、何時までも川神のわがままを許すわけにはいかないからな。そろそろ自戒と我慢を覚えてもらわないと被害が増える一方だ」

 場所は川神学園屋上。
 そこには、九鬼英雄と専属従者の忍足あずみ、冬馬達3人と士郎の合計6人がシートを広げた上で、昼食を取りながら話していた。
 最初の話題は、今日の早朝から暫くの間、百代に掃除させる件だった。
 因みに、本来であれば専属従者が主と食事をするなど規律上許されざることだが、士郎のとある発言で、英雄は楽しそうに笑った後に許したのだ。
 そしてその発言とは――――。

 『雇い雇われ関係と言っても、そこまでいけば家族同然だろ?従者部隊の掟とかもあるんだろうが、人目を憚ってるこんな時ぐらい、一緒に食事取っても罰は当たらないんじゃないか?』

 この発言に英雄は楽しそうに笑ってから許可――――と言うよりも、言っても聞かないからあずみにその様に命令をしたのだ。
 この事にあずみとしては複雑な気持ちだった。

 (英雄様の横で食事の同席が許されるなど至極の極みだが、家族扱いって言うのがな~)

 今までは良き主従関係で、今では家族同然としての見方も加わった訳だが、何方も異性としての関係へ発展しにくいのがネックである。
 絶対ではないが、あずみから見た英雄に対する監察結果としては、その予想が多分を占めていた。
 それともう一つ因みに、専属従者は基本的に主と四六時中一緒だ。その為、主の行動を優先するので如何しても食事は簡易的なモノや即席なモノが多くなってくる。
 そして九鬼英雄のスケジュールは父親ほどでは無いが過密だ。
 その為、人目を憚る屋上での秘密の昼食は気分的かつ突発的に発生するので、英雄のは兎も角あずみ自身の弁当までは用意されていなかった。何時もの簡易的かつ歩き・立ち食い可能なモノしかない。
 そこで士郎が考えたのが、予備の弁当を一つ用意する事だった。
 秘密裏に屋上での昼食を取る時は、あずみにこの弁当を配給する事に成っている。

 (相変わらず衛宮士郎の弁当美味ぇな~)

 この様に美味しく頂いていた。
 そう言う意味ではあずみも既に、士郎に餌付けされていると言えるかもしれなかった。

 閑話休題(そして話は戻る)

 「だけど士郎さん。モモ先輩が我儘すぎるのは同意するっすけど、あんまり押さえつけ過ぎるとどこかで爆発しちゃうんじゃないんすか?」
 「それについても取りあえずは心配いらない。掃除の結果にもよるが、一般的な小学生の月額の小遣いを毎朝給付させるつもりだ。金を貰えると有れば川神も手を抜かなくなるだろうし、昼食も浮かせるために、弁当も用意した。そこについても、おかずの一品二品程度も選択肢を与えてな」
 「流石は士郎さんですね」
 「飴と鞭は基本だもんね~」

 士郎の抜かりなさに、冬馬と小雪は何時もの様に褒める。

 「・・・話は変わるが、九鬼財閥に物騒なやり方で訪ねて来た女について聞きたいのだがな」
 「アルバさんか。一応話には聞いていたが悪かったな、結構気分やで好戦的な所もある人なんだ」

 士郎は本当に申し訳なさそうに謝る。
 普段は大人らしい立ち振る舞いだが、何か閃くと凛やイリヤの様に悪乗り全快で悪戯に全力を駆ける所がしばしばあるからだ。

 「そうか。それにしても相当な腕前なのだろう?回避に専念されていたとはいえ、あのヒュームの攻撃をすべて躱しきられたと聞いているのでな」
 「ヒューム卿の実力を目の前で見た事が無いから何とも言えないが、間違いなく世界で一二を争うだろうな。少なくとも俺は勿論、川神よりも強いだろうさ」
 「何とそこまでとはな。だがそうであるなら、ヒュームの攻撃を躱せたことにも説明が付くと言うモノだ」

 英雄は士郎の言葉を疑うことなく感心する。
 士郎は嘘もついていないが、英雄もある程度の読心術を身に着けているのか、疑わなかったのだ。
 まぁ、それ以上に士郎への信頼が高いのもあるだろう。
 そこへ、ユキが自分の弁当のおかずを士郎の口元へと近づける。

 「シロ兄ぃ、あ~~ん!」
 「はいはい、あーん」

 ご機嫌な小雪のあ~んを普通に受け止める士郎。
 一見すれば恋人同士がやる様な行動なのだが、普段から唐突に小雪は士郎にこの様にするので慣れている。
 そして周りもこれが初めてでは無いので、普通に受け入れる。
 しかし今日は普段と違っていた。

 「そうだ!」
 「如何した?」

 何時もの様に突然閃く小雪。

 「そう言えばあずみ、何時も疲れてるから僕があ~んしてあげるよ♪」
 「また唐突な・・・」
 「何時もの事ですけどね?」
 「・・・・・・・・・・・・」

 小雪の言葉に冬馬と準は何時もの様に呆れ気味だったが、英雄は小雪の言葉を受けて、何かを考え始めた。
 士郎がそれに気づく。

 「如何した?英雄」
 「ふむ。あずみよ」
 「ハ、ハイ。何でありましょうか?」
 「あずみの事については我も日頃から考えていた事だが、そこでだ。我自らあ~んしてやろう!」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(バタッ)」
 『!?』

 あずみは、突如として目の前に迫って来たあまりの幸福感に当てられて、意識を保っていられずに気絶した。しかも口元は幸福感に当てられた証拠として、だらしなくにやけていたと言う。

 「あずみ、如何したのだあずみよっ!?」
 「あずみが気絶したー!」
 「あずみさん!?」

 心配する周りのメンバーの気持ちをよそに、あずみは昼休み終了前のの予鈴のチャイムが鳴るまで気絶し続けていたと言う。


 -Interlude-


 夜。
 親不孝通りのある裏路地に、全く人気の失せた場所があった――――いや、いかなる力が作用しているのか、無理矢理できていた。
 そこに、魔術や高い霊感を持たぬ者には不可視なる具象奇体が発生していた。

 『おのれ・・・おのれっ!我が・・・・・・の呼び水に我を使うなど、万死に値する!』

 発生時から憤りを抑えられない“何か”だったが、次第に自分の意思とは関係なく操られ始める。

 『グッ・・・・・・い、意識が・・・保て・・・ぬ・・・・・・』

 しかも丁度いいところに――――と言うワケでは無いのだろう、それなりの野生と風格を纏った少年が現れた。

 「クソッ、衛宮士郎の奴!俺が居ない隙を狙って食材を入れに来るとは・・・・・・。今度こそ押し倒してやろうと思ってたのによっ!!」

 士郎が日曜日に行った板垣家で会わなかった長男、板垣竜兵である。
 因みに、数年前に親不孝通りで遭遇した冬馬との出会いを機に、ホモに目覚めてしまったのだ。
 その理由から、中世的な顔はしていないが、士郎を標的としてロックオンしている。
 何でも普段は穏やかなのに、時折キリッとしたギャップに惹かれたのだとか。
 会うたんびに、のされている訳だが。

 閑話休題(そして話は戻る)

 そこで1人愚痴っていた竜兵だが、やっと周囲の異変に気付いた。

 「何だ此処?何時もは誰かしらいんのに、誰もいねえじゃねぇか・・・・・・ん?」

 そして魔術や高い霊感は持たないが、野性的過ぎる本能が警告を出しているのか、自分の身に得体の知らない危険さが迫っているのを感じ取る。

 「何かしらねぇが、やべぇな!」

 しかしその野性的直観も、視えるモノからすれば手遅れだった。
 竜兵本人は見えないモノの、四方の通路を幽鬼体――――つまりゴーストに囲まれていた。
 そして―――。

 「ぅぅおおおぁああぉおおああああ!!」

 親不孝通りを束ねる不良の王の悲鳴が、虚空に響いた。
 しかし、この声を聞いたものは誰も居なかった。 
 

 
後書き
 運命の夜まで、あと四日。

 竜兵死んでませんよ? 

 

第11話 嵐の前の静けさ

 
前書き
 マジ恋A-2の清楚ルートの最初側にガクトやモロが大和と話していた事なんですけど、川神市は魍魎の宴と同じく、天国の様で地獄の様な所であり、この世とあの世の狭間なんだそうです。
 まさか主役の口からその様に評するとは・・・。 

 
 翌日の早朝。
 百代は金の為に、一切手を抜かずに掃除をしていた。

 「よし、これで良いだろ!衛宮ーーー!掃除終わったぞーー!」
 「大声で呼ぶなよ、川神。まだ朝なんだから近所迷惑も考えろ」

 百代から自分を呼ぶ声に即座に反応した士郎は、瞬時に百代の前に来た。
 朝食の調理自体は完成して後は準備だけだったので、丁度良く台所から離れることが出来たのだ。

 「む、まぁ、それについては悪かった。けどそれより早く判定してくれよ!」

 今日の査定額を知りたいのか、百代は士郎を急かす。
 そんな百代に士郎は内心溜息をついてから、私心なく辺りを見回す。

 「・・・・・・・・・・・・うん。五百円だな」
 「何だと!?ちゃんと見たのか!私は昨日と違って手を抜かずに掃除したぞ!」

 初日の早朝同様の査定額である事に、百代は憤慨する。
 しかし士郎は、そんな百代の反応にまた溜息をついて口を開く。

 「バイトの様なモノとは言え、手を抜かずに仕事するなんて当たり前の事だぞ?見返りに金を渡す側からすれば当然としか見られないな。それに、あそこにあそこにあそこにあそこにあそこにあそこにあそこにあそこにあそこにあそこが不十分だろ?川神は掃除のプロでない事も差し引いた上で、昨日は本来一円たりとも渡す必要が無かった事も算引いてから、色を付けてのこの値段だ」
 「ぐぬぬぬ!」

 士郎に指摘された箇所は、確かにお世辞にも綺麗とは言えない部分だった。
 ただ客観的に言わせれば、かなり細かく、老舗の旅館の女将でも指摘されてはじめて気づくレベルである。本当に掃除のプロでは無い事を差し引いてるのか、首を傾げたくなるほどの細かさだった。
 しかしそうとは知らない百代は、ただ悔しそうに歯噛みするしかなかった。

 「どちらにしても、もう朝食だから行くぞ川神」

 恋人や親、兄のような親しい関係でも無きに拘らず、士郎は百代の頭を撫でながら居間へと促した。

 「むぅ」

 以前同様に同い年にも拘らず、まるで子ども扱いされることに不満を感じた百代ではあったが、撫でられたこと自体には不思議と不愉快には感じなかった。


 -Interlude-


 昼休み。
 士郎と京極は読書をしていた。
 京極は自分の力では手に入らなかった、とある本を手に入れた士郎から貸してもらい、士郎も経済学の新書を読んでいる。

 「・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」

 学校の昼休みは平均的に1時間も無い。
 その限られた時間の中で昼食をちゃんと取り、その上で読書をしている二人は、まだ昼休みの半分も消費していないにも拘らず、2人とも既に二冊目の後半である。
 士郎は超人的な身体能力と慣れで、京極は言霊使いとしての言葉を把握する力と慣れで、速読がかなり得意の様だった。
 そんな2人が本に向かって真剣――――というか、無表情で速読している光景を見ている教室内外の女子生徒達は、読書の邪魔はしない位にときめいて癒されていた。

 「はぁ~、御2人ともあんなにカッコイイ表情で読書する姿も絵になるわ~」
 「見てるだけで癒されるわね~」

 そんな風に、周りの女子生徒達をメロメロにさせている張本人達の内の1人である士郎が、二冊目を読み終えて三冊目に突入しようかと手に掛けた時だった。

 「ん?」
 「如何した衛宮?」

 中学生からの付き合いで親友と言ってもいい京極は、士郎の実力及び、気配察知による広範囲かつ高い感知能力がある事を知り得ていたので、親友が何かを感じ取ったと直に気付いた。

 「いや・・・冬馬と直江が放課後に決闘するなどと言っているみたいだな」
 「ほう・・・!――――相変わらず川神学園(此処)は退屈に困らないな」

 まるで見て来たかのような士郎の言葉に、京極は何の疑いも無く信じてから口元に薄く笑みを作るのだった。


 -Interlude-


 放課後。
 士郎は昼休みの件が気になったので屋上へ向かった――――なんてことは無く、部活に精を出す為に弓道部へ来ていた。
 気にならないと言えば嘘になるが、弟分が誰かと一々決闘するからと言って気になって見に行ってしまうのは如何かと考えて、行かないと言う選択をしたのだ。
 そうして弓道着に身を包んだ士郎が男子の着替え室から出ると、そこには新入生である一学年の階で何度か見かけた事のある少女が立っていた。

 「初めまして、衛宮副部長!私は昨日から入部しました、武蔵小杉と言います。副部長の御高名と武勇伝は家や先輩の方々からかねがね」

 初対面である先輩後輩の間の感覚としては、学生にしては固すぎるが仕方が無いモノだった。
 先代は兎も角、現当主の舵取りにより武蔵家全体を湧き起こした上で地味に着々と規模を拡大させている武蔵家と、極道にも拘らず地域の顔役同様の評価と信頼を獲得している上に、日本の各地方の有力者や大地主達とも太いパイプを持っている藤村組は、今は上下関係こそあれど立場的にも似ているので、少なくとも表面的には仲良くしていた。
 その理由から、その家の実子やほぼ身内同然の客分扱いの挨拶も、固くなるのは仕方がない事だった。下手な事をすれば、両者の上への関係にどんな影響を及ぼしてしまうのか、不透明だからだ。

 閑話休題(そして話は戻る)

 「こちらこそ、弓道部員で居られる時間はもう半年ぐらいしかないが、宜しく頼むよ」

 されど経験豊富な士郎は幾つもの修羅場を経験し、様々な人間を見て来たので、それらを元にどの程度固く柔らかくが良いか判断出来るのだ。
 そこからの判断で、自分と目の前の少女との相性的に、普段通りの自分で接した方が都合がいいと士郎は判断したのだ。 
 そして士郎らしいと言えば士郎らしいのだが、何とほぼ初対面同然の女の子の頭の上に掌を乗せて撫でたのだ。

 「っ!」

 この事に武蔵小杉は、反射的に気安く自分の頭を撫でる手を払いのけようとするが、その撫で方がまるで、昔から自分がどの様に撫でられると気持ちいいのか熟知されているかの様な感触で、寧ろこのまま撫で続けていて欲しいと思うほどだったので、為されるがままに動きを止めた。

 「ふにゅ~」
 「・・・・・・ん?――――って、悪い!つい癖で撫でたんだけど気安かったか?」

 武蔵小杉としては気持ちよかったのだが、士郎はつい咄嗟の事に気付けずのそう窺った。
 それに対して武蔵小杉は気持ちよかったのが正直な感想ではあるが、武蔵家の実子としてもプライドや世間体なども気にしていた。
 その両方の狭間で揺れ動いている武蔵小杉は、一つの答えとして言う。

 「そ、そこまで悪かった訳では無いです」

 そう絞りだした。
 そしてそれを見ていた殆どの女子部員たちが羨ましそうに見ており、部長である矢場弓子と男子生徒達は揃って思った。

 (((((また、誑し込んだ)))))

 そんなこんなで士郎はまたも、ほぼ初対面の女子生徒に何時も通りに初期フラグを建てるのだった。


 -Interlude-


 新人以外の風間ファミリーは、明日は祝日と言う事で廃ビルを利用した秘密基地に集まっていた。
 そこではキャップに大和、京にモロの4人で超マニアックなボードゲーム『ゲーム制作会社群雄伝』をしていた。
 ガクトに百代に一子が参加しない理由は、ゲーム制作会社の事などよく解らないからだ。
 まぁ、それ以前に、一子は外の土手で鍛錬中でガクトは付添ってるので、今この場には居ない。
 そんな風に楽しいのか否か、イマイチ判らない空気の中、百代が大和にヘッドロックを駆けて絡んで来る。

 「――――お前、今日の決闘で負けたんだってな?」
 「うぐ・・・・・・直にカリは返すさ」
 「落ち込んでないなら、いいんだよ」
 「・・・・・・落ち込んでたら、イジメるつもりだったんじゃないの?」

 大和が確信的に聞くと、百代は素直に認める。

 「バレたか。けどそれだけじゃないんだよな~」
 「そ、それだけじゃない?ぐ、ぐるしぃ(小声)」
 「このままじゃ、私が衛宮に負けたみたいになるんだよ!」
 『?』

 今もヘッドロックを掛けられている大和や、風間ファミリーの中では現時点で一番親交のある京を含めた百代以外の全員が、首を傾げる。

 「お前たちは知らないだろうが、2-Sの葵冬馬とその仲良し2人の小雪(ゆっきー)(ハゲ)の3人とって、私と大和と同じように舎弟化契約を結んだわけじゃないが、衛宮は頼れる兄的存在なんだよ」
 「そ、それは初耳だな」
 「私もそれは知らなかった。けどモモ先輩はよく知ってたね?」
 「私が今まで衛宮にテスト前で助けてもらった時、何度か来てるの見たときあったからな。それで聞いたら、私たちのとこの金曜集会じゃないが、何時もかは知らんが週末になると衛宮の所に止まりに来てるんだとさ」
 『泊まり?』

 大和達は百代の説明した一部に反応する。

 「――――ああ。京は衛宮の家に行った事あるだろうから知ってるだろうが、アイツの家は一階建てたがそれなりに広くてな。客室含めて部屋も結構在って、あの3人用の私室もあるらしい」
 「それはすごいね」
 「まぁ、川神院(うち)ほど広くは無いけどな」
 「それは当たり前だと思うよ?大富豪クラスでないと、川神院クラスの寺の敷地面積には勝てないからね」

 川神院をまるで自分のモノのように言う百代に対して、クッキーが現実的意見で答えた。

 「けどモモ先輩。それにしては機嫌良いね?」
 「まぁな♪――――明日の昼前に、元武道四天王である衛宮の姉的存在である藤村大河さんと真剣勝負では無いが、稽古名目で戦う約束してるんだ!」
 『なるほど』

 百代の機嫌の良さに納得する面々。
 百代は、強者との戦闘欲を風間ファミリーのメンバーと遊ぶことである程度抑えられているが、やはり一番の解消方法は強者との戦いである。
 そんな百代が此処まで上機嫌ななのは、事前にそう言う強者との戦う約束日が迫っている時に限られていた。あくまでも今のところはだが。
 こうして最近では非常に珍しく、百代は上機嫌なまま夜を過ごした。


 -Interlude-


 士郎は一度帰って夕食を作り終えてから、スカサハの感知結界の報告にあった地点である親不孝通りの裏路地に来ていた。
 本来であれば、原初のルーンを扱える大魔術師であるスカサハが張った感知結界故に感知した場合即座にスカサハ自信が感じるのだが、とある理由により反応がデカければ直に感知できるが、小さければ小さい程士郎への報告が遅れると言う事態になっているのだ。
 なので今回の様に反応が小さければ、その日の内に調査が出来ないでいるのだった。

 「・・・・・・・・・何もないな」

 此処で感知結界に反応してから丸一日経過している事もあり、魔力痕がまるでなかった。
 仕方がないとはいえ、士郎はため息をつく。
 この間から後手に回っているこの最近の反応に、一刻も早く決着をつけなければと言う長年戦場に身を置いていた経験則による感が告げていたのだ。
 そうしないと、この川神の地に悲劇が舞い降りるかもしれないと。
 衛宮士郎は守るモノのために、今日も魔術使いとして奔走するのだった。

  
 

 
後書き
 士郎の家の敷地や部屋の数などは、原作よりも広いし多いです。

 運命の夜まで、あと三日。 

 

第12話 武神VS冬木の虎

 
前書き
 大河「問題、衛宮士郎の新たなる道のメインヒロインは誰でしょう?」

 1.藤村大河以外考えられん!
 2.藤村大河以外にそもそもヒロインが居るの?
 3.誰でしょうなどと問うなど論外、藤村大河一択だろう!?
 4.藤村大河は俺の嫁!!



 5.寝言は寝て言えなんてちゃちな事は言う気は無いが、聞いてて空しくないの?それで良いなら言ってあげましょう。ワーーー!フジムラタイガサン、アナタコソメインヒロインで――――やっぱり無理!そしてちゃちでもいいから言う、寝言は寝て言え藤村大河!!? 

 
 翌日。
 士郎は、百代を土日祝日祭日まで縛る気は無いので、今朝は百代は掃除に来ていない。
 なので、今朝は何時も通り鍛錬に精を出し何時も通り全てを士郎1人で掃除して朝食を作ると言う、今迄通りに過ごしていた。
 そして気分屋な所があるスカサハは、今朝も何時も通り朝食の場には居なかった。
 結果、これまた何時も通り大河と士郎の2人きりで朝食を取っていた。

 「士郎、今日は予定通りずっと籠ってるの?」

 大河は、ウインナーをつまみながら士郎に聞く。

 「そうだけど・・・人を引きこもりのように言うのはやめてくれ」

 士郎は、大河の言い方に苦虫を噛み潰したような嫌そうな顔で答える。

 「もぐもぐ、ん、表現としては違うかもだけど、籠ってるのは事実でしょ?」
 「事実とは言え、言い方ってものがあるだろう?大体、いい年して彼氏も居ないからって年がら年中引きこもるか、音子(ネコ)さん(←実際はおとこ、と読む)の店に居座るだけの寂しい藤姉に言われたくないな」
 「んな!?・・・・・・ふふん!残念だったわね?士郎!私はお昼にある人に、お呼ばれされてるのよ?」

 士郎の言葉に一瞬だけ怒りと悲しみに詰まった大河だが、取り繕いながらも胸を張って自慢するように士郎に言う。
 しかし上手なのは士郎の方だった。

 「招待してくれてるのは男じゃなくて女性だろ?しかも川神百代(川神)
 「なっ!?――――ど、如何して士郎がそれを知ってるの?昨日の朝、百代ちゃんが衛宮邸(此処)から出て行ってから話した内容なのに!」

 大河は虚勢がばれた事に、目尻に涙をためながら悔しそうに士郎に聞いた。
 そんな大河に溜息をついてから士郎は答える。

 「藤姉・・・・・・藤村組本部の藤村邸の私室どころか、昨夜俺が帰ってきた時には居間でテレビ点けっぱなしで此処で寝落ちしてたんだよ。それで勿論俺が藤姉を運んだんだけど・・・覚えてないのか?」
 「え!?で、でも、私何時もの寝巻になって布団の中で起きたわよ・・・って!まさか士郎!?アンタ私を着替えさせたの!親しき仲にもれ――――」
 「その辺はちゃんと、給仕である晴香さんに頼んだぞ。だから糾弾される覚えはないな」

 士郎の言葉に歯噛みする大河は、一層悔しそうにする。
 しかしそこで我に返る。

 「ちょっと待ちなさい!如何して私と百代ちゃんの話を知ってたのか、まだ聞いてないわよ!」
 「別に言う気が無かった訳じゃ無い。―――言うなら藤姉の運搬時に、寝言で聞いただけだ」
 「ちょっと!何人の寝言を勝手に聞いてるのよ!!」
 「寝言を聞かれたくないなら、衛宮邸(此処)で寝落ちしないように今後努めればいいだろ?つまり寝落ちした藤姉が悪いんだ。それとも気持ちよさそうにしてる所を無理矢理起こせと?」

 怒りの糾弾に全て正論で返して来る士郎に、大河は何時もの様に決壊した。

 「ムシャムシャムシャムシャムシャ(うわぁあああああん)!!」

 何時もの様に泣きながら自分の分の朝食を平らげる。

 「うわぁあああああん!!!」

 そして泣きながら衛宮邸を後にした。

 「・・・・・・・・・」

 士郎としては本当に何時もの事なので、特に気にした様子も無く、普段通りに1人残されても自分のペースで食事を進めるのだった。


 -Interlude-


 泣いて落ち込むのが早ければ、直に復帰して気分を変えるのが大河の特徴の一つだ。
 時間になったので、大河は道着を入れたバッグと愛用の木刀を入れたのを片手に藤村邸を出る。
 彼女は元武道四天王の1人であり、本気を出して走ることを前提とすればまだまだ出かけなくてもいい時間なのだが、川神院に行く前に寄る所もあるし何より、大河は休日に自分の住む街を歩くのが好きだ。
 士郎を引き取り、里親になった衛宮切嗣と共に歩いたこの街並みを、彼女は今も愛している。
 大河にとってあの時は、今も一番の思い出だった。
 何故なら大河にとって、衛宮切嗣は初恋の相手だったから。
 されど勇気が出ずに何時までも言い出せなかった。
 そして切嗣は、士郎を引き取った5年後に士郎の目の前で静かに息を引き取った。
 切嗣の死因は未だ解明されていなかったが、そんな事は大河にとって些細な事だった。
 自分の初恋の人が死んだ事実を最初は当然受け止めきれず、自分の部屋に引きこもり、学生だったので一時的に不登校にもなった。
 その件については両親・藤村組の組員・組長の藤村雷画全員からそっとしておくと言う方針から、何も言われなかった。
 そんな彼女が自分の部屋に引きこもってから幾日、彷徨いながらも縋る様に衛宮邸に訪れると、そこには何時もの様に過ごす士郎の姿を目にした。
 本来なら自分以上に落ち込んでいても可笑しくないのに、自分を視界に入れた直後、丁度食事時だったのか自分を居間に連れて行き、食事を出されたのだ。
 そうして士郎は1人黙々と食事をして行く。
 そんな姿に大河は問わずにはいられなかった。
 悲しくないのかと、如何して何時も通りに過ごせるのかと。すると――――。

 『確かに悲しくはあるけど、俺にはまだ冬馬達もいるし、藤村組の皆もいる。何より、此処は藤姉にとって第2の家でもあるんだから、今こうして来たように、何時でも迎えられる様にしたかった』

 ――――と。
 そうして士郎は何時もの様に食事をして行く。
 そして食後に士郎が呼んだのか、冬馬達が遊びに来て自分達とも遊ぼうとせがむ。
 親友の音子や友人の柳洞零観も呼んだのか聞きつけたのか今でも知らないが、駆けつけて来た。
 まるで自分――――私を励まそうとしてくれるように。
 そして藤村邸に戻ると、藤村組の組員、両親に御爺様と、皆が私を笑って迎えてくれた。
 その時に気が付いたのだ。
 私には士郎も含めて大切な人達がこんなにも残っていると。
 切嗣さんが亡くなった事は確かに悲しいが、この気持ちを胸に思い出を大事に歩いて行こうと復帰したのだ。
 今でこそ口喧嘩が絶えない(基本的には何時も大河が悪い)姉弟の様な間柄だが、今でもあの時の事に嬉しく思っているし感謝もしている。
 正直、面と言えずに気恥ずかしいが。
 そうして大河は何時もの様に、ご近所さんたちに挨拶しながら川神院に向かって行った。

 そんな大河を気配感知で行った事を確認した士郎は、自身の魔術工房に居た。
 士郎の魔術工房は衛宮邸の土蔵の中に入口があり、地下へと続いている。
 士郎の魔術工房は複数の部屋に分かれており、一番最初の部屋は大河の様な一般人にも見せてもいい士郎の仕事部屋になっている。
 士郎の仕事とは刀匠である。
 此処で少し話がずれるが、士郎は自分が魔術師である事を、引き取られる時に話していた。
 しかし雷画自身は魔術が実在する事も知っていたし、士郎を引きとった切嗣の事も魔術師である事を見抜いていた。
 にも拘らず自分の眼力に自信のあった雷画は、士郎切嗣共に身を寄せてきたことを許容したのだ。
 そして切嗣が亡くなってから1年も経過していないある時、雷画は士郎を驚かせようと衛宮邸に不法侵入して探したところで士郎の魔術工房に入ったのだ。
 その魔術工房棚などには、大小長短の違いあれど全てが刀剣類が置かれていた。
 眼力に自信のある雷画から見てどれもこれもが業物並みの品質と見抜いたが、それ相応に長く生きてきたにも拘らず、全て初めて見るモノばかりだった。
 中には凝った装飾品が付けられた西洋剣などもあり、美術的価値があるのではないかと思えるほどのモノもあった。
 そんな風に年甲斐も無く、驚愕と興奮に包まれている所に士郎に見つかったのが最初であった。
 これについて訳を聞くと、自分の魔術特性としての結果が周りにある刀剣類だと言うのだ。
 魔術師の研究成果とは言え、これほどの品を埋もれさせるなど勿体無いと感じた雷画は、士郎に何度も説得を試みて、商売の一つとして始めたのが切っ掛けだった。
 その日を境に士郎は、刀匠EMIYAと言う知る人ぞ知る刀剣類専門の鍛冶師として世に出るようになったのだ。
 あれから今日まで約4年半。
 士郎の打つ刀剣類は高いモノであれば相当な額と評価され、今では十数億ほど稼いでいる。
 まぁ、関東圏内を治めている藤村組は勿論、世界一の大企業と言っても過言では無い九鬼財閥からすれば、大した事のない額でしかないが。
 しかしそれは結果でしかなく、士郎は只説得されお客()を見て、求められるモノを提供したに過ぎない。
 故に、そうして士郎は今日も鉄を鍛ち続ける。


 -Interlude-


 大河は約束の時間10分前に川神院に辿り着いた。
 門前には今すぐにでも始めたいとワクワクしている百代に軽く緊張している一子、それに何時も通り笑顔を忘れない師範代のルーに、頭部の骨格が年々ぬらりひょんに近づいて来ている総代の鉄心が揃って待っていた。

 「お久し振りです。鉄心総代、ルー師範代」
 「うむ、お主も息災そうで何よりじゃ」
 「久しぶりだネ!大河ちゃん!」
 「それに貴女が川神一子ちゃんよね?意外とこれまでちゃんと話した事が無かったから、事実上初めましてかしら?」
 「は、はい!川神一子です!今日はお姉様との稽古の見学に同席させて頂き(いにゃなやき)――――」

 一子は緊張のあまり最後まで言い切れずに噛んだ。

 「そんなに緊張する事ないのよ?百代ちゃんと違って、私なんて元武道四天王と言うだけで、今じゃ穂群原高校の一介の英語教師ってだけなんだから」
 「は、はい!」

 しかしそれでもなお緊張の色を消えない一子に、微笑ましく思う大河だった。

 「大河さん、今日はよろしくお願いします!」
 「ええ。でも稽古以上真剣勝負未満の微妙な線とはいえ、今じゃ最低限の鍛錬しか続けてないからお手柔らかにね」
 「そんな、私こそ勉強させて頂きます」

 謙虚な言葉を使っているにも拘らず、百代の顔は飢えた獅子の様に獰猛さが露骨だ。
 そんな百代に苦笑しつつ、鉄心に粗品を渡す。

 「鉄心先生。つまらないモノですが」
 「雷画からか。すまんのう」
 「あっ、いえ、その・・・」

 鉄心の言葉に言いよどむ。
 何故いい読むのか鉄心以外の3人は首を傾げたが、鉄心だけは短い沈黙の後に溜息を吐いた。

 「年を考えぬセクハラ爺に、渡す土産がもったいないとでも言っておったか?」
 「ア、アハハ・・・」

 鉄心の言葉を受けた大河は苦笑いを浮かべる。

 「自覚あったんですカ?総代」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 さらには補佐のルーから何の含みも無い素の言葉を受けて、鉄心はぐうの音も出なくなる。

 「ククク」

 最後に百代の噛み殺したような笑いをトドメとして、鉄心だけ両肩を深く下げながら、中へ入っていくのだった。


 -Interlude-


 鉄心たちは大河を連れて、朝の鍛錬に使う庭に来ていた。
 とは言っても大河は途中の百代の部屋を借りて、道着姿に着替えたわけだが。
 そして持参した木刀袋から取り出したのは何と――――。

 「え?」
 「虎・・・柄・・・・?」

 大河が取りだした木刀は、柄から切っ先の全てに至るまで虎柄だった。
 この珍妙な木刀を見た事があるのは鉄心とルーを始めとする40歳前後の修行僧だけで、百代や一子を含めた若い世代は今日初めて見る代物だった。
 初めて見る者達は、冬木の虎の異名を持つ元武道四天王の藤村大河の武勇伝だけは聞いた事は何度もあるが、彼女の得物が虎柄の木刀であるかは初耳だったのだ。
 色んな意味で奇妙な空気が漂う中で、大河は気合の一斉と共に身を引き締めた。

 「さて、やりましょうか!」

 そして何故か満面の笑顔だった。
 そんな大河に周りの空気も相まってか、百代も言いよどむ。

 「えっと、大河さん」
 「ん?」
 「いえ、えっと、その・・・」
 「何かしら百代ちゃん?」

 百代としては初見の虎柄の木刀が気になるが、大河からすれば何を言い淀んでいるのか全く気付いていなかった。
 しかしそれ以上に早く始めたいのは百代も一緒なので、置いておく事にした。

 「いえ・・・・・・お願いします」
 「こちらこそよろしく!」

 未だに虎柄の木刀が気になっている者達がいる中、鉄心が審判を務める様に前へ出た。

 「互いに準備はよいな?」
 「ああ」
 「はい」
 「今回は正式な真剣勝負では無いからの、形式は省略するぞい。――――では、始めい!」

 鉄心の合図に間髪入れずに突っ込む百代。

 「まずは川神流無双正拳突!?」

 しかし、いつの間にか百代よりも早く大河は接近していたのか、既に眼前にまで居る上に、木刀を百代目掛けて振り下ろそうとしていた。

 「――――きーーー!!」

 ならば尚更にと、百代は先ほどよりも早い動きで大河の木刀目掛けて正拳を打つ。
 しかしそれは結果として空を切る。

 「残像ッ!?ぐあっ!」

 百代が打つと、振り下ろしていた大河もろとも霧散した。
 如何やら闘気を込めた残像を、いち早く百代目掛けてぶつけただけの様だ。
 しかも百代にも瞬時には察知不可能な程の存在感のある残像をだ。
 そんな百代が一瞬驚いている隙をついて、いつの間にかに真横に来ていた大河の横薙ぎをもろに喰らった。
 大河は始める前から今の方針でやると決めていた。
 大河の戦法は基本的に相手の隙をついて戦うテクニカルタイプだ。
 その戦法を好むのは大概パワー面に劣る者が好む傾向だが、実は大河はパワータイプだ。
 しかし真正面からのぶつかり合い等猪でも出来る、真に極められたテクニックタイプにそのままではいずれ敗れ去るだろうと昔指摘された事があるので、相応の年月の末相手をかく乱してその隙を突いた上でのパワータイプに許された渾身の一撃を叩きこむのスタイルに落ち着いたのだ。
 大概の相手はこれで沈むのだが百代は違う。

 「クッ、フフ」

 大河の胴を喰らい軽く吹き飛んだ百代は、見事に着地する。
 あれだけの一撃を受けても直、まるで効かなかったように立っていられるのは百代が修得した『瞬間回復』のおかげだ。
 一定以上の耐久を越えるダメージを受けた時、かなりの気を使って負傷した部位を瞬間的に回復させる技だ。
 ただ相当な気を使うので、百代並みに莫大な気をその身に持ちえていなければ、実戦中には薦められない燃費の悪い技でもある。
 武神と謳われている彼女をもってしても、最高28回しか使えないらしい。逆を言えば28回も使えるわけだが。
 その内の1回だけを使って無事立っている訳だ。

 「それが噂の瞬間回復、すごいわね」
 「凄いのは貴女じゃないですか、大河さん。今では最低限の鍛錬しかしていないって言うのに、あの力強さ。瞬間回復を使ったのなんて、揚羽さんとの決闘以来ですよ!」

 瞬間回復を使わなければならなかった強者との戦いに、百代は意気高揚としていた。
 そんな嬉しそうに不敵な笑みを浮かべる百代とは対照的に、大河はいたって冷静沈着だ。

 「楽しそうに笑うのは百代ちゃんの自由だけど、今は勝負中よ」
 「なっ!」

 対峙している百代は、自分の前で霞のように消えて行く大河を見て驚く。
 そうして目の前から完全に消え去ってから、背後から大河が来る。

 「ふっ」

 それを裏拳を撃ち込んで霞へと消し去る。

 (矢張り残像、そして―――)

 そして間髪入れずに、全方位から大河の残像が百代に襲い掛かる。
 百代はそれらを火の粉を払うように消し去っていく。

 「何のつもりですか、大河さん。残像だけではダメージは来ません、よ!!」

 気を込めた両腕と闘気を使って風を起こす様に回転させて、全方位から常に襲い掛かって来る残像をまとめて消し飛ばした。
 当然その影響により、百代を中心にちょっとした砂嵐が起きた。
 そのせいで、一子を含む見学者に被害――――は出ていない。
 2人の戦いによる余波で周囲に被害を出さないために、10人ほどの修行僧たちにより、事前に結界を張っていたのだ。
 まぁ、ちょっとした砂嵐程度に後れを取る程、川神院の修行僧達は柔くはないが。
 そして当の本人たちの1人である百代は、自分が結果的に起こした砂嵐の中で目をつぶりながら気配察知の感覚を研ぎ澄ませていた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 先程からの大河の戦法に対応するために、気配察知を高めた上で、残像でかく乱させないためにわざと砂嵐も晴らさないでいるのだった。
 とは言え相手である大河自身も、自分に隙が出来ないと攻撃してこないだろうと考えていると、何と大胆にもこの砂嵐を突っ切り、自分目掛けて突進して来たのだ。

 「先程とは違いある意味正面からなんて如何したん――――何!?」

 気配察知を続けていたからこそ気付けたことだが、真逆からもう1人の大河遅れて迫って来た。
 この事に、百代は新たに軽く驚いた。
 闘気だけで作られた残像であれば砂嵐の壁を乗り越えられない。
 つまり本人とは別の大河は、砂嵐の壁を突き破れる強度を持った実態ある残像と言う事に他ならないからだ。

 (遅れて来たと言う事は最初が残像?)

 緊急的にそう判断した百代は、遅く来た方の速度に警戒してか、最初の大河を無視した。
 しかしそれが間違いだった。

 『ガオぉおおおお(あ゛あ゛あああああ)ーーーー!!!』
 「なぐっ!!」

 此処で一番最初に来た大河から、冬木の虎の大咆哮が百代の聴覚目掛けて炸裂した。
 今週の早朝時に見せたあの時とは違う。これこそ真の『冬木の虎の大咆哮』である。
 如何やら大河はある種の賭けとして、自分である本体が最初に百代目掛けて突っ込んで行った様だ。
 そして勿論この機に畳掛ける。
 精神状態と体の中の気の廻りを狂わされた百代を、宙へ向かって蹴り上げる。

 「クッ」
 「まだよ!藤村流夜叉落とし!」

 自分で蹴り上げて自分でたたっ斬りながら突き落とすと言う、かなり乱暴かつ雑な技だ。
 しかしそれもそのはず、藤村流と言うのは藤村雷画の全盛期時代に今では元武神と呼ばれている川神鉄心と互角の戦いを繰り広げた折に、当時は我流剣術・空手と呼ばれていた雷画の戦闘技術も鉄心に通じるのであれば流派を名乗っていいのではと言う声から後押しされて、今では藤村組の組員の戦法はほぼ全員藤村流である。
 しかし雷画からすれば別に武を極めようとしたのではなく、あくまでも手段に過ぎないので今でも洗練されずに雑なままなのだ。
 けれども、技は雑であるが威力効力が高いのも確かな事実なのである。
 故に大河は、この場でこの技を使う事を選択した事に躊躇いは無い。
 だからといってこの技が早々決まると限りはしない。

 「川神・・流・・・大蠍撃ちぃ!」

 百代は全身の気の廻りが不安定でありかつ、宙に浮いている足場も無い状態で、強引に体を動かして大河の技を迎撃した。

 「む!」
 「くぅっ!」

 しかし強引である事には変わらないので、技の威力も弱くなり、気が込めてある大河の足裏で受け止められた。
 けれども、大河の技の威力を落とす事にも成功した。
 そうして互いに決まり手のないまま着地したが、その時点でも百代は体をふらつかせていた。
 気の廻り自体を狂わされたので、平衡感覚は未だに狂ったままだ。
 そんな百代とは対照的に、大河は未だに体の何所も痛めてはいない。
 勿論、未だにチャンスは続いているので今度こそはと、百代目掛けて木刀を突く構えのまま突っ込んで行った。
 そんな大河を迎撃すべく、体を安定させるために片手を地に着け、もう片方の手に気を込める。

 「藤村流――――」
 「川神流――――」

 そして互いに近距離に迫った時に技を繰り出した。

 「――――鬼穿ち!」
 「――――致死蛍!」

 強烈な気弾と受ければ貫かれるのは当然の突きのぶつかり合いは、周囲に衝撃波を生み出して結界に罅を入れる。

 『~~~っっっ!!』

 そして当然強烈な技がぶつかり合った上で威力が同じであれば、その反動で両者が後方に吹き飛ぶのも必然だ。
 そうして両者は立ち上がる。
 百代に至っては、漸く平衡感覚が戻って来た様だ。

 「やるわね百代ちゃん」
 「・・・・・・ふぅー。――――大河さんこそ、とても最低限の鍛錬程度とは思えない位の技の練度ですよ」
 『でも――――』

 これで周りが終わったのかと思っていたが、中心の2人の気がさらに高まった。

 『――――まだまだこれから(よ・です)!』

 そのまま両者は戦いを再開して行った。


 -Interlude-


 夕方。
 百代に鉄心、ルーに一子の4人は門前にて、大河の見送りに来ていた。

 「今日はすまなかったのう。せっかくの休日を川神院(うち)のため消耗させてしまって」

 あの後百代と暫く戦ってから昼食を挿み、川神院の修行僧達とも稽古をしていたのだ。

 「いえいえ!私もこうして久しぶりに川神院で体を動かせたので、充実した一日でしたよ」

 大河の態度に安堵する鉄心。

 「それに一子ちゃんとも触れあえたしね!」
 「わふぅ~」

 大河に顎を撫でられて癒される一子。
 まるで飼い主と飼い犬の様だ。

 「ルー師範代も、私が武道四天王の一角を努めていた時比べてより強くなって・・・・・・ポイントはそのポーズですか?」
 「そうだネ!この態勢は私にとっては最大に気の廻りをよくするからネ」

 そうして最後に百代に向いた大河は、唐突に謝る。

 「今日はごめんなさいね」
 「な、何をいきなり・・・!?寧ろ良い経験を積ませてもらえた上に楽しかったですよ?」
 「でも完全燃焼じゃないでしょう?正当な真剣勝負じゃないもんね」
 「う゛」

 百代は図星を突かれたように言葉を詰まらせる。

 「とはいうモノの、百代ちゃんの全力を受け止めきれて尚且つ時間帯が似てる人と言えば・・・・・・やっぱり士郎だけなのかしら?」
 「衛宮クンかい?彼が強いのは知っていたがそれほどとは初耳ですよネ?総代」
 「いんや、儂は知っとったぞ。雷画に会うたんびに衛宮士郎()の自慢話を無理矢理聞かされ取るからのう」

 耳に胼胝(たこ)ができる位聞かされたわいと嘆息する鉄心に、そんな雷画を容易に想像できる大河は思わず苦笑する。

 「彼は投擲術に弓術、射撃系の才に関してはモモでも追いつけるか判らないほどに絶大じゃが、その代わり武器を持とうが持つまいが接近戦については才能は無いらしい」
 「その分と言うワケでは無いですけど。士郎の体はとんでもなく無理無茶が利く素材の様で、才ある武人でも体が壊れるんじゃないかと言う独自の鍛錬方法で、地力を何所までも愚直なまでに鍛えていますから、基礎攻撃力・防御力は百代ちゃんを確実に上回ってると思うわよ」

 鉄心の説明を大河が受け継いで話した。

 「確実とは言うけど、その根拠は何かナ?」

 百代の強さを十分知っているルーとしては、信じられない思いと興味心が混ざり合っていたので聞いたのだった。
 決して嫌味などは無い。と言うか、彼には嫌味など言えるのかも疑問だ。

 「私の気を込めた全身全霊の斬撃を、士郎は片腕だけで受け止めたんですよ!しかも無傷で。将来のなら兎も角、現時点での百代ちゃんにそんなこと出来る?」
 「・・・多分無理ですね。――――衛宮が強いとは少し前から解って来たばかりでしたが、まさかそこまでの強さを持っているとは・・・・・・!」

 大河からの言葉を受けて、百代の中で士郎がロックオンされた瞬間だった。
 その証拠に時間も考えずに再び戦意が高揚しているのは、周りの4人からしても明らかだった。

 「けどね、百代ちゃんも知っての通り。士郎は女の子に攻撃することを良しとする性格じゃないから、説得は現時点で厳しい――――いやー、無理ね」
 「そうだった!・・・クッ」

 大河の言葉に今思い出したと言わんばかりに、百代は露骨に悔しそうに唇を噛む。
 当然だろう。全力を出してはしゃげそうな強敵が違う街違うクラスとは言え、それほど遠くない場所に居るのに手が出せないのだ。
 手が出せない理由はあるが、百代の場合自業自得によりそれを複数にして自爆状態となっていた。

 「私も一応説得してみるけど、期待しないでね?多分――――いや、絶対無理だから!」
 「はい・・・」

 大河の断言ぶりに、百代は意気消沈させながら肩を落とした。
 そのまま他に少し話をしてから、大河は川神院を後にした。
 
 

 
後書き
 大河の落ち込みから復帰の行については、如何かアレでご容赦くださいm(__)m
 因みに零観も元武道四天王と言う設定です。
 この設定を何時か使うかは未定です。

 運命の夜まで、あと二日。 

 

第13話 野獣の狂宴

 翌日。
 百代が早朝に通わさられる様になったから三日目。
 今は3人揃って朝食中だ。
 そして勿論今日もスカサハは居ない。

 『・・・・・・・・・・・・』

 そんな中で3人は珍しく、静かに箸を進めている。
 そこで百代が大河を見た。

 「・・・・・・・・・(チラッ)」
 「・・・・・・・・・・・・・・・(やっぱり無理だった、ゴメンね)」
 「・・・・・・・・・(ズ~ン)」

 見られた大河はアイコンタクトで、士郎の説得が無理だった事に謝罪をした。
 これによって、百代は心の底で溜息をついた。
 そんなやり取りを一見我関せずと箸を進める士郎だが、アイコンタクトの内容には気づいていた。
 気づいていたが敢えて知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。
 そんな風に今日も始まった。
 因みに今朝は、士郎の事が気になって掃除の内容が雑になり五百円だった。


 -Interlude-


 「へ~、昨日は姉さん、元武道四天王の1人と戦ってたのか」
 「そうなの。衛宮先輩のお姉さん的存在の藤村大河さん。すごく強かったわ~。私も一日でも早くあんな風になりたいわ!」

 大和に説明し終えた一子は、勇往邁進と繰り返しながら鍛錬に戻った。
 一子から話を聞いた大和は、自分のファンである女子生徒に囲まれちやほやされて喜んでいる百代を見て言う。

 「それにしては朝あった時の姉さん、不機嫌そうにしてなかったか?」
 「多分、衛宮先輩の説得に失敗したんだと思うわ」
 「説得?」
 「うん。大河さんが言ってたのよ。地力である基礎攻撃力・防御力については、衛宮先輩はお姉様を上回っているって。自分の知る範囲でお姉様の相手をしてる時間に余裕が作れる相手としたら、衛宮先輩位だって」

 大和の疑問に一子は、ダンベルを上下させながら淡々と説明する。
 実際に言わせてもらえば、弓道部副部長と言う立場に加えて仕事・家事もある上、魔術師としての顔もある。単に大河が把握していないだけで、士郎の一日は一般人から見れば結構多忙な方だ。
 しかしそこには注視するはずも無い大和としては信じられなかった。
 自分の姉気分である現武神の規格外なまでの強さは、よく一緒にいる自分達も知る所である。
 そんな圧倒的存在を上回る強者が、同い年にいるなど誰が信じられようか。
 故に、失礼ながらも大和は、その大河さんと言う人が衛宮先輩を贔屓しているだけだと、心中で勝手に結論付けるのだった。
 まぁ、戦闘狂(バトルジャンキー)では無い士郎からすれば、その様に結論付けてくれる勝手さこそ最善であるのだが。
 そして話題のほぼ中心位置にいる当の本人は、可愛い自分のファンに囲まれながら嫌な事を忘れようと努めているが、何方にしても昼休みには嫌でも思い出してしまう。
 何故なら、今日も彼女のカバンの中には士郎お手製の弁当があるのだから。


 -Interlude-


 放課後。
 士郎は今日も、毎週一日だけの家庭科室での料理教室を進行させていたが、それも終わった。
 何時も士郎は見本として多めに作るので毎回余るのだが、今日も例の漏れなかった。
 品によって行く所は異なるが、今日は第一茶道部室で活動している茶道部におすそ分けとしてしに行っていた。
 部室前に着た士郎はドアをノックする。

 「はい?どなた~?」
 「3年の衛宮だk――――」
 『いらっしゃい(ませ)!衛宮(君・先輩)!!』

 全て言い切る前に勢いよくドアが開き、着物を着た女子生徒達が笑顔で出迎えて来る。
 緊急で変わる場合もあるが、士郎の料理教室は前日の放課後などに料理部の部長或いは副部長の携帯にメールが送られる事が通例に成っている。
 それが今では全生徒の常識とまでは行かないが、知る人の間では常識となっていた。
 そしてたまにおすそ分けが来る茶道部員達も知り得ていた立場だったので、士郎の訪ねて来た声に瞬時に反応してドアが開かれたと言うわけだ。
 理由としては、士郎の料理の腕のとんでもなさはそれこそ新入生以外では常識になっているので、料理目当てと言うのもあるだろうがそれだけでは無い。
 茶道部の部員たちの中に『衛宮士郎様愛好会』の会員は居ないモノの、部長、副部長ともに士郎のファンでもあるのもあった。
 勿論ナチュラルに鈍感な士郎はそんな事に気付けないので、料理目当ての反応だと勝手に思っていた。

 「今日は和菓子なんだが、いるか?」
 「勿論頂きます!」
 「ありがとうございます!衛宮先輩!!」

 士郎のおすそ分けに大げさにお礼を言う副部長や部員にも慣れたもので、その勢いに引きはしないが僅かな苦みが混じった笑いをする。苦笑とまでは行かない。
 そんな様子を座ったまま覗ける位置にいたのか、金髪長髪美人のクリスが興味深そうに見ていた。
 勿論視線に鋭い士郎は直に気づく。

 「ん?君は確か先週の金曜日に2-Fに転校して来た・・・」
 「えっと、クリスティアーネ・フリードリヒです。エミヤ先輩でしたか?初めまして」
 「なるほど。3年の衛宮士郎と言う。こちらこそ初めまして。仮入部か?」

 それをタメである茶道部部長に聞いた。

 「見学と言ったところね。日本の文化に多く触れてみたいらしいの」
 「ふむ」

 クリスの事は、噂である程度聞いていたので驚きも感心も無い。ただ――――。

 (日本を誤解した外国人は確かに茶道(こういう)のは好きだろうな)

 と。何となしにそう感じる士郎だった。

 「さて、俺の様はもう済んだから行くよ」
 『もうですか?』

 士郎が茶道部室から出ていくのが名残惜しいのか、女子部員達(と言うか全員女子)が寂しそうな顔を作る。

 「えっ、あっ、いや」

 女性の押しに弱い士郎は、茶道部部員たちの顔を見て困惑する。
 しかしそこで部長が助け舟を出した。

 「ほら貴方たち、衛宮クンを困らせないの!」
 『すいませ~ん』

 茶道部室の頭である鶴の一声により、部員たちは渋々引き下がった。
 しかし、部員達を窘めてくれたと士郎が部長に礼を言ってる後ろで、部員たちは部長に恨めしい視線を送っていた。

 (((((いい子ぶっちゃって、部長の方が口惜しいくせに~)))))

 そんな周りの反応について気づけない以前に士郎の人気度を知らないクリスは、士郎の和菓子を堪能していた。

 「ん~♪この和菓子の味は凄まじい。話に聞いていた以上の味の深みだ・・・!」

 そして勿論クリスの感想など気にしていない士郎は、ドアノブに手を掛ける。

 「それじゃあ、それにお客さんの様だぞ?多分京の奴だ」
 「ん?京・・・?」

 そうして士郎がドアを開くと、丁度ノックをしようとしていた瞬間の京が立ち止まっていた。
 自動ドアでもないのに勝手に開いた事に、少なからず驚いている様だ。

 「な、何かと思えば、士郎さんか」
 「気配で気づいてただけだ。――――それじゃあ、俺は行くから」

 京とドアの間を縫って、士郎は茶道部室から出て行った。


 -Interlude-


 夜。

 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎は魔術師姿で夜の街を探索をしていた。
 とはいうモノの、スカサハから最初の報告を聞いてからもうすぐ一週間も経過していようとしているのに、未だに手がかりを殆ど掴めていないのが現状だった。
 スカサハのある事情――――この世界に転移して来てしまった後、彼女にはあらゆる呪いじみた制限がかかったのだ。
 その制限により、最初は衛宮邸の敷地内から一歩たりとも出られないなどの鬱陶しいほどの呪いが幾つもあったが、士郎の協力も含めて時間を掛けて一つ一つ解呪していった結果、かなりの制限を消す事に成功したのだ。
 しかし、未だに解呪できないモノがある。その内の一つが張っている結界からの感知が大幅に遅れるモノだ。
 勿論今も解呪し続けているが、直に解けるモノでは無いのが面倒なモノで、如何してもまだ時間が必要の様なのだ。
 それ以外も重要な制限があるのだが、今は割合させて頂く。

 閑話休題(そして話は戻る)

 そう言う事情もあり、どうしてもアクションが後手に回ってしまう。
 その為、情報収集や探索も成果が上がりにくいのだ。
 日々の暮らしに表情に表さないモノの、内心では焦っている。

 「このままじゃ―――最悪手遅れになる」

 そんな悪夢を現実化させないために、士郎は毎日スカサハからそれ以上探索しても効果は無いと言う念話を受けるまで続けていた。それこそ睡眠時間も当然の様に削って。
 本当は日中も目立たないように行動しようとしていたが、ほとんど効果は無いぞとのスカサハからの助言を受けて、渋々諦めたのだ。
 そんな焦りをにじませるような顔を作っている所で、魔力の気配を感知する。

 「これは・・・・・・あっちか!」

 そして士郎はその地点へ急行した。


 -Interlude-


 少々時間を遡る。
 人気のない――――いや、故意に一定以上の人数が来ない様に結界を張った雑居ビル群の裏路地に、ある共通点をもった男達10数人ほど居た。
 その光景を、やや上から俯瞰するように見続けている具象奇体は、ガイアの制限がある程度緩んだからか、何とも言えない複雑な思いをしていた。

 『イクラ・・・魔力・・・集メ・・・イッテ・・・コレハナイ・・・』

 その光景は、魔力を集める為にガイアが具象奇体に無理矢理強制させたものであって、決して具象奇体の好みでは無い。
 そしてその光景とは――――。

 「滾るぅ、滾るぞぉおおお!」
 「来いよ、もっともっと来いよ!」
 「ホリホウダイノ、パラダイスダヨォオオオオ!」
 「これが大和きゅんなら、大和きゅぅうううううううんん!!」

 性癖がノーマルの人から見れば、地獄絵図と言っても過言では無い程の光景―――即ち、大衆道世界が溢れんばかりに満ち満ちていた。
 魔術師では無い者から魔力を手に入れるのは、その者の精気を搾取して魔力に変換する必要がある。
 そしてその搾取される者達がどの様な形であれ、気が昂ぶり続けているのが好ましい。
 この光景はそんな状況を作るために行われているのだ。
 とは言っても人間には体力の限界と言うモノがあるので、そこは変換した魔力を僅かに使い、回復に回し続けているので問題は無いとの事だ。
 しかもこの辺はアウトローが溢れており、捜索願もそうそうでない事から女より男の方が良いと言うのが、ガイアから見た合理的判断・・・・・・の様らしい。
 因みに彼らは、具象奇体が召喚したゴーストによって憑りつかれているので、半ば正気では無い。

 『・・・・・・・・・・・・』

 そして魔力集めに駆り出された具象奇体は、ガイアからの制限が緩くなっているので、感情自体はある程度復帰している理由から、嫌でも見せ続けられている地獄絵図から早く解放されたいと今も願い続けていた。
 そして願いが届いたのか――――と言うか、故意にそう仕向けたので態ととなるが、その結界内に侵入者が現れた。

 「此処が魔力発生源か。――――これは人の声?そこで何をして・・・い・・・・・・る・・・・・・」

 侵入してきたのは、魔術師姿の士郎だ。
 そしてこの地獄絵図を見て呆然と固まってしまった。
 まぁ、当然の反応といっていい。
 魔術師としての探索で急行して来てみれば、大衆道世界に鉢合わせたのだ。
 誰がこんな光景を予想出来た事だろう。
 しかもそれがガイアによる合理的判断によるモノ等と、察せられる筈も無い。
 そして士郎は未だに呆然としているので判らないだろうが、今この結界内(世界)では男を見たら掘れと言うのが、獣同然となっている彼らの只唯一の行動原理だ。
 士郎は彼らを見える位置にいる。
 彼らも視界に入れさえすれば、士郎を認識できる。
 此処までくれば最早これから何が起こるか予想出来よう。
 さらには何人かが士郎と目が合った。つまり――――。

 「この滾りを沈ませろぉおおおおお!!」
 「男、男!男ぉおおおおお!!」
 「ヤッチマオウゼェエエエエエエ!!」
 「大和きゅんじゃないけど、ぺろりと喰うぅううううう!!」
 『オトコォオオオオオオオオオオオオ!!!』
 「っ!」

 新たな獲物を捕えようとする獣たちは、強烈な勢いで士郎に突っ込んで行く。
 その現実に急遽復帰した士郎は、何時もなら無駄なく最小限の動きで躱すところだが、今回に限っては大きく隙を見せないように全力で躱して距離を取った。
 何せ捕まれば何ををされるか解ったモノでは無い。
 だって全員目が狂気に彩られてるんだから・・・!

 「と、ととと投影、開始(トレース、オン)!」

 身の危険を感じ、当身や手刀で気絶させようと試みても厳しいと判断した士郎は、こんな戦闘?で投影魔術を使う事を迷わず選んだ。

 (この状況を打破する剣は――――検索、検索、検索・・・・・・該当アリ!)

 自身の剣の丘に埋没して引き抜いたのは、昆吾の神を祀って作らせたと言う八振りの内の二本だ。
 こんな戦闘で。
 そしてすかさず真名解放に至る。
 こんな戦闘で。

 「悪霊屈服(却邪)!」
 「ォオオオオオオオオ」

 却邪は、悪霊などに憑かれた者達を悉く平伏させた逸話を持つ。
 これにより、士郎に向かって来ていた男たちは悉く平伏した。1人を除いて。

 「魍魎逃避(滅魂)!」
 「ォオオオオオオオオオオ」

 滅魂は、夜にこの剣を持っていると、それを見た魑魅魍魎達は恐れて姿を消したと言う逸話を持つ。
 本当は滅魂だけでよかったと思えるが、士郎としては万全を期した。
 だって身の危険を感じたから。
 そして結果、ここにいる全員からゴーストたちが消えて行った。
 そうなった事で、全員気を失った。1人を除いて。
 たった1人だけ士郎に突っ込んで来る男――――板垣竜兵だ。

 「滾っがほっ!!」

 それを士郎は、何時もより強めに鳩尾に正拳を打ちこむことで、迎撃して気絶させた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・疲れた」

 それがこの下らない戦いを終えた後に、士郎が最初に発した言葉だった。
 だが、魔力が発生していた事も事実なので、ある程度調査しながら警察と病院に連絡した。
 しかし、竜兵だけはこのまま連れ帰っても大丈夫だろうと判断して、板垣家に連れ帰った。
 お姫様抱っこで。
 だって、おんぶで連れ帰ってる途中で意識を取り戻されたら、後ろから襲われるもの。
 だが士郎は気付けなかった。
 この態勢で板垣家へ竜兵を連れ帰ると、それを見た亜美と天から『士郎が男に目覚めて竜兵と恋仲になった!?』と、誤解された。
 そしてその誤解を解くのに、更に疲れる羽目になった。


 -Interlude-


 士郎がそうして気苦労をしている時、具象奇体は先程とは別の地点にいた。
 士郎が投影魔術を行使する前に、とっとと退散していたのだ。
 とは言っても、ガイアの制限による強制だが。

 『・・・・・・フフフ・・・フフ・・・』

 それでも具象奇体は気持ち的に、ほくそ笑んでいた。
 ガイアの強制が緩む日を虎視眈々と待っていて、そして今日遂にその日を迎えたら、今迄とは精度が低く態と魔力が漏れるようなお粗末な結界を張って魔術師に気付かせる目論見に成功したのだ。
 妖術師としてあんなお粗末なものは問題外だが、今の彼女(・・)は兎に角自分を魔力集めに強制させて上で、ある英霊を召喚させて操ろうとしていることが気に入らないのだ。
 兎も角、思惑は一応上手くいった。
 これにより、ガイアに一矢報いれれば御の字と考えているのだ。
 けれど彼女はこうして魔力集めに駆り出されている間もある事が気になっていた。

 (ガイアに遠回しの手順を踏ませるなど、一体誰だ?いや、誰がこんな事(・・・)が出来るのだ?)

 ガイアの世界に干渉する力は世界に応じて違うが、それでも代理人の戦闘力に関連する魔力によるバックアップは相当なモノ。
 それをかなりの制限をするなどと、根源の渦に至った魔法使い達ですら厳しいものだ。
 その正体に彼女は興味が尽きないでいた。 
 

 
後書き
 運命の夜まで、あと一日。

 上から竜兵、変態の橋にて風間を衆道世界に誘うと声を掛けていた変態、ルディ、A-1の弁慶ルート及びA-2の紋白アフタールートで大和に唇型のチョコレートらしきものを送ったE組男子、になります。 

 

第14話 運命の夜・第2夜

 
前書き
 第1夜は、呪椀のハサンが百代を暗殺しようとした日の事です。
 今回のを入れて、2回~4回位に判れると思います。
 ではどうぞ。 

 
 翌日。
 百代は士郎の鍛錬に興味を出したのか、自分の最低限の鍛錬をいつもより早く、そして雑に熟してから衛宮邸の敷地内にある道場に行き、中を覗いた。

 「ここか・・・なっ!?」

 百代は道場内で鍛錬をしている士郎を見て驚いた。
 別に士郎の鍛錬内容を見て驚いたのではない。
 確かに士郎の鍛錬方法は凄まじいが、百代が着眼したのは其処では無い。
 百代が驚いたのは士郎の鍛え抜かれた肉体だ。
 士郎は着やせするタイプで、夏服でも見える範囲が限られる部位でも、そこそこ鍛えてある程度にしか見えない。
 そして何よりも水泳時は自意識過剰と言う事ではないが、自分の体を見られたら周りを怖がらせるのではないかと勝手に考えた士郎は、気でコーティングする事により、そこそこ鍛えている程度にしか見えない様、偽装し続けて来たのだ。
 百代が、士郎は実は強いのではないかと疑った切っ掛けは弓道部部長でありクラスメイトの弓子からの話で出て来る弓術の腕であり、決して士郎の鋼を纏い着ている様な肉体を見た判断では無いのだ。
 つまり、彼女は士郎の本来の鍛えぬかれた体を見たのは、今日が初めてだった。
 しかもその衝撃度たるや、予想外な程の衝撃度の様だったらしく、百代は頬を軽く赤く染めて見惚れてしまっていた。少なくとも普段の彼女らしくない位には。

 「ん?もう鍛錬が済んだのか」

 自分に視線を送ってくる百代居気付いた士郎は、一旦鍛錬を辞めて百代に近づいて行った。
 そんな士郎に、百代はハッとして後ずさる。

 「んな!?上半身裸姿で近づいてくる奴があるか!」
 「・・・・・・悪かったよ。けど、川神は見慣れてるんじゃないか?男の半裸なんて」
 「っ・・・・・・・・・当然見慣れてるさ!けどマナーはマナーだろ!?」

 百代に指摘された士郎は、確かになと謝罪してから鍛錬に戻った。
 そして指摘した当人と言えば、何故か困惑していた。

 (衛宮の言う通りだ。如何して私は上半身半裸で近づいてきたとはいえ、衛宮にあんな風に当たったんだ?)

 自分の先程のリアクションに、百代は自分自身の事なのに困惑し続けていた。
 因みにその事を引きずって、今日も五百円だった。

 -Interlude-


 百代が川神院に戻ってから少しして、スカサハが朝食を食べに来たので昨夜の事で話をしている。

 「――――ゴーストの数に精度と言い、相当な妖術だな。現代の魔術師では特化型や大魔術師クラスでなければ行使不可能なレベルさ」

 そのままスカサハは、最初こそは戸惑ったが今では好物となっている納豆を、未だ温かいご飯と一緒に口にかき込んだ。

 「そんなスペシャリストが師匠の制限と言う理由あれど、今までほとんど所在を嗅ぎ付かせなかったにも拘らず、如何して昨夜になって急にあんな魔力漏れがするお粗末な結界をしたんですか?」
 「・・・・・・・・・・・・(←咀嚼中)。――――そこまでは判らんが、気が緩んだのではなく何かしらの意図を以て故意に及んだと言うのが私的な感想と言うより・・・・・・(←咀嚼中)女の勘だ」
 「そうですか」

 理由が女の勘と言われてしまえば、士郎としてはこれ以上の質問は是非も無い。
 本来の生まれたあの世界では、良くも悪くも女の勘に関わって外れた事など、見た事が無かったからだ。一時期、多くの女性に囲まれて生活していた士郎ならではの論理であった。

 「・・・・・・(←咀嚼中)とは言え故意にしろ緩んだにしろ、事態は大きく動いたのだ。正体が魔術師か若しくは別の何かまでは今でも判らんが、近いうちに動きがあるかもしれんからな。夜の探索は今まで以上の装備の準備などを怠るなよ?――――・・・・・・・・・(←咀嚼中)」
 「勿論です」

 こうして、スカサハとの昨夜の考察はひとまず終了した。


 -Interlude-


 士郎は登校中に、風間ファミリーならぬ葵ファミリーに遭遇して一緒に行く事になった。
 そんな中、小雪はまるで恋人のように自分の片腕を士郎の片腕に絡める様にした。
 とは言ってもこれも何時もの事なので、当人である2人共然程気にしている様子はない。
 士郎は小雪を甘えん坊の妹の様に思い、小雪は士郎を実に頼り甲斐があり大好きな兄と見ているので、両者に異性と言う感覚は無い。
 ただそれを冬馬と準は微笑ましく見ているが、冬馬だけはこの時ばかりは小雪に嫉妬していた。
 しかし自分を無理に突き通す訳にはいかない。自分の本心を士郎に知られる訳にはいかない。
 今の自分と士郎のこの距離感を壊したくないからだ。
 そんな後ろから複雑な思いを抱いている冬馬の気持ちをよそに、小雪はある事に気付く。

 「シロ兄、元気ない?」
 「ん?あー、ちょっとな」

 これを質問してくる相手が違えば士郎は誤魔化すなりしたが、生憎とある程度小雪たちには自分が無理をする人間だと知られているので、変に誤魔化すよりも素直に認めるのだった。
 とは言え何が原因で気落ちしているかについて話す事では無い。
 それ以前に思い出したくも無い、あんなおぞましい光景など口にするのも憚りたくなるものだった。
 故に、それだけは確かだった。
 別角度から見れば魔術師のこと故に隠したともいえるが、それは無かった。
 ある事情により冬馬達は魔術の事を知り、士郎に尋ねた時があった。
 それに驚いた士郎は、最初に誤魔化そうとしたが誤魔化しきれずに仕方なく教えた事があった。
 勿論魔術の常識を教えた上で、3人には魔術回路が無いので使えないとも教えたのだ。
 士郎としては魔術世界の事など伏せておきたかったが、知られてしまえ最低限の常識と深く関わらせない様に言い包める事で、3人を守ろうと考えたのだ。
 とは言えどういう訳か、士郎がこの世界にやってく最低でも一世紀以上前に魔術協会は解体されており、野に降りて好き放題仕出した魔術師たちも誰かに悉く殲滅されて、その数を減らしていた。
 少なくとも士郎の知る限りはだが。
 そしてスカサハの事も士郎の魔術師の師匠であるとだけ説明しているので、アルバと言うのが本名だと教えているので、影の女王の事も知らないままだ。

 閑話休題(そして話は戻る)

 そんな事情もあってか、別にその事で気落ちしているのではないので教えてもいなかった。
 そしてそんな士郎とは対照的に、小雪は非常に機嫌がよかった。

 「~♪」

 その理由は、明後日からの連休を利用した三泊四日の小旅行に思いを馳せているからだ。
 小雪にとっては士郎に救い上げられまた、冬馬達の悩みを解決後の毎日が楽しくて仕方がないが、ゴールデンウイークにある連休を利用した小旅行が、彼女の中での楽しみランキング上位に入るモノだった。
 その様は、誕生日を楽しみにしている子供の様な原風景であった。


 -Interlude-


 昼休み。
 士郎が何処かに用事でもあるのか昼食後に教室を出て行き廊下を歩いて行く所を、京極は真剣な目つきで士郎の後ろ姿を見送っていた。

 「ふむ・・・」

 一見すれば何時ものような人間観察とも取れる表情だが、中学からの付き合いである友人を心配しているだけだった。

 「何してるんだ?そんなトコで突っ立てて」

 そんな京極に、後ろから百代が呆れ顔で話しかけて来た。

 「武神か。特段、何かをしていた訳では無い。ただ士郎の様子がいつもより覇気が無いように感じたて、見ているだけさ」
 「・・・・・・・・・ふーん」

 百代としても京極の見解には同意出来た。
 士郎は今朝から何処か、気落ちしている部分があったからだ。

 「・・・武神も衛宮を心配して廊下に出て来たのか?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 京極に一瞬何を言われたのか理解が追いつかない百代は、思考が停止した。
 そうして数秒間を置いて、百代の思考が復帰して理解が追いついてきた処で慌てて否定した。

 「な、ななな何で私が衛宮の事なんて心配しなきゃいけないんだ!私とアイツの接点なんて、借金の一部肩代わりとテスト勉強時に教えてもらってる時ぐらいしかないだろ!!」
 「それはそれで問題に思えるが・・・。――――朝の件については衛宮から既に聞いているから、その当たりで聞いたのだが・・・・・・・・・まさか衛宮の事が好」
 「ぅきな訳無いだろうがぁあああああああ!!!」

 京極の言葉に百代は頬を軽く朱に染めて、ヤケクソ気味に逃げるように廊下を走り去っていった。

 「ふむ」

 残された京極は、右手を顎に当てて考える姿勢を取る。

 (まさか川神に脈ありまでのルートを既に刻んでいるとは・・・。流石は衛宮だ中々や――――いや、遅すぎだな。何時もの衛宮ならそれこそ秒速で落としても良さそうなモノなのに、二年以上もの時間を要するとは調子が悪いのか?友よ)

 酷い言い様である。
 京極は、先程の士郎の背を見送るような姿を心配していた時とは翻って、かなり身勝手かつ乱暴な考察を口には出さずに心中で思った。
 五年以上の付き合いをしてきた友人にまでそう言った考察結果を打ち立てる辺り、京極彦一と言う人間は矢張り、冷酷冷静な知的好奇心先行型の残念なイケメンのようだった。
 そして走り去って人気のない所まで来た百代は、自問自答中に陥っている。

 「――――私と衛宮はそもそも武に対する考え方が対局の位置にいるんだぞ?それなのに好意を持つなんてありえない!だと言うのに京極の奴め~!」

 訂正、自問自答と言うよりも言い訳だった。

 「――――確かに私は衛宮の奴を意識している。そこは認めよう。しかしあくまで未知の戦闘力の高さへの興味から出会って、異性としてなんて断じてあり得ん!そうだ。朝迫って来た衛宮の奴が悪いんだ。あいつあんなに細身で服の下からは判りにくいのにあんなに筋肉質なんて聞いてなかったぞ!?そう、あんなに良い体・・・・・・・・・・・・・・・ハッ!?違う違う、絶対に違う!!確かにそれなりに顔もいいし頭もいい、戦闘力も最低でもマスタークラスの実力もあるのだろう。料理も美味しいし、勉強の時も頼りなるが・・・・・・・・・・・・」

 百代はそうやって昼休みの間、予鈴が鳴るまで1人言い訳をし続けていった。


 -Interlude-


 夜。
 毎週通り衛宮邸に泊まりに来ていた3人は、夕食後に居間で明後日からの小旅行の計画の最終確認などを和気藹々と話し合うと言う家族団らんのような光景を築いていた。

 「神奈川県内だからこそ行った事が無かった訳ですが、矢張り早朝からの方が良いのですか?」
 「モッチローン!そうした方が、アッチでいっぱい楽しめるでしょ!」
 「落ち着けって、ユキ。それにしても、アルバさんはご一緒出来ないのは心苦しいっすよ」
 「事情(行動範囲による制限)があってな。まぁ、今回もお前達で楽しんで来ればいい。精々土産に期待するよ」

 当のスカサハは居間から外れて、縁側で涼みんでいる。
 この時間何時もはまだ居る大河も用事があって、今宵は珍しく早々に藤村邸へ帰って行った。
 そして士郎は台所にてエプロン姿で食器を洗いながら、ある事を考えている。

 (今回の事を解決しない限り旅行なんて正直言ってられないが、如何切り出すか)

 宣言してしまえば、恐らく悲しみながらも仕方ないと3人は受け入れるだろう。
 その姿を容易に想像できる士郎は、何と言い含めようと考えていた。
 しかしその時、衝撃と轟音が響き渡った。


 -Interlude-


 少し時間を遡る。
 そこは川神市内と冬木市内の境にあるちょっとした小山。
 木々が生い茂る中腹にて、あの具象奇体はいた。
 具象奇体から離れた少し前の方に、赤い液体――――血液によって召喚陣が敷かれていた。
 その血液は如何やら、召喚陣の周りに横たわっている動物達の死骸からのモノの様だ。
 傷の痕から察するに、操って共殺しさせたのだろうと言う事が解る。
 そしてそれを強制させられた彼女は、憤慨の中で無理矢理詠唱させられる。

 「素ニ銀ト鉄。礎ニ石ト契約ノ大公。降リ立ツ風ニハ壁ヲ。四方ノ門ハ閉ジ、王冠ヨリ出デ、王国ニ至ル三叉路ハ循環セヨ」

 憤慨しているのは動物達を殺めた事にでは無い。そんな事に一々憤りを見せる程、人間出来ていない自覚は当の昔にあった。

 「閉じよ。(ミタセ)閉じよ。(ミタセ)閉じよ。(ミタセ)閉じよ。(ミタセ)閉じよ。(ミタセ)繰リ返ス都度ニ五度。タダ、満タサレル刻ヲ破却スル」

 真に憤慨している理由は、自分を触媒に確実に彼の英霊を呼び出そうとしているガイアに向けてだ。

 「――――告ゲル。汝ノ身ハ我が下ニ、我ガ命運ハ汝ノ剣ニ。星ノ寄ルベニ従イ、コノ意、コノ理ニ従ウナラバ応エヨ」

 この意、この理に従うならば応えよと言うが、彼の英霊にとっては自分と言う人質同然が居るのだから、嫌でも応えなければならない。その事にまた、腸が煮えくり返る思いだった。腸ないけど。

 「誓イヲ此処ニ。我ハ常世総テノ善ト成ル者、我ハ常世総テノ悪を敷ク者」

 とはいえ、全てをガイアの思うままにさせる事だけは防いだ。昨夜の魔力集めが夜明けまで続いていたら、彼の英霊にとっての最高ステータスで召喚されてしまっていた。
 それだけで一矢報いたと自分に言い聞かせていた。

 「サレド汝ハソノ眼を混沌ニ曇ラセ侍ルベシ。汝、狂乱ノ檻ニ囚ワレシ者。我ハソノ鎖ヲ手繰ル者」

 だが一番我慢できないのは、バーサーカーとして我が最愛の夫(・・・・)を道具のように使う事。しかもその手綱を表面上は自分にコントロールさせるのは本当に憎悪が止まなかった。

 「汝三大ノ言霊ヲ纏ウ七天、抑止ノ輪ヨリ来タレ、天秤ノ守リ手ヨ」

 召喚陣は光に包まれ、辺りを照らした。
 そしてその光の中から、どす黒いオーラが徐々に見えて来る。
 そうして光が晴れて来ると、姿が現れる。
 体格のいい巨躯に、禍々しいと言う言葉が丁度よく似合うほどの斧。
 先にあげた二つには負けるが、頭に生えている角と平凡そうなラウンドシールドも特徴的なサーヴァントだ。
 その英霊はまだ狂ってはいなかったからか、彼女を見つけるなり歩み寄ろうとする。
 しかしそれを強制させている彼女自身により、止めさせられる。

 「おお、グンヒ――――」
 「――――狂え(クルエ)

 そう命じられた途端、サーヴァントは歩みを止めて頭を抱えてから――――咆哮する。

 「ウ・・・・・・ゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 そしてその方向が辺り一帯に響かせている間に、サーヴァントバーサーカーは禍々しい斧を大地に向けて振るった。
 その威力はバーサーカー自身の足元にクレーターを作ると同時に、この山周辺一帯にも衝撃音を轟かせた。


 -Interlude-


 バーサーカーの衝撃音が響きが届いた一帯では、様々な反応を見せていた。
 此処はいい意味悪い意味区別なく集まる地、川神。
 そんな処ゆえ、騒ぎには慣れていたとしても、いくらなんでもこんな時間にと迷惑がる住人達。
 心配性な者、気の小さい者などは、大小あれど戦慄する。
 中にはその衝撃音に当てられて騒ぎ出す者達。
 衝撃音は七浜の九鬼極東本部にも届いており、何事かと調査しだす年老いた老執事達。
 現地から少し距離を離した地点にある藤村邸でも困惑している。
 衛宮邸でも浮足立つ3人をスカサハが宥め、台所にいた士郎はすぐさま自身の魔術工房に装備を取りに行く。今何が起きたのか詳しくは勿論判る筈も無いが、予想は出来たようで焦燥感と覚悟が入り混じったような表情をしていた。
 同じく現地から少し距離を離した川神院でもルーや一子、川神院の修行僧達も少なからず動揺している様だ。
 そして――――。

 時間を少し遡り、百代は風呂の中にいた。

 「~♪」

 自他ともに認められているナイスバディを、惜しげも無く湯ぶねの中に投入している。
 いや、風呂場にいるのだから当然だが。
 そんな彼女は鼻歌を歌いながらご機嫌だ。
 今日の金曜集会ではトラブルもあったが、ファミリーの頭であるキャップが町内の福引抽選会にて豪運を以て2位の箱根への三泊四日、団体様チケットを当てて来たのだ。
 朝と昼に心揺さぶられるトラブルもあったが、終わり良ければ総て良し。
 上機嫌で明後日のファミリー揃っての小旅行に、思いを馳せていた。

 「~♪・・・・・・!?な、何だ!」

 そんな風に気分よく長湯を楽しんでいる所で、外からもの凄い衝撃音が聞こえて来た。
 百代は勿論現時点でマスタークラスの中で上位に入っているので、五感も常人を遥かに超えている。
 その為、川神院内の修行僧達の困惑の言葉や、周囲の住民たちの迷惑がるぼやきも聞こえていたが、今の百代には雑音でしかなかった。
 彼女は浸かっていた湯ぶねから立ち上がり、その身を震わせていた。
 あの衝撃音を聞いた百代は、啓示を受けたかのようにすぐさま悟った。
 この衝撃音を鳴り響かせたのは、半月以上前に夜遅くに決闘を挑まれた帰り道に取り逃がした相手、いやそれと同類だと。
 あの日から数日間、同じ時間帯に同じ場所を中心に周辺を捜しまくったが、結局会えず仕舞いだった。
 その会えず仕舞いの何かが、衝撃音の中心にいるだろうと感じた。
 あの時百代は自分とは異質な未知なる波動を感じ取った。
 それが未だに何かわからないが、自分を楽しませてくれると確信した。
 大河や鉄心にルーと言った近所に住む強者は皆、役職上大怪我させる訳にはいかないので、そう簡単に真剣勝負は出来ない。
 役職とは無関係の実は強いだろうと判明した同級生には、貸しが多く付いてるので強行できずに結局戦ってもらえない。
 しかしこれは違うと言いきれる。
 根拠など無い。直感だった。
 例え川神鉄心(爺ぃ)の制止がかかろうと構うモノか!
 ただ強者を求める百代は、獰猛に嗤う。

 「誰にも渡さない、コイツは私の獲物だ・・・!」

 夜の闇は一層に深けていくが“今日”はまだ終わらない。 
 

 
後書き
 ひらがなの所を一々カタカナに変えるのがめんどかったです。 

 

第15話 VS血斧王

 冬馬達は士郎に救い上げられてから、毎日が幸せに満ちた平穏の中で生きて来た。
 自分たちのために怒ってくれた士郎の真剣中の真剣な顔など、あれ以来見て来なかった。
 先程までは。

 「それが士郎さんの魔術師としての戦闘装飾ですか」

 冬馬達の目の前には和服の上に赤い外套に赤いフードを被る士郎がいた。
 腰には二本の日本刀を掛けており、これから本当に戦いに行くのだと嫌でも理解させられた。

 「ああ、そうだ。師匠、3人を頼みます」
 「任せておけ。だからお前も気を抜くなよ」

 3人の後ろに立つスカサハは、士郎の真剣な顔に同じく真剣な顔で返した。
 それをある疑問を持った準がスカサハに聞く。

 「アルバさんは行かないんですか?」
 「師匠は行かない(・・・・)んじゃない。行けない(・・・・)理由があるんだ」

 スカサハの未だに解呪しきれていない制限の内、重要なモノが幾つかあった。
 そしてそのうちの一つが、サーヴァントと言う殻に当てはめられた英霊や神霊との戦闘、殺し合いである。
 彼方から近づこうと此方から近づこうと、まるで反発する様に、令呪により無理矢理移動させられる様にサーヴァント達から離れて行ってしまうのだ。
 無論、遠距離からの投擲や射撃も必ず(・・)外れてしまうのだ。
 これはシャドウサーヴァントを討伐しようとした時に偶然判明した事で、それ以来これも最重要事項として解呪中なのだが、これも時間を必要とするのだった。
 とは言え、それを説明する訳にもいかないが、士郎の真剣な眼差しにより相応の訳があるのだと察せられた準は、スカサハへ謝罪する。

 「すいません」
 「いやかまわん。お前の疑問も尤もだしな」
 「誤解も解けた事だし行くよ。小雪、お前も大人しく留守番していてくれ」

 そう言って士郎は小雪の頭を優しく撫でる。
 しかし小雪は一層不安になった。

 「シロ兄、絶対帰ってくるよね?ボクちゃんと留守番してるから!シロ兄の・・・この皆の家、絶対守ってるから!!」
 「ああ、約束する。俺は絶対戻って来るって」

 士郎は、本心と笑顔で小雪を安心させる。
 そうして士郎は夜闇の中に跳躍して行った。
 全てを守る正義の味方には成れなかった。だがだからこそ今は、せめて自分の手の届く範囲の者達を守り切って見せると言う信念を以て、士郎は戦場へ赴いて行った。


 -Interlude-


 士郎が家を出た頃、百代は大急ぎで身支度をして部屋を出た。
 しかし――――。

 「こんな夜更けに何所に行く気じゃ?モモ」

 百代は門を一々潜ろうと言う選択肢は取らずに、塀を乗り越えて行こうと庭に出ようとした処に同じく鉄心が居た。
 何故鉄心が先回りしているかの理由は、スカサハからの携帯の連絡により百代を見張っていてくれと頼まれたのだ。
 と言っても5秒前の事だった。
 けれど、近所迷惑どころでは無い先程の轟音にスカサハからの忠告。
 嫌でも事態は急を要すると理解させられた鉄心は、瞬時に携帯を切ると同時に今この場に来たのだ。 最初は気配を消そうかとも考えたが、部屋の外からでも感じ取れるほどの百代の気の昂ぶりに溜息をついてから、必要ないと判断して堂々と立ちはだかる様に佇んでいた。 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 しかし百代は応えない。
 答えに窮したわけでは無い。
 単に答える気が無いだけ。
 百代の思いは既に決まっているのだから。
 そんな百代に鉄心も意を介さずに質問を続ける。

 「如何したんじゃ?答えんか。こんな夜更けに顕現の参・毘沙門天(何所に行く気じゃ)!!」

 鉄心の方から火ぶたを切ったかと思うが、それは違う。
 百代の方が鉄心の質問の途中で駆けだそうとしていたのだ。
 それを読み取った鉄心の先制攻撃。
 川神流奥義の一つ、顕現の参・毘沙門天。
 0.001秒の一瞬の間に、闘気によって具現化した毘沙門天の巨大な足のより、百代を押し潰す――――いや、巨大な足の下には百代の姿はなかった。
 百代は鉄心の目の前にいたのだから。

 「川神流――――」
 「むぅ!?」
 「――――無双正拳突きぃいい!」
 「ぐぬっ!」

 百代の拳は鉄心の顎にクリーンヒットさせて、脳震盪を起こさせた。
 普通のアッパーでは鉄心の脳を揺さぶるなど出来ないので、この選択を百代は取った。
 しかも脳震盪を起こせば時間稼ぎにもなるし、冷静な判断が出来ないからと画策した様だ。
 狙い通り脳震盪によりふらつく鉄心に、百代は畳掛けずに川神院の塀を超える。

 「ま、不味い・・・」

 状況の拙さに鉄心は、ふらつく体を何とか立て直そうと試みながら焦る。
 百代を他に止められるものはルーだけだが、今は先ほどの轟音により近所の住民たちの不安を取り除き落ち着かせようと、多くの修行僧を連れ出して出払っていた。
 自身の失態に凹みながらも、極力早く体勢をを整えて追跡しようと努めるしかなかった。


 -Interlude-


 同時刻。
 藤村組本部である藤村邸でも川神院の修行僧達と同じように、冬木市内の住民たちを落ち着かせようと藤村組のNO.2である雷画の実子であり若頭こと、藤村嵐臥(らんが)が組員を率いて市内に出回っていた。
 未だ藤村組の頂点である雷画は、日本に古くから居る退魔の一族出身のNO.3の石蕗和成と、ある魔術師の家系から絶縁を言い渡されたNO.4の吉岡利信の、2人を集めていた。

 「嵐臥に同行させずにお前たちを残したわけ、分かっておろうな?」
 「勿論です、総組長」
 「若の援護と支援ですね?」

 雷画の質問に間髪入れずに答える2人。
 その内の1人である石蕗和成に向かって、雷画は頭を掻きながら面倒くさそうに言う。

 「そうだが、士郎の事をいい加減“若”と呼ぶのは止してやれ」
 「総組長の言う通りだぜ石蕗和成(カズ)。士郎はがらじゃないから止めてくれって、何時も言ってんじゃねぇか!」
 「善処いたします。それと吉岡、お前もその名で呼ぶのをいい加減改めろ・・・!」

 NO.3とNo.4と言っても、2人の間に格差はほとんどない。
 表向きの武術家としての実力も、裏側での退魔師と魔術使いの戦闘力と、相当な修羅場を踏んできた濃厚さも大体同じ位だった。
 それ故に、こんな軽口を叩け合えるのだった。

 「お前が士郎の奴の“若”呼ばわりを卒業できたら止めてやるよ!ま、今迄総組長に何度も言われて止められた事が無かったお前に、出来ればの話だがな、カズ!」
 「貴様・・・!!」

 軽口を叩き合えるが、2人はある種の犬猿の仲。
 顔を合わせて口を開けば何時でもこうなる。
 それが例え緊急時であり、雷画の目の前であろうとも。

 「お前達こそいい加減にせんかッッ!!時と場を弁えられんのか、馬鹿共が!殺し合うのも、優劣付け合うのも“今”を乗り切ってからせんかッッッ!!!」

 部下の醜態に堪忍袋の緒が切れた雷画は、怒気と闘気を込めて2人を藤村邸からたたき出す様に吹っ飛ばした。
 藤村邸の敷地外に放り出された2人は、そこで漸く頭を冷やしてそのまま現地に向かう事を選んだ。 だって、今戻ったらガチで切り殺されそうだし。


 -Interlude-


 少し遅れて九鬼極東本部。
 そこには九鬼従者部隊の序列永久欠番と二位と三位の3人の老執事達が、ある部屋に集まっていた。

 「コイツは・・・英霊だと!?」

 現地に飛ばしたマープルの使い魔に付けた映像カメラにより、映し出された動画には山中の中腹にて見た目からでも容易に解る程の荒々しい英霊が見て取れた。

 「映像も確かだ。認めがたいが受け入れなければならないね」
 「未だ魔術師の特定が済んでいないと言うのに、天は余程我々人に試練を与えたいようですな」
 「だがそんな泣き言など言ってられんだろう。打って出るしかあるまい」

 九鬼の一族と他数名以外には、ただでさえ普段から威圧的にふるまっているヒュームの周りに漂うオーラが、決意と覚悟を持ったためにいっそうに凝縮された。
 それはまるで、殺気を纏っているかの様だった。
 一般人はもとより、それなりの実力者程度でも怯えさせかねないほどのオーラだった。
 そんな剣呑さを露わにしているヒュームへクラウディオが声を掛ける。

 「待ってください、ヒューム。私も同行します」
 「無謀が過ぎるぞ?魔術師相手なら兎も角、相手が英霊では話にならん」

 クラウディオが戦闘に応用できる魔術は、せいぜい変化と言う名の身体強化と、武器である鋼糸に魔力を纏わせるくらいである。
 そして魔術も神秘も魂魄の年月の積み重ねが重要で、クラウディオは魔術師としては平凡よりも少し上位でしかない。そんな彼の魔力を纏わせた武器程度では、座にまで祭り上げられた英霊に触れた瞬間に、纏わせた程度の魔力は必然的に弾け飛んでしまうのだ。
 その上で攻撃を喰らう事に成れば、もっても二回の攻撃で殺されるのが落ちだろう。

 「自分の力不足は重々承知しています。ですからサポートに徹していくのでお願いします」
 「チッ、お前ともあろう奴が蛮勇に走ると言うのか」
 「今がその時であると覚悟したまでです」

 いつも冷静沈着で自分の分を弁えている旧知の完璧執事と目を合わせたヒュームは、珍しく深いため息をつく。

 「マープル、コイツが無茶無謀に走ったら――――」
 「――――言われずとも使い魔を張り付けて、強制退場させるよ」

 ヒュームと同じく溜息をつきながら呆れる口調でマープルが言った。

 「私はそこまで信用がないのでしょうか?」
 「「当然だ(ろ)」」

 声を揃えるマープルとヒューム。
 窮地であるから互いの事は大抵知っている。
 クラウディオは先に説明した通り基本的に冷静沈着だが、いざ腹を据えると無理無茶無謀な事を今まで何度もしてきたのだ。
 それを知っている2人にとって、()のクラウディオはまるで信用ならないのだった。

 「ささ、ゆっくりしている暇はありませんよ?行きましょう、ヒューム」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 平時の戦闘時はクラウディオがヒュームを促す事など無い。
 これだけでも頭痛を起きた時の様に、頭を押さえたい気持ちに駆られたヒュームだった。


 -Interlude-


 「この辺りだな」

 現地付近に誰よりも早く到達した士郎は、気配を隠しながら奇声と轟音を起こしている場所へ慎重に目指す。

 「アレか。・・・・・・予測は出来ていたが、やはりバーサーカー」
 「グゥオオオオオオオオ!!」

 クレーター付近の木々をなぎ倒しながら、暴れまわりながらも徐々に移動していた。

 「これ以上暴れられても周りが荒れ地になるだけだな。ここは手早く終わらせよう」

 士郎の片手には何時の間にか黒塗りの洋弓が握られていた。
 そしてもう片方は虚空にて弓を引き絞る体勢を取る。

 「I am the bone of my sword(我が骨子は捻じり狂う)――――っ!」

 士郎や英霊エミヤと特有の詠唱後、空いている手に尖端がドリル状になっている投影品を顕現させた時と同時にそれは起きた。
 自分に完全に背を向けていたはずのバーサーカーが突如として後ろ――――つまり、凶暴化した眼光をぎらつかせながら此方に振り向いたのだ。
 これには士郎も僅かに動揺して驚いた。
 生前の戦場で輝かしい武勲を上げてきた英霊なら直感などを働かせて気付く事もあるだろうが、この英霊は通常の七騎の内、最も直感に縁がない、或いは直感を働かせられなくなるクラスのサーヴァント、狂戦士(バーサーカー)である。
 そんな英霊が、それなりの距離があり尚且つ完全に視界に入っていない自分へと一切の間違いなど無く向くなどと、驚かない筈がない。
 とは言え、士郎のやることに変わりはない。
 既に準備は整っており、後は真名解放と同時に矢を解き放つだけ。

 「――――偽・螺旋剣(カラドボルクⅡ)!?」

 しかし解き放たれた直前に、バーサーカーは自身の持つ盾を士郎の解き放つ贋作改造宝具目掛けて、投げつけて来たのだ。
 とはいえ偽・螺旋剣(カラドボルクⅡ)のランクはAだ。
 それを盾で防ぐとなれば、英霊自体が手に持って使いつつ踏ん張らなければ防ぎきれないモノだ。
 故にその程度では止められず、宝具に当たった瞬間バーサーカーのラウンドシールドは砕け散った。
 けれど若干だが速度と威力も落ち、時間稼ぎにもなってしまった。
 その間にどす黒い斧に禍々しいオーラをため込んでいたようで、威力と速度の落ちた偽・螺旋剣(カラドボルクⅡ)に向けて跳躍しつつ、体全体で回転しながら叩き落とした。

 「オォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 その様はまるで、生前の嘗てに王位に就くために兄弟たちを皆殺しにした血斧王さながらだ。
 故にこの宝具の名は血塗れの戴冠式(ブラッドバス・クラウン)である。
 宝具と宝具のぶつかり合いにより、衝撃波と共に広範囲の土煙が舞い上がる。
 その中で士郎は経験則としてその土煙の中から脱出し、即座に自分の方に向いていたバーサーカーとは逆側から投影した黒鍵をバーサーカーがいるであろう地点に投擲した。

 「・・・・・・これでハッキリする筈だ」

 士郎の視力はこの世界に来てからさらに強化されているので、土煙の様な常人では視界が役に立たない状況の中ですらもよく見えるのだ。
 故に士郎はバーサーカーが今も直、背を向けていると分かった上で投擲したのだ。
 そしてバーサーカーは、土煙の中で自身の宝具の発動による反動で動きを鈍くしている所、ある指示――――具象奇体たるバーサーカーの妻のグンヒルドが、ガイアによって強制される命令に無理矢理従わされた上で、またも振り向いてから宝具である斧――――血啜の獣斧で撃ち落とした。
 バーサーカーの剛腕たるや、今の威力により土煙はすっかり晴れた。
 そして今の光景を見た士郎は確信する。

 (バーサーカーのあの動きはあり得ない!――――つまるところ、何かの支援か指示若しくは両方の加護を受けてるな)

 士郎も、古今東西全ての英霊のスキルや宝具などを知識として修めているワケでは無いのでハッキリとは言えないが、今現在対峙しているバーサーカーの狂化ランクは低くないと見える。
 バーサーカーであるにも拘らず、普通の意思疎通が可能な程ステータスの底上げには期待できないが、スキルに直感がある場合がある。しかし高すぎればそれは無い。
 ただ、サーヴァントによっては狂化と言う精神状況下でも洗練された動きを見せる英霊もいる。
 その英霊は、士郎のパートナーであったアルトリア・ペンドラゴン(セイバー)の生前の配下である湖の騎士、サー・ランスロット。
 彼の英霊には『無窮の武練』と言うスキルがある。このスキルを持つ英霊は一つの時代に置いて、自身の武練を無双にまで到達させた英雄のみが獲得しえるモノで、心技体の完全なる合一によりいかなる精神状況でも十全の武芸を発揮できる、武において真の英雄のみに許された称号でもある。
 しかしこのスキルは、直感の様な死角からの攻撃には咄嗟に行動しずらい。
 事実、第四次聖杯戦争時に不意打ち気味な征服王の戦車の蹂躙走法や、英雄王の宝剣の射出攻撃には反応出来なかったのだ。
 兎に角、バーサーカーには許されない動きを見せる場合、それらの可能性や味方がいると考えた方が良いのだが、ガイアがバーサーカーに逐一指示できる訳がないなら、何らかの加護の元だと考えるしかないのだった。

 (さて、こうなると厄介だが如何するか)

 士郎は何時バーサーカーに近づかれても言い様に、足を気で強化させながら様子を窺っていた。
 そんな時、あらぬ方向から士郎とバーサーカーの両者にとって、不意打ち気味に間に入って来た人物が来た。
 その人物とは――――。


 -Interlude-


 百代は、鉄心の妨害を振り切って衝撃音が感じられた地点に向かっていると、向かう先の地点の上空に赤黒いオーラが立ち上ったのが見えた直後に、最初の衝撃音以上の轟音が鳴り響いて来た。
 百代の勘が囁いている。
 これは地面を殴った衝撃では無く、強者同士の技のぶつかり合いだと。
 百代としては一番乗りできなかった事に軽い苛立ちを覚えたが、しかしそれも直に喜悦に変化する。

 「・・・最低1人増えた。――――つまり楽しみが倍になった様なモノだな!」

 彼女の楽しそうな笑顔には狂気が孕んでいるように見えるが、その姿は見間違いなく欲しい玩具をほぼ目の前にした子供の様な無邪気さだった。
 これにより彼女はさらに急ぐ。急ぐ理由は勿論、強者への餓えでもあるが、前回も乱入しようとした処で取り逃がしたのだ。今回こそはと、百代の必死さは何時もの倍以上だ。

 「そらッッ!!」

 百代は現地さらに近づくと、想いきり跳躍して向く敵が有ろう周辺の上空に来た。
 そこで降りて探そうと思ったが、如何やら探す必要もなさそうだった。

 「ハハ、やってるな!」

 木々がなぎ倒されている場所から、中々の風圧が空まで上がって来た。
 無論、自分たちの居場所は此処だぞと言ってるような目印を、百代が放っておく筈が無い。
 上記の事は、如何考えても百代の勝手な捉え方に過ぎないが。
 そうして自分に都合のいい風に勝手に受け取った百代は、躊躇なくその地点に飛び降りた。
 そして図らずも、百代は両者の間の地点に着地した。

 「へぇ~、お前達がこの騒動の首謀者か!」

 百代は両者を値踏みするように見る。
 その上でのパッと見の感想を言う。

 「なんでお前たち仮装したまま戦ってるんだ?ハロウィンはまだまだ先だぞ?」

 百代はマイペースにその場の空気など知った事も無く、口を開いた。
 確かに客観的に見れば、バーサーカーの格好も士郎の魔術使いとしての戦闘装飾も仮装やコスプレと指摘されても仕方がなかった。

 「さっきからダンマリしてるが、戦ってるんなら私も混ぜてくれよ、いや混ぜろ!」
 「・・・・・・・・・」

 百代の発言に士郎と言えば、開いた口が塞がらない気持ちでいた。
 ガイアの代理人の目を偽るアクセサリー型の特製の礼装を渡して対策を取っていた百代が、自分から乱入してくるとは夢にも思わなかったからだ。
 その上、発言が戦闘衝動丸出しの言葉故、士郎は頭を抱えたい気持ちに陥った。
 そんな風に士郎が悟られない様悩んでいると、百代とは別の当事者が彼女を凝視しながら呟く。

 「・・・・・・ダ」
 「あん?」
 「・・・ダ。・・・・・・血ダ・・・血ダ血ダ、血血血血血血血、血ヲ寄コセェエエエエエエ!!」

 咆哮しながら百代に狙い定めて突進していくバーサーカー。
 勿論突進だけでなく、百代を捕えたバーサーカーは躊躇なく斧を凄い勢いで振り下ろした。

 「ハハ!」

 それを百代は笑いながら躱す。
 勿論躱されてもバーサーカーの攻撃は続く。
 振り上げ振り下ろし横に薙ぐようにするなど、百代を亡き者にするために乱暴に斧を振っていく。
 斧を振る度に大気は悲鳴を上げたり、地面はダンダンと抉れた跡が増えていく。
 勿論斧の豪快な攻撃が止まないと言う事は、百代は未だ生きているのは勿論、掠りもしていない。

 「その巨体とそのパワーで大した速度だが、当たらなければ意味がない。――――今度は私の番だ!」

 バーサーカーの連続攻撃を躱す仕切るために距離を一旦離した百代は、今度は自身が突進した。
 百代から見て、このコスプレイヤーの実力は間違いなくマスタークラス。
 とは言え、その中で上位なのか下位なのか判らないのが現状だ。
 そして百代は尻上がりだ。戦闘をより長く楽しむ為、戦闘欲を満たす為、彼女は無意識的に最初は自身に制限を掛けて戦っていくため、最初の一撃は洗礼とも言うべき小手調べだ。

 「ウォオオオオオオオ!」
 「フッ」

 バーサーカーの斧の乱舞を掻い潜り懐に入ると、小手調べとは言え、今迄多くの挑戦者達を返り討ちにしてきた一撃を叩き込む。

 「――――川神流無双正拳突き!」

 百代の拳は真っすぐにバーサーカーの鳩尾に突き刺さる――――筈だった。

 「・・・・・・な!?」

 いや、確かに突き刺さっているが、突き刺さっていると言うよりは食い込んでいる。
 しかし腕を突き刺している本人は、自分の腕の周りから何の感触も感じないのだ。
 残像にしても人の虚像や揺らぎなどから闘気を感じるのだが、それすらない。

 (こんなのまるで・・・――――って」

 そこで百代は、自分の頭上で金属と金属がぶつかり合う音に促されたようで、気付いた。
 目の前の男が、禍々しい斧で自分に振り下ろそうとしてくる事に。
 躱そうとも思ったがそれはもう手遅れ。そして、斧は百代の右肩目掛けて振り下ろされた。

 「川神!!」

 それを止めようと思い、止めきれなかった士郎の叫びが空しく虚空に響き渡った。 

 

第16話 赤き死棘の槍

 少し時間を遡る。
 現地である山の周辺に士郎に遅れて到着していた石蕗和成と吉岡利信は、山を囲むように魔術的な結界を張る作業をしていた。
 吉岡利信は正直ガタイもよく、顔に傷こそ入っていないが強面だ。
 そんな吉岡利信が絶縁を言い渡された理由は割合させて頂くが、以外にも神道を頂く家系だった。
 結界を張れるならスカサハの張った結界も手伝う事が可能なのではないかと思われるが、神道とルーンによる結界では根本的に違いも大きすぎる上、あれほど広範囲なモノにはとても手が出せないと言うのが、本人談である。
 因みに、藤村組本部の藤村邸を囲むように張ってある結界は、吉岡利信が張ったモノだ。

 閑話休題(そして話は戻る)

 そうして結界を張り終えた利信は、和成の下に戻った。
 2人の士郎への援護と言うのは、士郎の戦闘に加わり共闘すると言う事では無い。
 騒ぎを聞きつけて集まって来る有象無象や介入者を阻む事だった。
 事実、利信が結界を張る作業をしている間に、和成が集まってきた有象無象達を悉く峰打ちにして気絶させたまま寝転がしていた。
 そして2人はもうすぐ確実に来るであろう、七浜方面の介入者達を警戒して待っていた。

 『来たか』

 2人の前に九鬼極東本部から来た老執事達が現れた。

 「貴様らは・・・」
 「これはこれは、石蕗和成様と吉岡利信様ではありませんか」
 「お久し振りです、ネエロ殿」
 「相変わらず年がら年中威圧的だな、ヒュームの爺さん」

 2人は、老執事達とは関係が悪化するまでは交流があったのだ。

 「フン、相変わらず貴様は目上への礼儀が成っていないな。赤子」
 「ケッ、礼儀を尽くす相手を選んでんだよ。老害」

 ヒュームは利信の口の悪さにさらに威圧度を上げるが、当人は気にせずにいる。
 その事にヒュームが利信目掛けて飛び出そうとするが、クラウディオがそれを制止する。

 「抑えて下さい、ヒューム」
 「利信、お前もいらぬ挑発なぞするんじゃない」

 普段は冷静な旧知の中と腐れ縁から双方制止を受けて、不承不承に引き下がる。

 「漸く話が出来ますが、私とヒュームは先に用があるのです。如何か通してもらえませんか?」
 「それは聞けない相談です。そして御二方には、足を踏み入れる事も禁じます。我々が今立っているラインは藤村組の縄張り中の縄張り、冬木市ですから」

 漸く穏便に話へ移行することが出来ると思いきや、内容は交渉などする気も無い決裂を前面に押し出されたモノだった。

 「貴様ら、そんな事を悠長に言ってる場合か?この先に今、直にでも処理せねばならん爆弾があるのだぞ?」
 「だからよ?それがいらぬ世話だって言ってんだよ。退魔師ならカズがいるし、魔術師なら俺がいるんだぜ?つまり年寄りがこんな時間に出張る必要なんて、欠片も無ぇってこった」
 「であれば尚更です。ここは一つ、危険物処理のために共闘いたしませんか?」
 「それも無用です。ですからこのマープル殿の使い魔もお返しします」

 何所までいっても平行線の上、情報収集のために放たれていたマープルの鳥サイズの使い魔も拘束されたままの形で引き渡された。

 「チッ、融通の利かん奴らだ。時間も惜しい。クラウディオ、強行突破するぞ?――――ジェノサイドチェーンソー!!」

 ヒュームは、パートナーの返事も聞かずに自身最大の必殺技を利信目掛けて仕掛けた。しかし――――。

 「っ!?」
 「オイオイ、ヒュームの爺さんよ。相手の情報無視して勝てる程、俺の神道からなる結界と防禦術は薄っぺらじゃないぜ?」
 「チッ、面倒な」

 ヒュームの必殺技は神道からなる利信の防禦に弾かれた。
 神道は禊による結界そして、近接戦闘を行うとしても基本守りを重視する。
 その為、利信も魔術師としては基本的に守りに回る。
 その代わりと言うワケでは無いが、魔術を一切使わぬ武術では攻撃型になっている。

 「ヒューム、む!」
 「この一帯の結界は利信が基点です。それを既に察していらっしゃる貴方に好き買ってに動いて貰う訳にはいきませんよ?」

 ヒュームの援護で利信へ鋼糸を巻きつかせようと言う所で、和成の斬撃により容易く断ち切られた上に、位置的に別れて戦う事を余儀なくされてしまった。

 「噂通りの速さに斬撃、駿足の太刀の異名は伊達では無いようですね。厄介な」
 「クラウディオ殿の鋼糸を利用した結界こそ、私からしてみれば厄介極まりないのですがね。話の途中にもさり気無く張り続けていましたね?」

 クラウディオは、気付かれていた事に内心で溜息をつく。
 そして時間も惜しいが覚悟も決める。

 「それは自分で確認すればよろしいのでは?」
 「是非も無い・・・・・・と言う事ですか。仕方ない」

 そうして和成は、結界と言う名の罠があると分かった上で自身を投げ込んでいく。
 こうして、人目を憚る強者(つわもの)達の戦闘が始まった。


 -Interlude-


 時間を少しだけ元に戻す。
 士郎は、バーサーカーと対峙していた途中に乱入してきた百代の行動に、呆れを突き抜けて頭を抱えたくなっていた。
 しかしそれが失敗だった。
 このバーサーカーは間違いなくガイアの代理人であり、行動を何かによって支援と援護をされながら強制させられている。
 その上、抹殺対象がノコノコ自分から現れたのだ。
 これでバーサーカーにとっての優先敵対対象が士郎から百代に代わるなんて、何時ものこの男なら気づきそうもあるのだが、生憎と気づけずに終わり、想定通り百代の攻撃はすり抜けた。
 神秘を込められない攻撃や魔力を持たぬ者の攻撃は、どれだけ身体能力や火力が英霊達と勝るとも劣らない川神百代だとしても魔力を纏っていない以上、当てることが出来ないのだ。
 逆に、英霊は自身の意思で魔力を纏っていない物や人に触り当たることが出来る。
 ただし、バーサーカー出なければだが。
 このバーサーカー――――エイリーク・ブラッドアックスは、行動を第3者に強制させられているので、すり抜ける事は勿論、攻撃を当てる(・・・・・・)事も出来るのだ。

 「やばい!」

 士郎は即座に投影した黒鍵を投擲する。
 今も直すり抜けている事に、百代は呆然としているので大きな隙が出来ていた。
 それをバーサーカーが逃す筈も無く、殺気が籠った己が宝具を振り降ろす。

 「オォオオオオオオオ!」

 途中、士郎の投擲した黒鍵の切っ先が斧に直撃するが、今のバーサーカーの剛腕による振り下ろしに大した効果はなく、衝突した時の金属音が空しく鳴り響くだけに終わった。
 そんな士郎に心配されている百代と言えば、確かに眼前に斧が迫ってきているが自分の身体能力の最高速度を出せば躱せるのだが、彼女は興味心を優先した。
 自分の周囲や目の前のコスプレイヤーからは、依然感じていた未知をハッキリと感じ取れていた。
 それに、瞬間回復を二十八回も使える自分だ。
 一回くらい喰らっても大丈夫(・・・)だと高を括り、未知の力を自分の肌で感じ取りたいと言う好奇心を抑えられなかった。
 そして――――。

 「ぐ、がぁああああ――――!!?」
 (こ、これは何だ?体の内側から侵されるような痛みは!?)

 バーサーカーの斧は、見事に百代の右からから振り下ろす様に鳩尾部分まで引き裂いた。
 興味半分で受けた百代は、今まで感じた事も無い別種の激痛に耐えかねて、意識のブレーカーを手放してこと切れたように倒れ込んだ。

 「血ガ足ラナイゾォオオオオオオオオ!!」

 しかし、まだ殺しきっていない事に不満なのかバーサーカーは倒れている百代目掛けて再度宝具である斧を振り降ろす。
 勿論、そんな事をこの男が許す筈も無かった。
 縮地により、瞬間的に倒れた百代を抱える様にバーサーカーの目の前に現れた士郎は、斧を躱した上でバーサーカーの顔面に蹴りを入れた。

 「らっ!」
 「ゴ、オォオオオオオオオオ!!」

 バーサーカーの方は蹴りを入れられたくらいで怯む筈も無く、自分の顔面を蹴ったついでに距離を取った士郎に追撃しようと突っ込もうとする。
 だがそこでバーサーカー――――では無く、エイリークをガイアによって強制させられているグンヒルドが気が付いた。
 何時の間にかバーサーカーの周りには、無数の剣が浮かんでいた事に。
 そして――――。

 「壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)
 「ゴァアアアアアアアアアアァアアアア!!?」

 士郎の詠唱により、バーサーカーの周りに浮かんでいた無銘の剣たちは一斉に爆発した。
 勿論バーサーカーはモロに喰らう羽目になった。


 -Interlude-


 士郎は今バーサーカーから離れて、茂みに隠れていた。
 勿論理由は百代の容態を視るためだ。

 (予断は許されないが、最悪は回避されたか)

 百代の傷跡は本来であれば致命傷だが、重症程度の怪我の範疇で収まっていた。
 百代は無意識的に瞬間回復を二十八回(・・・・)瞬間的に連続で行い、自らの命をつなぎとめたのだ。
 しかし百代には神秘・魔術耐性が無く、瞬間回復をすべて使い切ったにも拘らず重症と言う傷に留まっていた。
 しかも傷は留まるどころか、地味にさらに広がりつつある。
 勿論、魔術使いである士郎には対処可能な領域だ。
 とは言え、背に腹は代えられぬ苦肉の策でもある。主観的には。

 「緊急時とは言え、悪い川神・・・・・・ん」

 自分の唇を噛んで血を出し、百代の唇に押し付けて血を飲ませた。
 苦肉の策と言うのは百代の唇を奪う事に他ならない。
 地を飲ませ口付けする事により、もって約一日程度の簡易的なパスを繋げた。
 これで士郎から百代に魔力を供給する事により、バーサーカーの攻撃により体を蝕んでいる原因を緩やかに排除していく。

 「あとはこれだ」

 投影で造った剣の形をした魔術礼装。
 簡易的な認識阻害・治癒効果を齎すモノだ。
 これを百代の手に握らせることで、彼女にそれらの効果を向ける。
 これで取りあえずは大丈夫だろうと士郎は息をつくも、遠くからバーサーカーの唸り声が聞こえる。

 「やはりか・・・!」

 士郎は爆発させた煙に紛れて離脱する時に見えていたのだ。
 煙の中で障壁らしい青白い光の壁に覆われているバーサーカーを。
 全方位では無いだろうから、最低でも5割はダメージを貰っているはずだ。
 とは言え、緊急だったものだからあの爆発させた剣群はどれもこれもが無銘の剣の中でも最低ランクで、勿論宝具なんて一つも無い。
 特殊な祝福や恩恵の宝具やスキルでもない限り、無事では済まないだろうが同時にアレで倒せるとも期待はしていなかった。

 「っ!?――――遂にしびれを切らしたか・・・!」

 気配を感じずとも気付けた。
 バーサーカーが二度目の宝具を解放し、自分の周囲を焼き払ったのだ。
 アレを続けさせたらこの山の草木が丸坊主になるのは勿論、俺も認識阻害による恩恵と同時進行で治癒し続けている百代も、いずれは見つかるのは確実だ。

 「隠れ続ける気など無い。どの様な恩恵があるか判らないが、終わらせに行こ、うっ!?」

 決意して立ち上がろうとした処で、士郎は立ち眩みを感じた。
 原因は今も意識を失っている百代だ。
 簡易的パスから士郎の魔力を貪欲に吸い取る様に、遠慮容赦なしにしてきたのだ。
 それだけこの武神の生への執着力が強いか、はたまた別の理由かは判らないが、戦闘中にこれだけ奪われて行くのは士郎にとって厄介なモノである。

 「気絶したままなのに・・・・・・容赦ないな、川神」

 寝ている百代に無駄と知りながら皮肉を言う。
 士郎の今の魔力量は以前よりも遥かに超えている。
 理由が何なのかは判らないが、少なくとも魔術の第二の師匠兼戦友であった遠坂凛よりも上である士郎の魔力量をもってしても立ち眩みを覚えさせるほどの貪欲さだと言うのだから、士郎の現在の危機的状況は推して知るべきだろう。
 ステータスはそこまで高くないであろうが敵は英霊。
 そして百代からはどんどん魔力を吸収されて行く現状ではあるが、危機的状況などこの世界に来てからまだ一度も来なかっただけで、追い込まれている事など昔の士郎にとっては日常茶飯事だった。
 随分と久々に現状に士郎は苦笑しながら立ち上がる。
 その一番の原因が百代だと言うのだから、苦々しくとも笑うしかなかった。

 「魔力も減っていく。敵も健在。――――ならば、アイツ自慢の武器に頼ろう。アレなら障壁も突破できるだろう。効くかどうかは賭けだがな・・・・・・投影、開始(トレース・オン)

 投影で右手には赤き魔槍、左手のは三本の黒鍵を造りだす。
 そして瞬時に迂回してからバーサーカーの前にでる。
 迂回しないと、士郎では無く自分が出てきた茂みに行きかねないからだ。

 「血、血、血、血!血血血血血血血血血血、血ヲ寄コ――――」
 「うる、さい!」

 獲物が漸く姿を現したことに興奮したバーサーカーが突進してこようとした処で、三本の黒鍵を投擲する。
 それにグンヒルドは反応して障壁を張る。
 勿論防がれるのは承知の上で爆発させる。

 「壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)

 内包されていた神秘の爆発を以て、障壁に叩き付ける。
 これはあくまでも時間稼ぎ、本命は赤き魔槍の投擲と同時の真名解放にある。
 士郎は即座に投擲姿勢を作る。

 「経験憑依」

 何故ならばバーサーカー――――エイリーク・ブラッドアックスは、直にこちらに向かって突進してくるであろうことは読めていたからだ。
 士郎は既に斧を解析して英霊の真名を突き止めていた。
 しかし彼の英霊は綺羅星の如く輝く大英雄と言うほどメジャーでは無い為、文献も少なく、他に宝具があるのかスキルの詳細など含めて分からないから賭けだと称したのだ。
 そして士郎の読み通り、彼の血斧王は自身の象徴たる宝具にどす黒いオーラを纏わせて掲げながら突っ込んできた。

 「ガッァアアアアアアアアアアアア!!」

 士郎の持つ赤い魔槍に警戒したのだろう、それに宝具の真名解放で対抗しようと命令された様だ。
 両者の距離は10メートルと離れていない。
 しかし士郎は躱そうとせずに、宝具の解放に至る。

 「刺し穿つ(ゲイ)――――」
 「血塗れの(血、血、血血血)――――」

 両者の宝具に纏うようなオーラがさらに煌めく、或いは轟く。
 エイリーク・ブラッドアックスは、己が剛腕に任せて士郎を叩き切り殺そうと。
 士郎は、新たな誓い――――この手で届く者だけでも守り切る信念を、そしてそれを阻む敵を貫こうと。
 両者は力を完了させる。

 「――――死棘の槍(ボルク)!!」
 「――――戴冠式(血ヲ寄コセェエエエエエエエ)!!」

 黒赤き力と赫き力が正面から衝突する。
 その衝撃で周りの草は千切れ飛び、大気は悲鳴を上げ、木々は倒れるモノ何とか凌ぐモノと様々だが、中心である両者は微塵も衝撃の煽りなど気にせず今もぶつけ合っていた。
 エイリーク・ブラッドアックスは英霊としてのステータスがあるが士郎は違う。
 しかし今現在の士郎の基礎身体能力はマスタークラス内でも上位であり、さらに気や魔術で強化すれば凌げない筈がなかった。
 その両者を第3者的な立場から見ていたグンヒルドはほくそ笑む。
 何故あの魔術師彼の光の御子の魔槍を持ち、さらには使えるかは知らないが、生前は魔術師だからこそ知っている。
 あの魔槍の本領は、標的の心臓を突き貫くと言う因果律を操作する呪詛染みた概念武装がある。
 であれば、一見両者の力が拮抗していても、エイリーク・ブラッドアックスの心臓は貫かれる定めになる。
 本来であれば夫を殺そうとする敵に憎悪するモノだが、それ以上に自分や夫を駒のように使い強制するガイアからの解放を望んでいる彼女からすれば、あの魔術師こそ救い人と言えた。
 そこへ、忌々しいガイアからの命令で因果律を何とかする様に解呪を迫られて、無理矢理妖術を行使させられるがグンヒルドはガイアを嘲笑う。
 確かに自分が優秀な魔術師である自覚はあるが、刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)の因果律の解呪など出来る筈がない。
 アレに対抗するには、最低でもトップクラスの直感や幸運でも無ければ防げないからだ。
 そして事態は結果に至る。

 「ゴォオオオオオ、ガグッ!?」

 相手の魔槍は自分の宝具とぶつかり合っていた筈なのに、何時の間にか自分の心臓に正しく貫かれていた。
 これによりエイリークが消滅するかと思いきや、そうではなかった。

 「・・・・・・()血血血血血血血血(ぢぢぢぢぢぢぢぢ)ィイイイイイイ!!」

 士郎は知らないが、エイリークには戦闘続行のスキルがある。
 霊核を潰されれば消滅は確実だが、戦闘続行のスキルを持つ英霊は消滅間際まで戦えるのだ。
 そしてクラスはバーサーカー。
 痛感覚が無い訳では無いが、敵と認識した或いはされた標的を目の前にして止まる訳がないのだ。
 しかしそれでも士郎の勝利は確定していた。
 未だに投影宝具はエイリークの心臓に突き刺さったままだ。
 ならばそれは当然のように詠唱された。

 「壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)!」
 「ルァアアアアアァアアアアア!!?」

 内包された神秘の爆発により、エイリーク・ブラッドアックスは四散する。
 此処に漸く、運命の夜・第2夜における死闘は終結した。 
 

 
後書き
 治癒するのはアヴァロンでも良かったはずなんですけど、そうしないと百代の唇を奪う大義名分が無くなってしまうので、ああしました。 

 

第17話 何時か言えなかった言葉

 士郎がバーサーカーと決着をつける少し前、小さな山を覆う結界の外で二対二の攻防が続いていた。

 「チッ、赤子のわりにねっちこい奴だ」
 「その言葉は噂通り、長期戦は苦手になったんだな。つか、早く脳外科か眼科行けよ。世の中のほとんどが赤子に見えるなんて重病だぜ?いや、もしかしたら認知症じゃねぇの?」
 「その軽口、利けなくしてやろう!!」

 攻防にハッキリと分かる戦いは、未だ拮抗していた。
 一方――――。

 「貴方の鋼糸による結界は、日が落ちると厄介極まりないですね。それに罠を張る所が一々厭らしいですよ?」
 「それを苦も無く悉く切断しきる貴方にそれを言われても、嫌味なだけです。それにしても先程から周囲に張った結界だけを狙って、何故本体である私を攻撃しないのです?」
 「我々の今の目的は貴方たちにお引き取り願う事であって、余計な恨みを買う事ではありません」
 「・・・・・・・・・」

 そして此方は最初から今まで、常に冷静に対応していた。
 それに鋼糸における罠は、本人の意思で絡め取る事も切断する事も出来る。
 その為、余計な恨みを買わないと言う方針では同じで、先程から捕縛しようとはしても切り刻もうとは思ってはいなかったのだ。

 『っ!?』

 そんな人目を憚った激闘も、結界内からの強い神秘の消失を感じ取る事で二組は唐突に足を止めた。

 「神秘の塊、英霊の気配が消えただと?」
 「これは一体・・・」

 九鬼従者部隊の老執事達は、結界内の事情を英霊が降臨した事以外知らないので、眉をひそめて露骨に怪訝な顔を作った。

 「オー、ホントダー、ドウイウコトダー」
 「露骨な棒読みはやめろ、利信」

 一方、全てを把握しているワケでは無いモノの、結果から言って事態が収束したのを藤村組ペアは察した。
 勿論、そんな2人の反応を老執事達が見逃す筈も無い。

 「貴様ら何を知っている?」
 「まさか藤村組には英霊を倒せるほどの切り札でもあったのですかな?」
 「はて?何の事やら」
 「惚ける気か、赤子!いい度胸だ、無理矢理――――」
 『何をする気じゃ?』
 『!?』

 藤村組の反応に、遂にしびれを切らしたヒュームが利信目掛けて再び攻撃を開始しようとした処で、5人目の声で中断させられた。
 しかも声の主が――――。

 「総組長!」
 「如何しました?」

 自分たちの頭が出張ってきたことに少なからず疑問に感じる2人だが、内心では引き攣っていた。
 現世の閻魔こと藤村雷画を怒らせるなとは、裏の世界では有名な言葉である。
 その為、追い出される時に怒りに触れた2人は、表情こそおかしくはないが、心中では確実に多かれ少なかれ怯えていた。

 「此処でお前が出張るか。雷画」
 「・・・・・・そこの雇われ風情、誰に口を利いている?儂は天下の藤村組総組長ぞ!雇い主なければどこぞの野良犬風情が、分を弁えんかい!!」
 「っ!」

 雷画の怒号にヒュームは一瞬面喰らうも、自分を見下す言い分にキレそうになる。
 しかしそれをクラウディオが何時もの様に止める。

 (抑えて下さい、ヒューム)
 「申し訳ありませんでした、総組長殿。ですが我々も九鬼財閥を代表して此処に居るのです。ですので如何か――――」
 「物分りが随分と悪くなったようだな、序列三位。儂は分を弁えろと言ったんじゃ。次に同じ言葉を吐いたら儂にも考えがあるぞ・・・!!」
 『・・・・・・・・・』

 雷画の目を見る2人は、それが脅しでは無いと直に理解した。
 恐らく考えと言うのは、今も直解消されていない藤村組と九鬼財閥との冷戦状態を悪化させると言うのだろう。
 日本国外では既に以前の業績を取り戻したそうだが、日本国内では未だ伸び悩んでいる上、関東圏内では未だ下回っている。
 それは単純に不信感の問題である。
 逆に言えばそれほど関東圏内では藤村組の影響力及び、信頼度は高いと言えるのだ。
 日本全土の大地主や有力者達とのパイプも太い。
 その為、例の計画発動も含めて藤村組との和解は優先度も高く、必須事項と言えた。
 しかしそれでも今の状態が続くのは、藤村組にとっては良い事ばかりでは無い筈だった。
 少なくとも九鬼財閥を邪魔に思っている他の大企業の上層部などから、足並みを揃えてさらにダメージを与えないか等の非常に面倒な打診も受けているのだ。
 そんな打診を雷画自身は、酷く目障りに思っているだろうと予想出来るのだ。
 だがそれを長引かせても良いと言っている。場合によっては、その打診を受ける事も検討すると言っているのだ。
 つまりそれだけ英霊を討伐する藤村組の切り札であろう“何か”の事が、大切なのだろうと窺えた。
 2人にとっては取りあえず、それだけが解っただけでも収穫と我慢する事にした。

 「了解しました、藤村雷画殿」
 「重ね重ねの無礼、申し訳ありませんでした」
 「・・・・・・去れ」

 この雷画の言葉に、2人の老執事達はその場から即座に去って行く。
 それを見ていた部下たちは、正直呆れていた。

 「そ、総組長」
 「あそこまでしては勘繰られるのでは?」
 「構わん。周りからどれだけ調べても対策はあるわい。それよりも利信、結界内の浄化をして来い。相当穢れておるじゃろうからな」
 「分かりました」

 雷画の命令に、即座に了解して行動に映る。
 念のため、2人は他に誰か来ないか利信が戻るまで警戒し続けた。


 -Interlude-


 血斧王を下した士郎は、投影で造った布を切られた事により肌蹴た百代に服に掛ける。

 (と言うか、もう傷が塞がりかけてる。なんていう生命力だ。後魔力の吸引が貪欲すぎる)

 聞こえないと分かりつつ、そんな事を口にする。
 そして戦闘中に百代を抱えた時同様、お姫様抱っこをする。

 それを消滅しかかっている2人分(・・・)の具象奇体が見ている。
 夫であるエイリーク・ブラッドアックスの残滓を吸い寄せる事で、僅かな時の中で感傷に浸っている様だ。

 『あの者が私を倒した魔術師か・・・』
 『不快か、エイリーク』
 『そんな事は無い。寧ろよく狂気の淵から私を脱出させてくれたと、賛辞を送りたいくらいだ』
 『ならば我らにしてやることは、祈りくらいか―――――いや、止めておこう』

 途中まで言い切ってから直に取りやめた妻に疑問を呈した。

 『何故止める?』
 『エイリークよ。我は呪術と妖術を使う魔術師だぞ?そんな我が祈りでもすれば、それは呪いと同じよ。恩を仇で返す事に成るわ』
 『・・・・・・では感謝するのは如何だ?』
 『エイリーク?』

 グンヒルドは、エイリークの言っている意味が解らなかった。
 それをエイリークは、信頼できる相手にだけ向ける顔で言う。

 『確かにお前は魔女で、私は血縁殺しだ。だがな、誰かに感謝する資格を失った訳では無いのだぞ?にも拘らず、此処でそれをしなければ私たちは私たちを課依頼にしたガイア以下になるのだ。それだけは我が誇りに掛けて断じて許容できぬことだ』

 お前もそうだろう?と付け加えて。
 夫の考えにグンヒルドもそうだなと頷き、今にもこの場から立ち去りそうな士郎達を見る。

 『『名も知らぬ魔術師よ』』
 『我が妻グンヒルドを傀儡の糸から解放してくれた事――――』
 『我が夫エイリークを狂気の淵から解放してくれた事――――』
 『『――――心より感謝する』』

 「ん?」

 その時、士郎は何気なしに後ろを向く。

 「・・・・・・・・・気のせいか」

 その言葉だけで士郎は百代を抱っこしたまま移動する。
 少なくとも士郎が後ろを振り向いた時、もはや2人は残滓すら消え去っていたのだから。


 -Interlude-


 「まったくモモめ、力いっぱい打ちおってからに・・・」

 鉄心は、あれから中々治る気配も見せないと言う事で、ふらつきながらも少しづつ現地に近づいていた。
 そして今は雑木林の樹にもたれ掛かっていた。

 「・・・フゥー、歳は取りたくないのぅ」
 「お疲れの様ですから、俺が最後まで運ぶしかありませんね」
 「むおっ!?」

 いきなり真横から声がしてきたかと気づいて驚いたら、そこには自分を殴った百代をお姫様抱っこしている袴姿の士郎が居たのだから。髑髏の仮面も赤い外套赤いフードも身に着けずに。

 「モモ!?気絶してる?いや、死んだのか!?まさか襲ってはいまいな!いや、それよりもお主、魔術師姿でなくてよいのか!?」

 あまりに唐突に表れたせいか、鉄心は混乱しながらも怒涛に詰め寄って来た。
 その事に士郎は苦笑いを浮かべながら鉄心を落ち着かせて、事のあらましを話す。

 「――――と言う事です。川神の最高速度を出せばあの一撃は躱せたでしょうが、瞬間回復があると高を括りつつ興味心を優先したのでしょうね」
 「・・・・・・・・・」

 鉄心は士郎の話を全て聞き終えると、過去最高の渋い顔をした。
 百代の精神の在り様は前々から危険だと見抜いていたが、百代に勝てるような武人が早々簡単に表れる訳がないと思うと同時に、孫可愛さに精神鍛錬への強制を先延ばしにしていたのだ。

 「精神鍛錬が不足なのでは?」

 矢張り言われた。
 しかも簡潔なひと言に纏められているだけあって、効果は抜群だ。
 加えて言えば、早朝に衛宮邸に通わせる了解を貰いに行った時も指摘されていたのだ。
 正直、言い方が雷画に似ていたと言う事もあって内心でムッとしたが、事実なので検討しておくと言うその場しのぎに近い返答をしていた事もあって、余計にダメージが大きい様だ。
 その為鉄心は、過去最高の渋い顔をさらに際立たせた。
 そこである不安を聞く。

 「今回の件はその・・・・雷画にも言うのかのぅ?」

 その様はまるで、悪い点数を取ったテスト用紙を隠したことがバレて、恐る恐る怒っていないかと母親に尋ねる子供の様だ。
 勿論士郎は鉄心に容赦なく言う。

 「気配で感じましたが雷画の爺さんも最後の方は来ていたようですから、勿論報告しますよ。当然でしょう?まさか、川神院総代ともあろう御方が、友人に嫌味を言われる程度の心の耐久値も無いんですか?何度もしつこく言われるのが嫌なのでしたら、これを機に反省してください」

 容赦なく、そして畳掛けるように言われた鉄心は押し黙る。
 反論の余地など無く、ぐうの音も出ないとはこの事だ。
 この後、鉄心は雷画への報告を中断してもらおうと言う狙いで態と気まずい雰囲気を作ったが、結局報告されてしまい、後日に予想通り雷画から嫌味を言われる事に成った。


 -Interlude-


 「シロ兄まだかなぁ」

 士郎が出立してから既に一時間以上経過していた。
 その間、ずっと心配しても無駄だから部屋に行って勉強でもしていようと言う話になったが、結局集中できずに居間に3人揃って集まっていた。

 「確かに遅くはありますね」
 「あれから暫くして何度も轟音を聞いたが、響いてくる距離的にはそこまで遠くない筈だしな」

 小雪同様、冬馬も準も心配になってきたようで、時計を何度も見てそわそわしていた。
 そこへ、スカサハが来た。

 「何だ、お前達。部屋で勉強してるんじゃなかったのか?」
 「それはそうなんですが・・・」
 「集中できずに・・・」

 2人の反応で流石に無理だったかと悟る。

 「アルバさんは如何してたの?」
 「藤村組の嵐臥と話をしてただけだ」

 これに小雪はそっか・・・と呟き顔を俯かせる。
 この3人の中で一番心配しているのは矢張り小雪の様だ。
 そんな3人にスカサハが言う。

 「月並みに聞こえるかもしれんが安心しろ。アイツは“不敗”だからな」
 「不敗・・・ですか?」
 「ああ、士郎の奴は誰が相手であろうと決して負ける事だけは・・・・・・屈する事だけは無い」

 3人は真剣な面持ちで聞いているが、準が質問をする。

 「それは・・・・・・魔術的な世界の話ですか?」
 「ああ、それ故多くは語ってやれないが、アイツは間違いなく帰って来るだろう」

 士郎とスカサハからは、魔術師が蔓延る世界はこの世の何よりも深く残酷だからと言う理由で必要以上は聞いていないが、そんな深淵を知るであろうスカサハが励ましの言葉として選んだのだろうけど、信用する事にした。
 その時、スカサハは気配で士郎が近くまで帰って来てる事に気付く。
 それに遅れて小雪も朧気に気づいた。

 (訓練もしていないのに家の外の士郎に気付くか。矢張り小雪は天性の才があるな。まぁ、現時点では親しい者のみに限るだろうが)

 気づいた小雪にスカサハがその様に考えていると、小雪は確信したのか唐突に立ち上がる。

 「シロ兄だ!」
 『は?』

 しかし感じ取れていない2人は、唐突な事態についていけていない。

 「シロ兄が帰って来たんだよ!ボク、出迎えて来るね!!」
 「え、ちょ!?」
 「おい、ユキ!」

 小雪は2人の制止も聞かずに玄関に走って言った。
 勿論兎に角追いかけようと言う事で2人も慌てて続く。
 そんな3人にスカサハもやれやれと言いながら続く。

 「シロ兄ーーーーーーー!!」

 もう夜遅いと言うのに、大声を上げながら玄関に向かう。
 そこへ士郎が本当に帰って来た。

 「シロ兄ーーーーー!おかえり!!」
 「おっと、心配かけた様だな」

 小雪からダイビングジャンプを難なく受け止める。
 遅れて準と冬馬も来た。

 「ホントに士郎さんだよ」
 「士郎さん、お帰りなさい」

 そしてスカサハも遅れて廊下の奥から現れる。
 その4人を見渡してから士郎は生まれ故郷である世界で、正義の味方になる為に家を飛び出してから結局言えなかった言葉を紡ぐ。

 「ああ――――」

 温かく迎えてくれる現在()の“家族”に向けて笑顔で答える。

 「――――ただいま」 

 

第18話 赤銅の丘

 
前書き
 小説情報を少々変更(削除した部分と新たに加えたFateシリーズの一覧)しましたので、ご確認ください。 

 
 「―――――I am the born of my sword(体は剣で出来ている).」

 そこは赤銅の荒野であり、丘だった。

 「―――――Steel my body,and fire is my blood(血潮は鉄で心は硝子).」

 そこには夥しい数の剣が突き刺さっていた。

 「―――――I have created over thousand blades(幾たびの戦場を越えて不敗).Unaware of loss(ただ一度の敗走もなく、).Nor aware of gain(ただ一度の勝利もなし).」

 剣だけではなく、斧もあれば槍もある。古今東西様々な刀剣類で埋め尽くされていた。

 「―――――With stood pain to create weapons(担い手はここに独り).Waithing for one´s arrival(剣の丘で鉄を鍛つ).」

 どれもこれも相応の存在感のある武器だったが、その様はまるで剣の墓場だ。

 「―――――I have no regrets.This is the only path(ならばわが生涯に意味は不要ず).」

 そんな場所に黒髪の少女が1人、横たわっていた。

 「―――――My whole life was(この体は、) “unlimited blade works”(無限の剣で出来ていた)

 そして少女は目を開けた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何だ、ここ?」

 黒髪の少女――――川上百代は、自分が何故こんな場所にいるのか理解できなかった。
 それもそうだ。
 こんな場所、まず日本の何所にもないし、世界中の何処かにもあるかどうかも疑わしい。
 見渡す限り、剣剣剣。
 故に彼女は理解する。

 「変な夢だな・・・」

 しかし夢だと理解できても覚める方法など知らないし、一向に覚める感覚も無い。
 その為、退屈を何より嫌う彼女は散策する事にした。

 「――――どこもかしこも剣ばかり、この数の相手に無双するなら楽しめそうだが、突き刺さってるだけじゃつまらんな」

 何とも彼女らしい感想だ。
 この景色を眺めていれば寂しいとか心細くなるなどの感想が出て来そうだと言うのに。
 そうつまらなそうに歩いて行くと、丘に行きついた。

 「ん?誰かいる・・・」

 丘の上の人影に気付いた百代は、丘を登っていく。
 近づくにつれ背中を向けている事と、男だと判別出来た。
 さらに近づけば黒いボディアーマーの上に赤い外套を羽織っているのが判る。
 丘の一番上にいるからか、向かい風により白銀の短髪と赤い外套が靡き続ける。
 それを百代が少し下の方から見ていると、夢の中に気配と言う概念があるか不明だが、何となしに振り向いて来た。
 その顔に百代は見覚えがあった。
 全く同じと言うワケでは無いが似ている顔つきに心当たりがあった。
 そう、彼は――――。


 -Interlude-


 「――――衛宮?」

 目が覚めるとそこは毎日のように見知った天井だった。
 外からは朝の陽光と暖かさが障子を突き抜けて日陰を作る。
 そこで自分が夢から目を覚ましたことに気付く。

 「それにしても変――――」
 「彼が如何かしたのかのぅ?」
 「なっ!って、朝から爺が何でここにいる!?」

 百代は声が聞こえる方へ振り返えると、鉄心にすかさず抗議をする。
 しかし当の鉄心は気にすることなく笑顔だった。それはもう、不気味なほどに。

 「モモよ。昨夜の事は覚えてるかのぅ?」
 「昨夜・・・・・・あっ!」
 「思い出したようじゃのぅ。儂を殴りおってから出かけた上に、探してみれば近所を騒がせた轟音の中心地で呑気に寝取るし、全く何をしたかったんじゃ」
 「私が・・・寝ていた?」

 鉄心の言葉に違和感を感じる百代だったが、昨夜の全容をどうしても思い出せない様だ。
 唯一覚えているのは、轟音の中心地に行くために鉄心を殴ったぐらいだった。
 百代が思い出せないのは訳がある。
 士郎に頼まれて百代が寝てる時にスカサハが魔術により思い出させない様にしたのだ。
 勿論、鉄心立会いの下でだ。

 「お前が何をしようとも基本は許すが、昨夜の事は別じゃのぅ。よって罰を言い渡す。今朝は皆が鍛錬中お前だけで朝の掃除をせい」
 「何だと!?」
 「加えて、一子との夕方の走り込み以外の今日一日一切の武を禁ずる」
 「ふ、ふざけるな、じ――――」
 「川神院総代としての命令じゃ、異論は認めん!お前はそれだけの事をしたんじゃ、反省せい!」

 百代はこの事に悔しそうに歯噛みする。
 それに実際自覚してやった行いなので、臍を噛むしかなかった。
 言いたい事を言い終えた鉄心を見送った百代は、非常に不満な心境に陥りながらも夢の事を思い出していた。

 「あの丘、それに衛宮も・・・・・・随分悲しげだったな・・・・・・ん?」

 そこで自分の体の異変に初めて気づいた。

 「如何いう事だ?私・・・・・・気が全然感じ取れない」

 それを百代の私室から少し離れている場所で、聞き耳を立てていた鉄心が溜息をつく。

 (衛宮士郎()の言う通り、まだ戻っていない様じゃのぅ)

 士郎と鉄心は昨夜の川神院に戻るまでの間に話していたのだ。
 今日の戦いの影響で百代の気が完全回復するのは最低一日以上掛かるだろうと。
 その為、対策として一日の武の禁止を命じたのだ。勿論罰と言う大義名分もあるので、怪しまれぬだろうと予測しての事だ。
 因みに、魔術耐性のない気を扱う普通の武術家であれば最低でも一週間から一月は掛かる所なので、百代が異常なだけだった。

 (兎も角、様子見じゃな)

 ――――と。今度こそ鉄心は怪しまれぬ様に、その場を離れて行った。


 -Interlude-
 

 昼頃
 今現在、士郎はスカサハと吉岡利信を連れて現地の調査とクレーターなどの補修のために来ていた。
 因みに冬馬達3人は、最近の不可思議の現象が一応の落ち着きを見せたと言う事で、約束通り士郎も小旅行行けるのもあって明日の準備をしている。

 「いやはや、昨日も見たがまた派手にやったな、士郎!」
 「これの大半はバーサーカーが原因なんだから、俺のせいみたいに言わないでくれますか?吉岡さん」
 「ふむ、アサシンの次はバーサーカーか。ならばいずれ残りの五騎も襲来すると言う事か?」

 スカサハは誰に言うまでも無く独り言を呟くように言ったが、利信がそれを拾う。

 「そもそも五騎で済むんですか?目標の百代ちゃんを殺しに来るまで何体でも呼び出すんじゃないんですか?姐さん」
 「それはガイアに聞かねばわからんな。あと、その姐さん呼ばわりを辞めろと言ったろ!お前のその体格で言うと、余計にあのフェルグス(節操なし)を思い出す!」
 「すいやせん。けどあの大英雄フェルグス・マック・ロイを彷彿してもらえるなんて、光栄の極みですよ。スカサハ姐!」

 注意した傍からこれかと、スカサハは溜息をつく。

 「それにしてもガイアはどうして俺でも倒せる程度の英霊しか送ってこないんだ?いや、それ以前にクラスに当てはめるのは人間がマスターだった場合の制限だ。ガイアにクラスを当てはめる手順は本来必要ない。にも拘らず当て嵌めなければならない理由でもあるのか?」
 「・・・言われて見ればそうだな。その理由――――制限をガイアに強制させてる“何か”の正体なぞ判らんが、この世界の何処かにある(・・・)には確実だな」
 「物騒な話ですね。こりゃあ近いうち、相棒になってくれそうなサーヴァントを召喚した方が良いんじゃねのか?士郎よ。もう、姐さんが来てから数年経ってるんだ。霊脈も安定してんだろ」

 利信の提案に士郎は確かにと頷く。

 「日にちと時刻で最適なのは、お前達が小旅行で帰ってくる日を跨いだ夜中の2時頃だな」
 「分かりました。準備しておきます」
 「2人とも。俺が切り出しといて何ですけど、ちゃっちゃと終わらせちまいましょう。こんな後処理」

 利信の言葉に、そう言えばそれが本来の用件だったなとスカサハが言う。
 それからは士郎がクレーターの補修をし、利信が穢れが残っていないか索敵をしている。
 そしてスカサハがこれから先の事も考えて、昨夜に起きた戦闘の記録を魔術で抽出して脳内で再生させていた。

 (・・・・・・士郎の奴め、カラドボルグで戦端を切りゲイボルグで終わらせるとは、私に対して何かしらの当てつけか?)

 士郎にはそんな含んだ理由は無い。
 勿論スカサハも解っている上での冗談だ。
 しかし、その途中で興味深い記録が流れ込んだ。
 これにスカサハは悪巧みを考えたように口元を吊し上げる。

 「なぁ、士郎」
 「ん?何ですか?」

 クレーターを埋めるための土を車の荷台で持ってきた士郎は、丁度荷台にある土を持ってきた所だった。

 「確かお前は川神百代とパスを繋げたのだろう?」
 「ええ、まぁ、緊急時でしたから――――」
 「良かったじゃないか、緊急時と言う名の大義名分があって」
 「な、何が言いたいんですか?」

 士郎は聞いてはいけないと言う嫌な予感を感じながらも、流れ場聞いてしまう。
 と言うか、恐らく聞かなくても言うだろうが。
 そして予感通り爆弾が落ちる。

 「川神百代の口づけの感触は如何だった?」
 「んな!?」「おほ♡」

 士郎は露骨なまでに同様半分驚き半分の顔をして、利信まで何故か喰いついた。

 「オイ、オイオイオイオイオイオイオイオイ!!オイオイ、士郎!緊急時の大義名分利用して百代ちゃんの唇奪うなんてヤルじゃねぇか!!」
 「ひ、人聞きの悪いこと言わないで下さい!」

 利信は士郎の肩を抱き合い、もう片方の腕でグッジョブサインを送る。
 勿論、士郎は真正面から否定する。
 しかしまだスカサハが残っている。

 「―――それで?感触は如何だったんだ?」
 「そ、そんなの憶えてませんよ!」
 「すでに何度も幾人もの女たちを股にかけて経験して来たんだ。そんな初心な反応していないで正直に言うがいい。それとも、パスをつなげた口付け程度、今更如何と言う事は無いと言う事か?――――なるほど、まだ未経験の女子(おなご)の唇など大した感想も抱けなかったと言うわけか」
 「そんな訳無い!川神は才能だけじゃなく体まで天性の才の恩恵があるのか、唇を押し当てた瞬間蕩けるんじゃないかという位柔らかかったですよ!アレに感想を抱けないなんてそんな事ある筈がない!・・・・・・・・・はっ!?」

 スカサハの挑発?に勢い余って覚えてる限りの感想を言った後に気付いた。
 見ればスカサハは面白そうに見ており、利信など過去最高の楽しい玩具を見つけたような口先を吊し上げて笑っていた。

 「ハッハッハッ!いいね、士郎!俺はお前ほど経験したわけじゃねぇからよ、是非とも後学のためにより詳しく教えてくれよ!!」
 「な、なんでさッッ!!」

 士郎が逃げようとした所を利信が抑え込もうとする。
 それをすり抜けて弾き飛ばそうとするも、防御されてから利信に捕まりそうになる。
 いつの間にかインファイトに突入する士郎と利信(2人)
 それを爆弾を落とした張本人たるスカサハが、その光景を眺めて愉快そうに薄く笑う。
 そしてふと思う。

 (ガイアを抑え込むなど七つの冠位でも出来るか怪しい所業、一体この世界に何があると言うのかのぅ?)

 天を仰ぎながら考え続けていた。


 -Interlude-


 この世界にはある3つの影響力の強い組織がある。
 一つは、極東の島国である日本国内の政令指定都市の一つである神奈川県川神市に構える、言わずと知れた武の総本山、川神院。
 常識外れの技を伝える極地である。
 総代である川神鉄心は今でこそ武神の称号を孫に譲り渡したが、今現在においても世界への影響力は計り知れず、某大国の大統領は『川神鉄心が健在であると言う事実だけで、日本は核を保有していると言い切ってもいい』と戦々恐々としている位だ。
 一つは、世界一の大企業に最近名乗り上げた九鬼財閥。
 世界各地に支部があり、様々な分野のスペシャリストをそろえており、人材こそ九鬼の力の根源と豪語する程だ。
 そして最後の一つは――――。

 此処はどの国にも属さぬ島。
 面積的にはハワイ島に匹敵する島で、半世紀前に突如出現した。
 勿論近隣の国々が揃って自国の領土であると主張しだしたが、《H》と名乗る人物が様々なコネとパイプを使った上で近隣の国々の上層部には非公式的に大金を送り、公式的には莫大な金額でその島を買い取った。
 そして今では川神院と九鬼財閥に並ぶ三大組織の一つの本部が置かれている。
 その名は人理継続機関マスター・ピース。
 文字通り人の歴史の理を何時までも継続させていくことを目的として創設された組織で、活動内容は規模の大きさ関係なく紛争の早期終結や、関係が悪化した国と国の仲介。
 テロ組織の撲滅などもあるが、災害により大きい被害を受けた地域や小国への支援援助から医療技術の発展などもある。
 こうした活動内容により、自分たちの仕事を減らされた要因となった国々の者達からすれば煙たがられているが、基本的にどの国々の民衆からの支持が絶大である事が影響して、各国の首脳陣は民衆の反発を受けないために表面上は賛辞だけを送っている。
 そしてこの組織の創設者は勿論《H》と名乗る人物だ。
 今現在はある作業に専念するために、十数年前にある傑物にその任を引き継がせた。
 その人物は、現代の若者に絶望しているミス・マープルが数える九鬼帝に並ぶ現代の英雄と言わしめるほどの者だった。
 その者――――彼は、マスター・ピースの本部にある執務室にて最新情報に目を通していた。

 「ガイアの代理人の二体目の現界か。マスター・ピース創設者(グランドマスター)の力による制限を受けて完全に抑制されていると思いきや、僅かな隙間から搦め手を使ってまで使徒を顕現させるとは・・・・・・・・・グランドマスターにも限界はあると言う事か。――――いや、案外態と漏らしたかな?」

 あの方ならやりかねないと1人で笑う。
 そこへ、機械からブザーが鳴り、音声が流れる。

 『代表、ドクターとの会議の時間です』
 「・・・・・・もうそんな時間か。分かった、直に向かう」

 報告を聞いた男は椅子から上着を取ってから退室した。
 その執務室には男の役職と名前がフルネームで刻まれていた。
 そこに刻まれていたのは――――。

 『マスター・ピース現代表、トワイス・H・ピースマン』 

 

第19話 箱根へ

 『何?それは確定情報か?』
 「はい。このままでは何かしらの危険性もあるのではないかと鑑み、追跡させる予定です」

 日本某所。
 何所とも知れぬ暗がりの廃屋にて、ある人物が無線機で連絡を取っている。

 『わかった。私の方も明日の昼間までには現地に到着できるように努めよう。それまでの間、くれぐれも頼んだぞ』
 「ハッ!」

 無線機越しに敬礼をするのだった。


 -Interlude-


 翌日の早朝。
 冬馬達3人は小旅行へ出かける前に、スカサハとの挨拶をしていた。

 「それでは行ってきます」
 「お土産買って来るね~」
 「コラ、ユキ!スカートが靡いてパンツ見えちゃうだろ!?はしゃぎ過ぎんなよ?」

 何時も通り朝から騒ぐ3人に、スカサハは母親になった経験が無いにも拘らず、我が子を送り出す様に僅かにほほ笑む。

 「――――ああ。だがくれぐれも怪我をせぬ様にな?」
 「「はい」」
 「了~~~解!」

 スカサハの言葉に小雪のみ聞き入れているのか怪しい位のテンションで返す事に、冬馬と準は苦笑し、スカサハは仕方がない奴じゃと苦笑いを浮かべる。
 そこでグッドタイミングと言うべきか、この小旅行で士郎を加えた4人以外のもう1人の同行者を迎えに行っていた士郎の運転するキャンピングカーが、丁度良く到着した。
 そして士郎は運転席から降り、同行者――――京極彦一も降りて来た。

 「お待たせ」
 「おはよう、3人とも。今日から二泊三日世話になる。――――アルバさんもおはよう御座います」

 京極は冬馬達三人には何時も通りだが、スカサハには礼儀正しくお辞儀をする。

 「「おはようございます」」
 「ウェ~~~イ!!」
 「ああ、それに久しぶりだな。1年前まではちょくちょく来ていたようだが、忙しかったのか?」
 「はい。私も今年で3年ですから、色々と部活の引継ぎをする部長の人選などもありまして・・・」

 スカサハには言葉に他意など無かったが、京極は恐縮しながら理由を説明した。
 これには本人である京極以外の全員が意外感を示した。
 例え相手がどれだけ有名人や大物であろうと、言葉遣いや腰の低さなども変えるだろうが冷静さと自分らしさだけは残すのが京極彦一と言う男だった。
 それにも拘らず、京極は車内に戻る前までの間スカサハ相手に恐縮した態度を取り続けた。


 -Interlude-


 スカサハとの挨拶を済ませた一行は、現在キャンピングカーで目的地の箱根へ向かっている。
 このキャンピングカーは、士郎が運転免許を取ったと同時に孫同然の士郎へのプレゼントと言う事で、雷画から貰ったものだ。
 しかも、以前何の意味があるのか解らなかったアンケートを元に作らせた現時点でこの世にただ一つの特注品である。
 士郎は以前から雷画からの小遣いを断ってきたが、流石に特注品となると受け取らないワケにもいかないので受け取る事に成った。

 「――――なるほどな」

 そんな士郎は、運転しながら後方から聞こえて来る京極の理由を拾った。
 本当にスカサハと会話したのは久しぶりだったので、美少女だと自他ともに認められている川神百代よりも絶世の美貌が格上のスカサハ相手に緊張したのだと語ったのだ。
 士郎はそれを運転しながら聞いて納得する。
 スカサハの女性としての美貌は完成している。
 一緒に暮らす様になって今でこそ慣れてきているモノの、最初はスカサハの挙動のどれもに何度も見惚れてしまった事があるので、嫌でも同感出来てしまった。
 因みに、当時の士郎は見惚れる度にスカサハにからかわれたが。
 その為、久しぶりにスカサハの美貌に当てられて緊張するのも無理からぬことだと理解出来た。
 そこで朝の京極の態度に納得できている所で、横から小雪が現れる。

 「ハイ、シロ兄!ア~~~ン!」
 「あーん・・・・・・マシュマロは相変わらず美味しいが、楽しそうだなユキ?」
 「それはそうだよー!だって、シロ兄と一緒に行けるんだもん!」

 士郎は小雪と視線を合わせずに前だけ見ての会話だったが、小雪自身はその事に不満は無かった。
 士郎の性格はほぼ把握しているので、大好きな兄同然を困らせるような我儘は決して捏ねないのだ。
 ただそれでも士郎以外には不満があった。
 不満の理由は京極だ。
 小雪は京極が嫌いな訳では無いし、川神学園の先輩の中では士郎の次に仲の良い存在だ。
 しかし家族同然の付き合いをしているワケでは無い。
 そう言う括りで言うと、スカサハか大河のような藤村邸の親しい人の方に同行して欲しかったのだ。
 勿論、事情があるのは聞いているので諦めはついているが。

 閑話休題(そして話は戻る)

 そこに、パーキングエリアが先にある看板が近づいた。

 「パーキングエリア!」
 「ん?入りたいのか?」
 「うん!だって、旅行の醍醐味でしょ?」
 「わかった。なら入ろう」

 わーい!と喜びながら後ろに引き返していく小雪。
 士郎としては、特に反対する理由も無いので小雪の望みを叶えるだけだった。


 -Interlude-


 神奈川県は別に変人が集う地域では無いし、耐性の強い者達ばかりでは無い。
 耐性や慣れがあるのはあくまでも、川神市周辺の住民達だけだ。
 その為、川神市周辺から離れれば、着物を普段から着用している京極などは当然人目を集める。

 「ねぇ、あのキャンピングカー前にいる着物を着てる子イケメンじゃない?」
 「わっ!ホントダ~」
 「2人とも喰いつき過ぎよ。あんたら彼氏いるんだからフリーのイケメンは私達に任せなさい」
 「ん~、確かにイケメンだけど、私はあの赤い髪の子の方が好みかな~?」
 「・・・・・・・・・」

 大学生のグループが、遠目から京極と士郎を見て色めきだっている。
 勿論、それを至近距離で聞いていた彼氏たちは心穏やかではいられない。

 「クソッ、如何して世の中はイケメンを優遇するんだよ。男は顔だけじゃねぇだろ!?」
 「それはそうかもだが、同じ男である俺らが言っても空しいだけだぞ?」

 彼氏たちは若干自棄になっていた。
 しかし矢張りゴールデンウィークの効果か、直に気力を取り戻す。
 けれど気力に満ちているのは若者たちだけとは限らない。
 女性たちが騒いでいる所に、態と近くを歩いて来たガラの悪そうな3人の男性の内、1人と肩がぶつかった。

 「痛ッテェええ!?」
 「え?」

 ぶつかった男は肩を抑える様に座り込む。
 それを連れの男たちが女性たちに絡んで来る。

 「オイオイ嬢ちゃん達、何所見てやがんだ?」
 「おかげで連れが怪我しちまったじゃねぇか?」
 「はぁ!?何よ?アンタ達がぶつかって来たんじゃない」
 『そうよ、そうよ!』

 しかし絡まれている女性たちはあくまでも強気だ。
 勿論そんな女性たちに勢い負けする程、チンピラ崩れは気弱では無い。

 「言わせておけばいい気になりやがって!来い、矯正してやる!」
 「痛ッ!」
 「オイッ、人の彼女に何してくれるん、ガッ!?」

 彼女を助けようとした男性だが、横からもう1人の男に殴られる。

 「あんま大人舐めんなよ?餓鬼共!」
 「オラ、来い!」
 「いや、離して!」

 仲間たちの今の光景を見て、ビビる友人達。
 周囲の人々も遠巻きに怖がっているだけで誰も助けようとしない―――――ある1人を除いて。


 -Interlude-


 パーキングエリアに着いた士郎達の内、冬馬達は早速小雪先導の下休憩所に行き、士郎と京極だけは冷蔵庫に入ってあったアイスブラックコーヒー飲みながら車の前で待っていた。
 例え周りから雑音が聞こえようと、相当な事が無い限り我関せずの2人。
 故に士郎が動こうとしたのは必然だった。
 先程から自分達を見ていた女性達が、ガラの悪そうな男3人組に絡まれ始めた時だ。

 「あんな古風ないちゃもんの付け方、まだ流行ってたのか?」
 「いや、絡むにしても最近はあのやり方はてんで見なくなった筈だ。つまり絶滅危惧種だな」
 「ちょっと行って来る」

 士郎は自分のコーヒーを京極に預けて女性たちの方へ行く。
 紳士(ジェントルマン)の血が騒いだ友人の背に向けて、京極は聞こえない位の声音で答えた。

 「ふむ、また誑しに行くのか」

 そんな友人の地味に酷い呟きなど聞こえなかった士郎は、殴り倒されそうな男性を受け止めた。

 「すみません。この人の事、お願いします」
 「え?あ、ああ・・・」

 友人と思われるもう1人の男に看護を任せて、士郎は瞬時に掴まれている女性の腕を払いのけて助ける。

 「!?」
 「大丈夫ですか?」
 「え?あー、うん・・・」
 「何だ、このクソ餓、ヒッ!?」

 突然手を払われたものだから、士郎に対して物を教えようとした男が悲鳴を上げながら怯む。
 けれどそれも無理からぬこと。
 世界の裏側、世界の深淵部で生きてきた士郎の殺気(手加減)に当てられて、そこらのチンピラ風情が怯えない筈がなかった。

 「何、チンタラしてやが、あふっ」

 古臭い演技をして肩を抑えていた男がしびれを切らしたのか、邪魔する士郎の武力行使しようとしたところで視界に入るなり、濃密な殺気に当てられて泡を吹きながら気絶した。

 「な、何、チ、チクショウォオオ!」
 「あ」

 最後の1人は困惑しながら気絶した者や怯え続けている仲間を見捨てて、自分達の車であろうワゴンに急ぎ乗った。

 「・・・・・・・クソ、このポンコツがっ!さっさと、着いた!よし・・・・って、何で発進しねぇ!?」

 なかなか着かないエンジンをやっとの思いで掛けたと思い発進させても、動かない事に焦る男。

 「何でだ!全部やってんのに何で発進しねぇ!?・・・・・・って、何だ・・・ハッ!浮いてる、って嘘だろ!?」

 焦り続けていた男だったが、自分を遠目から見ているやじ馬たちの驚きようを見て周りを確認すると、まず浮いていることに驚きつつ後方に顔を向けると、そこには自分達を窮地に陥れた元凶が車を右手で掴んでいる――――つまり信じ難い事に、車体を持ち上げる事もそうだが片腕一本それを成している異常事態に恐怖する。

 「この化けもん、がっ!?」

 あまりの事に懐に隠していた拳銃を使い士郎を撃とうとしたところで、車を掴んでいた士郎が手を放したことによりワゴンが落ちる。勿論中にいた男も衝撃を受ける。

 「クッそがぁああ・・・っ!痛たたたたたっっ!!」

 逆上した男は車から降りてから銃を突き出すが、いつの間にか背後に回り込まれて両腕を取られながら関節技を決められてコンクリートの上で痛がる男。

 「テメっ!何時か覚えて、なっ!?」

 士郎に負け犬らしいと恨み言を言い切る前に、パトカーのサイレン音が聞こえる。
 如何やら事前に誰かが通報していた様だ。
 とは言え、駆けつけるのが速すぎる。
 幸か不幸か、この近辺をパトロールしていたパトカーが要請を受けて、駆けつけて来たと言った所だろう。
 こうして、ゴールデンウィーク初めの騒動は終息した。


 -Interlude-


 この騒動を起こしたチンピラ3人組は、既にパトカーに乗せられて署に送られた。
 事情聴取で士郎達や大学生グループも任意同行を求められたが、藤村組の名を出した上で、後日必ず聴取のために警察署に向かうと約束したので、士郎達も既にその場を去り、現在はまた車で目的地の箱根のホテルへと向かっていた。
 今はもう、高速道路を下り、目的地にかなり近づいて来ていた。
 車内は変わらず楽しそうだった。
 ちょっとしたハプニングで旅行にケチが付くと思う人達も居るようだが、川神市周辺ではよくある事なので誰も気にしない。
 しかし士郎は運転をしながら考えていた。
 本当はあそこまでのパフォーマンス的に事を治める必要は無かったのだ。
 瞬時に背後に回り込み気絶させればいいだけだった。
 過剰な人助けといちゃもんを付けられれば、先程の様に藤村組の名を使えばいい上、士郎自身も刀匠EMIYAで獲得した各地との有力者とのパイプも気づけているので、いざとなればそれも使えばよかったのだ。本当は。
 それらを理解した上での理由は当然ある。

 (あのパーキングエリア(場所)についてから見られている感覚があった)

 けれど最初はその視線の矛先が全体的に俯瞰するようなものだったので、何を目的にしているか判らなかった。
 その為、大学生グループを助ける時にパフォーマンス的にしたのだが、その結果に功を奏して変化もあった。

 (あの時全体から俺だけに変わった。しかも俺を値踏みするかのような感覚だ。暫く――――最低でも旅行中は4人と離れ離れにならないようにしないとな――――と、着いたぞ!」

 後方で寛いでいる4人に向けて言うと、まず始めに小雪が騒ぎ出す。

 「ウェーーーイ!ホテルだー!」
 「バッグ忘れるなよ、ユキ」
 「ふむ、中々いい場所だな」
 「元々は九鬼系列のホテルなんですよね?」
 「ああ、他の企業が安く買い叩いたらしいな」

 話に出た通り、士郎達が泊まるホテルは元々は九鬼系列の宿泊施設だった。
 それが半年前の件に加えて、冬木市の本部を置き関東全域に支配力を強める藤村組との確執により、幾つかの地域や施設からの撤退や売却などを迫られる結果になったのだ。
 その内の一つが此処、箱根の宿泊施設である。
 それを最近までは同列だったものの、今現在は九鬼財閥に一歩遅れている複数の大企業を取り込んだ『とある財閥』が買い取ったのだ。
 そして今日はその宿泊施設の最高級のスイートルームを3部屋予約している。
 士郎は自分の稼いだ金をある程度の貯金以外は決してため込んだりせず、今回の様な小旅行で使ったり、孤児を保護している施設や募金を必要としている地域などに不定期ではあるモノの、寄付をしているのだ。
 勿論自分の生活でも消費しているが、それらは全体的には微々たるモノでしかない。
 士郎はそうやって金回りを良くしようと努めているのだ。
 因みに組み分けは、冬馬と準、士郎と京極、それに小雪だ。
 とは言っても、あくまでも寝るときや着替え位で分けているだけで、旅行中はほとんど一緒だろう。

 閑話休題(そして話は戻る)

 結局小雪のバッグも士郎が持ち、ホテルへと向かう。

 『あーーーーー!!?』
 「ん?」

 その時、未だ士郎は1人だけホテルの施設外に居たのが、施設内のロビーから小雪の驚く声と聞き覚えるある誰かの声が聞こえて来た。
 急ぎ中に入ると、声からの予想通り小雪と向かい合っていたのは百代だった。
 勿論、例の風間ファミリーメンバーもいた。全員では無いようだが。

 「な、何でお前らが!?それに、京極!」
 「あっ、士郎さん」

 百代が驚いている横で京が士郎に気付いた。

 「京達も旅行に行くと聞いてはいたが、まさか同じ箱根で同じホテルだとはな」

 楽しみつつゆっくりするつもりだった士郎達は、ゆっくりからは遠のきそうだなと全員揃って思うのだった。


 -Interlude-


 士郎達がホテルの到着した頃、あのパーキングエリアで士郎を見ていた者――――女性は、とある簡易的なビジネスホテルの予約で問った部屋に戻って来ていた。

 「あの子供が切嗣の忘れ形見か・・・」

 切嗣は嘗て、今現在もこの女性が所属しているある諜報・暗殺組織に属していた。
 そしてこの女性は切嗣と常に組まされていて、昔は異性として好意を持つようになった関係だった。
 今回士郎を見ていたのは、ある仕事を終えてから組織に戻る前のちょっとした寄り道。
 つまりプライベートだ。

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 今はもう亡き、最愛の相棒の忘れ形見足る士郎に、何を思っているかは窺い知る事の出来ない表情だった。
 そんな風に、日の光頼りにしかない暗がりの部屋のドアが唐突に開く。
 そこには、何とも人の良さそうな男が立っていた。

 「よぅ、帰って来たか」
 「百足、開ける時くらいノックをして下さいと言ったはずですが?」
 「いいじゃねぇか。別に知らない仲じゃあるめぇし」
 「・・・・・・何の用ですか?」

 今現在仕事で組んでいる百足と呼ばれた男とは、別に必要以上に馴れ合う気は無いので率直に聞く。

 「あの伝説の殺し屋、衛宮切嗣の忘れ形見だからって、妙な気を起こすんじゃねぇぞって忠告しに来たのさ」
 「・・・・・・藤村組と事を起こす気はありません。今後の仕事に差し支えるだけですからね」

 女性の答えに一応の満足をしたのか、それならいいんだがと含み笑いをする。
 その笑い方を以前から嫌っている女性は、意趣返しをする。

 「貴方こそ、昔の友人の拾いモノが九鬼財閥で未だに働いているからと言って、迂闊な真似は控えて下さいね?」
 「わぁーてるよ。百足の拾い主(旦那)に迷惑かける気はねぇさ」
 「それならいいのですが」

 相変わらず気を害さない不本意の相棒に、また若干苛立つ。

 「用が済んだなら出て行ってもらえますか?身支度をしているんです」
 「ヘイヘイ、言われずとも出ていくさ」

 百足は、追い出されるようにドアを閉めて廊下に出る。
 忠告はしたが、全然剣呑な雰囲気を乱さない相棒の女性に1人嘆息する。

 「久宇舞弥(アイツ)、何時か遣らかしそうだなぁ」

 百足は1人呟いた。
 自分が知る限りの“女”と言う生き物は、何時だって意固地だ。
 その上でさらに、自分が今まで知りあってきた裏の世界を生きる女は特にそうだった。

 「勿論、李静初()の奴もだ」

 自分が嘗て所属していた外道専門の暗殺組織。
 そこで蛇と呼ばれていた仲間が拾った子供、様々な騒動を経て龍と名乗る様になった彼女は今、九鬼財閥で働いている。

 「出来れば自分で気づいて欲しいもんだぁ。俺達ドブさらいが光当たる所で生き方を変えようと幾らもがこうと、その果てにあるのは絶望だけなんだぁ」

 百足の知り合いにも男女問わず何人か、ドブさらいから光当たる道へ行き方を変えようとした者達が居たが、悉く全員絶望に行き当たった。
 ある者は自殺をし、ある者は自殺の聖地(メッカ)たる山に入ってそのまま行方知れず、そしてある者は殺される覚悟で自分を絶望に追い落とした者達に復讐しようとして、文字通り玉砕した。

 「李の奴が例え九鬼財閥で働いていようと関係ない。遅かれ早かれ、いずれ絶望に追いつかれちまう。そうなるくらいなら不格好に生きて行った方がまだマシだぁ」

 結末を知る者だからこそ、絶望よりマシな生き方を提案したい。
 ただそう願うしかなかった。 
 

 
後書き
 サーヴァント決まりました。
 最初はまたモーさんにしようと思っていたのですが止めました。
 結構迷ったのですがね。
 一ついいなら、絶対にヒロインになる事はありません!
 絶対にヒロインになる事はありません!!
 アレをヒロインにしたら、色々不味い。
 だって、そうしたらボ・・・・・・ゲフンゲフン、何でもありません。
 では次回まで~。 

 

第20話 上流と下々の社交の場

 
前書き
 私、箱根行った事ないですよ。
 行ってみたくはあるんですが時間がなー。
 今年のゴールデンウィークも休みがあるのか全部仕事なのか判らないからなー。
 

 
 「あーーー!楽しかった!」

 士郎達はチェックインした後、予定通り水族館と美術館での観光を満喫して来た。
 現時刻は夕方。
 これもほぼ予定通り位にホテルに戻って来ていた。
 興奮収まらずにはしゃぎ続ける小雪を先頭に、士郎達も楽しそうに感想で盛り上がっていた。
 そしてそのままエレベーターを降りてから、自分たちの部屋の前に到着した。

 「もうすぐ夕食だろうから、ユキも着替えて来いよ」
 「了~解!」

 士郎に言われて自分の部屋に戻る小雪。
 他の4人も戻っていくのだった。


 -Interlude-


 このホテルは、通常の部屋とスイートルーム以上の部屋を予約している違いで、レストランなどの格施設がある一つ以外分かれている。
 士郎達の泊まっている部屋はスイートルーム以上なので、当然富豪や上流階級などの人種が使う高級レストランである。
 別に士郎は贅の中に冬馬達を溺れさせるために、最高級のスイートルームを予約したわけでは無い。
 此処で少し話は変わるが、冬馬達の志望は医者になる事だ。
 士郎に助けられてからも、父親たちとの確執や溝は埋まっていない。
 その事で、将来の選択肢の中に医者になる事を一時は消えかけていた3人だが、士郎のような立派な人間になる事と、とある医者(・・・・・)に憧れて医者になる望みを再燃させたのだ。
 此処で話の方向を修正するが、ある二つの目的があって此処までしているのだ。
 一つは技術を身に着けさせるため。
 テーブルマナーなどの基礎を覚えさせるくらいは学校側でも少しだけ触れるが、それだけだ。
 なので、それらについても完璧に身に着けている士郎が教えて練習させていき、今回の旅行の場などで定期的の他の人の目のあるところで定期的に慣れさせていくためだった。
 もう一つは経験だ。
 冬馬達が将来医師になり、不本意的とはいえ葵病院を継ぐことになれば、いずれは各界のパーティーなどの社交界の場などにも呼ばれる事もあるだろう。
 その時までに、ある程度の経験を積ませたい狙いがあった。
 こんなことするあたり、最早兄貴分の領分を越えて父親だ。
 しかし冬馬と準の2人の父親は、立場以前に人格的な問題点からしてまともな愛情を貰えずにあった。
 小雪に至っては言うまでも無く論外だ。
 それ故冬馬達3人は、士郎を無意識的に兄と言うよりも父親として見ている節があった。
 まぁ、冬馬だけは少し他の意識も混じっているようだが。
 兎も角、将来の冬馬達のために士郎はここまでしているんだ。
 そんな士郎達は、正装とドレスに身を包んでレストランの入り口を潜り抜ける。
 この時ばかりは京極も、士郎達と同じく正装に着替えていた。
 士郎達が入ってきたことにより、既に席についていた他の客の目を僅かばかり集めた。
 子供がこのような席に着く事は初めてでも異例でもないが、今この空間には士郎達以外で最年少でも二十代後半の客層だからだ。
 お客の目を引いたと少し前に、ウェイターが士郎達に気付いて迅速かつ軽やかに近づいて来た。

 「衛宮様ですね。御席まで、御案内いたします」
 「はい」

 ウェイターの誘導で席まで案内される士郎。
 席に着くまでの間、ウェイターの確認を聞いていたその他の客らが半分ほどは聞いた事が無いと思い考え、残り半分は目を剥いた。

 「衛宮?聞いた事が無いな・・・」
 「しかしあの歳でこの場にいるのだ。どこかで有名なのでは?」
 「あら?小雪と準以外の3人(どの子)も美味しそう♡」

 ――――一方で。

 「あの子供がEMIYA?」
 「名だけは聞いた事はありましたが、素顔を見たのは初めてですな」
 「もう少しお年を召しているのかと思っていましたが、意外とお若い」
 「今日の肴に小雪と準以外の3人(あの子達)のどれかテイクアウトできないかしら♡」

 刀匠EMIYAの名を知ってるかどうかの違いが判る反応だ。
 しかし値踏みの目線で見られている冬馬達は表面上は兎も角、内心では少しだけ居心地が悪そうだ。
 翻って、京極は人間観察を楽しみの一つとしている事だけあって、立場が逆に回っても気にした様子は皆無だ。
 そして士郎はこのような場など何度も経験して来ている百戦錬磨なので、高々その辺の富豪の値踏みなどどこ吹く風だ。
 自分達のために用意された席に着くと、次々に到着する料理の品々に対してこれまで通り些細なミスなど無く、余裕をもってこの場の流儀に合わせた食事を進めていく5人。
 その後は、他の客との社交の場だ。
 決して内心を悟らせないようににこやかに、そして弱点を掴まれないようにする社会見学。
 それが今回士郎の最大の狙いだった。
 だがそれでも完全な思惑を果たせたわけでは無かった。

 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎が見つめる先には、1人分の椅子が設けられている一つのテーブルがあった。
 そこに本来座る主は、急な予定変更によりこの場での食事や士郎達以外の富裕層たちとの顔合わせもキャンセルになったのだ。
 そこに座る筈だった者に会わせる事こそ、冬馬達の将来に必ずプラスになるだろうと言うのが士郎の考えだったのだが、残念ながらご破算になってしまった。
 その者は次期と言う冠が付いているが、いずれ必ず世界の大物中の大物になる少年だった。
 今現在九鬼財閥に一歩届いていない複数の大企業を取り込んだ企業連合の盟主の家の次男だ。

 「ままならないモノだな」

 結局士郎の思惑上、最高成果を上げられずにこの場を終えるのだった。


 -Interlude-


 先に挙げた通り、このホテルには部屋による違いで一つだけ別れていない施設がある。
 それは大勢で浸かれる様な大浴場地。
 とは言え、スイートルーム以上の部屋には絶景を楽しめる最高4人まで入れる様なジャグジー完備のバスルームが設置されてあり、お湯は効能のある温泉と通常とで選択できる。
 しかしそれでも中には、大勢の人達と一緒に湯船に浸かりたいと言う客人もいる。
 そんな変わり者に属される者の中に士郎達もいた。

 「フゥー、いい湯だな。――――ユキー!ちゃんと肩まで浸かるんだぞー!」
 『わかってるよー!ボクそんなに子供じゃないよー!!』

 士郎達は温泉に浸かりながらも、女湯に1人行った小雪を心配した。
 今現在は幸い、男湯女湯関係なく士郎達だけしかいないので、他の客に迷惑に放っていなかった。
 だが、男4人女1人の小旅行だ。
 必然的に小雪1人になるのも仕方がない。
 これに小雪は不満があるが、明後日には温泉プールに行く予定を立ててあるので、それを緩衝材にする様だ。
 けれどここは貸し切りでもないので、必然的に他の客――――風間ファミリーが入って来た。
 まずは女湯。
 小雪がのんびりと湯船に浸かり始めたころ、風間ファミリーの女子メンバーが脱衣所で衣服を脱いでいた。
 そんな個性豊かな美人ぞろいの中で、百代は何とも微妙な気分でいた。

 (せっかくの旅行なのに京極の奴がいるなんて~!しかも何時ものサド()ぶりで私を脅かそうとは、なんて冷酷な奴だ・・・!―――ん?)

 百代が思い出しているのは、偶然揃ってチェックインしてる時に鉢合わせた時の事だった。
 因みに、今一瞬悲鳴が聞こえた気がした。


 『衛宮が(ハゲ)達と旅行するのは聞いてたから驚きはしても納得するが、如何して京極がいる!?』
 『そう言う予定で誘われたからに決まっているだろう?呼ばれもされていないのに、友人の旅行に無理矢理介入する程、図々しい神経など持ち合わせてはいないな』

 しかし百代は京極の言葉で納得できず、今丁度入り口から入ってきた士郎を見つけて胸ぐらを掴みながら聞く。

 『如何いう事なんだ、衛宮!如何して京極なんかがいるんだ!?』
 『今本人に聞いただろう?なのにどうして俺に聞くんだ?』
 『やれやれ、何かとは酷い言われようだ――――』
 『!?』

 すごい剣幕で士郎に掴みかかってる百代を見て、京極は百代の耳に届くように言うのだ。

 『――――それに私は旅の時に役に立つのだぞ?武神。例えば、今でこそこの箱根も観光名所として名を馳せているが、かつては戦場だった此処にも鎮めるべき霊は残ってい――――』
 『あー!!霊なんて言葉聞こえなかった!』

 そして現実()に戻る。
 百代は嫌な記憶を(かぶり)を振るう事で、消し去ろうとする。

 (ヤメだヤメだ!これからは楽しい温泉――――つまり、愉しい視姦の時間だ!あんな人間観察に情熱なんて注いでいる奴を思い出すだけ損だ!」
 「モモ先輩、途中から口から本音が漏れ出てるよ?主に、『愉しい視姦』から」

 それを真横で衣服を脱ぎ、タオルで前を隠してる京がツッコむ。

 「そんな事気にしない!仲間内なんだからいいじゃないか!」
 「他のお客さんの迷惑にならないようにね」

 その諌言を無視して、百代はスキップしながら浴場に入る。
 視界に飛び込んできたのは美少女たちの体(絶景)である。
 百代の視力をもってすれば、湯気などで邪魔にはならない。

 「おーー!美少女――――かと思えば、可愛い妹たちと後輩では無いか!京、これは如何いう事だ?」
 「如何いう事も何も、今は私達しかいない――――いや、誰かほかにいるよ?」

 京の発見した方へと何ー!?とリアクションを取りながら視線を向けると、そこには小雪の姿があった。

 「おっ!ゆっきーじゃないか!!」
 「う゛」

 ゆっくり静かに浸かっていた小雪は、突如として百代にロックオンされた事に身を捩る。

 「肌と髪は最高級パールよりも純白で、瞳はルビーよりも情熱的に赤いマイエンジェル、ゆっきー!私と共に背徳的な一夜を過ごさないかッッ!!」
 (お姉様、完全に口説きに行ってるわ・・・)

 一瞬で小雪の下に近づき情熱的に寄り添おうとする百代。
 しかしその眼は明らかに血走っており、呼吸音も(*´Д`)ハァハァとヤバイ。
 だが――――。

 「ボク、そっちの趣味無いからお断りします」

 バッサリフラれる。

 「なん・・・だ・・と!?」

 百代はこれまで幾人もの美少女を落として来た実績があったからか、断られた事に驚愕する。

 「モモ先輩、あんな感じで迫られれば自分とて怖がると思うぞ?」

 一応、クリスの突っ込みが入るが本人はまるで気づいていない。
 その横で体を洗っている黛由紀恵ことまゆっちが、京の不審な行動に気付く。

 「京さん、何をされていらっしゃるんですか?」
 「男湯を覗こうと思ったけど、妻として他所の男まで見るわけにはいかないから、苦肉の策として盗み聞きだけしようかと」

 向こうに男湯があるだろうから、浴場での男達の会話を拾おうとする京。
 風間ファミリーの面々は本当にエキセントリ・・・・・・個性的だった。
 そしてその男湯と言えば――――。


 -Interlude-


 時間を少し遡り男湯。
 風間ファミリーの男子4人は、女子5人よりも早く男湯に向かった。
 早々に衣服を脱ぎ取った4人、特にキャップは子供のようにはしゃぎながら温泉に飛び込んでいった――――。

 「よっしゃー!俺が一番乗りだぜェーーって?」

 ――――筈だった。
 キャップは温泉の中に入る直前、何故か空中で停止していた。
 その理由は士郎だった。キャップが飛び込む寸前に、既に入っていた士郎がすかさずキャップの背後に回り込み、首を掴んで飛び込みを阻んだのだ。

 「オイオイ風間。飛び込みは褒められた事じゃないが、それ以上に入浴する前に体を洗え」

 此処は公共の場だぞ?とも付けだす。

 「え、衛宮先輩!?・・・・・・でもなぁ、俺今すぐ入りたいんです!――――と言う事で、ていっ!てっ、痛!?」

 自分の我欲を通そうと士郎から逃れようとして自分を掴んでいる腕に攻撃したが、余りの硬さに攻撃したキャップが痛がる。
 そんな痛みに身悶えしているキャップに溜息を吐く。

 「はぁ~。聞き分けがないなら仕方がない。選択肢をやろう。自分で洗うか、一擦りするだけで強烈な痛みを発生させる洗い方を俺に強制させるか」

 掴んだまま洗い場までキャップを持っていき、無理矢理座らせてからドスの利いた声で囁く。
 その囁きに戦慄したキャップは、素直に自分で洗うと言おうとしたが・・・。

 「じ、自ぶ」
 「因みにちょっとやるだけで“こう”だ」
 「うっ、ぎゃぁあああああああああ!!?」

 何時もの士郎ではこの様な凶行はしないのだが、いい歳してマナーを守らないばかりか攻撃して来たキャップに憤ったので、ちょっとしたお仕置をしたのだった。


 -Interlude-


 「すいません、衛宮先輩。うちのキャップが・・・」

 体をしっかり洗い終えた大和達も温泉に入っていた。

 「いやいや、俺もお仕置にしてはやり過ぎたかもだからお互い様さ」
 「で、でも、お仕置にも限度があるんじゃないですか?あんなに悲鳴を上げるなんて、キャップの体に痕でも残ってるのでは・・・」

 仲間思いのモロは、士郎に疑問を呈する。

 「あー、うん。その辺は大丈夫だ。後で見て見ればわかると思うが、傷跡は一切ないぞ?武術をやってる人間のみに修得できる技術を応用した力加減で、神経に直接干渉するモノだから、その時だけの痛みで傷跡も後遺症も無い筈だ」
 「ん、まぁ、風間の奴、ちょっとしたトラウマは残るかもなぁ」

 キャップ以外の大和とモロの2人と、士郎達4人に視線の先にはガクガク震えながら湯船に浸かっているキャップの姿があった。
 士郎に見られたと反応したキャップは、一層震えを激しくしながら先ほどの事を謝る。

 「すいません、すいません。俺が悪かったです、許してください!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――――」
 「あー、うん。ホントにやり過ぎたかもなぁ・・・」
 「まぁ、風間は調子を乗りすぎるきらいがあるから、たまにはいいのではないか?戒めになって」

 そんな士郎達に、他の湯船に浸かりに行っていたガクトが戻って来た。

 「見っろ~~~!お前たち、俺様の筋肉美を・・・!」

 浴場に入ってからこれをやろうとしたガクトだったが、先程の一幕のせいで出鼻を挫かれたので、今やる事にした様だ。

 「ガクトのはグロいんだよ、隠してよ!」
 「それに衛宮先輩達もいるんだぞ?」
 「ガクガクブルブルガクガクブルブル――――」

 しかしガクトは友人たちの言葉も聞かずに、自分の愚息を堂々と自慢しだした。

 「銃で例えるなら、俺様のジュニアはバズーカ―だな!」

 それに対して軽口を叩く大和。
 この話題を何故か早く終わらせようとするモロ。
 されどなかなか話が逸れないので、僅かに行動をずらす事にした。

 「そ、そう言えば、衛宮先輩も相当鍛えられてたよね?いい肉体(カラダ)してるもん」
 「ん?」

 士郎は、いきなり話題の大本部分に自分を投入された事に、きょとんとする。
 しかし、何故か大和とガクトの2人は、モロに何とも言えない顔を向ける。

 「な、何さ、2人とも?」
 「モロ・・・」
 「いくら貧相な体つきに柔肌で、かつらでも被れば男の娘に変身出来そうだからって、そっちに走る事ないだろ?」
 「は!?な、何言ってるのさ!僕がそっちの趣味な訳無いでしょ!!?」
 「いや、そこまで動揺すると逆に怪しいぜ?モロ。リーダーとして心配だな」

 そこへ、先程まで震えが止まらなくて隅の方で隠れるように温泉に入っていたキャップが、何時の間に居た。

 「ど、動揺なんてしてないよ!と言うか、如何してこのタイミングで復帰するのさ!?」

 幼馴染たちに抗議するモロ。
 しかしながら少々どもっていて、一向に信じない仲間たち。
 そんなモロに肩に、後ろからある2人の腕が置かれる。
 まず準から。

 「師岡、まさかお前が若と同じ世界に踏み込んじまってるとは・・・」

 次に冬馬。

 「師岡君の事は前々から目を付けていたんですが、風間ファミリーの一員故諦めていたんですが、ご本人である貴方自身が目覚めているのなら是非もありません。ようこそ至高の世界へ、歓迎しますよ?――――取りあえず、休み明けの日の夜から七浜ホテルでどうです?」
 「2人とも何言ってるのさ!?あと葵君、生々しすぎるから本気で止めて!!」
 「?」

 背後から乗せられた2人の手を振り払い、本気の抗議をする。
 因みに冬馬と準の2人は、士郎に聞こえないように小声で囁くように言った。
 勿論、それほど距離が開いていないので、本来なら常人離れしている聴覚も持つ士郎の耳にも届くのだが、ある力――――ご都合主義が働いて士郎の耳には届く事なかった。
 そして先ほどから潔白を証明しようと、大声で周囲に説明するモロにトドメが来る。

 「私は自分の観察眼に中々の自負を持っていたつもりだったが、これはまだまだ修練が足らんな。すまん師岡、お前の性癖を見抜けなかった」
 「ちょっ!?きょ、京極先輩まで!?」
 「師岡、お前の趣味を否定する気は無いが、すまない。俺にアブノーマルな性癖は無いんだ。だからお前の気持ちには応えてやれない」

 士郎と京極のまさかの言葉に、モロは驚きを隠せなくて・・・。

 「な、なな、な・・・」
 『な?』
 「なんで誰も信じてくれないのさぁああああああぁあああ!!?」

 モロは泣き叫ぶように絶叫した。


 -Interlude-


 今度はモロがキャップと同じように隅の方に居た。
 モロとしては、確かに話題を逸らす事によって人に知られたくないコンプレックスを隠せたが、ある意味それ以上にダメージが大きかった。
 何より、ダメージを与えたのが――――。

 「――――まさか、衛宮先輩や京極先輩まで話に乗ってくれるとは思いませんでしたよ?」
 「乗る?何の話だ?」

 先程の結果は、冬馬と準と大和とガクトの4人は悪ノリの冗談だったが、復帰した少年心満載のキャップと最後の2人である士郎と京極は、至って真面目だったのだ。
 まぁ、その分性質が悪く、モロ自身に一番ダメージを与えたのだが。

 「あっ、いや、こっちの話です・・・・。でも衛宮先輩って、何時の間にそんなに鍛え上げられた体だったんですか?去年の体育祭は水上体育祭でしたけど、今見たい程引き締まってましたっけ?」
 「これは単に気で体をコーティングして、偽装してただけなんだ。周囲の人に引かれると思ったからな」
 「・・・・・・・・・」

 それは無いと大和は思う。
 士郎本人が知り得ているか否かは兎も角、非公式である士郎の愛好会ができる位だ。
 恐らく士郎のファンたちが知れば、更に熱狂的な信者になることは間違いないだろう。

 「・・・・・・え、なおえ、直江?」
 「えっあっ、はい?」

 士郎の発言で物思いに耽っている所に、士郎に声を掛けられて我に返る。

 「オレも直江に聞きたい事があるんだが、いいか?」
 「えっと・・・・・・何でしょう?」
 「直江は高校卒業と同時に京と結婚するんだよな?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

 士郎の口から出た言葉があまりの事に、頭の中が真っ白になる。
 しかしそれも一瞬の事。
 直に正気に戻る大和は士郎の聞く。

 「質問で質問に返すのは申し訳ないんですけど、それは誰から聞いたんですか?」
 「勿論、京からだ。終始惚気話を随分前に聞かされてな、途中にそんな話が出たんだよ。それから―――――」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 解ってはいたが矢張り京かと、溜息を吐く。

 (俺が告白を受け入れないから周囲の人(外堀)から埋めていく気だな)
 「・・・・・・やっぱりあれは京の嘘か」

 士郎は大和の溜息ぶりを見て、京の惚気話の信憑性の低さがほぼから完全に移り変わった。

 「嘘って気づいてたんなら、如何して確認取るんですか?」
 「一応・・・な。――――後もう一つ聞きたいんだが、如何して京じゃ駄目なんだ?」
 「京から話を聞いてるのであれば、判る筈です。アイツは真剣(マジ)なんですよ?」

 そう、大和が京の告白を受け入れない理由はそこにあった。
 全員とはいかないが、告白を受け入れてから付き合い出しても、それ=婚姻確定では無い。
 しかし都はそのステップをすべて無視して、大和に告白を受け入れられたら死ぬまで離れない覚悟でいるのだ。
 その為、大和自身もそれを本気で受け入れた上で、愛せる覚悟が無いまま中途半端にするわけにはいかないと言うのが“言い分”である。
 勿論、京から直接話を聞いているので、士郎も事情を察する事は出来た。
 それ故、こんな提案をする。

 「だったら仮初の付き合いを京に提案してみればいいんじゃないか?」
 「それは駄目なんですよ。アイツはその仮初の付き合いを、一日で既成事実を作るために押し倒しに来る筈ですから」
 「そうなのか・・・。けど、京の様に何所までも一途に思っている娘もそんなに居ないんじゃないか?親しい友人以外には内気だった自分を、変える努力をした所なども評価に値するだろう?」
 「・・・・・・」

 京は確かに昔から内気だった。
 風間ファミリー以外のメンバー以外とは最低限の礼儀も取るか怪しかった。
 それが約半年前、大和の忠言も聞いてこなかった京が突然社交性を努める様になったのだ。
 そして今では最低限の挨拶と、自分から話しかけないが誰かから話しかけられればそれにちゃんと対応して話すようにもなって来たのだ。
 大和としては嬉しい変化ではあったが、ある疑問が残った。
 京に変化を促した要因は何なのかと。
 そして今日までもその疑問はあったが、京をひたすらに薦める士郎を前にして、何故かその理由が士郎にあるのではないかと思った。

 「衛宮先輩、重ね重ね質問で返す失礼を承知で聞きます。京が変わった理由を何か知ってますか?」
 「ん?ああ。俺がな、直江と将来結婚した時のために、今の内から社交性を上げる努力をした方が良いぞと助言したんだよ。直江は人脈作りとかもしてるだろ?それで将来結婚した直江の奥さんの態度が悪いと酷評を上げられれば、直江自身の足を引っ張る事に成る。直江の妻として相応しくなるなら尚更だとな。それに――――」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・(パクパクパクパク)」

 大和の直感は正しかったが、思わぬ理由に開いた口が塞がらない。

 「――――って事なんだよ。まぁ、直江の妻になるにはどの様な行動が相応しいかと言うアドバイスを求められたからこそ、助言したんだがな」
 「・・・・・・・・・」

 大和はその言葉を聞き終えた直後、口を漸く閉じて立ち上がった。
 しかも随分と剣呑なオーラを纏わせて。

 「如何した?直江」
 「すいません、衛宮先輩。急用を思い出し――――出来たので、先に上がります」

 そのまま大和は、士郎の返事や他の面々の反応を無視して脱衣所へ駆けて行った。
 その頃、聞き耳を立てていた京はスッと壁から耳を離す。
 いくら湯ぶねに近い浴場地だからと言って、尋常では無い程の汗をかく京。
 そんな京を心配した一子が聞く。

 「如何したの?京?」
 「ゴメン、ワンコ。私逃避(急用)を思い出したから、先に上がるね」
 「急用って・・・入ったばかりじゃない。湯冷めしちゃうわよ!」
 『後で入り直すから大丈夫ぅぅぅ・・・・・・』

 京は大和からの捕縛から逃げる為に、心配する一子の言葉に走りながらも答えて脱衣所に向かうのだった。 
 

 
後書き
 長くなるので分けます。 

 

第21話 入浴後の醍醐味

 衣服に身を包んだ京は、女湯の暖簾を手で退かして左右を見る。
 誰もいないことを確認してその場を逃れようとするが、曲がり角の死角に大和が待ち構えていたようで、荒々しく肩を掴んで逃げないように壁ドンする。
 そんな大和に京は、わざとらしく気恥ずかしいように振る舞いながら身を捩る。

 「だ、ダメだよ大和。幾ら湯上りで私の色気も増してるからって、廊下で押し倒されても困る―――」
 「そうじゃねぇよ!このタイミングでもう上がって来たって事は、お前男湯の会話を盗み聞きしてたんだろうから知ってんだろ?何、衛宮先輩に吹き込んでんだよ!?」

 大和の攻め立てるような勢いに京は黙って聞いてから、一言。

 「てへぺろ☆」
 「そんなんで誤魔化されるかーーーー!!」


 -Interlude-


 風間ファミリーや葵ファミリー+αが箱根を満喫し始めた時に、昼間の間にモンスターペアレントと言う名の怪物を撃退した鉄心は今、雷画と向かい合って囲碁をしていた。
 鉄心が今いるのは自室では無く、冬木市の藤村組本部にある雷画の自室である。
 川神院と違って、藤村組は24時間体制の警備制を敷いているので、こんな夜遅くに集まるなら藤村邸が打ってつけだったのだ。
 しかしながらそんな理由もあってか、今の鉄心の周りには味方も居らず、孤軍奮闘状態だった。
 まぁ、既に死に体寸前だったが。

 「――――それで?儂にとって孫同然の士郎に、これからどれだけ迷惑かけるつもりかのぉ」
 「・・・・・・・・・」

 先程からこのような嫌味に、鉄心はとても眼前の囲碁に集中など出来ずにいた。

 「そもそも、百代ちゃんの精神面の幼さ具合は、お前おせいじゃろぉ?鉄や」
 「・・・・・・」

 この2人はこう見えて、兄弟の様に育ってきた幼馴染である。
 その為基本遠慮などない上、たまに昔に呼び合っていた愛称なども出る。

 「流石にこの時点で判っとるんじゃろ?お前のは孫可愛がりでは無く、甘やかしだと言う事が」
 「・・・・・」

 ズバリの指摘に士郎に言われた時と同様に何も言えない鉄心。と言うか、何かいい訳でもすれば、たちまちさらなる攻撃を与える隙を作る事に成るので、耐えるしかなかった。

 「ルーに負けたから、掟に従って息子夫婦を修業に出すのも色々如何かと思うが、兆歩譲って一先ずそれはいいじゃろ」
 「・・・・」
 (兆歩?百歩じゃなくて?)

 つまり相当遺憾に思われていた事に他ならない。
 当時も雷画には色々言われていたのだ。
 いくら掟とは言え、年ごろの子供がいるのに世界を回らせる武蔵修業に出して、親と別々に暮らさせるべきではないと。
 勿論それは川神院としての問題故口出しを禁じた鉄心だが、百代の破天荒すぎて躾が行き届いていない行動が起きる度、雷画に嫌味を言われてきたのだ。
 言うまでも無く自業自得だが。

 「息子夫婦を修業に出したのだから、同じ一族のお前が躾けなければならんところを、今では士郎が試みているぞ?普段からエロい事ばっかり考えてるからこういう事になるんじゃ。それに――――」
 「・・・・・・・・・」

 自業自得とは言え、一切の反論を封じられた上での嫌味による怒涛の連続攻撃に、鉄心は現実逃避したくなってきていた。

 (・・・・・・儂も旅行に行こうか)
 「旅行に行く行かないかはお前の自由じゃが、自分の影響力をよく考えていく地域を選定するんじゃぞ?そんな事でとばっちりなど喰いたくないからのぉ」
 「!?」
 「何か驚いた顔してるかは知らぬが、どれだけの腐れ縁じゃと思ってる?お前の考えそうな事など、手に取るように判るわい」

 考えまで見抜かれて、驚きを通り越して泣きたくなる鉄し

 「ほれ、泣きたいならタオル貸すぞ?すっきりしたらまだまだ言いたい事はいくらでもあるからのぉ。ほれ、とっとと泣け」

 本気で泣きたくなった。


 -Interlude-


 あれから温泉から出た風間ファミリーと葵ファミリー+αは、それぞれ好きに動いた。
 ガクトは、夜に加えて旅行中に羽目を外している女子大生などを狙うと言ってナンパしに行き、モロがそれにいざとなれば制止しようと付き添った。
 後は何時ものペースを取り戻すと言う理由もあった。
 そして珍しく、それに京極が付いて行くと言った。
 恐らくはモロへの人間観察なのだろうが、京極が加わった事により、このガクトのナンパのオチ見えた気がした。
 そして残りの11人は――――。

 「ここで、スマァアアッシュゥウウウっっ!!」
 「なんの!」

 卓球場に来ていた。
 此処には風間・葵ファミリー以外の利用客も来ていたが、彼らのほとんどが容姿に恵まれているせいもあって目を引いていた。
 因みに今のはキャップとワンコである。

 「連続スマァアアッシュゥウウウっっ!!」
 「燕返し!」

 隙あらば相手を仕留めにかかる様なラリーを繰り返している2人を、大和と京は並んで眺めていた。

 「2人とも楽しいそうだネ、大和(あなた)。まるで仲睦まじい私達みたい♡」
 「確かに楽しそうだけど、俺達の中はそんなに深い関係では無いな」
 「そうだね。私達の関係が深まるのは、今夜2人きりになってからだもんね♡」
 「2人きりになれる部屋だなんて無いぞ?」
 「それは暗に、初夜は外でするって事?誰かに見られるかもしれない背徳感に苛まれつつ、互いに貪りあいたいだなんて・・・・・・大和大胆♡」
 「それが今夜の妄想シチュか?ワンコ達と相部屋なんだから大概にしろよ・・・」

 此方も隙あらば、相手を仕留めかかる会話におけるラリーの応酬を繰り出し続けていた。
 先程注意されたのに全く反省を見せない。
 まぁ、正直今更なのだが。
 そんな4人をよそに、冬馬達3人も同じく卓球で楽しんでいる。

 「行くぞ、ユキ!これぞ、必殺のシャイニングサーブだ!」
 「ハゲだけに?お約束過ぎてつまらないよ、ジュン」
 「それは余計です」
 「準、パフォーマンスもいいですが負けてるんですよ?」

 そして風間ファミリーの新人たちも・・・。

 「このっ!」
 「はい!」
 「やるな、まゆっち!」
 『クリ吉こそなかなかやるな、付喪神アタック!』

 まゆっちは、クリスの反応しにくいポイントに激しいスマッシュ(勿論ラケットと卓球台が壊れない位の加減をして)を打ち込んだ。
 狙い通りクリスは反応できずに終わる。

 「おわっ!?今、松風居ないだろ!」
 「心の声です、心の声!心が清らかな人は、距離があっても念話で聞こえるんです」
 「それは自分が既に松風に憑りつかれていると言う事か?」
 『オラ、地縛霊じゃなくて付喪神だぞ!』

 他の利用客から見れば、楽しそうだが漫才にも見える。
 そんなメンバーの中でも、一際目立っている組み合わせがあった。
 それは百代と士郎の打ち合いだ。

 「そら、そら!そら!!」
 「はいはい」

 例えるなら嵐。
 強さの次元を超えた2人の打ち合いは、人目を集めるには集めるが、音速を越えてるのでちゃんと視認出来ているのはまゆっち位だろう。
 京は、弓兵としての自分の強みである集中力を高めれば見えるが、今は大和に寄り添ってるので見る気は無かった。
 因みに、ホントはいけないのだが卓球台は気を練り込んだ強化の魔術により、2人の打ち合いに耐えられるように頑丈にしている。
 勿論ラケットについても、お互い壊さない様に気で強化している。
 何故こんな事に成っている理由を知るために少し遡る。

 ~回想~

 皆卓球を始めてから百代は少し不満になった。
 百代は圧倒的に強すぎるので、やるにしてもかなり力をセーブしなければならないからだ。
 それ故に、百代は気分を変える為に美少女に走るのだ。

 「まゆまゆ!私とやろう!それで負けたら一晩だけ私の言う事を聞いてもらう!」
 「ほえ!?」

 クリスと愉しむ様にラリーを続けていたまゆっちは、いきなり背後からねっちり現れた百代に赤面しながら驚く。
 しかも一方的な要求に若干引く。
 しかし百代は止まらない。

 「安心してくれ!過度な要求はするつもりは無いぞ?先っぽだけだから!」
 「いや、あの、その・・・」
 「コラ、川神。怖がってるだろう?」

 しどろもどろになっているもゆっちに助け舟を出したのは、自動販売機にて皆の飲み物を買いに行って帰ってきた士郎だった。

 「邪魔するな、衛宮!今の私にとって、まゆっちを口説けるかどうかは死活問題なんだぞ!それとも、お前が私の相手になってくれるのか?」

 どの様な事であれ、自分と戦おうとしない士郎を封じるために言い放った言葉だった。
 だからこそ、士郎から出る言葉は意外だったろう。

 「ああ、いいぞ」
 「そら、言わんことじゃない!邪魔す・・・る・・・・・・・・・・・なんて言った、今!?」
 「いいぞと言ったんだ。だから彼女から離れてやれ」

 あまりに以外過ぎる言葉だった故、直には信じられる呆然とした百代だったが、この機を逃すまいと直にテーブルを確保してやることになったのだ。

 ~回想・了~

 そして今に至る。
 百代は非常に楽しそうにしながら打ち続けて往く。
 それを士郎は衝撃を極力殺しながら打ち返していく。
 この暴風雨、それから10分以上続いたのだった。


 -Interlude-


 士郎との打ち合いに気分爽快になったのか、テンションMAX状態の百代はその足でガクトのナンパに乱入して行った。
 さらにオチが見えた気がした。
 そんな訳で手持ち無沙汰になった士郎が椅子に腰かけて休んでいると、あの奥手のまゆっちが声を掛けて来た。

 「あ、あのあの!先ほどはありがとうございました!」
 「いや、そっちこそ大丈夫だったかい?黛由紀恵さん」
 「はい。――――それにしても私自己紹介しましたか?まだ名乗っていなかった筈ですが・・・」

 士郎の言葉の一部に反応したまゆっちは、警戒と興味の両方を持った。
 勿論隠す理由が無い士郎は、ちゃんと答える。

 「黛大成さんとはちょっとした知り合いだからね。君の事は聞いていたんだよ」
 「父と面識が!なるほど、そうでしたか。――――あのそれでは、もしかして衛宮先輩はあの刀匠EMIYAの御家族の方ですか?」
 「いや、本人だよ」
 「えぇええ!?」
 『学生で刀匠やるとか、マジ半端ねぇパイセンだぜ!?』
 「・・・・・・・・・」

 士郎の告白に驚くまゆっち達?に、何とも言えぬ表情をした。

 「まさかこの剣を鍛った刀匠EMIYAが衛宮先輩ご本人だったなんて・・・」
 『付喪神のオラを驚かせるなんて、パネェなんてレベルじゃねぇぞ!』
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 実に同意できる感想だが、士郎は沈黙を続ける。
 別に引いているワケでは無い。
 松風の事は大成からある程度聞いていたので、どう対応しようかと考えているだけだった。
 いや、訂正。少しだけ引いていた。
 此処までほぼ初対面の自分にこうまで松風の腹話術を押して来るとは、士郎も計算外だったからだ。
 だが士郎が考えているのはそれだけでは無い。

 (正体不明の視線が消えたな。完全には安心できないが、よかった。・・・・・・だが・・・)

 そうして士郎が先ほどから喋らない事にふと疑問に感じたのか、まゆっちが覗き込んで来る。

 「あの・・・、如何かしたんですか?」
 「ん、いや。如何やらホテルから一定以上離れた地点で、囲まれてきてるなと思って」
 「囲まッッ!?」
 「この無駄なく洗練された動き・・・・・・軍隊だな」

 どの軍隊かはあたりを付けていた士郎は、今は夜遅いので明日藤村組に電話しようと決めた。
 例え日本の同盟国の軍隊とは言え、関東圏内で我が物顔させるわけにはいかないからだ。


 -Interlude-


 そんな士郎に気付かれてるとも知らないある軍隊――――ドイツの猟犬部隊は、夜闇に紛れるように配置に着いた。
 その中の隊長である赤き髪の美女軍人、マルギッテ・エーベルバッハがクリスの父親に連絡を取る。

 「中将、全員配置に着きました」
 『そうか、クリスには今のところおかしな点は無いかね?』
 「ハイ」
 『よし、では私が到着するまで頼んだぞ?少尉』
 「ハッ!」

 あまりにも親馬鹿過ぎる、クリスの監視及び護衛任務が今始まった。 
 

 
後書き
 あくまで来ているのはマルギッテと猟犬部隊のモブメンバーですので、A5で出ました例の5人はまだ出ません。 

 

第22話 真のサムライ?

 夜明けよりもまだ、薄暗い時間に士郎は何時も通りの時間に起床した。
 だが今日は何時もの自室の布団の上では無い。
 ゴールデンウィーク中で泊まっている、ホテルの一室のベッドの上だ。
 見慣れぬ天井に安らぎ過ぎる程のベットの感覚、そして今自分の顔の横には二つのマシュマロがぴたりとくっ付いていた。
 そのマシュマロとは小雪の胸だ。
 葵ファミリー+αは小雪以外全員男なので、本来なら必然的に小雪だけ1人霧で夜を明かす事に成る。
 だが旅行中でそれは寂しいと言う事で、分別を弁えられて自らも律せる士郎が、小雪と共に一緒に寝る事に成ったのだ。

 (確かに我慢は出来るが、俺も一応立派な男なんだがな・・・)

 勿論お互い寝間着なので直接では無い。
 それでも十分過ぎる程の感触が伝わってくる。

 「んにゅ~~」
 「・・・・・・・・・」

 上を見上げれば気持ち良さそうな小雪の寝顔に、端っこの方で微かに谷間が見えてしまう。
 士郎は枯れているワケでは無い。この世界ではまだ一度たりとも誰かと行為に浸った事は無いが、本来の世界では幾人もの女性達と結果的に関係になり時にはその女性達全員相手した事もあるので、男としての衝動を抑えることが出来る様になっただけだ。
 そんな士郎は抱き枕状態のまま、さて如何したモノかと考える。
 その時丁度良く、小雪が寝相で少し動き抱きしめが緩くなったので、瞬時に抜け出すと同時に近くにあった枕と入れ替わった。
 小雪と言えば、抱いているのが枕だとも知らずに幸せそうに寝続けている。
 そんな妹分を見下ろす士郎は苦笑する。

 「小雪ももう、立派な女性に近づいて来てるんだな」

 改めて実感するのだった。


 -Interlude-


 士郎達――――葵ファミリー+αらは、今日は川沿いにて用意してきたキャンプセットを持って来て、楽しくゆったりと過ごそうと計画通り来ていた。
 水難が起きぬ様に言霊で鎮める京極に、持参したもので簡易的調理場やリラックススペースを設営する士郎と準、それに現地調達として釣りの用意をする小雪と冬馬。
 因みに、今も監視の目はある。
 本来の任務はクリスの護衛なので多くはクリス達に割かれているが、同じ川神学園生徒であると言う事もあって数人の監視の目がこちらに向けられていた。
 士郎としては気付かないふりをして過ごし、他の4人にも不安にさせないように敢えて教えていない。
 この件については今朝に早速電話をして、いざとなれば藤村組の名を出していいと許可をもらっていた。
 そんな皆がある程度の準備を終えそうな頃、風間ファミリーがやって来た。

 「うおっ!?また本格的すっね!」
 「そこまで大したものじゃないけどな。良し、こっちは終わったが準の方は如何だ?」
 「もうすぐです」

 風間ファミリー達の声には反応しても、自分たちの作業に専念する士郎達。
 そして風間ファミリーたちは、1人1人やりたいように行動し始めた。
 一方で、当の士郎は事前に用意しておいた食材を持ってくるために、近くに停めてあるキャンピングカーまで戻って来ていた。
 食材を一気に運ぶために準備していると、川の方からキャップの楽しそうな声が聞こえて来る。

 「風間はアウトドア好きだって京が言ってたからな。早速釣り上げたんだろうな」

 士郎も以前の世界では、世界中を回った時の生存スキルの一つとして始めた食糧調達が、何時の間にか趣味の一つになっていた事を思い出した。

 「赤い弓兵(アイツ)程はっちゃけた事は無いけど、俺も釣り(アレ)は結構楽しみだからな。クー・フーリン(ランサー)と競い合った時みたいに、風間と勝負するのも面白いかもな・・・・・・っ」

 光の御子、クー・フーリンを思い出すと同時に、色々と因縁深いある女性2人を思い出そうとしたが、強制的にノイズが頭の中で走った。
 士郎はこの世界に転生して来た直後から切嗣に拾われるまで、自分が衛宮士郎だと思い出せない記憶喪失に陥った事があった。
 それまで士郎は衛宮士郎では無く、シロウだけで呼ばれていた。
 これは無理矢理な世界移動と、一気に赤子に転生された時の衝撃が関係していると思われる。
 そして記憶を思い出せてからも思い出せない事が今もあった。
 思い出せない事は幾つかあるが、その代表として終わらない四日間とランサーに深く関係していた2人の女性達の姿は思い出せるのに、名前を如何しても思い出せないのだ。
 他にも思い出せない人物名があるが、そこは今は割合させて頂く。
 だがまぁ、日常生活にはさほど支障をきたす事は無いから、そこは安心と言えるだろう。

 「・・・・・・今さら、無理に思い出す必要も無いか」

 ノイズが収まり、独り言もやめた士郎は、事前の用意していた食材を即席調理場へ運んでいく。
 そこへ、運び終えると川神姉妹と京の姿が無い事に気付く。

 「あれ?直江。川神達と、お前の伴侶はどこ行った?」
 「姉さんなら京とワンコの格闘修業の稽古で奥まで行きましたよ。そ・れ・と!俺と京はそんな関係じゃないと、何度言えば解るんですか!!」
 「勿論理解してるさ。けどやっぱり可愛い後輩だからな、如何しても応援したくなるんだよ」

 何所までも京を薦めてくる士郎に、大和はため息を露骨に吐いた。
 そのやり取りを見ながらモロは、乾いた笑いをする。

 (京ってば、大和が告白を受け入れてくれないから、外堀から埋めていく作戦に出たんだなー)

 モロは京の執着心に、呆れを通り越して尊敬の念すら覚えるのだった。
 そうこうしている内に大和は風間ファミリーの新人ペアに近づいて何かしていたり、士郎は持ってきた食材の調理に取り掛かり始めて、準はその補佐に回り、残りは釣りに回っていた。

 「いやー、それにしても京極先輩が釣りする姿って、結構レアっすよね。もしかして趣味だったりするんすか?」
 「趣味と言うほどじゃないが、たまに衛宮と行くぐらいだ。――――働かざる者食うべからず、と言う事で釣りで協力しているだけで、趣味だと言うなら寧ろ衛宮の方だな」

 京極の言葉にへぇーと、士郎の方へ向きながら感心と興味心を含んだ視線を送る。

 「興味が有るなら後で競い合いでもすると言い。風間も相当だと見受けたが、衛宮も釣り人としての腕はすごいモノがあるぞ」
 「そいつは燃えて来るぜ!」

 そんな雑談を各自でしながら2人以外が釣りをしていると、百代だけが帰って来た。

 「ん?川神、2人は如何した?」
 「組手に入らせたんだ」

 百代が出てきた先を辿ってみると、組み手をしている2人の近くに軍服に身を包んだ赤い髪の女性が近づいて来てる事が解った。

 (あれは、ドイツの猟犬部隊の“猟犬”か)
 「・・・・・・はぁ。準、ちょっと任せてイイか?」
 「分かりましたが、如何かしたんですか?」

 ちょっとなと言い、徐にそこら辺の石を行くとか拾い上げる。

 「まったく、あそこの軍隊は犬の躾けもしてないのか」

 士郎は呆れ果てながら、狙いを付けて石を投擲した。


 -Interlude-


 京と一子は、一子が安請け合いした戦いで本気を出してから一応の勝利を収めたのに、頭に血が上った相手はトンファーを取り出して襲いに来た。
 2人とも主兵装は薙刀と弓なので、如何考えても不利だった・・・・・・と思ったが、そのトンファーによる連撃攻撃が2人に届く事は無かった。

 「っ!」

 赤い髪の軍人――――マルギッテは、自分目掛けて飛んで来る何かをトンファーで叩き落とした。

 「えっ」
 「石?」

 何かとは言ったが、マルギッテは飛んでくるものが瞬時に石だと理解出来た。
 そしてもう一つ理解させられた事がある。それは――――。
 この石は避けられない(・・・・・・・・・・)
 ドイツの神童のなせる業か、何故か瞬時にそう感じたのだった。
 しかしその回避不可の石は、マルギッテに体勢を整えさせないかのように次から次えと殺到してくる。

 「っ!くっ、はっ、ええ、いッッ!鬱陶っ、しいぃッ!!」

 まるでマルギッテの動きを完全に呼んでいるかの様に、何所からか投擲されて来ているであろう石の流星群により、自由を封殺されていた。
 しかし幸か不幸か、その流星群も長くは続かなかった。

 「鬱陶しいのはお前だろ?人様のバカンスを邪魔してるくせに何言ってるんだか・・・」
 「ハッ!私の後ろを取った!?」
 「お姉様!」
 「モモ先輩」

 マルギッテは、漸く石の流星群から解放されたと思いきや、いつの間にかに百代に背後を取られて軽く驚いていた。
 
 「川神と名乗った野ウサギにモモだと・・・?まさか、武神・川神百代か!?」
 「いかにもそうだが・・・・・・衛宮の言った通りの展開だな」
 「ホントだ。ワンコに京無事か?お友達で」

 まず始めに百代を先頭に、大和が当直次第京と一子の心配をする。保険を掛けた上で。
 その2人の後からクリスがやって来てから、殺気じみた空間が一応の晴れ間を見せるのだった。


 -Interlude-


 その光景を川で見ている士郎も、4人に断りを入れる。

 「ちょっと行ってくるから続けていてくれ」
 「ウェ~~~~イ!」
 「はい」
 「うす」
 「うむ」

 何の用かなど聞かない4人は、士郎の背を見送る。
 士郎が奥に何の用かなどそこまで興味は無い上、全幅の信頼があるので反対意思などある筈もないからだ。
 その4人に見送られた士郎は、瞬時に現場近くまで行き、何所までも上から目線で立ち去ろうとするドイツ軍人達に待ったを掛ける。

 「すいませんが待ってもらいましょうか」
 『ん?』
 『え?』

 士郎の制止により、その場にいた全員の視線が士郎に集まった。

 「ふむ。何か用かね?」
 「勿論用件があるから制止を掛けたんですよ。ドイツ軍にその人ありと言われた名将、フランク・フリードリヒ中将殿」
 「私の事を知っているか。それでどの様な用件かな?」

 自分とマルギッテに制止を掛けた少年――――衛宮士郎を、値踏みするかのように見る。
 しかし士郎はそんな態度に目もくれず、用件を口にする。

 「私自身が被害を受けたわけではありませんが、そこに居る彼女たちは大切な後輩とその親友です。その彼女たちに一言の謝罪も無しに上から目線とは、随分ですね」
 「貴様っ!?中将に向かって、何と言う口を――――」
 「黙っていてもらえますか?」
 「っ!!?」

 士郎が目を細めた途端、マルギッテは電撃を受けたかのように止まった。

 「マルさん?」

 姉同然の突然の行動停止に、クリスは首を傾げる。
 クリスの困惑である当人は、士郎の濃密な殺気を当てられて動けなくなっていた。
 クリスが困惑するのも当然だろう。
 士郎は語尾を強めたわけでも、殺気を無闇に振りまいたわけでもないのだから。
 ただ1人、静かに殺気を当てられているマルギッテは驚愕するしかなかったが。

 (馬鹿な!?この私が動けないだと!しかもこんな男風情に・・・!)

 マルギッテが尊敬している男など、手の指の数ほどしかいない。
 故に、異国の初めて会った男に油断や慢心をしてしまうのが彼女の短所なのだが、その決めつけは何時も当たっていたので問題にはならなかったのだ。今までは。
 今までにない現実に憤りを見せるマルギッテだが、士郎から当てられる殺気は尋常では無い程の濃密さで、ただただ戦慄するしかなかった。
 しかし士郎は、マルギッテを戦慄させたまま話を続ける。

 「フリードリヒ中将殿も、娘さんであるクリスティアーネ嬢も、日本の何所に憧れて来たのかは知りませんが、その内の一つはサムライであると聞いていますので言わせて頂きますが、中将殿が興味関心を持ったサムライと言うのは一見紳士な対応に見せかけて、自分のエゴだけを押し通して部下の行動も諫めず気持ちを込めない謝罪をする存在なのですか?」
 「む」
 「と、父様・・・」

 クリスはマルギッテの事とは別に困惑していた。
 正直自分の尊敬する父に、反論してくる士郎に僅かな反感を感じたが、説明を聞き終えてから感心しきってしまった自分を見つけたのだ。
 だが、尊敬する父にそれを強要する事も出来ないクリスは、何も言えないでいた。
 そして娘の気持ちを知ってか知らずか、フランクは愛娘であるクリスの身を心配し過ぎて、少しばかりか身勝手に振る舞っていた事を自覚し、反省する。

 「・・・・・・いや、確かに君の言う通りだ。私は如何やら、少々自己中心的になっていた様だ。改めて謝罪させてもらおう諸君、部下の行動も含めてすまなかった。全ては指揮官たる私の責任だ」
 「と、父様・・・!」

 先程とは違い、軽い礼では無く深々とした謝罪に軽く呆れと憤りを心に秘めていた何人かは、これを治める。
 士郎の説明の後と前では違いすぎる反応に、若干気後れする程だった。
 そして素直に反省し、謝罪する父の姿に流石は父様だな感心するクリス。大げさな言葉で言えば感動していた。
 その謝罪が本心からだと理解した士郎は、マルギッテへの殺気を治める。

 「クッ、ハァ、ハァ・・・」

 殺気の拘束から外れたマルギッテは肩で息をする。
 正直自分をこんな風にした上で、第二の父親の様な存在足るフランクに頭を下げさせた士郎に噛みつきたい気持ちに駆られるが、それではさらにフランクに恥の上塗りをさせてしまうので、堪えた。
 だが何より本能で理解してしまったのだ。
 今の自分ではこの男に勝てないと。
 故にマルギッテは雪辱を誓った。

 (いずれこの借りは必ず返します・・・!)

 そんな自分の失態をまるで自覚していないマルギッテを他所に、フランクは士郎に向き直る。

 「そして君にも謝罪と共に礼を言わねばなるまい。危うく私は大人として、1人の親として、娘に誤った理想像を自分の行動で教えてしまう所だったよ」
 「いえ、私の方こそすいません。あくまでも被害を受けたのは彼女たちであるにも拘らず、出過ぎた上に生意気な口を使って恥を掛けてしまいました」
 「・・・・・・・・・」

 先程とは打って変わる士郎の姿に、フランクは面を喰らうも、直に笑みを作る。

 「何でしょう?」
 「いや、不義理があったのは間違いなく我々だと言うのに、その姿勢に感心してしまってね。成程、君のような人間こそ、真にサムライと言うのだなと感心してしまったよ」
 「え、あっ、いや、私はそんな大したものでは・・・」
 「そして自分を律する精神性、クリスよ。私達は運がいいぞ!彼こそが真のサムライと言う人間だ。私もそうだが彼をよく観察しなさい。彼の様なサムライ精神が完成している人間性を学ぶことで、さらに私たちは飛躍する事に成るからね・・・!」
 「はい、父様!」

 もはや自分たちの世界に入ってるのか、フリードリヒ親子は当人である士郎を置いて勝手に興奮しだす。
 最早士郎の否定する言葉も全て、サムライ精神のなせる業だと受け止め続けられていた。
 そんな暴走する親子に、以外にもマルギッテが水を差す。

 「中将、そろそろ時間なのですが・・・」
 「む?もうそんな時間だったか。仕方ないが引き下がるとしよう。それでは諸君、そして・・・・・・そう言えば、君の名を聞いていなかったね。サムライボーイ。良ければ君の名を教えてくれないかな?」
 「・・・・・・士郎です、衛宮士郎」
 「――――士郎君か、いい名前だ!それでは真のサムライ、衛宮士郎君。如何か君もクリスの事を頼んだぞ!彼がいるから要らぬ心配だと思うが、クリスよ、何かあればすぐに駆けつけるよ!」

 言いたい事を言い終えたのか、フランクは士郎の返事も聞かずに笑みのまま、マルギッテと共に撤収して行った。
 そんなある種の台風を見送った士郎は、クリスの爛爛とした視線を受けながら誰にも聞きとられない声音で呟いた。

 「なんでさ」 

 

第23話 頼み

 「わー!これ美味しいわー!」
 「当~然!シロ兄が作ってるんだから美味しいのは当たり前だよ!」
 「ホントだ、けど僕あんまり釣り上げてないから、ちょっと後ろめたさがあるな・・・」

 士郎は戻って来てから動きづらかった。

 「自分で釣った魚と言う意識もあって、格別だな」
 「確かにうめぇ、前々から思ってたが、衛宮先輩、これでやっていけるんじゃねぇか?」
 「しかもこのレベルをただで食えるなんて、我らの島津寮の専属料理人に任命したいぜ!」

 自分を見る視線が消えたからと言って完全に安心しきった訳では無かったので、川岸に残っていた冬馬達4人が無事なので安心した士郎は、調理を再開させた。

 「焼き加減が絶妙です!私、衛宮先輩に弟子入りしたくなってきました」
 『コイツなんて大吟醸に合いそうで、オラ失禁レベルだぜ』
 「確かに士郎さんの焼き加減はなかなか真似できないからな。練習用に何か燃やせるもんとかないか?――――例えば馬肉とか」
 「ハゲにしては中々いい提案じゃないか!まゆまゆ、松風の尻尾千切ってくれないか?馬のテール肉とか美味いかもしれないしな」
 『ガタガタブルブルガタガタブルブル・・・』
 「松風を食べるのは勘弁してくださーい!」

 けれどそこから問題だった――――いや、川岸に戻る時もそして今も。

 「この串焼きも美味いな。――――だから京も自分の食事に集中したらどうだ?」
 「大丈夫大丈夫、だからはい、あ~~~ん♡」
 「食べさせてくれようとするのは友達(・・)!として感謝するが、かけたその赤いのを退けろ!」
 「え?いるでしょ?」
 「いらねぇよ!しかもそれ、七味じゃなくて一味だろ!しかもちらっと小さな文字で、オリジナルブレンドとか記載されてたじゃねぇかよ!!」
 「でしたら私の方は如何――――」
 「お前は自分の食事に集中しろ。そして太腿を撫でるな!」

 父親であるフランクの言葉に従っているのか、好奇心を抑えられないのか、士郎はあれからずっとクリスに一挙手一投足までも観察され続けていた。

 「真のサムライになるには料理も熟さなければならないのかー。成程なー」
 「・・・・・・・・・」
 「しか、も・・・・・・う~~~ん!最高だー!――――ただ料理を熟すだけでは無く、此処までの味に到達できなければ真のサムライとは認められないのか。登竜門と言う奴だな、流石は黄金の国・ジパング!自分の認識は如何やら甘かったようだな~」
 「・・・・・・・・・」
 「つまりサムライとは、非日常に対処できる力と、日常を充実させうるスキルの両方を獲得した者のみが名乗ることが許される称号なのか」
 「・・・・・・・・・」

 先程からこの調子である。
 仕方がないので、まず誤解から解く事を始めようと行動に移す。

 「いや、サムライはそんなものでは・・・・・・」
 「な、なんと、まさか衛宮先輩のあれほどの御業を以てしても、届いていないの云うのですか?サムライ道は何とも険しい」
 「いや、そもそも俺の技術は大したものでは・・・」
 「そして何所までも謙虚さを忘れずに、自らを律し続ける強靭な精神!衛宮先輩、自分はますます感服しました!」

 クリスの誤解を解こうとすると、彼女は人の話を聞かずに暴走するので、士郎は相応に苦労した。


 -Interlude-


 皆で昼食の片づけをした物を、最後に士郎が車の中へ運び入れていた。
 そこで、背後から百代が迫って来た。

 「何でそんな真剣な顔してるんだ?」
 「お前は背中に目でもついてるのか?」
 「そう言うのはある程度、気配で判るもんだろ」

 そこで改めて士郎が振り向くと、察した通りに百代は真剣な表情をしていた。
 それを士郎は軽い疑問に囚われる。
 百代が今現在のバカンスを楽しんでいたのは把握していたので、なぜ今このタイミングでそんな顔をするのかは心当たりが無かったと言う理由だった。

 「それで?皆の所では無く、俺が1人になった所を狙ったにはそれ相応の訳があるんだろ?」
 「ああ。だがその前に再確認したい。だから・・・。―――――私と手合わせしてくれ!」

 何時もの巫山戯半分や我儘ぶりなど露程も見せない真剣な目つきだった。
 つまり私欲や戦闘衝動によるモノでは無いのだろうと、士郎は察した。
 礼を失しない相手には相応の対応を取り、本気には本気で返す士郎の答えは決まっている。

 「分かった。けど、皆を巻き込むわけにもいかないからな。少し離れた所でやるぞ」

 百代は士郎の承諾と提案に異論をはさまずに、大人しく付いて行く。

 「あれ?モモ先輩?」
 「ん?士郎さん?」

 皆のいる川岸に戻ってきた士郎達に対して、何時の間に居なくなっていたモモ先輩が何故2人一緒に居たのか、何故2人とも真剣な目つきなのかと、疑問が次々に上がっって来ていた。
 因みに、士郎が後片付けをするモノだから、キャップは士郎との競争が実現できずに腐りながらやっていると、かなりの大物を釣り上げてから「これ、売り物になるんじゃね?」と、声を掛ける間もなく風の様に居なくなっていた。
 その風間ファミリー(マイナス)1人と葵ファミリー+αの面々から離れた地点に来た2人は、少し距離を離して対峙する。

 「よし、やる――――」
 「待った」
 「な、何だよ?」
 「その前にやる事がある」

 それは士郎が先ほど車の中から取り出した、色の付いた石の形をしたお守りの様なモノだった。
 これは魔術礼装では無く、気を込める事により防音や防振、そして衝撃などを軽減させる結界を張ることができるモノだ。
 四つで一組になっている為、一つでも足らなければ効果が無くなる。
 そして魔術の様な認識阻害などは出来ないと言うのも特徴の一つだ。
 これはスカサハが作成したモノでは無く、勿論士郎でもない。
 雷画だ。バーサーカー襲来の次の日の調査後、無暗に人前では使えない魔術や魔術礼装では勝手が悪いだろうと、雷画から予備も含めて三組ほど譲り得たモノだった。
 それをまさか数日中に使う羽目になった予想以上の速さに、内心で思わず苦笑しながら自分と百代を囲う様に四方に設置する。

 「よし、準備は完了だ」
 「これで思い切りやれるって事か?」
 「あくまでも、防音に防振と衝撃の軽減だけだ。だから加減を怠ると地形が変わるから気を付けろよ?」

 士郎の言葉に百代は軽くふて腐れる。
 その百代の反応に、士郎は仕方がない奴だと溜息をつく。
 この手合いの申し込みをした理由は未だ解らないが、あの時の顔は本物だった。
 ――――本物だったが、戦闘衝動と我欲の根本となる(さが)を消せる訳では無いので、この様に反応するのだ。
 とは言え、今は彼女の我欲を満たす為では無く、理由不明な手合わせをする事だ。

 「理解出来たなら何時でもいいぞ?」
 「かかって来いってか?なら遠慮なく――――川神流、無双正拳突き!」
 「フッ!」

 百代の正面からの主砲に対し、士郎も正面から迎撃する様に正拳突きを繰り出す。

 「っ!」
 「フンっ」

 お互いに力をセーブしているので拮抗する。
 と言うか士郎は、百代の拳に込められている気+地力を見極めて分析した威力と、ほぼ同等の力を出して迎撃しているのだけだった。
 そうとは知らない百代ではあるが、真正面からの対応が嬉しくなり、即座に再び距離を詰めて正拳を突き出す。
 それを士郎は、今度は無駄なく紙一重で躱しつつ顎を狙って拳を振り上げるが、もう片方の掌で防がれる。
 しかしその反撃自体が囮だったようで、空を切った正拳突きの腕と防御に回した掌を掴んで放り投げる。
 さらに放り投げるだけで終わらずに、宙に投げ出された百代の両足をすかさず掴んで、さらに距離を開ける様に投げ飛ばす。
 士郎としては、何となしに懐に入れないようにしている。
 今はまだ接近戦でも上だが、極力自分の得意とする距離を相手に押し付けた方が良いと言う癖の様なモノだった。
 そんな士郎の事情も何のその、徐々に気分を増していく百代は大技を繰り出す。

 「川神流――――富士砕――――!?」
 「俺は良くても流石にそれは地形変えるだろ?」

 対する士郎は、躱すのではなく前進して来た。
 このまま行けば直撃になるが、力をセーブしているとはいえ、これに耐えられるのかと百代は驚きつつも技の発動を止めない。

 「――――きー・・・!?」

 技は当たったが、士郎に当たると同時に姿は掻き消え、直撃したのは気を込められた石だった。

 (残ずぉおおおお!?」
 「フッ!」

 囮を使う場合は大抵は後ろに回り込まれているので、すかさず背後へと裏拳をかまそうとした百代だったが、既に士郎に首根っこを掴まれていて、技が石に当たった反動も利用した上で空中に投げ出された。
 その勢いたるや、徹甲作用による投擲を使われているので、百代はものすごい速度に加えてあまりの衝撃に身動きが取れないまま、かなり上まで打ち上げられた。

 「ハハッ!」

 打ち上げられた当人である百代は楽しそうに笑う。
 まだ数手程だけで此処まで自分を楽しませてくれる戦いに、気分が高揚して行き、自然に今何故こうして手合わせしているかを忘れて仕舞うほどだった。
 そんな百代の楽しそうな顔を見て、自分はやり過ぎたと自責するとともに嫌な予感に襲われる。

 「・・・・・・まさか」

 そして嫌な予感は当たる。
 百代は落下しながらも、明らかに派手で火力の高い大技を繰り出す体勢と気を練り込んでいた。

 「アイツ後で説教だ」

 そんな事を言いながら、もしもの時のために太い木の枝などを使った急ごしらえの弓を取り出すのだった。


 -Interlude-


 「シロ兄、如何して戦いなんて始めたんだろ?」
 「モモ先輩が無理矢理誘ったとか?」

 士郎と百代の突然の行動に、一同は驚くばかりだった。
 そして準の言葉に何となくそんな気がした大和が謝罪する。

 「うちの姉さんが、すまない」
 「でしたら今度、七浜までデートでもど――――」
 「謝るがそれを受ける気は無い!」
 「頑なですね」

 話を断られても怪しい笑みを止めない冬馬を無視する事にした大和だったが、皆と同様に士郎に遅れて百代が何をしようとしているかに気付く。

 「まさか姉さん・・・・」
 「此処川神じゃなくて箱根だよ?不味くない?」

 そんな大和達の心配など知らずに、百代の掌から気が練り込まれたビームが放たれる。

 「川神流――――星殺しぃいいいい!!」

 百代の星殺しのターゲットは当然士郎だ。
 その士郎は、避けるそぶりも見せずに急ごしらえの弓を引き絞る。
 そして放つ。
 放たれた矢は、この技の荒くなっている部分である中心よりもやや上側に吸い込まれるように衝突した途端、星殺しは霧散して、当然急ごしらえの弓矢も空しく千切り砕けた。

 「ハハハっ!凄いな、衛宮!」
 「・・・・・・」

 百代はこの結果にさらに嬉しそうに笑う。
 それに対して士郎はしかめっ面だ。
 反省の色はまるでなしの百代に、溜息をついてからこの手合いを止める言葉を吐く。

 「それで?再確認とやらはもう済んだのか?」
 「ん?・・・・・・・・・・・・・・・あっ!あ、ああ、済んだ!」
 (忘れていたな)

 それも含めて必ず説教をすると決めた士郎は、取りあえずその決意を置いておいて話を進める。

 「ならもういいだろう?如何いう理由で俺に手合いを頼んだんだ?」
 「言う前にワンコも同席させないと話にならないから、ちょっと待っててくれ。ワンコ!ちょっと来てくれーーーー!!」

 呼び出される一子は、首を傾げながら応えて来た。

 「どうしたの、お姉様?」
 「本当はもう少し先に話す気だったんだが、急遽こんなバカンス中に悪いが、言っておかなきゃならない事があるんだ」
 「な、何を・・・?」

 義理の姉である百代の普段なかなか見えない真剣な顔と言葉に、一子は思わず後ずさる。
 そんな2人を間近で見続ける士郎は、その空気を察して京極の方見る。
 士郎からの視線に直に気づいた京極は、口の動かし方で士郎の言いたい事を理解して行動に移す。

 『皆、暫く武神たちを見るな』
 『!』

 京極の言霊の強制力により、皆気になっていた百代たちへの気持ちも無意識的に抑制されながら視線を外した。
 こんな事をしなくても大丈夫だと思われるが、あくまでもメインは風間ファミリー内の問題なので、自分達も聞く権利はあると反論される可能性を考慮した結果、言霊を使ったのだ。
 勿論、京極自身も視線を外している。
 本音は観察を続けたかったが、無欲すぎる友人たる士郎からの滅多にない願いを無視する程、京極は野暮では無かった。
 そんな気遣いなども知らない川神姉妹だが、姉である百代の口から遂にその言葉が放たれる。

 「ワンコ――――いや、川神一子。今のままでは(・・・・・・)お前は師範代になれない」
 「・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 一子は、今自分が何を言われたのか理解できなくなって、呆ける。
 しかしそれも一瞬の事、直に意識を戻して百代に訴える。

 「な、何でそんな事!その前に、そう言うのは試験があるんじゃないのお姉様!?試されても居ないのに、そんな事言われて納得できないッ!!」
 「解ってる。こんなこといきなり言われて気が動転してると思うが、まずは聞いてくれ。――――今の川神院のやり方に従ったままじゃ、お前の武は川神院師範代補佐なら兎も角、師範代には届かないんだよ。クリとの戦い方も含めて、今日までお前を見て来て結論がこれなんだ」
 「だ、だからって!!」

 目尻に涙をため込んで食い下がる一子。
 だが百代は動じずに冷静に応対する。

 「待て、ワンコ。先に今のままでは(・・・・・・)って、言っただろ?」
 「ほえ?」
 「急に不安になる事を言って悪かったが、私に打開策があるんだ。それが衛宮だ」
 「え?え?」
 「・・・・・・そう言う事か」

 空気を読んで先程から黙って同席していた士郎が漸く口を開く。
 しかし泣きそうになっていた一子は、未だに目尻に涙を溜めながらも虚を突かれたような顔をしている。
 その2人の顔を見る百代が説明する。

 「ああ、そうだ。――――ワンコ、さっきの私と衛宮の戦いで何か感想は無いか?」
 「か、感想?とにかく凄かったとしか・・・」
 「私が言いたいのは技では無く衛宮の動きとかだ。自分で言うのもアレだが、さっきの私は基本衛宮に動きを読まれて翻弄されていたんだよ。そ・れ・に!」
 「おい」

 話の途中で百代は、士郎の腕に向かって気を込めた正拳で殴って来た。

 「大河さんの言う通り、耐久力については壁越えでもトップクラスだろう。今の一撃、私が喰らえば瞬間回復を使わないといけないほどの威力なんだぞ?」
 「それを何となしに攻撃するとは、覚悟はいいんだろうな、川神?痛くないワケじゃないんだぞ」

 士郎の冷ややかな目力に百代は慌てる。

 「わ、悪かったからすごんで来ないでくれッ!――――兎も角、動きの読み方や立ち位置の取り方から他の事まで、衛宮の教えを受ければお前の師範代への道が開ける鍵になると私は思ってるんだ」
 「衛宮先輩の・・・。――――で、でも、そうしたらあたし、川神院から追い出されちゃうの?」
 「そんな事あるわけないだろ!お前は何時までも私の大事な義妹(いもうと)だ!」
 「お姉様!」

 川神姉妹は大げさに抱きしめ合う。
 それを士郎が悪いと思いながらも水を差す。

 「いいところで何だがな、俺への弟子入りと言う事なら・・・・・悪いが断らせてもらう」
 「えぇええ!?」
 「なっ!ど、如何いう事だ!?」

 川神姉妹は士郎の答えに驚き動転する。
 百代としては士郎の事を少なからず知っていから、引き受けてくれるものだと確信していたので余計にだった。
 そんな2人に対して、士郎は両手を前に突き出して落ち着いてくれと促す。

 「話には続きがあるから聞いてくれ」
 「はい・・・」
 「ちゃんとした理由なんだろうな?」
 「当然だ。――――まず、俺から助言できるポイントも確かに幾つかあるが、一子は薙刀使いだろ?オレも確かに薙刀も扱えるし、まだ一子よりは薙刀もうまく扱えると言う自負位はあるが、俺は達人でもなんでもない。だから一子を薙刀で川神院師範代まで導くには限度があるから、安易に引き受けられないんだ」
 「と言うかお前、薙刀使えるのか?」

 士郎の説明の一部に百代が喰いつく。

 「知らないのに任せようとしたのか?」
 「う゛」
 「まぁ、いい。話を戻すが、その代わり、薙刀使いでは無いが同じ長物である槍の達人に頼んで弟子入りを頼む事なら出来るぞ?ただし、これは一子自身にも問題がある」
 「あ、あたし?」

 士郎は、漸く涙を抑え終えた一子の両肩をしっかり掴んで問う。

 「あの人は多分、魔がさした程度などのたった一言の弱音も許さないだろう。恐らくたった一回程度でも言うと破門を受ける可能性が高い。そして何よりも非常にスパルタだ。そこで質問だ――――一子、お前の目指す道は決して平坦じゃない上、届かない可能性も十分ある。それでもお前はこれまで通り――――いや、これまでとは比べ物にならないほどの努力をしなければならないが、弱音を吐かない覚悟はあるか?諦めない決意はあるか?」

 士郎の真っすぐな真剣な問いに対して一子は、一切目を逸らさず口にする。

 「あたし、諦めたくない。頑張るから、頑張る事だけが多分あたしに出来る事だから、如何かお願いします!!」

 その声音には懇願も含まれていたが、真剣さが多分を占めていた事も解った。

 「そこまで言うなら紹介する。だからそうだな・・・・・・休み明けの放課後にでも衛宮邸(うち)に来てくれ」
 「はい!」
 「ちょっと待て、衛宮の家にそんな人いたか?」
 「川神が今日まで会わなかっただけで、実際に家にいるのさ。――――よし、後は俺からの前もっての助言だが、基礎練は今まででいいが一つだけ指摘させてもらうぞ?」
 「何でしょう?」

 師範代への道筋が見えた事もあって、一子は明るい顔で問い返す。

 「京から聞いているが、一子は授業を聞かないで寝てる事が多いらしいな?」
 「え?あっ、はい」
 「なら、休み明けからはちゃんと寝てないで受けろ」

 明るくなった一子の顔に、やや暗い影が落ちる。

 「えぇえええ!?で、でも、基礎練を毎日これからも続けると、眠たくなっちゃうんですけど」
 「これも京から聞いた話だが、それはルー先生からの基礎鍛錬のメニュー以上を勝手に熟してるからだろう?限界を無理矢理超える根性論ですら限界はあるんだ。一子のそれは、正直ほとんど意味の無いモノで自己満足にしかならないぞ?」
 「で、でもでも、あたし馬鹿だし・・・」

 余程勉強が嫌いなのか、何かにつけて言い訳して逃げようとする一子に士郎は溜息をつきながら告げる。

 「言っておくがこれも鍛錬の一つだぞ?」
 「え?」
 「川神、今まで一子に本能で戦えとか要らんアドバイスなんかしなかったか?」
 「したけど?」
 「それはハッキリ言って一子には合わないアドバイスだな」
 「何でだ!」

 今までの自分を知っているワケでもないのにと言う反感を持つ百代。
 それに対して士郎は肩を竦めながら、やれやれと呆れるポーズをする。

 「本能や直感を頼りにしていいのは、あくまでも才能に恵まれた者達のみの特権だ。だからな一子、本当に強くなりたければ本能頼りの戦いなど忘れろ。自分が馬鹿だと言う自覚があるなら勉強しろ。無い頭で考えるなと言われるなら、その勉強を元に考える力を身に付けろ。そして敵の動きを観察しつつ、勝利をもぎ取るのが才能の無い者に唯一許された道なんだ。此処まで聞いて、(なお)も勉強が嫌だと(のたま)うなら俺はお前を見限る」
 「衛宮!」
 「当たり前だぞ、川神!お前と違って一子はそう言う道を走り続けないと師範代なんて夢のまた夢なんだからな。努力し続けても報われるとは限らないのが現実だが、結局諦めて努力も放棄した奴の頭上に全うな未来なんて築けるわけないんだからな」

 何所までも真剣に対して真剣で答える。
 それが士郎のやり方だ。

 「・・・・・・わかりました。それで本当に夢への道が切り開けるなら、あたし頑張ります!」
 「よし、なら明日から早速だな」
 「・・・・・・・・・・・・へ?明日はまだ連休中なんですけど?」

 士郎の言葉に困惑する一子。
 しかし士郎は構わず続ける。

 「明日葵ファミリー+α(俺達)はホテル内で勉強するからな。一緒にやれとまでは行かないが、まず今の一子がどれくらいの学力を持ってるからテストをする。それで今後の一子の勉強ペースと計画も立てられると言うモノだな」
 「ガタガタブルブルガタガタブルブル」

 決意の顔からまた一転、震えあがる一子。
 これこそ本能と言うモノだろう。
 今まで大和からの勉強を教わる前は、いつもこんな感じだったのだから。
 それでも一応話が纏まったと解釈したのか、百代はおずおずとした感じで士郎に近づく。

 「それでな、あの、衛宮、時々でいいから私との稽古も、その・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 百代の態度に今日、何度目かの溜息を吐く。
 それでも一応、百代に対しては思う所もあった。
 バーサーカー襲来時も、さっきの手合いの時も、欲求不満からの衝動故なのだと理解もしていた。
 そしてこれからもある程度満たせていないと、またも自分からガイアの使徒に突っ込んで行きそうだなとも考えていた。
 故に――――。

 「――――分かった。真剣勝負は兎も角、組手稽古なら付き合ってやる」
 「ホ、ホントか!?」
 「ただし条件が二つある」
 「じょ、条件・・・?」

 士郎からの次の言葉に身構える百代。
 それは恐怖か興味か判別つかないモノだ。

 「一つは朝の掃除だ。完璧を求める気は無いが手を抜くな。今までの川神の掃除は何所かしら手を抜いていると一目でわかったぞ?これからは一切の手抜きは許さない」
 「・・・・・・分かった」

 百代としては手を抜いていた気は無かったが、もしかすれば無意識的に手を抜いていた可能性もあると感じて、不承不承ながら頷いた。

 「そしてもう一つは精神鍛錬だ。座禅を組み、気を静めて意識を自分の奥底へ埋没させる。――――川神院の山籠もり中の大地との対話をさせる精神鍛錬よりも期待効果は落ちるが、これを毎日のようにやるとやらないでは全然違ってくるからな。これを毎日やる事」
 「その程度で良いのか?」
 「程度と言っても、これも手抜きは許さないぞ?これを毎日していくことが当たり前(・・・)になるまで、誰かの監視の下で行う事だ。勿論、私情を抜きに出来る人の下でだ」
 「わかった!」

 その程度朝飯前だと言わんばかりに、これからの士郎との組手稽古に期待を膨らませているのか、実に嬉しそうに笑っていた。
 しかし笑えるのも此処まで。
 何故ならば――――。

 「さて、なら今度は俺からの話があるんだがな、か・わ・か・み!」
 「ん?」
 「俺と手合わせをする前に言ったこと覚えてるか?」
 「手合せする前?・・・・・・・・・何かあったか?」

 如何やら本気で忘れているようで、真面目に思い出そうと唸る。

 「忘れているなら思い出させてやる。地形を変える技を使うなって言ったよな?」
 「え、あっ!」
 「思い出したか。まず始めに百歩譲って富士砕きはいいとしよう。だが最後に放ったあのビームは如何いう事だ?」
 「ガクガクブルブルガクガクブルブル」

 士郎は満面の笑顔と共に、過去最高の威圧感で彼女にプレッシャーをかける。
 そして当の百代は、先程テストと言うキーワードを出した途端に、恐怖に震えあがった一子と同じような反応――――否、彼女以上に顔を青ざめて行き冷や汗が止まらなくなっていた。
 しかしそれでも何とか抗おうと、百代はいい訳を口にする。

 「け、けけけ、けど、お前が消し去ったんだからいいじゃない―――――――ヒッ!?」

 士郎からのプレッシャーが増したからなのか、百代は自分でも今まで有ったかどうか怪しい程の悲鳴を口から漏らした。

 「消し去ったからよかったか!だがな川神、最近ニュースでよく見るある国がミサイルを発射して国際会議の場でも批判が殺到したのと同じで、当たらなければ結果オーライには成らないんだぞ?」
 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――」
 「自分の過失を認めるのは良い事だがな、川神。お前のこれからの為にも、一度ちゃんと言い聞かせないといけないな」

 つまり説教タイムと言う事だ。
 今このテンション状態の士郎に説教を喰らえば、どれだけ恐ろしい目に遭うかは想像するのは難しくなかった。
 故に百代は最愛の義妹たる一子に懇願する。

 (助けてくれ、ワンコーーー!)

 あくまでも声に出さないアイコンタクトではあるが、如何やら一子は百代からの懇願を上手く受け取れたようで、士郎に頼み込む。

 「あ、あの!衛宮先ぱ――――」
 「如何したんだ一子?」

 士郎が今纏っている剣呑な気配に、一子は耐え切れずに後ずさりをしながら口にする。

 「あ、あたし、皆の所に戻ってますね!」
 (ごめんなさいお姉様!如何か、如何か強く生きて下さい!!)

 一子は百代に一礼してから、その場から駆ける。
 背後からの縋る視線に後ろめたさを感じながら、謝りながら皆の下へ帰って行った。
 それを見送るしかなかった百代は――――。

 「ワンコーーーーーーー!!?」

 絶望の慟哭を叫ぶしかなかった。
 しかも士郎に首根っこを掴まれたまま引きずられてだった。
 それから暫くして士郎と共に返ってきた百代は、死んだ魚の目をしていたとか。
 そして意見の対立からか、クリスと大和が闘気をむき出しにしていた。
 これによって、風間ファミリーの明日の予定の最低半分ほどは、恐らくこの2人の決闘に費やされる事に成るだろう。 
 

 
後書き
 久々に一万字超えちゃいました。 

 

第24話 明日を見据えて

 「むぅーー」

 百代は、ガクトと大和の女子大生のラクロス部の覗き見から失敗して、ホテルに帰還していた。
 士郎からの説教を受けて、生気を根こそぎ剥ぎ取られていたので覗き見が出来ると聞いた時は瞬間回復でもないのに生気が上昇したので、楽しみにしていたのにこの始末なのでふて腐れていた。
 しかし百代は気付いていなかった。
 今この瞬間の背後から士郎が迫って来ていることに。

 「如何したんだ川神?そんないじけた顔して・・・」
 「!??」

 百代は声を掛けられると同時に背後から肩を叩く士郎に、余りの驚きに声なき悲鳴を漏らす。
 しかし当の士郎は笑顔だった。

 「いいいいいやぁああ、な、何でもない!」
 「何でも無くはないだろう?さっき師岡に聞いたが、直江と島津が女子大生に覗き見に突貫して行ったって聞いたぞ?そんな2人にお前が付いて行ったのを俺は見たんだが、此処までいえば俺が何を言いたいのか理解できるよな?また罪を重ねるとは・・・!」
 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――」

 昼間受けた士郎からの説教が余程恐ろしかったのか、百代は平謝りをし続ける。
 そのすっかり怯える百代に、士郎は溜息をつく。

 「まったく、謝るくらいなら最初からやるなよな」

 本当に仕方のない奴だとぼやきながら、百代の頭を撫でる。
 その対応の仕方に百代は見逃してくれるのかと、表情に僅かな光を灯す。
 だが現実はそう甘くない。

 「見逃す訳があるとでも?」
 「ヒィッ!!――――ご、ご慈悲を!」
 「ただ俺も鬼じゃない。だから選択肢をやろう」
 「選択肢・・・?」

 百代は士郎の感情を窺う様に、怪訝に聞き返す。

 「今この場で俺の説教を喰らうか、後日俺とルー先生と鉄心さんの3人からの同時説教を喰」
 「今この場でお願いしますっ!!」

 最後まで聞きたくなかった様で、即座に最初の選択を取る百代。
 だが、百代の判断は早計過ぎた。
 たった1人からの説教より、3人からの説教の方が恐ろしいと決まっていると直感で判断したのだが、それは違う。
 3人からの説教の場合、身内の恥を漱ぐと言う名目で保護者と身内同然の2人がメインとなり、士郎はサブとなるのだ。
 そしてこの2人からの説教であれば、ほとんど遠慮なく叱ってくる士郎よりは慣れも含めてまだマシだったのだ。
 けれど最早手遅れ。
 誰も来なそうな暗がりに連れ込まれた百代は、士郎からの説教により声にならない悲鳴をまたも響かせていった。

 「―――!――――!―――――!―――――――!!!」

 百代がこの事に気付いたのは、士郎からの説教により本日二度目の生死の淵からの帰還を果たした後だったとか。


 -Interlude-


 温泉から上がり、男湯、女湯から出てきた風間ファミリーメンバーは、談笑しながら部屋に帰る所だった。

 「そう言えばワンコ。士郎さんからのテスト大丈夫?」

 少し話が逸れるが風間ファミリーメンバー全員は、あの後から少し経過した時に今後の一子の事を聞いていた。
 最初は驚いたが、しっかり目標を見据えた上での決意と覚悟だと理解したので、応援するとも告げたのだ。

 閑話休題(そして話は戻る)

 京のこのセリフは明日に向けて勉強しなくていいのかと言う意味だった。
 その手の意思疎通程度であれば一子にも理解できるので、ちゃんと受け取れるようだ。

 「勉強しなくてもいいのよ。今のあたしの本来の学力が知りたいんだって!」
 「そっか。なら最近県を跨いでランニングに行ったところは何県でしょうか?」
 「馬鹿にし過ぎよ京、あたしだってその程度は判るわよ!ずばり、千葉県(チリ)よ!」
 「・・・・・・・・・・・・」

 恐らく県を約して千葉と言う気だったのだろうが、勢い余って太平洋を跨いだ南米の国名を言い切ってしまう残念な一子(豆柴)
 いや、もしかすれば本気で言ってるのかもしれないが、その様な事を京に確信など持てる筈も無く、ただ憐れみを通り越して生暖かい眼差しを向けながら一子の頭を撫で続けた。

 「如何したのよ京?そんなに撫でて来るなんて。あたしってばそんなに凄かった?」
 「うん、凄いよ。どうやったらその答え(千葉をチリと言い切った事)にまで導くことが出来るのか、私には到底不可能な事だから」
 「まーね!まーね!」

 自分の答えが間違っているとも知らず、胸を張り続けて誇らしげにいる一子。
 だが京は別に頭を撫でているが、決して褒めているとも正解とも一言も言っていなかった。
 その2人をよそに、由紀恵は百代の顔を覗き込んでいた。

 「モモ先輩、大丈夫ですか?」
 『温泉こそは、桃源郷をこの世に顕現させたマイユートピアと豪語していたパイセンらしくねぇですぜ?』
 「・・・・・・・・・」

 しかし百代は反応しない。
 それほどまでに士郎からの説教が堪えたのか、美少女たちが生まれたままの姿で咲き誇る桃源郷を体験しても直、百代の目は死んだ魚の目をしていた。
 因みに、大和とガクトも同じような状態の目で俯いていた。
 川に放り込まれた2人は体を温めるべく帰ってきた途端に温泉に向かったが、湯船に浸かっている所で士郎に遭遇して百代と同じ末路に堕ちたのだ。
 そしてその原因を作ったモロは、罪悪感を感じているかと思われるが、現在の本人にそんな余裕は無かった。

 「僕は、僕は・・・・・・・・・」

 本来知られていなかったコンプレックスの1つを、何故か知らない筈のキャップが知っており、その件について大和とガクトが出払っている間に色々あったのだ。
 その件についてモロは深く落ち込んでいた。
 風間ファミリーは全員で9人であり、うち4人は暗い気持ちに支配されていた。
 そして1人は残念な豆柴である。
 つまりカオスと言えた。
 そんな面々の前から1人の男が歩いて来た。
 そしてすれ違う時、その男は百代以外の全員の頭を一瞬撫でるように触り、そのまま過ぎ去っていた。
 しかし触れられた面々の誰もがその事(・・・)に気付かなかった。
 そして過ぎ去っていった男が口を開く。

 「既にあの歳で、災害認定された武神・川上百代か。――――あれから数年、随分と成長したものだ。やはり人は、未知の刺激を適度に与える事により成長していくモノだな」

 独り言を呟きながらその歩みを止めない。

 「そして川神百代の周りも個性あふれる若者達ばかりだ。土壌は既に完成している。なればこそこの種まきは、いずれ必ず彼らを今とは比較にならないほどに成長させる貴重な経験になるだろう」

 そしてそこで立ち止まり、誰もいない方へ振り返る。

 「――――それ以上に、あの川神百代をさらに成長させる促進剤、正義の味方の成れの果て、夢破れし英雄、錬鉄の魔術使い、衛宮切嗣の忘れ形見、衛宮士郎よ。今の私には土壌を作り種をまく事位しか出来ぬ身だ。故に如何か、お前の活躍(歩み)に期待させて欲しい。さもなくば――――」

 そこで言葉を止めて、誰に見られるでも無く去って行った。


 -Interlude-


 翌日の早朝、士郎は何時もの様に早朝のトレーニングを熟そうとホテルの外へ出る直前、川神姉妹に捕まり今は基礎練をすべて終えた後の軽い稽古をしている。士郎と一子で。

 「ハッ!」
 「甘いと言った!踏み込み過ぎだぞ!」

 一子は、士郎が石や木の枝などを使って作った急ごしらえの薙刀を振りながら、前へ前へと出がちに連撃を飛ばす。
 しかし士郎の徒手空拳に全て防がれながら注意を受ける。

 「速度を生かしながらの連撃なのだろうが、薙刀は本来待ちの型だ。だから大振りを躱されると――――」
 「あっ!」

 一子の唐竹割りをあっさりと躱した士郎は、さらに壊さぬ加減で薙刀を片手で叩き落とすと同時に、もう片方の腕の正拳を一子の目の前で寸止めする。

 「簡単にこうなる」
 「ま、参りました・・・」

 士郎に負けて項垂れる一子。

 「俺も薙刀を極めている訳じゃ無いからな、偉そうなことは言えないが薙刀でこれからも大成したいんだったら前にで過ぎる悪癖も直していけ。まぁ、そこらへんも含めて、本格的な指導は師匠がしてくれるだろう」
 「はい・・・・・・と、もしかして了承してくれたんですか?」
 「ああ。電話で聞いた処、確定では無いが見てくれるとさ」
 「あ、ありがとうございます!」
 「・・・・・・・・・・・・」

 嬉しさのあまりに興奮する一子を、士郎が宥める。
 その2人をつまらなそうに見ている視線が有った。
 勿論見ているのは百代だ。
 一子は兎も角、勿論士郎は気付いていた。

 「何だよ川神、そんなつまらなそうな顔をして」
 「べっつにー、ただワンコとは稽古してやるんだなーと思っただけだ・・・」
 「妹の将来の夢の応援も出来ないのか?」
 「クッ!」

 2人の会話に間に挟まれた一子は、あわわわと困惑しながら泣きべそをかく。
 そんな姉妹の様子に、溜息をしながら少し大人げなかったか?と思い改める。

 「仕方ない。今日は特別だぞ?」
 「別に嫌なら私は構わないぞー?」

 ふて腐れた百代は、士郎の提案に敢えて乗らないそぶりを見せる。
 本当は飛び出すように嬉しいくせに。
 しかし士郎はならばと、一子を慰めながら言う。

 「なら今日の朝稽古は、これで終いとして帰――――」
 「待て!やる!やるから、帰るな!」

 遂には百代の方から観念したのか、士郎の肩を掴んで懇願してくる。
 その様子にヤレヤレと、内心で苦笑する。
 そうして宣言通り2人は組手稽古をしたが、張り切り過ぎた百代を抑えて疲れた士郎は僅かに疲労を蓄えながら帰ったら、既に起床して朝のバイキングに向かう途中だった風間ファミリーと葵ファミリー+αの面々に遭遇した。
 そこで一子が士郎が疲れている理由に、言葉を選ばず言った。

 「士郎さんとお姉様、朝から(組手稽古が)激しかったのよ」
 『!?』
 『?』

 この言葉に、未だその手の話を知らないクリスと小雪は頭を傾げ、それ以外のメンバーの思考が一瞬停止した。
 それから士郎が滅多に見せる事が無い位に慌てて、事実詳細を説明した。
 その時に百代にも確認を取ったが、何故か彼女は士郎の必死に自己弁護する態度が気に入らなかったのか、本日二度目のぶすっとしている顔をしていた。
 その事を、朝食後の士郎達と別れてからの仲間たちに指摘された百代は、そんな気では無かったので、何故自分がそんな顔をしたのか自分で判らず仕舞いだったとか


 -Interlude-


 朝食を取り終えてから一旦休憩を挿み、予定通り今日の葵ファミリー+αは勉強をしていた。
 Sクラスのメンバーは、テスト結果が50位以下だとSクラスから外れるS落ちと言うシステムがあり、油断しているとSクラスから居られなくなってしまうのでこうして休日中も勉強する事など珍しくも無いのだ。
 S落ちと言うだけなら冬馬は心配ないが、彼の憧れである兄貴分の士郎に続いて行きたいと言う想いで、同率ならば兎も角今の首位を誰かに譲る気はさらさらないのだ。
 そして、基礎は出来ているがそれだけで油断していい理由にはならない準と小雪の2人も、熱心に勉強していた。

 『・・・・・・・・・・・・』

 そんな3人とは違い、京極は読書に耽っていた。
 士郎から借りた自分では手に入れられなかった本が溜まっているので、これを機に出来るだけ多くを読破するつもりだろう。
 その4人とは違い、士郎は一見すればやる事が無い様の思えるが、実は士郎も勉強をしていた。

 「・・・・・・・・・・・・」

 但し、士郎の勉強しているのは将来のための勉強。
 即ち、将来就きたい職業である弁護士になる為だ。
 勿論、弁護士が正義の味方がなる職種では無い事も理解しているし、今さらまた正義の味方を目指しているワケでは無い。
 あくまでも、自分の手の届く範囲だけでも助けたいと言う理由も含めて目指しているのだ。
 それに本当に自分は社会で通用する弁護士になれるかは、士郎自身不安が無い訳でもなかった。
 本来に世界にて、過去に世界中を回り、旅の中で戦闘から成る戦術眼は鍛えられたが、イコール弁護士としてその戦術眼が通用するとも限らない。
 同じ戦術でも、社会と戦場では似た部分もあるが、違う部分の方が多すぎるからだ。
 それでもやると決めた士郎は、此処に居る他の4人の誰よりも真剣な顔で取り組んでいった。
 因みに、京からの情報の下、一子の学力を知るためのテスト用紙は既に完成していた。
 内容の方は正直、高校二年生と言う歳を馬鹿にしているのかと言われても可笑しくない内容だったが、一子がテストを受けた結果、見事に赤点だった。


 -Interlude-


 此処はマスターピースの現代表の執務室。
 勿論そこで仕事をしているには、トワイス・H・ピースマンだ。

 「・・・・・・・・・・・・」

 彼は眼鏡をかけ直してパソコンを操作している。
 今している作業は鉄心への手紙の作成である。
 但し、川神院総代の川神鉄心へでは無く、川神学園学長の川神鉄心への手紙だった。

 (九鬼財閥が英雄のクローンを作り、育てていると言う情報は前々からあった。しかしよりにもよって、まさかそれを公式的に発表するパフォーマンスの舞台を川神学園へとしているとは厄介な)

 これはある伝手からのタレこみで知り得た事実だった。

 (あそこは良くも悪くも目立つ学園だ。しかも本来法律で禁じられている決闘システムも盛り込まれている上、確か昔は“模擬戦”をやって居た筈だ)

 トワイスが危惧しているのは、まさにその点だ。
 英雄たちのクローンが戦争と言うシステムを盛り込んでいること学園に送られる。
 そうなれば必ずや模擬戦の復活は避けられないだろうし、そしてそれを九鬼財閥は大々的に広めた上で、一種のショーとするだろう。

 (そうなれば、世界中に戦いが――――戦争が面白いものだと言う認識が広まってしまうかもしれん。今の日本の若者たちの多くは、恵まれているを通り越して贅沢だからな。そんなショーに喰いつかない筈がない。――――そんな事態だけは避けなくては)

 その為にトワイスは、鉄心にそれを未然に防ぐための要請を記した手紙を送ろうとしている。
 世界に無駄(・・)な戦禍を広げさせないためにだ。
 勿論ただ要請するだけでは効果が薄いので、この要請を受け入れてくれた場合、その模擬戦で得られるであろう生徒からの収益も代わりに融通する。資金援助をすると言う内容も入れていた。
 そうして送るための書類を完成させたトワイスは、1人の構成員を呼び出す。
 そして呼び出した構成員を部屋に入れ、書類を入れた手紙を渡す。

 「日本の川神学園学長である川上鉄心殿へ、必ず直接渡してくれ」
 「分かりました」

 構成員である若者がトワイスから受け取った手紙を手にしたまま退出する。
 それを見送ったトワイスは溜息をつく。

 「さて、賢明なる判断を期待したいが、どう転ぶか。――――最悪の場合は動いてもらうぞ?」

 いつから点いていたのか、デスクに備わっている別の画面に映っている全身黒づくめ何の飾りも無い黒い仮面の人物は、トワイスの言葉を受けても微動だにしない。

 『了解している。それが()の私の役目だからな』

 その全身黒づくめの存在は、画面越しだと言うのに只々不気味だった。 
 

 
後書き
 男の『種まき』で今のところある程度思いついているのは、ガクトとモロとワンコと大和です。
 残り4人はまだ考え中。
 原作の士郎が、もし聖杯戦争に巻き込まれずそのままだったら、将来は弁護士を目指していたとあったので、この話で士郎が目指す職を一応弁護士としました。 

 

第25話 湯ぶねの2人

 真夜中。
 士郎は諸事情により、こんな時間ににまで遅れて温泉に浸かっていた。

 「ふーー。たまにはこんな夜遅くに入るのも悪くないな・・・」

 時間も時間なので、士郎が言葉を噤むと浴場の設備の音以外聞こえない静かな世界が広がっていた。
 そこで士郎はふと気づく。

 「・・・・・・浴槽が広がったか?」

 そんな事は本来あり得ないので、士郎は熱に当てられた気のせいと判断した。
 しかしながら気のせいでは無く、この温泉の露天風呂はこの時間帯になると混浴時間となる為、男湯と女湯を隔てる敷居どころか浴槽自体もつながる設備になっていた。
 士郎達が泊まっている最高級のスイートルームでは、その手の説明が無かったので士郎は知らなかった。これは従業員のミスでは無く、このホテルがオープンしてから士郎達の泊まっている部屋クラスに泊まる今迄の御客たちの誰も、客層を選ばないその温泉を使う者が皆無だったからだ。
 しかしそれだけなら気配で探ればいいのだが、士郎は今1人なので、念のために昨日初めて使用した雷画から譲り受けた結界を張れる道具を、残してきた冬馬達の部屋の警備で使っているので、今の士郎の気配探知の効果範囲は著しく低くなり限定されている。
 それ故に士郎は気付けなかった。
 女湯の方から誰かが入ってきた事に。


 -Interlude-


 百代は既に今夜の分は一度入っているのだが、明日でこの小旅行も終わりと言う事で、誰も誘わず1人で温泉に入りに来ていた。
 もう一つ理由を上げるなら、今の自分の気の昂ぶりを鎮める為でもある。
 まだ解決と言うワケでは無いが、百代の心配の種の一つだった一子のこれからの事だ。
 これについては士郎に相談して、いい方向に行く感じだった。
 そしてもう一つこそが本命。
 これから平日は条件を熟せば、士郎との組手稽古が約束されている。
 真剣勝負とはいかないまでも、強者との戦いを望む彼女からすれば、加減をしても一撃で終わってしまう真剣勝負よりは遥かに期待が強かった。
 そんな夢にまで見た至福の時が間近に迫っている。
 これで興奮しない方がおかしいだろうと、彼女は思っていた。
 しかしそんな昂ぶりが睡眠欲求の妨げになり、それを鎮めるために来ているのだ。

 「ハァ~~~」

 湯ぶねの暖かさと静かな世界が彼女の興奮を鎮める。
 興奮は静まったが、良い気分になって来たので本当はいけないのだがバタ足をしない前提での泳ぎをしてみる事にした。

 「ん~~~って?」
 「ん?」

 百代が背泳ぎで泳いだ先で自分の頭が士郎の背中に当たり、士郎は士郎で背後から何かに当たったので振り返る。

 『・・・・・・・・・』

 百代が士郎を見上げ、士郎は百代と視線が重なる。
 そして――――。

 『うわぁあああああ!!?』

 士郎は即座に視線を戻し、百代は素っ裸なので胸を腕で覆い隠す様にしながら立ち上がって、そこから緊急離脱した。

 ――――暫くしてタオルを巻いて戻ってきた百代。
 この時間帯が混浴だとは知らなかった士郎にものを言おうとして帰って来たのだ。
 それに対して士郎は知らなかった事とはいえ謝罪をしてきた事と、自分は知っていたにも拘らず忘れていた事を認めて、渋々だが謝罪を受け入れる事にしたのだ。
 そして今、何故か百代と士郎は敷居が外れた男湯と女湯の中心地点で、背中合わせで湯船に浸かっていた。

 「なぁ、川神?」
 「なんだ」
 「やっぱり俺が上がった方が良いんじゃないか?」
 「お前は今日はまだ一回目何だろ?――――それ以上に、何か直にでも上がりたい理由でもあるのか?」
 「・・・・・・・・・」

 百代の言葉に士郎は沈黙する。
 理由が無いからでは無い。図星だからだ。
 用事はないが、理由はある。
 そして図星をついた百代は、理解している上で敢えて聞いていた。
 何故なら百代の声音は酷く面白おかしそうだったからだ。
 つまり士郎を揶揄っていた。

 「解って言ってるだろ」
 「それはそうだな。何せ衛宮が此処まで初心な反応を見せてるんだ、揶揄わなくちゃ勿体無いだろ?」

 揶揄うと言うのは2人の態勢だ。
 バスタオル一枚しか纏っていない自他ともに認められている美少女と、背中合わせとは言えともに湯船に浸かっている。
 この状況で冷静でいられるほど、士郎は枯れていない。
 そんな士郎を百代は背中越しから揶揄っているのだ。
 しかし、本当に嫌なら士郎はとっとと上がればいいのだがそれが出来なかった。
 士郎の両腕は百代の両腕に絡みとられていたのだ。
 本気を出せば外せるはずだが、こんな無防備な美人相手にそんな事をするなど、士郎の中でそんな選択肢は無いのだ。
 そして士郎を揶揄っている百代と言えば、口角を吊り上げて酷く楽しそうな満面の笑顔をしている――――なんてことは無い。
 むしろ羞恥に頬を染めていた。
 仲間達でも同じ女子以外で裸の付き合いなど百代はした事が無く、昔から知っているワケでもない士郎に対しては当然の反応と言える。
 それでも士郎を離さないのは只意固地になっているだけだ。
 此処で自分だけが上がれば負けた気分になる、しかし衛宮を上がらせて今日二回目の自分だけは入り続けるのもなんか違う、と。
 それ故に、2人揃って嬉し恥ずかしの状況になっていた。
 そんな空気の中、百代は自分が絡めて離さないでいる士郎の腕を見た。
 密着しているからわかるが、物凄く凝縮された密度の高い腕だ。
 恐らく士郎は見た目と違い、相当な重量だろう。
 ――――そこで百代は前々から気になっていた事を士郎に切り込む。

 「なあ衛宮」
 「ん・・・?」
 「お前はどうしてそこまでの強さを手に入れるのに、あんなバカみたいな鍛錬を積んでるんだ?だって必要ないだろ。お前は私の様に誰かに勝ちたい強くなりたいと言う欲求もないし、性格がまゆまゆみたいだとしても武家の家でもない。なのにお前は地力なら私よりも上だなんておかしいじゃないか」
 「・・・・・・・・・」

 百代の言葉に士郎は客観的に見た場合、確かにと自嘲しながら言葉を選ぶ。
 そして空を見上げながら言う。

 「・・・・・・守るためだな」
 「守る?何からだ?」
 「――――そうだな。川神は別にその力で将来世界を壊したいとか、世界征服するとかそんな気は無いんだろ?」
 「当たり前だろ?何だその昔の大和みたいな中二病的発想・・・」

 予想外の言葉に百代は嘆息する。
 当の士郎も言葉の選択を間違えたかと苦笑する。

 「兎に角、川神がこれからも社会の一部として生きていく気なら、そこをつけ入る様にして川神――――ひいては川神院を追い詰めようとする輩が出てくるはずだ。実際いるんだろ?川神院そのものを疎ましく思っている奴らは・・・」
 「まぁ、聞いた事位はな。だがそんな奴らは蹂躙してしまえば――――」
 「それだ、川神。そう言う奴らはお前の報復行為を実行する機を狙ってるんだよ。それ等に対して罠を張り証拠を突き付けて、川神院の社会的信頼や地位を貶めようとしてくるだろう。それに備えるには知識を身に着けて、幅広い顔を売り、情報を得り続けて対抗策などを考えることが大切なんだ」
 「・・・・・・・・・」

 百代は士郎の言葉に関心もするが、それ以上に呆れていた。
 自分と同い年でそこまで考えてんのかお前は、と。
 それにある事に気付く。

 「――――って、ちょっと待て!肝心の腕っぷしの強さについて聞いていないぞ!今のだけなら力そのものは必要ないだろ?」
 「分かってる。――――これは本来藤村組の部外者である川神に言ったら不味いからオフレコで頼みたいんだが、俺も把握してるわけじゃないが、世の中には百代に匹敵する或いはそれ以上の実力者も結構いるはずだ。裏社会には、な」
 「裏社会・・・!」

 百代の反応に、やっぱり喰いついて来たかと今度は苦笑いをする。

 「だけどそういう奴らは、あくまでも仕事としている部分が多くあるんだ。だから“武神に勝った”と言う箔を欲しがる奴らは皆無とまでは行かないが、それは度多くないと思うぞ?」
 「・・・・・・・・・」

 この事に百代は明らかに気落ちする。
 少なくとも背中越しで判るくらいには。

 「話を続けるぞ。それでそういう奴らは合理性や確実性を重視するんだ。だから俺や川神よりも強い奴が敵にに来ても、人質を使ってくる可能性もあるだろう。だからこそ俺はそれらの理不尽に負けないように。守り切れるように日々鍛え続けてるんだ。――――納得したか?」
 「一応は・・・」
 「後、言い忘れていた事があるんだが」
 「ん?」
 「俺が守りたいと思ってるのは勿論、お前も入ってるんだぞ、川神」
 「私は誰かに守られるほど弱くないぞ?」

 士郎からの追加の言葉を侮辱と受け取ったのか、百代は剣呑さを湯船に浸かりつつも露わにする。
 けれどその次に出てくる言葉でそれも見事に消える。

 「強いとか弱いとか関係ない。川神は可愛い女の子だろう?男として、いざという時くらい守らせてくれ」
 「んなっ!!?な、ななな、何言ってるんだ!」

 百代はこれまで、仲間であろうとファンであろうとすれ違い程度の他人であろうと、幾度も可愛いとか美人とか言われて慣れていた。
 それ故、今さら誰にその手の事で褒められようとも今までと同じ反応をするはずなのだが、士郎の褒め言葉には何故か褒められることに対して耐性のない女の子の様に頬を染めながら驚く様なリアクションをした。
 因みに流石に動揺したので、絡めていた腕の拘束を解き、士郎へと体ごと振りむいた。
 しかし士郎自身は依然として背を向けたままだ。当然ではあるが。

 「何で驚いてるんだ?だからと言う事じゃないが、確か川神は言われ慣れてなかったか?」
 「ッ!あ、ああ、言われ慣れてるさ!」

 そっぽを向くように後ろを向こうとしたが、そこで士郎の背中で目が止まる。

 (衛宮の鍛錬を始めて見た時も思ったが、コイツの背中って結構大きいんだな)

 髪の色が赤銅色ではあるが、士郎は何所まで行こうと生粋の日本人。
 その為、本場のアメリカ人の体格に比べれば小さいのだが、少なくとも百代には大きく見える様だ。
 百代はそのまま士郎の背中をなぞるように触る。

 「川神?」
 「・・・・・・・・・」

 何故か背中に手を当てられたのか不思議がる士郎だが、百代は取り合わない。
 寧ろこのバカンス中で感じ、大きくなっていた不快感が噴き出す。
 それは士郎の言葉にだ。

 「川神、如何し――――」
 「百代」
 「ん?」
 「私の名前は川神百代だ」
 「いや、それ位判って――――」
 「だったら如何して呼び方が川神なんだ!」

 百代が士郎に憤慨している点がそれだった。
 呼び方に違いを出す為と本人の希望で、一子の事はそのまま一子と呼んでいる。
 最初は川神ちゃん或いは一子ちゃんだったが、ちゃん付けされるのは慣れていなくてくすぐったいと言う事で呼び捨てだ。
 京はそのまま自然にそう呼び、クリスはと由紀恵も本人からの希望で呼び捨てだ。
 しかし百代だけがいつまでたっても呼ばれ方が苗字だった。
 だがそれは百代自身からの希望も無く、一子との違いも既に明確に表せているので、今さら変える必要性も湧き上がってこないためだった。
 それ故に、この百代の主張は理不尽なモノだが、それでも本人は納得できるものではなかった。

 「いや、だってな。一子と違いが判ってるならこのままでもいいんじゃないか?」

 士郎が正論を言う。
 だがここまで言って引き返す程、百代は聞き分けが良い方では無かった。

 「・・・・・だったら」
 「ん?」
 「だったら明日から――――いや!今から私の事は百代って呼べ」
 「・・・・・・・・・」
 「いいな、そうじゃないと――――」

 何故か泣くぞと言いたくなり口にしようとしたが、それより早く士郎が機先を制す。

 「士郎」
 「・・・・・・・・・?」
 「なら俺の事もこれからは士郎でいいぞ?」
 「は?」
 「いや、何。こんなこと言うのも実はちょっとばかし恥ずかしいんだが、照れ隠しだったのかもしれないんだ。川神から百代と呼び名を変えるのを。――――だからと言う事じゃない・・・・・・いや、そう言う事だな。だから百代も俺の事をこれから士郎って呼んでくれ」

 これでおあいこだろ?と、士郎は照れながら言う。

 「・・・・・・ふん、一応了解してやる。それと」
 「ん?」
 「守られるだけなんて柄じゃないからな、いざという時は私の方こそ守ってやるぞ。士郎」

 先程までの羞恥心が嘘だった様な声音だが、百代の顔は色々な意味で真っ赤になっていた。
 その顔色に対して、百代自身にどれだけの自覚があるのかは分からないが。
 今の2人にとって救いなのは、お互いに顔を見られていない事だろう。
 そんな百代の言葉に、僅かに照れのある心情のまま士郎は頷く。

 「そうか。――――これから改めてよろしくな百代(・・)
 「・・・・・・ああ」

 漸く呼んでもらえたことに、何かふっきれた百代から僅かな苛立ちも消えるのだった。

 「それにしても・・・・・いい月だなぁ」

 士郎の突然の言葉に、百代はつられて夜空の星々よりも多くを照らす満月を見る。
 そして士郎の感想に心から同調する。

 「――――確かに、いい月だ」

 2人は静かな世界で、上がる直前まで湯船の温かさ、それに夜空に輝く星々と綺麗な満月を楽しむのだった。

  
 

 
後書き
 これを書いている時刻は2016年5月29日19時ジャスト。
 原作を確認していたら、大和とクリスが決闘したその日に風間ファミリーが帰ってるのを知りました。
 次の日かと思った!でも書いちゃったから、1日ぐらい無理矢理延期させてもいいですよね? 

 

第26話 帰宅、そして―――

 
前書き
 前回の後書きで書いた通り、原作とは違い1日無理矢理延期させて二泊三日から三泊四日に急遽変更しました。
 全ては私、昼猫の勝手な思い込みと確認を怠ったせいで御座います。
 すいませんでしたm(__)m 

 
 翌日。
 朝食を取り終えた士郎達は、お土産を買うためにそのホテルの土産コーナーでは無く、外へ繰り出していた。

 「アルバさんのお土産、どれにしましょうか?」
 「寄木細工の工芸品とかいいんじゃないかな?若」
 「藤姉ぇのお土産如何しよっか~?」
 「美味い食い物だったら何でも食べるぞ?藤姉ぇは。雑食だからな」
 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・・」

 葵ファミリー+αの内の4人は和気藹々としているが、ゲストである京極だけが違った。
 別に不機嫌と言うワケでは無い。
 彼の視線は基本、士郎に向いていた。
 勿論、見る見られる視線に鋭い士郎自身が気づいていない筈も無い。
 それ故、如何して自分を見ているんだと聞こうとした士郎であるが、何故か本能が聞くなと警鐘を鳴らして来たのだ。
 聞けば必ず藪蛇になると。
 イマイチ理由が解らないモノの、自分のこれまでの経験上その警鐘に逆らっていい方向に行った試しがないので、取りあえず聞かないと言う選択肢を取っていた。

 「・・・・・・・・・ふむ」

 そして士郎を見ると言うか観察している京極は、興味深そうに穴が開くほど見続けている。
 京極は今現在の士郎を図り損ねていた。
 数年の間、友人として過ごして来たから微妙な士郎の変化にも気づけたのだが、何がどう変化したかの詳細はまるで分っていなかった。

 (だが感じる。もうすぐすべての謎を解き明かす為に欠けている要因(ピース)と、巡り合う予感を・・・!)

 そして京極の予感通り、百代(ピース)が到着した。

 「あっ、士郎さん達も来てたんですね」

 そこに、同じく土産を買うなどの理由でホテルの外に繰り出していた、風間ファミリーと遭遇した。
 この時に京極は、士郎の微妙の変化の回答へと繋ぐための判断材料を得た。
 何故ならこの中で、士郎と百代が誰よりも早く目線を合わせたからだ。

 (2人の視線が重なった時、互いを見る目が以前よりも柔らかくなった?)

 これは一体何を意味するのかと、気になったので少々爆弾の投下(質問)をする事にした。
 京極が1人観察を続けている間に、風間ファミリーと葵ファミリーが混ざり合ってどのお土産を買おうか等で盛り上がる。
 その中で偶然か必然か、至近距離で話し合ってる士郎と百代(2人)へと切り込む。

 「武神に衛宮」
 『ん?』
 「これは私の勝手な推測だが、2人はまさか・・・・・・付き合いだしたのか?」
 『は?』
 『え?』
 「何・・・です・・・って」

 投下された爆弾に周囲は、1人以外が皆呆気に囚われ、その1人である冬馬が京極の言葉の意味するところに愕然とした。
 そして当人である2人は――――。

 「はぁ!?何言ってるんだ!私が“士郎”と付き合ってるだと!冗談も休み休み言えっ!!」
 「そうだぞ京極?俺が“百代”何かと釣り合う訳無いだろ?」
 「士郎と百代・・・か。2人とも何時から呼び合う仲になったんだ?」

 京極は士郎と百代の言葉を聞いた時の他の皆の意思を代弁する様に聞く。

 「えっ、あっ、そ、そんな事どうでもいいだろ!?」
 「ふむ。取りあえず攻略されつつあると言う事か。流石は衛宮だ。やるな・・・!」
 (士郎さん・・・・・・お得意の天然ジゴロでモモ先輩を攻略中?よしっ!大和を狙う上での最大のライバルが消えた。ありがとう士郎さん!!)

 百代の答えに京極と京だけ何故か納得した。
 それ以外は納得しきれていないものの、そこまで追求するほど興味は無い者と興味はあるがプライバシーに関わる事なので自重する者に見事に割れたのだ。
 しかし当事者であるうちの1人、百代はそんな事を気にもせずに士郎を睨む。

 「それよりも、私“なんかと”釣り合う訳無いとは如何いう意味だ?」
 「ん?意味も何もそのままだが。俺と百代みたいな可愛い女の子が釣り合う訳無いだろ?」
 「・・・・・・・・・」

 百代は士郎の言葉に苛立ちを無意識に治めながら面を喰らう。
 こんな公衆の面前で臆面も躊躇もなく、可愛いと言う言葉を平然と使う士郎に赤面すらも忘れる程だった。
 それを京が百代に囁く。

 「モモ先輩モモ先輩」
 「ん?京?」
 「士郎さんは誰だろうと平然と言って来るから、一々リアクション取ってたらきりがないよ」
 「まさか京も言われた事あるのか?」
 「私の場合、大和がいたから大丈夫(未だ絶好調で片思い中)だったけどね!」

 頬を赤らめキャーと言わんばかりのポーズを取る京に、百代は何とも複雑な顔で士郎を見る。
 それを薄っすらと片目だけを開けた京が、百代の様子を窺う。

 「・・・・・・・・・」
 (まだモモ先輩に自覚は無いかな?クッ、士郎さんの誑しスキルでも現時点ではこれが限界か・・・。中途半端に終われば再び大和争奪戦の最大のライバル(脅威)が復活してしまう。それだけは何としても避けなければッッ!!)

 この京の思考時間、僅か2秒。
 そして百代から微妙な視線を受けている当の士郎は、首を傾げつつも居心地が悪そうにしていた。

 「何なんだ?」
 「それを判らないのが士郎さんの致命的な欠点なんだよ」

 京はこのまま百代と士郎をくっつけたいと思っているが、露骨な後押しをすればその後どのような影響が起きるか想定できないので、歯噛みしつつも軽い注意だけに留めたのだ。
 結局、当人たちにそれ以外の大きな反応と変化も無いので、暫くして士郎と百代のお互いの呼び合いにも周囲が慣れて行ってしまったのだった。


 -Interlude-


 士郎は現在運転中だ。
 土産を買いながら最後の観光を終えた士郎達は、昨夜の時点でほとんど荷物をまとめ終えていたからすぐに出発体制を整えられていた。

 「この車良いなー、ハゲ達行きはこれで来たんだろー?」
 「あんまり騒がないでよガクト。無理して乗せてもらってるんだから迷惑でしょ」

 運転手である士郎を含めて5人で来たには後ろが騒がしい。
 それもその筈。自分達よりも先にホテルに戻っていた風間ファミリー達とまたも遭遇して、共にキャンピングカーに乗って帰る事に成ったのだ。
 確かに風間ファミリー達も乗せる事は可能だったが、行きの時とは違い座席も埋まってしまい、横になって寝るスペースは消えてしまう位には狭くなった。
 とは言っても、お互いの間には1人位なら座れるスペース位のゆとりはある。
 けれども車内の行き来は難しく、冷蔵庫に入っている飲み物や食料品も近くに座っている準が必然的に取り出して手渡す形になっていた。
 座席の位置は、士郎以外の葵ファミリー+αの4人は後ろを希望していたので最優先で決まり、キャップが助手席を希望したが迷惑になるだろうと最古の幼馴染である大和の決断により、無理矢理羽交い絞め状態で後ろに座らせられていた。

 「おーぼーだー!」
 「京、うるさいから黙らせろ」
 「分かりました、旦那様♡」
 「ふぐむっ・・・・・・ぎゃーーーー!!?」

 京に無理矢理に一味たっぷりの焼きそばパンを口に入れられたキャップは、口内の痛みに悶えながら悲鳴を上げる。
 因みに百代が助手席にいた。
 これは京の提案に、本人も拒否姿勢を示さなかったのでこうなったのだ。

 「後ろは賑やかで楽しそうだが、良かったのか?」
 「こんな美少女の横を独占できてるのに、何か不満でも?」

 土産の買い物時の反応に不満が残っていたのか、揶揄うように言う。
 だが百代は京からの忠告をまだ学んでいなかった様だ。
 士郎の臆面も無く言う言葉に。

 「押し付けすぎると思うが不満なんて無いぞ?寧ろ贅沢だと思うな。今だけとはいえ、百代程の美少女を独占できるなんて罪悪感すら感じるかもしれない」
 「なっっ!?」

 口にすれば気恥ずかしいであろう言葉を、士郎は柔らかな表情のまま百代に躊躇なく言う。
 それを受けた百代は二回目とは言え、赤面する。
 傍から見れば好意を抱いている判断材料であろうが、士郎は無自覚で百代は認めたら自分の負けと変な意地を張っていた。

 「如何したんだ百代?顔なんて赤くして・・・」
 「クッッ!!」
 「それで如何して俺は睨まれるんだ?」
 「士郎が悪いからだッ!」
 「なんでさ」
 『・・・・・・・・・・・・』

 そんな2人の様子や会話を盗み聞きしている者達がいた。
 士郎がノーマルなので口惜しく我慢しているが、それでも現時点で何所までいっているか気になる冬馬に2人がくっつく事により最強の恋敵が退場してくれることを切に願っている京。

 『・・・・・・・・・・・・』

 そして意外な事に、小雪と大和も気になっていた。
 小雪は士郎の事を兄同然に見ているが、いざ恋人が出来そうになったからか、複雑そうに窺っていた。
 意外な事にそれは大和も同様だった。
 大和にとって百代は色々無敵過ぎる姉気分だ。
 最高級の美人でもある事は大和も認めていたが、だがそれだけだった筈。
 それ故、今自分が百代と士郎に向けている感情を自覚し発見すると、自分の事ながら誰にも察知されないように装いながら驚くのだった。
 ――――まさか俺、姉さんの事が好きだったのか、と。
 そんな大和の装った気持ちに京だけには気づかれていた。

 (やっぱり大和、モモ先輩に惹かれてたんだ・・・。けど大和の伴侶になるのはこの私だっ!――――帰ったら大和を落とすのと並行して、モモ先輩と士郎さんのくっ付ける策を考えなければいけないなッッ!!)

 京は誰にも気づかれないように装いながらも、静かに闘志を燃やしていた。
 しかし、理由は判らずとも京が闘志を燃やしていることに、大和だけは気付いていた。
 ある意味相思相愛である・・・・・・のかもしれなかった。


 -Interlude-


 士郎の運転で皆を家まで送って行った。
 一番最初にモロの家。
 二番目に島津寮及び島津家前。
 三番目に京極の家。
 そして四番目に今現在居る川神院だ。
 冬馬達3人を車内で待たし、士郎は百代と一子に付き従って鉄心の自室に来ていた。
 そこにはルー師範代を伴った鉄心がいた。

 「なるほどのぉ~」

 鉄心が相づちを打ったのは、一子の修業体制の変革と条件付きである百代との組手稽古の件だ。
 この2人の件は、百代と一子は自分達だけで報告と許可を取ろうとしていたが、今後の川神院の重大案件になるだろうと士郎が提案したので、同伴してきていた。

 「いいだろ~爺ぃ」
 「お前の件は、士郎君さえ言いのなら儂は口出しせんわい。問題は一子の事じゃ」

 鉄心が横目で、2人で真剣に話し合っている一子とルーを見る。
 一子は真剣な表情だが、ルーは渋い顔をしていた。

 「お願いします。師範代っ!」
 「・・・・・・・・・」

 本気も本気の一子の頼みに、ルーは何とも言えない顔をし続ける。
 先程からこの繰り返しに鉄心は一度溜息をつき、口を挿む。

 「一子よ。ルーは別に反対してるわけじゃないんじゃぞ?」
 「え?」
 「アっ、総代!?」
 「ルーは単に悔しいだけじゃ。一子の伸びしろを上手く促せない自分。それにまだ見ぬ一子の新しい師に僅かばかりの嫉妬をの。そうじゃろ?」
 「全部言わなくてもイイじゃないですカ!」

 図星を言い当てられて、全て曝け出されたルーが鉄心に抗議する。
 しかし鉄心は受け入れるどころかさらに突っ込む。

 「ルーよ。答えは出てるんじゃろ?此処で反対するのは一子の為では無く自己満足でしかないと」
 「・・・・・・勿論デス。――――一子の気持ちは分かったヨ。その上、ワタシの未熟な指導力のせいで一子をそこまで押し上げられないのは、今回の事で自覚させられたしネ」
 「そんな!ルー師範代のせいじゃなく、アタシが悪い――――」
 「違うヨ一子、これはワタシ自信の問題サ。だから自分の未熟さを受け止めた上で言わせてもらうヨ。士郎君、如何かワタシの愛弟子川神一子をヨロシクお願いします」

 ルーは愛弟子一子の為、真摯な姿勢で頭を下げた。
 それに士郎も謙虚な態度で応じる。

 「いえ、若輩のみではありますが、出来る限りルー師範代の愛弟子である彼女をサポートして行きますよ」

 士郎の言葉と態度にルーは満面の笑顔になり、一子は何度も頭を下げた。
 無事問題解決となった場で、鉄心は百代に一子、それにルー師範代の3人に気付かれないように士郎にアイコンタクトを取る。

 (しろ)
 (報告しますよ勿論。当然でしょう?)
 (・・・・・・・・・・・・儂、今年の夏を生きて迎えられるかのう?)

 心からの溜息を人知れずつくのだった。


 -Interlude-


 士郎は最後に冬馬達を送り届けていた。
 明日は金曜なので今日くらいならとも思えるが、士郎の事情により今日は帰ってもらうになっていたのだ。

 「ありがとうございました、士郎さん。今回も楽しかったっすよ」
 「百代たちと鉢合わせたから、ゆったりとは出来なかったけどな」
 『・・・・・・・・・・・・』

 士郎の口から出る百代と言うキーワードに、冬馬と小雪は複雑な心境が絡み合って神妙な顔つきのまま黙る。
 それに対して士郎は首を傾げる。

 「如何した2人とも?」
 「えっ!?」
 「あっ!?」
 「若もユキもちょっと疲れてるんすよ」

 2人の変な反応に準がフォローに入る。

 「そうか。ならゆっくり休んで風邪とかひかない様にな」
 「・・・はい」
 「うん・・・おやすみシロ兄」
 「お疲れ様でした!」

 3人からの返事に手を振る事で答えた士郎は、車を発進させた。
 それを遠くに見送る3人の内、小雪と冬馬はまだ矢張り複雑そうだった。
 そして準も、そんな2人に掛ける言葉を探しながら考えていた。

 (全く士郎さんも罪作りだぜ。俺は興味ないが、多くの綺麗な造形然とした女どもを虜にしてるにも拘らず、モモ先輩も攻略中だと?それで若は呆然としてるし、その上ユキも複雑そうだ。――――やっぱモテすぎるのも考え物だな。まぁ、俺には愛しの甘粕真与(委員長)がいるんだけどな!!)

 結局掛ける言葉も見つからず、1人テンションを上げる事で2人を元気づけようと促すが、小雪から若干うざがられて脛を蹴られるのだった。 

 

第27話 問題だらけの英霊召喚

 
前書き
 第一章の最終話です。やっとか。
 私の更新速度の遅さが原因なんですけどね。 

 
 現時刻は昼頃。
 と言っても日本では無く、此処は大国アメリカ合衆国の某州某所の会議室だ。

 「言うまでも無く、我が国は世界を牽引するリーダー国と言っても過言では無い」
 「そんな我らが、同盟国の高々一つのTERAに居る数名に怯えるなどあってはならん事だ!」
 「この様では民衆には示しも付けられん上に、近年では他国に舐められてきている始末・・・」
 「今こそ我らの矜持を取り戻すべきだ・・・!」

 と、強硬派達が強気な姿勢を見せるが、弱気な意見――――と言うよりも現実的な発言者である慎重派もちゃんといる。

 「しかしあのTERAのKAWAKAMIもMOMOYOも人の身で戦略兵器(抑止)に届き得る火力を持ち、柔軟に動ける小回りさがあるのだぞ?」
 「元最強は未だ健在で、その孫も災害認定されている。こんな問題だらけの現状で、覇を唱えるなど無謀の極みだ」
 「強気な発言も結構だが、リスクとリターンが如何見ても釣り合わない。もっと考えて欲しいものだ。彼らと矛を交えた後、責任を取るのはそちらだけでは済まされんのだからな」

 それに対して声を荒げながら反論する。
 そんな怒号飛び交う無駄会議の場で、先程から発言していない者達――――この極秘の会議を開いた主催者たちが口を開く。

 「どちらの意見も尤もな主張ですね。そこで我々がその問題を片付ける策と用意を提案しに来たのですよ」
 「何だ、その策とは?」
 「もしかしてその用意とは、後ろに控えている者達と何か関係があるのかね?」
 「その通りです。まず彼らは私の抱えている魔術師達で、川神一族に対する策として英霊召喚する事を提案します」
 「何だと!?」

 主催者の言葉に、強硬派と慎重派の双方がどよめく。
 此処に居る者達は皆、多かれ少なかれ世界の裏社会に潜む住人達――――魔術師や神秘の事を知っている者達だ。
 その者達が驚く英霊の召喚の為の術式は、半世紀以上前に魔術協会が解体されたと同時に失われたものだからだ。
 今までも川神院対策の会議の場で、何度か英霊を召喚と共に兵器として使うのは如何かなどの意見も出たが、術式や依代などの問題で棄却されてきたのだ。
 それら過去の事を理解した上での主催者の発言は、到底驚かずにはいられなかった。

 「英霊召喚の術式は失われたはずだ!」
 「まさか手に入れたと言うのですか!?」
 「様々な制約や限定的条件下ではありますが、可能です」

 この言葉にまたも一同がどよめく。

 「して、その条件とは?」
 「まず我が国が、『アメリカ合衆国』と正式決定した年以降の英霊しか呼び出せません」
 「近代だと!?」
 「英霊は神秘の塊だ。神秘はどれだけの年月を重ねたかによって、さまざまな効果に影響を及ぼすモノだ」
 「いくら英霊を呼び出せたとしても、近代では話にならぬ」
 「そうですな・・・・・・せめて信仰心が世界レベルに在る程の、知名度を誇る英霊でなければなりませんな」

 この言葉に誰もが難しい顔をする。
 そんな彼らに主催者が、触媒用のとある偉人の伝記書を取り出した。

 「私はこの英霊の召喚を推したいのですが・・・如何でしょうか?」
 『おお、あの人物が居たか・・・!』

 ほぼ同時に声をそろえる様に納得する者達が出た。しかし・・・。

 「知名度に文句はありませんが、戦闘など出来るのか怪しいモノですぞ?」
 「――――確かに。殴り合い程度なら出来るだろうが、従軍経験も無いのだ。話にならんぞ?」
 「寧ろいざとなれば、我々を盾にする可能性もあるのでは?」

 どの英霊を召喚するか知らないが、散々な言われようである。
 しかしそれでも主催者の表情は崩れない。

 「その当たりも如何かご心配なく、他に複数の英霊達で霊器を補強して概念を強化する算段です」
 「なるほどな、これならイケそうじゃないか!」

 主催者の策に、頷く強硬派の面々。
 しかし慎重派の面々はそうでは無い。

 「待て。英霊の召喚は禁じられてはいないだろうが、それで川神院にぶつける或いは画策しようものなら九鬼財閥やマスターピースが黙っていない筈だ」
 「そうだ。策はいいとしても・・・・・・そう言えば用意とは何の事だ?」

 そこで、最初の話に出てきた重要なキーワードに反応を示す慎重派の1人。
 これにも主催者は待ってましたと言わんばかりに、魔術師達とは別に控えさせていた者達を登場させる様に前へ出す。 

 「彼らはあの『コズモルイン』のメンバーです」
 『なっ!?』

 コズモルイン。
 構成人数、規模、本拠地の全てが謎の最上位の殺し屋組織。
 この組織に目を付けられた者は死が確定されたとも言われるほどだ。
 そのコズモルインメンバーは全員仮面をしている者ばかりで、彼らについて驚いている所に間髪入れずにもう1人紹介する。

 「そして彼が世界最強の傭兵である――――」
 「軍神、ラミー・ルイルエンドか!?」
 『・・・・・・・・・・・・』

 黒と紫を基調としたゴツい鎧を着こんだ軍神と呼ばれた傭兵に注目が集まると、この会議にて、何度目かのどよめきが広がる。

 軍神、ラミー・ルイルエンド。
 数年前に彗星の如くに突如として現れてから、たった1人で圧倒的不利と言われた側に雇われて、その紛争にて雇い主側に圧倒的勝利を齎した性別年齢全てが鎧と仮面に覆い隠された最強無敵の傭兵だ。
 雇い主の意向では他の傭兵とも足並みを揃えなければならない事があるかもしれないが、基本誰とも組まない一匹狼。
 その戦闘力は何でもあり常識外れの川神一族に匹敵、或いは超えているのではないかと噂されるほどだが、国籍自体も不明なのであくまでも有名なのは裏社会の間のみ。
 それ故、国籍や所属もハッキリしている者達の中で世界最強に今名前が挙がっているのが、九鬼財閥の従者部隊序列永久欠番、殺戮執事ことヒューム・ヘルシングとなっている。
 だが恐らく、裏社会の住人達や世界最強の称号に何ら興味を示さない者達も合わせれば全盛期ならば兎も角、長期戦が苦手になったほどに衰えた殺戮執事ですら引きずり落とされる可能性もあるだろう。

 閑話休題(そして話は戻る)

 その魔人が如何して此処に居るのかと――――どうやって雇ったのかと驚いていた。
 慎重派は兎も角、強硬派は軍神と言われたこの傭兵を何度も自らの手元に置こうと交渉を図ってきたが、一度たりとも実現する事は無かったのだ。

 「コズモルインにしろ、一体どのような手でその魔人を雇い入れたのだ!?」
 「すみませんが契約反故になってしまいますので、それは言えないのです」

 主催者がラミー・ルイルエンドをチラ見しても、当人は我関せずと言わんばかりに微動だにしない。
 その様子に、強硬派むぅと唸りながら追及を止めた。

 「ともあれ、理解していただけたでしょうか?九鬼財閥やマスターピースの動いた場合の防御策として、彼らに働いてもらいます。慎重派の皆さんもご納得していただけましたでしょうか?」
 「それなら、まぁ・・・」
 「悪くはありませんね」

 主催者の成果に、慎重派の者達は渋々ながら理解を示した。
 強硬派には問うまでも無い。
 これで両派閥の了承を得た事に成るので、他にも軽い説明をした後に英霊召喚を早速始めた。
 魔術師達が魔法陣に向けて詠唱していく。 
 その光景に多くの者が息をのむ。又は多少の興奮を感じていた。
 しかし、コズモルインの者達はまるで他人事のような目で見つめ、ラミー・ルイルエンドに至っては1人静かに誰にも聞かれない声量で侮蔑の言葉を呟いた。

 『・・・・・・茶番だ』

 それはこの召喚だけでは無い。
 自分がこの場にいる事も含めての言葉だった。
 ラミー曰くの茶番がもうすぐ終わろうとしている。
 魔術師達が最後の詠唱を呟いた。
 直後――――。
 魔法陣からは召喚成功の発光では無く、一瞬にして会議室を隙間なく埋める程の何かの煙が発生した。

 「なんっ・・・・・・」
 「こっ・・・・・・」
 「けむっ・・・・」

 その煙を吸い込んだ瞬間、会議室いた者達が悉く倒れて行った。
 しかし全員気絶している会議室には、コズモルインメンバーとラミー・ルイルエンドの姿がいつの間にか消えていた。
 後に彼ら全員何故この会議室に集まっているのか、覚えている者は誰1人としていなかった。
 主催者とお抱えの魔術師達も含めてだった。
 勿論英霊召喚の術式の情報までも綺麗サッパリにだ。


 -Interlude-


 ほぼ同時刻。
 深夜二時頃、士郎にスカサハ、和成と利信、それに雷画と嵐臥の計6人は衛宮邸の地下に居た。

 「師匠。此処、旅行前よりだいぶ広くなった感じがするんですが・・・」
 「うむ。お前たちがいなかったのもあって、暇を持て余していたので少し拡張させようとしたらつい興が乗って、予定よりもかなり広くなってしまったな」
 「師匠・・・」
 「やりすぎじゃろ・・・」

 スカサハの茶目っ気に、士郎と雷画が呆れるように溜息を吐いた。
 そこに和成がある事に気付く。
 壁側にある人形が数体立てかけられていた。

 「スカサハ殿。あの人間に酷似した等身大の人形は何ですか?」
 「あー。アレは士郎の記憶を勝手に覗いてみた時に、稀代の人形師が作っていたモノをまねたものだな。英霊を召喚した場合、現界維持まで魔力を持っていかれるだろうから、あの人形に納めればいい。そうすれば宝具解放時以外で魔力の消費を抑えられるだろう?――――オリジナルでは無いとはいえ、中々の出来栄えと自画自賛したいな!」
 「師匠・・・・・・」
 「せめて、士郎坊の許可取ってからしてくださいな。スカサハ殿・・・」

 全く罪悪感なく淡々と説明するスカサハに、先ほど以上に溜息をつく士郎。
 そして嵐臥も呆れていた。

 「そんな事より召喚の準備は完了しているのだ。とっととやらんか」
 「そんな事って・・・・・・もういいです。――――ですけど師匠。英霊に近づけない制約は大丈夫なんですか?」
 「その事なら一応のある程度の解呪に成功している。少なくともこの衛宮邸内と藤村邸内では大丈夫だ。近づこうが近づかれようが強制的に離れる事は無い」
 「では、外ではまだ?」
 「私の方から近づくのはまだのぉ。全く、面倒な制約じゃ」

 誰に当たる訳でもなく、スカサハは1人毒づいた。
 その事には誰も突っ込まない。
 此処で突っ込んだ質問をすれば、火の粉どころか大火を受けるのを理解していたからだ。
 そこで利信はスカサハに声を掛けたくないのと時刻も迫っているので、士郎にある聖遺物を渡した。

 「これはどんな縁があるんですか?」
 「知らん」
 「は?」
 「俺は趣味で、勘当された家にちょくちょく嫌がらせしに不法侵入するんだけどよ。今回も侵入するだけなら楽だったんだが、罠を仕掛けられていたようで聖遺物らしき物を盗み出すのを苦労したぜ!それでな――――」

 利信の常識から逸脱した話に誰も彼もが頭を押さえた。
 スカサハ以外は。

 「ふむふむ。それで?」
 「ええ、これがもう、楽しくって!桂の館は今頃半壊状態ですよ!!それから――――」

 スカサハは不機嫌な顔一転させて、すこぶる楽しそうに利信の非常識な話に聞き入っていた。
 そんな頭痛薬を煽りたくなる様な光景から目を逸らし、雷画は士郎に問う。

 「如何する、士郎?今回はやめておくか?」
 「どんないわくつきか判りませんからね。確実性を期すためにも今回は見送ると言うのも選択肢かと・・・」

 雷画と和成の2人に問われた士郎だが、数秒黙ってから答えを出す。

 「・・・・・・・・・いや、やるよ」
 「正気ですか、若!厳選したわけでもない様なモノですよ?」
 「正直、そんな悠長な事を言ってられない事態だと思う。あのバーサーカーが俺で対処できなかったらと思うとゾッとするし、他にも怪しい奴らが俺の周りにうろついて来ている。今見送ったら守りたいモノも守れなくなる気がするんだ」
 「若・・・」
 「士郎坊・・・」

 士郎の覚悟じみた判断に、感嘆の吐息を漏らす。
 であるならばと、雷画としては士郎の意思をくみ取らないと言う選択肢はない。

 「では始めるとしようかのう」
 「ああ。――――素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 士郎が英霊召喚の詠唱を紡いでいく。
 その時、士郎達が知覚出来ない英霊の座から詠唱と聖遺物に引かれていく高潔な霊器があった。
 その霊器はなんと、周囲をただ漂っていた別の霊器と衝突、高潔な概念霊器は意識が賦活する前にある欠損してしまった。
 だがその欠損を抱えたまま、召喚の地である衛宮邸の地下空間にいってしまう。
 そして――――。

 「――――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 魔法陣からこの地下空間全体を包み込む逆巻の風と稲光が放たれた。

 『・・・・・・っ』

 全員目は見開いたままだが、召喚者以外の者には風圧により僅かに体をぐらつかせる。
 それに耐えきると、魔法陣の中心から微かな声を聞き取った。

 「・・・?・・・どう・・・・・・考・・・・・・か・・・」

 何を呟いているかまでは聞き取れないが、召喚自体は成功した様だ。
 視界を覆っていた煙が晴れて行き、英霊の姿が現れていく。
 鉤爪の様な金色の手に、白いマントを腰からはためかせ、腰に刀剣を携えている。
 何より目を引くのは、ただ赤いのではなく神聖さを感じさせる橙色の焔を彷彿させる長髪だ。
 それを後ろで止めて、軽く髪をまとめている様だ。
 お互いに顔をちゃんと認識できる位に視界が晴れてから、少年姿の英霊が問いかけて来る。

 「――――問おう。汝が、余のマスターか?」

 一見女性を思わせる声音であり、この地下空間を余すことなく響かせていくような程よく通る声だ。
 そして否応でも判るのは、人の上に立つことが約束されているかのような存在感も感じさせられたものだった。
 その少年の存在感に少し圧倒されるも、士郎は応え返す。

 「・・・ああ。俺が君のマスターだ」
 (余・・・と言う事は王族か・・・・・・・・・ん?)

 何故だか少年は難しい顔をしていた。

 「如何したんだ?もしかして俺がマスターだと不服だったか?」

 士郎の疑問に、当人を気に入っているスカサハ以外の4人はムッとする。
 だが少年姿の英霊は、難しい顔のまま否定する。

 「いや、そうでは無い。このまま契約を完了させていいモノかと迷っていてな・・・」
 「何か不備でもあるのか?」
 「うむ。それがな・・・・・・余と言う言葉を自然に出したからには、余は人の上に立ちし者だと言う事位は予想出来るのだが如何ともな・・・」
 「?」
 『??』

 何とも歯切れの悪い事を言う少年英霊。
 士郎は業を煮やしたわけではないが、言ってみてくれと促す。

 「むぅ・・・・・・実はな。――――余は、余自身の真名を全く思い出せんのだ」
 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?』

 少年英霊のまさかの言葉に、スカサハすらも含めて信じられないような顔をする。
 そんな一同の顔を見渡して溜息をつく。

 「信じられない、信じたくないのは余も同じだ。しかし事実なのだから仕方がない。それに大変すまないが、もう一つ言わなけれなならない事がある」
 「もう一つ?」
 「これこそ真に信じがたい事だろうが、自分の真名が思い出せないから必然的に宝具も使えんのだ」
 『なっにぃいいいいい!!?』
 『・・・・・・』

 藤村組の4人が驚愕する中、スカサハと士郎は自分の真名を思い出せないと言う少年英霊の言葉を聞いた時に予測できていたので、驚いてはいなかった。
 その面々に申し訳なさそうにする少年英霊は、ハッとある事に気付く。

 「そう言えば、マスター・・・・・・いや、契約完了していないからマスターと呼んでいいのか怪しいな。――――兎も角、お主は余の縁がある聖遺物を用意しているのだから、当然余の真名を知っているのだろう!!」

 単純ではあるが名案を思いついたと言わんばかりの勢いだ・・・・・・が。

 「すまない」
 「ん?」
 「何の聖遺物か判らないまま召喚に臨んだから、君の真名について全く身に覚えがないんだ」
 「なんと・・・」

 真名を思い出せ少年の英霊と、召喚される英霊が分からないまま分の悪い賭けに走った異世界の魔術使い。
 お互いの間に気まずい空気が流れる。
 その後ろでは、藤村組の3人が騒いでいた。

 「如何いう事だ利信、説明しろ!!」
 「これ、俺のせいすかッ!!?」
 「当たり前だろ、何とかしろ」
 「無茶言うなっ!」
 「・・・・・・・・・アレは何じゃ?」

 騒いでいる3人をよそに、雷画が注視するのは全員が集まり終える前に利信がシャレで書いた魔法陣だった。
 その上に、何故かスカサハ作の人形も置いてある始末。
 さらに、書く時に近くに無造作に置いたであろう利信が尊敬する、とある偉人の伝記書が魔法陣の光に反応していた。
 そして何故か魔法陣の中心から士郎にパスが繋がりかけていた。

 「な、何だ、マスター!余だけで飽き足らず、もう一体召喚すると言うのか!?」
 「いや、そんな訳」
 「覚悟を決めろ、士郎。もう手遅れだ」
 『へ?』

 少年英霊と士郎が間抜けな声を漏らしたのと同時に、先程の様に逆巻の風と稲光が地下空間を包み込んだ。
 それらの圧力に耐えた一同。
 そこに、何故か召喚されたであろう未だ煙で見えない英霊の声が聞こえて来る。

 「むぅ!?これが私だと?・・・・・・いや、だが、私は私と認識できるのだ!!知性と人格に問題が無いのであれば些細な事だ!うむ!ノープログレムだ!!!」
 『・・・・・・・・・』

 あまりの大声に戸惑う一同。
 この中心から聞こえてくる声は一体何なんだと疑問しか浮かばずにいる。
 そして戸惑うのも無理はない。
 この大声はたった今召喚された英霊の独り言である。
 それに気づける筈も無い一同は、疑問が頭の中で浮かび続けるだけだった。
 そんな中、遂に煙が晴れていく。

 「なっ」

 その英霊は、はち切れんばかりの肉体を有していた。

 「な、なっ」

 その英霊は、両肩には一昔前の電球が付いていた。

 「な、ななっ」

 その英霊の胸には、どこぞのロボットアニメの様な砲門が付けられていた。

 「な、ななな、なっ」

 その英霊は、某有名なアメリカンヒーローの様なコスチュームに身を包んでいた。
 しかし、これらの全てが霞むようなインパクトがあった。それが――――。

 「髪の色は兎も角、肌の色は実に日本人らしいな。いや、失敬。契約を完了させるのがまだだったね。―――――問おう。少年が、私のマスターかね?」
 『・・・・・・・・・(パクパクパクパク)』
 「何じゃとーーーーーー!?」
 「何だとーーーーーーー!?」
 「何だそりゃーーーー!?」
 「何と・・・・・・!?」

 顔が、よく言えばホワイトタイガー。悪く言えばマーライオンのそれだった。
 そしてスカサハのみが興味深そうに。

 「変わり種のキメラかのぉ?」

 と、呟いたのだ。 
 

 
後書き
 ラミーの鎧姿は、ロックマンエグゼシリーズに出て来たダークマンを想像して頂ければよいかと。
 英霊をモーさんから変えると言いましたが、一体だけとは言っていません。 

 

第1話 新たなる住人

 
前書き
 この話を書いている途中で気づきました。
 3人共、王じゃん。いや、1人は正確には違いますけどね。 

 
 「では、自分でも何故そんな姿なのか身に覚えが無いと?」
 「うむ。生前はオカルト分野も齧ろうとしたが、結局魔術回路を具えていなかった上、自分をライオン顔や半機械化のスーパーヒーローに改造手術した覚えもとんと無いからね!」

 あまりの衝撃から立ち直った一同は、本人から事情を聴いていた。
 因みに、真名はトーマス・アルバ・エジソンだと言うのだから、また驚いた。
 先程よりかはマシだったが。

 「しかし、少年いや、マスター・・・」
 「士郎だよ、衛宮士郎。――――従属なんて求めてないし、呼ばれ方にもこだわりは無いからな。好きに呼んでくれていいぞ?発明王エジソン」
 「なるほど。ならばシロウ、結果的に私とそこの彼の二体のマスターになってしまった様だが、魔力供給は大丈夫かね?」
 「それならば心配は要らん。お前たちの存在を特殊な人形に納めているから、魔力が必要なのは宝具解放時のみよ」
 「おおっ!なんと言う合理性!実に結構な事だ。ところで大変恐縮なのですが、レディのお名前を聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 話に混じって来たスカサハに、とんでもない格好(本人のせいでは無い)で紳士然としながらエジソンは尋ねた。
 それに対し、僅かに悪戯を企む小悪魔のような微笑をしたまま答える。

 「――――スカサハだ。聞いた事位はあるだろう?今はアルバとも名乗っているから人前ではそちらで呼んでほしいモノだな」
 『スカサハ?』
 「ん?知らないのか2人とも?」

 しかし実に意外な事に、エジソンも記憶欠如の少年英霊もスカサハの名前が初耳の様子だ。
 此処日本ならば兎も角、現地では光の御子の師匠で影の国の女王として有名な大英雄だ。
 それ以前に2人は英霊だ。寧ろ知らない方がおかしいのではと、疑問が尽きない。

 『・・・・・・・・・・・・』

 ただ士郎や他を除き、利信とスカサハの2人は理由を推測が出来たのか黙っていた。
 その内スカサハの事に気付いた士郎は、敢えて黙っていることを汲んで2人に話す。

 「――――と言う事で、ここでは出来るだけ師匠をアルバと呼んで欲しいんだ」
 「ふぅむ?それは命令かね?」
 「いや、頼みだけど。出来れば聞いて欲しい」

 確実に人並み以上に人を見る目がある2人は、士郎がそれを本心から言っていることを悟る。

 「頼み――――つまり対等な関係からの希望か、余は構わんぞ。キャスター、汝は如何だ?」
 「大いに結構だとも!それではこれからは、レディの事をミス・アルバと呼ばせてもらっても宜しいですかな?」
 「構わぬよ、メロンパークの魔術師。本来はお主の本名だと言うのに、偶然でこの様な事に成ってしまい、すまぬがな」
 「いやいや、その程度の事を気になさいますな。私の名を貴方の様な絶世の美女の偽名で使われる事など、光栄の極みと言うモノですよ」

 エジソンはスカサハを褒めちぎるが、スカサハの感想はそうか、で終わってしまった。

 「――――ところで、お主の呼び名は如何する?」 

 今度は対象がスカサハから記憶欠如の少年英霊に移った。

 「セイバーでは駄目なのか?」
 「・・・・・・念のため、その呼び名は控えた方がよかろうな。お主の素性は今も解らぬが、一般人を巻き込みかねない事態を良しとする人格性では無いのだろう?」
 「確かに、無辜の民に余計な被害を出すのは余も好むところでは無い・・・・・・気がする」

 一々自分の考えを吟味させながら言葉を選ぶ。
 そんな不安定さに、難儀な事だと僅かに同情した。

 「――――理解してくれて感謝するけど、如何する?」
 「ふむ・・・・・・・・・余に関わる何かを思い出して付けるとしよう」

 言いながら難しい顔をしながら必死に思い出そうと唸る。
 そして――――。

 「僅かに・・・思い・・だせたぞ」
 「ほう・・・それで何とする?」
 「うむ。余の仮初の名は――――」


 -Interlude-


 早朝。
 百代は士郎への借金返済の為と、組手稽古の条件の一つとして、元気よく掃除をしに来ていた。
 早朝の鍛錬は、組手をやる条件の一つの精神鍛錬をやったと証明させるため、今日からはやる気を出してくる前の川神院にて終わらせていた。
 だが・・・。

 「やぁ!君が噂のMOMOYOと世界で有名な、パワフル・ビューティフル・レディの川神百代嬢だね?私は昨夜からこの屋敷にてやっかいに与る事となった、トーマス・スティルウェルだ。今日から宜しく頼むよ、ミス・モモヨ!!」
 「・・・・・・・・・・・・」

 百代は呆然としていた。
 衛宮邸の敷地内に入った瞬間、いかにも濃ゆそうな金髪の巨漢が大声で豪快に挨拶して来たのだ。
 百代のが衛宮邸に通い出してまだ六日目。知る限りこの家の住人は士郎だけだ。
 少なくとも百代は、こんな巨漢の外国人が昨夜から住み込む事に成るなど初耳だった。

 「如何したんだい、ミス・モモヨ?君は庭の掃除をしに来たのだろう?」
 「え?あっ、は、え、あ、はい・・・」

 巨漢の外国人男性――――トーマス・アルバ・エジソンは昨夜のあの後、あの姿のままでは生活などままならないので、スカサハが魔術で人形に偽装を施したので、今の姿だった。
 勿論、本人の意思でON、OFFの付け替え可能だ。
 さらに、真名そのままではいろいろと問題が起きて来るので、生前の1人目の妻のファミリーネームを借りてトーマス・スティルウェルと名乗る事に成ったのだ。
 そのトーマス・スティルウェル(エジソン)から竹ぼうきを受け取った百代は、今だ衝撃を完全に拭いきれないながらも掃除をし始めた。

 「・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」

 居心地が悪い。
 何故かと言えば、トーマス・スティルウェルと名乗った巨漢にじっと見られているからだ。

 「あの・・・何ですか?」
 「ふぅむ。見れば見るほど美しい少女と思ってしまってな。如何なる理由があろうとも、嬉々として男の家に早朝から来て掃除をし始めるなど、一種の通い妻みたいなものかな」
 「なっッッっっっっ!!?!!???!!」
 「とは言え、庭の掃除だけでは通い妻と言うのも適切ではないか・・・ふむ?如何したのかね?」
 「なん・・・・・・お前の発言に、面を喰らうのを通り過ぎる程の衝撃を受けているのであろう!」

 自分をお前呼ばわりする声に向けて振り向くと、そこにはシーマと言う仮初の名に決まった爛爛と煌めく髪をなびかせる少年がいた。
 因みに、彼の鉤爪の様な手も銃刀法違反に引っかかるので偽装してある。
 勿論握手などをしたときに切り裂かれないように、感触の方も問題ない。

 「衝撃を受けるとは失敬な!彼女は非常に美しい少女であるが、女性であれば誰であろうと幾つになろうと褒める。ジェントルマンとして当然の姿であろう!!」
 「モノには限度があれば、時や状況と言うのもあるだろう。あと声のボリュームが一々デカい。近所迷惑になるであろう。マス――――シロウ達に迷惑を掛けるぞ」

 動きを一時停止させている百代の横で、衛宮邸の新たなる住人達はぎゃあぎゃあと言い合う。
 その隙にと、限定的な結界を張って掃除を既にあらかた終えた士郎に、スカサハが道場にてある話をしていた。

 「――――聖杯戦争が!?」
 「そもそもあの二体は、聖杯戦争というシステと枠組みの中で呼ばれた可能性があると言うだけじゃ。互いにセイバーとキャスターと呼び合っているのが良い証拠よ」
 「でもあれは、遠坂からの特殊な術式で――――」
 「もしかすれば特殊な術式だったのかもしれぬが、この世界に大聖杯や小聖杯が何処かにあれば、いとも容易くシステムに上書きされても可笑しくないぞ?」

 スカサハの言葉に押し黙る士郎。

 「とはいうモノの、この冬木市は勿論、川神や七浜にも小聖杯は無い。それは確かだ」
 「だったらそれは聖杯戦争では無いのでは?」
 「確かにそうとも言い切れるが・・・・・・・・・士郎、まさか気付いていないのか?」
 「何がです?」
 「左腕を見てみろ」

 スカサハに促されるまま衣服をまぐわって見たところで驚く。

 「これは・・・!?」
 「お前の記憶で覗き見たのが確かなら、令呪だな。間違いなく」

 スカサハの指摘通り、士郎の腕には令呪が刻まれていた。
 しかも六画―――つまり、二体分。
 今まで気づけなかったのは、令呪が刻まれた時はまだエジソン召喚時の驚愕から抜け出せていない時だったからだ。

 「じゃあ、ホントに・・・聖杯戦争?」
 「残念ながらな。――――それで私が言いたい事はこれからが本題だ」
 「これからが、ですか」
 「ああ。あの2人とも、共通して覚えていない事がある。恐らく召喚される前に2人の霊器が衝突するなどして、その衝撃で自分たちの諸々や聖杯から刷り込まれる英霊としての基本知識などを忘れているのだろう。――――それで私が言いたい肝心な記憶は、聖杯に託す祈りだ」
 「あっ!」

 スカサハに言われて今更に思い出した。
 士郎とは別の道を歩んだエミヤシロウ(可能性の象徴)の様な守護者なら兎も角、他にも例外が無い限り通常は自分の意思で召喚に応じて、自分の祈りを叶える為に聖杯戦争に参加するのだと第二・第三の魔術の師匠たちに教わっていたのだ。

 「通常の聖杯戦争であれば叶えてくれる祈りは一組のみ。故に、その時は覚悟しておけよ」
 「・・・・・・・・・・・・」

 黙る士郎を見て、スカサハは恐らく自分の分とは引き換えにとか考えているだろうなと、全く切り捨てる選択肢を取ら無さそうな姿を容易に想像できて苦笑する。

 「それでも悪い事ばかりでは無いぞ?少なくとも昨夜の事でよかった事が、現時点ではだが二つある」
 「良かった事ですか・・・?」
 「一つは双方がお互いに対して、明確な敵愾心を抱いていない事だ。通常であれば本人たちにその気があるかは問われずに、強制的に敵愾心なるものを刷り込まれている筈だからな」
 「確かに、あの2人にはそんな気は見られませんでした」

 ただ今現在2人は、百代の近くで言い争っている。

 『そもそも男子たる者、短髪が当然であろうが!百歩譲って長髪もありとしても限度がある!!何だその腰など遥かに超えた髪の長さは!私は君を初めて見た時、幼子と見間違たぞ!!』
 『不敬な!汝は中々の眼力と評価していたのにこれとは、その眼は節穴だったようだな!!』

 それを横で見ている百代は驚いた。
 いつの間にかに1人増えた事にも驚いていたが、男だと言う事実にも驚いていた。

 (私も美少女だと思っていた・・・)

 割りと酷い感想を内心で思っている百代をよそに、ますますヒートアップする2人の口論は続いて行く。
 その音量故、士郎もスカサハも気づいたが敢えて無視した。

 「もう一つは通常か、今までにない例外的な事態か、はたまたその枠組みを破壊する程かは知らぬが、聖杯戦争が始まっている事実を確認できている事だ」
 「そう・・・ですね。認識出来でいるか否かでは、別物ですからね」

 士郎は自分が聖杯戦争に知らない内に巻き込まれた事を思い出した。
 最後は結果的に勝利することが出来たが、事前に備えていれば無関係の人間の多くを救えたかもしれないと悩み悔やんだ事もあった。
 一応補足しておけば士郎自身も本来は被害者なのだが、自分をその中にカウントしないのは相変わらずである。

 「だがしかしまぁ、その備えが不確定要素満載のキャスターと、真名が分からぬ故に何に弱く何に強いかなどの対策もとれない上に宝具が使えないセイバーと来たものだ。不安満載だな!」
 「他人事のように言わないで下さいよ・・・」
 「しかも私自身、まだまだ面倒な制約の重複のせいで身動きが取りずらいと来たものだ。これで規格外級の宝具を持つ大英雄クラスの敵サーヴァントが今来たら、一巻の終わりだな・・・!」

 何所までも人ごとのように言うスカサハの態度に嘆息する士郎だったが、ある疑問が湧く。

 「そう言えば、通常の聖杯戦争とは違うと言うのは、参加しているペアの何処かがルール違反をしているとかですか?」
 「それだけならまだ可愛いだろう。私の予想する形は世界全てを巻き込むものだ。――――つまり、この星全土が聖杯戦争の戦場と言う事だな」

 スカサハの当たって欲しくない予想に、士郎は息をのむ。
 その反応に構わず続ける。

 「あり得ないと思うか?最悪の事態を回避したいのであれば、慎重しすぎ備えしすぎと言うモノは無いぞ。何せ、ガイアやアラヤ自体も巻き込まれているのやもしれぬのだからな」

 その言葉に以前自分が口にした疑問を思い出す。
 百代を抹殺するガイアの使徒のレベルが低すぎる。それに絡み手が多い。
 つまりそうせざる得ない何かがあると言うスカサハからの指摘もあった。

 「それは当然、大聖杯かそれ以上の物を作り、運営している“誰か”がいるって言う事ですよね?」
 「或いはどこかがな」
 「どう予想します?」

 士郎の疑問に目を閉じながら言う。

 「九鬼財閥に仕えるヒュームと言う男を(じか)に見ているし、総裁の九鬼帝だったか。あの男もテレビで見ているが、奴らでは無いな。まぁ、世界を又にかける大企業だ。組織が大きすぎれば親の監視の目を掻い潜り、裏でこそこそやっていても者達がいても可笑しくは無い。だが・・・」
 「こそこそレベルでは実現不可能ですよね」
 「ああ。だから恐らく九鬼財閥は無い。川神院は言うまでも無く論外。魔術協会は解体されているが、それと裏で殺し合いをし続けていた聖堂教会を取り込んだ西欧財閥は可能性があるな」
 「それともう一つ」

 士郎が強く答える。

 「以前の世界同様、この世界でもお前を拾ってくれた里親、衛宮切嗣とかいう奴が死に際に行っていた言葉か・・・」
 「はい。爺さんは確かにこう言ってました。―――――『マスターピースに気を付けろ』と」


 -Interlude-


 此処はマスターピースの代表、トワイス・H・ピースマンの執務室。
 そこには部屋の主も含めて、ある3人が揃っていた。

 「アメリカでの見届け役、ご苦労だったな」
 『ああ。とんだ茶番だった』

 トワイスの労いに対して皮肉気に答えたのは、残りの2人の内1人である軍神ラミー・ルイルエンドだった。
 背を壁にもたれ掛けるラミーは、仮面越しでも判る程に不機嫌さを露わにしていた。

 「茶番と言うのは正確では無い。彼らは真剣そのものだった」

 それを以前モニター越しでトワイスと話していた、全身黒づくめの怪人。黒子と呼ばれている男がラミーの不機嫌さに頓着せずに訂正を加えた。
 それに対し、嫌見たらしく真実を吐く。

 『その真剣さを利用された上でな。如何でも良い事だが、アイツらはこれからある種のオカルト集団として捕まる予定なんだろ?そんな使い捨てに同行したんだ。茶番で無く何だと言う』
 「仕方がない。これもいずれ必ず呼び寄せる全世界の黄金時代への布石だ。その為にはどうしても時間と犠牲がいる」
 『その為に表では戦争撲滅を掲げて、裏では人の進化を促すなんていう御題目のために、適度にテロリスト組織を支援・援助したり、紛争を煽る訳だ』
 「・・・・・・・・・・・・」
 「何か文句でもあるのか?エゴイスト。私欲優先の“狂戦士”風情が」

 ラミーの皮肉にトワイスは押し黙り、代わりにでは無いが黒子が言い返す。

 『いーや、その事については無い。単なる今回の事に対する腹いせだ。――――それにしても、そんなしれっとした態度でよくやるモノだなと、ついつい褒めたくなってな・・・!』
 「・・・・・・・・・覚悟なら出来ている。完全なる、永劫続く人理の黄金時代を成し遂げたなら、私は喜んで罪を自白してから、なぶり殺しだろうと受け入れよう」
 『そんな綺麗なお題目装うだけの自己満足だろ?エゴイストはお前もじゃないか。なぁ、トワイス・H・ピースマン殿・・・!私欲を満たすために誰かを犠牲にするやり方、私は嫌いじゃないぞ?』

 人間ぽくってと付け出し揶揄うラ軍神。
 そこへ黒子がある事を言う。

 「トワイスを揶揄うのもいいが、良いのか?此処で何時までも油を売っていて」
 『私がいつまで居座ろうと勝手だろう』
 「そう言う事では無い。そろそろ此処に、マスターピース技術局長の“ドクター”が来」

 全て言い終える前に、ラミーはその場から最高速度を以て去った。
 ラミーはこれから来る技術局長が苦手なのだ。
 そこへ僅かに遅れて“ドクター”が、ドアを乱暴に開けながら入って来た。
 ドクターと呼ばれた男は、昔の研究者っぽい服にマントをはためかせる。
 後は右腕は義手なのか、いかにも機械仕掛け精巧なのが特徴的だった。

 「ラミーが、彼女が!私の愛し“復讐者”が帰ってきていると言うのは!私がこれから築き上げる人類神話に誓って、本当かね!?トワイス・H・ピースマン!」
 「その名で呼ぶのは禁句だろう。“アレ”は今はあくまでも“狂戦士”だドクター」
 「む。やぁ、黒子!君も来ていたのか!だがいただけない、いただけないぞ!私の愛しの彼女を“アレ”と呼ぶなどと、今後は気を付けて欲しいモノだな!!」

 黒子の冷静な対応にドクターの声はよく通り過ぎて、いとも容易く部屋中に響き渡っていた。
 そんなハイテンションの魔人の態度に苦笑しながらトワイスが応える。

 「相変わらず楽しそうだな。ああ、来ていたよ。ただ君が来ると言ったら即座に出て行ったがね」
 「なんと!我々の仲だと言うのに、そんな照れる必要などないだろう?だがそんな所もチャーミングだ!そのおかげで私の心を今も直、鷲掴みにして離さないのだっっ!!はははははははははははははははははは!!」

 真実を告げても超ポジティブである。
 自分に対して、過剰なほどにまでに絶対の自信がある故だろう。
 この男はラミーが自分に対して、苦手意識を持っているなど露程も気づいていなかった。
 それを見かねて黒子が言う。

 「確か“アイツ”にも(・・)求愛していなかったか?」
 「いただけないと言えば何度判るんだね!!彼女こそは我ら英国紳士の誰もが求め敬うほどの至宝!!いや、英国だけでは無い!世界が生んだ未曾有の奇跡が顕現したお姿なのだ!そんな彼女こそ、いや、あの御方こそ!私と共に歩むに相応しすぎる存在なのだ!ははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

 よくそんな高笑いをして声が涸れないなと、疑問視したくなるほどの声音だった。
 それにトワイスが爆弾を放り込む。

 「だが彼女は確か、どうしても思い出せないある男に一途な恋心を抱いて居た筈だが?」
 「そう・・・だった・・・・・・。おっのれぇええ!この天才を差し置いて、身の程を知らぬどこぞの馬の骨メェええええ!あの御方をどの様に騙して篭絡したか知らぬが、万死いや、億滅に値する!!」

 怒りが収まらないのか、未だ見ぬ仇に対して絶叫が鳴りやまない。
 時折ドクターから電撃が無差別に放たれて、部屋のあちこちに当たって火傷後を作っていく。
 ラミーがいると言う事も報告したが、本来はこれから彼自身と話し合わなければならない重要事項があるので、トワイスは逃げられない。

 (――――当然逃げたか・・・・・・)

 もう此処に居る意味は無かったので、黒子はドクターが怒り始めてからさっさと退散したのだ。
 トワイスを1人躊躇なく残して。
 文字通り孤軍奮闘となったトワイスは、自分の迂闊な発言に後悔しながら電撃を躱しつつ、彼の怒りが収まるのを堪え続けるしかなかった。 
 

 
後書き
 シーマと言うのはお分かりかと思いますが、自分の本名の『マ』と、彼が求めてやまない彼女の名の『シー』から取って繋げたモノです。
 決してスペイン語の“頂上”ではありません。
 ガーベラ・テトラを駆る海賊傭兵でもありません。
 私服については、各自のご想像にお任せします。
 服のセンス無いんで考えんのメンドクサイ。

 エジソンの偽装の姿は『鋼の錬金術師』に出て来るアレックス・アームストロングの様なガタイで、彼の実父のような顔をして、お洒落な柄のスーツに同じ柄のハットをかぶったダンディな男をイメージして下さればいいと思います。 

 

第2話 スカサハの新たなる弟子

 「・・・・・・」
 「う~む」

 百代が横に目をやるとトーマスと名乗る巨漢が、士郎の入れたブラックコーヒーの味に舌鼓を打ちながらも眉間にしわを寄せて新聞をめくっていた。

 「・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・(ブツパクブツパクブツパクブツパクブツパク)」

 一方、真逆側に座っているシーマと名乗った美少年は、百代と今士郎に注意を受けながら朝食をともに取っている大河から、自分達も美少女と見間違えた発言を受けて、落ち込みながら朝食にあり付いていた。
 たった数日ぶりに来た衛宮邸での朝食の場が、色々変貌していることに何とも言えない気持ちにさせられるのだった。

 
 -Interlude-


 「へぇ~!じゃあ、衛宮先輩の家に住人が増えたんだ」
 「ああ。私はそんなこと一言たりとも聞いていなかったのに・・・!」

 風間ファミリーと合流した百代は、今朝の事を愚痴っていた。
 ただ補足させてもらえば、百代へ事前に士郎が告げておく義務はないのである。
 しかしながら感情と理屈は別物とよく言われるそれであり、何も聞いていない百代にはいそうですかと納得できるほど、精神面は成長していないのだ。
 だが・・・。

 「別にモモ先輩が何かの被害を受けたわけじゃないんでしょう?」
 「む」

 京の指摘通り、今回の事で百代自身が理不尽な目に遭った訳では無い。

 「だったら良いんじゃないの?条件もクリアしたんだから組手もしてもらえるんでしょう」
 「まあ・・・」
 「でしたら良いのではないのでしょうか?」
 「また我儘言いすぎると、組手とかも無しにされちゃうんじゃないんすか?」

 まゆまゆとキャップの言葉に確かにと納得する。
 士郎なら言いかねないと。

 「それにお姉様。その人たち悪い人では無いんでしょう?」
 「ああ。2人とも相当なキャラクター性ではあるが、いい人達だったと思う」
 「2人か」
 「如何いう人たちなの?」
 「トーマスさんは金髪のアメリカ人並の巨漢で、ジェントルマンを自称していたな。あと燃え盛るような赤と言うより橙色の髪をしたシーマは、美少女に見間違えてしまうような美少年だ」

 百代の説明に、故あればナンパしようと考えていたガクトがどっちも野郎かよ~と嘆いている。
 それを無視して大和は敵亡くな指摘を百代にする。

 「姉さん。そのシーマと言う人の事、美少女だと思ったって言ったんじゃないの?」
 「よくわかるな。朝食の席で大河さんも思ったらしくて、言っちゃったんだよ。そうしたら落ち込んでしまってな、悪い事をしたと反省してる」

 本当に反省しているのか、申し訳なさそうにする百代。
 しかしそんな義理の姉を見た一子の感想としては、それでも意気高揚しているように見えた。

 「でもお姉様嬉しそうだけど、如何したの?」
 「そのお2人に関係してる事なんじゃないか?」
 「クリもワンコも解ってくれるか!詳しい力量までは判らないが、2人揃って壁を越えてる強さだと分かる存在性だったんだ。――――私に今まで挑戦してきた武人はごくごく一部だけで、世界は広いんだと実感させられたさ!!」

 何時もの百代であれば戦う相手がいなくて困っているので、仲間やファンクラブの女子たちと戯れてストレスを解消するところだが、次々現れる実力者たちとの思わぬ邂逅や、士郎との放課後の組手に嫌でも気分はうなぎのぼり状態にあるのだった。


 -Interlude-


 放課後。
 今朝の約束通り、士郎と百代は川神院に来ていた。
 士郎が開く家庭科室を借りる料理教室以外の日は、毎回これから最初の少しの間だけ百代との組手の時間とする事に成るだろう。
 少なくとも百代の精神面が成長して、彼女からこの組手をしなくていいと言う提案がされるまでだ。
 因みにこの組手により、弓道部にも遅れていく事に成ったが、その当たりは今日の昼休みに百代を連れまわして弓道部員達の全員に理解してもらえるように話しまわった。
 そうして現在、士郎と百代は川神院内の一角で対峙している。
 そこへ、監視役の鉄心――――では無く、ルーが来た。

 「師範代が如何して此処に?」
 「総代は今、学長室でお客さんの相手をしているカラ、一番最初から悪いケド私が立ち会う事に成ったのサ」
 「学長がですか?昼休みの最後に会いましたが、一言も聞いてませんでしたけど・・・」
 「総代、忘れてたのサ」
 『・・・・・・・・・・・・』

 ルーにあっさり告げられた事実に士郎は溜息をつき、百代はついにボケが始まったかと不安になった。

 「まあ、なんだ。気を取り直して始めるとしよう。――――言っておくが星殺しの様な火力の高いのは禁止だぞ?」
 「分かってるさ!」

 士郎に注意されながらも、嬉しそうに士郎に正面から突っ込んで行く百代。
 そんな2人が組手を始めた頃、鉄心は学長室で唸っていた。

 「むぅ」

 先程帰った編入生を装った客――――マスターピースの使いから受け取った手紙の内容に、頭を酷く悩ませているのだった。

 (この情報を何所で・・・?これは九鬼から内密にと言われておった、学園内でもまだ儂しか知らぬ情報の筈じゃ)

 その情報とは『武士道プラン』
 過去の英雄たちの遺伝子を元にクローンとして現代に復活させて、今の社会に革命を齎そうともしているのだ。
 そしてその『武士道プラン』の申し子達を来月頃に、この川神学園に投入しようと言う計画である。
 この情報を他勢力は勿論、特に今現在冷戦状態にある藤村組に知られないでほしいと言う意向を受けてもいた。しかし――――。

 (ヒュームの奴め、雷画の事を未だに判っておらんのか?あいつに内密とか無理じゃろ)

 鉄心はヒュームの認識の甘さに呆れるしかなかった。
 雷画の異名は“現世(うつつよ)の閻魔”。
 それは即ち自分の把握できる範囲内や、自分と対峙した者の企みを見透かし、虚偽を見破ることが出来るのだ。
 長年極道の世界で渡りながら鍛えた眼力もあるが、それ以上に広範囲ともなればそれは異能の為せる業である。
 その為、鉄心は昔から雷画を欺けたことは一度たりとも無いのだ。
 旧知の殺戮執事の爪の甘さに溜息をつきつつ、手紙に再度目を落とす。

 (確かにこの流れで言えば、手紙の通りになる可能性が高い。それをまだ一月前以上の時点で読み切るとは、噂通り油断ならんわい)

 この手紙を作成したと思われる、マスターピース現代表のトワイス・H・ピースマンへ、改めて評価しつつもそれ以上に警戒の色を濃くする。

 (まさか先手のけん制をしてくるとは・・・・・・如何しようかのぉ)

 次から次へと発生する問題に、孫たちとは違い今日も苦悩するのであった。


 -Interlude-


 「2人とも、お疲れサマ」
 「ふーっ!楽しかったー!」
 「そうか」

 川神院にて組手を終えた2人。
 その内の1人の士郎は百代が満足したのを確認して、部活に行くため学園へ戻ろうとしていた。
 そこへ、唐突にルーが待ったを掛ける。

 「如何しました?」
 「一子の件で、衛宮クンに聞きたい事があるんだけど。――――君から見て、一子の成長を一番妨げた原因を教えてほしんダ」

 今更それを聞いても何かが変わる訳では無い。その程度は理解している様だが余程悔しかったのか、出来ればでいいからとルーは士郎に頼み込む。

 「そうですね・・・・・・」
 「ん?」

 百代は士郎の視線が、自分へと向いていることに気付く。

 「俺は一流の指導者では無いですから、一概に一番と言えるとの確信は持てません。ですが言うならば、百代への過剰過ぎる憧れでしょうね」
 「百代へノ?」
 「私への?」
 「――――ああ。京からその当たりは聞いているが、百代は今までの中で大抵の武人を一撃で華麗に倒しているんだろ?」
 「川神院の師範代以上の3人を除けば、お前と大河さんと揚羽さん以外はな」

 条件さえクリアできれば毎日強者である士郎と組手が出来ると言う事で、それが本当に嬉しいからか、百代はお前と言う部分を一番強調した。

 「そんな百代の姿を間近で見続けたせいもあるんだろうな、お前の様に自分も華麗に倒せる姿を自分に当てはめ続けた結果、成長が余計に遅れて勝率も低いままだったんだろう」
 「ナルホド。百代と一子では戦闘スタイル以前に才能面で違いすぎる。それなのに自分と百代を無理矢理照らし合わせようとしてきたから、一子はどれだけ鍛錬しても勝利(結果)に繋がりにくかったのカ」

 漸く納得できたのか、今まで気づけなかった自分を恥ずかしく思うルー。

 「なら今後はそこを修正する事に重点を置くのか?」
 「修正なんて生易しいモノで、一子のお前への長年の憧れた結果の歪さは剥がれはしないさ。だが師匠なら荒療治ではあるが出来るだろう。――――それともう一つが以前にも言った勉強だ」
 「勉強か・・・。本当に今のワンコに必要なのか?」

 百代は別に士郎への意見にケチを付けようとしているのではなかった。
 単に、今迄の修業であれば自分も共に居てやれるが、勉強ともなれば話が別だ。勉強は兎に角嫌なのだ。
 しかしそんな気持ちも士郎には見透かされている。

 「義妹の応援をするんじゃなかったのか?」
 「う゛」

 百代の内心の考えに士郎は嘆息する。

 「ともあれまずは師匠との稽古だが・・・・・・無事戻って来れればいいが」

 最後の言葉は2人に聞きとられないように呟いた。
 その心配されている当人である一子は、地図を片手に衛宮邸の前まで来ていた。
 意外と言うわけでもないが、ワンコは士郎の家に来るのは初めてだった。

 「ここよね。・・・・・・御免下さ――――」
 「やぁ、待っていたよプリティ・ガール!君がシロウの言っていたミス・モモヨの義妹である努力の天才・カワカミカズコだね?」
 「あっ、はい。貴方がトーマスさんですね?お姉様から聞いていた通り、じぇんとるまんさんだわ!」

 天真爛漫な笑顔とはきはきとした答えに、エジソンのテンションはさらに高まる。

 「ハッハッハッ!見所のあるプリティ・ガールの様だ。まぁ、此処に来たのも何かの縁、これから私と――――」
 「――――お主はまだまだこれから、やる事があるのだろう」

 若干暴走しかけるエジソンを、後から来たスカサハが止める。

 「むぅ?・・・・・・・・・おっとそうでしたな、それに彼女はミス・アルバとの先約済みなのに申し訳ない」
 「構わん。主が暴走する程度、想定内だ。――――再確認は不要だな。よく来たな娘よ・・・・・・・・・ん?如何した?」

 ジェントルマン精神を発揮させたエジソンを部屋に帰らせて一子に問うが、当の本人は女性として完成されたスカサハの美貌に見惚れている。

 「お姉様より綺麗な女性なんて初めて見るわ・・・」
 「褒め言葉は受け入れるが、思っていること全部口に出てるぞ」
 「へっ?あっ、えっ、す、すいませんでしたッ!」
 「いや、慣れているからよい。それよりも名乗り上げよ」

 何時までも頭を下げて恐縮している一子を促す為に言った。
 その言葉に一子は悟る。
 建前の挨拶や態度に付き合うために自分を待っていてくれたのでは無いと。故に――――。 

 「押忍っ!川神一子ですっ!今日より、宜しくお願いします!」
 「気合は及第点か。聞いていると思うが弱音を吐こうものなら――――」
 「押忍!その覚悟を決めてやってきました!」
 「私は今まで多くの者を鍛えて来たが、それは皆多かれ少なかれ“才能”のある者達だ。しかしお主は“持たぬ者”と見ただけで分かった。それでも良いのか?」
 「今更です!才能が無いから武術を極めてはいけないなんて私は認める気は無いし、何より諦めない!諦めきれませんっ!だから無理やりにでも成ってやります!!」

 一切目をそらさず堂々と言い切る一子の姿に、それをどの様な意味でかは察せられないが、スカサハは微笑する。

 「フフ、決意も及第点か。――――一子よ。私が好むのは勇気ある者だ。ただの戦士ではいけない、ただの蛮勇でもいけない。勇気ある戦士こそ、私の好む可能性溢れる存在だ。勿論それは、才能が有る無いなど関係ない。お主が私の好む存在であるのなら、お主がこの先に弱音一つ吐かずに私の稽古を耐え続けられるなら、責任を以て無理矢理(・・・・)にでも『川神院総代(・・)』にしてやろう!」
 「お、おおお、押忍ッッ!!・・・・・・・・・あれ?総代(・・)・・・?」

 自分の目指しているのはあくまでも師範代の筈なのに、総代と言う言葉に戸惑いを覚える。
 その一子の反応を当然予測していたのか、スカサハの微笑が禍々しくなる。

 「師範代などと中途半端な夢を追わす気など、私には無いからな。到達するなら頂点であろう」

 そう言って未だに困惑から抜けきらない一子を、首根っこを掴んで無理矢理道場に連れて行く。

 「いや、あの、ちょっ」
 「安心しろ。初日はちょっと嬲る(優しく)してやる」
 「ちょっとおかしく聞こえたんですけどっ!?」
 「何だ嬉しいのか?いいだろう。優しく嬲ってやる」
 「えぇえええええええぇええええええ!!?」

 そうして連れて行かれる一子。
 その後、道場の方から女の子の悲鳴を何度も聞いたと、部活から帰宅した士郎はエジソンとシーマから事情を聞くのだった。


 -Interlude-


 「遅い・・・」

 日はすっかり暮れているこの時間。
 金曜集会のこの日は何時も通り皆集まっていた。
 一子以外は。
 キャップですら既にバイトを終えて戻ってきているのに、一子だけが一向に来ないのだ。
 あまりの遅さに百代は心配となり、秘密基地たる廃ビルから出た所で仁王立ちの状態で待っていた。

 「いくらなんでも遅すぎる、流石に迎えに」
 「悪い、遅くなった」
 「っ!?士郎か!何でおま・・・・・・ワンコ!」

 突如目の前に現れた士郎に驚くが、それ以上にお姫様抱っこ状態で運ばれてきた一子に驚く。

 「ワンコ如何したんだ!?」
 「疲れて寝てるだけだ。初日だって言うのに師匠が稽古をの速度を余りに飛ばした様だからな」
 「修業好きのワンコを初日から此処まで疲労させるなんて、どれだけスパルタなんだよ・・・」
 「けど有言実行・・・・・・一度たりとも弱音を吐かなかったらしい。大したもんだな」

 士郎の言葉に安心と納得が混ざった感情のまま、百代は嬉しそうに寝ている一子の頭を撫でる。

 「と言う事で預けたいんだが、如何する?俺が上まで運ぶか?」
 「いや、私が預かる・・・・・・にしても」
 「ん?」

 寝ている一子をそのまま百代が変わってお姫様抱っこ状態で受け取る。
 しかし何か思うところがあるのか、士郎をじっと見る。
 見られている士郎は、少し考えてから思いつく。

 「もしかして、百代もお姫様抱っこされたいのか?」
 「は!?」
 「まあ、今だに両親が帰ってこないから仕方がないんだろうが、意外と甘えん坊だな」
 「ちょ、違っ」
 「照れるな照れるな。今度機会が有ったら、膝枕でも何でもしてやるから今日は許せ」
 「だから――――」
 「じゃあな!」
 「あっ!?」

 そう、最後まで百代の弁明を聞かずに、帰ってしまった士郎。
 それを追うかどうか迷ったが、結局諦める事にした。

 「まあ・・・・・・いいか」

 誤解は解けなかったが、あそこまで言われると興味も出て来たので、それもいいなと思い廃ビル内へ戻っていく。
 しかし誰も見ていなかったと思われた今の光景を、見ている者がいた。
 それは――――。

 「順調に攻略中か。・・・・・・よしっ!」

 覗き見していた京が、嬉しい進捗率にガッツポーズをするのだった。 
 

 
後書き
 一々フラグを増設する衛宮さん家の士郎君です。
 学園内での変化は次の次くらいかと。 

 

第3話 ドイツより

 「ふ~む。嘆かわしい、実に嘆かわしいな!」

 翌日の朝。
 衛宮邸では住人が新たに2人増えた事により、騒がしくも賑やかに光景が出来ていた。
 特に今日は土曜日で、何時もの様に3人が泊まりに来ていたのだ。
 正直士郎としては不安だった。冬馬達3人・・・特にユキは、自分の家での集まりを大切にしていたからだ。しかし――――。

 「何が嘆かわしいの?」

 エジソンが見ている新聞を横からのぞき込むユキの姿が有った。
 これなら大丈夫そうだなと、一応の安堵の息を零した。
 一方、シーマの方は何故か冬馬にあ~んをされていた。

 「私は自分で食べられるぞ?だから汝はは自分の食事に集中するがいい」
 「いえいえ、良いんですよ。ですからはいあ~ん」

 冬馬のシーマを見る目には力がこもっていた。
 これほどの美少年にベッドイン(お近づき)にならなければと即座に行動に移したらしい。
 それを横目で準がシーマに合掌した。

 (若、即効喰いに行こうとしているな。――――気付け少年、若はお前さんを既に射程圏へ入れているぞ)

 ちょっとしたカオスだが、そんな周りを気にせずに平常運転しているのは勿論この人――――藤村大河である。

 「士郎ー、おかわりー!」
 「ハイハイ」

 だが士郎にとっては、この光景が何よりもかけがえのないモノだと感じるのだった。


 -Interlude-


 あれから暫くして、エジソンとシーマは3人からの外出を丁重に断った上で、それぞれ私室として与えられた自室で現代における知識を学ぶための勉強中だ。
 どれ程異質であろうが本来であれば召喚される時点で、必要不可欠となる現代の知識などを与えられるのだが、2人はトラブルによりそれを与えられていないのだ。

 「・・・・・・・・・・・・」

 それでもまだエジソンは良い方だ。
 少なくとも生前の知識は覚えているのだから。

 「・・・・・・・・・・・・」

 だがシーマはそうはいかない。
 彼は生前すらも覚えていないのだから。
 これはエジソンもそうだが、唯一の救いとして知識の吸引力が尋常ではないほどの速さであると言う事だ。
 エジソンは生前の若かりし頃に身に着けた勉強法だ。
 何所までも合理性を突き付けたモノだが、この勉強法はあくまでもエジソン独自のものでしかないので、他の者がまねても効果を絶対期待できると言うワケでは無い。
 そしてシーマは文字通り天才と言う奴だ。
 たった一度見るだけで全ての知識を完全に取り込めるのだから。
 2人が優先して勉強しているのは日本人が学院に通って身に着けて行く常識だ。
 エジソンは既に大学院レベルで、シーマは中学生の前半に入っている。
 特にシーマは急がなければならない。
 召喚された日の夜中に、こんな話になったのだ。

 『日中は余たちをこの屋敷に残していくだと!正気かマスター!?』

 通常であれ異常であれ、聖杯戦争が始まったと言うのならサーヴァントとマスターは共に行動するのが基本。
 それにも拘らず置いて行くとは如何いう了見なのだと、シーマは士郎に食い掛ったのだ。
 だがそれを士郎が魔術師としてでは無く、一般人視点としての正論を言う。

 『霊体化できないだろ?だから付いて来させる訳にはいかないぞ?』
 『ならば余をそのガッコウとやらに通えるように手配してくれ。それなら問題あるまい!』

 この主張に士郎はシーマに現代の知識が無いと通えないと反対するが、ならば勉強して知識を身に着けば良かろう?と、それまで他の者達と話していたエジソンの提案に乗る事になったのだ。
 だから今、シーマは凄まじい勢いで知識を取り込み続けている。
 急きょの事とは言え、このまま行けば約束通り明後日の月曜からシーマも川神学園に通えるようになるだろう。
 だが当人は知らなかった。
 編入試験の結果次第だが、予定ではシーマが入るクラスは()ーSでは無く、()ーSだと言う事に。
 そんなシーマをよそにエジソンはちょうど歴史の勉強をしていた。
 床には現代社会の本が滅茶苦茶に散乱しており、特にひどい所に自分の死後の誹謗中傷の補足が書かれていたり、電気博士の発明による世界の貢献度の重要性などもあった。
 なるほど。これは確かにエジソンからすれば、不愉快極まりないモノだろう。
 そんな苛立たしく不機嫌極まりない発明王は、気分を変える為にある外国の時事を学んでいた。
 そこはこの冬木市の隣の川神市の姉妹都市である場所だった。
 そこは――――。


 -Interlude-


 此処はドイツ連邦共和国のハンザ都市リューベック。
 その都市の一角に、川神に留学中のクリスの家が有った。
 客観的に言わせてもらうなら、最早城と言っても過言では無い。
 その城の一室に、城主が指揮する直属部隊である猟犬部隊の隊長マルギッテ・エーベルバッハと、副隊長であるフィーネ・ベルクマンの姿が有った。

 「すまないフィーネ。書類整理を手伝ってもらって」
 「構わん。そもそもマルは明後日からクリスお嬢様の護衛任務だろう。ならば猟犬部隊の補佐は副隊長である私の務め、気にする理由など何所にもない」
 「確かにそうだが・・・・・・クリスお嬢様の護衛だけならばここまで意気高揚していない」
 「・・・・・・・・・」

 マルギッテの言葉にフィーネが思い当る節は一つしかない。
 クリスお嬢様が日本で作ったご友人達との小旅行への視察。
 その時に少しばかりやりあった男の事だろうという位だった。

 「男にそこまで執心するとは珍しいな」
 「ええ、それは自覚しています。しかしあの時受けた衝撃は忘れられるモノではありません」

 その時の事を思い出したのか、マルギッテは不敵な笑みを作った。
 そのマルギッテをフィーネは気に掛ける。

 「確認を取るが、まさかその時の件を蒸し返す訳では無いのだろうな?」
 「当然です。あの時は私欲を抑えきれなかった私に非があると自覚しています。何より中将が彼、衛宮士郎をサムライと認めて気に入っているのです。そこに私の是非が入る余地など有りません。――――まさか信じていなかったんですか?」
 「少しな。なにせマルは、ご両親や上官やクリスお嬢様以外には高圧的だからな。心配にもなる」

 むぅと、マルギッテが言い返せずに唸る。

 「ともあれ自覚しているのなら、ある程度の自制と自戒もして欲しいがな」
 「・・・・・・・・・・・・善処します」

 何とも言えない顔のままでのマルギッテの返答に、何時もの事と理解しながらも心の底で溜息をつく。

 「ではな、マル。私も仕事があるから明後日は見送れないと思うが・・・」
 「子供じゃなければ、死地に向かう訳でもない。ですから一々見送りなど不要です」
 「そうか。ではな、マル。おやすみ」

 そう、フィーネはマルギッテの返事を聞く事なく部屋から退出したが、態とすべて閉めずにおいた僅かな隙間から見たのだ。
 先程の不敵な笑みなど可愛い位に口先を吊り上げて獰猛に嗤う様を。
 口元を読んで、また溜息をつく。

 『待っていなさい、衛宮士郎。お前は私の獲物だ・・・!』


 -Interlude-


 フィーネはこれから就寝――――するのではなく、今現在猟犬部隊の自分とマルギッテ以外の主要メンバー4人が確実に集まっているだろう部屋に向かった。
 その部屋の前に着き、ノックをしてから入室すると、重装な鎧が憤っていた。

 「おっのれ~!男風情がっ!隊長を足蹴にするとは・・・・・・その傲慢さいずれ思い知らせてくれるわ!!」
 「落ち着いてテル~。気持ちは・・・・・分からないけど~。興奮し過ぎると、中の温度がめっちゃ高くなっちゃうよ~?」
 「そうだぞテル。こないだそれで熱中症になりかけたじゃないか。コジマはそれよく覚えてるぞ~」

 重装な鎧に身を包んだ?テルマ・ミュラーに、女性にしては確実に長身すぎる背丈を持つジークルーン・コールシュライバーと逆に小さすぎるコジマ・ロルバッハの2人が協力して落ち着かせていた。
 しかしその興奮を逆に煽る者も居る。

 「だがテルの言いたい事も解るな~。日本人は確か礼節と謙虚さを大切にする人種だろ?なのにソイツ、中将やマルに対する目上の敬いとかまるで成って無いじゃないか・・・!」

 テルマの憤りを煽る色気誘う銀髪の美人。
 リザ・ブリンカー。
 忍者をリスペクとしているセイヨウニンジャで、偵察や潜入任務を担当するマルギッテとフィーネと同期の花形。
 そんな彼女の意見にテルマが同意する。
 その光景にフィーネが一度嘆息してから制止に入る。

 「そこまでにしておけよ2人とも」
 『副長!』
 「来てたのかフィーネ」

 フィーネの声にほぼ全員同時で振り返った。
 しかし彼女はリザのみに冷たい目で見やる。

 「気づいていたくせによく言う。――――それよりもリザとテルマ、その件では最初に中将と隊長が最初に礼を失したからに他ならない」
 「ですが――――」
 「それにその件には自分たちの方にこそが非あったと、中将と隊長も認めている。にも拘らずお前たち部下がその件を蒸し返せば、御2人の顔に泥を塗る事になるぞ?それはお前たちの本意ではあるまい」
 「むぅ・・・」
 「チッ」

 フィーネの言葉に理解は出来るので黙ったが、未だ納得まではし切れていない様子だった。
 それは予想済みだったようで、フィーネがある提案をする。

 「とは言えこのままではお前達も収まりがつかないだろう。だから直とはいかないが、来週の中頃に私とリザで衛宮士郎の情報収集をして来よう。今回はそれで我慢しろ」
 「えっ?いいのか、フィーネ!お前バックアップとして、マルの分の書類仕事とかあるんだろ?」
 「それをお前にも手伝ってもらうんだ。当然だろ?」
 「えー」

 それに露骨に嫌そうにするリザを、フィーネは敢えて無視して取り合わない。
 そのフィーネにテルマたちが喰いつく。

 「副長!でしたら私達も――――」
 「テルマ!お前はとコジマとジークは、来週に西欧財閥の盟主のハーウェイ家との会談に向かう中将の護衛があるだろう?それを疎かにする気か・・・」
 「う゛」

 フィーネのジト目に思わずテルマは後ずさりをする。
 マルギッテは猟犬部隊の部下たちを心から信頼しているからこそ、ここの留守や中将の指揮下の別任務を任せられるのだ。
 つまりそれを疎かにすると言う事は、マルギッテへの信頼の裏切りと言う事になる。
 テルマもそうだがコジマやジークを始め、他の猟犬部隊の部下達もそこまで血迷ってはいなかった。

 「・・・・・・了解しました副長。正直口惜しいですが、どちらにしろその手の任務をは得意では無いと言う自覚もあるので、副長の提案通り今回は大人しく引き下がります」
 「コジマも了解した!」
 「頑張って下さいね~」

 やっと理解を得られたので、その後も少し話をしてから自室に戻るのだった。
 最後まで書類仕事を否応事無く突き付けられたリザの露骨な不快さを無視し続けた上で。 

 

第4話 留学生と編入生

 週を開けた月曜日。
 2-Sクラスの廊下前に、担任教師の宇佐美巨人の他に2人の生徒・・・?がいた。

 「ほんじゃま、俺が先に入っていくから、呼び出した後に来てくれ」
 「了解した」
 「・・・・・・・・・」

 2人の反応に頓着せず、巨人は何時もの様に気だるげに朝のホームルームを始める為、教室に入って行った。
 残された2人の内の1人であるシーマは怒りに打ち震えていた。

 (話が違うぞ、マスター(シロウ)!)

 日曜日に試験を受けてから、その日の内に採点を出されて結果、見事シーマは編入生として合格して本人は知らずの内の予告通りに3-Sでは無く2-Sに入る事になった。
 そして今に至る。

 (余はお主の護衛が本来の目的なのだぞ!?にも拘らず、これでは意味がないではないかっ!)

 そんなシーマの横にいるマルギッテは何故体を小刻みに震わせているか分からない様だが、値踏みするように見続けていた。

 ((コイツ)、相当できる!私の任務はクリスお嬢様の護衛及びクリスお嬢様に近づこうとする悪い害虫の駆除だが、戦闘衝動を抑えられるか分からん位に強いっ!)

 まだ正式に任務先の足場を形成していないにも拘らず、戦闘衝動丸出しのマルギッテだったが、闘気を向けられているシーマは取り合う気も無く落ち込んでいる上に、先に教室に入って行った巨人がドアを開いて顔を覘かせてきた。

 「オイお前さんたち、呼んでるんだから早く入って来い。色々忙しそうなとこ悪いけどな」

 巨人の催促に闘気を向けながら堂々と入っていくマルギッテと、少々項垂れるシーマだった。
 そうして入室するが、ある程度の興味心を持つ者も居る。
 Sクラスに居る人種は元々競争心や向上心が高い者達ばかりで、基本的に自分の事以外興味を持たない者達の方が多くを占めている・・・・・・筈だった。

 「うわっ、何アレ!?」
 「凄い美人だな・・・」

 しかし2人の内の1人の美貌に、多かれ少なかれざわつき始めた。
 だがそれらを無視して巨人は紹介する。

 「留学直後に2-Fの川神と決闘したフリードリヒがいるだろ?その彼女の関係者だ」
 「マルギッテ・エーベルバッハです。よろしくお願いする」

 少々上から目線だが気にするものは存在しない。
 このクラスは実力主義で、結果さえよければいいのだ。
 つまりここで幾ら吠えようが、結果も残せなければ用も無いと言った感じだ。
 それに先程からのざわめきの原因は彼女の美人プリでは無く、()のあまりの美貌にだからだ。

 「それともう1人だが・・・元気なさそうだがイケるか?」
 「・・・・・・大丈夫だ。ぉ・・・私はシーマと言う。わけあって名乗れるのはこのくらいだが宜しく頼む」
 「――――よし、質問ある奴は手ー上げろ~」

 その言葉により何時もとは違い、手を上げる者達が少なからず現れた。
 その中から巨人が1人の女子生徒に白羽をたてる。

 「よし、中里。お前行け」

 だがそれが間違いだった。

 「はい。そんなに綺麗なのは、何か秘訣があるんでしょうか?同じ女(・・・)として、宜しければ後学のためにもぜひ!」
 「あー、いや、シーマは・・・」

 しかし此処で士郎から騙された怒りを抑えていたのに、最後の一押しに召喚されてから何度目の見間違いに対して咆哮する。

 「余は男だーーー!!」
 「はいぃぃぃぃぃ!?ごめんなさ・・・・・・」

 殺気を向けられた生徒は一瞬怯えるも、直に聞いた言葉に頭が真っ白になる。
 他にも幾人も同じ反応をする。
 そして――――。

 『えぇええええええええ!!?』

 驚嘆する。

 「何ですって!?」

 横に居るマルギッテも同様に驚く。
 因みに知っていた冬馬達3人は、只々笑顔の一点のまま今この場を過ごそうとしている。
 しかし当人の憤りはそう簡単に収まらない。

 「お主らもかっ!此処は選抜クラスなのだと聞いたぞ!?それにも拘らずその程度の観察眼しか備えていなかったとは、落胆極まる!」

 結局、朝のホームルーム中はずっと苛立たしくしているのだった。
 因みに今日は九鬼英雄と忍足あずみは休みだ。


 -Interlude-


 朝のホームルームを終えてから1時間目の授業が始まるまでの10分間、今日も今日とて2-Fは騒がしかった。

 「今日もワンコちゃんは、ちゃんと勉強の用意してるんですね。えらいえらいです」
 「うんまあ、それにこれも修行の内と思えば・・・・・・何時かは慣れるわ!」

 教室の一角では一子が重りを付けたリストハンドも付けず、スクワットもせず、ダンベルも持ち上げずに1時間目の授業態勢を整えていた。
 その事に少なからず注目が集まっている。

 「まだ二日目だから見慣れ無い系」
 「ホントよね~。それにワンコって、授業に付いて行けテルの~?」
 「うん、無理だわ!」

 小笠原千花の疑問に、何の躊躇も無くハッキリと自分では授業についていけていないと答えた。
 いっそ、清々しいくらいに。

 「それじゃあ意味ないじゃん!」
 「それは今まで遅れた分を勉強知ってから無理・・・矢っ理・・・理解させるって、言って、たわ・・・!」

 ガクガクブルブルと震えながら答える一子に、戸惑いを見せるクラスメイト達。

 「ど、如何したんですか?ワンコちゃん!」
 「顔青ざめてる系!」
 「直っち、どれだけスパルタに教えてるの!?」
 「いや、今ワンコに勉強を教えてるのは士郎さんなんだ。だから俺に言われても困るが・・・・・・当人同士で了解しているとはいえ、これはちょっと心配だな」

 そんな風に幼馴染の豹変ぶりを大和は心配している時に、Sクラスに来た噂の転入生を見に言っていた育本福郎ことヨンパチが帰還した。

 「オイオイ凄かったぞ!あの2人(・・)のトンでもねぇ美人度だったぜ!」
 「そうだろ、そうだろ!マルさんは凄いんだ・・・・・・ん?2人?」
 「あ、ああ?クリスの姉替わりだっけ?その超絶軍人美人さんと、シーマって言う絶世の美少女(・・・)が――――」
 「それちょっと違うわよ?」
 『ワンコ(ちゃん)?』

 ヨンパチの説明がどうやら聞こえていたのか、一子は青ざめていた顔を一転して補足する。

 「シーマさんは一見美少女に見えるけど、美少年の男の子よ!」
 『なん・・・だ、と・・・?』
 「あんなに美人なのに男ぉ!?誰得だよっ、チッキショォオオオオオオ!!」

 ヨンパチを始めとするクラスの数名の男子諸君は、打ちひしがる。
 しかし得する者は存在するのだ。

 「マジ?やっべ、押し倒して速攻食いに行かなきゃ系!」
 「アンタは少し落ち着きなさいよ・・・。そもそもSクラスに入った奴よ?相手してくれるかも解んないんだしさ。――――それにしてもワンコの知り合い?」
 「うん。士郎さんの家に住むようになった新しい住人さんの1人で、お姉様曰く『壁越え』って言ってたわ!」
 「凄く強い人なんですね。それにしてもワンコちゃん、衛宮先輩の家で態々勉強教えてもらっているんですか?」

 甘粕真与こと委員長からの質問に、先ほどの事を思い出さずに簡潔に答える。

 「時々ね?それ以外は士郎さんがアタシの為に一日でも早く今の授業に追いつけるようにってために作ってくれた特製ドリルをやってるわ!」
 「犬はいいなぁ!勉強とは言え、サムライたる衛宮先輩から教えを請えるなんて!」
 「でもワンコ大丈夫なの?毎日毎日新しい武術鍛錬の師匠さんからの稽古終わると、何時もぐったりしてるじゃない」
 「ヒィッ!?そ、そそそそそそそそ、しょれはははははあばばばばばば!!?」
 『ワンコ!?』

 先程の青ざめる姿が可愛く見える程に、一子は恐怖に震え上がる。
 それを少し離れた席で机に倒れるように突っ伏している源忠勝ことゲンさん・ゲンは、枕代わりに使っている腕から僅かに覗き見をしていた。

 (一子・・・。修業好きのアイツがあんなに怯えるなんて・・・。衛宮先輩のとこだから度は超えてないだろうが・・・少し探ってみるか)

 新ジャンルの健康的なツンデレ不良は、大切な幼馴染の身を心配して行動しようと決意するが、取りあえず今は時間ギリギリまで寝る事にするのだった。


 -Interlude-


 昼休み。
 川神学園でその時間帯は確率的に一番人気(ひとけ)がなさそうな場所にて、士郎とシーマの2人だけが来ていた。

 「さてマスター、遺言はちゃんと書き残して来たのだろうな?」

 今こうして2人だけでいるのは、シーマの入るクラスが違う事についてだ。
 しかし本人は笑顔ではあるが、文字通りに怒髪冠を衝く如く憤激に駆られている。
 それ故、自分のサーヴァントから殺気を受けている当の士郎は、情状酌量を求めていた。

 「頼むから説明を聞いてくれ・・・」
 「ほぉ?今になって世迷言をほざくとは、余を楽しませる趣向をさぞ自信があるのだな?」
 「楽しめるかは知らないが決定的な事がある」
 「・・・?」

 士郎の言葉にシーマは、未だに怒り続けたまま怪訝さを露わにする。
 しかし士郎は遠慮なくそれを言う。

 「シーマの背の低さじゃどうあっても3年は厳しい」
 「なん・・・だ、と・・・!?」
 「あのクラスや隣の2-Fなら似たような学生もいるし、何とか二年生で通せるだろうが3年では厳しすぎるんだよ。表面上の理由としては」
 「背の話を持ち出すだと!?卑怯ではない・・・・・・・・・・・・表面上?」

 最初の怒りは収まったが別の理由で激昂するも、士郎の最後の言葉に喰いつく。

 「本当の理由は2-Sの位置にあるんだよ。あの教室は本校舎内でも縦横から見てもほぼ中心位置にあるんだ。そんな処に居てくれればいざ何かあった時、俺を守りに行こうが他の生徒を守りに行こうと選択肢が多く取れるんだ。真名は未だに判らず仕舞いだが、ステータスは高いしこれでも頼りにしてるんだぞ?」
 「そ、そう言う理由なら仕方ないが、だったら最初から言えば余も士郎に怒りをぶつけようなどと思わなかったのだぞ?」

 頼りにしていると言う言葉が余程嬉しかったのか、照れながらもあっさり納得した様だ。
 実際は単なる偶然に即興の理由付けした結果論でしかないのだが、シーマは兎に角機嫌を取り戻した。
 これに態々、溶鉱炉にニトログリセリンを入れるかのようなネタばらしをするなど、今の士郎にそんな度胸は無かった。
 そんな2人の会話をある程度ではあるが、盗み聞きしている者がいた。
 それは百代だった。
 位置的にはかなり離れているが、こんな事の為に本来使うべきでは無い川神流の特殊な技を使って、2人の密談内容を聞き取っていた。
 ファミリーメンバーや友人、自分のファンである女の子たちと遊ばずにそんな事をしている自分に、全く疑問を感じずに。

 (別にあんなところで男2人だけで話さなくてもいいだろうに・・・。――――と言うか“マスター”って何だ?それに“いざという時”って、如何いう会話だ?)

 ただ2人の会話内容を盗み聞きしても今はまだ(・・・・)、百代には理解できずにいるのだった。 

 

第5話 忘れていたクライシスコア

 放課後。
 グラウンド上では数十人以上生徒達が二つに分かれて睨みあっていた。
 双方とも男女が混じっているが、片方は圧倒的に女子生徒が多数を占めている。
 そんな剣呑な状況下、彼らは自分たちのある主張で口論になっている。

 「―――何度言えば分かるのよ!あの(ケダモノ)が百代お姉様を騙したんでしょうがッ!!」
 『そうよ、そうよ!』
 『そうだ、そうだ!』

 百代を庇いながら何かしらの理由で誰かを糾弾する言葉。
 如何やらか彼らは百代のファンクラブ会員の様だ。
 しかしもう一方も黙ってはいない。

 「――――頑なに認めないのはそっちだろ!?士郎きゅんに色目使って、何処かに誘い出したのは間違いなくあの百代(あばずれ)なんだからなっっ!!」
 「そうだ、そうだ!」
 『そうよ、そうよ!』

 此方は衛宮士郎様愛好会の会員達だった。
 因みに今、檄を飛ばしたのは男。

 「百代お姉様に向かってあばずれですって!?」
 「士郎きゅんをケダモノ扱いだと・・・・・・ハァ、ハァ♪――――って、違う!士郎きゅんに押し倒されたいのはこの俺だッーーーーー!!」
 「私こそお姉様に食べられたいわよッーーーーー!!」

 よく解らないが一触即発状態である。
 如何してこんな事になったかと言うと、夕方のHR終了直後にまで遡る。
 3-Sの担任が教室から去った直後、百代が前側のドアの辺りに来ていたのだ。
 そして一言目自体がいきなり拙かった。

 「士郎(・・)!とっとと行くぞ~」
 『・・・・・・え?』

 それに対して。

 「百代(・・)・・・・・ちょっと位待てないのか?」
 『・・・・・・ん?』

 この2人の無自覚な呼び合いの変化に、周囲がお約束の絶叫をして今に至るいう訳だ。
 因みに魍魎の宴の開催も丁度している頃であり、口論こそしていないが少しばかり似ている状況だった。
 此処に居るのは全員男であり、その中の大半が士郎の写真から顔の部分だけをくり抜いて、藁人形に張り付けて丑の刻参りをしていた。

 「美人は皆のモノ、美人は皆のモノォオオオオオオ!」
 「なんで・・・アイツ・・・ばっ、かりッ・・・モテんだ、チッキショぉぉオオオオオオ!!」
 「爆発すればいいのに、爆発すればいいのに――――」

 呪詛の言葉を吐いていた。
 しかし川神学園には男が好きな男も少なからずいるので、中には士郎の顔写真では無く、百代の顔写真を張り付けている者達も居た。

 「この、雌犬っがぁあああああ!!」
 「僕チンの士郎きゅんを誑かしやがってぇえええええ!!?」

 こんな風に何時もの競売を始めずにこんな事になっていた。
 中にはガクトもいたが、何時もの彼の押さえ役であるモロは今日は居なかった。
 こんなカオスを知らず知らずのうちに作った元凶達はと言うと、現在川神院に居た。

 「セイ、ヤッ、トォ!」
 「喰らう、カっ!」

 一撃一撃が数多の武芸者達を沈めてきた百代の主砲、川神流無双正拳突きである。
 それを士郎は、いなして躱し捌きつつ、時には後ろに後退しながら衝撃を抑えながら、ものすごい速度で後退していく。
 しかし百代はいなされては突進し、避けられては突進し、捌かれては突進し、衝撃を受け流されてはより前へ進んで行く。
 傍から見れば士郎の防戦一方の形に見えるが、士郎視点でのこの組手の目的は百代の戦闘衝動を一定以上まで抑えるためのガス抜きである。
 その為、必要以上に士郎が攻めに出る必要はないのだが、ただ防戦だけに徹していると百代がふて腐れるので仕方なくその辺を見極めた上で攻撃もしている。
 その時、士郎の正拳が百代の鳩尾にもろに突き刺さった。

 「がっ・・・・・・ぇぇ、あだっ!?」

 しかし瞬間回復もあるので一瞬で全快だが、何故か百代は士郎の拳骨を頭から喰らう。

 「な、何する――――」
 「態と受けたろ?」
 「な、何のこと――――」
 「次やったら、もう無し――――」
 「わかった、すまなかった!」

 この組手が今の百代にとって何よりも変えがたい時間であるた為、無しにされる位なら素直に謝る様になった。
 それをヤレヤレと肩を竦めた士郎は呆れるが、百代は怒られたこと自体も嬉しそうだった。
 友人や舎弟は年下ばかりで怒られてもなんか違うし、爺やルー師範代や最近は全く顔を見なくなった元師範代の釈迦堂さんも何かしっくりこなかった。
 だが士郎は違う。
 同い年の筈なのに、まるで父親のような存在としても認識していた。
 だから今回の様な時は以前とは違い、子ども扱いされても不快な気持ちなど微塵も湧いて来なくなっていた。

 「フフ・・・!」

 それ故自然と笑みも零れる。
 だが士郎としては気味が悪い。

 「如何して笑ってるんだ?これでも怒ってるんだぞ?」
 「いや、別に笑った訳じゃ――――」

 そんな2人の様子を遠くから生暖かい目で見る者達が居た。
 それは川神院の修行僧達である。

 「いやー、今日で二回目だが未だに信じられんなー」
 「確かに・・・。百代と互角に渡り合える奴が同い年に居たなんてな!」
 「いやいや、俺が言いたいのはそこじゃないんだ」
 「?じゃあ、一体何ですか?」
 「あの百代が乙女の顔をしてるんだよ。しかも恋する乙女だなー、ありゃ?」
 『えぇええええええええ!!?あの男勝りがぁあああああ!!?』
 「お前らそれ、セクハラだぞ?」

 幸い、いわれ放題の百代は士郎との会話に集中しているので聞こえていなかった。
 その鍛錬場から離れた鉄心の自室にて、士郎の護衛としてついてきたシーマと部屋主が将棋をしていた。

 「・・・・・・お主ルール覚えたてなのに、何でそんなに強いんじゃ?」
 「生前の事は微かにしか覚えていないが、何度も戦場で大将を務め事がある気がするのだ。故に、このような遊戯版の戦術遊戯、容易に事を運ばせられるわ」

 まだ向かい合って5分も経過していないにも拘らず、既に鉄心は二回も黒星を喰らっていた。
 因みに鉄心はシーマの正体も聞いている。
 何の英霊かも不明だとも聞いているが、目を見れば大抵(基本男のみ)如何いう性分か見極められるので、編入についても即時了承したのだ。
 そんな鉄心だが、負けているとはいえ楽しそうである。
 最近将棋していた相手は、色んな意味で痛いトコを付いて来る雷画ばかりだったので、凄く楽しそうだった。

 「待った!」
 「またか・・・。仕方ないなぁ」

 こうして何度も待ったを許してくれているのだ。
 その上で既に二回も負けている鉄心もある意味凄いが・・・。
 その2人を置いといて、話を士郎と百代へと移す。
 今日の組手を終えた士郎だったが、何故か動きが鈍かった。

 「・・・・・・・・・」
 「如何した?」
 「川神学園の方から、剣呑な空気を感じないか?」
 「ん?・・・・・・確かに、そんな気配だが・・・じゃあ、如何するんだ?」
 「・・・・・・・・・」

 百代の質問に士郎は押し黙る。
 何故その程度で士郎は学園に戻るのを忌避しているかと言うと、単なる経験則からくる危機感知である。もっと簡単に言えば嫌な予感がするのだ。今行けば確実に酷い目に遭うと。
 割りと真剣に如何するか決めかねている士郎に対して、百代は清水寺の舞台から飛び降りるというよりも、国会議事堂に突貫する気持ちで恥ずかしげな気持ちに整理をして口に出す。

 「な、なぁ、士郎・・・」
 「ん?」
 「その、なんだったら、この前言ってた膝枕を――――」
 「まさか、して欲しいのか?」

 士郎の言葉に顔を真っ赤にさせながら恥ずかしそうに頷く武神。

 「今、行き、たく、無いなら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いい・・・か?」
 「まぁ、時間を少し潰さなきゃならないからな。いいぞ」

 即座に縁側で正座する士郎は、自分の膝を叩いて何時でもバッチ来い体勢となる。
 それを未だに顔を真っ赤にさせながら、失礼すると小声で断ってから自分の側頭部を士郎の膝枕へと預けた。

 「~~~~~~ッッッ」

 お世辞を言っても士郎の膝は只固いだけだ。
 しかし何かしらの効果でも働いているのか、百代はこれまで頭を預けたどの枕よりも病みつきになりそうな感覚に襲われた。
 更には幸福と言う名のある奇襲が百代を襲う。

 「どうだ?寝心地の方は?」
 「ッッッ!!!??」

 ただ質問するだけでは無く、この状態で頭を撫でて来るのだ。
 恋人でもない男からの反則技に、百代はたちまち心の中でノックアウト宣言をした。
 願わくば、この時間が一秒でも長く続いてくれと願うほどに。
 しかし百代は気付いていなかった。
 少し離れた所から、数人の修行僧達にニヤニヤ顔で観察されていた事に。
 因みに、士郎が学園に戻る前に、第一グラウンドを占拠している二つのファンクラブは教師の小島梅子とルー・リーにより、教育的指導の下で全員鎮圧されたのだった。


 -Interlude-


 鎮圧された二つのファンクラブと違い、魍魎の宴はそれに巻き込まれる事なく撤収できたという連絡をガクトから受けたモロは、一応安堵した。
 そして携帯をしまって使用可能のエリアから出て、先程まで居た病室に戻るためにモロは足を進める。
 今現在モロがいる所は、葵紋病院である。
 定期的に育て親である祖父の付添いとして病院に通うモロではあるが、今日はその日では無い。
 ではなぜモロが病院に来ているかと言えば、自分が体調不良に陥ったから――――と言うワケでは無い。
 以前祖父の付添い時に、たまたま遭遇したのだ。彼女に(・・・)

 『師岡君、友達とはもういいの?』
 「うん、大丈夫だよ。天谷ちゃん」
 『もう、ちゃん付けなんていいって言ってるのに・・・』
 「そうは言うけど、天谷ちゃんもボクの事を君付けで呼んでるし、おあいこでしょ?」
 『フフ、そうだったわね!』

 楽しそうに談笑する2人だったが、彼らは触れ合う事叶わずに、とても厚い壁に阻まれている。
 モロと透明な壁越しで談笑する彼女の名は『天谷ヒカリ』
 この病院に数年前から入院している。
 彼女の体は都市部の汚染された空気には適応できず、呼吸困難に陥る重い病だ。
 それをきっかけに、世界でも珍しく治療法が確立していない別の病気にもかかっているので、今いる特殊な病室から出れないままなのだった。
 それ故、日を重ねるごとに彼女の感情面が激減するなどしていたが、モロとの出会いにより笑顔を取り戻してきているのだった。
 それを知ってか知らずか、モロは祖父に心配掛けさせない時間ギリギリまで彼女と談笑していくのだった。 
 

 
後書き
 予告みたいなものでしょうか。
 風間ファミリーの中で最初に魔術の世界に巻き込まれるのはモロです。 

 

第6話 火に油を注ぐ

 日時不明、某所。
 世界の裏社会で名前だけが有名な殺し屋組織の頂点であるコズモルインは、本拠地が誰にも知られていない。
 その誰にも知られていない本拠地の首領の部屋に、ある構成員が入ってきた。

 「失礼します――――・・・・・・居ない。まさか・・・」
 「ボスなら何時もの“ガス抜き”で出かけてるぜ?」

 そこには先に部屋の中にいた別の構成員、通り名は百足と呼ばれている男が壁に寄り掛かっていた。
 首領の気配は何時も通り読めないので兎も角、この男が既に部屋に居たのは感じ取っていた為、特段驚きも無い。

 「またですか・・・」
 「仕方ねぇだろ?この件については“あの御方”自身が了承――――いや、推奨されてんだからな。だが俺は疑問だぜ?“息抜き”なら判るが“ガス抜き”ってのは何の事――――」

 百足の話の途中で彼女――――久宇舞弥は部屋を出て行ってしまった。
 用があった人物が居ないのなら、此処には用は無い。
 そして無駄口をお前と話す気も無いと、言わんばかりのドアの閉め方だ。

 「ヤレヤレ、落ち着きがねぇな」

 彼女を追わずに、そう嘆息するのだった。


 -Interlude-


 「相も変わらず今朝の朝食も美味いな!」

 翌日の朝。

 何時もと同じ時間に何時もと同じメンバーでの朝食中の衛宮邸。

 「うむ。朝食は一日の元気の源、たくさん摂ってエネルギーを蓄えなければな!」
 「あー美味い、本当にうまいんだが・・・・・・女として負けた気がしていく・・・」

 新たな住人達も百代も既に慣れたもので、遠慮なしに大皿からおかずを取る・ご飯のお替わりをすると、勝手知ったる自分の家状態である。
 しかしそうとなれば朝から餓えている野獣が黙っている筈がない。

 「なら百代ちゃんのそのウインナー、頂きィ――!」
 「だが断る!」

 百代の皿に親友してくる大河の箸を、気でコーティングした自分の箸で迎撃する。
 それをすかさず自分も気でコーティングして威力を拮抗させようとするが、百代の鉄壁を破れずに後退する羽目にあった。

 「クッ、やるわね百代ちゃ――――って!?私のウインナー1本無くなってるわ!」

 すかさずキッと大河が睨み付けたのは、右横で食べているエジソンだ。

 「トーマスさんっ!私のウインナー、返してください!」
 「何故私を犯人だと決めつけるのかね?」
 「昨日の朝、私がトーマスさんのウインナーを盗み取った仕返しでしょ!?」
 「ん?タイガは昨日、自分では無いと否定していなかったか?」
 「あ・・・・・・・・・・・・っ!引っ掛けましたねっ!?」

 シーマの言葉に我に返ってから反省の色見せる事も謝罪もせずに開き直った大河は、即座にエジソンを問い詰める。
 しかし、それに対応したのはエジソンでは無く士郎だった。

 「自分でボロ出して引っかけたって、横暴も良い所だろう?」
 「うるさいわね!部外者は黙ってなさいよ!これは私とトーマスさんお問題なんだからね」
 「ほぉ・・・。家主であり、食卓を統べる俺にそんなこと言うなんて、随分いい度胸だな?藤姉・・・!」
 「ヒィイイイ!!?」
 『南無・・・』
 「彼女は親のとってはいい娘であり、友にとっては良き友人であり――――」

 口を滑らせて衛宮邸でのルールを破った大河は、剣呑な空気を纏った笑顔の士郎に怯える。
 そして百代とシーマは合掌。
 エジソンは神父宜しく十字を切る。
 まだ一週間も経過していない新人2人+1人の計3人とも、慣れた対応をする。
 取りあえず3人は、首根っこを掴まれたまま何処かに引きずられて行く大河を黙殺する。

 「誰か助けてぇえええええ!!?」

 しくじった野獣の命乞いも聞かないふりして朝食を進めるのだった。
 しかしこの何時もの光景になりだしたイベントのせいで、その時誰も聞いていなかった。
 テレビから流れて来るニュースの情報に。

 『――――昨夜未明の〇〇県〇〇市内の民家で、家族全員の変死体が発見された模様です。外傷も一切見られず、屋内の空気も煙などは微塵たりとも無いとの事で、警察は調査を進めているようです。ただこの様な件はここ数年程前から世界中で度々同様に何十件以上の変死体が発生している事から、謎が謎を読んでいるとも言われているそうです。続きましては――――』

 この件で、士郎自身が関わる事になるとも知らずに。


 -Interlude-


 今日の百代は風間ファミリー達とでは無く、士郎とシーマと登校している。
 3人の立ち位置としては士郎が真ん中に居る為、先程からシーマを女の子だと勘違いしている通行人達にとっては、2人もの美少女を誑かして公共のど真ん中で両手に花の状態を作り、侍らせた上に見せびらかしている屑野郎――――。

 (何だあの野郎ッッ!)
 (美少女は皆のモノだろうがッッ!)
 (こっちは普通の女たちにもキモがられんのにィッッ!)
 (それを2人も侍らせてるなんて、この世に神は居ねえのかッッ!!)
 (視線だけで人を呪殺出来無いかなぁ?)
 (今はせいぜい調子に乗ってろや!但しっ)
 (月夜だけだと思うなよッ・・・!)

 ――――そんな妬み辛みと言う名の誤解を抱いて、士郎のみを血涙を流すように睨み付けて殺気を送っている者達も中には居た。
 これにより士郎は悪寒を感じ、周囲を見渡す。

 「!?」
 「いきなり如何した?」
 「・・・・・・・・・いや、何でもない」

 そう気を取り直して投稿を再開して通学路である変態の橋に差し掛かったところで、別の殺気交じりの嫉妬の視線が士郎を襲う。

 (衛宮士郎ッッッ!!!)
 (去勢もせずお姉様の真横に居るなんて、分不相応なのよッッ!!!)
 (愚物がッ!恥を知りなさいッ!!)
 「っ!?」

 今度こそはっきりと感じた士郎は再び周囲を見渡すと、そこには同じ川神学園の制服に身を包んだ女子生徒達に、後方に何人かの男子生徒達が自分を睨み殺さん位に殺意交じりにまっすぐこちらを見続けていた。

 「?」

 これに士郎は困惑を極める。
 それは何故自分が彼らからそんな目で睨み付けられるか、身に覚えが微塵もないからだった。
 しかし士郎には無くとも彼らには有る。
 だが彼らは士郎に文句を叩きつけようとせず、ギリッと音が聞こえて来そうな位に歯を食いしばるだけだった。
 理由はある。昨日の夕方の件で、次似たような事をすれば最悪停学だぞとくぎを刺されているが、そんな事位であればと彼らは反論した。
 だが、この問題のある意味中心人物たちにも何かしらの注意を呼びかけねばならんなと言われた事により、片っぽは兎も角百代お姉様・モモ先輩には迷惑をかけるわけにはいかないと、断腸の思いでそれを了承したのだ。
 そんな彼らの思いを知ってか知らずか、もう片方の人物である百代は、士郎に殺気交じりに睨み付けている彼らが自分のファン達である事に気付いた。

 「オイ、お前――――ッッ!?」

 そう声を掛けようとしたところで、百代も背筋に悪寒が走ったのを感じた。
 その元凶は当人である士郎すらも知らない、衛宮士郎様愛好会のメンバーだった。

 (雌犬がぁあああああ!!)
 (抜け駆けなんてしてぇえええ!!)
 (ぼきゅの士郎きゅんから離れろぉオオオオ!!!)

 殺気交じりの睨み付けだけしかしていないのは、百代のファン達と同様の理由だ。
 そして――――。

 「っ!?な、なんだ?」

 士郎と百代と共に登校中のシーマも、何故か悪寒を感じた。
 その理由は、今迄の士郎と百代のファン達とは違い、固まらずに様々な方向からの熱がこもった視線によるものだった。

 (シーマ君たら、可愛い♡)
 (しーまきゅんたら、きゃわいい♡)
 (囲いたい~♡)
 (食べちゃいた~い・・・・・・グフ♡)
 (やっべ、マジ押し倒したい系~)

 ショタコンと正確には違うのだが男の娘好きのハイエナたちが、餓えている様に熱い視線を送っているのだ。
 ・・・・・・・・・・・・・・・最後、誰か特定できそうな人物もいたような気がするが。
 それは置いといて、恐らく既にシーマのファンクラブも出来上がっているのはまず間違いないだろう。士郎同様に本人の了承なしで。
 そんな中から抜け出す為、シーマが行動する。

 「シロウ、モモヨ、よく解らんが余は此処から速やかに離れたい!」
 『あ、ああ・・・』
 『『ッッッッ!!!!?!!!???』』

 何が起こったかと言えば、シーマは逃げるように走って学園を目指した。
 そしてシロウと百代はどちらがかは分からないが、どちらかが相手の手を握ってそれに続いたのだ。
 その光景に士郎と百代のファン達は血涙を流すように嫉妬した上に、はらわたが煮えくり返る程の憤激にも駆られた。
 だが勿論その激情を叩き付けらずに、3人の背を見送ることしか出来なかった。
 しかし彼ら彼女らは誓うのだ。
 何時かチャンスが来た時、必ずや血の報復を決行すると。
 ただ言うなら、これは報復とは言わないのでは?と言う疑問が尽きなかったが。


 -Interlude-


 川神学園がちょうど昼休みに入った頃、川神駅ではある2人の女性が周囲の注目を集めていた。

 「ふー、予定よりも早く来れたなぁ!」
 「お前が急かしたからだろう?」

 ドイツの猟犬部隊、副隊長のフィーネ・ベルクマンとセイヨウニンジャのリザ・ブリンカーである。
 彼女たちは相当数溜まっていた有給休暇を使い、隊長であるマルギッテには隠してある目的――――即ち、テルマとリザの憤りの元凶たる士郎の戦力及び素行調査に来ていた。
 本音は単純に2人とも基本男嫌いなだけではあるが、提案した本人とは言えフィーネからすれば溜まったモノでは無い。
 だが今現代は世界中で男よりも女の方が強い時代なのだ。特に若い世代は。
 なので個人的な興味もあった。ドイツの猟犬部隊の隊長で“猟犬”と言う異名で呼ばれている神童、マルギッテ・エーベルバッハを下した男がよりにもよって年下と言う事実に。

 (さて、どんな男なのだろうか?)

 そう考えに耽っていると、リザが露骨に呆れた顔をしている事に気付いた。

 「如何した・・・なんて聞くまでも無いか?」
 「そりゃそうだろう?さっきから周囲の視線が俺達に集まってる。それだけじゃなく男どもは露骨に俺達の体を隅々まで値踏みするかのような目だ。ま、今までと同じだな」

 これだから男はと、吐き捨てるリザ。
 フィーネもリザ同様、同じような目で見られてきた事は幾度もあるが、彼女は鉄の自制心で呆れる事すらもせずに黙殺している。

 「だがこの周囲の視線は私達の服装も関係している部分もあるだろう。これ以上目立ち続けても得など有りはしないし、予約していた宿に行くぞ」
 「そうだなー。俺ら日本なんて初めてだし、旅館や料理が楽しみだなー!」

 気を取り直して、2人は速やかのその場を後にするのだった。 

 

第7話 純粋なる歪

 「衛宮士郎、私と勝負しなさい」
 「は?」

 何時のの様に勉学に励み、学友たちとの絆を深めて?からの放課後に、日課になりつつある百代との組手に行こうとした士郎達の前に、マルギッテ達が立ちはだかった。
 因みに、未だに両者のファン達は遠目から恨めし気な視線を送っている。

 「は?ではありません。私と戦いなさいと言ってるのです!」
 「ちょっと待て、マル!既に先約があるんだから、空気位読んで欲しいな!」

 それを返したのは士郎本人では無く、両者の視線の間に割って入りこんだ百代だ。

 「だ、誰がマルですか!そ、それに学年は百代が上でも、歳は私の方が上なのですから敬語を使いなさい!」

 同期の者達から呼ばれる愛称を年下の者に呼び捨てにされたマルギッテは、何故か頬を赤らめながら抗議する。
 しかし百代は言葉使いは兎も角、態度だけは改めないまま対応する。

 「空気を読むくらいのマナーを守るんでしたら、幾らでも相応の対応をしますよ?それに是はアレですか?先日の旅行中の時での士郎へのいちゃもんですか?」
 「それは誤解です。あの件につきましては私に過失があったことは認めています」
 「でしたらまずは謝罪が先でしょう。それに貴女が今この地に居るのは彼女――――クリスの護衛の為なのでしょう?その任務を蔑ろにして、俺に戦い挑んでいいと言う許可を取っているんですか?」

 士郎は、自分の前に居る百代と交代して前にでて正論を言う。
 百代では話をややこしくさせかねないと判断したからだ。
 そしてマルギッテは士郎の正論の前に押し黙る。如何やら図星だったらしい。
 それに百代が士郎の腕に自分の腕と手を絡めてから畳掛ける。

 「そうです!それにこれから士郎と私は組手と言う名のデートをするんですから!」
 「・・・・・・・・・・・・」

 百代の言葉に今度は士郎は押し黙る。その態度に百代がすぐに疑問を呈する。

 「何だよ士郎、如何してお前が黙るんだ。まさかこの私に不満でもあって言うのか!?」

 顔を赤くしながら胸まで押し付けていた百代からすれば、この状態で何が不満なのだと言いたい。自他ともに認められている美少女だし、自分のファンは先ほどからシロウに殺意を送っているしと。
 しかし士郎の反応は違った。

 「・・・・・・・・・え?」
 「・・・・・・・・・え?」
 「1・・2、3・4・・・5、6、7・・・・・・・」

 一瞬お互いにキョトンとしてからシロウは、百代に対するこれまでの不満に覚えがあるかのように、一つ一つ思い出すと同時に指を折り曲げて数えていく。
 その数が両手の指で足らなくなり、逆走しだしたところで百代は顔を青ざめながら止めに入る。

 「待て待て待て待て!指を動かすのを止めろよ!と言うか、そんなにあるのか!?」

 その彼女の反応にまたもキョトンとした士郎だったが、 彼女の耳元に顔を寄せて小声で全てを呟いた。
 それには百代が徐々に体を前側に折り曲げて行き、遂には両ひざを付く。

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんな――――」

 あまりの百代の態度の変わりように、ドイツ姉妹――――正確には違うが、そのコンビはひそひそと話し始める。

 「マルさん、何を言ったんだろうか?」
 「判りかねますが、言葉だけで“あの”武神を陥落させるとは――――やはり楽しめそうです・・・!」

 これにより改めて士郎にロックを掛けるマルギッテだが、このまま無理矢理押し通したらフリードリヒ親子に迷惑がかかるので、今日のこの場は自重する事にした。
 そして士郎の護衛を自称するシーマが現れたのは、それから10分後の事だった。


 -Interlude-


 川神市のとある住宅街。
 日もすっかり暮れた頃に、彼女たち――――私服姿に着替えていたフィーネとリザがいた。

 「収穫は如何だった?」
 「上々・・・・・・と言いたかったんだが、戦闘力方面は詳細な情報(モノ)は無いな」

 そう愚痴りながらもフィーネに報告を続けるリザ。
 何故リザだけが情報収集に駆けまわって来たかと言うと、この2人は今更言うまでも無く、相当な美人である。軍服を脱ごうと一目を容易に集めてしまう位に。
 それ故に、このままでは情報収集など出来ないと言う事で、セイヨウニンジャとして相応に気配を消せるリザだけが市街を駆け巡って来たのだ。
 だが結果論ではあるが適材適所だろう。
 もとより潜入に諜報関係がリザの仕事であり、隊長の補佐以外には部下達をまとめつつ情報などを解析するのがフィーネの仕事なのだ。
 だから役割分担としては順調だった。だがしかし・・・・・・。

 「これ以上は確かなものは得られそうにないぞ?それこそ藤村組に潜入でもしない限り・・・」
 「それは許可できん。あちらは自分達に敷地の上、壁越えが複数人もいる。潜入などすれば確実に尻尾を掴まれる上、これは任務では無い。不法侵入として扱われれば、本国には勿論の事、中将や隊長にもかなりの迷惑を負わせることになる」
 「なら如何する?正直手詰まりだし、これ以上同じ情報収集の形を取っても――――」
 「ん?如何した、リザ?」

 いきなり会話を止めたリザに向けて、フィーネは怪訝な顔をする。

 「あ、いや、大したことじゃないんだが、此処の家の住人達の気配が突然消えたなと思ってよ」
 「突然消えた・・・?」

 リザが寄り掛かっている壁――――もと言い塀の向こうの家の事だ。

 「ま、俺が気を抜いたせいなんだろ?直に調子を取り戻せば・・・・・・・・・ッッ!!?」
 「如何した!?」

 フィーネはリザの顔を覗き込むように尋ねる。
 それもその筈で、リザは今の一瞬の内に顔――――いや、全身中から冷や汗や悪寒が止まらなくなっている。一言で言えば恐怖に震えていた。

 「何だ、これ・・・?俺・・・・・・こんな気配、知ら、ない。これって・・・・・・“人”・・・・なのか?」

 リザはあまりの恐怖に全身は勿論の事、瞳も震え続けている。
 そんな仲間の態度の異変に察知したフィーネは、急ぎこの家の裏庭入り口からこの家に足を踏み入れた。不法侵入に値するだろうが、今はそんな時では無いと軍人としての勘に従っていた。
 そしてそこで見たモノは・・・・・・。

 「・・・・・・っ!?」
 「ひぃ、あぁっ!ひぃっ、はっ!?」
 『・・・・・・・・・・・・』

 黒い何かが、未知の恐怖により腰を抜かして動けなくなっている男性を見下ろすと言う、異様な光景だった。


 -Interlude-


 「急げシロウ!」
 「分かってる!」

 ほぼ同時刻に士郎とシーマの2人は、流星のように全力で街中を駆けていた。
 理由はスカサハからの報告である。
 久しぶりに来たのだ。サーヴァントらしき反応が、と。
 その真偽を確かめる為、士郎とシーマの2人で反応の在った場所に急行中だ。
 因みにエジソンはいざ何かあった時の為の留守番役だ。
 家を任せて走る、走る。駆ける、駆ける。
 そうして現場に着いた2人は、急ぎ周囲を探索しようとしたところで即座に見つけてしまった。いや、出会ってしまった。それ(・・)に。

 「なっ・・・!」
 「お前は・・・・・・」
 「あ、あぱ、あばぱ・・・ひぃふっ!?」
 『・・・・・・・・・・・・・・・』

 とある民家の裏口にそれ(・・)が男性を見下ろしていたのだ。
 2メートルはゆうに超えるだろう、黒い霧を纏った“何か”が。
 それ(・・)を見たシーマは、刹那の中でどの様な選択が最善かと必死に思考した。
 理由と言えば経験則である。
 相変わらず生前の事はほとんど思い出せないが、目の前のこの“何か”と対峙している今この瞬間に体が思い出しつつあるのだ。
 自分は嘗て、強大な魔に立ち向かった事があるのではないかと。
 そしてその経験則が確かならば、この“何か”は強大な魔とは別種にしてそれ以上の恐るべき存在であると理解出来てしまった。
 一方士郎も同じ刹那の間に居た。
 マスターの恩恵と権利により、目の前の“何か”がサーヴァントである事は間違いないと理解していた――――が、納得はしていなかった。
 ステータスのパラメータ値が解らないが、宝具やスキルなどであればその程度の事は些細な事実だろう。
 真名は兎も角クラスが分からない。自分が経験してきた聖杯戦争はどれも異常だったので、そう言う事もあるだろう。
 では何が納得できないのかと言うと。

 (コイツは本当英雄・反英雄(英霊)の類なのか?)

 自身が巻き込まれた聖杯戦争に加えて、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ(師匠)の下での第二魔法により幾多の世界に送られた時の数多の英霊との邂逅で、士郎は真名こそ見極められるわけではないが天・地・人・星と言うカテゴリーを見極められる観察眼を具えていた。
 それ故に、だからこその疑問だった。

 (サーヴァントである事は間違いないが、コイツはどの英霊とも違う“何か”だ――――いや、それよりも今は・・・・・・!)
 「シロウっ!?」

 シーマの驚きの声など構わずに、士郎は腰を抜かしている男性を助ける為に行動に移す。
 例え世界中の人を助けることが叶わずとも、自分の手が届く範囲の人たちだけは必ず救って見せる――――と言うのが士郎の新たな誓いなのだから。

 「っ!?」

 しかし男性を見下ろしていた“何か”はいつの間にかに居なくなっていた。

 「消えた?―――――いや!」

 セオリー通りであれば後ろに居ると振り向くと、シーマも同意見だったようで振りむいて自分に背中を向けていた。
 そして予想通り2人の背後に居た。ただし・・・・・・。

 『な、に・・・!?』

 まるで興味が無いと言わんばかりに、2人の背後から――――と言うよりも、この場から去ろうとしていた。いや、現在進行形で遠のいていく。

 「待て!」
 「待つのはお主だ、シロウ!」
 「如何して止める!」

 自分の肩を掴んで制止するシーマに抗議するために振り向くと、当人は非常に悔しそうに凛々しい顔を歪めていた。

 「今の我らではアレには勝てん!死にに行くようなものだ・・・!」
 「だが・・・!」
 「それにもう姿など見えんし、気配を拾えるか?」

 そんな事と反発して気配探知で周囲を探すが、シーマの言葉通り全く引っかからなくなっていた。

 「クソっ」
 「拾えなくてもおかしくは無い。何せ我ら2人とも、先のアヤツを視認して初めて姿を確認できたくらいだ。それで如何する?それでも探すか?」
 「・・・・・・いや、今はあの人の保護や後処理を優先しよう。百代に近づくと探知すればスカサハ(師匠)から連絡が入る筈だ」
 「わかった。・・・・・・ん?この男、あまりのショックで気絶しておるな」

 行動方針を切り替えて即座に民家の中に足を踏み入ると、あの“何か”に終始怯えていた男が気絶していた。
 さらに男の近くには美女が2人ほど倒れていて、同じように気絶していた。

 「この人達も気絶しているだけか・・・。しかし見かけない顔だな。この辺に住んでいる人なら大体顔くらいは知ってるんだが・・・」

 倒れている美女2人の素性に心当たりがない士郎をよそに、気絶している男を一度置いとく事にしたシーマが家の奥へ進んでいく。
 そして――――。

 「シロウ!」
 「ん?如何したシーマ――――っ!?これは・・・」

 呼ばれて駆けつけて見れば、家の奥にある居間には、この家の主たちと思われる親子供合せた4人が倒れていた。
 そして見た瞬時に理解出来た。この4人からは生気を全く感じ取れない。
 つまり、死んでいる・・・・・・と。
 
 

 
後書き
 クラス:セイバー
 マスター:衛宮士郎
 真名:不明(仮初の名としてシーマ)
 性別:男性
 身長・体重:168cm・65kg
 属性:秩序・善
 ステータス
 筋力:B、耐久:C+、敏捷:B、魔力:C+、幸運:C-、宝具:Unknown(使用不可)
 クラス別能力
 騎乗:B+、対魔力:B
 保有スキル
 武の祝福:B、不明、不明、不明

 上記が今現在のシーマの状態です。霊器が全快すれば宝具も使用可能でしょうし、ステータスも全盛期状態にまで戻ります。 

 

第8話 邂逅は突然に

 ほぼ同時刻の家主が出かけた衛宮邸。
 そこではスカサハが、顔には出さずとも柄にもなく、内心で心配そうにしていた。

 (士郎達め、最後まで聞かずに行きおって――――いや、聞いたとしても正義感の高い2人の事じゃ。何方にしても行くのぉ)

 溜息をついて現状に悲観する。
 感知したサーヴァントの素性は判らないが、まず今の2人では天地がひっくり返っても勝てないと理解していたからだ。
 それほどまでに濃い存在だった。
 しかし今は存在も気配も全く感じ取れない――――と思った瞬間・・・。

 「これは・・・」
 「レディ・スカサハ」

 ある事を感じた瞬間、エジソンが擬態を解いたサーヴァントとしての姿で来た。

 「お主も気づいたか?」
 「はい。衛宮邸の前に異常な存在濃度を感知しましてな」
 「ならばお主は此処に――――」
 「勿論私も戦いますぞ」

 予想外の返答に、スカサハが軽く面を喰らう。

 「・・・・・・分かっておるのだろう?今来ておるのは、相当上位かそれ以上のサーヴァントだ。お主では到底、歯が立たぬであろう」
 「勿論心得ております。私はキャスターですからな。言う通り、奥に引っ込んでいるのがベストでしょう。この国の言葉で言えば『餅は餅屋』と言った所でしょうか?――――ですがだからこそなのですよ!」
 「ん?」
 「例え敵が強大であろうとなかろうと、女性だけを前面に立たせるなど・・・・・・米国紳士の名折れです!生前私を支えてくれた家族や友人達へ、顔向けが出来んのですよ!!」

 随分と強い調子で語るエジソンに溜息を吐く。

 「つまり私の為と言うのはついでで、本音は自分のメンツの為と言うわけか・・・」
 「そ、そんな身も蓋も無い・・・。そ、それに私は―――」
 「分かった分かった。そう言う事にしておいてやる。――――じゃがな発明王。私と戦場に立てば最早引き下がれぬと思え」
 「フフ、何を仰られるか・・・。米国男児に二言は無い!!」
 「・・・・・・それを恐怖で体全体を震わせてなければ、もっといい男だったのじゃが」

 スカサハの指摘通り、エジソンはこれから向かうであろう戦場への恐怖に戦慄していた。
 何時からかと言えば、割と始めの方から。

 「な、ななな、何をおっおおおお、仰ることやららららららら!?」

 指摘されてテンパる事で、声までも震えはじめた。
 しかしそれも仕方なき事。
 今でこそ英霊として祀り上げられてサーヴァントとして召喚されたが、生前は武など極めた事など皆無であり、戦争・従軍経験など勿論ない。
 あると言えば気に入らない相手や見解の違いで殴り合いをした程度なのだ。
 そんな元一般市民に、最上級の殺し合いを死後に押し付けられても正直な話、ついていけないのだ。
 だがそれでも恐れても直、意地を張り通そうと言う気概自体については、スカサハは嫌いでは無かった。

 「どの様な時代になっても男という生物は、女の前でカッコを付けたがるものじゃな」

 取りあえず、そう、結論付けた。

 「それに、お主と同類がおる様じゃしな」
 「?そ、それは如何いう―――」

 エジソンが全てを言い終える前にスカサハが襖を全開にすると、魔術と言う世界の秘密を知る藤村組の面々が、招かれざる客を出迎えるように庭に来ていた。
 その事にエジソンが疑問を口にする前に雷画の口が開く。

 「先ほど士郎から連絡が有ったのでな。禊を含めた後処理のために、利信の奴を向かわせた」
 「そうすれば若もシーマ殿も(じき)に戻ってきましょう」
 「それまでは、我らだけでも少しは時間を稼げますよ。スカサハ殿」

 如何やらエジソンと同じくして参列する気満々の3人。
 しかもこちらの疑問を聞く前に、あっちが勝手に聞きたかった質問の答えを言う始末だ。
 これにスカサハは、またしても溜息をつく。

 「ヤレヤレ、これは止めるだけ野暮と言うモノか?」
 「フハハハハ!これは我々の最大戦力ですな!これではシロウの出番が無いやもしれませんな!」
 「だと、いいのじゃがな・・・」

 そこで嘆息すると、招かれざる客が衛宮邸の扉をすり抜けて侵入してきた。

 「招いた覚えはないが、此方の状況確認のために時間を待ってくれた礼じゃ。相応の歓迎をしてやるぞ?客じ・・・・・・なっ――――」

 すり抜けて来た侵入者来る前に一度閉じた目で見据えたスカサハは、我が目を疑った。
 何故ならそこに居たのは・・・。

 「ずいぶん黒々とした姿じゃのぉ」
 「こうして向かい合っているだけで・・・・・・・・・寒気が止まりませんね」
 「この感覚・・・・・・・・・まるで死神と向かい合っているみたいだな」
 「?如何したのですかな、レディ?」

 侵入者の禍々しい姿に各々が感想を口にする中、スカサハの異変に唯一気づいたエジソンが声を掛けるがスカサハは反応していない。
 だがそれもその筈だ。

 「よぉ、師匠!随分待たせたが来てやったぜ」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クー・・・・・・フーリン・・・?」

 嘗て自分の下で修業に励み、朱色の魔槍ゲイボルグを授けた弟子――――青き槍兵のクー・フーリンの姿が彼女の瞳には映し出されていたのだから。


 -Interlude-


 士郎とシーマは、応援と後処理のために駆けつけてくれた利信から事情を聴いて、後を任せて急いで帰るために、夜闇を切り裂くように全力で駆け抜けていた。
 疾走中に士郎は後悔し続けると共に疑問が尽きなかった。
 ――――気配を感知できなくとも手当たり次第に探すべきだったと。
 しかし気配探知の範囲は衛宮邸まで入れていたのに、感知できなかった事に疑問がある。
 いや、サーヴァントである以上アサシンならば当然可能であろうが、それはあり得ない。

 (アサシンなら最初に来たはずだ!?なのに・・・・・・・・・いや、まさか、ガイアの使徒では無いって言うのか?――――だとしたら、聖杯戦争のサーヴァント・・・?)

 色々と考える中で、横からシーマが叫び声が聞こえて来る。。

 「何を考えているかは知らぬが、もうすぐだぞ!」

 シーマの言葉に我に返ったと同時に、2人揃って衛宮邸の敷地の内側と外側に隔てる塀の瓦の上に着地した。

 「ッッ!!?」
 「これは・・・!」

 漸く衛宮邸に帰還した2人は絶句する。
 サーヴァント本来の姿に戻ったエジソンに、迎撃のために態々来てくれた雷画に嵐臥に石蕗和成の計4人が倒れ伏していた。
 この惨状に思わず激情に駆られそうになる士郎だが、冷静に戻す為の平手をシーマから喰らう。

 「落ち着け、シロウ!よく見ろあの4人を!いずれもほとんど外傷もないし、魂を抜かれているワケでは無い様だぞ」
 「・・・・・・・・・」

 確かにシーマの言う通り、如何やら気絶しているだけの様だ。
 だがこの元凶は、現在進行形でスカサハと交戦中のままだ。

 「クッ!?」
 『随分ト苦シそうダな?アるバの女王ヨ』(「オラオラ!その程度かよ?師匠!」)

 スカサハは最初こそ戸惑いはしたが、何故お前が此処に居ると叫びながらも攻撃していた。
 しかしそれも次々に周囲の者達が倒されて気絶していき、その上自分の縦横無尽の攻撃も効かずに、少しづつじりじりと防戦一方にを強制されて来ていた。
 今はルーン魔術なども駆使して何とか押しとどめているが、それも時間の問題である。
 しかしそこに、いつの間にかに戻って来ていた士郎とシーマが突っ込んで行った。

 「セイっ!」
 「やあッ!!」

 投影宝具である干将莫邪の振り下ろしと、恐らく宝具なのだろうシーマの剣振り上げを禍々しいサーヴァントは大鎌のようなモノで防ぎ切り、押し返す。

 押し返されても見事に着地する士郎とシーマ。
 そして士郎は睨みながら言う。

 「テメェ、何者だ(・・・)っ!」
 『・・・・・・衛宮シ郎カ』(「坊主?」)
 「!?」

 スカサハは士郎の口にした言葉に耳を疑った。
 士郎の記憶を幾度も覘いた事のあるスカサハからすれば何故と思ったのだ。
 士郎は本来の世界での記憶を一部失っているが、クー・フーリンの事は覚えている筈だ。
 なのに士郎はクー・フーリンに向けて何者だ(・・・)と口にしたのだ。
 この事に疑問は尽きないが、そんな彼女をよそに事態は進む。

 「問答など無駄だシロウ!それとまともな――――」
 「無駄かどうかは知らねぇが、目的ならあるぜ?」(『無駄デあるかハ知ラぬガ、目的なラあル』)

 それは士郎達に向いたまま、スカサハに大鎌らしきものを向けた。

 「お前らには用は無ぇ。俺の目的は師匠を殺してやるだけだ」(『汝ら含メ、他二用は無シ。私(仮称)はスかサはを殺ス事のミ』)

 これで問答は終えたと言わんばかりに、周囲の反応を見ることなくスカサハを殺しに掛かろうとする。
 しかしその行動を読まれていたようで、スカサハに向けて突っ込んでいた謎のサーヴァントの真横に来た士郎とシーマはすかさず斬りかかる。

 『させるかッ!』

 だがそれを軽くあしらう様に、大鎌の様なモノで切り払う。
 しかしそれにもめげずに2人は喰らい付く。
 その幾度もぶつかり合う金属音の響きも、結界の機能の一部の防音により、周辺にまで騒音としてまき散らす事は無い。

 「っ!」
 「まだまだ!」

 しかし当人らはそのような事を気にする事も無く、剣戟を繰り返していく。
 切り払われては剣の宝具で防ぎ、また突っ込む。
 砕かれては何度も干将莫邪を投影して、斬りかかり或いは投擲していく。

 『・・・・・・・・・』

 この禍々しき謎のサーヴァントからすれば、現在の2人は格下である事に変わりはない。だが、こうまで粘られ続けられては流石に目障りと判断されたのか、士郎達が来るまでに気絶させた者達と同じ末路を追わせる為に、大鎌を持つ手とは逆の腕を向ける。

 『!』

 しかしそこで、結果的に放置していたスカサハから増大する魔力量を感知してから彼女へ向くと、如何やら宝具の展開に入る体勢だった。


 -Interlude-


 スカサハと言えば、クー・フーリンに気付かれるのは百も承知であった。
 しかしこの一撃で、最初の違和感と先程からの疑問をまとめて解消するきだ。
 ――――クー・フーリンに防戦一方に追い詰められてから、何故こうまで自分より強いのか?
 ――――そもそも目の前に来るまで、如何してサーヴァントの反応をクー・フーリン本人であると認識できなかったのか?
 ――――そして何よりも、何故クー・フーリンの事を覚えている筈の士郎が何者かと聞いたのか?

 (それらを一緒くたにした、この一撃で全て見極める!)

 普段は一本だけの魔槍を、もう一つ増やして謎のクー・フーリン目掛けて突っ込む。

 「刺し穿つ、突き穿つ――――」
 『!』

 此方の動きを察した士郎達の攻撃が上手く陽動になり、変則的な軌道を走る一本目の魔槍が刺さっているかは不明だが、確実に当たっており、宙に縫い付けられる。

 「――――貫き穿つ死翔の槍(ゲイボルク・オルタナティブ)!!」

 自由を奪われたと思われる謎のクー・フーリン目掛けて、神殺しの一撃が籠った二本目の魔槍がど真ん中に当たる。
 これに耐えられるものなど存在しえないだろうと思われる程の絶技による影の女王の宝具展開だったが、もの凄い轟音が過ぎ去ると同時に煙も晴れると、そこには無傷と思われる謎のクー・フーリンがさも当然と言ったように健在だった。

 「馬鹿なっ!?」
 「今の余ならば兎も角、スカサハの彼女のあの一撃を耐えると言うのか!?」
 「・・・・・・・・・」

 確かに信じがたい結果だろうが、スカサハは如何やら予想範囲内だったようで、特段驚きもせずにただ淡々と冷静に観察していた。

 (百歩譲ってガイアの抑止力のバックアップを受けていたとしても、無傷などあり得ない。で、あるならば・・・・・・)
 「――――私の馬鹿弟子の姿を偽った不届き者よ。貴様は何者だ?何故、私を狙う」
 『貴様ガ私(仮称)ヲ求メタのだロう?』(アンタが俺を呼んだんじゃねぇか?)
 「何を馬鹿な・・・?百歩譲って本人なら兎も角、今も直姿を偽るどこぞの馬の骨なぞ求めた覚えなど無い!」

 完全なる侮蔑と受け取ったスカサハは、表情は何時も通りだが、何時もとは比べ物にならない殺気を全身から発していた。
 しかし殺気を向けられている当人は、何所までも自分のスタンスを崩さない。

 『私(仮称)は求めラレナい限り、現れナイ。(「俺は呼ばれないのに来ねぇよ」)ソれよりも汝は何故拒ムノダ?自分を殺しテクれル者ヲ渇望シテイたのダろう?』(「それよりも、如何して拒絶するんだよ。アンタ自身が言ってたじゃねぇかよ、当の昔に死んでおけばよかったってよ?」)
 「それを何所ぞの誰かに答える気は無いと言ってるのだ!」
 『・・・・・・・・・・・・』(「・・・・・・・・・・・・」)

 絶対なる拒絶を受けた謎のクー・フーリンは、踵を返して出て行こうとする。

 「逃げるのか!?」
 「あそこまで拒まれりゃ、いる意味無ぇからな」(『あレほどノ拒絶を見せらレレば此処に留マる理由は無イ』)

 ――――何よりも。

 『「時間だ」』

 瞬間、謎のサーヴァントは天から伸びてきた黒いパスに引きずり吸われる様に掻き消えて行った。

 「なんだったんだ・・・」

 その光景に誰かがポツリとつぶやいた。


 -Interlude-


 謎のサーヴァントは黒いパスの流れに従って、川神山の山頂に流れて行った。
 そしてそこに倒れ伏している存在が終着地点の様で、その者に全て収まるように入ると、それ――――黒子は起き上がる。

 「・・・・・・・・・」

 山頂から冬木市と川神市を俯瞰する様に眺める黒子は、直に踵を返してこの地から走り去る。

 「影の女王だけでは無い。この世界にいる私を求める者達全員を、いずれ必ず――――」

 夜闇に溶けるように疾走する黒子は、祈りにも似た言葉を紡いだ。

 「――――救って見せる」 

 

第9話 忘却の美女たち

 「つまり、最初からアレ(・・)をクー・フーリンと見間違えていたのは私だけか」

 民家の件での後処理を済ませて戻ってきた利信を加えた藤村組内の幹部と、士郎達3人の計8人で、深夜にも拘らず話し合っていた。

 「はい。実はいうと、スカサハ殿の言葉通りです」
 「我ら全員から見たアレ(・・)は、黒い霧を纏い、大鎌を振るう死神の様にしか見えませんでした」
 「なるほどのぉ。私だけをまやかしに嵌めるとは、どんなスキル、或いは宝具なのか・・・・・・如何した、雷画?」

 そこで先程から黙っていた雷画に、スカサハが気付く。

 「・・・・・・如何したと言うワケでは無い。ただ、あれだけ息巻いておきながら、儂ら4人は直に脱落してしまった事に情けなく思ってのぉ」
 『・・・・・・』
 「Gahoo!?」

 雷画の尤もな言葉に嵐臥と和成は居心地が悪そうに押し黙り、キャスターとは言えサーヴァントであるのにも拘らずほぼ同時に気絶してしまったエジソンは、少なくない精神的ダメージを負う。
 だが言っては何だが、ほぼとは言え一番最初に意識を手放したのはエジソンだった。
 理由は単純に場数の差である。生前の経営者と発明家としての場数ならば兎も角、殺し合いの場数など皆無の上、身体能力についても3人とほとんど変わらない事もあり、開戦と同時の一番動きが鈍かったので一番最初に狙われたのだ。
 耐久値はEXだが、あくまでも刈り取られたのは意識なので防ぎきる事も叶わなかったらしい。

 (・・・・・・・・・・・・)

 当然あの場で唯一生き残り、その後も士郎達が来てからも健闘していたスカサハだけその真実を知っていたが、口にはしなかった。
 悪意のない雷画の口にした事実程度で、軽いショックを受けた自称米国紳士の事だ。本人たちの知らない真実を言えば、見た目に反してナイーブな大柄の男は暫くの間寝込むことは間違いなかった。
 その為、此処は1人だけを名指しするのではなく全体を意識するような言葉を選ぶ。

 「まったく・・・いい男どもが、一度の失態程度で落ち込むなど情けない」
 「むっ」
 「そこの発明王が生前残した言葉にもあるだろう?『失敗は成功の母』と。衛宮邸は無事じゃし、全員大した傷も無いのだ。今回の失態を次に生かせばいい。――――だがそれでも引け目に感じるのなら、お主の秘蔵の酒でも馳走になろうかのぉ」

 スカサハの言葉にムムムと唸る雷画。
 まるで餓鬼のように、一度の失態で気を使わせると言う醜態を曝したことに、自身を叱咤しつつ結論を出す。

 「・・・・・・確かに、そうじゃな。それに、その程度で良いなら幾らでもやるわい」
 「フフ・・・言質は取ったぞ?―――それと、3人とも(主らも)引け目に感じるのなら何時か借りとして返すがよい」
 「・・・御意に。スカサハ殿」
 「・・・・・・お言葉に甘えさせていただきます」
 「・・・本当に面目在りませんでした」

 3人のそれぞれの返答を聞いたスカサハは、世話が焼けると内心で呟いた後に話を戻す。

 「――――話を戻すぞ?あのサーヴァントの正体は不明だが、狙いが私や民家の住民だけだと言うなら、ガイアの使徒では無いだろうな」
 「ええ、恐らく。それと民家の死体の件なのですが、ここ数年前から度々世界中で起きている謎の変死体の発生の件と酷似している事が解りました。恐らくは・・・・・・」
 「あのサーヴァントじゃろうな・・・・・・それで、士郎。先ほどから黙っておるが、お前も何か気づいた事は無いか?」

 スカサハの言葉に、全員の視線が士郎に集中する。
 その視線を受ける当人は、重い口を開く。

 「・・・・・・私見ですが、あのサーヴァントは天・地・人・星のどのカテゴリーにも該当しない異質な存在だと思われます」
 「・・・・・・正直信じがたいが、宝石翁の下で学んだお前が言うなら確かだろう――――」
 「ん?如何やら利信君が連れてきたレディたちに覚醒の兆候が見られますな」

 話の途中で、エジソンが口を挿む。

 「エジソン式スリーピングシステムじゃったか?相変わらず便利なモノじゃな」
 「はっはっはっ!あの程度の発明、材料と費用さえ用意して頂ければ私にとって造作も無い事ですな、雷画殿。貴殿の許しさえあるのでしたら、今すぐにでも藤村邸を改造して、他の組織の構成員などを迎撃できる要塞に作り変える事も可能ですぞ?」
 「今のところ遠慮しておこう・・・。それよりも、ゲストを出迎えるとしようかのう?昼間から近くをうろちょろして、藤村組(うち)を嗅ぎまわっていた鼠たちを」

 話自体も終わりに近づいていたので、再開することなく剣呑さを露わにしていく雷画は、久しぶりに異名そのものになっていた。
 現世(うつつよ)の閻魔そのものに。


 -Interlude-


 暗闇の一室にて、2人の女性が意識を覚醒させながら体を僅かに動かしていく。

 「・・・・・・・・・・・・」

 銀髪短髪の女性の方が先に上体を起こす。
 如何やら目が暗闇の中で慣れてきたようで、自分の横で同じように上体を起こそうとする女性に気付きながらも困惑の中にあった。

 「・・・此処は・・・何所?・・・私は――――」
 「目が覚めた様じゃのぉ?」
 「っ!?」

 自分に誰かが喋りかけてきた声が聞こえるとほぼ同時に、襖が開かれて光が彼女たちを容赦なく照らす。
 自分たちの意思で点けた光では無いので、一瞬眩しそうに襖の奥から視線を腕で隠す。
 その行動に、自分たちの置かれた状況にしては余裕じゃのう?と勝手に受け取った雷画は、立場を分からせるために殺気を送る。

 「ヒッ!?」
 「・・・・・・・・・ん?」

 殺気を受けた美女たちは悲鳴を上げて怯えだす。
 この事に雷画だけでは無く、その他全員も首を傾げた。
 雷画の送った殺気は確かに一般人ならば怯えはするが、目の前の女たちの素性は既に調べが付いていたので怯えることに不可解さを感じたからだ。
 しかも体を震わして、抱き合う様に怯え続ける始末。これは如何いう事なのかと困惑していると、意外にも現在進行形で怯え続けている1人から口火が切られた。

 「す、すいませんが、私達が何かしてしまったのでしょうか?いえそれよりも、み、皆さんは私が誰かご存じありませんか・・・?」
 『・・・・・・・・・・・・は?』

 思わぬ発言に、全員で思考が停止したのであった。


 -Interlude-


 二日後。
 藤村邸の一室にて、石蕗和成が雷画に報告していた。

 「検査結果ですが・・・・・・間違いなく記憶喪失の様ですね」
 「・・・・・・・・・」

 雷画は面倒な事になったと嘆息した。
 そもそも彼女たちを事件後に藤村邸に運んだのは、自分達を嗅ぎまわるドイツ軍人達に気付いたためだった。
 記憶操作もあるし、取りあえず連れて来させた結果がこれである。

 「ややこしい事になったのぉ?」
 「はい。当初は釘を刺した上でフランク中将殿に大きな貸しを作らせる手筈でしたが、このまま帰られる訳にもいかなくなりましたから」
 「記憶はあくまでも消滅では無いのじゃな?」
 「はい。あくまでも一時的なモノであり、時間を掛けるなどすれば完治する程度であると言うのが、葵紋病院の医師からの報告です」

 和成の説明を聞きながら手渡された報告書をめくっていく雷画。

 (心因性の記憶喪失・・・。つまりあの異質なサーヴァントとの遭遇時の恐怖によるショック症状か)

 そして一度溜息をついてから報告書を返した。

 「記憶が戻ってからではないと記憶消去は出来んが、スカサハの方は何か言っておったか?」
 「今は様子見に徹していた方が良いと仰られていました」
 「ということはまた・・・・・・士郎に負担を掛ける事になるのぉ」

 そう、隣の塀を越えた孫同然の少年に、心の中で謝るのだった。


 -Interlude-


 そんな杞憂が当たったかどうかは分からないが、食卓の席にて百代が不機嫌そうに士郎に聞く。

 「士郎、あの2人は誰だ?」
 「急遽家で暫く預かる事になった、リザ・ブリンカー(リズ)さんとフィーネ・ベルクマン(ティーネ)さんだ。色々と事情があるから、あまり詮索しないでやってくれよ?」
 「・・・・・・良いんですか大河さん?」
 「仕方ないわよ~。これで保護したのが士郎自身ならお説教モノだけど『なんでさ』、保護したのは組員だし、御爺様の方針で何故か衛宮邸(この家)で預かる事になっちゃったんだもの。いや・・・・でもまさか、一夫多妻制の導入で士郎により多くの女性を娶らさせて藤村組強化を名目にひ孫を多く作らせる計画何じゃ・・・・・。――――駄目よ駄目よ!御爺様ったら、幾らなんでもそれは駄目!!士郎がエロエロな子になっちゃったら、草葉の陰から見ている切嗣さんにどうやって詫びればいいどっふぐむぐ!??」
 「藤姉ぇ、ちょっと黙ってろ・・・・ん?」
 「・・・・・・・・・」

 士郎は、自分のおかずの一品を大河の口に差し入れる事で、口を塞いで黙らせた。
 そこで士郎は不機嫌さを露わにする百代に気付き、首を傾げる。
 百代は美女に目が無い筈と言うのが士郎の認識であり、今でもそれは事実だろう。
 但し、今はそれに条件が付いた場合真逆の不機嫌ぶりを発揮するのだ。
 勿論その理由は士郎である。
 士郎が自分以外の美人と一緒に居るのが、気に入らないのだ。しかも無意識的に。
 普段は恋愛感情有る無しに関わらず、自分の感情を隠さず表に出し、自分に向けられる行為もある程度は気付けるが、如何やら士郎に対しては組手の時以外で無意識的に乙女になるようで、自分自身の今の気持ちにも自覚がない様だ。
 この様な事ではこの2人、何時になったら進展するのやら。
 話を元に戻すが、そんな百代について事前に聞かされていた話とは違う事に、記憶喪失の美女たちは肩身を狭くさせながら困惑する。

 「あ、あの、士郎君」
 「私達、何か気の触る行動をとってしまったんでしょうか?」
 「い、いや、単に初対面の相手に戸惑ってるだけですよ・・・」

 士郎の言葉に焦りがあるのはリズとティーネの位置と服装にある。座っているのは士郎の真横の席で、2人ともラフな格好で百代ほどでは無いが豊満な体のある一部分が自覚無く士郎に対して主張しているので、男として目のやり場にも困りながら色々焦っているのだ。
 そして百代はこの事自体も気に入らない様で、3人まとめて睨んでいた。

 (両手に花状態じゃないか、士郎の奴!そもそも何故2人を自分の横にしたんだ、このムッツリすけべがっ!)

 結局百代は終始不機嫌のままだった。


 -Interlude-


 あれから百代が一旦帰宅してから数十分後、士郎とシーマは登校するために玄関に来ていた。

 「それじゃあエジソン。留守は頼んだぞ?」
 「任されよう。とは言っても、四日前に始めた経営コンサルタントの仕事も熟さなければならんので、常に監視は出来んがね?」
 「十分だ。じゃあ行ってくる」
 「うむ。今日も元気良く登校するがいい。シーマ、ちゃんとシロウの護衛を果たすのだぞ?」
 「お主に言われるまでも無い」

 お互いぶっきらぼうな言葉で挨拶をしてその場を終えた。 

 

第10話 家主のいない衛宮邸

 
前書き
 今回は士郎の活躍と言うよりも、本人自体が出ません。
 次回は出ると思います。多分。 

 
 エジソンは生前も今もワーカーホリックである。

 士郎達が登校で家を出た後、エジソンは家主から提供してもらった高性能のパソコンの画面前に座り、自分で作った私設会社の公式サイトにて依頼をチェックしていた。
 何故エジソンが私設会社を開いているかと言う理由は、シーマにはシロウの護衛と言う立派な役目があるのだが、エジソンは留守番や物見遊山ばかりで何も無い。自宅警備員、紐状態、ニートなのだ。
 そんな状況にこのワーカーホリックが耐えられる訳も無く、あれこれ考えた結果マスターを経済的に援護しようと会社を立ち上げたのだ。本音は労働意欲に飢えているだけだったが。
 しかしサーヴァントとしての役目を怠るわけにもいかないので、その時その場合にもよるが、これから先も社員は自分一人だと決めている。
 因みに、資金提供者は士郎である。
 そしてまとまった金額が揃い次第、本来の自分の希望職である発明家に戻ることも決めている。

 「ふ~む・・・・・・・・・ん?」

 そう考えながら依頼の確認を行っていると、横からトレイにアイスコーヒーを入れたコップ乗せて持ってきた、フィーネ・ベルクマン(ティーネ)が立っていた。

 「お飲み物をお持ちしたのですが・・・」
 「おっと、すまないね」

 遠慮せずにアイスコーヒーを受け取るエジソン。
 そしてゆっくり飲みながら画面に再度戻ろうとしたところで、未だに立っている彼女に気付く。

 「如何かしたかね?」
 「その・・・・・・私たちは何をすればいいんでしょうか?」
 「君たちは記憶喪失の病人なのだ。ある程度の行動範囲は安全のために縛らせてもらうが、労働義務は無いのだから安静にしていたまえ」
 「それが・・・・・・何かしていないと落ち着かなくて」
 「・・・・・・・・・」

 彼女の素性自体はエジソンも聞いている。
 ドイツの猟犬部隊の副長を務めていて、分析能力と情報処理に大変秀でているとか。
 それほど優秀であればこれからの自分の補佐にスカウトしたいところだが、流石に病人時にそれを行うのはフェアでは無いし、シロウに怒られるのは明白だ。
 如何したモノかと考えていると、丁度スカサハがやってきた。

 「落ち着かないのであれば、私が面倒見てやろう。2人まとめてな」

 如何やら盗み聞きをしていたようで、挨拶も無しに彼女を引き取る旨を口にしてくる。
 監視を頼まれているが、正直な所今は仕事中なので助かるのだが、エジソンには一つだけ杞憂があった。

 「構わないのですが・・・彼女たちは病人です。あまりやり過ぎないで下さいね?」
 「私を一体なんだと思っているのだ?それにもし仮にやり過ぎる事があっても、少々に過ぎんではないか」
 「少々?」

 エジソンは何の嫌味も含みも無く、純粋な疑問を口にした。
 その疑問にスカサハが如何受け取ったかは定かではないが、今の自分の言葉に語弊があった事を素直に認める。

 「・・・・・・いや、大いにであったな。――――だがこれはそう言う事では無く、2人の記憶についてじゃ」

 その件については様子見をした方が良いと提案したスカサハ本人なので、多少の怪訝さをを感じたエジソンだったが、それを踏まえた上での当人からの用件だ。
 それ故自分が止める理由は無い。ただ一つ繰り返す懸念点は。

 「ス・・・アルバ殿、やり過ぎないように」
 「お主もしつこいな」
 「口酸っぱくしなければ、やり過ぎる傾向にあるとシロウから忠告されていますので」
 「むぅ・・・」

 再び指摘された件について、自分は他と比べても矢張り行きすぎているのだと今までの自分を振り返りながらも、素直にエジソンからの忠告を真面目に受け止めてから2人を預かるのだった。


 -Interlude-


 昼頃。
 スカサハは2人を引き連れて、衛宮邸と藤村邸をつなぐ扉を潜って藤村組の食堂に来ていた。
 勿論理由は2人の昼食のためだ。
 スカサハは肉体はあるものの、人ならざるものなので食事をする必要はないのだがティーネとリザは人間なので、そうはいかなかった。
 と言うか、そもそも2人は病人なので、無理でなければ朝昼晩の三食は欠かせないのだ。

 「来ましたな、アルバ殿!」

 厨房を覗くと、藤村組本邸の料理長が声を掛けてきた。

 「剛史(たけちか)、この2人の昼食は出来ているのか?」
 「後5分少々いただきますので、席に座って待っていてください」

 料理長に促された3人は、空いている席に座る。
 その内の2人のリズとティーネに、藤村組の若手組員(有象無象)の視線が集中する。
 2人は相当な美人故に仕方がないと言えるが、であるならば何故女性の美貌の完成形の一つともいえるスカサハに視線が集まっていないかと言えば、彼らは既に彼女を女として見れなくなっていた。
 ではどの様に見ているか、と言えば――――恐怖の権化と言うのが彼ら共通の認識である。
 なぜそこまでの認識を持たれているかと言えば、それはスカサハが雷画から特別相談役と言う役職を与えられた時まで遡る。
 彼女がその役職に据えられた時、藤村組の幹部たちは疑問を覚えたが不満は無かった。
 そして数日してから理由を教えてもらい、疑問も解消され、無事藤村組に受け入れられる事になった――――若手の組員たちを除いて。
 まだまだ躾が行き届いていなかった多くの若手組員は、幹部たちに抗議をした――――なんてことは起きなかった。
 世の中と言うのは可笑しなことに、表の世から弾きだされた者達が裏に行くと表社会以上の縦社会となり、上からの命令はより絶対なモノとなる。
 勿論藤村組も例の漏れずにいるが、不満自体は日に日により大きく燻り続いて行った。
 そして遂に一部の組員たちが決死覚悟でスカサハに特攻をして行った。
 しかし何故か不思議な事に、幹部たちは止めるどころかその行為を黙殺していた。
 理由は単にスカサハ本人から黙殺してくれていいと言う提案故だった。
 若手組員たちが自分に不満を抱いていたのは気付いていたので、これを機に不満など考えられない位物分りを良くなってもらおうと言う企みからだ。
 その結果誰も彼もがのされて行ったが、一度のされた程度で心が折れるほど藤村組に根性なしなど居なかったため、幾度もそれが続いた。
 しかし何度もそれが続いて行くと、世間で決して評判の悪くない藤村組も自分達を疎ましく思っている者達への突っ込まれる材料にされる恐れがあったため、雷画は組織強化を名目にスカサハ指導の演習的なモノを本邸内で開いた。
 そして数日後、スカサハに不満があり参加していた若手衆全員心が折れてズタボロ状態になった。
 何でもスカサハ曰く、昔の赤枝騎士団に課した本気の修業前の準備運動を強制したと。
 準備運動でこれである。クランの猛犬をも引かせるほどの本気の修行内容とはいかほどのモノか。
 以後、その日を境にスカサハに不満を持つものなど、藤村組の本邸支部関係なく消え失せたのだった。
 そして話を戻すが、自分には無いが多くの視線に的になっている美女2人は、素人目では兎も角スカサハから見て、明らかに居心地が悪そうだった。

 「・・・・・・」

 ササッ!

 スカサハが彼女たちを助けるために、僅かな威圧を以て周囲を見回すように視線を向けると、彼らは本能的に視線を美女2人から外して、自分たちそれぞれの昼食の品に視線を戻した。
 これで漸く落ち着けるなと思った所で、ティーネとリザの2人の前に料理長の剛史自らが彼女たちの昼食を持ってきた。

 「ん?まだ一分も経過していないぞ?」
 「彼女たちの分は既に出来る寸前だったのですが、アルバ殿の分は後五分少々頂くと言う事だったんですよ」
 「いや、私は――――」

 自分の分はいいと、声を掛けようとした所で、本人の返答も聞かずに剛史は厨房に帰って行った。
 それを結果的に見送ったスカサハは、このまま席を立って厨房まで止める必要も感じなかったので、結局自分の品が出来上がるのを待つ事にした。
 しかしそこで待つことを決めたスカサハの視界で、2人は目の前の昼食に手を付けようとせずに居心地が悪そうにしていた。

 「如何した、早く食べねば冷めてしまうぞ?」
 「いえ、私達だけ頂くわけには・・・」
 「来るまで五分前後かるのだぞ?それでは剛史がせっかく作った料理が冷めてしまうではないか。だから私の事は気にせず、先に食べよ」

 スカサハの思考も事前に聞いていた2人は、それでもと食らいつけば自分達に命令を使うと言う気遣いをさせかねないと判断して、促される通りに箸を取り料理に手を付けようとしたところで、2人してまたも止まる。

 「今度は何だ?」
 「・・・・・・・・・トーマスさんはいいのでしょうか?」
 「あやつの事なら心配するな。アレは何時も昼食時は、近くのコンビニで事前に買いだめしてあるウイダーインゼリーで済ませているからな」

 スカサハの言葉通り、エジソンな何かしらの事件やイベントが起きない限り、昼食は基本的にウイダーインゼリーで済ませている。
 エジソンとシーマは肉体があるので、どうしても最低限のエネルギー摂取と休眠が必要だった。
 その辺では霊体時に比べて時間の使い方が非合理にはなったが、サーヴァントの本来の役目は戦闘である。その為に戦闘時以外の魔力消費を抑えるためにこそ、重きを置く現状こそが優先されるため、これ以上は我儘となるだろう。
 しかしそれでも極力合理的に物事を進めたいエジソン。
 そんな時に、シロウに呼び出されてからそう時間が経っていない夕食時のテレビのCMで『10秒で2時間キープ』と言うキャッチコピーに目が引かれてから翌日、シロウが購入してきたそれ(・・)を獲得して効果を検証すると、実に素晴らしいと気に入ったのが始まりだった。
 それからシロウに借金をして、ウイダーインゼリーを多く購入したのだ。
 そうして今に至り、話は戻る。

 「えっ?でも、朝食時は皆さんと共に居ましたけど?」
 「決して社交性のない男では無いからな。衛宮邸の住人の一員として顔出す事で、協調性がある事をアピールしているのだろう」

 悪く言えばな――――と最後に付けだしたスカサハは、これで心配事は無いだろうと2人に目の前の料理を早く食べよと促した。自分に向けて来る意味ありげな2人の視線を黙殺して。
 そうしてからスカサハが自分の昼食を待っている時に、テレビではニュースが流れていた。

 『続きましては、神奈川県川神市のある民家の一室にて、首つり自殺をした少女の遺体が今朝ごろ発見された事が解りました。少女の部屋には遺書が残されており、いじめを苦に自殺したと思われます。その少女は中学二年の欅美奈さんと言って、近隣の中学に通っていた事から警察は学校側に自殺の事実があったかどうかの確認と調査を進めているとの事です。――――それでは次のニュースです』

 今ではほぼ毎日の様に日本の何処かで起きている、世知辛い事象がまるで大した事じゃない(・・・・・・・・・・・)様に流れるのだった。


 -Interlude-


 葵紋病院の特別な病室の一室で、藤村組の昼食時にテレビで流れていたニュースを天谷ヒカルは見ていた。

 「っっ!」

 テレビの画面が付いたままだと言うのに、ヒカルはベットにうつ伏せ状態で思い切り突っ込んで行った。そして――――。

 「・・・・・・っ・・・ヒック・・・・・・ック・・・・・・」

 泣いていた。かすれた泣き声もたまに聞こえて来る。
 この少女の泣いている理由は、自殺した少女欅美奈とは小学低学年からの親友だったのだ。
 だがそんな彼女も自分の手の届かない場所で、最悪の選択をした。いや、取らざる負えないほどまで追い込まれたのだ。
 恐らく――――いや、確実に自分が今こうしてこの場に居る原因を作った怨敵たちの手によって。
 しかしどれだけ憤慨しようと、自分には何の力も無いと自覚している少女は、これまでと同じく嘆きながら絶望していくしかなかった。


 -Interlude- 


 深夜。
 日本のとある人気のない海岸――――否、その付近を光学迷彩で周囲と同じ景色に偽装した宙を浮かび続ける巨大な“何か”から放たれる謎の電波により、周囲に居る人々の脳に干渉してこの周辺に近づかせないようにしているのだ。言うなれば、認識阻害の魔術結界の科学製版である。
 しかしこれに抵抗するには、何故か魔術回路を持つ物や電波を発している巨大な“何か”の持ち主の同類である。或いは同レベルの技術力により、同じ電波で中和させて無効にする事の出来る装置が必要だ。
 それは兎も角、その巨大な“何か”の一部が自動式のドアのように開かれて、中から誰かが出てきた。
 その者は海岸の浜辺に足を付けてから周囲を見渡す。

 「この国は平和そのものだと言うのに、相変わらず業に満ち満ちているな」
 「仕方がないだろう。現代社会は全世界レベルで病んでいる。だが言うなら、この国は全世界から見てもトップクラスだろう」

 最初に海岸に降り立った者の背後から、別の人物――――この巨大な“何か”の主が庇うような発言をした。
 しかし先に海岸に降り立った者は肩を竦める。

 「別に責めている訳じゃ無い。寧ろ褒めてると言ってもいい。今この場所に立っているだけでも、あちこちから怨嗟の念が漂ってきているのが分かるしな。この状況を放置するとは、余程この国の民衆らは豪の者達で溢れているのだろう」
 「・・・・・・この国の原住民の多くは良くも悪くも事なかれ主義だが、そもそも一般人にはこの光景を知覚できないのだ。どうしようもないと言えるだろう」
 「繰り返すが、これでも褒めている。これだけの怨嗟が集積しているのに、よくも無関心で放置できるものだな、と。最悪無政府状態になっても可笑しくないからな」
 「・・・・・・・・・」

 如何考えても褒め言葉では無いし、皮肉にしか聞こえない。それに先程言った様に、この国の事なかれ主義の性質が大きく関係していると指摘しようとしたが、その人物にはそこまでしてでもこの国を庇う義理も義務も無かった。
 いや、この国だけでは無く、他国も生前(・・)の祖国すらも、この人物――――とあるサーヴァントからすればどのような末路を辿ろうが如何でも言い様だった。
 その上、また言っても内容がイタチごっこになる気もしていたので、指摘するのを止めたのだ。
 そこで話題を変える。

 「それで・・・・・・この国は君のお眼鏡に適ったのか?」
 「勿論だとも」

 とあるサーヴァントからの質問に、この人物は先程までの冷静な表情とは違い、獰猛にかつ凶悪的な笑みを浮かべた。

 「表面上では怨嗟に満ち満ちているが、それでも俺からすれば濃度自体は薄い。しかし――――」

 懐から大きな本を取り出した。それは特殊な魔導書であった。
 その魔導書は自動的にページが捲れて行き、止まった所で怪しく煌めいていた。
 まるで何かに反応する様に。

 「しかし遂に見つけた。見届けるに相応しい、憤怒から来る憎悪を。この魔導書の力に適した恩讐の徒の1人を・・・!」

 まるで永年探し求めていたかの様に、淡々と語っていた最初とはまるで別人のように嗤った。
 周囲の夜闇がこの人物をより一層不気味に引き立てるように、左目が眼光が赫く赫く煌めいていた。
 地上を優しく照らし続ける凛々しい明星とは対照的に、まるで全てを蹂躙し支配し続ける禍々しき凶星の如くに。 

 

第11話 闇の使者

 翌日。
 朝から百代は相変わらず苛立っていた。
 原因は勿論、件の2人に対する士郎の反応である。

 (朝からデレデレしやがってっ~~~~~!!?)

 昨日と同じ位置での朝食の席なので、百代の席も昨日と同じく士郎の目の前なのだが、まるで見せつけられているようで腹が立っている様だ。
 だがそれは百代視点での話で、実際には士郎はデレデレとしてはいない。
 真横の2人は昨日とは違って迫っていないのと、昨日の昼間に藤村の使いの者が年齢やサイズに合った女性ものの服を購入してもらった物を着ているので、胸元はあまり露出していないので目のやり場に困る事も昨日よりは軽微になった。
 その当人である士郎は、一瞬何かに反応する。

 士郎が感じたのは、冬木・七浜・川神という三つの市を覆うようにスカサハが張った結界からの感知だ。
 例の謎のサーヴァントの襲撃日から何故かスカサハの制限が幾つか解呪され、その恩恵により士郎も結界の感知感覚を共有できるようにしてもらえたのだ。
 しかも以前とは比べ物にならない位に早く、これまでだいぶ後手に回ってきた危機的状況も改善するだろう。
 しかし、この結界に反応する該当者が結界内に留まっていれば位置情報も士郎に伝わっていくのだが、一瞬だけ反応したかのように感知してもその後の情報が士郎に送られてくる事は無かった。

 (・・・・・・・・・気のせいか?まだ結界から送られる情報が完全じゃないと、師匠も言ってたしな)

 とは言え、何時ガイアの使徒が再びこの地に出現するとも限らないので、パトロールを強化する事に決めるのだった。
 その為に、ついぞ百代の不機嫌さに今日も気づかないまま朝が終わった。


 -Interlude-


 衛宮邸から川神院に一旦戻り、登校中の風間ファミリーと合流した百代だったが露骨とはいかないまでも不機嫌のままだった。
 しかし周囲は幼馴染だらけなので、結果として直に気づかれる。

 「昨日に引き続き、姉さん不機嫌そうだね?」
 「何で判るんだ!?」
 「俺様達と何年の付き合いだと思ってるんですか?その程度分かりますよ!」

 ナンパと筋肉馬鹿と言うキーワードだけであらかた説明のつくガクトにまで見破られれば、もうそれは筒抜けだと言う事だろう。
 しかし理由について気づいていないのは、青春発情期方面に鈍い一子とクリスと翔一の3人だけで、他の5人は原因についてもある程度推測(京は確信)出来ていた。

 (チィィっ!?ヘマをこいて、何自らフラグを何本も無意識に叩き折っているんだ!ヘタレ女誑し(士郎さん)!!)

 心の中で京は、割りと酷い事をこの場に居ない士郎に向けて罵った。
 ちなみに、まゆっちも気づいているが気づいていないフリ(・・)をしている。
 気づいていることがばれると、何故気づいたのか?とか、何所でその手の情報を入手したのかとか、根掘り葉掘り尋問される恐れが在るからだ。
 まあ、既に上記の気づいていない組の3人以外からはばれており、『意外とムッツリ』という認識を持たれているなど、本人は知る由も無いだろう。
 話が逸れたので戻すが、原因自体は気付いているが、口にした結果火に油を注ぎそうなので敢えて言わずにいた。ある1人を除いて指摘したそうに居たが。
 百代は仕方なく、プライバシーに関わる一部の情報を伏せて話した。
 それを聞いた上で上記の3人組は矢張り原因に心当たりを持てずにいたが、ある1人と先に挙げたガクトが後先考えなしに言う。

 「そりゃ、仕方ないってもんでしょう?モモ先輩は絶世の美少女なんだろうけど、たまにオッサン入るのも結構な人数で知られてる事実だからっしょ。それなら衛宮先輩も、れっきとした美人に走るのはしょうがないぜ!」

 うはははと最後に笑うガクトは気付かない。
 そしてマスタークラスであるまゆっち以外の他のメンバーも気づかない。
 以前の百代のままなら侮辱された時の憤激時に全身からオーラが噴き出るのだが、精神鍛錬の成果がこんな時に早くも発揮されたようで、無闇に周囲に発することなく中でより大きくなりながら循環していく。
 しかしそのせいで、より濃密な気が自動で練られて行く。
 その当たりは感情と連動しても行くので、精神鍛錬と合わせて感情のコントロールも必要になりそうだ。
 だがそんな自覚がない百代は不敵な笑みを浮かべて嗤っていた。

 「ほぉ・・・?面白いこと言うじゃない・・・・・・かっ!!」
 「ぐぼぉおおおおおおおおおぉおおおおおおーーーーーーー・・・・・・・・・・・・・・・」

 百代のスクリュー・アッパーを顎に受けたガクトは、そのまま川の直前まで吹き飛ばされた。
 ガクトは空気を読める時と読めない時がある。そして今回は読めなかった様だ。
 川の中でにまで到達させなかったのは、せめてもの情けであろう。
 それを優しいまゆっちは、すぐさまガクトに駆け寄り、何時もの事とはいえ大和と京は学習能力の低い幼馴染の惨状に呆れる。

 (南無阿弥陀仏)
 (言わなければいいのに・・・・・・・・?モロ?如何かした?」

 そこで京があたかも自然に大和に寄り添いながらモロに問いかける。
 モロは風間ファミリー内で特にガクトと一緒に居る時間が長い。暴れ犬の手綱を取る飼い主、やり過ぎないように見張る保護者みたいなものだった。
 その為――――と言う事でもないが、彼が何かを起こせば何かしらのリアクションがあるのだが、今はガラにもなく、ぼうっとしていた。

 「喧嘩でもしたのか?」
 「えっ、あ、いや、何でもないよ!ちょっとした僕の勝手な杞憂だから・・・」

 それだけでも言えば何かあると言ってるようなものだが、モロ自身も詮索されたくなさそうな顔をしている上、そこまで深刻そうでもないので、大和はくっ付いている京を引き剥がしながら幼馴染を気に掛けておくだけに留めるのだった。


 -Interlude-


 昼休み。
 士郎はシーマを加えたい葵ファミリー+京極彦一(α)のメンバーで、学園のとある一角で昼食を取っていた。
 そこでふと思い出したかのように、京極が士郎に言う。

 「そう言えば川神(無論、姉の方)から聞いたのだが、また(女性を)誑し込んだ挙句に同棲生活をしているらしいな」
 「ぶはっ!?」

 突如投下された爆弾に、士郎はおかずの一品を咀嚼中だったので激しく咽る。
 だからと言うワケでは無いが、京極の言葉の誤りを修正するべく返答したのは第三者だった。

 「違いますよ京極先輩。今回は(・・・)藤村組の人が保護したのであって、士郎さんが誑し込んだんじゃありません」

 まだ一目も見た事は無いが、事前に説明を受けていた三人の内の1人である冬馬が説明する。
 ただし、ある程度の含みはあったが。
 それを聞いた京極も納得した。

 「成程。昨日川神から聞いた事は半分ほどでまかせで、私は愚痴を聞かされたわけか・・・」
 「・・・・・・・・・・・・んん、半分じゃなくて全部だろ!それに如何して百代が愚痴る必要があるんだ?」

 漸く咽りから復帰した士郎が、京極の抗議する。
 しかし何故か非難――――と言うか、呆れた言葉で返される。

 「そんな事だから愚痴られるんだ。相変わらず罪作りだな、衛宮」
 「訳が分からないんだが・・・」

 この会話自体が予定調和である事は京極自身が既に理解出来ていた為、例え士郎が理解できなくともこれ以上の言葉を重ねる気は失せていた。
 それを準が詰まら無さそうに聞いていることにユキが気付く。

 「このハゲなんか元気ないね~」
 「変な意味じゃないが、俺達よりも年下こそが女としての全盛期みたいなもんじゃん?それ以上は腐っていると言うか終わっているから・・・・・・・・・何というかバイバイだな~と思ってよ」
 「腐ってるのは準の頭だよ~」
 「酷いわ!」
 「・・・・・・・・・・・・成程!」
 「ん?如何したんですかシーマ君?」
 「ジュンの頭がつるつるした不毛地帯を、腐っていると言う言葉に置き換えたのだな!上手いなコユキ!!」
 「そんな事ないよ~」
 「そんな、真面目に、反応・・・するなッ!」

 川神学園()今日も平和だった。


 -Interlude-


 放課後。
 モロは葵紋病院に来ていた。
 目的は勿論天谷ヒカルの見舞いだ。

 (昨日は元気無かったけど、メジャーなのは読み尽してそうなんだよね。けどマイナーだけど面白そうな本を結構持ってきたし、これで少しは気力を取り戻してくれるといいんだけど・・・)

 大きな紙袋にヒカルを喜ばせる為にいてた本を入れてきたモロは、無意識に速度が早歩きになる。
 彼女の笑顔がモロの最近の一番の楽しみで、自分の選択した本を見て喜ぶ姿を想像するだけで胸が高鳴った。
 今自分のこの感情が何なのかと向き合う気は無い。
 とにかく今は彼女を元気づけたいのだと。
 しかし彼女のいる特別な病室前に着たモロは愕然とした。

 「面会・・・謝・・絶・・?」

 扉の前に掛けてある札の文字を見て、数秒固まっている時に1人の看護婦が近くを通った。

 「す、すいません。天谷ヒカルさんのお見舞いできたんですけど、これは・・・・?」
 「それは病状が悪化したと言う事では無く、ヒカルさんが頼んできたんですよ。暫くの間誰にも会いたくないと」
 「それは・・・・・・」
 「納得できないかもしれませんが、少しの間だけ彼女をそっとしてあげてください」

 言い終えた後に看護師はその場を去って行った。
 モロは看護師を見送ると言うより、立ち尽くすしかなかった。


 -Interlude-


 深夜。
 天谷ヒカルはぼーっとしていた。
 先日自殺した親友の件以来、見舞客に対して笑顔を取り繕う余裕すらも保てなくなってきた為に面会謝絶をお願いしたのだが、1人の時は基本的に落ち込むか泣いているかのどちらかで、今は泣き疲れてぼーっとしていたのたのだ。
 だがまた自然と涙が込み上げて来る。
 悔しさからくる怒りが湧き上がってくる。
 しかし今の自分はこの部屋から出る事も叶わない。
 自分の無力さに腹が立って仕方がない。

 「私に・・・もっと・・・」
 「――――力を望むか?」
 「誰ッ!?」

 声が聞こえてくる方に体を向けると、そこには黒と見間違えるほどの緑色のスーツに緑色のジャケット、そして緑色のハットをかぶる銀髪の男性がいた。
 そしてその男性の貌は、一般人の1人でしかないヒカルにも理解できるほどのヤバさが滲み出ていた。
 故に思わずナースコールのスイッチに手を掛けようとするが――――。

 「いいのか?それを押して」
 「あ、当たり前です。こんな時間に――――」
 「娘よ。お前は力を欲しているのだろう?その小さな体には収まりきらない憎悪を抱えているのではないか?」
 「な、なんで――――」

 その事をは、言葉に成らずに終わった。
 何故ならば彼女は自然に理解してしまった。原因は不明だが、この男性は自分を害するために現れたのではないと。
 そうなると自然にナースコールを鳴らそうとしていた腕も下がる。

 「懸命だな。ところで娘よ」
 「ヒ、ヒカルです。天谷ヒカル」
 「ふむ?ではヒカル。言うまでも無く今のお前は無力なれど、お前はこの魔導書に宿る7つの力の内の1つと必然的に適合できる。つまり選ばれたのだ」
 「――――それを使えば私に力が手に入ると・・・・・・?」

 マドウショなどと、よく解らない単語が出てきたが、今のヒカルは力が手に入るのであればそんな事は如何でもいい様で、恐る恐るだが確実に言葉を紡いでいく。

 「ああ。だがこの力は適合性とは別に、ある特別な才能が必要なのだがお前にはそれが無い。故に相応のリスクが求められる。それは――――」

 男性の説明にヒカルは黙って聞いている。そして――――。

 「私やります。美奈の無念も・・・私自身の怒りを晴らす為なら、なんだってやります!」
 「ク、クハハハハハハハッ!!よくぞ決意したヒカル、よくぞ覚悟したヒカル!世界に弾きだされたこの俺だけが、お前の命の原初の権利(復讐)を褒め称えようっ!」

 目の前の少女の迷いのなさが余程気に入ったのか、呵呵大笑の如く笑う。
 水を差すようで悪いが、こんな深夜のしかも病院で、そんな大声で笑って大丈夫かと心配になる。
 しかし防音防振認識阻害の結界が彼女の病室だけに既に掛けられていた。
 意外と用意周到の様だ。
 そう言う事で何の心配も無いようで、男は褒めることを終えると最後にはヒカルの背を押すように最後に告げる。

 「仮初の寝床を涙で濡らし、絶望するのも飽きたろう。――――さあ、この醜くも素晴らしい世界に跋扈する装い隠す下種共に、反撃を始めるぞ・・・・・・!!」

 百代の居ない所で、士郎の与り知らぬところで、別種の謎の勢力がこの平和な世界の裏側で、蠢く様にこの地に新たな騒乱を巻き起こしていくのだった。 

 

第12話 眠る町

 
前書き
 Fate/Grand Orderのエネミーを一種類出します。
 士郎が相手とるのは何もサーヴァントや人間だけではありません。 

 
 ヒカルが復讐の一歩を歩き始めようとしている頃、士郎はシーマを相棒にパトロールに出掛けようとしていた。
 見送りに、何時もの様に寝泊まり含めて遊びに来ていた冬馬達が玄関まで来ている――――筈なのだが、今日ばかりは何故か就寝が早くていないのだ。
 代わりにと言うワケでは無いが、偽装を解除して今日こそは衛宮邸を守り切ろうと意気込んでいるエジソンの姿がそこにあった。

 「どう思う?」

 何が?とは言わない。言われずともエジソンも察していた。
 気をどれだけの量を持とうと高度に操れようと、魔力を持たぬ者達を唯人と言う。
 その唯人である冬馬達3人に加えて記憶喪失の預かりの美女2人の計5人ともほぼ同時に睡魔が襲ってきたので就寝すると言い残して、各自自分たちの部屋に戻って行ったのだ。
 だが夜も更けて行けばそう言う事もあるだろうが、問題は20時と言う時間帯だ。
 いくらなんでも早すぎるし、冬馬達はもしかすれば今日の学園生活で多くの体力を使ったからという理由があるかもしれないが、ティーネとリズは安全のために衛宮邸及び藤村邸の敷地内から一歩も外に出ていないので体力も有り余っている筈だった。
 にもかかわらず、2人までも早い時間からほぼ同時に就寝するなど可笑しい事態が起きていたからだ。

 「詳しいことは判らぬが・・・・・・何かしらの波――――電波の様なモノを感じるな」
 「・・・・・・その電波の影響で5人とも早くから寝床に着いたと?」
 「それぐらいしか推測できまい」
 「その電波は5人の体に対して悪影響は無いのか?」
 「私は医者では無いから詳しい事までは断言できぬが、失礼を取って(本人の許可では無く、何故か今此処には居ないスカサハ)5人の顔色を見たが、そこまで悪そうでは無かった筈だ」

 エジソンの現段階までにおける推測を聞いて、厳しい顔ではないが不安げは取れていなかった。
 しかしそれをシーマが尤もな言葉で焚きつける。

 「此処で推測ばかりしても始まらぬし、5人はスカサハが診てくれておるのだから、あとは我らが元凶を潰せば済む話であろう?」

 生前の記憶を一時的に失い自身の真名すらも未だに思い出せないシーマであるが、彼の本質は善性であるがために、士郎を焚きつけるも本人自体がこの事態に憤慨しているのだ。

 「さぁ、行くぞマスター!どのようにしているかは知らぬが、無辜の民たちを害そうとする何か或いは何者かを討ち、平和な日常を取り戻そうではないか!」

 義憤から来る鼓舞に、士郎にとっては好ましく、懐かしい感覚を齎す。
 まるで美しくそして強い自分の嘗ての騎士たるセイバーと背中を預け合い、最終決戦や終わらない四日間と言う異常を食い止めたあの時の感覚だ。
 魔術師としては確実に変人な部類に入るだろう士郎ではあるが、これこそ真に信頼し合えるマスターとサーヴァントの理想形の一つと言える感覚であろう。

 「ああ、頼りにしてるぞシーマ(セイバー)衛宮邸(うち)の守りは任せたぞエジソン(キャスター)!」
 「応とも!」
 「了解した!」

 そして士郎の信頼から来る本音に、2人のサーヴァントも応える。
 短い期間ではあるが、3人の信頼は既に揺らぎの無いモノになっていた。
 そうして今日も士郎は背中を任せられる相棒と共に、平和な日常を守るために衛宮邸を出て行った。


 -Interlude-


 それとほぼ同時刻に、冬木市と川神市内で同じことが起きていた。

 「何だよこりゃ!?」

 衛宮邸の隣の藤村邸では、魔術回路を唯一持つ吉岡利信以外の組員や藤村一族の全員が寝床或いは睡魔に耐えきれず、そのまま寝落ちしていた。
 他も同様で、街全体が――――。

 「矢張り全員トウマ達と同じように寝ているな、マスター」

 衛宮邸を出てすぐに待ちの異変に気付いた2人は、最初は近辺を調査して行き、今は少し離れた区域を調べていた。

 「――――ああ、これはいよいよ異常事態だ・・・!」
 「余には分からないが、マスターには何所からそのデンパとやらが来るのが分かるか?」
 「それは俺にも・・・・・・!?」
 「如何し・・・!」

 2人してほぼ同時に同じ方向へ振り向く。
 彼らが向いているのは隣の川神市方面である。

 「感じたな?」
 「マスターもな。この魔力の奔流は何だ?」
 「立ち話する時間も惜しいから向かいながら話す」

 それをアイコンタクトのみで了承するシーマは、士郎とほぼ同時に魔力の奔流の発生源へ駆けて行った。士郎としては今起きている街の異常現象と無関係とは思えなかったからだ。
 だがそれ以上に魔力に発し方に覚えがあるのだ。
 それは士郎自身がシーマとエジソンを召喚した際のものと酷似しているのだから。


 -Interlude-


 魔力の奔流発生が起こる前、ヒカルは激痛に耐えていた。

 「ハッ・・・・・・ハッ・・・ッッッ~~~~~~~!!」

 これは男が持つ魔導書の力を手にするための儀式。
 本来ならば魔術回路を持っているのであればその様な儀式は要らないのだが、ヒカルにはそれが無いのでこの儀式を通過しない限り復讐の力が手に入らないのだ。
 しかしその痛みもだんだん薄れて行き呼吸も整えることが出来てきた。
 そして――――。

 「至ったな?」
 「・・・・・・・・・・・・はい」

 ヒカルは見事儀式を耐え抜き、復讐のための力を振るう資格を手に入れたのだ。

 「見事だヒカル。だが今日はもう疲れただろ?それ故、続きは明日に――――と言うのは野暮か?」
 「はい、今や、らせてくだ・・・さい。私は少しでも早くアイツ等に復讐したいんです・・・!」
 「クク、呼吸は整えられても痛みが引いていないのに無茶な奴だ」

 言葉とは裏腹に実に愉快気に話す男。
 だがこの男はヒカルの無茶を好ましく思う。
 復讐の成功率を上げるには、感情に支配されずに精密に寝られた計画をただ淡々とこなしていくことこそ重要だ。
 しかし何時でも計画通りに行くとも限らない原因が、世に見えずとも蔓延っているのが“理不尽”であり、その時のここぞという時に踏ん張り乗り越えて行ける要因こそが強烈すぎる感情だ。
 故に男は、ペース配分を全く気にしないヒカルの無茶を止めようとは思わない。
 ――――何せこれは俺のでは無く、ヒカルの復讐劇なのだから。

 「だがいいだろう。望むなら、今この場でお前の“憤怒”に相応しい反英雄を召喚してやる」

 男はヒカルの望みのまま、英霊召喚の儀に移る。
 そうして魔法陣が一瞬にして浮かび上がると、まだ詠唱も始まっていないのに魔力の奔流が起きる。
 それを距離の離れた高層ビルの屋上で見る者がいた。

 「相変わらず見境もなく、魔力をまき散らすモノだ」

 それはヒカルにとってのファリア神父を担っている男を、この国に連れてきたとあるサーヴァントだった。
 このサーヴァントのクラスは弓兵(アーチャー)では無い。
 その為千里眼の様な遠見スキルの視力頼りでは無く、別の方法を使って視ているのだ。
 それはさて置き、このサーヴァントはその2人を見ている方法と同じやり方で葵紋病院に向かって来る1人と1体を感知した。

 「それ見た事か。魔力を感知したこの町の魔術師とサーヴァントが向かって来てるではないか」

 言いながら何もない宙でキーボード操作をするように手を動かす。

 「私の配慮が無ければどうなっていたか知れたモノでは無い」

 それまで淡々と作業をしていたが、最後には誰に聞かせるでもない愚痴を虚空に向けて呟いた。


 -Interlude-


 葵紋病院と言うよりも、川神市を目指して駆けて行く2人の聴覚に駆動音が聞こえてきた。

 「ん?」
 「下がれ!」

 2人揃って瞬時に後退すると、轟音と同時に元いた場所には鉄礫の雨が容赦なく降り注いだ。

 「何!?」
 「フッ!」

 事態に士郎よりついていけないシーマはそれを降り注いだ方を見ると、シーマにとって初めて見るガトリング(凶悪そうな機械)ごと士郎の投擲によって串刺しにされた人形の姿があった。
 士郎が瞬時に気付けたのは、聞きなれた音からガトリングだと直に判断できたからだ。

 「人形!?」
 「ぼーっとするな、シーマ!魔力をエネルギー源として動く魔導自動人形、オートマタ、だっ!」

 駆動音から背後から2体ほど迫って来てる事に気付いた士郎は、投影した二本の無銘の剣を振り向かないまま投擲して、最初のと同じくどちらもスクラップに変えた。
 シーマが遅れを取っているのは士郎よりもこの手の相手との戦闘経験の無さが原因だった。
 しかし驚くほど学習能力の速いシーマは、今のこの戦いだけでこの手の相手への対処の仕方を吸収してしまう。駆動音を微かにでも聞こえた瞬間、シーマは一気に加速して標的のオートマタ3体を横薙ぎに纏めて切り裂いた。更には瞬時に振り向くと同時にブーメランのように自分の剣を投擲して、他のオートマタたちの破壊中の士郎の背後から迫る飛び上がった4体の新手をまたしても切り裂く。
 その隙を狙っていたかのように、サイレントオートマタの1体がシーマの背後から彼の頭をたたき割るように迫っていたが、今度は士郎の投擲によってそれもスクラップに変えられた。

 「油断大敵。今みたいなサイレントは地面から伝わる僅かな振動か、目視じゃないと気が付かないぞ?」

 目視は兎も角地面から伝わる僅かな振動で敵の察知をするなど一握りの人間にしかできない芸当だが、士郎はシーマに当然できるだろと言う風に助言をした。信頼だけでは無く確信があるのだ。シーマの学習能力は百代の才能(それ)だって遥かに上回っていることに。

 「なるほど。その助言、感謝――――」

 またも一気に加速して士郎の真横を通過し、士郎の背後側にある路地から今まさに出てきたサイレントオートマタを唐竹割りで切り伏せた。

 「――――するぞっ!だがなマスター、信頼してくれるのは嬉しいが試すのは如何かと思うぞ?」
 「時と場合にもよるし、俺は確信があったからこそ背後から迫って来る敵を任せたん、だっ!」

 数が多くなってきたので、核部分だけを抉ってから爆発する前に集まってる所へと蹴り飛ばして巻き添えにする。
 しかしそれでも数は減るどころか増えている。
 町の一角にて起きた戦闘で、路地裏でもないのにオートマタの群れで2人を囲う様にわらわらと増えてきた。
 それに対して2人は、お互いに背中合わせに敵を見据える。

 「小細工はやめて、如何やら物量に切り換えた様だな」
 「余程我らを近づかせたくないのだろうが、電波を出す者或いは物と英霊召喚地(どちら)にだ?」
 「両方だろ。何方も放っておくわけにはいかないし、正直危険だが二手に分かれるしかないな」
 「ならばマスターはデンパを出す方に。余はそのデンパとやらはよく解らないしな」
 「了解した。あと、こんなタイミングで無いとも思うが、自分の真名を思い出せたら遠慮なく宝具を展開してくれていいぞ?」
 「分かったが、気を付けるのだぞマスター!」
 「シーマもな!」

 言い終わると同時に、お互いその場から加速してオートマタの群れに切り込んでいく。
 危険を承知で2人は別行動する事にした様だった。


 ーInterludeー


 士郎達を現在襲っているオートマタの軍勢は、川神市と冬木市の両地で半休眠状態でランダムにばら撒かれている。
 基本ステルスを掛けたままだが、魔術回路を有する者(・・・・・・・・・)や敵性サーヴァントが英霊召喚地に近づき次第、排除行動を起こさせる様に組まれている。
 にもかかわらず、何故か今まさに魔術回路を有していなかった者(・・・・・・)がオートマタに囲まれて襲われていた。

 「何だこいつ等っ!?」

 その人物は黒髪のロングヘアの自称絶世の超絶美少女の川神百代であった。
  
 

 
後書き
 とあるオリ鯖で登場させようとしていたのが、先日を期にオリ鯖では無くなった。嬉しいような悲しいような、複雑な気分です。 

 

第13話 反英雄

 
前書き
 オリ鯖にしようとしてオリ鯖に出来なかったのは前回オートマタを士郎達に嗾けた奴です。
 まあ、本来のクラスとは違うので、原作と全く一緒と言うワケではありませんが。
  

 
 ちょうど同じ頃、九鬼財閥極東本部でクラウディオが部下の李静初(リー・ジンチュー)から報告を受けていた。

 「川神市と冬木市のほぼ全域が眠っているように静かですと?」
 「はい。それに通行人も車も何故か両市を避けるような行動をとっています。鉄道関連は一見正常の様ですが、両市内にある各駅と連絡が取れないとの事です。電車が動いているにも拘らず」
 「・・・・・・・・・・・・」
 (認識阻害が両市の外側に掛けられているのか?一体何が起こっているのか気になる所ですが、此処は下手を討たずに現状維持を貫くしかなさそうですね・・・)

 今この極東本部に居る者の中で魔術を使えて、対処できる者が自分しかいないのだ。
 マープルは武士道プランのために今は小笠原諸島に出向いているし、ヒュームはあるパーティーに招待された九鬼の末っ子の護衛でアメリカに飛んでいる。対処は出来なくとも魔術を知っているあずみも英雄の護衛として中国での商談で出払っていた。
 正直歯がゆくはあるが、雇われの身としてはいざという時に防備を固めると言う判断しか出来ない。

 「今は様子見に徹しましょう。時期が時期ですし、下手を打つと藤村組を刺激しかねませんからね」

 故に、こう言うしかなかった。
 それに了解の意思を見せた李は他の者達への連絡のために退室した。
 それを確認したクラウディオは思わず外を見る。

 「何事も無ければいいのですが・・・」

 立場上動けない完璧執事は切に祈った。


 -Interlude-


 少し時間を遡る。
 百代は夜も不機嫌のままでいた。
 今いる場所は川神院では無い。
 一子は金曜集会を終えてから帰ったが、百代は帰らずにぶらついているのだ。

 「あの士郎(色狂い)めぇ~!今日もあの2人とイチャイチャしやがってぇ~!!」

 金曜集会ではそうでもなかったが、今は露骨に今朝の士郎の態度(主観)に怒り心頭気味だった。

 「確かにあの2人は色気むんむんのお姉さん達で、私でも(*´Д`)ハァハァ言いながらねっちりと愛でたくなる位だが・・・・・・・・・・・・・って、違う!!?」

 たまに本性も出る。
 士郎に思うところがあれど、百代の美少女・美女好きに変化があるワケでは無かった。

 「とにもかくにも面白くない・・・・・ん?何だ、随分と周りが静かだな・・・」

 そこで初めて周囲の異常さに気付く。百代に居る場所は川神駅付近で、何時ものこの時間帯なら賑やかなままであり、少なくとも無人のような静けさは大凡似合わない筈だった。

 「何なんだ、一体?――――あれは・・・・・?」

 周囲の異常さに首を傾げていると、前方からマネキンを模したロボットの様なモノが群れを成して現れる。

 「クッキーの後継機――――とは思えないし、何かの宣伝か?ああ!その手の都合でこの辺り一帯静かなのか!」

 勝手に1人納得している所で、百代の背後から前方から来る同型のマネキンロボット――――オートマタの1体が百代の頭をかち割ろうと左腕を振りかざす。
 しかしそれを百代は気付いたわけでは無く、横にずれるように何となく自然に躱した。

 「なっ、何だこいつ等!?」

 躱してから初めて気づいて疑問をぶつけても、オートマタは幾度も左腕右腕を振り続けて百代に迫る。
 それを困惑しつつも何度も躱す。
 そして面倒になってきた百代は、勝手に1人で考え自己完結させる。

 「何所の宣伝か知らないが、多分エラーで襲ってきてるんだから正当防衛になるよなっ!」

 川神流の何の奥義や技でもない回し蹴りでオートマタが蹴り砕かれる。
 このオートマタは魔力をエネルギーに稼働しているが、サーヴァントの様な霊体では無いので、魔力の籠っていない攻撃でも耐久値以上の衝撃を受ければ当然のように壊れるのだ。
 そのオートマタが破壊された瞬間、前方から近づいて来ていた同型の群れが一斉に百代目掛けて駆けて来る。

 「アイツ等もか?」

 困惑したままでも百代は嬉しくなった。
 昨日は士郎の諸事情もあったが、今日の夕方の分を加えて二日続けて組手稽古をする気になれなかったのもあって、百代は久々に戦闘欲求を満たせずにストレスが溜まっていた。
 なので原因不明のロボット襲撃は、寧ろ歓迎したくなる突発的なイベントだった。

 「何だか知らないが、お前らで私の戦闘衝動の晴らし役になってもらおうかッ!」

 百代は久々に獰猛な笑みを浮かべながら、自分を囲うように展開するオートマタの群れの一部に突っ込んで行った。


 -Interlude-


 士郎は現在オートマタを振り切って、夜の街を駆け抜けていた。
 目指すは一般人に睡魔を促した電波の発生源。
 オートマタを振り切る前に、幾つかのオートマタを調べて電波の大凡の発生地周辺を特定したので、今はその当たりに向かっている。
 そんな士郎が目指していた周辺に到着すると、オートマタの群れと又しても出くわした。

 「これほどの数が集まっていると言う事は、矢張り電波の発生源はこの周辺にあるのか・・・ん?」

 大量のオートマタから目指していた場所が此処だとほぼ確信する士郎だが、そのオートマタが一向に自分に襲い掛からず背を向けていることに疑問が生じた。

 「なん」

 だと、言い切る直前に、前方の群れからまるで蹴り砕かれたオートマタが自分に向かって飛んできたのだ。
 士郎はそれを躱しながらも疑問がさらに深まった。

 (誰か戦っている?この辺りであと残っているのは、九鬼財閥の吸血鬼殺しのヘルシングの末裔殿と完璧執事殿と星の図書館殿の3人だけだろうが・・・)

 星の図書館はまず削除する。昔は兎も角今は武闘派では無くなったからだ。
 オートマタの壊れ具合から完璧執事も削除する。完璧執事の攻撃ならば砕くのではなく、鋼糸により切断されると言う結果になる筈だ。
 そして消去法で言えばヘルシングの末裔の殺戮執事だが――――。
 と考えた瞬間に士郎は心底驚いた。
 オートマタの群れに囲まれている誰かが僅かなれど確かに見えたのだ。
 此処に居るはずのない此処に居てはならない人物、川上百代その人であった。

 (如何して百代が此処に居る――――いや、如何して起きていられる!?)

 現段階での推測でしかないが、電波の届く範囲の唯人では全員寝ている筈。
 なのに何故か百代は起きていて、剰えオートマタの群れに囲まれた中心で嬉しそうに戦っているのだ。

 (百代に魔術回路は無い筈だが・・・・・・・・・・・・まさか!?)


 -Interlude-


 士郎の考えに納得のいく推測を出していた者が他所でいた。
 川神市全域を殆ど見渡せる高層ビルの屋上にて、俯瞰していた(・・)オートマタをランダムに配置したとあるサーヴァントだった。

 「川神一族だけでは無く、この国の重要な霊脈地に置かれている寺を守る血族たちは、かつては魔術師の家系だった。それが今では魔術回路が死滅したところは代わりに膨大な気を得た。そして中でも強大な気を操れるようになったのが川神一族だと聞いていたが・・・・・・・・・もし、もし川神百代に数の量は関係なくとも眠ったままの魔術回路があるのだとすれば理解できる。報告にあったガイアの使徒からの攻撃とその後の“彼”によって魔力を流し込まれた事により、無理矢理叩き起こされたのだとすれば納得は行く。いや、だがしかし、その推測を立てるにしても――――」

 ブツブツブツブツブツブツと、呟いていた。
 このとあるサーヴァントは一度自分の世界に入ると、周囲が見えなくなり声を掛けられてもぞんざいな扱いをすると言う生前からの欠点がある。
 それは今も治っておらず、視界には入っているが川神百代もその周辺も見えはいなかった。
 その事が幸いして気づかれていない士郎は、奇しくも同様の推測に至ったが自分がこの状況で如何するべきか悩んでいた。

 (今この格好で助太刀してもその後が大変だ。ハサンの仮面とフードで貌を隠すか?いや、だがそれでは百代の説得が出来な――――)

 士郎は悩んでいたにも拘らず、体が勝手に咄嗟に動いてしまった。
 戦闘中の百代の背後から迫るサイレントオートマタの斬撃で、たたっ斬られそうな光景に我慢できずに。彼女に瞬間回復と言う技がある事も忘れて。

 「――――百代ッ!!」
 「士郎!?何でお前が此処に?いやその前に、何だその仮装は?」
 「あっ!?いや、これは――――」

 そこで説明をしようとした途端、百代が追及を止めた。
 今百代にとって一番会いたくない相手が士郎だったからだ。
 注:周囲のオートマタを鎧袖一触の如く蹴散らしながら2人は向かい合っています。

 「百代?如何したんだ?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「今日の夕方の組手もルー先生から断りの連絡を受けたが、体調でも悪かったのか?」
 「――――してたろ?」
 「ん?」
 「新しい同居人とイチャイチャしてたろ!だからだっ!イライラしてたんだよッッ!」
 「――――あれかっ!」

 士郎が思いついた様に納得した事に、百代はやっと気づいたのかこの鈍感がと毒づいた。
 しかし士郎が納得しているのは百代の考えとは別だった。
 注:上記通りです。

 「リズさんとティーネさんとイチャイチャしてるように見えたのか?」
 「そうだよっ!」
 「なるほど。つまり百代がしたかったって事なんだな?」
 「何言ってる!そんな訳無いだろ!?」
 「何でだ?百代は男より同性の女性を生涯の伴侶としたいんだろ?京からそう聞いてるけど・・・」
 「なっ!!?」

 士郎がこの話を聞いたのは一年ほど前で、当時の京は大和にべったりいちゃつく百代を見た腹いせとちょっとした茶目っ気で虚実織り交ぜて言い聞かせたのだ。
 しかしまさか百代が士郎に異性としての好意を抱く事になるとは予想外だったので、現在2人にくっ付いて欲しいと画策している京からすれば過去の自分の言動を制止したくなるほどの痛恨のミスと言える。
 まあ、士郎が今日まで勘違いして来たのは京の話に加えて、当人である百代が登下校時自分で作った可愛い女子生徒のハーレムたちに囲まれる姿を目撃した事が幾度もあるためだとも言える。
 注:上記通り。

 「その驚き様・・・・・・・・・まさか同性好きじゃないのか?」
 「確かに好きだが百合ではないぞ!?只今まで周囲に魅力を感じさせる異性がいなかっただけだ!」
 「そうなのか?じゃあ、何で百代は苛ついていたんだ?」
 「何でって・・・・」

 士郎に指摘されてはじめて自分が何故ここもだ苛ついていたのかを自己分析する。
 注:上記。

 (そうだ。士郎(アイツ)が誰であろうといちゃつくこうがアイツの自由じゃないか・・・・)

 だがそれを思い浮かべるだけで苛ついて来る。
 そして士郎程鈍感ではない百代は思い至ってしまった。
 注。

 (ま、まさか私は、士郎の奴の事が・・・・・・・・・好き・・・なのか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいや――――そんな訳あるかァアアアアアアっっ!!」
 「な、なんだ?」

 怒声を響かせると同時に一番近くに居たオートマタの核部分を思わず抜き取り、器を砕き飛ばした後核部分が爆発する前にかなり固まっている所に投げ入れて爆発させた。しかも全て無意識に。
 その百代の怒声と無意識での器用な真似に驚いていた士郎だが、偶然にも認識阻害と睡魔の電波を発している空間を高層ビルの屋上の一つを士郎が捉えた。

 (あれはっ!?)

 しかもそこには誰かいる事にも気づいた。
 つまり――――。

 (目標発見(ビンゴ)!)

 ――――サーヴァントである。
 これだけ広域の認識阻害と睡魔の電波らしきものを広めているとなれば、ただの魔術師とは考えにくく、大魔術師でも厳しいレベルの精度なのだ。
 だがここで問題がある。
 此処には百代が居て、ひょっとしたら自分についてくる可能性もある。
 しかし言うまでも無く百代にサーヴァントを遭遇させるわけにいかない。
 さて、如何したモノかと無言になる。
 そんな士郎に如何したのかと、ある葛藤の末自分の胸の高鳴りを抑えていた百代が恐る恐る聞く。

 「・・・・・・・・・如何した?」

 百代が訝しむ様に聞いて来るので、虚実を織り交ぜた話をしようと決める。
 ――――今この町の異常は、以前話した裏社会のの者達が引き起こしていると。
 ――――このままではこの町が危険なのだが漸く元凶を発見したと。
 ――――しかし周囲に今も集まってくる人形たちを放置する訳にもいかないと。
 そこまで言うと百代がなら簡単だろと言う。

 「私が残ってコイツらを殲滅すればいいじゃないか?」
 「いいのか?」
 「町の危機なんだろ?それにどうせ私は守られるような性質じゃないからな」
 「そんな事は無い!俺は何時だってお前の事を友人として大切だって思ってる(俺は何時だってお前の事を大切だって思ってる)!」
 「っ!!?」

 両肩を思い切り掴まれて真正面から百代を見ながら断言する。そのせいでお互いの顔が非常に近くなり、百代の胸の高鳴りがまた鼓動を早くさせる。
 しかも普段はあまり見せない凄みのある真剣な表情の為、否が応でも頬が朱に染まっていく。
 そして突如の口説き文句。不意打ちにも程があった。

 「分かった、分かったから!」
 「如何してそんなに慌てるんだ?」
 「五月蠅い!!」

 百代は誤魔化すように士郎を振り払う。

 (全くコイツめ!油断してる所にあんなこと言ってケロッとしてるんだから、性質が悪い!!)

 しかし言った本人は何故百代が頬を赤く染めているのかまるで分っていなかった。

 (百代の奴如何したんだ?あんなに慌てて・・・・・・まあ、いいか)
 「それじゃあ気を付けろよ?」
 「分かったから早く行けッ!」
 「頼む」

 追い立てるようにだが、百代から促された士郎は気で強化した足で瞬動を行って一瞬で目標地点まで到達と同時に百代を助けた時に隠していた干将莫邪をサーヴァント目掛けて振り落とす。
 しかし不可視の壁――――障壁に阻まれてしまう。
 そこで初めてサーヴァントは士郎に気付いた。

 「これはこれは、急なご来訪ではありますが歓迎しますよ。衛宮士郎殿」
 「俺を知ってるのか!?」
 「勿論ですよ。我がマスターは貴方に期待していますからね」

 これに士郎は怪訝に思う。
 聖杯戦争に参加している魔術師が、別の参加者の魔術師に同盟も無く期待するなどあり得ない事だからだ。

 「正直信用できないが、だったら俺が住んでいる街を如何して荒らす?」
 「(これ)はたまたまですよ。今の私はある勢力の客分でしてね、その勢力の中核の1人がこの町のある人間に興味を覚えまして、それを援護しているだけですから」
 「それを信用しろっと!」

 何時までも破れないので、障壁から少し離れた屋上の淵に丁度降り立つ。

 「ご随意に。私は私が知るべき事実を語っているだけに過ぎませんから」

 つまり信用など求めていない様だ。如何やら目の前のサーヴァントはマスターに忠誠は誓っておらず、利害一致に協力関係にある様だと推測できた。

 「それに私にばかりかまっていていいのですか?」
 「葵紋病院なら俺の相棒が向かっているさ」
 「おや?場所をご存じでしたか」
 「途中から居場所を特定した。だから後はお前を討つだけだ、魔術師(キャスター)!」

 士郎は干将莫邪を投擲して、障壁に弾かれる直前で“壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)”をう。
 その爆発は障壁に強い衝撃を与えるが、破るまでにはいかない。

 (目晦まし――――と言う事は後ろに回り込んで宝具解放と言う所か。しかしキャスターか、私は――――なのですがね)

 そして予想通り背後から殺気を感じた。

 「いくらなんでも駄々漏れですよ!」

 サーヴァントの周囲の障壁外から小さな鏡が出現して、レーザーが照射される。
 しかしそのレーザーは空を貫く。
 そして今度こそ後方からの士郎の殺気と共に、魔力を感じた。

 (しまった!?)

 迎撃しようとするが間に合わない。障壁を強化しようとするが間に合わない。

 「絶世の剣(デュランダル)!」

 矢として弓に番われた絶世の剣が障壁目掛けて放たれる。
 衝突した一瞬のみ拮抗するが、流石は決して折れる事のない不滅の剣。剣先が障壁を貫きサーヴァント事串刺しにする。

 「!?」

 そして――――。

 「壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)

 サーヴァントは内包された神秘の爆発により爆散する。

 「・・・・・・・・・・・・身代わりか」

 しかし爆散したのはサーヴァントを模しただけのオートマタだった。
 周辺に一見バラバラになった人体に見えるオートマタの各部分が散らばっている。
 あの一瞬に入れ替わったと言う事は考えにくい。
 神代の魔術師なら可能だが、攻撃と防御方法からそれは無いと確信する。
 であれば、最初から本体はこの町にすら居なかった事になる。

 「本人は安全な場所で高みの見物とは、実にキャスターらしい」

 しかし身代わりとは言え中継地点の核を撃破した事により、先程まで感じていた二つの電波が消失する。

 「取りあえずは退け――――魔力反応の増大!?」

 葵紋病院の方向からの魔力反応に、士郎は思わず目を剥くのだった。


 -Interlude-


 士郎がサーヴァントの中継地点となる身代わりを撃破するほんの少し前、天谷ヒカルの病室では反英雄が召喚される直前だった。

 「――――されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者」
 「・・・・・・・・・クク」

 ヒカルは男が持っていた魔導書にかかれている呪文を呼んでいた。
 ヒカルには魔術回路が無い代わりのリスクを払っているが、それに対して痛みを我慢している顔が見られない。
 失敗しないように男が痛覚を遮断しているのだ。
 その男は口角を少し釣り上げながらもは見守っている。

 「――――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」

 召喚陣から吹き荒れる風と稲光を、男がヒカルを守る様に遮る。
 そして煙が晴れていくとそこには大男が中腰姿勢で立っていた。
 白くはあるが、獅子の様な鬣の様な髪に、全身は傷だらけ。四肢には拘束具の様なモノが付いていて、一際目を引き付けるのは黒い仮面と雄牛のような立派な角である。

 「見事だヒカル」
 「この人が私の復讐を助けてくれるの?」
 「ああ、だがその前に自己紹介を――――」
 「――――する前に此処を離れますよ復讐者(アヴェンジャー)。サーヴァントが接近しています」

 2人の会話に突如乱入したのは、先ほど士郎に倒されたはずのサーヴァントだった。

 「フン、来たのか」
 「ずいぶん前からこの町には居ましたよ。気付いていたでしょうに・・・。と、そんな事はいいですから彼女とその狂戦士(バーサーカー)も一緒に中に入れますよ」
 「ヒカルの復讐の大切な記念日だと言うのに余計な事を・・・!」

 迎えに来たと言うのに、明らかに迷惑そうに言う復讐者。
 それに対して取り合う気が無い迎えに来たサーヴァントは、自分も含めた1人と3体の周囲を光で包み込んだ。

 「あ、あの・・・」
 「説明は後でしましょうか、お嬢さん」
 「いいから早くしろ」
 「言われずとも」

 その言葉と共に、その場から全員光に飲まれるように消えて行った。
 結局シーマは間に合わず、その病院に勤めている当直の看護婦たちもヒカルが病室から消えていることに気付いたのは朝になってからだった。 

 

第14話 一夜明けて

 
前書き
 想像以上に長文になりました。何時もの倍、2週間分に相当(私個人のペース的に)しますね。
 一万字越えです。 

 
 夜が明けてからの朝方の各テレビ局のニュース番組や各新聞社の新聞では、昨夜に起きた川神市と冬木市の異常を伝えていた。

 『謎の集団催眠』『川神院も遂に堕ちたか!?』『異常に慣れている現地住民の落ち着き方が逆に不気味』『九鬼財閥極東本部はどう動く!?』

 などと言う見出しが載っている。
 それを何時もの時間通りに朝食を取っている士郎達が見ていた。

 「川神院も遂に地に落ちたか!?とは、このテレビ局は随分と言い度胸してる。なあ、若?」
 「そうですね。視聴率狙いとは言え、後が怖そうだと思わないんでしょうか?」
 「あのニュース番組のプロデューサーは元々、反川神院派の人間だ。このところはダメージを与えられそうな情報が無かったから最近は大人しくしていただけで、今回の様な事があればと虎視眈々としていただけなんだよ。父親も大物政治家だしな」

 皮肉気味に冬馬達に説明しているが、士郎は関東圏以外の事も既に把握していた。
 今のところ国内で騒ぎになっているのは関東圏のみであり、海外では報道もされていなかった。
 しかも意外と思えることが2つあり、世界のトップリーダーを自称するアメリカが何も言ってこない事と、顔が見えないので言いたい放題のネット内でもあまり取り立てされていないのだ。
 詰まる所――――。

 (これは隠蔽工作による情報操作だ)

 確かに藤村組も自分達に火の粉がかからないようにと、事前にマークしていた各テレビ局の上層部の幹部数人に釘を刺すなどしている。
 だがこんなにも早い段階で段取れるのはあくまでも関東圏内のみであり、それ以外は厳しいのが現状で、出来ない事も無いが時間がかかる。
 ――――では何所が?と思う。
 ロンドンにあった魔術協会総本部の時計塔を即座に消去する。
 あそこは既に一世紀以前に解体されている。潰したのは聖堂教会だが、当時の聖堂教会の主は西欧財閥の盟主の一族であるハーウェイ家だ。
 だが未だ残党がいるのではないかと士郎は疑っている。だとしても情報操作できる余裕などは無いだろう。
 ――――では時計塔を潰した西欧財閥の盟主、ハーウェイ家が?
 西欧財閥については情報をあまり持っていないので判らない。
 ――――では同格の財閥である九鬼か?
 可能性としてはあるだろう。九鬼従者部隊の永久欠番に序列一・二・三位の4人は魔術の事を知り得る者達だ。
 そして彼らはこの地で武士道プランなるものを発動させたがっている。
 ならばこの地の安定を図ろうとしてもおかしくは無い。
 しかし確信できるだけの情報も無い上、その様な危険な橋を渡るとも思えないので保留。
 後、士郎の心当たりと言うか予想し得るのは一つだけしかない。

 (切嗣(爺さん)が言っていたマスターピースだけだな)

 しかしどれだけ推測を重ねてもあまり意味は無い。
 そうして再びテレビに眼を向けた。

 (新聞もそうだが、何所も葵紋病院から重病患者の少女の1人の行方が消失した事についてやっていないな)

 昨夜のあの後、シーマに遅れて士郎も病院に忍び込んで魔力の発生地を探った所、天谷ヒカルと言う処女の病室からだと言う事が判明したのだ。
 しかも本人は病室から出てはいけないと言うのに、行方知れずとなっていた。
 しかし各メディアでは彼女について一切触れられていない。
 もしこれが故意だとするのなら、情報操作をしたのは騒動を起こしてこの町を害する敵なのかもしれないと、士郎は改めて認識した。

 『・・・・・・・・・・・・』

 騒動が起きた現地に住んでいるからとは言え、爽やかな朝からテレビなどを真剣な顔で見る士郎の横顔をティーネとリズは何とも言えない面持ちで見ていた。


 -Interlude-


 同じ頃、川神に近いある水上にてステルスを掛けた状態で待機している物体がある。
 その中には昨夜葵紋病院から消えた天谷ヒカルと彼女に召喚されたサーヴァントに復讐者(アヴェンジャー)と呼ばれた男、そしてこの物体――――船の開発者であるサーヴァントの計1人と3体が居た。
 ただし、ヒカルは未だ眠っている。
 そんな彼女の近くに呼び出されたサーヴァントは、仮面の奥の自分の(まなこ)でじっとヒカルを見続けている。
 何故そのように近づいているかと言えば、この船の主であるサーヴァント――――騎兵(ライダー)から説明と助言を受けたからである。

 「・・・・・・・・・・・・」

 だがそれだけでは無かった。
 興味――――と言うよりも疑問があるのだ。この少女は自分を怖がらないだろうか?自分を前にして拒まないだろうか?と言う不安も。
 それを遠巻きで見ているのは残った2人である。

 「まあ、当然の反応ですね。彼は生前、死ぬまで怪物の役割を押し付けられてその通りに生きていましたから。どう対応すればいいのか困惑しているのでしょう」
 「所為自由の刑・・・・・・と言う奴か」
 「貴方は自由を謳歌しすぎでは?」
 「如何いう意味だ?」

 明らかな含みのある言動にライダーを睨み付ける。

 「昨夜の件です。派手にやり過ぎでは?」
 「それは貴様だろう?」
 「貴方があそこまで周囲を気にせず魔力をまき散らすから、私が出張らなければならなくなったのですよ?」
 「市を二つも巻き込む必要が合ったようには思えなかったが?」
 「魔術師とサーヴァントがこの町には居たんですから。自分たちの領土を荒らされて黙っている訳がないでしょう?それにこちらは足止めもしたのですから、感謝されこそすれ、抗議を受ける謂れはありませんね」

 ライダーの言葉にアヴェンジャーは舌打ちをする。

 「フン、それにしても貴様が世界規模の情報操作ができるとは聞いていなかったが?」
 「ええ、私も伝えた覚えはありませんね。必要を感じませんでしたから」
 「・・・・・・・・・貴様本当に騎兵(ライダー)か?情報操作にこの船の発明、それにオートマタの群れの操作にしろ、魔術師(キャスター)にしか思えない所業だが?」
 「我がことながらそれについては同意します。マスターも何故私をライダークラスに当て嵌めたのか、理解しかねていますから」

 肩を竦めるライダーにアヴェンジャーは食えない奴だと感じた。
 理解しかねると本人は口にしたが、理由についてライダー(コイツ)が理解していないとは到底思えないからだ。
 そしてコイツがキャスターでは無くライダーに当て嵌められたのは、恐らく大きな理由があるとアヴェンジャーは踏んでいる。
 自分のマスターはこのライダーを客分(ゲスト)扱いとして迎え入れて利用している様だが、アヴェンジャーには利用されている様にしか思えなかった。
 確かにこのライダーの知識と技術力は今の自分たちにとって必要不可欠である事は認めるが、他の勢力以上にコイツに油断も隙も見せるべきでは無いとアヴェンジャーは感じた。

 「ああ、そう言えば言うまでも無いでしょうが、それでも言っておきます」
 「何だ?」
 「恐らく今回の騒動に貴方達が関わっていると嗅ぎつかれているでしょうから、貴方の嫌いな“彼ら”が恐らく来ますよ」

 ライダーの言葉に本日二度目の舌打ちをするアヴェンジャー。
 余程気にくわないのか、本日最高に嫌そうに顔を顰める。

 そんな彼らと自分の近くの計3体に気にせず、ヒカルは眠り続けている。
 ヒカルは夢を見ている。
 それは生まれた直後、自身を生んだ母親を死に追いやり、その怒りと自身の醜さから実の父親に「お前は怪物だ」と教え込まれて迷宮に押し込められた悲しい怪物の生前の記憶。
 怪物は迷宮の中で腹を空かすと、本人は知らないが生贄と言う形で父親から「それがお前の餌だ」と言い含められて、怯えて逃げる幼気な子供たちを痛めつけては喰い、痛めつけては喰う事を迷宮内で延々と繰り返していた。
 そんな非情ともいえる父親が唯一怪物に与えたのは“名前”だった。
 この怪物の俗称はミノタウロスだが、与えられたその真名は――――。


 -Interlude-


 ほぼ同時刻。
 マスターピースの現代表、トワイス・H・ピースマンと言えば、執務室で厳しい顔をしていた。
 西日本にあるマスターピース日本支部からの報告書を呼んで、今の険しい顔つきになっているのだ。

 「・・・・・・・・・・・・」

 マスターピースは世界平和を謳いながらも、人類の黄金期を齎す為に裏ではテロ組織や紛争をコントロールしているのだが、どうしても手が出せずに管理しようがない裏社会に潜む勢力が2つあるのだ。
 理由は複数あるが、その中でも一番の理由が両方とも本拠地についての情報が全く掴めていない点にあった。
 そして、その内の一つの一部が日本の川神市付近で騒動を起こしたであろうと言う報告書を読んでいたのだ。
 それに対して直にそれが確定情報かと確認させていると共に、今回の騒動の隠隠蔽工作に移る――――移ろうとしたが、自分の与り知らぬ何処かが既に情報操作による隠蔽工作を全世界レベルで展開させていた。
 世界を又に駆ける二大財閥では無い事は確認しているし、川神院はその手の事に疎いので論外。
 一応身内であるマスターピース創設者(グランドマスター)ならばそれも可能だが、自分達は頼んだ覚えも無い上、頼まない限り《H》も自主的には動ないだろうと確信している。
 では何所の誰がと言う疑問が付きずに不気味であると言えた。
 何所までも不明のままだが、取りあえず害は起きていないのでそれは置いておき、問題に戻る。
 その問題の勢力の騒動中、霊基盤が反応している事からサーヴァントを呼び出し使っていることは想像に難くは無い。
 であるならば、サーヴァントにはサーヴァントを当てる鉄則に従って、この本部からもサーヴァントとそれを従わせるマスターを派遣するしかない。
 しかし動かせるペアは今は全員で払っており、一番早く帰還できる者達でも明朝までかかる。
 立場上自分が動くワケにもいかないし、ドクターライトニングを向かわせる訳にもいかない。
 ラミーとも連絡が付かず、勿論グランドマスターから預かっている“2人”も動かす訳にはいかない。
 そこで如何したモノかと思案していると、プライベートチャンネルのアラームが鳴る。
 このタイミングで誰だ?と訝しみながら相手の名前を見ると、随分と暫くぶりの名前を見た。
 だが油断できる相手でもないのだが、このタイミングを恐らく狙って連絡を取ったと言う事に相応の意味があるのだろうと、トワイスは連絡を繋げて開いた。

 「久しぶりだな最上幽斎」
 『うん、久しぶり』

 画面上に出てきたのは灰色の髪をした男性で、やり手の企業家の最上幽斎。
 約二十年前にその手腕を買われて、九鬼財閥にスカウトされた傑物。
 トワイスとは九鬼にスカウトされる以前からそれなりの親交を持っていたが、お互いに立ち場上忙しくて、ここ十年ほどは連絡すらも取っていなかった。

 「思い出話に花を咲かせたいところだが、生憎と忙しくてな。出来ればすぐに本題に入って欲しい。私に何か用があるのだろう?」
 『勿論判っているとも。昨夜の川神での騒動の件で、私なら君の力になれると思ってね』
 「・・・・・・・・・具体的には?」

 画面越しの男とは化かし合いをしても時間の無駄と理解しているので、トワイスははぐらかすような言い回しを寄して訊ねた。

 『もしかしたら初めて知るかもしれないが、僕の家も実は魔術師の家系でね。後これは偶然なんだけど、君をマスターピースに引き込んだ御方に十数年前サーヴァントを呼び出し従える権利を貰ったのさ』
 「っ!?」

 トワイスは幽斎の説明に二重の意味で驚く。何方も初耳だからだ。
 そして証拠と言わんばかりに右腕の背広とワイシャツを肘までまくり、腕に刻まれた令呪を見せつける。

 『これで信じて貰えたかい?』
 「・・・・・・・・・サーヴァントを従える事にはな。しかし自分が魔術師だと名乗り出るのは相応のリスクにもなる筈・・・・・・・・・目的は何だ?」
 『もちろん君を含めた世界を愛しているが故の行動―――と言いたいところだが、今回は取引したくてね』
 「取引?」
 『武士道プランに勝手に乗っかり、私が秘密裏に《暁光計画》を立てた事は知り得ているだろ?』

 これは既に武士道プランすらもトワイスが把握していることが前提となっている話。
 勿論トワイスは両方とも知っているが、情報源は幽斎本人では無く、別人。
 そして幽斎の情報は単なる推測である。マスターピースが使者を使って川神鉄心に手紙を送った内容を勝手に想像して推察したのだ。
 だが画面越しの反応とは言え、結果正しかった事を確信する。決して表情には出さずに悟られないようにするが。

 「――――つまり口止めか?」
 『うん。何れ明かす気はあるが、今はまだその時じゃないからね』
 「了解した。だが、口約で信じられないと言うのであれば、使者を送るが?」
 『いや、この通話記録だけで構わないよ。それじゃあ、また』

 終始笑顔のまま画面内の最上幽斎の顔が消える。
 これで取りあえずはと有象無象なら楽観視するところだがトワイスは違う。
 直に携帯機器を耳に当て、コズモルインに所属する百足に連絡を取る。

 「――――私だが、黒子は戻っているか?」
 『まだですねぇ。予定通り帰還は二日後になると思いますよ。――――これはもしかしなくても、川神の騒ぎの件ですかい?』
 「理解しているのなら話は速い。帰還していなくとも、連絡が取れ次第私に繋げてくれ」
 『了解』

 百足に言伝を預けて通信を切る。
 そこで力を抜いて、漸く一息淹れられると思いコーヒーを口に運ぶ。
 そしていつもと変わらぬ天井を見て、思う。

 (何時もであればこの非常時に“彼”に頼むところだが“彼”も今は出払っている)

 それは立場上マスターピース本部を動けない自分の代わりに世界中を飛び回り俗事を代わりに熟してくれている副代表の事だ。
 本来であれば副代表の特性上において本部から動かない方が良いのだが、人類を正しい時代へ修正させるための責任感からトワイスの代理として、世界中を回っている。
 そしてそれは今こうして物思いに耽っている最中にもである。


 -Interlude-


 ここはヨーロッパの某国の式典会場。
 そこには世界各国の出席していた重鎮達が用意されていたパーティー会場で、表面上にこやかに交流していた。
 その会場の一角に周囲の注目を集める二組(と言うか、その内の2人)がいた。
 一組は、九鬼財閥鉄鋼部門統括を任されている九鬼家長女の九鬼揚羽と、専属従者の武田小十郎である。そしてもう一組が西欧財閥の盟主のハーウェイ家現当主の実子であり、次期当主のレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイとハーウェイ家お抱えの護衛の1人だ。

 「初めまして、ハーウェイ家次期当主殿。私は鉄鋼部門の統括を任されている九鬼揚羽です。お好きにお呼び下さい」
 「では九鬼揚羽殿と。私の事も気軽にレオとでもお呼び下さい」

 一見にこやかに自分に挨拶してくるハーウェイ家次期当主のレオに、正直不気味さと恐ろしさを感じる。
 王は様々に高いステータスとカリスマ、そして敗北という経験をして初めて完成するのだが、この少年のPD上敗北はしていない筈だが不思議な事に既に至っている存在感を思わせるのだ。
 その上で自分を前にして威風堂々している現実に、いずれ自分が九鬼財閥を継ぐことが有れば自分はこの未来の少年王に勝てるのかと、顔には出さないが僅かな不安が生まれていた。
 そしてそんな九鬼揚羽を前に一切しり込みせずに堂々としているレオは、本来であれば(・・・・・・)一度も敗北していないので王として完成などしていない。この世界では。
 レオは一度死んでいて転生者であり、以前の世界でも同一人物だった。
 その世界では『月の聖杯戦争』に参加した事で結果的に死ぬことになった。
 それからその時の多くの経験を引き継いで、この世界でまた西欧財閥の盟主ハーウェイ家次期当主のレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイをやり直す事に相成ったのだ。
 しかも引き継いだのは王としての完成された精神だけでなく、無邪気と言う名の暴走感もである。

 (英雄さんのお姉さん・・・。ボクのタイプとは違うけど、組み伏せて屈服させてみたら楽しいだろうなぁ)

 レオのこの顔に似合わない恋愛観や性格はこれでも発展途上。もしこれで悪影響のある地にでも足を踏み出せば、神代・西暦以降でも類を見ない王が誕生する恐れが在る。
 しかしレオのこの無邪気さを知る者は西欧財閥全体は勿論、本家のハーウェイ家の誰も知り得ない事。単に今は曝け出してもいいと言える相手が身近に居ないと言うだけなのだ。
 以前の世界とは違い、ユリウスが身近にいないのもある。西欧財閥にいるが、為すべきことが違い過ぎて基本的に会う事が無いのだ。
 そんなレオの妄想の中で組み伏せられかかっている当の本人はそうとは知らず、話題を切り出す。

 「確かレオナルド殿は、我が愚弟とは既に何度もお会いした事があると窺いましたが?」
 「ええ。英雄さんは大変雄々しく、僅かな時間を共にして大変有意義な時間を過ごさせて頂きました」
 「それは重畳。我が愚弟がお役に立てたのならさ――――」
 「堅苦しいな、揚羽。幾ら人目があるからってよ、もう少し気を緩ませられねえのか?」

 そこへ、何故か九鬼帝が乱入してきた。

 「ち、父上!?何故ここに!」

 それは驚くだろう。
 この式典には九鬼の代表として揚羽が来たのに、総裁である帝が居るのだから。
 因みに今回の護衛は序列11位のチェ・ドミンゲス。
 理由は違うが、妻の九鬼局と同じように毎回護衛の執事を変えているのだ。

 「いやな、この式典に出席しているある1人に急に会いたくなってな。睡眠時間削って急いでやって来たんだが――――久しぶりだなレオナルド君よっ!」

 マスコミの様な取材陣が居ない場であるとは言え、社会的地位がトップクラスの九鬼帝としてはTPOにそぐわない言動である。
 しかし帝の態と崩した態度と口調は世界中の著名人や重鎮たちの中でも有名で、周囲の紳士淑女(外面)は呆れる事はあっても心の中で嘲笑する者は一応1人もいなかった。
 そして当の軽口?を叩かれたレオ本人も、苦笑はしても怒る事も不快な態度を露骨に見せる事も無かった。勿論慣れているからでは無く、歳不相応な程の器量の大きさ故だ。

 「帝さんは相変わらずですね」
 「まあ、これが俺のスタイルなんでな。それで英雄からどんな話を聞いてたんだよ?」
 「聞いたのは幾つもありますが、ボクが興味を惹かれているのは川神学園についてです。かなり独特で賑やかな学園と聞きましたよ」
 「まあ、あそこは俺も好きだぜ。年がら年中祭りみたいに退屈が無いって聞いてるからな」
 「ふむ。やはり興味深いですね」
 『噂には聞いていたが相当なのだな、これだけの面々が話すの内容に出て来る川神学園とは』
 「っ!?」
 「おや?」
 「やっとお出ましか!」

 会場は出席者たちの交流の場で悪い言い方として、多くの人の声と言う音が重なり少しばかり騒がしかった。
 そんな中でもよく通る声の主が現れた途端、あれだけ会場中が出席者たちの会話で埋め尽くされていたにも拘らず、一瞬で静寂となった。
 誰もが意図した事では無い。彼らは自然に声の主に対して畏敬の念を感じたのだ。
 そして声の主が歩けば、その人の歩みの邪魔をしまいと、自然と道が出来上がる。
 その道を当然のように歩いてレオたちに近づいてくるのは、帝の目的の人物にしてマスターピースの副代表フロガ・K・エレンホス。
 代表のトワイスとは違い、屈強な体を持ち存在密度すらも濃い傑物。
 そして九鬼帝やレオナルドよりも遥かに上回る圧倒的なカリスマ性。それは主義者・人種・立場・老若男女関係なく羨望を集めるほどの者であり、まるで始めから人間じゃない様な(・・・・・・・・・・・・)存在である。
 であれば、現代社会でも一、二を争うほどの英雄と言われる九鬼帝に好かれるのも無理らしからぬことと言えた。

 「ずいぶん焦らした登場だが、狙ってたのか?」

 相変わらずばを弁えない帝のため口だが、今度ばかりは許容できない者たちが怒声を飛ばす。

 「九鬼財閥の総裁だからと言って失礼でしょう!」
 「この方を何方と心得るのか!」

 他にも似たような抗議の声が上がるが、彼らは全員マスターピースの身内で無ければ協力者ですらない。
 すべてはフロガの規格外すぎる圧倒的カリスマ性ゆえだ。
 しかしフロガ自身が彼らを諫める。

 「いいのですよ皆さん。彼の気の置けないこの距離感は寧ろ心地いのですから」
 『・・・・・・・・・・・・っっ!』

 フロガの言葉に今度は嫉妬される帝。
 フロガの人を惹きつける魅力がそれほどと言う事だ。
 その反応にフロガ本人、そして帝も苦笑する。
 何度も見てきた光景だからだ。

 「相変わらず罪作りだなフロガ」
 「意図した事ではないが認めよう。しかし貴殿には言われたくないな。確か正妻が存命であるにも拘らず不倫して、子を成して上で自分の下に置いているとか?他にも似た疑惑があると聞いたが?」

 互いに含みや皮肉を混ぜ入れた舌戦に突入する。
 それを傍から聞いているレオは、今まで何度もフロガと会った事がある事と月の聖杯戦争の経験から、今日までの自分の中で抱いていた疑惑が確信に変わりつつあった。
 マスターピースの副代表は人間では無く――――。

 「貴殿との話は一度置いておこう。失礼いたしましたがお久しぶりですな、レオナルド殿」
 「ええ、半年ぶり程でしょうか。見ない間にまたカリスマ性に磨きがかかったのでは?」

 考えに没している最中に声を掛けられようと慌てる事など無い。
 レオは既に、王としては完成しているのだから。
 ――――ただ言うなれば、無邪気と言う名の暴走はおまけの類。付属品。一種のアタッチメント。DLCで100円から200円程度で落とせるものみたいなものだ。
 話は逸れたが、無邪気と言う名の暴走性が現れない限り、レオは何時何時(いつなんどき)も冷静?に対応できる。

 「恐れ入ります。ですがそれはレオナルド殿もでありましょう?貴方は多くの者を率いて統べる王として器が既に完成しているように思えます。であれば、それほどの器にカリスマ性がさらに磨きがかかるのはおかしくはありません。いや、いずれ貴方は私や帝をも上回る王になれると愚考しますよ?」
 「過分な賞賛、身に余るばかりですエレンホス副代表」

 2人は選んでいる言葉こそ固いが、それは社交辞令や建前では無く本心からであった。
 そんな2人――――と言うより、フロガ・K・エレンホスのカリスマ性や存在感に全く動じず、一歩も引かず、対応するレオに揚羽は心の中でさらに震え上がった。
 マスターピースの副代表のカリスマ性と存在感は、傑物に対する意味で目が肥えていると自覚していた揚羽からしても衝撃的だった。
 そんな衝撃を感じた自分とは違い、いとも容易く普通に応対し続けるレオに戦慄しても仕方がないと言えた。
 そう、動揺している時に、今度は揚羽に向いて来た。

 「お父上からお噂を聞いてはいましたが、御息女の揚羽殿とこうしてお目にかかれて大変光栄ですよ」
 「いえ、その様な・・・」
 「オイオイ、俺の娘を苛めてやんなよ。分かっててやってんだろ?」
 「その様な気は無かったのだが―――それにしても貴殿は何故ここに居る?九鬼財閥の代表として揚羽殿が推参したのではないのか?」
 「お前にちょい、聞きたい事があってな」
 「内容にもよるな」

 帝が直接会って聞きたい事となると、それは余程の重要案件だ。
 それに対するフロガの言葉は当然の対応である。

 「なら勝手に言わせてもらうぜ?月初めに川神学園の学長、川神鉄心に手紙送ったろ?あれは如何言ったもんなんか差し支えなければ教えてくれねぇか?」
 「悪いが応える事は出来んな。――――ああ、教えられないと言う意味じゃない。私はその内容を知らないのだ」
 「・・・・・・・・・副代表の立場で知らねえだと?あり得ねえだろ」
 「そんな事はなかろう。どの様な組織と言えど、長とその次に位置する者が情報を共有していない事など、珍しくもあるまい」
 「それはその両者が裏で暗闘なり、権力闘争してる場合とかにもよるだろうが。それとも何か?マスターピースも実は一枚岩では無いってか?」

 若干揶揄って来る帝に内心で苦笑する。

 「いや、基本一枚岩だ。それに現代表は聡明な方。何れ時が来れば私にも教えるだろう」
 「そん時まで待つってか?相変わらず巨山の様にずっしりとした態度が好きな奴だ」

 そんな重鎮だらけの式典会場を囲む様に警護している軍人の一部が女性であり、それはドイツが誇る猟犬部隊だった。
 猟犬部隊は故意か偶然か全員が女性である。
 そして猟犬部隊の主軸メンバーからは、今回の参加は3人のみだ。
 勿論クリスの護衛であるマルギッテと有給休暇を取っているフィーネとリザを除いた3人である。
 その3人は現在小休憩中で、テルマにいたっては鎧―――と言うかパワードスーツ?から抜け出た上で真剣な話し合いをしている。

 「副長達と連絡が取れないですって!?」
 「うん。二日おきに連絡するって聞いたんだけど、全然来なくて・・・。もしかしたら副長もリザも日本観光に夢中になってるんじゃないかって、コジーに言われたんだけど・・・」
 「よくよく考えれば、あの真面目な副長が連絡を怠るなんて有りえないもんなー」

 呑気そうに答えるコジマだが、これでも一応真剣だ。呑気そうに見えるのは単に、生来から来る天真爛漫さ故だ。
 勿論その事を知っている2人は、そこに対し何も指摘する事は無い。

 「だからね、テル。これ以上中将に黙っているのは良くないと思うんだけど・・・」
 「・・・・・・・・・・・・そうね。帰還してからフランク中将のお耳に入れて指示を仰ぎましょう」
 「うん」
 「承知!」

 取りあえず話はまとまったので解散していく3人。
 そこに1人残ったテルは怒りに打ち震えていた。

 (元はと言えば、分を弁えずに隊長を下したアイツがこのような事態を招いたのだ!)

 血が出るほどした唇を噛むテルマ。

 (おのれっ!エミヤシロウッッッ!!!)

 完全な逆恨みである。 
 

 
後書き
 ライダーでありながらクラススキルの騎乗がEとは如何なモノか?
 まあ、自分で考えたんですけどね。
 船、機械任せの自動操縦なんで、クラススキルの高さとか関係ありません(笑

 副代表のイメージはTOX2のラスボスでもあるビズリー・カルシ・バクーみたいな感じです。
 屈強なキャラクターを考えた時に真っ先に思い浮かんだのがビズリーでした。
 勿論副代表はビズリーではありません。 

 

第15話 復讐の始まり

 
前書き
 前回とまだ同じ日からの始まりです。前回よりも文字数は少ないですが、それでもまた二週間分の文字数です。
 一番下辺りは残酷な描写かもしれません。ご注意を。 

 
 時間を少し遡って午前十時ごろ。
 百代は金曜集会での取り決めた遊ぶ場所へ、一子と共に向かっている。

 「確かにアタシも昨日の夜は早くに寝たけど、ニュースみたいな事になってるなんて思いませんでしたよね?お姉様!」
 「あ、ああ・・・そうだな」

 百代は一子の質問に適当に相づちを打ちながら、昨夜に士郎から言われた忠告を思い出している。
 今回起きた件は裏社会が関わっている。
 だから百代が体験した内容を口外しないでくれと。下手を打てば身の回りが人達が危険になると。
 正直言えば裏社会の猛者達との真剣勝負は魅力的だ。
 しかし裏社会では報復が有ってもおかしくは無いと言う。
 そしてもし仮に自分が裏社会の猛者に敗れた場合、その報復として自分の友人や家族の命を狙われたらと考えると寒気が止まらない。
 恐らくそうなったら百代も報復するだろうが、しかしやり返しても失った大切な人達は戻って来ない。
 それらを想像してしまうと、矢張り周囲を巻き込むのは本意ではなく、裏社会の猛者たちへの戦いに身を投じるのは躊躇してしまうのだ。
 それに二兎追う者は一兎も得ず。
 百代は今のライフサイクルにそれ程不満は無い。
 仲間たちとの過ごす時間は楽しいし、学校生活もそこまで不満も無い。
 それに月初めから変化した掃除や精神鍛錬は若干面倒と今でも感じているが、その褒美となる強者――――士郎との組手稽古は非常に楽しい組手稽古は非常に楽しい(ある問題で苛つく事も在るが)それなりに充実している。
 そこで百代が士郎の事を考えた瞬間、昨夜に不意打ち的に言われた口説き文句(言葉)を否が応でも思い出してしまう。
 自分の事を本気で心配してきた顔と真剣な眼差しを思い出してしまう。
 それによって頬が紅潮しそうになるが、頭を振る事で百代はその気持ちを有耶無耶にする。

 「ど、如何したのお姉様?」
 「え、あ、いや、何でもない!」
 「ならいいけど・・・」

 不思議そうに見てきたワンコを勢いで誤魔化すが、今の百代――――いや、風間ファミリーにとって今はある一つの杞憂があった。
 大和から最近モロの様子がおかしいと聞いていた。
 そして昨夜の騒動前の金曜集会の時は本格的におかしかった。
 それに今日の遊びもキャンセルして来た。
 此処までくれば正直遊びなどしてられない。
 多分皆も気分がのらない事だろうし、モロの為に何かしてやれる事は無いか大和を中心に何か話し合いを提案してみるかと、百代は考えながら集合地点に向かった。


 -Interlude-


 モロは面会謝絶されている事を知っていながら葵紋病院来ていた。
 しかし彼女の病室前に居たのは看護婦では無く警察官だった。

 「あの・・・如何かしたんですか?」

 ある種の胸騒ぎに襲われたモロは思わず聞いてしまう。

 「ん?見舞客・・・・・・君はこの病室にいた(・・)天谷ヒカルさんのご友人か、なにかかい?」
 「はい。この病室のガラス越しで知り合って・・・ヒカルさん、如何かしたんですか?」
 「んん、まあ、ご友人ならいいか」

 天谷ヒカルは昨夜のあの騒動時に同じくして、病室から突如行方知れずとなったらしい。
 病院の出入り口に設置してある防犯カメラにも、それらしい怪しい人物の出入りも本人も映っておらず、まるで神隠しにあったかのような事件らしい。
 本来であればもっと早くに来るべきだったのだが、昨夜の騒動の件で忙しさに追われて朝来たばかりとの事。

 「彼女のご友人だから君には話しているんだ。あまり口外しないでくれよ」
 「そ、それはいいんですが、ヒカルさんの体で外に出たら危険なんじゃ・・・・・・」
 「ああ、だから彼女のためにも早く見つけ出したいんだ。師岡卓也君、君も何か判ったら連絡してほしい」
 「は、はい・・・」

 モロに説明を終えた警察官は、病室に入っていく。
 モロはただ、呆然と立ち尽くすしかなかった。


 -Interlude-


 川神姉妹が出かけている頃を見計らって、士郎はスカサハと共に鉄心に会うべく川神院に来ていた。
 如何やらまだマスコミ関係の車が何台か止まって入り口を押さえているので、百代がたまに使っていると言う抜け道を通ってくると良いと教えてもらい、敷地内に入る。
 如何やら百代の抜け道は随分前からばれている様だ。
 そして総代の自室に行くまでに幾人とすれ違ったが、いずれもスカサハの美貌に見惚れて呆けたまま立ち止まった者が続出した。
 まあ、想定通りなので、気にせずに鉄心の部屋に歩いて行った2人は漸く到着して招かれた。
 すでに話すべき事項があるとアポは取っているので、何も問題なくスムーズに落ち着く。
 そして士郎の口から単刀直入に告げられる。

 「百代の体に魔術回路が備わっている可能性が非常に高いです」
 「何じゃとっ!?」
 「信じがたい気持ちは分かります。ですので、これから説明するのは俺の単なる推測ですが、聞いてもらえますか?」

 鉄心は無言で頷いた。
 ――――ではと、士郎が話し始める。
 そうして話を聞き終えた鉄心は頭痛に悩む仕草をしながら口を開く。

 「確かに昔の川神家は神道を頂く魔術師の家柄じゃった。しかしある時期を境に、年々魔術回路は減退の一途をたどり、遂には死滅してしまったと言う。じゃが、それと引き換えに膨大な気を有する一族に生まれ変わったのが今の川神一族じゃ。そんな儂等――――いや、モモに魔術回路があったとはのう」
 「今回の事は俺の迂闊さが招いた失態です。庇うどころか、巻き込むように引き込んだようなものです」
 「あ、いや・・・」

 士郎の土下座姿勢に鉄心が止めようとするが、そこでスカサハが士郎を諫める。

 「それは違うだろう。そもそもあの娘が好奇心で敵性サーヴァントの攻撃を態と受けると言う驕りがあったのがそもそもの原因で、それを野放しにしていたのはこの孫可愛がりの小僧であろう」
 「あっ、そうか!じゃあ、すいません。今の謝罪は無かった事にしてください」
 「えー・・・」

 上手から急速に下手に切り替わった展開に理不尽に思う鉄心。
 まあ、自業自得である事は否めないが。

 「では、今回の事も元をたどれば鉄心さんが原因だと言う事に落ち着きましたんで、贖罪の代わりにこれを百代に渡してください。それは師匠が作成した魔力殺しのペンダントです」
 「またかっ!?――――し、しかしじゃ、儂が渡すよりお主が渡した方が喜ぶと思うぞい?」
 「何で俺だと百代が喜ぶんですか?」
 「・・・・・・・・・・・・」

 この発言に流石に呆れた鉄心は、溜息をついてからスカサハに視線を向ける。
 視線が合うと、スカサハは肩を竦める。

 「いい加減女心を学べと言ったはずだろう?」
 「何を急に?それに俺は師匠の言う通り勉強していますよ?」
 「学ぶ姿勢が有ろうとも、役立てていないんじゃ、一緒と言われても仕方ないぞ」
 「ですから今の状況とそれは関係ないでしょう」

 これだと、言わんばかりに深い溜息をつくスカサハ。
 そんなスカサハに僅かばかりの同情を向ける鉄心。

 「兎に角、これは鉄心さんが百代に責任を持って使わせるように渡して」
 「いや、これは罰として、お前があの娘に渡せ」
 「な、何でですか!?」
 「拒むことは許さん」
 「・・・・・・・・・?――――わかり、ました」

 何所までも状況を理解できない士郎ではあるが、此処まで態度を硬化させるとスカサハが梃子でも動かなくなるのは知っているので、不承不承ながら頷いた。
 そんな気まずい空気の中で鉄心が口を開く。

 「話は終わりかの?ならばまた来た道から帰んなさい」
 「そうさせてもらいますが、まだマスコミ関係がうるさいんですか?」
 「いや、既に朝一に例のテレビ局に行って、平和的解決をしてきた所じゃ。じゃから、もうすぐ他も引き上げると思うぞい」

 満面の笑顔で言うが、目が笑っていない事は一目瞭然である。
 恐らく圧縮した殺意を当て続けながら、脅しと言う名の話し合いをしたのだろう。
 事実、自業自得の某プロデューサーは本人を目の前にして肩を軽くとは言え叩かれている時、生きた心地がしなかったらしい。
 ただ脅されているので誰にも打ち明けられない悩みとなった様だが。
 それは兎も角、笑顔から一転、鉄心が何か思い出したように問うてきた。

 「そう言えば、昨夜の詳しい騒動の内容には聞いておらんぞ。差し支えなければ聞きたいんじゃがのお」
 「む、思えば私も現場の事は聞いていなかったな。話せ」

 そう言われた士郎としても隠し立てする事が無いので素直に話す。
 そして聞き終えた2人は難しい顔をする。

 「突発的でもなくモモを狙った訳でもないが、新たな脅威の出現とは・・・。一応聞いておくが、藤村組の抗争相手じゃ無いんじゃろ?」
 「当然です。いたとしても関東圏内で何か企んでいれば、すぐさま気付く雷画の爺さんの化け物並みの耳聡さと目聡さに直観力については、鉄心さんの方がご存じの筈では?」
 「まあ、そうじゃな」

 一応納得した鉄心。そしてスカサハは独り言のように呟いている。

 「無限に湧くオートマタにそれを操るデコイ。そして撃破後は全てまるで始めから無かった様に、残存数もスクラップの破片一つも残らず町中から消え失せていたか。全て宝具であるなら説明が付くが、果たしてサーヴァントの真名は何所の誰であろうな・・・」
 「恐らくは近代なのでしょうが、わかりませんね。それよりも俺が気にしているのは――――」
 「葵紋病院から消えた少女と、その病室で新たに呼び出されたであろうサーヴァントだな?それについては一度帰宅してから話すべきだな。小僧も暇では無かろう?」
 「小僧呼ばわりはヤメて欲しいんじゃがのお」

 しかしスカサハは鉄心の言葉を返そうともせずに立ち上がる。
 その態度に鉄心は溜息をつき、士郎は師匠らしいと内心で思いながらお暇させて頂きますと、礼をしてからスカサハの後に続く様に出て行った。


 -Interlude-


 百代は夕方、川神院に帰る為に土手付近を歩いていた。
 しかしそこで夕日をただ眺めているモロに出くわした。

 「モロ・・・?お前そこで何してるんだ?」
 「・・・・・・あ、モモ、先輩。うん、ちょっとね」
 「ちょっとじゃないだろ?お前がここ最近おかしいって皆で相談してたんだ。何かあるなら聞いてやるぞ?」
 「そ、それは・・・・・・」

 警察には郊外を控えてくれと言われた手前、相談したくても出来なくなっていた。
 しかし百代は川神院の娘であり武神だ。
 もしかしたら何とかなるかもしれないと言う前向きさと、警察との約束を天秤にかけて迷うモロ。
 そんなモロに話しかけた百代と言えば唐突に強い何かを感じ取った。

 (!?・・・・・・これは殺気・・・?いや、殺気では無いが似ている“何か”だ)

 百代が感じ取っているのは魔術や神秘的な波動だ。
 百代は当然知らないであろうが、魔術とは常に死のリスクを抱えている。
 その死のリスクは武術家からすれば殺気の波動に似ているモノだ。
 しかし、それを感じ取れるのは魔術回路を有している者のみ。
 そしてその正体を明確に理解できるのは、自分の体の魔術回路を認識している上で常日頃から魔術に触れている魔術師と、同類や似た存在達だけである。
 しかしそんな事は知らない百代でも、その発生地点くらいは判る。
 感じた波動を辿ると、川神市でも富裕層が集まるエリアだった。
 さらにこれは偶然だが、自分が感知した発生地点方向に向かって猛スピードで向かっている2人に気付いた。

 (あれは・・・・・・シーマに士郎?)

 そして百代に目聡く視認された2人――――と言うより、マスターである士郎は焦っていた。

 (この感覚は昨夜葵紋病院から感じたものに間違いない・・・・・・・・・・・・が、それにしてもまだこんなに日も高いうちから動くなんて・・・!)

 緊急時でなければ自分でも守る魔術の行使する時間帯を破る非常識さに、憤りよりも予想外の驚きが強かった。

 (兎に角間に合え!)

 できるだけ早く到達するために急いだ。


 -Interlude-


 少し時間を遡る。
 そこは百代が指摘した富裕層が住むエリアの一角。
 そこには、とある大豪邸(坪的には藤村組からしてみても小さい)が一軒あり、ボディーガードらしき黒スーツにサングラスを身に着けている者達が邸宅を囲う様に警備している所だ。
 その邸宅の家主は生憎と仕事でまだ帰宅しておらず、居るのは給仕が数人と自室にて電話中の1人娘ぐらいだった。
 名前は津川瑤子。九鬼財閥や西欧財閥には劣るモノの、大企業の一つであるTUGAWAカンパニーの社長の実子だ。
 そして、欅美奈をメンタル面で自殺するまでに追い込み、天谷ヒカルを病院生活の戻した苛めグループの主犯格の1人でもある。
 容姿端麗眉目秀麗のお嬢様ではあるが、性格は自分よりも美しい女を許さない醜悪な感情を抱えた持ち主で、まるでアリスを消そうとした魔女である。

 「――――そう、今夜も遅くなるのね?」
 『そうなんだよ。部下達(屑共)が九鬼との商談でミスをしてね。事が事だから、私も出張らないといけない事態にまで発展してしまったんだ』
 「解ったわ。それじゃお仕事頑張ってね、お父様♡」

 話す事は終えたので、そのままスマホを切る瑤子。
 そんな彼女は溜息をつく。
 今夜は父親と過ごせないからでは無い。
 全ての物事が自分の思い通りにならない、この未完成の世界にだ。
 この世界の中心は自分でなければならない――――いや、それこそが本来正しい形だ。
 しかし現実には自分は中心どころか、世界の三大組織のいずれもの跡継ぎですらない。
 そう言う意味では父親に対して幾らかの失望をしている。
 だが絶望しているワケでは無く、自分が世界で正しい行い(自己中心的思想の究極への発展途上型)を行使しようとする時に対して、当然のように手助けしてくれることには一定以上の評価をしている。
 詰まる所瑤子にとって、父親は自分を世界の中心(正しい形)に戻してくれる道具に過ぎない。
 しかしながら、そんな現状でも出来る事はある。
 それはこの世界では本来あってはならない事の一つ、自分よりも美しい女を排除する事である。
 この世界の中心は当然自分なのだから、最も美しい女性も当然自分でなければならない。
 にも拘らず、この世界は自分よりも美しい女と言う間違った存在を少なからず許容している。
 ならば本来の正しい形に戻す為、手ずからあってはならない事象()を討滅しなければならないのだ。
 そして先日やっと身の程を弁えない欅美奈(異物)をこの世界から自殺させる(追い出す事)に成功した。
 だがまだまだ始まったばかり、特にこの町には自分よりも美しいと言う悪が跋扈している。
 特に目に着くのは武神・川上百代だ。
 既に瑤子は百代を排除する構想だけは完成していた。
 しかし今はまだ手が出せないので、次に別の悪の討滅をしようとタブレットを見ながら考えていると、突如周囲の景色が石造りの回廊に変貌したのだ。

 「な、何!?何なのっ!?」

 突然の変化に戸惑う瑤子。
 しかし状況の把握も出来ないまま、王様気分のお嬢様は後ろから強い衝撃を受けて吹き飛ばされる。

 「ああああっっ!!?」

 それはもう面白いくらいの吹き飛ばされぶりで、何度もバウンドしながら二転三転転がって行き、壁にぶつかる事で漸く止まった。

 「かっ、は、っあ」

 全身の擦り傷もあるが、何より背中の痛みに悶絶する瑤子。
 それでも何とか見上げた所、その眼前には雄牛の角を持ち、獅子の如き白い髪をなびかせる仮面の巨漢が自分を見下ろすように見ていた。

 「・・・・・・・・・・・・」
 「あ、い、いっぎゃばぇっ!」

 自分を見下ろす正体不明の存在に恐怖に打ち震えていたら、目の前から足が自分の顔に突き刺さり、その衝撃でまたも吹き飛んで壁に当たる。

 「・・・・・・あぎゅ・・・かひゅ・・・・・・」

 瑤子の顔は歯が幾つも砕け散り、鼻の骨が曲がり砕けて左頬は赤く腫れあがり、左目からは出血量が酷く完全に潰れていた。
 もはや容姿端麗、眉目秀麗の美少女の顔は台無しになっている。
 そこに、巨漢の後ろから1人の少女が現れた。

 「良い顔になったわね、津川さん」
 「・・・・・・!?」

 声が聞こえる方に弱弱しく顔を向けると、自分が病院に無理矢理戻しすために虐めぬいた(制裁した)天谷ヒカルと言う名の悪が居た。
 その悪は、笑顔のまま自分に近づいてから顔を蹴って来た。

 「ぎゃああぁああっ!!」

 憤怒の力に適合した事により任意で発火させる事も出来るようになったヒカルは、瑤子の顔面を蹴ると同時に右側を焼いたのだ。
 だが威力にそこまでの力を入れなかったため、直に火は掻き消えたが、瑤子の顔は最早面影すら消えていた。

 「いい気味ね、津川さん。でもね、私も美奈もあなた達から受けた苦しみは、この程度じゃ収まらないのよ?」

 いかにもこの程度では終わらせないと告げるセリフに対して、瑤子は怯えるでも命乞いをするでもなく、自分のルールと言う絶対性からの正論(思い込み)を言い放つ。

 「黙れ異物(じゃばべじじゅじゅ)私は絶対(ばだぢばぎぇじゃび)私は正しい(ばだぢばじゃだじび)そんな事も解らないの(じょんじゃじょどじょじゃじゃがじゃいぞ)!!」

 だが何を言っているのかまるでヒカルには伝わらなかった。
 ただし、意外にもバーサーカーには理解出来たようで、苛立ちを露わにしながら瑤子に近づく。

 「だまれ、だまれ!ひかるのわるぐち、いうなっ!」
 「ぅっぎゃっあ゛あ゛あ゛ああああああぁあああああああああっっ!!!?」

 止まることなく近づいたバーサーカーの足が、瑤子の両足を思い切り踏みつぶした。
 それによって激痛から来る悲鳴と共に泣き叫ぶ瑤子。
 そしてそれを見ていたヒカルは一先ずこれである程度の満足を得られたようで、次――――と言うか、仕上げにかかる。

 「雷光(アステリオス)
 「うん」

 ヒカルが何を言いたいのかアステリオスと呼ばれたバーサーカーは、いとも容易く意思疎通を行い、未だ激痛に泣きじゃくる瑤子の頭を鷲掴みにして、自分の顔の前まで持ち上げる。

 「ごめんねアステリオス」
 「いい。ひかるがぼくのなまえよんでくれてうれしい。ぼくもひかるのため、がんばる」
 「・・・・・・そう。じゃあ、津川瑤子(それ)生きたまま(・・・・・)食べなさい」
 「・・・・・・・・・・・・」

 全身に至る箇所の痛みを忘れる位の言葉が瑤子を襲った。
 ――――今何といった?
 食べる――――何を?なにを?ナニヲ?
 生きたまま――――何が?如何いう?誰を?
 だがその答えが真下から迫っていた。
 それは大きく開かれたアステリオスの口である。
 アステリオスは文字通り、瑤子を生きたまま食べると言うのだ。
 自分の声に耳を傾けてくれる者はおらず、恐怖に顔が嫌でも引き攣る瑤子。
 しかしそこで『外』から現れたアヴェンジャーが制止を掛ける。

 「待て、アステリオス。ヒカル」
 「如何して止めるんですか?」
 「・・・・・・・・・」
 「如何やらこの町の魔術師とサーヴァントが近づいている」

 無粋なとでも言いたげに外が見えているのか、迫って来る魔術師達の方に向かって睨む。

 「だったら迎え撃てば――――」
 「お前の力は有限。よしんば勝てたとしても、お前の復讐計画を最後まで完遂できなくなるかもしれんぞ?とは言え、これはお前が始めた復讐だ。如何するかはお前が決めろ」
 「・・・・・・・・・・・・」

 新たに表れた男によってヒカル()が手を止めるのを見て、瑤子はチャンスだと考え助けを求める。
 しかしアヴェンジャーはそれを黙殺する。そして、ヒカルの背を押すようにアドバイスをする。

 「只、今この場は引けば、俺がそれ(・・)に心臓と肺を治癒し続けてやれる。()の俺には多少の魔術は使えるからな。そうすれば最後まで、痛み苦しみながらの処刑が出来るが・・・・・・如何する?」
 「!わかりました。此処はアヴェンジャー(先生)の言う通りにします」
 「懸命な判断だ。それに如何やら鼠が嗅ぎまわっている様だからな」
 「ねずみ・・・ですか?」
 「今はそれはいい。引くぞ」

 アヴェンジャーの提案を受け入れたヒカルが、アステリオスに命じて宝具を解除させる。
 それと同時にその場から消え去ると、そこに残ったのは主無き部屋と彼女のスマホだけだった。
 そして瑤子は知る事となった。本当の地獄とは死後に訪れるモノでは無く、生きたまま体験する事なのだと。
 ――――こうしてヒカルの復讐は始まりを告げた。
 復讐完了まであと5人。 

 

第16話 集う因縁

 衛宮邸の朝は早い。日曜日や休日であろうとそれは変わらない。
 土日祝日は百代が来ないので、担当エリアを今まで通り士郎がしていたが、実は昨日からは別だった。

 「清掃完了しました」
 「ああ・・・・・・・・・・・・はい、ばっちりです」

 庭の掃除をティーネが。
 それ以外を冬馬と小雪が担当し。

 「リズさん。そちらは如何です?」
 「下ごしらえは一通り終えましたよ?」

 朝食はリズと準で分担していた。
 深く事情は聞いていないが、問題が再び町で起きていて、士郎が町を守るために奔走していると分かれば、士郎の事を父か或いは兄として見ている3人としては、出来る限りのサポートをするまでだと息巻いた。
 ティーネとリズの2人は、病人扱いとは言え何もしていないのは居心地が悪いと言う事で、手伝い始めたのだ。
 記憶は失っていても体がこれまでの経験を熟知しているのか、自分に何が向いているのか何ができるのか判断した上での配置であった。
 では士郎は何所に居るかと言うと――――。

 「それで行方不明になった津川瑤子さんは見つかったんですか?」
 「いえ、依然として。今のところ手がかりひとつなく、今日も朝から現場検証に行くようです」

 昨日、ある豪邸の自室に居た筈の少女が突如行方不明になる事件について、士郎は石蕗和成から報告を受けていた。
 勿論理由は昨日のサーヴァントの反応の件だ。
 昨日は結局間に合わず、着いた時には既に反応が消えていたのだ。

 「ただ、家を警護していたボディーガードと家政婦が揃って白昼夢の様なモノを見たと証言している様です」
 「白昼夢・・・・・・・・・一体如何いうモノですか?」
 「突如天井壁床階段全てが石造りの回廊に覆われたと。何人かは恐る恐る事態を探ろうと歩いていたそうですが、何所も同じ作りで自分が何所に居るのかどれだけ歩いたのかも分からなくなるほど前後不覚に陥ったと。それはまるで――――」
 「迷宮か」

 スカサハの答えに首肯で応じる。

 「迷宮と言えば世界にもチラホラと出て来るが、一番メジャーかつ一番古いのはギリシャ神話に出て来るクレタ島の地下迷宮じゃな」
 「もしその地下迷宮を顕現させたのであれば、そのサーヴァントの真名は造った張本人のダイダロスですかね?」
 「もしくは造らせたミノス王か、或いは――――」

 最後の心当たりは言わずとも判る3人。
 解らないのはサーヴァントとしての知識を備わっていなかった、エジソンとシーマの2人だけ。

 「それにしても固有結界を使うサーヴァントとは厄介ですな」
 「いえ、そうじゃないんです和成さん」
 「?」
 「昨日は遠目から見ても、あの周囲には固有結界なんてどこにも展開など無かったんです」
 「若が言うのであれば疑う気はありませんが、であれば一体・・・」
 「大魔術には固有結界に似て非なるモノも僅かなれどある。そしてクレタ島の地下迷宮であるのなら、世界を侵食したのではなく、世界の下側にに形成したと考えるのが妥当であろうな」

 全て勝手な推測ではあるがなとも付け足すスカサハ。
 しかしそれが一番、真に近いのではないかと思えるもので、誰も異を唱えるものなど居なかった。

 「・・・・・・他には何も言ってませんでしたか?」

 一拍置いて士郎が和成に質問をする。

 「そうですね・・・・・・。そう言えば家政婦が津川嬢の悲鳴を何度か聞いたと証言していたと。恐らくは襲われたのでしょうね」
 「ならば既に死んでおろうな」
 「・・・・・・・・・!」

 スカサハの言葉に沈黙が流れそうなところで、士郎1人がすかさずある音に反応して縁側に続くドアを開けて、そのまま上から落ちてきた何かをダイビングキャッチしたまま庭に出た。
 ある音とは屋根の瓦の音と、そこから転げ落ちるある質量――――人体の音だった。
 そして勿論士郎がキャッチしたのは人であり、何とティーネだった。

 「だ、大丈夫ですか?」

 彼女自身の質量に加えて重力加速度の全ての衝撃を完全に緩和させて、全く痛み無くお姫様抱っこされるティーネ。因みに士郎は顔を覗き込むように見ているので、かなりの至近距離だ。

 「は、はい。すいませんお手数おかけして」

 全身鋼の様な筋肉に覆われているにも拘らず、抱っこされているティーネは全く痛いとも堅いとも思わず、寧ろ心地よさすら感じた。
 まあ、士郎の顔が至近距離まで迫って来ているので、否が応でも頬が朱に染まっているが。
 そして降ろされると、僅かながら残念に思えた。

 「それにしても如何して上から?」
 「屋根の掃除をしようとしていたのですが、歩きづらくて思わず・・・」
 「転んだんですね?大丈夫ですから。気持ちだけ受け取りますから危ない事は控えて下さい」

 ティーネに士郎が注意を促すと、何故かスカサハが呆れ声で言う。士郎に。

 「士郎。攻略してフラグを建てていくのはお前の勝手だが、人数やタイミングに気を付けないと、専用ルートが確定する前に刺されると言うBADエンドに陥る事になるぞ?」
 「何の話です?」

 士郎が心底訳が分からそうな顔をすると、スカサハは最早言うだけ無駄かと諦めた。

 「流石は若!」
 「シロウは英雄色に好まれると言う奴だな!」
 「流石は我々のマスターだ!」

 けれど、何故か男3人は士郎の誑しぶりを褒める。
 だが士郎としては褒められた理由も判っていない。
 まあ、成り行き上の結果論ではあるが士郎にとっていい息抜き――――清涼剤と言う名の一時になったことには間違いなかった。


 -Interlude-


 一方、今この町に問題を起こしている1人と2体はライダーの作った拠点に戻っていた。
 今更だが、この船内は外の空気などを完全にシャットアウトできる作りになっており、ヒカルも船内の中であれば好きに活動できる。
 さらにヒカルがアステリオス召喚後、この船内で寝ている間にライダーによってヒカル専用の生命維持装置を彼女の体内に埋め込まれており、最高24時間外で活動する事も可能となっている。
 そしてそのヒカルの体をサポートして拠点を提供した本人と言えば――――。

 「ライダーさんは何処かに行ってしまわれたんですか?」
 「ああ、忙しいとか抜かしてとっとと消えた」

 一応ライダーが忙しい理由になら心当たりがある。
 現在ライダーの手によって、アヴェンジャーのマスターの本拠地はある改造を施されている。
 しかしアヴェンジャーがそれだけとは鵜呑みにしていない。
 そもそもライダーの本物が本拠地に居る奴なのか何所に居るのかなど、アヴェンジャーもマスターも把握していないのだから。
 物思いに耽っているアヴェンジャーは、コミニケーションを取り合っている主従を見る。
 ヒカルには魔術回路が無いので、その代わりに魂と言う彼女自身のエネルギーを使っている。
 勿論使えば使うほど無くなって行き、いずれはヒカル自身が消滅する。
 しかも通常の魔術では無く、サーヴァントの現界と宝具の開帳に当てているのだからその消費量は凄まじい上に、バーサーカークラスに当て嵌められているのでリスクはさらに高まる。
 しかし憤怒の適正により、彼女の魂のエネルギーは大魔術師クラスの魔術回路数を遥かに凌駕する―――代わりにいずれ感情の全てが憤怒に支配される事になる諸刃の剣である。
 だがヒカルはそれらをすべて聞いた上で行動を起こした。
 復讐の成否にかかわらず、一度使えばいずれ燃え尽きる結果に行きつく事になろうともだ。
 因みに言えば、津川瑤子は死ぬ直前まで劇痛を負わせた上で魂のエネルギーを高めた上で、魔力の足しにさせてもらったのだ。
 なのでスカサハの予想通り、死因は兎も角、津川瑤子と言う人間は滓すらも残っていなかった。
 そんな死んだクズの事を思い出していたアヴェンジャーに、ヒカルが突如アステリオスとのコミニケーションを一旦止めて聞いて来る。

 「昨日言っていた鼠たちとは誰の事なんですか?」
 「・・・・・・・・・マスターピースと言う名のハイエナどもだ。その紛争や騒動の原因や人の意思を一切無視して我が物顔でそこを踏みにじる、薄汚い救世主気取り達の(ともがら)だ」

 反吐が出ると最後に付けだすアヴェンジャー。
 その語り口はまるで見て来たかのようだった。
 そしてヒカルはアヴェンジャーの主観に口を挿まない。その代わりでは無いが杞憂を口にした。

 「じゃあ、マスターピースの構成員の人たちが私たちの邪魔を?ただの人ではアステリオスに適うとは思いませんが・・・・・・」
 「これは当然世間では知られていないが、奴らはお抱えの魔術師が幾らかいる。そしてサーヴァントも戦力として使っている」
 「そ、そんな・・・・・・・・・あっ、そう言えば昨日の昼にライダーさんが援軍を送るって言ってたのはそれを配慮してだったんですね?」
 「その筈だ」

 その言葉とは裏腹にアヴェンジャーはまるで信じていなかった。
 アヴェンジャーにとってライダーは何所までも胡散臭い存在だったからだ。


 -Interlude-


 アヴェンジャーに鼠と称されたのは確かにマスターピースの使いに他ならないが、それ以上に危険な鼠はこの町の郊外に居た。
 そこは和をメインとしている豪邸で、その家の主は最上幽斎と言う元企業家であり、現在は九鬼の営業部の幹部の1人である。
 そして当の本人は書斎にて、ある存在――――自分のサーヴァントと向かい合っていた。

 「さて、昨夕は何故手を出さなかったんだい?」
 「何故?そんな事は当然目標を仕留める為に最善の策を取ったまでだ」

 応じるサーヴァントは、黒と灰色の鎧に何故かボロボロの赤い外套を頭から被り、口元も包帯らしきものを巻いて見えず目元もまるで見えない暗殺者である。

 「まさか同情したのではあるまいね?」
 「同情?」
 「確かに今回の主犯の少女の経歴は同情に値するが、だからと言って――――」
 「下らない。僕はアンタに召喚されるまで、生前も死後の“守護者”としても汚れ仕事をしてきたんだ。そして今回の件もその一つに過ぎない。アンタが僕をどの様に考えようと自由だが、同情に値するなどと言う御花畑的思考を口にするなら暁光計画など止めておくんだね。どうせその程度のメンタルでは後悔の中で耐えられなくなる」
 「あー、わかったよ。口出しした私が悪かった。――――だが私にも事情があるのでね、君が慎重になり過ぎて時間を掛けすぎる方針で行くなら令呪を使うしかなくなるよ?」

 令呪を見せつけようとする幽斎に如何でも良さげに背を向ける。

 「言われるまでも無い。今日からでも狩り始める。遅くとも明日明後日中には片付けるさ」
 「それは助かるが、これ以上の犠牲を止める気は無いと?」
 「主犯の少女に狙われている者達は全員、幾人もの同世代の子供を自殺に追い込んでいる下種なのだろう?なら庇う必要など無い。精々いい囮として使うまでさ。それと、仕事が終わり次第ここには戻らずに、今まで通り世界中のシャドウサーヴァント狩りに専念させてもらう」
 「その判断は君に任せるよ。では健と」

 幽斎の最後の言葉を聞き終えずに暗殺者は立ち去った。
 その何時も通りの愛想のなさに幽斎は肩を竦めるモノの、仕事人としてはある種の尊敬を覚えるモノだった。
 丁度その時、ドアの向こうからノック音が聞こえる。

 「(あき)かい?いいよ、入っておいで」
 「ではお言葉に甘えまして・・・・・・あら?お客様は?」
 「帰ったよ。彼にはやることが山積みだからね」

 もっと話をしたかったんだがと苦笑する幽斎。
 しかし幽斎の娘である最上旭は、何時の間にこの部屋を出て行ったのか気になっている様だ。

 「私に気配を悟らせないせないなんて、士郎以外で初めてだわ」
 「士郎と言うと、衛宮士郎かい?確か旭の熏柴韋威胴丸を一目で見破ったと言う・・・」
 「ええ、そうよ。初対面で見破られた時は本当に驚いたけど、事情を話したら誰にも言わないって約束してくれたわ。そう言えばお父様は大丈夫なの?確か士郎の後見人の藤村雷画殿は、自分のテリトリーでの企みに相当敏感だとか」
 「ああ、計画名から具体的内容までは兎も角、すでに私がこの地にて何かしようと動いていることなら、ばれているよ。去年、旭が学校の修学旅行に丁度出かけている所に呼び出しを受けたからね」

 さらっと笑顔でとんでもない事を言う父親に、流石に娘で会う旭も喰いつく。

 「よく無事でしたね、お父様?」
 「ああ、だけど私の立てた計画で藤村組の利益が損なわれる時が来たらどうなるか、とドスの効いた言葉と態度で脅されてしまったがね」

 何所までも自分のペースを崩さない父親に、旭は何時もの事かと呆れる。

 「それはそうと、お父様に聞きたい事があるんですけど」
 「いいよ、何でも言ってごらん」

 重要な話だったろうに、こうもあっさりと話題を切り替えられるとは、根っこは似た者同士の親子でもあるのだった。


 -Interlude-


 此処は川神市で一番近い自殺の聖地(メッカ)、川神山。
 基本誰も近寄らない川神山の頂上付近に突如として出現したのは、ヒカルが先生と呼んでいるアヴェンジャーの協力者であるライダーだ。

 「・・・・・・・・・時間丁度ですね」
 『それはお前だろ?』

 ライダーが振り向くと、そこには重々しい鎧と仮面姿の全世界最強の傭兵である、軍神ラミー・ルイルエンドがそこにいた。

 「此処に来るまで誰かに気付かれませんでしたか?」
 『そんなへまをこの私がすると思うか?』
 「いえ・・・。それよりここまで足を運んで頂いたと言う事は、依頼を受けてくれるんですね?」
 『別にいいが、いいのか?これは“奴”に対する反逆になるだろう?』

 揶揄う様な明らかに含みを持ったラミーの言葉に、ライダーは一切動揺せずに返す。

 「後になって追及してくるでしょうが、証拠さえ残さなければいいのですよ。それに“彼”には我々への命令権は無い。私達が真に従うべきはマスターである“あの御方”でしょう?」
 『一緒にするな。私はお前と違い、アレ(・・)に忠誠など誓った訳じゃ無い。あくまで目的遂行のために利用してるだけだ。そもそも私からすれば、五十歩百歩だ』

 怒気を孕んでいるワケでもなく、語尾を強めているワケでもない。
 しかし同類のように扱われた事が心底不愉快だったようで、吐き捨てるような言葉だった。
 だがライダーはその事に対してもさほどの固執は無いようで、まるで気にした様子も無く謝罪する。

 「それは失礼しました。ですがそれでも受けて下さって感謝しますよ」
 『・・・・・・フン。それで私はどう動けばいい?合流すればいいのか?』
 「どちらでもかまいませんよ?貴方におまかせします」
 『好きに動けと?ならこの鎧と仮面(拘束具)も外していいのか?』
 「構いませんよ?外せればの話ですが」
 『・・・・・・・・・・・・』
 「如何やら色々と了承して頂けたようなので、私はこれで失礼します。それでは宜しくお願いしますよ?軍神閣下」

 恭しく礼をしながら、ライダーの姿はデータの様に掻き消えていく。
 それを見送ったラミーは、山頂から町を見下ろしつつ仮面の下で悪態をつきながら1人呟く。

 『そっちがその気なら、本当に好きに動かさせてもらうぞ?川神氏周辺(此処)には顔を見たい奴にも居るからな』


 -Interlude-


 昼頃。
 百代は川神院の近くのカフェにて、呼び出しを受けていた。
 そして当の呼び出した人物――――士郎と向かい合って暫く、呼び出しといて無言を貫いていた。
 しかし百代からすればその煮え切らない態度に苛立ちが増して行き我慢の限界も近づいていた。

 「何なんだ一体!私に何か用があるから呼び出したんだろ!?」

 今の百代にもやる事がある。例えば綺麗なお姉さんをナンパするとか、例えばまだ話したことのない可愛い新入生(勿論、女子)に粉を掛けるとか、例えばハーレム(勿論、女子)の子達に驕ってもらいに行くとか・・・・・・・・・・・・じゃなくて!モロの事について大和達と話し合いをしに行こうとしていたのだが、珍しく事前の連絡も無しに士郎が自分の事を呼び出したから、こうして来たのだ。
 なのに・・・・・・。

 「爺からも勧められるように来たんだぞ!一体何の用なのか、はっきりしろ!」
 「・・・・・・・・・百代に渡したいモノが合ってな」
 「なんだ、渡したいモノって?」
 「それは・・・・・・!」
 「!?」

 その時、2人はほぼ同時に立ち上がる。
 理由は昨夕と似た気配と言うか波動を感じたからだ。

 「これは昨日感じたって、何所に行くきだ士郎!?」
 「悪い!用事が出来たからまたあし」
 「お前も今感じた発生地点に行く気だろ?昨日と同じで!」
 「なっ!?」

 昨日の事を百代に話した覚えなどない士郎は心底驚く。
 まさか鉄心さんかとも思ったが、百代の反応からして違う様だ。

 「お前が昨日シーマと共に、行方不明事件のエリアに向かって行く所を見たんだよ。その時も今みたいなのを感じたが、今思えばあの夜の感覚にもかなり似てたしな。行くなら私も行くぞ」
 「馬鹿言うな、行かせられるワケ無いだろ!」
 「何時何所に行こうと、お前に私を止める権限などあるものか!それに昨日のあの事件の少し前に川神院(うち)に来たらしいじゃないか。まさかと少し前から感じてたが、爺から何か言われてるのか?」

 す、鋭い!と、士郎が動揺する顔を百代は見逃さなかった。

 「やっぱり爺の差し金か。なら絶対私は行くぞ!止めても無駄だ!」
 「ッ!」

 此処まで行くと最早百代は梃子でも動かない事を士郎は知っていた。
 それ故に、こうなっては腹を括るしかないとも判断した。
 最早遅いが、自分の運のなさに今日ほど呪った事も無いと、憤りを禁じ得なかったとも。

 「・・・・・・・・・分かった。けど警察が来てたら直に引く事が条件だ。いいな?」
 「解ったから早く行くぞ!」 

 そうして不本意ながら士郎は百代とともに現場に向かうのだった。 

 

第17話 遭遇

 「士郎さんが如何いった人・・・・・・ですか?」

 少し時間を遡って士郎が百代に会っている頃、ティーネとリズの2人が双六系のテレビゲームで遊んでいる葵達とシーマの4人に聞いて来た。

 「如何してそんな事を?」
 「そ、その、一緒に暮らしていて、士郎君が如何いう人か未だに掴めきれなくて・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」

 質問された葵達だが、彼女の本心は見え透いていた。
 何せ頬を朱に染めているので、士郎に惹かれ始めているのは容易に想像できたからだ。
 そして毎度おなじみに「またか・・・」と、誰かが呟いた。
 それを聞いていたシーマが逆に2人に質問する。

 「では今の2人にとって、シロウはどの様に見えるのだ?」
 「私達には・・・・・・」
 「年下なのに・・・・・頼れる大黒柱の様に器の大きい方に見えますけど・・・」
 「ならばそれで良いではないか。それとも、それだと都合が悪いのか?」
 「いえ、そう言うワケでは・・・」

 何とも煮え切らない態度の2人に何か言おうとしたシーマだが、昨夕感じた魔の気配に突如として立ち上がる。

 「ど、如何したんですか?」

 動揺する2人だが、真剣な顔つきをするシーマの顔を見て、ゴールデンウィーク前の士郎と同じ真剣な顔つきとかぶった様に見えた葵達は、瞬時に悟った。

 「行くの?シーマ」
 「うむ。恐らくシロウも向かっているだろう。お前たちはスゴロクを続けていろ。故に、アルバ。余の代わりを頼んだ」
 「ふむ?」

 偶然気まぐれで来ただけのスカサハに、シーマは自分の代わりに葵達と遊んでくれと頼みこむ。
 しかしスカサハからすれば、流石に今着た瞬間にそれを察しろと言うのは難しいモノだった。

 「では留守を頼んだぞ?」

 だがシーマはスカサハの疑問に取り合うどころか気づきもせずに、疾風の如く居間から去って行った。
 そして残されたスカサハは突如として閃く。

 「今の世の中何が起きるか判らぬ故、これから私対お前たちの組手でもす――――」
 『却下!!』

 ちょうど今来たばかりのエジソンと葵達が、スカサハのいと恐ろしき提案を躊躇いなく断った。

 「ぬぅ」

 4人の反応に影の女王は若干拗ねた。


 -Interlude-


 軍神ラミー・ルイルエンドは類稀なる鬼才を十二分に磨き上げ、戦闘者として完成しており、その実力を以てその戦場の全てが手の取る様に把握してきた上で蹂躙して来た。
 その世界最強の傭兵は、川神山山頂から市を俯瞰する。

 『・・・・・・・・・・・・フン』

 そうして容易に見つけることが出来る。目当ての人物が。
 艶やかな黒髪長髪の自他ともに認知されている美少女武人、武神川上百代だ。
 だがそこで、思わぬ人物も必然的に見つけてしまった。
 彼女と共に駆けている衛宮士郎である。

 『ッッ!!』

 ラミーの鎧はある理由で自分で着脱することが出来ないのだが、この鎧は特殊で、ラミーの薄暗いどの様な感情であろうと吸収して力として変換する事が可能なのだ。
 故に、どれだけ醜い感情を発しようと、鎧のおかげで誰かに気付かれる事は一応ない。

 『――――身の程知らずがッ・・・・・・!!』

 だが至近距離であれば声音から気付かれる事もあるだろう。然程気付かれること自体は問題ないが。
 兎も角、目当ての人物を見つけたラミーはその場を跳んで一直線で宙を駆け抜けていく。
 その速さたるや迅雷の如し。
 それをたまたま見かけた者は言うだろう。
 昼間から流星を見た、と。


 -Interlude-


 2人は現場に急行していた。
 その内1人である百代は足を進めながらも士郎の横顔を窺う。

 「・・・・・・・・・・・・」

 士郎の横顔は、百代が今まで幾度か見た事のある真剣で凄みのある顔つきだった。
 不謹慎ながら、普段の顔とは違うからこそ、そのギャップに胸が熱くなり頬が紅潮して行く。嫌でも意識してしまう。つまりカッコイイ。良い男に見えてしまうのだ。

 (こんな時に何考えてるんだ私は・・・!?)

 そう、自分を叱咤しようとした百代に、突如として士郎が制止する。

 「止まれっ!」
 「ッ!?」

 士郎の制止に百代が止まろうとする時とほぼ同時に、進行方向先の少し離れた地点が突如何かが落下したような衝撃と轟音が発生し、土煙が舞う。
 落下した何かの威力により、コンクリートの地面は砕け散る。
 流石に異変になれている近隣住民も、昼間からの轟音に騒ぎ出して来た。
 そんな中土煙から全身鎧で覆い尽くし仮面を被る怪人が現れた。

 「こ、こいつは・・・?」
 (何処かで・・・・・・)

 士郎はこの怪人の風貌に僅かに心当たりがあるのか、思い出そうと努める。
 だが百代は士郎の様に警戒せずにいる。
 何時もよりはレベルが高いがその程度の挑戦者かと。
 百代から見て、その怪人からは大した気を感じられないからだ。

 「アンタ挑戦者か?」
 『・・・・・・・・・・・・』
 「悪いが私たちは今忙しいんだ。戦いなら後で相手になるから、少し何処かで時間でも潰してきてほしいんだが?」
 『それはそれは。しかし私には関係ないな』
 「・・・・・・・・・・・・」

 変声機でも仮面に仕込んでいるのか、男か女かもわからない声で無礼千万を宣う怪人に百代はこめかみを一瞬だけ動かした。
 挑戦者の中には礼儀を重んじる者も居れば、無礼者も居る。
 そして後者に対する百代の対応は、相手を武術家とは扱わずに相応の対応――――相手の反応を見ずに先制の不意打ち攻撃をすると決めていた。

 「それならとっとと星にするだけだ!川神流、無双正拳突きー!!」

 多くの対戦相手を沈めてきた一撃。
 相手は無礼者故、何時もよりも気を込めて威力を上げた一撃が、吸い込まれる様に怪人に突き刺さる――――筈だった。

 「ッッ!?」
 「なっ!」

 吹き飛ばされた百代も見ていた士郎も信じられない事態に目を剥いた。
 なんとあろう事か、怪人は百代の一撃に対して、でこピンで威力を消し飛ばしただけでなく、百代を士郎のいるところまで押し戻したのだから。

 『フン。武神と言うからどれ程のモノかと思えば、大した事は無いな』

 対する怪人―――ラミーは、百代を見下すように嘲け笑った。
 嘲笑された百代は若干八つ当たり気味に怒鳴る。

 「士郎!川神流無双正拳乱れ突き(コイツは私が相手するからお前は先に行け)っ!!」
 「だ、だが・・・」

 士郎は百代の提案を濁す。
 なんせ、百代の拳をすべて当然の様に受け止めいなし、躱すなどされている現実を目の当たりにしているのだから。
 それほどの強者が自分を見逃す筈が――――。

 『構わんぞ、別に。もとより私の狙いは、最近色ボケていると噂されていた武神だけだ』
 「色ボケ?」
 「いっ、がふっ!?」
 「百代っ!?」

 いきなり色ボケなどと揶揄われ、動揺して思わず攻撃を止めた隙を狙われて、ラミーの言い蹴りを貰ってしまい吹き飛ぶ百代。

 『色ボケているからそんな隙も出来るんだ』
 「黙れっ!」
 『照れるな照れるな。それとも誰かに悟られたくないのかな?』
 「喧し、いッッ!!」

 百代は直に立ち上がって再度ラミーに向かって行く。
 そのついでのような流れで、士郎に向けて怒鳴る。

 「士郎ッ!早く行けって言ってるだろ!!」
 「・・・・・・・・・くれぐれも無理はするなよ」
 「無理なんてするかっ!こんな奴私1人で十分だ!!」

 その言葉に士郎は後ろ髪を引かれながらも駆けて行った。
 ただ勿論見捨てる訳じゃ無い。
 携帯を操作して雷画に電話を掛ける。

 「・・・・・・・・・爺さん?俺だ士郎だ。――――てことで、そこに手練れの誰かを向かわせて欲しいんだ」
 『分かったわい。利信と和成を寄こすから、お前はそのまま向かうんじゃぞ?』
 「ありがとう爺さん」

 そのまま携帯を切り士郎は迷いなく向かった。


 -Interlude-


 此処は現場付近。
 薄暗く人目のない路地の奥で、アステリオスが見るも無残な姿に成り果てた2人のヒカルの復讐相手を両肩に担いでいた。
 最初の手口と同じくして宝具を展開して標的を襲撃したのだ。
 しかも今回は同時に2人一緒に居たので、嬉しい収穫となった。

 「追手が来ないうちに引き上げるぞ」

 そうアヴェンジャーが促すが、今回は2人分の私刑時間だったのが災いして、遂に見つかってしまった。

 「見つけたぞッ!」

 現れたのはシーマだった。士郎はスタンディングでも出遅り、ある程度の足止めにも遭った。何よりも、士郎の位置の方が距離が有ったので、シーマが先に現れたのは当然だった。

 「チッ」

 姿を見られたことに舌打ちしつつ、口封じのためにと両手に顕現させた黒い炎をシーマに向けて撃ち出す。

 「フン!」

 自分の当たる直前で黒い炎を切り払うシーマはそのまま突っ込んで行く。

 「迅っ――――」

 流石は最優のサーヴァント、セイバー。
 速度では例外でもない限りランサーの次に早いのがセイバークラスである。
 勿論宝具を使用しないことを前提としてだが。
 その速度に対して黒炎をさらに放ち続けるも、全て躱されて斬られると思いきや、自分の上に向かい跳躍するセイバー。
 さらにセイバーはアヴェンジャーの肩に足を乗せて、彼を無視してアステリオスに向かって行く。

 「俺を踏み台に・・・!」
 「その者達を・・・・・・放せ!」
 「っ!?」

 セイバーの剣はアステリオスの片腕を捉えて切り裂いた。

 「ぐぅぅっ!」
 「浅いか!」
 「アステリオスっ!!」

 しかし流石のセイバーの斬撃も、アステリオスの腕を少し切り裂いただけで骨にまでは届かなかった。原因はアステリオスの耐久値の高さと今現在弱体化しているセイバー自身にあった。
 だがしかし、担いでいた2人の内に1人を救出する事には成功した。

 「あと1人――――っと!?」
 「図に乗るなッ!」

 助けた1人を壁にもたれ掛けさせて、さらにアステリオスに攻撃しようとした時に、後ろからアヴェンジャーの黒炎を咄嗟に躱す。
 アヴェンジャーは躱されても間髪入れずにセイバーに向けて黒炎を放っていくが、全て躱され切り払われて行く。

 「う、おぉおおぉおおおっ!!」
 「クッ!」

 さらには1人少女を奪い取られた事により、片腕が解放されたアステリオスが負わされた傷に構わず切り裂こうと、いつの間にか持っていた斧でセイバーに迫る。 
 それをすべて躱し、さらには少女を抱え上げて壁を伝い飛んで路地入り口近くまで跳ぼうとするが、アヴェンジャーの攻撃に阻まれて逆な更に奥に着地する事になった。

 (流石に状況的に不利か!)

 彼方は傷を負っているが実質2体1。
 しかもこちらは救出した1人の少女を担いでいるので、さらに不味い。
 こうなっては撤退する事も難しくなってきたが、そこに、アステリオスの背中に幾つもの剣が突き刺さった。

 「ぐっ!?」
 「剣!」
 「何!?」

 三者三様別々の反応をする間もなく、剣が爆発する。

 「ぐぉおおおおおおおぉおお!!?」

 背中に突き刺さっていたものだから、アステリオスは直撃を受ける。
 更に爆風により煙が立ち込めているこの時を狙い、セイバーは入り口近くに向かう。

 「行かせ、何っ!?」

 それを阻もうとアヴェンジャーがセイバーに攻撃しようとしたが、煙を突き払う幾つもの剣の切っ先に気付いた。

 「なっ、めるなッッ!!」

 それらを黒炎で燃やし尽くすが、セイバーの行動を逃してしまった。
 そして煙全体が晴れると、セイバーの横には赤髪の少年――――衛宮士郎がいた。

 「マスターの言っていたこの町の魔術師か!」
 「よくもアステリオスを・・・・・・許さないッ!」

 アステリオスを傷つけられた事により、全身を覆う様にヒカルの体から憤怒の焔が噴き出る。
 しかしそれをアヴェンジャーが止める。

 「待て、ヒカル。此処は引くぞ」
 「何でっ!?」
 「お前の力は有限だ。此処で見境なく力を使えば完遂できないぞ?」
 「でも・・・・・・でもっ!」
 「だが提案はしても決めるのはお前だ、どうす、っる!」
 
 アヴェンジャーがヒカルとアステリオスを庇う様に前に立って、黒炎で士郎達の攻撃を迎撃する。
 そして今の状況に対して、何とか自分を落ち着かせる。

 「――――判り・・・まし、た。引きましょう・・・」
 「よし」
 「逃がすとでも?ソードバレル、一斉掃射っ!!」
 「フン」

 アヴェンジャー達を逃がすまいと士郎が宙に投影して出現させた剣群を放つが、それらは目標に当たる事は無く、標的が士郎達の目の前で光に包まれると同時に消えて行った。

 「なっ!」
 「消えた!?」

 慌てて掃射した剣群を消す士郎。
 ホントに消えたのかと、その後暫く周囲を捜索するが、結局見つかる事は無かった。

 「・・・・・・・・・・・・」

 そして士郎達はもとより、アヴェンジャー達もついぞ最初から最後まで気づかなかった。
 この一幕を誰にも気づかれる事なく、ビルの上から見ていた赤い外套に身を包んだ暗殺者に。


 -Interlude-


 士郎達から逃げ遂せた1人と2体の居る拠点内では、セイバーに助けられる事叶わず激痛などと言う表現では生易しいと思えるほどの痛みに悲鳴を上げながらアステリオスに喰われていた。
 そしてそのアステリオスの傷をヒカルは癒すように擦る。

 「ごめんねアステリオス。痛いよね?痛かったよね?」

 そしてヒカルの体から、無意識に炎が幾つも灯っていく。

 「許せない・・・。赦せないユルセナイゆるせない・・・!」
 (始まったか)

 そのヒカルを見守るアヴェンジャーは、彼女の異変に動揺する事は無い。
 ヒカルが適応した憤怒の力は諸刃の剣。いずれこうなって行くのは始めから解っていた事。
 彼女の焔は何れ、自分自身も滅ぼす炎になるなる事だろうと。
 しかしそう考えていると、何かカチカチと音が聞こえて来る。
 しいて言うなら時計の針が進んでいく音だ。

 「何」

 疑問を持とうとする直前、音が止まると同時に容赦なく拠点である船全体が爆発の焔に包まれた。 

 

第18話 武神と軍神

 
前書き
 赤き外套を纏う暗殺者のオリジナル保有スキルです。
 火器精通。

 あと、聖杯の寵愛を勝手に改造しました。
 ご都合主義を通す為に。 

 
 時間を遡り、ヒカルの一行が拠点の船を出かけた所を見計らっていた赤き外套を纏う暗殺者は、躊躇なくに侵入して時限式の爆弾を仕掛けて行く。

 「これで最後だ」

 ヒカルたちの拠点はかなり頑丈な作りになっていて、そこらの小型爆弾ではびくともしないのだが、それを解決するにあたり暗殺者の固有スキルの一つが適している。
 火器精通。
 このスキルを持つものが生前扱った事がある火器が現代にて入手できれば、それをランクC以下の宝具として使用することが出来ると言うモノである。
 しかし宝具扱いともなれば魔力の件で魔術師に負担を掛ける事となるが、もう一つの保有スキルでそれも解決している。
 聖杯の寵愛。
 このスキルは他者の幸運を奪い、自分の幸運値を跳ね上げると言うモノだが、マスターがアラヤの抑止力では無く人間である場合に限り、さらに効果が加えられる。
 大気中に漂っているマナや地脈のマナを吸収して魔力と言う名の糧にすることが出来る。
 これにより、マスター無しでも二日三日持つと言われるアーチャーの単独行動スキル以上の単独行動を可能としている。クラススキルでも付属されている単独行動も合わさり、マスター無しで最長で半月も現界し続けられるのだ。
 ともあれ、作業を完了したのならば長居をする必要はない。
 直に撤収して対象を確認した後に、時限式爆弾を発動させるだけの事。
 そうして暗殺者は何時もの様に、狩りの準備を終えるのだった。


 -Interlude-


 時間を少し戻し、士郎を先に行かせた百代と言えば――――。

 「そんな思わせぶりな姿で来たかと思えば、逃げるだけか!」
 『攻撃を当てるのが下手な色ボケ武神にはその様にしか見えないだけだ』
 「言ってろッ!」

 現在攻めは百代、守りはラミーと言った戦況で、元いた所から移動しながら戦っていた。

 「躱すしか能がないのか!」
 『貴様こそ、先程から川神流特有の派手な技を封じての攻撃ばかりでらしくないな。何か事情でもあるのかな?あの武神とあろうものが』
 「ッ!」

 今いる住宅街で川神流の派手な技を使えば、周囲にどれだけの被害を齎すかなど容易に想像できた。
 それを出来れば見抜かれたくなかったのにと歯噛みする――――いや、だったらなんでさっきから避けてばかりなんだ?と百代が疑問に思っていると、漸く逃げに徹していたラミーの足が止まった。

 「ここは・・・」
 『人気も無く、住宅からも離れた場所だ。此処なら思い切り派手な技を使えるだろ?』
 「・・・・・・何のつもりだ?」
 『それは当然格上から格下相手への気遣いに決まっているだろ?私に手加減しても、当たる当たらない以前の問題になるだろうからな!』

 こと戦闘に関して自分の実力を知っている上でここまで見下される台詞など、百代は言われた事が無かった為についにキレた。
 心は冷めて冷酷に、激昂を力に変換して、それこそ敵を滅ぼす拳を振るいに行く。

 「川神流――――富士砕、きっ!?」

 百代の富士砕きは今までのどの富士砕きよりもフォームが美しく、力は一切の加減のない威力だった――――が、決まらずに百代は驚いた。
 正直認めたくないが、相手は今までにない強者だからこそ防がれる事もあるだろう。躱される事もあるだろう。だがこの怪人はあろう事か自分と同じ川神流(・・・・・)のそれも富士砕き(・・・・)で応戦せて来たのだ。

 「クッ!?」

 拳と拳が正面から衝突しあい、百代だけが衝撃に耐えきれず後退するも、瞬時に自分の体を止めて大技を打ち出す。

 「川神流――――」
 『フッ』
 「――――致死蛍っ!?」

 またも同じ川神流の技で正面衝突し、百代が後退する。

 「お、前っ!如何して川神流の技が使えるっ!!」
 『何の話だか?』
 「惚ける気か!」

 再び正拳の連打。
 その一発一発が大砲クラスであり、掠めただけでも大ダメージだが、ラミーはそれらすべてを一切無駄なく最小限の動きだけで躱し続ける。
 だがその連打は単なる囮。

 「ラァッ!」
 『ほぉ?』

 百代は正拳の連打を囮にして、その体勢から器用にラミーを蹴り上げる。
 しかしラミーも瞬時に蹴り上げに気付いて踏みつけるように蹴りを止めるが、百代は強引に力任せにそのままラミーを宙に打ち上げた。

 『ごり押しとは、武神の名に恥じる蹴りだな』
 「負け惜しみだな、コスプレ!川神流――――」

 いつの間にか溜めていた膨大な気、が光輝いたまま形となって百代の右手に収束されて、それを宙に投げ出されているラミーに撃ち放つ。

 「――――星殺しぃいいいいいいいぃいいいいっっ!!!」

 過去最大出力の極太ビーム(星殺し)は、ラミー目掛けて一直線に貫いて行く。
 だが――――。

 『こんなものか』
 「はぁああっ!?」

 ラミーは極太ビームを蹴りで、あさっての空へ打ち上げた。
 そのせいで積もっていた雲が霧散して晴れやかな空へと変わった。

 「クッソォオオオ!!」

 あれで決まったと思われた一撃を捌かれて悔しそうに吠えながら、百代は自分も宙に舞い上がりラミーにまた連打を繰り出していく。
 しかし宙だと言うのにラミーはそれを躱して行く。

 「何故攻撃してこない!」
 『だから手加減を・・・』
 「躱すしか能がないのかっ」
 『ふむ・・・・・・では、お言葉に甘えて』

 ラミーはマントの中から左手を徐に出して、掴むように手を曲げる形を取ったその時――――。

 (かかった!)
 「川神流、人間爆弾っ!!」

 挑発する前に仕込んでいた全身に張り巡らせた気を暴発させ、て自分もろとも超近距離にいる相手にダメージを与える諸刃の剣を放った。
 だが百代には瞬間回復が二八回まで使えるので、その内の一度目を使えば済む事。
 そうして即瞬間回復しようとした時に、煙の中から現れた左手が百代の首を掴んだ。

 『自爆ご苦労』
 「なっ!?無き、ぐぁああああ!!?」

 無傷どころかマントまで燃えずに現れたラミーに驚く暇も無く、浴びせられた紫色の電撃を全身に巡らせられるようにダメージを受ける。

 『フン』
 「がはっ!」

 まるでボロ雑巾のように地面に向けて投げ捨てられる百代だが、直に立ち上がろうとすると同時に瞬間回復を掛けようとするも発動しなかった。

 「なっ、何でぐはっ!?」

 また驚く暇も与えられず、上から着地したラミーの片足が百代の背中目掛けて叩き付けられたのである。

 「ぉ、前っ!」
 『まだ睨み付ける元気があるとはな。そのタフさだけは認めてやるが、それだけ、だっ』
 「ぐぁああああああああああ!!!」

 今度は足から百代に紫電を流す。
 瞬間回復していないでボロ雑巾状態の百代は、相当な激痛に意識を手放しかける。
 だがそこへ、士郎の呼んだ援軍が漸く到着した。

 「石蕗流、閃っ!」
 『おっと』

 和成がラミーの前に突然現れて、一文字切りをするも避けられる。
 不意打ちのお返しにと拳を叩き込もうとするが、その瞬間に体が動かなくなる。

 (これは結界。体を包んで身動きさせずらくしたか)
 「石蕗流、貫!」

 このタイミングを判っていたように、和成は刺突で結界ごとラミーを突き放つ。
 おかげでラミーは軽く吹き飛んでいったが、当然のようにきれいに着地する。

 「大丈夫か?百代嬢ちゃん!」
 「よ、しお・・・かさん・・・?」
 「俺を認識できてるな?よし、逃げるぞ――――って、逃がしてくれるわけ無ぇか」

 ぼろぼろの百代をお姫様抱っこ状態で担ぐ利信は、自分達を俯瞰するように見ているラミーを睨む。
 だが驚く事に、ラミーの言葉は利信の考えとは真逆だった。

 『構わんぞ?』
 「「何!?」」
 『時間も稼いだ。やりたい事もやれた。私としてはもう十分、そこの身の程知らずのボロ雑巾を見逃してもいい結果だと言ったんだ。が、その前に・・・』

 人差し指から僅かな紫電を百代に当てる。

 「がっ!?」
 「てめっ!」
 『別に止めを刺したわけじゃない。まあ、信じるか否かは任せるが』

 言いたい事は言い終えた様で、利信と和成の殺意の籠った眼光を黙殺した上で背を向ける。

 『ああ、それと。そこのボロ雑巾のためにと、けじめを付けさせると掛かってくるのなら構わんぞ?容赦なく嬲り殺してやろう』
 「クっ!」
 「・・・・・・・・・・・・」

 結局2人は、悪びれもせずに去って行く怪人の背を睨み付けることしか出来なかった。
 そして百代を抱えての藤村邸への帰還途中、七浜方面から爆発音を聞くのだった。


 -Interlude-


 冬馬達が帰った夕方頃、藤村邸ではお馴染の幹部の面々にサーヴァント2体にスカサハと士郎、そして連絡を聞いてきた鉄心が人払いをした部屋で緊急会議をしていた。

 「まさかモモがあそこまで痛みつけられるとはのぉ」
 「すみません。俺の判断ミスです。俺が居れば百代をあんなに酷い目に合わせる事なんて無かったのに・・・・・・」
 「そ」
 「それは驕りだぞ、士郎。お前が残っていようと百代ちゃんが今の結果に辿り着かなかったと言う保証はないんじゃ・・・・・・・・・ん?如何した、鉄?」
 「何でもないわい」

 鉄心の言いたい事を雷画が取ってしまった格好となり、軽く拗ねる。

 「それに加えて、お前が居ても同じ結果になっていたかもしれんぞ?」
 「理由を聞いても・・・?」
 「お前たちが遭遇した相手が軍神だと言う可能性が高いからじゃ」
 「なっ!あれがっ!?」
 「手を抜いた上で百代ちゃんを圧倒できる実力に加えて、紫色の仮面に鎧にトドメは紫電を操ると言うなら、まず間違いなくの」

 話の内容についていけないエジソンとシーマは、スカサハの説明を聞いている。
 鍛錬マニアにしてバトルジャンキーの毛があるからなのか、スカサハは士郎の知らない内に知っていた様だ。

 「何でそんな超大物がこの町に居るんだ!しかもあのタイミングで立ちはだかるなんてっ!」
 「それは判らぬが、今回の騒動を起こしている者達と繋がっている可能性が高いじゃろうな。それで和成、調べはついたのか?」
 「はい。シーマ殿が救出した少女の証言などの裏を取った結果、今回少女達を襲撃している天音ヒカルは操られているワケでは無く、自分の意思で動いていると思われます。動機については苛められたことによる復讐だと思われます」
 「復讐・・・」

 この町に騒動を起こしている主犯たちであるとは言え、復讐と言う犯行理由を聞いてしまえば思わずやるせない気持ちが湧き上がってくるのを感じる。
 特に士郎とシーマは中でも飛びぬけている。表情を露骨に顰めているのが良い証拠と言えた。

 「それにしてもその少女、報告書で見る限り魔術師でもないのにどのようにしてサーヴァントを現界し続けられておるのかな?」

 報告書を手に取っているエジソンが質問をする。
 2体のサーヴァントの内の1体の真名については、既に少女自身が漏らしたことにより判別されており、アステリオスと聞いた時戦々恐々としたが逆に肝が据わったのだ。
 その為、エジソンが質問として聞くのが代わりとしてのそれに過ぎなかった。

 「それは当然自分の魂魄のエネルギーと標的の少女達でしょう。前者については我々も知らない何かしらの方法で、現界維持を保てる術式を使っているのでしょうが」
 「そうだとしてもこの少女の苦痛は尋常では無いのでは?到底ただの一般人だった少女が決断できるものでは無いように思えるがね?」
 「それを彼女から“先生”と呼ばれており、シーマから報告に上がったもう1体のサーヴァントが誑かしたか何かしたんだろう。恐らく復讐心を餌に・・・」
 「ド外道めっ・・・!!」
 「下種がっ・・・!!」

 矢張り露骨に顔を顰めて怒りに打ち震えるのは士郎とシーマの2人だ。
 衛宮士郎(お人好しの塊)シーマ(正義感の塊)であるならば当然の反応と言えた。

 「そ奴は矢張り、街全体が眠った夜に士郎とやりあったキャスターと思しきサーヴァントの仲間と思うか?」
 「推測でしかありませんがそうなのでしょう。そして問題は彼らの目的です。彼らが何を目的としてこの町に来ているのか、今のところ推測も立てられませんので。――――まさか本当に少女の復讐の支援が目的とは思えませんしね」
 「ふむ。それで奴らの拠点は何所にあるか掴めたか?」
 「申し訳ないのですが、それはまだです」

 いったい彼らは今どこに居るのか、それさえ知ることが出来れば仕掛けようもある所なのだがと言うのがほぼ全員の共通認識だった。

 「ところで百代の容態は如何なんですか?瞬間回復できずにボロボロだったそうですが・・・」
 「安心せい。いざ百代が暴走した時に封じ込める極技に龍封穴と言うのがあるんじゃが、それを解く時の技の応用で何とかなったわい」
 「そうですか・・・」

 士郎は龍封穴について特に聞こうとしなかった。川神院の事情を察したまでだ。
 そして鉄心は士郎に説明し終えてからも、胸中は困惑で埋まっていた。

 (応用などと説明したが、効果だけなら間違いなく百代に掛けられていた技は龍封穴そのもの。じゃが龍封穴は、儂等川神一族や歴代の師範代クラス以上の者達しか知られていない程の秘中の秘。それを何故軍神は使えたんじゃ?)

 その理由の真実は恐らく仮面の奥に隠されていると思うと、不気味過ぎて仕方なく思えるのだった。

 -Interlude-


 ほぼ同時刻。
 モロは丸一日かけてヒカルを探していたが、結局手がかり一つ掴めずの帰宅途中だった。

 「天谷さん・・・何所に行ったんだろう」

 もう正直自分1人の力じゃ限界もあるし、彼女の病状も考えれば一刻を争う。

 「・・・決めた。こんな時間だけど風間ファミリー(みんな)に相談しよう・・・・・・?」

 そこで踵を返して島津寮へ行こうと、移動方向を変えようとしたところで橋の下の川辺に誰かが倒れているのを視界に収めた。

 「誰だろう・・・・・・・・・って、アレはまさか!?」

 病衣に黒髪の特徴にピンと着たモロは、急いで駆け寄る。
 そしてやはり――――。

 「天谷さん!?」

 探していた行方不明の少女で、気絶している天谷ヒカルを偶然にも遂に見つけるのだった。


 -Interlude-


 日も暮れた頃。
 ある郊外の崖付近にラミーとはまた別の怪人が来ていた。

 「この周辺の“救済”はあらかた終えたと言うのに、また来る事になろうとはな」

 それは頭の先からつま先まで黒一色の衣服を身に纏ったコズモルインの首領、黒子であった。

 「歯がゆいな。そこに救うべき対象がいると知り得ながら手が出せないとは」

 この怪人は衛宮邸の方角へ向いていた。
 だが今回彼が来た目的はスカサハでは無い。

 「憂鬱だな。何故救い求めぬ者を手にかけなければならんのだ」

 トワイスの命令により、全世界でもトップクラスのイレギュラーが予定よりも早く、そして再び川神の地に降り立つのだった。 
 

 
後書き
 今思えば、性格上シーマが士郎に召喚されても不思議は無かった。
 2人とも正義感強いですからね(正確には士郎は少し違うけど) 

 

第19話 復讐の途上で

 「大したもの無いけど、ハイお茶」
 「う、うん。ありがとう・・・」

 モロの家の彼の自室でお茶を受け取ったヒカルは非常に居心地が悪かった。
 目覚めた直後に師岡君が居た事や、彼に何か聞かれるのではないかと言うモノだ。
 しかし――――。

 「なにも聞かないよ」
 「え?」
 「聞かれたくない事があるんでしょ?だから言いたくなってからでいいよ」
 「う、うん・・・」

 気遣われるヒカルだが、それはそれで問題があった。

 「っ・・・・・・」

 体から溢れそうになる憤怒と言う名の焔を必死に抑え込む。
 静かにしていると、自分達を襲撃した赤い外套の暗殺者への怒りを抑えられなくなる。
 ヒカルが憶えているのは自分を庇って代わりに火傷を負ったアステリオスに、燃え盛る船上から辛くも脱出した直後に襲撃に遭い、足止めにアヴェンジャー(先生)が残ったぐらいだ。

 (許せない、ユルセナイ・・・・・・けどっ!師岡君の家を焼き払う訳にはいかない・・・)
 (・・・・・・・・・・・・)

 モロに気付かれないようにしながら自分の中の憤怒と葛藤をしているヒカルを、アステリオスは霊体化のまま見守りながら此処までの事を思い出す。
 アステリオスはヒカルを庇い逃げた後、気絶したヒカルが溺れないように自分の頭の上に置き、足が付く川底の浅い川を下った。
 そうして野生の直感で人気のなさそうな橋の下に寝かしてから間もないころに、ヒカルを優しく気遣っている少年が保護したと言う事だ。
 最初は、もしおかしな真似をしようと言う動きが有れば、即座に首をひねり千切ってやろうと考えていたアステリオスだったが、それも杞憂に終わった。
 後は再びあヴぇんじゃーと合流できれば、またヒカルの復讐が始まられる。
 しかし赤い外套の暗殺者は、本人たちに気付かれずに外からの既に潜んでいた。

 「・・・・・・・・・・・・」

 だが奇妙なモノである。
 本人曰く――――『今回も今までと同じ汚れ仕事』の筈だ。
 であるならば、躊躇う必要など無く、家一件丸ごと爆破して再び獲物を弱めて行けばいいのだ。
 しかし行動を起こさない代わりに、自嘲と取れる言葉が聞こえて来る。

 「僕もマスター()の事は言えないどころか、それ以上に温いな」

 暗殺者が師岡宅に対して監視で留めているのは、狩りの工程には不必要な私情である。
 別に家の住人を巻き込みたくないと言う気持ちでは無く、彼の友人にはこの現代において武神と呼ばれる少女がいる事は調べが付いていた。
 だがその武神の報復を恐れているワケでもない。
 その武神と呼ばれる少女には多くの友人がいるが、その内の1人である同い年の赤銅色の髪をした少年に対する複雑な思いである。
 この暗殺者は生前、炎に埋もれた街の中で1人の子供を拾って自分の養子とした。
 そしてある夜に魔がさした程度の漏らした言葉で、その養子の少年の運命を決定づけてしまったのだ。
 しかも、死後である守護者としての汚れ仕事の中で、自分の生まれた世界に派遣された時に偶然知ってしまったのだ。自分の成し得なかった夢を引き継ぎ、至って見せると誓った養子の少年の無残な果てを――――。
 今も直、守護者として汚れ仕事をし続けている事には、一分の後悔も無い。
 しかし生前の義理の息子を、あの結果に行きつくきっかけを作った事に対する後悔は、今も直、自分を苛んでいる自覚があった。
 だがそれならば、自分の生前の義理の息子は既に故人の為、この世界の同姓同名でほぼ同じ顔の少年には何の義理も義務も無い――――筈なのだが、否が応でも被せてしまうのだ。
 だから行き着く可能性のあるこの家の住人には手が出せない。
 いや、もしかすれば、此処で明確に敵だと認識される事になれば或いは――――。

 「・・・・・・・・・駄目だな。この事が今後、動きやすく成れるかどうかも冷静に考えられない」

 と言う事で、矢張り仕方なく監視を続けるにとどめる暗殺者。
 それに――――。

 「――――復讐と言う奴はそう簡単に消せる感情では無いからな。それほど待たずに彼方から出てくれるだろう」

 らしくなく、希望的観測に基づいた方針で行くことにするのだった。


 -Interlude-


 藤村組は騒動を起こしている者達の標的を知った途端、行動が早かった。
 人間離れした嗅覚により、今回標的たちが狙われる原因となったいじめに関する状況証拠から物的証拠までを、悉く集めて行った。
 そして、裏社会にも精通していて魔術などにも知り得ている(相応の地位に居る)警察と共に標的たちの家に赴いて、平和的交渉の下、標的の少年少女たち全員を一か所に保護することが出来た。
 しかも証拠集めから此処までかかった時間は、たったの3時間。
 異常であるが、藤村組の猛者たちの非常識ぶりは今更なので、これ以上は割愛させて頂く。
 これで迎え撃つ準備は万端ではあるが、問題なのは襲撃者一行の居場所が分からない事にあった。
 そもそも居場所が分かればこんな回りくどい事をせずにも済むのだ。
 しかし判らないからと言って手をこまねいている訳にもいかないので、噂を立てる事にした。
 勿論藤村組にも警察にも当り障りは無いと言う条件での内容だ。
 そしてその噂を立てる役として起用されたのが――――。

 「いやー!藤村組の若旦那に贔屓にしてもらえるとは助かります!」
 「若旦那呼ばわりは止してください、宇佐美先生。あと胡麻摺っても意味ないでしょう」
 「いえ、これは代行業の時の親父スタンダードなんで、気にしないで下さい」

 『いざとなれば合コンの数合わせから、ストーカーや浮気の調査まで御引き受け致します!』をキャッチコピーにしている、川神学園2-Sの担任の反面教師が社長の宇佐美代行センターである。

 「久々に使うから忘れてただけだが、相変わらずだな」
 「そう言えば学校でもそれほど顔を合わせる機会も無いですから、確かに久しぶりっすね」

 士郎と忠勝では、年も違えば放課後の活動領域も違う。
 たまに藤村組のパトロール時に出くわす可能性があるぐらいの遭遇率の低さであった。

 「挨拶はこの辺にしよう。すでに簡単に話を聞いていると思うが噂を流してもらいたい。場所は此処の親不孝通りと、後4か所だな。理由については・・・」
 「勿論聞きませんよ。知らない方が良い事もあるのは私らも解っていますんで!」
 「助かります」

 一見軽薄そうな発言だが、痛い痛くない腹の探り合いはお互いにとっても害は出来ても利には成り得ない。
 説明を終えた士郎は、2人の下から去って行く。
 自分たちの元から去って行く宇佐美巨人は、感慨深く溜息を吐く。

 「ったく、川神周辺はホント化け物ばかりだぜ。あれでまだ高三だってんだから詐欺レベルだぞ?あんな貫禄、18で出せるもんじゃねぇ」
 「んな事言ったら、九鬼財閥なんてシャレにならねぇじゃねえかよ?親父」
 「バーカ、九鬼を持ちだしたらそれこそ、どこの学生だろうと有象無象だろうが・・・・・・アイツ以外は、な」

 最早夜闇で輪郭しか見えなくなった士郎の背中に何とも言えぬ眼を向ける。

 「衛宮先輩の事は俺も凄えと思うが、親父がそこまで人を褒めるなんて珍しいな?」
 「そりゃそうだろ。10年以上前の歳で地獄を体験してんのに、あんなまっとうな性格してんだ。そりゃ褒め言葉の一つも出るわな」
 「地獄?」

 宇佐美のさらっと言った言葉に思わず反応する忠勝は、思わず聞き返してしまう。
 しかし宇佐美は意識して言った訳では無いようで、失言だと感じた。

 「おっと悪いな。今のは聞かなかった事にしてくれ。まあ、それでも聞きたいなら藤村組の会長(社会的体面上での呼び名)か衛宮本人に・・・・・・」
 「そこまでして聞きたいと思うほど、悪趣味でも物好きでもねぇよ」
 「言い考え方だぜ、忠勝。この商売、深入りしすぎても碌な事にならねぇからな」
 「その辺も含めて親父が叩き込んでくれたんじゃねぇか」

 と言う何時もの会話を続けながら、早速依頼された仕事に取り掛かるのだった。


 -Interlude-


 「――――と言う事で報告は以上です。英雄様」

 此処は九鬼財閥極東本部の幾つかある会議室の一つ。
 そこにはクラウディオと李の平穏師弟コンビが、英雄に近くの海辺での爆発の調査について報告し終えていた。

 「うむ。だが監視衛星に引っかかっていなかったと言う事はステルスだろうが、そんなものはそこらの富裕層でもそうたやすく所持しているとは考えにくいが・・・・・・ドイツ軍か?」

 英雄に疑われても仕方ない事をドイツ軍――――と言うか、フランク・フリードリヒの下の部隊はしているのだ。
 親馬鹿が行き過ぎて、クリスの護衛に一番頼りになる部下を隣のクラスに留学させるなどしているのだ。
 だがそれ以上に、その部下を留学させるときには多くの他の部下を学園の周りに待機させた挙句、上空にはステルス機まで持ち出したのだ。
 その常軌を逸した行動が在っては英雄の疑問も当然であった。
 しかし――――。

 「その可能性もあるだろうと既にフリードリヒ中将に連絡を取りましたが、あちらでは無いようです。ただ・・・」
 「ん?」
 「この件とは関係ないと思いますが、今現在川神に駐屯しているドイツの猟犬部隊のマルギッテ少尉を始めとする数人が、冬木の藤村組に向かっていると別の報告で上がっています」

 言外に対応を求められている英雄だが、現在の藤村組に対する方針は決まっている。

 「藤村組からの連絡が無い限り、九鬼は冬木市に対して不干渉を貫く。その方針に今も変わりはないだが――――大勢の民に被害が起きればその限りでは無いと、伝えておいてくれ」
 「承知いたしました」
 「失礼いたします、英雄様」

 2人が会議室から出た直後、一気に不景気そうな顔をする英雄。
 英雄にも解っているのだ。最近の不可思議で説明不能な事件や事故。そして今も周辺で漂う不気味な雰囲気。
 故に祈る。神に?否!英雄が祈りを向けるのは、人目を盗んで時々屋上で昼食を共にする歳一つ上の友である、衛宮士郎にだ。

 「信じているぞ、士郎。お前ならこの事態を何とかしてくれると・・・!」

 それまでの不景気な表情を一転して、何時もの自信に満ちた顔に戻る。
 それは士郎への信頼の証でもあった。


 -Interlude-


 藤村組はこの事態において、士郎達3人は当然敵の一行を向かい打つべく標的を集めた別の場所に出向いており、これをクリアしない限り学園を休むつもりだ。
 スカサハは戦闘できるエリアが限られている為、必然的に衛宮邸で結界感知に集中している。
 そして魔術を知り得ている利信と和成の2人は、東と西に分かれて柔軟に対応できるように配置についていた。
 そんな緊迫感漂い他に構っている心の暇など無いと言うのに、藤村組の本邸にはアポなしの客が来ていた。

 (何なのでしょうか。この殺気じみた空気は・・・)

 クリス護衛のために駐屯している猟犬部隊の内、隊長であるマルギッテ以下5人(門前に5人の計11人)と客間で待っていた。

 (何はともあれ会ってくれそうですが、一体どのような反応をするか予測が付きませんね)
 
 マルギッテが藤村邸を訪れたのは、夕方頃にフランク中将からの連絡を受けての事だった。
 衛宮士郎の内定調査を有給を使って勝手にしに来た、フィーネとリザとの定期連絡が途絶えたと、テルマたちが白状したのだ。
 因みに内定調査の発案者はフィーネである事も解った。あくまでもリザやテルマや、他の猟犬部隊の不満を抑えるための措置だったことも吐いたのだ。

 (あの2人が遅れを取るとは余程の事なのでしょうが、今回の件の元々の発端は私にもありますからあまり攻められませんが・・・。下手を打てばクリスお嬢様の護衛を継続できなくなる可能性がありますね)

 そんな危惧を抱き始めた時に、丁度扉が開いて誰も伴わずに雷画だけが入って来た。

 「すまんの、待たせてしまって」
 「いえ、此方も事前に連絡も無しに押し掛けたも同然でしたので」
 「まあ、そうじゃの。しかもこんな夜分遅くの時間に来るのも非常識じゃしの」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「「っ!」」

 歯に着せぬ雷画の嫌味にマルギッテは黙って耐えるが、共に居る部下の内の2人は思わず雷画を睨み付ける。

 「何じゃその眼は?それが礼を軽んじて来た者達の態度か?駒の躾が成っておらんな」
 「弁えなさい、お前達。部下が失礼しました」
 「今のは独り言じゃぞ?此処にはおらぬフランク・フリードリヒに向けての。それに儂が言っておるのはお主自身の事も含めてじゃからの?マルギッテ・エーベルバッハ」
 「・・・・・・そちらの件につきましては本当に申し訳ありませんでした」

 蒸し返された事にもめげず、只々頭を下げ続ける。
 この訪問の件は部下のしりぬぐいも同然で、クリスの護衛についても関わる重大事項である為に、何時もの態度を控え続けていく。
 そのマルギッテの態度に自分達の立場を認識させた事を確認した雷画は、取りあえずこの件はもうやめる。

 「ふぅ。それで今晩はなに用じゃ?」
 「それは、その・・・・・・」

 確かな理由をあって来たのだが、どう切り出そうか迷うマルギッテに対して雷画が先制口撃を仕掛ける。

 「フィーネ・ベルクマンとリザ・ブリンカーの安否であれば、士郎の家で保護しとるぞ」
 「っ!?」
 「「「「「ッッッ!!」」」」」

 まさかの爆弾発言に、6人とも驚きを隠せずにいた。
 しかし彼女たちの驚き様に雷画は一切頓着せずに続ける。

 「お前さんたちの用があの娘達だと言うのは把握しておるわい。じゃが、彼女たちを今すぐお主らの下に返す事は出来ん」
 「「「ッ!!」」」
 「「何をっ!?」」
 「理由をお伺いしても?」

 雷画のさらなるトンでも発言に、流石に何人か反論しようとしたところをマルギッテが手で制してから尋ねた。

 「あの娘っ子たちが重大機密を知ったからじゃ。お前さんたちの軍とて、重大機密を知る必要の無い者が偶然知ったと判って、それを放置するか?」
 「・・・・・・確かに拘束しますね。ですが、だからと言って我々も引き下がれないのです」
 「それは此方も承知しておる。それでも引き渡せぬ理由があっての、儂等の与り知らぬところで記憶喪失になってしまったんじゃよ」
 「「「「「「記憶喪失っ!!?」」」」」」

 正直予想外の展開だと考えるマルギッテ。
 そして隊長以上に戸惑う猟犬部隊の面々。

 「・・・・・・対処はどの様にして戴けたのでしょうか?」
 「医者に見せたが、心因性の記憶喪失らしいのぉ。じゃからの何時までかかるか分からん故、お前達のフランク・フリードリヒ(主人)を呼べ。それで初めてあの2人の処遇について進展させられるからの」

 これほどの問題があるとは予想外だったので、マルギッテは即断できずに迷っていると、後ろから勢いよく立ち上がる音が2人分聞こえて来た。

 「下手に出てればベラベラと!」
 「我らはドイツ軍が誇る精鋭の猟犬部隊だぞっ!それに対して部を弁えないなど恥を知れッッ!!」

 マルギッテが連れてきた5人の内の2人――――アイザとリアンは、猟犬部隊の士官学校での通常組の中でマルギッテとフィーネとリザの3人を除けば最上位を争う手練れの精鋭軍人である。
 その為、猟犬部隊最高メンバーを分散させなければならない時に、彼女たちは一番負荷の重い任務を任されたメンバーの補佐に着く事が常であり、今回もそれが理由で連れて来たのだが、いかんせん猟犬部隊を愛し自分たちの目標位置であるフィーネに心酔しすぎているきらいがあるために、現在の用に沸点が超えてしまったのだ。

 「アイザ、リアン、やめなさ――――」
 「粋がるなよ?小童どもが」
 「っ!?」
 「「ひぃっっ!!??」」

 口が過ぎる2人の態度に、雷画が部屋の中を無差別に殺気を放つ。
 所定位置から一歩も動かずにいた3人は何とか防ぎ、一番前に居たマルギッテもなんとか耐え凌いだが、前面に出ていたアイザとリアンの2人は対ショックの構えをしていなかったので、一瞬にして態度をがらりと変えて顔を引きつらせて心が恐怖に染まった。

 「ションベン臭い生娘どもが、図に乗るな・・・!!今この場で縊り殺すなぞ訳は無いの――――」

 改めて立場の違いを理解させるため、殺気を放ち続ける。
 しかし雷画は言葉や態度とは裏腹に、内心では何所までも冷静だった。
 だからこそ気付けたのか、限られたものにしか聞こえない衛宮邸からの探知結界の音に。

 「何」
 「すみませんが連絡は後日!」
 「あっ、これ!」

 今この場に留まり続けるのは得策では無いと判断した猟犬部隊の6人は、一瞬の隙を突いて部屋から戦略的撤退をした。

 「ええいっ!」

 即座に捕えようとしたが、今は衛宮邸からの警報音の原因の究明が優先事項だと理解して、雷画は衛宮邸に通じる廊下へ急ぐのだった。 
 

 
後書き
 決戦前の話が想定していたモノより長くなりそうなので分けます。
 更新できなかったのは別にサボっていた訳では無く、仕事に年末年始の準備などで忙しかったからです。
 おかげで最終決戦のどれも、数回参加しただけで終わっていく。
 フラウロスとハルファスに至っては、トドメの1回しか出来ませんでした。
 そう言えば魔神柱と連続で戦ってたら今頃気付いたんですけど、魔神柱の声優さん、準の声優さんじゃないでしょうかね? 

 

第20話 復讐は止められない

 時間をほんの少し遡る。
 猟犬部隊の装備開発による技術力は目覚ましいものがある。
 たとえ藤村雷画であろうとも、盗聴器を仲間の隊員に内緒で仕掛けても気づけないほどの物だ――――の筈だ。

 (おかしい・・・。最新式の超小型盗聴器(アレ)は私が造った筈なのに、どうも記憶があやふやだ)

 その盗聴器を一から作ったにも拘らず、その自信が持てずにいた装備開発兼諜報員のアルマだったが、そんな心配をしている暇が途端に無くなった。

 (リザさんと副長があの家に!?なら話は簡単だ)
 「聞こえていたな?」
 「勿論、御2人を助けましょう!」

 後先の事も考えずに衛宮邸に侵入する4人。
 勿論探知結界に気付いていなかったが、幸いな事にスカサハは今現在は藤村邸にて結界感知に集中しているので、音が聞こえていても他者に任せる態勢をとっていた。
 それに警報音には二種類あり、侵入者に対しての魔力の有無により分けられているのだ。
 そして彼女達は一切魔力など無かったのも幸いしたと言えよう。
 勿論そんな事は知らずに行動する4人は、気配探知でリザとフィーネを早速見つけ出す。

 「見つけた!」
 「居場所が地味に離れているから二手に分かれましょう」
 「「「了解!」」」

 言葉通り、二手に分かれての救出作戦(独断)が始まった。


 -Interlude-


 丸一日で百代が目覚めると言う鉄心の予想はハッキリ言って非常識だ。
 外部からの治癒があったとしても最低7日は掛かる。
 しかし百代はその鉄心の非常識さを遥かに超えていた。

 「此処は・・・・・・士郎の家か・・・?」

 百代は半日と掛からず目覚めてしまった。
 意識はあるが、まだ半覚醒状態。

 「くっ!?・・・痛い。・・・・・・そうか。私は・・・負け、たの・・・か・・・・・・ッッ!」

 負けた時の事。最早まるで興味なく、あっさり見逃された事を明確に思い出して行き、悔しそうに顔を歪める。
 自分は常に強者だった。自分に勝てるものなど周りに居なくなって、寧ろ自分を負かしうる可能性を探している内に、一年前ぐらいから鍛錬も最低限しかやらなくなっていた。
 しかしここ最近は士郎と鍛錬及び組手をするうちに、強くなる楽しみが戻って来ていた。
 けれど、それがこのザマ。
 これが悔しくて何なのか――――と慚愧の念に駆られている時に、隣の部屋から物音と誰かの声が聞こえて来る。
 僅かな興味心に駆られて襖の隙間から覗くと、ティーネが誰かと言い争ってるではないか。

 「誰だお前ら!」

 これでも『誠』を好きな漢字と自称しているだけあって、百代は正義感に駆られて止めに入った。

 「川神百代!?」
 「何で災害認定が此処に居る!?」
 「誰が災害だっ!」
 「詮索は後だ。私が足止めするから、副長を頼む!」
 「すまない!」

 抵抗するティーネをあっという間に拘束した1人は、即座に部屋から出て行く。

 「あっ、待て!」
 「行かせる――――」
 「邪魔するな!」
 「ガッ!?」

 ティーネを助けるべく動く百代は、襲撃者の足止め役を一撃で沈めてから即座に追いかけると、そこは庭であり、自分が追いかけていた1人以外にもう2人いた。しかもそのうち1人はリズを拘束して抱えていた。

 「お」
 「貴様ら・・・っ!!」

 そこへ藤村邸側の塀を飛び越えて、百代に遅れて来たのは雷画だった。

 「雷画さん!?」
 「百代嬢ちゃん!?もう目覚めたんか!」

 流石に百代が目覚めていたのは予想外だったのか、その隙をついて2人を拘束している襲撃者の2人は逃げて行った。

 「「あっ!?」」
 「行」
 「!!」
 「あぶぷぶぷ!?」

 先の百代と同じく足止めに残った襲撃者Cが、雷画の本気の殺気を浴びただけで泡を吹いて気絶した。

 「雷画さん、私が追います!」
 「待て百代嬢ち」
 『取り込み中悪いが、士郎達の所に例の自動人形の軍勢が現れた様だぞ?』

 百代の制止を掛けようとした雷画だったが、嫌なタイミングでのスカサハからの念話が頭に響いた。

 「次から次へとッ!!」

 先程から逃げられてばかりの雷画は、虚空に向けて吐き捨てた。


 -Interlude-


 また少し時間を遡る。
 アヴェンジャーは襲撃者を巻いてから、ヒカルを探して川周辺に居た。

 「チッ、念話さえ通じれば・・・!」

 天を忌々しく見上げるアヴェンジャーの視線の先には、スカサハの結界があった。
 英霊になってから多少の魔術を使えるようになっているアヴェンジャーは、今念話が使えないのは街を覆う結界が原因だと理解することが出来ていた。
 勿論自分の宝具を使えば、燃え盛る拠点を脱出した時と同じようにこの結界外へ出られるが、それでも念話が通じることを意味しない事は理解していた。
 しかも皮肉な事に、憤怒の力をヒカルが必死に抑えているので、それを当てに探す事も出来なくなっていた。

 「こうなれば、結界を張っている術者を探し出すしかほかに手は――――」
 『――――ご安心を。ヒカルたち(アレ等)の所在地については調べが付いていますので』

 無様に焦っているアヴェンジャーを嘲笑う様なタイミングで、ライダーの顔が移った通信映像が彼の前に現れた。
 しかし嘲笑っているとは思えぬライダーの顔を見たアヴェンジャーは、逆に苛立つ。

 「ずいぶんと手回しが速い様だが、援軍とやらは如何した?」
 『ちゃんと来てますよ?ただし、貴方方と合流するかどうかの判断は任せましたが』
 「貴様っ!」
 『何をその様に、いきり立つのですか?』
 「いけしゃあしゃあと、よくぞほざけたものだな・・・!しかもヒカル達をアレ(・・)呼ばわりだと?食いちぎられたいのか・・・ッッ!?」

 何所までも冷静に対応するライダーに対して、アヴェンジャーは嫌悪むき出しにしている。
 そのアヴェンジャーにライダーは嘆息する。

 『以前から思っていましたが、貴方は余分が過ぎるのではありませんか?』
 「何だと?」
 『今までもそうでしたが、今回の事だけでも言えば彼女から憤怒の力と適合した血液の採取と言う目的は完遂した筈です。であれば、彼女たちの結末がどうなろうとあなた方の組織(我々)がこれ以上関わり続けるメリットなど無いように思えるのですが、私の考えは何か間違っていますか?』
 「・・・・・・・・・・・・」
 『その無言はそれでも関わり通すと言う事ですか?』

 ヤレヤレと、態と肩を竦めるライダー。

 「理解したのなら早くヒカル達の居場所を教えろ」
 『・・・・・・そこから二キロ離れた地点の一般市民の住宅に匿われていますよ。如何やら彼女の元々の知り合いの用ですね。匿った住人は』
 「ほぉ」

 拠点は失ったがまだ運が尽きたわけでは無いと再確認したアヴェンジャーだったが、改めて拠点を用意させるように促そうとした時、ライダーが先に口を開く。

 『ただ家の外には、赤い外套の暗殺者が潜んでいるようですね』
 「それを先に言えっ!」

 それほどに重要な問題だったので、アヴェンジャーはライダーの通信画面に対して黒炎を当てて掻き消すように怒りをぶつけて、そのままヒカルの下へ急いだ。
 それを、八つ当たり同然に黒炎を放たれた映像通信の向こう側に居るライダーが深い溜息をつく。

 「復讐者(アヴェンジャー)と言うのはどのクラスよりも余分が過ぎる。価値観が合わない者と行動するのは苦痛の極み。そうは思いませんか?アサシン」

 丁度タイミングよく現れたアサシンと呼ばれた黒子は、何時も通り興味なく返す。

 「その質問を私(仮称)にすこと自体が余分ではないのか?」
 「これは失礼しました」

 表情を見えない相手に恭しく謝罪するライダー。
 このライダーをよく知る相手が見れば、今の謝罪は確実に相手を小馬鹿にしているモノだが、黒子はまるで気にしない。

 「テロリストに協力・・・・・・か」
 「彼に報告しますか?」
 「特に必要に感じない。お前がどれだけ疑われようと貢献しようと、懐を許す程の信頼は絶対に得られる事は無い」
 「ですが修復不可能になれば私の立場も流石に――――」
 「そもそもお前は誰にも信用されていない。そして信用を特別欲していないだろ?」

 黒子はライダーの顔を一切見ずに話している。

 「そんな事はありませんよ。少なくとも―――――の“王”からの信頼は一定値以上はキープしないといけませんからね。貴方もそうでしょう?アサシン」
 「それも必要に感じない。“ヤツ”が何時動こう(・・・・・)が私には関係のない話しだ」
 「なるほど。貴方らしい感想ですね。――――ところで、指令の少女の居場所なら判りますがお教えして差し上げましょうか?」
 「それこそ必要に感じない。確かに指令が下されたので来はしたが、あくまでも私(仮称)は保険に過ぎない。令呪で強制されているワケでもないのでな。それに少女自身が心から望むなら(・・・・・・・)、例え地球の裏側に居ようと見つけ出すことが出来る」
 「フフ、そうでしたね」

 黒子の話に相づちを打ちながらライダーは、あの街を眠らせた時に出現させた自動人形(オートマタ)の軍勢を士郎達が待ち構えている場所に出現させた。

 「報告しないと判ったら開き直るとはな」
 「何か問題が?」
 「問題は無いが他で騒ぎを起こして、眼を向けさせないようにする必要はあるだろう」

 黒子は街に右腕を向ける。

 「その状態からでも出来るのですか?」
 「これだけはな」

 アサシンの第一宝具。
 静寂よ此処に(ヒュプノス)
 ランク:C++、対人・対軍宝具、レンジ:1~50、最大補足100。
 対象を一時的にアサシン自身が決めた一定時間の間、強制的に眠らせるだけ。
 ただし、ランク:B以上の対魔力があれば防げる上、ランク:B以上の魔術や気を操る壁越えレベルの武術家であれば、外部から起こす事が可能。

 掌から眠りの神秘を地上の何処かに打ち放つ。
 それをランダムに何度も繰り返して行くと、直に放たれた地点で大なり小なりの混乱と騒ぎが起きる。

 「助かります」
 「それ以前にお前のオートマタを各地に配置すればいいのではないか?」
 「その場合、ステルスを解除しなければならないのですよ。それに破壊されれば、効果も消えますからね」
 「あとは高みの見物か?」
 「ええ、私自身が前線に出る必要はないでしょう」

 そのまま2体はアクションを起こそうとはしなかった。


 -Interlude-


 ヒカルはモロが洗面所に行くことを確認してから、外に出ようとする。
 これ以上長居しても迷惑を掛けるだけだからだ。

 「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 何とか憤怒の力を最後まで抑えきって外に出る事が出来たヒカル。
 しかし――――。

 「ひかるっ!」
 「ぇ・・・」
 「チッ」

 今のは偶然だった。
 アステリオスはヒカルよりも先に出ており、モロの家に向けてお辞儀をしようと振り向いた先にヒカルの背後から赤い外套者が彼女目掛けてナイフを振り降ろそうとしている光景を視界に入れることが出来た。
 アステリオスは即座に霊体化を解き、片方のラブリュスを力任せに暗殺者目掛けて横薙ぎした。
 暗殺者は偶然という不運に舌打ちをしつつ、バックステップでラブリュスを躱しながら銃弾の嵐をかます。

 「ウォオオオオ!!」

 アステリオスは躊躇なくヒカルの前に出て、銃弾を防ぐ盾となる。
 いくら宝具扱いとなった銃でも、神秘も低い上にアステリオス自身の耐久値も高いので、小石の雨をぶつけられているのと変わらない。
 勿論それは撃ち続けている暗殺者も解っている。
 暗殺者の狙いは銃弾を浴びせると同時にさりげなく転がせた手榴弾である。
 狙いは勿論アステリオスでは無く、マスターであるヒカルだ。
 聖杯戦争におけるアサシンの基本戦術は、他のサーヴァントと正面から戦う事に非ず。
 影からの奇襲不意打ち騙し討ちに徹して、マスターを殺す事によって勝利をもぎ取る戦法だ。
 まあ中には基本から外れて、真っ向からセイバーと鍔迫りあったりするアサシンや、浮遊移動要塞を足として使うアサシンが存在するが、この暗殺者は基本から漏れ出てはいない様だ。

 (あと、2秒)

 時間を稼ぎつつ、足元の手榴弾近くに釘付けにさせる為、直もマシンガンによる銃弾を討ち続ける。

 (あと、1びょ)
 「――――ォオオオオオオラッッ!!」

 ヒカルの足元に手榴弾が爆発する直前、ギリギリのタイミングで駆けつけて来たアヴェンジャーが手榴弾を蹴り上げる。
 そして蹴り上げられた上空で爆発、辺り一帯を余波と光が広がった。

 「せ、先生っ!」
 「あヴぇんじゃー!」
 「無事だな、2人と」
 「何今の爆発音は!?」

 アヴェンジャーとの合流を喜ぼうとしたところに、流石に騒ぎが大きすぎたのか、モロが慌てて家から飛び出して来た。

 「師岡君!?」
 「ヒカルちゃんって、誰この人達!?」

 いろいろ独創的な格好の面々に驚くモロ。
 彼らから無意識に発せられる殺気やプレッシャーに物怖じしないのは、百代と一緒に居る事でその手の事に感覚がマヒしているからである。
 しかし驚いているモロに対して、当人たちは関与する気は無い様だ。
 アヴェンジャーはヒカルに携帯機器を投げ渡す。

 「これは?」
 「そこにマップがある。それを辿ればお前の標的たちが今集められている場所に行けるはずだ」
 「え?」
 「行け。コイツは俺が始末する」
 「行かせるとでも?」

 モロと言う一般人の前で躊躇なく銃弾の雨を浴びせかかる暗殺者。
 それをアヴェンジャーはヒカルとアステリオスの前に割って入って、黒炎で全て蒸発させる。

 「貴様の相手は俺だと告げたはずだが?暗殺者っ!」

 アヴェンジャーは拳に顕現させた黒炎を撃ち放つ。
 それを暗殺者は躱し続け、最後の黒炎目掛けて手榴弾を投げ放つ。
 勿論両方がぶつかると同時に爆炎と煙が両者の間を包む。
 暗殺者はそれを目晦ましに、あくまでもヒカル達を狙う。
 しかしその狙いにアヴェンジャーが気付いていない筈も無く、高速戦闘を得意とするので、いつの間にか暗殺者の後方に回り込んでいた。
 されどそこは気配を探知するのも上手い暗殺者。
 振り向きもせずに自分の後ろに向けて、今度はピンを外して手榴弾を投げ打つ。
 だがアヴェンジャーは手榴弾が爆発する前に手の甲で宙に打ち上げる。そのまま爆発に気にも留めずに暗殺者に向けて蹴り放つが、それをガードで防がれる。
 しかも暗殺者は蹴りの衝撃を利用してヒカルを狙おうとするが、両者の間に出現した黒炎の壁に気付いて無理矢理足を止める。

 「これは・・・」

 両者の間に出現した黒炎の壁は上と左右に一瞬にして燃え広がり、暗殺者とアヴェンジャーのみを包み込む即席のバトルフィールドとして顕現した。

 「先の煙、何のために俺が直線で突っ込まずに回り込んだと思っている?このデスマッチを造りだし、確実にお前を逃がさないためだ」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「抜け出す方法は複数あるが、この黒炎を消すだけの火力がアサシンである貴様に果たしてあるのか?あの手榴弾では話にならんぞ」

 暗殺者を嘲笑う様に不敵な笑みを浮かべるアヴェンジャー。
 しかし自分への嘲笑を気にもせず、銃を向ける。

 「なら即座に貴様を始末して、あの少女の追跡を再開するだけだ」
 「上等っ!!」

 此処に、守護者(アサシン)(アヴェンジャー)の死闘の火ぶたが切って降ろされた。
 そして黒炎リングの外ではアステリオスがヒカルを促していた。

 「ひかる。いまのうちに、いこう」
 「でも先生が・・・」
 「あヴぇんじゃーはいちどきめたら、ぜったいにやめないよ。ひかるなら、わかるでしょ?」
 「・・・・・・・・・・・・うん。わかった」

 決心したヒカルを自分の肩に乗せるアステリオス。
 しかし彼らを制止する声がまだ残っていた。

 「待ってヒカルちゃん!」
 「師岡君。これ以上私に関わらないで」
 「え・・・」
 「私と関ったら師岡君は絶対不幸になる」
 「そ、そんな事――――」
 「それに私は復讐を止められないの。だから――――」
 「だったら僕も手伝」
 「貴方はもう、必要ない。行って、アステリオス」

 少年の制止も空しく、ヒカルの言葉に従うアステリオスは夜闇に溶け込むように駆けて行く。
 そして――――。

 「・・・・・・わけ、そんな事聞けるわけないっ。見なかった事になんてできる訳無いよ!」

 少女の思いも空しく、モロは追いかけるように駆けだした。 

 

第21話 決意の口づけ

 
前書き
 何所で話を区切ればいいのか、もう判りません。 

 
 ほぼ同時刻、士郎達は突如出現したオートマタの殲滅に明け暮れていた。

 「音よ響け!」

 エジソンはジャブにストレートで1体のオートマタを殴りつけ、トドメのアッパーで他のオートマタの固まっている所へ殴り飛ばして、それを撃破する。

 「闇を照らせ!!」

 胸の砲門から“直流”の電気と魔力の混ざった虹色のビームを横薙ぎにするように放ち、周囲のオートマタの多くを一掃する。

 「やるな、エジソン!これは余も負けていられぬなっ!」

 神速の剣戟で周囲のオートマタを瞬時に鉄くずに変えていくシーマ。

 「2人とも張り切るのはいいが、こいつらは所詮は雑魚。飛ばし過ぎるなよ?」

 シーマほどの速さは無いが、士郎もよく使う干将莫邪で周囲を薙ぎ払い続ける。
 そして待ち続ける。本命の到来を。


 -Interlude-


 此方もほぼ同時刻。
 百代は衛宮邸から美人の客人をさらった不届き者を追っていた。

 「ハァ、ハァ」

 しかし未だ本調子ではない様で、逃走者達との距離は広がらないが一向に縮まりもしない。
 今の百代は全快時の時に比べて、約二割ほどまでしか力も動きも出せない状態だった。
 鉄心の意識を取り戻す時間帯に対する予測は外れたが、全快状態にまで戻すには矢張り丸1日かかる様だ。少なくとも自己治癒では。
 そんな事情など知らない彼女たちは、一定距離から付いて来る百代が不愉快極まりない様だ。

 「大義も持たぬ小娘が!」
 「我らをつけるなど言語道断!お2人を拉致拘束していた藤村組及び衛宮邸(奴ら)も同罪!いずれ身の程を思い知らせてくれる・・・!」

 上司が上司なら部下も部下。
 仲間に対する思いやりが強いと言えば聞こえはいいが、単に躾が行き届いていないのと、自分達を特別視しすぎて自己中心的な思想に囚われている。
 常に結果を出して来たので、嘘でも誇張でもなくドイツが誇る部隊ではあるが、それらを引ん剝けば単なる駄々集団である。
 噂をすれば何とやら、2人の向かう先に藤村邸から脱出して来たマルギッテ達と偶然にも鉢合わせになった。

 「隊長!?」
 「お前達・・・!それにフィーネにリザ!?まさか衛宮邸に侵入して攫ってきたのですか!?」
 「違います。奪還して来たのです!」
 「正義は我ら、猟犬部隊に有りです!」
 「何が正義だ!この犯罪者どもめ!」

 ついに追いついた百代が、衛宮邸から逃走した2人を糾弾する。

 「誰が犯罪者だ!」
 「お前たち以外の誰がいるって言うんだ!幾ら同盟国内だからと言って、不法侵入罪に暴行罪、それに略取・誘拐罪に変わりはないんだぞ?!」
 「ふざけるな!」
 「敗戦国の雌犬風情がっ!我らに生意気な口を利くな!」
 「無礼者めっ!」
 「身の程を弁えない態度に我らに対する侮辱、もう許せん!」
 「隊長!如何か戦闘許可を。誇りを失った愚物共に我らの正義を思い知らせると――――」
 「いい加減にしなさいっ!!」
 「「「「「「「ッッ!!?」」」」」」」

 思いもよらないマルギッテからの叱咤に、彼女以外の隊員たち全員が驚く。

 「大人しく聞いていれば何です、その口の利き方に態度は!?」
 「た、隊長・・・?」

 何故自分達が怒られているのか、本気で理解できていない顔だった。

 「お前達もです!お前達のしたことは救出でもなんでもない、単なる犯罪ですよ!」
 「そ、そんな・・・!」
 「お前たちのしたことで誰が責任を取ると思っているんです!?勿論私も取りますが、一番重い責任と非難を浴びるのはフランク中将ですよ!」
 「私達はその様なつもりは・・・」
 「自覚が無いとは余計に性質が悪いとはこの事です!お前たちの所業と態度で、祖国ドイツと偉大なる先人たちに一体どれだけの恥を塗ったと思っているのですか!?」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 あまりの部下たちの酷さに、マルギッテは深い溜息をつく。
 当の本人たちは、反省をしているか否かは判らないが、明らかに落ち込んでいるのは傍目から見ても解る。
 そして百代はマルギッテの憤慨と失望から来る叱咤によって出番を失くし、完全に蚊帳の外であった。

 「兎に角、今から藤村組に戻りま」
 「っ!?待った!」

 百代に庇われる形で足を止めたマルギッテ。
 百代に倣って見た視線の先には――――。

 『ほぉ?感覚が昼間とは桁違いじゃないか、ボロ雑巾』

 世界最強の傭兵、ラミー・ルイルエンドがいた。

 「軍神が何故ここに!?」
 『何時何所で何をしようが勝手だろう?それにしても暇なら私と遊ばないか』
 「そんな暇は」
 「隊ちょ、がはっ!?」

 ラミーの戯言に取り合う気もまるでなかったマルギッテだが、部下の1人が事前に気付いて彼女を突き飛ばし、代わりにその部下自身がラミーの不意打ちを喰らった。

 「エミリアっ!?」
 「貴様っ!!」
 『心配せずとも大したダメージでは無い。単に貴様らが構おうとしないから、少々揶揄っただけだ。――――だがそうだな、次は今お前たち2人が抱えているそいつらを痛めつけるのも面白いかもしれんな』
 「「ッッ!!?」」

 フィーネとリザを抱えている2人は、目を付けられた事に驚くと共に最大限に警戒態勢になる。
 だが驚く事に、ラミーの視線を遮るように2人の前に出たのは百代だった。

 「とっとと逃げろ」
 「な、何のつもりだ?!」
 「私達を執拗に追いかけて来たのに・・・」
 「勘違いするな。私が守るのはお前達が誘拐した御2人であってお前達じゃない。それにおアンタたち猟犬部隊じゃ、コイツは手に負えないぞ」
 『それは貴様もだろう?ボロ雑巾』
 「クッ!」
 ((((((???))))))

 ラミーの言葉に露骨に顔を顰める百代に対して、軍神を警戒しながらも疑問視する猟犬部隊隊員達。
 だがマルギッテだけはそれに取り合うことなく、百代の前に出る。

 「マルギッテさん。何を?」
 「此処は私が足止めします。部下達と共に行ってください」
 「「「「「「隊長!?」」」」」」
 「フィーネとリザが今此処に居るのは猟犬部隊(我々)の罪であり、部下たちの責任は上官である私の責任です」
 「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
 「勿論厚かましい事を言っているのは百も承知です。ですがどうか・・・」

 マルギッテの決意を聞き終えた部下達はフィーネとリザを百代に預ける。

 「な、何だ?」
 「見て分からないか?御2人を頼むと言う事だ」
 「2人とも、何を?」
 「申し訳ありませんが隊長、我々にも面子が有ります」
 「それに隊長に何もかも尻拭いさせる気はありません」
 「それに私たちの一番の武器はお互いの短所をカバーしあい、長所を何倍にも引き上げる事で生まれる連携力です」
 「ですからどうか汚名返上とまでは行かずとも、贖罪の第一歩とさせていただきたいのです」
 「お前達・・・・・・」

 気が付けば猟犬部隊の全員が百代の前に立ち、ラミーを迎撃する体制を整えていた。

 「任せていいんですか?」
 「ええ、此処までいえば彼女たちは聞かないでしょう。ですから2人をお願いします」
 「分かりました」

 百代はマルギッテ達のその場を任せて走り出す。
 それを黙って聞いていたラミーは、仮面越しでも判るくらいにうんざりしていた。

 『青臭い忠臣ごっこは終わりか?』
 「ごっこなどではありません。これは不退転の決意です!」
 『・・・・・・僅かな間とは言え、時間の無駄だったな』
 「何の話です?」
 『いや、何。随分と盛り上がっていたので、空気を読んで黙って待っていたのだ。しかし蓋を開ければこんな事に時間を掛けたのかと――――無駄だっと思ってな』
 「で」

 相変わらず要領を得られない言葉に疑問を漏らそうとした瞬間、マルギッテを含むその場にいた猟犬部隊全員、ラミーによって叩き伏せられて地べたに倒れていた。

 『フン、本当に時間の無駄だったな』

 百代を追う為、猟犬部隊たちを背にしたところで、マルギッテから続々とよろめきながらも全員が立ち上がる。

 「ま・・・待ち・・・な・・・・・・さ、い」
 『・・・・・・ヤレヤレ、大人しく寝ていた方がこれ以上痛い目に遭わずに済むと言うのに・・・・物好きな犬どもだ』
 「ぁ」

 全身のダメージによろめきながらも何とかして立ち上がったと言うのに、一瞬にして再び全員が一斉に今度こそ意識を刈り取られるのだった。

 『さて・・・・・・・・・・・・ほぉ!随分と遠くに居るな。未だ全快には至っていないと言うのに、頑張るモノだ。だが――――』

 改めて百代が向かった方向を見た瞬間、ラミーは明らかに遠くまで離れていた百代の真横まで瞬時に捉えた。

 『悲しいかな、まだまだ射程範囲内なんだな』
 「なっ!?」
 『驚く暇があるのなら防御態勢を取れ』
 「づっ、かはっ!!」

 百代はラミーの言葉で我に返って、抱きかかえる2人を庇う様な態勢をとり、蹴りを背中で受け取った。その衝撃で明後日の方向へ蹴り飛ばされた百代は、2人を庇い続けながら何とかたどり着いて最初に見たのは、何かが自分の顔目掛けて振り下ろされる光景だった。


 -Interlude-


 「キリが無いな」
 「まったくだ、この有象無象ども」

 士郎達が無限に湧き上がるオートマタの軍勢に手を焼き始めた頃、エジソンの近くに何かが凄い勢いで降って来た。

 「む、むぅ?――――とっ!?」
 「どうした―?――――てっ!」
 「――――――百代!!?」

 少し離れた地点から見ると、それは百代だった。
 しかもよくよく見れば、彼女の腕の中にフィーネとリザの2人が重なる様に抱きかかえられていた。
 正直理解が追いつかないが、無情にも彼女たちの目の前に居るオートマタが高速連撃を可能とする腕を振り降ろそうとする。

 「エジソンっ!!」
 「言われるまでも無い!」

 エジソンは全身に雷を発生させたまま軍勢に突進し、彼女たちを襲おうとしたオートマタごとまとめて吹き飛ばす。

 「っ!?一体何が・・・・・・てっ、え・・・?」
 「危ない所だったが、無事かね百代君?」

 いきなり周囲のごみごみとした何かが激しい嵐のような衝撃で消えたかと思えば、一番最初に視界に入って来たのは昔のアメコミに出て来そうなスーパーマンの格好にホワイトライオンの顔をした変人が自分に向けて手を差し出してくる現実(姿)だった。

 「く、来るなっ!?」
 「Gohuu!!?」

 身の危険を感じた百代は、反射的にエジソンの腹目掛けて殴った。

 「Goha、Goho――――な、何をするのかね!?幾ら驚いたから(周囲が敵だらけだったという意味で)と言って、して良い事と悪い事があるぞ!百代君っ!!」
 「何がだこのクリーチャーめ――――だ、だが、その私の呼び方、トーマスさんに似てるな・・・?」
 「本人なんだよ、百代」

 なかなか会話が進まない2人の間を仲介すべく、士郎とシーマが軍勢を裂くように一直線で来た。

 「士郎!?それになんだその格好は!それにシーマも、如何して鉤爪のグローブをはめてるんだ?それに、このクリーチャーがトーマスさん本人って如何いう事だ!?」

 あまりの事態に困惑し、流石の百代も士郎に対して矢継ぎ早に質問を口にする。
 しかし疑問に答えている暇すらも、現状は許しくれない様だった。

 『武神の称号を仮にも受け継いでいるのだ。この程度の状況、瞬時に把握しろ』
 「っ!?お前・・・!」

 士郎達からそれなりに離れた地点に、軍神ラミーが到着するなり百代を罵倒する。

 「軍神!?――――如何してアンタが此処に居る?」
 『・・・・・・・・・・・・・・・答える義理は無いな』

 士郎の質問された軍神は、何故か百代の時とは違い、見下すような圧力が声音から消して淡々と言うだけに留める。

 「何が応える義理は、だ!お前が私を此処に蹴り飛ばしたんだろ!?」
 「・・・・・・・・・?」
 (と言う事は意図して百代にこの現状を見せつけ様としたのか?)

 士郎が探る様に軍神を見ると、何故か居心地悪そうに身じろぎする。

 『・・・・・・故意では無い。少々蹴る方向を間違えただけだ』
 「どちらにしろ私を蹴り飛ばしたことには変わりないだろうがっ!」
 『ああ、そこは否定する気は無い。お前を見てると痛めつけたくなるのでな』
 「っ!それにどうして此処に居る!マルギッテさん達は如何したんだ!」
 『勿論全員蹴散らしたからに決まっているだろ。ああ、心配せずとも必要以上に痛めつけてはいない。その価値も無いんでな。お前やお前の抱えている娘たちと違ってな』
 「お前っ!」

 軍神の言葉に百代は殺気立つ。
 そして今度は如何してマルギッテがこの話の中に出てるのかと、士郎とシーマの2人は疑問が尽きなかった。
 しかし矢張り今はその疑問にも答え合わせをしている暇はない。

 「内容はよく解らんがアレは敵なのだろう?ならば葬るだけの事!」
 「シーマ!?」

 士郎の制止も聞かず、シーマは軍神に向けて突っ込んで行く。

 「フッ、せい、ヤッ!!」
 『ク、ククク・・・!』

 シーマは軍神に果敢で切り込んでいくが、ラミーは全てを躱しいなし手甲で防ぎ、捌いて行く。
 勿論ラミーも防戦一方等には成りもせず、百代すら捉える事の出来ない神速の正拳の連打と凶悪な蹴りを混ぜながらシーマを攻める。
 それをシーマも捌ききり、隙があれば即座に攻撃に転ずる。
 剣と手甲がぶつかり合う度に火花が散り、夜闇に一瞬だけ光が生まれる。
 攻守の入れ替わりが激しい2人の戦闘の苛烈さたるや、衝撃だけで周囲のオートマタの軍勢がどれもこれもスクラップへと変貌していく。

 「先ほどから何が可笑しい!」
 『可笑しいとも!私の標的はあくまであの娘どもだが、ここ数年此処まで私に食い下がれる奴は現れなかったのでな。もっと楽しませろ剣の英霊!!』
 「っ!」
 『ほぉ!隙をついたつもりだったが、何故動揺しないんだ?』

 ラミーはシーマをサーヴァントである事を言い当てたにも拘らず、それに対して動揺せずに自分の腰の入った一撃を難なく躱した事に疑問を口にする。

 「お前の事は事前に聞いていたからに決まっている。この悪党めっ!」
 『なるほど。既に私の事は把握済みだったか。で、私を悪と断じると言う事は、正義を気取っているのか?亡霊風情が』
 「余が何者であろうが関係ない。ただ貴様の言葉も行動も全てが許せないだけだっ!」
 『クク、義憤から来る善性と言うわけだ。穢れも知らないその様な善性とは正しくヒーローだ。そして奇しくも、私にとってはそれだけで標的に加えるに値するッッ!!』

 全身を纏っていたオーラが紫電に成り代わる。
 紫電を全身に纏わせたラミーは、先程と同じくシーマを食い殺すかのような猛攻を浴びせる。
 シーマは紫電の付加効果に警戒して、先程の様に大胆に懐に飛び込む動きを否応なく制限される形となり、防戦一方になる。

 「クッ!」
 『如何した正義の味方(ヒーロー)?!(ヴィラン)が許せないんだろ?そんな憎っくき相手にやられぱなしで良いのか?!最優のセイバーの名が泣くぞっ!!』

 傍目から見ても圧され始める戦況であるが、悔しくも士郎とエジソンは助太刀することが叶わない状況だった。

 「むぅ!こやつ等め、我らとシーマとを分断する気だぞ!」
 「ああ、しかも俺達が此処を離れられないのを分かっているかのような動きだ。2人ともしっかり気を持て!絶対に守り切る!」
 「「は、はいっ!」」

 今の声はフィーネとリザだ。
 2人は周囲の戦闘音で目を覚ましてしまったのだ。
 しかし意外と落ち着く2人に驚くエジソンだが、本来の2人は軍人