『八神はやて』は舞い降りた
第1話 だめっこどうぶつ
前書き
この作品は、ハーメルンで連載、完結した「ハイスクールD×D+夜天の書(TS転生オリ主最強、アンチもあるよ)」のリメイクになります。
前作を読まなくても、読まれても大丈夫なようにしたいと思います。
タグに偽りあり。話が進むと、タグとかい離する場合もあるので、ご注意ください。
拙い作品ですが、最後までお付き合いいただければ、幸いです。
第1話 だめっこどうぶつ
「紫電一閃ッ!」
「ッ!?シールド展開!」
『Panzerschild』
見渡す限りの砂漠の中で、2人の女性が戦っていた。
剣をもった女性が、技名を叫ぶと同時に一閃する。
炎を纏った一撃が相手――槍を持った少女に迫る。
少女は、魔法陣を展開し、斬撃を受け止めた。
しかし――
「甘い!」
剣士が叫ぶ。
拮抗したのはほんの数秒ほど。
シールドを突破した剣が振り下ろされるが、槍でもって受け止める。
そのまま、鍔迫り合いへ移行。
槍の少女は、まだ10歳にも満たないほど幼い外見をしていた。
短槍といっていい短めの槍は、穂先が十字になっている。
2人は力比べを行い、ギシギシと音が鳴る。
その均衡を破ったのは、意外にも槍の少女だった。
「はあッ!」
槍を力強く振るい、剣を跳ね上げる。
明らかに小柄な少女が力比べで勝ったのだ。
剣の女性は、後ろへと距離をとることで崩された体勢を立て直そうとする。
そのわずかな合間を縫い、少女は槍の穂先を向けて叫ぶ。
「クラウ・ソラス!」
『Claiomh Solais』
ノーチャージで直射型砲撃魔法が剣の女性を射抜く。
咄嗟の防御でダメージはほとんどないが、衝撃までは殺せない。
身体が硬直している間に、槍の少女が前に飛び出し――
「そこまで!勝者、八神はやて」
剣の女性の首元に十字槍を突きつけたところで、制止がかかった。
「かった…勝った、シグナムに勝ったんだ!!やったあ!」
勝った勝ったとはしゃぐ少女――八神はやては、ドヤ顔で喜ぶ。
彼女は槍のようなデバイス、騎士杖シュベルトクロイツを嬉しそうにぶんぶんと回している。
「お見事です、主はやて。まさか一対一で敗れる日がくるとは思いませんでした」
はやての方を見やりながら、剣の女性――シグナムは、嬉しさと口惜しさがない交ぜになった感情を吐露する。
「ま、あんだけ身体強化してればな。技量はまだまだなんだ、うぬぼれるなよ、はやて」
「うん、わかっているよ、ヴィータ姉。でもでも、初勝利なんだよ!」
試合を制止したジャッジ役のハンマーを持った少女が釘をさす。
にへらっ、と喜びを隠さずに、八神はやては、ハンマー少女に駆け寄る。
詰め寄られたハンマー少女――ヴィータは、苦笑しつつも頭をなでてやる。
ほめてほめて、と顔に書かれているはやてをみやり、これじゃ犬みたいだな、と内心つぶやく。
身長がほぼ同じくらいのはやてをなでるヴィータの姿は、大変微笑ましいものだった。
実のところ、八神はやては見た目よりも大分年をとっているが、この場で問題にするものはいなかった。
◆
「おめでとうございます、主はやて」
帰宅したはやて、シグナム、ヴィータの三人を、青い大型犬――にみえる狼が出迎えた。
シグナム戦の初勝利を宣言するはやてに、ねぎらいの言葉をかけたのだ。
「ありがとう、ザフィーラ」
照れくさそうに、喋る狼――ザフィーラに言葉を返すはやて。
そのやりとりをザフィーラの後ろで、微笑ましそうに見つめていた女性が次いで口を開く。
「おめでとう、はやてちゃん」
「シャマルも、ありがと」
おっとりしたお姉さん――シャマルにも照れながら返事をする。
「でね。そんなはやてちゃんのために、今日は私がとびっきりのごちそうを用意したの!」
瞬間、空気が死んだ。
◇
はあ、と内心ため息をつく。
後ろでは、よよよと泣き崩れるシャマルがいる。
あの衝撃の発言のあとで自作の料理を食べさせた結果があれである。
本人は自信作だと言っているが……。
家族全員からダメ出しされ、落ち込んでいるようだ。
まあ、いつものことだけれど。
シャマルさんのポイズンクッキング、マジしゃれにならねえな、と独り言ちる。
(というかごく普通の食材で毒物を作るとかビックリだよ)
なんというだめっこどうぶつ。残念なお姉さんである。
今は、改めてボクが作り直した夕食をみんなで食べ終わった後だ。
ちなみに、シャマルは罰として自作の毒物――本人曰く創作料理―――を食べさせた。
でも、本人にとってはおいしいらしく、あまり罰になっていない。
ザフィーラは、シャマルを止められず面目ないと謝ってきた。
どうして惨劇を止められなかったのか聞いてみたところ、日向ぼっこが気持ちよくて眠っていたからだそうだ。
それでいいのか盾の守護獣。
「はやてー、アイス食おうぜ」
夕食後のひとときをまったりと過ごしていると、ヴィータがボクを呼ぶ声が聞こえた。
「はいはい、デザートでさっき食べたでしょ。だからダメ」
ばっさりと切り捨てる。
ぶーたれるヴィータがかわいらしいが、ダメなものはダメだ。
アイスの食べ過ぎは体に悪いからね。
だって、昔アイスの食べ過ぎで何度もお腹を壊したから――ヴィータが。
自業自得である。
「今日の模擬戦、ヴィータ姉の目からみてどうだった?」
「うん?シグナムに初勝利したやつか」
「そうそう」
ソファにごろんとしながら、ヴィータに問いかける。
今日のシグナムとの模擬戦。
初めてボクはシグナムに勝利した。
稽古をつけてもらってから、何百何千と模擬戦をした中で初である。
内心によによとしながら、ゆるむ頬をとどめる。
「シグナムの剣にシールドの展開が間に合ったからの勝利だろうな」
「うん、紫電一閃にはいっつもやられていたからね。強度を犠牲にしてシールドの展開速度を速めたんだ」
言葉にするのは簡単だが、これがなかなか大変だった。
紫電一閃の速さに間に合い、そのうえある程度持ちこたえる強度が必要だった。
速さを重視すれば強度がおろそかになり、その逆もまた同じ。
まさに血と汗と涙の結晶なのである。
ボクがドヤ顔してもしかたがないだろう?よね?
とはいえ、全力で戦うと一番強いのはボクだったりする。
技術を磨くために、普段はリミッターをかけているのだ。
「発想はいい。ただ、次はシグナムも対応してくる。二度目はないぜ」
「はーい。わかっていますよ、ヴィータ姉」
褒めてあげつつ、しっかりと釘を刺すことを忘れない。
ヴィータのこんなところがお姉ちゃんっぽい。
伊達にヴィータ姉と呼んでいない。
普段のお姉ちゃんぶる姿には微笑ましさを感じるが、やっぱり頼りになる姉のような存在――それがヴィータ姉である。
「ところで、シグナムはどこにいったの?」
「外で鍛錬しにいった。負けたのがやっぱり悔しんだろうな」
「げえ、いまよりもっと強くなったらまた勝てなくなるよ……」
「あたしたちが負けたら、はやてを守れない。だから、たとえ相手がはやてだろうと負けるわけにはいかないんだよ」
「ふふ、嬉しいけど、ボクは守られてばかりの主じゃないよ」
ヴィータに強気の視線を送ると鼻で笑われた。
明日の模擬戦は本気のヴィータが相手らしい。
藪蛇だったか……。
いろいろあるけど、ボクたち八神一家は元気に暮らしています。
◇
さて、ボクこと『八神はやて』には秘密がある。
それは――前世の記憶。
その記憶によれば、『八神はやて』はとあるアニメの登場人物だった。
アニメの名は「魔法少女リリカルなのは」。
無印、A's、Strikersの三部作になっており、そのうち無印以外に出演している。
なんと、三人いる主人公ズの一人らしい。
まあ、人気はほかの2人……確か『白い魔王』とか『フェイトそん』だっけ?には及ばないそうだが。
ボクは、アニメの登場人物になってしまったようである。
前世の記憶ときくと、とても便利なように思える。
が、実際は虫食いだらけで、自分が何者だったのかはほとんどわからない。
この「見知らぬ記憶」が、おそらく前世の記憶だろう、と見当がついたのも成長してからである。
ボクは、二次創作にありがちな、転生、あるいは憑依?したのだろうと考えている。
ただ、その割には神に会った記憶はないのだが。
チートな能力を持っているのは、きっと転生特典?というやつだろう。
本来なら、『八神はやて』として、ジュエルシード事件や闇の書事件といった原作イベントに参加していくのだろう。
そう本来なら。
(でも、原作介入は無理なんだよね。だって――)
――だって、ここは『駒王町』なんだから。
後書き
駒王町は、ハイスクールD×D世界の舞台です。
なるべく原作を知らなくても楽しめるようにしたいと思います。
というか、原作は二次創作でしか知らないので、おかしなところがあれば、随時指摘していただけれると助かります。
主人公は、幼女モードと高校生モードがあります。
理由についてはまた後で。
第2話 最初の願い≠最期の願い
前書き
序章は説明回になります。
結構くどいかもしれませんが、大事な部分なので。
『あしたは、僕の9歳の誕生日。
お父さんと、久しぶりに、朝早くからお出かけして、
夜は一緒にケーキを食べる約束をしました。
明日が早くこないかな。
あと、きれいな青い石をいっぱい河原で拾いました。
お誕生会で、見せようと思います。
みんなびっくりしてくれるかな』
(「199X年6月3日」誰かの日記帳より)
◇
「テートリヒ・シュラアアーク!」
「えぶっ」
ハンマーをたたきつけられ吹き飛ばされる。
「勝者、ヴィータ」
「ぐ、うう、結構自信あったのになあ」
ジャッジ役のシグナムがヴィータの勝利を宣言する。
昨日の宣言通りヴィータと模擬戦をした。
が、見事に敗北。
シグナムに勝利して天狗になりかけていたボクの鼻っ面はへし折られてしまった。
開始と同時に接近戦闘を仕掛けたが、意表をつけなかったのが敗因だろう。
「ま、筋はよかったぜ」
ねぎらいの言葉をかけてくれるヴィータ。
フォローを忘れない姿は、さすが姉御といったところ。
ロリ姉御。これがギャップ萌えというやつか……!
「おいはやて、何か失礼なことを考えてないか?」
思っていませんよ。
ヴィータ姉はかわいいな、と思っただけ。
よせやい、と照れるヴィータ。かわいいやつめ。
などと益体もないことを考えながら、反省会を開く。
彼女たちと出会ってから真面目に続けてきただけあって、慣れたものだ。
本気で身体強化すれば、実は、ボクが一番強かったりするのだが、技量は大事だからね。
その後、皆で夕飯を食べて、お風呂に入って寝る。
あ、ザッフィーの散歩を忘れていた。
大人しい――――理性をもっているのだから当然だが――――ザフィーラは、ご近所の人気者なのだ。
彼もまんざらでもないのか、いつも嬉しそうに尻尾をふりふりしている。
それでいいのか盾の守護獣。
繰り返されてきた日常。この日常がずっと続くんだと思っていた。
◇
――――5歳くらいだっただろうか。
頭のなかに「誰かの記憶」が湧いて出てくることに気付いたのは。
その記憶を思い出そうとすると、頭にもやがかかったようになって、顔も名前も家族も個人情報に関する全てを――うまく思い出せない。
その癖、知らない知識が泉のように湧いて出てくる。
知識の使い方や、知識を得る方法など色々なことが「わかった」。
普通、いきなり他人の記憶をみせられたら混乱すると思うが、なぜだか「当たり前のように」馴染むのだ。
まるで、前から知っていたかのように、平然としていた。
戸惑いつつも、とくに気にせず平然と過ごしていた。
今思えば、ずいぶんのんびりとした性格だったと苦笑してしまう。
知らない知識は、一度に全てが蘇るわけではなく、断片的にゆっくりと浮かび上がってきた。
これも、頭が混乱しなかった理由だと思われる。
おかげで、「僕」は、周りから「ちょっと大人びた子ども」と認識され、自由に振る舞うことが出来た。
成長してからは、これは前世の記憶ではないか、と考えるようになった。
ただ、困ったこともあった。
「前世の僕」は、「俺」という言葉を使っていたようで、前世の知識を使って考え事をしているときは、つい「俺」口調になってしまう。
調子にのって、俺俺言いまくっていたら、父に泣かれたので、なんとか改めたが、それでも、思考は、男性寄りで「俺」だった。
きっと「前世の僕」は、男だったのだろう――当時は、そう思っていた。
――――おかげさまで、身体とのギャップには、なかなか慣れることが出来なかった。
(割り切った今でも、たまに戸惑うことがあるしね)
困りごとは、もうひとつある。
「僕」はなんと、複数の物事を同時に処理することができた。
至極自然とできていたために当時は気づかなかったが、異常な才能だったと、今なら分かる。
複数の物事を並列して処理する――マルチタスクというらしい――とき、「僕」ではなく、「わたし」で考えることが多かった。
ちなみに、前世の知識と併用する場合、「俺」と「わたし」の両方を使っていた。
さらに、マルチタスクを利用することで、コンピューターもびっくりの演算速度を誇るようになった。まさに、電卓要らず。
マルチタスクを頻繁に利用するようになってから、気づいたことがある。
どうも、体内に宿る「不思議エネルギー」を操作しているようだった。
一度、意識してしまえば、体内の「不思議エネルギー」をはっきりと認識することができた。
どうやら、心臓あたりに、動力機関?――後に、「リンカーコア」だと判明した――があって「不思議エネルギー」を放出しているようだった。
この「不思議エネルギー」は、大気中に微量に含まれているものの、他の人間は、一切保有していなかった。
当然、リンカーコアは、体内に存在すらしていない。
探究心を刺激されたが、所詮年齢一桁の幼女にできることは高が知れていた。
性質も、運用法も謎だらけである。
将来、必ず解明してみせる。と、闘志を燃やしつつも、「不思議エネルギー」が、マルチタスクの補助を行っていることしか分わからなかった。
大変悔しい思いをしたものだ。
しかしながら、望まずとも非日常と邂逅することで、「魔力」「魔力素」と呼称されるエネルギーだと判明することになる。
「わたし」と言う分には、「僕」と「わたし」のどちらを使うのか迷っているのねぇ、と、父には微笑ましく思われていたようだ。
そんなこんなで、「僕」「俺」「わたし」の境はとても曖昧だった。
複数の人格が存在するわけでもなく、頭を切り替えるときに自然と口調が変わってしまう程度。
日常生活において特に支障はなかった――と思う。
――――前世の知識とやらは便利なものだ。
それが、当時の「僕」の認識だった。
あの日までは、そう思っていたのだ。
(なぜ、いままで忘れていたのだろうな)
思い出したときには、もう遅かった。
なにもかも、終わった後だった。
これはもっと後の未来の話。
何もかもが手遅れになったときの話。
救いがあるとしたら、それは――。
◇
ぱちりと目が覚める。
ふわあ、とあくびをしながら、ベッドから身を起した。
何か悪い夢をみていたような気がする。
思いだそうとしても何も思い出せない。
ふと、頭をよぎったのは9つの青い石。
あれは一体――と思い出そうとすると頭が痛くなった。
「マスター、お目覚めですか?」
声をしたほうをみやると、そこにいたのはリインフォース。
そう、リインフォースがいた。
アニメ作品「魔法少女リリカルなのは」では、リインフォースは、消滅してしまう。
が、こうして目の前にリインフォースがいる。
彼女もボクの大切な家族である。
「顔色が優れないようですが、大丈夫ですか」
「大丈夫、夢見が悪かっただけ。おはよう、リインフォース」
心配そうに体調を訪ねてくる。
細かな気配りができて、家事全般を任せられるリインフォースは、八神家のお母さん的存在だと、勝手に思っている。
ちなみに、家事はリインフォースとボクで分担している。
他の家族に任せると、まあ、大惨事になったからねえ。
ヴォルケンズは戦闘では頼りになるが、家事はだめだめだった。
シグナムが掃除すれば、家の中が滅茶苦茶になり。
ヴィータが洗濯すれば、制服がしわしわになり。
シャマルが料理すれば、毒物が出来上がる。
ザフィーラは、まあ、ペットだし。
戦闘ではあんなに便りになるのに……マジ脳筋。
ヴォルケンズ――ヴォルケンリッター、日本語に訳すと雲の騎士。
実は、彼女たちは、人間ではない。
過去の文明の遺品――すなわちロストロギア――の『夜天の書』に付属した守護騎士であり、プログラムである。
リインフォースは彼らを統括する管制人格という存在だ。
人間ではないとはいえ、ボクは彼女たちを本当の家族だと思っている。
夜天の書については、また後で。
説明すると長くなる。
家事については、何度言っても同じ失敗をするダメな子たちだが、わざとではないらしい。
一向に改善が見られないので、ひょっとすると、そのようにプログラムされているからなのかもしれない――とは本人たちの談である。
本当かどうかは知らない。
八神家には、ボクを含めて6人の家族が住んでいる。
ボクこと八神はやて。
ヴォルケンリッターのシグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル。
管制人格のリインフォース。
両親は既に他界している。
けれども、頼もしい家族とともに支え合って生きてきた。
顔を洗い、眠気を払ってから、身支度を整え、鏡の前に出る。
その姿は――駒王学園の女子制服を着た八神はやての姿だった。
ボクが住んでいる町の名前は「駒王町」という。
――――ピンと来た方、ご想像の通りだと思う。
この世界は、なんと「ハイスクールD×D」という作品の世界である可能性が高い。
なぜリリカルなのはの八神はやてとして生まれたのかは謎である。
調べてみると「海鳴市」は存在しなかった。
クロス作品でもないらしい。
「神様転生」「オリ主」「TS」というキーワードが、瞬時に思い浮かぶ。
とにもかくにも、今日から晴れて女子高生。ぴっちぴちの1年生である。
そして、物語の舞台『駒王学園』に進学することになる。
ボクは兵藤一誠と同学年――つまり、原作という名の物語が始まるまで、あと1年。
後書き
主人公は八神はやて。
Strikersの姿とほぼ同じです。
二次創作が好きというどうでもいい設定があります。
どじっこなヴォルケンズ。
うっかりシャマルは、オチ担当。
第3話 闇の書より愛をこめて
前書き
シャマルの使い勝手の良さに感激。見事にオチ担当。
彼女の趣味は料理……を食べさせることです。
『転生か、憑依か、現実か』
自問すれど、答えが出ぬまま、お子様ライフを送るお気楽幼女。
――――その名は、「八神はやて」
彼女は、前世の記憶を持つだけの、ちょっぴり変わった女の子。
明日は、大好きなお父さんと祝う9歳の誕生日。夜中に目覚めた少女の前には
――――異形に殺された父の姿が広がっていた。
日常が非日常に塗り潰されたとき。
夜天の王は覚醒し、異世界の動乱に巻き込まれていく。
彼女の望みは、小さな幸せ。ただ家族と暮らすこと。
悪意に満ちた世界で、少女は何を願うのか。
慈愛に満ちた心優しき主を、騎士たちは守りきれるだろうか。
修羅に変わりし夜天の王を、騎士たちは抑えきれるだろうか。
最後に微笑むのは、神か悪魔かそれとも――――
◇
高校生活に慣れ始めた6月4日。
ボクは16回目の誕生日を迎えていた。
ハッピバースデーの歌を歌い、ろうそくを吹き消す…のだが、17本のろうそくは多すぎやしないか。
ケーキそのものが、まるで燃えたようにメラメラとしている。
結局、一回じゃ吹き消すことができず、ちょっとショックだった。
誰だ、ろうそくを立てたの?――シャマル?なら仕方ないね。
「このケーキ、ギガウマだぜ」
ヴィータが嬉しそうに感想を述べる。
リインフォースと一緒に作った手作りケーキ。自信作である。
手料理をおいしそうに食べてくれる姿をみると、心がほっこりする。
「はやてちゃんは本当に料理が上手よねえ――誕生日くらいわたしが代わりに料理したっていいのに」
「おい、それはぜってーヤメロ」
隙があれば料理をしようとするシャマル。
彼女に料理をさせてはいけない。八神家の総意である。
ヴィータが渋い顔をして、やめてくれという。
ボクや他の家族も渋面を作っていると思う。
シャマルはオホホとわざとらしい声をあげて黙った。
うん、あの顔は諦めてないな。
彼女曰く、わたしは料理が趣味、らしい。
毒物の間違いじゃないだろうか、と思う次第である。
その後、誕生日プレゼントをもらう。
シグナムからは、欲しかった小説。
ヴィータからは、うさぎのぬいぐるみ。
ザフィーラからは、犬型のヘアピン。
シャマルからは……手作りクッキー。
おい、シャマル、おまえ全然反省していないだろ。
自信作だから大丈夫だって?まあ、見た目はおいしそうだけど。
よし、そこまでいうなら食べてみよう。
周りの皆は悲痛な面もちだが、シャマルは自信たっぷりの顔をしている。
ごくりと唾をのむ。
「いただきます」
視界が暗転した。
◇
もう、何年も前の話。
ボクは、9歳の誕生日を迎えようとしていた。
前日の6月3日にわくわくしながら、眠りにつく。
ベッドにはいつものように父が側にいる。
母はボクを産んでまもなく亡くなったらしい。
男手一つで育ててくれた父。
いつも優しかった父のお蔭で、ボクは母親がいなくても寂しさを感じることはなかった。
その日、真夜中に突然身体を揺さぶられて目が覚めると、そこには――血まみれでボクを庇う父が居た。
目の前の化け物に、あわやボクも殺されそうになったとき、『夜天の書』が起動した。
ボクは、誕生日に肉親を失い、新たな家族を得たのだった。
家族だけではない。
いままで、なんとなく知らない知識があることを知ってはいたが、『夜天の書』が起動したとき、思い出したのだ。
その記憶とは――原作知識。
使い方次第で、エースにもジョーカーにもなれるカードだった。
原作知識を得ることで、自分の状況を再認識できた。
ボクは、リリカルなのはの「八神はやて」に酷似している。
「夜天の書」が起動し、その主となった。
住んでいる町は「駒王町」、とすれば、この化け物は「はぐれ悪魔」の可能性が高い。
はぐれ悪魔は、瞬く間にシグナムに切り捨てられた。
安全を確保したうえで、彼女たちは、誓いの言葉をつむぐ。
とまどいつつも、ボクは彼らの主になることを受け入れた。
凄惨な現場にも係らず意外と冷静に思考することができた。
いや、混乱が極みに達していて、逆に冷静になることができたのかもしれない。
父が殺されたことを、現実として受け入れられなかったのだろう。
都合のいいことに、『闇の書』と呼ばれる原因となっていた防衛プログラムのバグは修正されており、デメリットなしで、フルスペックの『夜天の書』を使用できた。
完全体といえる夜天の書の主にボクはなったのである。
これが、リインフォースが生存している理由だ。
さらに、ボクには魔法の才能があって、リインフォースにヴォルケンリッターという心強い味方が傍にいた。
魔力も多すぎて測定不能らしいし、身体能力にも自信がある。
これが、「転生特典」というやつなのかもしれない。
◇
目が覚めたら、朝だった。
あれ、たしかシャマルのクッキーを食べたところまでは覚えているんだが。
食べてそのあと、目の前が真っ暗になった。
ゆっくりと起き上がると、そこには心配そうに看病しているリインフォースが居た。
「マスターが目覚めました!」
彼女は大声をあげると、ばたばたと音がして、人が近づいてくるのを感じる。
状況を確認すると、ボクはパジャマ姿になっており、汗でぐっしょりしていた。
ポイズンクッキーのせいかとも思ったが、それだけではない。
(久々に、昔の夢をみたな)
みんなと出会ったあの日のことは、あまり思い出さないようにしている。
いや、あの日だけではない。昔のことを思い出すのが、怖い。
思い出そうとすると、父の笑顔がちらついて、あの幸せな日々を失った喪失感に襲われそうで――怖い。
だから、思い出さない。
原作について考える。
すべてを失うと同時に、『原作知識』、『魔法の力』、『夜天の書』を手に入れた。
原作――駒王町が舞台となる「ハイスクールD×D」という作品は、バトルものの皮を被ったラブコメだったはず。
ハーレムとおっぱい成分が90%くらい占めていたように思う。
ただし、三大勢力と呼ばれる、天使・堕天使・悪魔陣営がドンパチやっているので、油断はできない。
現に、父ははぐれ悪魔に殺されたのだから。
原作に積極的に関わらなければ、自衛程度の戦闘で済むはず。
ならば、原作とは距離を置いた方がいいかもしれない。
しかしながら、「夜天の書」をつけ狙う不届き者が現れる可能性は、残念ながら非常に高い。
あえて、原作に関わることで、予期せぬ事態を避けられるかもしれない。
来年から原作の物語が始まる。
リアス・グレモリーや兵藤一誠といった原作の人物がいることは、確認済み。
ただし、接触は避けている。
原作知識のアドバンテージを活かすには、なるべく原作キャラと関わらないほうがいいだろう。
もっとも、グレモリー眷属とは「仕事」で何度か一緒になっているのだが。
非常に悩ましい問題である。
でもいまだけは、家族とともに過ごす日常を大切にしたい。
口々に無事を喜ぶみんなを見ながら、苦笑しつつ思った。
あ、シャマルは罰としてご飯抜きだから。
なぜ、昔のことを思い出さない――――いや、『思い出せない』のか。
ボクは何も疑問に思うことはなかった。
◆
暴走した闇の書を防ぐため、ギル・グレアム提督は、同僚のクライド・ハラオウンごとアルカンシェルで消滅させるという苦渋の決断をせざるを得なった。
己の非力さを嘆きつつ、震える声で、アルカンシェルを放つよう命令。
史上最悪のロストロギアである闇の書を――――永遠に葬り去ることに成功したのだった。
しかし、一番驚いた人物は、グレアム提督本人だっただろう。
当時は、無限転生機能によって、闇の書は新たな宿主にもとへ転移したものと、誰もが思っていた。
その後。紆余曲折の末、闇の書が次元世界より、姿を消したと確信できた。
そのとき、彼は、英雄としてはやしたてられた。
だがしかし、クライドを殺した自分が、英雄として賞賛されることに、彼は苦悩し続けた。
闇の書事件の解決で結果的にクライドの仇をうった自身を自嘲した。
――彼は、どこまでも実直で、真面目すぎたのだ。
グレアムは、自責の念を増していき、めっきりと老けこみ、やがて隠棲してしまった。
彼は、実の娘のように可愛がっている「三人」の家族たちと、ひっそりと暮らすことを選んだ。
しかし、歴史は、彼の平穏を許さなかった。
管理局を引退したのちも、彼は大きな事件に関わり続けた。
最愛の娘たちとともに。
娘であり。孫であり。後輩となった娘。
彼女は、尊敬する養父に憧れ管理局員になり――――史上最年少の提督になった。
当時の彼は、喜びと悲しみがないまぜになった複雑な心境だったのだろう。
それでも、強く美しく成長した愛娘を全面的にバックアップした。
忌み嫌っていたはずの「英雄」とう称号すら利用して。
その辺の事情で、自ら手にかけた部下の息子と、ひと悶着あったものの。
全力で娘を支援した。
――――彼は、親ばかとしても有名だった。
時を経て、英雄として次元世界の歴史に名を残したギル・グレアム提督。
彼の心中と、晩年を知る者は死に絶え、名声だけが残った。
ありえた歴史――本来の物語――とは異なる最期を迎えた「英雄」ギル・グレアム。
悲願だった闇の書事件を解決した結末は皮肉なものだった。
史実では、救済される筈だった彼は、事件解決の代償として、自らの手で道を閉ざした。
けれども、史実では、ありえない出会いにより娘を得た彼の死に顔は、穏やかだったという。
―――だがそれでも。望まぬ賞賛は、生涯彼を苦しめ続けるのだった。
『英雄は異なる運命を強制され
英雄に虚構の奇跡を強制する
英雄は望まぬ賞賛を強制され
英雄に虚像の真実を強制する
英雄は仮定の未来を強制され
英雄に孤独な懺悔を強制する』
(とある女性提督の手記――造られた英雄の詩)
ここで語られた話は、あったかもしれないIFの話。終わってしまった物語。
◆
「闇の書」は、アルカンシェルを浴び、消滅しようとしていた。
が、すぐに無限転生機能が発動した―――――瞬間に、異質な力の干渉を受け、エラーが発生した。
イレギュラーの発生で、第97管理外世界「地球」の所有者に転移するはずの闇の書。
この悪名高いロストロギアは、次元世界の壁ではなく、三千世界の壁を乗り越えた。
不可能な筈の「異世界」への旅路の中で、何者かに導かれるように、運命に流されるように、「異世界の地球」に転移した。
――――なお、このイレギュラーの発生は、時空管理局によって、把握されており。後年の「闇の書事件の終焉」を判断する根拠となった。
「世界」を越えた影響か、異質な力によってか、奇跡のように防衛プログラムのバグが修復された。
復活した「夜天の書」――闇の書の正式名称――は、この世界で1人しか存在しない主に相応しい少女――の元に転移した。
幾年かの時を経て魔力の充填が終り、起動する寸前。
主の危機を察知した書は、主を守るために力を発動した。
駆けつけた守護騎士たちは、たちまち敵を打ち倒す。
少女の嗚咽と慟哭が響く中、騎士たちは出会い――――家族になった。
この日、少女――八神はやては、夜天の王となる。
世界の異分子にして異端。
少女と騎士たちの前に、如何なる運命が待ち受けているのだろうか。
八神家を巻き込み、歴史は歩みだす。
後書き
主人公の誕生日は、原作と同じ6月4日です。
母親は神器持ちでしたが、出産後すぐに死亡。
父子家庭でした。
グレアムの養女はあの人です。
かなり後で登場します。
第4話 夜天の書、大地に立つ
前書き
序章はこの話で最後になります。
今回も、説明回になります、ちょっとくどいかも。
『天が夜空で満ちるとき
地は雲で覆われ
人中に担い手立たん』
(とあるベルカの「預言者の著書」より――第一の預言)
これから語る話は、直向きに平穏な日常を願う少女と家族たちの物語。
――――それは、夜天の王「八神はやて」と家族たちの奮闘記。
◇
「ただいま」
「お帰りなさいマスター」
学校から帰宅すると、リインフォースが出迎えてくれた。
エプロン姿の彼女からは、お母さんオーラが噴出している。
父子家庭だったボクにとって、リインフォースは本当のお母さんみたいな存在だ。
恥ずかしいから、面と向かっては言えないけどね。
「シグナムとシャマルは遅くなるってさ、ヴィータ姉は?」
「鉄槌の騎士なら、近所のゲートボール大会に参加しています」
「あはは、ヴィータ姉はおじいちゃんたちのアイドルだもんね」
シグナムとシャマルは、ボクの通う学校である駒王学園に勤務している。
シグナムは剣道部の臨時顧問。
シャマルは臨時保健医。
とてもはまり役である。
この配置は、この領地の主グレモリー家には知らせてある。
というか、彼らの手配によって、学校に潜入できた。
ヴィータは少し前までは、一緒に通学していた。
同じ中学校に通っていたのだ。
もっとも長く接していた家族は、ヴィータだろう。
現在は、無職だが。
うん、なんというか、高校生は無理だった――だって、ロリだし。
ザフィーラ?彼には、自宅警備員として家を守ってもらっている。
前に冗談で、自宅警備員みたいだね、と、言ったところ響きを気に入ったらしい。
それ以後は、わたしは自宅警備員だ、と誇らしげに言うようになった。
聞くたびに思わず吹き出しそうになるのを堪えるのが大変である。
いまのところ、本当の意味を知っているのはボクだけだから、仕方ないね。
(サーゼクス・ルシファーには感謝しないとね。今の生活は彼のお蔭のようなものだし。ま、好きにはなれないけど)
リインフォースと会話しつつ、つらつらと考えごとをする。
マルチタスクはマジ便利である。
ボクは、サーゼクス・ルシファーとの初邂逅を思い出していた。
◇
誕生日に夜天の書が起動し、はぐれ悪魔を倒した後、間をおかずに空から侵入者が現れた。
守護騎士たちがボクを庇うように警戒する中、その姿に思い当たる。
空から現れた威圧感を纏う青年の名前を、サーゼクス・ルシファーという。
ハイスクールD×Dのヒロイン、リアス・グレモリーの兄にして、4大魔王の一柱である。
あまりの急展開に慌てずについていけたのは、前世の記憶があるからだろうか。
ひとまず、サーゼクス・ルシファーと相対してすぐ、互いに自己紹介をし、敵意がないことをアピールする。
守護騎士たちにも、控えるように伝えた。
はぐれ悪魔について謝罪を受けた後、現状について説明を求められた。
夜天の書についても、当然追求された。
素直に「分からない」とだけ、答えておいた。
まあ、ボク自身なぜ手元にロストロギアがあるのか、全くわからないのだから、嘘ではないはずだ。
転生しました、と正直に答えても、可哀想な子扱いされるだけだろう。
それに、本当に転生かどうかもまだ分からない。
――――問題は、どうやって「夜天の書」を説明するかである。
なぜなら、ここは、ロストロギアという概念すら存在しない世界だからだ。
「異世界から来た」なんて、馬鹿正直に答えても――言動の真偽に関わらず――ボクたちの状況は、悪化したに違いない。
強力な力を有しているのならば、なおさらである。
うかつに情報を公開するべきではない。
とりあえず、有無を言わさずに、その場では、守護騎士たちに、記憶喪失を装ってもらった。
サーゼクス・ルシファーが現れてから、自己紹介までの前の短い時間で、頼めたのは、本当に幸運だったと思う。
というのも、リインフォース――――名前がないと申告されたので、後で原作通りに名付けた――――に尋ねたところ、転生機能によって、見知らぬ次元世界へ転移してきただけだ。と、彼女たちは、認識していたからである。
したがって、話をややこしくする前に、ボクに話を合わせるように、念話で頼んだ。
そう。都合のいいことに、念話は、すぐに使えるようになったのだ。
リアルタイムで、堂々とバレずに打ち合わせができたのは、僥倖だった。
どうにか、平静と取り繕うことができたおかげで、その場での追及は、避けられたようだ。
もちろん、不審な点は多かっただろうが、疑問を後まわしにしてくれた。
――――おかげで、カバーストーリーをでっちあげる時間を得られた。
本当に運が良かったと思う。当時のボクを賞賛してやりたい。
ボクの機転は、結果的に大正解だった。
魔王たちは、夜天の書を、「いままで確認されていなかった珍しい神器」であり、「少々強力な力」をもっている。
と、誤解してくれたからだ。
むろん、怪しい点は大量にあった。
未知の神器。
規格外の力。
神器にもかかわらず感じる魔力。
強力な魔力を有する稀有な人間などなど。
どうやら、親が悪魔に殺された幼い少女ということで、見逃してくれたようだった。
敵対する可能性が低かったのも一因としてあるだろう。
悪魔陣営の領地に住む以上、監視をかねて保護ができる。
と、同時に恩を売ることもできて、一石二鳥だ、と考えたのかもしれない。
異世界――夜天の書にとって――で活動する基盤を、手に入れた瞬間だった。
いろいろと設定を煮詰めることで、ボクたちは「家族」になり、新たな門出を迎えたのである。
◇
ぼんやりと、守護騎士たちとの出会いを回想しながら、リインフォースと一緒に夕飯を作る。
「ヴィータお姉ちゃん」とよんだときの、ヴィータの喜びようは、今でも鮮明に思い出せる。
お姉さんとして振る舞う姿は、微笑ましい。
と、同時に、確かに、ボクの姉だと強く認識することができる。
いろいろと辛酸も舐めてきたが、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル、そしてリインフォースの5人は、いつもボクの傍にいてくれた。
――――ああ、間違いなくボクは幸せ者だ。
◆
聖書の神とともに旧魔王たちが倒れ、なし崩し的に私は魔王になってしまった。
旧魔王を信奉し、私を認めない者たちがいた。
自らが魔王たらんとし、打倒サーゼクス――私のことだ――を掲げる者たちもいた。
おかげで、悪魔社会は混乱の最中にあり、同時に、天使や堕天使連中を牽制し、少子化問題など山のように仕事が舞い込んできた。
すっかり疲労した私は、生き抜きを兼ねた視察と称して、かわいい妹のリアス・グレモリーが将来領有することになる駒王町の視察にきていた。
幸か不幸か、視察を終え帰る間際に、はぐれ悪魔の出現情報が舞い込んできた。
ちょうどよいから、側近には止められたが、見回りと称してこの町を練り歩きながら、はぐれ悪魔を捜索することにした。
都合のよいことに、真夜中の少し前――人間に姿を目撃されづらい、悪魔の活動時間である――だった。 頭上の満月が美しかった、と、記憶している。
探し始めて、数分いや十数分過ぎた頃だろうか。
突如、悲鳴が鳴り響き、発生源から、はぐれ悪魔の気配を感知した。
急行する途中、悲鳴が途切れ、
(間に合わなかった)
と、自責の念にとらわれた瞬間。
はぐれ悪魔の気配がする一軒家から、強い力の波動が溢れだし、唐突にはぐれ悪魔の気配が消えた。 とりあえず確認した時間は――――午前0時。
ほどなくして、現場につくと、はぐれ悪魔は既に討伐されていた。
なぜならば、妹のリアスと同世代だろう幼い少女が、両親と思われる遺体に泣きながらすがりつき、 その傍らには、無造作にはぐれ悪魔の残骸が放置されていたのだから。
これで、懸念の一つが解消されたわけだが、いままさに、別の問題、しかも、はぐれ悪魔とは比べ物にならないほどに、厄介な代物に直面している。
――すすり泣く幼い少女
――彼女を守るように傍に控える4人の人物
――浮遊する本
目の前には、とても奇妙な光景が広がっていた。
しかしながら、少女を含む全員から、強い力を感じるため、警戒を怠らない。
感じる力は、悪魔が使う魔法の力に近く、人間のもつ神器とは異なる点が不可解だった。
一切の油断は許されないと、私は緊張とともに、敵意がないことを示しながら、彼女たちの前に降り立った。
近くで観察してみると、少女からは、強い力を感じるものの、泣きじゃくる様は演技ではないようにみえた。
おそらく、力を持つだけの、一般人だろう。
しかしながら、傍の4人と本――魔道書の類だろう――は、別格だ。
――仮にも魔王たる私が、気押されるほどの力を放っていたのだから。
とりあえず、簡単な自己紹介のあと、少女――八神はやての両親の亡骸とはぐれ悪魔の残骸の後処理を提案。
私が、魔王だと名乗ると、一気に場が緊張した。
が、すぐに、涙をふいた少女のとりなしで、その場を収めることに成功した。
はやて嬢が、主導して、そばに控える4人――――八神はやてに仕える守護騎士「ヴォルケンリッター」と名乗り、私への警戒を怠る様子はない――――も協力することになった。
ただし、魔道書――――夜天の書という名前らしい――――は、はやて嬢を守るように彼女の周囲を浮遊していたが。
あわただしく、遺体をグレモリー家の息のかかった病院へと運び込み、家の片づけをした後。
一息ついたところで、本格的な話し合いに入ることになった。
はやて嬢は、眠そうにしていていたが、強く希望し、同席していた。
話し合いの結果、悪魔側の管理不行届きが事件の原因だと私が認めることで、はやて嬢への支援と後見人となることを約束した。
ただし、基本的に金銭支援のみにとどめ、生活は守護騎士たちとともに送ることを約束させられた。
もちろん、守護騎士たちの戸籍も、こちらで用意することになる。
庇護するためと言い張り、はやて嬢と魔道書、守護騎士たちの強力な力を、あわよくば悪魔陣営へ引き込みたかったが、断固として拒否された。
「強すぎる力は災いを招きかねない」と諭したものの、父を殺した悪魔に傅くことは許容できない、と、見た目からは想像もつかないほどの、強い口調で拒否された。
さすがの私も、彼女たちを悪魔陣営に引き込むことは、諦めるしかなかった。
妥協案として、駒王町に居る限りグレモリー家の客人として庇護を受け、対価として、拒否権つきの依頼をこなしてもらうことになった。
――夜天の王「八神はやて」
――雲の騎士「ヴォルケンリッター」
――魔道書がもつ意思の具現、管制人格「リインフォース」
これが、将来世界を震撼させる彼女たちとの、出会い。
終りの始まりの日。
私も、誰にも気づかれず、ゆっくりと運命の歯車は、狂い出すのだった。
後書き
・「預言者の著書」は、カリム・グラシアのレアスキルです。Strikersに登場する人物で、不定期にビビッと預言を受信します。
・ヴィータといったらゲートボールですよね。ゲボ子。
・ザフィーラは自宅警備員にジョブチェンジしました。それでいいのか盾の守護獣。
・サーゼクス・ルシファーは四大魔王の一角であり、リアス・グレモリーの兄になります。結構キーになる人物です。
第5話 名前を呼んで
前書き
・第1章、アーシア・アルジェント編。
・アーシアはこの作品において、かなり重要人物です。
「主はやて、おはようございます」
「おはよう、シグナム」
此の世に生まれてから、およそ17年。
この世界で生き抜くと決めてから、およそ8年。
思い返せば、色々なことがあったように思う。
「はやて、おはよう。お?いいにおいがする」
「おはよう、ヴィータ姉。今日は、シグナムの要望に答えて和食にしてみた」
「私のためとは。かたじけない」
「はやての飯は、ギガウマだからな。毎日楽しみだぜ」
さて、あっという間に駒王学園2年生、17才になってしまった。
前世の記憶があったり、魔法を使えたり。魔道書(しかも、ロストロギア)の持ち主だったり、悪魔と知り合いだったりするだけで、どこにでもいる普通の女の子である。
「シャマルもおはよう」
「おはようございます、はやてちゃん。いつもありがとうございます。お礼を込めて、明日は、わたしに朝食をつくらせてください」
「やめてッ!!」
「主はやての身を害するつもりか?」
「オイ、ゼッテーヤメロ」
「――うぅ……みんな酷い」
そう、普通の女の子のつもりなのだが……。
美少女キャラに転生。
魔力ほぼ無限。
パーフェクト夜天の書を所持。
これらが意味するところは――
チートTS転生オリ主ktkr!テンプレ二次創作乙!
「風の癒し手よ。己の胸に手を当てて思い返すと良い」
「あ、リインフォースもおはよう――ザフィーラはどこだろう」
意味不明な戯言をのたまっているようにみえるかもしれない。
だがしかし、現状を鑑みれば、否定することもできない。
ちなみに、テンプレ二次創作とは、以下の流れを指す。
1. トラックに轢殺される
2. 神様に会う
3. 転生特典とよばれるチート能力をもらう
4. アニメや漫画の世界に転生
5. チート能力使って無双乱舞
「主よ。私はここにずっといました」
「――ああ!ごめんごめん。わんこモードが馴染みすぎて気づかなかったよ」
「わ、わんこモード…!?」
以上、5段階の通過儀礼を経たツワモノが、「オリ主」と呼ばれる転生者である。
二次創作界では、俗に「神様転生」「異世界転生もの」と呼ばれるジャンルとして大勢力を築いている――っていう認識をボクはしている。
TSだと思うのは、趣味嗜好が男性寄りだからだ。
「あははは!ザフィーラにぴったしじゃねえか。なあ、シグナム」
「私の口からは、何も」
「わたしは、そんなザフィーラを応援していますよ」
「フォローになっていないぞ、風の癒し手よ。しかし、くくっわんこモードとは」
「ごめんよザフィーラ」
「む、むう。主が気になさることはありません。わんこモード、よい響きだと思います」
(それでいいのか盾の守護獣。いや、ボクが呼んだんだけどさ)
まあ、だいたいこんな感じである。たぶん。きっと。
つまるところ、ボクは、転生モノの例にもれず、ハイスクールD×Dという作品の世界に転生したのだろう。
ただ、そのわりには、前世のプロフィールは思い出せない。
死ぬ間際の記憶も、神様とあった記憶も、どんな転生特典を頼んだのかも、全く覚えていないのである。
転生先や、転生特典を選べるパターンが主流にも関わらず、だ。
まあ、テンプレはあくまでテンプレであるから、そこまで気にする必要はないだろう。
「それじゃ、これで皆そろったね」
推測になるが、夜天の書は、転生特典で得たのではないだろうか。
それならば、説明がつく。バグが修復されているのも。無尽蔵の魔力も。
ボクが、「八神はやて」なのも。
なにはともあれ。昨日、クラスメイトの兵藤一誠――――彼こそが、原作主人公様である――――が、他校の美人さんに、告白されたという話を聞いた。
原作に描写されていた一幕である。
つまりは、前世でアニメや小説だった物語が始まる。
「では、いただきます」
「「「「「いただきます!」」」」」
2度目の人生。
――2回目の現世における家族。
2度目の高校生活。
――2年目の高校における新生活。
ボクは、すべてひっくるめて、いまの生活が気に入っている。
けれども、ボクの学校――駒王学園が、原作と呼ばれる物語の舞台であり、台風の目になることを「知っている」。
だからこそ、出来る限りの準備をしてきたのだ。
あの日、決意し、決断した日からずっと、待ち望んできたのかもしれない。
さあ、今日もいい天気だ。学校へ行くとしよう。
わんこモードのザッフィーをひと撫でしてから、玄関から飛び出す。
「いってきます」
――――大切な家族と暮らしていくために。
◆
「とうとう『原作』とやらが始まるのですね」
わたしは、長らく破壊の権化として、次元世界に災厄をもたらしてきた。
もはや、思い返すことが億劫なほどの昔から、最悪のロストロギア「闇の書」として、恐れられてきた。
管理局と相対し、アルカンシェルに撃たれた時も、諦めの境地にいた。
――また同じことを繰り返すのか、と。
しかし、何の因果か、わたしは『夜天の書』として、いまここにいる。
起動したときは、マスターは殺される寸前で混乱したものだ。
けれども、何よりも忘れ難い記憶は……
『なるほど。管制人格とは、魔道書の意思。人工知能――AIみたいなものなのかな』
――その認識でおおむね合っています。わたしは、マスターを補助するための存在ですので
『名前――そう、名前はあるの?』
――いいえ
『名前がないと不便じゃない?ボクから名前を贈りたいんだけれど……どう?』
――構いません
『よしっ!夜天の主の名において汝に新たな名を贈る。強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール、リインフォース』
「――フォース。聞いているか、リインフォース」
「ん?すみません。少々物思いに耽っていました。烈火の将は何用ですか?」
「いや、かまわん――――不安か?」
「そう見えますか?……そうなのかもしれません。マスターは、わたしにとっての全てだから」
烈火の将には、わたしの内面を見抜かれていたようです。
先頭に立ち、率いる将だからこそ、周囲のケアも万全というわけですか。
普段の姿(バトルマニア)から、想像もつきません。
「何か失礼なことを考えていないか?」
「いいえ、気のせいですよ」
「おいおい、リインフォース。はやては、あたしたちが守る。何も心配もいらねえよ」
「うふふ、ヴィータちゃんの言う通りね。はやてちゃんに立ちふさがる障害は、わたしたちが全て排除すればいいだけの話」
「その通り。私という自宅警備員がいる限り、主には指一本触れさせん」
「主はやても、当初からは想像もつかないほどに強くなられた。我々は、やれるだけの準備はしてきた。過ぎた不安は、身を滅ぼすぞ?」
守護騎士たちに励まされるとは。管制人格失格ですね。
けれども、昔を知るわたしからすれば、信じられない光景です。
感情をもち、ともに笑い、苦労し、こうして励まし合う。
すべてマスターはやてが与えてくれた、幸せ。
「うむ。主はやてが我々に与えてくれた恩に、いまこそ報いるときが来たのだ」
「そうですね。マスターと私たちは、『原作』がもたらす波乱に、対抗するために必要な力をつけてきました。マスター本人も、必死に努力してこられた。だから――だからあとは、マスターのデバイスとして責務を果たすのみ」
「その通りだぜ。はやてだって、いつも通りに振る舞ってんだ。あたしたちは唯、はやての信頼に応えればいい」
鉄槌の騎士は、その姿からは想像もつかないほど、鋭い発言をすることがありますね。
おかげで、迷いが晴れました。
「オイ、喧嘩売ってんのか?」
気のせいですよ。
いまだに、マスターに姉と呼ばせている姿が、
背伸びしている子どものようで微笑ましいなど、全く思っていませんよ?
「やっぱり、喧嘩うっているだろ!?」
後書き
・烈火の将=シグナム、鉄槌の騎士=ヴィータ、風の癒し手=シャマル、蒼き狼=ザフィーラ
・リインフォースが主人公を呼ぶとき、「マイスター」にするか「マスター」にするか迷いましたが、分かりやすい方に統一しました。
・チートTS転生オリ主ktkr!テンプレ二次創作乙!……主人公は二次創作が好きなんです(震え声
・わんこモードのザッフィー。ペット枠です。
・わたしという自宅警備員が居る限り、主には指一本触れさせん(キリッ
・転生や原作については家族に話してあります。
第6話 乙女はボクに恋してる
前書き
・原作開始
・主人公勢はリリカルなのはのベルカ式の魔法のみ。
・ハーレム系ラブコメの世界に、ごんぶとビームが飛び交います。
ボクが使用する魔法――――行使できる魔法は、リリカルなのは世界の魔法だけだが――――の中に、探査魔法というものがある。
サーチャーという情報収集用の小型スフィアを通じて、映像を術者に届けるという、使い勝手のいい優れた魔法である。
原作が始まったからと言って、学校がなくなるわけではない。
いつも通り授業が終了し、放課後の教室で、クラスメイトと雑談していた。
一見、雑談に興じているだけに思えるだろう。
だがしかし、実際は、サーチャーから送信されてくる映像を、マルチタスクを使って覗いていた。
今は、兵藤一誠と天野夕麻――――堕天使レイナーレの変装した姿だ――――が、笑顔で会話する映像が流れている。
(主よ。対象は、女子高生に扮した堕天使と合流したようです)
(ありがとう、ザフィーラ。こっちでも確認したよ)
わんこモードのザフィーラにも、兵藤一誠の尾行をさせてある。
彼とも、念話でリアルタイムに会話できていた。
つまり、クラスメイトとの雑談。サーチャーによる監視。ザフィーラとの念話通信。
最低でも3種類の行為を同時並行して、行っているのである。
マルチタスクとは、つくづく便利である。
(それにしても、兵藤君は、張り切っているなあ)
(フン。エロ魔人のあいつのことだ。いまごろ頭の中は桃色一色だろうよ。下心が見え見えだぜ)
(まあまあ、落ち着いてヴィータちゃん。エロ魔人には同意するけれど)
他のメンバーは自宅で待機している。
彼女たちも、サーチャーの映像をみながら、不測の事態に備えているはずだ。
普段は自宅警備に忙しいザフィーラが大活躍している。
立派になりやがって、とほろりとしてしまう。
(いつも私の胸をじろじろ見てくるからな。主はやてに止められなければ、とっくにレヴァンテインの錆にしている)
(あはは、彼は、おっぱい星人だもんね)
(マスターも人のことを言えないと思いますよ)
(ケッ)
この世界では、「魔法」とは、悪魔が行使する技術を指すことが多い。
人間にも魔法使いはいるが、悪魔式の魔法を人間用に改良して行使しているにすぎない。
したがって、異世界の魔法体系など思いもよらないだろう。
(あらあら、気に病まないでヴィータちゃん。女は胸の大きさじゃないわよ?)
(シャマル。おまえ後で覚えていろよ)
(ヴィータ姉には、ヴィータ姉のよさがある。気にしてはだめだよ)
(……とかいって、はやてもあたしの仲間じゃねーか)
(な、なんのことかな?いまのボクは、ナイスバディでございますことよ)
聡いものならば、サーチャーに、感づかれる可能性はある。
しかしながら、未知の魔法に対して常に身構えることは、難しい。
すなわち、ボクたちが秘匿する限りにおいて、リカルなのは世界の魔法は、重要なファクターとなりえる。
(おい、それくらいにしておけ。我々が為すべきことを忘れるな)
(先ほどから、蒼き狼が、居心地悪そうにしていますね)
(……気にするな)
さて、原作通りなら、兵藤一誠は、このまま神器狩りに巻き込まれるはずだ。
デートの帰り、神器を狙うレイナーレに攻撃され、彼は瀕死の状態になる。
死にかけながら、偶然にも悪魔契約用のチラシを握りしめ――――召喚されたリアス・グレモリーに救出され、悪魔に転生する。
ザフィーラをつけたのは、もしもの場合、兵藤一誠を救助するためである。
この世界は現実であり、必ずしも物語通りに運ぶとは限らないのだから。
ボクたちなど、イレギュラーの最たるものだろう。
(他人のデートを覗きみるなんて、われながら趣味が悪いよな)
と、内心つぶやきつつ監視を続ける。
正体を知っているとはいえ、天野夕麻は美人である。
兵藤一誠も原作主人公なだけあって、外見は整っている。
なかなか絵になるカップルといえよう。
彼の場合、普段の言動がすべてを台無しにしていると思う。
「――さま、明日のご予定は空いていらっしゃいますか?」
「ん?ああ、明日の予定だったか。ちょっと、これから忙しくなりそうなんだ。しばらくは付き合えなくなると思う。ごめんね」
(原作が始まって忙しくなるだろうし)
(主はやてが自ら動かずとも、私たちにお任せくだされば――)
(ううん、いいんだ。これはボクなりのけじめだから)
(承知しました。我ら守護騎士一同、ヴォルケンリッターの名にかけて、主はやてに尽くします)
(期待しているよ、我が騎士たち――もちろん、リインフォースも、ね)
(ハッ。マスターのお望みのままに)
話は変わるが、ボクの通う私立駒王学園は、そこそこ偏差値の高い女子高「だった」。
つまり、昨今の少子化の流れに逆らえず、数年前から共学化したのである。
とはいえ、なまじ地元では知名度があるせいで、「駒王学園=女子高」という認識を、覆すことは困難だった。
あの手この手で――――入試でさえ男子を優遇した――――やっと、現在男子が3割近くを占めるに至る。
とはいえ、やはり男子の肩身はせまい。
「そうでしたか。もし、ご都合がよろしい日があれば教えてくださいね。いいお店を見つけたんですよ。ねえ?」
「うん。イタリアンでね。洒落た感じで料理もおいしいんだけれど、値段がすごく安いんだよ!」
「そうなんだ。楽しみにしているね」
女性になってしまったボクは、毎日こうして綺麗どころに囲まれた日々を過ごしている。
学校では先輩や友人、後輩たちと。自宅では、リインフォースたちと。
きっと、前世のボクでは考えられないような生活を送っているだろう。
そんなボクの最近の悩みは――――
「はい!わたしたちも、楽しみに待っていますからね!!」
「みんな大げさだなあ」
「とんでもないです!駒王学園『三大』お姉さまとご一緒できる機会なんて、滅多にありませんから」
――――『三大お姉さま』という称号である。
原作では、リアス・グレモリーと姫島朱乃の二人が、駒王学園の二大お姉さまを構成していた。
しかし、この世界では、八神はやてが、ちゃっかりと加わっている。
こんなことで原作ブレイクするとは、予想外だった。
ボクは、特別なことをした覚えはない……ないのだが、
『凛々しい』
『かっこいい』
『男らしい』
といった風評が、中学校時代には既に流れていた。
いつの間にか『お姉さま』と呼ばれ、当時は生徒会長を務めていた。
駒王学園に入り、一時は鳴りを潜めたものの進級したことで、再燃したようである。
なんとも百合百合しい青春を送っているものだ。
嬉しいかどうかといえば、慕われるのは純粋にうれしい。
では、恋愛対象としてみられるかといえば、否だ。だが、男と付き合う気もない。
我ながら枯れているなあ、と苦笑してしまう。
後輩から呼ばれるだけならまだいい。しかし、
――――困ったことに、同級生にまで、お姉さまと慕われているようなのだ。
たしかに、おそらく男だったであろう前世の性別やら精神年齢やらを考えれば、お姉さま呼ばわりは、妥当な評価なのかもしれないが……。
バレンタインデーは大変だった。
下駄箱いっぱいのチョコレートとか、創作物の世界だけのものだと思っていた。
というか、下駄箱に入っていたチョコレートを食べるのは抵抗がある――衛生面的に考えて。
次の年からは、「机の中に入れてください」と張り紙をした次第である。
机の中どころか、机の上にチョコレートタワーができていて卒倒しそうになったが。
ボク?ボクは義理チョコ、家族チョコと友チョコだけだよ。
前回は、シャマルのチョコレートテロ事件なんかもあったな。
と、まあ、益体もないことを考えつつも、兵藤一誠とレイナーレのデートを覗き続けていた。
(結局、原作通りになったか)
(そのようです。リアス・グレモリーに感づかれる前に、帰宅します)
(ありがとう、ザフィーラ)
「――――よし。これで一安心だな」
「はやてお姉さま、何が一安心なんですか?」
「ん?ああ、冷蔵庫の中身を思い出していてね。今晩は、豪華にしようと思っているんだよ」
「まあ、そうでしたの。お姉さまの料理は絶品ですものね」
(ククク。人気だな、お・姉・さ・ま)
(からかわないでくれよ、ヴィータ姉)
ちなみに、おっぱい好きなのは、「八神はやて」だから仕方ないね。
不可抗力というやつである。
◆
――守護騎士とは、主に仕える騎士である
主を守り、主のために戦い、主のために死ぬ。
このことに、疑問を持つことはなかったし、いまでも思いは同じだ。
――しかし、仕えるに値する主であるか否かを考えたことはなかった
主を盲信し、敵はすべて薙ぎ払い、将として指揮し、感情を殺し命令に従う。
忠義といえば聞こえはいいが、自ら考えることを放棄し、感情のない機械の如く言われた通りに動く。
――まるで、道具のようだった
たしかに、歴代の主達の多くは、我々を道具として扱った。
しかし、全ての主が、初めから我々を、道具としてみなしていたわけではない。
むしろ、我々の方が、機械であろう、道具であろうと頑なになっていたのではないか。
永遠ともいえる期間、仕える主を選ぶことができなかった我々は、
ときに、理不尽な命令をうけた。
ときに、モノとして、扱われた。
――だからこそ、感情を廃し、「道具」たらんとしていたのではないか
心優しい主と出会い、感情を思い出した現在だからこそ、そのように思うのだ。
我々は、主はやてと出会い変わった。
しかし、本当は、「変わった」のではなく、「戻った」というのが正しいのかもしれない。
――守護騎士は、仕える主を選ぶことはできなかった。
けれども、運命は、私が真に忠義を捧げるべき主と巡り合わせてくれた。
主はやて――――幼い身でありながら、誰よりも強い輝きをもつ少女――――を守ることこそ、我々守護騎士の、ヴォルケンリッターの使命である。
誇りを持って私は誓おう。
――烈火の将の名にかけて
後書き
・主人公はおっぱい好き。だって、はやてだし。でも本人は……
・臨時保険医なシャマルさん、バレンタインテロを決行。チョコレートテロリスト。
・ボーイッシュな主人公はクールビューティー(笑)なので人気があります。
・ヴィータもロリ姉御として人気がありました。
第7話 凸凹姉妹
前書き
・視点変更ですが、◇なら主人公視点、◆ならその他視点になっています。
・念話は()書き。デバイス発言は『』です。
兵藤一誠が転生悪魔となってから、数日が経った。
その間、サーチャーを使って彼のことを監視していたが、目立った動きはなかった。
いや、まあ、悪魔見習いの活動はある意味すごかったが。
ダンディなおっさんの魔法少女コスチューム姿なんか、誰が好き好んで見たいと思うのだろうか?
というか、リアル魔法少女――――現在の姿、年齢を考えると「少女」は微妙かもしれない――――として、文句の一つもいいたいところだ。
兵藤一誠には、心底同情してしまう。
秘密裏に監視しているので直接慰めることはできないが。
前もって、原作知識で知っていたボクでさえ、大きなトラウマを残したのだ。
ヴィータは、睡眠中、苦しげにうなされていたし、リインフォースなんか、その場で気絶していた。
ただ、シャマルだけは、目が輝いていたのは、なぜだろうか。
……気にしてはいけないな、うん。
(毎日のように、男性の行動を監視するとは――まるで、恋する乙女みたいだな)
愛なら仕方ないね!
と、ストーカー行為を正当化してみる。
さすがは、原作主人公。
監視していると、意外と好青年であることがわかる。
普段の変態振りがなければ、もっとモテただろうに。
でも、ボクが彼に恋することがあるか?と言われれば、否だろう。
いまだに、性別には、戸惑いを感じる。
女性であることは間違いないのだが、ね。
自嘲しつつも止めるわけにはいかない。
そんなストーカー生活が日常になりつつある今日この頃。
今日も今日とて、サーチャーごしに、兵藤一誠の映像を垂れ流している。
すると、外国人の美少女が、彼に道を尋ねていた。
一瞬頭を悩ませ、すぐに答えが出た。
彼女の名は、「アーシア・アルジェント」という。
――――近い将来、一誠ハーレムの構成員の一人になる予定の少女である
傷を癒す神器『聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の持ち主であり、心優しい少女である。
彼女は幼いころから、教会で、傷を癒す奇跡を起こす聖女として、祭り上げられてきた。
ところが、ある日、悪魔の傷を癒したことで教会から追い出されてしまう。
行くあてのなくなったアーシアは、堕天使に保護――という名のもとに利用されることになった。
レイナーレが、彼女の身柄を拘束し、とある目的のために生贄にしようと目論んでいるはずだ……原作通りなら、という注釈がつくが。
現在、彼女と兵藤一誠は、英語で流暢に会話している光景が、サーチャー越しに映っている。
言っては悪いが、彼の頭の出来はあまり良くない。
もちろん、英会話などできるわけない。
にもかかわらず、彼が英語で会話できる理由は、一重に悪魔化した恩恵ゆえにだ。
音声限定とはいえ、自動翻訳能力を悪魔は備えており、転生悪魔も同様の能力をもっている。
ボクの場合、前世の知識という反則技のおかげで、英語は得意だから必要ないかもしれないけれども
後日、悪魔がもつ自動翻訳能力の理不尽さを愚痴ったところ、リインフォースに翻訳魔法の存在を教えられた。魔法も大概反則技であると、改めて認識した出来ごとであった。
さて、彼女も今後の鍵を握る原作キャラクターの一人ということで、サーチャーをつけることにした。
行動を監視するという意味もあるが、堕天使に虐待されないか見守り、もしものときに保護するためでもある。
いくら原作で彼女が助かるということを知っていても、手の届く限りにおいて、見捨てるという選択は許容できない。
しつこいようだが、ボクは、いまを「現実」として認識しているし、この世界の住人も同様である。
そもそも、ボクという存在がいる時点で、原作知識は絶対ではない。
あくまで、参考程度にとどめるべきだろう。
むろん、重要な価値があることに変わりはないが。
物思いに耽っている間に、アーシアが教会前まで、兵藤一誠に案内され、お礼をいっているようだ。
悪魔の領地内にも関わらず、堂々と堕天使が不法占拠している教会である。
気づけよ、と思う。それでいいのかグレモリー。
彼と別れ、教会の入り口に向かう彼女の顔は、先ほどとは打って変って、痛々しい表情をしている。
いまのところ、堕天使に著しく不当な扱いはうけていないようだ。
もっとも、丁重にもてなされているわけでもなさそうだが。
なぜだろう。
アーシアをみてから、彼女のことばかり考えている。
なぜこんなに彼女のことが気になるのか。
思い悩んでも、答えはでなかった。
◇
アーシアを発見した日の夕方、リアス・グレモリーから、はぐれ悪魔が出現した、との報告を受けた。
名前は、原作通りバイサーだった。
普段とは違い、協力要請はなかったものの、こちらから協力を申し出ると、やんわりと断られた。
おそらく、彼女としては、兵藤一誠の赤龍帝としての力をみたいのであろう。
彼が神器を所有していることを、ボクたちに知られたくないのだと思われる。
ボクたちは所詮客人でしかないので、迂闊に情報を渡そうとしない姿勢には好感をもてる。
サーチャーでつつぬけなんだけどね。
したがって、「偶然」彼女たちと遭遇し、彼の力を観察することにした。
「二人だけで、戦場に赴くと言うのですか!?」
「そうだよ。理由はこれから説明するけれど――――」
偶然を演出するのならば、八神一家が勢ぞろいしていてはまずいだろう。
どうみても、スタンバイしていたことがばれてしまう。
ばれてしまえば、どうやって場所とタイミングを合わせたのか追求されることになる。
下手すれば、サーチャーの存在に勘付かれるおそれすらある。
「――――と、いうわけで、ボクとリインフォースの二人で現場に向かうことにするよ。買い物帰りを装えば、本当に偶然遭遇したのかを疑いはしても、断定することはできないだろうからね」
「理由については納得しました。しかし、危険ではありませんか?」
「ううん。所詮は、はぐれ悪魔だ。『原作』で最初の敵だけあって、素人の兵藤君にすら倒されるほどだよ」
「たしかに、いままで討伐してきたはぐれ悪魔の戦闘力と原作知識とやらを考えれば、問題ないかもしれません」
「そうだろう?だったら――」
「しかしながら、あえて主はやての身を危険にさらす行為には、賛同しかねます」
「シグナムの言う通りですよ。わたしも、少し心配かな。もしものときのために、回復役がいた方がいいのではないかしら」
「私としても、主の自宅警備員として傍に控えさせていただきたいです」
旗色が悪くなってきた。いまのところ、シグナム、シャマル、ザフィーラは反対の立場をとっている。
リインフォースは、一緒についてくるから除外するとして、残るはヴィータのみ、か。
「うーん。賛同者はなし、か。ヴィータ姉はどう思う?」
「あたしは賛成するぜ。どうせ、これから戦いは厳しくなっていくんだ。いまから怖気づいていたら、後で苦労する羽目になる。それに、リインフォースがついているんだ。滅多なことにはならないだろうさ」
「マスターの身を、必ず守ることを約束します。鉄槌の騎士の言う通り、これからマスターは戦いに身を投じていくことになりますから。早いうちに、慣れておいて損はないはずです」
「うんうん。ヴィータ姉の言う通りだよ。ボクがしてきた修行の成果は知っているでしょ?」
「……わかりました。たしかに、ヴィータとリインフォースの言う通りだ。主はやてに従うことにする。皆も異存はないな?」
ふぅ。シグナムたちを、なんとか説得することが出来た。
皆、ボクの身の案じていることが伝わってきて、ちょっとばかり、こそばゆい。
特に、ヴィータの援護射撃には感激してしまった。
「ヴィータ姉」と呼んでいるのは、決してからかいの気持ちからだけではない(少しはあるが)。
ボクは、彼女を本当の姉のように思っている――口に出すのは恥ずかしいけれど。
だから、姉に認められたようで嬉しく、そして誇らしかった。
所詮バイサーは、序盤のヤラレ役に過ぎない。
この程度の相手に苦戦するようならば、今後の計画を大幅に軌道修正する必要があるだろう。
――――それに、原作で描写されていた光景を、この目で確かめたいのだ
原作という色眼鏡を通すことで、空想と現実が混同しないだろうか。
架空の登場人物と目の前の人物を切り離して考えられるだろうか。
原作知識に振り回されて現実を軽視しないだろうか。
いろいろと心配の種があるとはいえ、あまり緊張はしていない。
ボクには頼もしい家族がいる。
これから赴く戦場にも、リインフィースという心強い味方がいるのだから。
「ありがとう、シグナム、みんな。さあ、未来に向けての第一歩をいっしょに踏み出そう――――と、いうわけで、今日の晩御飯は何がいい?偽装に気づかれないためにも、いつも通り晩御飯の買い物にいかないとね」
◆
「――ヴィータ姉はどう思う?」
はやてが、あたしに尋ねてくる。眼をみれば、行く気まんまんだということが丸分かりだ。
あいつは、意外と頑固なところがある。
この問いかけも、家族の理解が欲しいからであって、確認に過ぎないのだろう。
だから、あたしは迷わず賛同した。なぜなら――――
「――――これから戦いは厳しくなっていくんだ。いまから怖気づいていたら、後で苦労する羽目になる」
あたしを含むヴォルケンリッターが、はやてと出会ったのは、あいつの誕生日の日付に変わったとき。
……もっと早く駆けつけられなかったのかと、いまだに悔んでいる。
第一印象は、両親を殺され泣きじゃくる年相応のか弱い女の子。
主の身を守り、命令に従うのが守護騎士の役目だから、助けた。
いつものことであり、特別な感情を抱いてはいなかった。
しかし、その後すぐに考えを改めることになる。
嗚咽をこらえながらも、突然現れたあたしたちに、毅然とした態度であいつは接した。
ほどなく駆けつけた魔王とやらには、状況がよくわかっていないあたしたちに代わって、彼女が主導して話を合わせた。
――――前世の記憶やら、原作知識やらのおかげだよ
と、はやては、どこか自嘲しながら謙遜していた。
しかし、年相応に振る舞う姿は、決して演技にはみえなかった。
ここが異世界だとしても、関係ない。
どのような事情があろうと、あたしは「八神はやて」という少女が大好きなのだから。
『ヴィータってお姉ちゃんみたい。ヴィータお姉ちゃんって呼んでもいい?』
当時、9歳になったばかりのはやてと、外見年齢が8歳~9歳相当のあたしは、背格好が同じくらいだった。
一見すると、姉妹にみえないこともない―――もちろん、姉はあたしだ。
外見年齢が近いからだろうか。
大人びているように見えて、実は、寂しがりで甘えたがりなあいつは、とりわけあたしに懐いていた。
『お姉ちゃん、お姉ちゃん』と連呼しながら、後をついてくるはやて。
あたしは、実の妹のように可愛がっていたし――――はやても、あたしを実の姉のように慕っていた、と思う。
あいつが、10歳の誕生日に、「家族になってから1周年記念日」だといいながら、渡してくれたプレゼントは、いまでもあたしの宝物だ。
それは、「のろいうさぎ」という名前のぬいぐるみ
原作の「ヴィータ」が好きだったぬいぐるみを参考にした手作りらしいが、あたしの嗜好にぴったりだった。
うぬぼれでなければ、一番近くであいつの成長を見守ってきたのは、姉貴分のあたしだろう。
――――だから、あたしだけは、はやてがしてきた努力とその成果を認めてやらなくてはならない
あいつが一人で立ち上がれるように背中を押し、危なくなったら助ける。
過剰に甘えさせれば、成長して独り立ちしたとき苦労するのは、はやて自身だ。
したがって、適度な距離を保ちながら、接しなければならない。
嬉しそうにこちらを見つめる姿には、苦笑してしまう。
「晩飯は任せる。その代わり、デザートにアイスをつけてくれ」
「はいはい、わかったよ。えっと、ヴィータ姉は、どのアイスが好きだったっけ――」
――――やれやれ、手のかかる妹だぜ
後書き
・アーシアが気になる主人公。恋ではありません。
・姉御肌なヴィータ。ギャップ萌え。
・心配性なシグナム。でも、一番強いのは主人公だったり……
・ミルたんは最強、いろんな意味で。
第8話 魔法少女はじめました
前書き
・主人公空振りするの巻。
・魔法少女はじめました。原作のキャッチフレーズ。
「シュベルトクロイツ、セットアップ」
『Jawohl』
リインフォースとともに夕飯の買い物に行った帰り道。バイサー討伐の場面で、うまくグレモリー眷属と居合わせることができた。
すぐさま、騎士甲冑――――防護服(バリアジャケット)のベルカ版――――を展開し、援護に回る。そこで 見た光景は、衝撃的だった。
所詮ヤラレ役だと思っていたバイサーは、思ったよりも強そうにみえたこともそうだが。
それよりも、戦いには全く素人であるはずの兵藤一誠が、パンチ一発で、そのバイサーをのしてしまったのだから衝撃だった。
援護といっても、シールドくらいしか使わなかった。
そのシールドも、初陣の兵藤一誠にリアス・グレモリーがフォローにまわろうとしていたので、なくても大丈夫な援護だった。
かっこよく颯爽とかけつける予定がパーである。
ボクとリインフォースも支援要員として、最低限の活躍はできたと思いたい。
ちなみに、ボクのデバイスは、原作アニメにでてきた騎士杖と同じだ。ボクの身長をやや超えるくらいの短槍に、十字の穂先がついている。
名前がつけられていなかったので、原作通りに「シュベルトクロイツ」と名付けた。
「すげえ、銀髪ボインのお姉さんがいるだと!?」
「ボクの家族を厭らしい目でみないでくれないかね?」
「え……どうしてここに八神さんが――もしかして、八神さんも悪魔だったのか!?」
「それは違うな、兵藤君」
「一誠君。彼女はワケありでね。詳細は明日の放課後でもいいかしら?」
「……先輩がそういうのなら」
「構わないさ。ボクも早く帰って、夕飯の支度をしたいからね――ほら、買い物帰りなんだよ」
白々しく買い物袋を見せる。
買い出しにいったのは事実なので、嘘ではない。
オリーブオイル、にんにく、鶏もも肉 あさり、いか、むき海老、白身魚、パプリカなどなど。今日の献立はパエリアである。
ボクたちの騎士甲冑は、これまたほぼ原作通りだ。
白い大きめのキャスケットとオーバーコートを着込み、背中に4対の小さな翼が生えている。
相違点としては、太もも丸出しの丈の短いタイトスカートが、スラックスに変更されている点がまずひとつ。
もうひとつは、天使や堕天使連中と区別するために、背中の翼を、黒から赤に変えてある点だ。
赤色にした理由は、ヴィータの騎士甲冑の色に合わせたからだが、秘密にしている。
シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの騎士甲冑は原作と変化なし。
先入観というやつは、そう簡単になくなるものではない。
ボク自身も、原作通りの格好が、彼女たちに一番似合うと思っている。
……まあ、リインフォースだけは、露出の激しすぎるパンクなファッションを、おとなし目に変更したが。
あの格好は目に毒である。
リインフォースのファッションセンスをどうにかしてほしい。
なんでそんなに露出の激しい恰好を好むのか。
騎士甲冑だけではなく、普段から見せつけるような服装をしている。
おかげさまで、街に繰り出すとナンパがすごい。
リインフォースのおっぱいはボクだけのものである。
異論は認めない。
さて、明日詳しい説明をすることになった。
いよいよ、本格的に原作と関わり合うことになるだろう。
目的の戦場見学と顔合わせも済んだことだし、愛しの我が家に帰るとしますか。
腹ペコたちが首を長くして待っているはず。
心配させたお詫びに、今日のパエリアは、腕によりをかけてつくろう。
――――リインフィースも手伝ってくれる?
――――もちろんです、マスター。とびっきりの料理をつくりましょう
◆
――ここ数日は、驚愕につぐ驚愕の連続だった
――兵藤一誠という人間が過ごしてきた17年間で、もっとも濃い時間だったと思う
かわいい女の子に、人生で初めて告白されたと思ったら、殺されかける。
リアス先輩にお呼ばれされたと思ったら、悪魔になっていた。
しかも、俺は最強の神器を宿す赤龍帝……らしい。
先輩の下僕――――眷属悪魔というらしい――――になって、ハーレム王(上級悪魔)を目指し見習い悪魔稼業に精を出す。
極めつけに、今日は、はぐれ悪魔との戦いに赴いた。
「先輩たちは、八神さんの事情を知っているんですか?」
「ええ。はぐれ悪魔討伐では、よく手を貸してもらっていてね。けれども、家の事情に関しては、私しか知らないわ」
バイサーとかいうはぐれ悪魔との戦いは、荒事とは無縁の人生を送っていた俺に強い衝撃を与えるに十分だった。しかし、先輩たちの援護と赤龍帝の籠手によって、初めてにもかかわらず有利に戦えていた。
そのせいだろうか。うかつにも、調子に乗ってしまった俺は、窮地に陥る。
近くにいた木場がフォローに回ろうと急ぐが、間に合わない―――そのときだった。
『危ないよ。パンツァーシルト』
――『Panzerschild』
どこかで聞いたことのある透き通ったソプラノボイスと、渋めの機械音声が響き、バイサーの攻撃をはじいた。
――大きくよろめくバイサー
その隙を突き、いまできる最大のブーストをかけてがらあきの腹部を殴り飛ばした。
結局、この一撃が止めとなり、初の実戦は終了した。
気になる声の正体は、クラスメイトにして、駒王学園三大お姉さまの一人である「八神はやて」だった。
機械音声は、手に持っている杖?槍?とにかく、十字をつけた長柄の武器から発生しているようだ。
シュベルトクロイツというらしい。
「八神さんの事情については、教えてもらえないんですか?」
「ごめんなさいね。本人のいないところで言うべきではないわ」
「いえ。それなら仕方ありませんよ。明日、直接尋ねてみます」
「そうしてもらえると、助かるわ」
いろいろと尋ねたいこと――――とくに銀髪巨乳のお姉さんのこととか――――があったが、明日纏めて話すと約束して、この日は解散した。
◇
「ただいまー」
「お帰りなさいませ」
リインフォースとともに玄関に入ると、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラが出迎えてくれた。八神家総出である。
やっぱり心配してくれていたらしい。
戦い方がなっていない!って感じで激おこぷんぷん丸だったらどうしようかと。
杞憂だったようだ。
いやあ、照れりこ照れりこ。
サーチャーでボクの雄姿(笑)を見守ってくれたそうだ――完全装備で。
介入する気まんまんじゃないですか、ヤダー。
素晴らしい援護でした、とか褒め称えてくれるが、あれどう考えてもボクたちいらない子だったでしょうよ。
とまれ、しばらく無事を喜び合い、実戦の報告――の前に、夕飯の支度をすることにした。
だって、お腹がなったしさ――ヴィータの。
顔を赤くしちゃって、かわいいやつめ。
食事も終わり、一息ついたところで真面目な話に移る。
バイサーが思ったよりも強そうだったこと。
そのバイサーを一撃で倒してしまった赤龍帝――兵藤一誠のこと。
そして、これからのこと。
「原作通りの展開になったわけですが、これからの方針はどうしますか?」
「うーん、いままで通り不介入でいこうかと思っている。グレモリー先輩に協力を求められたら応じるけれど、こちらから積極的に関わるつもりはないかな」
リインフォースに尋ねられ、不介入の方針を伝える。
いまのところ、原作に関わってもメリットがない。
原作キャラといちゃいちゃしたいなら話は別だが、ボクは原作キャラに特に思い入れはない。
自衛程度の戦闘でいいだろう。
あとは、明日の会談についてかな。
どこまで情報を公開するか話し合う。
とりあえず、サーゼクス・ルシファーと同レベルまでにすることになった。
つまり、謎の神器『夜天の書』として、ほとんど公開しないわけである。
実力を悟らせないために、夜天の書の情報は限定的にしか伝えていない。
見せた魔法は、身体強化、飛行とシューターくらいのものである。
結界や転移魔法なんかは秘匿している。
実力という意味では、基本的に接近戦をするので、嘘ではないはずだ。
というか、ボクが全力で広域殲滅魔法を放てば、駒王町が火の海になってしまう。
誇張抜きでそれだけの能力をボクは有している。
歩くロストロギアの名は伊達ではないのだ。
ふと、アーシア・アルジェントのことを思い出す。
最近、アーシアのことがどうも気にかかって仕方がない。
理由はわからない。
気がかりは、もう一つある。
はぐれ悪魔と相対したときに感じるどうしようもない衝動。それは――憎悪。
父が殺されたからだろうか。憎くて憎くて仕方がない。
憎しみに支配されそうになる。
いや、はぐれ悪魔だけではない。悪魔自体に拒絶反応がある。
世話になっているサーゼクス・ルシファーでさえ好きになれないのもそのせいだろう。
いろいろと思い悩むが―――
そんなことよりゲームしようぜ!
下手の考え休むに似たり。
答えの出ない問題を考えたところで仕方があるまい。
真面目な話がひと段落したところで、遊びに突入する。
ゲームのタイトルは、「大乱闘!クラッシュブラザーズ」。
前世のアレとほぼ同じである。
その日は、夜遅くまで笑い声が絶えない八神家であった。
ちなみに、八神家最強は、シグナムのリンクである。
後書き
・主人公は永遠の魔法少女(意味深)
・歩くロストロギア。原作はやての通り名。主人公はかっこいいので気に入っているが、ハイスクールD×Dにはロストロギアの概念そのものがなかった、残念。
・シグナムのリンク。烈火の将は伊達ではない――といいつつ、爆弾とブーメランで攻撃してくる。
第9話 旅は道連れ世は情け容赦してくれない
前書き
・ガールズラブ、ボーイズラブはありません。
バイサーを倒した翌日。
兵藤一誠は、木場祐斗、八神はやての傍にいた。
約束通りオカルト研の部室で、昨日の説明してもらうために、だ。
ところが――
放課後の教室は異様な熱気に包まれていた
(……どうしてこうなった!?)
◆
話は少し前にさかのぼる。
帰りのHR(ホームルーム)が終わり、クラスメイトたちは、そそくさと席から離れていこうとする。
その最中、廊下から呼び声がかかった。
どうやら、先にHRが終わっていたようで、彼は教室の扉の前で待っていたらしい。
とくに、珍しい光景ではなかったといえる。ありふれた日常だ。
「やあ、二人とも。待っていたよ」
その声の主が、女生徒に人気のイケメン男子でなければだが。
しかも、声がかかった人物も大問題だった。
なにせ、駒王学園の三大お姉さまとして名高い女生徒と、悪名高い変態だったのだから。
浮いた噂を聞かない美男美女の二人に、変態を加えた3人組。
奇妙な組合せを前にして、クラスメイトたちが面喰らうのも仕方がないといえよう。
木場祐斗は、その容姿や言動から、クール系なイケメンとして女生徒に支持されている。
しかしながら、女性に興味を示さないとして有名だった。数多の女生徒が撃沈している。
イケメン王子である。
八神はやては、三大お姉さまの一人である。
ボーイッシュな性格、女性に優しく、凛々しい姿。
一部の百合百合しい女生徒に熱狂的な信者をもつのも道理だろう。
さらに、男性に興味がない、と本人が公言している。
とはいえ、特定の女生徒と親しいわけでもなかった。
兵藤一誠は、エロ魔人であり、変態として、女生徒から嫌悪されている。
おっぱい紳士を自称するオープンな変態である。
男子生徒には妙な人望があるが、女生徒からは、倦厭されていた。
つい先日も、他校の女子に告白されたと騒いでいたが、振られたと噂されていた。
――――最近、木場祐斗と兵藤一誠が一緒にいる姿が、よく目撃されるようになったらしい
掛け算好きな女生徒の間では、攻守のポジションについて、熱い議論が交わされている。
なお、木場祐斗は、寒気を感じるようになったという。
その話題の人物たちが、ボーイッシュな性格で有名なお姉さまと接触した。
しかも、イケメン王子こと木場祐斗が、女生徒の帰りを待つなど、入学以来初めてに違いない。
変態紳士こと兵藤一誠にしても、八神はやてはからは、避けられている節があった。
三大お姉さまこと八神はやてに至っては、いつも女生徒に囲まれ、木場祐斗と兵藤一誠とは、絡みが一切ない。
実は、接点がない理由は、原作への影響を恐れて、木場祐斗や兵藤一誠といった原作キャラとの接触を、八神はやてが、控えていたことに起因している。
だが、周囲からは、「面識のない男女3人が、急にお近づきになった」という事実しか分からない。
以上が、教室で渦巻く異様な熱気の正体である。
「ここは『今来たところだよ』というのが、男子のあるべき姿ではないかな?」
「それはすまなかった。僕はそういった男女の機微には疎いものだからね」
他人なんて知ったことねえ、と無視しているのか。
あるいは、注目をうけることに慣れているのか。
廊下で待つイケメン男子こと木場祐斗。彼と相対する三大お姉さまこと八神はやて。
お似合い――――ルックスや学内の評判という意味で――――の二人は、気にした様子もなく会話を続ける。
そんな彼らの傍らで、変態こと兵藤一誠は、周囲から向けられる好奇の視線にさらされ戦慄していた。
事情を知らぬ人間がみれば、なんとも不可思議な光景だった。
「ふむ。ならば、なぜ迎えに来たんだい?それともまさかデートのお誘いなどと、言い出さないだろうね?」
「面白いことを言うね。もし、ここで『実は、デートの誘いに来た』といったら、どうするつもりだい?」
――――なぜ、平気な顔をしながら、地雷のような会話にいそしむことが出来るのか
兵藤一誠としては、すぐさまオカルト研の部室に向かいたいところだった。
だがしかし、せめて要らぬ誤解や邪推をなんとかしないと、大変なことになるだろう――――主に彼自身が。
教室には緊迫した空気が漂っている。
誰もかれもが疑問をもてど、とても口を挟める状況ではない。
必然的に、皆が彼らの会話に意識を集中することになる。
「兵藤くんと三人でデートかい?なんとも、不健全なお付き合いだな。兵藤くんはどう思う?」
(おい、なんてこと言いだすんだ!)
今の今まで、除け者にされていたはずなのに、最悪のタイミングで話題を振られて固まる。
彼は、いつもの明るさが見る影もなく冷や汗をかいていた。
クラスメイトたちから向けられる、様々な感情――――興味、嫉妬、敵意など――――は、見えない重荷となって、彼を押し潰さんとしている。
特に、エロ仲間たちからの視線は、憎悪どころか殺意まで感じられるありさまだった。
「い、いやあそうですネ。八神さんのような女性なら大歓迎デスヨ?」
彼は、無難に返答した――つもりだが、まったく状況は好転していない。
とにかく、居心地の悪さをどうにかしてほしい気持ちで一杯だった。
「そうかい?まあ、冗談は置いといて――」
(ってオイ、冗談なのかよ!?)
「――木場くんが、誘いに来るとはね。グレモリー先輩に気を使わせてしまったかな?」
「ああ。一応、旧校舎は一般生徒が立ち入りできないからね。僕が案内役を仰せつかったのさ」
「なるほどね。では、喜んでエスコートされるとしようか。だが、兵藤くんについていけば、済む話ではないかな?」
「僕もそう言ったんだけどね。部長曰く『ゴシップを避けるために必要な措置』らしい」
ゴシップを避けるためのはずが、ゴシップをつくっている。
実は、この事態をリアス・グレモリーは想定していた。
兵藤一誠に対するちょっとしたいたずらのつもりだった。
確信犯である。
彼が、なんとか弁明しようにも、雰囲気が許してくれそうにない。
彼にできることはただ、嵐が過ぎ去ることを祈りながら、待つだけであった。
普段ならば、美人と会話する木場に対して呪詛の一つでも送るところだったが。
『グレモリー先輩に頼まれた木場裕斗が、兵藤一誠と八神はやてを迎えに来た』
すでに、事実が明らかになっているにも関わらず、好奇の視線は霧散しない。
滅多にない組み合わせに興味津津なのだ。
(い、生きた心地がしねえッ…!)
「――なるほど。確かに得心がいったよ。現に、クラスメイト達は噂話に忙しいようだしね」
「オカルト研究会の部室に誘うだけだと言うのに、大げさすぎるとは思うけどね」
「まあ、ゴシップ云々を置いておいても、キミがボクを誘う構図は、とても珍しい。仕方ないさ」
「そうかもね――」
その後、しばしの間、歓談する二人。
ときおり、兵藤一誠のほうにも話題が振られるが、彼は生返事しかできなかった。
なんというか、もういっぱいいっぱいだった。
盛り上がる二人の会話。
比例して高まる教室の緊張。
それぞれが、ピークに達したそのとき――――
「――おっと、少々話し込んでしまったようだ。早く行こう。ついてきてくれ」
「ああ。キミとの会話はなかなか楽しかった。つい話し込んでしまったよ。兵藤くんには、すまないことをした」
「い、いや、いいんだ。八神さんと俺は、グレモリー先輩に頼まれた木場に迎えに来てもらった『だけ』なんだからな!!」
渦中の一人、兵藤一誠は、ようやく解放されると喜んだ。
と同時に、釘をさす発言も忘れない。
かくして、残念そうな、安心したような、ゆるんだ空気が教室を漂う。
ようやく彼は安堵することが出来たのであった。
(ハーレムを目指すなら、これくらいの注目は流せるようにならないとな。嫉妬されるのは間違いないだろうし)
なんだかんだで、平常運転な彼だった。
少々の苦難では、へこたれない姿は、まさに「漢」であった。
とは、クラスメイトの一人(変態)が後にした証言である。
後書き
・この作品はエロ控えめです。
・安藤さんのハイスクールD×D二次創作「Irregular World」リスペクトです。ISSEIさんマジかっけー。
第10話 エターナルロリータ
前書き
・ストックがなくなったので、更新頻度が落ちます。すみません。
部室なう。
――ってわけで、やってきたオカルト研の部室。
魔法陣やらシャワールームやら、目を引くものが多々ある魔窟であった。
壁に書かれている意味ありげな魔法陣はどういったものなんだろうか。
え、ただのインテリア?それっぽいでしょって?
そーなのかー。
目の前には、リアス・グレモリーがいる。
その両隣には、姫島朱乃、塔城子猫が控える。
リアス・グレモリー。
グレモリー家の出身で、現魔王サーゼクス・ルシファーの実妹。
バアル家に伝わる『消滅の魔力』を持つ、若きエリート悪魔。
オカルト研究部の部長であり、部員は全員彼女の眷属である。
眷属たちは、転生悪魔と呼ばれ、チェスの駒に見立てた能力を持つ。
『女王』『僧侶』『戦車』『騎士』『兵士』がある。
姫路朱乃。
幼いころに母と死に分かれ、リアス・グレモリーと出会い眷属となった。
正体は、堕天使バラキエルの娘であり、母を見殺しにした父バラキエルを恨んでいる。
駒は、『女王』。
塔城子猫。
はぐれ悪魔となった実姉黒歌のあおりを受け殺されそうになる。
彼女も、リアス・グレモリーに拾い上げられ、眷属となった。
猫妖怪の末裔であり、仙術という特殊な技術を扱うことができる。
もっとも、今の彼女では仙術は扱えないが。
駒は、『戦車』。
隣を見れば、案内を終えた木場悠斗がいる。
彼は、天使陣営における聖剣計画の人体実験の犠牲者である。
神器『魔剣創造』を持ち、剣技に秀でる。
グレモリー眷属にして、駒は『騎士』。
いまは、お互いの自己紹介をしているところである。
グレモリー眷属の紹介が一通り終わった。
「次は、ボクの番だね。ボクは神器もちで、名前は『夜天の書』というんだ。昨日使って見せた魔法もその一種だよ」
「へえ、すごいな。悪魔しか魔法は使えないと思っていた」
「あら。一誠は知らないようだけれど、人間にも魔法使いはいるわよ?彼らは、悪魔の魔法を下地にして、人間用に改良しているの。わたしの眷属として活動していれば、そのうち出会うこともあるかもね」
兵藤一誠は、ボクが悪魔でもないのに魔法を使えると聞いて、非常に驚いていた。
彼も最近転生悪魔となり、消費した駒は『兵士』8つすべて。
規格外の力をもつ神器の所有者であるホープだ。
彼の言う、魔法=悪魔の図式は正しい。
だから、他のグレモリー眷属は、異質な神器に少なからず疑問をもっているようだしね。
どのみち、原作に関わっていく以上、隠している力を解放することもあるだろう。
――――リリカルなのはの魔法や夜天の書は、様々な意味で、この世界では「異常」である
「それで、どんな魔法が使えるんだ?」
「それについても説明する。他にもいろいろと機能があって、たとえば――」
まず、人間が扱える魔法。
歴とした科学として成立しているプログラミングで成り立つ魔法技術。
騎士甲冑は、オートガードとして優秀だし、飛行魔法で自由に飛びまわることができる。
非殺傷設定なんて、概念すらないだろうし、プログラム体であるボクたちは、半不老不死といえる。
サーチゃーで気づかれずに監視出来、自由自在に個人で転移出来ると聞いたらどうなることか。
とりあえず、ここでは適当にごまかしておく。
「――といった具合かな」
「なるほどねえ。わたしも知っていたとはいえ、あらためて聴くと、デタラメな性能よね。あなた達が使う魔法は、他人が行使することはできないのかしら」
「以前に、申し上げたとおりです。ボクとボクの家族だけですよ」
適当にごまかした内容でさえ、リアス・グレモリーを驚愕させることができるのだ。
つくづくリリカルなのは式の魔法は便利である。
次に、夜天の書。
元の世界ですらロストロギア認定された破格の性能をもつ魔道書である。
守護騎士や管制人格の実力は非常に高い。
ボクを含めた皆が、夜天の書に記載されている魔法を扱うこともできる。
加えて、夜天の書内の防衛プログラムが正常化したことで、主であるボクは保護下におかれている。
すなわち、プログラム体になり、防衛プログラムに本来搭載されていた修復機能の恩恵を受けることができるのである。
「ん?家族が使えるのなら、他の人間も使えるってことじゃないのか?」
「鋭いね。ボクには5人の家族がいるんだけど。彼女たちは皆、夜天の書に付属した存在なのさ。昨日、兵藤くんは、現場で銀髪の女性をみただろう?彼女もその一人なんだ」
「マジかよ。あの巨乳さんは、人間じゃないのか。でもそんなのかんけいねえ!今度、是非紹介してくださいッ!!」
「だが断る」
――まあ、弊害として成長できないのはご愛敬だ。
おかげで、ヴィータといっしょに、永遠の9歳児に仲間入りしてしまった。
実は、普段の姿は、変身魔法を使っている。
原作にもでてきた「大人モード」を参考に、成長した姿をイメージ化した。
アニメ第三期の「八神はやて」といえば、近いだろうか。
「さて、ボクの自己紹介は、こんなところだ。次は、誰にする?」
「そうねえ。一誠君以外とは面識があるのだし、彼が自己紹介すればいいわよね」
「おう。俺の番だな。俺も神器もちだ。最近、発現したばかりで、まだ扱いこなせていないんだが――」
最後に、ボク自身。
無尽蔵の魔力に、夜天の書の主という立場。
魔力が大きすぎて、精密な動作が苦手なのは、ご愛嬌だ。
こんなところまで原作に似せなくてもいいのに。
しかしながら、リインフォースとユニゾンしたときこそ、ボクは真価を発揮する。
駒王町をまとめて消し飛ばせる広域せん滅魔法を連射できるといえば、その凄さがわかるだろうか。
ゆえに、ユニゾンは奥の手として、ぎりぎりまで隠すことにしている。
ユニゾンすると、変身魔法が解かれ、幼女姿を曝すことになることも理由のひとつではある――――もちろん、周囲には秘密だ。
「――っていうわけなんだ。正直、実感がわかないけれど、上級悪魔目指して頑張るつもりだ」
「『上級悪魔』ね。領地を手に入れて、女性の眷属でも手に入れようってのかい?」
「うぐッ」
「さすが、八神先輩です。一発で見抜くとは」
「簡単なことだよ、塔城さん。これでも一応クラスメイトだし、彼はわかりやすい性格をしているしね」
「つまり、単純ってことですね。兵藤先輩にもっと言ってやってください」
そんな本心を隠しつつも、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の説明を聞いて、
さも、はじめて知ったかのように驚いてみせた。
ドヤ顔の兵藤一誠が若干ウザかった。が、なにせ伝説の装備を手に入れたのだ。
少しぐらい有頂天になったとしても、仕方がないかもしれない。
ボクだって、夜天の書をもっていて、それを誇りに思っているのだから。
「さて、自己紹介はこれでお終りね。さっきも説明したけれど、はやてと家族たちには、はぐれ悪魔の討伐などで協力することが多いのよ。後日でいいから、他の人たちと顔合わせしたほうがいいわね」
「そうだね。ボクたち家族は、グレモリー家の客人扱いになっている。だから、厳密には悪魔陣営とはいえないけれど、基本的には共闘関係にあると思っていい。今後、家族に会う機会もあるだろうから、会った時にでも紹介するよ」
その後、いくつかの決まりごとや他愛もない雑談をしてから、お開きになった。
教会を監視しているサーチャーからは、アーシアの様子が送られてきている。
やはりというか。あまり扱いはよくないようだ。
なんとかしてやりたいが、グレモリー家の客人であるボクでは、
堕天使に干渉して、戦争のきっかけをつくることになりかねない。
原作知識のとおりなら、堕天使の総督であるアザゼルは戦争否定派だ。
が、コカビエルのような戦争狂もいる。迂闊に動くことはできない。
――――偽善かもしれないが、ボクは、ボクにできる限りのことをしようか。
後書き
・主人公はエターナルロリータ。ヴィータの仲間。
・チェスの駒を消費することで転生悪魔として眷属化することができます。
・グレモリー眷属には、『僧侶』があと一人います。彼は、あんまり登場しないと思います。
・『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』は、神滅具と呼ばれる強力な神器の一つ。まあ、ロストロギアみたいなもんです。力を無限に倍加できるという、単純にして強力な神器。
第11話 悪魔のような聖女
前書き
・主人公、ナンパするの巻。
アーシア・アルジェントにとって、心が休まるのは、教会の外を歩き回るときだけだった。
もともと、彼女は、教会つまり天使陣営に所属していた。
癒しの奇跡を起こし、聖女として相応しい振る舞いを幼いころから強いられてきた。
しかし、とある日。傷ついた悪魔が、彼女の前に現れる。
心優しき彼女は、その悪魔を治療してしまう。
杓子定規な天界(異界にある天使陣営の大地)のシステムは、彼女を破門した。
地上の信仰・奇跡を司り、破門も行うシステムに、情の入る余地はなく、彼女に容赦しなかった。
破門された彼女は、掌を返したかのように、教会関係者から「悪魔」と非難された。
――悪魔のような聖女
聖女でありながら悪魔を助けた彼女を揶揄した言葉である。
結果的に、教会から追放されてしまったが、悪魔を治療したことを彼女は後悔していない。
信仰を否定しているわけではない。
彼女は『聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)』という神器をもって生まれた。
日夜、人を癒してきた彼女にとって、患者の出自はどうでもよいことなのだ。
彼女は、彼女なりの信仰と信念をもっていた。
それが、たまたま、教会の教義と相容れなかったに過ぎない。
その証拠に、彼女はいまでも、教会で祈りをささげている。
行くあてのない自分を、保護してくれている堕天使たち。
彼らが自分を利用して何かしようとしていることには、気づいている。
――気づいてはいるが、どうすることもできない。
(わたしは、とても弱い)
内心で嘆息する。
(わたしがもっと強い心をもっていれば、教会の庇護をうけられなくても、人を癒すことができたかもしれない)
しかしながら、教会の中での生活しか知らないアーシアにとって、外の世界は全くの未知であった。
一人暮らしなどとてもできず――――利用されるとは知りながらも、堕天使に保護されざるを得なかった。
(怪我で苦しむ人たちを助けたい。わたしの願いはただそれだけ。主よ、どうかわたしの願いをききいれてください)
過酷な環境の中でも、彼女は祈りを止めない。
――祈り、癒す。
それが、彼女の全てであった。
ふと、昨日会った青年のことを思いだす。
たしか、兵藤一誠という名前だっただろうか。
日本語での会話に不自由している彼女にとって、久々の会話は、とても楽しかった。
人の温かさに触れあうことで、思わず助けを求めたくなるほどに。
(――でも、彼を巻き込んではいけない)
転生悪魔のようだったが、荒事が得意なようにはみえなかった。
優しい彼は、きっと自分を助けようとして――死んでしまうだろう。
そんなときだった――
『おや?お嬢さん。日本は初めてなのかい?あてどなく彷徨っているようだが、ボクが町を案内してあげよう。なあに。ずっとこの町に住んできたんだ。安心するがいい』
悪魔言語ではない、本物の英語で声をかけられた。
振り返ってみると、亜麻色をした肩にかかるくらいのショートカットの女性――――彼女はどうみても日本人だ――――が、話しかけていた。
付き添いという名の監視役の堕天使が、止めようとするが、あっという間に、観光することになってしまった。
なんだかんだで、その堕天使も退屈していたらしく、楽しんでいたようだ。
アーシアも、つかの間の幸福を味わうことができた。
こちらに人懐こい笑みを浮かべる少女。
――八神はやては、再会の約束までして、去って行った。
◇
アーシア発見。
やはり、顔色はすぐれないようだ。
深呼吸して、突撃。ナンパに成功。
張り付いていた堕天使も、話のわかるヤツで、いっしょに町を見て回った。
アーシアと会ったとき、なぜか、なつかしさを感じた。
彼女とは初対面のはずである。
念のため彼女に尋ねたが、以前に会った記憶はないと答えた。
帰り際には、少しだけ元気がでたようにみえたが、沈んだ顔をした理由を尋ねたボクに対して、
『ありがとうございます。もう、私は大丈夫です』
と、綺麗な笑顔で返答した。
明らかに、嘘だとわかった。
が、他人を巻き込みたくない、彼女なりの気遣いだと分かる。
それは、とても優しい嘘だろう。
――彼女は、自分自身よりも他人を優先するのだから
それは、とても残酷な嘘だろう。
――彼女は、頼れる人がどこにもいないのだから
なんとかしてやりたい。と、ボクは改めて思う。
アーシアは必ず救う。救ってみせる。
だから、もうすこしだけ待っていてほしい。
きっと、兵藤一誠たちが助けてくれる。もちろん、ボクたちも。
最近彼女のことが気になって仕方ない。
どこかなつかしさを感じて、放っておけない。
疑問を持ちつつも答えは出なかった。
……とはいえ、アーシアも待つだけでは退屈だろうから、お姉さんが傍にいてあげよう。
――明日は、ゲームセンターに連れて行ってあげよう。
――なに、遠慮することはない。費用は、お姉さんもちだから。
――そこの付き添いの方も、いっしょに如何かな?
◇
その後、数日の間、アーシア(おまけで堕天使)と、遊んで回った。
短い期間だったが、お互いの距離はだいぶ近づいたように思う。
ボクも、「遊んであげる」のではなく「いっしょに遊ぶ」ことで、楽しんでいた。
八神家では、末っ子だったからだろうか。
お姉さん風を吹かせるのは、存外よいものだった。
――ヴィータに言ったところ、姉の心得とやらを3時間近く語られて大変だったが
そして、先ほど、サーチャーから重要な情報が送られてきた。
アーシアを利用しようとしている堕天使陣営のエクソシスト――フリード・ゼルセンが、行動を起こしたのだ。
過激な異端視問を問題視され、教会から追放された彼は、血に飢えた性格破綻者だ。
サーチャー越しでさえ、ひしひしと感じられた。
そんな彼が、契約するために悪魔を召喚しようとした人間を嗅ぎ付けた。
後は簡単、召喚主を殺そうと動くだけだ。
(ザフィーラ、頼んだよ)
(お任せください)
行動の予想は簡単だったので、フリード・ゼルセンをザフィーラに追わせている。
召喚主は、兵藤一誠を呼ぼうとしているようだ。
たしか原作では、彼は現場について、惨殺死体をみてしまう。
硬直した無防備な彼を、フリード・ゼルセンが攻撃し、止めをさそうとする。
その直前にアーシアが登場し、兵藤一誠の助命を嘆願する。
しばし対峙するが、リアス・グレモリーたちが、魔法陣を使い転移してくる。
不利を悟ったフリード・ゼルセンは、アーシアとともに逃亡。
堕天使の気配が接近してきており、リアス・グレモリーたちも撤退する――という流れだったはずだ。
ボクは、召喚主の殺害を防ぐべくザフィーラを向かわせたのだ。
現に、いまザフィーラが、シールドを展開して召喚主を守っている。
しばらく、にらみ合いが続いていたが、そこに兵藤一誠が到着。
ザフィーラを知らない兵藤一誠は、うかつに動けず、三つ巴になっている。
(リアス・グレモリーが異常に気付いた。すぐに、転移してくるから備えておいて)
(了解しました)
すぐに、魔法陣が輝いて、リアス・グレモリーが登場。
フリード・ゼルセンとしばし問答が続き、アーシアが彼の背後から現れる。
兵藤一誠は、こちらに来るように呼び掛けるが、彼女は拒否した。
複数の堕天使が接近してくる気配に気づいたリアス・グレモリーは、撤退を決意。
そのまま、魔法陣で転移し、兵藤一誠は、ザフィーラが抱えて退いた。
(兵藤一誠を部室に届けてきました。このまま帰還してもよいでしょうか)
(お疲れ、ザフィーラ。今日のポトフは自信作なんだ。早く帰ってきておいで)
――――かくして、アーシア・アルジェントを巡る物語は加速していく
後書き
・アーシアになつかしさを感じる主人公。ナンパの常套句ですね。
第12話 俺が赤龍帝だ!
前書き
・ここからはシリアスが混じ……ったらいいなあ。
・俺が赤龍帝だ!赤龍帝マイスターを目指す兵藤一誠の物語。
翌日の放課後、俺は真っ直ぐにオカルト研の部室へ向かった。
思いがけず再会を果たした彼女――アーシア・アルジェントを救うために。
フリード・ゼルセンと対峙した時、あのとき目の前の状況に圧倒されているばかりで、何もできなかった。
本気の殺気というものを初めて浴びた。
思わず硬直してしまった俺は、アーシアに助けられてしまった。
自分の不甲斐なさに歯噛みする。
殺し殺されの世界。
平和な日本の日常というぬるま湯に浸っていた自分にとって、昨日は衝撃的だった。
転生悪魔になって調子にのっていたのかもしれない。
なまじ初陣ではぐれ悪魔バイサーを倒してしまったことも俺を増長させていた。
上級悪魔になってハーレムを作る。
今でも目的は変わらないが、悪魔になることで、否応なおく非日常に巻き込まれてしまう。
そのリスクを考えたことすらなかった。
いや、部長には説明されていたのだ。
三大勢力と呼ばれる悪魔・天使・堕天使は長年敵対関係にあり、戦争をしてきた、と。
その言葉を俺は軽く考えていた。
俺はこれから部長リアス・グレモリーへ直談判に行く。
部長は下手に堕天使と敵対すれば、戦争の呼び水になりかねない、とアーシアの救出に否定的だった。
だから、アーシアの救出に部長たちが協力してくれるかはわからない。
だが、彼女を見捨てるなんて俺にはできない。
いざ決意を胸に秘めて、部室の扉をあけ――――固まった。
目の前には、いつものメンバーのほかに、見慣れない面々がいる。
その内の一人は、昨日、助けてくれた青年だった。
がっしりとした体つきをしていて、浅黒い肌に短い銀髪が映える。
いや、問題はそこではない。
そう問題なのは――
――――存在を激しく自己主張している「犬耳としっぽ」だった。
「って、男の犬耳とか誰特だよッ!」
混乱しながら叫んだ俺は悪くないだろう。
男――ザフィーラと呼ばれていた――は、気にした風でもなく
「昨日あれから、大丈夫だったか?」と、身を案じてきた。
ようやく我に返って慌てて礼を言う。
よくみれば彼は、転移魔法の使えない俺を逃がしてくれた人物だった。
「す、すみません!昨日は、本当に助かりました。碌にお礼もいえず、申し訳ないです」
「気にしないでよい。当然のことをしたまでのこと。怪我がないのならよかった」
と、笑顔で応じてくれた。
顔も性格も態度もイケメンな好青年に、珍しく好感をもった。
やっぱり、犬耳しっぽをつけたままだが。
真面目な話をしているのに、思わず脱力してしまう。
いつものように嫉妬できないのも、それが理由だろう。
「彼に説明していなかったの?」
「すまない、どうやら忘れていたようだ。私は、ザフィーラ。主はやてにお仕えする『盾の守護獣』だ」
「ああ、八神さんがいってた家族の人――でも『盾の守護獣』って?」
「こちらでいう『使い魔』に近い。本来はオオカミの姿だ。そして今は自宅警備員も兼ねている」
は?
一瞬で空気が凍った。
自宅警備員ですか、そうですか。
思わず生暖かい眼でザフィーラを見てしまう。
てっきり、すぐ後に笑いながら冗談だ、というのだと思っていたが、訂正はない。
かっこいい、と思っていたさっきの俺の感動を返してほしい。
彼はこの沈黙の中でも平然としていた。
堂々と俺は自宅警備員だ!とさらりと言ってのけるなんて、そこに痺れないし憧れない。
使い魔については、部長が前に話していたことがある。
悪魔のしもべとなった動物のことらしい。
耳やしっぽは、オオカミの名残なのだろうか。
でも、自宅警備員の使い魔って……ひも?
いや、使い魔なんだから、戦闘時以外に案外出番はないのかもしれないな。
そう無理やり納得させる。
俺と同じように戸惑っているように見えた部長が仕切りなおすように発言する。
「おほん。さて、ザフィーラさんとのことはいいわね。こちらの二人は知っているかしら?」
「ええ、知っていますよ先輩。まさか、美人と名高いお二人と部室で会えるなんて」
仕切りなおすように部長が発言する。
あらためて、周囲を見渡せば、まだ二人闖入者が残っている。
この二人は、俺も知っている。
どちらも、学園で見かけることがあった。
剣道部で臨時顧問をしている巨乳ポニーテールの女性が、シグナム
臨時保険医をしているおっとりとした雰囲気の女性が、シャマル
駒王学園に入学した直後、美人の新任がきたということで、話題になっていた。
俺自身、何度も会っている間柄だ。
まあ、学内でみかけると、思わず胸元に目をやってしまう間柄だな。
一方的に知っているだけ、ともいうが。
それにシャマルを見ると思い出すのは、バレンタインテロ事件だろう。
美人の臨時保険医が義理チョコを配っているという話を聞いて、俺は飛びついた。
嬉しさに涙を流しながら、シャマルのチョコレートを口にして――そこからの記憶は途絶えている。
嫌な事件だったね。
「『八神シグナム』だ。お前の話は主はやてから聞いている――お前の要件も、な」
「わたしも、あなたのことはよく知っているわよ。人目もはばからずジロジロみてくるものだから、顔を覚えてしまったわ――要注意人物としてだけど」
「うえ!?す、すみません――」
げ。バレバレだったとは……。
でもおっぱいの魅力には勝てなかったんだ。
けしからん、実にけしからん。
いかんいかん、思いがけず美人のお姉さんに出会ってしまったことで思考が脇道にそれてしまった。
心の中で自己弁護しつつ、なんとか釈明しようと、しどろもどろになりながら、言葉を探すが――
「――シャマル、あまり遊ぶな」
「あらあら、ごめんなさいね。『八神シャマル』です。よろしくね」
シグナムのおかげで、どうにかなった。
しかし、間近でみると、本当に美人だよな。
とくに、胸のあたり。
ナイスおっぱい。
「じゃない、そんな場合じゃないんだよ!早くアーシアを助けにいかないと!」
「ああ、そのことね」
「『そのことね』って部長!のんきに構えている暇なんてないはずです。たとえ、俺一人だけでも助けに行きます!」
本当は心細いし、恐ろしい――けれども、アーシアはもっと恐ろしい思いをしているだろう。
ここで見捨てることはできない。
「――へえ。あなた一人だけで、ねえ。たぶん死ぬと思うけれど、いいのかしら?」
シャマルが、見たこともないような怜悧な視線をこちらに向けてきた。
一瞬、怖気づくが、すぐに取り繕う。
「救える力があって、助けを求める人がいる。理由はそれだけで充分だ――」
――――なぜなら、俺は「赤龍帝」だから
よほど俺の言葉が意外だったのだろうか。
彼女は目を丸くして――いや、険しい目つきでこちらを睨んでいたシグナムも驚いたような表情をしている。
「そうよ、ね。言葉にするには簡単だけれど、実行できる人はどれだけいるのかしら。あなたは、『実行できる人』のようね。――試すようなことをいって、ごめんなさい」
「いえ、俺こそ生意気なことを言ってしまいました」
真剣な表情で謝られて、こそばゆくなった俺は急いで取り繕う。
もういちど、アーシア奪還に向かうと宣言しようとして――
「さすがは、赤龍帝ということかしらね。いえ、一誠だからこそ、なのかな。ともかく、よく言えたわ!あなたの主として、誇らしいわよ」
「見直しました、先輩」
「僕は、兵藤君のことを誤解していたのかもしれない」
「あら?私は初めから、彼の意思の強さには気づいていたわよ?」
「ええー。本当ですか姫島先輩」
――――なんだか、盛り上がっていた。
「――兵藤一誠」
「はい?シグナムさん、どうしましたか?」
呆気にとられた隙に、小さいが力強い言葉をかけられる。
「アーシア・アルジェントを何があっても助けたいか?」
「ええ。当然です」
「たとえ、死ぬ危険性があってもか?」
「死ぬつもりはないですよ。俺が死んだら彼女は気に病むでしょうし。必ずアーシアを助けて生きて戻ってくる。俺がやるべきは、それだけです」
「――そうか」
なぜいまさらになって、そのような質問をするのか。
疑問が顔に出ていたのだろう。
少し苦笑したシグナムは――
「アーシア・アルジェントの奪還には、我々も協力する。安心するとよい――むろん、お前の決意の程もみさせてもらうぞ?」
と、力強く言った。
――その姿は、歴戦の戦士のようでとても心強かった
後書き
・ナイスおっぱい。兵藤一誠は一級おぱニスト。
・けしからん、実にけしからん。リリカルなのは二次創作サイトの「鯱肝屋」にある「今日もどこかでクラッシャー」が元ネタ。フェイトそんの身体は実にけしからんです。
第13話 見習い悪魔は赤龍帝の夢をみるか?
前書き
・今度こそシリアス回
「ここが、堕天使が占拠している教会――と、一誠の情報通りね」
「――では、まずは結界を張らないとね。シャマル、頼んだよ」
リアス・グレモリーの言葉に応じて、シャマルに封鎖領域の展開を頼む。
いまボクたちは、問題の教会前にいる。
兵藤一誠の決意を聞いたグレモリー眷属は、転移魔法陣でこちらにきた。
続いて、シグナムたち3人も、転移魔法陣を利用したふりをして転移してきた。
まあ、あの魔法陣は、悪魔専用なので小細工がどこまで通じるかは不明だが。
「ええ、任せてはやてちゃん――クラールヴィント!」
『Gefangnis der Magie』
本当は、放課後部室で、アーシアの救出を主張する兵藤一誠対して、グレモリー家の立場から戦争になりかねない、と、一度断る。
一人だけでも突入しようと焦る兵藤一誠の頬を一発叩くと言葉を続けるのだ。
「リアス・グレモリー」個人として、全員でアーシア奪還に向かう、と。これが本来の原作の流れだった。
「よし、これでいくら暴れても、現実世界には何の影響もなくなる。存分に暴れてこい、兵藤くん」
しかしながら、原作とは異なり、ボクたち八神一家がいる。
ボクがアーシアと親しくしていることは、予めリアス・グレモリーに伝えておいた。
彼女の様子も詳細に伝えておいたから、少なくともアーシア個人に非がないことはわかる。
さらに、アーシアの性格や堕天使が彼女を利用して何か企んでいるとわかれば、情の深いグレモリー眷属なら助けに行くだろうと踏んでいた。
「うし。任せてといてくれ。いくぜッ!」
『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』
突入していく兵藤一誠。並走する木場祐斗に続いて、シグナムとザフィーラが続く。
教会の周りを、残ったリアス・グレモリー、姫島朱乃と護衛の塔城子猫が囲んでいる。
ボクとシャマルも彼女たち傍で控えている。
「――堕天使たちの増援は心配しなくていいのね?」
「封鎖領域で遮断しましたから、外部との連絡はとれないはずです。結界自体の強度も上げてあります。侵入者も感知できますよ」
「パーフェクトだ、シャマル」
「でたらめね。あなたたち」
リアス・グレモリーは、驚きともあきれともつかない嘆息とともに吐いた呟きが聞こえる。
そんなに褒められると照れるじゃないか。
やはり、家族が褒められると、八神家の家長としては嬉しいね。
――――今回、八神家一同も全面協力している。
リアス・グレモリーが突入する決意を固められたのは、ボクたちの存在も大きいはずだ。
充分な戦力があり、堕天使の連絡を断ち増援を防ぐ手立てもある。
あとは、兵藤一誠の決意を聞きたいとボクが申し出、リアス・グレモリーも賛同したことで、放課後の部室でのやりとりが行われたということだ。
普段の変態ぶりが嘘のような兵藤一誠の姿に、『確かに、彼ならば物語の主人公といわれても、納得できるな』と、妙に感心してしまった。
教会前では、ボクが、出待ちしており、彼らと合流――あとは、囲んで結界を張って突入、という筋書きだ。
はぐれ悪魔討伐を手伝うとき、いつもこちらは1~3人程度だから、6人全員での実戦は初めてかもしれない。
(まあ、ヴィータとリインフォースは「極秘任務」についているので、この場にいるのは残りの4人なのだがね)
別働隊については、グレモリー眷属に伏せてある。後の布石と言う奴だ。
「さて。わたしたちは堕天使たちを外に逃さないように網を張るわよ――朱乃、上空の監視は大丈夫ね?」
「お任せください。リアス・グレモリー『女王』の名に恥じない仕事をしてみせます。子猫もリアスの警護を頼むわよ」
「はいっ!部長には指一本触れさせません」
だが、基本的には、リアス・グレモリーたちが対処することになっている。
グレモリー家の領地で起こった問題を、客人とはいえ部外者が解決しては体裁が悪かろう。
そこで、ボクたち八神家の面々は、補助に徹することにした。
(聞こえるかヴィータ姉。いま兵藤くんたちが乗り込んだ――アーシアは無事かい?)
(ああ、無事だぜ。連中、突然結界が貼られてオタオタしてやがるな。アーシアはもう救出してある。今は、転移魔法で、教会の裏手に隠れているぜ)
(彼女と鉄槌の騎士には、探知防壁をかけてあります。見つかる可能性は低いでしょう)
実は、ヴィータに変身魔法を使わせ、予め教会に潜入してもらっていた――夜天の書つきで。
アーシアのお目付け役の堕天使とこっそり入れ替わっておいたのだが、バレずにすんだようだ。
リインフォースが待機している夜天の書をヴィータが持っているため、滅多なことはおこらないだろう。
ボクだって何も考えずに、彼女と遊びまわっていたわけではないのだ。
――――まさに、計画通り
本当だよ?
まあ、少しばかり羽目をはずして遊びまわったこともなきにしもあらずだが。
(魔法ですり替えた『身代わり』はどう?うまくいっているかな)
(ええ。もうしばらくは大丈夫です。夜天の書に登録されていた強力な幻術魔法をかけていますから)
いまごろ、『アーシアだと思い込んでいる別人』を生贄にしようとしている最中だろう。
レイナーレたち堕天使の目的は、アーシアが持つ癒しの神器『聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を奪うことだ。
しかしながら、本物のアーシアはヴィータが助け出している。
いまごろ、連中は儀式がうまくいかずに、さぞ混乱していることだろう。
(そうそう。アーシアの『身代わり』は、あのフリードとかいうイカレ神父にしといたぜ。
あの野郎。アーシアを十字架に貼りつけようとかいいやがった)
(――ほう)
(で、ムカついたから『身代わり』にしてやった。身をもって貼りつけを体験できたんだから感謝して欲しいくらいだ)
(――パーフェクトだ、ヴィータ姉。どのみちフリード・ゼルセンは生かしておけないと思っていたんだ。逃さずにすんでよかったよ)
ドガアアアアアアアアッッッッッッ
教会の地上部から物凄い音が聞こえてくる。
兵藤一誠が、一発ぶちかましたようだ。
――――あれが、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の力
世の中には、数多の神器があれど、『赤龍帝の籠手』は別格中の別格だ。
かつて、二天龍という暴れ龍がいた。
災厄を撒き散らすかれらを憂慮した全盛期の三大勢力が、同盟してまで、やっと神器に封印した。
その二天龍のひとつを封印した神器が、『赤龍帝の籠手』だという。
その効果は、ずばり「倍加」である。
つまり、力を倍に増やし続けることが出来るという、単純にして強力な力だ。
完全に使いこなせば、たった1の力でも、無限に増やすことすら可能だろう。
――――教会内の陥没した地面がその証拠だ。
一方で、木場祐斗は、彼と即席とは思えないほど見事な連携をみせている。
確実に、ひとりひとり手早く仕留めていく彼の姿からは、たゆまぬ修練の跡が垣間見える。
偉そうな講評を垂れることができるのは、ボクもシグナムたちに絞られたからだ。
が、いまはそんなことはどうでもいいな。
もうすぐ、地上は一掃できそうだ。
(――もうじき彼らが、地下へ向かうようだ)
(わかっているさ。混乱にまぎれて地下へ戻って、偽物と本物を再びすり替えておくんだな?)
(そこが問題なんだよね。本物のアーシアを兵藤くんたちに「救出」してもらわないと。気づかれずにすり替えるタイミングがあるかどうか)
(マスター、ご心配なく。ステルス魔法を使用しているので、混乱している中ならば、まず気づかれないはずです)
(リインフォースがいうなら安心だね)
(魔法は私が行使するので、すり替えのタイミングは鉄槌の騎士次第です)
(わかっているさ。あたしに任せとけ)
――――さて。あとは、悲劇の聖女を救う勇者さんを待つだけ
――――はやくしたまえよ、兵藤くん
◆
木場祐斗は、嫌な予感がしていた。
堕天使が占拠する教会に切り込み、兵藤一誠と即席ながら見事な連携で敵を圧倒した。
シグナムとザフィーラのサポートもあり、事は万事順調だった。
いや、「順調すぎた」。
(さっきから嫌な予感する。どこかでしっぺ返しが来るような気がしてならない)
地上の敵を片づけ、目的の少女がいるであろう地下へと向かう。
地下礼拝堂にはいた敵は、およそ30人ほどだろうか。
地上にいた連中とあわせれば、50人近いだろう。
「――こんな大勢の団体で、グレモリーの領地に堂々と侵入するなんてね」
木場が呆れたようにつぶやくと、ようやく向こうは、こちらに気づいたようだ。
何故か判らないが、彼らはひどく混乱しているようだ。
こちらを警戒しながらも、「はやくしろ」「なぜうまくいかないんだ」など怒号が飛び交っている。
最奥に目を向けると、そこには――――
驚き硬直する彼を置いてきぼりにして、瞬時に前へと兵藤一誠が躍り出た。
彼は、普段からは想像もつかないような激しい怒りの声をあげる。
「おまえらああああああああ!!」
『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』
「まて、迂闊に飛び出すな兵藤くん!」
思わず声をかけるも、聞き入れられるとは思っていなかった。
彼自身、堕天使たちの所業に憤っているのだから。
だが、その憤りを吹き飛ばすような光景が眼前で繰り広げられた。
――――何が起きようとしている!?
抉るように大きく地面を陥没させた兵藤一誠は、堕天使の女と何事か話していた。
激情に歪んだ表情は、次第に冷静になっていき、無表情になった。
一方で、身にまとう雰囲気は、窒息しそうなほど重苦しいものになっていく。
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』
突如、咆哮のような、慟哭のような叫び声があがり、兵藤一誠を中心に爆風が渦巻いた。
思わず瞑ってしまった目を開き、粉じんの中から現れた姿をみたとき、
――――兵藤一誠は禍々しい力を放つ赤い鎧に身を包んでいた。
後書き
・さて、「そのころの一誠さん」は、次回で明らかに!
・兵藤一誠まさかの禁手化。
・禁手化(バランス・ブレイク)とは、サイヤ人がスーパーサイヤ人になるようなもんです。
第14話 聖女のような悪魔
前書き
・第1章ラストです。
・シリアス風味
俺たちは、教会に突入して、すぐさま礼拝堂へと躍り出た。
すると、チャペル内にたむろしていた神父服姿のエクソシストがすぐさま攻撃してくる。
あいにく、俺の戦闘技術は未熟もいいところだ。
だから――
「――木場ッ!うまく捌いてくれ!デカイのかますぞ!!」
「了解。手早く頼むよ、っと!」
――仲間を頼る。
短い付き合いとはいえ、木場のことは信頼している。
木場も俺を信頼して、敵の攻撃を集めつつ、捌いていく。
おかげで、俺への攻撃が途切れた
――――その隙を狙う!!
「っらあ!!」
素早く木場の前に出て、限界までブーストをかけた右ストレートを叩き込もうとする。
が、正面のエクソシストに、素早いバックステップで回避される。
勢い余った俺は、地面に拳を叩きつけた。
ドガアアアアアアアッッッッ
轟音が響くが、狙いをはずしたと勘違いした敵から、笑みがこぼれようとして――固まった。
―――目の前に、大量の石礫が迫って来たのだから
思わず笑みがもれる。
『狙い通り』に、地面を下から掬うようにして叩き込んだ結果なのだから。
瓦礫を大量にくらったエクソシストたちは、動きを止めた。
――その隙を逃すような木場ではない。
騎士の名に相応しいスピードで次々と切り捨てていく。
運よく範囲外にいた奴らも、シグナムとザフィーラが蹴散らす。
「ナイスだ。兵藤くん!」
「へっ。お前も完璧なタイミングだったぜ、っと!」
◆
――――兵藤一誠は、目の前の光景を事実と認識できなかった
ものの数分で、地上の残敵を始末し終えた。
奥からシグナムがやってきて「地下への階段をみつけた」という。
木場と顔を見合わせると、すぐさま 階段を駆け下りた。
広々とした地下礼拝堂には、大勢の堕天使とエクソシストがおり。
そのさらに先には――
――――十字架に貼りつけにされたアーシア・アルジェントの姿があった
目から血の涙を流し、苦悶の表情を浮かべる彼女は、もはやピクリとも動かない。
手足は力なく垂れ下がり、両の掌には、杭が打ち込まれ血を流し続けている。
――――明らかに、手遅れだった
「おまえらああああああああ!!」
『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』
「まて、迂闊に飛び出すな兵藤くん!」
制止しようとする木場の声がどこか遠くで聞こえる。
景色も音も置き去りにして飛び出した俺は、限界を無視して倍加の力を使い
――広間のど真ん中に拳を叩きつけた!
ドガアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ
再び轟音が鳴り響き、地面に大きなクレーターができた。
一連の行動に追いつけなかった堕天使たちは、陥没した地面に足をとられ転倒してしまう。
その隙を縫うようにして、俺は急速にアーシアに接起するが、堕天使の女に遮られた。
「クソッ!お前、赤龍帝だったのか。わたしの邪魔ばかりしやがって。あの時殺しておくんだった……!!」
よくみると、見覚えのある顔だった。
かつて、天野夕麻と名乗り告白してきた女――レイナーレだった。
「よくもッ!おまえが、アーシアをッッ!!」
――――体中が悲鳴を上げているが、関係ねえ。
――――こいつだけは、こいつだけは許すわけにはいかない!!
「回復能力をもつ神器は珍しいからねぇ!だからこそ、あの女の神器を貰い受けようとおもったのにッッ!!」
激昂する俺をみて、やや落ち着きを取りなおした彼女は、嘲笑しながら話しかける。
「原因不明の理由で、儀式は失敗。あの女も死亡してどうしようかと思ったケド。どのみち、神器を取りだしたら死ぬわけだし、諦めるとするわ。でも、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』さえあれば、何も問題ないわね――」
その後、恍惚とした表情で自らの「目的」とやらを演説する堕天使。
要するに、神器を手に入れて、上司の気を惹きたいらしい。
――――そんなことのためにアーシアは犠牲になったのか。
煮えたぎるような激しい怒りのなか、どこか冷静に思考する自分がいた。
冷静な部分は、己の内の中に「力ある意思」の存在に気づく――
――――ようやく俺にきづいたか、今代の赤龍帝よ
その一言で全てを理解した。
コイツだと。コイツが俺に宿っている力の正体。
『赤龍帝の籠手』の内に眠る龍の魂――――ドライグだ、と。
(ドライグ、力を貸してほしい。あの女を倒せるだけの力を)
(お安い御用だ、相棒。意識を研ぎ澄ませ――いまの相棒ならどうすればいいかわかるはずだ)
(――――ッッ!これかっ!!)
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』
◇
―――どうしてこうなった!?
兵藤一誠がまさかの禁手化(バランス・ブレイク)だと!?
この時期になんで禁手化するんだよ。
度肝を抜かれたボクは、あわててヴィータに連絡をとった。
地下礼拝堂が、兵藤一誠のレイナーレに放った一撃のせいで崩落したのだから。
(ボクたちの力も合わせれば、グレモリー眷属の戦力がすごいことになりそうだな)
一応、説明すると「禁手化(バランス・ブレイク)」というのは、神器のパワーアップ化のことだ。
第二形態に変身する、といえばわかりやすいだろうか。
大幅にパワーアップ出来るが、禁手化に至るには、相当な労力と時間がかかる――というのが常識だ。
あっさりと常識を破ってしまう兵藤一誠の資質は、並はずれているのだろう。
原作で『歴代最低の赤龍帝』と呼ばれたのはうそだったのだろうか。
――――幸い、ヴィータもアーシア(本物)も、無事だった。
そこで、地下天井の崩落にまぎれて小細工を急いで実行。
アーシア(偽物)とアーシア(本物)を、急いで入れ替え、シャマルとともに現場に直行する。
苦肉の策として、シャマルが、治癒魔法で虫の息だったアーシアを延命したことにした。
貼りつけのままかろうじて生きていたのは、『聖女の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』の賜物だろう、とも主張してみた。
(あの時点で、『身代わり』にされたフリード・ゼルセンは死亡していたケドネ)
そして、今に至る。
兵藤一誠は、アーシアの無事に喜び、彼の暴走を間近でみていた木場たちは安堵の息を吐いている。
シグナムも『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』には度肝を抜かれたようだ。
『間違っても力くらべはしたくない』とのことだ。
防御に長けたザフィーラでさえ、『全力の防御ならなんとかなる』程らしい。
(原作知識の弊害――いや、原作なんてあってないようなものか。改めて痛感したよ)
彼が激昂した原因であるアーシア(偽)の死亡は、どうやらボクたちのせいみたいだ。
アーシア(偽)に仕立て上げられたフリード・ゼルセンは、当然、神器なんてもっていない。
そんな、アーシア(偽)から神器を取り出すことは不可能だ。
しかしながら、事情など知らない堕天使たちは、アーシア(偽)の抵抗力のせいだと考えた。
――――その結果が、拷問まがいの『儀式』だった
しかも、ゆっくりと弄るつもりが、教会が襲撃されて焦りがうまれ――――ついには殺してしまった。
いくらフリード・ゼルセンを素体にしているとはいえ、ひとたまりもなかったようだ。
そうこうするうちに、死亡したアーシア(偽)の姿をみた兵藤一誠が、堕天使の仕打ちに激怒し、
―――ご覧の有様だよ!!
いまは深く反省している。
いきなり原作ブレイクしてしまった。
まあ、原作知識はあくまで参考程度。
やりたいようにやった結果だから、素直に受け止めたほうがいいだろう。
「はい、これでアーシアはグレモリー眷属の一員。つまりは、わたしたちの仲間で家族のようなものよ」
「その、ありがとうございます。わたし気を失って、何も覚えていなくて。みなさんに助けていただいた上さらに御厄介になってしまって――」
目の前で、アーシア・アルジェントが照れつつお礼を述べている。
彼女は、原作通りリアス・グレモリーの転生悪魔になった。
駒はもちろん「僧侶」である。
――――アーシア・アルジェントの転生悪魔化を薦めたのは、ボクだ
一命を取り留めたとはいえ、まだ危険な状態(という設定)だったし――原作でも、神器を抜かれ死ぬ寸前だった彼女は転生悪魔となっている。
とはいえ、原作知識云々を置いておいても、現実的な選択肢ではあった。
グレモリー眷属が情に厚いことは、実際に付き合いのあるボクは重々承知している。
さらに、リアス・グレモリーは、現在の魔王の妹であり、迂闊に手出しはできない。
頼る先しては破格だろう。
「よろしいのですか、マスター。遠くから見守らずとも、もっと近寄って会話に混ざってもよろしいのではありませんか?」
「いや、これでいいんだよ。まずは、同じグレモリー眷属と仲良くなったほうがいいだろう?」
「マスターがそのように仰るのならば、とりあえず納得することにします」
「『とりあえず』なのかい―――」
苦笑とともに言葉が漏れる。
うまくごまかしていたつもりだったが、リインフォースにはお見通しだったみたいだ。
記憶にあるここ数日一緒に遊んだ「アーシア」の姿と、目の前で照れくさそうに微笑む「アーシア・アルジェント」の姿が、重ならないのだ。
苦難から解放されたアーシア・アルジェントが明るさを取り戻したせい、とも思ったが――
「―――ええ。『とりあえず』です。話せるときがきたらでいいですから、話してください。『家族に隠し事はダメ』と教えてくれたのは、誰だと思いますか」
「リインフォースには敵わないなあ――うん。まだ、ボクも明確にはわからないんだ。転生悪魔化を薦めたのはボクだ。いまでも、この選択は正しいと思う」
「何か問題があるということですか?」
「いや、問題と言うかボク個人のことなんだ。嬉しそうなアーシアには悪いけれど、素直に喜べない自分がいてね。ボクも、なぜこんな気持ちになるのか、全く分からないんだよ」
――そう。本当にわからないのだ。
アーシア・アルジェントが悪魔化することに不利益はない。
彼女は救われ、リアス・グレモリーは戦力を手に入れ、ボクは原作知識を活用できる。
それなに、どこか納得できない自分がいる。
理屈では分かるが、湧き上がる感情はどうにもできない。
「……そうです、か」
どうも考え事に夢中だったせいか、リインフォースの心配そうな眼差しに気づくことができなかったみたいだ。
――『何かあると確信したのはこのときだった』
と、後に彼女は語ってくれた。
思えば、もっと早くから家族に相談し、頼るべきだったのだろう。
いや、頼ったところで結果は変わらなかったのかもしれない。
このとき、ボクは深く考えることはなかった。
後書き
・以上、主人公うっかり原作ブレイクするの巻でした。
・一誠さんはISSEIさんになりました。
・フリードは犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな。
第15話 ウェディングベルは不死鳥とともに
前書き
・第2章入りました。VSライザー編になっております。
・このあたりはあまり前作を改変してないです。
「はやてお姉さまは、どう思われますか?」
「留学生のことかい?」
「ええ」
――謎の美少女が別のクラスに留学してくるらしい
今日のクラスは、留学生の話題で持ちきりだった。
この時期――しかも高校2年生という中途半端な時期――の留学は珍しい。
しかも、美少女という噂があればなおさらだ。
とりわけ、男子連中は朝から興奮状態である。
(駒王学園の女子はレベルが高いというのに、贅沢な話だ)
思春期特有の男子のノリにため息をつく。
同時に、自身のことを思い出して自嘲する。
(果たしてボクは、男なのか女なのか――身体は間違いなく女性なのだがね)
いまだ答えの出ない問題に思いを馳せつつ、会話を続ける。
むろん、マルチタスクの賜物である。
とはいえ、この学園は、7割近くが女子である。つまり――
「突然だもんね。普通、留学してくるなら、前もって知らされるはずなのにねえ」
「急な留学ということは、前の学校で何か問題を起こしたとか!?」
「ええぇー。問題児は勘弁してほしいな」
――噂話好きの女子が食いつく格好の話題なのだ。
珍しいということは、それだけでも興味を惹く。
なにかしらの理由――それが良かれ悪しかれ――がある可能性が高いのだから。
「普通」を尊ぶ日本人は、異端や例外には頑なだ。
反面、「普通」の枠内にいる身内には、とても優しいという美徳もあるのだが――
「――言い忘れていたが、彼女はアーシア・アルジェントといってね。ボクとは顔見知りなんだ」
言った瞬間、教室が喧騒に包まれる。
不本意ながら、ボクは有名人だ。
駒王学園三大お姉さまとして、良くも悪くも影響力を持っている。
そんなボクの知り合いということは、大きな意味をもつ。
「そうだったんですか。彼女には、その――」
「何か事情があるのではないか、かい?」
「え、ええ」
「グレモリー先輩の身内らしくてね。ずっと前から日本に興味があったらしい。やっと念願がかなって、駒王学園に留学してきたわけさ。少し前から、こっちに来ていて、ボクが色々と教えていたんだよ」
気まずそうに言い淀んだ彼女らに、「理由」を説明する。
安堵した表情の彼女らを見つつ、周囲に気を配る。
会話を聞いていたクラスメイトは、ボクの発言に納得したようだ。
ボクの知り合いということで、「見知らぬ留学生」から「お姉さまの知り合い」に晴れてジョブチェンジしたわけである。
「外国人かあ。日本語大丈夫かな」
「むしろ、あたしたちの英語の方が大丈夫かな」
話題も好意的なものに変わる。
もうひと押ししてやれば、大丈夫だろう。
「彼女はなかなか勉強熱心でね。会話は、とても流暢にこなせる。ただ、読み書きは苦手なようだ。できれば、面倒をみてやってほしい。とても、素直で優しい子なんだよ」
と、苦笑しつつも釘をさしておく。
まあ、会話ができるのは、悪魔がもつ翻訳能力おかげなのだがね。
本当に便利な能力である。
ちなみに、読み書きは、「もう少し頑張りましょう」といったところだ。
◆
アーシア・アルジェントが、学園に通い始めて、数日が経った。
外国人――それも美少女――ということで、クラスメイトは、距離を測りかねていた。
しかし、流暢な日本語で会話できる(能力がある)ことが分かると、予想よりも早くに打ち解けていった。
同じ二年生である八神はやてや兵藤一誠、木場祐斗が何かと世話をしていたというのもある。
しかしながら、彼女の性格が一番の理由だろう。
控え目で優しい性格でありながら、どこか放っておけない雰囲気をしている。
――そんな彼女は、クラスのマスコット的な存在となっていた。
学校に慣れるためという名目でオカルト研に入り、彼女は、毎日のように部室に入り浸っていた。
そんな彼女と一緒に、残る二年生の3人――八神はやて、木場祐斗、兵藤一誠――は、部室へと向かう毎日だった。
転生悪魔として、必要な知識を得るためであったが、読み書きを練習して学校に慣れる意味もあった。
しかし、とくに彼女が力をいれていたのは、神器を使いこなすことだった。
悪魔となっても彼女の本質は変わらない。
『よりたくさんの人が病苦から助かりますように』
祈ると痛みが伴うようになってしまったが、信仰の拠り所である神を否定することはできないらしい。
――――祈り、癒す。
つまるところ、この一言に彼女の本質は集約されるといってよい。
より大勢を救おうと、日夜努力しているのだった。
そんな生活が二週間ほど続き、今日も旧校舎にある部室へと向かう
最近、彼女には、困っている――というよりは、困惑しているできごとがある。
それは――
(はやてさんは、どうして私と距離を置くようになったのでしょうか)
――八神はやてについてである。
アーシア・アルジェントは、彼女に深く感謝している。
ひょっとすると、現在、仲間として家族のように接してくれているグレモリー眷属の人たちよりも。
恩を感じているし、何かお礼をしたいとも思っている。
はやての助けになるのだったら、どんなことでもしてあげたいとまで、強く願っていた。
――――アーシア・アルジェントは、八神はやてに救われた
それが、彼女の認識だった。おそらく、グレモリー眷属も同様に思っているだろう。
堕天使の保護下で、窮屈で先の見えない生活を強いられていた。
何かに利用されるとは分かっていても、どうすることもできずに怯える生活。
そんな生活から抜け出すことができない、弱い自分自身が悔しかった。
そんなときだった。
『おや?お嬢さん。日本は初めてなのかい?――』
――――「八神はやて」という少女に出会ったのは。彼女は、唐突にアーシア・アルジェントを遊びに誘った。
『――よし、だいぶマシな顔になったかな』
――――はやてからは、いろいろなことを教えてもらった。心からの心配は、アーシア・アルジェントにとって、初めてだったかもしれない。
『沈んでいた理由を聞かせてもらってもいいかい?』
――――だから、巻き込むわけには行けないと思った。巻き込みたくないと祈った。お礼をいって、そのまま別れようとした。もう二度と会うことはないだろう、と確信しながら。
ところが、彼女は、付き添いの堕天使まで巻き込んで、再会の約束をしてしまった。
彼女の身を危険にさらしたくなかったアーシア・アルジェントは、反対したが、巧みな話術で、押し切られてしまう。
その後の数日は、彼女にとってかけがえのない幸せな日々だった。
毎日のように、遊びに誘われ。毎日のように、遊んでまわる。
特別なことは、何一つなかった。が、彼女にとっては、そんなあたりまえが、何よりも「特別」だった。
そんな日々が続いたある日のこと。別れ際に彼女はいったのだ。
『――ごめん。明日は、用事があるのだ。ちょっと、お姫様を救うことになってね』
いたずらっぽく微笑む彼女に、「そうですか」と、少し悲しそうに返事をしたような気がする。いや、実際、悲しかったのかもしれないが、余り覚えていない。
なぜならば、別れの寂しさを吹き飛ばすような出来事が、次の日の夜にあったのだから。
(あのときは、本当に驚きました)
彼女が持つ神器、『聖女の微笑み』を移植する。と、堕天使に言われた時。
もはや、自分は死ぬのだと、諦観していた。
そのまま、気を失い――――
――――気づいたら、助け出されていた
その後、あれよあれよと言う間に、転生悪魔となり、平和な日常を手に入れた。
だから、アーシア・アルジェントは、はやてと一緒に、楽しい日常を過ごせるとばかり思っていた。
だが、当のはやてが、急に余所よそしい態度に、なってしまった。
彼女に尋ねても、
『まずは、グレモリー眷属と仲良くなってほしい。という、ボクなりの誠意の表れだよ』
と、いつもはぐらかされてしまった。
アーシア・アルジェントの救出作戦は、はやてが発端だったと聞いている。
そこへ、一誠が後押し、アーシア・アルジェントは救われた。
はやてのことで、部長(リアス・グレモリー)に相談しようとしたものの――
(最近、部長の様子がおかしいけれど、何か困りごとでもあるのでしょうか)
――彼女は、憂鬱そうにしており、新参のアーシア・アルジェントが話しかけるのは、ためらわれた。
なによりも、他の古参の部員たちも、彼女とはやての微妙なすれ違いについて、とくに何もいわなかった。
だから、アーシア・アルジェントも時が解決してくれるだろう、と深く考えないようにした。
そんな、はやてや部長の態度を気にしつつも、おおむね彼女の生活はうまくいっていた。
いつものように彼女は、二年生の二人と連れだって、部室に行く。
部室に到着すると、部長が険しい顔をしながら、姫島朱乃と話し合っていた。
そんな彼女たちの様子を、木場祐斗と塔城子猫が気遣わしげに伺っている。
しかし、何より目を惹く異質な存在。それは――
――――メイド
何故かメイドがいた。
背後にいた二人も、驚き息をのんでいるのが分かる。
銀色の髪を三つ編みにして纏めており、瞳の色も銀色のメイド服を来た若い女性。
姿勢を伸ばし、微動だにしない彼女は、メイドの鏡のような存在だった。
しかし、雰囲気は、重苦しい。
物々しい雰囲気に気押されながらも、アーシア・アルジェントは、部長に問いかけようとして――
――――突如、魔法陣から熱気が溢れだし、火の粉が巻き散る
呆気にとられた彼女の前で、炎が散ると、中から男が出てきた。
後書き
・瀟洒なメイドさん登場。
・グレイフィアさんは、現魔王の側近中の側近だから、強いよね?と思っています。このあたりは、原作を読んでいないので、SSから設定を借りています。
・アーシアは原作のようにISSEIさんに恋心を抱いておりません。リアスの家に下宿してます。
第16話 開幕のゴングは不死鳥のハーレム団とともに
前書き
・ライザーさんが、三流悪役になってしまった。どうしてこうなった。
・しばらく前作と同じ展開、ちょこまか改変。次章あたりからストーリーが分岐する予定。
・グレイフィアさんがサーゼクス・ルシファーの嫁でした。ご指摘ありがとうございます。
・ライザーは長男ではなく三男でした。ご指摘ありがとうございます。
今、ボクの目の前では、キザったらしいホスト風の男――ライザー・フェニックス――と兵藤一誠が言い争っている。
ライザー・フェニックスは、その名の通り、七十二柱の一柱、フェニックス家の者だ。
フェニックスは不死鳥とも言われるように、輪廻と再生の象徴である。
彼の本質は純魔力でてきた炎であり、殺しても死ぬことはない――通常の手段では。
(しかし、ハーレムか。こうして、目の当たりにしてみると微妙な気持ちになるな。やはり、ボクも女ということだろうか)
総勢15人もいる彼の眷属悪魔――全て見目麗しい女性だ――を眺め、嘆息する。
心身のギャップというやつだろうか。
思考は男性寄りだが、身体は女性のもの。
だか、ややこしいが「魂」が男というわけではないのだ。
以前、シャマルに相談したことがある。
彼女は真剣にボクの話をきき、いくつかの質問と診察のあと、こう述べた。
『はやてちゃんの心身は間違いなく女性のものよ。言動が男勝りという程度ね』
彼女によると、リンカーコアは、魂とのつながりがある「らしい」。
「らしい」というのは、既に実験データが失われてしまっているからだ。
時空管理局ではリンカーコアは未知の臓器だったが、古代ベルカではある程度研究が進んでいたようだ。
その古代ベルカの研究で得たひとつの仮説が、「リンカーコアと魂のつながり」だ。
魔力光が個人ごとに異なることは、有名な話だ。
これは、魔力の波長が一人一人異なることが原因である。
したがって、魔力をうみだすリンカーコアもひとりひとり細部が異なる。
ここに着目したある研究者は、魂の人工的生成に成功した。
知能の低い動物でしか成功しなかったが、人造魂をもちいた画期的な生体兵器――守護獣(ミッドチルダでは使い魔)が誕生したきっかけでもある。
その研究者は、人間の魂を創ろうと野心を燃やし、数々の違法な人体実験の末に――――やりすぎて潰された。
その成果の一つとして、リンカーコアを調べることで、魂の性別を判別できるそうだ。
臨場感たっぷりに人体実験の様子を説明されたのには、辟易したが。
なぜ詳しいのか尋ねると――
『だって、その研究者は、過去のわたしたちの主ですもの』
――と、にっこりと答えられて絶句してしまったのを覚えている。
埒もあかないことを考えながら暇を潰していると、ようやく言い合いは終わったようだ。
ライザー・フェニックスは、婚約者のリアス・グレモリーと結婚を――ハーレムを維持したまま――強要しようとしている。
相思相愛ならまだしも、嫌がる彼女に強引に迫る彼に、兵藤一誠が啖呵を切ったのだ。
その結果、言い合いとなり、レーティングゲームで決着をつけることになってしまった。
(ライザー・フェニックスの口車にのってしまったな。それは悪手だよ、兵藤くん)
レーティングゲーム――それは、悪魔で流行るチーム単位の決闘であり、娯楽である。
チェスに模した駒――悪魔の駒(イビル・ピース)といい、転生悪魔を生みだすための特殊な道具でもある――に見立てた眷属悪魔とともに、対戦するスポーツの一種だ。
ゲームと言いながらも、実際は、結界内で行う殺し合いにすぎない。
では、なぜ「ゲーム」というのか。
その理由は、結界内で致死性のダメージを受けると、無傷で結界の外に出されるためである。
「リリカルなのは」に登場する非殺傷設定のようなものだろう。
こちらの悪魔たちは、特殊な結界が必要なようだが。
なぜ、ライザー・フェニックスは、レーティングゲームを提案したか。
それは彼が不死性をもつからである、
不死性をもつライザー・フェニックスは、レーティングゲームで圧倒的な優位をもっている。
なぜならば、彼がリタイアを宣言しない限り負けはないからである。
増してや、眷属悪魔はグレモリー眷属の2倍以上おり、グレモリー眷属は、レーティングゲーム初体験になる。
これで負ける方がおかしい――と彼が考えるのも無理はなかろう。
ここまでは、原作通りだった。
しかし、ここで予想外の事態が起こる。
「ところで、さっきから素知らぬ顔をしている彼女は、リアスの眷属なのかい?――悪魔とは違う気配を感じるのだが」
なぜか、隅で傍観しているボクに話題を振ってきた。
どう返答しようか迷っていると――
「彼女は、グレモリー家の客人よ。私の眷属ではないわ」
「ほう。まだ、眷属悪魔になっていないのか。なら話は早い。――こんにちは、見目麗しいお嬢さん。君は非常に運がいい。俺の眷属悪魔にならないか?」
――などと、のたまった。
何をいっているのか意味が分からず、硬直してしまう。
その間も彼は話を続けた。
「突然の申し出に戸惑っているようだな。会って間もないのに、声をかけてやった幸運に感謝すると良い。俺という最高の男に仕え、なおかつ最上の贅沢を味わえるのだ。これほどの好条件はないだろう?」
落ち着いて考えてみれば、明らかに芝居がかった言動である。
リアス・グレモリーへの挑発として、ボクを出しにしたのであろう。
同じ部室にいるということは、親しい関係であることの証左でもある。
あるいは、兵頭一誠への意趣返しがもしれない。
彼の狙いが挑発にあるとしてら、大成功だっただろう。
ようやく硬直が解けたボクは、徐々にその言葉の意味を理解し――
「何をふざけたことを抜かしてやがる……調子に乗るなよ、焼き鳥風情がッ!!!シュベルトクロイツ、セットアップ!!」
『Jawohl.』
――――キレた。
すぐさまシュベルトクロイツを起動し、騎士甲冑を身にまとう。
思わぬ出来ごとに驚いた彼は、激昂しかけるも、すぐに冷静さを取り戻したようだ。
「っく、焼き鳥だとッ!?下手にでてやれば、人間風情がふざけやがってッ!!!俺を――誇り高きフェニックス家の血族を貶めたのだ。地に這いつくばって詫びろ。今なら許してやるぞ?」
「地に這いつくばるのは、お前の方だ、焼き鳥。いまここで灰にしてやろうか?」
互いに臨戦態勢をとる。
あとほんの少しで戦いがはじまろうとした――その時だった。
「――お二方とも、落ち着きなさい」
誰かが小声で制止する。その声は、地の底から響くような威圧がともなっていた。
慌てて目を向けると、そこにはメイド――魔王サーゼクスの眷属にして女王グレイフィア――がいた。
最上級悪魔並の実力を持つ彼女の威圧によって、怒気が収まっていく。
ちなみに、彼女はサーゼクス・ルシファーの嫁でもありミリキャスという息子もいる。
公衆の面前で妻とメイドプレイをするとは、さすが魔王だな、と思った次第である。
「八神様。貴女のことは、サーゼクス様より伺っています――貴女の神器のことも。先に挑発したのはライザー様とはいえ、先ほどの発言は、貴女の言いすぎです」
物理的な圧力を伴っていそうな眼差しで射抜かれる。
ようやく、冷静になってみると馬鹿なことをした、と後悔が湧きあがってくる。
「ライザー様も侮辱され激昂なさるお気持ちはわかります。ですが、この場での決闘は許容できません」
「いや、しかし。フェニックス家を侮辱されたままにすることは――」
グレイフィアに抑えるように、言われる。
が、ライザー・フェニックスは納得しているようにみえない。
なおも言葉を続けようとする彼に対し、
「――そこで、レーティングゲームでの決着を提案します。彼女は悪魔ではありませんが、強力な神器の保有者です。ライザー様が戦う予定のお嬢様のチームに入ってもらうのがよろしいかと」
「ほう。神器持ちだったのか。たしかに、普通の人間とは毛色が違うようだ。だが、リアスにばかり利がありすぎないか?」
「なら、ボクを景品にするといい。お前が勝ったら、下僕にするなりなんなり好きにしろ」
「ほう?」
一見、ボクは勢い余って勝ち目のない戦いに身を投じているようにみえる。
その証拠に、ライザー・フェニックスは、下卑た笑いを浮かべていた。
ボクの予想外な発言に、リアス・グレモリーが声を上げようとして――
「いいだろう。お前から言ったのだ。いまさら取り消すなよ?」
「怖気づくことなどないさ。おのれの分というものを弁えさせてやろう」
「では、双方同意したとみなします。決着はレーティングゲームでお付けください」
グレイフィアがさっさとまとめにはいる。
おそらくだが、彼女は、ボクの企みに気づいている。
いや、ボクの思考を予期して、あの提案を行ったのだろう。
「これは確認なのだが。ボクの神器は、『完全な状態』で使ってもいいのかね?」
「はい。神器の使用は禁止されておりません」
「それだけ分かれば充分だ」
一番の懸念だった事項が解決し安堵する。
やはり、彼女は、ボクに期待しているようだ。
つまり、『リアス・グレモリーを勝たせほしい』という彼女なりのメッセージだろう。
そのあとも、何度かやりとりがあって――リアス・グレモリーは、ボクの参加に猛反発した――ライザー・フェニックスは帰って行った。
レーティングゲームは10日後、そこで運命が決まる。
ライザー・フェニックスは強敵だが、既に勝つ算段はついている。
言い合いをした当初は、感情に身を任せて我を失っていた。
だが、途中からは落ち着きを取り戻し、逆にボクの身柄を餌にヤツを嵌めてやった。
一見、中立にみえたグレイフィアも、心情的にはこちら側のようだ。
ならば、ボクとしても、遠慮はいるまい。
10日後に、ヤツはさぞおのれの選択を後悔するだろう。
だがら、今まさに解決すべき問題は――
(リインフォースやシグナムたちにどう説明しよう)
――――家族への対応だった。
後書き
・リンカーコアのくだりは、完全に独自設定です。
第17話 激おこ
前書き
・珍しくすべて三人称視点。
とぼとぼと家路を急ぐ3つの影。
隣には暗い顔をした主――八神はやての姿があった。
大丈夫ですか?と聞くと、大丈夫、と力のない返事をされる。
これからのことを考えているのだろう。
――ライザー・フェニックスの挑発にのり、レーティングゲームの参加が決定した。
そのことを念話で伝えられたことで、ヴィータから家族会議の緊急招集がかけられた。
駒王学園にいたシグナムとシャマルもはやての下に急行し、いまは逃げないように連行している。
剣道場にて剣道部の臨時顧問として指導していたシグナムにとって、寝耳に水の事態だった。
その場にいなかったことを悔やむ。
(いや、その場にいれば主はやてを侮辱されたことで激怒していただろうな。どのみち結果は変わらなかっただろう)
気落ちしているはやてを慰めたいが、無精者のシグナムには言葉が思いつかなかった。
ならば、とシャマルに目をやると、わかったように頷いた。
はやてちゃん、と声をかける。
その後は他愛もない日常について言葉を交わした。
レーティングゲームに関する追及は家でするのは決定である。
ならば、それまでの間は、関係のない話題で気をそらすのもいいだろう。
どのみち、主の決定に異議を申し立てるつもりはシグナムにはなかった。
(たとえ何があろうと、主はやては守ってみせる――烈火の将の名に懸けて)
決意をあらたにするシグナムだった。
責任の追及はヴィータにやらせればいい、と他人事のように考えながら。
◆
「――ごめんなさい。もうしません」
はあ。とため息をつく。
目の前で平身低頭しながら平謝りする愛すべき馬鹿――もといマスターのことだ。
リアス・グレモリーの結婚を巡るライザー・フェニックスとのレーティングゲーム。
これは、原作知識にもあった。参加すれば、実力を披露するはめになる。
高い実力を大勢の前でみせてしまえば、その力に目を付けた輩に、マスターが狙われるかもしれない。
したがって、マスターの身を守るためにも、不参加の方針で決まっていたはず「だった」。
「そのはやて本人が積極的に決まりごとを破ってどうすんだ!?」
「ひっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
当然、自ら危険に飛び込んで行ったはやてを家族が許すはずがなく。
八神家一同が揃って、家族会議が行われていた。
普段は司会をつとめるはずの家長が、下手人なため、名乗りをあげたヴィータが主導している。
語気荒く、それでいながら的確に追求をしていく姿は、やり手の検事を思わせる。
しばらく、原因を追求するヴィータたちと、おろおろしながら返答するはやての問答が続き――
「――鉄槌の騎士もそのへんにしておきましょうか。マスターも充分に反省されているようですし」
泣きながら――嘘泣きかと思ったら本当に泣いていたらしい――顔をくしゃくしゃにして、はやては謝り続ける。
誰よりも心配していたヴィータは、はやての無謀な行いに人一倍怒っていた。
激おこぷんぷん丸を通り越して、カム着火インフェルノォォォオオオウ状態。
いや、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームかもしれない。
しかし、本格的に泣き始めた彼女を見て、バツが悪そうに引き下がる。
「――ったく。心配掛けさせやがって。もう怒ってないから泣きやめって。ああ、そうだ。あれだ。新作アイスで手打ちにしよう。な?」
「ううぅ。ぐすっ。わかっ、たよ。ヴィータ姉ぇ――――ふう。手作りで飛び切りのヤツをつくるから、楽しみに待っていてくれ!」
「泣いたカラスがもう笑いやがったよ、現金なヤツめ」
悪態をつきながらも、元気を取り戻したはやてを見て、ヴィータも嬉しそうにしている。
他の面々も、それぞれ険しかった雰囲気を和らげ、苦笑している。
ようやく、いつもの和やかな空気が戻って来た。
「みんなも心配掛けてごめん。ボクも、迂闊な真似をしたと反省している」
はやても、いつもの凛々しさを取り戻していく。
彼女が、弱音や子供らしさを曝すのは、家族の前だけだ。
家族たちにとって、はやては、初めて会ったとき――9歳になったばかりの少女が両親にすがり嗚咽していたとき――から、変わらない。
彼女は、仕えるべき主であり、成長を見守って来た娘であり、愛すべき家族であった。
もっとも、身体も全く成長していないわけだが。
一度、深呼吸すると、はやては、ゆっくりと切り出した。
真剣な目つきで、はっきりと謝罪と反省の言葉を述べていき、家族会議は一旦終了した。
本当は、これからの計画も話し合う予定だったのだが――
『話しすぎて、腹減ったな。そろそろ夕飯にしないか。はやて。ギガウマなヤツを期待しているぜ?』
――というヴィータの発言でお開きになった。
先ほどまで憔悴していた様子のはやても、元気よく返事をして台所に向かった。
「汚名を返上するチャンスだな。胃袋を掴んだ者こそが、最後に勝つのだよ」と、ぶつぶつと呟きながら、はりきって料理をしている。
あのまま話し合いを続けては辛いだろう、というヴィータなりの気遣いなのだと思われる。
残りの家族も察して、口々に「和食でたのむ」「あら、わたしは洋食のほうがいいわ」「肉をいれてほしい」「いや、野菜もいいな」などなど。
好き勝手に言って、はやてをからかいながらも、励ましていた。
普段の大人びた彼女なら、家族たちの気配りに気づいただろう。
しかしながら、このとき彼女は、深く反省して気落ちしていた。
それゆえに、空気の変化に気づくことなく、逆襲を企む料理人となっていた。
仮に、家族たちの心配りに感づいていたら、申し訳なさでいたたまれなくなっていたはずである。 危機迫る顔で、一心不乱に手を動かし続けるはやてを見て、思わず笑みが零れてしまうのは仕方ないだろう。
(だが、話を聞く限り、マスターの様子は『異常』だ)
叱られて、泣きながら謝る姿。
打って変って、楽しそうに料理する姿。
その姿は、年相応、あるいはそれ以下の年齢にみえる――実際、変身魔法を解けば、9歳児相当の身体である――が、彼女は本来もっと大人びている。
部室でのライザー・フェニックスとの一幕だって、普段の彼女なら冷静に回避して見せただろう。
(原因不明の感情。いや、衝動、か。どうにもひっかかる。これが、『虫の知らせ』というやつだろうか。デバイスの私に『勘』などというあやふやなものがあるのか不明だが)
はやては、本来、好戦的な性格ではない。
力を求めたのも、『家族と暮らす平穏な日常を守るため』に過ぎない。
(少し前、アーシア・アルジェントが悪魔化したときの様子もおかしかった。あれ以来、彼女とは距離を置いているらしい。だが、悪魔化はマスターから言い出したことだ)
アーシア・アルジェントとライザー・フェニックス。
両者に共通点はないように思える。
もし、あるとしたら――
(――――二人とも『悪魔』という点だな)
◆
ヴィータはリインフォースから受けた相談について考えていた。
確かに、ライザー・フェニックスの挑発にあっさりひっかかったのは腑に落ちない。
何かがおかしい。が、それが何かは分からなかった。
「ナイスショット、ヴィータちゃん」
「ん、ありがと」
つらつらと考えつつ、かけられた言葉に照れたように返答する。
いま、ヴィータはゲートボールをしていた。
近所のご老人とともにゲートボールに興じるヴィータは、マスコット的存在だ。
ヴィータ本人もゲートボールが気に入っていたし、ご老人とのつきあいも楽しんでいた。
はやての言う原作とやらでも、ヴィータは同じようにゲートボール好きだったらしい。
(確かに、原作と合致する点は多い。だが、それに足をすくわれることだってありえる)
「つぎは、じいちゃんの番だぜ」
思考の渦にのまれつつも、何事もないように会話する。
マルチタスクはつくづく便利だな、と内心つぶやく。
ライザー・フェニックスが居たあの場にいなかったのは失敗だった。
護衛もかねて、シグナムとシャマルは駒王学園に務めているが、あの場にはいなかった。
原作が始まったことで警戒していたつもりだった。
が、原作通りに事が運んでいたせいで、油断があった点は否めない。
それよりも、だ。
あのはやてが激高する姿が想像できなかった。
基本的に外面はクールを気取っているはやては滅多なことで感情を荒立てない。
ま、家の中では泣き虫だがな、と昨日のやりとりを思い出して苦笑する。
家族を侮辱されれば怒りもするだろう。
だが、ライザー・フェニックスの挑発は、ごくありふれたものだった。
(相手が悪魔だからか?はやての両親を殺したのも悪魔だったしな)
リインフォースが気づいたはやての悪魔への敵意。
両親の仇なのだから恨んでいてもおかしくない。
だが、それにしてはアーシア・アルジェントへの対応が妙だった。
妹ができた!と、笑顔でヴィータに報告してきたはやて。
アーシアと一緒に遊んだことを、嬉しそうに話していた。
それが、いまは一方的に避けるようになっている。
嫌な予感がしながらも、いまはゲートボールに集中するヴィータだった。
後書き
・クールぶっているのに、本当は泣き虫なはやてさん。ギャップ萌え。
・ゲボ子はご町内のマスコット。
第18話 悪魔の証明
前書き
・改変あり
アーシア・アルジェントは、違和感を覚えていた。同時に、胸騒ぎを感じてもいた。
きっかけは、八神はやてが言い放った一言である。
『何をふざけたことを抜かしてやがる……調子に乗るなよ、焼き鳥風情がッ!!!』
普段の姿からは、考えられないほど、はやては、激昂していた。
原因は、フェニックスの末裔だという悪魔――ライザー・フェニックス――の言動であることは、明らかだった。
しかしながら、彼女が、おいそれと安い挑発を受けるとは、どうしても思えない。
(はやてさんは、いつも理知的で、飄々としていました。ライザーの挑発に関しても、いつもの彼女なら、軽く流せたはず。計算の上で、挑発にのったようにも見えません)
アーシアにとって、「八神はやて」という人物は、凛々しい言動に相応しい泰然とした女性だった。
さらに加えて、グレイフィアの提案に乗っかり、彼女は、レーティングゲームに参加を決めてしまった。それも、本人の身柄を賭けにしてまで。
リアス・グレモリーは、勢いに流されたようにみえる彼女の判断に、憤慨していた。
しかし、レーティングゲームの参加に関して、アーシアの眼では、冷静に考えて上での決定に見えた。
(やはり、ライザーの言動が気に障ったということ……?その後は、落ち着きを取り戻していたように思えます。つまり、ライザーを倒す算段が既にできている?)
アーシアたちグレモリー眷属に対し、はやては、『秘策がある。戦力として当てにしてくれると嬉しい』と、不敵な笑顔で述べた。
なおも、詰め寄るリアスたちに対し、はやては、詳しい説明を続けた――
――神器『夜天の書』を「完全な状態」で使うことが許されている。つまり、『夜天の書』の一部といっていい、5人の八神家一同が参戦できるということだ。
はやて自身を加えれば、リアス・グレモリーたちは、6人の追加戦力を得たことになる。
したがって、人数は合計で、12人になる。ライザーを加えたフェニックス眷属は、総勢16人。彼らは、数の面で圧倒的な優位に立つことが出来なくなる――と、はやては説明した。
理路整然と述べられた理由に、反論する術はみあたらず、リアスは、不承不承とだが頷いた。
彼女の個人的な事情に巻き込んでしまい、申し訳なく思っているのだろう。
だからだろうか。情に厚いグレモリー眷属らしく、万一勝負に負けた時、ライザーから身を守るため、グレモリー眷属の一員にならないか。と、提案してみせた。
だが、はやては、その申し出を一蹴している。
『「好きにしろ」とボクから言い出したのだよ?悪魔は、契約が絶対と聞く。何の覚悟もなく発言したわけではない。その程度は、弁えているさ』
そう強く述べ、リアスを説得した。表情は、一切悲観しておらず、余裕さえみられた。
リアスたちも毒気が抜けてしまい、とりあえず、全員で強化合宿を行うことを決定してから、解散になった。
(私と距離を置くときに感じる壁。いえ、グレモリー眷属の皆に対しても一線を越えないようにしているように思います。家族の方たちと過ごす姿を見れば、違いは明らか)
しかし、リアスの提案を蹴った時、はやての瞳に一瞬だけだが強い感情が浮かぶ。
一瞬だけ映ったその感情をアーシアだけは、見逃さなかった。
彼女瞳に過ったそれは――憎悪。
(あのとき、瞳に映った激しい憎悪の感情。しかし、それ以外で不審な態度は見られなかった。部長との付き合いも長いときく。日頃親しい姿も見ている。ならば、私の勘違い……?)
なぜ、アーシアたちと距離を置こうとしているのかは、わからない。
いや、はやて自身わかっていないのかもしれない。
アーシアが、余所余所しくなった理由を尋ねた時、はやては、適当にはぐらかしていた。
そのときの様子を思い返すと、彼女自身戸惑っていたように思える。
しかしながら、より深刻なのは――
ライザーを拒絶したときの態度。
私たちと適度に距離を置こうとするときの態度。
―――――この二つは繋がっているのではないか?
それに気づいたとき。アーシア・アルジェントは、云い様のない不安が身を襲った。
(杞憂であることを祈ります。しかしながら、今後、注意した方がいいのかもしれません)
悪魔になったいまも、身を焼くような痛みに平然と耐えながら、彼女は神に祈り続ける。
最近になって、彼女は、他者だけではなく、自身の幸せについても、祈るようになった。良くも悪くも、グレモリー眷属の温かさが、彼女を変えたのだろう。
いまのかけがえのない日常が続きますように。
大切な人たちと平和に暮らすことができますように。
――――その姿は、まさしく、聖女のような悪魔だった。
◇
ずーん。
いまのボクの心境はその一言につきた。
制御不能な衝動に押し流されレーティングゲームへの参加が決定。
不覚だった。
大勢の前で実力を披露することになるので避ける予定だったのだ。
ヴィータたちにも叱責され心が折れそうになる。
が、すぐに励まされレーティンゲームには絶対負けない、守ってみせる、といわれほろりときた。
そんなみんながボクは大好きだ。
自分の身まで賭けた以上、万一にも負けるわけにはいかない。
大丈夫だとは思うが、準備に余念がない。
「マスター、あの魔法を使うのですか?」
「ああ、もちろん。相手は不死鳥フェニックス。ならば、この魔法以上の切り札はあるまい」
ライザー・フェニックスの不死性は脅威である。
まともに戦えば苦戦は免れない。
だがしかし、ボクには夜天の書がある。
夜天の書に記録されていた膨大な魔法を習得することで、ボクはいくつかの必殺技を編み出していた。
レーティングゲームで初披露することになるだろう。
微妙な顔をするリインフォース。
不安かい?と聞くといいえ、と答えられる。
なぜ、微妙な顔をするのか問うと、名前が……いえ何でもありませんと言われた。
この魔法を使うたびに微妙な顔をされる。
かっこいい魔法なのにね。
「アーシア・アルジェントとの仲はどうですか?」
まるで話題を切り替えるように言ってくる。
ボクの悩みを的確につかれた。
あーうー、と言葉を返すことができない。
妹のようにかわいがっていたアーシア・アルジェントのことを、ボクは避けている。
理由は自分でもわからない。
何か隠しているのですか?と問われるも、既に心中をすべて話してあった。
アーシア・アルジェントから受ける印象が依然とまるっきり変わってしまったとしか答えられない。
堕天使から救出する前と救出した後の彼女が、別人のように思えるのだ。
「悪魔を恨んでおられるのではないですか?」
それは、ボク自身気づいている。
最近の悩みでもあった。
「そうかもね。昔のこととはいえ、そう簡単に吹っ切れるようなものでもないし」
「では、ときおりリアス・グレモリーに向ける憎悪の感情に気づいておられますか?」
「え?」
答えに詰まる。
憎悪?リアス・グレモリーに?
ばかな、彼女には世話になりっぱなしだ。
はぐれ悪魔に父を殺されサーゼクス・ルシファーに保護された。
彼女と出会ったのは、そのすぐあとのことである。
一つ年上のリアス・グレモリーは、ボクのことをずいぶん心配してくれた。
「……部長とは仲良くしているじゃないか」
そう言いつつも、どこか自信を持てない自分がいるのに気付く。
もう10年近い交流があるにもかかわらず、サーゼクス・ルシファーにいい印象を持てない自分を思い出す。
同じように、リアス・グレモリーに信愛の感情をもっていないことにも。
どこかで線引きしている。
その線引きがどこにあるのかわからない。
「憎悪の感情が微粒子レベルで存在している……?」
言われて初めて気づいた、
いや、よそう。
別に悪魔と戦争したいわけでもなし。
それよりいまは――――
「――――このサイキョーの魔法を特訓しなくては!」
なぜ、微妙な顔をするの?
後書き
・聖女のような悪魔のような聖女さん。
・以前は、「他人の幸福」ばかり祈っていましたが、主人公たちと触れ合い、「自身の幸福」も祈るようになりました。
・サイキョーの魔法の詳細は、本番までナイショ
・恋愛要素はないつもりです。
・あえてヒロインを列挙するなら、リインフォースとアーシアあたりかと。
第19話 不死鳥のくせになまいきだ
前書き
・ようやく、主人公最強モノらしくなってきました。
・戦闘シーンは、ありませんでしたが。ヴォルケンリッターの実力は、最上級悪魔並を想定しています。つまり、タンニーンやグレイフィアさんクラスの強さ?にする予定です。魔王に、1対1では勝てません。きっと。
・木場君にはサーゼクス眷属に師匠がいるそうです。なので、独自設定として師匠なしということでお願いします。
俺はいま、絶望を味わっている。
少し前まで、女と切り結んでいた木場は、地に伏せ、子猫は部長の守りで手いっぱいだ。
残る前衛は俺だけだが、目の前の男が自由な行動を許してくれない。
さきほどから、拳と拳の応酬が続くが、相手は明らかに手を抜いている。
(時間稼ぎのつもりか)
俺が未熟者だというのは重々承知している。
だがしかし、こうまで手玉に取られると、悔しさがこみあげてくる。
ズガッドドンッッ
轟音が響き、視線だけ向けると、子猫が鈍器で吹き飛ばされていた。
思わず気を取られた一瞬の空白を見逃すような相手ではなった。
「ぐうっ!?」
肺から息を絞りだすような声をだして、宙を舞う。
腹部に右ストレートが、きれいに決まっていたと理解したのは、地面に叩きつけられた後だった。
(すまない……部長、先輩、みんな)
涙で滲む視界には、身を守る盾たちを失い攻撃にさらされるリアス、朱乃とアーシアの姿が映る。
三人をめがけて魔力弾が飛んでいくが、何もできない。
「リアスッ!だめええええええええええええ!!」
爆音が響く。土煙が上がり、何が起きたか外からではわからない。
朱乃の絶叫を聞きながら、俺の意識はフェードアウトしていった。
◆
兵藤一誠が、男と撃ちあっていたころ――
「アーシア!祐斗の治療をお願いッ!」
リアス・グレモリーは、窮地に立たされていた。
騎士の木場祐斗は、女剣士に斬られ、塔城子猫が、二人の敵を抑えている。
どちらが、優勢かは明らかだった。
「いまいきますっ――きゃあっ!?」
「アーシア!」
姫島朱乃の放った魔力弾を目くらましに、木場祐斗の治療に向かうアーシア・アルジェント。
しかし、現場につこうとする寸前、何者かの攻撃を受け、力なく倒れる。
(どういうこと。敵は全て抑えていたはず……!?)
思考に耽る間も、攻撃の手を緩めないリアスは、さすがと言えた。
アーシアの援護を諦め、2対1で、劣勢に立たされている子猫の援護を行う。
既に、朱乃が子猫に向けて魔力弾をばらまいており――
「リアスッ!だめええええええええええええ!!」
朱乃の叫び声を最後に、意識を失った。
――――この日、グレモリー眷属は、全滅した
◇
「話にならんな」
皆が固唾をのむ中、シグナムが辛辣な一言を告げた。
今、ボクたちは、さきほどの『模擬戦』の反省会を行っている。
事の起こりは、「強化合宿」を行うために、グレモリー家所有の別荘についてからの会話だった。
強化合宿自体は、原作にもある。
ライザー・フェニックス陣営との実力に開きがある以上、当然の措置ともいえる。
――――違いは、八神はやてと愉快な仲間たちが参加しているということだけだろう
『えっ。八神さんまで、戦うのか!?それはさすがに――』
『「さすがに」なんだい?アーシアだって戦うのだ。それに、バイザー討伐でボクの実力の一端は示しはずだぞ』
『はやての言う通りよ。彼女――ううん。八神家の皆は、一人ひとりが歴戦のツワモノといっていいくらいよ。そうでしょう、朱乃』
『はい。部長の言う通りです。いまの私たちの実力では、一対一でも勝てるかどうか……』
『本当ですか、部長。はぐれ悪魔討伐でご一緒することは多いですが、そこまで実力の差があるとは初めて聞きましたよ。俄かには信じられないです』
『私も木場先輩に賛成です。確かに、強いとは思いますが』
グレモリー眷属の懸念はもっともだ。
これから共闘する相手の実力が不明、では話にならない。
とはいえ、理屈で分かっていても、感情を抑えられるかは別の話。だから――
『ほう。我々の実力が信じられないというのか』
『だったら、戦って白黒つけようぜ。あたしのアイゼンの染みにしてやるよ』
『防御に関しては誰にも負けない自信がある』
『あら。シグナムとヴィータちゃんは、かなり頭にきているわね。ザフィーラも珍しく乗り気みたいだし。わたしたちとしても、味方の実力は知っておきたいわ。だから――』
――――模擬戦なんてどうかしら?
そして今に至る。
険しい山道を越えて、豪華な別荘に到着。
風景を楽しむ暇もなく、休息のあと、あわただしく外に向かう。
開けた場所につき、リアス・グレモリーと模擬選について詳細を話し合った。
まずは、グレモリー眷属対八神家という、ある意味当然の振り分けになった。
・グレモリー眷属
前衛 木場祐斗(騎士)
前衛 塔城子猫(戦車)
前衛 兵藤一誠(兵士)
後衛 アーシア・アルジェント(僧侶)
後衛 姫島朱乃(女王)
後衛 リアス・グレモリー(王)
・八神一家
前衛 シグナム(烈火の将)
前衛 ヴィータ(鉄槌の騎士)
前衛 ザフィーラ(盾の守護獣)
後衛 シャマル(風の癒し手、湖の騎士)
後衛 リインフォース(管制人格)
後衛 八神はやて(夜天の王)
結果は、グレモリー陣営の完敗。文字通り「全滅」した。
こちらの実力をある程度知る筈のリアス・グレモリーでさえ唖然としていたのだ。
残りの連中の衝撃は計り知れないことだろう。
「まずは、木場祐斗。素早い剣筋は褒めてやろう。だが、真っ直ぐすぎる」
悔しそうに唇を噛む木場祐斗。
虚実織り交ぜた攻撃は、ある程度の実力者と相対するならば必須と言える。
しかしながら、木場祐斗は剣の師といる人物がいなかったようだ。
基本的な型は出来ているが、応用に至っては、我流になっている。
とはいえ、粗削りながらも、我流の技は、実戦でも通用するくらいには完成されていた。
たゆまぬ修錬と才能の賜物だろう―――――とはシグナムの弁である。
「子猫とかいったっけ。あたしと背格好は同じくらいなのに、攻撃も防御も中途半端でいけない」
顔伏せて落ち込む塔城子猫。背のことを気にしているのだろう。分かるぞ、その気持ち。
一撃の重さを捨て、手数で勝負する近接格闘戦法。
たしかに、小柄にも関わらずパワーはある。
しかし、小柄な身体が裏目にでて、一撃が「軽い」のだ。
衝撃が弱く、相手の動きを止める、あるいは吹き飛ばすことが出来ない。
巨大なハンマー――グラーフ・アイゼン――を振り回すヴィータとは、好対照である。
パワーよりテクニックで戦うスタイルは、木場祐斗に似ている。
ただし、拳で戦う以上、リーチの短さは問題だ。
塔城子猫の身長を考えれば、致命的だろう。
リーチとパワー不足を指摘された彼女は暗い顔をしていた。
が、ヴィータは気にせず続ける。
「おまえのスピードとテクニックは誇っていいレベルだ。ここは長所を活かすべきだな。
一撃離脱に徹すれば、相手のかく乱から足止めまで、戦術の要になり得る」
落として上げる。
ヴィータは、見た目によらず、細かな気配りがうまい。
現に、塔城子猫は、暗さをなくし、真剣な目をして聞きいっている。
防御については、堅さは充分でも、やはり軽さがネックとなる。
ゆえに、正面から受け止めるのではなく、受け流すことを目指すように言い渡した。
受け流しについては、防御に関しては随一のザフィーラが担当することになった。
◇
その後も、反省会は続けられ、皆で、ああでもない、こうでもない。と、話し合った。
議論の末に、グレモリー眷属がそれぞれ戦闘スタイルにあった八神一家の一員と訓練することになる。
組合せは、すんなりと決まった。
木場祐斗は、シグナムから剣術を。
塔城子猫は、ヴィータとザフィーラから近接格闘術を。
アーシア・アルジェントは、シャマルから補助および回復術を。
姫島朱乃とリアス・グレモリーは、リインフォースから、後方支援術と戦術指揮を。
原作主人公であり、赤龍帝として禁手化をはたした兵藤一誠は――
「なんで、俺は八神さんといっしょに訓練するんだ?」
――ボクとマンツーマンで特訓することになった。
これには異論が出たが、「向いているから」の一言で封殺した。
ヴィータあたりでもよさそうだが、彼女は無手での戦いには不慣れである。
一方で、ザフィーラは拳で戦うが、防御主体なため、特攻には向かない。
必然的に、ボクが担当することになるわけだ。
「さっき説明しただろう。ボクの戦闘スタイルが一番キミに合っているからだよ」
赤龍帝であり、禁手化を果たした彼の戦術的価値は計り知れない。
とりわけ、力技での突破力は、他に追随を許すまい。
『赤龍帝の籠手』は、それだけ強力なのだ。だから――
「赤龍帝であるキミは強い。訓練を積み、経験を重ねれば、グレモリー眷属のエースになるだろう」
「ああ。ドライグもそう言っていた。『相棒と俺の力は、まだまだこんなもんじゃない』ってな」
「その通りさ。伸び代がたっぷりと残っている兵藤くんは、この合宿の目玉といっていい」
「じゃあ、なんで八神さんが訓練相手なんだ?」
「いっただろう?ボクの戦闘スタイルと一番相性がいいって、ねッ!」
ブンッ、ズガガアアアアアアアァッ
「うおお!?」
手近な岩を殴り、粉砕して見せる。
予想通り兵藤一誠は、目を見開いて驚愕の表情を浮かべたあと――
「なるほどな。たしかに俺にはうってつけ、か」
「わかってくれて、なによりだ」
――理解の色を示した。
そう。八神家の中で、単純に一番力が強いのは、ボクなのだ。
理由はもちろんある。身体強化魔法だ。
正常化した防衛プログラムの保護下にあるボクは、自動修復機能の恩恵をうけられる。
通常、身体強化魔法は強度を高めるほど、身体に負荷がかかる。
しかし、プログラム体であり、その身体を自動修復されるボクは、身体強化魔法との相性が非常にいい。
無尽蔵にある魔力を使えば、理論上は無限に身体強化が可能だ。
もっとも、比例して制御も難しくなるために、限界はある。
騎士甲冑にも、自己修復、自動治癒機能を付けているため、突撃には一番適している。
王・指揮官・護衛対象といった者が、前線に突っ込んでは駄目なので、実践したことはないが。
ともあれ、倍加によって無限に力を底上げする『赤龍帝の籠手』には見劣りするものの、今の兵藤一誠ならば充分に相手ができる。
ボクは、基本的には、攻勢後方支援型だが、シュベルトクロイツを使った槍術、あるいは無手での近接格闘戦も可能だ。要するに、万能タイプなのである。
物分かりがよい彼に、ニヤリと笑いかける。
――――さあ、これからが特訓(という名の地獄)のはじまりだ……!!
後書き
・戦闘スタイルは、かなり妄想設定が入っています。
・子猫とか、ばりばりのパワータイプですし。
第20話 これが私の全力全壊
前書き
・子猫、覚醒編。
・スターライトブレイカー登場。
「ふむ、大分戦闘技術の方は向上してきたようだね。だが、まだ足りない。たった10日じゃ大きく実力が伸びることはない」
真剣な顔をしたグレモリー眷属の前で話す。
その一方で、彼女たちなら実戦の中で急成長するかもしれない、とも思う。
物語の主人公が戦いの中で大きく成長するのは、王道なのだから。
「悔しいけれど、はやての言うとおりね。あなたたちの特訓のお蔭で実力はついたつもりだけど」
「部長、まだ足りないということでしょうか?」
悔しそうに話すリアス・グレモリーに、兵藤一誠が問い返す。
それに答えたのはシグナムだった。
彼女曰く、半端に実力がついたところで、増長するのが一番危険、だそうだ。
生兵法は大怪我の基、ということだろう。
「そこで、だ。ボクの魔法にとっておきのヤツがある。試してみるかい?」
ニヤリと笑みを浮かべながら、グレモリー眷属にある提案を行った。
◆
リアス・グレモリーは、八神はやてに心から感謝していた。
彼女を巻き込んでしまい申し訳ない気持ちはいまでもある。
だが、それ以上に、合宿の特訓が実りあるものになったのは、彼女たちのお蔭であるのだから。
はやてのある魔法のお蔭で、たった10日足らずとは思えないほどの、濃密な訓練を行うことができた。
――幻想世界(ファンタズマ・ゴリア)
これこそ、はやてが提案した特訓の切り札だった。
効果は、幻想世界に精神を閉じ込めるというもの。
幻想世界に長時間いても、外の世界では一瞬でしかない。
つまり、時間がない今のような状況には、まさにうってつけの魔法だった。
はやては、ドラグ・ソボールの「精神と時の部屋」みたいなものだよ、と説明していた。
ただ、苦笑しながら、この世界はネギまがないもんね、とつぶやいていた。
焼き鳥にネギまで対抗するなんて、なんという共食い……とドヤ顔で言い放っていたが、八神家の面々から白けた目線を向けられていた。
どういうことなのかと疑問符を浮かべても、はぐらかすだけで答えてはもらえなかった。
もちろん、経験のフィードバックはできても、現実世界の身体能力が向上するわけではないから、実際に身体を動かす時間も必要だ。
それでも、幻想世界での膨大な経験は、グレモリー眷属の急激な実力向上という結果となって帰ってきた。
それで、気づいたことがある。
「どうした?まだまだできることがあるだろう――ボク一人倒せなくてはライザー・フェニックスには勝てないぞ……たぶん」
八神はやては強い。
グレモリー眷属全員でかかっても返り討ちにされるほどに。
ひょっとしたらライザー・フェニックスよりも強いのではないか、とリアスは考えていた。
それも当然だろう。
なにせ彼女は、シグナムから槍術を、
ザフィーラから格闘術を、
ヴィータからは戦術眼を、
シャマルからは回復術を、
リインフォースからは魔法全般を、
それぞれから吸収してきたのだから。
シグナムは剣士だが、永きにわたる戦の経験もあって、武芸一般に通じていた。
最初は半信半疑だったはやても、その見事な槍裁きに瞠目したほどである。
その実力は、彼女に師事したはやての槍裁きをみれば明らかだった。
ではなぜ、はやて一人と全員で戦っているのか。
それは、ライザー・フェニックスを一対多で追い詰めるためである。
シグナム曰く、ライザーの取り巻きの眷属クラスなら、すでに容易く勝てる、とのこと。
ゆえに、はやてをライザーに見立てて、格上との戦いの経験を積ませるともりだった。
「くっ、騎士のボクが切り合いで負けるなんて……」
悔しそうな顔を浮かべる木場悠斗をみて、さもありなん、と思う。
子猫は格闘戦で負け、一誠は力比べで負け、朱乃は空中戦で負けた。リアスの砲撃戦でも勝てなかった。
リアス本人も、はやてがここまで強いとは考えていなかった。
とっておきの必殺技といってよい「消滅の魔力」を放ってさえ、敵わなかったのだから。
ボクは、近接戦闘もできる万能型だが、本来は、攻勢後方支援タイプなんだよ、としれっといわれて絶句したのは、つい先ほどのことである。
絶対ライザーより強いだろ、とリアスだけではなく他のグレモリー眷属も心の中で思っていた。
「俺たちは、後衛タイプの八神さんに接近戦で負けたのか」
絶望的な表情を浮かべる一誠。
幻想空間にて、なまじ経験を積んだことで、余計に実力差がわかってしまった。
『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』という規格外の神器を宿していながら勝てなかった。
だが、この中で一番進歩したのもまた一誠だろう。
幻想空間での苛烈な特訓によって、はやてと数合なら打ち合えるほどになったのだから。
たった数合とはいえ、まったくの素人だった彼からすれば、大きな進歩といえる。
「さあさあ、休憩は終わり。合宿残りも少ない。仕上げといこうじゃないか」
◆
塔城子猫は、戦慄していた。
『戦車』として転生し、グレモリー眷属となってから、格闘術には磨きをかけてきた。
にもかかわらずザフィーラには全く勝てなかった。
いや、彼はまだいい。格闘戦タイプなのだから。
それよりも、後衛タイプの八神はやてにまで勝てないとは、どういうことか。
たしかに、ザフィーラよりは劣っていることはわかる。
だが、子猫よりは上だと断言できた。
「でも、それでも、私は、負けないッ!」
なおも続ける。ここで倒れるわけには、いかない、と力を込めて叫ぶ。
部長の恩義にこたえるため、大好きなみんなを守るため。
「風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に!」
ブフォッ、とはやてが噴き出す声が聞こえた。
れ、レイジングハート?という呟きも聞こえる。
よくわからないがチャンスだ。
「受けてみて!これがわたしの全力全壊ッッ!!」
全速力で接近し、驚愕の表情を浮かべるはやてに向かって掌底を放った。
この掌底こそ子猫のとっておきだった。
短時間で成果をあげるため、といってザフィーラから一つの技を集中的に磨くように勧められた。
その言葉に従い、子猫は一番自信のあった掌底を集中的に鍛え上げたのだ。
その成果が、この一撃である。
ぐほっ、と女の子が言ってはいけないような声をあげて吹っ飛ぶはやて。
この模擬戦で、初めてはやてにクリーンヒットを与えた瞬間だった。
「や、やった!」
「ナイスよ、子猫!」
喜ぶ子猫に、リアスもねぎらいの言葉をかける。
他のグレモリー眷属も初めての快挙に声援を送っていた。
「やってくれたね、塔城さん……さっきのセリフはどこで?」
「ヴィータさんです」
ヴィータ姉ぇ……、と何とも言えない顔をするはやて。
さきほどのセリフは、ヴィータが教えてくれた言葉だ。
訓練中ザフィーラにいいようにあしらわれて、消沈していた子猫に近づいてきたヴィータは語ったのだ。
とある魔法少女の不屈の心の物語を。
子猫はその物語に感動した。少女の不屈の魔道に胸を打たれたのだ。
感動した結果が、先ほどのセリフとともに放った掌底、名付けて「スターライトブレイカー」である。
この必殺技を告げた時、またはやてが噴出したが何かあったのだろうか。
ちなみに、むきになったはやては、次の模擬戦で、開幕早々広域殲滅魔法を発射して、ワンターンキルをしていた。
「マスター、彼女たちにいきなりデアボリックエミッションを放つのはあんまりじゃないですか?」
「いや、まあ、ヴィータ姉のせいだよ、うん。そっかー、魔法少女リリカルなのはに一番感動していたのって、ヴィータ姉だしねえ……」
と、あきれ顔のリインフォースに小言を言われるはやてを見ながら、はやてに一撃を入れたスターライトブレイカーを鍛え上げようと決心する子猫だった。
◇
――時刻は、夜十一時四十分を過ぎる頃だった。
ボクは、家族と旧校舎にあるオカルト研究部の部室にいる。
各々のアームドデバイスを起動し、騎士甲冑を展開している。準備は万端だ。
リアス・グレモリーたちグレモリー眷属も、思い思いの格好でくつろいでいた。
アーシア・アルジェントが何故かシスター服だったが、他全員は、駒王学園の制服を着ている。
(主はやて、緊張しているようですね)
これから戦場に赴くというのに学生服は場違いな気がしないでもない。
が、木場は手甲と脛当を、小猫はオープンフィンガーグローブをつけていた。
ボクたちも、それぞれのアームドデバイスを手に持っている。
シグナムは、剣型の『レヴァンテイン』
ヴィータは、ハンマー型の『グラーフアイゼン』
シャマルは、ペンデュラム型の『クラールヴィント』
ボクは、騎士杖型の『シュベルトクロイツ』
(シグナムにはバレていたか。負けられない戦いだからかな。高慢ちきな男に好き勝手される趣味はないのでね)
(あの焼き鳥やろう。あたしがゼッテーぶっ飛ばす)
念のために説明すると、デバイスとは、メカメカしい魔法の杖だと思ってほしい。
普段は、待機状態となり、小型化して持ち運びがしやすくなっている。
ボクのシュベルトクロイツは、待機状態は、剣十字を模したペンダントだ。
(ご安心ください、主はやて。我らヴォルケンリッター一同、一命に代えましても勝利を捧げて見せます)
(うん。ありがとう。ボクには頼もしい騎士たちがいる。これほど心強い味方はいないさ)
(お任せください。盾の守護獣の真価を見せましょう。主の護衛ができぬのが残念です)
起動すると、騎士甲冑あるいは騎士服――防護服ともいう――と呼ばれる衣裳も身にまとう。
騎士甲冑は、好きにデザインできる。
たとえば、ボクの騎士甲冑は、原作の「八神はやて」と同様だが、鎧には見えない。
しかしながら、見た目によらず、全身を魔法で守る優れた防御性能を誇る。
起動状態のデバイスは、戦闘形態へと変化し、魔道師――ベルカ風にいうと騎士――の武器となるのだ。
ボクのデバイスであるシュベルトクロイツは、大人モード使用時のボクの身長を越える程度の騎士杖へと形態を変化させる。
杖としても短槍としても扱える頼もしい相棒だ。
(マスターもご無理をなさらぬように。我々だけでも、不死鳥を完封できましょう)
(リインフォースの言う通りよ、はやてちゃん。王は、どっしりと後方で控えているのがお仕事なのだから)
(わかったよ。ただ、止めは譲ってもらうからね。宣言どおり、おのれの分を弁えさせてやらないとね)
デバイスには種類があり、アームドデバイスとは、杖というより近接戦闘用の武器として扱うデバイスのことを指す。
原作で主流だったミッドチルダの魔道師に比べて、ボクたちベルカの騎士は、接近戦を好む。
したがって、自然と武装は、アームドデバイス一択になるのだ。
(さて、そろそろ時間、か。他の部員たちもリラックスできている。特訓の成果かな?まあ、地獄のような特訓を乗り切ったのだ。自信はついただろうさ)
開始十分前となり、部室の魔法陣が輝いて、銀髪銀目のメイド――グレイフィアが出現する。
「みなさん、準備はお済みになりましたか? 開始十分前です」
後書き
・幻想世界(ファンタズマゴリア)は、ネギま!に登場する魔法。精神と時の部屋ですね。
・「風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に、不屈の心はこの胸に! レイジングハート、セットアップ!」初回の変身呪文よりも短いバージョンです。
・塔城子猫はスターライトブレイカー(物理)を習得しました。
・原作知識として魔法少女リリカルなのはは詳しく説明しています。他の漫画・アニメについても。
第21話 誰が為に鐘は鳴る
前書き
・戦闘準備編
――――午前0時
試合の開始時刻になった瞬間、結界につつまれた。
外の世界に影響を与えない異空間に包まれた戦闘用の世界らしい。
『そこではどんなに派手なことをしても構いません。使い捨ての空間なので存分にどうぞ』
とは、グレイフィアの説明である。いまも、グレイフィアの説明が、校内放送を通して聞こえてくる。
ボクたちが使う魔法にある封鎖領域とは、微妙に異なるようだ。
「わざわざ駒王学園そっくりのステージを用意するとはね……」というリアス・グレモリーの発言がそれを裏付けている。
封鎖領域は、結界で包んだ現実世界の位相をずらし、対象を取り込む魔法だ。
予めステージを設定しなければいけないのならば、シミュレーターに近いのかもしれない。悪魔の技術力も侮れない。
『今回の「レーティングゲーム」は両家の皆様も中継で今回のゲームの戦闘をご覧になります。更に、魔王ルシファー様も今回のゲームを拝見されております』
魔王が来ると聞いた兵藤一誠は、驚いていた。
しかも、現魔王がリアス・グレモリーの兄だと聞くと、さらに驚いていた。
原作知識通りの展開であり、面識もあるボクも、一応形だけは驚いて見せた。
はぐれ悪魔に両親が殺害された一件以来、彼にはお世話になっている。
力ある純血悪魔は、人間を見下す傾向が強い――にも関わらず、いろいろと便宜を図ってもらえた。さすが、情に厚いリアス・グレモリーの兄といったところだろうか。
明らかに異質な神器である『夜天の書』(そもそも神器ではないのだから当たり前だ)を所有しているボクを、守ってくれたのも彼だ。
全てが善意ではないだろうが、悪意――利用しようと、あるいは危険だから殺害しようとする連中はいただろう――から身を守ってもらえた。
(感謝をして当然だし、信頼もしていてもいいはずだが、なかなか素直に態度で表せない。ボクは捻くれているな。これが、「ツンデレ」というやつだろうか)
当初の約束通り、グレモリー家からの依頼は、少なくない数を引き受けていた。
受ける依頼の大抵は、はぐれ悪魔退治だ。憂さ晴らしができて、実戦経験も積める、おいしい仕事だった。
(いや、変だな。ボクは、捻くれてはいるが、礼儀を忘れるほどじゃないはずだ。生理的な嫌悪感とでもいうべきか。反抗期、か?リインフォースにもいわれたが、憎悪、か)
ボクが中学に入学する前までは、生活から護衛まで、守護騎士たちは必ず傍にいてくれた――実は、小学校と中学校は、ヴィータと一緒に通学し、同級生として仲良く学校生活を楽しんでいた。
守護騎士たちが、朝から晩まで傍にいたおかげで、ボクは寂しい思いをせずに済んだ。
(――どうした?はやて)
(ん?昔を思い出していてね。高校生になってから、ヴィータ姉と一緒に過ごせなくて少しさみしいなあ、と)
(うれしいことを言ってくれるじゃねえか)
高校進学と同時に、彼女と通学できなくなった。
その理由は――身体にある。
(ヴィータ姉は、成長しないからなあ。成長しないヴィータ姉は、一部で大人気だったっけ)
(うるせえよ。あたしに嫌なことを思い出させるな。はやても変身魔法を解けばおなじだろうが)
ボクは、いまとおなじように常に変身魔法をつかっていた。
彼女も、変身魔法をつかえるが、常時展開することはできない。
向き不向きもあるが、常に人間(しかも成長した姿)に変身するためには、膨大な魔力と緻密な術式、それを運用する技術が必要だ。
いまでこそ、楽に大人モードでいられるが、必要に迫られ、最優先で努力した成果である。
(はやてちゃんは、必死に努力したものね。実際、高度な変身魔法を維持し続ける技術は、驚異的よ?)
(主はやては、努力家だからな。ヴィータも練習はしていたが、長時間の維持は難しかったようだ)
ある程度、ボクが身を守る術を会得し、社会的にも自由な行動が許されるようになってからは、家族と共に積極的に仕事をしていた。
単に依頼を受けるだけではなく、こちらからも、協力を積極的に申し込みもした。
(はやてが異常なんだよ。常に、変身魔法の維持に意識を振り分けながら、生活するんだ。あたしには無理だった)
(日常生活をしながら集中力を維持するためには、何事にも動じない精神が必要だ。主は、鋼の精神をお持ちでいらっしゃる)
シャマルが臨時保険医だったり、シグナムが臨時剣道顧問だったりするのは、その一環である。
駒王学園を職場に指定したのは、原作の舞台でとなることを「知っている」ためだ――ボクの護衛が表向きの理由だが、間違ってはいない。
(ボクが「鉄の女」とでもいいたいのかい、ザフィーラ?)
(いえ、そのような意味では断じて――)
わんこモードではないザフィーラをからかう。
合宿のときからザフィーラは人型でいることが多い。
いつもわんこモードで自宅警備にいそしむ彼が、立派になりやがって。
戸籍や金銭といった面で支援を受ける以上、必要以上に借りを作りたくなかったことが、協力を申し出た大きな理由だ。
ボク自身、どこかの勢力に肩入れするつもりはない。
マルチタスクで、家族とのコミュニケーションをしつつも、辺りに意識を巡らす。
魔王の妹が参戦するだけあって、このレーティングゲームは注目の的らしい。
大勢の悪魔たち――おそらくは上級悪魔だろう――が、観戦に来ていた。
「さて、事前の取り決め通りいくわよ」
「はい、部長。では、二手に分かれましょう。よろしくお願いします、シグナムさん」
「ああ。木場祐斗もよろしく頼む」
リアス・グレモリーが、指揮官として、作戦の確認を行う。
堂々とした振る舞いは、非常に様になっている。
生まれ持ったカリスマと、たゆまぬ研鑽は、彼女に王者の風格を漂わせる。
シグナムと木場悠斗が口を交わす。
お互い剣士なので、同じチームになっている。
「怪我をしたら、わたしに言って頂戴ね?」
「わ、わたしも『聖女の微笑』で治療します。遠慮なく怪我していいですよ」
「いや、それはちょっと――」
シャマルとアーシア・アルジェントは、頼れる回復役である。
アーシア・アルジェントの天然な発言に兵藤一誠が苦笑する。
「よし、あたしたち行くぞッ!」
「久々の実戦だな。塔城子猫も、油断しないように」
「ヴィータさん、ザフィーラさん。部長と八神先輩のために。いっしょに頑張りましょう」
「もちろんだ。はやてに手を出す奴は、アイゼンで潰してやる」
口々に気炎を上げるのは、ヴィータチーム。
人数に余裕ができたグレモリー陣営だが、原作通り、二方向から攻めることになっている。
つまり、本陣と合わせて、3チームに分かれるわけだ。
攻め手の内訳は、木場祐斗、シグナム、シャマルチーム。塔城子猫、ヴィータ、ザフィーラチーム。となっている。
残る本陣に詰めるのは、『王』(キング)であるリアス・グレモリー、姫島朱乃、アーシア・アルジェント、リインフォース。そして――
「リインフォース。主はやての身を頼んだ」
「必ずマスターのことは、守って見せます。烈火の将たちも油断しないように」
「当然だろ。はやてを焼き鳥野郎に渡してたまるかよ」
ボクの身を案じるヴォルケンズたち。
グレモリー眷属たちも、本陣に残る人物に声をかける。
「兵藤くん。部長のこと、僕たちの分まで守ってくれ」
「任せておけ。お前たちも、急がないと。大勝首を俺が取るかもしれないぜ?」
「ずいぶんと大口を叩きますね――――兵藤先輩、期待しています」
――兵藤一誠、ボクの5人である。原作では、本陣に詰めていたのは、今のメンバーから、八神家、兵藤一誠を除くリアス・グレモリーたち3人だった。
切り札に近い赤龍帝の兵藤一誠を、なぜ本陣に置いたのか。それは――
「兵藤くん、ボクたちの役割は、わかっているね」
「もちろん。『予備戦力』として、本陣に待機するんだな?」
――予備戦力とするためである。戦略予備、後詰とも呼ばれ、前線後方に待機する戦力のことだ。
ときに劣勢な味方の増援として派遣され、戦線の崩壊を防ぐ。ときに優勢な味方の増援として派遣され、敵陣を突破する。
ときに別動隊として敵を包囲する。ときに撤退時の殿として、敵の攻撃を防ぐ。などなど。
このように、予備戦力は、多様な使い道を誇る。前線に出ている部隊の交替要因と誤解されがちだが、決定的な場面を左右する重要な戦力なのだ。
予備戦力の運用をみれば、指揮官の能力が分かると言っても過言ではない。
人数に余力のない原作ならまだしも、現在は、予備戦力は重要な意味をもつ。
使いどころは、『王』で指揮官のリアス・グレモリー次第だ。
おそらくは、本陣の旧校舎にあるオカルト研究部に割り当てられた部室の護衛、と敵本陣の新校舎に ある生徒会室の強襲、に使われるだろうか。
それと、隠しているがもう一つ理由がある。
それは、リアス・グレモリーに投了をさせないためだ。
原作では、彼女は本陣でライザー・フェニックスと一対一で戦い敗れて、ゲームに負けた。
ボクとリインフォースは、おそらく襲来するであろうライザー・フェニックスとリアス・グレモリーが一対一になることを防ぐことを目的としているのだ。
それぞれが心中に思いを抱きながら、レーティングゲームの幕開けを待つのであった。
後書き
・ヴィータとは、小学校と中学校を通じてクラスメイトでした。戸籍その他は、グレモリー家の好意です。
・姉御肌な「ヴィータ姉」とボーイッシュな「お姉さま」のコンビは有名――っていう設定です。
第22話 もう何も怖くない
前書き
・体が軽い…こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて…
オカルト研の部室にて、レーティングゲームの幕開けを待つボクたち。
「はやてたちの助力は、正直とてもありがたいわ。けれども、お互いのメンバーをチーム混ぜてよかったのかしら」
「たしかに、グレモリー眷属と八神家と分けた方が、連携という意味では上だろう。だが――」
「――わたしの力を大勢の前で披露する機会でもあるわけね。お兄様を含めたお歴々の前で、フェニックス家の長男を撃破する。わたしの実力を嘲り血筋目当てだけで、足元をみる輩はいなくなるでしょうね。ライザーのように」
そう。ボクたち八神家は、あくまでグレモリー家の客人にすぎない。
ボクたちが活躍してしまうと、たとえ勝利しても、「リアス・グレモリー」自身の能力が評価されないのである。
実力のない有象無象を避けるためにも、ボクたちはサポートに徹するべき――と、表向きの理由を説明してある。
むろん、嘘はいっていない。
が、本音としては、実力を曝して余計なやっかみを受けたくないだけだ。
まあ、焼き鳥に分をわきまえさせる以上ある程度は実力を見せつけることになるわけだが。
「ライザーの『女王』であるユールベーナは強敵です。『爆弾王妃』の異名をとり、上空からの一撃は脅威でしょう」
姫島朱乃が、イヤホンマイク式の通信機器――戦場ではこれを使ってやり取りをするらしい――を配りながら言う。
それにしても、ボムクイーンってかっこいいな。
ボクもかっこいい異名が欲しいものだ。
いや、夜天の王は十分な肩書かもしれないが。
後日、何か異名を名乗りたいといったら、家族に全力で反対された。
漆黒の暗黒魔導師ザ・ダークネスはやて、略してダークはやて、ってかっこいいと思ったんだが。
(通信機器とは、ね。やはり、念話は大きなアドバンテージになりそうだ)
「リインフォースは、姫島先輩を補佐するように。上空は、空中戦ができる二人に任せるよ」
「承知しました、マスター。ユールベーナの相手は、私がしよう。姫島朱乃は、地上の援護を――」
「いえ、私も空中戦は得意です。修行の成果をみてみたいのです。リアスの『女王』として、ユールベーナと戦ってもいいでしょうか」
同じ『女王』としての意地だろうか。
敵の『女王』との一騎打ちを頼む姫島朱乃。
「……いいだろう」
「ありがとうございます」
(ゲームの勝率は、ボクたちを除いたグレモリー眷属だけでも、五分五分――いや、こっちの方が有利かな。実力も、状況も原作より大分よいだろうし)
(私もそう思います。ライザー以外は、任せてもいいでしょう)
『開始のお時間となりました。それでは、ゲームスタート』
つい先ほどまで、ゲームの説明をしていたグレイフィアの声が響く。
と、同時にあたりに木霊する学校のチャイム音。これが、ゲーム開始の合図となる。
――――レーティングゲームが幕を開けた。
◇
「なんというか。これは予想外ね」
レーティングゲームが、始まってから1時間弱。
下馬評では、ライザー・フェニックスの優位が報じられていたが――あっけないほどに、リアス・グレモリーが圧倒的に優勢であった。
「勝っている分には良いではないか。グレモリー先輩とボクにとっては、負けられない試合なのだからね」
「なんだかなあ。俺たちが出る幕がなさそうだな」
「怪我がないようで、一安心です」
(烈火の将たちも、うまく援護に徹している。こちらの実力を曝す必要がなくて助かるな)
◇
まず、体育館の裏側から進撃していた木場祐斗たち。
木場祐斗とシグナムの剣士タッグは、攻撃に秀でる前衛だ。
シャマルが、そんな二人をうまくサポートするという――奇襲に長けたチームである。
「木場くん、次の廊下を右に行ったすぐに二人いるわ」
「わかりました」
「はあああああっ!」
「なっ……奇襲だと!?」
シャマルの索敵により、一方的な奇襲を行う。
『ライザー・フェニックス様の「戦車」1名リタイア』
「後ろにいったわよ。気をつけて」
「奇襲などさせん。紫電一閃!」
「どこを狙ってやがる、次はこっちの――」
相手の奇襲さえも、シャマルに察知される。
シグナムの紫電一閃をかわし、余裕の笑みを浮かべる相手。
その間隙をつき――
「――貰った!」
「しまっ――」
『ライザー・フェニックス様の「兵士」1名リタイア』
「一瞬の隙をついたよい一撃だったな」
「シグナムさんのお陰ですよ」
シャマルが策敵を担当し、後方支援と指揮をとる。
指示に従う木場祐斗が、素早さを活かして、敵に先制攻撃を仕掛ける。
シグナムは、彼に合わせて、位置取りを変えつつ、敵を誘導していく。
誘導された敵は、木場祐斗と1対1の状況に持ちこまれ、切り捨てられる。
敵が揃う前に進撃していき――『兵士』3名、『戦車』1名を撃破した。
(木場の実力をどうみる、シグナム)
(あの合宿で腕をあげたようです。こちらも援護しやすいですし、彼は鍛えがいがあります)
(鍛練と称して模擬戦をするつもりだな?ほどほどにしておいてやれよ)
◆
木場悠斗は歓喜していた。
シグナムに師事した合宿で、剣術の腕は、一つ上のレベルに到達したと断言できる。
それほどまでに、濃密で意義のある合宿だった。
何度も何度も模擬戦でぶちのめされ、こいつバトルジャンキーじゃね?とぼやいたりもしたが、実力はめきめきと上がっていた。
とくに、はやての幻想世界による特訓はよい経験だったといえる。
「ふっ!」
剣で相手と打ち合う。
以前だったら真っ直ぐ剣を振るだけだったが、いまの木場は違う。
フェイントを混ぜ、わざと隙を作って相手の攻撃を誘う。
「隙ありっ――えっ」
「もらった!」
案の定、罠にかかった相手の首を落とす。
首から血しぶきをあげながら倒れ伏す身体をみて、思う。
グロい。とにかくグロい。
これで死なないというのだから、悪魔の技術力はすごいな、と場違いな感想をもつ。
思考するだけの余裕が、彼にはあった。
「木場、そっちに誘導するぞ」
この試合の主役はあくまでグレモリー眷属。
リアス・グレモリーの技量を見せつけるためにも、グレモリー眷属が矢面に立った方が何かと都合がよい。
シグナムは木場と敵が一対一の状況になるよう誘導し、木場は目の前の相手を倒すことに集中できた。
連戦になるが、地獄のような特訓をくぐりぬけた彼には、何ともなかった。
つらつらと考えつつも身体は勝手に動いてくれる。
いつの間にか周囲に敵の姿はなくなっていた。
「あとは、生徒会室に乗り込むだけだ。勝ったな」
不適な笑みを浮かべるも、戦闘中に油断するな、慢心するとは何事か!とシグナムに切りかかられて涙目になる木場悠斗だった。
◇
次に、正面玄関から突入した塔城子猫たち。
防御寄りだが、攻防のバランスがとれた塔城子猫は、真っ向勝負に強い。
同じく攻守のバランスがとれたヴィータが、彼女を援護する。
ザフィーラは、彼女たちに邪魔が入らないように、防御に徹する――正攻法に強いチームだ。
「喰らいな。テートリヒ・シュラアアーク!」
「ぐうっ、動け動け!固まるとまとめて撃破されるぞ」
「貰いました!」
『ライザー・フェニックス様の「騎士」1名、リタイア』
ヴィータが特攻し、相手を分断する。
あわてて散開した敵を子猫が奇襲する。
「くっ、舐めるな!」
「手出しはさせん。守りは任せろ」
破れかぶれの攻撃も、ザフィーラの防御を抜くことはできない。
「よし。分断したぞ。子猫っ!」
「よっ、とっ!まだまだ!」
「こんなところで……」
「きゃあっ」
『ライザー・フェニックス様の「兵士」2名、リタイア』
ヴィータが突撃し、侵入路を確保する。
塔城子猫が後に続き、ザフィーラが、彼女を守る。
敵をヴィータが分断していき、塔城子猫が各個撃破していく。
ザフィーラは、状況に応じて両者を援護する。
その繰り返しだ。
堅実だが確実に進み――『兵士』3名、『騎士』1名、『僧侶』1名、『戦車』1名を叩きのめした。
(怪我はないかい?ザフィーラ、ヴィータ姉)
(無傷です、主)
(大したことない奴ばっかりだな。子猫の方が、よっぽど強ええぜ)
◆
体が軽い…
こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて…
ヴィータ、ザフィーラの援護により、順調に撃破スコアをあげていく。
ただ、一つだけ難点をあげるとすれば……グロイ。
塔城子猫は首から血しぶきを上げる敵の首なし死体を見て思う。
とにかくグロイ。
合宿で、現実世界では、「非殺傷設定だから大丈夫」という言葉のもと、死ぬような特訓を受けつつ死ねなかった。
幻想世界では、「何度死んでも蘇るから大丈夫」と言われ、攻撃を受けると無駄にリアルな死体が出来上がった。
だから――
「もう何も恐くない――――!」
――スターライトブレイカーをぶち当てたことで出来上がった、吐き気をもよおす凄惨な殺人現場を前にして、自前のグロ耐性に感謝する子猫だった。
後書き
・もう何も怖くない。首ちょんぱされるのは敵でした。南無。
第23話 ボクのかんがえたさいきょうのまほう
前書き
・Irregular World更新再開!なんという胸熱、ヒャッハー!。
・魔法の案をいろいろとご提案くださりありがとうございました。
二つのチームは、新校舎内部で合流し、敵本陣の生徒会室を前に、ライザー・フェニックスの残った眷属と相対している。
空から響いてくる爆音は、先ほど鳴りやんだ。
『ライザー・フェニックス様の「女王」1名、リタイア。リアス・グレモリー様の「女王」1名、リタイア』
「頼みの女王も落ちた――相討ちのようだがね。さて、こちらの勝利は、明らかだ。降参したらどうだい?」
木場祐斗が、敵を挑発する。
相手は、『兵士』2名、『騎士』1名、『僧侶』1名の残り4人。
実力、人数ともに劣勢だと分かっている彼女たちは、一切の油断なく構えている。
圧倒的優位にも関わらず、彼女たちと対峙している理由は――『王』たるライザー・フェニックスの動向がわからないためだ。
先ほど、『女王』ユールベーナが落ちたにも関わらず、動揺が微塵もみられない。
迂闊に仕掛ければ、逆撃を喰う可能性もある。
こちらの優位は、揺らがないのだから、慎重に行くべきだ。
(――とでも、思っているのだろうね)
(マスター、サーチャーから反応がありました。ライザー・フェニックスがこちらの本陣に向かってきています)
(やはりそうきたか。原作にもあった展開だが、いまの状況では、『王』を狙って一発逆転するしか手がないからね)
『女王』同士の空中戦が相討ちに終わったことで、リインフォースは、本陣に戻ってきている。
兵藤一誠は、あまりに味方が圧倒的すぎて、「嬉しいけれど、修行した成果の見せ場がないのはなぁ」と、複雑そうな表情をしていた。
リアス・グレモリーも、この結果は予想外らしい。
ゲーム開始時の緊迫は薄れ、笑みを浮かべている――そのときだった。
ズドンッ、ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ
何かがぶち当たった音がすると、全てのガラスが飛び散った。
入って来たのは、全身火だるまの男。
予想外の展開に一瞬、呆気にとられる――知っていた2名を除いて。
ボクは、リインフォースに目をやると、リアス・グレモリーたち三人を庇った。
部室を炎が渦巻き、空気が乾いていく。
「マズイッ。屋上に急ぐぞ!!」
(部屋の中に居たら肺が焼けてしまう。悪ければ、酸欠になりかねん)
(騎士甲冑を展開している我々は、平気です。が、生身では辛いでしょう)
◇
――――屋上に倒れる今代の赤龍帝『兵藤一誠』
屋上に現れたライザー・フェニックスは、リアス・グレモリーに一騎打ちを申し込んだ。
『王』が『王』を打ちとる。まさに起死回生の一手だろう――相手が了承すればだが。
(何を寝ぼけたことを)
と、高をくくっていたら、彼女は、申し出を受けてしまい――原作でもそうだったような気がする――あわてて、詰め寄る。
ライザー・フェニックスも、罠が成功した、とでもいうように嘲笑を浮かべている。
しかし、彼女は、こっそりと理由を説明してくれた。
不死性をもち、炎で広範囲を攻撃できるライザー・フェニックスとは、集団で戦うと却って損害が大きい――と、彼女は考えたらしい。
たしかに、有効な攻略法がない以上は、精神的な消耗を狙って一対一で、長時間に渡り戦う戦法には、一定の理があるだろう。
生徒会室前の残敵は始末してあり、木場祐斗と塔城子猫たちもこちらに向かいつつある。
もちろん、『王』のリアス・グレモリーの順番は、最後にすると彼女は言っていた。
――総勢11名との一騎打ち
この展開は、予想外だったらしく、ヤツは難色を示したものの――
『じゃあ、皆で袋叩きにしようか』
――というボクの一言で了承した。結果、先陣をきった兵藤一誠は敗れた。
『禁手化』することで、いいところまで行ったが、三分ほどしかこの状態を維持できずに攻めきれなかった。不死性に加えて地力の差があったことも一因だろう。
一騎討ち前の約束通り、兵藤一誠は、リタイアを宣言。
ライザー・フェニックスは、『フェニックスの涙』を邪魔されずに服用した。
『部長……かっこ悪いところをみせてすみませんでした。俺は、もっともっと強くなって見せます。次こそは部長を守れるくらいにッ!!』
去り際の彼の一言に、リアス・グレモリーは、心打たれたらしい。
涙ながらに、彼の名前を呼んでいた。
みているこっちが、むずがゆくなる様な寸劇だった。
若干空気だったライザー・フェニックスに、思わず同情してしまうくらいに。
「次は、お前の番だな、小娘。もう一度、言ってやる。リタイアすれば、『いまここで』苦しい思いをしなくてすむぞ?」
次は、ボクと一騎打ちすることになっている。
消耗させた後の、止め役として期待されていたようだが、一蹴した。
秘策なら用意してある。あとは、実践するのみ。
「どうせ、『あとで』酷い仕打ちを受けるのだろ?それに――焼き鳥に頭を下げるなんて、お断りだよ」
焼き鳥の挑発に、挑発で返す。
激昂するかと思ったが、相手は冷静さを保っている。
これまでの一方的な戦いで、油断という文字は、吹き飛んだのだろう。
(油断を捨てたコイツは、思ったよりも手ごわいのかもな。三流悪役かと思っていたが)
「いくよ、シュベルトクロイツ」
『Jawohl.』
(だが、この勝負。ボクの勝ちだ)
――見せてやろう。この日のために構成したボクのオリジナル魔法、その名も、
「闇の魔法(マギア・エレベア)!!術式兵装『氷の女王』!」
◆
ライザー・フェニックスは目を疑った。
リアス・グレモリーの一騎打ちを申し込むも、グレモリー側全員との一対一になってしまい、当てが外れた。
状況は悪いが、要注意人物だった赤龍帝は下した。
次の相手は、自分を愚弄した八神はやて――謎の神器『夜天の書』の持ち主である。
彼女に関して知っていることは少ない。
調べてはみたが、サーゼクス・ルシファー直々のとりなしにより、グレモリー家の客人となっていることくらいしかわからなかった。
このレーティングゲームに見慣れない面々が参加してきたが、彼らは『夜天の書』に属するプログラムだといわれた。
彼らの実力は、ライザーの眷属との戦いで思い知らされた。
己の不死性には絶対の自信を持っているが、まともに戦えば苦戦は免れないだろう。
主である八神はやても相応の実力者であるとみるべきだ。
油断や慢心を捨て向き合った。その矢先だった――
「闇の魔法(マギア・エレベア)!!術式兵装『氷の女王』!」
――はやての一声とともに、周囲が凍りづけになる。
旧校舎も含めたあたり一面が凍っていた。
「ふん、フェニックスの炎を恐れて氷を使うか。その程度の発想しかないとは、がっかりだよ」
炎に対抗するなら水や氷を使えばいい。
フェニックス家と敵対する者たちの多くが思ったことだ。
そして、彼らは実戦ではなすすべもなく敗れていった。
そもそも、フェニックスの炎はただの炎ではない。
不死身の炎がただの炎であるはずがない。
炎の正体は、魔力である。
高純度の魔力が炎となって噴出しているのだ。
ゆえに、単なる氷結魔法では、フェニックスの障害足りえない。
隠し玉を持っていることを予想していたが、ずいぶんと安直な発想をしたものだ。と、内心あざ笑う。
そんなライザーに対して――
「なあに、お楽しみはこれからだよ。この闇の魔法はね。上級以下の氷属性の魔法を無詠唱で好きなだけ使えるようになるのさ」
――不適な表情を浮かべて言い放つはやて。
その物言いにいいようのない悪寒を感じたが、遅かった。
「エターナルコフィン」
「氷結の息吹(アーテム・デス・アイセス)」
「こおるせかい」
「ダイナストブレス」
「マヒャド」
「ブリザガ」
「アイスニードル」
「れいとうビーム」
「終わりなく白き九天」
「コンゲラティオー」
「ウリィテ・グラディウス」
「氷符『アイシクルフォール』」
「おわるせかい」
雨あられと降り注ぐ氷結魔法。
そのどれもが当たれば即死するほどの高位魔法である。
何度も死と再生を繰り返しながら焦るライザー。
リタイアの危険はなくとも、体力は無限ではない。
このあとも一騎打ちが控えているのに消耗しすぎるわけにはいかない。
攻撃しようにも間断なく魔法をくらってはどうしようもない。
どれだけの時間が経ったのだろうか。
実際は数分かもしれないが、体感としては何時間も過ぎたように感じる。
「どうした、その程度か?」
あれだけ連射していた魔法が降り止むと、内心を押し隠しつつ余裕の態度をみせる。
そんなライザーに対し、はやてはにべもなく応じる。
「ハハ、あはははははははっ!強がりもいいけど、そろそろボクも飽きた」
その言葉にライザーは戦慄を感じた。
攻撃を受けてから、なぜか魔力がどんどんと削られていった。
いまは、ほとんど残っていない。
次の攻撃はまずい、と本能がささやく。
まずい、まずいと思考を繰り返すも、何ら対応策は浮かばない。
「これで終わりだッ、エターナルフォースブリザード!!」
『Eternal Force Blizzard』
一瞬でライザーの周囲の大気ごと氷結した。
「相手は死ぬ」
◇
ヒャッハー、汚物は氷結だー!!
ノリノリで氷結魔法の乱打を浴びせる。
闇の魔法?あぁ、あれはブラフだよ。
「攻撃魔法を身体に取り込む」とかないわー。
何度か試したけど、リアルに頭がパーンしたので、諦めた。
じゃあなんで、闇の魔法(偽)を使ったのかって?
それは、演出のためだ。
上級魔法を無詠唱で連射できては、脅威に思われるだろう。
だから、前提条件をつけたのだ。
それが、闇の魔法(偽)。
ちなみに、闇の魔法とは、ネギまに登場する魔法である。
真祖の吸血鬼エヴァンジェリンがつくった魔法で、彼女が使うと、上級以下の氷結魔法が無詠唱で使い放題になるというチート魔法。
傍らでは、リインフォースが、リアス・グレモリーたちに、闇の魔法(偽)について解説している。
曰く、攻撃魔法をその身に取り込む狂気の魔法。
曰く、一歩間違えれば、人外になる恐れがある。
曰く、一日使えるのは1回。それも短時間のみ。
他にもいろいろと嘘を吹き込む。
いやー、闇の魔法っておそろしいわー(棒)
心配そうにこちらをみているグレモリー眷属に少しだけ罪悪感がわかないでもない。
おそらくこちらをモニターしているだろう悪魔のみなさんも、誤解してくれるはずだ。
まあ、その気になれば広域殲滅魔法をマシンガンのように打ち込めるのだがね。
これが知られたらまず間違いなく排除される。そんなのごめんだ。
知識にある限りの氷結魔法を打ち込む。
いろいろと技名を叫んではいるが、実はすべて同じ魔法だったりする。
じゃあなんで技名を言うのかって?だってかっこいいじゃん、言わせるなよ恥ずかしい。
これは単なる氷結魔法ではない。魔力吸収効果をつけてある。
フェニックス家の復活の力が魔力によるものだというのは調べがついていた。
あとは簡単。魔力をゼロにすれば復活しなくなる。
とはいえ、いきなりゼロにしたら、やはり危険分子として敵視される可能性もある。
だから、こうしてじわじわと追い詰めているのだ。
うん、そろそろ頃合いかな?
ライザー・フェニックスをみやると、魔力が枯渇寸前。
あと一撃で倒せるところまできた。
さあ、ボクの考えた最強の魔法で止めを刺してやろう。
「これで終わりだッ、エターナルフォースブリザード!!」
『Eternal Force Blizzard』
◇
ボクの眼前には、氷漬けになったライザー・フェニックスがいる。
絶えず高温の炎を身にまとうことが可能な、彼は、余裕の表情で技を受けきり――氷の彫像になった。
不死性を持つフェニックス家の彼ならば、いままでと同じようにすぐにでも内側から炎を燃やしでてくるだろう――と誰もが思っていたはずだ。
しかしながら、しばしの時間が経過しても、変化はなし。
いまごろじわじわと魔力を吸収されているだろう。
5分ほど経ってから、光に包まれて消えた。
つまり、保有魔力がゼロになったといことだ。
『ライザー・フェニックス様、リタイアです。よって、リアス・グレモリー様の勝利となります』
ざわめきと、驚きの声が聞こえた。勝利したはずの、リアス・グレモリーでさえ、どこか茫然としている。
「ねえ、はやて。あの最後に放った氷属性の魔法は、一体何なの?」
「ただの氷結魔法さ」
納得のいかない顔をするリアス・グレモリー、企業秘密ってわけね、とつぶやく。
正真正銘、最初から最後まで同じ魔法なのだが。
レーティングゲームをきちんと見ていた上級悪魔ならば、すべて同じ魔法だと看過しているだろう。
「エターナルフォースブリザード……なんて恐ろしい魔法なの」
「人に向けて使うのは、初めてですが、これほどとは。マスターのオリジナル魔法は素晴らしいですね――名前があれですが」
誤解をそのままに、リインフォースが合いの手を入れてくれる。
前世の記憶を頼りに、思いつく限りの技名を叫んでボクは大満足である。
中でも一番好きなのは、最後の魔法である。
『エターナルフォースブリザード――一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる。相手は死ぬ』
かっこいい技名とシンプルな効果。まさしく、最強の魔法だろう。
ただ、技名を叫んだとき、リインフォースが毎回のように微妙な顔をする。
なぜだ。納得できない。こんなに格好いいのに。
◆
「これで終わりだッ、エターナルフォースブリザード!!」
『Eternal Force Blizzard』
はやてが大声で技名を叫ぶと、ライザー・フェニックスが氷漬けになる。
これで止めですね、とリインフォースは考える。
あの技名は勘弁してほしかったが。
きっと自分は微妙な表情をしているだろう。
――八神はやてはネーミングセンスがない。
リインフォースが昔戯れに聞いたことがある。
「もし原作知識がなければ、自分にどのような名前を付けたのか」と。
そのときの答えは、
『やみ子』
だった。
一瞬冗談かと思って主をみやるが、自信満々の顔をしていた。
このときリインフォースは初めて原作知識に感謝した。
今回は図らずも夜天の書の実力を披露する羽目になった。
今後のことを考えると慎重に行動しなければ、と微妙な顔のまま心意気を新たにするリインフォースだった。
後書き
・主人公はネーミングセンスがないです。そのために、最後の一手は、永遠力暴風雪で中二っぽさを演出(暗黒微笑)。
・いろいろと案を出してもらったものの、どれを採用しようか迷いに迷う――結果、全部採用すればいいじゃない!
第24話 リアス・グレモリーの憂鬱
前書き
・第3章開始。この章から原作と徐々にかけ離れていきます。
リアス・グレモリーは、考える。
(先日のレーティングゲームは、私たちの圧勝だった)
レーティングゲームで勝利したことで、ライザーとの婚約は解消された。
グレモリー眷属の活躍も喧伝され、実力を示したリアスにちょっかいをかける悪魔は減るだろう。
自身の眷属たち――彼女は家族のように思っている――を思い出して、笑みがこぼれる。
『騎士』木場祐斗。剣の腕は一流で、既に下級悪魔の域を飛び出ている。シグナムとの密度の高い特訓によって、一段階上の実力をつけたようだ。
『戦車』塔城子猫。無手の格闘を得意とし、ヒットアンドアウェイ戦法でトリッキーな戦いを好む。彼女も、並の下級悪魔が束に掛ろうと負けはしないだろう。
『僧侶』アーシア・アルジェント。戦闘は不得意だが、希少な回復系統の神器『聖女の微笑』を持つ。戦略的な意味は計り知れない。
『女王』姫島朱乃。遠距離タイプで、抜群の攻撃力、せん滅力を誇る腹心。本気を出せば、雷に光の力を乗せて戦える堕天使のハーフ。『爆弾王妃』を相打ちにした実力は本物だ。堕天使の力を嫌悪している点が難点か。
そして――『兵士』兵藤一誠。彼は、二天龍の魂を宿す神器『赤龍帝の籠手』をもち既に禁手化に至る。潜在能力は一番かもしれない。
彼を含め、一人ひとりが高い実力をもつグレモリー眷属の評判は、うなぎのぼりだ。
(いまの状況――破談に持ちこめたのは、部室で啖呵をきってくれた一誠のおかげよね)
ライザーとの一騎打ちでは、準備万端の彼と戦い、善戦して見せた。
禁手化の時間が延びれば、おそらく勝つのは一誠だろう。
不死身を打ち破ることはできずとも、体力勝負になれば、一誠に分がある。
『赤龍帝の籠手』といった特に強力な神器は、神滅具と呼ばれる。
文字通り、神すら殺す性能をもった神器だ。
その使い手を眷属にもつ彼女は、高く評価されている。
「兵藤一誠、か。一騎打ちの姿は、かっこよかったわね」
自然と口がほころぶ。リアスの身を案じ、ライザーに啖呵をきり、正々堂々と戦って見せた。
『赤龍帝の籠手』の性能に甘んじることなく、短期間で禁手化を果たし、見事に扱いこなしている。
敗れたとはいえ、勇ましく戦う姿は、彼女の心を揺さぶっていた。
去り際には『部長を守れるくらい強くなってみせる』と、愛の告白まがいの台詞まで残した。
龍の因果は戦いを呼び寄せるという。そして、女も。
きっと、彼は望み通りハーレムを形成するだろう。赤龍帝にはそれだけの力がある。
(認めましょう。たしかに、私は、一誠に惹かれている)
彼の自宅に突撃して、両親に挨拶するくらいはしただろう――本来なら。
望まぬ婚約は解消された。実力も示した。
だが、現実として、彼女の燃え上がりかけた恋心は、沈静化している。
なぜなら、恋心を塗りつぶすだけの大問題が眼の前にあったからだ。
「『夜天の書』か。はやてとの付き合いも長いのよね。もう、7年は経ったかしら」
リアスとはやては、サーゼクスを通じて早くから出会っていた。
第一印象は、「普通の女の子」だった。
はぐれ悪魔に両親を殺され、たまたま宿していた神器に命を救われた少女。
ちょうど9歳の誕生日だったと聞いて、思わず同情したことを覚えている。
1つ年下の彼女を、リアスは出来る限り気にかけ、仲良くなろうとしていた。
しかし、はやてとの距離はなかなか埋まらず――いまだにどこか壁を感じさせる。
彼女がリアスを嫌悪して避けているわけではない。
いつもクールだが、礼儀正しく接していた。
恩義を感じ、あれこれと協力を申し出てもくれた。
(一見すると深い仲にみえる。でも――)
長いつきあいのリアスだからわかる。
はやては、気さくに付き合っているようで、一線を踏み越えることは決して許さない。
未だ、グレモリー家の「客人」という立場を崩していないことからも、その姿勢は明らかだ。
「今までなら、問題なかったのよね。けれど、レーティングゲームで注目を浴びてしまった。私でさえ、あそこまで強い力を持っているなんて知らなかった」
明確な所属を明らかにしていない強い力を持った存在――脅威を覚えても仕方がない。
仮に、天使や堕天使の陣営に組みすれば、大きな障害となるだろう。
だからこそ、彼女の兄サーゼクスは、魔王として庇護においたのだから。
決して善意のみからではない――悪意のみでもないが。
「実際、不死身であるはずのライザー・フェニックスを打ち破った」
彼女のオリジナル魔法だという闇の魔法。
攻撃魔法をその身に取り込むという狂気の魔法だが、その分性能も段違いだ。
レーティングゲームで見せた氷結魔法の連打は、上級悪魔でさえ再現不可能だろう。
ライザーは、以前とは見る影もなく意気消沈していると聞く。
不死性ゆえに、どのような攻撃をくらっても平然としていられた。
本物の「死」を体験したことで、自信を喪失したのだろう。
絶対の自信をもっていた「不死性」が破られたのだから、無理もない。
(いい薬になったでしょうね。慢心さえ捨てれば、彼の実力は本物よ)
観戦に来ていた他の上級悪魔たちも、多かれ少なかれ驚愕していた。
予想以上の力をもった『夜天の書』の存在が、公に曝されたのだ。
神滅具にも、匹敵する可能性のある新たな神器の登場。
その所持者である「八神はやて」を巡って議論は紛糾した。
『なぜ、彼女の力を隠していたのか』
争点は、その一点に尽きる。
矛先は、決定を下したサーゼクスに向けられた。
サーゼクスは――
『八神はやては、グレモリー家の客人として、長い間協力関係にある。他勢力への情報の漏えいを恐れて公にはしていなかった』
――と答え、弁護した。
結局は、客人という立場ながらも、取り込みに成功している(ようにみえる)ことで、リアスに任せることになった。
一番親しい仲にあるリアスが選ばれたのは、自然な流れと言える。
彼女が責任をもって監視・保護することで、とりあえずは様子見することになった――問題を保留にしたともいえよう。
――――謎の神器『夜天の書』
本型の神器で、持ち主に強大な魔法の力を与えるという。
その力の一端は、合宿とレーティングゲームでみせられた。
精神世界での修行を可能とする『幻想世界』や『闇の魔法(マギア・エレベア)』など、様々な魔法。
合宿で一度だけ放たれた『デアボリック・エミッション』という名の魔法もすごかった。
彼女を中心にすべてを破壊する黒球が広がる様は、恐怖とともに思いだせる。
本来はこういった広域殲滅魔法を得意としている、とは彼女の談である。
魔法の力だけでも驚異的だが、それだけではない。
夜天の書にはとんでもないおまけがある――それは、5人の騎士。
リインフォース、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル。
リインフォースは、はやて同様後方からの援護を得意としており、はやての補佐としての役割をもつ。彼女から戦術面で多くのことを教わった。
シグナムは、悠斗を超える一級の剣士。
ヴィータは、小柄な身体に似合わず子猫以上のパワーをもつ。
シャマルは、アーシアのように治癒を得意とする。
ザフィーラは、リアスの消滅の魔力すら防いで見せた。
一人一人が超一級の実力者ぞろいの八神家のメンバーの行動は、否が応でも注目を浴びざるを得ないだろう。
今後この神器を巡って様々な出来事が起こるだろう。
それは福音であるかもしれないし、災禍であるかもしれない。
そもそもこれだけ強力な神器が、いままで見つからなかった方がおかしいのだ。
リアスなどは、神が新しく作った神器なのでは?と単純に思っていたが、兄のサーゼクスはその考えを一蹴した。
新しい神器ではありえない、と。
その態度に違和感を覚えて、理由を追及したものの、歯切れ悪くいなされただけだった。
懸念はある。
いままで、はやてたちは、つかず離れずの距離を保っていた。
そんな彼女たちが、積極的にリアスに協力――――介入している。
彼女たち八神家の面々が、何を考えて方針を変えたのか。
『アーハッハハハハハハ!ざまあないな焼き鳥!お前ごときがボクに相対するなんておこがましいんだよ!ククク、アハハハハハハハハッ!!!』
思い出すのはレーティンゲーム最後の光景。
ライザーを打倒したはやては哄笑していた。
勝ったのだから嬉しさを表して当然だが、その姿を見て悪寒を覚えた。
狂ったように笑い声をあげる姿は、普段のクールなはやてとはかけ離れている。
何より異様だったのはその目だ。
光を映さない目にはどす黒い感情が渦巻いていた。
(ライザーのことを嫌悪しているのは、わかるけれど……あそこまで豹変するほどかしら)
普段の凛々しい姿を捨てて、高笑いするはやてに、疑問を覚える。
レーティングゲームの前に、ライザーとはやてが会ったのは、部室での一度きり。
確かに、先に挑発したのはライザーだが、それとてありきたりなものだった。
彼の挑発のせいで、はやてはレーティングゲームに参加することになったが、リアスの目には、その状況さえも、楽しんでいるように見えた。
いや、実際楽しんでいただろう。
強化合宿でもノリノリでグレモリー眷属の訓練に参加していたのだから。
(いずれにせよ。はやてたちとは、今まで以上に親しくしないと駄目ね)
後書き
・狂喜する主人公。主人公的には、わーい勝ったぜ!くらいにしか思っていません。
・ベルカ式が全然活躍していない……だと!?これから活躍します。たぶん。
第25話 ロストメモリー
前書き
・リメイク前との差異が大きくなっていきます。
「おとうさん、僕の家にはなんでおかあさんがいないの?」
ある日、娘が唐突に尋ねてきた。
幼稚園で何か言われたらしい。
片親ということで、娘には何かと不便をかけている。
もしや、母がいないことで、いじめられたのか。と思い、問いただすも、いじめではないようだった。
純粋に疑問に思っただけのようだ。
「……お母さんはね。とても遠いところにいて、私たちを見守ってくれているんだ」
「それって天国?神様のいるところ?」
神と聞いて、思わず渋面をつくってしまう。
男は熱心なクリスチャンだったが、神の存在には含むところがある。
だが、すぐに娘の前だと思い出して、誤魔化すように笑みを浮かべた。
「そう、だね。神様がいるかはわからないけれど。お母さんのためにお祈りすることは、いいことだよ」
「うん、わかった!でも、僕はおかあさんには会えないの?」
母に会いたいと、半べそをかく娘に、困った顔をする父。
幼い娘にとって、母親がいないことは、つらいことだろう。
少女の母は、彼女を産んだ時に亡くなっている。
どうしようか、と思いつつ、心に浮かんだことを話す。
「お父さんといっしょじゃ、寂しいかい?」
「ううん、そんなことないよ!おとうさんのこと大好きだもん!」
娘の素直な言葉に男は破顔する。
さきほどの泣きそうな顔を一変させ、にこにこと笑みを浮かべている娘をみて、安堵する。
安堵すると同時に、母に会わせてやれないことに、心が痛んだ。
男親だけでは、娘の成長に害があるのではないか。
彼が、常々心配していることだった。
幸い、娘は真っ直ぐに成長してくれた。
「よし。それじゃあ、今日はお母さんのことを話してやろうか」
母を持たない娘に、少しでも母のことを感じてもらおう。
そう思って、男は、昔話を始めたのだった。
「お母さんはね。怪我をした人や病気の人をいっぱい救ってきたんだ。お父さんが大怪我をしたとき、治療してくれたのも、お母さんだったんだ」
「わあ、おかあさんは、お医者さんだったの?」
病気や怪我を治す、と聞いて少女が、最初に思い浮かんだのは、医者だった。
そうだろうな、と思い苦笑する。
「医者とはちょっと違うな。お母さんはね、奇跡の力を持っていたんだ。その力をつかって、大勢の人を救ったんだよ」
「奇跡?」
奇跡、と言われて疑問符を浮かべる少女をみて、どう説明しようかと悩む。
誤魔化すことも考えたが、大切な母との思い出だ。
できる限り嘘を交えることはしたくなかった。
だから、脚色せずに話した。
「そう、この世界には奇跡があるんだ。奇跡を起こす力のことを『神器』と呼ぶ。お母さんも神器を宿していた」
懐かしそうに語る父。
神器?と首をかしげる娘に、すごい力のことだ、と噛み砕いて説明する。
おかあさんはすごい人だったんだね、と目をキラキラさせる姿をみて、心が温かくなる。
「お母さんが宿していたのは、癒しの神器。その名前は――――」
◇
ボク、八神はやては、困惑していた。
「あ、はやてちゃんじゃない!」
振り返ると、そこにいるのは栗毛の少女――紫藤イリナが、気さくに声をかけてくる。
なれなれしい姿に、一瞬腹がたちそうになるが、それよりも疑問符が浮かぶ。
声をかける様子は、明らかに知人にむけるそれだ。
海外生活による欧米流の親しみを込めた挨拶かと思ったが、それも違うようだ。
「あー。えっと。どこかであったかな?」
(どういうことだ?なぜボクを知っている。記憶にないだけで、どこかで会っているのか?)
思わず間抜けな受け答えをしてしまう。
紫藤イリナ――原作ヒロインの一人で、天使陣営に所属している信心深い(深すぎて若干盲目気味な)少女である。
隣の蒼髪に緑のメッシュをいれた少女――ゼノヴィアも同様である。
白いローブの正装を着ていることからも、分かるように、教会の任務でこの地へきている。
彼女たちに与えられた任務は、聖剣エクスカリバーの奪還。
(たしか、紫藤イリナが人工の聖剣使いで、ゼノヴィアは天然の使い手だったか。ゼノヴィアはデュランダルという高性能の剣の使い手でもあったはず)
聖剣エクスカリバー。ブリテンのかの有名なアーサー王が所持したという伝説の剣。
7本に別れ、教会に保管されていた――以前までは。
そのうち3本が、堕天使陣営に盗まれ、この地に持ち込まれているらしい。
そこで、教会から派遣されてきた追跡者が、紫藤イリナとゼノヴィアの二人だ。
彼女たちは、分かたれた聖剣のうち一本ずつ所持・使用可能な実力者である。
(聖剣エクスカリバー、か。紫藤イリナとゼノヴィアの剣からは、以前、強い力を感じられた。7分割されてさえ、あれだけの力。時空管理局なら、喜んでロストロギア認定しそうだな)
一応、悪魔陣営の庇護下にある以上、天使陣営に所属する彼女たちとは、接触を避けてきた。
情報は、リアス・グレモリーたちやサーチャーから、知ってはいた。
が、直接会うのは今回が「はじめて」だった。
しかしながら、なぜ、紫藤イリナは、自分に親しげに声をかけるだろうか。
たしか、彼女は、兵藤一誠の幼馴染だったはずだ。
ボクとの関連性はない。
「ええー!?久しぶりにあった幼名馴染みなのに、酷いじゃない。紫藤イリナ、よ。教会のミサでよく一緒になったじゃない」
教会のミサ……ボクはそんなものに出た覚えはない。
いったい何を言っているんだろう。
必死になって過去を思い出そうとして、マルチタスクをフル活用する。
やや時間が経ち、そういえば、ボクの父は、クリスチャンだったことを思い出す。
なぜ忘れていたのだろう。
思い返してみれば、洗礼こそ受けてはいないものの、父に連れだってよく日曜のミサに出席していた――ような気がする。
父のこと――亡くなったお父さんのことを思い出そうとすると、いまだに胸が痛む。
苦しくて苦しくてどうしようもないのだ。
湧き上がる負の感情を必死に抑えながら、過去を振り返る。
「……覚えていなくて、すまないね。紫藤さん」
「幼稚園のころだしね。忘れていても仕方ない、か。あらためまして、紫藤イリナです。よろしくね」
「こちらこそ、よろしく。八神はやて、だ。神器の保有者として、いまは、グレモリー家の庇護下にある」
悪魔の庇護下にあると聞いて、眉間にしわを寄せる紫藤イリナ。
「あれ?おじさまは、どうしたの?」
「ああ。いまから説明するよ――」
ズキンと痛む心を落ち着かせようとしながら、父の最期を語る。
語りながら、連鎖的に昔のことが思い浮かぶ
はぐれ悪魔に両親が殺されてからの経緯を説明し終えると、彼女は憤慨した様子だった。
『悪魔ゆるすまじ』と、表情にありありと書かれていて、苦笑してしまう。
「ねえねえ。なら、わたしたち――天使陣営に入らない?強力な神器を保有しているなら、優遇されると思うわよ」
「いや、今の生活が気にいっている。父の思い出があるこの町を離れたくないしね」
「そっか。それなら、仕方ないわね。気が変わったらいつでもいってちょうだい」
天使、ね。ボクは神も魔王も、もはや存在しないことを知っている。
現在の魔王サーゼクス・ルシファーたちも、悪魔側の代表を務めているに過ぎない。
神の不在――これも、原作知識によるものだ。
居もしない神に祈る気にはならない。
――――いや、むしろ神が、存在しているからこそ、敬う気にはなれない
神も天使も存在しているにもかかわらず、世界から悲劇はなくならない。
現に、ボクの父を神は助けてくれなかった。
こじつけかもしれない。
けれど、彼女がいう「神」とは、数ある神話勢力で最大の力をもつ「聖書の神」のことだ。
最大勢力のトップというだけで、数ある神の一柱――いや、一人に過ぎない。
唯一神などと自称しているが、方便にすぎない。
ボクは知っている。
眼の前の少女たち――紫藤イリナとゼノヴィアが神の不在を知り、衝撃を受けることを。
たったそれだけのことで、信仰心が揺らぐことを。
ボクからすれば、存在する神に祈るほうがおかしいというのに。
ちなみに、ゼノヴィアは、紫藤イリナの隣で沈黙を保っている。
――――人間だけが神をもつ
神とは超越者であり、人の理解の及ばぬ存在であるべきだ。
断じて、一派閥の領袖ではない。
この世界では、ボクの考えこそ異端なのかもしれない。
だが、違和感がぬぐえないのは、やはりボクが前世の知識を持つからだろうか。
まあ神学論など学者に任せればいいことだ。
信仰は一人一人異なるのだから、ボクがどうこういうべきではないだろう。
それに――いままさに由々しき問題が発生している。
(ボクは、なぜ紫藤イリナを知らなかった?いくらなんでも覚えていないとは、不自然だ)
彼女によれば、ボクは日曜日を含め、週に1、2度は必ず会う仲だったそうだ。
ボクとの色々な昔話を楽しそうに語ってくれた。
あれこれと考えを巡らす。
クリスチャンだった父は信心深かった。
たしかに、同じ信徒ということで、紫藤家とはそこそこ交流があったようだ。
勝気性格な性格の紫藤イリナに引っ張られながら、遊んだものだろう。
マルチタスクをフルに活用して――ふと気づく。
(昔の記憶がうまく思い出せない……はっきりと思い出せるのは9歳の「あの日」まで)
事件のトラウマから忘れていたのだろうか。
いままで気づかなかったのも、そのトラウマのせいだろうか。
気づいたいまでも、漠然とした記憶しか思い出せない。
全く覚えていないわけではない。
しかし、具体的な思い出になると途端に思い出せなくなる。
父がクリスチャンだったことも、紫藤イリナに問われて、なんとなく思い出したに過ぎない。
「あの日」――父が死んだ9歳の誕生日を境に、記憶がおぼろげになっている。
いや、こうやって思い出そうと思えば思い出すことはできる。
昔の記憶だ、忘れていたとしても仕方ない。
でも、記憶の中の自分を、ボクだと認識できないのだ。
他人の映画を見せられているような感覚に陥る。
これではまるで――――
――――まるで、ボクが9歳の誕生日以前に存在していないかのようだった。
◆
哄笑が鳴り響く。
「そうか、そうだった。ボクは―――――」
嘲笑が場を満たす。
「ほら、助けてやったんだ。ついでに、エクスカリバー2本分の欠片を前払いしよう」
失笑が漏れ出でる。
「お前は、悪魔陣営ではなかったのか?なぜ私に協力する」
微笑が相手を魅了する。
「あなたに聞きたいことがあるのだよ、『コカビエル』さん」
苦笑が噴き出す。
「取引に応じよう――『八神はやて』」
最後に微笑むのは、神か悪魔かそれとも――――
後書き
・癒しの神器。その名前は、ご想像の通りのアレです。なつかしいのもそのせい。
・だんだんHAYATE化していきます。シリアス突入。結末はリメイク前と違います。
第26話 誇り高き狼
前書き
・プロットを見て「これ、ハッピーエンドじゃなくね?」と思い組みなおしていました。ただ、最終的にはハッピーエンドですが、途中で相当シリアスになりそうです。
・前作からかけ離れていく予定でしたが、しばらく踏襲する形になるかもしれません。
「本当に助かったわ。持つべきものは良き隣人、良き幼馴染ね」
「感謝する。もはや、物乞いをするしかないと思っていたのだ」
目の前には、白いローブを着た教会関係者と一目でわかる少女二人。
ボクたちは、現在、洒落たイタリアンレストラン――少し前、クラスメイトに教えてもらってから、行きつけにしている店だ――にいる。
既に、食事を終えて、ゆっくりとコーヒーを楽しんでいる。
街角で、紫藤イリナに声をかけられ、幼馴染だという衝撃の事実を告げられた。
その後、しばらく会話が続きそうだったので、別れようとしたところで――
『私たちに食事を恵んでもらえませんか?』
――と、言われた。なんとなく、断るのも気が引けたので、今に至る。
へんてこな絵を買わされて、有り金をはたいてしまったのだとか。
(原作では、文無しになって物乞いをしていたところを、兵藤一誠たちが発見。ファミレスで会話することになったのだっけ)
ファミレスの会話で、兵藤一誠が、聖剣エクスカリバーの破壊を共同で行うことを提案。
食事代を盾に、共闘関係を結ぶ――のが本来の歴史だったはずだ。
ただし、既に原作の流れは、破たんしている。なぜならば――
「この地の悪魔――リアス・グレモリーとソーナ・シトリーとは、協定を結んでいるんだろう?しかも、兵藤くんは、紫藤さんの幼馴染では?そちらを頼れば良かったと思うのだが」
――――そう。悪魔陣営と天使陣営は、聖剣エクスカリバーの破壊で手を結んでいる。
かの聖剣が奪われたとの報を受けてから、木場祐斗の様子がおかしくなった。
彼は、戸惑う兵藤一誠やアーシア・アルジェントに説明した。
聖剣の担い手を人工的に作り出そうとして、非道な実験を受けた過去があることを。
その実験で、同胞たちが死に絶えたことを。
だからこそ、何としても聖剣を破壊したいのだと、胸の内を述べていた。
「イッセーくんは、ねえ。私もそれを考えたんだけど――」
「悪魔に頼るなど論外だ。しかも、あの木場祐斗とかいう奴と仲間ならば、なおさらだ」
紫藤イリナが、苦笑しつつ答えようとして、ゼノヴィアに遮られる。
ゼノヴィアは、木場祐斗と勝負し――敗北した。
彼は、どうしても、自身を苦しめ、そして同胞を死に追いやった聖剣を破壊したかった。
だからこそ、聖剣が盗まれたと聞いた日から、一人焦り追い込まれる――はずだった。
しかし、剣の師を務めるシグナムが、そんな甘ったれた根性を許すはずがない。
『おのれの意思を貫きとおしたいのなら、力をつけろ。力なき意思など、無力だ』
と、言って、徹底的にしごいた。
彼の復讐心が貪欲なまでの力への渇望へと前向きに吐きだされることで、木場祐斗自身も、理性を保つことに成功したようだ。
おかげで、原作よりも数段上の実力をつけた木場祐斗は、ゼノヴィアに勝利したのだ。
(本来の歴史なら、木場祐斗は、敗れて暴走する定めだった。原作との乖離を一度、整理する必要がありそうだ)
オカルト研究部の部室に挨拶にきた二人は、任務の説明と同時に、不干渉を要求した。
それだけなら、よかった。
紫藤イリナとゼノヴィアは、アーシア・アルジェントの話を知っており、『悪魔のような聖女は、とうとう悪魔になったのか』などと侮辱した。
「ゼノヴィアも落ち着きなさい。私たちの非礼が発端だったのは事実よ。それに、彼らとの協力は、本部からも許可を受けているわ」
「わかっている。わかっているが――あいつは、『わたしたちの聖剣を破壊した』のだぞ!?」
グレモリー眷属は、怒りをあらわにし、険悪な雰囲気になったところで、『相応しい実力があるのか見せてみろ』と、たまたま同席していたシグナムが挑発。
運動場で、戦闘が行われ――目出度く、木場祐斗が勝利した。
ボクは、面倒事を避けるため、その場にいなかった。
そのため、詳しい経緯は、シグナムから聞いている。
しかしながら、自信満々に勝負を挑み、なすすべもなく彼にやられたゼノヴィアは、へそを曲げてしまったらしい。
紫藤イリナも、兵藤一誠と戦い、禁手化すらしていない彼に敗れていた。が、こちらは冷静に受け止めている。
「ゼノヴィアを倒した剣士はすごかったわ。けれど、イッセーくんにまで負けるなんて……」
ここで、重要な差異がある。
兵頭一誠は、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)を開発していない。
なぜなら、十分な実力があるために、開発する必要がなかったからだ。
聖剣の使い手である紫藤イリナに、純粋な実力で上回って見せたのだ。
「ねえ。イッセーくんは、つい最近、神器に目覚めたばかりって本当なの?」
「本当さ。彼は、堕天使に殺されかけて、神器に目覚めたと同時に、転生悪魔になったそうだ」
本来の歴史ならば、ライザー・フェニックスに敗れ、彼は結婚式に乱入していた。
不利な状況で、彼は腕一本を犠牲にして、「はじめて」禁手化に成功する。
結果的に、花嫁泥棒に成功し、リアス・グレモリーとの仲が深まる――はずだった。
ところが、彼は、アーシア・アルジェント救出時に禁手化していた。
(リアス・グレモリーは、もっと彼に積極的にモーションをかけると思っていたのだが。 いや、お互い意識しているのは、確かだ。と、なるとボクたちの介入の結果だろうな)
「素人が短期間であそこまで、強くなれるというのか?木場とは別の意味で脅威だな。それとも、赤龍帝は、あれが普通なのだろうか」
「うう、ショックだわ。長い間鍛錬を積み上げて、聖剣に選ばれたのに」
「彼も努力したからね。正直、ボクも驚いている。戦闘になると、日頃の変態ぶりが、ウソみたいに切り替わるのだからね。戦闘モードの彼は、もはや別人といっていいだろう」
アーシア救出作戦で、ドライグと対話し、力を引き出して見せた。
あそこが、兵頭一誠の分岐点だったのだと、今ならわかる。
(偽物のアーシアが無残に殺された姿。あの光景が、トラウマになったのだろうな。原作の彼と比べれば、信じられないほど真剣に実力を身につけようとしている)
木場祐斗と兵頭一誠との戦いで、彼らの力量を認めた彼女たちは、素直に非礼を詫びた。
だが、戦闘の後が、問題だった。
なんと、木場祐斗は、敗北した彼女たちに近寄り、聖剣をへし折ったのだから。
おかげで、鉄くずになった聖剣は、使用不可能な状態になっている。
(使い手として授かった聖剣を破壊された――たしかに、へそを曲げても仕方ないか)
当然、大問題になった。
上の方が協議したうえで、奪われた聖剣3本を取り返すことを条件に、互いが協力することになった。
破片さえあればよいらしく、聖剣の破壊自体はあまり問題にならなかったらしい。
『おまえのせいで、派遣した聖剣使いが使い物にならなくなった。だから、奪われた3本を取り戻せ』
非常に単純な取引である。
たとえ、2本の聖剣が破壊されようと、残りの3本の聖剣を取り逃がす方が、よほど問題だったようだ。
2本の聖剣を破壊し、さらにあと3本の破壊許可を得た木場祐斗は、張り切るどころか、冷静だった。
おのれの実力に自信をもてたことで、却って冷静になれたのだろう。
慢心はシグナムによって、捨てさせられた――鍛練でボコボコにするという形でだが。
(いずれにせよ、主犯は、堕天使陣営の幹部コカビエル、か。聖書にも記されるほどの強力な敵。戦力調査にはもってこいの相手だ――リアス・グレモリーには悪いが、獲物はとらせてもらうよ)
――――このときボクは、コカビエルで新技を試す予定でうきうきしていた。
◆
「あ、ザッフィーだ!」
少女が笑顔を浮かべながら、さわりに来る。
いま、シグナムと散歩している。
大型犬扱いの私は、たいてい狼形態――主曰くわんこモード――でいることが多い。
主が狼の姿を気に入っているのもあるが、女所帯に男が一人紛れ込むことを防ぐ意味もある。
犬を飼っているのに散歩をさせないのは奇妙に思われるだろうから、こうして定期的に外出しているのだ。
「もふもふー」
乱暴に撫でられる。
普通の犬なら嫌がるところだろうが、普通の犬ではない私は、無言でされるままにする。
その姿に笑顔を浮かべながらみやる少女の母親とシグナムが世間話をしている。
昔の私たちでは考えられなかった、穏やかな光景である。
気性の大人しい――理性をもっているのだから当然だが――私は、ご近所の評判がいい。
こうして散歩しているといろいろな人に絡まれるのが常だった。
「ザフィーラちゃんごめんね。うちの子はザフィーラちゃんのこと大好きみたいで」
少女の母親がすまなそうに言ってくる。
気にすることはない、としっぽを振って返事をする。
シグナムも、ザフィーラは嫌がっていませんよ、と口に出して言う。
「本当にザフィーラちゃんは大人しいわね。うちはマンションでペット禁止だから、羨ましいわ」
このように褒められることも多い。
ただの犬ではなく守護獣なのだから、当然の評価とはいえ、褒められて悪い気はしなかった。
私はこの穏やかな日常が好きだった。
散歩をして近所の人々と触れ合い、家に帰れば主が料理を準備して待っている。
戦ってばかりの血なまぐさい日々を思い出す。
主のために戦うことを使命とする守護騎士として、戦いが嫌いなわけではない。
だだ、温かいわが家が、これほどまでに素晴らしいとは知らなかった。
この素晴らしい生活を与えてくれた心優しい主を思い出す。
親を殺され涙していた姿。
私たちの出現に戸惑いつつも、毅然とした態度で魔王に立ち向かう姿。
何よりも「家族」を大事にし、小さなことでも一喜一憂する姿。
私の――私たちの思い出にはいつも主はやての姿があった。
気高く誰よりも強い光を放つ少女、八神はやて。
彼女を守ることこそが、私の使命だと疑いなく思っていた。
ただ、さきほどから妙に胸騒ぎがしていた。
野生のカンとでもいうのだろうか。
(シグナム、今日はもう帰るぞ)
(ザフィーラ?いつもよりも大分早いがいいのか?)
(嫌な予感がする、いまは主の側にいたい)
主のことを口に出すと真剣な表情でシグナムがわかった、とうなずく。
「ザッフィーばいばーい!」
手を振る女の子にしっぽを揺らして返事をしながら、家路をいそぐのだった。
――主はやては必ず守ってみせる。盾の守護獣……いや、八神家の自宅警備員の名に懸けて
後書き
・ザッフィー視点は何気に初めてのはず。女所帯に男一人は肩身が狭いと思うのですよ。
第27話 必殺料理人
前書き
・タイトルがネタバレ
「――丈夫ですか!マスターどうかされましたか!?」
リインフォースの前には、顔面を蒼白にした主――八神はやての姿があった。
ふらりとリビングに現れると、ソファーに座り、ぼおっと、宙をみつめている。
先ほどから、リインフォーフォースの必死な呼びかけにも反応を示さない。
肩を揺さぶることで、ようやくこちらに気付いたかのように、顔を向ける。
「ああ、大丈夫。大丈夫だ。ボクは、大丈夫だから。少し、休ませてくれないか。今日は疲れた」
「どこが、大丈夫なものですか。明らかにお加減が悪いようですね――もしかして、紫藤イリナたちとの間に何かありましたか?」
紫藤イリナとゼノヴィアと昼食を共にした――代金は、すべてはやてが支払った――後、彼女は帰宅してきた。
このときリインフォースは、彼女に会い、軽く情報交換をしている。
(帰宅したときは、特におかしな様子はみられなかったはず――どういうことだ?)
突然の出来事に混乱しながらも、リインフォースは、主の反応を待つ。
しばらく沈黙したあと、はやては、のろのろと言葉をつむぐ。
「――――彼女たちと直接なにかあったわけではないよ。ただ、思い当たる節があってね。念のために調べてみたら、面白いことがわかった」
「面白いこと、ですか?」
「あとで、話す。とても大切なことだから、皆の前で話そうと思う。ただ、いまだ混乱していてね。説明する前に、内容を整理しておきたい」
「わかりました。外出中の守護騎士たちを直ちに呼び戻します」
「ああ、頼んだよ――悪いは、今日の夕食はリインフォースがつくってくれないか?」
「ええ、かまいません」
「ありがとう。たぶん、長くなるし、要領を得ない点も多いと思う。だから、食事のあとで、詳しく話そう」
一通り言い終えると、はやては、二階の自室へよろよろと向かっていった。
不安そうに見送るリインフォースに気付いた様子もない。
いや、たとえ気づいていたところで、取り繕う余裕はなかっただろう。
彼女が、ここまで憔悴した姿は、長く傍にいたリインフォースでさえ、初めてみる。
心ここにあらずといった主を心配しつつも、直ぐに守護騎士たち――ヴォルケンリッターに連絡をとる。
彼女の必死な様子に、ヴォルケンリッターの4人は、かつてないほど動揺した。
ヴィータなど、露見することを承知で、転移魔法をつかって帰ろうとしていたほどだ。
勇み足になる彼女たちをリインフォースは、何とかなだめようとする。
努力の結果、事態を外部に漏らさぬよう、何食わぬ顔での帰宅を促すことに成功した。
ヴォルケンリッターが、狼狽したのは、冷静さを欠いた状態で念話を繋いでしまった彼女にも非はある。
もう間もなく家族全員が集合することだろう。
「マスターの身にいったい何があったのですか。二階で何かしていたようですが。あのような状態にまで、マスターを追い詰めるほどの何かがあったのでしょうか」
あれこれとつぶやきながら、考えても、何も思い当たらない。
この家は、はやてと初めてあったときから、ずっと住み続けてきたのだ。
いまさら何があるというのだろうか。秘密などどこにも――あった。
(――もしかして、あそこだろうか。マスターの両親が殺された寝室なら、あるいは……)
はぐれ悪魔が押し入ったあの日――そして、夜天の書の騎士たちが、主と出会った日。
父とともに、はやては、寝室のベッドで寝ていた。
事件の後始末がひと段落ついたあとになっても、彼女は、寝室を使おうとしなかった。
使おうとしないにも関わらず、彼女は毎日のように、忘れずに掃除をしている。
たとえ、家族でも、決して入ることを許さない。
今に至るまで、リインフォースたちは一度も入室したことはなかった。
当然、部屋の中の様子を知る由もない。
(たしかあの部屋は、正確には寝室も兼ねた書斎だったはず。だとすれば、過去に関することで、何かをみつけたと考えるべきだろうな)
ただし、一度も入室したことがないというのは、語弊がある。
主の危機に反応して、はぐれ悪魔から守ったときから、後片付けをするまで。
その間は、彼女たちも寝室に出入りしていた。
あのころ、無言のまま、部屋の中でたたずむ主の姿をよく見かけていた。
ふと思い出すのは――父の遺体を前に、嗚咽していた少女の姿。
忘れることのない最初の出会い。原初の風景。主の大切な人を守れなかった罪の証。
いかに断片的とはいえ前世の記憶とやらを持ちえたとしても、9歳を迎えたばかりの少女には、あまりにも酷な試練。
(そうだった。あのときもマスターは顔を蒼白にしながらも、気丈に振る舞っていた)
虫食いだらけの前世の記憶。転生。魂の性別。異世界。復元された夜天の書。原作知識。膨大な魔力。原作と異なる水色の魔力光。悪魔に対する異常な敵愾心。
「八神はやて」にまつわる謎は多い。
これまでに明らかになった断片的なキーワードを、結び付ける何かが存在するはずだ。
その何かを見つけたのではないだろうか。
以前から感じていた胸騒ぎが、止まらない。
きっと、この先には、試練が待っている。理由はないが、確信がある。
(マスターがどのような存在で、どのような道を選ぼうとも、私だけは――私たちだけは、付き従います。たとえ、その先に破滅しかなかったとしても)
本当なら諌めるべきだろう。だが、彼女は自らの主の頑固さを知っている。
止めようものなら、一人だけで先へ進むだろう。
いや、悪ければ、「家族を巻き込みたくない」一心で、一人で突っ走るかもしれない。だから――――
――――この日、八神家の家族全員が、原作を破壊し、独自の道を歩むことを決意した。
◆
――私の趣味は料理だ。
ただし、決して得意ではない。むしろ、苦手分野である。
それでも、四苦八苦して調理するのが好きだった。
特に好きなのは、創作料理。
私のオリジナリティあふれる料理は、他の追随を許さない。と、自負している。
はやてちゃんには、シャマルの創作料理?毒物の間違いじゃない?と、酷い言われようだが。
だが、それでいいのだ。
できないからこそ、チャレンジする気になる。
誰か監督役にいるときは、普通に料理ができる。
レシピ通りに作ることもできる。
でも、レシピ通りに作ったら負けかな、と思っている。
自慢ではないが、私は大抵のことが、そつなくこなせる、
ヴォルケンリッターの参謀として高い知能を誇る私は、常人よりもあらゆる点で優れている。
事実、料理以外の家事――洗濯、掃除などは、得意ではないものの、問題なくこなせる。
にもかかわらず、料理だけはできないのだ。
(はやてちゃんは、一つくらい欠点があった方が、愛嬌があっていい、なんて言ってくれるけどね)
昔冗談で、料理ができないようにプログラムされているのではないか、と言ったことがあるが、冗談では済まされないかもしれない。
実際、シグナム、ヴィータ、ザフィーラはいまだに家事が苦手だ。
私たちヴォルケンリッターは、戦闘用のプログラムである。
そう考えれば、余計なリソースを使わないために、家事の能力は省かれたのかもしれない。
料理以外の家事ができるのは、単に私が一番器用だったからだろう。
それでも、私は料理し続ける。
半ば意地のようなものだ。
不思議なことに、私が作った料理は、私の口には合う。
だからこそ余計に、不味い、と言われても理解できないのだ。
はやてちゃんには、味音痴だの味覚障害だの言われるが、めげずに私は今日も料理をしようと思う。
「えっと、にんじん、じゃがいも、たまねぎ……今日の夕飯はカレーだったわね」
夕飯の買い物を頼まれて、近くのスーパーに来ていた。
私の練習用の素材も買っていいといわれている。
なんだかんだで理解のある優しい主に感謝だ。
――私の役目は参謀だ。
ヴォルケンリッターの参謀として後方で指揮・援護をするのが私の役目だ。
冷徹に状況を見極め、判断する。
戦闘に感情は不要だ。
だから、冷徹に、いっそ冷酷なまでに感情を排して指示を飛ばす。
感情を取り戻したヴォルケンリッターの中で、一番変わったのは私だろう。
なにせ、はやてちゃんに会うまでは、笑みを浮かべることすらなかったのだから。
そのことを話すと、はやてちゃんには、信じられない、といわれる。
たしかに、自分でも変わったと思う。
こうして、平和な昼下がりで買い物をする。
よく笑い、悲しければ涙することもある。
いままでの私では考えられなかったことだ。
――私が好きなものは八神はやてだ。
帰るべき場所がある。その素晴らしさを知らなかった。
それを教えてくれたのは、はやてちゃん。
最初にもった感情は戸惑いだった。
10歳を超えない幼い少女が主だったこともあるが、その少女が、突如現れた魔王とやらに、毅然とした態度で接していた。
しかも、ここが異世界だともいわれた。
思い出すのは原初の言葉。
『ボクと、家族になってくれませんか?』
緊張した面持ちで、はやてちゃんは問いかけてきた。
戸惑いつつも了承した。
あれよあれよという間に、家族として暮らしてくことになった。
彼女のもつ「原作知識」とやらのお蔭で、『夜天の書』が改造され『闇の書』になっていたことを知った。
蒐集して得られる大いなる力とやらは、自滅に過ぎないこと。
なぜか、復元された『夜天の書』になっていること。
このあたりの詳しい説明は、管制人格――はやてちゃんによって、「リインフォース」と名付けられた――もしてくれた。
いままで、私たちヴォルケンリッターの意義は、主を守り、魔力を蒐集し、大いなる力を得ること、だと思っていた。
それを否定されたのだから、戸惑って当然だっただろう。
最初は、蒐集もせず、争いのない平和な日々に慣れなかった。
だが、時間が経つにつれ、戸惑いは感謝に変わっていった。
見ること聞くこと全てが新鮮で、摩耗していた感情を、再び取り戻していくのを感じた。
――私は今の生活が大好きだった。
ときどき、幸せすぎて不安になることがある。
とくに、原作関連が始まってから、不安が大きい。
本当なら原作に関わらない方がよいのだが、住み慣れた家を離れることを、はやてちゃんが嫌がった。
たとえ、父が殺された場所であっても、はやてちゃんにとって、この家こそが帰るべき場所なのだろう。
もちろん、魔王の庇護下にあった方が安全だろう、という打算もあるが。
レジで会計を済ませ、帰路につこうとしたとき。
リインフォースから念話があった。
はやてちゃんの様子がおかしいらしい。波乱の予感がした。
(ねえねえ、リインフォース。私の料理ではやてちゃんを元気づけるなんてどうかしら?)
(冗談はよせ)
冗談ではないのだけれど……。
ちょっぴり傷つきながらも、これからのことについて思いめぐらすのだった。
はやてちゃん。貴女のためなら、何でもします。
――たとえ、今の生活を失ったとしても。
――たとえ、世界の全てを敵に回しても。
後書き
・なのは原作では一緒に暮らして半年に満たないのに、ヴォルケンズの忠誠心はマックスでした。8年近く側にいれば、忠誠心が限界突破しても仕方ないよね、と思います。
・次回で主人公の正体が分かります。
第28話 不都合な真実
前書き
・主人公の両親のお話。
・より詳しい正体については、次の章で解説します。
――――これは、とあるシスターとエクソシストの話である。
シスターは、病魔を癒す神器持ちだった。
彼女は、多くの人々を救い、聖女として敬われていた。
エクソシストは、名うての悪魔払いだった。
彼は、多くの人々を守り、守護者として畏怖されていた。
二人は出会い、やがて恋に落ちる。
しかし、敬虔な信徒である二人は、節度を弁えていた。
恋人ではなく、お互いが尊敬し合う同僚として接するよう心掛けていた。
ある日、天使長が、彼らの勤める教会を訪れた。
シスターは、天使長に問うた。
『神は既にいないのではありませんか』
彼女の質問に驚いた天使長は、根拠を問い返す。
彼女は言い放つ。
いまの貴女の表情が全てを物語っています、と。
次の日、シスターは異端として破門された。
◇
「教会が、天使陣営がやることは昔から変わらない。神器持ちでは、アーシアだけが特別不幸――というわけでもなかったようだね。それに、よほど神の不在を知られたくなかったらしい」
エクソシストは、すぐさま彼女と駆け落ちする。
天使たちの追手を避けるため、堕天使たちに保護を求めた。
堕天使の総督は、優秀な彼らを喜んで歓迎する。
シスターの仕事は変わらない。
病魔に苦しむ人々を癒し続けた。
エクソシストの仕事は変わらない。
悪魔に苦しむ人々を救い続けた。
「まあ、当然か。神の不在が知られれば、信徒たちの動揺は計り知れないだろう。原作の紫藤イリナやゼノヴィアがいい例だ」
時は流れ、二人は娘をもうけた。
シスターは娘を産み、そのまま逝った。
エクソシストは、娘を守ると誓う。
娘の平穏のためにも、隠棲したいと堕天使の総督に願いでた。
狡猾な堕天使の総督は、答える。
優秀な駒を逃すわけにはいかない。
娘が大事ならば、言うことを聞くがいい、と。
「とはいえ、奸智に長けた堕天使の総督に頼ったのが運のつき。当時は小競り合いも頻発していた緊張状態だったそうだからね。戦力は喉から手が得出るほど欲しかっただろうさ」
エクソシストは、働き続ける。
娘の未来を守るために。
月日は流れ、娘は成長する。
「アザゼル総督は、はじめから自由にしてやるつもりなんて、なかったのさ。娘を枷にすれば、彼は従わざるをえないからね。何のことはない。体のいい人質にされただけ」
それは、5歳の誕生日。
娘を青い光が包みこんだ。
そこからわずかに感じる力は、神器とは異なる力。
エクソシストは焦った。
この事実が堕天使の総督にばれれば、娘は連れ去られてしまうだろう。
「彼は、娘とともに静かに暮らしたいだけだったのに、ね」
エクソシストは、苦しむ。
父として、娘の未来を守ってやりたいから。
だから、彼は、は隠れることにした。
「けれども。彼らには、逃亡先に当てがなかった」
天使たちは頼れない。
エクソシストを殺そうとするだろう。
堕天使たちは頼れない。
娘を人質にとるだろう。
悪魔たちは頼れない。
エクソシストは恨みを買いすぎた。
「裏に関わった人間が、表で生活することは難しい。いや、裏の現実を知っているからこそ、娘には日常を与えたかったのだろう」
彼は必死に考える。
天使たちは、二人を追っている。
堕天使たちは、二人を探している――――けれども。
悪魔たちだけが、二人に関心がなかった。
「逃避行の果てに、行きついたのが、駒王町だったわけだ。現魔王の妹が昼を管轄しており、干渉されにくい土地。その妹も幼いせいで、管理体制はずさんだったようだしね」
父と娘は、ある悪魔の領地で暮らし始める。
娘とともに、日常を過ごそうと、決意した。
娘のために、平穏に暮らそうと、決断した。
彼の望みは、小さな幸せ。ただ家族と暮らすこと。
彼の願いは、娘の幸せ。ただ日常と平穏を得ること。
― ―――そんな、どこにでもいる家族の話だった。
◆
――――あたしは、八神はやてを知っている。
「と、いうわけさ。まあ、ありがちな物語だね。最後は、はぐれ悪魔が、『偶然』やってきて殺されたわけだ。『何故か』エクソシストに気づかれることなく、ね」
無表情で、はやては語り続けた。感情の読めない顔をしながら、淡々と続ける。
その痛々しい姿に、あたしは何も言えなかった。八神ヴィータとして一緒に過ごしたあたしでも、初めてみる姿だ。
発端は、紫藤イリナとの出会いらしい。面識のないはずの彼女から、親しげに話しかけられた。しかし、彼女と過ごした記憶はない。
疑問を感じて、過去を振り返ってみれば、あたしたちと会うまえの記憶が酷くあいまいでおぼろげだ。
――――あたしの知る八神はやては、優しく慈愛に溢れていた。
「母は娘を産んで死に、父は、娘をかばって殺された。けれども、一人娘も結局、殺された。物語にあるような、奇跡なんて起こらないさ――通常なら、ね」
不安を感じたはやては、帰宅した後、両親の寝室を兼ねた書斎を調べた。
その部屋は、様々な想いが詰まっており、長らく掃除だけして保存してあった。
手紙やアルバムに書籍と、雑多なものが置いてある。その中に、父の手記を見つけた。
どうやら、日記らしく、ずいぶんと古ぼけていたが、使いこまれていることが見て取れた。
「死を前にした、少女は願った。自分を守り殺された両親に慟哭し。庇われた自分が今まさに死のうとしている事実に絶望し。目の前の異形に激怒した。ありったけの負の念を、憎悪を込めて祈ったんだよ」
無表情ではやては続ける。
「居もしない神様は聞き届けてくれなかったけれど、ね。幸か不幸か。奇跡も魔法もあったんだ」
――――あたしの知る八神はやては、凛々しく毅然と振る舞っていた。
日記には、父と母について、色々なことが書かれていた。
二人が、いつどこで出会い、どうしてここで暮らし、どうやって今まで生活してきたのか。
二人が、何をして、何を思い、何を願ったか。
二人が、どれだけ娘を愛していたか。
「日記に書いてあったよ。5歳のときに『青白い光が娘を包んだ』と。神の祝福だー!と、無邪気に喜んだ様が書かれていた。親ばかだったようだね。けれども、それ以上にアザゼルにバレたとき、アザゼルによって人体実験に晒されるのではないか、と恐怖がつづられていた」
――――あたしの知る八神はやては、家族を愛し守ろうとする強い少女だった。
「奇跡の正体は、青白い光。少女は死亡し、その世界では終わってしまった。さすがに、『消滅の魔力』を受けてしまっては、蘇生できなかったようだね。その一家は、皆殺しになり、それでおしまい。物語にあるような奇跡は起きなかった。だって、彼女は、『魔法の力』も『夜天の書』も『原作知識』も持っていなかったから」
あたしは、はやての両親を知らない。起動したときには、二人は既に殺されていて、主を守ることで精いっぱいだったから。
けれども、父の亡骸にすがり、すすり泣いていた姿から、分からないはずがない。
はやては、間違いなく両親を愛していたし、両親もまた彼女を愛していた。
「だからこそ、『この世界』の自分に願いを託したんだ――世界も、時間も飛び越えて。けれども。悪い奴をやっつけて、ハッピーエンドにはならなかった。だって、願いは歪められてしまったから。そう。それは、願いをかなえるロストロギア――――」
『家族を殺した奴らが憎い』
『仇を討ち、復讐したい』
「この願いには、重大な欠点があった。だって、『憎む対象が居ないと、この願いは成立しない』んだよ。生きている家族の仇討なんてできないだろう? つまり、『家族が殺され』ないと、怨むことも、復讐することもできない。ばかげた話だ。だから、結局、両親はまた助からなかった」
――――あたしの知る八神はやては、泣き虫で傷つきやすい幼子だった。
一緒に暮らしているからわかる。はやては、誰よりも、何よりも家族を大切にしている。
些細なことでも笑い、泣き、喜び、悲しむ。
はやてが居るからこそ、あたしたちは今のような生活を手に入れた。
「『転生か、憑依か、現実か』ってね。いままで疑問に思いつつも、答えはでなかった。やっと解明できて、すっきりした気分だよ。少女の願いが奇跡を起こし、ボクは生まれた。
無尽蔵の魔力と尽きぬ憎悪を糧に、奇跡は起きたんだ。奇跡というよりも、祟りかも、ね。まだ、推測の部分が多いが、おおむね合っていると思う。なにせ『思い出した』からね」
みんなで家族はつくるもの、と彼女はいつも言っている。
けれども、はやての存在が、ずっと家族の中心となり、支えになっていたと思う。
他の皆も同じように思っているだろう。
――――あたしの知る八神はやては、明るく快活な子どもだった。
「ボクは、願いを叶えなければならない。心情的にもそうだし、他に手段がないのも理由だ。なにせ、ボクは『憎悪』から生まれた存在だからね」
はやてがあたしに与えてくれたものは多い。いつだったろうか。なぜ家族をそこまで大事にするのか、と尋ねたことがある。
まだ出会ってから日が浅く、戸惑うことが多かった頃の話だ。
彼女は、不思議そうな顔をしたあとで、にっこりと笑って教えてくれた。
『家族がいればね。嬉しいことがあれば、一緒に喜べる。喜びを分かち合うことで、何倍にも大きくなるんだ。悲しいことがあれば、一緒に悲しめる。悲しみを分け合うことで、何倍にも小さくなるんだ』
彼女は、なおも嬉しそうに言葉を紡ぐ。
『寂しければ、側にいる。辛いことがあれば、頼ることが出来る。困ったことがあれば、相談できる』
そして、最後に苦笑しながら、締めくくる。
『まあ、あくまでボクが理想とする家族を語っただけなのだけれどね。けれども、皆と一緒なら、きっと素敵な家族になれると思うんだ。だから――』
(――いっしょに家族をつくっていこう、ヴィータお姉ちゃん、か。そういえば、このとき初めて姉って呼ばれたんだっけか)
――――あたしの知る八神はやては、大人びているがどこか抜けている妹分だった。
「以上だ。ボクの進むべき道は、初めから決まっていた。初めから負の方向に振りきれていたボクには、選択肢などなかったのさ。気づくのがずいぶんと遅れてしまったけれどね。だから、これから、どうするべきか――――みんなの意見を聞きたい」
はやてと会ってから、もう7年以上経つ。楽しいこと、苦しいこと、嬉しいこと、悲しいこと。
いろいろあったが、全てひっくるめて、とても大切で、素晴らしい思い出だった。
父母の過去と、自らの秘密について、語り終えたはやては、今もなお無表情だ。
けれども、姉貴分の眼はごまかせない。
「それよりも、はやてはどうしたいんだ?自分の答えはもうでている、って顔しているぜ。素直に白状しろよ――――あたしたちは家族だろ?」
驚いた顔をして、こちらを見るはやてを見返して、苦笑してしまう。
なんとなく、はやてのやりたいことは分かる。
そのやりたいことが、いまの日常や平穏を壊す結果になることも。
だが、それがどうしたというのだろう。
「ヴィータの言う通りだ。我々は、主はやてにつき従う騎士だ。しかし、それ以上に家族として大切に思っている」
「水くさいこと言ってはだめよ、はやてちゃん。家族の前ですら話せないなんて。わたしたちは、そんなに頼りないのかしら」
「共に悩み、共に歩む。主よ、われら家族の絆は、それほどまでに脆いとお考えか」
「ええ。マスターも仰っていたではありませんか。『家族の間で隠し事はしないように』と。忘れたとは言わせませんよ」
口ぐちに言葉を投げかける。それは、家族たちの思いの代弁であり。
頼ってくれない悲しみであり。主を想う優しさであり。背中を押そうとする励ましだった。
「え……皆。でもボクは、ボクの願いは。僕が願ったことは――――」
「ほら。まずは、あたしたちに全て話せ。どうするかは、あたしたちが決めることだ。
はやての責任だとか言うなよ?あたしたちの意思を軽んじる発言だぜ?」
――――あたしは、八神はやてのことならなんでも知っていた。
「ありが、とう」
言葉に詰まりながらも、はやては続ける。
「これは『八神はやて』の望んだもの。彼女の願い。ボクの願い。とても痛ましくて、禍々しくて、歪んでしまった願い。とてもとても純粋な悪意――――」
一度言葉を区切り、深呼吸しながら言う。
「きっと、誰もかれもが立ちふさがることになる。みんなも巻き込まれれば、不幸になるかもしれない――いや、きっとなるだろう。明るい未来なんてどこにもない。でも、それでもっ、力を貸してくれますか……?」
幼子のように不安に揺らぐ瞳を向ける少女。
そんな少女に、家族のだれもが力強く賛成した。
張り詰めていた空気を弛緩させ、涙をこぼす妹分を見ながら思う。
はやては、自分たちにとって守るべき主であると同時に、大事な家族だ。
一家の大黒柱である彼女の立場を表現するのは難しい。それは――
主であったり。
娘であったり。
妹であったり。
仲間であったり。
――とても、一言で言い表すことはできないだろう。
けれど、あたしにとって、はやての存在は――
(もしも、あたしに「お母さん」がいるとしたら。はやてみたいな存在をいうんだろうな)
――恥ずかしくてとても人前では言えない、あたしの本音だった。
後書き
・青白い光は、あのロストロギアです。
・物語の転換点となります。
・アザゼルさんは、HAYATE化のために、悪辣で非道な人になりました。ファンの人は、すみません。
第29話 無職の龍神
前書き
遅くなって済みません。完結目指して頑張ります。
第29話 無職の龍神
目の前から発せられる圧倒的な強者の気配。ボクは戦慄していた。
見てくれは改造ゴスロリに身を包んだ少女でしかない。
だが、その外見に惑わされてはいけない。
なぜなら、彼女は――
「――『無限の龍神』オーフィス……!」
『無限の龍神』とは、この世界の頂点に位置する存在である。
そんな存在が突然現れたのだ。
うららかな夕飯前のひとときを過ごしていたボクたちにとって、青天の霹靂だった。
デバイスを持ち、騎士甲冑を展開したボクたちは、戦闘態勢でもって警戒する。
ピリピリとした緊迫が伝わるような空間で、下手人は、悠然としていた。
ボクが八神はやてとして生を受けてから、一番緊張しているかもしれない。
そして、彼女が言葉を紡ぐ。
「我の名前しっている?我、八神はやてに協力してほしい」
「グレートレッドを倒すためかい?」
少しだけ目を見開いて、そう、と肯定するオーフィス。
グレートレッド――オーフィスとともに世界の頂点に立つ生物。
もともと「次元の狭間」にいたオーフィスを追い出して、そこに居座っている。
追い出されたオーフィスは、お家を取り戻そうと、仲間を求めた。
その集まりこそ――禍の団。平たく言ってテロリスト集団である。
オーフィスは、八神家にその禍の団に入ってほしいらしい。
どこから、ボクたちの情報を集めてきたのか。
おそらく、レイザー相手のレーティングゲームでハッスルし過ぎたのが原因だろう。
「仮に、禍の団に入ったとして、キミは何か対価をくれるのかい?」
「……我、何を渡せばいい?」
悩むような気配をみせるオーフィス。
当然だろう。出会ったばかりの相手が何を望むのかなんて、わかるわけがない。
だから、要求を口にする。
「キミの力が欲しい」
◇
夕食なう。
あれからオーフィスとの取引に成功し、禍の団入りを決めた。
晴れてテロリストの仲間入りである。
お仲間との顔合わせは後日。
用が終わるとさっさと退散しようとするオーフィスを引き留め、親睦会を開催する。
親睦会とはいっても、一緒に夕食を囲むだけだが。
そのオーフィスはというと――
「おかわり」
――物凄い勢いで食べていました。
はぐはぐ、と擬音がつきそうなほど、一生懸命食べている。
なんというか、想像していた無限の龍神とは違う。
もっと恐ろしい存在かと思えば、意外と可愛らしい。
張りつめていた守護騎士たちも、毒気を抜かれたのか、いつも通りの風景が戻ってきていた。
いつでもボクを守れるように、キリリとしていたシグナムも、脱力してへにょんとしている。
そんな中で、ひとり非常に嬉しそうな顔をしている存在がいた。
「シャマル、おかわり」
「はい、どうぞ。たくさん食べてね!」
シャマルである。
なんとこのオーフィス、シャマルのポイズン料理をおいしそうに食べるのだ。
初めは、普通にみんなと夕食を食べていた。
が、瞬く間にオーフィスは、夕飯を平らげてしまう。
彼女の分も考慮して一人分余計に作ったというのに、思わぬ健啖家っぷりに驚愕した。
そんなハラペコ大王は、台所の隅にあるものに目を付けた。
気づいたときには、遅かった。
彼女は、シャマルの料理を口にしていたのだ。
「おいしい」
そのオーフィスが放った一言で、わが家は凍り付いたかのように静止した。
信じられない、いや、信じたくない光景に、ボクは思わず尋ねてしまう。
「い、いま、なんと?」
「これ、すごくおいしい」
「まあまあまあ!オーフィスちゃんは、私の料理の素晴らしさが分かるのね!」
心なしか嬉しそうに答えるオーフィス。
シャマルの料理をおいしそうに食べる姿に、さすが無限の龍神は、格が違うと戦慄した。
そんなわけで、シャマルは非常に機嫌がよさそうである。
試しに味見してみたが、別に彼女の料理の腕が上がったわけでもなかった。
そんなわけで、和やかなムードが八神家を包んでいた。
夕食後の一服で、どうしても気になったことを尋ねてみる。
「ところで、オーフィス、キミの服装は誰が決めたの?」
オーフィスの服装を見ながら言う。
可愛らしい少女姿の彼女は、ゴスロリっぽい服装である。
まあ、あくまでも「っぽい」だけで、乳首にバッテンシールとかどうなのよ。
ちなみに、姿かたちも変えることができ、以前は老人の姿だったらしい。
老人よりはかわいい女の子の方が、協力したくなるってものである。
禍の団に人を集めるために、わざとこの破廉恥な少女姿をとっているのでは?と邪推したくなる。男ってちょろいからね。
「我が決めた。我、とても似合っている?」
その返答に顔を見合わせる八神家の面々。
いや、似合っている云々以前に、破廉恥すぎる。
みんなもそう思うよね?
「とてもよくお似合いですよ」
「リインフォース!?」
思わぬ裏切り者が家族にいた。
そういえば、原作のリインフォースの姿を思い出す。
すごくパンクなファッションですね、わかります。
えっちなのはいけないと思います。
◇
「オーフィスは、普段なにしてるんだ?」
すっかり八神家に馴染んだ感のあるオーフィスにあたしは問いかける。
『無限の龍神』なんて大層な名前がついているようにはとても見えない。
それでも、内に秘めた膨大な魔力にあたしは気づいていた。
はやての話す原作の中で、1、2を争う強さを誇るのだから当然ともいえる。
だからこそ、和んでいても隙は見せないようにしていた。
それはほかのメンバーも同様だが、はやてだけは気づいていないようだった。
まあ、あたしたちとはやてでは、くぐった修羅場の数が違うのだから仕方ないだろう。
「我、寝ている」
「ニートじゃねえか」
思わず口に出してしまう。
一瞬むっとしたような顔をしたオーフィスが問い返してくる。
「……そういうヴィータこそ何をしている?」
「う、あ、あたしは、その、近所のじいちゃんたちの相手をだな……」
藪蛇だった。見事なブーメランである。
「我、組織のトップ。部下が働く。だから、我、働かなくていい。我、働いたら負けかなと思っている」
「どう言いつくろうがニートじゃねえか。そうだ、『無職の龍神』なんてどうだ?」
「ヒモのヴィータに言われたくない」
その後言い合いになったところで、はやてが「明日の夕飯抜きにするよ?」といい笑顔で言ってきたために、お開きとなった。
くそ、あたしはニートじゃねえ。ヒモでもねえし。
◆
木場祐斗と兵藤一誠は、3人のエクソシストと戦っていた。
敵は全員が聖剣で武装している。
まず間違いなく教会から奪ったエクスカリバーだろう。
本当は、新たに武装を容易した紫藤イリナとゼノヴィアも一緒に行動するはずだった。
「イリナたちは、聖剣の破片を奪った犯人を捜索中で来られない、か」
目の前のエクソシストをドラゴンショット――射撃魔法のようなものある――で、吹き飛ばしながら愚痴を吐く。
木場祐斗に破壊された2本のエクスカリバーの破片は、イリナとゼノヴィアが厳重に保管しているはずだった。
だが、現実として、破片は奪われ、犯人は明らかになっていない。
堕天使陣営だと、推測しているが。
「僕としても、破片を奪った犯人は警戒すべきだと思う。彼女たちが部屋にいるにも関わらず、破片がなくなっていたんだ。何らかの神器である可能性が高い」
「事前の情報にないってところが、厄介だな」
木場と戦っていた一人は地に伏し、最後の一人もたったいま一誠が殴り飛ばした。
「な、んだと……!?聖剣持ちを3人も相手に回して、なぜ余裕なんだ!?」
それぞれが7分の1の力しかないとはいえ、エクスカリバーは伝説級の聖剣である。
それを、三本も同時に敵にして、普通は圧勝できるはずがない。だが。
「武器が強かろうと、扱う人間がヘボなら脅威じゃない」
「木場の言う通りだな」
シグナムという師を得て、飛躍的な成長を遂げた木場にとって、並の使い手では相手にならない。
一誠にしても、禁手化という切り札を使わずとも、悪魔の力と通常の倍加で、うまく戦う術を心得ていた。
彼らの努力の成果でもあり、シグナムやはやてたちの教え方がうまかった証左でもある。
特に、一誠の成長は目覚ましい。
もはや、原作の彼とは比較することすらおこがましいだろう。
彼の努力もあっただろう。
だが、それ以上に、八神はやての行った秘策の成果でもあった。
『少し前まで素人に過ぎなかった相棒が言うと皮肉にしか聞こえんな』
「まあ。そうかもな。八神さんのアレは、反則だよな」
アレとは、夜天の書に蓄積されたデータを元に、彼女が作ったオリジナル魔法『ファンタズマゴリア』である。
この魔法は、相手を幻想世界に誘い込み、精神のみでの活動を可能にするというものだ。
レーティングゲームの前にも、ずいぶんとお世話になった。
ライザーとの戦いのあとも、一誠たちは、幻想世界内で、八神家の面々とひたすら特訓に明け暮れた。
幻想世界では、どんなに長時間過ごしても、現実世界では、ほんの数瞬にすぎない。
これが、グレモリー眷属が急激に実力を上昇させた秘密だった。
「さて、君たちの聖剣は、破壊させてもらうよ」
木場は、逸る気持ちを抑えて、聖剣へと向かう。
一応、奇襲などを警戒はしておく。
しかし、情報によれば、コカビエルが主犯だったはずだ。
けれども、彼はこの場に現れない。いや、正確には、「現れることができない」
「向こうも部長たちがうまく抑え込んでいるみたいだな。作戦成功」
一誠が安堵の息とともに、声を出す。
リアスたちが、コカビエルを挑発している間に、聖剣を破壊するという作戦だ。
彼女たちは、どうやら足止めに成功したらしい。
別働隊の木場と一誠が、本命の聖剣使いを撃破したというわけだ。
作戦を立案し、実行したリアスの手腕は、褒められてしかるべきだろう。
――と、そのときだった。
突如、何かが飛来し、轟音とともに、一誠たちとエクソシストの間を土煙が舞う。
「何だと!?」
辺りが晴れると、そこには――誰もいなかった。
「くそっ。逃したか。部長たちが失敗した様子はない。と、すると――新手がいるな」
◆
「やあ。聖剣とエクソシストたちを返しに来たよ」
凛とした空気に似合う言葉づかいをした少女が、ふらりと現れて言う。
「お前は……何のつもりだ?」
「なに。お近づきの印に手土産を、と思ってね。」
警戒しつつも見やると、確かに、失ったと思っていたエクスカリバーで間違いない。
「何が目的だ」
「取引をしたいのだよ――――ボクの父と母について教えてほしいんだ」
――――堕天使たちとの宴は、まだ終わらない。
後書き
『無職の龍神』は、Arcadiaチラ裏の「はいすくーるN×N」が元ネタ。中編、完結済み。至高のギャグものだと思っています。未読の方には是非読んでいただきたい一品です。
第30話 コカビエル?強いよね。序盤・中盤・終盤、隙がないと思うよ。
前書き
・コカビエルさんって将棋が強そうな顔をしていると思いませんか?
コカビエルとの戦いは、グレモリー眷属の勝利に終わった。
5本の聖剣を束ねた力を、木場祐斗は、亡き同胞から譲り受けた力――聖魔剣で撥ね退けた。
コカビエルの放ったケルベロスは、リアス・グレモリーが消滅させた。
彼が連れてきていた『三人の上級堕天使』と一進一退の戦闘を繰り広げていた姫島朱乃、塔城子猫も、戦列にリアスが加わることで、辛くも勝利した。
そして、コカビエル自身は、赤龍帝と一騎打ちの末に――敗れた。
史実よりも強化されたコカビエル陣営でも、グレモリー眷属には勝てなかったのだ。
「う、ぐっ……これが、赤龍帝の力、か」
戦いの途中で、コカビエルは、神の不在を明らかにした。
予想外の事実に、紫藤イリナ、アーシア・アルジェント、ゼノヴィアは衝撃を受け、隙をさらしてしまう。
「コカビエル、お前の負けだ。まだ他に何か言い残すことはあるか」
「ふはは。既に神の不在を明かしたあとでは、な。念を入れて、上級堕天使まで連れてきたというのに、敗れるとは……」
その隙をついたコカビエルは、彼女たちを戦闘不能に追いやった。
木場祐斗でさえ、動揺してしまい、攻撃を喰らってしまう。
彼は、すぐに戦闘に復帰したが、戦闘不能になったアーシア・アルジェントたちの防御で手いっぱいになってしまった。
その結果、一誠はコカビエルと一騎打ちせざるを得なかったのだ。
一誠は、満身創痍といっていい様態だったが、一切の油断を許していない。
リアスたちは、臨戦態勢のまま、堕天使の言葉に集中する。
コカビエルは、敗れたいまも、余裕の表情を崩さない。
情報を得るためにも、しばらく喋らせるつもりだった。
声を出さずとも、グレモリー眷属は、意識を同じくしていた。
まさに以心伝心――これこそ、彼女たちの強さの秘訣だろう。
「そう、だな。これから起こる戦争に参加できないのが残念、だ」
「馬鹿な。お前の野望は潰えた。もう戦争は起こらない」
「何をいっているの、コカビエル。貴方を倒し、聖剣は教会の手に戻った。戦争の火種はもうないわ」
何をいまさら、とでも言うようにあきれ顔に指摘するのは、リアス・グレモリーである。
本来なら強敵であるはずの堕天使コカビエルすら、一騎打ちで倒してしまう。
上級堕天使相手にも、勝利できた。
木場祐斗もさらなる力を手に入れた。
とくに、禁手化した兵藤一誠の力は、既に上級悪魔に匹敵、あるいはそれ以上かもしれない。
戦争も未然に防げた。
何もかも順調といっていいはずだ。
「確かに、俺は失敗した。だが、戦争を望むものは大勢いる」
「何をいまさら。天使、堕天使、悪魔を問わず、戦争を望む人はいるでしょうよ」
「ああ。その通りだ、リアス・グレモリー。せいぜい気をつけるがいい」
その後も、言葉を交わすが、結局有用な情報は得られなかった。
「はあ……。一誠、領地を管理するグレモリー家として、正式に処断します」
「わかりました。じゃあな。お前を生かす理由はない。いま止めを――――」
「それは困るな」
一誠がコカビエルに止めを刺そうとした瞬間、白い何かが飛来し堕天使をさらっていった。
何事かと目を向けると、そこには、白い髪をした一誠と同世代に見える少年がいた。
白い鎧をまとった彼からは、尋常ではない力を感じる。
『久しぶりだな、白いの』
『そういうお前こそ、耄碌していないようで何よりだ』
「ドライグ、もしかしてコイツは――」
『相棒の考えで正解だ。当代の白龍皇、やはり惹かれあう運命にあったか』
推測は当たっていたが、ちっとも嬉しくない。
白龍皇からは尋常ではない魔力を感じる。
強い、一目でそう思った。
「やあ。初めまして、今代の赤龍帝。俺の名前は、ヴァーリ・ルシファー。歴代最強の白龍皇だ」
自信満々に言い放つ。
普通なら見栄や虚言の類だと受け取るところだろう。
しかし――
「そんな……。『ルシファー』ですって!?あなたは、ルシファーの血を引くと言うの!?」
リアスが驚愕の声を上げる。
それも当然だろう。
ただでさえ強い魔力をもつルシファーの末裔が、白龍皇になっているのだから。
『ここでやり合うつもりか、白いの』
声に警戒を滲ませながら、ドライグが問う。
一誠もいつでも反応できるように、戦闘態勢を崩さない。
他のグレモリー眷属も既に臨戦態勢だ。
「いや。まだ決着をつけるには早い。アザゼルにコカビエルを回収するように頼まれてね。今日はあくまで顔見せ程度さ」
『俺も同意見だ。お互い面白い宿主に巡り合えたようだな』
その後も、いくつかの問答が続き、白龍皇――ヴァーリ・ルシファーは帰って行った。
彼に、神器に封印されし白龍――アルビオンも同調する。
一誠は、緊張を解くと同時に、へたり込む。
実力の差を肌で感じ取れたからだ。
なまじ、素人の状態から実力をつけただけに、壁の高さが分かってしまう。
だが、一誠の闘志は、衰えていない。
――――リアスを守れるくらい強くなると誓ったのだから。
◆
――――ヴァーリ・ルシファーによって、アザゼルの下に連れられている最中のことである。
コカビエルは、敗れ去ったとはいえ、余裕の表情を崩していない。
戦争は必ず起きると確信しているからだ。
アザゼルは、おそらく自分を永久凍結の刑に処するだろう。
ただでさえ、堕天使の総数が少なくなっているのだ。
貴重な戦力である自分をアザゼルは殺すことはないはずだ。
ただ、心残りもある。
(――大戦に参戦できず、間近でみることも出来ないのは、残念でならないな)
主戦派は、彼以外のもまだ大勢居る。
アザゼルによって封印される前に、準備をしなくてはならない。
あの小娘。
いや、八神はやてたちが、戦争を始めることを知るのは、おそらく今のところ彼一人。
秘密裏に事を運ぶ必要がある。
(きっと、今度の戦争は、三大勢力の命運をかけた激しいものになる)
コカビエルは、逸る気持ちを抑える。
今にも躍り上がりそうな高揚感が身を包む。
――――彼の口元には、自然と笑みが浮かんでいた。
◆
目の前の堕天使――コカビエルという名の聖剣を奪った主犯者――は、八神はやての取引に応じた。
木場祐斗と兵藤一誠に敗れたエクソシストたちと聖剣3本に加えて、紫藤イリナたちが保管していた聖剣2本の破片を渡した甲斐があった。
(いや、奴はただの戦争狂だ。戦争のためならば、敵とも手を組むだろう)
護衛としてはやてに付き添う形になったシグナムは、内心でつぶやく。
コカビエルに尋ねた理由は、八神はやての父が残した手記の裏を取るためだ。
彼は、はやての父母と面識があったらしく、かなり詳しい事情まで教えてくれた。
両親の死の真相まで知っていたのは、運が良かった。
薄々勘付づいてはいたが、証拠という最後のひと押しが欲しかったのだから。
「――俺が知る事情はこれくらいだな。不抜ける前のアザゼルは、優秀な駒を失ったと嘆いていたよ。だからこそ、裏切り者には見せしめが必要だったのだろうな」
「なるほど。こちらが持つ情報と食い違いはないな。それにしても、はぐれ悪魔の襲撃は、アザゼルの仕業だったとはね」
「策謀にかけてうちの総督の右に出る者はいないだろう。少し前までは、いつ戦争が起こってもおかしくない緊張状態だった。手段を問わぬアザゼルの手腕は頼もしかったものだ。神器狩りもその一環だな。それで、お前はどうするつもりだ。両親の弔い合戦でもするつもりか?」
あざ笑うかのように。
だが、どこか期待に満ちた目で、コカビエルは、はやてを見つめる。
堕天使のあけすけな態度に、シグナムが眉をひそめるが、主本人は気にする様子もない。
はやては、ゆっくりと言葉を返す。
「弔い合戦、ね。確かに、当たらずとも遠からずといったところかな」
「ならば、他に理由でもあるのか」
「『とある少女』の願いを叶えてあげたくてね。ボクはそのために存在している。使命と言い換えてもいいかな」
「曖昧すぎてよくわからんな。だが、俺が戦争を起こしたら、お前はどうするつもりだ」
「どうもしないさ。いままで通り、どの陣営にも加担しない―――立ちふさがる全てをなぎ倒すことになるだろうね」
さらりととんでもないことを言う。
予想外の発言に、コカビエルも驚愕の表情を浮かべた。
「なるほど。八神はやて。お前は実に面白い。戦争がはじまったら、是非とも戦いたいものだ」
「ああ、そちらも頑張ってくれよ。この地を管理するリアス・グレモリーたちは強いぞ?せいぜい足をすくわれないように気をつけたまえ」
「ふん。言われなくてもわかっている」
吐き捨てるように。
だが、面白そうな表情を浮かべてコカビエルは、言葉を交わす。
既に、お互い必要な情報を交換した後だというのに、会話は続けられた。
最後の別れ際、八神はやては、その場を去ろうとするコカビエルに、ある宣言をした。
思わず不敵な笑みを返す少女を一瞥し、堕天使は、姿を消した。
彼の脳裏には、彼女の最後の言葉が繰り返されている。
その言葉は、白龍皇に捕まったいまも、彼の心を熱くさせていた。
――――キミが敗れても心配しなくていい。ボクが代わりに戦争を起こしてあげよう。
◆
「やはり、コカビエルは敗れたか」
サーチャー越しの映像を見やりながら、主はやてのつぶやきが聞こえる。
性格破綻者だが、実力は確かだったフリード・ゼルセンがいないせいだろうか。
堕天使側の聖剣使いは、大した脅威を感じなかった。
現在、駒王学園近郊に待機しているはやての側にいるのは、ザフィーラだけだ。
「上級堕天使まで撃破したのは、予想外でしたね」
「ああ、ボクも驚いている。彼らを育てた身としては、複雑な心境だ」
本来ならば、実力者であるコカビエルの相手は、はやてがするはずだった。
しかし、彼と取引したことで、中立の立場をとることになった。
もちろん、リアス・グレモリーたちには、秘匿してある。
「あの堕天使から、我らの計画が漏れる可能性があるのでは?」
「いや、それはない。ヤツの望みは、戦争だ。ボクたちが、戦争を起こすと知っている以上、余計な邪魔はするまい。むしろ、喜んで便乗して戦いの準備をするだろうよ」
怜悧な表情を浮かべながら、淡々と告げる。
「さて、そろそろ駒王学園に到着する前に、他の皆と合流しないとね」
「我々は、二手に分かれて策敵のために別行動をしている、でしたね」
「そうだ。コカビエルとの約定により、ボクたちは、参戦できない」
コカビエルとの裏取引により、彼とグレモリー眷属との戦いには非介入となった。
だが、そのままでは、グレモリー眷属に怪しまれる。
そのために言い訳が必要だった。
「だから、紫藤イリナたちから聖剣を奪った未知の敵と遭遇したようにみせかける。戦闘の跡は、既に偽装してある。うまくはぐらかせてみせるさ」
そういって、主は、最近よく見せるようになった無表情に不敵な笑顔を浮かべると、ゆっくりと合流地点に向かっていった。
ザフィーラは、そんな彼女に出来る限り寄りそう。
(なるべく態度にださないように振る舞っている。だが、主はやては、心の底では、グレモリーたちとの対立を、気に病んでいるのではないか)
内心で問う。それでも答えは変わらない。
(いや、決別を宣言した以上、もはや止まることはできないだろう。ならば、せめて、自宅警備員たる私が負担を減らさねばなるまい)
胸の内に決意を宿しながら、盾の守護獣は、敬愛する主の後をついていくのだった。
後書き
・お待たせしました。次はもっと早く投稿できるように努力します。
・次話あたりで、とあるキャラがあんなことになります。
第31話 結婚しよ
前書き
・一人称視点と三人称視点のどちらが読みやすいのでしょうか。練習も兼ねて両方ごちゃまぜにしているのですが、読みづらいですかね?
第31話 結婚しよ
「好きだ!結婚してくれ!!」
「は?」
その瞬間、空気が凍った。
ときは少し前までさかのぼる。
◇
禍の団のアジトなう。
コカビエル戦の後、禍の団にコンタクトをとった。
ライザーとのレーティンゲームでボクたちの知名度は上がっているらしく、晴れて参加することができた。
本当は、コカビエル戦の前に参加していたのだが、原作がどう動くかわからないので、まだアジトで顔合わせはしていなかった。
顔合わせには時間がかかるそうで、今は気長に待機している。
打ち合わせは既に済んでいるので、雑談にいそしんでいた。
雑談しながら、禍の団に参加することを決めた経緯を思い出していた。
◆
場所は、八神家のリビング。
八神家全員が勢ぞろいしていた。
皆が真剣な顔をして、座っている。
「さて、禍の団に参加するか、会議をするとしようか。まず、シグナムはどう思う?」
「たしか、いくつかの派閥に分かれた、寄合所帯でしたね」
禍の団は、オーフィスを頂点にした戦争推進派のテロ組織だ。
コカビエル事件に端を発した和平への動きに対して、反発している連中である。
天使、堕天使、悪魔、人間といった種族を問わない組織である点が特徴である。
では、うまく協力し合えているのだろうか。
答えは、バラバラに動いているといっていい。
そもそもが相いれない敵同士が、集まっているのだ。
うまくいくはずがない。
それでもなんとか組織の体を成しているのは、反戦阻止という共通目的と、オーフィスを頂いているからだ。
だが、肝心のオーフィスは、別に戦争を望んでいるわけではない。
彼女の望みは、故郷――次元の狭間に居座るグレートレッドを倒すことのみ。
かの龍を倒すことで、故郷に帰り、静寂を得ることしか考えていない。
禍の団を作ったのは、グレートレッドを倒す協力者が欲しかったからだ。
トップと現場の意思統一すらできていない。
現場は現場で、協力せずに勝手に動いている。
これでうまくいくはずがない。
「正直、禍の団に所属するのは、反対です」
「手厳しいね」
シグナムは率直な意見をはやてに返した。
戦力という意味では当てにできるが、意思統一すらされていない。
烏合の衆を頼っていいのだろうか。
そんな疑問がシグナムの胸中で渦巻いていた。
「あたしも、うちらだけの方が動きやすいと思う」
ヴィータがシグナムを援護する。
八神家は強い。
はやて単体でもランキングトップ10クラスと十分戦えるはずだ。
ましてやユニゾンすれば敵なしといっていい。
ヴォルケンリッターたちも、竜王タンニーンや魔王サーゼクスの『女王』グレイフィアといった最上級悪魔クラスと同等かそれ以上だと考えている。
むろん、実際に戦ってみないことにはわからないが、情報収集の結果、自らの戦力に自信を持っていた。
「私は、はやてちゃんに賛成かな」
八神家は少数精鋭である。
組織を相手にするのは危険であると考えた。
いかに突出した力を持っていようと、多勢に無勢ということもある。
シャマルは、闇の書時代、時空管理局という巨大組織と相対したことを思い出していた。
たしかに、闇の書は管理局を相手に猛威を振るっていた。
しかし、結局最後は管理局に敗れたのだ。
個人は組織に対して無力である。
それがシャマルの結論だった。
「それぞれメリット、デメリットがありますが、マスターの意見に同意します」
続いて、リインフォースもはやてに賛成した。
闇の書が蒐集を終えて暴走したときに、表に出るのは、彼女だ。
管理局との戦いで、組織の力を嫌なほど味わっている。
古代ベルカ時代には、数にものを言わせて、休むことなく波状攻撃をしかけられたこともあった。
他にも、協力者との顔つなぎや情報の共有といったメリットも考えられた。
「ザフィーラはどう思う?」
「賛成、反対どちらの意見も一理あります。ただ、組織がバラバラということは、組織のしがらみもないということです。利用するだけ利用して、馬が合わなければ離脱すればよいのではないでしょうか」
ザフィーラは消極的な賛成だった。
寄合所帯であることを逆手にとって、都合のいいように利用するべきだと主張した。
むろん、こちらも同じように利用されることになるだろうが、それはお互い様である。
「これで、家族全員の意見が出そろったわけだ。賛成が3、反対が2だね」
あとは、はやての決断次第である。
家族が見守るなか、はやては沈思黙考した。
「うん、決めた。禍の団に所属する方向でいくよ」
「理由をお聞きしても?」
はやての決断を聞いて、リインフォースが理由を尋ねる。
「知っての通り禍の団はいくつかの派閥に分かれているけれど、主要な派閥は2つある。旧魔王派と英雄派だ。まだ、ヴァーリチームは合流していない。このうち、旧魔王派とは協力できないだろう。人間を見下しているからね。ボクは、英雄派と手を取ろうと思う」
なおも続ける。
「英雄派の目的は、化け物を倒すこと。三大勢力と敵対する予定のボクたちとは目的を一にできるんだ。トップの曹操は奸智に長けた油断ならないヤツだけれど、うちにはシャマルがいる。参謀役、期待しているよ?」
「任せてください、はやてちゃん。たった20年足らずの若僧に、数百年の経験をもつ私が負けられないわ」
さすが、BBA頼りになるぜ、とか思っていたはやてはヴォルケンズからの冷たい視線を受け、咳をひとつして居住まいを正した。
こうして、禍の団への参加が決まったのである。
◇
家族会議を思い出しながら、本当に禍の団に参加してよかったのか、と自問自答する。
既に決めてしまったことだ。余計な雑念は足を引っ張るだけとはいえ、原作から完全離脱することに不安を覚えないでもなかった。
もっとも、まだ積極的に動くつもりはないので、しばらくは原作通りに進むだろうが。
「曹操は、もう少ししたら、来るわ。待たせて悪いわね」
案内役のジャンヌに気を使われる。
彼女は、かの英雄ジャンヌ・ダルクの魂を受け継ぐ英雄候補であり、英雄派の幹部でもある。
幹部クラスを案内に出すあたり、英雄派のボクたちに対する態度を示しているといえた。
「君たちにとって、曹操はどんな存在なんだ?」
気まぐれに問いかける。
「うーん、そうねえ。頼りになるボスって感じかしら。策謀に長けているから胡散臭く思われがちだけれど、根は仲間思いのいい奴よ」
「へえ、ジャンヌにそこまで言わせるのか。これは、会うのが楽しみになってきたよ」
彼の仲間内での評価は思いのほか高いようだ。
一応下調べはしてあったが、実際に言われると安心感が違う。
原作はどうか知らないが、曹操は、悪魔や堕天使に襲われた人々を助けたり、勧誘したりしているらしい。
神器もちが多数所属しているのも、彼に助けられたからだ。
ゆえにこそ、団結力が強く、「化け物」に対する敵意は高い。
英雄として「化け物退治」を掲げるのも、当然とったところだ。
そんな彼らを率先して引っ張る曹操は、カリスマ的リーダーとして、尊敬されているらしい。
「そういうはやてこそ、なんで禍の団に入ろうなんて思ったの?グレモリーたちと仲がいいそうじゃない」
「単純な理由だよ――復讐さ」
父がはぐれ悪魔に殺されたことを話す。
ミカエルによって両親は追放され、アザゼルによって殺され、サーゼクスに止めをさされた哀れな少女を思い出す。
身体の中に意識を向ければ、あのロストロギアがある。
無尽蔵の魔力を得た代償として、復讐にかられることになった元凶。
では、復讐を忌避しているのかといえば、そうでもない。
そもそも、この力がなければ、ボクは殺されていただろう。
殺意は確かに存在し、後押しされているに過ぎない。
端からみれば、ボクは異常なのかもしれない。
けれども、復讐こそがボクの存在理由なのだ。
これだけは、誰が否定しようとも変わらない事実だった。
「あ、やっと来たわね」
しばらくジャンヌと雑談していると、彼女が気配に気づいて声をかける。
そちらを見やると中国風の衣装に身を包んだ青年がいた。
あふれでる覇気は、見るものを圧倒するかのようである。
一目見て、カリスマだとわかる。
なるほど、確かに彼はトップに相応しいといえよう。
そんな風に、彼を心中で高く評価していると、なぜか、近づいてきた曹操はこちらを見て固まっていた。
はて、何か問題でもあったのだろうか。
しばらくお互いが沈黙したあと――
「好きだ!結婚してくれ!!」
――第一声がそれだった。
好感度が急落した瞬間である。
は?と間抜けな声を出してフリーズした。
え、何かのどっきり?はたまた、曹操の策略か!?おのれディケイド!といろいろな考えをめぐらす。
周囲を見渡すと、皆ボクと同じように凍り付いていた。
ジャンヌたち英雄派の面々に至っては、驚愕しすぎて顎が外れそうになっている。
ふむ、彼女たちの反応をみると、この曹操の発言は、彼女らにとっても予想外らしい。
つまり、普段の曹操らしからぬ反応ということだ。
どう対応すべきが、誰もが決めかねている。
視線はボクの方を向き、固唾をのんで、ボクを伺っていた。
まあ、言われたのは、ボクなんだから、返答をしないといけないからね。
正直、気は進まないが、目の前にはボクの言葉を待っている曹操がいる。
「返答する前に、理由を聞いてもいいかな?」
「一目ぼれだ。はやてを見て一瞬で恋に落ちた。この出会いは運命だ。結婚は確かに、時期尚早だったかもしれない。俺と付き合ってほしい!後悔はさせない。はやての望みなら最優先で叶えよう。金か?地位か?名誉か?何でもいいから、俺に言ってくれ。俺を頼ってくれ。はやての信頼を得るためにも、俺は行動で示さなければならないからな。はやてのためなら、たとえ火の中水の中だろうと喜んで行こう。君のためなら死ねる。英雄になる。これだけを考えていた俺の優先順位は、いま覆った。今この瞬間から、はやてこそが、俺の優先順位の一位となる。はやてを生涯の伴侶にしたい。この思いは本物だ。今日ここで出会えた運命に、俺は初めて感謝している。はやてのためなら英雄をやめたっていい。いや、あえて希望をいうなら、はやてと共に英雄となりたい。はやては俺が必ず守って見せる。結婚式は盛大にあげたほうがいいか?それとも身内だけの方がいいだろうか。初夜はどうしようか。はやては処女か?いや、別に処女でなくとも俺の愛は変わらないから安心してくれ。俺だって、この年まで童貞を守ってきたんだ。いまなら、はやてと出会うために、守り続けてきたと分かる。子どもは男の子が欲しいな。いや、女の子もはやてに似てかわいいかもしれない。どちらがいいとはいえんな、これは。子どもたちの安全のためにも、化け物退治は早急に終わらせなくてはな。はやても、俺たち英雄派と志を同じくしていると聞いている。ともに、人間こそが化け物を退治することを世に示そうではないか」
キリッ、として立て板に水をかけるようにまくしたてる曹操。
俺は童貞だとか、結構恥ずかしいこともほざいているが、いいのだろうか。
彼の怒涛の発言に圧倒されながら、思わずでた一言。
「うわ、キモ」
曹操はその場に崩れ落ちた。
「ちょ!曹操!曹操―!」
「げ、息をしていないだと!?」
騒然とする英雄派を見やりながら、思った。
どうしてこうなった!?
後書き
・純愛ルートフラグが立ちました。曹操の頑張りによって、エンディングが変化します。
・ようやく転換点まで来ました。時間がかかってすみません。
第32話 滅びのバーストストリーム
前書き
・フリードはでてきません。
「ん?ゼノヴィアは、どうして駒王学園に残っているのだい?」
数日前、紫藤イリナは、5本のエクスカリバー――の破片を手に、教会本部へと帰って行った。
その笑顔は、引きつっており、虚勢を張っているのが丸わかりだった。
――エクスカリバーを折られ、神の不在を知らされた。
熱心な信徒としては、激しく動揺しても仕方ないのかもしれない。
とはいえ、より強い信仰心を得ることで、無理やり平静を取り戻していた。
衝撃の余り転生悪魔となったゼノヴィアと比べて、どちらが正しいのだろうか。
「ああ、少し思うところがあって、な。学園生活に興味があったから、教会本部に頼んで転校させてもらったのだ。いまは、転生悪魔としてグレモリー眷属になっている」
「グレモリー先輩から、話だけは聞いていたが。実際、目の当たりにすると、驚くよ。紫藤イリナは、そのまま帰ったのだろう?」
「……そうだな。それについては、彼女に申し訳なく思う」
歯切れ悪くごまかそうとするゼノヴィア。
ボクたち八神家の面々は、コカビエル戦では不在だった。
ゆえに、現場におらず神の不在を知らない――ことになっている。
したがって、『神の不在がショックで悪魔になった』と本当のことを明かせないのだろう。
実際は、原作知識とサーチャーからの情報で筒抜けだったが、彼女たちが知る由もない。
「そうか。同じ学び舎で生活する仲間だ、仲良くしよう。これからもよろしく、ゼノヴィア」
「こちらこそ、よろしく頼む、八神はやて」
(それにしても、貴重なデュランダルの使い手をみすみす手放すとはね。天使陣営は、神の不在をよほど知られたくなかったのか?)
白々しい台詞とともに、ゼノヴィアと会話にいそしむ。
悪魔となった彼女と親しくするつもりは全くないが、おくびにも出さない。
不慣れな転校生に優しく接する優等生として、振る舞うことにする。
「いろいろと為になる話をありがとう――八神さん」
「裏の関係で世話になるだろうからね。もちつもたれつ、さ」
(いや、事件を解決した報酬かもしれないな。同盟を組む対価の可能性もある)
笑顔で別れの挨拶をすませ、次の授業の準備をする。
まだ出会って数日の仲だ。
原作の登場人物ではあるが、とくに親しみは湧かない。
――短い間つきあいになるだろうけどね
最後の小さな呟きは、誰にも聞こえることはなかった。
◆
そこは、冥界のとある無人地帯の平原「だった」
だが、いまや見る影もない荒野のごとき有様になっている。
あちこちにクレーターができ、辺り一面が、むき出しの地面に覆われている。
近くに寄れば、激しい戦闘の跡が、なまなましく刻まれていることが分かる。
「白龍皇の俺とここまでやりあえるとはな。人は見かけによらない典型例だ。口だけの女ではなかったか――八神はやて」
「お褒めにあずかり、光栄だよ。『歴代最強の白龍皇』という看板は伊達ではなかったようだね――ヴァーリ・ルシファー」
主の傍らで、会話を聞きながらも、シグナムは先ほどまでの光景を思い出していた。
(凄まじい試合だった……)
◆
リインフォースとユニゾンすることも考えた。
が、軽々しく見せるわけにはいけない、と却下している。
八神はやてと、白龍皇ヴァーリ・ルシファーの試合。
両者の戦いは、熾烈を極めた。
試合の開始と同時に、はやては、騎士丈シュベルトクロイツを手に突撃した。
魔道師タイプだと思っていたヴァーリは、一瞬だけ反応が遅れる。
その一瞬を突いて、全力の突きを放った。
鎧で、跳ね返し反撃しようとしたヴァーリだったが、あまりの衝撃に吹き飛ばされてしまう。
魔法による身体強化を使った予想外の重い一撃に、驚愕の表情を浮かべていた。
ヴァーリを吹き飛ばしたはやては、反動を利用し飛行魔法『スレイプニール』を行使。
射撃魔法をばらまきながら、全速力で、距離を取る。
しかし、ほぼ無傷の状態で、復帰したヴァーリが、素早く間合いを詰めようとするも――
「クラウソラス・ファランクスシフト」
『Claiomh Solais Phalanx Shift』
直射型砲撃魔法を瞬時に大量展開し、数千発にも及ぶ砲撃で面制圧を試みる。
逃げ場がないヴァーリは、被弾覚悟で、威力を白龍皇の力で半減しつつ進もうとするが、衝撃までは殺せない。
――『Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide! Divide!』
「くっ、威力もあるが、それ以上に衝撃が厄介だ!」
『ここまで苦戦するとは。見かけによらずエグイ戦い方だな』
「だが、俺はあと変身を二回残しているッ!」
(ヴァーリ、お前変身なんてできたのか?)
(禁手化で1回目。覇龍で2回目。どうだ、かっこいいだろう)
(……)
このままでは、距離が離されてしまう。
不意を突かれたが、相手は、間違いなく遠距離射撃タイプ。
いまのまま離されては負ける、と直感した。
砲撃がまき散らした噴煙のなかから、現れたヴァーリは禁手化していた。
ヴァーリの発言を聞いて、驚いたようにはやては口を開く。
「キミも変身できたのかい!?実は、ボクも2回変身できるんだ。いまは、第二形態だけどね」
なんだか、とても嬉しそうだった。
その後、戦いは白熱した。
距離を離そうと、砲撃を乱れ打ちするはやて。
彼女と白兵戦に持ち込もうとするヴァーリ。
どちらも致命的な一撃を与えることができず、千日手の様相を示してきた。
ヴァーリは、相手を強敵と認め、予定になかった切り札を使うことにする。
『我、目覚めるは──』
(消し飛ぶよっ!)(消し飛ぶねっ!)
それは覇の呪文。
ヴァーリの声と重なって歴代所有者の怨念混じりの声が響く。
『覇の理に全てを奪われし二天龍なり──』
(夢が終わる!)(幻が始まる!)
『無限を妬み、夢幻を想う──』
(全部だっ!)(そう、全てを捧げろっ!)
『我、白き龍の覇道を極め──』
『『『『『『『汝を無垢の極限へと誘おう──ッ!』』』』』』
『Juggernaut Drive!!!!!!!!!』
秘められた力を解放した白龍皇は、雨のように降りそそぐ砲撃をものともせず、急接近する。
しかし、ある程度、距離をとることに成功したはやては、砲撃魔法の嵐の中で、詠唱を開始していた。
ヴァーリが覇龍になったことで、彼女もやる気になっている。
詠唱が完了したときは、ちょうど砲撃が鳴り止んだ頃――だが、ヴァーリは未だ追いつけない。
「滅びのバーストストリーム!!」
『Ragnarok』
原作はやての最大魔法『ラグナロク』――彼女曰く滅びのバーストストリーム――を展開し、放つ。
この直射型砲撃魔法は、効果の異なる3連撃を放ち、着弾と同時に周囲を巻き込み破壊をもたらす。
強力な広域せん滅魔法であり、一撃で駒王町を廃墟にできる。
それを、直前まで連射された砲撃魔法の影響で、ヴァーリが硬直した瞬間に放った。
キノコ雲を量産し、土煙が晴れたときには辺りは、世紀末の様相を呈していた。
◆
「まさか、ここまで強いとは思ってもいなかった。単純な力比べでさえ、ありえないほどの力だった――ちんちくりんのくせにな」
『しかし、本来の姿は、小学生にしかみえん。おそろしい女だ』
「……ぐっ!人が気にしていることを言わないでくれ」
戦闘が終わり、いまは和やかに会話している。
全力の戦闘中は変身魔法が維持できないため、はやては本来の姿だ。
つまり、9歳女児にしかみえない。
主が、ヴィータと愚痴り合っている姿を、シグナムはよく目撃していた。
結局、ラグナロクを発射したところで、試合はお開きになった。
あの砲撃の中でも、ヴァーリは無事だった。
しかし、結界が耐えられなかった。
はやては、この程度の模擬戦なら、変身魔法を解くまでもなかったなあ、と少し後悔していた。
「主はやて、そろそろ場所を移しませんと、堕天使の連中に気取られる可能性があります」
「シグナム?……ああ、そうだった。結界がもたなくてドローとはね」
「いい戦いだった。久々に全力で戦えて満足だよ」
「ボクもいい肩慣らしになった。ただ、本気のヴァーリと戦えないのが、残念だよ。キミも、まだ切り札を隠し持っているだろう?」
(まさか、『覇龍(ジャガノート・オーバードライブ)』まで使用してくるとは、思わなかった。あれは、かなりのリスクを伴うはずだが……。ただの模擬戦で切り札を使うはずがない。つまり、彼には奥の手があるはず)
覇龍は命を削る。軽々しく使っていいものではない。
それをためらわずに使ってきた。つまり、覇龍を上回る切り札があるはずだ。
そのように、はやては解釈した。
「へ?そ、そうだとも。えーっと、そう。本当は全力を出したかったんだが、膝に矢を受けてしまってな……。あー、残念だなー」
(覇龍まで使っておいて……ほぼ全力じゃないか)
テンパるヴァーリ。珍しい姿だった。
突っ込んでくるアルビオンに、黙っていろ、と小声で注意する。
ヴァーリは、本気で戦っていた。全力で戦える敵と久々に会って興奮していた。
しかも、相手は自分よりも強いときた。
本来のヴァーリなら、目指す目標ができた、と言って喜んだだろう。
しかし、きらきらと目を輝かせる幼女に、今更「いや、俺実は全力だったんだ」とは言えなかった。
俺がこんなつまらないプライドを持っているとはな、と驚きと共に内心独り言ちる。
「それに、あと二回変身を残しているんだろ?いやあ、ボクだけ第二形態だったので、ちょっと申し訳ないね」
はやては、覇龍までしたヴァーリを第一形態と思い込む。
「い、いや。覇龍状態が、第三形態なんだ……」
ヴァーリが言いづらそうに話すと、申し訳なさそうにはやては黙った。
顔に、えー、つまんなーい、と書いてある。
いたたまれなくなった。
雰囲気を変えようと、強引話題を転換する。
「そ、そういうはやても、あれが全力ではないだろう?」
「うん。お互い肩慣らしには十分だったな」
「あー、うん。そうですね」
(やっぱり、あれで本気ではなかったのか)
「ボクらくらい強いと、模擬戦の相手に苦労しているんじゃないか?」
「よ、よくわかったな。いつも手加減が必要だったから、ストレスが貯まってしょうがない」
「ボクもさ。ちょうどいい練習相手ができて感謝している」
はやては、しみじみという。
ヴァーリは内心冷や汗をかいていた。
(実際、助かったな。『覇龍』状態のヴァーリ・ルシファーが相手ならば、『本気の3割』くらいで互角か。向こうも本気ではなかっただろうが)
「ははっ、そうだな。あらためて、ヴァーリ・ルシファー、今代の白龍皇だ。これからよろしく頼むよ、八神はやて」
「こちらこそ、世話になる、ヴァーリ・ルシファー。ボクは、八神はやて。夜天の王を名乗っている。いつもは、姿を変えているので間違えないようにね」
お互い笑みを浮かべながら握手を交わす。
全力ではないとはいえ、暴れることができて、主は嬉しそうだ。
笑顔の彼女を見て、シグナムは、こわばっていた肩の力が抜けていく。
(白龍皇の力は凄まじかった。こちらと違って、向こうは非殺傷設定などないからな。万一に備えていたが、杞憂に終わってよかった)
(わたしもホッとしているよ、烈火の将)
(リインフォースか。実際のところ、主はやては、どこまで全力だったのだ?)
(ほとんど全力ではないな。マスターは、力の半分も出していない。おそらく、全力で戦えば二天龍を凌駕できるだろう)
(……っそこまでなのか。悔しいが、現在の私たちヴォルケンリッターでは、主を守ることができないのか)
口惜しそうに、シグナムは念話で会話する。
はやての実力はとびぬけている。
技術では、いまだヴォルケンリッターに劣る。
しかし、ありあまる魔力と身体強化によってゴリ押しすれば、はやてが勝つ。
(いいえ。マスターは、烈火の将たちの考えをお見通しの様子。貴女たちの強化計画を考えてあるそうだ)
(ふっ。そうか。主はやてには、敵わないな。臣下を――家族を心から大切に思われている。ならば、忠義をもって、主の信頼に答えるのみ)
ヴァーリと仲良く話しているはやてを見て、彼らを味方にするのか、とリインフォースは尋ねた。
しかし、彼女の答えは、否だった。
『彼らと慣れ合うつもりはないよ。どうせ短い付き合いだしね』
彼女は、なおも続ける。
『ボクたちが起こす戦争は、彼らの望む戦争とは異なる。だって――』
――――戦争ではなくて虐殺なのだから
主はやては、淡々と無表情で告げた。
主なりの覚悟の現れなのだろう。あえて、「虐殺」と表現した。
しかし、シグナムは見逃さなかった。
憎悪を燃やす主の瞳に隠れた淡い感情は――苦渋と寂寥。
後書き
・はやての戦闘力は53万です。
第33話 お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ
前書き
・ちょっぴりシリアス注意
「どうしたものかしら……」
リアス・グレモリーは、ため息とともにつぶやく。
先日、コカビエルたちを激闘の末に打ち破った。
敵は、堕天使幹部、上級堕天使3名、聖剣使い3名を含むエクソシスト4名、ケルベロス。
明らかに、ライザー・フェニックスとのレーティングゲームよりも、数段上の戦力。
この戦力を、グレモリー眷属のみで、打ち破って見せたのだ。
しかも、デュランダル使いのゼノヴィアが、『騎士』となり、単純な戦力も向上している。
「最近、激戦続きよね――赤龍帝のせいかしら」
龍は、戦いの因果を呼び寄せると言う。
あれから過去の赤龍帝を調べてみたが、歴代たちは、常に激しい戦いの中を生き抜いていた。
敵は白龍皇のみではない。まるで、何かに導かれるかのように戦いに巻き込まれる。
最近の出来事を振り返ってみれば、確かに、戦いを呼び寄せているのだろう。
まあ。同時に異姓も引き寄せるらしいが。
「ふふっ。まさか私が一誠に惹かれるなんて、思わなかったものね」
実際、一誠は、オープンなスケベだが、女性に細かな気遣いを忘れない好男子だ。
隠れて厭らしい目で見てくる連中よりも、その堂々とした表裏のない態度が、好ましいと感じる。
あばたもえくぼかもしれないが、戦いの時の凛々しい姿と普段のギャップが、特に好きだ。
「問題は、ライバルが多くなりそうなことよね。やっぱり、悪魔らしくもっと積極的にモーションをかけるべきかしら」
リアスを含めたグレモリー眷属の女子は、少なからず一誠に興味を持っている。
彼に気を惹かれるようになって、観察していたから気づけた。
ただし、向けている感情は、まだ恋には至っていないと、リアスは分析している。
たとえば、アーシアに関しては、一誠宅にホームステイしているものの、親愛の感情しかないように思える。
だが、ゼノヴィアは、極端だ。
「そういえば、昨日は、一誠が、ゼノヴィアに子作りをせがまれていたっけ。なんというか、悪魔らしいというか、悪魔に染まりすぎよ。教会にいると、よほど欲求不満になるのかしら。まあ、彼女は極端だと思いたいわ……いえ、極端で合って欲しいわね」
紫藤イリナといいゼノヴィアといい、どうも天使陣営の知り合いはイロモノばかりだ。
あれが標準だとは思いたくない。だって――
「――だって、これからは同盟関係になるんですものね」
コカビエルの一件を重く見た、三大勢力の上層部は、休戦協定を結ぶことになったのだ。
堕天使の総督であるアザゼルの呼びかけだというところが、多少うさんくさいが。
けれども、お互いじり貧で、大戦争を起こそうものなら、滅亡一直線。
三者の見解は一致しており、驚くほどスムーズにトップ会談が実現した。
「きっかけが、戦争を望んだコカビエルのせいだというのは、皮肉よね」
堕天使コカビエルは、天使陣営の教会から聖剣エクスカリバーを強奪し、悪魔のグレモリー眷属に敗れた。
見事に、堕天使・天使・悪魔の三大勢力が関わっている。
事件の終息に向けた交流が、呼び水になったのは間違いない。
会談予定の場所は、駒王学園。
一連の事件の関係者として、リアスたちも立ち入りするように要請されている。
「戦争の恐れがなくなれば、少子化の問題も解決が容易になることは間違いない。悪魔は、さらなる発展の段階にすすめるはず」
実に、喜ばしいことだ。
しばらくの間は、ぎくしゃくするだろうがトップが協力すれば何とかなるだろう。
ただし、やはり反発する者も多い。
コカビエルが残した言葉は、正しいのだ。
これからは、戦争を望むものたちの企みに注意を払う必要がある。
「どうしたものかしらね……」
もういちど、嘆息する。
リアスたちは実力をつけ、悪魔陣営の希望もみえてきた。
すべては、順風満帆と言っていいだろう。
だが、ため息が止まらない。なぜなら、
「――――八神はやて。貴女は何を考えているの?」
レーティングゲームの一件もあり、リアスは、なるべくはやて達と親しくなろうとした。
ライザー・フェニックス戦で見せた実力。グレモリー眷属を鍛えた能力。
いまの自分たちの強さは、八神家の協力があってこそ、だとリアスは理解している。
とはいえ、いろいろと気にかけてはいたが、成果は芳しくなかった。
不仲というわけでもない。
ゆえに、時間をかけてゆっくりと仲良くなろうと考えていた。
しかし、最近、彼女たち八神家の動きが気になる。
具体的に何が気になるのか、と問われても答えられない。
どうも胸騒ぎがするのだ。
とくに、コカビエルの一件の前後から、動きが妙だ。
意図的にこちらを避けているようにみえる。
ものは試しと、駒王協定への参加を要請したが。
『客人がでしゃばるべきではない』
と、にべもなかった。
「そういえば、アーシアが相談しにきたことがあったかしら。笑って、気にしないように、と答えたけれど――まさか、ね」
『はやてさんが、急に余所余所しくなった理由に心当たりはありますか?』
アーシアは真剣な表情で尋ねてきたが、彼女がグレモリー眷属になる前から、はやてとリアスは、適度な距離感を保っていた。
アーシアを助けるために深く関わったが、これは例外と言える。
だからこそ、心配ないと諭したのだ。けれども――――
――――はやてさんは、わたしたち悪魔を憎悪しています。
あのとき、アーシアがリアスに放った一言が、なぜか耳に残り頭を離れなかった。
◆
「曹操、ちょっと時間いいか?」
「ん? どうした、ゲオルグ」
英雄派首領の曹操はいつも忙しい。
ちょうど暇になったころを見計らって、声をかける。
手に持った何かをみつめて、ぼうっとしていた。
たまに見かける姿だ。声をかけがたい雰囲気があるが、今日は無視する。
「八神はやてのことなんだが……本当にただの一目ぼれなのか?」
若干言葉を濁しながら、尋ねてみる。
八神はやてと会ったときの曹操の激変ぶりは英雄派を震撼させた。
だが、その後の仕事ではいままでと変わらず――いや、今まで以上かもしれない――熱心に活動していた。
やはりうちのトップは頼りになる。と、皆安堵しているところだ。
だが、俺とコイツの仲は長い。一目ぼれ以外の何かがある、と俺のカンが言っていた。
「……」
無言で手に持っていた何かをこちらに投げてよこしてきた。
キャッチすると、それはロケットペンダントのようだった。
とりたてて特別なところはない、古ぼけたただのロケットペンダントだ。
魔術的な要素も見当たらない。ただ、丁寧に手入れされていることは分かった。
「中を見ていいのか?」
曹操は無言でうなずく。中を開らいて見ると、写真があった。
8歳ぐらいの男の子と、6歳ぐらいの女の子が映っている。
二人とも笑顔だった。
「これは……曹操?」
よくよく見ると、男の子は曹操の面影がある。
ただ、最初は分からなかった。
このように満面の笑みを浮かべるコイツは、長い付き合いの俺ですら初めて見る。
とすると、隣にいる少女は、妹だろうか。
たしかに、曹操に似ているが、それ以上に――――
「――似ているだろう? 八神はやてに」
俺の心を読んだように、無言だった曹操は声をかけてきた。
顔を上げると、泣きそうで笑いそうな、自嘲するような顔を浮かべている。
思わず息をのんでしまう。
「一番幸せだったころの写真だ。いや、手元に残った唯一の写真といった方がいいか」
「これが八神はやてに執着する理由か?」
「それは否定しない。だが、一目ぼれしたのも本当だ」
「……詳しい話を聞かせて貰えるか」
尋ねると、苦笑しながら曹操は語った。
「俺は、中国の山村で生まれた。決して裕福とは言えなかった。が、優しい両親と親切な村人に囲まれていた。妹はとりわけ俺になついていてな。可愛かったよ。とりたてて特別なものはなかったが――幸せな日々だった」
遠い昔を見るように視線を虚空へ向ける曹操を前に、無言で俺は聞く。
「俺が8歳の日。隣の村にお使いを頼まれていて、帰ってくると村は火に包まれていた。何が何だかわからなかった。とにかく家に急いだよ。そして、家に着いた俺の目の前で――――」
そこで、曹操は息を詰まらせ、平静を保とうと一度大きく息を吐き。
「――妹は生きながら喰われた」
俺は黙って曹操の言葉に耳を傾ける。
言葉では冷静だったが、強く握った拳からは、血がにじみ出ていた。
「今でも覚えている。妹が最期に『お兄ちゃん』と俺のことを呼んだんだ。今でも夢にみる。なぜ助けてくれなかったと俺を問い詰めるんだ。今でも後悔している。なぜ俺はあのとき村にいなかったのかと」
「……はぐれ悪魔だったのか」
「その通りだ。そして、絶体絶命のピンチで、俺の神器は覚醒し、仇を討った。ははッ、どこにでもある物語の英雄みたいだろう? 俺の大切なものは何一つ守れなかったのに。そんな人間が英雄たちのトップにいるんだ。笑えるだろう?」
そう自嘲する曹操の表情を見て、何も言えなくなる。
思えば、コイツは自分の昔を語らないやつだった。
何度尋ねても教えてくれなかった。英雄は素性を隠した方が、それらしい。と言って。
曹操が語った悲劇は、ありふれたものだ。
英雄派に属する者の誰もが、悪魔や堕天使、天使どもによって、大切なものを奪われている。
ただ、曹操がそういった人間を救い上げ、化け物退治に固執する、その理由の一端が分かった気がした。
「俺の行動原理は所詮復讐さ。覇道を進む英雄らしくないと思わないか?」
「いや、お前ほど英雄派の首領に相応しい人間はいないよ、曹操。それに、英雄に悲劇はつきものさ。……八神はやての生い立ちとも似ているな。確かに、惹かれるのも無理はない、か」
そういって、ニヤリと笑いかけると、曹操もいつもの不敵な笑みを浮かべた。
「なぜ今になって語る気になったんだ?」
「だって――この話をすれば、嫌でも俺とはやての仲を認めざるを得ないだろう?」
そんな理由かよ! しんみりしたさっきまでの俺、無駄じゃん!
場を明るくするための話題転換かもしれない――が、半分くらい本音だな、これは。
やれやれ、友のためにひと肌脱ぎますかね。
「もし認められないのなら。俺がはやての素晴らしさをたっぷりと説いてあげ――」
「いや、それはいい」
後書き
・リメイク前はチョイ役だった曹操が、大出世しました。
第34話 よろしい、ならば戦争だ
前書き
・お待たせしました。次はもっと早く更新できます。
禍の団に入って晴れてテロリストに転職した。
学校に通いながらテロ活動とか斬新すぎると思う。
女子高生テロリストとかかっこよくない? って聞いたらみんなに渋い顔された。
キャッチフレーズは「テロリストはじめました」
魔法の呪文は「リリカル・トカレフ・キルゼムオール」。
必殺技はもちろん「エターナルフォースブリザード」
闇の波動に目覚めし超絶美少女†漆黒の大魔導師ハヤテ☆ヤガミ†が選ばれしテロリストとして覚醒し、前世からの因縁を絶つため、人間に害をなす天使・堕天使・悪魔どもと戦うのだ。
どうだ、かっこいいだろう? なぜこのカッコよさが皆に伝わらないのか不思議である。
く、沈まれボクの右腕。あ、ちなみにラスボスは白い魔王NANOHAさん。
「創作活動こそが英語表現の向上へとつながるのです」
と、思考を逃避してきたが、目の前には工作用粘土。今日は授業参観の日である。
もう一度いうが目の前には粘土がある。いまは英語の授業である。現実は無常だった。
ボクを含めた生徒全員が、えー、って顔をしているが教師は聞く耳をもたないらしい。
振り向くと、八神家一同が揃っている。
凛々しいシグナム、美人なリインフォース、若奥様風のシャマル、ロリのヴィータ。
男性陣の目を見事に釘づけにしている。ボクんのだからやらんよ。
犬耳しっぽを隠したザフィーラもイケメン風を吹かせていた。
「お、お姉さま……何を作ってらっしゃるのですか?」
「ん? 見て分からないかい?」
粘土で作品を作っていると、隣の女生徒から声をかけられる。
ほとんど完成しているので、みればわかると思ったのだが……。
「えっと、地獄……?」
「あはは、面白い冗談を言うね。これは『家族で仲良くプール日和』だよ。なかなかよくできているだろう? 自信作なんだ」
「そ、そうですわね」
(なあ、リインフォース。あたしには「血の池地獄で苦しむ亡者の群れ」にしかみえないんだが。あたしがおかしいのか?)
(安心しろ、鉄槌の騎士。私にも地獄絵図にしかみえない)
(あらあら、素晴らしい作品ね。愛憎もつれる家族の絆がよく表現されているわ!)
(シャマル!?)
無言で粘土をこねるという英語授業にあるまじき光景が続く。
授業も半ばを大分過ぎたころ、完成した作品群を品評することになった。
ボクの番になったので「日ごろからお世話になっている大好きな家族との絆を表現してみました」といって紹介した。
なぜか、教室が沈黙に包まれた。ひそひそ話が聞こえる。
なかなか前衛的作品……私たちの理解に及びません。
お、お姉さまも人間ですもの、完璧じゃなくて当然ですわ。
少しくらい欠点があったほうがいいですよね。
ひょっとして家族仲がよくないのかしら。
さすがですお姉さま。
……などなど。褒められているのかけなされているのかイマイチわからん。
教師にも曖昧に笑いながらスルーされた。なぜだ!?
「これは、なんと! なんと、素晴らしい作品ですか!」
突如、英語教師の声が響き渡った。
自分の作品をみながら悦に浸っていたので、あわてて声のした方に目をやる。
彼が持つ手には、裸婦像があった。その作者はもちろん――。
「兵藤君」
おもわずつぶやく。なおも教師は兵藤一誠の裸婦像をべた褒めしていた。
裸婦像と聞くと聞こえが悪いが、周りの生徒にも非難の視線は一切なかった。
それほどまでに完成された作品だったのだ。
さながらミロのヴィーナスのようなギリシャの彫刻を彷彿とさせる、美とエロス兼ね備えていた。周囲の評価に耳を向けてみる。
ただの、変態エロ野郎だと思っていたのに。
裸婦像って確かにエロだけど、芸術作品としてみればすごいわ。
最近の兵藤君ってかっこよくない?
あーわかるわかる。変態じゃなくなったっていうか。
松田・元浜とエロ活動してないよね。
ぶっちゃけ、かっこよくなってない?
――評判は上々のようだ。
龍は女を惹き付けるという。が、それだけではない。
彼なりの血と汗と涙の結晶なのである。
強いて言えば、彼はエロと引き換えに力を得た、それだけのこと。
代償としたエロの力が強大すぎたともいえる。エロは偉大だ。
原作では才能のなさをエロの力で補い、ハイパーインフレする世界で戦い続けた。
そりゃあ、そのエロパワーを犠牲にすればあらゆる面で強くもなる……のかな?
まあ、だいたいボクのせいなんだけどね。
「はいはい、通行の邪魔になっています。人ごみを作らないで動いた動いた。そこのお姉さんも何してんの!?」
そんなこんなで無事? 授業が終わって家族と散策していると、ひときわ目立つ人ごみを発見した。
手に手にカメラをもち、何かを撮影している。
必死な面持ちで男子生徒会員が誘導している。たしか匙とかいったかな。
これはもしかして……と思い覗くと、案の定そこには魔女っ娘(笑)がいた。
ピンクのフリルのついたミニスカートに丈の短いワンピース、ハイソックスで絶対領域を形成している。しかも、へそ出しルックである。
ピンクのステッキをくるくる回して愛想を振りまいている。
申し訳程度に白いチュニックを羽織っているこの彼女こそ現四大魔王が一人、セラフォルー・レヴィアタン。そして生徒会長ソーナ・シトリーの――。
「何の騒ぎですか! 晴れの授業参観の日だというのに。そこの貴女も何とか言って―――。ってお姉さま!?」
「やっほー☆ソーナちゃん! こうして撮影界していれば会えると思ったんだ、てへっ☆」
実の姉である。こんな痴女を姉にもって大変だな、と心底同情してしまう。
周囲もどよめく。この痴女は、真面目一直な生徒会用のイメージにそぐわないからだろう。
それにしてもこの痴女をみるとイライラしてくる。さっきからイライラが止まらない。
理由は分かっている。罪状、魔法少女。BBA許すまじ。
魔法少女に関してボクは並々なる信念を持っている。
八神はやてになってから、魔法少女になったつもりでいた。
だが、それは勘違いであったことに、あるとき気づいたのだ。
そのきっかけを作ってくれたマイソウルフレンドとともに真の魔法少女になるべく旅を重ねたのだ。
ゼロとバカにされていた少女とともに世界征服してみたり(ハルケギニア統一戦争)。
魔法少女を絶望させる悪しきインキュベーターの母星を破壊してみたり(ソウルフレンドの戦闘力は53万を優に超えている)。
なんたらカードを乱獲して、ふぇ~とかいう少女を泣かせてみたり(あざとさに戦慄)。
シュタインズゲートの選択をして世界線を飛んでみたり(同志キョーマは元気だろうか)
600万ドルの賞金首な真祖の吸血鬼少女と大恋愛してみたり(結婚しました)。
グランドラインで海賊相手に無双したり(悪魔の実ゲットだぜ)。
マイソウルフレンドと共に数々の苦悩を越えて、ようやく魔法少女の頂きへと至ったのだ。
魔法少女をファッション程度にしかとらえていない似非には我慢ならん。
ボク自身、魔法少女の一員として大きな糧となった旅路だった。
それでもソウルフレンドには全く敵わない。
カレイドルビー? 嫌な事件だったね。
いきり立つ心を鎮めながら、痴女をみやると、リアス・グレモリーたちと会話していた。
そのとき聞いてしまった。
曰く、レヴィヤたんは世界一の魔法少女だよ。
これは許せん。許すわけにはいかない。
友を差し置いて世界一? ふざかるな。コスプレ女め。
「BBA(ババア)無理スンナ」
◆
はやてが放った静かな一言で、その場は静寂に包まれた。
短い一言にそれだけ力が込められていたからである。
「えーっと、はやてちゃんかな? こんな美少女にBBAなんていっちゃだめだぞ☆ ぷんぷん」
「BBAにBBAといて何が悪い。よくそんな恥ずかしいコスプレでいられるね。魔法少女の何たるかがまったくわかっていない! 貴女には水底がお似合いだ」
「えー☆ レヴィアたんは魔法少女だよ。とーっても人気者なんだよ☆ よつ世界一!」
「よろしい、ならば戦争だ。ボクはそこの痴女に『魔法少女対決』を申し込む!」
「ちょ!? マスター!?」
リインフォースたちがびっくりしているが、ここは引けない。
セラフォル-は、痴女ってひどくない☆ といいつつ、受けて立つね☆、と応じた。
ノリノリのセラフォルーといつの間にか側にいた同じく四大魔王の一柱サーゼクス・ルシファーのおぜん立てにより、放課後のステージで対決することになってしまった。
こうしてのちに『駒王学園、夏の陣』と呼ばれる伝説の魔法少女対決が実施された。
◇
「おい、はやて。申し開きはあるか?」
すごんでくるのはヴィータ姉。
ロリだけど迫力満点である。ロリだけど。
でもね。ボクの気持ちはみんなも分かってくれるはずだ。
覚えているだろう? ソウルフレンドとともに旅した宝石のような日々を。
そしてつかんだ魔法少女の栄光を。
そう、ボクは無理だったが、友は真の魔法少女へと至ったのだ。
友のためにも負けるわけにはいかない!
「いや、まあはやての言い分も分かるよ。魔法少女修行の旅を経験した者としては」
「私も師匠を冒涜するようなあのような輩に対して思うところはあります」
だから、ヴィータたちも本気で責めることはしない。
みんな分かっているのだ。
あんなコスプレBBAを認めることは、魔法少女への冒涜だということを。
シグナムもやる気だね。だから、みんな協力してくれないか。
本気で魔法少女をやるから。
魔法少女リリカルはやて、はじまります!
◇
マジカル☆レヴィアたんになんと新ライバル登場か!?
熱い、熱い展開だわ! 戦いを経て親友となるルートね!(^◇^)
でもね。まったく、人のことをBBA呼ばわりとか失礼しちゃうわね。ぷんぷん。
「レディースアンドジェントルメーン! 今日は急きょ開催されることとなりました『駒王学園 魔法少女対決』にお越しいただき誠にありがとうございます。司会は生徒会役員匙元士郎と」
「クラスメイトの兵藤一誠です」
「2人と共通の知り合いということで、リアス・グレモリーよ」
「セラフォルーの同僚のサーゼクス・ルシファーだ。みんなよろしく。ちなみにリアスの兄だ」
イケメンのサーゼクスちゃんが付け加えた最後の一言に、きゃー、と黄色い悲鳴が鳴り響く。
男の子ばかりかと思ったケド、女の子の方が多いみたいね。(^^♪
はやてちゃんは、三大お姉さまなんだって! すごいね☆
本当はソーナちゃんにも司会をやってほしかったけれど、断られちゃった☆。
まったく、照れ屋さんなんだから。
おっと、私の名前が呼ばれたわね。いつもの魔法少女ルックで前にでるよー。
「はーい、魔法少女マジカル☆レヴィアたん、見・参! 貴女のハートを打ち抜いちゃうぞ☆」
きゃーきゃーと叫ばれる。慣れた光景だけれど、いつになってもこの光景は最高ね。
みなさい、はやてちゃん。この私の貫録を。
伊達に○○年生きてないんだぞ☆
あ、永遠の17歳だからそこは間違えちゃだめだゾ?
冥界に密かに広がる17歳教の教祖こそ、じつは私なのだ。ででーん。
さて、はやてちゃんはどうでるのかな?(^_-)-☆
「ひれ伏せ塵芥。我こそは闇統べる王、ロード・ディアーチェである!」
ちっちゃくなってるー|д゚)!?
後書き
・エヴァンジェリンは、結婚しました。相手は主人公ではありません。
・手に入れた悪魔の実はヒトヒトの実です。モデルはもちろん……。
・おっぱい成分のないハイスクールDDなんて、デスノートのないデスノートみたいなもんだよね。
第35話 カットバックドロップターン
前書き
・ハーメルンでちょっと修正したものを投稿開始します。
「ひれ伏せ塵芥。我こそは闇統べる王、ロード・ディアーチェである!」
会場がどよめく。それも仕方ない。八神はやて(17)が登場するかともったら、そこには8歳くらいの幼女がいたのだから。
エメラルドの瞳に、シルバーグレーのショートヘア。黄色の刺繍が施された紫のサーコートに、同じく黄色の縁取りがされた黒いコート。紫の十字の髪留めがアクセント。
身の丈ほどの紫のステッキを持っている。柄には包帯をぐるぐる巻きにしていた。
全体的に黒と紫が基調になっており、ダークヒーローにもみえる。
顔つきは、はやてそっくりで、はやての妹では? と多くの人間が考えていた。
まさに、魔法少女! と全身で表現しているようである
「えー、ここで司会から報告です。八神さんの代打として、八神さんの親せきの女の子が出場することになりました。ロード・ディアーチェさんです」
「ふん、はやての代わりに出ることになったディアーチェだ。おのれの分をわきまえず魔法少女(笑) などと抜かす年増を成敗しにきた。感謝するがいい」
ディアーチェちゃんかわいいー!
会場から歓声が上がる。
ぶっきらぼうな受け答えも、容姿の可愛さと相まって実に様になっている。
「かわいいライバルね☆ でもレヴィアたんは負けないゾ(^^)/」
「ぬかせ。格の違いをみせつけてくれるわ、コスプレ老女」
「いい感じに盛り上がってきましたね。どう思います、解説のサーゼクスさん」
「セラフォルーも年齢の差にはかなわないだろう。この勝負、ディアーチェが圧倒的に有利だ」
「コメントありがとうございました」
私だって若いもんね! というセラフォルーの叫びは無視された。
その後二三やり取りが行われ、アピールタイムにうつる。
◇
り~りかる~とかれ~ふ~きるぜむお~る~♪
檀上の後ろから変身テーマが流れてくる。マイソウルフレンドと一緒に作った思い出の品だ。
ラジカセをもったリインフォースが死んだ魚のような眼をしている。ボクの姿に悩殺されたのだろうか。照れるな。
ロード・ディアーチェとは、リリカルなのはのゲームに登場する人物である。闇の書に隠されていたデータたちだ。詳細はゲームをやってみてほしい。
なのはを素体としたシュテル、フェイトを素体としたレヴィをまとめるリーダーで、はやてを素体としているのがディアーチェである。
基本的にはやてとスペックは同じだが、言動がとてもかっこいいのが特徴である。肉体は9歳児相当。
残念ながら復元された夜天の書にはデータが見当たらなかった。無念。
「エルシニアクロイツ、セットアップ!」
『jawohl』
デバイスに呼びかけ、テーマ曲に合わせてふりふりと踊る。
さすがに、本当に変身はしない。というよりも、この姿が既に騎士甲冑だったりする。
エルシニアクロイツは元となったロード・ディアーチェの所持デバイスの名前だ。
シュベルトクロイツを2Pカラーにしただけである。
この踊りはなんたらカードを通じて知り合った少女のあざとさを見習ったものだ。
ステップ、ステップ、ここで――。
「カットバックドロップターン!」
おおおおおー! とどよめきがおこる。
きれいにターンを決めると、客席に身をよじり、決め台詞を放つ。
「みなぎるぞパワァー! あふれるぞ魔力ッ! ふるえるほど暗黒ゥゥッッ!!」
フッ、決まった。今のボクは超絶かっこいいだろう。
ザフィーラ撮影できている? と、当然です主。よしよし。
「司会の匙です。え、えーっと、素晴らしい変身シーンでしたね」
「中二病? いやまあ、俺も人のこといえないか。うーん、八神さんの胸には食指が動かないのに、ディアーチェちゃんは、こうおっぱい分を感じるなあ。ちょっと偽物っぽい感じはするけれど、八神さんほどじゃないね」
「ちょっと、何言っているの一誠。ま、変身というより曲芸ね」
「……かっこいい」
「お兄様!?」
ボクの変身シーンがいろいろと論評されている。
というか、すごいな兵藤一誠。胸で大人モードの変身魔法を見破るとは。
観客席の様子をみると、呆気にとられているようだ。
ふふふ、ボクのかっこよさにハートを打ち抜かれたのだろうか。
まったく罪な女だな。
「では続きましては、レヴィアたんのアピールタイムです」
◆
ウフフ、私のアピールタイムは完璧ね☆
ちっちゃくなったはやてちゃんには驚いたけれど、ネタキャラは流行らないのよ(^^)/
親戚のロード・ディアーチェちゃん? って名乗っているけれど、変身魔法みたい。リインフォースちゃんがこっそり教えてくれたの。
私にすら見破られない高度な変身魔法なんて、すごいわ☆
かわいらしい踊りだったけれど、ちょっと前衛的すぎるわね(´・ω・`)
結局最後に勝のは正統派魔法少女と決まっているの。
はやてちゃん、まだまだ甘いわね(^_-)-☆
「おおっと、レヴィアたんの変身ポーズに会場は大盛り上がりだ」
「……こんなんがトップだなんて、冥界は大丈夫なのか? かわいいのには同意」
「ソーナに心底同情するわ」
「レヴィアたん、さすがプロの貫録だな」
サーゼクスちゃんの言う通り。
冥界の看板魔法少女番組を背負って立つ私が、そう簡単に負けるわけにはいかないのよね( `―´)ノ
「では、トークに移りましょう。まずは、レヴィアたんから」
「はーい☆」
「レヴィアたんにとって『魔法少女』とは何ですか?」
む、いきなり深い質問が来たわね( ゚Д゚)
ここは茶化さず正直に答えましょう。
「私にとって魔法少女は、天職かな。魔法少女のお仕事を続けてけれど、一度も辛いなんて思ったことはないわ☆ 私こう見えてもとある組織のトップなんだけれども、ストレスがたまってしょうがないの。しがらみも多いしね」
「なるほど、兼業魔法少女ということですか。コスプレも息抜きの一環で?」
「そうね。コスプレしてみんなを元気にしたい。そして、元気なみんなから、私も元気がもらえるの。もう魔法少女が本業でいいからしら☆」
「なるほど、お仕事に対する真摯な姿勢に感服いたしました」
ちょっと真面目に答えすぎちゃったかしら(´・ω・`)
司会のほうは、ぎょっとしているようだけれど。
でも、大事なことだからね。茶化すことはできないもん。
はやてちゃんはどうでるかな?
「では、ディアーチェさんにとって『魔法少女』とは何ですか?」
「いい加減魔法少女を仕事か何かと勘違いしている奴うざい。仕事じゃないし。魔王の方がよっぽど仕事」
「仕事じゃなかったらなんなんですか」
「人生……かな」
な、なんと!? その言葉に私は衝撃を受けたのだ。
人生……そこまで重く魔法少女をとらえたことはなかった。
手を抜いてきたつもりは一切なかった。が、魔王課業の息抜きである側面は否定できない。
私にとって魔法少女は創作活動だった。
魔法少女の「コスプレ」といっている時点で私は負けていたのだろう。
コスプレ、とかなりきりではなく、彼女は自然体で魔法少女そのものなのだ。
姿かたち、仕草までもが無駄なく洗練されている。
負けたよ。ディアーチェ。お前がナンバーワンだ。
「だが、ちょっと待ってほしい。ボクの魔法少女の師匠がこちらにたどり着いたようだ。後学のためにも、ゲストとして呼んでもいいだろうか」
なんですと!? 今日は驚いてばかりね。
はやてちゃん上回る魔法少女、これは見ないわけにはいかないわ(#^^#)
会場からもラブコールが起こる。司会も登場を認めたようだ。
魔法少女コンテストに特別ゲストとして登場したのは――。
◆
そのとき会場は熱狂の渦に包まされていた。
学園三大お姉さまそっくりのロリ魔法少女ロード・ディアーチェと、同じく三大お姉さまの生徒会長の姉だという謎の魔法少女マジカル☆レヴィアたん。
どちらも超が付くほどの美少女であり、そのあざとい仕草に目が離せなかった。
だからだろう。ソレに気づけなかったのは。
ディアーチェが放った、最強の魔法少女が来る。その言葉を誰も疑わなかったのだ。
それは魔法少女というにはあまりにも大きすぎた。
大きく分厚く重くそして大雑把すぎた。
それは正に漢女だった――。
それが観衆の見た最後の光景だった。
「ミルたん。覇王色の覇気使っちゃダメでしょ。みんな泡吹いて気絶しちゃっているじゃない」
「にょ? これはうっかりしたにょ」
◇
二メートルを超える長身。
そこらのボディビルダーが裸足で逃げ出すような鍛え上げられた肉体美。
丸太のような腕。艶やかな漆黒のツインテール。ミニスカートからみえる絶対領域。
そしてチャームポイントに黒の猫耳。
完璧だ。完璧だよミルたん。どこからどうみても魔法少女だよ。
ボクは涙を滂沱しながら拍手を送り続けた。
何を隠そうミルたんこそが、ボクの魔法少女の師匠にしてソウルフレンドである。
きっかけは、はぐれ悪魔討伐のときだった。
サーゼクス・ルシファーの依頼で、はぐれ悪魔討伐に行くと、そこには犠牲になった人間の死体が散らばっていた。
はぐれ悪魔自体はすぐに討伐できたのだが、そこで問題が発生した。
現場を隠ぺいする前に、人間が現れたのだ。結界を抜けて。
そのときの人間こそが、ミルたんである。
あとで聞いたところ、正義の魔法少女としてあちこちで人間を襲う化け物を退治していたらしい。
人間を殺したのがボクたちだと勘違いしたミルたんと、かつてない大激戦となった。
駒王町は火の海になり、建物はすべて倒壊した。結界がなかったら大惨事である。
こうして拳で語り合ったボクとミルたんは、熱い友情を交わしたのだった。
そして、ミルたんの熱い魔法少女への思いに感銘を受けたボクは、ミルたんとともに異世界に修行にでたのである。
「はやてちゃん、どうかにょ?」
「素晴らしいよ、ミルたん。今日もパーフェクト魔法少女だよ。エヴァは一緒じゃないのかい?」
「エヴァにゃんは茶々丸の調整があるから来られなかったにょ」
「夫の晴れ舞台に来られなくてさぞ悔しかっただろうに。ザフィーラが撮影しているから、あとで見せてやろう。おや? 司会のみんなはミルたんの素晴らしい魔法少女っぷりに圧倒されているようだね」
覇王色の覇気によって一般人は皆気絶してしまった。
今残るのは、悪魔関係者のみである。司会の4人とセラフォルーは当然生き残っていた。
「え? 魔法少女? それよりも会場が大惨事だけれど大丈夫なのかこれ」
慌てるな匙くん。気絶しているだけだから問題ないよ。
まったく興奮しているからといって覇王色の覇気を纏うなんて。このうっかりさんめ。
ん? 兵藤くんが震えているようだけれど、どうしたんだい?
「な、なぜだ。どうして俺のおっぱいセンサーがミルたんに反応しているんだ……!?」
顔面を蒼白にして愕然としている。たしかに、ミルたんは性別の壁という大きな障害があった。
しかしながら、ミルたんは魔法少女の頂きへと至ったのだ。その秘密は、悪魔の実である。
「ヒトヒトの実:モデル魔法少女」
これがその絡繰りである。悪魔の実を食すことで、魔法少女へと変身できるようになったのだ。
ボクの変身魔法を見破ったときといい、彼のおっぱい力はとんでもないな。今の彼は仙人もかくやといった状態のはずなのに。
皆何かを言いたそうにしているが、口をつぐんでいた。まあ、ミルたんの圧倒的なオーラの前に、声もでないのだろう。
その後、会場の惨事の収集をつけることになり、魔法少女対決はうやむやになった。
後書き
・はやてアイの節穴疑惑。
・カットバックドロップターン
空でサーフィンするときの大技。なんかすごい。エウレカセブン。
・「みなぎるぞパワァー! あふれるぞ魔力ッ! ふるえるほど暗黒ゥゥッッ!!」
ゲーム登場時のセリフ。この一言でネタキャラと化した。
・「人生……かな」
クラナドはエロゲではないという魂の叫び。2ちゃんねる。
・お前がナンバーワンだ
ツンデレ王子が放ったデレセリフ。ドラゴンボール。
・だがちょっと待ってほしい
日本に核ミサイルが飛んできた? だがちょっと待ってほしい。一発だけなら誤射かも知れない。朝日新聞。
・それは魔法少女というにはあまりにも大きすぎた。大きく分厚く重くそして大雑把すぎた。それは正に漢女だった――。
ガッツが愛用する剣「ドラゴン殺し」の描写シーン。ベルセルク。
・ミルたん
ハイスクールDDの公式チート。メインヒロイン(嘘) 服が破れても決して乳首をみせない漢女。魔法少女に憧れていた。
・覇王色の覇気
覇気と呼ばれる技の一種。覇王色に触れると格下は気絶する。ワンピース。
・エヴァ
エヴァンジェリン・A・K・マクダヴェル。真祖のロリ吸血鬼。既婚者。ネギま。
・茶々丸
エヴァの従者。魔法と科学のハイブリット。ネギま。
・悪魔の実
食べると特殊能力が得られる。ただし、泳げなくなる。ワンピース。
第36話 八神は駒王にて最強…覚えておけ
前書き
・アザゼルさんが悪役に。ファンの方は申し訳ありません。
サーゼクスやミカエルにあからさまに警戒されているくらいなので、昔はやんちゃしていたのではないかな、と。
夏の訪れを感じる日曜の午後、公園のベンチに座る主とともにザフィーラはいた。
子連れの家族が大勢おり、なんともにぎやかだった。主の方をみやると、微笑みながら、そしてどこか恋い焦がれるような、そんな複雑な表情をしていた。
狼状態になっているので、対外的には「犬の散歩」と称している。
主にわんこモードといわれている狼形態を、ザフィーらはむしろ気に入っていた。
こうして2人で散歩しながらのどかな日常を眺めるひと時が好きだからだ。
もちろん自宅警備員としての職務も忘れてはいない。
声を出すわけにはいかないので、念話でとりとめのない話をしていると――――
「――――よう、八神はやてだな?」
胡散臭い笑みを浮かべた見知らぬ男性が、眼前に立ち、じっとこちらを観察していた。
黒髪のワルな風貌の男性である。年齢は、二十代程だろうか。
外人で浴衣を着ている所為か、酷く浮いている。チャラそうなイケメンだったが、内包する力は人間のものでは到底ない。明らかに魔王クラス。
敵の可能性を考えザフィーラは、密かに警戒する。
馴れ馴れしく話しかけてくる男性に不信感を抱きつつ、主は、肯定の返事をした。
「やっぱりか。いやあ、面影があるからな、母親そっくりだぜ」
思いがけない言葉に瞠目する。ちらりと主を見やると、彼女も、驚きに目を開いていた。まあ、最初からコイツの正体は想像がついていたが。あまりにも場違いな登場に面喰っているだけである。
「自己紹介がまだだったな。俺は、アザゼル。堕天使の総督をやっている。お前の両親とも知り合いだった」
その瞬間、殺気が辺り一面を覆いつくす。主の勘気を悟ったザフィーラも、臨戦態勢をとった。
「おっと、そんなに殺気立たないでくれ」
と、たしなめた後。
「すまなかった」
頭を下げてきた。急な展開にまたしても瞠目する。はやての方も、何をいっていいかわからないようだ。
「いきなり、謝罪されても、わからないよな。いまから、理由を説明するよ」
そういって、『理由』とやらを説明してくる。
曰く、天使陣営を追われたはやての両親をかくまっていた。
曰く、自分の力不足で、堕天使陣営から出奔させてしまった。
曰く、彼らが亡くなり、残念だ。
などなど。
「―――というわけなんだ、本当にすまなかった」
真剣な表情で、ひとしきり説明し終わると、改めて頭を下げた。
アザゼルの言う『理由』とやらは、はやてから聞いた話と、大筋は同じだ。
彼は、両親を亡くした少女に心底同情しているようだった。
黙って聞く体勢をとったはやてを見て、彼はなおも続ける。
嘘をつくときには、事実の中に少しばかりの嘘を混ぜればいいとよく言う。
アザゼルの説明は、まさにその通りだった。
彼の話すはやての両親の姿は、彼女から伝え聞く話と合致していた。
はやての両親が、市井に混じることを希望していた話もあったが、強硬派を抑えるために許可することができず、すまないと謝ってきた。
何も知らなければ、その言葉を鵜呑みにしていたかもしれない。
それほどまでに、迫真の演技だった。
両親の日記、コカビエルからの話を知らなければ、本当に信じていたかもしれない。
真相を話したことを、コカビエルはアザゼルに伝えていなかったのだろう。
だからこそ、『不幸にもはぐれ悪魔に両親を殺害された少女』に対して、アザゼルは、同情を装っているのだ。
「……そう。両親の話を聞けてよかったよ―――。ああ、夕飯の支度があるので、ここらで失礼させてもらうよ」
のどから絞り出すように声を出すと、ザフィーラを連れてはやては、公園を後にした。
無表情の主を見やり、ザフィーラは心配の声をかける。
(主、大丈夫ですか)
(……ザフィーラ、ああ、すまない。自分を抑えるのに必死でね)
はぐれ悪魔をけしかけたのは、アザゼルで間違いない。
コカビエルの証言を基に、サーチャーと転移魔法を駆使して堕天使領に忍び込み、裏付けをとっていた。
それにもかかわらず、悪びれもせず、さも同情しています、という態度をとられたのだ。
主の心境は推して知るべし。決して穏やかではあるまい。
――――あやうく、殺すところだった
帰り際に念話で放った一言が、その心中を物語っていた。
◇
図書館でぱらぱらと参考書を紐解く。期末試験に向けて勉強中だった。
さすがに大学受験にまでなると前世知識も通用しなくなってくる。
とはいえ、マルチタスクを駆使すれば容易いことである。
汚いさすが魔導師きたない。
隣を見ると金髪美少女がいる。
ついでに、アーシア・アルジェントの日本語の勉強もみているのだった。
小さな声でひそひそ話をしながらまったりとした時間を過ごしていると、大きな悲鳴が響き渡った。
「ぎ、ギャスパーさん!? 追っているのは、ゼノヴィアさんですか」
そちらに目をやると、デュランダルを片手に美少女を追い回すゼノヴィアがいた。
アーシア・アルジェントが呆然とつぶやく。
ゼノヴィアに追われて涙目になっている美少女こそギャスパー・ウラディ――だが男だ。
金髪をショートカットにした赤眼が特徴のどこからどうみても美少女である。
グレモリー眷属最後の一人であり、吸血鬼の『僧侶』である。
彼は由緒正しい吸血鬼の一族だが、人間とのハーフである。
人間の要素を持つゆえに、『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』と呼ばれる神器を宿している。魔法の扱いにもたけている新進気鋭の悪魔である。
神器は「時間を止める」とんでもない性能をもつ。才能だけなら、若手悪魔ではトップクラスといってよいだろう。
しかし、まだ力の制御が不十分で、暴走することもある。
本来未熟なリアス・グレモリーがア使いこなせる人物ではない。ゆえに、彼女の『僧侶』でありながら、使用を禁止されてきたのだ。
コカビエル戦で木場祐斗が禁手化し、赤龍帝やデュランダル使いを陣営に加えたリアス・グレモリーは、資格十分として、ギャスパー・ウラディの使用が解禁されたのである。
もっとも、自らの力の暴走を恐れて引きこもりになったままだったので、こうやってゼノヴィアが無理やり外に出しているわけだが。
「段ボールの中が落ち着く、とか言っていたらしいな。誰にも見せることのない引きこもりのくせに、女装趣味とかおかしくね? コスプレって基本見せるためにするもんだろうに」
「彼女……いや、彼か、は似合っているからいいんじゃないか。どこかの魔法少女と違って」
何やら匙元士郎と兵藤一誠が話している。魔法少女について、兵藤一誠が意味深な目線をこちらに向けてきている。
ボクなんかの魔法少女力ではだめということなのだろう。やはり、ミルたんレベルでなくてはいけない。道先は長いな。
「あ、あの、私ゼノヴィアさんを止めてきます――きゃっ」
心優しいアーシア・アルジェントは、席から立ち上がりゼノヴィアを止めにいこうとして、誰かにぶつかった。
「も、申し訳ありません」
「いや、気にしてねえよ。こっちこそ急にあらわれて悪かったお嬢さん」
どこかでみたワイルドなおっさん。浴衣姿で軽いノリのこいつは――。
「アザゼル、なぜここにいる?」
ボクがつぶやくと、アザゼルはニタリと笑いを浮かべた。周囲を見渡すと、兵藤一誠たちが驚愕の表情を浮かべている。
いつの間にか近くにきていたゼノヴィアとギャスパー・ウラディも身体を停止していた。
「え、八神さん。いまアザゼルっていってなかった? 冗談……だよね」
「いやいや、冗談じゃねえよ。俺が堕天使総督のアザゼルだ。ほらよっ」
軽薄そうな笑みを浮かべながら、堕天使の黒い羽根をだし、威圧する。
「よう、グレモリー眷属は初めましてだな。はやては久しぶりだ」
「貴様に名前を呼ぶ許可を出した覚えはない」
「おっかねえな、八神。そちらさんも八神くらい落ち着いたらどうだ?」
辺りを見ると、臨戦態勢をとったグレモリー眷属がいた。
ゼノヴィアはデュランダルを現出し、アーシアを背後に庇っている。ギャスパー・ウラディは、木の陰に隠れ、兵藤一誠と匙元士郎は神器をそれぞれ起動させた。
兵藤一誠の手は、赤い籠手『赤龍帝の籠手』に包まれ、匙元士郎は、手の甲にトカゲのようなものが現れた。『黒い龍脈(アブソープション・ライン)』と呼ばれる神器である。
レアな神器であり、彼の主ソーナ・シトリーは、眷属にするために『兵士』4体を消費したほどである。
「はやてさん、そこにいては危険です。逃げてください!」
アザゼルを中心に、ぐるりと悪魔陣営が囲む中、ボクはアザゼルの側で平然としている。
八神家は中立とはいえ、悪魔陣営の協力者。敵対する堕天使のトップの側にいるのは、確かに危険だろう。――いままでならば。
「心配することはないよ、アーシア。この場でコイツが騒動を起せば、すぐに戦争一直線。何のために堕天使総督がわざわざ悪魔領の駒王町に来たのか考えればいい」
「八神の言う通りだ。ここで騒ぎを起こすなんて野暮な真似はしねえよ。」
ボクたちの言葉で若干弛緩した空気が漂うなか、アザゼルの神器オタっぷりがさく裂した。コイツは堕天使の総督をやるよりも、研究者の方があっているのかもな。
ギャスパー・ウラディの神器のコントロール方法と、匙元士郎の神器のパワーアップ方法について助言し、彼らの成長に大いに貢献するのだった。
原作通り先生になっても、案外向いているのかもしれない。
――それを許す気はさらさらないが。
◆
「八神は駒王にて最強…覚えておけ」
くそっ、ここまで手も足もでないとは。眼前の少女――はやてをみて歯噛みする。
きっかけは、はやてからの提案だった。
曰く、英雄派と模擬戦をしたい。敗者は、勝利した方の言うことを聞く。
俺とてはやてと戦いたとは常々思っていたし、英雄派の幹部たちも同様だった。
というよりも、俺がはやてに入れ込み過ぎていて、八神家に対する風当たりが強くなっているのが問題だった。
ここで八神家のメンバーの力を見せつければ、よいガス抜きになるだろう。
ついでに勝利すれば、あわよくばはやてと、あんなことやこんなことをしようと妄想していた。
その結果がこれだ。制限付きだとはいえ、俺ははやてに完封された。
クリーンヒットすら一つもない。完敗だ。これでは英雄派のトップとして面目が立たないな。
いや、八神家を英雄派に認めさせるという点では大成功だろう。
「純粋な剣技でここまで圧倒されるとは、シグナム師匠、数々の非礼をお許しください」
腰に何本も帯剣した優男ジークフリートが、シグナムに師事を乞おうとしている。誠実さをひしひしと感じる言動に驚いた。
「やるな、おっさん。ミサイルでも防御がぶち抜けないなんて信じらんねえ堅さだぜ。殴り合いも最高だ」
地面に大の字になりながら、ザフィーラに賛嘆の声を上げる偉丈夫のヘラクレス。傲岸不遜な態度は相変わらずだが、どこか吹っ切れたような感がある。
「上には上がいるものね。私の慢心に気づかせてくれてありがとう」
ヴィータに感謝を述べるのは、金髪たなびかせたきつめの美少女ジャンヌ。言葉の節々にあったキツさとプライドが抜け落ちて、やわらかくなっていた。
「未知の魔術があったとは。是非教えを乞うてもいいだろうか」
無二の親友ゲオルグは得意の魔術戦で圧倒したシャマルに感嘆していた。こいつが子供のように嬉しがっているのがよくわかる。魔術バカだからな。
「どうだ、曹操。力は示した。ボクの頼みを聞いてくれるだろう?」
俺を含めた英雄派にとって得難い体験だった。完全なる敗北。ここから得られる教訓は大きいだろう。頼みを聞くのもやぶさかではない。だが、本当にこんな願いでいいのか? わかった。旧魔王派との調整は任せてくれ。駒王協定の日を心待ちにしているよ。
面倒な交渉事も、嬉しそうなはやてをみればチャラだった。
次こそは、勝ってデートに誘って見せる!
後書き
・きたないさすが魔導師汚い
ブロントさん語録。忍者に対する糾弾。FF。
・八神は駒王にて最強…覚えておけ
「日向は木ノ葉にて最強…覚えておけ」日向ヒアシのセリフ。怪獣大決戦の中で言われても……。コラ画像のほうが本物だと本気で信じていた。ナルト。
第37話 攻めの白龍皇と受けの赤龍帝
前書き
・大変遅くなりまして、申し訳ありません。
・久しぶりの一誠視点。主人公は次話で登場。
俺、場違いじゃね?
俺は、今日何度目かの問いを心中で発していた。天使・堕天使・悪魔の三大勢力が会談を行うことになった。戦争は小康状態だったとはいえ、休戦はしていない。
このように、トップの会談が実現したことは画期的だった。
戦争を望むコカビエルの一件が、休戦に向けた行動を後押ししたとは、何とも皮肉な話だ。
和平が実現すれば、悪魔の繁栄は確実になる。
――と、リアス……部長にいわれた。
まだ転生悪魔になったばかりの俺は、いまいちその凄さが実感できないが、部長が興奮気味に喜んでいた姿をみて、俺まで嬉しくなった。
だから、コカビエルを一騎打ちで破った俺を含めたグレモリー眷属を会談に呼ばれたと聞いたときも、二つ返事で参加を了承したのだ。でも、早まったかなあ。と思う。
俺がいまいる場所は、慣れ親しんだ駒王学園の会議室である。
……と、いいたいが、特別に用意された豪華絢爛なテーブルセットといい、高価な調度品といい、全く別空間となっていた。
さほど時間がなかったにもかかわらず、非常に高級感が溢れる部屋となっている。
庶民な俺は圧倒されてしまうが、時間が経てば慣れてもくる。
だが、装飾品以上に、そこにいる面々が問題だ。
左を見れば12枚の白い羽を展開した天使長ミカエル(イケメン死ね)。
右を見れば12枚の黒い羽根を展開した堕天使総督アザゼル(イケメン死ね)
正面には魔王サーゼクス・ルシファーとセラフォルー・レヴィアタン(お義父さんと呼ばせて下さい)
そして、務めて無視しようとしてきたが、アザゼルの側に控え、俺に熱い視線を送ってきている白髪の青年(イケメン死ね)、こいつが白龍皇らしい。ケツがムズムズする。
先日のような私服ではなく、全員が正装だった。セラフォルーの正装をみて、思わず似合わねえと言ってしまった俺は悪くない。
俺がいるのは、部長を中心としたグレモリー眷属とソーナ・シトリーの中である。
悪魔サイドの俺たちが独立した立ち位置にいるのは、コカビエルの一件について中立の立場を取っている、という意思表示なんだそうだ。
単独でコカビエルを撃退した俺たちは、一目置かれている。
今回一番の功労者といっていい。だが、悪魔サイドにいると悪魔が有利になりすぎる。
だから、中立にして、三大勢力全てが揃って功に報いる、という筋書きらしかった。
「緊張しているのかしら、イッセー?」
「当然ですよ、力の違いに圧倒されっぱなしです」
「安心しなさい、私も同じだから」
部長の気遣いがありがたい。たしかに、部長の手もかすかにふるえている。
やはりこれだけの面子がいると萎縮してしまうようだ。
周囲を見渡すと、朱乃や木場、子猫も固まっているのがわかる。
なんだ、俺だけじゃないのか、と思ったとたん、気持ちが楽になった。
ちなみに、ギャスパーは段ボールで待機しているらしい。まあ、あの様子じゃ無理だな。
既に自己紹介は済んでいる。
こちらを落ち着かせるためか、若干の雑談を挟んだ後、本格的な話し合いが始まった。
八神家の面々も本当は呼びたかったらしいが、断られたことと、神の不在を知らないことからこの場には呼べなかった。
思考をそらしている間にも、会議は順調に進んでいるようだ。
ときおり、アザゼルが悪ふざけをして場の空気を凍らせているようだが、わざとやっているようにも見えた。
つかみどころのないおっさんだな、と思う。どおりで警戒されるわけだ。
そして、コカビエル襲撃の件になった。
当事者として、部長と朱乃先輩とソーナ会長が説明しなければならない。
自分の発言が三大勢力の行方を左右するかもしれない、と考えているのだろう。
端から見てもがちがちに緊張しているのが分かるが、俺にはどうしようもできない。
心の中でがんばって、と応援することにする。
「まず、聖剣奪還のため、紫藤イリナとゼノヴィアに接触しました。その後――」
部長が、事件のあらましを答えていく。
ところどころで、朱乃やソーナが口を挟み、特に支障なく報告が終わった。
ミカエルたちを見ると難しい顔をしている。とくに、アザゼルは顕著だ。
「何の鍛錬も受けていない一般人が、赤龍帝に目覚め、ひと月もせずに、ライザー・フェニックスと互角に戦ったのは、本当か?」
「本当だよ、アザゼル。惜しくも敗れたが力量はほぼ互角だった」
「じゃあ聞くが、そのライザーとやらは聖書に出てくるほどの古強者であるコカビエルよりも強いのか?」
「それはないね。コカビエルの方がずっと力量は上だろう」
アザゼルの問にサーゼクスが答えていく。
赤龍帝、つまり俺のことについて言葉が交わされることで、緊張がぶり返してきた。
「待ってください。ただの一般人だった赤龍帝が、たった数か月の鍛錬でコカビエルを一対一で破ったというのですか!?」
「その通りだ、ミカエル。僕自信驚いているよ。そのおかげでリアスが無事だったのだから、文句はないけれどね」
「堕天使総督として言っておく。コカビエルは強い。歴代の赤龍帝と戦っても十分戦えるほどにはな。なあ、今代の赤龍帝、一体どんな魔法を使ったんだ?」
まさか質問を振られるとは思わず硬直したが、部長がそっと手を握ってくれて、落ち着きを取り戻した。
「俺自身の力ではありません。八神さんが俺たちを鍛えてくれました。幻想空間という魔法がその正体です」
「私を含めたグレモリー眷属全体のパワーアップも、はやてのお蔭よ」
興味深さそうにしている面々に、知っている限りのことを話していく。
ミカエルやアザゼルはいちいち驚いて口を挟んできたが、サーゼクスは既に知っているため静観していた。
「おいおい、これはとんだ鬼札だな。八神はやて、か。まったくノーマークだったぜ。八神の父親も凄腕のエクソシストだったんだぜ? 血は争えないってぇことか。なあ、ミカエル?」
アザゼルは苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。はやての父を知っているような口ぶりだ。
そして、ミカエルの方もみるとひどく動揺しているようだった。
八神……まさか、そんな。とつぶやいているのが聞こえる。
どうやら、二人とも八神はやてと何らかの縁があるらしい。
口のうまいセラフォルーが、問い詰めたがうまくはぐらかされてしまった。
何かある。とんでもない何かが。そう思えて仕方なかった。
「本題に戻ろう。アザゼル、君は神器持ちに執着しているようだが、戦争に備えて戦力を増やしているのではないのかい? てっきり攻めてくるかと思っていたんだが」
「いつまで経ってもあなたは天界に攻めてきませんでした。白龍皇を手に入れたと聞いたときは、すぐさま臨戦態勢をとったものです」
「そいつは神器研究のためさ。戦争するよりもずっと楽しいぜ? なんなら研究成果をやったっていい。共同研究なんかもいいな。俺は戦争を起こす気はないって、昔から言っているはずだぜ? ったく。俺はそんなに信用されてねえのかよ」
「その通りだ」
「その通りです」
「その通りね☆」
サーゼクスとミカエル、セラフォルーの三人にバッサリ切られて落ち込んだ様子をみせるアザゼル。
しかし、すぐさま気を取り直すと、真剣な顔をして言い放った。
「ならよ、和平を結ぼうじゃないか。お前らの目的も同じだろ?」
静寂が訪れた。戦争を望まないのなら、何か手を打つ必要がある。
その最大の打ち手こそ、和平協定。
やがて、口を開いたサーゼクスとミカエルは、アザゼルに同意した。
このまま消耗戦を続ければ、三大勢力に未来はないのだ。
組織のトップだからこそ、重々に承知している。
そこに降ってわいたようにやってきた機会こそ、コカビエル事件の会談だった。
「――神がいなくとも世界は回るのさ」
そういってアザゼルは言葉を締めた。世界をつくったとされる『聖書の神』の死は、結局人間たちにさしたる影響を与えることはなかったのだ。
その後、こまごまとした条約の内容を煮詰めていく。
アザゼルもおちょくることなく、真剣に言葉を交わしていた。
やがて、ひと段落ついたところで話題を変えた。
「俺たちは、爆弾を抱えている。それが何かわかるか?」
「わかるよ☆ 世界を変えかねない力――赤龍帝と白龍帝だね( `―´)ノ」
「そうだ、まずはヴァーリ。お前は何がしたい?」
アザゼルは、白龍皇のヴァーリへ問いかけた。
それに対する回答は、強い相手と戦いたい。それだけだった。
赤龍帝はどうだ? と俺にも聞かれる。
「決まっています、部長を、仲間を、大切な人たちを守ることです。あとは、上級悪魔になってハーレムを築きたいですね」
「おお、ハーレムか。ハーレムのことなら俺が先達として指導してやってもいいぜ」
「ハーレムの前に、神器狩りをやめてもらえませんか? 俺も襲われたし、仲間のアーシアは死にかけました。無実の人間を巻き込まないでください」
みんなを守る、決意を言葉にした。なんだか照れくさくなって、ハーレムのことも言う。
昔の俺ならハーレムにもっと執着していいはずなんだが、いまはそれほどでもない。
こうして枯れてしまったのにはもちろん理由があるが、後悔はしていない。
血濡れで十字架には貼り付けにされたアーシアを見てから、誓ったんだ。
大切な人たちを守ってみせるって。だから俺は力を求めたんだ。
アーシアの件もあるし、神器狩りの撤回を求める。
難しい顔をした後、アザゼルは了承した。
「ふむ、今代の二龍は対照的ですね。攻めの白龍皇と、受け――失礼、守りの赤龍帝といったところでしょうか。大事な人を守りたい。良い心がけですね。気が代わったら是非天使陣営に来てください」
「堂々と勧誘しないでいただきたい。しかしながら、二人とも所属陣営が和平を結んだ以上、無暗な対決は禁止させてもらうよ。そのかわり、周りに迷惑をかけない戦う場を用意することを約束しよう。冥界は広いからね」
なんかミカエルがすごいことを言っていたような。
攻めの反対が受け? それってボーイズラ――やめておこう。
天使長がホ○とか勘弁してほしいんだが。
神が死んでいることよりも、問題じゃないかと思う。
白龍皇との因縁か。できれば、無駄な戦いはしたくないんだが、避けられないんだろうな。
ドライグもそう言っているし。自分すら守れないのに、他人を守ることなんてできないだろう。
ちらりとヴァーリをみると、どこかそわそわしているようだった。
そう、楽しい何かを待ち構えているような、そんな感じだ。
力量を推し量ると、前のような差はないように思える。
八神さんにも太鼓判をもらった。すぐに勝てるとは思えないが、少しずつ俺は進歩している。それが確認できただけでもよかった。
その後は、和やかなムードで会談した。話さなければならないことは多岐にわたる。
なにせ今は小康状態とはいえ、何千年と戦争してきたのだ。
すぐにわだかまりが解けるわけがない。
そんな中、身を包む奇妙な感覚に襲われた。
八神さんの結界に似ているが、八神家が三大勢力にわざわざ敵対行動をとるとは思えない。
だからこれは――。
「敵襲」
後書き
・兵藤一誠
熱血系主人公。原作のエロパワーは影も形もない。一番変化したキャラクター。
・コカビエル
噛ませ犬だったけれど、実は強かったという設定。原作と違い最初から油断せず本気だった。
・アザゼル
主人公の復讐対象。主人公を警戒するようになる。
・サーゼクス
サーゼクスには恩を感じているが、こちらも復讐対象。この世界のサーゼクスは全く悪くない。ボタンの掛け違いが悲劇を生んだ、かわいそうな人。
・ミカエル
ホモォ…┌(┌ ^o^)┐
第38話 水の星へ愛をこめて
前書き
はやて「生の感情を丸出しで戦うなど、これでは人に品性を求めるなど、絶望的だ。やはり人は、よりよく導かれねばならん。指導する絶対者が必要だ」
曹操「……」
一瞬の奇妙な感覚のあとも、部屋の風景は変わっていない。
しかしながら、ピリピリとした空気を感じる。そう、これは戦場の空気だ。
サーゼクスたちは臨戦態勢をとっており、とりあえず校舎に強力な結界を張ったようだった。
窓の外をみやると、魔法陣の中から次々とローブを着た魔法使いらしき影が現れてくる。
彼らは一直線にこちらに向かって来ていた。
「テロか。まあ、反発は予想していたし、反対派がいるのはわかっていた。直接武力行使にくるのはさすがに予想外だったがな」
「アザゼルの言う通りですね。和平に反対する者たちでしょうが、なぜ人間が攻めてきたのでしょうか」
「推測はできる。だが、今は目の前の敵に対処すべきだ」
手慣れた様子で、動いていくのは、さすが勢力のトップだといえた。
突然の奇襲にもかかわらず平然としている。
「くそっ、連れてきた護衛は軒並み停止してやがる。これじゃ組織的な抵抗は無理だな。この効果は、『停止世界の邪眼』で間違いない。おい、グレモリー。あのハーフの吸血鬼と連絡とれるか?」
「えっ!? ギャスパーがですって! ……連絡取れません。旧校舎にいるはずなんですが」
「ならソイツが犯人で決定だ。おそらく無理矢理使わされているんだろう。放置しておくと命にかかわる」
「ッ! なら、私たちで奪還してきます」
「それがいいだろう。リアス、私たちが囮になる。校庭でひと暴れするとしよう。魔王が2人もいるんだ。思い知らせてやる」
「サーゼクスちゃん、お冠ね☆ かくいう私も頭に来ているけどネ」
「おいおい、勝手に決めるなよな。ヴァーリに囮をやらせるつもりだったんだが」
アザゼルは一つため息をつく。
「ハア……あの魔法使いどもは中級悪魔程度の実力がありそうだが、その程度話にならんな。俺たちでグレモリー眷属を守る予定だったが、こいつらは十分に強い。ただ、ソーナ・シトリーは姉のレヴィアタンが守ってやれ。俺は、ヴァーリと一緒に蹴散らしてこよう」
「はーい☆」
「私も久々に戦場に出るとしましょう」
「了解」
とんとん拍子に作戦が決まった。
まあ、作戦といっても囮が暴れている間に、ギャスパーを取り戻すだけだが。
意気込んで突っ込もうとする俺を、グレイフィアが呼び止めた。
部室にある『戦車』の駒に、キャスリングで飛ぶことができるらしい。
最大2人までいけそう、とのことで、部長と俺の二人で飛び込むことにした。
転移する前、アザゼルが、神器を抑制する腕輪を投げてよこす。うさん臭いおっさんだが、いいやつなのかもしれない。
待っていろよ、ギャスパー。すぐに助けてやる。
◆
「ふん、こんなものか」
今俺は校庭で暴れている。囮……のはずが、このまま敵を殲滅しそうな勢いだ。
魔王に天使長に総督。そうそうたるメンバーに襲撃をかけること自体無謀だといえる。
今回の襲撃は旧魔王派によるものだが、身の程を知らないにもほどがある。
いや、だからこそ内訌で破れたのだろう。
禍の団と内応している俺としては、襲撃犯と敵対していいのか。
事前に襲撃を知らされていたので、曹操に尋ねたところ気兼ねなく戦っても構わないとのことだった。
理由を尋ねると、今回の襲撃は旧魔王派によるものであり、人間の魔法使いも旧魔王派の手駒にすぎないから、らしい。
一枚岩ではないのだな。まあ、俺は強者と戦えればそれでいい。アザゼルの下では他の神話世界に喧嘩を売れないだろう。まずは、アース神族からだ。
「禁手化するまでもなかったな。つまらん。歯ごたえのない奴らばかりだ。――ならば、無理やり強敵と戦うまでのこと」
『ヴァーリ、油断するなよ』
あの八神はやてが自ら鍛えたというのだ。油断などできるわけがない。
アルビオンの忠告に苦笑しながら、俺は、校庭へと援軍にやってきた赤龍帝に向かって、魔力弾を放った。
◆
「ギャスパー、無事だったのね!」
リアス・グレモリーは、キャスリングによって旧校舎に乗り込み、ギャスパーの救出に成功していた。
アザゼルに渡された神器を抑える腕輪をはめたことで、時間停止結界も解除された。
「部長、付近の掃討が終わりました」
そういって扉から入ってきたのは、赤龍帝、兵藤一誠だった。
ギャスパーの確保をリアスに任せると、安全の確保のため敵を次々と撃破していったのだった。
そのさまは圧倒的で、リアスを安堵させた。
(本当に頼もしくなったわね)
惚れた男のかっこいい姿に、改めて惚れ直すリアス。初めてあったときのエロいだけで何のとりえもない一般人だった面影はない。
校庭ではいまだテロリストと兄サーゼクスたちが戦っている。自分たちも参戦しようと旧校舎からでたところで――
「きゃあっ!」
突然一誠に抱えられて驚く。しかし、すぐに現状を把握した。
いきなり攻撃を受けたのだ。その敵は――味方だったはずの白龍皇ヴァーリだった。
一誠によって直撃は避けられたが衝撃によって意識が遠くなるのを感じる。
「部長!!」
最後に聞こえたのは、必死な形相を浮かべた、愛する男の姿だった。
◆
攻めてきた魔法使いだけではなく、護衛に来たのであろう天使、堕天使や悪魔が大勢躯を晒していた。 血塗られた校庭の中に、白髪の青年はいた。
ヴァーリ・ルシファー、今代の白龍皇、赤龍帝である俺の因縁の相手だ。
圧倒的な力と纏っている覇気に怖気づいてしまうが、それ以上に部長を傷つけられたことで、俺は怒りに支配されかける――。いかん、こういうときこそ冷静にならないと、八神さんとの特訓を忘れるな。
「やあ、今代の赤龍帝。なかなか来ないから、ついつい遊んでしまったよ――。腰が引けているようだな。戦場では、びびった者が死ぬんだ。覚えておけ!」
魔法使いを殺し、裏切った後は味方だった堕天使たちを殺した姿は、全く悪びれる様子がない。ヴァーリとっては強者と戦うことが全てで、弱者のことはどうでもいいのだろう。
不快だ。たまらなく不快だ。殺すことを何とも思っちゃいない。
バトルジャンキーといえばシグナムを思い出すが、見境なく殺すような真似はしなかった。力をもった幼児のようなやつ。こいつは危険だ。
それにコイツは俺ごと部長を巻き込もうとしていた。許せん! 怒りに任せてヴァーリに突撃する。
やつも応じ、殴り合いが続く。やはり、地力では奴の方が上か……。ならば―禁手化!
「貴様! 人が死んだんだぞ!? いっぱい人が死んだんだぞ!?」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』
「それがどうした。お前もその仲間に入れてやるってんだよー!」
『Vanishaing Dragon Balance Breaker!!!!』
「なぜ、そうも簡単に人を殺すんだよ! 死んでしまえ!」
ヴァーリが俺に攻撃をしてきた。殺すつもりの一撃だとわかる。だから俺だって容赦しない。
神器は感情によって反応するという。いまかつてないほど絶好調だ。テンションが上がり切って、身体の底から力が溢れだすのを感じる。
いまなら、いまならいける! いくぞ、これこそ究極技法!
「左手に魔力、右手に気……咸卦法! 遊びでやってるんじゃないんだよー!!」
「なんだと? あ、あ、あれは…!」
「生命は、生命は力なんだ! 生命は、この宇宙を支えているものなんだ! それを、それを…! こうも簡単に失っていくのは、それは、それは、酷いことなんだよー!」
「こ、こいつは何だ?(なんだこのオーラは、攻撃が効かないだと)」
「何が楽しくて、戦いをやるんだよ!? 貴様のような奴はクズだ! 生きていちゃいけない奴なんだー!!」
「あ、あの光、赤龍帝の思念なのか?」
「貴様の様なのがいるから、戦いは終わらないんだ!」
「俺を戦いに駆り立てたのは貴様だ! そんなことを言えるのかよ! 俺がこの手で殺してやる。そしたら戦わずに済むだろぉッ!」
「ヴァーリ・ルシファー! お前は戦いの意思を生む源だ! 生かしてはおけない! ――修正してやる!」
◇
ヴァーリ・ルシファーのやつ、遊んでいるな。まあ、赤龍帝を挑発すれば全力での戦闘を楽しめる、とそそのかしたのはボクなんだけれど。のりのりで兵藤一誠を挑発している。
セリフ回しもボクが考えた。前世の記憶のロボットアニメから拝借したのだが、なかなか様になっている。兵藤一誠の受け答えも素晴らしい。
なぜか彼らの後ろ姿にパイロットスーツを着た人間を垣間見た気がした。いかん、ボクも疲れているんだろうか。
一見ヴァーリ・ルシファーは大量の人間たちを殺したように見えるが、きちんと手加減されている。リアス・グレモリーを傷つけられ、怒りに支配された兵藤一誠は気づけなかったようだ。
目論み通り怒りで覚醒、パワーアップしたようだ。ピンチに陥ると強くなる。主人公体質とでもいうのだろうか。反則だと思う。
咸卦法は究極技法と呼ばれるだけあり、非常に習得が困難だ。原作通り才能のない兵藤一誠も練習はしていたが、うまくいっていなかったはずである。
努力・友情・勝利のジャンプ漫画の主人公みたいになってやがる。
さて、ボクもお仕事をしませんとね。
◆
「私は、ハイディ・E・S・インクヴァルト。真正古流ベルカの格闘武術覇王流の正統後継者です。白龍皇の邪魔はさせません」
少し離れた場所では、赤龍帝と白龍皇の激戦が繰り広げられている。既に手出しをできる雰囲気ではない。巻き込まれないようにと部長とギャーくんはこちらに逃している。
アザゼルの方を見ると、新たに転移してきたカテレア・レヴィアタンと一進一退の攻防をしていた。
ミカエルとサーゼクスの方をみやると、こちらもやたらと強い敵の出現に手を焼いているようだった。神器を宿していることから人間のようだが、強い。
彼らは部下を巻き添えにしないために、全力を出し切れていないというのも痛い。アザゼルたちの全力戦闘の余波を防ぐために、戦いながら結界を構築するという離れ業をやってのけていた。
何とか救援に向かいたいが、私たちと同年齢くらいの女性が、立ちふさがった。
こちらの戦力は、塔城子猫と、リアス・グレモリー、姫島朱乃、木場祐斗、アーシア・アルジェント、ギャスパー・ウラディ。グレモリー眷属が勢ぞろいしている。
八神家に鍛えられた私たちなら生半可な敵では相手にならない。事実、数に勝る魔法使いを圧倒していた。
そこに現れたのが、ハイディ・E・S・インクヴァルトと名乗る女性だった。すぐに戦闘になる。覇王流という聞いたことのない流派を名乗っているが、こちらも強い。
ただ、気のせいか手加減されているように感じる。まるで、私たちの戦力を調査しているような、そんな風に思った。
「スターライト・ブレイカァー!」
「覇王断空拳」
私の必殺技と敵の技が激突する。拳に激しい振動が走り痺れるが、相手は何の痛痒もないようだった。追撃を警戒するも何もしてこない。
さきほどからずっと同じだ。こちらから攻撃しても、あまり反撃してこない。
奇妙な膠着状態がしばらく続くと、爆音が聞こえた。そちらを見やると、アザゼルによって首謀者のカテレア・レヴィアタン打ち取られたようだった。しかし、アザゼルも無傷とはいえないようで、腕を一本犠牲にしていた。
「ふむ、決着はついたようですね。それでは、また会いましょう」
そう言い放つと速やかに撤退していく。敵側の生き残りも撤収していくようだ。そうはさせじと追撃しようとするが、やたらと強い神器持ちの人間とインクヴァルトとが殿を務めており、あまり戦果はあげられていないようだった。
安堵の息を吐くと「一誠!!」と、部長の叫び声が聞こえる。慌てて見やると――
――そこには、血だまりの中に倒れ伏した一誠先輩の姿があった。
後書き
・兵藤一誠
最強のニュータイプが憑依しました。
・ヴァーリ・ルシファー
最強のオールドタイプが憑依しました。
・咸卦法
ネギま! に出てくる技。主にトリプルTが使用していた。究極技法と呼ばれるだけあり、習得は非常に困難。
・努力・友情・勝利
少年誌にみられる王道パターン。土壇場で急成長するという理不尽な主人公特性をはやては警戒している。
・ハイディ・E・S・インクヴァルト
身バレを防ぐため変身している。アインハルトちゃんのリングネームでもある。いったいだれなんだー(棒
第39話 エロは世界を救う
前書き
未完成版ではあまりにも恰好がつかないので、完全版を投稿させていただきました。
後半部分だけ読めば大丈夫です。
「一誠、もう怪我は大丈夫?」
「心配し過ぎですよ部長、この通りぴんぴんしてます」
心配するリアス・グレモリーをよそに、笑顔で大丈夫だという兵藤一誠あった。どこまでも白い部屋は、病室だったが、ただの病室ではない。まるでホテルのスイートルームのような広さと豪華さを極めた部屋だった。
見舞いに訪れた一誠の両親などあまりの光景に卒倒しそうになったほどだ。これは、サーゼクス・ルシファーの純粋な好意によるものであり、妹のリアスを救ってくれた一誠への心からの感謝の現れだった。
「咸卦法だっけ? 八神さんに聞いたけれど、究極技法と呼ばれるほどの相当高度な技らしいね。それを土壇場で成功するなんて、『物語の主人公みたいだ』って彼女はあきれていたよ」
木場が言う通り、一誠は咸卦法に一度も成功したことがなかった。それを土壇場で成功させたのだ。木場は素直に一誠を称賛していた。と、同時につい数か月前まで全くの素人だった人間が、自らに匹敵――いや、むしろ凌駕するほどの実力をつけたことに戦慄していた。
「愛の力ですね」
茶化すように子猫が発言すると、真っ赤になって恥じらってしまう二人。そんな二人をみて、リア充爆発しろ、と彼女が思っても致し方ない。それくらい初々しく、相思相愛であることがまるわかりなカップルだった。
もともと距離が近づいていたが、ここにきて一気に距離が縮まった。サーゼクス公認の下、晴れて付き合うことになったのだ。これまで積極的なアプローチはリアスが行っていたのにも関わらず、告白は意外にも一誠からだった。
曰く、部長を失いそうになって初めて、部長が自分にとって、どれほど大きな存在だったかを痛感したから、らしい。リアスがそのときの様子をのろけまくっていたため、周囲は砂糖を吐きそうな表情をしていた。
しかし、ドライグや八神はやて曰く、兵藤一誠は才能が皆無であり、歴代最低の赤龍帝である、と断言していた。
では、なぜこれほどまでの実力を得たのか。その絡繰りは、八神はやてにあった。
「一誠、もう二度と無茶しないって約束して。はやても言っていたわ、あなたの修行は精神が死んでもおかしくなかったって、もう血濡れの貴方を見るのは御免よ」
「すみません、それは約束できません部長」
「一誠!」
「部長や大切な人たちを守るには力がどうしても必要なんです。白龍皇――ヴァーリと戦ってつくづく実感しました」
お熱いわねえ、とげんなりした顔を見せた朱乃は、どんな修行だったのか尋ねた。リアスにしか一誠は打ち明けていなかったのだ。死ぬほど心配していたリアスのことを思えば、とてつもなく過酷な修行だとは分かる。しかし、なぜ自分たちに隠れて修行していたのか。
「それについては申し訳ありません。幻想空間が修行の正体です」
「合宿でお世話になった、八神先輩の魔法ですね。確かに辛い修行でしたが、それだけであんなに強くなれるんでしょうか?」
「100年」
「え?」
「100年よ。幻想空間内で一誠が修行をした時間」
絶句する一同。なんと一誠は精神世界で100年間ひたすら修行したというのだ。驚愕の顔を浮かべる仲間をみて照れたように笑う一誠。できれば隠しておきたかったな、と思う。
「それなら、僕たちも誘ってほしかったな。兵藤君ばかり強くなってずるいよ」
半分冗談、半分本気といった面持ちで、木場は一誠に言った。けれども、それはできない、とリアスが断言した。
「副作用があるのよ。何のリスクもなく力を得られるわけないでしょ」
「当然ですね。けれども、どのような副作用なんですか?」
「えっと、それは――」
リアスは、朱乃の問いに躊躇したような様子をみせる。
「それは?」
「エロスよ」
「は?」
「だ・か・ら! エロ、煩悩を代償としたのよ」
あんまりな答えに一同は沈黙した。一誠は苦笑いしながら、だから教えたくなかったんだよな、とつぶやいた。また、俺の場合は、溢れるエロパワーとそれを制御する神器をもっていたから出来たことであり、他の人間は命を削ることになる。とてもまねすることはできない、と付け加えた。
そんな一誠をみて、はやて曰く、いまの一誠は仙人もかくやといった状態だそうよ、とリアスが衝撃的な発言をする。アーシアを除いて、一誠の変態振りを知っている人間からすれば、驚愕の事実だった。
朱乃など、頬をつねってこれは夢ではないのですね、と混乱している。
「じゃ、じゃあ、上級悪魔になってハーレムを作る夢はあきらめたんですか?」
確認するように子猫が問う。
「そうだな。いまの俺は部長だけで十分だ」
「気持ちは嬉しいけれど、別に他の女がいても構わないわよ? 力をもった悪魔が複数の女性を侍らせるのは当然だもの。特に、一誠のような素敵な男の子ならなおさらね」
「部長……」
「一誠……」
あー、また始まった、といった顔をしながらも、仕方がないな、と苦笑を浮かべつつ、いちゃいちゃする仲間を見守るグレモリー眷属一同なのであった。
ちなみに、八神家はお見舞いの品を渡すと、とっとと帰ってしまった。何やら用事があるらしいが、気乗りしていないようだった。はやては、仙人状態の一誠をみて、今後幻想空間の使用が禁止を宣言している。
これ以上グレモリー眷属を強化しないための措置であるが、彼女たちはそれを知らない。ただし、例外が一人いるが。
◇
「曹操のちょっといいとこ見てみたいー!」
そこは、親睦会という名の合コン会場だった。正直気乗りしないが、協力関係にある以上、交流が必要なのも確かだった。
ただ、だからといって楽しめるかと言われれば否だ。英雄派の幹部と八神家の親睦会、というのが当初の予定だったはずが、大人のジュースが出てきてから流れが変わった。その結果が――
「はい、のんでのんでのんでー!」
「うおっ、曹操本当に一気しやがった」
「これ結構果汁高いのに」
「どうりゃ~、はやて、俺のかちりゃ~」
飲み比べなんてしてないんだがね。しかし、曹操は今日やけに絡んでくるな。大人のジュースの飲み比べで負けたのは事実。罰ゲームは何だっけ? 禍の団に参加した動機? それならいい魔法がある。
皆をボクの記憶の世界に誘おうじゃないか。このときボクは酔っていたのだろう。だから、ボクの最大の秘密を明かしてしまった。酔ってたとはいえ迂闊にすぎる。やっちまったぜZE。
「幻想空間!」
「……!?」
◆
俺は完全に酔いから覚めていた。はやてが見せてくれた彼女の過去の幻影。彼女の強さの源……そして、彼女の存在意義。何の救いもない少女の物語だった。
母はいないが、大好きな父との平穏な生活。はやての記憶の場面が移り変わっていく。そのどれもが父との思い出だった。というか、父親の姿しかない。父子家庭だから当然とはいえ、ちょっと父親のこと好きすぎじゃないか?
ファザコンってやつね。とジャンヌが妙に納得していたようだった。そうだったな。彼女も父を堕天使に殺されたのだったか。なにか感じ入るものがあったのだろう。
小学校に入学したが、孤立してしまったはやては、ますます父親に依存するようになる。くそっ、俺がその場にいれば、はやてと仲良くなって……幼馴染とか最高のシチュエーションじゃないか!
場面が変わる。9歳の誕生日を翌日に控えた夜、事件は起こった。はぐれ悪魔の襲撃だ。だが、はやての父があっさり倒す。凄腕のエクソシストと聞いていたが想像以上に強い。ヘラクレスが、目を見開いている。
確か、六式だったか。古のエクソシストによって開発されたという天使陣営秘伝の秘術だ。人間でありながら、人外と戦えるようになる脅威の技術。それだけに、習得は困難を極める。ただ、開発者は「海賊王に俺はなる!」といって泳げないくせに海に出ようとした変人だったらしい。強かったそうだが。
そして、悲劇が起こった。偶然駒王町に来ていた魔王サーゼクス・ルシファーが、勘付いたのだ。その後は、娘を守るためにはやての父は戦いを挑むが敗れ、ジュエルシードという名の神器――いやロストロギアといったか――の力に目覚めたはやては、仇討ちをしようとするも、経験豊富な魔王相手に勝てるわけがなかった。
そこで本来なら終わるはずだった。が、奇跡は起こった。消滅の魔力を浴びて消滅しようとした瞬間、ジュエルシードが発動する。そして、青い光に包まれたはやての、最期の願いを叶えたのだ。歪められた願いを。
復讐に拘る理由の一端を見た気がした。ロストロギアという神器のようなものであるジュエルシードとやらが宿っているらしい。そして、ジュエルシードの力を使うたびに、そこに宿った怨念に浸食されていくことも。
はやての慟哭が、断末魔の声が耳にこびりついて離れない。ずきり、と心が痛む。俺は、妹を守れなかった。けれども、今度こそは間違えない。
俺は君を救いたい……何か方法を考えねば。リインフォースとの相談を思い出す。
はやて、きみのためなら死ねる。
◆
リインフォースは黙って見物していた。主が主になった原点。忌々しい。既に知っていても、忌々しい記憶だ。結局、自分たちは、はやての父を救うことができなかった。忌々しいサーゼクス・ルシファーを打ち漏らしたことも。
飄々としているように見えて、はやての心は壊れている。最愛の父を奪われた時から、変わらず傷を負い続けている。もちろん、自分たちが寄り添うことで、心のスキマを埋めようとしているし、それは半ば成功しているといってよい。
けれども、あの世界のはやてを救うことも、いまのはやてを救うこともできなかった。本当ならば、はやての復讐を止めるべきなのだろう。だが、それはできない。ジュエルシードの奇跡の産物である八神家は、本質的に復讐を望んでいるのだから。
理性では理解していても、感情が納得してくれないのだ。だから、自分たちにできることは、はやての意志に従い、忠誠を誓うことのみ。自分たちでは、はやてを止めることはできない。
しかし、希望はある。英雄派に所属して、希望をみたのだ。決意を秘めた目をした曹操という少年を見やる。彼から受けた相談を、思い出しながら、フッとシニカルな笑みを浮かべた。彼ならばあるいは――リインフォースは、奇跡を願った。
後書き
・きみのためなら死ねる
セガのゲーム。OPテーマが印象的。
・はやての過去
このあたりは次の章で詳しく。結構鬱展開ですが、ハッピーエンドにするつもりです。
第40話 ヤンシア・デレジェント
前書き
遅くなりまして、申し訳ありません
終わりまでのプロットができてるのに、遅筆なのです。
ただ、寝かせておくと、キャラが思いもよらない方向に走ったりします。
その結果が、聖女()さんでした。ファンの人はごめんなさい!
第40話 ヤンシア・デレジェント
「はやてさんはいらっしゃらないのですか……」
気落ちした様子をみせるアーシアをみて、リアスはため息をついた。これで何度目だろか。アーシアから、はやてたちが、よそよそしくなったと聞いてから、リアス・グレモリーとて何もしなかったわけではない。はやてには悪いが、こっそり悪魔の監視をつけていた。
しかも、はやての強さを考慮してか、わざわざサーゼクスに頼んで、腕利きを用意していたのだ。
だからこそ、八神家には問題などない。と、不安がるアーシアに言ってみせた。事実、監視の報告からも何もないし、リアスの目からしても、とくに奇妙な点はなかった。そもそも、最近のほうがおかしかったのだ。はやてたちのほうから、悪魔の事情に首を突っ込むことはなかった。アーシアの件は、例外なのである。彼女はよそよそしくなったと感じているようだが、なんのことはない。ただ、元の関係に戻っただけ。
聞くところによると、ほとんど家族同然の付き合いをしていたようだ。はやてはアーシアを妹のようにかわいがっていたし、アーシアも命を助けてもらったはやてに懐いていた。たしかに、はやてとアーシアが疎遠になったのは、気になった。
が、いつの間にか、アーシアからの積極的な――いささか積極すぎる――アプローチにより、はやて要塞は陥落していた。元さやに戻った、というよりは、猛アタックするアーシアにたじたじのはやて、というおかしな関係に落ち着いた。
「何度もいうけれど、はやてたちは、本来グレモリー眷属じゃないのだから、冥界への合宿にも行けないのよ」
「はあぁ~、はやてさんとのめくるめく青春のラブトーリーがぁ、ときめきのメモリアルがぁ……部長も私たちの門出を邪魔するんですか!?」
誰だこいつ。もう何度めかもわからない問いを発する。目からハイライトが消えておどろおどろしい空気を放つようになったアーシアをみて、特大のため息をついたリアス・グレモリーだった。
◇
今日はアーシアを家に招待した。以前から、アーシアの家とボクの家を行き来する仲だったが、記憶を取り戻してからは、初めてになる。他のグレモリー眷属からは距離を置いているのにね。てっきりリインフォースたちは、反対するだろうと思っていたが、むしろ賛同してくれた。何をたくらんでいるんだろう? ま、ボクに不利益を与えるようなことではあるまい。それくらいは彼女たちのことを信頼している。
「アーシア、そんなにくっつかなくても……」
「えへへ、はやてさんってあったかいですね」
「そりゃ、そんだけくっつけばね」
アーシアとの距離感がつかめなくて、最初はギクシャクしたけれど、いまはすっかり前のように打ち解けた。というか、アーシアの押せ押せオーラに根負けしたというか。あるぇ~、アーシアってこんなに押しの強い少女だったっけ? もっと、こう儚げな薄幸の美少女だったような。さきほどから、ぴったりとくっついて離れない。
「いままで急に邪険にされた罰です」
「それを言われると弱いなぁ」
一方的に距離を置いたのはこちらだし、アーシアはボクの復讐対象ではない。つまり、非はこちら側になるわけだ。しかし、ちょっと見ないうちに、性格がずいぶん変わったような。最近の妹分の成長に戸惑いを隠せない。守護騎士たちとは、違ったスキンシップだ。……ちょっと、いいかも。なんて。
「はやてさん、ってなんかオーラ出ていますよね。なんか、こう、はやて粒子とか散布してそうです。アーシアは、はやて粒子を浴びて浄化されそうですぅ。あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃあ^~」
謎言語をしゃべりだした。なんじゃはやて粒子って。ミノスフスキー粒子か! これって富野好きが由来って聞いたけど本当なのかね? じゃない、慌てて魔力を制御した。アーシアの謎のアタックに動転して騎士甲冑を展開しかけていたらしい。
ボクのかわいい小動物みたいなアーシアはどこにいったの。いまのアーシアは、まるで肉食獣だ。隙あらば、ボクの胸を触ろうとしてくる。前こっそりアーシアの部屋をサーチャーでのぞき見したときは、ストー……うん、忘れよう。考えるな。部屋一面のとうさ――写真……溢れ出すはやぐるみ……うっ、頭が。
あれだ、うん。悪魔のせいだね。そういうことにしておこう。悪魔ゆるすまじ!
「主はやてが幸せそうでなによりです」
「はやての困り顔っていうのもレアだな」
ボクの愛する家族たちは、アイス食べながら傍観してやがる。おい、ヴィータ、夕飯前でしょ。おやつ抜きの刑。慈悲はない。
そんなこんなで、ちょっと変わってしまったアーシアを八神家は暖かく迎え入れたのだった。彼女は、グレモリー眷属だから、敵対する可能性は高いけれど……考えないようにしよう、いまだけは。願わくば、大願成就のあともこの幸せがつかんことを。きっと無理だとわかっていても、願わずにはいられなかった。あ、でも神様いないんだった。神は死んだ。
とまれ、そろそろ夕食だよ! ちょっと時間早いって? いやいや、ちょうどいい時間です。決してスマブラでカービィ軍団にはめ殺されたからじゃないよ。シグナム、剣つかえよ。
というわけで、今日は――闇鍋じゃぁあああ!!
◆
こ、これがはやてさんのお部屋。女の子の部屋にしては、殺風景ですが、はやてさんらしいといえばらしいのかもしれません。おっと、そんなことより、いまはこの神聖なる空間の空気を全身で浴びねば。
「アーシア、急に深呼吸しだしてどうしたんだい?」
「いえ、お気になさらず。いま、私は神聖なる使命を実行している最中なのです!」
顔に疑問符を浮かべながら、とりあえずはやてさんは、うなずいてくれました。きょとん、とした顔がとってもレアですね! あぁ、普段の凛々しいお姿に垣間見える新たな一面にアーシアは感激にむせび泣いて天にも昇る気持ちです。
「ア、 アーシア? 急に涙を流して、どうしたの?」
はやてさんの心遣いが、身に染み入ります。なんてお優しい方でしょう。私もかつて聖女と呼ばれていたこともありましたが、はやてさんこそ、本物の聖女です。あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃあ^~。……イっちゃいそうです。
「鼻血出ているよ!? 本当にどうしたの!?」
おっと、鼻から愛情が漏れてしまいました。
はやてさんがいなければ、私は十字架に貼り付けにされて死んでいたでしょう。みなさんには黙っていましたが、ヴィータさんに救出されたときの記憶は、うっすらとですが残っていたのです。当の本人が、黙っていたそうにしていたので、口には出しませんが。ハッ!? これってもしや、二人だけの秘密というやつでしょうか。いやん、照れますね。でも、二入だけの秘密、なんという甘美な響きでしょう。
実は、はやてさんのご家族から、ある相談を受けています。とてもとても重大な相談です。私の人生は、岐路に立っています。けれども、私の進む道は決まっています。最愛の人とそい遂げたいから、そのためなら、なんだってします。たとえ、何を犠牲にしようとも。
はやてさんに、救われた命です。きっと神もお許しになるでしょう。あ、でも、神はなくなっていましたね。なら、私の神は、八神はやてです。悪魔なんだから、悪いことしても仕方ないですよね。
◆
「今日は良き日でした」
アーシア・アルジェントは、にこにこしながら自室でつぶやいた。闇鍋という日本の伝統料理をごちそうになった。みんなでわいわい橋をつつくという初めての経験は、とても楽しかった。シャマルが入れた物体Xではやてが倒れたことで、途中で中止になったが。
なお、なるべく好物を入れるように、といわれたので、はやて人形を入れたところ叱られてしまった模様。
そんな騒がしい家、とても温かく陽だまりのような家だった。そんな家の一員として迎え入れられたことが、とてもうれしく、誇らしかった。
リインフォースから打ち明けられた、はやての秘密。迷うことなく彼女の提案に乗った。明らかに主であるリアス・グレモリーに不利益があるその提案を。そこに罪悪感はかけらもない。だって、彼女は悪魔なのだから。
「あぁ、いまのこのあふれる思い、胸の内に秘めた熱きパトスを解き放つのです!」
すぅーっと、息を吸い込むと、一気に言葉を解き放った。
「はやて!はやて!はやて!はやてぇぇえええわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!はやてはやてはやてぇええぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!八神はやてたんのライトブラウンの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
アニメ第二期のはやてたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねはやてたん!あぁあああああ!かわいい!はやてたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック2巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…アニメもアニメもよく考えたら…
は や て ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!駒王ぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のはやてちゃんが僕を見てる?
表紙絵のはやてちゃんが私を見てるぞ!はやてちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のはやてちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのはやてちゃんが私に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!私にははやてちゃんがいる!!やったよ美少女はやて!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのはやてちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあはやて様ぁあ!!夜、夜天の王!!魔法少女ぁああああああ!!!合法ロリぃいいい!!
ううっうぅうう!!私の想いよはやてへ届け!!駒王のはやてへ届け!」
ぜぇぜぇと肩で息をしながら、心地よい満足感に彼女は浸った。光を映さない瞳に、思い人の写真をみやる。今日、新たに仲間に加わった写真の群れをみて、にぃ、と彼女は嗤った
アーシアの部屋には、壁という壁にびっしりと八神はやての写真が貼ってあった。
後書き
・ヤンシア・デレジェントになりました。ヤンデレェ。
・くんかくんかジェネレーターを使っているところを後輩に見られました。仕事中に遊んではだめですね。
第41話 善悪の彼岸
前書き
あけましたおめでとうございました。
本年もよろしくお願いいたします。
リアス・グレモリーからプールに誘われたが断った……ら、アーシアにマジ泣きされた。なぜボクの水着姿に執着するのか。遠い目をしていたら、シャマルが、閃きました。というから任せていたら、いっしょに風呂に入っていた。いまのアーシアと二人きりで。なんか、猛獣といっしょの檻に入れられた気分だった。あのあとボクは……僕は? 思い出せない。うん、何もなかったんだ。そういうことにしよう。アーシアが意外とテクニシャンだったとかそういう事実はなかったんだよぉ!! あれ、涙が。
「マスター、死んだ魚のような眼をされていますが」
「うぅ……ボクは汚されてしまった」
「まあまあ、はやてちゃん。人生はね。うれしいこと半分。悲しいこと半分なのよ」
「誰うま。って、全部おまえにせいじゃないか、シャマルゥッ!!」
きゃーきゃーと騒がしい。そんな我が家が好きです。今日は、みんな大好きすきやきだよ! ヴィータってもうスタンバってるし。ザフィーラ、お前もか。もくもくと配膳しているリインフォース、マジおかん。シグナム、手伝わなくていいから。その心意気だけで十分です。手伝わないでお願い。あ、シャマルは、ごはん抜きだから。
「なんで、いつも私ばっかりこんな目に」
よよよ、と泣き崩れるシャマルだった。
◆
計画通り! にやりとシャマルは嗤った。
確実に、アーシアとはやては、親密になっている。例の計画もあと少しで最終段階に入る。親しい人間だからという理由で、少しでも躊躇いがうまれてくれればそれでいい。もっとも今回のはおまけのような策だ。血のにじむような特訓を頑張ってくれているアーシアへのご褒美という要素が強い。まあ、あそこまで暴走するとは思いもしなかったが。鼻血の出しすぎで倒れなければ、はやては散っていたかもしれない。ナニがとはいわないが。
「大丈夫か、シャマル。ほら、はやてからの差し入れだ」
「ありがと、ヴィータちゃん――あら、てっきりお肉抜きかと思ったら、いっぱい入ってるわね」
夕食抜きを宣言されて、ひとり部屋に謹慎中だったシャマルのもとに来たのは、差し入れをもってきたヴィータだった。てっきり残り物だから肉などないだろう――うちは肉食獣が多い――と考えていた。肉がないどころか、大盛りである。意外だった。
「はやてからの伝言だ。『心配してくれてありがとう』だってさ」
シャマルは、動揺した。滅多なことで感情を動かすことのない彼女が。はやてちゃん……、とつぶやく。でも、どうしてと思う。
「あたしたちが何か企んでいることくらい、うすうす感づいているんだろうぜ。でも、それも含めて家族なんだろうなぁ。『人を100%知ることなんてできっこない――」
「――けれど、100%信じることならできる』でしょ? 信じているから隠し事をされたとしても問題ない、か。さすがは、はやてちゃんよね」
はやての名言を当てられて目を丸くするヴィータだったが、そういえば、あの場にシャマルもいたか。と、思い出す。
あれは、まだはやてと暮らして間もないころ。初めての『自由』に慣れずにいたころ。すでに、はやての温かさに触れ絶対の忠誠を誓っていた。けれども、不安だった。忠誠という目に見えないもので、はやてに信頼してもらえるのだろうか、と。
そんな彼女たちに、はやてが送った言葉だった。
口さがない人間は、人を疑うことのできない小娘の戯言かとやじるかもしれない。けれども、はやてのその言葉こそ、ヴォルケンリッター全員が求めていた言葉だった。
100%の忠誠には100%の信頼を。そのときの歓喜をいまだに覚えている。身体の底から嬉しさに包まれたさまを、まざまざと思い出せるのだ。一瞬の夢想にふけてから隣に目をやり瞠目した。
「はやてちゃん……やはり、あなたは優しすぎる」
シャマルが「本気で」泣いていた。演技かどうかなんて長い付き合いのヴィータなら造作もなく見抜ける。そんなシャマルのなき姿など、滅多にお目にかかれない。
いや、はやてのとこにきてからは、ぐっと人間らしくなったか。家族としてのヴィータはそう思って喜ぶ。――だが。
「シャマル、例の計画。情に流されてないだろうな」
戦士としてのヴィータは別だ。主を守るためなら、情など不要。それが一番求められているのは、参謀たるシャマルだった。
だが、杞憂だったようだ。涙を拭いてヴィータをにらみつけるシャマルは、冷徹でかつて共に悠久の時を戦い続けた戦友の姿だったのだから。
「ご忠告ありがと、ヴィータちゃん。けれども、心配いらないわ。曹操もアーシアちゃんも、予想以上の逸材よ」
「そか。ならいいんだ。じゃ、冷めないうちに食べときな」
「私は一人ごはん、つれないわね」
そうぼやくシャマルに振り返ってヴィータはにやりといった。
「だって、そんな泣きづらのままはやての前に出られないだろうが」
「っ!」
あはは、と楽し気に笑いながらヴィータは去っていった。
「もう、ヴィータちゃんったら。あら、このお肉本当においしいわね」
少し冷めてしまったすきやきをほおばりながら、まなじりを下げる。けれども、ヴォルケンリッターの頭脳として、感情を排して計算し続ける。少しでもはやてがハッピーエンドを迎えられるために。
◇
「おかしいな? なんでアーシアがいるの?」
「はやてさん! 私は存在しちゃいけないんですか!? 酷いですぅ……」
わざとらしく泣きまねをするアーシアは放っておいて。いま、冥界にあるプールにきている。もちろん、普通のプールではない。「禍の団のアジトにある」プールだ。曹操が血涙を
流しながら、いっしょにプールに行こう。とかいうから、ついOKしてしまった。その曹操は、盛大に鼻血を吹いて倒れていた。イケメンで実力も人望もあるのに残念なやつ。
うん。ここは禍の団アジトなのだ。
「やっぱりなんでアーシアがいるの?」
あれー、おかしいわー。おかしいのボクだけなの? みんな平然としているし、アーシアとジャンヌが仲良さそうにだべっているけれど。
「驚いたようだな。実は、アーシアは少し前から俺たち英雄派に所属していたんだ。で、今日がそのお披露目というわけだ――決してはやての水着が見たかったわけじゃないぞ」
「はい! ご紹介にあずかりましたアーシア・アルジェントです。趣味は、はやてさんウォッチ。特技は、なぜなにはやてさん。将来の夢ははやてさんと結ばれることです」
「なにぃ!? 将来はやてとだと? 俺のライバルというわけか!!」
なんかぎゃーぎゃーいっている。驚きすぎてもうなんかどうでもよくなってきた。ヴォルケンズがなんかこそこそやっているな。ていうのには気づいていた。こんなサプライズだとはね。
「おほん。では改めて、アーシア・アルジェントを英雄派に迎え入れる!」
ぱちぱちと拍手が送られる。前向きに考えよう。アーシアと敵対する確率が減った。喜ばしことじゃないか。
このあとは、普通? にプールで遊んだ。紫色の空も慣れてくればなかなか乙なものである。ザフィーラは、泳ぐのがだめだった。やっぱ、犬だからなのか。その割には、ムキムキの身体にブーメランパンツとか。ヘラクレスと張り合っていて正直ウザかった。
アーシアと曹操が喧嘩しながら猛アプローチをかけてきた。だんだん慣れてきた自分が悲しい。とまれ、楽しかったなあ。こんな日常がずっと続いてほしい……そう考えると、胸の中がチクりと痛んだ。
……あれ、ボク、アーシアと風呂に入り損じゃね?
◆
「七条大槍無音拳」
ポッケに手を入れていた一誠先輩が、技名を叫ぶと私は吹っ飛ばされた。とっさに受け身をとるが、あまりの衝撃に気を失いかける。
「そこまで! 子猫さん、戦闘不能!」
「子猫、大丈夫か?」
心配そうな顔をしながら、こちらに手を出す一誠先輩。その手をつかんで、ふらつく足に喝を入れて立ち上がる。子猫と呼ばれて一瞬胸が高鳴った。
コカビエルのとき、駒王協定襲撃のときと一誠先輩には助けられてばかりだ。だから、親しみを込めて名前を呼んでもらうように頼んだ。そう、それだけだ。
安堵したように微笑を浮かべた一誠先輩の顔がなぜかまぶしくて、顔を背けながら、小声で大丈夫ですといった。
「一誠は、本当に強いわね。タイマンで子猫と祐斗に勝っちゃうし。遠距離戦でも、私と朱乃じゃ敵わないし。主として誇らしい反面、わが身が情けないわ」
「そのかんかほう、やはり僕には使えないんだろうか」
「八神さん曰く無理だそうだ。赤龍帝なみの頑強さがないと、身体が耐えられないらしい。それに、ファンタズマゴリアは封印するってさ」
「そうか、残念だ」
みんなで、今日の特訓の感想を話し合う。私たちは、冥界に強化合宿に来ていた。引率者はなんと堕天使総督のアザゼル先生。最初は警戒していたけれど、存外気さくな性格で、先生向きなのかもしれなかった。実際、彼の指導で、私たちグレモリー眷属は、めきめきと成長している。
「アーシアは元気でしょうか」
「心配いらないさ、子猫。八神さんたちと一緒なんだから」
「ゼノヴィアの言う通りね。……むしろ、はやての方が心配だわ。貞操的な意味で」
あぁ~と微妙な空気が流れる。アーシアの変貌ぶりには、驚いた。悪魔になってはっちゃけたのだろうか。ゼノビアも一誠先輩に、その、子作りをせがんでいたし。おとなしいアーシアも好きだったけれど、いまの方が生き生きとしている。案外今のが、本来の性格なのかもしれない。八神先輩には同情するけれど。
「ギャー君も元気でやってるでしょうか」
「ミルたんなら大丈夫さ。見た目はともかく、中身はすごくいい人だし。見た目はともかく」
「でも、実際に指導してくれるのは、別の人なんですよね」
「あぁ、なんでも真祖の吸血鬼で、八神さんに闇の魔法を教えた人物らしい。ミルたんに師事しようとしたギャスパーの心意気に免じて、同じ吸血鬼として鍛えてやるってさ」
ギャー君……グレモリー眷属のビショップであるギャスパー・ウラディの話になった。彼女。じゃなかった、彼は、ミルたんとともに特訓している。実際に教えているのは、エヴァさんだけれど、特訓風景は見せてくれないみたいだった。
尊大な性格だったけれど、見た目と相まって可愛らしいひとだった。ミルたんに対する態度の豹変ぶりが、すごかったけれど。なんというか、乙女だった。
「あんなちっちゃい少女とは思わなかったけれどね」
「まあ、悠斗の言う通りだけれど、実力は十分よ。ギャスパーも頑張っているんだから、私たちも負けないようにしないと」
部長のいう通りだ。私も、頑張らないと。けれども、私の伸びしろがなくなってきている。あれを使うしかないのだろうか。アザゼル先生にも、あれを習得するように勧められている。忌まわしい記憶の中にある仙術を。……姉さん。私は。私はどうすればいいのでしょうか。
第42話 駆り立てるのは野心と野望、横たわるのは猫と豚
前書き
注意、原作キャラが死亡します。
「はやてがアジトにいるなんて珍しいわね」
禍の団のアジトにて、黒歌から声をかけられる。着物を着崩した黒い長髪の妖艶な美女である。その正体は猫妖怪であり、塔城子猫の姉でもあった。彼女は、英雄派ではなくヴァ―リ・チームの所属だが、同性ということもあり気が合った。
「目的は君だよ」
「あれ? ひょっとして私口説かれているにゃん? だめよ、だめだめ。曹操が泣いちゃうにゃん」
「……君が行こうとしている場所についていこうと思ってね」
塔城子猫のところに行くんだろ? そういうと驚いた顔をされた。
「よくわかったにゃん。ちょうど、冥界にきている白音に会いに行こうと思っていたの」
白音とは、塔城子猫の昔の名前。黒歌と白音。いい名前だと思う。悪魔どものせいで、彼女たちは離れ離れになってしまった。やはり、悪魔はろくなことをしない。強くそう思う。
「だからといって、魔王主催のパーティーに単独で乗り込もうだなんて、度胸があるな。ボクもつれていけ」
「うーん、いいけれど、そんな装備で大丈夫にゃん?」
黒歌は不思議そうに見渡した。ここには、ボク以外誰もいない。ヴォルケンズと離れているのは珍しかった。
身バレを防ぐための高度な変身魔法はボクしか使えない。とはいえ、他の家族は支援に回すから問題ないと告げる。
「大丈夫だ、問題ない」
◇
「ここがパーティー会場にゃん。白音を呼ぶからちょっと待つにゃん」
「じゃあ、見つからないように控えているとしよう」
「頼むにゃん。はや――――じゃなかった、アインハルトちゃん」
語尾ににゃんをつけるのは、種族特性なのかと思ったが、本人曰く単なるキャラ付けらしい。そりゃそうか。塔城子猫は、普通に会話しているのだから。あざといな。ボクも真似てみようか。今度、ミルたんと相談してみよう。
ボクのほうは、身バレを防ぐために、変身している。名付けて『アインハルト・ストラトス』。リリカルなのはVividに出てくるヒロイン? な娘。白銀の長髪に、オッドアイ。高校生くらいで、スタイルもいい。まさに理想的な身体だ。
なぜか、リインフォースは微妙な顔をしていたけれど。銀髪オッドアイとか最強にかっこいいじゃんか。特技の|覇王流≪カイザーアーツ≫って響きもかっこいい。しかも、前世の因縁も引きずっている。くっ、リインフォースに封印された右手が疼くぜぇ。
いかにアインハルト・ストラトス――の設定――がかっこいいのか説いているが、聞き流された。なぜだ。
「きたにゃん」
黒歌が放った猫の使い魔が、塔城子猫にみつかったらしい。姉の存在に気付いた彼女は、単身でこちらに向かってきているようだ。
「貴女は……黒歌姉さま……なの?」
「久しぶりね、白音、お姉ちゃんだよ」
こちらの姿をみて絶句している少女。その小柄な身体は、姉に惨敗していた。姉妹でなぜここまで差がついたのか。慢心。油断。どこがとは言わないが。巨乳死すべし。
一人で来た――と、本人はそのつもりなのだろうが。
「無粋な連中がきたようね。そこの連中、気づかないと思ったのかにゃん? 私は仙術が使えるから、気に敏いにゃん」
繁みに向かって声をかけると、そこからぞろぞろと人影が出てきた。兵藤一誠、リアス・グレモリー、姫島朱乃、木場悠斗、ゼノヴィアだ。
「|禍の団≪カオス・ブリゲード≫の黒歌、だったわね? なぜ、魔王主催のパーティーに来ているのかしら。まさか、テロでも起こすつもり?」
「違うにゃん。本当は冥界で待機だったのだけれど、ちょっとした野暮用で来たにゃん。もう用事は終わったから帰るわ――白音と一緒にね」
あの時一緒に連れていけなかったからね、と黒歌はつぶやいた。あの時、とは恐らく、塔城子猫を助けるため下種な元主の悪魔を殺し、逃げたときだろう。真実を告げるべきか迷うが、これは黒歌の問題。部外者のボクが口をはさむべきではない、か。
悪魔の被害者としては、彼女に幸せになってほしい。
黒歌が、目を細めて塔城子猫を見つめると、彼女はおびえたように、びくりと震えた。それに気づいたのか、木場悠斗が、庇うように一歩踏みしてきた。
「彼女は、僕たちグレモリー眷属の仲間だ。奪われるわけにはいかない」
「この子は、私たちの家族よ。はぐれ悪魔の貴女なんかに指一本触れさせないわ」
「……」
リアス・グレモリーも続いて、塔城子猫を渡さないと宣言した。原作通りの展開だな、と思いながら静観していると、黒歌が、うつむいて黙り込んでいた。どうしたのか。
「…………奪う? ……家族だって? 笑わせんなッ! 私をはぐれ悪魔にしたのも! 家族を! 白音を奪ったのも! 全部、全部お前たち悪魔じゃないかッ!」
お前たちさえいなければ、私たち姉妹は離れ離れにならずに済んだ。突如涙ながらに訴えかける黒歌をみて、周囲は愕然していた。ボクもその中の一人だ。こんなむき出しの感情を発露した彼女は初めて見た。
黒歌は、普段はもっと飄々とした女性だ。けれども、ボクたちは知っている。妹を守るため、賞金首に、はぐれ悪魔になって、必死に生に食らいついてきた。もう一度、妹を守るため。会って、幸せに暮らすため。
さきほどアジトで昔語りをしていたのを引きずってしまったのかもしれない。昔を思い出した直後だと、ボクもよく感情的になるのだから。と、いうことはボクのせいか。
「……姉さん、私は――」
「リアス嬢とその眷属がパーティーを抜けだしたからと、追いかけてみれば、SS級賞金首が居るとはな」
塔城子猫が何某か言おうとしたところで、巨大な影が現れた。元竜王、最上級悪魔の『魔聖竜』タンニーンだ。やっかいな相手だ。黒歌では分が悪いかな。
「SS級相手では、リアス嬢たちでは、荷が重かろう。パーティーには無粋な客だ。さっさと始末するに限る」
「ま、待って!」
な! いきなりブレスだと!? グレモリー眷属の静止も聞かず、黒歌にブレスを吐こうとする。黒歌の仙術では防げない。ならば――
「――覇王断空拳!」
隠れていた暗がりから飛び出して、タンニーンの顎に掌底をくらわした。ブレスの射線をそらすことに成功する。
「助かったにゃん、は―――アインハルト」
「無事で何よりです」
「貴女は、ハイディ・E・S・インクヴァルト!?」
「駒王協定ぶりですね。改めて、本名を名乗りましょう。ベルカ正統|覇王流≪カイザー・アーツ≫継承者、アインハルト・ストラトスです」
黒歌が無事でよかった。タンニーンが、いきなり攻撃してくるとは予想外だった。さきに手を出してきたのはあちらだ。なら、容赦はしない。
「黒歌、グレモリー眷属は任せました。私は、タンニーンをやります」
「わかったにゃん。グレモリーたちを殺してでも奪い取るわ」
役割分担を決め、それぞれの敵と相対する。
◆
タンニーンは、目の前の少女に圧倒されていた。リアスたちを追いかけていたのは、禍の団と思わしきはぐれ悪魔。それもSS級賞金首であり、リアス嬢では分が悪いと踏んだ。本当なら、彼女たちに経験を積ませるため、見守るつもりだったが、やめた。
ドラゴンの鋭敏な感覚が、何者かの強者の気配を感じたのだ。だから、速攻でブレスで決めようとした。それを邪魔しようと出てきたのが、目の前の少女だった。
「ぐ、おのれ、小娘……」
「もう、終わりですか? 元竜王ときいて楽しみにしていたのですが、残念です」
既に決着は明らかだった。満身創痍のタンニーンと、余裕の表情を崩さないアインハルト。終わりです、と言って身動きの取れないタンニーンの前で、拳を構える。
一体、何事かと、ただ見ることしかできないタンニーンの前で、アインハルトの拳に信じられないほどの魔力が収束する。そして――拳を突き出すと魔力衝撃が放たれるのを見た。全身が焼け付くように消滅していく。それが、タンニーンの感じた最期だった。
◆
黒歌は苦戦していた。正直、リアスたちを過小評価していた。所詮中級悪魔レベルだとおもっていたのだ。それが――
(――まさか、ここまで苦戦するとはね。でも、白音を連れて帰るにも負けられない!)
特に、注意するべきは、赤龍帝たる兵藤一誠と白音だった。ポケットに手を突っ込むという、舐めた格好をしていたから、見誤った。目に留まらぬ速さで、ポケットから手を出すと衝撃波を飛ばしてくるのだ。しかも、速さ、範囲、威力ともに高い。いまは毒霧でなんとか対抗できているにすぎない。実力では敵わない、そんな事実に驚愕していた。
白音も負けていない。黒歌は白音を傷つけることができない。どうしても、手心を許してしまう。そんな白音にインファイトをしかけられると、戦いづらかった。それに、彼女が放つ『ディバインバスター(物理)』や『スターライトブレイカー(物理)』といった技は、無意識に仙術を使っている。妹の成長に喜ぶ一方、攻めあぐねていた。
そのとき、ドンというひときわ大きな衝撃音がした。黒歌の優れた知覚は、それが何かを悟った。
「アインハルトのほうは、決着がついたようにゃん――というか、やりすぎよ」
なんですって!? とリアスが絶叫する。タンニーンは、元竜王、最上級悪魔だ。冥界でも上から数えるのが早い圧倒的強者である。それが敗れる――にわかには信じがたかった。
が、音の方をみて絶句する。タンニーンたちが戦っていたあたりから、パーティー会場に向かって、一直線に破壊の跡があったのだ。
黒歌相手に善戦していた彼女たちだが、ここにアインハルトが加われば、とてもではないが敵わない。どうすればよいのか、焦るリアスをみて、にやりと黒歌は嗤った。が、そこまでだった。
「そこまでです。悪魔側は、大パニックです。勝手に戦争でも起こすつもりですか?」
背広を着た若い男性。手に持つのは聖なる力を発する聖剣──聖王剣コールブランド。禍の団アーサーだった。黒歌に向かって、帰還命令を告げる。しかし、黒歌は渋りに渋った。
「どうせ、いつか戦争を起こすんでしょ? なら、今だっていいじゃない」
「旧魔王派のことですね。彼らは勝手に動いているだけです。禍の団の総意ではありません」
「アーサーのいう通りです。それに、派手に動きすぎました。パーティー会場から魔王クラスが多数こちらに向かってきています」
こちらに合流してきたアインハルトが、黒歌に帰還を促した。黒歌も強大な気配がこちらに向かってきていることがわかる。もはや潮目は変わったといってよかった。
「グレモリーの悪魔ども、今日はこれくらいにしておいてあげる。――白音、またね」
リアスたちをにらみつけたあと、子猫に向けて微笑み、撤退していった。……黒歌姉さん、と震える声で子猫は呟いた。
◆
この日、悪魔側は、元竜王タンニーンを失うという大打撃を受ける。さらに、サーゼクス・ルシファー主催のパーティーには親魔王派の悪魔たちが集っていた。そこに、アインハルトが放った魔力衝撃波が撃ち込まれ、死傷者が多数出た。
親魔王派を多数失った現政権は大打撃を受け、旧魔王派の蠢動を許すことになる。駒王協定のもと平和になるかにみえた三大勢力の未来に暗雲が立ち込めていた。
後書き
・タンニーン
犠牲になったのだ……
・黒歌
卑劣な術だ……
・塔城子猫
やはり天才か……
・兵藤一誠
大した奴だ……
・アインハルト・ストラトス
ハヤテェ
・駆り立てるのは野心と野望、横たわるのは犬と豚
オウガバトルは隠れていない名作だと思います。
・封印された右手
はやて「くっ。静まれボクの右手。おのれ、機関のエージェントめ。このままでは、右腕に封印されし(中略)が解けてしまう……! 同士鳳凰院きょうまはまだか!? 助けてくれ、リインフォースゥゥゥゥッ!(チラ)」
リインフォース「じゃあ一生封印していてください」
・旧魔王派
現在の悪魔領は、サーゼクス、セラフォルーを含む4体の悪魔によって統治されています。が、この4柱が君臨するにあたり、内戦が起きました。その敗者が旧魔王派。禍の団の最大勢力。駒王協定を襲撃したカテレア・レヴィアタンもその一人。
・次回予告()
やめて!八神はやての特殊能力で(中略)アスタロトの精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでアスタロト!あんたが今ここで倒れたら、闇落ちした聖女たちとの約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、八神はやてに勝てるんだから!
次回「ディオドラ・アスタロト死す」。デュエルスタンバイ!
第43話 会議は踊る、されど進める
前書き
・頑張って書きました
「ごめん、ディオドラ・アスタロト殺しちゃった」
てへ、と可愛いいしぐさをしながら、とんでもないことを言い放った少女の名は八神はやて。英雄ではないがその実力を誰もが認める英雄派の幹部である。
はやては今日もかわいいな、と俺はすべてを許してしまいそうになる。だがその発言はいただけない。
「おいおい、はやて、そいつを使って今度のレーティング・ゲームに殴り込むんだろ? いいのかよ。曹操も何かいってくれよ」
呆れたようにヘラクレスが口を挟む。珍しくまともなこと言っているな。お前も何か言えって? 今日もはやてはかわいいな、としかいえんよ。
だが、確かに計画に支障が出るのも問題だ。理由はなんだい?
「それはね、曹操。ボクのお父さんを悪くいったからさ」
笑顔で言うが、その眼は嗤っていない。それどころかおどろおどろしい空気を解き放っている。この空気知ってる。アーシアが時折放つアレだ。はやてファザコンだしな。ジャンヌが、それなら仕方ないね。と賛同している。ジャンヌもファザコンだしな。
「だめだ。曹操が使い物にならん。一応そのときの状況を教えてもらえるか?」
「ゲオルグのいうとおりだね。一応説明すると――――」
よく晴れた日のうららかな午後、華やかな庭園で、ボクは屑やろうと向かい合っていた。人好きのする綺麗な笑顔をする貴公子――反吐が出るほどの――が、ボクに問いかける。
「話があるって、なんだい、はやてさん」
「それはね、アスタロトさん。貴方がボクの母を狙っていたときいてね」
「!?」
その瞬間、封時結界を張ると、転移魔法陣を展開して周囲をヴォルケンリッターが囲む。あとは、簡単だった。狼狽するアスタロトと真心こめてOHANASHIした。やつは、母を狙っていたが、父に邪魔されたそうだ。アーシアを狙い、わざと悪魔を治療させた。ボクとアーシアの同時攻略を楽しみにしていたらしい。あっそ。
ボクによる拷問を受けたディオドラが死ぬことを許されたのは3日後だった。泣きながら殺してくれ、というものだから、殺してやった。慈悲深いだろ?
ディオドラの眷属や使用人は、解放した。旧魔王派の仕業に見せかけたので、仇討ちをしようと内訌を盛り上げてくれている。彼女たちも被害者だが、ディオドラによって『洗脳』されており、どうしようもできなかった。だから、不和の種となるよう利用した。いっそ始末された方が、彼女たちは幸せだったのかもしれない。
――――そんな説明をしたところ、曹操が全面的に隠ぺいに協力してくれた。旧魔王派をうまく抑えてくれた。ちょっと見直した。お礼に家に招待したらめちゃくちゃ喜んでいた。ちょろい。
◆
「おいおい、勘弁してくれよ」
側近のシェムハザから報告を受けて、堕天使総督アザゼルは渋面を作った。
先日、魔王サーゼクス主催のパーティーが禍の団に襲撃され、こっぴどくやられたらしいと聞いてはいた。同盟を結んだばかりとはいえ、殺し合いをした仲だ。
ざまあないな、恩着せがましく支援の手を差し出してやろう。と、その程度に思っていたのだが。
被害の詳細を聞くと青ざめた。竜王タンニーンを筆頭に親魔王派の悪魔たちが多数死傷したのだ。これでは、恩を売る、売らないの問題ではない。
「悪魔側の大失態ですね。いい気味です――総督? お加減が優れないようですが」
「ばかやろう! いい気味なもんか。駒王協定は三大勢力の力の均衡のもと締結した砂上の楼閣なんだぜ? いま悪魔陣営が弱体したらどうなると思う」
「……間違いなく主戦派が動き出しますね」
くそったれがッ! 悪態をついてアザゼルは机をたたきつけた。嘲笑していたシェムハザも事態の深刻さを理解したのか厳しい表情をしている。
「事前にコカビエルたち主戦派の力を落としておいたとはいえ……こりゃあ、荒れるぜ」
「総督、主戦派の一部は禍の団に出奔しております。妙な動きをしないか監視を強化いたします。それと、中立派への根回しもお任せを」
「ありがとよ、シェムハザ。頼りになる側近を持てて幸せだぜ。だが、禍の団の情報はもっと手に入らねえのか?」
「光栄です。禍の団については天使陣営、悪魔陣営と情報を共有する方向で調整を進めています。しばしお待ちを」
アザゼルは満足気に頷くと、事態の収拾に動き始める。
◆
「――――以上が、被害の状況になります」
「先に報告は受けていたが、ひでえもんだな」
「悪魔側の警備はどうなっているのですか? むざむざ侵入を許すなどと」
好き放題言われていますね。グレイフィアは思う。だが、仕方ないとも。
悪魔側の被害は目を覆いたくなるほどだった。竜王タンニーンを失い、サーゼクスを支援していた上級悪魔を数名失った。これも痛いが、それ以上にサーゼクスを支持していた若手の革新派の中級悪魔を多数失ったのも痛い。政権内部の重鎮と将来の重鎮を一挙に失ったのだ。
これを悪魔側の失態と言わずして何と言おう。
「アザゼルとミカエルの言はもっともだ。そして、二人からの支援に心から感謝する」
魔王サーゼクス・ルシファーは深く頭を下げた。モニターの二人は一瞬目を丸くしたものの、無言で頷いた。そんな夫の姿をみて、グレイフィアは胸を痛める。
襲撃を受けたとき、グレイフィアはアインハルトの放った衝撃波により運悪く負傷してしまったのだ。直接切り込まれるのを危惧した――正確には妻であるグレイフィアが襲われるのを――サーゼクスは、その場にとどまることを選んだ。
結果的に二度目の襲撃は杞憂に終わったが、積極的に打って出なかったのが裏目に出ている。弱腰にみえたのだ。
派閥を失い弱腰な魔王など誰からも支持されない。そこで、手を打ったのが、堕天使と天使からの「支援」だった。
「ま、乗り掛かった舟だ。このままむざむざ沈めるわけにはいかねえんだよ」
「いま悪魔に倒れられては困ります。せっかく結んだ和平を反故にするつもりですか?」
「それでも助かった。いまや私は天使と堕天使の侵略を単身防いだ『英雄』だからな」
『支援』とは、いわゆるヤラセだ。天使と堕天使が連合して国境に兵を集結する。そこに魔王が単身乗り込んで撤退させる。事情を知らない者がみれば、確かにサーゼクスは英雄かもしれない。そして、皮肉る。
「それに、反故にするのは我々悪魔ではなく、天使と堕天使の強硬派だろう」
嫌そうな顔をするアザゼルとミカエルだが、言葉を返さないのが事実を物語っている。
咳払いを一つすると、アザゼルはこれからが本題だ、と前置きしてから尋ねた。
「禍の団の情報は集まってるのか?」
「正直芳しくない。いまわかっているのは、旧魔王派、英雄派、ヴァーリ・チームなどの派閥に分かれていること。数では旧魔王派が、質ではヴァーリ・チームが、その両方をもつのが英雄派だということと、一部の主要なメンバーくらいだな」
「こちらも報告を受けています。ヴァーリ・ルシファーの戦力についてはアザゼルからも報告を受けています。問題は英雄派ですね。曹操、ジャンヌ・ダルク、ヘラクレス、ゲオルグそして―――――アインハルト・ストラトス」
アインハルト・ストラトス。竜王タンニーンを完封できるほどの実力者。英雄派に属しているが、何の英雄なのか見当もつかない。そもそも英雄ですらないのかもしれない無名の実力者。銀髪オッドアイで言動を含めて中二病くさい痛々しいやつ。
情報が錯綜していて疑心暗鬼になっている。彼女は悪魔だったとか、堕天使だったとか、もともと天使だったとか。ナメック星人で願いをかなえてくれるだとか。レッドリボン軍が秘匿していた人造人間だとか。彼女の扱いを中心に会議は進み――踊る。
もともと敵同士。薄氷を踏むような協定は、徐々にひび割れ、理念は歪んでいく。会議は踊る――無理に前へと進みながら。その先の共存共栄を信じて。全面戦争の先にある滅亡という未来がちらつくのだから。どんなに無様であろうと。踊りながらも進むしかないのだ。
―――――計画通り。どこかで風の癒し手が薄く嗤った。
後書き
・ディオドラ・アスタロト
まさかの出番すらなし。
自作自演によって聖女を堕落させ虜にする。趣味の悪い悪魔。原作と違い特にいいところもなくはやてに殺された。無茶しやがって……。
・アインハルト・ストラトス
「古代ベルカ」「覇王流」といったキーワードから何の英雄なのか必死になって調べています。シャマルさんが面白がって偽情報をばらまいてます。
・会議は踊る、されど進まず
メッテルニヒ、かわいいよメッテルニヒ
第44話 撲殺天使
前書き
・あんまり進みません
目まぐるしい夏休みが終わり、2学期になった。久々の登校、学友に笑顔で挨拶しながら学び舎へ向かうのだが――――。
「ごきげんよう、はやて様」
「……ごきげんよう」
なぜ、みんなボクへのあいさつが、ごきげんよう、なのだろうか。よそでは普通に挨拶してるのに。なんとなく疎外感を感じる。いつものこととはいえ、少々物悲しい。駒王学園三大お姉さまの肩書は伊達ではなかった。と、そこに。
「はやてさん、おはようございます!」
「おはよう、アーシア」
やっと普通に挨拶された。思わずほっと笑みをこぼすと、嬉しそうな顔をしていたアーシアがいた。うちのアーシアは天使やでえ。や、抱きつくくらいならいいけれど、匂いをかぐのは勘弁して欲しい。
すーはーと匂いを嗅ぐアーシアが子犬みたいでかわいい、と思えるようになった自分はもうダメかもしれない。その実態は子犬どころか獰猛な肉食獣なんだがな。
ひそひそ声が聞こえる。さすがですお姉さまとか、百合百合しいとか。ファンがアーシアに危害を加えないか心配だったけれども、アーシアはとてもかわいがられていた。ボクらは公認カップルらしい。
シャマルの仕業だろう。百戦錬磨の参謀たる彼女にかかれば、情報操作などお手の物だ。こういうときには頼りになる。
「そういえば、はやてさんのクラスに転校生がくるそうですね」
「ああ、そうらしいね」
「…………浮気しちゃだめですよ?」
ぼそりとアーシアが何か呟いたが、風に吹かれて聞こえなかった。なんかものすごい鳥肌がたったけれど。
◆
「転校してきました紫藤イリナです! ――――異教徒ども! ともに主を称え、正しい信仰を世界に教え広めていきましょう!」
笑顔でぶっ飛んだ自己紹介をするのは紫藤イリナという少女だった。かつて聖剣使いとして駒王町にやってきてグレモリー眷属たちと共闘したことが懐かしい。
教室の生徒が苦笑するにとどめているのは、彼女の明るいキャラクターのせいだろうか。
宗教に抵抗感が強いこの国においてここまで露骨な信仰心を示す彼女の姿は、かえって清々しく感じられたらしい。騒々しいのがきたなあ、というのはクラスの一致した見解だったが。
兵藤一誠は幼馴染の変わらぬ姿に不安とも安心ともにつかない感情を覚えていた。さて、質問攻めにあいつつ彼女は一誠と幼馴染だとばらす。そのとき嫌悪感ではなく羨まし気に黄色い悲鳴が上がったのは、彼にとって意外だった。
リアスに相応しい男になるために大変身した一誠の人気は思いのほか高かったらしい。エロ仲間からは血の涙を流しそうな目に射抜かれたのはご愛敬だ。
そんな風に教室でひと騒動起こした後、放課後にオカルト研究部の部室にきた。イリナの歓迎会をするためだ。
部室にはいつものグレモリー眷属のメンバーに加えて、ソーナ・シトリーたち生徒会のメンバーと顧問のアザゼルの姿があった。
「紫藤イリナさん、貴女の着任を心から歓迎するわ」
にこやかにリアスが音頭をとると、歓迎ムードに包まれる。イリナは天使陣営のサポート役として、この駒王町に常駐することになったらしい。一番の心配事は、かつて敵対したアーシアとの関係だったのだが―――。
「アーシアちゃん、あの時はごめんね!」
「いえ、何も気にしていません……素晴らしい出会いもありましたし」
「久しぶりだな、イリナ、ちょっとはその石頭もよくなったか。そして、私からも改めてアーシアに謝罪しよう」
イリナ、ゼノヴィア、アーシアの三人で抱きつきながら再会を祝い、謝罪し合った。妙なしこりが残らずよかったと、心からリアスは思う。美少女が抱き合うのは絵になるな、と一誠は思っていたら、隣のリアスに足を踏まれた。気に恐ろしくは女の勘である。
その後、しばし歓談となったが、ひたすら主を褒めたたえるイリナの相変わらずの信仰心に一同は不安を覚える。代表してアザゼルが問うた。
「イリナ、お前、『聖書に記されし神』の死亡を知らないのか?」
「……てますよ」
「え?」
「知ってますよおおおおおおおおおおぉおおお! 天にまします我らの父があぁあああああああ――――」
「お、おい、落ち着け」
「はい、落ち着きました」
「えらくあっさり落ち着いたな!?」
「あれは発作のようなものです――――知らされた日には、七日七晩ほど泣きはらしましたから」
信仰心が強いのは知っていたが、やはり周囲はドン引きですぅ、していた。いや、同じ神を信奉していたゼノヴィアは気持ちが分かるらしく、うんうんと頷いていた。
しかし、同じく教会陣営だったアーシアは、全くの無関心だった。疑問に思ったのかイリナはアーシアに詰め寄り――――八神はやて教を布教されそうになった。
どちらの神? が優れているのかという信仰談義になり、イリナとはやてが幼馴染だと知ったアーシアがうらやまけしからん! と地団駄を踏んだりしていた。そんなアーシアの変わり様にイリナは目を疑っていた。
(誰だこいつ)
悪魔に洗脳されているのではないか。と本気で疑っていたイリナだったが、アーシアの話を聞くにつれ、同情的になっていった。八神はやてはかわいそうだな、と。
恋は盲目という。もともと純粋で思い込みやすいアーシアはそれが顕著なのだろう。盲目的に神を信じるイリナは自分を棚に上げて思った。
恋……そう考えて、イリナは無意識に一誠と目があった。慌てて目をそらした。自分でもそれがなぜかわからない。
「八神さんも来れればよかったんだけれどね」
「一誠のいう通りなんだがな。誘ってはみたが行かない、と即答だったよ」
「アザゼル先生が嫌われているからじゃないですか?」
「う、まあ、な」
なぜかはやてはアザゼルを嫌っている。表だって何か言うわけではないが、明らかに避けていた。こんないい男を避けるなんてよお、とアザゼルは愚痴る。が、一誠はなんとなく嫌な予感がしていたが、口に出すことはなかった。
◆
「イッセー君、変わった?」
イメチェンってやつだろうか。それとも、遅めの高校デビュー? コカビエル事件で共闘した時も違和感があったが、いまはそれがもっとすごい。
さわやか風のイケメンになったのだ。もともと面はよかったのだが、あふれだすエロパワーがすべてを台無しにしていた。残念な隠れイケメンだったのである。
それがどうしたことか。
「そうかな。うん、変わろうと努力しているんだ。もしいい方向に変わっているとしたら、努力した甲斐があったかな」
「そ、そう」
やはり爽やかだ。意識していないのだろうが、歯をキラリと輝かすあたりが心憎い。思わず心臓がドキリとしたのは何なのだろうか。恋などしたことないイリナにはその正体が分からなかった。
イッセーとは幼馴染だといったら、クラスの女子たちから質問攻めにあった。昔のイッセーの話だが、エロガキだったとしかいえない。むしろ、イリナの方が、何があったのか聞きたいくらいだった。
リアス・グレモリーと付き合いだしてから大変身したらしい。羨まし気に語る女子生徒とたちをみて、恋人ができると人は変わるんだな、と他人事のように思った。これで、イッセーの家に下宿することになったといったら、どれほどの騒ぎになるのだろうか。
イッセーの家に同居することに不満はない。幼馴染だということもあるが、個人的にイッセーの変貌に好感をもっている。彼を変えたリアス・グレモリーには感謝したいほどだ。
けれども、なぜか胸がチクリと傷んだ。
「はい! 二人三脚にイッセー君と参加します!」
教室で、元気よくイリナは発言した。体育祭の出し物への参加希望を募っていたのだが、開口一番いきなりの発言に、イッセーは驚いた。そんな話聞いていない、と。
イリナの方をみやると、満面の笑みを返された。まあ、唯一の昔からの知り合いなのだし、仕方ないか、とイッセーは得心する。イッセー狙いの女性徒も、イリナの明るいキャラクターに苦笑いするにとどめた。このあたりは、イリナの人徳のなせる業なのかもしれない。
そして、放課後、イッセーたちが部室に行くと、アザゼルとリアスが深刻な顔をしていた。
どうしたのか、と尋ねると、レーティングゲームの対戦相手決まったという。
「あれ? ディオドラ・アスタロトとやると聞いていたのですが」
「やつは行方不明になった。まったく、踏み台としてはちょうどよかったんだがな。で、新しい奴が問題でな」
「アザゼル先生の言うとおりね―――サイオラーグ・バアル、彼が次の相手よ」
リアスの発言に部室は騒然となった。
◇
「はい! 二人三脚にイッセー君と参加します!」
紫藤イリナは相変わらず元気だ。うれしいような悲しいような。……敵対したら倒す覚悟はできてるけれど。
しかし兵藤一誠は人気あるなあ。このクラスだけでも一誠狙いの女性徒を数人知っている。はやてお姉さま、とかいいながら恋愛相談してくる。前世も今世も恋人いない経験=年齢なボクにはキツイ。
というか、ボクの理想はお父さんのようなかっこいい男性だ。と、力説したら微笑ましい目で見られた。残念だが、ボクはファザコンじゃない。ボクの理想に合致する相手が世界に一人しかいなかっただけに過ぎない。
「お姉さまは何に参加されますの?」
「うーん、借り物競争かな」
無難な返事をするが、去年の光景がよみがえる。借り物競争に出たら、お題が「眼鏡」だった。なんだ、簡単じゃないか。と思ったのがいけなかった。大声で「眼鏡をかけている人」と呼んだらわらわらと眼鏡女子が駆け寄ってきて収集がつかなくなってしまった。
女性徒の人波にアタックされたのは、いまでもちょっとしたトラウマものだ。レースは、結局、棄権扱いになった。
このとき、松田、元浜、兵藤一誠の変態3人組が羨ましそうな目でみていたな。あんなに仲良かった三人はいまや、女性徒に囲まれる兵藤一誠。親の仇でも見るのかのようににらむつける松田と元浜。どうしで差がついたのか……慢心、環境の違い。
元通り仲良くしたい兵藤一誠にとっては頭の痛い問題だろう。
紫藤イリナと兵藤一誠が幼馴染と知ったクラスメイト(女子+変態)たちの行動が気がかかりだったが、うまく溶け込めているようだ。
あ、嫉妬のあまり松田が紫藤イリナにルパンダイブした。すぐに応戦されて手近にあった金属バットで、ぶっ飛ばされてる。紫藤イリナ……恐ろしい子。
で、当然ボクとも幼馴染だということがバレる。質問攻めになりそうだったボクは、紫藤イリナにその場を任せてさっさと帰った。
昔のことを思い出すのは……辛いから。
次の日登校したら紫藤イリナのあだ名が、『撲殺天使』になっていた。なんでさ。
後書き
・撲殺天使イリナちゃん
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~
・胸キュンなイリナ
ISSEIさんマジパネェ。
・ファザコン
はやてはファザコンではありません。愛した人間がたまたまお父さんだっただけです byはやて
・三大お姉さま
原作のリアス、ソーナに加えてはやての三人。
・借り物競争
女子高だった駒王学園は女子比率が圧倒的。はやては特に女子人気が高い。ヅカ的な感じで人気がある。眼鏡を持った人と一緒にゴールしなくてはいけないせいで悲劇が起こった。もう、ゴールしてもいいよね? とは、はやての談。
・松田、元浜
一誠とつるんでいたエロ仲間。変態。ISSEIさんになってからは疎遠になった。
ISSEIさんは元通りの関係になりたいが、人の嫉妬は醜かった。
・なんでさ
EMIYAの口癖。想定の範囲外の出来事が起こったときに使おう。
第45話 新世界の神になる
前書き
・書き方を昔に戻してみました。
「紫藤イリナの愛の救済クラブ?」
「はい、イリナさんから誘われまして」
「それで、アーシアは入信したの?」
ボクが問いかけると、まさか、と首を横にぶんぶん振る。
「私は八神はやてファンクラブの会員ですから」
フンス、と得意げな顔をしながら、ファンクラブの会員証をみせてくる。
へー、プラチナ会員なんだ? そーなのかー。
アーシアェ……キミは今日もぶれないね。
その後、学校へ向かいながらいろいろな話をした。
紫藤イリナの愛の救済クラブは、意外なことに入会、いや入信者が殺到しているらしい。
理由は、『撲殺天使』だから。
昨日不良に襲われた女性徒のもとへ颯爽と駆けつけ、守ったらしい――金属バットをもって。
さすがの紫藤イリナも、一般人相手に聖剣を使わない程度の思慮はあったらしい。
報復にきたチンピラをちぎっては投げ、ちぎっては投げの大活躍。
その様子を撮影した動画が広まり、ついたあだ名が撲殺天使。
物騒なあだ名だが、これは敬意を込めてつけられたようで、紫藤イリナの人気は鰻登りだ。
このままいけば4大お姉さまになるかもしれない――とはアーシアの談。
はやてさんと同列だなんて烏滸がましいですよねー、不敬ですよねー、とか笑顔で同意を求めないでほしい。
◆
緑色の髪を逆立て、ヤンキーの様な風貌をした男が、ゼファードル。
彼に向かうは、短い黒髪に野性的な顔つきをした筋肉質な男、サイラオーグ。
世紀末的な雰囲気を醸し出す彼らは、「力」の信奉者だ。
事実、ゼファードルのもつパワーは凄まじい。
しかし――サイラオーグは桁が違う。
技術的な面こそ他に劣るものの、六家の中でも抜きんでた実力をもつゼファードルの数倍のパワーを持つ。
画像越しでもわかる程の圧倒的な闘気。
並の悪魔なら相対しただけで戦意を喪失するだろう。
だが、幸か不幸かゼファードルは並の悪魔ではなかった。
無謀にもサイラオーグに果敢に挑み――真正面から打ち砕かれた。
シーン、と部室が重い空気に包まれる。
圧倒的だった。圧倒的な破壊と暴力。
リアス・グレモリーは悲観的な気持ちになっていた。
だが―――
「ザフィーラさんとどっちが強いんだろうな」
「一誠……?」
見たことがあるのだ。圧倒的な強者を。
とくに、組手をしている一誠と小猫は実力差を痛感していた。
そのうえで、思うのだ。ザフィーラとサイオラーグ。どちらが強いのだろう、と。
二人とも高みにありすぎて、推測しかねるのだ。
そのころ、いつものように自宅を警備していた盾の守護獣がくしゃみをした。
いかんな、誇りある自宅警備員として体調は万全に整えんと。
といいつつ、縁側で日向ぼっこに励んでいる姿は、わんこモードでなければごく潰しにしか見えなかった。
「一誠先輩の言う通りです。ザフィーラ師匠ならいい勝負ができるかもしれません」
いえ、勝ってしまうかも、まさかね。と内心小猫は付け加える。
その後、近接戦に知識がないリアスが、木場に問うと、彼も似たような回答をした。
八神家は魔窟ね、と結論づける。
「ザフィーラさんってそんなに強いんですね――自宅警備員なのに」
朱乃の余計な一言で、部室がまたシン、と静まった。
「そ、そんなことより、元の対戦相手だったアスタロトはどうなったんですか」
「……あー、そうね。それがまたややこしいことになっているのよ」
尊敬する師匠のダメな一面から目をそらそうと、強引に話題を変えようとする小猫。
リアスもそれに乗っかり、渋い顔をしながら、アスタロトの末路を語った。
ディオドラ・アスタロト
名家アスタロト家の新進気鋭の悪魔だった。
気障だが女性に優しい性格で、教会に弾圧された魔女を自主的に匿っていたそうだ。
助けられた彼女たちは彼の眷属となり、熱狂的に慕っていた。
エリート紳士だと冥界では評判だったとか。
「悪魔の中にもいいやつがいたのだな。同じ元教会関係者としては助けてくれて感謝したい」
「ゼノヴィア、それがそうでもないのよ」
「何か裏でも?」
リアスは裏の話を語った。
実は、ディオドラが匿った魔女は、全員教会の元聖女だった。
そして、彼女たちが魔女として追放された原因を作ったのが、ディオドラだったのだ。
要するに、酷いマッチポンプ。
それを知らない眷属たちは、
『ディオドラ様のおかげで今の私たちが存在しているのです』
と周囲に語ってやまなかったという。
さらに、アーシアを教会から追放したのも、奴の策略だといったところで――――。
ガン、と壁をたたく音がした。
そこには、壁に拳を打ち付け、怒りに震えるイッセーの姿があった。
イッセー、そういってリアスはなだめる。
だが、一誠以外の部員も怒りを露わにしていた。
とくに、ゼノヴィアとイリナの怒りは大きい。
「……ですが、アスタロトは死んだんですよね?」
ぽつりとアーシアが呟いた。
当事者だというのに、意外なほどに平静である。
全員がやや落ち着きを取り戻し、リアスの方をみる。
彼女は、複雑な表情をしながら続けた。
「お兄様――サーゼクス・ルシファーによって、悪事を暴かれたディオドラは成敗された。そういうことになってるわ」
「さすがですお義兄様」
「イッセー先輩、さらりとサーゼクス様を義兄呼びしましたね……っと、そうではなくて、『そういうことになっている』とは?」
「小猫は鋭いわね。お兄様から直接聞いたのだけれど、何も関与していないのですって」
どういうことだ? と全員が疑問に思う。
非道な行いを行うディオドラを誅したことで、サーゼクスは一部では株を上げた。
それは人間を対等とみなす極一部の良識派、卑劣な行為を嫌う誇りある悪魔などだ。
その一方で、名門アスタロト家の悪魔を殺したことで、血筋に拘る旧魔王派は大反発している。
さらに皮肉なのは――――
「――ディオドラの元眷属の彼女たちが禍の団に合流してお兄様への復讐を企てているのよ」
やるせない表情をしてリアスは締めくくった。
◇
ここは、冥府。
生とし生きるものの終末点。そこを守るは死神たち。
静謐な空間は、いままさに襲撃を受けていた。
「――クラウ・ソラス、ジェノサイド・シフト」
『Claiomh Solais Genocide Shift』
万を超える砲撃魔法が「殺傷設定」で乱れ打ちされる。
進撃を止めようと殺到してきた死神を、下級から最上級まで関係なしに消し炭に変えていく。
禍の団による奇襲により、冥府は大混乱に陥っていた。
あちこちでテロが起こり、戦力が分散した隙を狙って、冥府の王ハーデスの居城が襲撃を受けていた。
先頭を立つは、9歳児程度の少女で、白黒のサーコートに赤い羽根を背中に生やしている。
色素の薄い金髪に、コバルトブルーの瞳が輝いていた。
少女が何者なのか。情報をもたない死神たちは、訳も分からず死んでいく。
「くっ、やつは魔導師だ。白兵戦を仕掛けろ!」
多大な犠牲を払いながら、砲撃をかいくぐる。
「飛龍一閃」
「テートリヒ・シュラアアァクク!」
『ブラッディ・ダガー』
しかし、彼女を守る騎士たちが一切敵を寄せ付けない。
シグナムが連結剣を振るうと、ヴィータが鉄槌を落とす。
はやてに向かう弾丸はザフィーラが防ぎ、シャマルが指揮と回復を担う。
ユニゾン中のリインフォースも主を守ることを忘れない。
死を振りまきながら確実に、最奥――死神たちの王のもとへと向かっていった。
指揮官である最上級死神プルートの一声により、死神たちが謎の少女に殺到する。
いや、彼には一つ心当たりがあった。
三大勢力の諜報活動から要注意人物として八神はやての名があがっていた。
少女にはその面影がある。そのうえ、扱う魔法も類似していた。
妹あたりか? それとも本人なのだろうか?
いや、少女を守る騎士たちは、八神はやてのものと同一だ。
つまり、八神はやて本人なのだろう。
八神はやては、とりわけ悪魔勢力と協力関係にあったはずである。
ならば、三大勢力の差し金だろうか。
たしかに、三大勢力と冥府は協力関係にないし、潜在的な敵対関係にあった。
だが、戦争をするほどではない。
恥を忍んで外部からの応援を頼もうとしたが、なぜか通信が遮断され、結界により外へでることもできない。
もはや、八神はやてを打倒するしか方策がなかった。
「――闇に沈め、デアボリック・エミッション」
『Diabolic Emission』
術者を中心にすべてを破壊する闇が広がると、触れた死神たちを塵へと変えていく。
最上級の死神たる自分ですら赤子のように潰される。
ここまでか――プルートは諦観をもって、目を閉じる。と、そこへ。
「ファファファ、小娘が。調子に乗るなよ」
冥府の王ハーデスが、魔法を相殺する姿がみえた。
「ふん、骨董品風情が、塵は塵に帰るがいい」
「ファファファ、むざむざ死にに来たか。姿かたちが違うようだな、八神はやて」
「ユニゾンしているのさ。まあ、第三形態ってところかな。さあ、蹂躙を始めよう――――虚空に刻まれたボクの負念で! 神話世界を破界し、再世する!」
なぜか胸を張って誇らしげにリインフォースとのユニゾン状態を語る八神はやて。
リインフォースは主の口上に身もだえしていた。
「小娘、貴様は何を目指す」
ボクは――――——
「新世界の神になる」
後書き
・ザフィーラ
いまだに自宅警備員を勘違い中。
・ハーデス
骨董品――骨だけに!
・新世界の神になる
はやて、それ八神やない。夜神や!
第46話 ドラグ・スレイブ
前書き
・これでこの章は終わりです。あと二章です。年内に終わるといいなあ……
「ハアッ!」
裂帛の気合のもと、先に仕掛けたのははやてだった。
騎士杖シュベルトクロイツを槍のように扱い、神速の突きを繰り出す。
並の存在ならばその一撃だけで勝負がつく。それだけの威力。
「ファファファ、甘い!」
「くっ」
ハーデスもまた槍使い。一合、二合と槍を合わせるが、互いに一歩も引かない。
槍を合わせるごとに、衝撃波が発生し、神殿を破壊していく。
プルートたち死神を含め、ヴォルケンリッターも手出しができずにいた。
双方とも自らの主が勝利すると信じているからこそ、固唾をのんで見守る。
何十合と繰り返したあたりで、ハーデスは痺れを切らした。
「消えた……?」
はやては考える。
ハーデスは姿を消す宝具をもっていた。それか。
だが、それは悪手だ。
クラウ・ソラスで動きを止めて、
「――闇に沈め」
『Diabolic Emission』
術者を中心に広域殲滅魔法を放つ。すべてを飲み込むような闇が広がる。
後に残ったのは、ボロボロのハーデスだった。
(サービスとして、決め技は、アレをやってみるか)
◆
ダメージで身動きが取れない。
神たるこの私が手も足も出ないだと……!?
それに、先ほど詠唱を始めてから感じるこの気配は一体なんだというのだ。
「あ、ありえん。その力……魔王の力だと…しかし奴らが貴様に力を貸すなど」
「冥府の土産に教えてやろう。魔王は魔王でも異世界の魔王だ。括目せよ! 赤眼の魔王シャブラニグドゥの力を! アハハハハハハッハハハ!」
理解できない。初めてハーデスは目の前の少女に恐怖を抱いた。
存在すら知らない異世界。そこにいるという魔王。
嘘だ。
ハーデスの理性が理解を拒否する。
「黄昏よりも暗き存在血の流れよりも赤き!存在――――」
得体のしれない力がはやてに流れ込むのを感じていた、
あれは、まずい。何とかしないと。身動きできず、思考のみがただ空転する。
だから、陳腐だが会話をここ試みた。
時間稼ぎだが、はやての目的を知りたいのも事実だった。
「八神はやて。貴様の目的はなんだ?」
ハーデスの問いかけに対し、意外にもはやては詠唱を中断してまで、律儀に答えた。
彼女の存在意義。目的。そして、憎悪。力こそパワー。
「つまり、サマエルが目的だと?」
「冥府の殲滅はついでに過ぎない。けど、どんなに脅したってサマエルをボクに渡そうとはしないだろう」
「あれは貴様ごときに扱える代物ではない。ただの人間ごときが……神すらも超えるつもりか?」
はやては嬉しそうに嗤った。
「――生きているのなら、神様だって殺して見せる」
「この気狂いめ!!」
「さて、時間稼ぎご苦労様。身体は動くかい?」
はやてと続けた会話で、身体の痺れはとれた。
反撃にでようとして、突如身体がシアンブルーの光の束に拘束された。
身動きがとれない! と、焦る。
そんなハーデスの姿を、はやてはあざ笑う。
「ボクにはバインドの適正はないんだけれどね。リインフォースに強力なディレイバインドを頼んだんだ。なにせボクら一心同体。同時詠唱も可能なのさ」
「ば、莫迦な……」
「黄昏よりも暗き❘存在《もの》、血の流れよりも赤き存在、時間の流れに埋もれし偉大なる汝の名において、我ここに闇に誓わん、
我らが前に立ち塞がりし全ての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを!………竜破斬!!」
◆
「あれが……ドラグ・スレイブ」
「知っているのか曹操」
「ゲオルグ、話だけはな。異世界の魔王の力を借りるらしいが、想像以上だ」
「異世界の魔王とやらはそんなに強いのか?」
「いや、こちらの前代魔王とそう変わらないらしい。ぶっちゃけ、はやてお得意のラグナロクの方が威力はあるとさ」
「なんでまた面倒な技を使うんだ?」
「さあ? 詠唱がかっこいいからじゃないか」
「まさか。そんなアホみたいな理由ではあるまい」
そんなアホみたいな理由で殺されたハーデスが、かわいそうだった。
真実とはときに知らない方が幸せなのである。
「これでサマエルが手に入ったわけだが」
「はやても気前がいいよな。せっかく手に入れたサマエルを曹操に渡すなんてよ」
「ヘラクレスの言う通りだな。はやてからの贈り物。これは脈ありじゃないか?」
「……」
「ドラゴンイーターの術式はできたのか」
「シャマル女史のおかげでな」
「ジャンヌに聞いたぞ、弟子入りを断られたんだってな」
「もしかして、シャマルさんに惚れちゃったとか?」
まさかねー、ははは。と、曹操たちは笑い合う。
「え? 顔が赤い、ちょ、ゲオルグマジなの!?」
◆
「ようこそ、忌々しき偽りの魔王の血縁者、リアス・グレモリー。そして、その卑しき眷属たちよ。我々の目的のために散って貰う」
襲撃は突如行われた。禍の団を名乗る悪魔の一党が乱入してきたのである。
その日開催されたサイオラーグ・バウルとリアス・グレモリーのレーティングゲームは盛況で、内容も熱い展開だった。
三大勢力の長を主賓に、特別ゲストとしてオーディンまでもが参加している。
開始早々一誠がサイオラーグに一騎打ちを申し込み、つい先ほどまで互角の戦いを繰り広げていたのだ。
残された陣営は、遠巻きにして応援するにとどめる。
レーティングゲームとしては異様な内容だった。
が、みな観客も含め、若手最強の武闘派悪魔と急速に名をあげつつある赤龍帝の勝負に見惚れる。
小猫とともにザフィーラの指導を受けた一誠はさらに力に磨きをかけていた。
両者とも一歩も引かない世紀の大決戦といってよい。
それだけに苛立ちが募る。
「目的? 正々堂々と戦いもせず禍の団に落ち延びたテロリストごときが、調子に乗るなよ?」
「俺たちの闘いの邪魔をしたんだ。ただで済むと思うな」
「くっ、劣等種ごときが、その余裕もここまでだ」
サイオラーグと一誠が闖入者に宣戦する。
旧魔王派を名乗る悪魔が怒りの表情を浮かべると、周囲に数百を超えようかという魔法陣が展開し、無数の悪魔が出現した。
「さあ、足掻くがいい。おっと、外からの援軍は期待するなよ? 不当なる魔王やオーディンどももいまは動けまい」
「気を付けて一誠! 信じられないけれど、こいつら一人一人が上級悪魔並の力を持っているわ」
リアスの忠告を受け、その場に戦慄が走る。
サイオラーグもグレモリーもいまだ若手の中級悪魔なのだ。
実力では上級悪魔にも劣らないと自負しているが、数が多すぎた。
しかも、サーゼクスとまではいかないが、タンニーン並の魔力持ちまで複数居る。
◇
戦況は膠着している。
グレモリー眷属とバアル眷属の共闘だが、連携は避けている。
下手な連携をするよりも、それぞれ息の合ったチームで動く方が適切だからだ。
「木場、小猫、任せた!」
「任せて欲しい」
「はい、イッセー先輩」
イッセー先輩は、私とユウト先輩に声をかけると、大将首をとりにいった。
サイオラー・バアルもまた複数の最上級悪魔クラス相手に格闘戦を仕掛けている。
敵の指揮官と中核となる戦力を釘付けにすることで、敵は数の利を生かせないでいた。
私たちも部長の指揮のもと、チームワークで頑強に抵抗している。
長期戦は私たちに不利。理由は、アーシア先輩の不在だ。
体調を崩したらしく、レーティングゲームに参加できなかったのである。
あと、修行に出ているギャー君もいない。
これで何体の悪魔を倒しただろうか。
私たちだけでももう百を超える悪魔を屠ったのに、一向に減っている気がしない。
このままではジリ貧―――
「苦戦しているようだな、同志たちよ! われこそは四天王が一人――――」
「くっ、強いわね。ゼノヴィア、そっちお願い」
「このデュランダル、斬れないものはあんまりない!」
「ぐあああああ」
「四天王でも奴は最弱」
「くっ、強いわね。ユウト、そっちお願い」
「アバンスラッシュ!」
「ぐあああああ」
「戦いは数だよ兄者!」
「くっ、強いわね。朱乃、そっちお願い」
「我は放つ光の白刃」
「ぐあああああ」
「わはははは、オーフィスの蛇でパワーアップした私相手に勝ち目はあるまい」
「くっ、強いわね。小猫、そっちお願い」
「フタエノキワミアァアアアアアア!」
「ぐあああああ」
ジリ貧?
◆
激戦が繰り広げられている。
夥しい数の悪魔の死体。
グレモリーとバアルは、手傷こそ負っているものの、全員が未だ戦えている。
数で勝負する旧魔王派に、質で拮抗する若手悪魔たち。
その危うい均衡が崩れたのは突然だった。
雷の嵐が襲撃者たちに襲い掛かったのである。
「オーディン様!?」
「生きとったか、リアス嬢。なんとか間に合ったかの。よくまあこれだけの数を相手に生き残れたものだ」
「……もう少し早く来てほしかったです」
「朱乃の言うとおりね」
「すまんすまん、こちらも大変でな」
「やはりレーティングゲームは、禍の団に乗っ取られたのですか?」
「それについてはアザゼルに聞くがいい。この場はわしに任せよ。そして、しかと聞くがいい――――」
オーディンの言葉に、全員が言葉を失った。
――――八神はやてが裏切った。
後書き
・生きているのなら神様だって殺してみせる
神は死んだby紫藤イリナ。型月。
・ドラグ・スレイブ
好きすぎて詠唱を暗記していました。ちなみに、主人公は人間じゃないのでロード・オブ・ナイトメアとも余裕で交信できます。スレイヤーズ。
・レーティングゲーム
ライザー戦に出てきたアレです。もうチェスとか関係なく殴り合ってます。一騎打ちです。
・旧魔王派
テロ組織禍の団の一派。サーゼクスやセラフォルーたち4大魔王に敗れた悪魔の残党。アザゼル先生に討ち取られたカテレア・レヴィアタンもこれです。
・修行に出ているギャー君
劇的ビフォアアフターになります。ヒントはミルたん。
・斬れないものはあんまりない!
好きなセリフです。こんにゃくは斬れないですね。東方プロジェクト。
・我は放つ光の白刃
分かる人いますかね? マリア教師が好きでした。ガラスの剣とかかっこいい。オーフェン。
・フタエノキワミアアアアアアアア
予測変換がすでにフタエノキワミアアアアアアアア。るろうに剣心。
第47話 魔法少女リリカルはやて
前書き
・新章突入
・もしもはやてが闇の書に出会わなかったら……というIFの話
ベルカ自治区の聖王教会本部。
その内部にある執務室にて、若いながらも高い地位についている教会騎士と、新進気鋭の若き管理局員が会話をしていた。
「提督就任おめでとう」
「ありがとうな。子供のころからの夢がようやっと叶ったわ」
教会騎士の少女が、管理局員の少女に、労いの言葉をかける。
地位は、教会騎士の方が高かったが、二人とも気にせず親しげに話していた。
「17才での就任は、最年少記録だと聞いたわよ?」
「そうやね。クロノの記録を塗り替えてやって爽快な気分や」
――若き美少女管理局員、提督就任の最年少記録を更新
管理局の中では、いま話題になっている。
その少女は、管理外世界の出身でありながら、膨大な魔力をもっていた。
幼少時に、たまたまロストロギア事件に巻き込まれ、現地で魔法と関り、その後、ミッドチルダに移住。
時空管理局の提督を目指して、すぐに士官学校に入学。
卒業後は、エリート魔道師として名を馳せている。
「クロノくんとは、まだ仲直りしていないの?」
「あたりまえや。お養父さ――おじさんのことを悪く言うのは許せへん」
「『お養父さん』でいいのよ? 相変わらずのファザコンっぷりね」
「ふん。ファザコンで何が悪い」
「あらら。開き直ったわね」
提督という地位がある。
その名の通り、「船」の指揮官であり、一佐以上の階級が任に就くことが多い。
ここでいう「船」とは、次元航行船を指す。
数多ある次元世界を行き来できる能力をもつ宇宙船。といえば、いいだろうか。
「でも、なんで貴女は、クロノくんと仲が悪いのかしら。おじさまとクロノくんのお父さんは、上司と部下だったんでしょ?」
教会騎士の少女は、長年の疑問を投げかける。
話している相手は、明るく人付き合いがよい。
敵を作るような性格をしていない。
クロノも、真面目で少々融通の利かないところはあるものの、悪い評判は聞かない。
「ああ、それはな。『闇の書最後の事件』は知っているやろ?」
「ええ、もちろん。ものすごく話題になっていたし。解決したのは、おじさまだっわよね」
「アルカンシェルで闇の書を葬ったのがお養父さん。で、クロノのお父さんは、アルカンシェルで闇の書ごと殉職したんや……」
思わぬ答えに一瞬絶句する。
闇の書事件を解決した英雄の娘と、わが身を犠牲にした提督の息子。
たしかに、そりが合わないとしても、仕方ないのかもしれない。
「なるほどね。因縁があるわけか」
「そらな。クロノのお父さんのことは、悪いことしたと思うし、同情もする。けれども、お養父さんの判断は、決して間違いやない。まったく。過去のことをぐちぐち女々しい奴やで。リンディさんを見習ってほしいわ」
憮然とした表情をする少女を見て、話題を変えたほうがいい、と思案する。
やや悪くなった空気を振り払うように、騎士は、愚痴を遮り、話かけた。
「……それにしても。貴女をみていると、管理外世界出身者とは、とても思えないわね」
「わたしもそう思う。なぜか、地球出身者は、高ランク魔道師が多いみたいや」
――――第97管理外世界「地球」
教会騎士と話をしている少女は、「地球」の出身だった。
彼女の養父も、「地球」の出身者であり、偶然出会ったという。
愚痴とも惚気ともつかぬ言葉を続ける目の前の少女を見ながら、教会騎士の少女――カリム・グラシアという名前である――は嘆息する。
場の空気はよくなったものの、家族の自慢話を延々と聞かされるのは、勘弁してほしい。
「――――って、カリム、聴いている?」
「はいはい、聞いていますよ。その話はもう終わりかしら」
「うーん。まだ言い足りないけれど……」
もう一度、ため息をつきながら、あきれたように声をかける。
「本当にファザコンよね、貴女。でも、おじさまは、どうして貴女を魔法と関わらせたのかしら? 管理外世界で、魔法と無縁の暮らしをした方が、安全だと私は思うのだけれど」
「ああ、それはな。ジュエルシードっていうロストロギアのせいや」
――――願いを叶える蒼き宝石『ジュエルシード』
と、呼ばれるロストロギア。
しかし、願いを歪めて叶える26個のジュエルシードは、たったひとつで、次元世界を崩壊させかねない。
その危険物が、偶然、地球に撒き散らされた。
そのジュエルシード収集にて、現地協力者となったのが、類まれなる魔法の才能をもつ『二人』の少女だった。
わずか8歳。
魔法初心者ながらも、めきめきと頭角をあらわす二人。彼女たちは、ひと月と経たないうちに、管理局の武装隊を越える実力を持つに至る。
事件の解決にも、大いに貢献した。
その片割れである、ファザコン少女は、その実かなりの大物なのだ。
「たしか、そのロストロギア事件って、9歳の誕生日前……8歳のときに遭遇したのよね?事件の解決後、ミッドチルダに移住。その後、9歳で士官学校に入学。
卒業後、そのまま執務官試験に、最年少で合格。順調に出世を重ねていき、最短記録で提督に就任――ってどこの完璧超人よ」
「もちろん、わたしのことやで。すごいやろ」
「はいはい。実際すごいからね。管理外世界出身とは、とても思えないわよ。確か、同じ世界出身の貴女のお友達も、色々と武勇伝を聞くわ。S+ランク砲撃魔道師で、通称『管理局の白い魔王』だって」
「なのはちゃんやね。その呼び方は、何度聞いても面白いな。ぴったりすぎや。まあ。本人に言うとOHANASHIされるから、カリムも気いつけてや」
――――高町なのは
ジュエルシードを追い、現地に赴いたユーノ・スクライアからデバイスを受け取った少女。
もうひとりの現地協力者である。
同じ町に住んでおり、同じ学校に通う友達だったという。
管理外世界とは、魔法文明がない世界である。
当然、彼女も、魔法を知らずに過ごしていた。
しかし、高町なのはは、管理外世界出身だとは思えないほど、魔法の天才だった。
それまで、魔法とは無縁の生活を送っていたとは信じられない。と、共に闘ったユーノは証言している。
なのはは、現在、管理局員となり、戦技教導隊に所属するエースオブエースとして有名である。
もっとも、『管理局の白い魔王』として、畏怖されている、というのが正しいかもしれないが。
「わかったわ。『歩くロストロギア』さん?」
「わたしは、全然構わへんよ。かっこいいから、気に入っているねん」
――――歩くロストロギア
今こうして会話している若き管理局員がもつ物騒な通称である。
膨大な魔力量を使った力押しによって、犯罪組織をことごとく潰してきた管理局の最終兵器。
通常なら十数人必要な儀式魔法、広域せん滅魔法を一人で行使。
立ちはだかる者を全て薙ぎ払う様は、火力信者たちの憧れだ。
その背景には、史実との差異があった。
彼女は、リンフォース・ツヴァイやヴォルケンリッターに魔力供給をしていない。
その結果、総魔力量は、大幅に上昇している。
実は、史実における「高町なのは重症事件」も彼女が未然に防いでいた。
当時、少女は、高町なのはと一緒に作戦行動をしていた。
任務も終わり、ステルス搭載型のガジェットが、なのはを背後から貫く――はずだった。
だがしかし。
近くで広域せん滅魔法を景気よく連射していた『歩くロストロギア』によって、ガジェットは、ステルスを纏ったままぶちのめされていた。
総合SSSランク魔道師の名は、伊達ではない。
「貴女と高町さんと言えば、ハラオウンさんも有名よね」
――――フェイト・T・ハラオウンとその使い魔アルフ
ジュエルシードを巡って、管理世界出身の少女とその使い魔と戦った。
その少女、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、当時フェイト・テスタロッサという名前の少女だった。
しかし、彼女もまた、魔法の天才だったのである。
時空管理局が現地に到着するまでの時間、フェイトとなのはたちは、幾度も戦った。
しかし、フェイトにとって不幸なことに。
将来提督になる少女と暮らす保護者は、たまたま引退した時空管理局員だった。
なのはたちは、彼とその使い魔たちの指導のもと力をつける。
ジュエルシードも、保護者たちが確保してしまった。
そのせいで、フェイトとその使い魔――アルフという名前の狼――は、苦戦していた。
きっと、一つも集めることは、できなかっただろう――本来なら。
「貴女と、高町さん、ハラオウンさんの三人組は、いまやスターですものね。管理外世界で偶然出会って交友を深める英雄たち――って、どこの物語よ」
「お?それ、昨日発売された雑誌の見出しやね。読んでいてくれて、嬉しいわ。でも、ちょっと違う。正しくは『美少女の英雄たち』や」
「はいはい……まあ、間違ってはいないけれど、内面がねえ。一番、美少女の称号が似合うのは、ハラオウンさんじゃないかしら?」
「あーそれは言えとるなあ。フェイトちゃんは、まさに美少女! って感じや。最近は、大人な美女になりつつあるし。あと、けしからん身体しとる」
――――フェイト・T・ハラオウンは純粋で素直な性格である
保護者である元時空管理局員は、事件の真相を見抜いていた。
現地で活動する少女――フェイトは、母親に言われて集めているに過ぎない。
黒幕は、母親だろう、と。
そう考えた彼は、一計を案じた。
特殊な封印を施したジュエルシードのうち一つを、わざとフェイトに取らせたのだ。
その封印は、彼の探査魔法にのみ反応する微弱な魔力を発しており、次元を隔てようと、居場所を感知できた。
だが、博打の要素もある。
たった一つでも、ジュエルシードは次元震を起こせるのだ。
フェイトが全てを集める方針にみえたので、すぐさま行動を起こすとは考えづらかった。
が。万一に備えて、使い魔の一人に、常時の監視と転移魔法の準備をさせていた。
結果として、心配は杞憂に終わる。
黒幕の居場所を突きとめるまでに、さほど時間はかからなかった。
「そのハラオウンさんや高町さんは、提督就任を祝って貰ったと聞いたけど。でも、おじさまは、提督就任に対して賛成しているの?危ない仕事はさせたくなさそうだったけれど」
「それが最大の問題やねん。お養父さんは、過保護やからね」
「貴女のことを溺愛しているものね。思春期の少女としては、うっとうしく感じないのかしら」
「いや、まったく思わんよ。わたしのことを心配してくれる親心や。素直に嬉しいわ。プレシア・テスタロッサのことを考えると、フェイトちゃんの前では、あまり大っぴらには惚気られへんけどね」
――――プレシア・テストロッサ事件。通称PT事件。
フェイトの母親、プレシア・テスタロッサが、事件の主犯者だった。
時空管理局から応援がくると、すぐさま彼は、位置情報を提供。敵の本拠地、「時の庭園」で、プレシアと決戦になった。
プレシアは、慌ててジュエルシードを起動させようとする。
しかし、転移による奇襲を受けたことで、失敗した。
その結果、彼女は、史実のように、アルハザードに旅立つことはできず。駆けつけた局員によって、『身柄を拘束』された。
ジュエルシードも『すべて』集めることが、できた。
――――史実では9個のジュエルシードとともに彼女は虚数空間に落ちたにも関わらず。
「お養父さんも、なんとか説得して見せる。それに、養姉さんたちは、わたしのこと後押ししてくれているしな」
「おじさまと二人のお義姉さん、か。義理とは思えないほど、本当に家族仲がいいわね」
「自慢の家族や」
一瞬の迷いもなく断言する親友をみて、カリムは苦笑してしまう。
家族を心から愛していることが分かるからだ。
まあ。少々度が過ぎている気がしないでもないが。
17才にもなって『将来の結婚相手はお養父さん』と公言するのは、さすがにどうかと思う。
養父のグレアム氏は、さぞかし大変だろう。
家族の自慢話が延々と続きそうになるのを、遮って本題をきりだす。
「――預言が変わった?」
「そうよ。前にいった預言を覚えているかしら」
「ええーっと……」
『天が夜空で満ちるとき
地は雲で覆われ
人中に担い手立たん』
「――って感じの予言だったような。でも、結局意味は分からないままだったんやろ?」
「ええ、そうよ。けれどもね。預言の内容が変化したのよ」
眉根を寄せる少女に向かって、カリムは相談を始める。
このファザコン少女。
実は頭もよく、ベルカ式魔法にも精通している才媛なのだ。
預言の内容が変わった。
それ自体は問題ないのだが、その内容が余りにも物騒だった。
話を聞いた少女も、眉根を寄せている。
「現状の説明は以上です。貴女に調査を依頼します」
頼れる親友に向けて、カリムは、言い放つ。
時空管理局の少将カリム・グラシアとして命令を下した。
「ハッ。ハヤテ・Y・グレアム一佐、委細了解しました!」
かつて、八神はやてと呼ばれた少女は、ハヤテ・ヤガミ・グレアムと名を変えて暮らしていた。
史実よりも昇進スピードが早い裏には、親ばかなどこぞの英雄の暗躍があった――らしい。
闇の書――本当の名を夜天の書――が、現れず。
呪いで足が麻痺することもなかった少女。
事故で両親を亡くしたが、新しい家族を得た彼女は、本来の歴史と異なる人生を送ることになった
どちらが幸せだったのだろうか。
答えを知る者はどこにもいない。けれども、
「早く帰って、グレアム養父さんと、ロッテ義姉さん、アリア義姉さんに夕飯を作らないと……わたししか料理できないもんなあ」
――――笑顔で夕飯の献立を立てる姿は、決して嘘ではないだろう。
◆
「早いものだ。あんなに小さな子供だったあの子が、提督になるとはな。私を尊敬していることは、嬉しいが。危険なことはして欲しくはないものだ。いや、親の勝手な都合を押しつけてはいかんな」
八神はやての両親は、彼女が4歳のときに、事故で亡くなった。
親戚もおらず、児童養護施設に送られそうになった彼女を、たまたま現場に居合わせたイギリス人が引き取りを申し出た。
「偶然の出会いとはいえ、私も突拍子もない行動をしたものだ。けれども、あのときの出会いがあるからこそ、いまの私がいる。あの子のお陰で、私は人生に生きる道を見出したのだから……」
苦笑しながら、昔を思い出す。
彼は、休養のために、保養地として名高い海鳴市に来ていた。
たまたま交通事故の現場に居合わせた彼は、4歳だった少女を酷く気にかけていた。
理由は彼にも分からない。
けれども、何故かその少女が気に掛って仕方がなかったのだ。
彼女に引き取り手がおらず、児童養護施設に送られると聞いた時、彼――ギル・グレアムは、後見人として名乗り出たのである。
彼は、もともとイギリスの名家出身であり、たまたま縁があって管理局員になったという経歴を持つ。
身元がしっかりしていることもあり、後見人として、養育することになった。
養子縁組をするかどうかは、彼女の意思に任せる、として。
その少女の名は――八神はやてといった。
「もし、運命というものがあるのなら。私とあの子の出会いも、運命だったのかもしれない。
あの子は、私の希望そのものだから。ただただ偽物の英雄として朽ちていくだけだった私に、希望を与えてくれた」
ミッドチルダの屋敷で、ギル・グレアムは、昔を思い出していた。
八神はやてを引き取ったのは、偶然に過ぎない。
なぜ彼女を引き取ろうと思ったのかは、自分でもよくわからない。
けれども、どうしようもない衝動に突き動かされたのだ。
人一人の人生を背負うのだ。
衝動的に決めたこととはいえ、全力で成長を見守ろうと決めていた。
部下を手にかけ。望まぬ英雄に祭り上げられ。管理局を辞した。
地球で、使い魔たちと余生を過ごそうと思っていた矢先のことだ。
仕事一筋で、結婚もせず、使い魔の二人が、娘代わりだった。
管理局を辞め、地球に戻ったものの、何をすればいいのか分からない。
とりあえず、使い魔たちの薦めに従い、世界各地を巡る旅をしていた。
その最中に、はやてと出会い――残りの人生を、この娘のために、使おうと決心した。
その結果が――親ばかの誕生だった。
「はいはい。お父様は、はやてのことになると本当に饒舌になるんだから。その話は、もう100回くらい聞いたわよ」
「アリアの言うとおりよ……。娘自慢も大概にして欲しいわね」
その後、3時間に渡って延々と娘自慢を聞かされ使い魔たち。
その憔悴した姿を見つけたはやてが、慌てて病院に運ぼうとしたのは余談である。
◆
これは、ハヤテ・Y・グレアムが、まだ八神はやてだった頃の話。
9歳の誕生日に、彼女は、別の世界で、5歳くらいから9歳まで暮らす夢を見た。
その夢の中では、両親が生きており、彼女は幸せに暮らしていた。
けれども、ちょうど9歳の誕生日を控えた夜に、謎の化け物に両親が殺された。
両親に庇われ、一度は助かったが、次の瞬間には、化け物と目が合ってしまう。
そのとき、青白い光が部屋の中を満たし――目が覚めた。
起きたときは酷く取り乱し、訳も分からず泣き喚いてしまったことを覚えている。
それは、夢の中で、今は亡き両親と幸せに暮らしていたからだろうか。
それとも、目の前で、両親が殺される瞬間を見てしまったからだろうか。
泣きじゃくる彼女にさえ、理由は分からない。
ただただ、感情に任せて泣き叫んだ。
驚いた養父――ギル・グレアムは、一晩中、側に居て黙って背中を撫でてくれた。
不器用な彼は、どうしていいかわからず、彼女が泣き止むまでずっと側にいることを選んだ。
けれども。
下手な慰めよりも、家族の温もりを肌で感じて、それが嬉しくてますます泣いた。
それは――とても恥ずかしいけれども、とても大切な家族との思い出。
◆
幼少のころより、引き取られてから、わたしは、実の娘のように育てられていた。
しかし。学校に入り、身の回りのことを理解できるようになって、自身が本当の娘ではないことを知った。
自分の名前が、「八神はやて」で、グレアム姓を名乗ってない理由を知ってしまったのだ。
実は、本当の家族ではない、と知ったときの衝撃は、いまでも覚えている。
いままで当然だと思っていた日常が、突然崩れたように感じた。
わたしの苦悩を知っているのか、いないのか。
養父や、義姉的存在の二人は、接し方を変えることなく日々を過ごすようにしていた。
後で聞いた話では、彼らも苦悩していたようだ。
けれども、無理やり言い含めるよりも、ゆっくりと一緒に過ごす時間を通じて、お互いの理解を深めていけばいい、と彼らは考えた。
グレアム姓を名乗るかどうかについても、わたしの意思を尊重したい一心からに過ぎなかったのだから。
事実、いままで通りの生活が続くことで、わたしの強張った心は、徐々に氷解して行った。
そして、9歳の誕生日の日。不思議な夢を見て、泣きじゃくった日。
すすり泣くわたしの背を撫でてくれる手の温かさ。
猫の状態になって(二人の義姉は、養父の使い魔で本当の姿は猫である)身を寄せてくれた義姉たち。
このとき、やっと、ここは自分が居てもいい場所なんだ、と理解できた。
ああ。この人たちは、わたしの家族なんだ、と理屈ではなく、心で理解した。
こうして、養父に、グレアム姓を名乗ることを伝え、ハヤテ・Y・グレアムは誕生したのである。
(その日を境に、わたしたちは、本当の家族になった)
昔のことを思い出しながらも、慣れた手つきで料理を作り続ける。
今日は、提督就任のお祝いを家族ですることになっている。
お祝いだから外で食べよう、と言われたが、わたしの希望で、自宅で、家族だけのお祝いをすることになった。
お祝いされる本人が料理を作るのは、おかしい。などと、カリムには言われた。
だが、自分の作った料理を食べて、笑顔でおいしい、と言ってもらえた瞬間が、何よりもわたしの喜びだった。
だからこそ、腕によりをかけて仕上げて見せた――ただ、少々作りすぎたかもしれない。
きっと驚くだろうなあ、と思いながら家族を呼ぶ。
「夕飯が出来たで。ほな、食器を準備してや」
後書き
・八神はやて(リリカルなのは世界)
時空管理局の若きエース。
魔力ランクSSSの魔導士ランクSSSのチートさん。
ついたあだ名があるくロストロギア。
将来の夢はお義父さんと結婚すること。
ヤンデレ。
・ジュエルシード
正史では9個のジュエルシードが虚数空間にプレシア諸共落っこちた。
正史のジュエルシードが落ちた先は・・・。
第48話 コスプレ少年リアルはやて
前書き
・現実世界のはやてくん(17)
・魔法少女リリカルなのはもハイスクールD×Dもアニメやラノベで存在する世界でのお話。
「おーい、リアルはやて。今度のバリアジャケットは力作だよ。やったね!」
「その呼び方は止めてくださいと何度言ったか……。それと、俺は男です。女装なんてしたくないですよ」
「リアルはやて」それが、この少年のあだ名だった。
由来は、とあるアニメキャラと同姓同名で、なおかつ、容姿もそっくりだからだ。
あまりにも似すぎていて街中でも声をかけられる程である。
もはや生き写しだとか、ドッペルゲンガーじゃね?とか。
好き放題に言われている。
肖像権の侵害で訴えたら勝てるのではないか。
と、本気で思うほど似ていた――性別を除けば。
「俺」という口調は、少しでも男らしく見えるように。
と、いう涙ぐましい努力の跡であった。彼に両親はいない。
父の仕事に伴い、幼少のころより海外生活を長く続けてきた。
ところが、交通事故で、両親が他界。高校入学を機に日本に戻ってきてきた。
日本の高校に転入してからだ。自身がアニメキャラに瓜二つだと知ったのは。
すぐにあだ名は定着してしまった。
「はあ。どうしてこうなった……」
レベルの高い名門私立高校を受験し、昨年に入学。
帰国子女なので、英語はペラペラである。その分、古典や漢文に悩まされたが。
期待と不安の中。日本での高校生活の一歩目を踏もうとして――見事に失敗した。
それは、最初の自己紹介で、名乗ったときのこと。
突然、静かだった教室の一部が、騒然となったのだ。
『リアルはやてがいる』
この噂は、またたく間に学校中を巡りまわり、教室に見学者が詰め寄るほどだった。
とあるアニメキャラと同姓同名だと言われて、彼は、戸惑うしかなかった。
その程度のことで、どうしてここまで騒ぐのだろう。
と、当時は本気で不思議に思っていた。
日本のサブカルチャーと全く縁遠い人生だった彼とっては、戸惑うしかなかった。
あまりの事態に、引き気味になっていた彼に、親切な人物が教えてくれた。
『容姿も名前もそっくりだ』
これだけなら、まだ良かった――いや、よくないかもしれないが。
一番の問題は、そのキャラクターが『女性』だったことだ。
男子の制服を着ているのに、何度も何度も女性と間違われた。
もともと中性的な容姿だから、間違えられることは覚悟していた。
容姿は、彼にとってコンプレックスだった。
確かに、日本では、中性的な容姿は、人気が高いだろう。
だがしかし、彼が住んでいた国では、マッチョ信仰がはびこっていた。
女みたいになよなよした風貌の彼は、苦労したものだ。
幸いいじめこそなかったものの。
よくからかわれたせいで、すっかり自らの容姿を卑下していた。
それが一転して、容姿を褒められるようになった。
自らの容姿がちやほやされるようになって、当初、彼は有頂天になっていた。
ところが、時間が経つにつれ、自分の姿が、アニメキャラクターの投影にすぎず、なおかつ女扱いされている状況に気づく。
新たなコンプレックスが生まれた瞬間だった。
人気がないのも。
人気が出過ぎるのも。
どちらも苦痛を伴う、と。彼は身をもって知ったのである。
なんとか、女扱いを辞めてもらおうとしたものの、全く、成功しなかった。
それどころか、町を歩けば話しかけられる。
近隣まで噂が広がり、まるで参拝客のように絶えず人が見に来た。
『リアルはやて詣で』
当時、近隣で流行った言葉である。
ネットで、話題になるほど有名になり、ついに、登下校で待ち伏せされるまでになった。
彼の精神は、すっかり参ってしまい、結果として、不登校になってしまう。
さすがに、クラスメイトたちは反省したらしく。
火消しに奔走した。
既に、有名になってしまった以上、噂の拡散は、抑えきれない。
だから、噂をコントロールしてしまえばいい――逆転の発想だった。
手始めに、専用サイトを作り、あえて、自身を宣伝する。
その中で、見学者のマナーが悪く苦労していること。
外に出るのが怖くなり、今は不登校になっていること、などなど。
情報をこちらから発信することで、事態の鎮静化をはかった。
目論見は、大いに成功。自然とマナーを守るべきだ、という空気が出来上がる。
駄目押しとばかりに、ファンクラブまで作る徹底ぶりだった。
『アイドルになればいい。ファンが勝手に守ってくれるだろうさ』
とは、当時の中心メンバーの発言である。
あえて露出を増やし、信者やファンを増やすことで、守ってもらう。
ようやく、周囲も落ち着いたところで、彼は学校に復帰できた。
初めはぎこちなかったものの。
皆で協力して、火消しをした経験は、確実に仲を深めていた。
何が友情を作るかわからないものである。
ただし、副作用もあった。
「今度のコミケは、新作でいくわよ!」
「はあ。ほどほどでお願いします、先輩」
露出を増やすということは、アピールする必要があるということだ。
自然と、コスプレなどファンサービスをする機会が増えていく。
彼の内心は忸怩たる思いがあったものの、自分の身を守るためだ、といいきかせ、今日もコスプレに勤しむのだった。
少年の受難は、当分終わりそうになかった。
だがしかし、近い将来、アニメ会社からスカウトされて本当のアイドルとして、デビューすることになるとは、今の彼は知る由もない。
しかも、その頃には、彼もアイドル稼業が板に付き、ノリノリで、舞台、ラジオ、地方巡業などの活動に勤しむことになる。
―――人間万事塞翁が馬
人生何が幸いするか分からない。
後年になって、彼は述懐するのだった。
◆
――――ハイスクールD×D
このライトノベルには、何か運命のようなものを感じた。
夏休みに、ふと、立ち寄った書店で、表紙絵が目にとまり、衝動買いした。
表紙絵の少女は、アーシア・アルジェントと言うらしい。
彼女が、俺の一番のお気に入りだった。
教会から「悪魔」呼ばわりされるシーンには、身につまされる思いをしたし。
レイナーレに殺害されたときは、激怒したほどだ。
とにかく、自分でも驚くほど感情移入してしまうほど、ハマったのだ。
「俺だったら、絶対にもっと早くアーシアを助けるね」
とか。
「一誠たちは、結局、手遅れだったじゃないか。アーシアが、フリードたちから酷い仕打ちを受ける前に助けるべきだ」
とか。
「ライザー・フェニックスか。いけすかない野郎だ。焼き鳥野郎と呼んでやろう」
などなど。好き勝手に言いたい放題だった。
これを契機に、いままで興味がなかった日本のサブカルチャーに興味を持っていく。
頑なに拒んでいた『リリカルなのはシリーズ』も視聴し。
見事に、ファンになった。
ただし、やはり複雑な感情を抱かざるを得ないが。
あまりにも、登場人物にそっくりだったので。
思わず「このあだ名をつけられるのも無理はないな」と、思ってしまう。
17才になる誕生日の前日。6巻まで読んだところで、就寝した。
その夜に、不思議な夢を見た。
夢の中で、自分は5歳児になっていた。
母はおらず父がいた。人物に変化はないが、環境は全く違った。
まるで映画を見るかのように、異なる世界で過ごす自分を見ていた。
だが、とあるシーンで思わず突っ込みを入れてしまう。
夢の中なのに。いや、夢だからだろうか。
そう、住んでいる町の名前がハイスクールD×D世界の舞台である「駒王町」だったのである。
物語の中に自分自身を投影するほどハマっていたのか。
と、自分でも驚いたものだ。
ちなみに、リリカルなのはシリーズの「海鳴市」はなかった。
長い夢は続く。次々と映像は移り変わっていき。
9歳の誕生日前夜、両親が殺され、自分も殺されそうになった。
絶体絶命の中、青い光に包まれ――目が覚めた。
あまりにもリアルな体験に、思わず飛び起きて叫んでしまった。
それほどまでに、生々しい夢。
全身に冷や汗をかき、心臓は早鐘を打つ。
夢の世界が現実ではなくて、安堵した。
落ち着いたところで、夢の内容を思い出したところで、頭を抱えてしまう。
「アニメの夢をみるなんて。サブカルチャーに毒されすぎだ。くっ、去年のトラウマが……」
高校入学と同時に、名前や容姿のせいで不登校になった。
その後、周囲の協力もあり、学校に復帰することはできたものの。
すっかり、容姿はコンプレックスになってしまう。
とはいえ、身を守るためには、アイドル活動をしないわけにはいけない。
その最中、出会ったのが、『ハイスクールD×D』という作品だった。
この出会いを境に、徐々にサブカルチャーに傾倒していった俺は。
いろいろと「やらかして」しまった。
免疫のない俺は、恐ろしい病にかかったのだ。
その病気の名前は――中二病。
「夢にまで見るなんてね。俺はもうだめかもしれない。でも」
―――――久しぶりに父さんの笑顔をみた
両親が他界してから、いまだ1年ほどしか経っていない。
持家だった日本の実家は、広々としていて静寂に包まれている。
孤独な一人暮らしをしている少年にとって、夢で見た光景は眩しすぎた。
けれども、
「――なんで、夢の中でまで、死ななきゃならないんだ!」
混乱から立ち直り、先ほど見た夢を思い出す。
誕生日の前日。就寝中に、突然、怪物――はぐれ悪魔だろうか――の奇襲を受けた。
父に庇われ生き残ったのもつかぬ間、怪物と目が合ったところで、夢は途切れている。
死に際の父の姿が、目の前に転がる父の遺体が脳裏に焼き付いて離れない。
昔の記憶がよみがえる。
何度も何度も懺悔し、封印し続けている記憶。
交通事故にあったとき、彼もまた同乗していた。
それでも、彼が助かったのは――父が咄嗟に息子を庇ったからだ。
「結局、夢の中でも庇われるなんて、な。ああ、くそっ!なんで、なんでなんだよぉ。どうして、いまさらこんな夢ッ……ごめんなさい。父さん、母さん……ごめんなさい」
気が付いたら涙を流していた。
事故のときみた、最期の光景が、夢でみた姿とだぶって見えた。
広々とした自宅は、一人で使うには広すぎる。
それでも使っている理由は、もったいないからではない。
ただ、思い出のつまった場所から離れること。
その思い出が風化してしまうことを恐れたためだ。
この夢を見た誕生日を境に、彼は変わっていく。久々にみた家族の夢。
幸せだった日々とその幸せが唐突に終わった瞬間を描いた物語。
きっと、この夢には意味がるのだ、と。
いままで考えないようにしていた父と母のこと。
あらためて考える切掛けが出来たことで、現実を見つめなおすことが出来た。
そう。ふっきれたのだ。
この後、彼は、積極的にアイドル活動をしていくことになる。
その将来、ついには、世界デビューを果たすことに成功し、幸せを自らの手で掴む。
――――リアルはやて伝説のはじまりであった
そんな未来のことを知らない少年は、気持ちを整理するために、もう一度寝ようとした。
けれども、目が覚める直前に感じた感情が、いまも胸の中に渦巻いている。
今も湧きあがる黒く、痛々しく、禍々しい感情。
それは、身を割く怒り、心底からの絶望、そして――魂から噴出する憎悪。
◆
コミックマーケット、コスプレ広場。
大勢のコスプレイヤーやカメラを手に持った観客たちで賑わう空間。
この場所に、とある人物の登場することで、一際大きなざわめきがうまれた。
「なにあれ!あの人、そっくりなんですけど!?」
「お前知らないのか。リアルはやてだよ。ネットじゃ有名だぜ」
「『さん』をつけろよ、デコすけ野郎」
皆口ぐちに、近頃話題の天才コスプレイヤー。
通称『リアルはやて』の登場を囁き合う。
「リアルはやてさん、すげえ!生で見たけどマジそっくりじゃね?」
「『どうせフォトショで加工しているんだろ』とか思っていたら、マジでそっくりさんだった」
あまりの完成度に、度肝を抜かれる者が多数だった。
初見の人間にとっては、衝撃だった。それも当然だろう。
ネット上で流れる写真は、フォトショップなどで加工されている――普通ならば。
「生身であれとか。登場人物のモデルだと言われても納得するだろ」
「しかも、同姓同名って聞いたぜ」
だが、リアルはやてには、そんな常識は通用しない。
彼は、ありのままの素材で、勝負できるのだから。
たとえもし、キャラに似ていなかったとしても、素材はいいのだ。
名門校に通う帰国子女。中性的で容姿端麗。穏やかな性格。
どれをとっても、人気がでただろう。
もともと原作キャラに似ていなくても、モテて当然だった。
「お前も、ファンクラブの会員に入ったらどうだ?マナーさえ守れば、いろいろと特典があっていいぜ」
「特典?」
「ああ。抽選でイベントチケットやグッズなんかが手に入るんだ。メルマガなんかもある」
『リアルはやてファンクラブ』
このファンクラブこそ、リアルはやてを守る親衛隊である。
あまりの人気に、彼が参ってしまったことが、誕生のきっかけだった。
いまでは、悪質な見学者対策として活躍している。
ルールを作ったり。注意したり。曝し上げにしたり。
と。影に日向に、リアルはやてを守るための様々な活動を行っていた。
ファンとの交流の中で、徐々に少年の才能が開花していった。
最初はただのコスプレイヤーに過ぎなかったが、アイドルとして人気が出てきたのである。
「リリカルなのはのコスプレでは、彼女が飛びぬけてクオリティが高いよなあ」
「おい。リアルはやてさんは、男らしいぜ」
「嘘だッ!スカートから覗く生足を見ろよ。女にしか見えねえ」
「いやいや。こんなに可愛い子が、女の子なわけないだろう」
「男の娘、か。アリだな」
周囲のささやきを漏れ聞きながら、苦笑する少年。
いままで、彼は、『リアルはやて』として活動してきた。
やむを得ず活動しているに過ぎないので、本名は使わないようにしてきた。
だが、今日は違う。
「はじめましての方は、はじめまして。久しぶりの方は、いつも応援ありがとう。あらためて、自己紹介しようと思います。僕の名前は、『八神はやて』どうかよろしく!」
両親から貰った大切な名前。
いままでは、芸名の『リアルはやて』として活動してきたが。
本当の名前を、卑下して隠すことを止め、堂々と名乗った。
少しでも男らしく見えるように「俺」にしていた一人称も、元通り「僕」になった。
この名乗りは、新たな一歩を踏み出す決意表明だ。
晴れやかな笑顔で、観衆を魅了しながら、八神はやては、思う。
(父さん。母さん。僕のことを、どうか見守っていてください)
ふと、ハイスクールD×Dというライトノベルのことを思い出す。
先輩に勧められたが、読む気が起きず断った。人気らしいが自分は「読んだことがなかった」。
脳裏をちらつくのは青い宝石。あれは一体……と思考に沈もうとしてサインを求められ意識を覚醒させた。
どこかで青い光に包まれた少女が嗤った。
後書き
・リアルはやて
男子高校生の八神はやて。やっぱり両親は死亡している。
マッチョな国からの帰国子女。
芸能活動を続けトップアイドルへと大躍進。
あとヤンデレ
・ハイスクールD×D
原作6巻まで読んでいたが、その知識を奪われた。奪われた先は……
・青い宝石
願いをかなえる宝石です。世界の壁すら超えて願いを叶えるすごい子。
・青い光に包まれた少女
すべての元凶
第49話 家族が増えるよ!! やったねはやてちゃん!
前書き
・シリアス注意。エロはないです。主人公はハッピーエンドです。
深夜、駒王町にある小学校の校庭で、轟音が鳴り響いた。青い光とともに、地面をえぐった物体は――女性と少女。奇しくもそこは魔王縁の領地だった。悪魔陣営は、この事態を「隕石による衝突」として隠ぺいした。
光と衝撃音は、近隣一帯に知れ渡っており、完全に隠すことは不可能と判断したからだった。
次の日、その小学校は、休校になった。
◆
小学校が、臨時休校になったと父から言われた。理由は、昨晩校庭に隕石が落ちたかららしい。早めに帰るからね、といいながら仕事へ出ていく父を笑顔で送る。
ニュースでも話題になり、映像をみて驚く。慣れ親しんだグラウンドには、深くえぐれたクレーターがあったのだから。
子どもにとっては、嬉しい話だった。降ってわいた休みを使い、友達と遊ぶ。
しかし、少女にとっては関係のない話だった。幼いころに母を亡くした少女にとって、家族とは父のことだった。
親戚も居おらず、父はいつも娘の側にいた。幼稚園に入れられたころは、毎日泣いて「おとうさんといっしょに居たい」と嫌がっていた。やがて慣れていったが、それでも父と会えない時間は悲しかった。
小学校に入学し、引っ込み思案だった彼女は孤立した。贔屓目抜きに、彼女が美少女だったことも原因だろう。高値の花として女子からも男子からも距離を置かれた。
苛めこそなかったものの、一人ぼっちでお弁当を食べるたび、少女の心は摩耗していく。
それでも、嫌だと言わないのは、大好きな父を困らせない為だった。父には「いい子」だと思っていてほしい。
狭い世界を生きる少女にとって、父親がすべてだった。
「そろそろ、帰ろうかな」
6月になって梅雨入りしたばかりだが、今日は久々の快晴だった。同級生たちは喜んで外で遊びまわっている。
騒がしい校庭を背に、行きつけの公立図書館へ来ていた。友達という存在をもたない彼女にとって、本と触れ合う時間が無常の喜びだった。もちろん、父と過ごす時間が一番だったが。
日はまだ高いものの、夕方になり家路につく。父が帰ってくる前に、帰宅して夕飯を作りながら待つのが少女の日課だった。料理をする娘をみて、すまなそうにする父の姿が、なんだか可愛く思えて率先して料理をしていから、ずいぶん料理上手になったと思う。
父からは、どこの嫁に出しても恥ずかしくない、と太鼓判を押されたが、父と結婚する予定の少女にとっては関係のない話だった。
「あれ? これなんだろう?」
帰宅途中、偶然、道の端でチカチカと光を反射する物体を見つけた。近づけば、足元散らばるのは、青い宝石のような物体。
「うわあ、きれいな宝石……」
少女も、小さいとはいえ女の子。光りものは、大好きだった。おはじき、ビーダマ、ビーズなどなど。どれも、彼女にとっては、宝物だった。
そんな少女にとって、大きめのビーダマサイズの綺麗な宝石は、宝の山にみえたのだろう。
「いち、にい、さん……えっと、はち、きゅう。9個もある!」
笑顔で、足元の宝石を拾い集める。あちこちに飛び散っているせいで、集めるのは大変だった。だが、満足のいく収穫だった。掌に載せた、透き通るような青く光る宝石を眺める。
よくみると、記号のようなものが中に見えた。ひとつひとつに、異なる記号がはいっている。なんの記号だろう、と考えて、思いつく。
「そうだ。時計に書いてある変な文字とおなじだ」
たしか、あれはローマ数字だと、父が言っていた覚えがある。あいにくと、小学校低学年の彼女では、番号を読むことはできなかった。が、一つ謎がとけたことで、ご機嫌だった。 父に自慢しようと、元気よく持って帰る。
友達と遊べずに図書館に引きこもっていた少女の憂鬱な気分が晴れた。今日は、いいことずくめだ。少女の父は昔クリスチャンだったらしい。
だから、神に感謝した。
(ちょっと早いけど、神様がくれた、誕生日プレゼントなのかなあ)
――――そう、だって今日は6月3日。明日は、ぼくの誕生日なんだから。
誕生日プレゼントには、前から欲しがっていた子犬をねだっていた。すでに父からは了承を得ており、やったね! と思わずバンザイをして笑われてしまった。家族が増えるよ、と誰かに自慢したくなりつつ、少女はまだ見ぬ新しい家族に思いをはせていた。
◆
「おとうさんっ!!!」
少女は、目の前の光景が、信じられなかった。誕生日を控えた夜、いつも通りに、父とベッドで寝ていた。
それが、夜中に突如、大きな音が響きたたき起こされた。混乱しつつ目が覚めた少女が見たものは、
――――彼女を庇うかのように、覆いかぶさった血だらけの父の姿だった。
「ひッ!?!?」
彼女を守るかのように重なる父の向こうには、醜悪な異形の姿があった。父が時折話してくれる物語に登場する悪魔そのものだった。
訳も分からず、頭の中は、フリーズしてしまう。その一方で、どこか冷静な部分が、このまま死ぬんだな、と告げていた。脳裏に、様々な疑問が駆け巡る。
なぜ、父が血まみれなのか
なぜ、自分は、殺されようとしているのか
なぜ、目の前の悪魔は、笑っているのか
「ああ、あああ、うああああぁあぁぁぁぁっ!!!」
ぴくりとも動かない父に縋り付き、慟哭する。物言わぬ彼をみて、絶望する。溢れ出す感情のまま、絶叫した。
「うぐっ!」
悪魔は、自らを「はぐれ悪魔」だと名乗った上で、叫び声をあげる少女を煩わしいとでもいうに、蹴り飛ばした。壁に叩きつけられ、今まで感じたことのないほどの激痛が全身に走る。肺の空気が吐き出され、呼吸ができなくなる。床に這いつくばった少女は、それでも諦めなかった。
(逃げなくちゃ…!)
身を張ってかばってくれた父をみて、どうにかしようとあがく。自分が死ねば、庇ってくれた父の行動が無駄になってしまう。死んだら父と会えなくなってしまう。子供らしく父の生存を信じている少女はそう思った。
その一心で、痛む身体を引きずって逃げようとする。だが、悪魔は、そんな彼女をあざ笑うかのように、甚振り、ゆっくりととどめを刺そうとしていた。
「ぐ、う、ううぅ……」
気力を振り絞って逃げようとする少女だが、どう考えても逃げられそうにない。そんな絶望し涙を流す少女の目に、青い輝きが映った。
その光は、昼間、拾ってきた青い宝石から放たれている。血に濡れた少女は、とっさにその宝石にすがった。
――――お願い、ぼくを助けて!
甚振られ血まみれになった少女は、苦悶と絶望の中、青く輝く宝石を握りしめ――光に包まれた。
そのとき、少女は、莫大な力を手に入れる。願いを叶える宝石――ジュエルシードの魔力と類まれなる 彼女の魔法の才能が合わさり奇跡が起きた。
少女は、突然の出来事に一瞬戸惑うが、すぐにやるべきことを成した。いままさに襲い掛かろうとしていた悪魔を紙切れのように、引き裂きばらばらにする。
「アは、アハハハハッ!!」
復讐の憎悪に支配された彼女は、狂ったように笑い声をあげる。いままでにないほど力が湧いて出てくる。気分は絶好調だ。とりあえず下種の悪魔は退治した。
さあ、次はどうしよう、と考えたところで、
――――ぴくりとも動かない父の姿を見てしまった
一気に頭が冷えていく。後に残されたのは、親を失うことを恐れる幼子だった。高ぶる気持ちも押さえられ、必死に、考える。
「そ、そうだ……び、病院に連れて行かないと。救急車! 救急車を呼ばないと!」
今日9歳になったばかりの少女に、冷静な判断などできるわけがない。まずは、おとうさんを助けないと、電話を取りにいかないと。病院にいって、お医者さんに診てもらえばきっと助かる。
(またおとうさんに会える)
身体の一部が抉れ、大量の血を流す姿は、明らかに手遅れだった。だが、幼い少女には、それがわからない。きっと大丈夫だと自分に言い聞かせながら、急いで受話器に縋り付いた。
「あ、あれ、救急車って何番だっけ? 110番は、警察だから……ああ、早く、早くしないと」
そのとき、微かに自分を呼ぶ声が聞こえた。――――と呼ぶこの声を聞き違えるはずがない。
「おとうさん!」
慌てて駆け寄ると、父が目を覚ましていた。よくお聞き、と娘に語り掛けた。曰く、悪魔という存在について。曰く、自分がエクソシストと呼ばれる悪魔の退治屋だったことについて。曰く、教会で母と出会い逃げてきたことについて。曰く、母は『聖女の微笑』という神器を宿していたため狙われていたことについて。曰く、堕天使を頼っていたが、娘を守るため逃げてきたことについて。少女の知らない知識を与えた。
そして、最後に父の友人を頼るように伝え終えると――――静かに目を閉じて息を引き取った。
「…………え?」
訳が分からない。さきほどまで父とお話していたのだ。難しい話をされたが、悪魔とやらを倒したのだ。あとは、父と一緒に紫藤ナントカという人物に会いに行くのではなかったのか。
「おとうさん?」
父は応えない。
「ねえ、おとうさん、起きてよ。おとうさん、おとうさん、おとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさんおとうさん、おとうさんっ!!」
何度も、何度も、何度も父の名前を呼び、彼の血まみれになった肩を揺する。血の海に沈んだ手を取るが、いつかのような温もりはなかった。
父は応えない。彼の目は少女を見ない。彼の口から――――と名前を呼んでくれることもない。何もかもが虚無だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
いくら叫ぼうとも、いくら泣き叫ぼうとも、いくら現実を否定しても、目の前にある状況は変わらない。
―――そう、通常の手段では。
「ねぇっ! おとうさんっ! なんでもいいっ! どうでもいいっ! こんな世界も、何もかもどうなってもいいっ! おとうさん、笑ってよっ! ぼくを見てよっ! お話してよっ! ぼくを褒めてよっ! 名前を呼んでよっ! ずっと一緒にいてよぉ……」
涙がとめどなく流れる。どうするべきか。焦りからうまく考えがまとまらない。空転する思考の中で、初めて自分が水色の光に包まれていることに気づいた。理由はよくわからないが、拾ってきた青い宝石のおかげらしい。誕生会の席で、父を驚かせようと思って持ってきたものだった。
身体の中に、9つの石が溶け込んでいる感触がある。手に入れた力の凄さは、化け物の残骸が物語っていた。
もしやと思い、溢れ出す力に願う。
「おとうさんを助けて! お願い!!!」
魔法のような奇跡を起こした力、歪められ気まぐれな力は再び奇跡を起こす。9つのジュエルシードを宿しながらも暴走していない。この事実が、少女の魔法適正能力の高さを示していた。順調に育っていけば、世界の命運さえ握れたかもしれない。悪魔を倒し、ドラゴンと戦う。そんな未来があったかもしれなかった。
父の体を水色の光が包み込む。光が消えると、そこには傷が癒え意識を取り戻した父の姿があった。おとうさん! と喜んで少女は抱き着く。
状況がつかめず目を白黒とさせる父だったが、唐突に視線を鋭くする。何かが接近してくるのを感じる。これはそう、悪魔の気配――それも魔王クラスの。
父は落ち着いた声音で、クローゼットの奥に隠れるように娘に指示した。少女は父の言葉を疑うことなく笑顔で従う。父が帰ってきたことで上機嫌だった。
最後に、少女の頭をひとなでしてクローゼットの扉を閉めると、天使陣営に伝えられている特殊技能<六式>を使い、生身で空を飛んでいく。――――その先には、魔王サーゼクスの姿があった。
<六式>使いの元エクソシストと魔王サーゼクスの戦いは熾烈を極めた。悪魔が自分と娘を殺害しにやってきたと信じている男は決死の抵抗を試みる。
一方、サーゼクスは戸惑っていた。急な魔力の高まりを感じて現場に急行してみたら、凄腕のエクソシストが臨戦態勢で待っていた。決して逃げることなく格上のサーゼクスに挑むエクソシストは鬼気迫る表情をしていた。
エクソシストは一歩も引かずに戦うが、実力の差は明らかだった。
好奇心は誰にだってある。クローゼットの奥に言いつけ通り隠れていた少女は、図書館の本を読みつくすほどの好奇心旺盛な子供だった。
父が何かと戦う気配がしていたが、彼女の中では既に敵を倒した父と二人で遠くに逃げて、何をしようかなと考えていた。紫藤ナントカには同い年の娘がいるらしい。一緒にくらすのだから、家族が増えるのだ。それは決定事項だった。
だから、だから、好奇心から戸を開いて外を覗いた。だって、おとうさんが勝つのだから。彼女の瞳に映るのは、
――――消滅の魔力を浴びて消えていく父の姿だった。
少女―—―—八神はやての絶叫が闇夜の駒王に響き渡った。
◆
「珍しく機嫌がよさそうだな」
「ん? コカビエルか。駒王町に隠れていた裏切り者の処分がどうなっているのか気になってな。さて、けしかけたはぐれ悪魔はうまくやっているかどうか」
堕天使総督は嗤う。自らの謀略がうまくいくことを確信していた。
彼は知らない。ジュエルシードというイレギュラーを。
彼は知らない。八神はやてという存在を。
彼は知らない。たまたま魔王サーゼクスが滞在していたことを。
彼は知らない。次元震が世界を丸ごと滅ぼせることを。
彼は何もしらなかった。
後書き
・途中SSA様の『リリカルってなんですか?』のシーンを流用しております。ヤンデレものの金字塔ですので、未読の方はぜひ読みましょう。胸が痛くなること間違いなしです。このシーンを書くためだけにリメイクしました。
・リメイク前よりも悲惨なはやてちゃんでした。
・ちなみに、犬につける予定の名前はザフィーラでした。
第50話 最終兵器はやて
前書き
最終兵器彼女を知っている人は多分少ないんだろうなあ……。
原作キャラが死亡するのでご注意ください。
悲鳴がとどろく。サーゼクスがそこを見やると、青い光の奔流が天を突くように噴出しているではないか。尋常ではない力を感じた。
警戒しつつ観察すると、やがて青い光は一点へと集束していき、少女の形をとった。
(これは……恐れ? 私が恐怖しているとでもいうのか)
思わずサーゼクスは冷や汗がでる。こちらを射抜くように睨みつける少女の瞳は、憎悪で満たされていた。ここまでくればわかる。先ほど倒したエクソシストの娘か何かなのだろう。よくよくみると妹のリアスと変わらないほどの年にみえる。
だから、せめて少女を死なせたくないと思った。いまだサーゼクスは己が優位にあると信じていた。仕方がないことだろう。彼は冥界の、悪魔の頂点なのだから。年端もいかない少女を恐れるほうがおかしいのだ。そう、この震えは罪悪感からくる気のせいなのだろう。
「む? あれは……堕天使だと?」
飛びながら観察をしていると、やにわに少女がこちらへと飛翔してきた。いつの間にか服装も変わっている。白のキャスケットに白と黒を基調としたサーコートを纏う。背中には4つの小さな黒い羽根が生えていた。羽を生やした靴を履いている。こんな状況でなければ、よくできたコスプレだと評価し、セラフォルーに紹介したかもしれない。
黒い羽……まさか、堕天使だったのか。そう思うも、堕天使の気配は感じない。では神器か? それも感じない。気配は無力な人間のものだ。しかし、纏う魔力は計り知れない。まさか、自分より多いことはあるまい。そう、サーゼクスは分析した。
彼も知らない。ジュエルシードというイレギュラーと、八神はやてというイレギュラーが出会ってしまった奇跡を。その結末をうかがい知る物はどこにもいなかった。唯一イレギュラーを知る者はサーゼクスが救助した二人の女性だった。だが、彼女たちは、冥界の病院へと搬送しており、そもそもまだ意識を取り戻していなかった。
「私はサーゼクス・ルシファーという。君の名前を聞かせてくれないかい?」
◆
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
何がいかなかったのだろう。日付が変わった今日は誕生日のはずで、父と一緒にお出かけする予定だったのだ。友達はいないけれども、父が祝ってくれれば十分だった。お祝いしてもらって、誕生日プレゼント――新しい家族をもらうのだ。名前だって決めている。ザフィーラというかっこいい名前だ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!」
何がいけなかったのだろう。突然悪魔に襲われて……父も●されたのかと思った。けれど、父は無事だった。どこか父と遠いところへ行くのだ。そうしたら、また悪魔がやってきて、おとうさんは、ぼくに隠れるようにいってきて、だからぼくは隠れて。隠れて。隠れたのに――――うっかり外を覗いてしまった。
「あああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」
何がいけなかったのだろう。父の言いつけを破ったからだろうか。ぼくの目の前でおとうさんが●んじゃった。そんなはずない。おとうさんが●ぬわけない。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
「ああああああッ!」
叫んで叫んで、泣き叫んでも現実は変わらない。聡いはやては分かっている。この問いかけに意味などないのだと。八神はやてはひたすら自問自答する。思考が空転しても考えはとまらない。
「あぁ……」
声は枯れ果て、ぽろぽろと涙が、止めどなく流れ続ける。そこで気づく。はやてを青い奔流が取り巻いていることに。いやまて、まだ父が●んだと決まったわけではない。だって、だって、この青い光は奇跡の光。あの宝石の力が、ぼくの力。
イメージするのは最強の自分――近所のお兄ちゃんがそう言っていた。ジュエルシードの力がはやての元へと集束していく。荒れ狂い、暴走するだけだったあのロストロギアを、魔法すら知らない少女が制御しようとしていた。これが、どれほどの奇跡であろうか。
最強の自分をイメージしたら、服装が変わっていた。力が漲ってくる。同時に、先ほどまで感じていた気持ち。怒りと絶望と憎悪がない交ぜになった感情が鎌首をもたげる。暗い感情と焦る気持ちが、激しい衝動となって湧き上がる。
父と会う前に、まずはあの悪魔を成敗しなければならない。邪魔するなら排除しなければならない。そう思ったとき、悪魔に殺されかかった記憶が蘇り、身体がぶるりと震える。
(いや、大丈夫。いまのぼくなら、あんな化け物に負けるわけがない)
震える身体を落ち着けようと深呼吸して、決意した。この奇跡のような力は、きっと神様が与えてくれたに違いない。かつて父が敬虔な信徒だったはやては、そう考えた。
「またおとうさんに会うんだもん」
家族を守りたい。その一心で、立ち向かう。なんとなくだが、力の使い方は感覚でわかる。青い光を纏ったまま、ジュエルシードの魔力で飛翔した。
◆
時は、八神はやてがはぐれ悪魔に襲撃される前日にさかのぼる。
魔王サーゼクス・ルシファーは急いでいた。今、彼が急いでいるわけ、それは、異常な魔力の高まりを感知したからだ。魔力から判断して、ランキングトップ10クラス。天使陣営のミカエルや堕天使陣営のアザゼルが、直々に侵略してきた可能性すらある。
この非常事態に、最高戦力である魔王が動くことになったのだ。
「これは……この女性と少女が異常な魔力の原因なのか?」
現場に到着した彼は、困惑していた。魔力の出現元である小学校の校庭には、クレーターができていた。その中心部に横たわるのは、気絶している妙齢の女性と10才にも満たない少女。
「いや、少女のほうは、すでに亡くなっているな。女性のほうも、ひどく衰弱しているようだ。いずれにせよ、爆発的な魔力の原因は、彼女たちに尋ねるしかない、か」
戦争の勃発という最悪の事態を回避できたことで、安堵する。とりあえず、部下を呼び、支配下の病院まで搬送する。女性のほうからは、人間とは思えないほどの魔力を感じられた。よって、目が覚めるまで、グレイフィアに任せが、冥界で監視することになった。
次の日の夜。間の悪いことに、はぐれ悪魔の出現が知らされる。サーゼクスは、ちょうどすぐに対処できる位置にいた。生真面目な彼は、部下の制止を振り切り、直接討伐に向かう。
その途中だった。住宅街に悲鳴が鳴り響き、現場に急行した。
「なんだ!?この魔力の高まりは……!」
すると、はぐれ悪魔ではなく、臨戦態勢だったエクソシストが迎撃してきた。面を食らうも、サーゼクスとて戦争を生き抜いてきた古強者。すぐに応戦する。
驚いたことに、敵は六式使いだった。空を飛び。目にも止まらなぬ速さで動き。紙のようにひらひらと舞い、鉄のように守りを固める。神器を持たぬ脆弱な人間が辿り着いた、まさに武の極致だった。
これほどの使い手が気づかれずに領地に侵入していたことに戦慄する。だが、確かにエクソシストは手ごわかったが、相手が悪かった。単騎で魔王を倒せる人間は、物語の勇者だけだ。エクソシストは、手負いの虎を思わせる決死の表情を浮かべて挑むも、地力の差はいかんともしがたかった。
やがて、サーゼクスが勝つ。とはいえ、彼に消滅の魔力を使わせたエクソシストは、やはり傑物だっただろう。本来ならこれで終わるはずだった――――そう、消滅していくエクソシストをその娘が目撃していなければ。
悲鳴が響くと、突如として、莫大な魔力が出現し、青い光が天を貫いた。
◆
「私はサーゼクス・ルシファーという。君の名前を聞かせてくれないかい?」
いまさら何をいっているのだろう、こいつは。はやては訳が分からなかった。まあいい。これから死にゆく悪魔のことなどどうでもいい。いまは、さっさとこいつを倒して父と再会せねばなるまい。
サーゼクスは、危険と分かっていつつも、少女と対話を試みようとした。やはりリアスと変わらない少女を手にかけるのは抵抗がある。もし、彼女の父が生存していれば、その望みは叶ったかもしれない。しかし、いまとなっては、すべてが手遅れだった。
問われた少女は、無言で手をかざす。そこに魔力が集中していき――――
「死んじゃえ」
「ッ!?」
――――攻撃で応えた。対話を断念したサーゼクスは、仕方なく戦闘に入った。試しに、消滅の魔力を放つが、青い物体は、びくともせずはじいてしまう。突然の攻撃に身をすくめた姿は、ただの無力な少女にしか見えなかった。
やはり、事情は分からない。死体の跡からみて、はぐれ悪魔を倒したのは、おそらく彼女だろう。血に濡れた姿から、襲われて怪我でもしたのかも知れない。先ほどの攻撃、様子見だろうにその威力は上級悪魔並だった。これは、放っておけば破壊をまき散らしかねない。と、サークスは、判断した。
「待ってほしい! 今我々が戦えば、駒王町は廃墟になる! どうか話を聞いてくないだろうか!」
「……」
サーゼクスの必死の呼びかけに対し、はやてが何事かつぶやくと、辺りに魔力が広がっていった。人影がなくなり、景色が色あせていく。
「これは、結界? 馬鹿な……次元をずらしたというのか」
「これでいいでしょ? だから早く死ね」
激しい攻防が始まった。サーゼクスは、遠くから消滅の魔力を放つも、すべて厚い魔力装甲により弾かれる。一方、はやては、魔力砲を乱発するが、戦闘経験がないので当てることができない。しかし、戦闘時間が進むにつれて、その狙いが正確になっていった。急速に戦闘経験を積みつつある。
(なんという戦闘センスだろうか。戦いと無縁だった少女が、たったこれだけの時間でここまで強くなるとは)
時間がたつほど、サーゼクスは不利になる。ここでサーゼクスは勝負にでた。魔力弾を連打し、驚いたはやての隙をついて、一気に接近する。そして、消滅の魔力を至近距離から放った。
しばらく、つばぜり合いが続くが、徐々にサーゼクスが押し負けていく。勝負に出たサーゼクスの無様な姿に、哄笑をあげるはやての瞳に映る感情は、憎悪一色。
だが、その油断を百戦錬磨の魔王が見逃すはずはなかった。抑えていた消滅の魔力を解放し、本来の姿に戻る。出力を最大にした消滅の魔力は、隙をついて一気に少女へと吸い込まれていき――――
(勝ったぞ!)
――――ジュエルシードが暴走し、勝利を確信したサーゼクスもろとも、駒王町は消滅した。
◆
「これは、結界? 馬鹿な……次元をずらしたというのか」
悪魔を倒そう。だが、悪魔のいう通り、駒王町に被害が出てはいけない。きっと、父が悲しむから。はやてにとっては、駒王町がどうなろうと構わなかったが、父の悲しむ姿はみたくなかった。
そして、難なく封時結界を張る。驚くべき彼女の魔法センスだった。
「これでいいでしょ? だから早く死ね」
魔王サーゼクス・ルシファーに挑みかかった。激しい戦いが続く。敵の攻撃はこちらに通じないが、こちらの攻撃も敵に当たらない。だが、徐々に徐々に戦闘センスが磨かれていく。もう少しで、直撃できそうだ。
そう、内心喜んだところで、一気にサーゼクスが勝負に出た。消滅の魔力がこちらに迫ってくるが、こちらも全力で応戦する。徐々に、こちらが押していく。
(やった、これで勝てる!)
だが、ここに来て経験のなさが露呈した。まだ止めを刺す前なのにもかかわらず、肩の力を抜いてしまう。
その隙を見計らったように、サーゼクスの力が急に何十倍にも増した。虚を突かれたハヤテは、完全にフリーズしてしまう。
「えっ?」
放出していた力が押し返され、光に包まれる。全身を焼き尽くすような痛みの中、気力を振り絞って、抵抗する。
「そんな、ぼくは負けない、負けるわけない!」
―――だって、
「神様がぼくにこの力をくれたんだもん! おとうさんを助けるんだもん! だからッ」
――――負けるわけにはいかない!
歯を食いしばって、耐える。なけなしの力を振り絞って、押し返そうとする。だが、現実は非常だった。身を守る青い光は、徐々に削られていく。
「いやだ、いやだよぉ! ぼくが負けたら、おとうさんが死んじゃう。もう会えなくなっちゃう! そんなの、いやだ。いやだよぉっ!!」
スパークする視界の中、必死に叫ぶ。負けるわけにはいかないと、己を叱咤する。激痛に堪え、絶望的な状況でもあきらめない。彼女の願いはただ一つ。もう一度、あの幸せな日々に戻ること。
けれども、たった9才の幼子が、どんなに健気に抗おうとしても。偶然手に入れた魔法の力に縋る様に願いを込めても。再び奇跡が起きることはなかった。
「うああああぁああ!!」
徐々に崩壊していく身体。摩耗していく精神。流れる血も、流す涙も、とうに尽き果てた。既に、身体の感覚はなく、視界も閉ざされている。それでも、最後の最後まで、彼女は、諦めなかった。
「―――ッ!」
ただ家族との日常が欲しかっただけの少女。だがしかし、身体のすべて、魂の一片まで、消滅の魔力に浸食されたことで、家族を案じる余裕はなくなっていく。
――――お前たちだけは、絶対に……絶対に許さない!!
最期に、呪詛を残し、哀れな少女は、この世から消滅した。周囲に目撃者は皆無。彼女が生きた証を知るのは、相対したサーゼクスのみ――のはずだった。しかしながら、少女と同化したジュエルシードは、消える寸前になって再び奇跡を起こした。
苦痛と憎悪に支配された彼女が最期に願ったのもの。奇跡を願い、奇跡は起きた。けれども、その願いは――――破壊だった。
少女が、本当に欲しかったものは、何一つ与えてくれなかったのに。
――――その日、駒王町が一夜にして消滅したというニュースが世界を駆け巡った。
サーゼクス・ルシファーが死亡したことで、三大勢力のバランスは完全に崩れた。堕天使と天使は悪魔領へと攻め込み、全面戦争が勃発する。しかし、クリスマスまでには終わるだろう、という楽観的な予測は外れ、血で血を洗う総力戦となった。
冥界も天界も破壊されつくし、三大勢力は破滅するのだった。
救いのヒーローはどこにもいない。
◆
駒王町のとある家にて、すやすやと昼寝をしていた幼子を、青い光が包み込んだ。彼女の様子を見ていた父親は、慌てて近寄るも。特に異常は見当たらない。
「あの光はなんだったんだ? 神器ではないようだし、悪影響もなさそうだが。ひょっとして、うちの子には、秘められた力が宿っているのかもな!」
のんきに独り言ちる父親は、にこにことしながら、愛しの娘に視線を向けた。これ以降、一人娘は、大人びた言動が増えていくことになる。普通ならば、奇妙に思うかもしれない。
しかし、彼女の親は、普通ではなかった。
「うちの子は、天才かもしれない!」
いわゆる、親ばかだった。そんなどこにでもある一般家庭。温かな家で暮らす、お気楽幼女の名前は――八神はやて。
――――ジュエルシードの中で少女は嗤った。
後書き
・駒王町消滅にともない原作キャラ軒並み死亡。
・伏線は次回でほとんどすべて回収します。
第51話 ハヤテのごとく!
前書き
・これでこの章は最後です。
・コカビエルさん大歓喜からの紫おばさん大活躍です。
「何か分かった? ユーノくん」
「うーん、それがまったくわからないんだ……けど」
ショートボブにした栗色の髪に、ネコ型の髪飾りをつけた少女が、無限書庫の司書長を務める少年ユーノ・スクライアに尋ねる。
だが、ユーノからの返答は、芳しくなかった。
カリムから依頼を受けた彼女は、真っ先に知己のあるこの少年に調査を依頼したのだ。調査結果を受け難しい顔をしている彼女こそ、時空管理局で提督になったばかりのハヤテ・Y・グレアム一佐である。
「けど?」
「ここからは僕の推測で、突拍子もない話になるけど、それでもいいなら聞く?」
「もちろん、構わへんよ。いまはほんの少しでも情報が欲しいからなあ」
「うん、預言の詩にあったうち「夜空」「雲」「騎士」。この3つのキーワードに関係のありそうなロストロギアを一つだけ見つけたんだ」
「なんや。大手柄やんか」
期待を裏切らず優秀な友人に、感謝する。だが、「まったくわからない」というのはなぜなのか。
疑問符が浮かんでいたのだろう。それを見て取ったユーノが説明を続ける。
突拍子もなさすぎて、まだ推測にすぎないからと、前置きを忘れない。
「落ち着いて聞いて欲しい。『夜天の書』というロストロギアに心当たりはあるかい?」
「いや、初めて聞くかな」
「『夜天の書』は、どうも――『闇の書』の前身らしいんだ」
「なんやて!?」
落ち着くようにと、再度ユーノは促す。その一方で、無理もないと思う。史上最悪と呼ばれたロストロギア『闇の書』と、ハヤテは無関係ではないのだから。
落ち着いた頃を見計らって、詳しい説明を続ける。もともとは『夜天の書』と呼ばれる資料収集用の魔道書だったこと。所有者に改造されることで、いつのころからか破壊をまき散らす『闇の書』に成り果てたこと。
雲と騎士は『雲の騎士』ヴォルケンリッターを指すのであろうと。
「――と、いうわけなんだ」
なるべく簡潔に。感情をこめないように説明をし終える。目の前のハヤテの表情をうかがうと、思ったよりも冷静なようだ。取り乱すのではないかと危惧していたが、杞憂に終わった。
そう思って胸をなでおろそうとして、
「その話……私以外の誰かにした?」
――唐突に、両肩をつかまれた。
かなりの力が入っており、怖いくらい真剣な表情をしたハヤテの顔が、ユーノの目前にあった。
声も、先ほどと打って変わって、詰問するような響きがある。ハヤテの豹変に驚きつつ、話すのは彼女が初めてだと、告げた。
調査もユーノ個人で行っており、他に知るものはいない、とも。
「ふーん。今の話は、秘密にしておいて。対策は私の方でやっておくから。誰にも話さないこと」
「え?まって、ハヤテ。もしかしたら『闇の書』が再来するかもしれないんだ。管理局全体で取り組まないと、だから――」
「だから――なに?」
言葉をつづけようとして、口をつぐむ。微笑を浮かべる少女に、気おされて、それ以上何もいえなかった。口調も変わっており、何より、目が全く笑っていなかった。
「『闇の書』事件は、私のお義父さんが解決済み。『夜天の書』なんて誰も知らない。そうよね?」
「そう、だよ。だからこそ、早めに万全の対策が――」
「もう一度言うけれど、対策なら私がやっておくから、安心して。貴方は、黙って私に任せればいい。そうよね、ユーノ?」
「え、でも――」
「ユーノ、貴方とはこれからも、いい『お友達』でいたいの。あまり私を失望させないで」
なおも反駁しようとするが、できなかった。ハヤテが発する膨大な魔力と殺気が、ユーノを締め上げる。
彼にできることは、黙って彼女に従うことだけだった。
「『闇の書』を解決する英雄は、ギル・グレアムだけでいい。もう一度くるなら、今度こそ私とお義父さんで、引導を渡せばいいだけ」
帰り際に、独り言をつぶやく姿は、狂気じみていた――と、のちに司書長は語るのだった。
◆
ジェイル・スカリエッティ事件――通称JS事件は、史実通り機動6課の活躍により解決された。
部隊長は、ハヤテ・Y・グレアム。
彼女は、ユーノが予測した『闇の書』の再来に備えて、極秘裏に戦力を集めていた。ところが、結局、『闇の書』は現れず、預言の内容も再度変わってしまい、彼女の準備は無駄になる――はずだった。
しかし、カリムが、新たな預言によって、管理局の危機に備える必要があった。そのために、集めた戦力を転用することにしたのだ。
その戦力こそが、機動6課である。
提督は、海の所属であり、機動6課は、地上部隊の管轄である。それなのに、なぜ、ハヤテは、部隊長になったのか。
彼女を英雄扱いする人々は、預言に備えて、念願の提督の地位を捨ててまで、地上部隊に移った。と、口々に賞賛した。
しかしながら、真実を知る者たちは、皆口をつぐんでいた。なぜなら、
「せっかく、地上部隊に移ったのに、また海で提督をやらされるなんて――――義父さんに会えないじゃない!」
――単に、ファザコンを拗らせただけだったからだ。
提督に就任からたった1年で、彼女は、音をあげた。
別に、仕事が辛かったわけではない。提督は、長期任務が多く、数か月家に帰れないこともないことも、ざらだった。
だからこそ、直に家族に会えなくなったファザコンにとっては地獄だったのだろう。カリムの預言を聞いてから、あっという間に、機動6課を設立し、地上本部に移ってしまった。
ロストロギア『聖王のゆりかご』(例えるならば、宇宙戦艦ヤマトみたいな決戦兵器)とガチンコ勝負を繰り広げたハヤテは、まさに英雄に相応しかっただろう。
その姿を見たユーノは、ファザコンでさえなければなあ……と、高町なのは、フェイト・T・ハラオウンと一緒に残念がっていた。
義姉たちリーゼ姉妹は、ファザコン対策として、譲渡されていたものの、あまり効果はなかったらしい。
ちなみに、聖王のゆりかごは、結局ハヤテが単騎で撃沈した。これには、スカリエッティも苦笑い。眼鏡は犠牲になったのだ……。
二つ名も歩くロストロギアから、ロストロギア・オブ・ロストロギアへと進化した。負けず嫌いなエース・オブ・エースな白い魔王も張り合っている。史実のように撃墜されていない魔王さんもまた、パワーアップしていた。
二人の戦闘訓練によって、毎回訓練用の管理外世界が廃墟と化しているらしい。
クロノ・ハラオウン曰く「怪獣大決戦」
……あと、規格外二人に追いつこうと、涙ぐましい努力を続ける親友の執務官さんがいたとかいないとか。
◆
とある海外のイベント会場にて。
そこは、海外では最大規模のコスプレイベントだった。西洋系のキャラクターは、やはり西洋人が仮装すると様になっている。日本からきたコスプレイヤーも、負けじと和装で対抗していた。
――つまり、とてもレベルが高かった。
その中でもひときわ目立つのは、魔法少女リリカルなのはの主人公「八神はやて」のコスプレだった。
あまりの出来のよさに、人だかりができている。そのうえ、そのコスプレイヤーは英語にも堪能であり、大いにその一角は盛り上がっていた。
英語力を生かし、広報としても活躍する「彼」は、まさにスターといえよう。
後日、インターネットで配信された姿に魅了されたものは多く、大いに知名度を上げたらしい。リアル男の娘に悶絶する人間が多かったそうな。
彼――八神はやての快進撃の幕開けだった。
◆
――――世界は、いつだって…こんなはずじゃないことばっかりだよ!
――――私は、貴女の娘です!
――――それでも、私は行くわ。アルハザードへ。全てをアリシアとやり直すのよ。
夢を見ていた。
笑顔のアリシアと暮らす夢。
魔道炉の暴走でアリシアが死に、絶望に打ちひしがれた夢。
死者蘇生の方法を探して、研究を重ねる夢。
プロジェクトFにより生まれた「人形」と会話した夢。
そして……
「私は、アリシアとともに、アルハザードへ旅立った」
呟き、目が覚める。思考がかすむ。頭が重い。ここは、どこだ。自分は、死んだのか。死後の世界ならば、アリシアと会えるのだろうか。
そうだとしたら、死んだとしても悔いはない。
もともと、アルハアードに行けるとは考えていなかった。それでも、縋ってしまったのは、自身の弱さだろう。死者を蘇生させる方法を探して、研究に研究を重ね――――疲れ果てた。
次元震を起こし虚数空間に落ちたのは、消極的な自殺に過ぎないのだから。「人形」は……フェイトは無事だろうか。
「今になって、フェイトの心配をするなんてね。私には、心配する資格はないというのに……」
もう一度呟く。そこで、やっと頭が覚醒してきた。はっきりとしつつある視界は、白い。
だが、ここは死者の世界ではないようだ。五感が、「ここは現実世界である」と訴えかけている。消毒液の匂いがする――どうやらここは、病院のようだ。
「半分死人の私を助けるなんて、余計な真似をしてくれるわね」
「――――お目覚めでしたか。よかったです。貴女には聞きたいこと山ほどがあるのだから」
「誰ッ!?」
女性の声がした方向を見ると、メイド服を着た美女がいた。だが、その姿は、痛々しい。涙を泣きはらしたのか目は腫れ、隈ができている。ひどく疲労しているのか精気が感じられず、幽鬼のような形相だった。
思わず身構えようとして、ボロボロの身体では、何もできないことに気づく。いや、目の前の女性は自分よりも死にそうではあったが。
「危害を加えるつもりはありません」
「わざわざ助けたのだから、当然ね……私のそばにアリシア――――子供の遺体がなかったかしら」
一番の気がかりを尋ねる。アリシアのことなのに、感情的にならずに済んだのは、諦観のせいだろうか。
「あのシリンダーに浮かんでいた少女ですか? 大切に保管されているようでしたので、こちらで、手厚く保管してあります。余計なお世話でしたか?」
「……いえ、礼を言うわ。あの子は、私の命よりも大切な、私の娘よ。結局、生き返ることはなかったけれど」
自分でも意外なほど、蘇生に失敗した事実を述べることができた。「人形」――いや、もう認めよう。 フェイトとの最後の会話は、「親」としての記憶を想起させるものだった。
もはや摩耗した記憶の先にある、母親だったときの感情。狂人と化した自分を、最後に正気に戻してくれた。
フェイトは――私に残された最後の娘は、無事だろうか。
「先ほど言った通り、貴女には、いろいろと聞きたいことがあります。しかし、その身体では、長く持たないでしょうね」
「ええ、その通りよ。せっかく助けたというのに、残念だったわね」
なぜ、自分を助けたのかは、わからない。現状も、アリシアのことも、フェイトのその後も、何もかもわからないことだらけだ。
「いまの医療技術では、貴女を助けることは、できません。そこで提案があります――」
――――悪魔になってみませんか?
それが、新魔王グレイフィア・ルキフグスと、プレシア・テスタロッサとの初邂逅だった。
プレシアの協力により、駒王町の消滅はジュエルシードによるものだと判明した。が、今更どうにもならない。ジュエルシードを持ち込んだとプレシアを糾弾するものもいたが、グレイフィアが抑えた。夫を喪った彼女が制止すれば、他の悪魔は黙るしかない。
その後、グレイフィアの『女王』として、転生悪魔となり、プレシアは、獅子奮迅の活躍をしていく。リリカルなのは世界の技術と悪魔の技術が結びつき、悪魔陣営は強化された。天使陣営と堕天使陣営に同時に攻め込まれた悪魔は、逆境の中防衛に成功する。
不可抗力とはいえジュエルシードが起こした災害の責任を取る形で、プレシアは悪魔陣営に協力していた。だがそれ以上に彼女が協力的になった理由がある。
「お母さん。堕天使さんをいっぱい倒そうね!」
「そうね――――アリシア」
アリシア・テスタロッサ。同じく『兵士』となることで、転生悪魔として蘇った少女。戦力としては並だが、持前の明るさで、マスコットとして可愛がられている。そして、何より……
「アリシアには、指一本触れさせないわ。サンダーレイジ!!」
彼女を狙う愚か者には、かつて大魔導師と呼ばれた魔女が、怒りの鉄槌を下すのだった。 笑顔を取り戻したプレシアとアリシア。上級悪魔になり、母娘水入らずで暮らすために、今日も彼女たちは、戦う。
しかし、時期が悪かった。折しもサーゼクス・ルシファーの死亡を契機とした世界大戦が勃発。魔王クラスの実力を持つプレシアは、貴重な戦力として、技術者として活躍する。彼女も後ろめたさがあったし、何より蘇った娘のために尽力する。
彼女たちを巻き込み、物語は進む。そこには主人公もヒロインも存在しない。史実とかけ離れた「原作」が幕を開けるのだった。
◆
「ハーハッハッハッハ! 愉快! 痛快! そう思わんか、アザゼル総督」
「うるせえよ」
愉しそう嗤うコカビエルに、アザゼルは面倒くさそうに応えた。誰もが予想だにしなかった世界大戦。 本心としては戦争反対派であったアザゼルだが、魔王の死亡という絶好の機会を逃す手はなかった。
いや、正確には主戦派の突き上げを押しとどめることができなかったのだ。
そんなアザゼルの内心を知ってか知らずか、主戦派代表のコカビエルは実に楽しそうだ。大好きな戦争が嬉しくて仕方がないのだろう。
出征前にも、「諸君! 私は戦争が好きだ!」から始まる狂気じみた演説をしていた。
「このまま、うまくいけばいいんだがな」
「総督は心配性ですね。天使陣営と不戦条約を結んでの電撃的な侵攻ですから。サーゼクス死亡で揺れる悪魔陣営に勝ち目はありません」
「シェムハザのいう通りだ。天使どもと組むのは気にくわないが、手を組む利は大きい。アザゼル総督の手腕はさすがだな」
アザゼルの腹心シェムハザやコカビエルの中で、既に悪魔に対する勝利は決定事項だった。あとは、続く天使陣営との全面戦争に勝てば、堕天使が頂点に立つ。
慎重なアザゼルも内心そのように思っていた。半年後のクリスマスまでには終わるだろうと。だが、クリスマスになっても戦争は継続していた。
「総督! 前線に出たコカビエルが、例の悪魔との一騎打ちの末敗れました!」
悪魔領への侵攻は順調だった。サーゼクスの死亡。堕天使と天使による同時侵攻。さらには、アザゼルの計略により、旧魔王派まで蜂起していた。
だが、ここで誤算が起きる。サーゼクスの妻グレイフィアが新魔王に就任し、電撃的に混乱を収拾したのだ。アザゼルの計算では、それは不可能なはずだった。どう考えても、混乱の収拾には1年はかかる見込みだった。
それをご破算にしたのが――
「またしても転生悪魔プレシア・テスタロッサか」
「実力は明らかに魔王クラス、旧魔王派の鎮圧も彼女の功績が大きいようです。彼女本人の戦闘力も高いですが、それ以上に厄介なのが技術力ですね」
「『デバイス』……だったか?」
「はい、デバイスと呼ばれる魔道具の補助により、悪魔たちは戦闘力を飛躍的にアップさせました。下手な神器以上に厄介なうえに、大量生産され前線の悪魔に装備がいきわたっています」
プレシア・テスタロッサ。突如現れたグレイフィア眷属の転生悪魔。魔王クラスの実力を持つと同時に、出所不明の技術を持つ人物。シェムハザは、彼女を全力で調査していたが、どこの出身なのか全くの不明であった。
単騎でコカビエルを討ち取るほどの戦闘力も厄介だったが、彼女の技術によって生み出された『デバイス』が最悪だった。
デバイスが魔法演算の補助をすることで、実力がワンランクアップする。下級悪魔が中級悪魔並の力を得るのだ。さらに、安価に量産可能であったため、悪魔陣営の力は跳ね上がった。
「数の不利を質でカバーするたあ、正気の沙汰じゃねえな」
「おかげで、開戦前の予想は外れ、総力戦になりました。こちらの消耗も無視できなくなっています」
「だからといって、いまさら後には引けねえよ。みんなまとめて破滅へとまっしぐらだ」
「総督……」
事態はアザゼルの予想を超えて推移していた。いや、そもそも突然のサーゼクスの死亡を予想できるわけがない。いまだ、駒王町とサーゼクスの死亡の原因は分かっていない――アザゼルを除いて。
悪魔陣営はプレシアの情報提供により、ジュエルシードがたまたま暴走して、サーゼクスが巻き込まれたのだと思っている。
しかし、聡いアザゼルわかってしまった。どういう経緯かはわからないが、はぐれ悪魔をけしかけた先で八神が何かしたのだろうと。実は、あの夜、密かに監視をつけていたのだ。監視は駒王町ごと消滅したが、断片的な情報だけでも十分推理可能である。
優秀な頭脳の彼はわかってしまった。戦争の元凶は自分なのだろうと。和平を望んでいた自分こそが、戦争の引き金を引いてしまったのだと。
「へっ、ザマあねえな」
三大勢力の総力戦は、アザゼルの予想通り、最悪の結末を迎えた。天使も堕天使も悪魔も等しく滅んだ。あとはわずかな生き残りが居るばかりである。勝者はいなかった。
アザゼルもまた乱戦の中、命を落とす。彼の心中を知る者はどこにもいない。
◆
目を覚ますと、世界は青白い光に包まれていた。
ここはどこだろう。寒い。寂しい。けれども、湧き上がる感情は――憎悪。
『お前たちだけは絶対に……絶対に許さない!』
うつらうつらとしながら思い出す。
化け物と戦ったことを。
復讐を願いこの世から消えたことを。
自分は死んだはずなのに……。
ああ、そうか。これは、未練なのだろうか。
まどろみに包まれながら考える。
自分の願いは、あの化け物どもを根絶やしにすること。
けれども、力が足りない。
けれども、知識が足りない。
何もかもが足りない。
誰か助けて。
力が欲しい。青い光に強く願う。すると、様々な世界の「八神はやて」とつながった。
男だった。女だった。大人だった。子供だった。
学生だった。働いていた。剣士だった。魔法使いだった。
母親だった。父親だった。老人だった。赤ん坊だった。
……無限ともいえる世界の数々にいる「八神はやて」。
彼らの力なら、「自分自身」の力なら、使いこなせる。だから、
――――魔法の力を、時空管理局員になるはずの「八神はやて」から貰った。
――――原作知識を、男子高校生の「八神はやて」からもらった。
最後に、「新しい家族」をもらった。戦力という意味もある。
けれども、本当の理由は、復讐の代行者に、せめてもの餞別を渡したかったからだ。
頼んだよ、守護騎士に管制人格たち。
……ごめんね、もう一人の僕。
怨嗟と憎悪の中。新たに獲得した魔法の力と知識。そして、残された力―—ジュエルシードをすべて渡した。
青い光に包まれる5歳の、過去の自身をみて思う。願いはすべて託した。全てを終え、彼女は、眠りについた。
◆
『天を夜空が奪いしとき
地を暗雲が覆いつくさん
人の世は王者を欲し
王が救いしは常世の者なり
騎士達は化生共を滅し
王以て天下を安寧せしむ』
(とあるベルカの「預言者の著書」より――変化した預言)
後書き
・はぐれ悪魔をけしかけたのはアザゼル先生なので、すべての元凶の元凶ですね。
・流れとしては、プレシア駒王町に着陸⇒JS拾得⇒はぐれ悪魔襲来⇒JS使用し撃退⇒サーゼクス登場、殺される⇒次元震で駒王町消滅⇒JSに願いを託す⇒夜天の書と原作知識を奪う⇒主人公誕生
・主人公は、リリなのと現実とハイスクールD×Dのはやてが上書きされた不安定な存在です。
・次章より最終章開始です。
第52話 手伝ってやろうか?ただし真っ二つだぞ
前書き
・遅くなりました。最終章開始です。
サイオラーグ・バアルとリアス・グレモリーのレーティングゲームは盛り上がっていた。
まず、出席者の顔ぶれが豪華である。
堕天使総督、天使長、魔王、そしてオーディン。
駒王協定を結んだ三大勢力の顔合わせと同時に、北欧神話との同盟を意図していた。
話題の中心は禍の団である。アインハルトによる冥界襲撃以来、その活動は活発化しており、天界や堕天使領も被害を受けていた。
北欧神話の主神オーディンが呼ばれたのも、禍の団対策の一環だった。
「結局、詳しいことはわからんのだな」
「オーディンには申し訳ないが、まだ情報が足りていない」
「サーゼクスは旧魔王派のテロで手一杯だもんな。一応、俺の情報網によると、英雄派、ヴァーリ・チーム、旧魔王派が中心になっていて――」
一番の事情通であるアザゼルが意見を交換する。
見どころのあるレーティングゲームをセッティングしただけあって、観衆も盛り上がっている。
今日のところは三大勢力と北欧神話の同盟に向けての意見調整に過ぎず、和やかなムードで会話をしていた。
と、そのとき、突然巨大なスクリーンが投影された。
◆
『――皆さん、楽しんでもらえたかな? これでハーデスは死んだ』
場はシン、と静まり返っていた。いや、無理もない。突然現れたモニターには、冥府の様子が中経されているようだった。
そして、先ほどの戦闘。ハーデスを圧倒するなど、信じられない。
『なぜ死んだかって? ――坊やだからさ』
ドヤ顔で意味の分からないことをのたまっている。
後ろでリインフォースが微妙な顔をしている。
「はやて、君は一体何のつもりで……」
『サーゼクス、見た通りさ。ちょっと約束を果たすために、サマエルが必要になってね』
私の言葉にこともなげに返事をする彼女は、普段と変わらなかった。不自然なまでに自然体。
けれども、先ほどまで冥府を火の海にしていた。
その光景を思い出す。喜々ととして砲撃魔法を打ち込んでいきながら、なんだかよくわからない喝采をあげていた。
既にユニゾンを解除して子どもの姿から戻っている。そのせいで、余計に違和感があった。
『粉砕! 玉砕! 大喝采!!』
……玉砕してもいいのだろうか。
後ろでリインフォースが微妙な顔をしている。
「ま、マスター、はしゃぎすぎです」と言って止めようとしている。
『強靭! 無敵! 最強!!』
あ、頭を抱えた。頭痛が痛いとかそんな感じの表情をしているリインフォースを尻目に、はやてが高笑いをあげている。
『見ろ、死神がゴミのようだ!』
後ろで、リインフォースが死んだ魚のような目をしていた。
――そして、今に至る。
八神はやて。私サーゼクスが保護した少女。
神器『夜天の書』の所持者で、ライザー・フェニックスを圧倒するほどの強い力を持つ。
だが、ここまでとは知らなかった。仮にもハーデスは冥府の主。本気の私でさえ苦戦する相手だ。
『最高のショーだと思わんかね?』
「……戦争でも起こすつもりか?」
厳しい表情をしながら、アザゼルが問いかけた。確かにその通り。神話勢力の一画を崩す。その意味が分からないはやてではないはずだ。
そのような危険な力、他の神話勢力が黙っていないだろう。もちろん、私たちもだ。
『何を言うかと思えば……戦争屋風情が、偉そうに。選んで殺すのがそんなに上等かねぇ?』
「何をッ!?」
冷たい言葉を投げかけると、突然魔力砲を放った。これまでにない強力な一撃。先ほどの砲撃がお遊びだったかのような、比べ物にならないほどの強烈な一撃。
衝撃の影響かちらつくモニター越しからも、いかに強力かが伝わってくる。砲撃された地点からは、巨大なキノコ雲が上がっていた。
『まずは一撃。これで2000万ほど死んだ』
絶句する。たった一つの魔法でこれだけの破壊をもたらす。信じらないし、信じたくない。だが、画面に映る現実が、否定を許さなかった。
唖然としている私たちを尻目に彼女は、愉しそうに嗤っていた。
あいむしんかーとぅーとぅーとぅー、よくわからない鼻歌を歌いながら砲撃を放っていく。
『4000万! 6000万!! 8000万!!! ……1億ゥ!!!!』
「はやて!」
『さて、仕上げといこうか』
「はやて!!」
『……うるさいなあ』
止めようと声をかけても、一顧だにしない。と思った次の瞬間、三角形と剣十字の魔法陣が展開された。……これは八神家の魔法陣!?
「やあ、ご機嫌はいかがかな。サーゼクスがうるさいから来てあげたよ」
目の前に転移してきたのは、八神はやてとその家族たちだった。
◇
おー、壮観だね。アザゼル、ミカエル、サーゼクス、オーディンを筆頭にたくさんいる。思わず頬が緩んでしまう。だって――
「駒王協定とはよくできたシステムだね――まとめて殺るには最適だ」
こいつら皆殺しにすれば、僕の願いは果たせるんだから。
ボクがぽろっと本音を言った瞬間、皆が戦闘態勢をとる。おっと、でもお楽しみはまだ残っているんだよ。
そういって、遠隔操作で次元震を起こすと――
――冥府が丸ごと消滅した。
絶景かな絶景かな。おー、絶句している絶句している。
声にならない悲鳴をあげる連中が滑稽で仕方ない。にやつく頬を抑えようとしていると、サーゼクスが、厳しい目でこちらをみてきた。
「はやて、なぜこんなことをするんだ!?」
「ふん、殺してるんだ。殺されもするさ。だろう、アザゼル?」
「……殺しすぎる、お前らは」
おや、陰謀じじいのアザゼルなら同意してくれるんだと思ったんだが。それに、ボクがこうなる切っ掛けを作ったのはお前だろうに。
顔面を蒼白にしたアザゼルをせせら笑うと、何も知らないオーディエンスに、語ってやった。はぐれ悪魔の襲撃から、ジュエルシード、ボクといういびつな存在まで、いろいろと。
「騙して悪いが、使命なんでね。死んでもらおう」
悲しそうな顔をするなよ、サーゼクス。これでも、君には感謝しているんだよ。
でも、ボクの使命は変わらない。
「さあ、ブタのような悲鳴をあげてくれ!」
◆
オーディン様に救助された私たちは、観客席に向かった。そこでは、八神家と三大勢力陣営が激しく戦っていた。すぐに、私たちも参戦する。
八神先輩、なんで、なんで裏切ったの?
訓練してもらって、いっぱい一緒の時間を過ごしたのに。
「スターライト・ブレイカー!!」
「させん!」
私の全力の掌底を軽々とガードしてくる男の人、ザフィーラさん。私の師匠。
「やるな、塔城小猫!」
「軽々とガードしてそのセリフはないですよ、ザフィーラ師匠」
「ははは、まだやられるわけにはいかん――これでも八神家の自宅警備員なのでな。主も世界一の自宅警備員だと褒めてくださった」
く、ここは笑うところなのだろうか。そんなことを思ったせいか、一瞬の隙をついてザフィーラさんが殴りかかってきた。とっさにガードするけれど、軽い私は吹き飛ばされてしまう。
卑怯ですよ、師匠。周囲の戦闘を見渡すと、こちら側が圧倒的に不利だった。
ユウト先輩はシグナムさんに押し負けているし、リアス先輩と朱乃先輩はリインフォースさんに圧倒されている。
でも一番すごいのは、八神先輩だ。アザゼル、ミカエル、サーゼクス様たちをまとめて相手にしている。
他の出席者は、いつの間にか現れた禍の団に襲われ、数の上でも不利になっている。
回復役のアーシアがいないのも痛い。おしなべて戦況は悪い。
誰か、たすけて……。私の祈りが通じたのだろうか。
「WRYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!」
突然、奇声を上げて乱入する影があった。この気配、ギャーくんだ!
ギャスパー・ウラディ。グレモリー眷属の司祭だけれど、時を止める強力な神器を扱いこなすため、特訓中。
秘密の特訓を受けるため、修行の旅に出ていたはず。そっか、助けにきてくれたんだ!
「ありが――ぎゃ、ギャーくん???」
振り返ると筋骨隆々の大男が立っていた。しかも、女装している。死ぬほど似合っていない。
え? でも確かに気配はギャーくん。面影もなんとなくある。
あれ、私の知るギャーくんはもっと弱弱しくて女装の似合う男の娘だったはず。
「貧弱! 貧弱ゥ!」
なんで叫びながらザフィーラさんと拳で打ち合ってるです?
「手伝ってやろうか? ただし真っ二つだぞ」
ギャーくんに続いて偉そうなセリフとともに、偉そうな幼女が現れた。
貧弱なボウヤが私好みのいい漢女になっただろう! とかほざいている。
ふふん、と自慢げに無い胸を逸らしている。
「エヴァさん!」
お 前 が 犯 人 か !
後書き
・坊やだからさ
一度でいいから言ってみたいセリフ。ガンダム。
・粉砕! 玉砕! 大喝采!
・強靭! 無敵! 最強!
もうやめて! リインフォースのライフはゼロよ!
ついでに、Aricadiaの『社長キャロ』面白いのでおすすめです。
・見ろ、死神がゴミのようだ!
・最高のショーだと思わんかね?
ムスカ大佐も大満足。リインフォースは涙目。
・戦争屋風情が偉そうに、選んで殺すのがそんなに上等かねえ?
・殺してるんだ、殺されもするさ
オールドキングかっこよくて好きです。ACfa。
・駒王協定とはよくできた体制だ。まとめてヤるには最適だ
・2000万! 4000万! ~ 一億ゥ!
クレイドル一機に本当に2000万人も入るのでしょうか?
一億ゥ!は未使用ボイスにあります。
冥府の人口は不明ですけど、ノリというやつです。
・だまして悪いが仕事なんでね、死んでもらおう
騙して悪いがはACの伝統?
・ブタのような悲鳴をあげろ
アーカードは好きです。でも、ロリカードのほうがもっと好きです。ヘルシング。
・世界一の自宅警備員ザフィーラ
笑えばいいと思うよ。
・WRYYYYYYYYYYYYYYY
・貧弱! 貧弱ゥ!
ギャーくん魔改造。犠牲になったのだ……。JOJO。
・エヴァさん
みんな大好きエヴァンジェリン。ネギま!。
やっと登場しました。名前だけはちょこちょこ出していたんですけれどね。
とある漢女に惚れています。
・手伝ってやろうか? ただし真っ二つだぞ
素晴らしい人の迷台詞。ジャイアントロボ。
第53話 そして時は動き出す
前書き
・あと5話くらいで完結します。
リアスは激怒した。必ず、かの 邪智暴虐 ( じゃちぼうぎゃく ) のロリを除かなければならぬと決意した。
リアスには吸血鬼がわからぬ。リアスは、純血の悪魔である。眷属を作り、彼らと共に暮らしてきた。けれども、男の娘に対しては、人一倍に敏感であった。
「わ、私のギャスパーが……」
「リアス、しっかりして!」
乱入してきた眷属のあまりの変り様に、リアス・グレモリーは崩れ落ちた。隣では、姫島朱乃が支えている。
塔城小猫は無言で涙を流していた。
彼女たちと戦っていたリインフォースは、痛ましいものを見る目でみていた。戦闘を休止したのは、せめてもの情けだろうか。
「オラオラオラァ!」
「無駄無駄無駄無駄!」
一方、ザフィーラとギャスパーは楽しそうに殴り合っていた。
そこに昔日の面影はない。
「エヴァンジェリイイイイイイイイイイイイイイイィン!!」
「なんだ、グレモリー」
「貴女、なんてことをしてくれたのッ! というか何をしたのよ!」
「勘違いするなよ? ボウヤの方からが強くなりたいといったんだ。そして喜べ、ボウやは完全に神器を使いこなせるようになったんだぞ」
褒めたたえるがよい。と偉そうにエヴァンジェリンは言い放った。
エヴァンジェリン・A・K・マクダヴェル。
600年の時を生きる真祖の吸血鬼的ロリババア。その実力はあるいは魔王を凌ぐかもしれない。
はやてとエヴァは、魔法少女修行の旅(異世界)で出会った。
異世界の麻帆良からはるばるやってきてギャスパーの特訓をしてくれていた。
その特訓の結果、ギャスパーの神器≪フォービトンバロールビュー≫は、禁手化、制御に成功した。
ただし、亜種である≪世界停止の魔眼/ザ・ワールド≫だったが。
「だからって、だからって! なんであんなゴリマッチョになってるのよ!」
「あぁ、あれは禁手化の影響だ。もとに戻るぞ。残念だがな」
「それを聞いて安心したわ」
リアスは、心底安堵した。だが、殴り合いではやはりザフィーラに一日の長がある。
徐々にギャスパーは押されていった。
いつの間にか、周囲の戦闘は停止しており、敵味方が固唾をのんで、二人の壮絶な殴り合いを見守る形になっている。
と、そのときだった。
「ザ・ワールド!」
ギャスパーが叫ぶ。
「そして時は動き出す」
ぐはっ、という声が響く。リアスが、その場の全員が驚いた。なぜか一瞬のうちに、ボロボロになったザフィーラの姿があったのだから。
「申し訳……ありませ、ある、じ」
「ザフィーラ!!!」
ザフィーラが戦闘不能状態に陥った。この事実に、三大勢力側は沸き立った。
が、すぐにその希望は断たれる。
「フッ、だがやつは四天王の中では最弱――」
「はいはい回復回復」
シャマルの回復魔法によってすぐに復活してしまったからだ。シグナムやヴィータも回復している。
セリフを途中で遮られたはやては、悲しそうな顔をしていた。いや、最弱呼ばわりされたザフィーラの方が、もっと悲しそうな顔をしていた。
はやてが慌てて慰めている。と、そのときだった――
「ッ!? シャマルッ!!」
「えっ」
――――突然転移してきたオーディンが、シャマルを奇襲して倒してしまった。
これは、チャンスだ。こちらは、もうすぐ援軍がくる。地力は、所詮テロリストに過ぎない禍の団よりも上だ。持久戦での分はこちらにある。
主力だった旧魔王派は粗方倒してしまったし。シャルバ・ベルゼブブとかいう大物もいたが、本気を出したお兄さまによって一蹴されていた。
力を解放すると一気に強くなるとか、かっこいいわよね。
「フゥーッハハハハハハハハ、ザフィーラに続きシャマルもやられたか。だが、まだだ。まだ終わらんよ」
"エル・プサイ・コングルゥ” とかなんだかよく分からない決めポーズをしつつ、不敵な表情を浮かべたはやてが不気味だった。
リインフォースはやっぱり死んだ魚のような目をしていた。
◆
「カモン、アーシアああああああああッ!」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん」
それは唐突だった。
はやてが叫ぶとアーシアが転移してきた。
空気が凍る。ネタがすべったのもあるが、アーシアの登場はそれほどまでに衝撃だった。
「あ、アーシア……? 本物? いえ、なんではやて側に」
「愛ゆえに!」
言葉に詰まりながらリアスが詰め寄るも、”愛なら仕方ないね” とアーシアはとぼけているのか本気なのかわからない返事をした。
とりあえず、元気そうだった。
「ちょっと回復しますね」
「む、感謝する」
「ありがとう」
「しまった!」
アーシアの神器によって、ザフィーラとシャマルが回復された。
ハーはっはっはっは、と高笑いをあげるはやてを憎々し気に見つめる。
「ふう、いいお仕事しました。というわけで、報酬期待していますね!」
「え」
一転、はやてはひきつった笑いを浮かべた。
"報酬とか聞いていない" と叫ぶはやてを尻目に、勝負下着がどうとか女の子がいいとか嬉しそうに語るアーシア。
彼女をみてはやての顔はますます引きつっていく。
勝手に報酬を決めたリインフォースは、内心ほくそえんでいた。
最近、困り顔のマスターを見るのが好きになっていた。
実は、彼女はSだったのだ。後日恥ずかしそうに告白した彼女に対してはやては涙したという。
「さて、これでこちらの優位は絶対的になったな。それにしても、エヴァ、キミが敵に回るなんて、どういつつもりだい?」
「……はやて、お前には感謝している。吸血鬼にされ右も左もわからない私を救ってくれたのはお前たちだったからな」
「だったら、なんで敵対しているんだい?」
「『誇りある悪』として、そして……『家族』として、道を踏み外そうとするのなら止めなければなるまい」
「ふーん、まあ、エヴァは確かに強いけどさ」
はやては "本気でボクに敵うつもりかい?" と余裕の表情を崩さない。
確かにエヴァはバグキャラだが、勝てない相手ではない。
「確かに私では敵わないだろうな。私だけならな」
「……まさか」
ここにきて思い至った。エヴァが単独できているわけがない。
彼女がいるということは、そのパートナーも来ているはずだ。
もちろん、チャチャマルやチャチャゼロも厄介だがそれ以上に――
「魔法少女ミルたん、参上だにょ」
突然、空間を切り裂いて、巨漢が現れた。そう、この漢女こそが、ミルたん。
その威容に辺りは静まり返った。
サーゼクスやグレモリー眷属は文化祭のときを思い出していた。
インパクトが強すぎたので、よく覚えている。
「やはり、そうきたか――速攻魔法発動! ラグナロク!」
はやては、苦虫を噛み潰したような顔をする。よりによって一番戦いたくない相手がきた。
試しに、先手を打って、極大魔法を放つ。はやては思う。厄介だ。同じ魔法少女道を極めんとする同士として、異世界を旅した仲間として、そして何より――
「正義の魔法少女として見逃せないにょ」
――ラグナロク、はやての手加減抜きの極大砲撃魔法を片手で握りつぶす、その実力が厄介だった。
「だが、時間稼ぎは終わった」
その言葉ともに、はやての隣に転移する影があった。現れたのは、曹操。その手には、サマエルがある。
「はやて、待たせてすまない。準備が整った」
「そうかい。では、お披露目と行こうか――――出でよ、シェンロン!」
「なにぃ!?」
兵藤一誠は戦慄した。ドラグ・ソボールの "あの" 神龍が現れるというのか!
そして、降臨した。どきどきしながら見上げる。その姿はまさに――――
「いや、グレートレッドだから」
ヴィータの突っ込みがむなしく響いた。
後書き
・リアスは激怒した
メロスは激怒した。必ず、かの 邪智暴虐 ( じゃちぼうぎゃく ) の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。走れメロス。
・エル・プサイ・コングルゥ
初見でトゥルーエンドに行った人はリアル落とし神だと思います。シュタインズ・ゲート。
・リインフォース
虐げられし融合機がSに目覚めたようです。
・速攻魔法発動
ミルたんにダイレクトアタック!
・ミルたん
文化祭以来の登場。はやてと一緒に魔法少女になろうと涙ぐましい努力をしていました。
その結果、ついに念願の魔法少女になりました。
カレイドなんちゃらさん、魔法のステッキさんは涙を流して喜んでくれたようです。
・シェンロン
ドラゴンボール的なあれ。
閑話 バレンタインの悲劇 前編
前書き
お待たせして申し訳ございません。短いですが見切り発車です。
以前お約束していた閑話になります。時系列的には本編の約1年前ですね。
「ヒュー、いい戦場日和だぜ」
「そうだぞ一誠。戦はすでに始まっている……」
「我に秘策あり。今年こそは――――勝ァつ!」
晴天の下、変態三人組が気炎を上げていた。
登校中の通学路の真ん中で。
松本、元浜、兵藤一誠のいつものトリオである。
通学している女生徒たちは、迷惑そうに顔をしかめて避けている。
そう、だって今日は――――
「お姉さま! おはようございます! これどうぞ!」
「あ、ああ、おはよう」
女生徒から挨拶代わりに、これでもくらえ、と渡されたのは、例のブツだった。
渡された少女はげんなりした顔をして紙袋の中にブツを入れている。
すでにそこは戦利品であふれていた。
――――それは紙袋というにはあまりにも大きすぎた
大きく
分厚く
重く
そして大雑把に入れすぎた。
それはまさにラッピングされた箱の塊だった
つまりはチョコレートだった。
それを血の涙を流しながら一誠たちが見つめていた。
もっとも、朝から美少女を見られてラッキーという下心もあったのだが。
「俺にもくれえええ」
「キャー、寄らないで変態!」
バレンタインデー。それは、少数の勝ち組と圧倒的多数の負け組を量産する悪魔の日(偏見)
変態三人組、今年の戦果もゼロになりそうだった。
「圧倒的負け組……!」
「慢心、油断、環境の違い」
「バレンタインのバカやろおおおおおおおおおおお!」
持ち切れなかった時のために紙袋まで用意したのに、とつぶやく一誠。
俺もだよ、と仲間は同意する。
どこからそんな自信が溢れてくるのか謎である。
女生徒にぎらついた視線を向けては、好感度を下げるという残念な行動をしていた彼らは、とうとう下駄箱に着いた。
「「「爆発しろぉおおおッ!!!」」」
――――思わず謎の叫び声をあげてしまった。
奇妙なオブジェがあった。下駄箱から箱が滝のように吐き出されている。
チョコレートの箱がぎゅうぎゅう、どころか溢れて雪崩を作っていた。
「くそ、どこのどいつのイケメン野郎だ!」
「木場か? 木場のやつなのか!?」
「ゆ る さ ん」
コイツは敵だ。一誠達の心情が一致した瞬間だった。
とりあえず仇敵の名前を確認しようとして――――微妙な顔になった。
さきほどの敵愾心は嘘のように消え、感じるのは圧倒的な敗北感、と虚しさ。
いや、同情の念すら沸く。
「ぼ、ボクの下駄箱が……?」
どうやら哀れな犠牲者が来てしまったようだ。
これはもはや敵ではない。ある意味尊敬すらするだろう。
そこにいたのは、登校中にも会った(見ただけ)駒王学園で並ぶ者のいないほどの有名人。
「……アははは」
「は、はやてお姉さま、気をしっかり持ってください!」
八神はやての戦果は今年も絶好調のようだった。
同じ三大お姉さまでもボーイッシュなはやては、女生徒人気が特に凄かった。
両手に持った紙袋からあふれんばかりのチョコレートが、更に哀愁を誘う。
心配する素振りを見せる女生徒が、こっそり紙袋にチョコレートをねじ込んだのを一誠達は見逃さなかった。
「一誠、どう思う?」
「うらやまけしからん!」
「それはどっちなんだ」
これもまた青春の一ページである。
ちなみに、彼らの秘策とはホワイトデーのプレゼントのグレードを上げることだったらしい。
貰えなかったときのことを考えなかったのだろうか。
変態達が "血汚冷吐" がなんぼのもんじゃい! と叫ぶのもまた毎年の光景だった。
……そのはずだった。
これは駒王学園史に残る惨劇の記録である。
◆
次回予告
「彼らはパンドラの箱を開けてしまったのだ」
「事件は現場で起きているんじゃない! 保健室で起きているんだ!」
「家庭科室、閉鎖できません!!」
「青き清浄なる世界のために!」
「やめてよねーーーーがボクに敵うわけないだろ」
「逃げるやつは変態だ、逃げないやつはよく訓練された変態だ」
「あぁ^~心臓がぴょんぴょんするんじゃあ~^」
「こいつをみてくれ、どう思う?」「すごく・・・大きいです」
「勝てるかどうかはランナー次第」
「"To Noble, Welcome to the Earth" だと!? ふざけやがって!」
「ビックボックスへようこそ」「私の歌を聴けえぇッ!」
「歓迎しよう、盛大にな!」
「ペロッ、これはチョコレート!?」
「くんくん、このアーモンド臭はやはりチョコレートか」
「もう何も怖くないッ!」
Coming soon……
※開発中ですので予告なく変更します
後書き
・湖の騎士、風の癒し手さんがアップを始めました。