大人の階段登る君はビアンカ……
淡い恋、悲しい別れ
前書き
幼き日……アルカパでリュカと別れてから、この物語が始まります。
<アルカパ>
ちょっとスースーして恥ずかしいな。
リュカとパパスおじさまのお見送りには、お父さんとお母さん以外に、出入り口を番する兵隊さんも来ていた。
何故か悪ガキ二人組も来ている。
小声で『早く帰れ』とか『もう来るな』とか言っている。
頭にくるわねぇ!
パパスおじさまもみんなとの話が終わり、リュカを誘い町の出口へ歩き出す。
リュカも私の方を見て、手を振り別れを告げる。
私は、堪らなくなりリュカの元へ走り寄り、
「リュカ、また一緒に冒険しましょうね。きっとよ!」
本当は、もっと違う事を言いたかったけど、みんながいる前では恥ずかしくて言えなかった。
でも、そのかわり私はリュカにキスをした。
リュカの唇は柔らかかった。
リュカのキョトンとした顔が可愛かったが、またすぐにいつもの笑顔に戻ると、
「またね」
って、優しく微笑んでくれた。
絶対約束だよ……
「おやおや、ビアンカはリュカの事が好きになっちゃった様だねぇ……」
私がリュカの姿を見えなくなるまで見つめ続けていると、お母さんが嬉しそうに話しかけてきた。
「そ、そんな……わ、私は……ただ……その……」
しどろもどろになりながら、私は顔を真っ赤にして俯いてしまった…
だって、私はリュカの事が大好きになっちゃったから…
「うん……大好き……」
そう言うしかない……恥ずかしいけど、好きだと言うしかないの。
「そうか……じゃぁ、もっと良い女にならなきゃね! あの子は間違いなく良い男になるよ! ビアンカも負けてはられないよ!」
「うん!」
そうよ…次逢うのが何時になるか分からないけど、リュカはもっと格好良くなるわ。
私はリュカの隣を一緒に歩いても、誰にも笑われない様にならないと!
彼と釣り合いが取れる女に頑張ってなるわよ!
次の日から私は自分磨きの為に、今まで以上の努力を行いだした。
料理を始めに、家事全般をお母さんに教えてもらう。
でもそれだけじゃダメ……
リュカは大人になったらどんな職業に就くか分からないけど、もしかしたら冒険者になるかも知れないので、私も魔法の勉強を頑張り出しました。
今までは魔法の勉強は必要とは思って無かったけど、リュカと共に……いえ、リュカの傍らに居る為には、魔法の事をしっかりと学ばないとダメだと気付いたの。
リュカの唱える魔法の威力は桁違いだ。
しかも魔法をその場に合わせて改造する事までやってのける!
これはリュカが魔法の基本的な知識を網羅しているから出来るのだろう。
将来、リュカと共に冒険をするのなら、足手纏いにならない様、私も魔法の事を完璧に知る必要があるのだ。
だから私は教会へ通い、神父様に魔法の事を教わるのだ。
教会で勉強していると、ジャイーとスネイが近寄ってきて『そんな詰まらない事してないで、俺達と遊ぼうぜ!』って、声をかけてきたの。
私は教会にある魔道書を読みながら、その内容を一生懸命に理解しようと頑張っていたので、悪ガキ2人の顔をチラッと見て『そんな暇は無いわよ!』って突き放してやったわ。
その時の2人の顔は忘れられないわね……
私もリュカが教会で、この魔道書に熱中している時に、彼等と同じ顔をしていたから……
今だから分かる……リュカは勉強家だ!
いくらパパスおじさまが、リュカに剣術や魔法を勉強させても、本人にやる気が無ければ、あそこまで強くなる事は出来ないだろう。
何時も可愛く平和を望む一方で、常に自分を向上させる事に余念が無い……
か、格好いい……
どうしよう……年下なのに格好良くって頼りになって、そして可愛くって……
私、リュカの事を考えると、変な気分になってきちゃうの……
好きで……好きすぎて……こう……胸が熱くなってきちゃうの!
リュカがサンタローズへ帰ってから、まだ1週間も経って無いのに、もう逢いたくなってしまっている。
リュカも私の事を思ってくれているかな?
そうだったら嬉しいな。
リュカと別れてから2ヶ月が経過した頃、王都ラインハットでとんでもない事件が発生した!
何と王子様のヘンリー殿下が、何者かに攫われ行方不明になってしまったと言うのだ!
しかも、その何者かって言うのがパパスおじさまだとラインハットは言っているみたい。
そんなワケ無いじゃないの!
パパスおじさまが誘拐なんてするワケないわ!
でも一緒についていったパパスおじさまの息子……つまりリュカも、犯人と言われているパパスおじさまも行方不明で、親子でヘンリー殿下を攫ったと専らの噂になっている!
でも、きっと違うわ!
リュカ達が行方不明なのは、ヘンリー殿下を攫った犯人を追いかけているからよ!
結構な強敵で、直ぐに帰る事が出来ないでいるのよ!
でも周りの大人達は、リュカ達が誘拐犯だと頻りに言っている…
昨日なんか町長さんが尋ねてきて、お父さんとお母さんに言っていたわ……
「お前さん達はパパス殿と親しい間柄だ。私も町民も、お前さん達を疑う事は無いのだが、ラインハットは疑って来るだろう……そうなれば、この町を滅ぼす為に兵を寄こすかもしれないのだ! もしそうなれば、私はこの町を守る為に、お前さん方を全員差し出さざるを得ない……申し訳ないが、今の内から他へ移り住む準備を始めてくれないか。そして、なるべく早くに余所へと引っ越して貰いたいのだ……私達には、それ以外の方法でお前さん達を救う事が出来そうにないのだ……」
私はお父さん達がお話をしている部屋の外で静かに聞き耳を立てていた……
町長さんの提案に、私は声を押し殺して泣いていた……
私は此処で……アルカパで、リュカとパパスおじさまが悪いヤツをやっつけて、また私に逢いに来てくれる事を期待していた……
でも、それも出来そうにない。
私達は、慣れ親しんだこの町を捨て、別の土地で身を潜めて生きて行かねばならないのだ……
リュカに逢いたい……直ぐに逢えると思っていた……
でも、もう逢えないのだ。
町長さんが席を立ち、帰ろうとこちらに近付いてくるのが見えた。
慌てて私は自分の部屋へと逃げる……そして枕に顔を埋め、声が漏れない様に泣き出した。
もうリュカに逢えない……もうアルパカに帰れない……
何もかも失った気がして、何もかも不幸に思えて……
私は泣く事しか出来なかったのだ。
気が付くと私の隣にお母さんが居た。
何時の間に入ったのか、ベッドに腰掛け私を見つめていた……
「ビアンカ…聞いていたのね……」
私は顔を上げると、涙が止まらない状態のまま黙って頷いた。
「そう……じゃぁ良く聞きなさい。この事で泣くのは今日で最後にしなさい! アルカパを離れる事は悲しいわ……リュカ達に逢えなくなる事も凄く悲しいわ……でもね、その事を悲しみ不幸だと泣く事は、リュカやパパスが誘拐犯だと認めるのと同じ事なのよ!」
私はお母さんの言葉に驚き目を見張る!
「お母さんはね……リュカもパパスも犯人では無いと思っている。むしろ犯人を追いかけて、何らかの罠に嵌ったのだと考えているわ! でもね、あのパパスの事だから、きっと何時の日か本当の犯人を捕まえ、自らの名誉を回復し、私達の前に姿を現すはずよ! ビアンカ……貴女が本当にリュカの事を好きなのなら、全世界がリュカの敵になっても、貴女だけは味方で居続けなさい!」
大好きなリュカの為に……そうよ!
リュカもパパスおじさまも、そんな事をする人じゃないわ!
私が信じないでどうするの!
私は顔を上げ、溢れ出る涙を何度も拭い、お母さんを見つめ大きく頷いた。
リュカは何時の日か必ず私の前に現れてくれる……
アルカパから出て行かなければならないのは悲しいけど、それはリュカの所為じゃ無いわ……
これ以上悲しんだら、リュカは自分の所為だと苦しんでしまう。
私はもう一度涙を拭い、お母さんに抱き付いた。
泣く為では無い……お母さんに勇気を貰う為に。
今はまだ無理だけど、もっと魔法の勉強をして、私からリュカ達を探しに行ける様になろう……
リュカやパパスおじさまを信じる……でも待つつもりは無いわ!
私が彼等を助けるの!
必ず助けてみせる!
そして私はリュカと……
後書き
募るリュカへの想いが、ビアンカを美しく成長させたと思います。
そんな綺麗な物語に出来れば幸いです。
惜しむべき故郷、新たなる人生
<アルカパ>
アルカパを出て行く事が決まってから2週間が過ぎた……
町長さんが色々手伝ってくれたので、宿屋の売却もスムーズに行われた……らしい。(お父さん達の話を盗み聞きしたらそう言っていた)
急いで売却の手続きをしたので、私はこの宿屋の新しい持ち主の顔を知りません。
良い人だといいなぁ……
大切に使ってくれると嬉しいなぁ……
更に1週間が経ち、私達がアルカパを出て行くのも来週へと迫る。
そんな日の夕方に、町長さんが血相を変えて訪れた……とんでもない情報と共に!
何とラインハット国王のグレック陛下がお亡くなりになったそうだ。
ヘンリー殿下が行方不明になり、ショックで病気になってしまい、そのまま息を引き取ったと言う…
そしてヘンリー殿下の弟のデール殿下が王様になった。
と言っても、まだ5歳の子に王様なんて出来る訳無い。
実質、デール陛下のお母さんが権力を握っているのだとお父さん達は言っている。
更にお父さんは凄い事を言い出した!
「もしかしたらヘンリー殿下を攫わせたのは、太后なのでは……? それをパパスに擦り付け、そしてグレック陛下までも殺したのでは……?」
とんでもない事を言うお父さん……
町長さんは青くなり、私達しか居ないのに周りを見回し体を小さくする……
それ程大声だったワケでもないし、私達以外の人に聞かれる事はないのだが、それでも恐怖から周囲を警戒してしまう町長さん……
「め、滅多な事を言うもんじゃないぞ! どこで誰が聞いているか……」
その通りだ……こんな事を誰かが聞いていたら大変な事になる!
事実で無ければ不敬罪で処刑されるし、事実であれば尚危険だ!
そんな事をする連中が、放っておくとは思えない……口封じをするに決まっているわ!
もしかして……リュカもパパスおじさまも、その事を知ってしまったから殺されちゃったのでは!?
気付くと私は涙を流していた…
お母さんが私を優しく抱き締め元気づけてくれる……
泣いちゃダメだ!
私はリュカを助けるんだから!
絶対リュカは生きているんだから!!
私は宿屋の屋上からアルカパの町を眺めている……
既にお日様が地平線の僅か上にある夕暮れ時に、色々な思い出の詰まったアルカパの町にお別れをしている。
今夜、誰にも見つからない様にアルカパを出て行く事になった私達……
昼間に町長さんから連絡があったのだ。
サンタローズの村にラインハット兵が押し寄せ、村を滅ぼしたと……
理由はヘンリー殿下を誘拐したパパスおじさまの捜索。
でも村全体で秘匿したから、反逆罪で処刑したのだという……
私は怒りや悲しみでおかしくなりそうだ!
絶対にあり得ない事だが、あえてパパスおじさまがヘンリー殿下を誘拐したと仮定しても、サンタローズ全体が共犯であるはずがない!
とてもキレイな村だった……
でも、二度と見る事が出来ないのね。
お父さんが町長さんに、私達の行き先を伝えていた。
ラインハットが私達を探しに来た時、答えられないと『隠し立てした!』と因縁を付けられる恐れがあるから、聞かれたら迷うことなく言うようにと……
だから私達はラインハット王国からも出て行く事になるのだ。
国外へ出てしまえば、いくら大兵力を持っていても、迂闊な事は出来ないはず。
それに町の人達が、私達を逃がしたと思われない様にする為、今夜遅くに逃げ出すのだ。
所謂『夜逃げ』だ!
深夜にアルカパを出て、ビスタ港から船に乗ってポートセルミへ…・
今はまだ無理だけど、何れは必ずリュカを探す!
大きくなったら私はリュカ達を探し出し、汚名を晴らす為に全力を注ぐ!
でも今は逃げる事しか出来ないのだ。
悔しいけど……悲しいけど……今は我慢なのよ!
凄く不本意な事だけど、私が見た最後のアルカパの景色は、涙でぼやけていた……
でも負けないわよ!
だって私はリュカの事が大好きだから!
私は生まれて初めて船に乗った。
こんな状況じゃなければ、もっと船旅を楽しめたはずなのに……
ビスタ港を出てから数日が経ち、船員さんが言うには明日にはポートセルミへ到着するらしい。
船に乗ってから教えてもらったのだが、私達の新たな家はもっと遠くにあるらしい。
ポートセルミで1晩泊まったら、直ぐに出発して山奥へと行くと言うのだ。
う~ん……山奥かぁ……
サンタローズは素晴らしい村だったが、私には住みづらい場所だった。
正直言うと私は田舎暮らしが肌に合わないのだ!
時折訪れる場所として、サンタローズの様な山奥は素敵だけど、そこで暮らすとなると……
アルカパは都会だったから、私には暮らし易かったのになぁ……
でも、そんな事でへこたれる訳にはいかないわね!
私にはやるべき事があるのだから、それに向かって努力をしないと……
リュカを探す旅に出るのだから、田舎暮らし程度は楽にこなせないといけないわね。
それにリュカを見習わないとね。
リュカは野宿とか、平気でこなしていたわ。
パパスおじさまと一緒に、世界を旅して回ったから出来るのね。
私はリュカの為に、それくらい出来る様になってみせる!
そして必ずリュカを見つけて、一緒に……
心からの安息、押し寄せる不安
<山奥の村>
私達一家がこの村で暮らし初めて6年の歳月が流れ過ぎた。
この村の名前は『山奥の村』……
思わず『変な名前ね!』と言った事がある。
そうしたら村の人が教えてくれました。
正式な名前は『温泉で超有名な山奥にある村』と言うらしいのだが、皆さんも長いと感じたみたいで、いつの間にか省略されていたと言う……
こんな事を思う私が変なのかしら……
名前が長いと思った時点で、『アルカパ』とか、『サンタローズ』とか、それらしい名前を付ければ良かったのでは?
……私の考え方が間違っているのかしら?
そんな山奥の村にも馴染む事が出来た我が家。
出来上がったばかりの水門管理を率先して行ったのが効果的だったのだろう。
とは言え、体の丈夫ではないお父さんだけで水門管理をするのは無理な為、最近では殆ど私が管理している。
今日もこれから水門を開けに行く……
空の様子を見ると、近々雨が降りそうなので上流の水位を下げておく必要があるのよ!
水門までは私の足で片道3時間弱……
水門での作業時間を入れても、往復8~9時間かかるの。
村から外に出ればモンスターも現れるし、最初の頃は家族総出での大仕事だった……しかし、私も随分と成長した。
今では1人でこなしているのだから。
そんな訳で、別に1人でも問題ないのだが、今日に限ってイディオタが一緒に行くと言い出したわ。
『イディオタ』とは、この村で生まれ育った私と同い年の男の子。
初めて会った時は、私の事を都会育ちの世間知らずとバカにしてきた……
当時の私はそれどころでは無かったので、完全に無視をしていたのだが、温泉宿のおばさんに『イディオタはアンタに気があるんだよ。許してやってね』と言われて、初めて惚れられている事を知った。
正直そんな想いを寄せられても、迷惑以外の何物でもないので、釘を刺しておこうと思い『アンタ、私の事好きなの? 私、心に決めた男の子が居るから、諦めてね! アンタより可愛くて、アンタより格好良くて、アンタより強いんだから……私の事は諦めてね!』と言ってやったのよ。
そうしたら泣きながら『ふ、ふざけんな! だ、誰がお前みたいなブスに惚れるかよ! 自惚れてんじゃねーよ!』と逃げていってしまった……
それ以来、村で出会っても視線を合わせず、挨拶すらしてこなかったので、諦めた物だと思い放っておいたのだが……
ここ2.3ヶ月して向こうから話しかけてくる様になったのだ。
話しかけられて無視するのも失礼な事だし、礼儀知らずな娘と思われるのは嫌だし、すれ違う度の挨拶とかはしていたのだが、今日急に『1人で水門まで行くのは危ないから、俺が一緒に行ってやるよ…俺は強いからな!』と、強引に付いてきたのだ。
さっきも言ったが私の足で片道3時間弱……この数字は、モンスターと戦闘する事を考慮に入れての数字だ。
だがイディオタと共に水門まで向かうと、5時間はかかるという不思議な現象が起きたわ!
『俺は強いからな!』だと!?
『ランスアーミー』の集団に追い回されたり、『笑い袋』のメダパニにアッサリかかったり、居るだけで足を引っ張る邪魔な男……
私の手伝いをする為に付いてきたはずなのに、私の仕事を増やしてどうするんだ!?
途中で『帰れ!』と言いたかったが、私と別れたりしたら生きて村まで帰れないろうと思い、言うに言えず5時間かけて水門まで連れてきてしまった……
因みに到着した時イディオタは『どうだ…俺と一緒だったから何時もより早く到着しただろ! ふふふ…礼には及ばないぜ!』と言いやがった!
さらにコイツの役立たずっぷりは続いた。
1日仕事の為、お弁当を用意して水門まで来る必要があるのだが、あろう事か奴は手ぶらだった!
最初は現地調達をするのかと思っていたのだが、このバカにそんな事が出来るとは思えない。
何時もなら到着して直ぐに水門を開け、放水している間に昼食を1人で取るのだが、今日は予定が変わった……
無理矢理付いてきた男はお弁当を持ってきてないので、私のお弁当を分けてやる事に……
一応言うが、水門を開ける作業は私1人で行った……奴はボーっと見てただけ!
なのに私のお弁当を分けてやるのだ…
放水には時間が掛かる。
一気に放水すると、下流の町に被害が出てしまうので、少しずつ上流の水位を下げるしかない。
つまり、水門を少しだけ開けて水位が下がるのを確認しながら、ただひたすら待つしかないのだ。
私1人の時はそれでも良い。
今日の晩ご飯を考えたり、成長したリュカの事を想像したりして時間を潰せるから……因みに、大自然の中でリュカの事を妄想して行う一人エッチは結構良い!
だが今日は違う……
邪魔な男が意味無く居る。
私のお弁当を半分以上食べた男が、必要ないのにココに居る。
コイツ何なの? 何で付いてきたの?
私が放水の見える岩に腰掛けて、この事態について考えていると、イディオタは私の隣に勝手に腰掛け、自身の事を語り出した。
「俺……来月になったらサラボナへ行こうと思ってるんだ。向こうで仕事を探して、でかい男になるつもりなんだ!」
でかい男って何!? 来月とは言わず、今すぐどっか行ってほしいわね!
「なぁビアンカ……俺と一緒に来ないか?」
「はぁ!?」
何で私がコイツと一緒にサラボナに行かなきゃならないんだ?
「あんな田舎は俺達には似合わないと思うんだ! 俺と一緒にサラボナに行って結婚しよう! 今日、俺の勇姿を見ただろ!? 都会に行けば兵士や警備の仕事があると思うんだ……俺なら直ぐに偉くなれる。そうしたらお前にも楽な暮らしをさせてやるよ! なぁ、どうだ? 俺とお前ならお似合いだし、きっと上手くいくと思うんだ!」
何なのコイツ……何でそんなに自己採点が甘いの?
アンタの今日の行動を見て、惚れる女がこの世に居ると思ってるの? まぁ思っているから言ってるんでしょうね……
「おいビアンカ、そんなに恥ずかしがらなくたっていい「あんたバカなの?」……え!?」
私の肩を抱いてきたイディオタに向け、冷たく言い放つ私……
「以前にも言ったでしょ! 私には心に決めた男の子が居るの! 彼の方がアンタより100万倍格好いいし、1億倍強いのよ! ランスアーミー如きで逃げまどい私の足を引っ張る様なアンタなんかより、ずっと魅力的なのよ!」
私はイディオタの手を振り払い、立ち上がり離れて言い放った。
往路の疲労と空腹により、些かキツイ口調だったとは思うが、このバカにはこれくらい言わなきゃ分からないだろう。
「な、何だよ……お前だって俺に惚れてんだろ? ツンデレぶるのはよせよ……似合わないぜ!」
ダメだ、バカには何を言っても伝わらない……
何で自分の都合の良いようにしか考えられないんだろう?
「アンタ言葉の意味を知ってるの? 私が何時アンタにデレたのよ!? ツンしかないでしょう!」
「おいおい……俺に自分の弁当を分けてくれたじゃんか!」
それが“デレ”かよ!?
「はぁ!? アンタがお弁当を持ってこないからでしょ! 私、今空腹で苛ついてんのよ! 馬鹿な事を言ってないで、さっさとサラボナにでも行きなさいよ!」
もういい加減苛ついてきた私は、メラミでコイツを消し去りそうな欲求に駆られている。
「ふっ……そんな空腹は、俺の愛で満たしてやるよ!」
全く持って面に似合わない台詞を吐きながら、私に近付くと力任せに押し倒す!
「ちょ……ふざけないでよ! 今すぐ退きなさいよ!」
「安心しろ……最高の一時にしてやるよ!」
そう言い、私にキスをしようとしてきた!
私は慌てて奴の顔を両手で押し返そうと試みる……が、流石に力では敵いそうになく、奴の顔が近付いてくる…
ぐっ……こ、この!!
「メラ!」
「ぎゃぁぁぁ!!!!」
遂に私は魔法を唱えてしまった。
だが我慢できなかったのだ!
私の上に覆い被さり、私の唇を無理矢理奪おうとするこの不男が!
顔面に私のメラを喰らい、地面をのたうち回るイディオタ……
その隙に私は奴から離れると、ある程度距離をとって身構える。
「て、てめー……何しやがる!」
「それはこっちの台詞だ馬鹿!」
顔に大火傷を負ったイディオタが、苦しそうに立ち上がり私に向けていきり立つ……だが私も、両手にメラミを灯して、このバカに向かい怒りを露わにする。
「うっ…」
イディオタはあからさまに、私の怒りに怯んでいる。
「な、何だよ! 何時までも死んだガキの事を妄想しているイタイ女に、同情で告白してやったんだろ! ふん、そうやって何時までも男を遠ざけてろ……○○○に蜘蛛の巣が張って、誰も相手にしてくれなくなっても、もう俺は知らねーよ! オ、俺はサラボナに行って大物になるんだ。あん時、俺の女になっとけば良かったと後悔したって遅いんだからな!」
イディオタは火傷した顔を押さえ、泣きながら私に対し喚き散らす。
「あ゛!? うるさいわね……何処の誰だか分からなくなるくらい、黒こげの死体にしてやりましょうか……あぁ?」
両手に灯したメラミの威力を強めて、奴に対して睨みを効かす。
「今すぐここから失せろ! 村にでも、サラボナにでも、どっちでも良いからこの場から失せろ! 私はお前みたいなバカの相手をしている程、暇人じゃないのよ!」
私は言い終わるより早く、1歩踏みだし威嚇する。
「く、くそー! い、一生男と縁遠く生きていろバ~カ! この行かず後家!」
イディオタは知能の低そうな捨て台詞を吐いて、泣きながら村の方角へと逃げていった。
いっそモンスターに襲われて、そのままくたばれば良いのに…
そして私は1人きりになった……
放水の見える岩に腰掛け、自分の膝を抱き抱え涙する。
リュカは死んでない…リュカは必ず生きている……
その事が、私の心の支えなのだ。
あの馬鹿は、私の事を『何時までも死んだガキの事を妄想しているイタイ女』と罵った……
でも私は……世界中で私だけは、リュカの無事を信じなければならない。
リュカの死体をこの目で見るまでは、私だけは信じ続けなければならないのだ。
私はリュカが大好きだから…
リュカの事を愛しているから…
後書き
ジャイー、ナール、オーリン、そしてイディオタ……
この4人でチーム組んで大冒険して欲しい。
名付けて「おバカルテット」
きっと素敵な夢を見れる。
大きな決意、大きな再会
<山奥の村>
私は来月16の誕生日を迎える。
普通16にもなれば、結婚を誓い合った相手の一人くらい(二人居たら問題だが……)は存在するのだが、私にはそんな男の噂すら無い。
哀れに思ったのか、温泉宿のおばさんなどが『良い男が居るんだよ』と、数人紹介してくれたのだが、その全てを合いもしないで断り続け、リュカへの思いを貫いている。
お父さんとお母さん以外は、みんな頭がおかしい女だと思っているのだろう。(もしくは同性愛者か……)
だが、リュカ以外の男とは結婚する気が無いから、他の男を避けてるのでは無い。
私には計画があるのだ……
アルカパを夜逃げして以来、ずっと思い描いてた計画が!
その計画とは、この村を旅立ちリュカ達を探し汚名を払拭することなのだ!
その為に色々訓練し、一人旅も出来る様に勉強してきた……
細々とだが旅費も貯め、準備万端にしてあるのだ!
本当は15の誕生日に実行するつもりだった……
しかしお父さんの病気が一時的に悪化し、私とお母さんは色々と大変になってしまい、計画実行を延期してしまったのだ。
だが、もう延期はしない……したくない!
誕生日になったら、お父さんとお母さんに話し、旅立ちの許可を誕生日プレゼント代わりに貰う予定だ。
勿論、許可してもらえないかもしれない……でも私は諦めない。
リュカと一緒にレヌール城へ行った時みたいに、こっそり旅立つ事も考えている。
言うまでも無いが説得はし続けるけどね。
あくまで最悪の場合ってやつだ!
そんな訳で男あさりに現を抜かしてる状況では無かった。
今日も宿屋のお手伝い(手伝いと言っても少額の賃金は頂いてる)を終え、自宅へと戻る私……
だがこの後、まさかの事態に遭遇する!
家に着き室内へ入ると、キッチンでお母さんが倒れていた!
私は慌ててお母さんに近付き、大声で呼びかけ意識を確認する。
その声を聞き、外で仕事をしてたお父さんも大慌てで家に入ってきて、怒鳴る様な声で何事か確認する。
何とか息はあるのだが、熱が凄く大変危険な状況だと感じる。
血相変えたお父さんが玄関まで行き、外に顔を出して助けを呼んでいる。
私は狼狽え泣く事しか出来ない……
暫くしてお医者さんがやってきた……
そっとお母さんを寝室へ運ぶと、聴診器等を使い具合を確認している。
昨日まで元気だったお母さんが、突然あんな高熱を出して倒れるなんて……
涙の止まらない瞳でお母さんを見詰め続けるが、お医者さんの診察結果が怖くて気を失いそうだ。
お父さんが私の肩を抱き「大丈夫……きっと大丈夫」と言い続けてくれなければ、頭がどうにかなってしまってただろう。
お医者さんは念入りな診察を終え不安に見守る私達の下へやって来る。
「一応私のできる限りの事は施しました……しかし正直言って原因は不明です。重度の過労の様に見えましたし、栄養のある物を食べて安静にするのが一番でしょう……」
何とも頼りない言葉だ。
とは言え専門家が言うのであれば、私達はその指示に従うのみ……
お礼を言ってお医者さんを見送る私とお父さん。
そして私は、お医者さんに言われた通り消化に良く栄養のある食べ物を作り、ベッドで休むお母さんへ給仕する。
私が料理を作っている最中はお父さんが付きっきりで看病している。
この日から私とお父さんの看病生活が始まった……
長期に渡り続くと思われたお母さんの看病だが、予想だにしない早さで終わりを迎える。
私の誕生日までお母さんは耐えられなかった……
きっとお母さんは解っていたのだろう。
亡くなる3日前の晩、お父さんと看病を交代した時に、弱々しい声で真実を教えて貰った。
私がお父さんとお母さんの本当の娘でない事を……血の繋がりが無い、拾われた娘であることを!
ショックを受けなかったと言えば嘘になる。
しかし、その事実を聞いた所で今まで生きてきた人生が変わる訳ではない。
お父さんとお母さんは、私にとって大切な両親であり、掛け替えのない存在なのだ。
だから私は『そんな事関係ないよ。お母さんはお母さんだし……私は二人の娘だよ。だから……だから早く元気になってよ』と泣きながら呟き抱き付いた。
お母さんは私の頭を弱々しく撫でると、やはり弱々しい声で『ありがとう』と呟く。
涙が止まらなかった……
私はお父さんとお母さんの娘である事に誇りを持ってるし、これまで育てて貰った事に感謝をしている。
今更私達に血の繋がりが無い事などどうでもよかった。
ただ元気になってほしかっただけなのに……
お母さんが亡くなって2年半が経過した。
悲しみが無くなった訳ではないが、お父さんと一緒に何とか乗り切った2年半だった。
気が付けば私も18歳だ……
都会でなら兎も角、こんな田舎では行き遅れ女である。
お父さんもその事が心配なのであろうが、何も言わず見守ってくれている。
知ってるのであろう……
私には心に決めた相手が居る事を。
会えなくなってから10年以上が経過したが、未だに諦めきれない事を。
周囲の人々は私の為を思い、色々と縁談の話を持ちかけ相談しに来るのだが、私は勿論お父さんも「本人の意思次第だよ」と、やんわり断ってくれている。
本当は早く結婚して安心させてあげられれば良いのだろうけど……
それでも私はリュカを忘れられない。
だからだろうか……
昨日の晩にお父さんから突飛な台詞を出てきた。
『ビアンカ……私も最近は体調が良い。そろそろお前も自分の為に時間を使いなさい』
最初は何を言ってるのか解らなかった。
だが言葉の意味を考えると、私の旅立ちを……心の中で決意し続けてきたリュカを探す旅への出立を、認めてくれているのだと解った。
私は目を見開いてお父さんを見詰めたが、お父さんは黙って頷き微笑み返すだけ。
だから私はお母さんに報告をしている。
準備を整え明日にでも旅立つつもりなので、その前にお母さんのお墓に訪れ、出立の報告を行っている。
毎日欠かす事なく訪れたお母さんのお墓……
明日旅立てば、頻繁に訪れる事の出来ないお母さんのお墓……
自分の事を優先してしまう親不孝な娘を、お母さんは笑って許してくれるかな?
そんな事を考えながらお墓の前で跪きお祈りを続けている……
すると、背後から何かの動物の気配が感じられる。
更にその何かの動物を呼ぶ声が聞こえてくる。
「プックル! ダメだよ、邪魔しちゃ!」
「え! プックル……」
とても懐かしい名前に、私は思わず立ち上がり振り返った!
そして私は驚く!
目の前に居る人物は……
【DQ5~友と絆と男と女 (リュカ伝その1) 30.どうにもならない事がある。どうにも出来ない事がある。でも、どうにかしないと。】へ続く
後書き
「大人の階段登る君はビアンカ……」は、一旦ここで完結です。
ビアンカSIDEの書き方も思い出したし、そろそろ本編(リュカ伝3)の6章を再開しようと思います。