男は今日も迷宮へと潜る


 

第一話 

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フィリピンのとあるスラム街。空に浮かぶ太陽は、今日も立ち並ぶ倉庫群を焼いている。
焼かれている倉庫たちの一つの倉庫の前に、一台の軽トラが停まっていた。
その軽トラが停まっている倉庫の小さな扉の横には、『郷田商店』と書かれた小さな看板が掲げられている。
倉庫の中はダンボールや木箱が山積みになっており、窓からの光がさえぎられていて薄暗い。その薄暗いなか、ぽっかりと空いたワンルームほどのスペースに置いてあるソファに、一人の男が腰掛けていた。
安っぽいアロハとジーパン。体毛をすべてそり落とした頭部。気だるさを隠しきれていない強面。
男、郷田 柾冨(ごうだ まさとみ)はシケモクを咥えながら、延々とつまらないギャグを繰り返すテレビと向き合っていた。

──ジリリリリリリン・・・・・・ジリリリリリリン・・・・・・

ソファの横にある古めかしい黒電話が鳴る。ヤスは渋い顔をしながら受話器を取った。

「はいはい、郷田商店です」

『やあ、マサ。調子はどうだい?』

「ああ、ハシムさんですかい。今日はどんな用件で?」

相手が常連だったためか、マサの顔は少し緩む。

『いやぁちょっと入用でね。とにかく破壊力のあるコンパクトな物・・・・・・時限式とかに出来るとなお良いのだけど。何か無いかい?』

客の問いにマサの顔がまた渋くなる。常連のテロリスト、ハシムのご要望どおりの商(・)品(・)は売るほうにもリスクが付きまとう。あまりにも目立ちすぎるのだ。

「あー・・・・・・そうですねぇ。無くはないんですけどもねぇ」

『本当かい!?言い値で買うよ!』

「ただねぇ・・・・・・ある国の試作兵器なんですわ。後処理をしっかりしないと足が付いてしまうんでねぇ・・・・・・」

『ハハハ!そんなことを心配してるのかい?任せたまえ!そこらへんは全勢力をかけてでもどうにかするさ!君とも長い付き合いでありたいからね!』

「はぁ、そいつはこちらとしてもありがたいですわ。それじゃあ準備しときますんで、夕方ぐらいに取りに来てください」

『承知した!良い一日を!』

ぶつりと通話が途切れる。マサは受話器をそっと元に戻した。

「──はぁぁぁ。やだやだ、キナ臭いったらありゃしない」

大きく溜息。マサは現在の生活に不満を持っていた。
金銭的に困っているというのもあるが、マサの年齢は30と半分。一般的な日本人男性ならばそこそこの企業でそれなりの役職に就き、家庭を持っていてもおかしくない頃である。
若気の至りとでも言うべきか、気がついたら様々な組織から追われる身になっていた。そのせいで今もこんな胡散臭い商売しかできないのである。
どうせ生きるのなら喫茶店でも営みながらのんびりと暮らしたい。というのが彼の本心で、テロリストやマフィア相手に非合法に入手した大量破壊兵器やら何やらを売りさばき生計を立てるというのは、非常に望ましくない生活だった。
マサは安定と平穏を望んでいたのである。

「愚痴ってもしゃあないしなぁ。準備すっかぁ・・・・・・」

どっこいしょ、とマサは重い腰を上げる。
木箱とダンボールが作り出した迷路の中を、のっそりと掻き分けながら、目的のものを探し始めた。

────

「んー・・・・・・どこに置いたっけなぁっと」

ごそごそがちゃんとダンボールを動かしながら目的のものを探して早数十分。目当てのものは一向に見つからず、空いたダンボールの口からは弾倉や手榴弾が顔を覗かせていた。

「ぼちぼち整理すっかねぇ。でもめんどいなぁ・・・・・・っとあったあった」

ダンボールの山の中に一つのジュラルミンケースが鎮座していた。持ち運べる程度の大きさで、取っ手の横には電子キーが付いており、カードキーと併せて簡単には開かないようになっていた。
ヤスは手早くパスコードを打ち込みカードキーを通す。すると、気の抜けるような音を立てながらケースはゆっくりと開いた。

「試作小型重力弾・・・・・・こんなおぞましいもん良く作ろうと思ったもんだ」

ケースの中には長さ30cmほどの黒い楕円の円柱が一本納められていた。横には四角い電子機器が一緒に納められており、それに付いているダイオードが緑色に点滅している。
この小型の爆弾は、マサがあるところから逃げ出すときついでにと盗み出したものだ。しかしその特性上持て余していたので丁度処分するにはいい機会だ。
正常な動作を行うか、マサは付属のマニュアルを見ながら確認する。

「異常なしと。・・・・・・これでやっと気が楽になるってもんだよ」

「それにこれを売りゃあちっとは生活もましになるだろうしなぁ・・・・・・」

マサの生活は苦しい。酒もタバコも節約してどうにか飯が食える状況だ。

「ったく。あいつらめ・・・・・・こっちが下手に出てりゃ付け上がるからこまったもんだなぁ──っと」

「ん?」

愚痴りながらケースを閉じようとしたとき、しゃがみ込むマサは異変を感じた。
微妙な振動。何事かと顔を上げた次の瞬間、大きな縦揺れがマサを襲う。
滅多に起こらない地震。運悪くもマサが危険物をいじっているときに限ってそれが起きてしまったのだった。
崩れてくるダンボールの山、それは下にいたマサと破壊兵器を押しつぶす。
埋もれる瞬間、轟音とともにヤスの耳に電子音が一回聞こえる。その音が破壊兵器が起動した音だとマサが悟ったとき──
辺りは黒い閃光に飲み込まれた。

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後書き
初の小説投稿です。
拙い面があると思いますが出来る限り頑張ります。
意見、感想等は随時募集中ですので気兼ねなくどうぞ。 

 

第二話 

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「やーやーやー!僕は君を良く知っているが・・・・・・初めまして!」

意識が戻ったとき、マサは暗闇の中で椅子に座っていた。
自分と自分の座っている椅子以外は何も見えない空間だ。
そんな中底抜けに明るい少年のような声がマサに話しかけてきた。

「ハッハー。戸惑ってるねぇ。いいでしょう!そんな君の為に現在の君の状況を解説してやります!」

「まず僕は君たちの世界で言うサタンであり四文字の神であり・・・・・・まぁ何かスゲー奴だ!それでここは日本で言う三途の川ってとこかな!」

訳が分からない。自分は夢でも見ているのだろうか。
声も出ず体も動かない。疑問は山積みだと言うのに

「おっとぉ?疑っているなぁ?ところがどっこい!現実ですっ!」

「君は消滅したのさ!とてつもなく強い重力に押しつぶされてね!」

自分に語りかけてくる自称悪魔の王兼最高神は心を読めるらしい。
ラリった記憶もないしこれはきっと夢なのだろう。
たった今そう確信した。

「さて、君の活躍──というか人生は実に奇妙なものだね!見てて非常に面白かったよ!」

「特に二十歳の頃の生物兵器編からその後の大脱走編は実に素晴らしいものだった!手に汗握るアクションに仲間内でも大好評さ!」

「ただ、最近の武器商人編はちょっと退屈だったがね!」

HAHAHAと高笑いする謎の声。さっさと起きなければ。
先ほどの地震できっと商品が崩れていることだろう。
暴発でもして住処が吹っ飛んだら流石に事だ。きっと骨が折れるような苦労が自分を襲う事だろう。

「夢じゃないんだけどねぇ・・・・・・まぁ好きに捉えるがいいさ!どうあがいても結果は変わらんしね!」

「という訳で、君には地球と全く違う世界に行ってもらいます!テコ入れってやつ?」

「いやぁ、丁度知り合いにいい感じのファンタジックな世界を管理している奴がいてね。さっき話したら二つ返事で了承してくれたよ!」

「ほら、異世界に行くなんてまるでアニメのようで素晴らしいだろう?」

「色々なオマケ付けとくし、手配書も君を追う秘密結社もないから・・・・・・良いよね?」

「それじゃあ!せいぜい僕らを楽しませてくれよ!」

バツン、とブレーカーが落ちるような音とともに、再びヤスの意識は深い闇に落ちた。

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暖かい。草と土の匂いを纏った爽やかな風が抜けて行く。
目覚めたマサが上体を起こし周囲を見回す。
自分が寝ていたのはどうやら小高い丘の上のようだ。
左手側には湖。正面僅か遠方にはどでかい塔のある大きな円形の町。
見慣れた薄汚れた倉庫街や、澱みきり悪臭を放つ波止場なんぞどこにも存在せず、ただ爽やかな風が剃り上げた頭をなぞって行く。

マサはポケットからタバコを取り出し、火を点け大きく吸い込んだ。
良い天気である。空を見ると白い鳥が群れを成し飛び去って行った。
吐き出した煙が風に弄ばれ、消えてゆく。

「のどかだねぇ・・・・・・」

鳥が囀り、陽光が暖かく周囲を照らす。
ゆったりとした時間が──

「・・・・・・ここどこっ!?」

流れなかった。

──── 

 

第三話 

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やあ!まずこのメモは案内用だ。所詮オマケその一といったところかな?
君があまりにも疑り深いものだから忍ばせといたよ!
混乱しているだろうけど、とりあえずは破り捨てず最後まで読んで欲しい物だね。
まずオマケについて解説しとこうか。あんまり長々と書くと嵩張り過ぎちゃうから簡略化したので簡便な!

1.この世界の知識、言語の習得

2.前の世界での君の体(・)質(・)と経験などの記憶の保持

3.君の倉庫にあった物をほぼ無制限に自由に取り出せる四次元ポケット!(ドラ○もんみたいだね!)

他にも細かいのがあるけど・・・・・・まぁ気にしないでくれ!

そして君が目覚めて目に入る町があるだろう?
その町は迷宮都市オラリオ。まぁ君の拠点となる町とでも考えといてくれ。
することは簡単!君にはファミリアという物に所属して迷宮に潜ってもらうよ!
迷宮にはモンスターが居てね、それをブッ殺がすと魔石って物が手に入るんだ!
まぁモンスターってのもファミリアに所属しないと・・・・・・

────

「畜生(ファック)・・・・・・ふざけやがって!」


憎たらしいほどの達筆のメモを、マサはポケットに押し込んだ。
メモにはこの世界のこと、生計を立てる方法、オマケの内容と使い方、通貨の単位などなど・・・・・・
ひょっとして要らねぇんじゃねぇかと思うことまで異常に細かく記されていた。
丁寧に合いの手まで書き込んであることがマサのストレスを増加させた。
当面はこれを参考にして生活するほかないだろう。

「あーあーあー・・・・・・本当なら今頃不良在庫売っぱらって豪勢なディナーとシャンパンで宴会ってとこだったろうになぁ・・・・・・」

「何が悲しくて文無しでこんな目に遭わなくちゃいけねぇんだよ・・・・・・」

金なし、身元なし、住処も仕事もなし。
なしを綺麗に四つ同時に獲得してしまった。
これではそこらのホームレスと大差ない。

「まぁ、行くしかないんだろうなぁ・・・・・・あそこ」

目線の先には馬鹿でかい塔と円形の町。
中央部の塔から伸びている八本の大通りが印象的だ。

「嫌だなぁ。疲れるの嫌いだし。腰痛くなるし」

「行ってみますかぁ・・・・・・」

立ち上がり大きく一伸び。咥えていたタバコを念入りに踏み消す。
放火などでいきなり札付きになるのは御免だ。

「おっと、その前に・・・・・・」

アロハシャツの懐、本来ならばポケットのない位置を探る。
するとそこには雑多な物(・)の感触が確かにあり、マサはある物をその中から選び出した。

「あったあった。便利だなぁこの『オマケ』って奴はよ」

「一応確認っとねぇ」

取り出した二つの物を組み合わせ、その合体した物をマサは口に咥え込む。
マサが指を動かしたその瞬間。
辺りに軽快な破裂音が響き渡った。
取り出した物は拳銃。それも殺傷力溢れる四十五口径。またの名をコルト・ガバメント
そんな物を口の中で暴発させて無事な訳もなく、マサの後頭部からは血と脳髄の混合物が噴出した。
弾丸の抜けたところには風穴が開いている。

そのときふしぎなことがおこった!
傷口はさも意思があるかのように蠢き、近くの組織同士が結合する。
グジュリ、グジュリと音を立てながら、数秒ほどで空いた穴は完全に塞がった。

「いってぇ・・・・・・が、問題はなさそうだな」

首をゴキリと一回し。いつもと変わらない。
うんざりするほど体(・)質(・)は絶好調である。

「まずは冒険者登録で・・・・・・次にファミリアに所属だったっけなぁ。武器はいらんし」

マサは拳銃を懐にしまい込み、ゆっくりと町に向けて歩き出した。

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結論。30も半ばを過ぎた職なし、金なし、前歴無しのオヤジを受け入れようというファミリアは存在しなかった。
少なくともマサが訪れたところではの話だが。
良くて門前払い、悪くて罵倒つき。酷いとこでは水を被せられ追い返された。
流石に自棄になり建物ごと爆破してやろうかとも考えたが、今後のことを考えやめておいた。

兎角今日の宿代だけでも稼いでおこうと迷宮に潜ったりもしてみた。
最初は非常に好調だった。
懐のポケットから取り出した模造品のAK47はモンスターにも十分に通用したのである。

だがあくまで通用しただけであった。

モンスターを、ゴブリンを甘く見ていた。奴らは人間のように腕や足に数発くれてやったところで動きを止めなかったのだ。その上かなりすばしっこく捕捉するのも難しい。

苦心しながら二匹、三匹と倒しているうちに、新たなゴブリンが銃声を聞きつけ集まって来るやら壁から湧いてくるやらで。気がついたときには集まりに集まってざっと十五、六。
弾が切れてヤバイと思ったそのときには対策を取る間も無く、集団リンチのような有様になってしまったのである。
死にはしなかったものの、齧られ、再生した部分をまた齧られ、という激痛ループには参った物だ。

前々から体内に仕込んでいたC4を起動して延々と貪られる余生だけは回避したが、爆風により魔石はどこかへ飛び散ってしまい、結局稼ぎを得られなかった。
少しでも幸運だったのはオマケの影響か、飛び散った肉体と共に身に着けていたものまで再生したことぐらいだろうか。

そんなこんなで日も沈み、マサはバベル前のベンチに座り途方に暮れているのであった。
金も寝床も確保できず、きっとこのままここで野宿する羽目になるのだろう。
現在いる広場から丁度見える大通りは人で溢れている。上手く事が運んでいたら自分もあれらの中に混じっていたことだろう。
時折見える異種族が、自分が異世界にいることを改めて実感させた。

「腹減ったなぁ・・・・・・」

実質不死身とは言え腹は減る。
所持金は相変わらず0ヴァリスで何かを食べることも出来やしない。
タバコで空腹を紛らわすのもいい加減限界、というかむしろ悲しくなってきた。

「やっぱ『ファミリア』かねぇ。身体能力上がるっつうし」

件のメモには『ファミリアに所属して恩恵(ファルナ)を受けないとモンスターハントは厳しいよ!』と書かれていたのを思い出す。
身体を強化せねば一番の雑魚にも苦労するということなのだろう。
ただ、こんなオヤジを受け入れるところも存在しない。
なんせ入団のにの字を言っただけで追い返されるのだから。

かといって虎の子の体質のことを話す訳にも行かない。
何があるか判らないからだ。
前にも、死なないことを娼婦に話しただけでその国の政府に捕獲されかけた程なのだから。

完全に詰みである。
もう起きていてもどうしようもないと判断し、マサはベンチに寝転がった。
ポケットからスーツを取り出しておいて正解だった。かなり寒い。
こういうときは寝るに限る。睡眠中は空腹を感じないのだから。

「あのー・・・・・・」

目をつぶりしばらくすると、話しかけてくる声。こっちは空腹との戦いで忙しいというのに。

「もーしもーし・・・・・・ファミリア探してたりしませんかー・・・・・・?」

「・・・・・・ファミリア!?」

『ファミリア』、つい数時間前まで死ぬほど憧れていた言葉。
その言葉が耳に入り急いで身を起こす。

「えっと、あの、そ、その・・・・・・『ファミリア』の勧誘をしてまして・・・・・・」

そこに居たのは一人の少女。
浅黒い肌のほっそりとした肢体と整った顔。それと対照的な肩まである銀糸のような髪と赤い瞳。
この世の物とは思えないオーラを放っていた。
一目で分かる。これは人ではない。

「あー・・・・・・驚かせてすまん。
なんせかれこれ十件近くファミリアを当たったが全部門前払いだったんだ」

「で、嬢ちゃんは誰だい?」

「あ、えっと」

「イシュタムって言います」

────
 

 

第四話 

────

「はー、そうかぁ。嬢ちゃんも最近こっちに来たのな」

「はい。それでファミリアの勧誘をしていたのですが誰も集まらなくて・・・・・・」

「すいません。こんなとこが本拠地だなんて、格好つきませんよね・・・・・・」

「なぁに。壁と屋根があれば楽園よ。おっちゃんあのままじゃ野宿だったし」

対面する形で座る二人。
現在地は西と北西の大通りの間の区画の中ほど。
そこにあるイシュタルがつい最近借りたと言うあばら家だ。

「でもいいのかい?こんなおっちゃんでさ。それこそ格好つかんだろ」

「いや、それは、その・・・・・・」

「やめるなら今だぜ?」

「ち、違うんです!前からずっとあなたのことが気になっていて──」

前から?とするとまさか・・・・・・

「・・・・・・ひょっとして、俺のこと知ってる?」

しまった。という表情を作るイシュタム。
となるときっとそうなのだろう。

「あー、あれの言ってた仲間内って奴な・・・・・・」

「はい・・・・・・黙っていてごめんなさい・・・・・・」

「一応聞くが、元の世界に戻したりとかは──」

「出来ないです・・・・・・ここでは力も殆ど無いですし・・・・・・」

「まぁ、そうなるわな・・・・・・」

沈黙が場を支配する。
下界に降りた神は力を発揮できない。
件のメモにはそう書いてあった。

「ま、いいさ」

「へ?」

「組織やら警察やらとの追いかけっこにも飽き飽きしてたとこだしな」

「見世物にされてるのはちっと気に食わんが・・・・・・」

「つまり、その、これからよろしくって事さ」

「え、は、はい!」

握手を交わす二人。今ここに新しい【ファミリア】が誕生した。
その行く末は運命のみぞ知ることだろう。

────

飛び散る脳髄、迸る血飛沫。
.45ACP弾が哀れなゴブリンやコボルトを軽快に引き裂く。

「ハッハッハー!ぜっこぉうちょー!」

マサに肉薄したコボルトがまた一匹細切れにされる。
小物相手に威力は必要ないと考えドラムマガジンのトンプソンを持ってきたのも正解だ。

「ヒャッハー!!!」

神の恩恵(ステイタス)を受けてから、狩の効率は格段に上がった。
身体能力、特に動体視力と反射能力が上がり、対象を捕捉するのが容易になったのだ。
それに加え囲まれたとき用に閃光手榴弾を用意したのもあり、昨日よりも多くの魔石を集めることが出来ていた。

「いやぁ、爽快爽快。良心も痛まんし。」

「中々の天職な気がするぜ」

「っと、もうここら辺のは粗方仕留めたかねぇ・・・・・・」

現在は迷宮の第五階層。
ギルドの受付曰く、下に行けば行くほど敵が強くなったり増えたりするらしい。
故に無闇に下の階層までは潜るな、と釘を刺されていた。
が、しかし。この第五階層はむしろ敵が少ないようにも感じる。

「まぁ、滅多なことじゃ死にゃあしねぇし」

「でももうそろ引き上げてもいいかねぇ」

魔石はすでにかなり集まった。
これで少しは贅沢が出来そうな気がする。

「土産でも買ってこうかなぁ・・・・・・嬢ちゃん喜ぶだろうし」

という具合に魔石を拾い終え、タバコを吹かしながら踵を返した時だった。

「ん?」

地面が揺れている。
等間隔に、一定のリズムで、だ。
しかもその揺れはどんどん大きくなっているように感じる。
どこかで見たような気がして考察。
数秒ほどで思い出した。そう、これはモンスターパニック映画の演出に────

『ヴヴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』

「ほぁあああああああああああああああああっ!?」

似ていると思ったとき。
少年と牛頭の巨人が曲がり角から姿を現した。

「おいおいおいおい・・・・・・!嘘だろっ!?」

「にっ、逃げてくださぁぁぁぁぁぁぁい!」

『ヴゥモォォォォォォォォォォォォォォッ!』

すぐそこまで迫り来る白髪頭と逞しい巨体。
肩にかけていたトンプソンを、急いで前方へと向ける。
ここまで近ければ外すまい。

そう考え引き金を思い切り絞る。
それと同時に弾倉に残っていた弾丸が、物々しい炸裂音と共に飛び出した。
撃ち出された弾頭は少年に当たることなく真っ直ぐに怪物へと襲い掛かる。

だが、しかし。

角に当たった弾はあらぬ方向へ跳ね返り。
軟体組織に当たった弾は動きを止めるには力不足。
結果として怒りを助長させるのみだった。

脇を抜けていく少年。
それに続く牛の怪物は邪魔だと言わんばかりに手を振りかぶり──

「・・・・・・!ブゲッ!?」

マサを勢い良く薙ぎ払った。
物理法則に従いマサは吹っ飛び、打ち付けられ、そのまま壁の染みへと成り下がった。


──── 
 

 
後書き
2/5、加筆修正しました。 

 

第五話 

────

「おお、マサよ!死んでしまうとは情けない!」

自分と椅子しか見えない空間。
どっからともなく響く声
見覚え、聞き覚えがある。

「いやぁ。一度言ってみたかったんだよね!この台詞!」

「普通だったら言う場面が存在しないし!」

HAHAHAと鼻につく笑い声。
ウザイ野朗だ。人のことを見世物にした挙句笑いの種にするとは。

「まぁそんなかっかしないでくれって!僕と君の仲だろう?」

「出会って一日だがね!HAHAHA!」

手が出せないのがもどかしい。
もし触れられたならボコボコにしてたろうに。

「さて、本題だ」

「まず一つ目。君モンスターに殺されたときは再生にちょっと時間がかかるようにしといたから」

「ほら、ちょっとした縛りって奴?でも自殺やモンスター以外の他殺は今まで通りだと思ってくれていいよ!」

「そんで二つ目。薄々気づいてはいるだろうけど、威力不足!心配だよねぇ?」

「かといって、いちいち50calやRPG持ち歩くわけにもいかんよね・・・・・・」

「そこで!ステイタスの上昇に伴ってある程度威力が向上するようになります!」

「でも、そんな分かりやすいもんでもないけどね。岩の塊の化け物を拳銃で殺したりは出来ないんで、そこんとこよろしくぅ!」

「とりあえずはこんなとこかな。それじゃ、また!」

バツンという音。
再びマサの視界は闇に閉ざされた。

────

目が覚める。
薄明るい洞窟の中だ。先ほどと同じ位置だろう。
少年は無事だったのだろうか。と考えフロアを一通り見てはみた。
何も無かったのであの状況をどうにか切り抜けたのだろう。
とりあえずは──

「ニコチンも切れたし。戻るとしますか・・・・・・」

「おっちゃん疲れた!あんな大物出るなんて知らんわ普通・・・・・・」

愚痴と悪態を吐きながらもと来た道を辿り出す。
しばらくすると人の気配。
ここで会うのも何かの縁。とんでもないのが出たことを教えておこう。

「・・・・・・。」

「────っ」

思わず声が詰まる。
腰まで伸びる黄金に匹敵するような金髪。
蒼い軽装鎧に包まれたしなやかで華奢な体。
その上に乗るいたいけな童顔。
女神のような少女のその美しさに思考停止、咥えタバコの煙で我に返る。

「・・・・・・あの、何か?」

「────、あ、ああ、いや。とんでもない化け物が出たもんで」

「探索するならご用心を、ってな具合でさぁ。そいじゃ、自分は戻りますので」

少女が何かを言う前に退散。
ああいった手合いは何かと厄介な場合が多い。
綺麗なバラには棘があり、触らぬ神に祟りは無しだ。

少女を呼ぶ仲間の声と思われるのに背を向けて。
マサは足早に上の階層を目指した。

────

「──っていうことがあったんだ」

「牛頭の巨人って・・・・・・ミノタウロスじゃないですか!?」

「良く無事でしたね・・・・・・あれ、五階層なんかに居ていいものじゃないですよ?」

「あぁ、体(・)質(・)がなければ即死だったかなぁ」

「むぅ。無茶しないでくださいよ」

「だいじょぶだいじょぶ。融通が利くってのは知ってるだろ?」

「そうですけど・・・・・・」

外には夜の帳が降り、遠くから大通りの喧騒が聞こえてくる。
あばら家の中のベッドにうつ伏せになったマサとそれに跨るイシュタム。
現在【ステイタス】の更新中である。

「ここをこうして・・・・・・っと。はい!終了です!」

「ほいほい。ありがとさん」

「さてさて。どんなもんですかねぇ」

【ステイタス】が書き写された紙を受け取り目を通す。
魔力と敏捷と器用がギリギリH、他が低めのIと言った具合。
スキルも魔法も何もないまま。
正直言って微妙である。

「まぁ・・・・・・こんなもんだろうねぇ。銃しか使ってないし」

「さて、寝るとしますか。明日も早いし」

「昨日と同じで俺は床、嬢ちゃんはベッドな」

「え、でも──」

「良いんだよ。神様と添い寝なんて恐れ多いぜ?」

「むぅー・・・・・・」

イシュタムの顔が膨れる。昨日は添い寝を提案されたが丁重に断った。
自分はロリコンではないし、こんなオヤジと添い寝というのもあれだろう。

「ほいじゃおやすみさん」

「・・・・・・マサさんの馬鹿」

聞こえない、聞こえない。

夜は静かに更けて行く。

────
 

 

第六話

────

行ったり来たりの人の波。
西の大通りは今日も労働者や冒険者でごった返していた。
方々の酒場からは笑い声やがなり声が響き渡り、大通りの喧騒を作り出している。

「賑やかだねぇ」

「嫌いですか?こういうの」

「いや。全然」

人ごみを掻き分けながら歩くスーツの禿男と民族衣装を着た少女。
余裕が出来たので、外食でもしようかという話になり今に至る。

「いっぱいありますね・・・・・・どのお店にしましょうか?」

「そうだねぇ。値が張ってもいいから旨いとこがいいなぁ。
やっぱ装備代ロハってのはでかいね」

武器と防具に割く費用が無いと言う利点は大きい。
マサの懐から出てくる武器類は、マサの手を離れると消滅する。
そしてまた懐に手を突っ込むと仕入れたときの状態、即ちほぼ新品で出てくる。
銃弾も同様に空薬莢、空弾倉はそこら辺に放ると消え、懐から幾らでも出てくる。
防具にいたってはそもそも怪我を避ける必要もない。再生するのだから。痛いけど。

「あれなんてどうしょう?賑わってますよ」

イシュタムが指差したのは一軒の酒場。
『豊饒の女主人』。通りに数ある酒場の中でも一際大きな造りだ。
漏れ出てくる明るい雰囲気、そして落ち着いた内装に旨そうな料理。
その中ではウェイトレスが愛想よく笑顔で飛び回り、それに伴い笑い声が起こる。

「ほぉ。いい雰囲気だな。嬢ちゃん、あんた見る目あるんでないの?」

「いやぁそれほどでも」

「さぁ!お腹も空きましたし、さっさと入りましょう!」

言い終わるや否や、イシュタムは店に向かいテテテと走り出す。
神と言えども見た目相応に中々子供っぽい一面がある物だ。

「わかったわかった。ほらそんなに急ぐと──」

駆け出したイシュタムの足に長いポンチョが絡まる。
べちっという音と共に転倒。中に着ている丈の短いチュニックから白い布がチラリ。

「ほぉれ。言わんこっちゃねえ。大丈夫か?」

「う゛ぅ。すみません・・・・・・」

こけたイシュタムを助け起こし、二人は賑やかな店内へと足を進めた。

────

「ですからぁ!マサさんは言わばスーパースターなんですよぉぅ!」

「はいはい・・・・・・わかった。分かったから・・・・・・」

「いやぁ、全然分かってません!いいですかぁ!あなたはですねぇ・・・・・・」

銀髪の快活な店員に案内された席は四人がけで窓際の四角いテーブル。
そこに対面するように座り、適当な料理と酒を頼み早数十分。
そこにはすっかり出来上がった褐色美少女と、それに絡まれる強面禿男という奇妙な構図が出来ていた。

「嬢ちゃん、あんた酒癖悪いのな・・・・・・」

「そう!特にあの湿地戦の時ですっ!
あの一対三百と言う絶望的な状況から、突破するためのあの突撃と言ったらもう!
そこからのゲリラ戦なんてもうドキドキハラハラで──」

迂闊だった。
本人の「私結構いける口なんです!」という言葉を信頼した自分が馬鹿だった。
来る酒を次々と飲み干し、気がついたらこの様だ。

「聞いてますぅっ!?」

「あー、はいはい。聞いてますよー」

しかし延々と自分のことを話されるのも中々にこそばゆい。
どうにかならないだろうか。

「それにですねぇ!あの砂漠での──」

「──真っ赤なトマトになっちまったんだよ!」

「囲まれたときの──」

「──情けねぇったらねぇぜ!」

「あの──」

「──どっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてぇんだ?」

鈴のようなイシュタムの声が、野蛮な怒声に掻き消される。
丁度自分たちが座っている席の右前方の集団。その中の犬耳が生えた男が発信地。
その集団の中には先日迷宮内で出会ったあの美少女も居た。
酔いが回っているのか、誰かへの罵倒と下ネタが混じったそれは今や店内中に響き渡り、場の雰囲気を悪くしている。

「むぅー・・・・・・下品な男ですねぇ」

「私のマサさん談義が伝わらないじゃないですか!」

怒るとこはそこか、我が神よ。

「・・・・・・そうだ!」

「マサさん!ちょっとあいつ黙らせてきてくださいよ!」

「・・・・・・は?」

何を言ってるんだ我が神よ。

「いやいやいやいや、落ち着けよ嬢ちゃん。
確かにうるせぇけどよ、ほら、見ろよあいつめっちゃ強そう」

「マサさんの方が強いに決まってます!」

「いやいや、他の奴らも黙ってるし。こういうのは放っとくもんなんだって。
話なら後でゆっくり聞くからよ」

「いーやーでーすー!今話したいんです!」

飲ませたことを激しく後悔。
こうなるんだったら途中で止めとくんだった。

「ほらほら、早く早く!命令ですぞ!」

落ち着いてくれ我が神よ。口調が崩れてるぞ。
・・・・・・まぁしかし。流石に酒が不味くなってきたところだ。
イシュタムの勢いも収まりそうにないし、行くとしよう。

「雑魚じゃあ釣りあわねぇんだ!アイズ・ヴァレンシュタインにはなぁ!」

丁度犬耳男に接近したとき、どっかで見たような少年と先ほどの銀髪店員が駆けて行く。
まぁそんなことはどうでもいい。

「あー・・・・・・ちょいと失礼」

「あ゛あ゛?」

「何だよ、オッサン?」

ぎらつく目がこっちを向いた。かなり酒臭い。
どうやら注目は集まっていたようで、多数の視線を感じる。

「そのー、そう大声で罵倒や下ネタやらを言われるとだな。
酒が不味くなるというか、周囲に迷惑がだな──」

「は?何が言いてぇんだ?」

「簡単に言うとだな・・・・・・酒が不味くなるからその喧しい酒臭せぇ口を閉じろってことだよ。さもねぇと蒸して味噌つけて喰っちまうぞ犬っコロ」

青筋を浮かべる犬耳男と、面白そうにこっちを見る褐色少女達が印象的だった。

──── 

 

第七話

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『マジかよ!?』

『あいつ【ロキ・ファミリア】の凶狼(ヴァナルガンド)だぞ・・・・・・』

『死んだな、あのおっさん』

酒場の至る所から囁き声。
やはり相手はとんでもない物だったらしい。
視界の端ではイシュタムが、「いいぞ!もっとやれ!」とはしゃいでいるのが見える。
やっぱり厄ネタだったじゃないか、我が神よ。

「おい、今お前なんて言った?」

「一回だけなら聞かなかったことにしてやる。お前は今なんて言った?」

「いや、だからね?酒が不味くなんだって。だから黙れってこと」

「あ゛?頭湧いてんのか?おっさんよぉ?」

「喧嘩売ってんなら買うぞ!?なあ、おい!」

犬耳男が立ち上がる。
以外とがたいが良い。
鍛えられつつも絞られているその体はまるでプロの格闘家のようだ。

「おいおい、そんないきり立つなって。発情期か?あんちゃん」

「なら去勢することをお勧めするぜ?躾のなってねぇ犬もこれでイチコロってな具合よ」

「──っ!テメェ!」

胸倉を掴まれる。おお、こわいこわい。
浮かぶ青筋が良く見える。どうやら相当ご立腹のようだ。

「おいおい、落ち着けって。そんながっつくと女の子に怖がられちゃうぜ?」

「あー・・・・・・犬だから人の言葉わからんよなぁ。ほら、シット!シッ──」

犬耳男の手首を掴み、肘を支点にぐっと一ひねり。
瞬間。犬耳男の体は宙を舞い、椅子を巻き込んで着地。
やってて良かった合気道。正直ここまで上手くいくのは想定外だが。

「──っと。躾のなってない犬はこれだから嫌なんだ」

「公共の福祉ってもんをを学ばせるべきだな゛っ」

ふわりと浮遊感。直後、ガラスを突き破る感覚。
その後首で接地。ゴキリと快音。
頬と首が非常に痛い。

「よぉぉく判った。お前は俺が殺す。誰がなんと言おうと殺す!」

「おい、やめろ!ベート!」

「うるせぇ!」

折れた首を手で戻す。
酒場の入り口には仲間の制止を振り切った犬耳男。
今にも自分を殺さんと殺気を振りまきながら、こちらへと歩み寄ってくる。
バックにはイシュタムを含めたギャラリー付だ。

距離は凡そ10メートル。さて、どう料理した物か。

「おーおーおー。威勢のいいわんちゃんだなー。おっかねぇなー」

「おっちゃんちびっちゃいそう。」

「・・・・・・ブッ殺す!!」

ほんの一瞬、その間瞬き一つほど。
空いた距離は詰められ、眼前には怒り狂った犬耳男。
咄嗟の事に体が追いつくわけも無く、無様に蹴り飛ばされた。
起き上がる前に迫り来る追撃。肉の裂ける音、砕ける骨。
一方的な暴力がそこにはあった。

その後ベートの攻撃はそれに留まらず、マサが動かなくなるまで執拗に続いた。

────

『何だよ・・・・・・やっぱり口だけだったじゃねぇか』

『正しく瞬殺だったなぁ・・・・・・』

数分後。
ギャラリーから漏れる嘆息。
そこには息を荒くして佇む犬耳男、ベート。
その足元にはマサが転がっている。
息はあるものの四肢はあらぬ方向へひしゃげ、その顔は醜く膨れ上がっていた。

「・・・・・・っ。クソがっ!」

勝敗は明らかである。
虫の息のマサに背を向け歩き出すベート。行く先には仲間達。
しかし、その様子が少しおかしい。
何(・)か(・)を指差し、なにやら叫んでいる。
指し示す先はベートの後ろ。
ベートが振り向くとそこには──

「いやぁ、効くねぇ。痛ぇのなんの。」

咥えタバコのしたり顔。
完(・)全(・)に(・)無(・)傷(・)のマサが立っていた。

「っ!?嘘だ──」

「はい。ざーんねーん」

バチリバチリと鋭い音が響き渡る。
それと同時にベートの体は大きく仰け反った。

「がっ──!?」

「強いねぇ、あんちゃん。素手で手やら足やら折られるのは久しぶりだわ」

「ただ、びっくりして動きとめちゃあいい的よな」

ベートに押し付けるは懐から出したスタンガン。
スラムの悪いお友達にも人気な高電圧仕様。

「・・・・・・まぁ、吹っかけた俺もあれだけど」

「酒は呑んでも飲まれるなってことで、今日は一つ」

崩れ落ちるベート。
それを尻目にマサはゆっくりと酒場へ戻っていった。

──── 

 

第八話

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呆気にとられる面々。
酒場の中は気まずい雰囲気が漂っていた。
無理もない。ぽっと出の変なオヤジが何らかの方法で強者を鎮圧したのだから。
この状態の元凶であるイシュタム本人は、すでに酔いつぶれ寝てしまっている。
全く羨ましい限りだ。
いかんせん居心地も悪い。さっさと退散するべきだろう。

「女将さん、お会計お願い」

「あ、あんた──」

「いやぁ、すみませんねぇ。大事にしちまって。詫び代と言っちゃあ何ですが、これ」

カウンターで呆けていた豪気そうな女将に、御代よりも多めに金の入った袋を渡す。
懐がかなり軽くなるがまぁ、致し方ない。
禍根を残すと厄介そうだし。

イシュタムを背負い出口を目指す。
道が勝手に空くのがまた滑稽。

「ちょっと待ちぃ」

「はい?」

「アンタ何モンや?」

人ならざる者の気配。
声をする方を向くと、一柱の神が立っていた。
そのあまりにも平坦な体に、一瞬男神かと思ったが、声から察するに女神なのだろう。

「誰か、と言われましてもねぇ・・・・・・
つい最近、職にあぶれてこの町に来た、只のオヤジですが」

「ほぉ?最近来た只の親父がうちのベートを一撃で伸したんか?」

「ええ、まぁ。ちょいと特殊な魔法がありまして。
じゃなきゃあんな強そうなあんちゃん倒せるわけもないでしょう?」

「じゃあ何や?あのボコボコにされてたように見えたんも魔法か?」

「そうです。あれもちょいと特殊な魔法なんでさぁ」

「そぉか。魔法か」

「へへへ、魔法で──」

「嘘やな」

ぞくりと背筋に悪寒。
目の前の神から発せられる威圧感に、冷や汗が流れる。

「へ、へへ。ご、ご冗談を・・・・・・」

「冗談やない。知らんのか?神(ウチら)に嘘は通じないんやで?」

迂闊。
件のメモに書いてあったのをすっかり忘れていた。

「ただ、最近来たって言うのはほんとやな。」

「君ぃ何モンなん?」

「へへ、へへへ」

不味い。非常に不味い。
眼前の神の名状し難い恐怖を感じる笑顔に、思い返される記憶。
実験と称して生きたままぶつ切りにされるのはもうごめんだ。
こういう時は──

「失礼!」

逃げるに限る。

「あ!待ちぃ!」

「へへへ!待てっつわれて待つ奴ぁ居ません!」

出口をくぐり抜けひたすら走る。
イシュタムを背負っているので走り難い。

少しの間をおいて後ろから足音が追ってくる。
肩越しに後ろを覗くと、いつぞやの金髪の美少女。

「・・・・・・」

「ヒィッ!?」

それが無言で迫り来るものだから、思わず情けない声が出た。
まるでホラー映画のようだ。

それにしても少女は異様に速い。やはりやり手の【ファミリア】だったようである。
自分も足には自信があるほうだが、このままでは追いつかれるのも時間の問題だ。
少女相手に少々心苦しいが・・・・・・

「御免よ!」

懐からマットブラックの円筒、オマケにサングラスを取り出し、口でピンを抜いて後ろへ投げる。
数秒の後激しい閃光と音が後ろから発生した。
どうやら上手い具合に効いたらしく、追跡の足音はそこで途切れる。

マサはそのまま走り続けた。

────

走り続けて十数分。
先ほどの酒場と拠点はそれほど離れては居ない。
だが、念には念を入れかなり回り道をして帰ってきた次第である。
幾つもの路地を走り抜ける間も、背中のイシュタムは眠ったまま。
大したものだ。ここまでくるとあきれを通り越してむしろ凄く感じる。

イシュタムをベットに下ろし、自分も毛布に包まり床に転がる。
すぐさま睡魔に襲われ、意識は闇の中へと落ちていった。

──────
────
──

椅子に座る自分と暗闇。見慣れた光景だ。
ただ、これまでと違うのは目の前に一人の女性が立っていることだろうか。
美しい銀髪、整った顔。
えらく扇情的なドレスに包まれた豊満な体。
まるで完璧な彫像のようなそれは、慈母のような笑顔をこちらへ向けている。

「・・・・・・あなた、中々面白いわね」

「物としては三級品だけど・・・・・・」

初対面で人を物扱いとは失礼な奴だ。

その女性はだんだんこちらに近づいてくる。
それにしても美しい。あまりの美しさに気が遠くなりそうだ。

「でも、ちょっと興味が湧いてきたわ・・・・・・」

顔に女性の手が近づく。
勘が薄っすらと危険信号を出している気がするが、そんなことはどうでも良い。

手がマサに触れようとしたその時──

「そこまでだ。フレイヤ」

「我らがアクションスターにちょっかいを掛けるのは止めてもらおうか」

いつもの声。
それと同時に我に返り冷や汗が噴出す。
あのままでは取り返しが付かないことになっていた気がする。

「あら、だめかしら?」

「駄目だね。君は独り占めしちゃうじゃないか」

「マサは皆のヒーローだ。独占することは許されないよ」

「そう・・・・・・それは残念」

「またね、マサ。また会いましょう」

女性の姿が霞む様に消える。
いつもはウザイだけの声だが今日は役に立ったようだ。

「君も対外失礼だなぁ、マサ。僕をウザイ呼ばわりとは」

「これが・・・・・・反抗期って奴かい!?僕はいつも君のためを思って行動してるのに!」

「お母さん悲しいわ!」

喧しい。誰がお母さんじゃ。
兎角さっさと用件を済ませて欲しい。

「ワァーオ。驚くほどドライ!でもそんなマサも大好き!」

「まぁ特に用事も無いんだがね!HAHAHA!」

「強いて言うなら虫払いってとこさ。」

「あ、そうそう。君の体(・)質(・)についてだが、特に気にすることは無いと思うよ」

「科学なんて発展してないしね。もしばれたとこで誰も本質を看破できないだろうし」

「ただ神には気をつけたほうが良い。さっきのフレイヤ見たいなのは特にだ。
最悪永遠におもちゃにされちゃうから、上手くやってちょんまげ」

「さぁ、名残惜しいが今回はお別れだ!今後も頑張ってくれたまえ!」

「近々新しいオマケが発動するだろうから期待しててな!」

「それじゃあ、また!」

いつものバツンという音。
その音と共に意識は掠れていった。

──── 

 

第九話

────

「・・・・・・~♪」

響き渡る発砲音。
飛び散る血飛沫、空薬莢。
二日酔いのイシュタムはさて置き、今日も今日とて狩である。
昨日の散財は地味に懐に効いた。
最も、日々の生活に困るわけではない。
だがしかし、人間の欲というう物は非常に抗い難い物だ。
少し満ち足りればもっと良い生活を、と考えてしまうのは必然である。
故に自分は今日も迷宮へと潜るのだ。

今日の獲物はRPK軽機関銃。
殺傷力、継戦能力共に良好な一品である。
少々取り回しに難が有るが、現段階ではこれで十分だ。
鼻歌交じりに引き金を絞るだけで魔石が量産されていく。

現在四階層目。特にこれといった苦労も無い。
ただし──

『ゲゲェッ!』

「♪~♪~──うおっ!?」

奇襲を受けてヒヤリとする場面を除いて、だが。

「こんにゃろっ!!」

『グゲッ!?』

降ってきたヤモリの化け物に素早く照準、からの発砲。
音速のほぼ倍で飛ぶ7.62mmの礫の嵐に、化け物はなすすべも無い。
こうして稼ぎはまた増える。

「・・・・・・ふぅ。」

魔石を入れている袋はすでにずっしりと重い。
モンスターの牙やらも落ちたので今日の稼ぎは上々だろう。
昼頃から潜り始め、もうそろそろ夕方だろうか。
迷宮内は常にそこそこ明るいため、時間間隔が狂いやすい。暗視装置が要らないのは便利だが。

「──。帰るか・・・・・・」

「♪~・・・・・・」

調子外れの鼻歌が薄ら明るい迷宮に響き渡る。

────

「あの・・・・・・無茶したりしてないですか?」

「へ?」

目の前の妙齢美人、ハーフエルフの受付嬢。
エイナ・チュールが問いかけてくる。

「どうしたんだい?エイナの姐さん。藪から棒に」

「いえ、来たばかりなのに中々稼いでる物ですから」

「ああ、なるほどねぇ」

この受付嬢はかなりのお人好しだ。
周囲の評判を聞く限りそういう結論に至った。
実際、自分もギルドに登録したときから何かと気に掛けてもらっている。

「んー、そうだねぇ。今のところは大丈夫かな」

「なら良いんですけど・・・・・・」

「あー、でも牛の化け物に追いかけられた時はびびったなぁ。二足歩行のでかい奴」

「はぁっ!?」

エイナの目の色が変わる。
しまった、地雷だったか。

「それってミノタウロスですよね!?一体どこまで潜ったんですか!?」

「お、おいおい、落ち着いてくれよ。俺はまだ五階層までしか──」

「五階層っ!?もうそんなとこまで!?」

「な、ま、不味かった?」

「不味いも何も──!」

勢いは途中で止まり、これ見よがしに溜息。

「はぁ・・・・・・マサさんといい、ベル君とといい。
どうして私の周りには無茶する人ばっかりなのかしら・・・・・・」

「は、はぁ」

「とにかく!無茶はしないで下さいよ!死んだらそこで終わりなんですからね!?」

「へ、へい」

「返事ははい!」

「は、はいっ!」

おっかない。
軍にぶち込まれたときの先任軍曹のようだ。

「と、ところで、そのベルってのはどんな奴なんだい?」

「え?えーっと。銀髪の少年で、明るくて、元気な子で・・・・・・」

「ほー・・・・・・なるほどねぇ」

先日迷宮と酒場で見かけたあの少年のことだろう。
中学生ぐらいの見た目で、その年で冒険者なのは中々珍しいと思っていた。
この受付嬢が君付けで呼ぶのだから実際そのくらいなのだろう。
名前はベルと言うのか。覚えておこう。

「姐さん、気になってるだろその少年」

「・・・・・・うぇっ!?」

「そ、そ、そ、そんなこと、な、な、ないですよ!?」

「へへへ、顔に出てるぞ。顔に」

「そいじゃ、おっちゃんはここで失礼!」

「あ、ちょっと!」

脱兎のごとく脱走。
鬼教官に対する切り札が出来た。この収穫はでかそうだ。

そういえば近々、怪物祭(モンスターフィリア)なる祭りが催されるらしい。
祭りは好きだし、イシュタムと一緒に回るのも良いかも知れない。
と、なれば、なおさら稼ぐ必要がありそうだ。

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