逆襲のアムロ


 

1話 ガンダム起動  サイド7~UC79.9.18

 
前書き
書き物が初めてであまり得意ではないので。ただ純粋にわかりやすく表現していこうと思っています。
ちょっとユニコーンぐらいまでの人を出さないとと考え少し幅を持たせました。 

 
*  サイド7 1バンチ 民家内


「ハッ」

アムロ・レイは驚いて目覚めた。何故かベッドの上にいる。

アムロは混乱した。自分はアクシズでシャアと戦い、アクシズを押し返していたはずだ。
しかし、白い光に包まれた直後見知らぬ天井を見上げている。

否、アムロはこの天井に見覚えがあった。

「・・・ここは、昔のオレの家だ・・・オレは死んだのか・・・」

アムロはゆっくりと体を起こし、周囲を見回した。
その後少し笑みを浮かべてこう思った。

「何故こんな景色を、ここに連れてきたのかな死んで尚・・・」

アムロは自分が死んだと思い込んでいた。再び周囲を見渡すと、
デジタルの年月日入りの時計に目が入った。

「79年の9月18日朝6時・・・この日って、サイド7にホワイトベースが
 入港した日。そしてザクが襲来した日、ガンダムに乗った日だ」

アムロは昔の酷い思い出を少しずつ思い出していた。
そして、こう思った。もし過去をやり直せたらなんてどれだけ思ったことか。
あの日の出来事、あの日の選択を。

「ひとつ、ひとつが積み重ね、悲劇を生んではあのようなアクシズの決着となったんだよな」

そして、これは神様がくれた一つの機会なのかもしれない。
アムロはそう思った。

まして自分は既に死んでいてこの目に入るものが現実でないとすれば、成仏するための、自分の未練が今こうさせていると考えた。

アムロはバスルームに下り、シャワーを浴び、洗面所の鏡に映る自分を見つめた。

「なるほど、これは15歳のオレだ。いろいろ鍛え直さなくてはな」

14年後連邦のエースパイロットのアムロの体はあらゆる戦いにも状況にも耐えうるほどの強靭な肉体を持っていた。しかし、今のアムロはただの内気でひ弱なメカオタクだった。

アムロは身支度を整えるとサイレンが聞こえた。時間は午前7時半だった。
このサイレンは確かホワイトベースが入港するときに発した避難警報だ。

「ホワイトベースが入港した。そして、ザクも来た」

アムロは軍港へ向けて走り出した。その姿を途中家族とともに避難しているフラウ・ボウに見つかった。

「アムロ!あなたどこに行くの!シェルターは逆よ!」

「フラウ!君は先に避難して。オレは後から向うから」

フラウはちょっと待ちなさいよと大声でアムロに叫んだが、アムロは軍港に向けてひたすら走った。


* サイド7 軍港 


ホワイトベースは無事にジオンの襲撃を振り切り入港をしていた。
ブライト・ノアは19歳にして実験用新型戦艦に搭乗していた。

自らは誇りと自覚を持ってこの連邦の軍事機密の作戦に参加できたことを栄誉に思っていたが、伝令を受け取る側のテム・レイ大尉はこんな若者が戦場に出なければならない状況にこの闘いの過酷さを感じていた。

「レイ大尉、伝令であります。サイド7に無事入港しましたので艦橋までいらしてください」

「わかった。ブライト君と言ったね。君は入隊してどのぐらいかね」

「ハッ、半年であります」

「そうか。私はもちろん他の多くの大人たちが若者が戦争に行くのは感心せんのでな。だから私はこのV作戦を成功させなければならない」

「自分がまだ未熟だからでありますか」

「そうだ。人生は普通が一番だよ。もっとも平時ならばな。兵士として未熟もさることながら、10代ではどうしても若さが出てしまうのでな。それが妙に危ない」

「自分は確かに未熟者ですが、志はあります。ジオンに勝利し、平和を取り戻すために」

「それが未熟なんだよ。まあ、若い者は元気が取り柄だから。年寄はそれをフォローすることを考えよう。では、行こうかブライト少尉」

「はっ」


* ホワイトベース艦橋


艦長席にいるはずの艦長のパオロはジオンの襲撃による負傷で簡易ストレッチャーに横たわっていた。
テムがブライトと到着するとパオロはストレッチャーのリクライニングを起こした。

「レイ大尉。ご苦労かけた。」

「いえ、あまり無理せずそのままで。結局振り切れなかったみたいですね」

「ああ。襲撃してきた敵はいささか手ごわい。我々が出港したところを叩くつもりなのかもしれん」

パオロが言い終わると、苦しそうに胸を押さえむせ返った。
テムは傍によりリクライニングを倒し、パオロを再び横たわせた。

「このサイド7の1バンチで行われているテスト機を回収後、ルナツーに救援を要請します」

「そうか。しかし、ルナツーは動くかのう」

パオロが不安視していたことはテムにも理解できた。
元々のテストは結果を文書にしたため、通信でジャブローへ報告できれば最低限良いことだった。

なぜなら、V作戦とはザクに対抗するための作戦。未だに物量で凌駕する連邦はザクに匹敵するものを用意さえすれば戦争に勝てると上層部も踏んでいた。

それまでは如何なる戦力も出し惜しみ、温存して期に備えることが既定路線だった。

「しないよりはマシでしょう艦長。友軍を見捨てるほど連邦は腐ってはいないはずです」

とテムは自分にも言い聞かせた。不安に思う自分に対しても。

「では艦長、私は実験機と試験資材の搬入指揮をとって参ります」

「ああ、任せる」

テムは艦橋を後にし、軍港入口へむかった。


*  軍港前


アムロは軍港に到着した。同時刻ジオンのザク2体が軍港内の施設に向けて攻撃を開始していた。

「ぐわっ」

アムロはザクの襲撃による周囲の建物の引火、爆発による爆風から身をかがめていた。

「もう、襲撃が始まったのか。急がなくては」

アムロは襲撃により手薄になった軍港のセキュリテイを掻い潜り、ガンダムの元へ駆け寄った。

「ザクはまだこちらには気づいていないな。よし」

幸いガンダムの周囲には連邦兵士、スタッフも不在だった。テムの命令で順番にホワイトベースに試験資材を搬入していたため、軍港入口に殺到していた。

アムロは慣れた手つきでコックピットに乗り込んだ。慣れた360度リアルモニターシステムと違い5面モニターだった。

「懐かしい。行くぞガンダム!オレの未練を断ち切るために」

ガンダムに火が入り、それに気がついたスタッフ、そしてテムは驚き、慌てた。

「誰がガンダムを動かしているのだ!まさか敵に奪われたのか・・・」

テムが動揺して、悲観的になっているところをガンダムがモニターによりとらえていた。

「親父か。懐かしい。この頃はまだしっかりしていたのにな」

アムロは昔を思い出し、その後ガンダムのバーニアを吹かしてザクの元へ飛んで行った。
そしてテムは茫然自失していた。



* サイド7 研究・実験施設区



ザクはあたりを砲撃により火の海としていた。その場にガンダムが降り立った。
ザクは見慣れないMSに臨戦態勢を整えた。

「なんだ、あの白いMSは曹長」

ザクのパイロットのジーンは新兵でデニムが教官として偵察任務に携わっていた。
はずだった。

「ジーンよ。偵察が任務だ。これ以上は命令違反だぞ」

「もう、命令違反でしょ曹長。この際だ戦果をあげて少佐に報告しないと」

ジーンは規律を軽視している。軍はそれを重視して動くものだとデニムは思っている。
そしてもはや2人とも軍法会議は免れないということも。

しかし、ジーンはそれを知らない。
上官としての責務は無事に部下を連れて撤退することにあると心に決めていた。

「馬鹿者!ジーン。上官命令じゃ。撤収するぞ」

しかし、ジーンは高揚しガンダムに襲い掛かった。デニムはジーンを止めることができなかった。代わりに白いMSがジーンを無力化した。

「へっ」

ジーンは拍子抜けした。ザクが一瞬で両腕を失ったのだ。ガンダムはバックパックからビームサーベルを取り出し、打ち上げて打ち下ろしてザクの両腕を切断した。デニムのその画見て戸惑ったが、平静になり片手にマシンガン、もう片方にヒートホークを構えた。

「この白いのは早い。。。少佐並みか」

デニムは死を覚悟してマシンガンを連射しながらガンダムに突進した。しかし、ガンダムは側面移動して弾を避け、デニムの後ろに回り込み、ヒートホークの持つ腕を切断し、マシンガンも切断した。

ジーンのザクは足・胴体と頭、デニムのザクは足・胴体・頭と片腕が残った。あれだけ暴れたザクを2体とも無力化したのだった。

「くっ、これまでだ。引くぞジーン」

デニムはジーンのザクを抱えて侵入してきたハッチの方へ撤退していった。


*   軍港内   ホワイトベース

軍港に戻ったガンダムはホワイトベースに搭乗した。アムロはホワイトベースの艦橋に呼び出されていた。

「この馬鹿者が」

ぴしゃりと顔をはたく音が艦橋に響いた。テムが息子であるアムロを殴ったのだ。

「親父が叩いたのは初めてだな。感慨深いよ」

アムロは冷静に感想を述べた。各オペレーターやリサーチャーがガンダムの記録をフィードバックしていた。すると最新の情報で一番の成績、良質なデータがアムロが搭乗した時だとコンピューターが計算した。そのデータを見てテムは驚愕した。

「なぜ、お前が、最新技術を扱えるのだ。。。偶然か・・・」

アムロは黙っていた。しかし、テムは科学者である。奇蹟や偶然など信奉しない。起きた事象のみ信用する。

つまりはアムロがこのMSを最大限活用できるという話だ。V作戦には良質なデータが必要なのだ。そう解釈すると冷徹な判断を息子に下した。

「アムロ、お前は今日から軍籍に入れ。私が推薦する」

それを聞いたパオロとブライトはテムに反対した。

「大尉!こんな子供を戦場に出すのですか!」

「そうだ大尉。いくらなんでもご子息を率先して戦場にとは。しかも実験体としてなどと人道的に・・・」

テムは2人の言を封じ込めた。

「有事だからこそです。私は科学士官だが、皆と同じ軍人です。私だけ何も犠牲にしないとはあってはならない。たとえ人道的に誤っていたとしても、人から後ろ指さされようがこれが私の覚悟だ」

その言葉を聞いたアムロは最低だなとつぶやき、了承した。

「元よりそのつもりだったからよろしく頼むよ父さん」

「わかった。それからこれよりレイ大尉と呼びなさい。軍では規律が大切なのだアムロ」

「はっ、レイ大尉」

アムロは慣れた姿勢で敬礼した。その姿を見た3人は新兵のはずなのにそうは見えない雰囲気に違和感を禁じ得なかった。


 

 

2話 サイド7出港 9.18 15:00

* サイド7 1バンチコロニー 軍港 ホワイトベース内 ラウンジ



テムとアムロが話をしていた。あまり仲の良い親子とは見てはとれなかったが、
お互いに自分とは違う何か異質なものを、離れたテーブルでブライトは感じとっていた。
ブライトのそばにはリュウ・ホセイがホットドッグを食べていた。

「ブライト少尉。貴官はあの親子が気になるようだな」

「ああ。レイ大尉は技術士官でこの機密の作戦を任されているから冷徹に物事を判断しなければならないのは理解できるが、あの息子がどうも・・・」

「苦手なのか?」

「うーむ。。。あの落着きが最初は生意気に思えたが、少し気合いと軍のなんたるかを鞭撻したやろうと思い、話をしてみたのだが。なんかこう掴み切れない感じでな」

ブライトは首をすくめて困った顔をした。リュウはコーヒーをガブッと飲み干した。

「で、どんな反応だった?」

「すごく素直で、真面目な反応。上官のいうことは正しいと言って、こちらの突っ込む隙がない。揚げ足の取り様がない。しかし」

「しかし?」

「つまらない体裁に付き合っていられないと思っていたんだと思う。相手に反感持たれず、話を切り上げるには一番良い対応だな。そう思った。可愛げがないがオレも意地悪い事をした意識があるからなまじ考えたよ」

「大人げないと」

「そうだ」

ブライトもコーヒーを啜り一息ついた。リュウがニヤついた。

「少尉。君も若い。若いのに大人げないと気づいたことが立派だよ。しかし、君はまだ大人じゃない」

「・・・」

「こんな戦時下だから、子供じみたことは言ってらんないから自覚しようとがんばるんだな。きっかけはどうとあれ、人は失敗して気付き成長していくもんだ。あのアムロとかいったな。もしかしたらエジソンやモーツァルトのようなギフトもちのスペシャリストかもしれん」

「天才か。彼は」

「年も15いったぐらいと聞いた。それなのに我々にできないこと。ザクの撃退に成功している。しかも初めての搭乗でだ。偶然にしても出来が良すぎはしないか?」

「確かにな。今後に指標に彼が関わってくることは多いにある。もし、彼が天才なら歴史的な発明をするかもしれないからな」

「そうだ。ブライト少尉、君はそれに気が付き、君も許容というものを覚えた。あとはこのホワイトベースという船で、しかも正規兵がほとんど襲撃でやられて志願兵の集まりの中でどう活かし導いていくかが大事だぞ」

リュウは屈託のない笑顔をしまい、鋭い顔つきでブライトへ覚悟を促した。
ブライトもその期待に応えようと決意していた。

今の状況は10代の志願兵にてほとんどのスタッフを賄っている。
20歳以上はパオロ少佐とレイ大尉のみであった。リュウですら志願兵の10代だった。

元よりベテランのスタッフが少なく、先ほどの襲撃の部隊にこのコロニーにたどり着くまでに
戦死していた。

ホワイトベースと呼ばれる新型巡洋艦も満身創痍な状態で航行するするのが精々だった。
早いうちにルナツーのドックへ修理に戻ることが課題であった。

もし、それが不可能のときはこの艦を爆破して敵の手に渡さないようにしなければならない。

ブライトはそう決意し、レイ親子の元へ歩み寄った。

「お話し中すみません、レイ大尉」

「なんだね。ブライト君」

「今後のことも踏まえて小官もお話にまぜていただきたく」

「今後とはなんのことかね」

「本艦をルナツーへ無事に運ぶというミッションです」

レイ大尉は困った顔をした。その反応にブライトは戸惑った。

「ブライト君。我々の任務は?」

「だからルナツーへ」

「今はV作戦中だ。そんな細事はガンダムがなんとかする。もっと大局的に物事を見てくれ」

ブライトは返答に窮した。そして苛立ち大声を上げて反論した。

「レイ大尉!この船には志願兵と避難した民間人が乗り込んでいるのです!これ以上の犠牲は出せないのです。それを細事とおっしゃるのですか!」

「ああ」

ブライトは怒りに震えていた。それを見ていたリュウがブライトを宥めた。傍で黙って聞いていたアムロが口を開いた。

「ブライトさん。お怒りはごもっともです。この親父は家庭を顧みることなく、ハヤトの住まいも地上げして軍の施設にしたり、血も涙もありません」

「アムロ。いってくれるな」

テムはそう言って笑った。アムロの言葉には特別感情のないものだった。

「しかし、父さんの言うとおりこのガンダムで無事ルナツーまでみんなを届けるよ。それには少し支援があると助かるんだけどね」

ブライトは落ち着きを取り戻した。アムロの話を聞くことにした。

「支援とは?」

「このホワイトベースには運び込んだMS等がある。この父さん、レイ大尉の話によるとガンキャノンとコアファイターが使えるそうだ。パイロットを選抜して出港前に外に待ち構えている敵を追い払う」

アムロは淡々とそう言った。しかしリュウは不安だった。

「アムロよ。もし敵が大勢いたら3機じゃどうにもならないぞ」

「リュウさん。大丈夫。敵は特務を受けてこの宙域にいる。この宙域はルナツーに一番近い。つまり連邦の勢力圏。こんなところに大部隊を派遣してはさすがに温存しているとはいえ市民を守るために部隊を派遣せざる得ない。しかし、そんな姿勢も見せない。要するに少数で我々も連邦にとってみれば路傍の石。失敗しようが成功しようが連邦は通信データで実験記録さえ手に入れられればそれでいいんだ」

ブライトとリュウは事の深刻さと自分たちの立ち位置を初めて知って唖然とした。
テムだけが毅然としていた。ブライトはテムに尋ねた。

「大尉はご存じだったのですか?」

「ああ。パオロ艦長もな。戦争というものはそういうものだ。卑怯、狡猾結構!罵って死んでいくものは死ねばよい。だが、生き残りたいなら今為すべきことも大事だがゴールを見て行動せねばならない。」

ブライトとリュウはうなずいた。

「敵や味方じゃない。勝利を勝ち取るならば、このV作戦の成功こそが近道なのだ。民間人は避難できたと思っているがこの船が実は今一番危険な場所だ。しかし、それを悟られてはならない」

ブライトとリュウは敬礼をしてラウンジを後にしていった。
残ったレイ親子は話を続けていた。

「それで大尉」

「なんだアムロ」

「このデータだけど、マニュピレータとモニターの仕様変更をこうしたらよりいいと思わないかい?」

「むっ。確かに。わかった。これも開発に組み込もう。一部はすぐガンダムにいれることができそうだからプログラムしておく。」

「ありがとう」

「いや、礼にはおよばん。出し惜しみせずわかったことは逐次知らせてくれ」

そう言ってテムも立ち上がりラウンジを出て行った。その入れ違いに軍服を着た3人が入ってきた。アムロは知っていた。ハヤトとカイとセイラだ。

「おい、ハヤト。こっちに食い物があるぜ」

「軍艦内なんだからあまりはしゃがないの」

セイラがカイをたしなめる。ハヤトも一緒に怒られ気まずい感じだった。
アムロはその光景をみて懐かしく思う。前の人生ではハヤトはハマーンとの戦いで
戦死していたのだ。

「へいへい、気品と美貌を持ち合わせておいでであるセイラ嬢にはこの軟弱モノは逆らいません」

ハヤトは吹き出し、セイラは真っ赤にしてさらに怒った。

「私を侮辱したな。まだ叩き足りないみたいだね!」

そうセイラがカイに詰め寄ろうとしたときハヤトはアムロに気が付いた。

「あっ、アムロ」

その言葉に2人も気が付き、3人揃って近寄ってきた。

「この子がアムロ。ガンダムのパイロットね」

セイラが興味有り気に言った。カイはそれが面白くなく愚痴った。

「ホントかなあ。こんな日陰オタクが」

「カイ!初対面で言い過ぎだぞ」

ハヤトが窘めた。しかし、ハヤトもアムロに好感は持っていなかった。むしろアムロの父親に。

「すまないなハヤト。あの親父が地上げだけでなく今度は住まいまでも」

「ああ。しかし、戦時だからな。新聞やニュースでも見た。ジオンは20億人も殺戮したんだ。オレらも協力しないとこっちの身が危ないんだからな」

「ハヤトは大人だな」

アムロはハヤトに手を差し伸べ、ハヤトはそれに応えた。

「しかし、アムロ。なんかお前の方が大人になった感じだな」

「そうか?」

「よくわからないがこう差し伸べた手をどうも取ってしまう。器量の広さをなぜか感じてしまう」

ハヤトは感心したようにそう言った。アムロは思った。ハヤトの才能だな、少しの変化も理解してしまう。だからカラバの頭になれたのだと。

「ハヤト。君に頼みたいことがある」

「なんだいアムロ」

そう言うとハヤトにアムロはMSに乗って手伝ってほしいを伝えた。
要するに戦場に出ろということだ。ハヤトは顔が真っ青になった。



*  サイド7宙域   ジオン特務部隊 ムサイ艦橋


デニム、ジーン、スレンダーの3名が偵察任務を携わった。
映像での情報獲得は達成したが、命令違反を犯しザクを2機大破させていた。

艦長のドレン少尉の怒号が艦橋に鳴り響いていた。

「貴様らは命令を無視し、ザクを失いかけおめおめとどの面下げて帰ってきた!」

デニムは背筋を伸ばし、反論の余地もございませんと一言答えた。
それを見かねたシャアはドレンを宥めた。

「ドレン、そこまでにしておけ」

「しかし少佐・・・」

「命令違反も考慮に入れての作戦だ。本営には連邦のV作戦というシロモノがどのような戦力であるかも確認して欲しいという内容もあった。1機の新型が2機のザクでは歯が立たないという貴重な情報が得られたのだ。兵士も無事に帰還した。上々の出来だ。デニム曹長。」

「はっ」

「貴官は無事に部下を失うことなく撤収できた。これは何よりも代えがたい戦果だ。ザクは替えがきくが兵士は育てなければならない。これからもしっかり指導するのだな」

「はっ、了解です」

そしてシャアはジーンの前にたった。ジーンは英雄であるシャアを前にして血の気が引いた。

「ジーン伍長」

「はいっ」

「デニムの命令を無視したそうだな」

「いや、自分は・・戦力が整う前に奇襲をかけて・・・その・・・」

シャアはジーンの顔を殴り、ジーンは後方へ吹っ飛んだ。

「殴られる痛さだけで良かったと思え。死ぬときの痛みと比べれば軽微なものだ。上官の命令、指示は軍においては絶対だ。貴様は本来銃殺刑ものだと肝に銘じておけ。」

ジーンは急いで立ち上がりデニムに謝罪した。

「それでよい。さてドレン。あの木馬のような艦船が出港したところを狙うぞ。動けるMSは?」

「はっ。少佐のザクとスレンダーのザクと予備2機のザクであります。」

「4機か。よし、私が先方に立つ。スレンダーとデニムはバズーカ装備で後方支援に徹しろ。その白いMSと木馬を鹵獲するぞ。」

「はっ」

スレンダーとデニムはシャアに敬礼し、艦橋を後にした。ジーンにはドレンより1週間の営倉入りを命じられた。ドレンはシャアへ軍紀を引き締めねばと決意を伝えた。

「少佐。若いもんがいきり立って、血の気が多すぎる気がします。指導を改めたいと思います」

「フッ、若いか。若さゆえの過ちというものかな。かくも私もそれを見抜けなかったことに過ちがあると考える」

「いえっ、決して少佐のこととは・・・」

「いや、いいんだドレン。失敗してこそ冷静に謙虚になり、より成功に近づく。我々に最も大事なことだ。もう少し、事は慎重に運ばねば」

そうシャアは言ってムサイの艦橋より見える星々の海に想いを馳せていた。



*  サイド7  ホワイトベース艦橋



パオロは艦長席の隣にベッドを置き床に臥せていた。実務は首席幕僚のブライトが出港の準備に追われていた。

「操舵手がいなのか?うーむ。誰かいないか」

「私でよければ。クルーザーの免許を持っています」

ミライ・ヤシマが艦橋に来ていて名乗り上げた。企業令嬢で艦橋に案内されていた。
その声を聞いたパオロは声をあげた。

「きみはヤシマ家の・・・。ブライト君」

「はっ」

「彼女に任せなさい。それしかない」

その時、ホワイトベースに激しい揺れが起きた。
ブライトは管制に確認を取った。

「一体何が起きた」

「砲撃です。サイド7のメインゲートに向けて外から砲撃がありました。」

「くっ。後手に回ってばかりだ。」

ブライトは苦虫を潰したような顔をした。そして、各セクションに出港準備を急がせた。


* サイド7 軍港前 軍研究施設



再びガンダムに乗ったアムロは慣れた手つきで次々とガンダムのパーツを含んだ研究物資をホワイトベースに搬入していた。その作業の速さ手際の良さにブライトは感心し満足していた。岩肌の茂みより双眼鏡にてその様子をシャアが見ていた。

「・・・あの動きは、なんだ。慣れたってもんじゃない。あのMS、あのパイロットを相手にするなど」

シャアは生まれて初めて戦慄した。陽動により潜入を果たしたシャアは後悔と敵の戦力を確認できたことの安堵と入り混じり複雑な気分だった。その気持ちが油断を生んだ。背後に銃を構えたセイラが立っていた。

「そこのジオン兵!立ちなさい」

シャアはその声を聞いて手を挙げ立ち上がり振り向いた。
そのセイラの姿を見て驚愕した。

「まさか、その声、その顔・・・アルテイシア・・・」

生存者確認のため施設を巡回していたセイラはシャアに遭遇した。ノーマルスーツを着たシャアの
ヘルメットと仮面をはずし、顔を見せることを要求した。その顔をみたセイラも驚愕した。

「!!!・・・まさか、キャスバル・・・兄さん・・・」

「フッ、やはりアルテイシアか」

セイラは銃を自然と下していた。そしてシャアに語りかけた。

「兄さん、なぜジオンの軍服を・・・」

「何故かか・・・復讐のために、一番身近なところが一番やり易いだろ」

そう言い終わるとシャアは閃光弾を放ち、セイラは目を塞いだ。
セイラが目を再びあけた時、そこにはシャアはいなかった。


* サイド7 軍港内 ホワイトベース



すべての研究資料と物資の積み荷を終えたホワイトベースは出港するためにアムロのガンダムとリュウのコアファイターを陽動のため、メインゲートから先行させた。

「アムロ、ガンダム出るぞ」

「リュウ、コアファイター出る!」

ガンダムとコアファイターは一部破損したメインゲートより飛び出した。
すると宙域を迎撃準備していたザクが一斉に砲撃してきた。

コアファイターは小さい設計ため、弾避けするには難がなく、ガンダムにしてもアムロの卓越した操縦によりのらりくらりと躱し、サイド7から少し離れる進路で3機のザクを引き付けていた。

ブライトがその陽動に呼応してメインゲートより出港させた。
それと同時にホワイトベースがサイド7から悠々と出港した。

シャアはザクに乗り込み侵入した非常用ルートよりサイド7を脱出し、宙域を望遠モニターで把握した。

迎撃のためのザク3機はガンダムとコアファイターによって翻弄され、逆方向にホワイトベースが宙域から離脱し、ルナツーへのルートを取っていた。シャアは焦り、憤り、ホワイトベースを潰すべくザクを動かした。

「本命はこの母艦だ。逃がすものか!」

ザクはフルスロットルでホワイトベースに接近しようとしたところホワイトベースよりシャアのザクに至近距離を掠めるように砲撃が飛んできた。この砲撃はハヤトが乗るガンキャノンの砲撃だった。

実はアムロより出港後ルナツーの進路をとったら後方に何発か砲撃せよと指示を受けていた。なぜ何もない空間にと思ったが、ブライトが「アムロの言うとおりにしろ」と命ずるのでホワイトベースの上にMSを鎮座させて砲撃したのであった。結果、シャアへの威嚇射撃になったがそれがまた効果的であった。

「なぜ、この位置がバレたのだ」

シャアは慌てた。撃った当人は偶然だが、掠めたことも偶然で、しかし受けた本人は恐怖を覚えた。

「むむ。連邦の新兵器はここまで脅威なのか。我々の知らないレーダーでも搭載しているのか」

シャアは単独でのホワイトベースの追跡を断念し、ザクの支援に向かった。

一方、ザクはガンダムとコアファイターの旋回速度、機動力に翻弄されていた。

「速いっ。速過ぎる」

デニムは編隊を組んで囲みこみ銃撃を行ったが、簡単に躱され逆撃を避けて一進一退であった。
その場にシャアの赤ザクが合流した。

「デニム、生きていたか」

「少佐!敵の機動力は少佐並みであります」

「了解した。お前らは後方から射撃に徹しろ。白いのを鹵獲するぞ」

デニムらは再編し、後方からバズーカで威嚇射撃を始めた。シャアは持ちうる機動力をフルに活用しガンダムに接近した。アムロはその状況を見て、リュウに後退を促した。

「リュウさん!ホワイトベースは宙域の離脱に成功した。リュウさんも後退して下さい。オレが殿を務めます。」

「わかった。死ぬなよ!」

そう言って、コアファイターはホワイトベースへ向けて全力で後退した。

「さて、シャアと再び交えるとは」

アムロはシャアへ向けてガンダムを動かした。
あと数秒でお互いは接触しようとしていた。

「見せてもらうか!連邦のMSとやらの性能を」

シャアはザクをガンダムの側面に滑り込ませ、マシンガンでガンダムの脇を狙った。
しかし、ガンダムのシールドで防がれ、アムロはシールドでシャアへタックルした。
ザクは衝撃で後ろへ飛ばされた。

「えーいっ!この私を捉えるとは。なんという機動性能!」

シャアはシールドを弾き飛ばすと、目の前にガンダムはいなかった。

「どこだ。白い奴は・・・」

すると、頭上から接近の警報が鳴り、シャアは上を見た。アムロはビームサーベルを抜いていて上段よりシャアのザクの腕に打ち下ろした。シャアは辛うじて横にザクを捻り、ザクの手首だけ切断されるに至った。アムロは感心した。この時代でもさすがにシャアはエースであった。

「この攻撃を避けるとは、さすがにシャアだな」

アムロはシャアを殺す気ではなかった。アムロはシャアに時代を変革する才能を活かしてもらうことに迷いはなかった。アクシズのあの悪夢でなくシャアにこれからの連邦の変革を担ってもらうことがアムロの野望であった。そしてララァを救うことも。

シャアは不利と判断し、デニムらに後退指示を出した。

「後退するぞデニム。今の戦力と状況では手に負えん!この借りは必ず返すぞ、白いの」

シャア含めたザク4機はムサイへ後退した。

ホワイトベースはアムロの作戦と操縦技量により窮地を脱しルナツーへ向かうことができたのであった。

 

 

3話 死の商人 9.20 11:40 ルナツー

 
前書き
急いでとりあえず書きました。なんらか手直しが入ると思います。 

 
遡ること9.19 ジャブロー本部 大会議室
レビルを始めとする有力将校たちが楕円形の卓上を取り囲んでいた。
暗燈な部屋に大画面のモニターにて先のサイド7の実験データ詳細を始めとした各地のプロジェクトの進捗を議論していた。一通りの話を終えるとレビルが語り始めた。

「結論を言おう。ゴップ大将の政府への働き掛けにより、こちらのデータとセットにV作戦の継続について異論の余地はないと思われる。特にサイド7のホワイトベース隊のデータが実に良質だ。レイ大尉の技術への才能はわが連邦に勝利をもたらすであろう。そこでだ。ホワイトベースをジャブローへ移送し、V作戦をより確実なものとしたい」

異議なしと各将校が声を上げる中、ゴップだけがゆっくり手を挙げた。
レビルはゴップに発言を許可した。

「えー、各皆々様。このデータによると連邦の国力ならば必ず成功するに間違いはないが、もう少し時期を早めてはいかがかな?」

議場はどよめいた。レビルがそれはどういう意味かと尋ねた。

「我々の作戦は地上での量産だ。それを宇宙にも拠点を設け倍のスピードで作戦を実行する。各コロニーからはジオンの脅威から悲鳴が上がっている。これを打破するには地球だけではいささかスピード不足だ。」

「だが、当てがあるのかね」

「もちろん。メラニー・カーバインと既に内諾を取ってある」

アナハイムの社長の名前が出ると再び議場が大きくどよめいた。ヴィックウェリントンやハービックが軍事産業で連邦の主だった仕事斡旋先だった。それが一家電や通信分野の精通した企業が予算を組んで軍事へ参入することは不安の何物でもなかった。

「安心してほしい。取り付けたのはとある有力な議員だ。この提案もその議員からだ。決して軍閥ではない。というよりもはや議会がその方向へ進んでいる。選挙対策でもあるからな」

レビルはゴップの話を聞くとため息を付き、決を採るまでもなくその方向で軍は動くことになると皆へ了解を求めた。会議が終わると高官たちが本当に戦争に勝つ気があるのかとボヤキながら各部署へ散らばっていった。

ジャブローの会議にが終わると、急ぎ場やに自室へかけこんだ将軍がいた。
彼は暗号通信回線にてある人物に会議の報告をしていた。

「で、連邦はその持ちうる国力を実績のない企業へ費やして勝利を得ようというのだな将軍」

通信相手のその男は軍事基地内の暗室で通信中のモニター前で趣味の陶器を大事そうに磨いていた。
将軍は話を続けた。

「そうだ。ジオンにあって連邦にないものそれはモビルスーツだけだ。先のルウムで沈痛な思いをした軍部は目には目をということだ。アナハイムは北アメリカの企業だ。月にも拠点がある。両方ともジオンに近しい場所にあることからいろいろノウハウがあるのではと提案されたのだ」

「当然のことだな。・・・物量で遥かに凌ぐ連邦に今日まで有利に進めたのも我々がMSを戦時投入した結果だ。ここで連邦にMSを量産されては我々の不利はいなめない」

「どうするのだ。マ・クベ」

「ふむ、・・・我々はオデッサとアフリカ、北アメリカにアジアと勢力圏を拡大している。V作戦の進行に対抗するに根付いた生産拠点が必要だな。さしあったってキシリア様へ報告申し上げる。アナハイムの調査も必要となるだろう。」

「そうか。それが良いだろう。もうそろそろマズイ。この辺で失礼する」

その将軍はそう言い通信を切った。
その後再び通信を別の場所へ掛けた。
その通信先、その相手はアナハイム・エレクトロ二クス社長のメラニーだった。

「メラニーさん。会議で貴方の要請通りにことが運びそうですぞ」

「そうか。ここがこの産業へ参入し我がグループを飛躍と遂げる絶好の機会だからな。ヴィックウェリントンやハービックに競合してアナハイムを一大グループへ押し上げる。エルランさん、連邦は議員とゴップ将軍を調略したが、ジオンの方へはその不安要素を促したか?」

「ああ、しっかり毒を流し込んでおいた。アナハイムという企業がジオンでは調査されるだろう」

「ふっ、そうか。そして私たちの商品を見てくれるだろうよ。ジオンのジオニック社にしてもツィマッド社のシェアも莫迦にはできんからな。だいぶ前からザクⅡの解析は終わり、生産拠点となる工場を月と地球と既に整備済みだからな。戦争は儲かる。できれば永く膠着し続いてもらいたいものだ」

「そのためには車でないが安全性ある乗り心地良いMSを作りませんと」

「ハッハッハ。言えている」

エルランとメラニーはお互いに笑っていた。


* ルナツー司令部 12:30


ホワイトベースは当初の目的であったテスト機体の回収し、ルナツーへの入港を果たしていた。
怪我の回復が遅れているパオロ艦長はそのままルナツーの医療施設へ入院となり、艦長代理を務めたブライト、V作戦、RX計画の担当であるテムとそのテスト機に搭乗したアムロはルナツーの司令部へ召喚されていた。

大型のモニターが立ち並び何階層ものの無数の電気機器を多くの士官が忙しそうに操り、走り回っていた。将官の軍服を身に纏った色黒のガッチリとした体型のコーウェン少将とルナツー方面軍司令官のワッケイン少佐が話をしていた。その会話がひと段落したのか、ワッケインは直立不動で待つ3人に話を始めた。

「任務ご苦労だった。ジャブロー本部からは取れたデータを量産機にフィードバックすると話があった。ゴップ大将も改革派を説得する上での材料が今回ので揃えたことで喜んでいたそうだ。アムロくん!」

「はっ」

「君は民間人ながら軍へ志願したそうだな。実に立派だ。その才能をぜひ連邦のために活かしてほしい」

「無論です。少佐」

アムロはワッケインに敬礼した。その立ち振る舞いも15とは思えないほどでワッケイン、コーウェンも感嘆した。そしてコーウェンが語り始めた。


「レイ大尉、ブライト少尉、アムロ伍長。私はジャブローよりゴップ将軍の代理人としてこのV作戦を宇宙より指揮すべく命令を受けている。今回の任務においてあの赤い彗星を撃退したことに本部からは実験の成功を喜ばしいことととらえている。故にこの3名とホワイトベースの志願クルーすべて昇進となった。」

テムとブライトは昇進と聞き、笑顔を浮かべた。アムロの顔を至って変わらずだった。
コーウェンは話を続けた。

「パオロには回復するまで予備役に入ってもらう。もちろん大佐待遇でだ。レイ大尉は少佐、ブライト少尉は中尉、アムロ君は曹長となる。そして、ブライト中尉には引き続きホワイトベースの正艦長として任ずる。ガンダムも引き続きアムロ曹長に搭乗してもらう。戦闘詳報を見たが君ほどMSに精通しているものがいないとジャブローは判断した」

コーウェンはワッケインに命じて、ビジネススーツに身を纏った民間人を連れてきた。
その人物についてコーウェンは紹介した。

「突然だが紹介しよう。彼はウォン・リー。軍事産業のアナハイム・エレクトロニクスの専務取締役だ」

「ウォン・リーだ。テム・レイ少佐のご活躍は弊社でも聞いておりますぞ」

ウォンはテムに握手を求め、それに応じた。


「専務こそ、巨大な企業の重役としてよくTVで拝見します。まさかヘッドハンティングに来たわけではないですよね」

テムは自信過剰にもウォンへアピールしたがウォンは笑った。

「ハハハ。本音申しますと優れた研究者は多いに越したことはありません。ですが、この戦時の最中、ご安心を。終わったらぜひスカウトに参ります」

他愛のない会話をコーウェンは打ち切った。


「そこまでだ両者とも。本題に入ろう。ホワイトベースはにフォン・ブラウンへ行ってもらいたい」

テムとブライトは驚いた。片や目を輝かせ、片や丸くなっていた。なぜなら、アナハイムは巨大軍事産業で現代技術の結晶と評するに至る企業、そして月の宙域はジオンの勢力圏の方が広いからに他ならなかった。そしてそのルートまでもジオンの哨戒内ある。

「レイ少佐はアナハイムへ連邦のこの軍事機密を提供する。見返りに連邦はアナハイムの支援とMSの量産体制をフォン・ブラウンを拠点に、つまり宇宙でもとる。宇宙と地球で同時に量産体制が整えば一気にこの劣勢を打開できるとジャブローの回答だ。もちろん陽動でこちらのワッケイン司令がルナツーの艦隊にて陽動をかける。その間にホワイトベースはフォン・ブラウンへ入港してもらう。もし諸君らの詳報が芳しくなければそのままジャブロー行きであったが、本部はこのままブライト君らクルーにて作戦を継続すると判断した。以上だ」



* ホワイトベース艦橋 UC79 9・20・19:00


ホワイトベースは陽動艦隊の出港の後、単艦にて出港した。
ブライトはテムとリュウ、アムロを交えて作戦開始まで談話をしていた。


「レイ少佐。この度の作戦を我々新兵・志願兵だけでこなすのには正直困難ではありませんか?」

「ブライト君。決定事項なのだ。艦隊にて我々の道を作ってくれる」

ブライトは困惑したが、アムロが代わりに答えた。

「中尉。データ通信にてジャブローへ情報は渡っている。なら、アナハイムにも渡っているってことさ。だからウォンさんがいるんだ。ウォンさんのコネクションで航路はより易くなっているさ。」

「そうか。しかし、単艦で行くにはいささかやはり不安だな。後背には用心せねば」

「安心したまえ」

ウォンがドアを開けて艦橋へ入ってきた。

「中立コロニー宙域を経由し向かう予定だ。その宙域では何人たりとも戦闘行為はできない。だからその宙域までの我慢だ」

「中立地帯を航行!我々軍艦が通行できるわけないじゃないですか!」

ブライトはウォンに疑問を呈した。

「ブライト君、私は民間人で且つ政府特権を行使し、中立地帯への航行を中立の政府関係者へ交渉を済ませてある。アナハイムの重役がアナハイム産の連邦の試験艦のテスト航行を兼ねてフォンブラウンへ安全な航路で通過したいとな」

ブライトは絶句した。すべてが嘘だった。しかし、その嘘は今回抜群の威力を発揮した。

「・・・ふう。もはや何も言いません。我々軍人とは理解し難い世界の住人のようだ」

「そうだ。だから差し詰め今が危機だと思ってくれ。敵が狙うなら中立地帯までが勝負だからな」

ウォンがルナツーを出港したばかりでまだ連邦の勢力圏内でいることに安心して冗談を言って笑っていたが、その直後強襲警報がなり、笑いが急に引っ込んだ。ブライトはそれを見て苦笑した。

「ウォンさんの洞察力には恐れ入ります。敵が来たみたいです」

ウォンは慌てた。実戦経験の無さから。

「何故だ!あれだけの哨戒網を潜り抜け、この艦を察知できたのだ」

すると、アムロが淡々と言った。

「シャアならできるさ。赤い彗星のな」

ウォンの顔は青くなった。ルウム戦役の英雄でエースのシャアが単艦のホワイトベースへ強襲する。
生きた心地がしなかった。アムロはウォンの狼狽ぶりに軽く肩をたたいた。

「大丈夫ですよ。この艦にはガンダムがありますから」

そう言ってアムロは艦橋を離れ、ガンダムへ搭乗した。
オペレーターが出撃の合図をした。

「アムロ曹長。進路クリアです。敵艦は本艦の14時方向を遠距離で捕捉。その敵艦より4機のMSが出撃。うち一つが通常のザクより3倍のスピードです」

「わかった。アムロ、ガンダム行きます」

カタパルトに乗ったガンダムは勢い良く星の海へ飛び出していった。

アムロはモニターで目の前のMSの姿を捉えていた。が、ザク3機に対し、シャアの乗るザクがいなかった。1機はリック・ドムというドムの宇宙仕様のMSだった。しかし、アムロが感じ取れるプレッシャーはシャアそのものだった。

「シャアめ。この当時の試作機を投入してきたか。」

アムロはリック・ドムに目掛けビームライフルを打ち込んだ。しかし、見事に躱され、そのスピードにアムロは舌打ちした。

「ちぃ」

リック・ドムは目前にせまっていた。
シャアは勝てると思い、ヒートサーベルを抜き放ちガンダムへ攻撃した。
ガンダムは間一髪ビームサーベルを抜きだしてリックドムとつばぜり合いになっていた


UC79・9・19 ムサイ艦橋


遡ること1日前、ムサイに新型MSが配備された。
MS-09Rリック・ドム。ザクⅡと比べ凌駕する推進力と出力、機動性能の次世代機体であった。
試験的にロールアウトしたものをドズル中将がシャア宛てに届けたものだった。

ドズルはシャアからの戦闘詳報を聞き、唸った。
連邦の増長を許してはならない。V作戦を潰すと断言し、その象徴であるホワイトベースとガンダムを葬ることを期待してソロモンで試験運用していた貴重な1機をシャアの特務部隊に配備する決定を下した。

シャアはテストでリック・ドムに乗り込んだ。今まで着なかったノーマルスーツを着用してのことだった。シャアはその機体性能に感嘆した。


「むう。この速さならあのMSに対抗できるかもしれん」


シャアはこの戦いで恐怖を感じた。危機感というものがノーマルスーツを着用するまでに至った。
そして、その相手と再び対峙し互いのサーベル同士で鍔迫り合いをしていた。

「いける。いけるぞ!」

シャアはスラスターのゲインを上げた。ガンダムが押されつつある。アムロは出力のゲインをわざと落し、鍔迫り合いを嫌いリック・ドムを横に受け流した。

「なんてパワーだ」

アムロは舌打ちし、そうつぶやいた。リック・ドムの性能を過少評価していた。なぜなら過去コンスコン艦隊のリック・ドムを3分で殲滅させた経験があった。

きっとパイロットが負荷に耐えきれなかったのだろう。大体の乗り物は自分の操れないG以上の出力は出さない。シャアはエースならではの強靭振りを見せていた。

一方のアムロは15歳の貧弱な体。14年後のエースと呼ばれたあの肉体まで戻すのに多少の時間が必要だった。


「受け流された?白いやつめ!これならば」

シャアはリック・ドムをガンダムに目掛けて軸を旋回する形(裏拳のような動き)で
サーベルを持って切りつけた。ガンダムはそれに反応し、旋回したリック・ドムの手首を
掴み、足でリック・ドムの後背を蹴り飛ばした。

「ぐおっ」

リック・ドムの操縦席内にただならぬ衝撃が走った。
しかしシャアは体勢を立て直し、ガンダムの前に対峙した。

・・・


それから、何度もサーベルでの応酬が互いに続いた。
その立ち合いはガンダムは静でリック・ドムが動だった。


15分ぐらい経ち、リック・ドムの方に機体のアラートが鳴り出した。



「えーい。もう一息だった。さすがのテスト機だと各ジョイント部に不調が出る。これまでか・・・」



シャアは無念にも、各パーツ部分が動作不全に陥る前に照明弾を撃ち、ムサイへ帰投した。
アムロもガンダムや自分の耐久性に無理ないような動きで神経と体力がピークを迎える寸前だった。



「はあ、はあ、もう少しで正気を保てないところだった。さすがにシャアだ」



そうして、アムロも先へ進行しているホワイトベースへ帰投した。
後方より支援していたザクとガンキャノンも2人の戦闘の間も威嚇射撃のみで大した戦果も犠牲も出すことなく互いに帰投していった。



そのころ別の宙域では連邦の陽動のための艦隊運動を地球よりの宙域にてジオンを牽制し、かつホワイトベースを無事月へ送るため、航行していた。




マゼラン級 旗艦 艦橋 9.21 2:23


ワッケインはモニターに見入って、的確に指示を出していた。
敵を引き付けながらも戦闘にならないよう、離れようとする敵には追撃する振りで艦隊を前に出し餌を与える。実に巧妙だった。しかし、最初は少数に散開した敵を大部隊にて迎撃をしていたが、長く陽動をしているとその少数が艦隊編成まで膨れ上がろうとしていた。ワッケインとしてはこの場で艦隊決戦をするつもりが毛頭ないため、そろそろ潮時であった。




「ここまでだな。総員にルナツーへ帰投の準備を知らせろ。但し、ゆっくりだ。敵に縦深陣に誘い込む恐怖を与える」



ワッケインは陽動で集まったジオンの艦艇をあからさまに誘いこむように後退していった。
ジオンもそれには気が付き、再び少数単位で各方面へ哨戒任務へ戻っていった。


かくして、ホワイトベースは無事サイド6の宙域に入ることができたのであった。

 
 

 
後書き
パイロット技能については逆シャアのフィフスルナの時のアムロがシャアやギュネイをリガズィで迎撃できていたことからヒントを得ました。アムロだとヤクト・ドーガの腕を損傷させるがケーラだと逆に撃墜されかけたことからです。 

 

4話 天才の思惑 9.21 サイド6 6バンチコロニー 

ホワイトベースに搭乗していたウォンがサイド6の6バンチコロニーに仕事都合で寄りたいという旨、
寄港していた。

このコロニーには中立ならではの国を超えた企業間のアカデミックな研究施設が建設されていた。
第3国として開戦時より中立を保つ上で双方の合意を得るに双方の都合や主張が入り交じり、
よりこのサイドの在り方が複雑化した。その典型がこの6バンチコロニーであった。
そしてそのコロニーは通称インダストリアル1と呼ばれていた。

コロニー内には大学も併設しており、様々な機械分野の専門家が連ねていた。そして、木星事業や戦時に主力のMSパイロットの養成にも一役かっていた。合法公認の下での無法地帯というべきコロニーであった。




* インダストリアル1 企業間研究施設内 




アムロ、テム、ブライトは私服に着替え、ウォンの後に付いていった。
その場所は機動兵器研究所という大型施設だった。



「なんて陳腐なネーミングだ。中立を唱っているのに兵器研究とは」



ブライトは露骨に嫌な顔をした。アムロは苦笑し、テムは興味津々で周囲を観察していた。

ハービック社、ヴィックウェリントン社、ブラッシュ社、ヤシマ重工
ホリフィールド・ファクトリー・ウエポンズ社、ジオニック社、ツィマッド社、MIP社、
その他関連企業すべてのスタッフが共通の仕事着で各々の研究室を持ち、共同研究をしていた。
この施設自体は開戦してからの開業だとウォンが教えた。

そして、ブライトは疑問に思った。



「なぜ、ジオンは有利なモビルスーツの技術をこうも露出するのか?」



「ブライト君は軍人だから理解しがたいのだろうな。我々企業は昔より国の法に縛られながらも国に囚われないで商売をすることが基本だ。有利な技術を生み、特許を取り、世に売りさばき、そしてまた新商品を創造する。そうして企業は成長していくものだよ」



ウォンの説明にブライトは最もと思い、このコロニーの在り方を理解した。
そしてウォンは3人を連れ、とある応接間へ案内した。
応接間のドアの前に立ち「失礼します」とウォンが言い、部屋に入っていった。
3人もその後に続いた。


その応接間には1人の恰幅の良いスーツの中年男性が居た。
テレビでも有名な顔だった。アナハイム・エレクトロニクスの社長
メラニー・カーバインその人だった。



「紹介しなくとも理解できよう。こちらが弊社の代表取締役社長カーバインだ」


「よろしく。メラニーだ。君たちの活躍は既に聞いている」


テムはこちらこそと挨拶をし、アムロ、ブライトもそれに倣った。



「そちらのソファーに座ってください」


メラニーに促されると、3人は座り、ウォンはメラニーの隣に腰を下ろした。



「さて単刀直入だがガンダムの戦闘詳報には実に興味深いことがある。アムロ君。君の操縦センスだ。
君の細やかなマニュピレイトがここの研究者には一番の関心事だ。君には彼らにそれを教導して欲しい。できるかね?」



アムロはためらった。このセンスとその知識は13年掛けて培われたものだからだった。その破壊力創造力は計り知れない。可能性については高々13年だ。この当時の演算処理装置でも2年で13年分の技術躍進が可能と思っていた。そしてこのリスクは果たして早期決着に持ち込めるか否かを。



「戦争を早期終戦に持っていくためにはやぶさかでないか・・・。分かりました社長。やらせていただきます」


メラニーは顔がほころんだ


「そうか!テムさんも優秀な息子さんお持ちで誉れ高いでしょうね。あなたにもアナハイムの技術顧問として連邦より出向要請が出ております。参加していただけますか?」



「ええ。よろこんで。共に時代を創りましょう」



テムはメラニーとガッチリ握手を交わした。
その光景にブライトは唖然とした。



「少佐は予備役に入るのですか」



「ブライト君。私は軍命に従い、アナハイムへ出向するのだ。既に私宛の異動通達が届いていた」



「なんと・・・小官は。ホワイトベースはどうすれば・・・」



ブライトは困惑した。特命もフォン・ブラウンまでだったからだ。




「ブライト君はフォン・ブラウンに着き次第、新たな軍艦に乗艦し、艦長についてもらう手筈になっている」



メラニーはブライト見つめそう言った。



「私に艦長を・・・」



「そして、その後地球へ降りてもらうことになる。ジャブローが先のガンダムとホワイトベースのデータにより、量産化を始めた。プラントをフルスロットルで生産を始めれば1週間でモビルスーツが50体は生産できよう。」



「50体も・・・」



「そうだ。そのペースはあっという間に上がるだろう。そして我がアナハイムも新型製品の開発で支部のキャルフォルニアを動かす。ジオンの勢力圏だが、反攻作戦の一環として、キャルフォルニアの解放をブライト君らにその担い手として任せたい」



ブライトはいぶかし気にメラニーを見た。要人だが軍関係者ではない民間人が軍事のことを語っていることに違和感を感じた。




「政治と経済は昔から結びついているものだよ。私らも平和を願っているのだよ。さもないと主力商品の日用雑貨・家電が売れないんだ。戦時では」



メラニーは冗談交じりで微笑みながら答えた。ブライトはため息をついた。



「分かりました。そこまでお膳立てするには何か勝算がおありなんでしょう?」



「流石だ。私の見込んだ軍人だ。これを見たまえ」


メラニーは傍のプロジェクタースクリーンに今後の行程を映した。



「まず、フォン・ブラウンへ向かう。テムさんとはここでお別れだ。本社の技術部主任に就いてもらう。ブライト君とアムロ君らは弊社の用意したペガサス級ホワイトベースの後継グレイファントムに乗ってもらう。それにガンダムと弊社の製作した試作機を搭載して、1か月間フォン・ブラウンで訓練してもらう。その後、ジャブローの各方面とアナハイムの生産したMSを連邦軍に多数取引した後、地上と宇宙同時に反攻作戦を開始する流れだ」



テムとアムロはその作戦の投影されたスクリーンを見つめていた。ブライトは汗ばみ手に力が入る緊張さ加減だった。



「大体2ヵ月でおおよその勢力圏が変わるだろう。すべての地域に大軍を用いるのだ、これ以上の陽動はあるまい。それでキャルフォルニアは手薄になる。その隙にブライト君らはキャルフォルニアのジオンの拠点を空から電撃攻略する。未だかつて大気圏投入できる艦艇がジオンはないと思っている。が、ペガサス級はそれを可能とする艦艇だ。そこで不意をつけるわけだ」



メラニーは説明終わると一息ついて、どうかねとブライトへ回答を促した。



「よい作戦だと思われます。何よりも軍上層部の統一見解であるわけでしょう。従いざる得ません」



ブライトは首をすくめて、困った表情をした。それを見てアムロが笑った。



「ブライトさん。やっと余裕が出てきたみたいだね」



「茶化すな」



「いや、その余裕はきちんと大局が見れている証拠だよ。俺達はこの数日間でいろいろ変化しては成長できているよ。そのことは大事だよ。」



アムロがそう言うと、テムも頷いた。



「そうだな。なんかブライトくんの凝りも多少は解れたと思う」



ブライトは2人にそう解釈され、少し微笑んだ。



「では、恐縮ですとでも言っておきましょう、レイ少佐」



「指揮官で大切なことは状況判断だ。どうすれば生き残れるか、それだけ考えれば死なずに済む。戦争なんて生き残ったものが勝ち組だからな」



テムがブライトにそう話すとメラニーが相槌を打ち、閑話させた。



「さて、アムロ君。君に技術者に教えろと伝えたが、動作関係のことで十分だ。それ以上は知らないと言い切りなさい」



アムロは釘を刺された。メラニーとしてもアムロの潜在能力が計り知れないと踏んでいた。アムロはためらいの理由をメラニーに悟られ、かつ彼の考えも一応は理解しておきながらも敢えて質問をした。



「なぜですか、メラニーさん」



「君は、君の技術は確かにあらゆる企業に恩恵を与えるだろう。しかし、戦争の早期決着を望むなら、我がアナハイムだけにすべきだ。我々がジオンを凌駕する戦力を生み出せば戦局は自ずと知れたことになるだろう。とりあえずアナハイムも1企業だ。私らだげ有利な材料を持っていては、皆の顔を立てないとならないのでね。」



「確かに。分かりました。では、早速済ませてきますが・・・」



「わかった。ウォンくん」



「はい、社長」



「アムロ君を案内して差し上げなさい」



「かしこまりました」



そう言って、ウォンはアムロを連れて各研究室へ案内して行った。



* 同研究施設内 ヴィックウェリントン社第19研究室内


ヴィックウェリントン社のある研究室に研修で来ていた優秀な研究者がいた。
飛び級で航空学・宇宙工学を修め、パイロット養成も兼ねてこのインダストリアル1に
弱冠18歳で訪れていた。



「ふむ。で、私にこのMSのテストパイロットも兼ねて製作に携わって欲しいと」



「そうなんだ。君の論文を読ませてもらった。君のジョイントのフレーム技術は
あらゆる作業する上でかなりの精度があるが、如何せん私らの知恵だと理解がついていかない」




「フッ、ならば用はない。まだその技術も紙面では可能だが、実際にはまだできない技術だから。
私の方もまだ詰めなければならないし、君たちもそれまで勉学に勤しむべきだよ。では、失礼する」


「あっ、待ってくれ」



そう言う前にその男は翻して研究室を後にしていた。



* 同所内 ラウンジ



窓際でカップのコーヒーを飲み干すと、窓を通して外を眺めていた。



「ここも、この程度か。。。何かあると思ったが気の迷いだったようだ」



そう思うと、ファイルの中から木星事業団の参加申込書を手にとった。



「地球圏にいるよりはマシか・・・」



そう記入しようとしたとき、スーッと頭に軽く電気が走った感じがした。
改めて周りを見渡すと1人の男に目が留まった。15,6歳ぐらいの茶髪のくせ毛の子だった。
しかし、その男は何か興味が湧いた。



「あの若いの。ただならぬ雰囲気を感じる。私の勘はこれだったか」



男はかすかに微笑み、自室でその茶髪の男子がアムロ・レイということが分かった。
そして、軍籍に身を置いているということ。幸い予備役だがその男も中尉という肩書を
もっていた。何かとエリートやら天才がこんな風に役立つとはと思った。


それからの行動が早かった。あっという間にメラニー・カーバインにたどり着き、
ホワイトベースへの乗艦を取り付けた。






9.22 サイド6宙域 * ホワイトベース 艦橋



9月22日、ホワイトベースはウォンとメラニーを乗せ、フォン・ブラウンへ出港した。
もちろん1人の男も乗艦した。そして、メラニーがその男を艦橋にて皆に紹介した。



「1人クルーが増えることになった。機械や宇宙工学に飛び級でかつ博士号も取得している。そしてパイロット養成でインダストリアルにも出向し並々ならぬ成績を残している。私も学科の教員も太鼓判な優秀な人材だ。入りたまえ」


そう言うと、一人の長身の均整とれた若い男性が艦橋に入ってきた。



「予備役だったが、このたび中尉で軍籍に復帰することになったパプテマス・シロッコくんだ。仲良くしてやってくれ」



「紹介預かりました。パプテマス・シロッコです。お見知りおきを」



シロッコは皆に握手をして回った。アムロにも握手を求めてきた。



「アムロ君だね。よろしく。君にいろいろ教わりたいと思っている」



「そう。よろしく」


アムロは突然のシロッコの襲来にリアクションが返せなかった。
厄介事が増えたのか減ったのかが今の自分には見当が付かなかった。

 

 

5話 ジオンの決断 ~ ルナツー侵攻 9.24

 
前書き
ちょっと展開が早いです。あまりにガンダムって登場人物に幅がなくて苦心しますね。 

 
宇宙要塞ソロモン 大会議室 9.24 23:00 



シャアはドズル中将麾下の艦隊と合流し、ソロモンへ帰投していた。
その後戦闘詳報とドズルに報告すると、ドズルは本国へ連絡を入れた。
その場で中継で御前会議が行われ、その後ソロモン方面軍の各隊指揮官を集め会議を招集した。



会議補佐役はドズルの副官のラコック大佐だった。



「我々の情報とこちらのシャア少佐の情報を持ち合わせてみても、連邦はMS量産化を始めることは明白。我々は国力では連邦の5%にも満たない。そのうえ時間をかけて待つことはジリ貧になることが必至です」



シャアとは違うもう一つの特務部隊の部隊長ランバ・ラル大尉が会議冒頭より今置かれているジオンの危機的状況を示唆した。各将官たちは唸った。ドズルがその中深刻そうに口を開いた。



「我々ジオンの、優位性を活かすことは今この時しかないかもしれん。宇宙での勢力圏はほぼ5割がたわが軍で占めている。連邦の宇宙での反攻拠点の主力はルナツーだ。そこを落とせばすべてのサイドがジオンの支持に回るかもしれん」



将官すべてが頷く。その中でコンスコン少将が挙手をして発言した。


「司令。ルナツーにはまだ連邦の艦隊が健在です。ソロモンの全兵力を投入しても勝てないと思う。モビルスーツも遠距離の敵には無力だ。その辺如何に」



「提督。その言、最もだ。生憎、連邦の地上から宇宙への支援は無きに等しい。姉貴の情報部によれば、あのV作戦の成果である量産化は約1か月かかると聞く。それまでにケリをつける」



ドズルは一呼吸おいて、ラコックに話を振ると大型のモニターに作戦内容を表示した。



「3路(ジオンの行軍進路)から包囲しながらルナツーへ進軍します。ソロモン、ア・バオア・クー、グラナダ。ほぼ全軍を用いて。9.30に出立し、10.10には作戦宙域到着。調査済みの艦艇戦力ならばこれで同数になるはずです」



モニターに地球、月、各要塞、各宙域と各サイドが表示され、そこよりマークが出てルナツーへの進軍航路が示されていた。コンスコンが全軍と聞き当然の疑問を呈した。



「全軍とは。防衛はどうするのだ」


その質問にドズルが答えた。



「聞いていなかったか?ほぼ全軍だ。少しは残す。対策済みの案件でもある」


するとラコックが代わりに答弁をした。


「出立前にも各哨戒部隊へ掃討作戦を実施します。ルナツーへの3路の進路クリアと地球からの通路封鎖を徹底的にします。今の我が軍ならではの取れる行動です。モビルースーツは接近戦には強いので、その優位を活かす。9.30に出陣後もその掃討作戦は実行しながら進軍をします。そのため少々進軍速度が遅くなりますが、安全面につきましては保障されます」


フム、とコンスコンは相槌を打つ。ラコックは話を続けた。


「行軍速度の一定もルナツーからの連邦の各個撃破対策にもなります。彼らには巣穴のモグラになっていただきます。仮に出てきてもどの艦隊へ進軍されようとも、対峙した我が艦隊は後退し残りの艦隊が後背を突き仕留めます。彼らが分散の愚を冒せば、我々のモビルスーツの優位性を持ってして我々も分散し殲滅するのみです。勿論、無事ルナツーへ全艦隊が到着すれば我々の接近戦の優位性を持ってルナツーを撃滅できます」


「しかし遠距離からの攻撃には我々が無力だ。艦艇戦力は全軍合してもまだ連邦に劣る。その対策はどうするのです?」

ドズルがその疑問に答えた。


「それは兄貴が目途をつけたそうだ。かの大型空母が就航し、テスト兼ねて今回の一戦に参加するそうだ」


室内の将官たちがどよめいた。確かにその空母の就航が事実ならば並の戦艦の主砲などもろともしなく、その空母を前面に出しルナツーへ接近すればモビルスーツを活かした接近戦に持ち込める。
懸念をすべて取り払いたくコンスコンが詰め寄った。



「そのテスト万が一うまくいなかった場合はいががしますか?」

「その時は・・・我が艦隊が突撃し屠るのみ。この1か月で勝負が決まるのだ。我々は人類史上類も見ないコロニー落としをやってのけた。今更怖気づく必要もない。大義の下で我々は動いているのだ。今後の人類のために。やるかやられるかだ」

会議室に緊張が走った。そしてドズルは頼む皆の命を預けれてくれと将官らを前にして頭を下げた。
将官らはジオンに所属し、コロニー落としを含め既にジオンに属さないものを50億人程被害に遭わせていた。彼らに今更の謝罪をすることなどもはや不可能であった。それならば、その者たちへ恥じない新たな良き世をジオンで創り上げることしか償うしかないと。議場の将官たちは皆同じ考えだった。赤い彗星を除いて。



*  ジオン軍 ソロモン方面軍 ドズル艦隊 麾下 ムサイ(ドレン艦) 9.29


シャアは10余りの遭遇戦、掃討戦をこなしていた。
地球上空のジャブローからの支援やルナツーからの迎撃を撃退し、乗機のリック・ドムも微調整や
改良を重ね、手足のように動かせるようになっていた。

ガンダムとの闘いにより彼は自分への慢心を捨て、ノーマルスーツを着用し任務に就いていた。


「ふう、これでこの宙域の掃討も済んだかな。こちらの宙域への連邦の動きがさっぱりした」

シャアはリック・ドム内でそう呟いた。すると通信でドレンから連絡が入った。

「少佐。そろそろドズル司令と合流するためのポイントへ向かわなければなりません」

「了解した。周囲を警戒しつつ帰投する」

シャアは通信を切ると眼下の地球を眺めリラックスしていた。

「私は非力だな。仇も取れず、その仇を上司としてもつこのジレンマ。まあジオンの土地で暮らしていたからこの手の職種には選びようがないが、果たしてジオンが勝ってどう変わるのかな」

元々、ダイクンの子として幾度も命を狙われては名を変えて生き延びてきたシャアにとっては身の安全とできるならば復讐を求め、ジオン軍へ参加、敵の懐に飛び込んだに過ぎない。それ以外のことに考えがまだ及ぶことができなかった。

シャアも年頃になってから自分の親に興味を抱き調べたことがあった。ジオン・ダイクンはスペースノイドの代表格のようなものだった。地球圏の人々にないがしろにされていたコロニーの人々への評価を求めた。暗殺されたことは置いておき、ジオン・ダイクンの革新は戦争を通じてシャアにこのようにたまに考えさせることがあった。

「歴史的にいっても、今のジオンの流れはやむ得ないだろう。抑圧された群衆は民主政治の中では反発を招くものだ。地球に残った特権階級を皆地球から上げなければ、若しくは宇宙の評価を上げなければどうにもならんな。しかし今は私が考えることではないか」

シャアは政治的な出番ではない今は連邦を叩くということに集中することで考えの一端が解消されると考えていた。

ジオンの思想はスペースノイドの独立に他ならない。例え独裁であろうと。連邦にはこの戦争は良いお灸になると安直に考えるしか他なかった。ドズルにも命を預ける気も毛頭ない。しかし、逆らうことはできない。それほど今のシャアは非力だった。




* ルナツー宙域 ルナツー方面軍艦隊司令部 マゼラン級 旗艦 10.10 0:10 



ルナツー方面軍司令官のワッケインは押し寄せるジオンの陣容に遠距離からの守勢を試みるため、鶴翼の陣容で艦艇を配置していた。オブザーバー参加としてコーウェン将軍も乗艦していた。

「なんたる覚悟と陣容だ」

コーウェンは唸った。艦艇数はジオンより多いが接近戦に持ち込まれるとモビルスーツには勝てない。ルウムのように悲劇が待ち構えている。

「ご安心を将軍。この宙域より敵を撃退し、この戦争に楔を打ち込んで御覧に入れます。各艦艇、射程距離を保ちつつ第1種戦闘態勢!」

一方のジオン軍は3方向より艦隊をルナツーの連邦の艦隊に等距離で詰めていた。
左翼にドズル艦隊、右翼にキシリア艦隊、そして中央にギレン艦隊とその旗艦巨大宇宙空母ドロスが前面に出ていた。

* ギレン艦隊 ドロス 艦橋 

司令官席に鎮座するギレン・ザビがドロスを前面に押し出すように指示をしていた。
通常仕様が側面艦砲を前面に移すように改良済みであった。

「このドロスの対艦火力を連邦艦隊の中央にぶつける。割れた両翼を我が両翼により悉く殲滅するのだ」

非常にゆったりとしながらも宇宙の巨大な要塞がじりじりとワッケインの艦隊に真っすぐ接近していた。

ワッケインはそれを見て、敵両翼の動きも牽制しなければならないため中央部の艦艇のみで目の前の巨大な艦艇に向けて集中砲火を浴びせた。ドロスも同じく主砲を敵中央の艦艇に打ちこんだ。

ドロスの船体が攻撃の衝撃により揺らぎに揺らいだ。ギレンを含む艦橋の船員が必死に揺れに堪えていた。ギレンはその環境で笑った。

「フフフ。いいぞ、連邦よ。このデカい的だけ狙えばよい。このドロス並大抵のことでは沈まんよ。オペレーター状況を知らせい!」

「はっ、後30分で作戦開始宙域に到達します。攻撃開始より10分損害状況10%。航行支障なし」

「10分で10%か。連邦よ。もう少し頑張らないと後がないぞ」

開戦より5分経過で損害がジオンのドロスの小破と連邦の艦艇5隻の大破という状況であった。
ワッケインはこの状況を見て、艦隊を全体的に後方へ下げようとしたがその動きに連動した。

ドズル、キシリアの両翼が大きく迂回の進路を取りワッケイン艦隊の後方へ回り込む動きを見せていた。ワッケインは敗北を意識した。

「将軍。敵の巨大空母にまんまと乗せられ、我々はどうやら決死で挑まねばならなくなったようです」

「そうか、ワッケイン司令がそういうなら私も覚悟を決めよう。目の前の敵を潰すのだな」

「はい。それしか我々に勝機がありません。正面に両翼の火力を用いて短期で殲滅し、その後残敵を掃討します。距離を詰められてはいくら奴らが艦艇少数でもモビルスーツで負けます」

ワッケインは両翼に指示を出し、全力を持ってドロスへ集中砲火をした。ドロスの艦橋が更に激しい衝撃を受けた。ギレンは耐え切れず席より降りて床に這いつくばった。


「オペレーター!状況報告!」

「はいっ!損傷率50%に膨れ上がりました。航行機能も70%に低下!作戦開始時間が15分から25分に変化!」

「よし!引き続きドロスでの特攻を。並び全乗員に退避命令。そして全モビルスーツに15分後出撃命令を」

「はっ」

「私もヤキが回ったものよ。ドロスでこんな作戦などとは。しかし連邦のV作戦の状況からしてこのドロスを捨てても惜しくはない」


そう言ってギレンも脱出ボートへ向かい始めた。
ギレンが脱出艇の乗り込み後方のクワジンへ退いた10分後ドロスは連邦の集中砲火に耐え切れず機関が停止した。ドロスを失ったギレン艦隊はワッケイン艦隊より五分の1にも満たない戦力であった。
ワッケインは好機と見てギレン艦隊へ突撃をかけた。


「よし!前面の敵は寡兵である。全艦全速前進!」

ワッケインは勝機をみた。前面のギレン艦隊を殲滅した後に残りのドズル、キシリアを殲滅する。戦力としては申し分がなかった。しかし、ワッケイン艦隊が機関停止したドロスを横切ろうとしたとき、ドロスが爆発した。その威力が桁違いだった。

「なんと。バカなぁ~・・・」

その閃光はワッケイン艦隊の主力を飲み込みワッケイン、コーウェン将軍共々宇宙の藻屑と消えた。
南極条約に違反の核が搭載されていた。ギレンは兵器として打ち込んだ訳でないドロスの核融合炉の臨界で核並の威力の轟沈を見せたと戦闘詳報に記載し後日世間に説明をしていた。

それでも尚残存艦艇数がジオンを上回っていた。しかし、司令部の喪失が連邦の艦艇のほとんどを遊軍と化した。

効率的な攻撃がギレン艦隊にできることもなく、後方のドズル・キシリア艦隊にモビルスーツ戦を仕掛けられ、戦闘より5時間後ルナツー方面軍の連邦残存艦隊が戦闘継続困難と考え散開退却し敗北した。


 

 

6話 キャルフォルニアの嵐(キャルフォルニア奪還) 10.27

 
前書き
タイトルほどキャルフォルニアに関する戦闘描写はありません。それぞれが原作以上に精神的に成長していきます。 

 
UC0079.10.27 ルナツーを制圧したジオンは宇宙での勢力圏の8割方手中に治めていた。
残りの1割強が中立を保つサイド6群と若干の連邦よりのサイド7だけであった。

その最中、月面のフォン・ブラウン市とグラナダ市だけは中立よりというよりもどちらつかずな状況が暗黙の公認という形であり(グラナダ市はジオンよりだが)、連邦ジオンと入り交じりながら経済が動いていた。

サイド6のインダストリアル1が共同研究場だが、月面都市群は各企業の実働生産拠点の1つであった。


フォン・ブラウンに到着したホワイトベースはそのまま改修のためドック入りしてしまい、ブライト、アムロ、シロッコとリュウはウォンに連れられて、アナハイムのある工場へ案内されていた。


「諸君らに既に新しい母艦のテストと新型機のテストと試して頂いた。良質なデータが取れたことで研究部は喜んでいたよ」

「それはどうも」

ウォンの問いかけにブライトは沈痛な気持ちになっていた。ルナツーが落ち、ワッケイン艦隊が壊滅したとジャブローから報告があって1ヵ月弱。若さ故にと経験が新兵と変わらないブライトにとっては衝撃的な出来事だった。アムロはそんなブライトに優しく声を掛けた。


「失ったものはもう戻りやしない。今を見てオレたちのできることをしていかないと。艦長として堂々とみんなの前に立って欲しい」

「アムロ・・・すまない。分かっているのだが」

シロッコやリュウもフォローに入る。

「アムロ君の言う通りだと思うが、それほど人は強くはできていないさ。出港までに整理は付けてもらえればいいと思う」

「シロッコ中尉と同感だ。ブライト中尉、貴官がそれ程背負い込む必要はないと思える。彼らは我々よりも経験豊富なプロの軍人なのだ。それでも選択を誤ればそうなる。戒めにして今後の糧にすることが彼らへの何よりの手向けになるだろう」

「シロッコ中尉、リュウ・・・確かにな・・・済まなかった」

ブライトは挫けていた心にようやく整理する心構えが出来たと感じた。ウォンもそれを見て微笑を浮かべた。

「若いうちはいろんなことを経験して成長していくものだよブライト君。さて、こちらの部屋がそうだ」

廊下を進みある部屋に入ると高さビル10階建てくらいの吹き抜けに出た。そこには1ヵ月余りかけてできたアナハイムの新型機があった。

「ガンダムの汎用性とレイ君、アムロ君、シロッコ君のアイデアを取り入れたRGM-79C ジム改。当初は連邦との共同研究でRGM-79の量産化に努めようと考えたが様々な改良点がこれほど早く解決するとは思いもよらなかった。これをキャルフォルニアの本社工場でも製造ラインを整え開始している。こちらの商品はこのフォン・ブラウン工場でも10体は製造済みだ」

続いてウォンは隣のガンキャノンの量産機を紹介した。

「こちらもガンキャノンをベースにできたRX-77D量産型ガンキャノンだ。あらゆる死角の排除を網羅し、かつキャノン砲の重量の不安定さを考慮した。こちらも10体この工場にある」

そして、最後に狙撃用の量産機を紹介した。

「こちらはRGM-79からの流れだが、RGM-79SCジム・スナイパーカスタム。ガンダム並の火力を備えた長距離支援型だ。こちらはカスタマイズ機故に前の2機より時間がかかる。今この工場には5機ある」

そしてウォンが3機の量産機についての捕捉をした。

「すべてが装甲面ではガンダム、ガンキャノン、ガンダンクよりコスト的に落としたので少々頼りないがな」

ウォンは説明し終えると、4人を前にして今後の話をした。

「ジャブローにも既にアナハイムの技術者、製造部ごと入っている。カスタマイズ機以外の同じ機体がこの2週間で50機ずつ納品予定だ。このデータも既に今より2週間前のテストのものを採用し、ジャブローにも通達済みだ。つまりジャブローにはもはや100体近くが納品されている。実地訓練も盛況のようだ」

ウォンは振り返り、部下の社員に話をしてその部下がある人物をここに呼んだ。
その人物は連邦の制服を身に纏った赤毛の女性であった。アムロは懐かしく思った。

「紹介しよう。こちらはジャブローより特別任務を預かったマチルダ・アジャン中尉だ。民間機で極秘にフォン・ブラウン入りしている。今後の作戦の水先案内人だ」

「マチルダ・アジャンと申します。ジャブローより任務を預かってまいりました」

赤毛の美女がはきはきと4人に自己紹介をした。ウォンは「では後はマチルダさんに任せます」と言い、その場を去っていった。するとマチルダが話を始めた。

「現在10・27を持って、ブライト・ノア中尉を連邦特務部隊グレイファントムの艦長に任ずる。そして最初の作戦はキャルフォルニアの奪還である」

ブライトは敬礼し了解でありますと答えた。マチルダは話を続けた。

「その母艦にこちらの工場のジム改とガンキャノンとスナイパーカスタムを搭載し、11.01に地球上空より大気圏侵入をし上空より強襲をかける。グレイファントムは上空よりモビルスーツ隊を降下し、ベースの占拠をしていただきます。周囲の掃討はジャブローからのモビルスーツ大隊が行うことになります。以上です」


マチルダが説明し終えると何か質問はと言った。するとアムロが挙手をした。


「敵戦力の解析を終えているのでしょうか?」

「無論です。ザクがキャルフォルニアだけで300体以上整備があると聞いております。概算だが、本部は今のモビルスーツ性能はザクを遥かに凌ぐという計算です。多勢に無勢という状況は無視するという回答になりました。テストを兼ねた実戦で地上のザク中隊を4機の当方の新型機が無傷で壊滅させたという戦績を残しています」

「ほう」とシロッコが感心して答えた。

「中々この短期間で見事なお手並みだ。優秀な操縦者がいるのだな」

「そうですね。その戦いで戦果を挙げたのはバニング小隊だそうです」

マチルダは手元の資料をめくって説明をした。そしてマチルダは現状についての説明をブライトに求めた。

「ジャブローは貴方がたを高く評価しております。付きましては艦艇の戦力を把握しておきたい。操縦者から船員まで説明をお願い致します」

「承知いたしました。話は軍事に関わることなのでグレイファントム内に致しましょう」

そうブライトは伝え、マチルダをグレイファントムを案内した。



* グレイファントム艦内 応接間 10.27 15:10


来客用の応接間であって、両側に長いソファが2基置かれて中央にその長さにあったテーブルが置かれていた。そこにブライトとマチルダが対面で着席した。

「まず艦橋から、操舵手にミライ・ヤシマ伍長。レーダー管制に・・・」

ブライトが淡々と紹介をし、マチルダはその資料に目を通していた。

「・・・MS操縦者にガンダム、アムロ・レイ曹長。ジム改にパプテマス・シロッコ中尉、リュウ・ホセイ少尉。ガンキャノン改(ガンキャノンの改良点を改良した機体)にハヤト・コバヤシ軍曹、カイ・シデン軍曹。ジムスナイパーカスタムにセイラ・マス軍曹、ジョブ・ジョン軍曹・・・以上になります」

艦橋から衛生班、メカニックと隅から隅まで説明をし終えると、マチルダがブライトへ任命状にサインを求めた。ブライトは一通り読みサインをした。


「ではこれで貴方はこの艦の艦長になりました。艦内権限のすべての頂点は貴方になります。私はオブザーバー参加でご一緒致します」


「分かりました。よろしくお願い致します」


「くれぐれもお間違えの無い指揮をお願い申し上げます。今回の作戦の重点はノア艦長の拠点制圧にかかっております。拠点を失ったジオンは指揮命令系統をきたし、退却余儀なくなるでしょう」

「はい。身命に誓ってこの任務遂行致します」

「フフフッ。嬉しいですわ。キチンと貴方からの決意を本心で聞けた気がします。初対面の時はなんか複雑そうな顔をしていていささか心配になりました」

ブライトは悩んでいたことが顔に出ていたんだなと改めて赤面した。

「ははっ、お恥ずかしい限りです。まだ未熟だと感じております」

「ですが、なんか徐々に吹っ切れたみたいなので元々通り越し苦労だったのでしょう」

「そうですね。ルナツーの陥落から塞ぎ込んでおりました。幸い小官の周りには気遣ってもらえる、心配してくれる優秀な部下が同僚がいてくれたおかげで立ち直ることができそうです」

「そうですか。艦長となった今、より一層励まなければなりませんね」

「おっしゃる通りです」

会話がひと段落すると、丁度のタイミングでフラウが紅茶を持って応接間へ入ってきた。

「失礼致します。紅茶をお持ちしました」

「ああ、有難う」

「ご馳走になりますわ。クルー皆若いけど、貴方も若いわね。いくつかしら」

マチルダがフラウに声を掛けた。

「はい、15になります。サイド7より避難民でこの船に乗艦しました」

「ご両親はご健在かしら」

「はい、ルナツーへ避難してから違うサイドへ避難したので大丈夫です」

「でも、何故貴方はご一緒しなかったの?」

当然の疑問だった。それにフラウが答えた。

「ここに友人がいます。その友人はジオンと戦っています。私たちの生活を壊したジオンを何とかしたいと私も思っています。それで志願しました。私だけ安全なところに隠れてなんかいられなかったからです」

フラウの眼差しは真剣だった。マチルダは一息ついてフラウに言った。

「私はマチルダ・アジャン中尉と申します。貴方は?」

「フラウ・ボウと言います」

「フラウさん。貴方の熱意はよく分かりました。その気持ちをその友人たちの支えに使ってやってください。但し、軍人たるもの非情な場面等あります。その実直さが徒にならないように日頃から冷静に見ていくことが大事です。これは若いからではありませんよ。意識するかしないかの問題ですので」

フラウはマチルダの言をよく汲み取れず不思議な顔をしていた。マチルダもその顔を見て謝罪をした。

「ごめんなさいね。ちょっと私の方が長く生きているからこんなこと言ってしまってね。年増の戯言だと思って聞き流してね」

マチルダはフラウにウィンクをした。その色っぽさにフラウが赤面して「失礼します」と言って足早に退出した。ブライトはそれを見て笑った。

「アジャン中尉。あまり部下をからかわないでください」

「そんなに笑うことないでしょう、ノア艦長」

マチルダはブライトの笑いに少し腹を立てた。

「それにノア艦長。マチルダでいいですよ。少々長いすると思いますので」

「では小官もブライトとお呼びください」

「分かりました。ブライト艦長、作戦の成功を」

「承りました。マチルダ中尉」

両者とも握手を交わし応接間での対談が終わった。


* グレイファントム艦内 艦橋 10.27 16:25

フラウは艦橋へ走りこんできた。そこにはハヤトとカイ、セイラがモビルスーツのマニュアルを手に話し合っていた。その姿にセイラが驚いた。

「どうしたの。忙しない。息切らしてきて」

「あのマチルダって女が私をからかったの。熱意なんて邪魔になるようなことを言って。その後謝られてウィンクなんかされて・・・」

3人は状況がよく掴めずフラウを落ち着かせて再度聞き直した。
すると、3人ともフラウが勘違いしていると指摘した。

「自分のことを年増って言って下げたんだろ。終始お前のこと立てていたじゃないか」

カイがフラウへ言った。ハヤトも同感だった。セイラも慰めながらこう窘めた。

「マチルダさんという方はきっと貴方なんかよりもここにいる私たちよりも余程の修羅場をくぐっているのよ。少し前の民間人だった私たちと訳が違うから。確かに意識は大事だと思うわ」

セイラはマチルダの意見に納得し、自分への戒めにした。
フラウはゆっくり落ち着いて考え始めた。

「そう・・・なのかな。うん、私の勘違いだったみたい」

ハヤトはそうだなと言って付け加えた。

「フラウは頑張り屋だから、避難してからここまで休む暇なく仕事していたでしょ。たまに息抜きをした方がいいよ」

フラウはとっさに否定した。

「そんなことないわ。私はまだやれるわよ。疲れてなんかいない」

「それさ。充分疲れているよ。気持ちの上げ下げがあって安定していないのは疲労の証拠。艦長に休みを掛け合ってあげるからさ。もう少し緊張を解いた方が良いよ」

「そうそう、ハヤトの言う通りだよ。セイラさんも協力してくれるよな」

「ええ、もちろん。フラウは傍から見ていても働き過ぎだったよ」

フラウは3人からそう言われるとそうなんだと自覚し、緊張を解くとあっという間に崩れ落ちた。
3人は慌てて抱きかかえ艦橋の簡易ソファーへ横にさせた。フラウは気が付くと自分が横になっていることに驚き笑った。

「なんか無理していたみたい」

「そうだな。こんなにクルーがいるんだ。抱え込まず頼ることが肝心だ。アムロから教えてもらった」

ハヤトがアムロから心構えについて様々なことをここまで教えていた。ハヤトは最初は日陰者のアムロを罵っていたがそのうち真剣さや言っていることの正しさを理解してそれを他の2人にも教えていた。

「アムロに・・・」

「ああ。奴は変わったよ。あんなメカオタクだと思っていたが、オレに指南してくれと柔道を教えた。その前から筋トレしていたみたいでな。なんか柔道もまだまだだがいい線までいっていると思うよ」

フラウはまた驚いた。あのアムロが運動などとは想像もつかないことだった。

「なぜ、アムロがそんなことを」

「言っていたよ。ハヤト、オレには短期間である程度の基礎体力作りをしなければこの戦争に耐えれないと。アムロはすごい奴だよ。この1ヵ月での彼の肉体は相当逞しくなった」

「そう。アムロがね・・・」

フラウはアムロが遠い存在に感じた。昔はいろいろ庇っていてあげていたがもう守る必要がなくなったのねと考えると少し寂しさを覚えた。



* フォン・ブラウン アナハイム・エレクトロニクス支社 社長室



古風な西洋製の高級調度品が並び備えてある中、メラニーは未決済の稟議書に目を通してはサインをしていた。その傍には妻のマーサが立っていた。

「メラニー。今回のジオンのルナツーの侵攻は貴方が促したのね」

マーサがそう言った。メラニーは不敵に笑った。

「私はマ・クべに助言したまでだ。連邦のV作戦とその期限をね。結果そうなったまでよ」

「しかし、これでパワーバランスが連邦寄りにはなくなった訳ね。私たちの土壌を潤すために」

「そうだな。連邦はもう少し地球で足掻いてもらおう。ただでも地球資源の大多数が連邦の持ち物だ。サイドの資源も各々サイドのものでジオンはそのおこぼれをもらうしかない。せいぜいオデッサと北アメリカ、アジアとアフリカの一部分のみだ。わが社がある程度の成長が達成できればジオンを程よく生かして連邦に戻すとしよう。此度は人が死に過ぎたからな」

メラニーは経済動向を見ていた。戦争の特需は魅力的に映るが先のアイリッシュ作戦での人口の減少は世界を震撼させた。

好景気はマンパワーあっての代物だと考えていた。そのためにはジオンに活躍され過ぎても危険と感じていた。

しかし背に腹は代えられず死の商人としての暗躍を行いつつもコントロールをしようとしていた。


「いつまでもカーディアスの世話になるわけにもいかんからな。ここいらで自立せねば」

「そう?お兄様はいくらでも惜しまないと思いますが」

「私もいつまでも1人前にならんよ。それではね」

メラニーは愚痴をこぼした。表向きは大企業の社長を世間的に認知はされどそれは全ては妻マーサの力に及ぶものであった。マーサは苦笑して夫の言に疑問を呈した。

「しかし、貴方にジオンと連邦をコントロールしきれますかね」

「無論。そのつもりだ」

そしてメラニーはすべての稟議決済を終えた。

* グレイファントム艦内 艦橋 10.29 08:00 

全クルーがグレイファントムに乗艦し、出港間近であった。テムはアナハイムに残り、次世代機やその他の研究に尽力することになった。出港前にグレイファントム艦内モビルスーツ格納庫内でテムはアムロにガンダムを改良したことを告げた。

「アムロ。ガンダムの装甲をリメイクして排気性を良くした。これで熱量を軽減でき機体負担を下げることができるだろう」

「そうか。じゃあ多少の無茶ができるようになったってことだな」

「そうだな。しかし、肉体への負担が凄いと思うが」

「それは心配要らないよ父さん。っとレイ少佐」

「いや、今は民間人だから普通に父でよいぞ」

「あと父さん。操縦の伝達系統とモニター等視覚系統の研究を進めて欲しい。教えたアイデアが参考になるはずだから」

「わかった。近日中にでも結果を出す予定だ」


そう言ってテムはグレイファントムを後にした。

艦橋では各クルーが最終チェックに入っていた。オスカ・ダブリン、マーカー・クラン両オペレーターが通信士のフラウと連絡を取り合い、フォン・ブラウンの管制とも通信をし出港後の進路がクリアであることをブライトに告げた。そしてブライトは出港の合図をした。


「全クルーに告ぐ。本艦は地球へ向けて出港する」


そう言うと機関士がエンジンに火を入れ、グレイファントムはフォン・ブラウンを8:30を持って出港した。


久しぶりの宇宙航路。艦橋のクルーは興奮していた。
カイとハヤトは星々を見てははしゃいでいた。
アムロとシロッコはブライトの隣で方や腕を組み、方や腰に手を当てていた。
シロッコがアムロに声を掛けた。


「アムロ君。この作戦どう思うかね」


「今の戦力ならば疑うことなく上手くいくでしょう。ただ」


「ただ?」


「相手の出方次第です。あのルナツーへの侵攻はジオンに余程の決意をさせた何かがあったのかもしれません。さもなくばあんな賭けにでないと思います」


「君もそう思うか。確かに、ルナツー会戦に参加したジオンは総帥含めた宇宙軍のほぼ総力だと聞いた。確かに賭けだな」


「そう、それに勝った。ジオンは並大抵な敵でないことが改めて思い知らされた一戦です」


「なるほど。確かに相手の出方次第だな」


それを話終えると、識別不明の標的が接近しているブザーが鳴り響いた。
ブライトはフラウに確認を急がせた。


「敵です。2時の方向。ムサイ級2つ確認」


ブライトは一呼吸おいてクルーへ告げた。


「よし!第一種戦闘配備。モビルスーツ隊も用意しておけ」


そう告げると艦橋にいるパイロットすべてが格納庫へ走っていった。

ムサイからザクが計8体出てきていた。この頃の宇宙の勢力圏はほぼジオンのものであったがため常に哨戒行動を取っていた。ジオンもまさかこの宙域に連邦がいるとは思わず慌てていたが、すぐに立ち直り臨戦態勢を整えていた。

グレイファントムから出撃可能なすべてのモビルスーツが出ていた。

ガンダムのアムロはジム改のシロッコと連携を取り、6機のザクを機動性能と操縦技術で翻弄した。


「なんと反応が遅い!」

シロッコはザクのパイロットの技量の無さに嘆きつつもビームサーベルでザクの側面に入り込み、一太刀浴びせ撃墜した。もう一機もマシンガンでピンポイントにザクのジョイント部を打ち抜き電気系統を壊しエンジンに誘爆させて撃墜した。

アムロもビームライフルで3機撃ち落とし、一機ビームサーベルで一閃し撃墜した。

決着はものの10分で片が付いた。ムサイ2艦と8体のザクがすべて壊滅した。

カイとハヤトは互いに2機ザクを威嚇射撃で牽制し合い、その隙にジョブ・ジョンが仕留め、リュウも単機でザクを仕留めた。

パイロットの訓練はすべてアムロとシロッコが担当し、状況に応じての対応を各々のパイロットへと叩き込ませた。その結果が初めてこの遭遇戦にて結果を出すことができた。

ブライトは結果を聞き、安堵し「アムロとシロッコはよくやってくれた」と褒めたたえた。
全員が帰投すると、ブライトは戦闘後の捕捉を警戒し機関を最大船速でその宙域を離れた。



11.01 6:12 にブライトたちは数々の哨戒網を戦闘しては潜り抜け、地球軌道上空に辿り着いた。艦橋にはマチルダの姿があった。マチルダはジャブローとの通信を取っていた。通信を終えるとブライトへ突入指示を提案した。


「ブライト艦長。すでに地上では戦闘が始まっております。ジオンのキャルフォルニアを防衛する一個ほどの連隊がジャブローからの大隊と接触。キャルフォルニアから切り離すための陽動を掛けているそうです。キャルフォルニアは手薄になりました。ジャブローより攻略指示が出ております」


「わかりました。全クルーに告ぐ。大気圏突入を開始する。全員衝撃に備えろ」


グレイファントムはその艦艇を地球へと沈めていった。大気圏を無事通過し、キャルフォルニア上空に到達したときブライトはモニターを見て唖然とした。オペレーターが叫んでいた。


「キャルフォルニアはハリケーンのど真ん中です」


ブライトは天候の悪化によることは想定していなかった。顎に手をやりしばし考えた。そして一つの考えが浮かんだ。


「・・・そうだな。マーカー!目の位置を知らせろ」


「は?」


「ハリケーンの目の位置だ。そこは凪だ。そこよりキャルフォルニアへ上陸する。グレイファントムはその後着陸し、モビルスーツ隊がジオンの拠点を占拠する」


グレイファントムは通過するハリケーンの進路とジオンのキャルフォルニアベースの位置を時間で想定しキャルフォルニアベースの上空に目が到着したと同時に緊急降下させた。ジオンはハリケーンを伴い周囲の守りが手薄になっていた。そこに頭上より強襲されたのであった。

ブライトはすぐさま基地を破壊、無力化に成功した。
そしてハリケーンが過ぎるまで艦を地上へ降ろしていた。

拠点陥落の効果はすぐに前線のジオン兵の命令伝達系統に支障をきたした。
軍隊としての統制が取れず、各隊との連携が取れない。この通信途絶の意味するところは本隊がやられたことと同意義だった。ジオン兵は恐怖し、各々が戦闘し、各々が退却していった。

その敵の無様たる姿をみたバニング中尉は部下たちに戦闘に勝ったことを告げた。


「勝ったぞ、モンシア、ベイト、アデル!これから追撃する。戦果を上げる機会だ。気合いいれていけ」


「了解です。ジオンにやられっぱなしだったから鬱憤を晴らしましょう」


「もちのロンよ!」


「了解であります」


その後の追撃戦によりキャルフォルニアからのジオンの脅威が去った。
この戦いの戦果によりブライト含むグレイファントム隊すべてのクルーが昇進した。


* ニューヤーク市 ジオン司令部 11.02

11.02には北アメリカの西海岸すべてを連邦が取り戻すことに成功した。それでも尚北アメリカの内陸部と東海岸はジオンの勢力下であった。そしてそこには地球方面司令ガルマ・ザビが控えていた。
ガルマはキャルフォルニアの敗北を聞くとすぐ勢力圏境に軍隊を派遣し牽制させた。

ガルマは司令官室にて地球に降下していたシャア中佐と黒い3連星のガイア少佐、ランバ・ラル少佐と作戦を話し合っていた。各々がルナツー会戦での功績により昇進を果たしていた。そして今度は地球での勢力拡大を指示されていた。


「ガルマ大佐。連邦の新型はザクを凌駕する性能だそうだ」


シャアがキャルフォルニアの戦闘詳報と連邦のジム改についての情報を持ってきていた。
ガルマが唸った。


「連邦め。ついに反撃の狼煙を上げたか。我が軍にはガウがある。地上でザクがその新型を誘い込みガウで絨毯爆撃をしてやる」


「ふむ、戦術的には理に適っておりますな」


ランバ・ラルはガルマに同意した。シャアもそれがいいと答えた。シャアはそれに追加して自分で組織する遊撃隊を組織することを提案した。



「連邦も早々うまく乗せられることもないだろうから、この私がお膳立てをしよう」


「ほう、赤い彗星がどうお膳立てるのだ」


「地球降下と共にドズル閣下より頂いてきた地上用のドムが30機ばかりある。これを3つに分けて前線でゲリラ戦を仕掛けようと思う。我慢効かない敵兵を誘い込めば自ずとガウで仕留められよう。誘い込みを威嚇でなく嫌がらせで行こうとね」


ガルマは笑った。そして流石シャアだと褒めたたえた。そしてその1隊をシャアが、もう1隊をランバ・ラルそして最後の1隊をガイアが指揮することになった。

それがシャアのある思惑だとはガルマは露にも思わなかった。

「(これで精鋭な部隊を分散させる理によって、ガルマと二人っきりになれる機の利が得られたな)」

と。

 
 

 
後書き
少し焦って書きすぎたかな。ガルマの展開等で少し登場人物を加えてみました。連邦の初めての量産MSはジム改になりました。ザクもⅠでなくザクⅡですしね。いいんじゃないかなと。 

 

7話 激戦のアメリカ 11.05

 
前書き
最近、助詞の使い方が難しい・・・ 

 
* アメリカ中西部 ノースダゴタ 11.05

ノースダゴタでも最東に位置する都市で連邦との最前線が西境にある。そこでは数で防戦に徹しているザクが3交代で連邦の侵攻を防いでいた。

ガルマのザクの壁と呼ばれる徹底した防戦とガウの上空攻撃作戦(ガウの雨)により、一時の連邦のアメリカ侵攻の勢いを食い止めていた。しかし、連邦も誘いには乗らず深追いはしないように侵攻を繰り返していた。

最前防衛ラインにて、ザクの1個中隊が今日も連邦の攻撃を撃退した。
その中隊の隊員が一人息を吐いていた。

「見たか連邦め!いくら新型でも我が軍の連携でこんなざまだ」

それでも連邦の物量に圧倒されるのではという不安が隊の中で蠢く。彼は虚勢を張っていると半分が感じていた。そんな同僚を見た不安そうな隊員が隊長に聞く。

「しかし隊長。こちらの補給も追いつかないほどのスピードでの敵の進軍。いずれは限界が来てしまいます」

隊長はさらに虚勢を張る必要があった。心では笑えないが、その不安さを伝えてはならないと思い、軽い口調で答えた。

「なあに。ガルマ司令がなんとかしてくれるさ。現状は?」

傍のザクのパイロットが生きている無線をかき集めて計算した。

「はっ、当中隊の3割が撃破され、3割が弾薬切れです」

つまり半数以上が戦闘不能と言う話だ。それすら悲観してはいけない為、ジョークの様に答えた。

「おいおい、結構悲観的だな。よし、東に10km転進するぞ」

隊長の気さくさが隊を勇気付けた。隊員らはそれにため息をついて、もうひと頑張りするかと腹を括った。

「了解」

各前線のザクの壁もじりじりと連邦の圧力に押し込まれていた。


* 連邦軍 北アメリカ侵攻軍司令部 ラスベガス駐屯地 


簡易テントが建てられ、その中がブリーフィングルームとなっていた。
連邦軍司令の闘将ダグラス・ベーダー中将が各モビルスーツ部隊長を招集し会議していた。ブライトもその場に出席していた。

「中々しぶとい。ザクの壁も厄介だが、かの奇襲が悩みの種だな」

ダグラスは腕を組みしばし考え込むため沈黙した。その間も部隊長同士で議論が白熱していた。

かの作戦に乗っかってこない連邦の姿勢をガルマ含め、ガイアも理解していた。連邦は時間を得れば得るほど有利になっていく。

シャアの提案はそんな状況に持ち込む前にガルマ地上軍が充分に戦力があるうちに連邦に短期決戦させようとすることだった。

連戦連勝の連邦に兵士の士気は最盛であった。そんな中誘いに乗る敵は少なくはないとガルマも踏んでいた。

作戦を開始して2日、実際に効果を得ていた。ガイア隊10機のドムの奇襲作戦を繰り返すこと5回で1機も失うことはなく、ジム改、ガンキャノン、ジムスナイパーカスタムと計20機ほど撃墜をした。

ランバ・ラル隊、シャア隊も同じく15機ほど仕留めたと報告を聞き、それは連邦のジャブローの生産スピードと同等の撃墜数であった。

ガイア隊が抜けて撃墜数が多い要因は部下のマッシュとオルテガとの連携によるものだった。
彼らのジェットストリームアタックは無敗無双の連携攻撃でそれを受けたジム改はなすすべなく撃破されていった。

バニング隊、キッシンガム隊が機体の損傷負いながらも辛くもジェットストリームアタックから逃れ後退していた。彼らは帰投した前線基地にてこう語った。


バニング言

「あの黒い3機をまともに相手にするな。地の利もあるがジム改が10機在っても撃墜は困難だろう」


キッシンガム言

「一瞬だった・・・奇襲を最も得意する奴らだろうが、あの手並みは尋常でない。仕掛けのタイミングなど神業に等しい。我が小隊の8割がやられた。命からがら逃げるのがやっとだった」


両部隊とも、キャルフォルニア攻略、追撃戦にてジオンの名だたるパイロット等を多数撃墜を果たした連邦でもエース格と呼ばれるパイロットであった。

日が経つにつれ軽視できない損害報告に皆頭を抱えていた。

ダグラスは目を開けて、斥候、管制より情報を募った。その後部隊長等と議論を詰め、そして作戦が決まった。

「よし。問題は1つずつ片づけていくぞ。各部隊の健闘に期待する」

部隊長らはダグラスの指示に了解し、各部隊へ戻っていった。


* ノースダゴタ ジオン側最前線 11.06 1:15

黒い三連星のガイア少佐、マッシュ大尉、オルテガ大尉とその部下たちが野営地としてウェストファーゴに常駐していた。そして作戦行動3日目となる。

既に周囲は光もなく漆黒に包まれていた。ガイア隊は夜襲のため、再び最前線を越えては連邦の勢力圏内に侵入を果たしていた。

少し進んでは偵察を出し、安全が確認できれば進む。ソナーを用いては対地地雷を避けて進軍をしていた。ガイアは斥候に出ていたマッシュから報告を受けていた。

「少佐。向こう15kmのところに連邦の野営地があるぜ。目視で敵機10機以上確認」

「そうか。よし!今日の獲物はそいつらだ。野郎共、いつも通りいくぞ」

「おーっ!」

奇襲作戦にこちらも連戦連勝なガイア隊が浮かれあがっていたのは無理もないことだった。ただそこまでの綿密な進軍が仕掛けだけ御座なりだったとしか言いようがなかった。

いつも通り一瞬で3機撃墜したガイア隊は慌てふためいた連邦の部隊がまるで的になるが如く密集隊形を取って後退し始めた。

「バカな。奴ら死ぬ気か」

ガイアは嘲笑った。奇襲を受けた部隊は散開退却をし合流ポイントを決めておく。それが一番の生存方法であった。ガイア隊は追撃し、1機ずつ丁寧に調理していった。

すると、後方より無数の爆発が起きドム1機が爆発した。ガイア隊が今度は混乱に陥った。

「なんだ!一体・・・」

「上です。少佐!」

オルテガが上空を指した。上空には連邦が誇る戦闘機部隊テキサン・ディミトリー中隊とリド・ウォルフ中隊が爆撃用改良コア・ブースター30機による絨毯爆撃を行っていた。

ガイアは進撃を中止し、追撃を受けていた部隊も姿が見えないところまで後退ができていた。

敵が上空過ぎてドムの武装では届かなかった。縦横無尽に爆撃が行われている。いつ頭上に直撃するかは時間の問題だった。

ガイアに取る選択はただ無事に退却することであった。

「うかつだった。夜襲故に上空からの攻撃など皆無と思っていたのが読みの甘さよ」

本来は夜間の上空攻撃など敵が暗がりで捕捉出来ないためあり合えない話だった。ただ、囮を使い大まかに敵のエリアを予測し爆撃という大雑把ながら威嚇にしても絶大な威力だった。現にドムが1機撃墜されていた。


作戦を考案したダグラス・ベーダー中将はバニング、キッシンガム両部隊長の意見を取り入れ、自身が持つ豪胆さから

「ゲリラ戦などまともに相手にする必要はない。敵がいると分かればそこを火の海にしてやればよい。昼夜問わずだ」

と大胆な作戦に出たのであった。そして詰めも油断せずしっかり仕上げも考えていた。
ガイア隊のドムが絨毯爆撃範囲から辛くも逃れ、前線境界線まで無事後退を果たすとその境界を背にテネス・A・ユング少佐率いるMS部隊が包囲するように展開していた。

ガイア隊は死を覚悟した。包囲網の一番薄いところを即座に判断して突撃を開始した。

「野郎共!絶対に生き残れ。いくぞ!」

その動きにテネスは、

「ふっ、想定通りだな。各機、敵機の進路に集中砲火。但し進路は開けてやれ。我々もMSの消耗が激しい。1機足りとも失うなよ」

ガイアの突撃に連邦は受け流し、かつ効率よく砲撃をしていた。ドムが1機、また1機と四散していった。

テネスのジムスナイパーカスタムの狙撃ライフルが先頭を切るガイア機を捕捉した。

「随分と手こずらせたな。しかしこれまでだ」

テネスはトリガーを引き、ガイアに向けて発射した。しかし、その銃弾はマッシュによって阻止された。マッシュがガイアの前に立ち憚った。マッシュは直撃こそ免れたがドムの右腕が全て吹っ飛んだ。

「マーッシュ!」

「少佐!大丈夫です。この爆損具合ならば持ちます」

テネス隊は後退するドム等を5機仕留めその場を引き揚げた。

「少佐。ドムを射程圏内より捕捉不可能になりました」

「しかし、敵機の半分は討ち取っております」

「我が部隊に損傷はありません」

次々とテネスの下へ部下が報告に来た。
テネスは結果上々と語り、後は彼らが始末してくれるだろうと部下たちに伝えた。

ガイアは前線の味方拠点に退却したとき、そこは既に火の海であった。

上空からのコアブースターの絨毯爆撃の跡とグレイファントムが拠点上空に鎮座しており、その眼下にはガンダムを始めとするモビルスーツ隊が待ち構えていた。

ガイアは敗北を悟った。今回は向こうも夜襲を仕掛けていた。ガウの絨毯爆撃をそのまま同じことをしてやられたのであった。

ガイア隊のドムは4機、うち1機が中破。目視ながらモビルスーツ隊としては7,8機しかいないことに微かな勝機を見出した。

「マッシュ、オルテガ!ジェットストリームアタックで突破するぞ。この程度の戦力でオレらを足止めなど片腹痛いわ」

「おう」

ガイアの呼びかけにマッシュ、オルテガが呼応し、ドムが一列になり急速突撃をしてきた。

アムロはそれに正面より対応した。アムロはビームライフルを正面と傍左右に時間差で連射した。

ドムは正面の砲撃を避けるため、左右に展開するも左右の砲撃にオルテガとマッシュが掠り態勢が崩れた。
ガイアだけがガンダムへ突進しヒートサーベルで斬りかかった。

「白い奴め!最後だ」

アムロはドムのヒートサーベルの振り下ろした腕を盾で下から抑え、足でガイアのドムの腹を蹴り飛ばした。ガイアは後方へ派手に吹っ飛んだ。

「・・っぐお・・・」

ガイアに物凄い衝撃が加わり、失神寸前でなんとか持ちこたえドムを立ち上がらせた。すると後方では残りのドムがシロッコ、カイ、ハヤト、ジョンによって両腕両足を切り取られ無力化されていた。

「すまない、少佐」

「文字通り手も足もでない、少佐」

マッシュ、オルテガは悔しさを滲ませガイアに伝えた。ガイアは一息ついてガンダムに語り掛けた。

「オレはジオン軍地球方面軍ガイア少佐だ。貴官の名を聞きたい」

「アムロ・レイ少尉だ」

「部下を丁重に扱ってくれ。このオレ以外は降伏する。部隊長が戦死しなければこいつらの言い訳がたたないからな」

「なっ!」

アムロはガイアの言葉に戦慄と凄みを感じた。そしてアムロもすぐ覚悟を決めた。

「ガイア少佐。オレの手で貴方を斃します」

「よろしい。いざ!」

ガイアはヒートサーベルを構え、アムロもビームサーベルを構えた。

互いに斬りかかり、アムロはドムのヒートサーベルの持ち手を綺麗に切り取った。
そして返す刀でドムの頭上からサーベルを打ち下ろし、ガイアのドムは真っ二つに割れ爆発四散した。その光景を見てマッシュ、オルテガは涙した。

「ふう。さすが黒い三連星だ。鬼気迫る」

アムロはヘルメットを取り汗を拭った。モニターにシロッコからの通信が入った。

「アムロ君お疲れ様だったな。今日の作戦で敵の奇襲作戦の三分の一脅威がなくなった」

「ああ。しかしまだ過半数の脅威が残っている」

「そうだな。とりあえずグレイファントムに帰投するぞ。カイ、ハヤトも行くぞ」

「了解だ。アムロ」

「ああ、凱旋帰投だな」

カイ、ハヤトを始めとしたパイロットたちの技量が相当成長したとアムロは認識した。そして頼もしく思っていた。

「仲間はつくづく大事だな。1人では限界がある」

アムロはそう呟いた。そして昔を振り返っていた。
シャアはアクシズ落としのその日まで彼は孤独だった。

すべてのきっかけがやはりララァの喪失だったとアムロは今も考えていた。

今度はいろいろなことを彼に教えてあげたい。様々なことを受け入れる許容を。違う道があることを。願わくばその道へ導いてあげることを。

シャアはそのうちララァに会うだろう。ララァの導きが彼の孤独を救ってくれる可能性がある。そのララァへの姿勢を取り間違えないように導くこともきっと必要なことだろう。

近々シャアと対決し、対面する必要がある。そうアムロは考えていた。

「しかし、色々考え始めると人はつくづく欲深い生きものだな」

アムロは自分で自分のことを嘲笑った。自分は神でも何でもない。ただ人より若干未来を見てきただけだ。そのことだけで慢心する訳にはいかないと言い聞かせた。

帰投中、シロッコも思いにふけっていた。

「アムロ・レイか。期待以上の素質だな。私の勘は正しかった。しかし、もっと大きな期待がある気がするな。私にとって世界観を変えさせてもらえる何かが」

シロッコはモニター越しにアムロのガンダムを見つめていた。そのガンダムの周囲に一瞬青白いフィールドを纏った姿を見た。シロッコは驚き、再びガンダムを見たときは何もなかった。シロッコは不敵に笑った。

「やはりな。君は私を押し上げてくれる何かを持っている。今後もそれに期待しよう」

そうしてグレイファントムにアムロを始めとするすべてのモビルスーツが帰投した。


* ニューヤーク市 ワシントンホテル 宴会場 11.07 19:00


ガルマはニューヤーク前市長のエッシェンバッハ主宰の招待で懇親会に招かれていた。
表向きは前市長はジオンに尻尾を振っているが、占領下において行政の機能は失われそれに恨みを抱いていた。しかし、ガルマの統治能力は抜群であり前市長の市政時よりも遥かに凌ぐ住民の支持率を獲得していた。

その才能を放っておく女性は少なくなく、社交界に訪れてはその人気ぶりに本人は辟易してしていた。
その理由はエッシェンバッハの令嬢イセリナとは深い付き合いであったからに他ならなかった。

その夜の懇親会もイセリナは出席しており、周りを見渡してはガルマが一人外のバルコニーにて佇んでいた。イセリナはゆっくりとした足取りでガルマに寄って行った。

「ガルマ様、こちらにいらっしゃったのですね」

「ああ、イセリナか」

ガルマは知った顔を見て綻んだ。

「懇親会。表向きはジオンとの共存共栄を目指し行われているが、内心は私に奪われたあらゆる特権に恨むものたちの談合だ。知っておきながら、出なければならない我が身にちと嫌気が指してな」

ガルマは笑った。イセリナは窘めた。

「もう。ガルマ様は。確かに父を含め取り巻きはよくは思っておりません。連邦の進撃に期待する声が相当聞こえるもの確かです」

「仕方ないな。しかし彼らの期待に応える訳にはいかないし、それに叶わぬ願いだ。私のザクの壁とガウの雨により連邦は疲弊していくであろう」

ガルマは遠くの空を見つめ言うと、部下のダロタが足早に報告する事案があると言いガルマの下へやってきた。

「何事だ。ダロタ」

「ガルマ様、失礼いたします。2日前前線より火急の報告がありまして、ガイア隊の全滅が司令部にもたらされました」

「なんだと・・・あの3連星が」

ガルマは愕然とした。そして戦況の確認を聞いた。

「そして、ノースダゴタの前線はどうなった」

「ザクの壁は夜間の敵の絨毯爆撃によりミネソタまで後退。その後敵の進撃が止まらず、ウィスコンシンまで前線が下がり踏みとどまっております」

ガルマは報告を聞き終えると、腕を組み考え込んだ。

「・・・私が前線に出るしかあるまい。ザクの壁の再構築とガウの絨毯爆撃にドップとマゼラアタック隊による地上と制空権の掌握をする目標はウィスコンシンだ。すぐ出撃準備をいたせ」

「了解であります」

ダロタは急ぎ早司令部へ戻っていった。その話を聞いたイセリナは不安に感じた。

「ご出陣ですか?」

「ああ、連邦もよくやる。前線の兵も苦労をかけているからここで私が出向く必要もあるのだろう。その機会が来ただけだ」

ガルマはイセリナの腰を取り、接吻を交わした。

「安心しなさい。今回も必ず私が勝ち凱旋を果たす。そしたら公的に婚約を申し入れる」

「ガルマ様・・・」

イセリナはガルマに抱き付いてしばらくそのままでいた。


* コロラド グランドキャニオン周辺 11.09 14:15


シャアのドム隊の奇襲作戦は功を奏し、前線自体をコロラドまで押し上げていた。
ガイア隊とランバ・ラル隊は前線の維持による連邦の削り取りに躍起になっていたが、シャアは独自の作戦でザクの壁とガウの雨を有効活用していた。

「デニム、この先はどうだったか」

シャアが斥候に飛ばしていたデニムの報告を受けていた。

「中佐。このグランドキャニオンは厄介な地形です。伏兵は勿論。ここではガウの雨は効力は薄いと思われます」

「同感だな。この谷の入り込んだ地形は我々も下手したら迷子になり奇襲を受けかねない」

「どうなさいます。目標はあくまで敵戦力の削り取りと短期決戦の誘い込みです」


シャアはしばし考えた。シャア隊南方攻略は順調そのものだったが、ここにきてガイア隊の壊滅と連邦のウィスコンシンまでの進撃の報を聞いていた。すでに補給線としては伸びきっていた。ここら辺が潮時でもあった。

「この地形は攻めにくく守りやすいのは確かだ。ここで効果的な防衛ラインを敷けばそう破られはすまい」

シャアはそう言うとデニムに指示を出し、ザクの壁をグランドキャニオン内に築き、後方にガウ隊を控えさせ、駐留地を建てた。

そしてグランドキャニオンを北上し、ランバ・ラル隊と合流してノースダゴタよりウィスコンシンへ転進、連邦の後背を付くという作戦を取ることに決めた。

シャアはガルマ麾下の将官バイソン大尉にその場を任せると、デニム准尉を始めとするドム隊を従え、グランドキャニオンを北上始めた。

2時間ばかりホバー走行していると、シャアは上空に依然見た艦艇がミノフスキークラフト飛行をしてゆったりと南下していた。シャアは部隊を止めて、過ぎ去るのを物陰に隠れ待った。


「木馬か・・・」


ジオンではグレイファントムのことをコードネームで木馬と呼んでいた。しかし、依然見た艦より若干仕様がことなっていた。

その時であった。シャア隊の四方より砲撃がシャア隊に向けて打ち込まれた。

「なっ!」

シャアはすぐ部隊に散開指示を出し、2機のドムが刹那に撃破された。

「囲まれていたとは・・・」

シャアは哨戒を軽視しながら進軍していたことに後悔を覚えた。
地の利の面ではこの地域は連邦の勢力圏内。例え見つかりにくい地形でも連邦の方が索敵しやすい環境にあった。

シャアの前にガンダムが立ち憚った。

「ぬう。白い奴か・・・」

シャアはホバー走行でガンダムへ砲撃をした。アムロもバーニアとサイドステップで砲撃を避けてはビームライフルで応戦していた。その傍でカイがライフルで加勢をした。

「アムロばっかにカッコいいところ持っていかれても困るからね」

シャアのドムに向けて的確に射撃した。シャアは態勢を崩しながらもカイに向けてバズーカで砲撃し、カイのキャノン砲にヒットさせた。

「うおっ・・・」

カイは衝撃でよろめいた。その隙にシャアはホバーを活かし、ヒートサーベルを抜きガンキャノンへ斬りかかった。

「もらった!」

「やっ・・やられる!」

カイは必死の形相をした。しかし、アムロがジャンプ一番でシャアのドムに飛び乗りかかった。

「ええい。乗りかかられただと!」

シャアはホバー走行を蛇行しながらガンダムを振り落とそうとした。そして、知らないうちにグランドキャニオンの崖より2人は落下してしまった。

「うお~っ」

「なにい~」

アムロは落下していくガンダムのバーニアをフルスロットルで吹かしたがシャアのドムが上になっており、機体の質量が地球の重力に引かれ威力を発揮できずに谷の深部まで落ちていった。


* グランドキャニオン 谷底 同日 23:00


谷底へ落下し気絶したアムロは目覚めガンダム起動させようとしたが、動力系統の故障により動かないガラクタと化していた。操縦席より手動で外に出ると、すぐそばに酷く破損したドムとその傍に赤いノーマルスーツを着たパイロットがドムの修理を試みていた。


「ふう、ダメだな。このドムは捨てていくしかない。どうやらそちらも気が付いたみたいだな。白いのも動力系統がダメだろう?」


シャアはアムロに対して声を掛けた。しかしその問いには知っていたような聞き方があるとアムロは思った。


「このガンダムを調べたのか・・・」


「ああ。使えれば君を捨てて私が頂いて基地に帰ろうと思ってね。残念ながら叶わなかった」


「何故・・・オレを生かしておく?」


「何故かな・・・君を殺すには惜しい少年と見えたからだ。直感でな」


「直感?」


「そうさ。私は勘を大事にする。困ったときはそれに頼り現在まで生き抜いてきたのだよ。今は君は殺さないと決めた。そう勘が告げただけさ」


シャアは淡々とアムロに語り掛けた。そしてシャアは話を続けた。


「それに・・・」


「それに?」


「君が何故私とここまで渡り合えたかを個人的に知りたくてな。君からはただならぬ何か圧力を感じるのだよ。君と話すことでそれを知りたい好奇心があったのさ」


「そうか。理解したよ赤い彗星」


「ほう、私のことをご存知だと」


シャアは両手を挙げて困ったなと答えた。


「有名過ぎるのも問題みたいだな。君のことを私は知らない。できれば名前を教えていただきたい」


「アムロ・・・アムロ・レイだ」

「アムロ君か・・・シャア・アズナブルだ」


シャアとアムロ。宿命の出会いが今ここに邂逅したのであった。




 

 

8話 ガルマ大返し 11.10

 
前書き
仕事終わりにさらさらっと書いているのですが、ちょっとハイペースです(笑)
もう少しスピードを落としたいです。 

 
* グランドキャニオン 谷底 11.10 0:10


シャアとアムロは互いに近場の岩に座り込み話をしていた。


「アムロ君。君のその変わった雰囲気は自分でも自覚があるのかい?」

「そうですね。少なくとも他のひとよりは稀有な人生を送っていますから。貴方にもいろいろアドバイスができます」

「ほう、初対面の私にアドバイスとは・・・興味深いな」

シャアはヘルメットを外し、マスク姿になっていた。アムロも同じくヘルメットを外していた。

「はい。貴方は有名過ぎるほど、そしてオレたちには脅威なので。シャアさんは何か最近思い悩むこととかありますか?」

シャアはアムロからの質問に腕を組み考えた。

「そうだな。私的なことは抜きにしてこの戦争の在り方かな」

「戦争の在り方ですか・・・」

「そう。私の父は思想家だった。この年になって昔とはその色々見えてくるものが違ってきていてね。勿論意識も変わってきていると思っている」


シャアは崖下より微かに見える星空を眺めた。


「そして、更に年を重ねればまた違ったものを見るようになるだろう。徐々にだが、人生についても考えていきたいとは思う」

「そうですか。貴方には信頼できる仲間はいますか?」

「信頼か・・・そうだな。よく考えれば頼るということを軽視していると自覚はあるな」

アムロはここぞと思い畳みかけた。

「きっと何でも自分で済ますことがスタイルだとお思いでしょう。オレには信頼できる仲間がいます。彼らならきっと協力し合いこの戦争を潜り抜けられると思っています」

「そうか。君はいい友人をお持ちのようだ。私とは確かにスタイルが違う」

「シャアさんも人情味溢れた純粋な心を持っていると思います。自分一人で抱え込むことはひいては周りの負担を自分一人で背負い込むということです。全てをご自身の責務だと思わないことが大切です。きっと今もオレの仲間やシャアさんの仲間がオレたちを探しているはずです」


シャアは高らかに笑った。


「ハハ八ッ・・・そうだな。くれぐれも君たちの部隊が私の部下たちを全滅させてないことを祈るよ」


アムロは確かにと思った。アムロやシロッコが鍛えたパイロットたちである。並大抵の練度とは訳が違う。シャアは話続けた。


「確かにな。いささか頑張りすぎていたかもしれん。生きて帰ったら君の言う通り人に頼ることにしよう。人ひとりでは限界がある。自他問わず期待も求めすぎても良くはないな」

3時間は過ぎたであろう。シャアとアムロは互いの通信機器へ連絡が入った。

「アムロ!聞こえるなら返事をして」

セイラの声だった。アムロは今いる崖下の座標を通信で伝えた。

「中佐!どこにいらっしゃいますか!」

シャアはデニムの通信を拾うことに成功していた。
そして、互いに話を切り上げた。シャアはアムロに礼を述べた。

「アムロ君。有意義な時間を有難う。再び敵同士で相見えるだろう。それまで壮健でな」

そう言って、シャアはデニムとの合流ポイントへ走り去っていった。
アムロはシャアへの話が果たして上手くいったのかと自問自答していた。



* ウィスコンシン ジオン軍前線基地 11.11 10:10


ガルマを始めとするジオンの将校が揃い、ガウとドップ、マゼラアタックと大軍を擁していた。
ガルマは全軍に通達した。

「大軍に確固たる用兵は必要とせず、ただ敵の疲労のみを蓄積させ前線を再びノースダゴタまで押し戻してやれ!」

ジオン兵はその号令に高揚した。
作戦は至って単調だった。無数のマゼラアタックを平行に並べ、その上空をドップとガウが制していた。

連邦もジム改とコアブースターを主体に正面より迎撃した。
勝敗のカギは空戦にあった。コアブースターの総数を凌駕するドップの大部隊が制空権をガッチリ握ると、ジム改の射程では届かないガウがジム改に対して爆撃を行う。仕上げにマゼラアタックの追撃により、連邦のウィスコンシン東部からの後退余儀なくされた。


* ミネソタ西部 連邦軍駐屯地 18:30


連邦軍司令ダグラス中将は再び難題にぶつかった。
ガルマの圧倒的な物量による進撃が一時ミネソタ、ウィスコンシン全土の勢力圏を一気にノースダゴタ境まで軍の後退していた。

モビルスーツのアメリカでの量産体制がキャルフォルニアの工場の稼働により可能になっていたが、先のジオンの奇襲作戦とザクの壁とガウの雨により、一定の機体供給量が前線の需要に応えきれていなかった。

そこでのガルマの戦車や航空部隊という旧式戦力の圧倒的物量による正攻法はいかなる奇計も用いることがままならなかった。


「ガルマが出てきたか。討ち取る好機ではあるが、攻め方が古典的過ぎて隙が無い。さてどうするか・・・」


ダグラスはテネス、ウォルフ、キッシンガムがブリーフィングへ招集した。


「諸君らに集まっていただいたのはガルマを討ち取るためである」

3人はどよめいた。ダグラスは話を続けた。

「奴は非常に古典的なやり方で来ている。それで我が部隊もそれに倣う」

ダグラスは副官に3人へそれぞれ作戦内容の書面を渡した。

「お前たちにはこれより南下してもらい、サウスダゴタからアイオワ、ウィスコンシンへ進撃してもらいたい。ザクの壁とガウの雨を潜り抜けながらだ。そしてガルマがミネソタへ進軍するその後背で奴らの補給路を断つ。以上だ」

持久戦だということを3人は理解した。敵の総数が今回が多すぎる故に正面からは挑めない、後背からも困難。それなら燃料切れを狙うという戦法だった。しかし不安を思えテネスが代表で質問をした。

「将軍の部隊が我らが抜けて前線の維持が可能でしょうか?本隊が敗北してしまった場合小官らの動きが無為になってしまいます」

ダグラスは質問に回答した。

「やむなし。後方に下げているビック・トレーを使う。アレがそれなりに進軍の足止めになるだろう。事態は急を要する。グレイファントム隊にもアメリカ中央部の奇襲部隊の殲滅を命令してある。その隙に貴官らならば容易く回り込めるだろう。上手くいけばグレイファントム隊がこちらの本隊の支援に間に合う」

「そうですか。了解であります」

テネス達は敬礼をし各部隊へ戻っていった。
その途中テネスはウォルフとキッシンガムに声を掛けた。

「なあ。将軍自ら囮になるとは尋常ではない。どう思う、ウォルフ、キッシンガム」

色黒で青い髪と端麗な顔つきなウォルフが答えた。

「そうだな。将軍は常に死地に心を置いているようだ」

金色短髪の白人青年のキッシンガムもダグラスとの付き合いが長い分、代弁して答えた。

「将軍は前線に兵士をおいて自ら安全な場所にいるということを好まない気質でな。故に闘将と呼ばれその姿は兵士たちの心の拠り所になっている。まあ司令官としてはちょっと不向きかもな」

そうかとテネスが答えた。

「まあ、頼りになる大将というものはいいものだな。ああいうひとには生き残ってもらいたいものだ。オレたちが全力を尽くし期待に応えねば・・・」

テネスの言葉に2人とも頷いた。


* コロラド上空 グレイファントム 11.11 13:00


ダグラス司令の命を受け、ブライトたちは奇襲部隊の処理のためカンザスへ移動していた。
その航路思いもかけない戦果を挙げることができた。北上してきた奇襲部隊を撃退したことであった。
司令部にも報告し、その報告を聞いたダグラスは満足していた。

ブライトは艦橋の艦長席に座り各々の報告を聞いては指示を出していた。
すぐそばにアムロとシロッコを始めとしたパイロットたちが屯していた。

カイがセイラにコーヒーを差し入れていた。


「よう、セイラさん。コーヒーでもいかが」


「あら、ありがと。気が利かない男だと思っていたのに」


「ひどいなあ。こう見えても私は紳士です」


カイは紳士らしく手を前にしてお辞儀をした。
その姿にセイラは笑った。


「フフフ、面白いわ」


「ハハ、やっと笑ったか。セイラさんは結構堅物だと思っていたから」


「まあ、ハッキリ言っては女性にモテないわよ」


「フン、オレの良さを知る女性なんて星の数程いるさ。たまたまここにいなかっただけさ」


カイはふふんと鼻で笑った。そして顎である方向を指した。


「あっちみてみろよ、セイラさん」


セイラがカイが示す方向を見るとハヤトとフラウが管制中で互いに楽しそうに談話していた。


「あらいつの間に。仲睦まじいことね」


セイラは微笑んでそのカップルを見つめていた。カイもそうだなと笑った。


「こんな戦時下なんだ。こういうのもいいものだろう」


カイはコーヒーを飲み干した。
すると、敵接近の警報が鳴った。
フラウは慌ててソナーに見入った。ブライトが叫ぶ。


「管制!どこから来ている」


フラウは的確に位置と数を告げた。


「正面です。今までの戦闘よりガウ級の艦艇およそ5機、周りにドップが50機見受けられます。このままでいくと30分後戦闘に入ります」


ブライトは数の上でこの単艦での戦闘は無謀と判断し、進路を変え戦闘を避けるようにした。
グレイファントムのレーダー管制はガウの倍の能力保有していた。そのためガウの哨戒網に引っかかることはなく無事やり越すことができた。ブライトはほっと胸をなで下ろした。


「なるべく任務以外のことはしないように務めたいものだ」


ブライトはアムロらにそうぼやいた。アムロもそうだなと答え、シロッコも正しい判断だと言った。
シロッコはアムロに声を掛けた。


「アムロ君。私は君のことに期待している。唐突で理解してもらえないかもしれないが、君の示すその先に興味があるのだよ。そこでこの戦争について君はどう思う?」


アムロはシロッコを少し警戒し、その質問に答えた。


「人のできることには限りがあります。身の丈に合わない服を着て何を飾ろうとしても似合わないのです。下手な危険な思想を持ち合わすことなく、ゆっくりと自然に身を任せ、人は世は進化していくべきだと思います」


「ほう。しかし時代はプロパガンダによってジオンという思想が生まれ、このような戦争状態に陥っている。それを君はなんとも思わないのか」


「戦争はよくない。それは万人が思うところで、解決策に用いる場合は歴史的にもいくらでもある。今までもそれを乗り越え教訓に生かし平和を築いてきた歴史もある。荒療治をして破滅した者もたくさんいる。オレが事なかれ主義だと言いたいならばそれでも良いと思っている。」


アムロは一呼吸おいて話を続けた。


「オレはこの時代で変革者になろうとは思わない。軍人はあくまで戦うだけ。世直ししたければ政治家になるがいい、そう思う。それを両方コントロールすると身を滅ぼす。歴史上いい流れになった例がない」


「軍閥政治か。確かにそうだな。世直しをするのは政治家の役目だ」


シロッコは腕を組んで考えた。自分は人より多くの才能に恵まれていると自負をしていた。その才能がこのまま時代に埋もれていく自分を嫌ってアムロの傍にいることを決めた。

アムロはシロッコの勘から時代を変革する何かを持ち合わせている、あるいはきっかけになってくれると告げていた。が、アムロは自分で役目でないと言い切った。

では、アムロではない。しかし、何かが引っかかる。それがわかるまでは見守っていこうそうシロッコは考えた。

シロッコは自身の思想のかたちを未だ決めかねていた。いざとなれば自分は変革者になるかその支援をする覚悟でいた。それまで気長に待つことにした。


「君は大義というものには憧れを抱かないわけだ」


「大義など、危険な妄想だよ」


アムロはあくまで凡人であり、政治の腐敗にしろ大義にしろ特権意識がすべての騒動の元凶であるという考えであった。シロッコはアムロとは共感を得ることはないと認識した。それ以来シロッコは静観しアムロとは他愛のない話のみするようになった。


* カンザス地上 グレイファントム 11.11 22:00 


カンザスのカンザスシテイ傍に着陸し艦の照明をすべて落とし地面のソナー探知のみで敵機を探索していた。フラウは到着後2時間継続して耳を凝らしながらレーダーに見入っていた。


「・・・艦長!いました。編隊で10機。7時の方向距離20km。本艦に平行して通過中」


ブライトが着地に選んだところはザクの壁より30km離れたところだった。朝になればまたジオンの哨戒でガウの雨をまともに喰らうようなところにいた。

ブライトは幸運だと思った。奇襲部隊が正面から来る分には受けて立つがそれが叶わない場合はこうやって探査しなければならない。そしてリミットは夜明けまで。それ以降はまた隣の州の連邦前線基地まで後退しなければならなかった。


「1日でまさか成果が挙がるとはな」


ブライトは安堵した。アムロらパイロットも我慢せず済んだことにほっとしていた。
そしてアムロたちは各モビルスーツに乗り込み、その奇襲部隊を追撃した。アムロはガンダムが先の戦いで修理しているためジム改での出撃だった。

ランバ・ラル隊はドム10機の部隊でコロラドの連邦前線基地へ奇襲のため出撃していた。
斥候のアコーズがランバ・ラルにその先の状況を報告していた。


「大尉。この先も連邦の反応はありません。安全に進めます」


「わかった。いくぞ。今夜も無事に生きて帰るのだ」


ランバ・ラルは今まですべて上手くいっていた奇襲に関して一つも浮かれることなく、むしろ部下たちの引き締めに努めることにより更に奇襲の成功率を上げていた。

その部隊の警戒感は研ぎ澄まされてた。隊の最高峰のコズンが自分の後方に違和感を感じたのである。
そのことをランバ・ラルに報告した。

ランバ・ラルは部下を大いに信頼をしていた。ひとつひとつの他愛のない意見ですら、耳を傾け検討した。そして今回もその意見を取り入れ迎撃の対策をした。

戦場にいるものしかわからない経験上の直感。ランバ・ラルはそのことを重視していた。自身も戦場では自己の判断により生き抜いてきたクチであったからに他ならない。


「コズンの意見を是とする。迎撃する態勢を整える。もし空振りでもそれでよし。当たりなら尚良しだ」


ランバ・ラルは部下に命ずるとドムが散開し物陰に潜み、来襲を想定する敵を待った。
ガイア隊、シャア隊よりも戦果の低いランバ・ラル隊の低さの理由は危機管理の一言に尽きた。


アムロらモビルスーツ隊は想定した遭遇地点に近づきつつあった。しかしこちらも違和感を感じていた。


「静かすぎる。嫌な感じだ」


アムロがそう言うと、シロッコも通信で答えた。


「同感だアムロ君。どうする、敵は居るが・・・」


アムロは悩んだ末、カイとハヤト、ジョン、リュウを後方に置き、シロッコと共に遭遇予定地点に飛び込むことを決めた。


「危険だが、やるしかない」


「虎穴になんとやらだな。了解した」


アムロとシロッコはその地点に飛び込んでいった。
ランバ・ラルは肉眼でアムロたちを捉えると、部隊に命じ集中砲火を浴びせた。

アムロとシロッコはモビルスーツの機動力を最大限に活かし、正面のドムに接近した。
正面のドムのギーンはホバー走行で急速後退した。他のドムもアムロたちを追っていったがその後背からカイ、ハヤトたちが砲撃をしていた。


「アムロたちを全力で援護するぞ!」


リュウが吼え、カイたちも連携してドムに襲い掛かっていた。ランバ・ラル隊はそれでも慌てず対処していた。すると前方のアムロとシロッコの連携がドムを2機撃破していた。


「大尉。前方の2機はきっとエース級だ」


アコーズがランバ・ラルへ進言した。ランバ・ラルは即座に判断を下した。


「よし、撤収するぞ。殿は私が務める!」


「了解!」


ランバ・ラル隊の引き際は見事だった。ランバ・ラルとアコーズの連携による部隊の攪乱により、アムロもシロッコも翻弄され、気づけばドムが視界より、レーダーより消えていた。


「逃したか。已む得まい」


シロッコは悔しんだ。アムロも同じ思いだったが、今まで戦ってきた敵の中では一番手強かった。


「あの連携。あのまま戦っていたらオレらも無事では済まない」


アムロが皆にそう告げるとグレイファントムにいるセイラより通信が入った。


「アムロ少尉、シロッコ中尉、リュウ少尉、カイにハヤト、ジョン。みんな無事ですか」


「ああ無事だセイラさん」


アムロが答えた。セイラは良かったと言い、話を続けた。


「ミネソタにいる本隊より命令が下りました。至急帰還してください」


「了解した」


アムロたちはグレイファントムへ急ぎ帰投した。

グレイファントムはモビルスーツ隊の帰投と同時に緊急発進した。
艦橋へ急ぎ足で到着したアムロは命令についてブライトへ説明を求めた。


「艦長。命令とは」


「ああ。ミネソタでの本隊とガルマの大部隊が交戦した。かなりの激戦だそうだ。じりじりとダグラス司令の軍が押されている。敗色濃厚だそうだ」


ブライトは厳しい表情だった。そして話を続けた。


「しかし、ダグラス司令は別動隊でガルマの補給線を断とうとしているそうだ。あと3日前線が持てば勝てると見込んでいると本隊の見立てだ。それにはこの部隊の応援が必要だということで今ミネソタへ進路を取っている」


「戦闘開始したのはいつの話なんだ」


シロッコも艦橋に到着しており、ブライトに質問した。


「11日の13時からだ。我々の到着は翌12日の10時。戦場は広大な範囲で展開しているそうだ。参加したとしても本隊まで道のりが険しいだろう」


ダグラスの布陣している地図がガルマとの部隊想定配置と共にメインの大型モニターに映し出された。
それにはダグラスの本隊を鶴翼にて半包囲するように進軍するガルマの部隊とそれを守るためかつ交代補充の与力が10,20重と布陣していた。無理に突破を図るとグレイファントムの火力では包囲陣を突破する前に撃沈してしまうだろう。


「なんて分厚い布陣なんだ」


シロッコが呟いた。モニターを眺めた艦橋の皆が愕然とした。確かに敗色濃厚だった。

ガルマという司令官は近代兵器のモビルスーツがジオンの強みという考えよりコストパフォーマンスと合理性ある戦略戦術を考え、昔ながらの兵器をよく利用していた。その柔軟さがダグラスを苦しめていた。


「宇宙空間ならまだしも、重力ある地球ではモビルスーツの俊敏性は優位性にならず。戦車の火力でも10、20機で1機のモビルスーツを集中砲火で倒せる。空爆の方がさらに撃破容易い」


そうガルマは持論で部下たちに言っていた。

ある時、ギレンが地球侵略のためのモビルスーツを宇宙からの輸送するという話をガルマに持ち掛けたがガルマはそれをやんわり断った。

その理由を聞いたギレンは納得し、ガルマが求める必要なもの以外物資を輸送することはなかった。

ブライトは皆にとりあえずの作戦を告げた。


「一枚一枚・・・あの分厚い皮を薄く剥がしていく他ない。明日からはとても根気のいる戦いになりそうだ」


アムロを始めとするクルーが皆頷いた。


* インド ガンジス河畔 とある宿 11.12 20:00


ララァ・スンは本日最後の接客を終えると、部屋を掃除し日課となる星見を河の畔でしていた。
今晩の星はまた違う輝きをしていた。それは本人しかわからないことであった。


「・・・やっと、想いが叶う・・・」


でも、まだその時ではない。その会いたい、想うひとが誰だかは自分でもわからない。
しかし、めぐり会えばきっと理解できる。
その時は必ず訪れる。そうララァは確信していた。


「きっと、そのために私は生を再び受けたんだ・・・再び?」


ララァは自分でもよく理解を超えた何かを感じ、そしてそれについて常に不思議に思っていた。



 
 

 
後書き
アムロとシャアとの初対面はまあこんなもんでしょう。実際初対面の会話なんて何もできません。それにしては話した方だと勝手に思っております。文章中に書かなかったことも本人らは何か話をしているでしょう。 

 

9話 ダグラスの死線 11.12

 
前書き
想像と書く速さと時間といろいろ間に合っていない今日この頃です。。。 

 
* ミネソタ西境 ダグラス本隊 ビック・トレー 11.12 9:00


ダグラスは2日間の一戦で別動隊を含めた全体の2割の戦力を失っていた。その別働隊に3割程割いていたため、ガルマ本隊の戦力比としては三分の一に満たなかった。それでも壊滅せずに維持できたのもジム改を始めとする連邦の新兵器の賜物であった。

それでも多勢に無勢。ダグラスは始めから防衛線に徹していた。
ビック・トレーの艦橋に仁王立ちして戦況を見守るダグラスの姿に兵士は劣勢の最中安心感を与えていた。だがその当人ダグラスは心中不安に感じていた。


「(油断、不安は士気に関わる。平然と堂々とみせねばな。そうは思えど結構悲観的な状況でそうせねばならない自分に少々笑えてくる。そしてかなり不安だ)」


そう感じている間も矢継ぎ早に戦況報告が入る。


「司令!敵が両翼より防衛部隊の隙間に爆撃を開始!両側の部隊間の連携、指揮系統が途絶する部隊が続出しております」


「司令!前衛の部隊が敵戦車部隊と交戦中。戦果は上々ですが、敵余剰戦力の逐次投入により膠着しております」


「このままでは本隊と両翼、前衛と分断されます」


ダグラスはその状況に応じて判断を下す。


「両翼への連絡。各隊で各個撃破を目指せ。連携が取れずとも敵両翼の戦力火力とも正面より明らかに薄い。前衛部隊には緩やかにと前線を下げるように通達。こちらも縦深に陣形が変化しつつある。本隊との連携を重視し前線崩壊をしないように務めよ!」


「了解。しかし司令、両翼への伝達が各部隊との連絡が途絶しておりまして・・・」


「なら、各隊へバイクを飛ばせ!」


「はっ・・・はい!」


ダグラスは下士官を怒鳴りつけ、命令を遂行させた。
激戦の最中一時の迷いが兵士の危険を晒すことになる。

艦橋から叱咤され急ぎ早出て行った下士官のと入れ替わりにこの本隊のテネスと並び称されるモビルスーツ機動部隊長ミヤ・サミエック少佐が入ってきてダグラスに語り掛けた。


「司令、まずい戦況だな。分かっていただけにかなり深刻だ」


「サミエックか。ここが踏ん張りどころなんだがな。テネスがウィスコンシンの補給線を断てばやつらはすぐにでもガス欠を起こす」


ダグラスは大軍故の弱点を知っていた。あれだけの大兵力を動かすにあたり、燃料輸送こそガルマの生命線であった。だからまともに相手はしないそういうスタンスで戦いに挑んでいた。


* ミネソタ中央部上空 ガウ艦橋 同日 10:15

ガルマ自身も物量による弱点は知っていたが、前線に張り巡らせたザクの壁を頼りにしていた。後方の補給基地とも定時連絡は欠かさない。戦況を見るに2日あれば連邦を撃退せしめると踏んでいた。

そしてアメリカを進軍する連邦の要がこのダグラス部隊であると認識していた。他の前線から大部隊の強襲を聞かなかったことでもあった。この部隊の撃退こそが連邦の前線拡大を防ぐと考えていた。

ガルマもガウの艦内で戦況を見て、意外と粘るなと愚痴をこぼしていた。
そこでガルマは次の策に打って出た。分隊長のバイソン大尉を通信で呼び出した。


「バイソン。貴官の隊を敵中央と左翼の間に割って入れ。陣形が崩れたところでガウの爆撃を敵左翼に浴びせ敵本隊との完全分断を図れ!」


「はっ」


ガルマの指示により、バイソン部隊が戦車隊と航空部隊を率いてダグラスの左翼よりの中央へ雪崩れ込んだ。少々伸びきっていたダグラスの本隊はその攻撃に対応が遅れた。そして先の両翼の攻撃により、各隊が独自に迎撃をしていたダグラス部隊の両翼が更なる指揮系統のトラブルに見舞われた。

そして目論見通り、ダグラスの左翼は完全に孤立化した。ダグラス本隊と右翼がガルマのマゼラアタックとドップ隊、ガウ空母に半包囲されていた。一方の孤立した左翼はただでも遊兵となっている上で包囲されていた。

その状況を見たダグラスは唇を噛んだ。


「戦力の2割を失ってしまった。あと3日持てば・・・」


その言葉を聞いたサミエックは一息ついてダグラスに話しかけた。


「孤立しただけでしょう。まだ失われてはいない。彼らは私が指導した有能なパイロットたちだ。中将の司令に忠実に応え実行している」


そしてサミエックは振り返り艦橋を後にする際にダグラスに安心しろと声掛けた。


「オレが左翼で指揮を取りにいってくる。この戦いの敵は元々烏合の衆だ。ただ数が多すぎて鳥害になっているだけだがな」


そう言って格納庫へ歩いて行った。それを後ろ姿で見送ったダグラスはすまぬと一言を言い、自分で御しえる部隊の再編を激戦の中行った。


サミエックはジム改に乗り込み、部下20機を連れて孤立した左翼にガウの雨の中猛然と走行した。


「いいか!お前ら。ここがこの戦いの踏ん張りどころだ。英雄になるチャンスだぞ!」


サミエックは部隊に激励し、部下はそれに応えるように我武者羅に左翼部隊の救援に進軍した。


* ミネソタ ダグラス部隊 左翼 同日 12:00


包囲されても尚分散した各部隊は部隊内での連携により着々と戦果を挙げていたが、ガウの爆撃とマゼラアタックの綿密で隙のない砲撃により、1機ずつ弾薬、燃料切れを起こしては撃墜されていった。

この状況をある部隊長が話すに、


「狙いを当てるのに越したことはないが、無数となるとこちらには弾倉に限りがある。1発で仕留める戦車とモビルスーツを同等にしては数で圧倒されるとまるでハチの巣を相手にしているようだ」


モビルスーツの装甲などマゼラアタックの砲撃の1つではそう撃墜は難しい。しかし火力の集中では話が変わってくる。いくら撃墜してもアリのように湧いてくる敵の重厚な包囲網による連邦左翼の全滅が免れなくなってきていた。

全ての要因としてどちらへ向かえば良いかがわからないことに各隊すべてが悩んでいた。
そこに天の助けとも言える本体からの救援が来た。


「生きてるか!このサミエックが来たぞ!」


サミエックはオープンスピーカーで左翼に到着したことを戦場に伝えた。
ここまで到着するまでに半数のジム改を失っていた。


「この左翼はすべてオレの指揮下に入る!最初の命令だ!皆後方に向かって、ミネソタ境まで全力で突撃ー!」


バラバラになっていた各部隊が一丸になってミネソタとノースダゴタの州境に向かってひたすら突撃した。包囲網もガルマの本隊よりには余剰戦力が備えてあったが、州境方面には包囲網の壁のみであった。ジム改らの突破力はマゼラアタックを一瞬でガラクタと化していった。

よって、左翼全滅の危機は免れたがそれまでに左翼の半数が失われていた。
ガルマはその戦闘報告を聞き、今一歩だったが連邦の本隊に集中できると言った。
通信でバイソンからガルマへ連絡が入った。


「申し訳ございません。もう一息で敵に楔を打てるところでした」


「いや、上出来だ。彼らは一旦戦線から離脱した。あと残るは敵本隊と右翼のみ。攻めやすくなった」


「はっ。左様で」


「バイソン。もうひと働きしてもらうぞ」


ガルマはバイソンに敵本隊の後方に回り込み包囲網を完成させるように命じた。
その動きをダグラスが見て、本隊と右翼との残存軍の集結を図った。
ガルマは勿論その動きを見ていた。ガルマは高らかに笑った。その姿を見た副官のダロタ中尉は不思議そうに上官を見ていた。


「ハッハッハッハ・・・その覚悟潔し!ダロタ。敵が突っ込んでくるぞ」


「敵がですか?包囲されているのにですか?」


「そうだ。あの敵左翼の後退を見ただろう。突破力は計り知れない。それを見越してだろう」


「確かに、ですが我が軍を突破するなど・・・」


「確かにな。しかし色々やりようはあるぞ。我々の火力ではあの突撃を流すしかないが、より深く縦深陣へと誘い込み徐々に包囲殲滅をしていく。だが、その包囲網は明らかに薄いものとなる。そこを左右どちらかに急進して逃げ出すことも可能だ」


「では、敵はもう敗北を覚悟したと」


「そうだな。とりあえずはミネソタでの戦いはこれで終結するだろう。我が軍の勝利を持って。どちらにしろ奴らの退路は我々が断った。そして自ら退路を切り開きに死に物狂いで向かってくる。勇者たちにはジオンの礼節をもって存分にもてなしてあげよう」


ガルマは決着に2日要すると踏んでいたが、今日中につけることができると思い喜んでいた。早く愛するイセリナの下へ馳せ参じることが何よりの願いでもあった。


* ダグラス部隊 ビック・トレー艦橋 同日 13:00

右翼との集結、再編を終えたダグラス部隊は方錐陣形を取り、ジオンの一番分厚い中央部への突撃を開始した。


「突撃だ!ダグラス部隊の底力を見せてやれ!」


全軍決死の思いでマゼラアタックの海とガウの雨の中進撃していった。
その勢いはガルマの予測通り凄まじくマゼラアタックを粉々にし、ガルマ本隊へ接近しつつあった。

ガルマは上手に受け流しながら本隊をミネソタ東境ぐらいまで陣を下げていった。
それまでにダグラス部隊の残存兵力が別動隊含めて総数の2割を切っていた。


* グレイファントム 同時刻

グレイファントム艦橋でガルマ部隊の防衛線を突破しつつあるが未だ本隊との共闘が叶わないブライトは苛立ちを覚えながらも、モニターにて戦局の全体図をマチルダと眺めていた。
ブライトのその様子にマチルダは落ち着くようにと声を掛けた。


「ブライト艦長。ダグラス中将は連邦でも名将です。歯がゆい気持ちは分かりますが、貴方ひとりが戦局をコントロールできるとは思えません。目の前の防衛線を攻略した後、本隊の撤退支援に回るべきかと思います」


ブライトはマチルダを睨んだ。


「撤退!負けたというのですか!」


「ええ。完全に。さもなくばダグラス将軍があんな作戦を取るとは思えません。あれは隙を見ての急速転進撤退の構えです」


マチルダがモニターを指差すと確かに本隊の突撃が徐々に右に動く形をしている。


「将軍は自身を殿に部隊の後退をするでしょう。そういう方です」


ブライトはダグラス将軍という人の苛烈さに唖然とした。
そしてマチルダはブライトにそれが戦争というものですと諭した。


* ダグラス部隊 ビック・トレー 同日 16:00


全体の1割5分の撤退に成功させ、ビック・トレー含む残存部隊は逃げきれず孤立した。
ダグラスを始めとするすべての兵が死を覚悟しガルマの軍勢に立ち向かった。

ガルマは全軍に包囲殲滅の命を下した。
数々のジム改が1機また1機と撃墜されていき、ガルマの部隊がビック・トレーを射程内に収めた。


「これで終幕だ」


ガルマがそう言うと、ダロタはビック・トレーに砲撃を集中させるように命を下した。
その時だった。ガルマの搭乗するガウが後方より攻撃を受け、他のガウも同じく攻撃を受けて中には撃沈している艦艇も出た。

ガルマのガウは大きくバランスを崩した。ガルマは床に放り出され、体を打ちながらもなんとか立ち上がって叫んだ。


「何事だ!」


「はっ。後方より連邦の遠距離射撃です」


「バカな!そんな情報ないぞ」


ビック・トレーのダグラスにもその状況が報告でもたらされた。
オペレーターが歓声を上げた。


「将軍!ウォルフ少佐です。ウォルフ少佐のスナイパー部隊がウィスコンシン側よりミネソタへ侵入!」


「バカな・・・3部隊でのウィスコンシンの補給線攻略命令を下したのだぞ」


ありえないとダグラスはぼやいた。
このタイミングでは基地よりもガルマ隊への牽制を現場で優先したに他ならない。
かつ逐次斥候を入れながら、一番危機的状況で参戦してきた。

ガルマにとって完全に虚を突かれた形であった。狙われるなら後方の補給基地だった。そことの情報は逐次欠かさなかった。もし襲撃されたときは戦闘を取りやめ後退する手筈でもあった。


「敵が迂回して我が軍の補給基地を攻略するには時間が要る。直接的に我が軍の後背を突く方が近いが。しかし、これは・・・」


ガルマの哨戒網に引っかからないゲリラ的動きでウォルフ隊は後背より参戦に成功した。ガルマは地上軍に後方の射撃部隊の制圧を命じ、ガウも射撃が届かない程度にここまでガルマの高度を落とした。

30分経っても射撃部隊の制圧にガルマは苦心していた。
その射撃部隊の他にキッシンガムのガンキャノン部隊も参戦していた。
しかしその数は半分だった。残りはテネスと共に補給線攻略へ進軍していた。

ガルマはダグラスの包囲網を崩す訳にもいかず、予備兵力で後方の対処をしていた。
その15分後グレイファントム隊がガルマの防衛線を突破し参戦してきた。

ブライトは席から立ちあがって、艦橋に足を踏み鳴らした。


「よし!各モビルスーツ隊低空飛行しているガウを狙え!」


グレイファントムの上に鎮座しているセイラとジョブ・ジョンのジムスナイパーカスタムのライフルが的確にガルマが乗艦しているガウを始めとする数10機を矢継ぎ早に狙撃していた。

ガルマのガウは航行不能となり墜落のような形で地上へ不時着した。
ガルマは全員に退艦指示を出し、副官に次の座乗艦を探すように先に促し本人も退艦しようとした。


「屈辱だ。我がガウをここまでされるとは・・・」


それでも依然ガルマの軍は兵力的にも余裕があった。しかし、眼前のビック・トレーと後方の連邦の援軍にグレイファントムがガルマの置かれている状況に余裕を持たせなかった。


「早く、旗艦を・・・司令部を移さねば・・・」


ガルマは不時着時に腕を強く打ち、肩が脱臼していた。
そのガウに1機のドムが近づいてきた。そのドムからシャアが降りてきてガウに乗り込みガルマを探した。


「ガルマ!どこにいる」


すると、副官のダロタと通路で鉢合わせた。


「シャア中佐!司令はあちらです。代わりに救護をお願いいたします」


「了解した」


その後ダロタの説明された通路へ向かうとそこにゆっくりと肩を抑えながら歩くガルマを見つけた。
シャアの姿にガルマが応えた。


「おお、シャアここだ!」


シャアが負傷しているガルマを見つけた。ガルマは頼りになる味方の助けに安堵したが、シャアは銃を抜きそれをガルマに向けていた。


「何のまねだ。シャア」


「フフ、君は良き友人であったが君の父と姉がいけないのだよ」


「・・・混戦でこの私を消そうというのかね」


「ああ。これなら疑う余地なく私は逃れられる」


「なぜだ。・・・なぜだシャア!」


「そうだな。君には聞いてもらおう」


当初は説明する気もなかったが何故か説明した。
ガルマに自分が恨みを買う理由をすべて伝えた。
ガルマはそれを聞いて開き直った。


「なら、仕方ない。イセリナには申し訳ないがここまでのようだ」


ガルマは堂々と立ち尽くし、シャアはガルマに銃口の狙いをつけた。
その時、シャアの手に何か暖かなものが触れた。


「(その方を見逃して差し上げて・・・彼は帰りを待つひとがいるの・・・)」


シャアはその感覚に驚き銃を放した。ガルマはその行動にきょとんとした。


「どうした。シャア・・・?」


「いや、・・・どうやら私には君は殺せないらしい」


シャアは感覚で何かを悟った。そしてガルマの腕を持ち脱臼を直した。


「・・・っぐ。シャア・・・何故」


「わからんよ。しかしガルマ。君のことを私は諦めることにする。でも、君は私を裁く理由がある」


「・・・そうだな」


「だから、私は今日付けでジオンを離れることにする。もう一度自分を鍛え見つめ直した方が良さそうだ」


シャアはガルマの肩を貸してガウの搭乗口まで一緒に歩いた。
ガルマはしばらく考えシャアへ告げた。


「これは夢だったのだシャア。しかし、君に起きた不幸は現実だ。私は君とその現実に向き合おうと思う」


シャアはガルマの顔を見た。そして前に顔を戻しガルマに語り掛けた。


「君は家族を裏切ろうとするのか?辛い選択だぞ」


「構わない。私以外の家族が隠していた秘密なのだから。そしてそんな非道に加担していたならばその始末を付けるのも身内の務めだ・・・」


ガルマは口悔しい思いでいた。ガルマ自体は清廉潔白が信条であった。故にスペースノイドの代表として家族が先導することに誇らしかった。しかしそれは、陰謀によるものだとは思わなかった。知っていたとしても止めることができない。ならば力を付けなければならないと考えた。


「今は無理だ。派閥で私がジオンのトップになれば自ずと彼らを断罪し、法の下で君の主張を認めさせる。だからシャア、君はジオンに残れ。私が手伝ってやる」


「・・・有り難い申し出だ。あまり選択肢もなさそうだ。君に託そう」


「ああ、任せてくれ」


シャアは当初復讐を考えていた。しかし、アムロとの談話や様々な経験、そしてあの妙な感覚から成すべきことに疑問を感じていた。ガルマを殺さなかった。それはシャアにとって一つの成長になった。


シャアとガルマは外に出るとダロタ始めとする搭乗員が車に乗り、手を振っていた。


「司令!中佐!こちらです」


ダロタの乗る車に2人は乗り込み無傷のガウにドムを搭載して離陸した。


* ウィスコンシン上空 ガウ艦橋 11.15 9:00


ダグラス部隊は多くの犠牲を払いながらも12日に無事退却をし、遅れて15日にはガルマも後方の補給基地襲撃の報告を受けガルマ部隊の全軍をミネソタより引き揚げた。グレイファントムもノースダゴタの補給基地まで後退していた。

別動隊のテネス等3名の部隊も再び迂回しダグラスの下へ帰投していた。
3名とも命令不服従ということと本隊の全滅を防いだということで情状酌量が組まれ1週間の謹慎処分となっていた。

艦内にはシャアの姿がなかった。戦闘詳報によると重傷を負い3ヶ月入院ということだった。それは真実でなく、シャアはガルマより暇を貰い軍から少し離れることにした。
シャアはガルマにこう話していた。


「自分の気持ちを整理したいと思う」


「そうかシャア。私もやるべきことが増えたな。君が戻るまでアメリカの半分は守り抜く。私はジオンを変えねばならないからな」


「わかった。でも無理はするなよ」


シャアはニューヤークより民間飛行便で東に向けて飛んでいた。
きっとこの選択が良いのだろうとシャアは思った。復讐に取りつかれていた自分に疑問を持ち始めていた。そして立ち止まったきっかけが先の撃てなかった銃・・・その感覚が残っていた。

非科学的なことはあまり信じないシャアも直感として怪しさをその感覚に覚えた。
その感覚を知るべくインドへ向かっていた。シャアはその感覚に囚われたときインドのガンジス河が脳裏に焼き付いた。


「(焼き付かされたという方が正確か。それだけ強い残留思念・・・信じたくもないが今の私にはその勘が空振りでもすがる必要のあることかもしれない)」


シャアは飛行機のシートに深々と腰を落とし眠りについた。

 

 

10話 仮面の下の微笑 11.19

 
前書き
言い訳ですが、逆襲のアムロと書いてありますが、アムロのようなイレギュラーな存在が及ぼす影響として歴史が改編されていっているとでも思ってください。

アムロがあまり活躍できませんがそのうち出てくると思いますのでご了承ください。

1年戦争史みたら、ガンダム登場から高々4ヶ月弱で終戦を迎えているのですね。相当な展開の速さに驚きとおそらくその時代の技術力と量産体制は私たちが予想だにしないほどの速度なんでしょうねえ。 

 
サイド3 ズムシティ 総帥執務室  11.19 10:10


ギレンは日々入ってくる戦況報告の書面に目を通していた。
連邦のV作戦の効果が日に日に増していっていた。北アメリカはガルマの辣腕により経済の活性化と政内外問わずの政治活動、戦術戦略を駆使し、戦線が膠着していた。連邦の中にも内通者を作り戦線の拡大を防いでいたのも大きな要因だった。


「フッ、連邦の体たらくは昔から知っていたが、ガルマに手玉に取られるようではたかが知れているな」


ギレンはそう呟いた。ガルマはギレンが思う期待以上の働きを見せていた。北アメリカは良しとしてそれ以外の戦線が良くない。

アジア方面は一時中国東南アジアエリア全てを勢力圏としていたが、もはや北京付近とタイ周辺のみ。アフリカはキリマンジャロの基地が陥落し、中部で南アフリカでのギリギリの抵抗。ヨーロッパはレビルらの大部隊によりオデッサのみですでに陥落寸前であった。

キシリアがマ・クベをオデッサへ切り札として派遣していた。何か目論見があるようだった。

国力差は当初より知っていた。勝つためにはコロニー落としなど非道と呼ばれる行為もした。元々多い人口を間引くことも戦争の視野に入れていたことだが、一番の目的は世界すべてへの脅しだった。

自分の頭脳を持ってしてもできないことは多い。いろいろなプロパガンダを利用しては不足を補ってきた。それにも限界があることは国力差の話より会戦当初から知っていた。

父デギンには勝てるのかと聞かれた。勝てないとは言えない。
それでも戦端を切ったのも自分の野心でもあるがスペースノイドであるサイド3の群衆の願いが大きな要因がある。それから様々な計算をした上で勝てると踏んだから行動を起こした。

勝つということは、連邦を屈服させることではない。勿論できるに越したことはない。戦争の膠着により民は疲弊する。戦争にしても軍を動かす上では政府判断がいる。その政府の基盤は勿論民に帰着する。彼らは物凄く不安定で統一感などない民主政治だ。

今はまだ1年も経っていない。しかし長期化して厭戦気分が漂えば、講和に持っていく機会が生まれるだろう。そこでジオンを連邦に存在を認めさせる。そこでスペースノイドの真の独立が生まれる。


「連邦のままの政治では人類の衰退は目に見えていた。この私が人類の革新を促す必要がある。今回その機会が巡ってきただけだ」


そうギレンの側近に話していた。
未だジオンの宇宙の勢力圏はサイド6と月を除けばほぼ手中にある。
しかし、ギレンが流し込んだ各サイドへの恐怖は早々払拭できるものではなかった。
ギレンは支配圏においた各サイドに行政権の掌握など民衆の統制をとることが可能であったが、それをギレンは強制しなかった。

強制させるのでなく、連邦の不信を扇動することに努めた。
そうすることで各サイドの独立心が芽生える。各サイドにしろジオン公国の人口を遥かに上回る人口の完全なる支持を得ることは不可能であった。

皆コロニーを破壊されるではないかという恐怖での支配でジオンに旗を振る、ジオンの敵に回らないことでギレンは充分であった。むしろそれがせいぜいであった。

宇宙での動きが連邦向きでなくジオン寄りにする。人の流れ、物流の停滞が連邦の宇宙に対する発言を弱める。ギレンの思惑達成の当面の目的であった。
可能なことを一番効果的で合理的な手段を選ぶギレンならではの手腕であった。

連邦はビンソン計画というものを4月に既に発動していた。ギレンも情報筋より周知していた。
連邦の宇宙艦隊の再建。ジャブローより多数の連邦艦艇が地球軌道上に展開しつつあった。
そしてその周辺に宇宙ステーションを建設。宇宙世紀元年にテロにより破壊されたラプラスも再建されていた。

その宇宙ステーション群が地球からの補給拠点となっていた。数が揃えば反攻に出るであろう。そして近い将来戦争の主舞台は宇宙へ移るだろう。そのための対策はいくらでも講じた。

ムサイ艦の増産。試験艦ザンジバル艦のロールアウトとその量産。新兵器の開発と現行の量産機の統合整備計画(マ・クベ中佐の提案)

各企業間、連邦寄り企業も問わずの交渉。サイド6のインダストリアル1への出資やグラナダ市の出資。大企業の支援による1つの木星船団のTPO株式買収。フロンティア衛星の開拓など。

何をするにも先立つものは資本であった。レバレッジにより活動資金を得ていたギレンはあらゆる分野へ戦争継続のために費やしていった。ギレンはよくもここまで支援があるものだと笑った。


「全ては戦争が利益になると考える企業が多い所以だな。世の中は馬鹿が多い。だが有り難く利用させてもらおう」


ギレンにとって好都合であった。今日もその支援金にて活動するための各所からの稟議決裁を行っていた。


「ほう、フラナガン機関からのか。・・・サイ・コミュニケーターとサイコフレームの開発か・・・」


フラナガン機関は6月に建てた機関で、人の直感を研究する機関であった。高確率で危機回避する操縦者の事象を分析してそれを一般化することを目的とした不明瞭な機関だった。しかし、有能な人材が育つならばということで許可を出し、キシリアに統括させた。

その報告書によれば、サイ・コミュニケーターにより兵器の遠隔操作が実現でき、サイコフレームによりその幅が飛躍的に向上するそうだ。そして演算処理装置による実現確率はほぼ100%と出ていた。

ギレンは考えた。この技術は宇宙戦には圧倒的優位に働くと。その稟議書を最後まで読み解くと共同研究出資者としてある財団法人が載っていた。


「ビスト財団か・・・」


企業からの献金や出資を拒まないスタンスでいたギレンは一つ一つの研究費用にしても現場レベルでその出資者が居れば、ギレンの審査なく許可を出していた。戦争状態である以上、不可解な点などこの際取るに値しないと踏んでいた。

ビスト財団は噂でしかないが世界の影の支配者とも呼ばれている。全ての企業はビストに通ずると比喩されるほど影響力を内外に及ぼすが、その実態が掴めない。連邦もその存在に手出しできず一目置いているとギレンは知っていた。

要するに胡散臭い財団だが、無尽蔵な資金力がある。その投資幅は超法規的まで及ぶことが可能だということだ。

ギレンは再び深く考えた。記憶の中で今までビストの名前が思い当たらなかった。各一般的な企業名はよく目にしていたが、ビストが直接的に名前で出てきたのは初めてであった。これを意味することはこの研究がビストにとっても重要視しているということだ。


「つまり、この研究の成果は世界を震撼させることが保証付きということかな。そんな技術が我が軍に採用されれば私の計画の実現も早まるということだが・・・」


ギレンは一瞬ためらったが決済印をした。何故ならビストの思惑が読み切れなかったからだった。読み切れないからと言えみすみすの機会を逃すほどジオンには余裕はなかった。

起きたときの対処は後にしよう。何が起きるか、規模までは想像するにも予想だにもできないため、考えるだけあまりに無駄だと思った。


グラナダ市 ジオン基地内 キシリア執務室 11.20 14:00


キシリアは昨日のフラナガン機関の開発稟議決裁の返答により、既に開発に着手。フラナガン博士より以前から研究機関での調整中であったマリオン・ウェルチとクスコ・アルについての報告が挙がっていた。

自身の執務室で来客としてある女性がいた。アナハイム社長夫人のマーサ・ビスト・カーバインであった。
今回の開発稟議に名を連ねた共同出資研究者として法人登録したのも彼女であった。


マーサはキシリアに先の開発議案についての結果を求めていた。


「ところで、いかがでしたか?サイ・コミュニケーターとサイコフレームの件は」


「稟議が通った。既に博士には開発を進めてもらっている」


キシリアは手元のティーカップに入った紅茶に一口つけた。


「サイ・コミュニケーターについては明日試作が仕上がり成果次第で2日後モビルスーツへ実装する予定だ」


「それは対応が早いですね」


「サイコフレームに関してはそちらからの材料提供待ちだが・・・」


「キシリア様。既に兄カーディアスより試作のコア・プロセッサーが本日中にでもフラナガン機関に届くよう手配済みです」


「助かります。時にカーバイン夫人。貴方にはいろいろ良くしていただいていますが、一体何をお望みで?」


マーサは少し笑い、自分も紅茶に口をつけた。


「いえ、望みなど・・・この技術の実用化でたくさんですわ。財団規模になりますと経済全体、世界全体を考えなければなりません。人類の成長のため、ひいては世界の成長のために尽くしているのです。この技術は世界により良い革新をもたらすと考えております。それで十分なのです」


キシリアはこの技術が戦争の道具でしか考えなかった。人類の革新など自分の守備範囲ではない。財界の人は視野が違う。自分のような政治家若しくは戦争屋は、兄たちに勝る力を欲するための手段をひとつでも多く持ちたいことが望みだった。

キシリアは兄ギレン、ドズルとは違い陰謀により今の地位まで伸し上がってきた。しかし、2人の兄がそれぞれの面で卓越しており遅れをとっていた。その焦りもあり、様々な手法で敵味方問わず恐れられた。

懐刀と言われたマ・クベにはオデッサの連邦部隊壊滅のため核を撃つという指令を与えた。これはマ・クベ自身が調印に参加した南極条約違反であった。

しかし、キシリアは連邦への内通者のエルランを通じ、壊滅原因の事実の隠ぺいを図るという裏工作が行われるという保険が付いたお墨付きの作戦だった。

キシリアは時計を見た。もう間もなくその作戦が開始される。その姿を見たマーサは気が付き声を掛けた。


「何かご予定でもお有りですか?」


キシリアはハッと我に返り、「いえ別に・・・」の一言でその場を流した。


「カーバイン夫人。貴方ら財界人の考え至るところに私は到底理解が追いつきませんが、この技術が今後の市民の生活の糧になるならば喜ばしいことです」


キシリアは決して思ってもいない発言を明瞭に肯定しながら言った。
マーサもその回答に笑みを浮かべ答えた。


「そう仰っていただいてなによりです。財団はこれからも全力でサポートしていきたいと思っております」


「アナハイムからの応援も同じように頂けたら嬉しいのですが」


「勿論、研究達成まで邪魔はされてくはないのでアナハイムからの支援も財団経由で夫に話が行くでしょう。その前に私からも話しておきますけど」


「そうですか。夫人の言葉なら絶大な信頼がありますね」


「恐縮です」


マーサは再び紅茶を飲んだ。そしてキシリアに言った。


「実はこの財団の支援はとある人物抜きでは到底出来なかったことなのです。その方をキシリア様に紹介したく、この後参ります」


「ほう、どんな方か興味があります」


「つきましては、その方は試験モビルスーツにてこの基地に参りますが捕捉次第軍の方々へ穏便に案内をお願いするよう言っていただけると助かります」


「試作機でだと。識別無きだと撃墜されるぞ」


キシリアはマーサに詰め寄ったがマーサは不敵に笑った。


「ご冗談を。かの者は撃墜などされることはまずありません。実はその試作機こそがコア・プロセッサー内臓機体です。その機体をフラナガン機関へ、キシリア様に納品致します」


「なんだと。このグラナダの防衛線を単機で突破など・・・」


キシリアはマーサの虚言、冗談だと思い込んでいた。その時警報が基地に鳴り響いた。


* 同基地内 指令室 同日 11:30

キシリアはレーダー管制・各部署への指揮系統伝達のできる指令室へ急ぎ足を運んだ。マーサもゆっくりだがキシリアの後に付いて行った。


「レーダー!状況を報告」


キシリアの厳しい言葉が飛ぶ。オペレーターが即座に報告を入れた。


「はっ。未確認識別不能な機体がこちらに急速で接近してきます。1機です。飛行禁止区域だと知らないのでしょうか。一応警告致します」


キシリアはそのマニュアルに則った判断を是とし、オペレーターはその謎の機体に向けて警告を発した。


「こちらに接近中の操縦者!既に飛行禁止区域内だ即座に戻らない場合は撃墜する。繰り返す・・・」


キシリアは大型モニターでのレーダーを見ていた。
その飛行物体の速度はあの赤い彗星を凌駕する勢いであった。
キシリアはマーサを見た。マーサは微笑んでいる。
軽い挑発だった。モノの試しに撃ち落としてごらんなさいと言いたいような表情だった。

その挑発に乗ったキシリアはザクとリック・ドムを10機ずつ緊急発進を命じ、その目的のモビルスーツを撃破せよという命令を下した。念のためにキシリアはマーサへ質問した。


「仮に、この試験機撃墜したとしても代わりのコア・プロセッサーはいつ届けられる?」


「ええ、明日にでも。だから支障はさほどないでしょう。でも、研究は早いに越したことはないでしょう。きっと大丈夫ですから」


キシリアはマーサを睨み、そして再びモニターを見入った。


識別不明な試作機は漆黒に近い赤のカラーリングだった。一見ザクに見えなくないが、改修されて一番近いモビルスーツの型としては高機動型ザクⅡだった。

しかし、そのバックパックには大型なスラスターエンジンが羽のように搭載されていた。バックパックの仕様からビームライフル装備可能だが、その両手にはライフルは装備されていなかった。

その操縦者は赤い軍服と白いズボンを身に纏い、頭を覆うような丸い白いマスクを付けていた。その覆われていないところから見える髪の色は金色であった。


「・・・17、18、19、20機か・・・出迎えご苦労だった」


そう操縦者が呟くと、グラナダの防衛隊がその機体に向かって集中砲火を加えた。しかし、その機体は弾幕の中をくるくると回るようにすべて避け切り、ザクを一体ずつ武器のみを手持ちのビームサーベルにて破壊、またはマシンガンを取り上げてはその銃でザクやドムの武器をピンポイントに破壊した。

決着はものの2分だった。キシリアはすぐ防衛隊に戦闘中止を命じ、その試作機に感嘆した。


「素晴らしい・・・夫人!いい買い物をジオンはできた。有り難い」


「そう言っていただいて嬉しいですわ」


「ちなみにあの機体は我が軍のに似ているが、ちょっと仕様が異なるな」


「そうですね。財団の方では一応<プロト1>と名付けております。何せ商品登記もしていない試験機ですので・・・」


キシリアとマーサが会話していると、キシリアに命じられた部下がその試験機の操縦者を指令室へ案内した。


「ふむ、手荒い歓迎でありましたがプロトサイコフレームの調整での肩慣らしにちょうど良い感じでしたキシリア様」


その操縦者である男がキシリアに話した。


「貴方が操縦者か。名前を何という」


その質問にマーサが困った顔をした。


「申し訳ございませんが、この者に名前がありません」


「なんだと。どういうことだ」


「この者は5年前に宇宙を漂流しておりまして、偶然財団が救助しましたがその時より記憶喪失であります。彼の発想が今後キシリア様のためにお役に立てると思います。彼をお使いください」


「そうか。しかし、名前がないと不便だな・・・」


男も顎に手を添え考えていた。


「そうか。考えたこともなかった。流石に軍となると必要だな・・・」


3人とも思案顔になっていた。すると男が思いついた。


「私は何も持ち合わせておりません。自分で何者であるかも今後わかることはないでしょう。ですから、フル・フロンタルとでもお呼びください」


「フル・フロンタル(丸裸)か。何もないところから始めようとするのだな。わかった。お前は今日からそう呼ぼう。そして我が軍へようこそ。貴官を少佐待遇で歓迎しよう」


キシリアがそう言うとフル・フロンタルはお辞儀をした。


「恐縮ですキシリア様。宜しくお願い致します」


キシリアとマーサは満足そうにしていた。フロンタルも少し笑みをこぼしていた。
しかし仮面の下に隠れた眼は既にこの世に絶望していた。

何故絶望していたかは記憶のない本人も不明だった。
彼の心の中はこの世の憎悪のすべてが集約するが如く、すさんで朽ち果てていた。
彼はこの世に何も期待してはいない。

願わくば滅びこそが彼の望みであった。






 

 

11話 オデッサの陰謀 11.17

 
前書き
時間軸的に話がちょっと戻ります。全ての加速度的な技術分野の発展補正はフロンタルくんが修正してくれると信じております。 

 
* グレイファントム ベルファスト基地 11.17 10:00


膠着したアメリカ戦線でブライトたちはジャブローよりオデッサの奪還に参戦の指令が入った。そのためカナダ経由で大西洋を横断し、補給のためベルファスト基地へ寄港していた。

グレイファントム内の格納庫にて修理中のガンダムの傍にアムロが寄って、メカニックチーフののオルム・ハングと話し込んでいた。


「・・・それであれから数日経つが、ジャブローから修理部品が届かないのか?」


「ダメですね。輸送経路がどうも芳しくないらしく、請求しても一向に届きません」


「そうか・・・じゃあ諦めるしかないか・・・」


「なんか軍部でもジオンの反攻作戦の成果を理由に派閥闘争が起き始めていると噂で、派閥間で輸送の遅れ等生じているらしいですよ」


オルムは不満そうな顔でアムロに話した。確かにやりきれない。ティターンズの台頭などまだ先の話だと思いきや、ちょっとした歴史のテコ入れが歴史を加速させてしまった結果なのかと一瞬アムロが思った。


「・・・いや、気のせいだろう」


「えっ、今何か言いました?」


「いや、何でもない。昼夜問わずやってくれて有難う。どうやらガンダムもここまでのようだな」


「はあ、力及ばずで申し訳ない」


オルムは残念に思い、アムロに謝った。アムロはまた別のことを考えていた。
自分がイレギュラーな人間でそれに影響する事象がどれぐらいなものなのか。

「現にガルマは生きていて、ルナツーがジオンの手に落ちている。
 果たして早期終戦を迎えられるのかいささか疑問だった。

 何よりもアナハイムと連邦との繋がりを間近で体験した。
 あれは大変な出来事だ。インダストリアル1にしてもそうだ。

 もしかしたら、時代の加速により14年分の戦争が一気に凝縮してしまうのか・・・」

そうアムロは自問自答しながらグレイファントムを降り、ベルファスト基地内を散策していた。

「在り得ない。オレ一人のせいで歴史が変わっていく。しかし、このオレの存在のみでここまで変わるものなのか・・・」

そう考えながら、基地内のカフェに訪れるとそこにはセイラがコーヒーを片手に新聞を読んでいた。
アムロが来たことにセイラが気が付いた。


「やあ、セイラさん」


アムロが先に声を掛けた。アムロもコーヒーを注文しセイラの下へやって来た。


「隣りいいかい?」


「どうぞ」


「有難う」


アムロはセイラの対面の椅子に腰かけた。そしてアムロは話し始めた。


「・・・誰にも言っていないことだ。内密にしてもらえるかな?」


「何を?場合によるけど。敵に内通しているとかは無理だから」


「そうか。内通ではないのだが、グランドキャニオンで遭難したことがあっただろ」


「遭難・・・あの時ね」


「その時に赤い彗星のシャアと話す機会があったんだ」


「!!」


セイラは読んでいた新聞に力がこもった。


「・・・それで?」


「彼はいろいろ悩んでいたよ。でも彼はきっといい道を択んで進んでいけると思う。オレが保証する」


そう、シャアはザビ家の復讐を当時志していた。しかし、あのアメリカの激戦でチャンスがあったにも関わらずガルマが生きている。心境の変化があったと捉えて今のところは良いだろうとアムロは思った。


「そう・・・」


セイラは短く一言で答え、沈痛そうな面持ちで答えた。


「それじゃあアムロ。私も聞いてもらえるかしら。勿論内密に」


「何をだい」


「私もシャアに会った。サイド7襲撃時に」


「・・・そうか。私も君も殺されなかったんだね」


アムロはちょっとカマを掛けてみた。アムロは知っている。セイラの兄のことを。だが、それをアムロは口には出せない。


「私の場合は特別・・・だって兄さんだから」


セイラは白状した。アムロは取りあえずホッとした。知っておきながらも話せないことをそのままにしておいて会話をするにはちょっとやり辛さがあった分楽になった。


「・・・そうか。わかった。君のケースは特別にしてもオレを殺さなかったのはシャア個人的に良い傾向なことだと思う」


「そうね。兄は復讐に燃えていたから・・・私たちザビ家に目茶目茶にされたから」


セイラはコーヒーをすすり、話を続けた。


「でもね。私は恨みはすれど、晴らそうなんて思わない。だって、復讐は何も生まないもの・・・」


「セイラさんはそんな兄さんを見て良く思わなかった」


「そうね。でも貴方の言う通りに兄が変わったのならば、私にとっては嬉しい話だわ」


セイラは少し笑みをこぼした。そこで話が終わると丁度ミライがカフェにやってきた。


「あら、アムロ少尉。セイラと一緒なの?」


「ミライ曹長。奇遇ですね」


ミライ・ヤシマはフォン・ブラウンよりキャルフォルニア攻略戦、奇襲部隊撃退とアメリカの激戦を艦艇の操舵手として転戦し功績が認められ、曹長まで昇進を果たしていた。


「奇遇ではないのよアムロ。ミライとは女性が余り少ないし、同年代もいないしね。自然と仲よくなったのよ」


「そうね。同年代の女性がいないよね」


セイラとミライは笑って話していた。アムロはここはお呼びでないなと思い退席した。


「じゃあ、ミライさん、セイラさん。オレはグレイファントムに戻ってる」


「わかったわアムロ」


セイラが返事をすると、去りゆくアムロに付け足してこう声をかけた。


「ありがとうアムロ。少し気が晴れたわ」


ミライが乗り付けた車で2人はベルファストの市街地へショッピングに出掛けて行った。
その車をアムロは見送るとグレイファントムへ戻っていった。


* 大西洋上空 ミデア 同日 13:00


ウッデイ・マルデン大尉は婚約者のマチルダの願いもあってある荷物をベルファスト基地へ輸送していた。その途上ベルファスト基地からマチルダの通信が入った。


「やあ、マチルダ。君たっての願いだ。何とか上層部に掛け合って捥ぎ取って来たよ」


「フフフ、ありがとウッデイ。貴方ならやってくれると思っていたわ」


ウッデイはマチルダの元気そうな姿をモニター越しながらも見て取れて安心していた。
そして現在のジャブローの状況に不満を漏らした。


「しかし、ひどいものだ今のジャブローは。戦時下というのにもう終戦後の派閥闘争に突入している」


「そうなの?最近そちらには言っていないからわからないけど・・・」


「ああ、軍人官僚な右翼主義なゴップ大将派、左翼主義なジーン・コリニー中将やグリーン・ワイアット中将派、正統派なレビル大将派、宇宙軍のティアンム中将とその他諸々と一丸で戦わないといけないにも関わらず纏まりを欠いている。更にそれぞれが政財界とのパイプ作りに躍起になっている」


ウッデイは正統派軍人として、政軍民の癒着に気味悪く思っていた。マチルダも同意した。


「そうね・・・連邦もどうなるのかしら・・・」


「そして嫌な噂が立っている」


「何、まだあるの?」


「ああ、実はオデッサに展開しているレビル部隊に関してのことだ」


ウッデイはすっと真顔になり、マチルダへ忠告した。


「マチルダ。こんな馬鹿々々しい戦、生きて戻って来いよ。どこの連邦軍内部に内通者が居て、ある内通者が今レビル部隊にいるらしい。それがレビル将軍の暗殺を企てていると専らな噂だ・・・」


「!!」


マチルダは衝撃を受けた。各地に内通者が出ているとは聞くが、グレイファントム隊が参戦するオデッサで裏切り劇が起きる可能性がある。


「しかもその噂を利用し、連邦内部でもレビル将軍の失脚を狙う者がいる。いずれにしてもレビル将軍は今の連邦になくてはならない将軍だ。もし戦死でもされた際には戦争の終結が大幅に遅れる。それだけ兵の求心力を集めている。2番手のダグラス中将もレビル将軍までは程遠い・・・」


ウッデイは一通り話終えるとため息を付いていた。マチルダも同じくため息を付いた。士気に関わる事案である。噂にしろ、下士官達に流布して良いものでもない。


「ウッデイ。この情報はグレイファントム隊には伝えない方が良いね」


「ああ、同感だ。グレイファントム隊がくれぐれも深追いしないように君が監督するんだ。いいね」


「わかったわ。もしもの場合は・・・」


「そうだな。ブライト君だけなら話ても良いだろう。タイミングを見計らってな」


「ええ。言う通りにするわ」


「じゃあ、2時間後そちらに着く予定だ。では」


そう言うとウッデイは通信を切った。マチルダはグレイファントムの艦橋へ向かっていった。


* グレイファントム 格納庫 同日 16:00


到着したウッデイはブライトとグレイファントム格納庫内で対面し、荷物の受け渡しをしていた。


「では、ブライト大尉。こちらに受け取りの署名を」


「わかりました。・・・これで」


「結構。新しいモビルスーツの納品と壊れたガンダムの回収が終わりました」


「お疲れ様です」


ウッデイとブライトが握手を交わしていた時に、アムロ、リュウ、マチルダが格納庫へやって来た。
マチルダはウッデイに歩みよりお疲れ様と声を掛けた。ブライトはその親しそうな関係が気になり質問した。


「マルデン大尉はマチルダ中尉のことご存じなんですか?」


「ああ、申し遅れた。マチルダは私の婚約者でね。来年結婚の予定なんだ」


「そうですか。おめでとうございます」


ブライトは少々残念な気持ちになった。しかし吉事に祝いの言葉を掛けない程子供じみてはいない。
リュウも「へえ~こんな美人を嫁になって大尉も果報者だねえ」と少しからっかっていた。
ウッデイも照れながらも答えた。


「そう思います。自分には過ぎた嫁だと思っております。だからこそ大事にしていきたい」


「ウッデイ・・・」


後はもう見れないぐらいの状況になったのでアムロはブライトに新型機について聞いた。


「到着した新型機はこれなのか」


「ああそうだ。オルム!布をとってくれ」


「ああ、それっ」


メカニックたちが勢いよく新型機に掛かっていた布をはぎ取った。
すると青と白の2トーンカラーの綺麗なフォルムの立派なガンダムが出てきた。
正気?に戻ったウッデイが咳払いを一つしてその新型機の説明をした。

「RX-78NT-1。通称アレックスだ。反応速度がガンダムの数段上げた仕様になっている。アナハイムに出向しているレイ博士も途中からだが開発に加わっている」


「親父が・・・」


「そうだ。当初はマグネット・コーティング技術の利用、つまり磁力での可動速度の強化をするだけにとどまっていたが、連邦の独自のメタルフレームの試作ムーバブルフレームが間に合った。それで機体を設計している。まだ試作段階なので柔軟さに多少の問題点が残るそうだ。アナハイムから流れてきたそうだが、その反応すら超える操縦技術にも対応させる装置が組み込まれているらしい。確かバイオセンサーとか・・・」


アムロは驚いた。やはり時代が加速度的に進んでいると思った。今の時代でのムーバブルフレームとバイオセンサーの実用化なんて在り得ないことであった。ウッデイは話を続けた。


「このムーバブルフレームは汎用な設計技術にしていくとレイ博士は言っていた。近いうちにすべての連邦の機体に標準しようになるだろう。しかしこのバイオセンサーはそうはいかないらしい」


アムロは言葉にしなかったが「そう思う」と思った。


「このバイオセンサーは厄介な代物である特定の脳波に感知して発動条件が揃わないと機能しないらしい。要は普通のひとじゃだめだってことだ」


ブライトは首を傾げ、率直に思ったことを口にした。


「つまりエスパーのようなひとでないと意味がないと」


ウッデイは笑った。ブライトはそんなに笑わなくてもと言った。


「・・・っ、失礼した。そうだな。超能力者だね。スプーン曲げやトランプマジックじゃないけど、まあ第6感ってやつかな。勘が常に働く者が操れると私にも分かり易い説明をレイ博士から言われたよ」


「そんなひと、いるのか・・・」


ブライトは腕を組んで考えた。アムロはブライトへ質問した。


「艦長。アレックスはオレが乗れるのか?」


「ん?・・・ああ、そのつもりだ。マチルダ中尉が掛け合ってくれた」


そう言うとアムロはマチルダを見た。するとマチルダはそうじゃないと答えた。


「私は艦長の要望をこのウッデイに伝えただけ。苦労したのはウッデイよ」


そう言うと、アムロは今度はウッデイに向いてお礼を言った。


「有難うございます。このモビルスーツが有れば、助かります」


「ああ、しかしアムロ君。君はこのモビルスーツ使えるかね」


「多分、大丈夫でしょう」


そう言うとアムロはアレックスのコックピットに乗り込み説明書片手に初期設定を始めた。


「さすが親父だ。この360℃モニター・リニアシート。要望通りだ」


この新型機はかつてアムロが乗っていたモビルスーツのレベル近くまで操縦者の視界をリアルに投影できる仕様になっていた。


* ベルファスト市街地 17:00


カイは一人でマーケットを歩いていた。夕食時なので買い物をする主婦らが沢山いた。その中でちょっとした騒動が起きていた。

幼い兄妹が酔った青年にからまれていた。


「おい、小僧ども!オレの服を汚しやがって。どうしてくれるんだ」


その青年は幼い兄妹を威圧した。周囲のひとたちはあんな幼い子たちになんてことをと言いながらも面倒事に関わらないようにしようと無視を決めていた。

その中でひとりの少女がその兄妹の前に立ちはだかった。


「ごめんなさい!この子達が粗相したみたいで・・・」


「あ~ん。なんだお前は・・・」


「この子達の姉です」


「そうか。ならお前が弁償するんだな!」


「・・・それが今持ち合わせがなくて・・・」


「・・んだとぅ。なめてんじゃね~ぞー」


青年が片手に持った酒瓶をその少女に殴りかかった。カイが即座にその少女の前に滑り込み、その酒瓶を持った手を払い飛ばした。


「お~いおっさん。恥ずかしくないのか。こんな小さな子をいじめて」


カイは内心ハヤトに嫌ながらも鍛えてもらって良かったと思った。その青年はカイの姿に正気を失い、カイに襲い掛かっていた。しかしカイはしなやかな体さばきでその青年を地面に叩き抑え、その青年を気絶させ無力化した。

その騒動を嗅ぎ付けた地元治安当局が駆けつけてきた。カイはマズいと思い、その少女ら3人を連れてその場を離れた。

郊外の方まで逃げるとカイがここまで来れば大丈夫だろうとその3人に声を掛けた。


「はあ・・・じゃあ、気を付けて帰るんだぞ」


「あの・・・待ってください」


少女が声を掛けた。カイが立ち止まり答えた。


「なんかありますか?」


「いえ、うちすぐそこなんでお礼をしたのでお茶飲んでいかれませんか?」


カイは時計をみた。30分くらいは大丈夫だろうと踏んでご馳走になることにした。
彼女の家はちいさなアパートメントだった。彼女は手慣れた様子でカイにさっとお茶とスイーツを用意した。


「別に・・・そこまでお気を使わなくてもいいのに・・・」


「いえ、弟と妹を助けていただいたのでこれくらいは。それに」


「それに?」


「その姿、連邦の軍服ですよね。私明日から兄妹揃ってそちらにお世話になるんです」


「へえ~。どこの部署だい?」


「確かグレイファントム隊・・・」


「ぶっ・・」


カイはお茶を吹き出しむせ返った。少女は大丈夫ですかとカイの背中をさすった。


「・・・っ、大丈夫。でもまさかな。オレと同じ艦に乗るとは」


「えっ!ホントですか」


少女はびっくりした。カイは頷く。カイは少女に所属証明書の提示を求め、彼女はそれを差し出すとカイは自己紹介をした。



「ミハル・ラトキエさんね。オレは地球連邦軍ブライト部隊所属のカイ・シデン曹長だ」


「カイ曹長ですね。宜しくお願い致します」


「こちらこそ明日からよろしくな」


「はい」


カイはお茶をご馳走になり、ミハルの家を後にした。


* グレイファントム艦内 11.18 9:00


ミハルたちとアレックスを搭乗搭載したグレイファントムはオデッサに向けて出港した。
カイはミハルのことを気にかけては兄妹共々よく面倒を見てやった。ハヤトはその様子に声を掛けた。


「カイ。お前も隅におけないなあ。あんな可愛い子どこから見つけてきた」


「ほっとけ阿呆。そんなんじゃないさ。お前さんみたいに惚気はしないさ。ただ、気になるだけだ」


そのときのカイは後日ジャーナリスト的な勘というか、それも一種のニュータイプ的勘ということか、
自分でも若干研ぎ澄まされていたと語っていた。


グレイファントムがドーバー海峡を越えヨーロッパに差し掛かる頃、シロッコは自室にてある連邦の幹部を連絡を取っていた。


「ほう、君がそうしてくれると助かる。中々戦闘中にどうすることも困難だからな」


「ご心配なく閣下。成功の暁には席を用意していただければ」


「ああ。君みたいな優秀な人材を今まで眠らせていたことが連邦の重罪だ。ジャミトフと協力して私の力になって欲しい」


「はっ」


シロッコは通信を切り、自室を出た。すると通路を走るミハルの姿を見た。
シロッコは気になり後を付けた。すると通信室でどこかと通信しているミハルを見つけた。シロッコは声を掛けようかと思ったが、何を通信しているのか気になって物陰に潜め聞き耳を立てていた。


「・・・ええ。・・・はい。そうです。・・・わかりましたマ・クベさま・・・。はい。」


「ほう」


シロッコはミハルがジオンのスパイだと看破した。それを逆手にとって自分の思惑を達成しようと考えた。
ミハルは通信を終えて振り返るとそこにシロッコが立っていた。ミハルは戦慄した。


「・・・きか・・れてた・・・」


「そうだな。お粗末なもんだ」


シロッコは不敵に笑った。そして話を続けた。


「さて君は裏切り者だが、私の言うことに従ってもらえれば不問にしてやらんこともない」


「!!」


「もし、断るならば君と君の兄妹共々銃殺ものだな」


「・・・どうか、それだけは・・・」


「なら、承諾ととってよいかな」


ミハルは静かに頷いた。
そしてまたそのやり取りを見張る者がいた。


* オデッサ基地内 指令室 11.18 10:00 


連邦のスパイより包囲中の連邦の部隊の配置が明らかになった。
マ・クベはキシリアより託された核をより効果的に使用するため戦線の縮小と連邦の包囲をワザと形成させていった。

マ・クベは腕を組み、映し出される各部隊と予測される連邦の部隊の配置を眺めていた。


「一体レビルはどこにいるのだ」


マ・クベは呟いた。この戦いの主目的は核による連邦の撃破は勿論のことレビルを斃すことでもあった。エルランからも連絡がなく、マ・クベは手持ちの部隊での偵察による連邦本隊の発見に四苦八苦していた。


「肝心要なところが取れない。さすがに警戒されているな」


オペレーターよりマ・クベに報告が入る。


「マ・クべ司令。敵が東と北より基地内に砲撃を始めました」


「来たか。宇宙への打ち上げシャトルのスタンバイをしておけ。あとミサイルの用意もだ」


「はっ」


マ・クベは基地の放棄を既に下していた。マ・クベが撤退した後に降伏するよう兵士たちにも伝えてある。しかしそれは詭弁だった。核を撃つ用意があるに他ならない。一帯を敵味方区別なく焦土と化すだろう。


「後は運を天に任すのみ。事後はエルランが処理してくれる」


マ・クベは表情を変えず脱出シャトルへ向かった。


* レビル本隊 ビック・トレー 同日 12:00


レビルはヨーロッパよりオデッサ基地への侵入を果たしつつあった。オデッサは天然の要塞でもありジオンの激しい抵抗に戦線が膠着していた。


「将軍、我が軍の進撃の足が止まっております」


副官がそうレビルに告げるとレビルは叱咤した。


「無用な心配だ。我が軍の戦力は基地のジオンを既に圧倒している。奴らの踏ん張りなど時間の問題だ」


すると、オペレーターよりグレイファントム隊到着の報がレビルの下に届いた。
レビルはこれを機に攻勢を更に強めるつもりでいた。


「来たか。我々が敵正面戦力を引き付けている間にグレイファントム隊に側面を突くよう指令を出せ」


「はっ」


即座にグレイファントムへ暗号命令文が打たれた。


* グレイファントム艦橋 同日 12:15


グレイファントムはオデッサのレビル本隊に合流間近であった。本隊より暗号通信があったとマーカーよりブライトへ報告がもたらされた。


「艦長。本隊より暗号通信です。敵左側面より攻撃に入れとのことです」


「わかった。ミライ!舵急速回頭。敵左側面へ回り込め!」


「了解!」


グレイファントムは左側面へ回り込むことに成功した。
そしてブライトはモビルスーツ隊の発進を命じた。


カタパルトに乗ったアレックスとアムロは深く一呼吸をしてから出撃した。


「ガンダム。アムロ出るぞ」


カタパルトが急速発進してアレックスは激戦のオデッサへ出撃、その他のモビルスーツ隊も出撃した。
モビルスーツ隊の出撃の後、ミハルは通信室へ駆け込みマ・クベと通信を取った。


「・・・聞こえますか・・・はい・・・そうです。南のトルコ方面が本隊です・・・」

ミハルはシロッコの言われた通り連邦のオデッサ包囲部隊の南の軍を本隊と偽報を伝えた。
その報告は即座にマ・クベの下へ知らされた。マ・クベは勝ったと言い、ミサイルを南の軍に向けて発射の指令を出し、シャトルへ急いだ。

マ・クベはシャトルの中でほくそ笑んだ。


「レビルよ。これほど手強い相手はいなかった。しかし今日でお別れだ。とても切ない・・・」


そしてマ・クベを乗せたシャトルは遥か空の彼方へ飛んで行った。


* オデッサ西部 同日 12:30


アムロのアレックスは撃墜数を20機とし、他のパイロットたちも着々と戦果を挙げていた。大体敵の姿が見えなくなり、グレイファントム隊のモビルスーツが1か所に集合していた。


「大方片付いたかな」

リュウがそう言うとアムロが頷いた。


「ああそうだな。周りの索敵をしつつグレイファントムへ帰投しよう」


その時だった。物凄い衝撃波がアムロたちに襲った。


「・・・っつ、なんだこれは!」


シロッコが叫んだ。その言葉に皆が絶句した。


「戦術核の爆発だ!」


「核だと・・・」


ガンダムを始めとするモビルスーツ全てに放射能の注意警報が鳴った。


「みんな全力で後退するぞ」


アムロたちは逃げるようにグレイファントムを目指した。そして無事にグレイファントムに着いたときシロッコのジム改だけが帰投せずどこかへ消えていた。


* レビル本隊 ビック・トレー 同時刻


レビルの本隊も遠からずその核の威力による被害を受けていた。その衝撃によりビック・トレーが走行困難に陥り、レビルは座乗艦を捨てて避難せざる得なかった。


「将軍。こちらへ」


副官に促され出口に向かうと、その出口にノーマルスーツを着込んだシロッコが立ち塞がっていた。
副官と警備兵はシロッコに退くよう促したが、その返答が小型な手榴弾だった。


「・・!ぐ・・・」

警備兵副官共々爆死し、一番後方にいたレビルも重傷を負っていた。
レビルはなんとか自力で起き上がったがその額に銃を突き付けられていた。
レビルは憤った。


「貴様・・・誰に私を殺れと命じた」


シロッコは一息ついて答えた。


「誰といいますと・・・まあ誰でも良いでしょう。私が望んだことでもある」


「!」


「レビル将軍。私の野望の糧になっていただきましょう」


そうシロッコが言い終わると引き金を引きレビルの額を貫いた。


* グレイファントム艦橋 同日 18:15


核が爆発してから5時間強たった。
オデッサは核による爆発と汚染で連邦ジオン両軍に多大なる被害を被った。
未だに各部隊との連絡がつかない状況であった。

ブライトは憤りを感じ、マチルダもウッデイのアドバイスと聞いて置きながら無力な自分を責めていた。


「一体。どうなっているんだ!」


ブライトは艦橋で吼えた。そこにカイと一緒にミハルが入って来た。
ブライト含む艦橋全クルーがミハルがあることを告白するとカイが言ったためそれに注目していた。


「私、シロッコ大尉から脅されました」


「一体何をだね」


ブライトは慎重にミハルに問いただす。ミハルはゆっくり話し始めた。


「私はジオンのスパイでした。弟の病気の治療と妹を養うために・・・。連邦政府のしてくれたことは私たちに貧困で困難な状況を提供してくれただけでした。でも、ジオンはそんな私に手を差し伸べてくれたのです。だから私は・・・レビル将軍本隊の場所を割り出し、マ・クベ中佐がレビル将軍を攻撃するために・・・でも、まさか核なんて・・・」


ミハルの告白はこんな戦時下にあって珍しくない難民の問題であった。そのことに皆責めることも率先してできなかった。皆複雑な表情をし、沈黙しながらミハルの話を聞いた。


「だけど、シロッコ大尉にバレて、本隊をエルラン将軍の部隊の南だと偽報しろと・・・」


ブライトは表向きレビルを守ったシロッコと一瞬思ったが、即座に過ちに気が付いた。
アムロはそのことを代弁した。


「シロッコ大尉はミハルがスパイと気づいた時点でオレたちに言うべきだ」


「しかし、そんな連絡はないぞアムロ」


「ああ、そうだ艦長。そして今シロッコ大尉はここにいない」


リュウが当然の疑問を呈す。


「それじゃあ彼は・・・」


その時艦橋の大型モニターにジャブローより通信がもたらされた。


「ご苦労だった諸君」


連邦軍高官の軍服を着込んだ初老の男性が映っていた。通信回線のチャンネル的に輸送機の中からであった。


「私はジャブロー作戦本部のジーン・コリニー将軍の副官であるジャミトフ・ハイマン准将だ」


グレイファントムの面々は皆立ち上がり敬礼をした。


「よろしい。ただいまの状況を報告する。先ほど行われたオデッサの激戦はジオンの抵抗もあったが無事制圧が完了した。しかし、」


ジャミトフは少し間を置き、再び話始めた。


「先の戦闘により、エルラン将軍がジオンと内通していたということが発覚した。自暴自棄になったエルランは秘密理に入手した戦術核によりレビル将軍本隊へ打ち込もうと企てた。だがそこにいるミハルさんのお蔭で我が特殊部隊により、犠牲を出したがエルランを始末することができた」


ミハルはそのジャミトフの言に涙ながら小声で「違う・・・」と訴えていた。


「しかし、エルランに2重の策を講じておった。本隊への強襲だった。それにより本隊のレビル将軍含め高級士官、副官、警備兵と爆弾により殉職してしまった。とても悲しい事件だ」


ブライトは額から汗がただれ落ちた。


「しかし、その実行犯らを迅速に処罰できた。なぜなら諸君らの仲間で気が付いたものがおったからだ。彼はコリニー大将付きの参謀としてこちらで働くことになる。紹介しよう」


ジャミトフの紹介する人物、それは今まで一緒に戦っていた仲間だった。


「パプテマス・シロッコ大佐だ。軍部特権でこの階級に任じられた」


「ブライト艦長。今までお世話になりました。アムロ君も」


アムロは苦虫を潰したような表情でシロッコに話しかけた。


「シロッコ大佐・・・このオレに興味があるんじゃなかったのかい?」


「そうだな。厳密に言うと違う。アムロ君の動きは逐次今後も見ていくつもりだ。ただこういう機会は滅多にない。だから私は行動したまでだ」


「行動だと!」


ブライトはシロッコに噛みついた。シロッコは不敵に笑ったがそれをジャミトフが窘めた。


「そのへんでやめておけシロッコよ。・・・で、だ。ブライト君たちはちょっと事実確認だけしておく必要がある」


ブライトら艦橋クルーはジャミトフの話すことに再び耳を傾けた。


「オデッサは当面連邦の管理下に置かれる。民間人の立ち入りも許されない。そしてここでは戦術核など使われなかった。全てはジオンの激戦による犠牲によるものだ。レビル将軍、エルラン将軍ともに名誉の戦死を遂げられた。・・・これで良いかな」


艦橋は静まり返った。しかしジャミトフは話を続けた。


「これが連邦の見解である。世間を無駄に騒がしてはならない。まあ明日にでもそのように報道されるので、貴様らがいくら囀ろうがどうでもよい」


ジャミトフはまた間を置き、最後にブライトたちの労をねぎらった。


「この度はホントご苦労だった。お前たちに多少の休暇を用意した。連邦軍のマドラス基地へ向かうとよい。そこでウッデイ大尉に出迎えの準備をさせておく。彼は本日付でマドラス勤務となった。ではな・・・」


「ウッデイ・・・」

ジャミトフからの通信が切れた。マチルダが婚約者の名前に反応した。ジャブローより基地移動するとなると左遷されたということだった。


ミハルは精神を取り乱し、錯乱状態に陥った。それをフラウとセイラが取り押さえ、看護師を呼び鎮痛剤を打つとミハルはすやすやと寝息を立てた。

カイが舌打ちして話した。


「シロッコの様子がおかしいのはオレも感づいていたが・・・」


その言葉を聞いたブライトは艦長席から立ちあがりカイに詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。


「貴様!なぜ報告しない!」


「ああ、そうだな。言い訳になるが、ミハルのことも気が付いていた。シロッコが仕掛けた2重スパイということで司法取引で良い落としどころに持っていけると考えた。シロッコがそうミハルに促してくれたおかげでな。しかし読みが甘すぎた。・・・完全にオレのミスだ・・・」


アムロは胸ぐらを掴んだブライトの手を掴み、ブライトに語り掛けた。


「その辺にしておくんだな艦長。みんなシロッコに踊らされたんだ。今更事実がこうだとか覆すことができない。もはやただの八つ当たりだ」


ブライトはカイから手を放し、声の限り叫んだ。
その叫びは皆も感じるやるせない気持ちで艦橋に響きわたった。

そして、ブライトたちはジャミトフの言われるがままインドのマドラス基地へと進路を向けて失意の凱旋となった。






 

 

12話 満ちた時の果てに・・・ 11.20

 
前書き

 

 
* インド カンプル市 11.20 11:00


インドのカンプル市は有数の工業都市であり、インドでも指折りの大都市であった。鉄道網、学問の研究機関等も充実し、駅前周辺にはタワーマンションやショッピングモールが立ち並び、その傍には連邦政府公営の広大な公園が横たわっている。

待ち往くひとたちは皆裕福そうな人たちで休日になると繁華街の通り、ショッピングモールや公園等は子供連れやカップルで賑わいを見せていた。

そんな一見華やかさを見せる表と反対に路地に入ると貧困で喘ぐ老若男女が地べたに座り込み、物乞いをしてる者もいれば、料理屋から出たごみ箱を漁り、飢えを凌ぐ者がいた。

連邦政府の強引な市場強化による弊害だった。富裕層の多くは選挙での候補者を自分寄りの都合の良い人を立てて、その人が当選を果たし富裕層のための政策を実施していく。

力無き者は全て行政代執行により、淘汰されていった。役所も地元企業との癒着で腐りきり、弱肉強食の時代そのものをこの街は投影していた。そして、近くには連邦のマドラス基地があった。よってここでは戦争の被害が少ない。

道々に動かなくなった小さな子が横たわっていたり、生活の不満からギャングになり、弱い貧困の老人をリンチしたり、窃盗、強盗を働くものもいた。

スラム街に行けば、風俗や違法ギャンブルなど非合法な商売をするものが多くいた。働き手については地方より売り飛ばされたり、誘拐された子も少なくない。

そんな裏の顔を見せる街にシャアは宿を取り滞在していた。

恰好もスーツを着込み付け慣れていた仮面も取り、素顔で行動していた。
この街にシャアは思うところがあった。全ては勘であったが。

表向きの街の顔は大体見回った。成果としてシャアの満足するものは得られなかった。
すると自ずと裏の街の方となる。

シャアはガルマの下から出立する際に2つ身分証を渡されていた。
1つは民間人用。民間機での移動に役立つ身分証だった。
もう一つは連邦軍の軍籍証明だった。

両方とも人物が実在しているが既に行方不明のため、裏ルートより金を積んで入手したものでガルマは「戦時下故疑われないように動く必要があるだろう。気にせずもってけ」と言った。シャアも同感だった。


昼近くのスラム街を歩くが、ほとんどの店が閉めていて得られる情報は少なかった。


「ふう、中々暑いな・・・11月でも20℃もあるのではな」


シャアはジャケットを脱ぎ肩に掛けていた。
通る道の隅には体を寄り添って震えている姉妹らしき少女がいた。
シャアがその子たちを見下ろすと、その姉妹はビクッと反応して怯えていた。


「・・・お・・・お願い・・・です・・・触れないでください・・・」


シャアは悲しんだ。そして憤りを覚えた。連邦政府に対して。
政治の腐敗で戦争でこのような現状がこの姉妹たちにも降りかかったのだろう。
地方の状態はもっと酷い。

この地球に残った貧困層の移民を実施し、コロニーで特権階級に支配されないような環境、行政の体制を作り、できるだけ皆が笑える社会を実現できればとシャアは思う。

全員が幸せになるとは驕りだ。この姉妹の笑顔が見れるくらいは実現できても良いのではないか。
アムロの言葉も響いていた。1人でできることには限界がある。周囲の協力を求めればより大きなことができると。


「ああ、そうだな。この戦争や連邦政府、ジオンなど、括りが大きすぎるのだ。私ひとりではどうにもならない。有志、同志を見つけてやることだ」


シャアは自問自答をスラム街の現状を歩き把握しながら、市街地へ戻っていった。

この頃のシャアは冷静そのものだった。父の思想(父としては余りに失格だったが)、彼の政治活動はこの戦争の引き金になるくらい大義があった。

シャアは思想を受け継ぐ一人のスペースノイドであり、地球の特権階級に支配される抑圧される人々を一人でも救いたいと思った。戦争や闘争という手段は害でしかない。それをして手をこまねいている間に貧困層の不幸が増えていく。

政治手段で少しずつ訴えながらも、民間と協力して1日でも早く彼らを宇宙に上げる。
国の力は人口だ。マンパワーなくして発展成長なども見込めない。貧困層も環境を用意し結託すれば彼らなりに生活圏を作り上げるだろう。

1日1食パンのみが3食パンのみになる。それぐらいの進歩でもいいのだ。そのうちステーキを食べれるようになるだろう。

それを切り捨てている今の連邦には到底叶わぬ願いだ。どうしても数字だけを見てしまう。合理的だがそれはこのような人たちを見ない振りをしている。人類の革新、あらゆる可能性を自分たちで目を摘んでいる。

気持ちはわからないことでもない。特権は人の心を腐らせ、保身に走らす。政治家は表向きは公明正大でなくてはならないが、スポンサーがこれもまた保守的な富裕層が多い。

貧困に陥ったひとたちは戸籍も失われ、選挙もまともにいけない現状である。そしてそれを取り扱わない行政。悪循環だった。

シャアもその辺はある程度無視を決め込むと考えた。何せ規模が規模だ。貧困層だろうが特権階級、富裕層だろうが両者とも億単位の数だ。それらを説得するのは並大抵のことでない。


「この休暇を終えたら、ガルマにでも相談するか」


シャアはそう思い、道中昼間から開いているバーにより、ビールを1杯頼んだ。


「へい、お待ちどう。あんたここの人じゃないね」


「ん?どうしてわかる」


「この辺はまあ良くてもまだ日雇いの労働者のたまり場だからさ。それなのにそんな身なり良いスーツの方が余り来るような店じゃない。昼間だからこうお客も少ないが、夜はあまり顔を出さない方がいいよ。その辺の客引きにカモにされる」



「なるほど。ここならカモにされやすいのか」


シャアはマスターの言葉にいいことを聞いたと思った。
シャアは新聞を取り、現在の状況を把握した。


「ほう、ガルマは頑張っているみたいだな。・・・オデッサが陥落したか。・・・ほぼ連邦がまた地球を奪還したわけだ」


シャアはビールを飲みながら呟いていた。その呟きにマスターが反応した。


「そうさ。また連邦の良くない時代が来るよ。私ら低所得層はジオンにちっとは期待していたんだ。しかし、弱肉強食。連邦にはジオンも勝てなかった。あーあ。私もコロニーに上がり損ねた口だよ。その当時いろんな情報が交錯してて、話聞く限りだと宇宙の方がまだ良いらしいね」


「そうかもしれん」


シャアは一言で感想を述べ、勘定をして「また夜来る」と言い、その場を去った。



* マドラス基地 グレイファントム艦橋 同日 11:10


ブライトたちはマドラス基地に到着した。そこにはウッデイ大尉も到着しており、ジャブローからの指令書を携えていた。


「貴官らグレイファントム隊に3ヵ月の休暇を命ずる。連戦の疲れを癒してくれ。尚、身勝手な軍事行動は慎むように。但し、基地の危機に応じてはそれは範囲外とする。以上だ」


グレイファントム艦橋に訪れていたウッデイはブライトたちに命令書を渡した。
ブライトもアムロも戦線に立つことができない、ジャブローから許可が出ないことには。
ほぼ謹慎処分みたいなものだと皆考えた。


「そんなに厄介に思われたんですかね」


カイがぼやいた。セイラも「なぜかしら」と考えた。それについてマチルダが答えた。


「今の連邦は派閥闘争の真っ最中です。箝口令を言い渡しますが、レビル将軍は謀殺されたと見て良いでしょう。その現場にいたグレイファントムを始めとするレビル本隊面々は皆同じような休暇を取らされています」


ウッデイもマチルダの意見に同調し述べた。


「そう、連中はその間に地盤を強化し、戦争も終わらせることができると踏んでいる。全く嫌気が指す」


「そうですか・・・」


ブライトはげんなりしていた。アムロはブライトに声を掛けた。


「まあ、艦長も色々あって、他の皆も疲れている。まさか何の考えもなく動いて処罰される訳にもいかないだろう。息抜きをするしかない。時期を待つんだよ」


「そうか・・・そうだな」


ブライトはアムロの言うことは最もだと思い気持ちを切り替え、全クルーに休暇の伝達をした。
ブライトは今まで長い休暇を取ったことがないのでどうしようかと迷ったが、リュウが誘ってきた。


「ブライト艦長。我々で互いの顔見せの歓迎会していなかったじゃない。ここいらで一緒にやりましょう」


そのメンツは艦橋にいるほぼ全員だった。アムロは用事があると言って出席はしなかった。
ブライトは特別何もする予定もなかったため参加することになった。

アムロも艦を降りると、車に乗り込み自分の第6感に従い車を走らせて行った。


「(何かおかしい街の北の方からだ。しかも遠いな・・・。懐かしくも得体のしれないプレッシャーを感じる)」


アムロはインドを北に進路を取って、勘の赴くまま車を走らせた。



* カンプル市 スラム街 同日 20:00


シャアはまた例の飲み屋に戻ってきていた。店のマスターに言われ、少しラフな服装で来ていた。それでもまだ馴染めない浮いた格好だった。

案の定お金目当てな客引きや娼婦がシャアの下へ誘いに来た。
シャアは断り続け、バーの主人と話しながら飲んでいた。

すべては勘が頼りだった。あのアメリカの時の強い残留思念が頭から離れない。
その感覚がここの周囲を意識させていた。その目的のものに出くわしたとき自分がどうなるのか。
どう変わるのかわからないが、今の自分にそれが必要なことでもあるを思い込んでいた。

何かを成すためには何か突き抜けるような出来事がいる。今のシャアに足りないものだった。
行動しやることは認識しつつあるが、それをする上で覚悟を決めるものがこの街にあると。

すると、余りに見栄えしない女性の客引きがやって来た。


「ねえお兄さん。いい子が揃っているけどうちにこないかね」


シャアはその女性をみると驚いた。その女性の背後に青白いオーラのような幻覚をみた。
シャアは来るべき時が来たようだと思い、勘定をしてその女性に付いていくことにした。

それを見た店のマスターが注意した。


「旦那。そいつはやめておいたほうがいいぜ。あの女の商品はどれも非合法だ。見つかったらしょっぴかれるよ」


「そうなのか?」


シャアはマスターからの忠告を受けたがそれでも行くことを決めた。


「有難うマスター。私の目的のものは彼女が握っているみたいだ」


そう言ってシャアはその女性にある店に連れていってもらった。


スラム街でも奥の方、色々な腐臭でこの街のゴミ溜めと言えるような地区に案内された。
河のせせらぎが聞こえる。どうやらガンジス河の側らしい。

女性は店の中に案内すると、先に来ていた客が女性に不満を言ってきた。


「こんなできそこないをあてがうなんてお前どうかしてるぜ!もう2度と来るもんか!」


「ああ、そうかい。でもここで騒いだらアンタ命惜しくないんだねえ」


女性の脅しに客は血相を変えて、その場を走り去っていった。
シャアは苦笑した。女性に値段と商品について紹介してもらうと確かになと思った。

皆年もいかない子たちばかりでそれでいて平均相場の10倍をふっかけている。
興味本位で来た客の中には期待に添えなければ怒り出す者もいるだろう。


「で、どれにするかね」


女性はシャアに写真を見せた。しかしどれもピンと来なかった。
しかし、この建物は変だった。得体の知れないプレッシャーを感じた。


「主人。他にはいないのか?」


シャアはその女性に聞いた。女性は他ねえと考えこんだ。すると思いついたようでしかし首を横に振った。


「あー・・・いるが、アレはダメだ。連日評判悪くてな。ちょっと折檻している。お客が付いても上の空で何か変なものが見えるらしい。客が気味悪がってな。別のにしてもらえないかね」


女性は困った顔をしたが、シャアは引かなかった。


「どうかその子を紹介してもらえないか?」


「うーん・・・しかしねえ・・・」


女性が渋っているとシャアはポケットより白金の小さなインゴットを女性の前に出した。


「これは相場で貴方が提示する価格の10倍はある」


女性は目を輝かせ、シャアを折檻部屋へ案内した。

その折檻部屋には拷問道具が並べられ、褐色の肌をした少女がボロボロの衣類を纏い十字架に張り付けられてぐったりしていた。
その少女の肌には鞭の傷跡があった。女性はこう述べた。


「まあ、商品だからねえ。あまり傷ものにはしたくなくて。まあ3日間水しか与えていない、それとちょっと叩いた程度かな・・・」


シャアはその少女を見た。なんと汚い。トイレにも行かせてもらえていない折檻された少女の下は糞尿だらけだった。

しかし、シャアはその拷問器具から少女を解放してあげ、女性に風呂の用意を頼んだ。
少女は朦朧としていて、目が飛んでいたが生きているようだった。それを見たシャアは薬物を盛られているに違いないと思った。

少女は完全介護のままシャアに清潔にされ、新しいボロを着させた。
シャアはその少女が残留思念の原因だと思った。微かにだがこの子の周りに青白い光の幻覚が見え隠れしていた。ただ微弱だった。

シャアは少女をベットに寝かせると女性の下へ交渉しにいった。


「主人。あの少女を私にもらい受けたい」


「しかしねえ、一応商品なんで・・・」


「明日、今の白金の10倍するものをお持ちしよう。承諾すれば今紹介料で渡した同じものを手付で払うが・・・」


女性は二つ返事で承諾した。
そしてその夜。シャアはその少女を布で覆いおぶって自分の宿泊するホテルへ連れて帰って行った。


* カンプル市内 11.23 10:00


アムロは市街地を散策していた。休日だったのか人通りが激しく賑わいを見せていた。


「結構栄えた街だな」


アムロは露店でタコスを注文し食べ歩きながら散策していると、目の前に女性の衣類のメーカー袋を下げたシャアとばったり鉢合わせた。お互いに気が付き驚いた。


「驚いた・・・まさか君がこの街にいるとは・・・」


「ああ、オレもだ・・・」


アムロは紙袋をみて、女性ブランドのものと分かりシャアに質問した。


「しかし、シャアさんにそんな趣味があったとは・・・」


「フッ、私のではないよ。ある女性のためのものだ」


「そうか」


アムロがそう言うと、シャアは付け足し述べた。


「アムロ君。今の私は連邦軍大尉クワトロ・バジーナだ。その辺ご理解いただくよう宜しく頼む」


アムロは久々にその偽名を聞いた。この周辺はすべて連邦の管理下にあった。故にシャアは偽造の身分証が必要だった。最もその偽造は見破れない程の精度だった。


「わかりましたクワトロ大尉。それで聞いても良いかわかりませんが、どちらに行かれるのですか?」


「ああ、宿に戻ろうと思ってな。君も来るか?あれから私もいろいろ考えたのだが、君の助言もあって今までの自分とは変わった気がするよ。今後の指針も君の意見を多少なりとも参考にしたくてね」


「いいでしょう。休暇で暇ですから」


アムロはシャアの宿まで一緒に付いて行った。

シャアの泊まる宿は市内でも有数な高級ホテルであった。シャアはその部屋の上の階のツインルームを取っていた。当初はシングルだったが一人増えたためそこに移した。

アムロは横たわっている少女を見て驚いた。しかし、表立ってその表情を出さなかった。
シャアはその少女について話し始めた。


「ある娼婦宿で見つけた。この子は薬物を盛られていたらしい。私のつてで医者を探し、多少なりとも治療できたがすべてが非合法故に表立って入院もさせることができない。だからここで休んでいる」


「そうか・・・」


アムロは部屋の空いている椅子に腰を下ろし、その少女を見て安堵した。
シャアは見つけると思っていた。これはシャアは運命なんだなとアムロは感慨深く思っていた。

しばらく経つと少女は目を開けた。周りを見渡して隣にいたシャアに質問した。


「ここは・・・」


「・・・気が付いたか。ここは市内のインペリアルホテルの私の部屋だ。元々日本という国のホテル産業がこのカンプルへ支店として建てたらしいが・・・」


「そう・・・貴方は・・・」


「私はシャア・アズナブル。あの宿から君を買ったものだ」


「・・・そうですか」


少女は寝ながらシャアと会話を交わし、ゆっくりと体を起こした。そして改めて見回したら椅子に腰かけているアムロに気が付いた。アムロが少女が話す前に自己紹介をした。


「オレはアムロ・レイだ。この人の知り合いだ」


少女は少し間を置き、こくりと頷いた。


「・・・私はララァ・スンと言います」


ララァは2人に自己紹介をし、手のひらを返してスーッと前に出した。


「アムロさんもいらしていたなら手間が省けました。シャアさん、アムロさん。2人とも私の手をとってください。それで全てが分かります」


シャアとアムロは動揺した。ララァの言っていることが全く持って不明だった。
2人共互いを見て頷くとそーっとララァの手を取った。

するとララァから青白い発光が起こり部屋を包んだ。全ては一瞬の出来事だったが、シャアとアムロにはある3人の14年間の出来事を一気に頭の中へ流し込んだ。

シャアとアムロは慌ててララァから手を放し飛びのいた。
シャアもアムロも息を切らしていた。ララァだけは平然としていて微かに笑った。


「クスクス・・・お蔭様で私もいろいろ理解ができました。ありがとうアムロ、シャア」


そうララァが2人に伝えると、アムロが先に反応した。アムロはシャアに話した。


「シャアさん。先に言っておくけど、貴方もさっきのことは理解できなくても飲み込んだはずだ。だから少し確かめたいことあるからララァと話してもいいかな?」


「・・・ああ・・・そうだな。どうぞ」


「ありがとう・・・では、ララァ」


「はい」


「どうしてこうなった」


「・・・そうですね」


ララァは伏目がちでしばらく考え、そして答えた。


「きっかけは私の死でした。貴方たちの運命はそこで決まってしまったかもしれません。そしてあのサイコフレームという代物がこのような今を生んでしまったのだと思います」


シャアとアムロは黙って聞いていた。ララァは話を続けた。


「サイコフレームは人の想いを直接的に投影して、周囲に変化・影響を与えかねない不安定なものでした。共振が最高潮に達したとき一番近くにいた貴方たちの想いが私を生んでしまったのです。そして生まれた私は貴方たちをこの世界へ呼んでしまいました」


ララァは遠くを見るような目をして、一息をついた。


「アムロは奇跡的に貴方の器を見つけることができたみたい。でも、私は不安定でした。だから貴方たちと会うまで目覚めることができなかった。潜在的な部分で本当のララァに語り掛けることができたのだけど・・・」


「本当のララァ?」


アムロは首を傾げた。嘘も本当もララァは目の前にいる。それ以上もそれ以下もないと思った。
しかし、ララァは違うと言っている。ララァはその疑問にも答えた。


「私はアムロとシャアに作られた存在。本当のララァは私の心の中でキチンと生きている。例え私が消えたとしてもその経験は補完されて生き続けるのでたいして問題ではないわ」


「すると、オレは・・・本当のオレが心の中にいるのか・・・」


「そう・・・本当のアムロも貴方の中にいる」


ララァはアムロにそう告げた。アムロは天井を見上げ「そうか」と一言言った。
そしてララァはシャアに語り掛けた。


「でも、貴方は違うみたい。魂は同じだから貴方にも私が流し込んだ体験を飲み込めたと思うけど・・・」


シャアはララァの言うことに同意した。


「そうだな。私の先の14年間をララァに見せられたみたいだが、どうやらアレは私であって私でないな・・・」


シャアはため息をついて、話続けた。


「あのシャアはとても切ない。そして孤独だ。今の私にとって見ればあのシャアは在り得ない。決してそうなることはないだろう」


ララァもこくりと頷いた。


「そう。貴方はこの世界の本当のシャア。最初に強く感じたのは貴方の方だった。貴方は器だから探し易かった。色々過ちを犯さないように気が付いてからずっと見守っていた。でも途中で疑問を感じた。貴方は本当のシャアだったから。私が感じるにこの世界のどこかに救わなければならないもう一人のシャアがいると思うの」


「もう一人のシャア?」


アムロが反応した。ララァは再び頷く。


「そう。そして、そのシャアはとてつもなく不安定なものとなっている。何故ならば本来の器とは違う入れ物に入っていると感じるの。そしてその器には色々な14年間の不純物も混ざり合ってしまい、そのシャアが壊れてしまっていると思うの」


ララァは悲しそうな顔をした。そして話を続けた。


「私の願いは私たちの中で一番報われない人を救うこと。貴方たちが私を生んだ理由はシャアを私の手で包みこんで一緒に昇華すること。それで私たちのこの世界での役目が終わる。後は本来のアムロとララァに戻る。そしてこの世界は生き続ける」


アムロは自分がイレギュラーなのは知っていたが、その存在理由がララァからもたらされた。
そのことについてアムロはすぐには心の整理がつかないでいた。


 
 

 
後書き
*ごめんなさい。先に吐き出すものを吐いてしまいました(笑)

でも、物語は続きますので宜しくお願い致します。 

 

13話 様々な事情 11.23

 
前書き
かき回しておいて個人的にもよくわからなくなってきました。
このキャラクターたち動き過ぎます(笑)


 

 
* カンプル市 インペリアルホテル内 ラウンジ 11.23 11:30


ララァが一通り告白を終えると、疲れのせいかすぐ眠りについてしまった。
何もすることもできないシャアとアムロは仕方ないから1階のラウンジにて休憩を取ることに決めた。

シャアとアムロは1階のラウンジにて飲み物を注文し席に着くと、お互い天を仰いでいた。
するとアムロが呟いた。


「オレのあの願い。シャアとララァを救い、自分の未練を拭い去る・・・オレはやはりイレギュラーだだったのか・・・」

「・・・そうだな。あのイメージ・・・私でないことが何よりの救いだ」

「そうですか・・・シャアさん・・・」

「しかし、何故君はシャアさんと呼ぶのかね。かつてのライバルであり憎むべき存在じゃないのか?」

アムロは体を戻し、シャアの顔を見て話した。

「あのイメージの通り、オレの宿命のシャアはあのシャアで貴方ではない」

「そうか・・・」

「それでだ。シャアさんはこれからどうするのか聞きたいのだが・・・」

シャアは少し思案顔し、アムロに答えた。

「ふむ、少なくとも最終的な小惑星落としなどという愚行はせんよ。私は対話によって人類は地球より巣立つことが良いと思う。歴史上テロは世界を震撼させるだけで、テロがその後の主流になりはしない。つまり結果が出せないんだ」

シャアは目の前のコーヒーをすすり、話を続けた。

「君に言われた通り一個人での歴史的な革命など不可能故に、私は目の前のできることを一つずつをこなしていく。私の存命中に全てが達成されなくてもよい。ただより良い方向への世界を推し進めていく努力ぐらいならできる。この戦争でも多くの人命が失われ過ぎた・・・」

「・・・そうだな。この世界のシャアはごくごく普通の方らしい。立派ですよ」

「フフフ・・・君に言われると少々照れるがな」

「そうですか?」

「ああ、私は20そこそこだが。君は30近いからな。大人の君からそう聞くと褒められて素直に嬉しいものさ」

「まあこの通り内側だけで、外見が付いていっていないがな」

アムロもコーヒーに口をつけ、一息入れた。

「シャアさん。またジオンに帰るつもりかな?」

「・・・ああ。一通りの考えがまとまったら戻るつもりだ」

「ララァはどうする?」

「ふむ、一応私の持ち物になったことだから私が持っていくのが筋だろう。しかし、ララァの意見を尊重する。決して望まず兵器にはしない」

「そうか、それでララァのことはどう思う?」

シャアはアムロに質問に苦笑した。

「君らの縁のララァとは違って、私にとってはまだ会って間もない少女だ。恋慕など感じ取れる訳がない。その質問はナンセンスだよ」

「そうか・・・そうだな。失礼した」

「まあ、あのイメージならいろいろ気にするのも無理もない。大事にはするつもりだよ。だから本人次第ってことさ。私はガルマとジオンの派閥改革でもすると思う」

「ジオンも色々あるみたいだな」

「そうだな。あのジオンも兄弟間でイザコザがある。今は何とか一枚岩だが、いつ歪み壊れるかわからない。そうなったときが深刻だ。多様な思想が無秩序な軍事力を持つ。考えるだけでもゾッとする」

シャアはかなり深刻な事態をも考慮に入れていた。アムロもそれに同意した。

「今の連邦もそうさシャアさん。もう終戦後の派閥闘争に明け暮れている。この間もそのせいでレビル将軍が失われた」

「しかしアレは戦死だと・・・」

「貴方が知っている報道がすべてデマなのさ」

「謀殺か・・・そうか。空しいものだな戦争は・・・」

それから少しお互いに話込んだ。そしてアムロはあることを決断した。

「ああ。被害に遭っている人たちを助けるためにオレは動きたいと思うが非力だ。オレは政治屋にはなれやしない。向いていないからな。だからシャアさん、できることなら貴方の手助けをしたい」

「手助け?」

「ああ、丁度良いことに貴方はクワトロ・バジーナ大尉だ。マドラス基地に寄り、連邦の最新技術を根こそぎ持って行け」

「いいのか?」

「アメリカ戦線を維持するためには必要なものだ。今のジャブローに全てを譲る訳には行かない。ずっとザクの壁でもそろそろ持たないだろう。だからガルマさんも内通など工作に走っているのだろ?」

「・・・そうだな。あれでは年越しも危ういだろう」

「ガルマさんの思想は地球にとって、人類にとって優しいことだと思う。別のサイドでスペースノイドに優しい国作りをすれば良いと思う」

「そうか。君がそう言うならお言葉に甘えよう」

「ああ、シャアさんの大望が叶うことを願うよ」

「有難う。それじゃあそろそろララァを見に行こうか」

「そうだな」

そう言って2人とも席を立ち、部屋へ戻っていった。


* 某宇宙 メガラニカ内 聖櫃 ???


フル・フロンタルはサイアム・ビストの前に立っていた。
サイアムは高齢のため、冷凍睡眠装置の中で世界動向を気にしながら生き永らえていた。

フロンタルは傍にある石碑を見て、サイアムに話しかけた。

「こんなものが貴方の力の源とはね・・・」

サイアムは無言だった。フロンタルが話続けた。

「この最後の憲章文面・・・今も先もどう役立つのか、全く理解できない」

「・・・それを恐れた政府が包み隠したいものだった。今の政府の弱みだ。確かにそのまま発表しておけば良かったかもな。それが裏目に出た・・・あのテロが連邦の最大の失敗だった」

サイアムはゆっくりとフロンタルの問いに答えた。フロンタルは笑った。そしてサイアムが眠るこの聖櫃について何故分かったかをフロンタルに質問した。

「何故、この場所がわかった」

「・・・そうだな。私は私が何者であるかは知らない。その原因がどうやらこの場所を知ることができたことと言えよう」

フロンタルは少し歩きながらサイアムに話続けた。

「私は少し先の未来を知っている。そして私は今も昔も全てを知っている。その時間軸の全ての怨念が私を形作った。ベースがあったのだがそれを汚染し、私を分からなくするほどの人の想いがここに集約している」

サイアムは深くため息をついた。フロンタルはサイアムに提案した。

「私の持ちうるテクノロジーをビスト財団に提供している意味はこの時代の進化の加速だ。その速度に伴った色々な騒乱が人々を絶望に導くであろう。その終局でこの憲章が如何に効果的か、または無意味か確認したらどうかな?」

「なんと・・・苛烈な・・・」

「そうさ。人は鈍感なものでね。追い込まれないといつまでたっても対岸の火事と思う節がある。この絶望に一石を投じて希望へ変えるチャンスを私は与えたいと思っている。これは私の中のパンドラボックスだよ」

サイアムはこの石碑をパンドラの箱と呼んでいた。災厄の箱だ。
しかしその考えを改める必要があると思った。本当の災厄は目の前にいた。

フロンタルは明確な時期をサイアムに提示した。

「8年だ・・・この8年間でこの地球圏をゆっくりとかき回し、サイコフレームの感応機能を使い、人々に選択を迫ることにしよう・・・それまで生きていられるかなサイアム・ビスト」

「・・・無論だとも・・・それが私への手向けになるのだな」

「フフフ・・・期待してもらおう」


* マドラス基地 グレイファントム艦橋 11.24 14:00


シャアとララァはアムロに案内され、ブライトの下へ来ていた。
アムロは2人を紹介した。

「艦長。紹介します。こちらクワトロ・バジーナ大尉。そして秘書のララァ・スンさん。キャルフォルニアから技術士官として数日間滞在する予定です」

シャアはスーツ姿でララァも紺のスーツ姿でブライトの前に立ち挨拶を交わした。

「ブライト艦長。クワトロ・バジーナです。少しの間ですが、この基地で勤務することになりました。多少なりともデータを採取することになりますが宜しく」

「ララァ・スンです。大尉について何か連絡事項ございましたら遠慮なくおっしゃってください」

「ああ、宜しく。キャルフォルニアからとはあちらはいかがですか?」

ブライトはシャアに語り掛け、シャアは無難に話を合わせた。

「あちらも酷いもんです。連邦内部での派閥争うで戦線を維持するのがやっとです。士気も下がり気味で製造ラインも捗らない」

それは真実であった。シャアはアムロの話から想定し、ガルマからの戦況の定時連絡も受け結果話をした。ブライトはそうですかと答え、どこも上手くいかないものですねと言い、挨拶が終わった。

シャアとララァはその足でアムロのアレックスを見学に行った。そこにはメカニックチーフのオルムがいたのでアムロがシャアに紹介した。

「オルムさん、こちらはクワトロ・バジーナ大尉です。キャルフォルニアから技術士官として派遣されました」

「オルムさんですね。話は伺っております」

オルムはシャアの堂々としてかつ気取らない感が好印象に映り、シャアの求めるデータを懇切丁寧に教えていった。

「・・・で、レイさんが作っているムーバルムフレームが・・・、そこで今それに合わせて新素材のガンダリウムγを試作段階だができたそうで、良かったら全てデータありますけど、持っていきます?」

「ああ、宜しく」

「ですよね。聞いています。キャルフォルニアの方は全てのラインが凍結されたらしいですから。最新のデータが入ってこないと」

シャアはその新情報に驚きを見せた。アムロも驚いてオルムへ聞いた。

「オルムさんどういうことですか?」

「どうやらあのダグラス中将の部隊がジャブローに心証悪くしたそうで、それ以来なーんもジャブローから支援がないそうだ。キャルフォルニアの工場もアナハイムが止めたそうだ。きっとジャブローからの圧力らしいが・・・」

「そうですか・・・」

アムロは味方同士の内紛が実戦指揮官レベルまで到達していることにこの戦争の深刻さを改めて考えさせられ、シャアも複雑な思いだった。しかし、オルムは一つ良いニュースを持っていた。

「そうそう、実は噂なんだが。ジャブローからトリントン基地へ左遷されたブレックス准将が密かにジャブローの動きをけん制していると聞いたぞ。それに同調したものは少なくないらしい。地球軌道上で展開している艦隊もティアンム中将、ワイアット中将もそれにもれないらしい」

アムロはその話を聞き、少し安堵した。ブレックスが動き始めた。良い知らせだ。
オルムは話続けた。

「もうすぐ宇宙で大反攻作戦が実施されるらしい。圧倒的戦力でソロモンとルナツーの同時攻略を行うそうだ」

「同時にか・・・」

シャアは呟くとオルムは頷いた。

「そうだ。あのビンソン計画も大詰めでな。もうすぐ終戦という噂だ。だから我々がこう休暇取っている間にでも終わっているかもしれんがね」

オルムは気楽そうに言って、シャアにバックアップしたデータを渡した。

「はい、こちら」

「有難うございますオルムさん。きっとダグラス中将も喜ばれるでしょう」

「そうだな。地球も早くいろいろ片付くとよいんだけどねえ」

そう言ってオルムは整備班の下へ戻っていった。
シャアはアムロにお礼を言った。

「アムロ君。君のお蔭でデータが手に入った。なるべくガルマを説得し、そのブレックス准将というひととコンタクトを取りたいと思っている。私らが望むものはスペースノイドの自立と地球に残るものの支援だ。戦うことではない」

「ガルマさんはジオンを捨ててそれを選ぶと?」

「そうではないが、彼は私に言った。ジオンの思想を実現し人類は未来を目指すと。ジオンの派閥争いで勝つことを目指している。だが、それが無理と分かれば私が彼を説得し、ジオンに囚われない国作りも必要と説く」

「そうか・・・」

アムロはシャアの置かれている立場を理解した。そうそう思うようには事は運ばない。段階を踏み、結果一つの下に集まっていれば万事片付くことだ。焦らずとも時代は加速度的に変わってきている。その時もそう遠い未来ではないだろうと。

シャアはアムロに再び話しかけた。

「ガルマという男は純粋な坊やだ。彼のような実直さが今もこれからも必要だ」

シャアはララァと基地の寄宿舎へ戻っていった。アムロは自分の立ち位置的にもはや敵味方など問題としなかった。していることの表面化するには早すぎるため取り繕うことには最善を尽くした。そしてララァの告白により別のシャアとの決着を意識し始めていた。

「どこにいるかわからないが、運命ならば、宿命ならば、必ずめぐり会うはずだ」

そうアムロは口にして、自分の寄宿舎へ足を向けた。


* 地球軌道上 連邦艦隊 12.10 10:00


ビンソン計画とV作戦が達成され、地球軌道上には3個艦隊補給艦含めおよそ500艦艇を超す陣容となっていた。この当時の主力モビルスーツもジム・カスタム、ジム・キャノンⅡとなり、その搭載数も艦艇数のおよそ5倍となっていた。

艦隊司令官はマクファティ・ティアンム中将、グリーン・ワイアット中将、ジャミトフ・ハイマン少将であった。

ジャブローは中立派のゴップ大将と急進派のジーン・コリニー大将がほぼ牛耳っており、それ以外の保守派は各地前線か各基地へ左遷させられていた。

そのことにティアンムとワイアットは不快に思い、コリニーに近いジャミトフに常々当たっていた。

ティアンム艦隊の旗艦バーミンガム級ティアンム艦橋にてワイアットとジャミトフ、それぞれ副官を連れて作戦会議をしていた。と言ってもジャブローから既に指針が出ており、それについての確認だけであった。

ティアンムが会議室上で先に話始めた。

「我が艦隊は星1号作戦に入る。ワイアット提督はルナツー攻略。ジャミトフ提督はサイド7を始めとするジオンの中継基地攻略と各サイドの治安維持を務めることになる」

皆ジャブローからの指令ということで各自同意の上頷く。ワイアットはそんな中ジャミトフに噛みついた。

「しかし、コリニー大将がいろいろ動いているそうじゃないか。何かとケチ付けると補給が止まるなどと・・・我が艦隊に起きたら一大事だぞ。ジャミトフ提督はどうお考えかな?」

ジャミトフは少し笑みを浮かべ反論した。

「閣下は少しお疲れのようだ。味方同士でそんな不始末起きるはずがない。終戦が近いのだ。政治的にも戦後処理を考えてのことだろう。むやみな戦線拡大や戦力投入などする必要はない。要はジオン本国を潰せば全て片付く話だ。それが閣下はもしや皆殺しをしたいとおっしゃるのか?」

ワイアットはぐっとジャミトフを睨みながらもその発言に返答を窮した。
ティアンムはため息を付きジャミトフに話しかけた。

「しかしなジャミトフ提督。現に地球での戦線維持に各部署が困っているという実情がある。ジオンの力は地上では失いつつあるからそれ程以前ほど侵攻される危険性はないだろう。現場はそれをどう見るかはまた説得が必要になるのではないかな?一兵士が作戦のため飢えてしまう恐怖に悩まされては戦う前に負けてしまいかねない」

「・・・そうですね。私の方から宇宙軍につきましてはある目途が立つまで存分にとお伝え致しましょう。その目途がつきましたら提督たちに必ずやお伝え致します。それでいかがかな?」

ティアンムとワイアットは目を合わせ、これ以上突っ込む余地がないなと思い同意した。
ジャミトフは満足そうにして締めにこう述べた。

「良かった。名将と言われる両提督からご理解いただけて。では、これより提督らの艦隊が安心安全での航行をできるよう各中継基地壊滅という露払いをして参ります。それもある程度の目途が立ち次第、両提督とも発進してください。きっと良い星間旅行となるでしょう」

ジャミトフは会議室を後にした。


* サイド1周辺 ジュピトリス級 シロッコ艦 12.10 13:00


シロッコはレイ博士らが開発した試作ムーバブルフレームの実用化にいち早く成功していた。
しかし、それを軍部や技術部には伝えなかった。ジャミトフからも必要以上に有効なことは伝えることはないとも言われていた。

そしてアナハイムからもガンダリウム合金の生成を得て、PMX-000 メッサーラを開発しその試験運用をしていた。

ジュピトリスの艦橋にいたライラ・ミラ・ライラ中尉が敵の勢力圏内であることを頻繁に警告するにもシロッコは全く動じず、むしろ無視をしていた。それに気づいたライラはシロッコの事を放っていた。

すると、敵接近の警報がジュピトリスに響いた。

「シロッコ大佐!敵が近づいてきています。至急帰投してください」

ライラがそう言うと、シロッコは了解したと言った後真逆の事を告げた。

「これより敵の撃退をする」

そう言うとシロッコのメッサーラはジュピトリスより遠ざかり、接近中の敵の方へ向かっていった。
ライラは苛立ち「もう知るか!」と座っていた椅子を蹴り飛ばし壊した。

シロッコは度重なる悲観的な設定のシミュレーションを尋常じゃない程こなして、空間認識能力の限界を広げていた。元々勘が鋭かった自覚も有ってか、敵の数を感覚で捕捉していた。

「・・・敵は2機か・・・」

シロッコはその敵に近づくと、敵がいるところとは違う場所から無数のビーム砲を発射してきた。
シロッコは驚いたがすぐさま対応し、全て華麗に避け切った。

「危ないことをする。敵は・・・」

シロッコは望遠で2体の敵を見た。2体ともとんがり帽子頭のモビルアーマーだった。

そのとんがり帽子頭のエルメスというモビルアーマーに乗っていたのは、マリオンとクスコであった。
フラナガンで調整を受けていたニュータイプと呼ばれる操縦者であった。

「マリオン!あの紫色全部避けたよ」

「そうみたいね・・・侮れない」

マリオンとクスコも認識能力が高く、その高さは敵対するパイロットの技量にも及んでいた。
果たして私たちで勝てるのかどうかそれぐらいの問題の相手であった。

シロッコは猛然とエルメスへ突っ込んでいった。マリオンたちも2機ともビットで応戦したが、シロッコのメッサーラに掠りすらしない。クスコを射程に収めたシロッコが直撃弾を打つときにシロッコはおぞましいプレッシャーを感じ、シロッコは急進してその場を飛びのいた。

「なんなんだ・・・この気持ち悪さは・・・」


すると、フル・フロンタルが乗るプロト1がエルメスとメッサーラの間に入って来た。
フロンタルはメッサーラに向けてビームライフルを発射した。

シロッコも上手く避けようとするが何故か避け切れない。
メッサーラはモビルアーマー体型からモビルスーツへ変形し、なんとか避け切ったものの腕を一本持っていかれていた。

シロッコはすかさずビームサーベルでフロンタルに斬りかかり、フロンタルはそれに応戦した。
フロンタルはその間にマリオンとクスコへ帰投命令を出し、その場を逃がした。

シロッコはフロンタルに問うた。

「貴様は何者だ!」

「フッ・・・私はこの世の「理」であり「終わり」でもある」

「なんだと・・・」

メッサーラのサーベルはフロンタルのプロト1のサーベルをはじき、プロト1のサーベルの持ち手を切り取った。これにはフロンタルも感嘆した。

「素晴らしい・・・実に素晴らしい才能だ。今は時期ではないが良ければ君にもいろいろ伝えてあげよう」

シロッコは対峙した相手の話を聞いていた。フロンタルの話にシロッコは耳を傾けた。シロッコの勘がそれが良いと判断したためだった。

「そうか・・・理解した。貴公がそういう存在であると。ならばいつか教えを乞いに行くとしよう。名を何と申す?」

「フル・フロンタルだ」

「パプテマス・シロッコだ。また会おう」

そう言ってシロッコは再びメッサーラを変形させ、ジュピトリスへ帰投した。
フロンタルはシロッコに会えて喜んだ。

「マリオン達の試験運用だったが、思わぬ収穫が得られた。上々だ」

フロンタルも自身の艦へ帰投していった。


 

 

14話 ソロモンの悪夢 UC0080 1.1

 
前書き
ちゃんと書けたかな。不安だ(笑)

 

 
* サイド1 宙域 ティアンム艦隊 UC0080.1.1 10:00


ティアンム艦隊の新年は戦場で迎えられた。艦隊司令のティアンムは度重なる敵コンスコン艦隊の妨害により、進軍が止まっていた。ティアンムのフラストレーションは爆発寸前だった。

「何故!・・・敵を撃退せしめない。我が軍はこれだけの大兵力だぞ。各分艦隊は何をしている!」

ティアンムは旗艦の艦長席でモニターに映る分艦隊司令を怒鳴りつけた。
各分艦隊司令らはこう発言をした。

「司令・・・敵は薄いようだが柔軟なゴムのような艦隊運動です。我々が各艦連携して動くに余りに大所帯過ぎて・・・」

「そうです。我々が目標地点に到達するときに敵は既にいなかったり、側面へ回り込まれたり・・・」

ティアンムは唸った。分艦隊司令らに功績を立たせるために、ソロモン攻略への士気向上を図るために各分艦隊の戦術レベルでの勝利を委任したことが裏目に出ていた。

最初は我慢した。そこまでの損害もなく、敵の迎撃艦隊もさほどの戦力でもなかったからだ。
敵迎撃艦隊の規模はティアンム艦隊の三分の一の戦力でも数の上では壊滅するに容易かった。よって前線指揮官にその撃退を委ねた。

コンスコンは大軍ならではの弱点を付いていた。少数精鋭で一撃離脱戦法を取り、それを10数隊に分けては継続的にティアンム艦隊の先方に餌を巻き誘い込み打撃を与える。違う隊はその伸びたティアンムの先方を側面から攻撃した。

ティアンム艦隊の個々での艦隊連動が悪すぎた。戦端を切ってから13日経つ。その被害もそろそろ軽視できないものになっていった。このままではジャミトフに笑われかねない。

ティアンムは全権を自分に戻し、艦隊を並行陣にして進軍を開始した。
最初から正攻法でこれでいけば良かった。

コンスコンもこの陣形で来られては奇兵奇策を弄す隙がなかった。
コンスコンは副官に「これまでだな」と言い、ソロモンへ後退していった。

ティアンムはホッと一息つけた。すると通信士よりティアンム宛に連絡が入った。

「司令。ジャミトフ提督からです」

「ジャミトフからだと・・・繋げ」

すると、正面の大型モニターにジャミトフの顔が映った。

「大分手こずったようですな中将。敵もそこそこやるということですかな」

「ふん。そうだな。貴官申す星間旅行というのは少々骨が折れるみたいだ」

ティアンムはジャミトフからの科白に嫌味で返した。

「そうですか・・・そこで中将。ひとつ私がプレゼントしたいものがありまして、ソロモン攻略にきっとお役に立てましょう」

「プレゼント?・・・まあ、くれるというのにもらわん訳にはいかんだろう。して何をだ」

「ソロモンはジオンの重要な拠点です。大兵力が待ち構えているでしょう。まあ中将の艦隊ならば勝てるでしょうが多少の痛みを伴います。それを軽減してくれる代物・・・まあ光の矢と申しましょう」

「ほう。新兵器というやつか。有り難く頂戴しよう」

「ええ、ぜひご活用ください」

そうジャミトフが言うと通信が切れ、代わりにそのプレゼントの座標が送られてきた。
サイド1宙域、ティアンム艦隊すぐそばだった。

「よし、数艦がその贈り物を受け取りにいけ。本隊はそのままソロモンへ進軍する」

ティアンムは艦隊を隙を見せない陣容でゆっくりソロモンへ進ませていった。


* 宇宙要塞ソロモン 司令部 1.01  15:00

司令部でドズルは本国の兄ギレンに通信会話をしていた。
ドズルはここがジオンの一大決戦の場にしようと主張していた。

「兄貴!連邦がこのソロモンへ向かっている。兄貴の艦隊で後背を突き、またあのルナツーのように艦隊を撃滅すればこの戦は勝てる」

ギレンは首を横に振り、ドズルの作戦を採用しなかった。

「ドズルよ。アレは2度は無理だ。敵も2度は失敗をしないだろう。それよりも良い方法がある。その時までソロモンで出来るだけ敵を引き付けてもらいたい」

「なっ・・・良い方法だと・・・。戦は数だ兄貴!数がモノを言う。本国からの援軍で連邦を追い払える」

「・・・無論だとも。数が勝負の分かれ目だ。最終的に敵がいなくなれば良いわけだからな。ドズル、お前にはビグザムを5体都合してあったが、それでソロモンは守れるだろう。時間をできるだけ稼げ。今はそれしか話せん。ドズル、ソロモンを支えてくれればジオンは勝つよ」

そう言うとギレンの方から通信を切った。
ドズルは唸り、「言われるまでもない」と呟いた。

その後ドズルは自室のいる妻ゼナに会いに行った。
ゼナは生まれたばかりである娘ミネバをベビーベットの上で世話していた。
ドズルが部屋に入って来たのに気づき、ゼナはドズルの方に振り向いた。

「ゼナよ・・・今回は生きて帰れるかわからん」

ゼナは夫の言葉に沈痛な顔で「そうですか」と一言言った。

「しかし、お前とミネバだけは守らねばならない。戦闘が起きる前にソロモンを出てアクシズへ向かうのだ」

ゼナは驚いた。何故本国でなくそんな辺境の地に行かねばならないかを。

「どうしてです貴方・・・何故あんな日の当たらないところなんかに・・・」

ドズルは俯いてゼナの質問に答えた。

「済まない・・・今のジオンはオレでもコントロールし切れない。お前も知っての通り、兄妹間の仲が最悪だ。兄は独裁体制を取る上でオレも含めて邪魔者だと思っている。良くても単なる駒にしか思っていない。そんな兄貴の下にお前らをやる訳には行かん」

すると部屋のインターホンが鳴り響き、ドズルがその訪問者を確認した。そしてその訪問者を招き入れた。

「ゼナよ。こちらはアクシズ先遣隊指令ユーリー少将だ。アクシズ統括官のマハラジャ・カーンの腹心でもある。この者がお前を安全な場所へ案内する」

すると、ユーリーがゼナの前に立ち自己紹介をした。

「ユーリー・ハスラーと申します。ゼナ様を無事アクシズまでご案内致します」

ゼナは不満に思った。いっその事夫も一緒に行くことができないかと訴えたがドズルが拒んだ。

「ゼナよ。オレはザビ家の男だ。戦争の発端になったものだ。それが逃げたとなっては兵士達は戦えない。願わくばお前たちは地球のガルマに委ねたかったが、ガルマも地球にほぼ閉じ込められた形であり、よからぬ噂も耳にする」

ドズルは可愛がっていた弟について複雑な心境だった。

「ガルマは・・・実にいい弟だ。あの清廉、実直さはオレには到底持ちえないものだ。何事も正義を貫こうとする志。それが兄ギレンに不信感を与えていた。地球での統治が仇になった」

ドズルは柔和な顔でミネバの頬に手を触れた。

「兄貴は地球に未練がなく、コロニー落としなど行った。ガルマは地球での統治を実施し、地球に関わりを持った。兄貴とは違ったジオンの思想を導こうと思っているらしい。兄貴は非情な男だ。自分とは少しでも違う思想を持つ者、つまり地球に毒された弟を認めはしないだろう」

ゼナはガルマのことを知っていた。確かに彼は優しい男だ。彼の優しさが他の兄妹達との温度差になっている。そのことにドズルは危惧していた。

「そしてガルマは地球に独自の組織を興そうとしている。そこでスペースノイドの重要さを世間に訴えるために。ガルマは本国を・・・ザビ家を裏切ろうとしている」

「しかし、ガルマ様は先日貴方との通信で自ら派閥を興してジオンを改革するとおっしゃったじゃないですか。それに貴方への協力を要請していた」

「・・・だが、オレは断った・・・オレは今のザビ家の、ジオンの将軍だ。ジオンはこの戦争で一枚岩となり、連邦に打ち勝たねばならん。内紛など目先の問題が片付いてからすれば良い。しかしガルマはどうやら理想に酔っているようだ。そんな状態で兄貴やキシリアに勝てる見込みなど全く感じられん」

「そんな・・・だから貴方はガルマ様を見捨てようとするのですか」

「そうだ。戦争は非情だ。大事な局面で見誤る将に軍を率いる資格はない。ガルマはそれを失っていた」

ドズルは落胆した面持ちでガルマへの想いをゼナに伝えていた。
ドズルはミネバの寝顔に見入り苦笑していた。

「オレにも子供を持つ資格があるとは思わなかった。こうして妻、娘と戦場でも安らぎのひと時を持つことができる。このオレはつくづく果報者よ」

「・・・いいえ、このゼナこそ幸せです。貴方のお蔭でミネバに恵まれたのですから。できることなら貴方と一緒に・・・」

「それはできない。わかってくれとは望まん。これはオレのエゴだ。済まない」

「・・・わかりました。でも、後から来てくれますよね」

「ああ、勿論だ。連邦をこの手で粉砕してからお前を迎えにゆく」

そうドズルが約束を交わし、ゼナの額に口づけをしてから再び司令部へ戻っていった。


* ルナツー 宙域 ワイアット艦隊 同日 16:00


ワイアットは旗艦の中の艦長席において紅茶を嗜んでいた。
ワイアットの下に数々の戦況報告が入る。全てが良い報告だった。

各分艦隊司令の話によれば、ルナツーからのジオンの迎撃艦隊を撃退した、そして掃討作戦と合わせて1月3日にはルナツーの制圧が完了するだろうという報告が入っていた。

「うん、良い話だ。貴官らの働きに満足している。この残存戦力ならばティアンム艦隊の後詰ができると思う。まあ焦らず目の前の皿を上品に平らげるとしよう」

ワイアットがモニターに映る分艦隊司令らにそう告げると皆了承し、持ち場にて最善を尽くしていた。
ワイアットはルナツー攻略中もティアンムの状況を通信士より逐次受け取っていた。戦友でありライバルである指揮官の動向を知りたかった。

ティアンムの戦闘詳報に目を通したワイアットは少し眉を潜めた。

「・・・少数の迎撃艦隊に翻弄された。そしてジャミトフからソーラーシステムの受領・・・。意外と苦戦を強いられているようだ。宇宙戦力の半分がティアンムが持っている。これが万が一失われることになったら、連邦の人材渇枯が必至だ」

ワイアットはその詳報を副官に預け、再び紅茶を口にした。

「機械など作るのは容易い。だが、人材はそうはいかん。戦場に出せる兵士を作るのにはそれなりの年月が必要だ。ティアンムの戦力がソーラーシステムと伴ってソロモンの攻略には十分なのだが、窮鼠と化した敵は何をしでかすかわからんからな。ましてやあのドズル・ザビが守る要塞だ」

そうワイアットが周囲にぼやくと、その意見に反応した。そして今攻略中のルナツーにおいても敵が窮鼠と化すことについては動揺の話であった。そして皆に徹底した。

「隙を見せてはならない。各自、各艦、敵動向をキメ細やかにチェックしていけ。降伏する艦艇にも自爆する危険性ら、工作員らなど想定して確認するように」

その命令はワイアット艦隊全艦に通達され、ワイアット艦隊は1割に満たない被害にて1月3日にルナツーの攻略を完了した。


* ソロモン 宙域 1.02 9:00

ティアンム全艦艇がソロモンを半包囲するように展開し、モビルスーツ隊も発進していた。
そしてティアンム艦隊の中央部後方に新兵器のソーラーシステムを配備していた。

「これより目標ソロモンの攻略を開始する。各自の健闘を祈る」

ティアンムはオープンな無線にて戦場にその旨を伝えた。
そしてまず艦艇の砲撃の嵐がソロモンを襲っていった。

ドズルは要塞内司令部にてその衝撃を受けていた。
司令部もグラグラと揺れた。その攻撃に対しドズルは声を荒げ迎撃命令を下した。

「各要塞の砲台に告ぐ。連邦の艦隊に我が武威を示せ!砲台の撃ち方の後、モビルスーツ隊を発進。敵前面の艦艇を突き崩し、両翼の分断に務めよ」

このソロモン攻略戦の戦力比は連邦:ジオンが3:1であった。地理的な面でジオンに分があるためその戦力比を補っていた。

互いの砲撃による弾幕の応酬により、互いがモビルスーツ戦が挑める程の近距離まで連邦軍が到達すると両軍とも砲撃戦を控えモビルスーツによる近距離戦に変わった。

連邦軍中央マゼラン艦内カタパルトデッキにて、

ジム・カスタムに搭乗しモビルスーツ大隊の隊長として先陣を切るスレッガー・ロウ中尉は次々と発進していく味方を見送りは自身の発進の順番を待っていた。

「やれやれ・・・圧倒的戦力と言いながらも激戦になりそうじゃないの。まあジオンは重要拠点の陥落をどうしても阻止したいだろうから死に物狂いでくる訳だ。切なくやりきれないんだけどこれが戦争なんだよね・・・」

そうスレッガーがぼやくとオペレーターの若い女性より発進の指示が下った。

「スレッガー中尉!発進お願い致します」

「OK!・・・なあ、これが終わったら一緒にご飯でも行かないかい?」

そのオペレーター少し顔を赤らめて満更でもない表情でスレッガーに答えた。

「いいわよ。その代り生きて帰ってきてちょうだい」

「了解した。レディの約束を反故にするほどオレは野暮じゃない。スレッガー・ロウ出るぞ!」

カタパルトに乗ったスレッガーは急速発進してソロモン宙域へとその身を投じていった。


* ティアンム本隊 旗艦内 1.04 11:00


ティアンムはソロモンを半包囲の態勢で攻めていたが攻めあぐねていた。
無理に出血を強いる戦い方はティアンムの思うところではなかったので正攻法で攻めていた。

中央より敵の迎撃隊が中央部の分断を図ろうと猛攻が続いていた。そのため中央部を多少後退せざる得ない。

その分両翼が潤沢な戦力により着々と攻略していたがピタッと止まっていた。
両翼に識別不明の4機の巨大モビルアーマーが防衛に出てきて、連邦両翼の進撃を食い止めていた。

ティアンムもその状況に歯ぎしりをしていた。

「やはり、ジャミトフの土産を使わなければならんか・・・時間をかければ被害も抑えての攻略も可能だがそれではワイアットが来てしまう」

ティアンムはルナツーのワイアットの活躍を報告で受けていた。
このまま行けば砲撃とモビルスーツ戦でソロモンに攻略の楔を打つことも可能だが、ワイアットが来ると両艦隊による攻略戦を余儀なくされる。

これだとティアンムの功績自体がかすむ。自分でも戦争は協力し、被害を最小限に収め目標を達成することが良いことが分かっているが自分のどこかにそれを許容できない自分がいた。

しかし、無理な戦闘を仕掛ける訳にもいかない。それは愚将のやる行為だ。兵の命を預かっている以上自分の功績の為に死ねと命令することはできない。後々の名声に響くことになる。

「・・・副官。ソーラーシステムのスタンバイは」

「はっ。命令後30分でソロモンを焼くことができます」

「そうか・・・已む得まい。ジャミトフより頂いたものを有り難く使わせてもらうとしよう。それでより少ない被害で済ますことも良将と呼ばれる所以だからな」

「かしこまりました。後方に通達!ソーラーシステムスタンバイ。中央部は敵に崩されたと偽装し両翼に軍を分配する。移動は20分で済ます。急げ!」

副官の命令により、ティアンムの本隊とその中央部が敵の攻撃による分断されたと思い込ませ、敵を油断させた。その動きにドズルが妙に思った。

「・・・おかしい、手ごたえがないように感じる。しかし、うまく連邦を2つに分断できた。これでビグザムで片方を抑えながらもう片方で火力を集中させることができる」

ドズルは司令部にて戦況モニターを見て一抹の不安を感じながらも各部署へ適切に防衛指示を出していた。

ドズルは連邦を犠牲を払ってもソロモンを防衛し切れば良いと考えていた。しかし物量の観点から長期戦ともなると弾薬ともにジオンにかなりの分の悪さを感じていた。

「ルナツーも同時攻略されていると聞く。兄貴からの増援が不明で、キシリアからの増援も要請したが、連邦の我が軍の中継基地の防衛に各軍が分散されて軍が出せないと言う。孤軍奮闘とはまさにこのことだ」

ドズルはそう愚痴をこぼした。
ドズルはなるべく短時間で効率よく各個撃破することに期待を込め戦端を開いた。

艦隊運用というものは半数近く失われれば指揮系統や士気の具合が途端に悪くなる。
ましてや連邦は陣容としても勝ち戦できている。そんな戦いに死にたいと思う兵士はいない。つまり無理な戦が連邦にはできない。する気がない。そこに付け入る隙があると睨んでいた。

そんな連邦に無理な戦をするような状況を作る。それには敵を分断し、一方の敵に火力を集中し出血を促す。それで決着が付くとドズルは考えた。

「まあ、一番なのはやはり先のルナツー攻略戦のように敵旗艦を捕捉、撃沈が一番効果的なのだがな」

ドズルはそう呟いた。ソロモンのジオン軍は既に退路を断ち、皆死兵と化していた。その士気の異常さ、苛烈さが連邦軍に恐怖を与えていた。

ティアンム本隊は不運にもビグザムに足止めされている分隊とは違う、ドズルの猛攻に晒される方へ艦隊を移動させていた。

ジオンの中で際立って活躍を見せていたのがアナベル・ガトー大尉が率いるモビルスーツ大隊であった。その全機が最新鋭モビルスーツ「ゲルググ」が配備され、連邦のモビルスーツを翻弄していた。

その中のカリウス軍曹が油断を生み敵機に後背を取られた。

「やられる!」

カリウスは死を覚悟したその時、ガトーのビームナギナタが後背に付いたジム・カスタムを縦から切り裂いた。ガトーはカリウスに声を掛けた。

「カリウス・・・宇宙では全方位に神経を配れと伝えてあるはずだ」

「すみません大尉・・・」

「一瞬の油断が死を招くことを忘れるな。ケリィ!」

ガトーが自身の部隊の副隊長ケリィ・レズナー中尉に通信連絡を入れた。

「なんだ、隊長」

「お前は部隊の半数を連れて右側面から敵部隊へ急襲を掛けろ。オレは残りで敵の注意を正面より引く」

「了解だ」

ケリィは部隊の半数を連れて激戦の最中、連邦軍の側面へ転進していった。
その状況を確認したガトーは残りの部隊で正面より突撃を開始した。

「よし。ここがジオンの踏ん張りどころだ。ドズル閣下の、ジオンに恩報いる絶好の機会ぞ!各自の健闘を祈る」

この20分間の戦闘は連邦軍にとって正に修羅場と化した。前方より死兵と化した部隊が連邦の弾幕を恐れず立ち向かい、その姿に連邦軍は浮足だった。その絶好の機会でのケリィの別動隊の側面攻撃が連邦の先発のモビルスーツ大隊を戦線崩壊寸前まで追い込んだ。

ガトーがナギナタを振るい、次々と浮足立つジム・カスタムらを薙ぎ払い、連邦艦隊の艦艇ら目前まで部隊を進めることに成功した。

しかし、ガトーの後背より連邦のモビルスーツがライフルで牽制していた。

「!!・・・よくぞ、持ちこたえた。敵ながら天晴だな」

ガトーは連邦の艦艇の前で救援に来た連邦の先発隊が統制を取り戻し後退してきたことにガトーの強襲作戦はここまでと踏み、各自ソロモンへの補給のために帰投命令を出した。

ガトーは来た道をそのまま戻ることにしたがその前に牽制してきたジム・カスタムが立ち憚った。
ガトーは鬼気迫る勢いでジム・カスタムに叫びながら斬りかかった。

「邪魔だー!」

そのガトーの切り込みは凄まじかった。しかしそのジム・カスタムは紙一重で交わし、逆にサーベルでガトーのナギナタの持ち腕を切り取った。

「!!なんと・・・」

ガトーはその動きに驚きながらもその失った腕よりナギナタを奪い、そのジム・カスタムに再度斬りかかった。今度は慎重にだった。

「へえ~。やるじゃないの奴さん」

ガトーに応戦したのはスレッガーだった。
ガトーのナギナタ捌きは応戦すればするほどスレッガーに分が悪いことが本人でも自覚してきていた。
そのためスレッガーは接近戦を嫌い、バルカンとライフルでガトーの接近を避けながら戦った。

ガトーはスレッガーの受け流しながらの攻撃に苛立ちを覚えたが自身も部隊との孤立を恐れ、「どうやらここまでか・・・」と言い、ソロモンへ帰投していった。

スレッガーはその姿を見て敵の攻撃がひと段落したことに安堵した。

「ふう・・・かつてない猛攻だったな。お~い皆生きてるか。一度帰投するぜ」

スレッガーは残存部隊を集結させて補給と部隊の編制のため一時帰投していった。

この戦いでアナベル・ガトーは「ソロモンの悪夢」という異名で両軍共に畏怖されたが、本当の悪夢はこれからだった。


* ソロモン宙域 連邦軍 後方部隊 同日 11:30

ドズルの攻撃とティアンムの思惑により、連邦艦隊は正面を境に両翼へ分断していた。
その正面後方に無数の太陽光パネルを配置していた。

ソーラーシステム。

このパネル一つ一つは大した出力でないが沢山集まるとあらゆるものを融解させるほどの高熱を放射できる決戦兵器だった。

そのコントロールする制御艦にはジャミトフの腹心のバスク・オム中佐が艦長として鎮座していた。
バスクはジオンによる拷問により視覚障害を患い、ジオンを含めたスペースノイドを嫌悪していた。
そのためジオンを焼き払えると聞いたバスクはジャミトフへ希望を出し、それをジャミトフは了承した。

「ソーラーシステム出力臨界まであと30秒です」

オペレーターがバスクへ報告すると、バスクはニヤッと笑みを浮かべた。

「よし。これで積年の恨みを晴らせる。ジオンめ、このオレをこんな姿にしやがって。覚悟するがいい」

「臨界まで10秒です。・・・5・4・3・2・1・・・艦長、臨界です」

バスクは立ち上がって手を前に振るった。

「よし!ソロモンへ照射。味方に当てないように注意しながらジオンを焼き殺せ!」

そしてソーラーシステムがソロモンへ向けて放たれた。


* ティアンム本隊 旗艦内 艦橋 12:00

ティアンムは目の前の光景に唖然とした。
ソロモンの外にいたジオンが全て壊滅し、ソロモンの各ゲート、各砲台が焼かれて使用不能に陥っていた。

ティアンム艦隊もソロモンからの悲鳴が暗号通信でなく一般回線で傍受できていた。すべてが悲鳴だった。一般回線で拾えてしまうほどソロモンは混乱の極みにあった。

「・・・なんとも言い難い。これは戦闘とは言えん。ただの虐殺だ」

ティアンムが自分で選択しておきながら苦虫を潰したかのように言った。その意見に艦橋のクルー全てが同意した。そして副官がティアンムに進言した。

「とりあえずこれで決着でしょう。降伏勧告を出してソロモンを占拠しましょう」

「ああ・・・そうだな。向こうの指揮官へ通信を送れ。降伏を勧めると」

ティアンムは降伏をドズルへ勧めたがドズルはそれを拒絶した。

ドズルは残存兵力をまとめ上げ、無傷で残っていたビグザムに搭乗しティアンム本隊へ特攻を仕掛けてきた。通信によりドズル側にティアンムの位置が分かってしまったため、一縷の希望での出撃だった。

ティアンムはため息を付いた。もはや大勢は決していたが、ドズルの武人としての本懐を同じ武人として遂げさせてあげることが彼への手向けとなるだろうとティアンムは考えた。

そしてティアンムは全艦隊をドズルの突撃に対して縦深陣を組み、削りながら包囲していった。
ドズルの決死隊は次々と撃墜されていった。

その頃、ガトーは補給と部隊の再編でソロモンより出遅れていた。
ガトーは整備班に急がせた。

「えーい。ドズル閣下が玉砕覚悟で出ているのに我々はなんたる不始末」

ガトーはモニターを見ながらドズルの決死隊の奮闘ぶりに自分が加われなかったことに自責の念を感じていた。その直後モニターが白くなった。

「?・・・なんだ、モニターが壊れたのか・・・」

モニターの白さが解けて暗がりの宇宙に映像に変わったのは20秒後だった。そこに映し出されたのは敵味方含めた多くの残骸だった。

「何が・・・何が起きた・・・」

ガトーは茫然と立ち尽くしていた。


* ア・バオア・クー 近隣宙域 ソーラレイⅡ 同日 12:10


ギレンがソーラレイの管制室にて照射の結果の報告を聞き満足していた。
その傍にフル・フロンタルが立っていた。

ギレンはフロンタルにお礼を伝えた。

「フロンタルよ。キシリアの紹介だから警戒をしていたが、このソーラレイをここまで仕上げてくれるとは感謝の言葉がいくらあっても足りないな」

「いえ、総帥閣下が御満足いただけたということならば微力ながらお手伝いしたかいがあったというものです」

フロンタルは笑みを浮かべギレンに答えた。ギレンはソーラレイの連射ができないことに決戦兵器としての不十分さを感じていたがフロンタルの持ち寄った技術により、次の照射時間までのインターバルをわずか30分という短時間を可能にした。

「これでいくら連邦が大艦隊で押し寄せようともいとも容易く焼き払える。月の周囲よりこちら側が我がジオンの勢力圏となった。これで私の野望にも一歩近づいたということだな」

ギレンが含み笑いをしてご機嫌だった。フロンタルはその様子をギレンに語り掛けた。

「では、私はこれにて。ギレン総帥の大望を私も期待しております」

フロンタルは振り向き、艦橋を後にした。その姿をギレンは目で追った。

「ふん、キシリアの懐刀なのか。何とも得体の知れないやつだ。まあいい。首尾は上々なのだからな」

傍にいたトワニング准将がひとつ追加で報告をギレンに入れた。

「総帥。あの照射でドズル閣下のビグザムの信号も消失しました」

「・・・そうか。ドズルには悪いことをしたな。しかし、あれだけ敵を引き付けて一網打尽できたのだ。武人として本懐を遂げたのであろうよ」

ギレンはドズルについて少し哀悼の意をみせただけだった。トワニングは理解していた。
隙あれば排除しようと思っていた。ギレンはドズルに対してガルマ絡みで不信感を持っていた。

事実最近、ガルマとドズルの通信履歴を確認していた。
発射前にドズルの連邦艦隊への特攻確認がとれていた。しかしギレンは躊躇わず発射した。

ギレンは油断せず常々用心深く考えて動く。怪しいと思うもの、その対象は親族も含む。その冷徹さにトワニングは身震いをした。

その後ギレンはエギーユ・デラーズを呼びつけた。
1時間後、ソーラレイの管制室へデラーズがやってきた。

「お呼びでしょうか閣下」

「来たか。まず貴様にはソロモンへ行き残存兵力の取りまとめをしてもらいたい。1人でも多くの兵が今後も必要だからな。兵器などお金で簡単に用意はできるが人材はそうはいかん。このソーラレイで連邦に人的損失をもたらし、少し休んでもらうとしよう」

「はっ、かしこまりました」

「デラーズよ。少しその場で待て。面白いものを見せてやる」

ギレンがデラーズにそう言うと、デラーズは首を傾げ言われるがまま管制室へ残っていた。

2時間後通信士よりこのソロモンへ向かう艦隊発見の報が入った。
ワイアット艦隊だった。ルナツーを制圧したワイアット艦隊がティアンム艦隊の敗北を知り、確認のため艦隊をソロモンへ率い向かっていた。

ギレンは再び含み笑いをし、オペレーターへ質問した。

「次の照射はできるか?」

「問題ありません」

「よし、目標はソロモンへ向かう連邦艦隊だ」

そしてソーラレイはすぐワイアット艦隊へ照射され、艦隊の半数を消し去った。
幸いワイアットは難を逃れ、その場を急速離脱した。

ギレンがその報告を聞くと高らかに笑った。

「見たかデラーズよ。あの連邦の醜態を!」

「はい!今、ジオンの正義が奴らを貫き、屈服せしめました。しかし素晴らしい兵器ですな」

「そうだろう。この兵器が今後の戦況を左右する。ジオンと連邦の国力差を埋めるに絶好の機会だ。そのうちお前にも連邦を潰すために働いてもらうぞ」

「はっ、仰せのままに・・・」

「フッ、しかし今ではない。今までの戦いで我が軍も人材を失い過ぎた。我々も少々休むとしよう」

ギレンは少々はしゃぎ疲れたのか管制室の座っている席に腰を深く下ろし、モニター越しに宇宙を見つめていた。

・・・

アクシズへ向かうチベ級の艦艇の中でソロモンの戦闘の結果がユーリーよりゼナにもたらされた。
ユーリーがゼナの私室前へ一呼吸した。その後ノックをした。

ノックの音を聞いたゼナは抱いていたミネバをベビーベットに戻し、「どうぞ」とユーリーの入室を促した。

「失礼いたしますゼナ様・・・」

ゼナはユーリーの沈痛な表情に覚悟した。

「・・・ソロモンはどうなりました」

「はい、戦闘は終わりました。形としては勝ちました。しかし、特攻に向かったドズル閣下はギレン総帥の決戦兵器に巻き込まれる形で名誉の戦死を遂げられました・・・」

ゼナは悲鳴に近い叫びを上げて周りの調度品に当たり散らした。その取り乱した姿にユーリーはミネバのベビーベットへ急いで駆け寄り、ミネバを守った。

「・・・どうして!・・・何故貴方が死なねばならないの!・・・総帥は何故!あのひとを犠牲にしたの!」

ユーリーは答えられなかった。真偽が不明なためである。
そして失意のままゼナとミネバはアクシズへ向かった。

・・・


ソロモンの悪夢。


それはギレンの用意した決戦兵器ソーラレイⅡにより、連邦の宇宙艦隊のほぼ8割を損失した連邦にとって悪夢と言えるほどの絶望だった。

その損失は人的被害の方がより深刻であった。この被害の回復まで連邦はこれから2年間要することとなる。

ギレンのソーラレイの照射範囲は月の周囲までに及ぶ。
いくら大艦隊を率いて制圧に乗り出そうが辿り着く前に全滅が必至だった。

連邦はその兵器制圧のために少数でいくつも部隊を分けて攻略に今後乗り出そうとするが、それを凌駕するジオンの部隊により幾度も撃退されていった。
それにより連邦軍の戦力はさらに減退した。

連邦政府与党は戦争の継続を決定し、軍拡に努めた。それは民衆への負担である税の徴収を増やし、中間層並び貧困層の生活に直撃していた。

厭戦気分が高まる中、政府与党への反発も増えてきていた。そのため連邦政府は軍にその抑えとしてティターンズを結成し、反発する民衆を抑えるようにと組織した

しかし実態はティターンズによる反発する民衆の弾圧だった。人々はそれに恐怖し、中にはそれに対抗する者が出てきた。

政府野党内にも与党を牽制する上でエゥーゴという団体を結成。各地の民衆弾圧の動きの保護に密かに努めていた。

2勢力が直接関わり合うのは少し先の話になる。

UC0081.6月に連邦政府は第2次ビンソン計画を立案。2年間で最新鋭の艦艇を揃え宇宙艦隊の再建と志願兵と徴兵を行い、来るべきジオンとの決戦に備えるべく各地で兵士育成と新型兵器研究・生産が盛んになっていった。


* アメリカ ニューヤーク セントラルパーク内 UC0081.6.6 10:00


ガルマは式典を開いていた。ニューヤーク市のエッシェンバッハ氏ら保守派勢力との和解がガルマの懸命な努力の末達成され、それによりガルマの治める一帯の基地以外を民間へ戻した。それについての歓迎式典だった。

妻であるイセリナの功績も大きかった。彼女が社交界を通じ、有力者を説得し、および連邦政府にも交渉を促した。

ガルマは連邦へアメリカにおけるジオンの敗北を宣言し、政府間ルートを通じガルマ含むジオン兵にはお咎め一切なしということと、ガルマが持ちうるジオンの基地と生産拠点の独立維持の権利を獲得。全てが政治ならではの曖昧な決着で終わった。

その翌年2月にはガルマはニューヤーク周辺を基盤としにて選挙で連邦の議席を獲得し、ジオンのギレン総帥批判とスペースノイドの権利、地球に残る貧困層の救済を志し訴えた。

ここまでのガルマの思想と政治的、精神的な変化はシャアによる入念な説得によるものであった。並びランバ・ラルもそれを支持、補佐し、少数派ながらも人々から支持を得ていた。

ララァの願いでオーガスタに研究機関が設立された。ララァがシャアへ直接頼み込んできたため、意味あることなんだろうとシャアが思い、ガルマへ打診し決定され設立された。

オーガスタ研究所。ある医薬品会社の研究施設をそのまま買い取り、ララァの要求する機材等を揃え、そこでララァの望む研究が行われていた。

研究と言っても、空調システム等利用し、植物や動物など用意して一見サナトリウムのような環境でララァは日々過ごすという形であった。そして週に1度とある装置の中に入り脳波の測定を取る。そのデータをララァが確認しまたくつろぐとの繰り返しだった。

ある日シャアは様子を見にその場所へ訪れていた。
研究員も数人しかいなくその一人であるナナイ・ミゲルが若手ながらララァの世話をしていた。

「どうですかララァは?」

シャアがナナイにララァの様子を伺った。

「ええ、気楽に過ごしていますよ。あの装置の中でも今のところ変化が見られません」

「あの装置とは?」

「ええ、何かアナハイムより取り寄せたらしいですが<サイコフレーム>という代物でグラナダから流出してきた技術素材らしいです。何でも人の脳波・感応波を直接的に受け取りテレパシーなど扱える眉唾ものですが・・・」

「そうか。テレパシーねえ・・・ホントに眉唾物だな」

シャアはララァの行為に依然見たあのイメージからその再現を目指しているのかなと予測した。
ララァのサナトリウムにシャアが入ってくるところを見かけるとララァは周囲の戯れていた動物たちから離れシャアに近寄って行った。

シャアはその姿、立ち振る舞いを見てララァの事をもはや人ではないように感じ少し可笑しく思えた。

「・・・大佐。何か可笑しいですか?」

ララァがシャアの笑みに対して疑問思い、そのことについてシャアは謝罪した。

「いや、失礼した。ララァが物凄く神々しく見えてね。神なんてもの信じていないんだがな」

「あら、まあ・・・フフフ・・・」

ララァもシャアの返答に対して可笑しくて笑った。その後ララァは真顔になりシャアにサイコフレームの重要性を説いた。

「この研究は・・・来るべき時に必ずや役立つでしょう。そしてこれが世界を救う鍵にもなります」

そうララァがシャアに伝えた。シャアはそのララァの気迫に少したじろいだ。

・・・

そして、UC0083.3.1

トリントン基地にてビンソン計画の一端である兵士育成が行われていた。
ブレックス准将が拠点の司令官を務めていた。グレイファントム隊も准将の勧めと根回しにより、新兵の指導役として基地に入港していた。

そしてビンソン計画の一端として新型量産機導入のための試験機を搭載したアナハイムの新型新造船アルビオンが入港してからまた新たな局面を迎えることになる。




 
 

 
後書き
*ということでGPシリーズが出てまいりますので宜しくお願い致します。
o  

 

15話 トリントンの憂鬱 UC0083 3.5

 
前書き
実はスターダストメモリー大好きです。


 

 
* トリントン基地校外 UC0083.3.5 10:10

このころの技術革新は一旦小康状態を見せていた。
段々製造ラインの複雑化に伴って、頭で分かっていても製造用作業機械の開発が間に合わなかった。
そのため、この時期になっても主力MSはジム・カスタムであった。
勿論年々完成度を高めていったため、従来のジム・カスタムより性能が増していた。

そして、連邦の第2次ビンソン計画を伴って次世代機に着手し始めていた。
アナハイムのテム・レイ主任研究員を始めとする大手各社の技術者たちがインダストリアル1で会合し、その草案をまとめ上げ各社の開発競争が始まっていた。

宇宙世紀83年3月5日、トリントン基地郊外にて・・・

4機のジム・カスタムとホバートラックが岩場で新兵の訓練を重ねていた。
教官として、サウス・バニング大尉を筆頭にディック・アレン中尉が新兵であるコウ・ウラキ少尉とチャック・キース少尉らを搭乗機を交代しながら実地訓練に入っていた。

今日に限って、ガンダムのパイロットのアムロ大尉がバニングからの依頼でコウたちを鍛えていた。

コウがライフルを構えアムロを照準に捉えたが、すぐ物陰に消え、気が付くと背後より蹴り飛ばされていた。

「遅いぞ少尉!敵がロストしたら今いた位置からは必ず離れろ。目視できる距離ならばこうやって接近されるぞ」

衝撃で目を回したコウはすぐさま立ち上がり、アムロの呼びかけに応じた。

「す、すみません大尉」

「よし!次キース少尉。来い!」

キースは「え・・・」と戸惑いながらもアムロへ突っ込んでいった。
その様子を望遠鏡にてホバートラックに乗っているバニングが観察してため息を付いていた。

「・・・全く、仕方ない。戦場に出たことないヒヨっこどもだからな。年下のアムロ君にこてんぱんにノされるのもまあ教訓だろう」

その言葉を聞いた操縦席に居たアレンも同感ですと言った。

「大尉と私は戦場を経験していますからねえ。彼らには酷ですね」

「ああ、しかし来るべき時が来たらそんなことも言っていられない。彼らも平和のために戦士になると決め志願してきたのだからな」

そう言ってまたバニングは訓練の様子を覗き込んでいた。


*  トリントン基地内地下 同日 11:00


基地司令であるブレックス准将、ブライト中佐、そしてアルビオン艦長エイパー・シナプス大佐は基地の最下層にあるある貯蔵施設の扉の前に立っていた。

ブレックスがその扉を暗証番号認証で開けながら2人に語り掛けていた。

「ふう・・・政府からの指示とは言え、この扉を開けるのは気が滅入る」

ブライトもシナプスも同感だった。シナプスはブレックスに話しかけた。

「司令には何かとご迷惑お掛けしまして申し訳ない。何故この封印を解くのか、この私でも理解に苦しみます」

ブライトもこの扉の奥にある嫌悪の対象物に対し、悪態を付いていた。

「全くだ。政府は一体何故このようなものをモビルスーツに搭載など考え付くのか・・・」

その問いにブレックスは予想をした。

「う~ん。あのソーラレイのためなんだろう。高機動、高性能のモビルスーツによる一撃破壊を狙っての事だろう。艦艇並の砲座・耐久性ならいざ知らず。通常のモビルスーツでは砲撃の威力に耐え切れない。それに耐えうる人道的な兵器を開発したかった」

「人道的ですと!兵器に人道も何もありはしませんよ」

ブライトはオデッサの苦汁を飲んだ経験上、政府の見解に怒り、疑問を呈していた。
ブレックスとシナプスは首を横に振り、ブライトを宥めた。

「ブライトくん。私もシナプス大佐も反対なんだ。誰もがそう思っている。しかし我々は政府の決定に従わねばならない。それに逆らって軍事判断をすることは軍閥だよ」

「ブレックス准将の言が正しい。ブライト君、今は時を待て。こんな戦争状態など誰も歓迎しない。いつか機会は巡ってくる」

ブライトは2人そう言われ、熱くなっていた自分に反省した。

「・・・大変失礼致しました。未熟さを恥じております」

シナプスはブライトの肩に手を置いて、笑顔で語り掛けた。

「いやいや、君みたいな直情的な感覚は大事にしなさい。そうすれば、いざという時にその正義の下で動けるようになる。私みたいな頭でっかちには到底無理なことさ」

「はあ」

すると、ブレックスの扉の認証が終わり、扉がゆっくり開き始めた。


* アルビオン艦内 格納庫 同日 12:00

モーラ・バシット整備主任が全てのメカニックにお昼休憩を言い渡した。

「よーしお前ら。後は午後だ。お昼食べてこーい」

メカニック等は試作機から離れ、それぞれが基地の食堂へぞろぞろと移動していった。
それとすれ違いにニナ・パープルトンがやって来た。それを見たモーラがニナに声を掛けた。

「おー、ニナ。どうよ整備班のこの頑張りは」

モーラは手持ちのタブレットをニナに渡し、ニナはニコリとした。

「うん、頑張っているようじゃない。これなら予定より早くロールアウトできるわ。この基地での重力下実験に挑み、その成果を持って私は新たな量産機のプロジェクトに参加できる」

ニナはとても向上心旺盛だった。この試作新型機を踏み台にしてニナは若くして技術者のトップを狙っていた。まずは目の前のこのプロジェクトの達成が最重要課題だった。

ニナの目の前には2機のガンダムがあった。

RX-78GP01ゼフィランサス。
ムーバブルフレームの伸縮性設計とガンダリウム合金の結晶で現時点での汎用性の最上位を極めた仕様となっている。

RX-78GP02Aサイサリス。
こちらも仕様が大体代わり映えはないが、ある武装によりそれに耐えうる耐久性に富んでいた。元々ジオンの技術の流れが色濃いと聞く。

ニナ自身も本社命令で2機のテストを命じられたが、ニナが実際携わっていたのはGP01の方が主だった。ついでにと言う本社重役の頼みということから、評価を得て恩を売る機会と見据え、一緒に世話をしていた。

ポーラも汎用性あるGP01に付いてはお気に入りだったが、もう1機についてはいぶかし気だった。
そのことについてニナに話し掛けた。

「ねえ、ニナ。このGP02さ、ちょっとアレだよな・・・」

ニナも複雑そうな面持ちで答えた。

「うん・・・南極条約にひっかかりそうな素材ね。アナハイムは戦争当時から死の商人と囁かれていたけど、あながち嘘ではないね。これを見る限り」

「う~ん。メカニックもこれを触る奴らも半信半疑で整備しているよ。全くモチベーションの維持が大変だよ。お偉方の考えることって・・・ブツブツ」

「まあ、連邦が発注した製品だから。そんなに気に留めなくてもよいんじゃない?」

ニナはモーラの背中を叩き、モーラは少しむせ返った。

「・・・うっ、アンタ見かけによらず力があるね~。うちの整備やらないかい?」

「フフフ・・・やらな~い」

ニナは笑い、来た場所をスキップして戻っていった。それをモーラは頭をかきながら、一緒にランチするためにその後を追っていった。


* とある宙域にて・・・ リリー・マルレーン艦内 ???


シロッコはジオンのシーマ・ガラハウ中佐と極秘に会談をしていた。
シーマはシロッコに渡された資料を目に通していた。シロッコはシーマにその資料の補足事項を述べた。

「貴公らが計画している事案に提督はすでに気づいている。それをより効果的にやってもらいたいことが主旨となる」

シーマはシロッコの話を聞いていた。

「近日中にあのソーラレイは消すことができる。すると貴公らの立場も危ういだろう。貴公のことを見込んでのことだ。かの毒ガスでの虐殺を貴方らだけのスタントプレイと押し付けたジオン。そのジオンにも貴公らは煙たがられている。そこで私らは貴公らを連邦に迎えさせて、そのジオンの悪事を日の下に晒したい」

シーマは口元を歪ませていた。シロッコは話を続けた。

「近々、トリントン基地にテスト配備される機体の情報を提供しよう。それを是非デラーズにでも流して欲しい。あんな代物なくとも我々は対処できる術を近いうちに完成させることができる。だが、そのためには正規軍が邪魔で仕方がない。あの第2次ビンソン計画・・・今私らが阻止するにしても表立ってできないからな」

「・・・そうかい。話はわかった。あんたたちのお仲間になる条件はデラーズのお手伝いとビンソン計画を潰すことだね。グチャグチャにしてやるのは大好物さ」

シーマは形相を変え、シロッコの前で不満、鬱憤を話し始めた。

「・・・あの上官のせいで私らの人生が変わっちまった・・・。同じ志の下であんな扱いを受けるなど同士と思えるわけがない!」

シロッコはニヤッと笑みを浮かべた。そしてシーマに語り掛けた。

「・・・辛い思いをしてきたんだね。これからの新時代では貴公のような不幸な体験をしてきたものこそ報われるべきなのだ」

その言葉を聞いたシーマは顔が和らぎ、シロッコを見つめていた。

「そうだ。その顔だ。もう苦しむ必要などない。苦しめた者たちへ贖罪する機会を与え、我々と新時代を歩むのだ」

「シロッコ・・・」

この時からシーマはシロッコへ陶酔することになった。


* トリントン基地 食堂内 12:30


コウとキースは対面でランチを取っていた。
キースはアルビオンの中にある新型試作機の話を持ち出してきた。

「なあコウ。あの艦に積んでいる新型試験機の話だけどさ・・・」

「ああ、耳にしているよ。なんかアレが次世代機ベースなんだとか」

「そうそう。やっぱりモビルスーツ乗りとしてさあ、興味惹かれるよな」

コウは黙ってキースの話を聞いていた。コウはメカ好きもあって志願していた。が、積極性に欠いていた。キースはそのノリの悪さにコウの一番興味のある話を持ち掛けた。

「実はさ・・・その試験機のテストパイロットはこの基地から出すという専らの噂らしい」

コウのスプーンが止まった。キースはやっと聞く気になったかと思い、話し続けた。

「だからさコウ。一足先にその試験機拝みに行ってもいいんじゃない?幸い明日は非番だし、そうすれば実感が湧いてさ、試験のモチベーションも上がるってもんよ」

「・・・そうだな。興味がないと言えばウソだからな。明日覗いてみよう」

その会話をコウたちの丁度後ろの席でニナが聞いていた。ニナはトレイを持ち片づける際、コウたちのテーブルを通過する時に言った。

「貴方たちもあの試験機のテストパイロットを目指すのね。精々頑張りなさい。あの試験機はアナハイムの未来が掛かった代物よ。その重責に貴方たちが担えるかどうか疑問だけど・・・」

その言い回しに若さ故にコウが噛みついた。

「・・・自分らも志願して国の為に兵士になりました。重責という面では民間とは訳が違います」

しかし、ニナはそれに反論した。

「ふう・・・あの1機は貴方たちの1生涯の給与より遥かに凌ぐ程の費用が投じられているの。それにこの先貴方たちの生命を守るものになるの。貴方がそれに上手くいかない場合は貴方のせいで費用がおじゃん、そして沢山の兵士の死傷率が上がるわ。これからの死亡していく兵士たちは皆貴方を恨むの」

コウはニナにそう論破され、下を向いてグッと堪えた。そこにアムロがやって来て仲裁に入った。

「ニナさん、その辺にしておいてくれないかい」

「レイ大尉・・・レイ主任研究員からお話しは伺っております。この3年間のグレイファントム隊の中軸にて地球のジオン残党を大方降伏させ、かつ両軍被害を抑えたという手腕、見事だと」

「そうか親父は主任研究員になったか。どうだ親父は」

「はい、このプロジェクトもレイ博士の力があって、それを私もご指導頂きまして・・・博士は若いひとたちが才能活かして、平和のため、未来のために存分に力を振るってほしいと常々言っておりました」

「フフフ・・・親父もついに聖人君子を気取るようになってきたか」

アムロは笑った。そして1コ上のコウたちに話し掛けた。

「まあ、ニナさんの言うことは一理ある。コウ少尉、キース少尉も目先でなく戦争の在り方など考えることも多少は大切だ。ひとつ不安を取り除いてあげよう。この度の試験機のパイロットはオレは志願しない」

コウ、キースとも目前の強大なライバルが消えたことにホッとした。

「まあ、それでもオレも興味はある。明日一緒に見学しに行こうか?」

コウ、キースは「喜んでご一緒します」と二つ返事で了承した。
ニナはその姿を見て、少し大人げなかったことを恥じ、コウ、キースに謝罪した。

「ごめんなさい・・・仕事で少しストレスあったみたいね。貴方たちのことを侮辱する訳じゃなかったの」

その殊勝さにコウとキースは面を喰らった。コウがそれについて返した。

「いえ・・・オレたちも考えが浅かったことについて指摘して頂き勉強になりました」

「フフフ、そう言っていただけると助かるわ、それじゃあ」

ニナは食器を片して、再び職場へ戻っていった。
その一部始終をモーラもすぐ後ろで見ていてコウ、キース、アムロに声を掛けた。

「失礼いたします。私はモーラ・バシット主任整備員です。新型試験機の面倒を見ております」

3人ともその大柄な女性を見上げ、少し驚いた。その反応にモーラはいつも通りだなと感じた。

「・・・すみません、無駄に大きくて」

アムロはモーラの申し訳そうな反応をフォローした。

「いや、こちらこそ失礼な反応だった。謝罪する」

「いやいや、大尉に謝られる謂れはないですよ。ニナもね、自分の能力、出世欲にかられていてちょっと視野が狭まっているからなあ。色々足らないところあると思いますが、許してやってくださいな」

そうモーラが言うと、キースがコウへニナについて感想を述べた。

「しかしコウ、ニナさん美人だなあ。今度食事にでも誘ってみようかな」

「何言っているんだキース。彼女は試験機の試験官の一人になるのかもしれないんだぞ。そんなことしたら減点になるかも・・・」

「だからさ・・・今のうちにちょっと探りを入れてみるんだよ」

その会話にモーラが反応した。

「へえ~、キース少尉とやら。それは聞き捨てならないな。そんなに女日照りかい?ならニナの代わりにあたしが相手してやるよ」

キースの背後にモーラが立ち、キースは「げっ」と言った。その反応にモーラは怒った。

「なんだい。その反応は!こんなレディを捕まえておいて、その反応は流石に頂けないなあ。レイ大尉、コウ少尉。コレを少し借りてよいかな?」

アムロとコウは含み笑いしながら「どうぞお気に召すままに・・・」と言い、キースは捧げられた。
キースは「そんな~殺生な~」と叫びながら、モーラに担がれて食堂から消えていった。

笑いを収めたアムロとコウの下に今度はバニングがやって来た。

「賑やかなのは良いことだ。数年前の戦場では有り得ないことだった」

アムロはバニングの言うことに賛同した。

「そうですね。大尉もアメリカだったそうで・・・」

「ああ、オレの部隊はアメリカのガルマ部隊を相手に四苦八苦していた。しかし、今そのガルマは議員となって、今や我々の上司だ。全く変な世の中だよ」

「ああ。これもシャアの努力の賜物だな」

「あの赤い彗星か・・・敵の時は脅威そのものだが味方だとここまで頼りになるとはね」

「このトリントン基地もガルマの力が多少及んでいるため、ブライトを始めとする我らが他の連邦らの粛正対象から難を逃れている訳だからね」

「そうだな。かのダグラス中将も軟禁状態だと聞く。テネス大佐はここと同じ辺境での指導員をしていると。全く派閥というものはなんでしょうねえ」

バニングとアムロはそう愚痴をこぼし合っていた。コウも食べ終わり、報告書を自室で取りまとめるため2人に「先に失礼致します」と言い、食堂を後にした。


* トリントン基地 入口 同日 17:00

もうすぐ日没ということでアルビオンに乗艦しているアナハイム従業員のニック・オービルが「夕日を見に行く」という都合で外出許可を得ていた。

入口の守衛がオービルに許可証の提示を求めた。

「ニック・オービル。確かに・・・よし通っていいぞ。あまり遅くならないようにな。この辺の夕日は格別だから楽しんできてな」

「ああ、有難う」

そうしてオービルは郊外に車を走らせた。
オービルはある待ち合わせ場所に来ていた。そこにはアナベル・ガトーとその部下たちがオービルを待っていた。

ガトーがオービルに基地の図面とその他詳細を求め、オービルはそれらを渡した。
その情報を見て、ガトーは満足していた。

「よろしい。これでデラーズ閣下の偉業に一歩近づいたことだ。礼を言う」

「いえ、私もアナハイムも連邦も色々複雑ですからねえ。たまたま今回は貴方がたを手助けするということです」

「・・・そうか。政治とは複雑だな。ギレン総帥がその辺はコントロールしていると思われるから問題ないと思われるが・・・」

ガトーは一兵士としてただ任務を遂行するだけを考えることにした。


* トリントン基地内 アルビオン艦内格納庫 3.6 18:00


アムロらがその日全ての業務を終えたのが17時になってしまったため、コウとキースは18時にアルビオン前で待ち合わせた。その場にはニナとモーラも一緒にいた。

モーラはキースのことを気に入り、キースはそれを煙たがっていた。その光景をニナは面白く見ていてコウは半笑いしていた。

18時になるとアムロがやって来た。アムロは皆が既に待っていたことに詫びた。

「すまない。ブライトたちと会議が長引いて、待たせてしまった」

その言葉にコウは答えた。

「いえ、大尉。お気になさらずに」

キースも同じく答えた。

「そうですとも大尉。我々のような下士官など待つことも仕事ですから」

その言い方にモーラがからかった。

「なんだいキース。上官にはおべっか使って、このレデイには配慮がないぞ」

キースはげんなりした。その姿に3人が笑った。
そしてニナは格納庫へ案内した。

「それではみなさんこちらになります」

実はその時アムロらとは違う来訪客が先に格納庫へ来ていた。連邦の大尉クラスの制服を着込んでGP02を見上げていた。その大尉に整備員が丁寧に対応していた。

「・・・という仕様でして、この乗機許可を得ていらっしゃるのですね。分かりました。あちらから搭乗してみてください」

「わかった。ありがとう」

その大尉がGP02に乗り込む寸前でニナたちが格納庫に来た。ニナは乗機許可のことは知らなかったので整備班に叫んだ。

「誰なの!ガンダムの乗機許可なんて下りていないよ!」

整備員は驚いた。ニナは乗り込むひとに向かって叫んだ。

「そこのひと!すぐ降りなさい!」

その叫びにその大尉は反応した。どこかで聞き覚えがあったからだ。

「・・・ニナ・パープルトン・・・まさかな」

そう口ずさみGP02に搭乗した。
このGP02も全天周モニター仕様だった。そのことにまず素晴らしいと答えた。
そしてモビルスーツを稼働させた。

ニナは傍の管制室へ行き、試験機に搭乗したひとに語り掛けた。

「今すぐその機体から降りなさい。今ならまだ間に合います」

その問いかけにその人物はその場を震撼させる答えで返した。

「私はジオン公国デラーズ・フリート所属アナベル・ガトーだ。我らの大願成就のため、このガンダムは頂いていく」

その返答にニナは呆然とした。

「ガトー・・・アナベル・ガトー・・・なんで・・・貴方がそこに・・・」

アムロたちはガトーの声を聴き即座に対応した。

「コウ、キース、基地の格納庫へ急ぐ。使えるジムで奴を追跡するぞ」

そういう間にガトーはアルビオンのハッチを手動で開き、外へ出ていった。
それと同時にアルビオンの船体が揺れた。砲撃による基地への攻撃だった。

「っく・・・全ては用意周到なわけだな・・・」

アムロはそう言うと、コウはすぐ目に入ったガンダムに向かって走った。そして整備班に聞いた。

「これもすぐ動かせる状態なんですか?」

聞かれた整備員はとっさの質問に素直に答えた。

「ああ・・・問題ない」

そう聞いたコウはエレベーターを使いGP01に近づいた。
その光景を見たニナはハッと我に返り、コウに試験機使用と止めるように言った。

「それはダメ。貴方が使える代物じゃない。貴方はまだ訓練の身でしょう」

その発言にアムロはニナに反論した。

「ニナさん。ことは有事だ。コウ少尉に乗らせて2号機を牽制させるんだ。責任はオレが負う。その間オレらがジムを取って来て、ガトーを取り押さえる」

ニナは戦闘のベテランであるアムロに従うことが良いと思い、コウに搭乗許可を出した。
コウはGP01に乗り込み、こちらも全天周モニターであることに感嘆し、起動させた。

コウはガンダムの中で追跡する敵の名前を改めて思い出し、身震いをした。

「アナベル・ガトー・・・ソロモンの悪夢。彼の前に立った敵は成すすべなく撃ち滅ぼされたジオンの伝説のエース。そんなのを相手にできるのか・・・」

しかし悩む余裕を戦場では与えてくれなかった。矢継ぎ早に飛んでくる管制からの通信を聞いてはコウはガンダムを動かしていた。

そして、コウとガトーが基地内にて初めて対峙した。


 

 

16話 エースとビギナー 3.6

 
前書き
*ガツガツ書いています(笑)


 

 
* トリントン基地 3.6 18:15


ガトーは目の前にいるガンダムに対峙していた。
割と基地の防衛の反応が良かったため、ガトー程の腕前ですら基地内での逃走経路を予定とは変えながら安全な所を選んで進まざる得なかった。

その結果、コウはガトーに追いつくことができた。
コウは意を決し、ガトーへ呼びかけた。

「そこのモビルスーツ!無駄な抵抗は止めて投降しろ」

ガトーは笑い出し、コウのガンダムへサーベルを手にして詰め寄った。

「なっ!」

コウは驚きながらも反射的にガトーのサーベルを横に避けた。
ガトーは感心しながらも次の行動に出ていた。

「一太刀でやられなかったのは誉めてやろう」

ガトーはサーベルを握った手で側面に避けたコウを殴りつけた。

「ぐあ~っ」

コウのガンダムはその衝撃で倒れた。
その姿にガトーは拍子抜けをした。

「なんだ・・・こんなのも避けれんとは・・・さっきのはマグレか」

コウは無様に倒れたガンダムを起き上がらせた。
そして敵の腕前に戦慄した。

「・・・これがエース・・・これが戦争・・・」

コウはうろたえながらも自分に言い聞かせ、サーベルを抜き構えた。
ガトーもそれに倣った。


* アルビオン 艦橋 同日 18:20

アルビオンに戻ったシナプスはオペレーターのジャクリーヌ・シモンより奇襲についての状況報告を聞いていた。

「シモンくん、状況は?」

「はい、遠距離からの敵の攻撃が止まりません・・・ん?増えました!・・・敵の数がどんどん増えてきます」

シナプスはその知らせに驚愕した。この辺一帯は連邦の管理監督下にある。そんな不穏分子らなど昼夜徘徊できるようなことはまずない。

索敵ミス・・・有り得ないとシナプスは思った。そうなると、事前に準備がなされていた・・・。

そして同じ答えに辿り着いていた、より正確な答えを持っていた基地司令のブレックスから通信が入った。シモンがその通信の知らせをシナプスにした。

「艦長!ブレックス基地司令からです」

「つないでくれ」

モニター一面にブレックスが映った。とても深刻な顔付きだった。
ブレックスが重たい口を開けた。

「・・・シナプス大佐・・・やられました。既にジオンの包囲網下に当基地はあるようです」

シナプスはやはりと思った。無駄と思いながらもブレックスに尋ねてみた。

「・・・援軍は・・・」

ブレックスは首を振った。

「ない。・・・嵌められたんだジャブローに。無線が通じない。ここは陸の孤島と化している。ここまでの手引きも恐らくは私の失脚を狙ってのことだろう。しかも跡を残すことなく」

「なんと・・・卑劣な!」

シナプスは震えた。連邦内での争いがここまでになっていたことに。しかも使えるものならば敵すら利用することに。ブレックスは続けた。

「・・・基地の守りは私らだけで十分だ。君らはガンダム1号機を回収し、この場から逃げて欲しい」

「なっ!我々も残ります。少しは時間を稼げるでしょう」

そうシナプスが言うと、ブレックスが怒鳴った。

「何のための時間稼ぎだ!無駄死にするためのか!そんな必要ないことはいらん!」

シナプスはブレックスの迫力に言葉を失った。ブレックスはすぐ我に返り、謝罪して同じ事をシナプスに言った。

「・・・取り乱してすまない。もう一度言う。この基地からの脱出を考えてくれ。以上だ」

ブレックスの通信が切れ、シナプスは艦長席で悔しさで震えていた。

その頃、防戦一方のコウはガトーのサーベル捌きに避けるのに必死だった。
ガトーのサーベルの打ち下ろしにコウのガンダムがサーベルで防ぎ切れず、ガンダムのサーベルの持ち手の関節部分から折れ曲がってしまった。その姿を見たガトーはコウに言い放った。

「未熟!・・・貴様のような軍人が戦っている相手の技量すら読めず立ち向かってくるとは身の程を知れ!」

そのガトーの言葉は近くにいたコウに届いていた。そのガトーの言葉に気脅されていた。そして上官でもないのにガトーに謝罪をしていた。

「はいっ・・・すみません・・・」

その言葉にガトーが面を喰らい、そして吼えた。

「私は敵だぞっ!」

ガトーはコウのやり取りに怒りが込み上げ、コウのガンダムに斬りかかった。その時横から1機のジム・カスタムがガトーのガンダムに蹴りかかった。その蹴りはガトーの側面を綺麗に蹴り飛ばし、コウはガトーのガンダムが横に吹っ飛んでいくのを見た。

「大丈夫か、ウラキ少尉」

そのジム・カスタムはアムロが操縦していた。アムロはブライトから基地の状況を聞いていた。
敵はガンダム奪取は目的だが、もう一つが基地の壊滅にあった。

「ウラキ少尉。よく持たせてくれた。あのガンダム、敵が基地内にいる限り、敵の総攻撃が始まらないだろう」

「えっ・・・総攻撃?」

コウはアムロの言葉がよく呑み込めていなかった。アムロはコウに改めて説明をした。

「敵はこのトリントン基地の壊滅を目的としているみたいだ。生憎、この基地で戦える兵士はほぼ訓練生。そして一番の目的はブレックス准将の殺害だ」

「なっ!」

コウは基地司令の殺害目的の攻撃と知り、益々混乱した。

「何故ですレイ大尉!何故基地司令を・・・」

アムロはその質問に答えた。

「戦争当初より、派閥闘争が起きていた。そして今、ブレックス派と呼ばれるエゥーゴが勢力を伸ばし始め、それを邪魔に思う者が実力行使をし始めたのだ。もっとも、まだ裏で手引きする感じではあるけど・・・」

コウは驚愕した。志願兵としてはニュース程度で派閥争いについては何となく知っていたが、巻き込まれた今が自分の想像を遥かに超えていた。コウは恐る恐る核心突いたことを聞いてみた。

「・・・つまり、このジオンの来襲はブレックス准将の対抗する連邦派閥の手引きと」

「そうだ」

コウは唸った。元々正義感あって連邦軍に志願したので、その様な卑劣な行為を到底認められなかった。アムロは彼の純粋さを心配し、付け足して言った。

「人は損得勘定する生き物だ。駆け引きは必要な時はある。それをいい方に活かすこともできたりもする。現にオレは各地のジオンとの戦いで多くのジオン兵を説得し、なるべく死傷者を出さずに平定してきた。その中には騙して降伏させたりもしたことはあったさ。それでも人が死ななければと思った」

アムロは一息置いた。そして話続けた。

「これはオレのエゴだが、自分にとって気持ち良いことをしたと思っている。今のところ皆が自分の正義に共感している。そういうあざとさを身に付けて、視野を広げていくことも良い軍人を目指すものとして必要な資質だと思うよ」

コウはアムロの話を聞いていた。世の中はそんなに単純ではない。自分が思う正義が世の正義ならばとっくに戦争など終わり平和な世の中になっているはずだと。しかし現実はそうではない。

コウはアムロの言うことを今は理解できなくても、考えていく姿勢は大事だと考えた。

ガトーはアムロに蹴り飛ばされた衝撃で傍の建物に突っ込んでいた。
ガトーは一瞬何が起きたかが分からなかった。

「・・・っつ、一体どこから攻撃を・・・」

ガトーはガンダムを瓦礫の中から立ち上がり、周囲を見回した。
すると、先ほどまで圧倒していたガンダムの隣にジム・カスタムが1機いた。
ガトーはあのジム・カスタムにここまで吹っ飛ばされたと気付いた。

「・・・増援か。どうするか・・・」

ガトーは一瞬考え、1機のガンダムは元々操縦者の力不足で戦力にならないと判断し、応戦することに決めた。

ガトーは再びサーベルを構えた。

「さて、この最新鋭のモビルスーツ相手にジム・カスタムがどこまで相手できるかな?」

アムロもサーベルを構えた。アムロはコウを後方に下がらせた。
ガトーのガンダムはホバー走行ができた。その性能を活かしてガトーはアムロに鋭い一撃を放った。

「フハハハハ・・・もらった!」

ガトーは目前まで動かないジム・カスタムを捉えていたが、ガトーの鋭い打ち下ろしをアムロは体捌きのみで躱した。

「なっ!」

ガトーは驚いたが、一瞬で次の攻撃に移っていた。ガトーはサーベルの持ち手でジム・カスタムの顔を狙った。しかしそれもアムロはガトーの後ろに回り込む形で躱し、さらにガトーの後背を取った。

「よし、取り押さえる」

アムロはそう言うと、ジム・カスタムのバーニアを全開にしてガトーのガンダムを後ろから押し倒し、腕を背中に抑えつける固め技をした。

「うぐっ・・・不覚・・・」

ガトーはアムロに一瞬で制圧された。その時、ガトーの側に砲撃が数発入った。

「少佐ー!」

ゲイリーを始めとするザメルとドム・ドローベンが10機程、基地の防衛網を突破してガトーの救援に駆け付けた。

「ちぃ、もう少しだった・・・」

アムロはガトーを放し、コウを連れてその場を退却した。

ガトーは身を起こし、救援に駆け付けたゲイリーに礼を言った。

「すまない。予定通りとは行かず。このソロモンの悪夢とかいう異名も返上せねばならぬかもな・・・」

ゲイリーはガトーの言葉を否定した。

「いえ、我々にできないこと。このガンダムの奪取を単独でやってのけたのです。少々時間が押していたことに気になり、我々の方も単独行動に出てしまいました。ビッター将軍にどやされますな」

ゲイリーら部隊の面々が笑った。ガトーはそんな部隊員を頼もしく思った。
そしてもう一人の隊員クルトがガトーにビッター将軍からの命令を伝えた。

「少佐。口頭になりますが、エアーズロックにHLVの用意があります。ビッター将軍もそこでお待ちでございます。少佐が到着次第、発射する段取りです」

「そうか。了解した」

ガトーは数機の護衛を携えてトリントン基地を後にした。
そしてトリントン基地へのジオンの包囲総攻撃が開始された。

海側からはドライゼ率いる潜水艇とズゴックEの大部隊、陸地側からはアダムスキー、クルト、ゲイリー率いるドム、ザメルの大部隊。

どこからそんな数の戦力を都合できたのかは言わずもがなだった。一番の理由は大方ブレックスを邪魔者にする輩が多かったという話だった。

一方の基地防衛はモビルスーツ隊としては、バニング隊とアムロ、リュウ、ジョブ・ジョンと教官と新兵たちだった。

激戦の中、モンシア、ベイト、アデルの連携が光っていた。一時は陸地側の進行を食い止めていたが多勢に無勢であった。バニングが命令を出し、基地を1ブロックずつ放棄していった。

後退の最中モンシアがベイトとアデルに声を掛けた。

「ひゃ~、しかし、こんなピンチはアメリカ以来だな。スリルがあるぜ」

ベイトが余裕を見せたモンシアにふっかけて言った。

「じゃあここで踏みとどまって、よりスリルを味わえるぞ」

モンシアはベイトの挑発に乗る訳がなかった。

「ブルブル、冗談言いなさんなベイト君。上官命令にゃ~従わざる得ませんぜ」

「っつたく、調子だけは良い」

そんなやり取りにアデルは笑っていた。


* 基地司令室 同日 19:00

ブレックスが腕を組み、戦況報告を受けては各所へ指示を出していたところにブライトが部屋に入ってきていた。ブレックスはそれに気付き、ブライトにも基地からの脱出を促した。

「・・・ブライト君か。君らもグレイファントムで逃げなさい」

ブライトは時計を見ていた。そしてブレックスに伝えた。

「基地司令。敵の思惑通りにはいきませんのでご安心を」

ブレックスはブライトの話に疑問を持った。援軍など見込めない状況だ。ブレックス自体は今の状況は不測だった。それがブライトは否定をしている。そのことにブレックスは質問した。

「それはどういう意味かな?」

「ええ。実は本日夜到着の予定ですが、カラバという組織の輸送機がグレイファントムの改修のためニューヤークからこちらへ向かってきていまして。こういう不測の事態も含めて多少の戦力を搭載しております」

「なんだと・・・カラバが・・・」

カラバも小さい組織ながらエゥーゴと同じ立ち位置の団体であった。しかし、その団体とブライトが繋がっていることに驚いた。

「カラバのリーダーは実は私の元部下でして・・・後ほど紹介致します」

そうブライトが言うと、基地の管制官がある航空機をレーダーで捉えていた。

「司令!未確認の大型航空機3機。当基地に接近してきます」

ブライトはその報を聞くと「来たか」と言った。
ブレックスは連邦に属さないカラバが基地に到着することに若干抵抗があった。しかし敵も非合法手段で来ている訳なので、そこは背に腹は代えられなかった。


* トリントン基地上空 アウムドラ艦内 19:30


18時過ぎに基地より特殊回線でブライトより救援信号を受け取ったハヤトは、本来着陸するオーストラリアの民間の空港を通過し、トリントン基地上空へ来ていた。

アムロからの技術提供により、独自に開発された新型兵器RMS-099 リック・ディアスの搭乗したシャアは基地の状況をハヤトより逐次報告を受けていた。

この時のシャアは既に仮面を外し、連邦と同じ制服で色は相変わらずの赤を着込んでいた。
ハヤトより降下前の最終確認が入る。

「シャア、トリントン基地の現状は基地司令部まで敵があとわずかな距離に来ている。既に包囲網も完成されているな。この状況下を打破するには後方からの奇襲しかない。このアウムドラのリック・ディアスは15機だ。これらを基地の北側に降下させ、一気に敵の戦線を崩壊させる」

シャアは重力下においてパイロットスーツを着込まず搭乗していた。体が3年前より鍛えられ逞しくなっていた。

「了解だ、ハヤト。シャア・アズナブル、リック・ディアス出るぞ!」

シャアはアウムドラの後部ハッチより勢い良く飛び出していった。
降下する重力にシャアは身を委ねていた。

「待っていろ。ブライト、アムロ。今から助けに行くからな」

そして基地北側にバーニアを吹かせて着地した。
他のリック・ディアスらも着地を済ませていた。

「大佐。皆無事に降下できましたぜ」

シャアのすぐ隣のリック・ディアスに乗るデニムが声を掛けた。

「よし、私とアポリー、ロベルトは正面から。デニム、ジーン、スレンダーらは右側面から入り込め。残りは後ろから援護しながら付いて来い」

「了解!」

アウムドラ艦橋からハヤトは無事にリック・ディアスの降下を見届けてホッと一息ついた。
その傍にはジャーナリストになったカイと同じくジャーナリストだがカラバの運動を支援するベルトーチカ・イルマが居た。

ハヤトの安堵した様子にカイが声を掛けた。

「無事に救援できそうだな。一緒に戦争を潜り抜けてきた仲間だ。ここで死なれちゃ目覚めが悪いってもんだぜ」

カイの話にベルトーチカも同意した。

「そうそう。あのアムロってエース。巷で噂されているニュータイプってらしいじゃん。興味があるから死なれちゃ困るのよね~」

ハヤトがベルトーチカの「ニュータイプ」という言葉に反応した。聞いたことない言葉だったからだ。

「ベルトーチカさん。ニュータイプとは?」

「ああ、ジオンが研究しているらしいんだけどね。なんか戦闘でよく生き残る人の特徴を調べる機関があって、その人たちはよく直感が働いて、人が行動する前に予知し動けるんだって。まあエスパーに近いかな」

ハヤトは考え込んだ。アムロがベルトーチカが言うニュータイプだと言うことを。条件的にはあながち嘘ではないと思った。何故なら、ハヤトが身近でアムロの戦う姿を見ていたからだ。あれは尋常ならざるものだった。

ベルトーチカはそのニュータイプについて補足した。

「あとね、ニュータイプは人と人とが感応し合える、共感し合えるという説もあるらしい。今現在もその研究が進んでいてね、兵器利用に転じているらしいよ」

「その話は聞いたことがある」

カイがベルトーチカの話に割り込んできた。

「ハヤトも知っているだろう。アムロの乗っていたアレックスの仕様。あれにはバイオセンサーが搭載されていた。あれはアムロが操作する反応速度の限界の先を見据えた代物だった。あくまでアレは機体の内側だけに秘められた性能だった。それを凌駕する技術、プロセッサーがあるそうだ」

「カイ、それはなんだ?」

「サイコフレーム・・・という代物らしい。兵器利用は知らないが、アメリカのオーガスタ研究所にてララァ・スンによる開発が進められている。セイラさんが言う話だと凄くスッキリするらしい」

「スッキリ?」

「ああ、ララァが操るシステムは近くにいる生物をとてもリラックスさせるそうだ。驚きなのがそのシステムを動かしている間のわずかな周囲だが物体の動きがゆっくりしている」

カイは話に間を置いた。艦橋の窓に寄り、眼下を見下ろした。
そして再び話始めた。

「そんなのが兵器になるのかわからん。まあ色々な可能性がある分野なんだろうな。ララァのやっていることは分からんが・・・」

ハヤトは腕を組み、カイやベルトーチカの話を自分なりに考えていた。


* トリントン基地 司令部周辺  19:40

アムロたちとバニング隊が互いに陸側、海側と最終防衛線を敷き、ジオンの猛攻を凌いでいた。
キースもジム・キャノンⅡに乗り込んでいて、威嚇射撃をしていた。しかしその顔に絶望が満ちていた。

「コウ~、もう駄目だ。ここで死ぬんだよ~」

キースの泣き言にコウは叱咤した。

「諦めるんじゃない!きっと必ず希望がある。それまで持ちこたえるんだ」

その言葉にアムロが褒めた。

「そうだウラキ少尉の言う通りだ。もうすぐ援軍が来る」

その言葉にコウとキースが反応した。

「援軍!やったー・・・ってどこからですか大尉!」

「前面まるで敵しかいませんよ」

アムロは感じていた。あのエースが既にこのトリントン基地にいることを。
10分後、防戦していたアムロたちが敵の撃ち方に変化が出てきたことに気が付いた。

それは時間が過ぎるほど銃弾の数が減っていった。そのうち砲撃が鳴りやんでいた。

アムロたちは物陰から姿を出した。そこには見知れないモノアイの黒いモビルスーツが立っていた。
その中の一機が赤いモビルスーツだった。

アムロはそのモビルスーツに駆け寄った。赤いモビルスーツもアムロの方へ駆け寄った。

「生きていたかアムロ!」

「ああ、救援助かるシャア」

コウはその赤いモビルスーツがかつての赤い彗星だということを知った。
キースもそれに気付き、興奮していた。

「コウ~。ガンダムも凄かった。アナベル・ガトーも怖かった。レイ大尉も最初はびっくりした。しかし、ここに来て赤い彗星ってなんなんだあ~」

コウもキースと同じだった。今日一日で様々な体験ができた。まず生き残ったことについて喜ぼう。それから色々振り返ろうと思った。

バニング隊もこの場に駆け付けてきた。モンシア、ベイト、アデルも赤い彗星に驚いたが、色々教えを乞いたいとねだっていた。その光景にバニングは「やれやれ」と呆れていた。


* トリントン基地 基地司令官室 同日 21:00


ハヤト達カラバはトリントン基地へ着陸し、基地司令のブレックスと会談していた。
ハヤトはブレックスに全面的なサポートを申し出たがブレックスはまだ時期でないと回答を保留した。

「ハヤト君、君らの申し出を受けるにはまだ連邦内部での敵がまとまり切れていない以上混乱をきたすだけだ」

ハヤトはブレックスの言が正しいと思った。しかし、ハヤトとしては姿勢を見せたかった。ただそれだけで十分だった。

「わかりました。准将が動くときは我々は特に要請なしでサポートします。それだけ覚えていてもらえれば結構です」

「そうか。とだけ言っておこう」

「それではグレイファントムはこちらで預からせていただきます。我々もちょっと非合法でね。連邦内部に若干パイプがありまして、その許可は得ておりますから」

「では許可証を拝見しよう」

ハヤトはブレックスにグレイファントム改修許可証を提示した。

「ふむ・・・アナハイムからか。しかしながら良く絡む。アナハイムの独擅場だな兵器業界は」

「はい・・・そういう時代みたいですから」

「よろしい。了解した」

「有難うございます。では早速明日より民間飛行整備場へ移送し、やらせていただきます」

そう言ってハヤトが部屋を出ていくと、代わりにシナプスが入って来た。

「失礼致します。基地司令」

ブレックスはシナプスがこの部屋に来た要件を察した。そして先んじて述べた。

「分かっている。逃げたガンダムを追いたいのだな」

「そうです。アナハイムのニナを始めとする関係者も社内での訴追が不安視されており、我々も軍としてジオンにやられております。そのため雪辱せねば面目が立ちません」

「と、言うよりも、この私自身も許可を出さねば、利敵行為と見なされるかもしれないな」

ブレックスは苦笑した。シナプスはそれについて黙っていた。
そしてブレックスはシナプスにガンダム追跡の許可を出した。


* アルビオン艦橋 3.6 23:00


夜遅くだが、ガンダム奪還のための部隊編成が成された。
アルビオン既搭乗員はそのままだが、実戦部隊が1人もいなかったため、基地より補充された。

モビルスーツ隊でバニング大尉、ベイト中尉、モンシア中尉、アデル少尉、ウラキ少尉、キース少尉、アレン中尉。

そこに1人のエースが緊急用パイロット兼オブザーバーとして参加した。
そのパイロットにモンシアは口笛を鳴らした。

「シナプス艦長。本日付けでグレイファントム隊より異動になりましたアムロ・レイ大尉です。宜しくお願い致します」

その姿にバニングを始めとするすべてのクルーが心強い味方がやって来たと感じた。



 

 

17話 エアーズロックの死闘 3.7

 
前書き
すみません。シリアス過ぎて退屈かもしれませんが、
ティターンズの躍進やジオンの様々なことをやる上での布石となりますので
お付き合いくださいませ。


 

 
* トリントン基地 3.7 0:00

ブレックスは基地被害の報告をジャブロー本部へ通信していた。
モニターには地球連邦軍統合作戦本部長のジーン・コリニー元帥が映っていた。

「元帥閣下。申し訳ございません。敵の襲来によりガンダムが奪取され、基地内も多数の死傷者が出てしまいました」

コリニーは膝の上で飼っている愛猫のシャムネコをなでながら、ブレックスをねぎらった。

「そう落ち込むでない准将。敵が捕捉しきれなかったのも私の統率力の無さが露呈したことでもある。今は皆が足並み揃え挑まないとならん時なのに、味方同士で引っ張り合っている。残念なことだ」

コリニーは憔悴した感じでブレックスに語り掛けた。その様子にブレックスは察した。

「元帥の心痛お察し致します。ジオンが攻めてきたのは明白でありますので、アルビオン隊にはガンダム奪還を指令致しますが・・・」

「そうだな。それがよかろう」

「はい。シナプス大佐も元よりそう申しておりました。早速伝えます。では」

そう言うと、ブレックスは通信を切った。

* ジャブロー本部 コリニー私室 同時刻

コリニーはブレックスより切れた通信端末より別のところへ通信を繋げた。

「中々上手くいかないものだなジャミトフよ」

通信相手は宇宙にいるジャミトフ・ハイマンだった。
ジャミトフはトリントン基地が落ちなかったことについてコリニーに詫びた。

「申し訳ございません。手引きとしては充分ではあったと思ったのですが、予想外な事が起きたみたいです」

「ああ、あのカラバという秘密結社か・・・後ろにガルマ・ザビが暗躍していると聞く」

ジャミトフはコリニーの反応を待った。するとコリニーが語り始めた。

「・・・今は時が欲しいな。私の力でも今の連邦を一つに取りまとめるには困難だ。ガルマは議員として我々の上位にある。ことを構えるには危険すぎる・・・」

ジャミトフはコリニーの言葉を聞くと、「そうですか」と答えた。そしてコリニーはジャミトフにある計画に進捗について聞いた。

「あのグリーン・ノアの計画はどうなっている」

「はっ、バスクが仕上げに入っております。あと3ヵ月頂ければ期待通りの結果をご覧にいれましょう」

「そうか・・・2か月後ルナツーで観艦式が行う予定である。第2次ビンソン計画の集大成だということでワイアット大将が息を巻いておる」

「それは、それは・・・」

ジャミトフは少し笑い、そして再び表情を固めた。

「ワイアット提督には有終の美を飾っていただけそうで何よりです」

「ああ、全くだ」

ジャミトフの言葉を聞いたコリニーはそう述べ、愛猫を優しく撫でていた。


* オーストラリア上空 アルビオン艦橋 3.7 0:10


アムロは腕を組んで艦橋窓から見える夜空を眺めていた。
その姿にモンシアが近づいてきて話し掛けてきた。

「大尉。黄昏ておりますな。あんな死ぬかもしれなかった防衛戦で助かった奇跡にパアーッとやったりしないんですか?」

アムロはモンシアの陽気さに少し笑った。

「フフフ・・・中尉は良い人柄だな。そういうムードメーカーは隊には必要だ」

モンシアはアムロに褒められ、更に気分が乗った。

「そうでしょう。あのアナハイムのニナさん?結構美人ですな。それなのにあのコウとかいうヒヨっこ。アレにガンダムを任せるなんて・・・」

モンシアはコウに対して愚痴をこぼしていた。ガンダムはある意味連邦のシンボルであった。そのシンボルになった理由もアムロのアレックスの働きに他ならない。

アムロはため息を付いて、モンシアにこう伝えた。

「中尉。貴官の腕前はよく知っている。しかしながら貴官は兵器をおもちゃでしか見ていないようだ。ガンダムに乗るならば、その傲慢さを捨ててからにするんだな」

モンシアは赤面して、アムロが振り返りその場を立ち去ろうとするところを殴りかかるようなアクションだけを見せていた。その場にいた相棒のベイトとアデルはクスクスと笑っていた。

艦長席に立っていたバニングもその一通りの話を聞いていて、モンシアに語り掛けた。

「そうだな。レイ大尉の言う通りだモンシア。ガンダムに乗りたい、女にモテたいと思っている間はお前に新兵器など託せん。日々精進することだ。技量に劣るウラキの実直さを見習うんだな」

モンシアは長年付き合いの長い部隊長に言われると、「そうなのか・・・」と言って、落ち込んで一人アムロの居た位置で黄昏ていた。


* アルビオン艦内 格納庫 1:25

コウはガンダムの中で様々なシミュレーションをこなしていた。傍でニナが付きっ切りなっていた。

「そう、そのタイミングでレバーを入れるの」

「・・・なるほど。これでこうなるのか・・・」

互いに真面目にやっているのだが、傍から見ると仲睦ましいカップルのようだと眼下にいるキースとモーラが思っていた。

「あ~あ、コウはあんな美人に・・っと」

キースは学習していた。傍にモーラがいたからだ。何か下手のことを言うと締め上げられていた。
モーラもキースとのそう言うノリが楽しくて仕方なかった。むしろ下手打ってもらえないかと格納庫に来た時に期待をしていた。

「ウラキ少尉はホント真面目だね~。もう1時間も同じ訓練。飽きないね~」

「ああ、入った時からそうだよ。アイツはできないことを良く反復して克服するんだ。ただ、納得しないことには次に進まないとかで融通利かないときがあるんだけど・・・」

すると、ガンダムのコックピット辺りから喧嘩する声が聞こえてきた。
それを聞くとキースが「ほらね」とモーラに言った。

「だから、貴方のやり方じゃ全部こなすに時間がかかりすぎるのよ。こことここは飛ばして後でやればいいの!」

「そんなんじゃ、使い方も何もない!マニュアルは1から全てこなしてこそじゃないか!」

「この頭でっかち!」

「なんだとー」

ニナは「もう知らない」と言って、コックピットから離れ、リフトでモーラとキースの居るフロアに降りてきた。

「あんな頑固なひと初めてだわ!」

そうモーラたちに吐き捨てて、格納庫から出ていった。
コウはニナがいなくなっても夜通しマニュアルと格闘していた。


* オーストラリア内陸部 野営地 3:25

ガトーは数人の仲間と共に暖を取り、休息していた。
こういう戦場での憩いのひと時をガトーが大切に感じていた。

「こう、安らぐ時に今何かをしている自分を忘れることができる。そんな余裕を感じさせる」

部下のウォルフガング・ヴァール大尉がガトーを気遣った。

「少佐は色々役目が有り過ぎて、心配です。そう言う気持ちになるのは、失礼ながら荷が重いからではないですか?」

ガトーは少し笑った。

「そうだな。大義、大義と口には出すが、あのソロモンの砲撃を思い出す度に自分がよく分からなくなってくる」

「少佐・・・あれは少佐のせいではありません」

「分かってる。あの時私もドズル閣下と一緒であれば、こんな気持ちにはならなかっただろう」

ガトーはデラーズを尊敬していたが、デラーズが心酔するギレンへは懐疑的であった。ソロモンの時に知って放ったソーラレイ。ドズルが犠牲になった。あれが大義であるならばとガトーは感じていた。

「しかし、一兵士としてはギレン総帥のため。お役に立たねばならない」

ガトーはそうヴァールに言ったが、本当は自分に強く訴えたかったことだった。


* アルビオン艦橋 5:55

そろそろ夜明けが近づいてきて地平線が薄くオレンジ掛かってきた頃、シナプスの奸計により、艦内にジオンと通じるものがいることに気が付いた。

ニック・オービルである。

シナプスは前々よりあの包囲された基地やガンダムの強奪など、いくら連邦が一枚岩でないとはいえ、ここまで見事にやられるものではないと考えていた。つまり内通者の存在。それを疑った。

1名ずつ内緒で不在の間部屋を捜索したところオービルが黒だと判明したのであった。

それに気づいたオービルは格納庫よりコア・ファイターを奪取。アルビオンより逃走した。
それすらシナプスの張った罠ともオービルは気付かなかった。

「で、あのアナハイム野郎が目的地へご案内してくださるそうで」

艦橋にてパイロットが全員揃っていた。その中のモンシアがそう口にした。

オービルは必死にガトーの居るエアーズロックを目指していた。願わくば一緒に宇宙へ上げてもらおうと思っていた。

「こんなところで捕まっては、あの方に迷惑がかかる・・・というか殺される!」

そう口にした瞬間、オービルの視界が白くなった。

通信士のウィリアム・モーリス少尉がオービルの信号がエアーズロック付近で消滅したことに気が付いた。

「艦長。オービルがどうやら撃ち落とされた模様です」

それを聞いたシナプスは頷き、艦内に号令を掛けた。

「各員、第一種戦闘配備。敵はエアーズロックを根城としている可能性が高い!」

「了解!」

各パイロットらは格納庫へ走っていった。それをアムロは見送っていった。
シナプスはアムロを見て、話し掛けた。

「レイ大尉。我が隊はどうかね?」

アムロはシナプスの質問に回答した。

「ええ、実に士気が高い。艦内クルーへの艦長の信頼感が素晴らしく、そしてモビルスーツ隊はバニング大尉がしっかり手綱を握っています。申し分ありません」

「そうですか。しかし、何故オブザーバー参加したのですか?」

アムロは少し間と取り、答えた。

「月に向かわれると聞いたので。GP01ですか・・・アレの重力下実験の後、再びアナハイムに戻るそうで。ちょっと父にでも会おうかと」

「レイ博士にですか」

「ええ。先の戦いでアレックスを改修のため、月に預けています。父は持てる技術の集大成をそれに注ぐと躍起になっていまして、次いでシャアからある技術提供があったので、それを父に渡そうと」

するとアムロはポケットからある金属片と袋に入ったプロセッサーを出していた。

「なんですか、それは?」

「サイコフレームというものです。人の感応波に作用する代物です」

アムロはこの時代でもサイコフレームを触れる機会が来たことに複雑な心境だった。

「(この曰く付きがオレをこの時代へ変位させたのだろうか・・・)」

アムロは目を閉じ、過去、現在とその先に起こる読めない未来について思いを馳せていた。


* エアーズロック ジオン打上基地 6:30


HLVに搭載されたガンダムのガトーは既に宇宙への打上げを待っていた。
そこに敵襲の報がもたらされた。

「将軍!連邦の追跡部隊です。数6か7」

伝令の報告を聞いたノイエン・ビッター少将はガトーへ連絡を入れた。

「聞こえているとは思うが、君を宇宙へ送る計画に変更はない。全力でサポートする故、君も成すことだけに集中してくれ」

ビッターの決意に、ガトーは唇を噛みしめていた。
またここで味方が犠牲になる。しかも自分のために。居た堪れないながらも、自分の信ずる大義のためにとビッターに一言伝えた。

「お願いです。宇宙に上げてください」

「わかった。・・・その言葉だけで十分だ」

ビッターはその場を部下に任せて、自分もモビルスーツへ向かって行った。

アルビオンの追跡部隊の先方はアレンとコウだった。
その少し後方にベイト、モンシア、バニング。さらに後方でアデルとキースがガンキャノンで支援するという陣形であった。

もうすぐエアーズロックが目視できる地点に来たその時、アレンがコウに静止を求めた。

「少尉。ちょっと待て」

「なんですか、中尉」

「・・・この荒野・・・何かおかしい」

アレンは望遠で辺りを見回した。コウも見たが視界が良いので敵影は見えなかった。
コウは「前進しましょう」とアレンに提案した。しかし、アレンはそれを拒んだ。

「少尉。オービルは撃墜されたのだ。こんな何もない荒野で」

アレンはコウにそう伝えたが、コウは首を傾げていた。アレンは舌打ちをして、後方のバニングへ連絡した。

「大尉。前方何もないです」

その報告を聞いたバニングは後方のアデル達をバニングの位置まで呼びつけた。
アデルはバニングに質問をした。

「どうしましたか隊長」

「ああ、先方のアレンからの報告でエアーズロックを前にして何もないらしい」

そうバニングが伝えると、アデルは「なるほど」と言った。そしてアデルはバニングに提案をした。

「それでは、キース少尉と共に中距離砲で荒野を均しましょうか」

「そうだな。やってくれ」

バニングはアデルとキースに砲撃許可を与え、キースもアデルの言う方向へキャノン砲を連射した。
キースは疑問に思った。

「なんで、敵が見えないのに打つのですか?」

その問いにアデルは丁寧に答えた。

「敵が見えないということは敵が隠れているということです。先手必勝です。嘘でも、威嚇でも反応しないものなどいません」

そう言うと、レーダーに10数体のモビルスーツ反応が出てきた。
バニングは頷いて、全員に攻撃の号令を掛けた。

「よーし。敵が見えたぞ。各自ペアになって各個撃破し、敵陣を突破するぞ」

アレンとコウは先方のあぶり出てきたザクらをサーベルで斬り割きながら進軍して行った。
そのアレン達が仕留めそこなった分をモンシアとベイトが掃討し、バニングは単機で左を迂回して敵を駆逐、その援護にアデルとキースが砲撃をしていた。

アレンとコウがエアーズロックに辿り着くと、その巨大な岩の上からHLVが打ち上げられたのを目視で確認できた。

アレンはコウに叫んだ。

「少尉ー!お前のガンダムの推進力ならアレを仕留めることができるはずだー。飛べー!」

「了解です!」

コウはガンダムのバーニアをフルスロットルにして上空へ飛び上がった。そしてHLVをライフルの射程に収めた。

「・・・これで仕留める」

そうコウが思った瞬間、その射線に1機のザクが躍り出てきた。
エアーズロック頂上より飛び出したビッターのザクであった。

「貴様にやらせる訳にはいかない!」

「ああああ・・・」

急にカメラに入ってきたザクにコウは動揺した。空中にて、そのザクのヒートホークがコウのライフルを見事に両断し、コウを地面へ蹴り飛ばした。

「うわーっ!」

コウは慣性に従い、地面へ落下した。
そしてビッターは倒れたガンダムに止めをさそうとしてヒートホークを振り上げながら、ザクのバーニアをガンダムの方へ吹かした。

「とどめだ!」

ビッターがガンダムへ落下しながら斬りかかる瞬間、横からの砲撃でビッターのザクは四散した。
コウはその四散したザクを見ていた。

「コウ~、良かった~。生きてるか~」

狙撃したのはキースであった。キースの一撃がコウの窮地を救ったのであった。

ビッター将軍を失った発射基地は兵士たちが白旗を挙げ、アルビオンの追跡隊に降伏した。
降伏した者たちは捕虜として、アルビオンに収容し、トリントン基地へ送られることになる。

ガトーの乗ったHLVは地球の重力から離れ、宇宙空間に出ていた。
そこには手筈通り、迎えに来ていたムサイがあった。

そのムサイの艦長ビリィ・グラードル中尉がガトーの乗るHLVへ通信していた。

「少佐。良くご無事で・・・」

その通信にガトーが答えた。

「ああ、尊い犠牲の上でここまで来れたのだ。無事が当然だグラードル」

ガトーの声はこの計画に費やすために消えていった仲間たちを悔やむ気持ちで悲しそうに言った。

「そうですか・・・少佐。お疲れ様です」

ガトーはHLVよりガンダムを切り離し、ムサイの搬入口よりガンダムを収容させた。


 

 

18話 裏の読み合い 3.7

 
前書き
更新が滞ってしまいました。

 

 
* 地球軌道上 アルビオン艦橋 3.7 13:00

ガトーの宇宙進出に遅れること半日余り、シナプス隊もトリントン基地より宇宙へと打ち上げられていた。もはやガトーの信号は途絶え、アルビオンの進路はアナハイムの要請により、月へと取っていた。

シナプスは周囲の哨戒を怠ることなく指令を出した。

「レーダー監視、索敵、宇宙には様々なデブリもある。ここが連邦の勢力圏内だと思っても油断するな。現にトリントンへ攻撃されているのだからな」

シナプスの隣に立っていたバニングがその指示についてぼやいた。

「全く・・・敵味方あったもんじゃない。今の状況ならいつでも後ろから撃たれてもおかしくない」

その意見にシナプスが同意した。

「そうだな。ブレックス准将と私と意見が一致している。何か作為的な事が起きている。つまりはあのガンダム2号機も連邦の誰かが、どこかで使用することを見込んでのことだ。そして、それを敵の手に渡した」

アムロはバニングのすぐ傍にいた。そして、2人の話について深く考えていた。

「(あの時、捉えようとした2号機には既に核が搭載されていた。もし、知らずにビーム兵器で攻撃していたら我々は消滅していたかもしれない。・・・さて、過ぎたことだ。何処で誰に対して効果的に使われるかだな)」

アムロはシナプスに今までの経緯と連邦の状態を一から洗った方が良いと提案した。

「今の連邦はまだ正規の軍人派閥の力が強い。派閥闘争も一番の障害はそこにあることは誰でも分かる。こういう闘争は利権と金だからな」

アムロの意見に2人とも頷いた。

「そうだな。軍部での闘争要因など、利権と金に操られているものたちだからな。コリニー将軍はレビル将軍の暗殺の黒幕とも言われているが・・・」

シナプスが軍部で噂されている話を持ち出すと、バニングが更に別の人物の話を乗せてきた。

「ゴップ議員もそうだ。軍部出身で、軍事産業からの支援が厚いと聞く。ここ数年の冷戦のような状態に業界から圧力があったとも・・・」

アムロは自分で挙げた意見について反論をしていた。

「しかし、まだジオンの脅威が残っているにも関わらず、正規軍をわざわざ取り除くと言う暴挙にでるのか?何かそれに代わるものが無いと自分の首を絞めるようなものだ」

バニングがアムロの言うことを含め、流れ良く状況を組み立てた。

「つまりはジオンの脅威に屈することなく、連邦軍が壊滅的になっても、それで利益を得る。それを連邦が誘導している?馬鹿々々しい。論理が破綻している」

シナプスはバニングの言った状況をあながち嘘ではないと言った。

「トリントンの件含め、仕掛けてきている者たちは我々のような敵を葬ろうとしている。彼らにとって、反抗するなら味方は少なくても良いと考えているみたいだ」

アムロは顎に手をやり、シナプスの話したことにこう返した。

「軍縮が望みなのか」

「正規軍派閥の解体だ。より彼らのやり易いようにしたいのだろう。正規軍が何らかの形で大敗を期すれば、第2次ビンソン計画は失敗、正規軍派閥は発言力を失うだろう」

「じゃあ、その時に表舞台に出る奴が首謀者なわけだな」

アムロはそう述べると、バニングが破綻した論理の一番頭を気にしていた。

「しかし、ジオンの脅威に屈しないとは如何なものだ?現に我々はソーラレイに屈している」

2人とも頷いた。そしてシナプスが話を締めた。

「その首謀者とやらには切り札があると考えてよいだろう」


* ジオン公国 サイド3 ズムシテイ 総帥執務室 同日 15:00


ギレンは各方面から満面無く来る稟議決裁の山を処理していた。
彼の普段の仕事の大部分がそれである。

その最中、デラーズより光速通信がギレンに掛かってきた。

「なんだ、デラーズよ」

通信画面にデラーズが載っていても、ギレンは見向きもせず、稟議書に目を通していた。

「お忙しいところ失礼致します閣下。先ほどガンダムが当方拠点「茨の園」に到着致しました」

その報告を聞くと、ギレンはペンを止め、デラーズの通信画面に目を落とした。

「そうか。星の屑の一つが成った訳だな。企業間通じてだが、互いの手の内をある程度明かされるのは、少々草臥れる。裏の裏、先の先まで読み切れないと、損をする」

「そうですな。我々はまさにポーカーの最中です。相手のブラフか本気かを読み合う。賭け事にしろ、乗せたチップが命を伴います」

「うむ。我々の作戦は月へのコロニー落としというカードを相手に見せている。しかし、実際は地球なんだがな。相手は我々にルナツーで行われる第2次ビンソン計画を破綻させて欲しい、という要望をカードで突き付けてきた」

デラーズはギレンの話におかしいと考え込んだ。その思案顔にギレンが笑った。

「ハハハ、そうだろう。何故奴らがわざわざ首元を締めるようなことをするのか?話に聞くと、奴らは派閥争いしているそうだ。この私が健在なのにも関わらず。バカな話だ。私を侮るにしてもいい加減にして欲しいものだ」

デラーズはギレンの言うことに賛同した。

「おっしゃるとおりです。閣下を駒に使うなど、愚かな者どもです」

「と、普通なら思うだろう」

「はっ?」

デラーズはギレンの言葉にちょっと驚きを見せた。

「策士、策に溺れる。溺れぬように泳ぎ切りたいものだ。そこまで読み切らねば戦いには勝てん。そこまでして、奴らは私に挑戦、いや駒に扱おうとする気だ」

ギレンは一つ間を置いてから話始めた。

「貴様らの働きの後、私は第2次ブリディッシュ作戦に移る。これは奴らも知る既定路線だ。企業間でもフォン・ブラウンへのコロニー落としで市場は荒れるだろう。奴らもそれで利鞘を考えている。しかし、奴らは安全だ。本当は地球なのだからな」

「はっ」

「そして連邦の奴らもそれを既に看破していると考えて良いだろう。我々にはソーラレイとこの3年で配備された大艦隊がある。今回で宇宙の覇権を牛耳る好機でもある」

「正に好機ですな」

「そうだ。その好機で奴らの思惑も露見するだろう」

そう言うと、ギレンはデラーズとの通信を終え、再び書類に目を通し始めた。


* ルナツー 司令部 同日 16:00


ワイアットは皆が忙しく動く最中、自前の紅茶セットで優雅にお茶を嗜んでいた。
第2次ビンソン計画の最終段階。宇宙艦隊再建がここルナツーで2ヵ月後に行われることになっていた。

「ふう・・・あのソロモンから3年か・・・ようやくここまでまた辿り着いた」

ワイアットは遠くを見ていた。あの敗戦から、様々な困難を乗り越えて、その当時以上の戦力を持って宇宙艦隊の総司令として着任した自分に感慨深く思っていた。

ワイアットの下へ着々と報告が来ていた。観艦式の日程とその後のジオンの攻略についてであった。
その中にジャミトフより使いで来ていたバスクがワイアットと会談をしていた。

「将軍。ジャミトフ提督より代わって御礼のご挨拶にと参りました。この度はおめでとうございます」

バスクは満面の笑みでワイアットを称えた。ワイアットは機嫌よく、それに返答した。

「ありがとうバスク君。時に、今後のジオン攻略についてだが・・・」

「はっ。将軍の奇策、誠素晴らしく思っております。あのソーラレイを石ころで粉砕などと」

ワイアットはティーカップに口を付けてから、話し始めた。

「いや、あんなもの誰でも考えれることだ。今まで考えていても、それを実行する力がなかった。宇宙に浮いている実弾兵器、デブリもそうだが、あの固定砲台に対して攻略など、四方八方から小惑星をぶつけてやればよい」

「はっ、慧眼恐れ入ります」

「うむ。例え可動式だとしても、目標があのサイズだ。避け切れないだろう」

ワイアットはバスクを下がらせ、再び紅茶を嗜んでいた。
バスクは自身の艦に戻り、ワイアットの作戦を実行するように見せかけ、ルナツーから離れていった。

艦内の自室にてジャミトフと通信で会話をしていた。

「・・・だそうです。いかがしますか閣下」

「ワイアットめ。中々できる奴じゃないか。ならば、ここでやはり葬るのが必然だな」

ジャミトフは微笑を浮かべ、バスクへ指示を出した。

「バスクよ。ワイアットの作戦はそのまま実行しろ。成功の可否がどうでもよい」

「はっ」

「我々もその成功の可否でグリプス2についても改善せねばならぬかもしれぬ。一体どれぐらいの戦力で無力化されてしまうのか」

「そうですな。今回の作戦の艦隊規模は全体の三分の一になります。各方面からのアステロイド・ベルトからのゴミを収集してきております。それぞれに核パルスエンジンを載せている。ちょっとの軌道修正の攻撃ではビクともしないでしょう」

「確かにな。四方八方からの隕石攻撃。これを秘匿するにどれだけの苦労があったか計り知れないな。我が軍の動きはサイド3の更に外側を隠密に動いていた」

ジャミトフは沈黙をした。バスクはそれが話の終わりだと悟り、通信を切った。


* テンプテーション号内 3.9 11:00


連邦の強制退去により、グリーンノアから追い出されるようにして出てきた者たちが居た。
その中に、今年13歳になるカミーユ・ビダンが父親フランクリン、母親ヒルダと共にサイド6のインダストリアル1へ向かっていた。

カミーユの両親共に連邦の技師であった。そのため、連邦からの異動命令も伴っての移動でもあった。
その便には幼馴染のファ・ユイリィとその両親も乗っていた。

カミーユの両親は仮面夫婦であった。そのため、カミーユは性格的に繊細で感情のコントロールが難しかった。それをファは心配そうに見ては支えていた。

今回の移動にしても、仕事都合ということでカミーユは不満に思っていた。やることなすことがカミーユにとって不満でしか思わなかった。

その鬱憤が様々な方面への学術的なことや武術的なことに向いていた。そのため、周囲からは秀才として一目置かれていた。

カミーユがインダストリアル1に入港前に宇宙を窓より眺めていた。
その姿にファがカミーユに注意した。

「カミーユ!そろそろ着くわよ。席に戻らないと」

「分かってるよファ。ただ、この宇宙だけが僕を慰めてくれるんだ・・・」

ファはため息を付いて、カミーユの頭をポンと叩いた。

「な~にカッコよく黄昏ているの!私たちそんな年でもないでしょ」

「うるさいな。親父は不倫していて、母親は見て見ぬふり。最悪な環境だよ」

ファはカミーユの愚痴をいつも聞いていた。それにファはいつも気を使ってカミーユを慰めていた。

「うちの親もカミーユが一人の時は遊びにおいでっていってるよ。生憎、うちの親とカミーユの親は外面が良いから、融通が利く。親が自分たちで無責任で楽しんでいるんだから、カミーユももっと気楽な方に考えて、うちも含めて色々利用しちゃいなさいよ」

「ふん。ファはいつも物わかり良いように言う・・・」

「それが取り柄だからね」

そう話していると、入港のアナウンスが流れた。その放送を聞いた2人は自身の席へと戻っていった。


* アルビオン艦橋 同日 12:30

フォン・ブラウンを目前にして、敵襲の警報が出た。
艦橋が騒然となった。

シモンが索敵で敵を発見した。

「艦長!敵は単艦です。しかし、本艦よりも大型。砲撃来ます!」

砲撃がアルビオンを掠め、艦橋が激しい揺れを伴った。
それに対して、シナプスはモビルスーツ隊へ迎撃命令を出した。

「フォン・ブラウンの目前だ。本艦はその宙域まで到達すれば、そこは非戦闘地帯になる。敵は諦めるだろう。牽制で敵を迎撃する」

シナプスの指示でバニング達は急ぎ格納庫へ向かった。コウはガンダムに乗ろうとしたが、モーラに止められた。

「ウラキ少尉。こいつはダメだ」

コウはモーラの言い分に反論した。

「緊急発進なんだ。そこをどいてくれ!」

モーラは首を振った。

「こいつは宇宙換装していない。宇宙に出しても、ただの案山子にしかならない」

「そ・・・そんな・・・」

コウは戦えない悔しさで落ち込んでいると、バニングがコウの頭を拳でつつき、その反応でコウは振り返った。バニングがつついた手にバニングのジム・カスタムの認証キーがぶら下がっていた。

「ウラキ。これを使え」

「えっ・・・でも、大尉は?」

「今回は単艦での仕掛けらしい。それ程大した出番もないだろう。それに宇宙も体験した方が良い。ディーック!」

バニングは搭乗しようとしていたアレンに大声で呼び止めた。

「なんですか!隊長」

「ウラキの面倒を見てやってくれ」

「ん・・了解!少尉。早く来い」

コウはバニングにお礼を言い、認証キーを携え、ジム・カスタムに乗り込んだ。
艦橋で通信士のピーター・スコットがモビルスーツ発進を促した。

「各機とも進路クリアです。敵は後背に付かれております。各員健闘を祈ります」

それを聞いた、モンシア、ベイト、アデルはカタパルトに乗り、宇宙へ飛び立っていった。
続いて、アレン、キース、コウという順番で宇宙へ飛び出していった。

一方、アルビオンに後背より追撃していたのはシーマの旗艦リリー・マルレーンであった。
リリー・マルレーンの艦橋は独特な雰囲気だった。

副官のデトローフ・コッセル大尉がアルビオンよりモビルスーツが6機出撃したと報告が入った。
シーマは持っていた扇子を勢いよく閉じ、命令を下した。

「よし!我が隊もモビルスーツ隊を出す。指揮は私が直々に取る」

「はっ!各モビルスーツ隊員。シーマ様に後れを取ることは許されん。急げ!」

コッセルが復唱し、隊員はモビルスーツデッキへ急いだ。
シーマも席より腰を上げ、ゆったりとした足取りで艦橋を後にしようとした。
コッセルはひとつ気がかりなことがあって、声を掛けた。

「あの試験機を使うつもりで」

その問いかけにシーマは笑みを浮かべて答えた。

「ああ。シロッコの土産な。あのモビルスーツは私の想いを汲んでくれると言っていた」

シーマの話し方にコッセルは少々陶酔気味のように感じた。しかし、それ以上は敢えて追求しなかった。すれば、叱責を被るからだ。

「分かりました。お気をつけて」

「フン。誰にモノを言っている」

シーマは上機嫌にそう言って、格納庫へ向かって行った。

シーマは実は月の裏のグラナダに行く用事があった。ギレンからの指示であったが、この艦でキシリアの護衛に付くという任務を請け負っていた。

近々、キシリア、そしてデギン公王共に、第2次ブリディッシュ作戦を行うという予定でギレンは組んでいた。そのため戦力の編制をするべく、軍にはア・バオア・クーへ招集を掛けていた。

新征という名の下で宇宙を手に入れるということで。

シーマはたまたま進路にアルビオンを発見したため、撃沈可能ならばと思い、攻撃を下していた。

先発のモンシア、ベイト、アデルはリリー・マルレーンからのゲルググJ部隊を捕捉した。
ベイトが2人に連絡を取った。

「よーし。いつも通りジェットストリームアタックでいくぞ」

モンシアはそれについて猛反論した。

「ベイト~。それは敵の技だぜ。第一オレらドムじゃない!」

ベイトはそんなモンシアの意見に呆れていた。

「バーカ。モノの例えだ。来たぞ。アデル!」

「はい。中心に打って散開させます」

ゲルググ部隊の中心に向かって、アデルはキャノン砲を打ち込む。すると、ゲルググ部隊は開花するように散開した。その1機に目がけて、モンシアとベイトが殺到した。

「これで2対1よ!」

ベイトがゲルググに向かってビームを打つ。ゲルググは少し掠め、バランスを崩した。その後背をモンシアがサーベルで斬りかかった。

「よし!もろたでー」

モンシアの一閃はゲルググの腕を切り落とした。咄嗟でゲルググは体を逸らしていた。
そして、今度はモンシアとベイトが散開したゲルググに襲われていた。

「こりゃ、敵わん!」

「ああ、数じゃ無理だ。一旦距離を取るぞ、モンシア、アデル!」

「了解です」

そして3人は少し距離を置き、互いにけん制し合いながら戦っていた。

次発のアレン部隊は先発の3人の宙域を避けるようにリリー・マルレーンへ攻撃を加えようとしていた。しかし、そこにもゲルググが立ち憚った。

しかし、ゲルググは1機だけだった。アレンは好機だと思い、コウ、キースに威嚇射撃と挟み込みで倒すと指示を出した。

「ウラキ少尉、キース少尉。数の上ではこちらが勝っている。勝負をかけるぞ」

「了解!」

「了解です」

キースがゲルググに砲撃し、ゲルググがそれを避け、コウとアレンも射撃でゲルググとの距離を詰めていった。そして、至近間近まで来た。

「(よし、取れる!)」

そう思ったアレンはサーベルを抜き、ゲルググに斬りかかった時、アレンの頭上より無数の射撃がアレンに注がれた。

「なっ・・・なんだと」

アレンは直撃こそ免れたが、ジムの片腕と片足を失っていた。
その射撃したモビルスーツがゲルググの前に現れた。

深紅のモビルスーツであった。高出力のメイン・ブースターが2基目立つような仕様で、明らかに高機動性能のモビルスーツであった。

それに搭乗しているシーマは笑っていた。

「ハッハッハッハ。いいぞ。よく避け切った。もう少し遊べそうだな。シロッコめ。いい土産を置いていったもんだ」

アレンは残った手でサーベルを構えた。シーマもマシンガンをゲルググに預け、サーベルを抜いていた。

アレンはひしひしとプレッシャーを感じていた。この敵は只者でない。そう告げていた。アレンはコウとキースに帰投命令を出した。

「ウラキ少尉、キース少尉。ここは退け」

その命令にコウが反発した。

「何言っているんですか。その機体では相手は未確認のモビルスーツです。一見でも高機動性を兼ね備えています。中尉だけ残していくわけには・・・」

「バカ野郎ー。上官命令だ。これ以上聞き分けないと、ここでお前らを撃墜するぞ!」

アレンはサーベルを2人に向けた。その覚悟、気迫に2人とも息を飲んだ。

「わ・・・わかりました。帰投します」

「それでいい・・・」

そして、コウとキースはアレンを残して、アルビオンへ向かって行った。
アレンは望遠モニターを見た。モンシアたちも徐々にアルビオンへ帰投するような防衛線を敷いていた。

「さてと・・・」

アレンは再び、シーマに向き合った。シーマは感心した。

「へえ~、武士道極まりないねえ。男としての本懐でも果たすときなのかな~」

そうシーマが呟き終わると同時にアレンがシーマに斬りかかってきた。
シーマはそれを軽く交わした。アレンの側面にシーマが旋回するよう回り込むと頭上よりサーベルを振り下ろした。

アレンは戦場の勘からそれを見抜き、ジムを各部のスラスターによる軸回転させ、シーマの斬撃を躱した。至近距離になったシーマに目がけ、アレンはバルカン砲を食らわせた。

「なっ!」

シーマは衝撃により、後退した。シーマが再び前を向くと、そこにアレンがいない。
すると、足元から接近する警報が鳴り響いた。

「下かー!」

シーマはガーベラテトラのスラスターの出力を上げ、アレンからの攻撃を避けた。その動きを見たアレンは舌打ちした。

「っち。早すぎるな・・・」

シーマはガーベラテトラの機動性能を活かし、蝶のように舞い、蜂の様にアレンへ攻撃を加えていった。

「ぐおっ・・・」

アレンのジムがパーツ毎に少しずつ削られていった。そして気が付けば、胴体と頭のみとなっていた。
シーマは機動性能の負荷により、息を切らしていた。

「・・・ハア・・・ハア・・・全く・・・手強い相手だった・・・」

シーマはサーベルをアレンに目がけて振り下ろそうとしていた。
その時、シーマのサーベルの手に目がけてピンポイントに爆発が起きた。

「な・・・なんなんだ一体!」

シーマが動揺していると、そこに1機のジム・カスタムがやって来た。
アレンは誰がジムに乗っているかと問いかけた。その返答にアレンは安堵した。

「中尉。生きていたな。オレと一緒に帰投するぞ」

「ああ、ありがたい。レイ大尉」

シーマは怒りに震え、援護に来たアムロを逃がすまいともう片方の手でサーベルを握り、アムロへ斬りかかった。

「なめるなー!」

その怒涛の切り込みにアムロはライフルで、ガーベラテトラの接合部を全て一撃で打ち抜いた。
シーマは構えた動作のまま動きが取れずにアムロの前を勢いよく通過していった。

「な・・・なんだとおー」

シーマは動かないガーベラテトラを何とか持ち直して、リリー・マルレーンへ帰投して行った。
それを見届けたアムロはアレンに声を掛けた。

「全く。上官としての鑑だな中尉は・・・」

「あはは・・・カッコ悪いな・・・生きてしまった」

「フッ・・・何も恥ずかしがることでもない。ウラキ少尉とキース少尉が戻って来て、オレに救援を要請したんだ。ここに着いたときは間一髪だったな」

「まあ、助かった命だ。有り難く頂戴しましょう」

こうしてアルビオンは無事フォン・ブラウンへ入港を果たしたのであった。



 
 

 
後書き
・・・ということで、歓艦式は2か月後の5月7日になります。
それまでにコウを鍛えないと(笑)
 

 

19話 それぞれの休暇

* フォン・ブラウン市 ショッピングモール内 3.15 

アルビオン隊はフォン・ブラウンに到着すると、シナプスは次の指令が出るまで休暇と訓練を課すことにした。

まずは1週間の休暇を与え、後に5日間の訓練・演習、後に2日休暇。また演習、休暇の様にスケジュールを組んでいた。

フォン・ブラウン市内には数多くのショッピングモールがある。中央省庁に近いブロックが一番栄えており、そこにもショッピングモールが立ち並んでいた。

土日になれば、各ブロックに住むひとや他のコロニーからの買い物客などごった返す人気スポットだった。

そのモールの中に、コウ、キースとモンシアがニナ、モーラ、シモンの荷物持ちとして随行していた。
彼らの腕には既に抱えきれない程の紙袋の束ができていて、それでも買い物を続ける女性陣にキースが音を上げていた。

「も~、その辺にしませんか~」

その声を聞いたモーラがキースに容赦なく言い放った。

「まだ、半分もこなしちゃいないよ。男なら根性をみせな!」

モーラはニナとシモンにこのクロスはどうかと談議していた。
その光景にコウはため息をついた。

「はあ~、全く女性はどうしてこんなに使わないかもしれないのに無駄に買うことができるのだろうか・・・」

その隣で、モンシアが得意げに言った。

「ウラキ君。君は女性というものを知らない」

「はあ・・・」

「女性が好きなもの!それは靴!バッグ!その女性がときめくモノ!それがこのバーゲンだー!」

モンシアは持っている荷物を放さず、両手を広げて叫んでいた。

「この付き合いが後々に響いてくるのだよ。君には悪いが、ニナさんは頂く」

そう言ったモンシアはキリっとした顔をして、コウとキースにアピールをした。
コウもキースも半笑いしていた。

その話を聞いていたのか、ニナよりモンシアにお声が掛かった。

「モンシアさ~ん。こっちに来て~」

「あいよ~、ただいま!」

モンシアはニナの下へ馳せ参じていった。横目でコウとキースにウィンクをして。
モンシアがニナの下へ行くと、ニナは満面の笑みでモンシアに話した。

「モンシアさん。貴方が来てくれてホント感謝してるわ」

「ええ!ニナさんたちのためなら、このモンシア!男冥利に尽きます!」

すると、モンシアの手に更にバーゲン品が追加されていった。

「えっ・・・うおっ・・・ノ~!」

モンシアの額に血管が浮き出て、両腕がプルプルと悲鳴を上げていた。
そして、シモンがとどめの一撃を食らわせた。

「中尉♪これもよろしくね!」

シモンの箱をモンシアの持つ荷物の天辺に乗せた瞬間、モンシアはその場で崩れ落ち、荷物の山に沈んでいった。


* フォン・ブラウン市 アナハイム工場 同日 昼過ぎ


アムロは改修中のアレックスを目の前に腕を組んで立っていた。そこにテムがコーヒーを持って近づいてきて、アムロに差し出した。

「ああ、有難う」

「会うのはしばらくぶりだな。どうだ地球は?」

アムロは貰ったコーヒーを一口付けた。

「・・・っつ、熱・・・いや、酷いもんだ。味方同士で殺し合っている。親父が思い描いていた終戦図とは掛け離れている。地球圏内だけなら連邦の勢力下なんだけどな・・・」

それを聞いたテムは目を落とし、悲しんでいた。

「そうか・・・V作戦から始まり、軍部の増長を招いたみたいだな。浅はかだと思われても仕方がない」

「いや、アレが正常の流れだよ親父」

アムロがテムの責任ではないと反論したことにテムが質問した。

「どういうことだアムロ?」

「過去・・・歴史においても、産業の革新にはいろんな副産物がつきものだよ。この戦争もある技術革新期なのさ。人は豊かになれば、その欲深さは底を見せない。例え、親父がやるやらないにしても、いずれ顔を出したことなのさ」

アムロはテムにそう言うと、テムは少し笑った。

「そうだな。オレ一人が自体を招いたと驕りがあったのかな・・・」

「ああ、驕りだよ。人一人の影響力など、圧倒的なカリスマがない限りは塵に等しい」

「言ってくれるじゃないかアムロ。確かに私は一技術士官にしか過ぎない。元々はあの指令も連邦本部の注文だった」

「だからさ。連邦が今、そう動きを見せていることはごく自然の流れなのさ。それに付き合わせられる市民達はたまったもんじゃないがな」

アムロはひとつ話に区切りを付けて、アレックスの改修についてテムに聞いた。

「そう言えば、渡したサイコフレームとその草案はどう?」

テムはすごく渋い顔をした。

「アレか・・・バイオセンサーを凌ぐ、感応素材ねえ~。テストをしてみないとわからんな。実際の数値を見てみたい。どの信号がどのように刺激されるかを・・・」

「そうだな。色々試してみて欲しい。未知の部分が山ほどある技術だ」

そう未知だった。あのアクシズの時のここまで精神を戻された、その原因の一つではとアムロは推測していた。

「(他に物理的な説明が付かない。オレとシャアの感応波でのこの状況など。人の想いだけで成せる業ではない)」

テムはアムロにアレックスの改修について補足していた。

「ああ、それとなアムロ。ムーバブルフレームも技術的にひと段落が着いた。アレックスの骨組みをキチンと整備しなおそうと思う」

アムロはそれでは既に新型を作るという話だと思い、テムに質問した。

「おもいっきりが過ぎないか?いくらアナハイムの研究開発用の経費とは言え・・・」

アムロの話にテムが手を挙げ、遮った。

「いや、いいんだ。この話は色々複雑でね。この連邦の状態を危惧した議員からの要請でも有って、アナハイムはそれを飲んだんだ」

「へえ~。そいつは渡りに舟だな」

「ああ、確かジョン・バウアーという政治家だ」

アムロはその人を知っていた。かつてロンド・ベルを再編に導いた実力者だった。歴史はまた自分に戦えと言うのかとアムロは感じていた。

テムはアムロに先のアレックス改修の話の続きをした。

「さて、話は戻して。アレックスの骨組みを替える。しかし、設計は継承するよ。各センサー系統も新型技術を入れていくつもりだ。そこでだ。この開発についての主任技師を紹介したい」

「ほう。親父じゃないのか?」

そうアムロが言うと、テムは首を振った。

「私はもはやロートルだよ。技術と人材の革新は早く、そして新鮮なうちにということだな」

しばらく経つとアムロの下へ1人の若手がやって来た。

「アムロ。こちらが若いがこの改修の責任者のオクトバー・サランだ」

オクトバーはテムに紹介されるとアムロに手を差し出した。

「オクトバーです。連邦の英雄に会えて光栄です。地球でのご活躍は宇宙にも届いています」

アムロはその手をしっかりと握った。

「ああ、宜しくお願いする」

アムロは心の中で役者が揃いつつあると感じていた。


* フォン・ブラウン近隣 月面上 アナハイム試験場 3.19


コウは宇宙換装されたGP01フルバーニアンのテストをしていた。
傍で宇宙服を身に纏ったニナが様々な試験を指示していた。

「コウ。そこで急速上昇」

「了解!」

この時期になると、コウとニナは互いに名前で呼び合うようになっていた。
堅苦しいことを抜きにして、試験機を仕上げていこうというニナからの勧めで互いの協力関係の円滑化を図った。

「ニナ!スラスターゲージがもうじきレッドに到達する。オーバーヒートするぞ」

「わかったわ。一旦レベルをゼロにして、慣性での飛行を・・・」

「よし!」

ニナの隣にモーラが座ってガンダムを見ていた。モーラが感心していた。

「へえ~。彼の生真面目さはいいねえ~。ガンダムを自在に操り始めてきたんじゃないの?」

ニナは鼻を高くして、モーラに言った。

「そりゃそうでしょ。指導がいいからね!」

そのニナの自慢にモーラはからかった。

「指導ねえ~。あのコンビネーションはこの指導だけなのかな~」

そのモーラの発言にニナが真っ赤になって怒った。

「っ!それどういう意味よ!」

ニナの怒りにモーラは両手を軽く上げあしらった。

「はいはい。まあ、色々あるさ~。なあキース」

モーラがそう呼びかけると後ろよりキースがモーラの下へ寄ってきた。

「呼んだかいモーラ」

その関係は友達の上をいくような親しみだった。そのことにニナは唖然とした。

「貴方たち・・・いつの間に・・・」

その反応に2人とも笑った。

「まあ、色々あるのさ」

「そう、ニナさんもこういうご時世なんだから、色々考えてみたらいいんじゃない」

ニナは深くため息を付き、再びコウへ指示を出した。

その30分後、3機のジム・カスタムがやって来た。
目的はガンダムとの模擬戦であった。

ルール説明はニナが行った。

「いい!各機ペイント弾を持ったね。3発受けたら終了だから」

コウは目の前のジム・カスタムらに緊張した。
乗っているパイロットがアムロ、バニング、アレンであったからだ。

バニングは模擬戦とは言え、アムロと戦えることに高揚していた。

「レイ大尉と戦えるとは思いもよりませんでした」

そうバニングが言うと、アムロは謙虚に話した。

「お手柔らかに、バニング大尉」

アレンも2人の偉大なパイロットを目にして、気合いが入っていた。

「よし!自分の実力が図れる良い機会だ」

アレンはそう自分に言い聞かせていた。

コウはマニュアルを読み漁っていた。緊張を解す為だった。
それに気が付いていたニナはモニター通信でコウに語り掛けた。

「コウ。マニュアルを外しなさい」

コウはその問いかけにビクっとした。

「なんだ、ニナか。集中しているんだ」

ニナは再びため息を付いて、コウを窘めた。

「いい?コウ。実戦にはマニュアルはないの。テストに教科書は持ち込めないでしょ!勉強の成果を目の前だけ見て、集中するの。わかった?」

コウはニナの言うことがごもっともと思い、すぐさまマニュアルをしまい、すーっと精神を落ち着かせていた。それを見たニナは笑みを浮かべ、心の中で「それでよろしい」と思った。

「では、模擬戦を始めます」

ニナが各機にそう伝えると、各機それぞれ動き始めた。


* オーガスタ研究所 3.25 14:00


シャアは再びアメリカへ戻っていた。ハヤトたちはオーストラリアに居たままだった。部隊もそちらに置いてきていた。不測の事態の為にということだった。

シャアはアメリカに戻ってきた時は必ずオーガスタ研究所に寄るようにしていた。
その随員として、カイとセイラが便乗していた。

施設はサナトリウムの様で自然に溢れた屋内であった。
その屋内を見たカイとセイラは感嘆していた。

「すごいな。こんな大きな箱ものに自然を取り入れるなど、よくわからんが、すごい・・・」

「ええ、兄さんはここへは何度も来ているのですか?」

セイラがシャアに尋ねると肯定した。

「ああ、ララァが研究しているからな」

カイはその研究者について質問した。

「ララァさんとは?」

シャアはさてどう話していいものか分からなかったが、一応説明を試みた。

「カイさん・・・ララァは私をジオンや復讐という呪縛から解き放ってくれたひとだ。その存在は私の勘でも、超越者と言っていい程、浮世離れしている。そのララァがある技術の完成を目指している」

セイラはシャアの話でララァという存在が兄を救ったひとだと認識し、一目会いたいと思った。

「兄さん。ぜひララァさんにお礼が言いたいわ」

セイラがシャアにそう言うと、シャアは少し笑い了承した。

「ああ、私も会わせたいと思っていたからな」

そして3人は奥の方へ進むとある部屋に辿り着いた。
シャアはそのドアを開けて入ると、そこはドーム型の明るい自然が溢れた空間で、動物たちがある1人の女性の周りを囲んでいた。シャアはララァに呼びかけた。

「ララァ。またお邪魔するよ」

ララァはシャアの声を聞くと、静かに立ち、シャアに向けて笑みを浮かべた。

「まあ、大佐。またいらしてくれたのですね」

ララァはシャアの傍へ歩み寄ってきた。
カイとセイラはその立ち振る舞いに息を飲んだ。

「神々しいと言うべきなのか・・・」

「そうね・・・何か人とは違う気が・・・」

カイもセイラも神など信じてはいなかったが、居たとすれば、このような独特の雰囲気なのかもしれないと思った。カイはララァに近寄り手を差し伸べた。

「カイ・シデンと言います。ジャーナリストをしております。ララァさんにお会い出来て嬉しいです」

ララァは笑みを浮かべて、カイの手を握った。

「こちらこそ。こんな私なんかに会いたいなんて稀有ですわ」

セイラもカイに倣って、手を出した。

「兄がお世話になっております。セイラ・マスと申します。兄の呪縛を解いてくださってありがとうございます」

ララァはセイラを見て、同じく笑みを浮かべてセイラの手を取った。

「宜しくお願いしますセイラさん。大佐は良い妹さんをお持ちで」

「大佐?」

「フフフ・・・あまり気にしないでください。私が好きで呼んでいるだけです」

ララァは優雅に微笑んだ。シャアはため息を付いた。

「ララァ。あまり妹をからかわないで欲しい」

「あら?お気に召しませんでしたか大佐」

「ふう・・・ララァは全く・・・」

ララァはクスクスと笑い、カイは唐突ながらも知りたい本題に入った。

「シャアさん。早速ですが、ララァさんの研究を見学したいのですが・・・」

カイがそう言うと、シャアはララァへ了解を求めた。

「ララァ。私もここに寄る意味としても、1つ実験の進捗を知りたいのだが、一緒に付き合わせても構わないか?」

ララァは快く受け入れた。

「ええ。元々、平和利用のための技術ですから。どうぞ」

そう言って、ララァは実験室へ足を運び、その後ろに3人が付いて行った。

ララァはいつもの実験室でいつものブースに収まると、その中で念じ始めた。
その記録、観測をナナイがモニターで見ていた。

「・・・毎回試験することに数値が上がっていきます。周りのサイコフレームの共振が上限まで行ってしまって、技術部がサイコフレームの改良に四苦八苦しています」

ナナイがシャアへ愚痴をこぼしていた。シャアはその共振について詳しく聞いた。

「ナナイ。その共振はどういうものだ」

「ええ、サイコフレームがララァの脳波を受け取り、チップ自体が微動しています。そのチップ周囲の空間がその微動に反応して、動きを止めています」

カイはその説明に質問した。

「私は学者じゃないからわからんが、動きが止まると何か意味があるのかな?」

ナナイはコクリと頷いた。

「ジオンのフラナガン機関は既にサイコミュの実戦投入をしていると聞きます。サイ・コミュニケーターが砲撃の遠隔操作を可能にしていると聞きます。サイコフレームもそのコミュニケーターの一種ですが、あらゆる側面からしてもララァの装置の精度は群を抜いていると考えます」

カイは黙って、ナナイの説明を聞いていた。

「彼らの兵器利用はその兵器のみと限定されていますが、ララァの技術開発はいわば周囲、フィールドと考えて良いでしょう」

「サイコ・フィールドか・・・万有力学を無視しての作用・・・」

カイがそう呟くとナナイは頷いた。

「そうです。ララァの技術は武器を持たずして、防衛可能とする技術を生み出そうとしていると仮定しています」

「なるほどね・・・」

カイはそう言うと、ブースに入ったララァを見ていた。
その3人の後ろよりある人物が入室してきた。

「ほう。ここがそうか」

3人ともその声を聞いて振り返った。
シャアは誰だか分からなかったが、カイとセイラは驚愕した。

「!・・・何故・・・お前がここに・・・」

カイはその訪問者に身構えていた。連邦の軍章を付けた白い軍服に身を纏ったシロッコだった。
シロッコはカイの質問に嘲笑うように返答した。

「何故かって、ここは連邦の勢力圏だ。私が居ても特別問題なかろう」

カイとセイラはシロッコのふてぶてしさに苦虫をつぶしたような表情を見せた。その反応にシャアは招かざる客だと判断した。

「お初にお目にかかる。私はシャア・アズナブルという。貴官は?」

シャアが自己紹介すると、シロッコも丁寧に自己紹介をした。

「これは、且つてのジオンのエースにお目にかかれるとは光栄です。パプテマス・シロッコと申します」

シロッコはシャアに手を差し伸べた。シャアも礼儀として握手を交わした。その瞬間、シャアはシロッコにおぞましいものを感じた。

「(なんだ・・・この悪寒は・・・)」

シロッコはガラス越しにララァを見ていた。そしてシャアに質問をした。

「話に聞いている。実に有意義な研究をしていると・・・」

シロッコの発言を警戒しながら、シャアは返答した。

「ええ、ララァの技術はこの施設の中と同じく穏やかな技術です。兵器利用とは程遠いものですが・・・」

「しかし、感応波が周囲へ働き掛けることができると聞く。集約すれば、それはサイ・コミュニケーターにも活かせるのでは?」

「その研究は軍にお任せしますよ。我々は一民間機関です」

シロッコはシャアの答えに同意した。

「そうだな。日本のムラサメ研究所が割と先端行く開発を行っているらしいからな」

そう言って、シロッコは部屋の出口に向かった。

「カイくんにセイラくん。久々に会えて懐かしかったよ」

その言葉にカイは毒ついた。

「ほう。味方殺しのお前が懐かしむ相手か?」

シロッコは高らかに笑った。

「ハハハ・・・まあ昔のことだ。別に何とも思わんさ」

そう言ってシロッコは出ていった。シャアはシロッコについて、カイに質問した。

「あのシロッコとは何者だ?」

カイは一息ついて、シロッコについて説明を始めた。

「シロッコは、元ホワイトベースクルーであり、レビル将軍の暗殺の張本人さ」

「なんだと!」

セイラがカイの代わりに説明を続けた。

「ええ、シロッコはカイの恋人のミハルさんを使い、自らの出世のために味方をも利用する卑劣漢よ」

シャアは2人の憤りを見て、決して交わることのない人物だと認識した。

シロッコはオーガスタ研究所の外で外観を見ていた。
そして含み笑いを始めた。

「(やっとだ。アムロから感じ取っていた勘がどうやらここに来て実を結んだらしい。あれが私の求めていたものだ)」

シロッコは目的の代物を3年という月日の下ようやく探し出せたことに満足感を得ていた。



 

 

20話 星の屑作戦開始  5.7

* 茨の園 5.7 3:00 


デラーズ・フリート(デラーズ艦隊)が出港前にデラーズが兵士たちに演説を行っていた。

「諸君!我が艦隊は栄誉あるこの作戦の為に、今まで鍛錬を積んできた」

兵士たちはそれぞれの部屋や現場のモニターで聴いていた。

「あのソロモンの戦いにより、戦線が膠着し、ギレン閣下が提唱した『優性人類生存説』。これを実証させる機会に至るまで3年と月日がかかった。我々が何故この絶対的不利な戦争でここまで戦ってこれたのか?」

デラーズは間を置き、話し続けた。

「それは我々の戦いが正義だからだ。連邦はあの悪夢を忘れたかの如く、艦隊を再建してきた。この挑戦に対して、我々は断固打ち破らねばならない。そして今度は連邦の拠点に神の雷を落とすことにより、連邦を完全に屈服せしめる。それには諸君らの働きが必要だ」

デラーズは拳を握り、更に声を高めた。

「かのアースノイドらに追いやられた我々スペースノイドの進化を、古い人類へ示すためにも。この<星の屑>は我々を新たなるステージへと導くであろう。ジーク・ジオン!」

デラーズの兵士たちは皆高揚し、それぞれ気合いが入っていった。
傍で眺めていたガトーは敬愛するデラーズを見ていた。

「(さすが閣下だ・・・そうだ。我々の崇高な使命は亡きドズル閣下も望むジオンの勝利、スペースノイドの真の自立だ。それ以外は何もない)」

ガトーは心の中でそう呟き、自分の疑念を払拭させようとした。
座乗艦の艦長グラードルにガトーが最終の打ち合わせを申し入れられた。

「少佐。我々の第1陣の出撃はあと1時間後です。皆、会議室にて待っています。敵の集結した艦隊に少佐の一撃を入れてからの残敵の掃討戦に移ります。その状況により、本国の部隊が第2次ブリディッシュ作戦に流れ込む段取りです」

「そうか・・・それで奴らの息の根を止めることができる。我々の苦労もここに来て報われる」

「そうですな。少佐と栄誉ある先陣を務めることができて、私も高揚しています」

グラードルはガトーへ満面の笑みで述べた。ガトーも「そうか」と一言返して、グラードルと共にブリーフィングへと出掛けていった。


* サイド6 外縁宙域 アルビオン 5.7 4:10


シナプス隊はバウアーの特命により、観艦式の観覧のため一路ルナツーへと進路を向けていた。
ブレックスは観艦式での何やら陰謀めいたことが行われるのではと言う情報を掴んでいた。ブライト、アムロもカイたちからの情報で、連邦の上層部でのジオンとの取引が行われていると噂を聞いていた。

ブライトはアムロと連絡を取り、アムロからテムへバウアーとのパイプ役を請け負ってもらい、バウアーは政府特命にてアルビオン隊を動かすと軍へ指示を出していた。

アルビオン艦橋でブレックス、ブライト、シナプスと話し合いが持たれた。
ブレックスがまず観艦式について説明した。

「ワイアット大将率いる宇宙艦隊がジオンを屈服させ、宇宙に平穏を取り戻させるためのイベントだな。噂ではジオンを一戦にて屠るぐらいの戦力を準備終わっているそうだ。派閥間でも断トツの実働部隊戦力だ」

ブライトがカイの情報を伝えた。

「だが、ワイアット派の正規軍への反発がかのガンダム強奪へ結びついたという噂がある」

シナプスがブライトの話した情報にある予想を立てた。

「核の使用状況については一網打尽と言うが一番しっくりきますな。奴らは観艦式を狙う」

ブレックスとブライトもその予想に首を縦に振った。そしてブレックスは話し始めた。

「既に、ワイアット将軍への警告は済ましてある。しかし、将軍は取るに足らないと仰った」

シナプスは危機感が足らないと思った。それをブレックスに伝えたが、逆の事を言ってきた。

「いや、シナプス大佐。将軍は既に織り込み済みだと言っていた」

「なんですと?どういうことですか」

「将軍は観艦式自体もアピールとして、派閥間の企みとジオンの内通を一挙に上げようと画策しているそうだ・・・。皆が策士であって、我々は頭が痛い」

ブレックスは少し笑っていた。隣のブライトも複雑そうな顔だった。
ブレックスは困惑しているシナプスへある質問をした。

「シナプス大佐。君たちのいる宙域は無線状態などどうだ?」

シナプスは艦橋のスコットより、サイド6外縁に入ってからミノフスキー粒子の濃度が濃くなり過ぎていると情報を受けていた。まるで戦闘状態のようだと。ちなみにこの通信についてはサイド6を経由した割とオープンなチャンネルでの会話だったので通信状態が良好だった。

シナプスは観艦式を行う上での周辺宙域の警戒態勢の高さによるものだと考えていた。しかし、ブレックスの質問の仕方がどうやらそうではない含みの言い方だった。

「はい、ルナツーの方面の通信すら直接的にはできない状態です。このためにとルナツー方面の軍は独自の秘匿回線網を敷いているようで、それは我々にも分かりません」

「つまり、我々にも伝わらない程、将軍は警戒をしていることだ。そして、軍本部への連絡も欠かさないで行っている。観艦式を予定通り行うと。これは擬態なのかどうなのか全くわからない」

そう話しているとアルビオンの前方より接近してくる艦隊があった。数は10隻単位のものだった。
シナプスはその艦隊へ連絡を取った。レーダーで観測できる距離ならば通信が可能だった。

「こちらアルビオンのシナプス大佐だ。貴官の所属と知らせていただきたい」

すると、接近中のマゼランより通信が入った。声のみの通信だった。

「こちらはルナツー方面軍の巡視隊の隊長ヘンケン・ベッケラー中佐だ。貴官らはどこへ向かう予定だ」

「はい。ルナツーの観艦式を観覧しようと思いまして、後何か良からぬ噂も聞きまして、ある連邦高官からの特命にて向かっております」

「そうか。ルナツーには何もないぞ。皆警邏に出払っている。何か起こると思うから、近づかない方が良いと司令部からの通達だ」

「なんですと。ルナツーが空!」

「そうだ。この広大な宇宙。集まれば大艦隊を要するだろうが、散らばってしまえば大した数ではない。司令からはある合図と共に、地球軌道上へ集結するという指令をいただいている。勿論ソーラレイの軌道外だがな」

シナプスはヘンケンの話を聞いて、通信中のブレックスらの顔を見た。ブレックスは瞼を閉じて、読めない先の展望について思案していた。


* ルナツー内 式典会場 5.7 12:00


観艦式の準備で余念のないよう司令部より指示出ししていたワイアットはルナツー内の式典議場にて、観艦式の開始を宣言していた。

式典会場には無数の連邦士官がオープンなバイキングスタイルにてドリンクやフードが食べれるようにごった返していた。その前方にひな壇があり、司会進行役がワイアットへ壇上へと促した。

「では、開会の挨拶と宣言を宇宙艦隊総司令官グリーン・ワイアット大将より頂きます。どうぞ宜しくお願い致します」

ワイアットはひな壇へゆっくりと足を運んでいった。ひな壇の頭上には大型モニターが配備され、ルナツーを取り囲む圧倒的な艦艇戦力が映し出されていた。

ワイアットが壇上のマイクの前に立つと、式典に出席している士官たちへ話し始めた。

「えー、我々は3年前ルナツーを奪還し、ソロモンへ救援に行きました。故ティアンム将軍の部隊が失われ、私の艦隊も窮地に追いやられました」

ワイアットはその頃の思い出を沈痛な面持ちで語っていた。

「しかし、我々はジオンの脅威から屈することなく、数少ない戦力にて、ジオンからの侵略を阻むことができました。それはひとえに貴官らの働きによるものでした。例え劣勢になろうとも国を守る、人々の笑顔を守る、そう想う軍人がこの場にいたからに他ありません」

ワイアットは前を見つめ、抑揚付けて語った。

「私は微力です。皆の支えが有って、ここに立つことができております。私の趣味である紅茶も安心して飲めるのも貴官らが働いてくれるからです」

ワイアットの冗談にどっと会場が湧いた。ワイアットは片手で制して、話し続けた。

「モニターに映るこの陣営も貴官らの働きによるものであります。私たちはこの艦隊を持ってして、宇宙に真の平穏をもたらす、そして皆が安心して暮らせる世の中を取り戻そうじゃありませんか」

会場がさらに盛り上がった。その時、会場がとてつもない揺れに襲われた。
頭上のモニターが白く輝いた。

ワイアットは傍の連邦軍高官へ事態の報告を求めた。

「何・・・何が起きたのだ!」

式典に出席していた士官たちが慌ただしく、状況把握のために常駐している基地司令部へと連絡を取っていた。ワイアットは慌てた演技をしていた。そして来るべき時が来たと悟った。

その後、ワイアットの下へ状況の知らせが届いた。

「司令!ガンダム2号機による核攻撃です。外のルナツーに配備された偽装艦隊がすべて消滅しました」

「そうか。各ゲートの状況は?」

「はっ。被害が甚大ですが、南のメインゲートの2か所は無事です」

「よし、そこから私の旗艦と残りを出撃させる。目標は地球軌道上サイド3方面だ。但し、3時間後にな。その代り一番近い哨戒隊をルナツーへ呼び戻せ」

「かしこまりました」

ワイアットが指示を出すと、再び壇上のマイクへと戻っていった。

「あー、皆さん聞こえますか?先ほど敵の攻撃がありました。しかし、我々は無傷であります。敵の攻撃は既に予測の範囲でした。このパーティーは続けたいと思います。各方面の哨戒部隊の集結にはいささか時間が要します。沢山英気を養ってから、我々は最後の戦いに挑みましょう!」

ワイアットはそう言うと、会場は最高潮に盛り上がった。

一方、攻撃をしたガトーは焦っていた。
核を撃つ前はガトーは連邦の大陣営を目の前にして紅潮していた。

「私の一撃で宇宙に真の自立をもたらす」

そう思い、願い放った一撃がモニターで目視するに、前の艦艇はまさしく本物だった。しかし、後の艦艇がすべて風船が弾けるような反応だった。

「な・・・ダミーだと!」

ガトーは座乗艦であるグラードルの艦艇より救難信号が発せられていた。

「少佐!してやられました。この宙域にまばらですが、敵艦艇が集結してきます!」

「グラードル!退却進路は?」

「はっ!サイド6外縁からが手薄で、<茨の園>のデラーズ閣下の部隊と合流できます」

「わかった。すぐに戻る。後詰でカリウスらを出撃させておいてくれ」

「了解であります」

ガトーはグラードルの通信を終えると、唸りながらもルナツーを後にしていった。
核の衝撃により、ガンダムのシールドの耐久性能が限界を超えていたらしく、持ち腕のジョイント部分まで損傷をもたらしていた。

「ん?左腕が動かない・・・」

ガトーは連邦の周到な備えに恐怖し、急ぎでムサイへ帰投していたが、その前にもう1体のガンダムが立ち憚った。

「なっ!・・・あの時のガンダム・・・」

コウは先発で偵察のため、アルビオンより出撃してルナツーの方面に居た。そこで運良く、はたまた悪く、ガトーと対峙できた。

コウはあの時のガンダム2号機を見て、唸った。

「奪われたガンダムだ・・・!この野郎!」

コウはガトーへライフルを連射した。ガトーはそれを避けたが4発目にして掠った。

「っぐ・・・ガンダムめ。多少やるようになったではないか」

ガトーはサーベルを抜き、コウへ接近した。その速度にコウは対応しきれず、ライフルを捨てて、サーベルに持ち替えて、ガトーのサーベル捌きを避けていた。

そして、両者のサーベルが交わるとき、両者の声が聞こえた。

「ガトー!あの時の、トリントンでの屈辱をここで晴らす!」

「ふん。あの時のヒヨっこか。多少は腕を挙げたみたいだな」

そうコウとガトーが言葉を交わすと、ガトーのサーベルがコウのガンダムを力でねじ伏せ、後方へ吹き飛ばした。その振動でコウが悶えた。

「うっぐ・・・ガトーめ!」

コウは意識を保ったままで、ガトーの次の攻撃に備えたとき、ガトーのガンダムの左腕の動きに違和感を覚えた。

「(ん?・・・左腕が動作していない・・・そうか!)」

コウはガトーの左腕が動かないことを予想し、ガトーの左側に回り込もうとする動きで攻撃していった。その動きにガトーは後手に回った。

「・・っぐ、気付かれたか。やるようになったな」

そして、互いにサーベルの応酬を繰り返しているうちに、ガトーのシールドにコウのサーベルが深々と突き刺さった。そしてそのサーベルは貫通し、ガトーの左腕を貫いた。

その損傷でガトーの左腕が爆発した。

「何!・・・このガンダムがあーっ」

ガトーは右手のサーベルを逆手に持ち、コウの肩から後ろへと刺した。
すると、コウのガンダムのバックパック付近が爆発した。

「がっ・・・畜生!」

そして、互いに接近して離れられず距離を取れないまま、バルカンを打ち尽くし、互いにガンダムが自沈寸前になっていた。

コウは脱出すべく、周囲の簡易バーニアを探し、自身のアタッチメントに付けて、コックピットを開けた。すると、目の前にガトーが同じようにいた。

ガトーはコウのヘルメットに近付いて、コウの名前を聞いた。

「私は有名人らしいから、お前を私は知らない。名前は何という?」

ガトーの圧力にコウは素直に名前を答えた。

「コウ・・・コウ・ウラキだ」

「ウラキか・・・二度と忘れん!」

そう言って、ガトーは星の海へ身を投じていった。
コウも呆然となりながらも、すぐ我に返り、ガトーと同じく身を投じた。

そして互いに後詰で来ていたパイロットたちに回収されて、各座乗艦へと帰投していった。

もう一方で、バニング隊とアムロがコウとは別方面での出撃で敵艦艇をキャッチしていた。
バニングはモンシア、ベイト、アデルに攻撃指示を出した。

「よーし!敵はこのミノフスキーの濃さで気づいていない。奇襲をかけるぞ!」

「了解です、隊長!」

バニングたちは敵艦に急速接近し、ムサイを3艇強襲により撃破した。
その後、残存の艦艇より数10体程のリック・ドムとゲルググに出撃してきた。

バニング隊を1体ずつ破壊したムサイを盾にして撃破していった。
アムロも単機での撃墜を重ねていった。

バニング隊の連携というもの神業に近いものが有り、傍に居たアムロも感嘆していた。
そのうちワイアットの哨戒部隊がこの宙域へ殺到してきたため、戦況的に不利と認識した敵残存艦艇はその場を離れていった。

その時、バニングは敵艦の捜索により、敵の作戦の概要をファイルで入手していた。
そのことを帰投中にアムロに告げた。

「レイ大尉。良いものを見つけました」

「そうか。何て書いてありますか?」

「・・・これは!敵は<星の屑>という作戦名でまた愚行を重ねようとしています」

アムロは傍のバニング機を見て、嫌な予感を覚えた。それはバニング機の腹にできていた敵から受けた損傷具合であった。それについて、アムロはバニングへ警告した。

「バニング大尉。貴官のジム、そこに捨てていけ」

バニングはアムロの言うことに疑問に思った。この損傷具合ならば別に問題ないと判断していたからだった。

「大丈夫ですよ。レイ大尉。艦まで戻れます」

しかし、アムロは断った。

「いいや、大尉のジムはダメだ。嫌な予感しかしない。それに貴官の持つ資料は今後の指針に役立つ。もし、その損傷での爆発で貴官と資料の両方が失われては、今後の展開で血を流す者が多くなるやも知れない。それを貴官はどう責任を持つ?死んでか?死んだらどうにもならない」

モンシアたちもその通信を聞き、自身の隊長の喪失感を予想すると恐怖に駆られた。
モンシアもアムロの意見に賛同した。

「バニング隊長。まだうちらには隊長が必要なんです。レイ大尉の言う通り、そのジムは危ないでっせ」

ベイトもバニングを説得した。

「そうですよ。モンシアもたまには良い事を言います。奴の良い事は余りに少ない。それを危惧する理由になると思います」

モンシアはベイトの発言に反発した。

「酷いぞ。ベイト!オレはなあ~、隊長の事を思って・・・」

アデルは笑って、バニングに言った。

「ハハハ・・・こう両中尉も申しております。隊長、我々の気を汲んで頂けませんでしょうか?」

バニングはそう4人に言われ、断らずにはいられなかった。
バニングは観念し、ジムを捨てる準備を整えた。

「わかった。モンシアがたまにだがそう良い事を言うほど不吉なものはないからな。レイ大尉の下でよいか?」

アムロは避難先を指定されると、快く了解した。

「ああ、そうしてくれ」

そう言って、その場に5機とも止まり、バニングがジムを捨て、必要な書類と共にアムロのコックピットへ入っていった。アムロもコックピット内に簡易座席を設置し、そこへバニングを搭乗させた。

バニングを回収した数秒後、バニングの乗ったジムは損傷による誘爆でその場で四散した。その光景にバニングは絶句した。

「ああ・・・大尉にお前らの言うことを聞かなければ、正に星の屑だったな・・・」

「そうだな。バニング大尉は良い部下をもったものだ」

そうアムロがバニングに語り掛けると、4機はアルビオンへ帰投した。

アルビオン艦橋にて、コウの戦闘報告がなされていた。
ガトーとの交戦、ガンダムの回収失敗ながらも、ガンダムの撃破と自身のガンダムの喪失。ガトーを取り逃がしたこと。その報告を傍に聞いていた。ニナは複雑だった。

「(アナハイムからは回収できない場合は破壊も已む得ないと言われていたから良かったけど、私の出世からは遠のいたわね・・・でも、あの人が無事なのはなによりだわ・・・)」

そう思っていたニナはシナプスずっと呼びかけられていたことに数秒たってから気が付いた。

「あっ・・・はい。何でしょうか艦長」

「ニナさん。ガンダムは回収不能となりました。大変申し訳ございません」

「いえ、これも一つの選択としてアナハイムからの要望でありましたので、敵の手や他の企業に情報を流されるくらいならばという話でした」

「そうですか・・・」

シナプスはニナの回答に感想を軽く漏らすと、別の話題を出してきた。

「ニナさん。実はアナハイムのレイ博士から通信文を頂いておりまして、貴方の新型量産機計画は一旦中断ということになったそうです」

ニナはその知らせに当然だろうと思っていた。テスト機を失って続行が不可能になったからだった。しかし、その後のシナプスの知らせにニナは驚愕した。

「バニング大尉の持ち帰った資料を通常通信が回復したのでワイアット将軍へ報告申し出たところ、我々もジオンとの戦いに参加せよとの命令が下された。そこで本艦は圧倒的な戦力を補充しに、ラヴィアンローズへ進路を向けている。ワイアット将軍直々の命令だ。アナハイムからの許可も下りている」

「なっ!ラヴィアンローズ・・・まさか・・・」

ニナの動揺に艦橋に居た、コウやアムロ、バニング隊の面々が見ていた。何故驚愕をしているのかアムロがシナプスに質問した。

「艦長。ニナさんの動揺と圧倒的な戦力とは関係があるのか?」

「ああ、ウラキ少尉の新型機への対応能力を見てとの判断で、アナハイムの新型量産機開発との併用で、ソロモン攻略時の拠点防衛用に対抗すべく開発していたのだ。モビルスーツ1個大隊に匹敵する火力を持って、ジオン攻略の包囲網の一翼を担うことになっている」

アムロはそんな戦力の存在に驚きを見せた。ニナは少々反論した。

「しかし・・・あの機体は規格外で・・・ガンダムとも言えない、不安定な戦力です」

コウは「ガンダム」という言葉を聞いて、高揚した。

「あるんだ・・・ガンダム3号機が・・・」

コウの呟きを聞いて、ニナは説明した。

「ええ、量産機ラインから外れた超大型機。理論上使用した場合、あのビグザムもいともしない火力で粉砕するとも言われる代物よ。ただ、実戦投入したこともないホントに戦力になるかどうかも不明なものよ・・・しかし、研究は凍結されたと聞いた・・・」

「が、行われていたのだよ。ワイアット将軍の工作もあってな。カーバイン社長が秘密裏で配慮したそうだ」

シナプスはニナへ伝えると、ニナは聞いていないとブツブツ言っていた。

バニングはガンダムの存在に、コウよりもアムロが適任ではと艦長に申し出た。コウもその意見には悔しいながらも否定はできずにいたが、シナプスが否定した。

「レイ大尉はあくまで我が隊のオブザーバー参加だ。うちはうちの専属でこなそうと思っている。レイ大尉からも同意見を貰っている」

アムロはシナプスの意見に賛同した。

「艦長の言う通りだ。オレはこの艦の手助けはしたいとは思うが、ガンダムというシンボルは艦のエースだ。本来ならばバニング大尉に任せるべきなのだがな」

アムロがそう言うと、バニングは首を振った。

「オレはこの年で英雄など気取る気概などないよ。だからウラキに任せている」

アレンもバニングの意見に同調した。

「そうですな大尉。オレもこのヒヨっこがここまで成長してきたのを見れたことに若干喜びを感じる年になってきたようです」

モンシアもベイト、アデルと共にそれに倣った。

「おう~ウラキくん。君が乗らないなら、ボクが請け負ってもよいけどよ~」

「まあ、バニング隊の我々はバニング大尉が乗らないのいでしゃばる訳にはいかないからな」

「そう言うことです」

アデルはコウの傍により、コウの背中を叩いた。

「ウラキ少尉。貴官のような若手が将来の道筋を示すことが良いと思っています。ガンダムは我々の道しるべです」

コウの傍にいたキースもコウの肩へ手を置いた。

「そうだよ~。コウがガンダムに乗らなきゃオレらが盛り上がらないよ」

「み・・みんな・・・有難うございます」

コウはその場で艦橋に居るもの、全てに頭を下げていた。
コウは本来ガンダム回収並び、ガンダムの撃墜されたことに処罰されると自認していたのだが、不問にされ、尚新しいガンダムを託されるということに喜びと感謝を覚えた。

シナプスは艦橋にいるクルーへジオンの思惑とワイアット総司令の作戦を話した。

「さて、<星の屑>の概要は先のガンダム2号機による奇襲での連邦艦隊撃滅と合わせたジオン本国による第2次ブリディッシュ作戦だ。ターゲットは月と地球だ。コロニーをフォンブラウンに落とし、もう一つを地球へ落とす」

艦橋一同は息を飲んだ。シナプスは話を続けた。

「ジオンはア・バオア・クーに集結した大艦隊にて用意したコロニーを護衛しつつ、地球への降下軌道に乗せる。一方のワイアット艦隊はソーラレイにより、阻止限界点まで艦隊を動かせない。しかし、近々ソーラレイを無力化できるとワイアット将軍は公言している。我々は単艦故の独自の行動がとれる。ソーラレイの照準を連邦艦隊から放すことはできない。その隙を突き、コロニーの推進力を潰す」

そのシナプスの話にモンシアが疑問を呈した。

「しかしながら、それは地球のコロニーだけの話ですよね。月はどうするんですか?」

シナプスはモンシアの質問に回答した。

「その問題については月の人々が請け負うらしい。ワイアット将軍とブレックス准将とも同意見だ。結局はジオンは2段構えでのコロニー落としを画策している。時間差でのな。まずは先に来るコロニーを阻止してから、次に来るコロニーの対処となる」

モンシアは「まさか」と驚愕した。シナプスは頷いた。

「そうだ。今回は地球へコロニーが最低でも2個来るぞ。コロニーにソーラレイ、ジオンの大艦隊・・・もはや先が読めん・・・」

シナプスの言葉に一同沈黙していた。


* ワイアット艦隊旗艦 バーミンガム級 艦橋 5.8 10:00


ワイアットは相変わらず艦長席にて紅茶を嗜んでいた。そこへ部下より報告が入った。

「司令。先のルナツーへの核攻撃した部隊への捕捉、捕獲が困難になりました」

ワイアットはティーカップをガチャっと音を立てて、眉間に皺を寄せた。

「・・・身内の裏が取れなくなったな。何故だ?」

「はっ、敵の先発部隊はサイド6外縁を通り、我が追撃部隊があと一歩というところで敵の別働隊が我が隊の行く手を阻みました」

ワイアットは一息付いて、その別動隊についての情報を聞いた。

「確認したところ、ジオン本国の部隊ではなくアステロイド・ベルトから来たジオンの部隊だそうで・・・」

ワイアットはジオンの陣容について記憶を漁った。そこから1つジオンの資源基地を思い出した。

「アクシズか・・・奴らも動き出したか・・・」

「どうやらそのようです。かの勢力も戦力としては未知数ですが・・・」

「だが、取るに値はしないだろう。言っても高々、資源基地だ」

ワイアットはバニングからの情報を得て、敵の作戦は理解したが、その後ろに潜む連邦の敵についての情報が得られなかったことに悔しさを滲ませていた。


* アクシズ先遣隊 クワジン級 格納庫 同日 13:00


ガトーたちはデラーズ艦隊に合流できずに敵に捕捉されかかったところをハスラーに助けられていた。
ガトーはこのことに感謝していた。ハスラーはガトーの感謝よりも別の事をガトーに話していた。

「実はな、ガトー少佐らを助けたのも偶然ではないのだよ」

「はっ?どういうことですか」

ハスラーは艦内の広い格納庫をガトーと歩きながら、ガトーたちの救援はゼナの願いだと話した。

「ゼナ様の・・・」

ガトーは亡きドズルの妻の名前を聞き、驚いた。ハスラーは頷き、説明した。

「ゼナ様はギレン閣下の成す事に疑念を持たれている。それがアクシズの総意となりつつある。生き証人を見つけてはギレン閣下へ告発し、ドズル閣下の無念を晴らそうと思っているのだ」

ガトーは複雑な面持ちで伏し目がちになり、ハスラーの話を聞いていた。

「そのため、ギレン閣下の目を潜り、デラーズ大佐から離れた貴官をこの機会にと思い、ここへ招待したのだ。まあやり方としては結果救援となったから良かったよ」

「・・・そうですか・・・」

ハスラーの言葉により、ガトーは再びギレンへの懐疑的な思いが芽生えた。

「して、君はこれからどうする?願わくば我々と共に行動して欲しいのだが・・・」

ガトーは少し考えて、答えた。

「ハスラー提督。私はジオンの士官であります。しかし、あのソロモン以来、全てを正義とは思えません。時間を頂きたい。仮にゼナ様と同じ思いに至るときは馳せ参じます故・・・ご了承下さい」

「そうか・・・貴官程の軍人をこちらに招くことができればと思ったのだが、今回はこれぐらいだろう・・・」

そうハスラーが話し終えた時、格納庫のある大きな扉の前に辿り着いた。
そして、傍にいた部下にその扉の開閉を命令した。

「ガトー少佐。貴官はまだ生き残らねばならない。そのための手助けを我らはしようと思う。これを持ち、戦線へ復帰してくれたまえ」

真っ暗の中、明かりが付くとガトーの眼前に見えた圧倒的な大型のモビルアーマーに、ガトーは息を漏らした。

「これは・・・ジオンの精神が形となって現れている・・・」

「AMA-002ノイエ・ジールだ。どうかこれでいつかゼナ様の手助けをして欲しい。それを思い、君に託す」

ガトーは素晴らしい機体を目の前にして、ゼナの想いとデラーズの想い、そしてギレンへの不安を考えて複雑な心境だった。
 
 

 
後書き
*そのうち、マチルダやダグラスらも再登場させないと。。。あとマ・クベもか・・・
  

 

21話 カミーユの直感 5.8

* インダストリアル1 共同研究棟 5.8 10:00


カミーユは両親と共に各企業が研究開発を進めている共同研究施設に赴いていた。
まだ13歳のカミーユを1人残して、その辺を歩かせる訳にも行かず、ファの両親も移住する上でそれなりに忙しいという話で仕方なく連れてきていた。

カミーユも両親と共に元々メカ好きであり、少年の部でのロボット操縦競技会でも優秀な成績を収めていた。

カミーユはこのコロニーに来てからずっとある頭痛に悩まされていた。
それはこのコロニーが異質なものと感じていたからだった。

「(なんなんだ・・・この禍々しい感覚は・・・)」

カミーユは両親と共に構内の見学に回っていたが、ついに体調の悪さを訴えた。
フランクリンはヒルダと相談し、カミーユを休憩室にて休ませることにした。

フランクリンがカミーユに声を掛けた。

「すまないな、カミーユ。私たちの都合で引っ張りまわしてしまって」

ヒルダも母の顔を覗かせた。

「カミーユごめんね。貴方は普通の子よりも大分大人だから、ここで待っていてもらえるかな」

カミーユは冷たいタオルを頭に当てて、2人の話に頷いた。

「ああ、大丈夫。僕は父さん、母さんに迷惑かけないようにここで大人しくしてるよ」

それを聞いた2人はカミーユを残して、その場を去って行った。
カミーユは少し横になり、休むことにした。

カミーユの頭の中の異質な感覚が晴れない。これが分からない限りは頭痛が消えることはない、そうカミーユは考えた。

カミーユは頭にタオルを当てたまま行動を始めた。感覚で構内を動いて行った。その気分がどんどん良くない方へ行くだけ。

休んでいたのが構内の6階部分、エレベーターに乗り1階へ。そこから大分歩いていくと人気のいない施設へと出てきた。特に守衛らも見かけず、ある扉の前にやって来た。

「ん?・・・開かない・・・」

カミーユはこの先へ行きたかったのだが、行くことができないので諦めかけたその時、後ろから中年の男性に呼び止められた。

「君・・・この先へ行きたいのかね?」

その男性はカーディアス・ビストだった。カミーユは見知らぬ男性の問いかけに臆せず「ええ」と答えた。カーディアスは疑問に思い、そして興味深く思った。

「何故?君はその奥に行きたいのかね?」

「この先に・・・禍々しいものを感じるからです・・・」

カーディアスは驚いた。彼が祖父が言っていた<災厄の箱>の呪いを感じ取れるニュータイプなのかと思った。モノは試しという言葉がある。彼をあの場所まで連れていってみようと考えた。

「君、この先へ一緒に行くかい?」

「うん、入れるならば」

「よろしい。それじゃあ行こうか・・・」

そしてカーディアスは扉を開けて、カミーユはカーディアスの後に付いて行った。

どれだけ歩いたのだろうかとカミーユは思った。その気分の悪さは段々悪くなっていく。すると開けたホールのような場所へ辿り着いた。

中央のところに大きな介護用のベッドが横たわっている。恐らくは可動式だろう。
それを見たカミーユにカーディアスはそのベットに横たわるものを軽く紹介した。

「あそこに寝ている者は私の祖父でね。本来生き永らえることをしなければ、老衰しているのだが、本人の道楽もあり生きている」

カミーユはその人物の居る場所と対となる方を見た。そこには箱型のブースユニットが有った。
カミーユはそのユニットから禍々しい雰囲気が出ていると認識した。

「すみません。あのユニットが凄く気持ち悪いのですが・・・」

カーディアスはカミーユの指差す方を見て、確信した。やはりニュータイプだと。

「少年。アレはサイコフレームのブースだ。ある者が設置していった。そして、それを取り払うことも動かすことも不可能だ。何故ならば、触れることができないのだからな」

カミーユはカーディアスの言い分に首を傾げた。何故触れることすらできないのか?カミーユはその箱の傍に近寄った。忌々しい圧倒的なプレッシャーを感じた。カミーユはゆっくりその箱に触れた。

カーディアスはカミーユが箱に触れたことに驚いた。

「おお・・・やはり・・・君は宣託者だったか・・・」

「せんたくしゃ?」

カミーユはカーディアスの言葉に疑問を投げかけた。カーディアスは頷いた。

「そう<宣託者>だ。その物体はもはや科学を超えた代物・・・神の遺物のようなものだ。それを触れることのできるものは神の意志を持つ者とされている」

カミーユはカーディアスの言葉に少々おかしくなり、笑った。

「・・・僕が神?おじさんちょっと頭がおかしいのでは?」

「そうだな。君のような資質がない私がコレを触れようとしても・・・」

カーディアスはその箱に近付き、手を差し伸べた。しかし周囲に何らかの見えない壁に阻まれ、触れることができなかった。カミーユはそれを見て驚いた。

「ほらな。そう言うことだ」

「しかし・・・何で僕が・・・」

カーディアスは振り返り、手持ちのコントローラーで目の前に大型スクリーンを出した。
そのスクリーンに映し出されたものにカミーユは見入った。

「君に理解できるか分からないが・・・これを設置した者が示した未来だ。とても非科学的な発想だが、事実我々はコレを触れることができない。それだけで信憑性があると考えている」

「・・・理解はできるよ。但し、本当に非科学的だね。この調子で行けば4,5年後に人類が滅ぶ・・・」

カミーユはカーディアスにそう話した。カーディアスは何と理解の早い子なんだと感心した。

「うむ。そして、そこに寝ている祖父は歴史の傍観者として、静観している。今も冷凍睡眠状態で寝ている。時が来れば起きるそうだ。私はそんな未来を認めたくない。しかしお手上げだった。今日まではな」

「今日?」

「ああ、今日この場に君が居合わせた。私はカーディアス・ビスト。世界のフィクサーであるビスト財団に連なるものだ。君の名前を教えてくれないか?」

カーディアスはカミーユの前に向かい合って、自己紹介をした。カミーユも名乗られては名乗らない訳には行かず、自己紹介をした。

「カミーユ・ビダンと言います」

「カミーユか・・・いい名前だな」

カミーユは自分の名前を褒められることが余りなかった。むしろ女性名で色々面倒なことがあったぐらいだった。そんな自分の名前を褒める人を珍しく思い、好感を持った。

カーディアスはカミーユにある提案した。

「どうだろう。この未曽有の危機を私と共に解決してもらえないだろうか?この箱の解放は彼が言うにはあと4,5年は掛かると言う。この箱の力は未知数だが、それに備えることは大事だと思う。良ければ、君の両親と共に、バウアーを通して、ヴィックウェリントン社にその裁量を任せたいと思っている」

「ヴィックウェリントン社?何故主力がアナハイムやハービックに移行している最中で?」

カミーユは同年代の者より、物知りだった。それについてもカーディアスは驚いた。

「これは・・・ハハハ・・・。実はアナハイムらは既に妹の歯牙に掛かっていてな。余り私の出番がないんだ。彼女はその危機を危機とは思わない姿勢だ。フロンタルが祖父に会った事実もそれ程重要視していない。リアリストなんだよ。人一人の能力で世界を震撼させることはまずないと思っている」

カミーユはカーディアスの話した理由について、自分の中でゆっくり話を組み立てていた。

「・・・諸悪の根源がフロンタルと言う者なんだね。しかし、分かっていて何で野放しにしておくのですか?」

カーディアスはため息を付いた。その理由について面倒な話だと言い、語った。

「祖父の意向はビスト家の中で絶対だ。その祖父がフロンタルのやることについて黙認している。むしろその行為を見届けたいと言っている。それに逆らう者を祖父は容赦しない。但し祖父からは了解を得ている。それに対しての備えは良いということを・・・」

「・・・大人はわがままだな・・・」

「まあ、大人と子供とは別に変わりはしない。その昔、祖父も子供だったのだから」

カーディアスはウィックウェリントンの話に戻した。

「さて、カミーユ君。ウィックウェリントンは私が筆頭株主で色々配慮が利く会社でな。連邦政府の友人であるジョン・バウアーを通じて、その対策機関も兼ねて、新たなる部隊を立ち上げようと思っている。君にはそこに参加してもらいたい」

唐突なお願いにカミーユは躊躇した。

「しかし・・・両親は?」

「言ったであろう。君の両親も政府特命で一緒にウィックウェリントンへ行くことになる。私にはその力がある。他、君の望むものが有れば都合するが?」

カミーユは考えた。必要なもの、必要な人、傍に居て欲しいひと。

「あの・・・ファ・ユイリイという幼馴染が居ます。その家族も一緒にできませんか?」

カーディアスは笑顔で頷いた。

「勿論。君が望むなら、かの者たちの仕事や住まいも喜んで手配しよう。ということは君の決意はできたのかな?」

カミーユはカーディアスの問いかけに対し、了承した。

「はい、僕がこの問題に取り組まなければならない。その事を僕自身が良く感じているみたいです。恐らくであるけど、この箱は負の感情を吸収しています。今、僕はスッキリしています」

カミーユは再び箱を見つめ、話し続けた。

「恐らくは僕の負の感情をこの箱が吸い取ったようにしか思えません。そして、このエネルギーが解き放たれるとき、物理的な大参事を及ぼすに違いありません」

カーディアスはカミーユの理解の速さに感銘を受けていた。そして、カミーユを両親の下へ送り届けた。カーディアスはカミーユの両親に自身の正体を伝えた。フランクリン、ヒルダと共に驚愕した。

カーディアスはカミーユの才能と2人の才能を買い、サイド1のロンデニオンへ行くように勧めた。2人は喜んで了承した。

次に、カーディアスはファの家族と会った。カーディアスの提案にファの家族も了承し、ロンデニオンへ移住することになった。


* ロンデニオン行 星間シャトル内 5.9 11:00


星の海は静かに佇んでいた。ニュースの情報によると、間もなく戦闘状態になるという話で、この便がロンデニオン行の最終便だった。

座席にいるフランクリンとヒルダはカーディアスの後援ということで高揚していた。ファの家族も同様だった。カミーユは一人シャトルの窓の外を後部ハッチより眺めていた。

そこにファ・ユイリイがやって来た。

「カミーユ。あのカーディアスさんってひと、私たちまでこんな配慮してくれて、何だろうね」

カミーユはファの質問に笑って答えた。

「ああ、僕が頼み込んだんだ。カーディアスさんが僕に手伝ってほしいと提案した。そして必要なものが有れば都合すると。僕はファが必要だったから頼んだ。それだけさ」

カミーユの言葉にファが真っ赤になった。告白されたのような言い回しだったからだ。

「・・・カミーユ。私が好きなの?」

カミーユはファの発言にびっくりして、ファを見た。ファが上目使いで赤くなっていた。
カミーユは焦ったが、少し思案顔をしてファに答えた。

「う~ん、そう言うことなのかな?僕も割と素直にならないとと思った。人生なんて、戦争なんてあった日にはあっという間に終わってしまうからね。できる限り、自分がしたいと思ったことを可能にしたいとは思う。ファやファの両親も僕にとって大事な、そして好きな人たちさ」

そうカミーユがファに伝えると、ファはむくれていた。

「・・・素直な答えじゃない・・・」

カミーユはファの反応に笑った。

「ハハハ・・・いや、ファ。僕は君のことは好きだよ」

ファは自身の中でかなり後手に回ったことに状況の不利を感じ、「そう、ありがと」と一言言って席に戻っていった。


* ラヴィアンローズ 5.9 12:30


アルビオンは予定通りの航路を終え、ラヴィアンローズへ入港を果たしていた。
同時刻、別のシャトルがラヴィアンローズに入港していた。

ラヴィアンローズはアナハイムが所有するドッグ艦であった。シナプスたちがガンダムを受け取りににラヴィアンローズに入ると、入港口には先客がいた。

シナプスはその先客にシナプスは所属等を尋ねた。

「我々はワイアット将軍からの指示でガンダムを受領しに参ったアルビオン隊のシナプス大佐だ。貴官の身分等の紹介を願いたい」

その先客は色の入ったサングラスをしていた、陰険そのものの表情をして含み笑いをして答えた。

「・・・失礼した。私は地球連邦宇宙軍所属のかナカッハ・ナカト少佐だ。コリニー将軍の命にてこのガンダムを完全凍結するという指示で来ている」

シナプス含めたアルビオンクルーに動揺が走った。

「コリニー将軍だと・・・」

シナプスは苦虫を潰した。ワイアットよりも上位の高官からの指示。とても逆らえない。
ナカトの後ろからあるアナハイムの女史が現れた。

「ナカト少佐。実験の凍結とはどういうことですか!」

その姿を久しぶりに見たニナは声を上げた。

「ルセット!」

その反応にルセットと呼ばれた女史が反応した。

「ニナ!貴方どうしてここに・・・」

ナカトはため息を付き、ルセットに説明した。

「オデビー女史。軍は民間の研究をまさかワイアット将軍も噛んでこのような顛末になっていたなんて知りもしなかった。全く・・・愚行だと認識したため、私が来て止めに来たのだ。元より、軍はアナハイムへの働きかけて、実験は凍結していたはずなんだが・・・」

「しかし、軍が民事に介入するなど会社側が認めず、政府に抗議していて、ワイアット将軍もその言い分に同調してくれて・・・」

「オデビー君!今は戦時下だ。軍の命令に従わないと無駄死にするぞ!」

「わ・・・私を脅すのですか!」

「フン。もしジオンに大量破壊兵器がここで研究されてると知れてみろ。君らは直ぐにでも殺されるぞ」

ルセットはナカトの言い分に体を震わせていた。ニナも同じ研究者としてナカトの話に納得いく訳にもいかず怒りを覚えていた。

その場に別のゲート口から金髪のボブヘアーの女性が部下を連ねて入って来た。
その女性は真っすぐナカトも元へ行き、ある書面を手渡した。

「ナカト少佐ですね。こちら連邦政府からの書簡です。このラヴィアンローズは軍の統制下にあらず、民間のものです。よって貴官の凍結命令も無効となりますね」

その女性はナカトの前で笑みを浮かべた。今度はナカトは震え始めた。

「・・・こんなの・・・こんなのが認められるか!」

ナカトは激高したが、部下の1人がナカト宛に通信電話を渡した。

「・・・はい、ナカトです。・・・!ハイマン閣下・・・ええ・・・はい。わかりました」

ナカトは通信のやり取りを終えると、その入港口にいた敵対する全ての人たちに罵声を浴びせた。

「このままで済むとは思わんことだ。必ずや報いを受けることになるだろう。その時を楽しみにしているんだな」

ナカトは振り返り、部下たちと共にその場を離れ、ラヴィアンローズから去って行った。

そのやり取りを見たモンシアは一言、

「なんか~、陳腐な一流の捨て台詞ですな~」

と言うと、その場にいたものがみんな爆笑をした。
そして、シナプスが書簡を持ってきた女性にお礼を言った。

「いや助かりましたミス・・・」

その女性はシナプスに手を差し伸べた。

「エマリー・オンスと申します。このドック艦の新責任者を任じられました」

ニナもルセットもエマリーのこと知っていた。実に優秀なスタッフで彼女は一つの目標の先輩でもあった。

「私はエイパー・シナプス大佐と申します。早速ですが、ガンダムを・・・」

「ええ、存じております。ルセット!」

「はい!」

エマリーが高らかにルセットを呼びつけた。

「早速ですが、ガンダムを準備してもらえるかしら。余り時間も少ない。そこにニナも見えたわね」

ニナとも呼ばれて緊張した。エマリーは鋭い眼光でニナにも命令した。

「ニナ、貴方も一緒にルセットを手伝いなさい」

「は・・・はい」

ニナは駆け足でルセットの下へ駆け寄り、2人してラヴィアンローズ内へ入っていった。
シナプスはエマリーに提案した。

「どうか、うちのメカニックも手伝えることありましたら使ってください」

その提案にエマリーは了承した。

「有難うございます。では遠慮なくやらせていただきます」

こうしてアルビオンのクルーたちはラヴィアンローズへ入っていった。


* 地球軌道上 サイド3方面 5.10 9:00


ワイアットは各地に散らばっていた哨戒隊を全て集結させて、艦隊の再編を終えようとしていた。
アルビオンよりラヴィアンローズの事の顛末を報告で受けていた。それにワイアットは予想通りと睨んでいた。

「やはり、コリニーか・・・それにジャミトフも・・・」

そう考えるとバスクに任せた作戦も少々不安に感じた。彼がソーラレイを無力化する故で欠かせない戦力だった。しかし今のところ、目の前のジオンの攻撃に対しての方針は皆同調していた。まず問題はないだろうとワイアットは考えた。

「すると、問題は勝った後かな・・・」

ワイアットは戦後処理で自身の功績を如何にして無に帰し、コリニー派閥が台頭するのかを考えた。
レビルのように暗殺が一番手っ取りとも考えた。しかし、それに対しては既に対策は済んでいる。

「仮に、私を倒したとしても派閥の力は、実戦力比をどうするつもりなのか・・・」

宇宙艦隊の戦力はコリニー派閥が持つ戦力を遥かに凌駕していた。それを破るにはソーラレイにような決戦兵器か何かが必要だ。

「何も報告もない。考え過ぎなのか・・・」

ワイアットは一抹の不安を抱えながら、艦隊の編制が終わったことを副官から報告を受けた。

「よし!全艦発進。最後の戦だ。華々しく飾るとしよう」

ワイアット艦隊はソーラレイの照射範囲外ギリギリまで艦隊を押し進めていった。


* ??? グリプス2 5.10


ジャミトフは完成間近のグリプス2の管制艦内に居た。既に発射できるレベルまでは達していたが、ソーラレイとは違い、まだ連射できるまでは追いついてはいなかった。

ソーラレイとの違いは高速での可動ができるという点であった。
ジャミトフは戦場になると想定した位置にグリプス2を移動させていた。

「フッ、ワイアット如きにこれ程やられるとは少々はらわたが煮えくりそうになる」

ジャミトフはワイアットへの邪魔をジオンの攻撃に差し支えないような部分で抵抗していた。
そして、重要なポイントで思いっきり邪魔をしようと思っていた。

それがこのグリプス2のテスト照射であった。
混戦状態での照射。これでワイアットの息の根を止める。そして宇宙艦隊を崩壊に導き、その時自身が支持し、統括しようとするティターンズの産声を上げるときだと考えていた。

勿論、敵への照射の誤射での言い訳もできる。

「そのタイミングを見誤らないようにせねばな。とりあえずバスクのソーラレイ破壊。あとはコロニーをどうするかだ・・・」

当面の目的は連邦軍の主導を握ること。これが上手くいけば、コリニー将軍は政界へ転じ、自分がトップになる。ジャミトフはそれ以外については全く考えもしなかった。

 

 

22話 戦場の蠢動 5.11

 
前書き
仕事が忙しくて、更新ができない~(><)
結構読み返しましたが、雑な所があるかの認識もできなそうもないので、指摘お願い致します。

 

 
* ソーラレイ 照射範囲境界 5.11 9:30


ワイアット艦隊と先遣隊のデラーズ艦隊が一進一退の攻防を続けていた。
艦隊戦力比としては10対1ぐらいのものですぐさま粉砕できる戦力を持っていたが、ソーラレイという決戦兵器のため、デラーズの艦隊の数でもワイアットの先方を相手にするには十分だった。

ただワイアット艦隊の補給や戦闘部隊の交代が利く分、デラーズ艦隊にはそれが無い。長期戦になれば、デラーズは不利になる。

しかしながら、デラーズはギレンのコロニーを待つだけ。それまで戦線を維持すれば良かった。ワイアット艦隊にコロニーに取りつかれたら阻止されてしまう。及びワイアット艦隊がコロニー傍に取りつかれても、ソーラレイを打てば、コロニーも一緒に無くなってしまう。それではブリディッシュ作戦が成り立たない。

ワイアット艦隊は仮に襲来するコロニーに小勢でも取り付ければ良い訳で、ジオンはコロニーを阻止限界点まで運び込めば作戦成功となる。

ワイアットは月へのコロニー落としの情報を先んじてキャッチしていた。
元より連邦は、ルナツーの観艦式の後、ジオンを殲滅するというシナリオ。バスクの率いる地球圏の外郭軌道艦隊がアステロイド・ベルトから流れてきた小惑星を地球に向かわせ、その石がソーラレイを打ち抜き無力化。その後、ワイアット艦隊とバスクの艦隊による包囲殲滅戦という流れだった。

ギレンはデラーズの奮闘に応えるべく、デギンとキシリアに全艦隊の8割以上で迎撃を任せた。ギレン自身はソーラレイの防衛に回った。地球に落とす予定のコロニーをシーマに、月のコロニーにはマ・クベに陣頭指揮を取らせた。

ワイアットは艦橋の艦長席で優雅に紅茶を嗜んでいた。
戦況報告を受けていたが、状況は良いという報告だった。

「うん。敵も何やら時間稼ぎをしているようだが、我々も時間を稼ぎしてもらった方が都合が良い。中々バスクの土産の到着が早くはないからな」

「そうですね。将軍、月より救難信号が発せられております。コロニーをジオンが月に落とそうと企んでいるそうですが・・・」

そう副官より報告を受けたワイアットは少し考えた。月にコロニーを落とすことは彼らにとってはスペースノイドの支持が欲しいことに反する行為だ。恐怖で支配しようとするのかと。どちらにせよソーラレイがある限り、艦隊を派遣することは自殺行為に等しい。が、それを無視するにもやぶさかではなかった。

傍にいる部隊を副官に確認したところ、どうやらシナプス部隊が一番近いようだった。
ワイアットはシナプスがGP03の受領が終わっていることを報告で受けていたため、効果というよりは既成事実で連邦がそれなりの戦力を派遣したということが欲しいがため、月の防衛を命じた。

「よし!シナプスへ連絡。月のコロニーの件はそちらに一任すると。但し無理はしないこと」

「はっ。直ちに通信致します」

ワイアットは再び紅茶に口を付けていた。そして戦略的視点で考えを巡らせていた。

「(月は月で何とかするに違いない。連邦の体裁で一応公式記録として防衛派遣をしないとね。艦隊を割くにしても、ソーラレイがある限り身動きも取れないからな。単艦という手前で奴らが侮ってくれたら良いんだがね。モビルスーツ1個大隊の火力をもつ彼らならそれなりの成果を得られるだろう」



* ギレン艦隊 ソーラレイ宙域 同日 10:20


ギレンの座乗艦はグワジン級の艦艇だった。艦橋の艦長席に座り佇むギレンは、この星の屑作戦について宇宙の支配圏を手に入れるための前哨戦であった。

傍には木星帰りのシャリア・ブル大尉が立っていた。ギレンは能力ある士官を重宝した。彼が指揮するモビルスーツ隊はジオンの中でも屈指の精鋭であり、親衛隊としてギレンは常に傍に配備していた。

今回は親征と銘打って、グレートデギンと実戦司令官としてキシリアを前面に出していた。ギレンはこの戦いを機にジオンの権力を自分一つにまとめようとも考えていた。

つまり、混戦模様でのソーラレイの誤射。それにより連邦とデギン、キシリアと葬り去ることを企てていた。

当の本人らはそのことを知らない。自分はア・バオア・クーにて後詰で戦況を静観していると伝えてあった。

ギレンはドズルを葬って以来、すこぶる親族の受けが悪くなっていた。しかし、ギレンは政務に打ち込むことにより野心のないことを姿勢で示していた。あれは誤射だったと。デギン、キシリアともに追及の手を(こまね)くことになった。

ギレンはシャリアに語り掛けていた。

「フフフ・・・この作戦で邪魔な奴らが全て消える。私の覇道もこれに極まることよ」

「はっ、さすが閣下です。ここまで苛烈なこと、誰も成し得ません。私も恐怖を覚えます」

「そうだな。それにやはり質が良ければ、それ程物量自体は重要ではない。ビグザムの戦闘力を見てそう感じた」

「今の本隊の戦力を重要視しないということですか・・・」

「そうだ。貴様とアクシズからの同志とフロンタルの技術。フロンタルがよもやキシリアから離反するとは期待してはいなかった。奴の底がよく見えない。使えるうちは私も利用しよう。元より奴も利用しているようだがな」

「閣下・・・では、そのうちフロンタルを消しますか?」

ギレンはシャリアの言に首を振った。

「いや、奴は派閥を持たぬ。ジオンの中ではさほど危険ではないだろう。奴は何やら奇妙な箱の製作・研究に努めているようだ」

「奇妙な箱?」

「ああ、人の思念が宇宙を破壊すると。馬鹿げた話だ。呪い殺せるものなら、当の昔に私の野望も叶っているものだ。だから放置してある」

シャリアは顎に手をついて、考え込んだ。シャリアもフロンタルに会ったことがあった。彼からシャリアに対して、「君にも素質があるな。ギレン閣下のために伸ばしていくと良い。それが私の希望でもある」と言われた時、何か良からぬ疑念がシャリアに植え付けさせた。

艦橋に1人の金髪碧眼の少年が入って来た。ノーマルスーツを着込んでいた。その眼光は鋭く、フロンタルによって、フラナガンで調整されたとも噂されていた。

「ギレン閣下。私の部隊の最終演習が完了致しました。いつでも配備可能です」

「そうか、ご苦労グレミー」

その少年はグレミー・トト。弱冠13歳にして、フロンタルにより素質を見出された逸材であった。
最近になってアクシズとの交流で、反ギレンはである者たちの中で、グレミー等がアクシズの技術力を持って、ギレンに仕えていた。

シャリアのグレミーを見て、その末恐ろしさを肌で感じていた。

「(何たるプレッシャーを抱えているんだ。ギレン閣下はこの少年を恐れてはいないのか・・・)」

言わずともグレミーを恐れているように見えたシャリアにギレンが気づき、笑っていた。

「ッハッハッハ。シャリアよ。グレミーを怖がっているのか?相手は高々少年だぞ。ほんの少しできる奴だがな」

ギレンの言葉にグレミーも笑っていた。

「っくっく・・・確かに。総帥の言う通りですよ大尉。私はちょっと変わっておりますが、ギレン閣下の大願成就のために尽くすだけです」

シャリアは2人の返答に言葉が出なかった。化け物が2人目の前にいることに居心地の悪さを若干感じたため、その場を後にした。

「閣下。自分はモビルスーツ隊の様子を見に行って参ります」

ギレンはシャリアの気持ちを汲み、許可した。

「すまんな。私一人でも持て余すだろうにお前には苦労かける、シャリア」

「い・・・いえ。閣下の覇道に役立てることができるならば・・・」

そう言ってギレンに敬礼し、シャリアはモビルスーツデッキへ向かった。

シャリアが着くと自分の部隊配下でアクシズからの有志であるラカン・ダカランがシャリアに近寄ってきた。

「大尉!どうしましたか?少々憔悴しているようですが・・・」

ラカンは心配そうに声を掛けてきた。シャリアは手で挙げて「大丈夫だ」と伝えた。

「お前の支持するグレミーの雰囲気に当てられてな・・・。ちょっと根負けしたのだ」

「成程。私にはよくわかりませんが、彼の胆力は13歳とは思えないものです。彼の下なら私の才能を存分に発揮できると思ってね」

シャリアはラカンの期待に興味を示した。

「お前の才能か・・・。貴官の望むものは、グレミーに期待するところとは?」

ラカンは神妙な顔つきでシャリアに答えた。

「私にもそれなりに野心があります。国の一つでも制して王にでもなれればと思い、覇道を志すグレミーに付いてきました」

シャリアはラカンの告白に笑っていた。

「フッハハハ・・・。完全にギレン閣下への反逆とも取れる答えだな。グレミーも覇権を狙っているのだな」

「ふん、悪いか。ギレン閣下と言えども人間だ。グレミーもそうだが、男に生を受けたからにはでっかく生きたいもんだろ!」

シャリアは更に笑った。ラカンは赤くなった。

「そんなに笑うことはなかろう!」

「・・・っつ・・いや、すまないな。はあ~、ラカンよ。それ程分かり易ければ、問題ない」

ラカンは落ち着きを取り戻し、別の話に戻した。

「ところで大尉。我々の出番はいつですか?」

「戦況次第だ。うるさい両軍が消えた時、我々の出番がやってくる。ちょっとばかりフロンティアになるが、それだけ平らげるにはやり応えがあるだろう」

「ほう。それはそれは・・・。武人として誉れ高いことよ」

ラカンは自信満々で胸を張り、シャリアに語った。シャリアはギレンの計画を興味深く思っていた。
限られた、選ばれた者しかこの先生きる価値なしと。自分にも少し思い当たる節を感じた。それは木星を見た瞬間、「なんと・・・スケールが違う・・・」と。

今までの人生を否定された、あの圧力に触れたことに地球に囚われている地球圏の人たちをとても小さく切なく感じていた。それを打開しようとしているのがギレンだった。

「まあ、ラカンよ。私が思うところは人類の革新である故に、お前の働きも期待することにしよう」

「ああ、大尉。新しい世界を私が見せてやる」

そう言って、2人は自身らの新モビルスーツを眼下に見下ろしていた。


* フォン・ブラウン上空 同日 15:00


マ・クベは艦隊をもって廃棄されたコロニーを月に落とすとフォン・ブラウン市へ警告していた。

「フォン・ブラウンよ。選択の時だ。生憎我々の移送中のコロニーは推進力を失い、フォン・ブラウンに墜落を免れない。ただ、君たちの選択で、推進力を得ることによりそれが回避される。が、君たちもその時は共犯だ。地球のひとたちは君たちを許すことはないだろう。元々、虐げられた者たちがスペースノイドだ。ここで地球との決別をする機会が与えられたのだ」

マ・クベは艦橋で放送をし終えると、フォン・ブラウン市のカメラ映像を艦橋のモニターに映した。案の定大混乱だった。暴動に近い騒ぎで、皆、港へ急いでいた。

「・・・ここまで易く予想できることはないな。市場も大混乱だ」

マ・クベの言う通り、フォン・ブラウン関連の株価が軒並みストップ安に転じていた。ギレンはそれを利用し、空売りをしていた。既にマ・クベはアナハイムの常務のオリサバンとの密約が済んでおり、最大限の利鞘タイミングで月へ向かうコロニーに推進力を与えようとしていた。

そこに敵襲の報告がマ・クベの下へウラガンからもたらされた。

「マ・クベ様。艦隊の後方が単艦にて攻撃してくる愚か者がいるみたいです」

マ・クベはウラガンを横目で睨みつけた。再び混乱極まるフォン・ブラウンの映像に目を戻した。

「単艦でできることなど何もない。さしあたり、ワイアットの差し金だろう。言わば演技だな」

マ・クベは戦略的なことを看破していた。大軍で率いることはソーラレイの的になる。しかし、フォン・ブラウンを見捨てることも連邦では不利に働く。一応手配したという事実を接近中の単艦に託したことを。

マ・クベは浅慮だと一瞬で悟った。単艦で向かわせること自体の効力が薄い。ワイアットが止めに寄越した敵だ。単艦で打開できる何かがあるかもしれない。自身の成功の秘訣は深慮遠謀だった。マ・クベは少しの油断も見せることはなかった。

「ウラガンよ。艦隊の半数を割いて、後方の敵を迎撃せよ」

ウラガンは耳を疑った。何故単艦で艦隊の半数を使う必要があるのかを。マ・クベは反応しないウラガンに再び命令した。

「聞こえなかったか。艦隊の半数で迎撃せよ。ワイアットを甘く見てはならない。単艦で目指す後方の敵は量より質で挑むつもりだ。鶴翼にて前進を阻み、包囲殲滅を図れ」

「はっ!」

ウラガンは後方の部隊に命じ、敵艦を包囲するような陣形で待ち構えることにした。

一方、マ・クベの艦隊を追跡してたアルビオンはシナプスを始めとする皆が一致して、後方より強襲を掛けられると踏んでいた。単艦での敵の侮りを期待しての事だった。

コウはアルビオンに牽引されたGP03に乗っており、いつでも出撃できる状態であった。

「・・・よーし。全て頭に叩き込めたし、コロニーをこれで止めてやる」

そう生き込んでいたが、ルセットの通信により出撃が見送られたことが伝わった。
コウはルセットに理由を聞いた。

「何故ですか?敵は目の前で、我々を侮っているのでは?」

モニターに映るルセットは残念そうな顔をしていた。

「敵は、侮らなかった。我々単艦に対して、数百ものの砲手がこちらを鶴翼にて待ち構えているそうよ。いくらGP03が1個大隊の戦力でもピンポイント攻撃には及ばない・・・」

「・・・分かりました。待機します」

コウはコックピットの中で瞑想に入った。

アルビオン艦橋でコウに通信を送ったルセットは通信士にお礼を言って、窓際で佇むニナに声を掛けた。

「ニナ、私たちで仕上げたガンダムで月を救えるチャンスだったのにね」

「そうね。そうすれば私たちの覚えもかなり良くなるはずだったのに・・・」

「まっ、そう上手くいくもんじゃないね。・・・貴方とガトーさんのようにね」

後半の言葉は囁くようにニナに伝えた。ニナはカッとなった。

「ルセット!」

ルセットは笑って、ニナを(なだ)めた。

「フフフ、ちょっとブラックジョークだったかしら。まあ終わった男のことなどいつまでも考えていないで、あの若い子のこと。どう思うの?」

ニナはコウのことを言われて、複雑そうな顔をした。

「・・・コウは・・・私の仕事を手伝ってくれた。良いひとだけど、そこまでよ・・・」

「ふ~ん。じゃあ私が頂いても文句はないのね」

「えっ!」

ニナは引き続き複雑そうな顔をして、ルセットを見ていた。

「私さあ~、あんな不器用なひと。ちょっとそそられるのよね~」

そう言って、ルセットは艦橋から出ていった。ニナはガンダムを託したコウについて、特別な感情を抱いていないと言ったら、正直自信がなかった。

その傍にて艦長席にゆったりと構えていたシナプスがバニング、アムロと話し込んでいた。

「艦長、敵はどうにも油断ならないらしいですな」

バニングがシナプスに話すとシナプスは頷いた。

「ああ、艦隊を率いる程の司令官だ。私の様な単艦を統率する者とは視野が違うみたいだな」

アムロもその意見に賛同していた。

「そうだな。あの布陣ではいくらオレでも突破は難しい。仮に突破できても補給が切れて、敵中に孤立するだけだ」

「レイ大尉の言う通りだ。元々、ワイアット将軍も出来レースだと私に言ってきていた。まあ隙があれば仕掛けて混乱させても良いということだった。その時間が戦局にもたらす上で有利に働くと」

シナプスがワイアットからの命令でマ・クベ艦隊のコロニー奪取と追撃を受けていた。結果はどちらでも良いと言っていた。月の住民もコロニーを地球に向けるよう工作するだろうと。

先にコロニー落としの情報を公式的に掴んだのは月へのものだった。月から進路変更して飛んでくるコロニーとマ・クベの艦隊がジオン本隊との戦いの最中通過しようものなら、ワイアットは戦力分散をせざる得ない。しかもジオンはもう一つコロニーを飛ばすという作戦情報もある。

結局のところ、時間差でコロニーを同時に処理しないような作戦をワイアットは取りたかった。シナプス隊の動きはマ・クベの油断を誘うことなく、それに反応してくれた。マ・クベの艦隊運用がワイアットの作戦段取りの時間稼ぎにもなった。

そろそろ潮時かとシナプスは考えた。そしてこの場を離れ、ジオンの本隊の抱えるコロニーに取りつくことを考えた。シナプスはそれを2人に話した。

「さて、ワイアット将軍の目論見は一定の水準が得られたと思う。敵の艦隊運動がこちらに向いたことで再び再編する時間を要する。後は月が動くだろう。その前に進路を変更し、ワイアット艦隊とジオン本隊との交戦の最中を狙って、横槍を入れるとしようと思うが・・・」

アムロはシナプスの意見に頷いた。

「ああ、もはや先んじて止めやすい方から片づけるのが良いと思う。本隊戦力同士が繰り広げられるなら、今の状態よりは隙があるはずだ」

「そうだな。レイ大尉の意見に賛同する」

バニングも同様に述べた。

「決まりだな。本艦はこれよりワイアット艦隊の交戦地点まで転進する」

アルビオンは包囲される前のマ・クベ艦隊から逃れるように進路をとり、ワイアット艦隊の交戦宙域を目指した。それを確認したマ・クベは艦隊を再び戻し、徐々に近づきつつあるコロニーとフォン・ブラウンの混乱を眺めていた。

「さて、私らはゆっくりと脅しをかけてから地球へ向かうとしようか・・・」

マ・クベはそう呟き、自身も口座にて空売りを始めようとしていた。


* ジオン本隊 グレートデギン艦橋 同日 17:00


後方から着々と進行してくるコロニーの前に布陣するようにジオンは部隊を展開していた。
この頃になると、リック・ドムⅡとゲルググJが主力MSであり、連邦はジムやジム・カスタム、ジム・キャノンⅡが主力であった。

3年前からあるモビルスーツも様々な改善点、改良を繰り返し、3年前とは比較にならない性能を両軍とも所有していた。

先に戦っていたデラーズ艦隊がジオン本隊が到着すると、艦隊再編のために後退した。
グレートデギン艦橋には公王とが座しており、その傍にキシリアが立っていた。

モニターに映るデラーズはその2人を確認するや否や、最敬礼を取った。

「公王陛下には置かれましては、このような戦いに運び頂き、我々兵士共光栄であります」

その姿にデギンは軽く手を前に出し、労いの言葉を掛けた。

「よい。お前たちの働きにより、我々のジオンの思想が実現しようとしている。私はただの飾りにすぎぬ。実戦指揮はこのキシリアが取ることになる」

紹介に預かったキシリアはデラーズの戦を褒め称えた。

「デラーズよ。よくぞここまで凌いだ。後は我々がワイアットを引き受ける」

「はっ、一度再編して参ります」

「ああ。兵士共にも休養を取らせてから、迂回して強襲を掛けてもらうつもりでいる。追って指示を待て」

キシリアの命にデラーズは敬礼をし、通信を切った。
デギンはキシリアに戦況について確認した。

「キシリアよ。今はどのような状況だ」

キシリアはデギンに分かり易いように説明を努めた。

「父上。敵は我が方の3倍はあるでしょうが、ソーラレイにより、全軍投入しての軍事作戦が取れないことに活路があると思えます。仮に戦闘中でも、コロニーがこの宙域を通過する話ならば、連邦は止める手立てはありません。要は我々は負けない様に戦えば良いのです」

混戦中にシーマ艦隊が持ってくるコロニーが通過すれば、取りつく暇もなく、かつワイアット艦隊の中枢を分断しながら、ワイアットの艦隊はコロニーか目の前のジオンかの2択を求められ、混乱をきたすのではとキシリアはギレンの分析の受け売りを追加でデギンに伝えていた。

元々、ジオンの作戦としては、このワイアット艦隊は無い想定であった。しかし失敗は付き物で、それについてはギレンは

「常に2手3手と先を読むものだ」

と言い、現行でも作戦実行可能な立案をしていた。それについて、同じように考えていたのはキシリア配下のマ・クベぐらいだった。

一方のワイアットは紅茶を嗜みながらも時計を見ていた。

「(まもなくかな・・・)」

すると、期待していたものとは違う報告がワイアットへもたらされた。

「将軍!我が軍の左翼より、敵源。反応は1つ、モビルアーマーサイズです」

ワイアットは左翼へそのモビルアーマーを止めるように指示を出した。

左翼のモビルスーツ大隊の隊長はソロモンの生き残りでもあったスレッガー大尉であった。
ジム・カスタムに乗り込んでいたスレッガーは瞑想していた。

「(ふう・・・あの時と同じ感覚だ。何か嫌な気配がするな・・・)」

それはソロモンのティアンム艦隊の敗北についてであった。
スレッガー自身で既視感を感じた。スレッガー並のエースになると、自身の勘を頼ることが生き残ることだと思っていた。

オペレーターより出撃命令が出ると、スレッガーはカタパルトにジムを載せて、出撃した。

「スレッガー・ロウ。出るぞ」

あの時の出撃で相手してもらう女性オペレーターはいない。ジョークを飛ばすような剽軽さも最近では余り出さなくなったなと自分でも思っていた。

スレッガーの周囲を数10機の味方機が編制を組んでいた。
目標となるモビルアーマーは大型故に的になり易かった。

「よーし。全部隊散開するぞ。まず味方の援護射撃が先だ」

スレッガーの命により全機が散開し、後方の味方艦がそのモビルアーマーに目がけて主砲を斉射した。
しかし、その主砲はそのモビルアーマーに当たらなかった。スレッガーは目を顰めた。

「(避けていない・・・当たっているはずだが・・・)」

スレッガーは最近のサイエンス記事を思い起こしていた。ビーム兵器を偏光できる技術の存在を。
全機にそれを伝えた。

「奴さんはI・フィールドシステムをお持ちのようだ。実弾兵器じゃないとダメだ」

スレッガーは味方機で実弾兵器を持つもの以外を下がらせた。そしてそのモビルアーマー目がけて射撃を行った。

モビルアーマーは実弾を見るや否や、回避行動を取り、返す刀で肩部ビーム砲を斉射し、有線アームクローでモビルスーツ隊を薙ぎ払っていった。

「何という戦闘力・・・」

スレッガーはそのモビルアーマーから距離を取り、実弾装備による砲撃を放っていた。
ガトーはスレッガーの実弾攻撃や間の取り方など、かつての戦場で経験した相手を思い起こしていた。

「この攻撃は・・・ソロモンで私に一撃を加えた奴か・・・」

ガトーはノイエ・ジールをスレッガーに目がけて急進させた。その速さに周りのジム・カスタム等が付いて行けない。スレッガーは大型特有の旋回不利、所謂小回りが利かない点を小さいジム・カスタムの優位性で活かし、ガトーの攻撃で散ったモビルスーツらの点々と残した実弾兵器を交換しながら、ガトーに攻撃を加えていた。

「・・・っぐ・・・中々やりおるな・・・」

スレッガーの放った一発がノイエ・ジールの肩部を軽く抉っていた。

「やっと当たったか・・・」

スレッガーは次々と場にある実弾兵器を場所を変えて、ガトーの有線アームクローやビームサーベルを避け切りながら、攻撃をしていった。

「この、蚊トンボめが!」

ガトーはスレッガーの攻撃に翻弄され、いつもの太刀筋を見失っていた。そこにガトーにとっては別の敵が現れた。

「沈めーっ!」

コウがアルビオンより一足先にスレッガー隊の左翼に到着していた。GP03の大型ビーム砲をガトーに目がけて、叫びながらガトーへ放った。

「なっ!・・・ええい!」

ガトーはI・フィールドジェネレーターを限界まで上げ、コウのビーム砲を凌ぎながらもその砲撃の反動で後方へ吹っ飛ばされた。そして態勢を立て直し、眼前に迫るGP03に対し、ビームサーベルで斬りつけた。コウもオーキスのビームサーベルで応戦した。

「ぬう・・・この大型め」

「その声はガトーか!」

接触している間、互いが直接声を交わせる環境にあった。
ガトーはその大型に乗るコウに気づいた。

「ほう、あのときのウラキか・・・互いに図体大きなものを操るとは何たる因果か・・・」

「そうだな・・・しかし、お前らの企みをオレが止める。そのためにまずお前を超える!」

「この私を超えるだと・・・笑止!」

ガトーはコウを鍔迫り合いにて強引に吹き飛ばし、ビーム砲を放った。しかし、GP03もそのビーム攻撃を偏光させた。

「貴様もI・フィールドか」

ガトーは有線アームクローでコウを攻撃した。しかし、スレッガーがその線を横からビームサーベルで断ち切った。

「なっ!・・・こいつがいたことを忘れていた」

ガトーは少し距離を取り、スレッガーに目がけてビームの嵐を放った。GP03は全て偏光させたが、周囲のモビルスーツは次々と爆散していった。スレッガーも避けるのに必死だった。

スレッガーはGP03の装備を見て、通信でコウに語り掛けた。

「おい、そこのパイロット」

コウはスレッガーの応答に驚いた。

「はいっ!何でしょうか?」

「実弾武器はあるのか?とびっきりのやつとか?」

コウは全方位追尾型ミサイルポットの存在を伝えた。スレッガーは「そいつをあのデカブツにお見舞いしてやれ」と言った。

コウはスレッガーの言うことに従い、ノイエ・ジールに目がけてミサイルポットを放った。放ったミサイルポットの目標が全てノイエ・ジールに目がけて追尾して行った。

「南無三!」

ガトーは無数の小型ミサイル群の接近にビームで薙ぎ払ったが、全ては撃ち落とせず、ノイエ・ジールの部分的各所にミサイルが直撃していた。

「ぐっ・・・」

ガトーは衝撃でコックピット内が上下左右に揺れた。ダメージ損傷率とエネルギー残を確認し、これ以上の戦闘継続は難しいとみて、その場を去り、デラーズ艦隊へ向かって行った。

ガトーは艦隊へ向かいながらも、パイロットスーツの腕の部分に負担の掛かる肉体への即効性鎮痛剤を注射していた。

「っぐ・・・ふう・・・」

ガトーは一息付き、ノイエ・ジールの初実戦とハスラー提督の話を振り返っていた。

「(少しやり過ぎたかもしれん。ここまで損害を被るとは思いもよらなかった。そして、ゼナ様の言が真であるならば、このジオン本隊が危険かもしれない。デラーズ閣下はギレン総帥の懐刀。それを承知で加わっているのか・・・)」

ガトーはギレンの出方次第でゼナの下へ参じようかと考えていた。

「(デラーズ閣下が主と仰ぐ総帥の器量をこの戦で見極めることができるかもしれん・・・)」

今のジオンの思想はガトーの思い描くものとはかけ離れているようで、ただ戸惑っていた。
ガトーの志は連邦に対するスペースノイドの権利主張のために戦っている。ジオンはそのような支持者の集まりであると考えていた。

しかし、ギレンはその中でもさらに選別しようと考えていると噂されていた。その選別方法は肉親ですら除外するほどの苛烈さ。敵味方問わずに進めていく覚悟や実行力にガトーは不義理にしか思えなかった。

コウは去っていったガトーをカメラの望遠で眺めた。自分に悔しさを覚えていた。
もっと上手く扱えていたら、斃せたかもしれないと。

「ガトーめ・・・まだ、オレの腕が及ばないのか・・・」

その科白を聞いていたスレッガーはコウに語り掛けた。

「そうだな。ガンダムのパイロット。あのモビルアーマーを相手にはお前さんじゃあ、ちょっと足りないかもな」

「足りない?」

「そうだ。熱くなると見えなくなる。お前さんに必要なのは<客観視>だね」

コウはスレッガーに言われたことを少し考えた。そして周囲を見渡した。
ノイエ・ジールが荒らした戦場でスレッガーの部隊はそこそこの被害だった。

「客観視?」

「そうだ。情熱やこだわりである程度の技術向上はできるかもしれん。しかし、その先の成功を収めるためには自分をそこにおいて全体を把握する必要がある。戦術レベルで何かを取り組むにしても、その戦場を戦略的に見る、空間的に把握する必要がある」

コウはスレッガーの話に耳を傾けていた。

「オレみたいな部隊を指揮する立場の人間はそういう技量を鍛えているのさ。凡人ならでは効率よく動ける様にすれば、それ程第六感のようなものが無くても最善の手を選べるようになるのさ。最善の手は大抵安全だ。それを選ぶことにより、部下も死なないし、自分の生存率が高くなる。それは敵を倒せる確率が上がるってことだ」

コウは下を向き、反省していた。自分の仕事は早くモビルスーツに慣れること。それでこの火力を全面に発揮し、敵を倒す。その事だけに執着していた。しかしその全面に発揮するという点において、コウの考え方では発揮できないということを突き付けられていた。

スレッガーは反応のないコウの様子を汲み取り、宥めるように話し掛けた。

「オレはこの部隊長のスレッガー・ロウ大尉だ。まあ・・・その技術ならば、まだ若いってことさ。伸びしろなどいくらでもある。今日の教訓を意識して、動くことこそが大事なのだよ」

コウは部隊長のスレッガーから挨拶されたことに反応し、上官であることに敬礼していた。

「ロウ大尉!小官はコウ・ウラキ少尉と申します。アルビオンのシナプス隊のパイロットです」

スレッガーはシナプス隊と聞いて、ワイアット将軍から聞いた援軍の話を思い出した。

「そうか。君たちが主攻の要か・・・」

「主攻の要?」

「ああ。月のコロニー落下防衛の陽動と演技。そこからの主戦場への転進。そして、オレら左翼の攻撃による地球へ向かうコロニーの落下阻止。君たちの働きのお蔭で、我々はこのように真向からジオンを対峙できる。さもなくば、艦隊から多少は月に派遣せねばならなかった」

コウはワイアットの大局を見る目に感銘を受けていた。シナプス隊の効果のないような行動が全体を活かしていたことを。
スレッガーはそんな反応をするコウに心配して、語り掛けた。

「客観視も行き過ぎると、将軍のような全体把握をするようになる。あの辺の人の住まう世界は我々とは大分違うな。真似するものではない。月は脅しに屈し、地球へコロニーを送るだろう。ワイアット将軍もそこは既定路線だ。月は地球から恨まれる発想を連邦という世界警察が全てはジオンの罪として、月に恩を着せるということを狙っている」

「そのために小官らを派遣したのですか」

スレッガーは部隊の再編を副長に任せる指示を出していた。コウの質問にも、副長へ命令した後に答えた。

「そうだ。体裁は必要だ。この戦いで更に連邦の力が誇示されるだろうよ。そのための布石として、まずは連邦が月も全くは見捨ててはおりませんと言わんといけない」

スレッガーは笑っていた。コウもその意見に同感だった。

「そうですね。恩の売り買いで本当の被害者である市民をないがしろにしています。人情味とはちょっと掛け離れますね」

スレッガーはコウの回答に頷いて答えた。

「その通り。全てが駒なんだ。それが世界の上に立つ者の考え方だ。オレも手の届く距離のものでも守れればいいさ。それ程欲深くはない。欲をかいて良い試しがないからな。将軍クラスになると最善な手がまるで悪手のように感じる。訳が分からないと思う。何事もバランスは大事で、その中で客観視を鍛える。まあ、少尉がそのクラスまで望む話なら別だが・・・」

コウは軽く首を振った。

「やめておきます。当面の目標はあのモビルアーマーを倒すこととコロニー落下阻止です。そのための空間認識を鍛えていこうかと」

「懸命な判断だな。まあ期待してるぜ少尉。何せ、そのガンダムが期待の証拠だからな」

そうスレッガーがコウに激励すると、傍に石ころが急に増えてきた。
スレッガーはようやく到着したかと思った。

一方のコウは急に増えだした小惑星の石ころに驚いていた。

「なんだ、この石は・・・」

スレッガーはコウにこの石について説明した。

「少尉。これがジオンに打ち勝つための手段だそうだ。物量兵器だ。これはどんな決戦兵器でも太刀打ちできないだろう。しかし、これもまたいい考え方ではない。核を生み出した人類はソーラレイという決戦兵器を生み出し、これからも更に危険な新兵器開発の考えが増長して、いずれは身を滅ぼすのかもしれないな・・・」

コウはスレッガーの話を聞いて、自分の乗る機体についても同様のことを考えた。

「これもまた、危険思想な代物なんでしょう」

「ああ。そうだな。オレのジム・カスタムもそうだ。しかしそうは言っていられない時代な訳。なんか切ないよね~」

スレッガーとコウは流れゆく小さな隕石が流れ、戦場に向かう様子を感慨深く眺めていた。
 

 

23話 数々の星屑たち・・・ 5.12

* ソーラレイ宙域 クワジン級 ギレン艦 艦橋 5.12 9:00


ギレンは艦長席にて、数々の戦況報告を受けていた。ほとんどが悲鳴に近いものだった。最初は小さな石が少し飛来してきただけだった。しかし時間が経つにつれ、それが大きくなってきて、更に量も増えた。それが四方八方からソーラレイに向かっているということだった。

ギレンの手持ちの戦力での打開はいわゆる機械相手ならばできたが、自然の驚異に関しては無抵抗だった。

ギレンは頭を抱えた。ワイアットの企みが明らかになったが、地球圏内だけしか目を向けていなかった自分の視野の狭さを呪った。一統治者としての限界もあったのかもしれない。それを言い訳にすることはできない。起きたことにどう対処するか、それを考えていた。

「(とりあえず、掛ける保険は掛けておいた。この事態でもそれが対応できるかもしれん。地球を汚染するためだったが・・・。已む得まい。後はあの女豹がどう変わるかに期待だが・・・)」

艦橋にシャリアが現状の報告にやって来た。何度も往来してきていたが、相変わらず表情が硬い。

「総帥・・・。ソーラレイは完全に使用不能に陥りました。あの石の大軍を処理するには許容がありません」

「わかってる。全ては私の責だ。これで前線は崩壊するだろう。しかし、戦況とは終結を見るまで、どう変わるかはわからんぞ」

「ど・・・どういうことでしょうか・・・」

「情報は得てして、様々な姿を見せる。連邦がこの決着を望まないものに期待でもしようか」

人心について、統治者であるギレンには関心事であった。連邦は内部で派閥闘争に明け暮れている。そこに付け入る隙がいくらでもある。ギレンは様々な種を撒いた。それが開花せずとも、芽生えればよい。その工作がこの3年間という連邦からの統治権の保持を獲得できていた。

ジオンの勢力維持にソーラレイもあったが、連邦は経済制裁などでジオンを崩壊に追い込むこともできた。しかしそれが出来なかったのも彼が人心を利用していたに尽きた。目先の利をちらつかせれば、それにいとも容易く食いつく。

戦火を利用とする愚者たちは中々の力を持っている。それが市民生活に一部となっていれば尚更だった。それがアナハイムやハービック、ヴィックウェリントン等・・・。

ギレンは前線の様子を確認した。

「ところで今公王の艦隊はどうなっている?」

オペレーターが状況を確認して、ギレンに伝えた。

「はっ。敵はこちらのソーラレイ使用不能が伝わったらしく、鶴翼陣形にて公王陛下の艦隊を半包囲しようとしております。シーマ別働艦隊は公王陛下の中央を割って入るようにコロニーと共に侵入しようとしております」

「ほう」

ギレンはシーマの動きに期待していた。混戦模様になって、ワイアットの間を割くようにコロニーが侵入する。阻止限界点からは大分距離がある。それを包み込むように連邦も殺到するだろう。

シーマにはその命と地球の大気圏内にて、各都市への攻撃用のミサイル群を発射させる装置を持たしてある。コロニーにそのような細工をしていた。全てのミサイルが非公式での入手、つまり核だった。

「元々、南極条約を破って来たのは連邦の方だからな。もはや効力などあるまい」

「は?」

シャリアはギレンの独り言に驚いた。総帥はまた何か思惑がある。それも過激なもの。シャリアはあえてそれについては言及しなかった。たまに苛烈さにあてられて、気の迷いを生じる時があった。自分の理想を求める上では汚れ仕事も必要だと分かってはいるのだが、気が引くのは良心が残っているからだった。


* ワイアット艦隊 ジオン本隊 交戦宙域 ワイアット旗艦 艦橋 同日12:00


ワイアットは冷静だった。特別喜ぶこともなく、隕石群の攻撃でソーラレイの無力化に成功、後始末だけだった。

「両翼、ゆったりと包み込むようにジオンを殲滅せよ」

ワイアットの号令により、戦況を映し出しているモニターが各々の動きを表示させていた。
徐々に半包囲態勢が整い、ジオンの艦隊が為すすべなく撃ち滅ぼされていく。

オペレーターが再編を済ましたデラーズ艦隊が左翼から迂回して攻撃、並びシーマ艦隊がコロニーと共に艦隊の中央を割って入ってくるという報告をもたらしていた。

「そうか。左翼に迎撃を命じろ。中央を割って入ってくるコロニーについては本隊が対処しよう」

ワイアットはオペレーターにそう伝令をするよう命じた。バスクの艦隊が戻って来て、ジオンの退路に蓋をする計画であったが、現れていない。

「(何をもったいぶっているのだバスク。完全なる勝利をもたらすためにはお前の戦力が必要とする。少し頼り過ぎたのか・・・)」

バスクはジャミトフの部下であり、コリニー派閥でもあった。今は再び地球圏統一の機会のため、内部のいざこざを無くして、挑んでいるはずだった。

「(何を企んでいるのか・・・)」

高揚できない理由がそこにあった。

一方、ワイアット艦隊の左翼に合流していたシナプス隊も戦闘の最中にあった。
無口で定評のある操舵手のイワン・パザロフ大尉が唸っていた。

「ええい!避け処がない」

アクラム・ハリダ中尉も頭を掻きながら、航路を探すに手一杯だった。

「艦長!右も左も死地です」

「なら、前進しかあるまい」

シナプスが叱咤する。それにシモンが反論する。

「艦長!それでは我が艦だけ突出してしまいます。味方との連携をとらないと」

スコットが計算機で弾き出して、効率良く戦えるポイントをハリダの手伝いで探していた。

「艦長。天底方向に敵の薄い所があります。後退するにも後ろからの味方の前進に阻まれておりますので、そちらに一度退避がよろしいかと・・・」

シナプスはスコットの意見を聞き、ハリダの確認を取り、即決した。

「よし!スコット軍曹。モビルスーツ隊に入電。本艦は戦闘宙域の変更をする。各自遅れずに移動せよ」

「了解。各パイロットに通信文を送ります」

スコットは急ぎで通信文を打ち込んでいた。その傍でニナとルセットは不安そうに戦況を眺めていた。
その姿を見たシナプスは2人に謝罪した。

「ニナさん、ルセットさんと呼んでも良いかな?」

ルセットはシナプスの問いかけに頷いた。

「ええ。大丈夫ですよ。と、この場で大丈夫という言葉が当てはまるのか疑問ですが・・・」

「そうですな。お2人共民間人であるにも関わらず、巻き込んでしまっている。絶対に生きてアナハイムに戻す事お約束致します故、もし具合が悪ければ、自室にてお休みください。仮に戦場から離れることのできる機会があれば脱出していただきます」

激戦の渦中にあるアルビオンの中にいる民間人の2人にとっては戦場は異質なものであった。
2人とも艦橋に残ることに決めていた。理由は死ぬならば、艦橋で自分の死ぬ状況を知って死にたい。閉鎖的な部屋で恐怖に駆られている方がよりストレスなためだった。

「いいえ、艦長。ここにルセットと共に残ります」

「ええ。ニナの意見に賛同しますわ。艦長、ここに残らせてもらいます」

シナプスは覚悟を決めた2人の顔を見て、再び戦況モニターに目を戻した。そして1つ付け足した。

「よくわかりました。だが、軍人としては貴方達を脱出できるタイミングで脱出させます。それは肝に銘じといてください」

2人ともその話に無言で頷いた。

ニナは戦場のどこかにいる2人に気持ちを馳せていた。

「(コウ・・・ガトー・・・。どうして、貴方達が・・・)」

ルセットはニナの複雑そうな顔を見て、また悪そうな顔をしてニナをいじることにした。

「ニナ~。また両天秤に掛けているでしょう。貴方、そんな優柔不断だと良い事ないよ~」

「なっ・・・ルセット。ほっておいて!」

ニナは図星を当てられて、ルセットに怒っていた。
ルセットはこんな死地でもこのようにはしゃげる環境にいられることをニナに感謝していた。

バニングはこれで10機目のゲルググをアデルと共に撃墜していた。モンシアとベイトは補給と休憩のため、アルビオンに帰投していた。そのため前線に出ているのはバニング、アデル、アレン、キース、アムロとコウだった。

戦い始めて、丸1日経っていた。戦闘は疲労との戦いでもあった。迂回してきたデラーズ艦隊を迎撃し、そこを突破してコロニーに取りつくつもりであった。

戦略的には既に勝敗はついているのだが、依然敵の戦意は衰えていない。彼らにはまだコロニーがあった。

そしてコウの前に再びノイエ・ジールが補給と修理を終えて姿を現していた。

「ガトーか!」

「むっ!ウラキか」

両者とも互いの大きな機体にすぐ気が付き、攻撃を始めていた。
スレッガーの教えを元に、コウは距離を取り、どこのポイントでの攻撃が次につながるようになるか、できるだけ見極めながら、ここまでの戦闘をこなしてきていた。その結果、ここまでの戦闘がより効率化され、弾薬の消費量や本人の体力の消耗等を軽減されていた。その事に自分でも驚いていた。

コウ自身も元々学習できる方だった。短期間でGP03も使いこなせていた。スレッガーの客観視論は自身の効率化だった。

ガトーもコウの攻撃のスタイルの変化に戸惑っていた。

「こやつ・・・動きが変わっている。厄介な方に・・・」

ガトーは攻めの姿勢から若干守勢に回ったりし、本来の積極性が為りを潜めていた。
その事に気が付いたコウは効果があると踏んで、よりガトーの動きや機体性能に不利な状況を自分の中で探しながら、ガトーの攻め手を詰めていった。

コウのガンダム自体の元より小回りが利くものではないので、ある程度の距離からビーム砲やミサイル等をガトーに浴びせていた。ビームはI・フィールドで、ミサイルは避けるか撃ち落としていた。
しかし、避け切れないものが機体に掠め、ノイエ・ジールの性能の低下を徐々に招いていった。


* クワジン級 デラーズ旗艦 艦橋 同日 14:15


戦闘については敗戦濃厚だが、ジオンのコロニーは未だ健在でそれを阻止限界点まで持っていくことのみに執着していた。負けない戦いはできるとデラーズは自身の艦隊状況を把握していた。

ところが秘匿回線でギレンからデラーズ宛てに連絡が入ってきた。

「モニター通信で会話する。艦橋に回してくれ」

デラーズがオペレーターに命ずると、艦橋のモニターにギレンの顔が映った。

「息災でなによりだデラーズよ」

「はっ。激戦の最中、兵士たちはコロニーに全てを託して奮闘しております」

デラーズはギレンに敬礼をし、直立不動となっていた。
ギレンは目を閉じ、少し間を置いてから再び見開いた。

「デラーズ。お前の艦隊をその場よりマ・クベの艦隊と合流するべく転進させろ」

「は?・・・」

デラーズはギレンにこの戦場を放棄せよという指令に戸惑いを覚えた。
ギレンは少し笑い、再度デラーズに伝えた。

「デラーズよ。その場にいるとお前も死ぬぞ。それよりはもう一つのコロニーをケアにあたれ。以上だ」

ギレンは一方的に通信を切った。デラーズは自身の艦隊を月の方角へ転進することにした。何より総帥の指令である。従わない訳にはいかなかった。

戦闘中のガトーも帰投し、その宙域の放棄について伝わっていた。
その指示にガトーは吼えていた。

「戦闘中止だと・・・バカな!」

友軍の奮闘を見捨てて、月より来るコロニーの防衛にあたるという話だった。またもや犠牲を目の前にして、大義を為そうという話だった。ソロモンのソーラレイと同じ。ソロモンの時の苛烈さのことも苦渋を飲み、ここに居る。ガトーは已む無しと決意し、後退することにした。

バニング隊はデラーズ艦隊のモビルスーツ隊がこぞって後退していく様を見た。それに追撃はしなかった。既に疲労が蓄積されて、それどころではなかった。

バニングの傍にアムロがやって来ていた。

「バニング大尉。敵が後退する」

「ああ、レイ大尉。確認している。我々もここいらが潮時だ。アルビオンに帰投しよう」

その時であった。ワイアット艦隊の中央部から閃光が放たれていた。
途方もない光量だった。

アムロ、バニング共にその眩しさに目を隠した。

「なんだ・・・一体」

バニングはただただ驚いていた。アムロはその正体を直感で感じ取っていた。

「核だ!・・・それもかなりの数」

コウもその光を見て、眼を隠していた。

「何の光なんだこれは!」

帰投中のガトーもその光に目を奪われていた。

「・・・そういうことか・・・」

ガトーは光のある宙域の情報を計算機で弾き出していた。コロニーが丁度ワイアット艦隊の先方とジオン本隊に差し掛かっていた。その宙域のグレートデギンもきっと巻き込まれているだろう。

その時、横から友軍であるシーマ艦隊がガトー含む、デラーズ艦隊へ攻撃を掛けてきていた。

「っぐ・・・おのれ!」

ノイエ・ジールはミサイル攻撃を受けて、横に揺さぶられた。
攻撃してきたムサイを見つけては、それに向かって突撃した。

「貴様らー!武人としての誇りを忘れたか!」

ガトーの怒りの一撃をムサイはまともに受けて四散した。
ガトーは無線を傍受し、シーマが連邦と内通していたという報告を受信していた。
シーマの動きは既にデラーズの旗艦を捕捉していた。

「間に合うか・・・」

ガトーは全速力でデラーズの下へ急いだ。

シーマはコロニーの制御をグレートデギンに任せて後方に下がり、デラーズ艦隊と連携して、敵左翼の迎撃に努めると報を司令部に伝えていた。

その報にキシリアは戦術的に理に適うと思った。片翼を捥ぎ取ることで中央の負担を軽減するという策は有利に働く。ましてや密集している本隊にシーマ艦隊の配置する隙間などなかったのも理由の一つであった。

そしてグレートデギンの横をコロニーが通過して行った。その巨体にデギンとキシリアは感慨深く眺めていた。

「これで、宇宙の権利、権威が世に示されるのだ」

そうデギンが語ったとき、白い閃光が艦橋を包み込んだ。

シーマは既にその光の効力に届かない距離に位置し、デラーズ艦隊へ向かっていた。
シーマの座乗艦リリー・マルレーンのモニターにはシロッコが映し出されていた。

「よくやってくれたシーマ中佐。これで君たちの連邦の席を用意することができよう。君たちが宇宙を平和に導いてくれたのだ」

シーマはシロッコの姿を見て、紅潮していた。

「ああ、アンタの言う通りにしたんだ。それなりの期待をさせてもらうからな」

シロッコは微笑を浮かべ、シーマを労った。

「当然だ。私は誠実な男だ。君の様な素敵な女性を今まで汚れ仕事を押し付けていたジオンにこそ罪があり、今その報いを与えることができた。まして君の手でな」

シーマはジオン本隊の反応の半数が消えたことが確認できていた。グレートデギンの消滅も確認している。つまりデギンとキシリアがこの世から消え去ったのだった。

ギレンは生き残っているが、それも連邦の戦力があっという間に一網打尽にしてくれるだろうと予想していた。

コロニーもワイアット艦隊が始末するのだろうと睨んでいた。それをシロッコに尋ねてみた。

「シロッコ。あのコロニーはワイアットが何とかしてくれるんだろ?」

シロッコは無言で頷いた。そしてシーマがデラーズを叩いた後に再び地球軌道上のステーションで再会しようと約束した。そのことにシーマは喜んでいた。シーマも何故自分より年下のシロッコに想いを馳せたのかはよくわからない。ただ恋愛というものは、いつの世も不可解なものだという話だった。

ワイアットはコロニーの異変により、ジオンの半数が消滅したことに戸惑いを覚えていた。
しかし、それが誰の仕業が答えがすぐにやって来た。オペレーターが通信でジャミトフからワイアットへ取り次いで欲しいという話を持ってきていた。

ワイアットは苦虫を潰したかのような顔で、残敵の掃討とコロニー内部に潜入しての進路変更を命じ、ジャミトフと通信を受けた。通信モニターにジャミトフが映っていた。

「やあ、ジャミトフくん。君がどうやら我々の戦いに水を差したようだね。まあ被害が軽微に済んだのは有り難いが、謀略は正直好かないな」

ジャミトフは苦笑し、ワイアットに語り掛けた。

「大変申し訳ございません将軍。あともうひと押し、将軍のお手伝いをさせていただきたく連絡致しました」

「手伝いだと・・・なんだ」

「はい、バスクは月のコロニーに向かわせております。将軍には作戦行動に水を差してしまいましたが、一応コリニー将軍の許可と参謀本部の許可を頂いております。そして、それを伝えるに激戦下で困難でありました。ご了承ください」

ワイアットは不満に思った。しかしこの艦隊が無事である以上、コリニー派閥を潰せる機会があることに変わりないため、言う通りにしてやることに決めた。

「わかった。結果上々なことだからな。後はギレンを潰すだけだ。それは我々でやらせていただこう」

そう話している時にワイアットの座乗艦の傍を悠々とコロニーが通過しようとしていた。
ジャミトフはその状況を見て、思い出したかのようにワイアットへ伝えた。

「あー、将軍。将軍へのお手伝い、つまりコロニー処理につきましても我々もやらせていただきたく思いまして、よろしいでしょうか?」

ワイアットは疑問に思った。コロニーの処理を遠く離れたところから作業をすることに。その時、コロニー内部に潜入した部隊から報告があった。

「将軍!申し上げます。コロニーの制御が破壊されており、手動操作での進路変更が利きません!」

ワイアットは全砲門でコロニーを破壊するしかないと考えた。部隊を編制して、コロニーを攻撃する。その報告を通信中のジャミトフも聞いていた。

「将軍。それならば尚更です。我々が爆破処理しましょう。既にこの時の為に特殊部隊を編制済みです」

ワイアットはジャミトフの提案を受け入れることにした。既に想定済みならば、それを使うのも已む得まいと。

「わかった。ジャミトフ、君の好きなように・・・」

ジャミトフは目を見開き、大いに喜んだ。

「将軍、理解が早くて助かります。では結果をすぐにでも出して差し上げます」

そう言ってジャミトフが通信を切ってから、数分後コロニーは消し去られた。
しかし、ワイアットも一緒に消えていた。

アルビオン艦橋でワイアットの旗艦の消滅とコロニーの消滅、並び宇宙艦隊の半数以上の消滅が確認された。各艦への連邦参謀本部よりの通信文がもたらされていた。

それをシナプスが受け取り読んだとき「やられた」の一言だった。

アムロもその通信文を読んだ。

「連邦本部より、ワイアット提督のコロニー処理の不備、並び連邦への叛意の意志が見られた。彼は連邦本部を自身の派閥によって支配しようと企んでいた。連邦は彼のものではない。しかし、彼はそれをコロニーを使って脅してきた。よって、コロニーレーザー<グリプス2>により、全てを処理した。各自ジオンの残敵を掃討しつつ、バスク大佐の指示の下、月から襲来する残りのコロニー処理にあたること。以上だ」

艦橋にいる全クルーが沈黙していた。

状況は2転3転していた。ソーラレイ破壊、ジオン本隊の壊滅、コロニーの消滅、ワイアットの粛正。
そして、シナプスにとって一番の悲報が通信文により連邦本部からもたらされた。

シナプスはそれを読み、ため息をついた。今度はそれをバニングが読んだ。

「アルビオンの全クルーに告ぐ、貴官らのGP03の強奪は本部としても看過できない。よって軍法会議にて裁くことになる。それまで軍事行動は控えるように」

モンシアはその文面に怒りを覚えた。

「あの堅物どもめ!現場で頑張っている奴らを何だと思っているんだ!」

艦橋にいる皆が頷いていた。しかしながら状況は4転目から5転目に差し掛かった。
シモンがある宙域からの艦による秘匿通信がアルビオンにもたらされていた。

「誰からだ?繋いでくれ」

艦橋の通信モニターに映し出されたのは若き連邦議員のガルマだった。
ガルマは悲観的状況のアルビオン艦橋を眺めて、笑顔で話し掛けた。

「やあ、諸君。諸君らの活躍はブレックスさんから聞いているよ」

シナプスは初めて見るガルマに戸惑っていた。
とりあえず自己紹介をした。

「ガルマ議員。私がこの艦の長を務めておりますエイパー・シナプスと申します」

「ああ、ガルマ・ザビ議員だ。よろしく。さて、貴官たちは絶望的な状況にある」

艦橋のクルーがこの状況をガルマが知っていると認識した。ガルマはシナプスに提案を持ち掛けた。

「そこでだ。私とバウアー氏で働きかけて、GP03の返還で手打ちにしようかと思う。その後、貴官たちはこれから結成される部隊への配属を取り付けたいと思うのだが、いかがかな?」

ガルマの提案にシナプスが少し混乱した。傍で聞いていたアムロがガルマに語り掛けた。

「小官はアムロ・レイ大尉と言います。手打ちの件はわかりましたが、結成される新部隊とは?」

「それについては私から説明しよう」

画面モニターにシャアが映った。その姿に艦橋がどよめいた。

「(シャアだ。赤い彗星・・・)」

シャアはどよめく最中、アムロ含めた艦橋クルーに話し始めた。

「君たちは我々カラバと同様の現連邦に対抗する組織エウーゴに参加してもらいたい。これからは連邦内部での武力闘争に発展する見込みだ。ティターンズの名前は聞いたことがあるだろう」

バニングが頷き、シャアに語り掛けた。

「ああ、現体制の強硬派だ。言うこと聞かない市民を弾圧していると聞く」

シャアもバニングの話に頷いた。

「そうだ。ワイアット将軍の死により、それは加速され、もはや市民抵抗の為す術が失われつつある。地球絶対至上主義者の野望を断固阻止しなければならない。既に連邦でも内部分裂が鮮明化しつつある。シャイアンに幽閉されていたダグラス中将がテネスらの支持派閥により、独自に地球内でティターンズの反対運動として、ジャブロー制圧に乗り出そうとしている」

シナプスは驚いた。現体制の反対運動が連邦軍部でも武力衝突として起き始めている現実を。

「各企業の参加もこれみよがしに盛んになっている。内戦の動乱はもはや避けられない。連邦本部などもはや機能不全も等しいわけだ」

全クルーはシャアの話に皆意見を一致させていた。
シナプスは代表して、ガルマの意見を了承した。

「わかりましたガルマ議員。GP03は返還します。送り先等よろしくお願い致します」

「ああ、任されよう」

ガルマは笑顔を見せた。そしてアルビオンの次の進路を伝えた。

「では、諸君らにはサイド1のロンデニオンに向かってもらいたい。そこで我々の用意してある新型を使ってもらう。アルビオンもドッグ入りし、新たな旗艦を用意しよう」

アムロはガルマにもう一つのコロニーの処理について質問した。

「もう一つのコロニーをどうするのだ。バスクが処理するらしいが、大丈夫なのか?」

「ああ、その点については問題ない。バスクの処理を我々で遠見するつもりで宇宙に出てきている」

「なんだと。シャアたちが既に宇宙にいる?」

シャアがそれについて説明した。

「ああ、アムロ。既にヘンケン中佐の下、新造艦ラーディッシュでの処女航海中だ。カラバの新鋭機リック・ディアスも載せてある。スペック等はトリントンで披露した通りだ」

「そうか。オレたちが受領するのもリック・ディアスという代物か?」

「ああ、そうだ。旗艦も同等のものを用意してある」

アムロはコクリと頷いた。そして通信を終えた。

シナプスは全クルーに現体制の軍から外れ、独自の行動を取ることを説明した。それに従えないものは現体制の軍法会議が待っていることも告げた。

皆がシナプスの話に従うことにした。アルビオンは進路をサイド1のロンデニオンへ進路を取った。

バスクはその後マ・クベ艦隊を敗走させ、コロニーを制御し事なきを得た。ジャミトフはグリプス2のテスト照射による修繕・改良に努めるためその場に残り、ジャマイカンに艦隊を任せ、手薄のソロモンを攻略させた。

ギレンは自身の艦隊を率い、ソロモン攻略中のジャマイカンを無視し、グリプス2へ急襲、破壊した。ジャミトフは十分な戦力を持たない状況でのギレンの襲来に恐れをなして、ルナツー方面に逃げ延びた。

ジャマイカンがソロモンを制圧後、グリプス2の危機を受け戻ったが、既に破壊されて、ギレンはそこには居なかった。

デラーズ艦隊はシーマ艦隊に壊滅に追いやられ、シーマの乗機ガーベラテトラにより、デラーズ旗艦は撃沈された。ガトーが着いたときには既に時は遅く、シーマの姿もなかった。

「・・・また、オレは生き残ってしまった・・・」

ガトーは途方にくれながらも、ハスラーの言葉を思い出していた。

「(ゼナ様の力になって欲しい)」

ガトーは傍にいるケリィとカリウス、残りの友軍を率いて、ハスラーの下へ向かうことにした。

宇宙は多大なる犠牲と共に更なる混迷を深めることになる。
疲弊し、失われた力を取り戻すにも両軍ともに困難を極めた。

時は流れてUC0086.1月。
様々な勢力が小競り合いを続けて、戦乱はまた新たな様相を見せようとしていた。


* オーガスタ研究所 UC0086.1.4 10:00


ナナイは突き飛ばされて、壁にもたれかかっていた。元々ただの研究機関で何の武装もない。そこにシロッコが兵士を率いて制圧してきた。

シロッコの目の前にはララァが居た。ララァは悲しい顔をしていた。

「・・・貴方はとても優れた方なのに、今ある危機を見えていないのですか?」

ララァはシロッコにそう語り掛けると、傍に居たシーマがララァを殴ろうとした。しかし、ララァに触れることができない。

「何故・・・」

シーマは驚いた。シロッコが高らかに笑った。

「ハッハッハ、どうやら一定の成果を得たみたいだなララァさん」

ララァはコクリと頷いた。シロッコは軽く手を伸ばして、ララァの腕を掴んだ。

「・・っつ痛い・・」

ララァは軽く悲鳴を上げた。シロッコは見下してララァに話しかけた。

「君の能力はそんなことに使うものではない。世界をまとめ上げるにはある程度フロンタルの思惑に乗る必要があるのだ。人はあらゆる苦難の中で革新を迎えることができる」

「私は・・・その災厄より、人類を守らねばなりません。貴方の思い通りにそのフロンタルという者が動くのでしょうか?彼が嘘を付いていると思いませんか?気づいた時には人類は滅んでいることでしょう」

「そうは私がさせん。フロンタルの思惑が仮に人類全ての粛正ならば私が止める。しかしギレンの様な革新的な考えでも、人は凡人のままだ。君の才能で世界を一つにまとめ上げる。君の様なニュータイプを旗頭に人類を選別しよう」

「私が協力するとでも?」

シロッコは手で研究所の外へ促した。ララァはここに居ると職員の生命の危険があると感じ、研究所の外へでた。

そこには漆黒で通常の大きさのモビルスーツがあった。シロッコはそれについて説明した。

「MRX-012サイコガンダム。ムラサメ研究所開発の機体だ。君はこれに乗って、ちょっと適応してもらう」

「適応?」

「ああ、さあ乗りなさい」

ララァは促されるまま、サイコガンダムのコックピットに座った。ララァはその乗り心地の最悪さを肌で感じた。するとサイコガンダムが起動し始めた。

「あ・・・ああ・・・」

ララァは脳に強制的な命令が植え付けられるような感覚に陥った。
シロッコはリモコン操作でこのガンダムを操作可能としていた。自身は傍にある黄色い機体に乗り込み、兵士らも各々メッサーラに乗り込み、その場を後にしていった。

異変に気が付いたシャアが駆けつけたのはシロッコたちが去った後だった。
研究所に入ると、ナナイがふら付きながらシャアに駆け寄った。

「シャアさん・・・すみません。シロッコという者にララァを・・・」

「そうか・・・わかった。すまなかったな」

そうナナイが言うとシャアの腕の中で気絶した。
傍に居たジーンにナナイを託し、ニューヤークに寄港中のネエル・アーガマへ連絡を取った。

「・・・ヘンケン艦長か。シャアだ。シロッコにララァが攫われた」

「何だと。一体何を考えてやがる」

「ララァのサイコ・フィールドの能力は、あらゆる兵器を無力化できる。ララァの能力を全面に発揮されれば、仮にコロニー落としするにしても全ての攻撃や侵入を妨げるから防ぎようがない」

ヘンケンはシャアの指摘に背筋か凍り付いた。

「・・・まずいんじゃないか・・・」

「ああ、相当マズい」

「分かった。ロンデニオンのブライト准将やトリントンのブレックス大将、並びヨーロッパのダグラス大将にも連絡を入れておこう」

「そうだな。ガルマには私が伝えよう」

「わかった。してその後、シャアはどうするのだ?」

シャアは考えていた。地球と宇宙でティターンズとエウーゴの戦い、並びジオンがギレン派、ゼナ派で争っている。この3年の年月で全てにおいて更に疲弊していた。

昔と比べ膿を出し終えてきたと実感がシャアにはあった。ガルマもその意見に同調した。もう一息で世界が落ち着きを取り戻すと。

シャアは地球でのティターンズを一掃をするとヘンケンに伝えた。その上でララァの情報を得ようと。

「そうだな。コバヤシ氏にも伝えて、ティターンズの基地を潰していくことにしよう。アナハイムよりシャアの新機体も届いている」

「ああ、例の金色か。趣味が悪いな」

「ナガノ博士に文句は言ってくれ。それに加えレイ博士の案もそれに組み込まれているそうだ」

シャアはアムロの父親の名前が出たことに驚いた。

「レイ博士?アムロの父親も金色に携わったのか?」

ヘンケンは頷いた。

「そうだ。コックピット周りを特殊金属でコーティングされているらしい。サイコ・プロセッサーという代物だ」

シャアはこのオーガスタ研究所のララァのブースを思い出した。要するにサイコフレーム<様式>というものかと。

「私にもその才能があるのかな・・・」

シャアは自嘲していた。ヘンケンは謙遜するなと声を掛けた。

「アムロ大尉からの推薦でもあるらしい。シャアならばという話だ」

「そうか。まあ頂けるならば有り難く頂戴しよう」

それからヘンケンと少しやり取りをして、通信を終えた。
外に出たシャアは冬ながら穏やかな気候に清々しく思えた。

「このように世界も平和であればよいのだがな・・・。贅沢は言ってられない」

シャアは部下と共にその場を後にし、ニューヤークへ戻っていった。
 
 

 
後書き
*サイコガンダムの仕様が変更になります。
既にこの時代のサイコフレーム等のサイコミュ技術は進化を遂げ、サイコガンダム程の大きさでなくても開発が可能となっております。 

 

24話 ティターンズの新鋭 UC0086.1.5

 
前書き
*ちょっとマウアーの出番は後回しにしました。 

 
* ヨーロッパ ベルリン基地 1.5 10:00


この頃になると、ティターンズの地球至上主義が前面に現れ、各地での連邦政府与党の強引な手法に抵抗する市民の弾圧が地球内外で勃発していた。

コリニー自身も政界に転じ、中立派のゴップ議長を抱え込み、与党第一党としてスペースノイドへの圧政と地球上の貧困層への負担、富裕層向けの政治を主導していた。

それに対抗する議員とすれば野党のジョン・バウアー、ガルマ・ザビ、ブレックス・フォーラ、ローナン・マーセナス等だった。彼らは各々のネットワークで各々の手法で戦っていた。

バウアーはカーディアスとパイプを持ち、来たるべく災厄に待ち構えながらもティターンズのやり方を批判。ガルマはスペースノイドとの融和での対立の上でハヤトのカラバに支援。

ブレックスもガルマと同様で反地球連邦軍組織エゥーゴの指導者。ローナンはやり方の批判はすれど、敢えてティターンズには直接的な関与はしなかった。

ティターンズの若き士官のジェリド・メサ中尉はベルリン基地での地球重力下実験で同期のカクリコン・カクーラー中尉、そしてエマ・シーン中尉と共に赴任していた。

重力下でのティターンズの最新鋭量産機バーザムの実験をこの基地で行われていた。近隣のフランスでダグラス率いる反連邦組織部隊がティターンズの基地を制圧してはこちらに向かっている状況をジェリド達は聞いていた。

ダグラス大将麾下の精鋭部隊は7年前の戦いからの兵士構成で、テネス大佐、キッシンガム少佐、ウォルフ中佐、サミエック中佐と聞くと粛正部隊と恐怖されるティターンズでも怖気づいてしまう。

そして彼らの操るジムⅢはジム、ジムⅡを経た量産機での最新鋭だった。それに為す術なく少数ながらも敗北を期していたティターンズ首脳部はジャミトフ大将を筆頭に最新量産機の着手を始め、ジムⅢの性能に上回ると目されるバーザムを作り上げた。

ジェリドがカクリコンとその機体を眺めていた。

「乗ってみてどうだった?」

ジェリドがカクリコンに尋ねた。カクリコンは少し笑みを浮かべていた。

「ああ、いいぞ。ハイザック、マラサイ、ガルバルティと経てきた機体だ。ガンダムの流れも組み込まれている。ジムとは違う規格だから、あのジムⅢに対抗できるはずだ」

「そうか。ジム系は地力勝負だからな。小細工を凝らしたマラサイ等だと器用さだけでジリ貧になる」

「ジェリドの言い分は良く分かる。ジム系には芸がないがそれが短所で長所だからな。機動性能を上げると制御が難しいやら、そういう難点を無くして平均的に伸ばしてきた機体と違って、癖がある我々の機体はそこが運用が難しい」

「だが、それを活かせればジムなど問題ではない」

ジェリドがカクリコンに向かって胸を張ったが、カクリコンが一笑した。

「フッ、だから言っている。癖があると。今も尚、地球圏を制し切れないのもその癖とそれを扱う者の熟練の無さが物語っている」

ジェリドはカクリコンの話に言葉を詰まらせた。言い返せない自分が悔しかった。ティターンズも様々な戦線に地球圏統一の為、部隊を派遣していた。あの3年前のコリニーの政界転身、ジャミトフのティターンズ総帥の就任と地球連邦軍の最大派閥のトップとなった。

現在の連邦軍はすぐさま始まった内紛とジオン軍との争いにより、軍としての回復が果たせていなかった。それに加え、圧政により治安が悪化し、それを弾圧するティターンズ。手が届かない地域は地球、宇宙問わず無法地帯と化していた。

現在の正規軍はティターンズだった。しかし、そのティターンズもルナツーとソロモン、サイド7の宙域と地球内ではジャブローとヨーロッパの半分、アジア、アフリカを部分的に管理統治するのみだった。

それだけ軍縮から脱することができずにいた。それ以外の地域は各々の自治体任せ、若しくはエゥーゴ、カラバの管理下にあった。

ティターンズはジャミトフ・ハイマン大将が連邦軍主席として占め、次席に実戦司令官バスク・オム中将、パプテマス・シロッコ中将、宇宙方面でジャマイカン・ダニンカン大佐。地球方面ではベン・ウッダー准将が指揮を取っていた。

ティターンズはジャミトフが特権意識を部隊内に広めるため、所属している士官は現在の地位より1階級上の扱いとした。ティターンズに組する軍高官内でも増長に危険視した者たちがいた。そのためジャミトフの元帥位の就任を嫌った。そのためジャミトフは自身の実質的な元帥位就任と選民意識を高めるためにそのように取り計らった。コリニーの後援もあった。

コリニーにせよ、ジャミトフにせよ、思想としてはギレンの考え方に近かった。一旦地球圏は均した方が良い。そこから地球圏の再生を目指す。

この頃、各勢力の思想は大体統一見解を示していた。地球再生と宇宙移民政策。その手法がギレンとコリニー、ジャミトフ、シロッコが総人口の間引き。それに反対するブレックス、ダグラス、ガルマ、バウアー、ゼナ。強引か柔和かの違いだった。

それにしても、7年間戦争状態にある市民は厭戦気分が最高潮に達していた。中には絶望を覚える人たちが増えていった。ジェリドも各地へ治安維持と言う名の弾圧に出向いていた。

最初は特権の下、逆らう者をアリの様に踏みつぶす気分に優越感を感じていた。しかし、昨今おかしいと感じてきた。それは弾圧しにいった地域の市民が無抵抗、むしろ無気力だった。

生きることへのストライキ。街が死んでいた。各地から現体制に反抗する情報が入って来ていた。納税をしない市民が逆らっていると言う理由での反抗がティターンズになんとかせよと言う指令が下りてきたため、ジェリドたちは市民をいつも通り圧力で従わせようとしていた。

それが何をされても従うどころか無抵抗、無関心だった。ジェリドはその事に異質を覚えた。

「なあ、カクリコン」

「なんだ」

「先の治安維持の活動のことだが・・・。アレは我々の活動以前に何か問題があるのでは」

カクリコンはジェリドが言わんとすることが分かっていた。それについて私見を述べた。

「あんまり考えることはないさ。オレら特権士官と言えども一兵卒。恵まれた環境にいるのだ。奴らは言わば負け組さ。政府は負け組を一掃して、世界をスッキリさせたいと考えているらしい」

「それは・・・、何と言えばよいか・・・」

「お前だって、圧力で人を屈服させることに優越感を感じていたんだろ」

ジェリドはカクリコンの話に自分のした行為とその感情を思い出し、そうだと思った。

「オレなんかは仕事だと割り切っている。しかし、普通のひとのやることではない。オレらは人をゴミのように扱っている」

「カクリコン!」

ジェリドはカクリコンがティターンズの行為に苦言を呈したことに注意を求めた。カクリコンは笑い、手を挙げてジェリドに謝罪した。

「ハハハ、悪いな。まあ、オレの伝えたいことはそう言うことだ。組織は人を都合よく使うということさ。今ターゲットにされているのはあのような負け組だ。それがいつ自分の身に降りかかるか分からないということだ」

ジェリドもカクリコンの話を理解しない訳ではない。ただ特務部隊に所属する自分の立場を否定する訳にはいかなかった。しかし、この異質を考えない程ジェリドも人として正常であった。

「オレらは仕事のためにやることはやる。それが任務不能に陥ったとき、どの程度で一定の成果として受け入れられるのかというところが気になるのだ。盗みを働いた者を捕らえる、だが働いていない者を如何にしょっぴくのか?」

ジェリドはカクリコンに向き合って、自分の気持ちを訴えていた。

「抵抗するならまだやりようがある。脅し掛けても無抵抗、無関心と来たものだ。街一つを虐殺するか?いいだろう。オレらの仕事はあくまでやらせることだ。強制をすることだ。

 政府の言う通りに動いてもらえれば解決できる話だ。それができない状況でオレらが仕事ができない。それはオレらのせいではない」

カクリコンはジェリドのもどかしさを感じていた。ジェリドも現体制の問題を知っている。弾圧のし甲斐が無い相手をすることほど苦労なことはない。強制しようがないからだ。あくまで強制の効果は結果やらせることにある。

カクリコンはジェリドを(なだ)めて、仕事に打ち込んで忘れようと伝えた。ジェリドもそれに同意し、バーサムの話に戻した。

ベルリン基地にはベン・ウッダー地球方面軍司令官が視察に来ていた。彼は元々ジャブローを拠点としていた。3年前にダグラス大将の猛攻を凌いだことでジャミトフが地球方面軍司令官に抜擢していた。

基地司令官室にはブラン・ブルターク少佐が多くの書面に目を通していた。その傍でウッダーがカップのコーヒーを飲んでいた。

「ブルターク少佐。バーサムの重力下実験は好調のようだな」

「・・・ああ、見事なものだ。既にデータは製造元へ送ってある。数日後、バーザムの量産が始まるだろう」

ブルタークは一息付いて、椅子の背もたれに背中を預けた。

「ウッダー准将。先のフランスでの戦いで新兵、ベテラン込みで多くの死傷者を出した。全てはジムⅢの性能もさることながら、ダグラス部隊が原因だ。せっかくならば将軍がジャブローの時に仕留めていただけたなら助かったのだが・・・」

ブルタークはウッダーの皮肉を伝えた。ウッダーは一笑して、ブルタークに向かって話し掛けた。

「すまんな。奴らを駆逐するには並大抵の犠牲ではすまない。故にあの時は兵糧攻めにしたんだ」

「ほう、補給線を断った訳か」

「そうだ。あんな歴戦の勇士たちを真向から戦いを挑むなど馬鹿の所業だ。しかし、この基地の兵士は案外馬鹿が多いみたいだ」

ブルタークはウッダーの意見に鼻を鳴らして、不満を漏らした。

「フン。オレもその一人だ。モビルスーツ乗りとしての矜持が許さん。オレのアッシマー部隊が奴らを粉砕してやる」

ウッダーは冷ややかな目でブルタークを見ていた。ウッダーはその回答にホントに馬鹿だと感想を思った。

その日の午後、ジェリド達はバーサムに乗り込み、フランス方面へ斥候に出ていた。少し木々の多い林の地域でその道中、ダグラス部隊の斥候と偶然にも出くわしてしまった。

「カクリコン!エマ!散開するぞ」

ジェリドの掛け声で、ダグラス部隊のジムⅢを囲む様にバーザムが散開した。ジムⅢも3機で斥候に来ていた。ジムⅢは密集隊形を取って、カクリコンの方へ各個撃破するべく向かっていた。

「ぐっ・・・オレが狙われたか・・・」

カクリコンはジグザグで逃げた。ジムもそれに倣い追って行った。しかし、カクリコンの機体はバランサー、ジョイント部共にジムⅢを上回っていた。そのため、旋回スピードに限界が来た1機のジムⅢがバランスを崩した。

「(しめた!)」

カクリコンの追跡をしていたジムの後方を追っていたエマはバランスを崩したジムに対し、ビームライフルで狙撃した。見事命中し、ジムが大破した。

それを傍で見た友軍の2機がその場で立ち止まった。その隙をもジェリドは見逃さない。

「そーら!戦場で止まるのか!」

ジェリドはジムの側面より、ビームサーベルで袈裟斬りでジムを撃破。残りの一体も戻ってきたカクリコンによって狙撃されて、ジム全機が撃破されてしまった。

「ふう。焦ったな」

カクリコンが額の汗を拭うと、ジェリドがモニター越しでからかった。

「おい、カクリコン。額の汗が一段と輝いて見えるな」

「うるせえ」

カクリコンはジェリドと同い年ながらも若干頭髪が心配な青年であった。そのやり取りをエマをクスクス笑っていた。

「ジェリド。前線でホントに呑気ね。少しはカクリコンに見習って緊張しなさい」

エマの忠告にジェリドはふんぞり返った。

「ヘン。このバーサムに掛かれば、こんなもんさ!」

カクリコンはジェリドの自嘲はいつも通りながらも、それに裏付けされる戦闘センスに関心していた。

「(さすが、オレたち同期のエースだ。散開タイミングも戦術もこうでなくては短時間で今まで苦戦していたジムを3機も片づけるなんてできやしない)」

しかし、ジェリドの自信過剰ぶりを心配してかカクリコンはいつも口にはしなかった。
ジェリドはエマとカクリコンに周囲の警戒を促しながら基地へ帰投するように伝えた。

「今日はここまでだ。敵はこの地域まで進軍する気配が分かった。ブルターク司令官に伝えに帰るぞ」

ジェリドらが基地に引き返そうとすると、退路を塞ぐように1機のジムが立ち憚っていた。

「(1機だけか・・・先の斥候の生き残りか?)」

ジェリドがエマとカクリコンに撃墜して戻る事を伝え、3機でそのジムに襲い掛かっていった。
ジムはライフルを構えて、ジェリドに向かって威嚇射撃を行った。

「おっと!」

ジェリドはかすりもしない射撃に少し驚いた。エマとカクリコンも威嚇と知って、怯むことなくジムに近付く。

ジムは近づくジェリド達に今度は狙いを付けて、ライフルを放った。
その狙撃にカクリコンが回避するため、後れを取った。

「カクリコン!」

「大丈夫だ、ジェリド」

編隊が崩れたのを見計らって、ジムは逃走しようとした。それをジェリドとエマが逃がすまいとライフルでジムに目がけて放った。

「逃がすかよ!」

「ええ、逃がさない」

ジェリド達の放った弾道はジムを掠めていった。ジムは木に隠れながらもその射撃を避けていた。
ジェリドは隠れていると思う方面に射撃を行った。しかし、余り手ごたえがなかった。

「(くそっ!逃げられたか)」

そう思った矢先、ジェリドの側面より先ほどのジムがビームサーベルでジェリドの左腕を切り裂いた。

「ぐっ・・・なんと・・・」

ジェリドは辛うじて撃墜を免れた。エマとカクリコンジェリドの傍により、そのジムに発砲した。
そのジムは再び木々に隠れながらも後退していった。

ジェリドの機体の破損状況をカクリコンは確認していた。

「・・・まあ、大丈夫だろう。基地まで持つと思う」

「そうか・・・。迂闊だった」

ジェリドは不覚を取ったことに悔やんでいた。するとエマがそんなジェリドを慰めた。

「まあ、戦果としてはこちらは撃墜された機体がないんだから上々よ。ジェリド隊長さん」

「茶化すな!オレは完璧に任務を遂行せねばならないんだ」

いつも通りの強気のジェリドが戻ってきたとカクリコンは安堵し、ジェリドに基地に帰投しようと改めて声を掛けて、その場を引き揚げていった。

一方の交代したジムⅢはダグラス部隊の前線部隊に合流を果たしていた。
その部隊は1隻の新造巡洋艦クラップ級のラー・アイム。大気圏突入機能を備えたミノフスキークラフト飛行可能な戦艦であった。

ラー・アイムが地表に着陸しており、そのデッキよりジムが帰投した。ジムの中から降りてきたパイロットをメカニックのモーラが労った。

「よく無事で帰ってきたなキース」

最愛の人であるモーラをキースが頬に軽くキスをした。

「あったりまえだろう。お前を残して逝きやしないって」

「よく言うよ!」

モーラはキースの背中をバシッと叩くと、キースは思いっきり咽ていた。
そんな光景を格納庫へやって来たコウとルセットが微笑みながらやって来た。

「キース、大丈夫だったか?」

「斥候がやられたと聞いたから、貴方のことだと思って心配したわよ」

咽返っていたキースは息を整えて、前かがみで軽く手を挙げて答えた。

「・・うう・・大丈夫・・・。生憎、他の部隊の話だったから・・・」

「そうか」

コウは顎に手をやり、キースの様子を見ていた。ルセットは不満げな顔をしながら、タブレット端末を片手にキースに伝えた。

「キース中尉。アナハイムはジムⅢでなく、こちらのゼータシリーズでテストして欲しかったのですよ」

キースはその話を聞いて、軽く首を振った。

「・・・ガンダムは、連邦の象徴だ。おいそれとオレの様な脇役が乗るようなものじゃないよ・・・」

キースの謙遜にコウ、ルセット、モーラと呆れていた。

「キース・・・。アンタちょっとは自覚してもいいんじゃない?この戦争で3年も戦い抜いて、撃墜スコアも稼いで、生き残ってきたんだよ。アンタも立派な主役だよ」

モーラが腕を組みながら、キースに説教をした。コウは格納庫にあるゼータシリーズをふと眺めていた。

アナハイムとカラバの技術、そして神童カミーユ・ビダンとその両親の傑作機であるフル・サイコフレーム機体のZ(ゼータ)ガンダム。そこからの量産派生であるゼータシリーズのZプラスがこの艦内に3機格納されていた。

カラバのハヤト・コバヤシの構想であり、「ガンダムが如何なる危機をも覆す象徴となる」と宣伝故に、アナハイムと掛け合った結果、カラバの量産機の試作機としてこの艦にも納品されていた。

しかしながらこの艦はエゥーゴであった。協力体制であるため、そしてこの艦の指揮官のエイパー・シナプス准将の絶対的な信頼故にハヤト自身から託したかった。

そして、この艦にはその神童も乗り合わせていた。4人がブリッジに上がると、シナプスと見慣れたアルビオン時代からのスタッフ、そしてカミーユとファが居た。

カミーユがキースに近付いて、報告を求めた。

「キース中尉。ジムで死にかけたらしいじゃないか」

カミーユの窘めるような口調をキースは頭を掻いて謝っていた。

「すみませんビダン大尉。モーラやルセットさんの言う通りゼータシリーズで行けば良かったです」

カミーユはキースの肩を叩いて、労った。

「まあ、生きて帰ってきた訳だから、これを機に少しは自重するんだね」

キースはカミーユに敬礼をした。

「はっ。己の我がままを恥じて、今後は人の意見を取り入れることにします」

カミーユはキースの殊勝な態度に理解を示した。

「そうだね。で、どうだった?敵の新型は?」

キースが持ち帰った映像をブリッジのモニターに接続して皆に見せた。
ルセットは吹き出していた。

「ジムに毛が生えた位の機体だわ。まるでゼータシリーズの足元にも及ばない」

コウも同意見だった。しかしながら、量産機とは汎用性と費用に見合ったものが最善だった。このゼータシリーズがとてもそれに見合っていると思えなかった。

「でも、数が揃うと厄介な代物には違いないな」

コウがそう語ると、シナプスが頷いた。

「そうだな。あの新型機で斥候に出していた別部隊のジムⅢ3機が撃墜された。ジムよりは明らかに上と見てよいだろう」

カミーユも頷いていた。

「艦長に同意します。戦はある程度は数だからね。量産が整う前に早めにベルリンを攻略するようダグラス司令に打診した方が良いかもしれない」

カミーユの意見に一同頷いていた。シナプスは後方の本隊と連絡を取ると決め、その場は解散となった。

各自が各々の部屋に戻っていったが、カミーユはブリッジで物思いにふけっていた。するとファがカミーユに話し掛けてきた。

「何を考えているの?」

カミーユはファの質問にゆっくりと答えていった。

「・・・カーディアスさんと出会い、ロンデニヨン・・・バウアーさん、メラン中佐を紹介され、共に来たるべき災厄に備えての機動部隊<ロンド・ベル>の結成。アムロ中佐、シナプス准将、ブライト准将の加入。今はエゥーゴに協力をしている」

「カミーユ・・・」

「カラバのシャアさん、そしてガルマさんとも会った。そしてララァさんがシロッコによって拉致された・・・。全ては災厄に向けての道筋を辿るように推移しているように思えるんだ・・・」

もうじき17歳を迎えるただの少年であるはずだった。カミーユはそう思っていた。家庭内のイザコザが自分を反抗期に迎え入れようとしているところに思いっきり水を差したような感触だった。3年前に触れたあの忌まわしい箱が・・・

「皆、争っている場合じゃないんだ。・・・アレは・・・あの箱は、この時代の推移によって引き起こされた負の感情を全て感じ取っている。この7年間の厭戦気分が全てのひとにもたらされなく、継続して争っているのも、あの箱のせいで皆が気付かないだけなんだとオレは思っている」

カミーユは確信していた。フロンタルという見えない巨悪が何をもたらすつもりなのかを日を追うごとに理解を深めていた。ファはカミーユのそんな話をいつも聞いてあげていた。カミーユの傍で見守ってあげられるのは私しかいないと。

カミーユはファの顔を見て、優しく微笑んでいた。

「ファ。君はいつもオレの傍にいてくれる。変わらない顔がいることがオレを休めてくれる。ありがとな」

ファはカミーユの肩をポンと叩き、ブリッジを後にしていった。最初は気恥ずかしいものがあったが、もう慣れたものだった。恋愛というよりも、家族愛のような感情だった。それでもカミーユはファを大事に思い、ファも同じだった。


一方、機体を損傷負いながらも無事に帰投を果たしたジェリドたちは、基地にて訪れていたシロッコと対面した。報告の為にブルタークの基地司令官室に訪れた時、シロッコがブルタークの傍に立っていた。

ジェリドはシロッコという組織のNO2とも目された男を眼前にし緊張が走った。シロッコは着慣れた白の軍服の埃を掃うような仕草で入って来たジェリドに声を掛けた。

「・・・君が、ジェリド君か?」

ジェリドは中将と呼ばれるシロッコに対して最敬礼をした。軍という組織では上官が絶対であるためだった。シロッコは少し笑い、ジェリドの緊張を解くように促した。

「別に取って食べようとも思わん。男はそれ程趣味じゃないからね。しかし、君の才能には興味があるんだよ」

この頃、シロッコはある程度優秀な士官にはシロッコが独自に生成した感応波試験を課していた。シロッコは今後戦を左右するのは所謂ニュータイプの存在と認識していた。

フラナガン機関より流れてきた技術がムラサメ研究所にて形となり、オーガスタ研究所の情報を併合して、ニュータイプという人的兵器が実用化されていた。強制したものも中にはあった。それは人工ニュータイプと呼ばれた。

シロッコはなるべく自然なものを欲した。どうしても仲間に引き込めないときには強制を課したりした。あのララァのように。

ジェリドはシロッコの自分に興味があるという発言に戸惑った。何の話か分からなかったからだった。
シロッコはジェリドの肩を叩き、語り掛けた。

「ジェリド君。ちょっと私に付いてきたまえ」

ジェリドはブルタークの顔を見た。ブルタークは静かに頷いた。ジェリドは仕方なくシロッコの後に付いて行くため、報告を後回しにして、部屋を後にしていった。

シロッコに案内された場所はシロッコがこの基地に乗り付けるために利用したスードラという輸送船だった。シロッコの後について格納庫に入ると、4機のモビルスーツが格納されていた。

ジェリドはそのモビルスーツを眺めていた。一つは黄色い巨体。黒いシャープなガンダム。この2機は見たことがなかったが、残りの2機は新製品カタログで見たことがあった。

「これは、バウンド・ドック・・・。サイコミュ搭載型の最新鋭モビルスーツ」

ジェリドが驚きながらも発言していた。シロッコは「ほう」と感心していた。

「流石この基地の有力株だけのことはある。ちなみにこのモビルスーツの特性は知っているのかな?」

シロッコの問いにジェリドは頷いて答えた。

「可変モビルスーツで巨体ながらの機動性能。しかしながらそれを引き出すための能力を有さない限り、ただのガラクタと聞いている」

シロッコは高らかに笑っていた。

「ハッハッハ・・・そうだ、ガラクタだ。ニュータイプ性能が伴わないと、これを乗りこなすことができない。それもかなりの高い能力だ。さもなくばただの的だ」

シロッコはジェリドにバウンド・ドックのライセンスキーを手渡した。そしてジェリドに搭乗するよ促した。

「ジェリド君。君にこの機体を操れるかな?私はこの機体を操れる人材を探していたのだよ。さしあたって、このサイコガンダムが君の手解きをしよう」

ジェリドはライセンスキーを受け取りながらも、サイコガンダムという言葉に疑問を呈した。

「サイコガンダム?」

「ああ。この黒いガンダムだよ。搭乗者はこのコだ」

シロッコはサイコガンダムのコックピットよりパイロットをジェリドの前まで案内してきた。とても小さな人だった。ノーマルスーツを着込んでいたからか、そのシルエットは女性だと分かった。しかし、その姿にジェリドは異質なものを感じた。

全身漆黒のノーマルスーツに口元が見えるが、それ以外の頭が黒いヘルメットのようなもので覆われていた。そのヘルメットは至る所に緑の光の線が走っていた。

ジェリドの反応にシロッコはそのパイロットについて説明を付けた。

「この子は才能があるのだが、調整中だ。あまり言うことを聞かないのでな。私はとりあえずメシアと呼んでいる」

ジェリドは救世主(メシア)という名前に物々しさを感じた。シロッコの救世主ということなのだろうかとジェリドは考えていた。それを勘付いたかのようにシロッコは補足した。

「その通り、私の救世主だよ。彼女の存在で私の願いが叶うのだからな」

「願いですか・・・」

「そう。人類は苦難の末、新たなステージに立つことができる。ギレンは自分がいつまでも主役で成り下がろうと思っているが、私はそこまで過大評価してはいない。ただ・・・」

「ただ?」

「ただ、人類の可能性というものを私は知りたいのだ。気が付いているのはごく少数だろうが、この戦争状態の継続はおかしいと思わないか?」

ジェリドはニュース等で7年前より継続している戦争に繋がりとしては問題ではないと思った。しかし、シロッコがそう問いかけてくるには理由があると考えた。

「・・・ある場所へ治安維持で職務遂行をした。しかし、そこは無気力な人たちの街だった。余程の圧政だったのかと思った。普通は民衆が不満で蜂起するはずが、それは生きることの放棄だった。絶望を形として体現したかのようだった」

ジェリドがそうシロッコに話すと、シロッコはジェリドを見て真剣な表情で頷いた。

「そうだ。この世の歯車が抵抗することへの希望を失わせようとしている。嫌な事に対して、すぐ忘失させては詰み将棋のように人の絶望へ導いていく。その希望が全て奪われた時、人は立ち直れない。そんなシステムをある男が作り上げた」

ジェリドはシロッコの言葉の理解に苦しんでいた。人々の希望を奪う?何のために。
シロッコは気にせず話を続けた。

「奴のシステムは絶望を糧とする。その絶望を誘うための仕掛けとして、この厭戦気分ながらの世情を決して飽和させないように上手く支配している。その絶望を収めるサイコフレームを奴は開発をした」

ジェリドには思念・概念というもので世界が回っていると話すシロッコに胡散臭さを覚えていた。
ジェリドはその本音をシロッコにぶつけてみた。

「しかしながら中将。そんなサイコフレームが世界の意識をコントロールしていたなんてお伽話じゃありませんか?」

シロッコはジェリドの質問に当然そんな反応だろうと思いながらも話を続けた。

「私はその箱を奴に紹介され、直視し、触れたことがあった。とても恐ろしいものだと思った。破壊はできなかった。その所有者が世界の黒幕だったからもあったが、個人的な好奇心の方が上回ったのだ。この箱がもたらす脅威は地球圏全体を圧縮するような力をもたらす。ひいては地球を崩壊させる可能性がある」

「それは・・・大変ですな」

ジェリドの反応はそっけない。シロッコはさらに話を続けた。

「人類は近い将来究極の選択に迫られる。地球を棄てても生きるか、心中するかだ。この戦いの全ての原因は地球に帰するものだ。それがなければイーブンになる。私がこのような地位を率先して、犠牲を払いながらも恨まれながらも直感に頼り、築いたには結果が次のような理由だった」

シロッコは傍にある愛機ジ・Oに触れて、語った。

「人類は生存の選択に迫られたのだ。新たなる進化の過程で。勿論進化の果て、人類には生き残って欲しい。私が先導者となって人類の危機を警鐘し、様々な苦難を与えてはその箱の開放より乗り越えられる力を与えなければならないと。仮に私の課題に人類が答えられないときはそれは滅ぶ運命となるだろう」

ジェリドは腕を組んでいた。何故自分にそんな話をしたのか疑問だった。
シロッコはジェリドに向かい、バウンド・ドックの搭乗を促した。

「君は私のこの話を聞いたうえで、バウンド・ドックに乗ってもらう。今現在の状況下でその機体を操れるものは世界の危機を感じることができるだろう。それが感じられなければ、お前に用はない。大人しく滅びを待つが良い・・・」

ジェリドはシロッコに勝手に突き放された感が癪に触っていた。ジェリドがバウンド・ドックに乗り込むと一通りのマニュアルを読み流した。

「(・・・バーサムの流れもある。ティターンズ仕様でもある訳だな)」

ジェリドはバウンド・ドックの機体をスードラの外へ操縦して出した。
すると、いつの間にかサイコガンダムと呼ばれた機体も外に出ていた。

ジェリドがその黒い機体に対峙すると、異様なプレッシャーを感じた。

「(なんだ・・・あの悲しみは・・・)」

サイコガンダムに取り巻く悲しいイメージがジェリドを困惑させていた。ワイプモニターにシロッコが映ったことをジェリドは確認した。

「ジェリド君。バウンド・ドックのフィードバックが上手く言っているようだな」

「どういうことですか中将?」

モニター越しのシロッコは少し間を置いて、ジェリドに語り掛けた。

「それはニュータイプ専用機だ。君の表情を見れば分かる。メシアの事を悲しいと思ったのだろう」

「それは・・・」

シロッコに心を読まれたことにジェリドはさらに困惑させた。シロッコは話し続ける。

「メシアの心は慈愛に満ちている。世界に対してな。今の世界はとても悲しい状態だ。彼女なりに世界を憂い、サイコガンダムに乗っている。少しでも私が求める同志を探す為に。君はそれに見合うか確かめさせてもらう。今まで幾多の能力ある士官たちをテストしていた彼女だ。ほとんどが脱落者だった」

シロッコがそう言い切ると通信を終えた。それと同時にサイコガンダムが躍動し、ジェリドに襲い掛かってきた。

「ちぃ!」

サイコガンダムの右ストレートをジェリドは横にひねって躱していた。しかし、メシアは即座にソバットのような動きでバウンド・ドックの頭を狙った。

ジェリドはそれも避けた。さらにメシアの攻撃は続いた。蹴りを躱したバウンド・ドックはしゃがみこんだ態勢になっていた。それをメシアは宙に飛び、バウンド・ドックの頭上を捉え、手でバウンド・ドックの体ごと地面に抑えつけようとした。

ジェリドは後方に転がるように飛び、それを躱した。するとメシアは着地したとき一連の行動が止まった。それをジェリドは逃さず、逆に攻勢に出た。

ジェリドはクローでサイコガンダムに攻撃を加えた。しかしその攻撃は届かなかった。

「なんだと!・・・なぜ止まる?」

ジェリドの攻撃はサイコガンダムの手前で静止していた。サイコガンダムの周囲で何らかの磁場フィールド現象が起きていた。

「ええい!ならば」

ジェリドは持ちうるビーム兵器でサイコガンダムに放った。しかし、全てがメシアの一歩手前で静止していた。

「ば・・・バカな!」

とても非科学的な現象にジェリドはうろたえた。力学的法則を無視している。サイコガンダムは手で飛んできた眼前のものを払い、払われたビームは全て空へ飛んでいった。

メシアはゆっくりとジェリドに近づいて行った。ジェリドはビームライフルを放った。しかし、メシアには届かない。

「ぐっ・・・何で・・・」

そしてジェリドの眼前にサイコガンダムが到着し、その手にはビームサーベルが握られていた。ジェリドの体が金縛りにあったかのように動かない。その状況を見ていたシロッコは残念そうに語った。

「・・・また外れだったか。貴官ならばと思った。私の勘だったのだがな」

サイコガンダムのサーベルが頭上より振り下ろされる。ジェリドは死を実感した。しかしまだ死んでいない。だが様々な死の感情が自分に入り込んできた。

「・・っぐ・・何なんだ!この苦痛は!」

痛みの感情、決して痛くはないが心がバラバラになりそうだった。その意識下の中、全ての時が止まったかのようだった。

「目の前にガンダムが・・・そうだ、此奴にやられそうだった」

ジェリドはバウンド・ドックのクローをガンダムの腹に目がけて打ち込んだ。メシアはその咄嗟の動きに驚いた。振り下ろしたはずのサーベルよりジェリドのボディーブローの方が早かった。

「おお!」

シロッコはジェリドの動きに感嘆した。ジェリドのクローはサイコガンダムの腹に届いてはいない。しかしその磁場たる空間がガンダムを突き飛ばそうとしていた。

「うおおおおお!」

ジェリドは雄たけびを上げながらガンダムを押していた。ガンダムもスラスターを全開にし、ジェリドの攻撃を押し返そうとしていた。

「うらーっ!」

ジェリドが何とか競り勝った、ガンダムを後方へ飛ばした。ガンダムは見事に着地し、その場で静止した。ジェリドは息を切らしていた。

「ハア、ハア、・・・なんだ・・・これは・・・」

ジェリドは自分に起きた現象に戸惑いを覚えていた。シロッコに出会ってから何度戸惑ったことか。
すると、再びワイプにシロッコが映し出された。

「見事だジェリド君。君もニュータイプとして今後の戦いに参加できる権利を得られたのだ」

「権利・・・ニュータイプ・・・何でオレが・・・」

シロッコは腕を組み、説明をした。

「ふむ。君はサイコミュを操ったのだ。その結果、メシアを押し返すことができた。これからはサイコミュ同士の戦いになっていくだろう。メシアの持つサイコ・フィールドはI・フィールドとは比較にならない程の斥力を持つ」

「サイコ・フィールド・・・」

「そうだ。サイコ・フィールドが今後君を守ってくれる。その敵と対峙したときもそれを使えば戦える。しかし、それを使えないで戦うことはできない。一方的な戦いになる」

「そんな・・・最早戦闘とは呼べん。一般士官らの出番がない・・・」

「そうだな。まあ、火力によるがな。サイコ・フィールドも束になった砲撃には弱い。容量があるためだ。その容量を解決したのがフロンタルの持つシステムだ」

「無尽蔵のサイコ・フィールドシステム・・・」

「君も気が付いただろう。バウンド・ドックに(いざな)われ、沢山の死の感情を実感したはずだ。それを汲み取れるのはニュータイプである証だ。一般人の感覚としては知らずうちに負の感情を回収されている。それを君は感じ取った。世界が死につつあることを感じた。フロンタルシステムの恐ろしさを」

「・・・成程な・・・」

ジェリドは俯き、自分のやるべきことを考えた。世界は終わりかけている。世界が生き残るためには自分を含めて、色々な苦難に取り組まなければならないと考えた。

「わかりました中将。微力ながら手伝わせていただきます」

この日より、ジェリドはシロッコの配下となった。ジェリドはカクリコンたちをシロッコに説明すると同志のサポートということならば喜んで連れてくるが良いと伝えた。ただし・・・

「ジェリド君。君も含め、君たちも人類の敵に回る覚悟の下付いてくるならば説明するがいい」

「人類に苦難を与えるためですか?」

「そうだ。人類に更なるストレスを与え、想いを集結せねばこの戦は勝てない。既に私は恨まれている。結果、私が礎になることになれるならば、喜んで地球にコロニーを落とし、サイドを壊滅させよう。元々そんな役回りなんだがね」

シロッコは笑っていた。ジェリドは憮然としていた。

「そんな私でも、憂いを覚えている。人の革新を見たい以前に滅んでしまっては元も子もない。7年前よりその直感があった。何か未曽有の危機に迫られているような気がすると。最初は考え過ぎかと思った。しかし、アムロ・レイとの出会いで修正を余儀なくされた」

「あの・・・アムロ・レイと」

「ああ、彼との出会いが私の退屈しのぎの木星行きを断念させた。全ては結果論になるが、フロンタル、メシア、アムロ。世界の特異点と接点を持つことができた」

「世界の特異点ですか・・・」

「歴史の道標として、私は悪役(ヒール)になるのだ。その恨みと生存本能を一丸となって、私を砕き、フロンタルへぶつける。誰かがその準備をしない限りは不可避だろう」

「中将がそれを敢えて被ると」

シロッコはジェリドの問いかけに力強く頷いた。

「・・・私のすべきこと。人の革新、現体制の終幕。俗物共の粛正の後に選別されたものが(まつりごと)を行えばよい。私ではない。それは無責任な発想だろうが、人にそれ程悲観してはいない。人は最終的に最善の道を選択できると確信している。そのためには多くの苦難が必要だ。この7年間もそうだが、まだ痛みが足りない。そしてフロンタルがいる。人類をここで終わらせる訳にはいかない」

シロッコの告白はここで終わった。ジェリドはバウンド・ドックから降りて、シロッコに再び対面した。傍にはメシアが居た。ジェリドは改めて決意を伝えた。

「オレも、このような部隊で・・・。自信持って言えるが、やっている行為は弾圧だ」

「そうだな」

「もはや、正義の味方を気取るつもりもない。オレもバウンド・ドックで感じ取った危機感を胸に、中将の行動に付いて行くことを約束する」

「・・・私は新たな同志を得た。他にも同志がいる。機会があればそれを紹介しよう」

シロッコはジェリドに手を差し伸べた。その手をジェリドは固く握手をした。

その後、ブルタークの下へジェリドが訪れ、先の偵察の報告をした。そしてシロッコと共にダグラス部隊の攻撃をするとブルタークに告げた。

「・・・シロッコ中将のお墨付きなんだろ?」

ブルタークは忌々しくそうジェリドに話した。ジェリドは無言で頷いた。

「なら、出る幕はないな。健闘を祈るだけだ」

ブルタークは再び書類の山に目を通し始めたので、ジェリドは敬礼し退出した。
部屋の外にはカクリコンとエマが居た。

「ジェリド・・・、先までシロッコ中将と一緒だったと聞いたぞ。どういうことだ?」

カクリコンがジェリドに説明を求めた。ジェリドは2人を見て、シロッコの話をそのまま伝えた。
後は彼らに任せるしかないと考えた。

カクリコン、エマ共に物凄く複雑な、訝し気な顔をした。そして、エマが口を開いた。

「・・・無理があるわ。信じろなんて。世界が悪くなっているのは理解できるけど、人類が滅ぶなんて・・・」

カクリコンがエマに同意して続く。

「そうだな。いくらうちの自慢のパイロットだって、それを信じて付いて来い、人類の敵になろう、なんて与太話信じられる訳がない」

ジェリドは2人の反応に当然だと考えた。つい先ほどまでの自分と同じ反応だったからだ。
ジェリドは腕を組んで別の提案をした。

「ならば、今からオレたちの部隊はダグラス部隊を殲滅しにいく」

カクリコンとエマはその発言に爆笑した。

「ハッハッハ・・・バカな!あの精鋭を前にオレらが殲滅?」

「ッフッフ・・・ジェリド。冗談はさっきの話だけにしてくれる?」

ジェリドはその挑発を逆手にとり、2人に取引を求めた。

「ならば、もしできたら付いてくるか?」

ジェリドは同期の仲間として、茨の道ながらも付いてきてほしいと思っていた。
カクリコンとエマはジェリドの誘いに乗った。


フランス地域境 ダグラス部隊 ビック・トレー艦橋 1.6 11:10


ダグラスは艦橋で信じられない光景を目のあたりにした。
オペレーターがそれを報告していた。

「ウォルフ大隊通信途絶!キッシンガム中隊全滅!テネス大隊戦線崩壊!・・・」

ダグラスの目視できるぐらいティターンズが迫っていた。
ダグラスは自身もモビルスーツに乗り、決戦を挑まねばならないと覚悟を決めていた。

「まさか・・・たった5機の敵に我々が敗北するとは・・・」

7年前から一緒に戦ってきた仲間たちがたった1日で全てを失う。その事実がダグラスを戦慄させていた。

「後は任せる・・・」

ダグラスは艦橋のクルーたちに司令部を一任し、自身は格納庫へ足を運んでいった。
格納庫に着いたダグラスの姿を見たメカニックたちは皆最敬礼をしていた。
ダグラスも敬礼を返し、自身の搭乗するジムⅢを眺めた。

「・・・無念だ・・・。我々の後を別の者が必ずや受け継ぐであろう・・・」

ダグラスは今の圧政に立ち向かうために立ち上がった。当面の敵はティターンズであった。その敵に倒される。本望だった。

「ダグラス・ベーダー、出るぞ!」

ダグラスは激戦の最中ビック・トレーを飛び出した。

サミエックはジムⅢを操り、周囲の部下と共に幾多のマラサイを撃破してきていた。しかしある1機のモビルスーツに部隊壊滅寸前まで追いやられていた。

「くっ・・・何故当たらない!」

パラス・アテネに乗っていたシーマは搭載されたサイコミュを最大限に活用し、高らかに笑いながらサミエックの部隊を駆逐していた。

「ハッハッハッハ!当たらない。お前らの攻撃は当たらないよ!」

シーマはサミエックの隣にいるジムをただのパンチのみで殴り倒した。サミエックは大振りのシーマに隙だらけと見て、即座にサーベルでパラス・アテネの頭上より振り下ろした。

「覚悟ー!」

サミエックはパラス・アテネを両断できると確実に踏んだ。しかし、それが寸前ではじかれた。

「ぬあっ!」

サミエックのジムがサイコ・フィールドの反発でのけぞった。シーマはゆっくりと振り返り、サミエックに目がけてミサイル群を放った。

「・・・ダグラス将軍・・・すまない・・・」

ミサイルは全てクリーンヒットし、サミエックのジムは四散した。その光景にシーマは満足した。

「はあ~。シロッコ、やったよ・・・」

シーマは恍惚な表情を見せていた。

ディミトリー部隊もサラ・ザビアロフ操るボリノーク・サマーンに壊滅寸前だった。
こちらもサラの機体にまるで当たらない。

「何なんだ・・・あの機体は!」

ディミトリーは恐怖した。ティターンズの新兵器だと考えた。ディミトリーはI・フィールドというものを知っていたが、アレはビーム兵器に対してだった。冷静に分析しても、サラの機体は物理攻撃を全てはじくというものだと認識した。

「アレ相手では、戦にならん!」

ディミトリーの部隊は全ての火力をサラに向けて集中して放った。それにサラは最大出力でサイコ・フィールドを展開した。

「この・・・下郎が!」

サラが叫んだが、その火力にボクリーノ・サマーンは後方に吹っ飛んだ。

「キャア!」

その吹っ飛んだサラをシロッコのジ・Oが支えた。

「大丈夫か、サラ」

「シロッコ様・・・」

サラはシロッコに支えてもらえたことに感動していた。
シロッコはサラに後方に下がるように伝えた。

「後は任せろ」

シロッコはビームサーベルを抜き、ディミトリーに向かって襲い掛かった。ディミトリーは部隊と共にシロッコに向かって、サラと同じように集中砲火を浴びせた。

「愚かな。私の力を見えないとは・・・。お前らは生き残れない」

シロッコは全ての攻撃をはじき、ディミトリーのジムを一刀両断した。一瞬だった。その電光石火の動きに周囲の部下たちは驚愕した。

「たっ・・・隊長!」

ディミトリーの仇を打とうとシロッコへ皆が襲い掛かった。

・・・

ダグラスは前線で単機で戦っているテネスに合流を果たしていた。

「テネス!」

「大将!何故、前線に!」

テネスはダグラスの登場に驚いていた。対峙していたのはジェリドの部隊だった。
ダグラスはテネスの労を労った。

「今まで、よくぞ尽くしてくれた」

「・・・申し訳ございません・・・」

テネスは悔しさを滲ませていた。ダグラスはジェリドのバウンド・ドックに目がけライフルを放った。
しかし、そのライフルはジェリドのフィールドにはじかれていた。

「他の部隊からの報告通りだな。ビームどころか実弾兵器、物理攻撃が利かないとは・・・」

ジェリドはダグラスとテネスのジムを仕留めようと突進してきた。2人共サーベルを構え、応対した。
ジェリドのクローがテネスのサーベルもろとも、ジムの腕を捥ぎ取った。

「なんと!」

テネスは衝撃で後方に倒れ込んだ。その眼前にダグラスのジムがクローの餌食になろうとしていた。

「大将!」

テネスが叫んだとき、ジェリドのクローによるダグラスへの右ストレートに間より、ビームサーベルが振り下ろされ、ジェリドのバウンド・ドックの腕を切断した。

「なんだと・・・」

ジェリドは自身のサイコ・フィールドを無視して攻撃できた敵に驚いていた。ジェリドは咄嗟に後方に飛んでいた。その邪魔した機体をジェリドは目の前で見ていた。

「ガンダムだと・・・」

ジェリドがそう呟いた。後方より援護でカクリコンとエマがジェリドに接近していた。

「ジェリド!」

「ジェリド、大丈夫なの!」

その2人にジェリドは警告した。

「来るな!2人共下がれ!」

その願いは無情にも届かず、そのガンダムのビームライフルにより、カクリコンとエマのバーサムは足と腕を撃ち抜かれていた。エマとカクリコンのバーザムはその場に倒れ込んだ。

「この・・・よくも!」

ジェリドはそのガンダムに向かってメガ拡粒子砲を放った。しかしガンダムに触れることなく、その粒子砲は四散した。

「バカな!・・・消えるだと!」

サイコ・フィールドの斥力でビームを弾くことは知っていたが、ビーム兵器の粒子の四散など聞いたことが無かった。

ガンダムに乗っていたカミーユは機体のサイコフレームでサイコ・フィールドを操り、周囲全ての物理的な活動を止め、そのビーム粒子に働きかけて無効化させていた。

カミーユはビームライフルをジェリドに打ち込んだ。ジェリドもサイコ・フィールドを展開したが、関係なくもう片方の腕を撃ち抜かれた。

「・・・オレのフィールドを超えてくるだと・・・」

ジェリドは悪寒を感じ、回避行動を取っていたため直撃は免れたが、代償としてもう片方の腕を失った。

カミーユの操るゼータガンダムはジェリドのバウンド・ドックを上回る攻撃力を有していた。というよりも、カミーユがジェリドを凌駕するニュータイプ能力を発揮していた。

「あのガンダムのパイロットの方が、オレよりも上だということなのか・・・」

ジェリドは悔しさを滲ませ、カクリコンとエマのバーサムに近寄っていた。

「カクリコン、エマ。大丈夫か!」

ジェリドの応答に2人が答えた。

「ああ、大丈夫だ」

「こちらも問題ない」

「そうか。しかし、賭けはオレの負けかな?」

ジェリドは壊滅できず、後退することに殊勝な意見を2人に伝えた。それに2人とも否定した。

「いや、お前の勝ちだ」

「そうね、壊滅って言って良い程の戦果だわ」

ジェリドは2人にお礼を言った。

「有難う。後は基地で話そう」

「おう。そうだな」

「分かったわ」

そう3人は話し、煙幕を張ってカミーユの前より基地へ撤退していった。
その姿をカミーユが確認した。カミーユはそれを追撃はしなかった。それよりもダグラス部隊の救援を優先させた。

「ダグラス大将。後どこが危機的状況でしょうか?」

カミーユの問いかけにダグラスが答えた。

「ほぼ全部隊壊滅だ。ディミトリー隊がつい先ほど音信が途絶えた」

「分かりました。その部隊の配置を転送してください」

カミーユの願いにダグラスは即座に送った。

「頼む。1人でも多く助けてやってくれ」

カミーユは頷き、送られたデータを確認し、ディミトリーの部隊へガンダムをウェーブライダーに変形させて、救援に向かって行った。







 
 

 
後書き
*サイコフレームの思念によるフィードバックを遠隔操作と機体能力の向上、操縦者の反射神経伝達の向上のみならず、アクシズ・ショックの流れから、コロニーレーザーまで湾曲する力より、斥力・引力の物理的な干渉、物質の運動停止まで有り有りにしました。

ちょっとドラゴ〇ボール的になってきてしまうかもしれません。
それでも、力には制限があります。 

 

25話 Have a break 1.8

 
前書き
ちょっとゆっくり書いています。


 

 
ダグラス部隊はシロッコらのニュータイプ部隊にほぼ壊滅状態だった。
シナプス隊のラー・アイムは少し離れた場所にあって、ベルリン基地からの部隊の対応でダグラス部隊への応援が遅れてしまった。

コウ、キースともにZプラスで出撃し、ブルターク操るアッシマー隊とマラサイらを撃退していた。
カミーユはウェーブライダー形態で前線のダグラス部隊の応援にいち早く駆けつけていた。

散々たる状況にダグラスは落ち込みながらもビック・トレーに引き返していた。

ビック・トレーの艦橋にはラー・アイムから移って来ていたシナプスがダグラスの報告を伝えていた。

「大将・・・。ラー・アイム隊はベルリン基地からの攻撃隊の撃退に成功致しました」

「・・・わかった。本隊はこのざまだ。・・・しかしながら良くやってくれた」

ダグラスは憔悴しながらもシナプスを褒め称えた。傍に居たテネスも無念と屈辱に体を震わせていた。

「・・・まさか、ここまで・・・。7年前からの戦友が一瞬にして・・・」

テネスは嘆いていた。その場にカミーユも居合わせていた。

「・・・テネス大佐・・・間に合わなくて申し訳ない」

カミーユがテネスに謝罪した。テネスはそれを首を振って拒んだ。

「・・・いや、私らが不甲斐なかったのだ。君の力、今後は我々は静観せざる得ないのかな、きっと」

「いえ、違います。これからは人の意思が結集しないと勝てない戦いです。サイコミュ・・・このサイコ・フレームは人の意思を乗せて発揮できる機械。大佐たちも訓練次第でそれなりの力が出せると思います」

「そうか・・・。慰めにしても有難う」

テネスは歳が有に倍は違うカミーユに慰められても、素直に受け入れることが出来た。器量の違いだとカミーユは思った。

カミーユの言ったことは嘘ではなかった。強化人間も作られているとカミーユは聞いていた。
元より、ララァの研究により、ニュータイプの可能性を全人類へと波及するようになりつつあった。

ララァの研究はシャアとナナイにより、解析が行われていた。

サイコ・フィールドの存在。そして、サイコミュの人への適応だった。
どんな人類でも共感し合えるようなシステムの構築を可能な限り努めた。

それは単純に、困っている人を見ると助ける。悲しんでいる人を見ると慰める。怒る人を見ると、仲裁する、宥める等、ありふれた喜怒哀楽からその共感性、それらのサイコミュへのフィードバックを研究していた。

これならば、特別人を強化せずとも安全に適応できると踏んだ。
今現在、ゼータシリーズに試験導入化され、コウもキースも多くの戦場で培われた第六感を働かせてはサイコミュが機能し、先を読み、サイコ・フィールド下でも対等に戦闘できるようになっていた。
だが、ニュータイプ能力に応じてのことなる。

兵器利用としてはララァの本意ではない使い方なのはシャアも重々承知であった。
しかし、敵が先手を打ち、ダグラス隊の壊滅させるぐらいの実戦投入をしてくるぐらい、事態は悪化していた。カミーユらを保険として機能し、ダグラスを救うきっかけになっていた。

ダグラスはフランスから離れ、ベルファスト基地へ帰投した。
当面のダグラスの本拠地であった。

そこには宇宙から降りてきていたアムロとニューヤークから来ていたシャアが基地のラウンジで戦況について語っていた。

アムロはブルーの連邦の軍服、シャアは金髪をオールバックにして、山吹色のスーツを身に纏っていた。最近では戦場とガルマと共にロビー活動と二足の草鞋を履いていた。

シャアがアムロの報告と新聞を眺めながら呟いた。

「・・・宇宙ではやはり各サイドでの統治体制が不安定か」

アムロから連邦軍が機能しておらず、無法地帯と化している各サイドにギレン派が中途半端に支配圏を広げ、混乱させていた。自治統治として機能していたのはサイド3、月、サイド5、サイド1だった。

戦時より中立を保持していたサイド6ですら暴動等、ギレン派のアクシズ部隊の略奪で大混乱だった。
月のグラナダはマ・クベにより統治、統制を取ることができていた。

7年前に壊滅したサイド2はコロニー公社の新規開拓により、約10コ程のコロニーが形成されていた。そこにゼナ派が本拠地と定めて、サイド6のアクシズ隊を牽制していた。

シャアはスペースノイドの自治権獲得と地球からの自立を目指す上で、スペースノイドの意思がバラバラなことに頭を悩ませていた。その点はガルマも同様だった。

「そうだなシャア。向かって行く方向性は合っているのだが・・・。連邦のみならず、小規模の組織、団体ですら、我が先にと時代の導き手を騙る」

「ああ、どうにもやるせない。ブライトは何て言っていた?」

「宇宙の治安維持に連邦、つまりティターンズは静観の状態だ。幸いジオンが内部闘争に明け暮れているから、互いに潰しあってくれればという見解だ。ブライトはゼナ派に歩み寄り、まずジオンの戦いに終止符を打ちたいと考えている」

「そうか。ゼナ派はガルマと連携しているからな」

ゼナは夫ドズルの死をギレンの責任であり、その追及はデギン公王とキシリアの死によって、より主張を強める結果となった。ガルマはそこに付け込む形で、ゼナと接触。ゼナの思想を復讐でなく、ガルマ、シャアが願うスペースノイドの独立実現へと促しされていた。

2人の下へベルトーチカがトレイで3人分のコーヒーを入れてきた。それと同時にナナイがサンドイッチをレストランよりテイクアウトしてきていた。

アムロとシャアはそれらを受け取り、2人にお礼を言った。

「ああ、有難う」

「ナナイ。済まないな」

ベルトーチカ、ナナイ共に謙虚に受け答えた。

「いいえ~。アムロにシャアさんもお構いなく」

「そうです。2人とも責任ある立場にあるのですから。これぐらいはしないと。私なんかは戦えなければ、このような応援しかできませんので」

「そう、そういうこと。ナナイさん共サポートに回るから、アムロたちは気兼ねなく」

ベルトーチカはアムロにウィンクをして、ナナイは微笑んでいた。
それを見た2人は少し苦笑いをしていた。

「フフフ・・・こう近くに応援してくれる者がいる。益々我々がやらねばな。アムロ」

「そうだな。さしあたり、地球はこのままカミーユに任せてよいのかな?」

「ああ。あのカミーユ君は類に見ない逸材だ。オレらよりもな。この3年間での活躍はブラフじゃない。ヘンケン艦長、シナプス艦長と共に地球のティターンズの勢力圏を今後も潰していってくれるだろう。彼のニュータイプ能力はそこそこの才能では立ち向かえるものはいない」

「シロッコだけが問題だな」

「シロッコの存在は甚だ問題だ。彼の戦略的、戦術的センスはオレらを凌駕する。幾度も煮え湯を飲まされたことか」

「ほぼ壊滅に追い込まれたダグラス大将の部隊もシロッコの仕業と聞く。カミーユが駆けつけた時には戦闘が終わっていた。引き際が良いのだろう」

アムロはサンドイッチを一つ手に取り、一口食べた。シャアもコーヒーに一口つけた。各々の隣席にベルトーチカとナナイが座り、食事をしながら2人の話を聞いていた。

「シロッコは勝てる戦いしか臨まない。或いは必要な戦しか仕掛けない。彼の恐ろしいところはそこだ。オレもシャアも彼と対峙できた試しが、倒せる機会、対決できる機会に恵まれたことがない」

シャアは椅子の背もたれに背中を預けて、腕を組んでぼやいた。

「私が指揮官上がりでも、まして名将ダグラスでも手玉に取られるセンスだ。重要な局面に当たるまではシロッコとの接触は無理だろう」

「とりあえずシロッコの事は棚上げだな。なるべく最小限の被害で食い止めるしかないが・・・」

「今回は一個連隊クラスの壊滅だ。これが最小限ではエゥーゴは崩壊する」

「分かってる。こちらも少数精鋭で挑むしかない。ロンデニオンよりバニング中佐らがベルファストに到着している。彼らは最新鋭機体ジェガンと共に降下してきた。そのジェガンにもサイコフレームを施してある」

「そうか。うちにもジェガンは届いている。これからはサイコ・フレームが通常仕様になることになるな」

「君の百式改も大丈夫なのか?」

アムロはシャアに旧式装備の不安を聞いた。シャアはその心配を頷いて、払拭したと答えた。

「君の父君がニューヤークに出張してきてな。オクトバーという若手と共にな。ガルマと私は今後の戦いでそこの問題を彼らと話し合って、私が戻る頃にはバイオセンサーによりも上位のサイコミュを換装してくれるそうだ」

「そうか・・・。あくまでフレーム機構だからな。親父にオクトバーが来ていたとは・・・」

するとシャアは思い出したようにアムロに伝えた。

「そうだアムロ。君に言伝を頼まれていたんだ。次、宇宙に戻ったら月に寄って欲しいと」

「月に?・・・そうか。例の機体が仕上がったのか」

「ああ。そうらしい。君のガンダムが出来たそうだ。但し、叩き台だと言っていた。アムロの実地試験とその微調整を伴って完成だそうだ」

アムロは少し微笑んだ。前の人生では有り得ないことだった。
自分の父親が最後まで自分の支援をしてくれることを。不幸な出来事さえなければ、こんな人生を父親は送れたんだとアムロは思っていた。

シャアは個人的にアムロの母親のことが気になり、アムロに尋ねてみた。

「そう言えば、差し出がましいかもしれないがアムロ。君の母君は?」

アムロは少し寂しそうな顔をした。

「・・・母は、調べたが、もう地球の家には居なかった。親父もあまり相手にしていなかった。孤独だったのだろうと思う。知らないうちに蒸発していた」

「・・・そうか」

「気に病むことはないさ。こんな時代、そんな別れ方もある。母も父もそしてオレも、それ程一般的に正常な家庭ではなかった」

アムロは目を閉じて、少し瞑想していた。シャアも余り話した事ない両親の話を3人にしていた。

「私の親も、父親は親の責務を果たすことなく。母親は世間に殺され。普通の家庭環境ではなかった。私とアルテイシア・・・今はセイラか。私らはそれぞれ生きる為に必死だった。私もアムロも正常とは言えないこの時代を変えて、一人でも多く、私らの様な生き方をしない世にしなければ」

「そうだな。ガルマにしろ、シャアにしろ、敵味方のような考え方を超えて、未来を見据えて動いている。終わった事は水に流せなくとも、前を見て、次世代に澱んだ水を与えない様にしないとな」

「と言うことだ。当面の敵はギレン、ティターンズ、シロッコ。そして私の分身か・・・」

ナナイがシャアの「私の分身」と言う言葉に反応した。

「大佐の分身とは?」

ナナイの問いかけにシャアが答えた。

「ああ。アムロとララァが言うに、信じられないかも知れないが、ここに居るアムロはアムロであってアムロでない」

ベルトーチカはとても不可解な顔をした。

「ここに居るアムロがアムロでない?シャアさん、どういうこと?」

アムロがそれに答えた。

「オレは既に人生が完結した人間で、その精神、記憶が今のオレにフィードバックしてきたんだ。全てはサイコ・フレームが原因だ。全ての人の想いが、前の自分の時にシャアと好敵手であって、その宿命の決着時に様々な人の想いによって、今ここに居る」

ベルトーチカとナナイは凄く複雑な顔をした。シャアがアムロに代わり、再び話し始めた。

「並行世界がある。人は選択して、時代、人生が分岐する。それは分かるかな?」

シャアが2人に話すと2人共頷いた。

「ここ居るアムロは、ある選択により分岐した世界で派生されたアムロ。その世界にも私が居た。しかし私ではない」

ベルトーチカとナナイはゆっくり話すシャアに耳を傾けた。

「そのアムロはそのシャアとライバルであり、決着時にサイコ・フレームによって、現在のアムロへ乗り移ったそうだ」

ベルトーチカはシャアの話を聞き、アムロに尋ねた。

「じゃあアムロ!貴方は2人いる訳?」

「そうだな。今は前のアムロ。心の中にこの時代のアムロが居る」

ナナイが再び前の疑問を投げかけた。

「すると、大佐も2人なんですか?いや・・・それだと分身は大佐で、敵は大佐になってしまう・・・」

シャアはナナイの疑問と解いてあげた。

「ああ。私は私だ。もう一人の私は違う器に入ったらしいが、まだ実態を掴めていない」

アムロはついでララァについても説明をした。

「前のアムロと前のシャアが実は前のララァを生み出していたんだ。今のララァは前のララァだ。正確には作られたララァだからララァではない」

「ララァさんが・・・そんな・・・」

ナナイはアムロの発言にショックを覚えていた。アムロは話し続けた。

「オレは決着が付き次第、消えるそうだ。そして本当のアムロが残る。心の奥底で見ているように最近思えてきてな。オレが消えても、もう一人のオレが同等の経験を伴って生き続けるだろう」

ベルトーチカが悲しそうな顔をして、アムロに話し掛けた。

「・・・貴方はそれでいいの?アムロ」

「ああ」

「私は今のアムロが良いの。それが消えるなんて・・・」

アムロは落ち込んでいるベルトーチカの頭を撫でていた。

「元々、オレは死人(しびと)なんだ。往くべきところ、戻るべきところに戻るだけさ。アムロはここに居る」

「そう・・・」

シャアは少し微笑み、アムロに今後の事について話した。

「私は宇宙(そら)へ上がることになるだろう」

「そうか。オレはバウアーさんに会ってから宇宙に戻る。ロンド・ベルのスポンサーだからな」

エゥーゴは結成当初から様々なスポンサーが参入して、点々とした独自の勢力基盤を為していた。
バウアーもその1人。連邦は1枚岩だが、エゥーゴはバラバラ。本来ならばまとまらない。実際まとまっていない。

しかし、矛先が全て連邦という理由が、まとまりない点々としている部隊の様々な連携を簡易的にしていた。しがらみがないからだった。違った意味で<点が線>になっていた。

連邦のように大所帯な組織程、連携、伝達機能がどうしても鈍る。少数ながらもフレキシブルに動くエゥーゴは着々と結果を出していた。

「バウアー氏に会うのか。宜しく言っておいて欲しい」

「伝えておくよ。シャアはやはりゼナ派への接触か?」

「そうだ。ガルマに言われたよ。ジオンを本来の形へ戻すべきだと。ギレン等の澱んだ考えのままではスペースノイドは死滅すると。今のコロニー事情では余りにも資源が乏しい」

シャアは残りのコーヒーを飲み干した。

「ジオン・ダイクンの思想は私が継がねばな」

「スペースノイドの自立か。既にニュータイプの存在が知られ始めている。今の政府から人類は巣立つ時が来たのかもな」

「ああ。私の素性が何分厄介であり、求心力がある。先に使者を向かわせてある」

「ランバ・ラルか。敵の時は厄介だったが・・・」

「フッ。誰もがそうだし、お互い様さ。さて、そろそろ来るはずだが・・・」

シャアが腕時計を見てラウンジの遠くを見ると、2人の人影を見てシャアは手を振っていた。

「こちらだ!」

アムロが振り向くと遠くからカイとその隣にミハルが居て、こちらに歩き近づいていた。
アムロはシャアに尋ねた。

「カイか・・・」

「我々の細い線を繋ぐ外相だ。パイプの数が半端ない。やろうと思えば、ギレンだろうがコリニーだろうが、両者の会談を設けることができるだろうよ」

シャアがカイをそう褒め称えると、アムロは困り果てながらもぼやいた。

「全く・・・。この時代はオレの予想を上回っていく。この状況もオレも読めたものではない」

「だが悪くない。私の生きる道を、成す事を疑問に思わず、葛藤もなく歩くことが出来ているからな」

シャアはそうアムロに述べた。カイとミハルが4人の座る席へやって来た。

「よう。お二組さん」

カイがにやけながらアムロら4人に声を掛けた。それにアムロが返した。

「お前だって同じだろ、カイ」

それを聞いたミハルがクスクス笑っていた。ミハルはカイのアシスタント、秘書としてどこでも同行していた。ミハルの弟たちはガルマ、ハヤトらの援助により、適切な療養や教育を受けることができ、普通の学生生活をニューヤークで送っていた。

「まあ、そうだろうな。北アメリカ、アジア共にイセリナさんとセイラさんの活動でほぼエゥーゴとカラバの管轄下になったよ」

カイから報告を聞いたシャアはカイを見て、笑みを浮かべた。

「益々、私らが活躍しなければな」

「そうだシャア。貴方が活躍しないとならない。最早、ガルマと共にスペースノイドと地球との懸け橋にならないと世界復興など夢物語だ」

「そのために君が用意してくれた道だろう、カイ」

シャアがそうカイに言うと、カイは鼻を鳴らして腕を組んだ。

「そうだ。オレの苦労を無に帰すなよ赤いの」

「了解だ。ラルは良くやってくれるさ。遅れることなくゼナ派に接触するよ」

「じゃあ急ぐぞシャア。君はニューヤークへすぐ戻れ」

シャアはカイが少し焦り気味な様子を見て、質問した。

「どうしたのだカイ?」

「・・・ゼナ派がギレン派に押されつつあるらしい。事情は不明だが、あの均衡が崩れるのはまずい」

カイの回答にシャアは深刻な顔をして頷いた。そしてアムロとベルトーチカに別れを告げた。

「と、言うことらしい。これで失礼するよ」

「ああ、シャア。気を付けてな」

「そちらも壮健でな」

シャアとナナイはその場を立ち、ラウンジを後にしていった。その変わりカイとミハルがシャアの座っていた席に代わりに着いた。

カイはミハルに頼み、飲み物を買い出しに向かわせた。
カイは携帯用灰皿を出して、その場で一服し始めた。

「ふう~。ごたつきを取り持つ、我が身を削りに削る仕事の何という切なさか・・・」

カイの一服のリラックス状態から出た愚痴にアムロが苦笑した。

「・・・フッ」

「何がおかしい?」

「いや済まない。カイは良くやっているよ。オレは戦場でしか役に立たない。カイやシャアの様に、戦場以外で活躍できる、そんな才能がない自分が恨めしく思う。自分はこんなに役立たずだったとは・・・」

「いや、アムロは・・・アムロがいてくれたから今の様な陣容になったんだ。それは確信できる。傍にいるミハルにしろ、あの時、グレイファントムに乗り合わせていた、生き残ることが出来たことで今がある。それが叶ったのもアムロ、お前のお蔭だ」

カイはアムロを褒めていた。アムロはまた笑みを浮かべてた。

「なんといい仲間に恵まれたものだオレは。この時代に生きていることを誇りに思うよ」

ベルトーチカはアムロを見て微笑み、ミハルも笑い、カイも鼻頭を指で軽くかきながら笑っていた。

「酷い時代だが、一貫してある目標に向かっている。その同志とやり遂げること程、充実することはないな」

それからアムロとカイは情報交換をし合いながら、ベルトーチカとミハルとを交え、談笑していった。
 

 

26話 アクシズ、起つ 2.10

 
前書き
更新が大分遅れました。
仕事が多忙で何もできませんでした。
さて、続きです。(誤字、脱字、文面のおかしな点色々ご指摘宜しくです)






 

 
サイド2とサイド6・・・

0079年に壊滅したサイド2は各企業の参入により、既に40バンチ近いコロニーが再生されていた。元々ラグランジュポイントであるサイドをそのままにする程、不利益なことはない。

サイド6のいくつかのコロニーが中立宣言を無視したジオンのグレミー軍によって占領されていた。
彼らがそこに居る理由はある勢力の牽制、打倒を目指していたためであった。

それがサイド2に居るゼナ派のジオン軍。移動用小惑星アクシズを携えて、地球圏に帰って来ていた。

グレミーはあくまでサイド6は補給拠点用での使用のみに限定していた。
全てを網羅するには余りに手駒が少ないためである。


* エンドラ級巡洋艦 ミンドラ艦橋 2.10 13:10


サイド6の宙域の外、公海にあたる宙域でグレミーの部隊はアクシズに向けて進軍していた。
斥候でプルがアクシズの防衛ラインの偵察に出掛けていた。

ミンドラの艦橋でグレミーが腕を組み直立不動で望遠モニターを通してアクシズを見つめていた。

「あのアクシズに住まう者を追い出すことが出来れば、私が天下を獲る足掛かりになる」

御年17になるグレミーは血気盛んで野心に満ち溢れていた。
シャリアはそのグレミーの危険性をギレンに伝えていたが、

「フッ、全面に出ている野心など取るに足らん。才気煥発で良いではないか。仮に奴が統治の才能を私を上回るとしたらば、淘汰されるのは私が道理だろう。それも人類のためでもある。その才能が見えん限り、私の相手ではない」

と、一蹴されていた。

グレミーの傍にはプルツーが居た。
プルシリーズと呼ばれるクローン達。彼女等は常にグレミーの傍らで親衛隊であり、遊撃隊であった。

グレミーの部隊はゼナ派との数々の戦闘でラカンを始めとする猛者、側近を失っていた。
戦略、戦術レベルでの力量不足がグレミーを苦しめていた。
自身でも経験の差と言うものを現場に立って、都度痛感していた。

しかし、ギレンは決して手を差し伸べたりしない。それはグレミーから望まなかったこともあったためであった。自身の力で出来ないことには先に立ち憚る強大なライバルには勝てないからだった。
そこもグレミーの若さ故の心情だった。

グレミーは率先して、人材確保に励んだ。制圧していったコロニーでは以前の統治体制を見直し、住民の支持を集めようと試みていた。それに付随して、優秀そうな人材の噂を聞いてはスカウトに励んだ。人心掌握の面も怠る事なく若いながらも努めた。

急場を凌ぐ上でグレミーはアステロイド・ベルト時代からの研究であった人道的な観点で非難されるクローンや強化人間を生み出し、その戦力利用のために愛情を注いでいた。プル、プルツーなど言ったクローンを戦場に送り出して戦力の均衡を補っていた。

そして艦橋には窓際の方にビーチャ・オーレグとジュドー・アーシタが居た。
彼らはサイド1の出身であったが、この数年の戦いの中で才気ある子供たちをグレミーは求め、見出していた。

グレミーはその彼らへの厚遇を怠らなかった。元々ジュドー達は生活苦で戦乱に巻き込まれていた為、そこに差し出したグレミーの誘惑に乗ってしまっていた。

「君らに給金を出そう。君たちはあんな戦乱の最中生き残ることができた。それは才能だ。私たちは時代を変え、君たちの様なひとをも豊かにする世界を実現したいのだ」

グレミーの本心だった。覇道を歩むために、その先にあるのは統治者としての地位。彼はギレンと同様に才能ある新人類こそ世界を牽引していくと考えていた。

彼は未だギレンに及ばないことを知っていた。それをまずは人的要因で補うことから始めようを考えていた。

ジュドーは妹のリィナを学校へ通わせるようグレミーに伝えた。グレミーは了承し、それに快くしたジュドーは参加を決め、ビーチャも金になるならばという下心で志願。それにエル・ビアンノとモン
ド・アカゲ、イーノ・アッバーブとジュドーとビーチャは誘い、皆グレミーの下で働いていた。

グレミーは支配者、統治者の為の帝王学に通ずる書籍を貪欲に読み漁り、努力をしていた。その姿勢にジュドー達は共感を受け、グレミーへ信頼を寄せていた。

グレミー自身もこの3年で変化を自覚していた。それは勉学、経験によるものでグレミー為りに人情味というものが芽生えていた。

「なあグレミー。アクシズの戦力はどのくらいなのか?」

ジュドーがグレミーに尋ねた。グレミーは艦橋中央より一蹴りで体を無重力に任せて、ジュドーたちの下へ降り立った。

「今の我が軍よりは少ないはずだ。大体が元々ジオンだ。あそこの支持者はゼナの私軍。マハラジャとユーリーぐらいが大物で後は小粒よ」

ビーチャがそれを聞くと、鼻で笑っていた。

「フフン、じゃあすぐに片付くかな」

ビーチャの発言にグレミーが少しため息を付いて、ビーチャへ話した。

「ビーチャ。窮鼠猫を噛むという。これまで数々の戦闘で倒してきたゼナ派であのラカンも散ったのだ。戦争は遊びではない」

「ちぇ・・・わかってるよ」

ビーチャはグレミーに軽く窘められ、ふてくされていた。その姿に傍に居たプルツーが笑っていた。

「ックックック・・・ビーチャは才能は有るのに、成長がないな」

「なんだと!」

「これだけの戦闘を重ねてきてジュドーらを見習え。彼らの戦い方はサポートしながら、戦局を見ながら戦っている。何故か?それは被害を抑えるためだ」

「しかし、オレが一番の撃墜スコアだぞ!」

ビーチャはプルツーに反論したが、プルツーはバッサリ切り捨てた。

「ゴールしたのはお前だが、アシストは他の仲間だ。これを見ろ」

プルツーは傍にあるデスクから戦闘詳報の束をビーチャに渡した。
ビーチャはそれに目を通すと険しい顔をした。

「・・・嘘だ・・・」

「機械・・・カメラ、映像は嘘は付けない。計算されたデータだ。お前の戦果報告は5人の中でも一番下だ」

ビーチャは下に俯いた。ジュドーは困った顔をして、グレミーを見た。

「おいグレミー。プルツー、厳しくないか?」

グレミーは少し笑い、ジュドーの気持ちを汲んでビーチャに語り掛けた。

「ビーチャ。お前の長所はその破壊力だ。しかし、それをみんなのサポートあっての発揮される力だと言うことを忘れてはならない。そのデータからそれを読み取って欲しかったのだ」

ビーチャはパッと笑みを浮かべた。そしてプルツーにギロっと睨んだ。それを見たジュドーがビーチャの頭を叩いた。

「いてッ!・・・何するんだジュドー!」

「バカか!プルツーの言いたいこと、グレミーがフォローしたこと。全て聞いていなかったのか!」

「っぐ・・・お前に言われたくない!」

そう言ってビーチャは艦橋から飛び出していった。
ジュドーは「全く」と呟き、プルツーもため息を付いた。そのビーチャと入れ違いでエルが艦橋に入って来た。

「ん?・・・何かあったのビーチャ?」

エルが手をポケットのパーカーに入れながら、ジュドー、グレミーの傍に近付いてきた。
ジュドーがエルの質問に答えた。

「ビーチャはちょっと自信過剰なんだよ」

「そんなの今に始まった話じゃないじゃない」

「それをデータでプルツーに突っ込まれて、拗ねたんだ」

エルはため息を付いて、ビーチャの出ていった扉を一目してから再びジュドーへ目線を戻した。

「確かに・・・。ビーチャを救うために、私たちも無茶してきたものね」

先日のゼナ派との戦闘でイーノとモンドがビーチャの退路をこじ開けるために腕と足をそれぞれ骨折し、戦線離脱していた。その原因となったのはビーチャだが要因となった敵をビーチャは葬り、その仇を晴らしていた。

ビーチャはより敵意をむき出しにし、ゼナ派を倒すべく邁進していた。その姿勢にジュドー、エル、プルツーと心配していた。ジュドーも頷いていた。

「ああ。ビーチャの破壊力は凄まじいが、あいつの自惚れがイーノたちを危険に晒した。それをあいつ自身は敵を葬ることで気を晴らし、顧みることがない。全く問題だな」

「そうねえ。ビーチャ・・・。あいつはリーダー気取っていてさ。いつも先頭を切っていたね~」

エルは困惑した顔で空を仰いでいた。

ビーチャは癇癪を持ったまま、モビルスーツデッキへ降りてきていた。
メカニックの一人にビーチャは声を掛けた。

「おーい!オレのドーベン・ウルフは整備大丈夫か?」

声を掛けられたメカニックは一言「問題ない。いつでも」とビーチャへ返した。
すると、ビーチャはドーベン・ウルフに乗り込み、艦橋に発信許可を求めてきた。

オペレーターよりグレミーに進言してきた。グレミーはため息を付いて、「ジュドーに任せる」と言った。ジュドーは先の斥候で出撃していたプルの帰投が若干遅いことをグレミーに伝えた。

「なあグレミー。プルの奴遅くないか?」

「ん?そうだな・・・ゼナ派のアクシズ防衛ラインを確認するだけだったのだが・・・」

「じゃあ、尚更ビーチャに見に行ってもらうことにしよう」

「・・・成程」

グレミーはジュドーの直感を論理的に理解をした。
プルの戻りの遅さとビーチャの猪突猛進。敵の布陣とプルの行方を一挙両得で派手に分かる可能性を見出していた。

発信許可を得たビーチャは得意げに操縦桿を握り、クワンバンより出撃していった。
ジュドーはモニターでそれを見届けると、自身もモビルスーツ内で緊急体制を取るとグレミーに具申した。

「グレミー。念のため、オレもZZ(ダブルゼータ)の中で待ってるよ」

グレミーはジュドーの意見を了承し、ジュドーは艦橋より退出していった。

一方のビーチャは予測地点である両派閥の軍事境界線のデブリ地帯に付いていた。
モニターのサイコ・フレームによる干渉波と熱源測定を使い、周囲を隈なく探していた。

サイコ・フレームの干渉波の測定はミノフスキー粒子の濃度に問わないサイコミュ搭載機体の発見に役立っていた。

ビーチャの手元には多くのサイコミュ反応が示されていた。小さな反応が多い。

「・・・これは。遠隔型のサイコミュの反応・・・。プルか」

ビーチャがそう呟くとその反応あった方向へ機体を進めていった。
すると、ビーチャに目がけて無数のビームが全方位より飛んできていた。

「!!・・・なんだと!」

ビーチャは夢中で避け、至る箇所が損傷した。一番酷い所だと片腕が無くなっていた。
たかが一撃でとビーチャが驚いていた。その攻撃の正体がファンネルだと気付いたのは、
目前に現れた白いキュベレイだったからだ。

「・・・白いキュベレイ・・・。プルのとは違う・・・」

ビーチャは白いキュベレイから発せられるプレッシャーに金縛りにあった。

「な・・・何故動けない・・・」

キュベレイはビーチャに目がけてビームサーベルで真正面から切りつけてきた。
ビーチャがやられると思ったその時、ビーチャの脇から紫のキュベレイがビーチャに体当たりをして、
キュベレイの攻撃から逃れた。

「ビーチャ!」

「プルか!」

紫のキュベレイも両腕が無く、満身創痍の状態だった。
ビーチャがプルに声を掛ける。

「大丈夫か!帰ってこないから心配したぞ」

「ビーチャ、余りにも目立ち過ぎだよ。そんなんじゃすぐ見つかってしまう」

「それって奴にか?」

ビーチャがそう呟くや否や、白いキュベレイのファンネル攻撃がビーチャとプルに降り注いできた。
プルも残りのファンネルで応戦したが、数と精度によって圧倒された。

ビーチャも有線式インコムでの応戦を試みたが、全くかすりもしない。

「こいつはヤバい!引くぞ、プル」

「できるならやっているよ!」

そう、プルの言う通り。キュベレイのファンネル攻撃とその機体の動きが逃げる方向へ回り込まれては
退路を断たれていた。

ビーチャの機体がキュベレイからの攻撃を喰らい、大きく揺れた。

「グワッ・・・っつ・・痛っ・・・成程な・・・」

「ビーチャ!」

「ああ・・・逃げられそうにない」

ビーチャは死を覚悟した。キュベレイと真向から勝負して撃破し、退却する。
それしか道がないと考えた。

ビーチャはビームサーベルを構えると、白いキュベレイも同じく構えた。
その時、プルが背後に気配を感じ、ビーチャに伝えた。

「ビーチャ・・・終わりだよ・・・」

プルの震える声にビーチャが後ろも確認した。
すると、ノイエ・ジールと青いリゲルグが1体ずつビーチャたちを挟むように鎮座していた。

「万事休すか・・・」

それでもビーチャは構えを解かなかった。戦意が残っているビーチャに白いキュベレイから
発光型のオープンチャンネル回線で声のみで降伏を勧告してきた。

「そこのモビルスーツ。既に勝ち目は無い事は承知なはずだ。武装を解いて、素直に投降してもらいたい」

その声は若い女性の声だった。とても柔らかく優しい声だ。ビーチャはそう感じた。
ビーチャはグレミー、ジュドー等を思い浮かべ、心の中で謝罪した。

「(済まない・・・オレはここまでのようだ・・・)」

ビーチャは覚悟を決め、プルに伝えた。

「プル!お前は降伏しろ。オレは最期まで戦う!」

ビーチャの告白にプルが怒りに震えた。

「何バカ言ってんの!ビーチャだけ死なせる訳にはいかないよ!2人で戦うよ!」

「フッ・・・お前も意外にバカだったんだな・・・」

「なっ・・・ビーチャに言われたくない!」

こうして2人とも決意を固め、白いキュベレイに同じ回線で回答した。

「と、言うことだ。このまま戦闘を続けさせてもらう」

白いキュベレイは少し間を置き、「承知した」と一言の後、ノイエ・ジールとリゲルグと合わせて
挟み撃ちを仕掛けてきた。

「ラルさん、ガトー少佐!この子達を無力化します」

「分かったハマーン。子供を殺す趣味は無いからな。行くぞガトー!」

「ああ。承知したラルさん」

ガトーはクローアームでドーベン・ウルフの足を捥ぎ取り、体勢を崩したところにランバ・ラルが残りの腕をビームサーベルで綺麗に切り取った。

その攻撃でビーチャと距離が開いたプルにハマーンがファンネルで誘爆しないようにプルのスラスターを破壊し、同じくビーチャもそのように措置をした。

「素直にはいかなかったが、投降してもらう」

ハマーンがそうビーチャたちに宣告したとき、側面より無数のビームが襲来した。
ハマーン、ガトー、ランバ・ラル共にすぐ回避行動を取り、散開した。

ランバ・ラルが索敵モニターを見た。すると3機のモビルスーツがすぐ傍まで来ていた。

「敵に更なる援軍だ。どうするハマーン」

ランバ・ラルがハマーンに確認した。ハマーンは敵の出方を見ると即断した。

「敵が救助に来たことは明らかです。こちらとて彼らを鹵獲したい。むやみな取引はしない。仮に敵が容赦ない場合はこちらが一撃で葬られる恐れがある。距離を保ち、牽制しましょう」

「了解だ」

ガトーはハマーンの指示通り、襲来した3機の敵に向かい威嚇射撃を行った。
もちろん距離がある、そして狙いを定めた訳でもないので当たることはない。

ビーチャの応援にやって来たのはジュドーのZZとエルのゲーマルク、そしてプルツーの赤いキュベレイだった。

「ビーチャ!生きているか!」

「ジュドー!ああ、生きてるぞ!」

ビーチャの声を聞いたジュドーは胸を撫で下ろし、すぐ目の前の敵と対峙した。
ジュドーは意識を目前の敵に向けて、放った。そのプレッシャーに3人ともたじろいだ。

「何という・・・抑圧・・・」

ガトーが歯に力を入れて、ジュドーの圧力に耐えていた。
ランバ・ラルはスーッと深呼吸をして、自身に喝を入れ、ジュドーに目がけて一太刀を浴びせに襲い掛かった。

「そのガンダムの性能、測らせてもらう!」

ランバ・ラルはジュドーの乗るZZの顔がガンダムの作りから、そう口にしていた。
ジュドーの頭上より振り下ろされたビームサーベルはジュドーのサイコ・フィールドの境界ではじかれた。

その斥力にランバ・ラルのリゲルグはよろめき、ジュドーは自身のビームサーベルでランバ・ラルのリゲルグの胴を打ち抜こうとした。

しかし、ランバ・ラルはスラスターを使い、重心軸を反時計回りに回転させて、その打ち抜きを空かした。その後、リゲルグのビームサーベルの出力を最大に上げて、ジュドーに再び振り下ろした。
すると、ジュドーはビームサーベルで受けた。

互いにサーベルが鍔迫り合いしている間、両者の声のやり取りができた。

「ふう・・・ニュータイプとやらは戦うに難儀する」

「むっ!オレのフィールドを突破してくる敵とはやるな!」

「フフ・・・オールドタイプでも、精神の勉強を怠らなければ、無我の境地に至れるという話だ」

「おっさん、古武術の心得でもあるのか?」

「いや、お前らを研究してきたものからの対応術さ。サイコフレームは精神論での機構だ。条件とタイミングでお前たちに攻撃は通る」

ランバ・ラルはリゲルグのスラスター出力で競り合いに勝ち、ジュドーを後方へ吹き飛ばした。
ジュドーは飛ばされた振動に耐えていた。

「っぐぐぐ・・・やるな、おっさん」

ジュドーが体勢を立て直している間にガトーが攻撃を仕掛けてきた。
その攻撃にエルとプルツーが応戦した。

「簡単に取らせないよ」

「お前らにビーチャ、プルは渡せない」

プルツーはファンネルで、エルもマザーファンネルをノイエ・ジールに向けて攻撃した。しかし、ビームは全てI・フィールドにより無効化された。

「フン、笑止!ノイエ・ジールに効く訳がない」

ガトーは大振りでビームサーベルをエルのゲーマルクに振り下ろした。エルもビームサーベルを取り出し、それを受け止めようとしたが出力差に大きな違いがあった。

「何・・・コレ!デカい過ぎるよ」

接近してきてから気が付いたノイエ・ジールのスケールにエルは驚愕し、反射的に後方へ避けた。
しかし、避け切れなかった機体のビームサーベルで受けた腕がノイエ・ジールの一撃で持ってかれていた。

「うわあ・・・っつ・・・私のサイコ・フィールドを無視するような出力の攻撃!」

ゲーマルクもサイコフレーム仕様でエルもニュータイプだった。しかし、ガトーの攻撃の出力がエルのサイコ・フィールドの力場をねじ伏せる攻撃力だった。

「ほう、避け切ったか。やるではないか」

ガトーはエルの反射神経を褒めた。プルツーがガトーの背後より、ビームサーベルで攻撃してきた。

「このデカブツ!これでもらったーっ!」

絶妙なタイミングでのプルツーの攻撃はハマーンの横槍によって阻止された。プルツーの側面からハマーンはビームサーベルで攻撃してきた。

プルツーは直感でキュベレイの右腕を犠牲にして、横に急速旋回して難を逃れた。
ハマーンは「おしかった」と言った直後、プルツーと入れ違いでジュドーがハマーンの目前にサーベルを抜いて迫ってきた。

「なんだと・・・」

ハマーンは驚愕して、ジュドーの攻撃に応対した。ハマーンはファンネルを使いながらジュドーの前進を阻んだが、ジュドーは迫りくるハマーンのファンネルをサーベルで撃ち落とし、その数を減らしていった。

「私のファンネルが撃墜されている。ラルさんは?」

ハマーンはジュドーがランバ・ラルと戦っていたことを思い出した。戦いながらランバ・ラルと連絡を取ろうと試みていた。

「ラルさん!応答願います」

「・・・zz・・・ああ、ラルだ!ハマーン済まん。出し抜かれた。すぐ向かう!」

ランバ・ラルはジュドーとの戦闘でジュドーを見失っていた。ジュドーは直感で味方の危機を察知し、ランバ・ラルとの戦闘を一方的に切り上げて、ハマーンのいる戦場へ移動していた。と言っても目と鼻の先であるが。

その直感がプルツーとエルを救っていた。
ジュドーは徐々にハマーンのキュベレイに肉薄していった。ハマーンはジュドーの実力に若干の分の悪さを感じていた。

「(こいつは強いな)」

そうハマーンは感じた。ジュドーはハマーンへの攻撃途中で、後背よりガトーが攻撃を加えてきた。

「このガンダムが!」

ジュドーはその攻撃を後ろに目が付いているかの如く、あっさり避け切り、代わりに出力を絞ったハイメガキャノンをノイエ・ジールの直近で食らわせた。

「なっ!・・・うぐっ・・・」

ガトーはコックピット内の強烈な揺れにより、一瞬気が飛んでいった。
ノイエ・ジールは全身焼け爛れた損傷を被り、ゆらっと後方へ流れていった。

後方に流れていったガトーと交代したかのように、ランバ・ラルのリゲルグがジュドーに目がけて突進してきた。

「これ以上はやらせん!」

ランバ・ラルはジュドーにビームサーベルを浴びせた。ジュドーはビームサーベルでそれを受けた。

「またおっさんか!」

「ああそうだ!若造よ。お前に大義名分などあるのか!」

「そんなの真の平和を目指すオレ達にはナンセンスだよ」

ランバ・ラルは高らかに笑った。ジュドーの答えに納得していた。

「そうだな。大人の言うことなど、大抵屁理屈だ。そんな大人だが、お前らのようなヒヨっこよりはましな世界を現実的に見据えているよ」

「それはオレ達は飲むわけにはいかないんだよ」

ジュドーは今度は競り合いに勝ち、リゲルグを後方に下がらせた。
すると、今度はハマーンがジュドーに直接仕掛けてきた。

「隙ありだガンダム!」

ハマーンの一撃はジュドーのZZの肩部の一部を切り裂き、片腕が損傷して動かなくなった。
ジュドーは接近してきたキュベレイに攻撃を受けた直後に足でキュベレイの腹を蹴り飛ばしていた。

「う、うわーっ」

ハマーンは叫び上げて、コックピット内の振動に耐えた。
ハマーンのキュベレイが飛んでいくのを見てから、ジュドーは脇見をして、ニヤッと笑った。

エルとプルツーが既にビーチャとプルを回収し、この空域を離脱しつつあった。
ジュドーもランバ・ラルがハマーンの傍に寄るのを見ては距離を取り、一気にこの空域より離脱していいった。

ハマーンが軽い脳震盪から脱して、目の前のモニターを見た時、既にガンダムの姿はなかった。
通信回線でランバ・ラルの呼びかける声が聞こえてきた。

ハマーンは自らのノーマルスーツのヘルメットを脱ぎ、ピンクのボブヘアーをコックピット内になびかせていた。

「大丈夫かハマーン」

「・・・ああ、問題ない。ガトー少佐はどうです?」

全身焼かれた色をしたノイエ・ジールがハマーンの傍まで来ていたことをハマーンは感じ取っていた。

「ああ。こちらも機体の外傷だけだ。オレ自身は問題ない」

ハマーンは人的被害が無かったことに安堵した。
そしてハマーンは総括した。

「敵は間近のようだ。それに手強い。今まで劣勢でいた理由が理解できた」

ガトー、ランバ・ラルともに頷く。

「彼らの想いは大人の範疇より外れている。前から知っていたが、彼ら、グレミー達の想いは純粋だ。だから余計にたちが悪い」

「そうだな。所詮我らの理屈など、彼らの理想とは程遠い」

ガトーはそう述べた。3人共ギレンの野望、グレミー軍のこと、そしてその内情と、この3年間でかなり精通していた。

「しかし、子供が戦場にとは・・・やり辛い」

ランバ・ラルも含め、誰もがそう思っていた。グレミーの軍構成、所謂モビルスーツパイロットの構成が大体10代だった。大人が子供を殺すことになる。理由があれど、したくないのが心情、本心であった。

「私らはゼナ様の思想に従ってきた。反ギレンと言う思想だ。一個人の私怨では、中々戦意に限界がある」

ハマーンがそう発言すると、ガトーが頷いていた。

「そうだな。ギレン総帥のやり方に反発する、その考えだけでこの3年間戦い抜くにはモチベーションが難しいな。私も外に出て改めて気付いたことがあった」

ガトーの話にランバ・ラルが尋ねた。

「ふむ。それは?」

「世界の実情だ。ゼナ派に属してからは、今までの軍の括りから離れた。ゼナ派にはそういった思想的な規律が皆無だった。ハマーンの父君のマハラジャ様から世の理を学んだ。その上でゼナ様を助けて欲しいと・・・」

「マハラジャ・カーンか・・・。あの傑物は大した見識だ。ガルマ様と同じものを見ていた」

ハマーンは父の話題が上がり、ランバ・ラルにその同じものについて聞いた。

「ラルさん、同じものとは?」

「柔和的な地球圏の統一さ。スペースノイドの真の自立。地球と対等のな。そのために使者、いやむしろ指導者がアクシズに到着するはずだ」

「指導者?一体何者でありますか?」

「シャア・アズナブル。本名、キャスバル・レム・ダイクン。ジオンの遺児だ。スペースノイドの真の独立の柱として相応しいと私は思う」

「シャア・・・アズナブルか・・・」

そうハマーンは呟いた。戦時中で幾度も聞いたジオンの若き伝説のエース。彼のカリスマならばゼナを支え、ギレンを打倒できるかもしれないとハマーンは思っていた。

一方のガトーはシャアならば戦を終わらせることが出来るかもしれないと考えていた。同じジオン同士で殺し合うこと自体がナンセンスと思っていた。

ランバ・ラルが2人に帰投するように促した。

「さて、ご両人。旗艦のサダラーンへ参ろうか」

ハマーン、ガトー共了承して、ランバ・ラルの後に続いて機体を旗艦の方へ発進させていった。


* サダラーン 格納庫内 同日 16:45


無事帰投した3機はそれぞれの収納籠に収まった。ノイエ・ジールのみがスケールの性質上、艦内の別格納庫に収まった。

ガトーがコックピットの入口を開けると、目の前にニナが居た。

「ガトー・・・」

ニナは悲しい顔をしながらもガトーの胸に飛び込んでいった。

「おいおい・・・ニナ・・・どうしたんだ」

「だって・・・ノイエ・ジールがこんなにボロボロだから・・・。貴方が心配で」

ガトーはニナの頭に手をやり、宥めていた。

「フッ、私ならこの通り無事だ。お前の整備してくれたこの機体のお蔭で今日まで、そして今日も生き延びれたのだ。礼を言う」

「ガトー、ううん・・・こちらこそ」

ニナは仕事上で他のチームと共に営業と研究すべく、ゼナ派の下へ来ていた。
ガトーは機体から出ると、多少ふら付きながらもニナに支えられて床に降り立った。

その降り立った傍にアストナージ・メソッドがニナの傍に近寄ってきた。

「よう、お二人さん。いい形で再び元鞘に収まって良かったね~」

アストナージはスパナを自分の頭の後ろにやりながら、ガトー達をからかっていた。
ガトーは微笑し、ニナは反発した。

「アストナージさん!プライベートの事です。貴方は干渉しないでください」

「へ~い。わかってやすよ~。ノイエ・ジールの整備は我々アナハイムのチームに任せてください」

アストナージがガトーにそう伝えると、ガトーは「ああ、頼む」と頷いた。
アストナージは後方に従えたチームへ呼びかけて、ノイエ・ジールに続々と取り付いて行った。

ガトー等は艦橋に戻ると、そこにはガルマ、ゼナ、ユーリー提督、ランバ・ラル、ハマーン、そして見たことの無いオールバックの金髪の男性が赤いジオンの軍服を身に纏い、そこに居た。

「来たか」

その男がそう呟いた。ガトーはその迫力に息を飲んだ。肌で感じるその迫力は紹介されるまでもなく、あの赤い彗星だと言うことをガトーは認識した。

ガトーは敬礼をし、ニナは不安そうにその金髪の人物を眺めた。

「シャア大佐でありますか。自分はアナベル・ガトー少佐であります。お目に掛かれて光栄であります」

「フフフ・・・そう固くならずとも良い。私は貴方程ジオンに忠誠心ある者でもない。よくぞ生き延びてくれた。私はそれが嬉しい」

シャアはガトーに声を掛けた。ガトーはシャアを真っすぐ見ていた。
シャアはこれからのゼナ派についての指針をガトーに説明をした。

「既にマハラジャ、ユーリー両提督、こちらのゼナ様にも説明済で了承を頂いている。ゼナ派は今日を持って解体され、新・ジオン、ネオ・ジオンを旗揚げし、私が旗頭になることになる」

驚愕の方向転換にガトー、ニナともに唖然となった。理由を聞きたかった。

「何故です!我々は・・・、ゼナ派でのジオン再興を・・・」

ガトーはそう言いながらも、ゼナ派での支持限界を感じていた。それが現在のグレミーに押されている要因でもあった。その説明をガルマが代わりに担当した。

「ガトー少佐。私はガルマ・ザビだ。知っておろう」

ガトーはガルマの事は勿論既知だ。そのザビ家の者が語る話に全て任せようと思った。

「ザビ家は既にギレンの独裁体制だ。もはや戦争当初のジオンの形は失われた。彼はそれを結論排除した。ジオンの将兵にしても、思想の支え、大義名分が失われた。よってガトー少佐のような露頭に迷うものまで出てきた」

ガルマは後ろに腕を組み、少し歩いた。

「今大事なことは、世想が向くベクトルだ。ギレンも、私らも、地球連邦も次のステージに向いている中でゼナ派だけは取り残されている。これは支持する将兵にとって、余りにも残酷だ」

ガトーも言えなかったが、そう感じていた。ゼナは下に俯いていた。

「ゼナ義姉さんも私情に囚われることなく、世界を見据えることを7年掛けて、ようやく決断してくれた。有難う義姉さん」

ガルマの微笑みにゼナはため息を付いた。

「・・・そうですね。私の、私に従ってくれた。亡き夫の無念をアクシズの分裂まで招いて、多大な犠牲を伴ってまで、お付き合いして頂いたこと、感謝しておりますが、それ以上に後悔しております。結局の所、私は夫の様に武人でもなければ、政治家にもなれない半端者です」

ユーリーはゼナの話に助言した。

「いえ!ゼナ様はむしろ私たちの求心力の為に利用されたのだ。償うならば私とマハラジャ提督に罪がある」

ゼナはユーリーに手の平を向けて、否定した。

「私がいけないのです。良かれと思ったこと、夫の仇。全てが複合して、私が音頭を取りました。しかし、支えてもらっても力及ばずだったのです。ガルマさんの提案を飲む時が来たのです」

ガルマはゼナの話に頷いて、話を戻した。

「ゼナ派はギレン派と対抗するためには、それなりの政治的な大義名分で対抗しなければならない。最早、ザビ家のお家騒動では至難ということで、こちらのシャア・アズナブル大佐。本名キャスバル・レム・ダイクンに立ち上がっていただくことになったのだ」

ガトーは更なる衝撃を受けた。シャアがジオン・ダイクンの遺児だと言うこと。そして同時に理解した。ジオンの思想を体現するに相応しい人物だと。ガルマは話を続けた。

「今の連邦の悪い所は特権意識。あれも所謂独裁体制だ。多少は連邦組織というものを一度解体したりして、見直さなければならないと思う。国、地域の再生だ。連邦はそのただの抑止力の時代に戻す」

ガトーはガルマの展望を自分の中で消化していった。

「様々な勢力が独立して統治しても良い。まあ元々、国あっての連邦組織だから極端だが、武力闘争にある程度の目処を付けて、対話の時代にしたのだ。考え方、思想などを厳密に1つに強制するから歪が出る。世界を1つの括りに出来るならば、元来戦争や紛争など起こらん。ある程度の落としどころ、均衡が大事だと思う」

ガルマが全て話終えた。ガトーは深く息を吐いた。そして覚悟を述べた。

「私の喉の痞えが取れました。もやもやしたものがです。シャア大佐の下で、ガルマ様の語った理想実現のために粉骨砕身で働かせて頂きます」

ハマーンは少し寂し気な顔をしたが、シャアに腕を組みながら話し掛けた。

「私も頼む。このアクシズ、ゼナ様、ミネバ様、そして父が好きだ。どうかより良い方向へ導いてくれないか?」

シャアはハマーン、ガトー両名に「勿論」と答えた。

「戸惑いが多いかもしれん。ただ対話していくことには時間と労力を惜しまない。何分協力者がいる」

シャアは艦橋の皆を見回して、決意を語った。

「私は新生ジオン、ネオ・ジオンの総帥となり、このアクシズを中心にスペースノイドの独立を実現するために決起する。柔軟から断固な部分まで対話し、必要ならば武力を用いる。今更ながら展望に芸はない。ただ、選民意識など謳う奴らをジオンにしろ、連邦にしろ野放しにはしないということだ」

シャアの話に艦橋に居る全員が頷いていた。すると、未確認機の接近の警報が鳴り響いた。
オペレーターがシャア達に叫んだ。

「本艦に接近中の機体、小隊規模です。方向からしてもティターンズによるものかと・・・」

「追ってきていたか・・・」

シャアがそう呟いた。ランバ・ラルも腕を組んでぼやいた。

「大佐の後を付けられましたな。どうされます?」

シャアは少し考え、自分が出撃することに決めた。

「私が出よう。ハマーンやランバ・ラルは出撃して帰ってきたばかりだ。それでメンテナンスに入っている。これではスクランブル出来ない」

「私ならば別にキュベレイでもなくてもよいが・・・」

「私もリゲルグでなくても別機がありますよ」

2人の提案をシャアは退けた。もう一つシャアには考えがあった。

「実は時間的にもそろそろ合流ポイントに差し掛かるのだ。ロンド・ベルのブライトとそこで待ち合わせていてね」

何度驚かされたことかとハマーンとガトーは思っていた。
それについてガトーが質問した。

「最早、敵味方等・・・語るにも馬鹿々々しい限りですが、ロンド・ベルと何故?」

シャアはガトーに視線を合わせ、答えた。

「アクシズにロンデニオンからジオン仕様の新型量産機を納品するために合流するのだよ」

「新型量産機ですか・・・」

「AMS-119ギラ・ドーガだ。機体性能ならば世代トップクラスだ。これで外敵からの武力に対抗する」

シャアがそう話し終えると、再びオペレーターより入電が入った知らせが来た。

「前方に識別不能艦確認。及び通信が入ってきております」

「きたか。繋いでくれ」

そうシャアがオペレーターに頼むと、艦橋の大型モニターにブライトの顔が映し出された。
ブライトもサダラーンの艦橋の様子が見え、ガルマが居ることを確認すると敬礼した。

「これは・・・ガルマ議員も搭乗されていたとは・・・」

「フッ、敬礼には及ばんよ。よく来てくれた」

ガルマは前髪を軽く手ではねのけた。ブライトは少し笑い、再び話し始めた。

「この連邦の艦にジオンカラーの緑の機体が沢山載っていることにいささか滑稽に感じるが、ラー・カイラム以下クラップ級3艦率いまして、アクシズへ納品する機体を持って参りました」

ブライトの報告にシャアが笑顔で答えた。

「有難うブライト。これでスペースノイドは救われる」

ブライトはサダラーンに近付く後方の敵にロンド・ベルが牽制しようと提案を持ちかけた。
それにシャアは了承した。

「頼む。私も出るが、数がいささかいるのでな」

「分かりました。ジェガン隊もケーラ中尉を先発で出撃させます」

そう言って、ブライトは通信を切った。
シャアは艦橋よりモビルスーツデッキへ向かうため、皆に伝えた。

「では、私はこれより出撃しますので失礼」

誰もシャアを呼び止めなかった。パフォーマンスにしろ、これから率いていくリーダーが自ら先頭に立つという事実をそのうち皆が欲するだろう。それを見せる良い機会でもあったからだった。

金色の機体がカタパルトに乗り、発進の合図を待っていた。

「大佐。進路クリアです。いつでもどうぞ」

オペレーターの声がシャアの耳に聞こえた。シャアは黄土色のノーマルスーツを身に纏っていた。

「了解した。後方の敵を撃退する。百式出るぞ」

シャアの乗る金色の機体は星々の海へと身を委ねていった。



 
 

 
後書き
と、まあ世界は一括りできないので、何事も解決には至りません。
誰もが良いことやカッコよいことは言わないし、できないし、しない。
誰にとって都合よい世の中に善悪の区別すらナンセンスではないかと考えます。
どの勢力も一枚岩になれません。それもまた組織たる所以ですね。

また、ちょっと書くのが遅れると思います。 

 

27話 パンドラボックス 2.15

 
前書き
皆さまの協力の下、ブラッシュアップされていきます。
今後もご面倒宜しくお願い致します。

当人は毎日朝から深夜近くまで会社都合で働く上で、
頭がパッパラパーに近い具合です(笑)
ホテル業界は厳しいです。。。

ストレス解消で日々書いております。
面白くなるように頑張ります。 

 
* インダストリアル1 メガラニカ内 聖櫃 2.15

辺りは漆黒といってよい程の闇の中に、サイアムの眠る冷凍睡眠装置付きのベッドだけが煌々としていた。その傍にその光の余波で照らされるフロンタルがそこに居た。

サイアム・ビストはフロンタルと会合していた。
サイアムの他には誰もいない。1対1の会話だった。

サイアムはフロンタルを見て、呟いた。

「・・・ラプラス憲章を、最後の一文を世に試す時が来たのか・・・」

サイアムの言葉にフロンタルが首を振った。

「もう一息だ。しかしまだ足りない。この箱を見れば分かる。最早、お互いに時間が足りないようだ」

「どういう意味だ」

フロンタルは自身が器になっているこの体と存在とのギャップに限界を感じていた。
元は常人の体。自身はあらゆる悪意、憎悪の集合体。様々な薬物で騙してきた体が悲鳴を上げ始めていた。

「精神は肉体を凌駕するというが・・・限界はあるみたいだ。あと一戦大きな悲劇が有れば良いのだが」

「悲劇か・・・。シロッコという者がそれを担うだろう」

「シロッコか。奴ならばこの箱を満たすことができるだろうが・・・」

フロンタルは周囲に黒いオーラを纏い、同じくオーラを纏っている箱に手をかざした。
すると、箱が宙に浮いた。

「サイアムよ。この箱はここでの役目を終える。後は人類が滅びゆく様を見ているが良い」

サイアムはフロンタルが焦っていることに気が付いた。
その彼に一言呼びかけた。

「その不完全なままで世界は滅ぼせるのかね?」

フロンタルは振り返り、出口を目指した。片手でマジックの様に浮かばせている箱と共に。

「やってみるさ」

そう一言だけ言い残して、サイアムの所から去った。
サイアムはインターホンでガエルを呼びつけた。すると、ガエルがサイアムの傍にやって来た。

「お呼びでしょうか?」

ガエルがサイアムの傍によると、サイアムは彼にラプラス憲章の原本たる石碑を見せた。
ガエルもその憲章は有名なものなので知っていた。ただ最後の一文を覗いては・・・

「こ・・・これは一体・・・」

「これがビスト財団の呪いだ。これをカーディアスと共に、ダカールの連邦議会に直接持ち込んでもらいたい」

「これは今いさかいが起きていることを全てを連邦政府が肯定するという事実・・・。一気に全てが終わり、そして始まりますな」

ガエルは興奮していた。しかしサイアムは険しい顔をしていた。

「それを本当に世界中の者が一丸となって従えるかどうかに人類の未来が掛かっている。もしダメならば人類はあっという間にフロンタルの下で滅ぶだろう」

ガエルはそして結構な大きさの憲章記念碑をどのように運搬するか、ふと疑問に思った。
それを察したかのようにサイアムがこう伝えた。

「まずはそのルートの確保に努めなければならない。しかも極秘でな。親族に知られないように連邦政府高官と接触してもらいたい。カーディアス、マーサ共に、フロンタルの存在を知っては各々動いておる。出し抜こうとしてな。マーサは無関心過ぎるが、カーディアスはダイレクト過ぎる。それでは私の欲を満たせないし、人類に成長も望めない。目星はつけておる」

ガエルは雲上人の思考というものは理解しがたく、そしてきっと暇つぶしの様な些事にしか過ぎないだろうと思った。サイアムにその目星に付いて伺った。

「して、その高官は?」

「ジョン・バウアーだ。彼の組織したロンド・ベルというものは、対フロンタル用と睨んでいる。彼とのパイプを秘密裏に繋いでもらう。そのために会わねばならぬ人物がコレだ」

サイアムの目の前のモニターにある男が映し出された。その男にガエルは黙って頷いた。

「カイ・シデン。ジャーナリストという仮初を着た千の腕を持つ交渉人(ネゴシエーター)

「・・・わかりました。まず彼と連絡を取るために地球へ向かいます」

「頼む。人類の未来はガエル、君の手に掛かっている」

そう言うと、サイアムは「話し過ぎた」と一言の後、スーッと寝てしまった。
ガエルはサイアムに託された希望を実現するべく動き始めた。

ガエルは現当主のカーディアスにも知られてはならないという所が悩みどころだった。

「カーディアス様にも知られてはならないところが、難点だな。仮にも私の主人。さて、どうしたものだか・・・」


* 地球 イスタンブール周辺 2.17 10:15


シナプス隊はイスタンブール郊外で周辺を監督するティターンズ基地を攻略していた。
この辺は紀元より、地下都市等優れた防空壕がおよそ数キロに渡って張り巡らされていた。

ラー・アイムの艦橋でシナプスが仁王立ちしながら戦況を見ていた。
色々な情報がシモンより矢継ぎ早にシナプスへ飛んできていた。

「カミーユ大尉が一人先頭に突出し過ぎています。キース、コウ両中尉も両翼にて、他のジムⅢ隊より前に出過ぎています」

「スコット少尉!」

シナプスの大声が若いオペレーターを呼ぶ。

「はい!」

「両翼のジム隊に連携以上にコウとキースに喰らいつくように進軍しろと伝えろ。本艦も中央のカミーユに追いつくよう進軍する」

「ぜっ・・・前線を上げるのですか?」

「そうだ。生憎サッカーとは違ってオフサイドなど無いからな。カミーユの快進撃が奴らの戦意を奪っておる。好機だ」

「了解です」

シナプスはヨーロッパからの攻略戦より自身の戦力値を計算していた。カミーユ、コウ、キースの3人でティターンズの1個大隊に相当する戦力だと。状況に応じてはそれ以上発揮することができると踏んでいた。

今まで攻略してきた基地のティターンズの戦力保有は大体50~100機。中には旧式のモビルスーツも居た。出方を見れば、大体の戦力が分かった。それで攻略の可否を決めていた。

無論、シロッコの様な不確定要素がいつ現れるかは分からない。その時はすぐにでも撤収する心積もりでもいた。

30分後、カミーユからラー・アイムへ通信がもたらされた。
それをスコットが受け取っていた。

「前線のカミーユより入電です。敵基地通信施設完全破壊。敵が全て遊軍と化したそうです」

通信網が破壊された部隊は個々が孤立する。つまり、帰る場所を失った迷子と敵はなってしまっていた。こうなると敵の戦意というものが失われるに等しかった。

シナプスの戦い方は大体このようなものだった。なるべく敵味方問わず犠牲を最小に抑える戦い方。
シナプスはそれを聞くや否や、敵へ降伏勧告を勧める。

「ティターンズの諸君。貴官らの基地は既に破壊された。司令部も機能していない。通信を取れば分かることだ。貴官らは帰る家、守る家を失ったのだ。願わくば、戦闘を中止し投降されたし。選抜された貴官らならこの話を理解できるだろう。以上だ」

シナプスはオープンチャンネルで周辺へ今の話を放送した。
いつもながら、多くのティターンズが武装を解除し投降してきた。
その情報をシナプスが聞くと安堵した。

「やれやれ・・・これで、15箇所目の基地制圧だ。全く、地球規模で制圧していくだけでも時間が浪費する」

シナプスは艦長席に戻り、一息ついた。その様子にパザロフ少佐がコーヒーを入れてきて、シナプスに手渡していた。

「しかし、これで大方のヨーロッパ全域がエゥーゴの手に戻りました。あとはアジアです。そこさえ制圧すれば、ジャブローやダカールの連中もエゥーゴ、カラバを認めざる得ないでしょう」

「そうだな。お偉方の損得勘定は勢力図によって決まるからな。宇宙は未だ、ソロモン、ルナツー、ラプラスステーションとティターンズが健在だ。あちらはブライト君とシャアさんが何とかしてくれるだろう」

そう言うとシナプスはコーヒーに口を付けた。
ほろ苦い味だ。今の状況、心境にそっくりだった。

間もなく、シモンより友軍の信号をキャッチし、こちらへ向かってきているという連絡があった。
シナプスは不思議と思い、どの友軍かと尋ねた。

「ネェル・アーガマです。ヘンケン中佐が通信を求めております」

「わかった。こちらに回してくれ」

すると、ラー・アイムのメインモニターに大きくヘンケンの顔が映し出された。

「准将。戦い直後で失礼する」

「いいさ。何だいヘンケン君」

「ここより先の制圧は私らが請け負う。君たちにはブレックス大将の護衛を頼みたい」

「護衛ですと?大将直々の指名ですか?」

「そうです。カミーユ君の力も買ってのことでもあります」

「ニュータイプの出番か・・・。して護衛先は?」

「連邦政府首都ダカール」

「なっ!」

シナプスはエゥーゴ代表が連邦首都へと今の時期に向かうという行為が自殺行為に等しいと思った。
理由は聞くまでもなかった。近々連邦臨時議会の招集があると噂されていたからだ。

「今ですか・・・」

「そうです。今なんです。ミリタリーバランスがエゥーゴに傾きつつある状況でのティターンズ側の明らかな嫌がらせです」

ブレックスも連邦政府に議席を置くものとして、出席を拒むことはできなかった。
暗殺からは連邦政府も安全保障の観点より決して起こしてはいけない不始末だが、ティターンズにはそのような破廉恥すらものともしないだろう。彼らは誤射と称してワイアットを消したのだから。

シナプスはため息を付き、もう一つ出席する議員に付いて伺った。

「ガルマ議員は?」

「彼も出席するが、こちらはある護衛を伴ってくるそうだから問題ないと先方から伝達が来ている」

「そうですか・・・」

「我々はニューヤークよりこちらへ来ている。バニング隊を始めとするジェガン部隊がこの先のアジア制圧に乗り出す。将軍達はまずトリントン基地へブレックス大将を迎えに行ってもらいたい」

「了解した。貴官らの健闘を祈る」

「はっ!」

ヘンケンは敬礼をして、通信を切った。
通信の終わりの方でカミーユたちはブリッジへ上がって来ていた。

「艦長。完全にワナですね」

カミーユが当然の事を言ってきた。シナプスはただ頷く。
コウ、キース共にティターンズを罵っていた。

「仕方がない。我々は軍属で、ブレックス大将は政府に席を置いている。昔は軍属が議席など認められなかったが、法改正で軍籍置いたままで席を置ける。議員になれるが、議員である以上市民の視線を気にしなければならなくなったから、大将も出席を拒めない」

出席を断る事、それは軍への叛意であり、連邦との決別、世界を敵に回すことでもあった。
軍籍を置きながらの政界に転ずるハンデ。それが軍人議員の暴走抑制に繋がっている。

「本会議場で事は起こさないだろう。我々がダカールへ無事に護衛すれば良い」

シナプスらラー・アイムは一路オーストラリアのトリントン基地へ向かうことになった。


* サイド3宙域 2.18 未明


ジオンの防衛隊が1機の未確認機に翻弄されていた。
シャリア・ブルもカスタマイズ機のヤクト・ドーガを戦線に投入していたが、捕捉できない。

「なんて機動性能・・・というより、何だあの忌まわしい闘気!」

シャリアはファンネルを使いながらも、その所属不明機を追撃していた。
既に、50機程の首都防衛のギラ・ドーガが失われていた。

普通はそれ程の撃墜が有れば、並の機体はガス欠になる。しかし、その機体は自身の推進機能や兵器をあまり使わず、撃墜していた。

その報告を聞いていたギレンは即座に司令部を遷した。ズム・シテイのある傍にある人工惑星艦に搭乗し、指揮を取っていた。

この球体はゼウスと呼ばれ、周囲をガンダリウム合金とサイコフレーム機構の傑作で先までの戦いで蓄財した資金を来たるべき将来の為に作り上げた代物だった。

極め付けは百人をも数えるニュータイプ、強化人間の砲撃手による数千と呼ばれる遠隔操作ビットと球体全てを囲うサイコ・フィールド。これで1個艦隊を造作なく沈めることができる。

そのような戦力を持ちながらも連邦と冷戦状態にあったのもフロンタル襲来のためでもあった。

「ついに、牙を向いてきたか終末の災厄よ」

ギレンはあらゆる情報網から、その未確認機の正体を看破していた。
そのためにギレンはフラナガン機関を総帥統括で研究を進めてきていた。

このゼウスには、ニュータイプが多く搭乗していた。
サイコミュ対策の仕掛けも万全だった。

この宙域より、少し離れたところにドゴス・ギア級の大型戦艦ゼネラル・レビルが鎮座していた。
この艦の所有者は連邦ではなかった。言わば私設部隊。その責任者はマーサ・ビスト・カーバインだった。

マーサはその艦橋で先方で戦っている未確認機の戦況を眺めていた。
彼女の傍の艦長席にはマ・クベが自前の磁器を磨きながら座っていた。

「戦況は圧倒的のようね」

「・・・そうですな。私の投資したギレンを倒す手段であるから問題ないはずだ」

アナハイムの試作機最高傑作であるMSN-06Sシナンジュを駆るフロンタルは現行のモビルスーツなど児戯に等しかった。何と言っても、シナンジュに内蔵されている<パンドラボックス>と呼ばれるサイコフレームの結晶。これに含まれている測定不能な無尽蔵エネルギーがシナンジュの力を更に引き出していた。

マ・クベはキシリアがギレンに粛正されたことにより、自身の敬愛する、目標とするものを失い自棄になっていた。3年前の空売りにより得た巨額な資金をマーサの野望に費やした。

「私らビストの上を往くに、ギレン如きでは超えられない。ビストの意思は世界の意思よ。今までの悲劇も、世界が痛みを知り、ビストの力を改めて知らしめるため。マ・クベ、貴方がキシリアを失った事は世界の意思で必然だった。そして貴方はギレンに復讐する権利が与えられた。これは私、ビストが保証するわ」

マーサはそうマ・クベに伝えると、当時精神的に均整が取りきれていない彼はマーサに素直に従うことにした。

その2人の間隙にフロンタルが入り込んでいた。元より、キシリアにフロンタルを紹介したのはマーサだった。マーサとの繋がりをフロンタルは保ったままだった。

フロンタル自身は多くは語らなかった。マーサの意思に付いて行くことで自分の目的が達せるからだった。そしてその思惑をマーサは知らない。マーサはフロンタルを侮っていた。ただの意思の持たない人形だと思っていた。

フロンタルはこの世界のオーパーツだった。それを持つマーサは世界の優位性は自分にある、そう考えていた。

マ・クベは傍のデスクに磁器を置くと、ため息を付いた。

「はあ・・・儚いものだ。1夜にして、1勢力がこの世から消えてしまう。今までの私の想いがこんなにあっさりとしたものとは」

マ・クベの後ろでマーサは鼻を鳴らした。

「フン、貴方達は状況に応じた合理性を常に求めて動いていたみたいだけど。私は結論を求めていたの。動くときは今よ。無為に頭を使い過ぎなのよ、庶民共は」

「確かにそうかもしれん。結論、ジオンの意思や連邦の意思、ひいては世界の意思を無視し、すべてビスト財団に帰属させる。昔も、今も、そしてこれからもビストが牽引していく。バランスを壊す革命家など必要ないわけだ」

「無い頭で考え過ぎなことを気付かせないと。ジオンもティターンズ、エゥーゴも要らない。連邦の様な傀儡が適当に世界を統治するに限るわ」

「戦争以前に戻すのか・・・」

「そうよ。ここまでかき回されるとは思いもよらなかったわ。これは単にビストの威光がいつの間にか軽んじられていた。兄のせいでもあるわ。いつの世も世界の均衡を保つ者はときの支配者、今はビストなの。それがビストに生まれた私の宿命」

マーサはギレンが居るであろう球体戦艦を見つめていた。

「ギレンは私の期待通り、あの球体を作り上げたわ。私の手引きとも知らずに・・・」

「ギレンを・・・出し抜いたのか・・・」

マ・クベはマーサの力に恐れた。ギレンを騙すなど並の芸当ではできない。
マーサはクスっと笑った。

「ええ。私はただ夫より、ギレンの欲するものを渡しただけ。それは私も欲しかったモノ。なら人に作らせた方が楽でしょ」

「・・・ッフッフッフ、大した支配者だ」

「ありがと」

マ・クベはマーサの戦略を褒めた。
マーサの意思は至って単純だった。世界は平穏で静かに限るということだ。そこにはニュータイプ等特殊なものは無用の長物と思っていた。マーサとマ・クベが話しをしている間にギレンとの戦いに決着間近となっていた。

シャリアのオールレンジ攻撃にフロンタルはシナンジュのサイコ・フィールドで全てはねのけていた。
その業はシャリアを驚愕させた。

「・・・な・・・避けていない。当たらない。バカな!」

シャリアはヤクト・ドーガのビームサーベルでシナンジュへ近接戦闘を仕掛けた。
その攻撃をシナンジュはサーベルでなく手のみで受け止めていた。

「あ・・・ああ・・・」

シャリアはうろたえていた。今まで出会ったことの無い、絶対に勝てない相手と戦うことの恐怖。
その想いをフロンタルは感じ取っていた。

「フフフ・・・わかるぞ、その感情。私はその手の感情が好物でな。有り難く頂戴しよう」

フロンタルは自身のフィールド場の斥力でシャリアのヤクト・ドーガを吹き飛ばした。

「うわあ~っ」

シャリアはその得体の知れない力とその衝撃に力の限り叫んだ。それが彼の恐怖を和らげる唯一の方法だった。

「ふむ・・・。お礼にいいモノをプレゼントしよう」

フロンタルはシナンジュに組み込まれているパンドラシステムの力を開放した。
すると、ギレンでも理解できるほどの悪寒がサイド3宙域を支配した。

ギレンの座乗するゼウスは全ての計器に異常が出ていた。

「機関出力半減!」

「ニュータイプ達の精神波が全くありません!全て気絶した模様」

「サイコ・フィールド磁場が消滅!」

フロンタルの発したフィールドがゼウスの機能をダウンさせていた。
ギレンは遠くにいる原因に取りあえずコンタクトを取ることにした。

フロンタルがその通信をキャッチしたが、ミノフスキー濃度が高すぎて通信できなかった。

「仕方ない。少し近づくか」

そう言って、フロンタルはシナンジュのスラスター出力を上げて、数刻後ゼウスの目の前に辿り着いていた。一瞬とも言える間で辿り着いたシナンジュを見て、ギレンは深くため息を付いた。そして再びフロンタルと通信を繋いだ。今度はフロンタルの顔が映った。

「やはり、貴様だったか・・・」

「ほう、動揺がないとはさすが指導者、統治者と言うべきかな」

フロンタルの言った通り、ギレンには一切の動揺は無かった。全ては計算されたことだった。
自分の出来うることは全てしたギレンは、それを上回るフロンタルを相手にするとなると最早降参だった。

「私はそれ程理解は悪くない。この事態は窮地と言うものだ。知っていれば動揺する必要もない」

「そうか。では、その球体も有り難く頂戴しよう」

「・・・成程。アナハイムが噛んでいた訳だな。まあそれも予測していたがな。仕掛けで遠隔で無力化されるかと思っていたが、もっとダイレクトだった。ただそれだけだ」

「諦めが良いなギレン総帥。しかし、卿は何故意識が保てているのかな?」

ギレンはフロンタルから言われてから周囲の様子に気が付いた。
艦橋にいる全ての士官が皆意識が無く、倒れていた。ギレンは少し笑った。

「フッ・・・何故かな。フロンタルよ、貴様なら分かるか?」

フロンタルはしばし考え、ある結論に至った。

「・・・ギレン閣下。貴方には感情がない。そして、生きる意思が欠けている。常在戦場。兵士としては一級品の精神構造だ。つまり死人だな」

ギレンは高らかに笑った。

「ハッハッハッハ、成程。それ程、生に執着ある方ではないからな。ただ野望の為に世捨て人なだけだ」

「・・・それが人を超えたと言う話だ。人は孤独を嫌う。しかし貴方はそれを受け入れて生きている。それは世間一般としては生きていない」

「フロンタルよ。貴様からそんな真面目な講釈を受けるとは思わなんだ。それでは一流の悪役にはなれんぞ」

ギレンの挑発にフロンタルは微笑を浮かべていた。

「生憎、私は情緒不安定なんですよ。様々な想いが私に集結している為にね」

「ほう。貴様が世界の総意と言う訳か。しかしかなり負の要因が強そうだ」

「中々良い回答を言ってくれるじゃないかギレンよ。さて、そろそろお開きとしよう」

シナンジュの機体が緑白に輝き始めた。
その姿にモニター越しでもギレンにはこれから起こる事が理解できた。
恐らく自分はこの世から消えることになるだろうと。

その時、シナンジュの右腕が爆発が起きた。
その衝撃で青白い光が霧散した。

「なっ!」

フロンタルは驚愕した。その爆発した原因を感じ取り、後ろを振り返った。
すると、先ほどのフロンタルと同様に緑白に輝いているヤクト・ドーガが居た。

フロンタルは無言でそのヤクト・ドーガを見ていた。
ギレンも表情を変えず、シャリアの乗るヤクト・ドーガを見ていた。

シャリアはフロンタルに吹き飛ばされてから、圧倒的な力の差に絶望を抱いていた。
このままではギレン総帥が想い描く理想、そしてそれに付いてきている数億の支持者が一瞬にして滅ぶ。

シャリアは慟哭の中でもがき、精神均衡が崩壊した。
彼の眼には何の情報も入らない。そんな最中、彼は体の内から暖かさを感じた。

究極の危機から人は希望、救いを求める。シャリアは只今、生命の究極の危機に追い込まれていた。
一層の事、死んでしまえば良いのにと感じていたが、死ぬことすら許されなく、唯瀕死が永遠と続く状態。そんな状況を打破したいと考えるのは本能だった。

究極の危機で反射的にすがる究極の救い、希望。それがシャリアのニュータイプ能力を覚醒させていた。

シャリアには意識はない。唯、感じる究極の危機の要因であるフロンタルを排除する、それを無我の境地で体の赴くまま動いていた。

そんな様子をフロンタルは感じ取り、不敵に笑った。

「フッフッフッフ・・・ここに来て、私の敵と出くわすとは」

フロンタルは笑みを一瞬で消し、片腕を失ったシナンジュをヤクト・ドーガと対峙させた。
フロンタルは残った手にビームサーベルを持たせて、ヤクト・ドーガに斬りかかっていった。

ヤクト・ドーガはシナンジュの機動性能に反応出来ず、その場で真っ二つに斬られ四散した。
しかしフロンタルの驚愕は更に続いた。

「なんと!」

ヤクト・ドーガの撃墜は確認できたが、その機体のファンネルが尚動き、執拗にシナンジュへ攻撃を仕掛けてきた。どのファンネルにも緑白の光が纏っていた。

「残留思念か」

フロンタルはシャリアが消えても、シャリアの意思がファンネルに強く残っており、それによりファンネルが動いていると感じ取っていた。フロンタルはそのファンネルを1個ずつ丁寧に撃墜していった。
最後の1つを撃墜したとき、シナンジュの機体は部分的に破損していた。ファンネルの攻撃がシナンジュへ確かなダメージを与えていた。

「ええい。ここまでやられるとは・・・。やはり侮れんな、人の感情は!」

フロンタルは忌々しく呟いていた。自身もサイコフレームとそれを汲む水である人の想いに無限の可能性を感じ取っていた。そのためのパンドラボックスを開発し、それを直接的にフィードバックできるパンドラシステムをシナンジュに組み込んでいた。

ギレンはその一部始終の光景を見て、腕を組んで考えていた。

「・・・成程な。ニュータイプの研究はフラナガン機関を通して聞いていたが、<奇跡>というものが起きた時に、あのようにフロンタルの様な化け物を駆逐できるほどの力が働くのか・・・。考えようによってはフロンタル自身は大したものではない」

そうギレンも呟くとその声はフロンタルにも届いていた。フロンタルはギレンの発言を肯定した。

「その通りだ総帥。私自身の優れた部分は技量のみ。それ以外は何も持ち合わせていない。私自身人の協力なくして何も成す事はできないのだよ。ただ、貴方とは違う点は私は絶望しているということだ。その意思が積年のものであって、それは私個人のものではないということで覆すことはできない私という器の絶対なのだ」

ギレンはフロンタルの話を聞いて、眼を閉じて瞑想した。その瞑想中にギレンがフロンタルに伝えた。

「・・・そうか。君のような犠牲者を誰かが止めてくれることを願うよ」

「私もそう期待している。さて終わりにしようか」

するとシナンジュが再び緑白に輝き始めた。その光はズム・シテイとゼウス全体に波及した。
ギレンはゼウスの艦長席に静かに腰を下ろし、その光に誘われ目を閉じた。

「(私の意思は・・・野望はここで終わるが、残ったものはあのシャリアの様に足掻いてもらいたいものだ)」

フロンタルの発した光により、浸食された地域の生命体は活動を自ら放棄した。
その結果を肌で感じたフロンタルはその行為を終了した。
彼の体からは物凄い発汗があった。

「ふう~。多くの者に呼びかけて説得するには心が折れる。こんな厭戦状態だからこそ可能にした状況だった」

フロンタルは後方に控えるゼネラル・レビルに作戦終了を伝えた。

「ミズ・カーバイン。作戦は終了した。付きましてはあの球体を摂取をお願いしたい」

マーサはフロンタルの報告を聞き、上機嫌だった。

「よくやったわフロンタル。帰投してゆっくり休息を取って頂戴。今後も作戦は続くわ」

「了解した」

フロンタルとの通信はそこで終わった。マーサは艦橋でゼウスを見つめ、含み笑いを始めていた。
一方のフロンタルも自身の持つ携帯端末である数値の上昇を確認して笑みを浮かべていた。

「(フッ、この戦いでサイド3の絶望を、感情をパンドラボックスに蓄積されたか。今の力ではまだあの程度。ゼウスを用いれば、その波及範囲の拡大もさることながら、吸収もし易くなるに違いない。世界の願いの成就は近い)」

フロンタルはそう言いながらも、自身の生み出したシステムの利用条件の難しさを深刻に捉えていた。力の上限はもっと上のはずなのだが、今のところはこの程度しかできない。そのトリガーを見つけなければとフロンタルは試行錯誤していた。


* 地球 ニューヤーク カイ・シデン事務所 2.26


カイは各地から取り寄せたり、送られたりしてくる資料を片づけては自身の連載している手記の作成に追われていた。

傍にデスクを構えているミハルもそのアシストに四苦八苦していた。

「カイ~!もう少し少なくならないかしら?これじゃあ原稿も落としそうになるし、エゥーゴやカラバの活動支援も滞るよ」

「っつたく。分かってるよ!だからこうも必死なんじゃないか!」

そんな激戦の中、ベルトーチカから通信が入って来た。
それに気付いたカイは傍にあるモニター型通信機をオンにして、目は原稿を入力するパソコンに向かっていた。

「何の用だ」

「何の用だって、あるからに決まっているでしょ?締め切りに追われているのは分かるけど、ビックニュースを貴方宛てに届けに来たのよ」

カイは無関心だった。しかしベルトーチカの次の一言でカイの手が止まった。

「ガエル・チャンが貴方に会いたがっているよ」

「・・・」

カイは深呼吸して、ベルトーチカにこう伝えた。

「2時間後、話を聞いていいか?」

「いいわ」

「それまでにこいつらに目処を付ける」

「わかったわ。それじゃ」

ベルトーチカの通信が切れると、カイは各雑誌社へ数本原稿の遅れの連絡を入れた。代わりにストックで用意した番外の原稿で手打ちにするように伝えた。

「よし!ミハル。これで荷が楽になったぞ」

「・・・最初からできるならそれをしてよ!」

「アレは非常手段なんだよ。ガエルが会いたがっているらしいからな」

「ガエル!ビストの秘書。世界のフィクサーが何故貴方に?」

「知るか。取りあえずビッグなネタなのは間違いないだろう」

そう言って、カイとミハルは仕事に没頭していった。 
 

 
後書き
* マーサは革命家という不純物の排除に奔走しております。
  凡人が世界を統治し、それをビストが世話をする構造を良しとするためです。

  ガルマの展望とギレンの展望は異なるため、ギレンの計算ならば世界は変えられると思っている   が、ガルマはそれでは宇宙に住むものたちが死んでしまうと考えています。 

 

28話 グレミーの岐路 2.23

 
前書き
あんまり話は進行しておりませんが、
どうぞ。。。


 

 
* サイド2・サイド6 境界宙域ミンドラ艦橋 2.23

シャアの反撃、並びネオジオンの設立により、グレミー軍は徐々に前線を押し込まれていった。
グレミーはサイド6に残してある本隊を呼び寄せ、決戦を挑んだ。

当初はグレミー優勢だったが、ブライトが運搬し、旧ゼナ派、シャアの部下たちが操るギラ・ドーガが
少数精鋭を文字の如く表現していた。

「これ以上は進軍させるわけにはいかない。ここで撃退する」

グレミーは艦橋で演説し、サイド6に展開していた全てのエンドラを結集させた。
それに搭載してあるモビルスーツで向かってくるアクシズの部隊へ防衛ラインを敷いた。

多少の連戦も苦にしないギラ・ドーガの性能はそれに劣るグレミー軍を後手に後手にと回していった。シャアの百式もグレミー軍のガサやバウを次々と戦闘不能に追い込んでいった。

「なるべく撃墜は避けよ。元は同胞だ。ラルとアポリー、ロベルト、ジーン。お前たちは天底から回り込んで、退路を断て。デニムはスレンダーと私が撃ち損ねた機体の処理だ」

「了解です」

「大佐頼みます」

アポリー達はブライトが運搬してきたギラ・ドーガに乗り、その機体性能を存分に発揮していた。
それに加え、全ての操縦者が7年前より活躍していた熟練者。その技量もあってシャアの部隊は1機たりとも撃墜されていない。

そんなシャアの精鋭部隊の危惧するところは連戦による補給の問題だった。
快進撃もこの一戦で終わり、アクシズの安全を確保できるシャアは考えていた。

グレミーもバウに搭乗し、前線で指揮を取っていた。

「怯むな!バウ部隊、ガサ、ガ・ソウム部隊共に押し返せ」

グレミーの傍にビーチャの乗るゲーマルクが寄ってきた。

「グレミー!ダメだ。敵の機体性能、技量に差が有り過ぎる。このゲーマルクでもやっとだ」

グレミーは唸っていた。才能がモノを言わす時代に来ていたと思っていた。経験がそれを埋めると。経験というものは遥かに優れていた。

「・・・ある天才と呼ばれた科学者が言っていた。1%の才能さえ有ればよいと」

グレミーがそう忌々しく呟き、戦況を眺めては各隊へ指示出しをしていた。

ジュドーとプルツーの部隊は天底から回り込む敵部隊を牽制すべく、その宙域に部隊を動かしていた。
ジュドーはZZをプルツーはグレミーの切り札と呼べる大型モビルスーツ、クィンマンサに搭乗していた。

向かってくるギラ・ドーガは7機、内一機は青い色で塗装されていた。

「青い巨星だぞ、ジュドー!」

「分かってる。ジオンのエースだ。油断するなよ」

ジュドーはビームライフルを放った。ギラ・ドーガは避けるため散開した。その動きにプルツーが大型とは思わせない程の機動性を見せ、1機のギラ・ドーガの背後に回っていた。

「もらったー!」

既にサーベルを構えていたプルツーはジーンの乗るギラ・ドーガを頭上より打ち下ろしていた。

「なっ!やらせるかよ!」

ジーンは横に捻らせ、紙一重でプルツーの攻撃を避け切った。

「避けられた!」

プルツーは驚いたが、その空振った攻撃した腕をジーンの避けた方向へしならせた。
それにジーンのギラ・ドーガは両腕で掴み抑えた。

「ぐぐっ・・・」

ジーンのコックピット内に衝撃が伝わった。クィンマンサとギラ・ドーガの機体のスケール差には大きな違いがあった。その受けた衝撃で、ギラ・ドーガの両腕の機能が失われた。

「ちい・・・まさかこの衝撃で使えなくなるとは・・・」

ジーンはそれでもその掴みを解く。

「これも受けきるのか!」

プルツーは敵の新型の性能に驚いた。ジーンが即座に後方へ下がると、ランバ・ラルと他のギラ・ドーガらがプルツーの背後より実弾攻撃を仕掛けてきた。その数発がクィン・マンサに当たっていた。

「うわあっ・・・っく・・・ちくしょう」

プルツーが唸り、クイン・マンサを反転させてファンネル、各部メガ粒子砲を放った。
ランバ・ラルが攻撃してきたクィン・マンサに各モビルスーツへ指示を出した。

「敵の攻撃は距離がある。当たるなよ」

ランバ・ラルの言う通り、距離があるためメガ粒子砲は各機とも当たらなかった。しかしそれが陽動による本命のファンネル攻撃に各機対応が遅れ、ギラ・ドーガが小破する機体が出た。

「サイコミュを活用しろ。今の技術ならば技量によってはフィードバックされて反応できるぞ」

この頃のサイコミュの技術はフロンタルシステムのパンドラボックスと同様に意識の汲み上げが安易になり、通常の人でも作用ができるようになっていた。

しかし、それは本当のニュータイプと呼ばれるものとは程遠いのでファンネルの様な遠隔兵器の利用まではいかない。せめて自己防衛になるぐらいの代物までしか技術では達成することができなかった。

サイコ・フィールドまで発することのできるニュータイプとなると並のサイコフレーム搭載機でも中々太刀打ちはできない。それでも戦い方によっては何とかなったりする。

例えば、それを打ち負かす程の火力をぶつける。一瞬でも凌駕する集中力で攻撃する。または敵の集中力が途切れるほどの攻撃をする。

ランバ・ラルはクィンマンサへ接近戦を仕掛けた。ビーム・アックスでクィンマンサの左肩を攻撃したが、見えない斥力により軽く弾かれた。

「やはりサイコ・フィールドか。雰囲気はあったからな」

ランバ・ラルはスーッと精神を統一させて、この機体の肩を壊すと念じて再び攻撃を仕掛けた。
その気迫にプルツーが悪寒を感じた。

「(何だ・・・やられる!)」

プルツーはサーベルでランバ・ラルのギラ・ドーガに応戦をしたが、その動きが大振り過ぎて難なく避けられてしまった。

「取った!」

ランバ・ラルを叫び、クィン・マンサの左腕を切りつけた。クィン・マンサの左腕の一部が爆発した。

「きゃあ!」

プルツーが悲鳴を上げ、反射的に後方へ機体を下げた。
ランバ・ラルは追撃をかけたがその刹那、ジュドーのZZがランバ・ラルのギラ・ドーガに肉薄していた。

「青い巨星さん。がら空きだぜ」

ジュドーはサーベルでランバ・ラルの脇を打ち抜こうとしたが、それをランバ・ラルはアックスで振り向かずに受け止めた。

「何ィー!」

ジュドーは驚愕した。後ろに目が付いているのかと思った。

「フン!ヒヨっこが。お前などアムロの様な実戦を知るニュータイプとは程遠い」

「アムロ・レイと・・・。そんなに違うのか!」

「ああ、違う。アムロもシャア大佐も、お前たちとは全く違う。子供の遊びとは違うのだ」

ランバ・ラルの気迫がジュドーを圧倒した。ジュドーは近距離でライフルを数発放ち、ランバ・ラルを牽制し後退させた。そして損傷したクィン・マンサへ近づいた。

「大丈夫かプルツー」

「ああ・・・問題ない」

そうプルツーが言っていたが、この宙域の制空権は明らかにランバ・ラルの方に分が有り過ぎた。
それは2人とも直感で分かっていた。

一方のランバ・ラルも状況を理解し、アポリー達に「近接戦闘は避けて、狙撃による攻撃で敵を殲滅させる」という手法で徹底させた。

こうなるとジュドー達は数に勝る敵の弾幕に成す術がない。その距離が徐々に詰められてきている。

「どうする、ジュドー!」

「分かってる!ええい、一旦後退だ」

「でも、退路が断たれるよ!」

「グレミーは既に行動を起こしている。全部隊を徐々に後方へ下げている」

「元々はこれもその時間稼ぎか・・・。わかったよジュドー」

ジュドーとプルツーはありったけのメガ粒子砲をランバ・ラル隊へ放った。
ただの目くらましだったが、それに当たる訳にもいかなかったので回避行動を取った。

「ん?敵が逃げるぞ!」

ランバ・ラルは各隊に伝達した。しかし、ロベルトが各ギラ・ドーガの燃料について示唆してきた。

「隊長、私も含めて動き過ぎました」

ランバ・ラルは自身の燃料ゲージを見ては苦虫を潰した様な顔をした。

「・・・連戦連勝が響いたか。確かにな、私のも燃料ゲージがギリギリだ。あ奴らの動きに対応する為には燃費が悪い相手だな」

ランバ・ラルは一息付いて、各ギラ・ドーガへ帰投を促した。

「取りあえずは一定の成果を得た。敵の後背を脅かし、一方的なアクシズ寄りな前線問題も解消された。サダラーンに戻るぞ」

ランバ・ラルはふとある考えが浮かんでいた。グレミーの動きであった。
グレミーの作戦が負けてもただでは転ばない。縦深陣の様な体で反撃の機会を狙っていたのではとランバ・ラルは考えた。

「最新鋭で勝ち過ぎた我々の士気を利用しての補給線の限界を狙ったのか・・・」

ランバ・ラルはシャアの部隊に無線で警鐘を鳴らした。

「後は大佐の手腕のみだな。まあ、気づかない大佐ではないとは思うが・・・」

一方のシャアは数で凌駕されながらも、性能で圧倒している百式を縦横無尽に戦場を掛けていた。
その動きにグレミーが固唾を飲んで見守っていた。

「(もうそろそろだな・・・)」

シャアは自身の燃料ゲージを見た。これ以上の戦闘は旗艦への帰投できるかギリギリだった。

「ここまでか・・・。各自牽制しながら後退せよ」

シャアは自身の部隊の活動限界を読んでいた。しかしそれはグレミーも同様だった。
シャアの攻撃が弱まったところで、グレミーは一転攻勢に出た。

「今だ!各隊、後退する敵に逆撃を与えろ!」

グレミー自身のバウも発進させて、後退する百式、ギラ・ドーガに向けて部隊が鶴翼陣形の状態で急速に包囲網を築き上げようとしていた。

「(まずい!)」

シャアは直感で隊の迅速な撤退を促した。殿は自身が務めたため、百式のみが容易く捕捉された。

「ええい!」

回り囲むガサ、ガ・ソウムらに集中砲火を百式に目がけて浴びせられた。
百式のバイオセンサーがシャアの感応波を受け取り、それらを紙一重で躱しながらガサらを撃墜していった。

「こちらがやられてしまう。命を取られるならば已む得まい」

今まで撃墜を避けた攻撃だったが、グレミーの攻撃は百式の撃墜だったため、シャアは向かってくる全てのモビルスーツを撃墜していった。

8機目のモビルスーツを撃破した時点で、シャアの後背にビーチャの乗るゲーマルクが迫っていた。

「貰ったぜ!金色ー!」

ゲーマルクのビームサーベルを百式に目がけて振り下ろした。

「なっ!」

シャアは余りの猛攻にビーチャの存在を気付き遅れた。
シャアは百式の右腕一本を犠牲にしてその攻撃を避け切った。
その後もシャアへの攻撃が続く。今度はグレミーのバウのライフルが百式の左足を撃ち抜いていた。

「後ろもか。まだできるはずだ」

シャアはビーチャのゲーマルクへバルカンで攻撃した。

「ハハッ、そんなおもちゃでビーチャ様に勝てるかよ!」

ビーチャが侮った瞬間に、シャアは後方のグレミーへバックしたまま突進した。

「何!」

後ろ向きで来る百式の動きに虚を突かれたグレミーだったが、唯の暴挙だと理解して百式に目がけてライフルを放った。

「(当たれよ)」

シャアはそう念じて、グレミーの射撃を体を捻らせて避けた。その射撃は丁度射線上にあったビーチャへ直撃した。

「何!うわあっ」

グレミーの一撃がビーチャのゲーマルクのメインカメラを撃ち抜いた。
グレミーは憤り、百式に改めて攻撃した。周囲のガサたちも百式に殺到する。

シャアは次の行動を取ろうとしたとき、アラームが鳴った。

「なっ!パワーダウンだと!」

燃料ゲージが尽きかけていた。
最早万事休すかと思った時、百式を取り囲む敵機が次々と撃墜されていった。

シャアは索敵モニターを見た。すると友軍の信号をキャッチできた。

「フフ・・・どうやら助かったようだ」

グレミーも索敵モニターと望遠カメラを通じて新手を確認し、追撃を諦めた。

「どうやらここまでのようだ」

百式を取り囲むモビルスーツはキュベレイと青いリゲルグによって撃ち落とされていた。
キュベレイが被弾した百式に近寄った。

「大丈夫かしら、大佐」

「ああ、無事だハマーン。あのリゲルグは?」

「ガトー少佐よ。ラルさんから無線が入って駆け付けたの」

「そうか。いささか調子に乗り過ぎたようだ。まだまだ若いな私も・・・」

「でも、大した戦果だわ。私ではここまではいかない」

「私には優秀な仲間がいる。彼らを信じて、彼らに助けられて今ここに居れる」

「そう・・・。私はそういう者が居なかった」

「君はマハラジャ提督のご息女だ。こうやってキュベレイを操っては私を助けることができた。君なら私以上にやれるさ」

「大佐よりも?」

「ああ。君には私と違った人を惹きつける魅力を感じる。まあ発展途上だから焦る必要もないさ」

「もっと大佐と早く会っていれば良かったなあ~」

ハマーンは少しふて腐れていた。音声だけながら、その様子にシャアは笑っていた。

「ハッハッハッハ。私にはナナイがいるからな。済まないなハマーン」

「いいよ。人類の半分は男性だし。大佐よりいい男、沢山いるさ」

「フフ、そうだな。さて帰ろうか」

ハマーンはガス欠な百式を抱えて、サダラーンへ帰投していった。


* サイド6宙域 ミンドラ艦橋


決戦を仕掛けながらも、手痛く敗走したグレミーはサイド6宙域まで戻っていた。

それから本国へ連絡を取ったが通信士から本国のズム・シテイとの通信が途絶していることを告げられた。

「・・・本国と連絡が取れないだと」

通信士からの連絡にグレミーが怪訝な顔をした。傍にいたジュドーがグレミーの肩を叩いた。

「なあグレミー、嫌な予感がする。そのサイド3の方向からだ」

グレミーは振り返り、ジュドー見た。

「どういうことだ?」

「何とも表現難しいけど、サイド3方面からの意識がまるで絶望しか感じない。行くと死ぬぞ」

グレミーはジュドーのニュータイプ能力を高く買っていた。そのジュドーが感じる直感をグレミーは無視はしなかった。グレミーはスッとジュドーの傍を通り、艦長席に座った。

「わかった。ジュドーの意見を是とする。通信は3時間に1回打て」

席の傍に立っているプルツーが質問した。

「これはどういうことなのか?」

「一つは我々を切り捨てたこと、一つはギレン総帥の失脚、最後はギレン総帥が鬼籍に入ったかだ」

「なっ!」

プルツーが動揺した。グレミーがそれを見て補足した。

「ジュドーの直感でサイド3には死の危険が迫るほどの威圧感があると。それを汲むと一番最後が適当かもしれない。すべての検討にせよ、当てはまれば我々はサイド3には近づくことは自殺行為かもしれない」

「じゃあどうするのさ。補給は?拠点は?ボスは?」

グレミーはプルツーを見た。そしてジュドーや周りのクルーにも視線を向けた
グレミーの判断を皆が待っていた。

「(さて・・・、一応は自活はこの制圧したコロニーの数バンチの食料プラントで補えるが、政治体制を整えねば唯の愚連隊だ。体勢が整うまでは箝口令を敷いて対応するかどうか・・・)」

グレミーは当面の方針を決断すると、ブリッジの皆に伝えた。

「まずは・・・、予測でしかないがジオンはサイド3にある。ギレン総帥の消息不明だが、今のところ旗頭を変える理由はない。戦闘の士気に関わることは明白だが、我が軍はアクシズの戦力と比べればまだ優勢だ。サイド3への偵察を怠らず、我が部隊の恒久的に自活しうる経済圏を確立するように目指す。元々、これが目標だったからな」

グレミー軍の全てはグレミーへの忠誠を誓っていた為、彼の覇道に付いてくる者がほとんどだった。それをギレンは敢えて放置していたのは前話の通りだった。

「アクシズとの当面の戦闘は行わない。ただ、向こうから小突いてきたら叩きのめす。その間にこのサイド6の全てを掌握し、月、ア・バオア・クーと繋げ、サイド3を手に入れる」

ブリッジクルーが皆感嘆を漏らした。「やっと我々が地球圏に帰れる日が来たんだ!」「グレミー様やりましょう!」等、アステロイドベルトでの不毛な日々を過ごしてきた者達の士気が高まっていた。

グレミーはそれを手で制して、当面の険しい事情を彼らに伝えた。

「このサイド6は元々、得体の知れない経済特区だ。バンチも我々が制したものの10,20倍見当もある。その支持を取り付けるには様々な搦め手で攻めていかなければならないだろう。彼らの弱みを見つけ、利をみせる必要がある」

グレミーがそう述べると、負傷したイーノがエルに抱えられながらブリッジに入って来た。

「・・・ブリッジでの話はイヤホンでずーっと聞いていたよ。交渉事ならば、僕が最適だろう」

「イーノ!余り動くと体に悪いって医者に言われたろ」

エルが心配そうにイーノに話し掛けた。イーノはエルに微笑んで、
再びグレミーに伝えた。

「僕がやるよ。任せてくれグレミー」

「・・・」

グレミーは暫く考えた。確かにビーチャ達の中では適任だが、経験と若さが足りなすぎる。それを裏付ける根拠をイーノに尋ねた。

「イーノ。君が言うには何は当てがあるのかな?」

「勿論だ。モンドと僕は無駄に休んでいた訳じゃないさ。ジオンの名前、グレミーの威光を借りて、伝手を探し出したのさ」

「それは誰だ?」

「アナハイム・エレクトロニクスの技術士官、メッチャー・ムチャさ。アナハイムの節操の無さは世間が知る所、社内でも黙認している。稼ぎになるとちらつかせれば簡単に食いついてきた」

「ふむ・・・。早速搦め手だな。わかった、君たちに任そう。パイプを作れば補給にも役立つ」

「了解だ。早速モンドと打ち合わせてくるよ」

イーノはエルに抱えられて、再び医務室へと戻っていった。
相当な痛みなのか顔を顰めながらだった。

グレミーは艦長席に体を沈みこませた。
まるでこれから押し寄せてくる重責の圧力に耐えるような実感だと当人は感じていた。

「(やれやれ・・・、まだ何も事を成していないにも関わらずこのプレッシャーか。ギレン総帥の偉大さとその労苦に感服してしまう)」

グレミーは空を見上げて、クスクスと笑っていた。
それをジュドーが見て、心配そうに声を掛けた。

「大丈夫かグレミー?」

グレミーは我に返って、真顔になった。ジュドーに心を読まれたらしいと感じた。

「ああ、大丈夫だ。前向きなことだから期待して進んでいこう。少し前までは覇権をと思っていたが、統治者たる者はそれなりの資質を求められると書物で学んだ」

「そうか・・・」

「私は私の野望を貫徹するには、部隊の望郷の念、地球圏回帰とこれから統治を目指すサイド6圏の気持ちを全て汲み取らなければならないだろう。これは政治だ」

「・・・オレたちでできることは協力する。政治主導できるのはお前しかいない。お前がオレたちをどん底から救ってくれたんだ。それが偽善であったとしても、みんながお前の作る景色で幸福がもたらされるならばな」

「フッ、結果論だな。ジュドーやビーチャ、プル・・・道具に使えると当初は思っていたが、道具という考えでは私の目指す統治は実現できないと知ったまでだ。人や時代は日々進化していく上でそれに追随することは必然だった」

「最近はどうだグレミー?偽善なのかどうなのか」

グレミーはジュドーの問いかけに苦笑した。

「地球圏に来て4年か・・・。経験が私を大分成長させてくれたよ。お前たちが居なければ私は何も成せない、そしてこれからもだ。どんな批判や非難も若輩の身として素直に受け入れていける柔軟さこそが大事だと理解できた」

「大きいな」

ジュドーが感心した。自分らの年頃は感受性豊かだ。その中で少年がどのように成長、変化して青年となっていくか、これからの人生の岐路というべきところにグレミーやジュドーらは差し掛かっていた。

その中で代表たるグレミーが人として大きく感じることはジュドーを安堵させた。

「ジオン・ダイクンの提唱したこと、ギレン総帥が紡いだ宇宙での民の自活・進化の意識。残された者達はそれを引き継いでいかなければならない」

「そうだな。オレらジャンク屋無勢が偉そうなことは何も言えないが、最下層のひとたちはどうしても這い上がれないんだ。何でかは上が悪いからとしか言えない。元々の移民政策なんかも邪魔なひとたちを宇宙に棄てたと酷いことを聞くし言われている。そんな宇宙のゴミの希望がお前なんだグレミー」

ジュドーのストレートな言い回しにグレミーは笑った。

「ハハハッ、私はリサイクルショップの店長らしい」

「そうだ。お前のエゴはオレらにとってはとてもエコなんだよ」

「成程な。私もゴミでその親分だが優秀な資源として活用できるよう努力しよう」

ジュドーはふと思案顔をした。少し間を置き、グレミーに話し掛けた。

「・・・また素人な考えだがいいか?」

「なんだ?」

「塵も積もれば山となるというだろ?社会は基本ピラミット構造だ。それを利用すれば、サイドの掌握も苦なことはない気がするが・・・」

ジュドーの考えを聞いたグレミーは的を射た様な満足そうな顔をした。

「うん。支持層を末端から集めていくとしよう。我々がトップダウンのような形でやるにはパイプもないし、稚拙だ。時間が掛かるが確実だ」

ジュドーは頷いた。しばらくグレミーとジュドーはサイド6の掌握について話し合いをした。
既に掌握してある数バンチコロニーのプラント事業に付いて艦橋クルーにも手伝ってもらい、資料を取りまとめていた。

数時間後、艦橋に機体整備を終えたプルツーが入って来た。

「えらくイーノがきつそうだったな。医務室と通信室とエルに支えてもらいながらも往復していたぞ」

「プルツー、クィン・マンサは大丈夫なのか?」

「ああ、問題ない。海賊でも暴徒でもいつでも鎮圧に出掛けられるぞ」

プルツーはグレミーの問いかけに両手の平を返して返事した。
すると、グレミーはプルツーにタブレット端末を手渡した。

「なんだこれは?」

「これからの作戦指示書だ」

プルツーは端末を開くと、怪訝な顔をした。

「・・・私に農業をやれと」

「そうだ。プラントの造成上でクィン・マンサの機動性能を活かし、コロニー内で農業だ。第一次産業をおろそかにしてはならない。パンとサーカスという言葉を知っているか?」

「知らない」

「愚民政策の例えだが、我々は自他ともに認めるほどの世間的な愚民だ。そして末端の人たちが人口の多数派である」

「そうだな」

「彼らは明日の食事の心配をする。それが心配ないような状態をもたらすものがいたら・・・」

「そいつに従事するだろうな」

「そういうことだ。かなり非効率な手法だが、一挙に成果が出る。いかなる経済特区でも、実働部隊はいつの時代も末端だ。目標は労働組合との接触だ」

グレミーが大まかな概要を述べると、ジュドーがモノの例えで表現した。

「つまりなプルツー、ボヤを大火事にしてやるのさ」

「それでプラントの作成か。了解した」

プルツーはその計画書を持ち、艦橋を後にした。
ジュドーはプルツーを見送ると、グレミーに話し掛けた。

「なあ、うまくいくかな?」

「・・・我々は進むしかない。後ろ盾もなく、地道にいくしかない。これは正攻法だ。ならば危険なことはない。亀の様な歩みでも結果は出せると言い切れよう」

ジュドーは顔を指で掻いて「そうだな」と一言でジュドーも艦橋を出ていった。
グレミーは椅子の肘掛に腕を置いて足を組み、再度計画書を見直した。

「(私は経験がなさすぎる。ギレンの懐刀、腹心という威光でメッチャーは喰らいついてきたとしか考えられない。イーノも気付いているだろうが敢えて利用したのだろうな。ギレンは開戦当初から人心をある程度掌握していた。私もそれに倣わなければ、この先躓くだろうな)」

グレミーは傍に居た女性士官に紅茶を注文した。
それを飲みながら、制圧していたサイド6の1つのコロニーへゆっくりと入港するところを席から眺めていた。

「ミンドラ、コロニーに入港します」

コロニーの管制官と通信をしている通信士より艦橋に連絡をもたらされた。
グレミーはため息をついていた。

「(皆が不安だろう。舵取りがこんなビギナーだからな。士気があるうちに地に足着いた施策を示せねば・・・)」

焦りたかった。しかし何を選べるわけでもない。もがくということはこの事を言うのかとグレミーはかつてない悩みに苦しんでいた。

「(ハッタリで通していくしかない。大丈夫、自分がしっかりしていれば!)」

グレミーは自分を奮起させて席を座り直し、姿勢を正した。

「入港後、コロニー内のプラント事業者と連絡を取る。並び職安もだ。これから忙しくなるぞ」

グレミーは自身の覇道成就の為、今一歩踏み出したのであった。
しかし、とっかかりが王道であったことをグレミーは知る由もなかった。

・・・

グレミーはサイド6、シャアはアクシズ。

エゥーゴはサイド1と地球の半分。

ティターンズはソロモン、ルナツー、サイド4、7と地球圏、地球の半分。

各勢力とも未だ抜けて均衡を崩すには至らず、混迷を深めていく。
未曽有の危機をジュドーはその一番近くにいて肌で感じていた。


* サイド3宙域 ゼウス内 司令部

ギレンの居た豪奢なドーム型の空間にマーサとフロンタル、マ・クベが立っていた。
ここが球体型要塞ゼウスの司令部広間であった。

マーサは近衛士官に全てのスタッフの身体認証登録の確認をしていた。

「これでサイコ・ウェーブの干渉を受けなくても大丈夫です」

近衛士官の一人がマーサに報告を挙げた。

「そう、ありがと。ニュータイプの干渉波など得体が知れないから感じたくもないわ」

マーサは吐き捨てる様に言った。フロンタルはクスクス笑っていた。

「何が可笑しいの?」

マーサは不服そうにフロンタルに尋ねた。フロンタルは手を挙げて謝罪した。

「いえ、申し訳ありません。普通の方の反応です。しかし人体兵器としては有効であります。こう認証を受けることで、スタッフ含め、ミズ・カーバインもこのゼウスシステムの干渉からは離れられますから」

フロンタルは近卒に命令させて、ズム・シテイのリアルタイム映像を流した。
そこには大人も子供も全て地面に倒れていた。

「これは私のパンドラボックスとゼウスシステムの統合による成果です。退行催眠と申しましょうか。この干渉波を受けたものは全てこのように無力化できます。他にも色々できるはずです」

「成程。これがあれば世界は思うがままね。パンドラボックスはあくまで蛇口。このビストが、この私が拵えたゼウスの力がなければアウトプットが不可能なんだからね」

「フフフ・・・仰る通りです。私だけでは遠く及びません」

「あら?殊勝だねえ。何か思うところがあるんじゃなくて?」

「いえ、私ははなから何も思いませんし、感じもしません」

フロンタルの本音だった。フロンタルはただ自分とは別の何かが自分を動かしている、そう感じていた。フロンタルの自我や自意識などフロンタルには持ち合わせていなかった。

「フン、つまらない男ね」

「恐縮です」

フロンタルはマーサにお辞儀をして、1歩下がった。
マ・クベが代わりにマーサに歩み寄って話し掛けた。

「ミズ・カーバイン・・・」

「何かしら?」

「ズム・シテイに降りて少し調べ物をしたいのだが、許可願えるか?」

マーサは興味が無かった。マ・クベはジオンの軍人であったため、その本国の土地には聖地としての感情があるのだろうとマーサは考えた。

「いいわよ。行ってらっしゃい。まだゼウスのテストは始まったばかりだから、始動には月単位で掛かるわ。その間暇でしょうから」

マーサはマ・クベの出番は地球圏に脅威をもたらす時に発揮されると想定していた。
マ・クベは一礼して、広間を後にしていった。
 

 

29話 ギレンの遺産 2.21 

 
前書き
*頑張って誤字、脱字を直します(> <)
 取りあえず載せました


 

 
* ズム・シテイ 政庁付近 2.21 10:30

マ・クベは無人と化した首都を一人闊歩していた。
一応はマーサ、マ・クベ、フロンタルの部下達によって倒れていた人を回収し、核融合炉へ運ばれていった。

「この首都の人民はどうしようないぐらいにギレンに陶酔し切っていた。今更鞍替えしろなど、しかも国体を持たぬものになど、従うはずもない」

マ・クベはマーサの判断を是とした。
自分自身もこのズム・シテイに眠る人達と同類であることも知っていた。

「(だから私はここにきたのだからな・・・)」

ギレンは絶対統治者だった。そのため肉親すら葬り去った。
感情というものは天才と呼ばれた頭脳持ってしても計り知れなく、そんな論理的でないものを鼻から相手にする気がなかった。

その代わり研究されていたものがあった。クローン技術である。付随してフラナガン機関もでき、数値で表せることのできる部下を作りあげることに躍起していた。

マ・クベは無粋と思った。人の心は操りきれないからこそ、またそれを操れた時こそ人は面白いのだと。
ギレンは確かに人心の支配、統制に成功していたものの一人だったが、当人が不服だった。
ニュータイプと呼ばれる感情の干渉物の実験は数値として表現できることにギレンは魅力に感じた。

マ・クベはいびつなオブジェのような造形の政庁に足を踏み入れた。
しばらく通路を進み、何もない壁のところで立ち止まった。

「(ここか・・・)」

マ・クベは壁を無造作に触り始めた。
すると感触に違和感を感じる部分があった。

マ・クベはポケットより銀のジオンのエンブレムを翳した。
すると壁にフッと通路が生まれた。

マ・クベはその通路に足を踏み入れていった。
通路の奥には階段があった。
どれだけ降りただろうと思ったとき、再び認証ドアがマ・クベの前に立ち憚った。

「(さて・・・キシリア様から頂いたキーコードが使えるか・・・)」

マ・クベはドアの傍にある認証コード入力端末にパスコードを入れた。
すると難なくその扉は開かれた。

マ・クベは足を踏み入れると、そこはゼウスとどうようにドーム型の大きな部屋があった。
違う所と言えば、研究施設のようなものだった。

周り見渡すと、機械と人が入るサイズの生体培養カプセルが多くあり、小さいものもあった。
マ・クベがゆっくりとした足並みでカプセルを見て回った。
検体の番号がそれぞれのカプセルの下に打たれており、生体カプセルで培養されている人型のほとんどが金髪の少年、そして少女だった。

マ・クベは中央のデスクの上に紙媒体の資料が無造作に投げられているのを見つけた。
それを手に取り読んだ。

「・・・ギレンの遺伝子と優秀な女性の卵子を掛け合わせているのか。しかも2人の女性のみを理論上の成功数値と期待して」

マ・クベはそれをデスクの上に投げた。マ・クベの目的のものはこれではなかった。
キシリアが生前述べていたことを思い出し、ここへやって来ていた。

「マ・クベよ。あのフロンタルという者は得体が知れない。私の情報機関が兄ギレンがある研究をしていることを突きとめている。そのものの個体情報を兄に流す」

マ・クベはキシリアから言われたことが妙に引っかかっていた。
マ・クベ自身、社会の見識は大企業の元締めに適うぐらいのものを持っていた。自負、自意識はしてはいないが、その彼がこの今の時流に物凄い違和感を感じていた。

「(かの者の個体がクローン化されても、それで彼に何ができる訳でもないが、何も分からないよりは良い・・・)」

マ・クベは上部デッキにある検体カプセルを見て回った。
するとある所から金髪の少年から青年に変わっていた。
マ・クベはその顔を見比べ、まるで違うということでこれが目的の検体だと悟った。

「これか・・・。これのデータは」

マ・クベは傍にある資料を探し始めた。そしてその者の実験試料が見つかった。

*検体1 検体の生体稼働後、直後錯乱し自壊。

*検体2 検体の生体稼働後、無心のまま、学習も出来ず自壊。

*検体3 検体の生体稼働後、目すら見開くこともせず自壊。

・・・

マ・クベはこの施設のレベルの高さを知っていた。
生体稼働後の学習や自活が99%成功をしている。例えどんな素体でも。その残り1%未満の物がフロンタルに当たるのかと。

「要因とすれば・・・」

マ・クベはこの素体の欠点を調べているはずだと考えて調べた。
するとある一つの見解が資料に殴り書きされていた。

(・・・人外。遺伝子データに未登録。創られたもの・・・)

「・・・」

マ・クベは目を閉じ瞑想した。
遺伝子レベルの問題でフロンタル検体のクローンが作成できない理由はデータにないから。
材料を揃えても作り方を知らないか、知っている作り方では材料が足りないかのいずれかだとマ・クベは考察した。

「・・・後者が妥当か。この殴り書きと合わせると、フロンタルは人造物か・・・」

いわゆるアンドロイドと同等なものを人の遺伝子と同様の生成で作ろうとしたことがそもそもの破綻の原因だった、そう推理した。その直後、マ・クベの耳にコツコツと靴の音が背後から聞こえてきた。

「(・・・奴か)」

マ・クベはため息を付き、近づいてくる人物に敢えて目を合わせなかった。
その人物がマ・クベに語り掛けてきた。

「君らの勤勉さには感服する。私を調べていたとはね」

「常人の感覚、そしてある程度の指導者ならば、君の脅威を感じない者はいないだろう」

「成程。さすがに異質に見えた訳だな。私も自分自身を知らない。研究して頂けて何よりだ」

マ・クベはフロンタルの自己不明な発言に気になっていた。

「自分を知らないとは・・・。君は物心付いたときどうしていたのかね」

フロンタルは腕を組み悩んでいた。

「・・・無人のシャトルバスの中、1人で居た。しかし身動きが取れない程、私は瀕死だった。そこが私の記憶の始まりだ」

「・・・」

「しかし自分を知らない。代わりに欲求と源泉から溢れるようなアイデアが私に備わっていた。サイアム・ビストに偶然拾われて、身体検査をした。すると私の体は可笑しかったらしい」

フロンタルが含み笑いを始めた。マ・クベはその様子を黙ってみていた。

「遺伝子レベルの障害があると。それは人類が見たことの無い、生成したことがない領域だそうだ。何故生命活動が続けられるか不明な程、私の体は既に死に体らしい」

「しかし、貴公は私の眼前に居る」

「そうですな。精神が生きる術を与えてくれていたようだと医者が匙を投げたのだ。サイアムは物好きでな。私の話を聞いては楽しそうだった。彼は私の願いの手伝いをしようと提案を持ちかけてきた。その為、私は今ここに居る」

フロンタルは傍にある鉄柵を腕で掴み、捻じ曲げた。

「筋組織らほとんどが機械制御。サイアムは自活できない私に肉体を与えた。それでも意識が飛ぶときがある。その為にあらゆる投薬で脳を騙してきていた」

マ・クベは嘲笑した。

「つまりは放っておいても人類の危機は去るということか。なんと無念な事だフロンタルよ」

「そのためのパンドラボックスでもあるのだよマ・クベさん」

フロンタルは不敵な笑いで返した。マ・クベは真顔になった。

「・・・サイコ・フレームが貴公に何をもたらすというのかね?」

フロンタルは自分の指をこめかみに当てて話した。

「ココだ。脳を強制的に操れるシステム、究極の催眠療法だ。これは投薬を凌ぐ効果をもたらしてくれる。現にズム・シテイ、そしてギレンを無力化した」

「成程。貴公の弱点は読めた」

「ほう、ぜひ聞きたいな」

マ・クベは表情を変えず、後ろに腕を組み歩き始めた。

「やはりその肉体だ。パンドラボックスの怨念さえ消えればお前も終わる」

「フッフッフッフ・・・確かにそうです。しかしアレを壊す術を貴方達は知らない」

「・・・世界の負の結晶とは真恐れ入る。それを打ち勝つ希望がそれを阻止するだろう」

フロンタルは高らかに笑った。

「ハッハッハッハ、冷徹極まるマ・クベさんも遂にヒロイックになった訳だ。リアルじゃないな。そんな根拠もない期待をするとは・・・」

「根拠はある」

「・・・」

フロンタルは笑いを止めた。そしてマ・クベは鋭い視線でフロンタルを見据えた。

「私やキシリア様、一介の統治者クラスの傑物は時代の異質感を感じ取っていた。長い戦争の中で多大な犠牲を人類は強いられながらも、とてつもない進化を遂げている」

「・・・なんでしょうか?それは」

「貴公も良く知っているサイコミュの実用化と進化だ。貴公の前に必ず立ち憚るであろう。貴公もまたそれを乗り越えなければ野望など叶わぬ夢想だ」

フロンタルはその場でマ・クベの答えを考えていた。
自分は自分の大願成就の為に技術提供を惜しまなかった。そのお蔭で願いも間近に迫ったが、自分への脅威については余りに無関心だった。

「・・・あのモビルスーツ。あんなのがこの先出てくるとなると厄介だ」

シャリアの覚醒により、シナンジュが損傷した。その時の力はフロンタルを驚愕させた。
人の意思力は凄まじいものだと実感した。

マ・クベもその映像を見ていた。フロンタルが危うく撃墜されそうになった。
その事実が確かに存在する限り、パンドラボックスとフロンタルに死角があった。

マ・クベは目を伏して一人語っていた。

「結局、ギレン総帥もキシリア様も貴公には勝てなかった。ギレン総帥に殺されたキシリア様はギレン総帥より下だからな。人心掌握の最たるギレン閣下が負の思念体である貴公に敗北した。その理由は統治者で解決できる問題ではないからだ」

マ・クベは傍にある椅子にそっと腰を下ろした。

「さて、マーサのことを手伝うにしても貴公と同行となると人類が滅ぶな」

フロンタルはマ・クベは事態を悟っていることを自覚した。そして敢えて質問を投げかけた。

「では、どうするかね?」

「無論見届けるつもりだ。ここはもう誰もいないからな。ただし・・・」

「ただし?」

「この実験体達を連れていく。貴公の素体は無理としても他は使えるからな」

マ・クベは資料を漁り始めた。フロンタルはそれ以上は聞かなかった。
何かあろうが返す刀で屠れば良い、そう思っていた。ゼウスとそのシステムをフロンタルが掌握するまではフロンタルと言えどマ・クベを粛正する気はなかった。マーサの不興を買う恐れがある。それでは計画が延びてしまう。

ゼウスを構築するように促すに至る道筋を付けたのも、フロンタルによる数々の張り巡らした糸が引っかかった成果だった。この時代のこの戦争に生きる野心多き亡者たちに餌を与えることで、たまたまギレンが食いついた。マーサをいう不幸な女を輿に乗せて、順調に行っていたがここにきて予想外だったのが、自身の体だった。体を騙すにも限度がある。

シロッコは使命感持って行動を移していることは聞いていた。それに間に合うように動くことができれば自身の大願も叶うと思っていた。コインの出目がどう出るかはその時考え、シロッコが言う荒療治で人類が覚醒するか、または絶望に陥れられるか、どちらにせよパンドラボックスには役立つ。

例え100%でなくても、地球圏を破壊しつくせるだろうとフロンタルは踏んでいた。
フロンタルには完全なる破壊願望しか存在していなかった。しかも一挙に。

フロンタルはマ・クベを残し、研究施設を後にした。
マ・クベは気配だけを見送り、自分を嘲笑った。

「・・・フッ、私は何をしたいのか分からなくなっているな。一定の成功と一定の忠義、一定の遠望を見てしまった私は人生などつまらんものだと自覚してしまった」

では何故生き続けているのか?と自分に問いかけた時、トルストイの哲学の問いを考えた。

「人は何故生きるのか、だ。その答えを知ってから死ぬとしようか・・・」

人は究極な意義を求めようとすると、根本に立ち返るものだとマ・クベは思った。
それはきっとフロンタルも同義なのだろうと。


* ア・バオア・クー宙域 シロッコ艦隊 旗艦ドゴス・ギア 


サラミス、マゼラン、アレキサンドリアと数多くの艦が犇めく中、それを凌駕する大型戦艦が悠々と星の海を巡行していた。

艦橋ではシロッコが立ったままで、後ろではおどおどしているジェリドが居た。

「ちゅ・・・中将・・・。ジオンの勢力圏ですが・・・」

シロッコの傍にいるメシアが仮面の下からクスッと笑った。シロッコはジェリドの狼狽えに叱咤した。

「ジェリド君!君は選別されたものだ。私の行動に失敗はない。それには裏付けがあるのだ」

「裏付けですか・・・」

「メシアがジオンは最早存在しないと悟っている」

「なっ!」

「私はメシアと会話ができる。彼女の能力はケタ違いだ。その彼女の力がジオンの消滅を示唆した」

ジェリドは唸っていた。理屈で分からない事を今までも体験してきたのだが、根拠がなさすぎる。
確かに自身の感性でもこの世界の危険を感知しているが、未だ対岸の火事の様な感覚でしかない。

「シャアとアムロ、そしてこのメシアでは既に世界を救いきれない状態になってしまっている。遡及性ある行動を私が礎になって世界の道標になるしかないのは前から話していたことだ」

「・・・ジオンの事はよくわかりませんが、端折り我々は何をするのですか?」

その質問にシロッコは答えた。

「ア・バオア・クーを地球へ落とす」

「!!」

「それと同時に各宇宙要塞の占拠とその小惑星を爆破破壊する」

「な・・・なんですと・・・」

「元々、あんな拠点があるから戦争など幅を持たせてはバカなことを考えるのだ。それを扇動する地球に休んでもらう」

質量ある隕石が地球を攻撃した際には天変地異クラスの災害に見舞われ、もはや死の星と化す。
スペースノイドの完全なる自立だ。しかし、資源も乏しい宇宙空間で一体どれだけの犠牲者が出るかは想定できない。

歴史上最大の悪行となるだろうとジェリドは息を飲んだ。それについてジェリドは反対しなかった。シロッコに付いて行くときに約束したからだった。しかし、他の将兵、カクリコンやエマはそうではない。

「中将・・・。皆が付いてきますか?」

「皆には了解は取ってある。寧ろ、この部隊の皆が地球にしがみつくことない自立派閥者で構成されている。私の選別した将兵に狼狽える者はいない」

「カクリコン、エマも知っているのですか?」

「彼らはお前から伝えるのだな。但し強いることはせんでよい」

「しかし・・・バスク中将が艦隊を持っています。彼らがいる限り、ルナツーやソロモンは抜けません」

「彼らはエゥーゴとの決戦前でこちらの動きなど関知していない。ダカール議会で決着を付けるために地球軌道圏内で布陣している。バスクのお抱えのほとんどだ。それにシャアのネオ・ジオンとサイド1からのロンド・ベル、そして月と地球からのエゥーゴ、カラバが集結して成り行き次第という様相を見せている」

「今回の議会でカタを付けると」

シロッコは軽く頷き、艦長席へ腰を下ろした。

「連邦は長い戦争で宇宙に住む者の要求を悉く跳ね返すつもりだ。そして移民計画を一からやり直す。サイドに住まう者達を強制的に従わせる。飲まないものは粛正される。その為のバスクの大艦隊だ。彼が全ての従わないサイドを破壊しつくす手筈だ」

すると、斥候から戻ってきたマウアー・ファラオ少尉が艦橋に入って来た。

「将軍。ア・バオア・クーの進路は本当にクリアでした。まるで墓場の様な雰囲気です」

「そうか、ごくろう」

マウアーはジェリドの隣まで歩み寄り、腕を組んできた。

「なあに、怖い話をしているのかな~?」

マウアーは悪戯っぽい仕草でジェリドに話し掛けた。ジェリドはシロッコの手前、その腕について怒った。

「マウアー!上官の前だぞ。公私を弁えろ!」

「はあ~い」

マウアーは少しふて腐れてジェリドから離れた。
マウアー・ファラオ少尉は地球で補充された新兵であった。教育役としてジェリドが指名され、手解きをするうちにマウアーはジェリドの男気に惚れていた。その様子にシロッコはクスクスと笑っていた。

「すみません。良く言い聞かせますので・・・」

「いや・・・、それぐらい和やかなことがあってもいいだろう。さて、このままコリニーの思惑で事が運ぶと、人類は過去最大の閉塞感に見舞われるだろう。それを止めるエゥーゴに助力する訳でもないが、我々も違う視点より彼らを攻めることが大事になってきたわけだ」

「・・・八方塞がりの様な体ですな」

「そうだ。奴らも大悪事を、我々も同様なことを敢行しようとしている。我々の行為は連邦の息の根を止めるに相応しい行動になる。彼らは地球有ってのことだからな」

そして、艦橋に更にカクリコン、エマ、サラと入って来た。

「よう、ジェリド。モビルスーツ隊のスタンバイOKだ。将軍が都合したメッサーラを主軸ですぐにでも出かけられるぞ」

ドゴス・ギアを旗艦とするシロッコ艦隊の主力は可変系MSのメッサーラ・カスタムだった。規格をコンパクトにかつムーバブルフレームを最大限に活用してとても扱いやすく安価に仕上がった。その為、強度の部分ではメッサーラより劣る部分があった。勿論サイコフレーム搭載機だが、その利用はかのνガンダムと同様なコックピット周囲に限定した。。

他にも索敵隠密仕様でボリノーク・サマーン、重火器長距離、対戦艦仕様でパラス・アテネ、そして近接戦闘仕様のシロッコの愛機ジ・Oも搭載されている。シロッコは勿論ポリノーク・サマーン、パラス・アテネ、そしてジ・Oも日々改善を重ねていた。

シロッコは艦隊に向けて、士気向上とこれからの事を説明する為に演説のマイクを手に取った。

「・・・艦隊で日々労苦を共にしている諸君。パプテマス・シロッコ中将である。貴官らの決意には敬意を表すにあたり、その決意を揺るぎないものにする為に今ここで事の成り行きを説明する」

ジェリドはシロッコが自分へ語った事を大体述べるつもりだと思った。確かにこんな八方塞がりな事態で人類を救うには誰かが礎にならなければならない。しかし、その結論を述べるつもりはきっとないだろうと思った。

「連邦議会が招集され、ある決断を政府がすることになる。それは世論を無視した極めて愚かな行為だ。彼らは宇宙に住む者たちを切り捨て、一から立て直すつもりだ。しかも自分らの意のままに。我々は断固戦わなければならない。しかしエゥーゴには付かない。何故なら彼らもまた連邦政体に根付く半端ものだからだ」

アアレクサンドリア級の巡洋艦の艦長席でシーマが足を組んでシロッコの演説を見入っていた。

「・・・シロッコよ。見せてくれるねえ。ようやくあたしに死に場所を与えてくれるのか」

そう呟くシーマに傍にいた副官のデトローフ・コッセルが息を飲んだ。

「(段々・・・悪くなっている・・・)」

この頃のシーマは精神的に頗る病んでいた。シロッコの調整で彼女の心の均衡が保たれていた。
そして常に死地を求めるようになっていた。

「我々は宇宙に住む者の怨念を持って、連邦政府に鉄槌を喰らわす。今の政体を崩し、溜飲を下げ、人類がようやく新たなステージへと立つ時が来たのだ。連邦という籠から巣立つため、地球に依存するティターンズ、エゥーゴを倒すため、地球にア・バオア・クーをぶつける」

兵士達にざわめきが起こった。シロッコは話しを続けた。

「この戦争の勝者が今の連邦内であってはならない。政体は変わらない。連邦は敗者にならなければならない。人類が連邦を倒し、人類の革新の為!皆の力を私に貸して欲しい」

兵士らから「そうだ!連邦政府が体たらくだからこんな事態になっているんだ!」「政府を倒し、地球依存から解放するぞ!」など様々な歓声が上がっていた。

「諸君。私は常在戦場、陣頭に立ち、君らを導くことを確約する。成功の暁には君らが新しい世界を創るのだ。私はそれを期待している。以上だ」

シロッコは通信による演説を終えた。案の定ジェリドの思った通り、フロンタルの件は伏せられた。
通信士より「もうすぐア・バオア・クーに接舷します」との報告が入った。
ジェリドは気が付かなかったが、確かに肉眼でもア・バオア・クーを見ることが出来た。

「よし、最高の質量兵器だ。ア・バオア・クーを中央部で2分割して一つは地球へ、もう一つはルナツーへぶつける。そして、無力化し占拠。シーマ艦隊はソロモンの占拠だ。2個のブラフが防がれても最後にこのア・バオア・クーで仕留める。各自、事を的確に進める様に」

シロッコの号令で艦隊がそれぞれ動き出した。ルナツーとア・バオア・クーとの距離は地球の裏側にある。ア・バオア・クー程の質量がルナツーで貫く。残存艦艇らの被害と混乱が相当だと想定した作戦。

ソロモンは元々、手薄で1個艦隊で石ころの核パルスエンジンに火は入れられる。

次いで、ルナツーも同様に出来れば、3方位による隕石作戦となる。
コロニーよりも質量や比重の大きさが桁違いな石ころはあらゆるコロニーレーザーなども
問題としない。

進路がティターンズ勢力圏故に信号も掴まれながらも余り怪しまれることもない。彼らの神経は全てエゥーゴ、そして全てのコロニーに向いている為であった


カクリコンがジェリドに何か掴み切れないような表情で話し掛けた来た。

「なあジェリド?」

「なんだ」

「オレたちは結局悪役のまま終わるのかな?」

「お前の人相的にそんなもんだろ」

「茶化すな。市民弾圧から地球潰し・・・。救われないなオレら」

するとエマが割って話してきた。

「あら、カクリコンは何に救われたかったの?」

「いや、少しは正義の味方してみたいなあとか、善行詰んでないからさ。こりゃ地獄に堕ちるなってね。軍隊って敵から市民を守ったりするじゃない?真逆なことをして報われるよりは報いを受けるな・・・」

「因果応報ね・・・。大した人生送っていないし、これからも大したことできそうもないし。いいんじゃない、人類の敵っていうのも」

「おいおいエマ・・・本気で言っているのか?」

「全ては泡沫・・・夢想の中で私たちは燃え尽きる。正義の味方って中々難しいけど、無名よりは悪名の方が映えるわよ」

エマの達観した言い回しにカクリコンはお手上げだった。

「参った・・・。救われたいなんて意味不明な想いはただの甘えみたいだな。大人の言うことじゃない」

「そうねえ。そう思うことがナンセンスだと思うわ。大人子供って括りに囚われる事無く、課せられた役目を演じてみるのも一興よ」

「地球潰しをか?」

「そう。何でも先駆者は変人扱いされてきたから、何が本当に人類の為なのか?そんなことは誰にも分かる訳が無い」

ジェリドがエマの言葉に頷いて話し出した。

「だから、絶え間なく動き続ける必要がある。どのショックで世界が変革するか?このままではただ衰退しかない。それを常に考えていかなければならない」

「ふーむ。そんなスケールの事をオレら考えないといけないのか?無茶だろ・・・」

「確かにな。しかし置かれている状況が、一生飼い殺しの番犬のままか、ユートピア創造という苦行に挑むかだ」

「私は番犬なんて嫌よ。繋がれるなんて趣味じゃないし」

「オレもだな。嫌な事を取り払うために地球を潰すか・・・」

「ああ。結果そうなっただけだ。あんまり罪悪感なんて考え過ぎるな。その昔恐竜が滅んだのも隕石による災害だと推測がある」

ジェリドが故事を持ちだした。それにカクリコンがキョトンとした。

「そうなのか?」

「あくまで推測だ。それが仮に人為的でも、我々も自然の一部。地球に隕石が落ちてしまっても、それは自然な事なんだ」

エマはジェリドの論法に笑った。

「アッハッハッハ・・・ジェリドはとんだペテン師ね。それならあんまり気が病まないわ」

「確かにな。オレらはあくまで観測者(オブサーバー)だ。この事でみんなの反響に期待しよう」

その話を黙って聞いていたシロッコは瞑想し、彼らは生き残るようにと祈った。


* 月 フォン・ブラウン市 アナハイム工場 2.29


アムロとシャアはテムに呼ばれ、工場に来ていた。
両者ともスーツ姿で軍人というイメージを取り除いていた。

「ここも色々目があるからな」

アムロは工場内通路をテムとの待ち合わせの格納庫へシャアと共に歩いていた。

「君のお父さんは何故私までも?」

「さあな。ただオクトバーがなんか企んでいたのは聞いていた。君のことを少し話題に上がっていてな」

「私の話?」

「君の百式を作ったナガノ博士にオクトバーが色々ダメだししたらしい。100年安心設計も時代錯誤だと。それでナガノ博士は親父の下へ赴き、シャア専用のカスタム機を都合したらしい。ベースはギラ・ドーガらしいが・・・」

「そうか。百式も先の戦いで修理不能になっていたからな。丁度いい」

2人は目的の格納庫のドアへ辿り着いた。するとそのドアが勝手に開き、中からオクトバーが迎えに出てきていた。

「お疲れ様ですアムロさん、シャアさん」

オクトバーが2人に握手を求めてきたので、2人とも交わした。

「ところでオクトバーさん。親父は?」

「ああ・・・、あちらです」

オクトバーが指を指すとテムがそこに立っていた。技術スタッフにあれやこれやと指示を出していた。
その傍にはスタッフが今も整備している白い巨体があった。アムロがテムに声を掛けるとテムが気が付いてニンマリと笑った。

「どうだアムロ!このガンダムは」

「ああ、とてもきれいだな」

アムロはまさかまたこのガンダムを見ることになるとはと感慨深かった。

「アレックスのデザインをほぼ引き継ぎながらも各所をサイコフレームで設計した最高傑作。RX-93νガンダムだ」

そうテムがアムロに伝えると、アムロはその隣の深紅の機体を見て唖然とした。

「な・・・なんでこんなのが並んでいる!」

アムロの驚きにテムが高らかに笑った。

「ハッハッハッハ・・・。最早隠すこともないだろう。ジオン仕様の機体もアナハイムはノウハウがある。というよりもナガノくんがシャアの起源から立ち返って作ったのだよ。彼は赤い彗星だと。ナガノくんは多忙でね、この場に居ないが宜しく言っておいてくれと言っていたよ」

アムロの隣にいたシャアが満足そうな顔をしていた。

「この赤いのが私のだな。ギラ・ドーガの性能には感服した」

「ああ、こいつはそれを凌駕する性能だ。仕様としてはこのνガンダムと遜色ない。元々、ジオンで作ってあった試作機ヤクト・ドーガのバージョンを上げたものでもあるからな。MSN-04サザビーだ」

アムロはかのアクシズでの戦いを思い出していた。
忌まわしいシャアのモビルスーツだが、それが共闘する。これ程心強いものは無いと。

「ありがとう親父。これでエゥーゴとティターンズの戦いが終わらせることができる」

「そうだな。スペースノイドの自立をより強固なものにできるだろう。抑止力、防衛力としてはこのような機体は大事だ」

テムはアムロとシャアを見て頷いていた。

「・・・かの赤いのと一緒に息子が並ぶとは、時代も変わったな」

テムの言にアムロもそう思った。交じり合うことがあるはずがない両者がこの時代で見事に重なり合っている。前は何がまずかったのか、それを思い返してもアムロにはよくわからなかった。

シャアはテムの言に対して、感想を漏らしていた。

「・・・私は過去に囚われていた人間でした。しかし周囲の環境の変化が私の頑ななところを取り除いてくれました。ご子息にも大変助けられました。彼との出会いは私にとってかけがえのないものだったのは確かです」

アムロはシャアの飾らない言葉に衝撃を受けた。成程、人との交わりの大切さはそういうことなんだと。
以前の世界のシャアは頑なだったのだ。あまりに型にはまり過ぎていた。今のシャアはとてもフレキシブルだ。ガルマと共に融和と協調、時には武力でと様々な手段を上手くバランス良く用いる。自殺願望、自己陶酔とはまるで無縁だ。

テムは腰に手をやり伸びをした。それから2人に両機のテストプログラムを伝えた。

「それじゃあテストといこうか。このまま納品する訳にはいかないからな」

「ああ、宜しく」

「レイ博士、宜しくお願い致します」

そう言って、3人は格納庫のドアからテムの研究室へ足を運んでいった。
その出ていく姿をオクトバーは見送っていた。

「・・・連邦とジオンのエース同士がタッグを組むなんて無双だな」

そうオクトバーは含み笑いをして、テムの代わりに整備班に指示を出していた。


* 地球 パリ市内 3.4


カイはホテルの一室にてガエルと会合していた。
この会談自体も隠密だった。

ミハルが紅茶を入れて、カイとガエルに給仕した。

「ありがとう」

ガエルがミハルにお礼を述べると、ミハルは「どういたしまして」と答えた。
カイは単刀直入に話し掛けた。

「で、ガエルさん。私に何の御用で?」

ガエルはカイの目を真っすぐ見据えて話し始めた。

「・・・主人のサイアムより、あるものを連邦議会へ持ち込んで発表して欲しい。その為のパイプを取り次いでもらいたい」

「その代物は?」

「真の連邦憲章です」

カイの眉が吊り上がった。

「真の?今あるものとどう違うのか?」

「最後の条文が連邦政府が現状の連邦政府の在り方を否定し、世界は選択を迫られるでしょう」

「・・・文章でか。今の態勢が変わるとは思えんが・・・」

「ええ、変わるとは思えません。ただ人類に道標を持たせることができます。連邦政体打倒も肯定されます」

カイは腕を組んだ。これは唯の演劇、オペラの様な代物らしいとカイは思った。このジョークに付き合ってくれそうな暇な重鎮が一人だけ心当たりがあった。

「・・・ゴップ議長だな」

「は?」

「中立派のゴップだ。彼ならそんなイタズラに付き合ってくれるだろう。取り次いでやる」

ガエルはカイの話に少し間を置いた。主人の命は絶対だ。果たせない時は死で報いるが、果たせないことが死んでも死にきれない程ガエルは忠臣だった。ガエルは主人の言葉を思い出した。「カイ・シデンにジョン・バウアーを取り次いでもらう」という言葉を。

「・・・カイさん、私は主人よりバウアー氏に取り次いでもらうように言われております。それで議会に持ち込めると」

「あー、バウアーはダメだ。彼も黒幕ながら中立気取りだが、損得勘定してしまう。ゴップはその点長年巣窟に住みつき、考えが突き抜けている。そして何より議会で一番融通が利く。バウアーやコリニーがダメと言えない人物だ。彼が面白いと思えばそれで事が済む」

ガエルはカイの話を黙って聞いていた。主人の読みが甘かったのか?主人も人である限りは誤りはあるだろうとガエルは考えた。ここはガエルの決断に掛かっていた。主人へ連絡する程最早時間は無かった。
ガエルは決断した。主人の最終的な望みはあの憲章の議会公開。

「分かりました。カイさんに任せます。まずは憲章を運び入れるにルート確保からゴップ議長通じて宜しくお願い致します」

カイは頷き、紅茶を互いに一気に飲み干した。



 

 

30話 調整者 3.5

 
前書き
仕事が忙しすぎて、空き時間でゆっくりとのんびり書いていました。
書いていて難しかったです。まとまりきれているか・・・。
 

 
* ダカール市 郊外 高級住宅地 3.5


カイはミハルの運転する車でゴップ議長の居る邸宅へ向かっていた。
数日前のアポイントでゴップとの会談に難なく漕ぎ着けていた。

しかしながら会談時間はわずか10分。
議会開催前の為、世界から有力者がゴップに根回しや協力を求め、会談の予約は過密となっていた。

「さすがゴッドファーザーと呼ばれるだけあるな」

とカイは評した。ゴップは連邦軍部でもコリニーと同等の発言力を有しており、コリニーでもゴップに気を配っていた。ゴップはコリニー以上に政界への繋がりが強く、それは軍部に在籍していた当時からだった。

その成果が連邦議会議長という座を有していることに尽きた。
中立派と呼ばれるゴップ派閥は席数でもコリニー・ゴップ・その他で4・3・3という派閥の比率だった。

ゴップの意思が政治を左右しているとも揶揄されるほど、絶妙な均衡を勢力で保持していた。
当の本人は、「世界が良くなるならば・・・」と傍から見ると適当な政治を助成していた。

カイは幾度の対談でゴップの人間性を垣間見ていた。
彼は達観していたとカイは思っている。

戦争初期のV作戦の有効性。政界へ転進する段取りも戦時中でも怠らず、コリニーより先に転じては既に政界のドンの座の確保に勤しみ、コリニーが転じた時には既に重鎮。

彼は実はこの事態を当初より予見しては見抜いていたとカイは推測した。彼はその位置で最悪の事態を促さない様に世界を守護していたのではないかと。

「カイ。ゴップ議長は中立派閥の大物だよ。私もガエルさんと同様にバウアー氏が良いと思う」

「ミハル、それじゃあダメだ。オレらジャーナリストは終末でも世界にありのままの情報を伝える義務がある。この話は俗物が関与して良いレベルの話じゃない」

「今までエゥーゴ寄りの貴方が?」

カイは助手席で鼻を鳴らして、ミハルに言った。

「フン、ティターンズの様な帝国主義的考えは報道の自由を奪うからエゥーゴの民主派閥運動をクローズアップしただけだよ。それでも良し悪しを伝えていたよ」

カイは武力で訴えている両者を批判していた。已む得ない抑止力など詭弁だ、互いのイザコザで苦しむのは民衆であって、それに政府が無関心、変えられるのは世論だとカイは地球圏に住む者たちへ常にメッセージを流していた。

「ガエルが持ってきた情報は発信元が最重要だ。バウアーやコリニー等のような対立派閥でなく、それを両天秤に掛ける奴が発信してこそ情報の最大限の力を発揮できる」

「・・・カイ。無思想な議長に何を期待しているの?」

「無思想なもんか。彼は一環してしていることがある」

「何なのそれ?」

「世界の均衡の維持だ。彼は達観している。人の可能性は一つの思想に留めてはならない。人が成長していくためには戦うことや競争が必要なんだ。統一しようと思えば、ティターンズかエゥーゴを選択したはずだが、両勢力とも未だに残っている。その間に新勢力や新思想が生まれていく」

ミハルはゴップ邸に通じる道である車行列の最後尾に付けた。

「ふう、まるで蛇の生殺しね。喰う喰われるを鑑賞しているわけ」

「平和思想なんて夢物語なのさ。平等など停滞と同意義なんだろう。そんな彼に一番の有効策は競争原理や成長の糧になる代物を紹介できるかどうかだ」

「それがガエルさんの」

「ああ。先方はどうやら正義感があるらしいな。バウアーが議会提出し、連邦の在り方を再編する。それはティターンズを切り捨てるやり方だ。しこりを残さんためにも両者が対等に試行錯誤しなければならない。それが本来の在り方であり、人類の為だ」

「・・・私は善悪を区別していたのね。平等でなく、公平に見ないと正しい情報を伝えられない」

「そうだな。勝てば官軍と言ったもんだが、元来善悪など多数派が決めてきた手法だ。人が存続していくための知恵でもあるが、ゴップは善悪の判断を常に命題として市民に課すようなことを暗にしている」

何も意見や政策が無い政治家がキャスティングボードを握る立場は保身の為だと考える。ゴップについて、カイはそれを否定していた。今競う者達の暴走を調整する役割であると。
そして実は争いを好む。

「人にはそれぞれ役割がある。あんな風体が指導者としては向かないだろう。自分を弁えている。そこで出来ることを彼はしているだけだ。それを無責任と罵るならば、彼は相手にしない。彼と話す為には彼の言葉を理解できることが何より重要だ」

「・・・達観ねえ。私は好きになれそうにない。例え人の事を考えていても、政治家は目の前の困った人を助けるのが仕事でしょ」

「それは彼の派閥の下っ端、若しくはティターンズ、エゥーゴの仕事だ。人生は短い。彼は全てを見極めた上で彼の役割をしている。ミハル、あんまり人に期待することは良くない。かくもオレもお前も書き物しかできない。それを世論に訴えかけても、世界に共感されるほど手は長くなれる訳がない」

「カイ、貴方の言い方も卑怯ね」

「感情論でするようだと仕事ではない。訴えかけるにはそれなりの理由が必要だ。ミハル、お前も仕事を続けていくならば、その姿勢を覚えるんだ。今、道に倒れている人を見かけたら助けてあげる、それぐらいの許容で良い」

「凄く矛盾していない?可能性を信じるのに自分の許容を弁えて、世界の重鎮たる彼が何もできないなんて。しないだけじゃないの?」

「彼は有権者からの支持を得ることはできても、有権者に指示することはできないんだ。それが政治家だ。彼らは有権者の支持と指示を仰ぐことが仕事さ。それが重鎮の限界だ」

「それじゃあバウアーだろうがゴップだろうがどうにもならないんじゃない?」

「ビストはあくまで権力者であった訳だ。一大事もミクロの視点でなくマクロでしか見れない。ミハルの考え方はある意味正しい。政治家に倫理観を求めても意味はなさない。彼のスポンサーが欲求の塊だからな。現にティターンズ、エゥーゴ、カラバなど、彼ら程アウトプットが出来ている連中に託すことは人類の総意ではない」

ミハルは一台ずつ進む行列にため息を付いていた。

「はあ・・・。この列全てがゴップ邸の列なの?」

「議会開催となると陳情、請求がこのようになる。彼がキーパーソンの証拠だ。どこぞの名の知れない議長に祭り上げられた連邦の首相よりもだ。それが今回の議会でコリニーが立候補を表明している」

「コリニーを認めたらば、帝国主義化が進む?」

「統制はかかるだろうよ。宇宙に住む者の革新的な考えをまず認めない。地球有っての宇宙にしたいそうだからな」

「言論の、信仰の自由を奪うなんて・・・。どうしてそんなことを」

「ある意味平和思想さ。管理下において慎ましく暮らす、一種のユートピア思想だな。宇宙は静かに限るから、造反の芽を全て摘むつもりだ」

カイの話にミハルはハンドルを離し、腕を組んだ。

「犠牲を払っても恒久的な平和思想を目指すティターンズか・・・。エゥーゴはその姿勢に反対する。つまり好戦的なのかな?」

「ティターンズ以外の勢力は宇宙での革新を認め、受け入れていこうというスタンスだ。それが戦争という手段も是非は問わずだ」

「ジオンは・・・、なんかティターンズとエゥーゴの合いのコ的な中途半端だったね」

「そうだな。宇宙でのコリニーみたいなものだな」

「最近ジオンの話がめっきり入って来ないんだけどね」

「・・・情報封鎖というより、入って来ないというお前の表現が正解だろう」

そして1台分車が進んだ為、ミハルはハンドルを握り進ませた。

「情報が死んでいるということかな。それは・・・」

「それは国家が機能不全に陥っている可能性がある」

「ジオンが滅亡!」

「直接見た訳ではないからな」

「うー・・・スクープが取れないなんて・・・」

「スクープはこの行列の終点さ」

「ジオンよりも?」

「ああ、ティターンズやエゥーゴのテーブルを全てひっくり返してやる」

「返った後は?」

「皆で飾り気ない綺麗なテーブルに座ればいいさ。連邦という組織は元々集合体だ。そこに強制的な制限を掛けてきた。強固な組織は腐りやすいものだ。多様な生き方、国体があって良いとオレは思う」

「それがカイの望みなのね」

ミハルにそう聞かれた事にカイはシートのもたれかかり、目を閉じた。

「オレは物書きを始めてから更に性格が悪くなったと思う。その点に付いては今争ってる奴らや傍観している中立派閥と同義だ。捻くれ過ぎてサッパリしてしまった。オレの思う事もきっと死人は出るような代物だ。偽善者を気取る気はないからな」

「でも、私は自覚が有っていいと思う。先の話からだけど、多数決で根本的な善悪を決めてきたと言ったじゃない。やっぱり殺しは良くないと思わないと、この8年近く続いた戦争を止められないと思う」

カイは今度はシートより背中を離して前のめりになった。

「そうだな。今競っている輩の気付いていない、いや無視や見ようとしないその根本的な悪を戦場に居ない人たちは(こぞ)って嫌うはずだ。生者の願いは・・・」

「生きること」

「ああ。追加、人は欲深いものだ。生きがいを見つけることだな」

「それが多様な生き方ね」

「それを一から導く必要などないんだ最初から。ただ土壌を作ればいいだけ。指導者がよく無責任と言われるが、学ぶ者が能動的にならなければならない。その事を放棄する方が無責任なんだ。遠くでのテロや事件、事故、全て対岸の火事でしか思わないことがそうだ」

「物事抽象的なことでいいの?」

「敢えてはぐらかすわけ。人類の総意も本能的なもので良い」

「それとガエルさんの土産とゴップ議長がどう繋がるの?」

「凝り固まっていない素直な思考論者なゴップにありのままを伝える。それで事足りる」

そう2人が話しているうちに陽が傾き地平線へと落ちかけそうな時、ゴップ邸へカイとミハルの車が入っていった。

ゴップは休憩を挟みながらも朝から晩まで面会の相手をしていた。
議会開催前の風物詩であったが、ゴップは毎度来客する者達の俗物加減に嫌気を指していた。

「・・・次で最後か・・・」

ゴップは応接間の最高級のソファで時折姿勢を変えながらもマメに接客していた。
そして執事が最後の来客を迎え入れた。

「・・・ああ、君らか」

カイとミハルが応接間に入るとゴップがうんざりしている顔を2人とも感じ取った。
執事より「所要時間は10分です。主が下がれと言われればその場で会談終了となります」と2人に言い、執事は応接間より出ていった。

「議長閣下、座ってもよろしいですか?」

「ああ、座りなさい」

カイとミハルが座るとゴップが愚痴り始めた。

「全く権欲者は利益ばかり求めて、肝心な所を見ようとしない。社会だ。奴らは自分が富めば他が良いと抜かしている。彼らの存在意義は彼らの下によって支えられていると思わずにだ」

その愚痴を聞いたミハルはゴップの人間性を改めた。政治家で、それも結構洗練されたものだと。
カイは「仰る通りです」と軽く相槌をして本題に入った。

「早速ですが、決断して頂きたいのです」

ゴップの視線が途端に鋭くなった。その口から出た言葉にカイを戦慄させた。

「・・・ラプラス憲章か」

「!!・・・何故、それを」

「私の草は連邦一でな。安心しろ、コリニーやブレックス、バウアーも知らんことだ」

カイはゴップの恐ろしさを知った。盗聴か何らかか不明だが、彼は千里眼とも言える力を持っているらしいと。

ゴップは姿勢を正して、カイに問いただした。

「で、私に何を求める?」

「全てを止めて、一から出直して再生を図るのが宜しいかと・・・」

「・・・カイくんがその手段を持ってきた。君はビストの近習の願いを反故にし、私の下へ来たことを評価しよう」

「では!」

ゴップが手を前に出して、カイを制した。カイはまだ質問があると感じ、口を摘むんだ。

「君は何故そこまでするかね?一介のジャーナリストだろう」

政治ネタを政治家へ供給するということが政体思想を持たないジャーナリストにとって異質だとゴップは思った。カイは少し空を仰ぎ、ゆっくりと答えた。

「人の生き死にや価値観、生きがいなど、連邦という組織で思考を縛られては勿体ないと思います。ジャーナリストであるからこそ、多様な価値を求めて食い扶持にしていきたいと願っております」

ゴップは高らかに笑った。カイとミハルは緊張した面持ちでゴップの回答を待った。

「・・・ハハハ・・・、全く君も相当な俗物だな。まあ人の糧は欲求から来ているものだ。正直で良い。他の俗物共はどうも着飾った答えしか持ってこないから、尚たちが悪い。議会で披露してやろう。私の晴れ舞台を」

そしてカイはゴップに目的の代物を運び入れる為、相談を持ち掛けた。宇宙からダカールへティターンズや他の高官の眼を潜り抜けて運び入れないといけないモノが相当な大きさだということも付け加えて。ゴップはニヤッと不敵な笑みを浮かべ、「いい案がある」と2人に話した。

カイとミハルは夜のハイウェイを再び市内の予約を取っているホテルへ返していた。
助手席に座るカイをミハルは横目に見て、怪訝な顔をしていることに質問した。

「・・・カイ、何故そんな顔をしているの?」

「ん?・・・ああ。もしかしたらオレは間違ったのかもしれない」

「どういうこと?」

カイは一目ミハルを見て、前に視線を戻した。

「ゴップは憲章を知っていた。そして鼻っからそういう決断でいたんだ。それは何を意味するか・・・」

「何をって・・・」

「政治決断さ。それは並大抵の動機ではできない。既に腹に決まっていたということだ。それは事前にオレがこの選択をすると知っていた。というより促されていた」

ミハルは目を丸くした。カイは次の思考へ進んでいた。さてゴップはラプラス憲章の利用をティターンズ、エゥーゴを差し置いて、利用する上で何をする気でいるのか?

ネオ・ジオン、カラバという組織もあるが、彼らがゴップの期待に応えることが出来る可能性は少ない。憲章に対する自分の考察とゴップの想いの共通項は「人類の次なる挑戦」だ。

この戦争もある過渡期に来ている。大体の思想の構図が定まってきたとカイは考えていた。
ジオンは唯のきっかけに過ぎなく、連邦という大所帯はこのように内紛はそのうち必須だった。
鎖国か開国か、ニューディール政策・ブロック経済かTPPか。人類はフロンティアを見ては価値判断を現在決めかねている。

もう一度7年前からおさらいした方が良いのかも知れないとカイは考えた。
繰り返してきっかけはジオンの独立戦争。そこより波及した地球対宇宙の構図。技術の発達とゴップの栄達。

「ゴップは食えない狸だ。彼は何かを成そうとしていることは確かだ。それも2大勢力を差し置いてだ」

ミハルは複雑な顔をした。行きと帰りでカイの印象が大違いだった。

「何故議長を警戒するの?あの会談の場では終始和やかで議長の了承に貴方は安堵していたじゃない?」

「ああ。車に乗ってから彼の言葉を反復したらある事が浮かんだ」

「ある事?」

「お前だ、ミハル。いつからだ?」

ミハルは真顔になり、進行方向の道を見据えていた。

「・・・4年前のニューヤークでのイセリナさんの紹介よ」

カイは記憶を辿った。ニューヤークでのガルマの地盤をイセリナがフォローアップしていた当時、ミハルらの面倒を彼らが見てくれていた。ガルマはゴップと繋がっていたとは、可能性は政治家だから無きにしも非ずだとカイは思った。

「ガルマはてっきりエゥーゴ寄りだと思っていた」

「そうね。少なくともティターンズではないよ。彼はジオンよ。宇宙に住む者のことを考えているの」

「何故ゴップと?」

ミハルは交差点で赤信号を見て、車を減速させた。

「シロッコのせいね」

「シロッコ?」

カイがより一層怪訝な顔をした。

「貴方が救ってくれてから彼が私のトラウマなのよ。女の恨みは倍にして返す」

ミハルの顔が強張っていた。カイが脇目でそれを見て顰めていた。

「・・・ったく、オレも注視していたんだがな。無茶しない様にな」

「私は守ってらればかりよ。そんなんじゃ私の悪夢を払拭できやしない」

「・・・焦りは迷いを生む。オレがゴップを選んだのも考えて見れば、お前の誘導もあったのかもしれない」

「そんなこと・・・」

「無意識の自覚さ。行動した結果に真理がある。考え過ぎていいのかもしれない。こんな異常事態ならばな」

「異常?」

「世界の違和感さ。歴史的にも長く続く戦争状態は異常事態さ。特攻などの自爆行為、常人では考え付かないことが起きている」

「それって今の戦争とどう繋がるわけ?」

カイはミハルに前の信号を指差した。既に青になっていたからだった。
ミハルはギアを入れて、車を走らせ始めた。

「今までは船や戦闘機、そこからモビルスーツが登場し、ニュータイプのようなエスパーが生まれた。そしてサイコミュだ。今や人類はある思想の終着点を目指そうと動いている。しかもたかが7年でだ」

「それって良くないの?」

「これがある超越した力の作用によるものならばな。オレはリアリストだが、それでも運命はあると思う。お前とこの場に居ることも理由があるわけだからな」

「理由って・・・私を助けたからじゃないの?」

「違うな。オレはあのホワイトベースに居て、助けることができたのはホワイトベースに居たからだ」

ミハルはカイの言ったことが少し不明瞭だった。カイはそれについて補足した。

「あの艦に乗っていたからオレはお前を助ける力を得れた。あの艦の力は正に特殊で違和感を今になって感じている。それはアムロが居て、シロッコが居た。奴らを始めとした艦のひとたちがオレの視野を拡大してくれた。これも割と不自然だ」

「何故?あの艦のひとたちは皆器量があって落ち着いていたよ」

「それさ。ほぼ10代のクルーだ。そんな落ち着き払った少年など可愛げないだろう。今振り返れば違和感だ。結論言えば、違和感から導かれたオレらや他の奴ら、組織など違和感の極みだな。ミハル、お前はゴップの草だろ?彼は何を本当は求めている?」

「草が話すと思う?・・・フフフ、冗談よ。カイ、貴方の言う通りよ。均衡の維持、多様な思想が共存する世界。ある一定の解決は見ても、完全なる解決は望まない。それが世界の成長に繋がるのよ」

「ふーん。本当にそれだけか?オレの印象が、ゴップに対して何かをしこりがあるように感じる」

ミハルがキョトンとした。

「他に何があるの?」

「今はわからん。だが勘が告げているのさ。ひっくり返してやろうと思ったのだが、オレも含め既に返された後だった、それとも見えない糸があるのかもしれない。それが世界の違和感の正体かもしれん」


* ゴップ邸 同日22:30

ゴップは別室にてある者と話していた。
互いに高級な1人用のソファーに腰かけていた。ゴップはバスローブに身を纏っているがもう一人はチノパンにワイシャツ一枚というラフな服装だった。

「・・・ここまでは君のシナリオ通りかな?」

「いや、多少なりとも人の移り変わり往く心に世界を任せている訳だから、そこまでは予想してはいないさ」

「君の導くままの流れで私もこの地位まで来たのだ。あのビストの先を往くことができた。調整者たる立場を得てな。君も経験からこのような世界が望ましいと思ったのだろ?」

その者が微笑を浮かべた。ゴップはその表情に恐怖を感じた。

「私は既に破綻した存在さ。ただ仕方なく挑戦状を叩き付けているに過ぎない」

「だ・・だが君はまだ表舞台に出ないのか?」

「・・・」

その者は何も語らなかった。ゴップは背中をソファーに預けた。

「取りあえずは真の連邦憲章の公表でティターンズの地球至上主義に終止符を打つ。エゥーゴも他勢力も大義名分を失う」

「・・・」

「しかし、彼らは決死の覚悟で戦うだろう。議会の評決を待たずして一糸貫徹だ。双方ただでは済まないだろう」

「エゥーゴ、ネオ・ジオン、ティターンズそして・・・」

「そして?」

「フル・フロンタル、シロッコ・・・。彼らの動向・・・局面を見てからで幕を開けるとしようか」

ゴップは身震いをしていた。どんな大物で手強い傑物たちを前にしてもこの者の異端さには遠く及ばないとゴップは感じていた。


* 月 フォン・ブラウン市 アナハイム工場訓練場 3.6


アムロはνガンダムを操り、月面での重力下実験と共にサイコミュのテストをこなしていた。
そのテストとは人為的に動く小さな障害物の除去とそれから発する電磁波の回避行動だった。
因みにこの試験時のガンダムにフィン・ファンネルの未実装状態だった。

その人為的に動くモノがこの世界で特級の技量を持つ赤い彗星が操るファンネルだった。

ガンダムが月面擦れ擦れを飛行していた。レーダーは遮蔽物を苦手としていた。それ故サイコミュという代物がどう発揮できるかで目標の識別感知に役立てていた。

シャアのファンネルがこれみよがしにアムロの後方へ回り込んできている。
それを感じ取るアムロは舌打ちをしていた。

「ちぃ・・・シャアは手強いな。常に後手に回る」

アムロは移動しながらもビームライフルでシャアのファンネルを狙い定めた。勿論模擬戦ということで同じく電磁波を直撃で物体が捉えたらば撃墜と見なされるシステムを導入していた。

追尾してくるファンネルは3機でそのうち2機を撃墜した。
アムロは後ろからだけでなく前からもプレッシャーを感じ取った。

「挟み撃ちか。シャアめ」

アムロは月面飛行を止め、上空へ飛び逃げた。追尾するファンネルと待ち伏せたファンネルがガンダムを追った。多少の距離感があったが、感覚でアムロは残りのファンネルの位置を掴み取った。

「3機か。ファンネルの有効射程よりビームライフルの方が上だ」

アムロは全てのファンネルをピンポイントに撃ち抜いた。
そこでテストが終了した。モニターのワイプにオクトバーが映し出された。

「アムロさん、お疲れ様です。シャアさんも」

アムロはコックピット内にあるタオルで汗を拭った。

「ふう・・・、流石赤い彗星だ。危うくやられるところだった」

別のワイプにシャアが映し出されていた。その表情は不満足気だった。

「しかしできなかった。アムロの方がサイコミュとの連動制で上回っていたんだろう」

アムロは軽く手を挙げて否定した。

「いや、この度のテストには制限が掛かっていた。シャアが直接仕掛けて来たらこうはいかない」

「そうだな。ファンネルだけで君を討とうとは驕りだな」

「ああ、オレもそれ程腕がない訳じゃないからな」

アムロの自賛にシャアが笑った。

「ハッハッハッハ、連邦の英雄が腕がない訳がない。さて、オクトバーさん」

「なんだい?」

「次は模擬戦でいいのかな?」

オクトバーが肩を竦んで賛同した。

「まあ、そうなるだろうねと考えていたのだが両本営から帰投願いがきています」

アムロはモニター越しにこちらに近付いてくる赤い機体を見ていた。とても違和感があった。過去宿命の対決で命のやり取りをし合っていた両機体が今は並列して宇宙に浮いていた。

シャアはそんなアムロの感慨をいざ知らず、オクトバーの帰投願いの事について話していた。

「事態は差し迫ってきたということか」

「そうですね。ティターンズが地球軌道上で集結を図っています。議会開催を皮切りに何かを起こすと噂されています。それがスペースノイドの根絶やしとか・・・」

オクトバーが不安そうな顔をした。宇宙に住まうものがティターンズの無差別虐殺を仕掛けてくると巷では専らの噂だった。
あくまでも噂だが、宇宙にいるものには戦々恐々な話だ。スペースコロニーはとても不安定で脆い住まい。もし強固ならば7年前のジオンのブリディッシュ作戦やら成功はしなかっただろう。

「取りあえずは一度メンテナンスに入れるからご両人とも工場へ戻って来てください」

「ああ、分かった」

「了解した」

ガンダムとサザビーは揃って工場へと帰投していった。


* インド洋上空  ラー・アイム艦橋 3・6


シナプスはトリントン基地よりブレックスを乗艦させ、一路ダカールへと進路を取っていた。
艦橋にはシナプスと旧アルビオンクルー、ブレックス、コウ、キース、ルセット、ファ、そしてカミーユと皆集まっていた。

トリントン基地を飛び立ってからも、ティターンズの妨害が続いていた。
ヘンケンのネエル・アーガマ隊がアジアを席巻し、ティターンズの勢力圏を制圧しつつあるとは言えど未だにティターンズは健在だった。

今日もまた敵襲の警報が鳴った。トリントンからほぼ敵襲の繰り返しだった。飛行機の時が有ればモビルスーツの時もあった。今回はちょっとスパイスが効いた襲撃だった。オペレーターのスコットが叫んだ。

「艦長!レーダーから言ってミノフスキークラフトの巨大モビルアーマーが3機後方より接近!」

「なんだと!」

正面の大きなモニターが後方の接近するモビルアーマー3体を捉えていた。
紫のカラーリングの機体が向かってきているのが誰でも分かった。そしてラー・アイムへ遠距離ながらも砲撃を加えてきていた。

ブレックスがその機体に付いて知識を持っていた。

「シナプスくん、アレはMRX-010 サイコガンダムMk-Ⅱだ。20基のメガ粒子砲を兼ね備えたニュータイプ専用機体の唯の化け物だ」

「艦長!オレが出ます」

カミーユがシナプスへ進言すると、ブレックスが首を振った。

「そしてカミーユ君。アレのI・フィールドシステムの強固さは並大抵じゃない。君のサイコ・フィールドが果たしてどれぐらい通用するか・・・」

「やってみないでは答えは出せませんよ議員」

シナプスはカミーユの意見を尊重した。

「議員、生憎このままでは本艦が捕捉されるのは必至であります。カミーユがそれを遅延してもらえるならばそれも手段です。当面の目的は無事アラビア半島への上陸を果たす事です」

ブレックスは腕を腰に当てて、もう片方は髭を触っていた。
空中戦であの巨大モビルアーマー3体を相手にするにはラー・アイムも厳しい。

「・・・よし。艦長の随意で。飛行形態機は本艦への帰投も問題ないだろう」

「はっ。ではカミーユ、直ぐ迎撃に移れ」

「了解です」

カミーユがブリッジより出ようとするところでコウが話し掛けてきた。

「隊長、我々は後詰しましょうか?」

その呼びかけにカミーユが振り向き、

「いや、コウとキースはこの艦の甲板にて実弾兵器実装で鎮座していてくれ。ビーム兵器が無効化されるフィールドを確実に持っているならば多分有効だ」

と答えた事にキースが反応した。

「多分・・・ですか?」

「ああ。アレらパイロットが大したサイコフィールドを持っていなければな」

コウとキースは顔を顰めた。彼らのZプラスもサイコフレーム実装機体だがニュータイプを相手にするには、例えばカミーユを相手にするに遠く及ばない。これから戦う相手はまだ姿が見えないことに2人共冷静に分析していた。

カミーユがZガンダムのコックピットに乗り込み、意識を追跡してくる部隊へ向けてみた。
すると、慚愧の念にかられる3人の気持ちが汲み取れた。どうしてこんなことになったのか、才能を買われて期待を受けて養成所に入ったことが、結果人殺しの道具にされてしまった、洗脳が往き過ぎて自分の意思では既に止められない、そんな想いをカミーユは受け取り、深く息を付いた。

「ふう~・・・、時代の弊害だな。このガンダムの様なものがなければこの人たちは生まれなかった。人は脆くも弱い。オレもそうだ。多少の誘惑でも易く負ける」

そうカミーユが呟いていると、モニターワイプが映り、シモンとその傍にファが割り込んでいた。

「カミーユ・・・私も感じる。あの人たちは普通の人達よ」

「ファ、分かっている。君も分かるとはな」

「何年一緒に居ると思うのよ。貴方から完全に勘含めて感化された気がするわ」

ファが少し笑っていた。カミーユはそれを見て同じく笑った。

「フッ・・・、少々骨が折れるミッションになりそうだ。カミーユ・ビダン、Zガンダム出ます!」

カミーユはカタパルトで射出されると否や飛行形態になり、追跡してくる敵へと向かって行った。

 

 

31話 奇蹟 3.6

* インド洋上  3.6

ウェイブライダー形態で接近してくるサイコガンダムMk-Ⅱらにほぼ零距離でのコンタクトを取ろうとした。勿論接近する敵と認識した3体は無数のビームの弾幕をZガンダムに仕掛けていた。

「勘は良いがとても荒削りで直線的過ぎる」

カミーユは紙一重で避け切り、左のサイコガンダムの肩部を砲撃した。
I・フィールドの有効距離より内側の攻撃はそのシステムを無力化する(要は近距離過ぎると)。
それを上回る防衛システムがサイコ・フィールドで、そのサイコガンダムもそれを使役した。
カミーユの一撃はサイコフィールドの抵抗作用により緑白色の閃光が弾けた。そしてカミーユの攻撃力が上回り肩部を貫いた。

攻撃を受けたサイコガンダムは態勢を崩す。しかし並ならぬ巨体は直ぐに立て直し、2体はカミーユを追い、1体はラー・アイムへと進路を進めていた。

それを見たカミーユは軽く舌打ちをした。

「戦術を知っているらしい」

カミーユが呟き、離れた距離から母艦を追跡するサイコガンダムに攻撃を仕掛けた。
案の定、遠距離では念じたビームでもI・フィールドに弾かれる。

それを見たカミーユは覚悟を決めた。

「(已む得まい。バイオセンサーのギアを上げて彼らを・・・)」

Zガンダムにはサイコフレーム機構の他にバイオセンサーを搭載させていた。
元々の仕様がバイオセンサーが通常搭載なガンダムであったゼータはサイコフレームの有効性の方が上だった為、同系のシステムならば喧嘩してしまう懸念があったのでバイオセンサーを外す提案をモーラから持ちかけられていたが、

「AT(オートマ)とマニュアルの違いの様なものだろ?バイオセンサーも良さがあるからそのままにしておいて」

とカミーユは告げて断っていた。

カミーユはスーッと深呼吸をして、精神を集中させた。
バイオセンサーは諸刃の剣だ。サイコフレームは人に優しい機構だが、バイオセンサーは人の潜在的意識や能力を際限なく喰らい付き力へと転用する。

カミーユは幾度もの戦いで窮地の時に利用した。その時の心身的な疲労感は相当なものだった。
そこでカミーユはバイオセンサーの開放のレベルを個人的に区別することに成功していた。

「まずはレベル1だ」

ガンダムの周囲に赤いもやが煙っていた。カミーユへと攻撃するサイコガンダムらは束のビームを浴びせた。ガンダムはその攻撃を全て浴びたがビームの粒子全てがまるで水を浴びたかの如く受け流していた。

「凄まじい攻撃だが、一番の問題はこの負担だ・・・」

カミーユは顔を顰めた。軽い胸やけがした為だった。ガンダムを母艦に向かいつつあるサイコガンダムへ狙いを定めて突撃を仕掛けた。

ラー・アイムへと移動しているサイコガンダムにはサードと呼ばれるコードネームのパイロットが搭乗していた。最早自己不明な記憶の下、この機体の操縦と刷り込まれた恐怖がすべき使命を支配していた。

「サード!この蚊トンボは私たちが請け負うわ」

フィフスと呼ばれる女性が無線で叫ぶ。それにゼロと呼ばれる男性が追って言った。

「お前が仕留めなければオレらの悪夢が終わらないんだ。頼むぞ」

サードはそれを聞くと、無言で頷く。
彼らの悪夢。それは身体の極限に挑戦する程の過酷な洗脳だった。

10数人いた被検体の内、生き残り自我が保てているのがこの3名だった。
そしてその3人共記憶に封をされており、思い出すだけで気が遠くなるほどの激痛を感じてしまう。
その研究施設である箱庭と呼ばれる施設で刷り込まれた指示以外の余計な感情や想いは痛みに繋がるよう体が支配されていた。

フィフスとゼロはカミーユを追撃した。巨体とは思えない速度を出してカミーユを射程に収めた。

「フィフス!リフレクタービットをフルコンタクトで!」

「了解!ゼロ」

ガンダムの周囲を無数のビットが舞い、カミーユの周囲を取り囲んだ。

「なんだ、これらは・・・」

カミーユは何かが周囲を飛んでいることに気付いていたが、構うことなくサードのサイコガンダムへ追撃して行った。

フィフスとゼロはそのビットらに目がけて拡散粒子砲を放った。それを受けたビットは加速度的に次々とビットらへと反射させていった。

加速度は破壊力の増幅にもなる。豆腐でも速度が有れば物理的には如何なる硬度でも撃ち抜ける。
カミーユはその攻撃にさらされた。最早光に近い速さだった。

「(なっ!・・・これは受けると死ぬ)」

カミーユは追撃速度を落とし、回避に専念した。時折掠るビームが自身のサイコ・フィールドを突破する威力だと感じていた。

「このままでは・・・レベル2に上げるしか」

カミーユはバイオセンサーの開放をもう一段階上げた。
カミーユの心肺機能が一瞬止まって動き出す。それにカミーユが息切れをした。

「ハア、ハア、・・・しかしこれで!」

カミーユは再びギアをフルスロットルにし、サードのサイコガンダムを追撃した。
フィフスとゼロは攻撃の手を緩めなかった。

「愚かな!この2機のオールレンジ攻撃を掻い潜れると思っているのか!」

ゼロが怒りで叫び、カミーユに目がけて弾幕の嵐を浴びせた。
しかしバイオセンサーによるサイコフィールドにより、最早カミーユのガンダムには何人たりとも傷を負わすことができなかった。

「化け物なの・・・」

フィフスは愕然とした。その一瞬よぎった敗北感に強烈な頭痛に見舞われた。

「うぐっ・・・ああ・・・」

その反応は無線越しにゼロが気が付き、フィフスに呼びかけた。

「フィフス!冷静を保て!我々はまだ負けていない」

フィフスはゼロの呼びかけに何とか平静を取り戻し、カミーユのガンダムを見据えた。

「どうする、ゼロ?」

ゼロは腕を組みカミーユの感覚を探った。ゼロの感覚が彼がかなりの肉体の酷使をしていることを理解した。

「・・・フィフス。あのガンダムはそうは持たない。このまま圧倒的な火力を奴にぶつけながらガンダムの体力を削り取る」

「わかったわ」

カミーユは2(ゼロとフィフス)を無視して、母艦に接近しつつあるサードのサイコガンダムへと突貫しようと追撃していた。それにゼロたちは止むことの無いオールレンジ攻撃の応酬を浴びせ続けた。

カミーユもその攻撃をシャワーの様に浴び続けていた為、神経を継続して酷使続けなければならなかった。痛みは慣れるが、心身の疲労感がその集中力を途切れさせる要因になることはカミーユも理解し、危惧していた。

「(早めに仕留めなければ・・・)」

カミーユはこの3体とも足留めできればとの想いで出撃していた為、戦闘としては甘さを抱えては足枷になっていた。カミーユはそれを決して覆すことはしなかった。

カミーユはメカニック、設計にしても目利きは世界で最高峰の技量・感覚がこの歳で備わっていた。
あの機体のそこを突くことで航行不能になるという部分を看破していた。それでいて機体を誘爆させないポイントを。

カミーユの眼前にサードのサイコガンダムが迫っていた。ゼロはサードに向かい危機を知らせた。
それは無線では呼びかけることが出来なかったため、念じた。

「(サード!後ろだ。やられるぞ!)」

サードはゼロの知らせに背筋に悪寒を感じ、後方モニターを確認した。するとウェイブライダーで突撃してくるガンダムの姿を目視できた。しかしその姿が異様だった。

「なんだ・・・あの赤いオーラは・・・」

サードはガンダムの纏う周囲のオーラがゼロたちのリフレクタービットを全て無効化にしていることを理解した。

「要するに、外部の圧力を全て弾く脅威の斥力か。この状態でこのガンダムに突撃されると・・・」

穴が開くとサードが冷静に分析した。したところで回避の術が困難極まった。
サードはサイコガンダムを反転させて、I・フィールドと自らのサイコフィールドを持ちうる上限まで展開させた。そしてカミーユのウェイブライダーがサイコガンダムに接触した。その瞬間、精神が異空間へ飛ぶの様な感覚に見舞われた。サードの周りが緑白い不思議な空間で自分が宙に浮いていた。

「なんだ。ここは・・・」

サードは丘の上に居た。眼下を見下ろすと街があるが、至る所火に包まれていた。
理由は分かる。現政権を支持しないで抵抗する組織のひとりがこの街に居ると言う噂がここまでの火種となった。巻き込まれた者達は至って関係ない。仕掛けた方も事態を重くは見ない。これは見せしめだった。

サードの目の前に知らない男性2人と女性1人が現れた。
。サードが頭痛を感じた。その彼らが彼に呼びかけた。

「ユウ。オレらに指示をくれ!あの腐った奴らに地獄を見せてやれと!」

一人の青年士官がサードにきつく詰め寄った。その隣でその士官を宥めるもう一人の若い士官がいた。

「フィリップ中尉!このままでは何もなく全滅します!組織的抵抗をやめて彼らティターンズの支配下に入る事も視野にいれては?」

「冗談じゃない!奴らは歯向かう一般人を虐殺したんだぞ!あいつらは軍人じゃない!軍人は市民の安全を守る者だ!」

すると一人の女性がサードの前に立った。

「大尉・・・。貴方の決断を待っています。玉砕か投降かです・・・。どちらにしても私もフィリップ中尉、サマナ少尉は従います」

そう女性が言うと、サマナはその女性に困った顔で話し掛けた。

「え~。僕はまだそんな覚悟は、モーリンさん・・・」

するとモーリンがサマナに一喝した。

「サマナさん!男なら腹を括りなさい!」

サマナは不満を言いながら、3人とも口論が続いて姿が消えていった。
次の場面では、ジムⅢに乗ったユウを始めとする小隊がティターンズの部隊と死闘を繰り広げていた。
ユウの無線にバックアップのモーリンの声が入る。

「隊長!サマナ少尉が支援を求めております。少尉の防衛に回った方向に民間人の防護シェルターが有り、多数の避難民が・・・」

その直後、モーリンから悲鳴が上がった。

「きゃあーー。そんな・・・サマナ少尉が・・・防護シェルターと共に信号が消えました・・・ああ・・・」

ユウは奥歯を噛みしめていた。フィリップから通信が入る。

「隊長!オレらの周囲はみんな避難民だらけだ。奴ら無差別に攻撃している」

すると、ティターンズの攻撃側の指揮官と思われる者からオープン回線で通信が入った。

「これ以上抵抗を続けるならば、街が地図から消滅する。武器を棄てて投降すれば考えてやらんでもない。繰り返す・・・」

そこでユウの視界が暗くなった。次に明るくなった時はどこかの部屋の中だった。
目の前に知らない青年将校が出てきた。凄いプレッシャーだった。

「君がユウ・カジマ大尉か。連邦でもエースと呼ばれた。私は感じる。君から才能をね」

その将校は髪が紫色で白い軍服姿だった。傍にまた知らない白衣姿の壮年の男性2人が立っていた。

「ムラサメ博士、ナカモト博士、彼は使えると思うが」

「シロッコ中将、彼の数値ならば良い成果が出るでしょう」

「頼む。今後は1人でも多くのニュータイプが必要だ。人の覚醒を待つには時間が足りなすぎる」

「分かりました」

その3人も眼前から消えて、今度は何もない白い空間にサードは立っていた。

「(・・なんだここは・・・)」

サードの記憶がその次に起こる最悪な出来事を肌で感じ恐怖に晒された。
真っすぐ見据えると、そこにはガラス越しにムラサメと呼ばれた研究者とサードのかつての2人の部下がそこに居た。

「君には刺激が必要らしい。催眠下での覚醒を本研究所では最善としている。その上で君は余りに洗脳しずらい。君にショックを与えることにした」

かつての部下2人は両手を縛られて椅子に座らされていた。
何か薬で眠らされているようだった。

「君は大事なものを失った事があるかね?とてもショックだろう。それを目の前で見るのと見ないとでは感覚が違う。君はそれを何も出来ず成す術もなく、ただ見るだけ。そんな状況を常人は平然としてはいれないだろう」

ムラサメの手に銃が有った。サードは急ぎその窓へ走り寄り、力強く叩いた。しかし分厚い強化ガラスでその振動が部屋に響くことはなかった。

「この者達で君が次のステージへ進むことができるんだよ。この2人に感謝して欲しい」

そこでサードの目の前が暗闇になった。サードは絶望していた。漆黒の空間に独り浮いていた。

「(・・・何もない・・・。何をしているんだ。いや、何もすることが無い・・・)」

サードは殻に閉じこもる、決して開けることのできない殻に閉じ込められていた。

「(何もできなかった。オレは何も・・・。あの時も投降するしかなかった。その後も民間に戻る機会もあったが、どこかで驕りがあった。まだオレは違う方法で軍人としてやれると。ティターンズでもそれを変えていけると・・・)」

しかし自分の選択が大事なものを失うことになってしまった。最早自分の選択に自信を失っていた。そこに何故か今まで見たことない青白い光が彼に指していた。それは彼にとって故事のクモの糸ような代物だった。

「(君は、大丈夫だ。人は間違いながらも修正しては成長していくものだ)」

その声にサードは反応した。自分がまだ生きても良いとその光が言っている。蝕んで病んだ心は活力を出すにはとても難しかった。その一筋の光から新たに光が飛び込んできた。

「ユウ隊長。ここで終わってどうするのよ。オレらはお前の守りたい意思、軍人としての気概を誇りに思っているぞ」

実体がないフィリップの声がサードの周囲より聞こえた。続けてサマナの声も聞こえる。

「隊長・・・僕は余りお役に立てなかったけど、貴方がここで立ち止まっていることにクレームを言いに来ました。僕は命を掛けました。貴方がそこで立ち止まる理由、納得できる事を言ってください!ないでしょ?なら、行かなきゃ」

サードの肩に幻影ながらモーリンの両腕が後ろから包み込んできた。

「隊長。何もかも背負い過ぎです。一つ二つの失敗が何ですか?貴方は今まで多くのひとを助けてきました。これからもそんな貴方でいてください、ユウ隊長」

サードは立ち上がり伸びてきている光の糸を掴み、出口であろうその場所へよじ登っていった。

ウェイブライダーの突撃をサードのサイコガンダムは互いの強力な斥力で互いに別々の方向へ弾け飛んでいった。

「うぐっ・・・」

カミーユはその衝撃に操縦桿を握りしめてぐっと堪えた。そしてカミーユは笑みを浮かべていた。

「・・・どうやら起こせたみたいだな」

そうカミーユが呟いた。カミーユにはある予測があった。戦うことが本心でない者たちを説得するに直接心に呼びかけることができるのもサイコミュの一長一短であるということを。その点でバイオセンサーが半ば強引にサイコミュ搭載機に訴えかけられる。サードの乗るサイコガンダムはバランスを戻し、そのサイコガンダムからカミーユへと念じた知らせが届いていた。

「(ガンダムのパイロット。助かった。礼を言う)」

カミーユはサイコガンダムに近寄った。巨体の傍でモビルスーツ形態になり、サイコガンダムに触れて直接会話した。

「オレはラー・アイム所属のMS部隊隊長カミーユ・ビダン大尉だ」

しかし、彼は相変わらず念じての回答だった。

「(オレは日本支部所属第88小隊隊長ユウ・カジマ大尉。ムラサメ研究所で被検体になっていた)」

「ムラサメ研究所?被検体?」

「(ああ。あそこはニュータイプ研究所で洗脳と言う形で戦闘兵器を作っている)」

「なんだと・・・。彼らもか」

カミーユは遠くながらも迫りくる2体のサイコガンダムを見ていた。その時カミーユの視神経が不調をきたした。

「(ぐっ・・・負担か・・・)」

ユウはカミーユの身体状態を感じ取っていた。ユウはカミーユに母艦に帰投するように念じた。

「しかし、大尉1人で・・・」

ユウは首を振り、任せてもらうように念じた。カミーユは今の状態ではあのリフレクタービットを避け切れないと考え、ユウの提案に甘えることにした。

「必ず生き残れ」

カミーユはそう言うとウェイブライダーに変形し、自動操縦で母艦へ帰投していった。
ユウはそれを見送ると、ゼロとフィフスが乗るサイコガンダムへと自ら迫っていった。

ゼロはサードのサイコガンダムの様子がおかしい事をいち早く察知していた。
ゼロがサードへ念じた。

「(どうしたゼロ!何故あの飛行機を逃がす!)」

ゼロの想いをユウは受けて回答した。

「(・・・オレは開放された。お前らを止める)」

ゼロは苦虫を潰したような顔をした。そしてフィフスへ告げた。

「フィフス。サードは離反した。敵として撃墜する」

フィフスはその知らせに衝撃を受けたが、すぐさま了解した。

カミーユへ攻撃していたものをそのままユウに目がけて2人は攻撃を仕掛けた。
ユウは両フィールドを駆使し、全てをはじいていた。

ユウは自身のリフレクタービットを使い、2人に攻撃を仕掛けた。ゼロとフィフスのサイコガンダムはまともにその攻撃を受けて、体勢を崩した。

「バカな・・・オレらのフィールドをいとも容易く・・・」

「ああ・・・何故・・・サード」

ユウはサイコガンダムの弱点を乗り手として熟知していた。ここを壊す事で機動力を失わせることが出来ると。ユウが2機の航行不能を見届けると胸をなで下ろした。その刹那、思いもよらぬ遠距離からのメガ粒子砲の狙撃がユウに向かってきていた。

「(!・・・遠すぎるがオレに向かってきている)」

ユウは難なく避けることが出来た。ユウはその彼方より迫るおぞましい程の圧気を感じていた。

「(これは・・・最早憎しみしか存在しない・・・)」

その彼方にはある巨大な浮遊物が存在していた。
全体的に白い塗装で、ドゴス・ギアに匹敵する大きさのモビルアーマーだった。

それに乗り込む後部座席に白衣姿で眼鏡をかけ、白髪で長髪、髭を蓄えたムラサメ博士と前部に淡い緑色のセミロングのノーマルスーツを着込んだ一人の女性が居た。

「・・・外したか。まあ、そんなもんだろう。君の兄ギニアスは良い遺産を残してくれた。ひとつはこのアプサラス。もうひとつはお前だ」

「・・・」

「連邦よ。裁きの鉄槌を受ける時がきた。このサイコアプサラスを持って、ダカールを滅する」

ムラサメは遠い過去を思い浮かべていた。マ・クベとの取引であのオデッサでの連邦への背信行為。全ては己の野心の為だったが、それらを連邦は全て看破していた。連邦の上層にいつか復讐をしてやろうと躍起になっていた。

それにはあの時シロッコの知らせがなければ、シロッコの庇護がなければ、今頃核やレビル、ジャミトフに消されていただろう。それには一度連邦より除籍するほかなかったのだった。

「・・・因果な世の中だ。連邦には個人的な強烈な恨みしか残っていない。そんな連邦が今の我が物顔で世界に存在していることにとても困ってしまう」

シロッコはエルランの憎悪を機たるべき時期まで取っておいた。捨て駒でも利用する場面においては効果的と考えていた。シロッコの目的は連邦政府の解体、人類の新たな夜明け、新人類での組織改革。エルランはそこまでは考えてはおらず、ただ現体制の崩壊のみを望んで人外の物へと破綻していた。

「君の想い人も君の洗脳に大いに役立ってくれた。四肢粉砕されて尚叫ぶあ奴の姿がとても愛おしい・・・」

エルランはこの女性の洗脳の為、効果的なショック療法を与えた。それは7年前の戦でギリアスとのギリギリの勝負で勝利を勝ち取った連邦士官シロー・アマダを拷問することだった。

遠くに居たはずのユウを攻撃した物体が肉眼で捉えられるぐらい接近していた。
その間にもゼロとフィフスのサイコガンダムは何とか上空で浮遊できるぐらいに持ち直していた。それでも航行は不能であった。

エルランはその2体の姿を見て、目を顰めた。

「なんだ。その醜態は・・・」

彼らの心にはエルランの言葉は恐怖の対象でしか刷り込まれていなかった。
ゼロとフィフス共に縮み上がった。

「もう・・・しわけございません・・・」

「サードが離反しまして・・・」

フィフスのサード離反の知らせがエルランの興味をそそった。

「ほう・・・我が支配を逃れたとは・・・」

エルランがほくそ笑んだ。そしてこのサイコアプサラスのモビルアーマーでは特異と言えるモビルスーツ搭載機能があった。その全てのモビルスーツにはAIを積んでおり、そのAIはこのサイコアプサラスの操縦者のニュータイプ能力に呼応するようできていた。その数は10機にも及ぶ。

「お前らにこの2機を授ける。そのサイコガンダムは捨てておけ」

するとサイコアプサラスより2機の機体がゼロとフィフスの下へ放たれた。無論ユウもそれを見逃すわけなく撃ち落とそうと試みた。しかし両機体とも自ら自己防衛機能を発し、ユウの攻撃を躱していた。ゼロとフィフスももれなくユウの攻撃に対抗していたこともあった。

ゼロもフィフスも初めて見る機体だった。これもサイコアプサラスと同様に白色の4枚羽の様なモビルスーツだった。コックピットの仕様はサイコガンダムと遜色ない形であった。2人ともそれに乗り換えるとユウに対して襲い掛かっていった。

ゼロとフィフス共にファンネルとビームの応酬、そしてビームサーベルで斬りかかった。
ユウは巨体である故に回避することなく、持ち前の防御フィールドとリフレクタービットで応戦。

ゼロとフィフスの乗る機体はミノフスキークラフト非搭載の為、継続しての飛行が困難だった。
その分の俊敏性に優れていた。ユウの攻撃を受けながらも、ユウの集中力が及ばない防御フィールドを模索し、そこへピンポイントに攻撃を仕掛けた。

「(オレのフィールドを超えてきただと・・・)」

ユウはサイコガンダムの箇所箇所が小破している振動を自覚していた。彼らの攻撃するたびにコックピットに微動が感じられたからだ。

ゼロとフィフスは手ごたえがあまり感じられないながらも飛行限界に来ると、自分らが乗り捨てたサイコガンダムの上に舞い降りていた。すでに2体とも海に浮いている状態だった。そこより再び飛行し、ユウに攻撃を仕掛けてくる。

「フィフス!薄い皮を剥ぐようだが効果はある。このまま押し切るぞ!」

「了解ゼロ!」

ユウは4,5度とも攻撃を退けた。6度目の攻撃でユウのサイコガンダムが悲鳴を上げた。

「(・・・バランサーがいかれたか。このままでは落ちる)」

サイコガンダムが斜めになり、徐々に高度が落ちていくことが肉眼で確認できた。
ゼロとフィフスはとどめを刺す為、7度目の攻撃を仕掛けに行った。

「サード!残念だったな!これで終わりだ」

「私たちと共であれば、理想郷に辿り着けたのにね・・・」

ユウがゼロとフィフスの言葉を聞き、嘲笑した。

「(フッ・・・理想郷か。それすらも現状にすがるための刷り込みでしかないことを知らずお前らは縛られているんだ。まあ、救われたオレには関係ないことだがな)」

その念を感じ取ったゼロとフィフスの神経は逆立ち、ユウに苛烈な攻撃を仕掛けた。

「貴様!オレらを愚弄するかー!」

「貴方に私らの崇高な願いを侮辱されたくないわ!」

ユウの四方八方に無数のファンネルが飛び交っていた。そして彼らの全ての砲手が向いていた。
サイコガンダムのI・フィールドは既に機能不全で、サイコフレーム自体も損傷していた。
頼みのサイコフィールドも満足に張れそうもなかった。

「(ここまでか・・・)」

ユウが覚悟を決めた時にどこからともなく声が聞こえてきた。

「貴方にはまだ生きる権利があります。それを主張なさい。世界の悪意より貴方は還ってきたのだから」

そこからユウの記憶はない。次気が付いた時はZガンダムのコックピット内の簡易シートの中だった。
ユウが目覚めると、カミーユが声を掛けてきた。

「約束を守ってくれたようだな。奴らの姿は消えていた。大尉が撃退したんだな」

ユウは違うと思った。死を覚悟したところまでしか記憶がなかったからだった。
何故助かったのか、自分でも不明だった。

一方のサイコアプサラスはインド洋に浮かんでいた。エルランは予想だにしなかった出来事に苛立ちを禁じえなかった。その傍でゼロとフィフスが困惑していた。

「ムラサメ博士・・・」

フィフスがモニター越しで不安そうに語り掛けた。その声にエルランは一喝した。

「何も発するな。一言も、一語もだ」

フィフスはそう言われると口を閉ざした。エルランは状況を少し整理していた。
いきなりサードのサイコガンダムの緑白い発光が周囲を包み、それによりサイコアプサラスとゼロとフィフスの搭乗するクシャトリアが揃って機能不全で墜落した。発光は収まって尚、上空へ飛び立とうにもゲインが上がらない。クシャトリアも同じくだった。

「(・・・あの発光の正体はなんだ。機能不全に陥った理由は・・・)」

彼らが再び航行可能となるのはそれから12時間後の事だった。


*  ア・バオア・クー宙域 3.6

シロッコはドゴス・ギアの艦橋にて、ア・バオア・クーの解体の指揮を取っていた。
その傍にメシアが立っている。そのメシアの雰囲気の変化にシロッコは感じ取った。

「・・・メシア。何か面白いことでも見つけたのか?」

シロッコは悪戯っぽくメシアに問いかけた。しかしメシアの黒いマスクの奥の表情は伺い知ることはできなかった。

「君はまだ抵抗するようだな。私の及ぶ範囲では君の力を支配させてもらう。及ばないところで何の力にもならない」

「・・・」

「ララア・スンの情報を見たとき、私は胸が弾んだ。私を凌駕するほどの才能だ。君は世界を動かすことができる。君が頂点に立ち、人類を導いて欲しい」

「・・・」

「と、思いきや、君にはまるで野心がない。先導する上でのね。君のような才能は援助者でいることが私が許さん。君の才能を持って、私が責任をもって、人類の覚醒を導こう」

「(・・・驕りが過ぎます、シロッコさん。貴方の才能持ってしても世界は変えられるはずです)」

シロッコはどこからともなく聞こえた声に目を丸くした。

「成程・・・。洗脳時に全てを取り込むことができなかったらしい。私を買いかぶってもらっては困る。私の才能が世界を揺るがすことはできても、変えるには程遠い・・・。時代の変革者は君のような女性が務めるべきなのだよ」

メシアはシロッコの話に微動だにしなかった。ただシロッコはメシアの外に逃げたわずかな精神に語り掛けるようだった。

「さて、そろそろ時代を動かそうか。君にはあのサイコガンダムを上を行くガンダムに乗ってもらう。フルサイコフレーム構造だ。時代の再生には相応しい」

「・・・」

「ティターンズの主力が全コロニーを威嚇し、エゥーゴ、カラバらと総力戦。その間に3方からの隕石落とし。どれもが保険だ。地上ではエルランが連邦本部を制圧するだろう」

そう、全ては完璧なのだ。全てを清算し、やり直す。シロッコはそれでも確信に至れない。
何かが不安なのだ。シロッコはあくまで再生を意識している。しかし、この世のどこかに本当の終焉を望む者の気配が拭い切れない。

「(一抹以上の不安を感じさせるとは。この世は私の想像の上をいく。派手な動きを見せないことにはその本性も明らかにならない・・・)」

シロッコは結果どうであれ、その正体をさらけ出させることに躍起と焦りを感じていた。もし、自分の行動もその者の範疇にあるならば・・・。

シロッコの背筋に汗が一筋垂れた。

「・・・果てしない。時流というものが<そのもの>だと思うと、何という奇蹟だ」

シロッコは自分が今振り向く、その行動ですら自分を不安にするものの予測の中のような思いにかられた。ただの考え過ぎなのかもしれない。しかし実感が時計の針を進めるごとに深まっていく、そのことが今のシロッコの全てだった。





 

 

32話 特務 3.7

* 地球軌道上外縁 ラー・カイラム艦橋 3.7 9:35

アムロとシャアはνガンダムと、サザビーと共にラー・カイラムへ帰投していた。
艦橋にはブライト、アムロ、シャアと3人揃い組。アムロが視線を艦橋から見える地球の方向を見据えると無数の光の点滅を確認できた。それは無数の艦船が交信し合っている証拠であった。

「あの点滅らが目下の敵か。数が多すぎる」

アムロが吐露を漏らすとブライトもため息を付いた。

「全くだ。同じ陣営であるはずだが、派閥争いで正規軍とも戦わなければならない。あの中の純粋なティターンズなど3割、いや2割。それだけならば戦いになるのだが・・・」

ティターンズとエゥーゴ、カラバと小競り合いしている間も連邦軍は軍縮と再編を粛々と行っていた。政権与党お抱えのティターンズは多くの軍勢を管理下に置いていたが、それを彼らは利用することはできなかった。あくまで連邦内部の中のイザコザでそれを国家単位で動くわけにもいかない。ジオンという勢力が残っている、その時点ではだが。

ティターンズは自前の部隊での自前の軍勢でやりくりをしていた。それでもエゥーゴやカラバを凌駕し、地球圏を統治するには十分な戦力を保持していた。この度、議会開催に伴い中立派閥にティターンズが危険を囁いた。すると普通の神経ならではの動きを示し、解体されるはずの戦力をこの議会の為だけに再動員させたのだった。

シャアが戦況詳報を目を通していた。しばらく経ってから首を振った。

「・・・普通に戦うと包囲殲滅されるな。しかし正規軍の奴らが戦いに加わるのか?」

シャアがブライトに問いかけた。ブライトが頷いた。

「今の情勢のままならな。我々が奴らをこのように牽制せざる得ないのも世論があるからだ」

今は宇宙がティターンズに蹂躙、破壊されるのではないかと戦々恐々と巷では専らな噂だった。
ここまでのティターンズの勢力拡大はほぼ恐怖政治だった。恐怖で人を従わせるやり方で急速に育った。銃を突きつけられて従いませんと言える常人はそれ程いないだろう。そんな無謀な勇者たちがエゥーゴでありカラバであった。

そんなエゥーゴもカラバもティターンズから勢力圏を奪うにつれて期待されていった。
地球上ではアジア、ヨーロッパ、北アメリカ、オセアニアとほぼ解放されたといってよい形だった。

新機体と熟練のパイロットたちの手腕によるものだったが、ティターンズの引き際はとても鮮やかだった。ウッダー准将ら地球のティターンズ指揮官らがジャミトフの焦土作戦とも呼べる手法で全てのプラント事業の人員すら撤収時に引き揚げ、または破壊、虐殺をしていった。結果解放区の住人は明日の食事を心配する程の食糧難に陥っていた。

「故人が言っていたな。愚民共は娯楽と食事を与えられればそれに従う。何も考えない故に打ち切られた時に本当の恐怖を味わう。逆らうということがどういうことかをな」

ジャミトフは自身の側近らにそう漏らしていた。人と富、経済集まる所に暮らしが成り立つ。エゥーゴとカラバは解放運動を一時中断せざる得なかった。人が飢え始めているからだ。この状態でティターンズに攻められたら一気に戦線が崩壊することが目に見えていた。

しかし、ジャミトフはそうしなかった。彼はより悪辣なことを考えていた。エゥーゴらの少数故のライフラインの確保の困難さを存分に発揮して、彼らの支持を彼らで貶めてもらおうと考えていた。

ブレックスはラー・アイムに乗り、ダカールへ向かっている。
彼はその所業を世論に訴えることも考えていた。対するコリニーはエゥーゴらの運動が世界各地の食料プラント事業を撤退させたと発言する見込みとマスコミを操作し、新聞で報じられていた。

何が正しいのか。それは有権者一人一人が判断することだった。
有権者は薄々勘付いているが、それでもティターンズの正統性を批判できない。結果泥沼化している状態を如何に派閥と言う垣根を崩壊させることが出来るかと内心期待していた。

そんなウルトラC等存在するものかとブライトは思っていた。3人共表情が暗い。戦端を開いては戦線の維持はこのベテランたちにとっては楽な仕事だ。包囲殲滅されない様に距離を取る戦いしかできない。
その間に別働部隊が各コロニーの制圧に乗り出すだろう。それで戦いが終わってしまう。それが決定されるのはこれから始まる議会の結果次第だった。

「今回の議会での法案で通過させようとしているのが、<宇宙統治・統制法><地球環境維持法><対テロ対策法案改正>この3つだとマスコミが報じている」

ブライトが2人に話した。シャアは顎に手をやり、話し始める。

「宇宙の住まうものには人権を与えず、地球にいるものこそ至上の特権だと法律で定めるのか。そしてそれに贖う我々を抹殺の対象とする」

「馬鹿の所業だ!恐怖で政を司るなどと、古代の手法か!」

アムロは唸っていた。そしてアムロはブライトにその法案の通過の可能性について聞いた。

「ブライト。これらは全て通過する見込みなのか?」

「現状では・・・半々らしい。今は宇宙に住まうものたちも有権者扱いだからな。ガルマや他の地球の議員らも反対の意向を示しているが。根回しと開催後の主張合戦が勝敗のものをいうだろう」

「オレらには何もできないのか・・・」

アムロは個人の無力さを痛感していた。シャアもブライトも同じだろう。シャアは一つの組織の代表の為、些細な組織でも圧倒的な既存の勢力には逆らえないことに心を痛めていた。

「碌でもない父親だったが、父の教えがこのまま死んでしまう事に責任と無念さを禁じえないな。かといえ少数勢力で反抗するにできる手法など・・・」

「許されるようなことではないな。それはテロというものだ。彼らを増長させてしまう」

ブライトがそう考えに水を差すとシャアが頷いた。

「全くその通りだ」

すると、ラー・カイラムの通信士のトーレスからアクシズよりシャア宛てに通信文を受け取っていた。トーレスはタブレットに転送し、それをシャアに差し出した。

「シャアさん。マハラジャ提督からですよ」

「ああ、ありがとう」

シャアがその文面を受け取ると中身を読んだ。現状では些細な話だったが、2人に伝えた。

「まずはアナハイムから新造戦艦らが納品されてナナイらがそれに乗り込みこちらに向かっているそうだ。ガトーとラル、そしてハマーンも同行しているらしい」

ブライトは多少の戦力増強は望んでいた為素直に喜んだ。

「あとグレミー軍が停戦と和議を申し込んできた。彼らの内情も苦しい。争っていても利益にならないと踏んだそうだ。あとジオン本国も内乱状態であるらしい」

「内乱?そう言えばこの大事な局面で出てこないことをすっかり抜けていたな」

ブライトがそう話すとシャアが再び頷いた。

「この局面であの勢力が動かないことが一番理解に苦しむ。グレミーは孤立した。それで彼は彼で独自に動かねばならなくなったそうだ。そして今彼らは軍ではないそうだ」

「軍でない?どういうことだ」

アムロが不可解な顔をした。シャアが話を続けた。

「これだ。彼らのホームページが上がっている。設立は10日前だ」

ブライトとアムロがシャアが差し出したタブレット端末を差し出した。

「<グレミープラント株式会社>?毎日豊かなバランスの取れた生活をあなたに提供致します・・・。なんだこれは?」

アムロがシャアに質問した。

「グレミーはコロニー自治体と連携し、自分の戦力を金に換えて食料プラント事業を起こした。既に100万食もの生産体制が構築されているらしい。各地の貧困コロニーへ格安で輸出しているそうだ」

アムロは感心した。グレミーという者の下馬評を彼も聞いていた。若くそして覇道を目指す野心家だと。しかし、彼がしていることはそんなこととは全くかけ離れたことだったと思った。
ブライトが一息ついて述べた。

「ふう、アクシズの動乱は決着が付いた。そしてグレミーが会社を興した。この流れは何を期待すればよいのか・・・」

シャアはブライトの疑問に答えた。

「各コロニー間の自給率はとても低い。これを解決するには2,3サイド全てをプラント事業にしなければならない。しかしそれよりも金になる木が他事業で沢山あるためないがしろにされていた。広大な地球がそれを賄うにまだまだ効率的だった」

「ここに来て食糧難とは・・・。地球が閉ざされたら一気に宇宙は飢えるな」

ブライトがそう言うとシャアは頷く。

「グレミーは思った以上に先見の明があるようだ。簡単に矜持を捨て去ることができる。これは凝り固まった大人にはできない」

ブライト、アムロとも頷いた。

「そうだな。だからこうもにらみ合いになっているわけだからな」

アムロがそうぼやくと艦橋にベルトーチカが入って来た。

「アムロ!貴方宛てにとんでもないものが届いたよ!」

ベルトーチカが血相を変えていた。今度は紙媒体の文書だった。アムロはベルトーチカより文面を受け取ると、アムロが難しい顔をした。

「政府特務だと・・・」

アムロがそう発言するとブライトがその文面を覗き込んだ。

「(アムロ中佐はこの文面到着直後政府直属の特務部隊へ編入を命ずる。サイド6へ単機で赴かれたし。そこにある彫像を無事ダカールのゴップ議長まで輸送することが任務である)」

ブライトがアムロの代わりに読み上げるとアムロは露骨に嫌な顔をした。

「こんな時期に政府特務!オレのガンダムが戦力で重要である時に!」

ブライトはため息を付いた。アムロに「あきらめろ」と告げた。シャアも首を振った。

「軍に帰属している限り、君はスポンサーに従わなければならない。ましてエゥーゴに属しているのだ。ここで政府特命を固辞することはエゥーゴを不利にする要因でしかならない」

シャアがそうアムロに告げるとアムロはぐったりと肩を落とした。

「・・・そうだな。ブライト、ゲタを借りる」

「サイド6だな。行き先は?」

「インダストリアル1だ」

アムロは静かに艦橋を後にしていった。ベルトーチカはそれを追って行った。
艦橋に残ったシャアはふと考え、トーレスに通信回線をアクシズにつなげて欲しいと依頼した。

すると数分後、モニターにマハラジャ提督が映った。

「何か急用でしょうか総帥?」

「ああ、提督からの通信文を読みました。アクシズからもグレミーへ支援をお願いしたい」

「無論そのつもりでした。総帥の指示待ちでしたので明日にはグレミーの下へ支援物資や人員を提供致します」

「流石だな。手際が良い」

「恐縮です。この運動が宇宙の救いの一筋になればよいですが・・・」

マハラジャも食料難について考えていたらしいとシャアは思った。今までは連邦も民間までの統制はしなかった為、食料需給については問題皆無だった。しかしエゥーゴらの地球解放運動がティターンズの焦土作戦を促していった。それに宇宙も敏感に反応していた。

「この長い厭戦も未だ人口は50億以上いる。彼らを見殺しにはできない。それは我々の責務でもある」

「その通りです総帥。統治者、指導者は決してあんな悪辣な非人道的なことをしてはならないと考えます」

そして幾つかの問題をやり取りしてその通信を終えた。


* サイド3 宙域 ゼウス 艦橋 

マーサはゆったりと艦長席に座り、地球圏の戦況を眺めていた。
その傍にフロンタルがやってきた。

「どうですか?地球は」

マーサはフロンタルの問いかけに微笑を浮かべた。

「無知なる者どもが過激な演劇をしているようですよ。その外側のシロッコの動きも面白いわ」

「更に外側にいる我々は出番がありますかな?」

「大丈夫よ。これほどの戦いの後、更地になった地球圏をビスト、この私が束ねるのよ。このサイド3の掌握も成功したわ」

マーサが艦橋の各モニターを映し出してフロンタルに見せた。ズム・シテイ以外のコロニーの内情が取れた。市民誰もが変わらず無難に平和に生活をしていた。その映像にフロンタルは笑みを浮かべた。

「これはこれは・・・皆何も意識、疑問を持たずして箱庭の中で生活を営んでいるとは・・・」

「ゼウスの力よ。彼らは彼らの居るコロニーだけが世界の全てを認識している。あらゆる闘争本能もすべて除去しているからいじめや争いもないわ」

ゼウスシステムという巨大なサイコフレームによりサイド3のコロニー全体の人民を洗脳仕掛けたのだった。

「何も変革など要らないのよ。導き手が意識をも統括することこそ恐怖に怯えず最良な人生を送ることができるわ」

フロンタルはマーサがとても良い狂いっぷりに期待以上だと感心した。するとマ・クベも艦橋へ入って来た。

「・・・フロンタル」

呼びかけられたフロンタルは振り向き、マ・クベを見た。その傍にはマリオン、クスコと小さな少年少女が複数いた。どの少年少女も同じ顔をしていた。

「・・・クローン上手くいったようだな」

「ああ、ニュータイプ部隊として組織可能だ。これに合わすモビルスーツを都合してもらえればね」

マ・クベの発言にマーサが椅子を回転させて振り返った。

「アナハイムからの新型量産機があるわ。ギラ・ズール。ギラ・ドーガの小型化に成功しその分機動性能推進性能抜群よ」

「それは結構・・・」

「貴方のもあるわよマ・クベ」

「?」

マ・クベが不明瞭な顔をした。自分の機体を何故用意したのか。その疑問をフロンタルが解いてくれた。

「私が都合して欲しいと頼んだんだよ」

フロンタルは仮面の下の口角を上げてそう告げた。マ・クベは露骨に嫌な顔をした。2人ともそれを見てクスクスと笑っていた。

「私を戦場に立たせて何が楽しいのだ」

「君の教え子たちの面倒を見るのは君の役目だろ?高見の見物を決め込むにはそれなりの席料が必要なのだよ」

「そうね。マ・クベ、貴方の戦略眼を買って私は貴方を雇ったわ。私たちの事業の最初で最後の楔を貴方に譲ろうと思うの。存分に見極めてやって欲しいわ」

邪悪な巨魁が2人。マ・クベはいつもの無表情でため息を付いて、無言の同意をした。
人生の終幕は成り行きを見守るだけなマ・クベにとって、もうどうでも良いことだった。


* ダカール市 連邦議会議事堂 西側通路 3.10

ブレックスは秘書と共に赤い絨毯の上を予算委員会室へ向けて歩いていた。
本議会の前にこなす議題が山ほどあった。本議会での議決は既に出来レースであり、
それまでの調整をするのが予算委員会だった。

予算委員会はその名の通り各省庁への予算について議論するのだが、それは多岐に渡る。
議員のスキャンダルや紛争、災害等、結果お金に関わると目されるもの全てが予算と都合付けられてしまうためで、実質の議会とはこの予算委員会にあった。

ブレックスが歩いていると先の角でガルマと出くわした。

「おお、ガルマ君」

「ブレックスさん、ご無事で」

両者とも握手を交わす。ガルマの隣には妻であり秘書のイセリナが控えていた。

「互いにここまで来るに苦労したでしょう」

「全くです。私は宇宙からの帰りで民間シャトルでの政府特権で何とか到着できました」

ガルマは軍服姿でなく背広を着ている。イセリナはパンツスーツだった。夫婦共に紺や濃紺というシックな服装だった。

「ガルマ君、以前我々の議席数で反対を通そうにもままならない。この予算委員会でどれだけ危険を訴えることができるかが重要だ。中立層を我々で動かさねば」

「仰る通りです。前回の議会でも何とか中立層の支持を得られてティターンズの肝いりの法案を退けることに成功できました。今回もそれでいければと・・・」

ガルマはそう言い切ると浮かない顔をしていた。イセリナも心配そうに見ている。ブレックスもその歯切れの悪さに質問した。

「どうしたのだガルマ君」

「いえ、この度はマスコミの情報が不利を報じています。前回は五分と言っていました。あの手の世論は中々どうしてかよく当たります」

ガルマは現実主義者だった。この7年間で培ったノウハウは彼を成熟させると共に若さという熱さを棄ててしまっていた。何か既に見えている雰囲気を出していた。

ブレックスはそんなガルマの姿を見て、一息付いてガルマの背中を叩いた。

「・・ゲホッ・・・」

「ガルマ君!私の様な老体がこんなに励んでいるのに何たる体たらくだ」

「・・・すみません」

ガルマが謝るとブレックスが腕をガルマの肩に回して耳に囁いた。

「長年の勘でね・・・。こんな窮地には何らかの突破口があるもんだ」

「?・・・勘ですか?」

「そうだ。伊達に君より長く生きていないさ。この空気、雰囲気を君は気が付いているかい?」

ガルマはブレックスに言われて、周囲を見渡した。何もないが何かが騒めいている、そんな感覚を感じるような気がした。

「そう、そう思い込むにもそれには何らかの要因があるのだよ。それは蓋を開けて見なければ分からないが、敵さんもそうさ。勝負所に油断をする訳が無い。必ず攻めてくる。と言うことは、まだ勝負になっているということさ」

ガルマはブレックスの言うことに成程と感心した。決まりきった勝負事でも、手を抜けば負ける。決め手を確実に行使してこそ勝利を得ることができる。それまでは一つの油断も両者ともしてはならない。それが勝負というものだから。

ブレックスとガルマは目的の部屋の大きな扉の前に立った。

「さて、戦いにいこうか」

「はい」

ブレックスとガルマは部屋の中へ悠然と入っていった。


* インダストリアル1 聖櫃へ通ずる道 3.8 16:30

アムロとベルトーチカはインダストリアル1のとある通路より暗がりの秘密の通路へと特務文面の指示する方向へ足を進めていた。すると目の前に階段が現れた。下りることに気温が下がっていく感覚にだった。

「アムロ・・・なんか寒いわ」

「そうだな、まるで地獄へ通じる黄泉の道のようだな」

「バカ!そう私を脅して何か得でもあるの?」

「あるさ。もっと近くに寄って離れないようになと」

そう言うとベルトーチカがアムロの腕にしがみついて歩いた。
薄暗くも足元は照らされていて、永遠と続く螺旋階段を下りていた。

・・・

永遠とは続かず終点についた。
とても広い広場だったが、周囲がとても真っ暗だった。

「・・・ここでいいのか」

アムロがそう呟くと、知らない声が答えた。

「ここでいいのだよ」

アムロとベルトーチカがハッと驚き、声のする方へ向いた。するとその方向にスポットが辺り、
冷凍睡眠装置に横たわるサイアム・ビストが居た。

「・・・誰・・・どちら様で」

アムロがそう言うと、サイアムはそのベットをゆっくりと垂直近くまで起き上がらせた。

「・・・白き英雄よ。私はこの世の理を傍観する者だ」

「まさか・・・ビスト!」

ベルトーチカがそう叫ぶとアムロが不明瞭な顔をした。

「ビスト?知らないな」

「アムロ!この老人はこの世の黒幕よ!ビスト財団の宗主。全ての事業はビストに通じると呼ばれる大物」

アムロは人物の大きさに実感が掴めずにいた。ベルトーチカは興奮をしていた。ベルトーチカは仮にもジャーナリストの端くれ。彼らにとっての生ける伝説なんだろうとアムロは考えた。

「で、そのビストさんが何で政府特務と関わりが?」

サイアムはアムロを見て、ふと笑みがこぼれた。

「フッ・・・アムロ君。君も少し皆と違うようだのう」

アムロはこの老人の言う話にこの老人もニュータイプなんだと思った。自分をそう感じ取れるのは。

「そうですか?一般的な人間ですが、少し技量があります。それだけです」

サイアムはため息を付いた。アムロはその反応に違和感を感じた。

「アムロ君。君はニュータイプ以前に何か違うのだ」

その回答をアムロが聞いた瞬間、アムロのサイアムへの見る目が変わった。

「・・・ビストさん。貴方は何を知っているんです」

サイアムは少し目を瞑り、しばらく経ってから答えた。

「ガエルから頼まれてね。この彫像をダカールのある人物へ届けて欲しいのだ」

サイアムがそう言うとサイアムの隣に新しいスポットが当てられた。
そこには趣味の悪い彫像をが有った。その姿は誰が見ても分かる姿だった。テレビでも良くお目に掛かる中立派閥のドン、ゴップだった。

「・・・これをその人物。つまり当人へと?」

アムロがそう言うとサイアムは無言で頷いた。そしてその彫像の隣に新たなスポットが生まれて、そこには見たことの無いモビルスーツが立っていた。

「MSN-001A1デルタプラス。目的の物に耐大気圏突入保護シートをかぶせて最短でダカールまで飛行して欲しい。以上だ」

そうサイアムが言い切るとサイアムはスッと目を閉じた。アムロは一つ気になる事をサイアムに聞いた。

「ビストさん。君も?ってオレ以外に知っているのですか?」

その質問にサイアムはうっすらと目を開けてこう述べた。

「・・・世の流れ、偶然と必然は表裏一体だ。彼は人類の行く末を案じておる。それも早急だ。彼は現時点で叶わぬならば人の世はこれまでだと考えている。またそれが彼の限界でもある」

アムロはサイアムの発言についてとても深さを感じた。この老人はこの世界の歪を知っている。それが一個人であるとこの老人は語った。

「・・・それがオレらの敵なのか」

サイアムは無言だった。するとデルタプラスが起動し、立膝を付く形でしゃがみこんだ。まるでアムロに乗れと言わんばかりに。

アムロはそれに乗り込んだ。ベルトーチカは眼下でその様子を見ていた。アムロはコックピット内の簡易シートを探し、それをコックピット内にセットした。

「ベルトーチカ!これで一緒に地球へ行くぞ」

アムロに呼びかけられたベルトーチカはデルタプラスに走り寄り乗り込んだ。手慣れた手つきで簡易シートに収まり、シートベルトを着用した。アムロはそれを確認するとデルタプラスの傍にあるゴップ像に保護シートを被せた。それをデルタプラスの胸に接着させた。

「これでよし。さてこの機体の認証コードは?」

アムロがデルタプラスの識別コードを調べると、予想通りの結果が出た。

「やはり政府特機。これなら誰にも撃たれることはない」

政府特務の特機コードは連邦に属している者の免罪符だった。その許容が桁違いであり、仮に誤って攻撃仕掛けた者はその場での射殺を周囲の者が遂行せねばならない程の脅威であった。

準備が整うとモニターに自然と出口までの行道が映し出された。全てが既にお膳立てだった。
アムロはその順路を追って、カタパルトのある大きな空間に出た。そのカタパルトに乗ると、来た道の通路シャッターが降り、内圧が落ち、目の前のシャッターが開き、宇宙空間が見えた。

「ベルトーチカ、行くぞ」

「はい」

デルタプラスは勢いよく飛び出し、すぐさまウェイブライダー形態に変形。一気に加速した。

「ぐっ・・・」

「きゃ・・・」

2人とも息が一瞬詰まった。あまり身構えなかったのもあったが、推進力、瞬発力が既存の機体とはまるで違った。

一筋の流星を地球軌道上のティターンズ含めた連邦軍が察知していた。哨戒していた部隊もいて、アムロの機体を感知していたが、追撃するに一瞬の出来事で何かが通ったとしか言いようがなかった。それでも取りあえずは司令部に報告を入れていた。

艦隊を司るバスクはその未確認機を確認するよう命じたところ、政府特務機という回答をオペレーターから受けた途端、命令を徹底させた。

「絶対にその特機に手を出すな!オレも含めてお前らの首が飛ぶぞ!」

その命令が全ての艦艇に飛ぶと、誰もがアムロらを見て見ぬ振りを決め込んだ。
バスクはその映像を見て苦虫を潰していた。

「・・・オレらの特権などこの程度だ。更に上の特権に従わざる得ない。オレの知らない何かがあの機体が持っている。しかしそれを知る由もない」

議会での法整備が済み次第、バスクらの天下となる。その予定で地球軌道に集合していた。その予防の為にコリニーは軍による宇宙からの地球防衛を任じ、先んじて議会承認も取れていた。

世界動向の決定にはテロ対策等、厳戒態勢を取ることは常識であった。勿論ダカール市も周辺含めて同様だった。

アムロらは無事大気圏突入を果たし、ダカール市の防空識別圏内に入った。すると空港の管制室より案内があった。

「・・・特務機、応答せよ。着陸場はM58滑走路を許可する。運搬物の受け渡しもその場で行われる」

「了解。こちらは政府特務中佐アムロ・レイだ。貴官の誘導感謝する」

通信を終えた時、眼下に青い海が見えてきた。

「うわ~キレイ・・・」

「そうだな。流石特務機だ。大気圏突入にもコックピット内の安定感も凄いな」

ベルトーチカ、アムロとそれぞれ感嘆を漏らした。
数十分後、デルタプラスは無事ダカールの空港に着陸を果たした。そのままある格納庫へとデルタプラスは飛行機形態のまま走らせて入庫すると、そこにはカイとミハル、ガエルが待っていた。

アムロとベルトーチカは機体から降り、カイと握手を交わした。

「名指ししてここまで来る羽目になったのは君のせいか、カイ」

「アムロ、お前がちょっと必要でな」

「何か問題があったのか?」

アムロが腕を組んでカイに問うと、カイはゴップとの会談について話始めた。
それを聞いたアムロは顎に手をやり、複雑そうな顔をした。ベルトーチカも思案顔だった。

「・・・カイ。ここに来るまでにサイアム・ビストに会ったのだが」

ガエルは主人の名前が出て、一瞬眉が上がった。カイはガエルの顔を一目見てから、再びアムロに顔を戻した。

「それで?」

「あのご老人は現状の歪を知っているような口ぶりだった」

「アムロはティターンズが元凶だと思っていないのか?」

カイの質問にアムロは即答した。

「思わない。ここまでの流れは起承転結での結びだ。ただ・・・」

「ただ?」

「・・・違和感はあった」

アムロは自分がタイムトラベラーであるが、そこは伏せて自分の感覚だけで答えた。自分の知っていた歴史とはもはや掛け離れた時代になっている。カイもアムロの意見に同調し更に自論、カイが一番思っていたことをアムロにぶつけた。

「そうだな、違和感がある。オレが確信持って違和感を感じる理由の一つはお前だ、アムロ」

「!」

アムロはカイに直接的に言われてハッとした。ベルトーチカ、ミハルもカイの発言に心配そうに見守る。アムロは目を閉じて、しばらく間を置いた。カイの意見を聞こうとアムロは考えた。

「・・・カイ。オレのどこに違和感が?」

「今思えば始めからだ。あんな新兵だらけのホワイトベースで生き延び、サイド7を出て直後月で新型モビルスーツ開発に携わった。普通に異常だろ」

アムロは微笑を浮かべた。確かにそうだな、やりすぎた。アムロはカイの考えの続きを促した。

「それで?」

「端折るが、ララァさんにシロッコ、お前らの力を世間的に受け入れては自然になっているが、よくよく考えて見れば不自然極まりない」

アムロはカイの言いたい事が何となくわかった。サイコフレームやサイコミュなどのニュータイプの話だ。

「I・フィールドは物理的に何となく納得いく。しかしなんだあのサイコ・フィールドは!」

「ああ、オレもあの現象はよくは知らないんだ。ただ研究者があの技術を見出した、結果だね」

「人の感情、思考、反射神経をフィードバックできるシステム。生まれてきてしまったものは仕方がないが、オレのような一般人には気色が悪い」

「超能力に似たようなものだからかな?」

カイは渋い顔をして頷いた。

「そうだ。手品なら種明かしなどあるが、練習したところでお前らの能力を理解などできやしない」

アムロもそう思った。だから強化人間など人工的に生成しようということを企んだりする。

「で、お前さんをちょっと調べてみたんだ」

カイがそう言うとアムロがキョトンとした。

「ハヤトやフラウら当時のお前を知る人から聞いたよ。結果・・・」

「結果?」

カイはアムロを直視して言い放った。

「お前は誰だ?」

「!!!」

アムロはカイの質問に動揺しながらもポーカーフェイスでいた。しかしそれについての反論や反応ができなかった。カイは言葉を続けた。

「・・・オレは非科学的なことは信じやしないが、ここまで違和感あることを総合して尋常ならざることが起きているとしか考えられない。だから敢えて問おう。アムロ、お前は何者だ」

「・・・」

アムロ、カイ、ベルトーチカそしてミハル、4人の間に沈黙が落ちた。暫く経ってからアムロが口を開いた。

「・・・オレはアムロだ。だが、この時代のアムロじゃあない・・・」

カイがため息を付いた。ベルトーチカは片手をおでこに当てていた。ミハルは腕を組む。
カイが少し笑ってアムロに尋ねた。

「フッ・・・で、どこのどちらのアムロさんで?」

「・・・あと6年先のアムロだ。だが、この世界を知るアムロではない。もう一つの世界のアムロだ」

「並行世界・・・」

ミハルがそう呟いた。その呟きにカイがミハルを見て、アムロに目を戻した。アムロが続けて答えた。

「その世界でもサイコフレームは存在していたが、あくまで遠隔操作や反射神経での作用。まあ戦場意識の拡大もあったな」

カイがアムロに再び尋ねる。

「サイコ・フィールドについては?」

「知らない。そもそもサイコフレームの構造らもそれ程詳しくはない。金属のマイクロチップがどうのこうの・・・」

「じゃあ誰かがここまで革新に導いた訳だな」

「・・・それしか考えられない。オレの時代でサイコフレーム技術がこれの半分まで行くのに14年かかった。それを既に凌駕している」

「お前と同じオーパーツがこの世界にいると考えていいんだな?」

「ああ、一人はララァだ。もう一人はララァを作り上げた人物」

カイはわざと事情の整理を頭の他に仕舞い込んで、様々な情報をアムロから引き出そうと考えていた。
カイの後ろではミハルが手帳を開き、書き込んでいた。

「そいつがこの世界にここまでの技術革新をもたらした。この時代の均衡まで作用しているか?」

「・・・そこまでは考えにくい。オレがこの通り、別に世界に干渉して何か指導者になれたわけでもない」

「ならなかっただけじゃないのか?」

「・・・いや、無理だ。適材適所というものはあって、オレは政治家向きではない」

「では、アムロが指すそいつは?」

「出来れば、この世界のネオジオンの総帥であるシャアが世界を統一できているはずさ」

カイはアムロの口からシャアという言葉が出て、何故そこでシャアなのか?と感じた。その戸惑いにアムロが捕足した。

「ああ・・・オレが本来いた時代のオレの宿命のライバルだった。ララァはオレとシャアの思念がララァという人格を作り出し、この時代のララァに憑依させたそうだ」

「・・・シャアが元凶?この世界のシャアは?」

「実はそこが複雑で、オレはアムロに、ララァはララァへ、だがシャアはシャアにはならなかった」

「じゃあシャアはどこに・・・」

「オレも知りたい。奴がこの世界をオレとは違う角度で掻きまわしたことは明白だ」

「明白ねえ・・・」

カイはアムロの言葉に半信半疑だった。カイはリアリストな為、アムロの意見は汲むがとても記事にはできない。だが、今までの経験による自身の直感がアムロがイレギュラーだということを指している。
カイは再び口を開く。

「・・・ここはお前にとってパラレルワールドであり、今起きている事はカオス理論だ」

アムロはカイの言葉が真を得ていると考え、頷いた。

「そうだな。オレにとってこれは現実と掛け離れている。父親ともこんなに上手くいかなかったし、シャアとも和解もない。ララァも生きている。あとそこのミハルさんもな」

急に呼ばれたミハルが少し驚いた。

「わ、私ですか?」

アムロが頷く。カイが「どういうことだ?」と尋ねると、

「・・・ミハルさんは本来7年前に死んでいた」

「・・・」

ミハルは絶句した。確かに死が身近であったときがあった。カイはそれがアムロが居た世界の出来事だと理解した。

「・・・アムロ、お前の居た世界は不幸が多かったのか?」

「そうだな。結構離別が多かった。ハヤトもな」

「ハヤトもか・・・。この世界は案外幸せなのかもな」

「オレの一挙手一投足がこの世界の変化をもたらしているとカイは主張したいんだな」

アムロがカイの考えを聞いた。カイは頷いた。

「そうだ。お前は世界のキーパーソンだ。特別政治家のように動かなくとも世界に作用している、とオレが感じる。だからゴップに輸送役をお前に頼み、ここに呼びつけた。ゴップとしては連邦の英雄であるお前が輸送するということですんなり了承できた。可笑しい話だがな」

カイは自嘲し、アムロは深くため息を付いていた。

「・・・オレはそこまで深くは考えなかった。ただ、これから起こるオレが思った不幸から逃れるために必死にもがいただけだった」

「アムロ・・・」

ベルトーチカはアムロの肩をそっと触れた。アムロはベルトーチカを見て静かに微笑んだ。
カイはアムロに最後に尋ねた。

「で、この世界はどうだ?お前にとっては満足か?」

「・・・ああ。死んで欲しくなかった人達、敵味方問わず生きている。満足しているよ」

「なら良かった。お前の世界よりも最悪ならば、それはオレらにとって悲劇だ」

「そうだな」

そう言って4人共格納庫より出て今後の打ち合わせの為、空港のカフェテリアの方へ足を運んでいった。


 

 

33話 所業の残骸 3.2

* ムラサメ研究所 研究棟内 廃棄場 3.2 

シロー・アマダは激痛とただ闘っていた。鼓膜は破られ、四肢を斬られ、両目を刳り貫かれ。
ただ舌と歯が健在だったことが男にとって幸いだった。

「うう・・・ああ・・・」

全身が焼ける様に痛む。毎日焼き(ごて)を当てられて皮膚が壊死になりかけていた。
髪も焼かれ、何故こんな目にあったのかも自分でも謎としか言いようがなかった。

今はもう地獄のような拷問から抜け出せたことは確信していた。肌での探りだったが、鼻は利いたのでその戦場でも嗅いだことあるどきつい死臭を感じた。そこは死体置き場のようだ。しかしその置き場はただ山にしてあるだけのもの。

どうやら自分は死んだと勘違いで認識されたようだと薄れゆく意識の中で考えた。

記憶を辿ると半年前、アジア戦線でのカラバの難民キャンプでシローとアイナが他のスタッフと共に
ティターンズに反対する者達、弾圧されてきた者達へ運動に火種を消さぬように支援していた。

シローは運ばれてきた物資を作業用ロボットを使い、仕分けをしていた。
アイナはその傍のテントで子供たちに食事を配っていた。

「はーい、慌てないの。まだ沢山あるからね」

アイナが明るく、難民の子供たちへ次々と配給する。
その傍にひと段落したシローが歩み寄っていた。

「アイナお疲れさん」

「あ、シロー。貴方もね」

「ティターンズの軍国政策に反対する者達はこのように追いやられてしまう。世界を変えるのはこんなささやかながら芽生えるまでの運動だ」

シローは厳しい視線でこの活動の意義を語っていた。アイナも真顔で頷いた。

「武力でなく対話で分かり合える時代が来るまで、私たちの戦い方はこれね」

「そういうことだ。道は険しいが・・・」

「分かってるわ。大丈夫」

そう語り終えた次の瞬間爆風が起きて、シローの記憶は途絶えた。
次目覚めたのはここの実験区画の無機質な部屋の中だった。

「・・・シロー・アマダくんだね」

どこからともなく声が聞こえた。シローは椅子に縛られ、身動きが取れないことに気が付いた。そして力の限り必死にもがいた。

「無駄だよ。目の前に居るひとは分かるかね」

そう声が聞こえると目の前が真っ白な壁だったのが透けて、中にはアイナが同じく縛られていた。

「さて・・・君たちのデータを調べさせてもらった。どうやら被検体はこちらの女性の方が相応しいらしい」

データ?相応しい?何のことだとシローは思った。シローに映るアイナの姿は何故かぐったりしていた。

「お前!アイナに何をした!」

シローが叫ぶと、その問いかけに声が答えた。

「彼女の下地を作るにちょっと投薬を施した。より強烈に印象を与える為君を利用させてもらうよ」

そう声が話し終えると、目の前のアイナがビクッと反応し、目覚めた。

「アイナ!」

シローがそう叫ぶ。アイナも何かを叫んでいるが声が聞こえない。恐らく遮音性抜群なガラスなんだろうとシローは悟った。

そこからはあまり何も思えていない。ただ痛みの連続とアイナの慟哭しているような姿と悶え、苦しむ顔、アイナの顔から表情が消えたこと。それぐらい。

シローはぼんやりと現実に戻って来ていた。

「(・・・生きなければ・・・)」

意識が明確になってくると痛みを思い出し、その激痛に耐え切れずまた意識が遠のく。
その時が一瞬だが冷静に考えることができる時間だった。

「(次の痛みで・・・)」

彼の精神力は並大抵の代物ではなかった。またぶり返して繰る痛みに痙攣しながらも、より強い痛みを感じながら、一つ一つその死体置き場から抜け出そうと行動していた。

自分でもいつ意識が落ちるか、それが恐怖だった。
それは死と同義だと自分でも理解しているからに他ならない。

上手く死体の山から転がり落ちて、床に体を打ち付けた。

「うっ・・・ああ・・・ああああああああああああああああああああああ」

シローは激痛に雄たけびを上げた。すると目の前が明るく、外気が入るような感覚を受けた。

* 極東 日本 北海道地域 ネェル・アーガマ艦橋 3.2 10:00

艦長のヘンケン大佐は艦長席で苛立っていた。ティターンズの焦土作戦により、解放地域での食糧難に陥り、解放に来たエゥーゴが人民の支持を得ることができず、逆に反感を食らう嵌めに陥っていた。

「ティターンズは弾圧すれど食わせてくれた。だけどお前らが来て明日の食事もままならない。それを抑圧を解放したから後は好きにやれなんて無責任にもほどがあるぞ!」

と、大体の解放した地区からの容赦ない身勝手な叫びと不満をエゥーゴにぶつけていた。

「・・・ったく、宇宙からはるばる来たってのに。地球のティターンズの弾圧で助けてくれといったから彼らの支配から解放してやったと言うのに・・・」

ヘンケンがぼやくと傍に居たバニング中佐がため息を付いていた。

「これが俺達軍属の限界なんでしょう。ティターンズは軍と政治、経済一体で取り組んでいる。奴らを支持する与党がそれを可能としているからですね」

艦橋の空気はずしりと重い。艦橋にはモンシア、ベイト、アデルそしてアレンが居た。
あの陽気なモンシア大尉ですら沈んでいた。

「はあ~・・・オレたちは何をしにここまできたのかねえ~」

そうぼやくとベイトとアデルが揃って首を振った。アレンはオペレーターに新着の情報が無いか声を掛けていた。

「どう?何か士気が上がる情報ない?」

するとオペレーターのマーカーが通信文であるものを受け取っていた。

「はい、こちら」

アレンはそれを受け取った。それはこの州域の救援要請だった。しかしながら規模が小さい。4人の民間人らの陳情だった。アレンは中身を読み上げた。

「えー、私らの元上官が伴侶と共に拉致された。有力な情報筋としてある研究施設で監禁されていると考えられる。しかしながらその施設はティターンズご用達故に我々の過少戦力では太刀打ちできない。至急応援を求む・・・か」

アレンは腕を組み、ヘンケンに指示を仰いだ。

「どうします艦長?」

ヘンケンは今のところあてがない。どの地域の人民も下手に刺激できない。解放運動がここに来て座礁していることで、ティターンズに誘拐された話は何かと政治的にも役に立つと考えた。

「・・・奴らの尻尾を掴むには奴らの悪事を暴くことが一番だな。進路をその応援要請のあった地区へ」

ネェル・アーガマは進路をその4人がいる函館の集落へ向けた。


* 函館 ある集落の酒場 同日 10:30

エレドア・マシス、カレン・ジョシュワ、キキ・ロジータ、ミケル・ニノリッチ4人は酒場にてムラサメ研究所の見取り図を眺めていた。

「カレンさん、この警備では生身じゃ難しいですね・・・」

ミケルが冷静に分析していた。カレンはそんな回答に癇癪を持って答えた。

「そんなこと百も承知さ!ただアマちゃんを助けないことには夢見が悪くてしょうがない。あいつはあたしたちの恩人だからな」

キキもカレンに同意した。

「そうだ。隊長はあの戦いから尚、ティターンズから私たちをかばってくれたんだ」

エレドアが頭の後ろで腕を組んで、渋い顔をしていた。

「・・・オレも隊長には生きてもらいたいと思っている。オレの除隊を後援してくれたのも隊長だからな」

エレドアはインディーズレーベルと契約を果たし、目下音楽活動中であった。

彼ら4人共隊長と呼ばれるシロー・アマダに恩義があった。

シローはある戦いで除隊後、伴侶であるアイナ・サハリンとカラバに身を投じていた。
彼らの活動はいわゆる海外援助隊だった。その活動の中で、カレンも看護の道へと誘われ、ミケル、キキも然り。エレドアもシローの人脈に頼っての仕事にありつけた感じだった。

もう一人テリー・サンダースJrという部下がシローには居た。彼はシローの小隊が解散後、他地域の部署へ転勤となっていた。彼は軍人故にシローが蒸発したことにも身動きが取れない。
その代わり、ムラサメ研究所の見取り図を送ってきた。

そんな4人の悩みは直ぐに吹き飛んだ。ミケルの通信端末に救援要請に応じるエゥーゴの部隊が名乗り出てきたからだった。

「・・・はい。・・・ええ・・・わかりました。宜しくお願い致します」

ミケルが破顔して、3人に語り掛けた。

「やったよ!ネェル・アーガマ隊がこっちに向かっているよ」

その知らせを聞いた3人は喜んだ。

「しかし各地解放運動で多忙なエゥーゴがこんな依頼を請け負うなんて」

ミケルが両手を頭の後ろにやり、思案していたその回答がネェル・アーガマ隊と合流を果たした時、
艦長のヘンケンより語られた。

4人共艦橋に迎えられ、艦橋クルー全員と挨拶を交わし、握手をした。
ミケルは艦長のヘンケンと握手を交わす。

「ミケル・ニノリッチです。僕の元上官の為に有難うございます」

「いいえ、貴方がたが我々の問題解決に一役買っていただけると思って応じただけです。結果人助けになれば尚の事ですがね」

ヘンケンは正直に思っていたことを感想に述べた。その感想にカレンが腕を組んで、鼻を鳴らした。

「フン、結局は利害の一致と言う訳か」

ヘンケンはカレンの意見に同調した。

「そういうことだね。我々の置かれている状況は深刻でね。ティターンズの鮮やかな引き際に物量乏しいエゥーゴが危機に瀕している。このままではエゥーゴが何もせずに倒れてしまう」

「成程、ティターンズも平民の不満を得てして、エゥーゴもティターンズの仕掛けに同じ道を辿るわけか。そこで・・・」

「そうだなミズ・・・」

「カレンだ」

「ああ、カレンさん。君らの要請が真実ならば、非人道的行為を世間にさらけ出すことができる。これはティターンズにとってもかなりのダメージとなるだろう」

エレドアがヘンケンの意見を聞き、「そういうことね」と相槌を打っていた。カレンが少し笑い、ヘンケンに手を差し伸べた。

「いいねえ、アンタみたいな隠さず話すやり方、アタシは嫌いじゃない。早速だが、あの研究所を制圧してもらいたい」

カレンがそう述べると、キキがヘンケンにその研究所を攻撃しうるに値する証拠を手渡した。ヘンケンがそれを受け取ると、ヘンケンは顔を顰めた。その様子にバニングもその資料を覗き込み、同じく顔を顰めた。

「・・・この書面とこの写真は・・・」

ヘンケンがキキに尋ねると、

「私が潜入して得てきたものだよ。世界各地より才能ある者を募っては投薬・洗脳して、人工の優れた人間を作り出していたみたいだよ。その手段は択ばず、近親者や同僚を拉致しては目の前でショッキングな事を見せたり、絶望を与えて、催眠状態にさせては人の持つ力を引き出すようにしていたみたい」

バニングはこめかみに青筋を立てていた。キキはそのまま話し続けた。

「それで使えなくなったものは施設内の廃棄場に棄てられています。勿論使えなくなったということは・・・」

バニングはキキの結論を遮った。

「艦長!いち早く制圧しましょう。奴らは我々の優位性をこんな愚かなことで覆そうと考えている。これは我々にも責任がある」

ヘンケンはバニングの話に頷く。ここまでの快進撃はティターンズの練度の差によるものでもあった。
エゥーゴに参加しているメンバーの大抵がほぼ激戦をくぐり抜けてきた勇士たち。片やティターンズはそんな正義感強い勇士たちを引き入れることができずに独自で練度を高めていった者たちで構成されていた。

サイコフレーム技術やニュータイプ論が流布されている昨今、事情を重くみたティターンズ上層部が取った行動がこの研究機関だった。

「そうだな。申し開きは後でするとして、結果を得て上々としようか。中佐、直ぐにでも制圧隊を組織できるか?」

バニングは「30分も有れば」と答え、ヘンケンは了承した。
ミケルもすかさず参加の意思をバニングに伝えた。

「僕も同行します!」

その発言にカレン、エレドア、キキも同調した。

「あたしらも行くよ!」

バニングは彼らに尋ねた。

「貴方達の元上官はあそこにいるのか?」

その問いかけにキキが答えた。

「うん!私が見た。シローがあの施設で囚われ、アイナさんも・・・」

「アイナさん?」

バニングの疑問にミケルが代わりに答えた。

「・・・元上官、シロー・アマダの伴侶です。彼女も一緒に囚われました」

「そうか・・・、分かった。貴方達の上官が証人ともなろう。それは貴方達でしか彼を知らない。一緒に探すの手伝っていただけるかな?」

バニングが4人に逆に協力を要請した。4人は快諾した。

* ムラサメ研究所 研究棟内 第5研究室

ミケルら4人は制圧した研究所内をかけずり回っていた。
制圧と言っても、ほぼもぬけの殻だった。今思えば簡単な話だ。

エゥーゴが既に極東含めアジア圏内を解放し終わっており、この研究所もティターンズ傘下であるが故撤収されていた。

その中で資料を漁っていた。しかし研究資料もほとんど消却されていた。

「立つ鳥後を濁さずか」

エレドアがそう呟く。カレンがいら立っていた。

「ええい。どこかに、アマちゃんの行方があるはずなんだ!」

ミケルも広い施設を駆け回って、ここまで何もないとと途方に暮れていた。

「(・・・うーん、行方か・・・。研究員も何も人体実験していても被検体となる人もいない。一体どこに?)」

ミケルがそう考えると、一つ最悪のケースを思いついた。

「・・・カレンさん」

ミケルが暗い顔をしてカレンに語り掛けた。

「なんだ!その顔は!」

「あのう・・・被検体も含めて皆撤収されたようですね」

カレンは分かりきった事を言うミケルを叱りつけた。

「そんなこと知ってるわ!だから今隊長の行方の手掛かりをさがしているんだろ!」

「で、です・・・一つ、探してみたいところがありまして・・・」

ミケルがキキから受けた情報の中でおぞましいことを思い出していた。
カレンもミケルの嫌な直感を信じたくもないが、そこになければ生存しているとも言える。

「・・・分かった。キキ、エレドア」

「なんだい?」

「カレンさん?」

「・・・隊長が居ない事を祈って廃棄場に行くぞ」

キキ、エレドア共にゾッとした。カレンとミケルは足早にその区画へと向かった。キキ、エレドアもそれに従った。

ミケルたちが廃棄場の扉の前に立った。エレドアが傍の開放パネルを操作すると施錠が解けた。

「よし!開けるぞ」

カレンが重い扉をゆっくり開けると、目の前に仰向けになった全身焼け爛れた四肢が欠損した人が目立つように転がっていた。

「あ・・ああ・・」

シローが新鮮な空気を肌で感じた。4人共その転がっている瀕死のシローにゆっくりと歩み寄った。
そして4人共その場内の異常なほどの死臭に口を押えた。

「うぐっ・・・」

「う・・・おえ・・・」

シローはその嗚咽の声らに反応して、声を微かに出した。

「あ・・・ミケ・・・ル・・・」

その声を4人とも聞き逃さなかった。

「た・・・・隊長!」

カレンがシローに歩み寄って、シローの状態を確認した。

「(こいつは・・・マズい。壊死なりかかっている。冷却してモルヒネを打つか)」

カレンは手早く、手持ちの医薬品でまずきつい麻酔を投入して、シローを眠らせて、四肢の欠損部分を冷却材で凍らせた。

ミケルとエレドアはシローを抱え、5人はその場を後にした。

* ネェル・アーガマ 医療処置室 

運ばれたシローは爛れた皮膚全てに保護膜を貼られ、点滴を打ち、バイタルを安定させた。

「だが、まだ予断は許されんな。今夜持てば・・・」

艦内の医師がミケルら4人に告げた。そして医師からシローは目が刳り貫かれていることも話され、カレンは激高した。

「うおおお!ティターンズめ!鬼畜以上の所業をして世界を統治するか!」

ミケルもエレドアも同じく怒りに狂っていた。

「ああ、あいつ等はぜっていぶっ殺してやる!」

「ええ、彼らには相応の報いを与えてやりますよ」

キキがそんな3人を見て、とても怖がっていた。キキは横たわるシローの傍で泣いていた。
するとシローの口が動き、とてもゆっくりとはっきりした声で言った。

「・・・みんな・・・それはだめ・・・だ。テロは・・・話すこと・・・大事」

その発言最中、静寂な空間にいるようだった。3人共その声に気分がクールダウンした。
キキも「シロー・・・」と喜び泣きじゃくっていた。

艦橋に戻ったバニングはヘンケンに報告を入れていた。

「艦長、成果は・・・」

バニングの表情が芳しくない、ヘンケンはそう思い、

「あまり良い収穫はなかったか・・・」

「はい、もぬけの殻と言っていいでしょう。残念です。ただ・・・」

「ただ?」

「彼らの上官の救出には成功しました。証人が何とか得ることができました」

ヘンケンは頷いた。彼らの救出したシローについての状態を聞くと、ティターンズに呪詛の言葉を吐いた。

「ええい、忌々しい。奴らの思惑全てが人をもの以下でしか思っていない。こんなクズに手を拱いているオレらは一体なんだ!」

ヘンケンがそう艦長席で怒り叫ぶと辺りの空気がズンと重くなった。
バニングが追加で報告を入れた。

「艦長。更に気を悪くするかと思いますが・・・」

「なんだ」

「彼を見つけた廃棄場で打ち捨てられていた死体の分かる範囲でのリストです」

ヘンケンがバニングから渡された遺体リストを眺めた。民間、軍問わず多数の名前が載っていた。
その中にはモーリン・キタムラ、サマナ・フュリス、フィリップ・ヒューズも書かれていた。ヘンケンは静かに黙とうした。この者達の無念を晴らす為、シローの回復を祈っていた。

ヘンケンは一息ついて、通信士にブレックスとの回線を繋ぐように命令した。

* トリントン基地内 ブレックス執務室 

数分後、トリントン基地に居るブレックスと連絡が付いた。

「ヘンケン艦長か。何かあったか?」

ブレックスは基地の執務室でLIVE映像回線でヘンケンを見た。とても深刻そうな顔をしていた。状況は多少なり知っていた。エゥーゴは窮地に立たされている。

ヘンケンが述べた案件はそれと別でティターンズの非人道的行為についての話だった。
ブレックスはそれを聞き、ティターンズを罵っていた。

「成程な。コリニーが考えそうなことだ。いやジャミトフか・・・」

「証人の回復が一縷の望みです。資料的証拠も盗難したものですし、内部資料として裏付けるには生き証人が」

「それでシロー・アマダという者は?」

「今、艦内医務室をICU状態にして24時間監視中です」

「了解した。こちらからも医師団を派遣する。もうすぐラー・アイムが到着して、ダカールの議会に向かわねばならない。タイミングで間に合えば良いが・・・」

ブレックスがそう言うと、執務室にセイラが入って来た。

「議員、明朝シナプス隊が入港します」

「わかった。注文した資料はそのテーブルに置いといてください。忙しい中有難う」

「いいえ、私は先んじてダカール入りしますので後日お会いしましょう。失礼致します」

セイラは一礼して、退出していった。ブレックスはセイラにアジアでのティターンズの引き上げによる政治的、軍事的圧力による徴発の実態と証拠を調べてもらうように注文していた。そしてセイラはその詰めをダカールでの中立派とティターンズ派閥の中でも倫理的に道徳的に付いて行けない議員の寝返り工作を努める為、先発していった。

ブレックスはセイラの資料だけでもある程度勝負になると思っていたが、ヘンケンのもたらされた情報はティターンズへの追撃だった。最強の切り札として変化すれば、コリニーらを処分できる。

「一つ怖いのは、コリニーが暴走したら、だな」

そうブレックスがぼやくとヘンケンも画面の向こうで頷いた。

「そうですな。政治が止まると、地球での食料事情が深刻になる。仮にも奴らは与党だ。議場での食料問題をまず決着し、その為の停戦を世界に呼びかける必要性があります」

「ああ、その為の資料は用意できた。抵抗運動しても結局は非力な、無抵抗な市民を巻き添えに、犠牲にしてしまうことは否めない。これが現実だ。我々の大義名分の限界だな」

ブレックスは嘲笑していた。ヘンケンが眉を潜め、ブレックスに喝を入れた。

「代表!貴方はそんなことを言ってはなりません。我々は正義を信じて、命を張ってます。現在治療中のシロー・アマダもカラバの協力者です。彼もそれを信じて今日まで・・・」

ヘンケンは自分の事の様に込み上げてくるものが出てきて、言葉を詰まらせた。
これまでも戦場で様々な生死を見てきている。全ては人のエゴによるものだった。人はなんて愚か何だろうと哲学的に自身に問うことはここにいるクルー全てが感じていることだった。

ブレックスは笑うのを止め、真顔になった。

「そうだな。もはや世界は厭戦気分だ。人々の願いはまず戦いを終わらせることにある」

「はい。では報告書まとめましたら、そちらに送付致します」

「頼んだぞ」

ヘンケンとの通信が切れ、ブレックスは立ち上がってセイラの書類を眺めた。

「・・・通商相と運輸相、国防も絡んで行われたか。我々の練度と兵器性能の差をここまで即断するとは」

やはりコリニーは侮れない。自分の実力を過信しない、そして被害も軽微に最大の効果を生むことを考えては保険も掛ける。果たしてこんな謀略家に太刀打ちできるのかとブレックスは身震いをした。

* ダカール市 連邦議会前 カフェテリア 3.9

セイラは新聞を読みながらコーヒーを嗜んでいた。目が既に座っており、臨戦態勢だった。そこにスーツスカート姿の同じく臨戦態勢なイセリナが近づいてきた。

「おはようセイラさん」

セイラは腕時計に一目やり、イセリナの顔を戻した。

「・・・時間通りね。中立派閥は?」

「あんまり芳しくはないね・・・。皆我関せずの様子だけど。そちらは」

「そう、ティターンズ派閥の方が見えているわね。現実を見て行動してティターンズに寄り添った訳だからね。半数が猜疑心を持ったわよ。明日よ予算委員会」

イセリナはセイラの向かいの席に座った。そして椅子に背を持たれかけて天を仰いだ。

「はあ~・・・取りあえずはガルマが無事にダカール入りできたから一安心だけど・・・」

「ブレックス議員もね。今朝方ラー・アイムが入港できたみたい」

セイラとイセリナは言葉少なく互いに表情が沈んでいる最中、別の客が彼女らに合流した。

「よー、2大女傑さんら。疲労困憊で即倒寸前と聞いて助けにきたぜ」

陽気な声でカイがセイラとイセリナに声を掛けた。カイの後ろにはアムロ、ベルトーチカ、ミハルが居た。アムロは「カイがある人らに呼ばれていると来てみればセイラさんがいる」と不思議に思った。

その呼びかけに2人ともを即座に反応した。

「カイ、貴方の助けが必要なのよ!理解しているでしょ!」

「そうですねカイさん。貴方がゴップ議長と繋がっていることは裏が取れております」

「早々急かせないで。貴方らがティターンズの挙げ足取りに奔走しているのは百も承知だ。それにオレがゴップを口説いて中立派閥を味方に付けたい貴方達の魂胆もね」

カイが両手を挙げてセイラ、イセリナに向かって答えると、セイラが噛みついてきた。

「早く承知とおっしゃい!」

カイはセイラの迫力にたじろいだ。明日が決戦だ。その為の工作の為彼女らは寝ずに動いている。ストレスも相当のものだとカイは思った。この状況で火に油を注いでも良いのか少しためらった。

「・・・はは・・・じゃあ結論を述べよう。君らの、エゥーゴの戦いは結果報われない。だから早く休みなさい」

「!」

「なっ!」

セイラ、イセリナ共に表情が強張った。カイはこれでもこの世界、時代の最強の交渉人(ネゴシエーター)。彼女等もそれを知らない訳ではない。カイの言葉、結論はほぼ当たる。

セイラはゆっくり立ち上がり、カイに近寄って胸ぐらを掴んだ。ミハルが後ろでムッとした。
カイはミハルを視線で控える様に促し、ミハルは大人しくした。

「セイラさん、少し話してもいいか?」

「どうぞ」

「ティターンズの焦土作戦は知っている。それ以外のティターンズの非人道的行為も大体な。だがそれでは奴らを追い込むことはできない。彼らは世界の弱みを知っているからだ」

「でも、世間が立ち上がれば!」

「あー、ダメだね。何で厭戦気分のまま8年も戦争が続いているの?みんな他人事なんだよ。誰かが解決してくれると思っている。それに・・・」

カイはセイラを見下ろして話し続けた。

「コリニーという人間は権力主義者だ。彼の弱点を的確に突かなければ彼は倒れない。お前たちは良い線まではいくだろう。しかしそれは道徳的、倫理的な部分で彼の政治的地位を覆す事はできない」

セイラはカイの胸ぐらより手を放した。カイは乱れた衣服を整えた。

「オレは世界が柔軟に動く方を選ぶ。その上ではティターンズもエゥーゴも凝り固まり過ぎなんだよ」

イセリナは「じゃあ貴方はどうすればいいのと言うの!一ジャーナリストが中立的にものだけ言って、主張がないなんて、世界について無責任じゃない!」とカイを責め立てたが、カイはその発言を容赦なく切り捨てた。

「・・・貴方がた一人が人類全体の総意ではない。貴方がたの行動一つ一つが市民すべての人生を左右されることを棚に上げて、貴方がたの使命感は世界全ての責任が持てるのか!」

イセリナはグッと声が詰まった。

「それを貴方がたが打倒できないからと言って、責任という言葉で無責任さを押し付けるんじゃない。相手を見極めて攻めなければ倒せるものも倒せん。為すべき事を為した後にこそ問題がある。エゥーゴはコリニーが悪党と決めつけている」

セイラがカイの意見に質問した。

「じゃあ、カイは問題の本質でも見えている訳?」

「貴方がたよりはな。どの勢力にしても、どのイデオロギーにせよ、皆統一覇権を求めている。それが戦争の終決であるが到達不可能な平和だ。いいか?古今東西統一国家という形態が何よりもマズいんだ」

「どういうこと?」

「人は千差万別の価値観を持つ。それを認め合え無ければ戦争になる。それを強制するなど無理難題なんだ。多様性を受け入れて人は生き続けていくこと。対話を持ってして許容していくこと。これが人類の目指す平和の形だ。それ以外道が無い。だからティターンズを失脚させても駆逐してはならない。それは恨みの連鎖にしかならない」

イセリナはカイの話に耳を傾けていた。既に感情は沈静していた。

「・・・カイさん、何故私たちの呼びかけに応えたのですか?」

「ああ、それは今述べたことだ。それが大事で、それを覚えていてほしい。さもなくばこれから途方に暮れ、行動の取りようがなくなる。最早勢力でのイザコザをしている状況でなく、互いが共存していくことを考えなければならない。それが今回の議会の目玉だ」

「何故それを私たちに教えるのですか?」

カイは肩を竦めて2人に話した。

「貴方がたの行動したことは無為ではない。ここまで忌み嫌った勢力同士が歩み寄るのだ。前持った話を予備知識としていれておかねば、柔軟性に欠け、混沌に陥るだろうよ」

セイラ、イセリナ共にティターンズとエゥーゴが許容し、共存するということが信じられなかった。
カイは2人が物凄く受け入れ難い顔をしていることを察した。

「互いに償うことが多々あるだろうよ。キレイごとで世渡りは無理難題なんだ。民主的に戦うならばモビルスーツでなく、テーブルで戦う。それをお互いに放棄している」

カイはティターンズ、エゥーゴ各々の手法は歩み寄りが無いため、現状が起きていると言っていた。
利や理を求める者、誠実さ、正直さ等、様々な価値観がある。それらを互いに駆逐しようと戦いを起こしている事がカイはナンセンスと言っていた。

「セイラさんとイセリナさんは両議員にその旨伝えて、来たる時代に向けて覚悟を持ってくださいと。一番伝えたいことはもう貴方達はゆっくり休んで明日に備えなさいということだ。聞いていたが実際会って見ても貴方がたの疲れ方は尋常じゃない。友人としての勧めだ」

セイラはどっと疲れを出して、もと居た席にストンと腰を下ろした。
イセリナも座っていた席から崩れ落ち、地面にへたりこんでいた。

「あーあ・・・カイが言うことは大体当たるのよね・・・」

セイラは空を仰いでぼやいた。イセリナも深くため息を付いていた。

「結果報われないか・・・。結構苦労したんだけどねえ・・・」

カイはうなだれている2人に近寄り慰めた。

「そうでもないさ。結果徒労に終わるけど、セイラさんもイセリナさんも各有力者を説得しては焚き付けた。その行動で彼らは<人は考える葦である>ことを取り戻すだろうよ。そうしなければ彼らは言うが為すままで無関心であった訳だからな」

カイの話を後ろで聞いていたアムロはこの世界を感心していた。

「(オレが居た世界より皆が関心を持って良い方向へと導こうと躍起になっている。身近な仲間らが世界を考えて救おうと努力している。カイの言う通りオレがイレギュラーとしてこの時代の流れを変えているならば、モビルスーツしか操れないオレの導き出した時流がこれか。凄いな)」

アムロはカイからは詳しくは話を聞いてはいないが、セイラとのやり取りを聞いていて、現状の打開についての話をしていることを理解した。アムロはカイに話し掛けた。

「なあカイ。本当にセイラさんらに休むように促すだけでここに来たのか?」

「大方な。例の物の使用で連邦そのものがなくなり、まあ再編される可能性があると考える」

アムロは議会の進行については報道で知る限りの事でしかない為、カイに予測を伺った。

「なあ、オレは報道でしか知らない。ティターンズはこの度宇宙に住まう者達を統制し、地球至上主義を法制定する。そしてエゥーゴは解散となる。そこには様々な生きるための自由が制限される、ということでだよな」

「大体な。オレら物書きも粛正対象になるだろうよ。頭ごなしに抑えつけ、全てを統括管理する。ハードウェアとしてはよりコンパクトを望む為、色々間引くことをするだろうね」

「しかし、サイドの制圧・破壊は報道の予測だろ?」

「そのための軌道上艦隊だろ?お前らがそれを牽制しているわけだ」

「まあ・・・予測だからな。対するエゥーゴは?」

「その危険と今までのティターンズの報道で知る限りの所業を彼らに訴える事。だが政治的な面では保守色の強い連邦政体が宇宙のことを容認するという答えを後押しするには根拠が足りない。そこがネックだ。だからティターンズら派閥が政権与党に居る。コリニーはだからどうしたで通すだろうよ。それを覆す非人道的なスキャンダルがいるな」

そうカイが話すとセイラが微笑を浮かべてカイにある資料を差し出した。
それをカイが受け取り読むとカイの顔が歪んだ。

「・・・コリニーはこんな所業を」

それは極東のムラサメ研究所の所業だった。ある程度の人体実験は治験の観点からコリニーが息がかかった保健省の研究所が行っている話は聞いていた。そしてムラサメ研究所もその一つだった。

「ちゃんと裏は取れているのか?」

「ええ、生き証人がいるわ。告発する準備はできているわ」

「・・・コリニーの付け入る隙はないのかと聞いている」

カイの言葉が暗くセイラに問うた。セイラは思案顔をして、カイに考える様な口調でゆっくり述べた。

「ええ・・・、資料はうちの者が入手したもので、ムラサメ研究所はエゥーゴが奪回したとき無人で、生き証人は・・・」

「・・・はあ・・・まずは証拠が盗難物で、それ以外のものは焼却され、その中であった惨劇はお前たちのせいにされかねないということか・・・」

「なっ!」

「コリニーはそれぐらいのことを平気で言うし、それぐらいの事情を看破するぐらいの公文書ねつ造だってやるさ。彼の所業を明るみに出すには・・・」

カイがそう話しを言い切る前に違うものが代わりに言い切った。

「内部告発ですね、カイさん」

カイとセイラ、他の人たちもその声のする方を向いた。するとそこにはカミーユとユウが居た。
セイラがブレックスとのやり取りで伝達役を彼に頼んでいた。ブレックスは宿泊所としてホテルは使用せず、ラー・アイムに寝泊まりしていた。全ては自身の警護の為だった。

「はい、セイラさん」

「有難うカミーユ。で、議員は?」

「実はヘンケン艦長ともその事について詰めていたのですが、やはりカイさんと同じ結論に。これは諸刃の剣だそうです。上手く使うにも使いきれるかどうか・・・」

セイラはグッと顔をしかめた。とても悔しそうな表情が見て取れる。カミーユは話を続けた。

「それでオレに一つ妙案がありまして、議員に伝えました」

カミーユの話にアムロが声を出した。

「妙案?なんだカミーユ、打開策になるのか?」

カミーユはアムロを見つけると軽く敬礼をし、話に戻った。

「ええ、こちらのユウ大尉も実はムラサメ研究所からの生き証人でして・・・」

そこに居た全員が驚いた。カイがカミーユに先の件について話掛けた。

「しかしカミーユ、生き証人は使えんぞ」

「だから内部告発ですよね。実はこの間ある小競り合いが有りまして、それで彼を救出できました。その相手は彼が洗脳受けている間情報を得ていて、そこからよると復讐を企んでいるそうで」

「復讐?」

カイが眉を片方吊り上げた。カミーユが頷いた。

「連邦への復讐です。相手はムラサメ研究所でも結構上の地位にあるものと見て良いと考えます。その相手がダカール入りします。超巨大モビルアーマーをもってして」

「なんだと!」

アムロはカミーユが本気でそんなことを言っているのが信じられなかった。

「本気かカミーユ!そんな兵器を黙認してこのダカールに侵入させるのか!」

カミーユは力強く頷いた。

「ええ、アムロ中佐。今回の議会は極めて特殊で、開催時にはこのダカールから人がいなくなります。
テロ対策の為です。民間人の危害は皆無でしょう。危険を伴うのはプレスと政治を携わる要人、そしてオレたち軍人です」

「だがそれを知っていて撃退しないわけにはいかないぞ」

アムロがそう食い下がるとカミーユがアムロを見据えて話した。

「しかしですね中佐。アレは恐らく中佐単機で落とせる代物ではありません。皆で総力持って挑まないと」

カミーユの話でアムロが「本気で挑んでお前で無理か」と言い、カミーユも素直に「はい」と答えた。
アムロは息を吐き、カミーユに話し掛けた。

「我々は予定通りダカール防衛に付いて、如何なる外敵をも排除する話の中で、その目標を撃退するとしても敵の議会への圧力は避けられないという見通しなんだな」

「そうです。ダカールに向かう最中、何度かその目標を索敵しました。ここの防衛など無きに等しいです。ここで戦力になるのは、ラー・アイム隊と中佐のデルタプラスです」

アムロの肩にカイが手をのせた。

「と、いう訳らしい。オレたちの命を頼むぞ」

「お前、軽く言ってくれるな」

アムロが露骨に嫌な顔をするとミハルとベルトーチカが笑っていた。カイはセイラ、イセリナの方に改めて向いた。

「カミーユの話が真実ならば、そいつがボロを出してくれるだろうよ」

セイラとイセリナが頷く。

「そうね。それじゃあ私たちは各議員の避難防衛を考えた方がいいのかもね」

「そうみたいね。この近くのシェルターを隈なく調べてみるわ」

「それが良いだろう」

カイはそれでも五分になるかどうかと思ったが、話がようやく終わろうとするところに敢えてそんな爆弾を投下する野暮なことはしなかった。カイはミハルと共にアムロとベルトーチカを残して、プレスセンターへと向かう為、セイラたちに挨拶をした。

「さて、オレらは記者だからそれなりのところへ消えるからな。アムロは先の話から空港に戻った方がいいのかもな」

「そうだな。デルタプラスを取りに戻って、ラー・アイムへ合流するよ。ベルトーチカは・・・」

「私は先にラー・アイムにカミーユと行ってるわ」

そう言ってセイラとイセリナを残し、皆四散していった。セイラとイセリナは席に座り直した。

「ふう・・・こう人が集まると話題が嵐の様で疲れるわ」

「同感です。・・・まだ余裕があるみたいですから私たちは一寝入りしてからまた集まりましょうか」

「そうね。ふわあ~・・・確かに知っていたけど、眠いわ・・・」

「セイラさん、途中までタクシーで一緒に行きましょう」

「ええ、互いにダカールの郊外だけど、全く議会なんて代物は手間が混んで面倒だわ」

セイラとイセリナはゆっくりと立ち上がり、傍にあるタクシーを拾ってそれぞれのホテルへ戻っていった。


 

 

34話 狂宴 3.10

 
前書き
ゆっくり書いていました。
読み返してみても展開が色々と大変です。

何とか簡易に伝えられるよう努めました。
宜しくどうぞ。


 

 
* ダカール市郊外最終防衛ライン 3.10

エゥーゴ、ティターンズは元より連邦軍である。故に政治機能として連邦首都たるダカールへ攻撃が加えられれば出動し迎撃任務に当たるのは筋であった。

エゥーゴのジムⅢ、ティターンズのバーサム共に四方から迫り来る反政府部隊を相手にしていた。
この度の議会は特別なもので、元より武力抵抗していた組織はエゥーゴのみならず存在していた。
今の政府に訴えるにデモ活動や政府へ直接的なな陳情などしていったが、ティターンズにより弾圧され市民は武器を手に取り始めた。それが今の状況であった。
エゥーゴ、カラバは代表とするティターンズの対抗組織であったが、それ程名も知られないティターンズへ対抗する小規模の組織は少なくなく存在していた。

彼らが何故目立たず行動し今日まで戦力を保持できたもの偏にエゥーゴやカラバという組織の3次、4次団体として一員であったからだった。

ティターンズは連邦組織の中で一枚岩ではないのと同様に、エゥーゴにしても下部組織までは監視管理下には置ききれていない。むしろ置く気がない。彼らの自主性を重んじては有志を募っただけであった。

その為の悲劇としてこのダカール市防衛戦であった。エゥーゴの部隊はそもそも連邦軍の一部でもある。下部組織は民間組織で軍との繋がりは元々無い。そんな彼らの行動の自主性が今回の議会開催報道による脅迫観念によりエキサイティングな結果を生んだ。様々な混成団体がこの日の為にまとめてやって来た。

ラー・アイム隊もダカールの防衛に回り、ティターンズも地球防衛司令ベン・ウッダー少将の指揮の下、ダカールへ接近する反ティターンズ組織を撃退していた。

ラー・アイムの艦長席でシナプスはうなだれていた。

「・・・何故、味方、有志を攻撃せねばならぬのか」

傍で聞いていたルセットがため息を付いてシナプスのぼやきへの回答を表情ない声で述べた。その隣でカミーユも表情険しく腕を組んで人差し指を動かしていた。

「明らかにエゥーゴの組織の欠点が露出した形です。彼らの攻撃は支持するエゥーゴへの反応、ティターンズへの現政府への実力行使の陳情です。それを軍である、政府を防衛する立場であるエゥーゴは守らないといけません」

「そんなことは百も承知だ!だがこのジレンマを解消できない我々は一体何なんだ!」

操舵手のパザロフは瞑想にふけ、オペレーターのシモンも他のスタッフも節目がちでうなだれていた。
そんな中前線のパイロットたちから悲鳴が上がる。

「艦長~。味方を攻撃しない訳にはいかないから、動力を失わせて凌いでいますが・・・」

キースが艦橋のモニターのワイプで出現し発言したのち、今度はコウがワイプで現れた。

「隣りではティターンズが容赦なく撃墜しております。彼らの戦力は旧式です。こんな戦いは無意味です」

艦橋に居たカミーユがそんな2人を叱咤した。

「コウ、キース両中尉!今できる最善を尽くすのだ。数多くの味方を降伏させて投降させる。現状では直ぐには命は取るまい。議会開催中だからだ。風向きが変われば彼らの生き残る術が見えてくる。ともかく走れ!お前らのZⅡならばそれができるはずだ」

コウとキースはカミーユの苛立ちに身の毛が弥立ち「はっ!」と了承し通信を切った。
カミーユは両手を腰に当ててはため息を付いていた。

「はあ・・・北からのダカールへの進軍はアムロ中佐がそのように市防衛ラインを敷いて、自ら単機での制圧に乗り出しているのに、こちらは上手く行きません」

カミーユがシナプスに向けて愚痴をこぼした。北の防衛ラインに実質的な指揮官として上位であるアムロが出向いて指揮系統を握っていた。カミーユらラー・アイム隊の防衛するのはダカール市上空に在って北と制空権以外の防衛は全てティターンズのベン・ウッダーが握っていた。

ウッダー曰く、「誘引される市民レベルの反乱因子を一挙駆逐できる絶好の機会だ。エゥーゴの奴らには空と一か所をくれてやれば面目が立つだろう。奴らは駆逐したくないだろうがそうともいくまい。奴らのストレスを思えば我々の溜飲も下がるってものだ」

そんな意見をティターンズ内で持ちきり、エゥーゴを嘲笑していた。シナプスらもそれを知っていて、尚更不快極まりないと全クルーが苦虫を潰した様な気持ち悪さを感じながら仕事に務めていた。


* 防衛ライン北側 

アムロがデルタプラスにて次々と旧式のモビルスーツらを戦闘不能にしていった。彼らは命がけでダカールを落とそうと躍起になっていた。中には自爆しようと試みる機体もあった。アムロはデルタプラスのバイオセンサーを活用して戦場のあらゆる感情を汲み取っては危険性の順位を選別し、戦っていた。

アムロはジムのジェネレーターの燃料パックのホースをメスの様にデルタプラスのサーベルを出力最小にして切り取って動けなくしていた。その左面よりまた新たな敵襲の信号をキャッチしていた。

「まるで湧いて出てくる源泉のようだ。そこまで不満が蓄積されている話なのだが、ここにきて最高潮か」

アムロは残りの燃料ゲージを見た。ここまで新型旧式混成の敵20機程のモビルスーツを無力化していった。かなりの省エネとデルタプラスの燃費の良さも有り、まだ4分の3もあった。

「まだやれるな。索敵反応から言ってもあと80機は優にあるな」

そのモニターを眺めていたアムロが点滅の急激な増加に目を見張った。

「なんだ・・・50・・・いや150はあるぞ。これは一体・・・」

50個の点滅の接近速度と違い100個はその倍以上で防衛ラインへ近づいてきているのがモニターで確認した。アムロは目視で地平を確認したが、その100体以上のモビルスーツは確認できなかった。

「ならば・・・」

アムロは視線を上空へと向けた。すると無数の飛行物体がこちらに接近していた。
デルタプラスの広角カメラでほとんどの機体を判別できていた。フライマンタやコアファイター、ブースター、ドップなど旧兵器混合した飛行戦隊が近づいていた。

「チィ・・・これはマズい・・・」

不殺で行動していたアムロにとっては手の内様がない攻撃方法だった。
何しろ目標が小さすぎる。しかも飛んでいる。アレらを無力化するとなると撃墜しかない。
撃ち落としたり、破損させても墜落死。

アムロは震えていた。何もできない自分に。

「・・・頼む。いいからやめてくれ!下がれ!こんなことしてもどうにもならないだろ!」

この魂の叫びをオープンチャンネルな回線で上空のゲリラ部隊に呼びかけた。
すると一機から返答があった。その回答者にアムロが愕然とした。

「アムロ中佐だったか。何度か戦場なエゥーゴ内であったな」

「ダグラス大将!」

「何故とは聞かないでくれ。彼らの想いを、こんな無謀な行為をオレが全て背負い込んで今作戦に当てた」

「・・・貴方は良識人だと思っておりました。しかしこんなのはナンセンスだ」

「そうだ無意味だ。しかし彼らの想いを誰かが束ねては世に訴えかけなければならない。その人柱になる者はオレの様な求心力がある者ではならない。世界が悲鳴を上げているのだ。ティターンズの宇宙弾圧、地上での焦土作戦。最早組織抵抗に一刻の猶予もない。瓦解寸前なのだ」

アムロはモニターワイプ越しに映るダグラスの無念さ、悲痛さを感じ取っていた。彼は確かに求心力がある。彼以外に組織抵抗を試みようとしてもダカールはビクともしないだろう。それを彼は買って出て、彼らの意思を無為にならないよう出来る限りのことを努めたのだと思った。

アムロの索敵モニターにアンノウンという表示が出た。それは自分の上空より接近してたモビルスーツだということが確認できた。それがダグラスの搭乗機だということも。

「アムロ君、君がオレの餞になってくれることを祈るよ。もし君がここでやられるようならばダカールを火の海になるだろう。それ程の戦術的作戦は構築済みだ」

デルタプラスとおよそ数10メートルほどの距離にダグラスの機体が着陸した。
見た目はジェガンだが物凄く巨体で塗装が全て黒。そして足元はホバーリングできる換装。バックパックには羽の様なスラスターが付いていた。手にはビームサーベルを改良した死神の鎌の様なものを持っていた。
アムロは機体バランスやそんな装備を見て、センスの悪さを思った。

「この機体には名前などない。ただ連邦に裁きを下す為だけに見ず知らずの彼らが取って付けただけのものだ。均衡も何もない。すぐ壊れてしまうかもしれない。それに乗ってオレはお前と戦う」

アムロはダグラスを倒さない限り上空の敵らを攻撃できない事を悟った。地上の敵ならば無力化できるということにアムロは安堵した。しかしそれは根本的な解決にはなってはいない。ダグラスはそんなエゥーゴの弱点を知って作戦を練ってきていた。

「オレたちに友軍の攻撃を躊躇わせることを知っての戦術か。貴方は・・・全く性格が悪い!」

「褒め言葉と受け取っておこう。行くぞ!」

ダグラスの機体はスラスターを全開にして一歩目を踏み出した。するとバランスを崩し転倒しようとした。そこからアムロが思いがけない軌道を描いてアムロへ迫ってきた。

「なっ!」

アムロはデルタプラスに回避行動を取らせたが、ダグラスの死神の鎌はデルタプラスの左腕を捥ぎ取っていた。ダグラスの不安定なバランスと不安定なスラスターは前進する上でまるでスクリューのような軌道でブレながら且つ尋常じゃない速度でデルタプラスへ突進していった。

アムロは上空へと逃げ飛んだ。ダグラスの機体はバランスが取れない為、着地点で転がっていた。しかし、直ぐ態勢を立て直し、直ぐ態勢を崩してアムロへ襲い掛かった。

アムロはビームライフルで応戦をしたが、意思を汲み取ろうが彼の機体バランスの悪さに照準を定めても当たらない。

「ええい!機体バランスの悪さがこうも正確さを覆すとは」

今までのアムロの戦い方は完全省エネな的確な射撃、切り込みだった。ダグラスの機体はまた大きくブレながら予測できない軌道で且つ何故かアムロに目がけて突進してきていた。ダグラスは咆哮しながら鎌をデルタプラスに目がけ切り込んでいた。

「この機体の皆の想いをお前は受けきれるかアムロ!」

アムロは物凄いプレッシャーで一瞬金縛りにあった。

「バカな!動けない・・・」

アムロはバイオセンサーの解放レベルを上げることにした。胃にむかつきがきたが、金縛りを解くことができた。アムロは後方に飛びのき、地上へ着地した。空振ったダグラスは思いっきり態勢を崩し、地表へ墜落に近い着地をした。最初の登場の着地は奇跡だったのかとアムロは思った。

「(ダグラスの機体にも何かサイコミュが施されていると見えるが・・・)」

ダグラスの機体がゆっくり立ち上がると機体が緑白く発光を始めた。

「なっ!サイコフレームの共振。これは一体・・・」

アムロはたじろいだ。その圧力に。その圧力の根底にある意思の力はこの戦場でダカールを攻める反政府組織らの想いだった。

「・・・この力は世界の悲鳴。オレがこれを打つ破らねばならないのか」

アムロは自己嫌悪に陥っていた。ここで防衛に回るため攻撃することはエゥーゴに属してしてきたことを覆すことになる。説得は最早無理難題だとも理解している。ここで止めることは殲滅するしかない。無視することはダカールが、民間人に犠牲が出る。中には投票もおぼつかない程の貧困層もここには暮らしている。その人たちをオレらは救おうと頑張っていたのではないのかと彼らに訴えたかった。

「・・・ダグラス大将。このダカールに住む民間人、貧困層を考えて見た事はないのか?」

アムロはダグラスに問いかけた。するとダグラスは厳しい顔をして回答した。

「大義の前の小事だ。皆それを理解してこのような行動を取っている」

アムロの中で何か糸が切れた。アムロは雄たけびを上げた。デルタプラスの周囲が真っ赤な闘気に包まれた。ダグラスはそれを見て額から汗が滴り落ちた。

「フッ・・・、君の感情がきっと正しいのだろうよ。それでも!」

ダグラスは機体を持ちうるサイコミュシステムを最大出力にし、そのサイコフィールドが周辺の地面を圧力で押しつぶしていた。ダグラスの機体はその地面から浮遊していた。サイコフィールドによって宙に浮くような感じで。

防衛ラインから、または上空のゲリラ部隊のパイロットたちも地上の異様さを確認できていた。
デルタプラスの周囲の赤いオーラとダグラスの機体の緑白いオーラ。その2つの光が互いに交えようとしていた。

「何なんだ。一体・・・どこのSFの話なんだ」

フライマンタのパイロットがその様子を口にしていた。その瞬間、目の前を対空砲が掠めていった。
ヒヤリとし、目前の作戦を遂行することに改めて集中した。

ダグラスはサイコフィールドにより包まれた形でアムロに目がけて突撃を掛けてきた。
今度はフィールドに守られて機体が安定していた。アムロはふと思った。何故ニュータイプでないダグラスがこれほどまでのサイコフィールドを引き出しているのか。最近では通常の者でも活用可能なサイコフレームの開発が進み、サイコフィールドの制御が微弱ながらも常人にもできるようにはなっているが、これが明らかに異常だった。

そんなことは考えてもしようがない。目前に迫る危機をアムロは対処せねばならなかった。
アムロのバイオセンサーによるサイコフィールドとダグラスのサイコフィールドがぶち当たり、辺りに衝撃波が起こった。その波は防衛ラインの味方、ゲリラ部隊の地上、上空も巻き込んだ。特に上空のフライマンタやコアファイター、ブースターらが起こり得ない気流に対処できず何十機か上空へ跳ね飛ばされ、何十機かは墜落した。地上の部隊はその波が物凄い濃度の電磁波を起こし、旧型機は機能不全、新型を使っている防衛部隊は部分的に故障等実害が出ていた。

アムロとダグラスはそれぞれのサイコフィールド場に溶け込み中和し、各々の肉弾戦闘となっていた。
デルタプラスの残った右腕をダグラスの機体の鎌を持つ左腕を掴んだ。その動きが迅速過ぎた故にダグラスは動きが遅れた。ダグラスは右腕をデルタプラスが掴んだ右腕を掴みねじ切ろうとした。アムロはその動きから右足のバーニアを全開にし、ダグラスが掴みかかった右腕を縦に蹴り上げ、腕の関節もろとも破壊した。

「なんと!」

ダグラスはアムロの動きに感嘆を漏らした。ダグラスは後方へ下がろうと試みたが、アムロの掴んだ腕がそれを阻む。ダグラスは胸部のバルカンをアムロに喰らわした為、アムロは腕を放し離れた。ダグラスは勝機と見て、鎌を手首でまるで扇風機の様に回し始めアムロへ詰め寄った。

「(あの鎌、邪魔だな。どうするか・・・)」

既にビームライフルを棄てていたアムロはビームサーベルを出していた。アムロは鎌の向きとは逆に回り込むように動いた。ダグラスはそれを追うように旋回していた。一向にアムロはダグラスへ攻撃を仕掛けなかった。ダグラスもアムロの動きを追うために旋回を努めていた。

「アムロ・・・どこから仕掛けてくるか・・・」

ダグラスがそう呟いた。ダグラスの機体のバランス問題はこのサイコフィールド場において解消されていた。アムロは動きながらもダグラスの機体を観察していた。

「全くバランスを崩さない。この場のせいか。ならば少し無茶をしてみるか」

アムロは渦の様にダグラスへ急接近してみた。ダグラスに緊張が走る。ダグラスは扇風機鎌をアムロに向けた。タイミングはドンピシャだった。向かってくればこのまま細切れになると思っていた。しかし、

「中心軸が見えた。ピンポイントで狙わせてもらう!」

アムロはまるでフェンシングの鋭い突き刺し様に扇風機鎌の中心軸へサーベルを突き立てた。ダグラスの機体の左手が粉砕した。持つ手の鎌も真左に吹っ飛んでいった。

「ぐ・・・アムロ!」

ダグラスの機体はその衝撃で後方へ退き、アムロは更に詰め寄った。

「大将!これで終いだ!」

アムロはダグラス機の残った左腕と両足を完全切断し、両羽のスラスターも切り込み行動不能にした。

「・・・負けか・・・」

ダグラスは観念するとダグラスの起こしていたサイコフィールドが途端に消え去った。それに気付いたアムロもバイオセンサーのレベルを落とした。

「ふう・・・大将。貴方は軍法会議に掛けられるだろう。覚悟してください」

「無論、そのつもりだ」

「あと、彼らに撤退するように・・・」

ダグラスは目を閉じ、少し間を置いてからアムロへ回答した。

「それはできない。彼らは自由意思の下動いている」

アムロは激高した。

「バカな!無駄死にだと何故分からない」

「それを無駄だと思うアムロ君は世界の本当の怒りを知ることはできん」

アムロは声が詰まった。ダグラスは自身の席の左肘かけのところにアクリルのボタンカバーがあった。それをゆっくり開け、アムロへ告げた。

「さて、私の役目はここまでだ。現政権から我々をクーデターやテロとしか呼ばんだろう。この攻撃の最高責任者たる私はここで散るとしよう」

アムロはダグラスが自決すると考えた。アムロはそれを止めようとは考えなかった。彼に待ち構えているのは死刑確実な軍法会議。どのみち辿るならば彼の意思を尊重した。

アムロはやることがあった。デルタプラスをウェイブライダー形態になり、通過した航空部隊をダカールへの空爆を防ぐため追撃にその場より飛び立っていった。それをモニターで見送ったダグラスはボタンを押した。すると周囲が緑白く光り輝き始めた。ダグラスは動揺した。

「な・・・なんだ。自爆ボタンだと聞いていたのだが」

ダグラスの機体は巨体だったが、胸部がパラパラとメッキが剥がれ落ちる様に砕けて、1機のモビルスーツとなった。外見は同じ黒色だが、機体の顔に角が生えていた。ダグラスは呆然としていた。するとダグラスの乗るコックピット内に液体が流れ始めた。謎の水没だった。

「な・・・なんだと、ゴブッ・・・溺れ・・・ガバ・・・」

ダグラスは謎の液体を飲み込み、気を失った。その後ダグラスの眼が見開き、その目には怒りの炎が伴っていた。

「アア・・・ユルサナイ・・・レンポウ・・・」

残敵の掃討の為、北側の防衛ライン部隊はダグラスの機体が鎮座し佇んでいるのを確認した。

「いたぞ!残党だ」

周囲に30機程がダグラスを取り囲んだ。その部隊員の女性がダグラスの機体から緑白い輝きのモヤが見えた。

「ん・・・何か見えたが、これは一体・・・」

その瞬間その部隊員は絶対的な危機を感じた。

「みんな!急いで離れなさい!」

自分の周囲や後方にオーバーリアクションで危機を知らせた。その呼びかけに周囲の隊員達らは嘲笑した。隊長のハインツ・ベア少佐が心配そうに声を掛けた。

「気が狂ったかマッケンジー中尉。この戦力で起動すらしていないモビルスーツに何を恐れる」

そう話し掛けられたクリスティーナ・マッケンジー中尉は首を振り否定をした。根拠のない否定だった。

「いいえ、アレは恐れる必然があります。アレックスの起動実験でアムロ中佐へ引き渡す前に乗ったあの感覚がそれ以来残っていて、それがあの黒いモビルスーツに致命的な危機を知らせているんです。この倍以上の戦力でも太刀打ちできない!」

「アムロ中佐のねえ・・・。あの英雄の操縦技術は確かに卓越したものだがそんな摩訶不思議な事は中々信じ難いもんだがね」

ベア少佐はサイコフィールドを相手にした戦いを経験したことがなかった。クリスも同様だった。彼らは連邦首都防衛に赴任し栄誉職を満喫していた。各地のテロやゲリラの掃討戦にも度々駆り出されたりもしたが、そこにエースと呼ばれる者との戦いは皆無だった。彼も含み、彼らの自信は転戦した土地土地での必勝経験が多少にも自己過信に繋がっていた。故に目前の事についても何か事が起きねば予測することは現実視を優先していた。ベアはモニターでクリスが恐れる地に膝を付いた黒いモビルスーツを眺めた。ベアは自身の乗機ジムⅢの右手を挙げて、部下に指示を出した。

「このモビルスーツは鹵獲する」

部下のバーサム2機は指示に従い、黒いモビルスーツの両脇に移動し腕を抱え込もうとした時、その2機のモビルスーツがその黒いモビルスーツの両腕に一瞬で胸部を貫かれた。その2機のバーサムは胸部より爆発し互いに後方へ倒れた。

「なっ!」

ベアは驚愕した。黒いモビルスーツは立ち上がり、額にある角が2つに割けて連邦でおなじみの顔を見せた。

「ガ・・・ガンダム!」

ベアはたじろぎ、クリスは改めて全隊員に避難を勧告した。

「みんな見たでしょ!一瞬であの通りよ。撤退しましょ」

人は恐怖に晒され、武器を持った状態だとそれから逃れようとある一種の狂乱に陥る場合があった。
それがこの部隊では半数がその動きを見せた。黒いモビルスーツに向けて一斉掃射を行った。

「う・・・わああ!化け物めー!」

ビームやロケットの弾幕を黒いモビルスーツへ放ったが、黒いモビルスーツはそれを介さず、謎の緑白い光を周囲の部隊にも可視化できるぐらい強く放っていた。

「何なんだ!この光は」

ベアが唸った。クリスは唾を飲み込んだ。

「(このままでは・・・)」

クリスは目を凝らした。集中力を研ぎ澄まし、異様なモビルスーツの隙を伺っていた。

「アレは獣か何かだ。人の様に制御は無いように見える。きっと何か打開できる機会があるはず」

クリスがそう呟いた。黒いモビルスーツはその光を自身の両手を腹の前に翳しそこへ集中させた。
すると、周囲の場が黒いモビルスーツへ向けて強力な引力を引き起こした。部隊のモビルスーツらは踏ん張り堪えていたができないものはそれに引き寄せられては、その光の近場で様々な物と衝突し合い四散していった。ベアももれなく踏ん張っていた。その光景に空笑いをしていた。

「ハ・・ハハハ・・・何なんだ・・・」

クリスはずっと観察していた。そのモビルスーツはその引力を起こすことに夢中だと感じた。それは周囲だが、発生させた機体自身はその場にとどまっている。動かないことに疑問を持った。

「(あの引力に寄せられないとすれば、斥力があの機体から発せられている。ならば!)」

クリスのジムⅢはその引力に向かって積極的に前に出ていった。それを見たベアはクリスへやめるよう呼びかけた。

「マッケンジー中尉!やめろ!死ぬぞ!」

クリスは周囲から引っ張られている様々な障害物を八艘飛びの様に移ってはその速度を加速させていった。

「この引力が有り得ない速度を生む。それはこの引力から逃れる一つの手段にも・・・」

クリスは黒いモビルスーツの引力の離脱限界点を見極めて、最後の障害物で黒いモビルスーツの上空へ飛びのいだ。

「なる!覚悟しなさい謎のモビルスーツ」

クリスの計算通り、飛びのいだ黒いモビルスーツの後方は引力を感じられなかった。クリスはバーニアを全開にし、黒いモビルスーツの後方を蹴り込んだ。黒いモビルスーツは前のめりになり、その瞬間緑白い光が四散し消滅した。

「やった。サイコフィールドが引力1点に集中していたから何とかなった」

黒いモビルスーツは即座に立て直し攻撃を受けたクリスの方を向いた。クリスは片手にビームサーベルを構えたはずだった。

「何で両腕が何も反応しないの!」

クリスは困惑した。その答えはその奥にいたベアが無線越しに叫んでいた。

「マッケンジー中尉!一瞬で両腕が無くなったぞ!その場から離れろ!」

目の前の黒いモビルスーツはクリスのモニター越しでクリスのジムⅢの両腕を両手で握っていた。

「ま・・・まさかあの蹴り込みの時に・・・」

両腕を持っていかれた、とクリスが判断した時、黒いモビルスーツはクリスのコックピット目がけて左手で突き込みをした。その刹那、クリスは真横に何者かにより攫われる形で飛びのいでいた。
クリスは何が起きたか分からなかった。クリスはモニターで何に何をされたかを確認した。それはジェガンだった。

「大丈夫か。ジムのパイロット」

「あ、はい大丈夫です」

「オレはエゥーゴのネエル・アーガ隊のディック・アレン大尉だ。斥候でダカール入りする前の偵察で先発していた。貴官ら守備隊が何故この地まで?」

この会話中もアレンはジェガンのサイコミュの感覚で黒いモビルスーツが攻撃を仕掛けてきたことに感知していた為、クリスを抱えて回避行動を取って後退していた。それを確認したベアはクリスの忠告を鵜呑みにして部隊の後退を命じていた。

「こいつは改めて対峙する。今は撤退に努めよ!責任はオレが取る」

流石部隊長であった。狂騒に駆られていた部隊はその命令で現存している半数は正気を取り戻し後退し始めた。それでも黒いモビルスーツの暴走は続いては残りの半数はまるで百獣の王の狩られるが如くもて遊ばれてしまった。

アレンはクリスに機体の状態を聞いた。

「乗っているパイロット・・・」

「クリスティーナ・マッケンジー中尉です」

「ああ、マッケンジー中尉」

「クリスで構いません」

「ではクリス中尉、そのジムのバーニアは生きているか」

「問題ありません。腕の具合によりますが・・・」

アレンはモニターで捥がれたジムの両腕部分を確認した。

「大丈夫そうだ。誘爆の危険性は低いだろう。抱えながらではあの黒いのに追いつかれてしまう可能性がある。あれだけ動いていて奴が種切れになれば問題ないが、可能性がないわけではないからな」

アレンは望遠で離れたところ、つまり黒いモビルスーツが荒れ狂っているところを見ていた。その付近で幾度も花火が見て取れた。

「分かりました。エンジンを起動します」

クリスは部隊と分かれて、一路ネェル・アーガマへ向かって行った。

* 連邦議事堂内 第●会議室 予算委員会 

コリニー派、それ以外の反対派閥、中立派閥と各会派の主張と論戦が大体落ち着きをもたらしていた。
この委員会の手法は昔のイギリスの国会に似た仕様だった。互いに論戦し合い、議論に議論を尽くす。

コリニー派はメディアの予想通り、内戦状態になりつつある事態の原因は連邦の施政にあることでそれを反省し、より緊縮統制を図り秩序を保つ。市民の安全と生命を守る上での政治指導を行っていく。勿論人権を守ることを念頭に。ブレックス、ガルマの派閥は市民の思想の自由は権利であると主張し、それを制御することが今の事態を招いている。連邦はより緩和政策を取り、仮に国として独立してもそれに干渉するのは制限すべき、思想の制御は一体何の目的かと質疑していた。

コリニーがそれについて回答した。

「・・・ガルマさんはジオン出身でいらっしゃる。経験はとても大切な事です。それを踏まえての答えであります。熱狂した市民はコロニー落としなど愚挙、暴挙を考える。これも連邦の失策に一つです。彼らの主張を当時真剣に議論していれば、彼らも殺人という行為踏むことはなかった。不幸に見舞われることはなかった。そう思うととても心が痛む・・・」

コリニーは目を閉じ、手を胸に当てていた。その行為にガルマは心の中で「偽善が」と罵っていた。

「故に手段として制限かけることが必要ならば已む得ない。それで市民の生活が守れるならば」

「いや、それは反対運動している市民の弾圧を続けるということを是とする答えだ。彼らも市民であり、その運動はあくまで政府批判に他ならない。それを統制するなど・・・」

「ガルマさん、現実を御覧なさい。エゥーゴ、カラバの様な反政府組織を謳った団体が現政体を批判するだけならまだしも実力行使で各地でまるで内戦状態に陥っている。地球のプラント事業もその余波を受けて従業員の生命にかかわる故政治決断で避難を余儀なくされた」

「それは!現政権の・・・」

ガルマが否定に食いつこうとしたところ、コリニーが手を挙げて制した。ブレックスはガルマの後ろで座っている。足と両腕を組んで。「役者が違う」とガルマとコリニーを比較していた。

「・・・我々の自衛部隊が各地の混乱を収拾するため出動していることは万人が知る所だ。しかしそれは<収拾>の為だ。戦争する為ではない。その中にはテロ行為に走るものもいる。そんなゲリラ部隊が各地ではびこっている。どんな批判も甘んじて受けよう。それが政治家というものだ。だがテロは許してはならない。それをガルマさんは容認なさると・・・」

ガルマは目の前の机に手を思いっきり叩き声を荒げた。

「バカな!テロは許すわけにはいかない。そこまで増長させた我々の原因を猛省するべきではないか!この時期にきてそんな宗教的な争いは皆無だ。現状のこの事態は彼らとの対話がしっかりできない与党の貴方達が・・・」

「バカという発言は良くないが、その通りだ。正に・・・。故に猛省し、彼らと対話とこちらとてしたいのだが・・・」

コリニーは自身の秘書に目配せて指示をだした。秘書は「こちらのモニターをご覧ください」と議員らに天井より出現した大型モニター紹介し、各自注目していた。そのモニターにはダカール郊外の戦闘映像が映し出されていた。

「とまあ、こんな具合だ。我々の責務でもあるが、彼らは我々の対話に対して銃火器をもって挑んできている。余地が果たしてあるのだろうか?」

コリニーは困った顔をしていた。各議員も動揺していた。ダカールが万が一火の海になったら、自分の生命の安全は保障されるのか。ガルマは口を噛みしめていた。ブレックスは沈黙し座していた。

ガルマの傍にイセリナが詰め寄っていた。耳打ちで話し掛けていた。

「(ガルマ、例の人体実験の件、入れますか?)」

「(イセリナ、唐突過ぎる。あれは証拠が十分とは言えない。差し込みどころを注意せねば・・・)」

その様子をコリニーが眺めては困惑した顔で議員らに話し掛けていた。

「それが、ここだけなら良いのですが・・・」

コリニーはモニターを別の映像に切り替えた。それは各サイドの望遠でみる宇宙だった。各サイド内で大小様々な光が見て取れた。

「どうやらこの攻撃に呼応した反政府抵抗団体が独自に暴発してはコロニーに被害が及んでいるようです」

ガルマは絶句した。何故そんなことが各サイドで起きているのか皆目見当が付かなかった。ブレックスはそれすらコリニーの仕掛けたものだと険しい顔をして悟った。

「(これは・・・勝てないかもしれん。コリニーはわざと自作自演でエゥーゴの自主性の盲点を突いた。3次、4次団体など我々は元々管理監督などしない。そこに草を忍ばせてはこの時の為に仕込んでいた)」

ガルマは何とか反論を試みた。

「それでも!何度も繰り返すが現状を憂い組織だった市民団体だ。彼らは貴方達の統制を恐れての行為だということを知ってもらいたい」

「参考意見として頂いておきましょう。さて最後の提案となりますが・・・」

コリ二ーは議長であるゴップにこの事案に関する解決案を文書で提出した。ゴップは受け取りそれを読んだ。コリニーは会議室の全ての議員らに事案を配ってはサラッと述べた。

「要点を話すとエゥーゴ、カラバと武装解除と組織の解散を提案するということだ。それでティターンズも解散させよう。これで痛み分けだ。連邦は再び世界の警察としてあるべき姿に戻る訳だ」

全然戻っていないとガルマは思った。この与党が牛耳る限りティターンズの解散など名ばかりで、連邦全体がティターンズのような組織になることに誰もが気付いていた。これでは地球と宇宙との関係の平等は図れず、地球優位に事が進む。ガルマは宇宙に住まうものも含めた人類の進化と生き方、平等を常に訴えていた。

コリニーの意見は至極真っ当な平和的意見だった。だが皆知っている。でも反論できない。ここで反論することは内戦の様相を是認したいという意思の表れ。

コリニーはニッコリと微笑んだ。

「皆さん、同意見のご様子で。我々は過ちを犯し過ぎて今日のような事態を招いてしまった。重ねて申し上げるが、是正すべきことはしなければならない」

すると一人の壮年に差し掛かろうとする議員が手を挙げた。ゴップはそのものの発言を認めた。

「バウアー君。どうぞ」

「有難うございます議長」

バウアーは着席していた所より立ち上がり一つ咳ばらいをしてもうひとつ現実的な話をし始めた。

「コリニー議員。確かに基本は皆血を流すことは嫌うのはスタンスとしてある。だが実は株価含め、今日の動乱にしてもかなりの高水位であることを皆承知しているはずだ」

半数の議員たちは頷いていた。それは中立、ティターンズ、エゥーゴ全ての派閥の議員に見て取れた。戦争特需についてだった。それを見てガルマは「大体が俗物か・・・」と内心ぼやいた。

「政治にはお金が掛かる。私は敢えてきれいごとは申しません。私自身も選挙区に様々な恩恵をもたらしている。先立つものは大事だからだ。飢えては幸せなど謳うに無茶がある。現にプラント事業の撤収が目の前の問題になっている」

コリニーは頷いていた。バウアーはエゥーゴ派閥だがコリニーは彼を含めた経済活動を重視するものの存在は軽視はしていない。

「コリニー議員の申し出が全て受け入れられることは理想だが、難しい場合は少なくともプラント事業の即時再開に目を向けてもらいたい。法律的にそこを非武装地帯とする。勿論守らぬものは制裁を与えることを明記する。これを皆に決議を求めたい」

コリニーは表情を変えないが、バウアーの意見、法制定の要求に舌打ちをしていた。これもコリニーは計算されていたことなので、それよりもより性急さを求めたものにする段取りをコロニーの反政府活動団体の仕掛け以外にも施していた。しかしそれは余りに悪辣だった。

コリニーは秘書を通じて地球軌道艦隊へ連絡を取るよう促した。

「(ジャミトフに例のを・・・)」

「(了解致しました)」

* 地球軌道艦隊 旗艦ドゴス・ギア艦橋

ジャミトフはバスクよりコリニーからの伝達を受けた。

「・・・了解した。左翼艦隊司令のジャマイカンにつなげ」

バスクはオペレーターに命じ数刻でメインモニターにジャマイカンが映像に映った。
ジャマイカンは最敬礼をし上官へ指示を仰いだ。

「閣下、ご指示でしょうか?」

「そうだ。お前の艦隊は連邦の寄せ集めだ。お前が先陣を切ってエゥーゴに当たれ。奴らは正規軍とは戦い難いだろう」

ジャミトフの言わんとすることはジャマイカンにも理解した。

「彼らはティターンズと戦いたいでしょうからな」

バスクがジャマイカンの意見に叱責した。

「余計な事は口にするでない」

「は・・はっ!」

ジャマイカンは血相を変えて、ジャミトフは連絡回線を切った。
ジャマイカンは不興を買ってしまったかと懸念だけ駆られ、これを払拭するには大勝するしかないと決意を固めた。

ジャミトフは艦長席に座して、ジャマイカン艦隊が一路エゥーゴの方へ向けて動く様子が艦内から見て取れた。バスクはそれを見て笑みを浮かべていた。

「ジャマイカンには色々世話になりましたな」

その科白にジャミトフはバスクを叱責した。

「バスクよ・・・、ジャマイカンはこの戦の終局に向けて先陣を切るのだ。本来はこの栄誉、お前が担ってもおかしくはない」

バスクもジャマイカンと同じく血相を変えて謝罪した。

「た、大変ご無礼を・・・」

「ならばジャマイカンの雄姿を見届けようか・・・」

ジャミトフとバスクはジャマイカンが自身の艦隊の前に出ていくところを見ていた。

* エゥーゴ・ネオジオン混成艦隊 ラー・カイラム艦橋

艦橋は近づいてくるジャマイカン艦隊を捕捉していた。最も真正面であるため且つアレだけの艦隊が動くので分からない方が理解できない。

既に第一種戦闘態勢を整え、艦橋クルーは戦闘ブリッジへ移行していた。

「艦砲一斉射の後、モビルスーツ隊出るぞ。第1中隊は準備できてるか?」

ブライトが声を高く上げると、トーレスが第1中隊長へつないだ。
ワイプモニターにケーラ・スゥ中尉が映った。

「このリ・ガズィで中佐が来るまで穴埋めしますよ。第2中隊のスレッガー少佐まで出番は無いように綺麗に掃除してあげますから」

するともうひとつのワイプにスレッガーが映った。

「おいおい、そんな自信どこから生まれてくるんだ。お前さんは少し前まで宇宙で迷子で泣いていたじゃないか」

スレッガーが嘲笑うとケーラが顔を真っ赤にして声を挙げた。

「ちょ・・ちょっと少佐!そんな昔話やめてください!」

さらにワイプが増える。今度はアストナージだった。

「へえ~、ケーラ。そんなことがあったんだ。少佐後で教えてくださいな」

「ば、バカやろー。アストナージ!てめえ許さねえぞ!」

そんな痴話喧嘩を聞いていた戦闘ブリッジのブライトはプルプルと震えていた。

「貴様らー!後で再教育してやるから覚悟しておけ!」

その怒号に3人とも即退散という形で同時に通信を切った。
そのやり取りに副官のメランがため息を付いていた。

「准将・・・お察し致します」

「言うなメラン・・・」

その時前方から恐ろしい多くの光が発せられた。その光はブライトらは良く知っていた光。忌々しいものだった。

「ここに来て・・・なんだとー!」

ブライトは絶叫していた。

* 地球 ダカール 連邦議事堂内 予算委員会

コリニーはバウアーの意見に賛同する声をあげた。

「確かに・・・、与党としても経済活動は注視せねばならない。このような内戦状態が軍事産業にプラスに働いていることは否めない。そしてプラント事業の撤退も安全を考えてとしてだが、それによる数々の産業も休業になっているものもかなりの数がある。大事なのは市民の命だ。人あってこその産業だということを私は明言しておきたい」

バウアーは眉をピクリとさせた。

「平和思想、立派ですな。ならば我々の応援してもらっている市民をいち早く救う手筈を政府主導で取るべきではないか?派閥でのイザコザで市民の明日の食事を困らせては本末転倒というものだ」

「ほう、バウアーさんは私の手法に反対すると」

「途中の過程でな。プラント事業は首尾よく守るだけで良かった。それはできたはず。なのに撤収したということは解せない」

バウアーの言論にプラント事業撤収に反対している全派閥の中の議員たちが賛同の声を挙げた。
ガルマは感心していた。このような攻め方があるとはと。ブレックスもバウアーの様に政治の中で生きてきた損得勘定で動く者は現状の派閥争いで思想の相違とは無縁な為、彼らが難点だと思っている。

コリニーは秘書のもたらされて情報に険しい表情をしていた。ガルマは何か起きたのかとその表情を見て、ブレックスの顔も見た。ブレックスはセイラと打ち合わせをしていた。それを眺めていると辺りが騒然としてきた。遅ればせながらイセリナがガルマの下へ寄ってきた。

「(ガルマ、地球軌道艦隊が三分の一消滅した。核爆発でよ)」

「(なに!誰が・・・)」

「(・・・発表によると、エゥーゴの傘下の部隊がそこに紛れていてテロを起こしたと)」

「(・・・証拠は?)」

「(ないけど、現状がダカールが攻められていて、宇宙でエゥーゴ、ネオジオンの混成艦隊と連邦、ティターンズの混成艦隊が交戦可能距離で睨み合っている。これが議員たちにとってどう働くか・・・)」

ガルマはもたらされた情報に唸っていた。ブレックスは沈黙。バウアーは愕然と、コリニーは汗を拭いていた。

その中でゴップは平然と周囲を見回していた。

「(おやおや、皆動揺しているのう・・・。コリニーは役者だ。彼自身の起こした行為を有り得ないと演技している)」

コリニーは困り果てた顔でバウアーに話し掛けた。

「・・・はあ、バウアーさん。どうやら相手は核武装もしているみたいだ。これを危機と見ないでいかがとします?事は重大です。ここにいるか知りませんが核を提供したスポンサーがどこかにいて、それと繋がっている者がこの中に居るかもしれません」

コリニーの話にほとんどの議員が顔を見合わせた。ゴップがコリニーの話に乗る恰好で入って来た。

「コリニー議員の提案の採択に入りたいと思う。ここまで来ると事は急を要すだろう」

ゴップの話にコリニーは力強く頷いた。ゴップはそこでコリニーに別の話を持ち掛けた。

「それに加えて、連邦憲章・・・つまり憲法についても少々議論してから採決に臨みたい」

コリニーはゴップの意見を謎に思った。何故今更連邦憲章なのかと。

「議長・・・余りに唐突過ぎて」

「実はな政府調査委による調べで現行の法律の礎となる憲章がレプリカだということは皆の知る所である」

コリニーは頷いた。

「ええ、ラプラス事件で消失したからです」

「実は消失していなかったとしたら・・・」

すると一人の議員が立ち上がってゴップに発言した。ローナン・マーセナス議員だった。

「聞き捨てなりませんな議長!どういうことですか!」

ゴップは手を挙げてローナンを制した。

「慌てなさんなローナン君」

ローナンは我に返り、静かに席に着いた。ゴップは続けた。

「証拠は・・・これから見せる石碑だ」

するとゴップは合図をし、多くの自前の使用人に大きなカートに乗せた石碑を持ってこさせた。コリニーは一体どのようにしてこんな大それたものを持ち込めたのか疑問に思った。まずコリニーが気付かない訳ない。そう考えているなとゴップが思い、その疑問に察したかのように回答した。

「私の彫像を注文したんだ。そしたら調べで私の彫像の下に何かが隠されていると知った。砕いてみたらコレだ。とても有名な代物だから専門家に調べてもらった。そしたらおよそ90年前くらいの石だと言う話だ」

これもまた手の込んだ作り話だとコリニーは思った。しかし重要なのはそこではないこれが本物だということだ。ゴップの調べはまず間違えは無い。

ローナンは席でワナワナ震えていた。このままでは連邦の威信が無くなってしまう。その恐怖に。

「因みに君の先祖のリカルド・マーセナスの指紋も出ている」

つまり真物だということだとローナンは悟った。ローナンは恐る恐る遠目で条文を上から下を見た。するとやはりあるはずがない最後の条文があった。ゴップは話続けた。

「さて、最後の条文は・・・皆が目にしたことないものだ。えーと・・・」

第15条
 一,地球圏外の生物学的な緊急事態に備え,地球連邦は研究と準備を拡充するものとする。
 二,将来,宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合,その者たちを優先的に政府運営に参画させることとする。

予算委員会内は沈黙した。ゴップはさらに話続ける。

「第7条の 地球連邦は,大きな期待と希望を込めて,人類の未来のため,以下の項目を準備することとする から言えば、この第15条は宇宙で活動している者達を認めるようにと連邦の在り方としてコリニー君が提案した連邦の統制は反するものだと私は思う」

コリニーは沈黙していた。余り動揺がない様子。ゴップはそれを見てコリニーもこの真物のことを知っていたと思った。どのようなルートかは知らない。まあ与太話や都市伝説の類かもしれない。取りあえずカマを掛けてみた。

「コリニー君は知っていたようで」

「・・・ご冗談を・・・」

コリニーは一つ間を置いて否定したが、その瞬間ガルマはハッと連鎖的にあることが1つに繋がった。
そして推論を述べようと手を挙げた。

「議長!発言よろしいでしょうか?」

「どうぞガルマ君」

「有難うございます。コリニー議員、政府主導である実験が行われていました。それは製薬関連ですが、人の健康についてあらゆる可能性を追い求めていくこと。それを保健省が行っていたことは事実です」

コリニーは頷いた。

「ええ、健康管理監督するのも市民を守る上での一環ですから」

「それは宇宙に住まうものも含めますよね」

「当然です。既に人類は宇宙まで住まいを広げているからね」

「有難うございます。つまり冗談ではなかったということです」

ガルマの決めつけた答えにコリニーは席について一息ついた。

「聞きましょう」

「はい、人類は新たな環境に適応するに研究しては感受性の強い進化した人類が出てきました。ニュータイプと呼ばれるものたちです」

「そんなものを信じるに無理があろう。人は人だ。スーパーマンにはなれん」

「しかしサイコフレームというものが軍事産業で出回っております。科学的にも解析が継続して行われております。アレには人の感応波を汲み取る作用があると」

「・・・」

「貴方は知っていた。有用性も。各地にあった研究所はそれを研究する施設もあった」

「・・・」

「その目的は何だと思います?」

「仮定の話か。証拠にならんな。仮に敢えて言うならば、ニュータイプが存在するとすればそれを活用している者達に対抗するためかな」

「・・・貴方は全てについて保険を掛ける癖がある。これも保険だったとは私たちは大いなる思い違いだった」

「大いなる思い違い?」

コリニーの疑問にガルマは頷いた。

「単に戦力の為だと思っていた。エゥーゴはニュータイプと呼ばれるようなエースパイロットが多く参加している。それに対抗するために」

「・・・」

「だが、議長の予想通り貴方が知っていたとすれば地球至上を望む貴方はそんなニュータイプをなるべく駆逐したい。しかし人口は増える。その中にニュータイプが全く生まれないと保証はない。ならば戦争で減らしては且つ可能な限り実験にてそんな危険分子を管理下におけるような方法を探す。研究所はニュータイプを管理統制下に置けるかどうかの実験場だった。なぜそうするか?それはこの条文を知っていたという仮定がなければ成り立たない。コリニー議員はニュータイプ思想が地球至上思想を脅かす敵として見ている。そして恐れている」

ローナン議員は拳をぎゅっと握りしめていた。コリニーの考えはマーセナス家の呪いに類似していたからだった。

「・・・ガルマさん、それで終わりかな?」

「ニュータイプを支配するために非人道的行為を行われていた事実を分かるだけでもこちらの資料によって説明致します。イセリナ例のものを・・・」

ここでガルマは極東での実験地ムラサメ研究所の実態と被検体のシロー・アマダについて全議員に配った。皆顔を顰めた。

「これは酷い・・・」

各議員内で声が上がる。コリニーは目を通すが秘書にそれを渡した。

「で、終わりかね?」

ガルマは強気に声を荒げた。

「これは貴方がたの研究の成果だ!証拠は設置された登記場所!こんな施設一朝一夕でできる代物でない。きちんと計画されてできたものだ!警備会社やティターンズが保護施設として認定もされている。貴方がたの責任は免れない!」

ブレックスは内心で「詰めが甘い」と思った。コリニーは困惑した顔で答えた。

「ふーむ。人聞き悪いな。エゥーゴの急進派がそんな惨業をしたとも考えられんか?」

「なっ!エゥーゴが踏み入れたのはその時が初めてだ!こんなに廃棄場の死体をなんとする!」

「エゥーゴが用意したのではないのかな?ティターンズが用意した、研究所のものとも何の関係する証拠がない。ただの誹謗中傷にしか思えない」

「しらを切るつもりか!状況証拠で研究所放棄まであの死体らをみる機会がない!死亡推定時刻も研究所がまだ機能していた時の話だ!」

「そんな死体らを政府が何故不利になるように、貶める形で残しておく。私ならば隠すね。まず非人道的なことをして私に何のメリットがある?保険を掛けるならばあらゆるデメリットを排除しますね」

ガルマがグッと声が詰まった。ダメだ勝てないと思った。ブレックスはセイラに耳である知らせを聞いて立ち上がりガルマの肩に手をのせた。

「ガルマ君、これまでだ。採決は欠席しよう」

「ブレックス議員!ここまできて・・・」

「いいんだ。頑張った。あとは本会議にでの決議に臨もう」

そう言ってガルマは目いっぱいの我慢に努め深呼吸をして、ゴップに告げた。

「はぁー・・・議長、発言終わります」

そう言ってガルマとブレックスは部屋を出ていった。コリニーは着席しゆっくりと目を閉じた。
エゥーゴ派閥を粉砕して仕事を終えたがゴップのニュータイプ思想肯定な憲章発言のタイミングについて考えていた。

「(終わったか。しかしゴップの憲章発言の始末はどうするべきか・・・)」

コリニーそう思いふけっていると、エゥーゴ派閥の議員はぞろぞろと採決欠席のため部屋を後にしていった。ゴップは退出する議員たちを眺めている最中ハッとし、若干冷や汗をかいていた。

「(まさか・・・あやつが・・・)」

* 議事堂内 通路

ブレックスは早歩きだった。ガルマがそれを追うように掛けていった。

「ブレックスさん、何故部屋を出たのですか?」

早歩きながらガルマを見てはまた前を向いた。

「何故ってここが戦場になるからだ」

ガルマは驚いた。ブレックスは話を続けた。

「セイラ、イセリナ両名がカミーユと連絡を取り合っていた。カミーユが捕捉していた大型機がダカールを襲来する。もうすぐコリニーは自ら撒いた種に悩まされる。因果応報ってことだ」

ガルマは複雑な顔をした。イセリナも知っている?しかし・・・

「私が知らないとはどういうことですか?」

「君は実直過ぎる。搦め手というものを君は快く思わんだろうからな」

ガルマは話の流れからカミーユが敢えて危険をダカールに持ち込んだことについて言及した。

「つまりカミーユは知って見逃していたんですか!」

「厳密にはカミーユ単機で何とかできる代物でなかったと言う方が正確だ」

「何故コリニーが・・・」

「因果応報か?その大型機こそがムラサメ研究所からの代物だからだ。ラー・アイムに搭乗しているユウ・カジマから調べが付いている」

そう話しをしていると既に議事堂の外に出ていた。既にセイラ、イセリナ両名がハイヤーを手配していた。

「議員、こちらへ・・・」

2人は車に乗り込みセイラたちも同乗し議事堂から離れていった。

* ダカール市郊外 北側上空

アムロのデルタプラスは通過していった反政府組織の航空機部隊を追撃していた。

「みんな、やめてくれ!お前たちがやろうとしていることはただの市民の虐殺だぞ!」

アムロの叫びと苦悩は即座に終わる。ダカールの堅固な防空機能により、一機たりとも街に到達するような航空機はいなかった。

「アムロ中佐。ゲリラ上空部隊は全て一掃されました。ご安心を」

対地防衛部隊より無線で連絡が入った。アムロは無力感に晒されていた。自分の無力さを知っていたがその仕打ちとしては酷な話だった。

「・・・ばかやろうたちが・・・」

その悔やみも束の間、今度は一瞬にて対地防衛システムが火の海と化した。アムロは目の前で原因を見た。一筋の閃光だった。

アムロは索敵モニターを見た。すると東の方から大型機の反応が見て取れた。
カミーユが言っていた機体がいよいよ到着したのかと思うと戦慄した。

「アレを落とさなければ・・・」

ダカールが火の海と化す。アムロは覚悟を決めてその大型機にデルタプラスを向かわせた。


 

 

35話 サイコミュニケーター 3.10

 
前書き
ちょっとずつ補正して参ります。 

 
* フォン・ブラウン アナハイム工場研究棟 カフェテリア

テム・レイとオクトバーは束の間のコーヒーブレイクをしていた。どちらも多忙だった。両者ともに席に腰かけては宙を仰いでいた。各部門で頻りにサイコミュについての改良について矢の催促で悩まされていた。

2人とも表情が暗い。寝不足のせいでもあるが、手元のナガノ博士からの資料がとても気分良い物でなかったことも原因の1つであった。

テムがコーヒーに口を付けてはぼやく。

「・・・あー。研究の継続をするにしてもこれは人が触れてはならない禁忌の領域に入りつつあるな・・・」

オクトバーもコーヒーを飲んではそれに答えた。

「全くです。ナガノ博士は強制的に企業より人体実験を行わされて発狂寸前だと」

テムは嫌悪な表情をして、再び資料に目を落とす。

「何もティターンズの真似をする必要は・・・」

「レイ博士!それはあくまで噂で・・・」

テムが手を挙げてオクトバーを制す。

「分かっとる。しかしながらこの資料を見ると奴らも満更噂以上の事をやっているように思える」

「・・・人が人を管制制御すると?」

オクトバーの問いにテムは頷く。

「ああ。こいつを科学で可能にされては使い道によっては人が滅ぶぞ」

「博士、どういうことですか?」

テムは立ち上がり、コーヒーを飲み切ってゴミ箱へ投げ入れた。そして座っているオクトバーを見下ろす。

「サイコミュが実戦配備されて、この地球圏どこでもありふれたインターフェイスとなった。通信電波の中継基地が既に地球圏全体に張り巡らされたと言ってよいかもしれん。それが危機であり、我らに矢継ぎ早の催促の終末点だ」

オクトバーがゴクリと唾を飲み込む。ナガノ博士の考える脅威をそのまま飲み込むと既に手遅れではあるとオクトバーは思った。追ってテムは言い付け足した。

「我ら科学を信じるものは事の起因が有って現状が存在する。仕掛け人がいるなこれは・・・」

オクトバーはテムの言に頭から汗が一筋こぼれた。我ら会社員は企業に従う。科学者は興味を満たせればどんな領域でも旅をする冒険者。本来はこんなことを考える必要などないはずなのだが。判断つくことなく複雑な想いだった。ただ経験からこれは危険だということだけは感じていた。

* ダカール上空 サイコアプサラス

サイコアプサラスの索敵モニター、そしてカメラ映像に近付くデルタプラスの映像が映っていた。
識別が製造されているほとんどのモビルスーツのデータが備わっていた。

エルランはそれを見て首を傾げた。

「ふむ。何故特務特機が・・・」

表記が特務機、その中でも特機。エルランは異様さを感じた。ダカールには何かが集結しつつあると感じていた。例えば、世界の動向を決める連邦議会。今回は特別なもので報道でもエルランは知っていた。大筋は合っているだろう。

自分を助けたコリニーが天下を獲り、スペースノイドを廃絶させて地球至上主義での統治下を目指していく。エルランは出世レースより外れ、ジオンに靡き失脚した。

心は連邦への憤怒しかなかった。だからエルランはシロッコの取引に応じた。シロッコはコリニーから適任役を探すように命じられていた。コリニーがエルランに欲することは究極の汚れ仕事だった。肥溜めに浸かりそこで一生を暮らすが如く、エルランの精神をより一層蝕んだ。

コリニーはこの戦争下で優れた人類が生まれていることに危惧していた。彼はとても用心深い。新発明が時代をいとも簡単に変えてしまうことは歴史上よくあることだった。コリニーはそれを信じていた。ひとが革新していくことは自分の分野、政治に関わる事。連邦はジオンダイクンを恐れた。消えない火はくすぶって現在のような事態が起きている。

「ならばそれすら支配できるような仕掛けをこの私に課した。それは忌まわしい人体実験・・・」

とエルランはこぼしたが、前部座席に座る女性は無反応だった。
エルランはその女性に命じた。

「たかが特務機だろうが単機。何ができるか。さあサハリン家の姫よ、己の役目を果たせ。目標は見えているだろう」

するとサイコアプサラスの中央の巨大な口径にエネルギーが集約し始めた。
アムロもそれを確認できていた。

「あれは北の防衛部隊を壊滅させた光。させるか!」

ウェイブライダー形態のデルタプラスにバイオセンサーの力を乗せて超巨体なサイコアプサラスへ突撃をかけていった。その場に白いクシャトリアが4体塞がった。

「やらせません!」

フィフスを始めとするムラサメ研究所のAIがアムロの往く手を阻むべくファンネルでのオールレンジ攻撃を仕掛けた。1機24個が4機分の火力飛行するアムロへ浴びせた。アムロは被害予想を感覚で読み取り、覆うサイコフィールドでは完全に防ぎきれないことを悟った。

「ちぃ。邪魔をするんじゃない!」

アムロは1機の立ち塞がるクシャトリアの目の前で飛行形態を解き、刹那ビームサーベルでクシャトリアを頭上より一刀両断にした。その動きにフィフスは目を見張った。

「早い!」

アムロは両断したクシャトリアを足場に一番近いクシャトリアへバーニアジャンプをした。
そのクシャトリアも2アクションで右肩と両足をサーベルで薙ぎ払われた。

フィフスはAIではこのモビルスーツは相手にならないと感じ、エルランへ帰投させるように願い出た。
エルランもその戦闘の様子は確認していた。

「よろしい。フィスフお前に任す」

フィフスは全てのAI機の支配をサイコアプサラスへ返した。返したといっても元々自身の周囲で自立した動きを見せるAIだった為、その受信塔を自分から離れた形であった。元々コンビネーションがあのAI機と生まれる訳ではないとフィフスも理解していた。

「ゼロは別方面で戦っている限り援護は望めないか」

フィフスは腹を括り、アムロへ全火力を持って攻撃を掛けた。ファンネルによるオールレンジ攻撃からその中心を貫くようにビームの応酬。その間にアムロに向けて一直線フルスロットルで詰め寄る。

「ハハ・・・最高のタイミングだ。仕留めたぞ特務機!」

フィフスが攻撃を掛けた目的物には攻撃が全て当たり爆発を見せた。しかしその瞬間手ごたえの無さをフィフスは感じた。

「バカな・・・残留思念だと。ここまで欺く程の能力・・・」

その直後、フィスフの背後に脅威を感じ取った。

「後ろ!」

そうフィフスが振り返った時、クシャトリアの首元をデルタプラスのビームサーベルが貫かれていた。
クシャトリアは首元部分が爆発し、フィフスのコックピット内にも尋常でない衝撃が見舞われた。

「キャア!」

フィフスはその叫びを最後に地表に向けて墜落していった。

デルタプラスは片腕が無く、ビーム兵器も持ち合わせていなかった。しかし攪乱用のダミーを持ち合わせていた。ただそれを放出して次なる行動を起こしていた。戦場は戦士が熱狂する場所。集中し過ぎて過ちを冒すことはアムロは常々経験していた。だから一つ一つの基本的な行動を大切に詰将棋の様に攻撃手順をこなしていく。その中での意思一つ一つが相手へ伝えることも大事にした。

ダミー放出するには目くらまし以上に自分が撃破されることを勘違いさせられたら最高だ。アムロは絶対にバレないマジシャンの様な技術を目指していた。理由は今の様な武装、サーベルしかない状況下での行動を想定してのこと。

アムロは呆気なく感じていた。撃墜した相手はそこそこ技量を持ち合わせていた。普通に相手にしたら手強いだろう。しかし・・・

「実戦経験の無さが助かったな」

アムロはそう呟き、サイコアプサラスへ向けて再び飛行形態になって向かって行った。
これがシャア、ランバ・ラル級の操縦者ならばこうはいかない。それがアムロにとって幸運だった。

サイコアプサラスからエルランはフィフス撃墜を見ていた。そして舌打ちをした。

「役立たずめ。時間稼ぎ以外はな」

サイコアプサラスの主砲充填が完了していた。エルランは前部座席のアイナに指示した。

「さあ姫よ。裁きの鉄槌を・・・」

アイナはその指示を無表情こなした。行為は単純だが結果が無惨だった。
アムロはサイコアプサラスを肉眼で捉えながらもその主砲の射撃も捉えていた。

「間に合わなかった・・・」

アムロは歯をきりきりした。目前を物凄いエネルギーの放出を見た。それは真っすぐダカールへとむかった。


* 連邦議事堂 予算委員会

コリニーは冷や汗をかいていた。エゥーゴ派閥の大体退出し、中立派閥、ティターンズ派閥が居残り、コリニーの独壇場になる予定だった。

ところがだ。ゴップの持ちだした連邦憲章から事態が変化した。ゴップの話と経済界と繋がり有る議員たちによる損得勘定がコリニーの持ちだした終戦へ向けての思想とその後の展開を座礁させた。コリニーは最初の内は忌々しい俗物らがと考えていたが、民主主義思想として以上以下でもない多数決の理論がコリニーを震えがらせた。

「人はシンプルに生きるのが一番なんだよ。コリニー君」

ゴップはそうコリニーへ語り掛けた。コリニーは慌てて反論した。

「それでは・・・戦争が終わらない。強権な統一連邦体制の構築を・・・」

「人が望んでいるのは今日の豊かさとほんの少し先の幸せだ。10年後までは良いだろうが、100年後までは予測など無為だよ。君らの活動は結果今日の事態を招いた。人は欲してあらゆる可能性を追い求めてこそ明日の糧となる。それを抑制しようとしたことがここにいる議員らやその応援者たちを無視したと同義なんだよ」

「あ・・う・・・」

コリニーは言葉にならなかった。コリニーは議員らの欲を利用した。そして彼らを黙らせて自分の思惑へと動かしていく。ゴップは彼らの自主性を重んじ、個人単位で考えることを促した。結果抑圧されていたフラストレーションが解き放たれて、反コリニーへと変貌を遂げた。

「極めつけはこの連邦憲章だ。将来に向けての期待。それはきっと考え方の多様化というものだ。旧時代沢山の国が存在し、それを絶妙な均衡で平和を維持していた。その時代はエキサイティングで且つフレキシブルだ。物事をシンプルに片付かない状況下が人を成長させていったのだ。」

コリニーは何とか言葉を選び、発言した。

「・・・貴方は戦争状態を容認すると?」

ゴップは首を横に振った。

「そうではないコリニー君。競争心理を抑制する君の行為が戦争状態を生んだのだよ。そこにいるマーセナス君も然りだ」

ローナンはずっと着席したまま下を向き青ざめていた。彼は親からの言い伝えで連邦が人類を管理していくことが使命と伝えられていた。その為の歴史的な連邦憲章の偽装に歴代延々と努めてきていた。それを意味することは人類への虚偽だった。まずバレることはない。何故なら証拠がないからだ。しかしゴップは何をどこまで知っているか、そのことで内心が落ち着かなかった。

バウアーもゴップの意見に賛同し、利権を求める各会派の議員たちも賛同していた。コリニーが孤立した。

「(ガルマ君も発言は立派だったが、政治とは良心で動かすものではない。最もコリニー君も彼と変わらず根底が青かったな)」

ゴップはそう解釈した。これからの宇宙・地球は様々な思想が主張し合い盛況することを彼は期待した。それが今までの人類進化の道理だった訳だから。

ゴップが連邦憲章に目を向けた時、予算委員会の会議室の壁が砕け弾けた。その瓦礫が会議室内全て圧迫し室内に居た議員らは全て圧死・蒸発した。一瞬だった。

原因は議事堂に向けた何者かの砲撃だった。それは防衛していた連邦の部隊全てが目撃できていた。
司令管制室にいたベン・ウッダーは呆然としていた。周りのオペレーター、高級士官も同様だった。

「なん・・・だと・・・」

ウッダーが何とか発した声がこの一言だった。司令管制はダカールの状況を全て捉えていた。
あの空に浮く謎の巨大な物体がまだ視認もできない遠距離からピンポイントに議事堂を炎上させた。
まぐれ当たりか偶然かはどうでも良かった。事実政治機能が損なわれた。

彼の頭の中が巡り巡った。政治機能がまず頂点で下に軍属。だから故にティターンズが特権で居られた。傍にいた副官がウッダーに確認を取った。

「我々は・・・どうすればよいのですか・・・」

「わからぬ。現状の議員の生存は?」

「エゥーゴら派閥議員は予算委員会から退席した為難を逃れておりますが、中立、ティターンズ派閥は全滅です」

ウッダーは理解した。事態が整うまでエゥーゴの天下になるということだ。しかしながら偶然ながら都合が良すぎる。あの攻撃した物体の正体は実はエゥーゴの新兵器で刺客ではないかと考えた。しかしその予想が即座に覆された。オペレーターからの知らせだった。

「ウッダー司令!あの砲撃した物体から通信です」

そうオペレーターから報告受けると強制的にメインモニターにエルランの顔が映し出された。

「お初お目にかかるかと思う。私はムラサメ研究所の所長のムラサメ博士だ。またの名を・・・」

エルランが話し続けようとしたところウッダーの怒号が聞こえた。

「貴様!ムラサメ研究所とは我々側の機関ではないか!お前のした所業が・・・」

「・・・エルランという」

エルランはそんな怒号を気にせず自らの名前を言い切るとウッダーの顔が赤から青に変わる。

「・・・エルランだと。あの味方殺しの・・・」

ウッダーがそう質問するとエルランは高らかに笑った。

「ハッハッハ。そうだ、そのエルランだ。ならばこの状況は理解できるだろう?」

「バカな!何故生きている!お前はオデッサで死んだはずだ」

エルランはクスクスと静かに笑った。

「私は私怨だが、それを互いに利用したというだけだ。私の存在はコリニーも知っていたが、奴は御しえると考えていたな。愚かなことだ」

ウッダーはブルブル震えていた。憤怒だった。

「全部隊!全火力を奴に集中させてこの世から塵一つ残すな!」

周囲の士官はその命令に素直に従った。ウッダーは首都防衛を失敗した。それも最悪な結果で。
最早その原因の排除しか彼の頭にはなかった。他の者はあの砲撃がここまで届く事実に恐怖し、目前の脅威を取り除くことに尽力しようとしていた。

* ダカール上空 デルタプラス

アムロは隙を見出せない戦闘の最中、首都部から移動中のカイからラジオ無線でサイコアプサラスの砲撃の被害を聞いていた。

「ジジジ・・・・あー、聞こえ・・・るか・・・アムロ・・・」

ミノフスキー粒子が戦闘レベルになっている為、通信がとぎれとぎれだった。しかし要点だけの会話なら問題ないため続けた。

「ああ、カイ。聞こえるよ。目の前のデカブツから砲撃を許してしまった。被害は?」

「ジジ・・・議事・・・堂の・・・一部・・・消滅・・・・ゴップと・・・・コリ・・・ニーが・・・揃って・・・殉職し・・・」

その報告にアムロが驚愕した。

「なんと!」

カイは無線を続けた。

「・・・事態は・・・急転・・・だ・・・ジジ・・・アムロ・・・・生き・・・て・・・」

「ああ、了解だ。情報の収集を頼む」

「ジジ・・・当・・・然」

両者の通信は終わった。政治機能が沈黙したことを知ったアムロは、目の前の敵をこれ以上何もさせないと心に誓った。

* ア・バオア・クー宙域 シロッコ艦隊旗艦ジュピトリス艦橋

サラがオペレーターよりある信号を受けたことをシロッコに報告した。それに頷き、艦隊の発進を命令した。

「さあ地球では政治機能が失われた。全ては愚かな現体制が招いた結果だ。これに終止符を打つべく我々も地球に向けて発進する」

ジュピトリスを含めた巡洋艦数10隻が核パルスエンジンに火が灯ったア・バオア・クーを従えて地球へと向かって行った。シロッコはその目線を艦橋窓ガラス向こうの宇宙へ馳せていた。

「(メシアがあの機体に乗っている限りは死角はない。後方にある球体の要塞が何の為なのかが測ることができなかったのが悔やむことだが・・・)」

シロッコはフロンタルの企みが十分読み切れていなかった。彼の今までの行動として、ジオンを崩壊させてサイド3を掌握した。そしてあの球体。彼があそこにいることはここまで届く気配からも確実だった。

「私はこの破壊から再生を望む。お前は一体何を望むのだフロンタル。ただ破壊だけか?」

そう呟き、傍にいたサラは尊敬する司令官に不安な面持ちで見つめていた。シロッコの見据えた先はサイド3の方面。その問いかけに答えは返ってはこない。シロッコは感じていた。その答えを彼が述べる時は人類の選択の時だと。

* ソロモン宙域 シーマ艦隊旗艦艦橋

コッセルがシロッコからの電信を受け取り、シーマへ伝えた。

「姐さん。来ましたぜ」

シーマは豪奢な艦長シートに座り、扇子を開閉していた。その動きがその報告と共にピシャリと止まった。表情には笑みが見受けられた。

「来たか。ソロモンの核パルスを点火させよ!」

シーマの指示に艦橋クルーに緊張が走った。忠実にその指示に従い、ソロモンに常駐している部隊に連絡した。

「ソロモン。エンジン点火!」

そうオペレーターが復唱すると、間もなくソロモンの核パルスエンジンに火が灯り、動き始めた。
シーマは立ち上がり、目標を指示した。

「艦隊目標は地球だ。シロッコに遅れるな!あたしらが時代を変えるんだよ!」

艦橋クルーは皆士気高揚し、艦隊は一路地球へと進路を向けた。

* ルナツー宙域 ジェリド艦隊旗艦艦橋

カクリコンがオペレーターよりシロッコからの電信を受け、ジェリドへ伝えた。傍にはエマとマウアーが控えていた。

「艦隊司令よ。来たぜ」

カクリコンがそう言うと、ジェリドはゆっくりと頷いた。ジェリドの艦隊はシロッコ、シーマと比べて小規模だった。不審な動きと見て取られれば地球軌道艦隊の一部にいとも簡単に各個撃破されていただろう。その意識を逸らすに十分だったのが連邦議会開催であり、エゥーゴ、ネオジオン、ティターンズの地球傍での睨み合いだった。

ジェリドは艦隊とルナツーへ指示を出し、シロッコ、シーマと同様ルナツーも地球へ向けて動き始めた。

その動きをみて息を飲んだ。エマ、カクリコンも同様だった。

「ジェリド・・・。私たち大丈夫かな・・・」

エマが不安そうに話し掛けた。カクリコンが息を吐く。

「はあ~。まあ悪行だな。だがこれを持ってして潮目が変わるのだ」

既にある程度は変わっていた。彼らはジェリドを信じるしかなかった。シロッコからのチャレンジに人がどう応えるのか。シロッコから言われていたことをジェリドは3人に伝えていた。

「・・・ある程度の作戦実行が済んだならば後は裁量を各々に任せるとシロッコから言われたことはお前たちにも伝えたな」

エマ、カクリコン、マウアー共に頷く。そしてジェリドはふと思ったことを口にした。

「シロッコは元々オレらを信用していない、いや期待していないようだ」

その発言にカクリコンが苦笑した。

「おいおい。期待されたからお前を艦隊司令で作戦の一翼を担っているんだろ?」

ジェリドは首を振った。

「シロッコ中将は作戦行動で最も遠い距離にある所をオレらの持ち場にした。お蔭でまだルナツーのエンジン整備が終わっていない」

ジェリドの話にエマが答えた。

「時間的に私たちが駆けつけた時は既に大勢が決しているかもしれないね」

「かもじゃない。試算したが既に終わっている。これはオレらが期待されないで外された理由だ」

マウアーが少し思案顔してぼそぼそ呟いた。

「・・・これも中将の計算だとしたら・・・」

その声をカクリコンがゾクッとした。

「おいおい・・・この大戦の後に何かあるとでも?」

「そうですよカクーラー大尉。ジェリド司令、まだあるんですよ」

マウアーの根拠のない発言にジェリドが暫し考えた。女性の感性は起こり得る事象の可能性を高く読み取ることが多いと。そしてシロッコは無駄な仕事を部下には与えない。何か理由がある。

「そうだな。オレらも準備して地球へ向かうか」

3人共頷き、各部署へ働きかけにブリッジを離れていった。

* エゥーゴ・ネオジオン混成艦隊 旗艦ラー・カイラム戦闘艦橋

ブライトは目の前の惨事に呆気にとられながらもそれに狂騒した地球軌道艦隊とエゥーゴ・ネオジオン混成艦隊が交戦を開始していたことに苛立ちと困惑をしていた。その緊張は傍に居た副長のメランも感じ取っていた。

「・・・事態が読めない。そんな状態で無駄な戦闘が続いていく」

「艦長。引き揚げることもできません。戦端が開いてしまい、当初より戦力比があるこの艦隊では何らかの機会が無い限りは・・・」

メランが戦闘継続を希望していた。現状あの爆発での地球軌道艦隊の3分の1が消滅しても尚凌駕している地球軌道艦隊の数。それを補っていたのはエゥーゴのロンド・ベルとネオジオンの熟練した兵士のお蔭であった。

それでも彼らは並列に押し寄せるさざ波を陸に上げない様に縦横無尽に飛び回って対処することがやっとだった。味方1機が10機を一度に相手をする。その弾幕は照準が合わなくても避け切るに多大なエネルギーを必要とした。

前線のケーラが唸った。

「艦長!部隊の半数がガス欠です。前線を持ちこたえる為に救援を!」

その要請を受け、メランは第2陣に出撃を促した。

「スレッガー少佐。聞いての通りだ」

「了解です副艦長。ケーラに飯を食わせて昼寝させる時間をやりますよ」

スレッガーは搭乗しているリ・ガズィの中で指令を受けた。後方にゲタを履いたジェガンが続いている。

「いいか。ここが瀬戸際だ。ネオジオンが風穴を開けるまでオレらで前線を食い止めるぞ」

「おお!」

7年通じての練達が自身の中隊の士気を高めていた。スレッガーは機体に火を入れるとワイプでアストナージが出てきた。

「少佐の注文通り、切り離し使い捨てのハイメガランチャーを乗せておきました」

「有難う。これで敵さんを驚かすことができる」

「生きて帰ってきてくださいよ」

「無論。お前さんみたいにオレも幸せを享受したいからな」

「少佐!」

「本気だぞ。フフフ、お前さんのケーラを帰還させてくるから安心して待ってな」

「頼みます」

モビルスーツの発進メインデッキの扉が開いた。目の前に闇とその奥に無数の爆発が見える。

「スレッガー・ロウ、リ・ガズィ出る!」

ウェイブライダー形態でスレッガーは発進して行った。

* ネオジオン混成艦隊 分隊 旗艦サダラーン艦橋

艦長席にランバ・ラルが着席していた。傍にはハマーンとガトーが立ち並ぶ。
ランバ・ラルがマイクを持ち、艦隊にオープンスピーカーによる指令を出していた。

「この分艦隊はネオジオンの8割を割いている。これより地球軌道艦隊本陣への中入りをする。激戦となるが、敵総旗艦ドゴス・ギアを沈めれば敵の指令系統が破壊され元より烏合の衆が更に混迷を極めるだろう。諸君らの善戦を期待する」

ラルは放送を終えると、席に背中を預け一息ついていた。傍にいるガトーが現状を報告していた。

「艦長、ここまでこちらを捕捉されず転進できております。敵の体たらくに助けられておりますな」

ガトーが微笑みながらラルに伝えると、ラルも笑った。

「そうだな。連邦正規軍などティターンズと比べれば危機管理が足りない。実戦経験の無さがモノを言う」

ハマーンがその判断に頷き、補足した。

「だがそろそろ連邦本隊の索敵圏内です。いい加減マニュアルに沿っていたスタッフが気付く頃合いですね」

ラルが頷いてハマーンを見上げた。

「先手必勝だ。我々は最大戦速で奴らの横っ腹を刺し抜く」

「成程。一撃離脱と言う訳ですね」

「唯の一撃でないぞハマーン。敵総旗艦を沈めてから通過するのだ」

「なら私のノイエ・ジールの出番ですな」

ガトーが高揚して発言した。しかしラルは首を振った。

「いや、戦艦を3体程ぶつけてやるつもりだ」

その発言にハマーンとガトーが驚いた。そしてガトーが答える。

「特攻ですか!」

ラルは笑った。

「ハッハッハ、バカな。無人にして突っ込ませるよ。兵士の命は戦艦1つでは買えんからな。そんな価値のないもので最高の結果を得られるのだ」

ハマーン、ガトー共に考え過ぎたことに反省していた。ラルはそんな2人に命令した。

「さて、君らにそろそろ先発してもらう。先陣はガトー中佐」

「はっ!」

「第2陣でハマーン」

「はっ!」

2人とも敬礼し、モビルスーツデッキへと走って出ていった。
ラルがそれを見送ると呟いた。

「しかしながら・・・」

かの出ていった2名のパイロットの他に昔ながら付いてきているクランプや妻のハモンも近くにいた。
その呟きをクランプは遠くながらもオペレーター席にて聞こえていた。それについて反応した。

「しかしながらとは?」

クランプは振り向きラルに問うた。ラルが古参の反応に素直に喜んだ。

「フフフ・・・クランプ。気付いておるだろう?」

クランプは微笑を浮かべ、ハモンも2人のやり取りに「成程」と呟く。

「戦場は動いております。そんな戦場で自動操縦で突撃など・・・」

ラルはクランプの言に頷く。

「その通りだ。古き悪しき、そして確実な戦術だ。あの若造共に大人のズルさを学んでもらうとしよう」

ブリッジのクルー全てに爆笑が起きた。このブリッジにいるスタッフが全てラルの昔ながらの部下、仲間たちだった。彼らはラルを慕い、同じ飯の窯を共にしてきた。ラルが往くところはなんとやらだ。

* ダカール上空

サイコアプサラスは攻撃してくるアムロのデルタプラスを軽くあしらっていた。
機体が擁するサイコフィールドの厚みが桁違いだった。アムロは幾度もデルタプラスでの突貫を掛けたが、バイオセンサーの開放でもサイコアプサラスの装甲まで辿り着いて薄皮1枚剥がしていける程度だった。

アムロは前進してくるサイコアプサラスのガス欠を一瞬待つことを考えたが、サイコアプサラスの攻撃軌道はすべて街へと向いていた。明らかに無差別攻撃だった。民間人は議会開催に応じて疎開済みで人的被害はないが、住む場所、働いて暮らす生活をこの攻撃で破壊される。その事を考えると心が痛む。戦時とはこうも非情なものであるとアムロは知っている。アムロはカミーユの言を思い出していた。そしていら立っていた。

「・・・確かに単機でどうのこうのできる相手ではない。だがお前みたいに損得勘定出来るほど大人に徹することはできやしない!」

アムロは考えていた。この世界は全員が良く考える。とてもいい傾向だと思っていた。しかし時に何か大切なものをないがしろにしていることがある。それは敵味方両方だ。

「友軍はどこに・・・」

アムロはサイコアプサラスの進軍を妨げながら周囲を見回していた。未だにゲリラと戦う連邦軍、エゥーゴ、ティターンズの姿が見て取れた。中にはサイコアプサラスに向けての地上からの砲撃も見て取れた。

「火力が足りなさすぎる。あの攻撃で指揮系統が壊れたのか」

そう思考しながらもデルタプラスをもう何度目か分からないぐらいのウェイブライダー突貫を仕掛けた。ガス欠を狙っていた考えを捨てたアムロがガス欠になりそうだった。

デルタプラスが再び赤い光に包まれた。巨大なサイコアプサラスの左翼に目がけ突撃を掛けた。この攻撃で左側に風穴を開けてやると意気込んでいた。その動きをエルランも見抜くと言うより、そもそも巨体な機体への攻撃はどこに仕掛けるかなど一目瞭然だった。それ故に防ぐ為の用意さえ周到ならば容易な話だった。

「また来たか。だから故の装甲なのだ。巨体の欠点を利点に変えることが難攻不落となる。今ならば核の攻撃すらもろともしない」

エルランはアイナに命じ、左翼のサイコフィールドとI・フィールドシステムのレベルを上げた。
アムロも承知で飛び込む。機体の至近で青白い光が弾け散っている。デルタプラスがサイコアプサラスの防護壁にめり込む。後方のスラスターは全開で火を噴いている。

「これでも・・・ダメか」

アムロが悲観していた時、無線が入った。アムロにとって待望の友軍だった。

「アムロ中佐!遅れてすみません」

「遅いぞ!カミーユ」

Zガンダムもウェイブライダーでアムロの後背より突撃を掛けてきた。更にあと2機カミーユの後方より続いていた。アムロにその2機より無線が入った。

「コウ・ウラキ、チャック・キース、後詰します!」

「ここで活躍し損ねた汚名返上だー」

ZⅡ2機もウェイブライダーで突撃態勢だった。アムロは燃料ゲージを見た。次のフルスロットルが最後となると理解した。

「さあ、行くぞ。3人とも!」

4機とも赤いオーラに包まれ、サイコアプサラスの左翼の防護壁へぶち当たった。4機の突貫力はサイコアプサラスの左翼の全ての防護フィールドを破り、サイコアプサラスの左翼に大きな穴を開けることに成功した。

貫いて行った4機はそのまま通過し、アムロはカミーユへ自機の燃料について伝えた。

「カミーユ、オレの機体はガス欠だ。一旦補給に戻る。お前たちはこのデカブツを足止めしろ」

「了解です。行くぞコウ、キース」

「はっ」

「アハハ・・・このデカいの穴開けてやったのにまだ余裕みたいだ・・・」

アムロはUターンして彼らの母艦ラー・アイムへと機体を向けた。
穴を開けられたサイコアプサラスは空中で一旦静止していた。エルランは現状を確認した。
あらゆる損傷データを元にエルランは戦闘継続を決めた。

「・・・大丈夫だな。損傷率10%ならまだいける。しかし・・・」

エルランは手を顎にやり、先ほどの攻撃を振り返った。

「束になるとあそこまでの威力。サイコミュとは未知数とは感じていたが・・・。我々も協力し合えねば連邦を敗北させることは困難か」

エルランは左の操作パネルで前線で戦っているゼロを呼び出した。

「お呼びですかマスター」

「ああ、このダカールを陥落させるにはこのサイコアプサラスの戦力が必要だ。お前のゼロたる所以を見せる時だ。この周りに這い回る蚊トンボを撃ち落とせ」

「かしこまりました」

ゼロのクシャトリアがダカールのいくつもの守備隊を壊滅させてからサイコアプサラスの空域へと戻っていった。

カミーユはサイコアプサラスの巨体に圧倒されていた。彼程の視点が有れば敵機体の特徴が良く理解できた。それ故に・・・

「弱点が見当たらない」

防御機能が完璧すぎた。アムロが仕掛けていた戦法が効果的と読み、コウ、キースへ伝達した。

「よし。ウェイブライダー突貫で行くぞ!」

「はっ!」

「了解です」

3機とも塊でサイコアプサラスへ突撃態勢を取ると、その3機に割ってエネルギー波を放たれていた。
ゼロがサイコアプサラスの空域に戻って来ていた。

「これ以上はマスターをやらせん。インド洋の不始末を付けてやる」

ゼロはカミーユの機体を見て思い出していた。あの時はサード(ユウ・カジマ)の覚醒で不覚を取った。今回は奴の気配はない。それでもサードに劣る事ない技量を備わっていると自負していた。

その自負は事実、カミーユたちの攻撃を1撃であしらうことで実証された。カミーユらは散開し新たに現れた敵の援軍に対処せざる得なかった。

コウはその敵のプレッシャーを肌で感じていた。こいつは危険だと。

「キース!単機で挑むなよ。連携して追い込んでいくぞ」

「コウ、分かっているさ。離れても分かる奴の強さが」

2人の無線を聞いていたカミーユも頷く。

「離れてるのに分かる圧力(プレッシャー)。普通じゃない。それに・・・」

カミーユは別方向の砲撃を避けていた。サイコアプサラスからの攻撃だった。サイコアプサラスの周囲には無数のビットが浮いていた。エネルギー波を出せば、接触すると機雷にもなっている。厄介な武器だった。

「コウ!キース!主砲の射程内にも入らない様に気を配れ!」

そうダカールを焼いた火の射程に入ることはこの世からの強制退場も意味してた。コウ、キース共に頷き、引き続き戦闘を継続した。

* ダカール上空 ラー・アイム空域

ラー・アイムはダカール上空にて4方向から攻めるゲリラの防衛のための情報中継基地として浮いていた。そこに燃料切れ寸前のデルタプラスがやって来た。

「オーライ!アムロ機が着艦するぞ!」

メカニックチーフがデッキ内で部下に叫ぶ。誘導灯を振る誘導員がアムロの乗るデルタプラスへ合図を送っていた。合図を見たアムロはラー・アイムのモビルスーツデッキへ進入していった。

アムロは無事着艦をし、休憩の為コックピットから出てくるとルセットがアムロへ歩み寄ってきた。

「アムロ中佐」

ルセットが手を振り声を掛ける。アムロはそれに気付き、何か用事があるのかなとルセットへ指差し近場の自販機へと促した。

アムロが栄養ゼリーを自販機から選び、飲み始めた。ようやく傍に来たルセットはアムロへタブレット端末を手渡した。アムロはゼリーを吸いながらその画面を見た。そこには父親のテム・レイからのメッセージとサイコミュの研究の最新情報とそれについての問題点が添えられていた。

「・・・で、サイコミュは危険だと?」

「ええ、<サイコフレーム>は不安定因子があると。中でも人の心に作用するので人自身を支配できる可能性がある。その力に上限がないと・・・」

ルセットは不安そうな顔をしていた。アムロは栄養ゼリーをチューブでギューと吸っていた。

「科学者が研究の先に怖気づいてしまったか」

「笑えません。私も頭ではわかっていてもこのサイコミュによるビットコントロールは異様です」

「そうだな。いくら作用する物質が有っても脳波でそれを刺激できるなど不思議だよな」

ルセットはアムロの言に頷いた。アムロは栄養ゼリーの空容器をゴミ箱へ捨てた。

「この8年間。この時流と共に生きてきた。全てに意味があり今がある。友人との話での受け売りだが、一つはこの技術だと思う」

ルセットはアムロを訝し気に見た。

「・・・それはニュータイプとしての考えですか?」

アムロは微笑した。

「オレはそんな大層なものではないよ。人類がオレが考えるニュータイプへと進化できれば現状になってないさ。皆各々の正義を信じて動いている。ただそれにサイコミュというものが自然と関わってきている」

「中佐が考えとは?」

「人類は宇宙に出た。その事はこの地球と言う小さな鳥かごから無限の可能性のある世界へ飛び出したのさ。宇宙は様々な考え全てを許容できる器だ。しかしまだひよこで帰属意識がこのオレでも根強い」

「地球恋しさですか・・・。普通にそう思いますね。母なる地球ですから」

ルセットがそう言うと、アムロがルセットに指差した。

「それさ。その考え方が現在左派、右派と極端なんだ。それを捨てきって時代に身を委ねていける余裕が有ればいい。それが現状で考えるオレのニュータイプ論だよ。それをやはり左派、右派がサイコミュにもてあそばれている」

ルセットは思案顔をした。アムロも腕を組んで考えていた。ルセットが思いついたように一言。

「・・・人は役立つものを受け入れたがります。商売するものにおいてそれが目的では?」

アムロは頬を抓られた様な感覚だった。

「そうか!カイが喜ぶ。オレの違和感は技術発達。ひいてはサイコミュの異常発達。これをメリットと感じる奴が世界の正体か!」

ルセットはアムロの言葉にキョトンとなった。全く理解していないようだった。
アムロは自分で発した途方もない意見に我に返り、「すまない」と一言詫びを入れて補給について尋ねた。

「あと5分で終わります」

「そうか有難う」

そう言ってアムロは操縦席へと戻っていった。
アムロは操縦席にて無線回線でカイへと連絡を取った。

カイはダカール市街地から離れたホテルでミハルと部屋を取っていた。
通信が入るとその着信名に横たわっていたベッドから起きて、机に座った。ミハルは買い出しの為外出中だった。

「カイだ。どうしたアムロ?」

通信回線が開いたことでコックピット内のモニターにワイプでカイの表情が映し出された。

「ああ、世界の違和感についてだ。オレが知っていることより遥かに技術革新が進んだ。それもサイコミュについてだ」

カイは首を傾げた。

「まあ、お前らにとって便利なものだからな。オレの違和感はそれもある。それで?」

「オレが異常と感じるものがサイコミュだ」

カイはアムロが訴えたいことを直接的に言葉で読んだ。

「その異常は不自然だと?」

「ああ」

「なら人為的だな」

「そうだな」

「それを目的とすることは?」

アムロは父の危機感を伝えた。カイは暫し悩んだ。そして口にした。

「・・・人為的に、人の感性・感情を支配、管理下に置くことができる、その可能性がある。サイコミュが発達し続ける限り・・・」

「ああ。このサイコミュを世に送り出しては好奇心の種を撒き続けているものがいる。そいつが考えているものは・・・」

「人類の意思の強制統一。最早自我などない世界」

アムロはそうだなとカイに言った。カイは首を振った。

「バカな。自我がなくなったら文明は停滞する。人類は滅ぶぞ。それよりもまずどうやって・・・」

アムロは1つ見解を述べた。

「サイコフィールドシステムを地球圏全体に構築する。それを持ってして全員に催眠を掛ける。親父のサイコミュの可能性の仮説が正しいならばそうなるだろう」

カイは唸った。仕掛けている者の仕業でその意味することとは・・・。

「人の可能性に絶望しているとしか」

アムロは前時代のシャア以上の絶望をもって敵は人類に挑もうとしている。そう予想した。
無線音声でメカニックから補給完了の知らせが届いた。それを聞いたアムロは再び出撃をブリッジに申し出た。

「シナプス艦長。出撃許可を」

ブリッジにいるシナプスはモニターに映るアムロを見て頷いた。シモンが発進許可をアムロに伝えた。

「中佐。カミーユたちの援護をお願いします。中佐にお供を付けますので」

シモンの随行員の知らせにアムロが首を傾げた。

「お供?」

するとアムロと並列してZⅡが1機現れた。シモンが説明した。

「ユウ・カジマ大尉です。腕は確かなので力になれると思います」

「そうか、了解だ。頼むぞカジマ大尉」

「・・・」

アムロの問いかけにユウは応えない。シモンが補足した。

「彼は無口なので許してあげてください」

アムロは頷いた。

「人は色々あるからな。発進正面オールクリアで良いか?」

「はい。どうぞ!」

「アムロ、デルタプラス出るぞ!」

アムロは発進したが、未だカイとの通信が生きていたのでカイに通信を終わらす旨を伝えた。

「カイ。取りあえずダカールの始末を付けてくる。話はその後だな」

カイも息を付いて、手元にある資料を見ながら「そうだな」と一言言って通信を切った。

こうして2機のウェイブライダー機体がラー・アイムを飛び立っていった。その後、ラー・アイムの空域にネェル・アーガマがやって来た。というよりも何かから逃れるような慌ただしさでラー・アイムの空域に逃げ込んできた。

ネェル・アーガマからラー・アイムへ緊急通信が入った。シナプスはスコットへ索敵監視を命じた。その結果・・・

「艦長、ネェル・アーガマ後方より反応1機だけです」

シナプスは首を傾げた。取りあえず通信をうけた。

「いかがした?ヘンケン艦長・・・!!」

通信を受けたラー・アイムのメインモニターにネェル・アーガマの艦橋が映し出された。そこには艦長席に座ったままのヘンケンらしき人物が瓦礫に埋もれた残骸となっており、頭から出血しているバニングが映っていた。艦橋は至る所が破壊、破損していた。

「・・・シナプス艦長・・・」

バニングが満身創痍な状態でシナプスに語り掛けた。シナプスは落ち着いて話し掛けた。

「バニング君・・・一体・・・」

「全力で・・・逃げてください・・・北の防衛隊は全滅。モビルスーツ隊は全員行方不明。モンシアが戦死しネェル・アーガマは直接的な攻撃を受けて・・・。ヘンケン艦長が・・・」

シナプスは肉眼望遠でネェル・アーガマを映すように告げた。そのモニターに映し出されたネェル・アーガマを見てパザロフが一言。

「こいつは・・・惨い」

損傷していないところがない程の、飛行しているのが奇蹟とも思えるぐらいの損傷率で飛行を続けていた。その後ろに青白い光の壁が押し寄せていた。それを目の当たりにした直後2機のモビルスーツが更に上空よりラー・アイムに突然張り付いてきた。再びラー・アイムに揺れが走る。当然のことながらシナプスが叫ぶ。

「今度はなんだ!」

するとその答えが直ぐに返ってきた。

「艦長。アレンです」

無線でアレンが知らせてきた。シナプスは安堵し、アレンに状況説明を求めた。

「ネェル・アーガマは一体どうなっている?」

「私と傍のクリスティーナ・マッケンジー中尉はゲタで出撃しておりました。目的はあの光の壁を作るモビルスーツの討伐です。しかしながらとてつもないサイコフィールドの膜ではじかれて、その後ネェル・アーガマに接舷されました。そのモビルスーツの中から別人となったダグラス将軍が出てきたそうです」

「ダグラス将軍だと!あの英雄が何故・・・」

「その辺は不明なので端折りますが、彼が医務室よりある満身創痍な患者を攫いました。傍に居たキキというものの証言です」

すると、バニングの傍に居たキキがモニターに映り出てきた。凄く憔悴していた。

「・・・あたしが守り切れなかった。あの軍人はカレン、エレドア、ミケルをいとも簡単にダウンさせてその場を去ったんだ・・・」

キキが発言し終えるとアレンは再び話し始めた。

「第2波で出撃を控えていたモンシアが将軍を止めようと必死に喰らい付いたのですが、その取り付いた黒いモビルスーツの目の前でモンシアと相打ちになったそうです。傍にいた部下の情報ですが・・・」

シナプスは眉を潜め、当然の質問をした。

「では、何故あのモビルスーツが砂嵐のような状況を起こし、こちらへ迫ってきているのだ。乗り手がいないではないか!」

アレンは口にするにも不可解な出来事をシナプスに説明した。

「将軍が倒れたときその満身創痍な患者も床に倒れました。その後、その黒いモビルスーツはひとりでにその患者を拾い上げ、コックピットへ導いたそうです」

シナプス含め、全ブリッジクルーは目がテンになった。有り得ない。AI機能もそこまでは発達しているとも聞いたことが無い。まず動けるとしても5体満足なダグラスを拾い上げてモンシアを排除する方が道理だ。しかし判断は病人を収容したということだ。

「あとはあの光の壁が起きました。アレが戦場全てをズタズタにした原因です」

シナプスは聞く質問を失った。ブリッジにいる皆解答が不明、これ以上の質問も不明。人智で及ばぬ出来事が起きているという認識で一致していた。ただ押し寄せてくる波はとてつもない斥力の嵐でネェル・アーガマを撃沈寸前にさせるほどの脅威であること。

シナプスは専門家に聞くことにしながらも戦場の移動を部隊に命じていた。ラー・アイムもサイコフィールドの波から逃れる方向へと移動を開始した。それはアムロが向かうサイコアプサラスの戦場でもあった。

「前門の虎、後門の狼か・・・」

シナプスが恨み節で独り言をつぶやくと、モニターにルセットが映った。シナプスは彼女が映ったことにより期待して質問を投げかけた。

「・・・ということなんだ。何か参考意見を聞かせてもらえんか?」

モビルスーツデッキに居たルセットは腕を組み顎に手を当てて考え込んだ。暫くして答え始めた。

「全てサイコミュによる仕業ですね」

「サイコミュだと?」

シナプスが驚きを持って発言するとルセットが頷いた。

「ええ。先日テム・レイ、ナガノ両博士から届いた警鐘が有りまして、その手の力の上限がないと。今回の事象も起こすインターフェイスが有って起きた出来事です。斥力場と青白い光がサイコフィールドの、この場合は暴走というべきか、起きているのです」

シナプスはその返答に打開策の提案をルセットに投げかけた。するとルセットは首を振った。

「分かりません。強いて言えば、天気のようなものです。アレは台風だと思えば」

「ルセットくんの見解はその後威力が弱まり収まると?」

「そうですね。現状知る科学では、サイコミュニケーションシステムも同様、力が無限というものはこの世には存在しません」

シナプスはルセットの意見に頷いた。

「成程。良い処方箋が見つからない限りは逃げるのが得策だな」

「はい。この現象もフォン・ブラウンへ連絡しておきます」

「頼む。貴重な意見を有難う」

ルセットは一礼をして通信を切った。シナプスは操舵手のパザロフに指令した。

「聞いての通りだパザロフ」

「了解です艦長。進路を、戦場をあの巨体の方へ移動します。上手く行けば・・・」

パザロフが言いかけたことをシナプスが付け足した。

「この台風をあの巨体へぶつけることもできるやもしれん。先方のアムロ、カミーユにもその旨伝達しておけ」

スコット、シモン両オペレーターが頷く。シナプスは追加、シャトルをネェル・アーガマへ向かわせ生存者と負傷者の回収をクルーに命じていた。いつ沈没するか不明な、近いうち沈むであろう船に友軍を残したままにしておくわけにはいかなかった。

かくして、宇宙・地上とも時代の舵取りが不在のまま戦いは集束することなく続いていく。
 

 

36話 暴走 3.10

* 砂嵐の根源

黒いモビルスーツはただひたすらと徐行運転でラー・アイムを目指していた。コックピット内には満身創痍なシローが無理やり搭乗させられていた。

「・・・」

このモビルスーツにはある特徴があった。一つはパンドラボックスに似たサイコフレームの結晶。これによりモビルスーツの制御を自律AIの様に可能にしていた。そして周辺の意識の汲み上げ。反戦、厭戦意識が高まるほど、人の念が強くなる。これを吸い上げてはサイコミュニケーターへの伝達速度を上げていった。

それで可能にしたことが2つあった。ひとつはこの砂嵐という天候。もう一つは土塊から生まれたシローの新しい体。

モビルスーツ内は培養液とも言えるもので満たされていた。元々あるドライブモードを耐える為の人体無害な水溶液だが、このモビルスーツは創造性を発揮しては乗り手にプラスになるようにと構築していく。それよりも優先事項としては周囲の期待に応えるということ。

最もこの場合の期待はエゥーゴやティターンズらとは相容れないものだった。それは抵抗できないものの願い。生きている者、死んで逝ったもの。恨みつらみと積もるものの想いは何よりも感受性があって刺激的なもの。要するに周囲の火力を要する全てのものがターゲットとなっていた。

故に砂嵐の直近で居る部隊がラー・アイム隊だった。

* ダカール上空 サイコアプサラス

夕暮れになり、戦闘継続も限界に迫ろうとしていた。エルランは圧倒的な火力による攻撃で今日中にダカールを火の海にする算段できていたが、アムロ、カミーユらの波状攻撃による抵抗でティターンズ・エゥーゴの混成軍がサイコアプサラスの空域に到達するに時間を稼がれてしまい、現状地上・空とダカール守備防衛隊に進軍を阻まれていた。

ゼロの援護もカミーユたちを攻撃を防ぐに手一杯だった。戦いは数だと言うことをエルランは改めて思い知らされていた。

「1個のビットでの攻撃は1個のモビルスーツほどの火力は無い。戦力に差が出てきたか・・・」

首都防衛隊長のブルタークも怒り狂う上司ウッダー司令により、サイコアプサラスの撃墜を厳命されてバイアランカスタムに搭乗して戦闘に参加していた。ゲタを履くジェガン部隊を叱咤していた。

「いいか。連邦に楯突いた狂信者を必ず討ち果たせ!この世から塵に一つ残すな!」

一つ一つの攻撃がサイコアプサラスに放たれてもビクともしないが、それはサイコフィールドによる斥力場の発生による。端から端までの斥力場の発生はサイコアプサラス自体の前進を阻んだ。エルランはそれを危惧していた。

かといえ主砲の射撃は戦闘効率的にこの部隊の群れに放つには勿体無い。やきもきしながらの戦闘をエルランは強いられていた。

既にアムロ、ユウも戦闘に加わり、ゼロに対峙しながらも5機でのウェイブライダー突貫の隙を見出す算段を戦闘しながら練っていた。

カミーユは戦況を見て、これなら目の前の巨大な敵に立ち向かえると確信した。

「よし。アムロ中佐!ティターンズ、エゥーゴとも戦力がこの空域に集まりました。今がチャンスです」

アムロはカミーユの意見に賛同した。

「カミーユの言う通りだ!ユウ、コウ、キース!皆で奴の腹に風穴を開けてやるぞ!」

「了解!」

「OK!」

「・・・」

アムロを戦闘にウェイブライダー突貫を矢印の様な隊形でサイコアプサラスに向かって行った。
エルランもその光景を目の当たりしにしていた。戦況が巨体過ぎるが故に簡易に見て取れる。その反面回避行動という手段がないのがこの機体だった。

エルランは突貫してくるかの火力はこのサイコアプサラスを破るだろうと計算していた。エルランは本当はダカールで使用しようとしていたある兵器をここで使うことを決めた。

「已む得んな。姫よ・・・サイコフィールドとI・フィールドを全展開し防御に備えよ。この爆発は尋常ではない」

エルランは裏取引である支援物資を受けていた。それがサイコアプサラスのあるミサイル砲門より出でてアムロたちへ向けて放たれた。

アムロはミサイルがこちらにむかってくるのが分かった。その瞬間おぞましい悪寒に包まれた。そして後に続く4機に向かって緊急回避ビーコンを打った。

「このミサイルは受けてはダメだ!上空へ急いで避けろ!」

アムロは急停止、上空へ飛びのいだ。カミーユもその悪寒を悟ってアムロと同様に逃げた。ユウ、コウ、キースもそれに従う。

ユウは苦虫を潰すような感じで顔を顰めていた。コウ、キースは上官の行動に素直に従いながらもたかがミサイル1機に取る行動としては異常さを覚えた。その異常さを両者とも考えて、ある最悪な結論に至った。キースがボソッと呟く。

「中佐・・・まさか。アレですか?」

コウがキースの言いたいことに補足した。

「人類史上最悪な破壊兵器・・・」

カミーユが充分な高度が取れたと思い上空でホバーリングした。

「そうだ。地上で弾けると向こう100年は住めない土地と化す」

そして5人の眼にその弾ける閃光が遥か下で見えた。アムロが結論を言った。

「核だ・・・」

・・・

サイコアプサラスの眼前は核のエネルギー波が津波のように襲い掛かっていた。
巨体故に避けられないが、その分の防護フィールドが核の余波を十分防いでいた。
目の前が晴れるまで多少の時間が掛かる。

「フフフ・・・一網打尽とはこういうことを言う」

通信でゼロから連絡は入って来た。

「マスター、後方デッキにおります。着艦許可を・・・」

エルランは流石にクシャトリアの装甲ではこの余波は全て受けきれないだろうと思い、後部ハッチを開けてクシャトリアを収容した。

* ダカール防衛隊司令部

ウッダーらも核の光を確認できていた。そしてそこにティターンズの防衛部隊の9割方を向かわせていたことも知っていた。自身が命じた指令だったことも。

「・・・状況は・・・」

ウッダーは小刻みに体を震わせて、オペレーターへ確認した。その報告は余りに無惨だった。

「部隊のほとんどが消滅しました。ブルターク部隊長の信号も途絶しております。恐らくは爆心地に・・・」

ウッダーは席に倒れ掛かるように座り、目標について確認した。

「で、敵は?」

「依然、健在でこのダカールへ向かってきております」

「そうか・・・」

ウッダーは憔悴しきっていた。頭の中である予測が出来上がっていた。あの巨体にはまだ核があるとして、このダカールへ落とすつもりだ。守備隊もほぼ壊滅し麾下の戦力で敵を抑えることができない。できることは・・・

ウッダーは最期の仕事をすることに決めた。オペレーターへ指令を出した。

「全軍、ダカールを放棄する。全ての輸送車両はダカールより人員を乗せて四散し、各基地へ撤収すること。これが最期の命令だ」

オペレーターとそこにいたスタッフが皆驚いてウッダーを見た。ウッダーは視線が集まった事に軽く嘲笑した。

「聞こえなかったか?これが上官としての最期の命令だ。皆逃げろ!」

そう言い切るとウッダーは胸よりブラスターを抜き、こめかみに当てて銃を放った。
ウッダーはその席で自決を遂げた。その意思に全スタッフが最敬礼をし、皆撤収へ向けて動き出した。
軍としての統率、指揮系統を失われた為、司令官より下の下士官達が敵前逃亡と見られず退却できる大義名分を得れた。

その情報はアムロら、ラー・アイムの者達もオープンチャンネルから即座に受信できていた。
アムロはしてやられたと悔しい表情をし、カミーユは冷静に状況を分析し、他3人はその光景に唖然としていた。

カミーユはラー・アイムへ無線連絡をしていた。

「ラー・アイム!聞こえていますか!戦況は終局面です。ゲリラは既に敗走し後は・・・」

通信を受けたラー・アイムはシモン経由でシナプスへ伝わった。既に戦闘ブリッジへ移行しているクルーは皆ノーマルスーツを着用していた為、スーツに通信用マイク・イヤホンが内蔵されていた。シナプスはそれを用いカミーユと通話した。

「カミーユ、こちらは後方からの謎のモビルスーツを引き連れてそこへ向かっている。お前の言は正しい。後はお前らの空域でダカールの戦闘は終わる。核の爆発は確認済みだ。幸い、人の住めない砂漠のど真ん中での爆発が住民への被害は皆無だ。お前らにその謎のモビルスーツの映像を送る」

5人共シナプスからのLIVE映像を映し出された。ユウ、コウ、キースは目を丸くした。アムロとカミーユは眉を潜めた。

「まさかサイコフィールド・・・」

アムロがそう呟くと聞いていたカミーユが頷く。

「ええ、サイコフィールドの嵐ですね。斥力場と引力場が入り乱れて触れるものをねじり切ったり弾き飛ばしたりしそうですね」

カミーユがそう言ったことにアムロが驚いた。

「カミーユ、知っていたのかサイコフレームの可能性に」

カミーユはワイプで映るアムロを見て再び頷く。

「最近、ナガノ博士からメールが届きましてそれで・・・」

ワイプに映っているアムロが納得した。

「親父と博士は同様の研究をしているからな。親父の警鐘はそちらからかもしれない」

するとカミーユとアムロへ別の通信が入った。味方の信号だったので2人とも回線を開いた。

「アムロ、カミーユ、傍まで回収に来ている」

「ハヤトか!」

通信の主はハヤト・コバヤシだった。しかし回収と言われた意味が不明だった。それもハヤトが間髪入れず説明した。

「ガルマ議員からの要請だ。ブレックス議員も承諾し、既にシナプス艦長もそれに従って行動中だ。オレは元よりニューヤークからガルマ議員からいつでもスクランブルでいて欲しいということで大西洋置沖にラー・ヤーク(クラップ級)とクラップ2隻と共に待機していた。既に事態は宇宙(そら)へと移る。お前達らを回収しアーティジブラルタルから宇宙へ上げる」

アムロは根本的な説明を欲した。

「ダカールはどうなる!」

「既に情報交換が終えて作戦は決まっている。あの砂嵐をあの巨体へぶつけて終わりだ。互いのサイコフィールドが相殺し合い激突してダカールへの脅威がなくなる」

「・・・という保障など確信ないんだろ」

カミーユが腕を組んで言った。アムロも同感だった。ハヤトはその作戦に至った経緯を伝えた。

「カミーユの言った通り根拠はない。しかしダカールは既に市民含めて皆退避が完了しつつある。連邦首脳らもティターンズ派とエゥーゴの経済リベラル寄りなものたち含めて皆殉職した。政治機能が今停止している。要するにダカールに固執する必要がなくなったのだ」

だが市民らは強制的な疎開だ。少しでも維持した想いがアムロにあった。カミーユは戦略的にダカールでの戦闘が終わったことについて理解した。しかし被害の甚大さから私情を挟むことにした。

「ハヤトさん。もう少し時間いただけませんか?」

「カミーユ。分かってる。決着を付けたいのだな」

「はい」

するとアムロも便乗した。

「オレもだハヤト。あの砂嵐と共にサイコミュがもたらした影響の一角をこの眼で見ておきたい。それに・・・」

アムロは少し間を置いて本音を伝えた。

「地球を汚染しようとするあの巨体をそのまま野放しにしておけない」

カミーユもアムロの言を聞いて「同感です」と答えた。

「元々、ジブラルタルからの打上げは2日後だ。ここの戦闘の終局もあと1時間もない。ラー・アイムが誘導してあの巨体へ向かっているからな」

ハヤトは快く了承した。既に計算に織り込まれていたようだとアムロ、カミーユともに思った。
その会話を通信で聞いていたキースが腕を組んで考えていた。

「しかしながら・・・」

コウがキースが呟いた声を聞き、問いかけた。

「どうしたキース?」

「ああ・・・何であの砂嵐は真っすぐラー・アイムへ向かっているんだ?」

アムロとカミーユは周囲の環境を自身の能力を研ぎ澄ませて感じ取った。両者とも汗がたらたらと滲み出てきた。

「アムロ中佐・・・」

ワイプで気持ち悪そうなカミーユの姿を確認してアムロは頷いた。

「ああ。この戦場の憎しみがあの砂嵐の根源だ。このダカール周辺の全ての兵器を塵にするまでという意気込みだな」

その話を聞いたキースは半笑いしていた。

「そんな・・・ポルターガイストですかあ~」

コウも相手が怨念まがいの者だという両エースの意見に理解不能だった。

「アムロさん、カミーユ隊長まで。現実的でないことを・・・」

ユウは相変わらず沈黙していた。そしてひとりウェイブライダーでサイコアプサラスへ向かって行った。その姿を見たキースは慌てて声にしていた。

「お・・・お~い。何処へ行くんだよ~」

アムロとカミーユはユウの行動が正しいと感じた。今できることはこの戦闘の決着。それはサイコアプサラスの撃墜だった。砂嵐はこの一連の戦闘ではあまり関係がないことだ。

アムロ、カミーユはユウの後を追ってサイコアプサラスへ天上より急降下していった。
コウも上官らの行動に即座に反応し降下していった。取り残されたのはキースだけだった。

「あ~もう。良く分からないよ。とりあえず後を追うしか・・・」

すると背後に気配すら感じさせる事無く謎の機体が浮いていた。
キースはその気配を陽の影で気が付いた。

「え・・・」

キースとの交信が途絶えたのはアムロらがサイコアプサラスと交戦に入った後だった。

* 地球軌道艦隊 ドゴス・ギア

左翼を犠牲にして強制的な戦闘に持ち込んだジャミトフたちはそのつけを払っている最中だった。
残りの右翼と本隊の半数を動員してエゥーゴ・ネオジオン混成艦隊を包囲殲滅に持ち込もうとしていたところネオジオンの別動隊により左舷より電撃的な攻撃を受けていた。

艦隊は艦艇らから構成されており、横からの攻撃が弱点だった。バスクが奥歯を噛みしめていたが、ジャミトフは違う事態の知らせにより座席の肘掛を指で繰り返し叩いていた。それはジャミトフの秘書官からもたらされた秘匿通信によるダカールからの知らせの為だった。

「・・・バスクよ」

「はっ」

バスクはジャミトフが口を開いた事に焦っていた。不意を突かれた大体失敗の状況において、この上官が発する言葉は大抵叱責だった。しかし思いもよらぬ事をジャミトフは口にした。

「地上から悪い知らせだ。コリニー議員がダカールの戦闘で亡くなられた」

「は?」

バスクは一瞬よろめいたがすぐさま態勢を立て直した。ジャミトフは追加補足した。

「そして我々の支持する政治的な派閥らも一緒に戦闘で無くなったそうだ。更に良くないことにエゥーゴ派閥は生き残った。意味することはわかるか?」

バスクはティターンズの存在意義が失われたことを今知ってしまった。
この組織ティターンズは政治体制で生かされているものだった。それを知った正規軍など誰もティターンズの指示なんか聞かないだろう。

「つまり短期決戦ですな」

ジャミトフは首を横に振った。

「違う。捲土重来だ。全員に戦闘停止を命じろ」

「は?」

バスクはジャミトフの指示に戸惑いを覚えた。ジャミトフはそんな部下を叱責した。

「バカか。元は連邦同士の戦いだ。誰も望んでおらん。生きて尚勢力を温存するのだ。いきなり我々を何か罰し処分するにはエゥーゴだろうが連邦だろうができやしない。民主国家だからな。しかし体裁は必要だ。イーブンで終わらせることが重要だ」

「成程。早速皆に伝達します」

バスクは振り向きオペレーターたちへ伝達した。その姿を見てジャミトフは額に手を付けていた。

「(今できることはアースノイド主義の維持だ。このままどのみち不都合な情報はとどまる事知れず蔓延していくものだ。いずれは戦闘にならなくなる。その前の布石を打たねばならぬ)」

するとバスクが狼狽えている姿をジャミトフが目撃した。ジャミトフは遠くながらもバスクを呼び掛けた。

「どうしたのだバスク」

「あ、閣下。敵の別動隊の攻撃によりミノフスキー粒子が濃すぎて通信が不可能です。その部隊を駆逐せねばなりませんがその部隊が・・・」

「奴らが何なのだ」

「奴らが目前に迫っております!」

ジャミトフは唸った。降伏の意思を見せれば彼らは戦闘を止めるだろうが、今後の動向としては戦闘の停止を両軍に呼びかけることが組織維持について大事なことだった。敗軍でないことがジャミトフの中の条件だった。こうも戦闘になった状態、核も使用した状態で敗軍に堕ちることは組織としての求心力が失われる。

「バスクよ。本隊の防衛線で何とかならんのか?」

「U字編隊で半包囲網を形成しつつありますが、それ以上の敵の進軍速度に各艦混乱しております。我が軍は大軍故の行動、連携の遅さが裏目に出てしまい、抵抗するにも遊軍が多すぎます。」

「奴らの部隊はそうは多くない。奴らは死ぬ気か・・・」

ジャミトフには自殺願望はない。しかし突撃を掛けてきたネオジオンの別動隊は特攻だった。こう覚悟を決めた敵は存外しぶとい。ジャミトフはバスクにネオジオンの別動隊包囲殲滅の指示を迅速に完結させるよう告げた。

* ネオジオン別動隊 

全モビルスーツが出撃し終えていた。連邦地球軌道艦隊本隊横腹を突くような突撃により戦場は敵味方問わず狂乱の極みにあった。ランバ・ラルはクルーは四方八方光の渦に居るような感覚だった。

ラルは操縦桿を握り、沈みゆく友軍の艦を見届けては次は自分かと思いふけっていた。

「ふむ、已む無し。敵旗艦までの距離は?」

既にこの艦にはランバ・ラルとハモンの2人だけだった。他の信頼おけるクルーは別の艦で操舵していた。その他のクルーは突撃時に全て脱出艇で退避させていた。

「あと時間で10分もないわ。モビルスーツ隊が往く道を案内してもらえているわ」

「そうか・・・。彼らにも生きてもらわねばならん。旗艦撃沈後本艦は彼らの脱出の為の殿を務める」

ハモンは夫の覚悟にクスッと笑った。ラルは嫌な顔をした。

「何が可笑しい?」

「いえ。嬉しいのですよ。貴方があのジオン独立戦争時に不本意ながら戦っていた姿からみたら晴れ晴れしさが満足そうで・・・」

ラルは高らかに笑った。

「そうだな。信念を貫ける立場でこうして戦場で逝けるのだ。武人としては誉れだ」

すると、モニターにクランプの姿が映った。ラルは定時連絡と思い答えた。

「どうだ状況は?」

クランプは余裕をある笑みで答えた。

「司令。この奇襲は絶好ですよ。友軍にしても優に数十艦生き残ってます。最も敵さんの残数は優に数百はありますが」

「統率が取れきれず遊軍と化しているんだな」

ラルはクランプの言いたいことを看破した。戦闘状況も把握はしているので敵の後手後手対応にラルも嘲笑を禁じえなかった。

「おっしゃるとおりです。良い知らせに先発のハマーン、ガトーらの部隊が敵の包囲網形成を遅延させております」

ラルは頷いた。

「よし。このまま敵旗艦ドゴス・ギアを・・・」

モニターに捕捉した。肉眼でもだ。しかしながら目視できた距離と索敵モニターとの距離差が合わない、そうラルは感じたがその誤算が正しかった。

ラルの乗艦に映るクランプも目視できていた。そのドゴス・ギアの巨大さに驚いた。

「なん・・・なんなんだ。ドロスなんか比じゃないぞ・・・」

ラルは表情を変え、深呼吸をした。

「さていくつの艦がアレに突っ込めば沈むのか・・・」

大艦隊の中で佇む大戦艦。旗艦の相応しい存在感だった。

ハマーンが操るキュベレイは連邦艦艇から出てくるジムⅢらをモグラ叩きの様に撃ち落としていた。後続で続くギラ・ドーガ部隊も同様だった。

「もう少しだな」

ハマーンは息を切らしていた。ラルの艦隊を進軍させるためにかなりの速度で無理やり連邦を攻撃していた。攻撃の仕方がただの嫌がらせのようなものなので戦力を削るものでなかった。危惧することは態勢を立て直されたらば戦力で押しつぶされるということだった。

「物凄く非効率な戦闘だが致し方ない。しかしながら・・・」

ハマーンもドゴス・ギアを目視で確認できていた。

「ここまで来たのだ。アレを落とす事だけに全力を尽くす」

ハマーンは部隊をまとめてドゴス・ギアへ通ずる道を少しずつ開けていった。

ガトーはハマーンとは逆側で同様に行軍していた。
ガトーはハマーンとは違い、ノイエ・ジールの圧倒的な火力で戦艦らを悉く撃沈させていった。

アレキサンドリア級、マゼラン級、バーミンガム級などクローアームとビームサーベルらで切断し、破壊させていった。次で何十隻目かはもう記憶にない。

「はあ、はあ・・・次!」

ガトーは気迫に満ちていた。傍にいたケリィ、カリウスも高揚していた。

「少佐!こんな戦に参加できて感無量です」

「フッ・・・ガトーに付いてきて運が良かったな。生きてこのような大戦の先陣に立てるのだからな」

ガトーは部下らの言に微笑し、士気をさらに高揚させた。

「さあ、我らの戦を連邦にみせてやるのだ。目標はあの巨大戦艦だ」

ノイエ・ジールが指し示す方向にドゴス・ギアが映っていた。

「さて行こうか」

ガトー部隊も一路ドゴス・ギアへ進んでいった。

* ドゴス・ギア

バスクは包囲網の完成をジャミトフに報告した。ジャミトフは満足そうにしていた。

「では早速駆逐しろ」

ジャミトフは冷徹にバスクに命じた。

「はっ、本艦はこれより微速後退致します。その後かの部隊を奴らの後方より折りたたむの様にして殲滅致します」

「上等だ」

バスクは手を上にやり、下へ振り下ろす。

「ファイアー!」

その掛け声でネオジオンの別動隊は砲撃の嵐に晒された。

* エンドラ級 ランバ・ラル

ラルの艦艇は砲弾の嵐のど真ん中にあった。しかしながらラルを守るように艦艇が方錐陣形取り、ドゴス・ギアへ向かっていた。ラルは攻撃の振動に耐えながらも船を操っていた。ハモンも席にしがみつきながらもオペレーターとして状況把握に努めていた。

「あなた!損傷率が15%超えたわ。たった3分でよ!」

「わかってる!あと少しなんだ・・・」

ラルの艦艇の外側から華々しく撃沈していく多くの友軍。全てはラルに付いてきた戦友たちであった。
その中でも古参の1人のアコーズから連絡が入った。既にアコーズの艦はブリッジがボロボロだった。

アコーズは頭から血を流しながらもラルに敬礼していた。

「・・・司令。今生の別れとなります。我が部隊が散開して道を創ります・・・」

通常時ならば「バカを申せ!」と怒鳴りつけるところだがラルはこの事態に言葉がでなかった。誰かがそうせねばこの集中砲火から逃れられない。

囮の部隊が砲火の的となり爆破四散している間はビームを通すことはない。輝く火の粉がビームを透過させないためだった。

通信は一方的に切られて、ラルはうなだれていた。

* ハマーン隊

集中砲火で狙われたのは艦隊だった為、自身の部隊の空域内は通常戦闘で特別危機的ではなかった。
しかしながら、艦隊の包囲集中砲火を部下から聞いた時には青ざめた。

「・・・あのジジイ・・・最初からこれを知って狙っていたのか」

ラルの率いる艦隊が囮でモビルスーツ隊でドゴス・ギアを撃沈させることをハマーンは今気付かれされた。傍にいたギラドーガを駆るマシュマー・セロがハマーンへ指示を仰ぐ。

「どういたしますか?」

「知れたこと。あのデカブツを沈める。いくぞ!」

そうハマーンが言い放つとキュベレイを先頭に部隊は目前のドゴス・ギアへ向かって行った。

ドゴス・ギアに付くや否やギラドーガらの一点集中砲火で装甲に穴を開けようとハマーンは命じた。
その砲撃はドゴス・ギアの主砲によって一撃で四散し、且つ何機かのギラドーガが爆砕した。

その衝撃でキュベレイが軽く吹き飛ぶ。

「ぐっ・・・なんて火力・・・」

あんな装甲と火力にファンネルが通用する訳が無いと悟ったハマーンは接近戦で薄皮を剥がすようにサーベルで切り刻んでいた。ギラドーガらも持てる火力でサーベルやグレネードなど用いては装甲に穴を開けようと試みた。しかしながらこの戦艦の砲門の数が並ではなく対空砲火により次々とギラドーガは撃ち落とされていった。その光景を見てハマーンは唇を噛みしめていた。

「化け物め・・・」

ハマーンは危険を承知でブリッジを狙おうとした。そこに今回の戦闘の元凶がいる。その姿をハマーンは対空砲火を掻い潜り、モニターに収めた。

「バスク・・・それにジャミトフ!」

ハマーンは手持ちのファンネルでブリッジを狙った。その戦慄にドゴス・ギアのクルーが震えた。バスクとジャミトフを除いて。ブリッジでジャミトフが軽く嘲笑った。

「フッフッフ・・・まあよくやった方ではないかな」

バスクも頷き同意した。

「そうですな」

その光景にハマーンは悪寒を感じ、さらに危機を感じた。ブリッジの傍に対空砲が備えられていた。
それがハマーンとハマーンのファンネルを撃ち落とした。

「きゃああ・・・」

ハマーンのキュベレイは撃墜は免れたものの、両腕と両足が破壊されて宇宙に漂っていた。
戦闘不能に陥ったキュベレイを容赦なくドゴス・ギアの主砲が狙う。それを間一髪ガトーがキュベレイの前に出た。

「やらせんぞ!」

ドゴス・ギアは主砲を放ち、ノイエ・ジールへ目がけて浴びせた。その火力はI・フィールドを撃ち抜き、多少の軽減で入射角度がそれノイエ・ジールの右腕全てを消失させた。

「ぐっ・・・何と言う火力・・・」

ガトーはノイエ・ジールがまだ戦闘可能なことを確認して、ドゴス・ギアへ突撃していった。

「ぬあわーーーー!」

ガトーの咆哮はその気持ちがノイエ・ジールに宿ったかの如くドゴス・ギアの対空砲火をもろともせずドゴス・ギアの主砲の一つにノイエ・ジールを激突させた。

「ふ・・・フハハハハ・・・これで一つ潰したぞ・・・」

ガトーは衝突の衝撃で気絶した。それを見たガトー隊のカリウス、ケリィらはガトーを救出せんとドゴス・ギアへ詰め寄った。

「少佐!」

「ガトー!生きてろよ」

そんな救助隊にも容赦なく対空砲火を浴びせていた。次々と撃ち落とされていく仲間を後目にカリウスとケリィはノイエ・ジールへとたどり着いた。

「ケリィ大尉!引っ張り出しますよ」

「ああ承知した」

ギラドーガのバーニアを最大にしてノイエ・ジールを何とかドゴス・ギアのめり込みから引っ張り出した。その瞬間ガトーは気絶から立ち直った。

「は!・・・カリウス、ケリィか・・・」

ガトーがそう呼び掛けると「はい」とカリウスが答えたのと同時にドゴス・ギアの副砲が斉射された。
ノイエ・ジールの生きているI・フィールドで全員の撃墜は免れた。しかしその衝撃でカリウスとケリィはその場から吹き飛ばされた。そしてガトーが一人ドゴス・ギアの照準に当てられた。

バスクがほくそ笑み、撃墜の命令した。
しかし事態はまたもや変わる。ガトーの背後よりビーム砲の斉射三連がドゴス・ギアへ浴びせられた。
数十の対空砲がそれで破壊された。

攻撃の衝撃がドゴス・ギアを襲い、バスクはよろめき、ジャミトフは席にしがみついた。

「まさか・・・あの包囲網を・・・」

バスクは目の前のモビルスーツに囚われて、見事突破してきたラル達に気が付かなかった。
ジャミトフは椅子の手もたれを思いっきり叩く。

「バスク!どうにかせんか!」

ジャミトフに叱責されたバスクは目の前の艦艇らの進軍を止めるべくドゴス・ギアの砲撃を命令した。

「や・・奴らをこれ以上進ませるな!ここで討ち果たせ!」

ラルの艦体は残り9隻となっていた。後方よりバスクの包囲網による何百隻という艦艇が追撃していた。
ドゴス・ギアも含めて最後の集中砲火を浴びせた。その時信じられない現象が起きた。原因はラルの傍を漂う戦闘不能なキュベレイからだった。

ハマーンはどこにいるか不明瞭な感覚に襲われていた。ただ周囲の思念を媒介に武人の境地とも呼べる「無我」にいた。

「・・・何故、争っては・・・こんなに人が散る必要があるのか・・・」

ハマーンは信念というものを勿論持っていたがそれが戦いを誘う原因になっていると悟った。
争う必要がなくなるには共存する想いを皆知らなければならない。皆と繋がらなければならないとそんな考えが頭に流れ込んでくる。その過程でこの空域にある残留思念や生きる者の力などキュベレイは吸い上げては残り9隻の艦隊とハマーン、ガトーの部隊の残存者らを青白いオーラで包み込み、外からの砲撃を無効化していた。

その現象にジャミトフとバスクは腰を抜かしていた。

「あ・・・有り得ん・・・」

ジャミトフはそう呟くと席から崩れ落ちそうだった。そしてその光は真っすぐドゴス・ギアを侵食していく。その光の暖かさにジャミトフとバスクは息を飲んだ。

意識が2人に流れ込んでくる。そしてそれを理解しまいと抵抗していた。その我慢もそう長くは続かなかった。次の瞬間一瞬にしてブリッジが消し飛んだ。

その爆発は青白いオーラを切り裂かれた後に起きた出来事だった。
周囲の戦闘は既に現象に見とれたことにより砲撃は鳴りやんでいた。
ハマーンはドゴス・ギアのブリッジの消失に呆然としていた。

「え?」

ハマーンは望遠モニターでその原因となる彗星のような光が地球へ落下していく様を目撃した。
その彗星には明らかな意思を感じた。「(ことわり)に触れてはなりません」と。

* サイコアプサラス戦闘空域

視界不良が極まり、センサーは全て死んでいた。
理由はラー・アイムが引き連れてきた砂嵐にあった。
サイコアプサラスのエルランも索敵モニターと目視でも周囲が何も確認できなかった。

「何が起きているというのだ」

それは突然であった。
上空からのアムロ達の攻撃を捌いていた時に起きた。
油断はしてはいなかった。空域に近付いてくる戦艦が1隻とその後方よりモビルスーツが1機の反応。
何も心配はなかった。

空域に風が吹いてきた。良くある話だ。それがあっという間に強風となり、まるで台風にあったような天候へと変化した。エルランはサイコフィールドを展開し、防護に備えた。というよりもそれしかできなかった。戦闘にもならない状況だった。

「とりあえず収まるまで待機するしかないな」

そう踏んでエルランはシートにもたれかかると、前座席のアイナがボソッと呟く。

「シ・・・ロ・・・・」

エルランの眉が動いた。洗脳され支配下に置かれているのに意識が一部復活したのかと考察した。
時間が無い。また再調整を施さないとこのサイコアプサラスが操れなくなる。
エルランは後退か前進かで暫く悩むことになった。

* ラー・アイム艦橋

シナプスら全クルーは砂嵐の衝撃を受けて砂漠へと不時着してしまった。そんな中でも容赦なく砂の衝撃が艦体を打ち付けていた。ブリッジのシャッターは全て下りていたが、それすら打ち破ろうとしているほどだった。

「全クルーにノーマルスーツの着用を義務つけよ」

シナプスはそう命令をすると、皆ノーマルスーツを着用した。ブリッジで何も出来なくて落胆しているカレン、エレドア、キキ、ミケルとシローの拉致について心配そうに話をしていた。

「シロー・・・どうしちまったんだ」

キキがそう言うと、ミケルが根拠なく励ました。

「大丈夫。あの隊長がここまで生き延びたのにはそれなりの運があったから。今回も無事に帰ってくるさ」

「悪運だがな」

エレドアはミケルの話に水を差す。カレンがそれを窘めた。

「エレドア、あのアマちゃんが真のワルならあたしたちもとっくにあの世だよ。行いが良かったと考えたことはないのかい?」

エレドアは両手で「信心深くないんでね。ただ・・・」と言い、壁に背を持たれ掛けて続けて話した。

「オレらは戦争をして人殺しをしていた。そんな奴は善人なはずがない。でもそれは生きる為だ。生きようとする想いが強いものが生き延びると思うよ。例えあんな朽ちた姿でもアマちゃんは生き残った。話を聞く限り、この砂嵐の元凶となるモビルスールに取り込まれたそうじゃないか」

キキが頷いた。エレドアがさらに続けた。

「なら、これも何か意味あることなのかもしれない」

4人とも耳を澄ましても砂嵐の轟音しか聞こえない。この艦体がどれだけもつか、それに4人含め艦内のクルーの生命が掛かっていた。

* サイコアプサラス空域

アムロ、カミーユは砂嵐に巻き込まれて地上へ着地していた。強風で飛行はできない。予想としてはこれで戦闘継続が困難ながらも一応は目標が達せられた。ユウもコウも地上へ降りていた。
コウがアムロへ連絡を入れた。

「アムロ中佐!キースとの連絡が途絶えております」

アムロは報告を受けて、できる限りの索敵をした。しかしこの視界不良ではどうにもならない。更にモビルスーツがアラートを鳴らす。コウが叫ぶ。

「ダメだ!モビルスーツが持たない。この砂がモビルスーツの装甲を食い破っている」

アムロは考えた。砂が生き物のようにモビルスーツを壊している。この砂嵐の中にいて改めて強い意思を感じた。カミーユも同感だったらしくアムロへ話し掛けた。

「アムロ中佐。この空域の意思力、兵器への恨みしかありません」

アムロは頷く。根源を止めなければあの巨体と共に心中になりかねない。脱出よりも元凶の方が近いことは感覚として知っていた。

「よしカミーユ。まだバイオセンサーはいけるか!」

「問題ありません。元凶と対峙して打開するしか生き残れる術がありませんから」

アムロはバイオセンサーを介してサイコフィールドを生み出し、傍にある元凶に向かって動き出した。カミーユも同様だった。コウとユウはその場に残った。彼ら程の力はこの2人にはなかった。アムロはその2人に「そこで出来る限りの防護フィールドを張っておけ」と伝えるとユウは頷き、コウは無力さに悔しさをにじませながらも「はい」と答えていた。

アムロとカミーユはその場の近くへモビルスーツ形態で寄ると、その姿を現した。
黒いシャープな構造のモビルスーツ。顔からしてガンダムであることは間違いないが識別やカタログにも未記載な正体不明機だった。

そのガンダムが青緑色な輝きを身に纏い周囲の風を生んでいた。アムロとカミーユはビームサーベルを手に取り、そのモビルスーツへ斬りかかった。しかしまるで何十体とも言えるほどのモビルスーツの馬力かの如くでそのモビルスーツはアムロとカミーユのサーベルの持ち手を手で受け止めては握りつぶした。

カミーユのZとアムロのデルタプラスの手が爆砕した。その反動で後ろに飛びのくとガンという音で何か後ろへ2人ともぶつかった。

「何があるんだ」

アムロは振り向くとそれは今まで戦っていたサイコアプサラスの装甲だった。あの浮かんでいた巨体も着陸していた。傍にはモビルスーツの破片がゴロゴロと転がっていた。白い破片だった。

「・・・何が起きたんだ」

アムロはこの砂嵐がもたらした影響について困惑していた。

* サイコアプサラス 操縦席

エルランの頭部が体よりねじり切り取られていた。その頭部は前部の操縦席に座っていたアイナ・サハリンが握りしめていた。か弱い女性の握力とも思えない力で頭部を粉砕した。

「・・・シ・・・ロ・・・」

アイナは血塗れになって操縦席のモニターを愛おしく触っていた。
するとその画面に黒いガンダムが近づいてきた。

サイコアプサラスのコックピットが静かに開く。そして黒いガンダムのコックピットも開く。
黒いガンダムの中から、全身白い体を持ったシロー・アマダが出てきた。その姿を見てアイナは震えていた。

「あ・・・ああシロー・・・」

そう呼び掛けられたシローはアイナの下へ降り立ち、アイナに触れた。

「アイナ・・・待たせたね」

2人が抱き合った瞬間、2人の周囲より光が生まれて周囲の物資が融解始めた。サイコアプサラスや黒いガンダムも。その現象にアムロとカミーユは驚愕した。

「なっ!」

光に触れるものはすべて砂を化した。サイコフィールドを展開して防ぐことは可能だが、その範囲は留めることなく拡大していった。

カミーユがこの現象と予測される状況を判断してアムロに話しかける。

「アムロ中佐!このままではダカールも侵食されて砂塵と化してしまいます」

「分かってる!しかしこれを止めるには・・・」

あの2人を消すしか思いつかない。生身のひとを焼き殺すなど常人の芸当ではない。

「ぐっ・・・オレらはここまでなのか・・・」

そう悲観していたその時、天から一筋のビームマグナムがその2人に消失させた。
すると辺りは一瞬にして夕焼け空となった。

アムロとカミーユは唖然としたが、モニターでその所業の原因を見上げた。

それは空からゆっくりと舞い降りてきた。
一角獣のような角を持った白いモビルスーツ。
そして圧倒的なプレッシャーを伴って。その感覚はアムロには覚えがあった。

アムロは震えながらもそのモビルスーツへオープンスピーカーで語り掛けた。

「何故だ。どうしたんだララァ!」

その叫びにカミーユは話しに聞いていたララァ・スンという者があのモビルスーツに乗っていることを理解した。とても暖かな力を持つ者と聞いていたがそれとは真逆で深海の様な冷たさを感じ、カミーユは身震いをしていた。

モビルスーツに乗ったララァも広域の音声発信で自分の言葉で話し始めた。

「・・・私は<メシア>。ララァは私たちの一つの心に過ぎない。人は(ことわり)を知ってはならない。気付いてもならない」

「なん・・・だと・・・」

ララァはメットを外して、冷たい視線でアムロたちを見下ろした。

「大事なことに気付けるのは貴方達次第。風向きが私に向けば救済と言う名の滅びを生むことでしょう」

そう言ってララァが乗る白いモビルスーツは万有引力の法則を無視して大気圏外へと飛び立っていった。

カミーユは複雑な顔をしていた。アムロは頭を抱えていた。
傍にユウとコウのZⅡが走り寄ってきた。

「中佐!隊長!」

コウが叫び2人のもとへ到着した。アムロとカミーユの乗る機体は装甲が少し融解していた。
それに2人とも戸惑いを覚えた。

「果たしてオレたちは助けられたのか・・・それとも・・・」

アムロは呟く。確かにララァの出現と彼女の発砲による2人の消滅によって自分たちは救われた。だがあの冷徹さは暖かさを持ったあの時のララァとは違った。

自分をメシアと呼んだ。聖書にも出てくる<救世主>だ。ララァは一体何を伝えたかったのかアムロには理解できなかった。ただ直感が告げていた。彼女は危険な存在だと。

「アムロ中佐・・・。ララァさんは危険な存在です」

カミーユが話し掛けた。アムロは頷く。あのサイコフィールドを大解放というべきかあの物質分解侵食を一撃で突破した意思力。彼女もあの消失した2人と同じく人外の領域へと変化を遂げたとでもいうのか。

「考えるにも時間が無さすぎる。ただ途方にくれるだけだ」

アムロはこの場は諦めることにした。するとラー・アイムのシモンから連絡が入って来た。ラー・アイムが生きていたことにアムロとカミーユは驚きと安堵を感じた。半ば諦めていた。

「ジジ・・・アムロ中佐、カミーユ大尉・・・無事ですか?」

戦闘直後とあってミノフスキー粒子の濃さに通信が若干乱れていた。カミーユがその通信を受けた。

「シモンさん、こちらカミーユです。生存はアムロ中佐、コウ、ユウ大尉の4名でキースが不明です」

「・・・了解しました。当艦はほぼ墜落気味の着陸により航行不能に陥っております。ハヤト氏の艦隊が合流して頂いて只今回収収容作業中です。あと小一時間でそちらにも行けます。待機でお願いします」

「了解です」

カミーユが単独でやり取りをして通信を終え、その情報を4人で共有した。

「待ちですね」

コウがそう言うと、4人とも気が抜けたようにリラックスした。
取りあえずは地球での一連の騒動は片が付いた形となった。4人が何かした訳ではない。全てが外的要因で事が進んでいった。

ビストの贈り物から議会開催でのティターンズ思想の議決に向かうと思いきや自ら撒いた種によるゲリラ攻撃とサイコアプサラスの謎の襲撃。結果、連邦議会の崩壊とティターンズの首脳らの殉職。そこからサイコミュの暴走によりアムロらが瀬戸際まで追いやられた直後のララァの一閃。

世界の動向は政治的思想レベルから別のステージに上がっていったとアムロは考察した。

「・・・これからの問題の中心はあの現象なのか」

簡単な解決方法は皆がサイコミュを捨てれば良い。一度便利なものを体感した人類は文明の利器を中々手放すのは困難だった。

ならばあの力に対抗することを考えなければならない。
それは力とのぶつかり合いで逆に酷い状況になるのではと考えもした。

カミーユも同じ考えだったようでアムロに話し掛けてきた。

「中佐。まるで際限がありません。今ならばコリニーの締め付けたい理由がわからなくもないですね」

「それは言ってはならないぞカミーユ。思想の締め付けは多くのフラストレーションを生む。自由化こそが多くの可能性を活かすことができる」

「知ってますが、進化していく技術の成れの果てがアレでは地球圏が維持できるのかどうか・・・」

すると4人とも索敵モニターに数機の反応を示し、どれも友軍のサインであることに気が付いた。しかしモニターで目視する限りには明らかにジオン仕様の機体なことに物凄く違和感を感じた。

近づいてくるジオン製の機体<ギラ・ズール>に乗るバーナード・ワイズマンより通信が入った。

「我々はサイクロプス隊です。ある方の親衛隊として貴方達と会わせるため、その方を護衛して参りました」

ある方という言葉に4人は引っかかったが、アムロがその方が懐かしくそして知った感覚で眉を潜めた。
この時代のシャアは今宇宙。ララァはそのシャアはシャアではないと言っていた。アムロが知るシャアが別にいてそれは乱れに乱れた精神状態で危険だということも言っていた。

アムロら4人の目の前に赤いモビルスーツが舞い降りた。サザビーに似たような造りだったが騎士道を重んじた様な造りでとてもシャープだった。それは後でシナンジュというモビルスーツだと知った。

その赤いモビルスーツのパイロットがアムロに話し掛けた。

「・・・久しぶりだな。アムロ」

「シャアか!」

アムロは緊張を全開にした。そのプレッシャーにシャアは言葉で制した。

「何を含まれたか知らないが戦意はない。その緊張を解いて欲しい」

アムロは警戒しながらも臨戦態勢を解いた。シャアは頷く。

「さてと・・・あのアクシズから今に至るまで、私の心はこの8年間でブラッシュアップされたとでも言っておこう。あの時の私は打倒アムロとララァへの執着。それは己の未熟さにあったことも。そこで私はある可能性をこの世界で模索することにした」

「可能性?」

「サイコフレームを利用した人類の革新だ。私は敗北者だ。進化の過程で古来より問題を突破して育っていく。その為には常に問題を提起していかなければならないと考えたのだ」

アムロはシャアが話す意味が良く分からなかった。シャアは話をここで止めることにした。

「後はハヤトらと合流してから話そう」

シャアがそう言うと上空にはハヤトらの艦艇がこちらに近付いてくるのをアムロは見た。
それと同時にキースからの連絡がコウに入って来た。

「お~い。コウ~」

「キース生きていたのか!」

キースが乗っていた機体はZⅡでなくギラ・ズールだった。
それにコウが驚いた。

「キース?ZⅡはどうしたんだ」

「ああ、アレはガス欠になってね。サイクロプス隊に助けられ、この機体を借りたんだ」

コウとキースは話し合っていた。カミーユは静観し、アムロは突然の好敵手の登場に頭が追いつかなかった。






 

 

37話 まだ見えぬ夜明け 3.11

 
前書き
とてもゆっくりと書いております。 

 
* シロッコ艦隊 旗艦艦橋 3.11

シロッコは艦隊を微速前進に切り替えた。艦橋で士官たちが戦端を開くよう催促していた。ライラも不満をぶつけてきていた。

「シロッコ!怖気づいたのかい。今突っ込めばこちらが優勢なんだ。わかるだろ!」

シロッコは腕を組んで沈黙していた。艦隊の微速航行には2つ理由があった。
1つはティターンズ本隊の沈黙。もうひとつはメシアの行動だった。

シロッコはここに来て迷いが生じていた。

「(メシアは独自で行動を始めた。私の制御から離れたのか・・・)」

シロッコは自身の及ぶ力で彼女を管理していた。より強いシステムで彼女を閉じ込めようとした。その為にユニコーンを与えた。ユニコーンのシステムはパンドラボックスに近いものだと聞いていた。
日に増す彼女の力を抑えるにはこの世俗の感情を糧に取り込むユニコーンのシステムが一番だった。

それもいつまでも続かないだろうとシロッコは考えていた。彼女を攫ったときの自分の演技は本当に道化だった。そこまで虚勢を張らなければ自分がたじろぐ程だった。あの時の彼女の意思も大いなる意思の下作用されているものだと感じ取ることができた。あのプレッシャーに当てられれば大抵のニュータイプの種も芽吹く。シロッコ自身も例にもれない。

彼女を無理やりにも縛らなければならなかった理由は野放しにできなかったの一言に尽きた。自分が人より秀でていることに自覚はあるが故に見えた予測。実際に在り得ない現象を見せた。閃光の如くドゴス・ギアを貫き、地球へ降りたと思いきや、地力で宇宙へ舞い戻る芸当。異常だった。

シロッコは悪寒を感じた。後背にあるフロンタルよりも絶望的な感覚を。決して彼女は・・・救いたい想いが真実でもその逆らえない意思が人類救済しないだろうと。

「(希望と絶望がこんなにも背中合わせなものなのか・・・)」

メシアが善でもフロンタルが悪でも、到達点が同じならば意味がないとシロッコは見ていた。
シロッコの見る未来。それは過酷な道を歩みながらも生きる人の姿だった。

「(所詮は私と言えど、人のあがきと言う訳か・・・。超自然の前では)」

5分ぐらい瞑想していた。その姿にライラを始め士官らがシロッコの姿に驚きを見せた。

「あのシロッコが考えている」

ライラがそう呟く。今まで即断即決な計算された指示しか、話しかしないシロッコにおいて質問が返ってこない事に皆が危機感を感じた。

シロッコがゆっくりと目を開いた。事を為して結果を見ようと決断した。

「いずれにせよア・バオア・クーは落とさねばなるまい。サラ」

傍に居た小さな士官へ声を掛けた。

「お呼びですかシロッコ様」

「ロンド・ベルが交戦状態に入ったことを見計らって我々も前進を開始すると艦隊に伝えよ」

「了解いたしました」

サラは振り向きオペレーターの下へ歩いて行った。シロッコは不満を言う士官らへ現状を説明した。

「・・・本隊の微速航行はソロモンの艦隊の誘導によるものだ。シーマがロンド・ベルを引き付けてれる。その距離の優位性を利用し我々も動く。ロンド・ベルは選べない2択に迫られて自壊する」

ライラを始めとした士官らはシロッコの作戦に感嘆した。そしてシロッコは各員へ持ち場へ戻るよう促した。

「貴官らの活躍に期待する。呆けてしまい済まなかった」

シロッコが謝ってきた。その事にライラを始め士官らが後ずさりして持ち場へ走り戻っていった。
その姿にシロッコが苦笑した。

* ラー・ヤーク 艦橋 3.11

アムロらはラー・ヤークに収容され、一路アーティジブラルタルへ進路を向けていた。
皆戦闘で疲弊した体を休息に当てた。

夜明けににはまだ1時間ばかりあったが、ハヤト含めたクルー全員は航行の監視に務めていた。
ハヤトは艦長席で副官であり妻のフラウより現況を報告受けていた。

「宇宙もひと段落したか」

宇宙はティターンズの旗艦の大破と指揮官の戦死に伴い指揮系統が乱れ、全てが遊軍と化した。云わば烏合の衆であった。それを見逃さずブライトとシャアは電光石火の攻撃を加えて大艦隊は少数の部隊により全て迷い子の様に救援を求め降伏していった。

ハヤトが嘆息した。フラウがその意見に首を振った。

「いえ、シロッコらのティターンズの残党が妙な動きをしています。何かタイミングを計っているようで・・・」

ハヤトが宇宙の航路図をモニターに回すようクルーへ注文した。すると目の前の大画面モニターに地球圏の宇宙図が表示された。各艦隊や様々な軍の様子も映し出されていた。ハヤトはア・バオア・クーとソロモン、ルナツーの3つの分艦隊の運動に注目していた。

「3つとも石ころを率いて地球に向かいつつある。妙だ」

ハヤトは手を顎にやり、ティターンズはこの作戦行動が何の為かを考えていた。そして1つ見解をフラウへ話した。

「戦力で圧倒する為、各要塞の集合を掛けた可能性がある」

「拠点を集合させて?」

「彼らの強みである3つの要塞。文字通り要な訳で、仮にそこが反対組織に制圧されもしたら地球圏統一事業に支障がでるだろう」

フラウは頷く。ハヤトは話続けた。

「更なる戦術レベルで完全無欠な戦略レベルを補うと言う話だ。各個撃破を恐れてな」

フラウは少し考えて疑問を述べた。

「でも、今の連邦に歯向かえる勢力なんて・・・」

その回答にハヤトは首を振る。

「フラウ、オレたちみたいなのだよ」

「えっ?」

「あのダカールのゲリラ戦。オレたちみたいなのの氷山の一角だ。そんな組織が地球圏にはごまんといる。それが烏合の衆とはいえ多少の統率を持てば、連邦にとっては脅威だ」

フラウは息を飲んだ。私らと言えばただの市民だ。その市民が武力蜂起をする可能性をハヤトは示していた。確かにただの市民レベルな自分らが一端の軍艦を所有している話自体おかしい。フラウは時代が狂っていることを察した。

「確かに私たちがこんな舟に乗っていること自体が連邦にとって脅威だわ」

「そうだ。今や一市民がザクを所有する時代になってしまっている。そこに連邦は脅威を覚え議会開催に挑んだ節もあろう」

「そのために要塞の牽引ですか?」

ハヤトはフラウの問いかけに歯切れ悪く頷いた。各ラグランジュポイントの橋頭保と呼ばれる大型な箇所を失うことに管理を完璧にすることによって宇宙の支配をより簡素化できると考えられる。

コロニーの様な防衛力0な拠点など艦隊派遣で即座に吹き飛ばす事ができてしまう。石ころは中々破壊に手間取る。ハヤトは後もう一つ考えが浮かんでいたが、それはジオンならばやる手法かもしれない。ティターンズの地球愛に満ちたものが考えることではないと思い、特別口にすることは控えた。

* ラー・ヤーク艦内 展望ラウンジ

夜明け前、誰も寝静まってそのラウンジには2人しかいなかった。
1人はアムロ・レイ。もう一人はかつての宿敵であったシャア・アズナブル。このシャアは宇宙にいるシャアとは別人のシャアであった。宇宙のシャアがこの世界のシャアであり、アムロと今一緒にいるシャアこそがアムロの知るシャアであった。

席がカウンターの様に設置され、その向きはガラス張りで外に向いていた。そこに2人並び1つ席を飛ばして座っている。

「・・・私はお前と戦い、あの暖かなサイコフレームの共振に包まれていた」

「そうだったな」

アムロは素っ気ない。シャアは気にせずに話続けた。

「結局のところ、こんな別世界に私らは跳ばされた訳だ。あの時代、あの世界から邪魔者の様にな」

「そうかもしれないな」

「私は気付いた当初、不安定だった」

「・・・」

「だがサイアム・ビストに助けられて、調整を施された」

アムロは初めて反応した。

「サイアム・ビスト?」

「そうだ。かの老人が私に興味を持った。何故生きていたのかと。私にはわからなかった。最初はな」

シャアはアムロを視ようとせず真っすぐ夜明け空を見据えていた。

「私はシャア・アズナブルだったみたいだ」

「それはどういう意味だ」

「・・・実は本物のシャアはキシリアに殺されたのだ。前はな」

「・・・」

「前のシャアはシャア・アズナブルの戸籍を利用したのだ」

アムロはシャアの出生について初めて知った。シャアはそこが重要でないので直ぐ切り上げた。

「と言うことでその殺されるはずの機会で私は死ななかった。そこにサイアムは興味を持った」

「・・・成程ね」

「ビスト財団は我々が知る以前より人の可能性について研究していたことを知った。そのことは私が調整された後だった。その調整で私の不安定はある一つの箱によって封じられた」

「箱とは?」

「パンドラボックスと呼ばれている」

アムロはその存在をカミーユ経由で何となく聞いていた。アムロに答えることはない。まずは彼の話を全て聞いてから答えようと、答えることが生まれるだろうと考えていた。あのアクシズの戦いから時は既に7年余りも経つ。恨み蟠りなど既にアムロの中では風化しようともしていた。

「私を取り戻したときサイアムの願いを聞いた。彼は人の可能性を求める為に人に挑戦を求めたいと」

シャアの目線は夜明け前の地平線を見据えていた。

「私も現状を幾分か把握した後に彼の意見に同意した。その上で私の話を彼に伝え、彼は私の事を受け入れた。そしてサイコミュの進化による人類のパフォーマンスの向上とその結論付けることを命題とし私らは動くことに決めた」

シャアの手元にはコーヒーカップがあった。彼はひとすすりしては話続けた。

「これが物事の根幹だ。私は伝手でゴップに取り入り、連邦とジオンを共存させながらも均衡を取りつつサイコミュの進化に道筋を付けた。幸いお前の様なニュータイプがいることは知っていたからな」

「・・・その科白、もはや頭にもこない」

「私はニュータイプになりきれんかった男だ。お前からも見放され、ララァからも見放された。結果ララァをお前の手から救えなかったからな」

「・・・ララァはオレが殺した」

「結果はな。だが、この時代ではそこは干渉しまいか迷った。一度は見に行った。お前たちに救出されてからオーガスタ研究所に居た時のな。だがそこでララァに私は一つのおぞましさを感じた」

シャアが感情を初めて現した。後悔の念に近いとアムロは横目で表情から見て取れた。

「おぞましい?ララァがか」

「そうだ。彼女はニュータイプだ。それも(まこと)のな。人類の革新を求めてはいずれは彼女の様な存在が現れる。宣託の時というべきか・・・」

「意味が分からない。もう少し簡単に言ってくれ」

「サイコミュの進化は人心を反映して強大な力を生む。それは今までのお前たちの戦いで結果がそう告げた。その力は神の手の様な物理現象をも引き起こす。現代の科学者でも到達できない力に触れることが理解できないことで禁忌(タブー)なのだ。それを<(ことわり)>と呼ぶ」

「理?」

シャアはアムロに向き合って頷く。

「そうだ。森羅万象を司る力の名だ。それに触れることは己を滅ぼす。稀にその領域へ踏み入れることのできる存在が出ることも考慮していた。大抵はあの砂嵐の結末の様な状況となる」

アムロはシャアがあの戦いを何処かで見ていたことを知った。シャアはその事を人が人ならざる領域へ踏み入れた結果だと告げた。

「・・・全ては人の強い想い、願いがサイコミュへフィードバックされて起きた現象と?」

「そう捉えている。ナガノ博士もそこを問題視していた」

アムロはそこでナガノ博士の話が出てきたことに驚いた。シャアは「ちなみに君の御父上とは接点はないから安心したまえ」と一言添えた。

「サイコミュで起きる現象全てが今までの科学を覆す事象。それは周囲の意思の力と。普通に考えて在り得ない。非科学的だ。しかし現状で起きている出来事。脳波を利用してファンネルを使うことすら私らは自然と技術転用で使われていたがアレも不自然だ」

「それも理と?」

「そうだ。さて話を戻そう。私がララァにおぞましさを感じ、近付かなかったのはその大いなる意思を呼び起こす訳にはいかなかったからだ」

シャアはゆったりと話していた。夜明けを待つ様な穏やかな話し方で。

「お前との出会いでララァの持つ力の片鱗を呼び起こしていた。私も触れたことのある忌むべき力。あの力の一部で人を狂わす。だから私との出会い、触れ合いが全てを覚醒させてしまうと感覚で理解できた。私らがこの世界へ転送されたとき、大いなる意思も一緒に転移してきた」

アムロは無言で話を聞いた。

「大いなる意思とは、あの時代までの人々の想い、願いだ。それも一緒になってこの世界へやってきた。その力に運よくお前は触れずに来れたみたいだが、私は多少取り込まれた。だからララァの異質さも感じ取れた。その多くの残りはどこへ行ったかというと・・・」

アムロはシャアの答えを先に述べた。

「オレとお前、2人があの時代の想いを乗せてこの世界へやって来た。そのオレたちの想い、共通項はララァか」

「そうだ。あの時代の想いをこの世界のララァが全て背負い、同化した。最早狂う以上にララァは変化を遂げた。今のララァとは大いなる意思の事だ。アムロ、お前も私も知らない彼女になったのだ。彼女こそが理に触れることのできるニュータイプ。・・・いや、彼女こそが理なのかもしれん」

シャアは胸からタバコを取り出して火を付けた。

「宿命はそうは変わらん。時代的に揺らぎがあまりなければ、ララァは不幸にも命を落とすだろうと考えた。この時代のシャアが見出して戦場へ誘い、お前にしろ誰かに殺されると。私はそれに賭けた。何故なら情けないことに私はララァを殺せない」

アムロはシャアがララァを愛していたことを知っていた。それ故に違うが見た目が同じなララァを危険視しても直接には手を下すことができなかったんだと。

「そのためにシロッコとも接触をしたりもした」

アムロはそうだろうなと思った。シロッコが色々知り過ぎている点が多々見られた。あの傑物は感性が鋭い。シャア以外でも時代の織り手とも話したりもしているのだろうと想像できた。それシャアも次に述べ始めた。

「彼は私以外からでも色々知ったらしい。まあサイアムからと考えてもよいだろう。彼なりにララァを管理下に置くことを考えたらしい。その動機は不明だが、彼なりにララァをどうにかしようとまたは人類の革新を視たかったのかもしれない」

シロッコの思惑は万人の及ぶところではない。理解できれば前の世界でもカミーユとも分かり合えたはず。アムロもシロッコと話したりしたが親しくなりたいと考えたことは一回すらなかった。

「いずれにせよ人を超越したララァを止めることは現段階では不可能となった。彼女の動向自体も想像つかない。気が向けば世界を滅ぼし、もしかしたら何もしないかも知れない。だがそんな不安定な存在を居座らせたまま、暮らすには人類は臆病だ」

アムロはシャアの今までの話に若干違和感を覚えた。ララァ自身の話していたこと。目の前のシャアこそが壊れては破綻し、魂を救いたいと言っていた。その事をシャアへぶつけてみた。

「この世界のララァはお前が壊れて危険な存在と言っていたぞ」

「・・・冒されていた当時の私の存在は世界にとっては非常に危険だ。お前は力を触れずに来たが為、ララァは記憶だけを呼び覚ました。私は違う。あの力に触れたことがある。その事をこの世界へ飛ぶ時に大いなる意思の片割れを私が保持していたことを感覚で知っていたのだ。」

シャアの答えにアムロはララァの話を得心した。

「成程な。シャア、君も人智を超えた力に利用されることをララァは危惧していたんだ。そんな力に触れることが人を狂わす程の麻薬ような誘引作用を持っていることを」

アムロの言うことにシャアは頷く。

「制御できる力でない故にサイアムに出会えたことが奇蹟だったのかもしれん」

「だがお前とサイアムはそれで終いにはしなかった」

アムロは冷静にシャアを弾劾した。シャアは俯く。

「・・・返す言葉もないな。結局はその力の名残が私を驕りに駆り立てた」

「きっかけはシャアとサイアムの人類への挑戦。政治は世論で動くがそれが全てでない。拾えない声すらお前たちは拾うことを可能にするサイコミュを使い、人類の総意を求めた」

「その過程で触れてはならない領域まで成長するとは人の可能性を図り損ねた」

シャアが困った顔をしていた。しかしながらそれに責任を感じることはない。アムロにはそう見えていた。だからと言って特別怒りも感じない。アムロの中でこの7年間であのアクシズの戦いは終わっていた。シャアに覇気はなく、世捨て人の様な存在、敗北者だったとアムロは感じていた。

「私は当初道標はそれでも生きていく可能性へと向いて行くと考えていたが、滅びの道もあるという可能性も人の進化の果てにあるのかもしれない」

「・・・ララァの存在か・・・」

シャアは座っている椅子を回転させて窓に背を向ける状態になった。

「それだけじゃない。あの砂嵐のこと。人は全てがララァの様な存在になる可能性があるということだ」

「みんなが?」

シャアは席から立ち上がった。アムロも振り向きシャアを見る。

「私は傍観者として中途半端な存在だった。どうでもよいと思っていても、ララァの存在に危機感を覚えても何もできない。陰ながらなるべく人の答えを導いていくようにゴップを使って。こうしてお前たちの前に現れたのは物事の終局へと向かう為特等席で鑑賞しようと思ってな」

誰もが怒りに感じるような挑発にアムロはため息を付く。

「・・・みんなの前でそんな話をするなよ。吊し上げに遭うぞ」

「わかってるさ。私の今の身分はゴップの旧次席秘書官だからな」

「それで今は何と名乗っている?」

アムロはまさかシャアと名乗る訳にはいかないだろうと思っていた。しかし名は要る。ふと思いつく名前があった。シャアはその名前をアムロの前で名乗った。

「今はお前も知るクワトロ・バジーナだ。名前の取得にしても容易かった。一度使ったことある名前だからな。馴染みもある」

シャアは笑みを浮かべた。アムロも微笑を浮かべていた。
名前の取得にしても、以前本来のシャアが使用していた偽名であった。
同姓同名などいることが常識で連邦という大所帯になると、あまり調べもしないらしい。

そしてシャアは直ぐ真顔になった。

「お前らはシロッコと対峙する。シロッコも私がテコ入れした一人だ。その後サイアムの仕掛けが動くだろう」

アムロも真顔になり、サイアムの仕掛けについて尋ねた。

「サイアムのだと?オレも仕掛けられた一人だが、そんなのがいるのか?」

「・・・私も実際には知らない。ただ私の傷を背負ったパンドラボックスをサイアムが使っては私とは別に目的を果たそうとしている。最もその意思は既にサイアムから離れているがな」

アムロは手を顎にやり思考した。そしてシャアに質問を投げかけた。

「いずれにせよ答えは誰もに分からない。お前らの仕掛けを全て解いた時に何かが分かるということで良いのか?」

「それでも何もわからないかも知れない。だがララァが覚醒を果たしたことは何らかの予兆であることは確かだ。時代が、世界がもうすぐ飽和状態にあるということだろう。それがこぼれ弾けた時、起こることは何たるかは想像もつかない」

「でもお前とサイアムが仕掛けたことだろう?」

「私らはただストレスを与えた事での影響で変化を遂げるだろうと予測しただけに過ぎない。実際にサイコミュが在り得ない動きを見せたことで始めた話だ」

アムロは大体話を聞けたことで今まで聞いた話を振り返りシャアの冒されていたものを収容した箱について改めて聞いた。

「シャア、パンドラボックスについて知っていることを教えて欲しい」

「パンドラボックス・・・。アレはサイアムが財力を使って希望として開発した感応波の集約システムだ。その密度たるもの際限を知らない。サイアムは私が抱えていた幾億という感情を収容したとも聞く。脳波を吸い上げてエネルギーとして演算変換処理できる装置だそうだ。理論的にはそれを実用の装置へつなぐことでの爆発的な作業効率の向上が図れると」

「サイコフレームの様なものか」

「アレは操縦者の意識をアウトプットしているだけだ。パンドラボックスとの大きな違いは一つ一つの収容できる感応波の力など大したことはない。それが数千、数万という微小な感応波の集合体は私らの様なニュータイプを凌ぐ力を有する」

「・・・シャアとサイアムの仕掛けによるこの世界の歪な流れ、オレたちと一緒にタイムワープしてきた世界の感情がララァへ流れ込み覚醒。シロッコの暗躍とサイアムの残りの仕掛け。もうないよなシャア」

「ああ、私の仕掛けたものは全て終わった。思想の解放を目指しゴップに働きかけてサイアムの持つ切り札を運んでもらったのだが・・・」

「オレが運搬した彫像か」

シャアは頷く。

「そうだ。しかしキレイさっぱりとあの巨体の巨砲に吹き飛ばされた。政治機能と共にな。計算外だった。まあ今までも計算などしていなかったがな。最初ぐらいなものだ」

シャアは肩をすくめた。アムロはシャアが操作できたものを興味本位で聞いた。どうやら連邦の緒戦の月での安全な開発と厭戦でのジオンと連邦の長期化の働きかけだった。だからグラナダがジオン基地になって尚フォン・ブラウン市で見過ごされていたのだと。更にキシリアとビストとのやり取りも関係があったそうだ。敵も味方もあったものじゃないとアムロは思った。

「地獄の沙汰も何とやらだな」

アムロがそうぼやく。シャアは少し笑い、ラウンジをアムロを残して後にしようとした時、
ふと振り返りアムロへ真剣な顔で話し掛けた。

「アムロ・・・、お前はこの世界で一体何を成し遂げたい?」

唐突な質問にアムロは返答を窮した。暫く考えてから答えた。

「最初は自分の知識で戦争の早期終結を目指した。そうすればララァとの悲劇や他の悲劇を避けることができると。ただ・・・ただ単純な事を考えていた。今もそれを願う。起きている事態が誤っているならばオレはそれを止める」

シャアはその返答に悲しそうな表情をした。

「・・・いつかお前へ人類すべてに叡智を授けてみせよと告げた。それがこの7年間で私が努力したことだ。勿論その為の犠牲は私の責任でもある。アムロ、お前の様なニュータイプこそが様々な問題にあたり、考え、解決すべきだった」

そうシャアはアムロに言い、ラウンジを後にした。その表情にアムロはため息を付いた。

「(オレを買いかぶらないでくれ。思想などそんなことよりも日常の平和を保つで精一杯だし十分だ。シャアのような志はオレにはない)」

アムロは一人ゆっくりと昇りそうな朝日を見つめていた。

「(だが、ララァはあの砂嵐の根源を消した。そして理に触れてはならないと。あれを何を意味していることなのか・・・)」

いくら自問自答しても答えは得られない。ララァは味方なのかもしれない。でもシャアはそんな考えがナンセンスな存在だと言っていた。もうすぐアーティジブラルタルへ到着する。これから宇宙に上がり、残されたティターンズ残党と決戦を行う。一つ一つの積み重ねが答えを導きだしてくるだろうと楽観視することに決め込んだ。

* アーティジブラルタル 推進ロケット台 ラー・ヤーク 艦橋 11:00

固定された装置にラー・ヤークは乗っていた。乗っているだけならばまだ水平なのでブリッジに主要クルーが集まっていた。その中でクワトロと名乗るシャアが話をしていた。皆最初は訝しげにシャアを見ていた。明らかにあのネオジオンのシャアと瓜二つだったからだ。

元々自身でも道化と評す程演じるに巧みなシャアは怪しい点を感じさせず殆どの全クルーに話を信じ込ますことに成功していた。自身のシャアとの類似も世に似た人物など探せばいたりするものだということで片づけた。最もアムロとのタイムワープの件を除いては、そして搭乗していたカイ、ミハル、ハヤトを除いては。

「・・・と言うことで今日に至っている。何か質問でも有ればどうぞ」

するとカイがすっと手を挙げる。そしてとても直線的な責任を問う質問を投げかけた。

「クワトロ秘書官。個人的に聞きたいことは個人的にしたいと思います。さしあたりゴップがビスト財団通じて、またその逆かも知れませんが、人類の革新という当てもない計画がジオン独立戦争と今日までの犠牲者を生んできたという話でよろしいのでしょうか?」

クルー皆が当然の様に思っていた質問だった。悪意が皆シャアに向く。今までの戦いが為政者によるものだとシャアは告白していた。その取り巻きの1人であるシャアに矛先が向いた。シャアは頷く。

「そう取っていただいて構わない。成り行きでそうなった迄だが、いつの世も為政者が舵を切ってその方角がたまたま悪天候だったという話。それは舵取りの責任である」

シャアは一つ間を置いて、再び話し始めた。

「今までもそれを乗り越えては反省をし、人は学んできた。たらればの話、その時に右に切った舵を左に切ったらそれは犠牲者が少なかったかと尋ねればそれは答えられないだろう」

アムロはシャアの話に心の中で頷く。前の世界はその左に切った世界だった。今もそれなりの犠牲者は出ている。カイは納得する。

「成程。とても理論的な意見だ。検証する立場である我々には十分です。質問としてはとても不躾だったがこれも仕事柄なことと捉えていただけたらば幸いです」

シャアはカイの謝罪を受け入れた。最も両者とも悪意有って話をしてはいないことを知っていた。

「いえ、皆の言いたい意見を丸くそのまま問いて、そしてその答えを貴方は代表して受け入れた事に感謝致します」

このやり取りによりカイよりも博学でない他クルーはその悪意の矛先を見失ってしまった。ベイトがケッとケチを入れた。

「ったく、何なんだい。勝手な人のやり取りだけで人がこんなに死ぬなんて」

傍に居たバニングがベイトを宥めた。

「それが人というものだ。政治にしろ人がやっているものだからな」

「しかし隊長、モンシアが浮かばれませんぜ」

「その原動力の向け方で良い社会を生み出していければいいんじゃないか」

バニングもためらいがちながらも正論を述べてベイトを黙らせた。彼も部下の喪失に苛立ちがあった。

少し離れたところにアレンとクリスがその話を聞いていた。

「バニング隊長も苦しいねえ」

「・・・私も首都防衛隊の面々を失ってます。気持ちわかります」

クリスは下に俯く。そこにバーナード・ワイズマンが2人に飲み物を差し出した。

「あの人の気持ちわかりますよ。オレたちもどれだけの仲間を失ったか。その都度歯がゆい思いをしましたのでね」

クリスはバーニィの飲み物に手を出し、「有難う」と言葉を添えた。それをアレンは好機と見てその場を離れた。

「じゃあバーナード君といったか。お前に此奴任すわ」

「え?」

「な、大尉?」

2人とも驚きを見せた。その後アレンは捨て台詞を告げた。

「オレはこう見えて妻帯者なんだ。だからあんまり若い女史には付き合ってはいられないのよ」

アレンは飲み物だけ受け取り、その場から離れてバニングらに混じっていった。その事にクリスは笑い、バー二ィは苦笑した。

「ハハハ・・・私をお子様扱いか・・」

「ったく、余計な・・・」

「あら余計なの?」

バー二ィはクリスの軽い挑発に両手を挙げた。

「いえ、ドリンクサービスの狙いわかっていたでしょう」

「ふ~ん、まあこんなうら若き乙女に声を掛けてくる男性はそんなもんでしょうね」

「そう、そんなもんですよ」

「まあ健康的なことは良いことよ」

「そう思いますよ」

それからクリスとバー二ィは談話に華咲かせていた。

アムロ、シャア、カイ、ハヤトの4人が情報意見の交換をしている最中、カミーユから火急の知らせが舞い込んできた。

「アムロ中佐!緊急です。宇宙(そら)へ上がったら止めなければ!」

アムロはカミーユに内容を求めた。

「どうしたというんだカミーユ」

「ブライト艦長の回線から、ア・バオア・クー、ルナツーは予定のコースに乗って運行中ですがソロモンがコースを逸れてます」

シャアが眉を潜め、カイがため息を付いた。そしてハヤトが結論を言った。

「ココへ向かってきているんだろ」

「えっ?・・・そのようです」

その要件も4人の間で、ハヤトが危険視していたことでそれを話をしていた最中でもあった。ソロモンの地球落とし。理由は不明ながらもやる方は相応の覚悟と想いを持っての事。ならば我々が止めなければならないとアムロ、カイ、ハヤトは思っていた。

* 地球軌道圏内 ロンド・ベル艦隊旗艦 ラー・カイラム 同日

ブライトもソロモンの軌道を掴んでいた。いち早く艦隊をソロモンと地球の間へ滑らせた。
先の戦いで戦力の半分が補給が間に合わずに残存兵力でソロモンのティターンズ艦隊を相手にするほかなかった。戦力差はブライトらに分があった。上手く半包囲できればティターンズの軌道艦隊本隊よりくすねてきた兵器の利用ができた。

ソロモンの足を止めるべくブライトは先発部隊でケーラ、スレッガー両部隊をソロモンへ向かわせていた。隕石の軌道が落下阻止限界点を超える前に核パルスエンジンを破壊しなければならない。彼らはラー・カイラムらが向かうまでのソロモンの掃除だった。

ラー・カイラム艦橋でトーレスが両部隊の移動位置を逐次報告していた。

「ケーラ隊、ソロモンより手前で戦闘状態に入りました。スレッガー隊はその戦闘空域を迂回してソロモンの側面から突く形です」

ブライトはスレッガーの戦略眼に感心した。

「友軍の戦闘の間隙を突く。冷静な判断がないとできない芸当だ」

そうブライトが言うと副長のメランは頷いていた。そして疑問を口にした。

「だが何故あの艦隊はソロモンを地球落下軌道へなど・・・」

メランの意見にブライトが首を竦めた。

「ただの暴走だろう。現にア・バオア・クーとルナツーは減速し、牽制しているようだ。ティターンズの指揮系統はあの旗艦ドゴス・ギアの沈黙により取るべきの行動を取っている」

「確かにドゴス・ギアの撃沈で周囲状のティターンズの残存艦隊は様子見のようです」

「ひとつ、今起きている事態に善処することが大事さ。これからハヤトたちも合流してくる。こちらの陣容も少ないながらも厚くして今後を検討しなければな」

ブライトは腕を組んで、目の前のシーマ率いるソロモンのティターンズ艦隊を見据えていた。

* サイド3 空域

ジュドーとプルツーがZZとキュベレイMk-Ⅱで偵察飛行かねてやってきていた。
グレミーはサイド6の農業事業を足掛かりに月のグラナダ市を取り入り、サイド3の取り込みに掛かる所だった。

如何せん厚くのしかかる威圧感と絶望感に気分の悪さを感じる2人が先遣隊を志願した。
グレミーも了承し、可能ならばギレン総帥の様子も確認して欲しいとのことだった。

もうそろそろズム・シテイのコロニーに辿り着く。しかしながら偵察隊も何もいない。
それも異様だった。この空域が全てが異様なのだが。

途中でコロニーを覗いた。人が暮らしていた。普通にだが普通でない。まるで生気が感じられない。
人が規則正しく並び行動をする。そこから外れることがない。

プルツーも作られたものだが、感情はあった。ここに居る者はそれがまるで感じられない。
争いもないようだから一種のユートピアだろう。だがその気持ち悪さが尋常でない。

「生きているのに・・・生きていない」

プルツーがそう漏らす。ジュドーも頷く。

「ああ。アイツらは何かされたんだ。その原因もこの空域に感じる感覚だ」

他のいくつかのコロニーも同じだった。そして2人はズム・シテイの近くまで来た。そこで2人はある残留思念を感じた。その感覚にジュドーはプルツーに問う。

「感じたか、プルツー!」

「ああジュドー。わかる。・・・彼があのコロニーへ行くように促している」

「何かわからないが、この思念は悪くない。元々行くところだったから行こう」

「わかったジュドー」

ジュドーとプルツーは2人でズム・シテイのコロニーへと入っていった。

* ズム・シテイ内 政庁

ジュドーとプルツーは無人のコロニーを闊歩していた。
大きな特徴的な政庁。その中へ誘われるよう入っていった。

歩く音しか聞こえない。ジュドーとプルツーは気味悪さを感じていた。

「・・・街が死んでいる」

「そう思うよ。でもここに何故誘われたのだ」

何か意味があるはずだとジュドーは思った。プルツーは何かに憑りつかれたの様に歩み出していた。
その動きにジュドーは声を掛けた。

「おっ・・・おいプルツー!」

それでもプルツーは歩みを止めない。そしてある無機質な壁の前に付き、手を使い壁に指で叩いた。すると前の壁が開き通路ができた。その中をプルツーは入っていく。

ジュドーは唖然としながらもプルツーの後を追った。その中はとても広い空洞で、下へ降りる延々とも続く螺旋階段が続いていた。まるで黄泉路へ落ちていくかのようだった。

「なんだこの暗い空間は・・・」

ジュドーはその終着点に辿り着く。勿論プルツーもそこに居た。そこは何者かが荒らした後だった。ジュドーは荒れた中で幾人もの人が倒れているのを確認した。その者は皆裸だった。男性も女性も居た。

ジュドーは女性の裸を見て赤面した。恐る恐る近づくと顔を青ざめた。

「なっ・・・プルツー!・・・じゃない・・・」

プル、プルツーによく似た女性だった。男の方はグレミーだった。プルとグレミーが沢山死んでいた。
ジュドーはその異様さに、気持ち悪さにその場で吐いた。

「うっ・・・おえっ・・・」

ジュドーは落ち着き、ふと視線を上げると奥でプルツーが立っているのを見た。プルツーの視線の先に培養カプセルに入ったある人の部分が入っていた。それは五体が存在せず女性の体だけの姿だった。

「・・・これが私・・・」

プルツーはそっとそのカプセルに触れると突如光を放った。その光に反応して、ホログラムが出現した。ジュドーはそのホログラムに映る人物を知っていた。ギレン・ザビであった。

「・・・私はあらゆる可能性を考慮し、この仕掛けを残した。作動するとき私はこの世に存在しないだろう。生体反応の消失が起動できる条件の1つとなっている。そしてこれが起動するときは人類がある瀬戸際にあると考えている」

ジュドーはゆっくりながら話すギレンの声に耳を傾けていた。プルツーも我に返り、ギレンを見上げていた。

「私は私なりのやり方で人類を導くつもりであった。そして守るつもりでもあった。私は世界の全ての情報を持っていると自負している。しかしながら私も万能ではないことで鬼籍に入った訳だ。このクローン施設は守護の役割のひとつだ。彼らの特徴は不自然な点にあることだ。自然に反するもの。それに私は期待したい」

ジュドーはこのクローン施設を非人道的行為と感じ、それを期待するギレンに怒りを覚えた。

「プルツーは造りものなんかじゃない!」

そう本音をぶつけようともホログラムには返答する機能はない。ギレンは話し続けた。

「これより人の意思との戦いになる。その到達点はこの不自然なクローンですら自然の一部になり得るかもしれない。ならば人の手でつくりだそうがこの施設で作られたものも人なのだ」

すると壁が動き出し、その奥に大きな格納庫が見えた。その格納庫内に緑色の大きな機体が見えた。

「これをどう使うかは使う者次第だが、世界が良い方向に往くことを祈り、願い託す」

そしてギレンのホログラムが消えた。ジュドー、プルツーともギレンの話が意味不明だった。
ただひとつ正体不明なモビルアーマーをこの2人に託されたということだけだった。

プルツーは自分の掌を見た。

「・・・私に仕掛けられた細工だったのか・・・」

そう呟くと、ジュドーがプルツーに歩み寄ってきた。

「良く分からないけどくれるっていうなら貰って帰るか。一定の結果を残せたからな」

プルツーが「結果?」と聞くと、ジュドーは頷く。

「ああ、このシステムの起動条件がギレンの死だったわけだからな」

グレミーの指示の一つがギレン総帥の生死確認。このホログラムの再生がギレンの死による仕掛けだと本人が発言している。これを信じることにジュドーは決めた。

ジュドーとプルツーは新しく開かれた部屋、格納庫内へと足を運んだ。すると遠目からもコックピットが開いているのが分かった。ジュドーとプルツーはそこに乗り込んだ。どうやら2人乗りだということも分かった。座席が前後で2つあったからだ。

コックピットに収まったジュドーは感覚が研ぎ澄まされていた。このモビルアーマーの影響であった。それについて自身で驚いた。

「これは・・・」

その反応にプルツーも同意した。

「うん・・・ジュドー、わかるな」

「ああ・・・こいつは動かせる。いやそれ以上にしなくちゃならないことが」

「うん、わかるよ」

ジュドーとプルツーに体感したことない知識が頭へ入って来た。エンジンに火を入れると格納庫の扉が閉まり、そのフロアが下に降りる感覚を感じた。するとあるところで止まり、下がハッチになっているようで底が開く。ジュドーは機体をそのまま降下させると宇宙空間へと出た。

前部にプルツー、後部にジュドーが座乗し、頭で念じた。すると誰も乗っていないはずなのにZZとキュベレイMk-Ⅱがコロニーから出てきた。それを見てジュドーは口笛を吹いた。

「こいつは凄い。今までのインターフェイスとは桁違いだ」

「ジュドー、あまり調子にならないでよ。この機体はいわば危険物だ」

「わかってるさ。使いようによってはだ。コードネームは・・・」

プルツーが操作パネルからこの機体の品番を見つけた。

「NZ-999。ジオングだ・・・」

名前を聞いたジュドーは「さすがジオンの機体だけある名前だな」と呟いた。プルツーが操縦し、サイド3のある一つのコロニーへ近寄る。

「ジュドー、ここで1つ試してみよう」

プルツーの提案にジュドーは同意した。するとジオングの機体が緑白く輝きその光のカーテンが目の前のコロニーを包み込んだ。数十分後、プルツーとジュドーは汗だくになり、息切れを起こしていた。

「ハア・・・ハア・・・こいつは・・・きついぞプルツー」

「ハア・・・ハア・・・だけど・・・成果が出たはずだ・・・」

ジュドーはコロニーの通信機能を念でジャックした。そしてコロニー内の監視カメラを見ると、規則正しく動いていた人たちが自我を持って動き出していた。言わば普段通りの生活を営み始めていた。
ジュドーは頷き、プルツーは振り返りジュドーへ話し掛けた。

「ジュドー・・・ハアハア・・・今は・・・これだけに・・・」

「ああ・・・スーッ・・・ハア~・・・そうだな。今はここまでだな。プルツー、グレミーのところへ戻るぞ」

ジュドーが今度は操縦桿を握り、月へ向かって行った。それを見る一つの機体があった。とても巧妙に気配を消していた。赤い機体シナンジュだった。

中に乗るフロンタルがジオングの姿を見ていた。

「・・・フフ。ギレンの置き土産はゼウスシステム以外にあったとはな。それでも世界の痛みは解消されない。しかし面白い」

フロンタルは不敵に笑っていた。

「こう話がこじれる要因があることは私にとってはプラスだ」

フロンタルもシナンジュを操り、ゼウスへと帰投していった。


 

 

38話 途切れた1つの想い 3.12

 
前書き
えー、並行世界なので。その辺割愛くださいまし。
取りあえず書いていかないと・・・
 

 
* 月 グラナダ市 3.12

グレミーはグラナダ市の4つ星のホテルに宿を取っていた。戦力としては余りに乏しいグレミー艦隊はいち私兵として動く上で民間企業への転進が大きな勢力からの脅威を防いでいた。商談に次ぐ商談で着々とグレミーは企業としての幅を月まで広げていた。

部屋はそれ程広くはないシングルルームを取っていた。ベッドと椅子テーブルがある。その部屋にグレミーが座り、ジュドーとプルツーは立っていた。

グレミーの表情は険しい。帰属意識の組織が希望した地球圏の帰還は望郷の念からであることからジュドーとプルツーのもたらされた情報はそれに反することだった。

「地球圏からの離脱だと?」

グレミーは部屋の椅子より身を乗り出す様な仕草を見せては直ぐに腰かけた。ジュドーが取りまとめたレポートをグレミーに渡した。

「これは?」

グレミーが問うとジュドーは明確に可笑しな返答をした。

「オレたちが乗ってきたジオングにはギレンの遺産というべき意思が載っていた。それを書き上げただけだ。だがオレもそれが良いと思う」

ジュドーの隣に並んでいたプルツーも頷いていた。

「元々農業・・・第一次工業生産を基軸にしたグレミーカンパニーだ。ジオンの勧めは宇宙に出ることで地球に帰ることではない」

「プルツーの言う通り。オレたちは地球というお母さんに甘えていたんだ。ギレンはそれを実現しようとし、連邦にチャチャを入れられたのさ」

グレミーは書類に目を通した。ギレンの統治は地球連邦内から抜け出た組織の確立。しかしながら今のグレミー軍というべきかアクシズの当時は地球圏の帰属意識が根強かった。その為の独立戦争の仕掛け、統制でもあったのかもしれないとグレミーは考えた。

「・・・総帥は苦労していたんだな。連邦よりも強大な敵と対峙していた。地球というゆりかごに・・・」

グレミーは書類をテーブルに置いて宙を仰いだ。

「ふう・・・かくも私も皆の熱気に当てられ地球にこだわり過ぎていたのかもしれない・・・」

グレミーは姿勢を正し、ジュドーに向き合った。

「して、このマシュマー・セロ、キャラ・スーンたるもの。火星の先遣隊としてアステロイドベルトより持ち出したフィフスルナを中継地として今も活動中だと聞くが・・・」

ジュドーが頭を掻いて困った顔をした。

「そうなんだけどな。ここに来る前に協力してもらう為チラッと通信をしてみたんだ。元々ギレンの尖兵だからな」

「それで?」

「絶不調に終わった。アイツらは頭がイカれてる」

グレミーは不思議そうな顔をしていた。

「・・・それはどういうことだ?」

プルツーが代わりに説明した。

「マシュマー、キャラともジオンや地球圏など興味ないとさ」

ジュドーが不機嫌そうにその説明に上乗せした。

「あいつらにとっては世の中がどうのこうのなどどうでもいい話なんだ。農業と畜産に命を注ぎ過ぎて当初の目的を忘れていやがる。軍属じゃないのかアイツらは」

グレミーは手を顎にやり考えた。世間からの角度の問題であって、マシュマーらは世捨て人であり、地球の重力から放たれたニュータイプとも思えるとグレミーは1つ答えを出していた。

「・・・そんな彼らこそ我々には必要なんだ」

ジュドーとプルツーはキョトンとした。

「なんでだい?」

「お前らのレポートを読んだからだ。この思想、理想は少しでも地球圏の想いがあると実現しない危険な賭けだ」

プルツーは納得した。ジュドーは眉を潜めた。

「成程ね」

「何が成程だプルツー?」

「ジュドー、外に出ると言うこと自立とはうちに帰らない覚悟があってこそだ。そこに固執せずこじんまりとした小惑星で自活している彼らの精神は一つの解決策だ」

グレミーはプルツーの意見に頷く。

「そうだ。多様性の中でそんな想いも自立の1つのきっかけだ。だが、皆があいつ等みたいにバカではない」

「おいおい身も蓋もない」

ジュドーはマシュマーたちの同情した。その前まで非難していたのは誰だと言わんばかりの顔をプルツーは見せていた。

「イカれていると言った奴はどこのどいつだ?」

「おい、揚げ足取らないでくれ」

グレミーは軽く笑った。そして真顔になり2人が乗って持ってきた機体について質問した。

「して、お前たちが持ってきたジオングはどういう機体だ?」

ジュドーとプルツーは顔を合わせて肩を竦めた。ジュドーから話し出した。

「何というか・・・アレは兵器ではないが・・・」

「使いようによっては最強だな。武器はないが、サイコフレームによるサイコミュニケーターを極めた機体だ。その装置を使ってZZとキュベレイを持って帰ってきたんだ」

グレミーは腕を組み、話を聞いていた。ジュドーが話続けた。

「アレの機体の巨大さの理由のほとんどが電算システムだ。理論値では数百機の無人サイコフレーム機体を操作可能だ」

グレミーが少し考えて答えた。

「フロンティア開発に作業効率を図るためか。無人なら貴重な人材を失う必要ないからな」

グレミーはアクシズに居た。そこの開発は常に危険と隣り合わせだった。全ては人海戦術で、いつ小惑星帯で事故は起きるかで大人たちは不安だった。そんな危険性ですら地球圏への望郷の念の後押しをしていた。実際アクシズは戻って来ていた。

ジュドー、プルツーもその話をグレミーやアクシズの面々から聞いていた。望郷の念が一番の敵。
それを解消しない限りは地球からの巣立ちは不可能な話だった。

「・・・地球圏のコロニーもまだ地球があるから安心していられる。地球から遠ざかることで念は強まる。それが解消できない」

グレミーがそう話すとジュドーが指を鳴らし、問題についてある一つの回答を提示した。

「その故郷の念の話だけどよ。あのジオングは人の脳波まで干渉できる性能がある」

プルツーも頷き、ある実験結果を伝えた。

「ここに来る前にサイド3のコロニーの様子を伝えたが覚えているかグレミー?」

「ああ、何か洗脳されたような機械的な動きを全員がしていたことか?どうしてそうなったかは知らんが」

「その洗脳をこのジオングで解いた」

グレミーは感嘆した。

「ほう、1つのコロニーの制圧が可能だと」

ジュドーとプルツーは首を振った。

「いや、オレとプルツーでその洗脳を解くだけで精一杯だった。モビルスーツと違って人の心は複雑すぎる」

「簡単な洗脳ぐらいなら、地の部分に貼り付いた不純物を取り除くだけでいけた」

「だから、コイツで人へ安堵感ぐらいなら与えられるということさ」

ジュドーは笑みを浮かべて話した。プルツーは平然としている。グレミーはその話を目を瞑り検討した。ジオングで全てをカバーできるほどの性能はないと判断した。グレミーは首を振る。

「お前たちの力ではジオング有っても夢物語だ。総帥の遺産はそんなものなのか・・・」

グレミーのため息を付く。そんなため息をジュドーは再び指を鳴らす。それにグレミーは不満げに言った。

「なんだ、出し惜しみするんじゃない」

「別に出し惜しみじゃないさ。この機体の巨大さの理由は電算システム、インターフェイスが桁違いだからだ。その理由はこいつはあるものの管制塔だったんだ」

そうジュドーが言うと、プルツーがタブレット端末をポケットから出して、あるホログラムを映した。それは機械的な球体だった。当然グレミーは疑問を述べた。

「なんだこれは?」

「ゼウスというらしい。何処にあるかは知らないが、この球体の機能が全ての不安や問題を解消してくれるということだ。その不安などの想いを燃料にして動くらしい。その影響力は地球圏をカバーする」

プルツーがそう話すと、ジュドーが補足した。

「この球体の制御にジオングが必要だというわけだ。独自でもそれなりの機能は活かせるみたいだけどね。ただ不安定らしい」

グレミーは機械が思念を燃料として動くという不可思議な現象に一瞬戸惑いを覚えたが実際サイコミュがそうなので、そのまま飲み込んだ。ホログラムとそれについての追加資料をプルツーから提出されてそれをグレミーは読んだ。グレミーは取りあえず結論を出した。

「・・・当面はフィフスルナへの交渉とゼウスの捜索だな。この事業はイーノらも必要となるな」

ジュドーが頷く。

「イーノが築き上げたアナハイムと連邦とのパイプが農業事業を迅速にサイドでも有数の会社まで成長させたからな。この一大事業も奴の集金力をあてにしようぜ」

プルツーが行動の提案をした。

「ゼウスは私とジュドーでやる。あのジオングとゼウスはリンクしているみたいだからな。探しやすいと思う。フィフスは誰をやる?」

グレミーは悩んだ。ジュドーたちが正論で伝えても取り付く島もなかった。その方向性ではだめだと言うことだ。自然主義に囚われたマシュマーらを説得するには。ふとジュドーはあることを思い出した。

「そういえば・・・」

グレミーとプルツーはジュドーの答えを待った。

「以前シャングリラ時代、オレらがシャトルで宇宙探検していたとき、地球圏に忘れられたコロニーがあった。そこの族長と面識がある」

「なんだい、そんなところがあるのか?」

プルツーが相槌を打つと、ジュドーはタブレット端末で航路図を出して場所を指した。

「場所はここだ。そこは軍事力も持たず独自の生活圏を築いていた。あそこの族長の黒幕が嫌な奴でそいつをオレらが叩きのめしたんだ。サラサとラサラがいる。彼女らなら交渉役に適任だ」

グレミーはどんなひとか気になった。交渉役で自分たちの運命も握るためでもあった。まず自分がそのものと会う必要があった。

「それではジュドー、その彼女らを紹介してくれないか?それで判断する」

「OK。モンドとビーチャを付ける。アイツらならサラサたちの橋渡しに適任だ」

そして細部を詰めて、ジュドーとプルツーはグレミーの部屋から退出していった。
グレミーは椅子にもたれかかり、振り返って総括していた。
 
「(私はあの頃は野心に溢れていたが、こうまでも落ち着いてしまった。理由はわかる。ジオンが失われてから大義が消えたからだ。今は唯の農夫だ。愛想を尽かしラカンは出ていった。急にのしかかってきた皆を守らねばならないという責任がこの様だ・・・。だが、これが良い心地だと感じる。私も普通な感覚の持ち主だということだな」)

グレミーは立ち上がり、港の母艦へ連絡を入れた。通信に出たのはエルだった。

「ハ~イ、グレミー。どうしたの?」

「ビーチャとモンドは居るか?」

「うん、モビルスーツデッキでザクⅢとゲーマルクの世話をしているよ」

「了解だ。直ぐにでも出港するから準備しておくようにと伝えてほしい」

エルは突然の事で驚く。

「エッ!今から!どこに?」

「最終的な目標はジオン所有の漂流小惑星フィフスルナだ。連邦らに捕捉される前に拿捕する」

エルはグレミーの回答にキョトンとした。

「フィフスルナ?何それ」

「これからのカンパニーの宇宙開拓の為に必要な小惑星だ。勢力も弱い我々に最高のカードとなり得る。地球主義な者達にはとても邪魔な存在だ」

「なるほど~。それを今度は会社所有にするのね」

エルは今までのグレミーが会社の為にしてきたことを振り返っていた。必要なものは全て登記して所有していった。今度はそれが小惑星だった。

「しかしそれが難航している為、ある援助を受けることにした。その橋渡しでムーンムーンへ行く」

そのコロニーの名前にエルは首を傾げた。

「何でだい?あんな田舎コロニーに何があるというのかい?」

グレミーはその質問に回答する。

「私は面識がないが、そこと族長にフィフスルナを仕切る者達を説得してもらうというのがジュドーの考えだ。フィフスルナに住まう者達が一種のスピリチュアリズムに冒されている恐れがある。我々の話が通じないらしいのでな」

エルはそれ聞くと腕を組み頷いた。

「彼女なら話ができるかもしれないな。わかったさ。準備しとくからこっちにきなさんな」

そう言ってエルは通信を切った。グレミーは立ち上がり部屋を後にした。

* フィフスルナ宙域 グレミー旗艦エンドラ 3.14

艦橋でグレミーは交渉の結果を待っていた。アステロイドベルトには鉱物資源などの探索で開拓は進んでいたが恒久的な移住空間の建設ではなかった。

その拠り所を開拓しようとする計画がこのフィフスルナ。そこの住人は既に自活可能な力を持っている。その技術の取得は火星の移住に欠かせないものだろう、そうグレミーは考えていた。

アクシズの時代もそうであったが、ライフラインの安定供給は欠かせない。結局のところ地球からの補給が命綱。それでは自活ではない。

このフィフスルナはジオンの記録によれば、ここ1年無補給らしい。フィフスルナは小惑星ながらテラフォーミングに成功した稀有な拠点なのだ。その成果を火星で行おうと言う訳だ。

グレミーはサラサとラサラに会った。両女史とも信頼におけることが分かった。
彼女らの感性ならば、グレミーの感性ではあのマシュマーらとは話すらできないことが分かった。

グレミーはサラサとマシュマー、キャラとの会話を聞いていた。ギレン総帥の遺志を継ぎ、火星のテラフォーミングに助力して欲しい・・・という説得が利かない理由が良く分かる。

彼らは純粋な農夫だった。日々の暮らしの維持で必死であり満足充実していた。それに水を差すグレミーらの行動は敵愾心以外の何物でもなかった。

グレミーは腕を組み、頭を掻き、首を回すなど落ち着きなく、その姿を見たエルはグレミーに声を掛けた。

「どうしたんだい?落ち着きないよ」

そう言われたグレミーは深くため息を付いた。

「ふう・・・何かむず痒い感覚がする」

エルはちょっと考え込んでは両手をポンと叩いた。

「それは蕁麻疹だよ。グレミー、ここ最近休めていないじゃない?」

グレミーは自身の組織の為ほぼ無休で尽くしてきていた。そのガタがここに来てきたようだとエルに言われて自覚はしたが、それにしても嫌な感じがしっくりこない。

「そうだな。この辺で一休みしたいが、何か嫌な感覚にならないか?」

エルはグレミーの問いかけに呆けた。

「なんだい?急に意味不明な・・・」

しかし、グレミーの嫌悪感がエルにもゆっくりながら感じ取れてきた。この宙域を蝕むような感覚だった。エルも徐々に顔を顰める。

「確かに・・・むず痒いね・・・なんだいこのプレッシャーは・・・」

グレミーは一足跳びで艦橋の出口、通路へのドアに近付いた。

「エル、ここは任せる」

エルは突然の願いに戸惑う。

「ちょっとグレミー!どこ行くの?」

「バウで出る。何か嫌なものがこの宙域へ近づいてくる」

そう言ってグレミーはモビルスーツデッキへと急いでいった。

* 同艦内 格納庫

モンドはザクⅢを整備していた。ふと見上げるとグレミーが無重力により、浮遊しては自機のバウへ取り付く姿を見て取れた。

「おーい、グレミー!何しに行くんだよ」

その声にグレミーは反応し、

「モンド!お前も一緒に哨戒しに行くぞ。メカニックらを皆格納庫から出るよう通達してくれ」

モンドはグレミーの真剣身のある声に顔を引き締めて、周囲に出撃の話を伝える。

「わかった。これからスクランブルだ。みんな下がってくれ!」

モンドの声掛けに周りのスタッフは皆引き揚げていった。自身もザクⅢに搭乗し、グレミーは先んじてカタパルトに乗って出撃した。

「グレミー、バウ出るぞ!」

モンドはグレミーの出撃を見届けるとザクⅢをカタパルトに乗せた。

「モンド、ザク出る!」

推進力を得たザクⅢは宇宙空間へ勢いよく飛び出ていった。その瞬間モンドはこの宙域にまとわりつく嫌な感覚に包まれた。

「うげ、なんだこれは?」

その問いにグレミーはバウを使い、正面を指差した。

「アレがその正体だ・・・」

モンドはグレミーの指すところを見ると、そこには1機のモビルスーツと10数機程のモビルアーマーが編隊を組んで待ち構えていた。

* マ・クベ部隊 宙域 同日

マ・クベはモビルスーツのコックピット内で瞑想していた。
10数機の護衛はかのクローンたちだった。皆銀色のエルメスに乗り、マ・クベのローゼンズールを護衛していた。

この機体はマーサによってカスタマイズされた。エルメスらのコントロール仕様に仕立てた。
これによってマ・クベの能力でクローン部隊を手足の様に扱える。

マ・クベの仕事はフィフスルナを潰す事だった。理由は、

「ギレンのやることなど私の仕事の差し支えにしかならないでしょう。フロンティアなんていらないわ。私がビスト家当主として世界を良い方向へ導くから」

という風に根拠もない、第一ビスト家当主は順序良く往くなら夫の方だろうとマ・クベは思った。ただ自分のやりたいように思うがままにしたいだけであった。

最もこの指示はフロンタルが裏から手びいきしていたことをマ・クベは知っていた。

「(あんなものが何の脅威か・・・)」

マ・クベはそう思った。ゼウスのブラックボックスの解析が進み、ギレンの野望としてゼウスとフィフスルナの関係がゼウスに登録されていた。マ・クベも一読はしている。人類の地球外適応試験。地球を棄てても生きる為の技術と精神力。フィフスルナの実地調査は全てゼウスへデータとして転送される。

人類にとってはプラス材料な実験だろう。だがフロンタルはそうは感じないらしい。それ故にマーサを誘導させて、フィフスルナの破壊をマ・クベに命じたのだろう。

「(全て実験データは自動でゼウスに転送される仕組みになっている。あの中の者らはそれをルーティンワークとして外部との接触も断つように洗脳されているはずだが、それを消すとは)」

実験を独占したいということなのかと考えたが、それがフロンタルの願いと考えるにはいささか無理があった。マ・クベ自身が話をして分かっていた。それはフロンタルには野心がないこと。何かを向上させるなどそういう意味合いで。何か目的はあるはずなのだが、それを人間としての側面で考えると彼には当てはまらない。

「(・・・ただ消したいだけのか?)」

そう結論が出てしまう。彼の願いは抹消にあると。このフロンティア開発は地球圏との離脱よりも人類の可能性を更に高める。人類が地球圏の外に出る次のステージに繋がること。それを消すと言うことは彼は人類を地球圏内に留めておきたいということ。

マ・クベは想像した。そして嘲笑していた。

「成程、私の様な破綻者には持って来いの人物だフロンタルは。それが望みならばあのフィフスフナとやらも掃除していてやろう」

マ・クベはVRメットを被り、脳波で周囲のエルメスに通達した。マ・クベはマーサ、フロンタルによって強化されていた。その成果によりクローン達に意思伝達命令ができるようになっていた。

周囲のエルメスはジオン初期のエルメスとは若干異なっていた。まるでクジャクの様に背にランスの様なファンネル8基を背負っていた。マ・クベの命により周囲に2機を残して全てがフィフスルナへと突撃していった。

その状況をグレミーとモンドは目撃していた。向かってくるエルメスらから発せられる邪気は殺気でもあった。これにグレミー、モンドともこれから向かってくる敵が何をしたいかを肌で感しては即座に戦闘態勢を取った。

「一機として抜かれるなよモンド!」

「ああ、わかってるさ。ラサラさんがあそこにいるんだ。やらせはしない」

グレミーは感覚を研ぎ澄まし、向かってくる全てのエルメスを捉えた。その感覚にエルメスのクローン達は急停止した。その感覚をマ・クベも感じ取っていた。

「(なんだ?全て射貫かれる様な感じは・・・)」

マ・クベは前衛のエルメスのサイコミュをハックして目の前の敵を見た。目の前には2機のモビルスーツ。その1機からとてつもない威圧感がエルメスらに向けられていた。

グレミーは感心した。エルメスがすべて急停止したことに。

「ほう、大分ましな敵らしいな」

そう言いながらライフルをエルメスの方へ向けていた。いつでも射撃出る様に。
マ・クベは少しの時間静観したが、即座に仕掛けることにした。事態を変える為には行動が必要だと考えてのことだった。

エルメスからランスファンネルが放たれた。グレミーはそれをライフルで無駄玉せず撃ち落としていったが数基だけ。10数機の1機当たり8基。数が多かった。

「埒があかない。このままではジリ貧になるな。ならば」

グレミーは狙いを変えてエルメスを落とすことにした。ビームライフルをエルメスに向けて撃ち放った。グレミーの視野はエルメスの動力系統の急所を捉えていた。1撃で射貫かれたエルメスは爆発はせずにその場に停止し、行動不能に陥った。

それを見ていたモンドがビームサーベルでとどめをさした。

「グレミーの後始末ぐらいやらないとオレの価値がない」

行動不能のエルメスを袈裟斬りでサーベルを振り落とし、爆破四散させた。グレミーはランスファンネルの猛攻を凌いでは他のエルメスも同様に射貫き、モンドがとどめを刺す。10分間で4体のエルメスが撃破されていた。

マ・クベは目の前の敵の脅威を理解し、自身のローゼンズールを戦闘宙域へ移動させた。
マ・クベの移動にグレミー、モンドが気付く。嫌な感覚の根源が近づいてきたからだった。

マ・クベはクローンらにファンネルの収容と戦闘距離を置くようい命じた。グレミーとモンドはエルメスが射程外に出たことにより、一旦戦闘を休止した。グレミーとモンドの前にローゼンズールが来ていた。ローゼンズールから発光信号が出ていた。宙域内で受信できれば肉声で交信可能な信号だった。

「そこの2機モビルスーツよ。私が相手しよう」

そうマ・クベが告げるとエルメスたちがグレミー達を迂回するようにフィフスルナへ進路向けて動き出した。

「まっ・・・逃がすか!」

グレミーが行動を取ろうとすると体が一瞬固まった。まるで金縛りのようだった。
その原因を知るか如くマ・クベが言い放った。

「私がお前たちの相手をするのだ。他には目を配らせん」

ローゼンズールから発せられる闘気がグレミーとモンドを戦慄させた。正面向かって対峙しなければ致命傷を受けかねない威圧感だった。グレミーは深呼吸をして相手に飲まれないように対処し、モンドへこう伝えた。

「モンド、回線でフィフスルナへ連絡。壊滅の脅威が迫っている。そこから逃げろと」

モンドはグレミーと違って汗だくになり、何とか意識だけは保っていた。戦闘に支障が出るほどのコンディションだったので、グレミーに頼み込んだ。

「わ・・・わかった。グレミー、オレは・・・」

その様子を察したグレミーはバウで手振りでモンドを後方へ下がるように伝えた。マ・クベはモンドが後方へ下がる事に特別意識はしなかった。計算上、モンドが追いかけようがエルメスたちには追い付かないと、仮に追いついてもモンドではエルメスの相手にはならないと先ほどの戦闘で読んでいた。

グレミーはライフルの射線をローゼンズールに向けた。しかし引き金が引けなかった。

「・・・こいつは、当たらない」

グレミーの空間認識能力はジオンの中でも異質だった。グレミーは狙ったものを全て落とす才能があった。故にアクシズで異才を放ち、ギレンにも好かれていた。前提として狙えたかどうかだった。

ローゼンズールは射程内に入っていたが狙えなかった。射線は向けていても避けられるイメージしか湧かなかった。グレミーはライフルを握ったまま、もう片方の手にサーベルを持った。

「(時間が無い。仕掛けて隙を作る)」

グレミーはローゼンズールに斬りかかっていった。ローゼンズールは腕のインコムを作動させてグレミーの上下を挟み込む形で射撃した。

「甘い!」

グレミーの空間認識能力は射撃だけでなく敵の攻撃も然り。ローゼンズールの攻撃を肩の動きや胴体の捻りなどで回避しながらもローゼンズールへ接近していった。マ・クベはその動きに感嘆し、自機を後方へ下げた。

「インコムを避けるとは。出来るパイロットではないか」

グレミーのバウとマ・クベのローゼンズールは至近距離となった。グレミーはローゼンズール目がけてサーベルを振り下ろした。マ・クベはローゼンズールを体を開いて、バウを中に入れる様な形に持っていった。

グレミーのサーベルは下ろしてからすぐさま横へ薙ぎ払おうとしたが、ローゼンズールのインコムがピンポイントにバウのサーベルを握る手を狙撃して、破壊した。しかしその爆発の余波でローゼンズールの片腕のインコムの線が一緒に切れてしまった。

その損傷にマ・クベは計算外であって、苦虫を潰したかのような表情を見せていた。そんな猶予もないままグレミーの攻撃は続く。

グレミーは衝撃で逃げたローゼンズールを近距離で射程に収めた。今度は躊躇なかった。感覚的に直撃確実だったからだ。

「とどめだ」

グレミーがライフルの引き金を引いて、ローゼンズールへ直撃弾を浴びせた。しかし、ローゼンズールの前で緑白い発光ではじかれてしまった。その現象にグレミーは驚いていた。

「なんだと!」

グレミーはI・フィールドか何かのジャマ-かと想像した。ローゼンズールにI・フィールドは搭載はされていたが、この防御では使用していなかった。ローゼンズールの周囲が徐々に緑白くなっていった。

「・・・死ぬかと思った。・・・この私を殺そうとしたな・・・」

マ・クベが唸った。その瞬間マ・クベ自身も何か得体の知れないものに意識が飲み込まれようとしていた。マ・クベは薄れゆく意識の中でモニターにあるシステム動作の信号が映し出されていた。

「(PD-Mだと・・・まさかフロンタルが・・・う・・ぐ・・)」

マ・クベのローゼンズールは煌々と緑白く輝いていた。その姿をグレミーが見とれたが即座に操縦桿を握り、ローゼンズールと距離を置いた。

「この光はなんだ。そしてこの絶望感は・・・」

グレミーは目の前の敵を相手にしてはならないという感覚を本能で感じた。有り得ないことが起きている。今まで感じていた悪寒の正体がこれだったのかと思った。

少し後ろにいたモンドは固まっていた。ローゼンズールの得体の知れない発光に金縛りにあったかのようだった。その感覚にモンドは感想を漏らしていた。

「なんだよこれ・・・。ハハ・・・動けないじゃないか」

その金縛りもローゼンズールの発光が収まった時、何故か解けていた。グレミー、モンドともただの緊張だったのだろうと思った。しかし変わらないのはローゼンズールの存在感だった。

一瞬だった。グレミーの後方のザクⅢがインコムで撃墜されていた。
その光景を見てグレミーは唖然としていた。

「(早すぎる・・・)」

モンドの死に悲しむ暇なく自身の死の危機が迫っていた。ほぼ至近までローゼンズールが詰め寄っていた。グレミーはライフルをローゼンズールに目がけて放ったが弾かれてしまう。

「(こいつは・・・いわゆるサイコフィールドか。バウのサイコミュを凌駕する)」

現在のモビルスーツの機構は全てサイコフレームが一部仕様となっていた。その為サイコフィールドを展開できる者同士ではフィールドの強さに関係していた。

グレミーはバウを飛行形態に変形させて、脱兎の如く逃げることを優先した。

「(今死ぬわけにはいかない)」

グレミーは一路エンドラへ帰投するため戦場から離脱を図った。しかしローゼンズールはそんなグレミーを追撃していった。

* フィフスルナ 居住区 マシュマー邸 執務室 同日

マシュマーは執務机に座り、報告書を作成していた。その場にはキャラとサラサ、ラサラ姉妹にビーチャが居た。キャラがマシュマーに話し掛けていた。

「マシュマー、このコらの力にならないか?彼女の自然思想はあたしたちに通ずるものがあるよ」

マシュマーはキャラの話に目を一度だけ上げて、再びパソコンに目を落とした。

サラサとラサラはその部屋の端にある長いソファーに腰を下ろしていた。その椅子の隣にビーチャが腕を組んで立っていた。そのビーチャの腕時計型通信機が呼び出しの音を出していた。

「なんだ。エル」

ビーチャは通信に応じた。相手先の声が尋常ではなかった。

「ビーチャ!急いで逃げて。そこで殺戮が起きる」

その連絡に執務室の全員がビーチャを見た。ビーチャは頭を掻いて内容を尋ねた。

「一体どんな物騒な話だ。詳しく簡潔に言ってくれ」

「フィフスルナがエルメスに包囲されて、槍型のファンネルで全ての区画を破壊するつもりだ。グレミーからそう連絡があった。追伸でそいつらにモンドが・・・殺された」

モンドの事でビーチャの顔色が変わった。そして声のトーンが落ちた。

「そうか・・・ビーチャがか・・・わかった。すぐ脱出する」

ビーチャが通信を切ると、ビーチャはサラサ、ラサラにフィフスルナより出る旨を伝えた。

「サラサさんにラサラさん。話は深刻です。モンドがやられることは尋常ではありません」

「そ・・・そんな。モンドさんが・・・うう・・・」

モンドの死を聞くや否やラサラは慟哭した。
サラサはその脅威について黙って頷きながらも、ラサラを慰めていた。

その話を聞いていたマシュマーは港と通信を既に取り終えていて、物事の真偽を確認できていた。
マシュマーがビーチャに向けて話す。

「・・・ビーチャ君。君の友人の話はどうやら真実のようだ」

キャラがマシュマーの話に驚く。

「おい、マジで言ってんのかよマシュマー」

「ああ、部下の話によるとあと30分後にはフィフスルナにモビルアーマータイプが10機近く到着予定だ。識別不能なので、どうやら招かざる客のようだ」

マシュマーは立ち上がりビーチャへ提案した。

「無論、我々は防衛の為戦う。が、君らは部外者だ。この宙域は戦闘状態に入る。即刻出ていってもらおう。キャラ、ビグザムは?」

マシュマーの問いかけにキャラは指を鳴らして答えた。

「いつでも」

「わかった。ビーチャ君、サラサさん、ラサラさん。君たちの脱出の援護ぐらいはできるだろう」

そう言うとマシュマーは執務室から出ていった。ビーチャはサラサ、ラサラに声を掛けた。

「生憎オレたちには戦力はない。元々交渉で来たからな。港のシャトルでエンドラに戻りましょう」

「ええ、それがいいでしょう。ラサラ行きましょう」

「はい、姉さん」

ビーチャ達も館を出て、港へ急ぎ足で向かって行った。

* フィフスルナ 宙域 ビグザム コックピット内

マシュマーはビグザムに搭乗していた。7年前と比べて改修、改良され、今は1人乗り用のモビルアーマーとなっていた。コックピットのユニットはサイコフレームで作られていた。

マシュマーは360度全天周モニターコックピット内で包囲網を固めつつあるエルメスを眺めていた。

「ふむ、絶景かな。冷たい殺意が私の肌を冷やしてくれる」

そうマシュマーが独り言を言うと、ワイプにキャラが映し出されていた。

「おいマシュマー!何訳の分からないことを言っているんだい」

マシュマーは画面を見ては横目で自分の傍に飛んでくる赤いヤクトドーガを見た。そして再びワイプに映るキャラに目を戻した。

「フフ・・・キャラよ。この未開の地で私らは熱くなり過ぎていたのだよ。このような演出でのクールダウンもたまには必要と思わないか?」

「バカか?あたしは戦闘で燃えるタイプなんだよ。いい迷惑だ」

マシュマーは上目使いでフンと鼻を鳴らした。

「思想の相違だな。さて、サクッと片づけてやろうか」

ワイプ映像のキャラはニヤッと笑った。

「そこについては同意する」

2人は包囲網を敷くエルメスを眺めていた。

* フィフスルナから脱出のシャトル内

ビーチャはフィフスルナを取り囲むエルメスらとその中央に座するマシュマーとキャラの機体を船内の後部カメラより見ていた。シャトルの出発はエルメス部隊の到着前だったため、既に安全圏内だった。

「マシュマーさん・・・ご無事で・・・」

ビーチャが座る操縦席の隣でサラサが祈っていた。ラサラは目を腫らし、そしてまだ薄っすらと泣いていた。ビーチャは2人を見て、ここへ同伴したことに後悔した。

「(畜生・・・グレミーの判断が間違っていたとは言わんが、結果がこれだ。モンドが・・・畜生め!)」

ビーチャは操縦桿を握りながら震えていた。今になって家族のような存在の喪失感がビーチャを襲っていていた。それに気が付いたサラサは無言でビーチャの手の上に手を重ねた。大丈夫という念を込めて。

「!」

ビーチャはサラサの行為に一瞬驚いたが甘えることにした。シートにもたれかかり、少し目を閉じた。
深呼吸をしてから気合いを入れた。

「ふう。有難うサラサさん。大丈夫です」

ビーチャは振り返り、サラサを見て笑顔を見せた。サラサはその表情を見て微笑み返した。

「ふふ、でもあまり無理なさらず」

ビーチャは顔を引き締めて、フィフスルナを省みることなく進路に目を向けた。
取りあえずはエンドラへ戻る事が今のミッションだということを自分へ言い聞かせていた。

* グレミー旗艦 艦橋

艦橋は敵機来襲のサイレンで慌ただしかった。エルが各クルーへ指示を出していた。

「索敵!どの方向から何が来るか確認してよ!砲撃手は周囲のデブリのゴミを掃除しといて。無線はグレミーとの交信は?・・あー、モビルスーツ部隊の出撃?そうねえ、何があるか分からないからスクランブルね。で、・・・ビーチャのシャトルが向かってる?ガイドビーコンを出しといて」

エルは艦橋内を縦横無尽に走り回り、クルーはエルを頼る。エルは目を回しそうになっていた。
1人のオペレーターがエルを呼んでいた。グレミーとの通信が取れたのだが、通信状態が悪いとの回答だった。そこでエルが代わりにその通信に出た。

「ジジ・・・早・・・そこか・・・いど・・・来る・・・」

ホントに通信が悪かった。戦闘状態であることが明らかだった。そして索敵モニターは遠くながらもグレミー機のサインをキャッチしていた。

「ったくよ~、何がどこからどんな感じで来るって?」

「ジジジ・・・・」

通信が1分程、通信雑音が聞こえたのちにいきなりハッキリとした音声がエルに届いた。通信可能なラインまでグレミーがやって来ていた。

「エル!モンドをやった奴が私を追跡してきている」

「なんだって!そんな厄介な奴を何でこっちに連れてきた!」

「総員に退避命令を出せ!」

エルはグレミーが艦を捨てろという命令に当然問いただす。

「何で艦を捨てなければならないの!」

「無人艦でも大きな的だ。私の帰る母艦が無くなれば私が更に窮地に立つだろう。そう思わせるためだ」

エルは戦慄した。グレミーの言い回し方はまるで自分が囮になるようなことを言っていた。

「グレミー・・・私たちだけ助かろうなんて!」

「業務命令だ!早くしろ。選択の余地はない!」

「そこまで・・・そこまでしないといけないのか!」

「そこまでの敵だ!通信を切る」

グレミーによって一方的に通信が切られた。エルは震えながら、全クルーに艦内放送で退避命令を下した。

「総員退避!脱出シャトルへ急げ!砲撃手は遠隔処理を仕掛け、退避完了後グレミーの方角へ威嚇射撃。ビーチャへ進路の変更を伝えるんだ。目的地は地球圏サイド3宙域」

そこからの艦内のクルーの動きは素早かった。10分後には既にシャトルへ皆乗り込み、エンドラより四散していった。

* バウ グレミー機

グレミーは飛行形態で自身の母艦へ向かっていた。追跡するローゼンズールとは幾ばかりか距離は離れた。

「(だが、いつまでも逃げられない。燃料には限りがある・・・ん、しかしあのモビルスーツの拠点は?)」

一瞬過ぎった考え。片道切符の様なものならば、逃げ回ればローゼンズールはガス欠で終わる。若しくは燃料補給に拠点へ引き返す可能性もある。それにしても隙はあるとグレミーは思った。

グレミーは通信文を受けた。エルからだった。全員の退避が完了したと報告があった。その後の威嚇射撃のことも書いてあった。

「(よし。一度エンドラに補給に戻ろう)」

グレミーは既に目視でエンドラの姿を見ていた。

グレミーはモビルスーツ形態に戻り、エンドラへ強制着艦した。エンドラのハッチをバウのマニュピレーターを使い手動で開けた。

中には脱出の為に出払ったモビルスーツの跡、シャトルの格納されていた跡が見えた。
グレミーはバウのまま入っていって、周りを見渡した。補給燃料のタンクを探していた。
それを探している時に1つのモビルスーツが目に入った。

「(こいつがまだあったか。ビーチャが載っていなかったからな)」

グレミーはバウの機体破損と燃料のことを考えて即断でそのモビルスーツへと移った。
燃料ゲージを確認し、満タンを理解した。

「(このゲーマルクならば、バウよりも火力が違う)」

グレミーの耳にエンドラの砲撃音が聞こえた。エルの言った威嚇射撃だろうとグレミーは思った。
グレミーはエンドラからゲーマルクで再度出撃した。と言えど、エンドラのすぐ傍に居た。

グレミーは手で両手のツボを揉んでいた。

「さて・・・そろそろ来るか」

グレミーがそう呟くと遠目からローゼンズールがスピードを出して近づいてきた。そうグレミーが思った瞬間後背のエンドラから爆発音が聞こえた。

「なっ!」

グレミーが後方カメラで確認すると、有線アームがエンドラを破壊しつつあった。ローゼンズールはまだグレミーの射程でなかった。

「なんて距離を!」

グレミーはローゼンズールの広域射程に驚いた。グレミーは離れていると不利、近づいても不利の為逃げたが、どのみち待つことが不利と理解した。ゲーマルクをフルスロットルでローゼンズールへ向かって行った。

「この火力でお前のサイコフィールドを押し切る!」

グレミーも自身のサイコフィールドを展開して、ローゼンズールに近距離でメガ粒子砲を浴びせた。
しかしローゼンズールは雨を凌ぐ傘の様に粒子砲を弾いていた。それを見たグレミーはサーベルを取り出して、より近距離で斬り込んでいった。

「ならば直接!」

ローゼンズールはその斬撃を最小限の体捌き、捻りで避けた。サーベルでの直接攻撃は有効だとグレミーは思った。グレミーの攻撃は続く。避けた先にマザーファンネルをグレミーは仕込んでいた。

後背からローゼンズールを攻撃しようと念じたが、ローゼンズールのインコムは既にこの宙域に戻って来ていて、グレミーのマザーファンネルを破壊していた。

「読まれてた。だが!」

グレミーはローゼンズールの体を掴めるぐらいの距離にいた。サーベルを持たない方の腕を伸ばしてローゼンズールの肩を掴んだ。そしてゲーマルクをローゼンズールの正面に抱き合わせた。

「この距離ならば!」

ゲーマルクの零距離粒子砲が放たれようとした。しかしローゼンズールの中央より緑白い発光が斥力となりゲーマルクを強制的に引き剝がした。

「ぐっ・・・」

ゲーマルクはローゼンズールと少し距離を置く形になった。相変わらず離れると不利な展開の為、グレミーは舌打ちをしていた。

「ちぃ。死角がない」

グレミーが勝機が見いだせないでいた時、辺りに異様な感覚が漂っていた。それはこの宙域から逃げるエルやビーチャら、エンドラの全クルーの居場所が理解できる感覚。

グレミーは焦っていた。この感覚は自分が発したものでない。これを知っている、または知りたいから出ている感覚。それを発したものは目の前にいるローゼンズールだということを。

「・・・貴様、一体何で見せた。このイメージは!」

するとグレミーの視えた中で、シャトルの1つが爆発四散した。その映像には有線アームが視えていた。

グレミーはじっとローゼンズールを見据えた。有線アームの1つがそこには無かった。
グレミーは静かに震えていた。そしてゆっくりと怒りを煮えたぎらせていた。

「・・・そうか。全てを奪おうとするんだな。貴様は・・・貴様はー!」

グレミーの憤怒の精神がグレミー自身の才能を昇華させた。
ゲーマルクから緑白い光が放たれて、グレミーはその事に気づいていない。しかしそれ以外は気付いていた。

「(・・・視える。奴の隙が)」

グレミーは残存のマザーファンネルを起動させて、ローゼンズールを攻撃した。今度は距離が有ってもローゼンズールは避けていた。

「(避けた。しかし逃さん)」

グレミーは再びスラスターを全開にして、ローゼンズールに迫った。再びゲーマルクのサーベルがローゼンズールへ振り下ろされた。今度は避け切れない。ローゼンズールの頭上から二つに機体が割れるかと思った。

ローゼンズールの有線アームの残りの手がゲーマルクのサーベルを持つ腕を下から掴んだ。
ローゼンズールから発光信号音声がグレミーへ語り掛けていた。

「・・・ここまでだな。お前らはここで終わる。私がパンドラボックスの恩恵を授かったのだからな」

グレミーは話の内容が理解できなかった。

「何のことだ。パンドラボックスとは?」

マ・クベは正気に戻っていた。マ・クベは一笑してその質問に答えた。

「この世の怨念、憎悪、災厄の感情が収められた箱。それを理解することで得られる叡智。人の感情は負の産物故に、それを極めた力はサイコミュを極限まで性能を発揮できる」

ローゼンズールのアームはゲーマルクの力を凌駕し、サーベルを持つ腕を握り潰していた。

「なんと。素晴らしすぎる」

マ・クベは自身の力に感嘆していた。そしてより力を欲しようとしていた。

「私の力の源は不幸を呼ぶこと。お前たちの繋がりを全て断つことにしよう」

マ・クベは展開できる有限の視野を宙域に展開し、エンドラの脱出艇を全て射程に収めた。
その感覚はグレミーにも伝わった。

「や・・・やめろー!」

グレミーはゲーマルクをローゼンズールへと突撃させた。ローゼンズールは向かってくるゲーマルクを蹴り一閃で胴体部を蹴り抜いた。ゲーマルクは上半身と下半身で真っ二つになった。その力もマ・クベは驚き興奮していた。

「ふ、フハハハハハ!なんてパワーだ」

マ・クべは高らかに笑っていた。その時、破壊されたはずのゲーマルクがローゼンズールに吸い寄せられるように同機に貼り付いた。そのぶつかった衝撃にマ・クベは再度驚く。

「なんだ。これは?」

するとマ・クベの頭にグレミーの声が響いた。

「(そんなに力誇りたいならくれてやる。これがお前の望む負の力だ!)」

マ・クベが聞いた言葉の後にローゼンズールの全ての計器が振り切れ、オーバーロードし始めていた。

「なんだと!バカな!よせ、やめろー!」

ローゼンズールは内部から膨らみ始めてその膨張に耐え切れず爆発四散した。

* フィフスルナ 宙域

キャラは腹部脇に大きな傷を負っていた。自分でも目が霞んでいるのが理解できた。恐らく出血多量だということだろうと。

「はあ・・・なんだよ・・・これは」

キャラが薄れゆく意識の中で眺めていたのは炎上するフィフスルナと全体がランスファンネルで串刺しにされたビグザムだった。通信に応答はない。マシュマーは恐らく話せない状態なんだろうと思っていた。

「ハハ・・・それはあたしもそうなるな・・・ゲホ・・・」

キャラの乗るヤクトドーガも四肢無惨に破壊されていた。しかし、エルメス全機の撃墜に成功していた。

「あーあ・・・あたしらの生活が・・・結構充実してたんだけどな~」

キャラは涙を一筋流して、ゆっくりと眠りについた。



 

 

39話 持て余る力 3.11&12

 
前書き
特別まとまりなくても良いと最近思えて書いています。
自然体な感じになるかなと。登場人物にしろ人ってそれぞれ価値観違いますから。。。 

 
* 地球軌道圏上 ラー・ヤーク 艦橋 3.11

主たる面々が顔を揃えていた。ハヤト、アムロ、ベルトーチカ、カイ、ミハル、カミーユ、コウ、キース、ユウ、バニング、ベイト、アデル、アレン、そして新たに加わったクワトロと秘書官兼親衛隊なるシュナイダー、ミーシャ、ガルシア、バーナード・ワイズマン(通称バーニィ)と首都防衛隊のクリスティーナ・マッケンジーと大所帯になっていた。

ミケル、キキのシローにゆかり有る者達、そしてシナプスは地球での残務処理の為同乗しなかった。

その中でクワトロが話し始めていた。通信モニターでフォン・ブラウン市のアナハイムのある研究施設と繋がったままで。そこにはアムロの父親テムとオクトバーが映っていた。

「さて、ソロモンが地球への進路をとっていることについて・・・」

クワトロがテムの画面を2分割にして戦略図を映し出した。

中心に地球、傍に連邦の地球軌道艦隊とネオジオンの艦隊、そしてラー・ヤークらの部隊。ソロモンとティターンズのシーマ艦隊、傍にブライトのロンド・ベル迎撃艦隊。ルナツーとティターンズの艦隊。

各宇宙要塞は地球を中心にトライアングルな構図でその中でソロモンだけが一つ抜き出て地球へ接近中だった。

「ティターンズの暴走による隕石落としと言っていいだろう。これは進路と速度を持ってして疑うことをする事態を考慮に入れている猶予はない」

アムロが頷く。

「そうだな。あっという間に阻止限界点を突破してでもされたら元も子もない」

地球の引力に如何なる脱出策も効かなくなる限界点。だが・・・

「それはソロモンがそのままであればという話だろう」

テムがモニター越しで発言した。クワトロも同感だった。

「私が仮にそれを実行に移したとしたら・・・」

クワトロの言葉にアムロの眉間が軽く歪む。

「一番恐れるのは推進力の停止か隕石の体積減少にある」

一同の中でキースが首を傾げ質問した。

「あの~、推進力の停止は分かりますが、体積の減少って?」

コウが代わりに説明した。

「地球へ様々なデブリを今でも落としているのは知っているよな?」

「・・・ん?」

「大気圏の摩擦熱は尋常でない。モビルスーツなど消失させるほどだ」

「あー!成程」

キースが合点がいったようだった。テムが話し始める。

「そうだ。古来より地球はあらゆる隕石から守られていたのは大気層の為でもある。それを突破するような質量には地球は直接ダメージをもらう」

一同が頷く。アムロは昔を思い出していた。そうアクシズの落下のことだった。
あのときもブライトが接舷して破壊工作を行った。それは失敗に終わったのだが。

「・・・その轍を踏むわけにはいかない・・・」

アムロの呟きをベルトーチカだけは聞いていた。

「(一体何のこと?)」

ベルトーチカはアムロにバレない様に横目で見ていた。テムもクワトロの提出した戦略図を眺めていた。

「クワトロ君と言ったか?」

テムの唐突な呼び掛けにクワトロはモニターのテムを見た。

「何でしょうか?」

「有事をソロモンだけに限定するのは安易でないのかなと」

艦橋にいる皆がざわついた。カミーユはテムの危惧することを口に出した。

「ティターンズの首脳部が全て消えた訳じゃない。パプテマス・シロッコのことを言いたいわけですね」

テムが頷く。テムもアナハイムを介して連邦の内情を仕入れていた。それが商売に繋がるためでもあるから故に仕方ない話だった。

「洞察素晴らしいですな、お若いのに。流石z(ゼータ)の設計先任者だ」

カミーユは首を振り、謙遜する。

「ガンダムの第一人者に言われ光栄です。それぐらいならこの場にいるもの大体が気付いています。それがこの動揺ですよ」

テムは頷く。

「さて本題に入ろうか。何故私らがこの第一線の戦場に立つ君らのブリーフィングに通信ながら呼ばれたか」

そうテムが言うと、代表してハヤトが話し始めた。

「想定の下、ソロモン級の隕石を如何に効率よい爆破を仕掛けるか。それも対象物の内と外での対処。計算を弾き出してもらいたい。ここに居るパイロットらよりも遥かに優れる技術者としての力を地球の為に助けてもらいたい」

テムは少し笑った。それに対して幾人か嫌な顔を見せた。その行為に即座にテムが謝罪する。

「申し訳ない。地球を守りたい、守りたくないがスペースノイドとアースノイドの戦いの一つの考え方だとふと思ってね。・・・母なる地球がそれほど人類にとって大事なのかと。まあ何でも人の手で壊そうとする意思は基本良くはない」

全クルーが黙ってテムの意見を聞いていた。

「シロッコという者の驕りというものかな。人は何らかの形で依存できるものを求めてしまう。かくも私もアナハイムという受け皿に身を委ねてあまり何も気にしないでいるようにいた。・・・万事が本当はどうでも良いことなのだ。それを放って置かない奴らが問題があるのだと私は考える」

地球を壊そうとする意思を持つ者、理由が在れどそれはするべきことでないし、別の事に目を向ければ良いことだとテムは意見の1つとして考えていた。アムロも父親の意見に甚く同意した。

「親父の言う話が最もだ。やり方の強引さの多くは不幸へ導く」

テムは息子の意見をたしなめた。

「アムロ、その考え方も人を不幸にするぞ」

アムロはムッとした。

「親父はシロッコがやろうと思う行為が正しいと!」

「全て正しい訳じゃない。視方の違いなんだよ。良し悪しは全て結果を見なければ答えは出てこない。万事どうでも良いなど私が思うだけであって、それは傍観、停滞を意味する。進化に停滞など有り得ない。そこの周りにいる人たち全員がどう思うか、考えるか、これが大切なんだよ」

アムロは頭を掻きむしった。そしてテムに詰め寄った。

「じゃあ親父は地球に隕石が落ちて住めない星になっても一つの選択だというのか!」

「起こり得る1つの選択肢だ。やる側の、そこまでのリスクを負ってまでのことについて何らかの理由を考えたことはあるかい?」

アムロはテムの言うことに言葉が詰まった。ただ破壊が正しいことではない一辺倒でしかなかったからだった。傍にいたクワトロは厳しい表情でテムを見ていた。テムは嘆息した。

「困っているひとを助けたいので動いているならば、そんな彼らを救ってやるための戦いだということも知って戦うことだな。首尾よく全てを綺麗にした後何も残らないぞ」

クワトロはアムロの現状での限界についてテムが良く説明したと思っていた。アムロは大人すぎた。まだカミーユの方が純粋でいる。力を持つ者がそれを避けて通ろうとすることをアムロは実践してきた。それは社会的には非常に迷惑なことでもあった。

組織は優秀な人材は上にあるべきである。それが世の為だ。逆はそれこそ不幸でしかない。

ハヤトは親子の話から強引に本題へと戻した。

「レイ博士。話が脱線してます」

「おっと、失礼。私らで効率良い、爆破計画を練っておきますよ。爆薬は大丈夫ですか?」

「問題ありません。現在地球軌道艦隊へ合流する途上です。そこでネオジオンとロンド・ベルが艦隊再編を行っております。爆薬の供与も打診済みです」

ハヤトはテムの質問に即答した。

「理解しました。ではまた後程」

テムとの通信が終わった。アムロは複雑な面持ちだった。ベルトーチカは心配そうにアムロに声を掛ける。

「アムロ・・・」

その声にアムロは目を瞑り小さく嘲笑していた。ハヤトは詳細を詰めて皆に話をし、その場は解散となった。その後カミーユ、カイがアムロへ声を掛けた。

「厳しい人ですね。壊すことは良くないが、壊すことの理由を知れなんて」

「しかしながらあんなにハッキリ言う人とはね、お前の親父さん」

アムロは苦笑した。カミーユとカイの気遣いを快く受け取った。

「有難うカミーユ、カイ。無理難題を解決してきた親父だ。それぐらい思慮深くなれという話だろうよ。実際にはできやしない。が・・・」

クワトロがアムロの下へ歩み寄り、アムロへ語り掛けた。

「できないことをやらないのとやるとでは経験に差が出るだろう。アムロ、君は避けてきたことをすべき時なのだ。そうでなければ再び惨事を起こす要因になる。私のせいでもあるがお前自身の原因とも考えたりはしなかったか?」

アムロはクワトロ見ては目を逸らす。そしてアムロはクワトロの意見に軽く反論した。

「・・・だからあの時は止めた。歯がゆさに暴力で訴えては・・・ならないと」

「だがお前は反対するだけで何か代案があったか?」

「・・・」

「それもいいだろうが、確固たる意思、信念を持って動く者達を止める為には言うことを聞かないから同じ力で止めるようではお前も同じだ」

「オレはそれ程大したひとじゃない」

「そう思っているのはお前だけだ。ここのクルーは皆お前のことを大した存在だと思っている。カミーユ君もな」

クワトロの話にカミーユは頷く。一体どこまで理解しているのかはアムロには不明だったが、恐らくは端々の話の流れを感性で汲み取ったに違いないと思った。カミーユは優れたニュータイプであるからだ。

「アムロ中佐。貴方の存在は皆のシンボルでもあります。ハヤトさんも同じです。道を択ぶにしろ確かに大事ですが、選ばないことはしないでください。勿論オレも選びます」

カミーユがテムの言葉を借りて言った。そこでアムロは逆に尋ねた。

「カミーユ、君は何を選ぶ?」

「オレは・・・パプテマス・シロッコを・・・彼と話をします。選んで答えを出すに過程が必要です。1つ1つの行動が1つ1つの答えを導き出していくと思います」

アムロは「そうか」と一言言った。カイもアムロの姿勢の半端さを弾劾した。

「アムロ、今までの戦いも守るというよりはお前がただ守りたいものを守っていただけだ。だからお前は本当に守らなければならない。それが何かはお前が選べ」

「カイ・・・キツイな」

「オレはジャーナリストとして仕事をしてきた。ちゃんとな。人は影響ある立場まで上り詰めて逃げるようでは世界の害だ。人である限りは務めを果たす時がきたんだよ」

アムロは答えなかった。今はまだ答えが出せなかった。正論の上に犠牲が成り立つと思えない。已む得ない犠牲にしろ最小限の痛みばかりを探していた、しかしそれが正しいかどうか、とアムロは自問自答していた。



* シロッコ艦隊 旗艦内 格納庫 3.11 23:00

モビルスーツが数多く並ぶ中で人だかりができていた。理由はその人だかりの光景の中にライラを始め、数人瞳孔を開いたまま倒れているものがいたからだった。

その人だかりの中央にはマスクを外したララァことメシアが立っていた。そのメシアに周囲のクルーが銃口を向けていた。そしてそのメシアに対峙してシロッコとその袖に隠れるようにサラがいた。

事はメシアがシロッコの乗艦する艦へ戻って来てから起きた。メシアの搭乗しているユニコーンが着艦し、メシアが降りてきたところからだった。ライラはメシアの独断による総旗艦ドゴス・ギアの撃沈、地球への降下並び宇宙へ舞い戻る人智を超えた力、それに恐れ問いて強迫した。

メシアはそれを嫌い無視をしたが、ライラがそれを許さず殴ろうとした。そこでメシアは自己防衛本能が働き、視えない力でライラを窒息させた。それに恐れた周囲の取り巻きがメシアに銃口を向けて放った。その者達もメシアは同じく窒息させた。その光景に艦内が混乱し、シロッコが到着した流れだった。

シロッコは複雑な面持ちで言葉を選んでメシアに話し掛けた。

「・・・目的は?」

メシアはクスクスと笑い出した。その笑い方が妖艶で全てのひとが息を飲んだ。1年戦争時代のララァと比べてもう大人の女性としてメシアは体つきから全て成長していた。

「目的ですか?それは貴方が私を攫った時に知っていたでしょう」

「明確には分からん。貴方が人類にとって危険な存在だということか」

「私はそうは思っていません。世界の調律をするものが私なのです」

シロッコは唸った。メシアは平然としている。メシアは続けて話す。

「・・・この世界の権力者たちは勿論貴方も含めてね、調律をしない。といいますか、やり方をご存じないのです」

「人の限界だというのか」

メシアは頷く。

「そうです。理を知る者は人では耐えられません。救世主たるもの、森羅万象により選別されたものでなければなりません。それに選ばれる理由は私にもわかりません」

「何故だ。貴方は選ばれし者なんだろう?」

メシアは首を振る。

「自然の力を物事の事象を測り()ることは、明日貴方が朝この時間にコーヒーを飲むことを知る事同義です。結果が私なのです」

シロッコはため息をついた。その行為が周囲の緊張を少し解いていた。シロッコは腕を組み、少し考えてから再び尋ねた。

「理とはニュータイプが起こすであろう事象の最果てか」

メシアは微笑み答えた。

「ええ、そう例えて良いでしょう。人を超えた人は人ではありません。その力を持て余し暴走してしまいます」

「貴方はそこに介入すると?」

「それが世界の意思です。全てはバランスの下。奇跡とはその瞬間に起きるもの。それが継続的に、持続的に起こることは均衡を壊します」

「で、現状は貴方から見たらどうなのだ?」

メシアは真顔でシロッコを直視し答えた。

「7年前からバラバラになっていたピースが1つに集まりつつあります。人、物、思想と全ての流れが1つに」

「確かにな。この地球圏でも地球軌道上が最後になるだろうと私は考えている」

「ええ、決着の時と言っていいでしょう」

シロッコはゴクリと唾を飲んだ。メシアが話続ける。

「私はその行く末を静観させていただきます。但し・・・」

「但し?」

メシアの眼がきつくなる。

「人の限界の中で事を済ませる事をお勧めします。勿論束になって起す奇跡ぐらいならば大目に見ましょう。事象の地平を超えるようならば容赦はしません。世界は穏やかであるべきなのです」

シロッコは組んだ腕を指で軽く叩いていた。

「・・・貴方も含めて、アムロ・レイも違和感だと考えている。この世界のな」

メシアは感心した顔をシロッコに向けた。

「私を攫うだけのことがあります。世界の不純物を視るとは」

シロッコはメシアの言に頷く。

「そう。7年前からだ。違和感を感じた。その答えに辿り着くまで程々時間が掛かった。感覚と知恵だけが頼りだった。貴方が例える世界の不純物というものを利用して世界をより良い方向へ誘導していこうと・・・」

シロッコは一つ咳払いをして話続けた。

「あの当時の感覚はうっすらだったが、木星へ行く予定がここに残ることにした。それは乱世を感じたからに他ならなかった。私も野心がある。あの頃は若かった。が、ホワイトベースに乗っている時に徐々にその乱世が地球圏の危機と感じ始めた。背筋が凍る想いだったよ」

メシアは目を瞑り軽く頷く。

「やはり鋭い感性ですね」

シロッコはメシアの褒め言葉に失笑した。

「フッ、そこまで読み取る力が無ければ、既に地球圏など存在しなかっただろう。貴方も含めたオーパーツによって、地球圏が勝手に掻き回されて、塵と化していた」

「・・・」

メシアは黙っていた。シロッコは続けた。

「フロンタルにせよ、不純物の混ざり合いにより本来の純物が汚れてしまっている。それを掃除するのは私であり、この世界の住まう者たちだ」

メシアは不思議に思ったことをシロッコに尋ねた。

「私は貴方が天才だと思います。が、そこまでの答えを何故知っているのですか?」

「世界の黒幕と知り合いだからな」

「成程」

メシアはシロッコの答えに納得した。そしてメシアはシロッコに願い出た。

「さて、私の今の願いはここで事の成り行きを見守らせていただきたいだけです。いかがでしょうか?」

「断るといったら、この艦のクルー全て殺戮するのだろう」

シロッコの言葉に銃を構えていた取り巻きが動揺した。メシアは笑って答えた。

「ええ。私にとっては貴方などこの世界の障害にはならないと思っています。不純物の成果はフロンタルにありますから」

シロッコは片手を挙げて、周囲を制した。そして命令した。

「皆、下がれ。メシアを戦闘ブリッジへ案内する。彼女は軍籍でない。来賓として扱う。丁重にな」

取り巻き皆不服そうな顔をしながらもその場を散開していった。シロッコには逆らえない。
その結果にメシアは満足していた。

「フフッ、有難うございます、シロッコさん。・・・それと」

そしてメシアは付け足して述べた。

「私は願わくば調律者としての出番なく、事が静まれば良しと考えます。私を含めたイレギュラーは世界を大きく狂わせました。介入を強引には望みません。無責任と重々承知の上です。どうか解決に導いてください。無理そうならば・・・壊します」

シロッコはメシアに向けて鋭く睨みつけた。

「人の足掻きを見るが良い。この世界の始末は我々が務める。外野は高見の見物をしているが良い」

メシアはその挑発に笑顔で返す。

「ええ、喜んで」

メシアはそう言って、直ぐ近くのメカニックにユニコーンの整備を頼み、ゆったりとした足取りで格納庫より立ち去っていった。その後ろ姿をシロッコとサラは見つめていた。

「パプテマスさま・・・」

サラが終始不安そうな顔でシロッコを見た。シロッコは可愛い部下を慰めた。

「大丈夫だ。何もかもな。隕石を落とせば人は変わる」

シロッコは自身にもその言で慰めていた。まず変えなければと。その変化に応じてメシアの動きが決まる。もしかしたらその瞬間で世界が終わるかもしれない。辿る道は初心者がサーカスの綱渡りをするよりも遥かに険しいものかもしれない。メシアの基準が分からない限り、流れを身に任せる他なかった。


* ソロモン 宙域 ブライト艦隊 同日

戦況は芳しくなかった。理由はソロモンの速度が落ちないこと。それは前方のシーマ艦隊への攻撃がケーラ部隊の直接攻撃とスレッガー部隊の迂回攻撃を見事という程受け止めていたからだった。

ケーラ部隊にはシーマ艦隊のほぼ全軍。スレッガー部隊にはたった1機のモビルスーツに翻弄されていた。その報告にブライトは苛立っていた。

「正面!艦隊になるぞ。弾幕薄いぞ!何やってんの!」

ブライトの檄が飛ぶ。隣でメランが各戦隊へ連携の為に指令を出していた。

「艦長、タイミングはどうなさいます?」

メランがブライトへ確認を取っていた。それはソロモンの核パルスエンジンを壊して進路変更させる段取りのことだった。誘導弾でミサイルを撃ち込む。それもティターンズ艦隊からくすねてきた強力なものを。

事は単純なのだが、複雑にしているのはブライトの科白の通り艦隊戦になるからだった。こんな状態で撃ち込んでも100%撃ち落とされる。それでメランは確認していた。

「混戦に持ち込んで、モビルスーツ隊で道を作り、単艦で突破する」

メランはバカなとは言わなかった。メランもその方法しかないと考えていた。何せ時間が無い。
刻一刻とソロモンは地球落下軌道の阻止限界点へ近づいている。艦隊戦がソロモンが通過するところまでズレ込むようならば限界点を超えてしまう。が、単艦突破など撃沈の可能性が高い。

「こうなったら腹括るしかありませんな」

メランは諦めた様な声を出した。ブライトはマイクを使い、艦内放送をした。

「全乗組員に次ぐ。本艦は間もなく艦隊戦に入る。そこで本艦は全速で単艦突破を図り、ソロモンへ向かう。かなりの危険を伴う行為だ。ほぼ的になるようなものでもある。しかし、それしかソロモンを止める手立てがない。迂回部隊がソロモンの足止めに失敗している。命懸けの後詰となる」

ブライトは話す内容につれて声のトーンが落ちていった。

「・・・すまんが、皆の命をくれ」

この放送でラー・カイラムの全クルーが神妙な面持ちで腹を括った。

・・・一方、迂回部隊のスレッガーはシーマが操るパラス・アテネに部隊の半数を失っていた。

スレッガーのリ・ガズイもモビルスーツ形態になっており、パラス・アテネの機敏な機動性に照準が取れなかった。

「なんて速さだ。このリ・ガズイが走り負けている!」

そう感想をもらすスレッガーを後目にジェガンが次々と撃墜されていく。パラス・アテネのビームサーベルとライフルが宇宙に花火を上げていた。

この世界のパラス・アテネは重火器仕様でなく、とてもスリムな造りをしていた。寸分の移動の動きすらも制御できるようにスラスターの数を増やしていた。

1機のジェガンが襲い掛かってくるパラス・アテネをビームライフルで応戦していた。

「っく、落ちやがれ!」

そう向かってくる敵に連射するが、最小限の動きで躱す。至近に来た時、パラス・アテネの振り下ろすサーベルの動きに合わせてサーベルで受けようとしたが、気が付いたときに既に振り下ろされた後だった。パラス・アテネの腕にスラスターが付いて、高速で振り抜くことが可能だった。

真っ二つにされたジェガンを見たシーマは恍惚な顔をしていた。

「遅い・・・遅すぎる。フハハハハ・・・」

シーマは次の獲物を視界に捉えていた。それはスレッガーのリ・ガズィだった。
殺気を感じたスレッガーはサーベルを構えながら、ライフルをパラス・アテネへ向けた。そして残りの部下に後退命令を出した。

「おい!オレが殿軍を務める。お前たちは後退しろ」

その命令に部下は抵抗した。スレッガーのモニターにワイプで出現して主張する。

「隊長!オレらはまだやれ・・・」」

その後の科白をスレッガーは言わせなかった。

「バカ野郎!上官命令だ。軍規とお前らの意地がどちらが大事か。プロフェッショナルなお前らなら理解できるだろうが!」

部下たちはグッと堪えて、スレッガーの指示に従った。

「分かりました。後退します」

部下達が一機、また一機と本隊へと後退していった。パラス・アテネとスレッガーは対峙し、交戦している間に生き残った部下は皆撤退に成功していた。それを見たシーマは感心していた。

「アッハ~、やるじゃない。このガンダムもどきが」

シーマはスレッガーを狙い定めて、数々の攻撃を繰り出していた。スレッガーはそれを長年の勘と技量で受け流していた。その動きを見たシーマは舌で唇を舐めていた。

「いいねえ、涎が出そうだよ。あたしのパラス・アテネの相手になる奴がいるとはねえ。もう少しギアを入れてみようか?」

シーマの気分が高まり、それに呼応するようにパラス・アテネが緑白く輝いた。

「うふふ、次はちょっと早いよ。避けてみい!」

パラス・アテネが急加速した。その動きにスレッガーが立ち構えた。視覚でその動きを確認していた。

「(この動きには・・・この回避で間に合うか)」

スレッガーは計算で導き出した回避行動で動いた。それが足りない。今までのパラス・アテネの動きならば、可能だった計算よりも半歩後ろだった。パラス・アテネの鋭い斬り込みがリ・ガズィのサーベルを持つ右肘より下を切り取った。

スレッガーとシーマともに舌打ちをしていた。片や避け切れず、片や斬りきれず。シーマは次の斬り込みに入っていた。その動きをさせる前にスレッガーは無事な左腕の方でパラス・アテネのサーベルの持つ手を掴んでいた。その動きにシーマが驚く。

「何と勘が良い!」

掴んでいる間スレッガー、シーマともお互いの声が聞こえた。スレッガーはその声が女性のものだということが分かり、

「何だ女なのか、相手は」

と口にしていた。それに対してシーマは苛立ちを感じた。

「何だい。女じゃ悪いか、お前にとっては!」

スレッガーは肩を竦ませて答えた。

「女は抱くのが趣味でね。戦うのは趣味じゃない」

シーマは高らかに笑った。スレッガーの冗談に。

「アッハッハッハ。じゃあさあ!」

シーマの操るパラス・アテネはスレッガーのリ・ガズィの掴む手をからサーベルを離し、もう片方の手に持ち替えては瞬時にリ・ガズィの両腕、両足を切断した。

「何と!」

その動きにスレッガーは驚いた。自身油断はしていなかった。が、相手の技量がスレッガーの上をいっていた。そう感じていた。

「あたしがお前の傍で看取ってやるよ!」

そう言ってシーマはサーベルをリ・ガズィの頭上より振り下ろそうとした時、パラス・アテネのサーベルの持ち手が爆発した。

「ぐっ、何!」

シーマは誰かに攻撃されたと思って見回した。すると1機の大型なモビルアーマーが目に入った。その機体の識別はパラス・アテネにも登録されていた。

「・・・オーキス、GP03。凍結されたんじゃないのか!」

そうシーマは叫ぶと、GP03から次々とパラス・アテネへと弾幕が浴びせられた。それをシーマは気をつけながら避ける。そして怒りを覚えた。

「OK.図体だけの張りぼてが!パラス・アテネでスリムにしてやるよ!」

シーマはスレッガーを捨て置き、一路GP03へと矛先を向けて場を離れていった。スレッガーは一息ついていた。

「ふう、助かったのかな?」

・・・

GP03にはルー・ルカが搭乗していた。ガルマへ委譲後ラヴィアンローズにて係留されていたものを改良されて現に実戦投入されていた。つまりガルマによって仕掛けられた援軍だった。

「あ~、何か遅刻した?でも、遠目からやられそうな味方機を助けたみたいだけど・・・」

ルーは呑気そうな声でぼやいていると、ワイプにミリイから忠告が入った。

「ルー!言っておくけど戦場よ、そこは。訓練と違うからね。エマリーさんに叱られるよ!」

「はーい、わかってますよ」

そう適当に答えていると敵機接近の警報がルーのコックピット内に鳴り出した。それを聞いたルーは真剣な面持ちでモニターを見入った。

「さて・・と。敵さんに一太刀浴びせなきゃね」

そう楽観的に考えていたルーは敵の存在についてよく知らなかった。気が付けばコックピット内に振動を感じていた。

「きゃあ。何?何?」

振動が続いていた。ルーはモニターで至る所を見ては、自機の破損部分のサインがアラートで鳴っている。つまり攻撃されていることをルーはようやく理解した。

「えー!だってあそこで、ここにー!」

そして混乱していた。そんなことはシーマにはお構いなしだった。パラス・アテネはGP03の周囲を回っては斬り込み削っていた。

「アッハッハッハ、まるで的!ホント唯の張りぼてだ」

そしてボロボロ機体と成り果てたGP03の後方でシーマはメインディッシュを今から頂くような待ちきれないような気持ちで佇んでいた。

「ではでは、頂いちゃいましょうか」

上擦った声でシーマが言うとき、コツンとパラス・アテネに何かがぶつかった。何も敵意を感じなかったので気が付きもしなかった。

「ん?デブリか」

パラス・アテネのカメラをそのデブリと思われるものに移動させるとシーマは顔を歪ませた。

「あの四肢のないモビルスーツ!」

リ・ガズィが流れ着いてパラス・アテネの隣にいた。その直後リ・ガズィが爆発四散した。その余波をパラス・アテネは思いっきり受けていた。

「なっ・・・うわあーーーーーー!」

シーマは絶叫した。爆発した理由をルーは見ていた。

「あのジェガン、やるじゃない」

シーマはGP03に集中し過ぎていた。気配を消して機会を狙っていたジェガンが立ち止まっていたパラス・アテネにリ・ガズィを流しあてて狙撃することに成功した。そのジェガンに乗るパイロットがGP03に通信を入れた。そしてワイプモニターにパイロットの映像が映る。

「おい、パイロット。オーキスの全火力をパラス・アテネに向けて放て」

スレッガーだった。ルーは言われたことを即座に行って、バランスを崩していたパラス・アテネに何百発という小型ミサイルが全方位から追撃していった。それに気が付いたシーマは不意を突かれた怒りと共に昂る。

「ふ・・ふざけんじゃないよ!」

パラス・アテネのサイコフィールドを展開した。追撃してくるミサイル群を次々と破壊していく。
それで防いだが、爆発の閃光と煙で周囲が視覚的に様子が見て取れない。シーマが目視で確認できたミサイルの次のものは至近距離のメガビーム砲の銃口だった。

「なんだと!」

シーマは顔が引きつっていた。次見た光景は予想通りビームの発射だった。ビームの出力はシーマのサイコフィールドを突き破り、パラス・アテネへとコースを取っていた。パラス・アテネの身をよじらせて躱そうとしたが、機体右側がザックリとビームの熱量で持っていかれた。

「うわあーーーーーー!」

パラス・アテネのコックピット内にリ・ガズィ爆破以上の衝撃が見舞われ、シーマは内臓のいくつかが体内で破裂、損傷してしまった。それにより吐血をした。

「ブホッ・・・ハア・・・」

ノーマルスーツを着込んでいたシーマはヘルメットを外し、傍にある鎮痛剤を体に打った。すると息を切らしながらも気絶せず保てていた。

「・・・こんなん・・・では、シロッコに会わせる顔が・・・ない!」

シーマは半身吹き飛んだパラス・アテネを操り、GP03に突撃していった。その機体の周囲にはサイコフィールドが展開されていた。しかし通常のサイコフィールドとは違い、斥力引力場でなく、通過上にあるデブリらを全て消失させていっていた。その現象を見たルーは腰が引けていた。

「あれ・・・これって・・・ヤバいんじゃない」

ルーが引きつりながらパラス・アテネの進行を見ていた。何かしようとハンドルを握るがそれ以上の事ができない。何故か金縛りにあっていた。

「え?・・・う、動いてよ!」

ルーが混乱した。ルーはモニターで突撃してくるパラス・アテネと同時に側方にジェガンがいるのが確認できた。

「早く離脱しろ!」

スレッガーが叫ぶ。しかしルーは動かない。

「ちぃ!」

スレッガーはジェガンのサーベルを使ってオーキスから無理やりステイメンを引きずり出した。
スレッガーとルーがその場から少し離れるとただ真っ直ぐオーキスへ進むパラス・アテネを見ていた。

パラス・アテネがオーキスに接触すると速度が極端に落ちた。オーキスも徐々に分子分解されて、爆発もなくスーッと通過していくようだった。しかし事態が少し変化があった。それをルーは声に出していた。

「見て!アレ」

「なんだ、ありゃ」

パラス・アテネが足元から砂の様に溶け出していった。理由は分からないが彼らはこれが対峙する敵の最期だということを感じていた。

パラス・アテネの中のシーマは恍惚な顔を浮かべていた。

「アハ・・・感じる。宇宙の流れが。あたしは1つになっていく・・・フフ・・・なんて気持ちいい」

シーマはパラス・アテネの崩壊と共に一緒に宇宙の塵となっていった。
それを見物し終えた2人はそれぞれ感想を漏らしていた。スレッガーのモニターワイプにルーが映る。
先にスレッガーが口に出し始めた。

「・・・一体、あの現象はなんなんだ?」

「私にも分かりませんわ。ただ・・・」

「ただ?」

「サイコフレームの共鳴。あの光はそれでしょう。意思が形となる力はサイコフレームの特徴ですから」

スレッガーは腕を組んで難しい顔をしていた。

「オレはさぁ、色々見てきたからサイコフレームの優位性を知っているつもりだが、物を粉々にするなんて恐ろしいな」

ルーが頷く。

「ええ。普通の金属ではありえない不可思議な領域まで手が届くサイコフレームは可能性以上に不安物質です」

「そいつはお前さんの見解かい?」

「私もそうですが、アナハイムのレイ博士からの受け売りだとエマリーさんから・・・」

スレッガーはレイ博士とエマリー・オンスの名前を知っていた。特にレイ博士。あのアムロ・レイの父親ということとサイコミュの第一人者の1人。意見は重要だと考える。

「さてと・・・。友軍への援護せねばいけないが、何分単機だしな」

スレッガーはジェスチャーでお手上げをしていた。そこにルーがワイプ越しに微笑を浮かべていた。

「私が何故ここに居るかご存じで?」

スレッガーは試されている様で嫌気が刺した。

「いや、知らんね~」

ルーは補足説明した。

「月からの友軍としてガルマ議員が手配して私がココにいます」

「ガルマ議員だと?」

「ええ。クラップ級8隻を率いて後背からの陽動とブライト本隊との合流で」

「つまりカラバか」

「ご名答。ということで私の母艦へ帰投しましょう」

ルーが話し終えると、スレッガーは索敵モニターを見た。友軍のサインの為、接近警報はならずにクラップ級艦船が大きさを示すようにスレッガーのジェガンを横切っていた。

* ラー・カイラム 戦闘ブリッジ

ブライトとメランは矢継ぎ早に索敵、被弾箇所、救護、砲撃の指令を行っていた。
モニターを見れば周囲が全て敵であり、味方でもあった。

最悪を極まる混戦状態でシーマ艦隊もラー・カイラムの識別ができなかった。
シーマ艦隊含むすべてのモビルスーツの標準がバーサムだった。この頃のバーサムは改良最適化が研究上やり尽くした程完成されていた。

一方のブライト艦隊、所謂ロンド・ベルはジェガン。しかし新型ながら完成形に至るまでまだ余地があった。この差がバーサムに分をもたらしていた。低コストながら数があるバーサムにジェガンは押されていた。

そんな状況を通信で入り、メランがブライトへ告げる。

「艦長。このままでは・・・」

ブライトは拳を握りしめていた。

「今は・・・耐えるのだ。対空砲火を続けながら進路を作れ。ケーラ隊も呼び戻す」

「ケーラ隊は前線のレベルを保つに重要ですが?」

「それで地球に落ちたら元も子もない。既に作戦行動中で腹を括っている。戦場を縮小させるんだよ」

メランは難色を示すが、ブライトの指示に従った。今のままでは突破前の撃沈が避けられない。

* ケーラ隊 空域

前線でバーサムやシーマ主力艦隊の攻撃を食い止めるに補っていたのがケーラのリ・ガズィ。バーサムを落とす事既に2ケタ乗せた。そんなケーラは無線でラー・カイラムから指令を受けていた。

「・・・なんだって!ラー・カイラムの特攻の援護だと、バカな!」

旗艦撃沈は艦隊の敗北を意味することケーラは知っている。だが作戦時間に猶予が無いことも知っていた。ケーラは唇を噛み、操縦桿を握ってラー・カイラムの進行方向への道筋に当たる空域の掃除にリ・ガズィを向けた。

「死ぬんじゃないよ、アストナージ!」

そう口にして、目の前のバーサムやアレキサンドリア級の艦船を次々と撃墜や航行不能にしていった。
戦場は少し移動してケーラはラー・カイラムをカメラで捉えていた。周囲は勿論バーサムと敵艦船がうようよ漂ってはラー・カイラムと数隻の護衛艦、ジェガンを攻撃していた。

自分に助けを求めた理由が理解できた。あの様子では10分と持たない。そこまでしなければタイムアップ。ケーラがソロモンへ目を向ければ大きな姿を見せていた。

「ココが正念場か」

ケーラはリ・ガズィを操り、ラー・カイラムの前に出た。その行為がラー・カイラムへ攻撃を仕掛けていたバーサムの編隊を崩す。

ラー・カイラム船内のモニターでその動きを目撃した。そしてその隙をブライトは見逃さない。

「よし!主砲一斉射。後に機関最大船速でソロモンの側面に回る。護衛部隊、残りの艦は同時に微速後退。現宙域にポケットを作るぞ」

ブライトが命を下すと、メランは部隊に暗号通信を打った。即座に行動を移す。

ケーラは敵部隊の中央を突破し、迂回してその宙域に戻ろうとした。その宙域でラー・カイラムは砲撃して進路をこじ開け前進、他が後退する光景が見て取れた。そして敵が一瞬どちらへ攻撃しようか惑う姿を見た。ケーラはほくそ笑んでいた。

「バカな。戦場で止まるのか」

ケーラは止まっているバーサムに目がけて砲撃、それに呼応する様に、ラー・カイラム以外の後退した艦艇が砲撃した。その攻撃にバーサム部隊は一時混乱した。

ラー・カイラムは単艦で戦闘宙域より離れようとしたが、バーサム部隊の中でもラー・カイラムを選ぶものも少なくなく、追撃に苦慮していた。ブライトが機関手に確認する。

「もっと早く行けなのか!」

機関手がマイクでブライトへ告げる。

「無理です!エンジンが臨界に達してしまいます」

その回答に重ねる様にメランからブライトへ危機を伝えていた。

「艦長、目標地点までは後5分。ですが、敵モビルスーツ隊の本艦への捕捉時間は4分半です」

「30秒・・・たった30秒だぞ!」

ブライトは席の手すりを叩いていた。メランは頭を掻き、思案模索していた。メランはハッと思いつきアストナージへ連絡を取り、ブライトに進言した。

「艦長、ゲタを使いましょう」

「ゲタ?」

ベースジャバーのことだった。一体何のためにとブライトが尋ねた。

「ミサイルを艦から発射離脱させます。この宙域にミサイルを棄ててゲタで狙撃させます」

ブライトは少し考え、捨てるミサイルの選別は1択しかないことをメランに言う。

「アレを使うのだな」

「そうです。元々、少し大目に積んできたのです」

「しかし、誰かが狙撃しなければ・・・」

「私とアストナージで行きます」

そうメランが立ち上がると、静止する間もなくブリッジを後にしていった。ブライトは唖然としていた。

「・・・あ・・・メラン!」

そう叫ぶこと2分後、1機のベースジャバーと1基のミサイルが宙域へ置かれていった。
ブライトはブルブル震えていた。

「・・・オレは艦長だぞ・・・。何をしているんだ」

そう小さく呟きながらも作戦宙域へ艦を進めていた。

* ベースジャバー内

メランは操縦席の後ろに立ち、アストナージが運転していた。目の前に1基のミサイルと追撃してくるバーサムらを見えていた。

メランは唾を飲み込んだ。アストナージは息が荒かった。

「副艦長・・・ハア・・・まだですか?」

「まだだ・・・理論値でいけば生還できるはずだ」

メランは特別バーサムらを一網打尽にしようとは考えていなかった。なるべく驚かせて時間を稼ぐ。それを念頭に入れていた。

アストナージが索敵モニターを見てメランへ接触時間までを告げる。

「後1分です」

するとベースジャバーに向けてバーサムからビームが放たれていた。完全に捕捉された証だった。ゆらゆらと回避行動を取るが、掠りベースジャバー内に衝撃が走る。

「副艦長!」

アストナージが焦る。メランは時計を見る。そして45秒になった時メランはアストナージへ砲撃命令を下した。

「よし!やれ!」

ベースジャバーから1基の小型ミサイルが放たれた。その後ベースジャバーは急速反転後退した。その時ベースジャバーの片方のエンジンがバーサムの攻撃に掠り火を噴いた。

「うわあ!」

「ぐっ!」

2人共悲鳴を上げた時、宙域が閃光に包まれた。

* ラー・カイラム 戦闘ブリッジ

トーレスが後方での核の爆発を確認していた。

「艦長!核の爆発を確認。バーサム隊の追撃が緩みます」

ブライトは頷く。その時には作戦宙域へラー・カイラムは到達していた。ソロモンの側面、核パルスエンジンが丸見えだった。

「ミサイル全基発射!核パルスエンジンの根本に叩き込め!」

ラー・カイラムから放たれたミサイルは見事に2基にエンジンを破壊し、残ったエンジンは真っすぐ進む推進力を得られず、地球を逸れる様に進路を変更していった。

ブライトは席にもたれかかり、息を付いた。そしてタイムリミットまでの時間を聞いた。

「・・・ちなみにリミットまでは?」

トーレスは計算して口笛を吹いた。

「後22秒でした。核の推進力でも重力に負けて落ちる寸前でした」

ラー・カイラムの中で喝采が生まれた。そこにもう2つ喜ばしい情報がトーレスからもたらされた。

「艦長。敵艦隊が降伏の意思を表明。並び、メラン、アストナージの生存を確認。被弾しながらも本艦へを帰投してきます」

ブライトはその報告を聞くや否や歓喜の雄たけびを上げていた。メランとアストナージが着艦してブリッジに戻ると状況は2転する。その知らせはメランからだった。


「艦長。悪い知らせです」

「なんだ?」

「ルナツー、ア・バオア・クーの地球への隕石落としの報を投降してきた艦隊幹部からの証言で得られました」

「なんだと!」

ブライトは唖然とし、天を仰いだ。ブライトの頭の中で友軍の戦略配置を思い描いては頭を振っていた。

「打つ手がない・・・」

ブライトの呟きにメランは俯いた。そしてトーレスからのあるところからの光速通信により状況が3転した。

「艦長!ラー・ヤークから緊急通信です」

ブライトは即座に反応し、通信を映すように伝えた。そこに映ったのはハヤト、アムロそしてクワトロだった。クワトロの顔を見てブライトは首を傾げた。

「シャア総帥が何故ラー・ヤークに?」

最初の一言目がそのように言った。ハヤトは簡潔に説明し、ただ瓜二つなだけで別人と話した。それでブライトは納得した。続けてハヤトが話し始めた。

「ブライト。貴方達は残存兵力とソロモンとをまとめてルナツーへ向かってもらいたい」

「間に合うのか?」

ブライトの疑問にハヤトは頷く。

「ああ。地球落下前にソロモンにロンド・ベルが持つ爆弾を満面無く仕掛けてルナツーへぶつけて爆破四散させる。それにより細かく砕かれた隕石が地球に降り注ぐがダメージは軽減される」

「計算は済んだ上か?」

するとアムロが代わりに話し始めた。

「ああ。ブライト、オレの親父の計算だ。こちらのクワトロさんの勧めで隕石落下が免れないならばの算段でアナハイムへ計算を投げた。1個1個の威力が大気圏内で弱まるか消失することを視野に入れれば地球は助かると」

「成程な。地球対巨大隕石では話にならんから砕くか」

メランの顔がパーッと明るくなり、ブライトの許可を得ないまま艦隊に爆破作業と艦隊の再編を急がせるように指示出しをし始めていた。それをブライトは黙認した。アムロは話し続ける。

「ルナツーにも小規模ながら艦隊が居る。彼らの抵抗を加味すると時間が足りない。仕掛けを作る必要があった」

「了解した。隕石落としありきの戦術だな。ソロモンもルナツーも粉微塵にしてやる」

ルナツーに関しての方法は理解したがア・バオア・クー方面はどうするかが気がかりだった。それをブライトは問うた。

「してアムロ。ア・バオア・クーは?」

そこに割り込んで別の回線が入って来た。それはネオジオンからによるものだった。
モニターが2分割されてそこにシャアが映った。

「ア・バオア・クーは同様にアクシズをぶつけよう。既にハヤト氏から連絡をもらっている。ア・バオア・クーの方が激戦だ。ネオジオンとカラバで当たろう」

モニターのハヤトが頷く。

「というわけだブライト。既にロンデニオンからの友軍がロンド・ベルの艦艇に脇を通過すると思う」

アムロが現実的な戦力比が付け足して言った。

「それでも混成艦隊とア・バオア・クーの戦力比は1:2と見ている」

これはクワトロの政府筋からのシロッコが持ちうる戦力を計算してのことだった。正確さは揺るぎないと思っていいだろうとブライトは思った。

「分かりました。再編の後ルナツーへ向かいます。ソロモンのエンジンの調整は要塞内の操作盤を取り急ぎ行う。メラン!」

呼ばれたメランは結果だけ報告してきた。

「艦長既にソロモンは進路を落下進路へ向けてのルナツーにあります。あとは艦隊の再編だけです」

「時間は?」

「30分」

「時間が惜しい。今でも行ける艦艇は?」

「残存の半数の29隻です」

「ラー・カイラムと25隻を先発する。2陣でメラン、お前が率いてルナツーへ来い」

「了解致しました。ご武運を!」

メランはブライトの指示に素直に従った。すぐさまメランは戦闘ブリッジから離れ、シャトルへと向かった。後陣を指揮する艦艇へ移動するために。

* サイド6 聖櫃内

カーディアスとジョン・バウアーがサイアムの前に立っていた。
カーディアスが口を開く。

「おじい様・・・。このような事態を想像していらっしゃったのですか?」

サイアムはうっすら目を開いて孫を見ていた。

「・・・世界を憂いていた。私はあのオーパーツから世界の加速を始めさせた。それはこの結果に過ぎない。善と悪。それが有れば世界は刺激的に動く」

サイアムの言にバウアーは唸りながら尋ねた。

「詰まる所、やはりフィクサーな訳だな。文字通りの」

サイアムはバウアーを見て、その言を認めた。

「何か仕掛けたとしたら私だろう。一応は調整しては導いてきたつもりだった。こんな老いぼれの願いなんだ。生きている間に見たいものをすべて見てみたい。ただの欲求に過ぎない」

再びカーディアスが祖父に話す。

「最初から騙されていた訳ですか。私に世界の悪に対抗しろと。それがマーサだと突きとめさせて、表向きできないからロンド・ベルを立ち上げさせて・・・。マーサもマーサでおじい様にそそのかされてその気になってしまい・・・」

サイアムは無言だった。カーディアスは話続ける。

「世界は飛躍的に時間が流れてしまった。最早止めることはできない」

サイアムはそこで口を開く。

「・・・タイミングで調整だけはした・・・つもりだった。だがそれを上回る刺激がもたらされてきた。途中で理解した。私の手に余るものだ時流とはのう・・・。だがそれもまた一興」

世界の黒幕の悔やむ吐露と反して道楽たる喜びが見えた。自分位の地位にありながらもできないことはできないと改めて知った。バウアーはこの老人の楽しみで今の今まで事態が起きていたことを確信できた。

「カーディアスとの綿密な調べがあって元凶を突きとめた。しかし時計の針を元に戻せないというならば貴方の命を持って雪辱を晴らさせていただきます」

そう言うとバウアーは銃をサイアムに構えた。カーディアスも止めようとしない。
その時、2発の銃声が轟く。その後カーディアスとバウアーは脳天を撃ち抜かれて倒れていた。

暗がりから涙しながらもガエルが銃を持ち出てきた。

「う・・うう・・・許してくださいカーディアス様・・・」

サイアムはガエルを労った。

「よく・・・やった。ビストは私で終わりだ。それで良いと思う。マーサが後どれだけ踊ってくれるかに尽きる。ガエル、暇を出そう。どこでも消えるが良い。お前ほどの力が有れば余生に困ることはないだろう」

ガエルは振り返りその場を後にしてその後姿を消した。サイアムは前に映る地球圏の絵図を眺めていた。

「種は撒き終え出し尽くした。後はどのような芽生えを始めるか・・・。私の手に余る混ざり具合だ。期待以上のドラマが見れるだろうよ・・・」

サイアムは独りほくそ笑んでいた。
 
 

 
後書き
いきなり悪い爺になってしまいました。 

 

40話 ロールプレイング 3.12

* ゼウス 宙域  3.12 

ジュドーとプルツーはジオングから通ずる波長を元にある球体を発見に至っていた。
それと同時に数機のモビルスーツによって包囲されてしまっていた。

包囲された機体名はクシャトリアと表示があった。見た目が小型のクインマンサ。そして目の前に赤いモビルスーツ、シナンジュが立っていた。

ジュドーとプルツーは歯を噛みしめていた。それはシナンジュのフル・フロンタルからもたらされた情報に対しての苛立ちからだった。エンドラの撃沈とグレミーらの死亡についてだった。

「そんなの嘘だ!」

ジュドーが叫ぶ。プルツーは手元の端末で各ステーションを中継しながらエンドラの消息を探していた。フロンタルは無線封鎖しなかった。むしろ「調べてみるが良い」と告げていた。

ジュドーは通信でプルツーにある注文も付けておいた。万が一の保険だった。
その間にフロンタルは他愛のない話をしていた。

「ジュドー君といったかな」

「そうだ」

ジュドーは嫌悪丸出しの声をフロンタルに投げかけた。フロンタルは気にせず続けた。

「君らは最下層民として生まれては生きる為に色々なことをしてきただろう」

「・・・」

「時に不平等さを呪ったりしたりしてね」

「そうでもないさ」

ジュドーは答えた。

「人それぞれ生まれも育ちも違う。その環境は選べるものでない。だからその持ちうる力で皆必死に豊かに、幸せになろうと思うんだよ」

「それが争いを産むのだ」

フロンタルは平然と否定する。ジュドーはその威圧感にこのフロンタルという人物の根底を見抜いていた。彼は否定する人間だと。

「君の言う通り、豊かでも貧しくとも心の平穏というものは平等にして訪れることは、手に入れることはとても難しい。獲得する為にはそんな概念であろうが争いが起きてしまう」

ジュドーは少し頭を振って話す。

「競争原理を否定はしてはならないと思う。誰もが満足しない?それが普通だよフロンタルさん」

フロンタルの表情が曇る。

「・・・成程。流石グレミーの一派だけのことはある。私が求めることや挑発など受け入れて反発するかと思いきや、思いっきり流せるとは」

そんなフロンタルの回答にジュドーは笑わなかった。

「別に流したいわけじゃないさ。あんたが何でも否定に走る傾向があるから、オレはまともにあんたと話しができないと思っただけさ」

「ほう。私は君と話をしたのだが・・・」

「だったら!」

ジュドーが初めて敵意を出した。

「何が目的だ!オレらの一体何が!」

フロンタルは一息ついた。そして淡々と話し始めた。

「君たちのような存在。邪魔なのだよ。微かな望みも無用なのだ」

ジュドーはフロンタルから発した言葉の力を受け止めてゾッとしていた。

「・・・こいつは、ヤバい奴だ。いわゆる災害だ」

ジュドーはフロンタルを自然災害と同様と見なした。例えば台風にモノを壊すなと言うことと同義なものをフロンタルに見た。

「益々、話ができやしないじゃないか。フロンタルさん」

フロンタルは今までの話の流れを思い出し、謝罪した。

「そうだな。済まなかった」

「なっ!」

突然の謝罪にジュドーが戸惑う。フロンタルは話し続けた。

「ではお話をしよう。ジュドー君」

フロンタルは一呼吸おいた。

「私は君の様な良い存在が出てくるためのスケープゴートと言って良いだろう」

「生贄だと?」

ジュドーの言葉にフロンタルは頷く。

「そうだ。人それぞれ役割がある。一種のロールプレイングだ。悪役が居て、ヒーローが居る。そんな関係だな。私は無論悪役だ」

ジュドーは黙っていた。後ろの座席のプルツーは未だ中継しながらもグレミーの消息を探していた。

「その物語は希望を探す物語。そのスパイスが強ければ舞台は豪奢になり、より洗練られた出来栄えのある演劇となろう」

ジュドーは複雑な面持ちで言った。

「フロンタルさんが贄だというならその舞台は本心ではハッピーエンドに終わらせたいと?」

フロンタルは頷く。

「それが私の役割だ。だがな演じる私も退場するには条件がある。私を退場させられるほどのヒーローが現れることだ。それはジュドー君かもしれないし、他の誰かかも知れない」

「だが、アンタは自分を・・・自我を持ち合わせて、そんなに客観的に立場が見えるなら!」

フロンタルはジュドーの叫びを拒絶する。

「私は器なのだよ。演じることが全てで存在意義だ。それが私のエゴだ。さて何故こんなことを君に話したか?それには理由がある」

「理由だと?」

ジュドーは眉を片方上げてフロンタルに聞く。フロンタルは指でジオングを指した。

「ジュドー君、君の乗るジオング。並の力、並の能力では起動しないよう設計されている」

「なんだと」

「その設計には私も携わっていた。間接的でだがな。ギレンが後々で私に秘密裏にしたせいで探すに手間取った。そしてギレンは良い置き土産をしたものだ」

ジュドーはペラペラ話すフロンタルに誘われるように質問した。

「それは?」

「ゼウスだ。元々はそのジオングでやろうと思っていたのだが、その出力をさらに増幅させる装置をわざわざ開発していたとは棚からぼたもちだった」

ジュドーは目を閉じて情報を整理した。ギレンはこのジオングがあらゆる問題を打破する機体だと。それはジュドーとプルツー共に感じ取ったことだった。それはフロンタルには何も情報を与えていない。
かくはフロンタルはジオングがゼウスという謎のものの増幅制御装置だという。

「さて、私は悪役を演じるにあたりあるものをある人から都合してもらっている。この際その人物は抜粋しよう。そもそも、ジュドー君と話す理由だ」

ジュドーは物凄く警戒した。自ら悪役と名乗るフロンタルが手の内を見せようとする。その理由は碌なものではないと直感でわかったからだった。

「・・・フロンタルさん。アンタがそんな手の内を見せるにはオレらを生かしておくわけにいかないか、若しくは・・・」

「利用したいからか。その通りだよジュドー君」

ジュドーは息を飲んだ。するとプルツーからグレミーの情報の調べが終わったことをジュドーに告げられた。

「ジュドー・・・」

プルツーが沈んだ声をしていた。ジュドーも覚悟した。

「いいから言え、プルツー」

「エンドラは撃沈。グレミーとモンドが戦死。フィフスルナが沈黙。エルらの乗組員の生存確認不明。ビーチャから通信文でサイド6宛てに送られていたよ・・・」

ジュドーはグッと胃が締め付けられるような感覚に陥った。プルツーの声も勿論フロンタルに届いている。

「ようやく事実を受け入れたか。それは私が下した決断だった」

「・・・なぜ・・・」

ジュドーがマグマの様な怒りを沸々と沸き立たせていた。

「なぜ!こんなことを!あいつらはただジャマなく生きていたいだけじゃなかったじゃないか!」

フロンタルは困った顔をして平然を言い切った。

「その理由は先ほど答えたつもりだったが?」

「なんだ!」

「微かな望みも邪魔なのだよ。それすら排除の目的だ。人類に逃げ場なし。未来永劫この地球圏で絶望を感じながら死に往くことを導くことこそ私の役割」

フロンタルの回答にジュドーは憤慨した。

「プルツー!!」

魂の叫びはプルツーを震え上がらせた。

「ひっ!・・・何なんだジュドー」

「奴を仕留める。この世から奴を消し去ってやる」

ジュドーはジオングの操縦桿を握り、怒りに任せて動かし始めた。その動きを牽制するようにクシャトリアらも動き、ジオングを止めようとした。

「しゃらくせー!」

ジオングから発せられたサイコフィールド場はクシャトリアを静止させた。その力にクシャトリアのパイロットのマリオンとクスコがフロンタルに助けを求めていた。

「フロンタル様・・・」

「う・・動けない・・・」

かくもフロンタルのシナンジュもそのフィールドにやられ動けなくなっていた。その状況に自然と笑みがこぼれていた。

「まさか・・・ここまでとはな。ジュドー君の力は現在の私すら凌駕するとは。ジオングを動かせるだけの力をこれで私も授かることができる」

ジュドーはジオングのマニュピレーターを動かし、静止しているシナンジュを掴んだ。
敵意むき出しのジュドーは掴んだシナンジュを握りつぶそうとしていた。

「これで終わりだフロンタル!」

そう念じたジュドーの想いが瞬間的に全て吸い取られるような感覚に陥った。

「なっ・・・んだ・・・と・・・」

ジュドーはその場で気を失っていった。その姿をプルツーが見て叫んでいた。

「おい!ジュドー!一体どうしたんだよ!」

その状況の説明をフロンタルは話した。

「ジュドー君の怒りの感情全てを私がもらい受けた」

プルツーが聞こえてくるフロンタルの音声に激高した。

「なんだと!ジュドーを返しやがれ!」

フロンタルは笑った。

「フハハハハ・・・それは難しいな。別にジュドー君を奪ったわけではない。彼の才能を私が切り取らせてもらったまでだ。このシナンジュに搭載されているパンドラボックスによってな」

「パンドラボックスだと!」

「全ての負を私の力に帰る装置だ。これで私は事象の壁を越えて人類を滅する」

プルツーが失笑した。

「フッ・・・何をバカな。お前1人で何十億人ものあいてにするのか?愚かにも程あるぞ」

フロンタルは首を振る。

「だから私は役割を与えられ、準備をしてきたのだ。それを応援してくれるゼウスという装置もあるしな」

「一体何を?」

「サイコフレームの干渉領域が既に世界に流通され、それに呼び掛ければ応答する。普段日常で持ちうる携帯など良い参考だ。そのジオングを用いて、ゼウスで増幅させて人類を無気力化させる。後は朽ち果てて終末だ」

プルツーは「在り得ない・・・」と一言呟く。だがフロンタルはそれを本気で成し遂げようとしている。そしてその理由はないとも言う。それが彼に与えられた役割だとしか言わない。

「常人ならば普通の思考だ。君もそうだな、プルツーと言ったか?」

「ぐっ・・・」

プルツーの体にただならぬ気配を感じた後、頭痛に見舞われた。

「あああああああ!」

プルツーが叫ぶ。フロンタルはクスクスと笑っていた。

「まあ、抵抗せずして手に入れるには君もジュドー君と同じく廃人となってもらうことが一番手っ取り早い。後は任せて眠るが良い」

「・・・ざけるな・・・」

フロンタルの耳に小声で囁く。その声の持ち主にフロンタルは真顔になった。その声は大きくなった。

「ふざけるな!!」

魂の咆哮と呼べる叫びがジオングから解き放たれた。そしてジオングのコックピットが開く。ジュドー、プルツー共にノーマルスーツを着用していたが、その空間が緑白く丸く包まれていた。

「フロンタル!これ以上オレの大事なものを奪わせやしない!」

既にプルツーは正常に戻っていた。ジュドーが発するサイコフィールドの為でもあった。
ジュドーの言葉にプルツーは紅潮した。

「(ジュドー・・・)」

ジュドーが改めてジオングの操縦桿を握ったが、そこで違和感を覚えた。

「(こいつは・・・動かない)」

それはフロンタルにジオングが何等かの原因で制圧されたことをだった。操縦桿が固着していた。他のコンソールパネルを試した。するとハッチは動くようだった。

「成程な。プルツー」

「何だジュドー」

「ここから出るぞ」

ジュドーがそう言うとコックピットのハッチを開いた。その行動にプルツーが驚いた。

「何やっているんだ!」

プルツーがジュドーを怒鳴りつけた。ジュドーは首を振って「このジオングはもう動かない」と一言言った。その声をフロンタルは聞いていた。

「ジュドー君。流石の切り替えの早さ恐れ入る」

フロンタルが感嘆を漏らす。そしてジュドーとプルツーはジュドーのフィールド場を展開しながら宇宙空間へ飛び出した。フロンタルはゆっくりとその2人にライフルの銃口を向けた。

「さて、君らの利用価値は既に無くなった。後はその微かな望みだ。これを断たせてもらおう」

その時フロンタルの索敵モニターに急接近する機体を捉えた。それはジュドーの後方からだった。

「友軍か?」

フロンタルはカメラモニターでその物を捉えた。ZZだった。フロンタルはそのZZに向かってライフルを放った。するとZZは意思を持ったかの如く、回避の為に3つに分離した。その一つはフロンタルに目がけて突撃してきた。もう一つは威嚇射撃を仕掛けてきた。

「無駄なあがきを」

フロンタルはクスコとマリオンに意識で目くばせしてその分離した2機を撃墜させた。そして改めてジュドーに目を向けたときその場にジュドーは居なかった。索敵モニターを見ると急速度でこの宙域から離れる反応が見て取れた。

「上手く逃げたな。些細なきっかけを有用させるとは私も驕りがあるようだ」

フロンタルは自嘲していた。流れからジュドーらを消そうとしていた自分が急に抑えられている。

自分でも本気な部分と遊びな部分とよく分からなくなるときがあると理解していた。自分に与えられている役割、それに対しての意欲、それを見物して楽しむ自分、様々な部分で不安定だった。そんなことが総合されてジュドーを逃がしたことに対しても惜しくも感じなかった。

どれもパンドラボックスによるものだと自覚があった。ありとあらゆる何かが自分に取り込まれていた。一番の気になることが。

「(しかしながら以前抱えていた体の痛みが、不調が無くなっている)」

身軽の様な感覚、それ以上に何も感じない。何かを越えた感覚。思うと動く感覚。

パンドラボックスの作用に耐える為の薬漬けにしていた体だった。負の力を受け入れれば入れるほど負荷が掛かる自分の体。それまでは薬で何とか凌いでいた。賭けの要素が大きかった。負の力を受ける器の自分が耐えうるのか。それとも力に押しつぶされて無に帰してしまうのか。

目的達成の為に自己犠牲は已む得ない。それだけの代償を払って成就するものだと思いフロンタルは動いていた。ある程度の力を手にして触れると大体の質と量が理解できた。まだ足りないと、これで十分と言う匙加減が。

クスコがワイプでフロンタルのモニターに入って来た。

「どうするの?」

フロンタルは一瞥して、首を振る。ジュドーの追撃の事をクスコが求めていた。それをフロンタルは拒絶した。現状優先すべきは放棄されたジオングの確保だからだ。

「ジオングの接収が優先事項だ。このまま置いていては未だある軍事力に破壊されてはかなわん。最早作るにも作れないプロトタイプだからな」

マリオンがジオングについて質問する。

「マスター。この機体の何が大事なんですか?」

「ゼウスのリモコンと言っておこうか。ゼウスの体内に居ては耐えれないこともジオングの作用でそれを可能とさせることができる」

フロンタルはシナンジュのコックピットハッチを開けて、ジオングの開いてあるコックピットへと乗り移る。フロンタルはある操作をするとそのコックピットユニットがジオングから分離した。その光景をクスコが見て「ほう」と一言感嘆な声をあげた。

フロンタルは再びシナンジュへ戻り、コックピットユニットが離れたジオングの空洞にシナンジュを収納させた。するとジオングがシナンジュと一体化して動きだす。ステイメンが収まったオーキスの様だった。

「これが本来の完成形だ。ギレンすら知らない。彼の知る所はサイコフレームの最上級機体とそれでもたらされるサイコミュへの影響の可能性だけだ。そのことは彼の想像に及ぶものではない」

フロンタルの感想にマリオンが尋ねる。

「その真価の一端を見てみたいのですが・・・」

「是非もない」

フロンタルはジオングの機体をゼウスに向けた。そしてゼウスの艦橋へ通信した。モニターにマーサが映る。それにマーサが答えた。

「何かオモチャを見つけたようだね、フロンタル」

マーサがそう言うとフロンタルは頷く。

「ええ。期待以上のオモチャです。私はただ促しただけであとはギレンが仕上げてくれました。ここまで期待はしていませんでしたが・・・」

「成程・・・棚からぼた餅ね。で、私の計画に有益なものなんでしょうね」

「それは勿論。元々ゼウス単体でも為せる業でしたが・・・」

「それが?」

フロンタルはマーサの返しに笑みを浮かべた。

「ゼウスの力を200%以上も発揮できます」

マーサは驚きを見せた。そして高らかに笑った。

「アッハッハッハ、よくやったフロンタル」

フロンタルは首を傾げた。そして質問した。

「ミズ・マーサ。状況がよくわかっていらっしゃない」

マーサはその質問に急に真顔になる。

「・・・何の話です」

「ゼウスの出力が200%です。それを及ぶ力は艦橋のフィールドの耐久を凌駕します」

マーサは急に顔色が変わった。そして引きつっていた。

「フ・・・フロンタル・・・何を言い出すんだい?」

その声に艦橋のクルー全員が狼狽えて騒がしくなっていた。皆が大体ゼウスの性能を知っていた。そして解析が終わった今その凄さを知っていて、それはゼウス内に居て安全だった。それが大前提であった。

フロンタルはマーサが理解に至った事に満足感を覚えた。

「それが正常な反応です。そしてこのジオングがゼウスのリモコンとなります。では、ごきげんよう」

「ま、待ちなさい!」

マーサの呼びかけの声が発したとき、艦橋の全員のみならずゼウスの中にいる全ての人がその場で倒れ込んだ。マーサも叫びながら全身を硬直させて崩れ落ちていく。

「(何を・・・誤ったのかしら。マ・クベの一件からも彼を疑うべきだった・・・)」

この時、マーサは悟った。死に際は走馬燈の様に思考が巡るらしい。自身ももれなかった。マ・クベの利用価値を見出しながら何故か死地へと彼を送り込んだ。今思えばそれはおかしい。でもその時の自分はそれを許したことに関してとても自然だった。

しかしながら不自然だ。だがもう遅すぎた。見ること叶わない自分には無用なことだった。マーサの目の前は白いもやだけでゆっくりと漆黒の闇へと落ちていった。

全員から煙が立っていた。その現象をモニターで見たクスコはゾクゾクと身震いして興奮した。

「マスター、この結果は?」

「フフッ、ゼウスの全クルー全員をショートさせた。人の中にも電気が走っている。その信号と呼べる神経伝達の発する電位差の制御を解放したのだ」

クスコは唾を飲んだ。

「へへ・・・、怖い話だねえ」

フロンタルはクスッと苦笑した。

「ゼウスの力の一端だ。この度はゼウスの動力部以外を行使した。これで更なる力がゼウスに加わるだろう」

マリオンはフロンタルの話に質問した。

「更なる力とは何ですか?」

「ゼウスの力の源泉はサイコフレームの結晶ではない。ここだ」

フロンタルは自らの頭を指で指した。マリオンは息を飲む。

「あ・・・頭ですか?(絶対に違う)」

「回答が陳腐だな。脳だよ」

マリオンは気分が悪くなった。フロンタルは続けた。

「マーサもある程度の科学技術スタッフも知っている。あのゼウスは人の脳を幾万も培養して直結させてサイコフレームに反映させている。無論生きた脳だ」

クスコは笑っていた。

「全てギレンがやってくれた成果ですね。マスター」

「そうだ。かの総帥のクローン施設。失敗すら成功の母へと変貌させた。恐ろしい奴だ」

マリオンは深呼吸をして、ギレンの行為をフロンタルへ再び質問する。

「しかし、何故こんな事を?」

フロンタルは一笑して答えた。

「無論。私への対策だろう」

「マスターへの?」

「ギレンは恐ろしい奴だった。私の存在を知り、パンドラボックスの性能とその展望の予測すら立てていた。それに対抗するためには同等の力が必要だと。ゼウスと私の力、似たようなものだと思わないか?」

マリオンは尋ねられ、ゆっくりと頷く。

「そう・・・ですね」

「勿論、技術の面で私に知られることも承知していた。だが、私の方が一枚上手だったというだけさ。あの仕掛けで仮にギレンの力が私より上だったらば私はここに居なかっただろう」

「そんな僅かな戦いだったのですか?」

「フフッ、私はそれ程過信していないさ。いつ何時もオンタイムでの試合をしてはたまたま勝ってここに居るだけだ。ただ運が良かったとしか思っていない」

フロンタルは一息入れて、宇宙に浮かぶゼウスを見つめた。

「マーサを徐々に蝕んでいかせた力もその過程で出来た話。さもなくばマ・クベ、マーサたる巨魁を打ち倒すことはできなかった。」

2人ともフロンタルのその言葉が本気だと思っていた。現状の結果が単に生き残ってこれたというだけというのは一緒にいただけ理解していた。裏付けあって生き残れるほどこの世界は甘くはない。余程の幸運ですら生き延びるに足りない。それを凌ぐ天運がフロンタルらには備わっていた。

クスコはそんな話を聞く中で力で人が操れることを思い、ふと疑問を尋ねた。

「ならマスター?マーサ、マ・クベともに洗脳はできなかったのかしら?」

フロンタルは頷く。

「彼らは確固たる意思の持ち主だ。壊せど洗脳はできなかった。促して疑問に持たせぬ程度だけだ。それも怪しまれない程度にな」

「へえ~、で、始末したと?」

「どうなろうが奴ら自身が本当に私の望みを完遂するには覚悟が足りないだろうよ。お前らと違って彼らはやはり生への執着がある」

マリオン、クスコともに欠陥としてあるのがそこの部分であった。それ以外は気持ち悪いものは気持ち悪い、綺麗なものは綺麗だと感じる。フロンタルの話に賛同しては協力してきているのがこの2人だった。フロンタルは話を戻した。

「さてと、ゼウスに戻って再調整だ。残りの技術班をゼネラル・レビルから呼び寄せて洗脳させて仕上げと行こう。事は急ぐぞ2人とも」

「あいよ」

「わかりました」

クスコ、マリオンともに頷いた。フロンタルはジオングを手に入れ、マリオン、クスコとゼウスへと帰投していった。その中でフロンタルはマーサの事を偲んでいた。

「(運の無い女性であったが、サイアムから託された私を世話しては目を掛けてくれた。悲しくは思う。だが、そんな貴女が世界の災厄になる姿を見るに堪えない。私が元より災厄としての全うする計画なのだ。私に任せて貴女には眠っていていただこう)」

ジオングはその後ゼウス内で整備されて赤く塗り直されることとなる。

* ルナツー 宙域 ジェリド艦隊 3.12

ジェリドはバウンド・ドッグで十数機もののジェガンを撃墜していた。傍にはエマとカクリコン、マウアーとそれぞれガブスレイに搭乗しては向かってくるロンド・ベルの部隊を撃退していた。

ジェリドの顔が強張っていた。理由は戦況にあった。ロンド・ベルのいくつかの艦艇がルナツーへ接舷されていたからだった。

事は1時間前、ルナツーは地球落下軌道への阻止限界点を越えて歓声を上げたが、ロンド・ベルの抵抗が止まない事に違和感を覚えた。

カクリコンとエマに偵察させてロンド・ベルの艦艇を拿捕すると作戦内容を暴露できた。

「ルナツーを細かく爆破して砕くだと!」

ジェリドがそう叫ぶとエマが対応を聞いてきた。

「どうするジェリド司令?」

「どうも何もやらせる訳にはいかない!地球を潰して休ませて、オレらは地球という概念から抜け出さなければならないんだ」

カクリコンがため息をつく。

「全く、ティターンズの当初の概念は何処へやら・・・」

マウアーも頷く。

「地球を守ってこそのティターンズなのにねえ」

ジェリドは激高した。

「やかましいわ!シロッコの理念にオレたちは賛同したんだ。最後までやり通す」

エマが頷き話す。

「そうね。ここまでの戦いも地球有りきで起きてきたことだものね。八つ当たりで地球には迷惑かかるけどこれで少しは平和になるわ」

するとカクリコンが気合いを入れた。

「よおーし!いっちょ邪魔してくっか」

するとカクリコンのガブスレイが傍のバーサムを引き連れて接舷しようとするロンド・ベルの艦艇を攻撃しに飛び出していった。ジェリド達も続いて行った。

先に飛び出したカクリコンがジェガン隊とぶつかった。
性能と練度の差は互角ですぐに膠着状態になってしまった。

カクリコンのガブスレイがモビルスーツ形態で敵機のリ・ガズィとぶつかる。

「このガンダムもどきめ!」

カクリコンが威勢よくライフルを放つがリ・ガズィは半身躱して避ける。リ・ガズィを操るはケーラ。ケーラは一応はこのガブスレイのパイロット技量を認めた。

「やるじゃない。もう少しズレていたら当たっていたかもね」

そのお返しにケーラもライフルを放つ。カクリコンはその攻撃を避けるが、ケーラは間髪無く3射してきていた。それも威嚇と直撃弾を予想して。そのうちの一撃がカクリコンのガブスレイを掠めた。

「うぐっ」

カクリコンに振動が走る。そこからは距離を保ちながら互いにライフルの応酬が続いた。
先に動き出したのはケーラだった。

「埒があかない。なら斬り込むまで」

ケーラはライフルをしまい、煙幕弾をカクリコンへ浴びせた。

「うおっ!」

カクリコンはモニターに映る白煙に戸惑いを覚えた。その瞬間次に見えたのはリ・ガズィの機体で至近だった。

「もらったよ!」

ケーラはサーベルでカクリコンのガブスレイに袈裟斬りを浴びせた。カクリコンは反射的にガブスレイの体を捻ったが右腕を持っていかれた。

「なんと」

カクリコンは態勢を整えることができなかった。間髪なくケーラの攻撃が続く。今度はケーラはカクリコンのガブスレイの胴体を蹴り飛ばす。

「ぐわあ!」

カクリコンは一瞬気が飛んだ。ケーラは再びライフルを構えた。相手は動くに動けない状況と感じた。

「これでジ・エンドだ」

ケーラはライフルの引き金を引こうとしたとき、ケーラのライフルが見事に狙撃された。

「やる!3時方向か」

ケーラはそのポイントから動く。傍にいた友軍のジェガンよりライフルをすぐさま調達し、その方向へ射撃した。変形したガブスレイが反撃射してきた。その射撃にいくつかのジェガンが小破した。

「やっぱりやる!あんな距離でジェガンを」

ケーラは傍のジェガンに撤退を促した。それにジェガンのパイロットは強気で言った。

「隊長!まだできます」

その意見にケーラが一喝した。

「バカ野郎!生き残ってこその物の種だ。上官命令だ!退くんだよ」

「は・・はひ!」

小破したジェガンらはケーラと残りのジェガンらの支援で撤退できた。カクリコンもそれまでには態勢を整えることができ、支援に来たマウアーのガブスレイと合流を果たしていた。

「すまない。マウアー」

「大丈夫か。カクリコンは後方へ」

「わかった。先陣を思いっきって切り過ぎた」

「いいさ。勢いは肝心だからな」

カクリコンはお礼を言って部隊後方へと退いた。その後戦線はマウアー、そしてジェリド、エマと維持することになった。

1時間後、ロンド・ベルの艦艇のいくつかがルナツーへの接舷を許していた。理由は戦力差にあった。ルナツー方面のジェリド艦隊は再結集したロンド・ベル艦隊の2分の1にも満たなかった。

それでも阻止限界点の突破を許すまでは防衛できた。ジェリドもそれで十分だと考えていた。その想定を超えた事には対応はできない。

ジェリドは対応に迫られた。あくまで阻止の為に玉砕をするか、この場を退いて落ちるルナツーをどんな形であれ見届けるか。その時シロッコの訓示を思い出した。

「オレたちが新しい世界の作り手、担い手になるんだ。どんなにカッコ悪くても生き延びる」

そう独り言を言うと、エマに通信した。

「エマ!」

呼び掛けると音声だけでエマが出た。

「何!ジェリド!今手が離せないの!」

エマは単機で複数機のジェガンと渡り合っていた。そのままジェリドは言い流した。

「全員にルナツーから撤収のサインを告げろ。進路は地球を迂回して敵と逆進方向、シロッコ艦隊へだ」

エマが辛うじて1機撃墜すると変形して急速離脱を図った。追撃するジェガンはその速度に追いつかなかった。そしてエマはオープンチャンネルでの撤退信号と並び信号弾を放った。

するとカクリコン、マウアーと気付き、ジェリド艦隊は一目散に乱れ乱れて撤退していった。その姿をラー・カイラム艦橋で見るブライトは「むやみに追う必要はない!目の前のデカブツだけに集中しろ」と告げ、全機、全艦艇を持ってルナツーを粉微塵に砕くことだけに専念した。

ジェリドはある程度離れたところで再結集を図った。すると3人と共に残軍がやってきたが、アレキサンドリア級が僅か3隻、モビルスーツに至っては14機だった。

「(何とまずい戦をしたのだ。艦隊の3分の1もない)」

後悔はしたが起きたことを取り戻すことはできない。取りあえず今できることにだけ力を注ぐことにした。

合流を果たしたジェリド残存艦隊は全機を収容し、交代要員を当番で取り決めては部隊の休息に充てた。最も食べて寝るだけだったが。

食堂内にジェリド、エマ、カクリコン、マウアーと揃っていた。ジェリドが話し始めた。

「シロッコらの戦場に辿り着くにしても半日は要する。休養に十分な時間だ」

するとエマがある映像を持ってきた。

「皆が一番知りたい情報だと思って持って来たわ」

カクリコンがほうけて質問した。

「一体なんだ?」

マウアーは呆れてカクリコンをたしなめた。

「今まで私たちは何をしていたのかしらね」

「あー!」

カクリコンは思い出したように声を上げた。ジェリドは気にせずエマに映像を回すよう告げた。
するとルナツーが映し出されていた。

「おー」

カクリコンが再び声を上げた。他の3人も見入る。いくつもの貼り付いたロンド・ベルの艦艇が見えた。阻止限界点はその物質の質量によるもので艦艇クラスではまだ重力に負けることのない距離だった。それでもリミットはあった。

映像の10分後にはロンド・ベルの艦艇らが全てルナツーより離脱した。するとルナツーは四方へ亀裂が走り割れる。その割れた1つずつにも更に亀裂が走り割れる。それが延々と繰り返された。

結果、大気圏内へ到着前に艦艇クラスまでの石ころになった。が、それが地球の大気圏内で燃え尽きるに少々及ばなかったものがかなりあった。

ルナツーの落ちた付近はアメリカの穀倉地帯から太平洋を渡りチベットまで降り注いだ。そこらに無数のクレーターができる始末になった。それでも地球には甚大な被害を与えることとなった。資源、人的にも。

エマはその後テレビチャンネルへと変えた。すると報道でこのルナツーの落下について特集していた。
その後政府情報筋からもう一つの隕石落下の方が報告されているとの情報が報道されていた。これにより地球がようやく騒ぎ出した。

今回の出来事が牽制になると4人は思った。シロッコが全て読んでいたとも思った。
マウアーは身震いをした。

「しかし、シロッコ将軍は恐ろしい」

マウアーの呟きにジェリドが尋ねる。

「何故だ?」

マウアーはジェリドを見て自分の考えを話した。

「マスコミをも戦略的な要素に入れていた。当初3方向からの隕石落としだ。最短はソロモン、次にア・バオア・クー、そして一番遠いルナツーだ」

3人とも頷く。マウアーは話続けた。

「しかしア・バオア・クーが残った。ルナツーを先に落としておいて」

「それがどういうことなんだ?」

カクリコンが説明を求めるとマウアーが話した。

「ソロモンは軍への牽制。ルナツーは世論への牽制。本命はア・バオア・クーなんだ。将軍の狙いは隕石落としよりも地球の危機を知らせたかった」

エマは複雑な面持ちで疑問を呈した。

「何故、隕石を落としたいのにわざわざ落とすぞ!って知らせたいのかしら?」

マウアーは考えてゆっくり話始めた。

「おそらくは・・・あまり犠牲を出さずに済ませたい、そして一致団結させたい、地球に居てはならないよという警告、というか地球から外に目を向かわせたいという話か、あー!分からない!」

マウアーが頭を掻きむしって抱えた。カクリコンがコーヒーを口にして思った事を述べた。

「でもさあ~、完全に八つ当たりだよな?」

「何がさ?」

ジェリドが聞いた。カクリコンはジェリドを一目見て天井へ目を向けた。

「地球へさ。なんか全てが地球を出汁にしている感じがあるねえ。オレにとっちゃ今まで地球があるから起きた問題で、地球がなければ別に考えが向くような感じで将軍が地球を壊そうとしている気がしてならない。まっ、それも一つのアイデアなんだろうけど、地球が不憫だねえってことよ」

ジェリドも考え込んで、カクリコンの意見に同意した。

「・・・確かにな。しかしシロッコがこの辺で地球に休んでもらおうと思ってやっていると考えては?地球に人が居なくなれば、時間が地球を癒してくれるだろうよ」

「それも利己的なんさ。多角的に考えても人の都合など利己的なんだ。そんな事で地球を潰すなんて考えてもいいのかなってね」

4人共考え込んでしまった。


 

 

41話 ア・バオア・クーの戦い① 3.13

* ア・バオア・クー宙域 パプテマス・シロッコ 3.13

既に戦闘態勢が整い、直ぐにでも火花が散りそうな両軍の距離の前線で1機のモビルスーツが鎮座していた。その後ろにはア・バオア・クーと自身の艦隊が展開していた。

その機体の名はジ・O。パイロットはティターンズ最後の司令官パプテマス・シロッコだった。
彼の目の前にはカラバの艦隊とネオジオン艦隊、そして各々のモビルスーツ部隊が展開していた。

シロッコ側が戦力で言えば倍近くある。そして隕石落としは云わば籠城戦だ。
城を攻め落とすには古来より3倍以上の兵力差が有って挑むものだと言われている。

圧倒的な力の自分に立ち向かうカラバ、ネオジオン、またはロンド・ベル。どれもがかつては敵同士だった関係が味方として手を取り合っている。その決意が揺るぎないものにする為には共通した強大な敵に立ち向かう必要性がある。

「・・・人類は組織的なしがらみを潜り抜けて、再び思想というモノの名の下集まった。これが本来忘れていたものだ。大切な事だ。それを気付かせてくれたのは私も含めた時流によるものだ」

そうシロッコは独り呟いた。そのシロッコの前に3機のモビルスーツが現れた。Zガンダム、νガンダム、サザビーだった。勿論乗るパイロットの面子はカミーユ、アムロ、そしてネオジオン総帥のシャアだった。

カミーユがシロッコに話し掛けた。

「初めましてですね。シロッコ将軍。オレはカミーユ・ビダンと言います」

カミーユの力を測れるほどの機体性能と自身の力を持ち合わせていたシロッコは話し掛けてきた者の存在を対等と認めた。

「成程、カミーユ君。さて余り時間は無い。3者とも出てきたからには話があるということなんだろう」

シロッコは敢えて3人のモニターへ直接回線を開き姿をさらした。3人とも各々ワイプモニターを映し出してほぼテレビ会議の様な仕様になった。その状態を見たシロッコは頷いて話始めた。

「後はアムロ・レイにシャア・アズナブルか。私がココにいることはワナだということを承知しているわけだな」

アムロはシロッコの話に頷く。

「魅力的過ぎる囮だ。しかし手は出せない。貴方は鶴翼陣形で進軍している。もし我々が貴方を追い求めて部隊を動かせば・・・」

その後シャアが話す。

「あっという間に包囲殲滅。そんなことは誰もが知っている」

シロッコは一笑した。

「フッ。ということは話というのは別件だな。我々で話を付けようということか・・・。しかし3対1は中々卑怯だな」

アムロは首を振った。

「どうとでも言えばいいさ。貴方が起こした動乱が地球の体制を変えてしまう。ルナツーは辛うじて地球に致命傷を与えることはできなかったが、環境破壊と多数の地球に住まう住民に被害を及ぼした」

再びシャアが話す。

「その余波で地球からの離脱者が多数現れて地球を棄てる意識が高まった。我々には嬉しい話だがな」

シロッコがシャアの発言を取り上げた。

「それならばシャア。何故私の味方をしない?」

「投げやりで無責任だと思ったからさ。統率する者は先んじて事業計画を練って導いていく義務がある。お前のやり方の失点はそこにある。ギレンでも愚鈍な政治家でもやっていたことだ」

シロッコは虚を突かれた気分になった。シャアという人物を余り知らずにアムロらと同じく熱い人物と捉えていた。シャアはどうやら文明人して生きていく上でのプロセスを大事にする人物らしいと初めて知った。

一方のアムロもシャアの発言にこの世界のシャアは自分の知る違うシャアだと感じていた。恐らくはララァの様な存在を失うことなく、悲観することなく、ただ何を為していけば良いかを純粋に良い方向で考えていける人物へと成長を遂げたのだと思った。

「(人は些細なきっかけでもここまで変われるものなんだな)」

そうアムロは嬉しく思えた。何分(なにぶん)命を狙われ、そこまで恨み思われていた自分が、その宿命の相手について何も思わない訳が無かった。前の世界では救えなかったシャア、自分の想いが今少し晴れたような気がした。

シロッコはため息を付いた。3人に本当の事は伝えられない。この性急さには理由がある。
フロンタルとメシアだ。

彼らはこの世界的な事件を高見の見物に決め込むつもりだ。フロンタルは計算内だ。メシアは計算の外に出てしまった。この世界の想いが束になっても敵わない。力で対抗する次元でない。

そのため息を3人が見て、シロッコは内心ハッとしてしまった。表情には出さないところがシロッコだった。

「・・・もう少し簡単な理由で戦いをしてもらいたいものだ」

そう言って思いを濁した。それを3人には何とか悟られなかった。
カミーユがシロッコへ話し掛けた。

「貴方は、どんな簡単な理由で地球を壊そうと、人を不幸にしようとしているのですか?」

シロッコは自分のペースに乗ってきたカミーユに悪役らしく対応した。

「そうしないことが不幸なのだよ。今までの厭戦も目覚めない地球に居るという特権意識が私の様な者を輩出したのだ」

カミーユは眉を潜め、矛盾を突いた。

「言い方が可笑しくありませんか?地球特権意識を持つティターンズに所属する将軍であるパプテマス・シロッコが地球を壊すなど!」

「フフッ、ティターンズも一枚岩ではないのだよ。組織など右に寄る者が有れば左もいるということだ。私は結果地球から巣立つ必要性を感じたのだ」

「なら!何故・・・貴方だけで良いだろう!」

シロッコは笑った。

「私はどちらかと言えばそちらのシャアの様な立場を自称している。事は私一人でどうにかできる様な問題ではない」

シャアはそこで一つ呟く。

「性急でお粗末だ」

シロッコも同感だと思った。本意でないからだ。カミーユはシャアの助け舟を乗る。

「ああ、性急でお粗末だ。貴方の様な優秀な方がそんな事を計算できない訳が無い」

シロッコはそんなカミーユの質問にもサラッと回答した。

「そう冷静に考えることで世界が変われるのか?」

「落ち着いて考えないと良い答えも出せないでしょ」

「落ち着いて考えた結果がこの状況なんだよ!」

シロッコはいきなり吼えた。カミーユはビリッと威圧された。

「今まで消えていった政治家らや有力者らは皆冷静に物事を運んでは最悪な方向へと進んでいった。そして舵取りは消えて、漕ぎ手がいない舟を各々が話し合いながら、探り合いながら進んでいこうとする」

「そうだ。それでいいじゃないか。相談して解決する。やっと世界が皆同じテーブルにつけるんだ」

カミーユはシロッコが語る世界の現状を肯定する。それをシロッコは否定した。

「船頭多くして船山に上る。それではこの広大な宇宙で路頭に迷う。覚悟の上でも世界に一石を投じねばならない」

「石にしてはデカすぎるだろ!」

カミーユは陳腐な切り返しにシロッコは一笑し、再び厳しい表情になる。

「確かにな。だが冗談ではない。最早人類はチェックメイトなのだよ。地球で、暖かな土にぬくぬくとしている、その想い出から抜け出せない人類に誰かが荒療治をかって出ないことにはな。後戻りは退化だ」

「何を慌てているんですかシロッコ将軍!」

「・・・これが好機であって、私が為すべき事なのだ。これを回避してはもう私は何も力になれない」

カミーユはシロッコの焦りが見て取れた。ある程度まとまりつつある地球圏の勢力はとても危ない均衡の上で成り立っていることはカミーユは知っていた。それをシロッコは言いたいのだろうかと思った。
だが何かしっくりといかなかった。

シャア、アムロはシロッコの言から考えていた。この7年で争ってきた者達が手を取り合って仲良くしようなどという理想を語るには難しいことだと。大事な意思はシャアやアムロではなく、一下士官であって、それを支持する市民、政体にあるからだ。

ジオンのせいで、連邦のせいで不幸になった者達との関わりが戦後待っている。

この戦いは結束の面で必然的だと。純粋に地球を侵略してきた敵を人類が守る、のような構図をシロッコは提示していた。

アムロはシャアに話しかける。

「シャア、オレたちが正義の味方らしい。シロッコは侵略者だ」

シャアはアムロの言いたいことに頷く。

「そう言う構図を彼を提示している。彼を倒して終いだな」

シャアがそう言うと、カミーユが苛立って2人に声を掛けた。

「ちょっと待ってください!」

カミーユの呼びかけにシャアが答える。

「どうしたカミーユ?」

「彼の言葉・・・彼のテンションが全く食い違っています。彼は真意を語っていない!」

カミーユの声にシロッコは一方的に通信を止めた。

「では戦うとしようか」

「ちょ・・シロッコ!」

3人のモニターからシロッコのワイプが消えた。3人の目の前に映るのはジ・O。そのジ・Oが左手を挙げた。すると軍が一斉にゆっくりと進軍してきた。

カミーユは憤り、アムロとシャアは目の前のジ・Oに目がけて射撃を始めた。シロッコはそれを難なく躱す。シロッコもライフルで応戦する。カミーユだけがその場から動かず、アムロとシャアはその射撃から回避行動を取っていた。

その1つがカミーユの直撃弾として向かってきた。アムロ、シャアもその弾がカミーユに直撃すると直感で分かった。

「避けろ!」

「何しているんだカミーユ!」

2人して叫んだがZガンダムは動かない。そのビームの軌道がZの直前に来て直角にズレた。それを見たアムロ、シャア、シロッコは驚愕した。Zの周囲に何らかの磁場が働いていた。物理法則を無視する力だ。

シロッコが目を凝らしてZを見た。何とか薄っすらとフィールドが見えた。そして違和感を覚えた。

「(可視困難な力・・・まさか、彼も人外の力を得ようと・・・)」

シロッコは舌打ちした。この先禁断の領域に人が踏み入れたとき、滅ぶかその人自身が消えるかの2つに一つだとシロッコは考察していた。

「(メシア・・・これをどうみるか?)」

シロッコはチラッと後方の艦艇を見ては再び前へ戻す。すると目の前へと接近してくるνガンダムとサザビーの姿が見て取れた。両方ともファンネルとライフルを用いながらジグザグに射線を絞らせないようにジ・Oへ接近してきた。

「(流石エース!)」

シロッコはライフルで両者のファンネルを的確に撃ち落とし、その間も彼らの接近を阻む様に威嚇射撃をこなした。それを見たアムロとシャアはシロッコの戦闘能力に驚いた。

「(まさか・・・)」

「(ここまでやる奴とは)シャア!」

「分かってる。ええい!」

シャアは単機で速度を上げて、アムロより先行した。戦法を変えてきたことをシロッコはシャアに意識を向けた。シロッコのライフルの2射でサザビーのシールドを破壊した。シャアはダミーを放出しながらジ・Oの懐へと接近した。

「(獲れる!)」

シャアはサーベルでジ・Oの横腹を薙ぎ払おうとしたが、既にシロッコもジ・Oのサーベルでシャアのサーベルを受けていた。

「シャア!よくやった」

アムロがサザビー、ジ・Oの上部に躍り出ていた。同様にサーベルを握り、ジ・Oの頭上から打ち下ろそうとしていた。シロッコはライフルを持った手をアムロのガンダムの振り下ろす腕を阻んだ。その反動によりアムロのガンダムは後方へのけぞる。シロッコはその隙にシャアを追い詰めようとした。

「まずシャア、君からやらせてもらう」

シロッコはジ・Oの仕掛けのひとつ隠し腕を使う。突然出てきた腕にシャアは虚を突かれた。

「(やられる!)」

シャアは至近での隠し腕のもつサーベルが自身を貫かれるイメージを抱いた。
その時、ある機体のサーベルがその隠し腕のサーベルを受けた

「なっ!」

シロッコは驚く。そこにはカミーユのZガンダムがいた。幽霊の様な気配で誰もが気が付かなかった。
その隙にシャアは離れた。シロッコは認識したZに攻撃を仕掛けた。

何合もサーベルを合わせてシロッコはカミーユの実力を知った。そして安堵した。

「(取りあえずやれそうだ。問題は彼の過ぎた覚醒か)」

カミーユの攻勢にアムロとシャアが参戦する。シロッコはライフルを仕舞い、隠し腕と合わせて3つのサーベルを用い、3機を同時に相手をしていた。それにアムロ、シャアとも驚愕した。

「ここまでやるのか」

「ああ、シロッコという才能。規格外だ」

「・・・」

アムロとシャアは感嘆を漏らしていたがカミーユだけは別だった。彼の真意が知れないまま戦うことに苛立っていた。カミーユは意識をシロッコへと向けていた。サーベルを合わせながらも何かを読み取ろうとしていた。

そのプレッシャーにシロッコの心はざわついていた。

「(まずい・・・カミーユという少年は・・・)」

物事には順序がある。カミーユがスキップし、フロンタル、メシアに出くわすことは都合が悪い。
その焦りがカミーユに伝わって来ていた。

「シロッコ将軍・・・」

カミーユが呟き始めた。シロッコは答えない。

「カーディアスさんからフロンタルの存在は聞いています。貴方が諸悪の根源たるに得ない!それなのに!」

カミーユの発言にシロッコは頷く。カミーユはカーディアスからある程度の話を聞いているという事実をシロッコは今知った。その背景が有って純粋に自分の行動に疑問を持った訳だ。

シロッコはため息を付いて一つ本音をカミーユに語った。

「カミーユ君。一つ伝えておこう」

「なんだ!」

「君は独りでこの軍勢を相手にできるか?」

「無理に決まっている!」

「これよりの相手は独りでは立ち向かえることのできない。最早才能でどうにかできるものではない事態だ」

シロッコは3人の相手を防戦一方ながらも捌ききった。その時には中央部より増援部隊が到着してきていた。ジ・Oにしても三機相手での燃料の消耗は甚大だった。

「ギリギリだった」

シロッコはすぐそばにいたメッサーラで来ていたサラに前線の指示を任せた。

「サラ、君ならできるはずだ。教えた通りに彼らを窮地へ落とすのだ」

「かしこまりました、パプテマス様」

シロッコは自分の旗艦へ帰投しようと後ろを振り向いた。そこには肉眼でとらえられ程大きなア・バオア・クーが居た。

「(さてと、宇宙移民たちもこの事態をどう捉えるか・・・)」

サラの部隊の後方に各サイドのマスメディアが来ていた。シロッコはジャミトフ亡き後の戦闘から報道各社への規制を解いた。それよりも率先して報道するように促していた。

地球の最期、人類の巣立ち、地球回帰からの決別などなど、人類にとっての現在最高のテーマを報道へ提供した。予想通り食いつきが半端なかった。

* カラバ 旗艦 ラー・ヤーク 

ハヤトは帰投してくるアムロらの報告を聞き終わっていた。隣にカイ、ミハル、クワトロが居る。
他の面々はすでに出撃し、各部隊を指揮していた。

ハヤトは陣容を改めてモニターに見てはため息をついていた。

「勝てる戦・・・ではあるのだが、人道的ではない」

倍を有するシロッコ軍に対してそうハヤトが発言する理由をカイは知っていた。

「地球軌道艦隊が持っていた土産だろ?戦術核など戦で用いても良いことなど一つもない」

カイの意見にクワトロが頷く。

「同感ですな。ですが、それをア・バオア・クーに用いるのは悪くはないでしょう」

カイが首を振った。

「核の使用事態が最悪なんだ。ミハル」

「ハイ、こちらです」

ミハルより提示されたタブレット資料にハヤトとクワトロは見入った。

「報道規制が解かれている」

「ほう、そう来ましたか」

「ああ、共通な世論は核散防止だ。正しいと謳うならば核はもはや使えない」

カイが両掌を返して、ため息をつく。そして戦況図を眺めた。両軍とも鶴翼陣形を取りつつ戦闘していた。そのため中央部が空洞化し、総力戦という状況ではなかった。それもア・バオア・クーの前進と共に崩れていくことになる。

「両翼ともに技量で補っているため、押し込まれもせず押し込みもできてないな」

カイがそう言うとハヤトは頷く。

「ああ、現状は五分だが中央部の軍、いわゆるア・バオア・クーと共に動く敵本隊が厄介だ」

ハヤトがそう言い終えると、モニター通信でアムロが登場した。

「ハヤト、ひとつ提案がある」

「なんだ、アムロ?」

アムロが手元のタブレットを動かして、ブリッジにデータ通信した。

「メディアを利用して、核使用の正当化をこの時だけに限るんだ。現状地球無くして生計が立たない。シロッコはそれを考慮せず、犠牲を強いてでも自立を図りたい。それは地球を潰してまでもと」

カイは微笑した。

「お前も悪党になってきたな。オレは好きだぜ、そんな考え」

その通信にシャアとカミーユも参加してきた。シャアも最寄りの補給艦としてラー・ヤークを利用していた。

シャアがまず話始めた。

「私たち宇宙移民らには劇薬だ、アムロ。ガルマも私もそれでは後日の苦労が絶えない」

シャアの反論にアムロが代案を求めた。アムロは顔を顰めた。シャアは戦後のことを視野にしてはア・バオア・クーの落下すら計算に入れている。冷静さと冷徹さがあった。

「ならば、この事態の打開をどうするんだシャア」

「何も大々的に喧伝する必要ないことということさ」

シャアは秘密裡にやれと言っていた。カイは笑った。

「こりゃ、ここには悪党しかいないとは。で、シャア。一体どうしようと?」

シャアはワイプ越しに頷く。

「ええ、隕石内部から核を爆発させればいい。メディアが見てとれるのは戦況の外観だ。戦闘している内部までは見れない」

核の利用確認はカメラで捉えた爆発具合によるものだとシャアは述べた。カイは腕を組む。そして質問した。

「しかし、今のメディアに通じるか?」

「ア・バオア・クーの移動には核パルスエンジンを利用している。そして現に核の実質的な持ち主はティターンズだった」

シャアがサラッと答えると、ハヤトがボソッと言った。

「・・・誘爆と言い切る気か」

シャアはニヤッと笑った。

「ご名答。ア・バオア・クーにはティターンズの核がある、と世間に発信しておく。嘘か誠かはこの際どうでもよい」

アムロとハヤト、カイが「でもなあ・・・」と口を揃えて話していた。その後ハヤトが話す。

「こなす上でまず決死隊が必要だ。そしてある程度誤爆の可能性を示唆したい。内部事情に少しでも触れる組織、いわゆる連邦組織に近いカラバやロンド・ベルはやはり難しい」

シャアは「だから我々がいるのだろ?」と再びサラッと言った。

「ネオジオンなら共闘しようが、そこまでの内情は機密で調べようがなかった。隕石を止めるに動く動力の核パルスエンジンの破壊が急務。それによる隕石内のシロッコの核が誘爆、これが脚本だ」

シャアは他3人を黙らせた。3人とも深く悩もうが時間的猶予といい、代案が思い浮かばない。
3人とも頷きはしたが、返事はしなかった。シャアはそれで充分だった。

「では、レウルーラに戻らせてもらう。あとはこちらで勝手にやらせてもらう」

シャアはそう言い、ラー・ヤークから発艦していった。シャアの進む方向にはネオジオン艦隊がいた。
半数は片翼でガルマが陣頭指揮を執っていた。別動隊が既に分かれて、ア・バオア・クーへ向かっていた。ハヤトは軽く舌打ちをしていた。

「シャアめ。補給に来た以前に艦隊に指示していやがった」

カイもため息をつく。

「そうみたいだな」

アムロは急ぎ発艦許可をハヤトに求めた。

「ハヤト、オレの戦隊も急ぎサポートに入る。先手はいいが、あれではシロッコ本隊に潰される」

ハヤトはもちろん許可を出した。しかし、アムロの戦隊だけではなかった。

「アムロ、先行してくれ。しかしこの本隊も共に動く。総力で目標を仕留める」

アムロはハヤトの覚悟に微笑を浮かべた。

「了解だ。カミーユ、先に行くぞ。アムロ、ガンダム出る!」

隣り合って傍にいたカミーユのZをアムロは一目して発艦した。カミーユはアムロらの話には参加せず、別の想いに馳せていた。

「(シロッコの背後に躊躇いの、悩みのもやが見えた。アレの正体を探る必要がある)」

カミーユに発艦を求めるオペレーターの声が聞こえ、カミーユは我に返った。

「すまない。呆けていた。カミーユ、Zガンダム出ます!」

カミーユはカタパルトで射出されてから即座ウェイブライダーへ変形した。カミーユが周囲を見渡すと無数のゲタ(ベースジャバー)が浮いていた。発艦したジェガンらは即座にそれに乗り、先行するアムロのνガンダムを追尾していった。

カミーユはエンジンを上げて、アムロに追いつく。

「(この戦いの正体を暴かないと、何かが良くない気がする)」

そう曖昧な想いを抱いたまま、カミーユは戦闘に身を投じていった。


* ア・バオア・クーの後方宙域

そこには3機の機体が浮いていた。1機はジ・O、もう1機はユニコーン、そして巨体を浮かべるジオング。

ジ・Oに搭乗しているシロッコは神妙な面持ちだった。ユニコーンのメシアことララアは平然としており、ジオングのフロンタルは含み笑いをしていた。

「さてと・・・世界を握る者たちがここに一同会した訳だが・・・」

シロッコが先に話し出す。フロンタルがその後話し出した。

「これは計算外だった。と言えども常に計算など役立たないものだが」

そしてララアも話す。

「ええ、あなたたちにとってみればそうでしょう。人の身である者、造られた者は世界の合理性を持って存在している価値あるものです」

フロンタルがララアに尋ねた。

「あなたは?」

「私は世界にとってマイナスであり、プラスであります。世界の均衡はゼロでなければ世界が壊れます。私の存在がなくなる時、それは世界が安定したときです」

シロッコは黙っていた。フロンタルはララアの神格的発言にケチをつけてみた。

「例えば、私があなたをここで消そうとしましょう。何が起きます?」

「・・・世界が壊れましょう。マイナスがその存在のまま消えてしまってもバランスが崩れます。私はオーガスタのサナトリウムで世界との接続を行っていました。しかしながら、ここにいるシロッコに邪魔されました。結果、私自身への一通な世界との接続だけになってしまったのです」

「ふむ。もしシロッコの邪魔が入らなければ?」

フロンタルの問いにララアは少し間をおいて答えた。

「貴方は居なかったでしょう」

フロンタルは眉をひそめた。

「それはどういうことです?」

「・・・私の存在意義は世界の均衡の為。純粋なものにする為。私も含めて不純物たるものは取り除く必要があります。本来の道筋から逸れているこの世界はとても危ないのです。その調整をあのサナトリウムならば可能にできました」

「それならば、またオーガスタに戻ればよかろう」

フロンタルがララアに言うと、ララアは首を振る。

「もう既に時機を逃しました。あの時ならば手繰り寄せることのできた世界の糸は最早数々の出来事のズレによって無数の糸が混ざり合い、取ることはできません」

シロッコは2人の会話を黙って聞いていた。続けてフロンタルがララアに話す。

「仮に完全な貴女になりえたとして、何故私を消す対象となりえたのでしょうか?」

「見れば見えます。大枠をもってして整頓すれば貴方のような存在は整理対象でしょう」

「・・・確かに」

フロンタルは少し笑った。

「で、不完全な貴女はこれから何をしようと?」

「・・・私は感じ取れる範囲での人外の力を排除することしかできません。それも人の力で及ばないものしか手出しできません。確証ないことに動くに一体何を世界に及ぼすかが私にはわからないからです」

フロンタルは腕を組み思考していた。当然の質問をシロッコへ投げかけた。

「シロッコ、何故私にこの女史を会わせたのだ?」

シロッコは深呼吸をしてから答えた。

「今、現時点でお前を倒せる人はいない」

ララアとフロンタルはシロッコの話を静かに聞いていた。

「倒せる機会があったかと言えば・・・ありはしなかった。手順を踏む必要があったからだ。私なりに野心を持ち、人類を正しい方向へ導いていく、その標になれればと思い行動していた」

シロッコはモニター越しだが、ジオングとユニコーンを一目見た。

「メシアは、オーガスタにてサイコミュの研究をしていた。その成果は著しく、その果てに在るものを想像したときに寒気がしたのだ」

「ほう、寒気とは?」

敢えてフロンタルが相槌を打った。

「人類皆共感し合える世界だ。雑に言えば達観してしまうということだ。とてもつまらないと思わないか?」

ララアは微笑を浮かべた。

「・・・そこまではしません。ただ調整をしたかっただけです」

「神の見えざる手でか。人の行為に意思がなくなる」

シロッコが唸っていた。フロンタルは「なるほど」と頷いていた。そして自身のことも尋ねた。

「して、私はどうかな?」

「フロンタル。貴方はこのメシアと対極だ。人の怨念の集合体、その可能性は神の領域にあるかもしれない」

「買いかぶりすぎではないかな?」

シロッコは首を振る。

「私は見る目がある方だ。だから今日まで生き残ってきた。貴方の力とその望みをこの場で削りにきた」

フロンタルは首を傾げた。

「何故?貴方がこの私とやろうとでも?」

その回答はララアからもたらされた。

「フフ・・・私がフロンタルと戦うのね」

「というより、戦わざる得ないだろう」

シロッコはララアの言葉に重ねた。フロンタルも得心したような表情をしていた。

「やり方は違えど、目の前のガンダムもどきを倒せば私の願いが成就されるか」

ララアはフロンタルのジオングを目の前にして、ゆったりと緑白いオーラを出し始めた。

「世界の均衡の為に迎え撃つ必要に迫られた訳ですね」

2人の意見にシロッコは笑みを浮かべていた。

「そういうことだ。化け物同士で潰しあってもらう。私という一個人が仕掛けた人為的な戦いだ。互いに存分にやってくれたまえ」

シロッコのジ・Oが後ろを振り向きその場を去ろうとしたとき、ララアが一つ尋ねた。

「シロッコ、貴方はいつこの絵を描いていたの?」

シロッコは再度笑い、答えた。

「それこそ買いかぶりですね。状況を知れば、こんなひらめきは最近でも生まれます」

ララアはそれを聞いて、シロッコへこう答えた。

「分かりました。貴方は人でした」

シロッコはララアの言葉を聞いて、ア・バオア・クーへ戻っていった。


* ア・バオア・クー宙域 

カミーユがアムロを抜いては突出して前に出ていた。カミーユの早業は神懸かっていた。
再三のアムロからの連携要請もカミーユは断っていた。

「軍属の戦いではないんですから、アムロ中佐。オレはシロッコに会う必要があるんです」

カミーユがそう言うとZが更に宙域の奥へと進んでいった。最早アムロの声も届かない。

「仕方ない。オレたちの編隊だけでア・バオア・クーにとりつくぞ」

「了解!」

アムロのνガンダムとジェガンらはシロッコ軍のマラサイらを蹴散らしてア・バオア・クーへ肉薄しようとしていた。

カミーユが思うがままZを走らせているとまるで運命の如く、目的の人物に会うことができた。

「シロッコ!」

「む!カミーユ君か」

Zはモビルスーツ形態に戻っていた。目の前にジ・Oが居る。

「シロッコ将軍。あなたの真意を知りたいんです。貴方はそれほど悪いひとではない」

シロッコは高らかに笑った。

「馬鹿な!私以上の悪人がどこにいる?破壊の限りを尽くし、尚地球を潰そうとしているのだぞ」

カミーユは首を振った。

「それは・・・全て演技だ。殺された方にとっては迷惑だがな。将軍こそが万人に叡智を与えることができるひとだとオレは思う」

「なら同志になれ」

「それはできない。将軍が主役に立たないからだ。まるで世捨て人のようにも感じられる」

シロッコはカミーユを目の前にして目を瞑り考えていた。

 

 

42話 ア・バオア・クーの戦い② 3.13

 
前書き
足しながら書いておりますので、ややこしいかと思います。
ご了承ください。完結を目指します。


 

 
シロッコは目を見開き、カミーユにこう告げた。

「君が私を打ち負かすことができたら知りたいことを教えてやろう」

カミーユはその挑発に乗り、シロッコと戦うことにした。

最初はシロッコの動きに翻弄されて防戦一方だったが、そのうち五分になってきていた。

戦いのペースに慣れてきたのかと思ったが、カミーユ自身怪しく思った。
そのうちZガンダムを操るカミーユは自覚できる程に五感すべてが研ぎ澄まされていた。

「よく分からないが、やれる!」

カミーユはZの機動性以上にバイオセンサーを最大限に利用し、シロッコの動きの軌道予測をしながら優位に戦闘を繰り広げていた。

理由は不明だった。それを知るのは対峙しているシロッコだった。

「(やはり、影響を受けている。私が対応に遅れるとは)」

ジ・Oを操るシロッコも神懸かりな操縦術でカミーユの攻撃を交わしていたが、機体は幾度もかすり傷を負っていた。自身の能力を過信はしていないが、実力は自負している。そこらのニュータイプに遅れを取るほどの力は劣ってはいない。

が、自分の回避能力とサイコフィールド場を凌駕してくる目の前のガンダムがいる。明らかに異常だった。

「(因果とは、面倒なことだ。全てはアムロ・レイの影響か・・・)」

シロッコ自身も振り返り、ここまでの技量と才能を開花させた理由がいくら探してもアムロ・レイでしか答えが見当たらなかった。

シロッコはライフルで牽制しながらカミーユとの距離を詰めて、Zが持つライフルを破壊しようとした。カミーユはその意図を悟り、敢えて誘導し、シロッコを射程圏内に収めた。

「将軍!覚悟!」

カミーユはそれでも直撃をそらす。理由はカミーユはシロッコとの対話だったからだ。
ジ・Oのライフルを持つ腕に狙撃した。シロッコは持つライフルをカミーユの射線に投げつけて難を逃れる。

「(危ない・・・。が、絶望的だ)」

シロッコは遠距離戦闘の術を失った。今のカミーユには近づくことが困難だ。
暫く考え、非情ながらある結論で戦いをカミーユに挑むことにした。

「どうだ!私を撃ちたいならそうしてみろ!」

自殺行為とも見れるジ・Oの直線的なカミーユへの詰め寄りは彼を怒らせた。

「貴方ってひとは!それで済まそうとするのか!」

カミーユのライフルの照準がジ・Oのどこを定めても貫き直撃になってしまう映像(ヴィジョン)しか見えなかった。

そうしているうちにジ・Oはカミーユの至近に来た。ジ・Oのサーベルがカミーユを切り裂こうとした。

「残念だが、ここで君を摘む!」

シロッコのジ・Oが振り上げたサーベルは振り下ろされることがなかった。その瞬間にジ・Oの四肢の接続部をライフルとサーベルにてで断線させていた。

「なっ!う・・・動けジ・O!」

シロッコが操縦桿を操作するが、足、腕と動かない。カミーユはシロッコに先の約束の件を話し掛けた。

「さあ、将軍。言ってもらうぞ」

シロッコは観念し、ジ・Oのチェックを冷静にするとスラスターは生きていることを確認できた。
これで逃げる様な手前を見せては今度はそこが精密に破壊されることをシロッコは勘付いていた。

「ふう・・・」

シロッコは一息付いた。生憎、隠密でフロンタルとララァとの会談に臨んだ訳でこの空域に自分がいることは友軍は知らない。ましてやア・バオア・クーとカラバ・ネオジオン連合軍を目の前に戦闘での緊張でこちらのことは気が付く訳がないとも思っていた。

「カミーユ君、私の後ろの空間を感じることができるかね?」

カミーユはシロッコに抽象的な問いと言われ、返事して頷いた。

「ええ、前にも感じたことのあるおぞましいプレッシャーです」

「ふむ、だから君には多少なりとも耐性があった訳だ」

「耐性ですか?」

カミーユはキョトンとした。シロッコは話し続ける。

「君が並外れたニュータイプだってことだ。それ以下のニュータイプではこの誘引に対応も難しい。本能的なことだからな」

「・・・何ですか?それは」

「<理>だよ。人智を越えた力。触れた者得た者すべて狂わし、自壊するか暴走するか、或いは両者か。その引き金はサイコミュとアムロ・レイにあった」

カミーユが眉を潜める。

「サイコミュと中佐が?一体なぜ?」

「脳波をフィードバックできる金属、そして彼の経歴だ。エスパーの様な能力は周囲の環境を飛躍して変えていった。弾道を曲げるなど自然現象ではない」

カミーユはよく考え、シロッコの意見に同意した。

「人為的な現象だ。金属による磁場のようなものが発生させているから」

シロッコは失笑した。

「これは・・・クク・・・カミーユ君、もう少し歴史を学んだ方が良い」

「どういうことですか?」

カミーユは不満そうに言った。

「いつの世も新技術が世界を変えていった。思えば、時代を飛躍的に進めたと理解した方が正確だ。人は馬よりも早く移動できる手段を覚え、そして空を飛ぶことで更に早く移動できる手段を知った。それによって人はあるモノの支配から徐々に解き放たれてきた」

カミーユはなぞなぞの様なシロッコの話を少し考えてから答えた。

「時間・・・ですか?」

「ご名答。ここからは私の推論だが、サイコフィールドたるもの果たして磁場なのか?」

カミーユは第一人者であるテムとナガノ両博士からその答えを教えてもらっていなかった。ただ斥力と引力場が生じ、ビット等の遠隔砲台などを操作できると・・・。

「磁場・・・とは聞いていません。正確には。ただ斥力引力という磁石に似た性質なので・・・」

シロッコはカミーユの率直な考え方が凡人には正しいと思った。シロッコは己のセンスを全開で次の意見を言った。

「私はもう一つの提言をする。あれは<時>場だと」

「時場?ときの場!」

「サイコフィールドを展開している間有り得ない現象を起こす。これはその空間に見えないものが作用している他ならない。空間に意思があるように。時に惹かれて、時に拒絶する。技術革新の副産物だ。最早人類は時空に触れてしまった」

シロッコは落胆したようにため息をつく。

「そう仮説を取れば、なし崩し的に説明がつく。アムロ・レイは違う世界の人間だ。そしてその向こうで尋常じゃない戦いを繰り広げている彼らもその手の類なんだろう」

カミーユはシロッコの話に衝撃を受けていた。アムロ・レイがフィクションな話の人間。納得し難いが今までの流れが特にあのダカールの異変が、有り得ない自然災害級の出来事が説明が付く。

「このまま進めばこの世界が崩壊しかねない。それが今日なのか明日なのかも予測できん」

有り得ないことが有り得ること自体が何かがおかしくなってきている。シロッコはそれに人類が到達したことに世界の均衡が壊れ始めていると言っていた。

「では将軍はどうするんですか?」

カミーユはシロッコの答えを聞きたかった。自分で答えを出す事こそが肝心なのだが、突然の事で頭が回らなかった。

「そのためのア・バオア・クー落としだ」

カミーユは愕然とした。どうしてそこに繋がるのか。

「何故ですか!」

「絶望の淵でサイコミュが最高潮になる。そこで起きる奇跡を世界に見せる。人にサイコミュの危険性を伝え封印する。後は時間が収束してくれるだろう」

カミーユはその答えが一定の理解として受け入れるに十分と思った。シロッコは付け足して述べた。

「間に合えば良いのだが、全世界に訴えかける上ではこの舞台以外に方法がにない。それでマスコミを戦場に集めた。上手く行けば、それで世界崩壊から逃れられる・・・と思う」

シロッコの話の最後は歯切れが悪かった。彼にしても不明瞭なことがあるのだなとカミーユは感じた。



* ア・バオア・クー 外縁 ネオジオン アクシズ別働隊

マハラジャ提督の下、少数ながらもシロッコの半包囲下に置かれているネオジオンとカラバの艦隊の牽制の為、シロッコ艦隊の右翼の傍をサダラーンとエンドラ級艦隊が航行していた。

その艦隊に帰投、合流をしていたハマーンは修理されたキュベレイに乗り、ニーとランスを連れて哨戒任務に就いていた。

ガズアルに乗るニーが前方に所属不明の機体反応を見つけた。

「ハマーン様、あちらに反応があります」

ハマーンもその反応を既に感知していた。そしてその機体からとてつもなく強いプレッシャーを感じた。が、そこに敵意はなかった。

「ああ、こちらでも確認している。ランス、先行して反応を探れ。この航行速度も異常だ」

ハマーンが言うその未確認の機体速度はただゆっくり流れる様な動きをしていることだった。遭難者の可能性もあった。

ランスはハマーンの命令に従い、ガズエルを操りその機体へ近寄っていった。
するとそれはモビルスーツだと分かった。ただ何も反応しない。機体に誰かいるのかもわからなかった。

ランスはゆっくりと警戒しながら近づく。それでも反応しない。至近にきてその機体に接触し、呼び掛けた。

「おい!生きているか!返事をしろ!」

ランスがそう呼び掛けている間にハマーンと二ーが到着していた。ハマーンはその機体を外見から調べて生体反応が2個あることが確認できた。

「生きているな。このまま牽引してサダラーンへ帰投するぞ」

ハマーンがそう言うと、その機体の中で1人目覚めてハマーンの声に答えた。

「ああ、誰か知らないが助けてくれ!」

そう言うとハマーンがその呼びかけに応えた。

「その機体の女性の方?名前を聞いて置こうか?」

「私はプルツー」

ハマーンは少し笑った。敵パイロットの名前だったからだ。今やアクシズとグレミーとの戦いは自然消滅した形になっていた。それに対してハマーンも返答した。

「私はハマーン・カーンだ。言わずとも分かるな」

プルツーは絶句した。だがどうすることもできない。ハマーンは反応に今度は笑った。

「ハッハッハ、気にせずともいい。お前たちは遭難者だ。手厚く迎えさせてもらうよ」

プルツーは傍で寝ているジュドーを見て、不安そうな面持ちをしていた。



* ア・バオア・クー内

アムロとその部隊はア・バオア・クー内に潜入していた。各所で待ち構えている敵を倒しては導線確保に努めていた。その最中、ラー・ヤークより阻止限界点の通過を知らされる。最もこの質量においての限界点だった。そして艦自体も通信が届くということでア・バオア・クー接舷間近だということも理解した。

「(激戦ながら戦闘宙域も絞られてきたな)」

様々な入り組んだ角を曲がっていくとモビルスーツの気配を感じた。アムロはライフルをその気配の方向へ向けるとそこには同じくアムロに銃口を向けたサザビーがギラ・ドーガ隊を連れていた。それが分かると互いにライフルを下した。

ジェガンに乗っている傍の副隊長のナイジェル大尉がアムロに話しかけた。

「流石赤い彗星ですね。俺たちが先行だと思っていたのに」

「彼らはお前らみたいに若くないからさ」

アムロは経験値の差を言った。シャアが従えていた側近の部隊は7年前の戦争時から付き合いの百戦錬磨の強者揃いだった。

シャアの傍の部隊副隊長のデニムが話しかけてきた。

「ロンド・ベルさんらよ。恐らくは全く逆方向からの侵入かと思うからよ。ここからは合流して要塞内部を目指そうや」

その回答にアムロが答える。

「そんな猶予は無い。現に落下しているア・バオア・クーをどうにか砕かなければならないんだ」

「ということはここでさらに分散かな?」

シャアが答えるとアムロが頷く。

「そうだ。既に深度として中部まで来ている。それ相応の組織的抵抗は敵も難しいだろう。これからはゲリラ戦だ」

「それなら少数精鋭の方がいいぜ」

ギラ・ドーガに乗るジーンが答えた。デニムは苦い顔をした。スレンダーは少し笑っていた。
シャアが全ての決断を代理で下した。

「よし!すでに我が旗艦レウルーラとそちらのラー・ヤークがア・バオア・クーへ接舷体制に入っている。後方支援はマハラジャ提督のアクシズとサダラーンらが請け負っているので大丈夫だ。ここで部隊を9編成で四散し、残敵の掃討に努める。その2隊は私とアムロで請け負う」

アムロは頷き、周囲も納得した。この2人で1個大隊に匹敵する戦力だと各々承知していたからだ。

「では、各自検討を祈る」

そして各自ア・バオア・クーの制圧に乗り出していった。

アムロがア・バオア・クーのあるルートを制圧していた時、とある倉庫的大空間へ出た。そこは何も照明が無く、そしてただならぬ違和感を感じた。

「なんだ?・・・ここは?・・・」

アムロが認識しようとすると突然耳鳴りと頭痛が発生した。

「な!・・・ぐっ・・・」

それと共に周囲が緑白く光り輝き始めた。

「これは・・・サイコフレームの共振!」

その空間にある物質がほとんどサイコフレームを形取る素材でできていた。
すると目の前の空間が歪み始めてきた。

「(何が・・・何が・・・起ころうとしているのか)」

アムロは身構えてその歪みに対応しようとした。するとそこから物質が揺らぎ幻のようで、形成されるように数十体のモビルスーツと艦船が順番に現れ始めては消えていった。

「馬鹿な・・・何もない空間から・・・」

アムロは呆気に取られていた。1つは百式。そしてエンドラ。ヤクト・ドーガにゲーマルク、ザクⅢ。離れてヤクト・ドーガ、ローゼンズール、さらにパラス・アテネ。

アムロは見たことのある無い機体、艦船などを放心状態で眺めていた。

「理解ができない。・・・これは・・・」

「それがお前の撒いた種の結果なのだ」

アムロの背後から突然声があり、アムロは振り向いた。そこにはジ・Oとシロッコが居た。

「シロッコ!」

アムロがライフルを向けようとするとZのカミーユがそれを遮った。

「アムロ中佐。今はそれどころじゃない」

「何故だ!カミーユ」

アムロは激高した。カミーユは一息付き話し始めた。

「貴方が選び歩んできたその道はその貴方でありながら貴方を超えた貴方が選んだ。それがこの結果だ。これを覆す、バランスを戻すには意識して大それたことを実行する他ない」

アムロは困惑した。カミーユは自分が2度目の生を受けて生きていることを知っているような口ぶりだったからだ。

「カミーユ。お前は・・・」

「正直貴方のことは知りません。事実、目の前で起こりえない事が起きている。それだけで十分でしょ」

「だが、これが・・・オレが何かをしたせいなのか・・・」

そこでシロッコが口を開く。

「ふむ。・・・私なりに7年前からの戦争をシュミレートしてみたのだ。まず、アムロ。お前の緒戦の戦績が異常すぎる」

「!」

アムロは苦虫を潰したような顔をした。確かに自分でも戦いを経験しているものならば認識がいくことだ。

「そこが私においても全てのきっかけだったかもしれない。たかが15歳のメカマニアの少年があの赤い彗星を手玉に取るような戦いなど・・・。あってはならない」

アムロは黙って聞いていた。

「バタフライエフェクトは知っているか?」

シロッコがアムロに問う。アムロは深呼吸をして答えた。

「ああ。カオス理論だな」

「そうだ。私は何もア・バオア・クーを地球に落とすなどどうでもいいのだ」

「ならなぜ!」

「事象の地平に立ち向かうには在り得ないこと、馬鹿げたこと、それ以上の無意味で無価値で無責任なことをすることで私はアムロという1個人の異物に立ち向かうことにした」

アムロは呆けていた。シロッコは続けた。

「勿論、世界の異物は君だけとは考えておらんよ。何か作用しているものはまだあると思っている。私の行動が皆、何故、何のためなど考えたりするだろう。理由は真実は何もない。動機は先言った通りだ。理由なき争いこそ、均衡を保つために必要だと考えた」

アムロはシロッコの今までの行動を暫し考えた。簡易的に言えばシロッコは自分らにとっては悪事を働き、自分らは善行を積んできたつもりでいた。と考えた時にハッと我に返り、たじろいだ。

「ま・・・まさか・・・」

シロッコはアムロが気づいたことに笑みを浮かべた。

「お前らは世界がより良くなったと思っていただろう。私がそのように誘引していったとしたらどう思う?」

アムロは唇をかんでいた。

「だが、そんな単純なことではなかった。サイコミュという技術が拍車をかけた」

シロッコの話にアムロは疑問を呈した。

「何故サイコミュが?」

シロッコはカミーユへ話した仮説と同じ内容をアムロに話した。アムロは腕を組み複雑そうな顔をした。

「世界的にはある程度の着地点は見えてきた。しかしサイコミュという負の遺産、メシアとフロンタルという不純物が代わりに残った」

「メシア?フロンタル?」

アムロは初めて聞く名だった。シロッコはそれを説明した。

「メシアはお前らが知るララア。フロンタルはこの世の怨念だ。サイアムが作り出したな」

アムロはララアの名を久しぶりに聞いた。彼女の事を聞かない訳にはいかなかった。

「シロッコ。お前はララアを拉致した。ララアはどこだ!」

「ララアはメシアとして覚醒し、フロンタルと対峙している。世界を震撼させるほどの戦いがな。その余波がどうやら目の前に現れたようだ」

アムロは振り返った。この空間に入るわけのない艦船と種別ないモビルスーツら。これがシロッコが言う異質な結果の1つなのかと。

「しかしこれは・・・」

余りに滅茶苦茶だ。すると突然出現した全ての機体、艦船が光出して、その空間から消えた。それにアムロが驚く。

「今度は一体・・・」

「アムロ中佐」

カミーユがアムロに語り掛けた。

「最早、何が起きても不思議でないんです。シロッコ将軍の抱えていた想いがそこでした」

シロッコは頷いた。

「苦渋の決断だった。カミーユくん、彼に教えるに彼のある可能性の恐怖に躊躇ったが、彼は思った以上に理解があった」

「ある可能性?」

アムロは質問した。シロッコがそれに答える。

「彼は世界を変える才能がある」

「カミーユに?」

「彼の戦闘におけるかいまみえた揺らぎ。あれは事象の地平線の彼方、理だ」

カミーユには自覚はなかった。振り返れば自分の意思の強さは増していたことが今理解できていた。
ここにきて何か魅せられた様な熱を帯びていたことに。

「私は理に触れる者たちを見てきた。ほとんどがその手前で自壊して死んでいった。私もそれに近い体験をし、意識的に閉ざした」

「近い体験?将軍もそれに触れたのですか?」

カミーユが尋ねると、シロッコは少し悩み答えた。

「間接的かな・・・。それを目覚めようとしていたものがいて、もう本能としか言いようがない。私は危険を感じ、それから離れた」

アムロはダカールのことを思い出していた。あの天変地異が自身もこれが対処できるような代物でもないと本能では悟っていた。だからあのもう一つの怪物とぶつけるという作戦に乗った。カミーユが同じことを思い出したかのようにアムロに話し掛けてた。

「中佐・・・これって」

アムロが頷く。

「ああ、ダカールの時の状況とシロッコ将軍がやろうとしていることが酷似している」

シロッコは2人が話していたことに興味を持った。

「何の話だ?」

アムロは簡単にその時の状況を話した。シロッコは「なるほど、確かにな」と一言、そして話続けた。

「カミーユくんはそれに触れ始めているにも関わらず変化がない。いや魅せられた誘引があっただろうが、正義感、意思力と言うものか・・・。理を手にする者は世界を改変、創生できる力があるといっていい」

アムロはシロッコの話を聞いていても、とてもでないが現実的でなく信じられなかった。が、現に起きた在りえない不思議を体験している。否定しようにも術がなかった。

「ニュータイプなんて幻想が人の可能性以上のモノを実現し、世界の調和を崩し始めている。宇宙に適応できれば良いだけの事が便利だからという理由だけの制御できないハイクオリティーによって破滅に向かおうとしている」

「将軍は何をすればよいと考える?」

「サイコミュが悪いのだ。人付き合いなど文通で済ますぐらい遠く面倒な対話が大事なことを知るべきだ。そこでサイコミュをここで使い切ってもらう」

アムロとカミーユが訝し気な顔をした。カミーユが先に尋ねた。

「使い切るって?」

シロッコはこの宙域のリアルモニターを見て答えた。

「ここで戦闘を中止する」

突然の休戦宣言にアムロとカミーユが面を食らった。

「最早ア・バオア・クーは落下コースに入った。人類への挑戦だ。これを止めてみるがいい」

アムロは挑発に「なんだと!」と食いつく。シロッコは気にせず続けた。

「どちらに転ぼうが何かが起きる。この空間がそうだ。人の欲が集まり易い隕石が何か物理的なもの以外の現象を全世界で放映されれば、おのずと人はサイコミュに恐怖し、忌嫌うだろう。ありえない力など核と同じで禁忌として遠ざけるだろう」

確かにこの戦いが各放送局によって全世界に放映されていることは開戦時に知っていた。シロッコはそれによりサイコミュの存在と摩訶不思議な現象を認知させるつもりだった。

シロッコの言にカミーユが質問した。

「本当にそうなるのか?人の欲は際限がない。だから今までも核を使ったりしてきたのでは?」

シロッコはカミーユを見て、その回答をした。

「警告をすることが重要なのだよ。その意識を芽生えさせることが。人は元来保守思想だ。どんなにアグレッシブに動こうが何かを守りたい意識は捨てきれない。それがエゴだとしてもだ」

その時ア・バオア・クー全体が小刻みに揺れだした。3人とも周囲を見渡した。アムロ宛てに無線が入った。

「聞こえるか!」

「ハヤト!どうなっている?」

ラー・ヤークのハヤトからだった。カミーユも無論無線を聞いていた。

「ラー・ヤークとレウルーラは既に接弦し、工作部隊が侵入している。各箇所で分離破壊の為の爆破を行っている」

シロッコはジ・Oの手をカミーユのZの肩に乗せて無線傍受していた。ハヤトの話が続く。

「しかし、いきなりティターンズの攻撃が鳴りやんだ。我々を包囲しているだけだ。何故だか知らんが助かっている」

アムロはそれは何故だか知っていたが敢えて話はしなかった。

「ハヤト、地球落下までは?」

「3時間もないだろう。出来るだけモビルスーツと工作船を使い、砕いた隕石を除去している最中だ」

「間に合うのか?」

ハヤトは間をおいて回答した。

「正直分は悪いな・・・」

アムロはコンソールパネルを叩く。

「くそ!・・・」

「中佐・・・」

カミーユがアムロに呟く。ハヤトがその時ぼやき始めた。

「・・・何か神がかり的な・・・何か奇跡があれば・・・」

アムロはその言葉で我に返り、シロッコとカミーユを置いてその場を離れ、要塞出口へ向かった。その速さにカミーユは呆気に取られた。シロッコは一笑した。

「フッ・・・奇跡・・・か。彼は奇跡を起こしに出かけたか・・・」

カミーユはシロッコの発言に質問した。

「奇跡ですか?」

「そうだ。それでなければこのア・バオア・クーは止められない」

するとシロッコもアムロを追って要塞出口へと向かった。カミーユもそれに続いた。

一方、シャアは要塞中枢部に核をセットし、各小隊と合流を果たしていた。

「デニム、無事か?」

シャアが話し掛けるとギラドーガの手を振り、無事であることを伝えた。シャアは外に接弦しているレウルーラのナナイと連絡を取っていた。

「どうなっている?」

「総帥、実は敵の交戦が止みまして・・・」

シャアは不思議に思ったが、ナナイが話し続けた。

「外郭にあるアクシズのマハラジャ提督によれば、ア・バオア・クーは既に地球落下軌道に乗り、落下阻止困難で彼らの目的は達成された為、戦場から距離を置いたかと・・・」

「成程な。して落下はまでに隕石を砕ききれるか?」

ナナイは俯き、答えた。

「無理かと・・・」

「了解した」

「総帥!」

シャアは通信を切り、部隊をア・バオア・クーの外へ率いていく。

シャアが外に出ると、ア・バオア・クーは中央部が2つに割れて、下部は粉々に砕かれていた。それを各部隊が工作船と処理しては地球から遠ざけていた。問題は・・・

「上部の塊か・・・。ん?」

上部の隕石部は地球の引力に惹かれて落下の摩擦熱を帯びていた。それに相対するの様に1つのエンジンの光が見えた。

「ガンダム・・・、アムロか。あいつは1人で押し出そうと」

シャアはデニムらに命令を下した。

「今から我々はガンダムを援護する。目標ア・バオア・クー上部落下相対逆向きだ。急ぐぞ!」

「了解!」

シャア達は急ぎアムロの下へ急行した。

シャアが先着する前に先に来ていた者たちがいた。アムロの部隊指揮下のナイジェルたちであった。
ナイジェル、ダリル、ワッツ他数機のジェガンがアムロ傍のア・バオア・クーに取りついてはスラスター全開で地球へ落とさないよう押し出していた。

「なっ!何しに来た!」

「中佐だけに良いカッコさせませんよ」

ナイジェルがアムロに答えた。

「しかし、ジェガンでは・・・」

「地球が持つか持たないかなんだから、贅沢言っていられません」

「ダリル!お前たちは良いんだ!知っているんだ。ジェガン並の機体では・・・」

「摩擦熱とオーバーロードで自爆ですか?上等です!」

アムロの科白をワッツが代わりに答えた。暫く経ってシャア達がアムロの傍に取りついた。

「シャア!」

「アムロ、お前だけに責を負わさんよ。我々の不始末は我々でもやるさ」

シャアのサザビーもフルスロットルでア・バオア・クーを押し出そうとしていた。周囲のギラドーガもだった。

「デニム、スレンダー、ジーン!サイコフィールドを全開展開しろ!」

「了解!」

サザビーとギラドーガ周辺が緑白い光に包まれた。それを見たアムロは合点がいき、ナイジェルたちにも同様に命じた。

「お前たちもフィールドを展開して、摩擦熱からの緩和をしろ!」

「中佐、アレは機体へのダメージが違うところで激しい」

サイコミュの使用は適性がない普通のひとには強制的に脳を疲れさせる。ナイジェルがその事を暗に言うと、アムロは説得した。

「それでも、熱で爆走するよりかはマシだ。それ程肉体的な我慢は長くはない。この石ころとの決着までにはな」

「・・・わかりました」

ア・バオア・クーの落下する方向に数十機の光が見えていた。
シロッコ艦隊は半包囲の状態からア・バオア・クーと距離を取っていた。その最前線で遠目からサラが見ていた。

「きれい・・・とても・・・」

サラがそう呟くと、「そうだろう」と言う感想に応える声が聞こえた。

「パプテマス様!」

サラが横を見ると、ジ・Oが確認できた。

「生者の祈りだ。地球を潰さんとする一心の想い。それが集約されつつある」

「それじゃあ、地球は潰れないのですか?」

サラが不満そうにシロッコに詰めた。シロッコはサラに質問をした。

「サラは地球が潰れてもいいと思うか?」

「はい!パプテマス様がそうなさりたい訳だったから」

サラは即答した。シロッコは一笑した。

「フッ、私は地球に生き残って欲しいと思う」

シロッコの答えにサラが困惑する。

「何故ですか!大掛かりな準備をしておいて・・・」

「そこまで無駄な無為なことをすることで世界の傾いたバランスを整えるのだ」

サラは理解できず不服そうだった。

「世界の動向はコイントスのようなものだ。表裏一体。表が9回出て、裏が1回しか出ないとする。裏4回分はそこでない何かに変換されて動く。それがサラ、もしかしたら明日君の命で償われるかもしれない」

サラは意味不明な脅迫で身を強張らせた。

「何を・・・仰りますパプテマス様!」

「フフフ・・・冗談だよ。冗談で終われば良いのだがな・・・」

シロッコは各部署に伝達し、マスコミを全面にア・バオア・クーへ押し出した。光景を全世界に放映させるために。

視聴率は物凄いことになった。地球が終わるかどうかの瀬戸際なリアルタイムコードだからだ。
地球内も混乱し、市場も乱れた。

しかしシロッコはそんなことには無関心だった。関心事はこの光景の後起こるだろう奇跡に全世界を説得して世界を正しいレールに載せる事が肝心だったからだ。
 

 

43話 ア・バオア・クーの戦い③ 3.13

* ジェリド艦隊 旗艦内 艦橋

ジェリド、マウアー、カクリコン、エマと並んで戦況を眺めていた。
既に地球落下軌道へ乗ったア・バオア・クーは僅かな抵抗にあっているだけであった。

誰の目でも見ても分かる。絶望的な程地球を壊すだろうと。
ジェリドは半包囲するシロッコ艦隊の前、ア・バオア・クーが目の前を通過する形で航行していた。

位置的にネオジオン、アクシズ分艦隊、カラバとも接触はない。唯一危惧するとなると後方より差し迫っているロンド・ベル本隊であった。

ア・バオア・クーの落下に逆らうように光が見えた。その光は緑白く、そして赤くぼやけても見える。
その光が発する声が何故かジェリドには聞こえた。助けて・・・死にたくない・・・生きたい・・・。

ジェリドは首を振って、幻聴をかき消そうとした。その様子をみてマウアーは心配そうに声を掛けた。

「どうしたの?ジェリド司令・・・」

ジェリドは顔を手で隠し、こめかみを指で掴む。

「いや・・・何か幻聴が聞こえてな・・・」

その答えにカクリコンがジェリドに言う。

「いいから、何でもいいから話せ、ジェリド」

カクリコンの屈託ない言い方に優しさを感じ、ジェリドは素直になった。

「あのア・バオア・クーから声が、いや・・・これは悲鳴だ。あの隕石に何かが集まっている」

ジェリドの言にエマがため息を付く。

「はあ、貴方は一番優れているのよ、この中で。そんな思いつきも情報ない中で無視はしないわ、言って」

ジェリドはエマにも押されて、続けて話した。

「因果関係からすると、あのア・バオア・クーが媒体となって、地球の意思を、地球に住まうものの生命の意思を体現しているのだと思う。その悲鳴だ」

3人とも無言だった。ジェリドは続けた。

「俺らが落とした隕石のダメージは大きい。あのア・バオア・クーが落ちれば止めだ。地球の人の多くが脱出できずに留まっている。半数は逃げることはできても、移動さえ難しい人たちは命運を共にするしかない」

カクリコンは歯を食いしばっていた。犠牲の上にとかいうキレイごとを彼は受け入れるに我慢が足りなかった。カクリコンは3人を前に振り返り、艦橋を後にしようとした。それをジェリドは敢えて悟るように尋ねた。

「何処へ行こうというのは聞くまでもないな」

カクリコンはジェリドの声に一瞬立ち止まるが無言で出て行こうとした。それをジェリドがカクリコンへ語り掛けた言葉で彼は立ち止まった。

「お前の気持ちは良く分かる。これはオレたちの贖罪だ。共に行こう」

カクリコンは振り返り、エマとマウアーを見た。2人共頷いていた。

「お前ら・・・」

エマが少し笑みを浮かべた。

「フフ・・・軍の命令だと言っても、私たちのしたことが払拭はされないわ」

エマがそう言った後、マウアーも続く。

「今更だけど、地球はやっぱり大事だもの。守らなきゃね」

ジェリドがカクリコンの前に立ち、横切って肩を叩く。

「お前の我慢、知っていた。シロッコからは考えて動けと言われた。それはオレ含めて自己を活かせとうことだろうよ。この期に及んで軍規違反など取るに足らんだろう。明日連邦があるかも分からんからな」

ジェリドはそう言って、先に艦橋を出ていった。その後を追って、カクリコン、マウアー、エマと続いた。


* ネオジオン アクシズ分艦隊 サダラーン艦橋

艦長席にユーリー提督、その隣に司令席が設けられ、マハラジャ提督が鎮座していた。
その艦橋の外側、窓側に近い位置でジュドーとプルツーが並んで立っていた。

マハラジャは席を立ち、その2人に近づいて行った。

「君らの話は聞いた。残念だった。彼の行動はそれは未来の宇宙移民の為の事業だった。しかし、彼の意思はそのまま事業として形は残っている」

2人とも無言だった。マハラジャは話し続けた。

「イーノ君と言ったか。彼が月とサイドとの商談を続けてプラント事業を引き続き担っていた。君らの戻れる場所を維持するためにな」

ジュドーは俯いて歯を噛みしめていた。プルツーは目に涙を溜めていた。

「私ら、グレミーもそうだが、暗い光の当たらぬ空間でいつかはこの青い星に戻ろうと熱望していた。それが今は風前の灯火だ。ここに来て私は思わなんだ。想いは儚いものだと」

ジュドーはマハラジャの言葉に初めて言葉を開いた。

「じいさん。オレたちは何も諦めてなんかいない!見ろ!」

ジュドーが地球を指差す。

「あれが諦めている姿なのか!違うだろ!アレは生きたい、まだやれるともがいている姿だ!」

ジュドーの熱意にマハラジャは圧倒されていた。

「想いが儚いと思うのはそれがじいさんの思い込みだ。やるか、やらないかだ!地球は死にはしない。あの姿を見ればわかる」

ジュドーの話を途中から艦橋に入って来たハマーンが聞いていた。そしてジュドーに近寄ってきた。

「何が思い込みなのかな、ジュドー君」

ハマーンが優しく声を掛けた。ジュドーはハマーンを見て、その質問に答えた。

「あの光、あの意思が奇蹟を起こす。オレには分かるんだ」

その理由を何となく知っていたのはプルツーだけだった。あの時の戦闘でフロンタルを退けて、生き延びれた才能、そしてジオングを動かした力、今のジュドーは今までよりも特別だった。

その力をハマーンも潜在的に感じ取れた。

「(このコは何かを秘めている。いや既に何かを越えてきたのかもしれない)」

ハマーンはジュドーが指摘した地球を見据えた。僅かならが自分でも地球からのメッセージが聞こえない訳ではなかった。それがジュドーには直接的に聞こえているらしい。

「ジュドー君」

ハマーンはジュドーに話しかける。ジュドーはその呼び名に文句をつけた。

「ジュドーでいいよ」

「では、私もハマーンでいい。ジュドー、地球へ一緒に行くかい?」

ハマーンの誘いにジュドーは別の提案をした。

「いや、あちらはどうにかなる。それよりもその後のことが一大事だ」

ハマーンは怪訝な顔をした。

「一大事?地球よりもか?」

ジュドーは頷く。プルツーも顔が引き締まった。

「ああ、オレたちを宇宙の漂流者にした原因。アレこそが地球圏を破滅へ導く。そいつを仕留めにいく」

ハマーンとマハラジャが顔を合わせて、ハマーンがジュドーに尋ねた。

「そいつとは?」

プルツーがジュドーの代わりに言った。

「フル・フロンタル。全ての負の感情を力に変えた悪魔。彼はその力で地球圏を破滅させるつもりです」

マハラジャとハマーンはキョトンとした。初めて聞く名だった。そして余りに稚拙な話だった。
しかし2人の目が本気だった。それが真実だという話をプルツーが資料で2人に提示した。

それはゼウスという球体要塞の図面、ジオングの図面とクシャトリアというモビルスーツ、そしてクローンの存在。資料の中にあるシークレットながら名前があるパンドラボックスという代物。
すべてグレミーと一緒にいた時に解析された情報だった。

2人とも資料を目に通し、数値を見て、顔色が悪くなってきた。
ハマーンが声を出し始めた。

「・・・これらが本当のこと。実地の数値でも結果でもジュドーが示したのだな」

「ああ、そうだ」

ジュドーがそう頷くとハマーンが頭に手をやった。

「なら全てが真実として太刀打ちできるのか?奴のテリトリーは全て詰みだぞ。一コロニーの住人を全てダウンできる感応波などどう耐える?」

ジュドーは睨むようにハマーンを見つめた。

「オレならやれる。貴方にもできるはずだ、ハマーン」

ハマーンは唐突な言われように驚愕した。

「なっ・・・私がか?」

「そうだ。生憎このプルツーじゃダメだ」

ジュドーにそう言われたプルツーは俯いた。自分でも非力なことは分かっていた。

ハマーンは手で髪を掻き上げた。ジュドーの言わんとすることは何となく感覚でわかっている。
彼が挑戦するところは常人では耐えれない空域。その向こうを垣間見たことのあるものが耐性があると。彼はその私の力を測ったのかと、その部分も驚いていた。

「・・・今なら誘惑に負けないか・・・」

ハマーンの独り言をマハラジャは聞いていた。

「ハマーン・・・お前は・・・」

マハラジャは先の戦闘でドゴス・ギアへの特攻を思い出していた。見てはいないが戦闘詳報で送られてきていた。ハマーンのキュベレイが戦闘不能に陥ってからの不可思議な現象だ。周囲の話によると発生源はキュベレイにあった。キュベレイより発光した青白いものが味方を一時的に完全防御されたシールドが張り巡らされた。

ハマーンは父に向かい、話し始めた。

「父さま、今ならあの時の様にはなりません。私はその状況を知っております。経験が力になるはずです。彼と独立行動を取る事を許可願えませんか?」

マハラジャは腕を組み、暫く考えていた。今牽制しているシロッコ艦隊に動きはない。有事なときに必要な戦力でもある娘、優秀な部隊指揮官が抜ける穴を彼我でどう補うか。するともう2人艦橋へ入って来た。

「マハラジャ提督、戦況は膠着状態から脱しないか?」

ガルマとイセリナだった。マハラジャは振り返り、敬礼をした。

「これはガルマ様」

ガルマは手を振り、敬意を丁重に断った。

「よしてくれ。最早ザビ家など過去の話だ」

マハラジャは首を振る。

「そうはなりません。この統制はザビ家あってのこと。ゼナ様や幼きミネバ様に担っていただくにはやはり重荷になります。男系の生き残りであるガルマ様に・・・」

「それで秩序が保たれるなら今は道化になろう。して、状況は?」

マハラジャは戦況とハマーンとジュドーの出撃の話をガルマに伝えた。ガルマは暫く考えて、決断を下した。

「わかった。ハマーン、ジュドー。君らは思うように動くがいい」

ジュドーはガルマに言われ、彼の事を知らない為訝しげに見ていた。それについてハマーンは簡単にジュドーに伝えた。

「ガルマ・ザビ様。ザビ家4男で直系唯一の生き残り。シャア・アズナブルと親友で連邦議会ニューヤークを地盤とする議員よ。世界的にも発言力がある」

要するに大人だということだとジュドーは勝手に解釈した。

「ガルマさん、尊重してくれてありがとよ」

ジュドーは余りに偉い人への態度を乱暴にする癖があった。若さ故だとガルマは考え、素直にお礼を受けた。

「ああ、君の行動に私は期待している。勿論応えてくれるんだろうね」

ガルマも若干挑戦的にジュドーに投げかけた。ジュドーはニヤッとした。

「もちろん、世界を救うんだからな。ハマーンを借りていくぜ」

マハラジャはため息を付く。問題の解決が為されないままガルマが決断したことにだった。しかしガルマはそのことについてマハラジャに解決案を下した。

「提督、ハマーンの穴は私が埋める」

マハラジャは驚愕した。ハマーンも手をガルマに指し伸ばそうとし、声を上げようとしたところでガルマが遮った。

「私がこの艦隊の部隊長を務めよう。モビルスーツを操ったことが無い訳ではない。寧ろカラバの運動で秘密裏に何度も前線へ赴いたりもしたものだ」

傍に居たイセリナもガルマの意見に同調した。彼の手並みを妻である彼女が助言をする。

「ええ、主人の腕前は確かだと思います。でなければ、今ここにはおりません。私はその部分も含めて主人に全幅の信頼を置いております」

艦橋内がざわついていた。アクシズはジオンからの鉱物資源基地機能もさることながら、フロンティア開発基地として選民された軍属だった。本国の戦いに参加せず、その風土に培われた自負、自尊があった。

よってマハラジャはカリスマを得て、ハマーンも知られた実力も伴って皆が従っていた。ザビ家を旗頭にしてはいるものの、実戦となればお遊びではない。適材適所に果たしてガルマが合っているのか、そこだけが疑問と不信の種だった。その中でハマーンのナンバー2であるイリアが名乗り出た。

「大変恐縮ですが、ならば私と模擬戦をしていただけますでしょうか?」

仮にこの場にラルとガトーがいた場合、イリア始めとするアクシズの面々は一喝され、教育を施されていただろう、とマハラジャは思った。自身もガルマの実力を見た訳ではないので半身半疑ではあったので積極的には部下の進言を止めはしなかった。

そしてハマーンが口を開く。

「イリア、出過ぎた真似だ」

ハマーンの凛とした声にイリアは萎縮した。

「も、申し訳ございません」

ハマーンは少し笑った。そしてガルマに頭を下げた。

「ガルマ様、部下が大変失礼致しました」

ガルマはその行為に腕を組み、髪を指で絡めていた。

「(余興に付き合ってやらんと、信頼は勝ち取れんな)」

ガルマはそう考えると、イリアの進言を受け入れ、その根拠も付け足した。

「ハマーン、かの者や周囲の動揺など特殊能力が無くとも見て取れる。これにてそれを払拭してしんぜよう。後、皆には詫びねばならない」

ガルマは艦橋のクルーに向かい合った。

「既に本国とは連絡は途絶え、私残す直系のザビ家はミネバを残して行方知れずだ。そんな状態で君たちをアクシズのフロンティアに残し、憂慮しなかったことをまず謝罪する。単に私の力不足であった。済まない」

ガルマは頭を下げた。全クルーがそれに動揺した。ザビ家はマハラジャ以上にカリスマとしては神格だったからだ。

「私は兄のやり方に付いていけなかった。これは私なりの反省である。その為連邦に属し、君らの想いを無にしようとしたようには見て取れるだろう。だが、私は私なりに戦いを連邦に挑んでいた」

マハラジャはガルマの言わんとしていたことを察していた。ガルマは話し続けた。

「戦い方は1つではないこと。それをあの赤い彗星に教えてもらった。私は兵器をなるべく用いず言論、思想によって連邦に戦いを挑むことにしたのだ。連邦議会にジオン派閥を作る。その想いだった。して今日の私がある」

ガルマは一息付き、再び話し始めた。

「しかし努力しようが武力衝突は沈静せず、事態を沈静するまで今日のような有事が起きてきたのだ。時に武力を使わなければならないことはある。そこで今だけはイリアの要望に乗ろう。そして皆はこれからのことを覚悟して欲しい」

ガルマの話に皆が集中して聞いていた。覚悟とはなんだとざわついていた。

「私のジオン派閥も過去のものだ。ジオン公国という政体は無くなり、各個人で思想の判断を求められる時代が間近に来ている。この艦隊も、全ての軍機能も一度解体されるだろう。自分で考えて決断するという責任が1人1人に求められるのだ。そこにはもうマハラジャ提督や私、ガルマというザビ家は君たちの中には存在しない」

クルーの中で悲しい顔や困惑する顔のものが見て取れていた。ハマーンも少し俯いていた。ジュドーは目を丸くし、ガルマを見ていた。

「言われて依存することはとても楽な事だ。そのような状態が今までの悲劇を生んできたことも一理あると私は思う。まずはこのような私を疑う状況の様に万事疑え、そして考えて議論し尽くすのだ。扇動に惑わされることなく人が死なない、殺し合わない社会を作ることを皆が願って考えて欲しい」

ガルマは周囲の反応を見ていた。流石にキツイかなと思うが語らない訳にはいかない。

「無責任だと私のことを思う者もいるだろう。考え方は人それぞれだ。故に私の考えに共感するものはそのまま付いてきて構わない。私個人の意見だが、主義思想で沢山のひとが死んだ。この事を教訓にすることは必要だと思う」

ガルマは話し終えると、イリアに声を掛けた。

「さて、行こうか・・・」

イリアは呆然となっていた。が、ガルマに話し掛けられて我に返った。

「は・・・はい」

イリアはガルマに続き艦橋を出ていった。イリア自身、否艦橋に居たほとんどのクルーがジオン公国に属していて、地球圏に戻ってきたこともジオン公国の為、地球に対する望郷の念の為であった。

その為の多少の血は仕方ないで片づけてしまっていた。そのようなことが日常自然に起きていたので、感覚が狂ってきていたことは否めなかった。誰だってまともに考えれば殺し合いは良くはない。

ガルマはその為には精神的支えなど無くても良いと、寧ろその精神的支柱が今日の殺し合いになっているならばその柱が悪い。建て替えが必要だと言っている。

不安定ながらも安定を求めるのが人の性。アクシズという組織、今はネオジオンと変わったが、それに属する理由は皆が一つの目標に向かうと言えば聞こえが良いがそこで思考停止していないかと問えという意見にいざ受け入れてみたら、イリアも含めて複雑な想いに駆られるひとがほとんどだった。

マハラジャはため息を付く。ガルマという人間を計り損ねたかと。ただの導き手としてジオンを統率していただける存在だと思っていた。勿論、導き手としての役割は彼はするだろうとマハラジャは思った。が、向いている先が我々と異なっていることに事態の難しさを覚えた。

「だからと言って、誰を旗頭に据えて、この難局を乗り切る?」

マハラジャは独り言をつぶやいた。聞こえたのはハマーンとジュドー、プルツーだけだった。
そこでハマーンが話しだした。

「我々の歩む道に住める世界はないのでしょう」

マハラジャはハマーンが自分のつぶやきに対する回答を述べていたのを聞いていた。

「こじんまりとした我々の様な組織を維持したところで世界が、運命が我々を淘汰するに違いない。遅かれ早かれこのままでは我々は滅びる」

マハラジャも同感だった。

「だな。それを皆が苦しみ悩みながら答えをゆっくりと出していくだろう。ガルマ様は厳しいが優しい。投げかけた問題提起の答えでまずは今を棄てろと言い切ったのだからな。それだけでも死路を択ばずに済む」

傍に居たイセリナもマハラジャの意見に賛同した。

「ええ、主人は優しいひとです。その為に家を棄てて、味方を棄てて、己を棄てて迄、自分を律しました。辛かったと思います。しかしそれは後日、その者達の拠り所になる場所、帰れる場所を作るためでもありました」

ハマーンはイセリナの話に反応した。

「それはジオンが負けると想定してのことだったのですか?」

イセリナは首を振った。

「そこまでは主人は考えておりません。争いの中でジオンからの脱落者を拾うためだけを考えていました。対岸の火事のようなスタンスでしたが、両勢力の力が強すぎて介入すらできません」

「ただ世界の片隅で人の本道を説いていたわけか」

ハマーンの言にイセリナは頷く。

「私の住まう北アメリアだけが有事でありながらもティターンズやジオン、連邦にも影響受けずに独自の政体を維持できて、それは皆が安定し幸せそうな日常を送っております。昼間働き、夜は家族との団欒、休みには出掛けて、安心してベッドで休み明日に備えられる。こんな当たり前を宇宙は主義主張で放棄しているのです」

ハマーンは腕を組み深呼吸をする。ジュドーが話に加わった。

「イセリナさんの話、ごく単純なんだ。それをオレらが享受できないことが世界が狂っているんだよ。挙句の果てに・・・」

ジュドーは彼方の宇宙を見つめた。

「そんな大人たちの怨念が世界を壊そうとしているんだ。あのパンドラボックスの力に触れたとき、そう感じた。サイコフレームは大人たちの不満の結晶となってしまう。大人の都合で世界が壊されてたまるものか」

マハラジャはジュドーの素直な意見に弁解の余地が無かった。ハマーンはジュドーを見てクスクス笑っていた。ジュドーがハマーンを何が可笑しいという表情で見た。ハマーンは弁解した。

「いや・・・悪い。私はそんな純粋さが無くなってしまっていたなあとね・・・」

「ハマーンはそうは思わないのか?」

「思いたいのだが、ある部分で大人になってしまったということかな?だからガルマ様の意見も賛同したい気持ちもあるが、そうでない部分もある」

ハマーンはジュドーの傍に居たプルツーを見て話し掛けた。

「君もまだ純粋だと感じる。その心は大事にした方がいい。私みたいに捻くれては多分生き方が窮屈だろうよ」

プルツーは黙って頷く。ジュドーはハマーンに真意を尋ねた。

「そうでない部分とはなんなんだ?」

「周囲を見るといい。クルーで困惑しているものがいるだろう?」

ジュドーは周りを見渡した。確かに面持ちが暗い。

「その者らの為に、私は再びアステロイドベルトに行こうと思う。フロンティア開発だ。あそこにいたことを思い出す。望郷の念があったが、それはそれで幸せだった。世俗から離れた生き方もまた一つだろう」

ハマーンの意見に父マハラジャは同意した。

「ふう、そうだな。希望者で良いのだ。地球に残るもの、我々と共に生きるもの。敢えて考えられないから、だが即座に答えを求める事態ならばそのような選択肢を作っておくのは良いと思う」

プルツーは素直な気持ちを口にしていた。

「みんな・・・優しいな」

ジュドーもそう思った。

「ああ、自分を大事にする前に人を考えている。周囲の困惑ぶりも野心の無い者ばかりだからな。でも自己はいいのか?」

ハマーンはジュドーの意見に再び笑う。

「ハハ・・・、実はこれは私の願いでもあるのだよ。こう見えて私も楽な方に行きたい性でな」

マハラジャは娘の意見に初めて笑った。

「ハッハッハ、そうだな。人は怠惰な生き物だということを思い出したわ。地球を久しぶりに見たことだし、またあの暗い穴倉で細々と生きるのも悪くないな」

ハマーンも頷いていた。マハラジャが想い耽って話した。

「・・・その頃を思えば、こんな忙しい環境よりかは天気のような自然の驚異だけに気を配ればいいだけだからな。また里帰りしたければ皆が一人一人戻ってくれば良いことだ」

するとオペレーターが淡々と2機のモビルスーツの発進を伝えた。

「リゲルグ、イリアとギラドーガ、ガルマ様発進します」

全員が2機の動向を見つめていた。

ガルマは久しぶりの宇宙空間で周囲に気を撒いていた。

「この感覚は久々だ。地面が無い。360度隙だらけだ」

すると、目の前に赤いリゲルグが立ち憚った。

「ガルマ様、勝負にはペイント弾を使用します。これを3発機体に喰らったほうが負けとなります」

ガルマはイリアの音声を受け取り、「承知した」と一言だけ述べた。

すると視界からリゲルグが消えた。ガルマは横目、縦目を使い、ギラドーガを前進させた。

「(先ずは出方だな)」

すると天底の方から銃弾が飛んできた。辛うじて交わすと、次は真後ろから銃弾が飛んでくる。

「良く動く!」

ガルマは体を捻り、交わしてその方角にライフルを連射した。そこには誰もいなかった。
ガルマはギラドーガをその方角へ少し動かす。すると今度は真上から銃弾が飛んできた。

「単調すぎる」

ガルマはそれを交わし、振り向き正面に照明弾を放った。辺りが眩く光った。
ガルマは目を凝らし、自分の放った照明弾を迂回するようギラドーガを動かした。

イリアは辺りの眩しさを目の当たりにしてしまっていた。

「なんだ?この照明弾は、目くらましか!」

イリアは後方を両脇に気を配っていた。そこには何もなかった。

「ギラドーガはどこへ?」

すると、照明弾の方角からプレッシャーを感じた。そちらにリゲルグの体を向けた時、すでに試合が終わっていた。

ガルマよりイリアに通信が入って来た。

「これで納得していただけたかな?イリアさん」

イリアはリゲルグのカメラを用いて、自機の様子を伺った。既にペイント弾が3つ頭部、腹部、背中を色鮮やかに染まっていた。

イリアはため息をついた。

「はあ、上手くペースを握れたと思ったのですが・・・」

ガルマはイリアの言に困っていた。

「相手を翻弄するに機動性能だけで稚拙だよ。君は攻撃した場所から動くがその箇所には戻る気もなく初めての場所場所へ動きたいようだ。3,4つ攻撃パターンを見せても悟られないように動かないと、歴戦の猛者相手なら即死だ。現に撃たれた事すら気が付かない」

イリアは頭を垂れていた。

「弁解の余地もない」

ガルマはイリアにサダラーンへ戻るよう促した。

「では、その辺も修正して私が指揮を取ろう。帰りますよ」

「は、はっ!」

ガルマとイリアは旗艦に向けてスラスターを吹かした。


* ロンド・ベル ロンデニオン別働隊 クラップ級旗艦 艦橋

エマリーが目の前のア・バオア・クーを見て苛立ちを覚えていた。

「シロッコ、私らの動きよりも早い」

エマリーの持つ艦隊自体の練度にも問題があったが、それでもブライトの艦隊よりは距離も短く戦闘宙域に到着していた。

と、言っても既に終局面だった。ア・バオア・クーは内部破壊がされて、半分は処理され、半分が地球の引力によって落下コースに入っていた。

ルナツーへの下半分の物量を除いてもア・バオア・クーは地球を破壊しつくすに相当量な物質を持っていた。それを半分にしても尚その威力は凄まじい。

ミリイがオペレーター席で計算をしていた。質量と落下軌道より可能性と被害を想定して。
その計算がエマリーの言の直後済んだ。

「艦長!あの質量での阻止限界点は後2分です。但し、友軍の抵抗で若干の遅れが見込めております」

エマリーはミリイに更に回答を求める。

「ミリイ、被害想定は?」

「地殻を壊して、北半球の半分が破壊されます。あと・・・」

「あと?」

「ダメージで火山活動が活発になり、巻き上げられた埃が地球全土を包み込み、陽が射しこむことはないでしょう。いつまでかは分かりません」

要は地球滅亡というシナリオだとエマリーは理解した。外にいるルーの部隊へ連絡を取った。

「ルー?聞こえてる?」

エマリーの応答にルーは艦橋内のモニターワイプに搭乗した。

「艦長、命令を!」

ルーはいきり立っていた。目の前の危機に今すぐでも飛んでいきそうだった。

「分かってるわね。オーキスの出力と部隊の力をあの石っころに見せつけにいきなさい」

「了解!」

エマリーの命令にルーとその舞台はア・バオア・クーへ飛んでいった。
ミリイが不安そうにエマリーに話し掛けた。

「・・・艦長。地球は、私たちは、どうなるのでしょうか?」

エマリーは目を閉じて、暫く考えてから答えた。

「どうにかなる、とは考えない方が良い。努力は時には叶わぬことがある。滅ぶとしたらそれがまたその時期だったのでしょう」

「そんな・・・」

エマリーはミリイに現実を話した。

「あなたが願ったとしても、あなたは実際に何もできない。私もよ、ミリイ。友軍の抵抗も期待してみるだけ。ただ願うだけ。人一人の力なんてそんなものよ」

「願いが届きますように・・・」

ミリイは手を組んで願っていた。エマリーはため息を付いていた。

「(私たちは無力だ。だがあの地球を滅ぼそうとしているひとも無力なひとたちの集まり。僅かな力でもあそこまでできる)」

エマリーは何故その力をこのように使ってしまったのかとシロッコに問いただしたかった。

* ア・バオア・クー 落下抵抗現場

アムロ、シャアを始め、彼らの部下が地球への落下を防ごうと懸命だった。そこへ後部より敵機接近の反応を捉えた。

「なんだと!こんな急場に」

アムロが吼えた。シャアは苦虫を噛み潰したような顔をした。ナイジェルやデニムもそれに倣った。が、誰一人として振り向いて彼らを相手にしようとは考えなかった。

皆が意見が一致していた。殺るなら殺せと。しかしその敵機はアムロたちの傍に至って、ア・バオア・クーを押し出そうと貼り付いてきた。その数20機。

「お前たちだけじゃ無理だ。言う立場ではないが加勢する」

ジェリドがガンダムに向かって、アムロに向かって通信で話し掛けた。
アムロは黙って頷いた。シャアは皮肉を言った。

「そうだな。ルナツーを落として、ア・バオア・クーを押し出そうとは」

シャアの皮肉にカクリコンが答えた。

「地球が持つか持たないかの瀬戸際なんだ。やってみる価値ありますぜ」

エマもカクリコンの言葉に賛同した。

「そうね。弁解はしませんわ。今はただ純粋に地球を救いたい」

全てのひとが無言になりア・バオア・クーを押し出そうとスラスターを吹かしていた。

そして今度はエマリー艦隊からの増援でデンドロビウムが見事に大きな巨体と桁違いの推進力でアムロの傍に突撃しめり込んでいた。

様々な増援がアムロたちの応援し、それに呼応するように不可思議な現象が起き始めてきた。

今度は緑白い光がアムロたちの傍に集まり始めて何かを形成しだした。
アムロとシャアはその異変に気付き、バックモニターを見つめていた。

すると、その光の中からパラス・アテネが出現した。
パラス・アテネのシーマは目を覚まし、理解不能な現状を見ていた。

「な・・・なんなんだい。これは!」

迫り来る巨大隕石とそれを押しているような数十のモビルスーツ。背後にはキレイな青い星。
その状況を解釈し、静かに笑い始めていた。

「ックックック・・・シロッコ。どうやら終局面らしいねえ。あたしがこれを落とせばいいんだろ!」

パラス・アテネの全火力を目の前のモビルスーツらに照準を合わせた。

「これであたしは救われる」

シーマがそう呟くと、後方から数機のモビルスーツがシーマのパラス・アテネを羽交い絞めにした。
その衝撃にシーマが驚いた。

「なっ!何が・・・うわっ!」

シーマが確認しようとした時、シーマのコックピットはビームサーベルに貫かれ消失してしまっていた。掴んでいたのはZⅡ2機コウとキース、貫いたのはもう1機のZⅡのユウだった。

「ふう、間一髪でしたね」

キースがアムロへ声掛けした。アムロは「助かった」と礼を言うと、再びア・バオア・クーと対峙していた。

ユウ、コウ、キースもア・バオア・クー押しを手伝おうとしたとき、ユウはまだパラス・アテネの出てきた光が収まっていないことに気が付いた。

「・・・!」

光の中から黒い腕が出てきた。そして全体像が現れて、光は収束した。

コウ、キース共にその姿に腰が引けていた。アムロもその姿を見ては舌打ちをしていた。

「何でこんなところにあんな怪物が・・・」

キースが発した言葉に見たことがあるものが皆が同意した。
ダカールの天変地異の黒いモビルスーツがそこに鎮座していた。

ユウだけは戸惑い動けないでいるコウ、キースとは違っていた。即座にそのモビルスーツにサーベルを持って飛びかかっていた。しかしその動きは黒いモビルスーツによって阻まれた。

「・・・」

ユウは感覚でそのモビルスーツの敵対心が無いことに気が付いた。触れたことが一番の理由だったが、反撃もしてこないことが何よりだった。そのモビルスーツより通信があった。

「・・・理由は知らないが地球が危機のようだ」

若い男の声だった。そのあと今度は若い女の声が聞こえた。

「このバンシィも手伝います」

そう女性が述べると黒いモビルスーツはゆっくりとνガンダムの隣に付いた。
男性がアムロに語り掛けた。

「オレはシロー・アマダ、こっちはアイナ・アマダ。先は迷惑を掛けて済まなかった」

アムロはバンシィからのワイプモニターを確認した。黒髪の若い男性と薄水色な髪の若い女性がそこに映っていた。

「お前たちが手伝うなら喜んで」

アムロはそれだけ伝えた。シローは頷いた。そしてバンシィをNT-Dモードに強制移行させて、周囲のサイコフィールドに同調させた。

アムロとシャアはとてつもない力を肌で感じていた。バンシィが発するフィールドは何か異常なものを感じていた。が、次第に異変にも気付いていた。

バンシィの姿が徐々に薄ぼやけてきていた。そのこともシロー、アイナ共に悟っていた。

「どうやら仮初の命だったらしい」

シローがぼやく。アイナは笑っていた。

「それでも地球を救うに巡り合えた奇跡に感謝しますわ」

アムロ、シャア共にバンシィの姿を見ていた。するとバンシィがνガンダムにそっと触れてきた。

「あなたに全てを託します」

アイナが喋る。シローがそれに続く。

「オレたちは居るべき場所へ還る。想いは叶うはずだ。オレらは向こうの世界より誤ってきたからな」

アムロはバンシィの腕から流れこむ力を体で受けていた。アムロが意識してバンシィの居る方を向いたときそこには何もいなかった。

シャアは唸っていた。

「ええい、どういうことなのだ。この期に及んでまやかしなどとは」

アムロはシャアの疑問に少し笑って答えた。

「フフ、こんな状況下だから変な親父たちの技術が最大限に発揮される環境下だから、見たくないものや見なくてもいいものが見えるのかもしれないな」

アムロは深呼吸をして、シャアに事態についての解決策を言った。

「そのまやかしなどの奇跡とやらでニュータイプの一種の力をこのサイコミュに転化できそうだ」

「何だ、その奇跡とやらは」

「共感だ。この力が地球上の祈り、想いを全て転化できる」

シャアはアムロの言に首を傾げた。アムロは気にせず話した。

「サイコミュは人の考え、想いに作用する。それを受け入れる器か入出力できるブースターが有れば、それこそ天変地異を起こすことができる」

「まさか・・・」

シャアはアムロの意見を一笑した。疑うシャアをアムロは実力行使で証明しようとした。

「つまりこういうことだ!」

一瞬でアムロのνガンダムが発光し、シャア含めて周囲の全ての者が手で眩しさを手で遮っていた。

「な・・・なんだ!」

ナイジェルが叫ぶ。しかしそれは数秒のことだった。
収まるとνガンダムが赤いオーラに包まれ、両手でア・バオア・クーを続けて押し出した。
すると今まで受けていた落下へのプレッシャーが嘘の様に消えていた。

シャアはその現象に驚いていた。

「アムロ・・・お前は一体・・・」

アムロはシャアに答えでなく感想を話した。

「多分、ガンダムのサイコフレームの作用だと思う」

「ならば私にも内蔵されているぞ」

「それならばたまたまだろう」

「偶然だと?」

シャアはアムロの話の疑問に呈する。が、アムロ自身もよく理解していなかった。

「オレにも分からない。ただできる気がした」

シャアは少し考え、先の黒いモビルスーツの話をした。

「あの見たことの無い黒い機体のせいか?」

「その後だからな。この力の転化の理解を得たのは」

アムロは悟ったように答えた。未だにシャアには理解不能だった。

「それは私にもできるのか?」

「教え方、覚え方がわからない。ただできるんだ。今、オレには世界の想いが自分に入力されて、介してブースターとして出力できる」

アムロはそう答えてからシロッコとの話を補足した。

「シャア、お前には話していなかったがオレとカミーユはシロッコと遭遇した」

「何!シロッコと」

「奴が話していた。この隕石と地球、サイコミュ、言わば人類文明の最先端技術。今の舞台が何かを起すと」

「シロッコが何かを待っている?この隕石を跳ね返すことか」

「隕石自身の阻止限界点はあと少しだが、隕石自身の推進力が無い、脱出手段が最早尽きているところで既に阻止限界点は超えている。それをこんな小さなモビルスーツらが跳ね返す。現実的に不可能な話だ」

するとカミーユのZもシャアの傍に取りついてきた。

「遅れました」

「カミーユ!」

「シャア総帥。この隕石をはじきましょう」

カミーユの発言にアムロが少し笑った。

「カミーユ、何か仕掛けてきたな」

「ええ、浮遊する撃墜された機体をア・バオア・クーに十字を斬るように取りつけてきました。誤算だったのがアムロ中佐の得体の知れない力が備わったことです」

カミーユはニュータイプとして段階経た覚醒を果たしていた。彼自身の力も今の自分と遜色がないかもしれないとアムロは思った。現存している機体にサイコフレームが施されていないものは皆無に等しかった。

「皮肉るな、カミーユ」

「冗談でいったつもりでしたが」

カミーユは笑っていた。アムロはカミーユが事態の結果に確信を得ているのを感じ取った。

「効果覿面だな。よくやったカミーユ。押し出すぞ」

「はい!」

すると、アムロのア・バオア・クーを抑えていた力がカミーユの力の転化でア・バオア・クーを今度は本格的に押し出そうとしていた。

シャアは途方に暮れた。

「アムロ、私の力などいらないんじゃないか?」

アムロはそれを否定した。

「シャア、実は君らの力をつかっているんだよ。サイコミュの力の本領は全員と繋がり、出力できる点だ。それに・・・」

「それになんだ」

アムロは息を吸って、話し続けた。

「この力は人に希望の光を見せる。この悲観的な状態から逃れる術が皆の願い、祈り、想いで可能にする」

それを聞いたカミーユはシロッコの話を言った。

「アムロ中佐。シロッコはそれを悪だと言ってましたよ。彼はきっとこの現象を・・・」

シロッコはこの戦闘にマスコミを利用している。彼の発信力が世論を利用して、サイコミュの在り方を禁忌にしようとしていたことを。それによって見せたロンド・ベル、カラバともに異物として世界に認知させようともしているとカミーユは何となく察しがついていた。

「分かってる。オレたちが世界の敵に回ろうが、今、この瞬間、地球が潰させないという想いはこのガンダムに届いている。うおーっ!」

νガンダムが緑白く光り強く発光した。呼応してΖと周囲のモビルスーツも輝いた。

遠目で見ていたラー・ヤークのハヤト、カイらは肉眼でも地球より離れていくア・バオア・クーを確認していた。観測のクルーも歓声を上げて報告していた。

「やった・・・やったー!ハヤト艦長。ア・バオア・クー進路変更確認。地球から離れます」

ブリッジ全体が歓声に包まれていた。ハヤトはホッとした表情で艦長席に収まった。カイはミハルを見ては次の指示を出した。

「ミハル、報道を確認しろ。シロッコが何かを仕掛けるかもしれん」

「わかったわ」

ミハルはブリッジから離れて通信室へと向かって行った。
カイはハヤトに歩み寄ってはハヤトの肩に手をおいた。

「とりあえずはよくやったな」

カイの語り掛けにハヤトは頷いた。

「ああ。そうだな」

「3方向からの隕石落とし。一つはやられたが、それにしても防ぎ切った」

カイが戦略と戦術を称賛した。絶対的戦力の不備をハヤトたちは乗り切ったのだった。

ホッとしていた皆が次の瞬間、戦慄が走った。ラー・ヤーク自体が謎の振動に襲われていた。

「な・・・なんだこの揺れは!」

カイが叫び、ハヤトの艦長席を掴んで倒れないように踏ん張っていた。立っていたものは倒れ込んだり、壁に打ち付けられたりしていた。観測オペレーターが調査し、分かる範囲で答えていた。

「・・・宇宙潮流です。恐らくはア・バオア・クーの爆破時の細かい礫が各方面へ四散していたからだと思われます」

デブリによる宇宙に潮目ができたという話だ。ハヤトは特別珍しいことではないと認識した。が、余りにも振動が強すぎた。

「こんな揺れの強いものは聞いたことが無い。ましては最新鋭艦だぞ!オペレーター!」

ハヤトが再度確認を急がせた。すると地球圏全体に何らかの歪が起きていることが確認できた。

「全ての軌道、ラグランジュポイントらに変化はありませんが、各サイド、月、航行中のものに影響があります」

カイはそれを聞いて、一目散にテレビを付けた。こういうときはメディアの方が話が早いと思ったからだ。

ハヤトとカイはそこから各サイドの状況を見た。7,8割方が機能不全でコロニーの人口重力が失われていた。しかしながら宇宙空間なので、無重力状態ということで人的被害はそこでは見受けられなかった。

だが、至る所でのライフラインの事故が多発していた。特に顕著に出ていたのは医療機関だった。
そこでの被害は現在調査中だということだった。

* シロッコ艦隊 前線 

シロッコは周囲を見渡しては驚愕していた。サラが矢継ぎ早に報告を入れてきていた。

「パプテマス様!後方のアレキサンドリア級多数航行不能、並び沈艦、ジュピトリスも2番から7番までエンジン大破。ああ!!何で・・・」

「サラ、ジュピトリスに総員退艦命令を」

シロッコはなるべく動じずにサラに命じたが、続けてそれに関する報告がサラよりもたらされた。

「ジュピトリス、通信途絶・・・」

シロッコは深呼吸をしながらシートにもたれかかった。ついに恐れていたことが起きた。
可能性は自身の中では感じていたが、ここにきてここまでダイレクトに来るとは想像もしなかった。

「・・・というよりもそんな想像がそもそもナンセンスなのかな」

シロッコは自嘲していた。その様子をサラがモニター越しで不安そうに見つめていた。

「(パプテマス様が、笑っている。・・・何故!)」

そんなサラの様子など介さず、シロッコは軽く自体の把握に努めた。

「さて・・・我が艦隊が半数以上が機能不全、ア・バオア・クーは地球から離れて、彼らは残っている。マスコミはこの異変に踊らされて、私の話など聞く耳ももたないか」

シロッコはサイコミュの告発をできない状況になったと結論付け、次取るべき行動を考えていた。

「(最早、歪が出るほど我々は禁断の領域へと来たわけだ。だがそれ程の力を求めなければ、あ奴らに勝てなかった)」

シロッコはサラに艦隊の編制を委ね、同時にロンド・ベル、カラバにティターンズが即時戦闘放棄することの旨を伝える様命じた。サラは反発した。

「どうしてですか!私たちはまだ戦えます!あんな反連邦組織に・・・」

そんなサラにシロッコは優しく声を掛けた。

「サラ、ア・バオア・クー落としの失敗で全てが終わったのだよ。この結果は私は負けを認めざる得ない。それに」

「それに?」

シロッコはアムロらが居る方向を見つめていた。

「彼らは世界を救うかもしれない力を得ることができた。この揺れが世界の終焉たる揺れかも知れない」

サラが困惑した。なぜ世界が滅ぶなんて急に言うのと。シロッコはそんなサラを放って話続けた。

「人の想いが巨大隕石を跳ねのけた。全てはサイコミュによるものだ。だがその力は極めて危険なものだ」

「・・・どうしてですか?」

サラはサイコミュについて余りに自然に使ってきていた代物で危険とは思わなかった。それをシロッコは否定した。

「念じただけで物理法則を崩す力を世界は許容できない。私たちではない、自然界でだ。今までも高度な文明を追い求めてきた人類は天候を壊し、地球を汚染してきた。防ごうとしても、欲求がそれに勝ってきた」

サラは無言で頷く。

「その影響が今度は世界の空間に起きた。それを許容できない何かがこの世界にあるのだ。そのものに対抗できる手段をアムロたちは備わった。あのア・バオア・クー落としでだ」

サラは驚きを示した。

「ま、まさかパプテマス様・・・そのためのア・バオア・クー落としを・・・」

「それでもある。全ては予測でしかなかったが、人の想いが有り得ないことを起し、事態を覆す。それは諸刃の剣ではあったが、有象無象の敵に打ち勝つにはこちらも同等の力でなければ挑めない」

シロッコはサラにデータ通信である文面を送った。受け取ったサラはそれを少し読み複雑そうな顔をした。

「・・・これは?」

サラの不思議そうな声の問い掛けにシロッコが答えた。

「私のあらゆる論破、筋書きの知識を駆使した論文めいた駄文だ。これで世界はサイコミュに関しての見識を改めて生きてゆくという選択肢を選ぶしかないと思い込ますことのできる。私がもし帰ってこれなくてもそれをマスコミに流せば私の想いは達せられる。最もそんな未来があればだがな」

「パプテマス様」

「意思疎通は言葉で重ねていかねばならない。念ずることではない。それで世界を君の様な女性が統治していくようであればいい」

そう言ってシロッコはアムロたちの居る宙域へジ・Oを走らせていった。

* ア・バオア・クー後方宙域

フロンタルは平然としていた。一方のララァは息を切らしていた。
フロンタルがララァに話し掛けた。

「流石境界の民だ。一サイドの住人を全て制圧できるような力を与えても尚崩れんとは」

ララァはかく顔の汗を手首ですくい、フロンタルのジオングを見据えていた。

「貴方こそ、異常です。死霊の類か何かです」

ララァの言い分にフロンタルは笑った。

「ハッハッハ、幽霊か・・・。違いない」

「何ですって」

ララァが驚く。それにフロンタルが驚く。

「おや?私の姿が感知できないと?世界の調律者様だというのに?」

「ぐっ・・・」

ララァは口を歪ませた。フロンタルはため息をついた。

「まあ、シロッコのせいで不完全体でいる貴方には仕方ないことなのかもしれない」

ララァは、だからと言ってこの世に自分を凌駕する力を持つ者がいると納得はしていなかった。
絶対にどこかに仕掛けがあるはずだとララァは考えていた。

まず、フロンタル自身を制圧しようと試みた。それも幾度も。しかし実態が掴めなかった。
それに虚を突かれて、ララァ自身が同じような攻撃を幾度も受けてしまった。

そして予想したことが彼に実態が無いということだった。
彼自身が何かに扇動されているのではと考えた。彼を自我を持って動かすエネルギーの源が。
それにより彼自身が汚染されて、彼の生命活動を止めてしまったのかもしれないと。

彼のそのエネルギーに触れるには、彼の攻撃を受けるしかない。
そこから彼の源へ入り込む。

「フロンタル。私は貴方には負けません。世界に均衡をもたらす為、貴方を消します」

ララァは毅然な態度をとり、フロンタルに再び攻撃するよう挑発した。
それにフロンタルは難なくのる事にした。

「面白い。もう1度とは言わず、何度も味合わせてやろう」

するとフロンタルのジオングより再び精神攻撃がやって来た。今回もまともに受けたが、返す刀でその精神攻撃の根源へララァは精神を飛ばす事に成功した。

ララァはジオング内のある部分へ意識を飛び込ませていた。そこは無であり、闇でもあった。
人の持つ闇だとわかる。大抵のひとは心に闇を潜ませている。

が、その闇の深さにララァはたじろいでしまっていた。

「これほどまでの怨念とは」

その重厚さ、幾人分とは言えない。その数は果てしなく、そして年月もあった。
ララァはこれを1つずつ紐解いて行かなければならなかった。

ことは至って単純だった。解くだけなら数秒と掛からない。が、数が余りにも多い。少なく数えるだけでも千人いるグループが千通り合って、それが1ヵ月に1括りで7年分あると考えてもいい量。そしてそれが少なくともなのだ。

「しかし、出来る限りやらねばならない」

ララァは暗闇に腰を下ろして、1つずつ怨念という名の結ばれた紐を解いていった。

フロンタルはララァがパンドラボックスに飛び込んだことを認知した。そしてユニコーンを見た。
中には生体反応はあるが、そこにあったその存在の意識が無かった。

「肉体を棄てたか。かの者にとっても肉体は道具に過ぎなかったわけだ」

それは自身ことを言っていた。が、フロンタルはユニコーンに新たなる意思の存在を感じた。
それに驚愕はせずとも驚きを示していた。

「ほう、本来の持ち主も相当の逸材のようだ」

フロンタルの視線の先のユニコーン内に本来のララァが意識を持って座ってた。
自身がこの体に帰ってきたのはオーガスタ研究所で研究していた時以来だった。

「はあ・・・はあ・・・」

ララァは息を切らして回顧していた。あの時私を攫ったシロッコは演技だったことは後に知った。
あの人は私を他の誰かに利用されないよう、あの人の持ちうる力で外在的にも内在的にも守り、世界を
守っていた。その為に悪役をかった。

目の前の忌まわしい巨大なモビルアーマーが今日までの問題。この力に勝てないと人類が終わる。
彼は台風のような自然災害だ。理由などない。今まで台風として成長するまで蓄えてきた力を今彼は
これより発揮するのだろうとララァは感じていた。

ララァは後方を見て、そして意識も向けてみた。するとアムロとシャア、他優れた力を感じた。
ララァは彼らの力を持って挑めば勝算があるかもしれないと思った。

それでも一縷の望みなのかもしれない。彼の抱える力は強大だ。

「・・・それでも人類は今まで様々な苦難を乗り越えてきました」

思うだけで良かったのに口に出てしまう。そう言い聞かせたいほどの重圧をフロンタルより感じていた。

ララァは牽制しながら、その宙域から離脱していった。それをフロンタルは敢えて見逃した。

「フフ・・・まあいい。元々はシロッコから持ち込まれた相談事。私はゼウスを用いてパンドラボックスと共に世界を蹂躙することが目的だからな」

フロンタルはゼウスへとジオングを向けて、ララァと同じく宙域を離れていった。




 

 

44話 取るべき道

* ラー・カイラム 艦橋 3.14 

ブリッジ内はまるでお通夜だった。
カラバとの合流を果たし、ラー・ヤークからもハヤト達がロンド・ベル旗艦ラー・カイラムへ搭乗していた。ネオジオンのシャアとその部下たちも一緒だった。

誰もが一通りの戦が全て終わった事に安堵したがっていた。しかし謎の宇宙潮流による各サイドの機能不全、艦隊の機能不全、兵士たちの帰る場所が脅かされていることに気を病んでいた。

降伏を表明したティターンズのジェリドらも艦橋にいた。軍機能、政治機能は既に破綻、失われていて、彼らをどうしようかという意見もなかった。それは世界の異変による状況下で皆が参ってしまっている何よりの証拠だった。

シャアは周囲を見渡し、自分と瓜二つの人物を見かけた。それをカミーユに尋ねると、クワトロ秘書官と教えてくれた。亡きゴップ議長の秘書だということだ。彼の頭の中には世界のあらゆる知識が詰まっていると理解した。

シャアの目の前にブライト・ノア准将が副官のメランを連れてやってきた。

「シャア総帥、この度の戦い見事でした」

ブライトはこんな雰囲気の中で出来る限り労ったり、挨拶周りをしていた。ネオジオンの活躍は目を見張るものがあった。何と言ってもドゴス・ギアの撃沈、ティターンズの首魁を倒したことが大きい。

ブライトが手を差し伸べてきたため、シャアはそれに応えた。

「いえ、皆優秀なスタッフ、クルーによって為されたことです。私いち個人など微力にしかすぎません」

ブライトはシャアの謙遜を快く思った。

「そんな貴方だからこそ、皆が付いてきて結果を残せたのだと思いますよ」

「そう評価していただけるならば有り難く受け取りましょう。しかし・・・」

シャアの濁しにブライトが頷く。このラー・カイラムに来るまでに謎の揺れや災害にカラバ、ロンド・ベル共に半数以上の被害を被った。そしてマスコミによる各サイドの機能不全の報道。

全員が困惑して頭を抱える中、一定の答えをもたらしてくれる人物らがブリッジにやって来た。それを見たはロンド・ベル、カラバのほとんどのクルー驚き、ジェリドらは呆然とし、ハヤトは眉を潜めた。アムロは平然と眺めていた。

「・・・恥じらいもないですか?」

ハヤトがそう声を掛けた人物はパプテマス・シロッコだった。その隣にはテム・レイ博士、オクトバー技師、そしてカイ・シデンとミハルが一緒に入って来た。

まず最初にテムが話始めた。

「この度の異変は、サイコミュによる異常現象と考察している」

アムロはシロッコの話と同じだと思った。テムは話をつづけた。

「憎き恨みをあるかと思うが、この際後回しにして共に考えるべきだ。彼の頭脳を利用しない訳にはいかない」

皆沈黙だった。無言の同意としてテムは受け取った。次にシロッコが話始めた。

「私の今後の目的、目標は2つだ。フロンタルを倒し、サイコミュを棄てることだ。この順序でなければならない」

「まずはフロンタルとは?皆が初めて聞く名だと思う。そしてなぜサイコミュを棄てるのですか?」

「フロンタルはこの世の黒幕が造り出した存在。この世の悪を集積する為だけの存在だ。彼が用いる道具がサイコミュ。黒幕がただの気まぐれで自然災害を造り出した。ただそれだけだ」

感情の昂りにハヤトが反応した。

「気まぐれって・・・、そんな為に我々は!」

「余りに世俗より超越してしまうと、私らが起こした戦争ですら人の気まぐれでしかない。彼の真意は誰もが測ることはできない」

「誰ですか?そいつは」

「サイアム・ビスト。ビスト財団は少なからず誰もが聞いたことあるだろう」

シロッコは周囲を見渡し、ビストについての理解は多少なりとも知っていると感じ取った。

「彼の道楽だった。彼はこの世界のものとは違うものを利用して世界にチャレンジを求めた」

「一個人にそんな権限が・・・」

「あるのだ。なければ現状が無かった」

シロッコはトーンを落とした。天才と言われる自分ですら、個の限界を痛感しているようだった。

「まず言っておくことがある。この世の真理だ」

シロッコはゆっくりと歩き始めた。

「物事は自然に偶発的に起きた事象を必然だった、それが真理だ。ただ、石を投げつけるより、爆弾を放る方が被害が大きい。それは皆がそう思うだろう」

全員が納得する。シロッコはブリッジの中央で立ち止まる。

「今回は爆弾よりもさらに強力な破壊兵器がただ世界に投下された、という訳だ。それがサイコミュだ」

次の説明に皆が首を傾げていた。そして沈黙。シロッコは構わず続けた。

「そして時代究極のサイコミュ兵器を備えたフロンタルを倒すに同等の力を用いなければならない。その力は諸刃の剣であり、代償が今起きている事象だ」

沈黙の中、ブライトがシロッコに尋ねた。

「この事態がサイコミュが?」

シロッコはテムを見た。その続きは技術屋であるテムが話した方が説得力があるかと思ったからだった。テムも察して話し始めた。

「そうだ。技術屋としてアフターケアをしている最中、ナガノ博士と共にその危険性についても議論は重ねていた。ただ予測でしかなく有り得ないこと、科学的にだ。まさか空間に危害を及ぼすとはSFのことだけだと思っていたのだ」

テムは一つ間を置いてから話し続けた。

「今まではそこそこの自然現象に済んでいたのは、この世界が動乱と言う名の揺れで多少の水がコップからこぼれ出たという例えに過ぎない」

相槌を打つようにアムロが話に割って入った。

「それが満水でオーバーフローしたと言いたい訳なんだな、親父」

テムは答えたアムロを見て、「ご名答」と答えた。

「世界均衡というコップに注がれたサイコミュという力の水が今こぼれ出てきた。それによりコップの外側が濡れてコップが置かれた裸の世界であるテーブルが濡れた。結果、サイコミュで起きていた不可思議な現象が世界で様々な災害がもたらされている」

次はシャアがテムに尋ねた。

「我々は専門家ではありません。例えでも具体的に説明願いますか?」

「我々がサイコミュにより斥力場や引力場を用いて物を曲げたり、ビットを操り飛ばしたりしていることはシャア総帥も知っているな」

「ああ」

「だが、その原理までは詳しくは解明されていない。が、直撃であった弾を曲げることはその弾が別の所に飛ぶのは分かるな?」

シャアは頷く。当然のことだからだ。テムはそこに疑問を呈した。

「つまり通常の物理現象で直撃するはずだったものが別のところに害を及ぼす。それも物理現象として未解明な力で、だ」

テムは周囲のクルーを見渡して、シロッコと同様にゆっくりと艦橋中央へゆっくりと歩く。

「ほんの些細な事だと思う。今や世界にサイコミュに関わる製品が出回り、その現象が世界規模で起きたと考えたらどうだろうか?」

ブリッジ内がどよめいた。テムは話し続けた。

「在り得ないことが有り得るのは世界の均衡を壊す。いや、均衡を保つために世界が望む、これが姿なのかもしれない。ただ人類にとってはとても有難くない」

シャアはテムに結論を促す。

「して、どうすればよい?我々は」

「シロッコの言う通り、サイコミュを棄てる。フロンタルを退治した後でな」

「それで世界はこの状態から脱せるのか?」

「少なくとも、事態の悪化は防げるはずだ。現状が最悪ならば止めることはできんが・・・」

「しなくとも変わらずで、して変わらないかもしれないか・・・」

シャアとテムの会話にアムロが再び割り込む。

「だがやらない訳にはいかないだろう」

皆がアムロに注目した。

「まだ見ぬ新にして強敵を我々は相手にする。それにオレにできることはモビルスーツに乗って戦うだけだ。それで世界の異変を食い止めることができるならば、ただやるだけだ」

アムロの意見に頷くものもいれば、そうでもないものもいた。
だが大所帯な艦橋内で発言を憚り、沈黙していた。そこに1人手を挙げた。

「ちょいといいですかね?」

スレッガーだった。歴戦の猛者で皆が認める指揮官でもあった。
シロッコに向けて手を挙げたので彼は「どうぞ」と一言いった。

「オレらはアムロ中佐と同じで戦うしかできない。それが生業としてきたからだ。だからそこに敵がいれば戦おう。おたくら政治絡みな話はよくわからんが、敢えて率直な意見をききたい」

シロッコはスレッガーを見ていた。話口調からスレッガーがとてもシンプルな人物だと感じた。

「シロッコ将軍は連邦の中枢にいて、このような状況を回避できた可能性があったのではないのかな?オレらは知らないが、サイコミュもフル・フロンタルたるものもオレの見立てでは大分昔から知っていたようだ。将軍程の器量・才覚・権力が有れば淘汰できたはずだが、それはオレが期待しすぎなだけかな?」

シロッコは成程そういう意見が来たかと思った。スレッガーの意見にルーが同調した。
直前の話ですんなりとした解決策を話されたことに疑問に思う者は少なからずもいた。シロッコは全てとは言わないがほとんどの事情を知っていた。そうすれば現状を避けることができたのではと。

「そ・・そうよ!シロッコ将軍は大きな力があるのに、こうなる前に予測できてサイコミュもフロントル?ってやつものさばらせないはずよ」

「(ルー、フロンタルよ)」

そうエマリーが心の中で思った。だがエマリー自身もシロッコがそれをできたはず、予測できたはずなのにそれをしなかったことに疑問に思った。自分だけでない少なからずはクルーがにわかに考えていて、その発言に全てのクルーが呼応するようにざわついていた。

シロッコは手を挙げた。するとざわめきは少しずつ止んでいく。

「私は世界を才覚あるものたちが正しく導いていければそれでよいと思い、当初は力を備えることに尽力した。それと並行して見えない違和感に私がいつでも関与できる様な状況にもありたかった。それは今日のような状態に関してだ。それは私の勘だった」

スレッガーはこくりと頷く。シロッコは話し続けた。

「現実的な問題が現状の問題と比較して、遥かに勝っていた。予測はできたが、現実に起きもしていないことに従うほど世の中は甘くはなかった」

「ですねえ。宇宙がこのままではおかしくなります、世界が崩壊します~って、誰もが現状を体験しなければ誰もが信じなかったでしょう」

スレッガーがそう相槌を打った。シロッコはスレッガーの絶妙な相槌に感心した。全クルーがシロッコの言い分に納得していた。

「時の権力者はそんな予測を超えた与太話を信じる傾向にあった。彼らには一般人よりも見る力に長けていたのだ。彼らはそれにいとも簡単に取りつかれていった。予測が現実化するのも時間の問題となったわけだ」

「その一端がサイコミュでもあったわけですねえ」

「そうです。彼らの仕掛けの1つです。他にもあります。例えばフロンタルです。そしてここにいる皆でその苦難を乗り越えていきました。しかしその苦難に対応するに同等の力を持ってして対峙する必要があります。その集大成としてア・バオア・クー落としによる奇跡が必要でした」

シロッコの発言に一同アムロを一目見た。アムロは肩を竦める。さすがにアムロも一言添えた。

「これが将軍の狙いであったわけですか?」

今度はシロッコに目が向いた。シロッコは頷き答えた。

「実体験でも既に私の能力上ビームの偏光をこなしては未来予測まで朧気ながらも意識にフィードバックしてくるシステムだと認識している。その向こうに何かあるかなど予測だけなら意図も容易い」

アムロが眉を潜め、仮定の話をした。

「将軍。もし、地球にアレが落ちたらどうするつもりだった」

シロッコは間髪無く答えた。

「一つのピリオドになったと思う。むしろ落ちた方が丸く収まったかもしれん」

その意見にテムとカイ、ミハルが表情を曇らせた。カミーユがそれを察知し、尋ねた。

「どういう意味ですか?レイ博士、知っているんでしょ」

今度はテムに皆の視線が向いた。頭から落ちる汗をハンカチで拭きながらも答えた。

「・・・予測でしかない。予測の話しかできない状況に苛立つ。ナガノ博士と場所は違えど共同研究を続けていたのだ。勿論サイコミュのな」

テムはオクトバーに指示し、ブリッジのメインモニターにあるデータを映し出した。それは縦軸がサイコミュの稼働レベルと横軸が時間軸だった。そこから先はオクトバーが話し始めた。

「我々は未知なるサイコミュにある一定の負荷を掛けていく実験を今日まで続けてまいりました。そこには時期によってレベルが変化していたのです。それによって実験機器にも影響を及ぼしましたので、それを制御する機器を開発、改良も重ねてきました」

オクトバーがポインターを使い、データ数値が隆起している部分や落ち着いた部分を示す。

「稼働当初はホント微々たる数値でした」

ポインターはまず実験当初を示した。

「これは時期としても6年前、サイコミュも今よりも流通しておりません。しかし、現在は見ての通り」

今度は今の時間の記録をポインターで映す。誰もが一目瞭然だった。時間に比例して増えていた。

「これは流通量が一端を握っております。しかし、何故か株価のように乱高下が見えます」

ケーラの隣にいたアストナージが発言をした。

「私も、気にはなっていました。何故あんな機械を誰もが制御できるようになったのかと・・・。この実験があったからなんですねえ」

オクトバーは頷き、アストナージに語り掛けた。

「ええ、そこの部分は割愛させていただきます。流通させるのが商売で技術屋の仕事でしてね」

ケーラがアストナージを軽く肘でごつく。「うっ」とアストナージは一言。
周囲が少し笑い、オクトバーも笑顔になり、再び話し始めた。

「注目はこの乱高下です。特にこのストップ高やストップ安のようなレベルです。この時期に注目してください。一番のストップ高が・・・」

ポインターで示す時間軸は丁度ア・バオア・クー落としの時だった。
アムロはため息を付いた。代わりにハヤトが発言をした。

「ア・バオア・クー落としで石を跳ね返したときですね」

その答えにオクトバーが頷く。

「そうです。そして困ったことに平時の指数には戻らず少し落ちたままレベルが現時点で徐々に上がり始めています。これが・・・」

シャアが今度は口をはさむ。

「現状というわけか。アムロの隕石返しよりも倍以上は少ないが、平時よりも5倍は数値が高い。これが今の異常というわけか」

オクトバーが「そうです」と答え、話し続けた。

「他にも隆起しては落ち込む、その時期は必ずと言っていい程、戦いが起こり、サイコミュが反応するような事態が大きく起きた。落ち着くと極端に落ち込む。その意味は戦意が落ちたことだと考えます」

ブライトが手を挙げて、質問した。

「オクトバーさん。今までは自然に落ち着いたように見えますが」

「そうですね。きっと仰りたいことは当然の質問だと思います。何故、この度はと言いたいのでしょう」

「その通りです」

ブライトがそう言うと、オクトバーはまた別のグラフをモニターに映した。今度は縦軸がサイコミュのレベルだが、横軸が電気的な負荷力だった。

「我々はサイコミュの一般化を目指す為に耐久実験を繰り返しては制御できるマシーンを生み出してまいりました。その過程での実験データです」

一同がモニターに見入った。オクトバーが話続けた。

「我々は未知なる物質でどのようなことが生じるか、未だに解明できておりません。しかし、制御しなければなりません」

オクトバーは画面を2分割して、片方に実験のシステムを簡易的な図で表示し、説明した。

「そこで2重3重の制御網を敷き、サイコフレームを制御してきました。ことは簡単です。一つ目の壁が破られれば2つ目で食い止める。ただそれだけです」

オクトバーは次の図を見せて、ポインターで引き続き説明をする。

「1つ目の制御をワザと破らせるという実験です。これで機械の限界値を知ります。困ったことに、サイコフレームはある規格を超えた体積になると中々丈夫で壊れません」

オクトバーは実験システムの図を実験過程を説明できるように作っていた。少しずつコマを進めていく。

「この電圧レベルで1つ目の制御が動作不能になります。サイコフレームは反応を自身で少しずつ高めています。そこで制御するために反する力を掛けました。その時の数値が異常だったのです」

オクトバーがサイコミュを操る操縦者に尋ねた。

「過度にサイコミュを操れる方々にお聞きします。後で凄く疲れるでしょう」

その質問にアムロ、カミーユが首を傾げた。カミーユが答えた。

「ええ、ぐったりはまあしますね」

オクトバーが頷く。

「実はサイコフレームの特徴としてニュートンの第一法則を無視しています。まだ仮定ではありますが、そんな気がします。それは現実的でない話です。2つ目の制御網でサイコミュに与えた負荷以上のエネルギーを持ってして抑えつけなければなりません。その力が差し引きしても制御が上回ります」

アムロが顎に手をやっていた。カミーユは腕を組み答えた。

「常に制御は心掛けているので、それは自分の中で収めたいからでしかない・・・。理由は・・・その力が育つ傾向にあるからか・・・」

カミーユは得心した表情をした。アムロもカミーユを見て驚きの表情を見せた。ブリッジ内もざわつく。オクトバーが「そうです」と一言、そして続けた。

「この物質は得たエネルギーを基に育ち作用する傾向にあるという一定の結果を得ることができました。現実世界であるまじき行為です。レイ博士、ナガノ博士共に危険性を訴えて、会社上層部と掛け合いましたが、一蹴されました」

オクトバーへの視線がテムに向く。テムが話し始めた。

「お偉方は未知なる力に見せられやすいんだよ。あのメラニーはダメだ。奥方からの圧力に負けては、全世界にその技術の流出を促した。結果がこれだ」

再び、ブライトが手を挙げて発言した。

「オクトバーさん。その、何故今回がという質問に・・・」

オクトバーは「すみません」と一言言って、テムも手でオクトバーに促した。

「世界に流通したサイコミュが反応したことです。それはアムロさんらのきっかけもありましたが、それを流通させたアナハイムにも責任があります。そして現状の全ての利点を効率的に利用し、現在のレベルを維持して上昇させているものが地球圏のあるポイントに存在することが確認できております」

メインモニターが今度は航路図になった。するとある1点を指し示していた。それについてシロッコが話し始めた。

「そこにフロンタルがいる。サイコミュの結晶であるパンドラボックスを携えてな」

「パンドラボックス!」

カミーユが反応した。周囲が驚いた。シロッコは続けた。

「パンドラボックスはビスト財団が叡智を結集させたサイコミュ収集蓄積機。微々たる世界の怨念をため込み、そしてそれを用いて天変地異を起せると仮定される意味不明な機械だ。それを壊すことは何人たりともできない」

シロッコは周りを見渡して、話し続けた。

「フロンタルは時期を狙っていたのかもしれない。時代の過渡期、もはや派閥も思想も落ち着き、疲弊した世界が様々な救済を求めては最も感受性が高まる。つまりはサイコミュを最も効率的に活動できる時期が今であって、アムロ中佐が起こした奇蹟の波に乗り利用したのかもしれん」

シロッコが少し無念さを滲ませた。そして再びスレッガーがパンドラボックスについて質問した。

「何故ですかい?パンドラボックスは人の作ったものでしょうが。破壊できないと?」

「蓄積された力はおよそ数十万の機体装甲密度を秘めていると考えたらいかがかな?」

スレッガーは舌打ちした。「厄介だな」と一言。ブライトがシロッコに尋ねた。

「対策は?」

シロッコは少し笑い、頭を掻いて答えた。

「とても恥ずかしい話だ。ごくシンプルだ。世界が一つとなってパンドラボックスに反抗する負荷を掛ける。そしてサイコミュを棄てる。それで今以上に被害は大きくならずに収束していくのでは・・・と思う」

「思う?」

「憶測でしかないのだ。オクトバー技師も言った話だが、ニュートンの法則を無視した代償が、埋め合わせが世界に起きた事象だという仮定であれば、それで落ち着くことができるか否かは森羅万象に掛かっているとしか言いようがない」

シロッコは軽く熱を帯びてブライトに伝えた。ブライトは「くっ」と口びるを噛んだ。その後一つ途中であった質問を思い出して、ブライトは咳払いをしてからシロッコに尋ねた。

「先の・・・ア・バオア・クー落としが成功していたらどうなったのだ?」

「あらゆる事業が止まり、生存を賭けた方向へ世界が強制的にシフトした。地球が滅亡するからな。そこにはサイコミュという技術の発達や利用もひとたび終焉を迎えて、フロンタルらもガス欠で終了だ」

「ガス欠?どうして」

「彼が動けるのは支援あってのことだ。それは未だ世界の権力者が彼を支持するものがいるからだ。支援が切れる為には支援する権力者らが力を失う程の事態が生じる必要があった」

「それが地球破壊だと・・・」

「そうだ。宇宙に出ようが、地球への依存度は未だ高水準だ。地球無くして人類は成り立たない。支援者を取り締まればいいと思うが、そんなことが出来る訳が無い」

ブライトは首を傾げた。シロッコは気にせず続ける。説明を全てできていないからだ。

「我々には権限はなく、権力者は所謂一般市民であり、そして特権階級だ。軍属の我々から見れば、こちらが社会弱者なのだ。そいつらに致命的なダメージを与えて、人類を生き延びる可能性としての一つが隕石落としだったに過ぎない」

「だが、その支援者からの・・・」

「邪魔が入るかと?元より彼らには結束力などない。あるのは各々の小さな利益だけだ。フロンタルは上手くそれを引き出しては燃料を得ていた。それを断つ手段は余りに細かすぎて、費用対効果も得れずに寧ろ全てがダミーであって、本物でもある。隕石落としの結果に危機感はあるが、彼ら1個の力は余りに微小だった」

ブライトはシロッコの説明を聞き終えると肩を落とした。
その数秒後、トーレスより艦に接近するモビルスーツの反応について報告があった。

「艦長、それ程の速度ではないですが、救難ビーコンを出して接近してくるモビルスーツがあります」

ブライトはトーレスに目をやり、アムロとシャアは近づいてくる感覚に懐かしさを覚えた。シロッコも同様だった。アムロが口にした。

「・・・ララァが戻ってきたか。理由は知らないが」

続けてシャアも言う。

「ああ、オーガスタの時と同じ雰囲気だな」

シロッコも次いで言った。

「メシアの支配から脱したのか・・・。確かに雰囲気が無い」

すると、そのモビルスーツより通信が入った。

「・・・聞こえますか。救助を求めます。私はララァ・スンです。ご存じでないでしょうが、もう一人の私はフロンタルとの戦いに精神を投じ、私が私であります。世界の危機です。助けてください」

それを聞いたスレッガーが「だとさ」と言った。メランがその通信に従い、モビルスーツデッキのスタッフに指示を出した。

「これから来るモビルスーツを丁寧にキャッチしろ。この事態の、世界の命運がかかっている」

ブリッジにいる全ての者が近づいてくる1機のモビルスーツを見つめていた。そんな中、コウとキースが今までの話で知恵熱を出していた。

「ああ、こんな事態にして話がややこしい」

キースがそうぼやくとコウも同意した。

「この艦に世界の動向の全てがかかっているといっても過言でないからな。色々面倒なのさ」

その会話に後ろからアレンが両名の間に入って肩を組んだ。それに2人とも驚く。コウが叫ぶ。

「アレン少佐!」

「おう、全くだな。でもな、こんな事態普通じゃありつけないぜ。まあ堪能しようや」

その発言にキースが眉を潜めた。

「気楽すぎませんか?」

「そうでもしないと気が狂うわ」

アレンは顔が笑っているが心底は真逆だと2人は感じていた。

* ゼウス ブリッジ内

フロンタルがブリッジ内である人物を迎えていた。側近のマリオンとクスコは訝しげにその人物を見ていた。

「(何なんだ。このじいさん)」

クスコがマリオンに密かに話す。マリオンは無言で首を傾げた。

「(わからない。マスターは何をお考えなのか?)」

見るからに年寄りなのは明らかだが、立ち振る舞いやその背筋は若者のようだった。
その老人がフロンタルに話し掛けた。

「確かな結果をもたらしてくれた。礼を言うぞ、よくぞやり遂げた」

「マイ・ロード・サイアム。貴方がそう命じていたまでです」

マリオンとクスコはその老人がサイアムという名だと知った。
サイアムはブリッジにある艦長席に腰を下ろす。

「それも1つの選択肢に過ぎない。私がこの様に100歳も超える程の肉体に満ち溢れた力を齎したパンドラボックスの力も副産物に過ぎない」

フロンタルは頷く。そして改めて指示を仰いだ。

「マイ・ロード。世界を壊すという望みはそのままでよろしいでしょうか?」

サイアムはフロンタルを見て笑みを浮かべた。

「構わぬ。私はこの特等席にて崩壊を見ることができるだけでよい」

「かしこまりました。存分にご堪能ください」

フロンタルはマリオンとクスコに目配せて共に退出を促した。
独りになったサイアムは目の前のモニターに映る地球を見ていた。

「(イレギュラーがどう動くか。まだまだ余興は続きそうじゃのう・・・)」

サイアムはクスクスと笑っていた。 

 

45話 生きたい想い 3.14

* ラー・カイラム 艦橋 3.14

ララァとユニコーンを収容したラー・カイラムの中はその女史の発言待ちとなっていた。
出迎えたアストナージはコックピットから出てきた女史に手を差し伸べたが一向に出てこない為、
覗き込むと気絶していた。

急ぎ医務室へ運び込んだ。医師の診断によると過労だという。
そこまでの話をブリッジでアストナージが話すと、クワトロことシャアがアムロの下へ寄って行った。

「少し一緒に席を外さないか?」

アムロは急な呼びかけに少し驚いた。

「何処へ行こうと。ララァの所か?」

「いや、彼女が乗ってきた乗り物の方だ」

シャアがそう言うと、アムロは少し考えてから頷いた。

「分かった」

ブリッジ内の空気感からバラバラの談話状態だった。よってここで誰に断らず退出しようとも特別気にもしないだろうとアムロは思い、2人ですーっとブリッジを後にした。

それをシュナイダーが見ていた。近場に居たミハイルに顎で合図して、彼らを尾行させた。ガルシアがそれについてシュナイダーに少し意見した。

「別にこの中で何か起こるわけでないし、ましてや白き英雄ですぜ?」

シュナイダーは少し笑ってから答えた。

「万が一だ。秘書官を護衛命じた主からの要望だからな」

「ゴップ議長ですか?ですが、もういないでしょうに・・・」

シュナイダーはそれ以上は答えなかった。この7年間シャアの傍に居て、彼の動くことで事態が動いてきたことを一番近場で肌で感じていた。シュナイダーは培ってきた感に従って敢えて付けさせた。

ガルシアは出ていく2人とそれをひっそり付けるミーシャを目で見送った。

通路にて歩きながら、アムロがシャアに話し掛けた。

「確かにあのモビルスーツは異質な気がする。そこに何かの手掛かりがあるのか?」

シャアはアムロに小出しながら知っていることを伝えた。

「アレは私も関わった乗り物だ」

「何だと?」

アムロは驚いた。シャアは構わず続けた。

「この事態は大いなる意思によって動かされていることはこの間伝えたな」

「ああ、フロンタルとパンドラボックスを何とかすればいいのだろう?」

「それはこの世界の表向きな問題だ」

アムロは眉を潜めた。

「・・・裏があるのか?」

「裏というよりも本質だ」

「本質だと?」

「この問題の一番の要点がこの世界の者達には押さえることができない。それを我々がやるのだ」

シャアはアムロを見ることなく歩き、話していた。アムロは時にシャアの表情を見ては前を向いていた。シャアは何か決意したような顔だった。

「表向きな問題の要因は全て私とお前、そしてララァというイレギュラーの存在がある。特にララァという存在が大きい。彼女自身が勘違いする程大きな力を手にしまっている」

「勘違いとは?」

「桁違い大金を持った普通の人がその日から人が変わったのように狂ってしまうようにな。<理>とはそれぐらいの力なのだ」

「オレらがそんな力にどのように対抗しようと?」

「アムロ、お前は実感しているかは知らないが、お前にも2人のお前が住んでいる。一つはこの世界のお前でもう一つがお前だ」

アムロは複雑な顔をした。特別内なる声も聞こえたことがないので、何とも答えようがなかった。

「お前と共に意識を<理>の領域へダイブさせる」

アムロはより複雑な顔をした。

「何だそこは?」

「恐らくはララァがいるだろう領域だ。意識が肉体より離れたところがそこだ」

アムロは少し笑う。

「意識が肉体より離れるって、ようは死ぬということじゃないか」

「一般的にはな。<理>の領域とは実世界の外側なのだ。そこは死という概念で括ることで実世界が平常に保たれていた。それにアクセスすることがどれだけ危険か。この世界のお偉方は理解が足らなかった」

「しかしそれもお前が撒いた種だろう」

「フフ・・・違いない」

シャアも少し笑う。アムロは鼻を鳴らした。

「フン、で、その目的は?」

「この間話した通りだ。私ですら、<理>について知ったのは後でだ。その予測が早かったのは、サイアムだったのかもしれん」

「あの老人か。長生きでもしたかったのか、そんな<理>の壁に挑戦など」

「あの老人には生への執着はそれほどない。それよりもより面白いものを生きている間に見たいという渇望の方が強いように思えた」

アムロは表情を戻していた。

「それは何故だ?」

「きっとあらゆる物語を読みつくしては見たことないドラマを見たいという想いだけだったのかもな」

「ただ、それだけか?」

「予想でしかないが、例えばそんな動機で誰かを傷つけることなど何も珍しい話ではない。まあ、聞いた事ないが多角的に想像しても、得たいものも得て、生きたいだけ生きた。これ以上望むことは物理的にはない。精神的に満たされたいだけだろう」

アムロは話を聞いて思考していた。サイアムと仕掛けた人類の進化への挑戦。そしてララァという超越した存在。ダカールの砂嵐を一掃した力は世界を変えることが出来る力だとアムロは思った。

シャアは理の領域へ行く手段を知っている。しかし仮にそこへ行ったところで・・・

「シャア、オレたちがそんなところへいったところでララァに、何ができるのだ?」

相手は超越者だ。助けるにしても戦うにしても何の足しにもならないとアムロは思った。
シャアは無言だった。アムロはシャアがあれだけ饒舌だったのに何故急に黙り答えないのだろうかと疑問に思った。

モビルスーツデッキに着くと入って来た2人を見て、メカニックは不信に思わず課せられた作業を引き続き行っていた。アムロとシャアは難なくユニコーンへ張り付く。

メカニックの1人がその後に続いて入って来たミーシャを見た。メカニックはその視線がアムロとシャアに向いていたのが分かった。が、当人は興味をもつことなく仕事へ戻った。

アムロはユニコーンのコックピットハッチが開いていることに気付き、中を覗き込んだ。
シャアがアムロに勧めた。

「アムロ、コックピットに座ってあるデータを探してくれないか?あればだが・・・」

アムロは言われるがまま従った。このモビルスーツについてはシャアの方が詳しい。サイアムとシャアが携わったものだからだ。

アムロはコンソールパネルだけを起動して、言われたデータを探した。
すると意図も簡単に見つかった。

「これか・・・シャア、あったが」

シャアの口元が少し緩む、が、すぐ締めた。

「アムロ、それを起動してくれ」

アムロはそれを起動かけた。すると、アムロの目の前が真っ暗になった。
表現がそうだ。何もない。真っ暗だ。

「どういうことだ、シャア!」

そう言う言葉すら届かない漆黒の闇。すると目の前に1つの鏡が現れた。それを見ると自分が映っていた。しかし、違うのはその映る自分が自分に語り掛けてきた。

「やあ、違う世界の僕」

アムロは驚いた。姿形、声は自分だった。

「あ・・・ああ」

これがこの世界の自分だと気が付く。自分の置かれた状況を鏡の向こうの自分に尋ねてみた。

「これは一体・・・。何が起こっているか知っているか?」

「ああ、知っている」

「教えてくれ」

「僕・・・オレが表に出ただけで、君は裏に下がった。そしてどうやらシャアに嵌められたようだ」

アムロは舌打ちした。

「・・・何だと」

「今はオレもこの空間でいるということは、現実では気絶しているのだろう」

鏡のアムロがそう言った。アムロは何故それ程状況を詳しく知っているかを尋ねた。

「それはオレがこの空間に7年間ずーっといたからだ。最初は表立って出るにしても現実に嫌気が刺していたからな」

アムロは7年前の・・・15歳の頃を思い起こした。確かにただの根暗であまり良い思いがなかった。

「そこでとても強引な力で貴方がオレに入って来た。抵抗するにもあながえない。だが、映画を見るようにオレの活躍を見ることができ、体験し、それはオレにフィードバックした」

アムロは黙って聞いていた。

「だからオレも貴方と同じような力がある程度備わった。違うことは貴方には世界を改変出来る力がある」

「改変?」

鏡のアムロは頷く。

「ああ、ア・バオア・クーを押し返す力。あれは尋常じゃない。その異常が世界に作用すれば、事態が打開できるかもしれないし、悪化してしまうかもしれない」

アムロは自分の手を見つめて、鏡のアムロの答えた。

「要は使い方次第か」

そう言うと、後ろから知った声が聞こえた。

「そう言うことだ」

アムロが振り向くとそこには1年戦争時の仮面、軍服をつけたシャアがいた。

「シャア・・・」

アムロが振り向きそう口にすると、シャアは笑顔だった。

「久しいなアムロ」

アムロは体をシャアに向けた。

「どういうことだ」

「ここまで来たのだ。ようやくな」

アムロはシャアを睨んでいた。この目の前のシャアは決して味方ではないように感じた。

「お前の成長が必要だった。全ては・・・」

「・・・」

「私のララァの為に」

アムロは苦い顔をした。

「どこからだ・・・何を欺いていた」

「お前の力がどうしても必要だった。しかも成長した驚異的な力がな」

シャアはアムロを囲うように歩く。

「そして仕上げがお前を捉えて、ララァと私の昇華の為にお前の力をブースター使うことだ」

「ブースターだと?」

「そうだ。別次元な私たちが未練を持ってこの次元にいることは世界に不都合だと知っているな」

アムロは黙って頷く。

「我々は消えなければならない。その為に理の力が必要となる。その力を優位的に使えるのはお前と私だ」

「・・・オレがやれば、ララァもお前もオレもこの世界から消えるのだな」

シャアは真顔になり頷く。

「そうだ」

アムロは手をシャアの方へ差し出そうとした。その時、アムロの右肩を強く掴み体をシャアの方へ行くことを拒絶する力が働いた。誰かが自分の袖を掴んだのだ。

「アムロ・・・そちらはダメです」

アムロが振り向くと、そこにはノーマルスーツを着たララァが居た。

「ララァ・・・」

ララァは少し笑い、答えた。

「私は貴方がたが知るララァではありません。そして・・・」

ララァはシャアの方へ眼を向けた。そして睨む。

「あれも貴方が知るシャアではないのです」

アムロは混乱した。シャアがシャアでない?あれだけ鮮明に語ったオレが知る前世界の情報。信じるに足るとアムロは思った。

「ララァ、あのシャアは何者だ」

「ただの瓜二つの人間です。しかし誰かに強化されたようですね」

シャアは口を歪ませていた。しかしすぐに表情を真顔に戻す。

「ほう、私がシャアでないという証拠はあるのですか?」

「貴方にはそのような動機がそもそもないのです」

アムロは疑問に思った。どういうことなのか。シャアはララァの質問に答えた。

「動機?私はララァを救いたいだけだが」

ララァは首を振った。

「私の中にいたあの者ならばそれはララァではありません。貴方とこのアムロが作り上げた幻想」

アムロはその昔、インドでの話を思い出していた。ララァは話し続けた。

「貴方はそれを知っているはずです。何故なら、貴方は全てを知っているからです」

シャアの表情はそのままだった。そしてララァの話に耳を傾けていた。

「幻想を救うことができません。元々在りもしないものなのですから。救うのであればその幻想が貴方達を救うのです。貴方と幻想を昇華させるためにアムロを使うなど不可能です」

アムロはララァの話についていけず、ララァに説明を求めた。

「ちょっと待ってくれ。ララァ、どういうことだ」

「このシャアは貴方の魂が欲しいだけなのです。既にシャアの魂は穢され、アムロのように本来の器であるものから離されていい様に使われているの」

「インドの時と違って具体的だな。もう少しいいかな」

「ええ」

アムロはララァの下へ寄り添った。ララァは銃口をシャアに定めたままだった。鏡の中のアムロも腕を組んで、それを見守っている。

「シロッコが封じていたメシアという貴方達2人が産んだ幻想は、理の地平へ歩む世界を正しい方向へ戻そうと努力していたの。その要因は2つあった。1つはアムロ、貴方とシャアという異世界の存在。もう一つはそれを利用して理に触れようとした野心家の存在」

皆が黙ってララァの話を聞いていた。

「既にその者の手にシャアとそして幻想が落ちた。あとアムロ、貴方が捕らえられたら・・・。この世界が事象の向こう側で摺りつぶされる」

「何故オレを捕まえたい?」

「この世界をより正確に問題なく理へ通ずる鍵は貴方とシャアの2人で開けたドアにあるのです。それを開ける力、放大なエネルギー。彼にとってメシアはただ邪魔なだけな存在。私、彼女の仕事は目の前の均衡を揺るがす存在を消すこと。その為に彼は私から離れてドアの解放に向かったのです」

鏡の中のアムロが顎に手をやってララァの話を頷き聞いていた。彼はララァに一つ疑問を呈した。

「シロッコはそれを感覚で読み、何故メシアを封じたのだ?かの者に加担するような」

「シロッコは敢えて、この世界のものだけで事態の解決を図りたいと思っていたようですね。驕っても、現状を見ればその気持ちも分かります。次元調和な話です」

地球圏の宇宙潮流による各サイドの機能不全がシロッコの危惧を物語っているとララァは言っていた。
アムロはシャアに目を向けて質問を投げかけた。

「何故、お前は理の力を欲するのだ」

シャアは表情を変えず答えた。

「・・・全てはマスターの為だ。マスターは人類にチャレンジを求めてそれを鑑賞している。そして見たことの無い光景を見ることに欲した。たとえ結果がどうであれ、マスターは世界の事象の向こう側を見ると決めた」

アムロの顔に怒りがにじみ出ていた。

「そんな・・・そんな身勝手な理由で。。。世界がメチャクチャに!」

シャアはクスリと笑う。

「人はどうでもいい些細な理由で過ちを犯す。ただそれだけのことだ」

そうシャアが言うと、ララァはシャアに向けて引き金を引いた。その銃弾はシャアの脇を掠めた。シャア自身も当たるとも思わなかったので避けもしなかった。

「君のような戦いを知らないものに私を仕留めることはできんよ」

そうシャアが言った時、シャアの体に異変が起きた。

「・・・ん、外で何か起きたか?」

その隙をアムロは逃さなかった。ララァの手を取り、シャアを狙撃した。その銃弾はシャアを貫き、顔を歪めてその場から溶ける様に消えた。

アムロは自分の体が薄くなっていくことが分かった。ララァがアムロに向けて話し掛けてきた。

「また外で会いましょう」

するとアムロよりララァの方が早く消えた。アムロは鏡の中のアムロを見た。そのアムロが答えた。

「まだ君にはやることがあるようだ。それまで体を貸してあげるよ」

それを聞いたアムロは頷いて答えた。

「済まない。全てはオレのエゴだ」

そう言うと目の前が白くなり、気が付いたときはユニコーンのコックピットの中だった。

アムロは急ぎその場から出るとシャアことクワトロを探した。すると下に人だかりができていた。
周りにはシュナイダー、ミハイル、そしてララァとメカニックが沢山居た。その中央にクワトロが倒れていた。

アムロはアストナージに気が付き、状況を尋ねた。

「どういうことになっている?」

「あ、アムロ中佐。実は・・・」

話を聞くと、アムロとクワトロがユニコーンに近付いた時、ユニコーンが突然起動した。それに驚いたメカニックたちが駆け寄るとクワトロが近寄られることを嫌がり発砲したそうだ。その動きをみたミハイルがクワトロを狙撃して、今に至るらしい。ララァは遅れてやってきていた。

アムロはミハイルの狙撃に関してシュナイダーに説明を求めた。

「何故?貴方たちはシャアの親衛隊じゃないのか?」

シュナイダーは腕を組み、アムロに自分らの職務について説明をした。

「我々はゴップ議長に職務を与えられたが率先は実はギレン閣下だ」

「ギレン・ザビ?また何でここでそんな名前が?」

アムロは予想もしない名前が出てきて驚く。シュナイダーは話し続けた。

「ゴップ議長とギレン閣下は水面下で通じていた。戦争はやり過ぎては困るからな。互いに落としどころを求める為に秘密裏にな。そこでビスト財団の暗躍とクワトロ・バジーナという存在が互いに喉に刺さった魚の骨様に思えたところで私ら彼の下へ派遣されたのだ」

「それではこのような状況になることも・・・」

シュナイダーは顎に手をやり言葉を選び話した。

「想定は・・・していたかな?取りあえずは彼の行動は世界を導く上で公平さはあった。決してビスト財団にプラスになるような動きはしなかったのだ。だから2人の閣下の考えは杞憂にも思えたが・・・」

「が?」

シュナイダーは照れたような顔をして、連邦の英雄に笑顔を見せた。

「この歳になると様々な経験をするもんでな。勘だよ。嫌な予感ほど結構あてになるもんだ。ミハイルに付けさせて今に至った訳だ」

「・・・成程な」

アムロはクワトロを見た。外傷的には大したことはないように見受けられたが瀕死だった。
騒ぎを聞いたか、ブライト、カイ、ハヤトと駆けつけてきた。ララァがユニコーンより降り立ったアムロへ歩み寄ってきた。

「またすぐ会いましたね」

ララァがニコリと語り掛けてきた。アムロはそれに応える。

「ああ、良く分からなかったが助かった。ありがとう」

すると瀕死のクワトロが声を漏らし出した。

「ああ・・・」

それに気付く皆がクワトロを見た。

「・・・っフフ・・・アムロ・・・私は・・・シャア・・・一部に・・・過ぎん・・・」

そしてクワトロは絶命した。
ララァはアムロに密かに語り掛けた。

「(この艦の中から少数で話が分かる方を選んで1室に集めてくださいませんか?)」

ララァの提案はアムロにとって理解できた。理解できないような異次元な話を理解できる限られた時間で理解してもらう必要があるためだった。

* ラー・カイラム 艦長室

ララァを取り巻き、ブライト、カイ、ハヤト、シャア、シロッコ、シュナイダー、アムロ、カミーユと室内にいた。

「さて、話してくれるかな」

ブライトがララァに促した。ララァはソファーに座った。

「もはや一刻の猶予はありません。というのは皆が承知しているでしょう」

一同頷いた。

「フロンタルを止めなければなりません」

ブライトが代表して尋ねた。

「どうすればよいでしょうか?ララァさんは知っていらっしゃるのですか?」

ララァは目を瞑り、次に見開くとアムロを見た。

「アムロ、貴方の力がまず必要です」

アムロは少し間をおいてから理由を聞いた。

「・・・何故ですか?」

「この世界の歪みを修正するに異次元の要因、つまり貴方の存在が必要です」

アムロは両手を挙げて不明瞭だとアピールした。

「オレに何の力があるのかが分からない。第一、ここにいるカミーユやシロッコ、シャアにだってそれなりの力があるはずだ。異世界から来たといえ、オレに何の力がある?」

「ユニコーンで貴方は意識の空間へダイブした。あれはそれなりのコツが必要です」

「だがララァ、貴方はその空間へ意図も容易く来ていた」

「それは私がかの幻想と共にいた為です。異次元な力の使い方を多少知ることができました。しかし、それはこの世界の如何なるニュータイプでも容易でない芸当です」

「そうなのか・・・」

アムロが少し俯くと、シロッコがアムロに話し掛けた。

「ララァさんの話はあながち合っていると思う」

アムロはシロッコを見た。シロッコは構わず話続けた。

「かくも私も軽くであるがそのユニコーンに触りしてみたが、そのような兆候は一切感じることができなかった」

シロッコの発言で皆の視線がアムロへ向けられた。アムロはため息を付いた。

「全く持って自覚症状がないことがオレにとって不満なんだが・・・」

アムロが自虐的に言うとララァが笑った。

「フフ、取りあえず貴方の力が必要です。貴方が意識の世界でフロンタルと対決し勝たねばなりません」

「その世界でもフロンタルが居るのか?」

ララァは少し悩んでから答えた。

「事はとても抽象的です。この事態を引き起こしている要因の1つとしてフロンタルが居るのです。意識の世界にメシアがいます。そこにフロンタルという現象起きているのです」

その話にカイが要約した。

「ふむ。要はその昔の大国がハリケーンに名前を付けていた。それと同様という訳か、フロンタルは」

ララァは頷く。

「そうです。具体的な対処法はメシアの方が詳しいので・・・」

アムロはため息を付く。

「行き当たりばったり・・・か・・・」

「すみません」

ララァは申し訳なさそうに謝った。そして次にする事をブライトらに告げる。

「そして、他の皆さまには・・・」

その時、艦内が人が立っていられない程の揺れが起きた。シロッコは地面に這いつくばり、ブライト、カイ、ハヤトは壁に打ち付けられ、シャア、アムロ、シュナイダーは傍の動かなさそうな調度品にしがみついた。

「な・・・なんだ!」

ブライトが慌てて立ち上がり、痛みをこらえてブリッジへ連絡を入れる。それと同時にサイレンが鳴った。そのサイレンに皆が戦慄した。

「退艦の警報だ・・・」

ハヤトがそう呟く。ブライトは状況を把握し、部屋にいる皆に伝えた。

「確かに一刻の猶予もないようだ。機関部が亀裂が走り、艦が航行不能となった。理由は不明だが、後この艦がどれぐらい持つかも分からないそうだ」

「確かにまずい。艦の心臓部がやられたとなったらこの艦がいつ四散してもおかしくはない」

シロッコがそう言うと、皆の行動は素早かった。部屋の中があっという間にアムロとカミーユ、ララァのみとなった。

その3人も立ち上がり、モビルスーツデッキへと向かった。ブライトらにアムロとカミーユがララァに同行して欲しい旨承ったため3人で行動していた。他にも時間がないので、残りの情報をその過程で聞いて欲しいとのことでもあった。

その道中・・・

「ララァさん、もう一つの対策を聞かせて頂けますか?」

カミーユがララァに聞くと、ララァは話した。

「物理的な問題です。原因である見えるフロンタルを倒すことです」

かくも単純明快だったが、それが難しいらしいことをララァは話し続けた。

「彼は世の怨念の中心にいます。既に人の理を外れた人外の物と言っていいでしょう。それに対抗するには同等の力を用いねばなりません」

「サイコミュか」

アムロがそう言うと、ララァは頷く。

「ええ、諸刃の剣ですが、やるしかないのです。それも物量で」

次にカミーユが尋ねる。

「物量とは?」

「今のところ人類は多く生き残っております。ここにいる兵士たちにしてもそうです。個の力では彼の強大な力には跳ね返されてしまいます。彼はそれ程のサイコフィールドを持ち合わせております。シロッコやカミーユ、貴方でも立ち向かえません」

「どうすればいいのですか?」

「アムロが起こしたア・バオア・クーの奇蹟を起すのです」

それを聞いたアムロが尋ねた。

「オレの?」

ララァが頷く。

「そうです、あの時は皆の想いを貴方が集約して出力した結果です。それができる存在はそういません。その力で彼の能力を中和し続けるのです」

「打ち消す事はできないのか?」

ララァが厳しい表情を見せた。

「未だメシアができていません。つまり現状ではそれが精いっぱいでしょう」

カミーユが悪態ついた。

「くそっ。パンドラボックスはそこまでの力が・・・」

ララァがそれについて答えた。

「だからこそなのです。メシアですら凌げない放大な力は人の想い。ならば多くの人の想いで当たることで対抗できるのです」

そう3人が急ぎ走りながら話をしているとモビルスーツデッキに辿り着いた。辺りはノーマルスーツを着込んだクルーで溢れかえっていた。

3人共νガンダム、Ζガンダム、ユニコーンと乗り込み、宇宙へ飛び出した。続々と脱出艇でラー・カイラムから出てきている状況が見て取れた。脱出して数分後、ラー・カイラムは眩い光と共に轟沈した。

アムロの傍にジェガンが1機寄ってきた。

「ふう、危なかったぜ」

声の主がカイだと分かった。通信回線を開くとカイのコックピットにミハルとベルトーチカが乗っているのが分かった。

「とりあえずお前の嫁さんも乗ってるからよろしくな」

「ああ、ありがとうカイ」

アムロが素直にお礼を言うと、今度は隣にZⅡが1機寄ってきた。そこからはアレンの声が聞こえた。

「アムロ中佐、ご無事でしたか」

アレンがそう言うと、アムロは答えた。

「ああ、無事だ。そちらも誰か一緒に搭乗しているのか?」

「私だ、アムロ。ハヤトくんと一緒におる」

テムの声が聞こえた。どうやらハヤトが一緒に搭乗しているらしい。次にハヤトが話し始めた。

「手狭だが仕方ない。艦隊の状況を把握したが、半数ほど航行不能に陥ったらしい」

するとアムロの傍にユニコーンとZが寄ってきていた。アムロが他の状況をハヤトに尋ねた。

「シャアは?ネオジオンは?」

「あちらもおおよそ同じ被害だとシャアから受けている。これでおおよそわかったことがある」

「なんだ?」

「被害に遭うものはサイコフレームでない物体だということだ」

アムロも大体現状を把握した。全てはサイコミュによって呼び起こされた事。呼応されたものはサイコミュでしか対応できない事。それ以外が淘汰されること。

そしてベルトーチカがコックピット内で情報収集に務めていると、アムロへ叫びながら凶報を伝えた。

「アムロ!大変です」

「どうした」

「あ・・ああ!各サイドが次々と、コロニーが壊れ、崩壊しています。逃げきれないひとが。。。」

周りのモビルスーツらが個々で報道の映像を確認していた。アムロもそれを見た。
全てのサイドのコロニーが無惨にも中央部より割れて壊れていった。

「あ・・・アムロ!このままでは・・・」

「もういい!・・・言うな」

アムロはベルトーチカの慟哭、報告を止めた。するとジ・Oのシロッコもアムロへ寄ってきた。

「アムロ、この辺宙域の避難は終わった。皆、より迅速に動いてくれた」

アムロは出現したモニターワイプでシロッコを見た。シロッコの表情は険しい。

「将軍はこれよりどうするのですか?」

「無論、フロンタルを迎撃する。それしかあるまい」

シロッコはユニコーンのララァを見た。

「ララァさん、貴方が水先案内人になってくれるな」

「ええ、そうするより他ないでしょう。メシアの意識を感じ取れるのは私です」

「誰かが旗頭にならんとどうにもならないからな。アムロ、君が私たちを先導してくれ」

シロッコに言われ、アムロが唸った。

「オレが・・・ですか」

「そうだ。バックアップは全てやる。大丈夫だ。ある一定のバリアを抜ければ私も活躍できる」

「バリア?」

アムロは首を傾げた。シロッコが軽く頷く。

「私がフロンタルに対抗しようにもできないのが、パンドラボックスの力だ。アレを止めることができれば後は火力がものを言う」

「パンドラボックスの何が邪魔なのですか?」

「アレはサイドの住人をすべて催眠状態におけるほどの感応波を放ち、地球圏内の宙域を狂わす程のサイコフィールドを展開し影響を及ぼす。それは物理的に干渉不能な程だ」

要するに圧倒的火力に無敵なことを言っていた。それを自分が中和、食い破るなど本当にできるのかと思った。それを読み取ったかの様にシロッコとララァがアムロに語り掛けた。

「大丈夫だ。私が何の為にア・バオア・クー落としをしたのか。お前の力を期待したからだ」

「私の知識も役立ちますわ。こんなに強力なメンバーシップですもの」

アムロはシロッコの発言に複雑さを覚えつつも、ララァの言に周りを見渡した。
今まで一緒に戦ってきた敵味方が全て一つの想いで集まっている。連邦、エゥーゴ、ティターンズ、カラバ、ネオジオン、旧ジオン・・・。

「・・・そうだな。そんな気がする」

窮地を打破する、生き残る為に集まったその意思がνガンダムの機構を通じアムロ自身を包みこんでいた。

アムロは素直にそれを汲み取ると知らないうちに周囲が緑白い光の波が現れていた。アムロ含めて、皆が驚いていた。シロッコとララァを除いて。ララァは笑った。

「フフ・・・ほらね」

ララァの呟きにアムロが天井を見上げてため息を付く。自分の心配など杞憂だった。

「過小評価だったのかな」

そうアムロがぼやくとカミーユが同意した。

「そうですよ。中佐の実力は誰もが認めているんですから、これぐらい当然ですよ」

そのおだてにアムロは皮肉った。

「お前の方が実力は上だよ、カミーユ」

カミーユの天性の才能はアムロが肌で感じていた。アムロ自身も実力的に上の者はいると思っている。パンドラボックスの無効化が物理的に事態解決に導くともようやく思えるようになってきた。

「それじゃあ案内を頼む、ララァ」

アムロがそう告げると、ユニコーンはゆっくりとフロンタルの居る宙域へ方向を向けた。皆もそれに倣った。

「皆さま、このオーラに包まれた中、この宙域は移動します。それから離れない様に」

ララァはオープンスピーカーで喚起した。それを聞いたパイロットたちや艦艇は意味を汲み取り密集した隊形でフロンタルの居る宙域へと移動していった。

* ゼウス 要塞内 19番ハッチ 同時刻

ジュドーのZZとハマーンのキュベレイは球体の要塞に接弦していた。ジュドー、ハマーンは前方のおぞましい力の奔流と暖かな力の奔流を感じていた。

「良く分からないが、すごいエネルギーだ」

ジュドーがそう呟くとハマーンも同意した。

「ああ、あの力が私らの存在を薄め些細なものにしてくれたおかげでこのデカブツに取りつくことができた」

そしてお前の力がなとハマーンは心の中だけで呟いた。ZZの操作で球体の入口のハッチを開けた。するとモビルスーツが普通に通れる空間、通路が現れた。キュベレイがゆっくりとその通路に入る。

「この通路を使って機関部までいく」

「このままZZで内部からぶっ壊せないかな?」

ジュドーが面倒くさそうにいうとハマーンは否定した。

「やめておけ。サイコフレームの結晶体だ。それで壊せたならば、我々が来る必要性がない」

「やっぱり、機能を止めて壊すしかないか」

「そうだ。いくぞジュドー」

「ああ」

ハマーンはジュドーと共にゼウス攻略の為に要塞内へ進入していった。






 

 

46話 サイアム・ビストの最期

* ゼウス 17番通路

このゼウスという要塞は通常のコロニーの半分ほどの体積を持つ。
その構造・骨組みがサイコフレームを使用し、装甲はガンダリウム類を使用している。

内部構造は何百層ものの区画に分かれている。そして幾十もののエレベーターが存在している。
そうなるとそれ以外でも広大な規模での要塞維持の為に稼働させる人員も多く必要なはずなのだが・・・

「まるで・・・廃墟だな」

そう壁づたいで隠密行動を取っていたジュドーが感想を漏らした。

「中身がしっかりしているのにまるで生気が感じられんとは」

次いでハマーンもそう述べた。

ある程度のところまではモビルスーツで入って来たが、人の身でしか通れないスペースに出たため、
降りて行動していた。

どの通路も通過するに人が一人もいない。人の気配がなかった。それに2人とも嫌気が差してきた。
ジュドーは壁陰に隠れながらも動いていたことが段々馬鹿らしくなってきた。

ジュドーは思い切って真っすぐ立ち上がり、通路に身を乗り出した。
案の定誰もいなくシーンと静まっていた。それを見たハマーンもため息を付いてジュドーに倣った。

「はあ、確かに潜む意味がないな」

「だろ?こんなに静かだ。誰もいない」

手を広げてジュドーがハマーンにアピールした。敵の根拠地であろうと考えるこの要塞に
警備体制というものが存在しない理由がハマーンを考えさせた。

「(一体何故だ・・・)」

ジュドーは勝手に先に歩み進んだのでハマーンも付いて行った。
この様に潜入されて内部から侵略される危惧はあって然るべきだ。どの組織でもそれぐらいの対策マニュアルをもっている。

ということは、対策する必要がない。せずとも守りきることができるとこの要塞の持ち主は考えている。ハマーンはそう自分に説いた。

「(私らが侵入した目的はこの要塞の破壊・・・)」

動力あるもの必ずはその心臓部がある。それを臨界させれば破壊が可能だ、そうハマーンは考える。
だからそれを守る守備隊が必ずは必要不可欠。

「(守備隊を、人を置かずとも守り切れる動力システム?・・・そう考えるべきか)」

その核たる部分を破壊できないと自信がある。要は通常の思考では思いつかない動力源があるか、絶対に破壊困難な動力源の防壁があるか、いずれかだとハマーンは考えていた。

すると目の前が真っ暗になった。ジュドー、ハマーンともに顔を上げた。
両者にしても暗闇で見えない。

「なんだ!」

「・・・気付かれているな」

そう2人とも感想を漏らす。すると目の前の通路だけが照明が灯る。
ハマーンは後ろを振り返る。そこは照明が落ちて暗闇だった。

ジュドー、ハマーンともに見つめ合って頷く。そして2人は照明が灯る通路を歩いた。
十字の角に差し掛かるが3方のうち1方だけが照明が付いていた。

2人共そのガイドに従うことにした。ジュドーが鼻を鳴らす。

「フン、バレてやがる」

ハマーンはこの状況にそんなに悲観はしなかった。その向かう先に殺意や絶望などの負の要因を感じ得なかったからだった。恐らくはジュドーも同じように感じているだろうと思った。

ジュドーは多分面白くないだけだろう。それでそんな態度を取ったに違いない。
この要塞に生気が感じられない為、意思が読み取れない。それが不安材料ではあるが。。。

ジュドーらは導かれるままある大きい空間に出た。そこは周囲に幾つもの大型なモニターがあり、外の様子を映し出している。そしてそこもあまり照明が灯っていないところだった。

その中央に大柄な老人が立っていて、傍に遺体を入れるショーケースが置いてあった。
ジュドーとハマーンは無言でその老人へ歩み寄った。すると老人の方が語り掛けてきた。

「君たちは運が良い」

2人とも無言だった。老人は気にせず話続けた。

「私の気まぐれだ。君らみたいな若者と行く末を鑑賞したいと思うてな」

ハマーンがその言に質問を投げた。

「私らがここに居る事が貴方のきまぐれなのか?」

老人は頷きもせず、ゆっくりと体を回してジュドーとハマーンを見た。

「退屈しのぎだ。気にせんで欲しい」

ジュドーは当然の質問を老人に投げかけた。

「あんた一体何者だ!」

老人は漠然と正体を明かした。

「私はサイアム・ビスト。ビスト財団の総帥で現状をもたらした本人だ」

ジュドーとハマーンは眉を潜めた。ハマーンが話す。

「現状とは?この要塞にも、何か関わりがあるのか?」

「あるも何もこれは私の仕掛けの一つだ」

サイアムが答える。ジュドーも聞きたいことを質問する。

「フル・フロンタルも知っているな!」

「アレは私の仕掛けのひとつだ。ほれ、私はこの様な老体だ。代わりに動いてもらうものがいないと何もできない」

ジュドーは息を飲んだ。真実味がいまいちながらもジュドーらを不幸に至らしめた根源が目の前にいる。そこに戦慄を覚えた。

ハマーンはジュドーの様子を見て、サイアムという老人の価値が薄々と理解してきた。
そしてサイアムに尋ねた。高圧的に。

「きまぐれな貴方にこの状況の打開策を聞きたい。要塞動力部はどこにある!」

ハマーンは銃口をサイアムに向けた。ジュドーはそれを眺めていた。
サイアムはつまらなそうな顔をした。

「真、読める展開でつまらんな」

「どうやらこの要塞で意思のあるものはお前しかいないようだ。ならば、聞き出すかこの場で始末するかだ」

サイアムは堂々とハマーンに体を向けて手を広げた。

「撃ってみるといい」

挑戦的だった。ハマーンは躊躇わずサイアムの胸をブラスターで撃ち抜いた。
ジュドーはその光景を見て、狼狽えた。サイアムは平然とその場に立っていたからだった。

「・・・最早体は必要としないのだ。生きるという上ではな。いや、死ぬということではなのか・・・」

サイアムは自問自答していた。ハマーンはもう2発サイアムを撃ち抜く。しかし、サイアムに変化はなかった。

「なったこともない、見たこともないものへの渇望の果てだ。この歳で欲求不満が多くてな。全ては無駄に長く生きてしまったせいでもある」

ハマーンはブラスターを下ろした。この老人には意味をなさないことと理解したからだった。
ジュドーもサイアムをどうにかしたい気持ちをどうにもならない諦めで混在しながらも抑えつけていた。そしてジュドーはサイアムに話し掛けた。

「ご老体は・・・何をしている」

サイアムは目を細めてジュドーを見た。この中でサイアムがずば抜けて長身だった。見下ろされる感じが2人の体を強張らさせた。世界を蹂躙する当人のプレッシャーを2人が知らずとも体からにじみ出ていた。

「全てを手にしたものの末路ということかな。全てを手にしてみないとわからんものだ。ある程度はコントロールできようが全体は中々難しい。特別金に困らんような状態で向上心がなまじ残ってしまったことがこの世の不幸だったのかもしれんな・・・」

「その傲慢さで・・・オレたちの仲間が死んだというのか!」

ジュドーは抑えきれない想いを少し出した。サイアムは答えた。

「謝罪しようとは思わん。そうでなくては全てを手にしようとも思わん。その重圧は如何なる恨みすらも受け止める。それを気にする良心を戒めて鍛えてきた」

その言にハマーンは笑った。

「フッ・・・良心を鍛えるとは可笑しい話だ。全てを手に入れたと言った。良心などとうに捨て去っているように私は思うのだが」

サイアムは首を振る。

「いや・・・、人の心は残ってる。大抵のものはその恨みに潰されてリタイヤしてしまう。若しくは暴走するだろう。それぐらいのストレスを私は感じてきた。共に歩んできた者は皆倒れていき私しか残らなかった。人の心が残っている理由は今まで世界が存在したことにある」

その言にジュドーが答える。

「残っていなければ?」

「世界は滅んでいただろう」

突如ジュドーは叫んだ。

「つまりは・・・お前は人である前に人でなしだ!皆死んで逝った者は各々の信念を持って生きていて、お前みたいに人の温かみを知らない者はいない!それを踏みにじってまでお前の野望を達成する権利なんてない!」

するとサイアムのプレッシャーが物理的にジュドーらに襲い掛かった。それに2人とも膝をついた。

「くっ!」

「うっ!」

2人とも嗚咽を漏らす。そしてサイアムは断言した。

「あるのだよ。ある地位まで上り詰めては実行に移し、現在がある。実現させたものに権限がない?可笑しな話だ」

しかしそのプレッシャーをサイアムは早くも解いた。2人共体が自由になり、不思議な顔をして見合った。そしてジュドーがサイアムに話し掛けた。

「・・・なぜ?」

サイアムはため息を付き、ジュドーに答えた。

「お前らがどうしようとも余り問題ではないのだよ。私は既に物語の観覧席に座っているのだ。それを見届けて終いな存在。ただ、誰も知るものがいないのも面白くはないのでな」

ハマーンが腕を組む。

「だから私らをここに呼んだのか」

サイアムは無言で頷く。その回答にジュドーが頭を掻きむしる。

「ええーい!この老人が諸悪の根源だと言うのに倒せやしない。そしてそいつ自身がオレらを始末しようともしない。どうすればいいんだ!!」

ジュドーの動揺にハマーンが宥めた。

「落ち着けジュドー、それがあの老人の思う所なんだ。見ろあの顔を」

ハマーンが指差すサイアムの表情が少し綻んでいた。ジュドーがグッと堪えた。
そしてジュドーが辺りを見回すと一つ奇妙なケースを見つけた。そこには大柄な男が横たわっていた。

それにジュドーが近づくと息を呑んだ。

「こ・・これは!ギレン・ザビ!」

ジュドーの声にハマーンも反応し、ケースに近寄る。

「確かにな・・・。どういうことだ?」

ハマーンはそれをサイアムに尋ねた。サイアムはゆっくりと質問形式で答えた。

「人の死は何だと思うか?」

ハマーンは首を傾げた。

「人の死?・・・まあ、医学的には生命活動の停止だな。内臓が機能しない、脳が機能しないなどだ」

サイアムは首を振る。

「何故、生命が地に足を付いて活動できるかと言う話だ。それは多角的に身体の部分を互いに補っているからだ。それは補完しながらという話だが、それぞれが独立した生命維持ではない」

ハマーンは手を広げた。

「独立した生命維持ねえ・・・、お手上げだ。何が言いたいか夢想ごとの様な気がして私の範疇でない気がする」

サイアムはハマーンはとても勘が鋭いと察した。

「老人にジョークをいうもんじゃない。言いたいことがわかるだろう?」

「・・・何となくな」

ジュドーが2人のやり取りに複雑な顔をした。

「なんなんだ、一体!」

ジュドーがハマーンに詰め寄る。ハマーンは手でジュドーを払う。

「落ち着け。この老人はいわばサイコミュの話をしたいみたいだ」

「サイコミュ?なんで!」

サイアムはやはり鋭いとハマーンを胸の内で褒めた。

「ハマーン・カーンよ」

サイアムの言葉にハマーンは驚くがサイアムは微笑した。その反応にハマーンは呆れた。

「迂闊だった。この老人に知らないことはほぼ無いんだ」

ハマーンの思ったことに付いて行っていないジュドーはハマーンにその言の真意を聞いた。

「どう言う話だ」

「この老人、サイアム・ビストは世界のフィクサーだ。私らが名乗らずにも私らの事をよく知っている。しかし・・・」

ハマーンは一息置いて、ジュドーを目を配ってから再びサイアムを見た。

「私らはこの老人のことはあまり知らなんだ。とてもアンフェアな話だ」

ハマーンは話を元に戻した。

「さて、あまりに抽象的だが、人の死の話だな」

ハマーンがそう言うとサイアムは長い髭を触り、頷く。

「生きる意思、それだけだ。精神が肉体を凌駕するという話は昔から伝え聞いていた。病魔に襲われて健常者よりも内臓が足りずともそれに体が適合し、生き続ける。医療では臨床で常識とされてきている」

ジュドーは黙ってハマーンの話を聞いていた。サイアムも同じくだ。

「自殺にしてもそうだ。たとえ健常者と同等な身体状態であれ、心が死んで首を吊る。そういうことにしては生きる意思が無くなる事が死と同等に思える」

「ふむ、良き答えだ。続けてもらいたい」

サイアムは満足そうにハマーンへ話を促した。

「サイコミュは人の意思を汲み取る機械だ。私は詳しくは知らんが、操る側としても真奇妙な機械だとは感じていた。しかしそれを自然に使いこなすとあまりメカニズムを気にしなくなるのは今までの先端技術に倣う」

ジュドーは自分なりの意見をハマーンに話した。

「オレらがオーブントースターの仕組みを知らずにおいしいパンが焼ける機械なんだと思って使っているってことか?」

「簡単に言えばそうだ。そしてこのゼウスとかいう要塞」

ハマーンは周囲を見渡す。

「サイコフレームで構築された巨大建造物。これをサイコフレームで作った理由が現段階での最強硬度を誇る建造物でそれを維持する為の人の意思がここにある」

サイアムはニンマリと微笑んだ。

「大体、完答だ。このゼウスは人の意思によって保たれている。サイコミュの優位性はむしろそれしかない。それを維持するにサーバーが必要だった」

ハマーンはサイアムの話に予測で答えた。

「それがパンドラボックスなのか?」

「ご名答。凄いな君は」

サイアムは感心していた。

「想いの拠り所を集約する機械、それがパンドラボックス。それを持つ者はフル・フロンタルだ。そしてこのゼウスにもそのコピーがあるのだ」

「コピー?」

ジュドーが首を傾げて言った。サイアムはギレンを見下ろしていた。

「そうだ。この天才はそれを肌で気が付いた。フル・フロンタルをマークして、その細胞を培養し、クローンを作ろうとしていた。無駄だとは知らずにな」

次いでハマーンが質問する。

「無駄とは?なぜクローンを?」

「フル・フロンタルは私が造りだした、調整した人形だ。生きる意思を持たない。その分尋常ならざる感覚を備え、生命維持のタイムリミットもあった。言わば既にある者のクローンだった。ギレンはそれがオリジナルでないと気が付くのに多少は時間が掛かっただろうが」

「クローンからクローンを作れない?」

「現状の技術ではな。生きる明確な意思とはつくづく大事なものだ。フロンタルは私がそれを備え植え付けさせた。その任をこなす為に投薬により超人化させた。そしてパンドラボックスを彼に託した」

サイアムは想い耽って話続けた。

「当初は彼がパンドラボックスを持つに適合が難しく、暫くは私の手元に置いていた。彼が時限がありながらもできる努力を最大限にして箱を持つ力を得た。それも私の計算の内だった。人は究極的立場からの巻き返しが尋常ならざる得ない程だと私自身が身をもって体験しているからな」

サイアムはこの地位に辿り着くまでの無茶を振り返っていた。そして自嘲もした。

「計算といっても、打算だがな。何事も結果を見ずに計算が正しかったという証拠にならん」

ジュドー、ハマーンともそんな気持ちなどどうでも良かった。彼らの目的はこの要塞の無力化にあったからだ。

「君らが捜しているものは機関動力部だろ?」

サイアムの指摘にジュドーは胸をドキリとさせた。

「安心したまえ、この要塞にもそれがある。・・・が、物理的な破壊は不可能だ。この船の感応頭脳が全ての守備を司っているからな」

ハマーンがサイアムに質問した。どうやらこの老人はあまり出し惜しみをしないらしいと思ったからだった。

「それはコピーとその感応頭脳の件を教えていただこうか?」

「まず、コピーだがこのケースだ」

サイアムは見下ろしたギレンを見て言った。ジュドーとハマーンは怪訝な顔をした。

「当初は有能な人材を依り代にしようと思ったがまさか木乃伊取りが木乃伊になるとは露にも思わなかっただろう」

サイアムはケース内に横たわるギレンがこの要塞のパンドラボックスのコピーだと言った。

「そして、この船の感応頭脳でもある」

そうサイアムが言うとハマーンは躊躇いもなく、ギレンに向けてブラスターを放った。しかし、その弾はギレンの前で偏光して宙に四散した。

「これで分かっただろう。このギレンのケース自体も、むしろこのケースがこの要塞内で一番強固だ。これを解くには彼が持つ力以上の念が必要となる」

ハマーンは暫く考えてから、サイアムに質問した。

「動力部の操作自身に何も干渉は無いんだな」

「それについての干渉は私がしよう。この場所が私が居たい場所だからな」

サイアムが言葉での圧力を掛けてきた。ジュドー、ハマーンともに身構えた。

「くっそー、ここにZZが有れば吹き飛ばしてやるのに・・・」

ジュドーが舌打ちした。ハマーンは確かになと考えた。この老人に風穴を開けることが出来ても物理的に存在する限り静止できない。

「火力か・・・」

ハマーンは思考を己の深いところへ落とした。ジュドー、サイアム共にハマーンのひしひしと伝わってくる緊張感に魅入っていた。

サイアムもこの状況でハマーンが何をしようかと興味があった。その為、彼の判断がこの世で最期の過ちだったと消える直前で知った。

サイアム自身、肉体的にフロンタルと同じように精神が凌駕し、存在自身が虚ろ現世に居る。
全ては結果でしかないが、パンドラボックスの仕業だった。

言い方が悪ければ、怨念として肉体が在ってこの世にとどまっていた。彼らの撃つ穴が微小ならば支障は無い。それをハマーンは感じ取っていた。

その驕りがジュドー、ハマーンを招き入れた。最も、彼ら位の力が無いとこの要塞に入ることすらできないフィールドを張っていたが。

ジュドーが最初に高鳴りを聞いた。

「何の音だ」

サイアムもそれを思った。自身ジュドーとハマーンを興味持つことにより他が疎かになり過ぎた。
よって、へやに入って来た3つの飛行物体の存在に気が付かなかった。

サイアムは目を丸くした。そして微笑を浮かべた。

「成程・・・。窮鼠猫を噛むとはこのことか・・・」

そしてその飛行物にサイアムは集中砲火で消し飛ばされた。
そのエネルギー余波に2人とも派手に壁に叩き付けられた。

「ぐおっ!」

「キャッ!」

そして3つのファンネルはズシリと床に落下した。しかし床や周囲に傷一つもなかった。
ハマーンは腰をさすりながら、ゆっくりと立ち上がった。

「・・・恐ろしいまでの強度だな。この要塞は・・・」

ジュドーは頭をさすりながらハマーンへ言った。

「ったく、この老人のしたかったことって何だったんだ?」

「彼は快楽主義者だ。そこに理由などないし、世界を救いたかったのかもしれないし、滅んでも良かったかもしれない」

「だが、フロンタルっていうのもこれでここに駆け付けてくるんじゃないか?」

ハマーンはモニターに近寄り、すぐ外の様子を見た。辺り一面が花火大会だった。

「そうはならないらしい。ロンド・ベル、ネオジオン本隊とカラバ、全ての連合がフロンタルに圧力をかけている。そんな余裕はないさ」

「でも、オレらにこの要塞をどうにかする術はないぞ。機関部や様々なところが破壊できない。このファンネルですらギレンのケースに傷1つも追わせられない」

ジュドーの問いにハマーンはモニターに映る青い星を見ていた。

「私は現実主義者だ。これでフロンタルに一泡吹かせられるならやるしかない」

ハマーンは人の想い、意思などの曰く付きな与太話を嫌悪していた。生きているひとだからこそできること、できないことがある。死んだものには何もできやしない。

ハマーンはコンソールパネルと格闘して、要塞の動かし方だけを覚えた。

「これで・・・十分だ」

そして要塞を地球に向けて発進させた。ジュドーがその行動に反発した。

「おいおい!この要塞が地球の摩擦熱で焼け切る保障はないぞ!隕石と同じく地球を汚染させるつもりか!」

ハマーンはその心配の無用をジュドーに説いた。

「この要塞がそれで壊れるとは思わんよ。ただ、相手は流石に機械だ。意味はわかるな?」

「・・・水浸しにする気か」

「そうだ。こいつを母なる海へ沈める」

ジュドーは取りあえず納得して、ハマーンの操縦を見守っていた。
これがどんな代物かは互いに知らない。だが、サイアムの言う通りでフロンタルにプラスになるものならばそれが一番良いだろうと思った。

ハマーンはふと思った。完璧に安心なほど油断することに。敵もそうだったようだ。余りに詰めが甘すぎる。サイアムは打算だと言っていたが、正に真を得ていた。

「彼らは油断だと思わなかったのだろうよ」

ハマーンがそう言うとジュドーが少し首を傾げた。

「何の話だ」

「彼らには危機感がないんだ。絶対安全安心と計算し、予想外に対応できない。それは私ら現場で現実を体験してきたものの専売特許だったというわけさ。だからたとえ世界の黒幕と言えども、私らにやられる」

「・・・なるほどねえ。絶体絶命なオレらだと思った奴らの油断か。余りにバカだな」

「そう、意外とバカだった」

身も蓋もない言い方で2人はサイアムを評した。

 

 

47話 世界が動くとき。

* ゼウス 宙域

ジュドーらがゼウスに侵入を果たす数時間前、
アムロら混成艦隊がフロンタルのジオングとその取り巻きらと対峙していた。

アムロたちがラー・カイラム沈艦時に収容した人等は全てラー・ヤークへ避難させていた。
アムロのνガンダムの隣にジェガンに搭乗していたカイが居た。

「アムロ、お前が代表してあいつに話しかけてみろ」

そうカイからの通信が聞こえた。話すって何を話すかアムロは戸惑いながらも
フロンタルへの通信を試みた。

「我々の目の前にいるモビルアーマーとその仲間たち。武装を解除し投降をしてもらいたい」

アムロはとても陳腐ながらもごく当たり前の事を言った。カイは「上出来だ」と答えた。
すると全通信回線がいとも簡単に傍受できる、いわゆるオープンスピーカーでフロンタルが
アムロらに語り掛けてきた。

「おそらくはこれで最期であろう。今一つ尋ねたい。この状況は私が招きたかった事態であったが、それを助長させてきたのは君ら自身だ。今更ながらそれはサイコミュという言葉で全て片付けられる。そして仮に私らを打倒できてもこの事態が変わる、治る見込みもないのだよ」

「それでも!」

アムロが叫ぶ。

「それでも、為すべき事、あがなわなければ変わらないこと、それが出来るものが動くこと、だからオレたちはこの場に来たんだ」

フロンタルはノーマルスーツを着用していた。自身もこの戦いでそれなりの危険性を感じていた。
気迫を感じる。フロンタルは万全を期して挑んではいるが、現状を踏まえても万全という言葉すらナンセンスな感じがした。

「ックックック・・・」

フロンタルは自嘲していた。全てはサイコミュに頼るものであり、それは人の想いの結晶だった。
要するに例え巨大な力を行使できる自分であってもいつどんな形で転ぶかがわからないのだ。

その笑いにカミーユが反応した。

「何を笑うんですか!」

フロンタルは口に手をやり謝罪した。

「いや、済まないな。この状況にあること自体が私が原因であるが要因は君たちにあるのだからな」

「オレらが何をしたと言うんですか!」

カミーユがフロンタルに食いつく。フロンタルは再度説明した。

「全てはサイコミュに導かれてきた。それを増進してきたのは他でもない君たちだ」

一同歯を食いしばっていた。言いたいことはこうだ。
この戦争で無数の数々の人の思念を宇宙にばら撒いてきたのは自分たちだと。
その結果が地球圏の崩壊に繋がるような事態になっていると。

「サイコミュはひとの心を映す鏡の様なものだ。人の想いは世界の崩壊を願っている」

アムロが再び吼えた。

「バカな!ならオレたちがここに来た意味、想いは・・・サイコミュは世界を守ろうとするオレたちに応えてくれているぞ」

「何も君らのことではないよ。君らの想いなど世界のごく微小な想いに過ぎない。多数決なだけだ。崩壊を望む想い、諦め、後悔の念、世界の比重がそちらに大幅に振れているのだ」

するとシャアが落ち着いた声で答えた。

「成程、ここに来たことだけをコンパクトに考えた方が目標が見えやすいようだ」

その答えにシロッコも賛同した。

「そうだな。目の前のデカブツを叩く。それだけに専念しよう」

フロンタルはその2人の言に頷いた。

「潔い。君たちが集まれた理由を一つ嫌がらせながら言っておこう。どうでもよいことだが」

フロンタルがそう言い、アムロたちは黙って聞いていた。

「思想が異なり、殺し合うものたちが恨みつらみを無視して一つにまとまれたことは1つの共通の目的であるこの私が存在したことに感謝してもらいたいな」

アムロが静かに声を上げる。

「なんだと・・・」

「事実を言ったまでだ。このまま私が居なくて、事が進んでいったとすれば意味ない殺戮劇が繰り広げられていただろう」

カイがその挑発に応じるようフロンタルに答えた。

「お前の能書きでオレたちが救われたなら相応のお礼参りが必要だな。貴様を血祭に上げてな」

フロンタルは笑った。

「ハッハッハ、そんな物騒な言い回しは普通は私がするもんだがな」

「別に正義を振りかざすつもりなどない。こうまとまったまとまりない集団がやり場のない想いをただ貴様にぶつける、ただそれだけだ。後は学んできたことを反省して皆活かしていける頭と気持ちの整理は付いている」

フロンタルはカイの言う、周囲の想いを汲んでいた。とても皆が清々しい想いをフロンタルは感じ取っていた。

「確かにな。世界を拾いたいという想いはどの陣営にいようが方向性が違えど、同じなことは知っている。見事、ここまでまとまったものだ。だが・・・」

フロンタルの最後の語気に周囲の空気がビり付く。尋常でない程の圧力を空域に掛けてきた。

「ぐっ」

シロッコが堪えた。シロッコがこのプレッシャーに皆に檄を飛ばした。

「気合いを入れろ!このプレッシャー、気を失うぞ!」

シロッコの言う通り、周囲のモビルスーツの半数以上がぐったりと宙に浮くように浮遊していた。操縦桿から力が抜けて機体を静止できないとそうなる。パイロットが気絶した証拠だった。

ラー・ヤーク内でもオペレーターや操舵手、機関士、整備士など机や床に倒れていた。
ハヤトは椅子の肘にもたれかかり、ブライトはハヤトの椅子の背もたれを掴む様に堪えていた。

ブライトが隣を見ると、ベルトーチカ、ミハルとその場に倒れていた。
ハヤトは苦い顔をして、フロンタルのジオングを見据えていた。

「化け物め・・・」

ハヤトはそう呟くとブライトが周囲の気絶するスタッフを気付けしに周り始めた。

シロッコは周囲の状態を冷静に把握し、シャアに話し掛けた。

「シャア、このままでは大軍の優位性が失われる。それでも奴らの火力は圧倒的に我々よりも見た目少ない」

シャアは頷く。現状残る戦力で可能ならば短期決戦を挑むべきだと誘っていた。しかし得体の知れないフロンタルの本当の火力に疑問が残っていた。

「奴の力は底が知れないものがあるが見た目では結論付いている」

「なら、仕掛けるか」

シロッコが再びシャアを誘う。シャアがアムロに同意を求める。

「アムロ、最早一刻の猶予も元よりない。行くぞ」

「ああ、それをしにここに来たんだからな」

アムロは自身のライフルを上に掲げた。周りの者がそれに同調した。ゆっくりとその照準をフロンタルらに向けた。向けられたフロンタルは顔を引き締めた。クシャトリアに乗る、クスコは唾を飲み込み毛を逆立てていた。

「いいねえ、この緊張感。後れを取るなよ、マリオン」

声を掛けられたマリオンも目の前の多数の意思を受け止めて緊張していた。

「わ・・・わかっている・・・けど、凄すぎる」

武者震いというものがマリオンを襲っていた。フロンタルはクローン混成部隊含めても約100機も居ない。片やアムロら混成艦隊は艦船だけで数百隻、そしてモビルスーツにおいては数千と下らない。

その砲火が一点集中でこちらに目がけてくる。普通ならば一瞬で消し飛ぶ。

フロンタルはアムロたちに告げた。

「ここより先は誰も読み切れない戦いだ。覚悟をしておくんだな。パンドラボックスの力を見せてやろう」

アムロが引き金を引くと皆が一斉に砲火を放つ。向かう先は勿論フロンタルらの部隊。
フロンタルのジオングのより幾つかの部品が後背周囲をリング状に囲む。

「パンドラの箱とは、その中に唯一の希望という名もある。何故、希望が唯一か思ったことはないか?」

フロンタルは意味不明な問いかけをアムロらにしてきていた。

「それは・・・世のほとんどが絶望に満ち溢れているからだよ」

サイコシャード発生装置と呼ぶリング状のサイコフレームより宙域を侵食する光が発生した。
それがありったけのアムロらの一点集中砲火を四散させた。

「存在確率を変化させる力だ。どこぞの正義の味方がみんなでやれば何でもできる、そんな芸当な技であるがな」

その光が今度は物理的にロンド・ベル、ネオジオンらのモビルスーツを自壊させていた。
次々と爆破四散していく友軍を見て、ジェガンに乗るカイが戦慄した。

「ば、化け物か!」

その光に飲まれそうになっていたリ・ガズィを見かけて、カイはライフルを傍に放射した。

「そこのモビルスーツ!気をしっかり持て!」

リ・ガズィに乗っていたケーラが目が虚ろになっていたが、カイの刺激により我に返った。

「はっ!・・・くそっ、私としたことが・・・」

その隣にもう一機のリ・ガズィがケーラに寄った。

「おいおい、あんないちジャーナリストに助けてもらってどうするの?」

スレッガーだった。ケーラは悪態を付く。

「フン、この借りはあのフロンタルってやつに返してやるよ」

その様子をモニターでアストナージが見ていた。

「あいつ・・・危なっかしい」

アストナージはホッと胸をなでおろしていた。それをミリイとルーが見ていた。

「アストナージさん、ケーラさん一筋ですねえ」

そうミリイが言うとルーが首を傾げた。

「あんなメカオタクのどこがケーラさんのような凛とした女性が惚れたのかわからん」

ミリイはそれを聞いてフフッと笑った。

「ルーはこれからなのよ」

「な・・何よそれー!」

ミリイの大人びた言い回しにルーが不満だった。

フロンタルの放つ光はモビルスーツのみならず艦船にも影響が出ていた。
レウルーラの司令席に座るナナイがオペレーターからの報告に頭を抱えていた。

「前衛のエンドラ級、ムサカ級艦30隻余りが航行不能です」

ナナイが隣に座る艦長のライルを見る。

「艦長!一旦距離を」

「ダメだ。アムロらニュータイプが敷いたフィールドから外には出れん。フロンタルの放つサイコウェーブに耐えるしかない」

ナナイは椅子の手もたれを拳で叩く。ライルが話すフィールド外の様子は悲惨なものだった。
そのレウルーラにアクシズより通信が入った。メインモニターにマハラジャとガルマが映る。

「ナナイさんか、シャアは?」

ガルマがそう訊ねるとナナイは敬礼して答えた。

「最前線です、閣下」

「閣下はよせ。そうか、あいつらしいな」

今度はマハラジャがライル、ナナイに話し掛けてきた。

「我々はアクシズと共にそちらの宙域へ向かっている」

ナナイが首を振った。

「閣下、通常の行動では最早手の打ちにようがありません。ましてや通常での艦隊行動は・・・」

そのことについてガルマが答えた。

「どうやら、サイコミュの超常現象は確率に従いやすい傾向にあるようだと予測している」

「予測?・・・それは?」

「アクシズはその辺の舟よりかは壊れ難いということだ」

ナナイはガルマの言いたいことが単純ながらも理解し難かった。

「まさか、そんなことだけで?」

ガルマは肩をすくめた。

「意外にな。全艦艇をアクシズに収容したら、異常なことが無くなった。今のところだが・・・」

マハラジャがそのことについて補足した。

「それを提案してきたのはプルツーという女の子だった」

ナナイが初めて聞く名前だった。

「彼女はジオンで強化された人間だ」

そうマハラジャが言うとナナイは悲しい顔をした。

「そうですか・・・」

その後2,3やり取りをして、戦線を維持し、アクシズの合流を待つことにライルとナナイは決断した。

フロンタルはジオングに積む各砲座を使いこなしては自身の部隊の100倍あろうかというアムロらの艦隊を凌駕していた。

「フフ・・・圧倒的だな、パンドラボックスの力は」

フロンタルが愉悦に浸っている間に行動を取る者達がいた。
フロンタルは即座に己を戒めた。

ジオングの背後にジ・OとΖが回り込んでいた。互いにビームサーベルを翳して振り下ろそうとしていた。

「隙だらけだぞ!」

シロッコがそう叫びジオングの巨体の右上腕部から袈裟で斬り落とす。それをクスコがサーベルで間から防いだ。

「マスターをやらせないよ!」

それを見ていたカミーユが方向を変えて横からサーベルを打ち込んだ。

「フロンタル!」

今度はマリオンがそれに反応してカミーユのサーベルの軌道をファンネルの砲火を浴びせた。

「私がお前の相手をしてあげるよ」

フロンタルは背後のプレッシャーに押されて、ジオングを前に動かした。その隙間をクスコとマリオンが守るように埋めた。

フロンタルは自分に毒ついた。

「これはとんだ権威主義に自分が陥っていたようだ」

そう言うと、今度は目の前に無数のファンネル群がフロンタルを狙っていた。
フロンタルはそれにファンネルで対抗していた。

それらのファンネルはアムロのフィン・ファンネルとシャアのファンネルだった。
周囲のクローン部隊のクシャトリアがフロンタルを守ろうとアムロとシャアに近寄るが、
それらをギラドーガ、ギラズール、ジェガンらが立ち憚り、彼らに応戦していた。

その陣頭に立つのが、ギラドーガのランバ・ラルとノイエ・ジールのアナベル・ガトー、ジェリドのバウンド・ドッグだった。

「フッ、世の中は不思議なものよのう」

ラルがそう呟くと、ガトーが頷く。

「全く持って然り。無駄に散らす事無く稀有な体験に巡り合えたことに幸運だと思う」

そうガトーが漏らすと、ジェリドが2人を挑発した。

「おい、おっさんら!踏ん張りどころだから後れを取るんじゃないぞ!」

ジェリドが先陣を切って、クローン部隊へ攻撃を仕掛けた。ライフルで牽制しながら接近戦に持ち込みクローで1機のクシャトリアを捉えた。

「もらったぜ!・・・何っ!」

勝機が最高の油断だった。討ち取り目前のクシャトリアと自身の後背に別のクシャトリアが自分を討ち取ろうとしていた。

「(避け切れん・・・)」

ジェリドは死を覚悟した。そして目の前のクシャトリアをクローで貫き討ち取った。しかしジェリドは生きていた。後ろを振り向くとサーベルで貫かれたクシャトリアがいた。ラルのギラドーガがその後背に居て、クシャトリアを討ち取っていた。

「そうだな。遅れたが若造の命を拾えたわ」

ラルがそうぼやくとラルの隣に別のクシャトリアが現れた。ラルが横目に見たがすぐさま砲撃でそのクシャトリアは四散した。ガトーの砲撃だった。

「貴公もですよ、武人の極みたる貴方が」

ラルは鼻で笑った。

「フン、お前のサポートも織り込んでおるわガトーよ」

ガトーも笑い、ジェリドに話し掛けた。

「お互いこんな関係に成り行きでなったのだ。共同戦線でやる事が本道だろう」

ジェリドは頷き、自分の未熟さを恥じた。

「分かった。助力感謝します」

それから3名が部隊を率い、連携してクローン部隊を撃退していった。

その間もフロンタルはジオングより光を周囲に放ち続けていた。その都度数隻の艦船が航行不能に陥り
モビルスーツが謎の爆発で四散していった。

アムロはサイコフィールドを展開して防ぎつつ交戦していた。他のモビルスーツもサイコフィールドを展開しながら交戦をしていた。

アムロはジオングがこうも自分たちに対抗しているところを見て安堵した。攻撃されると撃破される可能性があるからだ。つまりフロンタルは倒せるということだ。

「オレたちで十分やれる」

シロッコはクスコ、カミーユはマリオンと戦っていた。周囲のサポートもあり、アムロ、シャア、ララァは3機で直接フロンタルのジオングへ攻撃を仕掛けることができた。

フロンタルのジオングは3人の攻撃に応戦する。その火力は3機を持ってして圧倒的に凌駕していた。
大小様々なメガ粒子砲とファンネル、ミサイルポットなどなど、直撃で終いになるような武器をジオングは有していた。

ビームを撃ち込むとI・フィールドでかき消され、近距離でバズーカを放つとサイコフィールドで防がれる。サーベルで斬り込むと巨大なマニュピレーターの大振りでモビルスーツごと薙ぎ払われる。

当たれば粉砕級のジオングの攻撃だが、3人共紙一重で躱し続けていた。そうしている間に友軍が次々と周囲のクローン部隊を撃破してはジオングに攻撃を仕掛けてきていた。

ジオングはI・フィールドとサイコフィールドの2重展開で四方八方より砲撃を受けていたが、いなしていた。しかしその攻撃の反動は直接フロンタルへと通じていた。

「ぬう・・・」

フロンタル自身には既に打撃というものは無縁な体と化していたが、コックピット内の振動は操縦桿を握る上で、足元のペダル操作の上で、困難を極めていた。

それを見たシャアは勝機だと感じた。

「動きが鈍った。行けるぞ!」

サザビーの胴体部にあるメガ粒子砲をジオングが反動でアンバランスでのけぞったところに更に追い打ちをかけた。

「何と!」

フロンタルは叫び、ジオングが宙に後転した。その後背をアムロ、シャア、ララァはサーベルで攻撃を仕掛けた。

「やれる!」

「いけるわ!」

「くらえ!フロンタル!」

3人共ジオングの分厚い後背部にサーベルを立て、そして3様に別角度へ切り裂いた。
その攻撃にジオングの後背部が爆発した。

「うぐっ・・・」

フロンタルは大きな振動をコックピットに受けて、ジオングの態勢を修正しようとしていた。
その間もジオングのファンネルやサイコシャード装置の力は衰えを知らなかった。

アムロ、シャア、ララァ共に回避行動を取っては次の攻撃の隙を見つけようとしていた。

フロンタルは何とか態勢を整え、全体の宙域の様子に気を配った。

「・・・分が悪い。流石に・・・か・・・」

このままでは敗色濃厚だと感じたフロンタルは宙に浮く、要塞ゼウスを一目見た。

「アレの力を使うか。しかし、パンドラボックスの力を解放せねばならない」

フロンタルは一抹の不安を感じていた。しかしそれに苦笑していた。

「ックックック・・・何故不安と感じるのだ。私にそんな意識自体無用の長物なのにな」

そう覚悟を決めて、フロンタルはジオングの中にあるシナンジュの胸部に内蔵されているパンドラボックスにアクセスした。

* パンドラボックス内 

メシアは1つ1つ黒い糸の結び目を丁寧に解いていた。
しかしながらキリがない。それでも一つの結び目の特異点たるものに当たれば
自身の<理>の力を行使できるのにと心の中でぼやいていた。

すると、周囲が急に明るくなった。その眩しさにメシアは手で目を隠した。

「何事なの!」

数秒後、その眩しさに慣れたメシアはゆっくりと手をどけた。すると正面に金髪の若い男性が
椅子に座り、足を組んでいた。そしてその男性がメシアに語り掛けた。

「やあ、ララァ。やっと会えたね」

その微笑みにより、メシアが慟哭しその場に崩れた。

「ああ・・・シャア、何てことに・・・」

メシアの姿にシャアが笑っていた。

「ハッハッハ、どうしたというのだ?とても悲しんでいるようだが・・・」

メシアは涙をぬぐい、その場に立ち上がった。そして片手をシャアに翳し、横に払った。すると目の前の眩い光が一瞬で消えた。漆黒の闇がその場を覆い尽くした。

「私にはまやかしは通用しません。貴方は貴方のせいでないが、この世の穢れを貴方は受けすぎてしまった。取返しが付かない程に・・・」

シャアは今度は静かに笑う。

「ックックック、ならどうする?ララァ」

メシアはゆっくりと近付き、シャアの目の前に立った。

「貴方と共に償います。この世界の外側で」

メシアはシャアに触れると、凄まじい力の奔流が2人を取り囲んだ。シャアは周囲を見渡した。

「ほう、ララァ、君の力だね」

「そう、貴方が貴方である為。それを願い届ける力よ」

「成程。君が世界を調和する立場のものか。サイアムから聞いていた」

メシアはシャアの話を無視してシャアに力を注ごうとした。
シャアは立ち上がり、ララァの手を掴んだ。

「そうはやらせんよ。私には世界の意思を伝える役目がある」

メシアはシャアを睨んだ。シャアの掴んだ手から光がシャアを包み込んでいく。

「貴方のするべきことはしてはならないことです。その為に私がいて、あなたを止めます」

メシアから放つ光に強さが増す。シャアがその光を忌み嫌うよう後ろへたじろぐ。

「う・・・うおおおおおおおおおおお・・・・」

シャアが雄たけびを上げた。メシアはシャアが自分の力に抵抗できず苦しんでいることが分かった。
メシアはそのままシャアを光の中で消失させようとした。

「貴方が本来いるべき場所へ私が誘います。後でアムロと共に往きます」

シャアの存在が徐々に薄れてきていた。メシアは間に合ったと思った。自分の力が及ぶことに安堵していた。

が、シャアは左手を翳した途端、周囲が凪のような静けさに戻った。それにメシアは驚愕した。

「な、何故・・・」

「それは困るのだ。世界の総意は滅びにあるのだからな」

メシアはシャアの穢れが最早自分の及ぶ範囲を凌駕していたことに絶望を感じていた。
自分の力ではこれ以上、世界の均衡を保つことができないと。

「世界はバランスで出来ているとね。必ずや私のやることの反作用が出てくると。サイアムの予言だ。それがお前だった」

メシアは後ろに一歩下がる。

「力及ばずですか・・・」

シャアが笑みを浮かべた。

「そのようだな。だが、喜ばしいことだ。反作用で出てきたお前を凌駕する程の力が私にあることを。目的の達成は近い」

シャアがメシアの足元を見ると、メシアを囲うように円が足元に現れた。

「逝くがよい、ララァ」

メシアの足元から緑白い閃光が急流で立ち昇り、メシアを焼き尽くすようだった。

「ああああああああああああああああああああああ!!!!!」

メシアが咆哮を上げた。断末魔だった。シャアが額に手をやった。

「・・・まあ、賭けだったな。ゼウスというハードウェアの増幅が私の追い風となった。当初は充分私を浄化させる力を持ち合わせていたが、私がそれで上回っていた。最も」

シャアは目の前で焼失したメシアの空間を見た。

「外側の私が居る限り内側で消えようが、世界の調律するものが消えて世界が壊れようが、この怨念が既に世界を壊しつつ食い尽くしている」

シャアは立ち上がると、出で立ちが頭から徐々にフロンタルと同じようなマスク付きのノーマルスーツへと変わっていった。

「アムロ・・・お前を感じるぞ」

シャアはここに居る事がアムロの嫌がらせだと長い間考えた末出した結論だった。それはただシャアがそう思っただけで実際のところは不明だった。

本来はアクシズの落下を見届けて、そしてアムロと共に燃え尽きる。それで終わるはずだった。だが、その結末も知らずに昔に戻っている。何をやり直すのかとシャアは困惑していた。

何も知らずにサイアムに調整され、今は世界の怨念をすべてこの身に受けて世界を壊すことが目的となっていた。アムロへの執着は消えていなかったが、ララァに関しての想いが全くなかった。

それがシャアの救えない、壊れた心。

* 戦闘宙域

ジオングのサイコシャード装置の光の波が宙域を濁流のように渦を巻き始めた。それに呼応して傍にある要塞ゼウスも光り輝き、まるで太陽のように一瞬周囲へ発光を出した。

全員が手で目を覆う。その光が落ち着くと、宇宙の色が様々な混濁した色に変化していた。

アムロは周りを見た。シャアのサザビー、ララァのユニコーン、Zとジ・O、それと戦うクシャトリア2機、そして要塞ゼウス、それらは可動していたが、それ以外がまるで時が止まったように動いていない。

アムロは通信でラー・ヤークに連絡を入れたが、不通だった。

「一体どうなっている」

アムロは時計を見た。すると時間を刻んでいなかった。

同時でシャア、ララァ、カミーユ、シロッコと世界が時を止めたことに震撼していた。
カミーユとシロッコだけはそんな余裕もなく、マリオンとクスコとの戦いに集中していた。

ジオングのフロンタルは周囲を見渡し、不思議な想いでいた。

「・・・予想だにしていなことが起きるもんだ。まさか世界が時を刻むのを止めるとは・・・」

フロンタルがそう呟くと、内なる声がフロンタルに話し掛けてきた。

「サイコミュの、人の総意が世界の活動を停止させた。この中で動けるものを排除すればこの世界は永遠に時を刻むことなく次元を彷徨うだろう」

フロンタルはそう聞くと、笑みを浮かべた。

「成程。あとは達成するにアムロらを片づけるだけ」

フロンタルはジオングの全ての砲座をアムロ、シャア、ララァへ向けた。3人共その攻撃に身構えていた。

「あがなえるなら、あがなうがよい」

フロンタルは全方位から間髪なく砲撃を加えた。
アムロはライフルとフィン・ファンネルで応戦しながらも紙一重で避けていた。ララァはサイコフィールドを展開し、フロンタルのファンネルをサーベルで薙ぎ払い、シャアはアムロと同様だった。

しかし3人共、動きと疲労が見え、機体所々に掠り傷が付いてきた。フロンタルは頷いた。

「限界が見える。そこだな!」

フロンタルはジオングを急発進させてマニュピレーターでユニコーンの左足を捕まえた。

「きゃあ!」

ララァはコックピットの激震に叫んだ。それを見たシャアのサザビーがサーベルでそのジオングの腕に攻撃を仕掛けた。

「させんよ!」

しかしその攻撃はジオングのファンネルによって遮られ、その後ユニコーンの足は脆くも捥がれた。
ララァは少し距離を取り、態勢を立て直す。そのララァは様子を見て危機感を覚えた。

「まずいわね・・・」

ユニコーンにサザビーが寄った。

「大丈夫か、ララァ」

「ええ、やられたのは機体の足。私じゃない」

そう会話ができる若干の余裕があるのは、アムロがフロンタルに猛攻を掛けていたからだった。
2人はその動きを見て、驚いていた。フロンタルの動きのひとつ先を行っている様だった。

「アムロ、彼はスペシャルだ」

シャアがそう言うと、ララァが頷く。

「ええ、元々こちらの人間ではないんですもの。<理>と体感し、体現しているもの」

「彼には自覚がない」

「そうですね。自分の力なんて自分では中々測り知ることができませんから」

「確かにな」

そう2人で話し合っている間も、攻撃に効率的なポイントを探していた。

アムロは今までより更に上にいく動きが出来ていることが戦っているうちに自覚してきたが、理由は考えなかった。今、命のやり取りとしているからに他ならない。

しかし、疲労の限界も感じていた。その為焦りもあった。

「今一歩・・・オレにできることを!」

アムロはガンダムを自分が感じる危険水位のエリアに踏み出して、ジオングに肉薄した。そしてサーベルでジオングの胸元を斬り裂いた。

ジオングの中央が爆破炸裂した。

「やったか!」

アムロが手ごたえを確認した、その気持ちの緩みにフロンタルは見逃さなかった。
ジオングの左腕が伸びて、ガンダムを大きな手で掴み握りしめた。

「しまった!・・・グワッ!」

アムロはコックピット内の激しい振動に悲鳴を上げる。操縦桿を握り直して、握り潰すジオングの手に逆らうようにガンダムの手で反発する。

フロンタルはそれを見て、アムロに嘆息して話し掛けた。

「ふう、もうこれまでだな。アムロ・レイ」

するとガンダムからサイコフレームの共振がさらに起こり、ジオングの手を押しのけようとしていた。

「ふざけるな!こんなものでオレたちの意思が、この世界が潰されてたまるか!」

シャアとララァはその動きをみて感嘆しながらも自身らアムロを救援すべく近寄ろうとしたが、
ジオングの無数のファンネルが往く手を遮っていた。

「お前の力は認めよう、だが」

アムロの力も空しく、また握り潰される作用が勝り始めていた。

「世界の怨念は、お前の<理>よりも上のようだ」

ララァはジオングに流れ込んでくる力を戦いながらも見ていた。ゼウスと呼ばれる球体の要塞から何かがジオングに作用していた。

「シャア、あれが!」

ララァが叫ぶ。シャアもララァが言う、ジオングの力が増幅される根源に気が付いた。

「ああ、だがこの距離であのデカブツを私らでどうにもできん」

そして格闘の末、シャアとララァはアムロへの救援ルートを何とかこじ開けた。

「あの手を2人で斬り裂くぞ」

「はい!」

近寄ろうとする2人をモニターでフロンタルは捕捉していた。

「ふむ」

フロンタルはジオングを自動制御に切り替えて、中央ハッチを開いて、シナンジュで外に飛び出した。
その動きに2人とも虚をつかれた。

「なっ!」

「えっ!」

シャアとララァは真っすぐアムロのガンダムへ近寄っていた為、シナンジュの動き、攻撃に意識がなかった。結果、サザビーのサーベルを持つ右腕とユニコーンのサーベルと持つ左手が一瞬でフロンタルのサーベル捌きで切断された。

その攻撃にシャアとララァは飛びのいた。フロンタルは静かに笑っていた。

「これで想定のことは全て片付いた。元々、こうしておけば確実にアムロを殺れたのだが・・・」

フロンタルはサーベルがアムロのガンダムに向けた。

「こう、お前たちが飛んでくる可能性もあったからな。より、確実にだ」

そうフロンタルが話すと、事態が再び急転した。周囲の妙な雰囲気が一瞬で解けて、通常の宇宙空間に戻っていた。

4人共驚愕していた。その中でフロンタルがいち早く事態を察していた。というよりもフロンタルにしか分からなかった。

フロンタルはゼウスを一目見て言った。

「・・・マイ・ロード・・・サイアム・ビストが逝ったか」

フロンタルはここに来て苦い顔をした。そして今まで留まっていたゼウスが何故か発進した。

「ゼウスが動く?誰が。いや、どこに?」

フロンタルは方角を見た。地球に向かっているようだった。

「何故、地球に?あんなものが大気圏で燃え尽きない」

そう心配している暇はフロンタルには与えられなかった。通常の空間に戻ってしまったため、世界を混乱させる宇宙潮流はあるものの、世界が再び動き始めた。

その結果、多くの艦船、モビルスーツが動き出し、フロンタルらへ攻撃を仕掛けてきた。
それでもサイコシャード装置は健在で、フロンタルへの攻撃は全て弾かれていた。

アムロはこの状況変化を好転と思い、再び力をガンダムに注いだ。

「これで、どうだ!」

すると今度こそはジオングの手が強引に引き剥がされて、その作用で手が粉々に爆発した。
そして間髪なく、フロンタルのシナンジュへ襲い掛かった。

「フル・フロンタル!」

ガンダムのサーベルがシナンジュへ振り下ろされる。それをシナンジュがサーベルで受け止めていた。

「ぬう!」

フロンタルは力でサーベルをいなした。その後もアムロのサーベルでも猛攻が止まらなかった。
10数合サーベルを交わし、シナンジュが巨大なジオングの機体に押しやられた。そしてガンダムがシナンジュのサーベルを手からはじいて、喉元をサーベルを持たない手で掴んだ。

「これで、終わりだ」

アムロがそう宣言すると、フロンタルが答えた。

「どうかな?」

ガンダムの振りかざすサーベルの持ち手をジオングのファンネルが攻撃してサーベルを粉砕した。

「ぐっ!」

アムロは狙い撃ちにされると思い、距離を取った。そしてフロンタルのシナンジュを見た。
その背後に凄まじいプレッシャーを感じた。それはアムロが知っている宿敵の念だった。

「・・・まさか、シャア!」

通信で聞こえたアムロの声にサザビーのシャアが反応した。それに対してララァが説明を加えた。

「貴方のことではありません。彼の本当の宿敵と呼ばれた男のことです」

シャアはララァの通信を聞いて、ユニコーンを一目見て、そしてアムロを見た。

「そうか、因縁とは凄まじいものだな。私でなくて本当に良かった」

シャアの本音だった。1人の男の念が世界を破壊するような力を得る、シャアは事情は知らないが、アムロが感じる怨念はシャアでもおぞましく、そして破壊的な力と理解した。

フロンタルは分離したジオングをまるでサイコミュユニットの如く操り、カラバ、ロンド・ベル、ネオジオン連合軍へぶつけた。そして当人はアムロへ襲い掛かった。

シナンジュのサーベルをガンダムのサーベルで受ける。それを再び数合重ねた。そしてフロンタルがアムロへ言い放つ。

「ふ・・・フハハハハ、わかるぞ。私には、アムロ・レイへの恨み、怨念が」

シナンジュの出力が増していく。受けるガンダムが後ろへたじろぐ。

「うわっ・・・なんてパワーだ」

「アムロ、貴様には3度も負けるわけにはいかん」

シナンジュのサーベルがガンダムの正中を捉える。しかし、アムロはガンダムを体を鮮やかにずらして、サーベルの打ち下ろしを避ける。その時に、掠めたガンダムの中央部が熱で溶けた。

アムロは一瞬、熱さを感じた。モニターが中心部分だけが焼けて黒くなる。
フロンタルはシナンジュのサーベルを打ち下ろした動きから両手でサーベルを持ちガンダムの胴体部目がけて斬り裂こうとした。

「これでお前を超える!」

「させるかー!」

ガンダムが前面側を急噴射した。その時にシナンジュの肩をガンダムの右手で掴んでいた。
その為、ガンダムがシナンジュの頭上に持ち上がった。しかし、シナンジュの肩を掴んでいた為、
ガンダムの右腕がシナンジュのサーベルの打ち抜きに切断された。

「ちぃ」

フロンタルが手ごたえが右腕一本であったことに悔しがった。その後、フロンタルは敗北を喫した。
アムロはシナンジュの打ち抜きに合わせて予備のサーベルで天頂からシナンジュの持つサーベルの両腕を切断した。

それに驚いたフロンタルはシナンジュを後ろへのけぞった。

「なんと!」

アムロは攻撃を更に続けた。そして精密だった。両足を斬り落とし、ジェネレーターのバックパックのホースを斬り開けた。これでシナンジュは可動不全に陥った。

「・・・また、負けか」

フロンタルは観念した。その声がアムロにも届いた。

「そうだ、お前の負けだ。だから」

「だから、何なんだというのだ」

フロンタルは毅然とした態度を取った。アムロは苛立った。

「お前が仕掛けた状況だろ!元に・・・」

「戻らんよ。誰にも戻せん。これはお前たちが歩んできた道の結果だ」

アムロは愕然とした。

「・・・何だって・・・」

傍で見ていたシャアとララァもフロンタルの言に言葉を失っていた。
アムロは辺りを見渡した。世界を混乱させる、この嫌な感じを解く方法はないのかと。

「全てはサイコミュによる怨念が世界を壊し続けている」

アムロがそう口にした。アムロは動けないシナンジュを見た。

「仮に原因がオレたちにしてもきっかけはお前、そしてパンドラボックスだ」

アムロがそう言うと、フロンタルが肯定した。

「パンドラボックスは怨念を蓄えるに理想なハードディスクだ」

アムロはガンダムの手をシナンジュへ当てた。するとフロンタルのシナンジュのシステムがダウンした。それにフロンタルが驚く。

「何だ、何をしたんだアムロ」

アムロはガンダムを介してシナンジュに内蔵されているパンドラボックスに触れた。
今なら分かる。そのパンドラボックスについて。パンドラボックスは人の思念を集めるに適したハードディスク。その思念を集めるに適した材料。それは・・・

「ここに・・・いたんだな、シャア」

指導者は多くの人から敬意や畏怖、嫌悪の対象として意識される生き物である。
それに耐える人物こそ思念を受ける器として適していた。

アムロはパンドラボックスの力を逆に作用させた。すると、周囲の怨念が少しずつシナンジュへと集まってくるのがわかった。その怨念にアムロは苦い顔をしながら耐えていた。

「まだ少しだというのに・・・これ程とは。流石に壊れるな」

アムロはゆっくりとシナンジュをある方角へ共に向けていった。その行く先は地球だった。
それを見たシャアとララァはアムロを止めようとした。

「アムロ、お前!」

「いけません!それでは貴方は・・・」

アムロはその2人の言葉をある科白で断ち切った。

「・・・これはオレの仕事だ。お前たちには譲らん」

するとガンダムは加速して大気圏突入のコースを取った。

「νガンダムは伊達じゃない!」

そのガンダムの加速に呼応したかのようにパンドラボックスへ集まる怨念の量が一気に増大した。
まるで、天国へ行けなかった迷い子が唯一のルートを見つけたの如く、所謂「蜘蛛の糸」のようだった。

その様子をシャアが、ララァが見て、ララァがこう言った。

「本当は皆、恨みなんて抱きたくなかった」

シャアが続いて言った。

「迷える魂は昇華できる場所を求めて、彷徨っていたのだ」

アムロがシナンジュを押したまま突入した大気圏は七色に輝いていた。
その光をカミーユ、シロッコ、クスコ、マリオンと見ていた。4人共何故か戦いを止めていた。

「想定していた奇跡が起きたな」

シロッコがそう言うと、カミーユが同調した。

「ええ、アムロ中佐にしか成し得なかった」

クスコとマリオンはその光景を見て、フロンタルが敗北したことを悟り、武器を投げた。

「あーあ、マスター。やられちゃったか・・・」

クスコが落ち込む。マリオンも涙を拭っていた。

「そうですね。。。でも、これもマスターが望んでいたことかもしれません」

マリオンの意見にクスコが質問する。

「どういう意味よ?」

「マスターは、滅びを望んでいました。きっとそれはどんな形でも良かったのです」

クスコは複雑な顔をして首を傾げていた。

「ふう~ん。あたしらどうしたもんだろうかねえ~」

そうクスコが言うと、マリオンは少し笑った。

「そうですね。どうしましょうか?」

2人とも苦笑するしかなかった。

既に戦闘は終わっていた。ジオングもフロンタルのシナンジュの活動停止とパンドラボックスとのリンク切れで動かなくなり、ケーラやスレッガー、ジェリドらに撃破されていた。そしてアクシズも合流を果たしていた。

地球に突入するものが2つあった。

1つはジュドー等が乗ったゼウス。
もう1つはアムロとフロンタルのモビルスーツ。

その光景を皆が見つめていた。 

 

最終話 ラストリゾート

* ゼウス 大西洋上空

ハマーンとジュドーは地球の重力に必死に耐えていた。各々、モビルスーツのコックピット内へと戻っていた。

ゼウス自体、そもそも浮遊する動力は存在しない。よって自然落下、それを最早制御する術はなかった。

地球突入時にある程度は計算して、大海への落下軌道に乗せていた。
体積、重量が大きい分、地球へ進入するとものの数分で派手に着水した。

その揺れに2人共モビルスーツ内ながらも振動で驚く。

「ぐっ!」

「うわっ・・・こいつは」

そして周囲が華々しく放電し、周囲の灯りが落ちた。
漏電して、ゼウスの機能が止まったことを意味していた。

ハマーンは深く息をついた。

「ふう~。これでこのデカブツの脅威が無くなったか・・・」

ハマーンの声にジュドーが周囲を見渡して頷く。

「・・・ああ。嫌なプレッシャーが嘘のように消えた」

すると、自分たちのいる区画に少しずつ海水が入って来ているのを見た。
ジュドーが元来た道を見て、ハマーンに急かした。

「おい、急ごうぜ。まだ水位が低いが・・・」

「ああ。共に海底に行く気はさらさらないからな」

2人共、機体を要塞出口へと走らせていった。


* 地球内 上空

アムロはνガンダムと共に大気圏を抜けて地球上空にいた。
機体が持つシナンジュの胴体部は焼けただれて、ボロボロだった。

アムロは地球のどの位置にいるか調べた。するとそこはモルディブの上空だと分かった。
アムロは少し笑った。

「フッ。楽園とも言われ名高いリゾート地か。終末にはもってこいだ」

アムロはある程度の高度まで自然落下に任せて、近場の島へ墜落しないように着陸した。
その後、シナンジュを砂浜へ転がした。

アムロは一息ついた。すると、連邦軍の通信回線が入った。
アムロは回線を開くと、ウッディとマチルダがモニターに映し出された。

「おい、英雄。生きているか?」

ウッディはジョーク交じりでアムロへ語り掛けた。アムロは肩を竦めた。

「よしてください。オレはそんな大したもんじゃないよ」

隣りのマチルダが首を振った。

「いいえ、貴方は貴方にしかできないことをしたんのです。少なくとも連邦の皆がこの成り行きを見ていました。落下してきたのも、すべてね」

ウッディが頷く。

「そうだ。お前は英雄だ。もう少し待っていろ。今近くまでミデアで迎えに出ている。一旦通信切るぞ」

アムロは救助が来ているということを理解した。

「ああ、わかった。ありがどう」

そう言って、アムロは通信を切った。

アムロはコックピットを降りて、シナンジュへと近づいた。

「・・・シャア」

アムロがそう一人呟く。

シナンジュのコックピットと思われるところを覗いた。
箇所では触る部分手でも壊せるぐらい傷んでいた。

ハッチの部分はそうもいかなかった。
アムロはブラスターを持って出力を調整し、工具のようにハッチを切った。

そして中を開けると、そこに赤いノーマルスーツを着込んだ男がそこにいた。男は赤いメットを付けていた。

「・・・お前は、誰だ」

アムロがそう男に尋ねた。男はアムロの声に気が付いて反応した。しかし体の動きが鈍い。

「・・・ああ・・・私は、また・・・負けたのか・・・」

その声をアムロは聞いた。

「シャア、お前なのか?」

男はゆっくりとした動きでコックピットよりはい出ようとしていた。アムロはその動きより先にそこより離れた。

ゆっくりとコックピットより出た男ははいながらも砂浜へ出て、仰向けになった。
そして自分でゆっくりとメットを外した。そこより長い金色の長髪が出て、アムロが知る顔がそこにあった。

アムロは倒れた男の顔を立ちながら覗き込んだ。そして深呼吸した。

「ふう・・・。シャア、でいいのか?」

尋ねられた男はアムロを見て、その問いに答えた。

「君は・・・私がシャアであったら、いいのか?」

アムロは男の答えに、それについて自分でも不明だった。

「・・・分からない。シャアの存在をお前の機体に感じたのだ」

男は横に首をやり、綺麗な海辺を見ていた。

「そうか。・・・私は最期にこの上ない見事な景色で終えることができることが勿体無いと純粋に思える。・・・時代、力、思惑、才能、すべてを翻弄しながらも・・・最上の去り方だ・・・」

その後、男が声を出すことはなかった。アムロは特別確認することもしなかった。

アムロはその場に寝転がり、大の字になって天を仰いだ。

「・・・多分、終わったのだろう。宇宙は、世界は大丈夫なのか?」

アムロは今までの激戦の疲労か、スーッと眠りに付いた。

・・・

アムロは夢の中に居た。

そこにもう一人のアムロが居た。

アムロは本来のアムロだと理解した。
そのアムロが声を掛けてきた。

「君は、英雄だった。この世界を救った英雄だ」

アムロは尋ねた。

「救った?オレはすべきことをした。したいことをやっただけだ」

本来のアムロは頷く。そして悲しそうに話す。

「そう、それが君の願いで、後悔だった。それを実現するために同等の条件が必要だった。彼がその糧になってくれていた」

アムロは首を傾げた。

「糧?一体何の話だ」

「シャアだよ。あの存在が君が存在するための均衡だった。それを調整するためにララァという存在を産んだんだ」

アムロは目を瞑り、本来のアムロの答えを素直に、全て受け入れた。

「未練が、オレの未練がこの世界をこう変えた。代償を払って・・・か」

本来のアムロは拍手をした。

「見事だよ。きっとこの選択も、幾千、幾万、無数の糸のひとつなんだろうね。でも、その糸を切ることなく紡ぐことは簡単にはできない」

拍手が鳴りやむとアムロは再び尋ねた。

「どういうことだ?」

「果たして、世界が滅ばず済む糸は無数にあるうちのどれぐらいかと想像する?オレは幾らでも終わらせることができる選択肢が浮かびやすいと思うがな」

自分が話すことだからそれについてよく分かった。

「諦めることは・・・容易いか」

「そう、やり遂げる事は難し・・・だ。さてと、何か聞きたいことはあるかい?」

アムロは少し考えて、答えた。

「・・・まあ、責任感じるな。この後はどうなったのかな?」

本来のアムロは簡潔に答えた。

「元の平和な宇宙、世界に戻ったよ。オレも、英雄だのに祭り挙げられて、君に大いにクレームを付けたい」

アムロは笑った。

「そうか。じゃあ、親父とは上手くやれよ」

本来のアムロは複雑な顔をした。

「ああ、君が変に取りまとめたから、気持ち悪い感じがするよ」

「あと、ベルトーチカは、好きにしてくれ」

アムロは更に複雑な顔をした。

「それもしんどいんだよ」

本来のアムロがそうクレーム付けると、アムロの周囲が白く輝き始めた。
アムロは意識が段々と薄れていく気分が分かる。

「成程な。後はオレの知る所じゃないな」

本来のアムロがアムロへ尋ねる。

「これ以上は何もないか?」

「・・・ああ、ないな」

「そうか。多分、ありがとう、なのだろうな」

アムロはそのお礼に首を傾げた。

「何故だ?」

「オレには、周囲を笑顔にする力が無いからさ。オレがオレのままで生きていたら、不幸だったかもしれない」

アムロは少し考えて、言った。

「それも選択だ。不幸だったかもしれない。今の結果もオレがお前の7年余りを奪った結果だ。できれば、重荷に思わずオレの7年をお前が継いでもらいたい。これがオレにとって幸せだったかどうかはオレにも分からない」

本来のアムロは頷いた。

「そうだな。何が良いなんて、誰にも分からない」

アムロは目を瞑った。そして思った。

やるべきこと、やりたいこと、その場その場で選んできたこと。

全力で自分の思うことをそれなりにやってきたと。

シャアを糧に、ララァを出汁にしてしまったかもしれない。

オレの未練が、またはシャアと共に生まれた未練かもしれないが、
それがこの世界で生きて、駆け抜けた。

これはオレが思った夢なのかもしれない。

消えた後、違うベッドの上でまた目覚めるのかな?

それはまた起きてから考えよう。

とアムロは適当なことを思い馳せながら、意識が薄らいで、目の前が真っ白になった。

<了>