小ネタ箱


 

眼帯の理由

 チンクの右目には、原作通り眼帯がある。
 この眼帯は俺の罪の証だ。
 なぜ、守ってやれなかったのか、と未だに悔やんでいる。
 チンクは変わってしまった。変わってしまったんだ。
 原作知識が何の役にも立たないことを、俺は痛感したのだ。
 そう、彼女は――――


「ふーッははははは!邪王心眼を持たぬ者にはわかるまい」

 
 ――――中二病になってしまったんだよ!!
 別にゼスト・グランガイツと戦ったわけでも、右目を負傷したわけでもない。
 地球、それも日本に来た弊害だった。
 アニメに出会ったチンクはどんどんはまり出した。
 そのときは、昔の自分を見ているようで、微笑ましかった。
 まあ、身長的にも一番アニメが似合うようなあ、とも思ったり。


 いまから思うとそれがいけなかった。
 放置していた間に何の化学反応があったのか……ご覧のありさまだよ!
 俺の優秀すぎる頭脳を使っても理由はわからない。
 さっすが日本だぜ。
 げに恐ろしきはオタク文化の感染力、か。
 眼帯?ファッションだってさ。


「チンク姉ェ……」

「ノーヴェか。私はチンクなどではない。シュトルテハイムラインバッハ三世と呼ぶといい」

 
 チンクに一番なついていたノーヴェがめそめそしている。
 一緒にはまれればよかったんだが、ノーヴェは中二病にならなかった。
 すまん、ノーヴェ。
 ついていけない人間がいるその一方で、


「フッ、シュトルテハイムラインバッハ三世よ。円環の理に導かれて、共にシュタインズ・ゲートへ旅立とうではないかッス」


 ノリノリで合わせてくる人間もいる。


「ウェンディ!」


 ウェンディとかね。
 親の仇を見るような目でセインを見るノーヴェがいた。
 一緒に遊べないのが不満なのだろうね、きっと。


「ウェンディネアではないか。エル・プサイ・コングルウ」

「える・ぷさい・こんぐるうッス」


 どうやらシュタインズ・ゲートにはまっているらしい。
 面白いもんね、シュタゲ。
 娘たちの成長?に目頭を押さえながらその場を去るのだった。
 
 

 
後書き
・チンクにどうやったら眼帯をさせらられるかを検討した結果、中二病になってもらいませした。すまん、チンク!
 

 

我らは聖王の代理人その1

 
前書き
・小学校1年生の誘拐事件のシーンです。 

 
 アリサ・バニングスは、激怒していた。
 小学校からの帰り道。
 いつものようにすずか、なのは、はやての4人で帰宅していた。
 その途中、いきなり――


「――誘拐されたわけね」


 ため息をつく。
 黒塗りのバンに乱暴に積み込まれた後、いまは廃工場の床に転がされている。
 手足を縛られ、4人とも転がされている。
 猿ぐつわをされていないのが、まだ救いだった。
 怒りに任せて誘拐犯の男たちに食って掛かろうとしたアリサだったが。
 はやてに止められていた。


「何が目的なんやろうな」

「さあね、身代金目的からしら。あたしとすずかの家は大きいし」

「ど、どうしよう…っ!」

「しっ、なのはちゃん、静かに。猿ぐつわされたくないし。助けが来たら大声を出せるようにせんと」


 比較的冷静なはやてにたしなめられて、アリサも癇癪を起さずにいた。
 もっとも、怒りに燃え上がる心はそのままだったが。
 ただ、気になるのは……。
 顔を青ざめさせ、沈黙したままのすずかをみやる。


「大丈夫?すずかちゃん」


 心配そうになのはが問いかけるも返事がない。
 さきほどから小声で会話している中で、すずかだけは一言もしゃべらなかった。
 いつものアリサなら食って掛かるだろうが、さすがに現状では躊躇われた。


「なんだ?おまえら何もしらないんだな」


 すずかに向けて心配そうな顔を向けているアリサたちに気づいたのだろう。
 下種な笑いをした男が、アリサたちに声をかけてきた。
 周囲の男たちの様子を見る限り、この男がこの場のボスだと思われる。


「俺の名前を教えてやろう。俺は――月村安次郎っていうんだ」


 「月村」思いがけず出てきた名前に、アリサたちの視線がすずかに向けられる。
 視線を向けられた少女――月村すずかは、血の気のうせた顔で震えている。


「ターゲットはすずかだけ。あとのお前らは巻き添えだな。ま、恨むならすずかを恨みな」


 小ばかにしたように言う男に対して、アリサが吠えた。


「何を言ってるのよ!どう考えても誘拐犯のあんたが悪いんじゃない、すずかは何もわるくないわ!」


 震えたままのすずかに目をやる。
 安心させようと目があった一瞬に微笑みを返す。
 なのはも、すずかに寄り添うようにして「すずかちゃんは悪くないよ」と慰めていた。
 はやては、誘拐犯を睨み付けるようにしている。


「ハハハッ、泣かせるねえ。騙されてるとも知らずに」


 騙す?いったい何をだろうと、怪訝な視線を男に向ける。
 やめて……と、すずかがか細い声でやめるようにすがるが、男はますます笑みを深くして長広舌をふるう。 


「だって、そいつは俺と同じ『化け物』なんだからよお!」


「いやああああああああああ!」


 『化け物』という言葉を聞いたすずかの反応は劇的だった。
 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら悲痛な声をあげる。
 あまりの急展開にアリサはわけがわからなかった。


「すずかは『化け物』なんかじゃない!でたらめなこと言わないで!!」


 気丈に睨み付けながら吠えるアリサ。
 なのはとはやてはすずかに、しっかりして、大丈夫だよ、と声をかけている。


「いやいや、血を吸って生きる俺たち『夜の一族』が化け物じゃなくてなんだってんだ。
 まあ、『化け物』といっても人間よりも高等な種族だがね。
 化け物と知らずに仲良しごっこをしていたなんて、かわいそうに」


 かわいそうに、といいながら全くもって同情とは正反対の喜悦に歪んだ顔を向けられた。
 そんな態度にカッとなったアリサは反射的に叫んでいた。


「化け物だろうが何だろうが関係ない!あたしたちとすずかは友達よ!!」

「そ、そうだよ。わたしとすずかちゃんは友達だもん!」


 なのはも続けて叫ぶ。
 そんな様子をみたはやては、


「ほらな、すずかちゃん。何も怖がる必要はないよ?私たちの友情をなめたらあかん」


 この場に似つかわしくない微笑を浮かべてすずかに寄り添っていた。


「アリサちゃん、なのはちゃん、はやてちゃん……っ」


 感極まったすずかが、喜びの声をあげる。
 だが、面白くないのは、誘拐犯の男――月村安次郎だ。


「はん。安っぽい友情物語をみせやがってからに。すずかのせいで殺されるってわかってても同じことがいえるかなあ?」


 にんまり、とアリサたちの方を向く安次郎。
 背筋に悪寒が走ったアリサだったが、それでも気丈にふるまおうと――として失敗した。


「4人もガキがいたら多すぎだよな、なら一匹くらい処分しとかんと」


 男がもつ銃口がこちらに向けられている。
 濃密な死の気配を感じたアリサが、それでもめげずに安次郎をみやる。
 銃の引き金に指がかかるのがスローになって見える。
 次の瞬間、銃声が鳴り響いた。


 パン


 と、いう音がして思わず目をつむってしまう。
 襲い掛かる衝撃に身構えようとして――痛みを何も感じないことに疑問を覚えた。
 いったい何が、起こった?
 と、目を開けると、そこにはアリサたちを庇うように一人の男が立っていた。
 白いコートの上に白衣を背負うちぐはぐな背中が、彼女にはとても頼もしく思えた。
 両手に持った大ぶりの鉈のようなもの――後で知ったが銃剣というらしい――を十字架のように交差させ朗々と声を上げる。


「我らは聖王の代理人。神罰の地上代行者。我らが使命は、我が聖王に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること。Amen!」


 これが、アリサ・バニングスとアレクサンド・アンデルセンの初邂逅だった。
 
 

 
後書き
・アンデルセン神父……いったい何リエッティなんだ…!? 

 

我らは聖王の代理人その2

 そこからは圧倒的だった。
 目にも留まらぬ速さで安次郎に近づくと、銃剣を一閃。
 人体が真っ二つになる光景を想像してしまい目をつむるが、なぜか血は一滴も流れていない。
 避けられたのか、とも思うが、安次郎は白目をむいて倒れている。
 急展開についていけないのか、浮足立つ誘拐犯たちを瞬く間に制圧していく。
 ものの1分もかからず、周囲に立っている影は、白衣の男一人になっていた。


「お嬢さんたち、怪我はないかい?」


 こちらに近づきながら、腰をかがめ目線を低くして、声をかけられる。
 表情は張り付いたように無表情であり、声もまた無機質だ。
 加えて、その身なりはカソックの上に白衣を羽織るという珍妙な恰好だった。
 普通なら恐怖心が湧いてくるだろうが、この場においては、似合っているかもしれない。
 誘拐という非日常の中において、非常識な恰好は、とてもマッチしているように感じられた。


 得体のしれない人物だったが、助けられたというのが大きい。
 こわばっていた肩から力が抜け、安堵感がじんわりと身体全体に広がっていく。
 目の前の状況についていけず、いまだアリサたちは声もでない。
 それでも、無事を確認して満足したのか、男は、すばやく手足の枷を取り去っていく。
 手足の自由を取り戻したアリサたちは、ようやく助かったのだ、という実感が湧いてきた。
 それでも、アリサはわずかに警戒していたが。
 

「あ、あのっ、ありがとうございます!」


 真っ先にお礼を述べたのは、なのは。
 それに続き、アリサたちも、ありがとう、と感謝の言葉をかけていく。
 笑顔で心から感謝している様子のなのはをみて、警戒心はなくなっていた。


「何、気にすることはない。無事でよかった」


 それに何より、男が心から心配しているように感じられたからだ。。
 相変わらずの無表情で、声も平坦だったが。
 腰をかがめてこちらをみつめる優しげな目からは、アリサたちの身を案じていることが伝わってくる。
 しばらく、4人で無事を喜び合う。
 それを黙って見守る男。
 一息ついて、とりあえず、何か会話を試みようとしたとき。


「ふむ。どうやら迎えが来たようだ。もう大丈夫だ」


 それまで黙っていた男が、突然、話し出した。
 迎え?と疑問に思ったすぐそのあとに、大丈夫か!と駆け込んでくる見慣れた姿。
 高町なのはの家族、父の士郎、兄の恭也、姉の美由希だった。
 ただし、その装いは真剣だと思われる小太刀を両手に持った完全武装だった。
 少し後ろには、月村すずかの姉、忍も居る。 
 彼女も拳銃らしきもので武装していた。


 彼らは、倒れる男たちの姿に目をむく。
 その後すぐ、アリサたちの無事を確認して安堵の吐息をつくと。
 アリサたちの側に立つ白衣の男を警戒するように包囲する。
 ぴりぴりとした空気を察したアリサの反応は素早かった。


「やめて、この人はあたしたちを助けてくれたの!」


 彼は味方だと、士郎たちに声をかける。
 怪訝な表情を浮かべる彼らに、なのは、すずか、はやてもアリサと同様に、助けてくれたと話す。
 ようやく事態を飲み込めた士郎は、得体のしれない男に話しかける。


「娘たちを助けてくれてありがとう。けれども、貴方はいったい……?」

「たまたま通りがかったので、助けたまで。では、私は失礼させてもらう」


 その言葉と同時に、男を中心として風が渦巻く。
 風の中には沢山の紙片が混ざっており、男を包み込むように舞う。
 この場にいる全員が事態についていけない中で、唯一アリサだけが行動した。


「待って!貴方の名前を教えてッ!」


 アリサをちらりと見やった男は何事かをつぶやく。
 風が収まると男は影も形も消えていた。
 誰もが呆然とする中で、アリサだけが、最後のつぶやきを聞いていた。
 遠くからパトカーらしきサイレンの音も聞こえてくる。 
 最後に奇妙な出来事があったものの、とりあえずは、全員無事を喜んだ。
 ただ、はやてだけは、何かをじっと、考え込んでいるようだった。


 後日、アリサ・バニングスは、謎の男を探そうとする。
 カソックに白衣という変な恰好をしているのだから、すぐに見つかるだろうと考えていたが甘かった。
 教会の神父や科学者にも当たってみたが、まったく見つからない。
 その場に残された紙片も解析してみたが何もわからなかった。
 紙はただの紙であり、文字が書かれているだけ。
 その文字もドイツ語に若干似ているものの、地球上のどの言語体系とも異なっていた。


「……アレクサンド・アンデルセン」


 謎の男が残した名前をつぶやき、熱のこもった声を出す。


 あれから、二年。


 小学校3年生になった今でも探しているが一向にみつからない。
 怜悧な表情と裏腹に、とても優しい眼をしていた。
 颯爽と駆けつけて悪人をやっつけて、颯爽と去っていく。
 まるで物語の中の王子様のよう――と考えたところで、恥ずかしさがこみ上げる。
 何言ってるのよあたし、と一人突っ込みをしながらも、彼の姿が目に焼き付いて離れない。
 はあ、とため息をつくと、ベッドに横になるのだった





 あ、あぶなかった。


 はやてのデバイス型携帯(魔改造してある)から緊急連絡を受けた俺は、急いで現場に向かった。
 現場に到着したとき、いままさにアリサ・バニングスが撃たれようとしていたのである。
 原作主人公だし、死ぬようなことはないだろう、と気楽に考えていた俺にとっては衝撃的だった。


 いや、そもそも俺というイレギュラーがいる時点で、原作は当てにならない、か。
 今回の出来事はいい教訓になった。
 あと一歩でも遅ければアリサ・バニングスは撃たれ、はやてだって危なかったかもしれない。  

 とりあえず、その場にいた敵を一掃し、助けることに成功。
 しばらく待つと高町家の面々と月村忍がやってきたので、撤退することにする。
 顔を見られてもいいように、アンデルセン神父に変装してきたので、俺だとバレることはないだろう。 
 転移するときに、アリサから名前を聞かれて瞬間的に答えてしまったけれど。


 ……大丈夫だよね?


 あのとき、何かを考え込んでいたはやてを問い詰めてみたが、はぐらかされてしまう。 
 

 
後書き
・何たらエッティさんは、大切なものを盗んでいきました(ry 

 

MS少女

「いけっ、ファンネル!」


 スバルの掛け声と同時に、12個のファンネルが標的にとびかかっていく。
 標的のガジェットは無数のファンネルによるオールレンジ攻撃に翻弄される。
 ファンネルから放たれるのは、シューター程度の魔法であり、一撃一撃は非常に軽い。
 しかしながら、足止めには十分だった。


「わたしのこの手が光って唸る お前を倒せと輝き叫ぶ! 必殺!シャァァァイニングゥ フィンガァァァー!!」


 赤く発光するリボルバーナックルを構えガジェットに突貫するスバル。
 その右手をガジェットに突き刺した。
 その後、素早くその場を離れると。


「ヒートォ、エンドォッ!」


 叫び声と同時に、ガジェットが大爆発を起こした。
 やっぱり、ガンダムはいいなあ、と思いながら眺める俺。


「よしっ!」


 にこにこしながら腕をぶんぶんさせる様は、子犬みたいで微笑ましい。
 巨大なガジェットを笑顔で粉砕したことを考慮しなければ、だが。
 嬉しそうにガッツポーズをするスバルに声をかける。


「デバイスの調子はどうかね?」

「最ッ高ですよ、ドクター!いまならトーレ姉にも勝てる気がします」


 元気に返事をしてくる。
 今回は、スバルの専用デバイス「キング・オブ・ハート」の性能テストを行っていた。
 既にほぼ完成しており、今回の実験は、最終テストといってよい。
 カートリッジ搭載型の最新型アームドデバイスである。
 喜んでもらえて、心がほっこりする。
 もっとも、顔には一切現れないが。
 相変わらず俺の表情筋は死んでいるらしい。


「そうかい。なら、すぐに試すといい」

「はい?」


 俺の言葉に、訳が分からないよ、という顔をするスバル。
 なんともスモークチーズを食べさせたくなる顔だ。
 そんな彼女の後ろを指さす。


「ほう、私に勝つとは大きく出たな。さっそく模擬戦をしようじゃないか」


 スバルが、油の切れたように機械のようにギギギとゆっくりと振り返ると、そこには、


「げえっ、トーレ姉」


 ――――とてもいい表情をしたトーレがいた。


 じゃーんじゃーんじゃーんと銅鑼が頭の中で鳴り響いたような気がした。
 コロス笑み、というやつだろうか。
 半泣きになりながらトーレに引きずられていくスバルを見ながら思う。 


 しってるか?大魔王からはにげられない! 
 

 
後書き
・主人公はMS少女萌え
・ギンガのデバイスは、アームドデバイス「マスター・アジア」 

 

パパリエッティ

「パパ!」


 笑顔を浮かべながら突撃してくる小さな影。
 ぼふん、という音を立てて、抱き付いてきた。
 衝撃によろめきながらも、しっかりと抱きとめる。


「どうかしたのかい?ヴィヴィオ」


 何の用かとヴィヴィオに尋ねる。
 ヴィヴィオは俺のことをパパと呼ぶ。
 これも原作ブレイクになるのかね?
 パパ呼ばわりがむず痒いが、いい加減慣れてきた。
 娘といえば、ナンバーズやスバルやはやてたちもいるが、彼女たちはパパと呼んでくれない。


「はやてママが、ご飯できたよ、って」

「おお、もうそんな時間か。では、一緒にいくか」


 原作と違い、ヴィヴィオは、なのはやフェイトではなく、はやてをママと呼んでいる。
 年頃の娘さんが、ママ呼ばわりは嫌がるだろうと思ったが、意外とすんなりと受け入れられているようだ。
 何故か、ウーノが対抗して、ウーノママと呼ばせていたのは気になるが。
 だから、ヴィヴィオには2人のママがいることになる。
 微妙なところで原作に似ることになった。
 まとわりついてくるヴィヴィオを抱き上げて、居間へと急ぐ。


「ドクターおそ~い!」


 リビングにつくと、スバルからダメ出しを受けた。
 ハラペコ魔人の彼女は、御馳走を前にうずうずしているのが、はた目からも分かる。
 なだめにかかっているギンガも、お腹が鳴って台無しだ。
 顔を赤らめちゃって、俺の娘がかわいすぎる!
 慣れたとはいえ20人近くが一堂に会する光景は、圧巻である。
 八神家に居候している身としては、はやてに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
 とはいえ、はやて当人は、大家族は夢やったんよ、と嬉しそうにしていたのが救いだ。
 スカリエッティ印のリフォームの結果、八神家は魔改造されている。
 この大食堂もそのひとつだ。


「さて、ジェイルも着たし、これで全員そろったね。では――いただきます」


 はやてに続いていただきます、が唱和する。
 パパ呼ばわりは慣れたが、ジェイル、と呼ばれるのはまだ違和感がある。
 そう、はやては俺のことを「ジェイル」と呼ぶようになったのだ。
 ヴィヴィオが、はやてママと呼ぶようになってからだ。
 理由を以前尋ねたが、顔を赤らめてはぐらかされた。
 何故か、ウーノが悔しそうにしていた。
 一度、ウーノから、「じぇ、じぇいる……やっぱり無理!」と言われたことがある。
 照れ屋なのかね? 
 

 
後書き
・ヴィヴィっ子にパパと呼ばれる主人公。なつかれてます。
・既成事実を狙うはやて。初恋を拗らせた結果、凄いことに。 

 

チート

 ミッドチルダ、ベルカ自治領にある聖王教会本部。
 ここで、聖王教会の司教にある頼み事をされていた。


「アンデルセン神父、教導の件、御一考していただけるでしょうか?」

「ええ、構いませんよ。後進たちの指導もまた、大切な役目ですからね」

「ありがとございます。古代ベルカ式当代随一の使い手の手ほどきとなれば、良い経験になるでしょう」
 

 古代ベルカ式。


 かつて次元世界随一の勢力を誇っていたベルカの魔道体系である。
 アンデルセン神父――つまり俺――は、その古代ベルカ式を使えることになっている。
 実際は、アルハザード式魔法で、古代ベルカ式をエミュレートしただけなのだが。
 純正の古代ベルカ式と比較すると、さすがに差異があるものの、周囲には「古代ベルカ式の使い手」として認知されている。


 もともと古代ベルカ式の使い手は少ない。
 使えるだけで希少技能(レアスキル)扱いされるほどなのだ。
 多少の差異など見抜けなくとも仕方ないだろう。
 原作では、ヴォルケンリッターや八神はやてといった限られた人間しか使い手はいない。
 人数が少ないために指導できる人間が少なく、ますます廃れていくという悪循環に陥っている。


 現在は、古代ベルカ式をミッドチルダ式でエミュレートした近代ベルカ式が普及している。
 古代ベルカの聖王を祭っている聖王教会としては、ベルカ式の普及は望ましいことだ。
 とはいえ、その一方で、現存する古代ベルカ式の保存にも力を入れている。
 習得が難しく、適正にも依存する古代ベルカ式の温存は、聖王教会の重要な関心事のひとつといえるだろう。
 車の運転でたとえるならば、オートマが近代ベルカ式ならば、マニュアルが古代ベルカ式といったところか。


「当代随一など、過分な評価ですよ」

「とんでもない!騎士ゼストを打ち破った貴方を超える古代ベルカ式の使い手など探す方が困難です。
 いえ、近代ベルカ式、ミッド式を含めてもそうはいないでしょう」


 ゼスト・グランガイツ


 リリカルなのはシリーズ三作目のStrikersに登場する古代ベルカ式を扱う騎士である。
 S+ランクの騎士で、原作の中でも主人公と並ぶほどの強者である。
 実は俺、そんな大層な人物との模擬戦で勝ち越していたりする。
 いや、目立つことをしない方針なのに、つい出来心で。
 俺TUEEEEを一度でいいから、やってみたかったのよ。


 スカさんは強い。
 原作のスカリエッティだってろくに訓練もせず、一時的にとはいえフェイトそんに勝ってみせた。
 魔法を使えることが嬉しかった俺は、訓練に力を入れていた。
 護身のためという意味合いも大きかったが。
 鍛えれば鍛えるほど強くなるという高スペックの身体をもったことで、戦闘訓練が楽しくて仕方がなかったのだ。


 さらに、魔力も無尽蔵にある。
 最初は転生特典?とも思ったが、よくよく調べてみると体内で融合したレリックのせいだった。
 もともとレリックとの融合実験の産物、その失敗作が俺である。
 何の因果か俺の意識が宿り、蘇生したことで、「ジェイル・スカリエッティ」はこの世に生まれたのだ。


 さて、ここで問題。
 スカ家で一番強いのは誰でしょう?


 答え、俺。


 そう、俺が一番強いのである。
 もちろん、最初は戦闘機人の中でも武闘派であるトーレやチンクには勝てなかった。
 だがしかし。
 脳みそから逃げ出し、時間的な余裕と訓練相手ができた俺は、特訓に明け暮れた。
 その結果、いまでは、並み居るナンバーズを抑えて『最強』なのが俺なのである。
 頭がよくて運動もできる。   
 スカさんマジチート。
 
 

 
後書き
・武闘派なスカさん
・主人公のデバイスは、銃剣型アームドデバイス「エンジェルダスト」
・レリックの自己再生効果により、本家のアンデルセン神父並の再生力を誇ります。 

 

イスカリオテ

 
前書き
・モブキャラの話 

 
少女ついていなかった。


 女手一つで育ててくれた母が、早々に亡くなったのも。
 貧乏で蓄えもなく、身一つで放り出されたのも。
 なんとかスラムに流れ着き、明日をも知れぬ生活に身をやつしたのも。
 大都会ミッドチルダの闇が集まる廃墟。
 そこになんとか作ったねぐら。それが彼女のすべて。
 齢9つに満たない少女にとって、現実は過酷すぎた。
 今日も生きるために、いつもの――いつの間にか慣れてしまった――残飯あさりをしていた。
 運よく普段よりも多い「収穫」を手に入れ、浮かれていた。
 だから、油断していたのかもしれない。


「おら、なんとか言えやクソガキ」


 明らかにカタギではない荒くれ者に罵声を錆びせられ、蹴られる。
 うぐっ、と肺から空気が漏れる音がした。
 ついてない、少女は思う。
 獲物を手に「住処」に向かう途中のことだった。
 浮かれていたせいか、男に肩をぶつけてしまったのだ。
 その場ですぐに謝ったが、難癖つけられて――このザマだ。


「兄貴、こいつ汚いなりをしてるけど、なかなかの上玉ですぜ?」

「ほう?」


 先ほどまでの見下すような視線が、ねっとりとしたものに変わる。
 男たちの会話の意味するところは分からないが、何か自分にとってよくないものなのだろう。
 本当についてない。
 いや、そもそも少女の人生そのものが「ついてない」のかもしれない。
 貧乏ながらも幸せに暮らしていた日々が遠い。
 身一つでスラムで暮らすようになって3年間。
 筆舌に尽くしがたい苦労の連続だった。
 ようやくスラム暮らしにも慣れてきたはずだった。


「ひひっ、お嬢ちゃん、お兄さんたちが、『いいところ』に連れて行ってあげよう」

「ガキでもこれだけ上玉なら、いい値がつきそうだ」


 腹を蹴られ倒れ伏す少女へと手を伸ばす男。
 少女は諦観しながら、その光景を眺めていた。
 ついてない、ああついてない。
 自らの運命を諦めと共に受け入れようとした――そのときだった。
 彼女は、出会ったのだ。

 
「なにをしている?」


 突如現れたのは、カソックの上に白衣を着た珍妙な恰好の男だった。
 聖王教会の神父だろうか。
 なぜこのようなスラムにいるのだろう。
 地面に倒れ伏しながらぼんやりと考えていた。
 逆光になっていて顔は見えない。
 けれども、後光を背負ったその姿が、とても神々しように思えた。


「な、なんだよ。おい、邪魔すんなよ。おっさんには関係ねーだろ」

「黙れ。少女よ、お前は助けてほしいか?」


 いきり立つ男を無視して少女に話しかける神父。
 その姿に、一瞬だけ期待してしまった。期待してしまったのだ。
 運に、すべてに見放された少女は、それでもあきらめきれなかった。
 初めて自分に差しのべられた手に、最後の力を振り絞って。


「た、助けて……助けて、ください」


 絞り出すように言った。


「よかろう」

「おい、無視すんなよおっさん!痛い目にあいてえのか?」


 少女の言葉に、神父は頷いた。
 理解できないやりとりを前に、荒くれ者は、凄んだ。
 神父は、そんな彼らを全く相手にしていないような、自然体だった。
 懐から、2つの銃剣を取り出し、クロスさせる。
 そして言い放った。


「我らは――――」


 たしかに、少女は、ついていなかった。
 けれども、この日、救いを得たのだった。





 意識が浮かび上がる。
 目を開くと、ぼんやりとした視界が映る。
 そのときになって、うたた寝をしていたことに気づいた。


「夢、ですか。また随分と昔のことを思い出したものですね」


 あのとき――アンデルセン神父に救われたときからもう5年以上経つ。
 アンデルセン神父が懇意にしている孤児院に預けられ、やっと安息を得たのだった。
 お腹いっぱい食べられて、眠れるところがある。
 厳しい生活をしてきた少女にとって、そこは天国に等しかった。
 少女の境遇を聞き出していたアンデルセンは、同情からか、ことさら彼女を気にかけていた。
 だから、必然だったのだろう。
 彼を追うように、聖王教会のシスターとなった。
 彼と働けるように、戦闘訓練を積んだ。
 その結果――


「――お?任務ですか。やれやれ、『イスカリオテ』は便利屋じゃないんですけどね」


 イスカリオテ。
 聖王教会直属の組織であり、少数精鋭の戦闘集団でもある。
 少女も血反吐を吐くような訓練の末に、所属できた。
 何かと黒いうわさが多いが、その実情は、戦技教導隊に等しい。
 部隊長アレクサンド・アンデルセンを筆頭に、武闘派が揃っており、各地で騎士たちの教導にあたっている。
 もちろん、教導以外にも任務はある。
 しかし、最近多いのは――


「また治安維持出動ですか。『陸』に恩を売るチャンスだというのは分かるのですけど」


 ――陸からの依頼である。
 噂では、陸のレジアス中将とアンデルセン隊長が直接取引したらしい。
 いや、らしいではない。事実、取引したと、隊長から聞いている。
 もちろん、口外厳禁である。
 軽口をたたきながらも、慣れた手つきで素早く武装を整える。


 現場に赴くと、陸の部隊に包囲されながらも、抵抗を続ける魔導師がいた。
 なるほど、確かに高ランク魔導師だ。
 高ランク魔導師の少ない陸では対処は難しいだろう。
 最前線へと姿を現す。
 その姿を見て瞠目する犯罪者。


「い、イスカリオテだと!?」


 それは、犯罪者にとって恐怖の代名詞。
 陸を含めた周囲の恐怖と羨望の混じった視線に気分を高揚させながら言葉を紡ぐ。
 そう、「あの日」自分を救い上げてくれた「あの人」のように。


「我らは聖王の代理人。神罰の地上代行者。我らが使命は、我が聖王に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること。Amen!」
 

 

俺の戦闘機人がこんなにかわいいわけがない

 深夜。
 とうに日付が変わり、いつもは賑やかな道にも人通りはない。
 寒々しい光景から逃げるように、家路を急いだ。


 カモフラージュのためとはいえ、病院に務めている以上、仕事は真っ当にこなしている。
 アルハザード仕込の技術を遺憾なく(それでいて技術を地球レベルに抑えて)発揮している。
 科学者として作品(手術)に手抜きはない。
 そのせいか、最近は名医と評判になっているらしい。


 俺は、人の命を助けている。


 その実感を得たくて、医者に偽装したのかもしれない。
 思い出すのは、管理局の脳みそどもに酷使された日々。
 ただいわれるままに、違法な実験に手を染めた。
 中には当然人体実験も含まれており、俺は外道になった。
 きっとこれは贖罪であり、自己満足なのだろう。


 ただ、人気になったせいで、患者が増えすぎた。
 おかげで、連日連夜、超過勤務状態である。
 今日も急患が指名で3件も入ったせいで、気づいたらすっかり夜は更けていた。
 灯りのともっていないわが家を見上げる。
 はあ、とため息をつきながら玄関をくぐった。
 玄関の明りのスイッチを入れて、真っ暗なリビングのドアを潜ると――パパン、という破裂音が響いた。
 と、同時に辺りが急に明るくなる。


「ドクター、誕生日おめでとう!」

「誕生日おめでとうございます!」


 わらわらとあらわれるのは、ナンバーズにはやて達。
 クラッカーを片手に、口々にお祝いの言葉を掛けてくる。  
 あまりに予想外な光景に、思わず硬直してしまう。
 思考が停止したまま、オウム返しに問い返す。


「誕生日……?」


 俺に誕生日などない。
 強いていえば、この身体に憑依した日だろうが、日付なんぞ覚えていない。
 それでなぜ誕生日?


「はい、ドクターが、誕生日がないことを気にしていらっしゃったので、私たちで誕生日を考えたんです」


 ウーノが代表して、解説をしてくる。
 あー、そういやそんなこと言ったかもな。
 はやてやナンバーズたちの誕生日は欠かさず行っている。
 俺の誕生日はないのか?と問われたときに、ない、とだけ答えた。
 少しばかり寂しかったのは事実だけに、反論できない。


「今日は、何の日かご存知ですか?」


 今日?普通の平日じゃないか?
 いやまて、何かのイベントが合っただろう。
 幸い俺の頭脳はハイスペックのなので、速やかに過去を検索できる。
 そして、ひっかかったのは――


「はやての家に住み始めた日……」


 ――はやてと出会い、しばらくして居候するようになった日だ。
 はやての両親の事故に関する諸事がひと段落して、はやてに言ったのだ。
 俺の家で暮らさないか、と。
 そのとき、はやては何て答えたか。


『ドクターの家?だって、ドクターは帰る処ないんやろ?なら、うちに居ったらええ』


 帰る場所のない根無し草だった俺にとって、そのセリフは衝撃的だった。
 両親を失った直後だというのに、気丈に振る舞う姿に感銘を受けた。
 結局、これがきっかけで、スカリエッティ一味は、八神家に居候することになったのだ。


「そや。わたしたちがこの家で暮らし始めた日を、ドクターの誕生日にしたんや」

「『俺はこの家で生まれ変わる』って、ドクターは言っていたからな」


 得意顔なはやてに続き、チンクが補足する。
 そのあと、眠そうなはやてを寝かしつけ、久々のナンバーズ勢ぞろいで、盛り上がった。
 思えば、彼女たちもずいぶん人間らしくなった。
 昔ならば考えられない光景である。
 だから、あえて言おう――


 ――俺の戦闘機人がこんなにかわいいわけがない! 

 

凡人ゲットだぜ!

 
前書き
・ティアナ回 

 
 雨が降っていた。


 兄は、執務官を目指すほど正義感の強い人だった。
 私は、そんな兄を尊敬し、応援していた。
 だから、許せない。
 任務中に殉職した兄が、なぜ批判されなければならないのか。
 涙がとめどもなく流れていた。
 傘もささず墓の前で突っ立っているために、雨と涙の区別がつかないのは幸いだった。
 兄を無神経に批判している者たちの前で、弱みを見せたくはなかった。


「兄さん……」


 兄としたしかった人物も、世間からの批判を恐れて、気まずそうな顔をして帰ってしまった。
 これからどうすればいいのだろう。
 兄と二人きりで生きてきた自分にとって、頼れる人はいなかった。
 10歳にして天涯孤独。
 今、墓の前にいるのは、私一人――そのはずだった。


「ティアナ君だね?」


 ふと顔を上げると、馴染みの顔があった。
 彼は、兄とも親しく、兄の紹介で何度か会ったことがある。
 この葬儀も、幼く不慣れな私に変わって、取り仕切ってくれていた。
 世間体を恐れて去って行った他の人と同じように、すでにこの場にいないものだと思っていた。


「ティーダから君のことを託されてる。もしものときのため、と彼は言っていた」


 そういって彼――アンデルセン神父は、懐から手紙を取り出した。
 あて先は私、書いたのは兄だった。
 その手紙には、自分が死亡した場合、どうすればいいのか書かれていた。
 保険金が下りるので、生活には困らないだろうということ。
 何かあれば、アンデルセン神父を頼ればいいということ。
 最後に、側にいてやれない不甲斐ない兄ですまないということ。


 全てを読んだ私は、その場で泣き崩れた。
 そんな私に近づいて、あやすように抱き、背中をたたいてくれるアンデルセン神父。
 ひとしきり泣いた後、彼とともに、教会の中に移動した。
 風邪をひかないように、と、教会のお風呂を借りたあと、ホットミルクを出してくれる。
 冷えた身体が温まったことで、一息つく。
 その場で、今後のことについて相談した。


「ティアナ君。ティーダの手紙に書いてあったように、キミが成人するまでの生活には困らないと思う」

「はい、そのように書いてありました」

「次に、確認だが、私がティアナ君の後見人を務めることでいいかね?」

「はい。アンデルセン神父を頼る様に、書いてありました」


 いくつかの確認のあと、わかった、というアンデルセン。


「これからどうするか、どうしたいのか、考えはあるかね?」

「私は…私は……、兄さんの後を継いで、執務官になりたい!」


 秘めた思いを吐き出すことで、感情が高ぶる。
 葬儀で必死に耐えた反動か、思いつくままに口が動く。
 管理局を批判し、世間に憎悪し、目の前のアンデルセン神父までも、八つ当たりで罵声をあびせた。
 そんな私の子供じみた所作を黙って受け入れてくれた。
 ひとしきり泣き喚いた後、ふと冷静になり、顔を赤くして黙り込んでしまう。
 ごめんなさい、と頭を下げ小声で謝る。
 アンデルセン神父の顔を盗み見ると、穏やかな笑顔を浮かべていた。


「気にすることはない。兄を思うキミの心は、尊いものだ。それに、子どもが遠慮する必要はない」


 子ども扱いされた。まあ、あれだけ泣き喚いたのだから仕方がないだろう、と自分を慰める。
 気を取り直すように、自分なりに考えた今後の計画を述べていく。


「執務官になるために、まずは管理局の訓練学校に入校したいと思います」

「ふむ。悪い手ではないな。寮に入れば生活のことを考えなくてすむか」


 彼は、賛意を示す。苦笑しながら付け加えた。


「これでは、私の立場がないな。何もすることがない」

「いえ、アンデルセン神父には頼みたいことがあります!」


 ほう?と面白そうな顔をする。
 そんな彼に、頼み込む。


「私を強くしてくださいッ!」


 頭を深く下げて頼み込む。
 アンデルセン神父は、オーバーSランクの騎士だと、兄から聞いていた。
 教導もしているらしく、非常に評判がいいとも。


「頭をあげなさい」
 

 いわれるままに頭をあげ、神父を真正面kならみる。


「その程度のことなら、喜んで手伝おう」

「ありがとうございます!」


 私は知らなかった。
 この後私に地獄が待っていることを。





 凡人ゲットだぜ!
 

 はあ、罪悪感がマックス。
 ティーダが殉職することは原作知識で知っていた。
 知ってはいたが、具体的ことは何一つわからなかった。
 アンデルセンの姿でティーダと親しくなり、安全な部署に引くようにいった。
 ティアナのことも考えろ!と言って喧嘩までしたが、彼の心は変わらなかった。
 苦肉の策として、ティーダになにかあったときに、後見人になることを申し出たら、喜ばれた。
 こんなセコイことしかできない自分が恨めしい。


 で、ティーダは殉職した。
 仕方なかったといえば、仕方なかったし。
 何かできたかといえば、何かできたのだろう。
 暗く落ち込んでいたら、ウーノに心配されてしまったな。
 ティアナの方がつらいだろう。
 泣き叫ぶティアナを見て思う。
 原作とは関係なく、彼女を守っていこう、と。


 さーて、俺の地獄のブートキャンプが、はっじまっるよー!


 スバル君。キミも参加しなさい。
 え?いやだって?いやいや、強制です。
 目指せティアナと最強コンビ! 
 

 
後書き
・フラグを立てまくるアンデルセン。スカリエッティ?誰ですかそれ? 

 

ジェイル博士とプレシア氏

 
前書き
・勘違い要素を入れたいなあ、と思うけれども、難しいですね。
・主人公の一人称を俺にするか私にするか考え中。
 

 
「あら、ジェイル。貴方がここに来るなんて、珍しいわね」


 おどろおどろしい雰囲気も今は昔。
 住みやすい環境にリフォームされたこの場所は、時の庭園と呼ばれていた。
 単独で次元航行可能な、存在自体がロストロギア級の家?である。


「ウーノはいま忙しくてね。私が代わりに来た」


 胸元を大きく開けたドレスを着た女、プレシア・テスタロッサは、思わぬ人の来訪に驚いていた。
 いつものウーノの代わりに来た男の名をジェイル・スカリエッティという。
 プレシアにとって、スカリエッティは返しきれないほどの恩がある恩人である。


 不思議な男だな、と彼女は思う。


 最初の出会いは最悪だった。
 娘――アリシアの蘇生のために半狂乱になっていたプレシアは、生命科学の第一人者であるスカリエッティと出会う。
 そのときだ。プロジェクトFというクローン技術を提供されたのは。 
 彼は、渋りに渋った。クローンに記憶を転写したところで、死人は蘇らない、と。
 余裕のなかった当時のプレシアは、半ば脅しつけるようにして、技術を奪ったのだ。


『たとえクローンでも、命は命だ。君の娘なんだよ。その覚悟はあるのか?』


 去り際に、彼に言われた言葉だ。
 アリシアを蘇らすことに手いっぱいだった私は、全く耳を貸さなかった。
 アリシアの蘇生に失敗し、フェイトが生まれた時も、気にもしていなかった。
 彼は、そんな私のことを見通していたのかもしれない。
 それゆえの忠告だったのだろう。
 それでも私は、ただひたすらにアリシアだけを求めていたのだ。
 狂人だった、と今ならわかる。


 プロジェクトFの結果、フェイトは生まれた。
 だが、フェイトとアリシアは別人だった。
 失意の私は、フェイトに辛くあったていた。
 そんなときだった。
 スカリエッティが、唐突にやってきたのだ。 
 そして、取引を持ち掛けてきた。
 フェイトを引き取る代わりに、アリシアを蘇らせて見せる、と。


 その申し入れに私は飛びついた。
 フェイトのことなんて考えていなかった。
 必死だったが、もちろん半信半疑だった。
 しかし、彼は、見事にアリシアを蘇らせて見せたのだ。
 アリシアを腕に抱き、涙を流して喜んでいる自分に、冷めた表情で彼が言った。


『約束通り、報酬としてフェイトは貰っていく』


 背筋が凍る。
 このときの私はまさにそれだった。
 アリシアの復活に喜び、僅かながら正常な思考を取り戻しつつあった私に衝撃を与えた。
 笑顔が違う、アリシアはもっと活発だった、アリシアはもっと優しかった、アリシアは……。
 フェイトのことを思い出すと、辛くあたった記憶しかない。
 けれども、思い出した。思い出したのだ。
 私は、母親だった。


 フェイトを連れて行かないで、みっともなく叫んだ私に彼は言ったのだ。
 その言葉がききたかった、と。


「ふむ、体調はいいようだね。大病を患っていたとは思えないほどだ」


 いつもの無表情で淡々とこちらを診察してくる。
 診察のために肌をさらけ出しているのだが、微塵も動揺していない。
 50過ぎのおばさんとはいえ、一応は女だ。少しショックである。


「身体について何か気になることはないかね?」  

「いえ、ないわ。調子がよすぎて、いまだに困惑するくらいよ。あなたの腕は信頼しているわ」

「それは重畳」


 長年、アリシアの蘇生に関する研究を身を粉にして続けていた私は、身体を患っていた。
 それこそ、余命幾ばくもなかったのだ。
 首尾よく蘇生に成功したところで、ともに過ごす時間が残されていないことにすら、当時の自分は気づかなかった。
 フェイトを連れて行かなかった彼は、私の病も治してしまった。
 アリシアを蘇らせた件、フェイトと仲直りした件、私の身体を治してもらった件。
 テスタロッサ家の誰もが、ジェイル・スカリエッティによって救われた。


 何か恩返しをしたいと事あることに言ってみたが、すげなく断られている。
 だが、そのまま返さないなんて、大魔導師としての矜持に関わる。
 何かできないか、と考える私にウーノがやってきた。
 ドクターの大望に協力をしてくれないか、と相談に来たのだ。
 その内容に衝撃を受けた。
 けれども、どこか納得している自分がいる。


 私だって、アリシアを事故で失うきっかけを作ったアレクトロ社に思うところはある。
 スカリエッティの情報提供により、自分がはめられたことも分かっている。
 なら、答えは一つだ。
 彼は、私たちを巻き込むことを嫌って、何も言わないのだろう。
 だから、こっそり協力する。
 それは、すなわち――


 ――管理局への反逆である。





 時の庭園なう。


 突撃となりのテスタロッサ家。
 プレシアの診察にきたよー。
 ふむふむ、術後も順調なようで、何より。
 スカリエッティの技術は世界一ィイイイ!
 診察の時は、毎回どきどきする。
 だって、この人50過ぎてるのに、20代にしか見えないんだもの。


 なんというか、大人の女のエロスがある。
 でも、こんなときの俺の無表情フェイスなら大丈夫。
 下心があっても、表に出さない。というか出せない。
 こういうときは、ポーカーフェイス(強制)でよかったな、と思う。


 いやあ、でもフェイト関連では苦労したなあ。
 彼女を救うために、アリシアを蘇生し、プレシアを治療した。
 ひょっとしたら、原作通りにいった方が、フェイトは幸せになれるのかもしれない。
 それでも、俺はテスタロッサ家を救いたかった。
 この世界で「原作」とやらを唯一知る者として、俺は叫びたかった。


『原作なんて関係ない。この世界に物語なんてない。俺たちは、現実なんだ!』


 ってね。
 アリシアの蘇生は正直賭けだった。
 俺が憑依したデータを分析した結果を用いた、魂の定着という離れ業をだった。
 方法は俺と同じ。レリックを使った憑依だ。
 魂が残っているのかが分からなかったが、見事賭けに成功したのだ。


 ナンバーズとの関係も良好で、最近保護したギンガ・スバル姉妹とも仲良しだ。
 この光景を見れただけで、俺は満足だ。


 ただ、最近気になるのは、ウーノが裏こそこそ動いているようなんだよな。
 いや、ウーノだけじゃない。
 ナンバーズたちやプレシアまで、俺に隠し事をしている気がする。
 のけ者にされたようで寂しいが、皆が明かしてくれるまで待とうと思う。
 俺は空気が読める人間なんだ。


 そうそう、アンデルセン神父姿のとき、孤児院で言ったんだよ。


『いいですか?暴力を振るって良い相手は犯罪者共と管理局共だけです』


 いやあ、ドヤ顔で言い放ったんだが、後で思い返して悶々とした。
 仕方ないようね、だってアンデルセン神父が好きだもの。
 それから、頻繁に似たようなセリフを言うようになった。
 ただ、面白い冗談だ、と笑ってくれるかと思ったら、ナンバーズとかは真顔で、その通りです、とか言う始末。
 うーん、好きなんだけどなあ、このセリフ。
 やっぱり、元ネタを知らないと共感できないのかな。


 管理局をディスったのダメだったのかな。
 次元世界を守る正義の組織だもね。
 あんまり批判しちゃあダメってところか。
 俺もいつか、管理局に就職したいなー。 
 

 
後書き
・スカさん憑依ものですが、神様転生ではありません。 

 

【短編】幻想郷がソ連に蹂躙される話

 
前書き
・ハーメルンの活動報告で書いていた短編です。
・共産妖怪のひな形になっています。 

 
Урааааааа!!


 地響きのように、ウラー!と大声をあげて、地平線を埋め尽くすような数の兵士が突撃してくる。
 そろいの軍服を着こんだ彼らは、赤地に黄色の鎌と槌、星を象った旗を持っている。
 絶望的な状況でも、彼女は諦めない。
 なぜなら、ここは愛する我が子のような箱庭なのだから。
 その箱庭の名前は「幻想郷」。
 人と妖怪が暮らす楽園は、いままさに滅亡の危機に瀕していた。
 妖怪の賢者と呼ばれた彼女――八雲紫は、必死に抵抗を続けるのだった。





 レミリア・スカーレットは転生者である。
 彼女がもらった転生特典は5つ。
 頭脳チート、身体チート、王の財宝、カリスマEx、黄金律Ex。
 彼女の願いはただ一つ。


「幻想郷を赤く染め上げたい」


 彼女は、共産趣味者だった。
 手始めに国を作った。その名も、


「ソビエト社会主義幻想共和国連邦」


 略してソ連である。
 科学的で偉大な共産主義の教えのもと、人間と妖怪の全てが平等に暮らせる国を作りたかったのだ。
 あと、そうすれば、幻想郷も革命できると考えた。
 最初、たった100人ぽっちの村でしかなかったソ連は、500年の時を経た1990年には、人口15億2500万人を数える世界トップの超大国になっていた。


 彼女のしたことは簡単である。
 まず、魔女裁判などで迫害された人間や孤児などを引き取って国民にする。
 人間に友好的な妖怪や、忘れ去られて消えそうな妖怪を引き取る。
 史実ソ連の支配領域に重なる様に領土をぶんどる。
 カリスマチートにより、人間と妖怪を仲良く共存させる。
 頭脳チートや金運チートによって、常に内政チート状態。
 すると、あら不思議。
 笑っちゃうくらいの勢いで人口が増えていった。
 さらに、妖怪や混血児は寿命が長かったことも拍車をかけた。


 ソ連が、世界で唯一の妖怪の国であることは、誰もが知る常識である。
 国内では、人間と妖怪が共存しているとはいえ、周辺の人間諸国にとっては脅威だった。
 資本主義陣営や宗教勢力も、当然敵対した。
 周辺諸国は、対ソビエト包囲網を形成しており、ソ連は敵対国家にぐるりと囲まれている。
 それでも、大規模な戦争にならなかったのは、ソ連が圧倒的に強かったからである。
 この奇妙なにらみ合いを、人々は「冷戦」と呼んだ。
 

 実は、ソ連は、裏で人間国家や宗教勢力が敵対するように仕向けている。
 その理由は、ソ連への「恐れ」を、妖怪の糧とするためだった。
 文字通り、「地上の楽園」となっているソ連をそのまま紹介すれば、恐れなど吹っ飛んでしまうだろう。
 だからこそ、ソ連は外国との交流を禁止し、「閉鎖的で恐ろしい国」だと思わせるのだ。
 そのような裏事情など知らず、今日も世界は、ソ連を、妖怪を、恐れている。
 いつか世界が革命されてしまうのではないか、と恐怖するのだ。
 恐れを食べた妖怪は力を増し、強くなった妖怪をさらに恐れる。
 そんな、好循環が出来上がっていた。


「お姉さま、また妖怪の失踪事件が発生しました」


 扉を開けて、クレムリンの執務室に入ってきたのは、10歳ごろの容姿で、背中の羽に無数の宝石を下げた少女。
 500歳を超える吸血鬼、フランドール・スカーレットKGB・MVD長官である。


「はあ、またなの?私たちソ連に喧嘩を売るなんて、いったいどこの誰かしら?被害者が、無事に帰ってきているのだけは、不幸中の幸いね。記憶を失っているけれど」


 フランドールに答えるのは、ソ連のトップ、レミリア・スカーレット書記長である。
 妹のフランドールを猫可愛がりしている彼女は、妹の姿に目を綻ばせるも、すぐに、きりりとした表情を作った。


「あなたたちKGBでもわからないのね?」

「ダー(そうです)。目撃者が大勢いる中、こつ然と姿を消すそうです。おそらく、何らかの魔術によるものだと思われますが、痕跡が残されておらず、調査は難航しています」

「同士パチュリーは何て?」

「転移魔法とはまた違うようだと言っています。いま、現場を回って詳細な調査をされています」

「そう、ありがとう。苦労をかけるわね」


 苦笑しながら、ねぎらう。


「ニェット(いいえ)。そんなことはありませんわお姉さま。いまの仕事には、やりがいを感じています」



 ふわり、と笑いながら頼もしい言動をするフランドール。 
 フランも立派になったわね、と、レミリアは、訳もなく嬉しくなった。
 泣く子も黙るスパイ機関である国家保安委員会(KGB)と秘密警察を擁する内務省(MVD)の長官である。
 治安、諜報活動を一手にになっており、レミリアに次ぐ権力をもっている。
 少しでも彼女の機嫌を損ねれば、ルビヤンカの地下送りかシベリアに流刑にされるといわれ、恐れられていた。
 とはいえ、あまり粛清しすぎないように、レミリアは気を付けるようにしている。

 そのフランドールは、生まれたときから強力すぎる能力を持っていた。
 さらに、悪いことに狂気におかされてもいた。
 両親は、そんな彼女を殺そうとした。だから――


「もう、家を出て500年かしらね」


 ――家出した。フランドールを連れて。
 楽な旅路ではなかったが、妹とともに根気強く狂気を抑えようとした。
 旅の途中で仲間になった魔女パチュリー・ノーレッジの協力を得て、やっと日常生活を送れるようになったのだ。
 100年以上かかったが、嬉しそうに笑うフランをみて、彼女は幸せだった。


「あっという間でした。偉大なるソ連を建国してからは、もう無我夢中で」

「ふふふ、まさかここまで大きくなるとは思ってなかったけれどね」


 しみじみと昔話に花を咲かす。
 仕事の疲れが癒されるのを感じながら、自分の選択は間違っていなかったと再認識した。
 その最中、水を差すような言葉が耳に入ってきた。


「あと、世界革命までもうすぐですね!」

「あー、同士フラン?別に、私はいまのままで満足しているわ」

「お姉さまは優しすぎます。資本主義の豚どもや、資本主義に魂を売った修正主義者という悪魔どもを粛清し、革命を輸出することで、いまこそ万国のプロレタリアートの楽園を作るべきです!」


 思わず頭を抱えそうになった。
 あくまでも、共産趣味者だったレミリアは、共産主義に幻想を抱いていない。
 しかし、さすが史実で世界を二分した麻薬のような思想だけあって、共産主義に傾倒するものは多かった。
 このソ連という共産主義によって栄えた大国があるのだから、無理もない。
 無理もないが、妹が共産主義にここまで傾倒するとは、予想外だった。
 KGB・MVD長官として辣腕をふるう彼女は、過激派の元締めになってしまったのだ。
 事あるごとに過激な主張をするようになったフランドールを見て、レミリアは、ひっそりと涙を流した。





「最近、外からの妖怪が多いわね」


 博麗霊夢は、縁側でお茶を飲みながら、のんびりとしていた。


「ああ、『拉致だ』とか『国に返せ』とか言う連中ばっかりだよな」 


 つぶやきに答えたのは、とんがり帽子をかぶったいかにもな魔女、霧生魔理沙である。
 ここ最近、幻想郷に入ってくる妖怪が急増していた。
 外と内を隔てる博麗大結界の維持に関わる霊夢は、嫌な予感がしていた。


「外の国、えっと、なんだっけ」

「『ソビエト社会主義幻想共和国連邦』だってさ」

「そうそう。よくそんな舌をかみそうな名前を憶えているわね、魔理沙」

「里に行ったとき、外来人に聞いたんだ。なんでも、人妖が共存している珍しい国らしい」

「勝手に国民を浚って大丈夫なのかしら」

「だめだろ」


 人間と妖怪が暮らす楽園。
 それが、幻想郷であり、霊夢は、「楽園の素敵な巫女」の役割を担っている。
 すなわち、幻想郷を守ることが彼女の仕事といえた。
 幻想郷が危機に瀕しているような予感が、ずっとするのだ。
 突然増えた外の妖怪。これが原因かもしれない。


「その通りですわ」

「うおっ、びっくりした。突然出てくるなよな」

「何の用かしら、紫」


 突然、姿を現したのは、八雲紫。
 幻想郷の創始者にして管理者であり、神出鬼没の隙間妖怪である。


「最近、急増している外からの妖怪について――博麗大結界についてよ」

「誤作動しているわね」

「……なぜそう思うのかしら?」

「勘よ」


 にべもない答えに面をくらう紫だが、いつものこと、と流した。
 それに、この巫女の勧はよく当たるのだ。


「そうね。この問題は、私の愛する幻想郷の存亡の危機なのよ」

「そんなヤバイ話なのか!?」


 いきなり始まったスケールの大きい話に、魔理沙は驚く。
 そんな彼女に、やんわりと紫が言う。


「迷い込んだソ連人は、記憶を消したうえで、私の手で帰しているわ。だから、いまはまだ大丈夫」

「でも、いつか気づかれる日がくる。でしょう?」

「霊夢の言う通り。ソ連にバレたら――」


 ごくりと唾を飲んで、魔理沙が問いかける。


「――バレたら?」

「幻想郷は滅亡するわ」





「同志レミリア様。これが、調査結果です」


 拉致問題に関する会議が開かれた。
 パチュリーの報告者を、レミリアに渡すのは、十六夜咲夜だった。
 陸海軍人民委員――国防省長官のようなもの――のトップである。
 つまり、軍部の頂点であり、莫大な権力を握っている。
 どれほどレミリアが咲夜を信頼しているのか、端的に示していると言えよう。


 十六夜咲夜は、時を操る程度の能力を持っており、その力を恐れた両親に捨てられた孤児だった。
 彼女を救い上げたのは、レミリアであり、当初はメイドとして働くようになった。 
 やがて、その忠勤ぶりが評価され、ついには、ソ連の幹部にまでなったのである。
 彼女のサクセスストーリーは、ソ連国内でも人気があり、ちょっとした英雄扱いである。
 当人は、レミリアのメイドであることを誇りに思っており、いまだに常にメイド服を着ている変わり者でもあった。
 

「『幻想郷』ねえ。噂には聞いていたけれど」

「やっと尻尾をつかんだわ。たまたま、拉致の瞬間が監視カメラに映っていたお蔭ね」

「さすがは同志パチュリー。いい仕事をしてくれる」


 魔法省長官のパチュリー・ノーレッジが、誇らしげに言う。
 レミリアの褒め言葉に、ありがとう、とまんざらでもなさそうである。
 パチュリーは、レミリアとフランドールが旅を始めた当初からのつきあいであり、大親友である。
 それゆえ、レミリアが謎の拉致事件に心を痛めているのを察しており、早く解決しなければ、と意気込んでいた。


「KGBでは、潜在的な敵対勢力として幻想郷を監視しておりました。情報は全て筒抜けです」

「素晴らしいわ、同志フラン。情報は大切よね。軍部はどうなの?」

「軍部もご命令があれば、すぐさま50個師団ほど展開できます」


 ソ連は、欧州から極東にかけて、ユーラシア大陸の北部を占める広大な領土を持っている。
 それゆえ、広い領土を守るために、大量の軍隊を必要とした。
 防衛の主体となる陸軍はとくに充実しており、機械化狙撃師団――ソ連では歩兵師団を狙撃師団と呼ぶ――400個師団、装甲師団100個師団を持ってる。
 総数にして、1000万人を超える、まさに陸軍大国であった。
 軍のトップである咲夜は、50個師団つまり100万人程度を常時展開可能にしていたのである。


「さて、では幻想郷に対するアプローチを考えましょうか」


 レミリアが、会議の本題に入ることを告げる。


「すぐにでも侵攻し、解放するべきです。人と妖怪の共存共栄を謳いながら、妖怪と人は敵対しています。そのうえ、経済は資本主義という悪魔の思想のようです。存在自体が害悪の屑ですよ」

「私も同志フランドール様のご意見に賛成です。国力はわが偉大なるソ連が圧倒しております。ご命令とあらば、すみやかに解放できると考えます」


 フランドールと咲夜は、過激な意見を出した。
 それに対し、パチュリーは、「別に侵略する必要はないんじゃない?」と言って反論した。


「別に侵略しなくても、外交で片が付くわよ。力の差がありすぎるのだから、こちらが一方的に注文できるわ」


 彼女は魔法省の長官だが、外務省の長官も兼任している。
 知性派の「動かない大図書館」の面目躍如だった。
 それゆえか、穏健派の代表になっている。

 その後も意見が噴出し、フランドール+咲夜VSパチュリーの構図で議論が進んだ。
 ある程度、選択肢が決まったところで、書記長のレミリアの決断を仰いだ。


「どちらの意見も一理ある。私が目指すのは、幻想郷を赤く染め上げることよ。そのためなら、手段は問わないわ。だから、まずは手間のかからない威圧外交をして、ダメだったら侵攻するとしましょう」


 この瞬間をもって、幻想郷の運命決まったのである。





 八雲紫は後悔していた。
 レミリア・スカーレットは、穏健派であり、こちらへの要求も軽いものだと考えていたのだ。
 ソ連からの要求は、ただ一つ。
 共産主義を広め、共産主義に基づいて幻想郷を管理すること、だった。
 とても受け入れられるような要求ではない。


 妖怪は人を襲い、人は妖怪を退治する
 

 この古き良き時代を現代に再現したのが幻想郷なのだ。
 独裁者が君臨し、強引に妖怪と人間を共存させるのではない。
 自然な形を残したかったのだ。
 だから、管理者である紫も、基本的には放任していたのだから。


「今この場で決めなさい。服従か死か。どちらでも構わないわよ」


 驚くべきことに、交渉の場にはレミリア自らが来ていた。
 両者とも組織の長だが、圧倒的に紫の立場の方が劣っていた。
 何とか幻想郷の「あるべき姿」を保とうと交渉したが、にべもない。
 すぐに決断しろと言われた紫も腹を決めた。


「降伏するわ」

「話の分かる妖怪でよかったわ。わざわざ私が赴いた甲斐があったわね」


 レミリアは、紫の降伏を快く受け止めた。
 転生したときの最初の願い――幻想郷を赤く染めることができる。
 この事実に彼女は有頂天だった。
 原作キャラに会いたいなあ、とミーハーな気分になりながら、帰国した。
 本当は幻想郷めぐりをしたかったが、一応敵地であるのと、仕事が立て込んでいて、泣く泣く断念したのである。


 博麗大結界の誤作動の問題は、まだ残っている。
 が、幻想郷側が、ソ連人を保護するように義務づけられた。
 これについては、紫も当然の要求だと考えており、早急に博麗大結界の正常化が求めれた。
 多少不本意な形でありながら、とりあえず幻想郷の未来は守られた。
 八雲紫はそう思って安堵していた――




 ――幻想郷に拉致されたソ連人が過激派に殺害されるまでは。





「莫迦な真似をしてくれたものね」


 いま、赤の広場には100万人の赤軍が待機している。
 これから、幻想郷へと侵攻するのだ。
 つい先ほど、レミリアが演説を終えたところだった。
 レミリア書記長自らが陣頭指揮をとっているとあって、士気は非常に高かった。


「同志が殺害されたのです。きっちり報復しましょう、お姉さま」


 傍らにはフランドールの姿がある。
 本来の仕事は部下に任せて、戦争に参加するつもりなのだ。
 パチュリー、咲夜も来たがったが、仕事があるため断念した。
 彼女たちが居るのは、大本営「紅魔館」である。
 すべてが赤く、ソ連を象徴する建物、とされていた。
 本当は、レミリアが趣味で原作を再現しただけだったりするが。
 

「そうね。幻想郷を赤く染め上げましょう」


 かくして、幻想郷は革命された。
 ソビエト社会主義幻想共和国連邦の一部となり、幻想郷自治区となったのである。
 新たな領土を手にしたソ連が、世界革命を実現するのか。
 それとも、一国社会主義を貫くのか。
 運命はレミリアのみが知っている。 

 

共産主義という名の妖怪

 
前書き
・共産趣味に興味がある方にお勧めの小説。
①朱き帝國(小説家になろう)
②れっど あらーと~赤軍異世界革命記(小説家になろう)
③あかひま~赤き向日葵~風見幽香の革命(pixiv) 

 
『一つの妖怪がヨーロッパにあらわれている――共産主義と言う名の妖怪が』(マルクス・エンゲルス『共産党宣言』序文)





 Урааааааааааааааааааааааааааааааа!!


 地響きのように、ウラー!と大声をあげて、地平線を埋め尽くすような数の兵士が突撃してくる。
 種族は様々だ。
 人間はもちろん、妖精、吸血鬼、人狼、エルフ、ドワーフ、鬼、天狗などなど。
 ありとあらゆる種族に加えて、人間とのハーフやクオーターも多くいた。
 そろいの軍服を着こんだ彼らは、赤地に黄色の交差する鎌と槌、星を象った旗を持っている。

 
 こちらの軍勢は、執拗なまでの事前砲撃によって崩壊寸前だ。  
 アサルトライフルを構える敵に対して、こちらは刀や竹やりで武装した人間たち。
 いまだに余裕を見せている大妖怪だけが、頼りだった。
 絶望的な状況でも、彼女は諦めない。
 なぜなら、ここは愛する我が子のような箱庭なのだから。
 その箱庭の名前は「幻想郷」。
 人と妖怪が暮らす楽園は、いままさに滅亡の危機に瀕していた。
 妖怪の賢者と呼ばれた彼女――八雲紫は、必死に抵抗を続けるのだった。





 レミリア・スカーレットは転生者である。
 彼女がもらった転生特典は5つ。
 頭脳チート、身体チート、王の財宝、カリスマEx、黄金律Ex。
 彼女の願いはただ一つ。


「幻想郷を赤く染め上げたい」


 彼女は、共産趣味者だった。
 手始めに国を作った。その名も、


「ソビエト社会主義幻想共和国連邦」


 略してソ連である。
 科学的で偉大な共産主義の教えのもと、人間と妖怪の全てが平等に暮らせる国を作りたかったのだ。
 あと、そうすれば、幻想郷も革命できると考えた。
 最初、たった100人ぽっちの村でしかなかった。
 そのソ連は、500年の時を経た21世紀には、人口15億2500万人を数える世界トップの超大国になっていた。
 民族という観点でいえば、人造国家であるソ連の歴史は長くない。
 しかし、国家という観点からいえば、500年以上栄え続ける化け物国家である。


 彼女のしたことは簡単だ。
 まず、魔女裁判などで迫害された人間や孤児などを引き取って国民にする。
 人間に友好的な妖怪や、忘れ去られて消えそうな妖怪を引き取る。
 史実ソ連の支配領域に重なる様に領土をぶんどる。
 カリスマチートにより、人間と妖怪を仲良く共存させる。
 頭脳チートや金運チートによって、常に内政チート状態。
 すると、あら不思議。
 笑っちゃうくらいの勢いで、国は成長し、人口が増えていった。
 さらに、妖怪や混血児は寿命が長かったことも拍車をかけた。


 妖怪の持ちたる国。
 ソ連が、世界で唯一の妖怪の国であることは、誰もが知る常識である。
 国内では、人間と妖怪が共存し、繁栄している。
 しかし、周辺の人間諸国にとっては脅威だった。


・資本主義を否定する共産主義。

・民主主義を否定する一党独裁。

・宗教を否定する科学的社会主義。

・人類の脅威となる妖怪たち。


 敵対する理由としては十分である。
 また、建国以来鎖国を続けたことも不気味だった。  
 資本主義陣営、民主主義国家、宗教勢力、人間至上主義者。
 周辺諸国は、団結し、対ソビエト包囲網を形成した。
 世界一の国土をもつソ連は、敵対国家にぐるりと囲まれている。


 それでも、大規模な戦争にならなかったのは、ソ連の国力が圧倒的だったからである。
 過去に何度も、侵略されたが、すべてにおいてソ連は圧倒的な勝利を収めてきた。
 それなのに、彼らが賠償を請求したことは一度もない。
 だからといって、友好的でもない。徹底的に外との交流を禁止していた。
 ゆえに、ソ連の実情を知る者は少ない。
 各国は、必死になってスパイを送り込もうとしたが、全て失敗した。
 CIAやMI6(現SIS)ですら、一度たりとも成功しなかった。
 彼らは、この恐るべき防諜力を「モスクワの赤い霧」と呼んだ。


 それとは反対に、ソ連は世界中にスパイ網を構築していた。
 民衆は、KGBの諜報員たちによって意図的に流布された「ソ連は恐ろしい国である」という噂を信じた。
 かくして、ソ連VS世界という構図が描かれたのである。
 この奇妙なにらみ合いを、人々は「冷戦」と呼んだ。
 

 実は、ソ連は、裏で人間国家や宗教勢力が敵対するように仕向けている。
 その理由は、ソ連への「恐れ」を、妖怪の糧とするためだった。
 文字通り、「地上の楽園」となっているソ連をそのまま紹介すれば、恐れなど吹っ飛んでしまうだろう。
 だからこそ、ソ連は外国との交流を禁止し、「閉鎖的で恐ろしい国」だと思わせるのだ。
 そのような裏事情など知らず、今日も世界は、ソ連を、妖怪を、恐れている。
 いつか世界が革命されてしまうのではないか、と恐怖するのだ。
 恐れを食べた妖怪は力を増し、強くなった妖怪をさらに恐れる。
 そんな、好循環が出来上がっていた。


「お姉さま、また妖怪の失踪事件が発生しました」


 扉を開けて、クレムリンの執務室に入ってきたのは、10歳ごろの容姿で、背中の羽に無数の宝石を下げた少女。
 500歳を超える吸血鬼、フランドール・スカーレットKGB長官である。
 人間ならばとんでもない長寿といえるが、妖怪の中では若手と言えた。


「はあ、またなの?私たちソ連に喧嘩を売るなんて、いったいどこの誰かしら?被害者が、無事に帰ってきているのだけは、不幸中の幸いね。記憶を失っているけれど」


 フランドールに答えるのは、ソ連のトップ、レミリア・スカーレット書記長である。
 彼女も吸血鬼であり、背中には蝙蝠のような翼があった。
 ソ連を建国したカリスマ的独裁者である。
 「赤い皇帝」と畏敬を込めて呼ばれていた。
 妹のフランドールを猫可愛がりしている彼女は、妹の姿に目を綻ばせるも、すぐに、きりりとした表情を作った。


「あなたたちKGBでもわからないのね?」

「ダー(そうです)。目撃者が大勢いる中、こつ然と姿を消すそうです。おそらく、何らかの魔術によるものだと思われますが、痕跡が残されておらず、調査は難航しています」

「同士パチュリーは何と言っているのかしら?」

「転移魔法とはまた違うようだと言っています。いま、現場を回って詳細な調査をされています」

「同志こいしの方は?」


 古明地こいし内務省(NVD)長官。
 彼女は、人の心が読める、さとり妖怪である。
 紆余曲折を経て、フランドールの忠実な下僕となっていた。
 彼女に褒められたいがために、秘密警察を率いて、国内の反乱分子を嬉々として粛清している。
 心の声が聞こえる彼女は、尋問にぴったりである。
 が、あえて拷問することも多い。
 レミリアは密かに、隠れサド、と呼んで恐れている。
 トラウマなんてなかった。


「やはり調査中です」


「そう、ありがとう。苦労をかけるわね」


 苦笑しながら、ねぎらう。


「ニェット(いいえ)。そんなことはありませんわ、お姉さま。いまの仕事には、やりがいを感じています」


 ふわり、と笑いながら頼もしい言動をするフランドール。 
 フランも立派になったわね、と、レミリアは、訳もなく嬉しくなった。
 泣く子も黙るスパイ機関である国家保安委員会(KGB)の長官である。
 対外諜報活動を一手にになっており、レミリアに次ぐ権力をもっている。
 少しでも彼女の機嫌を損ねれば、ルビヤンカの地下送りかシベリアに流刑にされるといわれ、恐れられていた。
 とはいえ、あまり粛清しすぎないように、レミリアは気を付けるようにしている。


 そのフランドールは、生まれたときから強力すぎる能力を持っていた。
 さらに、悪いことに狂気におかされてもいた。
 両親は、そんな彼女を殺そうとした。だから――


「もう、家を出て500年かしらね」


 ――家出した。フランドールを連れて。
 楽な旅路ではなかったが、妹とともに根気強く狂気を抑えようとした。
 旅の途中で仲間になった魔女パチュリー・ノーレッジや武闘家である紅美鈴の協力を得て、やっと日常生活を送れるようになった

のだ。
 100年以上かかったが、嬉しそうに笑うフランをみて、彼女は幸せだった。
 フランドールも、常に自分に味方してくれた優しい姉を心から愛していた。
 

 というか、愛しすぎていた。


 レミリアの失くしたぱんつが、フランドールの部屋から大量に見つかったり。
 配下のKGB職員に命じて、四六時中レミリアの盗撮と盗聴をさせていたり。
 部屋の壁という壁にレミリアの盗撮写真を貼っていたり。
 レミリアを批判した人間や妖怪を、ルビヤンカの地下に送って拷問したり。
 どうもてもヤンデレです。本当にありがとうございました。
 ちなみに、ブラはなかった。理由は(察し)。


 当のレミリアは、前世でヤンデレ好きだったために、意外とこの状況を楽しんでいた。
 フランドールの行動を咎めるどころか、愛なら仕方ないね、といって周囲を呆れさせている。
 誰もが認める仲良し姉妹だった。
 それでも、レミリアにも悩みはある。
 前世は男だった。だから、男と付き合う気は毛頭ない。
 じゃあ、女は?というと、ありかも知れない。
 が、相手が妹というのはNGだ。近親趣味はない。
 フランドールの性的なアプローチとの戦いは、まだまだ続きそうだった。 


「あっという間でした。偉大なるソ連を建国してからは、もう無我夢中で」

「ふふふ、まさかここまで大きくなるとは思ってなかったけれどね」


 しみじみと昔話に花を咲かす。
 仕事の疲れが癒されるのを感じながら、自分の選択は間違っていなかったと再認識した。
 その最中、水を差すような言葉が耳に入ってきた。


「あと、世界革命までもうすぐですね!」

「あー、同士フラン?別に、私はいまのままで満足しているわ」

「お姉さまは優しすぎます。資本主義の豚どもや、資本主義に魂を売った修正主義者という悪魔どもを粛清し、革命を輸出することで、いまこそ万国のプロレタリアートの楽園を作るべきです!世界の全てはお姉さまの前にひれ伏し、真の救済を得るのです!世界は全てお姉さまのもの。お姉さまが何をしようと誰が咎められるでしょうか」


 思わず頭を抱えそうになった。
 あくまでも、共産趣味者だったレミリアは、共産主義に幻想を抱いていない。
 しかし、さすが史実で世界を二分した麻薬のような思想だけあって、共産主義に傾倒するものは多かった。
 このソ連という共産主義によって栄えた大国があるのだから、無理もない。
 無理もないが、妹が共産主義にここまで傾倒するとは、予想外だった。
 KGB長官として辣腕をふるう彼女は、過激派の元締めになってしまったのだ。


 さらに、史実のスターリンやレーニンのようにレミリアへの行き過ぎた個人崇拝も加わる。
 ソ連の都市には、必ずレミリア像が立っている。学校の教室には、必ずレミリアの肖像画がある。
 独裁者の宿命かもしれなかった。


 この過激派が、フランドール一人だったらまだよかった。
 問題は、彼女以外のソ連の幹部にも過激派が多いということだ。
 下僕、あの花妖怪やきゅうりマッド、バカ妖精のせいで、妹が染まってしまったのだ。
 と、彼女は思っているが、実際はフランの方が感染源である。
 事あるごとに過激な主張をするようになったフランドールを見て、レミリアは、ひっそりと涙を流した。





「最近、外からの妖怪が多いわね」


 博麗霊夢は、縁側でお茶を飲みながら、のんびりとしていた。
 脇がない巫女服というパンクなスタイル――つまりいつも通りだった。


「ああ、『拉致だ』とか『国に返せ』とか言う連中ばっかりだよな」 


 つぶやきに答えたのは、とんがり帽子をかぶったいかにもな白黒魔女、霧生魔理沙である。
 ここ最近、幻想郷に入ってくる妖怪が急増していた。
 外と内を隔てる博麗大結界の維持に関わる霊夢は、嫌な予感がしていた。


「外の国、えっと、なんだっけ」

「『ソビエト社会主義幻想共和国連邦』だってさ」

「そうそう。よくそんな舌をかみそうな名前を憶えているわね、魔理沙」

「里に行ったとき、外来人に聞いたんだ。なんでも、人妖が共存している珍しい国らしい」

「勝手に国民を浚って大丈夫なのかしら」

「だめだろ」


 人間と妖怪が暮らす楽園。
 それが、幻想郷であり、霊夢は、「楽園の素敵な巫女」の役割を担っている。
 すなわち、幻想郷を守ることが彼女の仕事といえた。
 その幻想郷が危機に瀕しているような予感が、ずっとするのだ。
 突然増えた外の妖怪。これが原因かもしれない。


「その通りですわ」

「うおっ、びっくりした。突然出てくるなよな」

「何の用かしら、紫」


 突然、姿を現したのは、八雲紫。
 幻想郷の創始者にして管理者であり、神出鬼没の隙間妖怪である。


「最近、外からの妖怪が急増しているのは、知っているわね。博麗大結界はどうなっているのかしら?」

「誤作動しているわね」

「……なぜそう思うのかしら?」

「勘よ」


 にべもない答えに面をくらう紫だが、いつものこと、と流した。
 それに、この巫女の勧はよく当たるのだ。


「そうね。この問題は、私の愛する幻想郷の存亡の危機なのよ」

「そんなヤバイ話なのか!?」


 いきなり始まったスケールの大きい話に、魔理沙は驚く。
 そんな彼女に、やんわりと紫が言う。


「迷い込んだソ連人は、記憶を消したうえで、私の手で帰しているわ。だから、いまはまだ大丈夫」

「でも、いつか気づかれる日がくる。でしょう?」

「霊夢の言う通り。ソ連にバレたら――」


 ごくりと唾を飲んで、魔理沙が問いかける。


「――バレたら?」

「幻想郷は滅亡するわ」 
 

 
後書き
・幻想郷がどうなるかって?ワッフルワッフルとお書きください(白目)
・Ураа!(ウラー)=万歳。
・作者は素人共産趣味者。にわか臭がぷんぷんします。申し訳ありません。 

 

反逆のスカリエッティ


 目の前にはアルカンシェルを発砲寸前の管理局の艦隊がいる。
 すでにバレルが展開され、あと数十秒でチャージが完了するだろう。
 搭乗員たちは全員避難させた。
 俺も一緒に避難するものとばかり思っていた彼女たちからは、脱出するようにひっきりなしに念話が届いている。
 だが、このままでは逃げたところでアルカンシェルが放たれて一貫の終わりだ。
 息子や娘同前に思っていた彼女たちを死なせてなるものか。
 あいにくこの船に武装はない。
 この状況をどうにかするためには――――


「――――特攻だな」


 結論から言えば、捨て身の自爆攻撃でしかこの窮地を打開する方法がない。
 せいぜい盛大に自爆してやろう。
 これしか生き残る道はないのだから。
 自爆はロマンと思って自爆装置をつけていたのが、こんなところで役に立つとは……。
 まさに、「こんなこともあろうかと」状態である。


「フッ、どうせ一度死んだ身。それほど惜しい命ではない」


 こんなときでもスカさんマウスは、かっこよさげなセリフを吐きますね。
 ぶれないなあ。
 我がことながら苦笑してしまう。
 本当はとても怖い。
 なまじ一度目の「死」を知っている分、死ぬことの恐ろしさはよくわかっている。
 でもね。
 そんなことよりも、もっと恐ろしいものがある。
 それは、


 家族が死ぬことだ。


 生まれてから違法実験の数々を強制されたころは、地獄の日々だった。
 なんとか生き残って平穏な人生を送るために、ナンバーズを稼働させた。
 脱出してから、たまたま立ち寄った海鳴市ではやてと出会って、一緒に暮らすようになった。
 フェイトを助けるためにプレシアと取引をした。
 深入りするつもりはなかったのに、いつの間にか、テスタロッサ家とは家族ぐるみの付き合いをすることになった。
 高町なのはとも交流するようになって、原作ブレイクをしてしまった。
 管理局の違法実験に巻き込まれた子どもたちを拾って、孤児院を運営した。
 ヴィヴィオを育て、エリオとキャロも引き取った。
 

 俺の側には常に誰かが居た。


 何もわからず転生憑依させられ、必死に生きてきた。
 平穏な生活が当初の目的だったのに、いつの間にか守るべき「家族」が増えていた。
 騒がしい日々の中、いつの間にかそんな日々を楽しんでいる自分がいた。
 ああ、そうか。


 俺は、みんなの笑顔に救われていたんだ。


 なら、今度は俺が家族を守る番だな。
 うん、何の問題もない。 
 捨て身の突撃に気づいた管理局艦隊はあわてて回避行動をしようとするが、もう遅いッ!


「わが生涯に一片の悔いなし!」


 自爆装置のスイッチに手を伸ばす。
 二度目の人生最期の光景を目に焼つけようとして――いきなり、眼前に迫った艦が撃沈した。 


 え?


 あわてて周囲を見渡すとそこには――


「……聖王のゆりかご、だと?」



 ロストロギア『聖王のゆりかご』が堂々たる姿で、管理局の艦隊を次々と沈める光景が広がっていた。


 どうゆうことなの……?
 

 

月に代わって、お仕置きよ!

 
前書き
おそまきながらあけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
東方革命記の後の方の話です。VS月。
かぐやたちはソ連に亡命済みです。 

 
 「ヤマトショック」


 ある日、月に一隻の宇宙戦艦が訪れた。
 その名は、宇宙戦艦ヤマト。
 月に存在するどの艦艇よりも巨大で高性能だった。
 当然、月は外敵の侵攻に大騒ぎとなる。
 戦艦ヤマトは、ソ連からの使者を名乗り、服従を要求した。
 月側はこの提案に激怒し、破談。
 ソ連側は、1年間の猶予を設け、戦争も辞さないと宣言した。


 この一隻の戦艦が月に及ぼした影響こそ「ヤマトショック」なのである。
 一年間の猶予を得たとはいえ、現状ヤマトと撃ちあえる戦艦はいない。
 月の軍部は「八八艦隊」計画を発令した。
 この野心的な目標は、月の総力を挙げて達成された。
 ついに、ヤマト級戦艦8隻、準ヤマト級巡洋戦艦8隻を含む200隻からなる大艦隊を整備するに至ったのである。


 そして、瞬く間に一年がたち、ソ連側は宣言通り月へと宣戦布告した。
 ご丁寧に、会戦の会場まで指定しており、月側の200隻を超える大艦隊が戦場へと集結していた。


「ふふふ、俺が生きている間にこれほどの大艦隊を率いることができるとはな。ソ連とやらの連中に感謝してやってもいいくらいだ」

「不謹慎ですよ、司令官殿」

「おっと、失礼、参謀長。だがまあ、こっちの勝利は確定しているからなあ。つまらん戦になりそうだ」

「情報部の調べによりますと、ソ連側はヤマト級が4隻確認されております。大小合わせても、100隻程度だそうですからね」


 このとき、月は自らの必勝を確信していた。
 巧みな防諜網によってスパイを送ることはできなかったものの、宇宙からの偵察によってある程度の情報は得ていた。
 そこから得られた結論は、どれもが月の勝利を示していた。

 
「我が艦隊は、質でも量でも圧倒している。あとは油断しなければいい」

「司令! ワープアウト反応多数、ソ連のものと思われます」

「よしよし獲物がやってき――――ハァ!?」


 司令官が――いやその場にいる全員が――ぽかん、とした表情を浮かべていた。
 その視線の先には――


 ――三万隻の宇宙艦隊がいた。





 突撃機動軍(海軍)所属にとり艦隊、旗艦ヒューベリオンにて。


「にとり元帥、すべての艦艇のワープアウトを無事終えました!」

「ご苦労。ふふん、月の連中の驚く顔が目に浮かぶわ」

「200隻ぽっちの艦隊でデカい顔していたらしいですからね。まさか一個艦隊が1万5千隻もあるとは考えつかんでしょう。それが二個艦隊ですからね」


 目前の艦隊の狼狽ぶりをみて笑みを浮かべてしまう。
 宇宙要塞アクシズにて密かに整備された宇宙艦隊は、月の予想をはるかに上回っていた。
 しかし、にとりは海軍のトップである。
 なぜ宇宙艦隊を率いているのか。
 そこには、各軍の縄張り争いがあった。


『戦艦と名の付くものは全て海軍に所属するべきである』


 宇宙艦隊を立ち上げるとき、にとりが放った言葉である。
 彼女に言わせれば、地球は空軍と陸軍に、宇宙は宇宙軍に奪われては、海軍の居場所がなくなるとの危機感があった。
 空母の指揮権を空軍に奪われたことも尾を引いている。


 念願の宇宙艦隊に沸く宇宙軍は、当然いきり立った。
 宇宙軍のトップのルーミアと幾度となく渡り合い、妥協案が示された。
 宇宙艦隊を、宇宙攻撃軍(宇宙軍)と突撃機動軍(海軍)に二分するというものである。
 玉虫色の解決案だったが、指揮権が二分されることは明らかに悪手である。
 ルーミアは最後まで抵抗したが、結局、提案は受理されたのだった。
 そのような事情もあり、海軍と宇宙軍の仲はよくない。


「宇宙軍の連中に目にもの見せてくれる。生意気な金髪の孺子をけちょんけちょんにしてやるんだから」

「ルーミア宇宙軍元帥とはまだ仲が悪いんですか?」

「ふん、『闇こそわがテリトリー』だとか『河童は川で泳いでろ』とか好き勝手言ってくれちゃって――まあ、心底憎んでいるわけじゃないけれどね」

「主砲、射程圏内にはいります!」

「よーし、景気づけにドカンといくよ。主砲、斉射三連、ファイヤー!!」





 宇宙攻撃軍(宇宙軍)所属ルーミア艦隊、旗艦ブリュンヒルトにて。


「ルーミア元帥、主砲射程まであと少しです」

「よし。主砲を速射モードに切り替えるのだー」


 ルーミアの指示が旗艦から、1万5千隻もの僚艦に伝わっていく。
 隣をみると疑問符を浮かべた参謀長の姿がいた。


「斉射で制圧しないので?」

「斉射は火力バカのにとりがやってくれるのだー。わたしたちは、彼らに代わって敵陣に一番乗りすればいいのよ」

「なるほど」

「ではお仕事をするのだー、ファイエル!!」


 ビームの束が一筋走ると、月の都市に向かって全速力で飛ぶ。
 にとり艦隊の方をみやると、斉射三連の反動で、身動きができないでいた。
 固まってしまったにとり艦隊の前を、悠々とルーミア艦隊が進んでいく。


「進め、進め! 勝利の女神はお前らに下着をちらつかせているのだー」 
 

 
後書き
・艦載機はスパルタニアンとワルキューレです。MSはコンペで負けました。 

 

パパは強し

 
前書き
最終決戦。 

 

「ヴィヴィオ、助けに来たよ」

「パパ、身体が勝手に、うぁああああああああ」


 聖王のゆりかごを無理やり起動した反動だろう。
 ヴィヴィオは暴走し、見境なく攻撃しようとしている。
 このまま放っておけば限界を超えた魔力で自壊してしまうだろう。
 なんとしてでもヴィヴィオを止める必要がある。
 そのためには、暴走の原因となったヴィヴィオの体内のレリックを破壊しなければな

らない。
 さきほどヴィヴィオに助けられた。
 今度は俺がヴィヴィオを助ける番だ。


「怯えろ! 竦め! レリックの性能を活かせないまま死んで行けぇ!」


 殺しませんよ。ノリノリでヴィヴィオと拳を交わす。
 聖王のゆりかごのバックアップを受けているヴィヴィオは魔力無限チート状態だ。
 動力炉を破壊する必要があるが――。


『ドクター、動力炉の停止を確認しました!』

「よくやった、ウーノ」

『お礼ははやてに言ってあげてください』


 そうか、はやてがやってくれたのか。
 これで心置きなく戦える。


「パパぁ……笑ってるよ」

「む?」


 あきれ顔をにじませるヴィヴィオを見て苦笑する。
 俺はいつからバトルジャンキーになったのか。
 久々に全力を出せるとあって年甲斐もなく興奮している自分がいる。
 その後、戦いは一進一退の膠着状態に陥る。
 増援をよこそうとするウーノたちは止めてある。
 このレベルの戦いに援護にきても邪魔なだけだし、巻き込みかねない。
 その代り、次元震を抑えるようにいってある。
 なにせ拳の一撃一撃が小規模な次元震を伴っているのだ。
 今ははやてが馬鹿魔力によって抑え込んでいるが、長くは持つまい。


「私、足手まといにっちゃって……ごめんなさい、ごめんなさい」

「ヴィヴィオが居なければアルカンシェルで散っていた。俺がいま生きているのは間違

いなくお前のお蔭だよ」


 悔悟をみせるヴィヴィオを優しく諭す。


「……そういえば、親子喧嘩は初めてだな」

「何言ってるのパパ」

「駄々をこねる子どもを受け止めるのは父親の仕事だってことだ」
 

 無駄話をしながらも動きをやめない。
 そろそろ体力的に厳しくなってきた。
 ここが勝負所か。
 手に持ったエンジェルダストをヴィヴィオをかすめるように投げる。
 思わず目で追ったヴィヴィオの隙をつく――。


「目の良さが命取りだ!」


 無防備な身体に、渾身の右ストレートを放った。が、何ッ!?
 とっさにヴィヴィオが拳を押し付けてきた。
 全魔力をつぎ込み拮抗する。
 これだけの魔力衝撃を直接与えればレリックは砕けるはず。 
 しかし、現実は俺のほうが徐々に押し込まれている。 
 俺の優秀な頭脳は一つの方法を思いつく。
 ……これしかないか。


「ヴィヴィオ」

「なに、パパ」

「お前の父親になれてよかったよ」

「何をいって――!?」


 合わせていた拳をずらして、ヴィヴィオのレリックへと魔力打ち込む。
 ヴィヴィオのレリックが砕けたことを確認する。


「勝ったぞぉッ!」


 同時に、ずらされたヴィヴィオの拳が俺の胸へと吸い込み――。





 俺の中のレリックが砕け散る音を聞いた。
 





 まどろみから目が覚める。
 ここはどこだろう? 病院だろうか?
 なんだか悪い夢を見ていた気がする。
 そうたしか、聖王のゆりかごに乗って――。


「パパはどこ!? っていたた」


 一気に覚醒した。
 飛び起きようとして激痛から失敗する。


「今声が、ヴィヴィオ、目覚めたのね!」

「なんやて!?」

「ウーノママ、はやてママ」

 
 文字通り病室に駆け込んでいたのは、はやてとウーノの二人だった。


「よかったヴィヴィオ。あなた3日も目を覚まさなかったのよ」


 心底安堵したような表情をするウーノ。
 隣のはやても同じような顔をしていた。


「本当に目が覚めてよかったで。これでジェイルも――」

「こら!!」

「あ、まず」


 そうだ。パパがいない。
 パパも入院しているのだろうか。
 けれども、それにしては纏う空気が剣呑だ。


「ねえ、パパはどうなったの?」

「……」

 
 問いかけるも沈黙したまま答えてくれない。
 それどころか他の話題でそらそうとしてくる。
 いよいよもって不安が湧く。
 


「お願い、教えて」



 何度目かのお願いをする。
 絶対にひかない、と決意を込めた表情で2人を見つめた。


「……そうね。娘のヴィヴィオにはきちんと伝えないと、だめよね」

「遅いか早いかだけの違いやろうしね。けれどもな。あらかじめいっておく。ヴィヴィ

オは何も悪くない」 

「ヴィヴィオ、心を落ち着かせて聞いてね。ドクターは……ドクターは――」


 嫌な予感がする。
 

「――お亡くなりになったわ」


 目の前が真っ暗になった。 

 

テイルズオブテンセイシャ

 
前書き
・テイルズオブファンタジアの世界にダオスとして転生した凡人が成長する話です。
 

 
○月×日

 よお、俺の名はダオス。
 デリスカーラーン最大の王国エリュシオンの王子だ。
 俺には誰にもいってない秘密がある。
 それは――。俺が転生者だということだ。
 人に言えないのは結構ストレスがたまる。だから、今日から秘密の日記を書くことしにた。

 転生した理由は、神が俺を間違えて殺したかららしい。
 当然、怒るところだが、俺はむしろ歓喜した。
 何の変哲もない平凡な人生を送ってきた俺にとって、転生して俺TUEEできるのは魅力的だったのだ。

 転生特典について聞かれたので、ダオスの力が欲しいと頼んだ。
 そして、今に至る。
 たしかにダオスの力を手に入れたが、ダオスそのものになるとは思わなかったぜ。
 イケメン王子で魔力も力も圧倒的、結果オーライだな。


●月▽日

 デリスカーラーンには暗雲が立ち込めている。
 理由は、マナの枯渇だ。
 マナが枯渇すれば、デリスカーラーンの生物は全て死に絶えることになる。
 各国は必死で解決策を探しているが、どれもうまくいっていない。
 誰もが焦っていた――。俺を除いて。

 俺の出番キター!!
 原作のようにファンタジア世界に飛んで、ぱぱーっと世界樹からマナの実を貰えばいい。
 これで、俺はデリスカーラーンの英雄となり、ハーレム王として酒池肉林の日々を過ごすのだ。俺マジ天才!


●月◆日

 俺の前で、父ちゃん、母ちゃん、兄弟たち、そして多くの臣民が涙を流しながら見送りにきている。

 俺が出した、異星からマナを持ってくる案は、万策尽きていたデリスカーラーンの人間にとって、最後の希望となった。

 けれども、誰が行くのかでもめた。異星に送る人数は人間一人が限界だったからだ。
 やっと見えた最後の希望だが、成功率は限りなく低いと言わざるを得ない。
 そ・こ・で! 俺が行くと宣言したのだ。
 つい先日王に即位したばかりの俺が直に行くなど、大反対にあったが、粘り強い俺の説得によって、沈静化した。

 俺が、デリスカーラーンで力と魔力で最も優れているからな。
 見送りに来た人々に決意を込めた表情を浮かべながら、内心でほくそ笑む。
 これから、俺の英雄伝が始まるのだ! いざ、ファンタジアの世界へ!


×月※日

 やってきまして別の星。
 ただ、この星の魔力は急速に減衰している。

 理由は、人間たちの新たな技術「魔科学」だ。
 マナを大量に消費する技術は、人間たちの生活に革命をもたらしたが、マナはどんどんと減って行った。
 世界樹が生み出すマナの量と消費量が釣り合っていないのだ。

 このまま放っておけば、デリスカーラーンに十分なマナの実を持ち帰ることができない。
 だから、魔科学のメッカであるミッドガルズに魔科学の使用をやめるように言えばいいのだ。簡単だぜ。


×月◆日

 くそっ、くそっ!
 ミッドガルズの人間どもめ! 俺の忠告を無視しやがった。
 「マナの産出量に見合った消費量に抑えましょう」という俺の常識的な意見が受け入れられなかったのだ。


?月&日

 この星に来てから5年がたつ。
 あの手この手でミッドガルズの魔科学の使用をやめるように働きかけているが、全くうまくいっていない。
 ま、なんとかなるさ。
 なにせ俺はチート転生者ダオス! この程度の障害へじゃないぜ。


¥月*日

 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した

 どうすればいい!?
 あれから10年もっ経ったのに何もうまくいっていない。
 いや、それどころか、魔科学がさらに発達し、事態は深刻化している。

 俺は勘違いしていたんだ。
 ダオスとして生まれ、王子として敬われ、俺はすごい存在になったんだ――。そう俺は思ってたんだ。チート転生者だから何をやってもうまくいくって。

 このままではデリスカーラーンのみんなが死滅してしまう……。
 どうすればいい、どうすればいいんだよぉ。

 俺は、ゲームでかっこよかったダオスじゃない。
 ダオスに転生しただけの平凡な高校生だったんだ。

 俺、バカだから何すればいいのかわからないよ。
 みんなが待っているのに、俺なんかに最後の希望を託してくれたのに。

(以下、涙で濡れて読めない)


@月&日

 ひらめいた!

 俺はダオスじゃないけれど、ダオスになり切ることはできるんじゃないか?
 史実のダオスは、いろいろと失敗したけれど、最後はマナの実をデリスカーラーンに持って帰れたじゃないか。

 俺頭良くないからよくわかんないけれど、史実のダオスに沿って動けば、何とかなるかもしれない。
 カンニングペーパーを見ながら行動するんだ。愚かな俺でもできるはず。

 よーし、さっそく魔族を招集して魔王軍つくるぞー。


L月?日

 とうとうこの日が来た。
 宿敵クレス・アルベインたちが、俺の最後の城にやってきたのだ。
 色々とあくどいこともやったが、そのたびに故郷に残した大切な人たちのことを思い出しながら、歯を食いしばって生きてきた。

 俺は死ぬだろう。いや、死ななければならない。
 なにせ、俺の死と引き換えに、マナの実を贈られるのだから。

 父ちゃん、母ちゃん、かわいい兄弟たち……俺なんかに希望を託してくれたデリスカーラーンの皆。

 俺がんばったよ。いっぱいいっぱい頑張ったよ。
 あと少し、あと少しの辛抱だからね。
 俺はそっちに行けないけれど、皆の幸せを願ってる。

 デリスカーラーンに栄光あれ!





 あれ? ここはどこだ? 俺は死んだはずじゃあ……。

「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ」

「オンギャーオンギャー!!(なんじゃこりゃあああああ)」 
 

 
後書き
・デリス・カーラーンが正しい表記でした。ごめんなさい。 

 

黄巾党VS共産党

「……はあ? 雛里、もう一度言ってくれ」

「ですから、南陽付近で、『共産党』という義勇軍が黄巾党を次々に撃破、傘下に置いているそうです」

「共産党? 聞かない名前ですね」

 北郷一刀は、諸葛亮の言葉に混乱した。共産党? なぜ三国志の時代に? いや、武将が女性化している時点で歴史知識なんて意味ないのだろうか。様々な思考が渦巻く。
 関羽は聞いたことのない名前だと怪訝な顔をする。そりゃあそうだろう、共産主義なんて思想がこの時代にあるわけがない。しかし、一刀だけは知っていた。はるか未来の日本から来た彼は、共産主義が、まさしく世界を二分する麻薬のような思想だということを。
 そして、中国で共産党といったらあの人だろう。

「もしかして、共産党の指導者は、毛沢東っていうんじゃない?」

「いえ、違いますよ。毛沢東って誰ですか?」

「いや、知らないならいいんだ。じゃあ、指導者は誰なんだ?」

 続く諸葛亮の言葉は一刀を混乱の坩堝に陥れた。なぜなら、彼女はこういったのだから。


 ――すたありん 
 

 
後書き
息抜きに書いてみました。
八神はやて~も近日中に更新します。 

 

テイルズオブ転生者

 
前書き
TOFのラスボスに転生した凡人の話。 

 
○月×日

 テイルズオブファンタジア(TOP)というゲームをご存じだろうか?
 由緒あるテイルズシリーズの初代であり、傑作である。まさに、原点にして頂点!
 その中でも一番大好きなキャラクターは――ラスボスであるダオスだ。

 というわけで、俺の名はダオス。
 デリス・カーラーン最大の王国エリュシオンの王子だ。
 俺には誰にもいってない秘密がある。
 それは――。俺が転生者だということだ。
 人に言えないのは結構ストレスがたまる。だから、今日から秘密の日記を書くことしにた。

 転生した理由は、神が俺を間違えて殺したかららしい。
 当然、怒るところだが、俺はむしろ歓喜した。
 何の変哲もない平凡な人生を送ってきた俺にとって、転生して俺TUEEできるのは魅力的だったのだ。

 転生特典について聞かれたので、ダオスの力が欲しいと頼んだ。

 そして、今に至る。
 たしかにダオスの力を手に入れたが、ダオスそのものになるとは思わなかったぜ。
 イケメン王子で魔力も力も圧倒的、結果オーライだな。


●月▽日

 デリス・カーラーンには暗雲が立ち込めている。
 理由は、魔科学文明によるマナの枯渇だ。
 マナが枯渇すれば、デリス・カーラーンの生物は全て死に絶えることになる。
 各国は必死で解決策を探しているが、どれもうまくいっていない。
 誰もが焦っていた――。俺を除いて。

 俺の出番キター!!
 原作のようにファンタジア世界に飛んで、ぱぱーっと世界樹から「大いなる実り」を貰えばいい。
 これで、俺はデリス・カーラーンの英雄となり、ハーレム王として酒池肉林の日々を過ごすのだ。俺マジ天才!


●月◆日

 俺の前で、父ちゃん、母ちゃん、兄弟たち、フィアンセ、そして多くの臣民が涙を流しながら見送りにきている。

 俺が出した、異星からマナを持ってくる案は、万策尽きていたデリスカーラーンの人間にとって、最後の希望となった。

 けれども、誰が行くのかでもめた。異星「アセリア」に送る人数は人間一人が限界だったからだ。
 やっと見えた最後の希望だが、成功率は限りなく低いと言わざるを得ない。
 そ・こ・で! 俺が行くと宣言したのだ。
 そして、原作知識を持つ俺は知っている。命を削らなくては,アセリアに人を送ることはできないというこを。
 覚悟を決めた表情で、俺を送ると言い放ったフィアンセはまじでかわいい。

 こんなこともあろうかと! と、生まれてからずっと研究していたエコロジーな転移術を提供。
 俺のもつ膨大な魔力なら、一人も犠牲を出さずにアセリアに行くことができるのだ。
 この秘策を授けたときの、みんなの顔ったらなかったね。ぽかーん、としてやんの。
 そうしたらさ。俺の偉業を称える声であふれかえった。フィアンセの百面相が見れて俺は満足だ。
 だって――。だって、正史では、俺を送るために犠牲になったんだからね。

 むろん、即位したばかりの王(ちょっと前に即位した)が直に行くなど、大反対にあったが、粘り強い俺の説得によって、沈静化した。
 俺なら原作を知っているし、少しでも悲しい未来を救いたいんだ。

 表向きは、俺が、デリス・カーラーンで力と魔力で最も優れているからとしたが。
 見送りに来た人々に決意を込めた表情を浮かべながら、内心でほくそ笑む。
 これから、俺の英雄伝が始まるのだ! いざ、ファンタジアの世界アセリアへ!


×月※日

 やってきまして別の星。
 ただ、この星の魔力は急速に減衰している。

 理由は、人間たちの新たな技術「魔科学」だ。
 マナを大量に消費する技術は、人間たちの生活に革命をもたらしたが、マナはどんどんと減って行った。
 世界樹ユグドラシルが生み出すマナの量と消費量が釣り合っていないのだ。
 前世の環境破壊と一緒だな。人間はどこにいっても変わらない。

 このまま放っておけば、デリス・カーラーンに十分な「大いなる実り」を持ち帰ることができない。
 だから、魔科学のメッカであるミッドガルズに魔科学の使用をやめるように言えばいいのだ。簡単だぜ。


×月◆日

 くそっ、くそっ!

 ミッドガルズの人間どもめ! 俺の忠告を無視しやがった。
 「マナの産出量に見合った消費量に抑えましょう」という俺の常識的な意見が受け入れられなかったのだ。
 待て待て、焦るのはまだ早い。魔科学によるマナの減少で一番困るのは、ミッドガルズなのだ。
 きっと、俺の意見を受け入れてくれるだろう。


?月&日

 この星に来てから5年がたつ。
 あの手この手でミッドガルズの魔科学の使用をやめるように働きかけているが、全くうまくいっていない。
 ま、なんとかなるさ。
 なにせ俺はチート転生者ダオス! この程度の障害へじゃないぜ。


¥月*日

 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した

 どうすればいい!

 あれから10年もっ経ったのに何もうまくいっていない。
 いや、それどころか、魔科学がさらに発達し、事態は深刻化している。
 魔科学の危険性をきちんとしたデータを使って説明し、俺の身体を実験体として提供するまでした。
 そこまでしたのに、ミッドガルズの人間どもは、まったく変わらなかった。
 いや、俺のデータを使って、ますます魔科学は発展しようとしている。そこに、環境保護の文字はない。

 俺は勘違いしていたんだ。
 ダオスとして生まれ、王子として敬われ、俺はすごい存在になったんだ――。そう俺は思ってたんだ。チート転生者だから何をやってもうまくいくって。

 このままではデリス・カーラーンのみんなが死滅してしまう……。
 どうすればいい、どうすればいいんだよぉ。

 俺は、ゲームでかっこよかったダオスじゃない。
 ダオスに転生しただけの平凡な高校生だったんだ。

 俺、バカだから何すればいいのかわからないよ。

(以下、涙で濡れて読めない)


@月&日

 ひらめいた!

 俺はダオスじゃないけれど、ダオスになり切ることはできるんじゃないか?
 史実のダオスは、いろいろと失敗したけれど、最後は大いなる実をデリス・カーラーンに持って帰れたじゃないか。
 俺頭良くないからよくわかんないけれど、史実のダオスに沿って動けば、何とかなるかもしれない。

 もし、俺が首尾よく世界を征服できたら、それでよし。
 世界の支配者として、エコロジーな社会を作ればよいのだ。
 仮に、正史通りクレスたちに倒されても、それはそれでよしとしよう――死ぬのは怖いけどな。
 けれど、俺の帰りを待っている皆を救えればそれでいい。

 よーし、さっそく魔族を招集して魔王軍つくるぞー。


L月?日

 とうとうこの日が来た。
 宿敵クレス・アルベインたちが、俺の最後の城にやってきたのだ。
 色々とあくどいこともやったが、そのたび母なる故郷に残した大切な人たちのことを思い出しながら、歯を食いしばって生きてきた。

 世界を支配し、エコロジーな社会を作ろうとする俺の野望は、ことごとく打ち破られてきた。
 いろいろな出会いと別れがあった。モリスンしかり、クレスしかり。
 中には、魔科学の危険性を知り、俺に協力しようとしてくれた人間もいた。
 魔王軍? まあ、あいつらの目的は天界への進攻だからな。ギブ・アンド・テイクってやつだ。
 俺に心酔して、仕えてくれた奴もいるけれどな。

 俺は死ぬだろう。死力を尽くしてクレスたちに立ち向かおうとしたが、ことごとく粉砕された。
 いっそ清々しいほどに、彼らは強かった。仲間とともに冒険を続ける彼らをみて、少しだけうらやましく思う。
 結局、俺は一人だった。ウィノナは……彼女のことはあまり思い出したくない。

 最期の戦いだ。手を抜く気はない。手加減できる相手ではないし、全力で戦わなければ、彼らに失礼だ。
 俺が勝てば、世界を征服して大いなる実りを待ってから、持ち帰ればいい。
 俺が負ければ、世界樹の精霊マーテルが、俺の遺体とともに、デリス・カーラーンに大いなる実を届けてくれる。

 正直、勝てる気はしないけれどな。チート転生者も主人公には敵わなかったか。
 父ちゃん、母ちゃん、かわいい兄弟たち……俺なんかに希望を託してくれたデリス・カーラーンの皆。
 そして、かわいい俺のフィアンセ。

 俺がんばったよ。いっぱいいっぱい頑張ったよ。
 あと少し、あと少しの辛抱だからね。
 俺はそっちに行けないけれど、皆の幸せを願ってる。


 俺の願い…みんなの祈り…俺はまだ戦える!





 それは神々の戦いだった。極大魔法が飛び交い、光の矢が降り注ぎ、精霊が力を振るい、そして――時空を切り裂く剣技が舞う。
 彼らのパーティーに相対するのは、たった一人。世界を滅亡させんとする魔王だった。
 彼も負けていない。レーザーを放つと、時を止める。それでも敗れた。


「気を付けて、ダオスはまだ死んでいない!」

「神よ! 母なる星デリス・カーラーンの神よ! 我に力を! 我に力を!」


 人の姿で敗れると、巨大なモンスターの姿になってまで抗戦した。そして、最後は、白い羽を生やし、天使のように天空を舞った。
 なんという魔力だ、とハーフエルフの少女アーチェ・クラインは思う。
 同じ魔法を使う身として、あれだけの魔力を制御するなど、人間業とは思えなかった。
 そして、この魔力、星の魔力。果てしてよこしまな人間に、星の神が加護を与えるのだろうか?
 何が彼をこうまで駆り立てているのだろう。


「私の願い…民の祈り…私はまだ戦える!」


 リーダーの剣士クレス・アルベインは、戸惑っていた。
 時空を切り裂くほどの超一流の剣士として成長した彼が、戦いの中躊躇することはない。
 しかし、内心違和感を感じていた。こうして切り結んでいても、邪悪な気配を感じないのだ。剣を交えれば、相手の感情がわかる。彼はその境地に達していた。
 目の前のダオスからは、世界を滅ぼすどころか、世界を救いたいという切実な願いを感じ取ったのだ。
 国を滅ぼされた。故郷を焼かれた。ダオスは悪事を働いている。多くの悲劇を生んだ。
 けれども、無関係な人間を巻き込まないようにしていることにも気づいていた。


「わ、私は死ぬのか」


 心優しき治癒師ミント・アドネードは、尋ねた。
 彼の本当の目的は何なのかを。異なる星デリス・カーラーン。滅び。魔科学の危険性。大いなる実り。 
 それに激高するチェスター・バークライトの反応も当然だ。ダオスがこのアセリアで多くの人間を犠牲にしたのは事実なのだから。
 目の前で両親を操られ殺された藤林すずのような人間だっている。

 パーティーの最年長であるクラース・F・レスターは、瞑目していた。
 彼とて、ダオスのちぐはぐさには気づいていた。お互い譲れないものがある。
 どちらが正義で、どちらが悪なのかは、相対的なものなのだろう。
 デリス・カーラーン人にとって、自分たちこそ、救世主を邪魔する悪党なのかもしれない。

 ミントは祈った。いや、その場の全員が祈った。
 たとえダオスが悪であろうとも、彼が救おうとした人々がいたのだ。
 世界をアセリアを救おうとした彼らにとって、滅びを迎えようとしているデリス・カーラーンも等しく救いの対象だったのだ。
 そして――


 ――奇跡は起きた。
    

 

神様になって世界を裏から操ります、黒幕は精霊です~箱庭の絶対者~その1

 
前書き
・オリジナルものが衝動的に書きたくなったので書いてみました。とりあえず、プロローグだけ。

・簡単にあらすじを説明しますと、神様見習いになった主人公が、精霊システムとダンジョンによって、世界を裏から支配して、文明が進みすぎて暴走しないようにする内政?ものです。

・精霊システムとは、主人公が精霊という名の分身を作り、人間に憑依させることで、人間の行動を逐一監視するシステムです。その代り、精霊使いは、精霊魔法を使えるようになります。ただし、人間に直接干渉することは、神様条約に違反するため、シビアです。

・ダンジョンは、資源をダンジョン内のドロップアイテムで簡単に入手できるように仕向けて、経済をダンジョンに依存させる存在です。資源の供給を握ることにより、技術の盛衰を操ります。

各話の流れは、
・神様(主人公)視点
・世界の住人視点
・歴史書視点
で進みます。 

 
 勇者はがんばっているようだな。
 とはいえ、人跡未踏地帯の開拓には苦労しているか。
 ここでテコ入れしないと、壊滅しかねん。
 彼らが善良な人物で助かった。これで、人類精霊監視計画を進められる。


「精霊を使って人類を裏から操るなんて、さすがだわ!」


 よせよせ、まだ始まったばかりだ。
 それに、失敗したといえお前の作った魔王が勇者を呼び寄せたんだ。
 精霊システムのテスターとしてこれ以上の適任者はいないさ。
 いまの状況もおあつらえ向きだしな。


 しかし、ただの高校生だった俺が神様気取りとはなあ。
 ま、箱庭内政は好きだし、かわいい神様のためにもがんばりますか。


「か、かわいいなんて、照れるわ」


 幼女神マジかわいい。俺の仕事? 


 職業:神様
 仕事内容:滅びゆく世界を救うだけの簡単なお仕事です。


「よし、ノームになって勇者と契約してくるわ」
「いってらっしゃい。精霊システム始動の第一歩ね!」


◆ 


【勇者タロウ・スズキ】


 俺は、鈴木太郎、どこにでもいる平凡な男子高校生。
 名前をよくからかわれるが、両親からもらった大事な名前だから気に入っている。
 そして――勇者だった。


 そう勇者『だった』。
 高校の帰りに急に光に包まれたら可愛い王女様の前。
 異世界召喚ってやつだな。
 魔王を倒してくれ。って頼まれたんでほいほい勇者をやったわけさ。
 で、魔王を倒しました。
 途中経過? 割愛するぜ。笑いあり涙ありの一大スペクタクルだった。
 楽しかったなあ……。


 物語だったらさ、魔王を倒してハッピーエンドなわけじゃん。


 ――でも、現実は違った。


 この世界『リ=アース』は、魔法が使える一部のヒューマンの特権階級が富を独占し、圧制をしいていた。
 なにより許せなかったのは、ヒューマンたちが同じ人類であるはずの獣人、エルフやドワーフを亜人と蔑んで奴隷にしていたことだ。
 字面だけじゃ伝わらないだろうが、本当に、本当に酷かったんだ。


 魔王がいる間はまだよかった。
 世界を滅ぼそうとする魔王は、人類共通の敵だったから、団結しようとしかけたんだ。
 けれども、うまくいかなかった。
 なぜかって? そりゃあ、俺がいたからさ。
 人類が団結する前に、勇者様が共通の敵たる魔王を成敗しました。
 いままでと変わらずに差別と貧困が蔓延りましたとさ。


 それだけじゃない。ヒューマンの勇者が魔王を倒したもんだから、ますますヒューマン至上主義が強まったんだ。


 酷すぎる現実を前に、俺は立ち上がった。
 『勇者』という立場を利用して、意識改革をしようとしたんだ。
 俺を召喚してくれた王女様も、次第に俺のことを理解してくれるようになった。
 最初は奴隷の何がいけないの? って顔していたけれどね。
 徐々に、徐々にだけれど、亜人差別もなくなっていくんじゃないかな――そう思ってたんだ。


 王女様との婚約も決まって、順風満帆。
 と、思ってたらヒューマン至上主義者に襲われた。
 幸い王女様は無事だったけれど、あと一歩で死ぬところだった。
 だというのに、周囲の人間は、天罰だというんだ。
 染みついた特権意識、都合のいい一神教への強制崇拝とヒューマン至上主義は、もはやどうしようもなかった。
 ありていにいって、この国は腐りすぎていた。
 だから――――ぶっ壊してやった。


「勇者様、どうかしましたか?」
「あぁ、昔のことを思い出していてな。それと、勇者様はやめてくれ」
「ふふ、わかったわ。タロウ」
「なぁ、エリィ。俺は……俺たちは正しかったのだろうか」
「それは誰にもわからないわ。けれどね、あなたについてきてよかったわ。私だけじゃなく、みんながそう思ってる」


 帝国はいま血で血を洗う内乱のまっさなか。だいたい、俺のせいだ。
 その王女様に、許しをもらえて安堵する自分がいる。いまも大勢の人間が戦火に苦しんでいるというのに。


 だから、この東方フロンティアに逃げてきたんだ。
 いまは妻となった王女様のエリィ――エリザベートと、俺を信じてついてきてくれた人たちとともに。
 種族も身分も関係ない理想の国をつくるために。


 さて、辛気臭いのは終わり。
 今日も頑張って、このフロンティアを開拓するぜ!
 けど、あんまうまくいってないんだよな。
 降水量が少ない不毛な大地。危険がいっぱいの森。
 大自然相手じゃ勇者の力なんか役にたたないし。生活にも役に立たん。
 春まで食料がもつかどうか……。内心焦りが募っていく。
 周囲には隠しているが、心労で眠れない日々が続いていた。


『お困りのようですね』


 誰だ!?


『私は、土の精霊ノームといいます。私と契約してください。さすれば、大地に実りを約束しましょう』


 これが、俺と精霊との出会いだった。





【勇者と精霊 著アルバ・シュミット】


 勇者と王女一行は、帝国を脱出し、東方へと向かった。
 いまでこそ、フロンティアはポジティブな意味をもつが、当時の東方フロンティアは、不毛な大地と魔物がはびこる樹海がる『忘れ去られた世界』だった。(中略)


 勇者と精霊が契約した日をもって精霊文明の誕生とする説が有力である。
 しかし、当時は文明と呼ぶにはいささか無理があるように思われる。
 なぜならば、食料こそ土の精霊魔法に依存していたものの、日常生活に加え、治水や軍事は、人力に頼っていたからだ。
 しばらくの間、精霊魔法を使えるのは勇者と限られた人間だけであり、精霊は日常とは隔絶された神秘的な存在だった。


 精霊が日常生活と密接にかかわるようになるのは、これより先の時代、わが国の前身たる共同体「精霊の隠れ里」の出現を待たねばならない。
 隠れ里の登場をもって精霊文明が誕生したことを、私は主張したい。




【たべものの精霊 著者不明】


 むかしむかし、わたしたちの国ができるずっとむかし、勇者さまがこの大地にやってきました。
 勇者さまはとてもつよくて、まものからみんなを守りました。


 けれども、たべるものがありません。
 畑をつくろうとしても、あれはてた大地では、たべものができません。
 森へ入ろうとしても、たくさんのまものがいるせいで、たべものがありません。
 困りました。勇者さまでも、たべものを作ることはできませんでした。


 そのとき、土の精霊さまが、あらわれました。
 精霊さまは、勇者さまとけいやくし、大地をみどりに変えました。
 勇者さまはよろこびました。


 けれども、すぐにはたべものはできません。
 しょくりょうは、いまにも底をつきそうでした。
 精霊とけいやくした勇者さまは、作物を育てるまほうを使いました。
 作物はぐんぐん育ち、あっというまにたべものになりました。


 こうして、たべものに困らなくなった勇者さまたちは、しあわせに暮らしましたとさ。
 ですからいまも、わたしたちはかんしゃを込めて、土の精霊さまを、たべものの精霊と呼んでいるのです。




【第四文明論 ~精霊文明の勃興~ 著バネッサ・ブラス】


 科学が支配した第一文明
 神々が統治した第二文明
 魔法が力をもつ第三文明
 精霊と共にある第四文明


 リ=アースは、四回の文明期と暗黒期を繰り返している。 
 第一文明は『科学』によって栄え、世界をあまねく支配した。
 しかし、その科学が生み出した大量破壊兵器によって滅んだ。
 ヒューマンによる国家が分立し、世界大戦が起こったからだと言われている。
 当時の遺産(アーティファクト)が時折遺跡から発掘されるが、今の我々では到底復元しえない高度な技術がつかわれていることが分かっている。


 その科学文明が衰退した暗黒期に、ヒューマンだけでなく、獣人、エルフ、ドワーフ、魔族といった種族が勢力を伸ばした。
 彼らがなぜ出現したのか。それは今なお論争になっている。


 帝国のヒューマン至上主義者は、科学文明を築いたヒューマンの優越を唱えている。
 獣人やエルフたちは亜人(ヒューマンのできそこない)であり、奴隷として使役されていたというのだ。
 筆者はこの意見には全くもって反対であり、帝国の野蛮人の妄想としかいいようがない。


 種族間戦争が絶えず起こり、科学文明は破壊されつくした。
 これを見かねた創造神は、従属神を遣わし、神々の統治により、世界に安寧がもたらされた。
 これが、第二文明、通称神聖文明である。


 しかし、職業、民族や種族によってバラバラの神を崇めた結果、信者同士で確執が起こる。
 始まりは、どの神が優れているかという神学論争だった。
 それは従属神の間にも波及し、改宗を迫って戦争が勃発した。
 大戦によって世界は崩壊し、神々も去り第二文明は衰退した。
 

 この時期に、現代まで続く人類の脅威である『魔物』が誕生したといわれている。
 創造神の怒りに触れた人類への天罰こそが魔物だと主張する者もいる。
 筆者もこの見解を支持するが、いまだかつて創造神が降臨したことはなく、証明が困難である。  
 結果として、強力な魔物の出現は、人類の生存領域を著しく縮小させた。


 宗教戦争で滅びた第二文明の後の暗黒期、唯一神を崇めるヒューマンの帝国が世界を統一した。
 彼らは、『魔法』という超常の技術を用いて、魔物を駆逐し、瞬く間に世界を征服してのけた。
 第三文明こと魔法文明の成立である。
 しかし、魔法の優劣は血統と才能に依存し、魔法の力をもつ特権階級を生み出した。貴族の始まりである。
 帝国の貴族は魔法の力を独占し、平民や他種族を虐げた。


 あるとき、『魔王』が誕生し、文明を脅かした。
 圧制を敷く帝国に対する創造神の天罰ともいわれたが、真偽は定かではない。
 しかしながら、帝国が召喚した勇者によって、魔王は速やかに退治された。
 腐敗や矛盾を抱えつつも帝国の支配は、盤石にみえた。


 ところが、その勇者の反乱によって、国が割れることになる。
 これはのちに、宗教戦争、解放戦争と呼ばれ、一神教、ヒューマン至上主義との戦いだったといわれる。
 だが、時が経つにすれ当初の理想は忘れ去られ、単なる権力闘争へと変じていった。
 血で血を洗う凄惨な内乱は、魔法文明を衰退させた。
 帝国は、暗黒期を迎えることとなる。


 一方、勇者は失意のうちに王女とともに帝国を去り、人跡未踏の地、東方フロンティアへと向かった。
 未知の強大な魔物が住み着く大森林とそこにたどり着くまでの不毛な大地。 
 大地は農地に適さず、大森林は危険が大きい。
 開拓は困難に思われた。――が、驚くほど順調に進んだ。


 その原動力となったのが、『精霊魔法』である。
 記録によると、勇者が世界最初の精霊契約者であった。
 我々精霊国人にとって、記念すべき日であり、精霊記念日として祝っているのは周知の事実であろう。
 精霊魔法はすぐに開拓民へと広まった。
 

 精霊の力によって、開拓団は大きくなり、精霊国の礎となった。
 人の善意を司る精霊は、我々に大きな恩恵をもたらした。
 種族差別も奴隷もない。精霊の前に人は平等なのである。
 衰退する一方の野蛮な帝国人とは好対照だ。
 もはや精霊魔法抜きには、現代世界を語ることはできないだろう。
 

 ――――そう、第四文明の幕開けである。 
 

 
後書き
・エルフたちや魔物の世界設定は神様視点で徐々に明らかになっていきます。実は科学文明の実験体の生き残りだったり……
・歴史書は世界の住人視点であり、神様視点の真実とは必ずしも一致していません。精霊は世界を操る黒幕ですが、この世界の住人は、自然と人間の味方であり、善意を集め世界を支えている存在だと思っています。悪意がたまると、精霊魔法は使えなくなるからです。
・期待の新人神様の主人公ですが、全知全能ではありませんので、いろいろと工夫して世界を操っていきます。その根幹が「精霊システム」と「ダンジョン」でした。
 

 

神様になって世界を裏から操ります、黒幕は精霊です~箱庭の絶対者~その2

 
前書き
・続いてしまいました。
・ついつい他の作品に浮気してしまいます。充電中。
・神様視点、住人視点、歴史書視点の3つになっていますが、すべて時間軸がずれています。読みづらかったらごめんなさい。 

 
「ざんねん、君は死んでしまった」


 真っ白な空間で、突如頭の中に声が響く。
 ここは一体どこで、この声の正体は誰だ?


「おや、冷静だね。素晴らしい、君には素質がある」


 思い出せ。俺は何をしていた?
 そうだ、期末テストが終わった帰りにゲームを買いに行った。
 その帰り道、目の前で子供が車道に飛び出して、トラックに轢かれそうになるのを目撃した。
 俺は、とっさに子供を庇って……経験したことのない衝撃、身体がバラバラになる感覚。
 泣きながら俺に縋りつく子供の姿が、最期の光景だった。無事でよかったじゃねえか。


「うし、思いだした。俺、死んだんだな」
「その通りだけれど、君は本当に冷静だね。普通、死んだらショックじゃないのかい」
「過去は過去、気にしてクヨクヨするよりも、俺はいまに全力を注ぐ主義なんだ。親父の教えでな。親孝行できなかったのは申し訳ないけれど。で、だ。俺を呼んだ目的はなんだ」
「頭も回る。やはり君は逸材だ――神様転生って知ってるかい」


 てなわけで、喜び勇んで神様転生を承諾した俺は、異世界――リ=アースというらしい――の神様になりました。
 どこかの貴族の息子に転生して、大好きな内政チートをやりつつ、ハーレムを造る計画だったのに。
 神様『に』転生したのね。詐欺だ。
 どうして俺が呼ばれたのか。それは、この世界が何度も滅びかけるほど不安定だからだ。
 当然、リ=アースの神様も、何とかしようと努力したんだが、うまくいかなかった。
 そこで彼女は、賭けに出た。新しい神様を呼んだんだ。


「―――それが俺。だいたいあってる?」
「ええ、勝手に呼び出してしまって悪いと思ってるわ。けれども、お願い! 世界を救って」
「いいよ」
「えっ? 本当にいいの?」
「男に二言はない。一緒に世界とやらを救ってやろうぜ?」
「……ありがとう」


 ほろりと涙を流している目の前の幼女こそが、リ=アースの神様だ。
 軽く話を聞いたが、本当に苦労してきたのがよくわかる。
 たった一人で、世界を見守ってきたのだ。なにせこの世界は、二度も滅びかけている。
 そして、このまま放置していれば、三度目の滅びを迎えるだろう。なんて厄介な世界なんだ。
 ところで、お互い自己紹介したのだが、彼女には名前がなかった。
 呼びづらいから、名前を付けてくれと頼んだら、俺に頼まれた。


「リ=アース……"Re: Earth"の神様だから、ちょっと安直だが『レース=テッラ』なんてどうだ?」
「うーん、気に入ったわ。私はいまからレース=テッラよ。レースって呼んでちょうだい。よろしくね、ヤト」


 あ、俺の名前は、八戸矢斗といいます。神様ネームは、ヤトにしました。 
 お互いを知るために、雑談を交わす。名前を呼ぶだけでも親近感がわくものだ。
 俺とレースは、一心同体の相棒。喧嘩して世界が滅んだら洒落にならん。
 会話が盛り上がってひと段落ついたところで本題に入るとしよう。


「ではレース、今世界はどうなっているんだ」
「いまはね、アストラハン統一帝国が大陸を支配しているわ。時間が経つにつれ腐敗していってね。一部の魔法使いが帝国を牛耳っているの。魔法至上主義っていうのかしら? さらにヒューマン至上主義でもあるから、平民や他種族が弾圧されているのよ。もう、酷いもんだわ」
「ふむ、魔法を使える王侯貴族だけに、富と権力が集中しているのか」


 詳しく話を聞くと酷い酷い。魔法というのは、血筋がものをいうらしく、貴族がその血筋を独占しているのだ。
 帝国黎明期に貴重な戦力となった魔法使いが貴族になったわけだ。
 魔法を使えない平民は、貴族に搾取される他ない。いや、平民はまだいい。彼らはヒューマンだからだ。


 リ=アースには、多様な種族が暮らしている。
 もっとも数が多いヒューマン。
 獣の力をもつ獣人。
 魔法に秀でた美しいエルフ。
 鍛冶に愛されたドワーフ。
 数は少ないが強大な力をもつ魔族。
 大陸全土を支配しているアストラハン統一帝国は、ヒューマンの国だ。
 彼らは、他種族を亜人と蔑み、奴隷として酷使していた。その待遇は、俺に怒りを沸かせるに十分だった。


 よし、帝国を滅ぼそう。
 

 同じことをレースは考えたらしく、世界の均衡を保つため魔王を生み出した。
 共通の敵が存在すれば、仲間意識が芽生えると考えたからだ。
 だが、それは失敗に終わる。
 帝国が勇者を召喚し、あっさりと魔王を倒してしまったからだ。
 放っておいても腐敗した帝国はいずれ倒れるだろう。しかし、それではだめなのだ。
 身分や種族の差別は憎悪の連鎖をうむ。膨れ上がった憎悪は、世界を破壊するだろう。
 困ったレースは、俺を召喚したわけだ。


 ここでうれしい誤算が起きる。
 平民や奴隷の扱いに憤った勇者が、帝国に反旗を翻したからだ。
 こいつは使える。俺は、勇者をうまく利用して、新たな『都合のいい』文明を造ることを決意した。





「――――≪グロウ・プラント≫  ふぅ、これで今年も無事に冬を越せそうだな」
「全くです。いやはや、精霊魔法様様ですな。麦がみるみる成長していきますね」
「その代り、味がなあ」
「ははは、成長促進の代償ならば仕方ありません。飢えて死ぬよりずっとましです。それよりも、姫様の方が心配です」
「エリィは文句も言わず食べているよ。みんな飢えずに済んでうれしいって、笑顔でさ」
「姫様……立派にご成長なさって、うぅ」
「泣くなよセバスチャン」


 赤茶けた大地はかつての姿を変え、緑あふれる草原となった。
 開墾も順調に進み、広大な農地が広がる。
 この地へ来て早5年。最初は、冬越えだけで精一杯だった――いや、ノームが現れなければ、全滅していたかもしれない。
 俺は土の精霊ノームと契約して、最初の精霊使いとなった。
 精霊魔法はとても便利で、大地に栄養を与える魔法、農地を耕す魔法、植物を成長させる魔法など生活に密接していた。
 勇者時代にお世話になった魔法は使えなくなったが、それを引いても精霊魔法には大助かりだ。


「しかしタロウ様お一人に頼ってしまい申し訳が立たず」
「気にするな、といいたいところだけれど、俺一人じゃだめだよな。で、ノーム的にはどうよ?」
『そろそろ新たな精霊使いがうまれるとおもうぞ。開拓民たちは、実に善良な人々じゃな。これなら、一気に増えるじゃろ』
「そういってくれると助かるよ。彼らは、腐った帝国に嫌気がさして、こんな辺境までついてくれた仲間だ。悪人であるはずがないじゃないか」
「タロウ様、ノーム様はなんと?」
「ああ、俺にしか精霊が見えないんだっけ。ノームは、みんなが善良だからこれから精霊使いは増えていくだろうって言ってる」


 おお。なんと恐れ多いと再び感涙するセバスチャンをみて、苦笑してしまう。
 彼はもともとエリー付きの侍従長だった。
 素人の俺が解放戦争なんて大それた真似ができたのは、彼がブレーンとして影に日向に活躍してくれたからだ。
 もういい歳だというのに、まだまだ現役です、と言い放って俺たちの世話をあれこれとしてくれる。
 本当に頭が上がらない存在だ。


「た、タロウ様、大変です!」
「みんな慌ててどうした? まさか、また魔物が攻めてきたのか!」
「違います違います。ほら、この手を見てください」
「契約の指輪!? そういえば、精霊がたくさん増えている……?」


 この後は、大騒乱のあとみんなで宴会を開いて大騒ぎした。
 土の精霊ノームと契約したものが、三名。それに加えて、サラマンダーと契約したものが出た。 
 ここで精霊の容姿に触れると、ノームはいかにも頑固なおじさんの恰好をしていて、サラマンダーは筋骨隆々の青年の姿をしている。
 男ばかりで残念、と思っていたら、ウンディーネとシルフとアウラは、女性らしい。ノームに聞いた。
 これで開拓村の食料生産はぐんと上昇した。
 味を犠牲にして促成栽培していたが、余裕がでたことで、うまい飯を食えるようになった。
 

 ところで、この東方フロンティアに広がる樹海――俺たちは死の森と呼んでいる――は、強力な魔物ばかり生息している。
 正直開拓民では、敵わない。熟練の魔法使いと勇者の俺だけで対応している。


「魔物が襲撃してきたぞ!」


 この日も、魔物が攻めてきた。たしかに、ここいらの魔物は、とんでもなく強い。
 けれども、魔王すら倒した勇者の敵ではない――――はずだった。


「くそっ、回り込まれたぞ!」


 魔物の群れに真っ先に切り込んだのは、うかつだった。いつもなら、これで味方の士気があがる。
 だが、いつの間にか足の速い魔物が、迂回するように押し寄せてきたのだ。
 急いで避難所に向かうが、間に合いそうにない。最悪の事態を想像した俺が見た光景は、魔物と互角の戦いを繰り広げている精霊使いの姿だった。
 土の壁で非戦闘員を守り、炎を浴びせて焼き払う。
 元農民の彼らが、魔物と渡り合っているのだから驚きだ。
 とくに、サラマンダーと契約した元近衛騎士――エリーについてきた――は、鬼神のごとき活躍だった。
 サラマンダーは、炎を操るだけではなく、身体能力まで強化してくれるらしい。


 新たに生まれた精霊使いによって、開拓は加速していくことになる。





【精霊と魔法の相違に関する批判的論考  著チルミー・フィル・キュンメル】

 精霊魔法とは、人間が使う魔法とは全くことなる技術である。
 まず、魔法とは何か。それは、人がもつ進化の可能性である。
 人類は最初から魔法を使えたわけではない。
 事実、科学文明や神聖文明で魔法を使っていた記録はない。


 魔法使いとは、繰り返される淘汰の果てに現れた、進化した人類なのである。
 優れた血統と才能を持つ人間だけに許された奇跡こそ魔法なのだ。
 聖王エルドリッジは、その最たる例である。
 アストラハン統一帝国による世界統一という人類初めての偉業の原動力となったものは、魔法であった。
 魔法は、敵を打ち払い、傷をいやし、便利な道具を生み出した。 
 我々の魔法文明は、選ばれし人類の究極の発展形なのである。


 話を戻そう。では、なぜ精霊魔法は魔法とは異なるのか。
 それは、精霊と契約すると、人類の魔法が全く行使できなくなるからである。
 精霊は契約者の魔力を糧に、数々の精霊魔法を行使する。
 しかし、魔法の細かい制御は精霊任せであり、柔軟性に欠けるという大きな欠点をもつ。


 呪文を唱えるだけで、手軽に使える点をメリットと唱えるものもいるが、大いなる過誤である。
 何もかもを精霊に任せてしまっては、精霊のいいなりなることと同義である。
 精霊が契約者に反旗を翻す可能性とて皆無ではないのだ。
 人がもつ魔法という可能性を捨ててまで、精霊に迎合する昨今の情勢に、筆者は危機感を禁じ得ない。
 優良種たる魔法使いこそ、人類の導き手に相応しいと強く主張するものである。




【誰でもわかる精霊魔法  著アウレリア魔法大学教育出版部】

 精霊魔法とは、精霊と契約した人間だけが使える特別な魔法のことです。
 ただの魔法と異なり、精霊と協力して魔法を使うことで、誰でも簡単に魔法が使えるようになります。
 

 では、どうすれば契約できるのでしょうか。
 一般には、善行を積んだ人間の前に、精霊は現れるといいます。
 精霊側から契約をもちかけられ、承諾すると、契約の指輪を与えられます。
 この契約の指輪は譲渡可能で、先祖代々受け継いできた精霊使いもいます。
 精霊は善良な人間を好みます。たとえ、精霊使いになれても、悪行を積むと、精霊は去ってしまいます。
 ゆえに、精霊使いは信用されるのです。


 精霊魔法は、6種類の属性に分かれています。

 火のサラマンダー
 土のノーム
 水のウンディーネ
 風のシルフ
 光のアウラ
 闇のシェイド

 それぞれに特徴があり、扱える精霊魔法も全く異なっています。
 一度に契約できる精霊は一人までなので、複数の属性使いは、滅多に表れることはありません。
 次章で、個別の属性をみていきましょう。 

 

書いてみたいネタ

 
前書き
書きたいネタはいろいろあるんですけどね。集中してかけないです。 

 
・ISに転生ってあんまりだ!
テンプレ神様転生に遭遇した主人公。IS(インフィニット・ストラトス)の世界を転生先んじ望んだ。……なんで転生先がIS(イスラミック・ステート)なんだよ! IS違いじゃねえか。イスラム国指導者に転生とかあんまりだ! なんやかんやで転生特典を生かして中東に平和をもたらす話。


・東方革命記(幻想郷がソ連に蹂躙される話)
ソビエト・ロシアでは、幻想郷がレミリア・スカーレットを革命する!
ソ連を建国して赤く染まった紅魔館一行が幻想郷を革命する話。ゲート編とFate編もあります。主人公の宝具は『母なるロシアの大地≪ゲート・オブ・ソビエツキー・ソユーズ≫』


・借りぐらしのスカリエッティ
スカリエッティになった主人公がはやての家で暮らす話。ウーノとはやては嫁。ヴィヴィオは娘。アンデルセン神父ごっこをしたりもする。ギャグ物。


・めざせ踏み台マスター
主人公は、リリカルなのは世界に転生した。転生先の名前は、ミハエル・カラシニコフ。世界的な有名銃器デザイナー……とは一切関係ない。銀髪オッドアイの彼は、踏み台転生者になることが神の試練だと勘違いして、踏み台目指して空回りする話。原作知識がないので勘違いされまくり。相棒のデバイス『AK-47』とハムスターの使い魔『ドラグノフ』とともに今日も頑張ります。


・高町なのはは狂っている
高町なのはの双子の妹、高町青葉は、魔力ランクFの転生者。しかし、前世の記憶はない。非力な彼女を巻き込まないため、姉のなのはは、魔法のことは内緒にしていた。クリスマスの夜、青葉は、間違えてシグナムに襲われて魔力を蒐集される。青葉は気絶したまま雪の降る路地に放置された。そして、そのまま死亡。同日、闇の書事件を解決してハッピーエンドに満足したなのはは、気づかなかった。なのはさん闇落ち。
 同じく転生者だったスカリエッティが青葉を蘇生。前世の記憶を思い出した青葉は、彼に協力。管理局を革命しようと、STSで姉とぶつかる。全編シリアス。


・ぼくのかんがえたさいきょうのトリューニヒト
銀河英雄伝説の悪役ヨブ・トリューニヒトに転生。転生先をよく聞いてなかった彼が望んだ転生特典は、フリーザ様の力――すなわち、戦闘力53万。が、使い道がなかった。とりあえず、ハイネセンに侵攻してきたヒルダの艦隊をデスボールで消滅させたことで、ヤンがラインハルトを殺すことができた。そんなテキトーな話。
 

 

羞恥心で死にそうだ!

 
前書き
・一発ネタ「目指せ踏み台マスター」
・原作はリリカルなのは
 

 
「エイナ、セットアップ!」
≪Резервная леди, установка!≫


 旧ソ連軍の軍装――残念ながらこの場の人間は知らなかったが――に身を包んだ子供の声が響き渡る。
 全体的に地味な色合いの軍装だったが、赤い星がトレードマークになっていた。
 手にはアサルトライフル――AK-47――をもち、背後を使い魔らしき女性が守っていた。
 突然の闖入者に、時空管理局の若き執務官クロノ・ハラオウンは目を見張った。
 とはいえ、彼の仕事は変わらない。


「まだ魔導師がいたのか!? 管理外世界での魔法の使用は違法だと知らなかったのか?」
「そんなことはどうでもいい。お前、フェイトをどうするつもりだ」
「……違法な魔法行使の現行犯で、連行するところだ」
「俺は管理局なんて知らない。だから、そこの黒いのが正しいのかもしれない。けれどな――――」

 
 そう言って、キッとクロノを見据える。
 クロノは思わず身構えた。
 目の前のおそらく10歳にも満たないであろう少年に気圧されたのだ。
 あらためて少年を観察してみると、輝く銀髪にルビーとサファイアのオッドアイ。
 驚くほど整った容姿をしていた。
 手に持った武器は、一見質量兵器にも見えたが、デバイスのようだった。
 

 そしてなにより、その恐るべき魔力量。
 目算だがSランクを超えているのではないだろうか。
 彼は小さな、しかしよく通る声で朗々と言い放った。


「俺の嫁に、手を出すな」


 バインドに捉えられたフェイトは、ミーシャ、とつぶやくと満更でもなさそうに照れていた。
 その一方で、もう一人の少女なのはは、一気に不機嫌そうなオーラを放つ。
 オーラは溢れだす魔力となって、空間を震わせていた。
 そして、そんななのはを見て、フェイトが、フッ、と勝ち誇った表情をしているのを見てしまった。
 嫁? 修羅場になった場にクロノがおののいていると、その張本人は、場の空気にも気づかずに悶えていた。


(は、恥ずかしいよぉ……)


 怜悧な美貌の下で、羞恥心に身を震わせていたのだった。





 俺の名前は、ミハエル・カラシニコフ。
 俺には秘密がある。
 銀髪オッドアイ、無限の魔力、チートデバイスなどなど。 


 そう、俺は『転生者』なんだ。
 しかも、『踏み台転生者』なのだろう。
 え、かわいそうって?
 そんなことない。
 残念ながら転生させてくれた神様にはお会いしたことはないが、心から感謝している。


 俺の前世は、ずっと不治の病との闘いだった。
 ずーっと病院のベッドで過ごす日々。
 結局、一度も学校に行くことができずに死んでしまった。
 だから、転生神には、心から感謝しているし、毎日お祈りを欠かしたことがない。
 この容姿に気付いたとき、俺はすべてを理解した。
 『踏み台転生者』となって正統派オリ主の糧となることこそ、神に与えられた使命なのだ、と。


 どうやらこの世界は、魔法少女リリカルなのはの世界らしいんだよね。
 だから頑張ってなのははもちろん、すずかやアリサに嫁発言をして踏み台っぽさを演出している。
 その甲斐あって、俺が声をかけると、怒りで顔を真っ赤にしてくれる。
 なぜか友人には爆発しろ! とか言われるが。
 でもね。やっぱり精神年齢的にいい歳した大人が、幼女に嫁嫁いうのは、恥ずかしい。
 好きなんじゃないのかって? 俺はロリコンじゃないので対象外です。


 銃型デバイスAK-47――愛称エイナ――とハムスターの使い魔ドラグノフとともに、理想の踏み台目指して今日も頑張ります!


 だから、はやく正統派オリ主よ。来ておくれ。
 羞恥心で死にそうだ。
 
 

 
後書き
・ふと思いついたネタでした
・AK-47、つまりカラシニコフをカラシニコフくんが使ってみました
・ロシア人の男性名ミハエルの愛称はミーシャなんだそうです。かわいいですね。 

 

テイルズオブ転生者ネタ「サーヴァントドミネイター爆誕」

 
前書き
・続きました 

 
 冬木市。
 とある名家の屋敷にて、怪しげな儀式が行われていた。


「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
 繰り返すつどに五度。
 ただ、満たされる刻を破却する」


 力ある言葉が、響きわたる。


「汝三大の言霊を纏う七天、
 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」


 呪文を唱え終えると、屋敷に何かが激突したような大音量が鳴り響く。
 すわ何事かと身構え、召喚に失敗したのかと青ざめる。
 とりあえず、確認しなければならないと気を取り直し、震源地へと向かう。
 現場についた少女――彼女が召喚の儀式を行った――が見たものは。


「って、死にかけじゃない!?」


 血まみれの偉丈夫が横たわっていた。
 召喚してそうそう死なれたなんてたまったものではない。
 泣く泣く父の形見のとっておきの宝石を使って治療した。
   

「サーヴァントドミネイターだ。救命感謝する。」
「マスターの遠坂凛よ」
「死にかけの私を治療するとは……マスターは偉大な魔術師なのだな」
「べ、別に大したことないわよ」
「私は詳しくないが、触媒の宝石は貴重なものなのだろう? ……すまない」
「マスターなんだから当然のことをしたまでよ」

 
 目覚めたサーヴァントは、ドミネイター(侵略者)を名乗った。
 まさかのイレギュラークラス。セイバーを狙っていたのに、と一瞬気落ちするが、すぐに気持ちを切り替える。
 理由はどうあれ、英霊は英霊である。マスターとして選ばれた以上、義務を果たすのみ。


「ところで、貴方は何の英霊なのかしら? ステータスは……ってえええ!?」
「どうしたマスター、そのような奇声を上げて」
「な、なんなのよこれ!」
「ん?」
「あんたのステータスよステータス!」
「む、そんなにステータスが低かったのか。これでも自信があ——」
「違う! 高すぎよ、あんた何者なの?」


 あらためて、青年、ドミネイターを見つめる。
 赤いバンダナを巻き、流れるような金髪を背に流し、ボロボロだがどこかの民族衣装のような恰好をしている。
 驚くほど整った顔に、サファイアの瞳は叡智を感じさせた。
 ステータスは魔術師寄りだがすべての能力値が驚くほど高い。
 そして、彼はよく響く特徴的な声で名乗った。


「我はデリス・カーラーンの使者、ダオス」


 聞いたことない英霊の名前に凛は混乱する。
 幸か不幸か、典型的な魔術師である凛はパソコンを持っていなかった。
 もし、インターネットで検索していたら彼女はもっと混乱していたかもしれない。
 いまだインターネット黎明期とはいえ、ダオスの名前はすぐに見つかったはずだ。
 凛が知らないだけで、彼はこの世界でも名を(一部で)知られていた————SFC、PSゲーム、テイルズ・オブ・ファンタジアのラスボス、ダオスとして。





 やっぱつええな、クレス・アルベインたち。さすがは、主人公。
 ああ、俺……死ぬんだな。
 精霊マーテルよ! 俺は死んでも構わない。だから、どうかどうか、大いなる実りを俺の故郷に、デリス・カーラーンに届けてくれ!
 頼む!!!! …………まさか、だめ、なのか。

 これは、クレス・アルベイン!? お前たちまで、デリス・カーラーンのために祈ってくれるというのか。俺のために泣いてくれるというのか!  ああ、お前たちこそ本当の勇者だ。
 おお、マーテルよ! これこそが大いなる実り。
 俺の亡骸といっしょに母なる星へ届けてくれるというのか。
 ……ありがとう。ありがとう。

 父ちゃん、母ちゃん、みんな。どうか、元気、で……来世があるならば、今度こそ……誰にも迷惑をかけずに、人の役に立ちた……い、な。

(その願いききいれました)

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
 繰り返すつどに五度。
 ただ、満たされる刻を破却する」

 ん? 身体が引っ張られていく!? なんかいろんな知識が流れ込んでくる。
 は、聖杯戦争? ……ハアッ!?

 そして、俺は轟音とともにマスターの家に墜落。
 ドミネイターとして新たな生を受けたのだった。いきなり死ぬかと思った。





「ダオス? 聞いたことのない英霊ね。それに、デリス・カーラーンって何よ」
「私の正体を一言でいえば、異世界の魔王だな」
「何馬鹿なこといってるの。いまはふざけないでくれる?」
「ふざけてなどいないのだが」


 遠坂凛は混乱していた。
 自分のことを異世界の魔王だと抜かすなど、脳みそ沸いてるんじゃないの。
 しかし、ドミネイターは至って真面目な様子だった。
 異世界とやらについて問い詰めてみると、理路整然と答えが返ってきた。
 デリス・カーラーンとは彼の母星であり、滅亡を回避するため単身アセリアという星に旅立ったらしい。
 アセリアでの出来事に関しては口をつぐまれたが。
 魔王と呼ばれるほどのこと仕出かしたのだ。答えたくはあるまい。
 死にかけだったのは、異世界の勇者との最終決戦に敗れたところに召喚されたから。
 確かに辻褄はあっている。


「オーケー、とりあえずあなたの話、信じてあげる。でも何か証拠になるようなものはないの?」
「ならこれはどうだ―――――<タイム・ストップ>」
「消えた?」
「これで信じてくれるかね」

 うひゃあ、と淑女にあるまじき悲鳴を上げて凛は振り返った。
 そこには目の前にいたはずのドミネイターがいた。
 転移魔法、確かにさすが神代の魔術といえるが、異世界の証拠にはならない。
 だが、ドミネイターからの返答は——。

「時を止めた、ですって?」
「聖杯からの知識によれば、時を止める魔術はないのだろう。他にもこの世界にはない魔術や法術はあるが、攻撃魔法が多くてな。まさかいきなり隕石を落とすわけにもいくまい」
「当たり前でしょ!」


 その後何度か<タイム・ストップ>を使わせて、ようやくこれが時を止める魔法であると理解した。
 そう『魔法』である。人類がなしえない超常現象であり、魔術とは一線を画す。
 凛とて魔法に到達するために聖杯戦争に挑んだのだ。
 いきなり魔法に出会えるとは、さすが聖杯戦争ね、と独り言ちる。


「ドミネイター、他にはどんな魔法を使えるの?」
「そうだな……私がよく使うのはブラックホールやビックバン、タイダルウェーブあたりだな」
「な、なんか名前だけで凄そうね」
「冬木市くらいなら簡単に廃墟にできるな」
「ドミネイター! 大規模魔法は封印よ。いいわね」
「承知した。あと、私オリジナルの必殺技もある」
「へー、必殺技、かっこいいじゃない」
「ダオスレーザーにダオスコレダーだ」
「……」


 ふふん、と自慢げに必殺技を語るドミネイターに凛は閉口した。
 

 

プラウダVSイズベスチヤ

 ソ連における二大新聞は何か、と問われれば多くのソ連人はこう答えるだろう。
 プラウダとイズベスチヤの二紙であると。プラウダは「真実」、イズベスチヤは「情報」を意味している。
 そして、ソ連人はこう続けるだろう。


『プラウダにイズベスチヤはなく
 イズベスチヤにプラウダはない』





「ちょっと、この記事まだ出てないの!? 印刷間に合わないわよ!」
「レミリア書記長の特集記事が検閲から帰ってきましたー、まっくろくろすけになってますー」
「ひーん、もう10日も家に帰ってないですー」


 日付が既にかわった深夜のビルの中で、怒号が飛び交っていた。
 ここはモスクワにある大手新聞プラウダの本社。大勢の記者たちが集い、連日のように明かりが消えることのない不夜城だ。


「あやややや、皆さんお疲れのようですね」
「しゃ、射命丸編集長!」


 誰かが叫ぶと、フロアの人間が一斉に烏天狗の少女に敬礼した。
 彼女の名は射命丸文。プラウダの編集長であり、空軍の重鎮でもある。
 本人は記者の仕事が本命だと思っているが、周囲には物好きな将軍だと受け止められていた。


「えー、敬礼はいいっていってるのに」


 畏まられるのはどうも馴れない。まあ、彼女の地位を考えれば仕方がないのかもしれないが。


「満州にて某重大事件発生!?」
「そう、当局から指示を受けて私が書きました。原稿はできているので、間に合いますよね?」


 そういってにやりと笑った。


「ふふふふふ、政府情報に精通した私に勝てますかね、はたて編集長?」





「へっくしゅん」
「いかがいたしましたか、はたて編集長」
「なんでもないわ」


 誰か私の噂でもしているのかしら。プラウダの文が何か特ダネを拾ってきたらしいわね。
 わがイズベスチヤの発行部数はプラウダとほぼ互角。
 特ダネということはどうせあの人がらみの記事でしょう。
 なら、こっちも同じような記事でインパクトのあるものを書けばいい!

 
「勝つのは私よ!」





 満州某重大事件が発生!? 


 何が起きたんだ。と慌てて新聞をみたら俺が観光旅行にいったのがバレただけみたい。
 なんだよ某重大事件って。にしても、この二紙は相変わらずだよなぁ。
 

 プラウダの方は当局の情報をそのまま掲載する大本営発表だし。一応情報は正確なんだけれど、面白みがないんだよね。当局というかほとんどフランからの指示みたい。
 イズベスチヤのほうはノリがスポーツ紙だし。なんだよ、レミリア宇宙人説って。俺は宇宙人じゃないよ……転生者だけど。情報は満載なんだけれど、ゴシップばかりという体たらくである。


 おかしいよなあ。原作ではゴシップ満載の「文文新聞。」編集者の射命丸がプラウダの編集長だなんて。幻想郷じゃなくてソ連に来てくれたのはうれしいけれど……。うー、なんか意図せず原作ブレイクしちゃったなあ。
 というか、射命丸の記事って俺の個人崇拝の記事が多すぎなんだよ。フランと仲良しなのはいいけどさ。狂信者の射命丸文なんて見たくなかったよ!


 その点、俺のことも遠慮なく茶化したてるはたての方が気が楽かな。KGBというかフランにはマークされまくっているみたいだけれど、ご愁傷様。 

 

神様になって世界を裏から操ります、黒幕は精霊です~箱庭の絶対者~その3

 
前書き
・続きました。実は結構書き溜めてあります。オリジナルの世界を夢想するのは楽しいですね。
・勇者タロウたちが精霊と契約した年が精霊歴元年になります。
 

 
【精霊歴24年】

「すごい賑わいだ」


 ロムルス連邦から精霊国へと初めて訪れたモンタナはその賑わいに驚いた。旧帝国から王国を通り国境を抜けた先の大街道では、ひっきりなしに人が往来している。
 かつてこの東方フロンティアはひび割れた大地と魔物が支配する樹海が広がるだけの不毛の地だったと聞くが、信じられない。
 今年15歳になったばかりのモンタナは、勇者の反乱後の生まれであり、その恩恵を受けていた。彼の生まれであるロムルス連邦は多数のビースト部族の連合国家であり、モンタナも犬のビーストだ。


 彼の両親は元奴隷であり、解放後商会を起こし、いまは中規模の商会として地元で頑張っている。
 次男のモンタナも長男の手伝いをしていたが、両親の反対を押し切って精霊国に一旗揚げに来ていた。15歳になって成人してから、そのお祝い金を手に家出同然で出奔した。きっと、家族は心配しているだろう。少しだけ申し訳なく思う。笑ってこっそり送り出してくれた兄には一生頭が上がらないだろう。
 なぜ彼が出奔したのか。そこにはロムルス連邦の複雑な内部事情がある。


 アストラハン統一帝国時代、長らくビーストは奴隷として使役されてきた。
 20年以上前の勇者の反乱によって彼らは解放され、大陸東北部の草原地帯(グラスランド)に部族ごとに分かれて住むことになった。
 勇者の元に行くものもいたが、大半がグラスランドに行ったのは、そこがビーストの聖地であり、居住に適していたのが大きい。
 彼らの伝承によれば、グラスランドにおいて神聖文明(第二文明)時代に、ビーストの神のもと大帝国を築いていたという。


 最初部族ごとばらばらに住んでいた獣人たちは、帝国の圧力に対抗するため、勇者が精霊国を建国するのに倣って、ロムルス連邦をつくった。
 しかし、どの部族を盟主にするかを巡り内部で対立が激化した。
 ずっと分断され奴隷として過ごしてきた彼らには統治のノウハウや仲間意識が欠如していたのだ。そこに帝国の暗躍も加わる。
 結局、奴隷解放戦線のリーダーが猫のビーストであったこともあり、猫族から初代盟主が誕生したが、他部族の不満は大きい。


 そんなギスギスした空気に嫌気がさしたモンタナは精霊国を目指したのだった。ビーストを含め多種多様な種族が住むという楽園を一目みてみたかった。
 遠くに町が見えてきた。堅牢な城塞都市だ。カポカポと進んでいく荷馬車を操りながら、その精霊国への玄関口、サラマンダリアの門前へと向かう。
 二度の攻防戦を耐え抜いただけあって、歴戦の風格を伴っている、と思った。事実、城壁の高さは帝都と比べても遜色がない。もっとも、一番の特徴はやはり中央にそびえ立つ巨大な銅像だろうか。


 巨大で重厚な門の前には、早朝にもかかわらず行列ができていた。早くから門が開いているのにも驚いたが、その行列の長さにも驚いた。どれくらいかかるのか、と辟易とする。
 ゆっくりと荷馬車を向かわせ、列にならぶ。様々な種族、職業の人間がいるが、やはりモンタナのような行商人が多いように見受けられる。物珍し気にキョロキョロしていると、前に並んでいたヒューマンの少女が声をかけてきた。


「サラマンダリアは初めてですか?」
「ええ、そうなんです。精霊国に来るの自体が初めてでして」
「そうなんですか。実は、私は将来外へ行くつもりなんですが、精霊国を出たことがないんです。外の話を教えてくれませんか」
「ええ、かまいませんよ」


 そういうと、ヒューマンの少女は笑顔でモンタナの話をせっついた。美人ではないが愛嬌のある顔をしており、赤毛を三つ編みにしているのが特徴か。快活で明るい性格の彼女はなかなか聞き上手で、検問所の順番が来るまで夢中で話し込んでしまった。


「ロムルス連邦もいろいろと大変なんだね」
「故郷じゃビーストしかいないし、帝国や王国はほとんどがヒューマン。だからか他種族には排他的でね。精霊国が異常なんだよ」


 年が同じこともあり、すっかり打ち解けて、砕けた口調になる二人だった。彼のいう通り、精霊教では種族差別を禁じているため、多くの種族が共存している。
 旧帝国ではビーストのモンタナは奇異の目で見られたが、こちらではない。
 いろいろと雑談しつつ、検問所を通り都市の中に入ると、少女アーサラがお礼に都市を案内してくれることになった。
 精霊国の知識にうといモンタナは喜んでいろいろと教えてもらう。どこに商売の種が転がっているかわからないのだ。


「――と、いうわけで、サラマンダリアは別名、要塞都市と呼ばれているの」
「火の精霊使いは特に戦闘能力が高い。そんな彼らを多数要するこの都市は、国境を守る要というわけだな?」
「そういうこと。また旧帝国がいつ攻めてくるかわからないしね。精霊魔法がある限り負けはしないだろうけど」
「ふーん、精霊使いか。実は、俺精霊魔法ってみたことないんだよね」
「えー!? なんですって」


 ビーストは基本的に力を信奉している。魔法使いによる弾圧もあり、肉体的な強さが尊ばれた。彼らからすれば、精霊使いがすごいのではなく精霊がすごいのである。借り物の力を誇る精霊使いは自然と疎まれた。


 また、精霊使いになると魔力が一切使えなくなる。つまり、魔力による身体強化もできなくなるのであり、肉体的には脆弱にならざるを得ない。ゆえに、精霊使い=軟弱者の意識が根強かった。そのような説明をアーサラにしたら、とても驚かれた。
 モンタナも無理はないと苦笑する。自分も連邦を出る前までは、当たり前のように精霊使いは軟弱者だと思い込んでいたのだから。ときおり信じられないほどの荷物を運ぶ人間とすれ違う。アーサラ曰く火の精霊使いが荷運びをしているそうだ。熊族にも劣らぬ力だと思う。


「ふーん、外の世界はいろいろ大変なのね。でも、商人になりたいのなら、風の精霊の加護は必須でしょ?」
「そうらしいね。シルフの魔法はとても便利だと旅先で何度も聞いたよ」


 風の精霊シルフは、商人に信奉者が多い。風の精霊魔法<通信>や<転移><移動>などは、交通と物流に革命を起こした。
 <通信>を使えば、遠隔地の情報をリアルタイムで交換できる。<転移><移動>はヒトとモノの行き来を劇的に変えた。


 商人、特に行商人にとって商売は命がけだ。移動中に盗賊や魔物によって命を失うものは少なくない。そして、せっかく商品を売りに来ても、情報の鮮度が悪く、売れずに破産することもある。
 それを変えたのだ。商人にとってシルフは商売の守り神であり、精霊使いになることを夢見る者は多い。





「これは……アーサラに感謝しないとな」


 彼女に勧められた宿に泊まり、そこで食べた夕飯が絶品だった。
 とりわけ美味しかったのが魚だ。
 モンタナは犬族には珍しく魚を好む。しかし、連邦の内陸部に住んでいた彼は魚を食べる機会が少なかったし、旅の途中も食べる余裕はなかった。
 しかし、このうまさはどうだ。しきりと感動する。


「ああ、そりゃあ。うちの魚は鮮度が違うからな」
「鮮度? でもサラマンダリアの近くに海はありませんよ」


 食べている魚は川魚ではなかったはずだ。不思議そうに尋ねるモンタナに主人は機嫌よく答えたところによると。
 この魚は精霊魔法の<移転>で運ばれてきたらしい。その分値が張るがその味の違いは隔絶している。
 ついでに、食事の値段についても尋ねた。あまりにも安いのだ。いや、安くはないが、魚の値段とつりあっていないように感じる。


「それはノームに感謝するんだな」


 土の精霊魔法は、植物の成長を促進させることができる。おかげで、精霊国は食料で困ることはない。なるほど、魚以外の野菜、穀物類の価格が安いのだろう。ただし、促成栽培しすぎると味が落ちるそうだが。
 色々と教えてもらいながら、主人に感謝して食事を終えた。


「ふむ、精霊魔法は本当にすごいんだな。さて、明日はどうしようか」


 食事を終えてベッドの上でくつろぎながら、明日の予定を立てる。まずは荷車に満載した商品を売らないといけない。
 路銀には余裕があるが、いっぱしの商人としては商売で勝負したい。まあ、何の勝算もなく精霊国に来たわけではない。きっとうまくいくだろうと楽観的に思いながら眠りについた。





「なぜだ」


 もう昼を過ぎた。しかし、商品は全く売れていない。アーサラから昨日のうちに教えてもらった青空市場にモンタナは来ていた。都市一番の青空市場らしく、その広さには驚かされた。馬でも使わないと一日ですべての店を見きることは叶わないだろう。


 朝早く市場についたとき、風の精霊使いが<移動>によるテレポートサービスをしていると聞いて、納得した。とても人の足では見て回れない。モンタナも好奇心からテレポートサービスを受けた。精霊使いが何事かを詠唱すると、次の瞬間には別の精霊使いの元へと飛んでいた。
 <移転>は、二人の風の精霊使いの間を行き来できる魔法で、本人が飛ぶ<転移>よりも飛距離や効率性の点で優れているという。


 一瞬にして風景が切り替わりしばし茫然としてしまう。拍子抜けといえばそうかもしれない。もっと複雑な儀式を行うのかと思っていたからだ。事実、血統魔法の<テレポート>を見たことがあるが、手間とコストのかかる儀式が必要だった。
 精霊魔法の可能性について思案しながら、指定された場所へと向かう。悪くない。なかなかいい立地だった。他国からの行商人が集まるスペースのようで、優遇されているらしかった。
 天気も快晴。まだ春を迎えて間もなく、とても暖かい。だからこそ、商売の成功を確信していたのに——。


「——なぜ誰もこない」


 自信をもって商品を並べてみたものの、一向に客は来ない。周囲は大勢の人でにぎわっている。隣の露店は人だかりができているというのに。ああ、あれは連邦の卵細工じゃないか。あんなものが人気だなんて……。


 天気も快晴で、人々の顔も明るい。よくよく見れば、誰もが身なりがよく、金を持っていることがわかる。精霊国の市民が裕福である証拠だ。種族も様々で、ヒューマン、ビースト、エルフにドワーフまでそろっている。さすがにデモニックはいないようだ。
 暇を持て余しながら、観察を続けていた。そう、これは商売のための情報収集なのだ。そう自分に言い聞かせていた。


 おかしい。待てど暮らせど一向に見向きもされない。さすがにおかしい。王国を出るときに、確かにこの木彫りの工芸品が流行していると聞いたのだ。確かな筋からの情報である。情報料は高かったが。
 露店で、悄然としていると、見覚えのある少女がにこにこしながら近寄ってきた。


「ああ、王国の木彫りのお守りね。先日ホープウッド商会が、王国まで転移網を伸ばしたらしくてね。大量に売られたうえに、もうブームは去ってるよ」


 知らなかったの? とアーサラに同情された。結局、アーサラに相談したところ、タネが分かってきた。始まりは、サラマンダリアで人気のとある精霊使徒が、木彫りのお守りを愛用していると噂されたことだった。そのお守りは簡素ながら見事なあつらえだったらしい。
 しかし、これまで木彫りのお守りは、いままで見向きもされなかった商品であり、たちまちサラマンダリアで木彫りのお守りは品薄になった。
 王国の伝統工芸品であるからして、王国から商人が仕入れてくればそれで済む話だった。


 だが、ここで問題が発生した。複数の商会が談合して、王国で木彫りのお守りを買い占め、意図的に値を吊り上げようとしたのだ。
 この行為に、眉を顰める者は多かったが止めることはできなかった。しかし、これに味を占めた商会連合が、他の商品まで買い占めたことで、サラマンダリアでは商品の急激な値上がりが発生した。


「ひでえ話だ」
「そうだね。食料の値段まで上がって大変だったんだよ」


 事態を重くみた精霊国は、談合した商会を処罰しようとしたが、法律がないためできなかった。タロウによって、精霊国は法治国家として発展していた。貴族による横暴に嫌気がさしていた精霊国民は、この統治形態を積極的に支持しているし、誇りに思っている。
 だが、それが今回は仇となった。当然、一般市民の間では不満が募っていく。そこで動いたのが——。


「——ホープウッド商会かあ。俺でも知ってるぜ」
「あ、外でも有名なんだ」
「犬族が創始者だっていうからな。なんとなく親近感があるんだ」


 少し照れながらモンタナは語った。奴隷から精霊国を代表する大商会へと成り上がった犬族の話は、連邦では有名である。
 かくいうモンタナの両親も影響をうけているのだから。その薫陶を受けた彼もまた、創始者グレゴリー・ホープウッドを尊敬していた。
 きっとグレゴリーは、<転移>や<移動>を使って王国から商品を大量に流入させるとで、一気に値段の異常な高騰を鎮静化させたのだろう。
 だが、これでは誰も勝負にならない。もう王国との行商はなくなるのだろう。


「んー? でも精霊魔法を使うのは今回だけだと思うよ」
「なぜだ、転移網で今後貿易は拡大していくだろう?」
「それはないかなー。だって精霊の加護が薄れちゃうだろうから」
「精霊の加護?」

 
 アーサラによると、精霊魔法に依存しすぎると精霊の加護が薄れるらしい。精霊国では有名な話で、精霊使いになろうとしたら、なるべく精霊魔法を利用しないのが常識らしい。ゆえに、精霊使いを目指す商人は、風の精霊魔法への過度な依存を避けるという。商人は風の精霊魔法を多用せずにいかに利益を上げるか、そのバランスに苦心するのである。

 
 だからこそ、あえて大規模に転移系の精霊魔法を使ったホープウッド商会を称える声は多い。アーサラも誉めそやしていた。
 精霊魔法は便利だが、利用しすぎてもいけない。精霊は人の友であり続ける者であり、一方的な関係にはなっていけないのだ。教師に習っただけだけどね、と照れながらアーサラは語った。


「俺も精霊使いになれるかな?」
「なれると思うよ。モンタナはいい人だし、地道に行商を続ければたいていの人は精霊使いになれるよ」
「そ、そうか」


 思ったよりもいい返事が聞けてびっくりする。自分にも精霊使いになるチャンスがある。なんだか、わくわくしてくるではないか。もちろん、精霊使いになると色々と制約があるそうだが、憧れのホープウッド商会をみてみろ。商売で大成功したうえに、万人の尊敬の念まで集めている。
 そうだ、あれこそ俺が目指す道。他の多くと同じように、モンタナも、理想に燃える若者であった。


「よし、やってやるぞ!」


 その後、モンタナは精霊使いとなり、商売で立身していく。また、アーサラとは意外な形で再開することになった。いまだ無名のモンタナ・リブロックの名は、とある事件で表舞台へと上がる。
 後年、彼は述懐する。彼女との出会いは良くも悪くも自分の転換点だった、と。 
 

 
後書き
・こんな感じの群像劇です。
・世界の住人は真剣に生きていますが、主人公の神様サイドでは茶番という。
・時間軸はバラバラにして投稿しようかな、と思っています。読みづらかったら感想で仰っていただけると嬉しいです。 

 

⑨01ATT(Anti Tank Trooper)

 
前書き
・パンプキンシザーズ面白いですよ! 設定が難しいですけれど。 

 
・人里からの敗残兵。妖精をみて嗜虐心。が、ATTに返り討ち。


男は逃げていた。


「くそッ、なんでこんな目に!」


先頭を走る男に続いて何人もの人間が悪態をつきながら、ただひたすら逃げていた。
男たちはつい先ほどまで、人間の里を守るために立ち上がった兵士だった。
それが今や逃亡兵だ。
ここは時代に取り残された人間と忘れ去られた妖怪の巣食う楽園 "幻想郷"。


「何が外界の連中なんて大したことないだ! とんでもねえ勘違いじゃねえか!」


ソ連が攻めてくると聞いたとき、幻想郷の人間と妖怪たちは、外界人など何するものぞと意気軒高だった。
時折幻想郷へと迷い込んでくる外来人の多くが、なすすべもなく妖怪に食われて死んでいる。
そのせいで勘違いしていた。外来人は雑魚妖怪にすら敵わない弱者の集まりだと。
そして、その勘違いの代償を支払うことになった。あまりにも高い代償を。


「あの聞いたこともないどでかい音は何なんだ! それに、あの数! 人間の里の人口より多いんじゃないか!?」


走りながら口から出るのは悪態ばかり。
幻想郷軍は人間の里前に布陣し、ソ連軍先遣部隊と睨み合った。
先に仕掛けてきたのは、ソ連軍だった。
地響きを鳴らすような音とともに数千門もの火砲が号砲をあげる。
つづいて、独特の音ーー人類連合軍はスカーレットのオルガンと呼んで恐れたーーとともに、飛来するカチューシャロケット砲。


とはいえ、これらの攻撃はすべて、妖怪の賢者、八雲紫によって防がれた。
だが、幻想郷軍、特に徴兵された人間の士気は急落していた。見たことも聞いたこともない現代戦の洗礼を受けた彼らは、強烈なショックを受けていた。
そこにウラー(万歳)と叫びながら突撃してくる10万のソ連軍。
その威容を見て男は、今更ながら幻想郷の不利を悟った。
そろり、そろりと陣を抜け出すと一目散に逃げ出したのであった。


「はあ、はあ、ここは……湖か」


息を荒げながら立ち止まると、いつの間にか湖に来ていた。
男についてきた人間たちも休息しようと集まってくる。
薄くだが霧が発生しており、視界は悪い。
と、そのときであった。
青い光がゆらゆらと揺れながら、こちらへと近づいてくるではないか。


「お、鬼火!? 妖怪か!」


お、お助けええ、と恐慌状態に陥る。
こんな場所で妖怪にかち合うなんて最悪だ。
だが、近づくにつれその姿を見て男は、思わず口角をあげた。
嗜虐的な笑みまで浮かべてしまう。なぜなら、その姿は、妖精だったからだ。
そして、真っ赤な旗を掲げている。ならば、答えは一つ、ソ連軍の妖精であり、敵だ。


妖精とは、自然から生まれる存在で、無邪気でいたずら好きだが、基本的に無害。
そして何よりーーーー弱い。
男は逃げだしても手放さなかった刀を握りしめた。
ついてないついていないと思っていたが、妖精が相手なら話は変わる。
何より相手は敵である。情け容赦する必要などない。
刀をさやから抜き、弱者をいたぶる自分の姿を妄想した。


だから、男は気づかない。妖精たちの異様さに。
腰に付けたカンテラから青い光が漏れ出でる。
何かに憑りつかれたような無表情でゆらゆらとまっすぐちかづいてくる。
そして何より、その手には、見たこともないほど巨大な銃が握られていた。


「ん? 変なもんを手に持っているな。おもちゃか何かか?」


へらへらと笑いながら妖精が近づくのを待つ男は、知らない。
幻想郷で生まれ育った男は、銃という兵器すら知らなかった。
その銃の威力を推し量ることなどできない。
そして、いたぶろうと妖精に刀を振りかぶった瞬間……銃声が轟き男の意識は永遠に途切れたのだった。


"ドア・ノッカー"


それがこの銃の名前だった。
使用者への負荷と整備性を無視した極限までの威力を追求した異端の巨大な銃は、戦車の装甲さえ貫く。ゼロ距離ならばだが。


"保身なきゼロ距離射撃"


これが、大祖国戦争にてドイツ軍(人類連合軍の中核部隊)の戦車兵を戦慄させた人命を無視した狂気の戦術だった。
戦車へと肉薄し装甲に直接銃口を当て、必殺の弾丸を打つ。
不死身の妖精だからこそ可能だったともいえる。


"沼へ誘う鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)に導かれるまま、保身無き零距離射撃を敢行する"

"焼硬鋼(ブルースチール)のランタンを持った歩兵と会ったら、味方と思うな。だが決して敵に回すな。そのランタンは持ち主の魂をくべる炉。奴らは蒼い鬼火と共にやって来る"


ドイツ戦車兵の口づてに広まる噂。青い鬼火を見ただけで恐慌状態に陥る部隊まであったという。
そして、彼女たちの部隊名こそーーーー





「なーんか、大したことなかったわね。気持ち悪い顔してたから、何か企んでるかと思ったんだけれど」

「無事、作戦が成功してよかったわ、チルノちゃん」


つまらなさそうに口をとがらせるのは、空挺軍大将のチルノだった。
ほっとした様子の副官大妖精は、忙しそうに指示を出している。
突撃馬鹿のチルノは細かい指揮は大妖精に任せており、名コンビといえた。
あたりには、つい先ほどまで "人間だった" 破片が散乱している。
この惨状を引き起こした部隊こそが、


『⑨01・ATT(アンチ・タンク・トルーパー)』


である。戦闘狂という珍しい妖精ばかりを集めたチルノ直卒の精鋭部隊だ。
湖方面からの橋頭保は無事確保した。
これで幻想郷攻略はよりはかどるだろう。多方面作戦が可能なソ連を幻想郷側が防ぐ術はない。


「あたいったらサイキョーね!」


決め台詞とともに意気揚々と進撃を開始するチルノだった。 

 

古明地こいし進化しました

In America, you always find a party.
In Soviet Russia, a party always finds you.

アメリカでは、あなたはパーティーを楽しむ
ソビエト・ロシアでは、党があなたを監視する!






「はい、粛清完了」


 古明地こいしは、恐れられている。
 泣く子も黙る秘密警察を率いるのが彼女だからだ。
 だが、それ以上に恐れられているのはその能力ゆえだろう。
 さとり妖怪である彼女は人の心が読めるのだ。 
 どんな犯罪者もこいしの前には無力だった。


 犯罪者――思想犯や政治犯も含む――を容赦なく粛清する彼女だが、昔は気弱で大人しい少女だった。
 人の心を読むのに疲れ果て、自らの力を封印して、あてどなく漂っていたのである。
 そんなとき出会ったのが、フランドール・スカーレットだった。
 こいしの上司であり、狂信的な愛情を注ぐ絶対的な対象である。
 今日も今日とて、フランドールのために思想犯をルビヤンカの地下送りにしていた。
 きっと笑顔で拷問を楽しむのだろう。想像するだけでぞくぞくとして、笑みがこぼれる。


「おっと、いまは仕事をしないと」


 今でも思い出す。あの真夏のシベリアの大地でフランドールと出会った日を。
 心を読む能力が嫌で嫌でたまらなかった自分を、彼女は優しく諭してくれた。
 フランドールもまた、自らの能力に振り回された経験をもっており、こいしに親近感を抱いたのだろう。
 彼女は、こいしにささやいた。


『せっかくの能力だから、思いっきり利用して人生楽しめばいいのよ』


 事実、フンドールはその破壊に特化した能力で、姉のレミリアの敵を文字通り粉砕していた。
 そんなフランドールにとって、敵対者の心を読めるこいしの能力は喉から手が出るほど欲しかったのだろう。
 いや、それ以上に、フランドールにとって、こいしは自らのあり得た未来だったのかもしれない。
 もしレミリアがいなければ、こいしの立場にいたのは、あるいは自分だったのかも、と。


 こうして、ソ連にこいしは加わった。
 約束通り、彼女の能力を最大限利用できる舞台を、部隊を、用意したのだ。
 最初は、恐ろしかった。自分の能力で、処刑台へと送られていく人や妖怪を見るたびに、怖くなった。


 ある日、スメルシ("スパイに死を")として活動していたとき、スパイをあぶり出して、心を読み人類連合軍の大規模侵攻計画を入手した。
 結果として、情報を入手したソ連側の先制攻撃により、100万人の将兵が死傷した。
 今までと桁の違う犠牲者数を見て、怖くなった。
 しかし、怯えるこいしに、フランドールは言い放ったのだ。


『一人の死は悲劇だが、百万人の死は統計に過ぎない』


 恐怖心から依存しようとしたのかもしれない。こいしは、すっかりフランドールに心酔した。
 フランドールのために、喜々として粛清を行うようになり、恐怖は快楽へと進化した。
 こうして立派なドSが誕生したのである。


 ――――やがて、再会したこいしの姉は号泣したという。
 

 

日本ではトイレがあなたを洗う!

In Soviet Russia, you wash a toilet.
In Japan, a toilet washes you.

ソビエト・ロシアでは、あなたはトイレを洗う
日本では、トイレがあなたを洗う!





「うー、ウォシュレットってなんで普及しないのかしら」


 レミリアは悩んでいた。
 現代日本人からの転生者たる彼女にとって、トイレ事情は切実だった。
 にとりにウォシュレットの概念を説明したものの、


『便所が人間を洗うなんて気持ち悪い』


 と言われて拒否られたのだった。
 まあ、確かに自動で尻を洗う機械なんて作りたくはないかもしれない。
 一番の理解者たるフランドールにさえ、ドン引きされてしまったレミリアは、なくなくウォシュレットの普及を諦めたのである。


 ちなみに、ヨーロッパでウォシュレットが普及しない理由としては、文化の違いがある。
 ヨーロッパでは、その水質からトイレに "汚物" が残りやすく、使ったあとはブラシで掃除するのがマナーなのだ。
 だから、高級なホテルでは、高級なブラシをトイレに備えていたりもする。


 しかし、やはりウォシュレットの魅力にとりつかれる人もいるようで、アメリカのマイケル・ジャクソンがウォシュレットをお土産にしたなんて噂もあるほどである。


 幻想郷侵攻作戦ののち、日本を観光したレミリアは、こっそりウォシュレットを買ったのだった。
 

 

プロローグ~無人転生~(旧)

 
前書き
ワンピースに転生した凡人が主人公。
エヴァンジェリンになったけれど、いまだにネギま!世界だと思い込んでいます。
無人島サバイバル生活だし仕方ないね。

タイトル案としては「ワンピースを知らないエヴァンジェリン中将が原作を破壊するようです」が候補になっています。

筆が乗ったら打ち切ってハーメルンの方に正式連載する予定です。
拙い作品ですが、よろしくお願いいたします。 

 
 あれから『俺』が『私』になってもう何年経っただろうか。
 最初は木を削って日数を数えていたが、10年を過ぎたころには月数だけ、100年を過ぎたころには年数だけ数えるようになった。
 初めは道具なんてなかったから、木の幹に傷つけた数を数えるという頭の悪いことをしていたな。

 
 というわけで、初めましてエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル(偽)でございます。


 まあ、よくある神様転生というやつだ。しかも、TS転生。
 よくわからんうちに死んで、神様っぽいのに出会って――転生させてくれるというから "エヴァンジェリンにしてくれ!" と頼んだ。


 『俺』の一番好きなキャラクターが、ネギま!のエヴァンジェリンだったからだ。
 知らない人のために言っておくと、ネギま!というのは女子中学校に子ども先生が赴任してくるラブコメ――かと思いきや、魔法も未来人も異世界も戦争もある熱いバトルものである。
 最終的には世界を救うのだが、まあ、言いたいのは『俺』はネギま!が大好きだったってことだ。


 で、エヴァンジェリンというのは、真祖のロリ吸血姫で600年を生きる600億ドルの吸血鬼で通称『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』。
 ラスボスクラスの強さをもつが、女子供は殺さない『誇りある悪』なんだ。あと、ツンデレ。
 そんな彼女に強い憧れを持っていた俺は、エヴァンジェリンになりたかった。
 『俺』ではない彼女になれば、きっと弱い俺と決別して物語の一員になれるんだと信じていた。
 

 で、無事転生したんだが、喜んだのも束の間だった。

「9歳くらいの流れる錦糸のようなブロンドの長髪でルビーのような瞳の美少女。うん、確かにエヴァンジェリンで間違いないがな」
 
 だって、目覚めたら砂浜の上だったんだ。
 晴れやかな天気の下、眼前には大海原。背後には鬱蒼としたジャングル。

「はあ、ここはどこなんだろうな。いや、そもそも本当にネギま!の世界なのか?」

 だがまあ、当初は楽観視していた。まさか無人島とは思わなかったし、エヴァンジェリンの力を持ってすればどうとでもなると思っていたからだ。
 作中最強クラスだからね。そう――『本物のエヴァンジェリン』だったらな!


 気楽にジャングルへ入り、恐竜のような不思議生物に食われて俺は死んだ。

「私が真祖の吸血姫じゃなかったら即死だった」

 で、発覚した驚愕の事実。『俺』はとっても弱かった。
 確かにスペックはエヴァンジェリンかもしれない。
 けれども、『俺』は知識も経験も一般人に過ぎない。
 戦闘方法? んなもんわかるか!

 ……そこから『俺』の無人島サバイバル生活が始まった。


「ケケケ、ゴ主人ノ昔話ハ面白イナ。モット、聞カセテクレヨ」
「ああ、そうだなチャチャゼロ。丁度いい、一度じっくり私の話を聞いてもらおうか」




「おおおおお! 水じゃああああ!」

 転生生活3日目。
 一発目から死んでトラウマになった俺は砂浜でひたすら震えて過ごしていた。
 けれども、飢えと渇きに苦しみ、仕方なくびくびくしながらジャングルへと入り込んだ。
 この体はスペックはやはり高いらしく、生き物の気配を読んで、ひたすら戦闘を避けつつ、水音を探した。
 で、ようやく泉をみつけたのだった。

「うめえええ!」

 3日ぶりに飲む水はまるで甘露のようだった。人生で一番うまかったに違いない。
 だがしかし、水というのは生物にとって欠かせない存在。
 当然、水場は野生の生物にとって生死に直結する聖域である。

「ん? やばっ」

 渇きをいやして気を抜いた俺は "ズシン" という音に気が付く。
 そちらをみやると、恐竜さんがコンニチワしていました。
 俺は死んだ。スイーツ()


 転生生活30日目。
 あれから何度も死んだ。死んでも復活することをいいことに、修行しまくった。
 前世では働いたら負けかな? と思っていたけれど、生死がかかると人間必死になるんだね。
 10回くらい死ぬと死ぬのが怖くなくなったぜ。
 食料は小型の生物と果物でなんとかなってるのが救いか。
 

「よう、恐竜野郎、今日こそお前の年貢の納め時だぜ」
「グルルルル」

 死に戻りをしつつ毎日チャレンジしていた恐竜君。今日こそ俺が勝つ!


 転生生活57日目。

 今日も負けた。恐竜君マジ強い。マジ理不尽。
 でも、最近は3分間くらい耐えられるようになってきた――素手で。
 そう、俺はいままで素手で戦ってきたのである。
 ウルトラマンもびっくりである。
 本当は魔法を使いたかったのだけれど、使い方なんてわからないし。


 魔法の使えないエヴァンジェリンなんてチーズのないチーズバーガーみたいなもんだよね。


 ああ、チーズバーガー喰いてえなあ。和食が恋しい。
 だって、涙が出ちゃう。女の子だもん。


 転生生活⇒無人島生活82日目。
 
「世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだよ!!」

 驚愕の事実。この島、無人島っぽい。思わずクロスケのセリフをパクってしまった。
 海岸線沿いに歩いたら、ぐるっと一周してしまったのだ。人っ子一人いやしない。
 

 無人島生活100日目。
 記念すべき?100日目。
 最近は魔法をどうにかして使いたいと思い、瞑想をしている。
 ダメ元だったが、なんか魔力っぽいものを感じることができる。
 というか、俺の服、魔力出できていた。
 あれ、これいけんじゃね?
 こんなところにヒントがあったとは。おのれ孔明の罠か!


 無人島生活105日目。

「ささやき - いのり - えいしょう - ねんじろ!」

 しかし何も起こらなかった。


 無人島生活114日目。

「フハハハハハ! プラクテ ビギ・ナル “火よ灯れ(アールデスカット)” 」

 しゅぼっと、ライターのようなしょっぱい炎が指先から出た。
 魔法である。
 これで勝つる! 首を洗って待っていろ恐竜君!


 恐竜なんかに負けない!


 無人島生活115日目。
 恐竜には勝てなかったよ……。


 いや、常識的に考えてライターで恐竜に勝てるわけないわな。
 昨日は魔法が使えた喜びで頭がおかしくなっていたらしい。
 でも、このまま魔法を修行していけば、いつかは勝てるのではないか。
 なんか最近戦うのが楽しくなってきた。
 修行するのも楽しい。


 テレビもねえ! ラジオもねえ! 風呂もトイレもねえ! というか人っ子一人いねえ!


 今の生活は前世よりもはるかに厳しい最低の生活だ。
 こんなはずじゃなかったってばかり初めは思っていた。
 けれども "俺には努力なんてできない" ていうのは思い込みだったのだろう。
 努力して失敗するのが怖くて、ちっぽけな自分のプライドを守るためにニートになった。


 いまは失敗ばかりの生活というか死んでばかりの生活だけれど、そう、なんていうか充実しているんだ。
 見守ってくれていた家族の気持ちがいまならよくわかる。
 一歩でも、いや半歩でも踏み出せば、全く違う世界が広がっていたんだ。
 死んで初めて気づくなんて、ね。私ってほんとバカ。


 父ちゃん、母ちゃん、会いたいよ……。


 無人島生活365日目。

「ホ! ッホ!」

 魔法の勉強は遅々として進まない。まあ、独学なんだから当然か。
 ネギま!とかに出てきた修行方法を見様見真似でやっているが、それなりに効果があるようだ。
 オタクでよかったぜ。

「ホッ! 1万回目ッ!」

 身体能力はかなり上がった自信がある。
 感謝の正拳突きも1万回できるようになった。まあ、半日かかるので、毎日とはいかないが。
 今日で丁度1年目。


 恐竜なんかに負けない!


 無人島生活368日目。

 勝ったぞおおおお!
 3日にわたる死闘の末に恐竜君を倒した。
 よし、今まで行けなかったジャングルの奥へと行ってみよう!


 無人島生活384日目。
 ジャングルの奥へと逝ってきたぜ。
 恐竜君クラスのモンスターがうじゃうじゃいた。
 10日ほど偵察して命からがら逃げかえってきた。

 
 うわっ……私の戦闘力、低すぎ……?


 無人島生活10年目。
 記念すべき?10年目である。もう面倒だから日数は数えない。
 救援もこない。俺は一生ここで過ごすのだろうか……。
 まあ、そんなに悲観していない。
 いまの無人島サバイバル生活も結構楽しいし、もっと強くなりたい。


 まだ見ぬ強敵が俺を待っているぜええええ!


 無人島生活50年目。
 感謝の正拳突きが音速を超えた。


 無人島生活100年目。
 気と魔力の合一(シュンタクシス・アンティケイメノイン)


 無人島生活300年目。
 解放・固定(エーミッタム・エト・スタグネット)千年(アントス・パゲトゥー・)氷華(キリオーン・エトーン)」!!
 掌握(コンプレクシオー)!!
 術式装塡 「千年氷華」!!
 術式兵装(プロ・アルマティオーネ)氷の女王(クリュスタリネー・バシレイア)」!!


 無人島生活400年目。
 音速を超える正拳突きと咸卦法と闇の魔法(マギア・エレベア)にはさしもの島の主も勝てなかったらしい。
 これで、弱かった『俺』とはお別れだ。
 今日から私は本当の意味でエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルになるのだ。
 さあ、というわけで島の外に飛び出してみようか! 


 まだ見ぬ世界が私を待っているぜええええええええ!


 無人島生活401年目。
 ナニあの巨大な海獣。勝てるけれど、数が多すぎて遠くには飛べなかった。無念。





「と、いうわけだな」
「……ゴ主人モ苦労シテルンダナ」

 チャチャゼロに心底同情された。
 こいつは私の魔法で作った自慢の従者人形だ。
 かわいらしいフランス人形で、まあローゼンメイデンみたいなもんである。
 惜しむらくは、なぜか原作のように好戦的な性格になってしまったことだろうか。

「オレノ性格ハゴ主人ノ気質ヲ反映シタモノダゼ?」
「何? 私はお前のようなキリングマシーンではないんだが」
 
 やれやれ、と憐れむような眼で見られてしまった。なぜだ。


 もちろん、無人島に道具なんてなかったのだが "あるもの" によって解決した、それは――

「オッ、ゴ主人、マタ漂流船ダゼ?」
「ほう、これはついているな」

 漂流船である。
 私が島を支配した200年前くらいから流れ着いてくるようになった。
 この世界に人がいる証明である。
 ただ、木造船ばかりなので、この世界はネギま!の過去の世界なのかもしれないな。
 この材料や道具によって、チャチャゼロだけではなく、いろいろな魔法薬なども作ることができた。錬金術楽しいです。

「オイ、ナンカ浮イテルゾ? ケケケ、土座衛門ッテヤツカ?」
「そうか、土座衛門とは珍し―――――はあッ!?」

 白と水色の水兵服?を着ている少年が波間に見えた。
 転生してから初めて見る『人』の姿だ。
 丸太のようなものにつかまっている、ということは、だ。

「まだ、生きてるぞ!? くそっ、今助けるからな」
 
 転生してから丁度600年目。ようやく私の物語が動き出す。 
 

 
後書き
※息抜きで書いてみました。
※主人公はいまだにネギま!の世界だと勘違い中。
※少年はワンピースのとある原作キャラです。
※明日また更新します。
 

 

旧版1話

 
前書き
プロローグの続きです。
果たして謎の少年の正体とは・・・? 

 
「いやあ、生き返った! 助かったぜ!」
「そうか、死なれては困るからな。……それにしてもよく食うな」

 助けた少年は、なんとか一命を取り留めた。
 3日も目を覚まさなかったものだからハラハラしたものだが、目を覚ました第一声が「腹減った!」だったものだから脱力した。
 弱った体に合うよう消化によいものを、と思い準備しておいたスープを瞬く間に平らげると "肉をくれ" という。


 止めろといったのだが、聞く耳持たず。
 試しに焼いただけの肉をやると、食べるわ食べるわ。
 気持ちのいいほどの食べっぷりである。大層な健啖家だった。

「で、何があったか話を聞かせてもらおうか」
「おう、助けてくれたからな」

 少年の話によると、彼は『海軍』とやらに入隊したての新兵らしい。
 初めての航海で海賊と会敵。あっさり撃破したものの、嵐に呑まれて船は沈没。
 彼も丸太につかまって丸三日も漂流していたそうだ。
 よく生きていたものだ。

「ほう、ボウヤはまだ10歳なのか。小さいのにえらいな」
「そういうあんたも同い年くらいじゃねえか!」
「……まあ、こう見えてボウヤよりは年上なんだよ」

 ボウヤ扱いにむっとしたのか、少年は言い返してきた。
 まさか600歳を超える真祖の吸血鬼なんだ、と言うわけにはいかず、適当にごまかす。
 しつこく歳を尋ねてきたので "女性の歳を聞くな!" と拳骨を落としておく。

「いってええええええええ! なんだこのバカぢから!」
「上下関係は、きっちりせんとな」
「俺よりすげえな。拳骨には自信があったのに」

 なんだそりゃ。
 まあ、話してみると気持ちのいい奴だった。
 私が島の生活について話すと大げさに興味を示すし、私が世界にあまりに無知なのについても、とくに不審の目を向けることなく、常識の基礎から教えてくれた。


 ただ、少年以外に生存者はいないと伝えると、さすがに落ち込んでいたが。
 すぐににかっと笑って彼らの奮闘を家族と本部に伝えるのが俺の役割だ、と言っていた。
 見え見えの強がりだったが、そうだな、と同意しておく。
 男の子だもんね。

「だが、残念ながらこの島は無人島でな。果たして助けが来るかどうか」

 なにせ600年間だれも来なかったのだ。
 この少年が死ぬまで見守ることになるのだろうか。そう思っていたが、彼はあっさりと答えた。

「いや、このあたりの海域は、最近見つかった有望な航路らしいんだ。これから船の行き来はずっと増えてくるだろうし、海軍の捜索隊もくるはず。3か月以内には脱出できるんじゃね?」
「……ほう、それはいいことを聞いた。私もいっしょに出られるかな。無人島に住む戸籍もない不審者なんだが」
「大丈夫さ。海軍は命の恩人を無碍にはしない! それに――――」
「それに?」


「海軍の英雄に俺はなる!」


 だから無茶を言っても平気だぜ。


 そういって、眩しいほどの笑顔を向けてくる少年――――モンキー・D・ガープは嫉妬するほどかっこよかった。




「ま、まいった」

 ぜーぜーと息をしながら仰向けに倒れたガープ少年は降参した。
 私を強者と認めたのか模擬戦をお願いしてきたのである。
 私自身の強さを知るためにも快諾し、いまのところ全戦全勝である。

「弱いな」
「んな!? これでも俺は同期のホープだったんだぜ」

 自信なくすなあ、と珍しくどんよりした空気を出すガープ。
 そうそう、ガープが姓だと思っていたんだが、こっちが名前らしい。
 命名規則が苗字+名前の東洋方式が主流のようだ。ややこしい。


 エヴァンジェリンの力は中将でも相手にできそうだな、と言っている。何それ強いの?
 へー、この世界でも最強クラスなのかー。
 ただ、ガープと比べると強すぎて正確な力はわからないそうだ。
 そんなガープ少年も本部少佐相手に勝ったことがあるそうだが。
 階級=強さ、なのか? ははっ、まさか。

「だから面倒な書類仕事なんかせずに、がんがん悪い海賊をぶっ飛ばしていくんだ! 海軍の英雄になって、いつかは俺が元帥になってやる!」

 ふーん、ひたすら強さが尊ばれる世界なのか。魔法もないそうだし、こりゃネギま!の世界じゃなさそうだな。
 だが、聞き捨てならんことがある。

「貴様が昇進すれば必然的に書類仕事は降りかかってくるぞ? 軍というのは巨大な官僚組織でもある。士官になれば書類仕事は必須だし、それができないやつが出世などできるものか。馬鹿者め」
「え、マジ!?」

 前世の聞きかじりの知識だが、そう間違ってはいないはずだ。
 軍隊を動かすということは、大勢の人と金と物資を動かすということだ。
 当然、書類による伝達が不可欠であり、偉くなればなるほど決済する書類は増加する。
 しかも、パソコンなどない中世レベルの世界のようなので、なおさら書類仕事は大切である。


 腕っぷしだけで中将になれる軍隊なんて、そっちのほうがびっくりである。
 マンガじゃあるまいし。


 聞けばガープ少年は、ひたすら悪・即・斬でいけば昇進できると勘違いしていたようだ。
 それはいけない。
 少し過ごしただけだが、この少年はきっと大成する。
 今は自分が強いと勘違いしている弱っちいボウヤだが、その気っ風のいい性格はある種のカリスマ性があると睨んだ。

「だから、勉強しろ」
「ヤダ!」

 チッ、人が親切で言ってやってるのに。
 だが、この少年を腐らすのは勿体ない。
 さて、どうやって教育してやるべきか。




「どうした! もう終わりか! 海軍の英雄になるんだろッ!?」
「く、当たり前だ!」

 どうみても自分と同い年くらいの少女にしかみえない。
 ただわかるのは、この命の恩人の少女、エヴァンジェリンがとんでもなく強いということだ。
 聞けば、気づいたらこの無人島にいて、ずっと一人で暮らしてきたらしい。
 笑いながら話してくれたが笑いごとではないと思う。


 だが、この強さならサバイバルできて納得かもしれない。
 中将クラスではないか、とエヴァンジェリンにはいったが、ひょっとしたら入隊前にちらりとみた大将相手でも戦えるのではないか。

「うおおおおおお!」
「まだまだだな、ボウヤ」

 破れかぶれのパンチはあっさりとかわされ、気づいたら目の前に拳があった。

「ま、まいった」

 神速の正拳突きを前に、震えが止まらない。
 今朝みせてもらった光景を思い出す。
 "感謝の正拳突き" だといって1万回の正拳突きをするという。
 何かの冗談だと思って見学して、見てしまったのだ。


 ――音を置き去りにした正拳突き


 気が付いたら涙していた。
 己の自慢の拳骨など児戯ですらないと、自らを恥じた。
 土下座して弟子にしてくれと頼み込んだのだが、渋る彼女にある条件を出された。
 
「ほら、勉強の時間だ」
「……へーい」

 勉強は正直嫌いだ。
 けれども、海軍の英雄になるために必要だと、師匠に言われてしまっては断れない。
 それに、弟子入りするための条件なのだから逃げようがない。
 

 聞けば、エヴァンジェリンは難破船に積み込まれていた本で独学したらしい。


 強くて頭もいい。


 それでこそ、海軍の英雄に相応しいそうだ。
 正直強さだけでも昇進できると思っていたのだが、その自信は砕かれたばかりである。
 ならば、素直に従おう、と思えるのはガープの長所といえた。




「ハッ、ハッ、1万回ィ!」
「よし、いいぞ。よくやった」
「ははは、日没までに感謝の正拳突き1万回終えたぞおお!」

 雄たけびを上げてぶっ倒れるガープ少年を見て思う。


 ――こいつは天才だ!


 頼まれて稽古をつけてやったのだが、私がこのレベルになるまでに何年かかったと思ってやがる。
 それが、2か月少しでこのレベルまで追いつきやがった。
 さて、何年あるいは何十年で私のレベルに追いつくか。
 末恐ろしくもあり、頼もしくもある。


 勉強もみているのだが、こいつ頭の回転もよかった。
 てっきり居眠りしたり逃げようとしたりするのかと思っていたが、強くなりたい、海軍の英雄になりたい。との思いは本物のようだった。
 野生の直感だろうか、ひらめきはすでに私を上回るだろう。
 戦術指揮では頼りになるに違いない。


 苦手な勉強も必死に食いついてきて、見る見るうちに消化していく。
 スポンジが水を吸うよう、というのはこいつのためにあるような言葉だ。
 まあ、おおざっぱな性格はそのままだが、これはガープ少年の長所でもあるからいいだろう。


 そんな生活がそろそろ3か月に届こうかというころ。

「ん? あれは、船!? カモメのマークが帆にあるな」
「おぉ!! そりゃ海軍の船だ! おーいこっちだー!!」

 遠くに見えた船がこちらへと近づいてくる。
 あれがこの世界の海軍の船なのだろう。
 木造の帆船だがなかなか立派である。

 荷物をまとめるとするか。
 大喜びするガープ少年のせいで、いまいち喜びの声を上げづらいが、わくわくする気持ちを私も抑えられなかった。 
 

 
後書き
※ガープくんでした!
※ガープ強化フラグが立ちました。頭脳派になれるのか。修正力さんとの勝負です。
※次は明日更新します。 

 

旧版2話(※連載中です)

 
前書き
キングクリムゾン!

ネタバレ:ワンピースの正体に主人公が気づきます
 

 
「おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやる。探せ! この世のすべてをそこに置いてきた!」

 くそっ、やられた。
 海賊王ゴールド・ロジャーの最期を見届けるために来ていたのだが、最後の最後でアイツやらかしやがった!


 ロジャーはすぐに処刑されたが、大勢の聴衆は彼の最期の言葉を確かに聞いていた。

「……こりゃあ、荒れるのう」
「そうだな」

 隣のガープも深刻そうな顔をしている。
 私と同じく頭の回る彼もこの後の展開が予想できてしまったのだろう。
 少年だったガープもいまや老年にさしかかっている。
 数多の激戦を超えて、彼は見事『海軍の英雄』になっていた。
 師匠としてそれを誇らしく思う。彼の心中を思うと複雑な気持ちだが。

「金獅子のシキの襲撃がなければこの場を封鎖できたのに、口惜しいわい」
「チッ、全くだ。油断した! 頼むから予想が外れてくれるといいんだが」
「ガープ中将、エヴァンジェリン中将、どういうことでしょうか?」

 疑問符を浮かべた新兵が聞いてくる。

「スモーカー三等兵、直にわかるさ」

 この場には一般人に紛れて多くの海賊が紛れているはずだ。
 そんな奴らがロジャーの言葉を聞いてどう行動するか。

 ――――大海賊時代の幕開けである。


 ◇

「ガープ中将はどこだあああ!?」

 センゴクの大声が聞こえる。いつのもの光景だ。
 どたどたという音が近づいてくると、バンと扉があいた。

「ガープのやつを知らないか!?」
「うるさいよ、センゴク。もうちょっと静かにできないのかね」
「あ!? これはすみません。おつるさんがいるとは知らず……」
「ははは、センゴクのボウヤ、私もいるぞ」
「げえ、エヴァンジェリンさん!?」

 たまたまラウンジでおつると一緒にいたのだ。
 つゆ知らなかったセンゴクは驚いてしどろもどろになる。
 ガープと同じく新兵だったころから面倒をていた私には頭が上がらない。
 おつるは彼とほぼ同期だが、いろいろと世話してやっていたので、やはり彼は頭が上がらない。
 まあ、私とおつるは中将で、彼は大将だから頭を下げるのはこちらなのだがな。

「はあ、センゴクらしくないな。お前も大将になったんだ。もっとどっしり構えろ」
「すみません。けれど、中将が大将に聞く口ではないような……」
「ふん、いまはオフなんだ。年上は敬うものだろう」
「い、いや、エヴァンジェリンさんはどうみても年上には見えないような」

 納得いかないという顔をするセンゴクをみて、まあ仕方ないと思う。
 海軍に入って40年以上経つが、幼女な私の姿は一切変わっていない。
 当然異端視される……かと思いきや、そうでもない。
 なぜなら、この世界には吸血姫もびっくりな人間が大勢いるからだ。


 動物に変身したり、どろどろに溶けてみたり、はたまたピカピカと光になってみたり。


 私も大概だが、なんだこのびっくり人間コンテストと思った。
 このびっくり人間をまとめて『悪魔の実の能力者』と総称している。
 だから、私も対外的には『動物系幻獣種・ヒトヒトの実モデルヴァンパイア』を喰った吸血鬼人間ということにした。
 チャチャゼロも能力の一部ということにしてある。
 なんて便利な言葉だろう。


 この世界もまた何かのアニメや漫画の世界なのだろうか。
 いまとなっては分からない。
 いやあ、本当に腕っぷしだけで海軍では昇進できるとは思ってもいなかったぜ。
 まあ、おつるのように頭脳面でも評価されるから、ガープへの教育は無駄ではなかったようだが。
 しかし、600年という時は、前世の記憶を摩耗させるのに十分すぎた。


 いや、待て。ひとつなぎの大秘宝、ワンピース……何かひっかかる。


 !! 思い出した!

「ワンピース!」
「どうしたんです、急に」
「あ、いや何でもないぞ、おつる。ははは」


 女性ものの服の名前だ!


 あーすっきりした。
 この世界にはワンピースという名前の服はない。
 紛らわしいからだろうな。
 さすがに財宝の中身が服ということはないだろう。


 ……ないよね?
 ロジャーのやつ、あれで冗談が好きだからな。
 しかも笑えない類の。
 必死こいて手に入れた財宝が女物の服だったら、海賊さん泣くぞ?

「ガープはまたどこかでサボっているんだろうよ」
「あいつ、書類仕事もできるくせに、なんでこんなにサボるんだか」
「……理由は気づいているんだろ?」
「……まあな」

 おっと、思考の海に沈んでいる間にセンゴクとおつるの会話が進んでいた。
 ガープがさぼる理由、か。
 知勇兼備のガープがさぼるようになったのは、中将になってしばらく経ってからだ。
 センゴクと共に切磋琢磨していたガープは大将になって当然の功績を上げていた。


 が、あいつはその話を蹴った。
 大将になったら現場に出ることが少なくなる。
 そう言って、わざと書類仕事をさぼることで、評価を下げたのだ。
 本当の理由を私は知っているが、言うまい。

「本当なら私ではなくエヴァンジェリンさんが大将になるべきだったのに」
「まだそれを言うか。センゴクのボウヤ」

 ボウヤはやめてください、と顔をしかめるセンゴクをみやりながら、おつるも同じような顔をしているのをみた。
 私が大将の器なんて過分な評価だ。それに――――

「私は『誇りある悪』だ。そもそも中将という階級も荷が重いのさ」
「……」

 二人は黙り込んでしまった。
 そう、私は原作通り『誇りある悪』をあろうことか『絶対正義』をかかげる海軍で掲げている。
 当然反発もあるが、それ以上に功績を上げて黙らせている。
 いろいろと面倒をみてきたので、海軍内部ではあまり風当たりは強くないが、世界政府上層部からの受けは悪い。
 その辺のつなひきの結果が、中将という地位だった。

「さて、そんな心気くさい顔をするなボウヤたち。私は現状に満足している。よい弟子たちに恵まれたしな」
「私たちを褒めるなんて、明日は槍が降るんじゃないかい?」
「そうだな、おつるさん」

 ははは、とむなしく笑い合う。

「どうせガープは戻ってくる。部下が処理できるギリギリの量を見極めるのがうまいからな。部下のケアも怠っておらんし、心配はいらんだろう」
「ま、そうでしょうな。しかし、体裁というものがあるのです。一応、もう少し探してから私は戻るとします」
「ああ、がんばれ『未来の元帥殿』」

 揶揄するように言うと、意外にも "もちろんです" と凛々しい顔をしてセンゴクは出て行った。
 まったく、いい弟子をもったものだ。 
 

 
後書き
※年齢比べ(原作24年前)
エヴァンジェリン(640歳以上)>>>センゴク(55歳)>ガープ(54歳)>つる(52歳)>>スモーカー(12歳)

ここで一旦打ち切りです。続きは、暁にて連載します。
 

 

大祖国戦争と人民の財宝

 
前書き
・本当はハーメルンに投稿するつもりだったのですが、思ったより筆が捗ったのでこっそり投稿します。 

 
・大祖国戦争は狂気とロマンに溢れています

 レミリア・スカーレットは転生者である。
 レミリア・スカーレットは共産趣味者である。
 レミリア・スカーレットはソ連共産党のトップである。


 けれども、レミリア・スカーレットは一般人(ごく平凡な日本人)だった。


 彼女()は転生者なだけである。ごく一般的な知識と経験しかない。 
 彼女()は共産趣味者なだけである。政治・経済を含む共産主義に詳しいわけではない。
 彼女()ソ連共産党のトップなだけである。誰かの上に立ったことなどなかった。


 けれども、レミリア・スカーレットは特別(チート転生者)だった。


 頭脳チートがあれば知識も経験も必要なかった。
 黄金律Exがあれば経済は勝手に成長した。
 身体チートで武威を示しカリスマExがあれば皆従った。


 では、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)は?
 財宝であふれていた? 否。中身は空だった。
 ソ連の財宝が勝手に収拾されていく? 否。手動で入れる必要があった。
 そう、それはただの巨大な倉庫だった。


(つっかえね~)


 レミリアはそう思っていた。――――あの日(大祖国戦争)までは。


◆ 

 21世紀に世界屈指の超大国として君臨しているソ連だが、意外にもその覇権を確立したのは20世紀の半分が過ぎてからである。
 何があったのか。有史以来国家が飛躍するときは、戦争と相場は決まっていた。1941年から1945年にかけて行われた第二次世界大戦――ソ連側通称大祖国戦争――である。


 レミリア・スカーレットは転生者である。なぜ彼女は悲惨な大戦を防ごうとしなかったのか?


 正確には防げなかったのである。彼女はチート転生者だったが、死亡したときただの高校生だった。そして、歴史選択は日本史だった。
 カタカナを覚える自信がなかったからである。


(マルクス・アウレリウス・アントニヌスとかなんだよ! エドワードとか何世までいるんだよ! うー、でも世界史選択しとけばもっと楽できたのかなあ) 


 ロシア人? あれは例外。ウラジーミル・イリイチ・ニコライ・ウリヤノフとかヨシフ・ヴェサリオノヴィチ・シュガヴィチリとか覚えるべき。Ура(うらー)


 要するに、彼女()は世界史の知識が皆無だった。世界大戦が二度起こっているのは知っているけれど経緯まではわからない。
 いや、それ以前に細々(こまごま)とした歴史を知らないから、ソ連を建国してもだいたい歴史通りに進んだ。それは修正力のせいかもしれないし、レミリアが干渉しなかったせいかもしれない。
 あるいは、人間の本質なんてどこでも変わらないというだけかもしれない。


 とにかく、概ね歴史通りに進んだ。大航海時代は起こったし、植民地戦争も起こったし、アメリカ合衆国も建国された。
 レミリアは内に引きこもってひたすら内政をしていた。シムシティとか好きだったんだよね。


(外の世界? 知るか! それより内政だ)


 しかし、決定的なのは第一次世界大戦だった。二正面作戦を避けられたドイツ帝国はシュリーフェンプラン通りにフランス共和国を粉砕してしまったのである。
 高みの見物を決めていた大英帝国とアメリカは慌てて救援に駆け付けたが、泥沼の試合の末、ドイツの勝利で終わった。


 ドイツ主導のもと国際連盟が結成され、初めて世界的な対ソ包囲網が作られた。ソ連側の妨害工作が失敗したのである。


 不気味な沈黙を続けるソ連に対して、18世紀までは人類世界は警戒していたが、人は忘れる生き物である。ましてや、人の寿命は短く、世代を重ねれば記憶は薄れた。


 建国初期にソ連に何度も侵攻し、大敗してきた歴史を人類は忘れていた。ゆえにこそ、人類で内輪もめができていたのかもしれない。
 どこかの世界(マヴラブ)では、敵対的地球外生命体(ベータ)相手に滅亡の危機にあっても内輪もめしていたしね。


 余勢をかって、国際連盟軍はソ連へと侵攻した。だが、待ち構えていたソ連側の激しい抵抗により失敗に終わる。
 ソ連側の逆撃によりドイツ軍は壊滅し、国際連盟は解体された。ソ連の工作により戦艦ポチョムキンの水兵が反乱を起こすと、ドイツは降伏せざるをえなくなったからである。
 この "背後からの一撃" はドイツ国民に "俺たちは戦って負けた訳ではない" という幻想を抱かせる一因となった。


 ここで、なぜソ連が東ドイツを占領してこなかったのかという疑問がある。


「フラン? なんでヨーロッパを占領しないかって? えーっと、それは……そう面倒だからよ!」


 それは、レミリアが日本人だったからだ。なんとなくドイツに親近感を持っていた彼女は、ヨーロッパにはあまり手を出さないでいた。
 もっとも、抵抗が激しく現実的に難しかったという理由もある。


 ハイパーインフレーションに苦しんだドイツは、史実通り国家社会主義ドイツ労働者党(ナチスドイツ)が台頭した。
 アドルフ・ヒトラーの名前を聞いたとき、レミリアは卒倒しそうになった。


 慌てて軍備を固めるように指示をしたが、ソ連の動きは鈍い。長年平和が続いたソ連は、平和ボケが激しかった。一度も負けたことがないという驕りもある。
 そして、その驕りはレミリアを含めた上層部にもあった。


 レミリアなんて ――――


「ソ連の科学力は世界一ィィィィィィ!!!」


 ――と根拠なく思い込んでいた。しかし、その実態はお粗末なものだったのである。
 

 技術はいつ飛躍するか? 答えは戦争である。
 平和を謳歌していたソ連と戦争を繰り返した人間諸国では、いつしか技術レベル(テクノロジー)の差がなくなっていた。


 指示を出したもののレミリアは大祖国戦争なんて起きないと高をくくっていた。理由はソ連の力を過信していたのもあるし、ヒトラーとの密約もあったからだ。
 平身低頭ソ連との不可侵を頼み込むヒトラーを見て、優越感をくすぐられたレミリアは、うっかり信用してしまったのだ。


(やべええええ、あのヒトラーが俺に頭さげてるよ! うー、感動すなあ)


 1941年、西部戦線で勝利したドイツ軍は電撃的にソ連に侵攻した。レミリアはヒトラーが欠片も攻めてくるとは思っていなかったし、刺激してはまずいだろうと、国境付近の兵力を薄くしてしまっていた。


 初戦はソ連の大敗。対応に追われたレミリアは非情な命令を下した。


ソ連国防人民委員令第227号(一歩も下がるな!)を俺が出す羽目になるとは……みんなごめん)


 その後、フラングラード、レミリアングラード、パチューリングラード、ユゥーカリングラードなどで激しい攻防戦が起きた。
 とくにレミリアングラードの戦いは凄まじくワンブロック占拠するのに1個小隊が消滅することもあったという。


 包囲戦で防衛側最大の弱点とは何か? それは物資である。
 史実レニングラード、スターリングラードの死者数が膨大なのは餓死者のせいでもある。とくに一般人への被害が大きかった。


 レミリアもスターリングラード攻防戦の悲惨さは一応知っていた。共産趣味者の嗜みとして、大祖国戦争だけは大まかな知識があったからだ。
 もっとも油断によってまさに史実通りの展開になってしまったのは皮肉だったが……。


「フラン、私はレミリアングラードに行くわ」
「お姉さま!? どうかおやめください!」
「……飢えに苦しむ同志を、私の名を冠した都市を見捨てられないの。それにね。私には秘策がある!」


 そして、射命丸率いる空軍の護衛を受けたレミリアは上空から大量の物資の投下に成功した。


「我が策成れり!」


 信じられないほどの量の物資が空から次々と降下される光景は、味方を勇気づけ、敵を(おのの)かせた。レミリアングラードの奇跡と呼ばれ大祖国戦争の語り草となったという。


(ただ王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)に詰め込めるだけ詰め込んだ物資を落としただけなんだけどね。うー、使えないなんて言ってごめんよ)


 それ以来、レミリアは、王の財宝を人民の財宝(ゲート・オブ・ソビエツキー・ソユーズ)と呼んで愛用している。 
 

 
後書き
・バルバロッサ、セバストポリ、モスクワ、クルスク、バグラチオン、ベルリンなどなど。大祖国戦争の見せ場は多いですが、東方キャラで書くならどれがいいですかね?
 

 

宇宙飛行犬クドリャフカ

 
前書き
メリークリスマス! 

 
 ルナ計画の発令により、にわかに宇宙開発が活気づいている。そして目指すは、人類(妖怪を含む)の宇宙進出だ。
 

 そのためには、まずは宇宙で人類が活動できることを証明しなければならない。果たして、宇宙空間で人間が生命活動できるのか。
 数々の実験を行っても、結論はでなかった。いや、理論上は可能との結論がでている。だが、それをぶっつけ本番でやっていいものか皆が悩んでいた。


 そこでひらめいた名案が――犬である。




「うー、クドリャフカぁ……」

「お、お姉さま、あまり可愛がりすぎますと情が移って大変ですよ」

「クドリャフカ、お前はかわいいなあぁ」

「お姉さまェ」

 宇宙開発センターで一匹の犬と戯れる書記長の姿があった。この犬クドリャフカこそ、栄えある宇宙飛行士一号に選ばれた名誉ある犬でる。決して生贄とかいってはいけない。

「クドリャフカぁ」

 事情を知っているはずのレミリアは、なぜかクドリャフカを溺愛していた。気を利かせた職員が別の犬をじっけんだ……名誉を与えようとすると、それはそれでほかの犬が可哀そうだからダメ、とレミリアは拒否した。
 独裁者の本領発揮である。 


 そんな中でも研究は続けられ、ついにロケット打ち上げの日が来た。今日この日をもって、人類(犬)が宇宙への足跡を残すのである。
 ロケットが無事に打ち上げられ、周囲が興奮冷めやらぬ中、少ししんみりした雰囲気を放つ一段があった。

「妹様、お嬢さまのお姿はやはりみつかりません」
「そう、クドリャフカを可愛がっていたからやはりショックなんでしょうね」
「レミィはあれで繊細なところがあるからね。そっとしておいてあげましょう」

 パチュリーの言葉に一同がうなずくと、慌てたような足音がこちらに向かってきた。息せき切ってこちらに走ってくるのは、こいしだった。
 泰然自若としているこいしのこのような姿は珍しい。

「あら、こいし。どうしたの?」
「フランお姉さま! レミリア様はどこですか!」
「ど、どうしたのこいし。貴女らしくないわよ。お姉さまなら少しお疲れで休まれているところよ」
「……ロケットの中から心の声が『2つ』したんです!」
「二つですって? クドリャフカ以外の犬が乗り込んでしまったのかしら」
「それが、その――――レミリア様の声でした」




 阿鼻叫喚の地獄が出現した。




「見てみてクドリャフカ! 地球よ! 地球が青いわよ!」
「わん」

 ロケットの中で俺はクドリャフカと戯れていた。科学の発展に犠牲はつきものだ。宇宙開発は俺が指揮している以上、その犠牲は俺が責任を負わねばなるまい。
 だからわんちゃんを宇宙飛行実験に使うことに同意したし、仕方ないとも割り切った。つもりだった。


 仕方ないじゃないか! 前世で俺は犬派だったんだから!
 宇宙で一人は寂しかろうとこっそりクドリャフカのロケットに乗り込んだのである。

「わんわん!」
「え、危ない? 大丈夫、この究極生命体レミリア・スカーレット様にかかれば宇宙空間なんてけちょんけちょんよ!」
「わ、わふう」

 身体チートは転生特典だけあって宇宙空間でも活動可能なのだ。だから、俺が行っても何の問題なく、たとえロケットが爆発しようとクドリャフカを抱えて無事に戻ってこれるのである。
 置手紙してきたし、フランもきっとわかってくれるだろう。




「地球は青かった!」

 それがレミリアの地球帰還後の第一声だった。

(ガガーリンには悪いことしたかな。あとで謝っとこ)

 呑気に思考しているレミリアは周囲の異様さに気づかない。


 ――――その後、フランに泣かれてパチュリーにキレられ美鈴にどつかれ咲野にご飯抜きにされたレミリアは本気土下座を披露したのだった。


 ちなみに、ガガーリンは火星探査に(無理やり)送られ、(無理やり)"火星は赤かった" と言わされた。レミリアなりの誠意だったらしい。
 

 

プロローグ (VRMMO産ソ連が異世界を赤くする話)

 
前書き
国家転移ものもVRMMO転移ものも大好きです!
⇒混ぜちゃえ!

という電波を受信したので書いてみました。

 

 
 革命歴572年 首都モスコー クレムリン宮殿


「だから言ったのだ! 国防を疎かにする国は滅びると!」


 背中まで波打つピンクブロンドの美少女が怒声を上げている。その耳はとがっており、エルフであることが知れた。
 首都モスコーのクレムリン宮殿の大会議室は重苦しい雰囲気に包まれていた。


 西部大森林を超えた竜騎士による突然のレニングラード奇襲は、ソ連側に大きな被害と衝撃を与えていた。もし、陸と海から同時攻撃を受けていたら万単位の犠牲者が出ていたかもしれない。


「レニングラードの2割が灰燼に帰したのだぞ! これを我々ソビエト連邦の危機と言わずして何という!」


 飛竜のブレスによりレニングラード市内で大火災が発生し、多数の犠牲が出た。警官隊や消防士、市民の有志までもが文字通り体を張って稼いだ時間で駆け付けた航空隊が、辛くも撃退に成功した。が、奇襲を許した政府・軍への批判は大きい。
 統率の取れた飛竜は250匹ほどで、人間が乗っていたことから、他国軍による攻撃であることは明らかだった。建国以来初めてのことである。


 "ソビエト社会主義共和国連邦"


 これがこの国の名前である。500年前、大陸東部の無人地帯に建国されたこの国は、他国との交流が一切なかった。
 たまたま難破した奴隷船が大陸東部に流れ着いたのが始まりだ。その生き残り500人の "子供の亜人奴隷" と偉大なる指導者にして大魔導士レーニンを始祖とする成り立ちから言って、外界の "人間” に対する恐怖は相当のものだった。


 ゆえに、富国強兵を国是としたレーニンは、軍事力の強化に余念がなかったのである。その手始めである革命歴の制定と新共通語の採用は、旧時代からの決別の象徴であった。強烈な民族意識の芽生えでもある。
 ちなみに、共通語は別命 "ニホンゴ" と呼ばれている。


 "ソビエト" とは評議会を意味し、多種族からなる評議国である。ニホンゴにはない言葉でありレーニンの造語だと思われている。
 唯一人間だったレーニン以外に獣人、エルフ、ドワーフ、竜人族、魔族などの多種多様な亜人が混じり合い、現在において純血種はほぼいない。
 発現する特徴にみられる血の強さに応じて、人間系、獣人系、エルフ系ソ連人などと呼称するのが一般的である。


 「すべての権力をソビエトへ」をスローガンにした強力な中央集権国家だ。


 "社会主義" とは、共産主義へと至る前段階であり「平等で公正な社会」を目指す思想である。建国時、奴隷という何一つ持たないゼロからのスタートであり、 "所有" の概念はなかった。もちろん階級もなかった。絶対王政、種族差別、身分差別、貧富の差による犠牲者だった建国者たちは、共産主義に理想をみたのである。
いまだ国家の枠組みは必要とされており、社会主義から共産主義へといかに移行していくかが、ソ連最重要のテーマとなっていた。


 「ファンタジー世界に共産主義とかかっこよくね?」というレーニンの言葉が残っている。


 しかしながら、当初500人しかいなかったのになぜ "共和国連邦" と名乗ったのかは歴史家により解釈がわかれている。ソ連拡大を睨んだレーニンの先見の明をたたえる声もあれば、ノリと勢いに過ぎないと不当に貶める声もある。
 建国500年を経て、1億を超える人口を抱えた今、連邦制がうまく機能しているのは間違いない。レーニンの数ある功績の一つであろう。


「富国強兵の国是を忘れたか! 軍縮のザマがこれだ。同志レーニン以外の人間との融和など土台無理な話だったのだ!」


 だが、500年の時が流れ、レーニンの死後その感情も風化したのだろう。いつしか、レーニンの言葉に忠実な保守派と国防よりも内政を優先する革新派にわかたれ、権力争いをするようになった。


 革新派が政権をとり、軍は縮小された。しかし、建国以来初めての外部の人間との接触から続く混乱振りは、混迷を極めた。
 革新と保守は、そのまま融和派と排斥派に名を変え、その対立は国論を二分しつつあったが、相手――アルメイラ王国と名乗った――の回答がレニングラード奇襲だった。
 幸い撃退できたもののその被害は小さくない。
 ここにソ連と王国の運命は決定づいたといってよい。


「まあまあ、落ち着いてスタリンちゃん」

「カリニー、落ち着いていられるか! この無能どもは同志レーニンのお言葉に背いた挙句、人民を見殺しにしたのだぞ。それと、スタリン言うな! 私はスターリンだ!」

「わ、わたしは見殺しにするつもりなど……」

「貴様ぁ! ジュイコーの出動を妨害しておいてどの口をほざくか!」

「……」


 エルフの少女――スターリンの熱弁が一息ついたのを見計らう。カリニーと呼ばれた茶髪をおかっぱにして柔和な顔をした少女が、スターリンをなだめようとするが一向に収まらない。陸軍人民委員のトゥハウもひげ面を怒りで真っ赤にしている。


 やり玉に挙げられたケレンも黙るしかない。確かに彼のミスだったからだ。ただ、軍部の台頭に否定的な融和派の彼は、どうしても軍を信用できなかったのだ。
 そのせいで、レニングラード救援が遅れたことも理解している。薄くなった額に汗を流しながら、彼はカリニー教育人民委員のとりなしに内心安堵していた。だから、強気の姿勢を崩さずいっそ傲慢に言い放つ。


「だが、だからといって無断出動したジュイコー大将を処罰しないわけにはいかない。命令違反は命令違反。軍法会議を開催する意思は変わらない」

「ジュイコーが素早く動かねばどれだけの被害がでたか……ケレン書記長は責任を擦り付けるつもりか!?」

「スターリン民族人民委員、言葉が過ぎるぞ。だいたい軍部が信用ならんからいかんのだ。今回の責はすべて軍部にある」


 複数の人民委員が、そうだそうだ、と唱和した。ようするにケレンたちは軍部をスケープゴートにするつもりだった。
 ソ連の最高意思決定機関たる人民委員会議で軍法会議の開催が決まれば、ジュイコーはただではすまないだろう。


「……それが書記長たちの意思ですか?」

「そうだ、モロフィ外務人民委員」


 それまで黙っていたグラマラスで妖艶な美女がケレンに問いかける。ため息をつきながら背中の羽を摩る姿をみて、ケレンは違和感を覚える。彼女がこの仕草をするときは碌なことがないからだ。


「だ、そうだリベヤ内務人民委員」

「ウフフ、お馬鹿さんをルビヤンカの地下にご案な~い」

「な!?」


 会議室の扉が突如開くと、武装した国家保安委員会の職員たちが流れ込んでくる。あっという間にケレンたち融和派は拘束されてしまった。ニヤニヤしながら沈黙を守っていたリベヤの鮮やかな行動だった。


「リベヤ! 貴様裏切ったか!」

「はい? 裏切るも何もわたしは最初からあなたたちクズどもの仲間になったつもりはありませんしい」


 リベヤは内務人民委員と国家保安委員会議長を兼任しており、国内の綱紀粛正を行ってきた。その手腕は確かで、ケレンの覚えもよく敵対者の情報をあれこれと流してきたのだ。
 そのリベヤの裏切りにケレンたちは愕然とするが、もはやどうにもならない。そして、自らの運命を悟ると恐怖に陥る。


「た、頼む。命だけは助けてくれ! 金ならやる!」

「不正に蓄財した金なんて要るわけないでしょお。人間からの賄賂と軍を縮小して浮いた予算を懐にいれるなんて、やっぱりクズね」

「同志レーニンにあの世で詫びてこい」

「くそっ、はなせぇッ!!」


 連行されていくケレンたちを冷たい目で一瞥すると、スターリンは、議長席に堂々と座る。


「さて、売国奴ケレンは粛清された。この国難を乗り越えるために我々は挙国し一致しなければならない。そのためにも、私スターリンが新たな書記長としてソ連人民を導くことを父祖レーニンに誓う。異議のある者はいるか?」

「異議なし」

「……異議なし」

「異議なぁし」


 人民委員たちからの賛同を得て、保守派・排斥派のスターリンが電撃的に書記長へと就任した。
 この知らせは新聞やラジオを通じてすぐさまソ連全土へと伝えられ、ソ連民は新たなクレムリンの主人による新時代の幕開けを感じるのだった。 
 

 
後書き
設定だけぽちぽちつくっています。
王国には2011年1月の日本の外交官がいたり、レーニンの中の人は第3次世界大戦後の2048年日本で暮らす孤児だったり。
レーニンは銀髪オッドアイだったり。

果たしてレーニンは何者なんでしょうね。 

 

第1話 偽レーニン・イン・フレイム

 
前書き
ロシア人は自分の名前を都市につけるの好きですよね。 

 
「レーニン廟、焼かれたんだってね……じゃあ安置されていたレーニンの遺体も……」


 暗い顔ですがるように問いかける少女カリニー、いつもの笑顔はなかった。クレムリンに用意された一室に、発足したばかりの新政府の要人が集まっていた。
 目下の話題はレーニン廟の焼失についてである。ソ連最西部にある大都市は「レーニンの街」を意味するレニングラードといい、そのランドマークがレーニン廟だった。


 レーニン廟はそもそも召喚されたモスコーに付属された施設である。中心部の "赤の広場" にあるが、存命中のレーニンが「自分の名前の墓など恥ずかしいからいらん」と主張し、共同墓地にした。
 ところが、レーニンの死後、レーニン廟の建設を望む声が予想以上に大きかったため、建設中のレニングラードの中心にレーニン廟が置かれることになったのである。


 なお、モスコーの共同墓地は "ヤスクニ" と名付けられ、死後の魂が宿る場所として信仰の対象となった。
 とくに活躍した偉人は、クレムリンの壁とヤスクニの間にある「英雄墓域」に埋葬される。


「戦火に焼かれ建物は倒壊したそうよお。まず見つからないでしょうねえ」


 気だるそうに答えるリベヤにも、いつものような軽薄な空気はなかった。スターリン、カリニー、モロフィ、リベヤらはレーニンとともに時代を駆け抜けた。その嘆きは筆舌しがたい。
 国境を守るジュイコーやヴァシレスといった最古参の将軍たちも気持ちは同じだろう。スターリンが権力を奪取しなければ、軍がクーデターを起こす可能性さえあった。


 レーニン廟とは、ソ連を建国した偉大な指導者レーニンを祀る霊廟である。「ソ連のすべてを作った男」と言われ、死後300年経ついまも神聖視されている。
 およそ500年前、転移魔法の失敗により大陸にふらりと現れたレーニンは、偶然難破した奴隷船をみつける。死にかけていた亜人奴隷の子供たちを救ったところから建国伝説は始まった。


 レーニンは無限の物資をもち、超常の魔法を扱ったという。この世界ではありえない "奇跡" だった。神の奇跡だと口々に称える亜人たちに向かって、いつも謙遜していたという。
 

「だって、これゲームの力だし」


 レーニンにとっては、奇跡など児戯に過ぎないということだろう。とくに有名な逸話は、「モスコー召喚」である。身一つしかない亜人たちは住居をどうしたか。レーニンの答えは、魔法の力で一夜にして巨大都市モスコーを召喚することだった。


「インベントリにあった『一分の一スケール都市シリーズ:1941モスクワ』が役に立つ日が来るとは思わんかった」


 たった500人の子供が暮らすには大都市モスコーはあまりにも巨大すぎた。モスクワ市庁舎の対面にあるホテル・モスクワで共同生活をしていた記録が残っている。
 その後の人口爆発は、「人であふれたモスコーの姿がみたい」という素朴な欲求が原動力になったのは間違いない。


 現在500万人が暮らすソ連の首都モスコーは、ほぼ当時の姿をそのまま残している。ライフラインは完備され旧通貨「ゴールド」を消費することで機能する。まさに魔法の力だが、いまだその仕組みはわかっていない。
 

 レーニンが残した "ぶい・あーる" というキーワードが鍵だと学者たちは考えている。


 最早入手不可能な「ゴールド」の備蓄が減り、新通貨「ルーブル」への移行。技術の発展に従い、魔法のライフラインに頼らなくなった。科学の勃興である。いまのモスコーは科学の力で動いている。
 それでも建国からモスコーレベルのテクノロジーを会得するのに500年以上の時を要した。
 ゼロから築いた文明。襤褸切れしかもたない無学な子供とその子孫たちの執念の結果である。


 当時のクルチャ科学人民委員は「われわれはようやく1941年に追いついた」という謎の言葉を残している。


 さらにレーニンがもたらした様々な知識は文明を飛躍的に発展させた。
 日本語、イデオロギー、義務教育、基本的人権の尊重、健康で文化的な最低限度の生活、マンガ、ラノベ、エロゲなどなど多方面にわたる知識は驚嘆すべきものだった。
 そのなかでも、魔法と迷信が支配する暗黒世界から科学と人が支配する新世界へのパラダイムシフトは、ソ連の根幹をつくったといってよい。


 世界最高最強の魔法使いが、その優位性を捨ててまで推奨した新しい科学という力。
 血統によって決まる魔法の才能では、差別をうむ。レーニンはそれを見越していたのである。
 わざわざ伝統を破壊する必要などなかった。奴隷の子どもたちにはそもそも伝統などなかったのだから。


「魔法より科学のほうが強いっしょ。いや、おれ高卒のオタクだからよくわからんけどさ」


 コーソツという職業がなんなのかはいまだに議論が分かれているが、レーニンの謙虚な人柄をうかがえるエピソードといえよう。オタクとは知識人のことだと判明しており、インテリたちはこぞって「私はオタクである」と名乗った。


 ソ連に宗教はない。大陸の一般的な宗教は聖光教だが、その聖光教に迫害された亜人の集まりであるソ連が神を信じる道理がなかった。
 そもそもこの国は科学的社会主義を掲げており宗教との折り合いが悪いこともあり、無神論者がほとんどである。


 その代わりがレーニンだった。街角のいたるところに彼の銅像が立ち、学校の教室には必ず彼の肖像画がある。都市のメインストリートの名前はレーニン通りがほとんどだ。
 ソ連人にとっての神は、レーニンだった。だが、共産主義の守護者たるレーニンは自身の神格化には最期まで否定的だった。


「いやだから俺は神じゃないってば! 拝まないでよ……え、うん、そうそう! 共産主義だから神様はだめなんだよ! 絶対理性がなんとかかんとか?」


 そのレーニンの遺体が防腐処理を施され安置されているのがレーニン廟である。ガラスケースの中には綺麗な遺体が横たわり、一目拝もうと訪れる人は後を絶たない。いわば、巡礼地だった。


 レーニン廟の焼失は、異教徒がカーバ神殿を焼き討ちしたようなものだ。長命種の多いソ連ではレーニンと共に生きた人物は健在だし、若者にとっても身近な伝説である。ある意味、神以上の影響力を持っているといってよい。
 ソ連に与える衝撃は計り知れないだろう。


 レニングラード全体に戒厳令が敷かれているため、レーニン廟焼失に市民は気づいていないが、いずれバレるだろう。バレたとき、ソ連民はどうするか。怒り狂うことは間違いないが、どう行動するかが読めなかった。


「軍事パレード?」

「レーニン廟焼失を伝えた後、モスコーで軍事パレードを開く」

「同志書記長殿、そんなお遊びをしている場合ではないと思いますが」

「必要なことだ。軍の力を人民にみせねばならん。このままでは血気はやった連中が独自に国境を越えかねん。無策で突撃すれば死者がでる。王国のクズどもがどうなろうとかまわんが、一時の狂乱で失っていいほど人民の命は軽くはない。軍の士気向上の意味もある。だろう、トゥハフ?」

「ああ、だからこその軍事パレードだ。軍が健在であることを示さねばならない。軍が王国に報いを与えることができると信じ切れなければ、愛国心から暴走し多くの人民が犠牲になろう」

「あはは、そうなれば我々もただではすまないでしょうねえ。ここで弱腰とみられれば歴史上初めての革命が起きかねないわあ。でも、情報の秘匿はもう限界ですよお。明日にでもレーニン廟のことを発表したほうがよいでしょうねえ」


 王国への報復は既定路線だ。問題は人民の怒りをどうコントロールするかだ。下手に暴発させれば、敵に利するだけである。史実ソ連と違って、人命を重視する姿勢は、レーニンの日本人気質を受け継いでいた。
 この日、夜遅くまで会議が続けられた。


 翌日、政府からの重大発表によりソ連全土は怒りに満ち溢れた。


 ――――アルメイラ王国討つべし


 歴史が転換点を迎えた瞬間である。 
 

 
後書き
ゲートが太平洋の日本側に開いていて、王国と日本の外交官が接触したあたりにソ連が殴り込んできてあーだこーだします。よくある話ですね。

王国のデータ:人口900万人 動員兵力30万人
飛竜2000頭 戦竜1000頭

ソ連(動員後)のデータ:人口1億人 動員兵力1000万人
航空機10万機 戦車5万両 

 

第2話 王国の内憂

 
前書き
ソ連はVRMMO産なので様々な強味をもっています。
この世界には魔法はありますが、スキルシステムは存在していません。
ソ連は魔法もVRMMO式なので異世界魔法とはまた異なっています。
 

 
「竜騎士の3割が未帰還だと!?」


 御年60歳になるアルメイラ国王ダリウスが、珍しく大声を上げた。周囲の廷臣たちも驚きを露わにしている。
 煌びやかな玉座の間では廷臣たちの好奇の視線にさらされながら、二人の竜騎士が膝をついて報告をしていた。
 

 ソビエト連邦なる亜人国家の都市を襲撃したのが5日も前のことである。
 本来なら意気揚々と凱旋するはずだった。


 だが、現実は1個飛竜大隊250騎のうち3割強にあたる90余騎が戻ってこれなかった。これは由々しき事態である。
 飛竜大国であるアルメイラ王国は2000頭の飛竜が常備されている。損害でいえば僅かといえたが、飛竜の育成には7年かかる。
 しかも失われたのは精鋭飛竜大隊であり、その補充が困難なのである。来る帝政連盟との決戦に向けて軍備を増強している最中であり、手痛い出費といえた。


 同時期に試みた上陸作戦も失敗しており傷は浅くない。



「あれだけの精鋭です。調教と訓練にかかる時間を含めれば、戦力の補充にはまあ2年ほどかかりましょうな。とはいえ、それをはるかに超える損害を相手に与えているのでしょうねえ? 先に戦力が枯渇するのはあちらでしょう」


 財務大臣の問いに襲撃部隊隊長のロット・クロフォードは神妙な顔をして頷く。


 実は実際の損害比はさほど変わらない。クロフォードたちの願望が戦果を "多少" 誇張させていた。むしろ脱出したパイロット全員が生還しているソ連側の圧勝といえなくもない。
 数で拮抗する実戦経験豊富な王国竜騎士相手によく健闘したといえよう。


 ソ連側の損害は撃墜67、修理不能18だった。王国は知る由もないが、全力稼働しつつあるソ連は3日で戦力の補充を終え更なる増産を続けている。
 ちなみに、総力戦体制を整えた後のソ連では、戦闘機が一つの工場で1時間に3機製造されることになる。全土で昼夜問わず生産され続け、最盛期では1か月に7000機を超える航空機が生産されたという。


 その姿を鋭く見据えながら、白くなった髭を撫でつつダリウスは言い放つ。


「だいたい奇襲攻撃など余は聞いておらぬぞ。交渉による貿易の拡大が余の方針であったはず」

「お言葉ですが陛下、亜人ごときに交渉など必要ありませぬ。生意気にも国を名乗っておりますが、所詮は亜人。蛮族の集落程度恐れるに足りませぬ」

「殿下。その亜人程度にしてやられたのではありませんか?」

「亜人どもとの交易はこちらの黒字でした。その金で増強した軍備でもって、貿易により弱体化した彼奴らを一網打尽にするのが方針だったはず。まだまだ搾り取れるのですから、帝政連盟との情勢が不穏な中、余計な行動は控えるべきだったのです。いたずらに戦を仕掛けるだけが戦争ではありません」


 若き偉丈夫が反論するものの、口々に諫められ悔しそうに黙り込む。彼こそが王太子ガルミウスであり、今回のレニングラード奇襲を企図した張本人だった。


 現国王ダリウスは文治の王である。先代と先々代が武断の王であり、小国だったアルメイラの版図を一気に広げた。広大な領土を引き継いだダリウスは武勇にこそ優れなかったものの、内政の才に秀でていた。急速な拡大によって生まれた国内の歪を取り除くことに腐心し、半ば成功しているといってよい。
 その功績は先代と比較しても劣らない。


 だが、それを分からないものもいる。武断の王が二代も続いたのだ。その家臣たちも必然武断的になっており、内政を優先させる国王を弱腰と声高に批判したのである。


 見識ある者たちは、ダリウスの手腕を高く評価していたが、それは少数派だった。飴と鞭で巧みに反対派を分断しやりこめたあたり、ダリウスは決して内政だけの人ではない。しかし、それを台無しにしたものがいる。


 ――――王太子のガルミウスだった。


 若く威風堂々とした佇まい。軍才に秀で正しく先代の血を引いていた。半面、驕り高ぶり慢心する傾向にあり、ダリウスにはまだまだ未熟と思えた。
 そのガルミウスは、父であるダリウスの治世を惰弱と批判し、公然と敵対し始めたのである。


 愚かなことだとダリウスは思う。ガルミウスはダリウス唯一の男子であり、後継者争いとは無縁なのだ。黙っていれば至尊の座が転がり込んでくるのだからなぜ悪戯に騒ぎを起こすのか。
 その危うさを危惧しているからこそ、ダリウスは息子に王座を譲っていないのだが、当のガルミウスは気づいていなかった。父を権力の座にしがみつく俗物と断じていたのである。


 急拡大した領土はダリウスの治世で繁栄し、その国力を飛躍的に高めた。南部で国境を接する帝政連盟との決戦に備え軍事力を高めていたのである。
 帝政連盟は後継者争いに揺れ、帝国は内乱の兆しがあり、連合は斜陽である。


 このままつつがなくガルミウスが引継ぎ、その軍才を思うままに発揮すれば、王国は大陸に覇を唱えることができたかもしれない。
 事実それだけの素地は整っていたし、ダリウスと側近たちはその青写真を描けていた。しかしながら、ガルミウスたちにとっては、あまりに迂遠すぎ理解されることはなかったのである。


「クロフォード卿の意見を聞こう」

「"竜母" による初めての実戦で慣れなかったのです。荒れ海を越える航海で疲弊してしまい満足な実力を発揮できなかった。まさに悲劇といえましょう」


 竜母とは開発されたばかりの新兵器である。巨大な船に竜舎と滑走路を設けただけだが、それは革命的な発想といえた。海戦でも上陸作戦でも活躍するだろうと期待されている。
 数年前海洋国家の連合が世界で初めて戦力化に成功したのだが、その報告を秘密裏に受けた王国軍部が、試行錯誤の末にようやく完成させたのである。


 王国とソ連は陸続きであるが、死の森――ソ連側通称西部大森林――が横たわり往来はできない。ゆえに、500年以上の長きに渡り両者は接触しなかったのだが、3年前に偶然発見された海路により、王国はソ連を「発見」したのである。
 以来、ソ連側が指定した港町「デジマ」を介して細々とした貿易が続けられてきた。


 発見当初、王国上層部では、すぐさま攻め滅ぼすべきとの声が上がったものの、発見者の猛反対により頓挫した経緯がある。ソ連の首都モスコーに賓客とした招かれた彼は、ソ連と戦うべきではないと国王に直言したのである。


 それにより貿易のみの関係が3年も続いたのだが、不満分子によって発見者は既に更迭されている。なにせ「あれは、黄金都市だった」とか「1億クロネの夜景だった」とか法螺を吹いたのだ。
 誰も信じるわけがない。国王の幼馴染でなければ、処刑されていたかもしれない。


 とはいえ、飛竜が主力の王国では、攻め手に欠けるのも事実だった。飛竜基地から直接襲撃するには遠すぎたのである。だからこそ、表面上は貿易を続けつつ、得た金で十分な数の竜母を用意してから一気に攻め滅ぼすつもりだったのだが……。


「それに加えまして、完成したばかりの竜母3隻のみではいささか戦力が心もとなく」

「ふむ? 練度不足に戦力不足かね? 計画では竜母3隻で十分な戦力だったはずではないか」

「それは上陸し拠点を確保できてさえいれば、の話です」

「なんだと!? 陸戦隊のせいだと申すか! 貴様らがデジマではなくレニングラードとやらを襲撃したせいで、陸戦隊は撃退されたのだぞ! どれだけの犠牲が出たと思っておる!」

「ほう? 亜人ごとき空からの援護など不用と仰ったのはどなたでしたかな?」 

「なにぃ! 負け犬風情がほざくか!」

「そうだそうだ。亜人相手に1個飛竜大隊などそもそも過分な戦力であろう! にもかかわわらず、おめおめと負けおって」

「やはり隊長たる卿の責任が重く……」


 議論が噴出するが、セオリー通りに上陸拠点であるデジマを攻めなかった飛竜隊の旗色が悪い。


 唐突な出兵とはいえ、近々出征する予定だったのも事実だが、時期が早すぎた。まだまだ準備不足だったのだが、点数稼ぎをしたい王太子派によって無理やり作戦が決行されたのである。
 しかも計画通り海と空からデジマを攻略するのではなく、いきなりレニングラードを奇襲したのは、王太子の案である。戦果の拡大を狙った暴走の典型的な例だった。


 クロフォード自身は王太子派ではなかったが、次期国王の覚えを目出度くさせようと思う程度の野心はあった。越権行為とはいえ、それを指示したのが次期国王なのだ。逆らう者は少数だった。
 そもそも後継者争いなど存在しないのだから、国王と王太子の争いなど滑稽でしかない。しかし、文治派と武断派の派閥争いが絡むことで、事態は複雑な様相を呈していた。


「お、お待ちくだされ! 敵主力を誘い出すという意味において、われらは立派に役目を果たしました。それだけではござりませぬ。亜人どもの摩訶不思議な飛竜に虚を突かれたのであります!」

「レイリア嬢がクロフォード卿を庇いたいのは分かるが……例の "鉄の鳥" とやらかね? そのような眉唾を信じるとでも? 馬鹿馬鹿しい。鉄の鎧を纏った飛竜であろうよ。小賢しくも竜騎士を育成していたようだが、戦を知らぬようだな。飛竜に鎧を着せるなど所詮は亜人の浅知恵か」

「は、その通りかと。このクロフォード、次は遅れは取りませぬ」


 飛竜に鎧を纏わせる試みは過去何度もされてきたが、それは逆効果であると既に結論づけられていた。飛竜の持ち味はその素早さにあり、それを殺す行為は巴戦で不利になるだけであった。
 もともと飛竜の鱗は並の弓矢や魔法など跳ね返すのだから、鎧など必要ないともいえる。


(本当にそうなのだろうか)


 副官のレイリアは冷静になって考えていた。公爵家の姫でありながら竜騎士となった変わり種である。姫様のおままごとと風当たりは強かったものの、その才能は確かでありクロフォードにも将来を嘱望されていた。
 先任の副官が帰らぬ人となったため、急遽抜擢されていたのだが、才覚よりも公爵家に恩を売りたい政治的な理由が多分にあった。本人は気づいていない。


 とはいえ、レイリアがクロフォードを庇う形になったため、クロフォードへの追及は収まった。正しい形で彼女は役に立ったのだ。本人は不本意かもしれないが。


 若く柔軟なレイリアだからこそ落ち着いて考えることができたのかもしれない。奇妙な鉄の鳥は明らかに速度と火力でこちらの飛竜を上回っていたように思える。クロフォード隊長たちがプライドから認めることができないだけだ。亜人ごときに負けたというショックが大きすぎたのだ。
 しかし、直面する現実を認識すらできずに相手と戦うことなど、目隠しして争うようなものではないか。


(亜人国家というのはフェイクで、裏で人間が支配下にある亜人を戦奴隷として使っているのではないか。だとすれば支配者階級の人間とどうコンタクトをとるかが鍵だな)


 彼女もまた、無意識に亜人を見下しており亜人風情が異なる "文明" を築いているなど創造の埒外だった。


(コブロス殿によればソ連の亜人は超能力をもつらしいが……鉄の鳥もその一種とか? 馬鹿馬鹿しい。魔法か何かだろう。エルフは魔法に長けると聞く)


 "すきる" と呼ばれる超能力をもつという情報もあったが、信じるものなどいない。


 この世界には魔法が存在するが、魔法とは言うほど便利なものではない。
 魔法使いの血筋に生まれ、厳しい修行を経たものだけが魔法を使えるようになる。魔法先進国である帝国の魔導軍は大陸最強と誉れ高いが、頭数を揃えるのは難しい。
 飛竜の戦力化とて容易ではないが、王国の竜騎士が質と量で帝国魔導軍をいずれ圧倒するだろうと王国軍人は予測していた。


 VRMMOなど存在しないのだからスキルシステムを想像できないのは当然だが、たとえ存在していたとしても現実化しているなど思うまい。
 当初は「サイエンス&ファンタジー」のアバターだったレーニンだけがスキルを持っていたのだが、彼の血が混ざることでこの世界の住人もスキルが使えるようになったのだ。
 スキルスクロールの助けもあり、いまやソ連人民は誰もがスキルを持っている。


 お転婆で比較的柔軟な考えをもつとはいえ、良くも悪くも王国貴族な彼女は、その枠外で思考することができなかったのである。せいぜいよく品種改良された飛竜を少数もっているのだろう。特殊な魔法を使っているのだろう。レイリアでさえその程度の考えだった。
 祖国が負けるとは微塵も思っていなかったのである。


 ソビエト連邦という異文明の脅威を正しく認識するのは、すべてが手遅れになってからであった。いや、もうすでに手遅れだったのかもしれない。


 ――――眠れる赤熊を目覚めさせてしまったのだから。 

 

ライヒスタークに赤旗を①~伊吹萃香の憂鬱

 
前書き
・まだだ、まだ終わらんよ!
・リクエストにベルリンの戦いがあったので書きました

 

 
「はあ」

 思わずため息をついてしまう。伊吹萃香は憂鬱だった。と、気づいたところで、慌てて周囲を見渡す。周囲には部下が慌ただしく動いているが、どうやらため息はバレなかった様だ。
 

 上官たるもの、戦争中に動揺していては部下に示しがつかない。しかも、彼女は――――赤軍(クラースナヤ・アールミヤ)のトップなのだから。


 1941年の冬は悪夢のような日々だった。ドイツ率いる人類統合体軍に前線に次々と食い破られモスクワ100キロ近郊まで侵入を許してしまう。
 辛くも撃退に成功したが、そんな萃香を周囲は名将だという。


 だがそんなわけがない。見す見す敵の大侵攻を許し、多くの損害がでた。ソ連国防人民委員令第227号(一方も下がるな!)なんて馬鹿げた命令を律義に守って "全滅" した部隊も数多ある。


 そんな彼らが文字通り体を張って稼いだ時間があったからこそ人類統合体の撃退に成功したのだ。
 だから勝たなくてはならない。その一心で足掻いてきた。バグラチオン作戦を発動し、クルスクの戦いを経て流れは完全にこちらに傾いた。


 オーデル・ナイセの激戦を超え、いま萃香が率いる親衛師団はベルリン間近まで迫っていた。目指すは――――ベルリン一番乗り。

(昔はよかった。あたしはただ戦えればそれだけでよかった)

 そもそも日本を離れわざわざソ連にやってきたのは戦いを求めてのことだ。たまたまものすごく強い妖怪が大陸にいるときいた萃香が、まるで導かれるかのようにレミリアの下にやってきて戦い――完膚なきまでに負けた。


 ここまでの大敗は鬼の四天王伊吹萃香にして初めての経験だった。思えばそのとき恋に落ちてしまったのかもしれない。その圧倒的強さとカリスマに。なお、そのカリスマはたまにブレイクする模様。

(レミリアとの闘いの日々は本当に楽しかったな)

 夢のような日々だった。毎日強い妖怪と戦える日々。ソ連黎明期は敵に苦労しなかったし、フランドールや紅美鈴といった切磋琢磨できる相手もいた。
 前線で暴れるだけだった萃香はやがて、戦功をあげていき、ついには赤軍のトップに立ったのである。


 むろん望んでのことではない。けれども、意外と面倒見のよかった萃香は赤軍の将兵に慕われていた。
 そんな彼らから、赤軍の、ソ連の未来を託されてしまえば萃香に否やはなかった。

(死んでいった奴らに思いを託されたら、どうしようもないよ。まさに死人に口なし。いや、違うか)

 此度の大祖国戦争でも最前線で暴れたかったが、地位と責任がそれを許してくれない。いっそすべてを投げ出せればと思うが、いまも最前線で死にゆく将兵にそのような不義理はできやしない。鬼とは約束を守る律義な種族なのだ。なお、花妖怪は地位と責任を放り出してレミリアングラードで大暴れした模様。

「伊吹元帥」

 こちらを呼ぶ声に振り向くと、表情の乏しいメイド服姿の少女がいた。十六夜咲夜参謀総長、GRUの萃香に次ぐナンバーツーである。
 相変わらずこちらを見る目は冷たい。レミリア至上主義者である彼女にとって、何かとレミリアに勝負を挑み、忠誠を誓っているわけでもない萃香は危険人物なのだ。おそらくフランドールの意向も働いているのだろう。
 

 ゆえに、萃香の地位は決して安泰でも盤石でもない。その彼女がトップに居続けているのは、その実力と人望と、何よりレミリア本人の希望によるところが大きい。なお、萃香本人の希望は無視された模様。

「作戦会議を始める時間です」

「うん? もうそんな時間かい。あたしゃ、そのまま突っ込めばいいだけだと思うけどさ」

「そのような稚拙な作戦で同志を死地に送り込むつもりですか?」

「いやいや、オーデル・ナイセのように小手先の技を使って大やけどしたくないさね」

 両者の間に険悪な空気が漂う。オーデル・ナイセ河を巡る大攻勢で、萃香の師団は初戦で苦しんだ。サーチライトを使って目くらましをするという作戦だったのだが、霧の中に自軍を浮かび上がらせる結果となってしまい大損害を受けたのだ。
 この作戦を立案したのが十六夜咲夜と彼女の子飼いの気鋭の将軍ジューコフである。


 奇をてらった作戦に最後まで反対していた萃香は――結果的に正しかったとはいえ――咲野とジューコフに睨まれることになる。萃香が力業でゼーロウ高地を奪還したものの、それが気に食わないらしい。


「人類統合体のハインリツィやシュルナーは名将だった。戦力はこっちが上なんだから正面切った戦いを挑めばいいんだよ」


 馬鹿馬鹿しいと萃香は思うが、ソ連軍は巨大なだけにいくつもの派閥に分かれている。


 その一つが萃香の派閥なのだが、彼女にそのような意図はない。萃香を慕う将兵が集まっただけで、舎弟関係と言えば近いだろうか。面倒見のいい萃香は、強く拒むこともできず静観するにとどめていた。
 ちらりと後ろを見ると、萃香派に近いチュイコフが物凄い顔をして咲夜たちを睨みつけている。ちなみに、チュイコフは花妖怪の派閥でレミリアングラードで大暴れしたこともある。

「ベルリンに一番乗りするのはあなたたちではありません!」

 萃香はどうでもいいのだが、チュイコフは何が何でも咲夜たちを抑えてベルリン一番乗りを果たしたいらしい。

「こりゃ先が思いやられるな……あたしの勘だけどエルベ川あたりが怪しんじゃない? 進軍を緩めて偵察を出して」

 不満そうにこちらをみる咲夜をみて、もう一度ため息をつく。合理的に考える咲夜と勘で行動する萃香はそりが合わない。それにも関わらず組まされていたのは、お互いの弱点を補うことを狙ってだった。
 だが、こうも敵対的ではどうしようもない。

「エルベ川に敵を発見! アメリカ系人類統合体軍のようです!」

 史実と異なる『エルベ川の邂逅』が起こった瞬間だった。 
 

 
後書き
ハーメルンで霊圧が消えました。
カクヨムで投稿をはじめました。 

 

戦国時代に転生するはずが春秋戦国時代だった件(プロローグ)

 
前書き
あらすじ
「戦国時代に転生してくれ!」そう願った主人公は、恋姫世界の「春秋戦国時代」に転生した。
中国史も恋姫無双も全く知らない主人公は、中華風ファンタジー世界だと、勘違いする。
転生チートを駆使して、やがて歴史をひっかき回す主人公が送る、ちょっと変わった三国志のお話。
 

 
「あの政が、まさか皇帝になるとはな。いわゆる始皇帝ってやつかな」

「おお、わが友、田忠いや、心よ。始皇帝とはよい呼び名だな。余は、これより始皇帝と名乗ると致そう」

「せっかく中華を統一したんだ。これからが大変だぞ、始皇帝さん」

「うむ、責任は重いが任せておけ。無論、お主にも手伝ってもらうぞ」

「もちろんだ。お前さんだけに重責を押し付けないさ」


 咸陽の巨大な宮殿の豪華な部屋で酒を飲みかわす。それも二人だけで。目の前には偉大な王がいた。
 中華を統一した政、始皇帝とため口をたたく自分が、いまでも不思議で、現実感がない。


(うーん、始皇帝って歴史の授業で習ったような気がするんだよね)


 普通なら、タイムスリップを疑うところだろう。だが、俺は違うと断定できる。


「ははは、余を口説くつもりかな」


 上機嫌に笑う、妙齢の女性。そう、始皇帝こと政は女性なのだ。
 だから、中華風ファンタジー世界に俺は生まれたのだろう。


 これまで色々あったよな。親友である政と出会ってからも激動の人生だったが、それまでにもいろいろあった。
 政には、孤児の自分を拾った僧侶によって、育てられたとしか言っていない。
 俺の最大の秘密は、たとえ政にでも打ち明けることはできない。


 俺、転生者なんだよね。




「オギャア、オギャア」


 赤ん坊の泣き声が響く。土で固められた道の上に、無造作に置かれていた。周囲に人影はない。

 
(どうしてこうなったんだ……)


 さきほどからずっと考えている。思考はぐるぐる回るが、どうしようもない。
 なぜなら、俺は生まれたての赤ん坊なのだから。
 耳障りな泣き声も、俺のものだ。


(あのクソ神、ぜってえぶっ殺してやる!)


 俺の名前は、田中心。つい先ほどまで、高校生だったが車にひかれて死亡した。
 その後、神さまっぽい存在に会って、転生しろと言われた。
 チートを3つまで貰えると言われたら、喜んで転生するだろ。


 で、生まれたあと、すぐに捨てられた。
 理由は、俺が銀髪オッドアイだったから。両親のどちらにも似ていない。
 不義を疑われることを恐れた母によって、俺は捨てられた。


(神の罠か、それとも自業自得なのか)


 生後数時間で、転生生活が終わるなんて、あり得ないだろ!
 そりゃ、チートで容姿を指定したのは俺だし、生まれる年代を選べるというから、好きに選んだのだけれども。
 今は戦国時代のはずだから、迷信が蔓延っているし、命の値段が現代よりも価格崩壊している。
 正直、俺が助かる見込みがないだろう。


 グッバイ、俺の二度目の人生。


「―――――?」


 あれ、なにか声が聞こえる。
 うお、巨人だ! 巨人がいるぞ! って、俺が小さいだけか。
 巨人の男が、俺に近づいて、抱きかかえた。
 何か、よくわからない言葉をいっているが、とりあえず、俺は助かるのかな?
 そう思ったら、急に眠くなってきた。ずっと泣きっぱなしだったからね。


「――――!」


 男の声を聞きながら、俺の意識は闇に落ちた。




「父さん、いままでありがとうございました。御仏の教えに従い見聞を広めるために、外の世界へと旅立ちます。どうか、天から見守っていてください」


 父の墓の前で、宣言する。
 ああ、生まれたあの日からもう30年も経つのか。


 おぎゃあと生まれて捨てられた日、拾ってくれたのは、修行僧の父だった。
 彼は、俺を寺に連れて帰ると、養子にしてくれた。
 銀髪オッドアイの不気味な俺を差別せず、ときに厳しく、それでも愛情を持って育ててくれた。


 すくすく育った俺は、修行を積み、精神が鍛えられ、見違えるほど立派になったと父が絶賛してくれた。でも、父に比べれば俺なんかまだまだ未熟。
 教えてもらいたいことが、まだいっぱいあったのに。
 いかん、涙を流すんじゃない。父がいたら、修行が足りぬと言われるだろう。


 御仏は信じるが、神は全く信じていない。や、存在は信じるけれど、敬えない。
 だってさ、転生のときの話と全然違うんだもん。


「なんで、中華風ファンタジー世界なんだよ」


 俺は確かに「戦国時代に行きたい」っていったのに、どうも言葉も風習も古代中国っぽいんだよね。


 けれども、髪が青かったり赤かったりする人間が平然と存在していて、権力者に女性が多いと言われたら、俺のいた世界でタイムスリップしたわけではあるまい。
 したがって、中華風ファンタジー世界と結論づけた。


 ただ、転生チートだけは、問題なかった。むしろ、強力すぎてびびってる。


 まず、鑑定スキル。ファンタジーでは定番だよな。人物鑑定から物品鑑定まで幅広く使える。使いまくって熟練度を上げたら、すげえ便利に化けた。


 次に、チートな身体。戦国時代で槍働きをしたかったから頼んだ。驚いたことに、武力だけではなく、知力も上昇していた。これは神に感謝してやらんでもない。

  
 最後に、銀髪オッドアイ。捨てられたトラウマから、あまり好きではない。でも、類まれなるイケメンらしい。あまりうれしくない。髪の色は、中華風ファンタジー世界らしく色とりどりなので、俺の銀髪でも目立たない。両親が銀髪だったら、きっと捨てられなかったのかな、と思うと悲しくなる。


「でもまあ、素晴らしい父に出会えたのだから、帳消しにしてやろう」


 転生前の俺の親父は碌なもんじゃなかった。酒浸り、ギャンブル、借金。母は親父のいいなりで、俺が親父に暴力を振るわれても、見て見ぬふりをしていた。
 だから、幸せな家庭というのにあこがれていたのかもしれない。今世の父は、俺にとって命の恩人を超えて、尊敬すべき目標だ。


 いきなり親に捨てられたことで、すっかり人間不信になっていた俺を、父は優しく見守ってくれていた。少しでも父の役に立ちたくて、武芸と勉学に励んだ。前世では、どちらも大嫌いだったのに。
 もちろん、チートな身体を持っていて、上達が早かったのも理由だと思う。


 そして、気づいた30年経ち、一昨日父を看取った。
 寺と麓の村だけが俺の世界である。父の役に立ちたい一心で、補佐をし続けた。一切の後悔はない。


「にしても、俺は不老なのかな。身体チートのせいなのか、神のいたずらなのか」


 父に感謝している理由は、もう一つある。それは、俺の身体が全然成長しないことを気にも留めなかったからだ。
 13歳までは普通に育ったのだが、それを境に、全く身長が伸びなくなった。
 だから、俺の見た目は少年にしか見えない。


 普通なら気味悪がれて、排斥されるだろう。でも、父は違った。今まで通り、俺を育ててくれた。
 名も、前世の田中心にあやかって、田忠と名付けてくれた。前世の自分とのつながりも大切だろう、だとさ。
 本当に感謝してもしきれない。


 あと、真名は心と名付けてくれた。この世界には、真名という風習があって、うっかり呼ぶと斬られるらしい。なんて恐ろしい風習なんだ。
 真名を預けられるような人に出会えるといいな。


「よし、出立するか」


 袈裟と三度笠と錫杖を手に歩き出す。一度だけ墓を振り返ると、麓の村へと向かった。 

 

戦国時代に転生するはずが春秋戦国時代だった件(始皇帝の誕生)

 
前書き
春秋戦国時代編のあと、楚漢戦争へと続きます。 

 
●月×日
住み慣れた寺を出立して5日経つ。ようやく村が見えてきた。この村は、秦という国に属しているらしい。
なんでも今は乱世で、秦はその中でも一二を争う強国なのだと教えてくれた。
とりあえず、首都の咸陽に行ってみようか。


●月△日
お姫様を助けたよ。異世界モノのテンプレだよね。びっくり。
盗賊らしき集団に襲われている馬車を助けたら、秦のお姫様だったでござる。
お姫様なんだけれど、覇気が物凄い。大物のオーラを感じる。
思わず鑑定してみたら、滅茶苦茶だった。

 政  
政治 知略 統率 武力 魅力 忠義
11  9  7  8   10  3

このように、鑑定では能力値が見れる。それ以外にも、欲しいと思った詳細な情報もみれる。感情とか潜在能力とかね。
ちなみに、チートなはずの俺の能力値はこちら。

田忠(田中心) 心
政治 知略 統率 武力 魅力
10 10 10 10 10 

 ひょっとして、俺が弱いだけ?


●月◆日
いま咸陽にいます。お姫様に仕えることになりました。異例の大抜擢だそうで、周囲は大いに反発した。
俺も断ろうと思ったのだけれど、お姫様は頑として譲らない。
「信頼できる側近が欲しいのだ」としおらしく、ツンツンお姫様に哀願されたら、断れないよね。
彼女は13歳。なんでも、秦の王に即位するために、咸陽へ向かう途中だったらしい。
あの盗賊らしき連中も、自分の命を狙う者たちの仕業だと。

俺の(みための)年齢も、丁度13歳。シンパシーを感じたのか、やたら懐かれた。
悪い気はしないのだが、周囲の反発をどうにかしないと、彼女の立場まで悪くなってしまう。
どげんかせんといかんね。


●月☆日
無双しました。秦は実力主義なところがあったので、秦の腕自慢たちと手当たり次第立ち会ってもらって全部に勝利してみせた。
さすがに、ここまですれば俺の実力を認める他ないらしい。
風当たりは大分マシになった。お姫様は大喜びだ。
俺の能力値はやはりチートみたいだ。とすると、お姫様(正確には女王様)は天然チートだね。


◇月※日
お姫様が即位してしばらく経つが、もどかしい日々が続いている。激おこぷんぷん丸だ。
聡明な彼女は、秦を大改革して強国へと生まれ変わらせる自信があった。なにせ政治11だものね。
けれど、それを阻止する者たちがいる。その筆頭が、呂不韋とかいうやつだ。

やつは、継承順位の低かったお姫様を女王に仕立て上げだ後継人だ。だから、お姫様も感謝はしている。
だが、それをいいことに、国を好き勝手動かして私腹を肥やしているのはいただけないな。


×月☆日
即位してから6年目。趙・楚・魏・韓・燕の五カ国連合軍が攻めてきた。秦が強国だから、集団で潰しに来たのだ。外交的敗北ってやつだね。
宮中はてんやわんやだ。お姫様はそれを見て一喝。威風堂々と軍を率いて函谷関で連合と激突。鮮やかに勝利して見せた。

もちろん俺も参加したよ。親衛隊を率いて傍にいるだけかと思ったら、300人の部隊を預けられて「好きに暴れてこい」だってさ。
300人でどうしろと。でも、お姫様に「余の信頼するお前なら必ずできる」と言われてしまったら頑張るしかないよね。
で、大将首をいくつかとった。大手柄らしい。これには普段厳しいお姫様もニッコリだ。
知力10、統率10、武力10は伊達ではないのだよ。


×月◆日
将軍になりました。出世したなあ俺。お姫様によって完全実力主義となった秦だからできるのであって、他の国では無理だろう。
俺は運がいい。お姫様に感謝だな。
ただ、お姫様の親衛隊隊長兼個人的な相談役の職務も変わらない。おかげで忙しくってしょうがない。
武力だけではなく、政治についても対等に議論できる俺は、得難い相談相手だそうだ。
政治11についていける人間はやはり少ない。最低でも政治8はないと無理だろう。

この世界の一般人の能力値は、1か2だ。ちょっとエリートだと3か4。幹部クラスでやっと5を超えるのが標準的だ。
10とか11がいかにチートかわかるだろう。


★月〇日
呂不韋失脚! こいつお姫様のお母さんと不倫して、隠し子までいたらしい。
助命を嘆願するものが多くいたので、呂不韋は蟄居。でも、幼い隠し子は処刑された。
幼子を殺すのには反対だったが、乱世の定めと言われしぶしぶ了承した。俺もこの世界に染まってきたみたいだ。
ただ、呂不韋はお姫様の実の父親という噂もあった。問いただしてもはぐらかされたけれど。


★月◎日
呂不韋失脚によりフリーハンドを得たお姫様は上機嫌な日々が続いている。毎日高笑いしてるもんね。なんか悪役令嬢っぽいな。ざまあにならないように、俺が頑張らないと……。


△月◇日
この国は急速に発展している。韓・趙を滅ぼした。周辺の王国は危機感を抱いたようだ。

燕からの刺客が放たれたのだ。お姫様と謁見しているとき、進呈された財宝の中に短剣が隠されていたのだ。
襲い掛かる暗殺者。なのに、周囲はただ見ているだけ。謁見の間には武器を携帯してはいけないからだ。
お姫様は辛くも暗殺者を一刀両断し、無事だった。武力8だしね。お姫様も手練れだ。

俺は軍を率いて遠征中だったため、傍にいてやれなかった。すまない。
謝る俺にお姫様は、こういった。中華を統一するぞ、と。おこなの。


×月▼日
あれから数年。あっという間だった。お姫様のそばであれこれと政治の相談をしながら、俺は各地を転戦した。間違いなく中華で二番目に多忙だった自信がある。一番目はお姫様だ。
魏・斉を滅ぼし、ついに秦と並ぶ強国、楚と激突した。

初戦は20万で挑み敗退。俺も参加し局地的には勝利したが、全体では負けた。最も困難な殿軍を務めたことで、俺の株はまた上がったらしいけれど。
次は、なんと60万の軍で侵攻した。60万といえば秦の全戦力といってよい。
これだけの軍を一将軍に預ければ、謀反を疑われてもしかたない。けれども、老将軍、王翦は堂々と、金銭を要求してみせた。金銭に目がくらんでいるから謀反なんてしないよ、という彼女なりのメッセージである。

お姫様は、本当は俺に率いて欲しかったそうだが、断っている。王翦は、なんと統率10であり、年功で上なのだ。ここで俺がでしゃばっては軋轢が生まれる。そういったら、それでこそ余の心だ、と珍しく笑顔を浮かべて褒めてくれた。たまにデレるからドキっとするね。


◆月◎日
楚を滅ぼし、ついに中華を統一した。長い歴史上、初めての快挙である。
これで思うままに内政チートができる。内政11と10が火を噴くぜ!




 始皇帝、政は、目前の不思議な男、田忠を見て感慨に浸っていた。
 彼と出会ったのは、丁度秦の王に即位するために馬車で咸陽に向かっているときだった。
 道中、盗賊あるいは暗殺者に襲われ、絶体絶命のときに、さっそうと現れ一蹴した。


 三度笠に袈裟という珍妙な恰好で身の丈を超える錫杖を縦横無尽に振り回す様は、強烈な印象を政に与えた。


 政にも武芸に覚えがあるが、相手にならぬほど強い。同時に欲しいと思った。
 話してみると、年のころは自分と同じ程度。機知に富み政略の話にもついてきた。
 とても山に籠っていたとは思えぬ。
 父を亡くし見聞の旅で出てきたばかりだという田忠は、熱心に仕官を頼む政をみて、快諾した。
 
 
 それからはあっという間だった。
 見事な用兵を以て戦場で暴れ回るかと思いきや、一騎打ちで大将首をあげてくる。
 己の話題についてこられる数少ない臣として、政治、経済、軍略、策謀に至るまで、二人で夜遅くまで話し合ったものだ。
 度量衡や七曜、太陽暦の導入など、田忠の助言は大いに役立った。
 

 政は楽しかった。本当に楽しかった。
 そして、ついに秦は中華を統一した。自分の名声は不動のものとなったのだ。
 だが、己ももう40を超えた。もはや老境にさしかかっている。
 残念ながら、政の子供たちに己ほどの才はない。


 この国には、政が必要なのだ。永遠に国が発展し、国民が幸福に過ごすためには、自分が永遠を生きねばならぬ。


「なあ、田忠、いや心よ。そなたは、余と出会ったころから、姿かたちが変わらぬな。なのに不老長寿の秘密を、なぜ余に教えてくれぬのだ」


 始皇帝の瞳には、昏い感情が差し込んでいた。友に向けていい眼差しではない。それは、この国の命運を示しているかのようだった。 
 

 
後書き
恋姫は詳しくありませんが、書いてて楽しいですね。原作キャラ? 知らんな! 

 

戦国時代に転生するはずが春秋戦国時代だった件(さらば、友よ ※連載します)

 
前書き
・始皇帝編はこれで完結です。
・楚漢戦争編からは連載版へと移行しますので、よろしくお願い申し上げます。 

 
◎月△日
最近同じことばかり聞かれる。不老の秘密は何か、と。
そんなん知らないよ。なのに、しつこくしつこく尋ねてくる。
どうすればいいのさ。


■月×日
お姫様のでっかい墓がまだ完成していない件について。
即位した13歳のころから作り続けた滅茶苦茶でかい墓だ。
無駄すぎるだろ、と俺は反対したんだが。

失業対策として「公共事業」の概念を教えたのがまずかったのかな。
他にも、宮殿の設営や万里の長城の補修など手広く行っている。
数十万から数百万もの人間を酷使するなど、公共事業ではすまない。
それがわからぬお姫様じゃないはずなのに……。何を焦っているのだろうか。


☆月〇日
お姫様が国内を大々的に見回っている。
現場のことも大事にするお姫様らしい。良いことだ。
俺は咸陽で留守番を任されている。最近、不老長寿のことでギクシャクしていたから、丁度よかったのかもしれない。寂しいけれどね。


▼月◇日
泰山という霊峰がある。とても偉い神がいるらしい。
そこで、お姫様は「封禅」という儀式を行った。皇帝の名において、天と地に王の即位を知らせるとともに、天下泰平を感謝する儀式である。
この儀式をもって、お姫様、始皇帝は神となった。

不老長寿の儀式でもある。これでお姫様が不老長寿になってくれればよいな。

着々と足場固めを行うお姫様のためにも、俺の采配で民の負担を軽くするようにした。
俺の独断だが、お姫様ならわかってくれるだろう。
いまの重税と賦役では早晩反乱が起こり国は倒れてしまう。
それが分からぬお姫様ではないはずだ。


★月〇日
お姫様の機嫌が悪い。封禅の儀式を行ったのに、加齢が止まらないからだ。
俺への皮肉も多くなった。不老の術を教えぬ俺は、酷いヤツらしい。
勝手に税や賦役を軽くしたのにもお冠だ。俺の独断に激怒し、元に戻してしまった。
地位こそはく奪されなかったものの、俺は謹慎することになった。


■月△日
不老を諦めきれないお姫様は、大々的に不老長寿の術を知る人間を募集した。
その一人に、徐福という者がいた。
東の海を渡った先には、神仙が住む蓬莱という国があるらしい。
うさんくさい。けれども、中華風ファンタジー世界だし、本当に存在しているのかもしれない。

徐福の話を聞いたお姫様は、俺の出身は蓬莱に違いないと大喜びだ。
俺は仙人と言われるようになった。とりあえず寿命のことも、仙人なら仕方ないねと結論づけたようである。
正直助かった。仙人、実在するのだろうか。


×月◆日
1年が経ち、約束の日を過ぎても徐福は戻ってこなかった。徐福の親類は皆殺しにされた。
最近のお姫様は情緒不安定である。老いへの恐怖に苦しんでいる。
俺が慰めても、逆効果にしかならない。
気に食わない本を全土で燃やしたり、儒者連中を殺したり。
俺が止めても、もはや声が届かぬようだ。
どうすればいいのか……。


◎月☆日
俺は、咸陽から逃げ出した。
どこかの馬鹿が、「仙人の血肉を食らえば不老不死になれる」とお姫様に吹き込んだらしい。
方士と儒生の連中だろうな。法吏の庇護者だった俺が邪魔だったんだろう。

秦は三つの派閥に分かれている。
薬学や医療に通じた方士。
伝統を重視する儒生。
中央集権を目指す官僚集団である法吏。

これらが、派閥争いをしていた。俺は法吏の立場にいつつ、内部対立を抑えようと尽力していた。
不老長寿の薬の発見に失敗した方士を庇い、弾圧から儒生を守った。
だが無駄だった。いや、恩を感じてくれた一部が、事前に知らせてくれたからこそ、こうして逃げられたのだ。一概に無駄とはいえないか。

お姫様……政のことは心の友だと今でも思っている。でも、俺の居場所はここにはない。


そうだ、インドへ行こう。




 田忠出奔の報は、秦の全土を揺るがした。
 

 始皇帝が秦王に即位したときからの股肱の臣を失ったのだ。
 さらに悪いことに田忠は有能過ぎた。
 政治から軍事に至るすべてにおいて田忠は関与しており、その穴埋めは簡単ではない。 
 派閥対立も酷くなった。方士、儒生、法吏のパワーバランスが崩れ、皆が権力闘争に明け暮れた。


 国内の不満も高まっている。税を軽くして始皇帝から処罰を受けた例からわかる通り、田忠はあの手この手で征服したばかりの民の慰撫に努めていた。
 ときに彼らの要望を聞き入れ、代弁者として宮中で動くこともあった。
 その田忠が出奔したことで、地方は動揺している。


 田忠の出奔の理由については様々な憶測が流れたが、ある時から「血肉を喰らおうとして逃げられた」という噂がまことしやかにささやかれるようになった。
 民たちは一笑して冗談だろうと受け止めていた。だが、やがてそれが事実であるという話が広まるにつれ不安が募っていく。
 忠臣を殺すのではなく「食べよう」としたのだ。そして、その忠臣は民の味方であった。始皇帝への不満はいよいよ高まる。


「陛下、なぜ民草どもの噂を放っておくのですか!」

「……これは余なりの贖罪なのだ」

「なりませぬ! このままでは陛下の名声が地に落ちますぞ! 天下の逆賊田忠を許してはなりませぬ!」

「黙れ!! 貴様に田忠の何が分かる! もはや余に真名を呼ぶ資格すらないのだ。失って初めて、真に大切なものに気づくとは……余は愚かだった」

「陛下……」


 始皇帝は田忠の出奔後、めっきり老け込み、不老長寿探しも止めてしまった。その代わり、国内の引き締めを図るため、二度目の地方視察へと乗り出す。


「田忠よ、すまぬ。余が愚かであった。余の命尽きるまでに、余とお主で作り上げたこの国を盤石にしてみせようぞ。そして、いつの日か繁栄するこの国に帰ってきておくれ」


 しかしながら、視察の途中、始皇帝は病に倒れ亡くなった。
 その死は伏せられ、残された臣たちによって泥沼の権力闘争が始まる。
 醜い争いは国土の疲弊を招き大規模な反乱が起こる。
 そして秦帝国は成立後15年で、その短い命を閉じたのであった。


 始皇帝は、今わの際においても最期まで田忠に謝り続けていたという。 
 

 
後書き
・連載版は明日投稿予定です。タイトルは、『戦国時代に転生したら春秋戦国時代だった件』です。どこかで聞いたようなタイトルですね。 

 

あの家に帰りたい(完結)

 
前書き
ビビッときたので、オリジナル(一話完結)を書いてみました。
私なりに勇者召喚を考察したものです。 

 
「帰ってやる!! 絶対に!」

 男は勇者として召喚された。
 魔王を討伐し、王女と結婚する―—そんなありふれた物語である。そのはずだった。

「勇者様! おやめください!」

 日本の地方都市に生まれた男にとって、親は母一人だった。
 母は、女手一つで男を育てた。
 
 なぜうちはこんなに貧乏なのか。
 なぜうちには父親がいないのか。

 不満をもった男は幼少のころ、そういって母を責めた。 
 だが、いくら理不尽な言葉を投げかけても、母は悲しそうな顔をしてひたすら、ごめんね、と謝るだけだった。
 そのときの母の顔を、男は今でもはっきりと覚えている。


 親の心子知らずというべきか。男は順調にグレて色々とやんちゃをした。
 そのたびに、母は学校や警察に頭を下げに行った。
 だが、叱ることはあっても、愛情をもって男と接し続けた。

「邪魔をするなら、誰であろうと容赦はしない!」
「そんな……!?」
 
 そんな男であったが、底辺とはいえ高校に進学した。もちろん、母が稼いだ金で。
 母に強く勧められたこともあったが、働くのが面倒というのが、男の正直な気持ちだった。


 そして、母は倒れた。
 不治の病だった。ごめんね、とあくまでも男のことを気遣う母を見て、男は――

「俺がいなくなったら、病気の母さんはどうなるんだ!? 親戚もいない、誰も助けてくれない状況で、俺を育ててくれた母さんはどうなるってんだ!」

 頼れる親戚もいない過酷な状況で、母は男を育て切ったのだ。
 働きづめだった母には、友人すらいなかった。
 近隣で最低金額の家賃のアパートで、母が待つのは、男一人。

 「あのボロアパートで、一人きりで生きていけとでもいうのか!?」

 ――俺はまだ一つも親孝行できていないんだぞ!

 それは男の魂の叫びだった。
 かつての勇者パーティーとの激闘を広げながら、走馬燈のように記憶がよみがえる。
 底辺の高校で必死に勉強しながら、アルバイトをいくつもかけ持ちして必死に働いたこと。
 地元で最高峰の国立大学への進学が決まったとき向けてくれた母の笑顔。

 治療費を稼ぐためにアルバイトを続ける傍ら、大学の研究室で誰よりも働き、どんなに多忙でも、母と過ごす時間を作ったこと。
 一流企業の研究職にオファーが来て、母と一緒に大喜びしたこと。
 初めての給料で買ったブローチを贈ったら、母は涙を流しながら喜んでくれたこと。

「俺は誓ったんだ! 絶対母さんを幸せにしてやるって!」

 母が犬を飼いたいを思っていることを知って(母は隠しているつもりだったようだが)、庭つきの一軒家を買うために頭金を貯め始めたこと。
 
 そして、頭金が無事溜まったことを母に知らせるために帰宅中、男は異世界に召喚されたのだった。
 異世界でチート能力をもらって、贅沢をして、様々な見目麗しい女性に言い寄られても、男の心には全く響かなかった。
 男の願いはただ一つ。

「何度でも言ってやる! 俺は絶対に、絶対に帰ってやる!」

 魔王を倒せば帰ることができると聞いて、周囲から止められようと死ぬ気で、驚くほどの短期間のうちに、魔王を討伐したのだった。

「待ってください! たしかに騙していたのは謝ります! ですが、ですがどうかこの地に留まり私たちの光となってください」
「ふざけるな!」

 男は騙されたのだ。魔王を倒しても男は帰ることはできなかった。
 だが、魔王の最期の言葉が、男とこの世界の運命を決定づけた。

『一定数の人間殺し、魔王の資格を得れば、異世界へ渡ることもできよう』

 死闘を繰り広げた男は、かつての仲間だったものを一瞥すると、無尽の野を進むがごとく、人間を殺していく。
 勇者パーティーが全滅したことで、勇者を止められるものはもういなかった。

 ――こうして、新たな魔王が誕生した。男の行方は、誰もしらない。 

 

アジア的優しさのこいし

 
前書き
・ベルリンの戦いがうまく書けないので、息抜きに。ライヒスタークに赤旗を立てるのはもう少しお待ちくださいませ。
・「古明地こいしは進化しました」の改良版になります。 

 
In America, you always find a party.
(アメリカでは、あなたはパーティーを楽しむ)
In Soviet Russia, a party always finds you.
(ソビエト・ロシアでは、党があなたを監視する)




 聡明なソ連人には5つの戒めがある。


 1. 考えるなかれ。
 2. 考えたなら、喋るなかれ。
 3. 考えて喋ったなら、メモするなかれ。
 4. 考えて喋ってメモしたなら、サインするなかれ。
 5. 考えて喋ってメモしてサインしたなら、驚くなかれ。


「あなたは知りすぎたようね。シベリアへ送ってあげましょう」
「いやだああああああああぁ!! そ、それだけはやめてくだ――――!!!」
「連れていけ」


 古明地こいしは、恐れられている。泣く子も黙る秘密警察を率いるのが彼女だからだ。


 だが、それ以上に恐れられているのはその能力ゆえだろう。さとり妖怪である彼女は人の心が読めるのだ。どんな犯罪者もこいしの前には無力だった。


「はい、粛清完了」


 
 今日も一人の聡明なソ連人がシベリアへ片道切符のバカンスに送られた。しかしながら、犯罪者――思想犯や政治犯も含む――を容赦なく粛清する彼女だが、昔は気弱で大人しい少女だった。人の心を読むのに疲れ果て、自らの力を封印して、あてどなく漂っていたのである。
 

 そんなとき出会ったのが、フランドール・スカーレットだった。こいしの上司であり、狂信的な愛情を注ぐ絶対的な対象である、
 今日も今日とて、フランドールのために思想犯をルビヤンカの地下送りにしていた。きっと笑顔で拷問を楽しむのだろう。想像するだけでぞくぞくとして、笑みがこぼれる。


「おっと、いまは仕事をしないと」


 今でも思い出す。あの真夏のシベリアの大地でフランドールと出会った日を。
 

 心を読む能力が嫌で嫌でたまらなかった自分を、彼女は優しく諭してくれた。フランドールもまた、自らの能力に振り回された経験をもっており、こいしに親近感を抱いたのだろう。
 彼女は、こいしにささやいた。


『せっかくの能力だから、思いっきり利用して人生楽しめばいいのよ』


 事実、フンドールはその破壊に特化した能力で、姉のレミリアの敵を文字通り粉砕していた。
 そんなフランドールにとって、敵対者の心を読めるこいしの能力は喉から手が出るほど欲しかったのだろう。
 いや、それ以上に、フランドールにとって、こいしは自らのあり得た未来だったのかもしれない。もしレミリアがいなければ、こいしの立場にいたのは、あるいは自分だったのかも、と。


 こうして、ソ連にこいしは加わった。約束通り、彼女の能力を最大限利用できる舞台を、部隊を、用意したのだ。
 最初は、恐ろしかった。自分の能力で、処刑台へと送られていく人や妖怪を見るたびに、怖くなった。


 シベリア送りだって自分が考えた。フランドールがすぐに粛清してしまうのをみて恐ろしくなったのだ。
 こんな話がある。レミリアを批判する詩を書いたとある男は、フランドールに尋問された結果『自白』したという――――無事なのは右腕だけだった。自白調書にはサインが必要だからである。
 しかしながら、こいしが来たことでそのような『自白』はなくなった。彼女は自分が『自白』を減らすのに貢献できて単純に嬉しかった。だから、次は待遇を良くしようとしたのだ。


・シベリアで木を数える仕事
・シベリアで日光を観察する仕事


 このお仕事はこいしの発案である。誰でもできる簡単なお仕事だと彼女は自負している。そんな彼女のお陰で、シベリアは今でも林業と観光業が盛んである。こいしのアジア的優しさの表れといえよう。


 ある日、スメルシ(スパイに死を)として活動していたとき、スパイをあぶり出して、心を読み人類統合体の大規模侵攻計画を入手した。
 結果として、情報を入手したソ連側の先制攻撃により、100万人の将兵が死傷した。
 

 今までと桁の違う犠牲者数を見て、怖くなった。しかし、怯えるこいしに、フランドールは言い放ったのだ。


『一人の死は悲劇だが、百万人の死は統計上の数字に過ぎない』

『死はすべてを解決する。人が存在しなければ問題は起こらない』

『愛とか友情などというものはすぐに壊れるが、恐怖は長続きする』


 恐怖心から依存しようとしたのかもしれない。こいしは、すっかりフランドールに心酔した。フランドールのために、喜々として粛清を行うようになり、恐怖は快楽へと進化した。
 

 こうして立派なサディストが誕生したのである。


 ――――再会したこいしの姉は号泣したという。 
 

 
後書き
・むかしむかし、ポルポトの大虐殺を「アジア的優しさ」といって擁護した大手新聞社があったって信じられますか? 

 

【お試し版】もしも十二国記の転生者が王になったあと蝕で真・恋姫♰無双の世界に流されたら?

 
前書き
メリークリスマス!
ジェダイが間に合わなかったので、こちらでご勘弁を。

この話だけだと分かりませんが、十二国記×真・恋姫♰無双のクロスのプロローグになります。 

 
「徇王はまだ見つからないのか……」
「もう5年も経つがいまだに手がかりすらみつかっておらん。白雉が鳴いていない以上生きているのは確かだが」
「もしかして異世界に流されてしまったとか。いやまさかな」
「いま、なんとおっしゃいましたか?」


 うららかな午後、慶国の金波宮では、景王が私的に客を招いていた。
 青空のもと、東屋には3人の影がある。
 5年前から続く懸案事項について、延王尚隆と景王陽子が会話を続けていた。
 尚隆は覇気ある大柄な青年で、陽子は赤髪緑目、男装が特徴的な少女だった。それぞれが麒麟に選ばれた王である。
 黙って会話を聞いていた偉丈夫は遠慮がちに座りながら――伏礼は慶国では廃されている――思わずといったように口を挟んでいた。
 非礼にあたるが二人の王は気にも留めない。この場においては有難かった。


「いや、だから蓬莱には異世界が登場する作品が多くって。もちろん空想上の話だったけれどこうしてこの世界がある以上、他にも異世界があるんじゃないか?」
「異世界。蓬莱や崑崙ともまた異なる世界。もしや徇王が蓬莱や崑崙にいないのもそれが理由ではないか。しかしどうやって探すか」
「薄くだが王気が感じられるのだから、それを辿ってみればいいんじゃないか?」
「ふむ、目印があれば行けるやもしれませんね」
「おお、延台舗、景台舗まで。有難く!」


 離れて黙って見ていた麒麟の二人も加わり議論が盛り上がる。
 最後にいくつか問答を終えると、偉丈夫――舜国左将軍は満足気に頷いた。


「ありがとうございます。主上捜索への一筋の光明が見えました。急ぎ王宮へと戻らねば!」
「いやまて、本当に存在するかは分からないぞ?」


 声をかけるも、礼を失さない程度にかけていくと騎乗して飛び去っていくのが見えた。
 彼の従卒たちが一糸乱れず後を追う。全員騎獣が白で統一されている。左将軍ご自慢の白馬義従を陽子たちは遠目に見送った。
 思えば、偽王の乱では彼らに世話になった。尚隆がぽつりと言った。


「それしても即断してから行動が早いな。さすがは公孫瓚だ」
「思いつきでいったんだけど、大丈夫だろうか」
「ははは、陽子だからこそ思いつけたんだろう。俺も異世界とは思いもつかなかった」
「やめてくれ。まだ実在するかもわからないのに」
「公孫瓚は実在するがな!」


 言ってみたものの、三国志を知らない陽子にはあまりピンとこなかったようだ。
 事実公孫瓚は実在する。いや、していた。陽子たちの世界、崑崙つまり中国の地で。はるか2000年以上昔に。初めてその名を聞いたとき尚隆は仰天したものだが。
 しかし本人ではない。同じように徇王によって名付けられた者たちが舜には大勢いる。
 徇王の名を聞いたとき尚隆は、思わず納得したものだ。
 

 その後、本当に異世界が発見され陽子の元に莫大な謝礼が送られてくることを陽子は知らない。
 その額は慶国の国家予算を優に超える額であり、意図せず陽子の政権支持につながることとなる。
 5年後、徇王発見および帰還の際には前を上回る謝礼が払われ、冢宰の浩瀚が驚く顔を初めて見たと陽子は語った。
 
 

 
後書き
ジェダイ優先だけれど、こちらと田忠と東方革命記とハイスクールDDと精霊使いとソ連モノの方も忘れてませんよ!来年はいっぱい書きたいです。 

 

【お試し版】ゲート ジェダイ彼の地にて、斯く戦えり

 
前書き
遠い昔、遥か彼方の銀河系で一人の転生者が生まれました。のんきに生きてきた彼は母を殺され、共和国に憎悪を抱く。銀河帝国軍に入るもダース・ベイダーに義父を殺されダークサイドに落ちた。以下なんやかんやあって彼が率いるローゼン・フロッテは転移事故で見慣れぬ星に根を生やすことを決意する。惑星ハイネセンと名付け大陸東部を占領した彼らは、帝国を打倒しようとするが……そこに現れたのは日本の自衛隊だった。――――銀河の歴史がまた1ページ(仮)。 

 
「皆さん落ち着いて。私たち自衛隊が来たからにはもう大丈夫です!」
「jgalkfjakls;lejt;lkfgジェダイ? dfmadk;fakldaklfjaskldlkジェダイafjksdjlfdsj!」

 コダ村に向かう途中で出会った避難民に自分たちは自衛隊と名乗ったら、一人の避難民が突如大声を出していた。
 やはり言葉はわからない。特地では日本語が通じないので、コミュニケーションがとりづらいのが課題だった。
 だが、彼女は前へ進み出てると、剣呑な調子で尋ねてきた。――英語で。

『What's Jieitai mean ?(ジエイタイとは何だ?)』
「えっ?」
『I said that what's that mean !(だからジエイタイとは何なのか教えろ!)』
「ひょっとして英語なのか?」

 話しかけられた伊丹は、英語と分かると不安そうな顔をしながら会話に応じる。なぜ特地で英語が出るのか。疑問が心の中を渦巻く。

『Are you Jedi orders?(貴方達はジェダイなのか?)』
「ジェダイ? ノーノ―、ウィーアー Ji-ei-ta-i! ジェダイじゃないってば」
『You are Jedi as I thought. It is useless to hide your identity.(やはりジェダイじゃないか。正体を隠しても無駄だぞ)』
「オーイエース、ジエイタイ。ライトセーバーも持ってないしね、はは。」
『Lightsaber!? Sure you said lightsaber! You are really Jedi!(今確かにライトセイバーと言ったな! やはりお前たちはジェダイだ!)』
「ちょっと適当な会話しないでよ! なんだか勘違いされてるわよ!]

 目を怒らせ不穏な空気を発する兎耳の女性をみて慌てて栗田が伊丹を止めにかかる。
 多少片言だが英語である。伊丹の英語力では会話にならないと感じた栗田が代打となった。
 伊丹にはさぞ救いの女神に見えたことだろう。

「You're misunderstanding. We are Jieitai, JSDF called Japan Self Defense Force, not Jedai(誤解です。私たちは日本の自衛隊といいます。ジェダイではありません)」
『You are Republican soldiers. The blaster rifles and tanks are proof!(お前たちは共和国の先兵だな。そのブラスター・ライフルとタンクが証拠だ!)』

 自衛隊を何かを勘違いしている兎耳女性と栗田との押し問答が続く。
 八方手を尽くして何とか「自分たちはジェダイではない」と説得を続けたものの、お互い不信感が残ったままである。
 しかし、それ以前にお互い気になることがあった。

『So why are you talking in Galactic Standard Basic? (ではなぜ貴方たち銀河標準ベーシックで話しているのだ?)』
「銀河標準ベーシック? 何それ。英語でしょ? We are talking in English, right? Rather, What is the Galactic Standard Basic? (英語で会話しているはずです。銀河標準ベーシックって何ですか?)」

 やはり誤解をしたままその後なんやかんや伊丹たちと共にする兎耳の女性――テューレ。故郷を救ったダース・ローゼに師事するシス・アプレンティスとして間諜となって活動するのだった。 
 

 
後書き
・むしゃむしゃしてやった。後悔はしていない。続きの需要はありますか?
・ダース・ローゼの設定はネタバレすると、旗艦ヒューベリオンで小艦隊「薔薇の小艦隊(ローゼンフロッテ)」を率いるダークサイドの転生者です

ゲート×スターウォーズ×銀河英雄伝説という謎のクロスオーバーをしています。闇鍋です。
しかも主人公は念能力者で3つの能力をもっています

<未来福音/the Garden of sinners/recalled out summer>
<人物鑑定/ステータスオープン>
<偽りの連隊長/ワルター・フォン・シェーンコップ(笑)>

設定作るのたのしいです。続けるかどうか悩み中です。
<偽りの連隊長>はとある世界の薔薇の騎士連隊連隊長の言動を模倣するという能力です。 

 

【お試し版】ゲート ジェダイ彼の地にて、斯く戦えり(マル・アデッタの戦い①)

 
前書き
スターウォーズSSだけど、今回は銀英伝の名前が多いです。
時系列はパルパティーンが倒され、銀河帝国が息の根を止められるはずだったジャクーの戦いの後です。
ジャクーの戦いはシェーンコップの乱入により辛勝しています。

自由惑星同盟はシェーンコップが廃棄星系を買い取って作った辺境の同盟で、銀英伝のキャラはシェーンコップによる名付けです。シェーンコップ本人の名前も……。
 

 
 ジャクーの戦いで奇跡的な勝利を収めた銀河帝国だったが、その傷は浅くなかった。薔薇艦隊(ローゼン・フロッテ)の機転と救援がなければ、敗北していたのは史実通り帝国側であったろう。
 この勝利により軍事力は、新共和国:5、帝国:4、中立:1の比率となる。


 しかし、現実は数字上の戦力比よりも厳しかった。皇帝亡き帝国は大宰相が執政を握っているものの、完全に手綱を握っているわけではない。
 元来独立心と野心の強いものが上に立っているため、皇帝並のカリスマとシスの恐怖と力がなければ、統率しようがなかった。
 ゆえに、うまく連携できないどころか、モフたちの権力闘争と内乱で混沌としている始末である。銀河帝国打倒の大義のもと一枚岩となっている新共和国と比べれば、いくつもの首を持つ帝国は動きが鈍く劣勢に立たされていた。


『銀河帝国に新たなシスの暗黒卿が誕生した』


 その最中、突如銀河中をニュースが駆け巡った。新たなシスが誕生したというのだ。そして、最高のジェダイたるルーク・スカイウォーカーもフォースの乱れを――強きダークサイドの波動を認めた。
 シスの皇帝ダース・シディアスを討滅したはずのルークが、公式に新たなシスの誕生を認めたことで新共和国もーーそして、銀河帝国も驚愕に沸いた。


「シェーンコップの大将、いやもうダース・ローゼでしたかい? 皇帝就任おめでとうございます」
「まさか私が皇帝になるとはな。人生とは面白いものだ」


 その力で瞬く間に権力を掌握したシェーンコップは、空位であった皇帝の地位に就く。無論、成り上がりの彼に反発する勢力も多かったが、すべてその圧倒的な力で黙らせた。同時に、シスを崇める勢力もまたシェーンコップが新たなるシスであると認め派閥入りした。


薔薇の騎士連隊(ローゼン・リッター)はいつでも閣下、陛下のお側に。しかし、戦場にお立ちになるのはやめたほうが……」
「すまんな、リンツ大佐。だが最前線の方が私には合っている。それに次の作戦は――」
「それはまた剛毅な。本当に大丈夫なのですか?」
「未来を予知する。これもまたフォースの力なのだ。委細は新しい大宰相に任せてある」


 政争に疎いシェーンコップは、新しい大宰相を任命した。シェーンコップの派閥が急成長したのは、彼の手腕によることが大きい。その名は――ヨブ・トリューニヒト。
 シェーンコップがその<人物鑑定(ステータス・オープン)>で見出した、怪物じみた政治家である。


「お任せを。主戦派をまとめ見事に役目を果たして見せましょう」

 
 内乱の危機から脱した銀河帝国は、急速に往年の力を取り戻しつつあった。自由惑星同盟(フリー・プラネッツ)で見せた内政手腕を遺憾なく発揮した彼は、圧政一辺倒の銀河帝国の統治手法を改めている。
 銀河帝国の圧政に苦しみつつも、旧共和国を快く思わない勢力は意外にも多く、新しい皇帝とその政治は歓迎された。
 しかしながら、軋轢もあった。つまり、シェーンコップに反発する者が予想以上に多かったということだ。新共和国に、彼らからある重要な情報がもたらされる。


「皇帝がわずかな護衛とともに極秘裏に移動しているだと? この情報は本当なのか!?」
「確かな筋からの情報です将軍。新たな皇帝を倒す絶好のチャンスです。スカイウォーカーに知らせますか?」
「いや、やめておこう。別のスパイから、皇帝は囮でジェダイを船ごと自爆して始末する計画もあると聞く。ここは数で圧倒する。正攻法でいけばよかろう」


 新共和国は、多方面同時侵攻作戦『ラグナロック作戦』を実行中であり、兵力に劣る帝国を押し込みつつあった。帝国の宿将ヤン・ウェンリーやメルカッツも、ローゼン・フロッテの分遣艦隊を離れ正規艦隊を指揮している。帝国は彼らの奮闘により局地的な優勢を保つものの苦しい状況に置かれていた。
 今やローゼン・フロッテに残る強敵はビュコックだけであろう。つまりチャンスである。


「しかし、主力艦隊を引き抜きますとラグナロック作戦を中断することになりますが……」
「ジャクーで負けた元帥の作戦を優先するのかね? 皇帝を討ち犠牲を最小にする。何の問題もあるまい」


 ジャクーで負けた新共和国軍は大きな人事異動があった。が、彼らは反乱軍の英雄たちであり依然として強い影響力を持っている。反乱後期から加わった新しい元帥は、功績を求めていたのである。
 かくして様々な思惑から銀河帝国と新共和国の決戦の火ぶたが落とされようとしていた。
 そして遂に、集結した新共和国主力艦隊8個が、小惑星帯を密かに移動するシェーンコップ艦隊の補足に成功する。


「いよし! 情報通りだ。敵は1個艦隊。こちらは8個艦隊。皇帝を倒すのだ! 歴史に名を遺すのはギアル・アクバーなどではない、この私だ! くたばれ皇帝(カイザー)!」


 後にマル・アデッタの戦いと呼ばれる決戦が幕を開ける。 

 

【加筆修正】幻想郷がソ連に蹂躙される話①

 
前書き
幻想郷がソ連に蹂躙される話の加筆修正版です。あとの方で美鈴も出るよ! 

 
『一つの妖怪がヨーロッパにあらわれている――共産主義と言う名の妖怪が』
(マルクス・エンゲルス『共産党宣言』序文)


 Урааааааааааааааааааааааааааааааа!!


 地響きのように、ウラー!と大声をあげて、地平線を埋め尽くすような数の兵士が突撃してくる。
 種族は様々だ。人間はもちろん、妖精、吸血鬼、人狼、エルフ、ドワーフ、鬼、天狗などなど。
 ありとあらゆる種族に加えて、人間とのハーフやクオーターも多くいた。
 そろいの軍服を着こんだ彼らは、赤地に黄色の交差する鎌と槌、星を象った旗を持っている。

 
 こちらの軍勢は、執拗なまでの事前砲撃によって崩壊寸前だ。  
 アサルトライフルを構える敵に対して、こちらは刀や竹やりで武装した人間たち。いまだに余裕を見せている大妖怪だけが、頼りだった。
 絶望的な状況でも、彼女は諦めない。
 なぜなら、ここは愛する我が子のような箱庭なのだから。――その箱庭の名前は「幻想郷」。
 人と妖怪が暮らす楽園は、いままさに滅亡の危機に瀕していた。
 妖怪の賢者と呼ばれた彼女――八雲紫は、必死に抵抗を続けるのだった。




 レミリア・スカーレットは転生者である。彼女がもらった転生特典は5つ。
 頭脳チート、身体チート、王の財宝、カリスマEx、黄金律Ex。
 彼女の願いはただ一つ。


「幻想郷を赤く染め上げたい」


 彼女は、共産趣味者だった。手始めに国を作った。その名も、


「ソビエト社会主義幻想共和国連邦」


 略してソ連である。
 科学的で偉大な共産主義の教えのもと、人間と妖怪の全てが平等に暮らせる国を作りたかったのだ。
 あと、そうすれば幻想郷も革命できると考えた。最初たった100人ぽっちの村でしかなかった。
 そのソ連は500年の時を経た21世紀には、人口15億2500万人を数える世界トップの超大国になっていた。
 民族という観点でいえば、人造国家であるソ連の歴史は長くない。
 しかし、国家という観点からいえば、500年以上栄え続ける化け物国家である。


 彼女のしたことは簡単だ。
 まず、魔女裁判などで迫害された人間や孤児などを引き取って国民にする。
 人間に友好的な妖怪や、忘れ去られて消えそうな妖怪を引き取る。
 史実ソ連の支配領域に重なる様に領土をぶんどる。
 カリスマチートにより、人間と妖怪を仲良く共存させる。
 頭脳チートや金運チートによって、常に内政チート状態。


 なにがいいたいかというと神様チートぱねえ。である。
 だから、レミリアは毎日神に祈るのを忘れない。
 おまえ妖怪だろ? 知らんな!
 だから、共産主義者の統領が神様を信じている。
 科学的社会主義? 知らんな!


「妖怪の持ちたる国。」


 ソ連が、世界で唯一の妖怪の国であることは、誰もが知る常識である。国内では、人間と妖怪が共存し、繁栄している。
 しかし、周辺の人間諸国にとっては脅威だった。


・資本主義を否定する共産主義。

・民主主義を否定する一党独裁。

・宗教を否定する科学的社会主義。

・人類の脅威となる妖怪たち。


 敵対する理由としては十分である。また、建国以来鎖国を続けたことも不気味だった。  
 資本主義陣営、民主主義国家、宗教勢力、人間至上主義者。周辺諸国は団結し、対ソビエト包囲網を形成した。
 世界一の国土をもつソ連は、敵対国家にぐるりと囲まれている。


 それでも、大規模な戦争にならなかったのは、ソ連の国力が圧倒的だったからである。
 過去に何度も侵略されたが、すべてにおいてソ連は圧倒的な勝利を収めてきた。それなのに、彼らが賠償を請求したことは一度もない。だからといって、友好的でもない。徹底的に外との交流を禁止していた。
 ゆえに、ソ連の実情を知る者は少ない。
 各国は必死になってスパイを送り込もうとしたが、全て失敗した。CIAやMI6(現SIS)ですら、一度たりとも成功しなかった。
 彼らはこの恐るべき防諜力を「モスクワの赤い霧」と呼んだ。


 それとは反対に、ソ連は世界中にスパイ網を構築していた。民衆は、KGBの諜報員たちによって意図的に流布された「ソ連は恐ろしい国である」という噂を信じた。かくしてソ連vs.世界という構図が描かれたのである。
 この奇妙なにらみ合いを人々は「冷戦」と呼んだ。
 

 実は、ソ連は、裏で人間国家や宗教勢力が敵対するように仕向けている。その理由はソ連への「恐れ」を、妖怪の糧とするためだった。
 文字通り「地上の楽園」となっているソ連をそのまま紹介すれば、恐れなど吹っ飛んでしまうだろう。
 だからこそ、ソ連は外国との交流を禁止し「閉鎖的で恐ろしい国」だと思わせるのだ。
 そのような裏事情など知らず、今日も世界はソ連を妖怪を、恐れている。いつか世界が革命されてしまうのではないか、と恐怖するのだ。
 恐れを食べた妖怪は力を増し、強くなった妖怪をさらに恐れる。
 そんな好循環が出来上がっていた。
 

 

【お試し版】ゲート ジェダイ彼の地にて、斯く戦えり(マル・アデッタの戦い②)

 
前書き
マル・アデッタの戦いの続きです。リオ・グランデは銀英伝原作のビュコック提督が搭乗していた戦艦になります。
 

 
 まずは小手調べとばかりに長距離砲撃戦が行われる。司令官は目を細めてその光景を見つめていた。敵は1個艦隊に過ぎないはず。なのに威圧感を感じるのは、薔薇艦隊(ローゼン・フロッテ)の輝かしい戦績知るがゆえの錯覚だろうか。
 あるいは、シスの暗黒卿のフォースによるものか。


「艦隊の情報が出ました。インペリアル級スターデストロイヤー<リオ・グランデ>を確認。フェザーンからのリークによるともはや皇帝の存在も確実です」
「<リオ・グランデ>があるということは、やはりビュコック提督が出てきたか。対等の条件で戦ってみたかったが、この兵力差ではな。いくらあの老人でも奇跡は起きまい」

奇跡の(ミラクル)ヤンならどうにかしていたかもしれませんね」
「ははは、やつは遠くの星系にいる。間に合わんよ」
「しかし、今回もフェザーンには助けられましたね」


 惑星フェザーン。かつて廃棄星系であったが、瞬く間に開発され辺境の交易拠点となっている。惑星ハイネセンを盟主とした自由惑星同盟(フリー・プラネッツ)と独立星系連合をつなぐ回廊に位置している立地の良さからである。
 両者をつなぐ玄関口として栄えていた。多種多様な種族のるつぼと化した惑星フェザーン。
 その名前はフェザーン商会の会長がつけたと言われている。


 20年以上前に突如現れたフェザーン商会は、飛躍に飛躍を重ね、今や通商連合の重鎮となっている。その伝説的な手腕を誇る会長は謎に包まれており、商会のものですら面識がないものがほとんどである。


 その名前をド・ヴィリエ。名前ばかりが噂となって広がる人物である。
 まるで未来をみたかのように投資で成功する。それを妬んだ敵が放つ刺客を幾たびも退ける。その人物鑑定にかけては右に出る者はいない。その言動から伊達男らしいと言われている。


 そして、商会の実務を取り仕切るのは社長のアドリアン・ルビンスキー。ハット族の切れ者。しかし、「ルビンスキー」の名を持つもは他にはおらず、偽名である可能性が高い。
 

 そのフェザーンは銀河帝国と反乱軍や新共和国を天秤にかけて、極秘裏に情報を売っていることは一部の人間しかしらない。
 前皇帝パルパティーンとダース・ベイダーを打倒したエンドアの戦いも、フェザーンからの事前のリークがあり、その信頼性は高いと言ってよい。――フェザーンの真の主にとって都合の良い情報という注釈がつくが、それを彼らは知るはずもなく。
 気づかぬうちに毒となっていた。


「しかし、マル・アデッタは厄介な星系ですな。小惑星帯に海賊対策の機雷源とは。どうしますか、提督」


 マル・アデッタ星域は、銀河帝国の派閥の一つ自由惑星同盟(フリー・プラネッツ)に属する星系である。その特徴は大規模な小惑星帯が存在していることであろう。
 身をひそめるに最適で、多く犯罪者の逃亡先として選ぶという不名誉な特徴をもつ。賞金稼ぎと正規軍によって犯罪者を討伐しようとしているが、いたちごっこが続いていた。


 そのため、あらかじめ機雷が敷設されており、小惑星帯であることも重なって大軍の利を活かすことができないでいた。


「やはり包囲殲滅はできんか。ならばこのまま正面から撃ちあうまでさ」
「ラジャー」


 しばらく撃ちあいが続くが、一向に勝負がつかない。それどころか、損害比は圧倒的に新共和国軍の方が高い。
 まるで未来を視たかのような指揮。薔薇艦隊(ローゼン・フロッテ)が恐れられる所以である。


「なんという芸術的艦隊運動なんだ。これではわが軍の被害が増えるばかりだぞ。すでに3個艦隊が半壊とは……」
「いえ、司令。敵はエネルギーの消費がかなり激しいはずです。ここはローテーションを組んであたり、敵の消耗を待ちましょう」
「む。確かにその通りだ。間断のない攻撃を続けて敵をくぎ付けにするとしよう。この際損害は無視だ。皇帝さえ倒せばそれでお釣りがくる」


 多大な犠牲を払いながら徐々に新共和国艦隊はローゼン・フロッテを追い込んでいき、激戦の後ついに総旗艦<リオ・グランデ>を補足するに至った。
 僚艦は降伏も逃走もすることなくすべて撃沈されるまで戦った。それに慄く。果たして忠義によるものなのか。それとも恐怖によるものなのか。


「よし。作戦通り<リオ・グランデ>に通信を入れろ」
「ラジャー」 
 

 
後書き
やはり宇宙の戦いになると銀英伝要素が強くなりますね。
逆に特地だとライトセイバーをぶんぶん振り回すことになりますけれど。
次回で戦いは決着します。
ド・ヴィリエの正体は誰なんでしょうね(すっとぼけ)

通信はシェーンコップの謀略です。 

 

【お試し版】ゲート ジェダイ彼の地にて、斯く戦えり(……分離主義に乾杯!)

 ここで新共和国から満身創痍の<リオ・グランデ>へオープン・チャンネルで通信が入った。わざと周囲に聞かせるためだ。その上、銀河中に生中継する念の入れようである。
 これは策略であった。皇帝が無様に打倒される様子を全銀河に中継することで、銀河帝国の威信に致命傷を与える。だから、あえて撃沈せずに中継を入れた。


「皇帝。無駄な抵抗はやめよ」


 ――が、それは最悪の選択であった。


「死ぬなら一人で死ね。周りを巻き込むな」


 挑発気味に降伏を呼びかけられた<リオ・グランデ>から、通信に応じたシェーンコップは毅然とした態度を崩さなかった。
 降伏に対する返答は、断固拒否。そして、堂々と言葉を続けた。



「私は貴公の才能と器量を高く評価しているつもりだ。同僚を持つなら、貴公のような人物を持ちたいものだ。だが、共和国を守る軍人にはなれん。ヤン・ウェンリーも、貴公の友にはなれるが、共和国の犬にはなれん」


 皇帝の醜態を衆目に晒すはずだった司令は、予定と違う反応に俄かに動揺する。嫌な予感が止まらない。


「なぜなら、えらそうに言わせてもらえば、分離主義とは集団からの独立をつくる思想であって、独立なき集団をつくる思想ではないからだ」


 まるで分離主義が共和制に勝るかのような主張。司令は息をのむ。
 そしてあろうことか、グラスを掲げるとビュコック他ブリッジのクルーと唱和したではないか。


「……分離主義に乾杯!」


 してやられた! これでは分離主義者の士気を上げるだけではないか!
 そう。未来を予測できるシェーンコップの罠だったのである。入れ知恵したのも当然銀河帝国が送り込んだスパイ、弁舌に長けたアンドリュー・フォークの手腕によるものだった。
 今回の作戦。何から何までシェーンコップの掌の上だった。もちろんシスのフォースと強化された<未来福音>が大いに役立ったのは言うまでもない。


「今すぐ撃て! 撃沈しろ!」
「ら、ラジャー」


 すぐさま無数の砲撃が<リオ・グランデ>へと吸い込まれて行き、皇帝もろとも爆沈したのであった。


「……司令、これでは中継は逆効果でしたね。分離主義運動は活発化するでしょう」
「今更悔やんでも遅い。皇帝を打倒した。ひとまずそれで満足しよう。被害状況は?」
「はっ、4個艦隊が半壊状態であります。その他も無傷とは言えません」

「たった1個艦隊にここまでしてやられるとは……敵ながら天晴よ。ん?」
「警報音がなぜ」


 激戦を経て最後にへまをしたものの。どこか弛緩した空気が漂う中、突如警報が鳴り訝しむ。それは共和国最悪の時と呼ばれる惨劇の幕開けであった。


「やれやれ、給料分の仕事をするとしようか」

「後方よりワープアウト反応多数、艦隊です! <ヒューベリオン>を確認。ヤン・ウェンリーです!」
「はああああ!?」


 ブリッジは大混乱に陥る。悲報は続く。


「無理な行軍に感謝する。今は一夜の睡眠より、無限の未来が欲しい心境だ。それに、少しでも敵の兵力を削っておくにこしたことはないからな」

「さらに反対方向に艦隊がワープアウト。<ネルトリンゲン>を確認。メルカッツ艦隊です。完全に包囲されました!」
「馬鹿な。ありえない! これは夢だ。夢にちがいない」
「司令!」


 思わず茫然自失とする司令官だが喝を入れられ正気を取り戻した。
 しかし、機雷と小惑星帯に囲まれ、出口は塞がれ挟撃されている。教本に載ってよいほどの見事な包囲殲滅である。


「ははははは! 皇帝を囮にしていたとは!」


 気づいてしまった。新共和国の主力艦隊を壊滅させるために、銀河帝国は皇帝を囮にしたのだ。司令官は優秀だった。優秀故に敵の罠に見事にかかってしまたことを看過し、かえって混乱してしまった。


「ええい、まずはヤン艦隊に対応するぞ、後ろへと回頭しろ!」
「司令、無茶です! 相手に隙を晒してしまいます!」
「黙れ! このまま一方的に殴られろとでもいうのか!?」


 無防備に回頭する相手のミスを見逃すほど奇跡の(ミラクル)ヤンは甘くなかった。


「敵を目前に回頭するとはね……。チャンスだ」


 戦艦が次々と爆発していく。混乱のせいか指揮を間違えたことで、英雄になる夢を抱えたまま司令は散った。
 こうして、新共和国軍は艦隊の7割を失う大打撃を受け逃げ帰っていくのだった。


 まさかの番狂わせに新共和国上層部は揺れに揺れ、混乱の最中に銀河帝国側から和平の締結を打診される。主力艦隊を失った新共和国に申し出を断る余裕はなかった。


 こうして結ばれた銀河協約は、銀河帝国と新共和国が対等に等しい内容だった。史実ではこの協約は銀河帝国の死亡証明書といってよかったが、この世界では相互に不可侵を結ぶに留まった。


 マル・アデッタの戦いで、主力艦隊を喪失した新共和国と皇帝を失った銀河帝国。その損耗はどちらが大きいのかは一概には言えない。 
 打倒銀河帝国に燃える新共和国内には、対等の協約に反発するものが多かった。しかし、穏健派はこう言ってなだめた。


「皇帝という絶対者を失った銀河帝国は、内乱に揺れ勝手に倒れるだろう」


 彼らの言うことは正しい。事実帝国内では反乱の兆しがあった。だがそのすべてを回避して見せた。大宰相トリューニヒトの手腕である。もともと主戦派を率いていたトリューニヒトは、銀河協約を渋る勢力を、持ち前の弁舌で説得。ひとまずの平穏は保たれた。
 その政治手腕からして怪物の二つ名を得ることになる。


「さて、銀河の平和は守られました。とんだ茶番ですな、陛下」


 トリューニヒトはこの盛大な茶番を仕組んだ皇帝に苦笑するのだった。


 なにせシェーンコップは生きているのだから。 

 

【加筆修正】幻想郷がソ連に蹂躙される話②

 
前書き
幻想郷がソ連に蹂躙される話の加筆修正版です。美鈴の出番までいかなかった・・・。 

 
「お姉さま、また妖怪の失踪事件が発生しました」


 扉を開けて、クレムリンの執務室に入ってきたのは、10歳ごろの容姿で背中の羽に無数の宝石を下げた少女。
 御年500歳を超える吸血鬼、フランドール・スカーレットでKGBのトップを務める。
 人間ならばとんでもない長寿といえるが、妖怪の中では若手と言えた。


「はあ、またなの? 私たちソ連に喧嘩を売るなんて、いったいどこの誰かしら? 被害者が無事に帰ってきているのだけは、不幸中の幸いね。記憶を失っているけれど」


 フランドールに答えるのはソ連のトップ、レミリア・スカーレット書記長である。
 彼女も吸血鬼であり、背中には蝙蝠のような翼があった。
 ソ連を建国したカリスマ的独裁者である。「赤い皇帝」と畏敬を込めて呼ばれていた。
 妹のフランドールを猫可愛がりしている彼女は、妹の姿に目を綻ばせるも、すぐにきりりとした表情を作った。


「あなたたちKGBでもわからないのね?」

「ダー(そうです)。目撃者が大勢いる中、こつ然と姿を消すそうです。おそらく、何らかの魔術によるものだと思われますが、痕跡が残されておらず調査は難航しています」

「同士パチェは何と言っているのかしら?」

「転移魔法とはまた違うようだと言っています。いま、現場を回って詳細な調査をされています」

「同志こいしの方は?」


 古明地こいし内務省(NVD)長官。彼女は、人の心が読める、さとり妖怪である。
 紆余曲折を経て、フランドールの忠実な下僕となっていた。
 彼女に褒められたいがために、秘密警察を率いて、国内の反乱分子を嬉々として粛清している。
 心の声が聞こえる彼女は、尋問にぴったりである。が、あえて拷問することも多い。
 レミリアは密かに、隠れサド、と呼んで恐れている。トラウマなんてなかった。


「やはり調査中です」

「そう、ありがとう。苦労をかけるわね」


 苦笑しながら、ねぎらう。


「ニェット(いいえ)。そんなことはありませんわ、お姉さま。いまの仕事には、やりがいを感じています」


 ふわり、と笑いながら頼もしい言動をするフランドール。 
 フランも立派になったわね、と、レミリアは訳もなく嬉しくなった。
 泣く子も黙るスパイ機関である国家保安委員会(KGB)のトップである。対外諜報活動を一手にになっており、レミリアに次ぐ権力をもっている。
 少しでも彼女の機嫌を損ねれば、ルビヤンカの地下送りかシベリアに流刑にされるといわれ、恐れられていた。とはいえ、あまり粛清しすぎないように、レミリアは気を付けるようにしている。


 そのフランドールは、生まれたときから強力すぎる能力を持っていた。
 さらに、悪いことに狂気におかされてもいた。親は、そんな彼女を殺そうとした。だから――


「もう、家を出て500年かしらね」


 ――家出した。フランドールを連れて。楽な旅路ではなかったが、妹とともに根気強く狂気を抑えようとした。旅の途中で仲間になった魔女パチュリー・ノーレッジや武闘家である紅美鈴の協力を得て、やっと日常生活を送れるようになったのだ。
 100年以上かかったが、嬉しそうに笑うフランをみて、彼女は幸せだった。
 フランドールも、常に自分に味方してくれた優しい姉を心から愛していた。
 

 というか、愛しすぎていた。


 レミリアの失くしたぱんつが、フランドールの部屋から大量に見つかったり。
 配下のKGB職員に命じて、四六時中レミリアの盗撮と盗聴をさせていたり。
 部屋の壁という壁にレミリアの盗撮写真を貼っていたり。
 レミリアを批判した人間や妖怪を、ルビヤンカの地下に送って拷問したり。
 レミリアはこう思ったという。
 

(どうもてもヤンデレです。本当にありがとうございました)


 ちなみに、ブラはなかった。理由は(察し)。


 当の本人は、前世でヤンデレ好きだったために、意外とこの状況を楽しんでいた。
 フランドールの行動を咎めるどころか、愛なら仕方ないね、といって周囲を呆れさせている。
 誰もが認める仲良し姉妹だった。それでも、レミリアにも悩みはある。
 前世は男だった。だから、男と付き合う気は毛頭ない。
 じゃあ、女は?というと、ありかも知れない。が、相手が妹というのはNGだ。近親趣味はない。
 フランドールの性的なアプローチとの戦いは、まだまだ続きそうだった。 


「あっという間でした。偉大なるソ連を建国してからは、もう無我夢中で」

「ふふふ、まさかここまで大きくなるとは思ってなかったけれどね」


 しみじみと昔話に花を咲かす。
 仕事の疲れが癒されるのを感じながら、自分の選択は間違っていなかったと再認識した。
 その最中、水を差すような言葉が耳に入ってきた。


「あと、世界革命までもうすぐですね!」

「あー、同士フラン? 別に、私はいまのままで満足しているわ」

「お姉さまは優しすぎます。資本主義の豚どもや、資本主義に魂を売った修正主義者という悪魔どもを粛清し、革命を輸出することで、いまこそ万国のプロレタリアートの楽園を作るべきです! 世界の全てはお姉さまの前にひれ伏し、真の救済を得るのです! 世界は全てお姉さまのもの。お姉さまが何をしようと誰が咎められるでしょうか」


 思わず頭を抱えそうになった。あくまでも、共産趣味者だったレミリアは、共産主義に幻想を抱いていない。
 しかし、さすが史実で世界を二分した麻薬のような思想だけあって、共産主義に傾倒するものは多かった。
 このソ連という共産主義によって栄えた大国があるのだから、無理もない。
 無理もないが、妹が共産主義にここまで傾倒するとは、予想外だった。KGB長官として辣腕をふるう彼女は、過激派の元締めになってしまったのだ。


 さらに、史実のスターリンやレーニンのようにレミリアへの行き過ぎた個人崇拝も加わる。
 ソ連の都市には、必ずレミリア像が立っている。学校の教室には、必ずレミリアの肖像画がある。
 独裁者の宿命かもしれなかった。


 この過激派が、フランドール一人だったらまだよかった。
 問題は、彼女以外のソ連の幹部にも過激派が多いということだ。
 下僕、あの花妖怪やきゅうりマッド、バカ妖精のせいで、妹が染まってしまったのだ。と、彼女は思っているが、実際はフランの方が感染源である。
 事あるごとに過激な主張をするようになったフランドールを見て、レミリアは、ひっそりと涙を流した。 

 

【加筆修正】幻想郷がソ連に蹂躙される話③

 
前書き
ヒント:めーりんが名前だけでてるよ! 

 
「最近、外からの妖怪が多いわね」


 博麗霊夢は、縁側でお茶を飲みながら、のんびりとしていた。
 脇がない巫女服というパンクなスタイル――つまりいつも通りだった。


「ああ、『拉致だ』とか『国に返せ』とか言う連中ばっかりだよな」 


 つぶやきに答えたのは、とんがり帽子をかぶったいかにもな白黒魔女、霧生魔理沙である。
 ここ最近、幻想郷に入ってくる妖怪が急増していた。
 外と内を隔てる博麗大結界の維持に関わる霊夢は、嫌な予感がしていた。


「外の国、えっと、なんだっけ」

「『ソビエト社会主義幻想共和国連邦』だってさ」

「そうそう。よくそんな舌をかみそうな名前を憶えているわね、魔理沙」

「里に行ったとき、外来人に聞いたんだ。なんでも、人妖が共存している珍しい国らしい」

「勝手に国民を浚って大丈夫なのかしら」

「だめだろ」


 人間と妖怪が暮らす楽園。それが、幻想郷であり、霊夢は、「楽園の素敵な巫女」の役割を担っている。
 すなわち、幻想郷を守ることが彼女の仕事といえた。
 その幻想郷が危機に瀕しているような予感が、ずっとするのだ。
 突然増えた外の妖怪。これが原因かもしれない。


「その通りですわ」

「うおっ、びっくりした。突然出てくるなよな」

「何の用かしら、紫」


 突然、姿を現したのは、八雲紫。
 幻想郷の創始者にして管理者であり、神出鬼没の隙間妖怪である。


「最近、外からの妖怪が急増しているのは、知っているわね。博麗大結界はどうなっているのかしら?」

「誤作動しているわね」

「……なぜそう思うのかしら?」

「勘よ」


 にべもない答えに面をくらう紫だが、いつものこと、と流した。
 それに、この巫女の勧はよく当たるのだ。


「そうね。この問題は、私の愛する幻想郷の存亡の危機なのよ」

「そんなヤバイ話なのか!?」


 いきなり始まったスケールの大きい話に、魔理沙は驚く。
 そんな彼女に、やんわりと紫が言う。


「迷い込んだソ連人は、記憶を消したうえで、私の手で帰しているわ。だから、いまはまだ大丈夫」

「でも、いつか気づかれる日がくる。でしょう?」

「霊夢の言う通り。ソ連にバレたら――」


 ごくりと唾を飲んで、魔理沙が問いかける。


「――バレたら?」

「幻想郷は滅亡するわ」




「お嬢様。これが調査結果です」


 拉致問題に関する会議が開かれた。
 パチュリーの報告者をレミリアに渡すのは、十六夜咲夜だった。
 国防人民委員――国防省長官のようなもの――のトップである。つまり、軍部の頂点であり、莫大な権力を握っている。
 どれほどレミリアが咲夜を信頼しているのか、端的に示していると言えよう。


 十六夜咲夜は時を操る程度の能力を持っており、その力を恐れた両親に捨てられた孤児だった。
 彼女を救い上げたのは、レミリアであり当初はメイドとして働くようになった。 
 やがて、その忠勤ぶりが評価されついには、ソ連の幹部にまでなったのである。
 彼女のサクセスストーリーは、ソ連国内でも人気がありちょっとした英雄扱いである。
 当人は、レミリアのメイドであることを誇りに思っており、いまだに常にメイド服を着ている変わり者でもあった。
 

「『幻想郷』ねえ。噂には聞いていたけれど」

「妹様も噂程度には知っているようね。ただの極東の辺鄙な異界。やっと尻尾をつかんだわ。たまたま拉致の瞬間が監視カメラに映っていたお蔭ね」

「さすがは同志パチェ。いい仕事をしてくれる」


 魔法省長官のパチュリー・ノーレッジが、誇らしげに言う。
 レミリアの褒め言葉に、ありがとう、とまんざらでもなさそうである。
 パチュリーは、レミリアとフランドールが旅を始めた当初からのつきあいであり、大親友である。
 それゆえ、レミリアが謎の拉致事件に心を痛めているのを察しており、早く解決しなければ、と意気込んでいた。


「KGBでは、潜在的な敵対勢力として幻想郷を監視しておりました。情報は全て筒抜けです。というよりも、すでにゾルゲが潜入しております」

「ゾルゲがですか! さすがは妹様です!」

「確かに手回しがいいわね」
 

 

【加筆修正】幻想郷がソ連に蹂躙される話④

 ソ連の最高のスパイであるゾルゲをすでに幻想郷に放っている。フランの手腕に咲夜とパチェリーは絶賛するも、彼女はあまり嬉しそうな顔をしていない。
 それを訝しんでいると、なにやら得意顔のレミリアの顔があった。


「こんなこともあろうかと! ゾルゲに幻想郷を探らせていたのよ! こんなこともあろうかと!」


 こんなこともあろうかと!とフレーズが気に入ったのか何度も繰り返すレミリアのドヤ顔を見て、内心いらっとしつつもパチェリーは驚嘆した。


「同志書記長の慧眼には恐れ入るわね。それも能力を使ったのかしら?」

「え? そ、そうよ運命を見たのよ!」


 実は雰囲気だけでも幻想郷を楽しみたいというレミリアのミーハー根性で送っただけで、ただの偶然である。あわてるレミリアを訝しむも、レミリアは無理やり話題を変えて、ゾルゲとの通信をつなぐことになった。


「お久しぶりです、皆さん」

「久しぶりね、同志美鈴」


 モニターには赤い長髪巨乳の美女が映っている。紅美鈴だった。彼女もまたレミリアの最古参の家臣であり家族である。コードネームはゾルゲ。スパイマスターにしてカンフーマスターである。
 当然この場にいるメンバーとも仲が良くて私的な場では美鈴と呼ぶことのほうが多かった。彼女の口から詳細な幻想郷の状況が語られる。
 ちなみに美鈴を見るたびにレミリアは、その巨乳にエロスだけではなく嫉妬も感じてしまい自己嫌悪に陥るのが常だった。


「――と、いうわけでして。正直なんでソ連に喧嘩売っているのかわからないくらい弱小勢力です。いくつか注意が必要な大妖怪がいますけれどね」

「でもやられたからにはやり返す、倍返しよ!」

「お姉さまの言う通りです。徹底的につぶして圧政から解放してあげましょう」

「素晴らしいわ、同志フラン。軍部はどうなの?」

「軍部もご命令があれば、すぐさま50個師団ほど展開できます」


 軍事については咲夜が即答する。ソ連は、欧州から極東にかけて、ユーラシア大陸の北部を占める広大な領土を持っている。
 それゆえ、広い領土を守るために、大量の軍隊を必要とした。
 防衛の主体となる陸軍はとくに充実しており、機械化狙撃師団――ソ連では歩兵師団を狙撃師団と呼ぶ――400個師団、装甲師団100個師団を持ってる。
 総数にして、1000万人を超える、まさに陸軍大国であった。
 軍のトップである咲夜は、50個師団つまり100万人程度を常時展開可能にしていたのである。


「さて、では幻想郷に対するアプローチを考えましょうか」


 情報が出尽くしたとみたレミリアが、会議の本題に入ることを告げる。


「すぐにでも侵攻し、解放するべきです。人と妖怪の共存共栄を謳いながら、妖怪と人は敵対しています。そのうえ、経済は資本主義という悪魔の思想のようです。存在自体が害悪の屑ですよ」

「私も妹様のご意見に賛成です。国力はわが偉大なるソ連が圧倒しております。ご命令とあらば、すみやかに解放できると考えます」


 フランドールと咲夜は、過激な意見を出した。
 それに対し、パチュリーは、「別に侵略する必要はないんじゃない?」と言って反論した。


「別に侵略しなくても、外交で片が付くわよ。力の差がありすぎるのだから、こちらが一方的に注文できるわ」


 彼女は魔法省の長官だが、外務省の長官も兼任している。
 知性派の「動かない大図書館」の面目躍如だった。それゆえか、穏健派の代表になっている。
 美鈴もパチュリーの意見に賛成した。どう考えても幻想郷が勝つ未来はない。わざわざ戦わなくとも色々手はある。
 スパイらしく暗殺から内乱、クーデターまで具体的な献策をした。


 その後も意見が噴出し、フランドールと咲夜 Vs. パチュリーと美鈴の構図で議論が進んだ。
 ある程度、選択肢が決まったところで、書記長のレミリアの決断を仰いだ。


「どちらの意見も一理ある。私が目指すのは、幻想郷を赤く染め上げることよ。そのためなら、手段は問わないわ。だから、まずは手間のかからない圧力外交をして、ダメだったら侵攻するとしましょう」


 この瞬間をもって、幻想郷の運命決まったのである。 

 

【加筆修正】幻想郷がソ連に蹂躙される話⑤

「圧倒的じゃないかわが軍は!」

「圧倒的ね」

 八雲紫は後悔していた。
 レミリア・スカーレットは、穏健派であり、こちらへの要求も軽いものだと考えていたのだ。
 ソ連からの要求は、ただ一つ。
 共産主義を広め、共産主義に基づいて幻想郷を管理すること、だった。
 とても受け入れられるような要求ではない。


「見ろ、人がゴミのようだ!」

「……」


 赤の広場を通る軍事パレードをレミリアと一緒に観覧していた。隣で何やら騒いでいるが聞いている余裕は紫にはなかった。
 歓迎式典と謡っているがどう考えても示威行為である。
 レミリアがやけに自分や藍と親し気に話しかけてくるので、余計に警戒を強めていた。
 その会話の中にも博麗神社や地底の話など驚くほど幻想郷について知っていることを匂わせている。
 つまり、相手に情報は筒抜けということ。これも示威行為の一つなのだろう。


 妖怪は人を襲い、人は妖怪を退治する
 

 この古き良き時代を現代に再現したのが幻想郷なのだ。
 独裁者が君臨し、強引に妖怪と人間を共存させるのではない。自然な形を残したかったのだ。
 だから、管理者である紫も、基本的には放任していたのだから。
 しかしレミリアには通じなかった。
 いやもう何を考えても詮無いことか。交渉はすでに終わっているのだから。


「今この場で決めなさい。服従か死か。どちらでも構わないわよ」


 交渉相手がクレムリンから幻想郷を訪れた。紫がまず驚いたのは、交渉の場にレミリア自らが来ていたことだった。
 両者とも組織の長だが、圧倒的に紫の立場の方が劣っていた。
 何とか幻想郷の「あるべき姿」を保とうと交渉したが、にべもない。
 すぐに決断しろと言われた紫も腹を決めた。


「降伏するわ」

「話の分かる妖怪でよかったわ。わざわざ私が赴いた甲斐があったわね」


 レミリアは、紫の降伏を快く受け止めた。
 転生したときの最初の願い――幻想郷を赤く染めることができる。
 この事実に彼女は有頂天だった。
 原作キャラに会いたいなあ、とミーハーな気分になりながら帰国した。
 本当は幻想郷めぐりをしたかったが、一応敵地であるのと仕事が立て込んでいて、泣く泣く断念したのである。


 博麗大結界の誤作動の問題は、まだ残っている。が、幻想郷側がソ連人を保護するように義務づけられた。
 これについては、紫も当然の要求だと考えており、早急に博麗大結界の正常化が求めれた。
 多少不本意な形でありながら、とりあえず幻想郷の未来は守られた。八雲紫はそう思って安堵していた――




 ――幻想郷に拉致されたソ連人が過激派に殺害されるまでは。




「莫迦な真似をしてくれたものね」


 いま、赤の広場には埋め尽くすかのように赤軍が待機している。
 これから、幻想郷へと侵攻するのだ。つい先ほど、レミリアが演説を終えたところだった。
 レミリア書記長自らが陣頭指揮をとっているとあって、士気は非常に高かった。


「同志が殺害されたのです。きっちり報復しましょう、お姉さま」


 傍らにはフランドールの姿がある。本来の仕事は部下に任せて、戦争に参加するつもりなのだ。
 パチュリー、咲夜も来たがったが、仕事があるため断念した。
 彼女たちが居るのは、大本営「紅魔館」である。すべてが赤く、ソ連を象徴する建物、とされていた。
 本当は、レミリアが趣味で原作を再現しただけだったりするが。
 

「そうね。幻想郷を赤く染め上げましょう」


 かくして、幻想郷は革命された。ソビエト社会主義幻想共和国連邦の一部となり、幻想郷自治区となったのである。
 なお、幻想郷社会主義共和国にするか幻想郷人民共和国にするかの命名論争が起こったのは余談である。
 新たな領土を手にしたソ連が、世界革命を実現するのか。それとも、一国社会主義を貫くのか。
 運命はレミリアのみが知っている。

 

 

ライヒスタークに赤旗を②~伊吹萃香のため息~

 
前書き
お待たせいたしましたー。エルベ川の邂逅はエルベ川の決戦にと変わりました。
でまだベルリン一番乗りまでかかりそうしあ>< 

 
「妖怪を中心に攻めなさい!」

 人類統合体の米国系軍隊はある意味厄介で、ある意味与しやすい。
 確かに彼らは最新鋭の装備と練度を持ちつつ物量でも圧倒してくる厄介な存在だ。
 しかし、新興国家の泣き所か対妖怪の備えが一番弱いことでも知られていた。

「待って、咲夜!」

 勝手に指示を出す咲夜を止めようとするも、命令が伝わった妖怪たちは進撃してしまった。
 萃香はさきほどから嫌な予感が止まらないのである。
 もう少し様子を見るはずが咲夜のせいで全面侵攻することになってしまった。

「敵は米国系人類統合体。そして敵将は突撃に強い猛将パットン。先手を打った方がよろしいのでは?」

「だからと言って勝手に指示を出すのは許さない。レミリアには報告しておくからな」

「っ!?」

 親の仇を見るかのように咲夜は睨んできたが、涼しい顔で萃香は無視した。
 だが、確かに咲夜の見立ては悪くない。
 米国系なら妖怪に弱いし、パットンの突撃を受けるのも厄介だ。
 先手先手で打ち続けるのは確かに悪くないのだが……。
 戦況が変わったのは一つの報告だった。

「伝令! 先手のロコソフスキー大将が討ち取られました!」

「馬鹿な!?」

 場が騒然とする。彼は古参の大妖怪である。戦車ごときにやられるほど軟な存在ではない。
 萃香一人だけが冷静だった。そして続報を聞きやはりかとため息をつく。

「どうやらバチカンからの援軍が隠れていたようです」

 ――最悪の知らせだった。